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雪の鯨と夢彩世界

#アルダワ魔法学園 #お祭り2021 #クリスマス

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●白の景色と夢魔法
 雪色の世界にふわふわとした雲が浮かんでいる。
 冬の空のような澄んだ色彩に包まれた迷宮内には、雪化粧をした魔法の鯨と幻影の魚達が悠々と游いでいた。
 此処は夢の力が巡る場所。
 魔法の鯨があげる白の飛沫は、ふかふかのベッドのような雲になっていく。
 不思議なのはこの魔法の鯨だけではない。この場所で眠ると、近くにいる者と『同じ夢を見る』ことが出来るという。
 ふわりと浮かぶ雲の寝台に身をあずけて、雪色の鯨に護られた世界で見る夢。
 それはきっと、幸せを運ぶものになる。

●夢色に游ぐ
 アルダワ魔法学園の中に夢の魔力を研究する工房がある。
 工房が今年に開発したのは、夢の力を受けて発光する鉱石ランプだ。迷宮内の或るフロアで収集される魔力を宿したランプ。それはクリスマスを機に、学園の子供達にプレゼントされる予定だったのだが――。
「少しばかり夢の力が足りぬようなのじゃ。お主達、手伝ってくれぬかの」
 鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)が皆を誘ったのは、地下迷宮にある魔法の鯨が泳ぐフロアだ。空を舞う不思議な鯨がいる其処は、とても幻想的な世界になっている。
 以前にも臨時学校教師になるために訪れた者がいるやもしれぬ、と付け加えたエチカは詳しい話を語っていく。
「手伝いとはいってもやることは簡単じゃぞ。ふわふわの雲のベッドで眠って、楽しい夢を見てくるのじゃ!」
 そうすれば夢の魔力が巡り、ランプに入れ込むための鉱石に力が補充される。
 精製や加工などの細かな部分は工房の者がやってくれるので、猟兵達は自分達の夢を楽しめばいいそうだ。
「其処で眠れば、近くにいる者と同じ夢に入れるからの。友人や家族、恋人などと一緒に夢を楽しんでくるとよい。もちろん、ひとりで夢に浸るのも素敵なのじゃ」
 眠る前に見たいことを思い浮かべれば、それに似た夢が見られるらしい。
 自分が成長した姿。家族や恋人との未来。
 ありえないけれどこうだったら良いと願った光景。或いは本当の将来の夢。どのような夢にするかは自分次第。
 しかし、何も考えずに眠ってしまうのもいい。どんな夢を見るのか楽しみにする心も夢の魔力を強くするものだ。
 また、敢えて眠らずに鯨や魚と遊ぶことも推奨されている。
 フロア内では誰でも自由に空を飛べるので、雪を纏った鯨の背に乗ったり、幻想の魚と戯れて遊んでいくのもいいだろう。
「協力した者には夢の鉱石ランプをくれるそうじゃ。鉱石は夢の色を映した色彩になるらしいからのう。どんなものが貰えるかも楽しみじゃな!」
 そうして、エチカは仲間達を送り出す。
 未来への夢。胸に抱く夢。
 白の鯨に見守られ、君達は視る夢のかたちは――。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『アルダワ魔法学園』
 夢の力で鉱石ランプを作る工房の、魔力集めのお手伝いをしましょう!

●概要
 場所は魔法の鯨が泳ぐ迷宮フロア。
 冬の空のような景色が広がっていますが、ふんわりと暖かい空気です。
 過去シナリオ『空の鯨と夢色世界』に登場した場所と同じです。そちらを知らなくともお楽しみ頂けますのでご安心ください。
 今回の鯨は頭や背中に雪化粧を纏っていて、のんびりと迷宮内を泳いでいます。

 夢を見るか、鯨や魚と遊ぶか、どちらかひとつをお選びください。
 どちらでも終わった後に夢の魔力が宿った鉱石ランプが貰えます。どんな色の鉱石なのかは夢や遊びの内容次第となるので、こちらにお任せください。

●夢の世界について
 夢では自由なシチュエーションが設定できます。
 ありえないけれどやってみたいこと(立場や男女逆転、動物化、子供化、宿敵と仲良くしている場面、もしも二人や兄弟や恋人だったら、違う世界に生まれていたらなどのIF展開など)をどうぞ。
 楽しい夢を推奨していますが、シリアスや物悲しい雰囲気でも大丈夫です。

●その他
 内容のお任せも可能です。
 お任せの場合はプレイング冒頭に『🐳』マークを付けてください。
 ただし夢は夢なので、思うような夢が見られないこともあります。予想と違っても大丈夫だという方のみお任せいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いします!

 お呼び頂ければ鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)がご一緒します。
 ひとりだけど誰かと過ごしたい、グループに加わって遊んで欲しいなどなど、初対面でもお気軽にどうぞ。呼ばれなかった場合は登場しません。
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第1章 日常 『夢見る鯨は空を飛ぶ』

POW   :    鯨達と共に泳ぎ思いきり体を動かす

SPD   :    鯨達に餌やりをして戯れる

WIZ   :    空を飛ぶ鯨達を眺めながら飲食を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

三上・くぬぎ
🐳◎
もきゅ! すごいです、クジラさんが空をおよいでるですー!
雪化粧もして、とってもきれいですね
少しのあいだクジラさんやお魚さんたちといっしょに空をふわふわ飛んで散歩したあとで、雲のベッドにダイブ
わーい、ふかふかですー!
心地よくてすぐにすやすや。おやすみなさい

今日は夢の中をたんけんするですよ
どんなところか、何がおきるか全然わからない未知のせかい
どんな夢でも興味津々。いっぱい楽しむです
ドキドキワクワクですー♪



●夢と季節の色
 冬空めいた景色が広がる迷宮内。
 不思議と夢の力で出来たフロアには、雪化粧を纏った魔法の鯨や魚が游いでいる。
「もきゅ! すごいです、クジラさんが空をおよいでるですー!」
 迷宮の中に広がる澄んだ空を振り仰ぎ、くぬぎはもふもふでしなやかな尻尾をぱたぱたと揺らした。周りを見渡すくぬぎは愛用の虫カゴを揺らしながら、ふわふわと浮かぶ魔法の雲を渡っていく。
「クジラさん、雪のいろも似合ってとってもきれいですね」
 くぬぎは魔法の鯨を振り仰ぎ、暫し魚達と戯れた。雪が積もった鯨の背中に乗ると、さくさくと綺麗な足跡がつく。それを追うように魚が泳いできたので、くぬぎは腕をそっと伸ばしてみた。
「ふふ、くすぐったいですよー!」
 魚が可愛い前足の指先をつついてきたことで、くぬぎはとても楽しい気持ちを抱く。
 そうして、空中散歩を楽しんだあと。
「わーい、ふかふかですー!」
 くぬぎは近くに飛んでいた雲のベッドに飛び込む。
 大きな綿、或いは羽毛布団のような感触の中でころりと転がったくぬぎは心地よさを胸いっぱいに感じた。そうしていると、ゆったりとした眠気が巡ってきた。
「……ふわぁ、おやすみなさい」
 すやすやと眠りはじめたくぬぎは夢の世界に誘われていく。
 それから、くぬぎが見る夢は――。

「にゃ?」
 気付けば周囲の景色は夏空と森が広がる光景に変わっていた。それだけではなく、くぬぎの身体は猫になっている。浮き立つような気持ちを覚えたくぬぎは、猫の肉球を自分でぷにぷにと触ってみた。
 まるで火車さんめいたもっふもふの毛並みになったくぬぎの身体能力は、かなり向上しているらしい。そう気付いたら色々と試してみたくなるもの。
「えいっ!」
 地面を蹴れば木の上までひとっとび。
 登った枝の上にはたくさんのカブトムシやクワガタが楽しそうに過ごしている。くぬぎが虫取り網を振るおうとすると、昆虫たちはお茶会に誘ってくれた。
 ちいさなちいさなティーカップを渡されたくぬぎはカブトとクワガタの愉快なお茶会でたくさんのお菓子を食べた。
「おいしいです。ずっとここにいたいですー♪ でも……」
 くぬぎは夏空を見上げる。
 あの雲の向こうにまだ見ぬ世界が待っているような気がした。新たに生を受けたモーラットキャットとしての冒険心が疼く。
「カブトムシさん、クワガタさん。おせわになりました。くぬぎキャットは未知のせかいに飛び出してくるですよ!」
 そうして、名残惜しくも感動の別離を経たくぬぎは駆け出す。
 途中で虫カゴが完全変形してガジェットロボ仕様になったり、虫取り網が魔女の箒代わりになったりと様々な出来事が巡っていって――ドキドキとワクワクでいっぱいな夏世界の夢は、まだまだ続く。
「むにゃ……ご主人もおいでおいで、です……」
 楽しげな寝言を口にするくぬぎ。
 そんな彼女の傍には、夏の空のような青の鉱石が宿ったランプが置かれていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜


綺麗な鯨
やさしい色を纏ってる
ふわふわの雲のベッドにぽふり寝転んで
夢を選べるなら、わたしは――逢いたい
もし生きてたら、先生と過ごす未来があったなら

自分の姿は変わらない
記憶と違わぬ青年に駆け寄り勢いよく飛び付いて

昊く……先生!
今日は何を教えてくれるの?
複合魔法を生み出す実験?
魔力が定着した魔鉱石の加工?
あ、新しい使い魔と契約をするんだっけ?

ねえ、せんせ――ふぇ?
もう!落ち着けって言いながら頬引っ張らないでよ

そらくん。昊くん――だいすき
にひひ、伝えたかっただけ!
昊くんもわたしのこと好きだもんね
知ってるよ。だってわたしは先生の弟子だもん

いつまでも変わらないから
だからずっと想わせて
わたしだけの魔法使い



●わたしだけの魔法使い
 美しい雪を纏った鯨は悠々と迷宮の空を舞う。
 やさしい色を宿した魔法の鯨を眺めた志桜は、その身をふわふわの雲のベッドに預けた。ぽふりと寝転んで見上げる空は澄んだ冬の色。
 これまでは冬が苦手だった。
 悲しい別れを経た季節の冷たい空気が胸を刺すようだったから。
 けれど、今は大切に思える。ずっと探し求めていた縁を繋ぎ直して、たくさんのことを誓った季節だから。
「夢を選べるなら……わたしは――逢いたい」
 志桜は彼の人の姿を思い浮かべる。
 もし彼が生きていたら。昊先生と過ごす未来があったなら。
 瞼を閉じた志桜は想いを馳せる。
 桜の花弁めいた雪の欠片が舞い落ちたとき、夢の世界が巡りはじめた。

「――昊く……先生!」
「遅い、遅刻だ。罰として魔法陣の書き取り百個」
「えーっ! 一分しか遅れてないよ!?」
 其処は懐かしい彼の工房と、志桜の工房が混ざりあったような部屋。不服そうに頬を膨らませた志桜が見つめているのは、あの頃と変わらぬ仏頂面を見せる青年――昊だ。
 志桜の髪が桜色なのは、この世界では昊が魔力を分け与えてくれているから。
「一分でも遅刻は遅刻だ」
「それよりも、おそと寒かった! 昊くんだけストーブにあたっててずるい!」
 志桜は彼が嫌がるだろうことにも構わず、勢いよく飛び付いた。顰めっ面をした昊は抱きついてくる弟子の頬を両手で引っ張る。そのまま引き剥がすつもりらしい。
「冷たい。俺まで寒くなる。離れろ志桜」
「いーやーでーすー」
 暖を求める志桜は昊にくっついたまま。
 本来なら制約があるはずの彼がこうして名前を呼んでくれるのも、此処がすべての障害が消えた夢の世界だからだ。
「今日は何を教えてくれるの? 複合魔法を生み出す実験? 魔力が定着した魔鉱石の加工? あ、新しい使い魔と契約をするんだっけ?」
「落ち着け」
「ねえ、せんせ――ふぇ? いたたた、本気で引っ張るのはなし!」
「志桜がくっついて離れないからだろうが」
 暫しの攻防を重ねながら師匠と弟子はじゃれあう。相変わらず少し暴力に訴えてくるところは変わらない。こんなやりとりもまた嬉しくて楽しくて、懐かしい。
 志桜は一度彼から離れ、隣の椅子に腰掛ける。
 机に広げられているのは魔導書やメモ書き、触媒道具。それは志桜のために彼が用意しておいてくれたものなのだろう。
 彼から教わる魔法。学ぶ理論。受け継ぐ魔力。
 こんな世界が本当にあったら。きっと幸せで堪らない。しかし、志桜はこれが夢だということを理解している。
 そっと彼に身を寄せ、肩を預けた志桜は想いを言葉にした。
「そらくん。昊くん――だいすき」
「何だよ、急に」
「にひひ、伝えたかっただけ! 昊くんもわたしのこと好きだもんね」
 片目を閉じて怪訝な顔をした昊に向けて、志桜は微笑みかける。
「あ? 勝手に決めんな」
「知ってるよ。だってわたしは先生の弟子だもん」
「まぁ……嫌い、ではないな。こんなでも俺の弟子だ」
 昊は志桜の頭をくしゃりと撫でた。少し乱暴だけれど、志桜は知っている。それが彼の好意のあらわれだということを。
 不器用で素直ではないけれど、志桜は彼のことを大切に想っている。
 この気持ちはいつまでも変わらない。
 だから、ずっと想わせて――。

 その夢の色彩は、桜を思わせる淡い彩と空色の青が混ざりあった美しい色。
 ふたつの色を宿した魔法の鉱石には、仄かで優しい光が灯っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

テティス・カスタリア
【水精】
(参照シナリオID:24326(3章))
「アトラ、助けて」
そう言って引っ張ってきた
「?手伝いだって」
だから助けてって言った、けど(首傾げ)
「寝るの。それだけ」
此処、…同じ所かわからないけど、前に同じ船に乗ってるヤドリガミともこんな感じの所には来た
だから危なくないの知ってる
鯨と遊んでもいいけど、アトラ相変わらずいつも眠れてなさそう
少なくとも、気持ちよくは
それに、ランプならきっと船の中でアトラも使える
何だっけ
「…一石二鳥?」
もう膝枕も腕枕も誘わない
アトラが許してくれる言葉は、きっとこう
「一緒に寝よう、アトラ」
夢…前にあげたシロップとアイマスクの材料になった夜糖蜜持ちの眠りネズミに会う、とか


アトラム・ヴァントルス
【水精】
ティティに助けてと言われアルダワに来たわけですが…?
どこか怪我をした様子でもないので理由を尋ねれば……大事がなくてよかったんですがね(少し困った笑顔で)

どうもこの子は私があまり寝ない事を良しとしてくれないようだ。
多少は私の性分なところがあって見逃してほしいとは思うのですが(集中すると眠るのを忘れる・夢見が良くない等)、医者の不養生と言われればそれまでなので仕方がない。
確かに報酬の鉱石ランプは興味深い。
ティティの憂いが少しでもなくなるのなら、その手伝いに付き合いましょう。

一緒に寝ようという提案に頷き隣に寝ます。
おやすみ、君がいい夢を見れば、私の夢もきっと良いものになると思いますよ。



●眠りの魔法と想いの巡り
「――アトラ、助けて」
 今日、二人が此処に訪れた理由。
 その始まりは、テティスがアトラムに願ったそんな一言からだった。
「ここは、アルダワですか……?」
 詳しい話はせずに引っ張ってきたことでアトラムは少しばかり困惑している。テティスは魔法の空間を泳ぐ鯨や魚を見上げ、淡い色の瞳を細めていた。
「きれい」
「誰かが怪我をした様子でもないようですね。どうかしたんですか?」
「? 今日は、手伝いだって」
「なるほど、どこも大事がなくてよかったんですがね。もう少し詳しく話して欲しかったような気がします」
 アトラムは少し困った笑顔を浮かべながらも状況を理解した。
「だから助けてって言った、けど」
 対するテティスは不思議そうに首を傾げる。アトラムは言葉少ななテティスらしいと感じつつ、魔法の雲の上に歩を進めた。
 テティスもふわりと泳ぎ、アトラムと眠るのに相応しい雲のベッドを探す。
 ちょうど二人分のスペースがある雲を見つけたテティスは、其処に舞い降りた。ぽんぽん、と雲の表面を手で撫でたテティスはアトラムを呼ぶ。
「寝るの。それだけ」
 此処は以前にも訪れた場所。
 同じ船に乗っているヤドリガミの彼とも一緒に夢を楽しみに来たところだ。それゆえにテティスはこの場所に危険がないことを知っている。
 テティスの傍に腰を下ろし、アトラムは考えを巡らせた。
(どうもこの子は私があまり寝ない事を良しとしてくれないようですね)
 確か以前、不思議な夜の国でもこういったことがあった。
 あの日はわざわざ膝枕をしてくれようとしたのだが、流石に遠慮したのだ。自分のことでテティスの足を痺れさせることはしたくなかった。
「眠るだけ、ですか……」
 正直を言えば、多少は此方の性分であることを見逃してほしい。集中すると眠るのを忘れることや夢見が良くないことも手伝って、アトラムは眠りに重きを置いていない。
「……嫌?」
 テティスとしては鯨と遊んでもいいが、相変わらずいつも眠れていなさそうなアトラムに無理はさせたくなかった。きっと願えば応じてくれるだろうが、少なくとも気持ちよくはないはずだ。
 アトラムはテティスの視線を受け、首を横に振る。
「いいえ、医者の不養生と言われればそれまでなのですが……」
 仕方がないと分かっているとはいえ、アトラムとしては少しばかり複雑な気持ちもあった。しかし、嫌かと聞かれればそうではない。
 大丈夫だと答えたアトラムに向け、テティスは今回の報酬について話す。
 夢について学園で研究している工房の者達が開発した魔法の鉱石ランプ。それは説明通りに夢の力を用いて、光を宿すという代物らしい。
「ランプ、貰えるんだって。それならきっと船の中でアトラも使える」
「確かに鉱石ランプは興味深いですね」
 アトラムは頷き、協力ならば惜しまないことを伝えた。
 それにテティスが自分を心配してくれている。その憂いが少しでもなくなるのなら、手伝いに付き合うことも悪くない。
「それに、何だっけ」
「一挙両得ということですか?」
「そう……あと、一石二鳥?」
 テティスはもう彼を膝枕や腕枕には誘わない。アトラムが許して受け入れてくれる言葉はきっと、こうだから。
 ころりと雲のベッドに寝転がったテティスは、アトラムを手招く。
「一緒に寝よう、アトラ」
「はい、お供しましょう」
 テティスの提案を受けたアトラムは、その隣に身体を横たえた。夢見が悪いのはテティスの夢を一緒に視ることで解消されるだろう。
 それは今だけのことだが、テティスからの好意を無下にはしたくなかった。
「アトラ、おやすみなさい」
「おやすみ、ティティ」
「夢……良いのが見られるといい」
「君がいい夢を見れば、私の夢もきっと良いものになると思いますよ」
「……ん」
 テティスはアトラムを見つめた後、そっと考えを巡らせた。
 どのような夢にしようか。テティスは以前にあげたシロップとアイマスクの材料になった夜糖蜜を想う。そうだ、あの眠りネズミ達にもう一度会う夢がいい。そんなことを考えながら、テティスは目を閉じた。
 テティスに倣い、アトラムもゆっくりと瞼を落としていく。
 さあ――楽しい時間を、もう一度。

 そうして、二人は同じ夢に浸った。
 現実と夢の狭間で過ごした時間は彼らにとって癒やしになっただろうか。
 やがて、彼らの夢の色を受けた鉱石は透き通った海の彩と、夜空めいた藍色を映した美しいものに変わりゆく。
 ランプに灯される火はきっと、やさしい色彩になっていくのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
🐳◎
寒さでむにゃむにゃ微睡んでたら、久しぶりに冒険へのお誘い!
ティエル(f01244)といっしょにクジラさん(リターンズ)!

ミフェットの夢は、記憶容量のクラスタチェック。見たものを整理整頓するだけ
でもクジラさんの夢、ティエルの夢は、すっごく楽しかった、はず!
夢だから覚えてないのです
でも、だから見るまで分からない。楽しみにしながら雲のベットでお昼寝するね

ティエルと並んでふわふわに埋もれて、羊がいっぴき、羊がにひき……
どんな夢が見れるのかな?


ティエル・ティエリエル
🐳◎

ミフェット(f09867)とまたまた夢の世界にれっつごーだ!今度も楽しい夢が見れるといいね♪
友達のミフェットと一緒に見る夢ならどんなのでもきっと楽しいはず!
きっとまたまた大冒険とかしちゃうんじゃないかな!

