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きっと君も寂しいから

#UDCアース

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#UDCアース


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●呼び声
 おまえもさみしいのか。
 おまえもこいしいのか。
 おまえも、すてられたのか。

 いいよ。
 いっしょにいてやろう。
 おまえがのぞむなら、おまえのこどくもすべて、たべてやろう。

●さみしがりやの
「……では、ご説明させていただきます」
 グリモアベースの一角。今日も今日とて世界各地で事件は絶えず、ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)の周囲にもまた、数名の猟兵が集う。事件の概要を把握しようと、自らの言葉に耳を傾ける様子の彼らを前に、赤毛の狐は静かに尾を揺らす。言葉を選ぶような間を置いて、ゆるく嘆息した。
「――UDCアースで、邪神が一体、棄てられています」
 棄てられているという表現に、猟兵たちの間に戸惑いが走る。
 だが、そういうしかない。
 事の次第はこうだった。UDCアースのとある街で、オカルトかぶれの素人集団が、どこでそれを知ったものか、安易な考えで邪神復活の儀式に手を染めた。悪いことに儀式は不完全ながらも成功してしまい、一体の邪神が召喚される。
 だが、所詮は素人集団の愚行。蘇った存在を前に、遅まきながら自分たちの手には負えないと知った彼らは――邪神を、工場跡地に廃棄したのだという。
「そちらの素人集団に関してはUDC組織の方で適当に対処しておきます。証拠隠滅と記憶操作で事足りるでしょう。が、邪神となるとそうはいきません」
 現状、被害はない。
 だが、邪神は邪神だ。予知されたからには、一刻も早く手を打つ必要がある。それというのも、邪神に呼応するように、周囲の残留思念たちが実体を持ち始めているのだという。
「――犬なのです」
 ルイーネの声音は、少しばかり苦笑を混じらせるものだった。
 様々な理由により捨てられた野良犬たちの残留思念がオブリビオンとして蘇り、邪神に引き寄せられて周囲に集いつつある。だが、これらもまだ街の中をうろつくばかりで、被害をもたらしてはいない。
「ですので、今のうちに対処をお願いしたいのです。……とはいえ、ただ乱暴に蹴散らすのではなく、できればもう少し穏便な方法で」
 捨てられた犬たちに、ひとへの害意はない。哀切のまま骸の海を漂っていたところを呼ばれ、嬉しくなって蘇ってきてしまっただけなのだ。
「他愛のない、さみしがりやの犬たちです。自らの死も、知っている。さみしさを紛らわせてやれば、きっと多少なりとも報われる」
 単なる私の自己満足にすぎないかもしれませんが。そう呟いて、ルイーネはお願いしますと頭を下げた。捨て犬たちの孤独に少しだけ寄り添い、なるべく穏やかに骸の海へと還してやってほしい、と。
 説明とお願いを終えた狐は、最後に思い出したかのように付け加えた。
「そういえば。あの街、駅の近くにおいしい珈琲を出す喫茶店があるんですよ。よかったら帰る前に寄ってみてください。最近は専ら、ホットケーキのほうが人気らしいですが……」
 無類の珈琲好きは苦笑をひとつ零して、転送の準備を始めた。


鶏子
 はじめまして、或いは二度目まして。或いはお世話になっています。
 二本目のシナリオをご案内させていただきます。

●第一章
 さみしがりやのわんこと戯れていただきます。
 戯れ方はひとそれぞれ、懐っこい子も警戒心の強い子もいるかもしれません。
 最後は骸の海へ還してあげてください。

●第二章
 邪神戦です。
 純戦よりは、心情メインの描写になります。詳細は断章にて。

●第三章
 ルイーネおすすめの喫茶店でひと時が過ごせます。
 売りはおいしい珈琲、一番人気は外側ぱりぱり中ふんわりなホットケーキです。
 お誘いがあればルイーネもご一緒いたします。

 では、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『無垢なる捨て犬とヒヨコ』

POW   :    かまってかまって
【じゃれつき】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD   :    ひろってひろって
【期待に満ちたつぶらな瞳】を向けた対象に、【庇護欲と拾いたくなる衝動を抱かせること】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    あそんであそんで
小さな【拾ってくださいと書かれた張り紙付段ボール】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【子犬とヒヨコ達が大量にいる空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 天気は快晴、時刻は昼下がり。世の学生さんや社会人たちはこぞって勤労に励んでいるであろう平日のベッドタウンは、比較的閑静で人通りも少ない。
 猟兵たちはまず、邪神が潜む工場跡地を中心として周辺に散開した。
 捨て犬探し、スタート!
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー。歌って踊れる藍ちゃんくんなのでー。犬さんたちとも歌とダンスで戯れるのです。もちろんヒヨコさんたちもご一緒ですよー? 仲間はずれは寂しいので! 犬さんヒヨコさんはどんなお歌が好きなのでしょかー。明るく楽しいお歌を歌っていって気に入ってもらえる曲を探すのですよー。段ボールには敢えて吸い込まれちゃいます! きっと中の子たちも、犬さんヒヨコさんの寂しいという感情の表れでしょうから! みんながみんな寂しくないように、藍ちゃんくんオンステージなのです! 一緒に触れ合ってじゃれあって。楽しかったのですよ、ありがとうですよと、笑ってさようならなのです! お見送りするのでっすよー!



「さってとー! 犬さん犬さん、どっこでっすかー」
 フリルで彩られたスカートを翻し、スキップを踏む。紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)は鼻歌交じりにこちらの路地裏、あちらの店先とあちらこちらを忙しなく覗き込みながら、捨て犬を探していた。
「お!」
 寂れた公園に、犬の姿を発見!
 首輪なし!飼い主らしき人影なし!ダンボール箱あり!
 ついでになんとなくオブリビオンぽい雰囲気もたぶんあり!
「見つけましたですよー! ラッキーなのです! はっぴーなのですよ!」
 突如として大声で歓声を上げた人間に、さびしんぼの犬も思わずびくっと飛び上がる。が、犬が逃げ出すより藍がダイブする方が早かった。風雨でよれよれのダンボール箱ごと、思いっきり犬をぎゅうっと抱きしめる。
 ――と、ぼわんという不思議な音とともに、気づけばこそは異空間。
 びっくりしたまま固まる犬と、ぴよぴよ囀るヒヨコたちで溢れかえる、ユーベルコードの中だった。
「いいですね、いいでっすねー! ステージはばっちぐーです! オーディエンスもたっくさん! いきますよー!」
 いつの間にやら、藍の手にはおしゃれな専用カスタムマイクが握られている。
 くるりと回ってウインクをひとつ。踵をコンと打ち鳴らせば、たちまちそこは、歌って踊れるキュートなアイドル、藍ちゃんくんのサプライズライブステージへと早変わり!
 さみしさなんて吹き飛ばすくらい、楽しい気持ちでいっぱいにしよう。
 アップテンポな明るい藍の歌声は、きっと言葉はわからなくても動物たちに気持ちを伝えるには十分だった。はじめはきょとんとしていたつぶらな瞳も、次第にきらきらと輝き出す。
 ヒヨコを肩に乗せ、犬の手を取って藍はたっぷりと歌い、踊った。
「今の曲、犬さんも好きですかー? じゃあ、もう一回! アンコールなのでっすよ!」

 やがて夢の時間が終わるけれど、記憶はきっとどこかに残る。
 わん!と高らかに吼えた犬の声は、お別れの挨拶だった。ヒヨコたちと一緒に、彼は骸の海へと還っていく。
 藍はやっぱり明るい笑顔で、「ありがとうですよ!」とそれを見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
捨てられてもまだ構ってほしいと思える子達なのにオブリビオンとして蘇るなんて皮肉だね。
オブリビオンを片付けるのが俺の仕事だけど悪く思わないで欲しいとは言えないな。

とりあえず俺に出来るのは犬達が遊ぶの飽きるまで付き合うくらいかな。
オブリビオンに飽きるって概念はあるのかな…犬って体力すごいよね。
まあ付き合えるとこまでは付き合うよ。
動物会話が出来たら手取り早いんだろうけど出来ないから撫でてやったり玩具投げて遊んだり、かな。
特段甘やかしたりは出来ないけど甘えたい気持ちは否定はしないよ。

(遊び終えたら)
自分達が死んでることも理解しているなら、骸の海へ帰らなければならないことも理解して欲しい。
ごめんね。



 鹿忍・由紀(余計者・f05760)の足元には、灰色混じりの白犬が一匹。どこか躊躇いがちに、かし、と前脚をかけるその犬を見下ろして、由紀は人知れず嘆息した。ゆったりとしゃがみ込んで、垂れた耳の下を掻いてやる。
 許されたことを知ると、犬は嬉しげにわふと鳴いた。
 この白犬もまた、ひとに飼われ、ひとに捨てられたのだろうか。そのうえで尚、こんな目をしてひとへの親愛を示しているのだろうか。
 ――捨てられてもまだ構ってほしいと思える子達なのに、オブリビオンとして蘇るなんて。
「……皮肉だね。これが俺の仕事だけど、悪く思わないで欲しいとは言えないな」
 僅かな述懐とともに、由紀は「まあ、でも」と下げたビニール袋をがさりと鳴らす。来る途中に仕入れてきた、犬用のフリスビーを取り出した。
「付き合えるとこまでは付き合うよ」

