殲神封神大戦⑰~白鷺は渾沌の地に沈む
オブリビオン・フォーミュラとして蘇った大賢良師『張角』。
彼の者は、封神武侠界のオブリビオンを封じていた仙界の至宝『封神台』を破壊した張本人。そして今また、封神武侠界にカタストロフを発生させようとしている。
それを阻止するため、猟兵達は『殲神封神大戦』に挑むこととなり。
人界から、張角のいる仙界へ向かい行き。
仙界の最深部にある、いまだ形定まらぬ『渾沌の地』に辿り着いた。
そこで猟兵達を待ち受けていた者は、とても見覚えのある姿をしていた。
無造作に1つにまとめられ、鳥の尾のように揺れる長い白銀の髪。年相応に皺が刻まれた顔でにっとに笑う緑色の瞳。
いつも胸元に揺れる古びた金のコインのペンダントも。その両手に握られた、特徴のないごく普通の諸刃の短剣も。何ら変わらず。
グリモア猟兵である九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)その人が、猟兵達の前に立ちはだかる。
「私は渾沌氏『鴻鈞道人』。
……いや、今は渾沌氏『九瀬夏梅』と名乗るべきか?」
その口から紡がれる声も、夏梅のものに間違いないけれども。
語られる言葉は夏梅らしからぬもので。
戸惑う猟兵達に、夏梅は不敵に笑い、言い放った。
「さあ、罪深き刃を刻まれし者達よ。
相争い、私の左目に炎の破滅を見せてくれ」
時は少しだけ遡る。
「次に案内するのは仙界の最深部にある『渾沌の地』。
そこで戦う相手は、この私だよ」
グリモアベースで猟兵達を前にした夏梅は、苦笑しながらそう切り出した。
渾沌の地にいるのは、自らを『骸の海』と自称する『鴻鈞道人』。
オブリビオンの『再孵化』や、『渾沌の諸相』といった妙な能力を持つ謎の敵は、グリモア猟兵を自らの元に呼び寄せ、その体内に潜り込み融合することもできてしまい。
「つまり私が鴻鈞道人になるわけだ」
とんっと自身の胸を叩いて、夏梅は笑う。
「鴻鈞道人は強敵で、完全に滅ぼすことはできないが、ひとまず戦闘で殺すことは可能だし、撤退させることもできる。
ってわけだから、私を全力で倒しとくれ」
とりあえず、愛用のタガー以外の武器や道具は全部置いていくから、と両手をひらひら振って見せ、気楽な口調で説明を続ける。
夏梅は完全に鴻鈞道人に操られる状態となるため、仮に夏梅と何らかの心のつながりを持っている猟兵が相手となったとしても、一切有利には働かない。
また、鴻鈞道人が強敵であるゆえに、手加減をすることもできない。
戦闘後に夏梅が生きていることを祈るしか、ない。
「まあ、見ての通り、老い先短いババアだ。
気兼ねなく、遠慮なくやっとくれ」
年若いグリモア猟兵を相手にするよりはいいだろう? と軽い口調で言いながら。
猟兵達が気に病むことがないようにと気遣ってか、いつもと変わらぬ笑顔を浮かべ。
最後になるかもしれない転送を、いつもと同じ様子で、行った。
佐和
こんにちは。サワです。
思いっきり夏梅をぼこるチャンスです。
グリモア猟兵である九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)の体内に渾沌氏『鴻鈞道人』が潜り込み、融合している状態となります。
見た目は夏梅ですが、中身は完全に鴻鈞道人です。
鴻鈞道人を倒せば夏梅は解放されますが、手加減などしている余裕はありません。
夏梅ごと殺すつもりで戦うこととなるでしょう。
夏梅は二振りのタガーを使うシーフです。
他の武器や道具は持っていないため、それ以外の攻撃は扱いません。
ただし、鴻鈞道人として『渾沌の諸相』を使ってきます。
渾沌の地は夏梅に合わせてか、アックス&ウィザーズに似た光景となっています。
障害物のない、草原が広がる開けた場所です。
尚、当シナリオには特別なプレイングボーナスが設定されています。
それに基づく行動をすると判定が有利になります。
【プレイングボーナス】グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
尚、夏梅の先制攻撃はタガーによるものです。
イメージ的には『シーブズ・ギャンビット』ですが、『渾沌の諸相』により強化されています。
それでは、白鷺猟を、どうぞ。
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
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POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セシル・バーナード
あのお婆ちゃんも無茶をいってくれるもんだ。そうまで言われたら、助けないなんてないでしょ。
正直、ただ短剣で斬りかかられるだけなら、どうと言うことはない。十分「見切り」の範囲内だ。
それに付随するundefinedが警戒心を引き上げる。曲刀で受けるのもしないで、触れられることも避け攻撃を全部避ける。当たっても、「激痛耐性」で我慢する。
未知とは無明である ならば英知の光もて 其の姿を暴かん
雷球乱舞展開。「全力魔法」雷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「貫通攻撃」で、『鴻鈞道人』を叩きのめせ。
死角のない全方位攻撃だ。そう簡単に対処されても困るよ。しっかり喰らってね。
異様な気配が消えた? 終わったのかな?