それじゃあ、ふわふわ雲のベッドに飛び込んで、ひつじが三匹、二匹、一匹!おやすみなさーい♪

お仕事後にもらえる鉱石ランプも楽しみだね!
ボクはどんなのもらえるかなー♪



●進め、銀夢探偵団!
 寒さでむにゃむにゃと微睡む季節。
 冬眠でもしていたいほどに空気が冷たくなってしまう季節だけれど、素敵な催しと冒険の気配がしたならば、ひとりで眠ってなんていられない。
 連れ立ってアルダワ魔法学園に訪れたティエルとミフェットは今、久々に出会う鯨の上に乗っていた。ゆらりと游ぐ鯨は穏やかでやさしい。
 周囲にふわふわと浮かんでいる雲のベッドは不思議なあたたかさを宿している。
「ミフェット、またまた夢の世界にれっつごーだよ!」
「クジラさんリターンズ!」
 明るい笑みを交わした二人を歓迎するように、魔法の鯨が白い飛沫を上げる。以前とは少し違った様相の鯨だが、どうやらティエル達のことを覚えているらしい。
 舞い上がった飛沫は雪に変わり、ふわふわと迷宮内に広がっていく。暫し魔法の雪景色を楽しんだティエル達は、二人が一緒になって眠れるちいさな雲に降り立つ。
「今度も楽しい夢が見られるといいね♪」
「うん、次はどんな夢になるかな」
「ミフェットと一緒に見る夢ならどんなのでもきっと楽しいよ! きっとまたまた大冒険とかしちゃうんじゃないかな!」
「ふふ、じゃあさっそく寝ようか」
 楽しそうに語るティエルがミフェットの肩口にふわりと下りた。ミフェットは背を雲に預け、夢についての思いを巡らせた。
 ミフェットにとっての夢とは記憶容量のクラスタチェックというだけのもの。人間もまた或る意味でそうであるように、見たものを整理整頓するだけの処理だ。
(でもクジラさんの夢……ティエルの夢は、すっごく楽しかった、はず!)
 確か前はかなり大きくなったティエルがいたような気がしたが、夢であったからかあまり覚えていなかった。でも、だからこそ見るまで分からない。
 ミフェットは楽しみな気持ちを抱き、そっと瞼を閉じた。傍に寄り添うティエルもぎゅっと目を閉じながら、夢の世界への思いを馳せる。
「羊がいっぴき、羊がにひき……」
「ひつじが三匹、二匹、一匹! おやすみなさーい♪」
 どんな夢が巡るのか。
 期待を抱いた二人が落ちていく眠りの世界は――。

「犯人はキミだ!」
 黒い影にびしりと指先を突きつけたティエルは今、探偵になっている。
 彼女の姿は妖精ではなく、普通の人間サイズだ。探偵帽とコートに身を包んだティエルの隣には、凛々しいスーツを着た助手のミフェットが控えていた。
「もう言い逃れできないよ!」
「ボクたちのオヤツを盗み食いした罪は重いんだよ!」
「ぴきゅー……っ」
 ティエルが示している犯人は口の周りをお菓子だらけにした一匹のモーラットだ。わたわたと慌てたモーラットは、ごめんなさい、というように頭を下げる。
 そう、此処はシルバーレイン風の夢世界。
 ティエルとミフェットは探偵騎士として、世の中の事件を解決してまわる大人気探偵コンビになっていた。
 今日は特別に誂えられた二人専用の探偵団事務所教室に用意していたおやつが何者かに食べられていた、という事件が発生していたらしい。
 しかしそれも名探偵ティエルによって見事に暴かれた。勿論、事件解決までにミフェットがしっかりサポートしていたことは言うまでもない。
「きゅぴぴ……」
「お腹がすいてたの? だったら、一緒におやつを買いに行こうか」
「いいね! モーラットくんの好きなお菓子も買えるよ」
「ぴきゅー!」
 ミフェットはモーラットを撫でてやりながら、もう大丈夫だと伝えた。ちゃんとごめんなさいをしたならば事件は解決。ティエルは探偵帽を被り直した後、モーラットを抱き上げる。今回は人間サイズなのでもふもふも抱っこし放題だ。
 そうして、二人と一匹は学園の購買に向かっていく。
 だが――其処に誰かの悲鳴が響き渡る。
「むむむ!」
「たいへんだよ、ティエル。事件がおこったのかも!」
「きゅ!」
 事件の予感を覚えた探偵と助手は声が聞こえた方に駆け出した。モーラットも何かを察したらしく、小さな耳をぴこぴこさせている。
「オヤツは少しおあずけだね。いこう、助手くんたち!」
「どんな事件だってミフェットとティエルの探偵団が解決するよ!」
 新たに増えたモーラットの助手を連れ、ティエル探偵達は進んでいく。彼女達が華麗に事件を解決する姿が見られるのは、あと少し先のこと。
「犯人をみつけたぞー♪」
「探偵団の勝ちだね……!」
 雲のベッドの上で寝言を呟く二人はとても楽しそうだ。どうやらまだまだ、不思議で楽しい探偵団の夢は続いていくらしい。

 そして、いつの間にか二人の枕元にはふたつのランプが置かれていた。
 その中に宿っている鉱石の色は美しい銀色。目覚めてから、お揃いの色の鉱石ランプを手に取った二人がどんな反応をするのかもまた、もう少し後のことになる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【天使組】

夢かぁ……僕最近悪夢寄りばっかりなんだけど大丈夫かな…
ふふ、慧華ちゃんが一緒なら安心だね

折角来たんだから、出来れば寝る前に少しだけ鯨さん達とも遊んでみたいね
僕も慧華ちゃんも飛べるから
迷宮内を一緒に泳いだり
背中に乗ってみたり

えっ、一緒に寝る?
んー……まぁいいか、一緒に寝よ
(ちょっとだけ性別を気にした)

夢の世界は思った以上に絵本感凄くてちょっとびっくり
猫にも犬にも翼が生えて…あれ、魚も飛んでる
寝る前の記憶って夢に反映されるっていうしね
どこかに空飛ぶ鯨もいるんじゃないかな
探してみようか

なんか、心配してたのが馬鹿みたい
慧華ちゃんと一緒にいると、自然と前向きになれる気がする

うん、ありがとう


朱雀・慧華
【天使組】
だいじょーぶ、私楽しい夢いっぱい見るよ!
自分の夢が怖かったら、私の夢に来ればいいんだよ!

ちょっとだけ鯨さん達とも一緒に飛びたいな
一時的に★靴の魔力で虹を作ろう
私の軌道に合わせて生まれる虹
きっととっても綺麗だから

メインはこっち
澪にいっしょに寝よー!って誘うね!

私の夢はとってもファンタジーだよ!
だって私神様だからね!

お菓子の家や七色に輝く湖
お星さまは金平糖で
空まで続く硝子の階段を昇ればお月様ともお話できるの
え、お魚も飛んでる?
あははー、寝る前に見たからかなぁ?

子供が憧れ夢見た絵本の世界をそのまま具現化したような
ふしぎなふしぎな御伽の夢
怖い夢なんて入ってこないよ
だから澪も、安心して寝てね



●神様の箱庭と夢の色
「夢かぁ……僕、最近は悪夢寄りの夢ばっかりなんだけど大丈夫かな……」
「だいじょーぶ、私は楽しい夢いっぱい見るよ! 自分の夢が怖かったら、私の夢に来ればいいんだよ!」
 空飛ぶ鯨が泳ぐ迷宮内のフロアにて、澪と慧華は魔法の雲を見上げていた。
 少し不安げな澪に対して慧華は明るい笑みを見せる。その笑顔を見た澪はふわりと微笑み返し、そっか、と頷いた。
「ふふ、慧華ちゃんが一緒なら安心だね」
「ね、一緒がいいよ。でも寝る前にちょっとだけ鯨さん達とも一緒に飛びたいな」
「いいね。折角来たんだから、出来れば鯨さん達とも遊んでみたいね」
「行こう!」
 元から飛翔できる二人だが、このフロアでは誰でも自由に飛ぶことが出来る。
 連れ立ってふわふわと浮かんだ二人はすいすいと泳ぐ魚達を越え、鯨の元に向かった。その際に慧華が靴の魔力で描いたのは美しい虹。
 彼女が動く軌道に合わせて生まれていく虹は、とても綺麗な景色を作っていた。
 それから澪と慧華は迷宮内を一緒に泳ぐ。雪化粧をした鯨の背中に乗ったり、周囲をくるくると回る魚と戯れたりと大いに冬の迷宮を楽しんだ。
 そうして暫く後。
 ここからが本番だとして、慧華は澪を雲のベッドが浮かんでいる方に誘う。
「澪、いっしょに寝よー!」
「えっ、一緒に寝る?」
「あれ? 私の夢に来るんじゃなかったの?」
「んー……まぁいいか、一緒に寝よ」
 澪はちょっとだけ、本当に少しだけ性別を気にしていたらしい。だが、慧華が気にしていない以上、あまり気に掛けすぎてはいけない気がした。
 二人は一緒に並んで寝るのに相応しい雲を探す。あまりぎゅうぎゅう詰めではいけないので、少し広めの大きな雲に乗ることにした。
 そして、澪と慧華は横に並んで雲に身体を預ける。
「私の夢はとってもファンタジーだよ!」
「本当に?」
「すごいから楽しみにしててね」
 だって自分は神様だから、と告げた慧華は得意気だ。澪はドキドキしながら目を瞑り、先に眠っていった慧華の後に続いた。
 魔法の力が巡っているフロアでは眠りもすぐに訪れる。
 次に目を開いたとき――否、眠りの世界に到達した瞬間。澪の視界にはとてもカラフルな光景が広がっていた。
「わぁ……」
「ようこそいらっしゃいました、澪!」
 両手を広げた慧華が示したのはお菓子の家や七色に輝く湖が見える世界。
 夢の中の時刻は夜。
 天に浮かぶお星さまは金平糖。空まで続いている硝子の階段を昇れば、ふんわりと浮かんでいるお月様とだって話ができる。
「これが夢の世界……? 思った以上に絵本感凄くてちょっとびっくりしちゃった」
「いっぱい楽しんでいってね」
 にこやかに笑っている慧華に対して、澪はおっかなびっくり感がある。その理由は此処が悪夢なんかではないとはっきり分かるからだ。あまりにも楽しいものだからこそ、澪もそんな反応をみせているのだろう。
「わ、猫にも犬にも翼が生えて……あれ、魚も飛んでる」
「え、お魚も飛んでる?」
「ほら、あそこ」
「あははー、寝る前に見たからかなぁ?」
「寝る前の記憶って夢に反映されるっていうしね。どこかに空飛ぶ鯨もいるんじゃないかな。探してみようか」
「そうしよっか。鯨さんを見つけたらまた遊びたいね」
 澪と慧華は楽しげに夢の世界を巡っていく。
 それは子供が憧れて夢見たような、絵本の世界をそのまま具現化した場所。ふしぎなふしぎな御伽の夢は、望むままに素敵な時間を作り出してくれる。
 鯨を見つけ、魚達と戯れている最中。
 澪はふと、眠りに付く前の自分を思い出していた。
「なんか、心配してたのが馬鹿みたい」
「大丈夫、怖い夢なんて入ってこないよ」
「慧華ちゃんと一緒にいると、自然と前向きになれる気がするんだ」
「そうなの? 嬉しいな。もっと楽しくするから、澪も安心して寝てね」
「うん、ありがとう」
 まだまだ続いていく夢の中で、慧華と澪は明るい笑みを重ねた。

 澪と慧華のふたり。
 夢の世界で遊んでいる彼と彼女達の枕元に置かれていたのは、七色に輝く可愛らしい鉱石が宿ったランプ。
 この夢の色はきっと、未来をやさしく照らす光になる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
🐳
【セナさん(f03195)と】

セナさんと2人、恋人繋ぎで手を繋いで、IFな夢を見てみたいと思います。

内容はお任せしちゃいますので、
お砂糖てんこ盛りの、らぶらぶあまあましあわせな夢を、お願いいたしますー♪

ただひとつだけリクエストが。
性別転換はなしで、ゆりゆりらぶらぶあまあましあわせ、でお願いします!


セナ・レッドスピア
🐳
菫宮・理緒(f06437)さんと一緒に

理緒さんと2人一緒に、恋人繋ぎで手を繋いで、IFな夢を見てみたいと思います。

内容はお任せしちゃいますので、
お砂糖てんこ盛りの、らぶらぶあまあましあわせな夢を
お願いいたしますっ!

ただ少しだけリクエストが。
性別転換と完全な動物化はなしで、ゆりゆりらぶらぶあまあましあわせ、でお願いします!



●あまくていとしい
 理緒とセナ。二人は今、仲良く手を繋いでいる。
 指とやさしく絡めあっている少女達は同じ雲のベッドに寝転がっている。互いの手を大切そうに握りあっている彼女らは瞼を閉じていた。
 既に夢の世界に入り込んでいる二人の枕元には、可愛らしい苺色の鉱石が宿ったランプが置かれている。
 それは彼女達が見ている夢に反応して、ぴかぴかと淡く光り輝いているようだ。
 穏やかで幸せそうに眠る二人。
 セナと理緒が見ている夢の世界。その光景は――。

 剣と魔法が秩序となっている冒険世界。
 理緒は美しい水晶剣を武器とする騎士。セナは赤い宝石が宿った魔術杖を持っている魔法使いとして、これまで一緒に冒険をしてきた。
 同じ街の出身だった、という設定の二人は魔王を倒すことを目標としていた。
 スライム退治から始まり、地下水道の大冒険を乗り越え、四天王が君臨する城やダンジョンを巡り、様々な旅路を経た。
 途中で辛いものばかりが名物の街で理緒が定住を考え出したり、呪いの装備を付けてしまったセナが解呪までにたいへんなことになったり、二人がサキュバスに捕まって大ピンチを迎えたりと、冒険の夢はとてもすごいものだった。
 なんやかんやあって魔王を倒した現在、二人は諸国漫遊の温泉旅に訪れている――という内容の夢が巡っている。
「とっても気持ち良いですっ!」
「旅の疲れが癒えるね。ほら、向こうに綺麗な花が咲いてるみたい」
 美しい白に染まった温泉に並んで浸かり、セナと理緒はほのぼのとした気持ちを抱いている。理緒が示した先には桜に似た樹々があり、可憐な花が風に揺れている。
 二人は花見を楽しみながら肩を寄せ合う。
 湯の中の手と手はぎゅっと繋がれている。触れ合った肌の熱と温泉の湯のあたたかさが混じり合い、幸せな気分でいっぱいだ。
 二人きりで楽しむ温泉は格別。
 しかし此処は夢の世界。普通では終わらないのが当たり前。
「わ、空の色が変わってきました!」
「本当だ。あれって……幸せのドラゴン?」
 セナが見上げた空にはオーロラが出始めていた。其処に飛翔していく影を見た理緒は、この世界の言い伝えを思い出す。
 透き通った翼を広げて飛ぶドラゴンに願いを掛けると、思いが叶う。
「セナさん、お願い事!」
「わ、わわ……何をお願いしましょう」
「ええと――」
 二人は天空に舞っていく幸せの竜を振り仰ぎ、願い事を同時に言葉にした。
「理緒さんとずっと一緒にいられますように!」
「セナさんとずっと一緒にいられますように」
 言葉と声が重なり、はたとした二人は顔を見合わせる。全く同じことを考えていたのだと思うと、不思議な気持ちと嬉しさを感じた。
「きっと、ううん……絶対に叶いますねっ!」
「わたし達で叶えていこうね」
 向かい合い、手を取り合った少女達は両手を重ねる。確かに絡めた指と指。じっと見つめ合う瞳と瞳。そして――湯けむりの中でそっと重なる影。
 花が舞い散る温泉の景色は次第に変わっていく。
「あれ、これって……?」
「季節が夏になったみたいですね」
 夢の世界の光景は徐々に移り変わっていった。眩い太陽の光が輝き、海辺のような景色が二人の前に広がる。
 椰子の実が風に揺れているかと思えば、次に見えてきたのは紅葉とどんぐりの森。
「次は秋かな?」
「紅葉が綺麗で素敵です」
 理緒とセナは変化していく景色を大いに満喫した。秋の景色はやがて雪が積もる冬の様相になり、しんしんと淡雪が降ってくる。
 手を伸ばすと、ふんわりとした冷たさが掌から伝わってきた。
「セナさん、もしかしてだけど……」
「はい、私も同じことを感がていると思いますっ!」
 二人は或ることに気付いていた。こうやって美しいひととせが巡っていく理由は、先程に願いを掛けたドラゴンの力だ。
 ――ずっと一緒に。
 その願いに応じて、二人が季節を越えても共にいる未来を示してくれたのだろう。
 微笑み、嬉しい思いを抱いたセナと理緒は更に身体を寄せ合う。
 繋いだ手は離さない。
 寄り添った心も身体も想いも、今はあなただけのものだと伝えたくなった。
 見つめ合う二人にはもう、言葉はいらない。
 揺らめく光。触れ合う心。
 幸福感に包まれた二人は現実の世界でもそっと身を寄せ合いながら、美しくて楽しい不思議な夢の世界を楽しんでゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
◎【耀累】

ゆびさき絡めて見たいと思ったのは
ちぃ、キミと本当の親子の夢

――みた、ゆめは、

おとーさん、次あっち!
大きくてあったかい手を引っ張ってあっちこっち
見上げればやさしい紫
繋ぎ握るはやさしい掌
ね、抱っこがして!
ぎゅっとしあわせの心地

少女は抱っこがすきで
いつもおとーさんといっしょ
でも、

…なんで、懐かしいの?
こてり首傾げるも
そっかってやさしい返しがくるからへにゃり緩む
菫色の桜の髪飾りは宝物
すみれと紡がれるやわい音がいっとう

わたしも…んーん
うちも、だいすき!

――ゆめは、おしまい

本当の親子でも
今の不思議な親子でも
おんなじなんやて改めて
ふふ、うちら変わらんかったね?

傍らで鉱石ランプが実感宿し、柔く灯って


宵鍔・千鶴
◎【耀累】

ふたりで繋いだ手、
誘われる夢も又、繋がってゆく

――、ゆめ
少し成長した自分
掌の中の手は随分と小さく幼いきみ
……すみれ、急いだら転んじゃうよ
手を引いて一生懸命に見上げ瞬く自分と似てる紫色
ねだる抱っこは当然みたいに抱き上げて
ぎゅう、って愛おしげに

変わらない体温、変わらない咲み
後ろをついてくる足音、小さな悪戯
懐かしい?……そっか、
俺もそんな気がする、不思議だね
揺れる菫桜
噫、どうしてこんなにも泣きたくなってしまうんだろう
……すみれ、だいすきだよ

――、ゆめのおわり

俺は親に成れるんだな、って
嬉しかったんだ
でも、屹度菫となら、変わらない
鉱石ランプを確りと胸に、
こころに刻みつけるように



●紫彩の想
 雪化粧をした鯨がゆるりと空を飛ぶ。
 やわらかな雲の寝台で繋ぐ手と想いは不思議とあたたかい。指先を絡めてちいさな熱を感じれば、心地よい微睡みが巡ってゆく。
 菫と千鶴は雲の上から迷宮の空を見上げていた。
 手を繋いで、ゆびさきを緩やかに絡めて。菫が見たいと思ったのは儚い願い。
「ちぃ、キミと本当の親子の夢がみたい」
「うん、見よう。夢の世界なら、何だって」
 視線を互いに向けあった二人は言葉通りの夢物語を思い描いていく。千鶴には菫の、菫には千鶴の姿だけが其々の瞳に映っていた。
 眼差しを重ね、ゆっくりと瞼を閉じた二人の指先。それらがしかと繋がっているように、誘われる夢もまた、巡り繋がっていく。
 二人が共に願い、みるゆめは――。

「おとーさん、次あっち!」
 夢の世界の景色が広がる中、幼い少女の声が響いた。
 千鶴は声がする方に振り向きながら穏やかに微笑む。此処はこの世界において、二人が住む家の近所だろうか。
 少し成長した自分の様相を確かめ、千鶴は少女に手を伸ばした。
 ぎゅ、と握られる掌の中の手は随分とちいさい。けれども、彼女は確かな力で以て千鶴を引っ張っていく。
「……すみれ、急いだら転んじゃうよ」
「ううん、だいじょうぶ。はやく向こうにいくの!」
 幼い姿の菫を優しく見つめ、千鶴はそっと語りかける。それでも菫はぐいぐいと腕を引いていく。大きくてあたたかい手。その主がいれば何も心配はないと思っていることが言葉や仕草から伝わってきた。
 少女は父を引っ張り、あっちこっちと駆けていく。
 向こうには咲いたばかりの花がある。
 こちらには二羽で舞う蝶々がいる。
 あちらからは凛とした風が吹いている。
 どんなときでも、どんな場所でも、少女が見上げれば静かな紫が見えた。繋いで握り合うのはやさしい掌。菫が楽しくて嬉しい気持ちを抱く中、千鶴も一生懸命に見上げてくれる少女の瞳を覗き込んだ。
 自分が宿す色と似た紫色が、二人が親子なのだと教えてくれる。
 そんな中で菫は両手を差し出した。
「ね、抱っこして!」
「いいよ」
 ねだられた言葉に当然のように頷いた千鶴は、少女を抱き上げる。
 ぎゅっと感じたのはしあわせの心地。愛おしげに注がれる眼差しを受けて、菫は満面の笑みを咲かせた。
 少女は抱っこが好きで、いつもお父さんと一緒。
 そう在ることが当たり前の世界は何処までも優しい雰囲気に包まれていた。
 変わらない体温、変わらない咲み。後ろをついてくる足音、小さな悪戯。そういったものを愛しく感じる千鶴もまた、双眸を緩めて笑っている。
 けれども菫も千鶴も、これが夢であることを知っていた。それなのに――。
「……なんで、懐かしいの?」
 こてりと首を傾げる菫。すると千鶴が菫の髪にそっと触れ、静かな言葉を落とす。
「懐かしい? ……そっか。俺もそんな気がする、不思議だね」
 疑問に答えるのではなく、同意で応えてくれた千鶴の声は穏やかだった。そんな返しがくるものだから、菫の頬がへにゃりと緩む。
 そうして、千鶴は菫色の桜の髪飾りにも指先を這わせた。それは大切な宝物。とても幸せで、幸福がたくさんで、嬉しいのに――。
(噫、どうしてこんなにも泣きたくなってしまうんだろう)
 揺れる菫桜を瞳に映した千鶴は思いを胸裏に仕舞い込む。菫はちいさな掌を千鶴に伸ばして、その頬に触れた。彼女の指先からぬくもりが伝わってきた気がして、千鶴は抱く思いを声にしていく。
「……すみれ、だいすきだよ」
「わたしも……んーん。うちも、だいすき!」
 すみれ、と紡がれるやわい音がいっとう好きで、好きで、大好き。言の葉と声に想いを重ねて、二人は互いに寄り添いあう。

 そして――ゆめは、おしまい。
 夢の終わりを感じた千鶴はゆっくりと起き上がる。眠っている間にいつの間にか繋いでいたのか、菫と千鶴の指先がそっと絡められていた。
 おはよう、と告げあった千鶴と菫は双眸を細める。夢は心地よくて素敵なもの。互いに声にはしないが、幸せと同じくらいの切なさもあった。
「俺は親に成れるんだな、って嬉しかったんだ。ありがとう、菫」
「本当の親子でも、今の不思議な親子でも、おんなじなんやね」
「そうだね。屹度菫となら、変わらない」
「ふふ、うちら変わらんかったね?」
 改めてそう感じたのだと菫が話すと、千鶴が深く頷く。そうして、二人は傍に置かれていた鉱石ランプに手を伸ばした。
 傍らで光り続けていたランプが実感を宿してくれる。柔く灯っていく光のいろは、菫色と宵色を思わせる紫の彩。
 互いの色に染まった鉱石を見つめた千鶴は愛おしさを裡に秘める。
 確りと胸に、こころに刻みつけるように――淡く明滅する光は、とてもやさしい。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、ここにも雪が降り積もっているんですね。
さすがアルダワです。
前にここで夢を見た時は私とアヒルさんの体が入れ替わって・・・。
大変な目に合うところで目を覚ましたんですよね。
夢の内容ってすぐ忘れてしまうんですよね。
また、素敵な夢が見られるといいですね。
おやすみなさい。

ふええ、そうでした思い出しました。
私とアヒルさんの体が入れ替わっていて、アヒルさんが私の体で服を脱ごうとしていた所で目を覚ましたんです。
というよりも正にその夢の続きじゃないですか。
でも、アヒルさんの体なら間に合う筈です。
って、ふええ、アヒルさん躱さないでくださいよ。
それよりも、服を脱ぐのはやめて・・・。
ここはお着換えの魔法です。



●夢の続きをもう一度
「ふわぁ、ここにも雪が降り積もっているんですね」
 久方振りに訪れた迷宮のフロアを見渡し、フリルは穏やかな気持ちを抱く。
 あのときとは違って、今回の迷宮は冬の景色が広がっていた。空間を悠々と舞っている鯨の背にも雪化粧が見える。
「さすがアルダワです」
 フロアの魔力を使ってふわりと浮いたフリルは、周囲に浮かんでいた雲のひとつに飛び乗った。ふかふかとした感触は心地よく、彼女はそのまま雲に腰を下ろす。
 思い返すのは以前のこと。
「前にここで夢を見た時は私とアヒルさんの体が入れ替わって……ふえぇ」
 アヒルフリルになってしまった彼女は、フリルになったアヒルさんに気付いて――確か、大変な目に合うところで目を覚ましのだった。
 それを今まですっかり忘れていたのは、あれが夢だったから。
 何が大変だったかまでは思い出せずにフリルは首を傾げる。
「何をしたんでしたっけ。夢の内容ってすぐ忘れてしまうんですよね。また素敵な夢が見られるといいですね」
 隣に座っているアヒルさんに語りかけ、フリルは雲のベッドに背を預けた。同様にアヒルさんもぽすんと雲の合間に収まり、瞼を閉じる。
「おやすみなさい、アヒルさん」
 同じく目を瞑ったフリルは次第に眠りに落ちていく。
 今度の夢は一体どうなるのか。期待を抱きながら、フリルが視る夢は――。

