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殲神封神大戦⑧〜眼花繚乱舞踏傳

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑧ #コンキスタドール『編笠』 #プレイング募集は1/14(金)まで

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#コンキスタドール『編笠』
#プレイング募集は1/14(金)まで


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 整然と並ぶ西洋風の建造物、その間に敷かれた石畳の上を馬車が駆ける。
 雑然と入り組む木造のバラック、その路地裏に張られた紐に提灯が揺れる。

 ここは人呼んで『香港租界』。古今東西が入り混じる文明の坩堝。
 あらゆる文化も種族も、渾然一体となってその境界を失う世界のカオス。
 街のあちこちで銃と阿片がそれぞれに頽廃の煙を昇らせる落陽の蠱毒。

 そんな租界へ煙管の紫煙を吹きかけて、編笠を被った誰かが嗤った。

 ☆ ☆ ☆

「汝らの健闘により、遂に『香港租界』への道が開いたようだ」
 ツェリスカ・ディートリッヒ(熔熱界の主・f06873)はそう言ってグリモアベースに集まった猟兵たちを労ってから、改めて手元の魔導書を開いた。ページの合間から漏れ出た魔力の光が、無秩序に積み上げられた不気味な高層建築の集合体を空中に映し出す。
「香港租界とは、外界から侵入したコンキスタドールの侵略地である。奴らが持ち込んだ異界の技術により、租界内の文明は20世紀初頭レベルにまで発展しているようだ。UDCアース風の表現をするなら、よくカンフー映画の舞台になっているような時代だな」
 西洋と東洋をミキサーにかけて造り上げたような、雑然たる香港。その混沌ゆえの魅力はしかし、コンキスタドールがばら撒いた重火器や阿片によって翳らされている。

「この香港租界を支配し、文明に頽廃をもたらしている元凶は『編笠』と呼ばれる怪人物だ。煙などを用いた奇妙な術と、銃を巧みに操っての暗殺を得意としているらしい」
 編笠は誰よりもこの租界を熟知しており、猟兵の構成を察知して『九龍城砦』へと逃げ込んだ。そこは香港租界のカオスの象徴、無秩序かつ不条理に積み上げられた地上数十階にも及ぶ奇怪な迷宮建築。ただでさえ複雑な構造に魔術結界までが入り混じり、そこにはあらゆる種族に加えてオブリビオンまでもが分け隔てなく暮らしているという。

「余の予知により、辛うじて編笠が逃げ込んだ先はダンスホールであることが明らかになっている。ここは九龍城砦の住人が交流を持つための、いわば社交界のサロンだ。折しも舞踏会が開かれているようで、編笠はその中に身を潜め、暗殺の機会を狙っている。奴が仕損じることはないだろう――奴は九龍の住民と猟兵をひと目で見分けられるからだ」
 種族を問わず、城砦の住人たちは不思議な「九龍の霊気」を纏っているという。猟兵たちはこれを持たないため、正確に居所を捕捉されて暗殺を許してしまうというわけだ。

「だが、この『九龍の霊気』は、九龍城砦に馴染むことで汝らも身につけることが出来る。此度の場合は、ダンスホールの空気に溶け込むことが出来たら……であるな」
 潜入先は社交界のサロン。周囲に合わせて身だしなみを整えることが前提だ。中華風であればチャイナドレスや長袍、西洋風ならドレスや燕尾服。猟兵たち自身も舞踏会の参加者として場に溶け込むことで、編笠の目を眩ませることが出来るだろう。なんなら作戦の一環としてダンスを踊ってみたり、中華料理を味わったりすることでより溶け込もうとしてみてもいいだろう。いずれにしても霊気を纏うことで相手からの暗殺の機会さえ奪えば、逆にこちらから敵の居場所を突き止めて打って出ることも可能なはずだ。

