●
どん、どぉんと、静謐の空気を破る音がする。
朝方まで降り続いた雪が屋根瓦にしんみりと積もる出羽の温泉街、珍しく晴れた夜穹に一際大きな花が咲いた。
ひとつ、ふたつと彩りを成すは、打ち上げ花火――。
菊に牡丹に柳と、凛と澄み渡る空を赤や黄色に飾る光の花は、はつはつと燦爛を瞬いて散り、見る者に優美と憂愁を遺して去る。
然し見上げる者の顔は実に晴れやかだ。
消えるからこそ美しいと知るエンパイアの人々は、温かな湯気の中より万彩を仰ぐと、ほう、と白い息を零すのだった。
●
「侍の国に和風アレンジされたクリスマスがあるのは、家光公のお陰なんですって」
猟兵として各世界を渡り歩く将軍・徳川家光の影響によって、サムライエンパイアにも「クリスマス」の風習が巧く取り入れられているとは、ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)の言。
元々お祭り好きな人が多く、クリスマスなる楽しげな催しを知った者達が、其々の土地に合うようアレンジをしていったのだろうと言葉を足した彼女は、そのひとつ、出羽国の湯治場の「くりすます花火祭り」を挙げた。
「この温泉は年越しに山で参籠する人達の斎戒沐浴で賑わっていた場所なんだけど、クリスマスのお祭りを取り入れ、年末は彩り華やかに花火を打ち上げるようになったみたい」
温泉、プラス、花火。
天然温泉で身体を癒しつつ、打ち上げ花火を見て心を豊かにしようとは、創造力旺盛なエンパイアの人達のアイデア。
寒い冬を温かく彩るクリスマスを自分達の伝統文化と組み合わせ、独自のお祭りに昇華した彼等の熱意と逞しさは、ぜひ学ぶべき、体験すべきとニコリネは言う。
「先ずは温泉に浸かって身体を温めて、ほっこりしたら夜穹を眺めましょう! 凛とした冬の空に、華やかな花火が音を立てて響く筈よ」
雪積もる橋の上から、或いは旅籠の窓辺から。
露天温泉に浸かりつつ眺めるのも良いかもしれない。
様々な愉しみ方があるだろうと笑顔を咲かせた花屋は、ぱちんとウインクしてグリモアを喚び、
「エンパイア式クリスマス祭り、がっつり楽しんできてね!」
と、猟兵を眩い光に包み込むのだった。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
こちらは、サムライエンパイアでクリスマスを過ごす日常シナリオ(難易度:普通)です。
●シナリオの舞台
サムライエンパイア、東山道は出羽国にある湯治場。時間帯は「夜」です。
元は山に参籠する際に斎戒沐浴するための温泉街で、川を挟んで立ち並ぶ旅籠には提燈が連なり、風情ある景色を見せてくれます。クリスマスには和風の花火が上がります。
建物の景観は山形県尾花沢市の「銀山温泉」をイメージして頂ければ幸いです。
●シナリオ情報(一章構成です)
第一章『温泉で一休み』(日常)
日頃の疲れを温泉で癒すがてら、花火を眺めてゆったり過ごしましょう。
街の中央を流れる川の橋や、旅籠の窓辺、露天風呂などから花火を見る事が出来ます。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。呼び名があると助かります。
また、このシナリオでは、ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)をお話の聞き手役として指名できます。皆様が素敵な聖夜を過ごせますよう、お手伝いさせて頂きます。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 日常
『温泉で一休み』
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POW : 疲労回復の湯に入る
SPD : 万病退散の湯に入る
WIZ : 美肌美容の湯に入る
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鷲生・嵯泉
【相照】
温泉も花火も逃げないから少し落ち着け
風光明媚と云うか……風情が在るとも些か違う様な気もするが
まあ、お前が楽しいなら――其れで良いか
最近は殊に目が厳しくなっている様だが幸い此方は未だ緩い
存分に堪能すると良い
折角だ、のんびり出来るよう一献用意しようか
大振りな物は無理だが、徳利の2,3本と猪口位なら――そら、浮いた
私も加減するとしよう……然程強く無いしな
玉屋も鍵屋も店の屋号――花火屋の名前の様なものだ
何、景気付けだ、楽しければ良いで十分だろうさ
偶々知っているだけに過ぎんよ
此方こそ何かとお前には援けられ、世話になってばかりだ
ありがとう――お前と伴に在れる時間を、私も何より大事に思うよ
では、乾杯
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
オンセーン!
凄え楽しそうな組み合わせだよな!
楽しみなんだからテンション上がるだろーっ
ジャパニーズ・フウコウメイビって奴だ!……違う?
ロテンブロって初めてかも
タトゥーがあるから、UDCアースとかだとオンセン入れてもらえなくてさ
……えっ、お盆に酒乗せるの?浮くの?重くない?
わ。本当だ!浮いた!凄え!
オンセンだし、あんま飲んだら回っちまうかな。加減しよ
花火のときは「たーまやー」って言うんだろ、知ってるよ
たまやが何なのかは知らないんだけど……
へー!嵯泉、何でも知ってるよなあ
ちょっと早いけど、今年も一年ありがとな、嵯泉
こーやっておまえと遊びに行けるの、嬉しいんだ。本当だよ
じゃ、かんぱーい!
仄かに漾う湯の馨りに誘われ、雪つもる石畳を歩いて幾許。
黄昏を過ぎ、ほつほつと灯り始めた燈籠を捺擦るよう瞳に追えば、川を挟んで立ち竝ぶ沢山の旅籠が、障子越しに橙色の光を映し出す。
その佳景を太鼓橋からぐるり眺めたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)は、金彩の瞳をキラキラと、まるで子供のように輕噪いで云った。
「オンセーン、そしてハナビ! 凄え樂しそうな組み合わせだよな!」
下駄を鳴らす代わり、おんせん、はなび、おんせん、はなび、と口遊んで歩く男には、遅れること数歩、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の麗艶のバリトンが追い掛ける。
「温泉も花火も逃げないから、少し落ち着け」
温泉はもう其處にあるし、花火も間もなく打ち上ろうと、赫緋の隻眼は人里ならではの銀世界を眺め、歴史ある湯治場の空氣を肺に滿たす。
そんな嵯泉に振り返ったニルズヘッグは、また子供みたいに脣を尖らせて、
「そりゃあ樂しみなんだから、テンション上がるだろーっ! ジャパニーズ・フウコウメイビって奴だ!」
どうだとばかり広げた手が、出羽の大自然に馴染んだ街並みを巡るが、その手に從って視線を動かした嵯泉は、ふむ、と暫し思案して言を返す。
「風光明媚と云うか……風情が在るとも些か違う樣な気もするが」
「……違う?」
ぱちぱちと睫を瞬き、一部の言葉を鸚鵡返しに語尾を持ち上げるニルズヘッグ。
キョトンとした金瞳と視線を結び合わせた嵯泉は、ここで漸く淡い咲みを差して、
「まあ、お前が樂しいなら――其れで良いか」
「然う、ヨシ!」
彼の表情の變化ひとつ見逃さぬか、ニルズヘッグは莞爾と咲むや、半ば嵯泉を引っ張るようにして此度の旅籠の暖簾を潜った。
†
「そういや、ロテンブロって初めてかも」
金瞳いっぱいに嚴冬の自然を映し、黑手袋を取り払った掌に白湯を掬っては零す。
湯のまろやかさに喫驚いたニルズヘッグは、次いで柔かく細む目尻に流眄を注ぎつつ、入り方や作法を教えて呉れた嵯泉に言を継いだ。
「ほら、タトゥーがあるから。UDCアースとかだとオンセン入れてもらえなくてさ」
「慥かに、最近は殊に目が嚴しくなっている樣だが、幸い此方で咎める者は居まい」
特に今日など、湯を同じくする者は嵯泉一人。
故に誰も咎めぬと断言した彼は、「折角なら存分に堪能すると良い」と云い添えつつ、己もまた視線を露天へ――雪を被った松木などを眺めて息をつく。
湯に温もる肌膚に寒の染む心地好さは、露天の醍醐味と云った處。
後は臓腑に沁みる地酒があればと思い巡らせた嵯泉は、傍らに用意していた盆上の酒器を引き寄せ、湯面に浮かべんとした。
「のんびり出來るよう一献用意しよう」
「……えっ、お盆に酒乗せるの? 浮くの? 重くない?」
興味半分、心配半分、盆に乗る徳利と猪口を見守るニルズヘッグ。
而して嵯泉も彼の表情を細かに捉えよう。金瞳が緊張して見守る中、硬質の手はそっと今宵の相伴を連れて來る。
「大振りな物は無理だが、徳利の二、三本と猪口位なら――そら、浮いた」
「わ。本当だ! 浮いた! 凄え!」
白氣の立ち昇る湯面、ゆったりと浮かぶ揃いの酒器に喜色を灯す灰色の竜。
天然湯の機嫌を損ねぬよう、そうっと徳利の首を摘んだ彼は、少し少なめに注ぎ、
「オンセンだし、あんま飲んだら回っちまうかな。加減しよ」