「ふええええ」
 夢の世界の中、フリルはぴょんぴょんと飛び回っていた。
 その身体はいつもの姿ではなく、ガジェットのアヒルさんのものになっていた。そして、今回もまたアヒルさんがフリルの体を手に入れている。
「そうでした、思い出しました」
 アヒルフリルは慌ててフリルアヒルさんを探しに行く。
 これは以前の夢の続きなのだろう。身体が入れ替わった後、アヒルさんはフリルが着ている服、つまり自分の衣服を脱ごうとしていたのだ。
「ふぇ……絶対に止めないと」
 夢とはいえどそれはあまりにも恥ずかしすぎる。以前は夏前だったが今は冬。寒くなるというのに脱ごうとするアヒルさんは何なのか。
「何故か遠いところにいます。でも、アヒルさんの体なら間に合う筈です」
 ガジェットの力を駆使したフリルは前回同様、マッハで飛ぶ。だが、アヒルさんの方が一枚上手だった。フリルの到来に気付いてさっと避けたのだ。
「って、ふええ、アヒルさん躱さないでくださいよ。それよりも、服を脱ぐのはやめて……はっ! ここはお着換えの魔法です」
 既に半分以上脱ぎかけているアヒルフリルに向け、フリルアヒルが魔法を掛けていく。されどアヒルさんも対抗するつもりで立ち向かった
 フリルVSアヒルさん。
 その勝敗は果たしてどうなっていくのか。
 結局はどうあっても、フリルの悲鳴が響くのだが――それはそれとして。楽しく(?)賑やかな夢の続きは、まだまだ巡っていくようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
🐳

ディフさん(f05200)と

以前楽しい夢を見せてくれた、鯨達の泳ぐ迷宮
あ、此度の鯨さん達は雪化粧で飾られてますよ
この地の魔力を込めたらんぷなら
贈られた子達の夢見も良くなるでしょうね
確かに気になりますね

とはいえ、今日は誰かの先生ではなく
楽しむために
ふわふわの雲に腰掛け
ディフさん、これって寝巻きは着てないけど
ぱじゃまぱーてぃーみたいかもですね

一緒に旅するなら、どこへ行ってみたいです?
横になり、貴方を冒険に誘うように手を伸ばす
語っているうちに眠くなるかも
のんびり静かな景色を見るのも良いけど
それも、きっと楽しい

大丈夫、怖くはないよと
繋いだ縁のような温もり
繰り返された記憶は、もう眠りの先には現れない


ディフ・クライン
🐋

類(f13398)と

以前の優しい夢は今も胸に温かさを残している
鯨達、皆元気そうだね
雪化粧が可愛らしい
そうだね
きっと眠るのが楽しみになるよ
あの生徒たちも元気かな

パジャマパーティ?パジャマを着てパーティするのかい?
腰掛けつつ首傾げ、それを聞けば納得して
そうだな
類と一緒なら賑やかで楽しい、知らない街もいいかも
誰も居ない秘境より、その方が類によく似合う

伸ばされた手をそっと掴んで横になる
以前と違い、眠ることが怖くなって眠るのを止めた
けれど友が握ってくれた手の温度と優しさと、楽しかった夢の思い出があるから
恐れずに眠気の波に浚われるよ

記憶にも幻惑にも惑わされることのない
見知らぬ夢の世界の冒険へと、共に



●鯨と共に
 少し懐かしく感じる場所。
 此処は以前に楽しい夢を見せてくれた、鯨と魚達が泳ぐ迷宮の中。あの日に視た優しい夢は今も、この胸に温かさを残している。
「鯨達、皆元気そうだね」
「あ、此度の鯨さん達は雪化粧で飾られてますよ」
 ディフと類は迷宮の空を泳ぐ鯨を見上げ、大きく手を振った。鯨もそれに応えるように白い飛沫をあげて、ふわふわの雲を作り出してくれている。
「この地の魔力を込めたらんぷなら、贈られた子達の夢見も良くなるでしょうね」
「そうだね。きっと眠るのが楽しみになるよ」
 雪のような魔法の光を見上げたディフは、ふと以前に出会った学生達を思う。きっと今は進級をしたり、魔法の腕も上がっているのだろう。
「あの生徒たちも元気かな」
「確かに気になりますね」
 類も思い出深いあの日の出来事に思いを馳せる。とはいえ、今日は誰かの先生になるためではなく楽しむために訪れた。
 新たに鯨が作ってくれたふわふわの雲に飛び乗った二人は、其処に腰掛ける。
「そうです、ディフさん」
「どうかした?」
「これって寝巻きは着てないけど、ぱじゃまぱーてぃーみたいかもですね」
「パジャマパーティ? パジャマを着てパーティするのかい?」
「正解です」
 ディフが問いかけると、類はそういうものがあるのだと説明した。それを聞いて納得したディフは穏やかに笑う。
 二人は雲のベッドに身体を横たえ、夢の世界について語りはじめた。今日はどんな世界にも、どのような場所にだって行くことが出来る。
「一緒に旅するなら、どこへ行ってみたいです?」
「そうだな。類と一緒なら賑やかで楽しい、知らない街もいいかも」
 きっと誰も居ない秘境より、その方が類によく似合う。ディフが話してくれたことを心地よく感じながら、類は彼を冒険に誘うように手を伸ばす。
「のんびり静かな景色を見るのも良いけど……それも、きっと楽しいですね」
「……ああ」
 ディフも伸ばされた手をそっと掴み、想像を巡らせた。瞼が自然に落ちていき、二人は微睡みの中に沈んでいく。
 大丈夫、怖くはないよ。そんな風に繋いだ縁のような温もり。
 以前と違って、ディフは眠ることが怖くなって眠るのを止めていた。けれどもこうして友が握ってくれた手の温度と優しさと、楽しかった夢の思い出がある。恐れずに眠気の波に浚われていくディフの表情は穏やかだ。
 類もまた、和やかな気持ちを抱いていた。
 繰り返された記憶は、もう眠りの先には現れないから。
 さあ、記憶にも幻惑にも惑わされることのない、見知らぬ夢の世界の冒険へ。
 共に巡る夢の世界。それは――。

「――面舵一杯、全速前進!」
 海賊船の帆が風を受け、気持ちよくなびいている。
 夏の空のように澄んだ天空の下、鯨マークの旗を掲げた船が海原を進んでいた。その船の乗組員は類とディフ。
 海賊帽を被った二人は揃いのコートに身を包み、海の彼方を目指している。
「風が気持ちいいですね」
「潮風が爽やかで、良い旅になりそうだ」
 二人は視線を重ね、煌めく大海原の先に思いを馳せる。彼らが向かうのは黄金郷と呼ばれる賑やかな街。其処で世界最大の大きさと輝きを持つ宝石が展示されるというので、それを見に行く予定だ。
 しかし、今の彼らは世界を股にかける海賊。
 大人しく宝石を眺めて帰るという選択はない。そう、その宝石には森の精霊である灯環が封じ込められているのだ。
 いわばこれは救うための旅路。海の向こうを見つめる類とディフの瞳には強い意志が宿っていた。勿論、黄金郷の賑わいを楽しむ予定もしっかりある。
「類、見て」
「……あれは鯨さん?」
 ディフが不意に海面を指差した。其処には大きな影が現れている。はっとした類はあれが迷宮の鯨なのだと気付いた。その証に、鯨の背には先程に見た雪化粧が見える。
 彼も同じ夢を見てくれているのだろうか。
 何だか嬉しくなり、ディフと類は笑みを交わしあった。
 そして、鯨の海賊船は進む。
 夢の世界の冒険がどのような結末を迎えるのかは、二人と鯨のみぞ知る。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 夢の海を渡る二人の元。
 同じ世界を夢見る彼らの傍に、やがて魔法のランプが置かれていく。
 ふたつの揃いのランプの中には天空めいた澄んだ青と、青い海のような深い藍色の鉱石が宿っていた。夏には冬を、冬には夏の景色を見せてくれた鯨。彼は、二人を見守るようにして穏やかに迷宮の空を泳いでゆく。
 
オズ・ケストナー
晶硝子(f02368)と

またここに来られてうれしい
それじゃあ、おいしいもの食べにいこうっ

手を差し出して

わあ、すごい
食べほうだいだっ

一面ご馳走
ティースタンドに食事
紅茶もカクテルも

ふふ、まずはかんぱいっ
グラスを合わせ
シャンパンだよ、しゅわしゅわするんだ

きらきらの飴細工が乗ったケーキはアケガラスみたいだし
それからふわふわのわたあめ
くもみたいでしょ?

しょっぱいものも食べたくなるよね?
クリスマスといえばターキーだよっ

焼き色つやつやといえばアップルパイもっ
食べてみてほしいものがたくさん
すきなものが見つかるといいな

わたしがすきなものかあ
たくさんあるけど、クリスマスならシュトレンかな
あのね、シュトレンってね…


彼者誰・晶硝子
オズ(f01136)と‬

わあ、なつかしい…
またオズと来れて、うれしいわ

はじめての夢を見に
すこし、どきどき
手を繋げば、たのしみがあふれて

瞬きの間に広がる光景に、まあと声が上がる

食べ放題…食べきれるかしら
紹介された食べ物はどれもきれい
乾杯は、ええと、クリスマスはシャンパン?

きらきらも、ふわふわも、きになる
そっと口にしたわたあめは、ふわりとやさしい、ふしぎなここち
くちのなかが濃厚なお砂糖の香りで満ちて
明日から、雲をみたら思い出しそう
飴細工のケーキは、違った触感でぱちぱち瞬き

しょっぱい?
ターキーは焼き色がつやつや、香ばしくて
アップルパイ、果実のかおり
さくさく、たのしい、ふふ

オズの好きなのは、どれかしら



●二人だけの乾杯
「わあ、なつかしい……」
「またここに来られてうれしいねっ」
「ええ。またオズと来れて、とてもうれしいわ」
 久方振りに訪れる迷宮の中、晶硝子とオズは空を悠々と舞う魔法の鯨を見上げた。雪化粧に覆われた鯨は、あの頃と変わらず穏やかに游いでいる。
 魚達がきらきらとした光を纏って周囲を回る様は美しく、二人は笑みを交わした。
 今日は生徒のことや災魔のことは考えなくていい。オズ達は楽しい夢の世界に向かうため、ふわふわの雲のベッドに座った。
「それじゃあ、おいしいもの食べにいこうっ」
「いきましょう」
 オズが手を差し出したことで晶硝子も指先を伸ばす。
 はじめての夢を見に。すこし、どきどきするけれど、繋いだ手からオズの心が伝わってくるかのようだった。あふれるたのしみを胸に、晶硝子はゆっくりと背を雲に預けた。
 オズも瞼を閉じ、夢を想い――そして、二人は眠りの世界へ向かう。

 其処に広がっていたのは綺羅びやかに飾られたクリスマスディナーの光景。
 一面にご馳走が並ぶテーブルは二人だけの貸し切りだ。
「わあ、すごい」
「まあ……」
「みてみて、食べほうだいだっ」
「食べ放題……食べきれるかしら」
 蔦の模様が入った上品なティースタンドには可愛らしいお菓子や手軽につまめるサンドイッチが並んでいる。その隣に添えられたポットには薫り高い紅茶が淹れられている。
 グラスには色鮮やかなカクテルがあり、どれを飲んでも良い。
「ふふ、まずはかんぱいっ」
「乾杯は、ええと、クリスマスはシャンパン?」
「シャンパンだよ、しゅわしゅわするんだ」
 オズが差し出してくれたグラスを受け取り、晶硝子はテーブルを眺めた。あたたかな料理はどれも手の混んだもの。
 熱々のグラタンにスモークターキーレッグ、三段重ねのケーキもあれば、見たことのない異国情緒溢れる不思議な料理もあるようだ。
「かんぱーいっ」
「オズとの時間に、乾杯ね」
 グラスを合わせた二人はしゅわりと弾ける心地を味わった。夢であれど、味が口いっぱいに広がっていく。寧ろ夢だからこそこのように感じるのだろう。
 晶硝子が美味しさに浸っていると、オズがテーブルの上を示した。
「ほら、きらきらの飴細工が乗ったケーキだよ。なんだかアケガラスみたい!」
「わたし、みたい?」
「それからこっちはふわふわのわたあめ。くもみたいでしょ?」
「ふふ、どちらも素敵ね」
 きらきらもふわふわも気になって仕方ない晶硝子は、どちらにしようかしら、と悩み始めた。しかしすぐにはたとして、食べ放題なのだと思い出す。
 選ばなくてもいい。すべて味わえるのだと思うと心が躍るような心地になった。
「……あまい」
「おいしいっ」
 そっと口にしたわたあめは、ふわりとやさしくて不思議な感覚だ。オズも一緒にわたあめを口に運び、やわらかに解ける感触を楽しんだ。濃厚な砂糖の香りで満ちていくのは幸せという形に似ている。
「明日から、雲をみたら思い出しそう」
「ケーキも食べてみようっ」
 続けて二人は飴細工のケーキを取り分ける。飴はぱりぱりとしていて固い。それでいて軽快な食感とスポンジの柔らかさが合わさる様は新鮮だ。ぱちぱちと瞬く晶硝子の様子を眺め、オズはにこにこと笑っている。
「あまいものばかりだと、しょっぱいものも食べたくなるよね?」
「しょっぱい?」
「クリスマスといえばターキーだよっ」
 オズが両手に持ってきた皿には焼きたての鶏がどんと乗っていた。焼き色がつやつやで、香ばしく仕上げられたターキーもまた絶品。
 焼き色繋がりといえば、やはりアップルパイ。フレーバーティーと一緒にサクサクのパイ生地を頬張るのも実に楽しい。
「アケガラスに食べてみてほしいものがたくさんっ」
「アップルパイ、果実のかおりがするのね。さくさく、たのしい。……ふふ」
 思いっきり頬張るパイの味わいは甘くて素敵なもの。オズに勧められるまま、晶硝子は美味しいものを食べていった。
「アケガラスのすきなものが見つかるといいな」
「ありがとう。オズの好きなのは、どれかしら」
「わたしがすきなものかあ。たくさんあるけど、クリスマスならシュトレンかな」
 晶硝子からの問いかけに向け、オズは菓子パンを指差した。先程に見た雪化粧をした鯨のように、其処には粉砂糖の雪が積もっている。
「あのね、シュトレンってね――」
 そうして、オズは晶硝子にたくさんの話をしていく。
 夢の世界は楽しく仲良く、二人だけの時間として巡っていって――。

 眠る二人の傍には赤と緑の鉱石が入れ込まれたランプが置かれていた。
 クリスマスの思い出を、きみと。
 淡く明滅する鉱石の中にはきっと、今日の思い出も一緒に宿っている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
◎シュエリエ/f18954と

夜のよな海の底のよな青い灯りを共
空いたほうの手のべてそっと握って
僕もね、貴女とならば鯨を追うと、思っていたの
ほんとうは
一緒なら夢の中でも海の底だって、と微笑って

まあ、鯨、鯨はなにを召し上がるのだろ
お星さまを食べて雲を吐くかしら
お歌もうたってくださるかしら
そうな、シュエリエと話したゆめのようだから
今だってまるで夢のよう
ぱちんと瞬き傾げたら
やあ、シュエリエ、貴女のお声も、僕は好きよう

そしたら僕のお願いも聞いてくださる
ね、歌っていてくださるかしら
そしたらその間にうんと美味しいお茶を淹れるよう

カップ挟んでご機嫌に
どういたしまして
僕もねえ、つられて歌いだして、しまいそう


シュエリエ・カノ

イア(f01543)と
ふかふか雲のベッドもいいが
折角鯨達がいるなら彼等との時間を過ごしたいな
夢でなくても良いだろうか?
…イアは優しいな
あぁいや、わかっていたことだ

鯨達に餌をやれるのだな
一緒にお茶会をしているようだ
いつか、イアは鯨と一緒におしゃべりをしたいと言っていたが
ここでならできるかもしれない
鯨が歌ってくれるなら一緒に歌うのでもいい
案外夢は叶うものだな
鯨は良い声をする…
イア、キミも
心地良い声だ

一つ我儘を良いか?
キミの淹れたお茶が飲みたいのだが…
海の音が混じった様な優しい味が好きで
歌うのか?照れてしまうから…早めにな

美味だな…
ふふ、夢を見てるようだ
楽しいな
ご馳走様
有難う、イア



●鯨の歌と君の聲
 夜のような海の底。
 そんな色を思わせる青い灯りを共に、イアは隣のシュエリエに手を伸ばす。
 片手には燈灯。もう片方の手には彼女の掌。そっと握られたイアの手のやさしさを感じ取りながら、シュエリエは迷宮の中に広がる空を振り仰ぐ。
 ふわふわと浮かぶ雲のベッドの上では、眠りの世界を楽しんでいる者がいる。
 夢を視るのも良い。けれども今のシュエリエが望むことは――。
「ふかふか雲のベッドもいいが、折角鯨達がいるなら彼等との時間を過ごしたいな」
 その声に頷きを返したイアは、実は、と返す。
「僕もね、貴女とならば鯨を追うと、思っていたの」
「本当か? 夢でなくても良いだろうか?」
「もちろんよう」
 ほんとうは一緒なら夢の中でも海の底だって、と微笑ったイアは穏やかな瞳を向けてきている。シュエリエは安堵と嬉しさを抱き、イアに真っ直ぐな眼差しを向け返す。
「……イアは優しいな」
「そうかしら」
「あぁいや、わかっていたことだ」
 シュエリエが褒めてくれたことでイアの心もふわりとした感覚に包まれた。そうして、二人は小さな島のような雲にそっと飛び乗る。
 此処からなら游ぐ魚や鯨達をよく眺めることが出来る。シュエリエは辺りを見渡し、冬景色のような迷宮の心地を感じ取った。
「鯨達に餌をやれるのだな」
「まあ、鯨。鯨はなにを召し上がるのだろ」
 お星さまを食べて雲を吐くかしら、とイアが語ればシュエリエの双眸が緩められた。
「一緒にお茶会をしているようだ」
「そうしたら、お歌もうたってくださるかしら」
 シュエリエが手を伸ばすと、ちいさな魚が指先を突いてくる。くすぐったさを感じている彼女の傍で、イアは雪化粧が美しい鯨を見上げた。
 その言葉に応じるように、静かで深い鯨の声が迷宮に響き渡る。
 きっと、此方の思いを快く感じてくれているのだろう。まるで会話しているようだと思ったシュエリエはふと気付く。
 確か以前、鯨の話をしたことがあった。
「いつか、イアは鯨と一緒におしゃべりをしたいと言っていたな。きっとここでならできるかもしれないな」
「そうな、シュエリエと話したゆめのようだから――」
「鯨が歌ってくれるなら一緒に歌ってみようか」
「ふふ、今だってまるで夢のよう」
 二人のために鯨は歌い続けてくれている。ゆらりと海に揺蕩うような穏やかな声に合わせ、イアとシュエリエも声を紡いだ。
「案外夢は叶うものだな。鯨は良い声をする……」
「やあ、シュエリエ、貴女のお声も、僕は好きよう」
 彼女が感慨深そうに呟いたことで、イアはぱちんと瞬いた。良い声だというのならばシュエリエも同じだと感じたからだ。
 彼が告げてくれたのは素直な心から零れた言葉だ。ありがとう、とイアに告げたシュエリエもまた、思うままの言の葉を伝えた。
「イア、キミも心地良い声だ」
 それから二人は暫し、鯨の謡う声に合わせて歌い続ける。
 のんびりとした静かな時間が流れていく最中、シュエリエは隣に座っているイアに視線を向けた。すると、どうかしたの、と問うような眼差しが返ってくる。良ければだが、と前置きをしたシュエリエはそっと告げていく。
「一つ我儘を良いか? キミの淹れたお茶が飲みたいのだが……」
 海の音が混じったような優しい味が好きだ。そういって願ったシュエリエにイアが頷きと肯定を示した。
「そしたら僕のお願いも聞いてくださる」
「ああ、交換条件だな。何でもいって欲しい」
 イアは快く答え、鯨を見上げた。彼の歌は止まっているが、イアはまだまだ歌を聞きたいと思っていたらしい。
「ね、歌っていてくださるかしら。そしたらその間にうんと美味しいお茶を淹れるよう」
「ひとりで歌うのか? 照れてしまうから……早めにな」
 既に少し照れながらもシュエリエは承諾した。響く歌声は子守唄のように優しく、迷宮の中にやさしく響き渡る。
 そして――湯気が立つカップを手にした二人はお茶のひとときを迎えた。
「美味だな……」
「お口にあってなによりよう」
「ふふ、夢を見てるようだ。楽しいな」
「それなら、僕も同じね」
 ご機嫌に笑みを交わし合う二人はお茶を味わい、白い雲が流れていく様子を見つめる。お茶を飲み終われば、再び鯨の歌が辺りに響きはじめた。
「ご馳走様。有難う、イア」
「どういたしまして。僕もねえ、つられて歌いだして、しまいそう」
 シュエリエとイアは耳を澄ませる。
 そんな二人の元に届けられた鉱石ランプ。その中に入れ込まれた鉱石はまだ何にも染まっていない透明なもの。
 この石が色付き、輝きはじめるのは――きっと、もう少し後のこと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

夢か
…いつもはあんま夢は覚えてない
多分どっちかってーと悪夢が多くて
…そっか瑠碧も
けど
瑠碧と一緒に見られんなら
怖くねぇし
きっといい夢だよな
手繋ぎ雲のベッドで目を閉じ

ごく普通の
UDCあたりの日本の高校生

やべっ遅刻する
慌てて家を出て
悪ぃ瑠碧待たせた
つか瑠碧の制服姿やべぇな…似合ってる
今日も瑠碧が可愛い
何言ってんだいつも通り
っと急ごうぜ
手繋ぎ学校へ
隣りの席で授業受けて
屋上で弁当食べて昼寝して
学校終わって二人で寄り道して
迷うなら両方頼んじゃえよ
ふわふわ楽しい
何だろ夢みたいだ
って…夢か

あり得ねぇ
…けど
楽しかった
瑠碧は?

