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殲神封神大戦⑧〜オペレーション・スカイスクレイパー

作者：バートレット

●香港租界・九龍城砦
「報告します。網は張り終わりました」
「ご苦労」

　配下の香港マフィアからの報告を受けたコンキスタドール「編笠」は、一言頷くと彼を下がらせた。

「香港の街はすでに迷宮。そしてこちらは霊気の有無で猟兵の位置を探り当てられる。万全の状態で猟兵を迎え撃てるというわけだ」

　編笠は香港の地図を広げる。猟兵がやってきそうなポイントにはすでにマフィアを送り込んである。もちろん、猟兵ならばマフィアを撃破することなど容易いだろう。だが、そのお陰で位置はさらに絞れる。行動範囲を狭め、各個撃破。地の利と情報アドバンテージの大きさは強力な武器となる。

「連中、予知なんてものを使うみたいだけど。それでも戦いが始まれば情報を握るのはこちらだ。この戦い、私が一方的に勝たせてもらおう」

　言葉とは裏腹に、抜け目のない眼光が鋭く光る──。

●オペレーション・スカイスクレイパー
「面白そうな予知が来たわ。そんなわけで今回は私が依頼を出すわよ」

　グリモア猟兵、ベルゼ・アール（怪盗"R"・f32590）は不敵な笑みを浮かべていた。

「場所は香港租界。このあたりは封神武侠界の中でも文明レベルはかなり高くて、20世紀初頭レベルくらいには進歩してるわ。コンキスタドールが先進的な物を色々と持ち込んでるらしくて、銃火器なんかも平気で存在するわね」

　そこを根城としているのが、コンキスタドール「編笠」。現地の香港マフィアの元締めであり、銃火器や阿片の売買によって瞬く間に香港の裏社会の頂点に君臨した。

「この編笠を撃滅するのが今回のミッションよ。ただ、問題はあちらに地の利があるってことなのよね。香港の街は表も裏も熟知してる上に、要所要所に配下のマフィアが網を張ってる。加えて、私達猟兵の存在を『霊気』の有無で判別して位置を正確に把握してくるから、まず正攻法で行けば返り討ちね」

　情報戦では確実にアドバンテージを取られている。その意味ではすでに、猟兵は不利であった。

「ただ……戦略レベルではあちらが上を行っているでしょうけど、戦術レベルではどうかしらね？　そこに勝機があるわ……こんなふうにね」

　ベルゼはその瞬間、飛び上がって空中でバレルロールのような軌道を描きながら予告状を投げる。猟兵の一人の装備に当たると、それはたちまちベルゼの手に移っていた。

「……と、こんな感じに、編笠の予想を超えるようなアクロバットを見せてやりましょう。奇想天外で人間離れしたアクションで翻弄してやれば、編笠が仕掛ける先制攻撃を打ち破ることも容易いわ」

　ごめんなさいね、と謝って盗み出した装備を持ち主の猟兵に返却すると、ベルゼは持っていたタブレット端末を操作する。タブレット端末に接続されたグリモアが輝き、香港租界へのポータルが開いた。

「さぁ、夜の摩天楼を駆けるわよ！　香港の街を飛び回りながら編笠の息の根を止めてやりましょう！」

　怪盗に誘われ、香港へと足を踏み入れる猟兵たち。今宵、香港は猟兵たちが主役の劇場と化す──！

　──殲神封神大戦、猟兵活劇「オペレーション・スカイスクレイパー」、開幕。

第1章 ボス戦 『『編笠』inノワール』

POW   :    紫煙龍降臨 自身の【煙管の煙から具現化した「紫煙龍」】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、［煙管の煙から具現化した「紫煙龍」］から何度でも発動できる。 SPD   :    拳銃挽歌 【改造モーゼル銃】から、戦場全体に「敵味方を識別する【無数の銃弾】」を放ち、ダメージと【大量出血】の状態異常を与える。 WIZ   :    「今だ、私の家族（マイ・ファミリー）！」 【編笠の命令】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【香港マフィア】で囲まれた内部に【銃弾の雨】を落とし、極大ダメージを与える。 イラスト：稲咲 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●VERSE 1 「未来と過去と謎掛けとネタ出し」
「我が時空間切断剣術はシンプルにして強力、それでいながら汎用性や拡張性に長けた力だ」
「わお、最初からクライマックスなのだ」

