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殲神封神大戦⑯~満ちる想いをアガパンサスへ

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●溢れる想い
 愛と云う言葉は不思議なもの。
 様々な関係性。幸福。寂しさ。苦しさ。
 繋がる想いは幾多あれど、それは全て深い想いに繋がっている。
 あの人に、あの子へと、過去の記憶へと。繋がる想いを言葉にしよう。

 満ちる、満ちる想いを象徴するかのように。
 深い香が満ちればきっと先が開けることだろう。

●言葉に乗せて
「皆さん、戦争お疲れ様です。……早速ですけど、次の戦場へとご案内させて下さい」
 まずは労いの言葉を述べ、すぐに真剣な眼差しでラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵へと言葉を掛ける。
 彼女が案内するのは、封神武侠界の人類の祖とされる神、三皇『女媧』の祠。女媧はオブリビオンとして蘇ってはいないようだが、この祠には消えることの無い炎と固まる事の無い泥で満ちており、恐ろしい程の魔力が充満しているらしい。
 そんな空間に猟兵が足を踏み込めば――不思議なことに固まる事の無い泥が四方を囲み、一瞬で辺りは壁に包まれ部屋となる。
 出口の無い部屋。そこを抜け出す方法はただ一つ。
「その……、愛を語る事みたいです」
 頬を染めながらに、ラナはしっかりとその言葉を唇から零す。
 愛する誰かは恋人でも、友人でも、家族でも。人間以外のペットや相棒、はたまた自身の思い出や趣味、志など何でも良い。己が『愛』を語れる存在ならば。
「部屋の中央には綺麗な台座があって、そこには盃があるようですよ」
 それは一人ならばひとつ。二人ならばふたつ。部屋の中にいる人数分が用意される。
 輝く盃は最初は空っぽ。しかし『愛』を語るごとに中身が満ちていき、最終的には溢れてくるようだ。そう、それはまるで――愛が満ちていくかのように。
 その盃が溢れる頃になれば、『愛』を語ったことにより魔力は浄化され囲まれた壁は溶けるように消えてなくなるだろう。
 逆に満たすことが出来なければ、あれやこれやと愛を語り続けなければいけない。――語ると言っても言葉だけではなく、行動や些細な表情の変化でも少しずつ満ちてはいくようだ。口下手な者には少し難易度の高い話かもしれないが、普段語らない者だからこそ一言に意味がある、ということもあるだろう。
「盃の中はお酒ですね。人体に無害なので、全て終わった時には口にしても大丈夫ですけど、未成年の方はダメですよ」
 中の液体は基本的には透き通り、強い花の香りがするようだ。しかし語る愛によっては色が変化したり、香りや味が変化することもあるかもしれない。――それは、口にしてみてのお楽しみと云うことだろう。

「普段は言葉に出来ないことを、言葉にしてみる機会でもあると思います」
 それは、何かが変わるきっかけになることもあるかもしれない。
 勿論今は戦争の最中ではあるけれど、この部屋でのひと時だけは戦は忘れて。己の心と向き合い真っ直ぐな想いを言葉と行動へと移すのが良いだろう。
 その結果が、全てを救うことに繋がるのだから。
「その……、少し緊張するお話ですよね。でも、皆さんならきっと大丈夫ですから」
 よろしくお願いします、とラナは頬を染めたまま猟兵を戦場へと送り出す。

 薔薇にベゴニア、ゼラニウムに撫子。愛を語る花々と、愛を届ける鳥達が辺りを囲う中。この想いを言葉にしよう。
 大切な、大切な――。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『封神武侠界』での戦争シナリオをお届け致します。

●戦場
 三皇『女媧』の祠。
 猟兵が足を踏み込み、固まる事の無い泥により周囲が囲まれた直後から描写です。

 辺りは花や鳥等、華やかな彫刻が施された繊細な部屋。一定の広さがある為窮屈ではありません。
 部屋の中央にはアイビーの彫刻が美しい台座があり、そこには空の盃があります。
 愛を語るごとに盃の中にお酒が満ちていく不思議な空間です。
 盃が溢れる程満ちれば終わり。言葉が一番満ちるのが早く、行動や表情等でも少しずつ満ちていきます。(あくまでフレーバーなので、こちらから既定は設けません)
 人体には無害で口にしても大丈夫ですが、お酒なので未成年は禁止です。色や味については、指定頂ければそちらで描写致します。

 部屋の収納人数に制限はありません。
 1人1部屋でも。同行者様と同じ部屋でも。お好きに指定下さい。

●プレイングボーナス
 ・誰か(あるいは何か)への愛を語る。

 人、物、趣味や思い出など。
 人物や物など、『愛』であれば何でも構いません。
 愛する相手は恋に限らず、友情や家族愛でも大丈夫です。

 『誰か』は同行者様以外は了承が取れているか不明の為、ぼかすか不採用となる可能性があるのでご注意下さい。お互いに活性化頂けると確認が取れます。
 『動物』や『アイテム』の場合、アイテム欄に活性化頂くと確実です。
 言葉でなく行動も交えながら、思う存分語って頂けると嬉しいです。

●シナリオフレームについて
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「殲神封神大戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●その他
 ・心情重視での描写予定です。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。また、3人以上での団体様は優先順位が下がりますご了承下さい。
 ・公序良俗に反する行動は不採用とさせて頂きます。
 ・少人数での運営となる可能性がございます。
 ・受付と締め切り連絡は、マスターページにて行います。お手数ですがご確認下さい。採用は先着順ではありませんが、状況によって短時間での募集になる可能性がございます。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『愛を語らないと出られない部屋』

