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殲神封神大戦⑰〜any% NG+

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 絶えず時は運び、全ては土へと還る。
 罪深き刃《ユーベルコード》を刻まれし者達よ。
 相争い、私の左目に炎の破滅《カタストロフ》を見せてくれ――。

●こんなげーむにまじになっちゃってどうするの
「カッコいい単語が大好きな猟兵のみんなー! 『混沌』って言葉の語原を知ってる?」
 古代中国の神話に伝わる、人間の顔に在るべき七孔を持たぬ異形の神の名だ。
 一説には、その真の姿は人の形ですらなく――六本の脚と四つの翼を持つ肉袋であるともされている。
「殲神封神大戦、仙界に現れた『鴻鈞道人』ってやつは、その『渾沌氏』……どころか、『骸の海』そのものを名乗ってるわけ」
 今はまだ――その真偽を確かめることも、彼を完全に滅ぼすことも不可能だ。来る最終決戦への道に立ち塞がるというのなら、戦って倒す以外に方法はない。
「『再孵化』だの、『渾沌の諸相』だの、ごちゃごちゃと厄介な能力を持ってるみたいだけど――今回の奴は、予知と転送を担当したグリモア猟兵を呼び寄せ、体内に潜り込んで融合するらしいの」
 しばしの沈黙。
 グリモア猟兵との融合については、既に何件かの前例も報告されている。この場に集った猟兵たちの反応は概ね冷静だった。――そう、概ね冷静に、目前のふてぶてしい饅頭っつらの生命体をじっと見ている。
 誰かがおそるおそる問うた。
 ……その、鴻鈞道人と融合するグリモア猟兵というのは?
「ぷれみだが? さてはエアプか?」
 それは……深刻な人選ミスじゃないですかね?

 何はともあれ、これは強敵との決戦である。事態は非常に深刻だ。状況を外見で判断してはならない。
「あ、もしかして日和ってたりする? そんな余裕をこいてられるのも今のうちなの! ぷれみが自称骸の海様と融合したが最後、そりゃあもうチートを駆使して先制攻撃無双プレイよ。相互フォローの知り合いだってお構いなし。覚悟なさいな猟兵ども、速攻で炎の破滅《カタストロフ》を見せてあげるわ」
 当のグリモア猟兵が主旨を誤解しているんじゃないかと不安になるが、彼女――戦犯・ぷれみ(バーチャルキャラクターの屑・f18654)の語る内容それ自体は事実だ。
 仙界の最深部、未だ形定まらぬ『渾沌の地』への転送が完了した瞬間――鴻鈞道人の膨大な力によって『渾沌の諸相』を身につけたグリモア猟兵が、猟兵たちへと襲いかかってくる。
 そのユーベルコードはどれも強大であり、一切の手加減を許さない。万が一『戦犯・ぷれみ』と何らかの『心のつながり』を感じていたとしても、そんな蛇足は一切意味を成さない。『彼』が力尽きるまで全力で戦い、その上で、決着の後に『彼女』の肉体が生命を維持していることを――神様とやらに祈るのみだ。
「ま、ぷれみが運良く生きてたらみんなもここに帰ってこれるわ。生きてるってなんなのかわかんないけど」
 元より彼女は、散々擦られたネットミームを譫言のように繰り返すだけの壊れたバーチャルキャラクター。
 初見の方も、そのくらい把握しておけば特に問題ない。

「ほいじゃ転送が終わったとこからタイム計測開始なの。はっじまっるよー! 悲壮感? そーゆーやつをお求めだったら余所をあたって」
 縁日で売れ残ったお面みたいな、かまぼこ型の口が笑う。
「さ、一緒に遊びましょ」


八月一日正午
 実況のほずみしょーごです!
 完走した感想ができるようにがんばります。

 というわけで『殲神封神大戦』の戦争シナリオ、渾沌氏『鴻鈞道人』とのボス戦です。グリモア猟兵の肉体を乗っ取る卑劣な敵を全力でボコしましょう!
 なんとなく戦場がバーチャルっぽく変化したり、ぷれみちゃんっぽい動きをしたりはするかもしれませんが、まあ味付け程度です。基本的に人格や能力は鴻鈞道人のものとお考えください。
 ぷれみちゃんと心のつながりがある知的生命体は存在しないと思うんで、シリアス抜きでボス戦したい初見の方にもおすすめですよ(たぶん)。

 プレイングボーナスは『グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する』こと。
 今回『やや難』となりますので、ダイス判定は厳しめです。
 プレイング受付期間や採用方針についてはタグやMSページで追って告知いたします。
 それでは、みなさん楽しくどうぞ!
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 どうせ結果が分かっているなら悪足掻きをする必要もない。
 負けイベントのムービーなんてスキップされて当然だ。

 猟兵たちが『渾沌の地』と呼ばれる虚無を認識した瞬間――原色の青が明滅し、世界は表音文字と表意文字の羅列に置き換わる。上下も左右も判別できない空間に、先程まで茶番を演じていた生命体が佇んでいる。
 それは少女の形を模していた。
 身長に対して異様に大きい頭部。関節も指も持たない腕と脚。幼児の落書きのような顔。それは伝承に語られる『渾沌』の姿にどこか似通っていると云えなくもないが――きっとその醜さですら、『彼』の本性では無かったのだろう。
 未定義《undefined》ゆえの全能細胞。
 何にでも成り得る可能性。
 ……それこそが『渾沌の諸相』の能力だ。今は偶々、肉体を奪ったばかりの少女の形を保っている。
 赤い否定《バッテン》の刻まれたその左目が君を見た。

『そう――お前達が為してきた事と同じ、その結果だ』
『絶えず変化する生命が、忘れ、踏みしめ、消費してきた全ての過去』
『私こそが、骸の海』

 思念が言葉を発する度に、真っ赤な文字が視界を埋める。
 それは舌っ足らずの甘い声のように聞こえた。
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

なんてこったい!
ぷれみの頭が渾沌のロケットランチャーに!
【第六感】で回避

なんてこry
ぷれみの腕が渾沌のドリルアームに!
【第六感】でry

なんry
ぷれみの脚が渾沌の絶対轢殺キャタピラーに!
【第六ry
あれ?これじゃ別のユーベルコードの効果じゃん!
今気付いた!
じゃあこれって元からぷれみが持ってる機能?わお!