 放物線を描いて、フリスビーが空を横切る。
 犬の遊ばせ方なんてよく知らないような冷めた顔で、犬になど大して興味もないと言わんばかりの淡々とした声音で、けれどフリスビーを華麗にキャッチしては跳ねて戻ってくる犬を撫でる手つきは、妙に手馴れている。
 合間に芝生で微睡んだりと休憩を挟んだものの、白犬がフリスビーに満足しきるまでには、かなりの時間がかかった。
「……犬って体力すごいよね」
 投げるばかりの由紀の方が、先に根負けしてしまいそうだった。
 ベンチに座り込めば、犬が尾を振って両脚の間に入り込んでくる。「わん!わん!」としきりに鳴くその楽しげな声に、由紀は目元を和らげた。
「なにを言っているんだろうね。……楽しかったか?」
 由紀に動物の言葉を解す能力はない。犬のほうとて、ひとの言葉をどれほど理解しているのかは怪しいものだ。だが、まるでこどもが「うん!」と笑うように、犬は鳴いた。

 日が傾き始めている。
 ――ああ、そろそろかな。
 由紀はことさらゆっくりと犬の毛並みを撫でつけて、その目を見た。無垢に、それでいてどこか老成したかのように深みのある黒瞳が真摯に見返してくる。
 それを、理解してほしいと乞うのは傲慢だろうか。だが、世の理というものがある。
「ごめんね」
 さようならの時間だよと、告げた言葉にも、声が返った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルフトゥ・カメリア
……何?
こういうのやっぱり最近のオブリビオンの流行りなのか?
もこもこふわふわしやがって……。

ひっそりと動物好きのもこふわ好きにはダメージがでかい。
死したことを理解して、ただ寂しいだけだと言うのなら、たまにはただ穏やかに遊ぼうか。
ふわもこを撫でて、抱いて。

……なんでテメェらみたいなふわもこ系、俺の翼とみつあみ狙うんだよ……。
みつあみは断じてロープじゃない。まあ、かわいいから良いけど。
体温が高いからか、膝やらに乗り上げようとする個体がなんか増えた。【怪力】のお陰で重くはねぇけど、ぬくくて俺まで眠くなりそうだ。

……沢山遊んで眠くなったら、眠りの中で炎に還してやるよ。
おやすみ。【破魔、祈り】



 仔犬はかわいい。
 それがきょうだい犬だったりしたら、かわいいの二乗だ。
 ついでにふわふわのヒヨコがひょこひょこ纏わりついていたりしたら、かわいさはきっと無限大に違いない。

 ルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)は目の前の仔犬たちと数秒見つめ合ったあと、無言でひそかに周囲を見渡した。
 ――人影はない。気配もない。……よし。
 彼が出くわしたのは、鼻の頭だけが茶色い黒犬が二匹。どちらもまだ幼く、歩調からして危ういような小さな仔犬たちだ。仲良しのヒヨコ二匹といっしょに、ぽてぽてころころと転げまわって遊んでいた。
 遊び相手はいるようだったが、それでも人恋しさはあるのだろう。ルフトゥを見つけると競うようにして走り寄って、すぐ近くで再びぽてぽてころころと遊び始める。
「うっ……なんだよこいつら。もこもこふわふわしやがって……」
 日当たりの良い駐車場の隅っこで、ルフトゥはコンクリートに座り込んでその様子に密かに悶えた。愛らしさ攻撃が見事にヒットする。懐っこく寄ってきた一匹を、そうっと抱き上げて膝に降ろした。――あたたかい。
 ひとに仇なすようなオブリビオンであれば、当然討滅しなければならない。だが、こいつらはそうじゃない。ただ寂しい寂しいと泣くだけの他愛のない温もりならば、一時慰め、遊んでやるのも悪くはないだろう。
 自らの炎が触れぬよう、手つきは少しばかりぎこちなかった。
「おい待て、こら。俺のみつあみはロープじゃねぇよ」
 揺れる薄藤色の三つ編みが興味を引いたのだろう、ずんぐりとした前脚でじゃれつくのに、少しばかり慌てるも――まあいいかと、遊ばせることにした。だってかわいい。
 そのうち、片割れもまたルフトゥの膝によじ登ってくる。真似るようにして、ヒヨコまでもが仔犬の上に乗った。まさにもふもふまみれである。少年の、ひとより少し高めの体温がお気に召したのかもしれない。丸くなって微睡む仔犬たちに、ルフトゥの頬も思わず緩む。
「……きょうだい、か」
 さみしがりやの、仔犬たち。一緒にいられてよかったなとあどけない寝顔に囁いて、少年もまた小さく欠伸を漏らした。こっちまで眠くなりそうだ。

 そのまま、どれほどの時間が過ぎただろう。
 やがてルフトゥは、仔犬たちを陽だまりの中へと静かに下す。起こさぬよう、夢にさざなみさえ齎さぬよう。
 やさしい夢にまどろんだまま、還るといい。
「――おやすみ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュシカ・シュテーイン
わあぁ、ちみったいですねぇ、きゅぅとですねぇ
邪な神ぃ、だなんて思えないくらいぃ……
私でよければぁ、満足するまでぇ、抱っこでもぉ、遊ぶのだってぇ、ご一緒させていただきますよぉ

私の元の世界の実家はぁ、余り裕福ではない農家でしたからぁ
魔女学校を出てからもぉ、養える余裕はありませんでしたしぃ……知り合いのお家でぇ、一緒に暮らしていたのがぁ、とっても羨ましかったんですよねぇ……
だからぁ、今は貴方だけでなくぅ、私も満たされているんですよぉ

……でもぉ、お別れもすぐぅ……なんですよねぇ
寂しくないぃ、寂しくないですよぉ
貴方たちはぁ、私が愛しますからぁ、一人じゃないんですからぁ
私はぁ、ここに居ますからぁ、ねぇ


サフィ・ヴェルク
●あそんであそんで に自分から飲まれに行く

多重人格者なので一人会話
表「可哀想に どうせ還らなければならないのに。邪神なんて呼ぼうとする輩なんて本当に碌なものではありませんね」
裏「出来ればなるべく穏やかに、ですか。あんまり得意ではありませんよ僕」
表「遊ぶのは好きでしょう、頑張ってください」

そんな感じで拙く一緒に遊んでいきます。どちらの人格も警戒されたら冷や汗かいたり追い掛けられたら硬直したり、落ち着いた頃合いには背や頭をなでたりして遊びます。

誰かの遊びに巻き込まれたり噛まれたりするのも全然オッケーですおまかせします
協力を求められたり誰かに誘われたりしたら流れに乗ったりもします



 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)とサフィ・ヴェルク(氷使いの不安定多重人格者・f14072)は、ともに犬たちのユーベルコードの中にいた。
 見渡せば不思議空間、黄色いヒヨコの海の中を、数匹の犬たちが楽しげに駆け回っている。
「わあぁ、ちみったいですねぇ、きゅぅとですねぇ」
 とてとてと歩み寄ってきたヒヨコを掌に乗せて、リュシカがおっとりとした声音に喜色を浮かべた。眼鏡の奥の眸は、すでに蕩けそうだ。
「ほらぁ、可愛いですよぉ」
 ぴ、と小さく鳴いたヒヨコを抱いて振り返る先では、金の髪の少年が笑顔で佇んでいる。黒と白、左右で異なるデザインのコートに身を包んだその姿は、降り立ったその時のまま一歩も動かず。魔女の手の中のちんまいヒヨコを一瞥して、うーん、とばかりに『己』と会話し始める。
「穏やかに、と言われても。あんまり得意ではありませんよ、僕」
「遊ぶのは好きでしょう、頑張ってください」
「そんな他人事みたいに」
「ほら、待っていますよ。彼女も、犬も、ヒヨコたちも」
 にこにこと微笑むリュシカは、サフィの行動を待っている。はあ、と短く嘆息したのは果たして表と裏、どちらの彼か。仕方なさそうに歩き出した少年の足元に、ヒヨコの群れがなだれ込んできた。
「うわ、」
「危ないですよ。踏まないように気をつけてください」
「わかってますよ。――すみません、お待たせして」
 リュシカへ向けた顔は、先ほどの嘆息などなかったかのように如才なく振舞う、穏やかな微笑だった。
「いいえぇ。それじゃぁ、遊んであげましょうかぁ」
「……ええ、はい」

 正直に告白をすれば、サフィは動物と遊ぶことが得意ではない。
 この場合のサフィというのは表裏どちらも合わせたサフィ・ヴェルクとしての話であり、多少性格故の差異はあれども、犬と触れ合ったり戯れたりした記憶は――恐らく、殆どない。少なくとも、その仕方を知らない程度には縁がない。
 なので、同行の魔女の行動を参考にすることにした。
「私の元の世界の実家はぁ、余り裕福ではない農家でしたからぁ。犬はぁ、飼ったことがなくてぇ」
 膝に乗り上げた犬を撫でながら語るリュシカの声は、優しい。ポケットから零れた法石に犬が興味を示せば、笑って無害なものだけをひとつ、転がしてやる。犬と暮らす知り合いを羨んでいたと話す彼女は、犬たちの構い方をよく知っているようだ。
「……なるほど」
 横目に魔女を盗み見ながら、サフィはよさそうな犬はいないかとヒヨコの群れを探す。埋もれていた茶色い毛玉と、目が合った。
 ――あ。
 遊んでもらえると考えたのか、犬が一目散に駆け出した!
「わふっ!」
 笑顔で両手を広げてやる経験値は、残念ながらサフィにはない。反射的に身を強張らせ、その場に硬直する少年に駆け寄った犬は、何かを催促するかのように鳴きながら彼の回りをぐるぐると回り始めた。飛び掛かられたらどうしようかと思った。
「ど、どうしましょうか」
「どうしましょうって、……どうしましょう」
 困惑顔のまま、しばらく少年はぐるぐると回る犬をその藍色の目で追っていた。
 結局助け舟を出したのは、微笑ましげに笑う魔女だった。