POW   :    情熱的に愛を語る

SPD   :    淀みなく愛を語る

WIZ   :    語彙を尽くして愛を語る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

雛瑠璃・優歌
弟を語ろうとしたのに
結局零れた名前は
「…香唄は、あたしが拾った」
あの日居場所がないと言った彼に、絶対に1人にしないからと手を差し伸べたのは幼い日のあたしで
「いつの間にか、…恋、されてた」
この表現が正しいかは分からない
でも家族だと思ってたあたしの気持ちが愛なら、お揃いじゃなかったのは確かで
「応えられなかった。だから…」
喪った
あたしに長らく向けられてたらしい呪詛の身代わりになって
看取った時何を言ったかは覚えてない
同じ気持ちを持たないままじゃ怖くてずっと言えなかった言葉
せめて今だけでも
「…大好きだよ、香唄」
満ちた盃の中身は未成年(あたし)じゃ飲めない
喉を焼いてくれたら償えた気になれたかもしれないのに




 愛を語る――雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)の口からその想いが零れるのなら、大切な弟のこと。
「……香唄は、あたしが拾った」
 だと想っていたし、弟のついて語ろうと想っていたのに。零れたのは違う名だった。
 けれどその名もまた、愛を語るには相応しい名なのだ。あの日居場所が無いと言った彼に、絶対に一人にしないからと手を差し伸べたのは、幼い頃の優歌。
 そして、一緒に過ごすうちに――。
「いつの間にか、……恋、されてた」
 ぽつり、ぽつり。
 想い出を手繰りながら優歌は零す。
 この表現が正しいかは、今でも分からない。
 でも家族だと想っていた優歌の気持ちが愛ならば、彼が優歌に向ける気持ちがお揃いでは無かったのは確か。お揃いでは無い、だから優歌は――。
「応えられなかった。だから……」
 その結果、喪った。
 香唄は、優歌に長らく向けられていた呪詛の身代わりになったのだ。
 確かに看取ったあの日のことは覚えているけれど、その時彼が何を言ったのかは覚えていない。きゅうっと胸を締め付けられる心地。彼女はあの時は言えなかった言葉を今、言葉にする。強く結んだ唇を、勇気を出して開いて。
「……大好きだよ、香唄」
 それは同じ気持ちを持たないままでは、怖くてずっと言えなかった言葉。
 伝えられなかった。
 明確に言葉にしては、何かが崩れてしまうかもしれなかった。
 けれど、せめて今だけでもと――そうっと瞼で青い瞳を隠した後、深く深く深呼吸をする優歌。長くも短くも感じる間の後、瞳を開けば目の前の盃はなみなみと満ちていた。
 距離がある此処にも、強い強い花の芳しい香が伝わってくる。一瞬、手を伸ばそうとするけれど。すぐにその手をきゅっと握った。
 優歌は、未成年だから。その盃の中身を飲み干すことは出来ない。
 ――喉を焼いてくれたら償えた気になれたかもしれないのに。
 想いは心の中に秘め息を零した時、溶けるように辺りを囲う壁は無くなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクアス・サラザール
ここも、美しい部屋ですね
盃の前で、俺の、大切な陛下への思いを語りましょうか

俺が忠誠を誓う唯一のひと
貴方と巡り合えた幸運を、俺は心から感謝しております
無邪気で朗らかな笑顔に、可愛らしく明るい声に
俺の世界は毎日、鮮やかに彩られているのです
貴方に出会った日から、俺の世界は全部、貴方が中心です
ご存知でしょう?
ふふ、素直なことは素晴らしいことだと、貴方を見て学んでおりますので
これからも素直に、伝えて参ります

陛下はまだ幼いですから、酒を飲むことが出来るのは随分先ですが…
いずれ、共に盃を交わす日が来るのでしょう
その時にこの愛を飲んで頂くのも…
いえ、やめておきましょう
その時には、今以上の愛があるはずですからね




 美しい花々に飛び立つ鳥。
 繊細な彫刻が施された部屋を見回して、ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)はひとつ溜息を零した。
「ここも、美しい部屋ですね」
 その部屋の中央。装飾施された台座の中央に輝くのは、金色の盃。
 今は空っぽのその盃に前にして――ルクアスが語るのは、大切な陛下への想いだ。
 陛下。それはルクアスが忠誠を誓う唯一のひと。
 かつては勇者として魔王を討ち果たす旅に出たはずが、出逢った魔王のあまりに可愛らしさに寝返ってしまったあの日のことを思い出せば自然と笑みが零れてしまう。
「貴方と巡り合えた幸運を、俺は心から感謝しております」
 胸元に手を当て、静かに瞳を閉じて。心を零していくルクアス。
 白い髪に大きな金色の瞳。
 無邪気で朗らかな笑顔に、可愛らしく明るい声。
 自分を呼ぶその姿を思い出して――自分の世界は毎日、鮮やかに彩られているのだと改めて実感する。
 そう、貴方に出会った日から。ルクアスの世界は全部、貴方が中心。
 そんなこと、彼女はご存知だろうけれど。
「ふふ、素直なことは素晴らしいことだと、貴方を見て学んでおりますので。これからも素直に、伝えて参ります」
 真っ直ぐな忠誠の気持ちを。この溢れる程の愛を。伝える素晴らしさを教えてくれたのは、誰でも無い貴方だから。それを見習うことを決意した時、気付けば目の前の盃からは酒が溢れ、台座を濡らしている事にルクアスは気付く。
 まだまだ魅力は語れるけれど、もう溢れてしまったのかと小さな溜息を零し。そのまま彼は盃へと手を伸ばす。零れないよう気をつけても、溢れた盃からは酒が零れルクアスの手を濡らしていく。
 甘くも華やかな香りは彼女は好きだろうか。
 けれど、陛下はまだ幼いから。お酒を飲めようになるのはまだまだ先。
 それでも、いずれ共に盃を交わす日が来るのだろう。
「その時にこの愛を飲んで頂くのも……いえ、やめておきましょう」
 自分の愛で満たした盃を――そう一瞬考えが過ぎったけれど、すぐに彼は首を振る。
 だって、その時には今以上の愛がある筈だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
おれへの愛なら語れるんじゃないか?
みたいなことをうさたが言うので一緒に来てみたけど…
うまく語れるかなあ…?
(耳を真っ直ぐこっちに向けてふんふん鼻を動かしてるうさたを見つつ)

