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大蛤即蜃也、能吐氣爲楼台

#封神武侠界 #天に送る祈り言 #不思議な泉 #蜃 #夕狩こあら #鴻陽 #周興

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 嘗て仙界で大いに暴れ回り、仙人達がやっとの思いで封印にこぎつけた怪物がいた。
 其は二度と目覚めてはならぬと、多くの仙人によって戒められた怪物であった。
『かたかた。かたかたかたかた……』
 丸みを帯びた三角形の貝。黄褐色の表面に走る二筋の放射帯。
 一般的に「蛤」と呼ばれる個体と大きく異なるのは、人ひとり入る程のサイズだろうか――貝獣『蜃』は二枚貝を擦り合わせてカタコトと、白い泡のような息を吐いていた。
『けたけたけた、けたけたけた……』
 蜃が吐いた気は、忽ちガス状に広がって幻影を描く。
 それは都でも見られぬ立派な楼台だったり、波の向こうに見える異国だったり、見る者の郷愁を誘う故郷の景色だったりするのだが、最も厄介なのは、垂涎を禁じ得ぬ酒池肉林や、過去の辛い記憶など、見る者の精神に干渉する幻影を紡ぐことだろう。
 人の心を犯してはならぬと封印を施された筈の『蜃』は、何故か全身に巡らされた念珠を取り払っていて、そして今、好き放題に霞を放出している。
『ことこと、ことこと……こと、こと』
 その正体は、或いは龍であると言われるが、本当の事は誰も分からない。
 何故なら、蜃が紡ぐ幻影――賑いの街に踏み込んだ時には、既に人は蜃の腹の中に招かれており、ぴっちりと締められた貝の合わせから出られた者は誰も居なかったのだ。


「大変! 仙人達が何とか封印していた貝獣が、結界を破ってしまったみたいなの!」
 厄介な事になったと翠眉を寄せるはニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)。
 今も気泡を吐いて幻影を広げているだろうと懸念を示した彼女は、仙界から更に人界へと被害が及ぶ前に対処して欲しいと呼び掛ける。
 而して漸う集まる精鋭に安堵の色を示した花屋は、言を足して、
「皆が来てくれるなら大丈夫! 過去の仙人達じゃ封印が精一杯だった『蜃』も、猟兵が弱点を突いて戦えばやっつけられそうなの」
 嘗て仙人達が作った結界を再構築する必要は無い。
 今度は「封印」でなく「撃破」してしまおうと提案したニコリネは、長らく人々を困らせて来た貝獣に引導を渡すに、彼奴の弱点を探って欲しいと頼み込む。
「先ずは仙界に近い人界の村で、貝獣を抑える為に始まったという天灯祭りに参加して、村の風習から蜃の弱点を探って頂戴!」
 嘗て蜃が放出する幻惑の景色に悩まされた僻地の村人は、蜃が鎮まるよう天灯に祈りを籠めて夜空に送ったという。この祭事を学びつつ、貝獣攻略のヒントを得て欲しいのだ。
「貝獣の弱点が分かったら、洞穴を通じて仙界に行きましょう。封印の地へ向かう途中に不思議な泉があるから気を付けてね」
 蜃が好む砂泥地に向かう道中、霊力に満ちた泉を通る事になる。
 この泉は、落とした斧を立派な金の斧に変えたり、逆にみすぼらしい木の棒に変えたりする不思議な泉で、猟兵が落ちるとどうなるか分からないが、この霊力を蜃退治にうまく使えるかもしれない、とニコリネは言う。
「無事に泉を抜けたら、封印の地……今は封印を破ってしまった蜃がたっぷり霞を広げて幻惑してくるから、皆は幻に何とか耐えながら、巧く弱点をついてやっつけて!」
 この時、非常に硬い貝殻を抉じ開け、中身を攻撃しなくてはならない。
 しかし猟兵が封印の地に辿り着いた頃には、蜃に口を開かせる手立てを得ている筈だと頬笑んだニコリネは、ぱちんとウインクしてグリモアを召喚し、
「どうせやっつけるなら、食べちゃってもいいんじゃない? お醤油とか掛けて……」
 でもこのサイズはお腹壊しちゃうかしら、と苦笑するのだった。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、封神武侠界にて封印を破って現れた怪物を討伐する「猟兵、仙界の魔を滅す」シナリオ(難易度:普通)です。

●戦場の情報
 第一章で「人界」の村で行われるお祭りに参加した後、第二章で洞穴を通って「仙界」へ、第三章で蛤が封印された(現在は暴走中の)「封印の地」へ赴きます。