 魔女と少年と、数匹の犬にヒヨコの大群。
 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、最後は別れの時が来る。
「……邪神を呼ぼうとする輩なんて、本当に碌でもありませんね。この子たちが可哀想です」
 少しだけ仲良くなれたような気がした茶色い犬を、サフィは静かに撫でる。はじめは拙かった手つきも、数時間で随分と滑らかになった。それでも、犬たちはオブリビオンなのだ。
「そうです、ねぇ。……でもぉ、わたしはぁ、ずうっと覚えていますからねぇ」
 リュシカもまた、ずっと膝に抱えていた子をヒヨコごとぎゅうと抱きしめる。
 そのぬくもりを、頬を舐める湿った舌の感触を、忘れず覚えていようと決めた。
 
 だから――さようなら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
…おいで。
うんと遊ぼう。

一緒にいるよ。
お前たちが望むまで。


怖がらせないよう細心の注意を払う。
遊びたい子にはボールで遊ぼう。もし取って帰ってこれたら思いっきり褒める。
甘えたがりの子には優しく撫でて、抱き締めてやる。

◆骸の海に還すとき
おやすみと、子守唄を。
大丈夫。次に目覚めるときは、よい朝だ。
だから――安心しておやすみ。


彼らを抱き締めた感触も、彼らが存在した証も、忘れない。
彼らが少しでも幸せにゆけたのなら何よりの幸福で。
次の生はさみしい思いをすることがないようにと、ただ願う。



 明日知・理(花影・f13813)がその場所へ辿りついた時、犬は既にそこにいた。
 ぼろぼろのダンボール箱、古びた毛布。痩せた犬は静かに座り、ひっそりと理を見つめている。まるで彼の訪れを、待っていたような風情だった。
「ああ。そこに、いたのか」
 理は少し離れた場所で足を止めた。どこか怯えたような黒い目で見上げる犬を怖がらせぬよう、慎重に、だが自然体で、その大きな体躯をしゃがませる。地面に胡坐をかくと、しばらく、無言で犬と見つめ合っていた。
 犬が鳴く。喉を鳴らすように。
 理はかすかに笑って、そうっと手を差し伸べた。
「……おいで」
 低い声に誘われれば、犬は少しだけ躊躇った後、おずおずとダンボール箱を跨いだ。
 酷く痩せた犬だった。薄茶色の毛はかさつき、目元には目脂がこびり付いている。あまり若々しくはなく、どちらかといえば老いて見える。ただ、その上目遣いばかりが印象的だった。
 くうん、と。濡れた鼻先を理のてのひらに寄せる。
「大丈夫だ。……お前に会いにきたんだよ。待たせて悪かったな」
 汚れた野良犬。けれど触れたその身は確かに温かかった。

 理がその犬と過ごした数時間は、ただ穏やかなひとときだった。
 あまり激しいスポーツは好まない様子だったから、持ち込んだボールで少しだけ遊ばせた。転がっていったボールを探す目も鼻もあまり鋭敏ではなく、けれど頑張って探し当てられれば、理はうんと彼を誉めちぎった。
 肩先に甘えるように擦り寄れば、軽々と抱き上げてやった。実際に犬は体長のわりには酷く軽く、生前の生活を理に偲ばせた。
「どうした。……ああ、猫のにおいでもするか?」
 衰えた嗅覚にもなにか触発するものがあったのだろうか。始めのうちは被ったフードをしきりに嗅いでいた犬は、少しすると気にならなくなった様子で理に馴染んだ。
 これが仮初の、幻のような時間であることは理にもわかっている。
 それでも、だからこそ最大限の慰めを、生きている頃には手に入らなかったかもしれない優しい時間を、与えてやりたかった。

 それが叶えられたかどうかは、わからない。
 少しでも幸せを感じてくれただろうかと、膝で微睡む犬を撫でながら、祈るだけだ。
 子守唄が老いた犬を海へと還していく。きっと次に目覚めるときは、よい朝であるように。

「だから――安心しておやすみ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる
かったるいなぁ
全部撃って解決……するのは、ちょっと酷いか。
仕方ないなぁ、いっちょ遊んでやりますか。

適当にその辺歩いて捨て犬探そーっと
見つからなかったらサボれて丁度いいや~

むっ、ダメか。見つかった。
いや、見つけてしまった?
どっちでもいっか。
あはは、元気が良い奴だなぁ、ほら飛び込んで来い!

さーて、どうやって遊んでやろっかなぁ~
あっ、待て待て勝手に走り出さないで~!
うわっ、足はやっ!

よーし、キミがそういうつもりなら【スカイステッパー】で追いかけてやる!
ほら、私から逃げきってみろ!待て~!

追いかけっこ、満足した?
そう、じゃあ自分たちが帰るところは分かる?
そっか、それじゃ……またね!



 さて、皆が真摯に捨て犬たちと向き合っているその頃、星鏡・べりる(Astrograph・f12817)は商店街に立ち寄って買い食いをしていた。
「いやだって正直かったるいしさぁ」
 一応近辺をぶらぶらと歩いて、犬を探す素振りもある。ほかほかのコロッケを頬張ることにも忙しそうではあるが。
「全部撃って解決……するのは、ちょっと酷いか」
 かわいい顔をしてなんてことを言うんだろう。普通に酷いと思います。

 いくら面倒くさがろうと、猟兵はオブリビオンと巡り逢う運命である。
 サボれなくって残念。――路地を曲がったところでばったり遭遇してしまったわんころを前に、べりるは内心で「あーあ」と嘆いた。ほんの少しだけ。
「まあいいや。ほら来い!」
 カモン、とばかりに両腕をがばっと広げれば、目を輝かせた犬が応えて突撃してくる。しなやかな体躯には、まだらのブチ模様。耳を揺らしながら駆け寄った犬は、その勢いのままべりるの横を通り過ぎ、路地を真っ直ぐに駆けていく。
「わんっ!」
「ええっ、なにそれ飛び込んでくる流れじゃん今の!」
 広げた腕が何とも虚しい。仕方がないから犬の後を追い、べりるも走り出すが――。
「うわっ、足はやっ!」
 犬種にもよるが、それなりの体格の犬が本気で走れば、普通のひとがついていくのは難しい。普通のひとであれば、だ。星鏡・べりるはドラゴニアンであり、何より情熱の迸るまま天空を跳び駆ける、スカイダンサーだった。
 ふふん、と煌く瞳が笑う。
「いいよ。キミがそういうつもりなら!」
 軽やかな踏切りと共に、空へと跳び上がる。白いフードが風を孕めば、揺れる石が日に透けて光った。星のように。
 地を駆ける犬と、空を駆ける少女。犬は嬉しげに吼えて、さらにスピードを上げた。

 そのままどれくらい追いかけっこに興じていただろう。
 膝に手をつき息を整えながら、べりるは犬を見下ろした。完全にへばって舌を出している。
「追いかけっこ、満足した?」
 問えば、わふと声が返る。
 利口な犬はその瞳で告げていた。自分の帰る場所は知っているよと。そして、その時が来たことも。
 だから、べりるはにっこりと笑って手を振った。
「そっか、それじゃ……またね!」

 ――またいつか。追いかけっこの決着は持ち越しで!

大成功 🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
オブリビオンでなくても野犬は危険なものだが……
悪意を持たず、寂しさに満たされたものならば
例えオブリビオンであったとしても
力尽くというのはあまり好まないな

…だから、構うとしよう

おいで、と屈んで手招き
手の匂いを嗅がせて警戒心を解いてみよう
その寂しさで満たされた心を
それ以外の想いで満たせるように、と

慣れてきたのなら
頭を撫でて、背をさすって
触れ合い、ひとときを和やかに穏やかに過ごそうか

そうして、君達が満足したのなら
安らかに眠れるように送るとしよう

君達が蘇ったことが悲しみを齎すことではなく
ひとときの安らぎを得るためであったと言えるように

もう、骸の海から蘇ることのないように


ユハナ・ハルヴァリ
……わんこ。捨てられたんですか。
僕と、似ていますね。

遊び方は、よく知らないのですが
一緒にお散歩、しますか?
見つけた犬とひよこに問いかけて
じゃあ、行きましょう。
敷地の中だけだけれど、のんびりと一緒に歩く
あ、鳥さん。お花も咲いていますね。名前、なんだろう
……名前。
僕は、ユハナというのですが。
君たちのお名前、どうしましょうか
だって名前って、呼ばれるの、嬉しいですから
きいろ、ぴよ、くちばし
わんこは……ふゆ。今の季節の、名前ですよ
少しの時間だけの名前だけど、たくさん呼びますね
一緒に走ったり、並んで歩いたり、景色を眺めたりして
最後は、…やわらかいものを触るのは、壊しそうで怖いけど
皆を順番に撫でて、さよなら



