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殲神封神大戦⑰〜アークレイズ撃破

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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●フォー・アンサーズ
「お集まり頂き有り難う御座います。これよりミッションの内容を説明します」
 グリモアベースにて集った猟兵達を前に、ダビングが右のマニピュレーターを握り締めて左胸部に当てがい腰を屈めた。
「依頼主は当機。目標は鴻鈞道人と融合した当機が搭乗するキャバリア、アークレイズの排除です」
 青いカメラアイに走査線が走る。すると宙に三次元立体映像が展開された。その貌は予兆に現れた『鴻鈞道人』に他ならない。
 仙界の深部にある形定まらない渾沌の地。そこで骸の海を自称した『鴻鈞道人』が猟兵達を待ち構えている。
「鴻鈞道人は作戦領域への猟兵転送を担うグリモア猟兵を喚び寄せて融合する能力を有しています。当機は転送を行い、鴻鈞道人の融合を意図的に受ける事で当機及びアークレイズを依代とします。猟兵各位の皆様にはその後のアークレイズの撃破をお願いします」
 『鴻鈞道人』に融合された時点でダビングのあらゆるシステムは掌握される。電子欺瞞を除く逆掌握や説得の類はほぼ通用しないと想定した方が良いだろう。少なくとも心理的揺さぶりが有利に働く事は期待出来ない。
 一方でダビングと融合している間の『鴻鈞道人』は力尽きるまで戦わざるを得ない。現時点で『鴻鈞道人』の完全消滅は見込めないが、局地的な戦闘での撃破は可能だ。それこそが意図的に融合の依代となる理由である。このグリモア猟兵に限った話しではないが代償を払う価値はあるのだろう。或いは他に道が無いのかも知れない。
 対キャバリア戦に限った話しであれば猟兵達には強力なオブリビオンマシン、哪吒を撃破した実績がある。決して不可能ではないはずだ。
「融合後の当機はほぼ間違いなく猟兵各位の皆様に対し、取れる手段を全て用いて全力で戦闘に臨む筈です。よって、皆様に於かれましても全力で当機の撃破に当たって頂きたく願います。本作戦の結果に拠って仮に当機が完全破壊……生物学の定義上で殺害されるに至ったとしても、関係者各位には一切の責任は生じない事を確約致します」
 戦闘が始まれば『鴻鈞道人』はダビングの電子発声機能を介して何かを嘯くかも知れないし、嘯かないかも知れない。だが相互に手加減は例外無く不要。殺らなければ殺られる。猟兵達の前に立ち塞がるのは『鴻鈞道人』に融合されたダビングであって猟兵のダビングではない。仮に猟兵が躊躇いを見せればその隙を逃さないだろう。
 加えて『鴻鈞道人』は融合したグリモア猟兵の力を以て先制攻撃を行う。
 対して防御、回避、迎撃など取れる手段は様々だが、ユーベルコードのぶつけ合いという面では挑む猟兵側が後手に回らざるを得ない。必ずしも求められる訳では無いが、優位性を確保したいのであればユーベルコードに依存しない何らかの先制攻撃対抗措置を用意しておくのが得策だろう。
「ミッションの説明は以上となります。鴻鈞道人は他に類を見ない異質かつ強力な敵となりますが、猟兵は何時如何なる困難な状況下であっても確実に任務を遂行する存在であると認識しています。宜しくお願いします」
 ダビングは締め括りとして腰を屈めて首を垂れた。ここより先は言葉など既に意味を成さない。後は力だけが全てを決する。


塩沢たまき
 塩沢たまきです。宜しくお願いします。
 以下補足となります。

●作戦目標
 アークレイズの撃破。

●第一章=ボス戦
 『鴻鈞道人』に融合されたグリモア猟兵、ダビングが搭乗するキャバリア『アークレイズ』を撃破してください。
 戦闘領域は渾沌の地となります。渾沌の地はオブリビオンに応じて形状を変化させる性質を持ちます。今回は融合対象に合わせた環境を形作っているようです。
 時刻は恐らく正午頃。天気は快晴です。周囲は広大な海で、海面上昇によって水没し打ち捨てられた高層ビルが点在しています。戦域中央を二分するようにして非常に長大な橋が渡されています。この橋は複数の階層構造を有します。

●アークレイズ
 機動力を重視したバランス型のキャバリアです。
 使用するユーベルコードは『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』に準拠します。
 あくまで演出上のものとなりますが、武装はアサルトライフル、プラズマブレード、ミサイル、バリア、可変機構等を有します。
 後述のプレイングボーナスに関しましては『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』の内容のみを考慮して頂ければよろしいかと思われます。
 アークレイズの撃破=ダビングの撃破=『鴻鈞道人』の撃破となります。
 なお、ダビングは『鴻鈞道人』の融合作用によってアークレイズと物理と機能の両面で固着化しているため分離は極めて困難です。

●プレイングボーナス
 グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シル・ウィンディア
いつも紹介してくれた人が相手
覚悟を決めている人に手加減するのは失礼だから…
だから、行くよっ!

対UC
第六感で攻撃を察知して、瞬間思考力で最適な回避・防御を選択
回避は残像を生み出して、空中機動からの空中戦で三次元機動で回避
被弾時は、致命箇所を中心にオーラ防御
…覚悟決めてるのは、あなただけじゃないっ!!

反撃は、ビームランチャー・ツインキャノン・ホーミングビームの一斉射撃っ!
相手を動かしつつ、そのまま推力移動全開で突撃っ!
バルカンの射程に入ったらバルカンも撃つよ
そして、セイバーで切断した後には

限界突破で魔力溜めを行った全力魔法のヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!

これで、決まってーっ!!



●あの青き閃きよもう一度
 鴻鈞道人が変貌させた渾沌の地。そこはどこかクロムキャバリアに近い空気に満たされていた。天を見上げれば蒼空が広がり、小々波が揺れる海面のあちこちには巨大な高層建造物が立っている。いずれも古く朽ちており、文明の残り香りを漂わせるだけの遺構と化していた。そして戦域中央を2分割するようにして横たわる巨大な橋。剥き出しの鉄骨を見れば建造途中で放棄されたかのようにも思える。
 どこの世界にも存在しない仮初の空間。ここに鴻鈞道人に融合されたダビングがいる。そしてそれを討つために彼女が来た。
「覚悟を決めてるなら、手加減するのは失礼だよね……」
 翼状の推進装置を広げた精霊機『アルジェント・リーゼ』が大橋の支柱を潜り抜けて海上を駆ける。銀青の風が疾った後には白い水飛沫が海面を割って後に続く。コクピットに座すシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の硬い眼差しが決意を示す。迷いは無い。成すべきはひとつ。視線がレーダーとメインモニターを忙しく行き来する。
「来るならきっと――」
 シルの唇が言葉を溢そうとした瞬間、鋭い殺気が背筋を駆け上がるのを感じた。直感が警鐘を鳴らすままにフットペダルを踏み締め操縦桿を横に倒す。アルジェント・リーゼは機体姿勢を大きく傾斜し、背部の主幹推進装置であるエール・リュミエールから噴射光を迸らせた。生じた急激な加速で橋脚より離れて洋上へと滑走する。そこで漸く誘導弾の照準システム照射警報が鳴り響いた。
「来た!」
 アルジェント・リーゼが得られた速力を殺さず滑らかな推進制御で機体の向きを反転させる。脚部先端が海面に触れる寸前でバックブーストを維持、風圧が海面を裂いて白い水飛沫を沸かせる。そこでシルは遂に本作戦の撃破目標を視認する事となった。
「アークレイズ……!」
 蒼天の色を宿す大きな瞳に、空間戦闘機の姿を取ったソリッドステート形態で猛追するアークレイズの機体が映し出された。アルジェント・リーゼと同様に海面を滑空し夥しい水飛沫を巻き上げている。直後に誘導弾の照準警報は接近警報に切り替わった。アークレイズが機体後部に搭載しているミサイルコンテナのスレイプニルよりマイクロミサイル、メテオリーテを連射し始めたのだ。
「大丈夫、アルジェント・リーゼとならやれる……行くよっ!」
 シルが強く短くフットペダルを蹴れば強烈な急加速が加わった。全身を圧する重力加速度にシルが目を細めて眉間を歪ませる。
 アルジェント・リーゼは横方向にクイックブーストすると直上に飛び立つ。アークレイズが放ったマイクロミサイル群が白いガスの尾を引きながら後を追い立てる。だがアルジェント・リーゼに迎撃する様子は見られない。
「いまっ!」
 機体の総重量の軽さとエール・リュミエールの瞬間出力の高さを生かした三次元運動。質量を持った残像を置き去りにするほどの速力で行われたそれは、執拗なまでの誘導性能を持つメテオリーテのシステムを誤認させるほどのものだった。
 一瞬の先程までアルジェント・リーゼが存在していた空間に群がるマイクロミサイル。直上で視認していたシルは操縦桿のトリガーキーを引いた。頭部ビームバルカン、エリソン・バール。既に兵装選択は済んでいる。
「纏めて撃ち落とす!」
 メテオリーテが再度アルジェント・リーゼを捕捉したがもう遅い。頭部から高速連射される魔力粒子弾が誘導弾を次々に貫いて爆光の華を咲かせた。だが警報音は止まらない。メインモニターに上部の目標確認を促す報知が表示された。
「上!?」
 シルが目線を上げた先では、空間戦闘機形態からキャバリア形態へと姿を変貌させたアークレイズが電磁加速突撃銃、ベルリオーズの銃口をこちらへ向けていた。シルは反射的に機体を横へと滑らせた。
「くっ! フィールド!」
 同じくアークレイズも横へと走る。レーザーにも見紛う青白い軌跡を残す実体弾がアルジェント・リーゼを嬲る。正面に収束展開されたフィールドによって威力は減衰、尚も抜けた銃弾が青銀の装甲を削った。被弾時の甲高い金属音がコクピットに伝わるたびにシルの表情の険しさが増す。
「……覚悟決めてるのは!」
 指先がコンソールパネルの上を踊る。複数の兵装を同時に選択し活性化させた。
「あなただけじゃないっ!!」
 叩き付けるようにしてシルが叫んだ。アルジェント・リーゼが更なる急上昇と同時にブラースク改、テンペスタ、リュミエール・イリゼを全て展開した。リュミエール・イリゼから放たれた無数のホーミングビームがアークレイズに殺到する。誘導弾の対処を余儀なくされたアークレイズの攻撃の手が一瞬緩む。アルジェント・リーゼとの相対距離を離し始める兆候を見せた。
「その隙を逃さないっ!」
 シルが攻勢に出る。ホーミングビームの猛追に重ねるようにして連射モードのブラースク改を掃射。高速で吐き出された魔力粒子弾の飛沫がEM(エレクトロ・マグネティック)フィールドに阻まれ青白い明滅を繰り返す。被弾反動は伝わっているらしく回避挙動に綻びが生じた。そこへ迎撃を免れたホーミングビームが立て続けに命中。空中を飛び回るアークレイズの姿勢が大きく崩れた。割って入るようにアルジェント・リーゼがスラスターを煌めかせて前進する。
「テンペスタ!」
 背中のウェポンマウントを介して接続されている伸縮式の2連装砲、テンペスタの砲口から鮮烈な青の光軸が迸った。アルジェント・リーゼが搭載する兵装の中でも特に高い威力を発揮するキャノンより放射された魔力粒子がアークレイズを捉えた。EMフィールドと真正面から激突し合い双方のエネルギーが対消滅する。照射が終わったのとEMフィールドの整波が乱れたのはほぼ同時期だった。
「フルブーストっ!」
 エール・リュミエールが光の翼をはためかせた。アルジェント・リーゼは星の煌めきを散らせる光刃剣、エトワールを抜き去り突撃、アークレイズは後退しながらベルリオーズで迎撃を試みるも頭部バルカン、エリソン・バールの牽制でままならない。速力勝負でも一歩先に攻勢に転じていたシル側の方が有利だ。エトワールがアークレイズの胸部装甲を縦一文字に斬り捨てんとした刹那、アークレイズが左腕部に搭載するプラズマブレード、ルナライトより青白い荷電粒子の刃が伸びた。
「こんのぉぉぉーーー!!!」
 衝突するアルジェント・リーゼとアークレイズ。月の輝きを宿すエトワールと月明かりを宿すルナライトが切り結ぶ。目を焼かんばかりの強烈なスパークが明滅し、両機が生じさせる莫大な推力の押し付け合いによって海面が慄いた。しかし僅かにアルジェント・リーゼが押され始める気配を見せた。
「まだ、負けない……負けたくない! お願いアルジェント・リーゼ! 頑張って!」
 機動兵器とはいつも操縦者の思惟に応えてくれるものだ。アルジェント・リーゼもまたシルの咆哮に炉心を唸らせて鋼の翼から限界を超えた推進力を放出する。その青き閃きは魂の輝きにも思えた。両機共に決して譲らない鍔迫り合い。どちらかが根負けするまで永遠に続くようにも見えた状況だが、シルにとってはこの状況こそが当初からの狙いだった。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……!」
 荷電粒子と魔力粒子の反発が生み出す激しい明滅に表情を顰め、フットペダルを限界まで踏み込み、押し込んだ操縦桿を固く握り締めるシルの唇が詠う。
「六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれ……!」
 鍔迫り合いは唐突に打ち切られた。アルジェント・リーゼがアークレイズの斜め横方向へと抜けたからだ。明滅が止み、潮の風が止み、渾沌が無音で満たされる。世界の一瞬が何倍にも引き延ばされた。アルジェント・リーゼが向き直るよりもアークレイズの旋回が一呼吸速い。ルナライトが振り抜かれる。あまりの高出力に半実体化した月光色の刀身がアルジェント・リーゼのフィールドを引き裂いて胸部装甲を僅かに掠めた。赤熱化した金属片が宙に舞い散る。擦過した切創を代償にアルジェント・リーゼがアークレイズへと向き直った。
「ヘキサドライブ! エレメンタル……ブラスト!」
 6属性を複合した光を纏うエトワールが振り下ろされた。抜剣した直後から切り結んでいた最中に至るまで、蓄積し圧縮し続けていた魔力が刀身より放射される。
「これで! 決まってーっ!!」
 シルとアルジェント・リーゼの魔力が猛る光の御柱となってアークレイズを捉えた。EMフィールドを再展開されるも、チャージを重ねただけあって、この相対距離で止められる程度の威力では済まない。アークレイズの機影は奔流の中に飲み込まれた。限界超過の魔力砲撃を途中で止める術は無く、アークレイズを飲み込んでも尚直進を続け海面を直撃、属性反発と熱によって大規模な水蒸気爆発を起こして水柱を立ち昇らせた。空高く巻き上げられた海水が雨のように降り注ぐ。
「やった……の?」
 シルは瞬間的な魔力欠乏によって目眩を感じながら肩で荒く呼吸する。モニター上では限界超過稼働によってエトワールに深刻な損傷が生じている旨のメッセージが表示されていた。見れば光刃を発生させる基部が溶解していた。アルジェント・リーゼ自身が受けた負荷も大きい。各部駆動系からは火花が散りエール・リュミエールのバーニアノズルに至っては焼けてしまっている。恐らく先ほどの鍔迫り合いが要因だろう。
「無理させちゃってごめんね、アルジェント・リーゼ。でも、これで……」
 指先が疲労と緊張からの解放で震えている。シルは海面から生える朽ちたビルの屋上にアルジェント・リーゼを移動させると脚を付けて跪かせた。
「青いんだね、この世界も」
 覚悟を果たし、使命を果たしたシルが力なく笑う。渾沌が作り出した名も知れぬひとひらの世界の空は青く海も青い。持ち得る死力を尽くしたシルとアルジェント・リーゼを、波を揺らす潮風が穏やかに撫でていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星川・アイ
そんな……ダビングさんとやりあうだなんて
……面白そう
本気で行くけど、恨まないでよね!