「あのお婆ちゃんも無茶をいってくれるもんだ。
そうまで言われたら、助けないなんてないでしょ」
幾度となく様々な世界へ転送してくれた姿を。縁と言うまでの深い関わりはないが、それでも互いを覚えるには充分な程、顔を合わせてきた相手を。セシル・バーナード(サイレーン・f01207)は眺めて苦笑する。
無造作に1つにまとめられ、鳥の尾のように揺れる長い白銀の髪も。年相応に皺が刻まれた顔も。いつもと、そして先ほど見たのと何ら変わりないけれども。
にっとに笑う緑色の瞳にどこか違和感があって。
何よりその纏う雰囲気が、感じるプレッシャーが、違う。
「私は渾沌氏『鴻鈞道人』」
紡がれた言葉は、夏梅の声色だけれども、夏梅のものではなく。
セシルを見つめる瞳は、どこか冷たい色を見せて。
「さあ、罪深き刃を刻まれし者達よ。
相争い、私の左目に炎の破滅を見せてくれ」
告げると共に、夏梅の背中に白き天使の翼が生まれた。
同時に、夏梅の元へ飛び込もうとしていた2人の猟兵……長い赤髪の女性と憲法着のケットシーへ、そしてセシル自身へ、タガーと思しき攻撃が襲い掛かる。
刀身の短い剣ゆえに、攻撃の間合いは決して広くない。それが、多少とはいえ距離を取っていたセシルの元へ瞬時に届く、そのスピードは舌を巻くものだったが。
正直、ただ短剣で斬りかかられるだけなら、セシルにとってはどうと言うことはない。
攻撃への警戒をしていたこともあって、動きは十分に見切れていたから、曲刀で受け止めることもできそうだった。
しかし。放たれた攻撃は、タガーに似ていてもタガーではなく。
白き殺戮する刃……鴻鈞道人の『渾沌の諸相』だったから。
タガーを2振りしか持っていなかったはずの夏梅が、3人に切りかかれているから。
undefinedへの警戒心から、セシルは、攻撃の回避に全力を注ぐ。
受け止めて反撃、なんてことも考えない。
触られることすら避けるように、幾つもの刃を躱して。
夏梅から大分離れた場所で、ようやく攻撃が止み、足を止める。
「……本当に、無茶をいってくれる」
そしてまた、苦笑を浮かべると。
「未知とは無明である」
ぽつりと紡いだ言葉と共に、セシルの周囲に、指先程の大きさの金属球が生まれた。
「ならば英知の光もて 其の姿を暴かん」
金属球は強い電撃を帯び、硬質なその姿を輝かせて。
「雷球乱舞展開」
雷霆珠が無数に増える。
そして、セシルは夏梅へ向けてにっこり微笑むと。
「雷の爪牙、我が敵を穿て」
雷霆珠は、硬い光で幾何学模様を空中に描き出しながら夏梅へ向かう。
複雑に飛翔する雷霆珠を、死角のない全方位攻撃を、だが夏梅は、強化したそのスピードで躱していくけれども。回避しきれず、白き殺戮する刃と白きおぞましき触手とで、相殺するように受けていく。
「そう簡単に対処されても困るよ」
夏梅当人には届かずとも、刃を、触手を、減らせていることを。そして、雷霆珠への対処によって、他の猟兵達へのチャンスができることを見て。
「しっかり喰らってね」
セシルは雷光の幾何学模様を描き続けた。
大成功
🔵🔵🔵
――息を絶つ誰かが 遥か空に手を伸ばす
見上げた昏い星が 夙に滅びていることも知らず
ガーネット・グレイローズ
夏梅。夏梅!…もう聞こえていないか。
今の彼女は鴻鈞道人と完全に融合している。
戦うしかないのか…。
色々考えたが、私が出来る最も有効な手段はこれか。
「シンプルな打撃」
全力の一撃を叩き込む、一瞬の隙を作るしかない!
妖刀アカツキと躯丸の二刀流で、触手を切り払う《2回攻撃》。
《念動力》でスラッシュストリングを操り、白き翼を削ぎ切る。
そして殺戮の刃をブレイドウイングによる《ジャストガード》
で弾きながら、武器を投げ捨てて無手に。一気に距離を詰める。
シーブズギャンビットと同等の速さなら、これしかない!
《功夫》の動きで【烈紅閃】を繰り出し、夏梅の内部の
渾沌氏へエーテル波動の浸透打撃を送り込む《鎧無視攻撃》!
