殲神封神大戦⑰〜滅世、粲粲と淡々と
「お疲れ様! みんな、来てくれてありがとう。殲神封神大戦に渾沌氏『鴻鈞道人』が出現したわ。早速討伐しにいきましょ」
狐裘・爛(榾火・f33271)がブリーフィングルームで説明を始める。仙界の最深部にある、いまだ形定まらぬ「渾沌の地」に現れた渾沌氏『鴻鈞道人』の打倒。『殲神封神大戦』の戦争を勝利に終わるためには必要不可欠な要素である。
倒した強敵であるオブリビオン、まだ戦場に健在のオブリビオンの姿を模り、猟兵たちの前に立ちはだかる渾沌氏『鴻鈞道人』の驚異的な能力「再孵化」は、猟兵にとっての最大級の障害となる。
仙界の奥の奥、訪れるたびに形の変わる「渾沌の地」に待ち受ける『鴻鈞道人』が狙う今回のターゲットが、実はこのグリモア猟兵である。
戦場に呼び出されたグリモア猟兵は、自らをこの強大な敵と一体化させ、猟兵たちに襲いかかることだろう。融合した鴻鈞道人が力尽きるまで戦闘を続け、互いに消耗を強いる。その戦略がこの戦争の誰にどのような意味を持つかは、未だわからない。
また、この依頼に参加したその時点で鴻鈞道人を完全に滅ぼす方法は無い。単純な戦闘で殺す事は可能であるのが唯一の救いだ。戦場に現れグリモア猟兵を乗っ取り、ある意味で勝利を確信した彼奴へ一矢報いることができるのは、参戦した猟兵の特権である。
『渾沌の諸相』――例えばそれは空を支配する白き天使の翼であり、敵に絡み付いたら二度と離さない白きおぞましき触手であり、あらゆるものを突き崩す白き無貌の牛頭であり、白き殺戮する刃である。
これらをグリモア猟兵の部位を代償に召喚し、戦う術式が基本の戦闘方法となる。
それらは彼女に多大な負荷を強いるが、その負荷に応じて能力が強化されるおまけ付きだ。さらに、その能力が強力すぎるために手加減することもできず、また、何かしらの心のつながりが彼女とあったとしても、それは有利に働くことはない。
グリモア猟兵を模造した別人、と言ってしまった方がまだ救いのある、そんな惨状が戦場では繰り広げられるだろう。
「……何があってもみんなで帰ってくる。それが一番綺麗な結末だものね。頑張って!」
鴻鈞道人の膨大な力を削ぎ落とすため、決死の覚悟を決める猟兵たち。わずかな光明に手を差し伸べるべく、混沌の蠢く戦場へ旅立つのだった。
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回は戦争、佳境の状況で【骸の海】を自称するものと一本勝負です。再孵化、美味な皮蛋をどことなく彷彿とさせますね。
※このシナリオは、『戦争シナリオ』です。
1フラグメントで完結し、『殲神封神大戦』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
続いて、戦闘について補足をば。
プレイングボーナスは『グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する』です。現時点で鴻鈞道人を完全に滅ぼす方法はございません。取り憑いた渾沌氏『鴻鈞道人』を引き剥がすのではなく、戦闘不能に追い込んでいくようなプレイングが望ましいです。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
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POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
イラスト:樫か
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
(――私は常より名乗っており、隠しても居ない)
それは鴻鈞道人が述べていた文言だ。「渾沌の地」に放り出された猟兵たちは、目撃した。鴻鈞道人がグリモア猟兵の肉体に潜り込んでいく決定的な瞬間を。
「――私は渾沌氏……すなわち【骸の海】である」
左目が白く輝き、同時に全身を瘴気で活性化させる。一猟兵が持ち得る戦闘能力では、ない。
「……」
豪! と、予備動作なく手のひらが燃え始めた。異形の白き触手が炎の中から生まれ出で、それが最初から腕器官であったかのように形を作り始める。まるで呼吸するように攻撃を繰り出し、瞬きの間に命を掠め取るだろう。