渾沌くん!キミが渾沌をあやつるならボクはそれすら喰らうモノを呼び出そう!
●UC使用【封印を解く】レベル1140に
こっちらの伝説じゃ彼は犭貪(とん)とか、饕餮なんて言われたりもしたらしいね
[餓鬼球]くんの封印を解き
巨大で欲深く、なんでも、鉄も石も山も、月も太陽も全て喰らって闇、無だけを残すという
果ては自分自身すらも食べてしまうその本質を時限解放!
あ、ボクは彼の攻撃と餓鬼球くんにやられないように【第六感】で見出した安置(STG的な意味)にいよう

勝ったッ!殲神封神大戦完!
あー…忘れてた!
ほら餓鬼球くん!ぺっして!ぺっ!
ぷれみまで食べたらダメだよー!帰るの大変じゃん!




 猟兵たちを睨んだ左目を中心に、『戦犯ぷれみ』の頭部にぐにゃりと孔が空く。
 それはz軸方向に引き延ばされて変形し、歪な筒状の構造体と化していく。重たそうに首をもたげて、左肩に担ぐようなアンバランスな姿勢になって――その『砲塔』を一人の猟兵へと向ける。
「なんてこったい! ぷれみの頭が渾沌のロケットランチャーに!」
 解説セリフと共に爆音。
 彼女の眼球そっくりな、真っ赤な否定《バッテン》のロケット弾を――ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)はぎりぎりのところで回避した。ピンクのスニーカーが宙を蹴り、さっきまで足元だった空間に爆発エフェクトが表示される。
 これがグリモア猟兵の肉体を代償にするという『渾沌の諸相』の力だろうか。よりによって女の子の顔を真っ先に犠牲にするなんて――とか言っておくべきかなぁと思わなくもなかったが、なんだか絵面がそういう次元を超えてる気もする。斜め下方向に。
 ロニが他愛のないことを考える間にも変形は続く。ぷれみの空いた右腕がぎゅいんぎゅいんと回転し、そのシルエットが鋭利な円錐形へと近付いていく。
「なんてこったい! ぷれみの腕が渾沌のドリルアームに!」
 見るからに上段攻撃っぽいので咄嗟に伏せてガードする。さっきまで顔があった空間に渾身の掘削パンチが飛んでくる。
「なん――うわっ」
 追撃の回し蹴りが来たので、一旦後ろに跳び退いて。
「なんてこったい! ぷれみの脚が渾沌の絶対轢殺キャタピラーに!」
 まるで緊張感のないロニの言葉に応えるように、関節のない両脚が高速回転を開始する。……もはや因果関係が逆転しているようにも思えるが、これは動物的な第六感が為せる神の御業であり、決して確定ロールではない。
 ぷれみの下半身はみるみる無限軌道《キャタピラー》と化す。履帯には絶対轢殺の名に相応しい白き刃が突き出して、頭部のロケットランチャーには無数の触手が絡みつく。辛うじて原型を残した背面から、巨大な翼が広がって――『流血』の状態異常を示すアイコンが彼女の頭上で点滅する。
「あれ?」
 そこで、ロニは重大な違和感に気付いた。
 ひとつのユーベルコードに対してひとつのユーベルコード。それが第六ry――じゃなくてこの世界の暗黙のルールでは? 触手やら翼やらが生えてくるのは確か別のユーベルコードの効果のはず。いや、もしかして――今までのは、ぷれみの身体部位を代償に異形化していた訳ではない?
「じゃあ……これって元からぷれみが持ってる機能?」
 そう、バーチャルキャラクター解放プログラムによってヒト型という制約から解き放たれた『戦犯ぷれみ』の肉体は――素でメカ変形が可能なのだ!
「わお!」
 筆者も驚きですよ。

『この肉体には利用価値がある。今は代償を払うべき時ではない』
「渾沌くん! やっと喋った!」
 脳裏に響く甘い声。視界を埋める赤い文字。ロニはそんなノイズを気にも留めない。
 羽撃きと共に突っ込んでくる、殺戮の刃を纏った絶対轢殺キャタピラーを――やはり第六感で避ける。喰らってしまえば一大事だろうけど、要は勢いを付けただけの直線的な突進だ。いい感じのタイミングで横に飛べばいい。戦いよりも遊びに近い。
「じゃ、そろそろ舐めプやめよっか!」
 ロニも、『彼』も、未だ本気を出してはいない。
「キミが渾沌をあやつるなら――ボクはそれすら喰らうモノを呼び出そう!」

 電脳じみた空間で平面的に描写された『神様の影』から、巨大な球体が浮上する。
 破断した黒曜石に似た表面、虚ろな闇が覗く断裂、不揃いな歯列。ロニが『餓鬼球くん』などと呼んで使役する浮遊球体群。
 手の平大から数百キロメートルにまで自由自在に伸張し、無形のもの、光や心すら喰らう。それは余りにも単純かつ強力で、冗談のように都合の良い存在だった。――まるで、底知れぬ力を持つ何物かが、今は球体に貶められているかのように。
「こっちらの伝説じゃ彼は犭貪とか……」
『――饕餮』
「それそれ、そんな名前で呼ばれたりもしたらしいね」
 欲望を司る四凶の一角。
 全能細胞に対する貪食細胞。
 ――そう。たとえ相手が、『何にでも成り得る可能性』を持つ存在だとしても。
「お腹に入ればみーんないっしょ、ってこと!」
 封じられぬ神と同格の封じられし神を――ロニの神知《ゴッドノウズ》は、いとも簡単に解き放つ。