「お散歩してるだけでも、いいんでしょうか」
 少年の足跡を、犬が追う。
 犬が歩けば、ヒヨコたちも後ろをついてくる。
 その様子を眺めて、朽守・カスカ(灯台守・f00170)はふ、と仄かな笑みを浮かべた。
「君が一緒にいるだけで、その子らは嬉しそうだ」
「そう、でしょうか」
 不思議そうに首を傾げて、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は犬と目を見交わした。どこか似通う印象の、真白い毛並みと清冽な瞳。きらきらとした目が綺麗だなと思って、ユハナはそのまま、のんびりと景色を眺め、ぽつりぽつりと言葉を降らせながら歩く。
 傍らを行くカスカが、行く手の影に蹲る気配に気がついた。
 一行を窺う、密やかな視線。ああ、あそこにも、さみしがりやが一匹。
 少し先に行くよう少年たちを促してから、カスカはその場に静かに屈みこんだ。
「……おいで」
 ひとならざるその白い手を差し伸べ、か弱き命を手招いた。
 その仮初の命が、心が、寂しさに押し潰されそうであるならば。慰めの記憶すら遠く霞のようであるならば、一時だけでも寄り添い、その心をなにか別のもので満たしてあげよう、と。
 触れ合う温もりの警戒心を柔く解きながら、カスカは穏やかな声で「一緒に行こう」と微笑んだ。

 カスカの足元に犬が添っていることに気づいて、白犬が嬉しそうに吼えた。
 冬の空に、高くこだまするような鳴声。
 彼らは再び、のんびりと歩き出す。犬たちは楽しそうに地面のにおいを嗅ぎ、ヒヨコが野花を小さな嘴でついばむ。
「あ、鳥さん。空のうえ、気持ちよさそうに、飛んでいますね」
 あれは何という鳥だろうと空を見上げて、ユハナは思い出したかのように白犬らを見た。
「なまえ。僕は、ユハナというのですが」
 淡々とした声音で自己紹介をしながら、こてん、と首を傾ける。
 ――君たちのお名前、どうしましょうか。
 彼らも元は、大切なだれかから呼ばれる名を持っていたかもしれない。名前すら持ちえなかったかもしれない。けれど、呼ぶ名もないのは少し寂しいから。
「すぐに、還さねばならないとしても?」
 囁くようなカスカの声に、少年はゆるく首を振る。
 だとしても。だって名前って、呼ばれるの、嬉しいですから。そう応えるユハナを、カスカもまた強いて咎めはしなかった。
 小石や犬の尾と戯れる黄色い雛たちを順繰りに見て、
「きいろ、ぴよ、くちばし」
 少年の澄んだ声音が、かりそめの名を与えていく。
 知ってか知らずか、真白い犬が期待するように尾を振る。茶色がかったその子の目を真っ直ぐに見つめて、ユハナは彼にも名付けた。
「――ふゆ。今の季節の、名前ですよ」
 君も、と振り仰いだ少年の瞳に、カスカは傍らの犬を見下ろし――。

 和やかな散歩の、終着点。
 落ち始めた日を仰いで、ユハナも、カスカも、そして犬とヒヨコたちも、頃合いであることを悟ったかのように足を止めた。
「……君たちが蘇ったのはきっと、悲しみを齎すためではない。ひとときの安らぎを、得るためだったと。私は、そう思いたい」
 カスカの手の中で、ランタンが霧を纏う。
 瞼を伏せて、ユハナは無言で頷いた。しゃがんで、白い犬とじっと見つめ合う。
「……僕と、似てるって思ったんです。だから、」
 怖れを振り切るようにして、少年はその手で犬の頭に触れた。やさしく、あたたかい、いのちのぬくもりに。
 最後は微睡みの淵へを送り出そう。海原を行く船のしるべとなるように、灯りを燈そう。

 ――もう二度と、骸の海から蘇らぬように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夕暮れの空に犬たちを送別は終わった。
 猟兵たちは邪神の待ち受ける工場跡地へと集結し、足を踏み入れる。

 そこはかつて鉄工所だった。
 フェンスに囲まれた敷地には、煤けたコンクリートの壁が重々しく佇む。ぽっかりと空いた暗闇の口が、まるで異空間へ繋がる出入口めいて目に映った。
 大型の機械は運び出され、閑散と拓けた工場内部は、けれど割れた窓からの自然光が陰影のコントラストを克明に切り取っている。
 猟兵のひとりが堪らず咳き込む。
 酷く饐えた、臓物の腐るような匂いが充満していた。

●なれのはて
 うぞりと、“それ”は身じろいだ。
 巨大な偶蹄目の平たい角、長く伸びたざんばらのたてがみ、静謐に瞬くみどりの眼。ツギハギだらけの肢体は自らによって食い荒らされ、溶かし溶かされ、むき出しの骨には血と脂がこびりつく。
 無惨な有様の、それこそが。
 ――森の王のなれのはてだった。

 その瞳に澱のように沈殿する感情は、何だろう。
 ただ、孤独を訴える。何故呼んだ、呼んだのなら何故棄てたと、波のように押し寄せる思念が猟兵たちの脳髄を揺さぶった。
 ああ、だが。
 触れてみれば波は静かで、ただ穏やかだった。

 猟兵たちを前にして尚、それは静かに頭を垂れる。
 溢れ出でた消化液が、ぼこりと泡を立て、此岸と彼岸を隔てる川となった。
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー! いきなりでっすがファイナルステージでっして! そのまま川やら泥沼やらにどっぼーんなのでっす! 巨大ですしほぼ無敵ですし! 大丈夫なはずかとー? 底なし沼ならどうしましょっかー? 無敵でもそればかりはどうにもならないでっすねー! 藍ちゃんくんこの姿だと動けませんしー! でもま他の皆様の足場踏み台くらいにはなれるでしょー! 愚かだと思いますかー? いえいえ王様には道化師がつきものですから! 今この時だけは王様のための道化師なのです! なので王様、命の果てまでお話しませんかー? 勝手にしちゃいますよー! ワンちゃんたちに手を伸ばしてくれた王様にお礼を言いたかったのでー! 


サフィ・ヴェルク
【アドリブ、連携歓迎】


呼ばれて棄てられ、さぞ嫌な思いをしたでしょう 勝手に振り回され、巻き込まれる痛みは理解しているつもりですが……これも仕事なので。
僕達からすれば、呼んだ癖に同情されても嫌なので 冷たくいきましょう 己を律して別れを告げるとしましょうか、さようなら。

迫り来るUCは【激痛耐性5】で痛みと悲鳴出すのを耐えつつ、UCの中突っ込んでいって、【捨て身の一撃3】で氷の【属性攻撃5】を叩き込むことを意識して挑みます
内心あんまり良い気分ではありませんが…

一発しか撃てなさそう感が否めないので連携しながら乗り込むか連携を任せるかは悩みどころですね
連携する際は【目潰し2】など使えるかもしれません


鹿忍・由紀
人間は身勝手で不要になればすぐに手放そうとしてしまうものだ。
それをもっと憎んで暴れてくれれば、此方としてはもうちょっと戦いやすくなるんだけどね。
こんな所にいても苦しいだけでしょ。早く静かな場所へ帰りなよ、手伝ってあげるから。

消化液が厄介そうだね。
地面からは近付きにくそうだから「地形の利用」を使って工場の足場からまずは遠距離攻撃で攻めていこう。
「破壊工作」も併用して壊せそうな足場があれば崩落させてダメージを狙うのと、
足場を落とすことで地面に近い位置に足場を作ることが出来ないかな。
消化液が被らない高さの足場を敵の近くに作れたら攻撃しやすくなるよね。
一応、落とす際は猟兵が巻き込まれないよう声掛けを。


明日知・理
頭を垂れ、彼から溢れ出た消化液が、涙のようにみえた
…寂しいのか、お前も

"邪神"と言われる彼らにも心があって
俺たちと何も変わらないんじゃないかって
そう思って、少しだけやるせなくなった
自身も似たものを抱いた覚えがあったからかもしれない
棄てられるのは、
おいていかれるのは、
…寂しい

けれど護らねばならぬものがあるから
剣をとって彼と向かい合う

◆戦闘
体力の低い者を優先的に庇う
可能な限り攻撃は武器受け
捨て身の一撃や暗殺を併せ『buddy』を発動

いいよ。
お前が望むなら、
――お前の孤独も全て、食べてやろう。

赤い眼の大きな黒犬を模したUDC が俺の体を覆って一つになる
この犬の大きな口で葬送の一助とする


アドリブ歓迎


リュシカ・シュテーイン
貴方も呼ばれぇ、棄てられた存在ぃ……あの子達と同じぃ、なのかもしれませんぅ
しかし王であれぇ、他に危害を加えるというのであればぁ、私達も見逃すわけにはぁ、いかないのですぅ
……ごめんなさいぃ、お覚悟をぉ

私はぁ、皆さんの援護をするようにぃ、後方からの射撃に努めますよぉ
鞄いっぱいにいれたぁ、手投げ爆弾程度の威力の爆破の法石をぉ、【スナイパー】【援護射撃】を用いてぇ、味方に当たらないよう隙間を縫って攻撃いたしますぅ
脱力状態にはぁ、しっかり対応出来るよぅ、【視力】による観察は怠らないようにしてぇ、他の方が気づいていないのであればぁ、声を掛けられるようにぃ、注意しておきましょおぅ