　ネオン輝く香港の摩天楼を、2人の剣士が駆ける。空閃人奉流の東雲・深耶（時空間切断剣術・空閃人奉流流祖・f23717）と大豪傑家当主の大豪傑・麗刃（23歳児・f01156）。

「でも相手がコピーするの、わたしのユベコなんだよな」
「……ふむ。するとどうなる？」
「……どうなるってそりゃ……っと、来たァ！」

　2人が会話をしている最中、肌がひりつくほどの殺気。そこへ来たるはコンキスタドール「編笠」。先制攻撃の銃弾が2人の背後から迫りくる。

「そこかっ！」

　振り向きざま一閃。白先と黒後を振るい「銃弾が当たる」という未来と「銃弾が飛んできた」過去を時間の流れごと切り離す深耶に、持ち前の身軽さでジャンプしつつ、手にした二振りのバスタードソードで空中の彼を狙う銃弾を残らず斬り捨てる麗刃。

「ほう、やるもんだ！　今ので仕留めるつもりだったが……何というとっさの判断力だ」

　先制攻撃を避け切られた編笠はやや驚いたように目を丸くしながら拍手する。

(なるほど、共に行動する相手の戦術の方で仕掛けてきたということか)

　麗刃は心中で呟く。しかし、煙管の煙から具現化した「紫煙龍」が自分のユーベルコードを食らったらどうなるのか見てみたくはあるが……と思考したところで、麗刃の周囲には紫煙が蠢いていることに気がつく。

「おや、どうやら気づいたようだね。さぁ、奴の剣術を喰らえ『紫煙龍』！」
「しまったっ！」

　白先と黒後を振るって紫煙を散らす深耶。だがすでにその因果律の切断は一手届かず、辛うじて完全な紫煙龍の具現化を防ぐに留まる、が、しかし。

「いや、これでいい。これでいいのだ」

　麗刃は落ち着き払ってその紫煙の中に身を踊らせた上で、バスタードソードを振るう。風圧で紫煙は散るが、その刹那、龍の頭を象った紫煙は麗刃の胸元に牙を突き立てていた。

「喰らったな、わたしの技を」
「あぁ、喰ってやったさ……」

　不敵に笑う編笠。だが、その時。

「ならば……今度は貴様が斬られる番だ！　貴様の先制攻撃は『斬られた』と過去と未来は示した！」
「……っ！？」

　今度こそ、編笠はその心をかき乱すほどの驚愕に表情を歪めた。空中に時空を乱す光の足場が出現し、それを足場に迫りくる深耶の姿があったのだ。

「未来を斬り裂いた時空の乱れそのものを足場にしている……！？」
「察しが良いな編笠！　因果律ごと沈め！」

　光の斬撃が容赦なく飛んでくる。紙一重でこれをかわす編笠だが、到底かなわない。ならば、と麗刃に視線を向ければ。

「ほう、こちらへ来るか！　よろしい、いざ勝負だ雨傘くん！」
「編笠だ！」
「あれ、違った？　いやぁすまんなぁ安眠マッサージくん」
「編笠だ！　雨傘でも安眠マッサージでもないッ！」