【Ⅱ】に換装した【ジェナス】で出撃
敵のUCに対しては、ビルの上を転々と移動しつつ、サイドブースターを駆使したクイックステップも交えて回避していくよ
(空中機動・推力移動・戦闘知識・見切り)

代償で不調に陥ってる所を見逃さず、空中からパルスブラスターの連射で機体の動作不良を引き起こすよ
完全停止は無理でも更なる不調で動きは鈍るはず
(空中戦・マヒ攻撃・体勢を崩す・弾幕)

そこからUCで一気に肉薄、トドメといくよ
本気って言ったし、出力の出し惜しみはナシだよ
その限界をブレイクする!
(リミッター解除・限界突破)



●あなたを滅ぼすアイで
 世の理にまつろわぬ泡沫の世界。鴻鈞道人が支配する不安定に淀む渾沌の地は、今宵限り朽ち行く時代の写身を成していた。それは骸の海に沈んだいつかの時代なのか、それとも融合体の虚憶の中に残されていた時代なのか。
 何処とも知れない海上。四方を見渡せば水平線の境が曖昧になるほど澄み渡った空と海ばかりが広がり、頭上では眩しい陽光が燦々と輝く。戦域中央には世の果てまで続く巨大な橋が架けられ、ささやかな小波が騒めく海上には、滅びた人類文明の残滓を匂わせる高層建築物が打ち捨てられるままに屹立している。
 そのビル群の屋上を機動兵器が駆け抜けては跳躍する。白を基調とした装甲には緋色が燃える。背面にフライトユニットを搭載しているためシルエットこそ大きく見えるが、機体が持つ比率は中量級だ。仮にゲーマーの道に詳しい者が見ていれば既視感を覚えただろう。何せジェナス-VspⅡはとあるロボットゲームの機体を模した姿を成しているのだから。
「ダビングさんと本気でやりあうだなんて……」
 パイロット用の強化服に見えなくも無いeスポーツ仕様のレオタードを纏う星川・アイ(男の娘アイドル風プロゲーマー・f09817)は、ジェナスの制動を繰り返す。手足を細かく動かす傍ら、頭脳はこれから接敵する相手との戦術構築を多種多様に思い描いていた。
「まあでも、面白そうかも」
 アイに恐れは無い。プロゲーマーはいつも強敵に挑み続けていた。戦いに現実と非現実の区分などさしたる意味は持たず、命が賭けられていたとしてもそれは同じ。彼或いは彼女の身体は闘争を求めていた。自らの持てる技能を使い尽くせる熾烈なる闘争を。
「向こうは高機動バランス型だっけ……設計思想だけならこっちのジェナスとそう変わらないか……なぁっ!?」
 アイが視線をレーダーに流したのと敵反応を示す光点が表示されたのはほぼ同時だった。敵反応検知を報せる警告メッセージがメインモニターに表示され、やかましいアラートが鳴り響く。
「はーいはい、そっちからね!」
 ビルの屋上を滑走するジェナスが、踵部分のローラーから火花を散らせて側面に向き直る。アイは敵機を視界に捉えた。天使の翼にも見紛うほどのスラスター噴射炎を広げたアークレイズが遠方より超高速で突撃してくる。
「それじゃあゲームスタート!」
 ジェナスとアークレイズの相対距離は一瞬で詰められた。異常な高出力化によって刀身が白熱化したプラズマブレードをアークレイズが横薙ぎに振るう。ジェナスは敵機を正面に捉えた状態でビルの屋上をローラーダッシュで横方向に走る。直前まで引き付けた後に跳躍、腰部側面に備えられたサイドスラスターを噴射して機体を弾かせた。
「うえぇ、ビルが真っ二つ……」
 ジェナスが次なる足場のビルに着地する。先程まで居たビルの屋上部分が溶断され轟音と共に海面に没した。既にアークレイズは次の行動に移っている。減速する事なく後方に抜けた後に反転し、ジェナスに無数の誘導弾を放った。
「ミサイル……じゃない!?」
 機体後部のミサイルコンテナより放出されたそれらは白いガスの尾ではなく白い触手を引き連れていた。鴻鈞道人のユーベルコードで有線式誘導弾の類いに変異させられたマイクロミサイルなのだろう。
「そういうプレイの趣味も無いわけじゃないけど、今はちょっとね!」
 モードAに設定したXS-11Bスレイプニルを撃ち散らしながらジェナスがローラーダッシュで後退する。連射した幾つかの荷電粒子が触手誘導弾を撃ち落とすが数が飽和している。全迎撃は無理と判断したアイはビルの縁よりジェナスを降下させた。ビルの屋上に触手誘導弾を激突させるのが狙いだ。
「ちょちょちょ、そんなのアリ!?」
 狙いに反して誘導弾は地形に激突する事なく屋上の縁に沿って直角に降下、ジェナスの追尾を継続した。アイは条件反射でフライトユニットを起動しながらスレイプニルを連射する。また幾つかの触手誘導弾を迎撃するも今度は逆方向にアークレイズが出現した。
「あぁもう! また!?」
 レーダーに誘導弾を表す光点が追加表示される。アイは機体を反転させると朽ちたビルの群生地帯へと走らせた。ジェナスの背を夥しい数の誘導弾が追う。
「まぁ、いいんだけどねー。そろそろだと思うし」
 アイの表情にはうんざりした色は見えども焦燥は見受けられない。ジェナスがビルの屋上に降着する。やはり触手誘導弾は追尾を諦めず、四方八方に広がり獲物を追い詰める。
「ギリギリまで引き付けてから……こうっ!」
 殺到する触手誘導弾が遂にジェナスに辿り着いたと思われた矢先、アイは操縦桿を引いてフットペダルを力一杯に踏み込んだ。屈められたアンダーフレームの関節が急激に引き延ばされる際に生み出される反発力、腰部側面とフライトユニットを含む機体各部の推進装置が生み出す加速力、それらが一挙に放出された。跳躍したジェナスの機体が宙で弧を描く。
「かーらーのー? パルスブラスター!」
 触手誘導弾の軌道が交差する地点、つまりジェナスの数秒前の位置座標に対してBS-16PBパルスブラスターを放った。セミオートで発射された電磁パルス弾は数発。その弾体が屋上のコンクリートを穿つと電磁領域が連鎖して生じた。領域は極小だったが触手誘導弾を狂わせるには十分過ぎる要素だった。自ら電磁パルスに殺到したそれらは内部の電子機関を焼かれて次々に誘爆、アイはほんの数発の弾丸で80発以上にも及ぶマイクロミサイルを迎撃して見せたのだ。
 だがアークレイズの攻勢が終わった訳では無い。ジェナスが迎撃に行動リソースを奪われていた隙に頭上を取り、リニアアサルトライフルのべルリオーズを浴びせながら高速降下する。
「いっ! ちょ、痛い!」
 ジェナスは牽制射撃で反撃しながらもジグザグに後退し回避行動を取る。直撃はされなかったものの少なくない損傷を受けた。サブウィンドウに表示される機体各部のステータスが黄の警告色に染まる。
「大丈夫……! 焦らない慌てないっ! そろそろなはずだから」
 新たなビルの屋上に足を付けたジェナスのコクピット内で、アイはいよいよ本格的に面白くなってきたとばかりに不敵な微笑を滲ませる。額には冷たい汗が伝っていた。降下しジェナスと高度を合わせたアークレイズを正面に見据える。弾薬を喪失したらしいべルリオーズを投棄して月光色を宿すプラズマブレード、ルナライトの刀身を発すると、背面に天使の翼を想起させる膨大なスラスター噴射光を広げて迫り来る。だがそれは叶わなかった。突如アークレイズが背負う複合推進装置の一部が爆散、突撃を中断されて姿勢が大きく傾いた。
「ほらね! そんな無茶苦茶やり続けるから!」
 渾沌の諸相は融合体に鴻鈞道人の力を与え、致命的な代償を強いる。アイはこれを見越して初めから積極的な攻勢に出ず、避けと迎撃に徹していた。しかも高速空中戦が可能なジェナス-VspⅡに敢えてビルからビルを飛んでは跳ねてを繰り返す戦術を採らせる事で推進剤を節約し、反撃に備えていたのだ。
「それじゃ、今度はこっちのターンね」
 スレイプニルとパルスブラスターのダブルトリガーの猛襲。尚も機体各部のスラスターに不調を来しているアークレイズは回避がままならない。止むを得ずEMフィールドでの防御を選択する。荷電粒子と電磁パルスが電磁障壁に衝突し青白い稲光を迸らせる。アイは歯を食い縛りながらトリガーキーを硬く引き続ける。連続被弾に耐えかねたEMフィールドの整流に綻びが見えた。続く電磁パルス弾がアークレイズを撃ち据える。いかに鴻鈞道人の融合を受けているとは言え機械が機械である事に変わりは無い。そしてアークレイズは搭乗者自身も機械種族のウォーマシン。内外共に電磁パルスに灼かれては不具合を起こすのは必然にして確定だった。
「全力でって言ったしね、倒す為の手段は全部使わせてもらうよ」
 アークレイズのセンサーカメラが微かに明滅した瞬間、アイは全力でフットペダルを踏み込んだ。ジェナス-VspⅡの背面で光が爆ぜる。
「ぐっ、ううぅぅっ!」
 強烈な重力加速度に身体を押し付けられたアイが苦悶に呻めく。ジェナスはスレイプニルを構えると最大戦速でアークレイズに突撃、握る銃身を振りかざした。
「これで、墜とす!」
 操縦桿を押し込んだアイが叫ぶ。モードBに設定変更されたスレイプニルの銃身下部のアタッチメントよりビームエッジが生じた。上から下へと縦一直線に振り下ろされる刃が機能不全に陥ったアークレイズを両断するはずだった。
「なっ!? まだ動く!?」
 スレイプニルの刃はアークレイズに触れる直前でルナライトに阻まれた。高密度に収束されたエネルギー同士がぶつかり合い防眩フィルターでも軽減しきれない凄まじいスパークを生じさせる。
「やば、出力勝負だとあっちが上!?」
 スレイプニルの刃にルナライトの刃が食い込み始めた。このままでは押し切るつもりが押し切られてしまう。次の戦術を頭で考えるよりも先に、アイの女性的な細い指先が行動していた。
「こっちだって命懸けなんだから! イチバチでぇっ!」
 鍔迫り合いながらパルスブラスターのフラッシュハイダーをアークレイズの胸部に押し当てた。連続で引かれるトリガーキー。電磁パルス弾の零距離射撃が青白い稲光を弾けさせた。この距離で使えばジェナス自身も影響を免れない。まさに命の賭けであった。
「倒れろ! 倒れろ! 倒れろ! 倒れろ!」
 コクピット内に機体の異常を知らせるアラートが鳴り響く。アイは呼吸すら忘れてトリガーを引き続けた。弾倉に残されていた最後の一発が放たれた時、ルナライトの刀身が消え失せた。賭けの勝負を分けた要因、それは損傷を抑えていたジェナスに軍配が上がった。
「トドメ!」
 ジェナスがクトネリシカ・ドライブの連続斬撃を繰り出す。スレイプニルのビームエッジが袈裟斬りに走れば青い切創が刻み込まれ、横になぎ払われれば一文字に溶断される。そして胸部中央に銃身ごと突き込みフルブースト。限界を超過した最後の一撃を叩き込む。
 胸部装甲を貫かれたアークレイズの両腕が力無くぶら下がり、複眼式のセンサーカメラに灯る光が消えた。息を止めたままのアイの視線がレーダーをちらりと見遣れば、敵を示す光点はもうどこにも見当たらなかった。
 ジェナスが銃身ごと突き刺した腕部をアークレイズから引き抜くと、かの機体は重力の呪いに従って落下、海面に着水すると白い水柱を立ち昇らせて底へと没した。沈み行く機体の影を、アイは無言で見下ろしていた。
「……さようなら、恨まないでね?」
 機影が冷たい水底に消えた頃、ようやくアイの口が開かれた。その言葉にどのような感情が込められていたのかは定かでは無い。双眸を閉じて操縦席に深く腰を沈めて大きく息を吸い込み、そして吐き出す。機能不全を知らせる警報音も、ジェナスの各部から弾ける火花の音も、今のアイには生の実感を与える勝利の音色に聞こえた。
 この戦いに言葉も立場も主義主張も無い。ただひたすらに強い者が生き残っただけだ。やがてひとつの想いを終わらせたアイのジェナス-VspⅡは、虚な渾沌の世界より飛び去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
敵さんも恐ろしいことをしてくるね
まぁ、効果的であるのは認めざるを得ないけど
だからと言って僕の刃は鈍らないですよ?
熟達の忍は揺るがないからね
ただ忍務を遂行するのみってね
では…アポイタカラ、出撃するっぽい!
装備はいつも通りのマシンガン&ライフル
装填するのはフレシェット弾
ミサイルとかを迎撃するにはこの構成だよね
機動力を生かして一気に間合いを詰める
回避や迎撃に失敗したすることもある
それは結界術によるバリアと追加装甲で耐える
UCを放つまで持てばいいからね
うん、脚さえ残れば他の損傷は許容範囲内のです
十分に距離を詰めたら…<天彗蹴撃>
人事を尽くして天命を待つ
生還を願うくらいの情は忍にもあるですよ



