● グリモアベースにて
「仕事だよアンタ達」
いつも通り冷静に言ったパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は、集まった猟兵たちにグリモアを示した。
「仙界の最深部にある「渾沌の地」に、鴻鈞道人が現れたんだ。アンタ達は全力でこいつを倒しとくれ」
それだけ言ったパラスは、一度言葉を切る。集まる視線を受け止めたパラスは、苦笑いを零すと猟兵たちを改めて見渡した。
「鴻鈞道人は、転送を担当したグリモア猟兵を乗っ取る能力を持ってるんだ。アタシが予知した鴻鈞道人もそれは例外じゃない。だが構うことはない。全力で立ち向かっとくれ。そうじゃなきゃ倒せない強敵でもあるからね」
息を呑む猟兵たちに、パラスは小さく肩を竦める。危険な戦場だが、見えてしまったからには行かないという選択肢はない。淡々と告げたパラスは、戦場の特性を猟兵たちに伝えた。
鴻鈞道人は必ず先制攻撃を仕掛けてくること。
現時点では鴻鈞道人を完全に滅ぼす手立てはないこと。
全力で戦い、倒し続ければこの場からは撤退させることができること。
手加減をしようものなら返り討ちに遭ってしまうため、手加減してはいけないこと。
グリモアを潜った時点で戦場に転送され、何らかの決着をつけるまでは戻れないこと。
そして。
「……例えアンタ達がアタシを好いてくれていても。アタシがアンタ達を良く思っていても。それは一切有利には働かないこと。このくらいかね」
静かに告げたパラスは、集まる視線を真っ直ぐ見据え返した。鴻鈞道人を倒さなければ、カタストロフが起きてしまう。それを阻止しなければ、被害は桁違いに拡大するのだ。
「ここでくたばる気はないが、まあ生きていることを祈っといておくれ。例えくたばったとしても、罪悪感を感じたりしないどくれよ。いつも死地に送り込んでいる。そのツケと順番が回ってきた。それだけのことだからね」
パラスは笑みを浮かべると、グリモアを発動させた。
三ノ木咲紀
オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございます。
今回はパラスと融合した鴻鈞道人と戦うシナリオです。
注意点はオープニングの通り。
やや難シナリオですので、判定は厳し目にさせていただきます。
プレイングボーナスは以下の通り。
=============================
プレイングボーナス……グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
=============================
戦場は真っ白な平原で、障害物などはありません。
全採用の予定ですが、人数によっては再送をお願いする可能性もあります。
プレイングはすぐの受付。〆切は追ってご連絡致します。
それでは、よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
|
POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※追記
パラスは【無数の弾丸による弾幕】と【強烈な一発の弾丸】を使い分けて攻撃してきます。
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
…パラスまで、渾沌に
パラスには敵討ちに手を貸してもらった恩がある
だから、絶対助けるぞ!
先制対策
代償となる部位を「視力、戦闘知識」で観察し特定
自身に漆黒の「オーラ防御」を纏った上で放たれた一撃を「見切り」で回避
もし回避不能なら歯を食いしばり「激痛耐性」で耐えよう
ここで倒れるわけにはいかない!
凌いだら反撃だ
可能な限りパラスの肉体を傷つけず鴻鈞道人だけを撃破したい
「闇に紛れる、地形の利用」で死角から迫り
「早業、2回攻撃」+指定UCで鴻鈞道人の戦意のみを斬り捨てる
貴様にパラスの肉体は渡さない!!
戦闘後は「救助活動、医術」でパラスの治療
まだ骸の海に呑まれるには早い
生きてくれ!
九十九・白斗
無理するなよって言ったのによぅ
(遠くから、ライフルのスコープでパラスを見る
アンチマテリアルライフル
戦車の装甲だって貫く銃だ
人間にあてたらミンチが出来上がる)
ええい
(銃を捨てる
装備もみんな捨てて、ナイフ一本になる
銃で済ますのがひどく嫌だった
白斗の眼に怒りの炎が燃えていた)
鴻鈞道人!ゆるさねえ
(腹の底から、絞り上げるような声をあげて突っ込む
ナイフでパラスを刺そうとした)
カラン
(が、できなかった。
彼女を刺せなかった
代わりに飛び掛かって蛇のように絡みつき関節技を決める
人体が引きちぎれる嫌な音がする
だが、流血によって力が増すUCに対しては有効な手段だ
優しさがUCの対策となったのだ)
真宮・響
パラスはいつでも死地をさがしてるんだろうね。そうするだけの壮絶な体験をしてきてる。
でもここを死地にするのはアタシは認めない。何者かに乗っ取られて死ぬよりは自分で死地を選びたいだろう。パラスは同志だ。ここで死なせないよ。
パラスの先制攻撃は強力な銃撃か・・・【戦闘知識】で弾の軌道を見切り、【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌ぐ。
後は・・・精一杯の声を張り上げてアンチウォーヴォイスを歌う。パラス自身には響かなくても中にいる鴻鈞道人に効けば十分だ。
動きを止めるのに成功したら、【ダッシュ】で近づいて、【怪力】【グラップル】で遊びなしの全力の正拳を叩き込む!!さあ、パラスを返して貰おうか!!
真宮・奏
パラスさんの覚悟、受け取りました。でもここを死地とさせる訳にはいきません。パラスさんご自身、ここを死地とするのは本意ではないでしょう?
パラスさんの銃撃の凄まじさは良く知ってますので、受けきることに全力を入れます。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】でなんとか凌ぎます。
後は敵の熾烈な攻撃を凌ぐ為に蒼穹の戦乙女の戦舞で援護しながら、【衝撃波】で援護を。上手く接近できたら【怪力】【シールドバッシュ】で吹き飛ばします!!パラスさん、手荒な真似してごめんなさい!!
死地は自分の意志で決めるべきもの。これ以上パラスさんを好き勝手するのは許しません!!
神城・瞬
パラスさんはいつでも死の覚悟は出来てるんでしょうね。でもこういう死に方はあんまりです。パラスさんを見てきた僕にとって、ここを死地にさせる訳にはいきません。
まずは【高速詠唱】で【マヒ攻撃】【武器落とし】【吹き飛ばし】を併せた【結界術】を最優先で展開。銃撃の脅威を少しでも減らします。更に【オーラ防御】【第六感】を使用。
更に【追撃】で【高速詠唱】【全力魔法】【魔力溜め】で全力の氷結の結界を展開。結界の維持に全力を注ぎます。
さあ、パラスさんを返して貰いますか!!まだまだ歩いていって頂きたいですし!!