　どこまでも編笠をおちょくる麗刃に逆上する編笠。だが、麗刃の舌鋒は止まらない。

「九龍城砦とかけ、きつくない仕事ととく」
「……そのこころは？」
「クーロン（苦労）ではない」

　なんちて、ははは、と嗤う麗刃に自分の守りを忘れて銃を構えるが、それより一瞬早くバスタードソードの切っ先が目の前に突きつけられた。

「……っ！」
「隙有り！　冬に美味しいのはすき焼き！」

　と、ここで構えを解き、麗刃は深耶を手招きして近くにあったベンチに座るように促す。突然そんなことを促された深耶は困惑しながらもベンチに麗刃と並んで腰掛けた。もちろん、いつでも殺される状況にあった編笠も困惑する。何だ、生殺与奪を握りながらその真似は一体何なのだ、と。

「……何が始まるんだ？」
「彼女、わたしのユベコをコピーしたのだ。で、コピーされた私のユベコ、ギャグを披露するというものでな」
「……！！」

　編笠は冷や汗をかき始めた。普段からちょっとした軽口を叩く程度はあるものの、お笑いに関しては完全に素人だ。その自分に、ギャグを披露しろと言っているらしい。

「見せてもらおうか。あやしげなコンキスタドールのやる渾身のネタを！！」
「ほう、それは楽しみだ」

　2人からの拍手の圧。編笠の冷や汗の量が増える。

「……先生がジョンに問題を出したんだ。『貴方は林檎を5個持っていて、2個渡された。その後貴方は3個林檎を渡す。残りの林檎は何個か？』とね。ジョンはなんて答えたと思う？　『7個です』だってさ、HAHAHA」

　しばしの沈黙。まさかのアメリカンジョークである。

「……これ、ネタの解説必要？」
「それを疑問に思った時点で君、ギャグの才能無いと思うのだ」
「……帰りたい」

　ギャグをばっさりと一刀両断する麗刃。編笠の弱音が、香港の夜空に溶けていく──。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●VERSE 2 銃弾の嵐を掻い潜り
　周囲を警戒しながら、5人の猟兵が香港の街をゆく。いつ襲撃があってもいいように万全の注意を払っていた。

「ここがコンキスタドール「編笠」の本拠地でござるか……」
「うちの地元、サクラミラージュの香港とあんまり変わらないね？　なんか戦いやすそう」
「油断めさるな、バリバリのアウェイでござるぞ」
「わかってるよ、ただでさえ欲望と退廃が渦巻く街だからねぇ」

　メリヲ・テフルヴイ（フリヰダムスヲウド・f22520）と黄泉川・宿儺（両面宿儺・f29475）は周囲を見回す。ぼやぼやしているとすぐにばっさりとやられてしまいそうだ。故に油断は禁物。

「来たぞ！」

　気配を察知した夜刀神・鏡介（道を探す者・f28122）が警戒の声を上げる。と同時に、5人は即座に動きを見せた。

　まずはティオレンシア・シーディア（イエロー・パロット・f04145）が銃を構える。死角から襲い来る銃弾目掛けて、その射線を見切り自らも発砲。正確な軌道で飛んだ弾丸が、敵の弾丸と正面衝突して地に落ちる。

「盤面を整えてるなら、盤面を蹴り飛ばしちゃおう！　戦略なんてめちゃくちゃにしちゃうよ！！」

　砲弾の悪魔、カノン・カノーネ（ウルトラボンバー！・f35172）は足元を爆発させて跳躍。爆風で銃弾の勢いを殺しながら空中で身を捩り、空中で爆発。その爆風を利用した強引なマニューバが、銃弾の正確な狙いを次々と無に帰していく。

「カノン、こっちを巻き込まないでよ、頼むから！」

　地を走るはメリヲ。身を捻り、前転し、時にはスライディングや飛び込み宙返りを披露しながら紙一重の距離で身体を貫かんとする弾丸を全て躱し、襲撃者への接近を試みる。

「鏡介殿！」
「あぁ、我々も接敵だ！」

　敵味方の銃弾と爆風が戦場を彩る中を、宿儺と鏡介は疾走する。宿儺は持ち前の功夫の化勁の応用で、鏡介は愛用の神刀で、それぞれ銃弾を弾き飛ばしながら突き進む。固まっているのはまずいとばかりに、鏡介と宿儺はそれぞれ別の道をゆく。鏡介は跳躍して吊り看板の上に登る一方、宿儺は空中歩法を応用して天を駆ける。