●紅の天彗が白を滅ぼす
 全方角を海に囲まれた戦域を二分する巨大な多積層大橋。その最上階層となるアスファルト造りの路面上を赤鉄の鬼が滑走していた。
「敵さんも恐ろしいことをしてくるね。まぁ、効果的であるのは認めざるを得ないけど」
 露木・鬼燈(竜喰・f01316)はアポイタカラの胸中に座す。グリモア猟兵と融合し、単に人質に取るのではなく猟兵の手に掛けさせる骸の海こと鴻鈞道人のやり口は鬼燈からしても有効な戦略と言えた。だが鴻鈞道人には過信があった。
「だからと言って僕の刃は鈍らないですよ?」
 この程度の心理戦で熟練の忍が揺らぐ道理など無い。現に鬼燈の表情の色合いは常日頃と変わらない。敵の思惑がなんであろうと、敵がグリモア猟兵であろうと、ただ選んだ忍務を果たすだけだ。
「では……いざ尋常に」
 空の彼方に光が煌めいた。レーダーが検知するまでもなくそれがアークレイズであると鬼燈は認識している。そして先制の強襲が来る事も。
 輝点の正体はやはりアークレイズだった。空間戦闘機形態のソリッドステートの姿を採り上空遠方よりアポイタカラへと突っ込んでくる。レーダー検知範囲内に達した頃、機体後部に搭載しているミサイルコンテナを射出。鴻鈞道人のユーベルコードによって異形化したそれは規定の最大装填数を優に超える3桁代のマイクロミサイルを放出した。
「読み通りなのです」
 迫るミサイルの群れの前に足を止めたアポイタカラ。両腕にパルスマシンガン、左右の斜め後方に控えるフォースハンドにキャバリアライフルを構えた。背面に備える大型スラスターがエンジン音を上げ、機体各部のバーニアノズルが光を放ち推進力を生み出す。マイクロミサイルに対して鬼燈が選んだ戦術判断は攻勢迎撃。自ら距離を詰めながら四の銃で面の弾幕を形成、誘導弾の群れに飛び込んだ。
 マシンガンとライフルが途切れなく放つ弾体はフレシェット弾。南州第一プラントの調査中にも猛威を振るった弾種だ。ミサイルに接近すると信管が作動し無数の鏃を放った。対空防御手段としては最適であろうそれらは執拗な誘導性能を有するメテオリーテにも有効に作用した。だが如何せん総数が多過ぎる。迎撃を潜り抜けたミサイルがアポイタカラの側近に辿り着き爆散、金属片と爆炎で血染めの装甲を痛め付ける。だがアポイタカラには高機動化改修の一環で設けられた追加装甲と魔術印式守護を有するナノクラスタ装甲が備わっていた。想定内の損傷は受けるだろうが致命的では無い。また小刻みなクイックブーストを繰り返す事で大きな損害は回避し続けていた。
「あら? いない?」
 アポイタカラがミサイルの爆煙を抜けた。アークレイズの機影は無い。鬼燈がレーダーに視線を走らせるより先に、背後の煙幕が吹き飛ばされた。キャバリア形態となったアークレイズがベルリオーズを連射しアポイタカラに突撃する。
「後ろに抜けてたっぽい!」
 アポイタカラは半身のスラスターを噴射してクイックターンをかける。電磁加速された小銃弾が装甲を掠めた。ブーストダッシュでアークレイズと距離を詰めながら反撃にクロストリガーで四連斉射を加える。アークレイズも右左に瞬発回避を取るもフレシェット弾の範囲から逃れられない。無数の鏃がEMフィールドに激突しては消滅する。
「バリアですか。じゃあ直当てで抜くのですよ」
 詰まる相互の距離が零となる。振り抜かれるアークレイズの月光剣ルナライト。アポイタカラは機体を捻りスラスターを噴射して刃から逸れるが僅かに躱し損なった。肩部装甲が荷電粒子の刃に削り取られる。代償に得たのはライフルとマシンガンの直撃距離。自己にも損害が出かねない危険な間合いだが、鬼燈は至って冷静に引き金を引いた。
「脚さえ残れば他の損傷は許容範囲内なのです」
 四挺の銃が放つフレシェット弾がアポイタカラとアークレイズの至近距離で爆裂した。立て続けに攻撃を受けたEMフィールドが著しく減衰、アポイタカラもマシンガンとライフルを失った。紅の装甲の表面には無数の切創痕が刻み込まれている。
「チャンスっぽい!」
 アークレイズが見せた怯みは数秒間に満たない。だがその隙を鬼燈は見逃さなかった。アポイタカラが跳躍する。位置取りにしてアークレイズの斜め上まで飛び上がると片方の脚部を突き出した。そして、鬼燈が全霊を籠めて究極の一撃を叫ぶ。
「必殺! アポイタカラ・キィィィック!!」
 スラスターより炸裂する光が稲妻のように迸る。生じた推力によって得られた最大加速は時速換算で11,900kmにも及ぶ。紅の矢と化したアポイタカラの天彗蹴撃はまさに流星の如し。脚がアークレイズの胴を正中に捉え、そして打ち砕いた。
 着地したアポイタカラが大橋の路面上を削りながら滑る。ようやく制止した際には空気摩擦で機体全体が赤熱化していた。跪くアポイタカラの背の向こうでアークレイズが力なく膝から崩れ落ちる。
「我に蹴り抜けぬもの無し……っぽい」
 双眸を閉じた鬼燈はそう呟く。主要動力炉であるプラズマリアクターを破壊されたアークレイズは青白い爆光の中に消えた。周囲にはイオン臭が充満する。爆風を背に受けるアポイタカラは動かない。
「人事を尽くして天命を待つ……生還を願うくらいの情は忍にもあるですよ」
 鬼燈は融合体となったグリモア猟兵の末路を敢えて見届けず、跪いていたアポイタカラを立ち上がらせた。ここまでが己の忍務。後は彼の役割。傷付きながらも去る赤鉄の鬼は、無言を背負い決して振り返る事は無かった。恐らくは、それこそが彼の祈りの形なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…その意気や良し。ならば加減は不要、全力で相手になるわ

太陽光を「影精霊装」で遮り空中機動を行う「血の翼」を広げ、
吸血鬼化による肉体改造で強化した第六感と動体視力で敵の射線を見切り、
銃撃による早業の迎撃や「写し身の呪詛」の残像で回避を行い、
直撃弾は「怪力の呪詛」のオーラで防御して受け流しUCを発動

…っ、やはり生身で機兵の相手をするのは骨が折れる

…だけど、その程度の不利は最初から承知の上。今度は此方から往かせて貰う

全能力を6倍化し「溶岩の精霊結晶」を乱れ撃ち敵の捕縛と熱暴走を試み、
体勢を崩した敵に超高速で切り込み大鎌を怪力任せになぎ払い、
同時に限界突破した魔力を溜めた闇属性攻撃の斬撃波で追撃を行う



●灰は灰に
 蒼天に輝く日輪から陽光が降り注ぐ。凪の海を写したかのような澄み渡った空模様ながら、影に潜み闇に生きる者にとっては肌を灼く光が忌々しくもあるだろう。
「……その意気や良し。ならば加減は不要、全力で相手になるわ」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の声音は熱を感じさせない。双眸の奥の眼差しは、片手に携える過去を刻む大鎌の切先の様に鋭く冴え渡っていた。
 身に纏う黒衣は影精霊装。闇で編まれたそれは、凜然と燃える太陽の光さえも通さない。全てが仮初の虚ろなこの世界に於いても効力は例外無く発揮されているようだった。
 背に伸びる呪血色の双翼は、彼女が限定的ながらも吸血鬼化を果たしている証左でもある。蒼空を飛ぶ彼女が翼を羽ばたかせるたびに、魔力の燐光が羽根の貌を取って舞い散った。
 リーヴァルディは敵の先制に対処するべく、接敵時の優位性を得るために予め相応な高度を維持していた。周囲に視線を一巡させれば見渡す限りの海原が広がっている。海面から伸びている大袈裟な背丈の建築物からして、ここはかつて人類の生活圏だったのだろう。その朽ちたビル群の合間から白色の空間戦闘機が唐突に現れた。距離はかなり開いている。だが直感から伝わる殺気は剃刀のようだ。既に戦端は切られていた。
「躱せる……!」
 空間戦闘機形態を採るアークレイズの砲身が青白い光を放ち始めた時には、リーヴァルディは射線の軌道を思い描いて血呪の翼を翻していた。直後に凄まじい熱量を帯びた荷電粒子が、一秒前までいた空間を擦過する。息を吐く暇など無い。開いた片手に術式陣を浮かべると、それを介して二連装マスケット銃を喚び出した。
 吸血鬼狩りの銃の大口を向けた先では、空間戦闘機形態のアークレイズが無数の超小型誘導弾を放出しながらも高速で接近しつつあった。迫る殺意を前にしてリーヴァルディは努めて冷静に人差し指を引き金に掛けた。重い発射衝撃を伴って二連の銃口より弾体が投射される。その弾体は誘導弾に触れる直前で信管を作動させ爆発、夥しい魔力の熱粒子を撒き散らしてミサイルの多くを迎撃してみせた。されど全てでは無い。続けて二射三射と撃ち放つも、迎撃を逃れた誘導弾がリーヴァルディの元に達する。彼女は微かに表情を歪めると、直後に生じた爆炎の中に飲み込まれた。
 目標を撃破したと認識したのだろう、アークレイズはリーヴァルディが消えた後の爆炎の横を通り抜けた。その瞬間、灰黒い煙を裂いて血の双翼が広げられた。リーヴァルディは初めから墜とされてなどいない。呪詛で生成した写身に誘導弾を引き付けて逃れていたのだ。
 背面を見せた空間戦闘機にKresnikの速射を浴びせる。標的は縦軸回転を繰り返して回避して見せるとキャバリア形態に変型して急速反転、左腕より月光色を宿した荷電粒子の刃を生じさせてリーヴァルディに斬りかかる。
 リーヴァルディは押し迫る機動兵器を眼前に鋭い目付きを崩さず自ら肉薄、グリムリーパーを左下方から右上方へと振り上げた。
 死者の思念を喰らう深淵の大鎌と月明かりの光剣が斬り結び、黒と青の稲光を辺りにのたうち回らせる。リーヴァルディの身長は153.4cm、対するアークレイズの全高は約500cmと両者の背丈の差は二倍以上に開いている。されどリーヴァルディは怪力の呪詛を用いて絶望的なまでの質量差を補填していた。身体能力の強化を施す基礎的な術式。されど単純故に強力だった。
 鍔迫り合いでは埒が開かないと悟ったらしいアークレイズが後方に飛び退く。リーヴァルディはマスケット銃で追撃を仕掛けようとしたが即座に中断した。アークレイズが光剣の発振装置より荷電粒子弾を射出したからだ。リーヴァルディは赤い燐光を舞い踊らせながら翼を翻して左右に回避運動を繰り返す。加えて電磁加速突撃銃の掃射が浴びせられた。
 血の翼を広げたリーヴァルディは急激な加速を得て離脱、海面まで降下し水飛沫を後に引き連れながら滑走した。その背中をアークレイズが突撃銃を撃ち散らしながら追う。リーヴァルディは縦軸回避の傍ら吸血鬼狩りの銃で反撃を行う。弾丸が実体を持たない障壁に阻まれ青白い火花を散らせた。
「……っ、やはり生身で機兵の相手をするのは骨が折れる」
 苦渋を噛むリーヴァルディ。されどもこの程度の不利は任務を受諾した時点で折り込み済みだった。
「今度は此方から往かせて貰う……」
 逃げは終わりだ。
「……聖痕解放。今こそ、その呪わしき眼に、名も無き神の力を降ろさん……」
 リーヴァルディの唇が呪いを紡ぐ。左眼に刻み込まれた聖痕が騒めき立つ。巡る血脈に沿って肉体を、そして思惟を蝕み始める。無銘の神より力を得て、代価に意中の外で悪神に魂を貪り食われる諸刃の刃。身に降りかかるそれは痛みか高揚か、険しい表情の口元に噛み締められた八重歯が覗いていた。
 姿勢を反転させるのと同時に、血の翼を限界まで広げて空気抵抗を受ける事で急制動を掛ける。電磁加速された銃弾が翼を穿つが最早気に留める必要も無い。大口径二連装マスケット銃の薬室に新たな弾薬が自動装填された事を確認すると、リーヴァルディはトリガーを引いた。
 薬室に送り込まれた弾薬とは、厳密には弾ではない。自然現象を極限まで圧し、閉じ込め、縛り付けた魔力結晶体。此度は溶岩の性質を宿したそれらは凄まじい熱量を発する半実体弾として乱射された。
 背後を追っていたアークレイズはマスケット銃を脅威と見做さず、纏う電磁障壁を盾に小銃を連射しながら肉薄する。だが精霊結晶が障壁を撃ち据えた途端、その整流が著しく乱れ始める。異常に勘付いた時にはもう手遅れだった。続け様に溶岩の精霊結晶が薄らいだ障壁を貫いて装甲へと達する。熱量が伝導し冷却機能が暴走、機能保持の為に各推進系が出力を急速に低下させた。
「斬り込む……!」
 アークレイズが挙動に揺らぎを見せた瞬間にリーヴァルディはKresnikを投棄し、グリムリーパーの柄を両手で握り締めた。魔双翼が風を打ちリーヴァルディをアークレイズの元へと一直線に加速させる。力任せに繰り出された横薙ぎ一閃。レムナント・デウスエクスの呪いによって強化された身体能力から繰り出されたそれは重く、鋭く、そして凶悪だった。黒い刃がアークレイズの白銀の装甲に裂傷を刻む。
「闇より深い淀みに消えなさい……!」
 返す刃で漆黒の斬撃波が呪詛と共に放たれる。奇しくも月光の剣を振るう機士の最期を刈り取ったのは、黒い三日月の刃だった。胴体より上下に分断されたアークレイズが吸い込まれるようにして海面に没する。水柱が上がる直前に、機体と同じく両断されたグリモア猟兵の姿が断面から見て取れた。アークレイズは墜ち、ダビングは没し、鴻鈞道人は倒された。少なくともこの場では。
「……ぐっ、あ、時間切れ……か……」
 リーヴァルディが苦悶に表情を歪ませ、左眼を掌で抑え込む。視界の隅が闇に蝕まれ、背より伸びていた血の双翼は赤い燐光の羽根となって蒼空に霧散した。手から大鎌が零れ落ちる。四肢から力が失われ、意識は黒い沼の底に吸い込まれて行く。青く輝く海面へと落下する最中、虚ろな意識で空に手を伸ばした。微かに動いたリーヴァルディの唇は、果たして誰の名を呼んでいたのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラディス・プロトワン
アドリブ歓迎

