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殲神封神大戦⑰~殺す気で来い、意地でも死なないから

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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●グリモアベースにて
「今回の敵は“混沌氏”だ」
 ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)はいつものように告げる。
「彼は正確にはオブリビオンではない。彼自身が言うには、“骸の海そのもの”――らしい。そんなものをどうやって斃すのか、と言われるとちょっと困るけれど、彼は左目を得た事で形を持ったらしい。今までと勝手は違う相手だが」
 形があれば斃せるはずだ。そうだろう。
 ヴィズは一同を見回して、転送先が天も地もない混沌の地である事を伝えると、グリモアの門を開いた。
 白磁の門の向こうにはただ滔々たる闇が広がっていて、猟兵たちは其の扉を潜って行った。
 其れを見送った、筈だった。



 闇。
 ……いつから目を閉じていたのだろう?
 ヴィズが目を開けると、目の前には猟兵が立っている。
 何故彼と、彼女と相対しているのだろう。ヴィズは首を傾げようとしたが、己の意思で身体が動かない事に気付いた。

 ――目覚めたか

 誰かの声がする。お前は……鴻鈞道人か。
 あたしが予知をして、猟兵たちを送り出したはずだが?

 ――お前を呼び寄せて中に宿らせて貰った。
 ――しかし此処は居心地が悪い。焔の中にいるかのようだ

 そりゃあそうだ。あたしは焔を使うもの。
 で? あたしを使って戦うのか?

 ――そうだ。
 ――私は混沌氏。即ち“骸の海”である
 ――お前達が踏みしめてきた、あらゆる過去である

 ふうん。
 其れを聞いて、あたしが悔いるかとでも思ったか?
 人は皆、過去を踏みしめて未来への道に変える生き物なのさ。

 ――……随分と強気なものだ
 ――既に一度死したる身ゆえか?
 ――ならば、私が好き勝手に使っても文句は言うまいな

 使えるものならやってみろ。
 あたしは生半可な覚悟で猟兵やってないんだよ。
 ……ああ、そうだ。唇を3秒だけ返してくれないか?
 別に詠唱とかしないからさ。

 ――……

 そうして自由になった唇。
 思い切り息を吸い込んで、ヴィズは叫んだ。

「良いか! 殺す気で来い!! じゃないとあたしがお前らを殺す!」


key
 グリモア猟兵がピンチ! keyです。

●目的
「“ヴィズ・フレアイデア”を斃せ」

●立地
 混沌の地、と呼ばれる場所です。
 仙界の最深部にある、なにものも定まらない場所。大地も空もなく、ただ暗闇だけが広がっています。
 猟兵が大地だと思ったところが大地で、空だと思った場所が空です。
 ので、やり方によってはアクロバットな戦い方が出来るでしょう。

●プレイング受付
 〆切・開始共にタグにてお知らせ致します。

●プレイングボーナス!
「グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する」
 鴻鈞道人は非常に強力な敵です。猟兵たちはヴィズに案内されて彼に相対したはずが、彼は瞬時にヴィズをグリモアベースから呼び寄せて、体内にもぐりこみ融合してしまいました。
 例えヴィズ自身と“心の繋がり”があったとしても、其れは無意味です。(説得は意味がありません)敵はヴィズの姿をした鴻鈞道人です。そして、余りに強い相手である為手加減をすることも出来ません。融合した鴻鈞道人が力尽きるまで、戦い続けるしかないのです。体内の鴻鈞道人が死ぬか、戦力を漸減させる事でしか彼を撤退させる術はありません。

●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
 迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

珠沙・乾闥
殺すのは医者の仕事にふくまれていませんが、まだ短い人生で二回死ぬのもごめんです。ヴィズさんごと熟睡させるつもりでやりますね。

初撃をしのぐために、「薬品調合」で精製した興奮剤を自分に注射。反射速度を上げて躱し、ダメージ覚悟で体の芯から攻撃をそらします。

カウンター気味に霊薬を放ってUCを発動。 与える悪夢の精度を上げるために即効の睡眠剤と麻酔を続けてうち、入眠します。外での地べた寝は朝飯前ですし、ここはくらくてどこでも寝転がれます。身体に傷があったとて、寝るのにいくらもかからないでしょう。
では、おやすみなさい。死にたくなるような良い悪夢を。