「噫、私も加減するとしよう……然程強く無いしな」
途中、傍らに竊笑を聽いたなら、嵯泉の猪口にも己と同じだけ注ぐ。
互いに慎ましい事だと、微咲(えみ)を結びつつ猪口を突き付けた時だった。
「わ、わ……」
「――上がったか」
二人の麗顔が彩色に白むと同時、凛冽の冬天に大輪の花が開く。
紫紺の帳に広がる万彩の光も、遅れること数秒して胸に響く音も見事なものだろう。
華々しく打ち上がる花火を仰いだ日輪と月輪は、視線を夜穹に結んだまま聲を交す。
「花火が上がったときは『たーまやー』って言うんだろ、知ってるよ」
「噫、江戸は両国の大川で始まった風習だ」
「たまやが何なのかは知らないんだけど……」
「玉屋も鍵屋も店の屋号、花火屋の名前の樣なものだ。――何、景気付けだ、樂しければ良いで十分だろうさ」
折に視線は地上へ、湯気越しに結ばれて艶笑を零す。
「へー! 嵯泉、何でも知ってるよなあ。博識だ」
「偶々知っているだけに過ぎんよ」
頭上より降り注ぐ光の花に麗姿を照らしつつ、今度は品佳い鼻梁を向け合った二人は、一度は近付いた猪口を揃え、酒精に花火の彩りを移した。
「ちょっと早いけど、今年も一年ありがとな、嵯泉」
「礼を云うのは私の方だ。此方こそ何かとお前に援けられ、世話になってばかりだ」
ありがとう――とは素面の裡に伝えておきたい。
自ず笑顔を結んだ二人は、どちらからともなく猪口を寄せ、こつんと酒盃を搖らす。
「こーやっておまえと遊びに行けるの、嬉しいんだ。本当だよ」
「お前と伴に在れる時間を、私も何より大事に思うよ」
「っし、じゃ、かんぱーい!」
「では、乾杯」
而して咽喉を潤す酒精は、今年一番の美味を広げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸神櫻
温泉よ!カムイ!
うふふ
流石、私の故郷のクリスマスだわ
温泉に美しい景色そして花火!
最高じゃないの
…お酒もあればよりよいのだけど…
な、なんて…え、後でならいいの?
あなたとの時間を大切にしたいわ
ふぅ……本当に良いお湯ね
お肌もつるつる
疲れもしゅわーって解けていくようだわ
カムイも気に入ってくれたかしら
あ!花火!
ひとつ咲く度に、笑顔が咲いていく
私達にとって花火は特別なものだから
見上げ笑むカムイの横顔が美しくて
桜の瞳に映る花火を覗くよう見つめてしまう
な、なんでもないわ!
そうと、湯の中で触れ合う手のひらに
心の奥まであたたまりそう
満開の花火に
隣には愛しい神様
メリークリスマス
カムイ
私はなんて幸せなのだろう
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
私も温泉が好きだ
冬の日の温泉はよりね
噫、花火に温泉に、と余すことなく楽しめそうだ
人々の思いに感謝しなければ
お酒、はだめだよ
きみは酒癖が…あまり
上がってから、二人でならいい
温度も丁度良くて心から安らげるな……
良い湯だ……
肌もつるつるとは、より私の巫女が美しくなるね
勿論だよ
とても気に入った
サヨの角の桜も満開だ
…まるで、冬の桜見のよう
花火……!
噫、綺麗だな
冬の空に満開の華火が咲いた
感慨深くて嬉しくて
じっと見つめる
……ん?サヨ、どうかした?
花火を観ないの?
可愛いな、と湯の中で手のひらを重ねる
こうして共に寄り添って、ずっとずっと
一緒に生きていきたいな
メリークリスマス、サヨ
来年も、また次もずっと
共に
ほんのり白雪を路肩に残す石畳に、からり、ころり、玻璃の音が鳴る。
高欄の架木に繊指を滑らせ、淸流にかかる太鼓橋を渡り來た誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は、品佳い鼻梁を掠める湯馨に、ふうわと喜色を燈した。
「温泉よ! カムイ!」
振り向き樣に零れる破顔一笑の美しきこと愛らしきこと。
佳人と、佳人の背に広がる湯けむりの大自然を眺めた朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)は、数歩も先往く巫女に続いて橋を渡る。
「噫、私も温泉が好きだ。冬の日の温泉はよりね」
空氣の凛と引き締まる嚴冬、冷えた身体を温める湯の心地好さは格別なもの。
出羽は延沢の湯治場、人里ならではの銀世界に烟る白氣も風情があると瞳を細めれば、視線の先、櫻宵はふくふくと咲んで金糸雀の聲を紡ぐ。
「うふふ、さすが私の故郷のクリスマスだわ。美しい景色と温泉、そして打ち上げ花火! 最高じゃないの」
「慥かに、餘すことなく樂しめそうだ。人々の思いに感謝しなければいけないね」
エンパイアの人々は異文化に寛容で、伝統文化を取り込むにも實に鷹揚。
ハレの日を祝う人々の心に触れた神の雛は莞爾と咲むと、不圖(ふと)、眼前の巫女がほつりと零す科白を聽き拾った。
「後は、そうね……地酒なんてあればよりよいのだけど……」
「お酒、はだめだよ。きみは酒癖が……あまり……」
齒切れの悪い下駄の音に、きょとんと小首を傾げる櫻宵。
無垢に持ち上がる語尾は、吃度(きっと)自覚が無いのだろう。
「? な、なんて……え、後でならいいの?」
「上がってから、二人でならいいよ」
「勿論、あなたとの時間をうんと大切にしたいわ」
而して春咲く櫻霞の瞳をきゅ、と細める櫻宵に幾許か安堵したカムイは、酒精を入れた時のきみは私だけが預ろうと、旅籠の暖簾を潜るのだった。
†
露天風呂より眺む景色は、出羽の冬を切り出したような絶景。
幽玄だと零れる嘆聲がほうわと白氣を帯びるのは、そろそろ芯まで温まったからか――二人は肩まで湯に浸り、乳白色のにごり湯を堪能する。
「湯は柔かく、温度も丁度良くて……心から安らげるな……とても良い湯だ……」
「ふぅ……これは名湯ね。お肌もつるつる、疲れもしゅわーって解けていくようだわ」
蕩けるようだと瞳を細める櫻宵の、雪膚の色付きが證左(あかし)しよう。
月白の繊手がまろやかな湯を一掬い、後れ毛の艶々しく光る項頸に掛けられるのを見たカムイは、まるで美人画を観るようだと塊麗の微笑を注ぐ。
「肌もつるつるとは、より私の巫女が美しくなるね」
「カムイも気に入ってくれたかしら」
「勿論だよ。とても気に入った」
こっくりと首肯きつつ湯面から玉臂を出したカムイは、雫の伝う指先を櫻宵の額へ――櫻花の華やかに咲き誇る双角を捺擦って見せる。
「サヨの角の櫻も満開だ。ほら……宛如(まるで)冬の櫻見のよう」
あえかに咲く一葩一花を愛でるよう、繊指がそうっと触れた頃合いだった。
艶々しい睫が揃って上を向いた時、紫紺の帳に広がった彩色が二人の麗姿を輝かせる。
「あ! 花火!」
「花火……!」
全き同時に喫驚の聲を零し、感嘆の吐息が重なる。
スッと通った鼻梁を冬天に結び、菊や牡丹、柳と尾を引く無数の花火を仰いだ二人は、ひとつ、ひとつと花が咲く度、こちらも花のような笑顔を咲かせた。
二人にとって花火が特別なものだとは、感慨深く凝乎(じっ)と彩穹を見上げるカムイの顔を見れば明々瞭々。
「綺麗だな。冬の空に滿開の華火が咲いた」
弓張月の如き横顔からこそハッキリ見える、長い、銀朱の睫。
引き締った細顎も、そっと口角を持ち上げる形佳い脣も艶々しく、かの麗貌に惹かれた櫻宵は、彼の櫻色の瞳に映る花火を覗くように見つめてしまう。
返す言葉すら忘れて魅入れば、その沈默にはまた極上の流眄が注がれて――。
「……ん? サヨ、どうかした? 花火を観ないの?」
「な、なんでもないわ!」
慌てて星眸(まなざし)を夜穹に向けるが、櫻宵の頬が薄櫻色に上気しているのを見たカムイは、「可愛いな」とくすり咲みつつ、柔らかな湯の中で手のひらを重ねる。
「こうして共に寄り添って、ずっとずっと――」
「……カムイ」
噫、そうと湯の中で触れ合う手のひらに心の奥まであたためられるよな――。
優しい手を確かめるよう繊指を絡めた櫻宵は、天には滿開の花火が彩を広げ、地上では愛しい神樣が隣に居てくれる奇跡に「なんて幸せなのだろう」と睫を震わせる。
一際大きな花火玉が小花千輪を咲かせた時、二人の麗姿は白々と浮き立ち、
「メリークリスマス、サヨ」
「メリークリスマス、カムイ」
閃光に遅れること数秒して轟く音が胸を打つ。
カムイと櫻宵は夜穹の燦爛に白皙を照らしながら佳脣を開き、
「一緒に生きていきたいな。来年も、また次もずっと、共に」
「ええ、私達は、これからも、ずっと――」
と、固い約束を交すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
馬県・義透
【外邨家】
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
蛍嘉とは双子。こちらは兄
湯上がりで旅籠でゆったりと。
この間の温泉は、あれこれ(カルタ盗まれて凹み陰海月)ありましたからねー…ええ。
それに、蛍嘉とは温泉来てませんし。
ま、たしかにクリスマスは去年も一緒に過ごしましたけどー。
あれはUDCアースでしたしね?