「舞踏会のマナーなど分からないと尻込みする者もいるかも知れぬが、そんなことを気にする必要はない。余に言わせてもらえば、社交界で一番肝要なのは度胸である。要は人目をはばかることなく堂々としていればいいのだ。さすれば貫禄は後からついてくる」
 ツェリスカは猟兵たちにウインクし、激励を送るのだった。


滝戸ジョウイチ
 お久しぶりです、滝戸ジョウイチと申します。
 それにしても、香港ですよ香港! カンフー映画めいた設定に、私も密かにワクワクしております。皆様も是非、映画スターみたいに活躍してみてください。

●シナリオ概要
 一章完結の戦争シナリオです。
 敵は香港租界を支配する怪人物、コンキスタドール『編笠』。
 暗殺術の達人であると同時に香港租界を知り尽くした編笠に対して無策で挑むことは、ただ一方的に攻撃する機会を与えるだけの結果に終わってしまうでしょう。
 シナリオ難易度も「やや難」ですので、対策は念入りに。

●特殊ルール
 今回のシナリオでは以下に基づく行動を取ると判定が有利になります。
 =============================
 プレイングボーナス……舞踏会に相応しい衣装で「九龍の霊気」を身に着け、
 敵の先制攻撃ユーベルコードをかわす。
 =============================
 うまく「九龍の霊気」を纏えれば、敵からの一方的な暗殺は発生しません。

 ダンスホールに集う住人たちは中華風の衣装、女性ならチャイナドレスで男性なら長袍(チャンパオ)を着ていることが多いようです。あるいは西洋風のドレスや燕尾服を着ても構いません。それ以外の国の正装でも、九龍城砦なら溶け込めるかも。
 ちなみに自前のものがなければツェリスカが調達しますので、ご安心を。

 なお着用する衣装はプレイングに記載するようにしてください。場の空気に溶け込むことが大事なので、普段着る機会のない服を着てみるチャンスかもしれませんね。
 もちろん実際にパーティへ参加して、更に溶け込む工夫をするのも良いでしょう。

●プレイング受付
 オープニングが公開された時点からプレイングを受け付けます。
 複数人で参加する場合は、迷子防止のためプレイング冒頭に同行者のお名前(ID)、あるいはチーム名を添えるようにしてください。
 なお戦争シナリオの早期完結を目指すため、参加者多数の場合は採用数を絞る可能性がありますので、あらかじめご了承ください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『編笠』in九龍』

POW   :    編笠暗殺術
自身と武装を【編笠から落ちる影】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[編笠から落ちる影]に触れた敵からは【平衡感覚】を奪う。
SPD   :    九龍乱戦遊戯
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【代用武器とした、九龍城砦の全ての人・物品】の威力と攻撃回数が3倍になる。
WIZ   :    ドラゴンズ・ドリーム
【煙管の煙から具現化した「紫煙龍」】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【袋小路への迷い込み】を誘発する効果」を付与する。

イラスト:稲咲

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

楊・宵雪
いろんな文化の坩堝であれば、他人を不快にさせない程度の礼で問題ないはずね
チャイナドレスを着て、拱手の作法と、基本的なパーティーのマナーを学んでおく

相手を探す方法も必要ね
編笠と煙草…今どき喫煙可能な場所というのは限られているはずね
暗殺の手口は何かしら
他人を巻き込むのを気にするかどうかでも動きが変わるかも
いずれにせよ誰か探したりしている様子のある人は警戒する

UCは関係ない人を巻き込まないものを選ぶわ
人目のあるところや偉い人の前で握手やダンスを求めれば反撃されず接近できるかしら
うまく敵のUCを封じられたら味方が攻撃してくれると期待するわ


灯璃・ファルシュピーゲル
本来、幇会は助け合って未来を作りもする集団のはずですが…
此処はどれだけ華美でも先は暗いだけですね

事前に小型の遠隔式音響爆弾と
派手では無い落ち着いた色合いなものの体型にフィットし
細かい刺繍のされた仕立ての良さが解るチャイナドレスを準備し着用

軍情報部時代の経験(戦闘知識・コミュ力)を活かし、礼儀正しくも
隙を見せない様子を見せつつ参加住人達と交流。
世間話に交えて兵器や物流の話題を出す事で、この地の隆盛に引き寄せられた筋金入りの死の商人を装い、街の空気に溶け込み霊気の獲得を図ります