『――――』
 石を割るような甲高い嘶きを発して、それは球体としての輪郭を失っていく。獣の口とよく似た断裂だけが虚空に拡がり、目前の触手を咬み千切る。
 ――人の尺度で測れぬ程に巨大で欲深く、鉄であろうと石であろうと山であろうと喰らい尽くして、いずれは天上の月と太陽をも平らげて、闇――無だけを残すという悪神。その本質を前にすれば、刃も、翼も、皿に並んだ食材に過ぎない。
 渾沌が増殖しては饕餮が喰らう。触手の猛攻と、無差別の咬撃。……その両者が届かない極小の安全地帯を、ロニの第六感は既に見出していた。
「ここの文字の端っこの3ピクセル下をボクの眼帯に合わせて……」
 シューティングゲームで言うところの安置である。
「餓鬼球くん、放っておくと自分自身すらも食べちゃうからねー」
『成程――それがお前の思う炎の破滅《カタストロフ》か』
「んー、そこまでは考えてない!」
 本当に無しか残らなかったら、それはそれでつまんないし。

 グリモア猟兵の肉体という制約がある故か。両者の均衡は徐々に崩れて、白き肉と鉄の塊が削り取られていく。
 一際巨大な口が開いて、その塊が虚空へと呑み込まれた瞬間――悪神は、『餓鬼球くん』の輪郭を取り戻す。
「勝ったッ! 殲神封神大戦完!」
 後は誰かがカッコいいセリフで締めて、ナレーションが二、三行のポエムを詠んで、グリモアベースに帰るだけ! ……と思ったところで、ロニは本日二度目の違和感に気付く。それで、誰がグリモアベースへの転送をつとめるんだ?
「あー……忘れてた!」
 すっかり従順になった餓鬼球くんの背面、歯列とは反対側をぺしぺし叩く。
「ほら餓鬼球くん! ぺっして! ぺっ!」
『――――』
「ぷれみまで食べたらダメだよー! 帰るの大変じゃん!」
『――――』
 ゆっくりと、やや不満気に口が開いて――なんとか無事だった戦犯ぷれみの肉体が吐き出される。触手やら翼やら余計な物は捥げているが、肝心の中身はというと。
『グリモアごと喰らおうとするとはな』
「あー残念、渾沌くんのままだ」
 流石に鴻鈞道人だけ消化して勝利、という訳には行かないか。スケールの大きい戦いだから小回りが利かないのは仕方ない。面白いものが見れたからオッケー、と思っておこう。
『後の安全を犠牲に敵を断つ――それもまた一興かと思ったが』
「だからそこまで考えてないってば」
 破滅になんて興味はない。
 ロニは太古の神ではあるけれど、それ以前に、未来あるお子様なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐藤・和鏡子
身体を乗っ取っているだけのようですから、鴻鈞道人を倒せばぷれみさんは元に戻せそうですね。
救急車の運転技術を駆使して先制攻撃を回避しそのまま救急車で鴻鈞道人めがけて突っ込みます。
これで済めば良いのですが、そうは上手く行かないでしょうから、消防斧を手に惨殺のユーベルコードを使用します。
本来は病院に不審者が侵入した際の対策機能だったのですが、本来の目的では幸い使われなかったのですが、こうやって違う目的で活用できるのですから、世の中何が起きるか分からない物ですね。


風魔・姫耶呂羅院
能力者から猟兵にジョブチェンジしたと思ったらいきなりラスボスっぽいヤツのお出ましって
しかも今は倒せないなんてイベント戦闘か?
この空間もあってこんなクソゲーやってられるかって感じだ

天候操作……とは名ばかりで風を操る程度だけど、飛行ってのは繊細なもの
翼の周りを搔き乱してやれば多少は動きに制限が生じるはず
触手は近づかれる前に、刀を振るい斬撃波で牽制
レイティングされるわけにもいかないじゃん
なんて軽口叩いてみたけど、この刃を武器で受け止めるのは賭けだった
ま、時間さえ稼ぐことができればいい
UC発動
――ホントはクソゲー結構好きなんだよね
あと10分だけ付き合ってよおじいちゃん
(……この雷雨がどこまで持つかな)




 時間は質量を持つ物質であり、消費された過去は『骸の海』に流れ込む。
 それらはやがて『オブリビオン』と呼ばれる世界の敵となり、人々の未来を脅かす。

 ――風魔・姫耶呂羅院(誘凪・f35384)がそんな話を聞かされたのは、ほんの最近のことだった。死と隣り合わせの青春を越えて、ゴースト達との戦いを終えて、日々好き勝手に夢を追う第二の人生が始まって、……そろそろ軌道に乗ってきたかな、という頃合いだったのだ。
「能力者から猟兵にジョブチェンジしたと思ったら、いきなりラスボスっぽいヤツのお出ましって……」
 ちょっと展開が速すぎる、なんて溜息を吐きたくもなるけれど――まずは適当な物陰で息を殺して、くノ一らしく敵の様子を伺ってみるとする。