切なげにする頬に触れ
まぁ瑠碧と一緒なら
どこで何してようが
楽しいに決まってるけどな


泉宮・瑠碧
【月風】

私も、夢見の良い方では無いのですが…
理玖と一緒に見られるのなら
きっと大丈夫
手を繋いで、並んで目を閉じます

日本の女子高生
エルフのままで制服を着て
知識も曖昧ですが違和感なく

特に疑問もなく一つの家の前で理玖を待ち
いいえ、でももう行かないと
タイツは穿いてますが、何となく心許無い気がしつつ
…朝から何を言い出すのですか
つい赤くなるも手を繋いで学校へ

隣の席でノートを取り
屋上に行けば
作ってきたお弁当を差し出して
膝を貸して理玖の寝顔を見て
放課後に寄ったお店でデザートに迷ってみたり

私は年上で、異種族異世界生まれ
叶う事のない夢でしたが…
楽しかった、ですね

少し切なくなっても
続いた理玖の言葉には笑顔で
私も、です



●君と同じ時を
「……いつもはあんま夢は覚えてなくてさ」
 魔法の雲に腰掛けた理玖は緩く頭を振った。多分、どちらかというと悪夢が多い。魘されて目が覚めるが内容はわからない。そう語った理玖に瑠碧もそっと話す。
「私も、夢見の良い方では無いのですが……」
「そっか、瑠碧もか」
 けれども今は眠ることは怖くない。
「理玖と一緒に見られるのなら、きっと大丈夫……です」
「だな。瑠碧と一緒に見られんなら怖くねぇし、きっといい夢だよな」
「はい、だから一緒に……」
 思いを同じくした二人は手を繋ぎ、柔らかな雲に背を預けた。
 並んで目を閉じれば――望む夢の世界が、ゆっくりと広がっていく。

「やべっ、遅刻する!」
 雀の鳴き声が響く朝。理玖は制服のネクタイを締めながら、急いで通学路を駆ける。
 一緒に住む師匠が用意してくれていた朝食のパンを二口で平らげ、向かうのは少し先の曲がり角。其処では長い耳を心配そうにぴこっと揺らしている瑠碧がいる。
「悪ぃ、瑠碧。待たせた」
「あ、りっくん……おはよう」
 大丈夫、と答えた瑠碧はふわりと微笑んだ。
 今朝も彼女の制服姿は可愛らしく、理玖の双眸が嬉しげに細められる。この世界ではいつも見ているはずなのに、どうしてか新鮮に感じられた。
「あれ、そのリボンって新しいの?」
「はい……姉さんが、似合いそうだからって、買ってきてくれたんです」
「いいじゃん。やっぱ今日も瑠碧が可愛い」
「……朝から何を言い出すのですか」
「何言ってんだ、いつも通りだ」
 照れる瑠碧と笑う理玖。これは、ごく普通の高校生として生きる二人の世界。
 瑠碧は足元のタイツを少し気にしつつ、褒められたことを嬉しく感じた。しかし、もうそろそろ行かなければ学校に遅れてしまう。
「いいえ、いいのですが……でももう行かないと」
「っと急ごうぜ」
 瑠碧の手を取った理玖は再び駆け出す。
 手を繋いで、二人が通う学校に向かう朝。これがこの世界の彼らのいつもの風景であり、変わらない日常のひとつ。
 学校での席は隣同士。
 授業を受ける瑠碧は真面目にノートを取り、横では理玖が教書に顔を隠して眠っている。ちらりとその様子を見た瑠碧は彼を起こそうかと考えたが、夜遅くまで師匠達と修行をしていることを知っているので、そっとしておいた。
 授業は進み、やがて昼休みを告げるチャイムが鳴る。
「りっくん、起きて」
「んん、るりぴよ……あと五分……」
「ええと、お昼……だよ?」
「昼飯か!」
「ひゃうっ」
「あ……悪ぃ」
 寝言を言っている彼を瑠碧が困ったように揺さぶる。昼食だと告げた途端に起き上がった理玖と瑠碧の頭がぶつかった。クラスメイトはそんな二人を微笑ましく見守っている。何故なら彼らはクラス公認の恋人同士だからだ。
 二人が昼食を食べる場所は決まって屋上。
 瑠碧が作ってきたお弁当を嬉しそうに食べる理玖は、幸せを感じていた。
 成長期の彼がたくさん食べるので、瑠碧も毎日のメニューを考えるのが楽しみだった。師匠に聞いた理玖の好みの品を日替わりで用意してみたり、姉に理玖の食べっぷりのことを話したりと毎日が充実している。
「瑠碧、膝貸して」
「はい、どうぞ」
 お弁当を食べ終わった理玖は瑠碧の膝枕を所望した。快く応えた瑠碧は膝をぽんぽんと軽く叩いて彼を招く。そうすれば理玖はすぐに眠りに落ちた。
 授業中も見ていたが、こうしてすぐ近くで見る彼の寝顔もいいものだ。彼の頭をやさしく撫でながら、瑠碧は心からの思いを言葉にする。
「理玖……大好き」
「――俺も」
 途中から起きていた理玖が返答したことで、瑠碧の頬が真っ赤に染まっていって――。二人の学校生活はとても穏やかだ。
 学校が終われば、二人で放課後の寄り道。
 今日は最近できたばかりのお店に寄るという約束だった。
「いちごカスタードのクレープと、オレンジショコラクレープ……」
「迷うなら両方頼んじゃえよ」
「でも……食べきれなかったら、どうしましょう」
「そしたら俺が食う」
 迷う瑠碧の背を押す理玖は、既に焼きそばクレープを頼んでいる。くすりと笑った瑠碧は彼に頼もしさを感じつつ、思いきって両方を頼んだ。
 公園でクレープを食べて、今日の授業のノートを理玖に貸して、それから――。
 ふわふわとした楽しい時間が過ぎていく。
「何だろ、夢みたいだ」
「そうですね……夢、ですから」
 理玖がふとした疑問を口にすると瑠碧が切なげに微笑んだ。それでも幸福だったことは変わらず、二人は笑みを重ねた。

「って……やっぱり夢か」
「素敵な夢、でしたね……」
 手を繋いだまま、同時に目を覚ました二人は互いの顔を見つめ合う。
 同じ時を過ごせても、二人の時間の進みは違う。彼女達もそれが分かっているからこそ、あのような時を望んだのだろう。
「あり得ねぇ……けど、楽しかった。瑠碧は?」
「叶う事のない夢でしたが……楽しかった、ですね」
 その頬に触れた理玖は彼女と同じ切なさを抱いている。けれども今は傍に居られることの方が大切なことだと思えた。
「まぁ瑠碧と一緒ならどこで何してようが、楽しいに決まってるけどな」
「私も、そう思います」
 柔らかな雲の寝台の上で理玖と瑠碧は額を合わせる。彼らの傍には、青春の色を映し込んだような爽やかな青を宿した鉱石ランプが添えられていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
🐳

訪れるのは二度目
案外心地よい空間で気に入っている
雪化粧の魔法の鯨や幻影の魚の戯れを眺め
束の間の平穏を楽しむくらいは許されるだろう

世界が変われば景色も変わるもんだよなぁ
常夜の世界じゃ考えられない魔法だ

普段は夢見の悪い自分でも
ここで見る夢は不思議と心が安らぐ
協力すれば鉱石ランプが貰えるというのも目的の一つ
いずれ常夜の世界で使うつもりのランプをここで手に入れるのも良いなと思ったんだ

さてどのような夢が見れるのか
少しの期待を抱きながら
ふかふかの雲へと身を沈める

良い夢見させてくれよ。

ゆっくりと瞼を閉じれば規則正しい寝息と共に
今だけは現実を忘れて夢の世界へ

さて俺の夢は何色だろうか
手にした輝きに目を細めた



●ひとりとふたり
 夢というものは不思議なもの。
 過去の記憶の整理や、未来の予兆だとも呼ばれているが――。
 ジェイは夢についての考えを巡らせながら、二度目の訪問となる迷宮内を見渡した。災魔や危険の心配がない此処は、案外心地よい空間で気に入っている。
 雪化粧をした魔法の鯨、きらきらと輝く幻影の魚の戯れ。
 それらを眺めれば心が落ち着く。折角の機会、こうやって束の間の平穏を楽しむ時間も大切なものに違いない。
「世界が変われば景色も変わるもんだよなぁ」
 ジェイが生まれ落ちた常夜の世界では考えられない魔法が、この世界にはある。
 しかし、それならば普段は夢見の悪い自分でもいい夢が見られる。以前にそう知ったジェイは再び、この空間の夢の力を信じることにした。
 此処で見る夢は不思議と心が安らぐ。
 それに今回は協力すれば鉱石ランプを貰えるということも目的のひとつだ。
「いずれ常夜の世界で使えるからな」
 そうするつもりのランプは既に工房の者から貰っている。後はジェイがこの場所で夢を見れば中の鉱石に色が宿るらしい。
「さて……」
 此度はどのような夢が見られるのか。
 少しの期待を抱きながら、ジェイは柔らかな感触の雲の寝台に身を委ねた。
「良い夢見させてくれよ」
 ゆっくりと瞼を閉じていけば、其処に規則正しい寝息が響き始める。今だけは現実を忘れて、夢の世界に浸るとき。
 完全に目を閉じる直前、ランプの鉱石が薄い月光のような光を宿し始める様が見えた。

 そして、ジェイの夢の世界が巡り始める。
 其処は何の変哲もない部屋の中だった。ソファに座っていたジェイは背後から料理を作る音が聞こえていることに気付き、そっと振り向く。
 視線の先には対面式のキッチンがあり、ふたつの人影が仲良く話していた。
「あれ、起きちゃった?」
「もうすぐ夕食が出来ます。ジェイはゆっくりしていて良いですよ」
 クィンティとアズーロが仲良く夕食を用意しているようだ。窓の外には黄昏色の空が広がっていて、穏やかな空気が満ちている。
 自分が眠ってしまっていたのだと知り、ジェイは目を擦る。
 今まで違う場所に居た気がした。だが、今のジェイは三人で暮らすこの家にいることが当たり前だと感じている。
「今日の晩飯は?」
「ジェイがこの前、食べたいっていってたもの!」
「何だっけか……」
「覚えていないなら、出来てからのお楽しみです」
 まだ少し寝ぼけているジェイに向け、クィンティとアズーロが笑みを向けた。ジェイの口許にもちいさな笑みが宿る。
 この世界には何も脅威はない。此処でもジェイは二人と出会い、互いに大切に思い合う関係を築いたようだ。彼らを害する者や引き裂く者は誰もいない。ただ、幸せと平穏だけが巡っている世界だった。
 心地良い。このままの時間が続けばいい。
 そんな気持ちが巡り、ジェイは二人の姿を見つめ続けた。いずれ消えてしまう光景でも、ありえない世界であったとしても――。
 今だけはきっと、この時間に浸ることも許されるはずだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
夢を見る

懐かしいな、あの鯨
前に来た時は夢の中で綾だけが小さくなったんだよな

今回も俺は特に変わったところは無いようだが、問題は綾…
!!?
隣にいたのはいつもの相棒ではなく謎の女性
その外見は「綾に妹がいたらこんな感じなんだろうな」と思わせる
つまり、綾が女性になった姿なんだろう
そう来たかー…!!
何で毎回俺はそのままなのに綾だけ幼児化したり女体化したり
まるで俺にそういう願望があるみたいじゃないかと頭を抱える

こ、こら!男に気楽にそんな風にくっつくんじゃない!
相手が俺だったからいいものの…
綾はもともと男なのに何言ってんだ俺
いつも一緒にいるのに性別が変わっただけで
何故こんなにも落ち着かないのか…


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
夢を見る

うーん、ここが夢の中かぁ
何だか現実とあんまり変わらない感じだねぇ
と、隣の梓に話しかければ何やら違和感
あれ? 自分の声ってこんなだったっけ?
あと梓、背伸びた? 2メートルくらい無い?

その違和感は、なんと自分が女の子になっていたからだと気付く
※身長が縮み、髪が伸び、スレンダーな体型の女性の姿
うわー、こんなこともあるんだねーあはは
夢の中だと分かっているからかそんなに驚かない
むしろ俺以上に梓の方が慌てているのが面白い

よーし、一緒に鯨の背に乗りに行こうか
梓の腕に自分の腕を絡ませてくっついてみれば
普段しないようなリアクションを見せる梓
ふふ、付き合いたてのカップルみたいだねーなんて



●一緒に見る夢
 此処は既に夢の中。
 ふわふわの雲のベッドに寝転んで、雪化粧をした鯨に見送られて――梓と綾は今、不思議な夢の世界に訪れていた。
 二人の周囲に広がっているのは、夢色の迷宮と似た景色だ。
「懐かしかったな、あの鯨」
 梓は眠る前にも見た魔法の鯨を思い返し、軽く両腕を組んだ。その隣では綾が辺りを眺めながら夢と現実の差異を確かめている。
「うーん、ここが夢の中かぁ。何だか現実とあんまり変わらない感じだねぇ」
「前に来た時は夢の中で綾だけが小さくなったんだよな」
 梓は綾とは反対側の方向を眺めていた。しかし、何だかおかしい。感じた違和が自分にあるのかと思ったが、自身を見下ろしてみても何も変わっていない。
「今回も俺は特に変わったところは無いようだが、問題は綾……」
「あれ? 声が変わってる。こんなだったっけ?」
「!!?」
 視線を巡らせ、綾が居るはずの方向に振り返った梓は驚いた。一瞬、少しだけ浮いてしまったくらいには驚きすぎている。
 何故なら、隣にいたのは――いつもの相棒ではなく謎の女性だったからだ。
 同時に綾の方も瞼をぱちぱちと瞬いていた。自分から見た梓が妙に大きくて、身体にもかなりの違和感があった。
「梓、背伸びた? 二メートルくらいない?」
「え……綾?」
「何?」
 女性の外見は『綾に妹がいたらこんな感じなんだろうな』と思わせるものだ。身長は普段の綾よりも低くて髪は長い。そして体型はスレンダーだ。
 そして此処は不思議な夢の世界。つまり――これは綾が女性になった姿だろう。
「そう来たかー……!!」
 梓は項垂れた。それはそれもう大いに俯いて顔を覆っている。その顔を覗き込もうとしている綾は割と平然としていた。
「うわー、こんなこともあるんだねー」
 あはは、と笑っている綾は今の姿を受け入れている。顔を覆う指の隙間からちらりと綾を見遣った梓。その胸裏には様々な思いが巡っていた。
(何で毎回俺はそのままなのに綾だけ幼児化したり女体化したりするんだ。まるで俺にそういう願望があるみたいじゃないか。いや確かに可愛いものは好きだし今の綾も可愛くて綺麗だが違う。俺は決してやましい気持ちでいるわけじゃないし寧ろ対等にというか今の綾って良い匂いがしてやばい)
 一瞬で広がった思考を抑えるため、梓は頭を抱える。
「梓ー? 大丈夫?」
「平気……じゃ、ない……」
 綾はこれが夢であると認識しているので、もう驚きはない。寧ろ変化してしまった自分以上に梓が慌てている姿が面白かった。
 梓は何とか取り繕おうとしたが、大丈夫ではない現状を素直に答える。
 対する綾は遠慮なく梓の手を取り、夢の中でも悠々と游いでいる鯨を指差した。
「よーし、一緒に鯨の背に乗りに行こうか」
「こ、こら! 男に気楽にそんな風にくっつくんじゃない!」
「なんで?」
「いや、元は両方男だけど……今は……」
「気にしなくていいよ。こっちは何にも恥ずかしくないからね」
 再び慌てる梓に対し、綾は更にぎゅっとくっついた。彼の腕に自分の腕を絡ませることで反応を見たかったのだ。
「!? 相手が俺だったからいいものの……ほら、くっつきすぎだ!」
「ふふ、付き合いたてのカップルみたいだねー」
「カップル……!? うう、綾はもともと男なのに何言ってんだ俺」
 からかい気味に笑う綾の長い髪がさらりと揺れた。それと同時に先程も感じた良い香りを感じてしまい、梓は色々なことを我慢するモードに入った。
「何でだ……いつも一緒にいるのに――」
 性別が変わっただけで何故こんなにも落ち着かないのか。困り果てている梓をじっくりと観察しながら、綾は楽しげな笑みを浮かべる。
 その間に雪色の鯨が二人の元に近付いてきた。どうやら背中に乗っても良いと語ってくれているようだ。
「ほら、行こうよ」
「……まぁ夢だしな。夢だからいいんだよな」
 梓は綾が鯨に乗り込みやすいようにそっとエスコートしてやった。女性だからというわけではなく、いつもより身長が低くなってしまった彼の補助としてだ。自分に言い聞かせているような梓を見て、綾は少しばかり不敵に笑ってみせた。
「そうだよ、今日は鯨の遊覧デートを楽しもう」
「デート。そうか、これはそういう意味のデートになるのか……」
 綾から飛び出した言葉に戸惑いを覚えつつも、梓も覚悟を決める。
 普段しないようなリアクションを見せる梓を眺めるのが楽しくて、綾もつい乗りに乗ってしまっているようだ。もし此処にドラゴン達がいたとしたら、とても微笑ましい様子で見守ってくれただろう。
 そうして、夢の二人が過ごすひとときが巡っていく。
 鯨の背に乗って翔けた雪色の世界は美しく、存外に楽しくて――。

 目が覚めた後、彼らは光る鉱石ランプを目にすることになる。
 其処に入れ込まれた鉱石の色は雪のような純白。淡く煌めくランプの中にはきっと、今日の特別な思い出と夢の力が宿っている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)
鯨さんの上で横になって睡眠をとろうと思います。
休む前に泳ぐ鯨さんを撫で。

夢の中で私はすらっと高身長の男性になっていて。
右隣には妹。左隣には母。前には父と叔父がいて。
目の前の父が言葉を弾ませ話す内容から察するに。
私は家の跡取りになっているようで。母も涙して。
『立派な跡取りになって…私は幸せです。墨』
母はそっと手を握ってくれ妹も嬉しそうな笑顔。

どうやら吸血鬼の調伏は成功を収めたようで。
それを国も認めて家は安泰だと父と叔父は安堵顔。

これは…勘当される前の私の希望の一つだったこと。
性別は無理ですがそれ以外は現実可能だったものの一つ。
今思うとどちらが幸せだったのでしょうか。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)
鯨と魚と遊ぶか寝るのがお仕事?面白いじぇ♪
墨ねーは寝るみたいだけど僕は遊ぶ方を選ぶよ。

「おー♪ まて~」
まずは魚達と鬼ごっこみたいに追いかけまわすよ。
すばしっこい魚達を捕まえるのは苦労しそうだよね♪
すいすい泳ぐ鯨の背を飛び越えながら追いかけるじぇ。
状況で泳ぐ鯨を壁に利用して捕まえるかもしれない。
「鯨さん、ちょっと利用させて」「ごめんね。鯨さん」
その時は鯨に一声かけて魚達を追いかけ直すじょ。

魚達と遊ぶのに疲れたら今度は鯨と遊ぼうかな。
「お? 君はさっきの利用しちゃった鯨さん…」
鯨の背に乗ってごろごろ転がったり撫でまわしたり。
うーん。これって鯨に遊ばれてる気もするねぃ♪



●理想の夢と鯨遊泳
 ゆるりと游ぐ魔法の鯨と魚。
 冬色に染まった不思議な迷宮フロアに訪れ、ロベルタと墨は辺りを眺めた。
「今日は鯨と魚と遊ぶか寝るのがお仕事?」
「…………」
 こくこくと墨が頷いたことで、ロベルタは興味深く周りを見渡す。ふわふわと浮かぶ雲のベッドも心地よさそうで居心地も悪くなさそうな場所だ。
「面白いじぇ♪ 墨ねーは寝る? 遊ぶ?」
 ロベルタが問うと、墨は雲の方を示した。どうやら夢を見ることで魔力を蓄積する手伝いに回るようだ。ロベルタは少し悩み、空飛ぶ鯨に目を向けた。
「それじゃ僕は遊ぶ方を選ぶじぇ!」
 おーい、と手を振れば鯨がロベルタと墨の方に近付いてくる。墨はぺこりとお辞儀をしてから、そっと手を伸ばした。休む前に游ぐ魚を撫で、鯨にも挨拶をした墨は駆けていくロベルタを見送った。
「墨ねー、おやすみー♪」
 ロベルタは鯨に勢いよく飛び乗り、迷宮の空中遊泳を楽しんだ。その間に墨は雲の寝台に身体を預け、夢の世界へ落ちていった。
 そして、ロベルタは迷宮の中を元気よく巡ってゆく。
「おー♪ まて~」
 まずはきらきらと輝く魚達と鬼ごっこ。ロベルタがこのフロアの魔力を使って自由に翔けていくと、魚達は楽しそうに逃げていく。両手を伸ばして追いかけまわすロベルタも満面の笑みを浮かべており、賑やかな追いかけっこは続いていった。
「むむ、すばしっこいじぇ」
 素早い魚達を捕まえるのは苦労しそうだが、これもまた面白いことのひとつ。すいすいと泳ぐ鯨の背を飛び越えながらロベルタは策を練る。
 そのとき、はたと気付いたのは鯨を壁にすれば捕まえられるかもしれないということ。
「鯨さん、ちょっと利用させて」
 游ぐ鯨に声を掛け、一気に魚達を追い込んだロベルタ。次の瞬間、これまで捕まえられなかった魚がロベルタの腕の中に飛び込む形で訪れた。
「ごめんね。鯨さん。魚さんも!」
 謝るロベルタに対して鯨は気にしていないというように白い飛沫を巻き上げる。それらが新たな雲のベッドになっていく様子を眺め、ロベルタは明るく笑った。
 やがて、魚達と遊ぶのに疲れたロベルタは鯨の方を向く。
「お? 君はさっきの利用しちゃった鯨さん……乗って良いの?」
 ロベルタは鯨の背に乗り、ころころと転がってみた。その背中を撫でまわしたり、ぐるりと巡る動きに翻弄されたりと、鯨もロベルタを気に入っているようだ。
「うーん。これって鯨に遊ばれてる気もするねぃ♪」
 楽しげな声をあげながら、ロベルタは暫し鯨と遊び続けていた。

 一方、墨の夢の中では――。
 不思議な世界では、墨はすらりとした高身長の男性に変わっていた。場所は迷宮ではなく実家の様相になっている。
 墨の右隣には妹。左隣には母。そして、前には父と叔父が座っている。
 これまでの話のやり取りから察するに、自分は家の跡取りとなっているようだ。目の前の父が言葉を弾ませていることからそのことが如実に分かる。
 この世界の自分は大いに期待され、その思いに応え続けていたらしい。
 隣に座る母も涙しており、嬉しさと誇りを抱いた言葉が墨に向けられている。
『立派な跡取りになって……私は幸せです』
 墨、と名前を呼ぶ母。
 彼女は墨の手をそっと握ってくれ、反対側の妹も嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 それに対して自分が何を話したのかは朧気で不明瞭だった。しかし、周囲の反応から見るに当主として相応しい言葉を告げていたようだ。
 どうやらこの世界線では、吸血鬼の調伏は成功を収めたらしい。
 今はそれを国も認めており浅間の家は安泰だと父と叔父は安堵している。その顔は穏やかで何の懸念もない。
 誰もが喜んでいるというのに、墨の胸の奥で痛みが響いた。
(これは……)
 この世界は己の理想を描いたものだ。
 性別が反転していること。一族で一番の強き身体を持っていること。返り討ちになど遭わず、後天性の半魔になどなっていないこと。
 何よりも――家から穢れの烙印を押され勘当なんてされなかったこと。
 これは自分が抱いていたの希望のひとつだと知った。性別は無理であっても、それ以外は現実可能だったことだ。
(今、思うと……どちらが幸せだったのでしょうか)
 幸福で憂いのない夢の中で墨は自問していた。答えは見つかることなく、手の届かなかった幸せな夢は巡っていく。

 気付けば墨が少しばかり魘されているようだった。
「墨ねー、大丈夫?」
「……――ロベルタ、さん」
 墨はか細い声で彼女の名を呼び返し、ゆっくりと身体を起こす。どうやら声を掛けられたことで目が覚めたようだ。
「おはよう、墨ねー。夢は見られた?」
「……」
「怖い夢だったら悲しいから起こしちゃったじぇ」
 こくりと頷いた墨は、起こしてくれてよかったのだという身振りをした。良かった、と安堵したロベルタはその隣に腰掛ける。
「はい、魔法の鉱石ランプ♪」
 ロベルタは夢魔法の工房の者から貰ってきたというランプを墨に手渡した。
 其処には雪のように真っ白な色を宿す石と、硯の中の墨のような美しい黒の石が入れ込まれている。きっとそれは其々の心の色。
 淡く光るランプはとても綺麗で――二人は暫し、揺らめく鉱石の火を眺めていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
🐳

時期が違えば景色も鯨や魚達の様子も結構変わるものだな。だけど此処の鯨達が泳ぐ姿を眺めるだけで心が安らぐ気がする

以前は確かミヌレと一緒だったよな
その時にはまだクーと出逢う前だったし、ロワ、タイヴァス、テュットとも皆で夢を見れたら面白いだろうと思っていたから、再びこうして、今度は皆で来る機会があって嬉しい限りだ
そういえばこの場所で再会したスウィルウィック教室の…あの姉弟達は皆元気にしているだろうか、なんて、ふと色々なことを思い出して懐かしい気持ちになる

前に見せて貰った夢は何だか愉快な夢だった気がする。
ミヌレは覚えているか?と、訊けば良い返事が。
今度は皆とどんな夢を見るだろう。俺達、良い夢を!