● 異形
どこまでも続く白い平原。地平線まで名も知らぬ草に覆われた大地に佇む白い人影を前にした館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、一人立つ姿に拳を握り締めた。
目の目にいるのは、見慣れた姿。白い戦闘服に身を包んだパラスは、鴻鈞道人に乗っ取られているとは思えないほどいつもと同じ姿、同じ顔で敬輔の前にいる。
だが、身体から立ち上るオーラに敬輔は「身に覚え」があった。全てを飲み込むような渾沌の様相。自我を飲み込み骸の海へと還す強大な力。それは一時期、敬輔自身をも飲み込んだ力だった。
「……パラスまで、渾沌に」
(来たか猟兵)
口元を歪めた鴻鈞道人の両腕が、虚空に消える。直後現れた両腕は消える前と変わらない姿をしていたが、そこに纏う気配は段違いに凶悪なものとなっていた。
対峙してからずっと観察していた敬輔は、ふいに動く鴻鈞道人の手元に地を蹴った。回避行動を取る敬輔は、走る激痛とマヒを歯を食いしばって堪えた。
肉を喰らい貫く渾沌の諸相は食らった相手を異形化させるが、改めて見てもパラスの姿は異形化をしていない。だが、攻撃には紛れもなくユーベルコードが乗っている。漆黒のオーラで防御しなければ、立っていることすら危うかっただろう。見た目を変化させずに本質を変えた鴻鈞道人は、圧倒的に強化させたニケとアイギスを敬輔に突きつけた。
(全てにおいて強化した双銃は、お前達猟兵を確実に屠る。女がこの手で仲間を殺した時どうなるか、見ものというもの)
「そんなこと、させるか! 貴様にパラスは渡さない!」
叫んだ敬輔は、マヒを解こうと必死に足掻く。身体は少しずつ動きを取り戻すが、いつもの動きには到底及ばない。身じろぐ敬輔に、鴻鈞道人は諭すように言った。
(その様子では、身動きも取れまい。黙って女に殺されるがいい……)
敬輔の眉間にニケを突きつけた鴻鈞道人の動きがふいに止まる。何かに気付いたような鴻鈞道人は、はるか遠方を見つめると楽しそうに口元を歪め、アイギスを自分のこめかみに向け発砲した。響く銃声。致命傷となり得る攻撃はしかし、鴻鈞道人の防御に阻まれて大したダメージを与えられない。
何が起きたのか。目を見開く敬輔の眉間にニケの銃口を向けたまま、己に向け発砲しててしばし。再び平野に向けてアイギスを向けた鴻鈞道人は、続けざまに銃弾を放つ。逸れる鴻鈞道人の意識に、敬輔は動きの鈍い腕を叱咤し黒剣の柄を握り締めた。
● 狙撃
時は少し遡る。
遥か遠くに立つ白い人影に、九十九・白斗(傭兵・f02173)はアンチマテリアルライフルを構えた。
障害物のない白い平野のこと。人影とは十二分に距離を取り、気配を殺す。一般の狙撃銃の射程距離は2000メートルを超える物もある。それよりも射程の長いアンチマテリアルライフルは、豆粒ほどの大きさの標的も射程内に収めていた。
身を屈めてスコープを覗き込む。そこに見える姿はいつもと変わらない白い戦闘服姿のパラスで、鴻鈞道人の面影はかけらも感じられない。涼しい顔で立つ鴻鈞道人は、現れた敬輔に向けて攻撃を仕掛けた。膝をつく敬輔と鴻鈞道人の会話は聞こえないが、もしパラスが自分の手で味方を一人でも殺せばどうなるか。白斗はそれを知っていた。
(「無理するなよって言ったのによぅ」)
思い出されるのは、バーで交わした何でもない会話。鴻鈞道人がグリモア猟兵を乗っ取る事件が報告されるようになって、しばらくしてからのこと。無理はするなと言ったが、無理はしないとは返ってこなかった。あの時にはもう既に予知はあったのか。問い質したいが今は遠いスコープの向こう側。
アンチマテリアルライフルの大口径を支える銃身は、大きく重い。戦車の装甲さえ貫く銃は、人間に当てたらミンチが出来上がる。鴻鈞道人も有効打を与えられるはずだ。そして今、敬輔に止めを刺そうとしている。獲物に食らいつく瞬間にできる隙を狙い改めてスコープを覗き込んだ時、鴻鈞道人と目が合った。
鴻鈞道人がこちらを見て、挑発の笑みを浮かべている。白斗に気付いた鴻鈞道人と睨み合ってしばし。狙撃を回避する様子もない鴻鈞道人は、邪悪に口元を歪めるとアイギスを自分のこめかみに突きつけた。
続く銃声は、自分が発したものではない。明らかな挑発に、白斗は立ち上がり駆け出した。アンチマテリアルライフルをその場に残し、矢のように駆ける。狙撃のために距離を取っていたのが仇になった。銃を捨て、重い装備も全て捨ててナイフ一本になり速度を上げる白斗の目には、怒りの炎が燃えていた。
「ええい」
吠える白斗を嘲笑うように弾幕が張られる。アイギスの射程に入ったのだ。防御を捨て回避を捨てた白斗に、攻撃は容赦なく浴びせられる。嬲るように放たれる銃弾はいつもの弾幕の半分ほどの弾数だが、さすがに無傷ではいられない。大ダメージを負い全身から血を流しながらも距離を詰める白斗の眉間に、改めてアイギスの銃口が向けられた。
この距離を外す彼女ではない。白斗に止めの銃弾が放たれる寸前、歌声が響いた。
● 封印
敬輔の後ろから姿を現した真宮・響(赫灼の炎・f00434)の姿に、鴻鈞道人は銃口を上げた。直後に放つ先制の一撃は、狙い違わず響を狙う。敢えて敬輔の真後ろから駆けつけた響に最小の動きで攻撃を仕掛けた鴻鈞道人の銃弾の軌道を読んだ響は、残像を残しながら回避を試みる。額から一筋の血を流した鴻鈞道人の攻撃を回避しきれず肩で受けた響は、激痛を堪えながらも歌を歌った。
反戦の主張を込めてアンチウォーヴォイスを歌い上げた響は、止めを発砲直前にジャミングを起こしたニケとアイギスを手元に引き上げる鴻鈞道人に真っ向から向き合った。精一杯の声を張り上げて歌う響の声に、鴻鈞道人は口の端を上げた。
(耳障りなことだ。だがこの程度で完全に攻撃を封じたと思うな)
「ならば、あなた自身を封じるまでです!」
神城・瞬(清光の月・f06558)が詠唱と同時に展開した結界術が、双銃に掛けられた武器封じを解除する鴻鈞道人に放たれた。
その前に放たれた銃弾の第一波を、展開したオーラ防御で受け止める。結界に突き刺さる無数の銃弾は、武器落としと吹き飛ばしに威力を削がれながらも瞬の身体に突き刺さった。先制攻撃を凌ぎ全身を走る痛みを堪えながらも、瞬は詠唱を開始した。
「あなたの動きを縛らせて貰います!! 凍り付け!!」
詠唱直後に完成させた瞬は、即座に氷の矢を解き放った。攻撃直後の硬直を狙った瞬のユーベルコードは、鴻鈞道人の動きを止めその場に縫い付ける。
寿命を削りながらも足を封じた氷の結界が腕にまで達する直前、双銃が再び火を吹いた。後方から駆け寄りステップを踏もうとした真宮・奏(絢爛の星・f03210)を狙った銃弾は、迷うことなく奏の頭と心臓を狙い撃ちしている。必殺を狙った攻撃を読んだ奏は、エレメンタル・シールドを構えた。
「パラスさんの銃撃の凄まじさは良く知ってます。ならば!」
突き刺さる衝撃をオーラで強化した盾で受け止め、受け流す。盾以外の防御を捨てて攻撃を受け切った奏は、両腕を封じられ攻撃を収めた鴻鈞道人を前にステップを踏んだ。
蒼穹の戦乙女の戦舞を舞う奏を中心に、青色の風属性の翼が広がっていく。癒やしを受けた猟兵たちが立ち上がるのを見守った響は、歌をやめて膠着状態に陥った戦場を歩くと鴻鈞道人と向かい合った。
● 死地
鴻鈞道人と改めて向かい合った響は、瞬の氷を受けてなお表情を崩さない姿に小さなため息を付いた。
思い出されるのは、パリピ島の宴。周囲のカオスをよそにパラスと語り合った響は、彼女の過去について少し聞いていたのだ。
「……パラスはいつでも死地をさがしてるんだろうね。そうするだけの壮絶な体験をしてきてる」
(それを理解できるのであれば、この氷を解くよう言うが良い。小僧は何かしらの代償を支払っているのであろう?)