 先程までグリモアベースで依頼を案内していた『戦犯・ぷれみ』の肉体は、すっかり『鴻鈞道人』の手に堕ちて、これまでの激戦によって既に異様な姿と化している。……具体的には、頭部のあるべき場所にロケットランチャーが積載され、右腕のドリルアームがぎゅいんぎゅいんと唸りを上げ、腰から下は絶対轢殺キャタピラーに換装されている。
「だいぶ原型無いけど大丈夫なのかなアレ」
「大丈夫、安心してください」
 その声は、姫耶呂羅院の頭上から降ってきた。
 ……適当な物陰、なんて表現したけれど。
 正確に言えば、今居る場所は一台の救急車の陰だった。鎌倉でよく見かけたような白くて可愛いやつではなくて、映画撮影のセットみたいな年代物のアメ車のやつだ。
 ボロボロの運転席が開いて、看護帽を被った小柄な少女が顔を出す。
「身体を乗っ取っているだけのようですから。鴻鈞道人を倒せばぷれみさんは元に戻せそうですね」
「元に戻せるならいいけど……」
 佐藤・和鏡子(リトルナース・f12005)の声色は柔らかく、冷静さと芯の強さも感じられて、否応なしの説得力があった。……彼女が大丈夫と言っているなら大丈夫なのだろう。たぶん。絵面はもう大変なことになっているけれど。
「でも、鴻鈞道人って今は完全に倒せないんだよね。イベント戦闘か?」
 ブルースクリーンの背景を十六色の文字列が埋め尽くす、妙ちきりんな空間が――その連想を加速させる。
「こんなクソゲーやってられるか、って感じだ」
 口では文句を垂れつつも、姫耶呂羅院は立ち上がる。この救急車が和鏡子の武器であるとしたら、近くに自分が居ては邪魔になるだろうし――。
『私は過去そのもの。否定しようと無限に溢れる骸の海――逃げ隠れしようとも無駄だ』
「逃げてないっての」
 どんなクソゲーだとしても、敵前逃亡なんかするつもりはない。

 ――鴻鈞道人の宿る無形の怪物が、巨大な白き翼を拡げる。背中であったかどうかも知れぬ部位を起点に、アンバランスにその肉体を持ち上げる。
 飛翔する。それ自体は止めようもない。今考えるべきは先制攻撃への対処だ。怯むことなく、敵を見据えて。
「天候操作の術……!」
 ……とは名ばかりで、姫耶呂羅院が持つ術は風を操る程度のものだ。それ単体では、強大な敵を薙ぎ倒すほどの威力はない。――しかし、その全力を敵の『翼』に集中させればどうだろう。
 飛行という行為は繊細なものだ。航空力学に則していない歪な肉体で、無理に飛行を試みているとしたなら尚のこと。翼の周りの気流を掻き乱してやれば――。
『く――――』
 落下するまでは行かずとも、動きに制限が生じてくる。姿勢の制御が難しくなれば、攻撃に回す余裕も削がれる。
 一拍遅れて次の手が来た。
 頭部のロケットランチャーから、弾の代わりに白き触手の塊が発射されたのだ。この速度なら――近付かれる前に対応できる。

 刀を振るう。
 その斬撃に風魔の術が乗る。
 増殖する触手すべてを横薙ぎに断ち、姫耶呂羅院は不敵に笑う。
「レイティングされるわけにもいかないじゃん――」
 スタアたるもの、公序良俗に反する描写は御法度……なんて軽口を叩いてはみるけれど。その口の端に、冷たい汗が伝って落ちる。
 触手の群れの一番奥に仕込まれていた、無骨な『殺戮の刃』――これを刀一つで受け止めるのは、正直、危険な賭けだった。腕はどうにか折れなかったが、丹田の奥がきりきり軋む。
「ま、時間さえ稼ぐことができればいい」
 戦場に渦巻く風が形を成す。

 ヘヴンリィ・シルバー・ストーム――彼女の世界の象徴である銀色の雨《シルバーレイン》が、虚無で満たされた『渾沌の地』に降り注ぐ。
 その雫は十六色の文字列を反射して、万色の稲妻となって敵を穿つ。ひとつひとつの威力は低くとも、着実に体力を削っている……はずだ。最近の親切なゲームだったら、一目で残り体力が分かるようになっているものなのに。
「でも――ホントはクソゲー結構好きなんだよね」
 バランス調整度外視のレトロなゲームも嫌いじゃない。コインが尽きるまでコンティニューを続けるような、あの感覚。
『停滞を望むのか』
 これ以上飛ぶのは分が悪いと判断したのだろう、鴻鈞道人が翼を畳んで低い位置へと降りてくる。力尽きる気配は、無い。
『停滞は、お前達にとっては死を意味するというのに』
「そう言わずにさ……あと十分だけ付き合ってよ、おじいちゃん」
 ……この雷雨は、この身体は、どこまで持つかな。

『厄介だな。多少の代償は支払うか』
 戦犯ぷれみの身体部位、頭上のリボンがふわりと解ける。黒と緑が極小の正方形の破片となって散り消えて、白抜きの文字列へと変化する。
 それはあらゆる言語で書かれた罵詈雑言で、ところどころが塗り潰されて伏せられていて、――何より、直視するだけで目が灼ける熱を持っていた。高出力のレーザーのようなものだろう。
「ここから先は私に任せて――!」
 新たな『渾沌の諸相』による攻撃に、和鏡子の救急車が躍り出る。
 唸るエンジン音と声で敵の注意を引きつけて、集中放射された光条をぎりぎりのところで回避する。車体の右側面が熱を持つ。銀色の雨に打たれて蒸気が上がる。――そのまま、姫耶呂羅院を庇うように一旦停車。
「この雷雨、もう少しだけ維持できますか」
「了解、それじゃ……後は任せたよ」
「はい!」
 急発進からの急旋回。
 敵は鴻鈞道人――何にでも成り得る渾沌の異形だ。しかし、一度姿を持ってしまえばその形状に縛られる。兵器を満載しキャタピラーを履いた戦車より、患者の元へと向かうために作られた救急車のほうが速いに決まっている。運転技術も、和鏡子が上だ。
 ならば轢殺すればいい。鴻鈞道人が雷雨を避けて、地面に降りたところを狙う。相手も肉というより鉄塊に近い姿だから――どちらかというと、衝突事故になるけれど。
 アクセル全開で突っ込むと、視覚情報が一瞬飛んだ。

