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殲神封神大戦⑯〜花と言の葉

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑯

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●愛と云ふもの
 固く閉じていた蕾が綻び、咲き誇っていく花の如く心に宿る色彩。
 或いは、運命の糸を手繰るかのように出逢ったもの。
 愛しい、恋しい、好ましい。
 想いを感じた相手や物品、概念。きっとそれらは、意思を持つ者であるならば誰でも持ち得る可能性がある感情と存在だ。

 ――愛とは何か。

 今、君は問いかけられている。
 愛とは一言ではあらわせないもの。そして、人によって答えが全く異なるもの。
 されど君は愛への想いを試されることになる。愛しく感じるものについて語らなければならない。それこそがこの領域、三皇女媧の塒においての不文律であるからだ。
 此処は愛を語らねば決して出られない、閉ざされた部屋。
 美しい彫刻のような壁に囲まれた領域で、君が語っていく言の葉は――。

●蕾の彫刻と咲きゆく花
 封神武侠界の人類の祖とされる神、三皇。
 その中で『女媧』と呼ばれている者の祠への道が開いた。女媧はオブリビオンとして蘇ってはいないようだが、塒には不思議な力が巡っている。
「かの領域には通常では固まることのない泥で満たされていてのう。辺りには恐ろしいほどの魔力が充満しているようなのじゃ」
 鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は女媧の塒について語った。
 其処は猟兵が塒に踏み込むと、突如として泥に四方を囲まれてしまう。その後、泥は速やかに固まっていき、美しい彫刻の施された『愛を語らないと出られない部屋』に変わるのだという。
「よく解らぬが、そういった仕組みの場所らしいのじゃ」
 しかし、条件がわかっていれば簡単だ。領域のルールに従って、愛する誰か、或いは大好きな趣味や物品について真摯に語れば魔力を浄化できる。この先の戦場に進むためにも必要なことだと語り、エチカは真剣な瞳を向けた。

 語るのはたとえば、愛しい想い人のこと。
 どれくらい好きなのか。どうして好きになったのか。
 大切な家族がどれほど大切か、大事な友人への思いなどを語るのが良い。
 または自分の好きなものについて。エチカで喩えるならば、大好きな天体や星々の輝きに抱く憧れについて語ればいいということだ。
 誰かと共に向かえば同じ部屋に入れるので、恋人や家族同士で愛を語り合うのもいい。
「そうじゃ、それから……一部の領域にのみ視えている現象なのじゃが、部屋の壁が花の蕾の彫刻になっているらしいのじゃ」
 蒲公英に桃の花、桜に沈丁花、向日葵や躑躅など。
 どのような花の壁になるのかは法則がわからないのだが、どれも一様に蕾のままの状態の彫刻となっている。
 そして、それらは愛を語る度にゆっくりと花ひらいていく。
「花の蕾が完全に開花したとき、出口の扉が現れるようじゃ。つまりは愛の深さや言葉を受けて成長していく花の壁ということかのう」
 不思議な現象だが、目に見えて語る度合いが分かるのはいいことだ。
 存分に愛を語り、好きの気持ちで扉をひらいて欲しい。エチカは真っ直ぐな眼差しを向け、猟兵達に微笑みかけた。
 愛情や親愛、憧憬を抱くことは心の強さにも繋がる。
 いざ、愛しき花を咲かせるために――君だけの想いと言の葉を紡ごう。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『封神武侠界』、殲神封神大戦のシナリオです。
 三皇女媧の祠で愛を語りましょう。

●概要
 愛を語らないと出られない部屋です。名前のままです。
 リプレイは皆様が部屋に閉じ込められた直後から始まります。

 部屋は四角く、周囲は花の蕾の彫刻が施された壁です。
 あなたが愛や好きなことについて語るたび、壁がゆっくりと動いて花がひらいていきます。完全に開花したら部屋に扉が現れ、無事に出ることが出来ます。

 彫刻の花の種類はこちらにお任せください。
 部屋にいる人のイメージや雰囲気に合うお花を選ばせて頂きます。どうしてもこの花がいいという場合はプレイングでご指定ください。

●プレイングボーナス
『誰か(あるいは何か)への愛を語る』

 あなたの愛を語ってください。
 対象は人であっても物であっても、概念でも構いません。恋愛、家族愛、友愛、師弟愛や親愛の気持ちは勿論、自分の趣味について、大好きな物への愛や好きの思い、その他の好意でも大丈夫です。

 同時に部屋に入る人数に制限はありません。
 お連れ様がいる場合は、相手がどれだけ好きか語ったり、グループで恋バナをしたり感謝を伝えあうのも素敵ですね。素直な愛の言葉ではなくても、心の奥底では相手を好いていると感じられる言動なら何でもOKです!

 公序良俗に反している行為や言動は描写できかねます。どうかご了承ください。
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第1章 日常 『愛を語らないと出られない部屋』

POW   :    情熱的に愛を語る

SPD   :    淀みなく愛を語る

WIZ   :    語彙を尽くして愛を語る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

雨倉・桜木
◎/SPD
※祠までの道中に散々愛を語り尽くしています。

あ、祠ついたね!じゃあ、本番いってみよう!

『まだ語れるのかお前は』

え?うん。余裕だけど。

『ソッカーオレアイサレテルナー…』

※以下ノンブレス

キュウダイくんの魅力といえばこの尻尾!見て!体は長毛種の黒毛なのに尻尾だけ短毛種のキジトラなんだ!一猫にニ猫分の魅力を味わえるのは勿論、尻尾の動きがわかりやすい!!例えば尻尾がぶわわってする瞬間が!すごい!わかりやすい!!一緒に遊んでるときなんか、楽しんでくれてるんだなーてわかって思わずニコニコしちゃうよね!他にもー

『ほら、咲いたからもういいだろ』

あ、本当だね。まだ語りたりないんだけれど、まあ、いいか。



●愛猫我愛你
 桜の蕾が折り重なるように彫刻された壁。
 四方を泥が変じた花壁に囲まれた雨倉・桜木(愛猫狂・f35324)は、桜の萼に似た赤い瞳を嬉しそうに緩めた。
「あ、気付いたら祠だったね! じゃあ、本番いってみよう!」
『まだ語れるのかお前は』
 桜木はこれまでにも様々な愛を語ってきた。本番と聞いて思わず突っ込みを入れたのは彼の愛猫である一角猫のキュウダイくんだ。
「え? うん。余裕だけど」
『ソッカーオレアイサレテルナー……』
 こともなげに答えた桜木に対し、キュウダイは淡々とした言葉を返すしかなかった。その尻尾はぱたん、ぱたんと不機嫌そうに揺れている。
 そんなことは気にせず、壁を見つめた桜木は想いを巡らせていった。
 愛猫として傍に居てくれるキュウダイは悪魔。
 人間に虐げられた猫の無念の集合体であるゆえに、その姿は召喚する度に変わる。きっと人への語れぬ恨みなども残っているだろう。だが、人型をとる桜木に対して力を貸してくれている。容赦なく引っ掻かれたり威嚇されたりと当たりが厳しいこともあるが、それもまた良い。
 猫は最高で完璧。鳴き声、眼差し、ふわふわのフォルムが魅力的。
 お宿にある猫部屋で日向ぼっこをする様は愛らしい。エンジェルマークを晒している無防備なお腹がキュートで仕方がない。
 キュートといえば、容姿が変わった際に見られる鼻の色味も素晴らしい。指を向けたときに習性で指先の匂いを嗅いでくれるところも本当に可愛くて、一本角で刺されたとしても止められない。
 それに変わるのは瞳の色もだ。特に桜木が好きなのは金色の瞳であり、陽の光を反射している様子は唯一無二の宝石のようでいつまでも見ていられる。
 丸くなった虹彩がキラキラしているところもナントカ平和賞を受賞してもおかしくないほどに最高オブ最高だ。
 それにキュウダイのお口も完璧に愛らしい。あぐあぐと好物を噛み切る力強さもさることながら、食べ終わった後にぺろりと出す舌なども、一枚ずつ写真に収めて部位別のアルバムにして永久保存版にしたいくらい。
 以上、桜木が一瞬で思い返したキュウダイへの想いだ。
『はやく語れ』
 キュウダイは尻尾でばしばしと桜木を叩き、早く終わって欲しいと願う。
 そして、桜木はまだ語っていない魅力を壁に向けて話し出す。
「キュウダイくんの魅力といえばこの尻尾! 見て! 体は長毛種の黒毛なのに尻尾だけ短毛種のキジトラなんだ! 一猫にニ猫分の魅力を味わえるのは勿論、尻尾の動きがわかりやすい!! 例えば尻尾がぶわわってする瞬間が! すごい! わかりやすい!! 一緒に遊んでるときなんか、楽しんでくれてるんだなーってわかって思わずニコニコしちゃうよね! 他にも――」
『ほら、咲いたからもういいだろ』
 ノンブレスで一気に語り切ろうとした桜木だったが、その言葉はキュウダイの声によって遮られる。はたとした桜木は蕾だった桜花が満開に咲いていることに気付き、愛が伝わったことに気付く。
「あ、本当だね。まだ語りたりないんだけれど、まあ、いいか」
『……まだあるのか?』
 訝しげなキュウダイの声と共に動かされた尻尾が、べしんと桜木を叩いた。しかしそれもまた桜木の愛を募らせるものとなっていく。
 頑張れキュウダイ。負けるなキュウダイ。諦めも肝心だ、キュウダイ。
 桜木の愛語りはきっと、まだまだ続いていくのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクアス・サラザール
咲いていく蕾だなんて、陛下のようです
陛下の代わりに、聞いてくださいね

陛下、陛下
俺の大切な、エステレラ魔王陛下
貴方に出会うまで、俺はただの勇者でした
しがない農村生まれで、たまたま引き抜けてしまった伝説の剣とやらで持ち上げられて
楽しくはありましたよ
それでも、俺には向いてなかったんです
ですがやっと理解しました
俺は貴方に会うために勇者になったんです
魔王を倒すために旅立ったからこそ、貴方に出会えたのです
愛らしい貴方に出会えた瞬間から俺の世界は華やかに、鮮やかになりました
陛下の右腕としてあり続けることこそ、元勇者たる俺の、本当の使命なんでしょう
あぁ、陛下はこれからどんな花に育つのか
見届けますとも。必ず、ね



●忠義の葉
 此処は三皇女媧の塒。
 踏み入ったものに愛を問うかのように泥の壁が四方を囲んでいく。不思議な泥は即座に固まっていき――星型の花、ブルースターの蕾の彫刻壁となった。
「咲いていく蕾だなんて、陛下のようです」
 ルクアス・サラザール(忠臣ソーダ・f31387)は自分を囲む花壁を見渡す。まだ咲き誇っていない花。蕾のままの花はルクアスが忠誠を誓う魔王を思わせるもの。
 愛を語るのであれば何も戸惑う必要はない。
「陛下の代わりに、聞いてくださいね」
 花蕾の壁に手を伸ばし、慈しむように触れたルクアスは双眸を細める。
 陛下、陛下。
「俺の大切な、エステレラ魔王陛下」
 ルクアスはそのまま瞼を閉じた。片眼鏡から耳元に繋がる鎖が静かに揺れる。
 思い返すのは自分が、魔王殺しとも呼ばれる勇者だったときのこと。
「貴方に出会うまで、俺はただの勇者でした」
 ルクアスはしがない農村生まれで、平凡な生活を送っていた。たまたま引き抜けてしまった伝説の剣を手にするまでは――。
 それにより、伝説の勇者だと持ち上げられたことでルクアスの日々は変わった。周囲からの期待や眼差しに少しばかり困ったこともあったのは今となればいい思い出だ。
 振り返ってそう思えるほどには楽しくもあった。
「……けれど、俺には勇者なんて向いてなかったんです」
 ルクアスは瞼をひらき、ブルースターの蕾を撫でる。この壁に色が付くのだとしたらきっと魔王陛下の角のように深い青色だろう。
 そんなことを考えながら、ルクアスは敬愛の思いを言葉にしていく。
「ですがやっと理解しました」
 今ならば分かる。向いていない、止めてしまえばいいのだとも考えていた勇者としての道は必要なものだった。
 何故なら――。
「俺は貴方に会うために勇者になったんです」
 魔王を倒すために村から旅立ったからこそ、貴方に出会えた。
 愛らしい、後に愛おしいとまで感じられるようになった彼女に出会えた瞬間から、ルクアスの世界に花が咲いた。
 華やかに、鮮やかに。そして、彼女こそが何よりも輝く世界の中心となった。ルクアスは花に傅くように片腕を胸の前に添え、恭しく礼をする。
「陛下の右腕としてあり続けることこそ、元勇者たる俺の、本当の使命なんでしょう」
 ルクアスが語った言の葉は心からの思いだ。
 蕾だった壁の彫刻はゆっくりと動き始め、可憐な花が咲いていく。
 きっと、これは魔王陛下の華々しい未来を占うに等しい光景だ。不思議とそのように感じたルクアスは花が咲きゆく姿を見守った。
 やがて、壁には一面のブルースターの花が咲き誇る。ルクアスが見つめていた其処には魔王城、もといログハウスのものに似た扉が現れた。
「あぁ、陛下はこれからどんな花に育つのか楽しみです」
 ルクアスは手を伸ばし、扉に手を掛ける。
 この先に、自分が求める世界と御人がいる。ルクアスは決して揺るがぬ思いを抱き、確かな一歩を踏み出した。
「見届けますとも。必ず、ね」
 星を抱いて生まれた麗しき魔王陛下のために、生きると決めたから。
 其の深緑の瞳は、愛しき花を映し続けるためにある。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・ウィンディア
壁の花は蕾なのね

愛しているよ、アンの事
試しに一つ呟いて

そうね、私は基本退廃趣味だから
朽ちていくものに憧れるわ
だから、この愛もいつか終わる日が来るのだろうと思ってる
でも不思議、愛って相手が居なくなっても思っていられる感情ね
むしろ相手が居なくなってからも好きということはそれは恋ではなくて愛なのだと思うわね

私は喪服を好むのはいずれ朽ちていくこの身だから、今を精一杯生きたいの
いつも死を実感するから、この世界が愛しいの

アンもお姉ちゃん達も大好きだわ
私は生きた友達は少ない方だから余計そう思うし、まして家族は特別愛してる

淡々と語る言葉に澱みはなく
自慢する風でもなく、さも平然と
でもどこか嬉しそうに



●終幕は未だ先に
 女媧の塒と呼ばれる祠。
 愛を語らねば出られないという領域に向け、自ら歩んでいったリオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)は周囲を見渡す。
 聞いていた通り、固まることのない泥に四方を囲まれている。その壁が花の蕾を模した彫刻になっていることを確かめ、リオは冷静に状況を判断した。
「壁の花は蕾なのね」
 リオの視線の先にはフランネルフラワーと呼ばれる花の蕾が見える。その花が開花したとき、充分な愛を語りきったと判断されるのだろう。
 そっと壁に向かったリオは愛しい人の事を想う。
「――愛しているよ、アンのこと」
 試しに一つ呟いてみれば、一部の花が緩やかに動いていった。どうやら本心からの言葉だと見做されたらしい。
 それでも、たった一言だけでは出口は現れないようだ。
 リオは少し考え込んでから壁の花に触れた。
「そうね、私は基本退廃趣味だから朽ちていくものに憧れるわ」
 花も咲いてしまった後はただ枯れ落ちていくだけ。枯れたことを惜しむのではなく、その姿もまた自然の摂理であり美しいものだと感じる。
「だから、この愛もいつか終わる日が来るのだろうと思っているの」
 リオは本当のことを語っていく。
 嘘も偽りもない、自分自身の正直な思いだ。夢見がちな少女であれば愛や恋、いとしいものが永遠であること願うだろう。
 だが、リオはそうではない。しっかりと現実を見据えて、いつか訪れる終焉という結末を認識している。されど語りたいのはそういうことではなかった。
「でも不思議なの」
 首を横に振ったリオは指先でフランネルフラワーの蕾をなぞる。触れた泥からまた、不可思議な感覚が伝わってきた。
「愛って相手が居なくなっても思っていられる感情ね」
 むしろ、愛とはそれこそが本質。相手が居なくなってからも好きでいられるということは、それは恋ではなく――本物の愛なのだろう。
「私は喪服を好むのは、いずれ朽ちていくこの身だから」
 今を精一杯に生きたい。
 いつも死を実感しているからこそ此の世界が愛しいと想えた。もし誰とも関わることなく、世界にひとりぼっちであったならばリオは愛を知らなかったはず。
「アンもお姉ちゃん達も大好きだわ」
 リオは心から溢れた思いを言の葉にしていった。
 自分には生きた友達が少ない。それゆえに余計にそう思っているのだろうし、家族は特別に愛していると云える。
 淡々と語っていく言葉は澱みなく、本当の想いが籠められていた。
 その口調は自慢する風ではなく、さも平然としたものだ。それでいて何処か嬉しそうなものでもあった。
 やがて、蕾は花として咲き誇っていく。
 高潔と誠実の名を持つ花壁に現れた扉を潜り、リオは双眸を穏やかに緩めた。
 さあ、進もう。
 いつか来る終わりを識っていても、歩む足を止める理由にはならないのだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

張・西嘉
愛を語るか…何と言うか少々恥ずかしいな
まぁ、本人に語るよりはマシだが壁に語ると言うのも不思議だが。

俺が愛しているのは主でもある瞬だ。
主従としての忠誠はもちろんあるがそれを超えて愛してもいる。
瞬を愛したかったし瞬自身も望んでくれたからな…。
歪な関係にも見られるかもしれないが俺達にとっては何より理想の型だ。
瞬は孤独だった人を信じなかった。
だから笑うことすらなかった。
けれど俺に笑みを向けてくれた。
その日から俺は瞬を愛していたよ。

さて、主の…瞬の好きな花が咲けば嬉しいのだがな。



●花火華
 封神武侠界において、人類の祖とされる神・三皇。
 其の中で女媧と呼ばれる存在が君臨していたという祠だ。本来ならば此処に居るはずの女媧はオブリビオンとしては蘇ってはいないらしい。
 だが、この場所には消えることのない炎と固まることのない泥で満たされており、恐ろしい魔力が充満していた。
 張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)が訪れたのは泥で満ちる領域。
 侵入者を察知した泥は瞬く間に西嘉を包み込みながら固まり、美しい彫刻の施された『愛を語らないと出られない部屋』に変貌していった。
 壁の彫刻に施された花は梔子。まだ蕾の状態のそれはまるで、西嘉に愛とは何かと問いかけてきているようだった。
「愛を語るか……」
 頬を掻いた西嘉はばつが悪そうに下を向く。そうした理由はこの部屋の仕組みを妙なものだと感じたからだ。
「何と言うか少々恥ずかしいな」
 正直な言葉を零した西嘉は壁をじっと見つめる。何も語っていない現状、壁の彫刻は何の反応も示さなかった。
「まぁ、本人に語るよりはマシだが……壁に語ると言うのも不思議だな」
 西嘉は今の状況を冷静に判断しながら肩を竦めた。
 様々な不思議が起こるのが当たり前であり、この世界の在り方でもある。特に仙界ともあれば人智を超えた力があってもおかしくはない。
 西嘉は呼吸を整え、壁に向かって自分が持つ愛について語り始めた。
「俺が愛しているのは主でもある瞬だ」
 はっきりと言葉にした西嘉は、真っ直ぐに壁を見つめる。
 主従としての忠誠はもちろんあるが、西嘉はそれを超えて彼を愛している。まだ恥ずかしい気持ちを抱いている西嘉は視線を下に落とした。
「瞬を愛したかったし、瞬自身も望んでくれたからな……」
 西嘉はこれまでの日々を思い返す。
 気付けばいつも彼と一緒にいた。様々な戦いや催しに趣き、それぞれに疑問や思いを抱きながらたくさんの時間を過ごした。
「歪な関係にも見られるかもしれないが……」
 世間一般から見ればそうなのだろう、と考えた西嘉は僅かに言い淀む。
 だが、此処には自分以外は誰もいない。語りきらなければ外に出られないのならば、思いきって話してしまう方が良い。
 意を決した西嘉は一気に思いを声にしていった。
「俺達にとっては何より理想の型だ。瞬は孤独だった人を信じなかった。だから笑うことすらなかった。けれど俺に笑みを向けてくれた」
 西嘉はもう言い淀むことはなかった。
 ただ、自分の裡にある想いを言葉として壁に向けていく。
 そして――。
「その日から俺は瞬を愛していたよ」
 西嘉が言い切った瞬間、蕾だったはずの梔子の花が美しく花開いた。彫刻が動き、其処に扉が現れるという不思議な光景を見つめながら、西嘉は安堵する。
「さて、出るか。主の……瞬の好きな花が咲けば嬉しかったのだがな」
 そうして西嘉は歩き出す。
 愛しい者の元に戻り、此の胸に抱く愛を確かめに行くために。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
えくるん(f07720)と参加

えくるんへの愛を語ればいいのね?
それならたまにはちゃんと言葉にしてみようかな。

もう何年かな?
わたしの瞳の色を褒めてくれた事、今でも忘れてないの。

何度も絶望して、何度も心を閉ざして、その度にあなたはわたしに寄り添って、わたしを救い出してくれた。

あなたに出会ってから今日まで一日も感謝しなかった事はないの。

だからありがとう。出会ってくれてありがとう。救ってくれてありがとう。受け入れてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。幸せにしてくれてありがとう。

そんな可愛くて優しくて明るくて楽しくて頼もしくて誰よりもカッコいいえくるんの事、これまでもこれからも誰よりも愛してるの!


七那原・エクル
七那原・望(f04836)と参加

ボクも望のことちゅきだよ~♪
いっぱいだいちゅき~♪

誰かのためにならなくちゃって、迷っていたところに君が現れて、ボクを必要としてくれたことがすごく嬉しかったし、救われたよ。最初は全力で真っ直ぐに好意を向けてくるところに翻弄されたりしたけど、それは望の期待に応えられるか自信がなかったからなんだと思う。

今はむしろドンとこいだね。
望の翼や髪はいい香りがするし、たくさん触りしたいし、いちゃラブしながら一緒に遊んだりしたい!
望が喜んでくれるなら、女の子の服を着て一人観客の撮影会するのも厭わないし、望のちょっと困った顔とか、めっちゃ萌えるんだよ~♪



●大好きな想い
 此処は愛を語らないと出られない部屋。
 この領域の主である女媧は蘇ってはいないようだが、この場所に踏み込むと、突如として固まることのない泥に四方を囲まれてしまうのだ。
 速やかに固まった泥は美しい彫刻の施された愛の部屋に変わった。
 七那原・望(封印されし果実・f04836)と七那原・エクル(ツインズキャスト・f07720)は周囲を見渡し、自分達が同時に部屋に閉じ込められたことを知る。
「わ、すごい場所だね」
「えくるん、大丈夫だった?」
「平気だよ。壁が花の蕾の彫刻になっただけだからね」
 猟兵は此処で愛する誰かについて真摯に語らなければいけないと聞いていた。そうすることで魔力を浄化できるからだ。
 望とエクルは、桜と白妙菊の蕾が見える彫刻の前で状況を確かめる。
「つまり、えくるんへの愛を語ればいいのね? それならたまにはちゃんと好きって言葉にしてみようかな」
 望がぐっと気合を入れると、エクルが破顔した。
「ボクも望のことちゅきだよ~♪」
「えくるん……♪」
「いっぱいだいちゅき~♪」
 素直な言葉を告げてくれるエクルに嬉しげな反応を返し、望は頬を押さえる。そうしていると周囲の花がゆっくりと動いていった。
 二人の間にある愛と好きの気持ちが本物であるからだろう。
 望はこの調子だと感じ、エクルも更なる想いを言葉にしようと決める。そして、最初はエクルが望への想いを語っていく。
 エクルは愛しい人を見つめ、世界で一番大好きだと話した。たとえ世界線を越えたとしても、誰よりも愛しい相手。それがエクルにとっての望だ。
「誰かのためにならなくちゃって、迷っていたところに君が現れて……」
 エクルは望と出逢ったときのことを思い返す。
「君がボクを必要としてくれたことがすごく嬉しかったし、救われたよ」
 満面の笑みで語るエクルの言葉は本心からのものだ。その声を聞き逃さないようにしながら、望は彼が紡ぐ次の言葉を待つ。
「正直言うとね、最初は全力で真っ直ぐに好意を向けてくるところに翻弄されたりしたけど、それは望の期待に応えられるか自信がなかったからなんだと思う」
「えくるん、そうだったの?」
「でも今はむしろドンとこいだね」
「良かった……!」
「だって望の翼や髪はいい香りがするし、たくさん触りしたいし、いちゃラブしながら一緒に遊んだりしたい! 望が喜んでくれるなら、女の子の服を着て一人観客の撮影会するのも厭わないし、望のちょっと困った顔とか、めっちゃ萌えるんだよ~♪」
「えへへ、えくるんったら」
 一気に想いを語ったエクルに笑みを返し、望は頬を染める。
 彼と過ごす日々は何より楽しくて嬉しくて幸福だ。望も自分の想いを伝えていきたいと感じていき、愛を言の葉にしていく。
「もう何年かな? わたしの瞳の色を褒めてくれた事、今でも忘れてないの」
「懐かしいね」
 望が思い返していたのは、エクルから貰った大切な言葉のこと。
 封印の目隠しを施されている望はこれまで、何度も絶望してきた。何度も心を閉ざして、何度も哀しい思いを抱え込んだ。
 それでも、エクルはずっと望の傍にいてくれた。
「絶望する度にあなたはわたしに寄り添って、わたしを救い出してくれた。あなたに出会ってから今日まで一日も感謝しなかった事はないの」
 だから、ありがとう。
 出会ってくれてありがとう。救ってくれてありがとう。
 受け入れてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。
 それから、幸せにしてくれてありがとう。
 たくさんの感謝と共に愛を語った望はエクルの前にそっと立つ。エクルは腕を伸ばし、望を優しく抱き寄せた。
「こちらこそありがとう。これからもずっと一緒にいようね♪」
 明るく笑ったエクルの眼差しが優しい。
 望も彼の背に手を伸ばし、精一杯の気持ちと想いを返した。
「もちろん! そんな可愛くて優しくて明るくて楽しくて頼もしくて誰よりもカッコいいえくるんの事、これまでもこれからも誰よりも愛してるの!」
「ボクもだよ~♪」
 想いを改めて伝えあったことで周囲の壁が変化していく。
 桜と白妙菊の蕾はいつの間にか花ひらいており、二人が抱いている想いのように満開になった。そうして、出口としての扉が現れる。
 頷きあった二人は手を重ね、扉の向こうに歩んでいった。
 掛け替えのない大切な気持ちを抱きながら――これからも共に居ることを誓った望とエクルの愛はきっと、永遠とも呼べるものだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
愛というか、感謝になるけど…
龍狼師団の団長への想い、伝えようかな

自他共に認める性格の悪さはフォローできないけど
それでも…僕はちゃんとわかってるから
あの人は、自分にも他人にも素直になれないだけ
抱えた悲しみを誰かに気付いてほしくて
だけど弱音の吐き方もわからなくて、八つ当たりしちゃうだけ
誰かに痛みを共有してほしい、それがそのまま行動に出ちゃうだけ

本当は…誰よりも周りをよく見てるよ
僕が体調崩した時も、一番最初に気付くのはいつもあの人だから
僕の性格も知ってて気付かないフリ、してくれるけど

こんな事伝えたら、あの人また情緒不安定になっちゃうから
本人の前では言わない
代わりにその気持ちを全部、ここに置いていくね



●凌霄葉蓮の想
 愛と呼ばれるもの。
 それは恋愛以外にも様々な意味合いを含んでいる。
 たとえば親愛。友愛もあれば、家族愛や兄弟愛、無償の愛や慈愛というものまである。それならば感謝という感情も親しい人への愛になるのだろう。
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はナスタチウムの蕾が彫刻となった壁を見つめ、思いを馳せる相手を思い浮かべていく。
「愛というか、感謝になるけど……」
 こくりと一度だけ頷いた澪は未だ花が咲いていない彫刻壁の前に立つ。
 澪が思い浮かべていたのは恋人の姿ではない。
「龍狼師団の団長への想い、伝えようかな」
 その人のことを言葉にした澪はそっと瞼を閉じた。胸裏に蘇っていくのは、彼や師団の仲間達と過ごした日々のこと。
 そうして、澪は思うままの言葉を述べていく。
「あの人は……彼は――うん、そうだね。自他共に認める性格の悪さはフォローできないけど、それでも僕はちゃんとわかってるから」
 ふふ、と小さく笑った澪は瞼を開いた。
 悪いところを知っていて、認めているからこそ、あけすけに言っても構わない。紳士的であるのは表の面だけで、本性は腹黒で鬼畜で悪魔のような彼。それを皆が認めているからこそ今の関係がある。
 それに、と澪は少しだけ俯いていた顔を上げた。
「……あの人は、自分にも他人にも素直になれないだけ」
 きっと、澪と彼は少しだけ似ている。
 抱えた悲しみを誰かに気付いて欲しい。けれども、弱音の吐き方もわからなくて、上手く昇華できない思いを周囲にぶつけて八つ当たりをしてしまう。
 誰かに痛みを共有して欲しい。
 誰かに理解して欲しい。誰かに、心が孤独なのだと分かって欲しいだけ。
「たぶんね、それがそのまま行動に出ちゃうだけなんだ」
 澪が紡いでいく言葉は柔らかい。
 其処に籠められているのは親愛の気持ちだからだ。苦しいと思う気持ちは誰よりも共感できる。そして、そういった感情をどうやって外に出すかを知らなかったことも、澪にはよく分かってしまう。
 本当は分からない方が幸せだと呼べるのだろう。
 素直に気持ちを出していい。思ったことを言葉にできる。そのように育ってきた人は周囲に恵まれているということだからだ。
「本当は……誰よりも周りをよく見てるよ。僕が体調を崩した時も、一番最初に気付くのはいつもあの人だから」
 それに澪の性格も知っていて気付かないフリをしていてくれる。
 だが、それを直接あの人に言うことはない。きっとこんなことを伝えたら、また情緒不安定になってしまうからだ。
「分かってるから、本人の前では言わないんだ」
 壁の蕾はゆっくりと動き出し、花を咲かせていく。それは澪が抱いている感謝と親愛の気持ちが愛だと認められたということだ。
 そうして、澪は現れた扉に手を掛ける。開いた先は次に続く道が視えた。澪は胸元にそっと手を当てる。
「だから――代わりにこの気持ちを」
 最後に一度だけ振り向いた澪は、花咲く壁の部屋に向けて自分の思いを告げた。
「全部、ここに置いていくね」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、愛を語るなんて無理ですよ。
恋だってまだなのに。
アヒルさんなんですかその当てが外れたみたいな表情は。
いつも恋とか愛とか叫んでいるから楽勝だと思ったって、まだだから憧れているんですよ素敵な恋に。

でもどうしましょう。
物への愛着もよかったんですよね。
でしたら、私の帽子愛を・・・。
ふええ、アヒルさんのここでそれを選ぶのかって視線が痛いです。
ふえ?いつもおっちょこちょいで何をやらせてもうまくいかず、無駄に空回りばかりしているって、それ私のことですか?アヒルさん。
でもめげずに実力もないのに挑戦し続けている。
そんな私のことが・・・ってアヒルさんそれって。
見ていて飽きないって、何でそうなるんですか?



●これもまた親愛
 愛を語らなければ出られない部屋。
 それは即ち、愛さえ語れば出られる場所という意味でもある。
 しかし、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は困り果てていた。周囲を彫刻の壁に囲まれた現状、壁に彫られている蕾が秋明菊であることを確かめる余裕もないほどだ。
「ふええ、愛を語るなんて無理ですよ」
 恋だってまだなのに、と首を横に振ったフリルは目を瞑った。
 自分で恋と口にしたからか、両手を自分の頬に当てたフリルは素敵な恋愛について思いを馳せている。
 すると、アヒルさんががっかりしたように羽を竦めた。
 その様子に気付いたフリルは閉じていた瞼をひらき、相棒ガジェットの方を向く。
「アヒルさんなんですか、その当てが外れたみたいな表情は」
 部屋の中央に座り込んだアヒルさんは、どうやら今回のミッションが長丁場になると踏んだようだ。フリルもちょこんと隣に座り込んで一息つく。
「いつも恋とか愛とか叫んでいるから楽勝だと思ったって……まだだから憧れているんですよ、素敵な恋に」
 溜息をついたフリルは部屋を見渡す。
 ただ出られないだけの四角い部屋であり、危害が加えられるようなこともないだろうが、このままでは恋をする機会も与えられずに一生閉じ込められたままだ。
「でも、どうしましょう。物への愛着もよかったんですよね」
 フリルは愛とはひとつの意味ではないことを思い出す。
 そして、思い立ったフリルは自分の頭上に手を伸ばした。ぎゅっと帽子を引いてしっかりと被り直したフリルは、勢いよく立ち上がる。
「でしたら、私の帽子愛を……」
 しかし、その言葉が終わる前にアヒルさんの視線が突き刺さった。ここでそれを選ぶのか、という意思を痛いほどに感じたフリルは眉を下げる。
「ふええ、アヒルさんとしては帽子愛は駄目なのですか?」
 そうしていると、アヒルさんはフリルへの思いを語り出した。
 フリルはこくこくと頷いて、ガジェットの言いたいことを声に出していく。フリルとしては、アヒルさんが大切に想う何かについて語っていると感じているようだ。
「ふえ? いつもおっちょこちょいで何をやらせてもうまくいかず、無駄に空回りばかりしている……そんな人がアヒルさんの大事な人なのですか?」
 不思議そうに首を傾げたフリルは、そんな人がいるのかと疑問に思った。そして、すぐに目をぱちぱちと瞬く。
「って、それ私のことですか?」
 フリルが投げかけてきた問いかけに対してアヒルさんは何も答えなかった。その代わり更に思い語っていく。
 少女は実力もないのにめげずに挑戦を続けている。
 ぼんやりしているようだが、状況の適応力だけは高い。そんな彼女のことが――。
「アヒルさんそれって……」
 フリルは少しどきっとした。アヒルさんがそんな風に思っていたなんて。そんな勘違いしそうにもなったが、すぐにアヒルさんは言葉を続けた。
「見ていて飽きないって、何でそうなるんですか?」
 ふえぇ、といつもの声が部屋に響き渡る。その背後で壁の花が美しく咲き誇り、出口の扉が開いていった。
 少女がそのことを知るまであと数分はかかるだろう。
 その間のアヒルさんは、フリルがいつ気が付くのかという楽しい観察を続けていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
藍ちゃんくんは究極的には自分にしか興味が向いていなかったのでっす。
ある種の求道だと称されることもあるのでっすがー。
藍ちゃんくんは笑顔で藍ちゃんくんを完結できる。
そんな最後を目指して生きてきたのでっす。

でっすから、ええ。
藍ちゃんくんよりずっと長生きするおねーさん(恋人)の。
藍ちゃんくんが死んだ後のことを想ってしまった時に。
藍ちゃんくんが完結した後の、藍ちゃんくんではない誰かのことを想ってしまった時に。
ああ、藍ちゃんくんはおねーさんのことが好きなのだと。
藍ちゃんくんにとっての特別なのだと気づいたのでっす。

藍ちゃんくんはおねーさんを“藍”してるのでっす。
愛では足りない丸ごと全部で。
藍してるのでっす。



●藍ゆえにあいを語る
 愛という言葉の意味は人によって千差万別。
 他者に向ける愛。自分に抱く愛。或いはもっと別のものに向ける感情。
 領域に踏み入り、四方を壁に囲まれた紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は、その彫刻が藍と呼ばれる花の蕾であることに気付く。
 この花々が咲けば、壁の部屋の外に続く扉が現れるという。それならば語るしかない。あいゆえに、愛たる藍を。
「藍ちゃんくんは究極的には自分にしか興味が向いていなかったのでっす」
 蕾に向け、藍は嘗ての自分について話していく。
 反応がないのは少しばかり寂しいが、きっとすぐに応えてくれる。藍は壁の彫刻が僅かに動いていったことを確かめ、言葉を続けた。
「ある種の求道だと称されることもあるのでっすがー。藍ちゃんくんは笑顔で藍ちゃんくんを完結できる。そんな最後を目指して生きてきたのでっす」
 自分をあいせば、世界は輝く。
 何故なら自分こそが至上で、自分だけが尊ぶべきものだからだ。それは悪いことではない。己に余裕があれば周囲の者にも手を差し伸べることが出来る。自身だけに興味が向いているとしても、こちらに興味を持ってくれる人がいればそれもまた自分という範囲の出来事になる。
「でっすから、ええ」
 藍は少しだけ言葉を止め、今は当初の自分とは違うのかもしれないと語った。
 想うのは大切だと感じている人。
 恋人という関係になってくれた、大好きな彼女のことだ。
「藍ちゃんくんよりずっと長生きするおねーさんの、藍ちゃんくんが死んだ後のことを想ってしまった時に――」
 俯いた藍は遠い未来のことを思う。
 いつか、在り得るかもしれない世界。いずれ訪れる別れの可能性。それがどんなものであっても、一度考えると胸の奥が軋むような感覚がした。
「藍ちゃんくんが完結した後の、おねーさんが藍ちゃんくんではない誰かのことを想ってしまった時に、思ったのでっす」
 藍が見つめている壁の彫刻は静かに動き始めた。
 蕾が花として咲いていく。自分という蕾にしか興味がなかった藍の心が花ひらき、彼女に向かって咲いたときのように。
「ああ、藍ちゃんくんはおねーさんのことが好きなのだと。藍ちゃんくんにとっての特別なのだと気づいたのでっす」
 特別でありたい、或いは特別にしたいと願ったこと。
 それは執着であり、固執であり、拘りなのかもしれない。それでもこの気持ちに嘘はつけない。藍は、目の前で咲いていく藍の花を見つめ続けた。
「藍ちゃんくんはおねーさんを“藍”してるのでっす」
 その言葉を紡ぎ終えたとき、壁に扉が現れた。愛以上の藍。藍としてのあい。一歩を踏み出した藍は扉に手をかけながら明るく笑う。
「愛では足りない丸ごと全部で。藍してるのでっす!」
 その背を見送るように、彫刻として咲いた藍の花が満開になっていく。
 藍という名を持っていても、その花の色は名前の通りのものではない。藍の花の色、それは――熱く燃えるハートのような彩りの淡紅色だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
◎きょうは、ひとりで
愛ってなんだろう?
うれしい、楽しい、あたたかい、おいしい、好き、しあわせ
ミフェットは、色んな気持ちを知っているけど、愛はきっと気持ちじゃない

世界につながらデータベースの中から愛の断片を拾い上げて
ぜんぶをつなぎ合わせても、ぴったりの形にならなくて
じゃあ、つなぎ合わせない
いらないものを削っていって、削ってさいごに残るもの

わたしとあなた。その二つの間にあるものが愛!