「生憎、それを決めるのはアタシじゃない」
鴻鈞道人の言葉を受けた響は、チラリと後ろを振り返る。額に玉の汗を浮かべながらもユーベルコードを維持し続ける瞬は、響の無言の問に首を横に振った。
「パラスさんはいつでも、死の覚悟は出来てるんでしょうね。でもこういう死に方はあんまりです。パラスさんを見てきた僕にとって、ここを死地にさせる訳にはいきません」
(人はいつか死ぬのだ。場所は大した問題ではない)
小さく肩を竦めた鴻鈞道人に、奏はステップを継続させながら問いかけた。
「パラスさんの覚悟、受け取りました。でもここを死地とさせる訳にはいきません。パラスさんご自身、ここを死地とするのは本意ではないでしょう?」
(人はいつか死ぬのだ。だが、猟兵は人ではない。本当に死ぬのか、疑問は残るというもの)
「……! 例えそうでも、死地は自分の意志で決めるべきもの。これ以上パラスさんを好き勝手するのは許しません!!」
毅然と立つ奏の肩を叩き前に出た響は、改めて鴻鈞道人と向き合った。
「ここを死地にするのはアタシは認めない」
(認めてもらうものでもあるまい……)
「黙れ」
交わされる会話を黙って聞いていた敬輔は、怒りも顕に鴻鈞道人を睨みつけると指を突きつけた。
「パラスには敵討ちに手を貸してもらった恩がある。だから、絶対助けるぞ!」
「何者かに乗っ取られて死ぬよりは、自分で死地を選びたいだろう。パラスは同志だ。ここで死なせないよ」
(ふむ、やはり対話は無意味。ならば決着をつけよう猟兵よ)
ふいに脳裏に響く鴻鈞道人の声に、鴻鈞道人の全身から膨大な白いオーラが発せられる。ユーベルコード封じの氷を弾き飛ばした時、人影が迫った。
● 対峙
気配を殺し死角へと回り込んだ敬輔は、大きく踏み込むと黒剣で斬りかかった。裂帛の気合で斬りつける斬撃を迎え撃とうと双銃を構えた鴻鈞道人の腕が、再び氷結した。
「させません! パラスさんを返して貰いますか!! まだまだ歩いていって頂きたいですし!!」
(小細工を)
苛立ったような鴻鈞道人の声が響く。瞬が放つ氷結の結界に動きを止めた鴻鈞道人に、響は猛然と駆け寄った。
「さあ、パラスを返して貰おうか!!」
隙を突いての強烈な一撃が腹に突き刺さる。渾身の力で放たれた、遊びなしの全力の正拳を腹に受け吹き飛ばされた姿が、再び宙に浮いた。
「パラスさん、手荒な真似してごめんなさい!!」
宙に浮いた体に向けてエレメンタル・シールドを構えた奏は、鴻鈞道人を怪力で吹き飛ばす。容赦ない攻撃に吹き飛ばされた鴻鈞道人は、双銃を構えると弾幕を張った。
(返礼だ。受け取るがいい)
双銃から放たれる攻撃が、猟兵たちを襲う。容赦のない攻撃を加える鴻鈞道人の背後に、黒い影が迫った。
「貴様にパラスの肉体は渡さない!!」
攻撃に潜み闇に紛れ鴻鈞道人の背中を袈裟懸けに切り払った敬輔は、返す刀で再び斬りつけた。致命傷になり得る斬撃はしかし、血を流させるものではなかった。
威圧と殺気を籠めた黒剣の連撃は、鴻鈞道人の肉体を傷つけずに戦闘を続けようとする意志を削ぎ取る。振り返り敬輔に攻撃を叩き込んだ鴻鈞道人に、殺気が迫った。
「鴻鈞道人! ゆるさねえ!」
腹の底から絞り上げるような声をあげて、白斗が突っ込む。軍用ナイフを構え、殺気も顕に突進する白斗の姿に、鴻鈞道人はニケを構えた。この距離で撃たれたらさすがに回避はできない。戦意を削がれながらも仕掛けられる攻撃は、白斗を容赦なく穿つ。それでも構わずに突進した白斗は、間近に迫る鴻鈞道人の心臓を狙い軍用ナイフを突き出した。
白斗のナイフの前に立った鴻鈞道人は、無防備に腕を広げる。普段のパラスと寸分違わない姿を前にした白斗は、ナイフを手放した。
白斗には、パラスを刺すことができなかった。
得物を手放した白斗は、致命の一撃を覚悟する。だが衝撃は襲って来なかった。敬輔のユーベルコードに戦意を削がれた鴻鈞道人の腕が硬直している。互いの腕が交差したのはほんのわずかな時間のこと。伸ばされた腕に蛇のように絡みついた白斗は、容赦なく関節技を極めた。
人体が引きちぎれる嫌な音がする。鴻鈞道人の関節が、靭帯が悲鳴を上げる。骨を折る勢いで力を込めた白斗は、ゴリ、という音を聞いた。
(この程度で、私の動きを止められたと思わないことだ)
自分の意思で関節を外した鴻鈞道人の腕が、サブミッションを抜ける。距離を取り無造作に関節を入れ直した鴻鈞道人は、不敵な笑みを浮かべると双銃を構え直し猟兵達と向かい合った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
木常野・都月
パラスさん!
パラスさんが俺達を殺すために転送してたのか!?違うだろう?
1人でも多くの人を救うために、世界を守るためじゃないか!
俺、パラスさんに殺されるために転送されてるつもりないぞ!?
聞いてるか、パラスさん!
分かっているのか、パラスさん!
先制攻撃攻撃なんか知るか![激痛耐性]する!
それより[野生の勘、第六感、ダッシュ]で少しでもパラスさんの近くへ!
邪魔するなら[カウンター]で防ごう!
可能な限り、出来るだけ、少しでも、外さない距離まで来れたら!
チィ、月の精霊様![属性魔法、全力魔法、集中力]を全部込めて、頼む!
俺の魔力全部吸っていいから…
超至近距離のUC【精霊の矢】でパラスさんの中にいる奴を浄化してくれ!
いいか、パラスさん!後でちゃんと話するから!地の精霊様に頼んで手当てするから!
俺より歳上でも、聞くまで絶対許さないからな!
だから、生きろ、パラスさん!