 ――まずは火花と、煙が見えた。
 身体の各部が異常を訴えてくるけれど、優しく降る雨が不思議と回路を鎮めてくれる。ひとまず『衝突』には成功したのだろう、と、和鏡子は判断する。
 この一撃で話が済めば良いのだが、そうは上手く行かないことも予測の範疇だ。今、解像度の落ちた視界で、一番に探さなくてはならないのは――敵の姿ではなくて、こちらが打つべき次の一手だ。
 血のように真っ赤な色がある。
 ミレナリィドールの身体は血を流さない。その代わりに、和鏡子のひび割れた手が掴んだのは――救急車に格納されていた、深紅の消防斧だ。
「排除サブルーチン起動――」
 人間らしさの再現を無視した動きで立ち上がる。
「――危険です――退避してください」
 惨殺《キルムーブ》と名付けられたそのユーベルコードは、看護用ミレナリィドールである和鏡子に搭載された脅威緊急排除モードだ。
 本来は、病院に不審者が侵入した際の対策機能である。介護や災害救助のために作られた頑丈な身体を活かし、簡単な警備用プログラムを走らせる――動く物体を無差別に攻撃する程度の、本当に簡単なプログラムを、だ。
「――排除します」
 煙の向こうで何かが動いた。そのシルエットの持ち主が何者であるか考える必要はなかった。退避の勧告は済んだのだから、動くものは敵と見倣して問題ない。
 理性を超えた全力で、斧の重量を叩きつける。

 ――雷雨が止む頃には、勝負の雌雄は決していた。
『■■……■■■、■』
 内容が聞き取れない程に思念の声が音割れして、戦場全体に『流血』の状態異常を示すエフェクトが表示される。頭部のひしゃげた戦犯ぷれみの肉体が、ふらふらとバランスを崩しながら後退する。
「ホントに大丈夫!? 頭ひしゃげてるけど」
「ぷれみさんなら、大丈夫です」
 再び妙な説得力を発揮しつつ、和鏡子も敵と距離を取る。段々と、通常の思考能力が戻ってくる。
 ……慣れない運用にしては上手く戦えたと思う。この機能は、幸い、本来の目的で使われることはなかったから。それをこうやって、世界の敵を倒すという目的に活用できるのだから――。
「ふふ、世の中何が起きるか分からないものですね」
 そうだ、銀色の雨による回復にお礼を言わないと。そう思って振り返ろうとしたところで――和鏡子の耐久力にも限界が来た。そのまま、姫耶呂羅院の膝の上へと倒れ込む。

 猟兵たちが死力を尽くした甲斐あって、鴻鈞道人の力は確実に削がれている。……同時に戦犯ぷれみの肉体も着実に削れているが、そこは彼女の生命力《しぶとさ》に期待するしかない。
 一人ではクリアできないクソゲーだとしても、スコアを残すことは出来る。
 自分たちのコインが尽きたなら――次のプレイヤーの勝利を信じて席を譲るだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

犬飼・満知子
そ、そんな……私達のぷれみちゃんが……!

なんだかシリアスなことを言っているけど、全然頭に入って来ないです。いつものぷれみ節に聴こえないこともないような。

やけにドットの粗いマグマの川をメカニカルブーツの【空中浮遊】で渡ったり、砂のトラップで流されたり、何処かから飛んできた毒矢を避けたりしながら接近を試みます。不味いですねぇ。結構なタイムロスです。

羽やら触手が生えて混沌としたぷれみちゃんの攻撃は【ダッシュ】【ジャンプ】でダイブして緊急回避。無敵時間が長いので、多分大丈夫です?

とにかく危険な雰囲気がヤバい相手に【制御不能】になった寄生UDCが襲いかかります。
あっ、あっ、ぷれみちゃんが穴だらけに〜!?


ヴァシリッサ・フロレスク
何でも◎

あァ
ぷれみチャンと、まさかこンなカタチで相見えるコトになるッたァね…フフッ♪まー怨みッこナシだ

イヤ?
てか、共闘するよか、なンかしッくりくるンだケド?違和感無くない?

手前ェ!ぷれみチャンじゃないトコ見せてみな

敵の先制攻撃は甘んじて受けるも最大限見切り、精神攻撃は狂気耐性で、物理攻撃は怪力で武器受けしつつ往なし、激痛耐性で凌ぐ

HAHA♪オモシロいねェ
やッぱ違和感迷子だ♪

全ての過去、ねェ
Hm、なンだ、アンタ、好く解ッてンじゃない♪
――なら、世話無イね?

あァ♪“遺棄《生き》る”よ、アタシらは
生憎目ン玉は前にしか付いてないンでね
後ろなンて見てるほど暇じゃァ無いよ

これからも変らず、お望み通り過去《てめぇら》を棄てて、喰らッて

逝き遺る限り、全力で、な

一気に切り込み、捨て身の一撃のスヴァローグで零距離射撃《ヴァルキュリヤ・キッス》

未定義《Undefined》?

HA!だから手前ェで抜かしてンじゃねェか?

過去《おわって》ンのは
“Defined《きまって》”ンだろ?