●楽園の夢
 季節や時期が違えば景色は変わる。
 それはこの迷宮も同じらしく、ユヴェンは宙を游ぐ鯨達を見上げた。
「結構変わるものだな」
 雪化粧を纏う鯨は美しい。あの鯨達が悠々と泳ぐ姿を眺めるだけで心が安らいだ。
「以前は確かミヌレと一緒だったよな」
 前回に此処で見たのはミヌレが世界をお菓子で統治する不思議な夢。
 覚えているか、とユヴェンが笑うとミヌレは勿論だというように尾をぶんぶんと振る。そのときはまだクーと出逢う前だった。
 あの頃からロワやタイヴァス、テュットとも夢を見れたら面白いと思っていた。そうして今日、クーも交えて夢の世界を楽しめることが嬉しい。
「きゅきゅ?」
「ああ、そういえばスウィルウィック教室の……あの姉弟達も気になるな」
 ミヌレの声を切欠に生徒達のことを思い出したユヴェンは、まだ縁の続いている彼女らに思いを馳せる。後から判明するのだが、今回の夢の力を研究する工房にスウィルウィック教室の面々も協力していた。
 久方振りの再会を喜び合う未来が訪れるのは、もう暫し後のことになる。
「さて、行こうか。俺達、良い夢を!」
 雲のベッドに仲間を集めたユヴェンは、其処に背を預けた。

 そして、ユヴェンが瞼をひらいたとき。
 目の前には穏やかな草原が広がっていた。タイヴァスは空に飛び立ち、ミヌレはクーの傍について辺りをきょろきょろと見回している。
「ここは……?」
 ユヴェンが疑問を抱くと、ロワが彼の手を甘噛みした。テュットは前方を示し、ユヴェンとミヌレに別の人影があることを教えている。
 草原の向こうから歩いてくる人物。それは――。
「遅かったな、ユヴェン。待っていたぞ」
「マドレーヌ?」
「きゅ……きゅきゅー!」
「何を呆けた顔をしている。ミヌレはこんなに可愛いというのに」
 ユヴェンが驚く傍ら、槍竜はマドレーヌの元に飛び込んでいった。その身体を受け止めた彼女は穏やかに、けれども凛とした雰囲気で笑っている。
 クーがおずおずと近付いていったことで彼女は手を伸ばした。よしよし、とクーを撫でたマドレーヌに歩み寄ったことで、ユヴェンは理解する。
「そうか、この場所は竜の楽園か」
「素晴らしいだろう。お前のお陰でやっと実現したんだ」
 マドレーヌが空を見上げると、タイヴァスと共にたくさんの飛竜が空に飛んでいた。その中にはフィナンシェとカヌレの姿もある。テュットもひらりと舞い、その中に混ざって悠々と飛んでいく。
 草原の向こうには地竜が暮らす岩場や、水竜が泳ぐ湖も見えた。
「来い、ユヴェン。あの辺りに綺麗な花が咲いたんだ」
「……ああ」
 ユヴェンは胸の奥が熱くなるような感覚を抱く。これは夢だ。夢に過ぎないのだが、彼女の夢が叶っている。本当にそうであれば良かった、というユヴェンの思いがこうして形になったのかもしれない。
 マドレーヌとユヴェンは花咲く草原で語らい合った。ユヴェンは寝転がり、マドレーヌは腰を下ろして、穏やかな景色の中でたくさんの言葉を交わす。
 傍でミヌレとクーが丸まって眠り、周囲ではロワ達が大小様々な竜と戯れていた。
 過去のしがらみも悲しい別れも今は関係ない。
 何を話したのかは二人だけが知っていること。平穏な世界の中で、ユヴェン達の間には笑顔の花が咲いていた。
 目が覚めた時、ユヴェンは知ることになる。
 置かれていた鉱石ランプの中に、凛とした美しい黒の彩が宿っていることを――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
◎【甘くない】
・二人が幼い頃に出会っていたら
・おどおど内気なお嬢様

突然の来訪者に身体が跳ねる
だ、だれですの…?
それは…おかあさまにしかられたから…

母は私が一番じゃないと叱りつけて
こうして二階の自室に閉じ込める

あんまりな態度に頬が膨れるも
そうね…あなたのおっしゃるとおりですわ…

いくってどこへ?
扉には鍵がかかっているのに
まどから!?…こわい…
おかあさまにしかられる…

けれど
この人の手を取ってここから抜け出したい
そう思ってしまったらもう抗えなくて

祈るように手を繋いだなら
せーのっ
…でられた?ほんとう?
こんな簡単だったなんて

ジンさん?
わ、わたくしは千桜エリシャですわ

私を救ってくれた聖者様
わたくしも…すき…


ジン・エラー
【甘くない】
・二人が幼い頃に出会っていたら
・やんちゃな悪童

桜の木の上、二階の窓を覗き込んで
なぁ~~に泣いてんだお前?
お母様に叱られた、へぇ~~~!
イイトコのお嬢様ってのは大変だなぁ~~~~!
ひひひ、なんだよその顔は。
じゃあ何か?もっと同情でもして欲しいのか?
そっちの方が惨めだろ。お前が。

あ~~~~ぁめんどくせぇ。
さっさと行こうぜ。
どこってお前、いちいち決めなきゃダメなのか?
ぶはは!そうら飛び降りた!手は繋いでやるよ!せぇ~~~の!

そういや名前聞いてなかったな?
オレはジン。ジン・エラー。
全てを救う聖者さまだぜ。
お前は?

桜の似合ういい名前じゃねぇか。
オレは好きだぜ。
ア?なんだって?



●彩戀桜
 隣同士、雲の寝台で眠る二人。
 その傍にそっと置かれている鉱石ランプに宿る色は、淡くて幽かな薄紅色。
 共に夢の世界に旅立ったジンとエリシャが見ている世界。それは――いつか、もしかしたら。何処かで在り得たかもしれない、幼い頃の話。

 貴女は一番ではない。
 如何して、何故。責め立てるような言葉を浴びせ掛けられた後、エリシャはいつも決まって二階の自室に閉じ込められる。
 自分が悪い。どうして自分は母の言う通りに出来ないのか。
 己を責めても何も変わらないということすら分からないまま、幼い少女は心の迷路の中で迷っていた。
 窓の外では桜の花が風に攫われ、青い空に飛んでいく。
 俯いた少女は外の景色を見る余裕はなかった。だが、不意に予想外のところから知らない声が聞こえた。
「なぁ~~に泣いてんだお前?」
「だ、だれですの……? どこにいますの?」
 びく、と突然の来訪者にエリシャの身体が跳ねる。
「コッチだコッチ~~~」
 外を見てみろと促す声におどおどしながらも、エリシャは窓辺に目を向けた。其処には桜の木の上に登って此方を覗き込んでいる少年がいる。どこからどう見てもやんちゃな悪童といった雰囲気だ。
「で、どうして泣いてたんだ?」
「それは……おかあさまにしかられたから……」
「お母様に叱られた、へぇ~~~! イイトコのお嬢様ってのは大変だなぁ~~~~!」
「む……」
 揶揄うような声が返ってきたので、エリシャは思わず頬を膨らませた。こういったときは慰めてくれるのが普通だろう。されど、少年はけらけらと笑っている。
「ひひひ、なんだよその顔は」
「べつになんでもありませんわ。ただ、しつれいなのではなくて?」
「じゃあ何か? もっと同情でもして欲しいのか?」
「……それは、」
「そっちの方が惨めだろ。お前が」
 エリシャに対して、少年は的を射たことを語った。はっとしたエリシャは更に俯き、自分は慰められたいわけではないのだと気付く。
「そうね、あなたのおっしゃるとおりですわ……」
 落ち込んでしまった少女を眺める少年は肩を竦めた。悲しませたいわけでも、もっと苦しめたいわけでもなかった。
「あ~~~~ぁめんどくせぇ」
 大きな溜息をつくと同時に少年は窓辺に飛び乗ってくる。再び驚いたエリシャをよそに彼は手を差し伸べてくる。
「さっさと行こうぜ。こんなトコ、抜け出しちまえばいいんだ」
「いくってどこへ?」
「どこってお前、いちいち決めなきゃダメなのか?」
「でも……どこから?」
 扉には鍵がかかっているのに。行き先も決めずに勝手に外出するなんてことをしたら、また叱られてしまうだろう。エリシャはその後のことがとても恐ろしかった。
「ここからに決まってんだろ」
「まどから!? ……こわい。あなたも、おかあさまにしかられたら……」
 けれど、この人の手を取ってここから抜け出したい。
 少女の裡には抗えない衝動と希望が生まれていた。少年は窓から身を乗り出し、エリシャの手を取る。気付けばエリシャも彼の手を握り締めていた。
「ぶはは! そうら飛び降りた!」
「は、はい……!」
「手は繋いでてやるよ! せぇ~~~の!」
「せーのっ」
 その瞬間、世界に彩が宿った。
 薄暗い自室から飛び出したことで周囲に色とりどりの花が咲き乱れる。同時にエリシャは、空の青さがこんなにも眩しいのだと知った。
 もう、あの暗い牢獄のような場所は何処にもない。
「……でられた? ほんとう?」
「行き先なんて決めなくても良かっただろ?」
 光を受けた少年が眩く笑い、ほらな、と自慢気な表情を見せた。こんなに簡単だったなんて、と少女は安堵する。
 そこで初めて微笑んだエリシャは彼の手を強く握り締めた。
「そういや名前聞いてなかったな? オレはジン。――ジン・エラー」
「ジンさん?」
 その名前を聞いた時、心臓がとくんと跳ねた。ジンはエリシャの手を引き、美しい花が咲く桜並木の道を歩いていく。
「そう。全てを救う聖者さまだぜ。お前は?」
「わ、わたくしは千桜エリシャですわ」
「桜の似合ういい名前じゃねぇか。オレは好きだぜ」
 ジン。それは孤独な少女を救ってくれた素敵な聖者様。繋いだ手から伝わってくる熱を感じながら、エリシャはちいさく呟いた。
「わたくしも……すき……」
「ア? なんだって?」
「な、なんでもありませんわ。いきましょう!」
 そして――少年と少女は駆け出す。走っていくのは未だ見ぬ未来。
 柔らかに揺らめく桜の花は、二人が往く路を導いていくかのように舞い上がった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】◎
これは夢だ
未来の夢

封印具をもう必要とせず大人姿を晒した己は、願った通り、今とは違うものに成っていた
厄災ではない、神
道祖神と呼ばれる、境の神、道の神
道行く者を護り、厄災を払い、山路を見守り、幸運を招く神として、長い長い時を掛けて姿を変えていた

愛しい番と、何時か共に神々の神在月の宴に出ようと約束をしてから、ずっと
そのために己の存在を変えて来た
何よりも一途で真摯でひたすらに必死な嘗ての厄災の、実りの夢

ねぇ、カフカ
私の可愛い子
愛しています

神々の中に当たり前に混ざって、大霊山の山神である愛しい番の傍らに当たり前に座って、誰に邪魔されることなく共に酒を酌み交わす
何時か必ず叶える、幸いの夢


神狩・カフカ
◎【彼岸花】

夢に落ちる感覚が心地よい
夢の中の自分は未だに正体を隠して
人の世を気まぐれに出歩いて
気ままな文筆業も相変わらずで
違うことといえば、

そうか、はふり
神になれたんだな
約束が果たされた未来
ふふ、道祖神だなんて
山神と共に在るにはお誂え向きだなァ

二人で正装して神在月の宴に向かう
中々様になってるじゃねェか、なんて褒め合って
そんな様子も当たり前になっていた

おれも同じ気持ちサ、なんて
旨そうに酒飲みやがってよ

こっ恥ずかしいが…明るい未来だな
夢物語がこうして実態を伴うと
いつか本当に叶うんじゃないかなんて
…いや、これは必ず訪れる未来の話サ
なんせおれたちには時間は幾らでもあるからな
ゆっくり二人で歩んでいこうぜ



●さいわいのいろ
 これは夢だ。現実とはかけ離れた、理想と希望を宿した夢。
 そんなことは分かっているというのに。今という時がすぐに変わってくれるわけではないと知っているのに。
 ああ、なんて――愛おしい。
 祝は瞼を開き、夢の世界に広がる景色を瞳に映した。
 その先には変わらぬカフカの姿がある。彼もまた、此処が夢だと知っているようで祝の姿に気付いて軽く手を振ってきた。
 夢に落ちた感覚は心地よい。
 この世界でのカフカは相変わらず、未だに正体を隠しているようだ。
 自由気儘に人の世を出歩き、今の生業にしている文筆業も続けている。人との会話や交流は楽しく、カフカにとって大切なことのひとつ。
 ただ、違うことといえば――。
「そうか、はふり。神になれたんだな」
 傍に添う彼の神、祝を見つめたカフカは穏やかに笑う。
 祝はすべてが変わっていた。
 封印具をもう必要とせず、大人の姿を常に晒すことが出来る祝。それは願った通り、今とは違うものに成っていた。
 厄災ではない、神。道祖神と呼ばれる境の神であり、道の神としての存在。
 道行く者を護り厄災を払い、山路を見守る。そして、幸運を招く神として、長い長い時を掛けて姿を変えていた。
 それが今の祝だ。カフカもそのことを理解しており、祝福の思いを抱いていた。
 これは夢は夢でも、約束が果たされた未来の形だ。
「どうやらそのようですね」
「ふふ、道祖神だなんて山神と共に在るにはお誂え向きだなァ」
「約束しましたから、ね」
 カフカが嬉しそうに笑うものだから、祝も穏やかな微笑みを湛える。そうすれば周囲の光景が鮮やかな色彩が巡る神域に変わった。
 はらり、ひらりと桜が舞う領域は二人を祝うように煌めいている。
 其処にはもう呪の気配などひとかけらもない。祝はカフカに向けて腕を伸ばし、その頬に触れた。長い指先が愛おしげに彼の肌を撫でていく。
 これが、叶えられる未来なら――。
 祝の胸の奥に熱が宿る。
 愛しい番と、何時か共に神々の神在月の宴に出ようと約束をしてから、ずっと。そのために己の存在を変えて夢に見てきた。
 何よりも一途で真摯でひたすらに必死な、嘗ての厄災。
 その実りの夢が今だ。
 二人の姿は神としての正装に変わっていた。礼装としての衣服を纏う彼らが向かうのは、神在月の宴の最中。
 幽業が巡り、神議りが執り行われ、様々な神が集う中で二人は視線を重ねる。
「中々様になってるじゃねェか」
「ええ、お陰様で」
 カフカが口許を淡く緩めると、祝は双眸を細めた。君がいたから。君が傍にいなければ、こんな夢を抱くこともなかった。いつかの未来を夢見ることが出来るのは、他でもないカフカが祝の傍らにいてくれるからだ。
 いつしか夢の世界の二人は、神として共に在ることが当たり前になっていた。
 神在月の宴では世の人々の幸縁結びを祈る祝詞が奏上される。御宿社の広間で寛ぎ、時には縁側で神域の美しさを眺め、ゆるりと過ごす二人。
 大霊山の山神である愛しい番。傍らに座って、誰に邪魔されることもなく共に酒を酌み交わすひとときは心地が良い。
「ねぇ、カフカ」
「……はふり」
「私の可愛い子。愛しています」
「おれも同じ気持ちサ」
 当然の如く、永遠に続くのだと示すように語られる言の葉が嬉しい。祝言をあげるように盃に注がれた酒を飲み干す祝を見て、カフカは片目を眇めた。
「旨そうに酒飲みやがってよ」
「カフカがいるからこそですよ」
「こっ恥ずかしいが……明るい未来だな」
 今は未だ夢物語。けれどもそれがこうして実態を伴うと、いずれは本当に叶うのではないかと思える。錯覚かもしれないが、それでも――。
「いや、これは必ず訪れる未来の話サ」
「えぇ、きっと……」
「なんせおれたちには時間は幾らでもあるからな」
 カフカはそれまでゆっくり二人で歩んでいこうと語る。約束として巡った夢の形の中で、祝は愛しい神を真っ直ぐに見つめた。
 そう、これは――何時か必ず叶える、幸いの現。

 共に眠っている二人の手と手はいつしかそっと繋がれていた。
 まるで未来の縁を結ぶように隣り合うカフカと祝。その傍には、硝子のように透き通った鉱石が宿るランプが置かれていた。
 きっとそれは、これからの彼らが色を与えていくもの。
 遠くて近い未来、染められていく鉱石の色は――きっと、二人だけの色彩だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
🐳深尋(f27306)と

あたし、前にも不思議な夢を見たことがあるのよ
きっとここでも…夢の中なら大きさも変えられるんじゃないかしら?
深尋は…ちいさいあたしとおおきなあたし、どっちがいい?
それとも、深尋がちいさくなる?
なんて聞きながら魔法の鯨の姿にきゃあとはしゃいで
咳払いで隠れた言葉は気づかぬまま
ふかふかの雲のベッドで
あなたと一緒に夢の中へ

でもきっと、夢の中でも
あたし達がおおきくてもちいさくても
例えば、あたしが男の子になっていたりしても…?
あたし達はいつも通りだと思うの
夢でもいつもみたいに楽しくてどきどきして、幸せな

鉱石ランプも楽しみで
夢から覚めても傍にあなたがいるのは
…うん、とってもしあわせね


波瀬・深尋
🐳キトリ(f02354)と

へえ、前にもか
それは良い経験だったな
夢の中って大きさも自由なのか
俺は、ちいさくても、大きくても
キトリが、す、
き、と言いかけて咳払いをひとつ
どっちのサイズでも可愛いと思うよ
頬が熱を持っていること
気のせいだと思い込みながら
俺が小さくなるのも良いな
なんて返しつつ、鯨にはしゃぐ君を見守って
ほら、そろそろ寝ようか、キトリ
隣で眠る君を見て、穏やかに笑った

小さくても大きくても
幼児化とか他の変化でも
キトリと一緒なら楽しめるよ
男の子なキトリとも仲良くなれそうだ
逆に俺が女の子になったときは
どんな反応をしてくれるだろうな?
鉱石ランプのことも含めて楽しみだよ
キトリが一緒なら本当に──幸せだ



●一番星の傍に
 ふわふわと浮かぶ魔法の雲の上。
 迷宮を泳ぐ不思議な鯨を眺め、キトリと深尋は静かな時間を過ごしていた。
 深尋は雲に腰掛け、キトリは彼の肩に座っている。鯨の傍を游いでいる魚の鱗が反射したことでキトリは目を細めた。
「あたし、前にも不思議な夢を見たことがあるのよ」
「へえ、前にもか」
 それは良い経験だったな、と笑う深尋は傍らの彼女に視線を向けた。キトリはぱたりと翅を揺らして、此度の夢に思いを馳せる。
「きっとここでも……夢の中なら大きさも変えられるんじゃないかしら?」
「夢の中って大きさも自由なのか」
「深尋は……ちいさいあたしとおおきなあたし、どっちがいい?」
 キトリは彼の顔を覗き込み、そっと問いかけた。
「俺は、ちいさくても、大きくてもキトリが、す、……んん。すごく……そう、どっちのサイズでもすごく可愛いと思うよ」
 深尋は自然に言葉にしそうになった、好き、という言葉を咳払いと言葉で誤魔化した。その様子に気が付かなかったキトリは嬉しそうに笑む。
「ありがとう。それとも、深尋がちいさくなる?」
「俺が小さくなるのも良いな」
 先程から頬が熱を持っていることはきっと気のせい。そう思い込むようにしながら、深尋は頷いてみせた。
「鯨があんなに近くまで来てくれたわ!」
 前方を指差したキトリは魔法の鯨の姿を間近で見て、きゃあとはしゃいでいる。
 揺れる翅の愛らしさ。瞳を輝かせる無邪気さ。やっぱり、そのどれもが好きだ――なんて想いは胸の内に仕舞い、深尋はキトリに手を差し出した。
「ほら、そろそろ寝ようか、キトリ」
「そうね、眠りましょう」
 ふかふかの雲のベッドに深尋が背を預けると、その胸の上にキトリが身を委ねる。
 ――あなたと一緒に夢の中へ。
 すぐ傍で瞼を閉じて眠りにつく彼女を見て、深尋は穏やかに笑った。