「消化液が厄介そうだね」
 状況を一瞥してまず、由紀が呟く。
 黒き流れに触れた爪先が、じゅうと焼ける。溶ける前に足を引けば、細い煙が上がった。
 溢れ続ける酸の沼によって、緑の王を中心にコンクリートの床はそこかしこが割れ、腐食し、溶け落ちている。猟兵たちの侵入によって活性化したものか、その勢いは増すばかりだった。
 それはあたかも、縄張りを侵された獣の反応の如く。
「藍ちゃんくんですねー、王様にお礼が言いたくて来たのでっすよ」
「……お礼?」
「ワンちゃんたちに手を伸ばしてくれましたので! そのお礼でっす」
 故意に呼び覚まされたものか、だとしてもその意図が何であったのか、王から教えてもらうことは難しそうだ。犬たちの孤独が癒されたか、無意味であったのか、それも今更わかりはしない。
 それでも、ありがとうと告げたいと藍は言う。
「さてさて! あの黒いのが邪魔なのは藍ちゃんくんも同意なのですよー。なので、ここは藍ちゃんくんの出番でっすね!」
 ニッと笑う藍の口許から、鮫歯が覗く。
 お任せあれ、と胸を張る彼に向け、由紀は小さく頷いた。
「そう。じゃあこっちは任せるよ。俺は奥へ回り込もう」
 淡々と告げ、彼はそのまま軽い足音を立て離れていく。どうやら彼にも考えがあるようだった。
 ふつふつと煮えたぎる消化液を見据え、「ではではー」と藍があくまで明るい声で一歩前へと進み出た。
「寂しさに寄り添うのも、アイドルのお役目ですのでー。その為なら、今この時だけは、王様のための道化師にでもなりますよー!」
 大きく両手を広げ、ユーベルコードを発動!
 眩い光が藍を包む。そのまま華奢な体躯が浮き上がったかと思えば、光が形を成し、溶けあうドレスが波打つ光の海原のように広がった。数瞬、収束した光が消え去れば、そこに小柄な少年の姿はない。
 華やかなドレスごと、彼は巨大な舞台装置と化して川を見事に遮り――不意にその姿が一瞬揺らぐ。「わわっ」と天井付近で慌てる声が聞こえた。
「…………」
 呆気にとられてそれを見上げるサフィ。
「ちょーっとだけ、不安定でっすが! 今の藍ちゃんくん一応無敵ですのでー、あとは皆様よろしくでっすよー!」
 驚きも冷めやらぬまま、けれどサフィは静かに息を吸い、吐いた。
「――わかりました。お任せください」
 酸の川を堰き止める足場ができたのならば、自分が成すべきはひとつだけだ。変わらず地面に蹲り茫洋とした目を彷徨わせる緑の王に――ただ、別れを告げるのみ。
 サフィは真っ直ぐに駆け出した。
 呼ばれたはずが拒まれて、望まれたはずが棄てられた。こんな物寂しいばかりの場所に勝手に放り出され、彼の王がどれほどに嫌な思いをしたのか。
「その痛みは僕も、理解はしているつもりですが……」
 腕のブレスレットから全身へ、サイキッカーたる彼の司る白き冷気が宿る。
 痛みも、あるいは孤独、切なさ、諦め、王が感じたかもしれないあらゆるものへ、共感を寄せることはできる。その思いはもしかしたら、サフィが、ロゼが、いつか感じたものとよく似ているのかもしれない。
 思わず、嘆息する。
「あんまり、いい気分ではありませんね」
「同情されるのも嫌かもしれませんよ。僕たちは……これが仕事ですから」
 氷の礫を擲てば、ぼこりと大きく波打つ消化液が王の前に立ち塞がる。飲み込まれては瞬時に融ける様子を見て、サフィは次いで片手に氷の塊を形成した。踏み台に軸足をつき、踏切り――打ち放った直後、足場がぐらりと揺らいだ。
「あっ……」
 藍のユーベルコードは酷く不安定だ。たたらを踏むサフィの視界に、狙い違わず放たれたはずの氷塊が、意志持つタールのような消化液に叩き落されるのが映った。

 藍は何とか持ち堪えている。
 不安定な足場ながらも体勢を立て直した氷のサイキッカーが果敢に攻め立てる様子を、リュシカの視線が眼鏡越しに追う。どこからか突き立てられる矢は、恐らく由紀の援護射撃だろう。
「貴方もあの子達と同じぃ、存在なのかもしれませんぅ」
 抱きしめたやわらかな感触を、思い出す。
 呼ばれて、けれど棄てられた。あの王もまた被害者といえるのかもしれない。自ら望んで蘇ったわけではない。望んで棄てられたはずもない。望んで――害をなすわけでも、ない。  
 けれど、緑の王は既に不可逆の災厄だった。
 その意思がなかろうと、ただ在るだけで周囲を破壊する。
「だからぁ……ごめんなさいぃ、お覚悟をぉ」
 石の魔女の手には、巨大なスリング。悲しげな、けれど決意を秘めた眼差しで、深呼吸をひとつ。魔女は取り出した法石をセットし、スリングを構える。
 空間を裂き、爆破のルーンが刻まれた石が投擲された。
 サフィの氷と同じく、消化液によって防がれる。だが、爆発音が響くより早くリュシカは次の石を放つ。
 王の身を穿つことはできずとも、炎のルーンは確実にその効果を発揮していた。爆破によって、黒々と流れる酸が黒煙を上げながら焼き尽くされていく。
 このままうまくいけば、防壁を崩せるかもしれない。
 その、刹那。

 ――王の咆哮が、叩きつけられた。

 無声音にも近い、声無き咆哮だった。悲鳴だった。叫びだった。
 空気を切り裂き、聞く者の脳髄を揺さぶる咆哮だ。あまりに悲しい響きだと、理は思った。
 舞台装置が音を立てて崩れ落ちる。
 藍の身が投げ出された。足場を失ったサフィが辛うじて掻き消える寸前の舞台端を蹴りつけ、藍に手を伸ばすのが見えた。
 ――やるせない思いに、奥歯を噛みしめる。

 緑の王の姿を見た、あの瞬間。
 頭を垂れ、胸から溢れ出でた消化液を、まるで涙のようだと思った。
 犬ばかりじゃない。きっと、あの王も寂しいのだと――そう、思った。
「俺たちと、何も変わらない」
 邪神だ何だと勝手に枠に当て嵌めて、けれど彼らとて骸の海を漂っていた。かつては命を持ち、営みを持ち、心を持ってこの世界にいたのだろう存在たちだ。
 咆哮による眩暈を堪えて顔を上げる理に、背後から声がかかる。
「人間は身勝手だからね。こんなところにいちゃ、あの王も苦しいばかりだ」
「……ああ」
 由紀は、埃と錆で汚れた頬をぐいと拭う。
 ひとの身勝手を憎み、思うままに暴れてくれたのならば、此方としても随分と楽だったろうに。常のような冷めた割り切りで、もっと容易く切り捨てることもできたろうに。
 あれは少しばかり、哀れに過ぎる。
「少し、仕込みをしてきた。援護はするから、行ける?」
「ああ」
 短く応えを返し、理は深く息を吐いた。
 やるせなさも、彼の王のさみしさも、声なきすべてのものらの悲鳴も、すべてを飲み下して、それでも護らなければならないものがある。
 そのために。

 ――"Thys"

 己の内側で、赤き目の獣が呼び起される。
 その命を喰らい猛る、黒き犬が理の身を覆い尽くし同化していく。
「……早く、静かな場所へ帰りなよ。俺たちが、手伝ってあげるから」
 由紀の構えたクロスボウが、天井、編み目のように走る金属の一角を穿った。あらかじめ崩れやすいよう細工された足場が、ただ一矢によって瓦解していく。同時に、理は獣の脚で地を蹴った。
 崩落する鉄鋼が、焼け残る黒き泥を押し潰していく。それすら気にも留めない王の上肢に、大きな黒犬の顎が喰らいついた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​


●かえろう、
 こぽりと溢れる血と消化液を吐いて、王の躰は後ろへと倒れ伏す。
 呻くような喘鳴が聞こえた。
 右の肩口から先は噛み砕かれ失われ、全身がどす黒く染まっている。ぐずぐずに溶け落ちた空洞の胎からは尽きぬ酸の液が溢れ続け、原形を留めていた頭部や下肢すらも溶かし始めていた。
 王は、獣は、既に死の淵にいた。
 放っておいてもじきに、自らの消化液によって骨の髄まで溶かし尽くされる。跡形もなく。こびりついた臭いも、時がすべてを消し去っていくだろう――。
朽守・カスカ
オブリビオンなら倒すべき相手であるのは変わらない
……ただ、その想いが孤独に喘ぐものならば
私に出来る限りを、やろう