獲得潜伏後はホール出入口近辺に爆弾を隠して設置しつつ
指定UCで住人や編笠配下の可能性がありそうな人物の視線をジャックしホール内を全周監視。
監視態勢が整ったら起爆し、衝撃音と騒ぎで敵の奇襲タイミングを潰しつつ、怪しい影の動きや部下達の咄嗟の視線から敵首領の位置の割り出し(見切り・情報収集)を試し確認次第即時に(制圧射撃)で姿を出させ、足・武器を持つ腕狙いで狙撃(スナイパー・2回攻撃)し戦闘力を奪うよう戦います

アドリブ歓迎


藤・美雨
シャコウカイとかマナーとか、あんまり好きじゃないから苦手だけど……
でも堂々とするのは得意!任せて!
真っ赤なチャイナドレスを着込んで乗り込むよ
戦闘用の服とはまた違う感じがしていいよね!

場に馴染むためにも腹拵えだね
周囲を観察しつつ料理をいただくよ
ほわ、むき海老がぷりぷりだ……
けど感動してばかりもいられない
いい感じに馴染んだタイミングで敵が仕掛けてくるかもだからね

相手は誰かに煙を纏わせる?
それとも自分で纏ってくる?
【暗殺】の技術と知識を生かし攻撃を察知
【第六感】でも危険を感じればすぐに相手から離れるよ!

上手く回避できたらUC
どうせ編笠は近くにいるんだ
生者には陽の気を
そして過去には陰の気をぶちかます!



 コンクリートブロックが乱雑かつ無秩序に組み合わさった奇妙な迷宮、九龍城砦。
 その中にあって、このダンスホールは一際洗練された造形美を有していた。
 場当たり的な増築を繰り返したのではない、はじめから計算された秩序ある設計。
 それがこの九龍城砦の一部に組み込まれていることが、既に不条理ではあるのだが。

 ドレスコードの確認を経てフロア内へと足を踏み入れてみれば、扉の向こうは絢爛たる空間だった。天井には豪勢なシャンデリア、床には良質な赤いカーペットが敷き詰められていて、壁沿いに並ぶテーブルには封神武侠界ならではの高価そうな磁器が並んでいる。サロンで談笑する老若男女もみな身なりの良い者ばかりだ。様々な種族が入り交じるあたり、この九龍城砦ではあらゆる者が同列に扱われるというのは建前ではないらしい。

                ▼  ▼  ▼

「いろんな文化の坩堝……というのは、どうやら本当のようね」
 仙人や瑞獣までもがこうして社交サロンへ集っているのを目にして、楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)は思わず関心した。種族だけでなく、フロア内の装飾や家具などを見ても洋の東西が入り混じっている。何者をも拒まないこの九龍城砦の風土ならば、封神武侠界における厳粛なしきたりに囚われることもないだろう。
 宵雪は行き交う人に拱手の礼をしてみせながら会場を闊歩する。身に纏うのは馴染みのある黒のチャイナドレス、さらに花海棠の刺繍を大胆にあしらった社交界向きのもの。それを着て堂々と振る舞えば、顔を合わせる人々に違和感を持たれることはない。彼女自身が持つ生来の艶やかさと相まって、むしろ好感すら抱かれているようだった。

(あとは、相手を探す方法も必要ね)
 気怠げな視線を送るようにして、宵雪はホールの隅々まで観察する。流石に社交サロンなだけあって、いくら香港租界といえども堂々と阿片を吸う者の姿は見えない。加えて煙草を咥えたまま踊るわけにもいかないのだから、必然的に煙が昇る場所は限られる。
(いずれにしても、警戒するに越したことはなさそうね)
 柔らかな表情の陰で精神を研ぎ澄ませながら、宵雪は悠然とフロアを歩く。