ゆえに宣言する。これからのひととき、目を閉じることはしない。
「刮目しよう。この目に、炎の破滅(カタストロフ)を見せてくれ」
リーヴァルディ・カーライル
…グリモア猟兵に憑依するとは、大仰な存在の割に小物くさい手を使う
…退路が絶たれた以上、此方も加減は無い。全身全霊を以て挑ませてもらう
第六感が捉えた敵の殺気や気合いから敵UCの先制攻撃を暗視して見切り、
「血の翼」による空中機動と「写し身の呪詛」の残像を囮に攻撃を受け流しUCを発動
…そう。眼を閉じないのね。ならば、こうするだけよ
…刃に宿れ、冥界の理。我に背く諸霊の悉くを斬滅せしめん
魔刃に霊属性攻撃の魔力を溜め武器改造を施して非実体化を行い、
怪力任せに「光の精霊結晶」を投擲し強烈な閃光で視力を失わせて敵の体勢を崩し、
全ての魔刃を乱れ撃ち肉体を傷付けずに敵の魂のみを切断する霊属性攻撃を行う
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は相対するオブリビオン「ならざる」ものを見遣る。わずかな時間で観察する。
今でこそグリモア猟兵の骨格を維持しているものの、時が経てば変異し、より戦闘向きのフォルムに変じていくことだろう。……融合、と一口でそう言っても、人格や記憶の全てを丸ごと奪い取ったわけではない。仮にもしそうなら、グリモアそのものの重要性に何かしらの言及があっていいはずだ。言うなれば戦闘力のあるスケープゴートにされたか。
ちらりと後ろを見遣る。意味のない行動ではあったが、退路がない、ということを実感するには十分だった。
重くため息をつく。
「……」
オブリビオンでないもの、それすなわちオブリビオンを超越した存在、というわけでもあるまい。ダンピールたる彼女が出張ってまで存在を確認しに来た、異質。
渾沌氏『鴻鈞道人』。
リーヴァルディをして幻滅、という他なかった。
グリモア猟兵という存在に取り憑く手法もそう。あるいはこちらが認識しているオブリビオンのみを「再孵化」させることもそう。どこか古典的だ。見覚えがある。決して真新しい手法ではない。全身全霊で挑めば、手も足もでない相手でないと直感した。
その直感のまま、身を躍らせる。
――ぞぞぞぞぞ……!! ぞるんっ!
「……過去が、今を疾る写し身を――」
捉えられるとは、限らない。
下、そして左右から音もなく迫っていた白濁の触手を、リーヴァルディは「限定解放・血の翼」により回避してみせる。時間にしてわずか十数秒の自在空中歩行。血色の魔力の軌跡が追い縋る白をひんっと払い除けて、逆撃の機会を生み出す。好機! 渾沌氏『鴻鈞道人』の、無防備な肉体を刻むは……今!
「捉えられるの……?」
――ひゅッ!!
「過去を刻むもの」を振り翳す。脳天から両断。切っ先がぐんぐん眼前へと近づき、掠め、そして――!
「…そう」
「奈何せん。私はこの身を隠しても居ない」
「眼を閉じないのね」
――ぴたり。
脳天間近で止まった。
彼女の左目だけがぐりぐりと不規則に動く。
はらり、はらりとグリモア猟兵の金髪が地へ舞い落ちる。どうやら必殺の攻撃を放ち躱されておきながら、自分が斬られることをほとんど厭わないあたり、正真正銘生命は「融合」を果たしているらしい。前言撤回だ。取るに足らない、失望の対象かと思いきや、そのレベルでの完全な融合を果たしているとなれば話は別。鴻鈞道人が数多戦場に散らばる渾沌の諸相による「手段」を持つのに対し、憑依されているグリモア猟兵「狐裘・爛」は身一つの存在である。
当然血を流せば生命力を失っていくし、頭を刎ね飛ばされれば命を喪う。そして、戦闘で負ったダメージは流れる血に嗤う渾沌の諸相の力の源となる。
カードゲームに例えるなら、自分だけ手札が減らない状態で遊戯に興じているようなものではないか。無論、回避する必要がないからこそ、眼の先にまで物理武器が迫っても何を感じることもない。今まで多くのオブリビオンを葬ってきたこのグリムリーパーをして、「脅威たり得ない」の判断は業腹だが。
「…ならば、やりようはあるわ」
グリムリーパーを両手から放した。
一瞬の判断が命取り。特に行為存在を相手にしての静止は自殺行為。そんな培ってきた戦闘経験を裏打ちするように、ぞろぉりと生え揃った牙付きの顎門が、一度は逃したリーヴァルディの四肢を断絶せんと勢いづく。それでも肉薄した顎が皮膚を裂くよりなお、詠唱は早い。力を、与えよ、と!