同族を相手にするのは抵抗があるが、手加減できる相手ではない
キャバリアを所持していないのは致命的だが、だからこそ取れる戦法もある

ビル群や多階層の橋をうまく利用して先制攻撃をしのぎつつ接近を試みる
相手の性能を考えれば全ての猛攻を防ぐのは不可能だが、頑丈さには自信があるのでな

冷静沈着な『彼』の意識がなくなっているのなら、業を煮やして向こうから接近してくるかもしれん
そうでなくてもギリギリまで接近できれば十分だ

…ここだ!
アークレイズに飛び移り、操縦席をこじ開ける
固着化して分離できないという事はここから逃げられないと同義

吸収機構を最大出力で起動し、パイロットを活動停止させれば勝機はあるはずだ



●黒機士が白機士を喰い滅ぼす
 見てくれだけを再現したこの世界の海は、深い青に澄み渡っている。育む生命無き海水の透明度は非常に高い。上空からは底に没した都市の骸までが見通せる。海面を貫いて屹立する朽ち果てた高層ビルの数々も、戦域を二分する巨大な橋も、海底に深く根を下ろしたままだった。
 海原の各所に点在する高層ビル、その一棟の屋上で黒鉄色のウォーマシンが駐機している。
 グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)の姿を遠目に見れば黒甲冑の重騎士とも思えただろう。衝撃を受け流す曲面の装甲には円形のとある機関が備わっている。携える漆黒の両手剣は纏う印象をより強調付けていた。
「アークレイズの搭乗者はウォーマシンか。同族を相手にするのは抵抗があるが、手加減できる相手ではない……」
 ウォーマシンであるグラディスは敵の力をよく既知していた。スペースシップワールドの技術で製造されたそれは、名前が示す通り戦う為に作られた機械兵器。更にキャバリアに搭乗し、鴻鈞道人の融合によって性能に下駄を履かせられた状態で一切の容赦無く襲い来るとなれば手心を加えている余裕など無くて然りだろう。そして敵の目はやはり戦域に侵入したグラディスを逃さない。赤い双眸のセンサーカメラが睥睨する遠方のビルの横腹が灰色の煙を噴き出した。
「まるで出鱈目だな」
 ビルを貫いて空間戦闘機が出現した。ソリッドステート形態のアークレイズだ。グラディスの認識空間の中で被ロックオン警報が鳴り響き、目標を拡大表示したサブウィンドウがポップアップする。敵は攻撃態勢に入っていた。
「キャバリアを所持していないのは致命的だが……」
 だからこそ取れる戦術もある。元よりウォーマシンは小型の自律キャバリアのようなもの。質量は兎も角決して地力で極端に劣っている訳では無い。グラディスは遠方より迫る敵機に背を向けるとビルの縁より飛び降りた。ソリッドステートから高熱量反応を検知し、攻撃の兆候を掴んだからだ。
「この程度は抜いてくるか」
 E.Dブースターを噴射し、背にしたビルから機体を弾かせる。直後に青白い二本の光軸がビルを貫いた。飛散した荷電粒子がグラディスの装甲に触れて火花となった。頭上を黒い影が通り抜ける。アークレイズがグラディスを追って来たのだ。陽光を浴びて白銀に煌く空間戦闘機は、正面に回るとキャバリア形態に変型、電磁加速突撃銃を浴びせにかかった。
「速いな。だが」
 グラディスはそう言い捨てるとスラスターを噴射、近場のビルの影に飛び込み銃弾の雨をやり過ごす。そして盾としたビルの側面に沿って上昇、屋上へと降着した。アークレイズが後を追う。グラディスが旋回してアークレイズと正面から相対する。
「そうだ、追ってくるがいい」
 グラディスが後方にブーストして飛び退く。アークレイズが左腕のプラズマブレード発振機よりプラズマキャノンを撃ち放つ。凝縮された荷電粒子はグラディスが立っていた地点を直撃、青白い稲妻の爆光を膨らませてコンクリートを砕いた。余波がグラディスの装甲、ブラックフォートレスを炙る。されど超重金属製の甲冑はこの程度ではさしたる損傷を来さない。
「頑丈さには自信があるのでな」
 機動性では遅れを取らざるを得ないが、尋常ならざる護りの硬さは不足を補って余りあった。ビルの屋上より降下したグラディスは次なる足場へと着地した。やはりアークレイズは執拗に追撃する。
「ミサイルか……!」
 アークレイズが機体後部にマウントしているコンテナより超小型誘導弾を斉射した。白いガスの尾を引くそれらはいずれもグラディス目掛けて殺到する。グラディスはサイフォンソードで斬り払いながらまたしても後方に跳躍した。近接信管が作動する前に斬り伏せた誘導弾は起爆に至らなかったが、全てを迎撃するには手数が足りない。幾つかの光が爆ぜてグラディスを黒煙で覆い隠した。
「無傷で勝とうなどと、初めから考えていない」
 黒煙を裂いてビルの屋上へと着地したグラディスは、装甲に複数の傷を受けていた。各部の不全を確認する自己診断プログラムが走る。駆動系や電装系は特に問題ない。外部的な損傷を受けただけだ。要塞のような堅牢さを誇る黒い甲冑は、アークレイズの攻撃に対しても十分守護効力を発揮していた。そして同時にグラディスの目論見も果たされつつあった。
「鴻鈞道人に融合された事で彼固有の機械的な思考を欠いているのではないかと思ったが、やはりな」
 グラディスはダビングが標的を追い詰める戦術判断に傾向しているのではと見当を付けていたが、どうやら正解だったようだ。鴻鈞道人に融合されたダビングは、猟兵が見せる隙を逃さず、殺せるタイミングで確実に殺しにかかる。ミッションブリーフィングで受けた説明の通り、逃げと護りを繰り返していればこれ見よがしに攻勢を強めて追い詰めにかかってきている。これこそがグラディスの目論見だった。
「そのまま付いてくるがいい……」
 グラディスがアークレイズを正面に見据えた状態で後方に跳躍した。電磁加速突撃銃の速射を受けるが片腕で身を庇う。黒鉄の装甲の一部が次々に砕けて弾け飛ぶが機甲の電子頭脳に焦燥の二文字は無い。想定済みのダメージを甘受しつつバーニアノズルから紫炎を噴射し、仕上げを行うための場所へと飛び込んだ。
 戦域中央を跨ぐ多層構造の大橋。グラディスが飛んだその中間層は建造途中で放棄された高速道路の有様を形作っていた。アスファルト造りの路面と剥き出しの鉄骨がピースの抜けたパズルのように散らばっている。空間のスケールとしては車輌に合わせられているらしく、ウォーマシンなら問題なく行動可能だろうがキャバリアとなれば鉄骨や建材を破壊しながら進むしか無いといった程度だ。
 黒鉄の甲冑機士が降着すれば重い衝撃音が響き渡る。両のマニピュレーターでサイフォンソードの柄を握り込んで背後に振り返った瞬間、アークレイズが大橋中層へと強引に突入してきた。
「やはり出鱈目だな」
 EMフィールドの守護ばかりを頼りに、地形など構わず押し壊しながらグラディスへと迫る。だが太い鉄骨や造りかけの路面などに動きを阻まれ、あたかも泥沼で足掻いている様子にも見て取れた。機体の最大の長所である機動力は潰されたと判断しても良いだろう。
「次はこちらの番だ」
 グラディスの戦術思考は纏う装甲のように冷たい。闇雲に振り回されるプラズマブレードを力強くも繊細なスラスター機動で潜り抜け、アークレイズの眼前まで接近。路面を蹴って宙に飛び上がった。
「……ここだ!」
 センサーカメラが残光を流し、肩から腕部に至るまでの駆動系が唸りを上げる。機体重量を乗せたサイフォンソードがアークレイズの胸部目掛けて叩き付けられる。しかし黒い刃が装甲に食い込む事はなかった。電磁障壁であるEMフィールドに阻まれたからだ。青白い稲光が激しく明滅し、大橋の中層に落ちる影を全て消し去る。
「悪いが、織り込み済みだ」
 サイフォンソードを打ち込まれた電磁障壁は直後から急激に出力を弱めていた。剣に備わるエネルギーアブソーバーが整流を著しく乱す。一方の莫大な余剰出力を得たグラディスはグリードコアの出力を臨界まで引き上げ、力任せにEMフィールドを切り破った。
「届いたぞ」
 グラディスがアークレイズの胸部装甲にサイフォンソードを突き立て取り付いた。アークレイズが異物を排除しようと大橋中層より後退、ルナライトを闇雲に振り回す。身を屈めるグラディスの背面を荷電粒子の束が幾度も擦過し、装甲を赤熱化させた。されども離れず、エネルギーを吸収し続けながら突き立てているサイフォンソードでコクピットブロックのパネルラインをこじ開けた。機体内部に中枢として組み込まれているダビングが露わとなった。
 このグリモア猟兵は鴻鈞道人の融合作用によりアークレイズと完全に固着化している。つまりこの状態から逃げる手立ては無い。グラディスはサイフォンソードの柄を両のマニピュレーターで握り込むと、有無を言わさずダビングの胸部へ突き刺した。
「そろそろ食事にさせてもらうぞ……!」
 グラディスの機体各部に配備されているE.Dシステムが紫炎の渦を放射し始めた。これがヘビードレイン・フォーム。深々と突き刺さる両手剣を主な触媒としてダビングとアークレイズのエネルギーを急速吸収する。アークレイズはグラディスを振り落とそうと海上に離脱して闇雲にクイックブーストを繰り返す。スラスターの噴射炎が擦れを見せ始めた。振り回すルナライトも出力を途端に弱め、刀身の形成がままならない。遂にマニピュレーターがグラディスを捕らえる。
「まだだ!」
 装甲に加わる異常圧力にセンサーが全力で警鐘を鳴らす。グラディスは尚も全てのエネルギーアブソーバーを稼働させ、剣をより深く突き刺す。ウォーマシンもアークレイズもただで稼働している訳では無い。エネルギーを根刮ぎ奪い去ってしまえば活動を停止するはず。
 吸収した莫大なエネルギーが行き場を無くし、四肢の関節部から電流となって放出された。グラディスを引き剥がし、握り潰さんとするアークレイズのマニピュレーター。黒い要塞の異名を持つ装甲も流石に限界を迎えようとした刹那、ダビングとアークレイズのセンサーカメラの光が途切れた。
「終わらせる!」
 グラディスのエクステンド・アブソーバーから紫電が爆ぜた。直後にアークレイズに灯る全ての光が消失し、マニピュレーターの圧力から解放された。力を失った両腕がだらりとぶら下がる。サイフォンソードに貫かれていたダビングも同様に稼働状態を示す青い発光を喪失していた。機体が重力に従い海面への落下の兆しを見せる。グラディスはサイフォンソードを引き抜くとアークレイズを足場にブーストジャンプ、大橋の中層へと降着した。
 赤いセンサーカメラが見つめる眼下では、エネルギーを喰らい尽くされたアークレイズが腕を空に向かって伸ばしながら海面へと落下しつつあった。穏やかな小波が立つ海面にそれが叩き付けられると白く長大な水柱が立ち昇った。
「まずまずだったぞ。もう眠るがいい……」
 ダビングを内包したまま溟い海底へと沈み行くアークレイズへグラディスが言葉を溢す。鴻鈞道人の融合体を討った黒い機士は最後に何を想うのか。傷にまみれた冷たい鋼の姿から察する事など叶わない。ただ黙して佇むグラディスに、行く当ても知れない海原の潮風が虚ろにそよぐばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白石・明日香
混沌、カオスか・・・やってやる!!
キャバリアに搭乗して戦闘。
空中戦で挑み質量を持った残像で迷彩、撹乱しながらダッシュで間合いを調整し敵の異形化部位による攻撃の情報を集めながら知識として蓄えて挙動を見切って回避、
躱しきれなかったらオーラ防御、武器受けで凌ぐ。
エネルギー充填完了したら属性攻撃(虚無)、2回攻撃、鎧無視攻撃、鎧砕き、限界突破、捨て身の一撃、先制攻撃でカウンターして虚無に還す!
こんな機能見たことないぞ!?
これは・・・使えるな!!
さぁ、虚無に還るがいい!



●無限光
 渾沌が形作る仮初の海と仮初の空。中央を跨ぐ大橋の周囲には、人の時代の残滓を醸し出す寂れて廃れた高層ビルの数々が、海面から天に向かって屹立する。
 青と青の狭間、朽ち行く人工建造物の隙間を縫って二機の機体が飛び回る。一方はアークレイズ、もう一方は白石・明日香(十字卿の末裔・f00254)のクロウビゾンだった。
「これが、この世界がカオスか……やってやる!」
 紅の強化服を纏う明日香が操縦桿を引き込みながらフットペダルを踏み込んだ。クロウビゾンは背負う翼状のスラスターユニットより真紅の噴射炎を生じさせて後方に飛び退く。直後にアークレイズのプラズマブレードが擦過した。続けて右へと機体を滑らせて電磁加速突撃銃の追撃を躱してみせる。回避運動によって互いの間合いが大きく開いた。直後にクロウビゾンのコクピット内に警報音が鳴り響く。
「ミサイルか!」
 明日香はレーダーに視線を遣る。アークレイズを起点に誘導弾の光を示す光点が次々に表示され始めた。舌を打ち機体を急上昇させる。眼下に広がる海原とビル群。そして無数のマイクロミサイルがガスの白線をなびかせて鋭角な軌道を描いて殺到した。クロウビゾンは後退推進噴射しながらミサイルを捕捉、開いたマニピュレーターよりエネルギー波を連射し迎撃する。追い回す誘導弾の群れが幾つかの爆炎の華を咲かせるが、なおも多数の弾頭が追い縋る。明日香は舌を打ってさらに機体を加速させた。質量を持った残像さえも置き去りにする鋭角な回避運動に誘導弾が錯覚を起こして信管を作動し爆裂する。
「まだ追い付いてくるか! だが!」
 マイクロミサイルに紛れて突入してきたアークレイズがプラズマブレードの一閃で薙ぎ払うがクロウビゾンは寸前にクイックブーストして身を躱す。間髪入れずに浴びせられた電磁加速突撃銃の乱射を急降下で回避、幾らかの弾丸が掠めるも、機体の表面に張り巡らしている障壁が衝撃を減衰した。
「外観は変わらない……異形化とは内部的で、しかも地力を底上げしているに留まるものなのか?」
 回避と守備に徹する傍ら、つぶさに攻撃パターンを解析し続けていた明日香は、アークレイズの挙動を把握しつつあった。攻守に最適な間合いも見出している。しかし決定打が足りない。
「フィールドが厄介だな……!」
 掃射される銃弾をすり抜けたクロウビゾンが両腕より光線状のエネルギーを続け様に連射する。アークレイズは回避運動を取るが数発被弾、EMフィールドを光線が撃ち据えて青白いスパークを散らせた。
「やはり生半可な威力では通らないか!」
 傷痕を刻まれた明日香の表情が険しく歪む。クロウビゾンがマイクロミサイルをクローで切り払う。またしてもアークレイズが近接格闘戦の間合いに飛び込みプラズマブレードの突きを繰り出すが、スラスターを使用した強引な姿勢制御で回避。反撃にクローで引き裂きに掛かるがEMフィールドの表面層を削り取ったに留まった。
 後一手が欲しい。明日香は放たれたマイクロミサイルを振り切るために機体を降下させた。クロウビゾンが海面を滑走し大橋を支える橋脚の合間を縫うようにして飛ぶ。後ろには翼状の推進装置がなびかせる赤い噴射炎の軌跡と、風圧で巻き上げられた海水の飛沫、そしてマイクロミサイルが続く。機体が明日香の望みに自ら応えたのはその時だった。モニター上のサブウィンドウが独りでにポップアップする。
「なんだ……? こんな機能、見たことないぞ!?」
 金色と青の瞳が驚愕に見開かれる。サブウィンドウに表示されたそれはクロウビゾンの機体データだった。胸部装甲の奥に秘匿された内蔵兵器、その封印を解く時が来たのだと機体が明日香へと暗に示しを見せる。
「これは……使えるな! いいだろう! 使ってやるぞ、クロウビゾン!」
 見開かれた双眸が鋭く細められ、口元に不敵な笑みが浮かぶ。明日香はレーダーに視線を配りながら機体の姿勢を180度反転させた。
「確実にぶつける必要がある。隠し球に二度目は無い!」
 後退推進噴射しながら追走するマイクロミサイルをクローから放つエネルギー弾で次々に撃ち落とす。大橋の最下層を抜け頭上に青い空が見えた瞬間、太陽の光を背負った黒点が微かに見えた。
「そこだな!」
 その方向へとクロウビゾンが身を翻して最大加速で飛び立つ。推進力の圧を受けた海面が白波を爆ぜさせる。太陽を背負う黒点はやはりアークレイズだった。空間戦闘機形態へと変型し、収束荷電粒子砲、荷電粒子速射砲、ミサイルを並行して撃ち放ちながらクロウビゾン目掛けて急降下してくる。明日香は臆する事無くフットペダルを限界まで踏み込んだ。クロウビゾンは操縦者の制御も無しに自ら行った縦軸回避で全ての攻撃を潜り抜けた。黒に赤の発光線が流れる機体と、白に青の発光線が流れる機体。両機の相対距離は一瞬で縮まる。正面衝突すると思われた直前、アークレイズはキャバリア形態へと変型、プラズマブレードを振りかざした。
「見切っている!」
 クロウビゾンが腕を伸ばす。クローがEMフィールドの干渉を食い破り、プラズマブレード発振機を装備するアークレイズの腕部を捉えた。同時にもう片方のクローも電磁加速突撃銃を握る腕部を掴む。組み敷かれたアークレイズはスラスターを噴射して振り解こうとするも、クロウビゾンの拘束は固い。機体表面をEMフィールドの反発作用に痛め付けられながらも全力で押さえ込みにかかる。防眩フィルターでも軽減出来ないほどの青白い稲光の明滅に明日香が目を顰めた。
「この距離ならばもう逃げられないぞ! クロウビゾン、その力を解放しろ!」
 明日香の咆哮に機体が応える。胸部装甲が外開きに解放され、内部の動力炉が露出した。
「廻れ、インフィニティ・リボルバー!」
 動力炉が回転を始めたと同時に、禍々しい光が球体状に収束し始める。球体が大きさを増すに従い、魔術的な陣が映し出された。臨界に達するまでに数秒と時間を必要としない。稲妻を迸らせたのが充填限界の合図となった。
「さぁ、虚無に還るがいい……この無限光の彼方で!」
 クロウビゾンのセンサーカメラに血呪色が閃いた。
「アイン・ソフ・オウル! デッドエンドブラスト!」
 心臓より放たれた無限光がアークレイズに至近距離で命中、莫大なエネルギーは炸裂する事無く巨大な魔術陣を展開した。そこを中心として周囲を取り囲むように複数の円形魔術陣が生じ、中性子星が次々に喚び出される。中性子星はクロウビゾンが拘束するアークレイズの周囲を飛び回り、甲高い衝撃音と共に円形の虫喰い穴を穿ち始めた。だがそれは人間の脳の認識力でそのように視認されているに過ぎない。実際には時間遡行によってアークレイズの存在自体が抹消されているのだ。
 悍しいまでの力に反し、最後の一撃の瞬間は極静かに訪れた。残されていたアークレイズの末端が中性子星に喰われると、全ての魔術陣は立ち所に消え失せ、何事もなかったかのような静寂が訪れた。言葉通りの意味で抹消されたのだろう。クロウビゾンは開いていた胸部装甲を閉じ、動力炉を仕舞い込んだ。
「……これが、望んだ末路なのだろう?」
 誰に聞かせるでもない呟きが明日香の唇から零れ落ちる。度重なる細かな被弾とEMフィールドを強引に破った事で満身に夥しい傷を受けたクロウビゾンは、小波立つ海原を眼下にして宙に留まっていた。機体の装甲の隙間を流れる発光線が、血脈の様に脈動を放つ。青と青の狭間に風が疾る。明日香が横目で見た虚構の世界は、遙か果てまで無限に続いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャナミア・サニー
……なんでこんなことになってんの??
いやまぁ、自分の巻き込まれ体質はよくわかってるけどさぁ
話聞いたからには放っておくわけにもいかんでしょ
いくよ、レッド・ドラグナー!