最初に逢った時は
こんなに小さくて可愛い子が
実はめちゃくちゃ格好良くて強いのにもびっくりしたなあ…
兎と一緒に暮らすのは初めてだったけど
特にちゃんと教えなくても全部理解してくれるくらい賢いし
色んな時にさりげなく傍に居てくれるのもちゃんと理解ってるよ
何だかんだで俺、うさたにもいっぱい守られてるし
うさたがいてくれたから強くなれた所もいっぱいあるんだ
うさたは間違いなく
俺にとっての相棒でヒーロー…だって思ってる
うさた、これからも宜しくね




 ――おれへの愛なら語れるんじゃないか?
 そんな風に語るのは、月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)では無く、彼の頭の上に乗る白い翼を抱く灰色兎のうさた。
 よく聴こえるように耳を蒼汰へと向け、ふんふんと鼻を鳴らすその様子を見上げ。
(「うまく語れるかなあ……?」)
 少しの自信の無さを覚えながらも、深呼吸と共にうさたとの思い出を思い返す蒼汰。
「最初に逢った時は、こんなに小さくて可愛い子が。実はめちゃくちゃ格好良くて強いのにもびっくりしたなあ……」
 初めて会ったのは、アックス&ウィザーズにある花と獣の街。お祭りでの縁だったが、小さな身体に不釣り合いなその強い瞳に何故か惹かれたのだ。そのまま戦いに赴けば、普通の兎らしい愛らしさとは裏腹に、大きな敵にも果敢に向かう姿を思い出す。
 兎と一緒に暮らすのは初めてだったけれど、うさたはちゃんと教えなくとも全部理解してくれるくらい賢く、手が掛かることも無く不安は最初のうちだけだった。
 それだけでなく――。
「色んな時にさりげなく傍に居てくれるのもちゃんと理解ってるよ」
 それは不安な時。迷った時。弱った時。
 傍に居て、支えてくれて、背中を押してくれて。
 小さい身体に似合わぬその存在に、幾度となく蒼汰は救われてきた。戦いの場面だけでなく、生活面でも精神面でも、蒼汰はうさたに沢山守られていると実感する。
 今までは泣き虫で弱虫だったけれど、うさたのお陰で前へと進めた面が確かにある。強くなれた所も沢山ある。
「うさたは間違いなく、俺にとっての相棒でヒーロー……だって思ってる」
 普段は言葉にしない、真っ直ぐな言葉。
 瞼で隠していた金色の瞳で世界を捉えれば、そのまま彼は上を見上げる。身を乗り出したうさたの揃いの金色の瞳が交われば、笑みを浮かべて蒼汰は口を開き。
「うさた、これからも宜しくね」
 ――感謝の想いを述べれば、頭の上の兎は返事をするように鼻を鳴らしていた。
 ちゃぷり。
 相棒への想いで満ちた盃は、静かな水音と共に地へと溢れ濡らしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【姉弟】
僕は未成年だから飲めないけど…
姉さんが気に入る味なら僕の分もあげればいい
…愛を語る、っていうのがちょっと不安だけど

え? あ、はい…??【オーラ防御】

僕から!?
え、あ、うぅ…わ、わかった…

一言でもいい、というのは姉さんなりの気遣いだろう
僕の性格をよくわかってくれている

じゃあ、その…まず…
僕の事、探してくれて、ありがとう
故郷は滅びたとはいえ、思い出はあった筈なのに
姉さんは僕のために土地を離れた
身寄りの無い僕を従兄弟としてじゃなく
弟として受け入れてくれた

感謝してるんだよ、ほんとに
だから、その…姉さん
僕は貴方を…愛してます

盃、満ちた?
匂いだけでも嗅いでみていい?
お花の匂い…気になる…(許可待ち


栗花落・深香
【姉弟】
気を利かせて誘ってくれたのはいいけど
この子わかっているのかしら
自分が匂いだけでも酔うくらいお酒に弱い体質だって事

とりあえず澪、自分にオーラ防御張っておきなさい

さて…折角だからお姉ちゃん、澪からの言葉が聞きたいなぁ
なんでもいいのよ、恥ずかしければ一言だけでも

澪…それを言うなら私も同じだわ
生きていてくれてありがとう
私も貴方を愛しているわ

これはまだ直接言えないけれど
愛してるなんて言葉じゃ足りない
私にとってはこの子が全て
守れなかった、失わせてしまった大切な時間
だからこの子だけでも幸せにしたい