桜雨・カイ
手加減はできない、パラスさんもそれを望んではいない
分かっています、自分のするべき事も。
でも依頼が終わった私達を迎えるまでがパラスさんの役目ですからね
だから生きて、ちゃんと迎えてくださいね。
初手は【ダッシュ】と【受け流し】で攻撃をかわし、かわせなかった分は【糸編符】【激痛耐性】で受けます
【練成カミヤドリ】発動
向こうの武器の動きを見ながら(【瞬間思考力】)攻撃をかわす(【フェイント・ダッシュ】)
パラスさんも当然こちらの動きを読んで撃ってくるはず、どこかで不意をつかないと
大量の練成体を盾にしつつ一斉に攻撃…に見せかけて、タイミングをずらして残りを攻撃
それでもまだパラスさんに読まれそうですが、それもフェイント。
私(ヤドリガミの身)が一気にパラスさんに突っ込みます
狙うは翼や触手、元のパラスさんでないものを狙って【属性攻撃】をのせた【四色精扇】で攻撃。
同化しているパラスさんができるだけ苦しまないよう一閃で、そして戦闘後の怪我の傷が最小限になるように。
月水・輝命
パラスさん……必ずお助けしますわ。
先制攻撃には、第六感や、攻撃すると見せかけるフェイント、そこで鏡像の残像を置き、回避。或いはオーラ防御で守りを固めます。
鏡はうつしうつすもの、ですから。
パラスさんはいつも、送り出すわたくし達を信じて待っていた筈ですわ。
ですから……わたくしは、パラスさんが生きて、また一緒に語り合える事を信じております。
UC発動。まだ不完全ですが、かつての姫巫女様の力をお借りした姿で。
浄化と破魔を纏わせた光属性攻撃で、弾幕には弾幕を。
パラスさんを助けるために、あなたを倒させて頂きますわ。
わたくしは、人を信じ、守りたいのですから。
ヴィクトル・サリヴァン
…手加減してくれそうにない人だからね。
なら俺も全力で止めさせて貰おうか。
こんな姑息な鴻鈞道人なんかに誰かを欠けさせられるなんて冗談じゃないし。
高速・多重詠唱で水の鞭と氷の壁を構築、ばら撒いてくる弾幕を逸らしつつ鞭でパラスの腕に巻き付かせるように振るい牽制。
ここぞの一発を狙ってくるだろうから嫌な殺気野生の勘で感じたら俺自身を水の鞭で弾き緊急回避。
隙を見つけたらUCを発動、氷の属性と竜巻とを合成して生み出した氷竜巻を加減とか制御抜きにで叩きこむ。
多少の悪い状況でも精密射撃できるだろうけど、この状況でどれだけやれるか…できそうだね。
多少の負傷は無視し油断なく氷竜巻で押し切ろう。
※アドリブ絡み等お任せ
● 攻防
どこまでも広がる白い平原に、銃声が響いた。
断続的に響く銃声の中に立った木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、叩き込まれる銃弾の雨に防御姿勢を取りながらも激痛に耐えていた。
目の前に立つパラスは、いつもと変わらない姿。美味しいカクテルを作ってくれた人がその姿のまま撃ってくるのは、何の悪夢だろうか。野生の勘と第六感で極力攻撃を回避しているが、前に進むと決めた以上全てを回避しきれるものでもない。
パラスが本気で殺しに来る。この悪夢を終わらせる。その一念で激痛を堪えた都月は、前に進みながら叫んだ。
「パラスさん! パラスさんが俺達を殺すために転送してたのか!? 違うだろう? 一人でも多くの人を救うために、世界を守るためじゃないか!」
(戯言を。戦場に立つ以上、殺すことも殺されることも覚悟の上。そうでなければ立つべきではないのだ)
都月の叫びに返ってくるのは、鴻鈞道人の冷徹な声。唇を噛み締め膝をついた都月の眉間に、ニケの照準が合わせられる。回避しようと身体を動かすが、一度ついた膝はうまく動いてはくれない。放たれた弾丸はしかし、都月のこめかみをよぎり地面に突き刺さった。
「……手加減してくれそうにない人だからね」
急ぎ駆けつけたヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)が放った水の鞭が、鴻鈞道人の腕を跳ね上げさせる。逸らされた照準に眉根を跳ね上げた鴻鈞道人は、ヴィクトルの眉間にアイギスを突きつけた。
(そっちの鯱はよく分かってると見える)
「褒められても嬉しくないね。こんな姑息な鴻鈞道人なんかに、誰かを欠けさせられるなんて冗談じゃないし」
肩を竦めるヴィクトルに、容赦なく弾丸が放たれる。必殺の一撃はしかし、一瞬前までヴィクトルがいた空間を噛むと再び地面に突き刺さった。自分の身体を水の鞭で弾き飛ばしたヴィクトルの体が、白い平原を転がっていく。追撃を仕掛けようとする鴻鈞道人の射線を切るように、人影が現れた。
「手加減はできない、パラスさんもそれを望んではいない。分かっています、自分のするべき事も」
沈痛な面持ちで立った桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)の姿に、鴻鈞道人は口の端を上げた。
(ふむ、先程から見ていたが。お前達はどうも、この姿では本気を出せないらしい。ならば、手加減などできぬよう、姿かたちを変えてやろうか)
言い放った鴻鈞道人の背中が、不自然に盛り上がった。肉を裂き、骨が歪む嫌な音を立てながら現れたのは、白い天使の翼。翼と同じ場所から翼を覆うように白きおぞましき触手が生え、生き物のようにうねりながらカイの隙を虎視眈々と狙っているようだった。
白い翼に植え込まれた羽根の一枚一枚が、白き殺戮する刃と化す。危険な光を宿す刃は、既に血塗られていた。代償である流血を受けた刃が、カイに向けて解き放たれると同時に地を蹴り駆けた。
膝をついた都月から目を逸らすように、大きな動きで引きつける。カイを追いかけるように地面に突き刺さる白い羽根が、速度を上げて迫った。明らかにカイの足を狙ってくる羽根が、鴻鈞道人の狙い通り突き刺さる。激痛に息を飲んだカイは、即座に糸編符を放った。
間一髪。足を防御しては間に合わない殺戮する羽根が、糸編符に突き刺さる。首筋を狙った殺戮する羽根は、符の力と相殺するとはらりと地上に落ちた。
(これを避けるとは)
「読み合いでは負けませんよ」
(ならこれはどうだ)
羽を広げた鴻鈞道人が、無数の殺戮する羽根をカイに放つ。一枚一枚が鋭く研ぎ澄まされた羽根に糸編符を構えたカイの前に、氷の障壁が現れた。
「だから、そうはさせないって」
鴻鈞道人の攻撃を回避したヴィクトルが転身、戦線に復帰したのだ。面で張られた氷の障壁に、無数の羽根が突き刺さった。奇妙なオブジェのようになった分厚い氷の障壁は、澄んだ音を立てると砕け散る。
カイの隣に立ったヴィクトルは、楽しそうに目を歪める鴻鈞道人の姿に油断なく得物を構えた。
● 救うために
時は少し遡る。
「大丈夫ですか? 都月さん」
膝をつき、唇を噛み深く俯いた都月に駆け寄った月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)は、小さく震える背中をそっと撫でた。どれも致命傷になり得るような弾丸は、激しい痛みを都月に与えているだろう。だが、体の痛み以上に心が傷ついているのかも知れない。歯を食いしばった都月は、顔を上げると戦い続ける鴻鈞道人にーーパラスに叫んだ。