楽しかッたよ
さ、還るよ?ぷれみチャン




「そ、そんな……私達のぷれみちゃんが……!」
「あァ……」
 いつも見慣れた――というか一度見たら忘れられない顔をした、ふてぶてしい饅頭っつらの生命体が、敵として立ちはだかっている。
 ついでに頭部はロケットランチャーに変形し、ドリルアームとなった右腕がぎゅいんぎゅいんと唸りをあげ、下半身は絶対轢殺キャタピラーに換装され、全体的にひしゃげて真っ二つに割れている。
「ぷれみチャンと、まさかこンなカタチで相見えるコトになるッたァね……」
「こんな形っていうかだいぶ原型ないですよ!? あっ頭のリボンも無い! ぷれみちゃん要素が残ってない!」
「フフッ♪ 激戦だったみたいだねェ」
 あまりの惨状に狼狽える犬飼・満知子(フィールドエージェント・f05795)とは対照的に、ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は口笛でも吹き始めそうな程のニヤけた笑みだ。ぷれみの生命力に対する厚い信頼の為せる業か、単にトンチキ時空に慣れて感覚が麻痺しているだけか、その答えは定かではない。
『同胞すらも切り棄て、進む。それがお前達の答えか』
 脳に直接響く舌っ足らずな甘い声は、確かに彼女に似ているが――今、『戦犯・ぷれみ』の肉体に宿っているのは渾沌氏『鴻鈞道人』。今まで猟兵たちが相対してきたオブリビオンとは訳が違う、『骸の海』そのものを名乗る強敵である。
『良いだろう。その果ての未来とやらに描いた炎の破滅《カタストロプ》を見せてくれ』
「な……なんだかシリアスなことを言っているけれど、全然頭に入って来ないです」
「イヤ、……てか、共闘するよか、なンかしッくりくるンだケド?」
 そもそも戦犯ぷれみが世界のために戦っているところを見たことがない。極稀に依頼で見かけても、大抵あんな感じで好き勝手やっている。
「違和感無くない?」
「いつものぷれみ節に聴こえなくもないような」
 なんだか『渾沌の地』もキマイラフューチャーじみたバーチャル仕様になってるし……という満知子の疑問に呼応するように、虚無の空間を埋め尽くす文字の羅列が明滅する。
 最後に残ったぷれみの左腕らしきものが、微細な光の粒子となって散り消える。『★ダイスルール★』の弾幕が流れ、世界が姿を変えていく。
「これは……!」
 二人の前に横たわる、やけにドットの荒いマグマの川。
 全てが立方体で構成された、どこかで見たような異形の煉獄《プルガトリオ》。
「やっぱりいつものノリですよね!?」
「ダイスは一日一回まで♪ まー、怨みッこナシだ」
 我先に、と、ヴァシリッサが黒一色の地面を蹴る。一歩遅れて、おっかなびっくり満知子も続く。

「HAHA♪ オモシロいねェ」
 炎と親しい血の流れるヴァシリッサの肉体にとっては、この程度の高温ならば耐えられる範疇だ。心頭滅却すればちょっとした温泉気分と言えなくもない。足首まで浸かって痛みを無視しつつ、マグマの底の段差を見切って浅いところを駆け抜ける。
 精神的にも、まあ、ぷれみの左腕が代償になったことについては特に感想が無かった。元があの惨状だし。度の過ぎた狂気はスラップスティッ
ク・コメディに堕ちるのだ。
「やッぱ違和感迷子だ♪」
「実家のような安心感すら感じます」
 一方の満知子も、ツッコミを入れるだけ入れたらすっかり状況に適応していた。感受性の死である。彼女は肉体的にはごく普通の女子高生……改め浪人生なので、UDC組織特性のメカニカルブーツを駆使して空中を渡っていく。
「あ、やっと地面……ひゃ!?」
 黄色い固体ブロックに着地した瞬間――ワイヤーフックに繋がった糸を踏み抜き、更に強制的に右方向へ移動させられる。慌てて姿勢を制御する満知子の視線の先で、何らかの発射装置と思しき回路が作動する。
 流れる砂のトラップだ。
 理解が追いつくより先に、何かが視界を遮った。
「Shit――怪我は無いかい?」
 ヴァシリッサ愛用の射突杭――『スヴァローグ』が、飛来した毒矢を受けたのだ。血と病の齎す膂力が、巨大な金属塊を盾として運用することを可能とする。
「有難うございます……! しかし不味いですねぇ。結構なタイムロスです」
「此処からリカバリしないとネ、」
 見え透いたゲームの時間はそろそろ終わりだ。
「手前ェ! ぷれみチャンじゃないトコ見せてみな」

 ――戦犯ぷれみの残骸から、触手が、翼が、刃が芽吹く。
 ひしゃげた鉄塊の隙間から不規則に伸びる白き異形は、肉というよりも植物に似ていた。文明が滅びた後の廃墟に咲く、放射能に汚染された花のようだった。
『私こそが骸の海、全ての過去』
 故に、あらゆるものの姿を借りて現る『渾沌の諸相』。
『この少女も、お前達も、いずれその裡に加わることとなる』
「Hm……、なンだ、アンタ、好く解ッてンじゃない♪」
 殺到する刃の群れを武器で受け、じりじりと圧されつつも――ヴァシリッサは歯を剥いて嗤う。
「――なら、世話無イね?」
 ここまで全部、攻撃を自分に引きつけるための挑発だ。――『本命』が、敵に生まれた隙を目掛けて走り出す。

「行きます……!」
 メカニカルブーツの出力は全開。いかにも大人しそうに見えてそこそこ高い満知子の運動能力は、今や限界まで強化されている。
 羽やら、触手やら、混沌とした攻撃を縫って敵へと接近。一拍遅れてこちらを向いた殺戮の刃を、空中ジャンプからの垂直ダイブで緊急回避。……正直怖くてたまらないけれど、多分、大丈夫。ダッシュ中には無敵時間があるのがお約束だから。
 それに、この切羽詰まった恐怖感こそが――彼女にとって最大の武器の撃鉄となる。
「手加減とか……元々、できませんのでっ!」
 群体寄生型UDC『くろかみもどき』。
 それは満知子の長い黒髪と遺伝子レベルで融合しており、宿主の安全を最優先に行動する……と言っても、さして知能が高いわけではない。名状しがたき渾沌を前にして――『とにかく危険な雰囲気がヤバい』くらいの動物的な認識しか抱いていない。
 数メートルの距離にまで肉薄した瞬間、彼らは制御不能《アンコントローラブル》の防衛反応を開始する。
「あっ、」
 膨れ上がった黒が白を呑み込んで。
「あっ、」
 その先端が鋭く硬化して。
「あぁー! ぷれみちゃんが穴だらけに〜!?」
「でかした満知子チャン!」
 ヴァシリッサが快哉を叫ぶ。……滅多刺しに縫い留められた『鴻鈞道人』に、これ以上の攻撃を続ける力は残っていない。穴だらけの翼では逃げ出すことも不可能だろう。
 ――盾として酷使してきた『スヴァローグ』を、本来の形に持ち替えて。