 珠沙・乾闥(異彩な死体は昏々と眠る・f29926)は、意識を完全に明け渡してしまった(乗っ取られてしまったのだろう)ヴィズの前に立つ。彼女の星を映す青い瞳は片方が白く濁り、まるで品定めをするように乾闥を見ていた。
「殺すのは医者の仕事にふくまれていませんが――まだ短い人生で二回死ぬのもごめんです。貴方はきっとぼくより長生きですけど、其の辺は同じでしょう。死にたくないから、こうやって生きながらえている」
「――」
 ばき。
 ばきばきばき。
 ヴィズの上半身がしなって、触手と翼が現れる。ばきばきと背中の骨を養分にしながら、真っ白い大きな翼が現れる様はいっそ荘厳でもある。
「大丈夫、ちょっと夢を見るだけですよ」
 翼が瞬時に硬質化して、羽根の群れが放たれる。其れ等は大地に突き立つ鋭さを持っている。乾闥は素早く己の服の袖をまくると、肘の辺り、静脈に興奮剤を注射する。乾闥の瞳孔が開いて、時間の流れが心なしか、遅くなったような気がした。
 羽根が降って来る。乾闥はまず、この雨の中を抜けなければならなかった。普段動かさない足を動かすのは億劫だし、羽根に切り裂かれて白衣は使い物にならない。頬を掠め、肩に刺さり、あちこちが痛いというより熱い。
 其れでも、ヴィズさん。雨の日に語り合って笑った貴方の顔を、心の中でモノクロに塗りたくないのです。
 羽根の弾雨を突っ切って、すれ違いざまに鴻鈞道人へと霊薬の入った試験管をぶちまける。そうして彼の――彼女の表情を見る前に、再び腕へと二本薬品を打った。
 睡眠剤と、麻酔。一秒でも早く眠ってしまえるようにという荒療治。
 たちまちに体中を苛んでいた痛みは消えて、ぱたり、と乾闥は大地に倒れ込む。
「……何? ッ、ぐ……あ……!?」
 突然寝入ってしまった乾闥を訝し気に見ていた鴻鈞道人だが、滲むように飛び込んできた悪夢に頭を抑える。羽根を振り乱し、髪を振り乱す。仙人とて、悪い夢からは逃れられぬ。形を得てしまったが故に、彼は悪夢を見る身体になったのだ。
 おやすみなさい。ぼくはゆっくり眠るので、貴方もゆっくり、悪夢と向き合って下さい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒瀬・ナナ
……わかった
殺す気でぶん殴るから、絶対に、死なないでね?

【覚悟】はできた
相手の先手はギリギリまで【誘き寄せ】て、
大地を蹴って空へ飛んで回避
空と思った場所が空ならば、何処までも飛べるかも?

無理なら【気合い】【オーラ防御】【激痛耐性】【呪詛耐性】【結界術】全部乗せで耐え切る
腕や脚の一、二本くれてやるわ
この命と、戦う意志さえ奪われなければ負けやしないもの


……ご先祖様、ご先祖様
あいつをぶん殴る為に、彼女と生きて帰る為に
お力、お借りします

先制攻撃をなんとか耐えたら、ご先祖様パワーで真っ向勝負!
【破魔】【浄化】の【祈り】と、【覇気】を乗せた【神罰】の一撃をお見舞いしちゃう!
ヴィズさんの中から、出て、逝け!




「……わかった」
 僅かな自由で、己を殺す気で来いと言い放ったグリモア猟兵。
 黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)は其の覚悟に応えるように頷いた。
「殺す気でぶん殴るから。絶対に、死なないでね」
「……小賢しい……良いのか? この娘、決して不死身ではないぞ」
「知ってるわ。だから“殺す気でぶん殴る”のよ」
 ヴィズの顔で笑う。おぞましい、と思う。
 この顔はきっと、彼女本来の笑顔ではないのだろう。ナナは上を見上げた。混沌としたうねりが渦巻く其処は、きっと空。ナナが空だと定義すれば、どこまでも空だ。

 ばき。

 ヴィズの左腕がうねった。其の白い膚を突き破り、黒曜の牙が映える。丁寧に青く塗られた爪が黒く染まって更に長く伸び、腕そのものが肥大化する。奇しくも“鬼”に似た異形へと腕を変化させた鴻鈞道人が、ナナへと飛び掛かる。
 硬質化した羽根の雨が降る。ナナは後ろへと飛んで其れをかわし、上へと跳んだ。何処までも飛べる、そう信じた。空だと思った場所が空ならば、何処までも、何処までも行けるはずだ。
「――ご先祖様」
 どうか、答えて下さい。ご先祖様。
 私達を相争わせて笑っているあいつをぶん殴る為に。
 青い色彩の彼女と生きて帰る為に。
 お力を――貸して下さいとは言いません。お借りします!