ふふ、こうして皆でゆったりするのもよいですよねー。
※
陰海月と霹靂、湯上がりほかほか。とくに陰海月はぷるぷるつやつや。
今回は打ち上げ花火やったー!カクリヨでも見たけど、やっぱり綺麗ー!なぷきゅぷきゅクエクエ。
陽凪とも友だち!
外邨・蛍嘉
【外邨家】
『疾き者』たる義紘とは双子。こちらは妹だが、基本は『義透』と呼び捨て
湯上がり旅籠でゆったりだよ。
うーん、義透ってこういう依頼見つけてくるの得意だね?
ほとんどそちらからのお誘いな気がする。
ま、たしかにそうだけどさ。
でも、今年の約束『二人で一緒に出掛ける』はあるけど、去年もクリスマスは一緒に過ごしたろ?
…そっか、世界違うと、また違った過ごし方になるか。去年はイルミネーションだったし。
そうだね、ゆったりするのもいいものだ。…陽凪も喜んでるしね。
※
陽凪。湯上がりほかほかつるつる。
打ち上げ花火は二回目(一回目はカクリヨ)。よいものだーとジェスチャー(鳴けない)。
陰海月と霹靂とは友だち!
淸流を挟むように竝ぶ旅籠のひとつ、四階の窓辺から景色を眺む。
嚴寒の冬と共生する人里ならではの銀世界は靜寂かつ幽玄で、露天風呂で存分温まった身なら、障子を開けるや広がる、出羽は延沢の雪景を愛でる事が出來よう。
いや、或いは颯ッと吹き抜ける風にも趣きを感じるか、
「香炉峰の雪は簾を撥げて看る、と言いましたか……。ええ、寒風も心地好いですねー」
湯上がりの頬を撫でる夜風が快いと嘆聲を零すは、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)。端整の脣を滑る言は、あっという間に白氣となって夜穹に解けていく。
のほほんとした聲を拾うは、卓で急須を傾ける外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)。
少し離れた場所から窓辺の景色を眺めた佳人は、なるほど絶景だと向かいの旅籠に灯る光を見つつ、視線を脇に――我が双子の兄へと水を向けた。
「うーん、義透ってこういう依頼見つけてくるの得意だね?」
「それは、忍者ですからねー。情報は貪欲に収集しないと」
諧謔を零す程に親しいのは、生前の育成過程の影響か、妹は当代にも言を繕わぬ。
日頃の情報収集の賜物かと自ら解を得た蛍嘉は、二人分のお茶を湯呑に注ぎ終えると、手招きして義透を呼びつつ、ほっこり卓を囲む事にした。
時に、障子を閉めて卓袱台に向かった義透は、先日の出来事を振り返り、
「この間の温泉は、あれこれありましたからねー……」
「陰海月のカルタが竊まれて、凄く凹んでたってあれ?」
「……ええ、だから今日はゆっくり入りたくて」
流石は兄妹と云った處か、揃って視線を結ぶはミズクラゲの『陰海月』――今は無事に取り戻したカルタを畳に並べ、ぷきゅぷきゅと嬉しそうに絵柄を眺めている。
オブリビオンに巻き込まれたなら、慥かに悠然とは入れなかったろうと頷いた蛍嘉は、不圖(ふと)、翠緑の睫を持ち上げて兄を見た。
「そう云えば、殆どそちらからのお誘いな気がする」
「それはもう、蛍嘉とは温泉來てませんでしたから」
「――ま、たしかにそうだけどさ」
温かな湯呑を、こちらも温まった掌で包み、湯気越しに言を交す兄妹。
ずず、と地物のお茶を味わいながらの会話は、同志感覚で實に親しげだ。
「でも、今年の約束『二人で一緒に出掛ける』はあるけど、去年もクリスマスは一緒に過ごしたろ?」
「ま、慥かに去年も一緒に過ごしましたけどー。あれはUDCアースでしたしね?」
「そっか、世界違うとまた違った過ごし方になるか。去年はイルミネーションだったし」
「ええ、樂しげな音樂も流れていて、綺麗でしたねー」
煌びやかで賑やかだったと、共通の思い出を振り返る二人。
かの光の溢流から較べれば、今年は幾分にも渋味あるクリスマスだが、猟兵として数多の世界を渡るからこそ、其々の世界の味わいを見る事が出來るのだとも思う。
「じっくりと時間(とき)の流れを感じられるようなエンパイアも良いですよねー」
「そうだね、偶にはゆったりするのもいいものだ」
私達猟兵は兎角急きすぎると、言が続こうとした時だった。
どおん、と胸を衝くような大きな音が建物の向こうに響き、嗚呼、始まったかと視線を結んだ兄妹が、揃って窓辺に向かう。
而してスッと障子を開ければ。
紫紺の夜穹に小花千輪が燦然と咲き、二人の瞳に彩を躍らせた。
「ああ、これは見事ですねー」
「うん、夜空に花が咲いたよ」
凛冽たる冬天に咲く万彩の花々は、菊に牡丹、桔梗、垂れる程に色を變化させる柳と、しゅるしゅると尾を引いては華やかに鮮やかに夜を彩っていく。
横溢(あふ)れんばかり光と音には、二人が孫の樣に可愛がる者達も歓喜しよう。
「陰海月も霹靂も……それに陽凪も喜んでる」
蛍嘉が柔かく視線を遣れば、湯上がりぽかぽかの霹靂は、カクリヨでも見た花火をまた見られたとクエクエ、今日は一段とぷるぷるつやつやの陰海月は、やっぱり綺麗ー! とぷきゅぷきゅ大興奮の樣子。ヤッターと身を寄せ合うのが愛らしかろう。
陰海月と霹靂とは友だちな陽凪も湯上がりはホカホカつるつる、鱗に映る精彩を喜び、よいものだーと尾をフリフリ、鳴けない代わり身体いっぱいに歓喜を示した。
「慥か、打ち上げ花火は二回目でしたねー」
「この子達が最初に見たのは、カクリヨか」
品佳い鼻梁を花火に結びつつ、双子の兄妹がゆったりと聲を交す中、傍の三者は三樣にクエクエ! ぷきゅぷきゅ! フリフリ(ジェスチャー)! 仲良しフレンズも見上げる瞳に華火の彩を映し、キラキラと光を躍らせる。
「みんな樂しんでいるみたいで、良かったですねー」
「こんな表情や仕草を見られるなら、うん、來て良かった」
続々と花火が打ち上がる夜穹の下、窓辺で寄り添いつつクリスマスのお祭りを樂しんだ外邨家の者達は、軈て天蓋いっぱいに大輪を咲かせる光の華に笑顔を咲かせる。
「……ふふ、こうして皆でゆったりするのもよいですよねー」
「そうだね、またひとつ良い思い出が出來た」
振り返るだに心が温かくなる思い出が――。
そうっと微咲(えみ)を零した兄妹は、それから長い時間、光の宴を愉しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
深山・鴇
【逢魔ヶ時】
逢真君、君温泉入れたっけか?