君の体で叶うことかはわからない
けれども、もしよかったら
緑の王よ一緒に踊らないか?
恭しくカーテシーと共に問いかけよう

【幽かな標】
酸で足が焼かれようとも
舞うように相対しよう

私は、何故キミが喚ばれたのかを知らない
でも、キミが此処で行うことに
キミ自身が意味を持たせることはできる

犬達を呼び、その魂を慰めることが
キミが此処で為したことだったのだと
例え邪神と呼ばれる存在であろうとも
緑の王は気高く、慈悲深いものであったと

私が出来るのは、迷わぬようにしるべとなるだけだ
緑の王よ
選ぶのは、キミ自身だ


ユハナ・ハルヴァリ
さびしいですか
かなしいですか
君を解ることができないとしても、還すことは、できます
いきましょう、一緒に

…抑制、反転。
ああ別に、手荒なことがしたいのではなくて。
ただ伝えたい言葉を、この方が上手く伝えられるんじゃないかと思った
川を飛び越え彼岸まで
おなかが空いたのなら、『僕を食べたらいい』
自分を食べるだなんてかなしいこと。お終いにしよう
月の名を持つ短刀を抜いて、こんな事を言うなんて。
わかってる、似つかわしくない、君の孤独は癒えないかもしれない
でも、それでも
『おいで、森の王』『君の終りまで一緒にいるから』
魔力を『声』に込めて、振るう魔術は星と陽だまりの
君に届いたらいいな
『今度は、優しい陽の下で』



「けれどそれでは、あまりに寂しい」
 白き髪の人形が、密やかに呟く。
「……そう、ですね」
 銀の髪の少年も、ぽつりと同意した。
例えそれがオブリビオンであろうと、孤独に喘ぐ存在ならば、もう少し違う終わり方を与えてやっても許されるだろうか。
 カスカは靴音を響かせ、ゆったりと歩み寄った。
 折り重なる鉄骨を避け、酸の川は厭わず踏み、静かな歩みは揺るがない。たとえこの足が焼かれようとも構いはしない。王の御前で立ち止まると、淡く口許に笑みを浮かべた。
 優雅なるカーテシー。
 指先は蝶のように、背筋は百合のように、眼差しはどこまでも上品に。ここはダンスホールでも歌劇の舞台でもなく、己が纏うのも夜会の花たるドレスではないが。
「ごきげんよう、緑の王。私は朽守・カスカという。残り僅かなひと時かもしれないが、どうぞお見知りおきを」
 できれば彼の王と一緒に踊れたならばとも思っていたが、それは到底叶わぬようだった。
「……残念だ」

 ユハナは月の名を持つ短刀を抜いた。
 結局自分にできることは、こうして刃を向けることしかない。死に際の王の孤独を、癒してあげることなどできるはずもなく、ただ、あるべき場所へと還すことしかできない。
「……抑制、反転」
 低く呟く。ユハナの両手首を戒める荊が、息づくように脈動した。
 伝えたいことがあるはずなのだけど、今の自分ではうまく伝えられないから。魔力を縛る手枷を解いて、“もうひとつ”の姿を呼び起こした。
 すこしだけおとなびた、鮮やかな星屑の瞳で呼びかける。
「『おいで、緑の王』」
 それは、力ある言葉だ。忌まれ封じた言霊を、今少しだけ開放する。
「『おいで、緑の王。……森の王』」
 魔力の宿る聲が、王の意識に触れたのだろうか。
 濁ったみどりの眼が、焦点を結ぶ。不思議そうにユハナを見つめて、かそけき吐息を零した。
「私は、何故キミが喚ばれたのかを知らない」
 カスカが、王の傍らに膝をついた。その目尻の血を、やさしく拭う。
「でも、キミが此処で為したことなら知っている。キミは犬達を呼び、その魂を慰めた」
 酸に触れた膝が、足が、鋭い痛みと共に焼ける。
 流れる白い髪が、王の血に汚れて赤く染まる。
「私は思うんだ。例え邪神と呼ばれる存在であろうとも、緑の王は気高く、慈悲深いものであったと」
「『僕も覚えてるよ。君がここにいたこと。ここで、僅かな間でも生きていたこと』」
 王がどれほど彼らの言葉を理解したかはわからない。
 ただ静かに瞬いて、ひゅうと枯れた呼吸を繰り返す。
 カスカが携えるランタンに灯りを燈した。揺らめく幽かな灯が、王のまなこを照らす。
「緑の王よ。これがしるべの灯だ。――迷わぬよう、まっすぐに還れ」
 王の目が眩しげに細められた。
 ユハナもまた、白刃に星と陽だまりを映し出す。静かにそれを翳し、告げた。
「『いこう。君の終りまで一緒にいるから』」

 はたりと、みどりが瞬く。
 そうして王は最期まで無言で、その頭を垂れた。まるで差し出すかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『カフェで一休み』

POW   :    わいわいお喋りしながらお茶する

SPD   :    店内を楽しみながらお茶する

WIZ   :    まったりのんびりお茶する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夕暮れと珈琲とパンケーキ
 空は茜色に染まっている。
グリモア猟兵が薦めた喫茶店は、少し歩いた先、駅の近くにあった。古く穏やかな佇まいの、落ち着いた喫茶店だ。 
 店主の自慢は豆から拘った焙煎珈琲、一番の人気はパンケーキ。
 時間的に夕食を済ませたければ、ビーフカレーがいいだろう。

 立ち寄ってもいい。合流してもいい。
 このひとときは、君たちの自由だ。
朽守・カスカ
珈琲。

父さんが、よく淹れてくれた飲み物。
でも、よく失敗して、泥水のようなものを作っては
矢鱈と嬉しそうだったのが、懐かしい。

流石に、あの美味しくない珈琲は飲めないだろうし
飲めたとしても、飲みたくないからいいのだけど
(だって、それは大切な思い出)
折角だから、カフェに立ち寄るとしよう

傷の痛みがあっても
これは私が戦った証
でも、傷を見せるのは良くないから
しっかりと隠しておこう

さて、端のほうの席を確保できたのなら
私は、ミルク多めのカフェ・オ・レを頂こう
骸の海に還った魂達に安寧が得られるようを願いながら
穏やかに、このひと時を楽しもう



 ゆったりと流れる弦楽器の音色を背景に、店内には芳ばしい珈琲と甘い蜂蜜の香りが上品に調和していた。深い木目のテーブル、さりげない緑の彩、カウンターの内側では壮年の男性マスターが丁寧に豆を挽く姿が見える。
 扉を開けば、昔ながらの金色のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
 カスカはわずかな逡巡の後、カウンターの端に腰を下ろした。
 メニューを手に取り、軽く店内を見回す。
 壁に貼られたポスターは、地元のイベントだろうか。フリーマーケットや音楽ライブの告知が、品を損なわず、けれど人の目を惹くように掲示されている。隣にはモノクロの人物写真。映っている人々が誰かはわからないが、場所はこの店の前のようだった。
「いい店だな。清潔そうで、趣もある。……地元の人にも愛されているようだ」
 注文のついでのように告げたカスカに、マスターが柔和に微笑んで礼を言った。
 店主にも好感が持てると内心で付け加え、カスカは深く息をつく。

(――……ああ。こんな香りだったろうか)
 全身を包み込む珈琲の香りに、カスカは遠い記憶を呼び起こすように目を細めた。
 もう随分と昔のことだ。今はひとりで守るあの灯台で、父と呼んだひとと暮らした遥か遠き日々。彼の導きによって、ひとを愛することを教えられ、ひとに寄り添うことを学び、ひとを喪う悲しみを知った。
(いいや。きっとこんなに佳い香りではなかった)
 珈琲が好きで、よく淹れてくれた。
 けれど、よく失敗をしては泥水のようなものを作っていた。それでいて矢鱈と嬉しそうだったその顔が、ひどく懐かしい。
(父さんの淹れた珈琲は美味しくなかった。けれど、私も珈琲を好きになった)
 ただの珈琲ではない。父さんが淹れてくれた、泥水のような珈琲が好きだった。美味しくはなくても、嬉しそうに笑う父さんと一緒に飲む珈琲が、好きだった。
 さすがにあの泥水みたいな珈琲を味わうことはできないだろう。
 でも、それでいい。あの珈琲は父さんだけのものだから。他の誰が淹れても意味がない。だから、思い出はこの胸の内にあるだけでいい。

 やがて運ばれてきたのは、柔らかな色合いのカフェオレだった。
 ミルクたっぷりのそれを一口飲めば、疲れた体に温かさが染み入る。服で隠した手足の傷は痛んだが、厭わしい苦痛ではなかった。これはカスカが緑の王と彼女なりに向き合った証だ。
 目蓋の裏側に、安寧を希う。
 温かなカフェオレを飲みながら、カスカは父との思い出に浸り、海へ還っていった魂たちの安らぎを願い、静かにひと時を過ごした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
ルイーネ、ルイーネ
……、
その手に伸ばした指を、逡巡に丸めてしまったのは何故だったか
…すこしだけ、一緒にいてください
呟く声の裏側で
思い出すのは遊んだ彼らの眼、頭を垂れた王の姿
どうしてそれが、こびり付いたんだろうか。

頼んだのは珈琲と
ホットケーキ、うんと小さいの、なんて無理を言う
食べてみたいけど、食べ切れなさそうだったので
ルイーネが珈琲を飲む姿は、いつも通りで
安心します
胸がもやもやして落ち着かなくて
寂しかったのはあの子達で、僕じゃないのに

似ていたからだろうか
これが、寂しいというものか
あの子の額に触れた暖かさを、マグの温もりで埋めて
それから
邪魔をするようにその手に伸ばした指先を、あなたは厭うだろうか。