口ずさむ、それは自然と溢れた言霊であり、言葉の刃であった。
「…刃に宿れ、冥界の理。我に背く諸霊の悉くを斬滅せしめん」
同時に、手から消失させた「過去を刻むもの」の代わりに、握り込んだ「精霊結晶」を叩きつける。
「…これは吸血鬼狩りの業」
ゆえに――名を「カーライル」という。
光属性を炸裂させ、視界を灼き尽くす。
こちらは技ではない。くらりと歪み崩れた体勢を、例えば心臓を杭で一突きにするように、あるいは銀の弾丸を寸分違わず眉間に撃ち込むように、トドメを刺すための業。
――ズバッ!!
「ぐ……」
「…私の前に立つなら、何であろうと刻むだけ」
手放した魔力結晶刃が空中で崩れ落ちる。それを斬撃のモーションと共に持ち替えて、二度、三度、四度、切れ目のない連撃を加えながら、斬り刻んでいく。さながら舞踊。両手に次々と刃を持ち替えながら、あるいは両刃を反転・交錯させて鮮烈な攻撃を繰り出す。
呼吸を止めたら死ぬ、だが無呼吸で反撃の許さない魔刃の型を命中させなければ活路はない。
この剣技は流血を促さない。だからこそ見せたのだ。憑依する敵と戦ったのは初めてじゃない。ただの斬撃には滅法強い相手だってこの世界には少なくない。時には自分自身相手にだって果敢に挑み勝利してきた。だから猟兵と戦闘する手強さは知っているつもりだ。
――ズバァ! ザシュッ……ズバンッ!!
「お……おお」
「…いいの? それは小物のすることよ」
だから対処できる。姑息で矮小な吸血鬼は、両手で数えるほど見てきたし、その全てを蹴散らしてきた。その延長線上にある限り、己の技は通用する。どれほどの地平にまで茫洋と広がる大仰な【骸の海】であろうとも、リーヴァルディの闘いに変わりはない。
勝利を掴むその瞬間まで、絶え間ない斬撃を繰り返しながら、少女の戦いは只管に続くのだった。
成功
🔵🔵🔴
ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫
シホの言う通りだわ
敵がどんな真似をしようと
皆が居れば何とかなるのよ!
敵の攻撃を【第六感】【野生の勘】で躱す
躱せない攻撃はアイテム【憑装盾】で受けて防ぐ
UC【百友夜行】で妖怪の行列を召喚
正体不明の妖怪「うわん」を沢山召喚して
「うわん!」という沢山の奇声で敵を驚かせ
爛さんの体を傷つけず精神のみを攻撃するわ
私の【浄化】の力を妖怪達にあげるのよ
♪うわんうわん どこにいる
うわんうわん 声がする
声はすれども姿は見えず
ほんにお前はうるさすぎ♪
今よ燦さん、テフラさん!バシッとやっちゃって!
当然の事よ焔さん
私の友達は、爛さんは絶対に助けるんだから!
爛さんもツイて無いわね
元気になるまでしっかり休むのよ?
シホ・エーデルワイス
《狐御縁》
…爛を生贄にし敵を倒す…
事前に説明を受け
『聖痕』の宿命を背負う身故
爛が憑代になる必要性は理解できるし
私も彼女だったら同じ事をする
そして…
依頼≪“Memento mori”なぞ知ったことかよ≫の惨状が脳裏を過る
私の宿命には誰かが犯すべき罪を引受け…最期を迎える事も含まれます…
けど
燦!自信を持って!
戦いは力が全てではありません
私達はどんな苦境でも助けてきたでしょ?
更に今は皆もいるから力を合わせれば大丈夫
それに爛は燦の願いが通じて転生できたのでしょ?
敵の望みよりも爛への想いが強い事を証明して
攻撃は第六感と聞き耳による読心術で見切り残像回避
皆で隙を見せない様『狐札』で幻惑属性攻撃の閃光煙幕を放ち
体を傷つけず目潰しで援護射撃
ルルはまた賑やかな友達を得ましたね
渾沌氏は焔の唄に共感できないなら回復する事も無いでしょう
流石テフラさん
形状変化の専門家は伊達ではありませんね
石化したら【終癒】で渾沌氏を暗視し浄化
爛を返して!
帰還後
皆を【復世】で治療
爛は『聖印』に触れさせ心を癒す
ええ
焔の唄も助かります
四王天・燦
《狐御縁》
爛の口で喋るな
導師の存在自体が不快極まりない!