「夏梅。夏梅!」
一見してはいつもと変わらぬその姿に、だがいつもと異なる気配を感じて。
そして、直前に聞いた話を、信じがたいと思っていたそれを、思い出して。
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)はその名を呼びかける。
しかし、ガーネットを一瞥した緑瞳は、いつもの穏やかで見守るようなものではなく、得体のしれない冷たさのようなものだったから。
「……もう聞こえていないか」
鴻鈞道人と完全に融合してしまっている状況を実感して。
「戦うしかないのか……」
一度だけ、憂いに揺れる赤瞳を伏せて。
だがすぐに、迷いを振り切って顔を上げると、ガーネットは夏梅の元へ飛び込んだ。
普段は隠居を気取っている夏梅が戦うところを見た記憶は少ない。だが、その数少ない機会から、そして聞いた話から、夏梅のシーフとしての腕は知っている。
そこに鴻鈞道人の『渾沌の諸相』の強化が加わってはくるけれども、攻撃の軸は変わらないと踏んで。ガーネットは瞬時に思考を巡らせると。
(「私が出来る最も有効な手段は……」)
「シンプルな打撃」
一瞬の隙を作り出して、全力の一撃を叩き込むこと。
はじき出したその答えに向けて、ガーネットは、妖刀・アカツキと屍骨呪剣『躯丸』をそれぞれの手に握り締め、夏梅との間合いを詰めた。
その動きに反応してか、夏梅の背中に白き天使の翼が生まれる。
そして、白きおぞましき触手と、白き殺戮する刃も。
かつて見た技巧とスピードとが、ダガーという武器で迫り来るのは予想通りだが。そこに『渾沌の諸相』である触手と刃の攻撃が加わってきたから。
ガーネットは、妖気を解放したことで赤く輝かせたアカツキの刀身で、骨のように真っ白な躯丸の刀身で、迫る触手をそれぞれ切り払い。マントの中に秘匿していた液体金属の翼を広げると、エッジを硬質化させ、殺戮する刃を弾いていく。
戦闘用のブレードワイヤーで翼を牽制しつつ、攻撃を受け凌ぐことはできた。
しかしそれにより、夏梅に近付こうとしていた足を止められてしまい。
それでも諦めず、一瞬でいいと狙って、攻撃を弾き払い続けると。
そこに小さな金属球が、複雑な軌跡を描いて飛翔する。
夏梅を狙って放たれたらしい無数の幾何学模様は、しかし夏梅には届かないけれども。
その対応に、おぞましき触手が、殺戮する刃が、向けられたことで。
待っていた一瞬を生み出すチャンスが生まれる。
一瞬でいい。一撃でいい。
ガーネットにはそれだけでいい。
だって、他にもこの場には猟兵が、夏梅を助けようと集まった者達がいるのだから。
攻防の最中に視界の端に捉えていた見知った姿達に、口の端で小さく微笑むと。
ガーネットは、右から迫る触手を切り払ったアカツキを、上から降り注ぐように狙い来た刃を弾いた躯丸を、切り開けた道を見るなり手放して。
無手のままで、一気に夏梅との距離を詰めた。
(「これしかない!」)
身軽になったことで加速を得て、長い赤髪を大きく靡かせて、その懐へ飛び込むと。
髪色のように鮮血のように紅いエーテルを纏った拳を叩き込む。
功夫のような動きで繰り出される徒手空拳・烈紅閃。
それは夏梅の内部へ……鴻鈞道人へとエーテル波動の浸透打撃を送り込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
――流れる血の色も 鼓動の音も
生きてるあなたを彩る 命を紡いで
源波・善老斎
危険あらば等しく正すが行善天拳の道なれば、如何な相手とて容赦はせん。
しかし九瀬殿……聞こえておるか存ぜぬが、万が一おぬしのようなうら若き娘を手に掛けたとなれば、我が生涯の憂いとなるじゃろうのう。
故にその命、易々と手放してくれるでないぞ!
先制攻撃は、疾き刃ならば「斥蝕刀」にて【受け流し】、異形化の重き一撃ならば【軽業】にて躱すぞい。
容赦はせぬが、善を尽くさぬとは言うておらん。
真に危険なるは、相争えと破滅を謳うその心じゃ。
我が前にてそれを欲するは九瀬殿にあらず、ただ鴻鈞道人のみ。
ならば、掌にて気を拉くべし……行善天拳奥義が一、【拉気掌】!
この先幾度現れようと、我が道の続く限り追い返してくれるわい!
「危険あらば等しく正すが行善天拳の道なれば、如何な相手とて容赦はせん」
夏梅の覚悟へと拱手を送った源波・善老斎(皓老匠・f32800)は、その意に応えようと冷徹な答えを返した。
だがどこか芝居がかった仕草で、その細い目を少しだけ彼方へ向けると。
「しかし、九瀬殿……聞こえておるか存ぜぬが、万が一、おぬしのようなうら若き娘を手に掛けたとなれば、我が生涯の憂いとなるじゃろうのう」
どこかすっとぼけたような口調で、にやりと告げる。
とはいえ『うら若き娘』は冗談ではない。
ケットシーゆえに見た目からは分かりづらいが、善老斎は齢100を数える仙猫。蓄えられた長いひげも、貫録を出すためだけでなく、その老齢ゆえのものでもある。
そんな善老斎からすれば、自分をババアと呼ぶ夏梅であっても、30近く年下の若輩者になってしまうわけで。
まだまだこれから、と夏梅を鼓舞するかのように笑った善老斎は。
「故にその命、易々と手放してくれるでないぞ!」
告げて夏梅の元へと飛び込んだ。
その動きに反応してか、夏梅の背中に白き天使の翼が生まれる。
白きおぞましき触手と、白き殺戮する刃も生え、それらを別個に動かしながら。