それもそうか(どうするかな、と思案して)
それなら遠慮せず俺は浸かるとしようか
あー…染み渡る温かさだな…
俺はサムエンの出身だが、こういうクリスマスも悪くないな
実家は伊勢の方さ、穏やかだが活気があっていいところだよ
しかし温泉に浸かって酒を呑んで、花火とは贅沢じゃないか
たまには二人で呑むのも悪かなかろ
逢真君はクリスマス…あんまり縁がなさそうだが
ああ、そういう括りになるのか(こちらも信仰があるわけじゃない、イベントという認識だ)
でも君、人が楽しくやってるのを見るのは好きだろ?
はは、まあ来年もよろしくしておくれよ、うちのかみさま(杯を軽く持ち上げて笑い)
朱酉・逢真
【逢魔ヶ時】
会話)あア? 入れンこたないが…他にヒトも入ってッからなァ。病毒のカタマリとしちゃア遠慮しとこうか。マ・近くに座ってッからよ。のんびり浸かるといいぜ、ヒトにはすこし低すぎる気温だ。そォいや、お前さんここの出身だったな。実家はどんなトコだい? ああ、空に大輪の花たァ見事なモンさ。かけ声は忘れたが。マアいい、のんびり呑もうぜ。縁はないなァ! 俺からすりゃア預言者とてヒトさ、なァんも特別じゃない。ああ好きだよ、ヒトの感情・欲望があらわなのは心地いい。おう、来年もいろいろ頼みにさしてもらうとも。(毒酒の杯を軽く掲げて) 奇特な信者に乾杯。
行動)温泉のフチに座り、花火を肴に毒杯をあおる。
路肩にほんのりと雪を残す石畳に、戛々と、上質な革靴の音が響く。
暖色を灯す燈籠を眼路の脇に送りながら歩いて幾許、淸流にかかる太鼓橋を渡った處で振り向いた深山・鴇(黒花鳥・f22925)は、遅れること数歩、からころと下駄を鳴らして來たる朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)に聲を投げた。
「――そういや逢真君。君、温泉入れたっけか?」
品佳い鼻梁に湯馨を掠めた折、飄然と語尾を持ち上げるハイ・バリトン。
靉靆と漾う湯気を挟んで其を聽き拾った逢真は、片眉を上げると同時、浮雲の流るるが如き口跡で答えた。
「あア? 入れンこたないが……他にヒトも入ってッからなァ。此處は出羽の湯治場だ、病毒のカタマリとしちゃア遠慮しとこうか」
云って、朱殷に染まれる双眸を煙草屋の背へ――逢魔時を迎えた湯屋がほつほつと燈火(あかり)を灯し始める樣を見る。
而して煙草屋も洒然(サッパリ)としたものだ。
「それもそうか」
言は短く、黑手袋に覆える指を細顎に宛てた鴇は、如何するかなと思案して。
この時、硝子に疆を隔てる櫻瞳が『延命地蔵コチラ』『不動尊アチラ』などと書かれた札を捺擦り始めるのを見た逢真は、飜然(ヒラリ)手を翻しながら言を挟んだ。
「マ・近くに座ってッからよ。のんびり浸かるといいぜ、ヒトには些か低すぎる気温だ」
己は毒氣を零すしかないが、目下、煙草屋が零すは眞白の噫氣。
寒かろうよと冷艶の瞳が湯屋を見れば、鴇は「そうか」と頷いて、
「それなら俺は遠慮せず浸かるとしようか」
畢竟、人間などタンパク質の塊。質量分しか熱を保てぬ。
かみさまに心配は掛けまいと詼謔を零した男は、ほのかに雪の斑する暖簾を潜った。
†
「あー……染み渡る温かさだな……」
「おう、お前さんごと蕩けやしないかい」
一人は露天温泉に肩まで沈め、一柱は其の石縁に腰を下ろして。
出羽の大自然を切り出した樣な絶景が広がる中、鴇は乳白色の濁り湯を幾度と掬っては項頸(うなじ)に掛け流し、逢真は芳しい湯の馨だけを受け取りつつ、毒杯をあおる。
彼が酒の肴にと仰ぐは、冬天に打ち上がる花火だ。
目下、夜穹に咲き亂れる小花千輪は、華やかに鮮やかに光を広げつつ、名残惜しく散ると同時に別なる彩色を咲かせゆく。
逢真と視線を同じくした鴇は、数秒遅れて届く轟音に佳聲を潜らせ、
「しかし温泉に浸かって花火を観るとは贅沢じゃないか」
「ああ、空に大輪の花たァ見事なモンさ。かけ声は……生憎忘れて終ったが。マアいい、のんびり呑もうぜ。たまには二人で呑むのも悪かなかろ」
「――よし、御相伴に与ろう」
ついと寄越される盆の上には、徳利と猪口。
身体に優しく燗した地酒に毒は無し、湯気に交じ入る酒精の馨に目を細めた煙草屋は、欣々(いそいそ)と手酌すると、逢真が持つ酒杯に猪口を寄せた。
「乾杯」
会話を愉しむに脣は濡れていた方が宜しい。
そう理由を付けて杯を傾けた二人は、まずは一杯飲み干すと、空の底を見せ合う。
杯越しに双方の星眸(まなざし)が莞爾と結ばれた時、一際大きな菊星が夜穹を彩り、鴇と逢真の麗顔を明々と照らした。
「錦冠菊か。瞳に迫る樣だ」
「はは、こりゃ景気が良い」
紫紺の帳を白ませる黄金色が広がった瞬間、次々と咲き誇るは赤、緑、白のクリスマスカラーで、エンパイアに聖夜を祝う風習が取り入れられているのがよく判然る。
鴇は湯面に瀲灔と映る火華をうっそり見ながら言ちて、
「俺はエンパイアの出身だが、こういうクリスマスも悪くないな」
「そォいや、お前さんここの出身だったな。実家はどんなトコだい?」
「実家は伊勢の方さ、穩やかだが活気があっていいところだよ」
へェ、伊勢かいと眦尻に麗眸を流す逢真も、湯面や杯の面に精彩を映す花火に微笑み、ヒトのハレの日を祝う心の豊かさに快哉を覚える。
煙の代わり酒精を呑んだ鴇は、饒舌を得たか更に会話を進めて、
「逢真君はクリスマス……あんまり縁がなさそうだが」
「縁はないなァ! 俺からすりゃア預言者とてヒトさ、なァんも特別じゃない」
「ああ、そういう括りになるのか」
逢真の言に納得を得るのは、己も信仰を持つ身で無し、クリスマスもイベントのひとつという認識だからだろう。
蓋し斯く云う逢真の横顔が幾分にも樂しそうに見えた彼は、興味深げに更に訊ねる。
「でも君、人が樂しくやってるのを見るのは好きだろ?」
「ああ好きだよ、ヒトの感情・欲望があらわなのは心地いい」
是を置いた逢真が頷いた後に見上げるは万彩の華。
菊に牡丹、垂れては柳と、色や形を豊かに變えるのが良いと、花火にヒトの心を重ねた神は、交睫ひとつ、視線を地上に戻して吃々と竊笑する。
而して湯にあるヒトも、杯を輕く持ち上げて艶笑を返し、
「はは、まあ來年もよろしくしておくれよ、うちのかみさま」
と、稀有しく“敬虔”を見せて呉れるのだから、逢真もまた奇特な信者に二度目の杯を捧げる事にする。
「おう、來年もいろいろ頼みにさしてもらうとも」
乾杯、とまたひとつ。
血の気の無い細指が毒酒の杯を冬天に掲げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
故郷たる和国にて聖夜の催しがあると耳にしたの
温かな温度に浸りながら、火の花を眺むのだとか
いっとうステキなひと時となりそう
寒い日に浸かる湯だなんて心が踊るわ
温まり過ぎるのは、ちょっぴり苦手なのだけれど
つま先を浸しながら過ごせるような
そんな場所は、あるかしら