大理石の剣で見切って武器受けて剣を交える
三倍相手なら防戦一方やむなし
あまり負傷させられたくない…爛の心が傷つくからね
フェイント交えて、ちまっと掠らせりゃあ導師の出血を石化で止める
それから自傷してアタシの方が出血過多になるよ
焔よ、一瞬の隙が欲しい
四王稲荷符を貼りつけ浄化と破魔で導師を祓うぜ
一撃で祓えずとも爛の生命力に勝ってもらう打てる手を打つんだ
内心、策が高位の導師に通用せず爛を取り戻せない可能性が怖い
誰か背中を押してくれ…
シホにはいつも感謝してるぜ
ルルの作ってくれる機を逃さず爛を抱きしめる
逃がさない
テフラに『固定』を頼むぜ
爛にこれ以上、傷つけさせんな!
大理石の剣を真威解放し大理石化の呪詛の花吹雪を浴びせるぜ
石化で決着つかなきゃ、浄化符で漬物にして爛を取り戻すさ
根競べだ
限界突破と愛のオーラ防御で攻撃に耐えるぜ
封じられてもアタシの想いは、愛は消えない
刮目せよ!
治療は爛優先で頼む
笑って安心させる
心配かけた罰としてバレンタインは強制労働な
テフラ・カルデラ
《狐御縁》
爛さん…絶対助けますからね…!
まず先制攻撃は【野生の勘】で即座に回避していきます!
可能であれば攻撃範囲の薄い所に退避するのもいいかもしれませんね…
相手は傷を負って血を流すほど強化していきます
…であれば!石化してしまえば大元の問題は解決できるはず!
他の方も色々と血を流さないように対策してくれてますし、要である燦さんががんばってくれてます…!
燦さんが爛さんを抱き着いて拘束するところから
わたしは【メデューサの矢】で足元を『固定』します
そして燦さんの石化の支援に【石化の杖】で同じ大理石化の強化支援をしますっ!
あとは決着が付くのを祈るだけ…焔さんもルルさんもシホさんも…みんな信じていますから!
四王天・焔
《狐御縁》
■心情
爛は焔の大事な義妹だよ、その爛の命の危機なら
助けない訳には行かないよね。
■行動
敵の先制攻撃対策を
まずは【第六感】で敵の動きを察知しつつ、
【見切り】で攻撃を避けたり、防御する事に専念するね。
防御する場合、【盾受け】や【受け流し】で直撃を受けない様に注意。
その後、『四王神楽唄』を歌い、相手の肉体を癒しつつ出血を止め
渾沌氏の怒りや憎しみを鎮めて行動阻害を試みながら
フローレで相手の身体を傷つけず【精神攻撃】するよ。
燦姉、焔が相手の隙を作るから任せたよ!
燦姉に焔ソングを聴かせてあげるからね。
うん、シホ姉一緒に爛を癒そうね。
ルルさんにテフラさんも、一緒に来てくれてありがとうね!
――何故、戦わないのですか?
――あれは、「彼女」の姿をしたUDCです。
「分かっています。これは……」
血色の罪は、拭えない。嗚呼、そうだ。自分の発言だった。そして、自分に向けての発言だった。そう、これは『聖痕』の宿命。汚れ役。魂さえも汚穢に染められてしまいそうな、この白い混沌を目の当たりにするとどうしても、己の真紅が気になってしまう。耳鳴りがする。
シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は渾沌の地の畔で立ち尽くしていた。
「これは――幻であって、幻ではない。言うなれば渾沌の諸相が見せる、一種の錯覚(きょうき)のようなもの、でしょうか……?」
今なお、眼前で死闘は続いている。
声をかけなければ。
何か、そう。
――重いわよね……でもこればっかりは譲れないわ。
言葉が、出ない。
何が無駄なのか。何が必要なのか。まとまらない。一方で、凝り固まっている。開き直ろうとすればドロドロとした感情が喉が詰まる。なんでもいい、なんだっていい。否、適切なことを言わなければ逆効果だ。どうにか叫ぼうとすればひび割れて鮮血が迸る。もしも許されるのなら、あるいは、もし許されないのなら、そんな言霊が混沌的(カオス)に接続され、優しきシホの思考と判断力を黒洞洞たる無明に覆う。
……目を閉じることのない瞳は乾き、歩みの止められない足はいずれ潰れるのみだ。
――ずんッ……!