「ッしゃああ!」
 異形の腕が跳躍するナナへと迫る。痛みや傷なんてものはとっくの昔に覚悟している。片腕を大きく切り裂かれながら、ナナの体もまた変容していく。
 黒曜石の角が黒髪を分けて生え伸びる。手足が伸びて、身長が伸びる。其れは原初、“鬼”と呼ばれた者。恐ろしい膂力と、鎧のような皮膚を備えた美しき鬼。
「わたし、貴方とはグリモアベースで出会うだけで、お話した事はなかったわね」
 振り翳す。ありったけを拳に込める。傷付いた方の腕はだらりと垂れさがっていたが、そんなものはどうでもいい。
 魔よ出て行け。彼女を蝕むものよ、出て行け。
 ――神罰の如き拳が奔る。
「ヴィズさんの中から、出て、逝け!!」
 彼女が生きて帰ったら、ちゃんと黒瀬ナナとしてお話するために。
 全力で彼女の臓腑へと、拳を叩き込む。細かな骨が折れる音がして、不似合いな腕を持った小柄な体が吹っ飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルドラ・ヴォルテクス
アドリブ&連携OK

【ルドラ・ゴースト】
骸の海、死の気配が俺をここに呼び寄せたな。

ヴィズか……先の戦では世話になったな。

血の業、限界突破でやり過ごす他ないな、ヴィマナとエクリプスの防壁、タービュランスの暴風で防ぎ切る。

【反撃】
UC無終の円環、今を繋ぎ止める楔、お前の業は使わせない。

どうも妖怪というのはやりづらいが、人間と大差あるまい、エレクトロキュート、最大衝撃。
(限界突破で気絶攻撃の威力を引き出す)

依代の動きを封じれば、手繰る手だけではどうしようもないだろう。人形師、悪辣なグランギニョルは終わりの時だ。潔くお前の悪性を曝け出せ、そこがお前の貫くべき孔だ。




 ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)は、亡霊である。
 かつてアポカリプスヘルの脅威を退けて、そうして、ルドラという個体は稼働を終了した筈だった。
 けれど其れでも時折、悪戯に彼はこうして現れる事がある。戦の気配が呼んだのか。其れとも鴻鈞道人が骸の海ゆえに、過去の人となったルドラもまた現れる事が出来たのか。
 理由は誰にも判らないが、ただ一つ、ルドラが其処に立っているという事実だけがあった。
「……ヴィズ」
「かっ、……は……」
 片腕は異形と化して、膚を突き破った黒曜石が血に濡れている。鼻と口からぼだぼだと血が落ちて、まるで操り人形のように時折くず折れながらも立ち上がる様は、グリモアベースで猟兵たちを鼓舞する彼女とは大きく違っていた。
 痛々しい、とも思う。けれどもきっと、これが“彼女の望んだ攻勢”だ。鴻鈞道人を殺す事は叶わずとも、退かせることは出来る。
「……相争え、……相、争え」
 其れを見て何を望むのか。片目を白く濁らせたグリモア猟兵は白く大きな翼を広げると、羽根を硬質化させてルドラへと殺到させる。
 ルドラは刃を抜く。エクリプス――右手の刃で防壁を張れば其処に幾つもの羽根が突き刺さる。更にもう片手の刃――タービュランスを一振りすれば、暴風が吹き荒れて羽根を巻き上げる。混沌を打ち払うかのような暴風の中、獣のようにグリモア猟兵は飛び込んできた。
「どうも妖怪というのはやりづらいな――だが」
 人間と大差あるまい。
 ルドラは呟くと防壁を貼っていたエクリプスを素早く腰のホルダーに仕舞い、別の剣を抜きだす。エレクトロキュート。ばぢり、と帯電完了しているのを確認して、出力を最大にして衝撃を放った。
「――! っ、か……!」
 異形の腕を振り下ろそうとしたグリモア猟兵の身体が、びくん、と跳ねる。自ら跳び下がったのか吹き飛ばされたのか、後方へと跳んだ彼女はがくがくと下手くそな操り人形のように震えながら着地した。
「……仕込んだな?」
 ヴィズは笑う。其のひきつった顔は、彼女のものではない。
 彼女の意識は既に深層へ沈んでいる事に、其処でルドラは気付いたが――ああ、と頷いてみせた。
「お前はもうユーベルコードを使えない。手繰る手だけで依り代を扱うのは骨だろう。――悪辣なグランギニョルは終わりの時だ」
「まだだ。まだ終わらぬ。例えこの女が骸の海へ沈もうとも、終わらぬ」
「なら俺達が終わらせる。つくづく悪性に塗れた奴だ、其の体でどうやって戦う?」
 鴻鈞道人は、笑うばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
奴の目的を考えれば、仮に今ここで倒さなくとも結果は変わるまい
なら、言われた通りに全力で戦い、未来を掴み取る方に賭けるさ