匂い…そうねぇ…

まずは自分が嗅いでみて、酔いそうな感じじゃなければ嗅がせてあげるわ
でも飲むのは私だけ、ね




 先程までただの泥だったとは思えないほど、美しい小部屋の中央。繊細な彫刻の台座の上に輝く金色の二つの盃を、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はその大きな琥珀色の瞳で興味深げに見つめている。
 愛を語れば、此処に酒が満ちると云う。
 未成年である澪にはその味を確認することは出来ないけれど、どんな風に、どんな酒が満ちるのかは興味がある。気に入れば姉にあげれば良いとどこか楽しげに澪は微笑む。
 そんな澪の姿を見て――栗花落・深香(暴走おねーちゃん・f03474)は小さく溜息を零していた。気を利かせて誘ってくれたことは分かっているけれど。
(「この子わかっているのかしら」)
 ――自分が匂いだけでも酔うくらいお酒に弱い体質だって事を。
「とりあえず澪、自分にオーラ防御張っておきなさい」
「え? あ、はい……??」
 溜息混じりに紡がれた言葉に、澪は訳も分からず返事を返し咄嗟に自身の身体をオーラで纏った。もしかしたら気休めかもしれないが、これから酒の強い香りで満ちるであろうこの場では無いよりはマシだろう。
 澪のその姿を見て、安堵したように微笑むと――深香はちらりと傍らの少年を覗き込むように身体を屈ませる。
「さて……折角だからお姉ちゃん、澪からの言葉が聞きたいなぁ」
「僕から!?」
 その唐突な言葉に、澪は驚いたように声を上げてしまう。愛を語ることが元から不安だったのにも関わらず、自分からとなれば動揺するのも当然か。そんな彼の姿を見て、深香は変わらず笑みを浮かべたまま彼の言葉を待つ。
「なんでもいいのよ、恥ずかしければ一言だけでも」
「え、あ、うぅ……わ、わかった……」
 一言だけ……助け舟のようなその言葉は、姉なりの気遣いなのだろうと澪にも分かっている。それは、澪の性格を姉がよく理解している証拠。
 だから素直に頷くと、澪はよく考える。
 愛とは様々なカタチがあるけれど。姉である深香に抱いている気持ちを言葉にすると。
「じゃあ、その……まず……。僕の事、探してくれて、ありがとう」
 少しだけたどたどしく、零れた言葉は感謝のしるし。
 故郷は滅びたけれど、思い出は確かにあった筈。それなのに深香は澪の為に土地を離れた。身寄りの無い澪を、従兄弟としてでは無く弟として受け入れてくれた。
 その優しさに。温かさに。
「感謝してるんだよ、ほんとに。だから、その……姉さん。僕は貴方を……愛してます」
 頬を染めて、震える声で紡ぐ澪の言葉を聞けば。深香は大きな瞳を更に見開き、口許を手で押さえていた。その真っ直ぐな想いが、そして今目の前に彼が居ると云うことが。
「澪……それを言うなら私も同じだわ。生きていてくれてありがとう、私も貴方を愛しているわ」
 彼の言葉に乗せるように、紡がれる愛の言葉。
 けれどその言葉の裏には、今は告げられない愛もある。――そう、愛しているなんて言葉では足りない。深香にとっては、澪が全て。
 守れなかった、失わせてしまった大切な時間。だからこの子だけでも幸せにしたいと、深い深い想いが改めて深香の心に満ちてくる。
 その想いはまだ直接は伝えることは出来ない。だからこそ、溢れる程の想いを込めた彼女の言葉に反応したのか、満ちていく酒が一層強く花の香りを放った。
 溢れかえるその香りにすん、と鼻を鳴らし。澪は台座へと一歩近づく。
「盃、満ちた?」
 小首を傾げ問い掛ける彼の為に、深香が盃を覗けばそこにはなみなみと満ちた透明な液体が。二つあるうち、どちらも甘い花の香りを放っているけれど仄かに違う気がする。
「匂いだけでも嗅いでみていい? お花の匂い……気になる……」
「匂い……そうねぇ……」
 じっと上目遣いで許可を待つ彼の言葉に、暫し考え深香はまずは自分が嗅ぎ。その華やかさを確かめた後そっと盃を澪の元へと差し出した。
 ――ひとつの深く甘い香りは酔いそうな程に強いもの。
 ――もうひとつはその酔いを醒ますかのような、爽やかな花の香りだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
それならば私は…いつもそばに居てくれる精霊達を(アイテム欄一番最後)

私は、誰かと出会うと名前を知りたがるんです。もし名前のない存在なら新しく名前を付けてもらったりして。
名を呼べば「その他大勢」ではなく「ただ一人」の存在として縁を結べる気がするから

……でも、あの子(精霊)達だけは名を付けなかったんです
あの子達は精霊です。本来なら自然の一部として自由に生きていける
なのに無理矢理扇に封じられて……辛い思いをしてきたのに。

もうすぐ扇から解放してあげられるかもしれない
まだ私が精霊の姿を見ることすらできない頃から側にいてくれた
あの子達には自由になってほしいから
私は、あの子達を名前で縛りたくないんです。
これで盃が満ちるか分かりませんが…それでも大事な存在なんです。

扇を取り出すと精霊達が姿を見せ不思議そうな顔をする。
「だいじょうぶ?」「…かなしい?」「だいじょぶ?」「……い?」
悲しくないですよ。大丈夫あなた達が大好きだという話をしていただけです