高層ビルの屋上に陣取るってか飛び移っていく感じで戦闘開始
ビルとビルの間くらいならEPドラグナー・ウィングでなんとかなる

RBSツインバレルライフルで牽制しつつ移動
実弾兵器にバリアってすっごく面倒なんだけど?
ついでにあっちの先制は自己強化で防ぎようがないから
まぁ回避とか無理でしょ
攻撃はスケイルカイトシールドで受け流すように防御
衝撃も上手く流さないと持ってかれる
それはマズイから移動中は牽制片手間、防御重視で

間合いに捉えたら出し惜しみは無しだ!
「いくよ!【キャバリア・オーバーロード】!」
ドラグナー・ウイング全開!飛翔&吶喊!
仕留めきれなかったら後がないけどさ!
そっちが命懸けならこっちだって命かけるさ!
約1分30秒、この間に片をつける!
シールドバッシュ突撃からのBX-Aビームブレイド二刀流による猛ラッシュ
耐えられるものならやってみな!



●赤竜滅びを告げて
 快晴の空の直下に広がる海原。海底より海面を貫いて屹立する遺構の袂に、波立つ青が穏やかに打ち寄せる。朽ち行く時代の残滓に囁く潮風がドラグナー・ウイングの推進噴射の轟によって掻き消された。
「……なんでこんなことになってんの?」
 レッド・ドラグナーの操縦席に身を沈めるシャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)が眉を怪訝に顰める。鴻鈞道人に融合されたグリモア猟兵の撃破任務が公開され、気が付けばなし崩し的に状況へ巻き込まれて現在に至る。
「余計な事に首突っ込んじゃったかな? とは言え……」
 聞いてしまえば知らぬ存ぜぬする訳にもいかない。面倒半分使命感半分といった煮え切らない感情は一旦足下に置いてレーダーに視線を走らせる。赤竜騎の名を冠するシャナミアの機体は、海面より屹立する巨大な建築物の遺構を足場として跳躍を繰り返す。戦端を切ったのはコクピット内に鳴り響く検知警報だった。
「来た!」
 尖った殺気に赤い後ろ髪が戦慄く。シャナミアは咄嗟に操縦桿を倒してフットペダルを蹴った。ビルからビルへと飛び移ろうとしていたレッド・ドラグナーが、背面のスラスターユニットより噴射炎を瞬間的に吐き出した。弧を描く軌道が途中で切られて横方向に飛ばされる。直近の空間を青白い二本の光軸が駆け抜けた。シャナミアはコクピット越しにレッド・ドラグナーの装甲表面が焼け付く感覚を憶えた。この荷電粒子砲は見た目以上に攻撃範囲が広いらしい。
「後ろか……!」
 舌を打ち機体の向きを反転させる。センサーカメラが敵機を捉えてモニターに出力した。遙か遠方より空間戦闘機形態のアークレイズが猛烈な速度で急速に迫りつつある。
「いくよ、レッド・ドラグナー!」
 再び発射された収束荷電粒子砲を、滞空したまま横方向にスライドして躱す。次の足場とするビルに降着しツインバレルライフルの照準を合わせようとした矢先に新たな警報音が鳴った。
「ミサイルか! って数多くない!?」
 レーダーの前方180度近くを埋め尽くす光点は全てアークレイズが放ったマイクロミサイルだ。ロケット噴射炎を燃やしてのたうち回る蛇のような軌道。向かい来る小型誘導弾の群れが視界を満たしつつある。シャナミアは迎撃行動に移るべくレッド・ドラグナーをバックブーストさせた。
「上手いことビルを遮蔽物に使えば……!」
 ツインバレルライフルの実体弾で幾つかのミサイルを撃ち落としながら後方へ跳躍、ビルの屋上より降下した。一拍子置いて眼上のビルで爆発が連鎖する。だが両側面からもミサイル群が殺到する。アークレイズ本体を見失ったが今はそれどころではない。
「しつこいったら!」
 毒突くシャナミアは自動照準補正もそこそこにトリガーキーを押し込む。レッド・ドラグナーがツインバレルライフルから実体弾を連射し両側面の内片方のミサイル群を迎撃、スケイル・カイトシールドで胸部を庇いながら炸裂した爆風の中に飛び込んだ。竜鱗を重ね合わせたような多積層装甲に金属片が激突し鈍い衝撃音が鳴る。機体各部のエッジ部分より灰色の飛行機雲を引き連れて煙の中から飛び出すと、屹立するビルの合間を縫って左右にクイックブーストを繰り返した。背後を追尾する誘導弾がビルに激突しては爆散する。数も残り僅かとなった時、ビルの屋上に爪先を着けると真正面に機影が出現した。
「やば……!」
 キャバリア形態に変型したアークレイズが、左腕部のプラズマブレード発生装置より荷電粒子球を放つ。反射的にレッド・ドラグナーはコンクリート固めの足場を蹴って跳躍。青白い球体は虚空を撃ち抜きアスファルトを粉砕した。衝撃波がレッド・ドラグナーを煽り揺さぶる。
「冗談じゃない!」
 敵機の頭上を取ったレッド・ドラグナーはツインバレルライフルの実体弾をフルオート連射する。しかしそれなりの至近距離で浴びせたにも関わらず、弾体はアークレイズの機体を覆う円形の電磁障壁に阻まれ光を明滅させるだけに留まった。反撃の電磁加速突撃銃がレッド・ドラグナーに向けられる。
「バリアってすっごく面倒なんだけど!」
 攻撃を中断して角度を付けて構えたスケイル・カイトシールドで防御を固めながら後退、電磁加速弾体が装甲表面を容赦無く抉り取る。陽光を受けて輝く金属片が宙に舞い散った。シャナミアの背筋に冷たい怖気が伝播した。
「シールドを抜けてくる……! これはあんまり保たないか!」
 必中距離に詰めようと攻勢を強めるアークレイズに対し、レッド・ドラグナーは機体を左右に振り回しながらバックブーストし、ツインバレルライフルで牽制射撃を試みる。実弾で駄目ならばビームモードではどうかと立て続けに撃ち込むも、熱線はEMフィールドによって阻まれる。だが斥力場の整波に乱れが見えた。衝撃自体は伝わっているらしく、アークレイズの姿勢が僅かにだが傾き減速した。隙とも言えないほんのささやかな怯みだったが、これで相対距離を離すには十分な猶予が生じた。
「瞬間的に火力を叩き込まないと駄目か! だったら……」
 レッド・ドラグナーに対して尚も浴びせられ続ける電磁加速弾体。そこへ不意にプラズマキャノンが紛れ込んできた。シャナミアはすかさず逆方向に推進加速を切り返して躱すも回避先を読まれていた。狙い澄ました銃弾の集中連射に見舞われる。
「本気でマズイかも! いや、かもじゃなくてマズイ!」
 スケイル・カイトシールドの縁部分に半穴状の抉れが次々に出来上がり、盾で覆いきれなかった機体各部の装甲が削り取られる。もしシャナミアの卓越した防御術と盾の剛性のどちらかが欠けていればレッド・ドラグナーの耐久値はとうに限界を越えていただろう。水際で踏み止まっていたが、代償の大きな怯みを鴻鈞道人の融合体は見過ごさない。電磁加速突撃銃の連射で磔にされた所にアークレイズが瞬間接近、左腕に荷電粒子の刃を煌めかせた。
「ぐッ!?」
 シャナミアは月光の閃きを見た瞬間、レッド・ドラグナーに盾を構える腕を突き出させた。この動作判断が無ければ勝負はここで決していた。アークレイズが腕を一薙ぎすれば、遂に限界を迎えたスケイル・カイトシールドが接続基部ごとプラズマブレードによって溶断された。
「まだぁぁぁー!」
 レッド・ドラグナーは盾を喪失したマニピュレーターの甲の部分からビームエッジを生じさせ水平方向へと振るった。アークレイズの返す刃と衝突し、互いが真後ろへと弾き飛ばされる。牙を剥き出しに歯を食い縛るシャナミアは機体の姿勢制御を強制中断させ、ツインバレルライフルのビームを連射した。初弾は標的に命中しEMフィールドで打ち消される。続く二射以降は虚無を貫いた。アークレイズが上方へ瞬間加速したからだ。そして動きを視線で追ったシャナミアの双眸が見開かれる。
「なにをっ!?」
 三角柱がモニター越しに迫る。アークレイズがマイクロミサイルのランチャーとして運用しているミサイルコンテナをレッド・ドラグナー目掛けて射出したのだ。装填されていた誘導弾こそ撃ち尽くしていたものの、キャバリアほどの全長もある質量物体をオーバーフレームで受けたレッド・ドラグナーは衝撃のままに後方へと押し込まれる。凄まじい打撃はコクピットにも伝わっていた。
「こんな……事でぇぇぇー!!」
 脳震盪で視界の四隅が暗く歪むもシャナミアは気合いだけで踏み止まる。最早身体を動かすのは思考では無く生存本能だった。ドラグナー・ウイングを含む機体各部の推力制御で機体の姿勢を傾け、ミサイルコンテナを横方向へと受け流した。直後にコンテナが爆散、凄まじい熱波がレッド・ドラグナーを吹き飛ばす。されど衝撃に合わせて同方向にクイックブーストする事で衝撃を緩和し、物理運動に流されて戦域中央の大橋最上層へと滑走着地した。
 アスファルトをブーストダッシュで滑るレッド・ドラグナーの足元から火花が散る。シャナミアは首がへし折れんばかりの衝撃に晒されても未だに失神せず、憎悪すら滲ませる形相でモニターを睨み付けていた。アークレイズの追撃はすぐに訪れた。足を降着させ滑走しながらレッド・ドラグナーに肉薄する。
「まんまと追い掛けてきてくれて!」
 いま攻勢に出なければ終わる。そう思い切ったシャナミアはフットペダルを限界まで踏み込んだ。アークレイズが左腕にルナライトの刀身を輝かせながら電磁突撃銃を乱射するも臆する事なくその直近へと飛び込む。
「いくよ! キャバリア・オーバーロード!」
 ユーベルコードに応えたドラグナー・ウイングからより強烈な噴射光が迸る。ツインバレルライフルの実弾とビームの両モードを交互に速射し、鋭角な機動を連鎖させて突撃を強行。電磁加速弾を受け姿勢を崩されたのならスラスター制御で強引に立て直す。ほぼ必中の距離で連続被弾を被ったアークレイズのEMフィールドが綻びを見せればツインバレルライフルを投棄する。
「仕留めきれなかったら後がないけどさ!」
 レッド・ドラグナーが機体ごとアークレイズに激突、質量物体を受けたEMフィールドが更に綻ぶ。続けてレッド・ドラグナーが両腕を振りかざして手甲よりビームブレイドを抜き放つ。アークレイズが薙ぐルナライトに両刃を叩き付けた。
「そっちが命懸けならこっちだって命かけるさ!」
 衝撃に耐えかねたアークレイズは後ろに大きくのけ反った。レッド・ドラグナーが踏み込み乱舞の連斬を繰り返す。防戦一方となるアークレイズはベルリオーズを喪失し、EMフィールドも既に整波がままならない。シャナミアの咆哮と共に突き込まれた左腕のビームブレイドがアークレイズの胸部中央付近を貫く。操縦桿越しにも感じた確かな手応え。だが僅かに届いていなかった。レッド・ドラグナーの左腕が宙を舞った。
「あ――」
 シャナミアの短い声と共に月光の刃が一閃された。レッド・ドラグナーの胸部装甲が引き裂かれ、背面のドラグナー・ウイングから光が消失する。荷電粒子に擦過されたコクピットには大きな裂傷痕が開かれていた。1秒が無限に思えるほどに引き延ばされた世界で、レッド・ドラグナーの膝が挫ける。そして地面に伏す寸前、彼女の鋭い声が虚ろな世界を走った。
「一歩半……浅かったね!」
 レッド・ドラグナーの背に眩い光が炸裂する。息を吹き返したドラグナー・ウイングが爆発的な瞬間推力を生み出して機体を超高速突進させた。
「トドメだぁぁぁぁぁーーー!!!」
 赤竜が吼えた。レッド・ドラグナーがアークレイズの胸部に右腕を叩き込んだ。鉄拳が内部のダビングを打ち砕き、生じるビームブレイドがコクピットブロックごと溶解消失させる。センサーカメラを始めとする機体各部の発光部分から青い光が消失し、月光の刃もその荷電粒子を霧散させた。
 レッド・ドラグナーが右腕を引き抜こうとするも肘より下が千切れた。アークレイズは胸部に腕を突き刺されたまま仰向けに倒れて機能を停止した。そして著しい損耗によって稼働限界を迎えたレッド・ドラグナーもその場に跪く。開口されたコクピットから燃える赤髪のドラゴニアンが這い出て来た。額は血と汗に濡れ、艶やかな髪の先は荷電粒子の熱に焦げ、肌のあちこちには細かな金属片が突き刺さり、脇腹を抑える手の指間からは赤黒い血液が滲んでいる。
「あーあ、とんでもない目に遭った……」
 覚束ない足取りでレッド・ドラグナーの横に立ち、物言わぬ鉄塊と化したアークレイズを見つめるシャナミアの表情には、痛みに耐える苦悶の色と後悔とも倦怠とも付かない色が浮かぶ。
「ほんと、なんでこんな事になったんだか……」
 強烈な眠気と目眩がシャナミアを苛む。キャバリア・オーバーロードの代価を支払う時が来たのだろう。身を屈めてレッド・ドラグナーの脚部に寄り掛かり、双眸の目蓋をゆっくりと下ろす。
「戻ったら修理大変だな、これ」
 視界が黒に侵食される中でそれだけの言葉を最後に意識を手放した。潮風に紛れるシャナミアの呼吸の音が虚ろな世界の静寂を満たす。陽光は眠る赤竜の横顔を照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイ・リスパー
「そんな……ダビングさんがっ!?」
『アイ、ダビングの意志を尊重し、こちらもすべてを賭けて戦いましょう。それが――彼の意志に報いる唯一の方法です』

オベイロンの言葉に頷き、私もパワードスーツ形態のオベイロンを身にまとって戦闘態勢に入ります。

「オベイロン、出し惜しみはなしです!
ミサイル一斉射撃の後、荷電粒子砲を最大火力で発射ですっ!」

ですが、パワードスーツであるオベイロンよりも、キャバリアであるアークレイズの方が出力は上……!