神刀の封印を解除。神気を纏って身体能力を強化
彼女は魔術師だったか……尤も、今は身体能力も相当強化されていると見て差し支えないか
まずは中距離にて、斬撃波で魔術を迎撃しつつ、防御と回避優先で立ち回り

動きについていく為、見切りの精度を高めた所で、奥義【無極】――この戦いを通して見極めた直感と直観を用いて、最適な剣術を
手加減はしないが、過剰な攻撃をする必要もない
浄化と破魔の力を込めた剣戟。物理的な威力を完全に消す事は出来ないが、ある程度抑え込みつつ、鴻鈞道人に効果的な攻撃を叩き込もう




 ぽた、ぽた、ぽた。
 混沌に血が滴る音が響く。
 其れでもヴィズの肉体は自由になっていない。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は彼女の瞳の片方が白く濁っている事で、其れを理解した。
 真白い焔が彼女の周囲で燃え盛る。其れ等は幾つかの球を生成し、熱線を吐き出す。
 神刀の封印を解除し、神気で己の身体能力を強化しながら鏡介は一つ一つの死線を越えていく。
「あらそえ」
 女の声で、鴻鈞道人が言う。
 焔が波となって、彼女の周囲に放たれる。高波となって襲い掛かる真っ白な焔、その一端を神刀の一振りで放った斬撃波で切り分けると、素早く鏡介は其処に滑り込む。
 ――焔を操るのか。
 防御と回避を繰り返しながら、鏡介は相手を観察する。恐らくヴィズの意識は叫んだ後深層へ押し込められている。白い翼と異形の腕は鴻鈞道人によるものだろう。こちらが刀を持っているから、素手での攻撃はしてこないと思いたいが――
 鏡介は構えた。ヴィズを真っ直ぐ前に捉える。手加減はしない。出来る相手ではない。しかし、過剰な攻撃をする理由にはならないだろう。殺してしまうのは、寝覚めが悪いから。
 再び焔の高波が起こる。鏡介に覆いかぶさるような其れが迫っても、鏡介は動かなかった。熱い。しかし其の感覚はまるで、膚に薄皮一枚載せたような“他人事”。
 鏡介が剣を構えてから、一瞬の事だった。切っ先で割り開いた焔の波を抜け、一気に鴻鈞道人へと肉薄する。
 刺突の一撃。すれ違いざまにヴィズの中心を捉えて、確実に貫く。
「……な」
 其れは心臓の位置だ。鴻鈞道人は驚きに目を見開き、そして、苦悶の叫び声を上げる。傷から流れ込んできた破魔と浄化の力が己を焼いている!
 何故心臓を貫ける?
 同じ猟兵ではないのか?
「……殺す気で来い、と言ったからには……彼女もこうなる事は予想していただろう」
 何も対策を練ってない者が、そんな事は言えない。
 だから俺は、彼女の策と自分の剣を信じただけだよ。
 “既に鼓動を止めている”心臓を確実に貫いてみせた鏡介は、穏やかにそう言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
形があれば斃すことができる
確かに、その通りだと思う
…青色をした魔女のキミ
姿を見かけたことがあるのみだけど
お相手を願おうか