「俺、パラスさんに殺されるために転送されてるつもりないぞ!? 聞いてるか、パラスさん! 分かっているのか、パラスさん!」
「都月さん……」
防御を捨て、真っ直ぐパラスを救おうと駆けた都月だったが、鴻鈞道人はそれを許しはしなかった。パラスは今、鴻鈞道人に乗っ取られて自我がどれほど残っているのかは定かではない。もしかしたら、全て呑まれて消えてしまったのかも知れない。それでも。
「都月さん。……パラスさんはいつも、送り出すわたくし達を信じて待っていた筈ですわ」
「輝命さん……」
戦いの手を緩めないパラスの姿に、都月は顔をくしゃくしゃにする。そんな都月に微笑みかけた輝命は、顔を上げると戦場を見た。
「ですから……わたくしは、パラスさんが生きて、また一緒に語り合える事を信じております」
「パラスさん……生きてるよな?」
「もちろんですわ」
輝命を見上げる都月の視線に、力強く頷く。大きく深呼吸して立ち上がろうとする都月に手を差し出すと、掴んでくれた手が力強く輝命の手を握り返す。再び立ち上がった都月は、手の甲で目元を拭うと吹っ切れたように言った。
「俺、パラスさんに言いたいことがある。でも、俺一人じゃ届かないんだ。だから、協力して欲しい」
「もちろんですわ」
生気を取り戻した都月から作戦を聞いた輝命は、頷くとカイとヴィクトルに駆け寄った。大きく動く輝命の姿に、鴻鈞道人は双銃を構えた。肉を喰らい貫く渾沌の諸相により両腕を失ったはずだが、見た目に大きな変化はない。だが渾沌の諸相を纏った攻撃は狙いを外すことはなく、攻撃の気配に立ち止まった輝命の心臓を貫いた。
大きく目を見開いた輝命の体に、大小無数のヒビが入る。やがて澄んだ音を立てて砕けた五鈴鏡が、力なく地面に落ちた。
(まずは一人……)
「それは五鈴鏡の複製ですわ。あなたは誰も殺してはいません」
パラスを安心させるように、輝命が大きな声を上げる。作戦をカイとヴィクトルに伝えた輝命は、五鈴鏡の複製を殊更誇るように展開させると、にっこり微笑んだ。
「鏡はうつしうつすもの、ですから」
(貴様……)
憎々しげな目で輝命を睨む鴻鈞道人の視線に、猟兵達は反撃に移った。
● 二人のヤドリガミ
今度こそ鏡本体を砕こうと無数の弾丸が放たれる。断続的な攻撃を前にした輝命は、詠唱を完成させた。
「かつての持ち主がわたくしを信じたように……わたくしも」
詠唱を終えた輝命の銀色の髪が、黒く染まる。真の姿を顕した輝命は、かつての姫巫女の姿となると五鈴鏡を構えた。
「弾幕には弾幕を。パラスさんを助けるために、あなたを倒させて頂きますわ」
降り注ぐ鉛の弾幕を、光の弾幕が迎え撃つ。集った猟兵達全員に向けて放たれた弾丸が、浄化と破魔を纏った光属性の攻撃でことごとく撃ち落とされていった。
真の姿により強化された光の弾は、鉛玉と相殺すると光の壁となる。突然の眩い光をまともに見た鴻鈞道人が怯んだ時、カイの姿が宙を舞った。
錬成カミヤドリにより複製された本体の人形が、次々と鴻鈞道人の前に姿を現す。念糸を放ち鴻鈞道人を拘束しようとするカイ達に、殺戮する羽根が突き刺さった。複製された百十九体の人形達は波状攻撃を仕掛け、破壊されても次々現れると念糸を放ち、四色精扇を繰り出す。カイに呼応した輝命が放つ光が鴻鈞道人の目を晦ませ、隙を作っては人形達が攻撃を仕掛けていく。
二人の連携に苛立ちを顕にした鴻鈞道人は、双銃と殺戮する羽根の双方を構えると人形達を倒しに掛かった。
「無駄なことを!」
次から次へと現れるカイの人形達を、鴻鈞道人の殺戮する羽根が破壊していく。全方位から仕掛ける攻撃に意識が逸れた瞬間、カイは四色精扇を構えた。
一閃。
属性攻撃を乗せた扇は剣の鋭さを乗せ、異形化した部位を切り裂く。変化した肩甲骨と翼の間を斬り裂いたカイに、鴻鈞道人は叫び声を上げた。
(貴様……!)
「パラスさん。依頼が終わった私達を迎えるまでがパラスさんの役目ですからね。だから生きて、ちゃんと迎えてくださいね」
「パラスさん……必ずお助けしますわ」
祈りを乗せたカイと輝命の言葉を乗せた風は、強風となり鴻鈞道人へと届けられる。強風から暴風へと変わる天候に、カイと輝命は退避を開始した。
● 精霊術士の矜持
異形化した翼を失った鴻鈞道人を遠くに見たヴィクトルは、練り上げた魔力をエレメンタル・ファンタジアへと乗せた。
「俺も全力で止めさせて貰おうか」
精霊術師として喚べる全ての氷と風の精霊を召喚し、働きかけて作り上げた氷の竜巻が空間を蹂躙する。時間を掛けて練り上げた魔力に力を得た精霊たちは、猛り荒れ狂いながら鴻鈞道人の方へと向かっていった。
元々暴走しやすいユーベルコードだ。加減や制御を捨てて放つ攻撃は、下手をすれば味方を攻撃したり何もない方へ飛んでいったりしかねない。できるだけの精密射撃を試みたヴィクトルだったが、それがどこまで通用するか。
「この状況でどれだけやれるか……。できそうだね」
ヴィクトルの危惧は、精霊たちの中央にいる人影が放つ光によって解消した。これで、ヴィクトルは心置きなく全力の魔力を込められる。猛り狂った精霊たちは、もうひとりの精霊術師が導いてくれるだろう。
全身を使って解き放った氷の竜巻は、多少誤差はあるもののまっすぐに鴻鈞道人の方へと向けて駆け抜けていく。まるで意思を持ったかのように鴻鈞道人へと向かう氷の竜巻に銃弾が応戦するが、元々風や水と銃弾は相性が悪い。殺戮する羽根はこれらの影響を受けないかも知れないが、今はそれも失われている。回避するにしても、巨大な竜巻からどこへ逃げられるというのか。
ついに鴻鈞道人を捉えた氷の竜巻が、白い身体を容赦なく削る。氷の竜巻が巻き起こす氷礫と風刃に強かに打ち据えられた体が完全に防御態勢に入った時、大きな光が放たれた。
● 叫びと祈り
ヴィクトルが放ったエレメンタル・ファンタジアに身を隠した都月は、荒れ狂う風と氷の精霊の声を堪えながらも共に駆け抜けていった。
自らも精霊術師である都月は、自分が氷の竜巻の標的にならないように、自分についてくるようにと氷と水の精霊様にお願いしながらも心はその先を見据えていた。
もう既に双銃の射程には入っているだろうが、銃弾が放たれる気配はない。同時に都月の精霊の矢の射程内に入っているはずだが、まだ放つには早い。
可能な限り、出来るだけ、少しでも、外さない距離まであと少し。暴風氷の中、手の届く距離にまで肉薄した都月は、フードの中にいる月の精霊の子・チィに向けて叫んだ。
「チィ、月の精霊様! 俺の力を全部込めて、頼む!」
フードから顔を出したチィが、大きな耳をピクリと動かす。都月の声に居場所を察知されたのだろう。殺気と共に双銃が向けられる気配がするが構うものか。立ち止まり指を鴻鈞道人へと向けた都月は、チィに……月の精霊に全霊の詠唱を捧げた。
「俺の魔力全部吸っていいから……精霊の矢でパラスさんの中にいる奴を浄化してくれ!」
「チィ!」
(そこ!)