                ▼  ▼  ▼

(本来、幇会は助け合って未来を作りもする集団のはずですが……)
 一方、会場内に油断なく視線を走らせながら、灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)は内心で思いを巡らせた。中華圏における「幇」とは互助会と訳されることもある通り、同郷・同族同士の堅い結束によって成り立つ社会を指す。それは時に秘密結社や暴力組織に近い側面を持つこともあるが、いずれにしても仲間との繋がりを再重視する関係には違いない。だがこの租界から感じる空気は、それとは異質だった。
(此処はどれだけ華美でも、先は暗いだけですね)
 言うなれば、寛容と表裏一体の無関心。この租界は、人心までも荒廃しつつある。

 ダンスホールの内部は華美の極みで、外部の猥雑なコンクリート群とは別世界のように感じられる。そこに集う住人たちは皆普段から上流の暮らしをしているようで、灯璃の語るビジネスの話に興味津々のようだった。灯璃が身につけているのは紺色のチャイナドレスで、その布地には封神武侠界で瑞獣とされる九尾狐と揺らめく火を組み合わせた図案が刺繍されている。その落ち着いた品の良さに加え、情報部時代に鍛えた諜報能力によって、参加者たちは彼女が筋金入りの死の商人であることに疑問を抱かないようだった。
(それだけ銃の売人が身近であるということなのでしょうが。それに阿片も)
 話題に上る兵器は、どれも元を辿れば『編笠』が流通させたもの。そしてその結果がこの香港租界の惨状だ。そのことについて思うところはあれど、灯璃の立ち振舞いはまさしくそんな九龍城砦を訪れた商人として相応しいものだった。

                ▼  ▼  ▼

 荒廃していく人心とは対象的に、香港租界の文化は絢爛華美の最たるもの。
 そしてそれは、古来より封神武侠界の象徴のひとつである食文化でも例外ではない。
「ほわ、むき海老がぷりぷりだ……」
 藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)が目を輝かせつつ見つめるのは、パーティで供された料理のひとつ。香港名物の「白灼蝦(パッチョッハー)」と呼ばれるものだ。塩茹でにした海老をネギと唐辛子で辛めに味付けした醤油ダレに潜らせて食べる、ただそれだけの料理。だが新鮮な具材を絶妙な湯加減で茹でることで、ただの塩茹でが何物にも代えがたい旨味を生む。タレに絡む弾力のある身は噛むと口の中で弾けそうなくらいだ。

 感動の面持ちでエビ料理を頬張る美雨を、奇異の目で見ようとする者はこの場にはいないようだった。社交界やマナーなどをあまり好まない彼女だったが、普段の仄暗い色合いの戦闘服とはまた違う鮮やかな真紅のチャイナドレスを堂々と着こなす姿には十分に貫禄があった。加えて、彼女が厳密には封神武侠界の僵尸とは異なる存在であることを気に掛ける者もいない。というよりも、参加者たちは個々の出自に関心がないようだった。
(けど、感動してばかりもいられないよね)
 本場の料理に舌鼓を打ちつつも、周囲への警戒は怠らない。暗殺の技術と知識、加えて本人の才能が、暗殺者ならばどういう状況で仕掛けるのかを常に予測し続けている。

                ▼  ▼  ▼

 しばらくの間、舞踏会は滞りなく行われた。何事も起こらないような気がするほどに。
 だが予兆は確かに存在した。猟兵としての観察眼が、経験が、知識がそれを捉える。
 美雨が周囲に異質な気配を感じ取り、灯璃が怪しげな動きを察知したのと時を同じくして、宵雪はフロアの片隅にて煙をくゆらせる人物へと歩み寄っていた。周囲にはダンスの輪から離れて談笑する人で溢れていて、その人物はその中で自然に溶け込んでいる。
「はじめまして。あなた、少しわたくしとのお話に付き合ってくださらない?」
 堂々と握手を求めようとする宵雪を、その人物はサングラス越しに観察する。
「……へえ。いったいどうやって私の目を掻い潜ったのかな? ま、いいか」
 怪人物が不敵に微笑むと、妖しげな煙を纏った者たちがその周囲に立ち塞がる――。

 瞬間、ダンスホールの入口で炸裂音が響いた。灯璃があらかじめ仕込んでおいた爆弾を起爆したのだ。同時に、これまでも監視に使用していた『Overwatch』を再起動。範囲内の視覚を強制的に共有するこのユーベルコードで、爆発に対する反応が異質な者を突き止める。人間は反射的な行動にまで嘘はつけない。あの爆弾が「猟兵による工作」と咄嗟に考えた者は、明らかに視線の走らせ方が他とは違う。案の定、複数の視線が爆発の現場ではなく会場内を行き交っていた。既に『編笠』の煙で操られ、強化されている。

 その煙を纏った参加者の一人が、背後から美雨へと襲いかかる。だがその動きよりも遥かに早く、美雨は攻撃を先読みして回避に移っていた。『編笠』本人ならいざ知らず、手駒の動きを読むくらいは直接視線を合わせずとも容易い。素早くチャイナドレスの裾を翻してその場を離れつつ、気配の濃い方へ意識を向ける。親玉はそこにいるはずだ。

「出鼻を挫かれたか。やるもんだね、少々甘く見過ぎたかな」
「恐悦ですわ。でも、お褒めの言葉にはまだ早いわよ」
 ざわめく人の群れに紛れようとする『編笠』より先に宵雪が動く。黒いチャイナドレスの胸元から取り出した七星七縛符が矢のように飛び、『編笠』の腕へと貼り付く。動きを封じ、ユーベルコードを封じる護符――敵の『ドラゴンズ・ドリーム』は解除され、煙を纏っていた手駒たちから剥がれた「紫煙龍」は実態を失い霧散していく。とはいえ、その強力な捕縛効果と引き換えに七星七縛符そのものは一切の攻撃力を持たず、更に術者の寿命を削るリスクまで有している。だが、この好機を活かす者がいれば、あるいは。
「――――――Ziel abfangen. 狙いやすい位置で助かります」
 消音器を装備したセミオートライフル"Schutzhund"が火を吹き、『編笠』の足を撃ち抜いた。あらかじめ二階テラスの狙撃可能な位置へと移動していた灯璃による精密射撃は、狙い過たず標的の四肢へ弾痕を穿つ。いかに相手が熟練の暗殺者でも、手足を撃たれて同じ動きができようはずもない。七星七縛符が解除された時、敵は既に手負いだった。
「……いや凄い、感服したよ。これは一旦引くしかなさそうだ……」
 傷を負いながら、しかし『編笠』の姿は煙のように人波へ紛れた。流石は租界を統べるコンキスタドール、一筋縄ではいかない。もっとも、それは猟兵側にも言えることだ。
「どうせ近くにいるんだ! 生者には陽の気を、そして過去には陰の気を!」
 ユーベルコード『陰陽互根』。美雨が放つ陰陽の気配が周囲の生者と死者それぞれを捉えた。陽の気配は生者の傷を癒やし、陰の気配は死者を襲う……範囲内の死者、つまりオブリビオンは『編笠』のみだ。身を隠していようがいまいが、関係などない。
 未だ姿は見えないが、手応えは確かにあった。猟兵たちは敵を追い詰めてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
ダンスホール……相手がいれば【ダンス】も多少は出来ますが、一人であれば飲み物でもたくさん持って給仕の様に歩いている方が良いでしょうか。
【勇気】を持って堂々としていれば大丈夫でしょう。
先のハロウィンで使った赤いチャイナドレスもありますし、帽子や武器などを外せば恐らく問題無く溶け込めるでしょう。
敵はユーベルコードで姿を隠しているでしょうから、周囲に愛想良く微笑む振りをしながら【第六感】で気配を探ります。
平衡感覚を失わせる為に影に触れさせようとしてくるでしょうが、会場の照明なら影が長く伸びる事は無いはず。
気配が接近して来た所に【カウンター】のユーベルコードで一撃入れられれば、後は何とかなるでしょう。


紅・麗鳳
社交界……『編笠』とやらは正気ですの……?
わたくしが参加したら会場のすべてを魅了して暗殺どころではなくなってしまいかねませんのに――。

ですが選んだ戦場がそこだというなら受けてたちましょう。

といって中華の衣装はわたくしにとって普段着。
故に新しい挑戦も兼ねて、髪は旋毛の位置で高く一本結びに。
洋シャツに真紅のクラヴァットを結び、男性物のスーツとトラウザースを。
仕上げにペリースと呼ばれる片マントを羽織れば、高貴たる男装騎士姿の完成ですわ!

あとはその衣装で舞踏会に参加し、婦女子たちに声をかけ踊りに誘うなどしてみましょうか。
この地の作法や舞踊は私の知ってるものと違うかも知れませんが、【国色無双】の名にかけて違和感なく振る舞ってみせましょう。

そして怪しい輩を捕捉すればそれが多分編笠ですわ!
ダンスに紛れて接近し、ターンする勢いで回し蹴りを叩き込んで差し上げます。

うーんこれで私の名がこの香港にも響き渡り……
なんか美姫としてより王子として評判になりそうですが!
女性に好かれてもそっちの趣味はありませんわよ!?


セルマ・エンフィールド
青いチャイナドレスを着て参加

人とオブリビオンがともに暮らすなど不可能だと思っていましたが、こうして他所の世界を見ていると……どうなのでしょうね。
これを放っておくと故郷のようになると見るべきか、サクラミラージュのようになると見るべきか。
いずれにせよ、こうなってしまっては「編笠」は討つしかありません。

肝要なのは度胸。そういうことであれば。
慣れませんがダンスを踊り、パーティに溶け込みます。

編笠と戦闘になり敵が姿を隠したら周囲にデリンジャーから氷の弾丸の『乱れ撃ち』を。下手な鉄砲数撃てば当たる……なんて、思ってはいません。
氷結させたところを編笠が踏んだなら発動する【氷槍弾】で足元から刺し貫きます。



 時を遡ること数刻、猟兵たちと『編笠』が戦端を開くよりも前。
 ダンスホールが戦いの舞台になるなどと誰も想像しないまま舞踏会は続いていた。
 もちろん会場に紛れて息を潜める『編笠』と、それに対抗する猟兵を除いてだ。
『編笠』による一方的な暗殺を免れる方法は「九龍の霊気」を身に纏うことのみ。
 故にこの舞踏会は敵の隠れ蓑であると同時に、猟兵が世界に溶け込む好機でもある。

                ▼  ▼  ▼

「社交界……『編笠』とやらは正気ですの……? わたくしが参加したら会場のすべてを
 魅了して、もはや暗殺どころではなくなってしまいかねませんのに――!」
 社交において重要なものは自身と度胸だというのなら、紅・麗鳳(国色無双・f32730)は少なくともそれらを完璧に兼ね備えていた。口にした言葉も一切偽りのない本心だ。
「ですが、選んだ戦場がそこだというなら受けてたちましょう」
 敢えて着慣れたチャイナドレスではなく、洋シャツとトラウザースの組み合わせにスーツを重ね、首元には真紅のクラヴァット。片肩にペリースと呼ばれるマントを纏えば、それは凛然たる騎士の姿。流れる長髪を高く結い上げれば、実際見事な男装と言える。
 常に新たな挑戦で可能性を切り拓くその向上心に、美の源泉はあるのかもしれない。

 ともかく、洋装の参加者も少なくないこのフロアにおいて、男装騎士が浮いてしまうということはない。衆目を集めてはいるものの、それで怯む麗鳳ではない。
「麗しきお嬢さん、どうかわたくしと共に踊ってくださいませんか?」
 努めて凛々しい声で、麗鳳はダンスの相手を見つけられずにいる羽衣人の少女に微笑みかけた。彼女が目を瞬かせている間にその手を取り、フロアの中心へと躍り出る。
(『国色無双』の名にかけて、殿方の役も違和感なく振る舞ってみせましょう)
 おずおずと手を握り返した少女をリードするようにして、男装騎士は踊り始めた。

                ▼  ▼  ▼

「貴女と踊る栄誉を私にいただけないでしょうか」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が、目の前の男性が自分にダンスを申し込んだのだと気付くまでには僅かな時間を要した。身なりが良くて清潔感のある人物だ。だがそれ以上に、セルマにとっては強烈な違和感を掻き立てる要素が彼にはある。
「それとも、死人の相手はお気に召しませんかな」
 死人。僵尸のことではない。この男は一度死に、オブリビオンとして蘇ってきている。セルマがそれを理解したのと同様、男もセルマが仇敵たる猟兵であることに気付いているだろう。だが戦闘を仕掛けようとはしてこない。ただ共に踊ることだけを願っている。
 住民の素性を問わないのが九龍城砦の掟とはいえ、あまりにも奇妙な状況だった。
「とはいえ……肝要なのは度胸。そういうことであれば」
 セルマは氷河のように蒼いチャイナドレスを翻してフロアの中心へ進み、共にステップを踏み始めた。ダンスはあまり経験がないが、この会場に溶け込むためには必要だ。

 それにしても、と踊りながらセルマは思う。
(人とオブリビオンが共に暮らすなど不可能だと思っていましたが……)
 これはひとつの希望なのだろうか。例えばオブリビオンの存在が世界の循環に組み込まれているサクラミラージュのような。それともこれは仮初めの均衡に過ぎず、故郷ダークセイヴァーで吸血鬼が人類を駆逐したように、この世界もまた浸蝕されてゆくのか。
 今はまだ分からない。少なくとも目の前の害意を持たないオブリビオンは、ダンスの相手としては申し分ないように思える。今のセルマに理解できるのは、ただそれだけだ。
(いずれにせよ、こうなってしまっては『編笠』は討つしかありません)
 混沌と頽廃の源を断てば――この租界も、否応無しに変わることになるだろう。

                ▼  ▼  ▼  

「このチャイナドレスもしばらくぶりですね」
 長髪を二つ結びのシニヨンに纏め、去年のハロウィンで身につけた赤いチャイナドレスを纏ったハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は、勇気をもってダンスホールを闊歩していた。正確に言えばキョンシーの仮装だったのだが、御札の張られた帽子を脱げば全く違和感はない。小柄な体格にもぴったり合ったこのドレスは、ハロを問題なく舞踏会に溶け込ませている。もっとも、今のハロは参加者ではなく給仕手伝いなのだが。
「お楽しみいただけているようで何よりです。お飲み物はいかがですか?」
 銀のお盆にグラスを並べ、ハロはフロア内を行き来する。参加者の住民たちに愛想を振りまくのも忘れない。生来の生真面目さからか、その動きはきびきびとして的確だ。
 実際に参加者たちからは受け入れられている。霊気が集まるのも時間の問題だろう。

 そして――戦端が開かれたのは、ハロが十分な霊気を確保した僅かに後。
 炸裂音での揺動、能力封印を巡る一瞬の攻防。『編笠』は一時的に撤退したが、傷を癒やすまで逃げ隠れするつもりはないはずだ。敵にとっても、対抗策を得た猟兵をみすみす逃がすわけにはいかないだろう。決着をつけるなら、今この舞踏会の中で、だ。

                ▼  ▼  ▼

 コンキスタドール『編笠』の思考には、本人は認めたがらないだろうが確かに焦りが交じっていた。その理由は霊気察知による暗殺が未然に防がれたことであり、地の利があるはずの九龍城砦で猟兵を仕留められずにいることであり、そしてその過程で思い知った猟兵の秘めたる潜在能力によるものだった。場合によっては九龍城砦の住人を巻き添えにしてでも倒さなければならないと『編笠』は考え、そして実行に移す。
 だが、そもそも『編笠』の待ちの戦法が猟兵たちに霊気と戦意を充実させる時間を与えたのだ。既にこの世界へと十分に溶け込んだ今、強硬策で倒される猟兵ではない。
「…………。気配を消してぎりぎりまで近付くつもりだったのでしょうが――」
 ハロの背後から忍び寄る気配。だが、相手が影を操る術を使うというのは既に分かっている。だからこそ、照明の配置から最も影が短くなる場所を選んだのだ。『編笠』が能力を使うため、否応なく接近せざるを得ないようにするために。
「――不意を打たれるのはあなたのほうです! 覚悟しなさい!」
 振り向きざまに放つカウンターの――『ジョウブレイカー』。極めてシンプルで、それ故に強力無比な打撃技が背後の『編笠』へと叩き込まれた。敵は影の術を使うため、半ば強引に接近していた。その不安定な体勢への一撃だ、破壊力は更なるものとなる。
「ちっ、私としたことが少々逸ったかな――」
「そう何度も逃がすわけがないでしょう」
 蒼いチャイナドレスに隠された内腿にガーターベルトで止めたホルスターから、セルマが間髪入れず二丁のデリンジャーを引き抜く。正確に参加者の間隙を突いて弾をばら撒く乱れ撃ち。放たれた無数の氷の弾丸はしかし、直接敵を捉えることはなかった。
「何かと思えば、博打かい? あの好機で運に頼るようではね」
 姿を隠したまま嘲笑う『編笠』の言葉にも、セルマに一切の動揺はない。
「下手な鉄砲数撃てば当たる……なんて思ってはいません。仕込みは、もう既に」
 瞬間、膨大な霊気が開放された。床から天井へと伸びたそれは鋭利な氷の槍と化し、続いて苦痛の叫び声が上がる。セルマの放った『氷槍弾』は、踏んだ対象を貫いて動きを封じる氷のトラップ。槍は敵の足元を真下から貫通し、もはや身を隠すことも出来ない。
「してやられたというわけかな。ここを戦場に選んだのは間違いだったか……」
「今更気付いても遅いですわ! そう、封神武侠界一の美姫をここへ招いたことに!」
 ダンスのパートナーを抱き上げたまま勢いよくターン。その勢いをも乗せ、騎士の衣装を身に纏った麗鳳が渾身の力で放った回し蹴りは、その動きを封じていた氷槍ごとコンキスタドールを一撃で打ち砕いた。『編笠』はホールの壁に轟音を上げて叩きつけられて沈黙し、もう二度と余裕ぶった台詞を吐くことはない。租界の支配者は滅びたのだ。

「舞踏会はこれにてお開き。ですが、これでわたくしの名が香港中にも……」
 勝利の余韻に浸ろうとした麗鳳は、はたと我に返った。勢いで抱き寄せたままだったパートナーの少女へ視線を向けると、何やら熱っぽく潤んだ瞳で見つめ返してくる。
「嗚呼、騎士様……その情熱的なお姿に、私、心を奪われてしまいました……」
「えっ……いや、ちょっと、そういう評判を望んでいたわけではありませんのよー!?」
 ギャラリーの少女たちにも取り囲まれて、「騎士様」の悲鳴が響き渡った。

 ともあれ、これでこの戦争は大きな転機を迎えたことになる。
 コンキスタドールから開放されたこの香港租界は、果たしてどのような道を歩むのか。
 全てはこれからだ。しかし、今はひとつの戦いが終わったことを喜ぶべきだろう。  

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月17日


挿絵イラスト