『損傷率90%を突破……残弾ゼロ、残りエネルギーも僅かです』
「くっ、負けるわけにはいかないというのに……」

赤い警告灯に照らされた操縦席で諦めかけますが……

『アイ――後は頼みましたよ』
「なっ、オベイロンっ!?
緊急脱出装置が勝手にっ!?」

軽装の【高機動型強化外装】の姿になった私を脱出させ、オベイロンはアークレイズに突撃して――自爆を!?

「くっ、オベイロン、あなたの思い、無駄にはしませんっ!」

オーバーヒート覚悟の高速機動!
ビームガトリングを乱射しつつプラズマブレードで一閃です!



●アイノオモイデニサヨナラ
 鴻鈞道人と融合体のグリモア猟兵が生み出した蒼穹の境界。空の直上には時の流れから外れた日輪が延々と輝き続け、海原を揺蕩う穏やかな波が陽光を受けて青く煌く。海面から屹立する高層建築物が人類文明の営みを香らせるが、朽ちた立ち姿が過ぎ去った滅びの過去を暗示していた。
 どこまでも続く海原の中央に掛かる長大な橋。その最上層は高速道路のような景観を見せている。アスファルトの路面上では水平線を見つめる白い機体が立ち尽くしていた。一見するとキャバリアのようにも思える容姿だが、全長はウォーマシン以上キャバリア以下といったところだ。
「そんな……ダビングさんが……」
 可変強化外装、オベイロンⅡを身に纏うアイ・リスパー(電脳の天使・f07909)が不意に言葉を零した。
『アイ、躊躇いは自身を殺す事となります』
 オベイロンに搭載されている人工知能の声音は至極平静であり、言葉の意図は裏表無しに真実だった。殺らなければ殺られる。この戦いは猟兵が死ぬかグリモア猟兵が死ぬかの二択。
「分かってはいますが……」
 アイにとって鴻鈞道人の融合体は過去に幾度か任務を斡旋した相手でもある。
『彼は彼の役割を果たそうとしているのです。アイ、もし貴女が同じように鴻鈞道人の被融合対象となった場合、何を為そうとし、何を求めますか?』
 目を伏せて暫しの間思考を逡巡させる。僅かに運命が違っていたのなら、いま撃破される目標は己になっていたかも知れない。その時グリモア猟兵として望む答えは何なのか。アイ・リスパーとして望む答えは何なのか。
『ダビングの意志を尊重し、こちらもすべてを賭けて戦いましょう。それが――彼の犠牲が無意味でない事の証明となり、そして彼の意志に報いる唯一の方法です』
 オベイロンの電子音声が淡白なミッションブリーフィングを思い起こさせた。きっと彼はアイならばと任務を委託したのだろう。かつてアイもそうしたように。であるからオベイロンの言う通り、終わらせる事こそが今果たすべき役割なのではないだろうか。アイは伏せた双眸を正面に戻し、黙して深く頷いた。
『動体反応、急速に接近』
 思考内に投影された電探情報に従ってアイが身を捩ると、オベイロンが動作を忠実にトレースする。視線を向けた遥か遠方では流星のような光が空中を走っていた。光はビルの側面に衝突すると、灰煙と瓦礫を撒き散らして反対側より姿を現した。オベイロンがセンサーカメラに捉えた機影を拡大してアイの視覚に投映する。ビルを貫いた流星の光の正体はバリアフィールドを纏う白い空間戦闘機だった。アイはそれが何かを既知している。
「アークレイズ……ソリッドステート形態ですね……」
『ロックオン信号検知』
 両者の声が重なる。耳障りな警報音がアイの聴覚を打つ。オベイロンを発見したアークレイズが進路を変更、凄まじい速度で猛進して来る。その周囲に無数の小さな動体が出現した。レーダー上での確認結果はいずれも超小型高機動誘導弾だった。
「やりますよオベイロン! 海上に降下して誘導を切ります。残りはジャミングとアンチミサイルアクションで並列処理!」
『了解』
 オベイロンは機体各部のバーニアノズルから噴射光を放出すると、アスファルトの地面より僅かに浮き上がった。そして反転して大橋の最上層より海面へと降下する。着水の直前でより強くスラスターを噴射すると、海水を巻き上げながら減速してホバーモードへと移行した。水上滑走と同時に背後で幾つもの爆発音が轟いた。マイクロミサイルが橋に着弾したのだろう。されど全てのミサイルが消失した訳ではない。橋脚を器用に潜り抜けた群が白いガスの尾を引いてオベイロンの背後を追い掛ける。だがアイの表情に焦りは無い。
「残念でしたね、メテオリーテの誘導システムの干渉方法は知ってるんですよ! 何せ開発者に教えて貰ってるんですから!」
 電脳魔術士の真骨頂が披露される。アイは予め用意していた電子欺瞞プログラムをオベイロンのネットワークシステムを介して外部に放出した。すると無数のミサイル群は目標を見失ったかのように右往左往し始め、海面や橋脚に激突し爆散した。そしてオベイロンが海上を横方向に滑走しながらレーザーライフルを連射する。銃口より伸びた光線は電子欺瞞を逃れた誘導弾を的確に撃墜した。
『頭上、来ます。熱反応増大』
「やはりメテオリーテは牽制ですか!」
 オベイロンに黒い影が落ちた。人工知能に促されアイが空を見上げる。逆光の中にソリッドステートが見えた。間髪入れずに照射される収束荷電粒子砲。オベイロンがクイックブーストで回避するも水面着弾時に生じた水蒸気爆発の余波を受けて体勢を崩させられる。
「くっ、うぅぅ!」
 歯噛みするアイは一撃離脱で飛び去ろうとするソリッドステートに照準を重ね合わせる。オベイロンの肩部にマウントされているミサイルランチャーのハッチが展開された。
『発射』
 短く言い切った言葉と共に複数の誘導弾を射出した。白線をなびかせながら目標の背後を追う。着弾すると思われた寸前でアークレイズはキャバリア形態に変型、ベルリオーズを撃ち散らして迎撃した。
「まだです!」
 アイが人差し指を引けばオベイロンがレーザーライフルを撃つ。光線がアークレイズを捕らえるも非実体障壁に阻まれて壁にかけられた水のように霧散した。アークレイズがベルリオーズを応射する。オベイロンは後方横また後方と連続で瞬間加速して回避運動を取る。だが避けた先にプラズマキャノンが打ち込まれた。直撃は躱すも余波に煽られ若干の損傷を受けた上に姿勢制御を乱された。ベルリオーズの銃口から速射される電磁加速弾体の追撃が重ねられる。オベイロンの装甲が削り取られて行く感覚をアイは生の肌で感じ取っていた。
「あまりよろしく無い状況ですね……! まったく、あの人はとんでもない機体を作ってくれて!」
 忌々しく歯噛みするが、全身を使った機体制動を止める事はない。少しでもダメージを軽減するためにバックブーストと回避を継続、レーザーライフルで反撃を行う。相変わらずEMフィールドに中和されてしまうが、構わず攻撃を続けて整波の乱れを狙う。オベイロンの人工知能はアイの制御とは別にミサイルのロックオンを完了し立て続けに撃ち放った。迎撃のためにアークレイズの攻勢が僅かに緩む。
「今なら当てられる!」
 腰部両側面に懸下していた砲身が90度正面へと立ち上がり、銃口から青白い荷電粒子の奔流を放出した。光を視認したアークレイズはすぐさま横方向へ瞬間加速するも、攻勢に出ていた為に距離が必中の間合いにまで詰まっていた。レーザーライフルの数倍以上の出力を発揮する荷電粒子がEMフィールドを直撃し四散する。反発作用でアークレイズが押し込まれ、照射が終わったのと同時に電磁障壁の整波が著しく乱れた。
『アイ、グラビトン・レールガンを』
「そのつもりです!」
 照準補正を取り直している暇などない。オベイロンが各部のスラスターから噴射炎を吐き出してアークレイズに肉薄する。左肩部に搭載されている大型砲塔が伸長した。オベイロンが装備する兵装の中で最も強力な威力を誇るそれが、極至近距離から放たれる。砲身内で最大加速した重力場が黒い稲光となってアークレイズの白銀の装甲を撃ち貫いた。かのように見えた。
「この距離で躱すんですか!?」
 アイが目を見開く。グラビトン・レールガンの重力弾体はクイックブーストで半身を翻したアークレイズの肩部装甲を辛うじて掠める程度に留まった。弾道軌道予測も視認後の回避も意味を成さないほどの至近距離で発射した高速弾。アークレイズの複眼型センサーカメラの光が、必中必殺を信じたアイを嘲っているようにも見えた。ベルリオーズの銃口が容赦なく突き付けられる。
「ああぁぁあっ!!」
 両腕で正面を庇いながらアイが悲鳴を上げる。至近距離で連射された電磁加速弾体はオベイロンの装甲を確実に穿った。人工知能はアイを保護するために自己判断でバックブーストを掛ける。だがアークレイズは瞬時に相対距離を詰めて眼前に迫った。そこでベルリオーズに装填されている弾倉の中身が底を付いた事は不幸中の幸いだっただろう。しかしグラビトン・レールガンと荷電粒子砲を損傷してしまった。アークレイズは弾倉をリロードするまでもなく、左腕に装備するプラズマブレード発生装置のルナライトから月光色の刃を抜き放った。這い寄る死の予兆がアイを恐怖で支配した。
『アイ、反撃を』
「分かってます!」
 ここで死ねば全てが無意味になる。プラズマブレードを抜刀して死の恐怖ごと月光の刃を薙ぎ払う。二本の荷電粒子の刃が激突した。目を焼くほどの凄まじい明滅が生じ、互いに押し合う推力が海面に激しい白波を立てた。
「重い……! パワードスーツであるオベイロンよりも、キャバリアであるアークレイズの方がジェネレーター出力は上……! 確か内部のダビングさんとのツインドライブでしたかね……!」
 アイは歯を食い縛りながら踏み止まる。出力制限を解放した状態でスラスターを最大噴射していたが、アークレイズに機体ごと押し切られつつあった。性能差自体は決して致命的ではないが、若干の質量差と総推力、そしてやはり出力の差が浮き彫りとなる。何せアークレイズとダビングとでエンジンが2基存在しているのだ。オベイロンで同じことをやれとなると生身のアイに発電しろという無理難題を強いる状況となる。しかも鴻鈞道人の融合作用を受けているのだから。しかしそれでも渡り合っているオベイロンとアイは、やはり並々ならぬ所業を果たしているのだろう。
 鍔迫り合いでは勝ち目が薄いと判断したアイは、刃を逸らして受け流し、敢えて弾かれる事で間合いを取る。アークレイズは一切の容赦無く剣戟を繰り出す。オベイロンはルナライトをプラズマブレードで受け止めて打ち返すも一打ごとに機体が跳ね飛ばされる。
『損傷率50%を超過。残弾ゼロ、稼働可能兵装はプラズマブレードのみ。エネルギーも残り僅かです』
「絶体絶命ですか……くっ、ここで負けるわけにはいかないというのに……」
 電子音声が無情な現実を突き付ける。サブウィンドウに表示されている機体のステータスは黄色や赤に点灯していた。警告灯が明滅する度に焦燥感が増す。高速機動と衝撃に振り回されるアイ自身の体力も限界が近い。
「何か策がある筈……! 何か……!」
 全身から噴き出す冷たい汗の感覚さえ忘れるほどに思考を回転させる。コントロールレバーを握る指先が震えていた。
『肯定。現状況下を打開可能な策が一例のみ存在します』
「は?」
 アイが反射的に声を発する。真意を追求する前にメインモニターに緊急排出の横文字が表示された。直後に視界が真っ暗になったかと思いきや、眩い光が背後より差し込み思わず顔面を腕で覆った。そして鼻腔に伝播する潮の香り。浮遊感と強風を全身に受けた瞬間、アイはオベイロンが自身に何をしたのかを悟った。
「なっ!? 緊急脱出!?」
 肉眼で視た青の世界。そこには背面装甲を解放してアイを排出したオベイロンの後ろ姿があった。
『ジェネレーター、オーバーロード開始』
 手を伸ばしたまま宙に飛ばされるアイは、装甲を閉じたオベイロンのバーニアノズルに光が灯るの視認した。
「オベイロン!?」
 名を呼んだ相手は僅かにも振り返らずにアークレイズへ突撃。振り下ろされたルナライトに左腕を肩部ごと溶断されるも、右腕部で組み付いて動きを拘束した。
『アイ、ここまでが私の役割。後は、貴女の役割』
 オベイロンの装甲の隙間から幾つもの光が滲み出る。目が眩んだアイは爆ぜる炎と巨大な水柱に吹き飛ばされた。高機動型強化外装の自動姿勢制御機能が働き、無理矢理に体勢を整えさせられた。回復しつつある視界の中にオベイロンの姿は無く、胸部を含む正面装甲の殆どを破砕されたアークレイズだけが存在していた。
「……オベイロン、あなたの思い、無駄にはしませんっ!」
 戦え。嘆くより血を拭うより今は。生存本能がそう叫ぶ。直近の爆発で装甲を破砕されたアークレイズの胸部には、内部に格納されているダビングが露わとなっている。機体の中枢にして鴻鈞道人の融合体。これを破壊すれば終わる。勝負を賭けるには衝撃からの復帰で挙動が止まっている今しか無い。
 不意に頭上から落下する物体の気配を感じたアイはそれを反射的に受け止めた。物体の正体はオベイロンのプラズマブレードだった。生身のアイにとってはかなり大型だが、強化外装の身体能力向上作用によって難なく振るう事が出来る。オベイロンが遺した意志の欠片を握ったアイの双眸が鋭く細められた。
「ビームガトリング! アクティベート!」
 アイは手元に展開した電脳魔術陣より携行型機関砲を抜き放つ。そして纏う強化外装のスラスターから噴射炎を迸らせアークレイズに吶喊した。回転銃身が唸りをあげて粒子弾を高速連射する。それらは全てダビング目掛けて浴びせられていた。だが、粒子弾が白い装甲に届く事は無かった。
「EMフィールド!? ダビングさん自身の!?」
 着弾するビームが直前で跳弾する。円形の非実体障壁が青白く明滅した。それでもアイは止まらず、アークレイズの眼前まで迫るとビームガトリングを投棄、プラズマブレードの発生装置を両手で握り込み、刃を生じさせた。生身の人間が扱うには過剰過ぎる出力の熱量が肌を炙る。
「これでぇぇぇーーー!!!」
 最大加速を維持して身体ごとダビングへプラズマブレードを突き込む。荷電粒子の刀身がEMフィールドと干渉し合いスパークを散らせた。だがルナライトとも切り結んだオベイロンの光剣を押し留めるには至らず、遂に切先が電磁障壁に浸透する。アイは持てる最後の力を振り絞り、咆哮と共にプラズマブレードを突き入れた。荷電粒子で形成された刀身がダビングの胸部を刺し貫き大穴を穿つ。するとアークレイズとダビングのセンサーカメラを始めとする発光部分が闇色へと変化し、スラスターの噴射炎が消滅した。鴻鈞道人の融合体を喪失したアークレイズが海面へと没して巨大な水柱を立ち昇らせた。
「終わっ……た?」
 ただ独り海上に残されたアイは、荒く肩で呼吸しながら雨のように降り注ぐ海水を浴びて呆然としていた。エネルギーを使い果たしたプラズマブレードが刀身を霧散させ、握り締めている力を失ったアイの両手から零れ落ちた。そしてアイ自身にも終わりの瞬間が訪れる。
「ぅあっ……!?」
 身体に強烈な重量感が覆い被さり、状況を察する間もなく身体が海面に叩き付けられた。輝く泡沫に包まれながら日差しを浴びて揺らぐ海面に手を伸ばす。視界内に投映された強化外装のインフォメーションはオーバーヒートの赤文字を表示していた。自身と同様最後の力を全て使い果たしたのだろう。海面が見る見る遠のいて行く中で、アイは意識の薄らぎを感じた。いま装備を緊急解除したところでもう間に合わない。泳ぐだけの体力も残されていない。いや、そもそも泳げなかった気がする。そう言えばアークレイズはちゃんと撃破できたのだろうか。自爆してしまったオベイロンの意思は無駄にならなかったのか。少なくともダビングの意思には報いたのだろうが。様々な雑念が頭の中を渦巻く。限界に達した肺が息を吐き出させた。無数の小さな泡の粒が昇る。やがて微睡に落ちるようにして、アイの意識は暗い海の底へと沈んだ。
 それからどれほど経過したのだろうか。アイは微睡の中で背と足に硬い感触を覚えた。
『――聞こえますか?』
 誰かの呼び掛けが聞こえる。酷く電子的で、酷く聞き慣れた声音。
『聞こえますか?』
 このまま眠りに沈んでいたかったのに、何度も繰り返し掛けられる呼び声によって半ば無理矢理に意識を引き揚げられた。
『聞こえますか? アイ――』
 渋々と薄く開いた双眸。視界に入ったのは直上で燦々と照る太陽と澄み渡る青い空、そして赤いセンサーカメラと金のV字ブレードアンテナを額に備えたパワードスーツの頭部。
 初夏を想起させる涼しげな潮風が、アイの濡れた白髪を穏やかに撫でていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
(TYPE[JM-E]に搭乗、白翼形態へ)
事ここに至っては、最早言葉は不要か。
ターゲット確認、アークレイズ。
メインシステム、戦闘モード。