 二人が導かれていくのは夢の世界。
 眩い光が瞼の裏にまで射し込んでくるような感覚を抱き、深尋は目を開いた。
「深尋。ねぇ、見て深尋!」
「わ、キトリ? 大きくなったのか」
 身体を起こした深尋が見たのは自分と同じサイズのキトリ。いつもは小さくて可愛らしい顔が今はすぐ間近にある。しかし、彼女は首を横に振った。
「違うの、深尋がフェアリーになっているみたい」
「本当だ」
 深尋は先程から自分の身体に違和を覚えていた。背中にはキトリと色違いの翅があり、周囲に咲き乱れる花からは愛らしい囁きが聞こえてきている。
 よく見ると辺りは星が瞬く世界になっていて、一番星が天で輝いていた。
「深尋、この世界を冒険してみましょ」
「飛べるのか、これ」
 キトリは深尋の手を取り、翅を羽ばたかせて見て欲しいと告げる。深尋はそっと背に力を入れてみた。いつもとは違う感覚が身体に巡ったかと思うと、身体が宙に浮く。
「そう、上手よ。まずはあっちね」
「キトリ、待って」
「大丈夫よ、あたしが導くから」
 まだ飛ぶことに慣れていない深尋の手を握り、キトリはランタンのように光り輝く花や不思議なキノコがある方に飛翔していく。
 決して離れない、互いの手と手の温もりは心地良い。こうして手を繋ぐこともまた二人にとっては新鮮なことだ。
 けれども、彼らの楽しそうな笑顔はいつもと変わらない。
「もしかしてあれって……」
「チェンジリングだわ!」
 そんな二人が見つけたのは姿を変える魔法が掛かったキノコ群。危険はないと分かっているので、キトリと深尋はその輪をくぐってみる。
 その瞬間、弾けた煙と共にお互いの姿が変わった。
「キトリ、その姿は――」
 驚いて軽く目を見開いた深尋の瞳に映っていたのは、少年になったキトリだ。ぺたぺたと自分の身体を触ってみたキトリは可笑しそうに笑う。
「すごい、これで深尋と同じくらいの力が出せるかし……出せるかな?」
「そうだね。って俺も女の子に、なってる……?」
「あはは! 入れ替わったみたい」
 少年らしく話そうとするキトリに対して、深尋は少女に変化していた。大きさは妖精のままなのでふたりとも愛らしいまま。髪が長くなった深尋とショートカットになったキトリは正反対のあべこべ状態。
 それでも二人は楽しい気持ちでいっぱいだった。
 繋いだままの手から伝わる熱。同じ目線で見る景色。どんな姿になっても、どのような見た目に変化しても、きみがすき。
 変わらないことが確かにある。そう感じた深尋は、キトリと共に再びチェンジリングをくぐる。次は二人の姿が元の性別に戻り、人間サイズの学生服姿になっていった。同時に景色も現代風の学園の中に変化していく。
「ここって日本の学校かしら」
「そうみたいだ。ということは俺達はクラスメイトってやつかな」
「いいわね、次は学園の探検よ」
 スカートと上着をなびかせ、二人は次の舞台に駆けていく。それから、たくさんの世界を巡る夢が広がっていって――。

 嬉しくて楽しくて、どきどきする夢の世界はまだまだ続く。
 寄り添うように眠る二人の傍には、輝く星色の光を宿す鉱石ランプが置かれていた。
「キトリが一緒なら本当に――」
「……しあわせ」
 ちいさな寝言が重なり、二人は身を寄せ合う。
 夢から覚めても傍にあなたががいる。それはとても幸福なことだから。
 叶うならずっと、いっしょに。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】🐳

いいえ、雲の上なんて本当素敵ですねぇ
おやおや、ルーシーちゃんそんな素敵な事があるのですか?
ふふっ、それは楽しみですね

彼女を雲の上にゆっくりぽふんと座らせて横へと座る

楽しい夢?
そうですね、ルーシーちゃんの夢はどれの楽しそうです
親子で一緒なんて僕たちみたいですねぇ
僕は…ルーシーちゃんや大切な子達が笑ってくれて
一緒にいれる夢だと嬉しいですね

彼女の言葉にゆっくりと横になる
ふわふわとした高級ベッドみたいですね?
大丈夫?彼女はいう
嗚呼、僕は殆ど寝ることは無い
ダンピールだからもあるけど
夢は過去を見せる、あの日を見せる
僕にとってあまり良いものでは無いから
彼女はそれを知っている
せっかくだから夢を観たいだろうに
僕に合わせて、そして心配してくれている
何も言わず、ありがとうねぇと一言と頭を撫でて

えぇ、どんなランプになるか楽しみですねぇ


ルーシー・ブルーベル
【月光】🐳

パパは雲にのってお休みしたことある?
ルーシーはね、なんとあるのよ!
あれもふわふわふかふかだったけど
ココもとっても気持ち良さそうね

ねえねえパパ
パパはどんな夢をみたい?
うんと楽しい夢がいいな!
動物になってみるとか、大人になってみるとか!
どんな時もね、親子いっしょなの
もちろん!だってその夢のパパは、ゆぇパパの事だもの!
パパの夢もステキね
でも、それ
本当とあまりかわらないかも?
パパが笑顔なら、みんな笑顔になってると思うの

手を繋いで、ふわふわ雲に横たわればすぐに夢見心地
…だいじょうぶよ
もしも怖いことが起きてもルーシーがいっしょだから
哀しい夢から手を引っ張って、
楽しい夢へ連れていってあげる
だからね、安心しておやすみしていいのよ

わたしも時々、過去の夢を見る
あの家の、おとうさまの夢
でもパパのお陰で少し、
見ること少なくなってきた

わたしの手がパパの手みたいに大きくてあたたかかったら
パパをもっと安心させられたのかな
そんな想いは裡に秘めて

どんな鉱石ランプになるかなあ
とっても楽しみね!



●あおいろ
 魔法の鯨と真っ白な雲。
 ふわふわと浮かぶ心地が巡る迷宮の一角にて、ルーシーとユェーは大きな雲の上に登っていた。ベッドのような柔らかな感覚は気持ちがよくて、眠るのにもぴったり。
「パパは雲にのってお休みしたことある?」
「いいえ、ないですよ。けれど雲の上で眠れるなんて本当に素敵ですねぇ」
「ルーシーはね、なんとあるのよ!」
「おやおや、そんな素敵なことがあったのですか?」
「あれもふわふわふかふかだったけど、ココもとっても気持ち良さそうね」
「ふふっ、楽しみですね」
 無邪気に笑っているルーシーの隣で、ユェーも穏やかに微笑んでいる。
 そうしてユェーは、彼女を雲の上にゆっくりと座らせた。ユェーも横に腰を下ろし、悠々と泳いでいく鯨を目で追う。
 ぽふぽふと雲を撫でて柔らかさを確かめていたルーシーも、ユェーと一緒に魚や鯨を眺めていく。楽しそうに双眸を細めた少女は彼の袖をそっと引いた。
「ねえねえパパ」
「どうかしましたか?」
「パパはどんな夢をみたい?」
「夢ですか……。ルーシーちゃんはどんな夢がいいですか?」
「ルーシーはね、うんと楽しい夢がいいな!」
 ユェーが問い返すと、ルーシーは楽しげに語っていく。
 たとえば二人で動物になってみる夢。ルーシーが凛とした大人になってパパと並ぶ夢だったり、長閑な湖畔の上を自由に飛ぶ夢。
 そして、どんなときも親子で一緒がいい。
 彼女がわくわくした様子で話している様をユェーは和やかに聞いていた。
「ルーシーちゃんの夢はどれも楽しそうです。親子で一緒なんて僕たちみたいですねぇ」
「もちろん! だってその夢のパパは、ゆぇパパの事だもの!」
 ルーシーは胸を張り、当たり前だというように答える。それから少女は、パパは? と尋ねる眼差しを向けてきた。
「そうですね、僕は……ルーシーちゃんや大切な子達が笑ってくれて、一緒にいられる夢だと嬉しいですね」
「パパの夢もステキね」
 ルーシーはユェーが紡いだ声を聞きながら、ふと首を傾げた。想像しているうちに或ることに気付いてしまったからだ。
「でも、それって本当とあまりかわらないかも?」
「そうでしょうか?」
「だってパパが笑顔なら、みんな笑顔になってると思うの」
 ね、と笑いかけたルーシーの表情は尊いものだと思えた。ユェーは彼女の優しい思いを耳にしながら雲のベッドに背を預けた。
 いつものように彼と手を繋ぎ、ルーシーも倣って寝転がってみる。肌から伝わる淡い感覚は気持ちが良くて、目を瞑ればすぐに眠ってしまいそうなほど。
「ふわふわとした高級ベッドみたいですね?」
「そうね、パパ。……だいじょうぶよ」
 ユェーに向けて、ルーシーはそっと言葉を向けた。
 もしも怖いことが起きてもルーシーがいっしょだから。
 哀しい夢から手を引っ張って、楽しい夢へ連れていってあげる。だから――。
「安心しておやすみしていいのよ」
 ルーシーは柔らかな声色でユェーに語りかけていった。大丈夫だという言葉を聞いたユェーは、彼女が自分を気遣ってくれているのだと知る。
(嗚呼、僕は殆ど寝ることは無いから――)
 夢は過去を見せる。
 忌まわしきあの日を見せるものであるゆえ、ユェーは眠る時間が短い。それは自身にとってあまり良いものではない。
 彼女はそれを知っている。せっかくだから夢を観たいだろうに。ユェーに合わせて思いを押し込め、心配してくれているのだろう。
 ユェーは何も言わなかったが、ルーシーにも理解できている。
(わたしも時々、過去の夢を見るから。わかるの)
 あの家の、おとうさまの夢。
 別のパパの夢を見る日はとても切なくて胸が痛い。けれども今のルーシーはあの夢を見ることが少なくなっていた。それはきっとユェーのお陰。
「ありがとうねぇ」
 それ以上は何も語らず、ユェーはルーシーの頭を撫でた。その手を受け入れながらルーシーは密かに思う。
(わたしの手がパパの手みたいに大きくてあたたかかったら……)
 パパをもっと安心させられたのかな。
 そんな想いは胸の裡に秘め、ルーシーは夢のあとのことに想いを巡らせた。
「どんな鉱石ランプになるかなあ」
「えぇ、どんなランプになるか楽しみですねぇ」
「とっても楽しみね!」
 そして、二人は瞼を閉じる。
 夢の魔法が満ちる迷宮で、ルーシーとユェーは不思議な世界に導かれていく。

「――パパ!」
「えぇ、ルーシーちゃん」
 夢の世界には澄んだ青空が広がる、花の景色が広がっていた。美しい花弁が空に舞い、小鳥達の声が美しく響く場所には幸福が満ちている。
 様々な花が咲き乱れる路の先、ユェーを呼んで手を振るルーシーはすらりとした大人の女性になっていた。
 歳の頃にして二十歳くらいだろうか。光を受けて煌めく金の髪は足元まであり、眼帯はない。とても美しく成長した女性が其処にいる。
 対するユェーの見た目は変わっていないが、落ち着いた紳士然とした雰囲気が漂っていた。精神年齢を更に重ねたといった様相に思える。
「そんなに急がなくても花は逃げませんよ」
「だって、この先に百年に一度しか咲かない青い花があるんでしょう?」
 ルーシーに追いついたユェーは花の道の向こう側を見遣る。ルーシーはユェーの腕に自分の腕を絡め、幼い時のようにぎゅっと甘えた。
 これほどに花を見たいと思うは、奇跡のような時間を一緒に過ごしたいから。
 百年でも、二百年でも同じ時間を共に。
 そんな思いを持って、夢世界のルーシーは花畑を歩いていった。
 視線は近く、ユェーがルーシーを軽く見下ろすだけで顔が見える。傍から見れば恋人同士にも見えるが、二人の間にあるのは親子としての感情だ。
 いつか、こういった未来が訪れるのだろうか。ルーシーが綺麗な大人の女性に成長していき、その姿を見守り寄り添うユェーがいる。
 そして、果てしなく澄み渡った空の下で笑いあう。そんな未来が――。

「……パパ、見て。あのお花……」
 雲のベッドで眠る少女は寝言を言葉にしながら、夢の中と同じようにユェーの腕にくっついていた。夢の中ではきっと二人で幻の花を見ているのだろう。
 ユェーもルーシーと同じ夢を共有することで悪夢から逃れていた。
 そんな二人の傍には淡く光る鉱石ランプが置かれることになる。其処に宿っている燈灯の色は、夢に見ている青空の彩。
 何処までも真っ直ぐな親子の想いは今、此処で色を宿していく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織


あら、お洒落な鯨さん
見たい夢?そうね…
月咲…月咲様と話してみたい

美しい銀に狼の耳と尾を持つ月の神
周囲には月光纏う藍蝶が舞う
それは過去の記憶を見せる場で幾度も見た姿

貴女が、月咲様だったのですね
湖に落ちた時も、森で迷った時も助けてくれた
橙樹が祀る神に護られていたとは…
ーお前は危なっかしくてな。気が気でないわ

あの…貴女と丹陽、森の夜叉はどんな関係なのです?
ーん?そうだな、あれは同志だ
同志。
ーああ、あの地を護る同志。まあ…それ以上であったのも確かだが
ふふ、彼のあの瞳は貴女をとても大事に思っているようでしたものね
ー…娘、お前意外とそう言う話好きか
ふふふ。もちろん
恋バナは楽しいですもの、と笑む

ー橙樹の巫女。その牡丹櫻は丹陽の印だ
そう、でしたか
ーそれを標に必ずお前の元に現れる。だが、今後お前の元に現れる夜叉は丹陽ではない
…?
ー今のあれは悪しき者に呑まれている。お前に…お前の魂に縁ある者だ。心せよ
…!まさか
ー悪いが丹陽を…救っておくれ
…ええ、ええ。

必ず

祀る神の憂いを晴らし
幼少期の友を…取り戻しましょう



●託された思い
「あら、お洒落な鯨さん」
 千織は魔法の空間に浮かぶ鯨を振り仰ぎ、双眸を緩く細めた。
 彼は言葉を喋ることはないが、どうしてか千織に語りかけてきているように思えた。魔法の鯨が上げた白い飛沫は雲の寝台となり、柔らかな空気が満ちていく。
 ――どんな夢が見たい?
「見たい夢?」
 まるでそのように聞いているような鯨に対し、千織はそっと答えた。
「そうね……月咲……月咲様と話してみたい」
 やわらかな雲に背を預けた千織は願いを言の葉にしながら、瞼を閉じる。静かな微睡みが裡に広がっていく中、千織は夢の世界へと落ちていった。
 後に彼女は知ることになる。
 目覚めた傍に置かれていた鉱石ランプが、彼の夜叉の色を宿していることを。

 巡り落ちるように辿り着いた夢の世界。
 その世界の中心に立っていたのは、一人の女性だった。
 美しい銀に狼の耳と尾を持つ、麗しい月の神。月咲様、と千織が呼んだそのひとそのものが桜の舞う不思議な世界に佇んでいる。
 その周囲には月光を纏う藍蝶が舞い踊り、月咲を守護していた。
 彼女の姿は過去の記憶を見せる場で幾度も見たもの。
 そして今、夢の世界とはいえど月咲と千織は同じ空間にいる。藍蝶は千織をいざなうようにひらり、ひらりと舞っていた。
 千織は月咲に視線を向ける。すると彼女の方も千織に眼差しを向けてきた。
「貴女が、月咲様だったのですね」
 懐かしくていとおしい気持ちを抱きながら、千織は月咲を見つめる。
 音もなく頷いた月咲は双眸を細めていた。
 千織が幼い頃、湖に落ちた時も、森で迷った時も助けてくれた。あのときはその正体がわからなかったが、今ならはっきりとわかる。
「橙樹が祀る神に護られていたとは……」
 千織がそう呟くと、月咲は尾をゆったりと揺らしながら答えた。
『お前は危なっかしくてな。気が気でないわ』
 何度も、幾度も。
 きっと覚えていないときも密かに見守り、助けてくれていたのだろう。月咲の尾と同じように千織の尾もふわふわと揺れている。
 それは、この桜と蝶の空間が心地よい場所だという証だった。
 そうして千織は疑問を言葉にしてみる。
「あの……」
『ん?』
「貴女と丹陽――森の夜叉は、どんな関係なのです?」
『あれか。そうだな、言の葉にして表すならば同志だ』
「……同志」
 千織は月咲から聞こえた言葉に眼を瞬かせた。月咲は薄く笑ってみせると、そのように呼ぶのが一番相応しいと語る。
『……ああ、あの地を護る同志。まあ……それ以上であったのも確かだが』
「ふふ、彼のあの瞳は貴女をとても大事に思っているようでしたものね」
『娘、お前は意外とそう言う話が好きか』
「ふふふ。もちろん」
『あまり茶化されるのは好きではないのだがな』
「それでも恋バナは楽しいですもの」
『恋、な……』
 千織が悪戯っぽく笑むと、月咲は複雑そうな顔をした。夜叉についてはそれ以上のことを語ってくれなかったが、彼女は傍に千織を呼ぶ。
『――橙樹の巫女』
「はい?」
『いいか、その牡丹櫻は丹陽の印だ』
「そう、でしたか」
 告げられたのは千織がはじめて知ることだった。月咲はこれからの重要なことになると知り、こうして教えてくれているのだろう。
『それを標に必ずお前の元に現れる』
「……」
『だが、今後お前の元に現れる夜叉は丹陽ではない』
「どういうことですか……?」
 月咲から不穏な事が告げられていく。
 彼女も現状について悟っているのだろう。千織が感じているように、彼の夜叉が宿していた嘗ての優しさは何処にもない。
『今のあれは悪しき者に呑まれている。お前に……お前の魂に縁ある者だ』
「……!」
『心せよ。どんなことがあっても、想いを強く持て』
「まさか――」
『悪いが、娘……千織よ。あれを……丹陽を、救っておくれ』
 そういって月咲は蝶と共に消え去ってしまった。おそらく彼女はただの夢の登場人物ではない。何らかの力を使い、千織の夢に介入してきたのだ。きっとその力も現界があり、此処までしか話せなかったに違いない。
 彼女の姿があった場所を見つめた千織は、何度も深く頷く。
「……ええ、ええ」
 ――必ず。
 夢の世界が晴れていく最中、千織は決意と意志を固める。

 祀る神の憂いを晴らすこと。
 そして――幼少期の友を、取り戻す未来を手繰り寄せることを。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
🐳◎
💎🌈

あの鯨ほんと凄いよなぁ……
…夢想の魔導書になら鯨の使ってる魔法も乗ってるかな?
(夢想の魔人の奴はどうにか出せるようになったし……後で聞いてみるかな?)
だよな、どんな夢が見られるか今からワクワクだ!
俺様も心結と一緒の夢は楽しみだぜ!
夢の中でも仲良くだな、あぁ良いぜ、約束だ!

おやすみなさーい
 
繋いだ手の温もり
安心感があるのはなんでだろ
ふわふわとした気分に包まれたまま、夢に落ちるのだ

どんな世界だとしても、きっと俺様は心結とまた友達に…或いは別の形でも、ドキドキやわくわくに満ちた気持ちで、楽しく過ごせていることだろう
夢の世界なら、魔人に…ドリーマーにも会えるんだろうか
或いは、俺様が夢見た魔術師に逢えるだろうか?
分からないからこそ、気になる
もやっとする夢でも、きっと二人なら乗り越えられる

醒めたタイミングがどっちが先でも
手を離すことなく傍にいる
…名残惜しい…気がするな?

鉱石ランプ!夢の魔力が詰まってるのは良いな!研究しがいも有るし見てて楽しい!
大きさは……まぁどんぐらいでも大丈夫だろ!


音海・心結
🐳◎
💎🌈

相変わらず魔法の事が頭から離れないみたいですね
でも、憧れちゃうのも分かる気がします
どんな夢が見れるのか、今からとってもワクワクです
零時と一緒ならどんな夢でも嬉しいですけどっ
夢の中でも仲良くしましょうね
みゆとの約束です

……おやすみなさい

繋いだ掌の温かさ
とっても心がぽかぽかします
幸せに包まれて
零時と一緒ならどんな夢でも怖くないのです

もし、男女逆転したら
――何度でも零時と仲良くなります
もし、兄弟だったら
――みゆがお姉さんですね
  いっぱい零時を可愛がります
もし、過去の(零時の)宿敵に会えたら
――言葉を交わし、仲良くなりたいです
  成長する様子を近くで見ていてほしいですね
もし、違う世界出身だったら
――全然、想像がつきませんね
  どんな環境でもみゆはみゆらしく生きます

夢から醒めたのはどちらが先でしょうか
掌は繋がれたままでしょうか
零時は、傍にいますか

お礼に鉱石ランプを貰い、色や模様を堪能します
大きさは片手で貰えるくらいの大きさが理想ですね
両手で抱えたら、零時と手を繋げないので



●描く夢、眺める夢
「あの鯨、ほんと凄いよなぁ……」
 見上げる迷宮の空には雪化粧を纏った魔法の鯨が泳いでいる。
 零時は魔法にかける熱い思いを滾らせながら、どのような仕組みや術式でこの空間が出来ているかを考えていく。
「夢想の魔導書になら鯨の魔法も載ってるかな?」
 以前に入手した書に触れて周囲を観察している零時は実に真剣だ。きっと此処には、魔法の浪漫があふれているのだろう。それゆえにアルダワ魔法学園の者達も夢の魔法の力を研究しているに違いない。
 零時の様子を眺め、心結はふっと息を吐く。周囲の空気はほんのりとあたたかく、雪色の世界に優しい揺らぎを与えている。
「相変わらず魔法の事が頭から離れないみたいですね」
 心結は零時が迷宮のフロアに夢中になっている様を暫し見つめていた。隣にみゆがいるのに、と不意に浮かんだ思いは胸の裡に秘め、心結はふふっと笑う。
「でも、憧れちゃうのも分かる気がします」
「ん? 何か言ったか?」
 振り向いた零時に対して、心結はゆるゆると首を振った。零時が楽しそうにしているならそれでいい。それにこれから二人で楽しい夢の世界に行けるはず。
「いいえ。どんな夢が見られるのか、今からとってもワクワクです」
「だよな、どういった夢か今からワクワクだ!」
 同じ言葉と思いを返し、零時は明るく笑った。心結も零時に微笑みを向け、どういった夢の世界に入れるのか想像していく。
「零時と一緒ならどんな夢でも嬉しいですけどっ」
「俺様も心結と一緒の夢は楽しみだぜ!」
「夢の中でも仲良くしましょうね。みゆとの約束です」
「あぁ、いいぜ。夢の中でも仲良くだな、約束だ!」
 心結と零時は約束を交わし、迷宮内に浮かぶ雲の上へ向かった。ふわふわとした感触の雲はベッドにぴったりだ。
 二人は手を繋ぎ、同じ雲の上に横たわった。
「おやすみなさーい」
「……おやすみなさい」
 後は微睡みに身を任せて眠りに落ちるだけ。
 感じるのは互いの手のぬくもり。二人は一度だけそっと瞼をひらいた。すると視線が重なった。お互いに同じタイミングで相手を見たのだということを知り、何だかくすぐったい気持ちになる。
(安心感があるのはなんでだろ)
(とっても心がぽかぽかします)
 ふわふわとした気分に包まれたまま、二人は緩やかに夢に落ちていく。
 どんな世界だとしても、きっと大丈夫。零時と心結はまた友達になれるだろう。或いは別の形でもいい。どんな場所で、どのような出逢い方をしてもドキドキやわくわくに満ちた気持ちで、二人楽しく過ごせているはず。
(夢の世界なら、魔人に……ドリーマーにも会えるんだろうか。或いは、俺様が夢見た魔術師に逢えるだろうか?)
 分からないからこそ、気になる。零時は心結の手を少しだけ強く握り締め、きっと二人なら乗り越えられるだろうと考えていた。
 心結もまた、幸せに包まれている。
(もしおそろしい夢でも、零時と一緒ならどんな夢でも怖くないのです)
 そして――。
 零時と心結はこれから、たくさんの夢の世界を巡ることになる。