「対応力は向こうが上だったか……！　しかし、こうも鮮やかな使い手が揃っているとはねぇ！」

　襲撃を行った編笠は舌打ちしながら、さらに銃弾を5人に向けて送り込む。潜ませていたマフィアたちもここぞとばかりに援護射撃を試みる。

　が、しかし。すでに不意打ちの優位性は失われている。此処から先は反撃の時間だ。

「――こんなに楽な戦場、中々ないわねぇ」

　クスクス、と笑いを漏らすティオレンシア。その目の前では派手な爆発を起こすカノンが、看板をもぎ取って配下のマフィアたちに投げつける姿があった。

「そーれプレゼントー！」
「くそっ、なんて奴だっ……！」

　メリヲ、鏡介、宿儺は爆風や銃弾の嵐を次々と躱す。3人は地を飛び、壁を蹴り、三次元空間を自在に移動しながら編笠目掛けて一目散に突き進んでいった。

「そろそろあちらが接敵するわねぇ。さあさ紳士淑女の皆々様。狂瀾怒濤の戦争舞曲、クライマックスを奏でましょう！　カノンさん、準備は？」
「オッケー！　レイズッ！　ついでにオールインだよ！！」

　ティオレンシアとカノンが道を作る。ティオレンシアの銃弾の嵐と、カノンの爆風が3人の行く手を阻むマフィアをまとめて吹き飛ばし、そして。

「編笠！　ここで会ったが百年目！　月まで吹っ飛べ！！　どっかーーーーん！！」
「しまっ──」

　3人の接近に気を取られた編笠は、カノンの特製砲弾をまともに喰らい、吹き飛ぶ。その先にいるのは──。

「向こうから来てくれたね！」
「いい位置だ！　2人共、合わせろ！」
「承知！　編笠よ、摩天楼の闇に沈め──！」

　メリヲの周囲に青白い炎が宿る。手近な柱を掴み、1回転してスイングバイの要領でさらに加速。その上方では宿儺がピンボールのように空中に形成した足場を次々と蹴って複雑な軌道を描きながら接近する。その真ん中を突っ切り、銃弾を最小限の動きで紙一重の回避を繰り返しながら懐に入る鏡介。

「くっ、3人の動きが追いきれない、このままでは……ッ！」

　吹き飛びながらも態勢を立て直した編笠は、しかし3人の動きに翻弄されている。情報量が多すぎる。彼女の脳では、これだけ複雑な動きで懐に入らんとする3人の動きの情報量を処理しきれず……飽和状態に陥った。

　動きが止まった編笠を仕留めるのは容易い。メリヲの鬼火を纏った一撃が、宿儺の渾身の一撃が、そして鏡介の剣の煌きが、編笠目掛けて迫りくる。

「さあ、燃え尽きちゃおうか」
「小生の拳、受けてみよ！」
「神刀解放。我が刃は刹那にて瞬く――参の秘剣【紫電閃】！」

　3人分の攻撃を全て受けた編笠は、たまらず摩天楼の谷間へと落ちていく。

「猟兵を甘く見ていたというのか……！？　この私に緩みがあったとでも……くっ、態勢を立て直すしかない！」

　編笠は未だ健在、しかし手痛い一撃は彼女の策の綻びを痛感させる結果ともなった。猟兵は今や、狩られる側から狩る側に変わりつつあったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●VERSE 3 崩壊しつつある策
「向こうは用意周到に準備してるようですね」
「せやなぁ。天将の高速演算してももうバレてるな。どこ行っても予測可能回避不可能ってヤツや」

　周囲を警戒しながら香港の街を駆け抜ける結城・有栖（狼の旅人・f34711）と御魂・神治（除霊（物理）・f28925）。しかし、その時、肌で感じ取る。街の空気が変わりつつあると。