●シナリオ情報(三章構成です)
 第一章『天に送る祈り言』(日常)
 仙界に近い人界の村で、天灯を飛ばすお祭りが行われています。
 村人にならって、これからの決意や抱負、叶えたい事、願い事など、心に秘めた想いを「一文字」に託して、夜空に祈る祭典を楽しみましょう。
 お祭りに参加して馴染みながら、この祭りの由来となったという「蜃」の弱点を探しましょう。

 第二章『不思議な泉』(冒険)
 うっかり落ちると不思議な効果を受けてしまう泉がそこかしこに湧いています。効果は一時的なものとは言え、注意するに越したことはありません。回避して通り抜けるか、何かを得るために泉の中に入ったり、何かを落としてみるのも良いでしょう。

 第三章『蜃』(ボス戦)
 蛤に似た姿をした、悪しき幻獣。とても大きく、人がすっぽり入る程です。
 第二章の「不思議な泉」から少し進んだ「封印の地」(湿地砂泥帯)で暴走しており、 貝殻の中で幻惑を見せる気泡と霧を熟成させて放出し、戦場一帯を蜃気楼で満たしています。
 撃破するには貝の「中身」を攻撃する必要があります。
 中身は食べられますが、逆に食べられもするので注意しましょう。

●プレイングのコツ
 弱点を探る(第一章)、弱点を調達する(第二章)、弱点を攻撃する(第三章)という流れに沿ったプレイングをかけられると、シナリオの「大成功」へ近付きます。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や【グループ名】をお書き下さい。呼び名があると助かります。
 また、このシナリオには導入の文章がございます。告知後にプレイングをお送りいただけます。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 日常 『天に送る祈り言』

POW   :    屋台を巡る

SPD   :    飛びゆく天灯を眺める

WIZ   :    天灯に願いを書いて夜空に飛ばす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 貝獣を縛していた念珠が切れ、封印が解かれたとの報告を受け、急ぎ辺境の村を訪れた晋の役人・鴻陽は、この村に古くから伝わる「光贐(おくり)」なる祭事を、暫し陶然と眺めていた。
「なんと、空に昇りゆく燈火(あかり)の美しきこと……」
 夜空いっぱいに光を浮かべる天灯は、当初、命の耀きを示したものだったという。
 昔人は命を犠牲にする代わり、明るい光を送り届ける事で蜃を鎮めようとしたのだと、傍らで天灯を仰ぐもう一人の役人・周興が言を足す。
「この村の者達は随分と昔から幻惑の霧を見ていたのだな」
 見たことの無い異國の景色に誘われた男が消えたとか。
 己の罪深い過去に耐えられず、若い女が自殺したとか。
 霧が発生する度に命が消えるのを悲しんだ村人は、貝獣がこれ以上人を喰らわぬよう、いつしか天灯に魚や貝、美女などを描いて空へと送ったと――。天灯作りから行事に参加すれば、成る程色々と分かってくる。
「魚介類はなんとなく分かりますが、美女とは……」
「さてなぁ、昔人も蜃が何を喰うか知らなかったのだろう」
 首を傾げる鴻陽に対し、吃々と竊笑する周興。
 天灯には分かり易く魚や酒の絵が描かれているものもあれば、筆で一文字、何か意味のある言葉が書かれているものもあり、これらは人々の想いや願いを夜穹に送り出す意味があるという。
「これは蜃が封印されてから生まれた行事でしょうか?」
「實に趣(おもしろ)い。私も一筆、書かせて貰おうか」
 村の祭事に関わったのなら、調べるのみならず樂しむべきだろう。
 周興は筆を取るや、扨て何を認めるべきと、眞白の紙面に向き合うのだった。
マホルニア・ストブルフ(サポート)
◇口調
男性的【私、お前、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?】~よ、構わん、等
協力者には丁寧に接するよ。

◇行動方針:問題の解決
一般人がいれば保護が優先。
多少の負傷は問題なく行動。

◇戦闘・技能
知覚端子を張り巡らせて情報収集しながらサポートしようか。
電子媒体はハッキング、戦闘はグラップル、切断、射撃系がメインだな。使える技能は使っていこう。

武器はレヴィアスクかアサルトライフル。移動や捕縛でグレイプニルを使うこともあるな。張り巡らせて、多少の高度なら足場などに転用などか。
UCはハッキング・呪詛を組み合わせて実現させる。詠唱は長いから、有っても無くても構わんよ。後はよろしく頼む。


轟木・黒夢(サポート)
『私の出番?それじゃ全力で行くわよ。』
 強化人間のヴィジランテ×バトルゲーマー、19歳の女です。
 普段の口調は「素っ気ない(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、偉い人には「それなりに丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格はクールで、あまり感情の起伏は無いです。
戦闘では、格闘技メインで戦い、籠手状の武器を使う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