善老斎へは、夏梅の手にした2振りのダガーがメインに迫ってきた。
善老斎は斥蝕刀でダガーを受け流し、また、殺戮する刃を躱していく。
何しろ、ダガーよりも幾分長いその赤錆色の刀身に刃はなく、祭祀用としてあるものだったから。必然的に、善老斎の動きは防御に徹したようなものになっていた。
といっても、善老斎が攻撃を諦めたなどということは全くなく。
「真に危険なるは、相争えと破滅を謳うその心じゃ。
我が前にてそれを欲するは九瀬殿にあらず、ただ鴻鈞道人のみ」
斥蝕刀を振るう合間に訥々と語りながら、チャイナ帽とデザインを揃えた拳法着に少しずつ切れ目を入れられていっても、細い目は油断なく夏梅を見据えていて。
「ならば……」
そこに降り注いできた無数の雷霆珠を待っていたかのように。
殺戮する刃が雷球の迎撃へと動きを変えたその隙を逃さず、善老斎は赤錆色の刀でダガーを大きく打ち払うと、夏梅の懐まで一気に飛び込んだ。
「行善天拳奥義が一、拉気掌!」
放つは『老斎包気』を籠めた掌底。打撃というよりも、触れたような一撃は、そこから気功波を生み出し。夏梅の身体ではなく、その心を……破滅を謳う鴻鈞道人を攻撃する。
「容赦はせぬが、善を尽くさぬとは言うておらん」
夏梅の身体を傷つけない一撃。
だがそれは手加減ではなく。活人を極意とする『行善天拳』の神髄であるから。
「この先幾度現れようと、我が道の続く限り追い返してくれるわい!」
何度でも打ち込んでみせようと、善老斎はにやりと笑った。
大成功
🔵🔵🔵
――絶えず時は運び 全てが土へと還る
然うして今があるなら 僕らは死を踏み生きてる
天城・潤
九瀬さんには御恩と御縁があります
迷い持ちふと応じた依頼で霧を払って頂いたのは
つい先日のこと
ですから…ええ
来ない選択はありませんでした
先制攻撃は空中機動や集中力、見切りでかわします
そしてUC黒蒼刃鏖殺詠唱
普段であれば凡てを斬る死の刃ですが
今回は渾沌の諸相だけを狙いすまします
射程も威力も三倍なのでただ集中し異物だけを
「貴女にこのような見苦しいものは似合いませんから」
交わした言葉がたとえただの一言でも
命を賭ける意義はあります
無意味であっても言わずにはいられません
「貴女は、貴女を大切に思う方々の元へ帰るべきです」
倒し切れたらにこり、と笑みが漏れるでしょう
僕が仮に血に塗れていても、それは些細な事ですから
「九瀬さんには御恩と御縁があります」
天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)が夏梅に会ったのは、つい先日。それこそこの殲神封神大戦での依頼でだった。
ふと応じた依頼で、転送を担当していたグリモア猟兵。
交わした言葉も、必要最低限でありきたりな一言、二言だけ。
ただそれだけではあったのだが。
その依頼で、心の奥に迷いを持ったまま向かった潤の、霧を払ってもらえたから。
優しい仙人達と潤とを、引き合わせてくれた人だから。
潤に、この場に来ないという選択肢は、ありえなかった。
にっこりと笑顔を見せた潤は、迷いなく夏梅へ向かっていく。
見覚えのあるその姿に白き天使の翼が生え、白きおぞましき触手が無数に伸ばされ、白き殺戮する刃が幾つも放たれたのを、潤は油断なく見据えて。集中力を高めると、それらを見切り、右へ左へ軽やかに、時には宙をも踊るように、回避の動きを見せる。
けれど、その数が、そのスピードが、潤に少しずつ傷を刻んでいく。
それでも潤は怯むことなく、黒蒼刃を手に踏み込んで。長い赤髪の女性と憲法着のケットシーの拳が夏梅に届いたのを見て。
「この刃に触れるものに、死を」
続くように、ユーベルコードで強化した黒蒼刃鏖殺を振るう。
普段であれば全てを斬る死の刃は、だがしかし今回は、渾沌の諸相たる白きものだけを狙い、ただただ、夏梅から異物だけを斬り落とすように奔る。
「貴女にこのような見苦しいものは似合いませんから」
翼も、触手も、殺戮だけを望むような刃も。夏梅には不要とばかりに。
夏梅を蝕むようにも見えるそれらを、夏梅から引き離そうとするかのように。
潤は、一心に白を斬る。
それが夏梅に潜り込んだ鴻鈞道人だけへの攻撃となっているかは分からない。夏梅自身を攻撃しないことで、鴻鈞道人へも攻撃が届いていない可能性だってある。
それでも、潤は自身の信念を貫く。
……如何なる時も、護れ。
受け継いだ記憶の中で、『黒蒼刃』の銘と共に貰った言葉を握りしめて。
かつてとは違う刀を、同じ思いで振るいながら。
潤は、潤として立ち向かう。
そして、おぞましき触手を断ち切れば。殺戮する刃を弾き斬れば。
少なくとも、夏梅へ向かう道は開く。
そこを駆け抜けていく小さな背中が見える。
「貴女は、貴女を大切に思う方々の元へ帰るべきです」
その思いは。その願いは。今の夏梅には届かないのかもしれない。
それでも。無意味であっても。潤は言わずにはいられない。
無数の傷と血に塗れても。
例え命を賭けてでも。
(「僕がどうなろうと、それは些細な事ですから」)
恩と縁に報いるために、潤は微笑み、白を斬り続けた。
大成功
🔵🔵🔵
――継ぎ接ぎの羽をもがれて 絶望の海に餐まれるのか
その醜い醜い姿は 半壊した心臓を掲げた僕だ
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)ほか、その場の知ってる人たちと!