「うっがッ……!?」
鈍い打擲音。ハッと顔を上げたシホの目には、四王天・燦(月夜の翼・f04448)が渾沌の諸相から繰り出された衝撃をモロに喰らい、宙へ吹き飛ばされる姿を見てとった。
腹に深々とめり込む触手。貫通するショックにミシミシと悲鳴を上げる肉体。
それが致命の一撃であることは誰が見ても明らかだった。しかし暴威はますます吹き荒れる。
――ぎゃるるッ……ズガッ!!!
「ああっ!?」
悲鳴が上がった。
次いで、爛の口腔からにょきりッと生え出た、木の幹のような白巨腕が触手のように瞬時に伸び、射掛ける機会を窺っていたテフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)の足を掴んだのだ。そのまま彼を地面に叩きつけると、地面に歪なクレーターが出来上がった。
「……ふ」
「いた……っ?! これは、なんですか?! か、体が……」
打ち付けた後頭部を起点に、叩きつけられて痛みに折れたテフラの体がみるみるうちに「石化」していく。驚いた、訳の分からないままの表情が印象的だ。自身のユーベルコードが暴走したわけでもなければ、渾沌氏『鴻鈞道人』の技でもない。これは「四王稲荷符」……爛の持ち歩いていたアイテムである。
いかに野生の勘が働こうとも、予期するだけでは全ての攻撃は避けられない。言うなれば音速の飛翔体が来る! とわかっているだけのことだ。それでも隠し腕に狙われたのは、攻撃の薄いところにいたテフラの不運が招いた結果だった。もちろん武器で受けられるような威力でもない。その報いは決して少なくないダメージで払うことになる。
地面に頭から縫い付けられたかのような、無様な石化を施されたテフラ。そして、戦場で両手足と尻を地につける屈辱に甘んじる燦。
その様子に無感情に喋りかける。
「――偶々持っていた故くれてやった、が、威力としては下の下である。私の後悔も、お前たちの油断も、全ては過去である。即ち、お前たちが踏みしめてきた、遍く全てである」
「爛の口で喋るな」
「ら、爛さん…絶対助けますからね…!」
首を傾げる。あくまで相対するのは、渾沌の諸相の腕を爛の口腔から肉体の内に収納する「鴻鈞道人」。
あえて言おう。「爛だったもの」は左目だけが見開かれ、顎は外れ、腹部は餓鬼のように膨れている。右腕が触手に覆われ白い炎を彷彿とさせる揺めきを見せる。
「燦……!」
「うん。焔たちの想いは一つだよ」
「ひどい怪我! 回復をお願いするのよ!」
四王天・焔(妖の薔薇・f04438)、ルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)が駆け寄る。座ったまま燦はそれを制止すると、自力でよろよろ立ち上がった。「大丈夫。むしろ手間が省けたくらいだ」と、つぶやくそのセリフが強がりだと自明なほどにボロボロの姿である。元より自傷覚悟で突っ込んだこの死闘、多少の痛みで引き下がる柔な根性はしていない。
「札には札を、体は傷つけさせない」
「スイッチするよ。焔の希望の歌、最後まで聴いてね」
「渾沌氏は焔の唄に共感できないなら回復する事も無いでしょう」
「うん、シホ姉」
波打つ渾沌の地を蹴って、シホと焔が食い止めるように立ちはだかる。
先ほどから聞こえる耳障りな神楽唄。陣形を変えつつも、墓守は防戦に専念して詠唱を続けている。残り四人が交代しながら、肉体を傷つけない手段で牽制を繰り返している。
雑念が広がるように視界を閃光煙幕が覆う。札には札を、目を閉じぬと言った妄言が仇となった。
――ぱ……パッ!!
「ぬ……ふん」
「たああっ!」
目潰しにより眩んだ視界を引き裂く、ドラゴンランス【フローレ】の槍撃。裂帛の気合いと共に繰り出された連続攻撃が寸分違わず渾沌氏を捉えると、怒涛の勢いで攻め立てる。
ザクザクザクッと体に穴が空いたような衝撃。確実に蓄積したダメージは肉体にフィードバックされることがなく、鴻鈞道人をして苛立ちを募らせる。
「まだまだいくよ!」
「然し、私を封ずるなど無意味である。その選択は――」
――ガシッ、ガギィン!!