吐き出した思いを飲み込むように盃の中の酒を飲み干す




 繊細な装飾の部屋の中央、輝く金色の盃の中は空で、『愛』の話を待っている。
「それならば私は……いつもそばに居てくれる精霊達を」
 語る『愛』について考えて。ひとつ息を吐くと桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は宣言と共に己の心へと想いを傾ける。
 彼は、誰かと出会うと名前を知りたがる質だ。もし名前の無い存在ならば新しく名前を付けて貰ったりすることもある。
 それは名を呼べば、『その他大勢』では無く『ただ一人』の存在として縁を結べる気がするから。それが何時もだった。
「……でも、あの子達だけは名を付けなかったんです」
 そうっと青い瞳を瞼で隠して、息を零しながらカイはそう紡ぐ。
 あの子達は精霊。本来ならば自然の一部として自由に生きていける神秘的な存在だ。
 それなのに無理やり扇に封じられて、辛い思いをしてきたと思う。
 袖の中に仕舞った鉄扇をきゅっと握り、カイは彼等のことを想う。もうすぐ、この扇から解放してあげられるかもしれない。縛っていた彼等には、再び自由が舞い降りる時が近付いて居るのかもしれない。
 まだカイが精霊の姿を見ることすら出来なかった頃から、傍に寄り添ってくれていた。それは彼等の意思なのか、縛られていた故なのかは分からない。
 けれど、だからこそ――あの子達には、自由になって欲しい。
「私は、あの子達を名前で縛りたくないんです」
 真剣な眼差しで、前を見据えカイは語る。
 それは、心からのカイの願い。
 いつも寄り添い、カイを護ってくれた大事な彼等への。確かな愛のカタチ。
 とぷり、とぷり。
 微かな水音と共に部屋中に溢れるのは甘い甘い花の香り。どんどんと色濃くなっていくその香りに鼻を鳴らしてみれば、中央の台座の盃はしっかりと酒が満ちていた。
 透き通るその液体の量は明確には分からないけれど、部屋がまだ溶けない様子からまだあと一押し足りないのだろう。
 カイは袖の中の鉄扇をきゅっと握ると――そのままその扇を、外へと出した。
 すると同時に、扇に寄り添いながら四色の精霊たちがカイの手元から顔を覗き込んでくる。小さいながらも自然の力を持つ偉大な存在。ずっと一緒の彼等は、カイの心の様子に機敏なのだろう。見上げる小さな眼差しは、心配の色を宿していた。
『だいじょうぶ?』
『……かなしい?』
『だいじょぶ?』
『…………い?』
 口々に紡がれる言葉は、眼差し以上に優しくもカイの心に溶け込む音色。その声に、眼差しに、カイはふるりと首を振ると笑みと共に唇を開く。
「悲しくないですよ。大丈夫あなた達が大好きだという話をしていただけです」
 それは心からのカイの言葉。
 人では無いからこその、互いの距離感と信頼が確かにあるのだ。
 とぷり。
 精霊へと語るカイの言葉に反応してか、盃からは酒が溢れて来た。辺りの装飾が段々と溶け、その繊細さが消えゆく中――カイは一歩前へと踏み出すと、盃へと手を伸ばす。
 ゆらりと水を揺らせば、透明な液体は不思議なことに赤と青、緑に茶と四色に色を変えていく。その色に合わせて、薫る強い花の香りも変わったのは気のせいだろうか。
 揺らし、揺らし。そのまま彼は盃へと口を付けると、ぐいっと一気に酒を飲み干した。
 ――それは、吐き出した思いを飲み込むかのよう。
 そんな彼の様子を、四色の精霊達はただ静かに見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

楊・暁
1人部屋希望

想うは十年前
大陸妖狐の巨大情報網構築作戦
能力者との一戦で散った地縛霊4体

朧になりかける度
必死に記憶に留めてきた花達

…最初は誰でも良かったんだ
捨て石にしろって言われてたしな
でも喚び出したお前等は嬉しそうに笑ってて…
あの時は否定しちまったけど
実際は…見入っちまった
花みてぇだ、って
家族が…姉ちゃんがいたら
こんな感じだったのかな、ってさ

…俺なんて護る事なかった…!
お前等にも何もしてやれなかった
もっと話を聞いてやれば良かった
…俺がお前等を護って死ねば良かったんだ

己の非力さに憤り
噛む唇から血が滲む

全部…ッ、全部俺が弱いせいだ
日本妖狐にも大陸妖狐にもなれねぇ半端者だから…
…違う、そうじゃねぇ…
俺が空っぽだからだ
連れ去られたのを言い訳にして意志を持たなかった
他種族を見下して弱さを認めなかった