渾沌氏、夏梅ばーちゃん乗っ取ったの!?
うーん、殴っていいのかな? ホントに?
え、いいの? わかった!!(拳ぎゅ)
ばーちゃんはシーフだから、速さが売りだよね。
あとね、制球力(?)いいから。
おいらの急所をきっちり狙ってくるよね。
だからね。来るのは、ココ!
急所ずらして一撃喰らったら、筋肉ぎゅっと締めて、ナイフ抜けなくして。
ね、動き止まるか、得物を失うか。
どっちがいい?
片翼になったばーちゃんは、凄み半減!
ここから反撃だ。れっつ・だんしん!
一瞬でも動きが止まったら、コッチの番だよ♪
ヒマワリ踊りは、渾沌風味なんだって。
母ちゃん言ってた!(叩き付け)
木元・杏
まつりん(祭莉・f16565)と
他の皆とも連携して対応する
本当に夏梅がいる
ん、夏梅が言ってた、手加減無用と
よし、まつりん殴ろう!
反物の卯月を装備し、ひらり舞うようにジャンプし逃げ足でタガーを回避
第六感で感じ取り切れず回避し損ねたなら、卯月にオーラを纏わせ防御と武器受けを
代償を受けるのも夏梅の身体
許せない
まつりんの踊りに合わせて【Shall we Dance?】
うさみん☆渾沌風な踊りを舞い踊って?
ふふ、名付けて「這い寄る渾沌な舞」
楽しめない貴方はやはり夏梅ではない
大好きな夏梅、返してもらう
卯月を巻き付けた灯る陽光(大槍)を手に真っ直ぐ駆け
真正面から鎧無視&貫通攻撃
戦闘が終われば急ぎ夏梅の手当てを
「本当に夏梅がいる」
転送された先に佇むには珍しい人影に、木元・杏(焼肉処・杏・f16565)がぱちくりと金色の瞳を瞬かせる。
説明はちゃんと聞いていたけれども、それでも、やはり見ると聞くとは違うから。
「渾沌氏、夏梅ばーちゃん乗っ取ったの!?」
並び立つ双子の兄、木元・祭莉(マイペースぶらざー・f16554)も、信じられないというようにこくんと首を傾げた。
倒すべき敵は、自らを『骸の海』そのものであると語り、グリモア猟兵と融合してその身体を奪っているという渾沌氏『鴻鈞道人』。
とはいえ、見た目は融合した相手そのもの。いつもの夏梅と変わらなかったから。
「うーん、殴っていいのかな? ホントに?」
祭莉は反対側に首を傾けながら、訝し気に夏梅を見やる。
しかし杏は、迷うことなく頷いて。
「ん、夏梅が言ってた、手加減無用と」
融合されてしまう前の夏梅を信じ、ぐっと両手を握りしめる。
妹の様子に祭莉の戸惑いも晴れたかのように、銀色の瞳が輝くと。
「え、いいの?」
単純に示されたやるべきことに、茶色い狼耳がぴこんと立ち上がった。
そのうちに夏梅の背に白き翼が現れ、白きおぞましき触手が、白き殺戮する刃が、夏梅をさらに取り込もうとするかのように蠢き始めたから。
そして何より、その白き『渾沌の諸相』が夏梅の肉を破り現れたことで、見知った姿が一気に流血に染まっていったから。
(「代償を受けるのも夏梅の身体」)
このまま夏梅の身体を好きにはさせないと。
これ以上夏梅に代償を払わせるようなことはさせないと。
(「許せない」)
杏は、赤く染まる白鷺に怒りを抱いて。
「よし、まつりん殴ろう!」
「わかった!」
むっとしたような顔で声をかけた杏に、祭莉も元気よく応えて。拳をぎゅっと握りしめると夏梅へ向けて走り出した。
小さな金属球が降る中、見慣れた赤く長い髪が黒いロングコートを翻して飛び込んでいったのを追いかけるように。白が切り払われ、出来上がった道を辿るように。
接近した祭莉に、ダガーの刃が繰り出される。
……祭莉が知る夏梅は、馴染みの酒場で葡萄ジュースを飲み交わしたり、一緒に騒いで遊んだり、元気で優しく楽しいばーちゃん。
でも、そんな何気ない日常の端々に、酒場の常連から伝え聞いた二つ名の話に、そしてヘル・マウンテンで垣間見た動きに、シーフとしての実力を感じ取っていたから。
(「おいらの急所をきっちり狙ってくるよね」)
その速さを、腕を、信じているから。
(「だからね。来るのは……」)
「ココ!」
鋭く寸分違わず放たれた、急所を狙った一撃を読み切って。祭莉は、僅かに狙いをずらして一撃を喰らう。
急所ではないとはいえ、致命傷は避けたとはいえ、深く食い込む刃。
そこに祭莉は、筋肉をぎゅっと締めるように力を込め、ダガーが抜けないようにした。
「ね、動き止まるか、得物を失うか。どっちがいい?」
痛みの中でもにかっと笑いかけながら、夏梅に問いかける。
そこに突撃してくる一台のバイク。咄嗟に夏梅はダガーから手を離し、バイクの勢いに乗せて後ろへ跳ぶように退いて、祭莉から距離を取った。
ゆえに、祭莉の元に二揃いのダガーの一刀が残されて。
片翼になった夏梅に、祭莉は笑うと。
「れっつ・だんしん!」
その周囲にコミカルな向日葵を咲かせると一緒に踊り出す。
「うさみん☆、渾沌風な踊りを舞い踊って?」
そこに、杏が送り込んだうさ耳付メイドさん人形も加わって。