『全ての過去を踏みにじる。それがお前達の答えだったな』
「あァ♪ ……"遺棄《生き》る"よ、アタシらは」
 超高速で一気に切り込み、触手を踏み越え、――戦乙女式吶喊槍、零距離射撃《ヴァルキュリヤ・キッス》をお見舞いする。殺戮の刃が肌を裂くのも厭わぬ捨て身の一撃だ。
 身の丈を超える射突杭で敵の横腹に大穴を穿ち、……そして、それだけでは終わらない。
「生憎……目ン玉は前にしか付いてないンでね。後ろなンて見てるほど、暇じゃァ、無い、……よッ!」
 ヴァシリッサから流れ落ちる緋い血が、流血の状態異常なんて言葉じゃ言い表せない現実《リアル》の痛みが、赤熱する杭を伝って注ぎ込まれる。内部から、敵の肉体を浸食する。
「これからも変わらず、お望み通り過去《てめぇら》を棄てて、喰らッて、――逝き遺る限り、全力で、な」
 爆轟。
 耳を劈く衝撃波が、無意味な文字の羅列を震わせた。

 戦犯ぷれみの残骸に空いた大穴から、正方形のドットが弾け――青一色の背景が、『未定義《Undefined》』の弾幕で埋め尽くされる。
「HA! だから手前ェで抜かしてンじゃねェか?」
 全能細胞があーだこーだと、大層な御託を並べていたけれど――要するに奴の正体は『骸の海』。
「過去《おわ》ってンのは、"Defined"《きま》ってンだろ?」
 それでもまあ――楽しかッたよ、と嘯いて、ヴァシリッサは痩せた野良猫のように伸びをする。一緒に遊ぶ時間は終わって、そろそろ〆の頃合いだ。エンディングにうってつけの一曲が流れる雰囲気だろう。
「さ、還るよ? ぷれみチャン」
「これってぷれみちゃんなんですか?」
 グリモア猟兵に声を掛けても、一向に返事は聞こえない。……虚無の空間に重たい沈黙が訪れる。
「アー……もしかして……殺ッちゃった?」
「ええぇー!?」
 殺ッちゃったものは仕方ない。勝利のための尊い犠牲だったと思っておこう。
 猟兵たちに――過去を振り返っている暇はないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

富良野・経嗣朗
嘆かわしい。
その程度か、混沌よ。その程度なのか、骸の海よ。
貴様自身がビルドした躯体を扱わずに、他者の躯体を奪って扱うなど。
未定義ゆえの全能細胞を名乗りながら。何にでも成り得る可能性を称しながら――なんという可能性の欠片が感じられ無い底の浅さかッ!!

自らの躯体で戯れようという気概も無く、中途半端に自らの存在を証明しようと他者の躯体で自らの能力だけを扱おうというのも烏滸がましい!

例えば効果的かつ映えるタイミングを考えない強引かつ大雑把にも程があるボディパージアタック!
例えばぷれみ嬢とのマッチングを考えぬ、ただベタ付けしただけの己のアピールだけが目的であるかのような大量のウイングパーツに追加武装!
例えば『とりあえず壊したり血ぃ流しておけば激戦感出るし強そうやろ』という適当な汚し・壊し技術!

その程度のビルドや技量で他者の躯体を【操縦】しようなど――【見切り】は容易いッ!

其処に直るがいい骸の海!
貴様に本気の戯れを――真なる《何にでも成り得る可能性/ビルドスピリット》というモノを叩き込んでくれるッ!




 ――『渾沌の地』を埋め尽くしていたノイズが晴れていく。
 一面の青背景《ブルースクリーン》は漂白されて無色透明となり、乱雑な文字列は分解されて不可視となり、シンプルなグリッド線だけが猟兵たちの視界に表示されている。
 その中心に、『戦犯ぷれみ』が佇んでいた。
 ついでに頭部はロケットランチャーに変形し、片方残った右腕はドリルアームとなってぎゅいんぎゅいんと唸りをあげ、下半身は絶対轢殺キャタピラーに換装され、全体的にひしゃげて真っ二つに割れている上に大小の穴が空いていた。
『過去を棄てる者、猟兵達よ――』
 思念の声が戦場に響く。
『少しは躊躇と云うものを知れ』
 さしもの渾沌氏『鴻鈞道人』も若干マジレストーンであった。たぶん……他の戦場の皆さんはもうちょっと躊躇があったと思うんですけどね。

「嘆かわしい」
 一人の漢が、その惨状を乾いた声音で斬って棄てた。
「その程度か、混沌よ。その程度なのか、骸の海よ」
 一歩、一歩、虚無の空間を踏みしめる度に、ジャケットに忍ばせた七つ道具が音を立てる。ニッパー、ヤスリ、ピンバイス。それらは全て――誰かを傷付けるためではなく、何かを造り出すためのもの。
 彼は、相手を弱いと言って嘆いているのでは無かった。
「貴様自身がビルドした機体を使わずに、他者の躯体を奪って扱うなど――」
 未定義ゆえの全能細胞などと名乗りながら。
 何にでも成り得る可能性などと称しながら。
「――なんという可能性の欠片が感じられ無い底の浅さかッ!!」
 富良野・経嗣朗(プラモビルダーキョウシロウ・f13293)の身体は僅かに震えていた。彼の眸《め》に宿るのは最早怒りではなく――それを通り越した深い失望だった。