堪えきれず溢れた涙が数滴落ち

…強かったら、お前等も護ってやれたのにな
ごめん…ごめんな…

暫し後
意を決し
開けた眼差しは強く

…俺、強くなる
お前等に胸張れるように
だから、どっかで見ててくれよな

…ずっと、忘れねぇよ




 一人小さな部屋へと閉じ込められた楊・暁(うたかたの花・f36185)は、ぐるりと辺りを見渡した。
 白一色の美しい部屋の壁には、数多の彫刻が施され美しくも絢爛な姿。その花を一瞥すれば――四季を思わせる花々に、暁は小さく息を呑む。
 そのまま彼は赤い瞳を中央へと向け、金色に輝く盃を見る。
 輝く盃は今は空。『愛』を待つその盃に向け、この美しき部屋に向け。小さな少年の姿をした、数多の縁を重ねた彼が語るのは――十年前の記憶。
 大陸妖狐が打ち出した作戦の中で、彼は銀誓館の能力者と一戦を交えた。その結果は、彼の敗北。そして――散りゆく四季を彩る衣の四人の少女。
 それは記憶が朧になり掛ける度、必死に記憶に留めてきた花達の姿だ。
「……最初は誰でも良かったんだ」
 零れるように、震える声で暁は紡ぐ。ぎゅっと両手を強く握り締め、力を込めすぎてその手が震えているのに彼は気付いていない。
 あの時の記憶は、今でも鮮明に思い出せる。忘れてはならないと、彼は十年思い返してきたのだ。そう、記憶に刻まれる程に、彼にとっては大切な出来事。
 捨て石にしろと言われていたのもあって、誰でも良いと想い喚び出した。けれど姿を現した彼女達は皆、嬉しそうに笑っていた。
「あの時は否定しちまったけど、実際は……見入っちまった」
 ――花みてぇだ、って。
 家族が、姉が居たらこんな感じだったのかなと、想いを馳せるは孤独な過去から。
 でも、だからこそ。護られた結果、今此処に五体満足で居る自分にどうしようもなく苦しくなる。
「……俺なんて護る事なかった……!」
 お前等に何もしてやれなかった。
 もっと話を聞いてやれば良かった。
 ――……俺がお前等を護って死ねば良かったんだ。
 嗚咽交じりに零す言葉は、まるで心からの叫びのように強いもの。
 ギリリと強く強く唇を噛み締めれば、口にじわりと鉄の味が広がった。零れた鮮血が頬を伝い、ぽたりぽたりと美しき白の床に落ちていく。
 その様子も、唇の痛みも、心の痛みに比べれば気付かぬ程に小さなもの。己の非力さを思い出せば、震える身体を止めることなど出来ない。
 全部、俺が弱いせいだ。
 日本妖狐にも大陸妖狐にもなれない、半端者だから。
 否――俺が、空っぽだから。
 当時の自分は、連れ去られたのを言い訳にして意思を持たなかった。他種族を見下して、弱さを認めなかった。そんなちっぽけな自分を思い返せば、暁の心に満ちるのは後悔と謝罪の想いだけ。
「……強かったら、お前等も護ってやれたのにな。ごめん……ごめんな……」
 深く俯き、零れる声に混じりぽたりと落ちる雫。
 堪え切れない嗚咽が暫し部屋に満ちる中――少しずつ、少しずつ部屋の花の香りは強くなっていく。彼の語る後悔の愛に添ったのか、ほんの少しの苦さを添えて。
 その香りに気付いたのか、鼻をすすると同時に暁は顔を上げる。
 気付けば金色の盃には半分ほどの酒が満ちていた。
 あと一押し。そう背を押されるような気持ちで、彼の眼差しは強い色を映している。
「……俺、強くなる。お前等に胸張れるように」
 それは彼の、誓いの言葉。
 かつて散りゆく花々を見送った、あの時の姿のままで。過ぎ行く時の分だけ成長した彼は、確かな誓いを言葉にする。
「だから、どっかで見ててくれよな」
 ――……ずっと、忘れねぇよ。
 さらりと揺れる漆黒の髪に輝く、赤い瞳は確かな意志を宿し真っ直ぐに前を見る。
 その時、盃の中が一気に満たされ地を濡らしていく。止まることの無いその盃を掲げ、暁は様々な花の香混じる酒の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
 ――それは、うたかたに消えゆく、四色の花を想い語った彼の愛の証。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
陽里(f05640)と

愛を語る…
あたしがお祈りする神様はね
博愛主義なの
だからみんな大事だし大切よ
もちろんあたしにも特別大好きはあるけど…
猫ちゃんとか

陽里はそうやって褒めてくれるから…(照れ

陽里はもちろんバイクでしょ?
せっかくだもの
たくさんバイクの話を聞かせてほしいな!

男の人のロマンは理解できないこともあるけど
陽里の好きなものをもっと知りたいから

とにかくカッコいいってことね
それはわかるわ
だって猫ちゃんもとにかく可愛いんだもの…!

大丈夫よ、陽里いい顔してるし
ほら、ちゃんと盃にお酒が満ちてるわよ

レースは一人じゃなくてチームだって前に教えてもらったわ
あたしもそんな陽里を支えたい
みんなの想いを乗せて走るから
真剣勝負に引き込まれてしまうのね

猫ちゃんは見てて飽きないし
いろんな表情を見せてくれてとにかく可愛いの!

好きなものを語ってる時の陽里のきらきらした表情も好き
かなわないって思うけどそれでいいの
好きな人が幸せならそれが一番
それがあたしの心からの幸せだから

愛が満ちたお酒はどんな味がするのかな
飲んでみる?


櫟・陽里
エリシャ(f03249)と語り合う

みんなが大事って言えて
実際みんなを助けようと頑張れる世話焼きなとこ
すごく気に入ってるし尊敬してるよ
(この場面で俺の名前が出なくても全然嫌じゃない
はたから見て変な距離感でも
お互い尊重し合うからこうなるって理解してる)

バイク話は女子が喜ばないってのが通説じゃん
その話でいいの?
良いとこなんて沢山あるぜ!
何と言ってもまずはカッコいい事!
形も剥き出しのメカもエンジン音も
理屈抜きでただ好き!って魂に刻まれてる感じ
操縦テクの追求に終わりが無いのものめり込む原因
新しいパーツが出る限りマシン改造も…
つかマジでこの話続けていいの?(不安)

バイクを極める過程でレーサーに挑戦したけど
レースってのは1人じゃ出来なくて
チームが心血注いで作り上げてくれたマシンを預かる訳で
期待を背負った勝負の栄光や敗北に血が煮えたぎる
でもそんな喧騒から離れて1人旅するのもまた楽しいし
その日の気温でも調子が変わる気難しさとか…