杏自身も、白き触手や刃を、桜模様の見事な反物をひらりふわりと揺らめかせながら、まるで踊るかのように舞い躱していて。
「ヒマワリ踊りは、渾沌風味なんだって。母ちゃん言ってた!」
「ふふ、名付けて『這い寄る渾沌な舞』」
向日葵が、うさみみメイドが、祭莉が、杏が。
意識を引き付け、見惚れざるを得ない、不可思議な踊りを披露していく。
さらにそこにユーベルコードが重ねられ。踊りを楽しんでいない者の行動速度を5分の1にする力が働いていくから。
「楽しめない貴方はやはり夏梅ではない」
いつもなら笑って手を叩いて褒めてくれる夏梅を思い出して。
冷たい眼差しで踊る杏を見る、その銀色にも輝いて見える緑瞳を見返して。
そして、自らの血で赤く染まった姿と、背に広がる白きおぞましき翼を睨んで。
苦々しく告げた杏の隣から、踊りのステップを使って祭莉が飛び出した。
「コッチの番だよ♪」
殴り飛ばされ体勢を崩した夏梅に追いすがり、ダガーを持たない手をがっしと掴むと、無造作にそれを振り回して、地面へびったんと叩きつける。
詰まった息を吐きだし、白き『渾沌の諸相』を散らし、血塗れの身体を引きずるようにして、それでも尚、夏梅はすぐさま起き上がろうとするけれど。
杏はふわりと揺れる反物に念を込め、白銀の光が象る剣にぐるりと巻き付かせると、桜模様の大槍を作り出して。
「大好きな夏梅、返してもらう」
暖陽の彩が花弁の如く舞い散る中で。
身体を起こしかけた夏梅の真正面から。
思いを込めて、鋭い一撃を穿ち放った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
――いつしかあなたを否むすべてを
何もかもこの手で壊せるように
駒鳥・了
ガチ勝負ねーオッケー!
間に合ってっかな?
お互いギリ命さえありゃどーにかなるっしょ!
(回復持ちの友達チラ見てエンジン吹かし
ナイフの乱れ投擲で牽制しつつ
残像で瞞しながらバイクで突っ込み&なぎ払い!
懐に飛び込めたらUCでオレちゃんも1人登場!
刀片手にカウンターかまして刻みに行ってもらう
そのまま夏梅さんじゃない部分の腑分けヨロ!
オレちゃんは再度バイクで突っっ混んでジャンプしたら空中から近接を仕掛ける!
バイクはもう要らないね
使い捨て系ナイフはダガーに力負けするケド
無限に湧くし切っ先さえ避けられりゃおっけ!
風の属性魔法を膝や肘に乗せて体術でぶっぱなすし!
得意な方向性じゃないけど
不法滞在者はとっとと出てけ!
「ガチ勝負ねー。オッケー!」
間に合ってっかな? と口の中で呟きながら、駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)はものすごいスピードで夏梅へと走っていった。
その速度を生み出すのは両輪駆動オフロードバイク『Iron bird』。少女には似つかわしくない程武骨で荒々しいバイクを、だが了は難なく乗りこなし。明るい茶色の髪を元気よく揺らしながら、躊躇うことなくアクセルを握る。
迫り来る鉄の塊に反応してか、白きおぞましき触手が、白き殺戮する刃が、行く手を阻むように蠢き、放たれてくるけれども。了はそれらをにやりと浮かべた笑みで迎えて。
「お互いギリ命さえありゃどーにかなるっしょ!」
黒髪の少女を追い越しざまにちらりと見つつ、さらにエンジンを吹かした。
そして、黒髪の青年の援護と共に、無限に増殖するバタフライナイフの投擲や、その速さを生かした残像で、白き『渾沌の諸相』を牽制し、すり抜けて行けば。人狼の少年が夏梅のダガーを捉え、その動きを止めたところだったから。
「オレちゃん登場!」
チャンスとばかりに了は、体当たりする勢いで夏梅に突っ込んだ。
しかし、直撃の瞬間に白き翼が割り込み、そして夏梅自身も勢いに乗るように地を蹴っていたから、さほどのダメージは与えられていない。
けれども、突撃で、夏梅の手からダガーの一刀は離れていたし。
元々の了の狙い通り、夏梅の懐へと飛び込めていたから。
「そんで、オレちゃんも1人登場!」
ユーベルコードで現れた『もうひとりの了』が、至近距離から反りの浅い打刀を冷静に振るい、カウンターのように白き翼を切り刻む。
「夏梅さんじゃない部分の腑分けヨロ!」
そのまま『了』を夏梅の傍に残し、了はバイクで一度離脱すると。
再び、今度は踊る人狼の少年と黒髪の少女とは別方向から突っ込んでいった。
踊りに見惚れてか、先ほどよりも反応遅く振り返った夏梅から、やはりまた白き触手が蠢き向かってくるけれども。それは『了』が無言のままに斬り落とし。
白き刃には、バタフライナイフを放ち。小さなナイフゆえに力負けするのを、その数でどうにか切先を僅かに反らして。直撃や致命傷だけは避けていき。
傷だらけになりながらも、重なる痛みを無視して、バイクと共に突っ込めば。
今度は激突する前に空中へジャンプ。バイクを弾き飛ばした白い翼を避け、空中から飛び降りる様に襲い掛かる。