都月とチィの声と鴻鈞道人の声が交錯する。自分が精霊の矢を放ったのと、双銃が火を吹くのとどちらが早かったのか確認する術もない。無我夢中で精霊の矢を放った都月は、心のままに叫んだ。
「いいか、パラスさん! 後でちゃんと話するから! 地の精霊様に頼んで手当てするから! 俺より歳上でも、聞くまで絶対許さないからな! だから、生きろ、パラスさん!」
「……そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」
くしゃりと髪を撫でる感触に、都月は目を開いた。そこにいるのは紛れもなくいつものパラスで。仕方のない、と言いたげな声色に涙が出てくる。
「パラスさん……!」
「手間、掛けさせたね」
申し訳無さそうな声色に、都月は首を横に振る。帰って来れたのだという安堵に息を吐いたのも束の間、突然襲う腹部の痛みと衝撃に都月は大きく跳ね飛ばされた。
容赦なく蹴り飛ばされた体が一瞬前まであった場所に、銃弾が叩き込まれる。再びパラスの意識と身体を乗っ取った鴻鈞道人は、邪悪な笑みを浮かべると再び双銃を手に取った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎木・葵桜
【二桜】
真の姿解放し、UC発動(姿変わらず)
なぎ払いと衝撃波の2回攻撃絡めながら攻撃に集中
顔以外のところの部位を中心に攻撃
先制攻撃は、田中さんと姫ちゃんに盾になって防いでもらう
それでもだめなら第六感の見切りと激痛耐性でカバーするね
*
救える敵には手を差し伸べることはあるけれど
倒さなければならない敵には、感情を切り捨て割り切って対応する
いつからそうだったかは、実はちょっと記憶がない
でもなんとなく思う
私は…多分過去に苦い思いをしたことがあるんだろうって
割り切れなかったが故に、失ってしまったものがあるんだろうって
「姫ちゃん、パラスさんは私達に託してくれたんだよ」
歴戦の猛者だって、命のやりとりをすることはいつだって怖いのだ
今回だって、覚悟はあっても怖さはあったはずだ
けれど、私達に託してくれた
この世界を救うためにと、託してくれた重たいもの
「だからちゃーんと受け止めて、全力で殴らせてもらうよ、先輩!」
全力出さなければ取り戻せないのなら、やるべきことは一つだけ
さあ、行かなくちゃ
大事な人を取り戻すために
彩瑠・姫桜
【二桜】
真の姿解放(姿変わらず)
封印を解き、覚悟を決めて戦うわ
先制攻撃は、前に出てかばう、武器受けで体を張って受け止め
【UC】で可能な限り動きを止め、親友の攻撃につなげる
*
立ちはだかる過去に今の自分を振り返る
人の姿をしている敵に武器を向けるのは、本当は怖いのだ
猟兵として戦うことになった、最初の日からずっとそうだ
数年経過し、心のどこかで慣れが生じている自分自身が、逆に怖いと思うほど
「パラスさん…、」
解っている
目の前にいるのは、敵であるということは
けれど、解ることと感じてしまうことは別だ
全力で向き合えと言われた…けれど
武器を持つ手が、足が震える
味方の姿をした者に武器を向けることを、身体が拒否していて
姫ちゃん、と叱咤する声に我に返る
そうだ
ややこ島の時もそうだった
無様でも何でも、私は猟兵なのだ
目の前に立ちはだかる
敬愛する人生の先輩の身体を乗っ取った敵
救うために、私ができることは唯一つだけ
「ごめん、ありがと、あお」
乾いた声を絞り出し、前を向いた
「鴻鈞道人、パラスさんは連れて行かせないわ、絶対にね」
● 恐怖と決意
猟兵達とパラスの戦いを見守っていた榎木・葵桜(桜舞・f06218)は、容赦のない戦いぶりに胡蝶楽刀の柄を握り締めた。
事前の情報通り、例えなにがしかの縁を結んでいたとしても攻撃の手を緩めたりはしない。パラスの姿をしているが、あれは鴻鈞道人として相対しなければならない敵だ。救える敵には手を差し伸べることはあるが、倒さなければならない敵には、感情を切り捨て割り切って対応する。現に今、目の前で戦うパラスに対しても容赦なく攻撃できるだろう。そんな確信が葵桜にはあった。
葵桜は、多分過去に苦い思いをしたことがあるのだろう。割り切れなかったが故に、失ってしまったものがあるのだろう。
それがいつのことで、どこでどんな状況だったのかは、実はちょっと記憶がない。でもなんとなくそう思う。おぼろげで、儚くて掴みどころがなくて。まるで霊のような感情は、紛れもない事実なんだろうと、そんな確信だけは心に刻まれていた。
「ちゃーんと受け止めて、全力で殴らせてもらわなきゃね、先輩! 行こう、姫ちゃ……」
戦場に向けて一歩踏み出そうとした葵桜は、隣から聞こえてくる震える声に振り向いた。
「パラスさん……、」
「姫ちゃん、大丈夫?」
「……」
Weisとschwarzを握り締めた彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は、葵桜の問に答えようと口を開くが、カラカラに乾いた喉は言葉を発してはくれないし、何を言ったらいいのかさえうまく形になってくれない。
立ちはだかる過去に、今の自分を振り返る。人の姿をしている敵に武器を向けるのは、本当は怖いのだ。自分が槍を向けた相手にもそれぞれ人生があり、様々な苦悩の末にこんな結末になったのだと思うと、どうしても躊躇してしまう。
思えば猟兵として戦うことになった、最初の日からずっとそうだ。数年経過し、心のどこかで慣れが生じている自分自身が、逆に怖いと思うほど。
特に今、目の前にいるのはパラスなのだ。つい先日、誕生祝いとしてテキーラサンライズを作ってくれた時の笑顔が忘れられない。
「姫ちゃん……」
「解っている」
葵桜の問いかけに、ようやく言葉が口を突く。思ったよりも鋭い声に、葵桜が戸惑ったように伸ばした手を引っ込める。姫桜は大きく息を吐くと、思いの丈を口にした。
「目の前にいるのは、敵、なんだよね。それは分かってるわ。けれど、解ることと感じてしまうことは別なの」
全力で向き合えと言われた。殺す気で来いと。今までの戦いはどれもギリギリの命のやり取り。こちらも全力を尽くさなければ。けれど。
武器を持つ手が、足が震える。味方の姿をした者に武器を向けることを、身体が拒否していて、最初の一歩がどうしても踏み出せなくて。いっそこのまま……。
「姫ちゃん!」
唇を噛み締めた姫桜は、両頬に感じる痛みに目を見開いた。両手で姫桜の両頬を叩いた葵桜が、両頬を両手で包んだまま真剣な目で覗き込んでいた。
「姫ちゃん、パラスさんは私達に託してくれたんだよ。歴戦の猛者だって、命のやりとりをすることはいつだって怖いはずだよ。今回だって、覚悟はあっても怖さはあったはず」
そんなことは、と言い掛けて姫桜は口を噤んだ。グリモアベースで依頼の説明をしていたパラスは、淡々としていた。だが、自分がどうなるかわからない戦いが怖くないはずがない。
「けれど、私達に託してくれた。この世界を救うためにと、託してくれた重たいもの」
「世界を……救うために……」
呟いた姫桜は、脳裏に浮かぶ一つの戦いに我に返った。
そうだ。
ややこ島の時もそうだった。
無様でも何でも、姫桜は猟兵なのだ。
姫桜の目に力が戻る。ややこ島の島民達は救えなかった。だが、パラスはまだ間に合う。間に合うのだ。
目の前に立ちはだかる、敬愛する人生の先輩の身体を乗っ取った敵。敵の手からパラスを救うために、姫桜ができることは唯一つだけ。自分の胸に芽生えた決意を伝えたくて、姫桜は頬に感じる葵桜の手を自分の手で包み込んだ。覗き込んでくれる葵桜の額に、自分の額をくっつける。合わせた額から力が流れ込んでくる気がして、姫桜は安堵の息を吐いた。