「……どうやらすでに別の猟兵が交戦したようですね」
「っとぉ、あれかぁ？　また派手にやりおったなぁ！」

　神治が仰ぎ見た先には爆炎。つまり、編笠は近くにいるということだ。

「おふたりとも、警戒を！」
「レーダーにて編笠を察知。間もなくこちらのエリアへと接近します」

　その時、2人の猟兵が合流する。シズホ・トヒソズマ（因果応報マスクドM・f04564）とダビング・レコーズ（RS01・f12341）だ。2人は編笠の動きを察知し、近くを警戒していた神治と有栖との合流が最善策と判断したのだ。さらに、もうひとりの猟兵がこの場に加わる。

「おまたせ！　派手な爆発があったからこっちに来てみたよ！」

　フール・アルアリア（Ｎo.0・f35766）、シルバーレイン世界出身の猟兵だ。

「ここは全員で迎撃しましょうか」
「その戦術的判断には妥当性が認められます」

　有栖の提案にダビングが頷く。と、その時。

「周囲に敵反応多数」

　神治が保有するAI、天将が告げる。

「っ、こうなることを見越して囲んでいましたか！」
「仕方ありません。行きますよ、オオカミさん」
「あいよー、一緒に駆け抜けヨウ！」

　シズホが舌打ちする中、状況に即応するのは有栖だ。その身に宿すオウガのオオカミに声をかけ、同調。他の4人も各々の対抗策を講じる。

　ダビングは周囲に充満していた紫煙と、レーダー上の編笠の動きから、相手もソリッドステート形態を模倣したと判断する。その推論は正しかった。突如として出現する自らのソリッドステート形態と同一の姿を見て、ダビングは遮蔽物の裏に回り込み回避。空中を荷電粒子砲が薙ぐ。

　シズホは射撃/狙撃用人形『バル』から放出したナノマシンを放出し、より正確に敵の動きや地形の把握に務める。荷電粒子砲を重力操作を駆使して回避しながら、障害物を利用して身を隠す。

「くっ、銃弾だけならまだしも、厄介なものをコピーして……！」
「多少のダメージは必要経費や、後で派手に消し飛ばしたる！」

　結界術で防御を図る神治。配下のマフィアからの銃撃を含めて荷電粒子砲をいなしつつ、マニ車撃鉄の「輪廻」を装着した「森羅」と「天地」の二丁拳銃による乱れ撃ちと範囲攻撃を駆使して反撃。二丁拳銃の銃弾は逆にマフィアを仕留めていく。

「でもどうするの！？　このままだと手がつけられない！」

　エアシューズでダッシュしながら狭くて一直線の道を潜り抜け、行き止まりには跳躍で対応。屋根の上へと登りながら、次々と襲い来る荷電粒子砲やミサイルの嵐を超えていく。

「お待たせしました。当機が撃墜します」

　ソリッドステート形態に変形したダビングが空中へと飛び立った。加速しながらミサイルを振り切った後に、すぐさまウォーマシン形態に再変形。空中で目まぐるしく変形を繰り返すダビングの動きに対応しきれず、編笠は歯噛みする。

「くっ……この形態を使いこなせないとは！」
「当然の帰結です。ソリッドステート形態のフルスペック運用はウォーマシンだからこそ可能。通常の人体では不可能かと」

　荷電粒子スマートガンの斉射を行い、バーニアを損傷させる。機動力が落ちた編笠にソリッドステート形態に再変形して迫るダビングは、収束荷電粒子砲をバレルロールで回避しながら後背を取り、荷電粒子速射砲を撃ち込む。