咄嗟に『青蓮』で盾受けするものの、もろともなぎ飛ばされた。追撃に空中に浮かんだ無防備な肉体の、焔の頭を掴んで、渾沌の地に押しつけようとする。
貫通したダメージに、ぼんやりとした頭が我に返った瞬間、焔はきゅっと目を閉じて体を強張らせる。これは、マズい! それでも、回避不能の追撃。覚悟した痛みは、インパクトの瞬間シホが身ごと投げ出した割り込みにより阻止される。突き飛ばされた勢いそのままごろごろと転がって地に横たわれば鴻鈞道人はぷいと視線を外した。
「――そうか。先ほどから響くこの耳障りは、狙いがあるな」
「(読まれてるよ……!?)」
「ひとまずこのまま体勢を低くして、巻き込まれないように」
ルルはまた賑やかな友達を得ましたね、と呟く。
♪うわんうわん どこにいる
うわんうわん 声がする
声はすれども姿は見えず
ほんにお前はうるさすぎ♪
どこからか軽妙なお囃子が聞こえて来る。しかし、それはあくまで邪でないものが聞こえる部分。当の鴻鈞道人はそのリズムに混じる、精神を苛む浄化の響きを感じずにはいられない。
その発生源は真っ黒な歯をぎらつかせ、三本指で地を裂きながら次々現れ出た妖怪「うわん」。《百友夜行(フレンズカーニバル)》で呼び出されたルルチェリアの頼もしい仲良しである。音の衝撃波が地面を伝うたびにひび割れさせ、大気そのものが揺れているかのような大合唱。指揮するルルチェリアが陽気にポージングすれば、さらに一段階、二段階と浄化の歌声に拍車がかかる。まさに世界を揺るがす一大合唱だ。
さすがにこれは予想だにしていなかったのか、初めて苦悶らしい苦痛の表情を浮かべて蹲った。
「あなたががどんな真似をしようと皆が居れば何とかなるのよ!」
「ぐぬ……」
勝利を確信したルルチェリアは、さらにもう一押し、そのまま行列に飲み込んで包囲してしまおうと躍起になる。
――ぼとっ、ぼとっ。
「えっ」
無限に威力が上昇しようとも、流れがずっと彼女の方にあるとは限らない。例えば精神的にショッキングな出来事で詠唱を途絶してしまえば。
鴻鈞道人は肉体の持つ欠陥である広い聴覚を封じ、うわんの影響を断絶しにかかった。具体的には諸相の鉤爪で、自身の黄金の耳を引きちぎったのだ。紅のイヤリングのついた両耳が地面に落ちてぼとぼとと鈍い音を立てる。耳がなければ浄化の歌声は決して届きはしない。そう判断した鴻鈞道人の行動は早かった。誰も彼も制止するタイミングすらないまま、爛の体に悪戯に不治の傷跡を残していく。
本質的に自分のダメージを厭わないとはいえ、友達の姿をした人物が起こした激しい自傷行為に、思わずルルチェリアは絶句してしまう。
お囃子が止まれば形勢は逆転だ。ボゴボゴと膨れ上がった触手腕が埃でも払うかのように妖怪たちを次々に薙ぎ払っていく。
「そんな……まずいよね? シホ姉」
「こうしてはいられません。私が言うべき言葉は、今、ここで……! 焔はテフラさんを!」
焔が我に帰れば、既にシホはその惨状に目もくれず一目散に駆け出していた。仕掛けるタイミングは今しかないと、そう思った筈だ、燦なら。
そう想いが通じ合うからこそ、掛けられる言葉がある。理屈ではない。体が自然と燦の方向へ動いていた。
「今回ばかりはな……」
燦は暴れ回る鴻鈞道人の姿を見て、ぐっと拳を握りしめていた。
近づけば濃い血の匂いと瘴気、今なお絶望と苦しみの最中にいる爛。あるいはその命に終止符を打つだけでも、どれだけ苦しみを癒せるかわからない。彼女を取り戻せないかもしれない。
「燦! 自信を持って!」
「シホ……」
握りしめられた拳を解きほぐすようにして、五指を絡ませる。駆け寄ったシホもまた、冷たい手のひらに血を滲ませるほどに強く握った痕があった。
誰かが犯すべき罪。死を背負う者。死を賜う者。そんな宿命も、一人で乗り越えられないような壁も、打ち崩せるとしたら、それは。
「戦いは力が全てではありません。私達はどんな苦境でも助けてきたでしょ? 更に今は皆もいるから力を合わせれば大丈夫」