「得意な方向性じゃないけど……」
風の属性魔法を纏い、膝での打撃を、そして着地してから旋回するような動きで肘打ちをと、体術を繰り出して。
「不法滞在者はとっとと出てけ!」
了は、夏梅の胸部に突き飛ばすような一撃を打ち込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
――この世を滅ぼす愛で 芽生えた想いを終わらせて
こんな痛みを得るならば 心なんていらないと哭いた
フリル・インレアン
ふええ、あまりお話したことがありませんが夏梅さんと戦うことになるなんて。
アヒルさん夏海さんを取り返しましょうね。
あのユーベルコードで先制攻撃は・・・。
いけません、念動力でダガーを抑えて自傷を防ぎます。
鴻鈞道人さんに融合されて全然手加減ができないということは夏梅さんは気を失っているのかもしれません。
恋?物語で夏梅さんの精神だけでも取り返します。
戦闘力は下がってしまいますが、熟練の技を持つ夏梅さんに体を操作してもらう方がよさそうです。
フォースセイバーで精神攻撃をすれば出血はしませんし、傷口を念動力で押さえて流血を防ぎます。
私の中に入ったことでアヒルさんの声が聞こえるはずです。
妄言じゃないんですよ。
「ふええ、あまりお話したことはありませんが、夏梅さんと戦うことになるなんて」
大きな帽子のつばをぎゅっと握りしめたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は、顔を隠すようにしながらも、帽子の下からおずおずと、猟兵達と戦う夏梅を見ていた。
フリルが夏梅に転送してもらった回数は、すぐに数えられない程多いけれども。極度の人見知りなフリルは、何度も何度も顔を合わせているはずの夏梅とも未だに打ち解けきれておらず。声をかけられれば逃げ出さずに答えられるようにはなったものの、自ら進んで話しかけるまでには至っていない、といった間柄。
そんな微妙な関係だけれども。フリルなりにこの縁を大切に思っていたから。
「アヒルさん。夏海さんを取り返しましょうね」
意気込む声に、両手で抱えたアヒルちゃん型のガジェットも力強く鳴いた。
といっても元々の性格ゆえに、フリルはなかなか積極的には飛び出せず。
どこかおろおろと戦いの様子を眺めるばかり。
白き翼を広げ、白き触手を生やし、ダガー以外にも白き刃を振るう異様な姿を。
その攻撃により傷ついていく猟兵達を。
そして白き『渾沌の諸相』が現れる度に代償として血を流していく夏梅を。
自身がその痛みを感じているかのような、泣き出しそうな顔で、フリルは見つめて。
その最中の夏梅の動きにはっとする。
「あのユーベルコードは……」
それは『流れる血に嗤う渾沌の諸相』。自己強化のユーベルコードだけれども。
それを発動させるには、ある条件……敵より多く血を流していること、を満たす必要があるものだから。
「いけません」
夏梅のダガーが夏梅自身に向いたのを、フリルは必死に念動力で止める。
これ以上強化させない、というよりも。
自傷なんてしてほしくないから。
1本の刃を止めることに全力を注いだ。
ダガーに込められた力はものすごく強くて、自身を傷つけることに一切の躊躇いがないことを感じる。フリルはその力から、鴻鈞道人の支配の強さを感じ取って。
ふと、思う。
(「鴻鈞道人さんに融合されて全然手加減ができないということは、夏梅さんは気を失っているのかもしれません」)
もしそうであるならば。フリルには、気絶中の相手を幽霊に変え、依代とした自身に憑りつかせるユーベルコード『果たされなかった想いを叶える恋?物語』がある。
「夏梅さんの精神だけでも取り返します」
踊りながら夏梅に向かって行く双子が、風のように飛び込んでいったやんちゃ坊主が、夏梅に自傷をさせる余裕を奪ったのを確認してから、念動力を解除すると。
フリルは夏梅の心を呼び寄せる。
上手くいくかなんて分からない。
もしかしたら仮説から間違っていて何の効果もないかもしれない。
それでも、可能性があるのなら。そしてフリルにそれができるなら。
フリルは弱気な赤い瞳に、頑張って決意を込めて力を紡ぎ。
どこからか歌声のような何かが小さく小さく聞こえたような気がする中で、ガア、とフリルの背を押すように響くガジェットの力強い声。
(「私の中に入ったら、夏梅さんにもアヒルさんの声を聞いてもらえますね」)
フリル以外には鳴き声にしか聞こえないその声に、そんなことも思って。
聞いてもらえたらいいと、小さくフリルは微笑んだ。
(「妄言じゃないんですよ」)
大成功
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――この身が壊れど歌う 泣かないあなたの代わりに
朽ちゆく願いに陽が射して 僕という影は消えるだけだ
日野・尚人
それじゃ遠慮なく・・・出来る訳ないだろっ!?