 まずは零時が予想した通り、魔人と魔術師に逢う夢。
 その世界の二人は今と同じだが、零時の宿縁に成り得る者達が勢揃いしていた。
 夢想、神聖、幻想、或いは未だ見ぬ書。そして、零時が幼い頃から焦がれていた世界最強、最強――或いは最高にして最悪と呼ばれた遍く魔術の探究者、破壊と創造を司る魔術師の姿が其処にある。
「魔術師だ! 夢想もいる! 後の奴らは……うわ、すごい魔力を感じる!」
「これが零時の求めるものなのですか?」
「ああ! どうしよう、誰から話そうか。やっぱり魔術師に……ってあれ?」
「???」
 しかし、突然に二人の周囲の空間が歪んだ。
 真っ白な世界が広がったかと思うと、目を開けられていれなくなり――。
 次に移動したのは男女逆転の夢。
 お互いの衣装が入れ替わっている上に、性別まで変化しているようだった。
「零時、なんだか可愛らしいですね」
「何か声も変わって……心結が格好良く見えるな」
 ふふり、と笑う仕草は変わらないが心結は凛とした男性になっている。零時は髪がさらさらになっていて実に女の子らしい。
 けれども心結は知っている。どうあっても、何度でも零時と仲良くなれることを。
「うわっ、次は何だ?」
「また世界が変わっていくみたいですね」
 そうして、更に空間が変化していく。男女逆転だった様相はすっかりと変わり、次は同じ屋根の下で心結と零時が暮らしている夢になった。
「今回はみゆがお姉さんですね」
「心結姉さんかぁ」
「いいこいいこです、零時」
「落ち着くような、落ち着かないような……?」
 心結はいっぱい零時を可愛がりたいとして、姉として弟を撫で撫でしていく。
 それからも夢は巡り続けた。
 学園の同級生としての二人、大人になって現代のオフィスで働く二人。犬と猫になってしまう夢や、前世から繋がっている運命に巻き込まれる壮大な宇宙スペクタクルなどなど、世界は移り変わる。
 しかし、何処であっても二人は常に一緒だった。
 どんな環境でも心結は心結らしく、零時もまた零時らしく生きていた。
 そうして、暫し後。

「……零時?」
 瞼をひらいた心結は零時の顔が間近にあることに気付く。
「ん……んん、心結。おはよう」
 すぐに零時も目を覚まし、に、と口許を緩めた。それからゆっくりと起き上がった二人は手を離すことのないまま笑みを重ねる。
「おはようございます。すごい夢でしたね」
「……名残惜しい……気がするな?」
 零時は繋がっている手を再び握り締めた。たくさんの夢を見て、数多の世界を渡ってもこの手が解けることはなかった。
 ふふり、と口許を緩めた心結はふと横を見遣る。
「鉱石ランプがありますよ、零時」
「おお! 夢の魔力が詰まってるってやつか!」
 二人分のランプにはそれぞれ、パステルカラーを思わせる虹色に染まった鉱石と、はっきりとした原色の虹色に染まった鉱石が入っている。おそらく前者が心結、後者が零時のものだろう。
「とってもきれいなのです」
「研究しがいも有るし見てて楽しいな! 大きさはも丁度いいくらいだ!」
 片手に提げられる程のランプを見て、心結と零時は感謝を抱く。少女は言葉にしなかったが、この大きさであることが本当に嬉しかった。
 何故なら――両手でしか抱えられないものだったら、零時と手を繋げない。
 傍で光る鉱石の光。
 それは二人で過ごした七色の夢が彩る、想い出のかたち。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

解釈、不明点、汐種セリフ等全てお任せ

_

手伝ってほしいと言われれば勿論頷く

ワイシャツ姿で雲のベッドに身を沈める
…眠るのはいつぶりだろう
最後にとった仮眠さえすぐに思い出せず
眠る時、常は睡眠薬に頼ることも多々ありながら
今ばかりは誰かに導かれるように微睡んで

誰かがいる
夢の中だとは薄らと感じながらも瞼が開かない
俺の隣にその人は寝そべって
『……そんな薄着で寝たら風邪引くだろうが』
──梓
その声に、その気配に
…ああ
汐種、と呼びたいのに
この瞳も、この口も
開きはしなくて


『お前はいつも無茶ばっかりしやがって』
何かが身体に掛けられる
…あたたかい。彼の身に付けていた香水の香りが仄かに鼻腔をくすぐる。モッズコートだろうか
『怪我ばかりしてさ、…なあ、梓』
身体に熱が伝わる。夢の中のはずなのに、抱きしめられている感覚がやけにリアルで
彼は何かを言いかけ口を閉ざした
…昔からそうだ
自身の悩みは全て抱え込む奴だった

抱きしめてやりたいのに
この腕は動かない

…汐種、

『…梓、』


ごめんな。



●零と壱
 雪化粧に彩られた魔法の鯨が迷宮の空を游いでいく。
 ワイシャツのネクタイを緩め、首元を開ける。少しの解放感を覚えた梓は暫し、迷宮に広がる空を見つめていた。
 柔らかな雲の寝台。其処に腰を下ろしていた彼は一度だけ瞼を閉じてみる。そのまま背を雲に預ければ、身体中に心地好い感覚が巡った。
(……眠るのはいつぶりだろう)
 瞼をひらいた梓はふと思う。
 思い返そうとしてみても、最後にとった仮眠さえすぐには思い出せない。それほどに働き詰めであり、眠りが必要なときは睡眠薬に頼っていた。
 こういった生活がいけないことは知っている。だが、だからといって規則正しい生活が送れるのかというと答えは否だ。
 然し、今回ばかりは違う。眠ることが仕事、もとい任務であり頼まれごとならば何も憂うことなく眠れる。寧ろ眠らなければ協力が出来ないとあらば眠るしかない。
 今ばかりは誰かに導かれるように、微睡む梓は再び目を閉じた。

 暗い、昏い世界が瞬く間に広がっていく。
 眼には視えないが確かに深い、底無しの闇に飲み込まれているような――普段から抱いているものに似た感覚が巡っているようだ。
 此処に、自分以外の誰かがいる。
 これは夢だ。ただ夢の世界だと薄らと感じていた。しかしどうしてか、梓は瞼をひらくことが出来ない。
 その誰かは自分に近付いてくる。寝息が聞こえているが、それは自分のものだ。己が眠っているところを自覚するという不思議な状態を感じながら、梓は其処に横たわっていることしか出来ないでいる。
 すると、誰かは梓の隣に寝そべった。
 見えはしないが、気配でその人がそうしたのだと分かった。
『……そんな薄着で寝たら風邪引くだろうが』
 ――梓。
 声が聞こえたかと思うと、その誰かは自分を呼ぶ。
 それですべて分かった。
(……ああ、汐種)
 自分も彼を呼び返したい。されどそうすることはも出来なかった。
 その声に、その気配。懐かしくて堪らない。寒くはないと答えたいし、目を開けておはようと告げたくもあった。
 それなのにこの瞳も、この口も、少しも開きやしない。
 梓の隣で、汐種は優しい声を紡いでいく。此方が眠っていると思っているからか、彼の言葉はとても穏やかだ。
『お前はいつも無茶ばっかりしやがって』
(あたたかい……)
 そのとき、ふわりと何かが梓の身体に触れた。掛けられたのが彼の上着だと気付いたのは、あの香水の香りが仄かに鼻腔をくすぐったからだ。
 おそらく汐種が自分のモッズコートを掛けてくれたのだろう。
 その際、梓の額に彼の指先がそっと触れた。僅かに目に掛かっていた髪を梳いてくれたようだ。そうして、汐種は言葉を続ける。
『怪我ばかりしてさ、』
 身体に熱が伝わってきた。抱きしめられている、と感じた梓は彼に身を委ねていた。元より目も口も開かないが、心で寄り添うように――。
 彼の熱を感じていた梓は、ほんの僅かだけ自分の身体が動いたことを知る。こつりと互いの額と額が触れたからだ。
 汐種の方は暫し身体を動かさず、閉じられた梓の瞼を間近で見つめているらしい。
 彼の息遣い、心臓の音。幾度か瞬かれる瞳が動く気配。
 夢の中のはずなのに、彼の体温がやけにリアルだった。ずっとこのままいてもいい、という気持ちが少しだけ浮かぶ。
 そんなとき、汐種の手が梓の頬に触れた。
『……なあ、梓』
 そして、汐種は何かを言いかけた後に口を閉ざす。
 その言葉の続きを伝えて欲しかった。しかし、汐種は昔からそういう男だった。自身の悩みは全て抱え込み、己だけで解決しようとする。
 眠っている梓に対してさえ、こうして口を噤んでしまうほどに。
 話せないならばそれでいい。矜持が許さないなら密かに抱えていて構わない。
 それが汐種という男の在り方であるなら、認めたかった。何故なら梓も彼と似た性質を持っていると自覚しているからだ。
 けれども、迷い悩む心を落ち着かせてやれる場所があるのだと示してやりたい。苦しみの中にも一筋の光が射すことがあるのだと教えたかった。本当は抱きしめてやりたいのに、梓の腕は夢の最後まで動かないまま。
(……汐種、)
『……梓、』

 ――ごめんな。

 紡がれた言葉はどちらのものだったのか。
 もしかすれば二人が同時に紡いだ思いだったのかもしれない。
 未だ昏い闇の渦中にいる梓。そんな彼をそっと照らすように、傍にランプが置かれていた。其処に宿っているのは藍色と黒が混ざりあった色をしたちいさな鉱石。
 幽かな灯火は、闇に沈んだ謎と迷いを晴らす光と成り得るのか。
 その答えを知る者は――未だ、何処にもいない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
◎🐳

ヨル
いい子は寝るんだ
嘴磨いた?
よし!いい子だ!
エチカ、エチカも一緒に遊ぼうよ

ぷくり、こぽり

うたう泡沫──珊瑚の街灯を越えて
あわぶくのゲートを潜る
まろやかな螺鈿揺蕩う大きな貝のような白の街

綺麗!
どこからも優しい歌が聴こえてくる
りるるりるりり
歓迎してくれてるみたい
何となく何を言ってるのかわかるよ

エチカも人魚みたいだね
大丈夫?
尾鰭はこう動かすといいよ
僕はいつもこうやって動いてる

この街のひと皆が人魚だ
僕みたいなひらひらの尾鰭の
あれ?僕、黒人魚になってる

フララ?
誘うように舞うフララとカナンについて美しい人魚の街を泳ぐ
紅珊瑚の並木道に桜貝花の庭園!
白亜のお城を見上げて探検しよう

皆がピカピカで眩しいくらい
ヨルもおされをしたの?
珊瑚の髪飾りはエチカに似合いそう

平和で穏やかで
皆が優しくしてくれる
哀しみなんてひとつも無い
パンドラはこういう街を、目指したかったのかな…なんて
僕にはわからないけど

エチカ、お城にも行ってみよう
ここはどこかわかるかも

悠久の調べレフリフララ
そう笑ったのは
ここに居るはずのない白い鳥



●悠久と匣庭
 雪色に染まる迷宮の中。
 まだまだ夜ではないけれど、魔法の夢に向かう者達はもう眠る時間。
「ヨル、嘴は磨いた?」
「きゅっきゅい!」
「よし! いい子だ! エチカも準備はだいじょうぶ?」
「勿論じゃ。さぁさ、夢の中へ旅立とうぞ!」
「うん!」
 リルとヨルとエチカは、おおきくてふわふわな雲のベッドに寝転がった。瞼を閉じれば心地好い微睡みが巡っていき、三人は夢の世界に落ちていく。

 ぷくり、こぽり。
 うたう泡沫が海の底から水面に向かって浮かんでいく。
 珊瑚の街灯が照らす水の中。淡い光を越えて泡が彩るゲートを潜れば、其処に煌めく世界が広がった。
 まろやかな螺鈿が揺蕩う、大きな貝のような白の街。
 其処は大きな二枚貝が口を閉じたようなドーム型の海底都市だ。
 人魚が游ぎ、歌を紡ぐ街はきらきらと輝き、美しい泡沫が揺らいでいる。月のように浮かび、深海に光を齎しているのは丸く大きな月鏡、光真珠。
 街からはそこかしこから優しい歌が聴こえてきており、リルはそっと耳を澄ませた。
 ――りるるりるりり。
 それは歌の言の葉のようだ。リルには何となく何を言っているかがか解った。
「綺麗! 歓迎してくれてるみたい」
「美しい場所じゃのう!」
「きゅきゅい!」
 ヨルはすいすいと泳いで人魚達に挨拶をしている。リルも街の中に進んでいき、其処にエチカもついていく。少女の足がお揃いの人魚めいた形になっていることで、リルは何だか嬉しくなった。
「エチカも人魚みたいだね」
「むむむ、嬉しいのじゃが泳ぐのが少し難しいのじゃ……」
「大丈夫?」
 リルはエチカの手を取り、自分の尾鰭を見せる。こう動かすといいよ、と示してみせたのはいつもの動き。エチカはリルの真似をして徐々に泳ぎに慣れていく。
「ふふ、どうじゃ!」
「上手いよ、エチカ!」
 リルは少女から手を離し、ヨルとお話をしている人魚達を見渡した。この街のひとは皆、リルによく似た人魚だ。ひらりと揺れる尾鰭に美しい見目。それでいて芯の宿った凛とした雰囲気が見られる。
「おや、リル。お主の身体が――」
「あれ? 僕、黒くなってる……?」
 エチカが驚いた顔をしたのでリルは自分を見下ろしてみた。まるで魔法が解けたように、純白の身体が漆黒に染まっていっている。
 それと同時にリルの傍にいた幽世蝶が水の中で揺蕩い始めた。
「フララ?」
「ついてきて、と言っておるようじゃ」
「きゅー!」
 フララとカナンは誘うように舞い、リル達と共に美しい人魚の街を泳いでいく。
 紅珊瑚の並木道をこえれば、桜貝花が咲き誇る庭園が見えた。其処から続く水の道を游いでいけば、白亜の城が司会に広がった。
 ヨルは深海都市の探検を楽しみ、リル達も景色を眺めていく。
「皆がピカピカで眩しいくらい。ヨルもおされをしたの?」
「きゅっ!」
 ヨルは他の人魚から珊瑚を貰ったらしく、頭に可愛く飾っていた。エチカも珊瑚の髪飾りを人魚に飾って貰い、楽しげに過ごしているようだ。
 リルにも人魚達が快く話しかけてくれていた。
 平和で穏やかで、皆が優しくしてくれる。此処には哀しみなんてひとつも無くて、永遠に揺蕩う平穏が続いていくかのよう。
「パンドラはこういう街を、目指したかったのかな……」
 ふとリルの口から思いが零れ落ちた。
 本当のことはリルには判らないことだが、どうしてかそんな気がする。
「リル? どうかしたのかの?」
「ううん、なんでもないよ。エチカ、お城にも行ってみよう」
 ここはどこかわかるかも、とリルは先を目指して泳いでいく。そのとき、不意にヨルが後ろを振り返った。
『ここは、悠久の調べレフリフララ』
 ヨルの視線の先には静かに笑う白い影があった。
 此処に居るはずのない白い鳥は瞼を閉じる。そうして夢の世界は泡沫の中でぷかりと浮かび――ゆうるり、あまたの彩虹のヴェールが揺らいだ。

「きゅ……」
「――レフリフララ……」
 むにゃ、と寝言を呟いたヨルとリルの傍で、黒薔薇めいた漆黒の鉱石が入れ込まれたランプが淡く光っている。その姿を見守っているのは先に目覚めたエチカだ。
「リル……。お主には未だ、幾つもの運命が絡まっておるようじゃ。ヨル、しかとこの子を守ってあげるのじゃぞ」
 少女は眠るリルとヨルの頭をそっと撫で、ひそかに願う。
 どうか、かれらが歩んでいくみちゆきに星の輝きと幸があらんことを――。
 黒を覆う白。
 それこそが、闇に光を導く彩なのかもしれない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
◎🐳

私達の見る夢は如何なるものなのだろうね、カグラ

『起きなさい』
カグラの声
揺すられ夢の中で目覚め─身体が小さい?!
…赤ん坊か?
抱えられ撫でられる
上手く話せないのは私が生まれた年齢…1歳と少しの姿だからか

今日は家族で祭りに行く約束だろうと
家族
カグラが父なら
母は桜姫か

違った

カラス…神斬…が父?母?
分からないが二人は私を挟んで仲睦まじい
あれよと着替えさせられ
神斬に抱えられながら祭りを往く
もう片方はカグラと繋いでいる

抱えられたままやわい物を食べ
お面や水風船を買ってもらう
…優しい愛情と眼差しとぬくもり

親、という存在とは斯様なものなのか

目覚めれば
赤い顔を覆うカグラの姿が
同じ夢をみていたね
カグラ…
もう少し素直になってはどうだろうか
…認めたら未練が残るって
いいじゃないか
赦されるよ
サヨは心配ない
私が引き上げる

私は楽しかったし嬉しかったよ
同志にも言われたことがあったが…
カグラとカラスが私の親にも等しいのかもしれない
之が──親子
巫女へ抱く想いとはまた違う暖かな想いと安心感を思い出し微笑む

ホムラはまだ起きない



●繋ぎ継り、巡りの縁
「私達の見る夢は如何なるものなのだろうね、カグラ」
 夢の魔力が満ちる迷宮に広がる空を振り仰ぎ、カムイは傍らのカグラに問いかける。
 考えるよりも見た方が早い。
 そう答えたカグラに頷きを返し、カムイは寝台に背を預けた。柔らかな魔法の雲の感触を感じながら、カムイ達は瞼を閉じる。
 そして、ふたりは同じ夢の世界にゆっくりと落ちていった。

『――起きなさい』
 近くでカグラの声がする。いつもよりも幾分もやわらかい呼びかけ方をしているカグラは、カムイの身体をそっと揺らしていた。
(……?)
 カムイは腕を伸ばしてみた。しかし、思ったように動けないうえに――。
(身体が小さい?!)
 自分が赤ん坊になっていると気付いたカムイは、カグラに抱き上げられていた。
『まだ眠いのか? 今日は家族で祭りに行く約束だろう』
 カムイを撫でながら、カグラは外を見遣る。
 そうだっただろうか、と答えようにも口もうまく動かせない。思ったとおりに話せないのは今のカムイが一歳前後ほどの姿だからだろう。
(……家族)
 この夢の世界でカグラが父であるなら、母は桜姫なのだろうか。
 カムイが思考を巡らせていると、其処にもうひとりの人物が入ってくる。だが、カムイの予想とは違っていた。
『イザナ、準備ができたよ』
(カラス……いや、神斬が……父? それとも母か?)
 カグラの隣に寄り添ったのはカラスもとい神斬だ。どちらがどうなのかは分からないが、二人は子供であるカムイを挟んで仲睦まじい会話を交わしている。
 混乱している間にカムイはあれよあれよと外着に着替えさせられた。次は神斬がカムイを抱え、一行は祭りが催されている場へ往く。
 勿論、神斬のもう片方の手はカグラと繋がれていた。
 カムイは短い腕を振り、足をぱたぱたと動かすことしか出来ない。それでも二人の間にいる時間はとても心地よかった。
 神斬に抱えられたまま、屋台で売られていた美味しいものを食べ、その後はお面や水風船を買ってもらった。
 カグラがお面を被せてくれた手の温度があたたかい。優しい愛情と眼差し、確かなぬくもりが此処にある。無償の愛と慈しみを感じたカムイは、其処ではたとした。
(そうか……。親、という存在とは斯様なものなのか)
 親というものをカムイは知らない。概念は分かっているが、こうして実際に親子としての時間を過ごすのは初めてだ。
 思えば、カムイはイザナイカグラと硃赫神斬の魂の巡りから生まれた。そのことから考えるに二人こそが両親にあたる存在なのかもしれない。
 両親と祭りを巡ったカムイは心に宿る不思議な熱を感じていた。
 そうして、カグラと神斬は愛し子の額に口付けを落とす。人気のない帰路で微笑みを重ねた二人は見つめあう。やがて、その距離が次第に縮まっていって――。

「……夢、か」
 ふと目覚めれば、赤く染まった顔を両手で覆うカグラの姿が見えた。
 やはり同じ夢をみていたらしくカグラの動揺は相当なものだ。夢の最後を思い出したのか、口許を押さえたカグラは何も言えないでいる。
「カグラ……」
 カムイもまた、あの光景を見ていた。夢の中では夫婦らしかったのだから変だとは思わないし、それが自然に思える。カムイはカグラの肩を叩き、夢とは願望の現れでもあるのだと語った。
「もう少し素直になってはどうだろうか」
 しかし、カグラは左右に首を振る。認めてしまえ未練が残るから、らしい。
 されどそんなことはもう今更な気もしないでもない。
「いいじゃないか、赦されるよ。サヨは心配ない、私が引き上げるからね」
『…………』
 カムイが真っ直ぐに語ったことで、カグラは顔を上げた。大丈夫だと告げたカムイは夢を思い起こしながら静かに笑う。
「私は楽しかったし嬉しかったよ。同志にも言われたことがあったが……カグラとカラスが私の親にも等しいのかもしれないね」
 そう、之が親子。
 巫女へ抱く想いとはまた違う、あたたか想いと安心感。
 自分達の傍に置かれていた赫い彩の鉱石ランプを手に取り、カムイは心地好い気持ちを抱いた。横ではまだ眠っているホムラが「ちゅちゅんぴぃ!」と寝言を言っている。
 その様子を見守り、カムイは穏やかな思いを確かめた。このままもう一度、眠っていいかもしれない。カムイは身体を横たえ、カグラもホムラの額を指先で撫でた。
 その後、エターナルゴッドバーニングダチョウに進化したホムラに、夢の世界を連れ回される夢を見るとは知らずに――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵

🐳

鯨の夢…懐かしいわ
この夢がきっかけで私の中のイザナが目覚めたのだっけ
優しくカラスを撫でる
あなたの力を感じたの
今度はどんな夢が見られるのかしら


柔らかな日差しと揺れる桜
懐かしい誘七の家の軒先

─兄様!

駆けてくるの実母譲りの白髪に父譲りの青い瞳の少女
私は生贄ではなくて
愛呪は生まれていなくて
すべてが上手く廻っている

私の妹の美珠
血を分けたかぁいい妹よ
私は少年の姿で
まだ美珠も幼くて
手を繋いで屋敷を歩む

─兄様、お勉強は?

勉強は終わり
可愛い妹と遊ぶ方が先
髪を結ってあげて一緒にお花を摘んで
そうするうちに神様が遊びに来てくれる
私達の大好きな師匠!