まずは空中での射撃戦だな。
アークレイズとTYPE[JM-E]のカタログスペックは同等と判断する。
ベルリオーズでこちらの粒子フィールドの減衰を狙うだろう。
WHITE KNIGHT、回避優先で予測演算を。同時に奴の未来位置の空間座標を頼む。
空中機動で翻弄しながら、羽毛パーツの剥離を装いYESODのソードビットを射出。メテオリーテはCHESEDとGEVURAHで対空射撃を行い撃墜。
EMフィールドの減衰を狙う。尤も、あちらも大人しく当たるとは思えん。回避を試みた上で、ルナライトによる接近戦を試みるだろう。

CRESCENT MOONLIGHTを起動。二段クイックブーストの連続でジグザグに動きながら彼我の距離を詰める。ブレード光波同士をぶつけて相殺しながら、互いに切り結ぶ。奴の斬撃を切り払い、こちらも切り込みながら隙を探し…光波を放ちつつ指定UCの連撃。

──終止。



●マシンナイズド・メモリーズ
 渾沌が貌を成したのは終わりなき青の世界。誰が為の世界なのかは定かではないし、今となってそんな事情は無意味なのだろう。万物を照らして光と影を生み出す太陽は銀色にさんざめく。潮の香りを運ぶ風に海面が揺らぎ、屹立する朽ちた遺構の袂に波を打ち寄せる。海底に根を張る橋脚が支える巨大な橋は、世界をふたつに別ち遥か果てまで伸びていた。
 晴天が見下ろす空中に、三対六枚から成る白翼を備えた機動兵器が留まっていた。折り重なる羽毛型の複合ユニットから構成される翼は有機的にさえ見える。加えて頭上と背後で輝くのは光輪状の推進波動。そして両腕に其々携える長大なライフルが相まって、その立姿は機械仕掛けの破壊天使の様相を醸し出していた。
 これこそがジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)が言葉通りの意味で着込むCAVALIER TYPE[JM-E]の真化形態。ウイングスラスターバインダー『SERAPH』を始めとする持ち得る全ての機能を解放し、忘却に消えた神聖メサイア教国時代の記憶と人格情報を取り戻した、全てを真っ黒に焼き尽くす力そのものだ。
「事ここに至っては、最早言葉は不要か。だが……」
 スリットアイに翡翠の光が灯る。敵を滅ぼす為だけの姿を取ったTYPE[JM-E]は彼方へ視線を飛ばす。潮風を散らすほどの大気振動が装甲に伝わる。静粛な音を立てて推進力を放射するSERAPHとは対照的に喧しい轟音。出所は蒼穹の空の遠方だった。
『やれやれ、ヨルムンガンドとはな』
 TYPE[JM-E] に搭載されている事象予測人工知能、WHITE KNIGHTがキャバリア用超大型アームドフォートの名を呼ぶ。全長約50mはあろうかという外装。白を基調とした機体には巡洋艦級の二連装荷電粒子砲などの重火力な武器が満載されている。しかも図体に見合わず航行速度が凄まじい。アークレイズはこのヨルムンガンドの主砲下部に引き籠るようにしてドッキングされていた。
『とんだイレギュラーだな。まったく、何の為のブリーフィングだ。任務内容はアークレイズの撃破だった筈だが』
「元はメガリスとは言え、かの白騎士の眼でも見通せなかったのか?」
 皮肉染みた口振りだが、電子音声で出力されるジェイミィの声音に感情は乗せられていない。
『さあな……元から持ち込んでいた訳では無い。あれを所構わず喚び出すユーベルコードの存在が知られたのだろう。鴻鈞道人は悪くない着眼点を持っていたな』
 不意にジェイミィの視界内に被ロックオン警告メッセージと弾道予測軌道が表示される。WHITE KNIGHTがヨルムンガンドの攻撃を予知したのだ。TYPE[JM-E]は緩慢な動作で白翼を翻すとスラスターを噴射して半身を逸らした。黄金の軌跡が通り過ぎ、背後の高層ビルの中腹を直撃。側面のコンクリートと内部の鉄骨を粉微塵に砕いて倒壊させた。残骸が海に落ちて水柱を上げた頃、ようやくレールガンの発射音がTYPE[JM-E]の元へ到達した。
『先程のはデュールジャベリンだな。奴の正面に居る限り常に射程内だぞ。確実に回避しろ』
 WHITE KNIGHTがジェイミィの視界内へとヨルムンガンドの情報資料一覧を提示する。情報自体はカクリヨファンタズム等での任務を仲介した際に入手していた。
「ヨルムンガンドの各種兵装については把握済みだ。ブルーアルカディアでの任務の際、エンライズ号へのデュールジャベリン取り付けに立ち会ったのは私なのだから」
 再び発射された超高速弾体。TYPE[JM-E]は短い距離を瞬間加速して最小限の挙動で危なげなく躱してみせた。未来視の軌道予測が生きている限り、ただ精密で速いだけの攻撃など通用しない。通過したレールガンの弾は海面に着弾。白い水柱を高々と立ち昇らせた。
『そうか。ならば先に言った通りに言葉など不要だな。見せてみるがいい、ジェイミィ・ブラッディバッグ。その可能性、その力、その全てを』
 TYPE[JM-E]のスリットアイが閃く。白翼の推進装置から噴射炎を吐き出して急降下、海面を滑空する。高度を下げる事でデュールジャベリンの射角から逃れるためだ。巡航速度でこちらに向かって来るヨルムンガンドに対してTYPE[JM-E]も直線加速で接近を試みる。間も無く新たな照準警報が鳴り響いた。
「パンドラボックス……初動で全弾を発射するか。融合されているとは言え、やはりダビングは確かにそこにいるのか」
 一切の躊躇いを感じさせない獰猛かつ冷淡な殺戮兵器らしい戦術傾向は、紛れもなく彼のものだった。ジェイミィの視界の先で、ヨルムンガンドが射出した複数のコンテナから無数のマイクロミサイルが放出される。総数はPROVIDENCEで検知した分だけでも優に三桁を超えている。しかしTYPE[JM-E]の挙動に揺らぎは無い。ミサイルの暴風雨を前にして速度を緩めるどころか、白い翼を一度大きく羽ばたかせてより強く加速した。
「抜けてみせよう」
 端的に語るジェイミィの視界は予測軌道で埋め尽くされている。ミサイルだけでは無い。デュールジャベリンに加えて射角の自由度が高い二連装荷電粒子砲、フラッシュフラッドまでもが狙っているのだ。未来視が殆ど意味を為していない弾幕の面の中に、僅かな隙間を見出して機体を飛び込ませる。
 身を縦軸回転させ、横方向にクイックブーストし、白翼を閉じ、上下に高度移動。TYPE[JM-E]が微細な動作を行う度に電磁加速投射弾が虚無を撃ち抜き、荷電粒子が海面に着弾して水蒸気爆発を引き起こし、マイクロミサイルが信管を誤認作動させた。狂い咲く爆炎の花と水柱の間を縫うTYPE[JM-E]の周囲が球体状に明滅する。それは金属片や飛沫がフィールドバリアに触れて干渉を起こしている光だった。レース編みのような予測軌道に遮られれば、出力を絞ったCHESEDとGEVURAHの照射を放つ。腕を向けて構えるのではなく、回避運動と姿勢制御のみで銃身を振るう。長大なプラズマブレードの刀身を想起させる光が横へ斜めへと忙しく駆け巡ると、炸裂したミサイルが視界を満たす。
 弾幕を潜り抜けたTYPE[JM-E]とヨルムンガンドが交差する。海面寸前を匍匐飛行しているTYPE[JM-E]は上空を巡航するヨルムンガンドの真下に達した瞬間、機体方向を反転させた。晒した腹にCHESEDを向けてトリガーを引く。中程度の出力に抑えられたエネルギーの光線が銃口から伸びた。ビームは素直な軌道でヨルムンガンドに迫るも、展開されているEMフィールドによって弾かれ霧散した。TYPE[JM-E]は続けてGEVURAHを発射するが得られた結果は同様だった。
『無駄だ。減衰の兆候は認められない』
 白騎士の声が現実を冷徹に伝える。ジェイミィは黙して機体制動に専念し、追撃を阻止するつもりで連射されたらしいフラッシュフラッドをクイックブーストで回避した。
『鴻鈞道人のユーベルコードによる作用だろうが、EMフィールドの出力が既知のスペックと一致してない』
「CRESCENT MOONLIGHTなら中和可能か?」
『出力計算上では可能だ。だがあれに近付くのは中々に骨だぞ。それに目標の装甲厚の問題がある』
 ヨルムンガンドの撃墜は前哨戦に過ぎない。恐らく鴻鈞道人の戦術目標はTYPE[JM-E]に消耗を強いる点にあるのだろう。無論、ジェイミィにはむざむざ誘いに乗ってやる理由など無い。凄まじい速度で飛び去り、戦域外周を大きく旋回するヨルムンガンドをセンサーカメラで追いながら思考回路を逡巡させる。
「CHESEDとGEVURAHの最大照射を使う以外に無い……か。犠牲にするだけの価値はあるが……」
 ジェイミィの呟きにWHITE KNIGHTは答えない。代わりにレーダーマップ上のとある箇所に光点を表示した。迎撃ポイントであるそこに急ぎ迎えと沈黙を以て促す。推進装置が放つ光は舞う羽毛のようにも見えた。
「バスターキャノンモードに移行」
 視界内にTRIPLE NINE BREAKERのインフォメーションメッセージが表示される。TYPE[JM-E] が左右のマニピュレーターで握るCHESEDとGEVURAHの銃身両側面を叩き付け合わせた。備わる接続基部が其々の銃身を固定し、巨大な一つの砲身へと有体を変じさせる。その双発式の銃口が向けられている先には、戦域外周を大袈裟に旋回して再度強襲を仕掛けようとするヨルムンガンドが在った。
「ジェネレーター、全段直結」
 TYPE[JM-E]と砲身が青い稲光を纏う。銃口は黄金の粒子を放出、或いは吸引し始めていた。
『アイゼンを固定する反動緩衝措置は取れないぞ。デュールジャベリンが狙っている。発射時にバーニアを最大噴射して相殺しろ』
 旋回を終えて正対したヨルムンガンドから予測軌道のイメージが伸びる。TYPE[JM-E]はエネルギーチャージを続ける傍ら、回避機動を繰り返して一撃必殺の電磁加速投射砲を躱す。回避先に置くようにして発射されるフラッシュフラッドはEP-CVWMX-PF000Xが展開する粒子バリアを正面に集中展開する事で受け流した。減衰して四散した荷電粒子が装甲を擦過する。
「チャンバー内、正常に加圧中」
 セフィロトウェポンACBRへのエネルギーチャージが完了しつつある。照準補正もWHITE KNIGHTが既に完了済みだ。ヨルムンガンドは遠方の蒼空より過剰な弾幕を展開しながら接近している。ジェイミィは最後の発射準備工程に移った。
「YESOD射出、ライフリングサークル展開及び回転開始」
 白翼から射出された複数枚の羽毛がTYPE[JM-E]の前面で環を形作って高速回転を始めた。巡る円環の中央には主砲から青い荷電粒子の光を溢れ出させているヨルムンガンドが見えた。
『オーシャンカレントか! ジェイミィ! そのまま撃て!』
 敵機の主砲が咆哮したのとジェイミィの視覚に直接投映されているウィンドウにPARTICLE FILLING RATE 120%...TARGET LOCK...READY FOR JUDGEMENTの横文字が流れたのはほぼ同時だった。
「ターゲット確認……排除開始……!」
 TYPE[JM-E]が連結した状態で正面に構えたCHESEDとGEVURAHの銃口から莫大なエネルギーの奔流が解き放たれた。破城の奔流はYESODが形成する円環を潜るとさらに粒子密度と範囲を増大、城どころか小惑星をも消滅させる光の波動と化しヨルムンガンドが放射した荷電粒子の津波と真正面から激突する。地上に太陽が生じたかの如き閃光が視界を真っ白に染め上げ、怒り暴れ狂う熱線が海面を直撃して水蒸気爆発を起こし、ビルを薙ぎ払って瓦礫を撒き散らす。拮抗していた破滅の光が次第にTYPE[JM-E]側へと押しやられ始めた。
「まだ終わらない……!」
 CHESEDとGEVURAHのトリガーを引くTYPE[JM-E]のマニピュレーターが軋む。背負う白翼の羽が放射するスラスターの噴射炎がより鮮烈に炸裂すると、銃口が照射し続ける荷電粒子が更に勢いを増した。真化がもたらす極限超過の力。一回り二回りも肥大化した光の御柱がオーシャンカレントを押し戻し、EMフィールドを撃ち砕いてヨルムンガンドの上部を抉り取る。同時にTRIPLE NINE BREAKERの照射が途切れた。スペック上で禁止とされている危険域を優に飛び越えていた出力に銃身が限界を迎えたのだ。TYPE[JM-E]がCHESEDとGEVURAHを投棄すると、ジェネレーターが内蔵されている部分が赤熱化して膨れ上がり爆散した。
 機体上半分を喪失したヨルムンガンドは各所から小爆発を繰り返しながら姿勢を傾斜させ、海面へと向かう。すると墜ち行く巨躯の中から光点が飛び出した。