予めこうなると分かっててもやり辛いって。
とはいえ九瀬のばあさん、鴻鈞道人とか抜きでも俺より強いんだよぁ・・・
くそっ! やるしかないかっ!
何にしても最初の一撃を往なさないと話にならないよな。
<集中力>を高め<視力>と<第六感>で<見切り>、<武器受け><受け流し>!
<カウンター>を入れる隙があれば<早業>で足を払い<体勢を崩す>。
こりゃ本気で手加減なんて言ってられない、か。
なら・・・全力だ!
UCを発動し、目にも留まらぬ速度で間合いに踏み込む。
そして強化した<軽業><2回攻撃><フェイント><零距離射撃><乱れ撃ち>!
九瀬のばあさんを返してもらうぜ!
「それじゃ遠慮なく……出来る訳ないだろっ!?」
始まってしまった戦いに頭を抱え、日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)はその表情を複雑に歪める。
鴻鈞道人が潜り込んで融合していると聞いても、見覚えのある少し意地悪そうな笑みが消えていても、身体から白き『渾沌の諸相』が現れていても、尚人の前に立つその姿は、グリモア猟兵として何度か世話になった夏梅そのもの。見知った相手と戦うのは、やはりやりにくいものだから。
尚人は短い茶髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
しかし、その間にも、白が蠢き小さな金属球が飛び交い、長い赤髪の女性と拳法着のケットシーが殴り掛かって、戦いは進んでいくし。それに応じる夏梅の身体が、能力の代償に流血に赤く染まっていくから。
「くそっ! やるしかないかっ!」
意を決して、というより、決意せざるを得ない状況に追い込まれて。
尚人は集中力を高めつつ、ハンドガンを片手に夏梅へと向かっていった。
そこに迫り来るは、触手であり刃であり。尚人の決意を嘲笑い、打ち砕こうとするかのように襲い掛かってくるその動きを見て、読み切って、何とか受け流すけれど。
近づけずに尚人は一度後退する。
(「九瀬のばあさん、鴻鈞道人とか抜きでも俺より強いんだよぁ……」)
改めて感じるのは、UDCアースの平凡な学生である(と尚人自身は思っている)自分との実力差。尚人と同じシーフとはいえ、『白鷺』の二つ名は年老いて尚、アックス&ウィザーズの空を飛び続けているから。
「こりゃ本気で手加減なんて言ってられない、か」
片手間にカウンターを狙うどころか、躱しきれず、浅い傷に止めるのがやっとだった攻防を、じわりと感じる痛みで思い知らされて。
そして何より、その攻撃を尚人に向けることで血を流す夏梅の姿を目の当たりにして。
「なら……全力だ!」
尚人は風の魔力を纏い、静かなる暴風と化して夏梅に迫る。
執拗に白を切り払う黒髪の青年が、ほんの僅かに作った道を強引に辿っていけば。
1刀だけになっていたダガーの切先が不自然に止まったそこに、バイクを囮にするように茶髪の少女が突っ込んで。その小柄な見た目以上の威力で夏梅を吹っ飛ばす。
ここがチャンスだと一瞬にして見切った尚人は、攻撃を繋げるべく、目にも留まらぬ速さで夏梅の間合いに踏み込むと。
「九瀬のばあさんを返してもらうぜ!」
小さく『L』の刻印がある回転式拳銃のグリップを左手でしっかり握り。
零距離での乱れ撃ちで、白き翼ごと夏梅を捉えた。
そのまま油断なく、右手にコンバットナイフを構える尚人の前で。
崩れた体勢を立て直すことすらできず、倒れ込む夏梅の無手となった腕を、駆け寄ってきた人狼の少年が握り。無造作に振り回して地面に叩き付ければ。
何とか起き上がりかけたそこに、黒髪の少女が抱き着くように飛び込んだ。
そして、少女の手に握られた槍が、夏梅を貫く。
白きおぞましき触手が少女を狙い蠢くのを、尚人は咄嗟に斬り払い。
続く攻撃を警戒して構えたところで、ようやく気付く。
切り払った触手が、霧散するように消えていき。
白き刃も、白き翼も、溶け崩れていって。
少女の黒髪の上に、夏梅の皺だらけの手が、優しく添えられていることに。
気付いて、ほっと息を吐いた。
「……世話を、かけたね」
かすれたような小さな声に、他の猟兵達も戦いの終わりと目的の達成を見て。
安堵の空気が広まるや否や、急いで紡がれていく回復のユーベルコード。
誰も彼もが傷だらけだけれども、どの顔も笑みに彩られ。
いてて、と傷を押さえた尚人もその例に漏れず。
にっとこちらに笑いかけてくる夏梅の笑顔に、へへっと笑い返していた。
大成功
🔵🔵🔵
――0と1の狭間に鎖された現実に堕ちながら
残酷なまでに美しい世界を見た