 確かに――『骸の海』そのものであるという奴は、これまでのオブリビオンとは性質が違う。経嗣朗はそう断言できる。……期待外れという意味で、だ。
 今まで相対してきた強敵たちには個性があった。一章という短い命の中で、自らの存在を燃やし尽くさんとする輝きがあった。
「ところがキミは、自らの躯体で戯れようという気概も無く、あげく決着を先延ばしにして強者気取り……!」
『私の目的は他にある。この肉体も、単に利用価値があったというだけのこと』
「捨て台詞すらテンプレートの切り貼りか!」
 そう、余りにも浅い。
 堕落したサブカルチャーのように浅い。葛藤の無いツンデレよりも薄く、狂気の無いヤンデレよりも軽い。そのくせ既存の登場人物を人質にして印象を残そうとするなんて、一発ネタの出落ちにも劣る遣り口だ。
「中途半端に自らの存在を証明しようと、他者の躯体で自らの能力だけを扱おうというのも烏滸がましい!」
『ならばお前は、口先で喚くだけの存在か』
 経嗣朗の叫びを、鴻鈞道人は逸らすように受け流す。……徹底的に破壊された鉄塊にしか見えない姿でも、彼は未だ『渾沌の諸相』の力を秘めている。この戦いの勝者は、あくまで罪深き刃《ユーベルコード》の相対によって示されるのだ。

 頭部のロケットランチャーと右腕だったドリルアームが融合し、異形のドリルランチャーへと変化する。ドリルランチャーって何なんだよという話だが、要はドリルを弾として発射するランチャーである。
 肉体の質量を切り離すことを厭わぬ敵の構えに、しかし経嗣朗は一切怯むことは無い。
「例えばその――強引かつ大雑把にも程があるポディパージアタック!」
 代償を伴う能力には、効果的かつ映えるタイミングというものがある。喪失、激痛、それを乗り越える悲壮感……そういった物語的文脈を無視した身体欠損《ボディパージ》は、虚無だ。
 第一『鴻鈞道人』にとって、『戦犯ぷれみ』の肉体を失う代償など微々たるものだろう。捨てるものが小さければ、得るものも小さいに決まっている。
「例えばぷれみ嬢とのマッチングを考えぬ、ただベタ付けしただけの――大量のウイングパーツに追加武装!」
 芸術とは、バランスである。既に完成されたデザインにあれやこれやと要素を付け足してみたところで、新たな価値は生まれない。理解も無ければ、敬意も無い、己のアピールだけが目的の愚行である。
「そして、例えば――『とりあえず壊したり血ぃ流しておけば激戦感出るし強そうやろ』という適当な汚し・壊し技術!」
『この惨状はほとんどお前達猟兵の所業だが……』
「言い訳がましいッ!」」
 その程度の構築《ビルド》。
 その程度の技量《スキル》。
 その程度の覚悟で、他者の躯体を操縦しようなど――。
「――見切りは容易いッ!」
 飛来するドリル弾頭に臆せず駆ける。否、あれをドリルと呼称することは、ドリルに浪漫を籠めてきた先人達への侮辱となろう。――あの回転する円錐は、『現在』の経嗣朗を貫こうとするはずだ。
 ならば、未来に向かって駆け抜けるのみ。

「其処に直るがいい骸の海!」
 七つ道具が宙を舞い、経嗣朗の五指に収まる。ポケットの中の余りパーツや壊れパーツ、ランナーの切れ端等々が、敵の放った弾頭をも巻き込んで樹脂人形《プラモデル》を組み上げていく。
「貴様に本気の戯れを――真なる《何にでも成り得る可能性/ビルドスピリット》というものを叩き込んでくれるッ!!!」

 独特の丸みを帯びた、重心の低い安定感のあるフォルム。
 くりくりの大きな瞳を模した超高性能カメラアイ。
 しなやかさと強度を併せ持つ、姫カットロングヘア型多層構造可動シールド。
「ぷれみ嬢型決戦兵器、“センパリオン”――どう考えても、キミより強い」
『根拠は』
「無いッ!」
 富良野式プラモ心製流、《僕の考えた最強の機体/マッチレス・アッセンブル・ワークス》。
 その真髄に、『心のつながり』などという甘っちょろい概念が介在する余地はなかった。経嗣朗の内側で徹底的に自己完結した信念のみが存在していた。
 魂の籠もった傑作が――量産型の駄作に負ける理由は無いッ!
「本物のボディパージを見せてやれ! 過去を捨て、未来へ進むヒロインに相応しい――《物語の節目で髪切るやつ/ヘアカット・イメチェン・ブレード》を!」
 姫カットロングヘア型多層構造可動シールドが分割され、ショートボブ姿となった“センパリオン”がくるりと回る。遠心力で射出された髪先が、青き断罪の刃となって――往生際の悪い『骸の海』を、ピクセル以下の微粒子となるまで切り刻む。
「模型とは、フィギュアとは、プラモとは……自由だッッッッッッッッ!!!!!!」

 ……『鴻鈞道人』の気配が失せて、『渾沌の地』に静寂が戻る。電脳じみた装飾は消え、思念の声も聞こえてこない。
 勝ったのだ。そして勝利のこの瞬間、グリモア猟兵が生きているかどうかは賭けだった。猟兵たちの視界には……彼女の姿は映らない。残骸じみた正方形のデータの破片が、虚無の闇へと溶けていく。
 手加減抜きの全力で攻撃した以上、当然の結果ではあった。
「ぷれみ嬢……?」
 経嗣朗の声に応えるように、超高性能カメラアイに真っ赤な光が灯る。
「ぷれみ嬢……! そうか、そこに居るのか」
『ピ―――― ガガガガガ……』
 想像から創造されたぷれみ嬢型決戦兵器“センパリオン”は、無敵にして最強の機体である。未来へと続く無限の可能性が――跡形もなく消滅した『戦犯ぷれみ』の肉体から、彼女の生命的な何かをサルベージすることをも可能としたのだ。
「では帰ろう! 私達のグリモアベースへ!」
『ピガ――!!!』
 そういうわけでめでたしめでたし。
 今度こそ――殲神封神大戦、完!

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月04日


挿絵イラスト