『やれやれ、漸くお出ましか』
 スリットアイで捉えた視覚情報をWHITE KNIGHTが拡大表示した。光点の正体はやはりソリッドステート形態のアークレイズだった。アークレイズは超高速で急上昇し、戦域を二分割する巨大な大橋の最上階層である高速道路上を滑空するとキャバリア形態に変型。アスファルト造りの路面上に足を付けるとターンして機体を静止させた。
 白翼を広げたTYPE[JM-E]が後を追う。アークレイズ同じようにして大橋の最上階層に降着、慣性をクイックターンで受け流しながら停止する。間合いを大きく開けた白い機体が互いを睥睨し合う。TYPE[JM-E]の翡翠色のスリットアイには敵機の姿が反射して映り込んでいた。
 両機の間に流れた時は数秒か数分か、或いは数刻か。ヨルムンガンドが海に没して白い泡の水柱が立ち昇り、続けて炸裂した荷電粒子の大爆発が凍てついた時間を再び動かした。
「さあ、私達を始めよう」
 短的で無機質なジェイミィの声音が戦端を切った。TYPE[JM-E]がSERAPHから光を爆ぜさせ跳躍。アークレイズもストームルーラーより翼状の光を広げて跳び退いた。
「カタログスペックが同等ならば戦術も同等か……」
 ジェイミィは鳴り響く被照準警報に構わず敵機を多重ロックオン、攻撃開始の信号入力を行う。背面に広げられたTYPE[JM-E]の白翼からスラスター兼ソードビットのYESODが次々に解き放たれ、翼の羽ばたきに合わせて空中を舞い踊る。視界の正中では、アークレイズが機体後部に懸架したスレイプニルから白線を引き連れたメテオリーテを放出していた。YESODがメテオリーテを追い回し、メテオリーテがYESODを追い回す。二機の周囲を爆光がドーム状に覆い隠す。
 ジェイミィの次なる手はフェザー・ドローンを射出した時点で打たれていた。右手にマウントしたCRESCENT MOONLIGHTが刹那に閃き、月光の飛刃を射出する。アークレイズも合わせてルナライトより荷電粒子を射出、ブレード光波とプラズマ光弾が空中で激突し合って青白い炸裂光を生じさせた。TYPE[JM-E]は爆風に怯んでいる間も無く、間髪入れずに浴びせられたべルリオーズの対処を迫られる。
「敵はやはり粒子フィールドの減衰を狙うか」
『軌道は予測済みだ』
「奴の未来位置の空間座標も頼む」
 TYPE[JM-E]はクイックブーストを連発して後退し相対距離を離す。僅かながらの電磁加速弾体が機体全身に張り巡らせた粒子フィールドを撃つたびにスパークが明滅する。追撃するアークレイズはべルリオーズを撃ち散らしながら猛進、さらには残されていたメテオリーテを全て撃ち尽くすとスレイプニルをパージした。ジェイミィは後退推進噴射を維持した状態でアークレイズを含めて誘導弾を全て捕捉すると、舞い踊るYESODに迎撃指令を下す。乱れ飛ぶ自律兵器群は白い軌跡を残して駆け巡ると爆炎の華を咲かせた。アークレイズにも及んだ剣の舞いはEMフィールドに阻まれるも、一打ごとに整波を確実に崩している。であればべルリオーズで撃ち落とそうとするならば、そこへTYPE[JM-E]の月光剣が容赦なくブレード光波を浴びせにかかる。回避運動を余儀なくされたアークレイズが大橋上から離脱して海上に躍り出た。未来位置の座標を予測済みだったTYPE[JM-E]が後を追う。
 両機は海面に接触する寸前の低空まで急降下した。白波を立てて機体を左右に振りつつ加速するアークレイズが反転、リロードしたべルリオーズを連射する。TYPE[JM-E]は割り出した軌道の隙間を縫って接近、CRESCENT MOONLIGHTを振るった。放たれた光波は敵機本体ではなく敵機の足元の海面に着弾。発生した水蒸気爆発がアークレイズの姿勢制御を乱した。
『斬り込め!』
 ジェイミィは無言で機体を最大加速させる。振りかざしたるは月光剣。アークレイズも同様に月光の刀身を生じさせた。両機の刃が激突した瞬間、干渉し合うバリアフィールドが海面を押し退ける。激しく明滅する青い電流。拮抗した出力と推力が互いを押し込み合う。だが鍔迫り合いはそう長らく続かなかった。両機の思惑はどちらも同じ所にあったからだ。
「READY TO BURST FIELD PARTICLE……COMPLETED」
 斬り結ぶ最中、TYPE[JM-E]を覆う粒子障壁が超高圧縮の眩い光に変じる。アークレイズの電磁障壁もほぼ全く同じ現象を見せた。直後に巻き起こるのは凄まじい閃光と衝撃波を伴った大爆発。互いの機体がフィールドジェネレーターを超過駆動させる事で攻撃兵装へと転化させたのだ。
 生の眼で見ていれば間違いなく焼かれていたであろう光が粒子となって薄らぎ始めた頃、間近で衝撃波を浴びたTYPE[JM-E]が損壊した機体の各部より火花を散らしていた。電装系などの内部機関にも支障をきたしているのか、スリットアイに灯る翡翠の光が明滅する。しかしそれでもなお、SERAPHが発する推進噴射は失せていない。相対するアークレイズも機体全体に損傷を受けていながら滞空し続けていた。べルリオーズは爆発で跡形もなく消し飛ばされたのか、右のマニピュレーターは手ぶらだった。
「痛み分けか……」
 CRESCENT MOONLIGHTを構えTYPE[JM-E]が飛び込もうとした矢先、アークレイズの複眼型センサーカメラの発光色が消えた。そしてスラスターからも噴射光が失せ、背中から力無く倒れ込むと、海面に叩き付けられて立つ水柱と共に海中へと沈んだ。
 TYPE[JM-E]は肩透かしの幕引きに、暫し茫然とした様子で月光剣を構えたまま動きを止める。未来視は攻撃予測軌道を映さず、レーダー上で敵機を示す光点も無い。青い海面は穏やかに波立つだけだ。任務の完了を悟ったジェイミィが機体に刃を下させようとした。
『待て!』
 白騎士の電子音声の叫びに、TYPE[JM-E]が反射的に後方へと弾かれるようにして跳ぶと、海面から再び水柱が立ち昇った。白い泡の向こうでは、先程海に没した機体がTYPE[JM-E]を睨め付けていた。
「アークレイズ……再起動だと? あり得るのか、こんな機体が……」
『鴻鈞道人の融合作用に依るものだろう。来るぞ!』
 アークレイズが背後に光の翼を広げて一直線に加速する。TYPE[JM-E]も白翼を羽ばたかせ推進装置の光を展開し機体を加速させた。互いの距離は一瞬で詰まり、またしても月光剣がぶつかり合う。TYPE[JM-E]が縦に振り下ろした刃をアークレイズが受け止め、反動を水平回転切りに繋げたアークレイズの刃をTYPE[JM-E]が斬り払う。
 弾かれ合った両機がブレード光波とプラズマ光弾を同じタイミングで放つ。ふたつの光は衝突する事なく互いの目標へとすり抜けた。両機は回避が間に合わないと判断するとそれぞれに月光を宿す剣で受け止めた。炸裂する衝撃波が機体の装甲を砕き、SERAPHの片翼を千切り、ストームルーラーの半身を吹き飛ばした。TYPE[JM-E]とアークレイズは先のパーティクルフィールドバーストとプラズマバーストの撃ち合いで障壁展開機能を喪失していた。攻撃をまともに浴びせられた両機は大きく仰け反り、そして滞空能力を著しく損なわれていた。
『メインブースターがやられた! 滞空の維持が不可能だ! 橋に戻れ! 沈むぞ!』
「よりによって海上で……!」
 空中を蹴ったTYPE[JM-E]が残された片翼のSERAPHで強引に機体を飛翔させる。スラスターの噴射で無理矢理に姿勢を制御して大橋の最上層に到達すると、降着して膝を折った。擦過する足が火花を散らせる。アークレイズも全く同じ有様でアスファルトの路面上に降下した。
 跪く両機が虚ろな世界を二分する大橋の上で見定め合う。翡翠の眼にはアークレイズが映り込み、青の眼にはTYPE[JM-E]が映り込む。緩慢に立ち上がると損壊した装甲が零れるようにして剥がれ落ち、駆動系からは出血を想起させるスパークが溢れた。
 機械仕掛けの心臓が崩壊の音色を奏でる。その眼は敵を凝視める為、その手は刃を振るう為、その力は全てを破壊し尽くしても戦い続ける為に在った。
「終わりにしよう」
 それ以上の言葉など要らない。CRESCENT MOONLIGHTから生じる月明かりの刃が膨れ上がり、TYPE[JM-E]が右腕を振るえば三日月状の光波となった。一瞬の違いも無くルナライトの発生装置に凝縮された荷電粒子が満月を想起させる球体となって射出される。幾度も繰り返したように激突し炸裂する青い粒子の嵐を裂いて、スラスターより最期の光を思わせる噴射炎を迸らせたTYPE[JM-E]が突撃する。前方向から横方向、また前方向にと慣性を無視した極めて鋭角な瞬間加速。搭乗者が生身の人間であれば最初のクイックブーストで内臓を潰されて死んでいただろう。CRESCENT MOONLIGHTの残光が後を追う。アークレイズの挙動も全く同じだった。
 やはり斬り結ぶ月光の刃。そう思われたがルナライトの剣戟が僅かに速い。切先がTYPE[JM-E]のオーバーフレームの中心を穿つ。だがTYPE[JM-E]は切先が触れた瞬間に微かなクイックブーストを行い機体の軸をずらした。ルナライトの刃がTYPE[JM-E]の左肩を貫いてそのまま斬り落とす。それを代償としてTYPE[JM-E]は半歩深く踏み込み、CRESCENT MOONLIGHTを右下方から左上方へと斬り上げた。臨界を超えてまで収束された刀身は質量すら伴う。冷たい光を放つ超高熱の刃にオーバーフレームの装甲を深く抉り込まれたアークレイズが、剣戟を受けた反動で挙動を強制停止させられた。
 深刻な損傷に警告音が鳴り響くジェイミィの認識空間の中で、BLADE ARTS PROGRAM "DOMINANT" LOADED COMPLETEDのインフォメーションメッセージが流れる。更に踏み込んだTYPE[JM-E]が月光の刃を煌めかせた。機体制動に合わせて白翼がスラスターを噴射する。左上から右下の袈裟斬り、右から左へと水平斬りを刻み込む。常人には垣間見る事すら叶わない神速の太刀筋──DOMINANCE BLADE ARTSがアークレイズの正面胸部装甲を十字に引き裂く。内部に格納されているダビングの姿をセンサーカメラ越しにジェイミィは視認した。ここで破壊するべき敵対目標として。
 SERAPHを構成するフェザースラスターの一枚一枚が、その形を熱で溶解させながら推進機関を最大解放する。何倍にも膨張した光の翼を翻したTYPE[JM-E]が、アークレイズの側面直近を擦り抜けた。光すらも追いつけないとさえ思わせる超高速機動。百雷が落ちたかの如きブレード光波の衝撃音が虚ろな世界の全域に響き渡った。TYPE[JM-E]の右腕部が肩口から砕け、CRESCENT MOONLIGHTの刃が硝子の破片の如く宙に舞い散る。その背後の遠方では、ダビングが格納されている胸部ブロックを文字通りに斬り砕かれたアークレイズが立ち尽くしていた。ルナライトから月明かりが消え、崩れ落ちるようにして膝を付き、正面から倒れ込む。
「──終止」
 ノイズにまみれたジェイミィの声音。アークレイズの機体から幾つもの光の筋が溢れる。破壊されたプラズマリアクターが大規模な荷電粒子爆発を起こして大橋の上に光の御柱を立ち昇らせた。爆風に背を煽られたTYPE[JM-E]もまた正面から倒れ込む。その衝撃で白い片翼の接続基部が遂に限界を迎え、根本から折れた。
『……終わったな』
 爆発が終息して青い粒子が泡沫に消えた頃、抑揚の無い声でWHITE KNIGHTが言葉を零す。ジェイミィは何も答えない。アークレイズの貌は既に無く、大橋の路面上には残滓の欠片ばかりが散らばるだけだった。
『ジェイミィ、お前が異なる時間軸でそうするに至ったのと同じように、奴も己の答えに殉じたのだろう。誇ってやれ。それが手向けだ』
 言葉など意味を成さない。黙してそう示すかのようにジェイミィは光点が消えたレーダーを見つめていた。彼が望んだ答えを自身が出した。そして終わらせた。鴻鈞道人の融合体というひとつの影を消し去り、時間を繋いだ。ジェイミィにとって恐らくそこには感情など介在しないのだろう。敵を倒し、任務を果たしただけだ。そうして追い縋る過去との戦いは繰り返す。ジェイミィが戦い続ける限り。これまでも、これからも。熾天使の白羽が揺らぐ風に吹かれて蒼空へと舞い上がる。
「作戦終了、戦闘システム……解除」
 ダビングは零に、ジェイミィは一に還った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月30日


挿絵イラスト