「おかえりなさい、ユハナ」
「――ルイーネ、」
 出迎えた彼の顔を見て、名を呼ぶ。手を伸ばすのは最早癖のようなもので、けれどその指先を逡巡に丸めてしまったのは、何故だろうか。
 触れる手前で止まった手を、ルイーネの掌が掬い取る。
 おいでと促されるままに歩を進めながら、ユハナはわずかに俯いた。思い出されるのは、遊んだ彼らの眼、頭を垂れた王の姿――こびりついてしまったかのように、繰り返し彼らの姿ばかりが脳裏に浮かぶ。
「ルイーネ。……すこしだけ、一緒にいてください」
 どうしてだろう。
 ずっと考えていた。でも、わからないんだ。

 奥のテーブル席で、向かい合う。
 様子のおかしいこどもを前に、ルイーネは気遣わしげにまず大きな怪我のないことを確かめた。彼も他の猟兵から、今回の事件の終着は聞かされている。多くは問わず、ユハナの前にメニューを広げてみせた。
「ほら、なにを頼みます?」
 彼の声はいつもと変わらない。いつも通りの穏やかな声音に、ユハナはしばらく沈黙を返し、ぽつりと呟いた。
「……ホットケーキ。うんと小さいの」
 無茶な注文だという自覚はあった。甘えだという自覚はあっただろうか。
 ささやかな我侭に、ルイーネは呆れただろうか。少しばかり肩を小さくしたユハナの長耳に、けれど彼が何事もないかのように二人分の珈琲とホットケーキを一皿注文する声が聞こえる。目線で問えば、肩を竦めて「はんぶんこしましょう」と笑った。
 うんと頷いて、ユハナはもぞりと身じろいだ。
 物言いたげな藍色の瞳が、ルイーネの顔とテーブルから覗く尻尾の先、揃えた自分の手をゆらゆらと行き来して、足先が迷うように揺れ動く。からん、とドアベルがだれかの来訪を告げるのと同時に、ユハナはぴょんと席を立った。向かい側、ルイーネのとなりにその身を滑り込ませる。
 肩が、触れる距離。
「やっぱり、こっちがいいです」
 傍らで、密やかに笑う気配がした。
 やがて注文の品が運ばれてくる。狐色の焼き目がついたホットケーキはほかほかと湯気を立て、ユハナの目にもとてもおいしそうに映った。
 バターと蜂蜜をたっぷりとかける。一人分のナイフとフォークをふたりで一緒に使って、はんぶんこしながら食べた。おいしいかと問われれば、小さく頷く。
 触れた肩から伝わる体温。背中を包み込むふかふかの尾。彼の手の中には、いつものように芳ばしい香りの珈琲。ぼんやりとそれを眺めるユハナの唇から、言葉が零れ落ちた。
「何だか、胸がもやもやして、落ち着かなくて」
 消えていった犬たちの目が、濁って尚透明な緑の目が、やけに思い出されてしまって。鳴声も、叫びも、耳に残って仕方がなくて。
 なんでだろうとずっと考えていたけど、あんまりわからなくて。
「ねえ、ルイーネ。これが寂しさなんでしょうか」
 僕に似ていると、そう感じたからだろうか。
 胸の中がざわざわとして落ち着かなくて、彼に触れたくなるようなこの気持ちが、寂しさというものなんだろうか。
 だとしたら、あんまりいい気分じゃない。
 でも。
「……ルイーネを見てると、ちょっと安心します」

 珈琲カップの熱で、指先に残る柔らかな体温を埋める。
 もう片方の手もなにかで――彼の温もりで埋めたくて、乞うように差し伸べる。狐は厭わずカップを持ち替え、その手を繋いだ。
 砂粒のひとつを握るこどものひと時は、いつもの温もりと共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュシカ・シュテーイン
……最近はぁ、大きな出費もありましたけどもぉ……ここのところぉ、節制も大分していましたしぃ、今日くらい皆さんとお話しながらぁ、少し贅沢してもぉ……罰は当たりませんよねぇ?

砂糖を大目に入れた焙煎珈琲とぉ、パンケーキをいただきましてぇ、ご一緒させていただいた方がいらっしゃいましたらぁ、お話でも出来ればいいですかねぇ。

今回のことでぇ、動物と一緒に暮らすことはやっぱりぃ、癒されるんでしょうということを再認識しましたねぇ。
今はぁ、養ってあげられる余裕はないですけどもぉ、いずれはぁ……ふふぅ、もっとぉ、頑張らないとですねぇ。

相席やぁ、アドリブなどぉ、どんどんしていただいて大丈夫ですよぉ。


秋稲・霖
おわっ、こんなとこあるんだな!オススメ教えて欲しいっす、ルイーネさん!
珈琲はブラックは無理だけど、ミルクと砂糖いっぱいなら何とか。せっかく珈琲の美味い店に来たんだったらチャレンジしてみたいぜ
一緒に食うのは…がっつり飯も迷うけど、やっぱここは一番人気のパンケーキっしょ!
んー、ふわふわしてるしめっちゃ美味い…!!癖になりそう…!

※他の方との絡み、アドリブ歓迎です



「おわっ、こんなとこあるんだな! すげーいい匂い!」
 彼の来訪は、カウベルよりも彼自身の張りのある声が教えてくれた。
 紫色の瞳を好奇心に輝かせ、楽しげに尾を振る狐が一匹。店主と目が合えばひょこりと頭を下げ、BGMに重ねた鼻歌交じりにきょろきょろと店内を見回す。
 どこに座ろうかと空席を探す彼の目に、見知った顔が映った。
 柔らかな照明の下で眩く煌く、淡い花色の髪。伏せられていた目線が上がり、彼の姿を捉えて柔く瞬いた。
(ラッキー! 知り合い発見)
 秋稲・霖(ペトリコール・f00119)は石の魔女へ向けて破顔して、そちらへと歩み寄った。

 同席を乞われれば、リュシカに否やはない。
 ふわふわと微笑みながら向かいの席を薦め、彼にも見やすいよう中央にメニューを広げる。周囲からは既に、馥郁たる珈琲の香りはもちろんのこと、甘いパンケーキやカレーの匂いが漂ってきては、霖たちの食欲を誘った。
「迷いますねぇ、……うぅん。パンケーキ、おいしそうですけどぉ……」
「めっちゃいい匂いっすよね、カレー……」
 思わず唾を飲み込む。
 メニューを凝視していたリュシカが、そわそわと頬に手を当て悩ましげな吐息を零した。
 実は最近、大きな出費続きで懐が少しばかり寂しい。財布の中身とメニューとを見比べながら、いやでもその分ずっと節制も頑張ってきたし、清貧な生活にも耐えていたことだしと、自らへの言い訳を捻りだす。
「今日くらい、少し贅沢してもぉ……罰は当たりませんよねぇ?」
「当然っすよ! たまには自分を甘やかしてあげることも大事っすよー。ほら、今日頑張った自分へのご褒美ってやつ。食べちゃいましょうよ、パンケーキ!」
 彼女へ向けて太鼓判を押した霖は、リュシカの迷いを断ち切るように手をあげて店主を呼んだ。
「まずルイーネさんおススメの珈琲は外せないっすよねえ。あとは飯……も、ウマそうだけど、ここはやっぱ一番人気のパンケーキっしょ!」
 残念ながらブラックの珈琲では口に合わない。霖はミルクと砂糖をたっぷりと、リュシカも砂糖を多めに入れて甘さを足し、パンケーキが届くまでのわずかな間、彼らは共通の知り合いや今日の事件のさわりなど、和やかに言葉を交わした。
「かわいかったんですよぅ。ずうっと憧れでしたけどぉ、やっぱりいつかはぁ、一緒に暮らしてみたいですねぇ」
「あー、いいっすねえ。世話とか大変かもしんないすけど、やっぱ動物は癒されるっすよねえ!」
 いくら自前の毛皮があろうとも、そこはそれ、別の問題だ。自分の尻尾ともふもふの動物とでは癒され度は大違いであるし、自分の尻尾に癒しを求めるのは若干寂しいものがある。
「そういうもの、ですかぁ?」
「そういうもの、っすよ」
 しかつめらしく頷く妖狐の青年に、魔女はなるほどぉ、とふわふわと笑って頷いた。
 マスターがトレーを手に現れれば、ふたりの目はふんわりこんがりと焼けたパンケーキに釘付けになった。
「あっ! 蜂蜜かけてるとこ撮りたい!」
 いそいそと取り出したスマートフォンで、リュシカの皿をぱしゃりと撮影する。きょとんと首を傾げる彼女に、素早くその場で加工した写真を見せれば、魔女の煌めく瞳が感心したように瞬きを繰り返す。
 ついでに自撮り機能でリュシカとのツーショットもゲットした。
 ――別に変な下心とかではない。単に互いに馴染みのあの店で、話のタネにでもなればと、それだけで!
「ふふ。よくわかりませんけどぉ。冷めちゃいますよぉ」
「あっ、やべ」
 慌ててフォークを手に取る。
 蜂蜜はすっかり全体に染みわたっている。大きく切り取った一口を頬張れば、表面のカリッとした焼け目からじんわりと染み出すその甘さが、咥内いっぱいに広がった。
「ふわふわしてるしめっちゃ美味い…!!癖になりそう…!」
 はぐはぐとパンケーキを食べる青年を、魔女は微笑ましげに眺めていた。もしかしたらその眼差しは、今日の昼間に見られたものと、どこか似通っていたかもしれない。
 いなり狐と魔女のひと時は、楽しい笑い声の輪唱で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水前寺・竜子
サフィお兄ちゃん(f14072)に誘うてもらってついていくったい
私んち地方やけん、パンケーキのお店めっちゃ楽しみったいねー!
ホイップかけたりシロップかけたり、夢がひろがるばい!
ええ香り!めっちゃうまかねー!(目を輝かせて頂きます
カレーもぎゃんええ香りで、美味しそうったいねー
お兄ちゃん珈琲ブラックなん?ええ香りやし、私も挑戦してみるったい!
…(轟沈)お兄ちゃん、こんな苦いの飲めるのすごかねぇ…大人ったいねぇ…(大人しくミルクをいれ

ゆっくりするんもええと思うったい
ハレの日ケの日とかっていうばってん、私はお兄ちゃんとゆっくり過ごせて楽しかよ!
あ、せっかくだけん、犬さん達の話とか…きかせてくれん?