「ごめん、ありがと、あお」
「元気出た?」
「出た」
「じゃあ、行かなくちゃ。大事な人を取り戻すために」
「ええ。……行きましょう。パラスさんが待ってるわ」
頷いた葵桜の手を一度強く握った姫桜は、改めてWeisとschwarzを握りしめる。その手はもう、震えてはいなかった。
● 交戦
胡蝶楽刀を構えた葵桜は、鴻鈞道人の前に立つと
「鴻鈞道人! パラスさんは返して貰うね!」
(ふむ。ようやく覚悟を決めたか。ならば全力で来るがいい)
白い戦闘服を赤い血で染めたパラスの持つ双銃がひらめくと、葵桜に向けて銃弾が放たれた。情け容赦のない無数の銃弾は葵桜の身体を蜂の巣にする勢いだったが、その前に姫桜が躍り出た。
「こっちよ!」
葵桜の前に飛び出した姫桜は、Weisとschwarzの二槍を身体の前で交差させると葵桜を銃弾から庇った。覚悟を決め、真の姿を顕した姫桜の姿に変化はない。ただその身体から立ち上るオーラは、今までとはまるで異質と言って良いほど力強いものだった。
二槍を構え防御態勢を取る姫桜に、鴻鈞道人は口の端を歪ませた。
(なるほど、真の姿か。だが、それだけで凌げるほど甘い攻撃はせぬよ)
更に続く攻撃を、姫桜は歯を食いしばって耐える。身体を張って受け止めるが、それだけで精一杯だった。構えた二槍が手の中から落ちて立てる乾いた音が、どこか遠くで聞こえてきて。
「姫ちゃん!」
「下がっ……て、あお。鴻鈞道人の、攻撃はまだ、終わりじゃないはずよ」
(よく分かっているではないか)
邪悪に口元を歪めた鴻鈞道人が、一発の銃弾を放つ。葵桜にではない、姫桜に向けて放たれた重い一撃は、姫桜の胸に大きな赤い染みをつくる。乾いた声を絞り出し、前を向いた姫桜は、最後の力を振り絞ると詠唱を開始した。
「鴻鈞道人、パラスさんは連れて行かせないわ、絶対にね」
両掌を前に突き出した姫桜は、高圧電流を放つ。姫桜のサイキックブラストに感電し動きを止めたのを確認できたか。ゆらりと身体を揺らした姫桜は、その場にくずおれた。
「姫ちゃん!」
(我が攻撃を一人で二人分受け止めたのだ。当然の帰結と言えよう)
「鴻鈞道人! 許さないからね! 田中さん!」
真の姿を顕した葵桜は、怒りの目で詠唱を完成させると古代の霊である田中さんを召喚した。動きを止めた鴻鈞道人に向け、葵桜は大きくなぎ払う。身体を斬りつけた葵桜に呼応した田中さんが繰り出す槍でついた傷を、衝撃波で大きく広げる。
連撃を繰り出す葵桜に、感電から解放された鴻鈞道人は一つ肩を鳴らした。
(その程度か。ならばもう一度こちらから行かせて貰おうか)
再び無数の銃弾が、葵桜に向けて放たれる。防御姿勢を取る葵桜と倒れた姫桜の前に立った田中さんは、二人をかばい銃弾を受け続ける。
攻撃のユーベルコードの乗らない葵桜の攻撃では、有効打は望めない。田中さんの防御もいつまで保つかわからないし、重傷を負った姫桜も早く救護しなければ。唇を噛んだ葵桜は、姫桜の身体を抱えあげるとグリモアベースへと撤退した。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
……やれやれ。
この戦場、「こういう事」かよ。
正直言うとな、パラスさんよ。
妙な事に今まで縁もゆかりもなかったけれど、
アタシはずっと気にしてたんだ。
歴戦の死地を潜り抜けた、グリモア猟兵ってどんな猛者なのか……ってな。
その心意気、確かに受け取ったよ。
この若造の返礼、しかと受け取りな……!
遠慮も何もする訳が無ぇ。
なんせ初対面だ、出来る筈もないだろ?
でもな、止めることはできる……筈。
異形化した身体の攻撃を、『マヒ攻撃』の籠った電撃の『衝撃波』で往なしつつ動きを鈍らせようとする。
躱し切れなかったとしても、激痛、呪詛、狂気諸々の『耐性』で堪えて。
『コミュ力』で周りを『鼓舞』し、攻めの手を緩めさせない。
そうさ、アタシらは戦いに来たんだ。
「渾沌の化身、鴻鈞道人」とな。
パラスさん、アンタを止める為じゃねぇ。
他の誰かも、同じ気持ちだろうさ……
だからその想いも重ねて、この思念の刃を振るう。
懐に決死の思いで踏み込んでの【魂削ぐ刃】で、
鴻鈞道人の存在「のみ」を削ぎ落す!
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
成功数過多なら却下可
…猟兵は人ではない、と言ったな
果たして、何を以て人を定義するのか?
ああ、ユーベルコード所持の有無は定義にはならないぞ?
他世界には猟兵でなくてもユーベルコードを使う人がいるからな
それに
貴様の力もまた、ユーベルコードだろう
罪深き刃で罪人そのものの俺たちを狩る、とでも言いたいか?
笑わせるな!!
ユーベルコードは力そのもの
それ以上でもそれ以下でもない!
ましてや、罪深い象徴でもない!!
鴻鈞道人、貴様をここで討ち、パラスを返してもらう!!
翼と触手、刃は宿されても後で斬り飛ばせばいい
まずは双銃の射撃の回避が先
初手被弾時の経験を思い出し「戦闘知識」で分析
「視力、見切り、第六感」併用で双銃の軌道を目視予測し回避
回避したら指定UC発動
「ダッシュ、地形の利用」+高速移動でジグザグに移動しながらパラスに迫り
「祈り、属性攻撃(聖)」を宿した「衝撃波」を乱射し翼や触手、刃を斬り飛ばしながら肉薄し
「2回攻撃、鎧無視攻撃」で鴻鈞道人のみを一気に斬り伏せる!
パラスを…返せ!!
● 渾沌の諸相
戦場に立った数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は、パラスの姿に眉を顰めた。
戦場であるにも関わらず、放心しているように見えるのだ。やがて自分の両手に視線を落として目を見開き声にならない叫びを上げたパラスは、多喜の姿を認めると大声で叫んだ。
「猟兵! アタシを殺せ! 取り返しがつかなくなる前に……」
(簡単に死ねるとでも?)
脳内に響く鴻鈞道人の声。同時にパラスの姿が大きく歪んだ。まるで内側から食い破られるように肉が醜悪に盛り上がり、身体の中と外を返すようにパラスを飲み込んでいく。急速な変化が収束した時、そこにいたのは鴻鈞道人だった。
「気をしっかり持て、パラス!」
再び戦場へと戻った館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、鴻鈞道人の姿に大声で呼びかける。だが、そこにいるのは鴻鈞道人そのもの。双銃以外に面影を残さない姿に、多喜は手を握り締めると絞り出すような声を出した。
「……やれやれ。この戦場、「こういう事」かよ」
湧き上がる怒りの感情を落ち着かせるために息を吐いた多喜は、パラスの姿に唇を噛んだ。
鴻鈞道人が最後の力で侵食を強くしたのか。抗いきれないと絞り出した言葉が「殺せ」とは、鴻鈞道人を止められないのであればここを死地にするという意志の表れか。
「正直言うとな、パラスさんよ。妙な事に今まで縁もゆかりもなかったけれど、アタシはずっと気にしてたんだ。歴戦の死地を潜り抜けた、グリモア猟兵ってどんな猛者なのか……ってな」
世界を守るべきグリモア猟兵が、渾沌に呑まれ世界の敵に回る。そのくらいならば先に止めを刺して欲しいという望みは、ある意味正しいのだろう。今回はそうするようにと指示も出ている。手を握り締めた多喜は、サイキックナックルの感触を確かめると拳を突き出した。