美珠
あなたも生まれてきたかったよね
生きていたかったよね
都合のいい夢だとわかっている
でも
夢でも幸せで共に遊ぶのは楽しかった

こうなればよかった
こうは、ならなかった
何時もこればかり
けど…私が今歩く道が私の路なの

こうならなかったから今の私があるの
こうならなかったらカムイにも出会えなかったって
いったら怒るかしら?師匠

後悔なんて今更しない
今の私だから出来ることがきっと、ある



●喰らう愛
 季節や時が過ぎ去っても、この場所の優しさは変わらない。
 櫻宵は少し離れた場所にある雲の上で眠っている人魚や神の姿を見つめた後、迷宮の空を悠々と泳いでいる鯨を見上げた。
「鯨の夢……懐かしいわ」
 以前に此処で夢を見たことが切欠になり、己の中のイザナが目覚めた。
 あれから様々な巡りを経て、櫻宵は神の巫女として生きている。傍に座っているカラスを優しく撫でた櫻宵は、愛おしさを抱いていた。
「あの日、あなたの力を感じたの。今度はどんな夢が見られるのかしら」
 不穏な揺らぎから始まったことではあるが、あの試練を乗り越えた先には今のような穏やかで幸いな日々も訪れている。
 未だ全てが収まったとは言えないが――それでも、未来に進みたいと願う心がある。
 目を閉じて落ちてゆく世界は、そのための一歩。

 柔らかな日差しを感じた櫻宵はゆっくりと瞼をひらいた。先ず視界に入ってきたのは揺れる桜と舞い散る花弁。
 景色を見渡していくと、此処が懐かしい誘七の家の軒先だと分かった。
『――兄様!』
 其処に少女の声が響く。
 此方に向かって駆けてきたのは一人の少女。実母譲りの白い髪に父譲りの青い瞳をした少女は櫻宵を兄と呼んだ。つまり、この世界は――。
「美珠、どうしたの」
 優しく応えた櫻宵。彼は生贄などではなく、誘七の次期当主として生きている。
 本当の櫻宵に宿って周囲を蝕む愛呪は生まれておらず、家を中心としてすべてが上手く廻っている場所だ。
 櫻宵の姿も言葉も歳相応の少年らしく、髪も短く切り揃えられていた。美珠と呼ばれた少女は兄の傍でそわそわしている。
 血を分けた可愛い可愛い妹。彼女に手を伸ばした櫻宵は、おいで、と妹を誘う。
 繋いだ手を引き、桜が咲く庭を歩く二人は穏やかな心地を楽しんでいく。
『兄様、お勉強は? もういいの?』
「勉強は終わりだよ。気にしてくれていたんだね」
 妹が少し落ち着かない様子だったのは、兄の大事な時間を取ってしまっていないかと心配していたからのようだ。
 可愛い妹と遊ぶ方が先、と笑った櫻宵は外の野原に踏み出した。春の花が咲き乱れている其処はまるで天国のよう。
『兄様、前みたいに髪を結ってくれる?』
「いいよ、美珠が好きなあのお花も一緒に飾ってあげようか」
 願われるままに髪に花を結ってやり、次は花冠を紡ぐための花を摘みに行く。そうしているうちに二人の元に神様が遊びに訪れた。カラスの黒い羽が花畑に舞い落ちたかと思うと、其処に神斬の姿が現れる。
『櫻宵、美珠。いい子にしていたかい』
「師匠!」
『ししょう!』
 二人を慈しみ、優しく接してくれる黒い神――私達の大好きな師匠。
 神斬は駆け寄ってきた兄妹を優しく撫で、お土産だよ、と金平糖が入った包みを渡していく。嬉しそうにはしゃぐ美珠は神斬にぎゅっと抱きついた。
 その様子を見守る櫻宵は、もう気付いている。
(美珠……あなたも生まれてきたかったよね。こうして、生きていたかったよね)
 都合のいい夢だとわかっていた。
 だけど夢であっても幸せで、共に遊ぶのは楽しかった。
 櫻宵の身体は大人の姿に戻り、その肩にはカラスが止まる。遠ざかっていく景色の中には幼い少女と少年、二人を見守る神の姿がまだあった。
 あれは幻想。こうなればよかった。こうは、ならなかったという偽りの想像だ。
『……サヨ』
「そうね、私は何時もこればかり」
 カラスから名を呼ばれたことで櫻宵は一度だけ俯いた。しかし、それは逃避するための行動ではなく、今の自分を省みるための仕草だ。
「けど……私が今歩く道が、私の路なの」
 こうならなかったから今の自分がある。こうならなかったら、愛しい神にも出会えなかった。そういってしまうと師匠が怒るかもしれないけれど。
「後悔なんて今更しないわ」
 夢は夢に過ぎない。
 けれどもこれも想いの形であり、命の巡りを軽んじていないことの証。
「――今の私だから出来ることがきっと、ある」
 思いを強く持った櫻宵は顔を上げ、もう夢から覚める時だといってカラスを誘う。歩んでいく道の先は未だ暗いままだが、其処に射す光だってあるはずだ。
 そして、かれらが夢の世界から去った後。
 ぽつんと暗闇の中に佇む少女が、櫻宵達が向かった先を見つめていた。
『兄様……』
 美珠の姿をした少女。否、美珠そのものが虚空に向けて何かを語りかけていく。その姿は徐々に白い蛇に変じていった。

 もっと食べて。もっと喰らって。
 そうしたら、わたしは。わたしたちは――。
 終わらせるために、動き出せるから。

 目が醒めた時、櫻宵は不穏な予感を覚えていた。
「……美珠?」
 携えている白の脇差がしゅるりと蠢いた気がする。何かを伝えられた気もしたが、不明瞭な夢の欠片はまだ繋がらない。カラスはただ、じっと櫻宵を見つめるのみ。
 その傍らには、濁った桜色の鉱石が宿るランプが光っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
🐳◎

ふうわりと真白く施された雪化粧
この空間に訪れるのは、二度目ね
やわい世界へと視線を走らせましょう

ふふ、ラン。気に留まる?
とても不思議な夢に浸ることが出来るの
あなたも、夢を見られるかしら

繊細な蝶を指さきに留めて
微睡みの先へと参りましょう
如何なる夢の世界に往けるのかしらね
夢の先へと思いを馳せて
胸の奥が高鳴るかのようだわ

このひと時が過ぎ去った後には
鉱石で仕立てた灯りがいただけるよう
手に渡る耀きが、とてもたのしみね

さあ、そろそろ睡る時間だわ
雪を纏う雲に身を沈めて
そうっと、目蓋を降ろしてゆく

冷ややかな冬の景色のようだと云うのに
身を包む白雲は、とてもあたたかい
このまま、意識を委ねてしまいましょう

おやすみなさい、良い夢を
また、目覚めた時にお会いしましょう



●くれなゐ、こひつがい
 雪化粧が施された魔法の鯨は、ふうわりとした真白。
 懐かしさに双眸を緩めた七結は迷宮を游いでいく鯨の背を瞳に映す。
「この空間に訪れるのは、二度目ね」
 あの日とは違って迷宮内は冬の様相になっていた。それでもこの空間が宿すやさしさのような雰囲気は変わらず、七結はちいさく笑む。
 やわい雪が巡る世界に視線を走らせれば、七結の傍に蝶がひらりと舞った。
「ふふ、ラン。気に留まる?」
 問いかけながら手を伸ばせば、七結の指さきに幽世蝶が止まる。七結にとって二度目でも、ランにとって此処は初めての場所。
 巡りがなければ訪れることも出来なかった世界だ。
「とても不思議な夢に浸ることが出来るの」
 あなたも、夢を見られるかしら。
 期待と共に囁いた七結の言葉を聞き、幽世蝶は羽を羽ばたかせた。共に微睡みの先へ、と誘えば蝶が真白な雲に七結を導いていく。寝台を選んでくれているようだと感じた七結は快さを抱いた。
「如何なる夢の世界に往けるのかしらね」
 夢の先へと思いを馳せていけば、胸の奥が高鳴る。
 それに、このひと時が終われば鉱石で仕立てた洋燈も貰える。七結は思いを馳せ、ランと共に雲の寝台に腰掛けた。
「手に渡る耀きが、とてもたのしみね。さあ、そろそろ睡る時間だわ」
 そっと身体を預ければ、ふわりとした感覚が背から伝わってくる。微睡みは緩やかに訪れ、七結は雲に身を沈めた。
 辺りは冷ややかな冬の景色のようだと云うのに、とてもあたたかい。身を包む白雲の心地を感じながら七結は意識を委ねてゆく。
「おやすみなさい、良い夢を」
 また、目覚めた時にお会いしましょう。
 言の葉を紡いで、そうっと目蓋を降ろしてゆけば――夢の世界が花ひらく。

 はらり、はらり。牡丹一華のあかが空に舞う。
 瞼をひらいた七結の視界に入ったのは、何処までも広がる澄んだ空と、それを写し込んだ鏡面のような足元の水面。
 そして、その中央に凛と佇む鳥居。
 此処は神域だということがひと目で分かった。素足のままのつま先を水面に浸せば、透明な波紋が広がって空を揺らす。
「ラン……?」
 ふと誰かの気配がして、七結は辺りを見渡してみる。すると、鳥居の向こうで幽世蝶が羽ばたいた姿が見えた。
 然しそれは一瞬だけ。続いて鈴の音が鳴り、現れたのは眞白の神。
 なゆ、と呼ぶ声がしたことで、此処が彼の座す神域であることを確信する。つまり此処は、彼の神が一度目の終わりを迎えた時に消滅してしまった世界だ。
「――槐さま」
 七結は自分でも驚くほどに、はっきりとその名を呼び返した。その途端、七結が纏っている服が眞白の神と似たものに変わっていく。
 白絹に金糸雀色の細やかな刺繍、裏地の紅い彩。
 まるで婚礼衣装にも思えるそれは、眞白の巫女の装いとも呼べる様相の着物だ。
「これはあなたの夢?」
 七結が問いかけると、眞白の神は肯定も否定もしなかった。その代わりに彼――槐はそうっと手を差し伸べて七結を鳥居のもとに誘う。
『傍においで』
「……ええ」
 七結が歩みを進める度に水面の足元に色鮮やかな花が咲いていく。まるでそれは神の番となる者を祝福するかのように咲き乱れていった。
 手を重ね合い、見つめ合う。それだけですべてが通じた。
 ふたりは今、番となる契を交わそうとしている。それは戀でも愛でもない。ただ、命尽きるまで――否、たとえ命が尽きても共にいるという契りだ。
 槐の指さきが七結の頬に触れる。それだけでとても心地よくて、たったこれだけのことに全てを捧げてもいいとすら思えた。
 けれど、解っている。
 これはただの夢。醒めれば終わる夢の世界だからこそ、槐も七結もゆめを描ける。
 もし、戀鬼が普通の恋をすることが出来たら。
 もしも、眞白の神が少女を愛の儘に己の神域に閉じ込めていたら。
 これは決して在り得なかったこと。交わらず、巡らなかった世界を夢想するだけなら誰からも咎められることなどない。
 夢は夢。それでも眠っている今だけは、目の前のことこそが真実だ。
 きみをあいしているよ。
 ずっと傍にいるよ。今までも、これからも。
 未来永劫、変わらぬことであっても。ひとの言葉では語り尽くせぬことでも。
 時折きみに伝えたくなる。だから、今だけは――。
『七結』
「槐さま」
 ただ名前を呼び合うだけでいい。
 あかい鳥居の下、牡丹一華が舞う眞白な鏡面の世界で、誓いは結ばれる。
 そして少女は、神の番としてだけ生きる夢を視る。

 七結が目覚めたとき、傍にランプが置かれていることに気付くだろう。
 純白にあかが滲み、花が咲きゆくかの如き光が宿った不思議な鉱石。それはまさしく、眞白とくれなゐが重なって繋がれた証。
 ランプに止まった幽世蝶は、穏やかに眠る少女を静かに見守っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング
🐳◎
大好きなベアータ(f05212)さんとっ

自由な夢が見れるなんて素敵ですっ
えへへ、ベアータさんと学校行って、お勉強したり遊んだり、JKライフ満喫しちゃいますよー
でもでも、どんな夢の内容かは彼女には秘密
さぷらいずって楽しいですよね

夢の中ではボクは、姿形を真似ただけではない純粋な人間の姿
おー、これが「人間」って感覚…なんかすっごい新鮮!そして嬉しい!
母船の記録で見て以来憧れだったJKに、完全になってますね!

あ、ベアータさんも生身になってる
眼帯がなくて普通の両目、普段と違くてちょっとドキドキしちゃいます
というか、ドキドキってこーいう感覚なんだ
本来の体には心臓も血液もないから、すっごい不思議な感覚

夢の終わり際、夢なら本当の気持ちを、好きだよって言えるかな
なんて思っても、やっぱり言い出せなくて
…とっても素敵な夢だったから、今はこのまま、素敵なままで目覚めましょう
誤魔化すようにベアータさんの顔を下から覗き込んで、とっても楽しくて、素敵な体験でしたねって伝えます
ベアータさんは、楽しんでくれたかな?


ベアータ・ベルトット
🐳◎
大好きなメルト(f00394)と
どうしても見たい夢があるらしいから付き合う事に

言っとくけど変な夢だったら承知しないわよ?
なんて言いつつちょっとドキドキ…いや、添い寝だからってのもあるけど
メルトの顔を眺めながらうとうと…

普通の女子高生としてメルトと一緒に学生生活を楽しむ夢
学校なんて通ったことないから、何もかもまるっきり新鮮で
メルトはすっごいイキイキしてるわね。さらさらの黒髪に温かな肌。「人間」になった姿もすっごく可愛らしくて、心がずっときゅんきゅんしてる

生まれが違えば、私にもこんな青春があったのかな…
硬い機械の手足じゃなくて、生身の体で触れ合える喜び―私の記憶から消失した感覚。そっか、こんな風だったんだ
最後にぎゅっと抱きしめて、好きを伝えたくなったけど…出来なくて
名残惜しいけどそろそろ目覚めなきゃ

やっぱり、どっちのメルトも可愛いな。笑顔で応える
うん、楽しかったわ。アンタがJKに憧れる気持ち、私もちょっとわかった気がする
叶わない夢。でも、この幸せは続くように。貰ったランプに祈りを籠めて



●青い空と巡る春
 此処は魔法の鯨が泳ぐ迷宮。
 白い飛沫が作り出す雲のベッドで、一緒に眠った相手と同じ夢が見られる。そんな不思議な場所に訪れたメルトとベアータは今、同じ雲の上に座っていた。
 ふかふかとした魔法の雲の感触を確かめながら、メルトは嬉しそうに笑う。
「自由な夢が見られるなんて素敵ですっ」
「確かにそうだけど、どうしても見たい夢って?」
「えへへ、秘密です。夢の世界にいったらすぐにわかりますから!」
 ベアータはまだ、メルトの夢について何も知らされていない。それは眠りながら見る夢であり、どうしても叶えたかった夢でもある。しかし、同時に現実では叶えられないと分かっていることでもあった。
「言っとくけど変な夢だったら承知しないわよ?」
「ベアータさんにひどいことをする夢じゃないので、大丈夫ですっ」
「そりゃあメルトに限ってそんなことはないと思うけれど……」
 以前のように萌え萌えキュンなポーズをするのも或る意味でひどいことかもしれないが、それは夢でなくとも叶えられた。
 何かしら、と首を傾げるベアータの横顔を見つめるメルトはわくわくしている。
 憧れに近付けること。
 たとえ夢の世界であっても大好きな人と一緒なら絶対に楽しい。それにサプライズはとてもいいものだ。
「それじゃ行きましょうか。ここで寝ればいいのよね」
「はいっ! 違う夢の世界に行ってしまわないようにもっとくっつきましょう!」
「もっと? でも……そうね、夢のためにね」
 身体を雲に沈めたベアータの隣、額が触れ合いそうなほどの距離にメルトが近付いてきている。添い寝状態の現状にドキドキしたベアータは、メルトの顔を眺めた。
 されど次第に微睡みが巡っていく。
 うとうとと瞼を落としていくベアータを見つめ返しながら、メルトも意識を落とす。
 溶け合うように甘く、繫がり合うように深く――。
 素敵な夢の世界が幕開けた。

 此処はとある学園内。
 屋上に吹き抜けていく風に乗って桜の花が舞い上がっていった。
 風に靡く髪を片手で押さえたメルトは翠の瞳をぱちぱちと瞬く。青い空の最中を薄紅色の花弁が翔けていく様子を目で追えば、笑みが溢れた。
「ベアータさん、見てくださいっ」
 きれいですよ、と蒼天を指差したメルトは春の訪れを喜んでいた。
 彼女に倣って空を見上げたベアータの黒髪もさらさらと揺れている。目映い太陽の光に両目を細めた彼女は陽射しのあたたかさを快く感じた。
「えぇ、すごく綺麗だわ。……って、もうすぐお昼休みが終わりそうよ、メルト」
「本当です! 急ぎましょう、ベアータさんっ」
 暫し二人で空を見上げていたメルトとベアータは、急いでお弁当箱を片付けていく。ぱたぱたと屋上から階下に続く階段を駆けていく二人は普通の少女だ。
 普通。それは人間と同じだということ。
「ちょっと、あまり急ぎすぎると転ぶわよ!」
「大丈夫です。危ないときはベアータさんが何とかしてくれますからっ」
 メルトに手を引かれ、教室を目指すベアータは右目を軽く閉じる。そうだけど、と言いかけた言葉と同時にチャイムが鳴り、二人は慌てて教室に飛び込んだ。
 まだ午後の授業の教師は訪れていないらしく、ほっとした二人は隣同士で並んでいる自分達の席に腰を下ろす。
 そうして、少女達は授業を受けていく。
 母船の記録で見て以来、ずっと憧れだった女子高生。この夢に入った当初は『人間』の感覚に驚くと同時に新鮮さを抱いていた二人だったが、今はもうすっかり夢の世界に馴染んでいた。
 ベアータの制服は、いつもメルトが着ているブレザーと同じもの。制服姿も可愛らしいが、メルトが一番ドキドキするのはベアータの視線だ。
 授業中、私語が出来ない代わりに彼女はメルトに眼差しを向けてくれる。「放課後はどうする?」や「この数式の答えは?」というような、その時々の他愛のない思いが込められていることが多く、メルトはそれが嬉しくて仕方がない。
(というか、ドキドキってこーいう感覚なんだ)
 心臓が早鐘を打つ。
 血が巡って頬が熱くなったり、少し息苦しくなったりと感覚まで新鮮だ。そして、メルトだけではなくベアータも学園生活に胸を躍らせていた。
 何をしていても、何処にいても楽しいことばかり。いつでも一番に自分の名前を呼んでくれるメルトは活き活きしている。
 彼女の姿を見ているだけでベアータも嬉しくなり、喜びが溢れてきた。
 登校はいつも一緒。
 曲がり角にある標識の前で待ち合わせをして、並んで学園に歩いていくささやかな時間が嬉しい。たまに遅刻しそうになって、二人で急いで走る時間が楽しい。
 調理実習の授業で焦げて膨らみすぎたクッキーを作ったメルトの、不思議そうな顔が面白い。分けてあげるわよ、と言って差し出されたベアータのクッキーを受け取ったメルトの表情が花のように咲き綻んでいく様が愛らしい。
 そういった日常が過ぎていく。
(どうしてかしら、心がずっときゅんきゅんしてる)
 自分の胸元を押さえたベアータもまた、メルトへの大切な思いを感じていた。
 夢の学園生活は更に巡る。
 体育で飛んできたボールからベアータを守ろうとして、擦り傷を負ってしまったメルトを見た時は本当に心配になった。誰もいない保健室で、ベッドに隣り合って座った時は何だか妙に胸が高鳴った。
 下校中、可愛い猫を見かけて追いかけていったベアータがメルトとはぐれて迷子になったり、二人で美味しいクレープを食べに寄り道をしたり――。
 女子高生らしい時間が流れていく。
 しかし、時が流れるにつれて、これは夢だという思いが強くなってきた。
 目覚めが近付いているのだろう。
 気付けば二人は夕暮れの屋上に立っていた。最初は春だった季節は移り変わっており、ひととせが巡るほどに夢の時間が流れたようだ。
「生まれが違えば、私にもこんな青春があったのかな……」
「どこかにあったのかもしれませんね。ボクとベアータさんが、こうやって『普通』に過ごしていく世界が――」
 けれどもこの普通は、二人にとっての普通ではない。
 硬い機械の手足ではなくて、柔らかなブラックタールの身体でもなくて、お互いに生身の体で触れ合える喜び。ベアータの記憶から消失した感慨と、メルトが知らなかった人間の熱。薄れゆく感覚を惜しむようにして二人は手を繋いだ。
「そっか、こんな風だったんだ」
「ボクもたくさん初めてを知りました」
 互いの掌の熱を感じながら、二人は暮れゆく世界を瞳に映す。まるで卒業式の後のような雰囲気を感じたベアータはちいさく笑った。
「きっと、私達はここで卒業なのね」
「ベアータさんとの学園生活、楽しかったです。とても、とっても!」
 二人は自然と向かいあい、腕を伸ばす。
 今日が最後なら特別なことをしたい。願う思いは同じだったらしく、二人はぎゅっと抱き締めあった。この体温を感じることも、両眼に互いの姿を映すことも此処で終わり。
 大切な思いを伝えるなら。つまり、告白をするなら今しかない。

(好きよ、メルト)
(大好きです、ベアータさん)

 しかし、二人の想いが言の葉になることはなかった。
 ただ、お互いの熱を確かめるように二人は目を閉じる。きっと次に目を開けたときには現実の世界に戻っているはず。
「名残惜しいけどそろそろ目覚めなきゃね」
「……はいっ」
 とっても素敵な夢だったから、今はこのまま。素敵なままで目覚めましょう。
 大丈夫。
 これは悲しいお別れなんかじゃない。瞼を開けば、ほら。
 大好きで大切で、ずっと一緒にいたい――あなたが隣にいるから。

「ベアータさん?」
「ん……おはよう、メルト」
 ほんの少しだけ先に目を覚ましたメルトは、眠そうな目を擦るベアータを下から覗き込んだ。好きだと伝えようとしていた夢の自分を思い出すと少し恥ずかしかったが、メルトはそれを誤魔化すように問いかける。
「とっても楽しくて、素敵な体験でしたね。ベアータさんは楽しんでくれましたか?」
「勿論よ。一年以上も学生で居た気分だわ」
 ベアータは長い長い夢を思い返しながら今のメルトを見つめる。やっぱり、どちらのメルトも可愛い。笑顔で応えた彼女はメルトの制服を見遣った。
「アンタがJKに憧れる気持ち、私もちょっとわかった気がする」
「本当ですか? だったら新しい制服があるのでまた着てみたりとか……っ!」
「え? そうね、それはまた今度にしましょ!」
 二人はいつものように笑いあい、柔らかな黒の手と硬い機械の手を重ねる。
 あの夢は決して叶わないもの。
 それでも、この幸せが続くように祈りを籠めて。輝く青春の色を宿すような真っ青な鉱石が宿ったランプが、二人を優しく照らしていた。


●夢の先へ、もう一度
 ゆらり、ゆらりと游ぐ魔法の鯨。ふわり、ふわりと浮かぶ白い雲。
 ぴかぴかと淡く輝くランプの色彩と光。儚くも美しい夢の魔力は迷宮に満ちていき、誰かの夜を照らす輝きになっていく。
 あの日のように。或いはこれからの日々の如く。
 光に込められた願いと思いは、きっと――いつかの夢へと変わっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月07日


挿絵イラスト