猫の良さだってたくさんあるんだろ?
っと?ホントだ酒!オイル味だったらどうしよう




 己の『愛』を語れと、閉じ込められた者への試練を想いエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は静かに口許に笑みを浮かべた。
「あたしがお祈りする神様はね、博愛主義なの。だからみんな大事だし大切よ」
 勿論、そう真っ直ぐに告げるエリシャにだって特別な大好きは存在する。
 それは――。
「猫ちゃんとか」
 愛らしいふわふわの生き物を想い頬を染める彼女。愛おしい人のそんな言葉と姿を前に、櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は静かに笑みを浮かべる。彼女のその真っ直ぐな姿に嫌な気持ちなんて全く無い。気にする気持ちは微塵も無い。
「みんなが大事って言えて、実際みんなを助けようと頑張れる世話焼きなとこ。すごく気に入ってるし尊敬してるよ」
 それは心からの、陽里の言葉。
 互いに想い合う二人ならば、此処で出るのは互いの名前が一般的なのかもしれない。けれど、それが正解では無い。ヒトの関係はヒトの数だけ存在し、この二人にとってはこれが正解なのだ。傍から見れば変な距離感だとしても、互いに尊重し合っているからこうなっている、そう陽里は理解しているから、気にしない。
 だからこそ、今心から紡いだ言葉は真っ直ぐな想い。
「陽里はそうやって褒めてくれるから……」
 彼の言葉を耳にしたエリシャは金色の瞳を瞬いて、柔らかな頬を淡く染め上げていく。けれどすぐに気持ちを切り替えると、じっと彼を見て唇を開いた。
「陽里はもちろんバイクでしょ?」
 彼が大好きなものは分かっている。
 彼の世界の、彼が愛したもの。それは全く違う世界で生きてきたエリシャには未知の存在だからこそ、折角の機会だから沢山バイクの話を聞かせて欲しいと想う。
 彼女の言葉に、陽里は少しだけ驚いたように瞳を見開いて、彼女の瞳を見返した。
「バイク話は女子が喜ばないってのが通説じゃん、その話でいいの?」
 それは勿論一般論。特に彼女にとっては、未知の存在なのだから更にそうだろうと思うのだ。けれどエリシャは首を振って、彼の好きなものをもっと知りたいと真っ直ぐに言葉にして零した。――男の人のロマンは女性には理解出来ないこともあるけれど、貴方の好きなものならば興味がある。
 だから、沢山聞かせて欲しい。
 傍らの彼女から零れる言葉。その言葉を耳にして、陽里の瞳は自然と輝く。
「良いとこなんて沢山あるぜ! 何と言ってもまずはカッコいい事!」
 形も剥き出しのメカもエンジン音も、理屈抜きでただ好きだと魂に刻まれている感じがする。操縦テクの追求に終わりが無いのものめり込む原因なのだ。
 そんな、語る彼の表情はキラキラと輝き、まるで幼い子供のよう。耳を傾け続けるエリシャの口許には、自然と柔い笑みが浮かんでいた。
「新しいパーツが出る限りマシン改造も……つかマジでこの話続けていいの?」
 饒舌にそこまで語ったところで、陽里ははたと現実へと戻り不安げにエリシャを見た。「大丈夫よ、陽里いい顔してるし。ほら、ちゃんと盃にお酒が満ちてるわよ」
 彼の不安げな表情にくすくすと笑みを零して、エリシャは目の前の台座に鎮座する盃を指差した。二つある盃のうち、一つが彼の言葉に合わせて少しずつ水位を上げていることが確認出来る。揺れる水面は、彼の想いを聞いてどんな酒を満たしているのだろう。
 そして、彼の熱い愛を聞いて。
 分からないながらにも、エリシャに分かったことは――。
「とにかくカッコいいってことね。それはわかるわ、だって猫ちゃんもとにかく可愛いんだもの……!」
 自分の好きなものに置き換えて、理解してくれようとする彼女の姿に確かな愛おしさを感じながら。強く強く陽里は頷いた。
「バイクを極める過程でレーサーに挑戦したけど、レースってのは一人じゃ出来なくて。チームが心血注いで作り上げてくれたマシンを預かる訳で」
 期待を背負った勝負の栄光や、敗北に血が煮えたぎる興奮。
 でも、そんな喧騒から離れてじっくり一人旅をするのもまた楽しい。
 その日の気温でも調子が変わる気難しさなど、向き合えば向き合う程様々な面が見えて来て、様々な感情を芽生えさせてくれるのが陽里にとってのバイクだ。
「レースは一人じゃなくてチームだって前に教えてもらったわ」
 彼の言葉に、こくりとエリシャは頷きを返した。
 かつて聞いた彼の言葉。その言葉を聞いて、彼女はそんな陽里を支えたいと想ったのだ。彼は皆の想いを乗せて走るから、真剣勝負に引き込まれてしまうのだろう。
 語る程に部屋に満ちる花の香りが強くなり、ひとつ鼻を鳴らしたところで陽里は冷静になったのか、自身の鼻を指先でこすりながらエリシャを見る。
「猫の良さだってたくさんあるんだろ?」
 バイクへの愛で輝いていた緑の瞳が、じっと今はエリシャを見ている。その眼差しに、彼の言葉に、こくりと頷き輝いた瞳を向けるのはエリシャの番。
「猫ちゃんは見てて飽きないし、いろんな表情を見せてくれてとにかく可愛いの!」
 あのふわふわの毛並みも。掴み切れないところも。全てが愛おしいと語るエリシャの心の裏では――陽里への想いが満ちていた。
 先程の、好きなものを語っている時の彼のキラキラとした表情を想えば好きだと云う気持ちと共に、敵わないと云う想いが沸く。
 けれど、それで良いのだ。
 好きな人が幸せならば、それが一番。それが――エリシャの心からの幸せ。
 愛を語れば満ちる盃。
 小さな器が一杯になり、溢れ出たのを確認すれば二人は互いに瞳を交わし、その盃を覗き込んだ。盃の中は陽里の方は仄かな緑色、エリシャの方は仄かに青掛かった透き通る液体のように見える。
「飲んでみる?」
「っと? ホントだ酒! オイル味だったらどうしよう」
 自身の、好きなものに対して語った愛を飲み干す二人。
 華やかな香りの裏に、仄かな苦さを陽里が感じたのはバイクを表しているのだろうか。
 かすかに眉をしかめる彼の姿をちらりと横目で見て、エリシャはただただ甘い花と果実の味がする酒を一気に飲み干す。――最後に、ほんの一瞬の不思議な味がしたのは気のせいだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
とっても大事にしている『ぬいぐるみ』のお話をするわ!

ルーシーはね、たくさんぬいぐるみを持っているの
みんな大切なお友だちよ
でも一番の親友はね、このコ!
水色ロップイヤーの、ララっていうの
このコはずうっと昔からいっしょにいるの
ルーシーの最初のお友だちよ!

他にも黒猫のミミ
クマさんのキキ、イルカのフィンフィンに、もっとたくさん
ヌイグルミはルーシーが作ったものもいっぱいあるわ
作り方を教えて下さったのは、亡くなった育てのお母さま
だからヌイグルミ作りはお友だちを増やすって事と
お母さまを思い出すって事でもあったの
ぎゅってするとお母さまにハグしてもらった様で

でもね、最近
大好きなヒトから贈って頂いたり
いっしょにお出かけした先で買ったり
そういう楽しい、「誰か」との想い出になる事が増えた……気がする

お母さまを思い出す事も減って来たの
それが良い事なのかは分からないけれど……
でも、昔とはまた違った意味で
ルーシーはヌイグルミが大好きよ!
前よりももっと、もっと!

わ、盃は一杯になったかしら?




 溢れる程の『愛』の感情。そのひとつを、幼いルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が向けるのは、大切なぬいぐるみ。
 茶色のくまさん。黒いねこさん。星を抱くクジラさんに、ふわふわ触り心地が気持ち良い犬さん。――他にもたくさん、みんなみんな大切なお友だち。
「でも一番の親友はね、このコ! 水色ロップイヤーの、ララっていうの」
 抱いていた水色のうさぎ、片目を瞑った不思議な愛嬌のある子を掲げてルーシーは笑う。この子は、ずっとずっと昔から一緒に居る。
「ルーシーの最初のお友だちよ!」
 その優しい抱き心地は落ち着くし、ずっと一緒に居た大切な子。だからとびきり大切で、沢山の思い出を一緒に紡いできた子だ。
 他にも黒猫のミミ、クマさんのキキ、イルカのフィンフィン。小さな手で指折り名前を挙げては、大好きで大切なお友だちを紹介するルーシー。その中にはルーシーが手づから作った子も沢山居る。
 幼い彼女がぬいぐるみを作れるようになったのは、今は亡くなってしまった育ての母に教えて貰ったから。だからぬいぐるみ作りは、お友だちを増やすことの他。
「お母さまを思い出すって事でもあったの」
 紡ぐと共に、そっと手にしていたロップイヤーのララを抱き締めるルーシー。
 こうしてぎゅうっと抱き締めると、まるでお母さまにハグしてもらった様で温かな気持ちになる。静かに瞳を閉じて、いつかの記憶を感じるように彼女は呼吸をする。
 いつも一緒の子だから、その心地はいつだって同じ。
 だからこそ、心は落ち着きあの日を懐古出来る。
 でも――。
「最近、大好きなヒトから贈って頂いたり、いっしょにお出かけした先で買ったり。そういう楽しい、『誰か』との想い出になる事が増えた……気がする」
 きゅうっとララを抱き締めたまま、閉じていた瞳を開けば。彼女の大きな青い瞳は静かに白の床を見つめている。大理石のように美しく滑らかなそこは、今も『愛』の言葉を受け止めるのを待っている。
 部屋に満ちる甘い甘い香りが、強くなっていく。その香りにふわふわとした心地になるのは、幼い彼女がお酒に酔ったからでは無い。大切な人を、想うから。
 今こうして、猟兵として様々な人と出逢って、絆を紡いで。その結果増えたお友だちは、ぬいぐるみだけでは無い。確かに血の通ったヒトとの出逢いが、ルーシーにはあった。血の繋がりとは違う、確かな絆が。
 そのせい、なのだろうか。
「お母さまを思い出す事も減って来たの」
 きゅうっとララを抱き締めれば、今もあの時と同じ感覚が包み込んでいるのに。思い出すことが出来るのに。その間隔と感覚に変化があるのは、きっと気のせいでは無い。
 それが良い事なのか、悪い事なのか。それはルーシーには分からないけれど……。
「でも、昔とはまた違った意味で、ルーシーはヌイグルミが大好きよ!」
 ――前よりももっと、もっと!
 下げていた視線を上げ、前をしっかりと見て。
 大きな瞳を輝かせる彼女には、先程の影は見えなかった。
 大好きなヒトと、大好きなお友だちとの。数多の絆を感じる大切なぬいぐるみ達。これまでの軌跡も、そしてこれからの軌跡も、沢山の思い出を彼等と共にまだまだ紡いでいきたいと少女は願っている。
 その真っ直ぐな想いを受け止めたかのように、一際花の香りが強くなったかと想えば。中央の金色の盃はすっかり満たされ溢れかえっている。
「わ、盃は一杯になったかしら?」
 とんっと前へと掛け、少しだけ背伸びをして盃を覗き込む小さな少女。
 透明な液体の中に青の花びらがひらひらと泳ぐ様子が見えた時――夢から覚めるように一瞬で白の部屋は溶け、少女は現実へと引き戻された。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月29日


挿絵イラスト