「アタシは……そうだな! これが世界を殺す愛だとしても、アタシは愛しい人と生きたい。もちろんシホともさ♪ いつも感謝してるぜ」
「なら証明して」
「はっ?! いやそれは」
「爛は燦の願いが通じて転生できたのでしょ? 敵の望みよりも爛への想いが強い事を証明して」
あ、あーそっちか、と吹き出しそうになるのをなんとか堪える。そう言うことを真顔で言い出すから、たまらなく愛おしさを感じてしまう。そのまま唇でも奪ってやろうかと思ったが、それは帰ってからの楽しみにしよう。
「そうだ。爛には、罰としてバレンタインは強制労働な。ったく、忙しいったらないぜ」
「お前は何を言っている」
「耳を潰した分際でお前こそ何言ってんだ。爛にこれ以上、傷つけさせんな!」
「お前は何だ」
自分を、他人を、綺麗な状態から遠ざけるその仕草。暴れ回って妖怪の血を啜る怪物じみた彼女を今一度名前を呼びかける。
「アタシはアタシだ。迎えに来たぜ。爛」
刹那。
一陣の風がひとりでに渦巻いて、狐が結んだ御縁に勝利の流れを手繰り寄せる。
「大理石の剣・封印解除――舞えよ石華、全てを白へと染め上げろ!」
――ゴォオォオオォオオ!
「お、お……おおぉおおお!?」
空中を舞う花弁が、その一つ一つが意志を持ったように二人を取り囲み、呪詛を振りかけた。一人で逝かせはしないよと、抱きしめる。それはお前だけは必ずここで仕留めるという死の告白に等しい。皮肉なことに、耳を切った彼にそんなメッセージは届かないのだけれど。
大理石の剣から溢れる闘気がぐんぐん勢いを増していく。その威力の源が愛であることは、攻撃を喰らう鴻鈞道人以外は皆知っていた。
「焔さんもルルさんもシホさんも…みんな信じていますから!」
接触したのを確認して、戦線復帰したテフラが矢を乱射する。強張る指先は狙いを精緻につけられない。地に当たったもの、当たらなかったものが石化属性を爆発させ、周囲のものを根こそぎ石化していく。
「燦姉、焔が相手の隙を作るから任せたよ!」
「今よ燦さん、テフラさん! バシッとやっちゃって!」
ダメ押しのダブルコーラスで、石化した肉体を内から破り暴れようとする爛の肉体を封じ込めにかかる。玉砕の覚悟で声を重ね合わせ、喉が張り裂けそうになるまで必死に歌い上げる。
「燦、爛。二人の魂に癒しを……」
手を合わせ、祈りを捧げる。届かなかった願いはない。ましてや今は皆がいる。爛を返して! と。元凶たる渾沌氏を浄化し、いつもの日常を取り戻したい一心で、シホは願った。
「封じられてもアタシの想いは、愛は消えない」
「私、は……ぉおお……逃れられん……?!」
「刮目せよ!」
――びしっ……ビキビキキキキ……ッ!!
爛の石化した全身から、禍々しい意志が霧散していく。それはグリモア猟兵の肉体から渾沌氏『鴻鈞道人』が去ったことを意味していた。同時に、半身が石化した燦もまた、前のめりに崩れ落ちる。文字通り石の重さと化した燦を、四人が抱き抱えた。
勝利、というにはあまりにも満身創痍。皆が皆、笑えるくらいにボロボロだった。
「お疲れ様、燦姉」
「爛さんもツイて無いわね」
「……」
ルルチェリアの言葉にシホは顔を曇らせる。先の戦争に今回、グリモア猟兵が狙われるのは初めてではなかった。オブリビオンでない敵の存在。近い未来、グリモアベースが攻め込まれる可能性をも考慮すれば、決して先行きの明るい話ではない。
ぐしゃぐしゃのボロ雑巾になった爛の肉体はシホの手で戻せる。しかし、それでも戻らないものも、ある。
この場にいる誰もが、同じ立場になったらそうするだろう。だからこそ――怖い。
「大丈夫さ」
燦は笑った。
比翼連理、強く結ばれた絆は、御縁は、来たる苦難も乗り越えられる。まずはチョコレートだな! と、傷を感じさせない強請る笑みを見せる燦の手を、シホはそっと、ぎゅっと握りしめたのだった。
成功
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