サフィ・ヴェルク
【旅団ハルモニアで参加】
グリモア猟兵のルイーネさんの言葉を思い出し、旅団仲間の水前寺竜子さん(f14509)さんをお誘いし、喫茶店へやってきました

僕はパンケーキ…も、良いですけど、パンケーキは水前寺さんが召しあがるようですし、せっかくなので僕は他のおすすめへ
ビーフカレーをゆっくりと食べすすめつつ穏やかにこの時間を楽しみましょう
水前寺さんが珈琲を飲んでみたいようなので僕も合わせて注文を
僕の珈琲はブラックで。苦味で冷静になりたい
猟兵生活なんてしてるとこんな平和な日常ってあまり無く何だかむず痒いです、気恥ずかしいような気持ちになります

そんな気恥ずかしさも、犬と遊んだ話をして穏やかに記憶したく思います



「サフィお兄ちゃん! 待たせてごめんとよ」
 慌てた顔で、黒髪の少女が改札から出てくる。
 適当な雑誌を手に取り眺めていたサフィは、駆け寄る彼女に気づいて雑誌をラックへと戻した。
「いえ、大して待っていませんから。行きましょうか」
 促せば、少女――水前寺・竜子(人間の竜騎士・f14509)は嬉しそうに頷き、待ちきれないとばかりに足取りを跳ねさせた。結った髪がぴょこんと揺れる。
「私んち地方やけん、パンケーキのお店なんてあんまりなかと」
 めっちゃ楽しみったい!と目を輝かせる竜子の姿に、スイーツを好みそうだからと誘ってみたのは正解だったと安堵する。ひとりで行くのも躊躇われたので、同行者が見つかったのもある意味助かった。

 店内へ入り、テーブル選びは少女に任せた。
 サフィとしてはどこでも構いはしない。ちらほらと見かける猟兵へ会釈をして、竜子のあとについていった。
「ここ! この窓のとこにするったい!」
 竜子が選んだのは、大きく切り取られた窓から夕暮れの景色を眺められる一角だった。頷いて、にこにこ顔の彼女の向かいに腰を下ろす。人当たりよく微笑みながらも、どうにも居心地の悪さを隠し切れないサフィと比べれば、天真爛漫に振舞う竜子のほうが場に馴染んでいるようだ。
 ――仕方がない。こういう穏やかな日常は、少し不慣れだ。
 幼いころからUDC組織のエージェントとして生きてきた彼の日常は、少しばかり偏っている。事件の調査や後始末などで訪れたのならば感じないだろう尻の座りの悪さは、気恥ずかしさとも言い換えられる。
 そんなサフィを知ってか知らずか、少女は小さなメニューを抱えてあれやこれやと品定めに夢中だった。琥珀色の瞳が忙しなく行き来するのは、デザートのパンケーキと、そしてドリンクメニューの欄。
「水前寺さんがパンケーキになさるなら、僕は……カレーにします。水前寺さん、飲み物は?」
「んん、珈琲にするったい。ええ香りやし、せっかくのおススメやけんね」
 よし!とばかりに店主を呼び、二人で交互にオーダーをする。
 すぐにできますよと告げて、店主は一旦店の奥へと戻っていった。手作りらしいあのメニュー表は彼がちまちまと自作しているんだろうか。だとしたら、想像するとちょっと可愛らしいなと思って竜子は笑った。
 店主の言葉通り、パンケーキとカレーはさほど待つことなく届けられた。
 こんがりと焼けたパンケーキには、バターと蜂蜜が添えられている。とろりとかければ混じり合ったそれらの香りが、湯気とともに竜子の鼻をくすぐった。ナイフを差し込めば、中はふんわりと柔らかい。
「ええ香り! んー、めっちゃうまかねー!」
 サフィのビーフカレーも時間をかけて煮込まれているのだろう。舌で容易くほぐれる肉の柔らかさと、程よく効いたスパイスの香味が絶妙だ。サフィもおいしそうに舌鼓を打つ。
 ふたりが皿を空にする頃を見計らって、食後にと頼んでいた珈琲がテーブルに置かれた。
 深い深い、竜子の目よりも尚深い琥珀色。飲み慣れてはいなくても、竜子もその芳香は佳い香りだと思った。どこかドラマチックな、おとなの香りだ。
「お兄ちゃん珈琲ブラックなん?」
 ええ、と頷いて、サフィはローストされた豆の香りと苦みを、薄く啜って飲み下す。この苦みで、少しばかり冷静さを取り戻したかった。
「……私も挑戦してみるったい!」
「あ」
 制止するより早く、少女は勢いよく真っ黒の液体を口に含み――轟沈した。
 机に突っ伏して口許を抑える。何とか嚥下したのはいいが、口の中はじわじわと味覚を虐める苦みでいっぱいだ。
 少女にはまだ、この味は早すぎたらしい。サフィは苦笑して、彼女に水を差しだした。

 水をがぶ飲みして復活した少女と、他愛のない話をいくつかした。
 大して意味のない、その場限りの軽い言葉のやり取りだ。夕暮れは徐々に深みを増し、さざめく客たちの気配も戦いからは程遠い。
「……穏やかですね」
 呑気だと、悪気はなく呟いて、ゆったりと椅子に背を預ける。たまにはこういう過ごし方も、悪くはないのだろう。
「ハレの日ケの日とかっていうばってん、私はお兄ちゃんとゆっくり過ごせて楽しかよ!」
 ミルクをたっぷりと入れたカップを手に、竜子は明るく笑った。
「せっかくだけん、犬さん達の話とか…きかせてくれん?」
「いいですよ。笑わないでくださいね」
 氷遣いは話し始める。
 愛らしかった犬たちを思い出すひと時。琥珀の瞳にころころと感情を滲ませる、聞き手の少女へ向けて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
【WIZ】
店内端の席にて。

ブラックコーヒーだけ頼み、ぼんやり外を眺めながら一息つく。
…猟兵として自分のやってきたことが、果たして正しかったのか。判らないまま、けれど誰にも打ち明けることはしない。
…これでいい。
これでいいんだ。
全て飲み込むように、コーヒーを一口飲む。
コーヒーの苦味が常より強く感じられた。


アドリブ歓迎



 夕暮れのキャンパスに、藍色の絵の具が混じり始めていた。
 窓に映る己を透かし見、行きかう人々の姿を、街の情景を眺める。
 買い物帰りの老人、ベビーカーを押す女、笑い声の大きな女子高生たち(理の通う高校ではないが制服は知っている。確か合唱部だか吹奏楽部だかが有名だと聞いたことがあった気がする)、矢鱈とクラクションを鳴らすトラック、セール品が並べられたドラッグストアの入り口――頬杖をついて傾いだ視界に移るのは、タイトルをつけるならば『日常』だった。
 誰もが知るような日常、誰かにとっての日常、そして理にとっての日常でもある。
 そう、こんな感情を抱え、裏側の戦いなど知る由もない顔で平穏を享受する世界を眺める時間は、確かに猟兵にとって……理にとって、日常のひとつだ。
「――……海へと還れ、か」
 猟兵たちがオブリビオンへ唯一贈れる、別れの言葉。
 勝手なものだ。そう理解していて尚、彼らはそうすることを選ぶ。選び続ける。なぜなら、それが世界のあるべき構造であり、未来であり、因果律であるからだ。
 息を吐いて、視線だけを斜めに流す。店内には共に戦った猟兵や、彼らの連れらしき姿がいまだちらほらと残っている。一般の客たちに紛れながら、ささやかな会話を交わし、或いは静かな微笑で物思いに耽っているようだ。
 彼らはどう思っているのだろうか。
 別に問いたいわけではないし、聞きたいわけでもない。話すつもりもない。価値観も姿勢も、何をどう感じどう咀嚼しどう片をつけるかも、結局は己だけの問題だ。つまりは――。
(俺はまだ、整理をしきれていないんだろう)
 猟兵のひとりと目が合いそうになって、ふいと視線を逸らす。
 窓の外には相変わらず変哲のない平穏が広がっていて、瞼を閉じれば今日還した命たちの姿が浮かぶ。
 己のしたことが正しかったのか、それは判らない。
 答えが出るかどうかも判らない。
 だが。
「これでいい。……これでいいんだ」
 護りたいもののために、明日の理も選び続けるだろう。
 これでいいんだと、己に告げながら。

 手元で波紋を広げる黒い海。
 映り込んだ己の姿ごと飲み込めば、いつもよりずっと苦く感じられた。

●花
 どこかで、花が咲く。
 さみしがりやたちに、さようなら。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月22日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト