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殲神封神大戦⑭〜桃華絢爛

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑭ #封神仙女『妲己』

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#殲神封神大戦⑭
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#封神仙女『妲己』


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●仙女の願い
 誰か、私を殺してください。

 もう、生きていたくはないのです。
 どうして、何のために。我が身を犠牲にしたのかすら今はわかりません。

 どうかお願い。誰か、私の魂を解放して――。

●梁山泊の酒池肉林
 かつて、己が身を生贄として封神台を建立した封神仙女。
 妲己と呼ばれる彼女は一度、その身を犠牲にして全てのオブリビオンを封じた。しかし今、その彼女がオブリビオンとして蘇生されてしまったようだ。
 彼女は自らの死を望み、己の意思で猟兵や仙人達を傷つけようとしない。
 されど彼女の持つ自動的な力と、山岳武侠要塞『梁山泊』がそれを許さない。それゆえに自らでは何も打つ手はなく、妲己は梁山泊内部の玄室で死を待ち侘びている。

 だが、玄室に籠った彼女の香気は広がり続ける。
 それはあらゆる者を狂わせるものとなり、梁山泊は『酒池肉林の宴の間』と化しているようだ。元は無骨だった要塞の壁もさえも魅了され、輝く宝石と化している。
 仙界にいた美しい羽衣人達までもが梁山泊内の酒池肉林の宴に誘われ、正気を失いながら踊り狂うことしか出来ない状態だ。
 おそらく、この領域に入れば猟兵も羽衣人のようになってしまうだろう。
 この美しい宴に魅了されないように心を強く保つか、或いは桃月桃源郷の霊花で作った宝貝や道具を携えて向かうことが必要だ。
 魅惑の力を退けて玄室に辿り着いても、妲己の意思に関係なく発動するユーベルコードに対処しなくてはならない。
 殺戮と欲情を煽る『殺生狐理精』を憑依させる力。
 武林の秘宝である『流星胡蝶剣』は容赦なく此方を斬り裂きに来るだろう。
 また、『傾世元禳』という万物を魅了する香気は、こちらが妲己を攻撃しようとする意思を無効化させてしまう。
 それらにどのような形で対抗するか、この戦いは各々の手腕と意思が試される。

 救いと終幕を求める封神仙女に望む結末を与えるために。
 今、梁山泊での戦いが幕開ける。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『封神武侠界』、殲神封神大戦のシナリオです。
 妲己が配置された山岳武侠要塞『梁山泊』への道が開かれました。魅了の香気に耐え、死を望む妲己の願いを叶えてあげてください。

●概要
 戦地は『梁山泊』。
 妲己の香気が、この場をあらゆる者を狂わせる『酒池肉林の宴』化させています。
 要塞の壁までもが輝く宝石になり、きらびやかな雰囲気に変わっているようです。梁山泊内部には罪のない羽衣人達が誘われ、踊り狂っています。狂わされている以外は無害な彼らを傷つけないよう、魅了の香気に抵抗しながら妲己の元まで進んでください。

●プレイングボーナス
『「酒池肉林の宴」の魅了に耐えつつ、妲己の先制攻撃に対処する』

 ⑬のシナリオで宝貝などを作っている場合、酒池肉林の宴への対抗は最低限で済みます。宝貝等を持っている場合はプレイングにお書き添えください。アイテムである必要はなく、⑬のシナリオで作ったという経緯が確認できれば大丈夫です、

 妲己とは会話が可能です。
 また、過剰な性的要素があるプレイングについては、こちらでは採用できかねます。どうかご容赦ください。
 あとは全力で、妲己の望みを叶えるために戦ってください。ご武運を!
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第1章 ボス戦 『封神仙女『妲己』』

POW   :    殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD   :    流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ   :    傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黄泉川・宿儺
POW ◎



桃月桃源郷で作った宝貝の持つ<狂気耐性>で
酒池肉林の宴で正気を失わないように精神を鎮静化させるでござる

『殺生狐理精』が誘発する殺意と劣情を<根性>で耐えながら、
妲己殿の下へ歩みを進めるでござる

妲己殿の下にたどり着いたら、妲己殿に対して謝意を述べる

妲己殿、このような形でしか介錯できぬこと、誠に申し訳ないでござる
せめて、妲己殿の過去がこれ以上不本意に辱められぬよう
全力でいかせてもらうでござる!

【UC:絶壊拳撃】
拳に<覚悟>を込めて
『殺生狐理精』により5倍に強化された
<怪力>無双の一撃を妲己殿に叩き込むでござる

妲己殿が生きた証を辱める「過去」なんて!
絶対に小生の拳でぶっ壊すでござる!



●使命と願い
 山岳武侠要塞、梁山泊。
 遠い未来に人界が宿星武侠を必要としたときのために作られた山城だ。いつか訪れる時を待っていたはずの要塞は現在、酒池肉林の狂宴が巡る場と化していた。
「かなりの香気でござるな」
 黄泉川・宿儺(両面宿儺・f29475)は眉を顰め、要塞に満ちる香気を振り払う。
 その手に装着されているのは桃月桃源郷で作った手袋型宝貝、黎明甲だ。聖なる力と呪いの混じり合った包帯で出来た品は、周囲の香気を跳ね除けている。
 このおかげで宿儺は正気を失わずにいられた。
 それでも油断は禁物だ。宿儺は周囲で踊り狂うことしかできない羽衣人を見渡しながら、要塞の奥の玄室を目指していく。
「後で必ず助けるでござるよ」
 羽衣人達に暫し耐えて欲しいと告げ、宿儺は酒池肉林の宴の最中を突っ切る。宝貝の力を巡らせつつ自らで精神を落ち着けていけば、進む度に香気がより色濃くなっていくことに気付いた。
 やがて、奥から嘆きと悲しみの声が聞こえてきた。
「誰か――誰か、私を……」
「妲己殿……随分と苦しまれているようでござるな。今すぐに参るでござる!」
 宿儺は床を蹴り、玄室へと一気に踏み込んだ。
 その瞬間、妲己の視線が宿儺に向いた。同時に羽衣が妖しく揺れる。それによって自動発動したユーベルコードが宿儺に襲いかかってきた。
「……!」
「いけません、どうか耐えてください……」
 妲己から飛び立っていった殺生狐理精の力が宿儺を包み込む。
 宿儺は己の感情が瞬く間に塗り替えられていくかのような感覚を抱いた。誘発される殺意と奇妙な劣情が自分を押し潰していきそうだ。
 だが、宿儺は根性で耐えていく。
「妲己、殿……」
 相手の名を呼びながら歩みを進める宿儺は胸の前に黎明甲を掲げた。
 殺戮衝動を抑えた宿儺は妲己を真っ直ぐに見つめる。このままでは衝動のままに周囲を破壊してしまいそうだったが、宿儺は耐え続けていた。まずは妲己にどうしても伝えたいことがある。それは宿儺なりの謝意だ。
「このような形でしか介錯できぬこと、誠に申し訳ないでござる」
「いいえ……」
 妲己は首を横に振る。
 宿儺達、猟兵が自分の願いに応えようとしていることを悟ったのだろう。宿儺は強い意志を抱き続け、妲己に告げていく。
「せめて、妲己殿の過去がこれ以上の不本意に辱められぬよう――ここからは全力でいかせてもらうでござる!」
 妲己と宿儺の視線が重なった。
 頷いた妲己は此方の思いを感じ取ってくれたらしい。未だ殺生狐理精の力は発動し続けているが、後は宿儺の気力次第でもある。
 宿儺は拳に覚悟の思いを込め、強く握り締めた。
 ――絶壊拳撃。
 怪異により著しく強化された膂力と、類稀なる修練。それらによって編み出された魔拳が妲己に差し向けられていく。
 玄室の床を強く蹴り、跳躍することで勢いを増した宿儺は腕を突き出した。
「妲己殿が生きた証を辱める『過去』なんて!」
 黎明甲は妲己の香気を無効化しながら鋭い風の如く振るわれる。刹那、怪力のままに叩き込まれた無双の一撃が妲己を貫いた。
 まだ戦いは始まったばかり。
 これから幾度となく宿儺は狐理精が齎す衝動に抗うことになるだろう。だが、耐えた宿儺は己の思いを宣言した。
「絶対に小生の拳でぶっ壊すでござる!」
 己の死を望むという悲しき願いであっても、妲己の思いは叶えられるべきもの。
 宿儺は戦い続ける。
 この手で決着を付けられる運命がある。そのことを確かに知っているからだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒珠・檬果
真面目で悲しい人ですね、彼女。役目を果たしていたというのに…。許すまじ張角。
ええ、だから。私は初志貫徹して討ちましょう。彼女に期待されてるんですし。

宝貝『璃茉虹衣』を携えて、魅了に対抗。彼女の望みを叶えるまで、負けるものか。
結界で無傷に羽衣人たちを弾きまして。

そして、その流星胡蝶剣は…白日珠[長剣形態]で受けて落とす…!
そして…こちらのUC!流すのは妲己のみ!どれだけ飛翔しようと、限りある場では逃げきれないでしょう。
かなり冷たいですけど、我慢してください…!
それでも足りなければ、この長剣を振るってでも命を狙う。

虹はかかるけれど、その場にあなたはいない。…それがあなたの望みの先。



●七色の未来の先
 玄室。それは死者を埋葬するための墓室のこと。
 梁山泊の奥に作られた部屋には今、現状を嘆き悲しむ妲己がいる。玄室を己が居るべき場所と定めた妲己は、自らの死を望んでいた。
「真面目で悲しい人ですね、彼女」
 荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)は梁山泊の奥を目指しながら、妲己についての思いを言葉にした。
「役目を果たしていたというのに……」
 檬果が胸に抱くのは、許すまじ張角、という思い。
 妲己に蠱毒の贄の役目を与えたという、封神大計画を立てた仙翁達。そして、妲己自身が行った殺戮や悪徳は赦してはいけないものかもしれない。
 だが、現状の事態を引き起こしたのは此度の戦の首魁・張角だ。どのような思惑や過去があろうとも、今だけを見据えればいい。
「ええ、だから。私は初志貫徹して討ちましょう。彼女に期待されてるんですし」
 檬果は桃月桃源郷で得た宝貝に己の力を込める。
 璃茉虹衣と名付けられた薄絹は檬果の思いを受け、周囲に満ちる魅了の力を弱めていった。それでも、色濃い香気は檬果の意識を揺さぶろうとする。
 檬果は気を確かに持ち続けた。
 彼女の――妲己の望みを叶えるまで、負けるものか。
 強い思いを抱いた檬果は結界を巡らせ、酒池肉林の宴で踊り狂わされている羽衣人達を弾いていった。無論、その際に彼らを傷つけないように気をつけている。
 そして、檬果は件の玄室に踏み込んだ。
 妲己は既に猟兵と交戦しているようだ。彼女の意思とは無関係に発動するユーベルコードが玄室に広がっている。檬果の到来に気付いた妲己は、はっとして声を紡いだ。
「避けてください……!」
「ご心配には及びません!」
 妲己からの呼びかけに答え、檬果は薄絹を揺らめかせる。流星胡蝶剣は檬果を真正面から貫かんとして迫ってきていたが、一瞬後には鋭く弾かれた。
 七色に散っていた白日珠が深密将『荀攸』を憑依したことで長剣形態となり、胡蝶剣が受け止められたのだ。
 されど刃は次々と襲いかかってきており、檬果の身体に刀傷が刻まれていく。
「出来る限り、受けて落としますから……!」
 しかし、檬果は怯まない。
 白日珠を振るい、虹衣で防御しながら胡蝶剣を薙ぎ払う彼女は真剣だ。痛みを堪えながら立ち向かっていく檬果は反撃の機を窺う。
「ああ……そんなに傷付いて……」
 妲己が悲しげに首を横に振った次の瞬間。
 其処に好機を見出した檬果は、白日珠を高く掲げた。
 ――十二秘策・水。
 其処から解き放たれたのは大量の凍えるほど冷たき水の濁流。周囲の仲間は標的に定めず、流すのは妲己のみ。
 たとえ玄室の中で飛翔しようとも、限りある場では逃げ切れぬと踏んでのことだ。
 妲己は抵抗しようとせず、されるがまま濁流に呑まれた。
「かなり冷たいですけど、我慢してください!」
 檬果の言葉を受けた妲己が弱々しく頷く姿が見える。だが、妲己の意思に反して流星胡蝶剣が檬果の身を貫いていった。
 傷付きながらも檬果は果敢に立ち向かい続ける。攻撃が足りなければ、この長剣を振るってでも妲己の命を狙う心算だ。
 否応なしに溢れ出す香気と胡蝶剣の猛攻に耐えつつ檬果は決意を固めた。ふわりと揺れた虹衣の輝きを感じながら、檬果はそっと告げる。
「虹はかかるけれど、その場にあなたはいない」
 ――それがあなたの望みの先。
 檬果の眼差しはひたすらに真っ直ぐに、いずれ訪れる終わりを見据えていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

張・西嘉
今こそ妲己と戦うために作った宝貝や強化した武器が役に立つのだろう。

伝え聞きで聞いてきた妲己とあまりにも違う様子に戸惑うも。行った事は確かに悪事であった。
オブリビオンに未来はない。ならば望み通り命を絶とう。

宝貝『桃風扇』や桃の破魔を纏った青龍偃月刀で酒池肉林の影響は最低限に。
さらにUCを重ねられれば強く拳を握りしめ争う。
耳飾りを意識すればキンとした冷たさに意識を戻されて
妲己のように望まぬ色香に翻弄された人を知っているから…救ってやりたい。などと言ったらあの人は拗ねるだろうか。

UC【氷蒼の加護】
俺は一人ではないそれが心強いな。



●悪滅の扇
 魅了の香気で満たされた梁山泊。
 此処は現在、酒池肉林の宴の間に変えられてしまっている。無骨だった要塞の壁さえも魅了されており、香気に当てられたことで輝く宝石と化しているようだ。
 この場所はそれほどに香気に侵された場所。
 生身や無策で向かえば、猟兵とて無事ではいられないだろう。
「今こそ妲己と戦うために作った宝貝や強化した武器が役に立つのだろう」
 張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)は宝貝である桃風扇を構え、同様に霊花の破魔を纏った青龍偃月刀を握る。
 この要塞の奥にある、玄室に籠もっている妲己。
 彼女は蠱毒の贄となりオブリビオンを封じる封神台を築くという役目を与えられていた。そのために人間に討たれる必要があり、多くの殺戮と悪徳に手を染めたという。それゆえに人間界には彼女が如何に悪だったかということが伝わっている地域もある。
「妲己の役目か……」
 西嘉は妲己についての考えを巡らせた。香気は彼を踊り狂わせようと漂ってきたが、宝貝のおかげでそれらは弾き返されている。
 妲己はオブリビオンの根絶が後の世に安寧をもたらすと信じたが故に、悪徳と呼べるような行動をしてきた。
 新たに知った真実に戸惑いながらも、西嘉はやはり妲己は悪だと判断する。
「しかし、行った事は確かに悪事であった」
 強く宣言した西嘉は妲己のいる玄室に辿り着く。途中、踊り狂っている羽衣人も見かけたが手を出さないことで駆け抜けてきた。
 既に他の猟兵と交戦している様子の妲己を見据え、西嘉は強く言い放つ。
「オブリビオンに未来はない。ならば望み通り命を絶とう」
 だが、その瞬間。
 妲己の意思とは無関係に放たれた万物を魅了する香気が広がった。
「どうか、抗ってください……」
 悲しげな妲己の声すら、西嘉の意識を揺らがせるものとなってしまっている。傾世元禳は無意識に友好的な行動を行わせるもの。必死に抵抗していく西嘉は、妲己に攻撃するという意思を強く固めた。
 強く拳を握りしめることで、己の中に芽吹いた感情と争う西嘉。
 その際、彼が意識したのは耳飾りだ。キンとした冷たさに意識が戻された気がして、西嘉はふらりとよろめいた。そして、西嘉は妲己を見据える。
「妲己のように望まぬ色香に翻弄された人を知っているから……救ってやりたい。などと言ったらあの人は拗ねるだろうか」
「どなたのことですか?」
 西嘉が呟いたことに対して妲己は不思議そうな顔をした。その後、西嘉には大切な相手がいるのだと気付いた妲己はそっと瞳を伏せる。
 殺して欲しいと彼女は語っていた。
 それだというのに、妲己に宿されたユーベルコードは周囲に発動していく。
 西嘉は相手の力に対抗すべく、氷蒼の加護を巡らせた。
「俺は一人ではない。それが心強いな」
 想い人のことを考えながら西嘉は傷を蝕む溶けない氷を飛ばしていく。氷の侵食が妲己を蝕んでいく中、彼は身構え直す。
 魅了の香気は未だ漂い続けており、西嘉は何度も揺らぎそうになった。
 それでも――何度でも、幾度だって立ち向かい続ける。
 心に決めた西嘉は桃風扇を振り上げる。其処から繰り出されていく青龍偃月刀の一閃は、己が悪と断じたものを両断していった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

神坂・露
レーちゃん(f14377)
●宝貝:やわらかな彩の揺れる耳飾り。
…今回の相手は戦うのがとってもとっても心苦しいわ。
でも妲己さんのお願いを叶えないと苦しんじゃうわよね。
…。
愛剣二本で早業の2回攻撃を加えた【銀の舞】で…斬るわ。
鎧砕きと鎧防御無視を加えておくわよ。…念のために。
なるべく。なるべく痛みを与えないようにしなくっちゃ。
腕が鈍ったら逆に苦しんじゃうことになっちゃう。
仙界のおねーさん達を見切りと野生の勘で避けて妲己さんへ。
わわ?!剣が襲って?
…大丈夫。レーちゃんがなんとかしてくれるわ!!

あ。破魔の宝貝持ってるからって油断しちゃあだめよね。
破魔とオーラ防御と狂気耐性を身体に纏っておくわ。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
●宝貝:桃花を模した装飾の美しいペンダント。
パフォーマンスで身体を整え上昇させ封印を解き更に上昇。
そして限界突破後に範囲攻撃。全力魔法の高速詠唱で魔術を。
行使するのは【崩圧陣】。重力で生み出す剣の動きを鈍らせる。

妲己…殿には露が向かうだろうから私は後方に居ようと思う。
剣の攻撃を見切りや野生の勘や第六感で回避しながらなのだが。
重力の力で剣の動きが鈍っていれば私でもなんとか回避できよう。
露へ向かう剣の数も減らすことができると思うが…さて。

…妲己殿は極力苦しまずに還って戴こう。せめて苦しみを少なく。
倒した後は近場の花を供えて帰ろうと思う。やれやれ…だ。



●哀しみに捧げる花
 妲己の放つ香気に当てられ、酒池肉林の最中と化した梁山泊。
 要塞の様相は実に奇妙だ。魅了の力に感化された壁が宝石となり、床は不思議な煌めきを放っている。誘われた羽衣人は踊り狂い、正気を失っていた。
 それはまさに狂宴と呼ぶに相応しい。
 神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)とシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は梁山泊内部を駆け抜け、異変を確かめていく。
 目指すのは奥にある玄室。
 其処に籠もっている妲己は誰かを待ち侘びている。自分を殺してくれる相手を待つために死者を葬る部屋に自ら入ったのだ。
「……今回の相手は戦うのがとってもとっても心苦しいわ」
「そうだな、死を望むほどに苦しんでいると聞く」
 露は悲しげに呟く。
 その耳元にはやわらかな彩の揺れる耳飾りが揺れていた。シビラは不安げな露の横顔を見遣り、自分の胸元に触れる。
 シビラは桃花を模した装飾の美しいペンダントを提げていた。それと似たものが露の首元にもある。二人が香気の満ちる梁山泊を進んでも平気なのは、それらが桃月桃源郷で創った宝貝であるからだ。
 後で絶対に解放すると誓いながら、踊る羽衣人の横をすり抜けていった露は苦しい思いを押し込めていく。
「でも妲己さんのお願いを叶えないともっと苦しんじゃうわよね」
「そうなるな」
 露の言葉を聞いたシビラは静かに頷いた。
 その言葉は多くないが、露にはシビラが同意してくれたことを悟る。望む死を与えることが自分達のやるべきことであり、最良の選択であるはず。
「……」
 決意を抱いた露は、無言で二本の愛剣を構えた。
 見えたぞ、と先を示したシビラは香気が色濃く漂う玄室を指差している。そして、シビラ達は玄室に突入していった。
 先に辿り着いた猟兵と妲己が交戦している。
 しかし、二人の到来が察知されたことで妲己からユーベルコードが巡った。彼女の意思とは別に発動したのは傾世元禳の香気と、宙を舞う流星胡蝶剣による攻撃だ。
「――っ! レーちゃん、下がって!」
 咄嗟に剣を刃で受け止めた露は鋭い衝撃に耐えきった。
 同時にシビラが後方に下がり、自らの身体に巡る魔力を整えはじめる。力を上昇させながら封印を解けば更に魔力が紡がれていった。
「あれが妲己か」
 自らの限界を突破したシビラは妲己を見据える。漂う香気は宝貝が防いでくれているが、この玄室に満ちた力は予想以上だ。
 眩むような感覚を与えられたシビラは、持ち前の精神力で抵抗する。
「――Poarta castelului, ridică-ți capul Deschide poarta eternă!」
 香気に呑まれる前に紡いだ詠唱を魔術へと代え、シビラは反撃に出た。超重力が周囲に巡ったことで露に襲いかかっていく胡蝶剣の動きも鈍くなる。
 崩圧陣を行使していくシビラの援護を受け、露も一気に攻撃を仕掛けにいった。
 クレスケンスルーナとグランドリオンを素早く切り放つことで敵の刃を弾く。其処からすぐに体勢を立て直した露は、強い眼差しを妲己に向けた。
「斬るわ」
 銀の舞のスピードに胡蝶剣は付いてこれず、露は妲己に斬りかかる好機を得る。そのままの勢いで刃を振り下ろせば、妲己から押し殺した声があがった。
「……っ!」
 彼女は抵抗らしい抵抗をしない。本気で殺して欲しいと願っているからだろう。だが、無防備なままでいることを彼女のユーベルコードが許さない。
 再び巡った香気と胡蝶剣がシビラと露に襲いかかった。それらを弾いて魅惑の力に抗いながら、彼女達は戦い続ける。
「なるべく。なるべく痛みを与えないようにしなくっちゃ……」
 露は素早く刃を扱い、妲己の力を削っていく。
 もし躊躇って剣閃が鈍ったとしたら、逆に妲己を苦しめることになるだろう。そのとき、シビラは露が真剣になりすぎていることに気付いた。
「露、少し肩の力を抜くといい」
「え……レーちゃん? わわ?! また剣が襲ってきたわ」
 声を掛けられ、はっとした露は自分が妲己のことしか考えられていなかったのだと気付いた。既に流星胡蝶剣は露に迫ってきており、危険な状態だ。
 しかし、其処はシビラの手腕が試される場面。
「無理をしなくてもいいからな」
「そうね、大丈夫。レーちゃんがなんとかしてくれるもの!!」
 露にそっと告げたシビラは後方から超重力を解き放った。
 やっと露にいつもの彼女らしさが戻ってきたことを確かめ、シビラは魔力を巡らせ続ける。露へ向かう剣の数を減らし、自分にも巡る余波を避けていったシビラは、改めて妲己の姿に目を向けた。
「少しずつ力は削れていると思うが……さて」
「あ。破魔の宝貝を持っているからって油断しちゃあだめよね。レーちゃん、惑わされちゃいけないわよ」
「分かっている」
 本当は心配などしていないのだが、露はそっとシビラに語りかける。
 平気だと答えたシビラは露に前を任せ、破魔の力を更に強めた。耳と胸元に宿された破魔の霊力は二人をしっかりと守ってくれている。それに加えて、互いを思いあう気持ちがあれば香気に惑わされることはないだろう。
「……妲己殿は極力苦しまずに還って戴こう。せめて苦しみを少なく」
「そうね、絶対にそれがいいわ」
 シビラと露は頷きを交わし、戦いへの思いを強めた。
 まだ戦いは続くが、無事に倒せたならば花を供えてやりたい。巡りゆく戦いの様子を瞳に映しながら、シビラは少しだけ肩を竦める。
「やれやれ……だ」
 死を望むまでに至った境地。それはとても哀しいことだ。
 それでも進むためには成し遂げなければいけない。悲しげに此方を見つめ、終わりを願っている妲己を救うためにも。
 そして――力と想いを重ねた露とシビラは、果敢に戦い続けていく。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

栗花落・澪
桃の花で作った水晶の花、瑞季晶
大切な人への誓いを乗せて
護りたい欠片に貰った名前と共に戦場へ

死にたいのに死ねないのは、辛いよね
僕には救いがあったとはいえ…気持ちは少しわかるから
貴方がそれを望むなら、僕も出来る限りで答えたい
貴方に救いがあらん事を

僕自身が元々持つ【誘惑】を香気への耐性代わりに
【高速詠唱、多重詠唱】で【オーラ防御】に【浄化】の光と風魔法、【狂気耐性】を混ぜ込んで
一時的でも香気を遮断したい

初手は翼の【空中戦】で回避を重視

その前にまず、貴方の罪を精算すべきかな
魂だけじゃない
貴方の心も解放するために

【祈り】で【指定UC】発動
罪の無い羽衣人達には害の無い
悪を【浄化】する【破魔】の光で攻撃



●解放の光
 狂乱を齎す香気が満ちる要塞にて。
 煌めく壁や床、正気を失いながら踊り狂う羽衣人達。
 異様な光景から目を逸らさないようにしながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が大切そうに握り締めたのは、桃の花で作った水晶の花――瑞季晶。
 これは大切な人への誓いを乗せ、護りたい欠片に名を宿して貰ったもの。
 妲己から溢れている香気が澪に効いていないのも、このお陰だ。確かな決意を持って戦場へ赴いた澪は、妲己のことを思う。
「死にたいのに死ねないのは、辛いよね」
 光を信じて進んでいたというのに、その先にあったのが闇だけだと知ったら。或いは光さえ見えない暗闇に閉じ込められたままだったとしたら。僅かではあるが、澪は妲己と自分の境遇を重ねていた。
「僕には救いがあったとはいえ……気持ちは少しわかるから」
 澪は願いと祈りに似た思いを抱き、妲己がいる玄室に向かった。途中に何人も惑わされた羽衣人を見たが、澪は彼らに触れることはしない。
 自分が元々持っている誘惑の力を巡らせ、澪はそれを香気への耐性代わりにしていった。ほんの少しではあるが、その力が羽衣人にも作用したようだ。
 そして、澪は妲己の元に駆けた。
 其処には猟兵と交戦している妲己の姿がある。自分の行動とは裏腹に発動してしまうユーベルコードは猟兵や澪を貫こうとしている。
「いけません、避けて……」
 周囲を自由に舞う流星胡蝶剣と共に妲己の声が澪に向けられた。
 はっとした澪は床を蹴り、刃の軌跡から逸れる。だが、宙で回転した流星胡蝶剣が澪の翼を斬り裂いてしまった。
「……痛っ」
 羽根が散り、鋭い痛みが襲ってくる。
 されど、飛べなくなるほどの傷ではないと判断した澪は反撃に移った。
 まずは高速詠唱からの多重詠唱。其処から巡らせるのはオーラ防御だ。初撃のような痛みを負わぬよう展開したオーラを纏い、澪は更に浄化の光と風魔法を紡ぐ。
「まだまだこれからだよ!」
 纏った力に狂気への耐性を混ぜ込めば、玄室に満ちる香気にも耐えられるはずだ。
 其処まで力を重ねた理由は、一時的でも香気を遮断したいがゆえ。
 天井近くまで飛び上がった澪は翼を大きく広げた。次々と飛んでくる流星胡蝶剣を避けるべく、軌道を見極めた澪は双眸を細める。攻撃は激しいが、妲己本人は猟兵を傷つけたいとは思っていないようだ。
「お願いします、私を……」
 妲己は死を望んでいる。そのことを改めて確かめた澪は、優しく言い放つ。
「貴方がそれを望むなら、僕も出来る限りで答えたい」
 ――貴方に救いがあらんことを。
 でも、と首を横に振って口調を切り替えた澪は妲己を見据えた。
「その前にまず、貴方の罪を精算すべきかな」
 封神大計画を成し遂げるためとはいえ、妲己は過去に人間にとって悪事を重ねた。その罪が赦されるものではないと本人も語っていた。
 それゆえに――魂だけではなく、彼女の心も解放するために。
 澪は想いを込めた瑞季晶をそうっと握り締めながら、祈りを捧げていく。其処から巡らせていく力の名はフィーアト・ルクス。
「全ての者に光あれ」
 澪の全身から放出される魔を浄化する光は周囲を照らし始める。光の洪水、或いは奔流とも呼べる輝きは戦場全体を貫いていった。
 悪を浄化する破魔の光は、哀しき仙女の願いを叶えるために巡っていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

笹乃葉・きなこ
●POW アドリブお任せ

酒池肉林と聞いてたけどここまでひでぇとは
宝貝作っておくんだったなぁ

あぁ~~いいオスといいメス共がァ…いい飯がオラを誘惑するぅ…
ぜぇてぇ楽しい空間じゃんここぉ~~。

「殺生狐理精」もうるせなぁ、望み通りお前の飼い主殺してやるって

呪詛耐性、狂気耐性ダメ押しでダメならおらのアイテム要の紋をリミッター解除でもっと耐性をあげて二つを我慢我慢
「殺生狐理精」にはそれに加えて除霊と浄化で対応するんだべぇ
身体から追い出せるなら引っぺがしてユーベルコードでなぎ払ってやる

待たせたべな
死ぬ前はいてぇし辛いからなぁ?
がまんしろよぉなぁ、ユーベルコードを叩きこんでやるべぇ、ぐーぱんで!



●幻惑の香気
 酒池肉林。
 酒をもって池と為し、肉を縣けて林と為し――長夜の飲を為す。
 故事でも語られるように、酒池肉林とは殷の紂王が愛姫である妲己の歓心を引くために催した宴が語源となっているものだ。
 人に討たれるために悪徳の限りを尽くして酒色に耽り、民を虐げたと云われた妲己は現在、オブリビオンとして梁山泊の奥に控えている。
「事前に聞いてたけど、ここまでひでぇとは」
 笹乃葉・きなこ(キマイラの戦巫女・f03265)は眩むような香気を感じ取り、宝貝を作っておくんだったなぁ、と呟いた。
 梁山泊に満ちている香気はとても強く、きなこの身を瞬く間に蝕んでいく。
 どうして此処に訪れたのか。
 目の前で催される宴のなんと楽しそうなことか。思考がぐるぐると巡っているような感覚をおぼえつつ、きなこは頭を押さえた。
 周囲には愉しげに踊り狂っている羽衣人達が見える。
「あぁ~~いいオスといいメス共がァ……いい飯がオラを誘惑するぅ……」
 何とか抵抗しようとするが、きなこはふらふらとそちらに歩いていきそうになった。もう少しだけ進めば愉しい宴に混ざることが出来るだろう。元に惑わされている羽衣人達は何の憂いもないかのように宴を楽しんでいる。
「ぜってぇ楽しい空間じゃんここぉ~~」
 行きたい。混ざりたい。
 きなこの思考と心が香気に支配されそうになった。だが、すぐにはっとしたきなこは首を横に振る。
 自らに宿る呪詛と狂気への耐性、そして要の紋の輝きが意識を引き戻す手伝いをしてくれたようだ。いつまでも宴の最中には居られないとして、きなこは梁山泊の奥に駆けていく。妲己が籠もっているのは奥の玄室だと聞いていた。
 既に他の猟兵が到着しているらしく、玄室は戦場と化しているようだ。
 きなこも戦闘に加わるべく室内に飛び込んだ。
 その瞬間、妲己から自動で発動した殺生狐理精がきなこに襲いかかる。自分を惑わせようとしている狐理精を振り払うように、きなこは果敢に耐えた。
「うるせなぁ、望み通りお前の飼い主殺してやるって」
 それは殺戮と欲を煽る代わりに、対象に力を与えるものだ。きなこは襲い来る衝動を我慢しながら、除霊と浄化の力を巡らせた。
 この狐理精をどうにかしなければ妲己に有効な一手は繰り出せない。そのように判断したきなこは気合いを入れ、精を身体から一気に追い出しにかかった。
「奇術を見せてやるべ」
 ――発動、笹乃葉式気功術。
 無理矢理に引っぺがしていくかの如く気功術が迸る。勢いのままに殺生狐理精をなぎ払ったきなこは、その支配から逃れた。
 其処から妲己に向き直ったきなこは身構え直す。
「待たせたべな」
「……お願いします」
 妲己はきなこを見つめ、どうか自分を殺して欲しいと願う視線を向けてきた。頷きと共に眼差しを返したきなこは拳を握り込む。
「死ぬ前はいてぇし辛いからなぁ? がまんしろよぉなぁ」
 未知の生体エネルギーを紡いでいくきなこは、真っ直ぐに妲己を見つめた。
 そして――。
「望む場所への道を開いてやるべぇ。ぐーぱんで!」
 刹那、鋭い気功術が解き放たれる。その一撃は強く叩き込まれ、彼女が願っている平穏な死を与えるための一手となっていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
世界の為に己を歪め、その結果がこれとは。救いがないにも程がある

宝貝たる刀、【清祓】を手に精神統一して魅了を振り払い妲己の先制攻撃を見据えよう
全く影響がないとは言わないが、それでも攻撃を凌ぐ分にはどうにか出来ると、落ち着いて動きを見極めて刀で受け流す
流石に強力な一撃、鉄刀のままなら折られていた可能性もあるな

攻撃時に交差するその一瞬に「殺してくれ」とあなたは言ったか
ああ、分かっている。その願いを叶えよう――空の型【碧落】
この一時だけ無念無想の境地へ至る事で魅了の影響を完全に抑え込み、先程よりも鋭い動きで妲己の攻撃を受け流し、素早く反撃の一刀を振るう

すまない。だが、この地の安寧は必ず取り戻してみせる



●神刀の加護
 仙女が酒池肉林に穢れる事で生まれる香気。
 妲己から溢れる魅了の力は梁山泊全体に満ちており、誘われた羽衣人は正気を失いながら踊り狂っている。
「世界の為に己を歪め、その結果がこれとは――」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は頭を振り、周囲の様子を探った。
 嘗て、封神仙女・妲己は蠱毒の贄となった。封神台を築くために自らが犠牲となった後にはオブリビオンが根絶されると信じて、人に討たれるために多くの殺戮と悪徳に手を染めてきた。それこそが後の世に安寧をもたらすと信じたが故だ。
 しかし、妲己の願いは儚く崩れ落ちた。
 それを如実に示しているのが、現在の状況だ。
「救いがないにも程があるな」
 鏡介は周囲に満ちる香気を避けながら、妲己に感じた思いを声にした。本来なら猟兵の心身すら惑わせてしまうほどの香気は振り払われている。
 鏡介の手には魅了に対抗できる宝貝、清祓の刀が握られているからだ。
 それでも完全に無効化されるわけではない。そのことをよく理解している鏡介は刀を強く握り締めながら、精神を統一していく。
 そして、梁山泊内を駆け抜けた鏡介は妲己がいる玄室に突入した。
「この香気は……」
 妲己本人が籠もっている玄室内には、これまで以上の魅了の力が充満している。噎せ返るほどの香気を感じ取った鏡介は床を踏み締めた。
 刹那、自動発動した流星胡蝶剣が鏡介に向けて飛んでくる。
 即座に清祓を横に薙いだ彼は、敵の剣を素早く弾き返した。されど空中で回転した刃は鏡介に更なる斬撃を浴びせかけようと動く。
 咄嗟に地を蹴り、横合いに跳んだ鏡介は妲己を見据えた。
「う、うぅ……」
 嘆きの声を零す妲己の瞳は、どうか避けてください、と語っているかのようだ。彼女の意思に反して鏡介には次々と流星胡蝶剣が襲いかかってくる。
 果敢に攻撃を凌いだ鏡介は呼吸を整えた。
「流石に強力な一撃だ。鉄刀のままなら折られていた可能性もあるな」
 この宝貝刀の効力もあって鏡介自身が簡単に香気にやられてしまうことはない。落ち着きを乱さないように心得ながら、鏡介は素早く玄室内を駆け回った。
 そうして、次の一瞬。
 胡蝶剣の動きを完全に見極めた鏡介は己の刀で斬撃を受け流した。其処から身を翻した彼は反撃の一手を放ちに掛かる。
 自動で動く胡蝶剣は妲己の元に戻った。だが、鏡介が斬り込む速度の方が僅かに疾い。
 刃と刃。視線と視線。
 其々が交差した瞬間、鏡介の耳元に妲己の声が届いた。
「どうか、殺してください」
「……ああ」
 鏡介が刃を完全に振り下ろし切った時、妲己の身から血が散った。それすらも甘い香りを放っており、意識が揺らがされそうだった。
「お願いします……」
 だが、次に妲己から放たれた言葉を聞いて鏡介は気を強く持つ。
 殺して欲しいと自ら語る妲己の願い、つまり命令にも等しい思いは受け取った。それによって鏡介のユーベルコードが巡っていく。
「分かっている。その願いを叶えよう」
 ――空の型、碧落。
 無念無想の境地へ至ることにより、鏡介の瞳に紋様が浮かびあがった。
 魅了の影響を完全に抑え込んだ鏡介は、先程よりも鋭い動きで以て妲己の攻撃を受け流していく。そして、素早く反撃の一刀を振り下ろした。
 その斬撃は深く、鋭く敵の身を抉る。
「すまない。だが、この地の安寧は必ず取り戻してみせる」
 妲己への誓いの言葉と共に鏡介は真っ直ぐな眼差しを向けた。そして、鏡介の一閃は戦いを終わりへと導いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

三上・桧

桃源郷で作ったイヤリング『朋瑞英』は自分と火車さんの耳に

結界術にて浄化の結界を自分の周囲に形成
イヤリングに宿る破魔の力も加えて、魅了の香気から身を守りましょう
羽衣人の方々にぶつからないよう注意して進み、妲己さんのもとヘ

先制攻撃が来たなら
火車さん、お手伝いお願いします
火車さんとの多重詠唱で結界を更に強化、殺生狐理精の憑依を防ぎます
『おやつ追加、忘れるでないぞ!』
分かっていますよ。カニカマでどうでしょう?

こんにちは、貴女の望みを叶えに来ました
『正直なところ、お前が悪女だろうが、封神台建立の立役者だろうが、妾にはどうでもよい。だが、』
死後は、安らかであるべきです

針をひと刺し



●胡蝶の願い
 魅惑の香気が満ちる梁山泊。
 要塞の壁までもが魅了され、妲己に相応しい存在になるために宝石化している。
「なんとも不思議ですね」
『眩し過ぎるほどだな』
 三上・桧(虫捕り王子・f19736)と、彼女の頭に乗っている猫又の火車さんは煌めく壁を一瞥した後、梁山泊内部へ進んでいく。要塞内は香気に誘われた羽衣人が酒池肉林の宴を行っており、正気を失いながら踊り狂っていた。
 猟兵ですら惑わせてしまう香気は進む度に強くなる。しかし、桧も火車さんも香気の影響は受けていない。
 二人の耳元には桃月桃源郷で作ったイヤリング、朋瑞英があるからだ。
 桧は結界術を巡らせ、浄化の力を周囲に形成していった。其処へイヤリングに宿る破魔の力も加えれば魅了の香気からは身を守れる。
 揺れる耳飾りに前足で軽く触れながら、火車さんは鼻先で前方を示した。
『向こうの方が香りが強いな』
「ということは、あちらが玄室ですね」
『玄室……遺骸を安置する部屋に籠もるとはな』
 桧が羽衣人達とぶつからないように進む中、火車さんは考えを巡らせていく。生きていたくはないと願う妲己は死した者が向かうことになる部屋に自ら入った。
 それはつまり、そのまま死なせて欲しいという意味合いだ。
 そのことを考えると複雑ではあるが、猟兵としてこの戦いは避けられない。桧は的確に通路を進み、玄室を発見した。
「火車さん、あそこですよ」
『気をつけて進まねばな』
 桧は既に其処で戦闘が行われていることを察知しており、しかと身構える。そして、一気に妲己がいる玄室に突入していった。
 刹那、桧に生温い風のようなものが覆い被さってくる。新たな猟兵の到来を察知した妲己から巡った自動発動のユーベルコード、殺生狐理精の力だ。
 それは殺戮と欲を煽る精。
 自分の心と精神が蝕まれていく感覚を抱きながら、桧は火車さんに呼びかけた。
「火車さん、お手伝いお願いします」
 その声を聞いた猫又は結界を重ねていく。殺生狐理精の憑依はまだ完全ではないゆえ、出来る限り防いでいく狙いだ。
『おやつ追加、忘れるでないぞ!』
「分かっていますよ。カニカマでどうでしょう?」
『く……これは……! めちゃうま鰹節も追加で頼むぞ』
 しかし殺生狐理精の力も強い。火車さんは苦しげな声を出したが、カニカマだけでは足りないという主張を混ぜられるほどには健闘している。
 されど狐理精の力は対象の能力を増すものでもあった。代償として命を削られている感覚を確かめながらも桧は勝負に出ていく。
 他の猟兵を刺すべく、周囲を飛び交っている流星胡蝶剣を避けた桧はひといきに妲己の元まで駆けた。
「貴方がたは……」
「こんにちは、貴女の望みを叶えに来ました」
 驚く妲己に一礼した桧は昆虫針を手にしている。火車さんも間近で妲己を見つめ、桧の言葉通りだと語った。
『正直なところ、お前が悪女だろうが、封神台建立の立役者だろうが、妾にはどうでもよい。罪を認めているのならば尚更。だが――』
 火車さんは正直な思いを声にする。そして、その言葉を継ぐ形で桧が口をひらいた。
「――死後は、安らかであるべきです」
 言葉と同時に針をひと刺し。
 妲己を貫いた長針はその生命力をゆっくりと奪っていく。過去という鋭い風に翻弄された彼女はまるで、儚い蝶のように思えた。桧は身を翻し、火車さんと共に更なる結界を巡らせることで仲間の援護に移る。
 今も突き刺さり続ける標本針は、きっと――妲己の願いを叶えるものに成り得る。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

龍珠を作った『龍璃』と重ねドライバーにセット
これなかったらやばかったな
瑠碧は大丈夫?

つか狐理精?避けれるもんなら避けたいが
見えねぇし
けど
瑠碧以外に欲情する訳ねぇ
ここ来る前に瑠碧も十分抱き締めた
大丈夫

自分のどこかに何かを壊してぇって気持ちがあるのももう知ってる
それでも瑠碧をみんなを守りたい
覚悟が違う

それにあんたを殺しに来たんだ
丁度いいぜ
強く拳握り正気保ち

変身し
より『龍璃』の守りを感じ
瑠碧に…守られてる感じする
これなら耐えられる

残像纏いダッシュで間合い詰め
正味3回?
で5倍
十分だな
確実に当てる様フェイント交えグラップル
暗殺と戦闘知識用い急所狙い

使命果たして
眠ってたかったよな
今楽にしてやる
UC


泉宮・瑠碧
【月風】

霊花の力の宿る指輪を見て
大丈夫です
羽衣人達を避けつつ玄室へ

…理玖?
…此処に来る前に
ぎゅっとされて来ましたけれど…

攻撃する意志よりも風舞飛翔で
指輪の花綵を通して周囲へ浄化の力を広げます
香気を清め、精霊達の力に満ちる場へと

妲己を中心とした周囲へ
彼女に向かって渦を巻く浄化の風を起こし
香気の効力を可能な限り下げます
自分達は勿論
周囲の無機物などへの影響も減らせる様に

理玖の生命力も
減る度に補填出来る様に

被弾は第六感で察する以外にも
物が動く際に生じる風の流れに従い回避

…死にたい気持ちは、分かります
絶望の末なら、尚更
でも
貴女のお陰で平穏だった時は確かにありました
無駄ではなかったんです
…どうか、安らかに



●救済としての死
 目指すは妲己が控える要塞の玄室。
 色濃く、噎せ返るほどに溢れる香気が周囲に広がっている。
 梁山泊に突入した陽向・理玖(夏疾風・f22773)と泉宮・瑠碧(月白・f04280)は気を強く持ち、要塞内を駆けていく。
 その際、瑠碧は霊花の力が宿った銀の指輪、花綵を見つめた。
 理玖は龍珠を作った龍璃を重ね、ドライバーにセットしている。
「これなかったらやばかったな」
「はい、香気はとても強いですが……」
「瑠碧は大丈夫?」
「大丈夫、です。それよりも――」
 瑠碧は通路や広間にいた羽衣人達を思う。彼や彼女達は香気に誘われ、正気を失っている状態だった。妲己を倒すことでしか彼らを助けられないと分かっているので、接触しないように進むしかない。今はただ放っておくしかないことが瑠碧の心を痛めた。
「絶対助けてやるからな」
 理玖は瑠碧の思いを察している。彼女の視線を追った理玖は、励ましの代わりに宣言することで瑠碧の気落ちに寄り添った。
 そうして、二人は妲己が待つ玄室に辿り着く。其処からはこれまで以上の香気が満ちており、破魔の力があるとはいえど抗いがたい魅惑が漂っていた。
「お願いします、誰か……」
 妲己は玄室に訪れた理玖と瑠碧を見て、はたとする。願いかけていた言葉が止まったのは自分から発動した殺生狐理精が理玖に向かっていくことに気付いたからだ。
「……ッ!」
 理玖は両腕を組み、透明な衝撃のようなものを受けた。
 避けられるものならば避けたかったが、狐理精は理玖の内に宿ってしまう。だが、理玖の心は強く保たれている。
「理玖?」
「問題ねぇ」
 短く答えた理玖は揺らぎそうになる思いを押し留めた。
 瑠碧以外に欲を抱くはずはない。梁山泊に訪れる前に瑠碧も十分に抱き締めてきた。あの温もりと心地よさを思えば、別のものに惑わされるはずがない。
「……けど、後でもう一回抱き締めさせて」
「はい、ぎゅっと……しましょう」
 理玖からの願いに瑠碧は頬を染めながら頷く。瑠碧も此処に来る前に自分を抱き寄せた彼の腕を思い返しながら、香気に耐えていた。
 その約束は二人で無事に帰るという意思表明でもある。瑠碧は妲己を攻撃する意志よりも、慈しみの心を向けた。
 ――風舞飛翔。
 花綵を通して周囲へ浄化の力を広げた瑠碧は香気を清めようとしていく。
 この玄室を精霊達の力が満ちる場に変えられれば、妲己の願いも叶えられるだろう。されど、妲己の意思に反して香気は更に溢れていく。
 たった一部だけでもいい。強く、もっと強く――と、瑠碧は風を巡らせ続ける。
 その間に理玖は狐理精が与える衝動と折り合いをつけていた。
「……知ってる」
 理玖は既に理解していた。自分のどこかに何かを壊したいと欲する気持ちがあることには気付いている。それでも、衝動以上の決意があった。
 瑠碧を、みんなを守りたい。
 破壊衝動を越えるほどの覚悟を巡らせた理玖は妲己を見据えた。
「それにあんたを殺しに来たんだ。丁度いいぜ」
 強く拳を握り、正気を保った理玖は床を蹴る。同時に素早く変身した理玖は龍璃の守りを感じていた。理玖が駆けると同時に背後から優しい風が吹く。
(瑠碧に……守られてる感じする)
 これなら耐えられると確信した理玖は妲己との間合いを一気に詰めた。
 瑠碧は妲己を中心とした周囲へ、渦を巻く浄化の風を紡いでいく。理玖が妲己に近付くならば、香気の効力を可能な限り下げたい狙いだ。
 自分達は勿論、周囲の無機物への影響も減らせるように。そして、此処に来るまでに目にした羽衣人への影響も少なくなるようにと考えてのことだ。
 残像を纏った理玖は拳を突き上げ、妲己を遠慮なく穿った。生命力を奪われてしまうとはいえ、狐理精の力は理玖の能力を引き上げるものだ。
「十分だな」
 威力を確かめた理玖はふらつきそうになりながらも、妲己への追撃を確実に当てるためにフェイントを交えた一閃を突き放った。
 其処へ、瑠碧による治癒の力が広がる。攻撃を叩き込む度に奪われる理玖の生命力が尽きてしまわないよう、瑠碧は懸命に精霊に願っていた。
「理玖だけ、は……失いたくありません、から」
「俺も、瑠碧だけは――」
 ふと零れ落ちた瑠碧の声を拾い、理玖は同意する。惑わされず、揺らがず、ただ真っ直ぐに妲己を見つめる二人は思いを重ねた。
 やがて風の流れは香気を薄めていく。理玖は瑠碧と精霊の意志を身体で感じ取りながら、果敢に打撃を加えていった。
「どうか……どうか……私を……」
 無抵抗の妲己の姿は痛ましい。哀れみを感じさせるが、同情を抱いて手加減してしまったとしたら、彼女の苦しみを強める結果となる。
「使命果たして眠ってたかったよな」
「……死にたい気持ちは、分かります」
 理玖と瑠碧は戦いの手を止めないまま、妲己への思いを言葉にした。
 死を望んだのが絶望の末なら、尚更。瑠碧は嘗ては自分もそうだったことを思い返しながらも、首を横に振った。
「でも、貴女のお陰で平穏だった時は確かにありました」
「……!」
「無駄ではなかったんです」
 瑠碧の声を聞いた妲己が、はっとする。返答はなかったが、妲己の瞳の奥に僅かな光が宿った気がした。そして、理玖は更なる連撃を叩き込みに駆ける。
「もうすぐ、楽にしてやる」
「どうか、安らかに」
 二人が紡ぎ、抱く思いは同じ。
 望んだ死が絶望を生み出さないように――願いは風となり、戦場に満ちていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント

桃源郷で新たな力を宿した月燈を携えて

輝く宝石の壁にはつい視線を向けてしまったが
宴への興味は然程わかない
狂気に満ちた宴に踊り狂う羽衣人達を横目に
出来るだけ接触しないように静かに先へ進もう

奥へ進むにつれて少し意識が薄れる
瞬きひとつ
携えた月燈から溢れる光を見れば
再び落ち着きを取り戻して

あんたが妲己か
その姿に思わず目を奪われてしまったけれど

相手が無抵抗と分かれば
朧月夜(竪琴)を抱え直して
静かに弦を爪弾く

たとえ望まれたとしても
無抵抗の相手を傷付ける気は無い

貴女はそのままでいい
只、一曲だけ聴いてくれるか

望まぬ舞台に再び立たされた
その境遇には少し同情するよ
今度こそ安からな夢が見られるように、永遠の眠りを



●葬る旋律
 この手に携えているのは、確かな光。
 ノヴァ・フォルモント(月蝕・f32296)は桃月桃源郷で新たな力を宿した月燈を掲げ、煌めく姿に変貌した梁山泊を往く。
 妲己の香気に当てられて輝く宝石と化した壁は美しく輝いていた。其方にはつい視線を向けてしまったノヴァだったが、広間で行われている宴への興味はない。
 周囲に漂ってくる香気をランタンの光が跳ね除けているからだ。
 狂気に満ちた宴では羽衣人達が踊り狂っている。彼や彼女達を助けるには妲己をどうにかするしかない。
 ノヴァは羽衣人達に接触しないよう気をつけながら、妲己が待つ玄室に向かう。
 亡骸が行き着く部屋に籠もった妲己は死を望んでいるという。奥へ進むにつれて香気は強くなり、ノヴァの意識が惑わされそうになる。
 されど、瞬きをひとつすればランタンの光が目に入った。
 月燈から溢れる光は今も昔も、行く先を照らしてくれている。そのことを思えば落ち着きも取り戻せるというもの。
 そして、ノヴァは玄室に突入する。
「あんたが妲己か」
「あなたは……。そう、ですか。来てくださったのですね」
 ノヴァの声を聞き、妲己が瞬く。
 彼女はノヴァが自分の願いを叶えに訪れた者だと理解したらしい。麗しき見目に思わず目を奪われてしまったが、ノヴァは気を強く持った。
 どうやら相手は無抵抗らしい。
 自動発動するユーベルコードは厄介だが、ノヴァには耐えられる自信がある。
 月燈には星色の光が共に宿っている気がするからだ。そして、朧月夜の名を冠する竪琴を抱えたノヴァは指先を弦に滑らせた。静かに弦を爪弾いていけば、月夜の旋律が玄室内に響き渡っていく。
 其処から紡いでいくのは穏やかな月夜眠の歌声。
(たとえ望まれたとしても――)
 ノヴァには無抵抗の相手を傷付ける意思はない。既に戦っていた他の仲間に飛翔する剣や狐理精の対応を任せ、ノヴァは曲に集中していった。
 それは聴手が望む音色を響かせる月夜の唄。聴いている者をいずれ永遠の眠りへと誘ってゆくものだ。
「貴女はそのままでいい」
 只、一曲だけ聴いて欲しい。
 ノヴァは優しい眼差しを向け、静かな旋律と歌声を紡ぎ続けていく。
 妲己は苦しげに猟兵達を見つめている。その瞳には涙の粒が浮かんでいた。ノヴァの歌声と優しい言葉を耳にした彼女は、強い感情を押し込めているようだ。
 きっと哀しみに耐えているのだろう。
 妲己は嘗て、封神台を建立するために蠱毒の贄となった。人に討たれる事で封神台を築くべく、数多の殺戮と悪徳に敢えて手を染めた。後の世に安寧をもたらす路がそれしかないと信じたが故に死を迎えたのだが――。
 その死は無意味なものとなり、此処に無理矢理に蘇生されてしまった。
 悪に身を落としたとはいえ、現状を苦しむなという方が無情だ。ノヴァは月夜眠の曲を爪弾き続けながら妲己への思いを声にしていく。
「望まぬ舞台に再び立たされた、その境遇には少し同情するよ」
 それでも、猟兵として彼女を倒す。
 赦されぬと自ら語った妲己の意思と、猟兵の使命が重なる場所は同じ。生きていたくはないという言葉は哀しいが、彼女の願いを叶えることこそが正しき道だ。
 ノヴァはこの音色を妲己の葬送曲とするべく、思いを込めてゆく。
「今度こそ安からな夢が見られるように――」

 どうか、永遠の眠りを。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章

呼んだ?
僕は人を殺す事が特技なんだけど
死にたい人を殺すのは面倒だ

苦しめて殺すか適当に殺すか
僕のする仕事は概ね二択
どちらも相応しくない場は困るね
魅了は落ち着きと受け流しで無視し
コミュ力で普通に話しかけるか

この宝貝どうしよう
一見新体操のリボンなんだけど
ボタンを押すと多節鞭になるんだ
ピンクでぶりぶりで可愛いし
しょうもないだろう…
と言いつつ胡蝶剣は早業で叩き落とす
彼女が和んでくれると良いけど

隙あらばUCで宝貝に闇くんを合体させ不意討ち
…ああ
きみは同情すべき存在だね
それは可哀相だ
殺さない方がいい…
何故かそういう結論になってしまうな

それでも殺せるのがプロだけど
きみには優しいひとがお似合いだよ
程々で帰るね



●栄華を断つ軌跡
 私は願います。誰か、私を殺してください。
 もうこれ以上、生きていたくはないのです。

 哀しき思いが言葉として紡がれ、願いに変わっていく。封神台を築く贄となった封神仙女の声は悲痛さを増していた。彼女の切実な願いを叶えるため、猟兵達は香気に耐えながら梁山泊で戦っている。
「呼んだ?」
 そんな中、普段と変わらぬ調子の鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の声が響いた。まるで友達にでも挨拶するが如く片手をあげた章は、妲己を眺める。
 章は人を殺す事が特技だと自負していた。
 しかし、それは死すべき因果や咎が存在する対象であることが大前提。妲己も例に漏れない相手なのだろうが、自ら死にたいと願う者を殺すのは面倒な部類に入る。
「お願いします、私を――」
 願う妲己の意思とは反して、流星胡蝶剣が宙を舞った。その軌道を読んで床を蹴った章は刃を避ける。剣が頬を掠めそうになったことで少しの危機を感じつつも、章は怯むことなく妲己に言葉を向けていく。
「苦しめて殺すか、適当に殺すか。僕のする仕事は概ね二択でね」
「…………」
「こんな風に、どちらも相応しくない場は困るね」
 無言の妲己は刃が向いてしまったことを心苦しく思っているのだろう。章は軽く首を横に振り、片手を振り上げた。
 攻撃動作ではなく、体操器具としてのリボンの形をした宝貝を振るうため。
「それよりもこの宝貝どうしよう」
 同時に身を翻すことで流星胡蝶剣の軌道から逃れた章は、リボンを振る。ひらひらと揺れたピンク色の軌跡が香気を跳ね除けてくれていた。
「ピンクでぶりぶりで可愛いししょうもないけれど……うん、仕方ないか」
 手元のボタンを押した章は、次々と襲い来る胡蝶剣に目を向ける。小さな硬い音が聞こえたかと思うとリボンは瞬く間に多節鞭に変形した。
 刹那、甲高い音が響き渡る。
 飛び交う胡蝶剣が多節鞭によって弾き返された音だ。さながら戦いの音色の如く、襲い来る剣と鞭が奏でる調べが戦場に広がった。
 胡蝶剣を叩き落としていく章は更にボタンを押してリボンに変えながら、華麗に立ち回っていく。これで妲己が少しでも和んでくれていればいい。言葉にはしない思いを抱く章は妲己から視線を外さなかった。
 駆けて跳び、壁に剣を激突させながら章は隙を窺う。
 そして、次の一瞬。
 宝貝に意思ある闇を合体させた章は、ひといきに妲己の身を穿った。
 それによって章の裡に感情が巡っていく。妲己が抱いた使命と本来の願い。自らが死すことで世界の平穏を信じた心。
 それらに対して、普通ならどう感じるかという予測の再現が章の中に生まれる。
「……ああ、きみは同情すべき存在だね」
 これは嘘の感情、即ち虚偽。
 されど普通というシミュレーションが行われた心の中では悲しみや切なさが浮かんでいた。章は闇くんを巡らせることで胡蝶剣を弾き続け、小さく呟く。
「それは可哀相だ。殺さない方がいい……」
 本当は死にたくなかったはずだ。ゆえに生かしてやりたいという結論になってしまうが、それはそれ。結論とは別の行動が出来るのが咎を屠る者、人殺しとしてのプロ。
「僕ときみは相性が悪いね。きみには優しいひとがお似合いだよ」
 章は闇を纏わせた多節鞭を振り上げ、更に妲己の身を貫いた。無抵抗の妲己は敢えて痛みを受け、いずれ訪れる死に向けて覚悟を決めている。
 其処で章は猟兵の勝利を確信した。
 自分の出番は此処で終わり。そのことを察した彼は闇くんを収め、多節鞭をリボンに戻す。それによって、桃華を思わせる色彩が絢爛豪華な揺らぎを魅せた。
「……綺麗」
 妲己は一瞬だけ、桃彩の軌跡に目を奪われる。そして――次に妲己が章が居た場所に目を向けたとき、彼の姿は何処にもなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、あのなんで私のほっぺたが真っ赤に膨れているんですか?
私が妲己さんの香気に触れて酒池肉林の宴に参加しそうになっていたからアヒルさんが目を覚まさせてくれたというわけですね。
アヒルさんはハイパー宝貝モードになったから大丈夫なんですね。
あれ?だったらなんでアヒルさんの持ち主の私が魅了されているんですか?
ふえ?アヒルさんが手に入れた力は魔を払う力だから、私をビンタすることで正気に戻していると・・・。
なんとなくそんな気もしていましたが、納得いかないよう気もします。
ふえ⁉こうしている間にも無意識に酒池肉林をし始めているって
私、服を脱ごうと・・・してないですね。
私にそんな需要はないってそれはひどいですよ。
代わりに料理を作り始めているって、確かに宴に御馳走は必要ですよね。

えっと、恋?物語で大雨を降らせてこの香気を洗い流してしまいましょう。
そうすれば、酒池肉林の宴も一時中断しますから羽衣人さん達も逃げられますね。
ただし、香気を吸った大量の雨水が襲ってくるって
それはどうにか泳いで耐えしのぎましょう。



●雨と香気と破魔のビンタ
 とても心地が良かった。
 いつまでも、いつまでもこうしていたい。
 時が過ぎゆくことも忘れて、これまでの辛かったことも忘れてしまえばいい。何をしていたのか、何を成すべきだったのか。そんなことはもうどうだっていい。
 そんな夢を見たような気がして――。
「ふええ!」
 フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は飛び起きた。
 自分がいま何処にいるのか。何がどうなっていたのか。
 何もわからない状態で周囲を見渡したフリルは、あるひとつのことだけはしっかりと理解している。
「あの、なんで私のほっぺたが真っ赤に膨れているんですか?」
 じんじんと痛む頬を押さえたフリルは、隣で不服そうにしている相棒ガジェット・アヒルさんに問いかけた。
 するとアヒルさんはこれまでのことを事細かに説明していく。
 まず、此処は山岳武侠要塞・梁山泊だ。
 自分を殺して欲しいと願った封神仙女・妲己を倒すためにこの場所に訪れたフリルとアヒルさんは、要塞内部に突入した。
 その際、香気に当てられて宝石化した壁にフリルが見惚れてしまった。アヒルさんがフリルを引っ張っていった先には、同じく香気を受けて酒池肉林の宴に興じている羽衣人達がいた。其処でフリルの意識は完全に香気に惑わされ、ふらふらと宴の席に歩いて行こうとしてしまった。
「つまり、私が妲己さんの香気に触れて酒池肉林の宴に参加しそうになっていたからアヒルさんが目を覚まさせてくれたというわけですね」
 フリルは状況を理解することが出来た。
 まだ頬が痛むのは、それほど強くビンタされたからだろう。だが、そのおかげでフリルはこうして正気を取り戻せている。
「なるほど、アヒルさんはハイパー宝貝モードになったから大丈夫なんですね」
 同時にフリルは意思を持つガジェットが平気だったことの理由も悟った。壁が煌めいていたように、妲己の香気は生命体に限らず、無機物や自然現象にまで影響を及ぼす。アヒルさんが桃月桃源郷で破魔の宝貝としての力を宿していなければ、フリルと一緒に宴に参加していたかもしれない。
 そのとき、フリルは新たな疑問を抱いた。
「あれ? だったらなんでアヒルさんの持ち主の私が魅了されているんですか?」
 時折、フリルはとても鋭い。
 ぎくっとしたアヒルさんは、自分の新たな力について説明を始めた。
「ふえ? アヒルさんが手に入れた力は魔を払う力だから、私をビンタすることで正気に戻したと……」
 起きたときから何となくそんな気もしていたが、フリルとしては少しばかり納得がいかない。アヒルさんは今も破魔の障壁のような力を発しているので、うっかりフリルにだけその力を発動していなかったということかもしれないが――アヒルさんの名誉とビンタが齎した現状に免じて、不問にしておこう。
 しかし、破魔の力があっても妲己の香気は強い効力を与えてくる。
「ふえ!? こうしている間にも無意識に酒池肉林を始めているって……私、服を脱ごうと――してないですね」
 アヒルさんに指摘されて驚いたフリルだったが、何とか抵抗できていた。対するアヒルさんは服を脱いだとしても大丈夫だと答える。
「私にそんな需要はないって、それはひどいですよ」
 されど、そんなことはない。今年の夏くらいに少し露出の高い水着をフリルが着たとしたら喜ぶ層もいるはずだ。おそらく、きっと。
 その間もフリルは香気に抵抗していた。途中で酒池肉林の一部である美味しい料理を用意しそうにもなったが、フリルは妲己のいる玄室に近付いていく。
「確かに宴に御馳走は必要ですよね。って、そうじゃなくて……妲己さんのこの香気をどうにかしなければいけませんね」
 玄室の前にまで、正気を失って踊り狂っている羽衣人がいる。
 妲己の望みを叶えることも大切だが、罪のない一般人でもある彼らのことも心配だ。フリルは身構え、魔力を紡ぎ始める。
 ――発動、突然の大雨と雨宿りが齎す恋?物語。
 フリルの魔法によって、途端に要塞の中に雨が降り出した。魔力によって導かれた雨は不思議な力を巡らせていく。
「大雨を降らせてこの香気を洗い流してしまいましょう」
 そうすれば、酒池肉林の宴も魔法の力によって一時的に中断せざるをえない。そうすれば羽衣人達も逃げられるかもしれない。
「皆さん、今です。妲己さんも、これ以上誰かを惑わせなくていいんです……!」
 フリルは大雨を降らせながら妲己に呼びかけた。
 一瞬だけ、感謝を述べるような妲己の眼差しがフリルとアヒルさんに向けられる。しかし、フリルの受難はこれからだ。
 アヒルさんはフリルの帽子の上に登り、大雨の行き先を示す。
「ふえ? 香気を吸った大量の雨水が襲ってくるって……ふえぇええ!?」
 フリルの悲痛な声が梁山泊中に響き渡った。
 玄室から通路へ、広間から要塞の外へ。流れていく水の中をどうにか泳いで耐え凌ぐフリルは必死だった。ちなみにアヒルさんは優雅にちゃぷちゃぷしている。フリルがまた香気に惑わされそうになっても、すかさず破魔のビンタが繰り出されるはずだ。
 こうして、雨によって玄室の香気はかなり薄められた。
 結果的に仲間達に貢献することになり、羽衣人の何人かを正気に戻したフリルは影の功労者とも呼べるだろう。
 そして、波乱の戦いは此処からも続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜

分かりました、です。ちゃんと、あなたを還すのです。
真の姿を開放、桃の花で作った蝶凌彩扇もこの手に。

踊っている羽衣人さん達と、踊るようにしながらUCを発動。
蝶凌彩扇の破魔の力で、ほんの少しでも魅了から開放させるのです。……見える限り、開放していくのです。
ふわり、ひらりと。

妲己さんの元へ辿り着いたら、優しさをもって接したいです。
魅了は、同じように蝶凌彩扇の破魔の力で浄化していきます。

あのね、妲己さん、お願いがあるんです。
私があなたを還すので、一緒に踊ってくれませんか?
勿論、羽衣人さん達のように、いやいや踊るのではなく、楽しく、思い切り踊るのです。
私、踊り方はよくわかってないのです。なので、もし知ってたら教えてほしいのですよ。

自動的に攻撃されるのでしょうけれど、踊りながら、落ち着いて躱すので、きっと大丈夫。
蝶凌彩扇もあるから、そんなに魅了されることもないかな。

妲己さん、少しでも、楽しめたかな?
できることなら、そんな楽しい思い出も胸に還してあげたいです。
霞桜の精として、あなたを癒やしたいから。



●扇桜万象
 何故、どうして。
 何のために我が身を犠牲にしたのかすら今はわかりません。
 誰か、お願いします。どうか、私の魂を解放して――。

 悲痛な願いが言葉として響き、猟兵達の耳に届く。封神仙女、妲己の思いを耳にした幽遠・那桜(輪廻巡る霞桜・f27078)は、しかと頷いた。
「分かりました、です」
 那桜は一度だけ瞼を閉じ、真の姿を解放する。
 あるべき姿としての変化を遂げていく那桜は大人の姿になっていった。普段とは違い、髪から伸びた枝角には桜が咲き誇っている。那桜は真っ直ぐに、凛とした表情で妲己を見つめ、優しい言葉を掛けていく。
「ちゃんと、あなたを還すのです」
 その手には桃月桃源郷の霊花で作った蝶凌彩扇が携えられていた。破魔の力を宿す扇は、妲己の意思とは別に放たれる香気を跳ね除けている。
 これまで、那桜は梁山泊内を駆け抜けてきた。香気に当てられて酒池肉林の宴を行っていた羽衣人と一緒に踊るように身を揺らしながら、この玄室まで訪れたのだ。
 誰も傷つけず、破魔の力で香気だけを逃した那桜は何人かの羽衣人を魅了から解放していた。されど、漂い続ける魅惑の力をすべて祓うには、妲己の討伐が必要だろうとも感じ取っていた。
 妲己だけが佇む玄室にはこれまで以上の香気が満ちている。既に戦いに挑んでいる猟兵達も香気に当てられまいと奮闘していた。
 那桜は蝶凌彩扇をふわりと扇ぎ、仲間達に香気が近づかないよう制する。
 悲しげに瞳を伏せ、無抵抗でいる妲己は苦しみに耐えているようだ。しかし、彼女の思いとは裏腹に流星胡蝶剣や殺生狐理精が発動しており、他の猟兵を傷つけたり、憑依していったりしていた。
 那桜は自動発動ユーベルコードの恐ろしさを感じながら、更に扇を振るう。
「さっきみたいに……見える限り、解放していくのです」
 ふわり、ひらりと揺らめく蝶凌彩扇で以て、那桜は香気に抗った。そして、決して妲己から目を離さないように心がける。
 那桜の眼差しは優しく、敵意や敵対の意思はない。妲己もそうなのだが、意思に反して発動する力がすべての邪魔をしているようだ。扇で香気を更に跳ね除けていった那桜は思いきって妲己に話しかける。
「あのね、妲己さん、お願いがあるんです」
「……?」
「私があなたを還すので、一緒に踊ってくれませんか?」
「踊る、とは……?」
 妲己は那桜の言葉を聞き、不安と不思議さが入り混じった視線を向けてきた。彼女自体が蠱毒の贄であるからか、たったそれだけで更なる香気が戦場に巡る。
 宝貝の力があっても油断すれば押し負けてしまいそうだ。那桜は魅了されてしまわないように心を強く持ちながら己の思いを伝えていく。
「羽衣人さん達のように、いやいや踊るのではなく、楽しく、思い切り踊るのです。私、踊り方はよくわかってないのです。なので、もし知ってたら教えてほしいのですよ」
「……ごめんなさい」
 那桜の願いに対し、妲己は首を横に振った。
 羽衣人が踊り狂って正気を失い、猟兵達を胡蝶剣が襲っている現状で妲己だけが楽しく踊ることなど出来ない。この状況を作り出している自分がそんなことをするのは赦されない。おそらく妲己はそう考えているのだろう。
 世に安寧を齎すと信じたが故の行動であっても、過去の妲己は殺戮に手を染めた。その罪を自覚しており、死を望む彼女。そんな妲己が心から楽しむ踊りを舞って教えることは、この状況では叶わないと那桜は知った。
「難しいですか?」
「申し訳ありません……。ああっ! 危険です、どうか避けてください」
 那桜が問いかけると妲己は更に首を振った。更に次の瞬間、那桜にまで胡蝶剣の余波が及ぶことに気付いた妲己は躱して欲しいと願う。
 はっとした那桜は踊るように身を翻し、一閃を躱した。
「わかりました。大丈夫です、踊りながら、落ち着いて躱しますから」
 妲己は人を傷つけたくないと考えているようだ。それならば、猟兵としての自分が傷つかないように動いていけば彼女の悲しみも減らせるはず。
 那桜は蝶凌彩扇を揺らし、妲己が踊れない分まで自分が舞おうと決めた。
 願いは叶わずとも、想いは通じている。妲己の眼差しには那桜への静かな信頼と、自分を殺して欲しいという願いが籠もっていた。
「妲己さん、少しでも、楽しめたらいいのですが……」
「いいのです。仙界の桃花のみを食していた時分は、確かに楽しく穏やかだったのですから……。ですが、多くの悪徳に手を染めた私は楽しんでなどいけないのです」
 妲己は踊りを教えられなくて申し訳ないというように俯いた。
 しかし、その言葉で那桜がはっとする。
「楽しい思い出もあったのですね。でしたら、その記憶を胸に還してあげたいです」
 霞桜の精として、あなたを癒やしたいから。
 そっと告げた那桜は桜還の詩を紡ぐ。未だ戦いは続くが、彼女の願いを必ず叶えてやることを那桜は誓った。
 そして、詩は戦場に響き渡ってゆく。

 ――さくら、さくら、咲き誇れ、宵に招いて狂い咲く。
 ――儚く零れる夢のあと、言の葉紡ぐ、桜詩。白き花よ、永遠に舞え。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ


桃源世界を救う為に…
そして…哀れな封神仙女に死と救済を齎す為に…!
さぁ行こうか…我が名はアンナ…処刑人が娘也…!

香気を防ぐ為に仮面を被り[毒耐性]を纏い
桃源郷で作った宝貝を持ち込み[破魔]の力で
宴の魅了を撥ね除けて妲己の元へ進もう

妲己の攻撃を宝貝振るい[武器受けと見切り]で防御
攻撃浴びても[激痛耐性]で耐え抜き我慢
攻撃を凌いだら[功夫]による蹴りで[武器を落とし]
妲己を宝貝で[なぎ払い吹き飛ばし]てやろう

私は処刑人…貴方を救う為にここに来た…
宝貝…火人剥命の力を用いて…死と救済を貴方に齎す為に…
その呪われた肉体が永遠に悪用されぬように…

真の姿の[封印を解き]、処刑人の[覚悟]を胸に灯し
妲己の胸に宝貝を突き刺して【紺碧の地獄の炎】を[零距離で砲撃]
彼女の肉体と魂を地獄の炎で包み込み[焼却]してやろう…

もう二度と目覚めぬように…
どうか彼女の魂が安らかに眠れるように…
静かに目を瞑り[祈り]を捧げよう…



●炎獄の処刑人
 この戦いは桃源世界を救う為のもの。
 かつて己の身を生贄として世界に安寧を齎そうとしていた封神仙女、妲己。
 その意思を無意味なものにさせない為にも、仇死原・アンナ(処刑人 魔女 或いは焔の花嫁・f09978)は戦いに身を投じている。
「世界の為、そして――哀れな封神仙女に死と救済を齎す為に……!」
 此度の死は救済。
 命を抛った仙女の献身を思い、アンナは梁山伯内を駆け抜けていく。
「さぁ行こうか……。我が名はアンナ……処刑人が娘也……!」
 死を望む者へ、終焉を与えるべく。
 今のアンナは香気を防ぐ為に仮面を被り、自らが宿す毒への耐性を巡らせていた。それに加えて桃源郷で作った宝貝を持ち込んでいるアンナは破魔の力を纏っている。
 宝貝の名は火人剥命。
 それは破魔の桃花と、自身の血と地獄の炎を混ぜて作り上げた槍だ。
 梁山伯の内部では羽衣人が宴に興じていた。
 通常であれば、正気を失っている様子の彼らのように踊り狂ってしまうのだろう。だが、アンナは強い意志と力で以て魅了を撥ね退けていた。
 素早く玄室までの道筋を確かめ、アンナは妲己の元へ進んでいく。
 駆ける度に香気は強くなっていったが、それこそが目的の場所が近付いている証拠だった。そうして、アンナは妲己が待つ玄室に踏み込む。
 その瞬間、流星胡蝶剣がアンナに向かって飛んできた。それと同時に妲己が呼びかける声が聞こえた。
「ああ、また……気をつけてください!」
「案ずるな、問題はない……!」
 その声に応えたアンナは素早く宝貝を振るい、胡蝶剣を受け止める。自動発動のユーベルコードは妲己に制御することは出来ない。それゆえに危険を知らせてくれたのだと思うと、妲己が宿している心根の優しさが感じられた。
 されど、妲己は目的のために様々な虐殺や悪事を働いてきた者。本人もそれを罪と認めており、断罪して欲しいと願っている。
 そんな状況にある今こそ処刑人たるアンナの出番だ。アンナは胡蝶剣を弾き返しながら、致命傷を受けないように立ち回る。
 しかし、ユーベルコードの猛攻は激しかった。
「く……一筋縄ではいかないか」
 刃がアンナの腕を切り裂き、激しい痛みが走る。攻撃を浴びてしまっても耐え抜く覚悟を決めた彼女は果敢に身を翻した。
 次の一瞬、襲い来る剣を見事に躱したアンナは攻撃を凌ぎ切った。
 功夫による蹴りで武器を次々と落としていった彼女は、妲己に槍を差し向ける。此処で遠慮や手加減をすることは非礼に当たるだろう。勢いに乗せ、妲己を薙ぎ払ったアンナは相手の身体を吹き飛ばした。
「……ああっ!」
 妲己の悲鳴があがったが彼女は基本的に無抵抗だ。心から自分を滅ぼして欲しいと願っているのだと感じたアンナは、己の思いを言葉にしていく。
「私は処刑人……貴方を救う為にここに来た……」
「お願い、します」
 痛みに耐えている妲己から返答が聞こえた。
 頷いたアンナは火人剥命を振り上げる。穂先から迸る炎が戦場に舞い、美しい軌跡を描きながら振るわれていった。
「この力を用いて……死と救済を貴方に齎す為に……」
 自らの役目は、叶えたい思いを昇華させること。処刑人として培ってきた術が役立つならば加減する必要など何処にもない。
 そして――。
「その呪われた肉体が永遠に悪用されぬように……」
 踏み込むと同時に、アンナは真の姿の封印を解いた。炎を纏う鎧に身を包んだアンナは処刑人の覚悟を胸に灯す。
 その炎は迫り来る流星胡蝶剣すら無効化する威力を持っていた。
 揺れる胡蝶の飾りすら焼き尽くすが如く、アンナの一閃は激しく迸り続ける。
 妲己は死にたいと願っているのに死ねない。こんな状況に追い込まれるまで、どれほどの葛藤や苦しみがあっただろう。
 彼女自身の苦痛は想像するしかないが、此処で与えられる攻撃の痛み以上の苦悶がこれまでに存在していたはずだ。
 生きることを諦め、死を願う。その姿は哀れでありながらも何処か尊敬できた。
 それはきっと、自分よりも人を想う心があるからだろう。
 アンナは一気に距離を詰め、妲己の胸目掛けて火人剥命を突き刺しに掛かった。槍の切っ先が仙女の胸を貫く。
 同時に巡ったのは紺碧の地獄の炎。
 零距離で砲撃として解き放たれた一閃は、妲己の肉体と魂を地獄の炎で包み込んだ。
「もう蘇ることのないほどに、焼却してやろう……」
 炎は古来より魂を葬送するものだともされていた。妲己は唇を噛み締めながら炎が齎す痛みに耐え、真っ直ぐな眼差しをアンナに向けてきた。
「どうか、私を……」
 ――殺してください。もう、生きていたくはないのです。
 妲己から再び、懇願の声が紡がれる。
 オブリビオンとして、未だ死ねない身体を持ってしまったことが哀れでならない。それでもアンナは同情を持たず、妲己の願いに真摯に立ち向かった。
 まだ戦いは続く。
 されど香気は徐々に薄まっており、勝機と好機が巡っているのが解った。
「もう二度と目覚めぬように……」
 アンナは宝貝を構え直し、妲己の姿を瞳に映す。仮面と鎧越しであっても決して彼女から目を逸らさないと決めた。
(どうか彼女の魂が安らかに眠れるように――)
 一度だけ、静かに目を瞑ったアンナは祈りを捧げる。
 そして、アンナが次に瞼をひらいたとき。火人剥命の切っ先からこれまで以上の激しい炎が解き放たれた。その名の通り、宝貝は命を引き剥がしていく。
 尊き人を火で葬るが如く――アンナの執行は正しき事として巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
踊るのでっす!
進むのでっす!
真の姿で!
星の煌きで!
正気を失い踊らされるのではなく、踊りたいから踊るのが藍ちゃんくんなのでっしてー!
恋人からいただいたお守り(装備1)を握りしめ、心を強く保つのでっす!
藍ちゃんくんを魅了できるのはたった1人なのでっすから!

というわけで、妲己のおねえさん!
藍ちゃんくんでっすよー!
愛を届けに来たのでっす!
やや、欲情でっすかー?
それも確かに愛やもしれません。
でっすがそれだけが愛ではないのでっす!
心に触れる事、心が繋がる事、心を結ぶ事、其れ等を総じて愛と呼ぶのでっす!
でっすから、ええ。

歌うのでっす。

おねえさんの最後が悲しいものでないよう、歌うのでっす。
涙から解放されるよう、歌うのでっす。
殺生狐理精でっすかー?
大丈夫なのでっす!
魂を込めて歌うだなんて、いつものことでっすから!
それに、ええ、それに。
殺生狐理精がおねえさんにそんな顔をさせる原因だというのなら。
この歌は、殺生狐理精さえも吹き飛ばすのでっす!

とても頑張ってくださったおねえさん。
おやすみなさいなのでっすよー。



●悲しみを癒やす歌
 山岳武侠要塞、梁山泊と呼ばれる地。
 此処は妲己から放たれる香気を受け、生物だけに留まらず無機物や自然現象までもが狂う領域になってしまっている。
 要塞の壁は宝石に変わり、誘われた羽衣人は酒池肉林の宴に興じていた。
 華やかなる退廃と狂気の中。其処に響いていったのは紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の明るい声。
「踊るのでっす!」
 くるりとその場で回った藍は真の姿に転じていた。
 星を纏い、星図が描かれた袖をひらりと揺らめかせ、藍は梁山伯内を駆けていく。
「進むのでっす!」
 両手を広げ、声の限りに思いを言葉にた藍は笑顔を浮かべていた。
 美しくも可愛らしい星の煌めきを散らせていく藍の声は歌のように響き渡り、周囲に満ちていた香気ごと魅了の力を薄めていた。
 踊ってもいい、楽しんでもいい。
 ただ、正気を失い踊らされているのではなく――。
「踊りたいから踊るのが藍ちゃんくんなのでっしてー!」
 愉しげな声が語る通り、藍はこの場ですら自分のステージにしている。本当を言えば香気に完全に抗えているわけではない。
 しかし、藍の想いは強い。
 その手には恋人の――誰よりも大切で、藍する人から貰ったお守りが握られていた。
 君と僕。想い合う二人の力は香気を跳ね退けてくれる。それに彼女のことを想えば、心を強く保つことができた。
「こんな香り、平気でっす! だって、藍ちゃんくんを魅了できるのはたった一人だけなのでっすから!」
 此処に彼女はいなくとも、傍にいるように感じられる。
 そして、大好きな彼女の元に必ず戻るという決意を抱くことができた。
 藍は声高らかに歌い、想いを謡い、踊るように先を目指す。進む度に香気は強くなっていったが、藍は覚悟を決めた。
 そうして、玄室に踏み込んだ藍は妲己を見つめる。
「というわけで、妲己のおねえさん!」
「新たな御方……?」
「どうもでっす、藍ちゃんくんでっすよー!」
 挨拶をした藍に向け、逃げて、と妲己から言葉が投げかけられた。その瞬間、自動的に解き放たれた殺生狐理精が藍の身を穿つ。
「愛を届けに来たのでっす! ……っとと?」
 衝撃はなかったが、藍に取り憑いた殺生狐理精がその心を揺らがせに掛かった。
 それは殺戮と欲情を煽るもの。
 通常の人間であれば、先程まで見てきた羽衣人以上に心身を狂わされてしまう。されど藍はきょとんとした様子で自分の胸に手を当てた。
 確かに衝動は沸き起こっているが、それらは藍を惑わせるものではない。
「やや、欲情でっすかー? それも確かに愛やもしれません」
 そういった感情が無いとは言えない。もし無かったとしても殺生狐理精は無理矢理にでも感覚を煽るのだろう。
 だが、藍には揺るぎない想いと心がある。
「でっすがそれだけが愛ではないのでっす!」
 くるくるとその場で優雅に回ってみせた藍は狐理精が齎す衝動に耐えた。ありのまま、自分のままに挑むことが藍の矜持でもある。
 妲己をじっと見つめた藍は思いの丈を言葉に変えていく。
「心に触れる事、心が繋がる事、心を結ぶ事、其れ等を総じて愛と呼ぶのでっす!」
 指先を突きつけた藍はゆっくりと息を吸う。
 妲己は自分の命を終わらせて欲しいと願っていた。死して尚、蘇ってしまう歪んだ定めを壊して欲しいと祈っている。
「でっすから、ええ。藍ちゃんくんは――歌うのでっす!」
「歌を……」
「おねえさんの最後が悲しいものでないよう、歌い続けるのでっす」
 妲己の声を受け、藍は歌を紡いでいく。
 悲しみを終わらせるために。
 その涙から解放されるように。
 あなたに届け、この想い。
 藍として、あるがままの祈りや願いと心を籠めた歌声。それは殺生狐理精が齎す衝動になど屈しない意思のあらわれ。
 藍の歌は理屈も条理も超越した穏やかで優しいものだ。
 歌は妲己の悲しみや恐怖を癒やし、その原因を取り祓っていった。
「大丈夫なのでっす! 魂を込めて歌うだなんて、いつものことでっすから!」
 それに――。
 藍は双眸を細め、心配はないというように笑ってみせる。
「ええ、それに。今という時間がおねえさんにそんな顔をさせる原因だというのなら、この歌は、悲しみさえも吹き飛ばすのでっす!」
 悲しみや苦しみは抱かなくていい。
 自らを生贄として、己の身を罪の最中に落としたとしても――あいを込めた藍の歌は何も否定しない。たとえ妲己の手が血や悪徳に染まっていようとも、人々や世界の平穏を願っていたことに違いはないのだから。
「とても頑張ってくださった、優しくて素敵なおねえさん」
 藍は歌い続ける。
 罪は罪のままだが、世界が未来に進むことで昇華される思いもある。
 だから、もう。
「おやすみなさいなのでっすよー」
 朗らかに歌いあげられる藍の声が戦場に満ちていく。
 間もなく訪れる戦いの終わりを予感させるような藍音の声色。心地好さを巡らせる藍の歌は、妲己の心に届いていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルタン・ノーヴェ
【痛快無比】◎

零時殿と参上しマース!

思ってた人格者でありますな、妲己殿。
しかし、張角に支配されたまま周囲に被害を巻き散らすという現状は、彼女の誇りを損なうばかり。
お望み通り、ワタシたちの手で解放しマース!

桃月桃源郷の霊花で作った銅鑼型宝貝、猛忍👍!
破魔の狂気耐性を集団にばら撒いて突き進みマース!
ジャーン! ジャーン!

妲己殿の居る玄室まで到達して、抜刀!
ご安心を、妲己殿。ワタシたち、全力でアナタをぶっ飛ばしマース!
笑顔で見送りマスヨー!

ヘイ、カモン、《殺生狐理精》!
その力、妲己殿を倒すためのパワーとさせてもらいマース!
憑依確認、殺戮衝動上昇、全力全開!
「六式武装展開、光の番!」

オーバーロード、真の姿(軍装)開放!
零時殿のバフを浴びて、さらに威力上昇!
《傾世元禳》の香気など、ハイテンションで吹き飛ばしマース!

行きマショー、零時殿!

オーバーロード・クリスタル ブラスト
神輝宝煌・光芒一閃!!

一発放った後は戦闘不能となるので、生命力の減少も三割負担で済むのであります!
良いお休みを、妲己殿!


兎乃・零時
【痛快無比】◎

バルタンと一緒に参上だ!

話聞いてりゃ、随分と色々頑張ってたんだな、此奴
……だけどこのままじゃ奴の意志に反した禍がふりまかれる!
俺様達の手で解放したろうぜ!


俺様は此の藍玉の杖の新形態……新武装!『霊刻書帙』を装着するぜ!花集めて創った奴さ!
此れさえありゃ魔導書も複数持ち合わせたまま行動しやすいしな、便利!!

其れに魅了だか何だか知らないが、この俺様に効くものか!
寧ろ魅せてやるぜ、俺様達の本気を!

UC…オーバーロード!

今の俺様は、誰にも負けねぇ宝神、最強最高の魔術師を夢見る男!
破魔の力も魔術の力も全部使ってフル強化!

バルタンの一撃も俺様が全力で強化するぜ!

友好的な行動?
俺様達は今、お前の望みを果たす為に全力の攻撃をぶち込む、此れが俺様達がお前に示せる最大限の友好だ!
妲己!
この一撃は!てめぇの無念晴らし、世界照らす一撃だ!

遍く光を此処に束ね!打ち出したるは極光の一撃!

行くぜバルタン!

オーバーロード・クリスタル ブラスト
神輝宝煌・光芒一閃!!

俺様たち二人の本気、たんと喰らいな!



●オーバーロード・クリスタルブラスト
 梁山伯内の通路を駆け抜け、目指すのは玄室。
 死者の亡骸が葬られる部屋に自ら閉じ籠もった封神仙女、妲己は死を望んでいる。このまま玄室で生の終わりを迎えたいと願うに至った彼女の境遇は壮絶だ。かつて悪徳に手を染めたとしても、同情を禁じ得ないものだった。
「話聞いてりゃ、随分と色々頑張ってたんだな、此奴」
「思っていた以上に人格者でありましたな、妲己殿」
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)とバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は共に進みながら、妲己への思いを言葉にする。
 封神台の建立こそが平和への道だと信じた。
 そのために自らが悪となった妲己は人の手によって討たれたという。
「しかし、張角や鴻鈞道人に支配されたまま周囲に被害を巻き散らすという現状は、彼女の誇りを損なうばかりでありますな」
「そうだな、このままじゃ奴の意志に反した禍がふりまかれる!」
「お望み通り、ワタシたちの手で解放しマース!」
「ああ、俺様達の手で解放してやろうぜ!」
 バルタンと零時は同じ決意を抱き、妲己が控える玄室に向かっていく。途中、溢れる香気に当てられた羽衣人達が踊り狂っている姿が見えた。
 彼らに触れないよう気をつけながら零時とバルタンは進む。
「香気が強くなってマース!」
「バルタン、もう一回あれを頼めるか?」
「了解であります。行きマスヨー!」
 ――ジャーン! ジャーン!
 零時がバルタンに願ったのは宝貝による破魔の力を撒く行為だ。鳴り響いた音はバルタンが桃月桃源郷の霊花で作った銅鑼型宝貝、猛忍の音色。
「このまま突き進みマース!」
 破魔の力を宿した音色が周囲に広がり、香気を無効化していく。それに加えて零時も藍玉の杖の新形態であり、新武装でもある霊刻書帙を装着していた。
 此れさえあれば魔導書を複数冊持ち合わせたまま行動がしやすい。それに香気をはじめとした魅惑や幻惑も退けてくれる代物だ。
「魅了だか何だか知らないが、この俺様に効くものか!」
「全部跳ね退けてやりマース!」
「寧ろ魅せてやるぜ、俺様達の本気を!」
 意気込む零時の声に心強さを感じたバルタンは先を示す。其処にはより強い香気が漂っている部屋があり、それこそが目的の玄室だと察せられた。
 行こうぜ、と呼び掛けた零時はバルタンと同時に部屋に踏み入る。その瞬間、色濃い香気と精霊が動くような気配が二人に巡った。
「貴方がたは……」
 はっとした妲己は新たな猟兵が訪れたのだと察する。その眼差しが不安気であることに気付き、バルタンは強く呼び掛けた。
「ご安心を、妲己殿。ワタシたち、全力でアナタをぶっ飛ばしマース!」
 素早く抜刀して身構えたバルタンは、心配はないと語る。
 己を殺して欲しいと願う相手であっても、バルタン達に悲哀はない。こうすることが自分達にとっての正義であり、妲己からも望まれていることだ。
「それが願いなら、全力で叶えてやるぜ!」
 神輝宝煌・超克――クリスタル・オーバーロード!
 零時も強く言い放ち、真の姿を解放した。宝神に変身した今の零時は最強最高の魔術師を夢見る男。漂う香気も、空中を飛び交っている仙女の剣も怖くはない。
 破魔の力や魔術の力を全て使って自分を強化していく零時は、妲己を強く見つめた。
「望み通りに止めて、笑顔で見送りマスヨー!」
「バルタン、何か来るぞ!」
 自動発動している妲己のユーベルコードに対応しながら、零時はバルタンを呼ぶ。其処には先程に躱したはずの精霊めいた気配があった。
 だが、バルタンは既にそれが何であるか知っており、利用方法も心得ている。
「ヘイ、カモン、《殺生狐理精》!」
「何をするおつもりなのですか?」
 敢えて殺生狐理精を呼んだバルタンに驚き、妲己が疑問を零す。するとバルタンは双眸を細めて笑ってみせた。
「この力、妲己殿を倒すためのパワーとさせてもらいマース!」
 その瞬間、殺生狐理精がバルタンに取り憑く。
 ――憑依確認。殺戮衝動上昇、全力全開。
「六式武装展開、光の番!」
 バルタンはファルシオン風サムライソードを振り上げ、妲己に狙いを定める。狐理精が殺戮と欲を煽ってきても今のバルタンには関係がない。
 ただ、この力を用いて力を振るうだけ。
 零時はバルタンの動きを察し、自らも力を高めていった。妲己は倒すべき相手だが、必要以上に苦しめるつもりはない。
 それゆえに膨大な威力の一撃を叩き込むことが妲己のためにもなる。
「バルタン、その一撃も俺様が全力で強化するぜ!」
 零時は魔力を紡ぎ、バルタンに視線を送った。漂う香気はこれまで以上に強く、零時に友好的な行動をさせようとするがそれもまた追い風になる。
「俺様達は今、お前の望みを果たす為に全力の攻撃をぶち込む、此れが今の俺様達がお前に示せる最大限の友好だ!」
「ええ……お願いします」
 零時の声を聞き、妲己は瞼を閉じた。
 それが了承の意味合いだと感じ取ったバルタンと零時は頷きを交わしあう。
 そして、バルタンも零時と同じく真の姿を解き放った。軍装姿になったバルタンのマントが激しくなびく様は、これから巡る力がどれほどの威力になるか予感させるもの。
「行きマショー、零時殿!」
「おう!!」
 零時の魔力を浴びて更に威力を上昇させた一閃は、かなりの衝撃になるだろう。傾世元禳の香気は持ち前のハイテンションで吹き飛ばしてしまえばいい。
 零時も準備万端。妲己から視線を逸らさず、零時は凛と宣言していく。
「妲己! この一撃は! てめぇの無念を晴らして、世界を照らす一撃だ!」
「参りマース!」
「行くぜバルタン!」
 同時に構え、一気に床を蹴り上げた二人はそれぞれの力を全力で解放していく。
 此処から巡るのはふたつのオーバーロード。輝く光と強い意志がひとつになった瞬間、零時とバルタンの声が重なった。

 ――遍く光を此処に束ね! 打ち出したるは極光の一撃!

 ――神輝宝煌・光芒一閃!!

 その煌めきの名はクリスタルブラスト。
 殺生狐理精によって五倍になったバルタンの力と、それを更に高めた零時の魔術が成す光の一閃は妲己を瞬く間に包み込んだ。
「俺様たち二人の本気、たんと喰らいな!」
「良いお休みを、妲己殿!」
 零時とバルタンは妲己に向ける思いをこの一撃に全て込めた。されど、この力はバルタンの意識を奪うものでもあった。
「零時殿、後は……頼みマース……」
「おぉっと!」
 ふら、とよろめいたバルタンの身体を支えた零時は、任せとけ、と頷く。
 生命力を奪われると知って尚、持てる限りの力を放ったバルタンは勇敢だ。零時は彼女の意志が尊敬できるものだと感じながら、しかとその身を守る決意を抱く。
 妲己が倒れるのも、間もなく。
 苦しみながらも此方を見つめる妲己の瞳には、感謝の念が宿っていた。
 自分達の一閃が未来を繋げたと実感しながら、零時は真っ直ぐに立つ。徐々に香気が薄まっていく戦場。
 此処に導かれる結末を、最後まで見届ける為に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

銃での遠距離からの攻撃はせず、まず接近する
この状況で下手に撃てば羽衣人たちを巻き込む危険がある
「酒池肉林の宴」には、仙界の桃の花から作った破魔の宝貝【斬影刃】を持って挑む
これがあれば魅了の影響を受けにくい筈だ

それでも殺生狐理精の憑依には、流石にくらりと
煽られた殺戮衝動が羽衣人へと向かってしまいそうで、そして妲己の放つ香りと魅了が先よりも強くなったように感じて…

耐えきれなくなるぎりぎりまでそのまま妲己への接近を試みる
いよいよ耐えきれないなら、破魔の宝貝である短剣の刃を握りしめる
柄に近い部分ならば握っても指が落ちることはないだろう
当然血は流れ痛みもあるが、それでいい
その痛みとそれを齎した宝貝の存在を強く思い起こして、少々強引にでも意識を引き戻したい

同時にユーベルコード発動
増大した身体能力に併せて殺生狐理精の力も利用し、至近距離から攻撃を仕掛ける
生命力の減少は構わず、妲己の望みを遂げさせることを目指す
仕事の完遂の為…それに、自らの意思とは無関係に周囲を傷付ける事は死ぬより苦しいだろうと考えて



●花が告げる終わり
 遠い未来、人界が宿星武侠を必要としたとき。
 そのために作られた山岳武侠要塞。それがこの梁山泊だ。
 しかし、現在。梁山伯は妲己から放たれる香気に満たされ、酒池肉林の宴が催される狂乱の場に変貌していた。
「……眩しいな」
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は要塞の状況を一瞥してから、緩く頭を振る。生物のみならず、無機物や自然現象までが魅了された領域。此処では壁までもが宝石となり、宴を輝かせるものになっている。
 シキは正気を失っている羽衣人を避けながら、梁山伯内を駆けていく。
 普段ならば銃での遠距離攻撃を選ぶが、今はそういった攻撃はしない。まずは玄室に控えている妲己に接近することからだ。
 それに、この状況で下手に銃弾を撃てば羽衣人を巻き込む危険もある。
 気を抜けばシキまで漂う香気に当てられてしまいそうだ。
 されど、シキは決して酒池肉林の宴には誘われない。その手には仙界の桃の花から作った破魔の宝貝、斬影刃があるからだ。
 銀の柄に鈴蘭の意匠が咲く短剣は華奢な造りではあるが、その刀身は鋭利だ。
 この刃を持って挑めば、辺りに満ちている香気に押し負けたりはしない。それにシキには強い思いがある。
 死を望み、誰かに殺されることを願っている仙女。
 彼女の切実な思いを叶え、戦いの先に進むことが己の役割であり、使命であるからだ。
 梁山伯の広間や通路で踊り狂う羽衣人を完全に助け出すには、香気の元凶である妲己をどうにかしなければならない。
「待っていろ、もう少しの辛抱だ」
 後で必ず救う、と羽衣人に告げたシキは玄室を目指した。
 玄室とは遺骸を安置する部屋のことだ。シキもそのことを知っており、何故に妲己がその部屋にいるかの理由も察しが付いている。
 妲己は心の底から、己の死と終焉を望んでいるのだ。
 玄室であれば亡骸として其処に居続けることが出来る。即ち、このまま己を殺して欲しいという願いが行動に現れているのだろう。
 シキは彼女をそれほどまでに追い込んだ封神台計画について思う。
 封神台建立を命じた仙翁達。
 オブリビオンの根絶が後の世に安寧をもたらすと信じ、悪徳に身を染めた妲己。
 そして、此度の戦いを引き起こした首魁である張角。
 それらの思惑や計画が重なり、死したはずの妲己がこうして蘇り、あのような死を望むことに繋がっている。
 近付くほどに濃くなっていく香気は宝貝の力が退けてくれる。だが――。
 シキの姿が妲己の視界に入った途端、意思に反して自動で発動する彼女のユーベルコードが襲いかかってきた。
「――!」
 それは殺生狐理精。身体へのダメージこそないが、殺戮と欲を煽る力がシキの内に広がっていた。香気は平気だが、狐理精の憑依は直接的なものだ。
 流石にくらりとして、よろめいたシキは床を踏み締めた。
 煽られた殺戮衝動は自分以外の者に向かってしまいそうだ。そして、妲己の放つ香りと魅了が先よりも強くなったように感じてしまう。
「……それでも、」
 まだ、僅かならば耐えられる。
 自分に言い聞かせるように呟いたシキは妲己に視線を向ける。今、此処で倒すべきは妲己ただひとりだけ。
 耐えきれなくなるぎりぎりまで、シキはそのまま妲己への接近を試みた。
 そうして、いよいよ耐えきれないと感じたとき。シキは破魔の宝貝である短剣の刃を握り締めた。青みがかった美しい刃に赤が滲む。
 痛みで以て己を保ったシキの指先から、血が滴っていく。
 血は流れ続け、痛みも響いているがそれでいい。その痛みと、それを齎した宝貝の存在を強く思い起こしていったシキは意識を引き戻した。
 目の前には妲己がいる。
 己を殺して、終わらせて欲しいと懇願するような眼差しが彼女から向けられていた。
 斬影刃の柄を握り直したシキは、其処でユーベルコード発動する。
 仕事の完遂。
 今において、それは即ち妲己の願いを叶えること。
 増大した身体能力に併せて、殺生狐理精の力を利用すると決めたシキは斬影刃を振り上げた。ひといきに、至近距離から攻撃を仕掛けていったシキの動きは素早い。
 妲己を護るために周囲を飛び交う胡蝶の剣を避けたシキ。彼は己の生命が狐理精に吸い取られていくことなど無視して進んだ。
 妲己の望みを遂げさせる。
 それこそが此度の戦いにおいて、目指すべき終着点。
「これまで苦しかっただろう」
「……はい」
「想像を絶するほどに辛かっただろう」
「…………えぇ」
 シキは妲己に語りかけ、刃を振るった。これは任務完遂の為。それに――自らの意思とは無関係に周囲を傷付けることは死ぬより苦しいはずだ。
 それゆえに終わらせる。
 シキが一閃は鋭く、怜悧な青の煌めきを映しながら振り下ろした。
 銀の柄が光り、鈴蘭の意匠の一部が妲己の瞳に映る。花の意匠を見た妲己の心には静かな安堵の気持ちが巡っていた。
 何故なら――鈴蘭の花言葉は『再び幸せが訪れる』だったからだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】◎

香りにクラとする
その度に髪のパパから頂いた宝貝の簪がちゃらと鳴って意識が戻る
星花刃を握って
ゆぇパパもだいじょうぶ?
ルーシーが出来ることあったら、何でもいって
その為の宝貝『お手伝い券』だもの!
お任せあれ
ぎゅー-って手を握るわ!

踊り狂う羽衣人さんたちを見れば心が痛む
うん、早く助けてあげましょう
繋いだ手の温みを頼りに先へ

玄室はより濃い香り
翼の様な羽衣をくるりと口に巻くと
パパ、ありがとう……ふふ
おそろいね!

何かが入ってくる
ぐるぐると身体の奥が熱い、あつい
ならその熱で思い切り燃やせばいい

蒲公英の散花

ころしたいのは何?
パパの生命が失われる状況
妲己さんが哀しむ状況

破魔と浄化の力のせ
パパと妲己さんを炎で包む
パパの憑物を焼き払い、失われる分の回復を
妲己さんからは生命を吸収し己に充てる

己が死ねばというパパの言葉にハッとするも
ええ!そうよ
パパがそんな事いったら
ルーシーすごく怒る
泣いちゃうから!

…本当は
殺してなんて言葉
叶えたくなんてないけれど
他に術が無いのなら
あなたの自由を祈りましょう

おやすみなさい


朧・ユェー
【月光】◎

おや、凄い香りですねぇ
大丈夫ですか?簪が、それは良かった。よく似合ってますよ
えぇ、大丈夫です
ルーシーちゃんの『お手伝い』のおかげですね
お手伝い券を使って僕が狂いそうになったら手を強く握ってくださいとお願いして

あぁ、可哀想に。踊り狂うなどしたくないでしょうね
早く止めないと
彼女の様子を伺いながら先へと進む

強い匂いに彼女がクラクラしつつ
口に巻く羽衣を見て
それでは少し苦しいでしょう
とマスクの様な布を彼女の口に
そして僕も、お揃いですよと笑って

御機嫌よう
死にたいという貴女の気持ちは良くわかります
僕もそうでしたから
自分が死ねば被害が無くなる、自分で傷つけたくないと
でもそれはこの子や良い人達が止めて下さいました
悲しんで、そしてこの子は怒ってくれただから今がある
きっと貴女の気持ちも誰かに届いている筈です
泣かれるのは嫌ですね、えぇそうやって怒って僕を戻してくださいね

屍鬼
自分の血を捧げグールが鬼化し
喰らい尽く

美しい炎が生命と心を癒す
ありがとう

貴女の哀しみごと喰べてしまいましょう
安心しておやすみなさい



●避けられぬ死であるならば、せめて安らかに
「おや、凄い香りですねぇ」
「すごく甘い、けれども不思議な香り……」
 梁山伯内に踏み入った朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)とルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は、妲己から発せられる香気を感じていた。
 ルーシーはその香りにくらっとした感覚をおぼえ、身を委ねそうになる。
 しかし、その度に髪に挿した簪が揺れた。それはユェーから貰った宝貝であり、ちゃらちゃらと鳴ることでルーシーの意識を引き戻している。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気よ」
 ユェーから掛けられた心配の言葉に対して、星花刃を握ったルーシーは簪があるから問題はないと答えた。
「簪が、それは良かった。よく似合ってますよ」
「ゆぇパパもだいじょうぶ?」
「えぇ、大丈夫です。ルーシーちゃんの『お手伝い』のおかげですね」
 ユェーは優しく微笑んでみせる。
 するとルーシーは得意げに胸を張り、回数無制限のお手伝い券宝貝を示した。
「ルーシーが出来ることあったら、何でもいってね。その為の宝貝『お手伝い券』だもの! お任せあれ、なのよ!」
「お手伝い券を使うので、僕が狂いそうになったら手を強く握ってくださいね」
「ええ、ぎゅー-って手を握るわ!」
 ユェーからのお願い事を聞き届け、ルーシーは早速その手を強く握った。
 そして、心強さを感じた二人は梁山伯内を駆けていく。
 進んだ先では酒池肉林の宴が開かれており、誘われた羽衣人が正気を失いながら踊り狂っていた。その姿を見たルーシーは心を痛める。すぐにでも助けてやりたいが、周囲に漂う香気は妲己を倒さなければどうにも出来ない。
「あぁ、可哀想に。踊り狂うなどしたくないでしょうね」
「うん、早く助けてあげましょう」
「早く止めないと」
 ユェーも羽衣人の現状に気付き、ルーシーと共に頷き合う。ユェーはルーシーが悲しんでいることを感じ取り、その様子を窺いながら手を引いた。
 ルーシーの心はざわついたままだったが、ユェーと繋いだ手の熱が頼もしい。その温もり頼りに先へ進む。
 玄室に近付く度に、より濃い香りが二人を襲った。
 ユェーはクラクラすると感じながら、慎重に進む。そうしているとルーシーが翼のような羽衣をくるりと口に巻きはじめる。その姿を見たユェーは彼女が苦しくならないようにマスクめいた布を彼女の口に当ててやる。
「それでは少し苦しいでしょう。ほら、僕もお揃いですよ」
「パパ、ありがとう……ふふ。おそろいね!」
 自分にもマスクを施したユェーに向け、ルーシーが微笑んだ。これで準備は万端。二人は手を繋いだまま、妲己の待つ玄室に突入する。
 其処では激しい戦闘が繰り広げられていた。飛び交う流星胡蝶剣が猟兵達を狙い撃ち、これまでよりも濃い香気が辺りを満たしている。
「御機嫌よう」
「あなた方は……私の願いを叶えてくださる方ですか?」
「そうよ、ルーシーたちはあなたの声を聞いてきたの」
「死にたいという貴女の気持ちはよくわかります。僕もそうでしたから」
 問いかけてきた妲己に二人が答えた。しかし、その会話の続きは自動発動した殺生狐理精によって中断されてしまう。
「あ……」
「ルーシーちゃん?」
 少女が小さく声をあげたことでユェーがその名を呼ぶ。されど返事はなく、ルーシーは小さく震え出した。
 何かが入ってくると感じたときには、殺生狐理精はルーシーを支配していた。
 ぐるぐると頭の中が回って、身体の奥が熱い。
「……あつい」
 ルーシーの裡に浮かんでいたのは普段ならば絶対に思わないこと。それならば、この熱で思い切り燃やせばいいという思いだった。
 ――蒲公英の散花。
 怪炎を解き放ったルーシーは殺戮衝動に駆られている。それこそが殺生狐理精の齎す感情であることに気付かず、ルーシーは炎を放ち続けた。
(ころしたいのは何?)
 ユェーの生命が失われる状況で、妲己が哀しむだろう状況で殺戮の心が大きくなっていく。同時にユェーにも殺生狐理精の力が働いていたが、それはルーシーとは真逆の方向に巡っているようだった。
 それは嘗て抱いていたものと同じ、自分への殺意だ。
 自分が死ねば被害が無くなる。
 誰かを自分で傷つけたくない。
「――それなら、僕だけが死ねばいい」
 ユェーはそのように考え、殺戮衝動を自分に向けようとした。
 だが、ルーシーの炎は癒しの焔でもあった。破魔と浄化の力が乗せられた炎はユェーと妲己を包み、深く巡っていく。
 焔はユェーの憑物を焼き払い、妲己からは生命を吸収していった。
「パパ、もう平気よ!」
 己が死ねば、という彼の言葉にハッとしたルーシーも正気を取り戻している。ユェーも衝動から解放され、はたとした。
「死ねばいいと思っていたことは確かです。でもそれはこの子や、僕の周囲に居る良い人達が止めて下さいました」
「ええ! そうよ、またパパがそんな事いったらルーシーすごく怒るわ」
「怒られてしまいますか」
「それだけじゃないわ、泣いちゃうから!」
「泣かれるのは嫌ですね。えぇ、そうやって怒って僕を戻してくださいね」
 強い口調で語ったルーシーは既に半泣きだ。零れそうになっていた涙を袖口で拭ったルーシーは真っ直ぐに妲己に向き直る。
 きっと、妲己も同じような悲しみを抱いているはずだ。
「ありがとう、ルーシーちゃん」
 悲しんで、そして――この子が怒ってくれた。だからこそ今があるのだと思い直したユェーも妲己を見つめた。
「きっと貴女の気持ちも誰かに届いている筈です」
 だからこそ自分達は此処に居る。
 ユェーは屍鬼を発動させ、自分の血を捧げた。そうすることでグールが鬼化していき、妲己を喰らい尽くそうとしていく。
 ルーシーも蒲公英色の怪炎を再び巡らせ、妲己を穿った。
「ありがとう、ございます……」
 自動発動ユーベルコードがある反面、妲己自身は無抵抗だ。その姿を痛ましく感じながらルーシーはふるふると首を振る。
「……本当は、殺してなんて言葉は叶えたくないけれど」
 他に術が無いのなら。
 こうすることが、苦しみを長引かせない唯一の方法であるならば。
「あなたの自由を祈りましょう」
「貴女の哀しみごと喰べてしまいましょう」
「おやすみなさい」
「安心しておやすみなさい」
 ルーシーとユェーは妲己から決して目を逸らさず、美しい炎が生命と心を燃やして癒していく様を見守った。
 凛と揺れる簪と、手の中に握られた券。
 形は違っても同じ想いが確かに此処にある。ユェーとルーシーは互いの手を握りあい、この戦いに終わりが訪れる瞬間を見届けることを心に決めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
…頭がおかしくなりそうだ。
この、壁。油断すると俺自身もこの宝石と化した壁と一緒になってしまいそうな心地だ
そんな中此処で立ち止まってなどいられない、その気持ちに応える様に風が吹く
「tahtoa」共に作った宝貝を身に付けた仲間が俺に喝を入れエールを送る様に淡い輝きと共に羽撃き風を贈る
…タイヴァス。ありがとな。

妲己 を前にUC「tyyny」使用
相手に少しでも安らぎが届けばという想いと自身の平静を保つ為にハーモニカで演奏

やるべき事をやるだけ…俺はよくそう口にしてきた。
自身のするべき事と判断したとは言え、本心で望まない事をしなければならないのは……辛い事だ。まぁ俺なぞが簡単に計り知る事等出来ないが。しかしその気持ちが全く分からないでもないから

妲己、アンタの願いは了承した。
だけどその前に。他に望みがあれば…出来得る限りの事はしよう。
しなければならない、その気持ちを除いた先にもしも何か小さな願いがあるのなら……

タイヴァス。ミヌレ行こうか。
最後は傍の鷲と共に、鉱石竜の槍を手に、覚悟を決める。



●成すべきこと
 甘い空気が一帯を満たしている。
 梁山伯に踏み入った途端に強く感じが甘い香り。それは妲己が放つ魅惑の香気だ。
 要塞内の通路を見遣ったユヴェン・ポシェット( ・f01669)は眉を顰め、香気を払うように首を振った。
「……頭がおかしくなりそうだ」
 特にこの要塞の壁。
 香気にあてられてしまったものは生物に限らず、無機物であっても変化してしまう。妲己の絢爛さと釣り合うためなのか、無骨だった壁は煌めく宝石と化していた。
「この、壁。油断すると俺自身も取り込まれそうだ」
 宝石の壁と一緒になってしまいそうな心地を覚え、ユヴェンは距離を取る。
 甘い空気が満ちているからといって、此処で立ち止まってなどいられない。すると、その気持ちに応えるようにして風が吹き抜けていく。
 頭上を見遣ると、其処にはタイヴァスが飛ぶ姿が見えた。
 その足には桃月桃源郷で共に作った宝貝が揺れている。其処から巡る破魔の力がユヴェンに届き、魅了の力は跳ね除けられた。
 タイヴァスが自分に活を入れ、エールを送ってくれたのだろう。そう感じたユヴェンは双眸を細め、大鷲に頷きを返す。
「タイヴァス、ありがとな」
 宝貝の淡い輝きと共に、大鷲が翼を広げた。羽撃いたことで送られた風は梁山伯内にも広がっていき、香気を退けてくれる。
 正気を失っている羽衣人達の間を擦り抜け、駆けるユヴェンは気を確かに持った。
 踊り狂うことしかできない彼らを救うには大本を絶たなければならない。自分の意思とは関係なく魅惑の香気を撒き散らしてしまう妲己。彼女もこの状況を憂いながら、誰かに殺されるときを待っているようだ。
「……待っていてくれ、妲己」
 自ら死を選びたいという願いを叶えるために、猟兵は此処に居る。
 望むこと、叶えること。どちらも苦しい。だが、そうすることしか世界を救う手がないと知っている故に同情も手加減もしてはいけない。
 進む度に強くなる香気の元を確かめながら、ユヴェンは身構えた。
 そして、妲己が待つ玄室に一気に踏み込んだ彼はハーモニカを取り出す。既に妲己に攻撃を仕掛けている仲間が見えた。
 妲己の周囲で飛び交う流星胡蝶剣や、猟兵を襲う殺生狐理精の対応は頼もしい仲間達に任せられるだろう。
 それならば、自分は彼女に少しでも安らぎを届けたい。
 ユヴェンはハーモニカをそっと掲げて演奏を始めた。漂う香気は先程よりも強く、ユヴェンの意識が持っていかれそうにもなる。
 だが、楽器の演奏は自身の平静を保つためのものでもあった。
 響く音色。
 奏でられる旋律。
 香気を弾き返し、魅惑の力を塗り替えていくようにユヴェンの演奏は続く。
 悲しげな瞳をしている妲己は無抵抗で猟兵の攻撃に耐えていた。ユヴェンは彼女の耳に演奏が届くよう、意識を研ぎ澄ませる。
(やるべきことをやるだけ……俺は、よくそう口にしてきた)
 それはこれまで自分に言い聞かせてきたことだ。
 妲己にとって、過去の悪事や封神台の建立がやるべきことだったのだろう。
 己のするべきことだと判断したとはいえ、本心で望まないことをしなければならないのは苦しく、辛い経験だっただろう。
 妲己の気持ちや思いを想像するだけで胸が痛む。その感情の全てが理解できるとは言えない。寧ろ、言ってはいけない事柄だと分かっていた。
 簡単に計り知ることなど出来ないが、気持ちが全く分からないわけでもない。
 それゆえにユヴェンは強く決意していた。
「妲己、アンタの願いは了承した」
「……ありがとうございます」
 ユヴェンが言葉を向けると妲己は絞り出すような声で礼を告げる。お願いします、と語るように頭を下げたのは、死ぬ覚悟が出来ていると示すためだろう。
「だけどその前に」
「――?」
「他に望みがあれば出来得る限りのことはしよう」
 ユヴェンは妲己を真っ直ぐに見つめた。
 しなければならない。
 その気持ちを除いた先に、もしも何か小さな願いがあるのなら――。
 すると、彼女は僅かに微笑んだ。そっと上げた指先で妲己が示したのはユヴェンが手にしているハーモニカだ。
「では、その演奏を……優しい調べを聴かせてください」
「ああ、わかった」
 妲己の願いはささやかなものだった。
 しかし、彼女は本心からユヴェンの演奏をもっと聞きたいと願ってくれた。頷いたユヴェンは更なる音色を紡いでいく。
 其処から戦いは巡り、妲己の香気は徐々に薄まっていった。
 猟兵達の強い思いと猛攻によって、オブリビオンとしての力がかなり弱められているのだろう。最後まで曲を奏で終わった後、ユヴェンは竜槍を握った。
 妲己は苦しみながらも幸せを願う旋律を聞いてくれていたようだ。全ての思いを言葉で伝え合うことは出来なくとも、心は通じたはず。
 安心感と安らぎ、溢れる程の幸せ。
 嘗て、仙界で穏やかに暮らしていた妲己の幸福を思い出せるように――。
「タイヴァス。ミヌレ行こうか」
 最後の一撃は、この手で。
 傍らの大鷲と鉱石竜の槍。双方に呼び掛けたユヴェンは覚悟を抱く。
 そして――悲劇を貫く一閃は、全てを燃やし尽くすほどの極熱を伴って迸った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


死を望む程の苦しみ
蠱惑の厄災だね
何かを救うために自身を犠牲にし続けて
軈ては其れが守りたかったものを害する
…人柱…贄か

美しい宴だが私の巫女の方がずっと美しい
惑わされない
カラスもそうだろう
…カグラが気にしている

飛び交う剣を当らぬ神罰を廻らせいなし結界で防ぎ守る
桜想ノ祝福・祇穹の鈴音が示してくれる
これが…破魔?
禍津である私が…不思議な心地だ

春暁ノ朱華

斬撃波と衝撃波で薙ぎ切断するように剣を斬り払う
リルを傷つけさせない
リルが私を守ってくれているように守る

同時にサヨの傍で駆けて
サヨが欲に呑まれないようにとめて守るよ
この香気は障りになりかねない
欲を喰らい育つ呪がある故…サヨ、駄目だっ
ホムラ…!花丸だ

ち、違うよ!
私が愛しているのはサヨだけで余所見なんてしていない!
カグラ
…結界にカラスを閉じ込めてたのか…独占欲か…
結界は別のところに頼むよ

そうだね
愛すべき日常だ

贄の役目はもう終わり
解放しよう
妲己…そなたは赦される
慰めになるかは分からないけど
今までありがとうと祈りと共に

サヨと共に重ねる刃で縛る厄を斬る


リル・ルリ
🐟迎櫻


甘い香りが苦い

生きているだけで
守りたい何かを狂わせてしまう
そんな存在になってしまうのは苦しいね
望んでいないことなんだよね

本当は君と戦いたくないけれど
苦しいのはお終いにしよう
全てが憎くなってしまう前に
全部が狂ってしまう前に

「薇の歌」
歌唱に祈りと破魔込め歌う
何も無かったのだと巻き戻す
…僕は櫻の香のが好きだから
抗ってみせる

櫻とカムイの二人だって大丈夫
惑わされたりしない!抵抗するんだ
カムイに睨みを効かせてるけど君が一番心配なんだよ櫻!
櫻の心を鎮められるよう
カムイに向かう剣を防げるよう歌を紡ぐ
絶対負けやしないんだ
強い意志を持って歌うけど、香にくらくらする…
ヨル!?え?光ってる?
スッキリした心地がするや

心強いな
カグラとカラスも……
何だか微笑ましい

いつもの光景が大切なものを教えてくれるんだ

唄う夢・秘祝の鈴音が
僕には僕を守ってくれる愛がある
この桃花だって君を救いたいって思ってるんだ
きっと
だから僕らに力をかしてくれる

一度終わればまた
はじまる
その時は、妲己
また生きて
笑っていられるように
願って歌うよ


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


周囲全てを魅了し狂わせてしまうなんて…なんて孤独
誰もがあなたをみているようで
誰もあなたをみていないの
人々の恵の為に生贄になるなんて誰かみたい

私は妲己を憐れまない
全ては彼女が覚悟を持って行ったこと
悪徳も殺戮も
哀れんでは無駄になる

殺してしまいたい
赫の欠片も残らぬように喰らい尽くし
美しい真っ赤な血を啜るのは
美味そう
生きた証を喰い糧にして
櫻守ノ結・樂赫がしまり凛となる鈴と…
痛っ!ぴぃころ?
何か翼が光って、る?

──違う
私はそんなふうに生きたいのではない

リルの歌が響いて、傍にカムイがいてくれる
私のこと守ってくれてた
嬉しい…欲に負けてなんてられない

カムイこそふらふらしてるんじゃないでしょうね!
り、リル!そんな…私だって大丈夫よ!
師匠だって見て……カグラとちょっと大変そうだわ

何時もの声と姿が私を教えてくれる
だから、絶つ
絶華

貪婪が咲いて狂うよう
暴れるそれを抑え込みカムイと共に一撃を
…いきていたいの
しにたいの?
あなたの願いを摘みとって叶えてあげる

今度生まれ変わったら
地味に自由に生きるのもいいかもね



●桃花の導き
 死を望むほどの苦しみ。
 終わりを願うほどの悲しみ。
 そのような心と思いを抱くに至る絶望は想像を絶するものだろう。
「蠱惑の厄災だね」
 妲己が待つ玄室を目指し、梁山伯内を駆ける朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)は僅かに瞳を伏せた。何かを救うために自身を犠牲にした者。しかし軈て、其れは守りたかったものを害する存在になっていく。
「……人柱……贄か」
 妲己はカムイが知っている存在に似た部分がある。神妙に呟いたカムイの隣では、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が周囲の空気を確かめていた。
「周囲全てを魅了し狂わせてしまうなんて……なんという孤独なのかしら」
 櫻宵には何故か解ってしまう。
 誰もが彼女をみているようで、誰も彼女をみていない。
 器であり、役目を果たす贄でしかなく、魅了で人を惑わせるという力を授けられた妲己はずっと孤独を感じていたに違いない。
「人々の恵の為に生贄になるなんて、誰かみたい」
 櫻宵も独り言ちていた。
 似ている。けれども同じではない。
 櫻宵とカムイが香気を跳ね除て進む後ろには、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の姿もあった。
「甘い香りが苦いね」
 リルもまた、この香気を放つ妲己について考えている。
 ただ生きているだけで、守りたい何かを狂わせてしまう。そんな存在になってしまったことが苦しくて辛い。
「これは、妲己が望んでいないことなんだよね」
「噫、そうだね」
「……でも、私は妲己を憐れまないわ」
 リルが悲しげな声を落とすと、カムイが頷いた。櫻宵は真っ直ぐに進む先を見据え、同情してはいけないと語る。
 どのようなことであっても、全ては彼女が覚悟を持って行ったこと。
 悪徳も殺戮も、人に討たれて一度は死したということも。それを哀れんでは無駄になってしまうとわかっているからだ。
 きっと、この身体に宿る呪の主である、あのひとも――憐憫など望んでいない。
 櫻宵は無意識に、密かに携えている白の脇差に触れた。
 そして、一行は酒池肉林の宴が行われている広間に差し掛かる。其処では踊り狂う羽衣人がおり、華やかな宴が催されていた。
「美しい宴だが、私の巫女の方がずっと美しいよ」
 心を強く持ったカムイは、カラスもそうだろうと呼びかける。カグラも気にしているようだが、カムイもカラスも惑わされたりなどしなかった。カグラ達にも桃源郷で交換しあった破魔の宝貝があるので問題はない。
 妲己の香気は気を抜けば骨抜きにされてしまうような恐ろしいものだが、宝貝の力を得たヨルとホムラが先行してくれている。
 玄室から漂ってきているだけの香気ならば、一行が負ける理由はない。
「ちゅん!」
「きゅ!」
「ホムラもヨルも頼もしいね」
「ヨル……もしかして、私の式神としてよりも宝貝の力の方が強くなってない?」
「ホムラ、先行しすぎてはいけないよ」
「ぴぃ!」
「きゅきゅー!」
 二羽の先導を受け、三人は奥を目指し続ける。そうして暫し後、羽衣人を傷つけないように進んだ一行は玄室を発見した。
「あの場所のようだね。サヨ、リル……気を付けて」
「行きましょう、皆」
 カムイと櫻宵が身構え、リルも慎重に泳いでいく。玄室とは死者の亡骸を安置する場所だ。妲己は自ら死を望んでいるがゆえに、あの部屋に籠もることを選んだのだろう。
「……あなた方、は」
 妲己は玄室に入ってきた猟兵達をそっと一瞥する。
 それと同時に自動で発動する香気や流星胡蝶剣、殺生狐理精がリル達に襲いかかってきた。即座に喰桜を抜いたカムイが剣を弾き、リルは香気を尾鰭で振り払う。
「本当は君と戦いたくないけれど、苦しいのはお終いにしよう」
 全てが憎くなってしまう前に。
 全部が狂ってしまう前に、望む終焉を。
 両羽を広げたヨルはリルの前に立ち、香気を弾いてくれている。リルは唇をひらいていき、薇の歌を紡ぎ始めた。
 歌に祈りと破魔を込め、リルは妲己を瞳に映す。
 妲己が行った過去の悪行までは洗い流せないが、此処では何も無かった。事象を巻き戻す歌は香気を押し留め、魅惑の力と拮抗していく。
「……僕は櫻の香の方が好きだから、抗ってみせるよ。だから、大丈夫」
 リルは櫻宵を想いながら、カムイも傍にいるという心強さを感じた。カムイはリルの歌を耳にしつつ刃を大きく振るいあげる。
 流星胡蝶剣は容赦なく此方を斬り裂こうとしてくるが、カムイは飛び交う刃を当たらぬ神罰を廻らせていなしている。
 もしそれを擦り抜けて来たとしても、カグラの結界が防いでくれるだろう。
 それに――桜想ノ祝福・祇穹の鈴音が示してくれる。迷いなど抱かず、思うままに真っ直ぐに進めばいいという意志を。
「これが……破魔? 禍津である私が……不思議な心地だ」
 カムイは清らかな調べを心地好く感じながら、胡蝶剣を退けていく。
 放つ一閃は朱華の軌跡。斬撃波と衝撃波を重ね合わせた一撃は流星胡蝶剣を斬り払い、リルへの危険を減らしていた。
 櫻宵とカムイを支えている歌を紡ぐリルを傷つけさせない。
 リルが自分を守ってくれているように、此方からも守るのだとしてカムイは刃を振るい続けた。だが、カムイは櫻宵の様子がおかしいことにも気付いている。
「サヨ?」
「…………」
 何も答えない櫻宵の中には今、殺生狐理精が宿っていた。
 ――殺してしまいたい。
 櫻宵の内には抗いきれない衝動が生まれている。赫の欠片も残らぬように喰らい尽くして、美しい真っ赤な血を啜る。噫、美味そう。
 生きた証を喰い、糧にして――この愛を深く、もっと深く。
 いけない、と感じたカムイは櫻宵に手を伸ばす。
 櫻宵は愛呪を宿しているゆえに呪に共鳴してしまう。欲に呑まれてしまわないよう、カムイは櫻宵の前に立った。
 やはりこの香気は障りになりかねない。欲を喰らい育つ呪があることで、放っておけば櫻宵の心が歪められてしまうだろう。
「うふふ……」
「サヨ、駄目だっ」
 カムイは必死に櫻宵を呼ぶ。しかし、次の瞬間。
「ぴぃ! ちゅちゅん!!」
「痛っ! ぴぃころ? 何か翼が光って、る?」
 櫻守ノ結・樂赫が強く締まり、鈴が凛と鳴った。それに加えてホムラが櫻宵の手を突いた。その翼は光り輝いており、破魔の霊力が巡っているようだ。
 安堵したカムイは胸を撫で下ろす。
「ホムラ……! 花丸だ」
「ヨル!? え? ぴかぴかしてる?」
 ホムラと櫻宵の近くではヨルもしっかりと立っており、巡る香気や欲の衝動を抑えてくれていた。リルは二羽が強い力を宿していることを改めて感じ取り、不思議な感覚を抱いた。もしかすればヨル達は、自分達が知らない力を得たのかもしれない、と。
 はっとしたことで、櫻宵は欲の衝動から解放されていた。
「――違う」
 そうね、と頷いた櫻宵は正気に返してくれたホムラ達に微笑みかけた。
「私はそんなふうに生きたいのではないわ」
 リルの歌が響いて、傍にカムイがいてくれる。彼らも自分のことを守ってくれていたのだと感じたとき、櫻宵の心に花が咲いた。嬉しい。欲に負けていられないと櫻宵が言葉にすると、リルも大きく頷いて同意する。
「絶対に負けやしないんだ」
 強い意志を抱いたリルは、そっと前に回ってくれているカグラとカラスにも視線を向けた。仲睦まじく困難に立ち向かう二人もまた、心強い存在だ。
 いつもの光景が大切なものを教えてくれる。唄う夢・秘祝の鈴音が心地好い。
(僕には僕を守ってくれる愛がある)
 リルは目を閉じ、更に歌を紡ぎあげていった。
 屠桜を確りと構えた櫻宵は呼吸を整え、カムイに視線を向ける。
「カムイこそふらふらしてるんじゃないでしょうね!」
「ち、違うよ! 私が愛しているのはサヨだけで余所見なんてしていない!」
 櫻宵はカムイに睨みを効かせているが、リルにとっては違うことが懸念される。
「もう、君が一番心配なんだよ櫻!」
「り、リル! そんな……私だって大丈夫よ! 師匠だって、見て……カグラとちょっと大変そうだわ」
「いや、二人はもう乗り越えているよ」
 リルに指摘され、慌てた櫻宵はカグラ達を見遣った。しかし、カムイが首を横に振ることでもう誰も惑わされていないことを示す。先程までは結界にカラスを閉じ込めていたようだが、独占欲もまた愛ゆえのもの。
 あら? と首を傾げた櫻宵は何だか不思議な気分を覚えていた。気付けば普段と変わらない空気が三人の間に流れている。
 何時もの声と姿が、自分を教えてくれていた。
 ――だから、絶つ。
「それなら遠慮なく行くわよ。妲己、あなたの願いは必ず叶えるわ」
「終わらせようか、其の悲しみを」
 櫻宵は絶華の一閃を放ち、カムイも其処に続く。リルは歌声を響かせながら、此処に集った霊花の力を示した。
「この桃花だって君を救いたいって思ってるんだ。きっと――」
 だから花は力を貸してくれている。
 妲己は嘗て、あの桃月桃源郷にいたという。彼女を其処に戻してやることは出来ないが、たくさんの桃花の化身が此処にある。
 愛すべき日常を護るため、カムイは果敢に力を巡らせ続けた。
 妲己を倒し、死という安らぎを与えるべく。
「贄の役目はもう終わりだ。解放しよう。妲己……そなたは赦される」
 これが慰めになるかは分からない。
 それでも、今まで世界を想ってくれてありがとう、という祈りと共にカムイは喰桜を振るう。其処へ櫻宵が刃を重ねた。
 カムイが縛る厄を斬ると共に、櫻宵も鋭い一撃を叩き込む。
 貪婪が咲いて狂うような暴威の衝動は抑え込み、櫻宵は緩やかに問いかけた。
「……いきていたいの。しにたいの?」
 その声には僅かに違う色が滲んでいたが、戦いを終わらせる意思は確かにある。
 あなたの願いを摘みとって、叶えてあげる。
 櫻宵は静かに告げ、己の思いを言葉に変えていった。
「今度生まれ変わったら、地味に自由に生きるのもいいかもね」
「ありがとう……あり、がとう……」
 礼を告げ返した妲己はかなり弱ってきている。間もなくこの戦いが終幕するのだろうと察したリルは葬送歌としての詩を声にしていった。
 一度終わればまた、はじまる。
「その時は、妲己。また生きて――笑っていられるように」
 願って、歌うよ。
 リルの歌声。カムイによる赫の一閃。櫻宵が巡らせる黄泉桜。
 重なり咲く力はひとつになり、優しい終わりへのみちゆきを紡いでゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華組》


妲己さんに親近感

ええ
私達は死神と違う事を証明します


香気は妲己さんの悲嘆に寄り添い救う覚悟と燦の符で狂気耐性を得て近づき
手を優しく繋いで慰めつつコミュ力で説得


私も街の人々を守る為
大勢を殺め…人々の怒りを鎮める為に身を差し出した事があります

依頼≪罪は冷たく静かに降りしきる≫で思い出した前世の最期が脳裏を過る

処刑はとても怖かった
でも
同時にもう苦しまないで済むと思いました
けど…
世界は私が死へ逃げる事を許さなかった

『聖痕』を刻まれて蘇生され
自殺もUCの贖罪が自動発動し阻みます

悲嘆にくれた時もあったけど
燦は罪深い私と共に歩む道を望んでくれ
親友達の支えもあり
今は前を向けています


妲己さん
死んでも自由になれないのはオブリビオンにされた貴女も知っているはずです
私は貴女の本当の願いを叶えたい
私にはオブリビオンの部分を排し
貴女を骸の海へ帰さずに済む手段があります

世界の敵にも自分を犠牲にもせず
貴女の意志で世界の安寧に貢献したいと思うなら
私達と一緒に来て力を貸して頂けませんか?


応じてくれたら【終癒】で吸収


四王天・燦
《華組》



想いは一つ、絶望を蹴散らしにいこうぜ
⑬id=39936で新調した宝貝版・四王稲荷符をシホに分けておくよ

符で結界を構築し羽衣人を魅了から守る
宴は戦勝会まで待ってくれや

好意として妲己を殺してしまわないよう武器は置いていく
稲荷符も結界・破魔・浄化に絞るぜ

たのもー
気合と狂気耐性と、シホへの愛で魅了に耐えるよ
耐えたら稲荷符ばら撒いて真威解放だ
玄室を神聖な空気に入れ替えれば語らう時間は作れるかな
稲荷寿司(酒池肉林とは縁遠い真心弁当です)をば差入れして説得を試みる

シホと妲己が似すぎてるんだ…過去や宿命に抗えることを共に見せて欲しい
アタシらは共に歩む仲間には役者不足かな?
何よりアタシは女の子が大好きなので生きろと素直に頼むぜ
手段はシホが用意している

ここが正念場…慈悲と赦しの稲荷巫女の真の姿を顕現し、特製稲荷符の浄化と破魔で自動発動UCを、封神仙女『妲己』の仙格のみを滅する
妲己さんよ、現世にしがみつけ!
骸の海に堕ちるのは呪いだけで充分だ

彼女が普通の女の子としてやり直せるよう尽くす
アタシ達の望みだ



●届き得ぬ願い、叶えられる望み
 山岳武侠要塞、梁山泊内。
「妲己さん……」
 要塞を進むシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は妲己に親近感を覚えており、切なげな声を落とした。その隣には四王天・燦(月夜の翼・f04448)がいる。
「想いは一つ、絶望を蹴散らしにいこうぜ」
「ええ、私達は死神とは違う事を証明します」
 燦の言葉に頷きを返し、シホは酒池肉林の宴が開かれている最中を駆け抜けた。燦は新調した宝貝版・四王稲荷符をシホに分け与えている。
 霊符で構築した結界は燦達だけではなく、正気を失っている羽衣人も魅了から守っていた。しかし、本当の意味で宴を止めるには妲己から発せられる香気そのものをどうにかしなければならない。
「宴は戦勝会まで待ってくれや」
 絶対に助けるから、と告げた燦は妲己が待つ玄室を目指していく。進む度に香気が強くなり、シホと燦は果敢に耐えた。
 そして、二人は一気に玄室に踏み入ってゆく。
 玄室は亡骸を安置する場所。妲己が此処に籠もることを選んだのは、自らの命を此処で終わらせたいと考えたからだろう。
「たのもー」
 燦の声が玄室に響き渡る。
 部屋の中はこれまで以上の香気が満ちていた。
 されど、シホは惑わされたりなどしない。この香気は妲己の意思とは関係なしに溢れてくるものだ。彼女の悲嘆に寄り添い、真の意味で救う覚悟がシホの裡に宿っている。
 それに燦の符も身を守ってくれていた。
 傾世元禳の香気により、燦とシホは妲己にとって友好的な行動を取らされてしまう。されど、それは何も抗わなかった場合。
 燦は万が一にでも、好意として妲己を殺してしまわないよう武器を置いていた。稲荷符も全て結界に回し、巡らせる力も破魔と浄化に絞っている。
 気合いと狂気への耐性。そして、シホへの愛。
 魅了に耐えた燦は更に稲荷符をばら撒いていき、ユーベルコードを発動した。
 ――真威解放。
 たったひとときでもいい。玄室の香気を神聖な空気に入れ替えれば、シホと妲己が語らう時間も作れるだろう。
 燦は酒池肉林とは縁遠い、真心が籠もった稲荷弁当を差し入れる。
 難しいかもしれない。困難かもしれない。だが、燦とシホはこれから――妲己の説得に移ろうとしている。
 シホは燦からの援護を受け、妲己に近付いた。
 飛び交う流星胡蝶剣は他の猟兵が受け持ち、弾いてくれていた。余波で傷つくことも厭わず、シホは妲己に手を伸ばす。
 それは僅かな間だけのことになるだろう。妲己に触れる者は香気の障害や、流星胡蝶剣が邪魔をする。だが、シホは決して手を離そうとしなかった。
「あなたは……?」
 優しく繋がれた手と、シホの顔を見つめた妲己は不安げな顔をする。対するシホは自分のことについて語っていった。
「妲己さん、私達は似ています。私も街の人々を守る為、大勢を殺め……人々の怒りを鎮める為に身を差し出した事があります」
「……!」
 シホの脳裏に蘇っていたのは以前に思い出した前世。その最期の光景だ。
 かつて、まだ人間だった頃。シホの前世は人々を守る騎士団の一員であり、任務で悪魔に唆され夫を殺そうとしている夫人を説得しようとして、失敗した。
 大勢の人が瘴気を浴びて悪魔化する中、騎士は被害の拡大を防ぐ為に悪魔化した人々を殺めていった。致し方ないことであり、騎士団はそれが適切な判断だと評価した。
 だが、民衆は違った。
 騎士が人間だった者達を殺める場面を見た人々は、騎士団は狂った魔女を匿うのかと非難した。そして、騎士は心が折れて戦えなくなってしまった。
 それゆえに人々の怒りを鎮める為、騎士は身を差し出した。処刑はとても怖かったが、同時に思っていたことがある。
 もう苦しまないで済む、と。
「けれど……世界は私が死へ逃げる事を許さなかった」
「……」
 妲己は無言だったが、シホの言葉に耳を傾けていた。
 シホは聖痕を刻まれて蘇生され、自らを殺めようとしても贖罪が自動発動していき、それを阻んでしまう。
 だからこそ、妲己とシホは似ている。
 シホを結界で護りながら燦も思いを巡らせていた。
「そうだ、シホと妲己は似すぎてるんだ……。けれど、シホはこうしてここに居る。過去や宿命に抗えることを共に見せて欲しい」
 燦の言葉が背後から響いてきたことで、シホも思いを伝えていく。
「悲嘆にくれた時もあったけど、燦は罪深い私と共に歩む道を望んでくれました。親友達の支えもあり、今は前を向けています」
 だから、とシホは妲己に願う。
 妲己の願い通りにただ殺してしまうことが一番早い解決方法だろう。だが、きっとそれではいけない。妲己は無慈悲に殺されていい存在ではないと、シホと燦は判断した。
「妲己さん、死んでも自由になれないのはオブリビオンにされた貴女も知っているはずです。私は貴女の本当の願いを叶えたい」
 自分にはオブリビオンの部分を排する力がある。
 そう語ったシホは自分の理想を言葉にしていく。世界の敵にも自分を犠牲にもせず、妲己の意志で世界の安寧に貢献したいと思うなら――。
「私達と一緒に来て力を貸して頂けませんか?」
「…………」
 シホからの問いかけに対し、妲己は俯いた。
 燦は彼女が迷っているのだと感じ取り、説得の言葉を投げかけていく。
「アタシらは共に歩む仲間には役者不足かな? でも、アタシは妲己さんに素直な気持ちで答えて欲しい。同じようにアタシも素直な気持ちで言うよ」
 ――生きろ。
 燦は手段はシホが用意していると伝えた。そして、此処が正念場だとして燦は身構える。慈悲と赦しの稲荷巫女の真の姿を顕現した燦は、特製稲荷符を掲げた。
 其処から巡る浄化と破魔の力によって、妲己に施された自動発動ユーベルコードを止めに掛かる。そして、封神仙女妲己の仙格のみを滅する気概だ。
 燦が力を溜めている最中、シホは妲己を覗き込む。
「妲己さん?」
「……申し訳ありません。私には、出来ません」
「そんな……」
「正確に言えば、出来るかどうかわからないのです。私の身は既に自分のものではないのです。行けるなら一緒に行きたい……でも――ごめんなさい、死にたいのです」
 もう、生きていたくはない。
 生きろと伝えられたことは嬉しかった。だが、妲己自身が素直になったとしても、自分が死すべき存在だという思いは変えられない。
 それでも、燦は諦めなかった。
「妲己さんよ、現世にしがみつけ! 骸の海に堕ちるのは呪いだけで充分だ」
 破魔符の雨を降らせた燦は、同時にシホに下がれと願った。
 勝手に発動している香気が妲己の思いに反して溢れている。妲己も自分の一番近くにいるシホが危ないと感じたのか、繋いでいた手を離した。
 迫りくる胡蝶剣を避けるため、シホも一気に後方に下がっていく。
「ありがとう……」
 妲己は離れていくシホに静かな笑みを向ける。
 彼女はシホと燦の思いを受け取ってくれた。彼女が普通の女の子としてやり直せるよう尽くしてくれた二人に感謝を抱いているはずだ。
「アタシ達の望みは……届かないのか」
「妲己さん……!」
「いいのです。あなた達が向けてくれた想いと心だけで、私は救われます」
 だからどうか、死なせてください。
 妲己は切実な言葉と共に信頼を此方に向けていた。其処で燦とシホは気付く。妲己が思いを受け取ってくれたように、自分達も妲己の思いを受け取るべきだ、と。
「わかりました、妲己さん」
「それでもアタシ達は願う。いつか奇跡が起きるように……!」
 シホは頷き、苦痛や負の感情を和らげる優しき温かな光を広げる。燦も符の雨で神聖な領域を作り出していき、妲己を真っ直ぐに見つめた。
 そして――戦いは終幕に近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎹・たから


香気に負けぬよう
心を確かに持って【覚悟、勇気

羽衣人達の合間をそっと駆け抜けます【忍び足、ダッシュ
この魅了からすくってみせますからね

立ちはだかる彼女のなにかに
眼の前がくらくらする
ぼんやりとする意識がこわくて

だめです
たからは、彼女を
なのに頭がとけそうで

崩れそうな意識に
お守りの指輪と桜のネイルが見えた【浄化、破魔、狂気耐性

…いけません(ぺちんと自分の頬叩き
たからは正義の味方です
魅了になんて、負けてはいけません
だって彼が悲しむ

この身に魔を降ろします
どんな代償を払っても構わない

殺してほしいと思う程
傷つき苦しむ人を
たからは見逃せません

たとえどれだけのいのちを奪って
どれだけの悪を成したとしても

悪いことをしたと思って罰を受けたなら
誰だってすくわれるべきです

強化した身で素早く駆け壁を蹴りジャンプ【空中戦
雪のオーラを纏って防御で剣の舞を受け止めます

不意を突いて胡蝶剣を手裏剣ひとつで落とし
もうひとつで妲己を切り裂く【暗殺、切断

桃の花のように綺麗なあなた
きっとあなたも
すきな人に、すきって思われたかったですよね



●只、唯一の
 香気が満ちる梁山伯。
 入り組んだ通路を駆け、倒すべき存在が待つ玄室を目指す。
「この魅了からすくってみせますからね」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)は香気に負けぬように心を確かに持ち、羽衣人達の合間を駆け抜けていた。
 遥か過去、封神台建立の命を受けて人界に降り立った仙女。
 其の名は妲己。
 後に封神仙女と呼ばれるようになった彼女は蠱毒の贄だった。嘗ては仙界の桃花のみを食していた彼女が、酒池肉林に身を委ねて穢れることで生まれる香気。
 それは万物を魅了し、人を惑わせるもの。
 彼女は享楽に溺れ、殺戮と悪徳に手を染めた。そして、妲己は人に討たれる事で封神台を築く礎となって死を迎えた。
 それはオブリビオンの根絶こそが後の世に安寧を導くと信じたが故。死を以て己の意志を成し遂げた彼女は今、赦されぬ罪を背負ったまま蘇った。
 そして――今、彼女は死を望んでいる。
 玄室に飛び込んだたからは、色濃く満ちる香気を真正面から受けた。
 立ちはだかる彼女のなにか。眼の前がくらくらして、ぼんやりとしていく自分の様子が妙にこわくて、足が竦みそうになった。
「だめです」
 たからは、彼女を。
 それなのに。
 頭がとけそうで、意識が崩れていく。
 しかし、たからの視界に或るものが映った。お守りの指輪と桜のネイル。それらの存在がたからの意識を現実に引き戻してくれた。
「……いけません」
 ぺちんと自分の頬を叩いた彼女は、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「たからは正義の味方です」
 魅了になど負けてはいけない。だって、彼が悲しむから。おかえり、と言ってくれる彼の元に戻れなくなるから。
 たからは妲己を見つめ、その身に魔を降ろしていく。
 ――もう、生きていたくはない。
 それほどに思い詰め、己を滅したいと願う彼女の苦痛は想像を絶するものだろう。それゆえにたからはどんな代償を払っても構わないと考えていた。
「お願いします、誰か……」
「殺してほしいと思う程、傷つき苦しむ人をたからは見逃せません」
「どうか――」
 妲己は自分の罪は赦されるものではないと語っている。
 だが、たからは既にそれを赦していた。たとえどれだけのいのちを奪ってきたとしても、どれほどの悪を成したとしても。
「悪いことをしたと思って罰を受けたなら、誰だってすくわれるべきです」
「……!」
 たからが発した言葉を聞き、妲己は僅かに目を見開いた。許す、救うという言葉を自分に向けられたことで驚いたのだろう。
 妲己はただ、誰かに殺して欲しいと願った。
 オブリビオンとして蘇った彼女は、自ら命を絶てぬ身。それゆえに誰かを。誰でもいいから、と望んだのだ。
 そうして彼女は、死者を安置する役割を持つ玄室に閉じ籠もった。
 このまま死んでしまえば楽になれる。
 自分は亡骸も同然なのだと考え、失意に暮れていた。だが、今の妲己の心は変わっていた。たからの言葉を受け、猟兵達の思いを耳にして、心が救われかけている。
 ただ無慈悲に命を奪うのではない。
 猟兵達はそれぞれの思いを持って、妲己に挑んだ。
 妲己の罪を制裁しようとする考え。
 成すべきことを遂げた妲己を称賛する思い。
 たからのように、妲己本人を優しく慮る心。
 そういったものが全て、妲己の心に届いていた。しかし、妲己の意思に反して動く流星胡蝶剣がたからに向かって飛んでくる。
 たからは強化した身で以て素早く駆け、玄室の壁を駆け上がった。その勢いを利用して壁を蹴り、跳躍した彼女は雪のオーラを纏う。
 そのまま剣の舞を受け止め、弾き返したたからは手裏剣を投擲する。
 不意を突くような一閃で落とされた胡蝶剣が地面に転がる中、たからはもうひとつで妲己を切り裂いていった。
 香気は弱まり、妲己のオブリビオンとしての力もあと僅か。
 たからは彼女から目を逸らさず、流星胡蝶剣を躱しながら距離を詰めていった。
「桃の花のように綺麗なあなた」
「…………」
 たからが呼び掛けると、妲己はゆっくりと瞼を閉じる。猟兵達からの力を受け、耐えていた妲己も理解しているのだろう。
 次の一閃が己に最期を齎すものになることを。
 たからも次々と打ち込まれていく仲間のユーベルコードの軌跡を追い、妲己までひといきに駆けた。そして、たからは手を伸ばす。
「きっとあなたも」
 六華の紋がましろく、つよく輝いた。玻璃の花を差し向けたたからは、最期を与えるべく刃を振り下ろす。
「すきな人に、すきって思われたかったですよね」
「ああ……本当、に」
 きっと、ただそれだけでよかった。
 世界を救うための贄ではなて、いとしいひとに想われるだけの世界があったら。叶わぬ夢であっても、たからは妲己がそう願うことを赦した。
 瞼を閉じたままの妲己は満足そうな顔をしていた。まるで、これから死に向かうとは全く思わせない穏やかな表情で、彼女は微笑む。
 そして――死を望んだ仙女、妲己の身体は崩れ落ちた。

●散花
「――ありがとう」
 力を失い、倒れた妲己が遺した言葉はたったそれだけだった。
 しかし、此処で熾烈な戦いを繰り広げていた猟兵には、その言葉だけで全てを理解することができた。悲しみと絶望に暮れていた妲己が感謝を述べた。それは猟兵達の思いが通じ、彼女の心に光が射し込んだ証。
 香気は消え去り、甘く柔らかな桃の香りだけが残っている。狂わされていた羽衣人達も正気に戻り、疵や怪我ひとつなく解放されるだろう。

 不意に何処からか桃の花弁が降ってきた。
 それはまるで桃源郷から巡ってきたかのような美しい花の欠片だ。
 もしかすれば彼女は還れたのかもしれない。何処にも身体がなくとも、妲己という個の存在でなくなったとしても――。
 其の心だけはきっと戻れる。懐かしくて愛おしい、桃月桃源郷に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月29日


挿絵イラスト