温かな水中に身体を沈めて
じわりと滲んでゆく温度を感じましょう
嗚呼、とてもあたたかいわね
ちゃぷりと水を弾く音色さえも心地好い
天上へと打ち上がる花を眺めながら
長閑で温かな時間を、たあんと楽しみましょう
ぱあと咲いては散って、また咲いて
儚くも美しいひと時の芸術を見留める
故郷にて過ごす聖夜の時間
とても緩やかで、あたたかで
心の奥までも温もりが点ったかのよう
路肩に白雪を残す石畳の路に、こうろりと、赫い鼻緒のぽっくりが音を轉がす。
我が故郷エンパイアにて聖夜の催しがあると聽き、出羽國は延沢の湯治場にやって來た蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は、朱塗の太鼓橋より眺む幽寂の銀世界に、ふふ、と吐息を零した。
「今日は湯けむりの中、火の花を眺むのだとか……いっとうステキなひと時となりそう」
佳脣を滑る金糸雀の聲も忽ち白氣と立ち昇る嚴寒の冬。
吹き颪す風に羽織の襟を寄せた七結は、然しこんな寒い時に浸かる湯の心地好さを識る身にて、心が躍ると口元に微咲(えみ)を差す。
蓋し温まり過ぎるのはちょっぴり苦手な佳人は、つま先を湯面に潜らせるくらいの場所があればと紅紫の麗瞳を巡らせると、淸流のほとり、腰を下ろして景色を眺められる足湯を見つけ、ほわ、と喜色を広げた。
「せせらぎに混じる湯の馨りに誘われるようね」
品佳い鼻梁を掠める湯氣を辿り、ぽちゃぽちゃと擽るような音を立てる足湯へ向かう。
欣々(いそいそ)と嬉しそうにぽっくりを脱いだ七結は、玉の如き雪膚、瑞々しい脚を踝まで晒すと、つま先を湯面へ――温かくまろやかな湯に潜らせた。
「……嗚呼、とてもあたたかいわね。じんわりとした温もりが滲んでいくわ」
跣足より伝う熱が巡り、軈て全身を包んでいく感覚――。
優しい温かさは勿論、ちゃぷりと跳ねる音色も心地好いと灰白色の睫を湯面に落とした凄艶は、時に、その湯面が万彩に搖らめくのを見て、ハッと細顎を持ち上げた。
「――……まぁ、きれい」
不覚えず開いた櫻脣から、嗚呼、と吐息が擦り抜ける。
しゅるしゅると昇りゆく光は、紫紺の天蓋で華々しく咲き亂れ、菊に牡丹、垂れては柳となって夜穹を彩り、而して遅れること数秒、大きな音が銀世界を震わせる。
次いで燦然と閃く小花千輪は、赤に白に、緑に金色。
其が聖夜を寿ぐクリスマスカラーであるとは、三千世界を渡った猟兵なら判然ろうか、七結も侍の國の人々が異文化を巧く取り入れたものと頬笑みを溢れさす。
「ぱあと咲いては散って、また咲いて……その花色が美しくて、儚くて」
これぞ和の藝術だと見留めた七結は、故郷にて過ごす聖夜の緩やかな時間に心を解き、宛如(まるで)胸の奥まで温もりが点ったかのよう、と塊麗の微笑を湛えた。
夜穹を仰げば、眼路いっぱいに光華が広がり、湯面には其を映した花葩が揺蕩って――この宴が一夜限りと思えば、うんと、うんと味わいたいと思う。
冬天の下、佳人は肺いっぱいに凛冽を吸い込み、
「――長閑で温かな時間を、たあんと樂しみましょう」
と、湯の波紋に波立つ光の瀲灔に、あえかな微咲を注ぐのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
相棒のユキエ『ゴエモンの時もお風呂行ったね』と
そーだったなーと返事
疲労回復、とある露天風呂へ
入るまでは寒いけど
浸かれば極楽だねェ
忍びゆえに若干痩せっぽちな身に出来た傷や怪我やらを改めて見て
温泉効能で幾らか癒えたらいーな、と肩まで浸かり体を伸ばして寛ぐ
あー~ホント極楽ぅ~
『ユキエもヒトだったら温泉したい。ひまー』(配置された岩に落ち着き羽繕い)
あは悪りィーねぇ
まぁ少し待っててよ
旅籠では浴衣の上にどてらを借りて羽織り窓から花火を見る
はー贅沢してるわー…(しみじみ)
お酒は無いけど温かいお汁粉でほかほか
干し柿も少し炙ってユキエと分ける
『めりーくりすます』
よしよし、と賢いユキエを撫でてのんびり
アドリブ可
靜謐の銀世界、凍風が雪華を巻き上げる黄昏時。
淸流を挟むように連なる旅籠が、ほつほつと燈火を灯すのが障子越しにも見えようか、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は路肩に雪を残す石畳を足早に駆ける。
彼に先行すること幾許、太鼓橋の架木で到着を待っていた黄芭旦のユキエは、温泉街に靉靆(ただよ)う湯けむり越しに話し掛けた。
『ゴエモンの時もお風呂行ったね』
「ん、そーだったな。あの時は皆目(まるで)入った気がしなかったけど」
先日、京は鴨川で風呂に入ったトーゴだが、櫛羅が竊まれた時は気が気でなかった。
而して此度は出羽國は延沢、山峡の温泉郷だそうで、ユキエはまた違った匂いがすると夜風に運ばれる湯馨を嗅ぐ。
『リベンジ?』
「未練があった訳じゃないけど。ま、湯治を兼ねて?」
櫛羅を取り戻し、下手人も骸の海に還った今は恨みも無し。
日頃の疲れを取るに藥湯が佳いと思い立ったのだと、相棒に経緯を説明したトーゴは、疲労回復の効能のある露天風呂へ、身を縮めるようにして暖簾を潜った。
「入るまでは寒いけど、浸かれば極樂だねェ」
沁みる――と芯から温もった躯から吐息が零れる。
出羽の絶景を視界いっぱいに、肩どころか顎まで湯に沈めたトーゴは、スッと湯面より腕を出し、これまでの戰いで刻まれた刀傷を眺めた。
「……温泉の効能で幾らか癒えたらいーな」
湯を掌に一掬い、忍びゆえに若干痩せっぽちな身に掛ければ、肌膚は艶々と煌いて――これまでの怪我や傷も幾許か慰められようと微咲(えみ)を湛えるトーゴ。
幸いにして湯治客は己のみ、折角なら贅沢をしようと四肢を伸ばせば、開放的な空間も相俟ってのびのびと寛げよう。
「あー~ホント極樂ぅ~」
五臓六腑から染み出る聲には、巖頭で羽根を休めていたユキエが嘴を向けて、
『ユキエもヒトだったら温泉したい。ひまー』
「あは悪りィーねぇ。まぁ少し待っててよ」
羽繕いするにも飽きたという旅伴には、トーゴも宥めるような艶笑を注いでいた。
浴衣の上にどてらを羽織り、旅籠の四階から花火を眺む。
窓を開ければ、凍風が颯と頬を撫でるが、ほっこり温まった身には寧ろ心地好かろう。トーゴは窓辺に手を掛けると、続々打ち上がる万彩を見つめた。
「……はー贅沢してるわー……」
しみじみと零れる聲は、甘い御汁粉でほかほかに温まれば、忽ち白氣と變わって燦然の穹へ。ユキエには少し炙った干し柿を分けつつ、一人と一匹で贅沢な時間を共有する。
一際大きな錦冠菊が咲き誇った瞬間、ユキエは美しい聲で囀り、
『めりーくりすます』
「ん、上手」
實に流暢に話す彼女の賢さに、自ず瞳を細めたトーゴは、よしよし、と撫でつつ――。
何處へ行くにも一緒なふたりは、のんびり、ゆったりと過ごすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・ひかる