暗闇でも目を開いていれば
見えるものはある
生まれる光や炎の気配には
気を付け対処を怠らず

開く頁は、尾を喰み続ける物語
呼び出すのは情念の黒蛇で
問い掛けよりかは独り言、
自問自答に近いものではあっても
其の答えを識りたいもので
だから満足を得るまで紡ぎ続けよう

過去とは記録であって
綴り遺した紙片も燃やせば潰える
思い出されない記憶も何れは消えて
それでも覚えていたい死があったから
今も此処に在り続けるだろうか

悪しきものが潰えるまで
どちらかが倒れるまで
殺し合いを続けようじゃないか




「形があれば斃すことができる」
 其の通りだと思うよ。
 コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)は半ば異形となり果てて尚動く彼女を見据えて言った。形があれば、殺せる。神も悪魔も骸の海でさえも。
 姿を見かけた事があるのみだけど、どうかお相手を。
 暗闇の中、ヴィズの白い炎が揺らめいた。
 ヴィズ由来の力を使うという事は、鴻鈞道人が干渉するユーベルコードの類は――隠し玉か、使えないかのどちらかだ。焔が生まれ、遊ぶように跳ねる。其れ等は魚の形を取って徐々に群れ、不規則に泳いでコッペリウスへと迫る。横に飛んで避ければ、ぐるりと迂回して魚が追って来る。横へ、前へ、後ろへ。時には空を大地と定義して跳びながら、コッペリウスは戯れるように魚をかわしていく。
「う……! ……!!」
 何かを振り払うようにヴィズは無事な片手を振る。其れは恐らく、鴻鈞道人のユーベルコードを封じている何かだろう。けれども其れは無理な話で。コッペリウスは追撃すべく、物語の一片を開いた。
 しゅるり、と情念の黒が蛇の形を取る。素早くヴィズへと近寄ったかと思えば、其の身体をぎりりと締め上げ、首筋に噛み付いた。
「……!」
 焔の魚が次々と弾けて、火の粉になってコッペリウスへと降り注ぐ。熱いけれど、耐えられないものではない。其れよりもコッペリウスは、ユーベルコードの維持を優先した。彼女の白い膚――というより、水死体の浮腫んだ白さをもつ異形の腕が蛇を傷付けるけれど、情念は痛みを感じない。
「ねえ、過去とは記録であって、綴り遺した紙片ですらも燃やせば潰えてしまうけれど」
 其れは、神の独り言。
 問いかけに答えがあってはならない。答えを得てしまえば、情念の獣は其の牙を仕舞ってしまう。だからこれは、独り言。
「思い出されない記憶もいずれは消えて――其れでも覚えていたい死があったから」
 今も此処に在り続けるだろうか。
「何を、訳の判らない事を……! 死は死だ、記憶も記録も、全て骸の海に消える――」
 ああ、とコッペリウスは安堵の息を零す。
 其の調子なら、情念の蛇は君から離れる事はないだろう。
 記憶が消えてしまうという其の意味を。
 記録の脆さ、其の恐ろしさを忘れて現出した君には、きっとこの問いには応えられない。

 ねえ、魔女の君よ。
 殺し合いは好きかな?
 君は深層で痛みを感じながら、笑っているのだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
殺す気で来い?ハハッ、お断りだ。
もう何度も依頼を請けてる。俺の事は知ってるだろ?俺は――『俺らしく自由にある為』に戦う。気に食わないヤツをぶちのめし、気に入った誰かを救う、そんな夢物語が。――俺は好きなのさ。(此処だけの話にしといてくれよ?なんてウインク)

ヴィズちゃんの超強化された炎に魔剣の炎で対抗。彼女の【焼却】に俺も【焼却】をぶつける。手加減?んな余裕はない。が、極力、彼女に傷は付けない。悪いか?俺がそうしたいんだ。
爪を【見切り】で見極め、剣を盾に。
…流石は偉大な魔女様だぜ。未来予知も出来るのか?まるでこうなる事を見越していたみたいだ。
鴻鈞道人は何のことか分からないだろう。裾に隠れた隠し武器のクーゼを躱し、遥かに近い間合いで剣を捨てる。彼女の腕を掴んで。指を鳴らしてUC。狙いはコレさ。
ある友人の魔女から聞いたんだ。本物の魔女というのは炎から身を護る術を持ち合わせているものらしい。
ガワだけ着込んで中に潜むアンタはどうなるんだろうな?見物だと思わないか?(魔女の業火の中で腕を離さず笑う)