「その心意気、確かに受け取ったよ。この若造の返礼、しかと受け取りな……!」
(遠慮はいらぬ。掛かって来るがいい)
言い放った鴻鈞道人の背中が大きく盛り上がった。肩甲骨を破り現れた白い翼には同時におぞましい触手が生え、羽根の一枚一枚が鋭い殺戮する刃と化している。大きく翼を広げた鴻鈞道人は、多喜に向けておぞましい触手を放った。
● カウンター
鴻鈞道人の左翼から、鞭のように触手が伸びる。大きく後ろに跳んだ多喜を追いかけた触手が彼女の腕を捕らえた時、どす黒い呪縛が纏わりついた。
超強化の代償として与えられたのだろう。呪縛が触手越しに滲出し、多喜の動きを封じていく。四肢を拘束する触手と呪縛から逃れようとするが、骨を折る勢いで締め付ける触手はそれを許さない。
(その程度か猟兵。遠慮はいらぬと言った筈だ)
「遠慮……? 遠慮も何もする訳が無ぇ。なんせ初対面だ、出来る筈もないだろ?」
(そうか。ならば、そのまま死ぬが良い)
感情の見えない鴻鈞道人は右翼の触手を槍の形に変化させると、多喜の心臓めがけて解き放つ。その直後、鴻鈞道人の触手が動きを止めビクリと大きく痙攣する。
放てば自身からは切り離される銃弾や殺戮する刃と違い、触手は鴻鈞道人自身と繋がっている。それを逆手に取った多喜は、マヒ属性の籠もった電撃を鴻鈞道人へと叩き込んだのだ。
(馬鹿な……)
「でもな、止めることはできるのさ。ーー敬輔!」
「させるか! 邪魔な触手は斬り飛ばせて貰う!」
動きを止めた隙を突き、敬輔の黒剣が奔る。マヒと同時にやんだ銃弾に地を駆けた敬輔は、多喜を束縛する触手を全て斬り払うと着地した。
(隙を見せたな猟兵)
あざ笑うような鴻鈞道人は、着地の隙を狙い銃弾を放つ。身構える敬輔の前に、多喜は衝撃波を放った。
「そっちがな!」
強烈な衝撃波に、銃弾の軌道がわずか逸れる。その隙に大きく跳躍した敬輔は弾丸を回避すると、黒剣を手に多喜の隣に立った。
● 先読みと回避
時は少し遡る。
双銃を手にした鴻鈞道人は、敬輔に向けて無数の銃弾を放った。代償の質と大きさに湧き上がる猛烈な不快感を堪えた敬輔は、放たれる銃弾の軌跡がさっき相対した時と変わらないことに安堵を覚えた。
異形化の影響は想像よりも大きい。だが完全に呑まれた訳ではない。ならば、敬輔がやることに変わりはない。救助の為に戦うだけ。
銃弾の軌道を予測し地を蹴り跳躍し、見切り回避し続ける敬輔の動きに苛立ちを隠せない鴻鈞道人が、弾幕を厚くしようと意識を向ける。物量で攻められたら、さすがに回避が難しくなる。だがやるしかない。地を蹴ろうとした瞬間、多喜の声が響いた。
「ーー敬輔!」
よく通る声に振り返る。四肢を触手に囚われた多喜の姿に唇を噛んだ敬輔は、回避を捨て駆け出した。
「させるか! 邪魔な触手は斬り飛ばせて貰う!」
追撃のダメージを覚悟したが、銃弾が放たれることはなかった。多喜の放つマヒの電撃が、鴻鈞道人の動きを封じている。その隙に跳躍した敬輔は、黒剣を閃かせた。鋭い刃を振るい、多喜を拘束する触手を全て切り払うと着地した。
(隙を見せたな猟兵)
「そっちがな!」
着地の隙を狙った鴻鈞道人の弾丸が、多喜の衝撃波で軌道を変える。弾丸を回避した敬輔は多喜の隣に立つと、油断なく黒剣を構えた。
● 人の定義 猟兵の定義
膠着状態に陥った戦場に、敬輔は鴻鈞道人を睨んだ。パラスを乗っ取った鴻鈞道人と相対するのはこれで二度目。初回に戦った時に鴻鈞道人が言っていたことが、敬輔にはひどく引っかかっていた。
「鴻鈞道人。貴様は言ったな。『人はいつか死ぬのだ。だが、猟兵は人ではない。本当に死ぬのか、疑問は残るというもの』と」
敬輔の言葉に、鴻鈞道人は眉根をピクリと跳ね上げる。無言で先を促す鴻鈞道人に、敬輔は続けた。
「果たして、何を以て人を定義するのか? ああ、ユーベルコード所持の有無は定義にはならないぞ? 他世界には猟兵でなくてもユーベルコードを使う人がいるからな」
(猟兵は生命体の埒外にあるもの。埒外が更に世界によって選ばれたもの。ならば生命体の埒内にあるのが人ではないのか。埒外と成り、罪深き刃(ユーベルコード)を刻まれし者共よ。絶えず時は運び、全ては土に還る流れに抗いし者共よ。ユーベルコードはいずれ、全てを無へと帰すだろう)
「貴様の力もまた、ユーベルコード。罪深き刃で罪人そのものの俺たちを狩る、とでも言いたいか? 笑わせるな!! ユーベルコードは力そのもの。それ以上でもそれ以下でもない! ましてや、罪深い象徴でもない!!」
(そう思いたいのであれば思うが良い。世界の理には抗えぬと知れ)
「鴻鈞道人、貴様をここで討ち、パラスを返してもらう!!」
叫んだ敬輔は、黒剣がかつて喰らった魂を纏うと駆け出した。雷のように駆ける敬輔に、鴻鈞道人は双銃で攻撃を放った。正確な狙いを誇る鴻鈞道人だが、それを逆手に取りジグザグの動きでこれを回避する。ならばと殺戮する刃が放たれるが、敬輔の衝撃波はこれをことごとく打ち払う。更に踏み込んだ敬輔は、黒剣を手に懐へと踏み込むと鴻鈞道人を大きく斬り払った。
「パラスを……返せ!!」
(ふ……。パラスを返せ、か。これまでの戦いは全て、この女が表に出ていたとしたら貴様はどうする)
「何?」
袈裟懸けに斬られよろりと後ろへ下がった鴻鈞道人は、邪悪な笑みを浮かべると高らかに嗤う。不快に眉を顰めた敬輔は、嗤いを収めた鴻鈞道人の言葉に目を見開いた。
(この女がオブリビオンと成れば、間違いなく強大な力を得る。私はこの女を堕とすため心を読み、同調し、望む行動を取ったまで。オブリビオンと化したこの女は、渾沌のためによく働いてくれるだろう)
「嘘を言うな!」
「そうさ、アタシらは戦いに来たんだ。「渾沌の化身、鴻鈞道人」とな。パラスさん、アンタを止める為じゃねぇ」
触手を解き指を突きつけ改めて宣戦布告する多喜に、鴻鈞道人は苦々しげに顔を歪めた。
「鴻鈞道人。今のアンタは何とでも言える立場だ。嘘や一面のみの情報を与えて、アタシ達の間に混乱を生み出すこともできる。だけどね、アタシはアンタを信用しないし言葉を鵜呑みにもしない。他の誰かも、同じ気持ちだろうさ」
敬輔と鴻鈞道人のやり取りを黙って聞いていた多喜は、頭に血を上らせる敬輔をチラリと見た。冷静な多喜の視線に我を取り戻した敬輔は、唇を噛むと黙って黒剣を構える。敬輔から鴻鈞道人へと視線を移した多喜は、サイキックナックルを握り締めた。
「だからその想いも重ねて、この思念の刃を振るうよ。ーー鴻鈞道人、お前を今ここで削ぎ落とす!」
(やってみるがいい!)
吠えた鴻鈞道人が、ニケの照準を多喜の眉間に合わせる。増幅されたサイキックエナジーがおぼろげに光り、半身を返し繰り出す多喜の手刀を追い淡い軌跡を残す。
「引き裂け、アストラル・グラインド!」
交錯する腕と腕。一瞬の静寂の後、倒れたのは鴻鈞道人だった。多喜のこめかみを撃ったニケが、鴻鈞道人の手から落ちて地面に転がる。双銃を手放した鴻鈞道人の姿は白い霧となり消え、身体をくの字に折ったパラスが力なく多喜に体重を預ける。ユーベルコードを解きパラスの身体を支えた多喜は、青白い頬を軽く叩いた。
「パラス!」
「まだ骸の海に呑まれるには早い、生きてくれ!」
駆けつけた敬輔は、医術の心得があるのだろう。手際よく応急処置を施し、命をその場に繋ぎ止める。気を失ったパラスを連れた猟兵達は、急ぎグリモアベースに帰還した。
大成功
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