【竜鬼】
リューさんと二人で温泉旅行でーとですっ♪
まずは疲れを癒しに、それぞれでのんびり温泉を堪能してきます。
合流したら髪を纏めて、浴衣に半纏で街をお散歩
ふにゃっとした表情でわたしを眺めるリューさんは、隙だらけで可愛いです
挑発するように腕を絡めてみたり、くっついてみたり
リューさんすぐ照れますから、からかい甲斐があります♪
花火が上がって見とれていたら、いつの間にかリューさんの腕の中で
不意に視界が陰ったと思うと……唇を奪われていましたっ///
「こんな、人前で……大胆な……」
なんて、口では文句を言いつつも
他が正直なわたしは縋るように抱きつき背伸びして
続きをねだるようにリューさんに甘えるのでした♪
リューイン・ランサード
【竜鬼】
クリスマスに温泉と花火というのも楽しそうですね。
という訳で、寒さに負けないよう、まずは温泉で温まりましょう(まったりほっこりします)。
その後は浴衣の上に半纏を着て、ひかるさんと手を繋いで街歩き。
浴衣姿も可愛いなあ~と、ひかるさんを眺めてほっこりします。
見晴らし良さそうな川の橋の上に立ち止まって花火鑑賞。
冬って乾燥して空がきれいだからか、花火がクリアに見える感じがしますね~。
でも少し冷えてくるので、ひかるさんを抱き寄せてお互いに温もります。
そして花火が大きく光って、周囲の注目がそちらに向いたタイミングにひかるさんにキスします。
「とても綺麗ですよ♥」
何が綺麗なのかは周囲には秘密です(w。
温まりましたかと聲を掛ければ、温まりました♪ と返事が返って。
そろそろ出ましょうかと窺えば、上がりますね♪ と笑聲が零れて。
露天風呂の垣根を挟み、湯気越しに会話していたリューイン・ランサード(乗り越える若龍・f13950)と荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、其々に出羽國は延沢の天然湯を堪能しつつ、温泉街中央に掛かる朱塗りの太鼓橋で合流した。
「リューさん、お待たせしませんでしたか?」
「僕も今來たところです。さぁ、少し散策しましょう」
嚴冬の風も心地好く感じられる程に温まった二人は、浴衣の上に半纏を羽織った温泉街スタイルで、仲良く手を繋いで街歩きに出掛ける。
殊にこのエンパイアは、時間の流れがゆっくりと感じられよう。
ほんのり路肩に雪を残す石畳に、からり、ころりと下駄の音色を揃えた二人は、淸流に沿って連なる燈籠の懷しさや、障子越しに橙の光を零す旅籠、足湯に集まる湯治客など、湯けむりの情趣を味わいつつ、まったり、ほっこりした時間を過ごす。
「人里ならではの銀世界に白氣がただよって、綺麗ですね!」
「――……はい、とても綺麗です」
紅玉の佳瞳をキラキラと輝かせながら景色を眺む少女に、柔かく相槌する少年。
彼女が視線を結ぶ先に品佳い鼻梁を向けるリューインは、實は佳景より浴衣の美人を、我が戀人の可憐な姿をうっそりと見ている。
(「うん、浴衣姿も凄く可愛いなあ~」)
湯上がり、艶々しい髪を纏めて露わになった白条の頸。
弓張月の如き横顔、白銀に縁取られる長い睫はツンと上向いて。
襟の合わせから覗く雪膚も、まろやかな湯を潜って殊沢々(つやつや)しく滑らかに、愛らしい少女を極上の美人に仕立てている。
そんな彼女が己に振り向いた時は最高だろう。
「リューさん……もしかしなくても、わたしを見てました?」
「……えぇと……はい」
ふにゃっとした表情で答えれば、ひかるは塊麗の微笑を零して、
「ふふ、隙だらけで可愛いです」
「わっ、わっ」
芳しい湯馨が鼻腔を掠めた瞬間、ふうわと近付いた麗艶が腕を絡め、肌を寄せる。
己の五感まるごと誘惑するか、ひかるは紅き彩瞳を上目遣いに、繊指でツンツンと頬を突いてくるのだから堪らない。
「リューさんすぐ照れますから、からかい甲斐があるんですよ♪」
「……これは、參りました」
嗚呼、全てが柔かく温かいと、陶然たる心地がしよう。
リューインは上せたように兩頬を上気させながら、多くの人が集まっている見晴らしの良い橋の上まで、ふわふわと浮ついた足で向かうのだった。
†
二人が手を繋いで訪れたのは、兩側に腰掛け椅子と簀子の敷かれた橋の上。
街の人々も聖夜を樂しみにしているのだろうと頬笑みを交したリューインとひかるは、皆々が見上げる夜穹に視線を結び、次々と打ち上がる花火を鑑賞した。
「わぁ……冬の空が沢山の光に彩られて……とっても綺麗ですね!」
「冬って乾燥して空がきれいだからか、花火がよりクリアに見える感じがしますね~」
どん、どぉんと空気を搏く音が広がる中、菊に牡丹と、鮮やかな光華が咲き亂れる。
燦然と天蓋を飾る小花千輪が、赤に緑に白と、美しくクリスマスカラーを輝かせる所に異文化を取り入れた人々の包容力を感じよう。
「クリスマスに温泉、そして花火というのも賑やかで樂しいですね」
「侍の國の人々の、ハレの日を愉しもうという心意気を感じます」
周囲の人々が歓聲を上げる中、リューインはひかるを抱き寄せ、お互いに温もりながら花火を見上げた。
時に、一際大きな錦冠菊が花を咲かせ、紫紺の天蓋を黄金に染め上げて尾を垂れれば、橋の上に居る誰もが其の優美に目を奪われる。
刹那、リューインは周囲の注目が花火に向いたタイミングでひかるに脣を寄せ――、
「とても綺麗ですよ♥」
と、啄むような音を立てた佳脣に微咲(えみ)を湛える。
何が綺麗なのかは秘密だと、小気味良い艶然を湛える佳顔は花火の光に明々と耀いて、同じく彩を映したひかるの花顔も顕かにしよう。
喫驚と戸惑い、そして多分嬉しさも滲ませてくれる佳顔は、いつにも増して綺麗だ。
「……はっはわ……リューさん……!」
仰ぐ花火に見惚れていた少女は、いつの間にか彼の腕の中に居た訳だが、不意に視界が翳ったと思った瞬間、脣を奪われた事に気付く。
「こんな、人前で……大胆な……」
「はい、ひかるさんにも隙があったので♪」
みるみる頬を桃色に染めたひかるは、不意打ちのキスに口では文句を言いつつも、他が正直な彼女は縋るように抱きつき、すこうし背伸びしてリューインに近付く。
「……続きをくれますか?」
彼にだけ聽こえるように、佳聲は甘く小さく囁いて。
「――ひかるさん」
而してリューインは勿論、愛しい戀人が望むものを呉れよう。
閃々と花火が夜穹を彩る中、二人の「温泉旅行でーと」も大成功となるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
【狼兎】
普段は温めると浮き出る奴隷印が気になって
誰かと入る時は基本水着やタオルで隠すんだけど
紫崎君なら知ってるしいいかなって
一応軽く隠すけど
はーあったかぁい
温泉入ると落ち着くねー
サムライエンパイアって紫崎君が住んでたとこだよね
やっぱこういう景色って懐かしいって思う事ある?
えーそうなの?