「お断りだ」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は一刀両断、言い放った。
「ヴィズちゃん。もう何度もアンタの依頼を請けてるし、酒だって飲み交わした。だから俺の事はよく判ってるだろ? 俺はな。“俺らしく自由にある為に”戦う。気に食わないヤツをぶちのめし、気に入った誰かを救う。そんな夢物語が、――俺は好きなのさ」
 此処だけの話にしといてくれよ、とウインクをする。
 深層で痛みを引き受ける魔女が聞けば、きっと憤慨するのだろうなと思いながら。
「何を、訳の分からぬ事を――」
 焔が舞い上がる。白い翼から舞い落ちた羽が焔となって天へ昇り、再び大地に落ちて火柱となる。次々と立ち上りカイムに迫る火柱を、黒銀の焔が焼いた。カイムの持つ魔剣が火を纏っている。あの日、秘密だと魔女に見せた黒銀の焔だった。
 出来る事なら、女の体に傷はつけたくなかった。けれど手加減が出来る相手ではない。焔の中、獣のように飛び掛かって来る相手なら尚更。
 ユーベルコードを縛る枷を打ち砕き、異形ではない片腕に白い刃を生やしながら。白い大きな翼、其の間から長く触手の塊を生やしながら。ヴィズ・フレアイデアだった怪物が襲い掛かって来る。振り下ろされた刃を剣で受ける。膂力に耐え切れずに、生えた刃がヴィズの腕を引き千切るように動く。みぢぢ、と肉がへし切られる音がした。
「――流石は偉大な魔女様だぜ」
 痛いだろうな。
 そんな労わりの言葉より先にカイムの唇から零れたのは、称賛の言葉だった。
「未来予知も出来るのか? まるでこうなる事を見越していたみたいだ」

 ――あはは、あはははは!

 其れは、深層で眠る彼女の代弁だったのかもしれない。
 陽炎が混沌の中で走り回っている。踊り、座り、くるくる回る。まるでダンスを踊るみたいな間合いで、カイムは魔剣を放った。そうしてヴィズの腕を掴む。生えた刃が指先を傷付けるが、そんな事はどうだって良かった。
「ある友人の魔女から聞いたんだ。本物の魔女というのは焔から身を護る術を持ち合わせているものらしい」
 陽炎がふう、と掌を吹く。白い火球がヴィズへと放たれる。どん、どん。当たるたびに女の身体が打ち震え、ドレスが炎に包まれる。白い炎はカイムのコートへも燃え移るが――彼は笑ってみせた。魔眼を持つという彼女を恐れずに覗き込み、蒼い方の眸に笑ってみせたのだ。
「ガワだけ着込んで中に潜むアンタは、どうなるんだろうな?」
「あ、ああ、ああああああ……!! 熱い!! 熱い!! ああああ!!」
 其の炎は決して、浄化の炎ではなかった。
 魔女の扱う炎が清らかであるはずはないのだ。
 だが、だからといって、――特定の誰かを赦す炎でもない。白い炎は誰をも赦さず燃やし、最初に音を上げたのが鴻鈞道人であった、其れだけの話。
 熱い。
 カイムは其れでも笑っていた。
 だって、彼は――やりたいようにやってみせたから。だから、あとは、得るだけなのだ。そう信じて疑わないのだ。必ずヴィズという女は帰って来ると。
「熱い! 熱い! 熱い!」
 鴻鈞道人がヴィズの声帯を借りて叫ぶ。異形の腕を振り回しても、火は消えない。
 熱いと喚く声は暫く響き渡り、やがて小さくなり、そして――黙り込み、ヴィズの身体がカイムに倒れ込む。
「っと。……ヴィズちゃん?」
 カイムは確認するように呼ぶ。
 あるはずのない部位をだらりと垂れ下げた青い女は、……暫くして、返答した。
「……ああ」
「よし、生きてるな」
「……ああ。生きてるよ。とても、とても痛かったけれど」
 片腕はぶくぶくと白く肥大して、黒曜の爪が生え散らかして。
 背中には白い翼に、うねる気力もなくしてしまった触手の塊。
 其れ等を生やしてなお、だけど、と魔女は笑うのだ。

「でも、……久し振りの痛い思いは、楽しかったよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月28日


挿絵イラスト