「ぐうっ……！」

　墜落する編笠。さらにダメ押しとばかりにシズホがバルによって弾道を複雑に変化させた軌道変化弾による狙撃を敢行し、ついに編笠は地面に叩きつけられた。

「捉えました！」
「チャンスや！　有栖！」
「完璧です」

　ばらばらにした咎断ちの大鉈が、念動力で操られ編笠に迫る。これを回避した編笠は、3人の猟兵に追い込まれつつあることを悟る。

「逆包囲……！」
「死と隣り合わせの青春時代、伊達で生き残ってるわけじゃないんだよ！　シズホさん！」
「了解！　クライスト・ヴォーテックスの力をここに！」

　エアシューズの加速が乗った突進と、幻影で形成されたクライスト・ヴォーテックスのハンマーが編笠に迫る。重い一撃は編笠をしたたかに打ち据え、空中へと吹き飛ばした。そこにいたのは。

「天将！　合わせるで！」
「了解。しかし、最終的に正面から突破とは。戦術もクソもないですね」
「こういう策を弄するやつは正面突破と相場が決まっとるんや！　浅間大神、開放！　景気よく行ったるでぇ！」

　爆龍符と紫電符が無数に飛び立ち、さらには式神となった天将の直接攻撃。この連携の飽和攻撃の中に、編笠が飲み込まれていく──！

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●FINAL VERSE 香港に響くカルテット
「九龍城にやってきマシター！　……ってもう凄いことになってマース」

　あちこちで爆煙が上がる香港租界の様子を見て、バルタン・ノーヴェ（雇われバトルサイボーグメイド・f30809）は目を丸くする。

「おーおー、先客が派手にヤッちゃったみたいだねぇ……ん？　ってことは相手は手負い？」

　青いチャイナドレス状の衣服に身を包むリーゼロッテ・ローデンヴァルト（マッド＆セクシーなリリー先生・f30386）は状況を分析する。このチャイナドレスは愛機たるキャバリア、ナインス・ラインを衣服状に形態変化させたもので、見た目以上の戦闘力をリーゼロッテに齎している。

「そうみたいね……ってちょっとこの弾痕見てよ、もしかして荷電粒子砲！？」
「こっちにはデカい榴弾の破片があるぞ……何だよここは、クロムキャバリア世界の紛争地帯か！？」

　アスカ・ユークレース（電子の射手・f03928）、地籠・凌牙（黒き竜の報讐者・f26317）の2人はそこかしこに見られる戦闘の跡を見て表情を引きつらせた。十中八九猟兵のものだが、編笠は敵のユーベルコードを自分のものにして行使する能力を持つ事前情報もある。

「あーあー、こりゃ相当ハッスルしたねぇ……っと、来るよ！」

　いずれにせよ、一筋縄ではいかない相手のようだ。と、リーゼロッテが気配を察知して声を張り上げる。

「こっちで引き受ける！　3人は思っきし暴れてこい！」

　凌牙の穢れを喰らう黒き竜性が3人の不運を全て喰らい、自身に「編笠の襲撃を受ける」という因果を集中させた凌牙。次の瞬間、銃弾が次々と飛んでくる。

「まずは君からだ、その竜の力は危険だからね！」
「だろうよ！　さぁ来い！」

　編笠は凌牙の危険性を本能的に察知して、凌牙を真っ先に落としにかかる。持ち前の耐久力と運動神経を十全に発揮して、入り組んだ裏道の中を駆けながら銃弾の雨をやり過ごす凌牙。しかしその間にも、別行動させた紫煙龍がバルタンとアスカに襲いかかる。

「ヘイヘイ、スローリースローリー！」
「鬼さんこちら、てね？」

　屋根の上に飛び上がり、バルタンは滑走靴でさらに空へと飛び出して滑空しながら紫煙龍の魔の手から逃れる。アスカも流体金属を使ったロープワークと壁走りを組み合わせ、3次元空間内を縦横無尽に駆けた。バルタンは時折、アスカが残した流体金属のロープを使って急激な方向転換を行う。二兎を追う者は一兎をも得ずとばかりに、紫煙龍は2人の動きに翻弄され、捕捉は困難を極めた。