でもいい景色だと思うなぁ
僕は好きだよ
露天風呂の淵から花火を見上げ
花火って、見る場所を変えるとなんか、印象もちょっと変わるね
浜辺から見るのも綺麗だし
ホテルの一室から見るのも特別感あったけど
紫崎君と同じ記憶を共有できてるのかもって思ったら
これはこれで特別感というか
紫崎君の様子には花火に夢中で気づく事は無く
はぁーい
紫崎・宗田
【狼兎】
普通に腰にタオル一枚だけ巻き風呂へ
男同士だし俺は然程気にしねぇんだが
澪の奴が気にするみてぇだから
乙女じゃあるまいし、とは思っても言わねぇ
あ? あぁ……そうだな、俺の故郷だ
別に、思い入れのある場所でもねぇし
なんとも思わねぇよ
この世界自体はともかく
故郷というものに然程良い印象が無いためぶっきらぼうに
ただ、記憶を共有~の言葉に少し驚き
……共有、ね
んな事言われたのは初めてだわ
コイツと一緒なら
少しは家族の見え方も変わってくるんだろうか
故郷を懐かしいと思えるようになるんだろうか
ふとそんな事を思い自嘲の笑み
特別は良いが、あんま長風呂してのぼせんなよ
想いは隠すように澪の頭を軽く撫で
そっと花火を見上げた
大自然を切り出したような絶景を眼路に据えつつ、露天風呂に浸かる。
寒さの嚴しい師走、出羽は延沢の湯治場を訪れた紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)は、ほうと吐く吐息が忽ち白氣と立ち昇るのを眺めつつ、此度の旅伴を迎えた。
いや、此度もと云うべきか――。
朦々と漾う白い湯気、芳しい湯馨を連れて現れた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、繊麗の躯をそっとタオルに隠しつつ、少し遠慮したような足取りで湯に近付く。
「えっと、紫崎君なら知ってるしいいかなって思ったんだけど……」
「俺は気にしねぇ」
「うん、そう言ってくれると思った」
でも一應は、と輕く断りを入れて覆うのは、右の横腹に刻まれた奴隷の印。
普段は目に見えないが、躯が熱を帯びると薄赤く浮き出る其が気になって、澪は誰かと温泉に入る時、基本、水着やタオルで隠している。今日も手は右脇に触れた儘だ。
澪の過去も祕密も知る宗田は、せめて二人きりの時くらいは気遣う事が無いようにと、普通にタオル一枚だけを腰に巻いて浴場に來た訳だが、澪が気にするなら「気にするな」とも言わない。而して繊麗の躯をタオルに覆える姿は中々に艶々しいが、「乙女じゃあるまいし」とは思っても言わない。
宗田は澪に向けていた鼻筋をついと雪景に遣ると、幾許の意地悪を零して、
「男同士、俺は全然気にしねぇし。チビの豆猫が風邪引かないか気になるくらいだ」
「っ、チビでも豆猫でもないし!」
「ん、早く入れって。本当に風邪引くぞ」
と、雪白の繊手をグイと引っ張り、温かな湯の中に迎え入れるのだった。
†
まろやかな湯にじっくりと温められた身なら、山峡より吹き颪す風も心地好かろうか、二人は頬を撫でる夜風に目を細めつつ、ゆったり長湯を愉しむ。
「はーあったかぁい……景色も綺麗だし、落ち着くねー」
「あんまり景色に見惚れ過ぎて、のぼせんなよ」
「そ、そんなドジじゃないもん」
口は悪いが、宗田が面倒見の良い事は佳く理解っている。
己を心配しているのだろうが、それにしても素直じゃないと櫻色の脣を尖らせた澪は、不圖(ふと)、彼が先程から視線を投げる景色へ、琥珀色の佳瞳を注いで云った。
「――ねぇ、サムライエンパイアって紫崎君が住んでたとこだよね」
「あ? あぁ……そうだな、俺の故郷だ」
互いに冬天の絶景を眺めつつ、白気を挟んで聲を交す。
「やっぱこういう景色って懐かしいって思う事ある? ほら、郷愁みたいな……」
「別に、思い入れのある場所でもねぇし。なんとも思わねぇよ」
「えーそうなの? いい景色だと思うけどなぁ」
淡々と言を返す宗田に、金糸雀の聲の語尾を持ち上げる澪。
人里ならではの銀世界も佳し、独特の奥床しさや、時の流れをゆっくり感じられる所も良いと瞳を細めた佳人は、湯面から覗かせた玉臂に細顎を乗せ、佳景を見ながら言う。
「僕は好きだよ」
蓋し宗田は如何だろう。
管理される事への反発心から不良の道へと突っ走った結果、故郷を追われる事となった彼には、この世界は兎も角、故郷というものに良い印象が無い。
「郷愁、ねぇ……」
硬質の五指を櫛に、濡れ髪を掻き上げた宗田は、澪が水を向けた会話もぶっきらぼうに躱すつもりだった。
紫紺の夜穹に鮮やかな火華が咲き亂れたのは、この時である。
「わぁ……綺麗……!」
「――打ち上げ花火か」
二人の佳聲が奇しくも重なった頭上では、赤に緑、白と、クリスマスカラーに彩られた小花千輪が天蓋いっぱいに滿ち広がる。
遅れること数秒して響き渡る音が、透み切った空気を搏くのも晴れ晴れとして心快く、燦然の光に花顔を照らした澪が、しみじみと情趣を味わいながら云った。
「花火って、見る場所を變えると、なんか印象もちょっと變わるね」
浜辺から見るのも綺麗だったし、ホテルの一室から見るのも特別感があったものだが、宗田の故郷たる侍の國、露天風呂から仰ぐのも情趣があろう。
「紫崎君と同じ記憶を共有できてるのかもって思ったら、これはこれで特別感というか」
同じ精彩を眺め、記憶を共有する――。
スッと通った鼻梁を眞直ぐ夜穹へ、散っては花開く花火を嬉々として仰ぐ澪は、若しか何気なく呟いたのかもしれないが、これを聽いた宗田は少し驚く。
「……共有、ね。んな事言われたのは初めてだわ」
或いはコイツと一緒なら。
少しは家族の見え方も変わってくるんだろうか。
故郷を懷かしいと思えるようになるんだろうか。
「――扨て、どうだか」
心の襞に押し込めた感情をいくつか振り返った宗田は、無垢な笑顔を見せる澪の横顔に自嘲じみた咲みを零すと、その想いを隱すように手を伸ばし、澪の頭を輕く撫でる。
淡く開いた佳脣からは、相變わらずの口調が零れて――、
「特別は良いが、あんま長風呂してのぼせんなよ」
「はぁーい」
今は花火に夢中か、可愛らしい返事をする澪に幾許かの微咲(えみ)を湛えた宗田は、それから視線を上に、万彩を広げる花火を靜かに眺めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
サムライエンパイアの土地のことはよくわからんが湯はいい。
は…花火というのが…多少気にはかかるが…まあ温泉はいい…。
(花火が打ち上がり破裂する衝撃が身体を振動させるのが苦手)
温泉に入りながら花火をみたら…あの衝撃が緩和されるかもしれん。
脱衣場で着替え髪と身体を洗い湯に浸かる。露と一緒に…になるか。
湯は『疲労回復』へ入る。…やはり温泉の湯は気持ちがいいな。
仕事や住処の薬草の手入れや山羊の世話など色々と疲労が貯まる。
その上に露が時々妙な行動や言動で疲れさせてくれるからな。
…時々は天然の薬湯のいい湯にでも浸かり身体を労わないと…。
「……いつもそうだが、湯に入っている時くらいは離れられんか?」
離れることを期待したが無駄に終わった。更にくっつかれてしまった。
…やれやれ…。
花火が上がる時は自然と少し緊張してしまう。あの衝撃は慣れない。
無意識に隣の露の手を握ってしまう程に花火の衝撃は慣れない。
「…こればかりは…慣れないようだ…」
露は呆れるどころか『可愛いわ~♪』という始末で。満足気で。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
出羽って確か北の方の山奥…だったかしら?
うーん。まあいいわ。それよりも温泉よ!
花火も上がるみたいだし温泉の中からでもみれるかしら?
花火苦手だからまた可愛いレーちゃん見れるかも♪
宿のお部屋入ったら早速温泉へ。あー。待ってレーちゃん!