うん、ミフェットはこの答えでいい
だからこれから語るのは、ミフェットから、聞いてくれるあなたへの歌
だれかが歌を聞いてくれる、それがすごく嬉しくて、幸せで、あたたかいから

聞いてくれて、ありがとう、たくさんたくさん愛してる!



●歌に愛を
 愛を語るまでは決して出られない部屋。
 彫刻で作られた蕾の模様はとても美しい。しかし、四方に出現した壁はミフェット・マザーグース(造り物の歌声・f09867)を此処に閉じ込めてしまっている。
 ――愛を語れ。
 まるでそのように言われているように感じ、ミフェットは首を傾げた。
 蕾のままの花が何なのかはわからない。見覚えがある気がするのだが、咲いてみなければミフェットにはどの花であるのか判断できなかった。
 この蕾の正体を知るためにも、やはり愛を語らなければならないだろう。
 そして、ミフェットは純粋な思いを疑問の言葉にする。
「愛ってなんだろう?」
 ミフェットも愛という言葉の意味は分かっていた。だが、いざそれを語れと云われた場合、何が愛であるのか迷ってしまう。
 たとえば――うれしい、楽しい、あたたかい。
 おいしい、好き、しあわせ。きになる、どきどきする、ふわふわする。
 たくさんの気持ちをミフェットは知っているが、愛はきっと気持ちだけのことを表すものではないはず。
 ミフェットは手を伸ばし、花蕾の彫刻に触れてみる。
 固まらない泥だったものが変化した壁は不思議な手触りがした。愛をちゃんと語れば蕾が花になっていくというのも妙だ。けれども、なんだか自分と似ていると感じたミフェットはそっと蕾を撫でる。
 そうして、ミフェットは思いを巡らせた。
 世界中につながっているデータベースの中から愛の断片を拾い上げて、ぜんぶをつなぎ合わせても、ぴったりの形にはならない。
 誰かの愛をミフェットが知っても、それは自分の愛にはならないから。
 違う誰かに向けられた告白を受け取っても、ちぐはぐなものになってしまう。
 また、ミフェットが知らない人に愛を告げても意味はない。
「つながらないなら……」
 ミフェットは一度だけ目を閉じ、首を横に振った。
 膨大なデータは分析の助けになる。しかし、愛はデータで語れるものではない。
「じゃあ、つなぎ合わせない」
 瞼をひらいたミフェットは自分なりに導き出した答えを声にしていく。
「いらないものを削っていって、削ってさいごに残るもの」
 たくさんの気持ち。
 いっぱいの想い。そして――。
「わたしとあなた。その二つの間にあるものが愛!」
 形のないものだからこそ、答えは哲学的なものにもなってしまう。それでもミフェットが辿り着いたのはIとIの間にある心がそうだという結論だ。
「うん、ミフェットはこの答えでいい。だからね、これから語るのは――ミフェットから、聞いてくれるあなたへの歌」
 だれかが歌を聞いてくれること。
 それはすごく嬉しくて、幸せで、あたたかいから。

 目を閉じて ほんの少しだけ 思い出して
 胸のそこにしずんでる 暖かいばしょ
 その陽の光は いつでもみんなを照らしてる

 ミフェットが歌を紡ぎ終えたとき、其処には――ブローディアの花が咲いていた。
 この花だったんだ、と感じて嬉しくなったミフェットは現れた扉に手を伸ばす。ひらいた扉の先は次に続く路。
「聞いてくれて、ありがとう」
 そっと振り返ったミフェットは、感謝の気持ちを言の葉にした。

 ――たくさんたくさん愛してる!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
見事な意匠があると聞いたぜ
しかも花開くそうじゃねえか!
いや楽しみだ

…あれ
…あゝ…肝心な事を忘れてやがったな
星でも良いってんなら、俺ァ絵だな

好きなんだろうな、紺屋を継がぬと決める程には
此の目で見た物を写してェ
花が好きでよ、時節毎の移り変わりや日毎変わる姿を残したかったのさ
其れで、見たことねェ物も描きてェ
神だ仏だのはある種空想だったが、今となっちゃそうもいかねェ
…マ、どちらも楽しいサ
線が形に成り、無から命が生まれるんだからよ
すれにここン処、俺が描く姿を好いと云う奴も居るんでね

…其れを話しても良かったんだが、ちいと言葉にならねェ
すれに此処で云っても仕方がねェ
其奴に直接云ってやるよ



●円と縁
 瞬く間に作られる花の彫刻壁。
 それまで泥だったものが、領域に踏み入った途端に美しい菊の蕾を模した彫刻になっていく。その様子を確かめた菱川・彌三八(彌栄・f12195)は目を見張る。
「へェ、確かに見事な意匠だ」
 繊細な菊の花弁が閉じている様相は、絵にするとしても手間暇が掛かるもの。それを彫刻で表すとしたら更に時間と技術が必要になるのだが、この不可思議な壁は一瞬で成し遂げてしまった。
 事前にそのことを聞いていたが、実際に目の当たりにすると感嘆の声が溢れる。
「しかも花開くそうじゃねえか! いや楽しみだ」
 まだ彫刻は蕾の状態ではあるが、後に動いて開花するという。彌三八は暫し興味深げに壁を眺めていたが、不意にはたとした。
「……あれ。あゝ、肝心な事を忘れてやがったな」
 開花を見届ける、もとい此の部屋から出るには愛を語らなければならない。確か人相手ではなく、自らが好むものでも良いと聞いていた。たとえば天体や星の巡りについての憧憬や想いでもいいわけだ。
「語るのが星でも良いってんなら、俺ァ絵だな」
 胸に手を当てた彌三八は軽く呼吸を整え、改めて壁を見つめる。
 思い返すのは家業のこと。
 もし自分に何も志すものがなければ、彌三八は家を継いでいただろう。だが、そうならなかったのは――。
「好きなんだろうな、紺屋を継がぬと決める程には」
 いつからか、彌三八には家業よりも大切に思えるものが出来た。
 それは絵。絵筆を取り、世界を描くこと。
「思ったんだ、此の目で見た物を写してェ、とな」
 彌三八は筆を持つ仕草をして、はじめて自分で絵を描いた日のことを思う。生来の感覚故か、花にとても関心があった。
 道端に咲く蒲公英。庭先に植えられた朝顔や夕顔。美しく整えられた杜若や菖蒲、野に広がる彼岸花。
「花が好きでよ、時節毎の移り変わりや日毎変わる姿を残したかったのさ」
 ひととせが巡れば、花模様も変わる。
 それに加えて、彌三八には描きたいものがある。絵が上達して花も描き尽くした頃、ふと思い立ったのだ。
「其れで、見たことねェ物も描きてェと思い始めたのサ」
 神や仏、想像上の生き物。そういったものは猟兵になるまではある種の空想だったが、今はそうでもない。それであっても神秘の存在を絵にすることに惹かれた。たとえば鳳凰や空舞う千鳥。意のままに紡ぐ波濤。
「……マ、どちらも楽しいサ。線が形に成り、無から命が生まれるんだからよ」
 紺屋を継がなかったことを何も思わないかというと、少しばかり嘘になる。しかし、絵の道を選んだ自分も嫌いではない。
「すれにここン処、俺が描く姿を好いと云う奴も居るんでね」
 ふ、と彌三八口許を緩めたとき、壁の蕾がゆっくりと動き出した。まるで早回しでもしているかのように菊の花はひらいていく。
 己のいとしきもの、即ち愛にも等しい絵への思いは通じた。
 満足気に菊の開花を見守っていた彌三八は、ふと自分の言葉を思い返す。己のことを好いてくれる者。彼の相手のことを語っても良かったのだが――。
「……其奴について話しても良かったんだが、ちいと言葉にならねェ」
 其れ故に未だ、想いは心の中に。
 もし此処で語れたとしても本人がいないのでは意味がない。彌三八は菊の花壁に現れた引き戸に手を掛け、歩き出す。
「すれに此処で云っても仕方がねェしな、其奴に直接云ってやるよ」
 此れも亦、愛と呼ぶのだろうか。
 告げた相手の表情がどのように変わるか想像しながら、彌三八は進む。
 己が信じた路を、自分を信じてくれる相手と共に往く為に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
◎ラナさん(f06644)
そんな…誰に見られてるかもわからないのに…
ラナさんへのあ、愛を…語…??
(耳で顔を覆ってぷるぷる)

どこが好きとかそういうの、全部ひっくるめて好き…
っていうのは駄目ですかね…?
多分、初めて逢った時からそうだったと思うんですけど…
笑顔とか仕草とか色々可愛い所も一生懸命な所も好きだし
何より俺と一緒に居てくれるラナさんが…
すごく…すき、……あ、愛し…てます……!(顔真っ赤)
……あの、
語るだけで大丈夫、ですよね…?
きす…とかはここではしなくても…?
(ラナさんをチラ見)
…しますか…?
勢いで言っちゃいましたけど…
俺は、嫌じゃないですから…
(真っ赤な顔のまま、そっと触れるだけのキスを


ラナ・スピラエア
◎蒼汰さん(f16730)

蒼汰さんへの、愛…
改めて、目の前で言葉にするのは恥ずかしいです
その熱も、声も、振る舞いも
勿論顔だって
全てが好き

でも、一番好きだと想ったのは
新しい世界へと連れ出してくれて
魔法を好きな私を認めてくれる
優しいところ
でも優しすぎて、無茶をしてしまうところ

自分の言葉だけで顔は赤いのに
蒼汰さんの言葉に更に赤くなる
けれどそれ以上に嬉しい気持ちが強くて
彼の前ではもっともっとと
我儘になってしまう私のことを
こんなにも包み込んでくれる彼の事が
…私も、愛しています

キ…!?
あの、えっと…
誰かの視線を探すように辺りを見渡して
でも、嫌では無いから…
はい、大丈夫、です
震える声で頷いて
静かに瞳を閉じる



●愛しの花と月
 此処は愛を語らないと出られない部屋。
 名前の通りであり、それ以上でも以下でもないのだが――閉じ込められた月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)とラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)にとっては、とても複雑な状況だ。
 周囲四方は泥が変じた彫刻壁に覆われており、二人を囲むようにグロリオサとシンビジウムの花の蕾が見える。それもまた彫刻であるのだが、彼らの愛が語られる時をじっと待っているように思えた。
「そんな……誰に見られてるかもわからないのに……」
「蒼汰さんへの、愛を……」
「ラナさんへのあ、愛を……語……??」
 蒼汰はロップイヤーで顔を覆ってぷるぷると震えている。まるで仔兎のような彼の隣で、ラナも頬を淡く染めていた。
「改めて、目の前で言葉にするのは恥ずかしいですね」
「はい、恥ずかしすぎて……」
「ですが、誰も見ていないようですよ……?」
 ラナは周囲を見渡してみる。花の蕾は不思議な雰囲気だが、視線のようなものは感じられない。敢えて言うなら聞かれているという感覚の方が強い。
 はたとした蒼汰は顔を上げた。いつまでも戸惑っているわけにもいかず、こうなった以上は語るしかない。
 意を決した蒼汰はラナの前に立ち、真っ直ぐに彼女を見つめた。ラナもこくりと頷き、蒼汰への想いを言葉にしようと決める。
 そして、まずは蒼汰から語ることになった。
「ラナさんの――」
「……はい」
 蒼汰が声を紡ぐと、ラナもぎゅっと掌を握って聞く体勢に入る。蒼汰にとっては彼女のそんな仕草すら愛おしいものだ。
 だからこそ、蒼汰は思ったままの言葉を続けていく。
「どこが好きとかそういうの全部ひっくるめて好き……っていうのは駄目ですかね?」
 きっと初めて逢った時からそうだった。
 笑顔に仕草、掛けてくれる言葉の柔らかさ。可愛い衣装やアクセサリーがよく似合っているところや、薬瓶をコレクションしていること。いつも此方を気遣ってくれていることも、一生懸命なところも好きで、それに――。
「何より、俺と一緒に居てくれるラナさんが……すごく……すき、です」
 振り絞るように紡いだ言葉は本心からのもの。
 蒼汰の声を聞いていたラナは思わず両頬を押さえた。胸の奥から鼓動が鳴り響く音を感じる。この音が彼にまで伝わっていそうな気がしたが、次はラナが語る番。
 ラナは呼吸を落ち着け、ゆっくりと話していく。
「私も……その熱も、声も、振る舞いも勿論顔だって、全てが好きです」
 彼そのものが大好き。
 けれども、その中でも一番好きだと想ったのは――。
「蒼汰さんは私を新しい世界へと連れ出してくれました。魔法が好きな私を真っ直ぐに認めてくれる優しいところが、とても愛しいです」
 けれども、とラナは言葉を続けていく。
 優しすぎて無茶をしてしまうところ。自分を守ろうとして時に怪我を負ってしまうところ。そういったところは心配だけれど、それ以上に嬉しく思える。
 自分の言葉だけで顔が真っ赤になっているというのに、蒼汰が告げてくれた言葉を思うと更に頬が熱くなった。
 もっと触れていたい。もっと一緒に居たい。
 更に深く、誰よりも近くで彼の存在を感じていたい。
「一緒にいればいるほど、我儘になってしまう私のことを、こんなにも包み込んでくれる彼の――蒼汰さんのことを……」
 ラナは静かに顔を上げ、蒼汰の瞳を覗き込む。
 互いに抱く想いは同じ。
 この感情を伝えたら心地好い関係が終わってしまうかもしれないと怯えたこともあったが、今はそうではないと知っている。
 蒼汰もラナの双眸を見つめ返し、其処に自分の姿しか映っていないことを認める。同じく、蒼汰の瞳にもラナしか映り込んでいない。
 そして、蒼汰はラナへの想いを言の葉にする。
「……あ、愛し…てます……!」
「……私も、愛しています」
 ラナも蒼汰に思いの丈を伝え返し、優しく手を握った。正面から重ね合う指先と指先が絡まり、互いの熱が伝わっていく。
 周囲の壁に蕾として現れていたグロリオサとシンビジウムの花が次第に咲いていく。
 美しい花となった彫刻の壁は華やかな様相になっていた。きっと間もなく、外に繋がる扉が出現するのだろう。
 そんな中で蒼汰はラナをちらりと見遣る。
「あの、語るだけで大丈夫、ですよね? きす、とかはここではしなくても……」
「キ……!?」
 驚いたラナはぱちぱちと瞼を瞬いた。
「しますか……?」
「あの、えっと……」
 此処まで愛を伝えあった現状、二人の間には普段以上の愛おしさが満ちていた。つい勢いで聞いてしまったが、蒼汰は真剣だ。ラナは誰かの視線を探すように辺りを見渡して、自分達の気配以外には何も感じないことを確かめる。
「俺は、嫌じゃないですから」
「私も嫌では無いから……寧ろ、その……」
 この想いのままに触れあいたい。言葉にしなくても通じている感情がある。蒼汰はラナの頬に優しく触れ、自分から瞼を閉じた。
「ラナさん、目を閉じて」
「はい、大丈夫、です」
 震える声で頷いたラナは静かに瞳を閉じる。蒼汰もラナも真っ赤な顔のままそっと距離を縮めていき、触れ合うだけの淡いキスを重ねた。
 花は咲き誇り、月と星を思わせる装飾が施された扉が現れる。
 それはまるで、これからも共に歩む二人のみちゆきを祝福してくれているかのような美しく繊細な扉だった。
 瞼を開いたラナは蒼汰の胸元に顔を埋め、もう一度囁く。
「だいすき、です」
「……俺もです、ラナさん」
 その言の葉が咲かせたのは彫刻の花だけではない。ラナの声を聞いた蒼汰の心にも愛おしさの花が咲き、消えない熱が宿されていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

…改めて聞かれるとちとはずいな
まぁ瑠碧しかいねぇしいいか
たまには思い知らせてやんねぇとって思うし

奪われて欠けた俺が
一生分かんねぇかもしれねぇと思ったもの

瑠碧の事を思うと
たまんない気持ちになって
切ないような締め付けられるような
止めどなく溢れる
それが俺の知った愛しいって気持ち

例えば
何気ない日常で
瑠碧が笑ってくれる
その笑顔が好きだ
すげぇ幸せで擽ったい
俺にだけすっげぇ無防備な顔見せてくれるのもいい

あと食べるとこも好きだ
小さい口で一生懸命食べてて
好きなもんだと目を輝かせて
俺と一緒だと尚更美味いって
そう言ってくれる

びっくりして変な声出るとこも可愛い
つか何してても可愛い
っていうか全然語り足りなくね?


泉宮・瑠碧
【月風】

愛を語る…
理玖に言った事はあまり無かった様な
…え、思い知るとは…?

恋、は辛いものと思っていましたが…
胸がきゅうっとするのに不思議と穏やかで
気持ちを受け止めて貰えるって知っているからか
凄く安心して…どきどきもします

理玖は思いやり深くて
気遣いも出来て
…女性にもそう接しますので
もやもやする事はありますが
人付き合いが丁寧だなぁとも感心しますね
…理玖は私のです、と主張したい気持ちもたまに

あと、やっと
無意識にですが
理玖が笑ってくれる様になって…
笑顔を見ると嬉しくて
幸せな気持ちで心が満たされて
心がきゅうっとして
収め方が分からなくなります

傍に居る
こんな心地良さ…知りませんでした

…あれ?
もう終わりですか



●同じ想いを重ねて
 愛を語り、愛を示す。
 此処はただそれだけのことが求められている不思議な部屋。此方を害する意志や動きは見られず、穏やかに過ごすことも出来る妙な場所だ。
「愛を語る……ですか」
「改めて聞かれるとちとはずいな。まぁ瑠碧しかいねぇしいいか」
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)と陽向・理玖(夏疾風・f22773)は辺りを見渡し、壁の彫刻がアングレカムの花を模していく様を確かめた。
 まだ蕾の形をしているので二人はそれが何であるのか判断できない。とにかく愛を語れば花が咲き、外に出られる扉が現れるということだけは分かっている。
「そういうことは、理玖に言った事はあまりなかったような……」
「たまには思い知らせてやんねぇとな」
「……え、思い知るとは……?」
 二人はそれぞれに思いを呟いた。理玖の声を聞いた瑠碧は不思議そうに瞼を瞬く。
 瑠碧がきょとんとしている間に、彼は己の思いを言葉に変え始めた。どれくらい瑠碧が好きか、どれほど想っているかを語るのは難しいことではない。
 理玖は瑠碧を見つめながら、これまでのことを思い返す。
「愛ってのは……奪われて欠けた俺が、一生分かんねぇかもしれねぇと思ったものだ」
 しかし、今は違う。
 瑠碧のことを思うと、どうしてか堪らない気持ちになる。
 切ないような、胸を締め付けられるような、止め処なく溢れる気持ち。それは他の誰かには感じず、瑠碧を思うときだけ満ちていく感情だ。
 傍に居たい。誰よりも近くで彼女を見ていたい。他の誰かに、そういった意味での視線を向けて欲しくない。
 綺麗なだけの感情ではないが、それこそが素直な気持ちだ。
「それが俺の知った愛しいって気持ち」
 例えば――。
 何気ない日常で瑠碧が笑ってくれること。
 その笑顔が好きで、大好きで、いとおしく感じること。
「瑠碧が笑ってるとすげぇ幸せで擽ったくて、あったかいんだ。すっげぇ無防備な顔見せてくれるのもいい。他の誰でもなく、俺にだけ」
 気付けば理玖は目を細めていた。
 瑠碧を見つめて、瑠碧のことだけを考える。言葉にするだけでこんなにも幸福が満ち溢れているからだ。
 彼からの眼差しを感じた瑠碧も、そうっと語っていく。
「恋、は辛いものと思っていましたが……」
 今までのことを思うと胸がきゅうっとする。それなのに今は不思議と穏やかだ。その理由は、理玖に気持ちを受け止めて貰えると知っているから。
「凄く安心して……どきどきもします」
 瑠碧は手を伸ばして理玖の手を自分の方に導いた。指先が触れれば、彼がすぐ傍に居てくれることを強く感じられる。
 静かに笑む理玖は思いやり深くて、気遣いも出来て――。
 他の女性にもそう接することが多いので、少しもやもやすることもはある。けれども人付き合いが丁寧だとも感心しているので、尊敬出来る相手だ。
 瑠碧は少しだけ黙り込み、意を決して理玖への思いを言葉にしていく。
「……理玖は私のです」
「え、瑠碧?」
「ふふ、こんな風に主張したい気持ちも、たまに」
「……そっか」
 二人は指先を絡めあい、あたたかな感情を抱く。その言葉に呼応していくかのように蕾だった壁の花がゆっくりと花ひらいていった。
 ふと思い立った理玖は、瑠碧の好きだと思うことを更に挙げていく。
「あと食べるとこも好きだ」
 小さい口で一生懸命食べて、好きなものがあると目を輝かせている。それに理玖と一緒だと尚更に美味しいと言ってくれる言葉が愛しい。
 瑠碧は食いしん坊だと思われているのかもしれないと感じ、照れた素振りを見せた。
 そうして、その代わりに理玖への思いを更に口にする。
「あと、やっと……理玖が笑ってくれるようになって……しあわせ、です」
 きっと理玖は無意識なのだろう。
 けれどもその笑顔を見ると嬉しくて、幸福な気持ちで心が満たされる。不安とは違う意味合いで心がきゅうっとして、収め方が分からなくなる。
 瑠碧は自分の額を理玖の胸元に埋めた。
「傍に居る、こんな心地良さ……知りませんでした」
「俺も。教えてくれてありがとな、瑠碧」
「ぴっ」
 すると理玖が瑠碧の身体を強く抱き寄せる。驚いた瑠碧から可愛らしい声があがり、それもまた良いと笑った。
「そうそう、こうやってびっくりして変な声出るとこも可愛い。つか何してても可愛いし……ん、扉ができてる?」
 気付けば壁のアングレカムは咲き乱れており、出口の扉が開いている。
「……あれ? もう終わりですか?」
「っていうか全然語り足りなくね?」
 瑠碧と理玖は、もっと語れるといった雰囲気で首を傾げていた。愛しい想いを伝えあった二人は頷きを重ね、外に続く道に踏み出す。
 そして、二人は後に知ることになる。
 星のように咲くアングレカムの花言葉。
 それは――『祈り』と『いつまでもあなたと一緒』だということを。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【千宵桜】


愛、って語れるくらい
何たるかを俺は解ってないかもだけど
駆け巡り、想い出を繋げれば

うん、そうだね、
俺にとっても
縁を紡いで、ここ迄一緒に居てくれた友達
家族よりも深い絆で結ばれている気がしてる
大切で、失くしたくないもの
だから、護りたい
ちっぽけだけど、この両手で
守るために強くなりたい

俺を受け止めて、咲ってくれる人達のために
……なあ、これは
愛情で、合っている?
……そっか、良かったあ

千織、有難う
俺と出逢ってくれて
同じ時を共有してくれて
きみが語る愛の言の葉に
自然に咲み、胸が温かくて

照れくさいけどさ
言えずに後悔するくらいなら
ちゃんと言葉で伝えたいなって思ったんだ


橙樹・千織
【千宵桜】


千鶴さんは何への愛を語るのかしら

私は大切な友人達かしらねぇ
親愛、敬愛…他にも色々ありますが

他愛ない日常を共に過ごしたり
お出かけに付き合ってくれるところ
行事も共に楽しんでくれるところが好き
互いを大事に想い合っている彼らも好き
少し不謹慎だけれど、私のために必死になってくれるのは嬉しいし、好き

あとは…そうね
別側面を見たり、知ったりしてもなお、変わらず共に過ごし笑いあってくれるところが好き
指折り告げ
ひと区切りのところでふわり咲む

幸せすぎるくらいに良縁に恵まれて
言の葉にできないくらい大切で、大好きな人達

だからね
ありがとう、千鶴

勿論
それは立派な愛情ですよ

ええ
大切な想いこそ、言の葉にしなきゃね



●咲き咲う想い
 愛を語り、示すことで開かれる領域。
 四方を泥の壁に囲まれた橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)と宵鍔・千鶴(赫雨徨花・f00683)は、周囲が桜の蕾の彫刻へと変化していく様子を見つめる。
 此処には害意や敵意を表すものはない。
 ただ自分達が閉じ込められているだけの場所。此処から抜け出すには愛を言葉にして蕾を花として咲かせるしかない。
「千鶴さんは何への愛を語るのかしら」
「愛、って語れるくらい、何たるかを俺は解ってないかもだけど」
 千織に問われ、千鶴は思いを巡らせる。記憶の中から浮かび上がる想い出を繋げていけば、好ましいと感じるものがたくさんあった。
 千鶴が過去のことを思い出しているのだと察し、千織は自分のことについて語る。
「私は大切な友人達かしらねぇ」
 愛とは恋愛の意味だけを持つものではない。
 親愛、敬愛。他にも愛とつく言葉は色々あるが、千織が大切に思うのは友愛だ。
 千織はそっと微笑み、先に己が抱く親愛を言葉にしていく。
「他愛ない日常を共に過ごしたり、お出かけに付き合ってくれるところ。行事も共に楽しんでくれるところが好き。それに――」
 互いを大事に想い合っている彼らが好き。
 千織は楽しげに自分が大切に想う人達のことを声にしていく。
「それから少し不謹慎だけれど、私のために必死になってくれるのは嬉しいし、好き」
「うん、そうだね」
 千鶴は頷きながら千織の話を聞いていた。
 必死になってくれる誰かがいるということは、それだけ思われているということ。千鶴も自分が抱く親愛を形にするため、言葉として紡いでいった。
「俺にとっても、縁を紡いで、ここ迄一緒に居てくれた友達は家族よりも深い絆で結ばれている気がしてる」
 それは大切で、失くしたくないもの。
 だから護りたい。
 千鶴は桜の蕾が並ぶ壁に手を差し伸べ、指先でそれをそっと撫でた。少しずつではあるが開いている蕾がある。
「ちっぽけだけど、この両手で守るために強くなりたいんだ」
 千鶴の思いを耳にした千織はふわりと笑む。
 この調子ならば桜は満開になっていくはずだ。千織は少しばかり考え込み、自分が抱く親愛を向ける先を探していった。
「あとは……そうね」
 思い浮かぶ友人達の姿はどれも眩しいくらい。
 いつも彼や彼女は優しいけれど、そういった面ばかりではないことも知っている。それは自分においても同じ。別側面を見たり、知ったりしてもなお、変わらず共に過ごし笑いあってくれるところが好き。
 指折り、友人達についてのことを告げていった千織は其処で一区切りする。
 優しく咲む千織は想いを巡らせた。
 幸せすぎるくらいに良縁に恵まれて、言の葉にできないくらい大切で大好きな人達。そんな人達が愛おしい。
「だからね。ありがとう、千鶴」
 この気持ちは千鶴にも向けている。そういって千織は千鶴を見つめた。
 彼女の視線を受けた千鶴は、千織もまた自分を受け止めてくれているのだと知る。こんな自分の傍にいて、咲ってくれる人達のために。
 想いを返したい。何かをしたい。
「なあ、これは愛情で、合っている?」
「勿論、それは立派な愛情ですよ」
「そっか、良かったあ」
 問いかけた言葉に千織が優しく答えてくれたことで、千鶴は安堵した。そうして千鶴は目の前にいる千織に感謝を伝えていく。
「千織、有難う。俺と出逢ってくれて――」
 同じ時を共有してくれて。
 すぐ隣に居てくれて、咲ってくれて。
 彼女が語った愛の言の葉を思い出せば、千鶴も自然に咲む。胸があたたかくて、優しい気持ちが満ち溢れてくる。
 これもまた愛であり、信頼であり、揺らがない気持ちのひとつ。
 二人の言葉は心から紡がれたもの。
 次第に桜の蕾はゆっくりと花ひらいていき、すべての花が咲き始める。二人の間に笑みが咲いたように心までもが綻んでいるようだ。
 千鶴と千織は壁に扉が出来ていく様子を見守り、出口の方を眺めた。
 あの扉が完全に出来上がれば二人は元の世界に戻ることが出来る。しかし、もう少しだけ親愛や友愛の気持ちを確かめたいと思った。
 千鶴は顔を上げ、もう一度だけ千織を見つめる。
「こういうの、照れくさいけどさ」
「……ええ」
「言えずに後悔するくらいなら、ちゃんと言葉で伝えたいなって思ったんだ」
「大切な想いこそ、言の葉にしなきゃね」
 千織は照れている千鶴の姿を何だか可愛らしいと感じながら、穏やかに笑んだ。蕾は芽吹き、言の葉の助けを得て満開の花になる。
 きっとこの彫刻は心の成長を示して変化しているのかもしれない。
 そんなことを考えながら二人は頷きあい、扉の外へ踏み出していった。進む先は苦難や困難に満ちた戦いが待っているだろう。
 それでも、愛しい人のために進み続ける。
 満開の桜に見送られ、千鶴と千織は自分達が歩む先を瞳に映した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シルヴィア・ジェノス

クッキー缶への愛を、身振り手振り交えつつ語るわ。クッキー大好き、クッキー缶はもっと好き
まず缶がお洒落よねどれも
全部とっておきたい位可愛らしいの

紅茶や珈琲を淹れて準備万端、いざ参ります!と開けると、甘い香りと共に味も形も様々なクッキーがお目見え!
市松模様とかジャムの乗ったクッキーとか特に好き
このクッキーは何味という解説を読みつつ食べるのも良いけれど、初めて買った時は敢えて読まずに食べるのも好き。これはあれが入っているのかな、これは不思議な味だわとか考えながら食べるの楽しいの
一種類ずつ順番に食べていくのも、いっとう好きな味を最後までとっておくのも自由。どう食べようか、それを考えるのも至福の時間



●甘やかなる愛
 好きなもの、愛しいもの、大好きなもの。
 愛は人に向けての感情だけに非ず。物に向けての思いだって良い。
 シルヴィア・ジェノス(月の雫・f00384)は四方を壁に囲まれた部屋の中で、其処に施された花の彫刻を眺める。
「綺麗ね、クッキー缶みたい!」
 その花はまだ蕾だったが、どうやらゼフィランサスのようだと分かった。レインリリーとも呼ばれるこの花が咲けば、語る愛が認められたということになる。
 蕾であっても美しいことから、シルヴィアはぜひ花を咲かせたいと感じた。
 そして、彼女は語り始める。
 そう――クッキーと缶への愛を。
「私ね、クッキー大好き! クッキー缶はもっと好きなの」
 シルヴィアは身振り手振りを交え、自分が大好きだと思う物について話し始める。
 さくさくとしたクッキー。ほろほろとした口溶けのクッキー。チョコレートが混ざったクッキーに、ミルクたっぷりのクッキー。珈琲や紅茶風味、季節の味わいを閉じ込めた限定クッキー。
 どの味わいや食感もシルヴィアにとっては至高のもの。
 ただでさえ美味しいクッキーを彩るもの。それはクッキー缶。
「まず缶がお洒落よね。どれも全部とっておきたいくらいに可愛らしいの」
 愛らしい印刷が施された缶。
 エンボス加工で鳥や兎、宝石を模した柄が見られるもの。シンプルながらもモダンな花柄の缶も可愛く、シックにブランド名だけが印刷された缶も良い。
 宝石箱のようにも思える缶。
 それらを開けるときはしっかりと準備しておくと気分も上がる。
「紅茶や珈琲を淹れて準備万端、いざ参ります! と開けると、甘い香りと共に味も形も様々なクッキーがお目見え!」
 両手で缶を開ける仕草を見せたシルヴィアはジェスチャーを続けた。まるですぐ目の前にクッキー缶や紅茶があるような勢いだ。
 缶の中は宝物がいっぱい。
 特に市松模様やジャムの乗ったクッキーがあれば幸せが満ちる。
 ブランドやメーカーによって中身の詰め方も様々。大きなクマのクッキーを中心にして星やドーナツ型のクッキーが詰め込まれ、夢のような世界が描かれていることもある。シンプルなビスケットの周囲にメレンゲクッキーがたくさんちりばめられているクッキー缶も素晴らしいものだ。
「このクッキーは何味かという解説を読みつつ食べるのも良いけれど、初めて買った時は敢えて読まずに食べるのも好き!」
 これはあれが入っているのかな、これは不思議な味だわ、など考えながら食べる時間は楽しくて嬉しい時間。
「クッキーの食べ方は自由! 一種類ずつ順番に食べていくのも、いっとう好きな味を最後までとっておくのも良いわ」
 美味しかったら誰かに勧めたくもなる。
 一缶はまず自分でぜんぶ食べたいけれど、それは友達に贈るための大切な味見だ。
「どう食べようか、それを考えるのも至福の時間だわ!」
 そして、美味しさを分け合えれば何よりも幸せ。シルヴィアは話に夢中になって気付いていなかったが、既に壁の彫刻は美しい花を咲かせていた。
 クッキーと缶への愛を語り尽くすシルヴィア。
 その背後には甘いお菓子を思わせる可愛らしい扉が出来ていた。彼女がこの扉に気付き、味見してみたい――なんてことを思うのは、もう少し後のこと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
ネコの話をしようと思ったのです
とてもかわいい三毛と黒の話を

二匹の姿を思い浮かべているのに
…何故二匹を抱っこする彼の顔が浮かぶのか

わかっています
ほんとは、とっくに

ふんわり笑ってくれるのがすきです
ふあふあの耳と尻尾がすきです
桜色のきれいな目がすきです

もういいって言っても
めいっぱい甘やかしてくるのも
本当は寂しがりで泣き虫のたからを
大丈夫だよってだっこしてくれるのもすきです

こちらの返事を待ってくれるのが
やっぱり大人ですこし悔しいです

…キスは、まだ慣れないですが
ふ、ふわふわ、するので(もにゅ

たからは
あなたがたくさん愛してくれるだけを
あなたに返せているでしょうか

返事はちゃんとします
喜んで、くれるでしょうか



●さくら咲く
 愛とは、ふわふわで心地いいもの。
 毛布に包まれているように、柔らかなベッドで眠っているように、愛とは優しくてあたたかいもの。だからこそ、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は最初、可愛いネコの話をしようと思っていた。
「とてもかわいい三毛と黒の話を、したかったんです」
 でも、とたからは周囲を見渡す。
 愛を語らなければ出られない部屋の四方は蕾の彫刻が施された壁に変わっていた。
 たくさんの小さな蕾がある。それが桜であることに気付いたたからは、壁の隣にゆるゆると座り込んだ。
「……ネコは、かわいいです」
 たからが指先で触れた蕾のひとつが、ふわりと咲いた。
 あの二匹の姿を思い浮かべているというのに、記憶の中心にいるのは猫達を抱っこする彼の顔。灰緑の髪が、桜色の瞳が、彼の疵が、どうして思い起こされるのか。
 疑問を浮かべてみたけれど、たからには心当たりがある。
「わかっています」
 ――ほんとは、とっくに。
 好き。だいすき。
 全部が、いとしくおもえる。
 彼を想う心は大きくなっていき、たからはそっと言葉を紡ぐ。
「ふんわり笑ってくれるのがすきです」
 どうしたの、と優しく笑いかけてくれる彼の声がくすぐったい。
「ふあふあの耳と尻尾がすきです」
 たからの元気がないと、彼の耳や尻尾まで下がっているときがある。
「桜色のきれいな目がすきです」
 見つめてくれる瞳には自分だけが映り込んでいるから、とても嬉しい。
 もういいと言ってもめいっぱい甘やかしてくれて、強がっているたからをゆっくりと撫でてくれる。子どもをあやすような手付きで、それでいて一人の女性として扱ってくれているような声で。
 気付けば、たからの心は彼でいっぱいになっていた。
「本当は寂しがりで泣き虫のたからを、大丈夫だよってだっこしてくれるのもすきです」
 たからは彼から見たらまだ子ども。
 だから大人として、こちらの返事を待ってくれている。当たり前のように傍にいてくれるから甘えてしまう。
「……やっぱり大人ですこし悔しいです」
 壁の桜が緩やかに花ひらいていく。まるでたからの心が綻んでいることを示すように、小さな花が次々と咲いていた。
 たからは指先で自分の唇に触れてみる。
「……キスは、まだ慣れないですが。ふ、ふわふわ、するので」
 指先の感触を記憶に重ね、たからは僅かに俯いた。
 こうして言葉にしたことで想いは募っている。心の奥底に芽吹いていた想いの蕾が、言の葉の支えを受けて花として咲いていく。そんな気持ちが巡っていった。
「たからは――」
 あなたがたくさん愛してくれるだけの心を、気持ちを、想いを。
 あなたに返せているでしょうか。
 あなたに伝えてもいいのでしょうか。
 たからが背を預けていた壁一面に桜の花が咲き誇り、出口となる扉が現れる。それはあの207号室の扉によく似ていた。
 彼の元に帰るべきだと感じたたからは、そっと立ち上がる。
「返事はちゃんとします。喜んで、くれるでしょうか」
 誰に語るでもなく落とした言葉に対して、桜の花が揺らいで答えてくれた気がした。
 抱く気持ちは言の葉に。
 咲く想いは彼だけに紡ぐもの。
 本当の扉をひらいた先では、きっと――愛しい桜の彩が待っているから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

解釈、過去のエピソード等不明点お任せ

_

俺が愛情を抱くものは数えきれない程ある
それは幸せなことであると同時に、責任を一層強くさせた
…此処で立ち止まっている場合ではない
行かなくては
どれだけ己を犠牲にしてでも
そう決意を改めてした所で、胸の内ポケットが熱くなった気がして
そこにあるのは彼の警察手帳だ。御守り代わりのようなものでもだった

汐種、…いや、
「慎」
彼の名前をそっと呼ぶ
一度口にすれば愛おしさが溢れて止まらなかった

元は警察学校の同期で
相部屋だったが衝突ばかり
当時は酷く仲が悪かった
今思い出せばそれさえも愛しい思い出の一つで
彼と関わった一瞬一瞬全てが宝物で

「……」
親友で、相棒で
かけがえのない大切な人だ
それは今でも変わらない
彼を護れず喪ったあの日から空いた、大きな心の穴の存在
自分にとって彼がどれだけ大切な人なのか、漸く気付いたのだ

恋という感情を知らない
けれど
「──愛してるよ、慎」
永遠に色褪せない愛を、俺は知っている

_

(『俺もだよ、梓』)



●愛故
 心に花を咲かせるもの。
 それは愛に至るまでの感情、愛を感じる事柄。親愛や友愛をはじめとした他者に抱くあたたかい感情や、純粋なる愛情。心に生まれた種はそういった想いを受けて芽吹き、いずれは新たな愛を咲かせる花となっていく。
 愛が先なのか、花が先なのか。
 卵か鶏かというような疑問はあれど、今の丸越・梓(零の魔王・f31127)には些細なことに過ぎない。
 三皇女媧の祠と呼ばれる領域に満ちる泥。
 それらが美しい彫刻の壁となり、四方を囲んでいく様を見つめていた梓はふと気付く。
 周囲の壁には千寿菊、あるいはマリーゴールドとも呼ばれる花の蕾が出来ていた。まだ咲いていない花に視線を向けながら、梓は想いを巡らせる。
 愛情を抱くもの。
 梓が愛しいと感じるものは数えきれない程あった。
 それは幸せなことであると同時に、責任を一層強くさせる要因になっている。愛も持ち過ぎれば雁字搦めになるということだ。
 それでも――。
「……此処で立ち止まっている場合ではないな」
 行かなくては、と決意した梓は壁へと真っ直ぐに向き直った。
 どれだけ己を犠牲にしてでも進む。
 決意を改めた梓は気付いていない。その思いこそが、己を縛り付けていることに。
 すると、不意に胸の内ポケットが熱くなった気がした。片手で胸元に触れた梓は、そこにあるのは警察手帳を確かめる。
 これは自分の手帳ではなく或る男の所有品だった。彼が居なくなってから、御守り代わりのようにずっと持ち続けているものだ。
「汐種――いや、『慎』……」
 上着越しに警察手帳に触れたまま、梓は彼の名前をそっと呼んでみた。
 一度、口にしたことで愛おしさが溢れる。彼の声色、彼の姿、彼の眼差し。名前を声にしただけで記憶が巡り、想いが止まらなくなっていく。
 ゆっくりと警察手帳を取り出した梓はそれをひらいてみた。
 刻まれた名前。
 それから、少し色褪せた写真が目に入る。
 証明写真であるためか、妙に真面目な表情の彼が此方を見つめている。
 汐種・慎。
「……大切な人だったんだ。今も、変わらず」
 手帳を閉じ、そっと握った梓は壁に向けて言葉を紡いでいった。
 語るならば彼のことがいい。
 女媧の力が愛を聞いてくれるなら語るしかない。そう判断した梓は彼についてのことを真剣に、そして何処かいとおしげに話していく。
 汐種と梓は警察学校の同期だった。
 相部屋だったが、最初は衝突ばかりで当時は酷く仲が悪かった。
 座学や実践授業を終えた後、部屋に戻ってきても無言のまま。睨み合っては視線を逸らすということも屡々。
 今となれば、それさえも愛しい思い出のひとつ。啀み合ったことも互いの価値観の違いからものであり、どちらも正義に真摯だった。
 後にそれが分かったことで、互いに認めあう関係になれた。
 今は彼と関わった一瞬一瞬、その全てが宝物であり、大切な記憶だ。
「……」
 語っていた梓は不意に言葉を止める。あのまま何事もなく時が過ぎれば、今も親友であり、相棒であり――もしかすれば、その先にも進んでいたかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 かけがえのない大切な人だ。先程も述べた通り、それは今でも変わらない。
 彼を護れず喪った。
 あの日から胸の中に空いた、大きな心の穴の存在は今も梓を苦しめる。しかし、苦しいと感じるのは愛があったからでもある。
 ただの同僚であったのならば、悼んで悲しみはすれど此処まで思いはしない。人への思いは残酷なまでに不公平であり、明らかな優劣が存在する。
 梓であっても、見ず知らぬ人の死や失踪をいつまでも憂うことは出来ない。無論、そのことを知れば使命や正義感に燃え、どうにかしたいと願うだろうが――汐種についてだけは、その気持ちが別格になる。
 執着や執心とも言い換えられるのかもしれない。
 されど今の梓にとっては、この感情がどう呼ばれるものであろうとも構わない。一般的に悪いとされる言葉であっても、これだけは変わらない。
 大事だ。彼のことが、誰よりも。
 そのように自覚したからこそ、自分にとって彼がどれだけ大切な人なのか、漸く気付いたというわけだ。
「俺は恋という感情を知らない」
 けれど。
 そうだとしても、今は確実に言える。

「――愛してるよ、慎」

 此処に彼はいないが、迷いなく語ることが出来る。
 写真は褪せていくばかりだが、永遠に色褪せない愛を梓は知っている。
 やがて、壁の花は咲いていく。彫刻が動く不思議な光景の中、梓の目の前に扉が作られていく。それはどうしてか警察学校の時に二人が住んでいた部屋の扉に似ていた。
 此処から出て、探しに行けと言われているかのようだった。
 そして、静かに頷いた梓は部屋から踏み出す。

(『俺もだよ、梓』)

 何処から響いた誰かの声を、彼は聞くことなく先に進んだ。
 咲き誇るマリーゴールドの花に宿された言葉は幾つもある。中には不吉なものも含まれているのだが、花言葉のひとつにこういったものがあった。
 それは――『変わらぬ愛』という意味だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻


美しい壁ね
女媧は…蛇身人首の女神
何だか思うものがあるわ
私もリルとカムイとなら平気

ヨルとぴぃころは仲良しね
きっと好きな物大暴露合戦でもしてるわ

カラスはカグラと
大丈夫
師匠はやるときゃやるのよ
カグラは素直じゃないけど押しに弱い
わかるわ『私』だから

二人が伝えてくれる愛が暖かくて優しい
ずっと愛されたかった
愛がほしかった
喰らっても殺しても手に入らない、華
私には相応しくないそれをカムイとリルはくれる
私だってカムイを愛しているわ!
リルのことも愛している
側にいて支えて生かしてくれた

だから私は過去よりも
あなた達と共に生きる今を選ぶ

咲いて咲かせて共に歌い旅して生きる

あいしているわ
これだけは呪になんてさせない

咲いたのは私達の花

あ!カグラ…師匠にぎゅっとされてる!
私もされたい
かぁいい神様と人魚ね
愛して愛されて
私には身に余る程の幸い

…母上
私は母上達のことも大好き
あの時私は幻家族の符を剥がせなかった
けれど
私を包む二人の熱を離したくない
喰らってしまっては触れられない
壊したくない

繎の愛を解かなきゃ
何時かその時に


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


どうやら閉じ込められたようだ
美しい彫刻であるが…サヨ、リル
私達の愛で蕾を咲かせる必要があるようだね

ホムラはヨルと一緒かな?
なら安心したよ

カグラは…カラスと一緒か
いいのではないだろうか
…カラスが、ちゃんとカグラに愛を伝えられれば…
決して廃社に住み着いていた狸のポヌへの想い語りに逃げるんじゃないと念を送る
私もそう思うよ、リル
……伝えられず喪って後悔した想い出がある

故に私は後悔したくないんだ

私は櫻宵を愛しているよ
うまれたときから、きみを探していた
共に旅をしよう
共に生きていこう…きみの罪は私も共に
…厄呪と化した繎の愛を正してみせる
其れは本来ならきみへの、祝だ

リルは優しくて強い私の同志だ
こうして私の存在を受け入れてくれてそばにいさせてくれる
愛を分かち合うことを赦してくれてありがとう
そなたが信じた初めての神になれたなんて嬉しいな

あたたかな心地が胸を満たす
之が愛
神は戀してはならぬというが
私は戀ができて幸せだ

おや…カラス…随分と大胆な
カグラ、今更誤魔化しても遅い
しかと見た

サヨは私がぎゅってするよ


リル・ルリ
🐟迎櫻


わぁ?!閉じ込められちゃった!
僕、水槽みたいな狭いとこ嫌い
でも櫻とカムイが一緒なら
大丈夫!

あれ?ヨルがいない
ホムラとなら安心かな
二羽は仲良し!

カグラとカラスも?
二人で伝えられたらいい
好きな人に好きと伝えられるのは幸福で貴重な事
踏み出すことは怖くても
僕は踏み出すことすら出来なくなる方が怖い
僕はとうさん達をみて
パンドラ達のことも考えて思う
伝えられなくなってからじゃ遅い

だから愛のうたをうたおうか

櫻宵の事を愛しているしカムイの事も大好き

櫻が大切で大好きだよ
君は君のしたいよう望むように生きるんだ
生きてほしい
奪ったものは悔いても戻らない
なら生きて償うこともできるはず
しがらみとか役割とかに縛られず
大丈夫
神様がついていてくれる
カムイがいれば大丈夫だって信じてる
僕の初めて信じた神様
これから君がどんな神様になるのか楽しみ

二人は僕の大好きな家族

満開に愛を咲かせよう
愛は縛るものにも咲かせるものにもなる
呪いにも祝いにも
願うのは僕の愛が祝になること

わぁ咲いた!
ふふー
カグラ達もうまくいった?

僕もぎゅうする!



●桜の部屋
 幾つもの桜の枝が伸び、未だ咲かぬ蕾が実る。
 そのような彫刻が施された壁が、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)と朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の四方を囲んでいた。
「わぁ?! 閉じ込められちゃった!」
「どうやら閉じ込められたようだ」
「そうみたいね。でも、美しい壁だわ」
 驚くリルは水槽のような狭いところだと感じて身を縮こまらせる。その背をそっと撫でたカムイと櫻宵は、大丈夫だと伝えた。
 此処は愛を語る部屋。
 それ以上でも以下でもなく、危害などを加えられる心配ない。語らなければ永遠に閉じ込められ続けるというだけの場所だ。
「サヨ、リル……私達の愛で蕾を咲かせる必要があるようだね」
「そうだね、櫻とカムイが一緒なら大丈夫!」
「ええ、私もリルとカムイとなら平気。愛を咲かせろというのなら心配なんてないわ」
 顔を上げたリルにカムイが笑いかけ、櫻宵も静かに微笑む。
 しかし、櫻宵は考えていた。女媧は蛇身人首の女神だとも言われている存在だ。思うことがあるが口にはせず、櫻宵はそっと呼吸を整えた。
「あれ? ヨルがいない」
「ホムラも見当たらないな」
「カラスとカグラもよ。別の部屋にいるのかしら」
 三人は相棒達が別の場所に隔離されてしまっていることを察し、周囲を見渡す。するとちゅん、きゅ! という声が右側から、幽かな羽ばたきと気配が左側から感じられた。おそらく隣の部屋に彼らがいるのだろう。
「ホムラはヨルと一緒かな? なら安心したよ」
「カグラとカラスも?」
「大丈夫、師匠はやるときゃやるのよ」
 カムイもリルも、櫻宵も彼らについては心配していない。何故なら、愛は皆の中に溢れている。どのような場合であっても乗り越えられるはずだからだ。

●黒薔薇と彼岸花の部屋
 一方、ヨルとホムラが閉じ込められた場所では――。

「きゅ!」
「ぴ?」
「きゅきゅ、きゅよ、きゅきゅい!」
「ぴる、ぴぃぴ、ちゅちゅい!」
「きゅっきゅ、きゅ!」
「ちゅちゅん……」
「きゅー! きゅ、きゅきゅきゅ、きゅうー!」
「ちゅん、ぴーっ!」
「きゅ!?」
「ちゅ……」
「きゅきゅきゅ……」
「ちゅちゅんぴぃ! ぴっ! ぴぴぴ!」
「きゅーきゅー! きゅきゅい!」
「ぴぃー!」

「「ちゅきゅんぴぃ!」」

 というわけで花が満開になって扉が現れた。
 それは時間にしてたった一分ほどの出来事だったという。

 🐧❤🐥

●柘榴の部屋
 同じくカグラとカラス。
 もとい、イザナイカグラと硃赫神斬が閉じ込められた部屋にて。

『あいしているよ、イザナ』
『なっ……何を急に言い出すんだ、神斬。二人きりとはいえ斯様なことは――』
『どうして? 此処は愛を語らなければ出られない部屋だそうだよ』
『それは、そうだが……』
『もう隠しておいても意味がないようだからね。イザナも知ってしまっただろう? 私が君に何をしていたか。どう想っていたかを』
『ああ……過去の夢を視た時、知った。お前は私を助けてくれていた』
『本当は赦されないことだとも思っていたんだ』
『そんなことはない! お前が居なければ私は……』
『でも、イザナはそれでも私の傍に居てくれる。今も昔も変わらず認めてくれている』
『そうだ。私にとって、お前は――』
『あいしているよ』
『神斬、私の言葉を遮るな』
『だってイザナがこんなにも愛おしい顔をしているから、抑えきれなくて』
『……私も、』
『――噫』
『硃赫神斬、お前のことを――あい、している』
『イザナ……』
『これからは何度でも言ってやる。神斬が嫌だと言っても、何度だって』
『嬉しいよ、イザナ。本当に……。噫、私は倖せ者だ』
『私もお前と逢えたことそのものが幸福だと思っている』
『そうだ、桜姫にも伝えに行こうか』
『桜姫に?』
『大丈夫。リルとカムイ、サヨのように私達もなれるよ、きっと。いいや、絶対に』
『お前は昔からそういうところが……いや、まぁいい。それでこそ神斬だ』
『行こうか、イザナ』
『共に進もう、神斬』

 鳥居めいた扉が壁に現れ、花が咲き乱れる中で二人は互いを抱き締めあった。
 もう離れない。どんなことがあっても、永遠に。

●咲き誇る桜
 そして、三人の部屋でも愛を語る時間が巡っていく。
 好きな人に好きだと伝えられるのは幸福で貴重なこと。物語の人魚姫のように、想いすら伝えられずに泡になって消えていくこともあるからだ。
 リルは蕾の桜に向け、自分の愛を紡いでいく。
 踏み出すことは怖くても――。
「僕は、踏み出すことすら出来なくなる方が怖いんだ」
 とうさん達をみて。
 それから、パンドラ達のことを考えながらリルは思う。
 伝えられなくなってからでは遅い。いつか想いが通じることがあったとしても、生きている内に伝えあえる方がきっと幸せなはず。
 だから、こうして自分が愛を受け入れて貰えていることが幸福だ。
 愛のうたをうたう。それがどれだけ心を満たすことか、リルは知っている。
 櫻宵のことを愛している。
 同志であるカムイのことも大好きで大事だ。
「櫻が大切で大好きだよ」
 君は君のしたいように望んだまま生きてほしい。奪ったものは悔いても戻らないから、進むことで報いればいい。
 生きて償うこともできるはずだと信じているから、リルは願う。
 しがらみや役割、後悔や讒言に縛られずに、櫻宵らしく。
「大丈夫、神様がついていてくれる。僕はカムイがいれば大丈夫だって信じてるよ」
 カムイはリルが初めて信じた神様だ。
 これから君がどんな神様になるのか楽しみだよ、と語ったリルは淡く笑む。
「二人は僕の大好きな家族だから。あいしてるんだ」
 リルの言葉は心からのもの。
 謡うような声に耳を傾けていたカムイも、そっと頷きを返した。
「私もそう思うよ、リル」
 嘗て、伝えられず喪って後悔した想い出がある。それは今の自分のものではないが、心と記憶の奥深くに刻まれた痛みだ。
 故にもう後悔をしたくない。
「私は櫻宵を愛しているよ。うまれたときから、きみを探していた」
 共に旅をしよう。
 共に生きていこう。
 きみのために生まれたから、きみのためだけに生きる。
「きみの罪は私も共に背負うよ。……そして、厄呪と化した繎の愛を正してみせる」
 其れは本来ならきみへの祝だ。
 呪いと成ってしまったものを正しい方に導く。其れこそが己の役目だと確信しているカムイは、リルにも眼差しを向けた。
 リルは優しくて強い同志だ。先程に強く語って歌ってくれたように、カムイの存在を受け入れてくれてそばにいさせてくれる心強い存在。
「リル、愛を分かち合うことを赦してくれてありがとう。そなたが信じた初めての神になれたなんて嬉しいな」
 心地好い熱が胸を満たしたことで、カムイは識る。
 之が愛。
 神は戀をしてはならぬというが、カムイは戀ができて幸せだと感じていた。
 二人からの視線と言の葉を受けた櫻宵はいとおしさを抱いている。彼らが伝えてくれる愛があたたかくて優しい。
 ずっと愛されたかった。手に入らないと思っていたから、愛がほしかった。
 喰らっても殺しても手に入らない、華。
 それが櫻宵にとっての愛だった。
 自分には相応しくない思っていたそれを、カムイとリルは無償で捧げてくれる。
 だから――。
「私だってカムイを愛しているわ! リルのことも愛しているの」
 側にいて、支えて生かしてくれた。
 二人が伝えたいことは全部受け取って、この心に刻んでいる。だからこそ決めた。
「私は過去よりも、あなた達と共に生きる今を選ぶわ」
 咲いて、咲かせて。
 共に歌い、旅して生きる。
 そうしろと言われたのではなく、そうしたいと自分で感じて掴み取りたいから。
「あいしているわ」
 これだけは呪になんてさせない。
 愛を識り、呪いを正しき方向に導いたならば、その先には花が咲くはず。
 カムイは頷き、リルも双眸を細めた。
 満開に愛を咲かせよう。愛は縛るものにも咲かせるものにもなる。ならば、きっと呪いにも祝いにも成り得る。
 願うのは――愛が祝として咲き誇ること。

「わぁ咲いた!」
 そして、彫刻の壁に咲いたのは櫻宵の桜に似た可愛らしい花々。それと同時に左右から扉が現れ、出口がひらいた。
 はたとした櫻宵は離れていたカラスやヨル達がいることに気付く。
「あ! カグラ……師匠にぎゅっとされてる!」
「おや、カラス。随分と大胆なことだ。カグラ、今更誤魔化しても遅いよ」
「ふふー、カグラ達もうまくいった?」
 カムイは慌てる二人を見遣り、しかと見たと告げた。リルはその隣で微笑ましそうにしており、ぱたぱたと駆けてきたヨルを抱き留める。
「きゅきゅー!」
「ちゅん!」
「ヨルとホムラも花を咲かせてきたの? すごいね!」
「私もぎゅっとされたいわ」
「サヨは私がぎゅってするよ」
「僕もぎゅうする!」
 櫻宵が羨ましそうに語ると、すぐにカムイとリルが腕を伸ばしてくれた。想いに応えてくれる人がすぐ傍にいることは幸福だ。
「ありがとう。ふふ、かぁいい神様と人魚ね」
 愛して愛されて、自分には身に余る程の幸いだと感じた櫻宵は目を閉じた。
 ――母上。
 言葉では語らなかったが、櫻宵の愛は母にも向けられている。
(私は母上達のことも大好き)
 あの時、櫻宵は幻の家族の符を剥がせなかった。けれど――。
 自分を包む二人の熱を離したくない。喰らってしまっては触れられないから、もう二度と壊したくない。
「繎の愛を解かなきゃ」
 櫻宵はこれまで以上の想いが己の中に満ち溢れていることを感じていた。
 いつか、そのときが来たら再び愛を示そう。
 自分達が選び取った愛を。
 喰らい壊すのではなく――繋げて紡いで、結んでゆくために。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜

壁の彫刻を見遣り
花咲けば綺麗なのにと思いながら
語るのは魔法の先生

昊くんはいっつも怒ってたし面倒臭がりで手もすぐ出る!
でも優しくて解り難いけど甘やかしてくれて
亡くなったときは世界から彩が消えたように悲しくて
再び逢えたとき辛かったけど嬉しくて
初めて名前を呼ばれて
夢で嫌いじゃないと言われてわたしは――

あれ?
え、えぇ…っ

憧れだった
わたしの世界を変えてくれた
わたしに道を示してくれた
わたしの夢を守ってくれた

名前で呼んで欲しくて何度怒られても昊くんと名を呼んだ
おざなりな扱いでも時々撫でてくれた手が優しくて
何か成功したら口悪く当たり前だなんて言うけれど
あの双眸が和らぐ瞬間が好きだった

好き、だった
憧れじゃなくて、わたしは昊くんが好きだった?
花開くことはなくて
蕾にすらなっていなかったかもしれない

それでもわたしは確かにあのひとが
昊くんが好きだったんだ

あ、はは…恋なんだね
正気か?って昊くんなら言いそう
いまの想い人に向ける愛とは少し形が違う

心はひとりに捧げているから
でもいつまでも想い続ける
幼い恋心はあの人の傍に



●こいねがう
 彫刻として現れたのは予想通りの花。
 心に刻まれている花でもあり、裡にいつまでも咲き誇るもの――桜の花。まだ蕾のまま枝に成る花々を見つめ、荻原・志桜(春燈の魔女・f01141)は幾度か瞬く。
 花が咲けば綺麗なのに。
 そう思いながら志桜は或る人の姿を思い浮かべた。
 志桜にとっての先生であり、魔法の師匠。
 彼は初めて出逢ったときに花を咲かせてくれた。たった一輪の桜だったけれど、あの花が咲いたときから志桜の心には桜が宿っている。
「……昊くん」
 弟子になってから、こう呼ぶと怒られた。
 先生と呼べと言われても志桜は何度も呼び続けた。
「あの人はいっつも怒ってたし、面倒臭がりで手もすぐ出る!」
 彼との日常を思い出した志桜は、もう、と頬を膨らませた。しかし、すぐに笑みが零れる。あの態度は素直じゃない彼の好意の裏返し。頬を抓られて頭を叩かれて、強い言葉もたくさん向けられた。
 それでも彼は志桜を置いていくようなことも、約束を破ったこともなかった。
 長いお別れを迎えた、あの日を除いて。
「……優しくて、本当は面倒見が良くって、解り難いけど甘やかしてくれて――」
 ずっと一緒にいたかった。
 志桜は蕾のままの桜に指先で触れる。彫刻の中のちいさな花がひとつ、咲いた。
 彼が亡くなったとき、世界からすべての彩が消えたようだった。
 悲しくて苦しくて、彼が咲かせてくれていた心の花が枯れて萎んだようにも感じてしまった。彼のお陰で咲けた花だったのに。
 されど、志桜は彼の彩を受け継いだ。髪に宿る彼の名残と、繋げて貰った路があったからこそ此処まで歩いてこれた。
 彼が生き続ける道があるなら、自分と出会わなかったことにしてもいい。
 そのように思い詰めるほどに彼を想った。もしかすれば、そのときの心に咲いていた桜は闇に染まりかけていたのかもしれない。
 そして、再び逢えたとき。
 闇に心を囚われた彼を見たときは辛かった。けれど嬉しくて、呪縛から解き放たれた彼に初めて名前を呼ばれたとき、胸が高鳴った。
 幾度かの魂の巡りと邂逅を経て、夢で「嫌いじゃない」と言われて――。
「わたしは……昊くんの、ことが」
 無意識に呟いた志桜は掌で壁に触れていた。そうすることで、それまで一輪だけしか咲いていなかった桜が次々と花開き始める。
「あれ?」
 ひとつ、またひとつ。
 あの公園で彼が掌に宿してくれたような、可憐な花が咲いていく。
「え、えぇ……っ」
 想いの花がゆるりと動いていく様を見つめ、志桜は胸元に手を当てた。これまでは違うと思っていた想いが解かれていくようで不思議だ。
 憧れだった。
 かけがえのない、大切なひとだった。

 ――わたしの世界を変えてくれた。
 ――わたしに道を示してくれた。
 ――わたしの夢を守ってくれた。

 昊の姿を思い浮かべた志桜の胸に、いとおしさが溢れていく。
 大好きだから名前で呼んで欲しくて、何度も怒られながらも昊くんと名を呼んだ。
 彼が宿していた制約を知らなかった幼い志桜は、そうすればいつか呼び返してくれると信じて呼び続けた。
 おざなりな扱いでも、時々頭を撫でてくれた手が優しくて嬉しかった。
 きっと彼も何度か名前を呼ぼうとしてくれたのだろう。思い返せば、急に彼の息が詰まり、言葉が途切れるような時が幾度かあった。いつも怒っていたのは志桜に対してではなく、自分に宿る儘ならぬ制約に怒りを禁じ得なかったからかもしれない。
 名前を呼べない制約と呪縛があると知った今、昊にも葛藤があったのだと分かる。
 教わった魔法が成功した時、彼は口悪く「当たり前だ」なんて言ったけれど。
 志桜は見ていた。彼の双眸が安堵したように和らぐ瞬間。その姿がすごく好きだった。そう、確かに――。
「好き、だった」
 志桜はゆっくりと言葉を口にした。
 この気持ちは先生や魔法に向けた憧憬だとばかり思っていた。思い込もうとしていた、と表す方が正しい。
「憧れじゃなくて、わたしは昊くんが好きだった?」
 疑問は確信に変わっていく。
 幼い恋心は花開くことはなくて、蕾にすらなっていなかったかもしれない。
「それでも、わたしは確かにあのひとが――昊くんが、好きだったんだ」
 はっきりと言い切ったとき、頬に一粒の雫が伝った。
 水滴は地面に落ちる。その瞬間、壁に宿った桜の花が満開に咲き誇った。美しく変じた彫刻を見つめた志桜の口元が緩む。
「あ、はは……恋なんだね」
 愛を語る場所が心を肯定してくれていた。間違いではないと示してくれている。
 昊が傍にいれば「正気か?」と呆れた目を向けてくるのだろう。根が真面目な彼だから、もし想いを伝えていたとしても応えて貰えることはなかったはず
 辛いとは思わない。そうでなければ彼らしくないから。
 いまの想い人に向ける愛とは少し形が違うけれど。それでも、素敵な恋だった。
「昊くん、大好き」
 アナタは、わたしの心に花の種をくれた。
 育った花はたくさんの蕾を付けて花を咲かせている。アナタがいなくなったことで一度は彩をなくした花も、今は確かな色彩を宿しているから。
 心はひとりに捧げている。でも、いつまでもアナタを想い続けたい。
 幼い恋心と思い出は色褪せない。
 忘れてはいけない大切な想いは、ずっとあの人の傍に。
 そうして、志桜の前に扉が現れた。
 それが工房の扉に似たものだと気付いた志桜は手を伸ばして歩き出す。やっと気付けた想いと共に、彼が待つ場所に戻りたいと思った。
 きっと――彼もまた、この想いを認めてくれると信じているから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
…愛
つまり万禍について語ればいいのか

剣より聞こえた『は?』に笑う
檻に囚われた幽かな骸魂に聞かせた、あの続きだ
柄に止まった蝶の黎先輩も聞いて下さるご様子
万禍との思い出が数え切れない程あるが故
どこから語ろうか少々悩んで

…最初の印象は“強い剣”でした
数多の血と死から成る夥しい呪いに塗れ、穢れても
それに抗い、禍祓う剣としての誇りを失わぬ様が眩しかった
万禍の様に凛と輝く黒色を私は他に知りません

二つ目は“優しい剣”
出逢ったばかりの頃
武器を持った事がない私は満足に揮えず
けれど万禍は一度も声を荒げる事はなかった
構え、力の入れ方
心構え
如何にすればいいのか教えてくれた万禍は
剣の師匠と言えます

それにまだUDCアースに居た頃
宵栄の事で私が塞ぎ込んでいた時は何も訊かず
黎先輩の思い出話を聞かせてくれました
先輩の人柄
直して欲しい所
…おや
先輩が翅で万禍を叩いている(くすくす

口数の少ない剣ですが
そこに宿る確かな優しさに何度も救われました

宵栄と再会した、あの時も

私の愛に形があるとしたら
きっと万禍の形をしているのでしょうね



●凛々しき黒
 水辺に浮かぶ白睡蓮の花々。
 固まらぬ泥が織り成した彫刻の壁は、蕾のままの睡蓮が刻まれている。
 まるであの日に自分が咲かせた睡蓮の蕾のようだ。そのように感じた汪・皓湛(花游・f28072)は壁にそっと触れた。
 冷たい彫刻の花を咲かせれば出口の扉が現れる。そのためには愛を語る必要がある。それこそが此処、言葉通りの愛を語らないと出られない部屋だ。
「……愛」
 皓湛は壁の花を瞳に映した後、傍らに携えた剣に視線を落とす。少しばかり考え込んだ皓湛はいつものように両手で万禍を包み込み、淡い笑みを浮かべた。
「つまり万禍について語ればいいのか」
『は?』
 普段は口数の少ない万禍だが、このときばかりは間髪を容れずに言葉が返ってきた。その素直な反応がおかしくて、皓湛は可笑しそうに咲う。
 皓湛は睡蓮の花と万禍を交互に見遣ってから、その場に静かに腰を下ろした。それは普段に寛ぐ格好と同じ。
 四方を壁で囲まれており、語り終えるまで出られないと分かっているからだ。急いては事を仕損じるという言葉もあるので、皓湛は決して焦らない。
 そして、語るのは――。
 檻に囚われた幽かな骸魂に聞かせた、あの続きだ。ひらりと舞い降り、万禍の柄に止まった蝶。皓湛が黎先輩と呼ぶ幽世蝶も、話に耳を傾けてくれるようだ。
「ほら、黎先輩も聞いて下さるご様子」
『……致し方ないか』
 万禍は観念したように呟き、皓湛が語ろうとする話を聞く体勢に入った。双眸を細めた皓湛は万禍との思い出を思い起こしていく。
 どの記憶がいいか。数え切れない程にあるが故、どこから語ろうか少々悩んでしまうほどに万禍とのみちゆきは思い出深い。
 そっと一度だけ目を閉じた皓湛は語り始める。
「……最初の印象は“強い剣”でした」
 万の禍を斬り祓う剣。
 それが万禍という名の謂れだ。
 数多の血と死から成る夥しい呪い。呪縛に塗れて穢れても、万禍はそれに抗い続けている。災いや呪に縛られていても、禍を祓う剣としての誇りを失わぬ様が眩しかった。
 呪いは命を斬る毎に剥がれていくが、其れは険しき道であり困難でもある。
「万禍の様に凛と輝く黒色を私は他に知りません」
 往々にして、黒は不吉や禍々しいものとして扱われる。闇がそうであるように、漆黒が絶望を連想させるように、一般的に良き色とは認識されていない。
 だが、皓湛は不吉だとは思っていなかった。
 凛とした黒を敬愛と尊敬をもって見つめられる。真っ直ぐに告げられた皓湛の言葉に対し、万禍自身は敢えて何も応えなかった。
 それから、皓湛は更に万禍に対して思うことを言葉にしていく。
「二つ目は……“優しい剣”だと感じています」
 そう思う理由は、忘れもしないあの時。
 あれは出逢ったばかりの頃だ。当時、それまで武器を持ったことがなかった皓湛は万禍を満足に揮えずにいた。真っ直ぐに振り下ろすことはおろか、重さと勢いに負けて取り落としてしまうことも屡々あった。
 それでも、万禍は皓湛を叱責することはなかった。一度も声を荒らげることなく、辛抱強く皓湛に剣の扱いを教えてくれた。
 構え、力の入れ方。
 そして何よりも大事な、刃を持つことの心構え。
 如何に己を扱い、剣を揮っていけばいいのか。全てを丁寧に教えてくれた万禍の言葉は今も皓湛の胸の裡に刻まれている。
「だから、万禍は剣の師匠と言えます」
 緩やかに語られていく思いは師弟愛や相棒愛にも似ていた。その言葉を受け、壁の彫刻がゆっくりと動いている。花神として自分が力を分け与えているときのように、睡蓮が静かに花ひらいていく様は見ていて和ましい。
 自分の力ではなく、言の葉で咲いていく花は不思議でありながらも微笑ましかった。
 そうして、皓湛は花唇をひらく。
「それに――」
 あれはまだUDCアースに居た頃。
 宵栄のことを思い、皓湛が酷く塞ぎ込んでいた時分。万禍は何も訊かずに傍に居続けてくれた。話さずにいるという不義理を行っていると感じていた皓湛に対し、万禍はかつての使い手である、黎・宇狼の思い出話を聞かせてくれた。
 それが万禍なりの気遣いだったと知った時、皓湛はどれほど救われたか。
 先輩の人柄。直して欲しい所。それから――。
 皓湛が更なる話を続けようとする中、ぱたぱたと小さな羽撃きの音が聞こえた。
「……おや」
 黎先輩が翅で万禍を叩いている、と気付いた皓湛はくすくすと笑う。
 万禍は黙ったままだったが、気まずさを感じている雰囲気は伝わってきた。皓湛は剣を大切に抱き、感謝の念を抱く。
 万禍が呪われし剣であることは違いないが、其処に宿る確かな優しさがある。
「これまで、何度も救われました。万禍がいなければ、私は……」
 見過ごしてしまう事柄もあっただろう。
 致し方ないと諦めたこともあったかもしれない。
 そうだ。宵栄と再会した、あの時も。
 それでも、万禍がいたから最悪の事態は訪れなかった。独りで歩み続けなければならないという路から万禍が救ってくれた。
 縁を繋げて、礎を築いてくれたのは間違いなく万禍だ。
「私の愛に形があるとしたら、きっと――」
 壁の彫刻は既に満開の花に変わっていた。心に抱く思いを言の葉にしたことで白睡蓮は咲き誇り、皓湛の思いを認めてくれた。
 みなまで言わなくていい、と腕の中の万禍が言っているようだが、皓湛はわざとその願いを受け入れなかった。立ち上がった皓湛の肩には幽世蝶が止まっている。
 皓湛は躊躇うことなく、心からの想いを声にした。
「万禍の形をしているのでしょうね」
『…………』
 返答はなかったが、何だか万禍が照れているような雰囲気が感じられた。皓湛は穏やかに微笑み、壁に現れた扉を見つめる。
 
 さあ、共に歩いていこう。
 これからも続く日々を重ねて、繋げていく為に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】◎

愛のお話?
じゃあルーシーは大好きな誰かさんのお話をする!

その人はね、とても背の高い方なのだけど
最初にご挨拶した時にしゃがんで
ルーシーと目を合わせてくれたの
今までそんな事して下さる人は居なかったから
すごく嬉しかった

そしてね、その方はパ…ええと、家族になって下さって
楽しい所も怖い所も色々お出かけして
嬉しいも哀しいも沢山お話して
ルーシーの…ララの事を知っても傍にいてくれて
心が折れそうな時は温かく支えて下さる
わたしにとって今、とても大事なパ…、家族なの

ちょこーっとご自身のこと大事にしないクセがあるし
時々イジワルな所もあるけれど
周りの人が喜ぶ事に心を砕いて、優しくて
皆を守ろうと頑張り屋なゆぇパパの事を愛しているわ

あれ?
今、ゆぇパパって言っちゃった?

わ、笑わないでよう!
次!パパの番!

…もう
オコガマシイとかシカクが無いとかダメダメだとか
ご本人でもパパを悪く言って欲しくないのに

いいもん
あなたが良いんだって
パパだから愛してるんだって言い続けるし
ぎゅっとハグする

わ!お花、キレイ…!
ええ一緒に!パパ


朧・ユェー
【月光】◎

おや、閉じ込められてしまいましたねぇ
愛について話して出れる部屋とは…

ルーシーちゃんの大好きなんだ方のお話ですか
それを黙って聴いていて、最後に自分の名前に目をパチパチした後くすりと笑って

僕が愛について話すなんて烏滸がましいですが

初めて出逢った小さな子は
ぬいぐるみが大好きでとてもか弱く誰かが守らないとはいけない存在の様に見えた

父親の様に居たいと思わせてくれる子
でも同時にそんな事を思うことは僕には資格がないじゃないかと
そんな僕をその子はただ見てるだけじゃなく
手を引いてくれてそちら側へと導いてくれた
そしていけない事はいけないと僕を叱ってくれた

そんなダメダメな僕を父親にしてくれて
大好きだと、愛してる言ってくれる
僕の娘

しゃがんで目線を合わせて
ありがとう、僕も愛してるよ
と頭を撫でる
ふふっ、やっぱり叱って下さる
父親よりも頼りになる娘ですね
抱きしめ返して再びありがとうと

おや、花が咲きましたねぇ
立ち上がり手を繋いで
一緒に出ましょうね、ララ



●父と娘の愛しき花
 此処は愛を語らないと出られない部屋。
 名前の通りの領域には今、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)がいる。
「おや、閉じ込められてしまいましたねぇ」
「見て、ゆぇパパ。このお花ってカスミソウかしら?」
 周囲を見渡すユェーの傍らで、ルーシーは壁に施された彫刻を見遣った。小さな花がたくさん成っている植物の彫刻は間違いなくカスミソウだ。しかし、不思議なことに咲いた状態ではなく全てが蕾のまま。
「なるほど。これが愛について話すと出られる部屋……」
「愛のお話?」
「えぇ、愛を語れば花が咲いて出口が出来ると聞いています」
 ユェーが事前に聞いてきたことを語る。蕾のままのカスミソウは愛や好きなことを語ると次第に花開いていくものだ。
「じゃあルーシーは大好きな誰かさんのお話をする!」
 ルーシーは意気込み、きらきらとした瞳でユェーを見上げた。お話をすることで花が咲いていく光景を想像するだけでも楽しく、大好きなことなら幾らでも語れる。
 元気な少女の様子を見守りながら、ユェーは静かに微笑んだ。
「ルーシーちゃんの大好きな方のお話ですか」
「そうなの!」
「では、僕にも聞かせてください」
 嬉しそうに笑むルーシーを見つめ、彼女が話し出した声に耳を傾ける。ルーシーは壁のカスミソウに目を向け、ちらりとユェーを見てから語っていく。
「その人はね、とても背の高い方なのだけど」
 ふふ、と微笑んだルーシーの口元は花のように綻んでいた。
 そして、彼女は思いを言葉に変える。
「最初にご挨拶した時にしゃがんで、ルーシーと目を合わせてくれたの」
 今までそんなことをしてくれる人は居なかった。礼儀を尽くしてくれた人はたくさんいたけれど、彼と視線が合ったときのことは忘れられない。
 すごく嬉しかった、と口にしたルーシーは何を話そうか悩んだ。何故なら、彼との思い出や記憶がとてもたくさんあるからだ。
「そしてね、その方はパ……ええと、家族になって下さって、楽しい所も怖い所も色々お出かけして、嬉しいも哀しいもいっぱいお話して――」
 話す度に思いが募っていく。
 大好き。とても好き、という思いが胸いっぱいに満ちていた。
「ルーシーの……ララの事を知っても傍にいてくれて」
 ――ララ。
 大切な意味がある名前を知っているひと。
 心が折れそうなとき、彼はあたたかく支えてくれる。
「わたしにとって今、とても大事なパ……、ええと、家族なの」
 ルーシーは彼を呼びそうになりながらも懸命に語っていった。優しいばかりではなく彼にもよくない部分がある。
「ちょこーっとご自身のこと大事にしないクセがあるし、時々イジワルな所もあるけれどね。……周りの人が喜ぶ事に心を砕いて、優しくて……」
 ルーシーは彼のそんな部分も嫌いではない。
 そうして、愛しい気持ちを抱いたルーシーは真っ直ぐに告げた。
「皆を守ろうと頑張り屋なゆぇパパの事を愛しているわ」
「……ふふふ」
 その言葉を黙って聞いていたユェーは思わず笑ってしまう。最初から分かっていたが、最後に自分の名前が出されたからだ。
「あれ? 今、ゆぇパパって言っちゃった?」
「えぇ、何度も言いそうになっていましたが……最後にはっきり言いましたね」
「わ、笑わないでよう!」
「すみません、つい」
 まだくすりと笑っているユェーからの視線が何だか恥ずかしい。彼から顔を逸したルーシーは熱くなった頬を押さえる。
「次! パパの番!」
「はい、わかりました。僕が愛について話すなんて烏滸がましいですが……」
 ゆっくりと息を吐いたユェーも、壁の花を見つめた。
 何を話すべきか。何から語るべきか。
 少しだけ考えたユェーはぽつり、ぽつりと言葉を並べていく。
「初めて出逢った小さな子は、ぬいぐるみが大好きな子でした。とてもか弱く見えて、誰かが守らないとはいけない存在のように思えました」
 しかし、実際の彼女は強かった。
 それでも父親のように見守りたい。傍に居たいと思わせてくれる子。
「……けれど」
 ユェーは頭を振った。思いとは裏腹に違う考えが浮かんでくる。そんなことを思う資格など自分にはないのではないか、という思考だ。
「そんな僕を、その子はただ見てるだけじゃなく……手を引いてくれてそちら側へと導いてくれました」
 そして、自分を叱ってくれた。
 いけないことを当たり前にいけないと教えてくれた子。それがルーシーという名の可愛らしい少女だった。
「パパ……」
「そんなダメダメな僕を父親にしてくれて、大好きだと、愛してる言ってくれる」
 ――僕の娘。
 ユェーはそっとしゃがみ、ルーシーに向き直った。それは最初に会ったときと同じように彼女と視線を合わせるためだ。
「……もう」
「どうかしましたか?」
「黙って聞いてれば、オコガマシイとかシカクが無いとかダメダメだとか! たとえご本人でもパパを悪く言って欲しくないのに!」
 視線を重ねながら、頬を膨らませたルーシーは怒っている。
 されど、これも自分のことを思っての言葉だとユェーには分かっていた。それゆえに彼女が愛おしくてやさしいと感じる。
「ごめんなさい、ルーシーちゃん」
「いいもん。あなたが良いんだって、パパだから愛してるんだって言い続けるし」
 ユェーが謝るとルーシーは腕を伸ばした。
 そのままぎゅっとハグしてくれた彼女の背に腕を回し、ユェーは微笑みを深める。
「ありがとう、僕も愛してるよ」
 背を支え、もう片手で彼女の頭を撫でる。そうして、自分のために怒って叱ってくれる彼女を大切に思った。
「ふふっ、それにやっぱり叱って下さる。父親よりも頼りになる娘ですね」
 ルーシーを強く抱き締めたユェーは再び同じ言の葉を紡ぐ。
 ――ありがとう。
 重ねた言葉には深い愛が籠もっている。そして、二人は視線の先で壁がゆっくりと動いていく様を見た。蕾だったカスミソウの花が咲いている。ちいさな花であっても、その様子がはっきりと分かった。
「わ! お花、キレイ……!」
「おや、花が咲きましたねぇ」
 互いを抱き締めた腕を解いた二人は、満開になったカスミソウの壁を瞳に映す。
 愛の言葉と思いを聞き届けた部屋が自分達を祝福してくれている。そんな風に感じたユェーはそっと立ち上がった。
 彼が視線を向ける先には、出口としての扉が現れている。ユェーは少女の手を取り、扉に手をかけた。
「一緒に出ましょうね、ララ」
「ええ一緒に! パパ、大好きよ!」
 ララと呼ばれた声を愛おしく感じながら、ルーシーは手を握り返す。
 しっかりと手を繋いだ二人は進むべき方に向かっていった。二人で歩み続けていけるなら、これからも先を目指していける。
 咲いたカスミソウの花言葉は『幸福』。
 だから、二人ならきっと――いっしょに幸せを咲かせられるはず。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【比華】

愛している、だなんて
言葉に紡いで告げてしまえば些細なこと
ただの言葉などにするのは勿体無いわ
浅く終わらせるのは簡単なのだもの
あなたも、そう思うでしょう?

頬を滑る指先の温度
混ざりのわたしと違わぬ温もり
――なあに、あねさま
常よりも柔い声色にて溢して
白魚のような美しい手へと、指さきを重ねる

あなたから注がれる想いを知っていた
純な愛情の中に交わる、澱んだ想いも
識っていたわ。理解っていたの
溺れるような愛を罪とするのならば
受け入れたわたしも、おんなじでしょう

あねさまが暗闇に留まり続けるのならば
わたしはあなたの傍へと往きましょう
そうして、あなたの手を引いて飛び発つの

あなたがわたしを鎖す錠ならば
わたしは、あなたを拓く鍵になるわ
結ぶも開くも、昇るも堕ちるも
互いの思うがまま
――ね、ステキでしょう?

毒に翻弄される一華を
あなたというひとを捕えて離さない

あなたの背へと腕を回して
淡いぬくもりの内で含み笑む
ずっと、ずうと。あなたの心に生き続けるわ
醜い表情は、あなたへと見せない

甘美な響きね
如何なる花が綻んだのかしら


蘭・八重
【比華】

あらあら、閉じ込められしまったわね
愛を語るなんていつも事なのに良いのかしら?

彼女の頬に手を当てて
なゆちゃん私の天使
絡める綺麗な指が絡まり貴女の温もりが伝わる

幼き頃に私を姉として認めてくれた子
あの時の笑顔は今でも忘れない
誰よりも美しく紅く一輪の華
どんな毒よりも猛毒で貴女の愛という毒なら侵されても構わない
言葉にするには勿体無い
そう想って貴女を鳥籠に閉じ込めた
私だけしか知らない世界へと

貴女を殺して私も死ぬ
嫉妬の炎で何度貴女を殺したかしら?
私だけのモノしたいと想った
死さえ

同時に生きて欲しいと思っているのよ
光を進んで欲しいと
鳥籠に鍵を掛けずに貴女がいつでも飛べる様に

嗚呼、でもダメね
貴女を手放す事を嫌だと
誰にも渡したく無い
地獄だって、天の神にだって渡さない
わたしくの最愛の妹
愛してるわ、愛してるの

貴女を愛という名の錠で閉じ込めて
何て素敵な事かしら
貴女の鎖で繋がるのなら一緒に堕ちる

あら?花が咲いたかしら?
一一嬉しいわ。貴女の毒は一滴も逃さない
永遠に真っ赤な毒が満たされる

死する時は私のキスで一緒に



●結びの先触れ
 愛を語れば扉が開き、進むべき路が示される。
 言葉と文字通りの愛を語らなければ出られない部屋。彫刻になった泥壁に四方を囲まれ、辺りを軽く見渡した後、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)と蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)は顔を見合わせた。
「あらあら、閉じ込められしまったわね」
「牡丹一華と薔薇が美しいわね。未だ蕾のようだけれど、それでも綺麗」
 二人は知っている。
 此処では此の花が咲けば愛を認められるということ。しかし、彼女達は語ることを厭っているわけではない。寧ろ語れるからこそ疑問を抱いていた。
「愛を語るなんていつも事なのに良いのかしら?」
「愛している、だなんて言葉に紡いで告げてしまえば些細なこと」
 ただの言葉などにするのは勿体無い。
 好き、大好き、愛している。そういった言の葉を並べていくだけで、それが本心であるならばすぐにでも部屋から解放されるのだろう。
「浅く終わらせるのは簡単なのだもの。あなたも、そう思うでしょう?」
「えぇ、なゆちゃん」
 七結から問われたことに頷きと熱い視線を返し、八重は口元を緩めた。軽くなんて終わらせない。語るならば、とことん奥深くまで。
 微笑みを交わした姉妹は視線を重ね、互いに抱く愛を言の葉に変えていく。
 八重は七結の頬に手を当てた。
「なゆちゃん、私の天使」
 七結は八重の声と共に感じた、頬を滑る指先の温度を確かめる。
 ――混ざりのわたしと、違わぬ温もり。
 七結は声にはしない思いを胸に秘め、呼び掛けられた声に答えた。
「なあに、あねさま」
 常よりも柔い声色を紡ぎ、甘やかに溢した七結は彼女の白魚のような美しい手へ指さきを重ねる。しなやかな指と指が絡まり、互いの温もりが更に伝わっていく。
「……好きよ」
「知っているわ」
 八重から伝えられた言葉に頷いた七結は、その声に聞き入っていく。誰よりも、何よりも好きで愛おしいと語った八重が此処まで七結に心を捧げる理由。
 それは――幼き頃に、自分を姉として認めてくれた子だから。
 あねさま。
 そう呼んでくれた、あのときの笑顔は今でも忘れない。忘れてはいけないものだと思い、八重は心に記憶を刻んでいる。
 八重にとって七結は誰よりも美しく咲き、紅く輝く一輪の華。
 そして、花には毒がある。それはどんな毒よりも強く甘美なもの。そのように感じている八重は愛しい妹の手を握り締める。
「貴女の愛という毒なら侵されても構わないわ」
 本当は、この思いすら言葉にするには勿体無いほど。
 そう想って、貴女を――七結を鳥籠に閉じ込めた。八重だけしか知らない世界へと。
 八重が紡ぐ言葉もまた、猛毒のようなもの。
 七結は瞼を閉じる。
 先程にも述べた通り、彼女から注がれる想いを知っていた。純粋で真っ直ぐな愛情の中に交わる、澱んだ想いも、狂おしいほどの情も。
「総て識っていたわ。理解っていたの」
 この溺れるような愛を罪とするのならば。きっと――。
「受け入れたわたしも、おんなじでしょう」
「なゆちゃん……」
「あねさまが暗闇に留まり続けるのならば、わたしはあなたの傍へと往きましょう」
 そうして、あなたの手を引いて飛び発つ。
 鳥籠の中で過ごす日々は終わり、次は二人で空を巡る時。七結は重なった手をそっと引いてみる。そうすれば、自分の方に八重の身体が引き寄せられた。
「あなたがわたしを鎖す錠ならば――わたしは、あなたを拓く鍵になるわ」
 それは愛を受け入れる証。
 ふたつでひとつだと認める言葉でもある。
 結ぶも開くも、昇るも堕ちるも、すべてが互いの思うがまま。
「――ね、ステキでしょう?」
「えぇ、とっても」
 毒に翻弄される一華。あなたというひとを捕えて離さない。
 七結からの呼び掛けに対し、満足そうに微笑った八重は更に想いを語る。これだけでは足りない。満たされない。
 もっと、もっと――と心が叫んでいる。
「貴女を殺して私も死ぬ。嫉妬の炎で何度、想像の中の貴女を殺したかしら?」
 何度も願った。私だけのモノにしたい。
 死の瞬間さえ、自分の手の中で。
「でもね、同時に生きて欲しいとも思っているのよ」
 闇に沈むのではなく、光を進んで欲しいと願っている八重もいる。
 鳥籠に閉じ込めていても、鍵を掛けずに貴女がいつでも飛べるようにしたい。そんな気持ちもあることを伝えつつも、八重の気持ちは揺らいでいた。
「嗚呼、でもダメね」
 貴女を手放すことを嫌だと思ってしまう。それこそが素直な気持ちだ。
 誰にも渡したくない。
 誰にも盗られたくはない。
「地獄だって、天の神にだって渡さないわ。わたしくの最愛の妹……なゆちゃん」
 八重はそうっと腕を伸ばして七結を抱き寄せる。
 抵抗しない七結の身体を強く抱いた八重は、その耳元で囁いた。
「愛してるわ、愛してるの」
「甘美な響きね」
 七結も八重の背に華奢な腕を回して、抱き寄せ返す。淡いぬくもりの内で含み笑む表情は誰にも見られていない。
「大丈夫よ、あねさま。ずっと、ずうと。あなたの心に生き続けるわ」
 死がふたりを分かったとしても。
 心に刻まれるのは、私だけ。
 想いを重ねる、或る種の醜い表情はあなたには見せない。此れは自分だけの心に仕舞っておく思いだから、それでいい。
 八重は七結を強く抱き締め続けている。
 想うことは唯一つ。
 貴女を愛という名の錠で閉じ込めて、ずっと傍にいる。裏腹な思いを抱きながらも愛情だけは一貫して変わらない。
「ふふ、何て素敵な事かしら」
 貴女の鎖で繋がるのなら、何処までも一緒に堕ちることができるから。八重が顔を上げると、七結も同時に伏せていた瞼をひらいた。
 互いの視線の先には花開いた牡丹一華と薔薇がある。双方の愛を受け、認めた花はそれはもう見事なまでに大輪の花を咲かせ、美しく誇っていた。
「あら? 花が咲いたかしら?」
「私達の花が綻んだのね」
 深くて甘い。
 時に苦くて泥沼のような心だけれど。二人にとって、此れは愛。
 身体を離した七結と八重は、横合いに扉が出来ていることに気付いた。其処から踏み出せば外の世界に出られるのだろう。
 八重は双眸を緩め、己の思いを改めて言葉にしていく。
「――嬉しいわ。貴女の毒は一滴も逃さないもの」
 永遠に真っ赤な毒。
 それが心に満たされているように感じた八重は七結の手を取った。まだ二人で生きていくと決めているけれど、いつかそのときが来たら。
「死する時は私のキスで一緒にね」
 八重が語った言葉に、七結は敢えて返事をしなかった。どうなるかわからない未来の先を此処で語るのは無粋であり、もっと別の甘美な方法もあるかもしれない。
 だから、今は未だ。
「いきましょうか、あねさま」
 七結は扉を開き、外の景色を見渡す。
 その先に続き、巡りゆく運命と結びは――まだ、誰も知らない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結
💎🌈


確かに変な部屋ですね
でも、愛を語らないと出られないとなれば――
語るしかないですよね?

ふふ!
魔術の力がなくても、ゆけますよ
二人揃えば敵なしです
それでも、魔術を覚えたいのなら、
早く此処から出て、お勉強しましょうっ

零時はみゆの友達です
大切で大好きで、尊敬する面もあります
遊ぶ時も冒険する時も、自然と笑みが零れちゃいます
戦闘の時は心強くて
光のようにきらきらするするんですよっ!
零時にも見せたいくらい

あと、一際凄いと思うことは魔術に対するひたむきな姿勢です
……みゆは、
零時の魔術に対する想いを見て、魔法戦士になりたいと思うようになりました
守られるばかりじゃない
共に戦い、隣で歩む戦士になりたい

友達だから傍に居たい
友達だから――、……す、き?
好きという気持ちは間違いない、ですけど
考えれば考える程、深みに嵌る気がするのです

――ねぇ、零時
みゆはこれからも傍にいてよいですか?

優しい優しい零時のことです
答えは安易に想像がつきます
それでも、このお花が開くまでの僅かな間
みゆに力をください

ふふ、零時
――好きです


兎乃・零時
💎🌈


愛を……???
なんかおかしな部屋だな、心結

語らないと出られない……魔術でもどうにもならねぇのがもどかしいぜ…
こーゆうのに適した魔術覚えとけば……!
まぁそれもそうだな!二人なら敵なしさ!
あ、大事な友人への思いも良いんだよな、そーゆうんだったら語れるぜ!
語ろうか!

心結は、大好きな友達!
今まで色々遊んだり戦ったりしてきたけど……毎日がより一層楽しくなってるぜ!
後心結ってお洒落だよな、色んな服とか合って、其れがどれも似合ってて綺麗だし!
これからもずっと一緒に色々出来ると嬉しいぜ!
あ!それと心結の笑顔!キラキラしてて凄く好きだぞ!

それに心結が魔法戦士になって頑張ってるの見ると、負けらんねぇってなる!
……傍で歩む戦士になるってんなら、猶更俺様も頑張らないとだ!

好きの気持ちは……詳しく考えるとぐるぐるするよなぁ

勿論!これからも傍に居てくれると嬉しいぜ!
迷うことなくそう応え

…俺様も、心結が大好きだぜ!

一瞬だけ、頬に朱が染めながら、満面の笑みで応えるのだ

咲く花の蕾は、二人の心を表すのかもしれない



●好きの意味
「愛を……???」
「愛を語れとゆわれているようですね」
「なんかおかしな部屋だな、心結」
「確かに変な部屋ですね」
 言葉通りの不思議な空間で、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(桜ノ薔薇・f04636)は首を傾げていた。
 何かをしないと出られない部屋が、謎解きや魔術の力試しの場所であるのならば予想も付いたが、此処はそういったところではないようだ。
 どのような仕組みで出来ているのかは誰にも分からない。知っているとしたら、この場所の主であった女媧だけなのかもしれない。
 本当に不思議で妙だと感じながら、心結は周囲をぐるりと見渡す。
「でも、愛を語らないと出られないとなれば――」
「語らないと出られない……」
 零時も倣って壁を眺めてみる。其処には何かの花の蕾を象った彫刻が施されているが、今は何の花かわからなかった。この花を咲かせれば外に繋がる扉も出現する。心結は必ず此処から出ることを決め、零時に問いかける。
「語るしかないですよね?」
「魔術でもどうにもならねぇのがもどかしいぜ……。しまったな、こーゆうのに適した魔術を覚えとけば……!」
 零時はというと、いつものように魔法でどうにかしたかったようだ。まさに彼らしいと感じた心結はくすくすと笑った。
「ふふ! 魔術の力がなくても、ゆけますよ。二人揃えば敵なしです」
 魔法ばかりがすべてではない。
 そう語るように微笑んだ心結は真っ直ぐに零時を見つめる。視線を返した零時は笑みを浮かべ、強く拳を握った。
「まぁそれもそうだな! 二人なら敵なしさ!」
「それでも、魔術を覚えたいのなら、早く此処から出て、お勉強しましょうっ」
 魔術に全力を注ぐ零時の心境も考え、心結はこの後のことを提案する。無事に出られたならば、こうやって閉じ込められた際に役立つ魔法を探すのもいいだろう。
 心結の言葉に大きく頷いた零時は気合いを入れた。
「おう! あ、そういや大事な友人への思いも良いんだよな、そーゆうんだったら語れるぜ! 語ろうか!」
「はいっ」
 こくりと首を縦に振った心結も語ることへの思いを馳せる。
 そして、二人はこの部屋から出るための愛について、言葉を紡いでいった。
 まず、はじめは心結から。
 すっと息を吸ってから、心の裡に宿る思いを整頓した心結はゆっくりと口をひらく。
「零時はみゆの友達です」
 語るのはいつもいっしょで、今も隣にいる彼のこと。
 心結は想いをぎゅっと抱きしめるようにして、自分の胸に手を当てた。
「大切で大好きで、尊敬する面もあります。遊ぶ時も冒険する時も、自然に笑みが零れちゃいます。それから……」
 次々と言葉が溢れていく。
 彼を想うだけでこんなにも嬉しい気持ちでいっぱいになる。不思議な感覚を抱きながら、心結は更に語っていった。
「戦闘の時は心強くて、光のようにきらきらするするんですよっ!」
 零時本人にも見せたいくらいだと離した心結は壁をちらりと見遣る。徐々に蕾から花に変わっていく彫刻はなんとも妙だった。
 しかし、動いているということは自分の愛が認められている証だ。
「あと、一際凄いと思うことは魔術に対するひたむきな姿勢です。……みゆは、零時の魔術に対する想いを見て、魔法戦士になりたいと思うようになりました」
 守られるばかりではない。
 共に戦い、隣で歩む戦士になりたいと強く願っている。
「友達だから傍に居たいんです。友達だから――、……す、き?」
 語り続ける心結は次第に疑問を抱く。今までは当たり前だと思っていたが、こうして言葉にしていくことで自分の気持ちの違いに気付いてしまった。
「そう、です。そうなのです……」
 好きという気持ちは間違いはない。けれども、少しだけ違和もある。
 考えれば考える程、深みに嵌る気がしてしまった心結はそっと口を閉じた。このことはまだ語らない方がいいと判断した心結は顔を上げる。
 ん? と一度は不思議そうな顔をした零時だったが、すぐに合点した。
「次は俺様の番だな!」
「は、はい。おねがいします」
 心結は零時が良き流れとして受け取ってくれたことに安堵を覚え、そっと同意する。そうして其処から、零時から心結への思いが紡がれていった。
「心結は、大好きな友達だ!」
 抱く気持ちは友愛。
 心結が宣言してくれたように零時も彼女のことが好きだと語った。
「今まで色々遊んだり戦ったりしてきたけど……毎日がより一層楽しくなってるぜ! 後は心結ってお洒落だよな、色んな服とか合って、其れがどれも似合ってて綺麗だし!」
「ふふり、そうですか?」
 零時がたくさん褒めてくれたので心結は嬉しくなっている。
 そうして、零時は更に思いを声にした。
「だから、これからもずっと一緒に色々出来ると嬉しいぜ! あ! それと心結の笑顔! キラキラしてて凄く好きだぞ!」
 自分が輝いていると言ってくれた心結に向け、零時もお返しの気持ちを語る。それに先程の言葉もすごく嬉しかった、と話す零時は真っ直ぐだ。
「それに心結が魔法戦士になって頑張ってるの見ると、負けらんねぇってなる! ……傍で歩む戦士になるってんなら、猶更俺様も頑張らないとだ!」
 好きな気持ち。
 零時もまた、そのことに関して詳しく考えていた。ぐるぐるするよなぁ、と小さく呟いた零時は好きという言葉にも色々な意味があることを知っていた。
 壁の彫刻はどんどん咲き誇っていく。
 その最中、心結は意を決して気になっていたことを問いかけた。
「――ねぇ、零時」
「何だ?」
「みゆはこれからも傍にいてよいですか?」
 聞いてみたのは、答えが分かっていること。
 優しい優しい零時のことだから無下に断るようなことは絶対にしない。答えは安易に想像がついてしまうけれど、それでも。
(このお花が開くまでの僅かな間、みゆに力をください)
 そっと願った心結に対し、零時は満面の笑みを浮かべている。心結を正面から見つめた零時は勿論だと話す。
「これからも傍に居てくれると嬉しいぜ!」
 迷うことなく、当たり前であるかのように答えた零時。彼の笑顔を見ていると嬉しくて堪らなくなり、幸せな想いが溢れてきた。
「ふふ、零時。――好きです」
 心結は、自分が抱く心のすべてを告げた言葉に込める。すると零時の頬が一瞬だけ赤く染まった。そして、零時も心結への思いを全力で伝え返す。
「俺様も、心結が大好きだぜ!」
 その瞬間、二人を閉じ込めていた壁に扉が現れた。
 周囲の壁に咲いたのはスターチスの花。笑みを交わしあった二人は花の彫刻を暫し眺めたあと、扉に目を向けた。
 スターチス。それはリモニウムとも呼ばれる花。
 その花言葉は『変わらぬ心』。
 咲き誇っていた花の蕾は二人の心を表すものかもしれない。何故なら今、二人の間には蕾だった心が美しく花ひらいている。
 育っていくのは友愛か、恋心か。それとも――。
 進む路の先に巡る未来は未知。それはこれから、二人で選んでいくものだからだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助

クロト(f00472)を見る。
愛おしい。

即浮かぶ言葉なのに、愛を語るというのは難しい
考えようとしてもクロトが可愛すぎて思考がとけるし今日も楊貴妃みたいな美のオーラを纏っており眩い
これもクロトを愛すればこそなのか…


そうじゃな…愛の、源の話をしよう
想いが花咲くよりずっと以前の、根元から…

…会ったばかりの頃は。
ひときわ親切で心遣いを絶やさず、強くて頼もしくて。
なのに自分のことは一振りの暗器とでも捉えているようで。
好きなものを訊いても、首を傾げていたな

大晦日に、一年を振り返って。
共に過ごした日々を『楽しかった』と、そうクロトが言ったとき…
胸一杯こみ上げる喜びに自分でも驚いた
心の奥底にあった想いを知った
クロトの『楽しい』が、私はとびきり嬉しいのだな、特別なひとなんだな…と

この想いがずっと愛情の根幹にあって
今もこの先も幸せにしたいと思う
好きじゃよ、クロト

好き、大好きが嬉しい
そう言えるものがあることも、有難くもそれが自分であることも
変わらぬ言葉を永久に伝えたい
この腕に毎日あたたかく包みたい
愛してる…


クロト・ラトキエ

千之助(f00454)へ語る「愛」。
改めて意識しながら、となると…難易度、高い。
気を抜いてると、考えてる事そのまま口にしてしまう僕ですけど…

そぐう言葉 何[検索]


真実なんて必要無かったから。
耳障りの良い、相手が望む言葉を嘯いて。
最後は全て真っ新にしてサヨウナラ。
誰もが有象無象。
傲岸に不遜に、踏み躙る事も平然と…
否、思い至る事すら無かった俺には。

お人好しだが裡は見せない。
いつか手離す準備をしてる。
判り易く、解り難い――
悪人の興味を引く、暴きたく、壊したくなる逸材。


衝動は強くなるばかりのくせに。
壊せなかった。
手離したくなくなっていた。
想う事なんて消えていた俺に…ひかりを、くれたひと。

…どうしよう。
共に居た日々、分からなかった事や。
面倒だった事。楽しかった事。他愛無い事。
今は何だか挙動不審なのも。
好きで。
どうやっても愛しくて。
想いを伝えられると、僕は嬉しくて仕方なくて。
しあわせで。
千之助にはもっと幸せでいて欲しい。

好き。
大好き。
ずっと共に居たい。
結局…
言えるのは、いつも通りの事ばかりなのです



●訪れる幸せ
 いとしい。いとおしい。
 胸裏から溢れる気持ちが抑えきれない。
 彼にだけ、たったひとりに向ける感情が熱を帯びている。いつからこうだったのだろう。気が付けば抱いていた想いは、今もこの胸の裡に宿り続けている。
 佐那・千之助(火輪・f00454)はクロト・ラトキエ(TTX・f00472)を見つめた。
 愛している。
 彼を瞳に映すだけで浮かぶ言葉だというのに。
 いざ、此処で愛を語るというのは難しい気がした。なんとはなしに壁の花はゼラニウムだと予想していた。だが、どうやら此度に現れたのは鈴蘭のようだ。それらは蕾のままであり、これに愛の話を聞かせて咲かせれば扉が現れるというが――。
「クロト……」
「千之助へ、語る愛ですか」
 互いの名を声にした二人が立っているのは、愛を語らないと出られない部屋。その名の通り、何の害意も危険もないそのままの意味合いの場所だ。
 クロトも己が千之助に抱く愛しさは自覚している。しかしこうして改めて意識しながら、となると話は別だろう。
「難易度、高い」
 ――そぐう言葉 何[検索]。なんて、出来やしないことを思い浮かべてしまうほどにクロトは悩んでいた。
 それにもし検索が出来たとしても、二人だけの言葉を誰かに委ねたくはない。
 愛として紡ぐ言の葉を考えようとしても思考が上手く巡らない。千之助もまた、目の前に立つクロトへの思いを言葉に出来ないでいた。
 特に現在、こうして狭い部屋に二人きりでいることがいけない。困ったような目をしているクロトが可愛すぎて思考がとける。
 それに今日も楊貴妃のような美のオーラを纏っている彼が眩くて仕方ない。
「これもクロトを愛すればこそなのか……」
「愛。愛しています、けれど」
 千之助がぽつりと零した言葉を聞き、クロトもそっと思いを声にした。普段から気を抜いてると、考えていることをそのまま口にしてしまう癖が出ている。自分がそういったタイプであると分かっているクロトだが、やはり上手く言葉が纏まらない。
 そうしていると、千之助が先に口を開いた。
「そうじゃな……愛の、源の話をしよう」
 想いが花咲くよりずっと以前の、根元から。
 それこそ自分達が語るに相応しいものだとして、千之助はゆっくりと語り出す。
 出逢ったばかりの頃。
 あの頃の彼は今とほんの少しだけ印象が違った。千之助からの印象が変わったというわけではなく、クロトが自分を隠していたからかもしれない。
 だが、クロトは千之助から見て快い青年だった。
 ひときわ親切で心遣いを絶やさず、強くて頼もしくて――それだというのに自分のことは一振りの暗器とでも捉えているようで、其処だけは頑なだった。
「そういえば好きなものを訊いても、首を傾げていたな」
「そう、でしたっけ」
 千之助がしみじみと思い出している隣でクロトは軽く目を伏せる。クロトからしても自分が変わった、もとい己を曝け出せるようになっていると感じられた。
 そうして、千之助は更に語る。
「確か……大晦日に、一年を振り返ったときじゃ」
 共に過ごした日々を『楽しかった』と、クロトが言った。そのとき、千之助の裡に胸を満たすほどのたくさんの喜びが込み上げた。自分でも驚いたのだと話した千之助は、其処で心の奥底にあった想いを知ったと紡ぐ。
「クロトの『楽しい』が、私はとびきり嬉しいのだな。だから、クロトは他の誰とも違う特別なひとなんだな……と」
 これが千之助が至った愛の根幹。
 想いがずっと愛情の底にあるからこそ、今もこの先も幸せにしたいと思う。
「好きじゃよ、クロト」
 千之助が紡いだ言の葉は、壁の彫刻に変化を起こす。
 一部の壁の鈴蘭が形を変えて次々と咲いていく。それでも未だ出口を作り出すには足りない。そのように察したクロトは、自分の言の葉を此処に重ねようと決めた。
「……好き。大好き」
 千之助、と名を呼び返したクロトは想いを告げていく。
 真実なんて必要なかった。
 だからずっと相手が望む言葉を嘯いてばかりいた。いつか縁も絆も関係も消え失せることが当たり前で、最後は全て真っ新にしてサヨウナラ。
 誰もが有象無象。
 自分さえもそうだった。
 傲岸に不遜に、踏み躙ることも平然としてきた。否、思い至ることすらなかった自分が其処にいた。お人好しだが裡は見せない。いつか手離す準備をしている。
 判り易く、解り難い――悪人の興味を引く、暴きたく、壊したくなる逸材。当然でしかなかったことが変化した。
「――衝動は強くなるばかりのくせに」
 クロトは、ぽつり、ぽつりと想いを語っていった。雨垂れのような彼の言葉を優しく聞いている千之助は、何も言わずに頷いている。
 壊せなかった。
 手放したくなくなっていた。
「想う事なんて消えていた俺に……ひかりを、くれたひと」
 それが千之助だ。
 クロトが紡ぎあげていく想いは徐々に壁の花を咲かせていた。しかし、クロトは想いを声にする度に不思議な気持ちを抱き始める。
 どうしよう。
 共に居た日々、分からなかったことや面倒だったこと。楽しかったことに他愛無いこと。今は何だか挙動不審なのもまた、好きで。愛おしい。
 思い出す度に胸に熱が宿る。こんな感覚をしったのは、出逢えたから。
 どうやっても愛しくて。
「こうやって想いを伝えられると、僕は嬉しくて仕方なくて」
 しあわせで。
 幸福で、僥倖で。
 どんなに言葉を尽くしても足りないくらいだ。
「千之助にはもっと幸せでいて欲しい。それが……俺の、愛」
 クロトが語り終えたとき、鈴蘭の花が満開になって揺れた気がした。その花が宿す言葉は千之助も知っている。
 自分が彼に出会うことで変化を与えられたなら、それは――。
 どんなに嬉しいことだろう。彼の傍で咲く花になれているならば、千之助の心に宿る幸せも更に咲いていく。
 好き、大好き。愛したい。
 自分だけに告げてくれた先程の言葉を想い、千之助は嬉しさを抱いた。
 そう言えるものがあることも、有難くもそれが自分であることも、変わらぬ言葉を永久に伝えたいと感じる。
 毎日、この腕にあたたかく包みたいから。
「愛してる……」
「ずっと共に居たい」
 楽しい。嬉しい。幸せだ。千之助とクロトは想いを伝え合う。
 結局、言えるのはいつも通りのことばかりだけれど。それこそ自分達が抱く愛おしさの源であり、これからも変わらぬもののひとつなのだろう。
 やがて、鈴蘭は扉となって出口を作り出す。その向こう側は二人が歩むべき路に続いている。視線を重ね、頷きあった二人は手を取り合った。

 蕾は想いを受け、花ひらいた。
 幸福の種を育てるのは言の葉。心に咲くのは――きっと、愛しき想いの花。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月02日


挿絵イラスト