「ロープワークか……よーし、アタシも！」

　呼応するように現れた香港マフィアの銃弾の嵐を見て、リーゼロッテは「アウロラ」のワイヤーとキャバリアの推進力を最大限に活かして空中をスイングやポイントジップなどの動きでトリッキーに動き回る。

「ちょこまかと……！」

　4人の素早い動きと空間全体を使った3次元的な動きに全ての攻撃をかわされ続け、編笠は歯噛みする。

「さぁ、ここでこいつの出番だ。ヤバいものを見てやろうかねぇ」

　リーゼロッテは頃合いだ、とばかりに眼鏡型宝貝「スターゲイザー」を装着。空間の中に存在する運命線がリーゼロッテの視界の中に現れた。

「イイね……さ、オペを始めるよ！」

　リーゼロッテの狙いは配下の香港マフィアたちの運命線の切除である。運命線を断ち切ってしまえば、即ちそれは敵の命脈が尽きることを意味するのだ。凌牙はリーゼロッテがスターゲイザーを装着したことを確認し、マフィアたちの狙いを自分に向けてリーゼロッテの射線上に集めていく。

「今だ、リリー先生、やってくれ！」
「サンキュ！　さぁ、執刀とイこうか！」

　運命線を切断。この瞬間、香港マフィアたちの命脈が尽き、流れ弾の被弾や高所からの重量物の落下、先に戦っていた猟兵が残した不発弾の暴発など、様々な「事故」が偶発的かつ連鎖的に発生し、壊滅的な被害を受ける。凌牙の黒き竜性によって押し付けられた不運がその被害をさらに甚大なものにしていた。同時に4人の命脈点を電脳で修復することで、被弾のダメージも回復させる。特にヘイトコントロールを行っている凌牙は念入りに施術を行った。

「この後はバルタンが仕掛けるわよ！」
「んじゃ、その前にサポートと行くか！　こっちで動きを止める！」

　戦場を俯瞰的に見ていたアスカからの声に、凌牙は頷くと。

「こいつは奥の手だ……！」

　竜性、完全開放。精気を奪う穢れが凌牙を中心に膨れ上がる。

「まさか……やめろ、そんな事をすれば……っ！」
「ご心配どうも！　だが、気づいてももう遅いってやつだ！　喰らいやがれェ！！」

　凌牙の咆哮と同時に、穢れが爆風の如く広がり、編笠を襲った。空中を動いて4人の猟兵を追っていた編笠は穢れをもろに全身に浴び、墜落する。

「今だ！　バルタン、やっちまえ！」
「準備していた大技デース！」

　今まで大きな動きを見せていなかったバルタンが、ついに動く。

「──抜刀」
「こ……これは……っ」
「はーい、動かないでくださいねー。当たらないから」

　アスカがダメ押しの高出力レーザーを編笠の足へと撃ち込み、なおも動こうとした編笠を抑え込んだ。事前に撃ち込んでおいたマーカーが正確な狙いを実現し、そこへ襲いかかるのは。

「六式武装展開、光の番！」

　摩天楼の屋上でファルシオン型サムライソードを天に掲げるバルタン。光が集中し、極大の光の柱となって振り下ろされる。編笠は光の中に飲み込まれ──驚愕に顔を歪めながら、その身体を原子の一片まで焼き尽くされてしまった。

　バルタンは力を失い、天から落下する。アスカが即座にネット状の流体金属を形成して落下するバルタンの身体を受け止めると、ナノマシンの即席担架でリーゼロッテの元へと運び込む。

「……うーん？　終わりマシタ？」
「バッチリだよ。さ、帰ろうか」
「だな……あ、折角香港来たんだし美味いもんでも食ってかねぇか？」
「いいわね、打ち上げと行きましょうか」

　4人はバルタンの完全回復を待って、香港租界の繁華街に立ち寄ると、そこで祝杯を挙げて食事を堪能し、勝利の美酒に酔うのであった。

　──殲神封神大戦、猟兵活劇「オペレーション・スカイスクレイパー」、これにて完全終幕。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2022年01月19日