脱いで髪と身体洗ってからゆっくりのんびりお湯に浸かるわ。
久々にサムライエンパイアの温泉入ったけどやっぱりいいわね♪
レーちゃんも気持ちよさそうで幸せそうだし、嬉しいわ♪
「あ! 花火始まったわ♪」
温泉のお湯の中で見る花火もいいわね。お湯に映って綺麗だわー♪
始まってしばらくしたらレーちゃん手をぎゅっ…って握ってきて。
あは♪やっぱり可愛いー。すっごいオブリビオンには平気なのに。
「…大丈夫? 手だけじゃなくって、ぎゅっ、ってしてあげようか?」
答え聞かないうちにぎゅっ…てしちゃうけどレーちゃん無反応だわ。
そんなに怖いのかしら?なんだか身体に響くからダメみたいだけど。
思いついてレーちゃんの頭をよしよしって撫でてみるわ。
…あれ?何だか不本意って表情ね。
出羽國は延沢の山峡に開かれた湯治場は、淸流を挟んで多層建築の旅籠が軒をつらね、朝方に降った雪を残す屋根も、黄昏を迎えて窓に灯り始めた燈火(あかり)も、訪れる者を湯けむりの旅情に包み込む。
ほつほつと橙色の灯を点す燈籠を眼路の脇に送りつつ、雪花の舞う石畳の路を歩き來た神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は、嚴寒の冬と共生する人里ならではの銀世界を見渡しながら、ほう、と白い息を零す。
「出羽って確か北の方の山奥……だったかしら? 風がつめたーい!」
美し金糸雀の聲も、忽ち白氣と變わって立ち昇るほど。
白磁の繊指がきゅっとマフラーを摘み上げれば、凛冽の風こそ心地好いと受け取るか、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)が佳脣を添える。
「サムライエンパイアの土地のことはよくわからんが、湯はいい」
柔らかくまろやかな泉質が良いと、玻璃の如く透徹った美聲に色は無いが、だからこそ佳脣を滑る全てが眞実。その言には嘘も盛飾も無い。
戛々と上質なブーツの音を石畳に響かせたシビラは、渓谷美溢るる太鼓橋を渡りつつ、湯馨の漂う温泉街をスタスタと歩いていく。
「そうね、兎にも角にも温泉よ! 聽けば夜には花火も上がるみたいだし、温泉の中から見られるかしら?」
シビラに遅れること数歩、而して直ぐに追いついた露は、スッと背筋の伸びた麗人の背に兩腕を回し、ぎゅうとくっつきながら本日の宿を目指す。
斯くしてぴったり寄り添えば、稀有しく戸惑いを滲ませるシビラの言も聽こえるか。
「は……花火というのが……多少気にはかかるが……まあ温泉はいい……」
エンパイアの温泉は好ましい。
然し打ち上げ花火の破裂音がほんのちょっぴり苦手だとは、露なら知っていよう。
佳人はシビラには見えぬ背後でニコニコと咲みを零し、
「温泉と花火、とっても樂しみねー♪」
(「レーちゃんは花火苦手だから、また可愛い反應が見れるかも♪」)
と、抱擁を強めつつ、雪華の舞う暖簾を潜るのだった。
†
四階の部屋の見晴らしを確認した後は、直ぐに脱衣所へ。
而して手早く衣類を脱ぎ、足を迷う事なく露天風呂に向かったシビラは、流れるような手付きで手桶を取り、月白の繊指から玉臂へと湯を掛けて身体を馴染ませていく。
「ほんのり乳白色の濁り湯……効能は疲労回復か」
「あー。待ってレーちゃん!」
泉質や効能の書かれた看板を眺めていると、脱衣所から慌てたような聲が響く。
軈て欣々(いそいそ)と露天風呂にやってきた露は、眼路いっぱいに飛び込む絶景――出羽の大自然を切り出したような景色に、月色の瞳をぱあっと輝かせた。
「レーちゃん! 一面の冬景色が綺麗だね!」
「ああ、元いた世界を思い出す」
吹雪いていたらより近かったろうと零すシビラは、極寒の地の出身。
白銀と靜寂が支配する世界を重ねる彼女の傍ら、ちょこんと浴い場に身を屈めた露は、月光を浴びたような艶髪を解いて湯を潜らせ、丁寧に洗髪を済ませると、次にモコモコと石鹸を泡立て、絹の如き肌膚を白泡で洗っていく。
勿論、先行したシビラも遅れは取るまい。
彼女も滝の如く煌く銀髪を濡らすと、備え付けのご当地シャンプー&コンディショナー(番台で販売中)で洗い上げ、こちらもフワフワの泡で極上の美肌へ。
最後に洗い髪を纏めたなら、長湯を堪能する準備は万全だろう。
「これでゆっくり、のんびりお湯に浸かれるわぁ」
「この流れは、矢張り……露と一緒に……なるか」
露は莞爾と爪先をちゃぷちゃぷ、シビラは露を横目で見ながら踝までちゃぷん。
瑞々しい脚が膝まで湯に沈めば、二人はそうっと身を屈めて腰を落とし、周囲を縁取る石を背凭れに肩まで浸かる。じっくり浸かる。
蓋し仲良く隣り合うつもりが、気付けばぎゅうっとくっついているのが露だろう。
シビラは白金の彩瞳をついと眦尻に寄越し、
「……いつもそうだが、湯に入っている時くらいは離れられんか?」
「いつもくっついているから、お風呂でも離れないようにするの♪」
「……。…………。……やれやれ……」
離れるよう云った心意(つもり)だったが、より密着されて無駄に竟る。徒労。
これでは半分が露にて、半分しか藥湯を味わえないような気がしたが、なんやかんやでじんわりと沁む温もりが心地好かろう。
贅沢にも掛け流しに、ゆうらと湯面を波紋(なみ)にしては縁の石を濡らしゆく湯は、長湯に最適な温度を以て浴(ゆあみ)する者を温めていく。
――畢竟、極樂と云った處。
「久々にサムライエンパイアの温泉入ったけど、やっぱりいいわね♪」
掌に一掬いし、サラサラと零れゆく湯の柔らかさに瞳を細めた露は、湯治客が絶えぬと言う出羽の天然湯をうんと味わって。
佳人の隣、後れ毛の艶々しく光る頸筋(うなじ)へと湯を注ぐシビラは、肌膚も耀きを増して艶々と、肢軆は滴るほど濃艶になる。
「……やはり天然湯は気持ちがいいな。熱さも丁度佳い」
ぎゅうっと抱き包まれる感覚に疲れが解けていくよう。
普段は猟兵としての仕事の他に、住処の修繕や藥草の手入れ、また山羊のお世話など、様々な作業をこなしているシビラは相應に疲労が溜る。
「そのうえ露が時々妙な行動や言動で疲れさせてくれるからな」
「? なぁに?」
「……時々はこうして天然の藥湯にでも浸かって、自分自身を労わないと……」
「心のお洗濯をするのね♪」
ニッコリと相槌を打つ露は、シビラの疲労の一端(?)を担っている事はお湯に流し、彼女の柔肌が漸う桃色に、美しく上気していく様にこそ幸福を覚えよう。
「レーちゃんも気持ちよさそうで幸せそうだし、嬉しいわ♪」
彼女の幸せこそ己の喜びと、ふくふくと咲む露もまた湯を滑るほど艶麗を帯びる。
而して吹き抜ける夜風も心地好く感じる程に温まった二人は、軈て紫紺の夜穹に万彩が――花火が打ち上がる瞬間を迎えた。
「あ! 花火始まったわ♪」
「――……來る」
花顔に喜色を差して夜穹を仰ぐ露に對し、少し身構えるシビラ。
しゅるしゅると天を昇りゆく前動作から緊張するが、夜の帳を閃々と白ませて数秒……光に遅れて響く音の波動、破裂の衝撃には慣れた驗(ためし)が無い。
心身をリラックスさせる温泉に入りつつ見れば、少しは緩和されるやも知れぬ、と――いつの間にか紅脣を引き結んでいたシビラは、無意識に露の手を取った事にも気付いてはいない様子。
「お湯の中で見る花火もいいわね。お湯に映って綺麗だわー♪」
光が躍るようだと微笑を零した露は、時に湯の中でぎゅっ……と手を握られ、その強さに愛しさが零れる。
「あは♪ やっぱり可愛いー。強張ってる♪」
「……こればかりは……慣れないようだ……」
「すっごいオブリビオンには平気なのに、不思議ねー」
「……温泉に入りながらなら、と思ったが……」
この間にも小花千輪は咲き亂れ、赤に緑に白と、クリスマスカラーを彩れば、間もなく黄金の錦冠菊が一際の華輪を咲かせるので、シビラはぽつぽつと言うのが精一杯。
にごり湯の中では、繊手が繊手を力いっぱい握り込め、まるで縋り付くよう。
これには露も優しく語尾を持ち上げて、
「……大丈夫? 手だけじゃなくって、ぎゅっ、ってしてあげようか?」
「………………」
答えを待つ間も無く、繋いだ手ごと抱き締めるように包み込む。
「うんうん、ぎゅってしてあげるね?」
「………………」
而してそうっと小首を傾げて窺うも、矢張り、シビラに反應は無し。
「いつもなら離れるよう言われるんだけど……その余裕も無いようね」
目下、彼女は肌膚に身体にと響く振動を耐えるべく、精神集中――つまり我慢しきっているらしい。
「そんなに怖いのかしら? ……よしよし、大丈夫、大丈夫♪」
ぱちくりと瞳を瞬いた露は、不圖(ふと)、思いついて頭を撫でる。
花火は決して害を成すものでないと、そんな思いも込めて優しく撫でてみるが、シビラの麗顔を見れば、大いに曇っており――。
「……あれ? 何だか不本意って表情ね」
「……お察しの通りだ」
暫しの沈默を経て滑った言は幾許かの皮肉。
若しか露には呆れられると思ったが、それどころか彼女は「可愛いわ~♪」とくっつく始末で、その餘りに倖せそうな、滿足気な表情がシビラには遣る瀬無い。
然しもっと遣る瀬無いのは、露の子供扱いや抱擁を不本意に思いつつも受け容れている自分――花火の閃轟を苦手としている自分自身だろう。
麗人は品佳い鼻梁をついと反対側へ逸らすと、ぽつりと一言、
「……花火が終わるまでだ」
と、繋いだ儘の手をぎゅうっと握る。
その表情や仕草もまた可愛い♪ と露が蕩けたのは言うまでも無い――。
澄み渡る冬天に華火閃々――。
露天風呂で、旅籠の窓辺で、或いは淸流に掛かる太鼓橋で。様々な場所で打ち上げ花火を仰いだ猟兵は、其々の思いを祕めて眠りに就く。
そうして朝を迎えれば、彼等は身も心もスッキリと疲れを吹き飛ばしていたろう。
新しい年を迎える準備は万端。
猟兵たちは間もなく訪れる未来に向かって、出羽の湯治場を発つのだった。
大成功
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