マティアス・エルンスト(サポート)
アドリブ・連携・苦戦描写・UC詠唱改変・その他OK

「……俺が前に出る。お前は俺を盾にしろ。」

一人称:俺
口調:寡黙で無機質。表情も一見無愛想で感情が読み取りづらいが仲間想い。
性格:知らない物事へ対する好奇心と知識欲が旺盛。自身を精密な電子機器と思っている様子。

戦法:高いPOWを活かし、エネルギー充填したアームドフォートによる威圧感たっぷりの威嚇射撃や一斉発射等、「攻撃は最大の防御」を体現した戦法を好む。
仮に間合いに踏み込まれても剣や槍で受け流し、鎧砕きも狙いながらのカウンター攻撃。

指定したUCを何でも使用。
戦況等に照らし「適切・最善」と判断すれば他の存在からの指示や命令にも即応する。

他はお任せ。



 橙色の温かな明りが、紫紺の天蓋を目指し続々と昇りゆく――。
 夜風に乗って悠揚(ゆっくり)と浮かぶ無数の天灯を仰いだ轟木・黒夢(モノクローム・f18038)は、美し花顔を暖色に照らしながら淡々と呟いた。
「成る程、光の贐……蜃を鎮めようと始まった村の祭事なのね」
 瑠璃の彩瞳いっぱいに映る燦爛に胸を躍らせるほどロマンチストでも無し、交睫ひとつして視線を戻した佳人は、目下、己が制作する天灯の底に丁寧に竹を張る。
 手を繁く動かしつつ、優れた聽覚は村人の会話を佳く捉えていよう。
「……海旁の蜃氣……楼台を象る……」
「大蛤即ち蜃なり、能く氣を吐きて楼台と爲る――か」
 黒夢の隣、同じく天灯作りに加わったマホルニア・ストブルフ(構造色の青・f29723)も村人の歌や聲を拾いつつ、和紙のような質感の紙を前に、何を書くべきか思案する。
「サイズは兎も角、蛤ならアサリを好んで食べるかもしれない」
 云って、繊指に持てる筆をスラスラと走らせて描き上げるはアサリの絵。
 特に長き封印から解き放たれた今は腹を空かせているだろうと、成る丈好物を書く――一般人を護らんとする気概は、祭事だろうと變わらない。
 佳人達の傍らで天灯を組み上げるマティアス・エルンスト(人間見習い・f04055)も、周囲に目を配るがてら、優れた情報収集力を発揮しよう。
「黄雀は秋に化して蛤と爲り、春に復た黄雀と爲る。五百年にして蜃蛤と爲る、と……。この伝承が真実なら、蜃は少なくとも五百年前より存在するという事か」
 随分長生きな、と呟きながら、油に浸した紙片に炎を移す。
 燃料を浸み込ませた紙が袋内の空気を温め、ふうわと天灯を上昇させる――その靜かな動きを紫彩の瞳に追ったマティアスは、多くの村人が感嘆を零すのを耳に、またひとつ、次なる天灯作りに取り掛かるのだった。

 ――娑々(ふわふわ)と、浮波々々(ふわふわ)と。
 天灯が我が身を熱気に膨らまして夜穹を漾う間、三人の情報収集は続く。
 マティアスは好奇心旺盛に村人に話を窺う中で、特に被害対象に注目し、
「蜃氣楼現象後に失踪したのは、漁師と、美女と……そして暫く不漁が続いたとか」
 遠い高楼を目指して波の彼方に消えた漁師。
 二人の男に言い寄られて身を投げた美女。
 そして、蜃氣楼に包まれた後は暫く海産物が獲れなくなるという不思議――。
 これらの伝承には先人の警鐘が含まれていると言う麗人に、黒夢も淡然ながらこっくりと頷く。
「……招かれたものが全て好物でなかったとしても、餌や囮に使えるかもしれない」
 聽けば蜃は實に悪食だ。
 これを逆に利用し、此方が幻想に招かれるより先に誘き寄せる事が出来るかもしれないと云えば、青藍の長い睫を上に、冬天に燈る光を仰いでいたマホルニアが言を足す。
「――晋の役人も來ている事だし、彼等が喰われる前に動こうか」
 星眸(まなざし)を天灯に結ぶも、彼女の視界はずっと広い。
 村人とは明らかに違う都の扮装(いでたち)を見た凄艶は、彼等が蜃討伐に動き出す前に動こうと、早速、仙界へと繋がる洞穴に向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

篝・倫太郎
【華禱】
逸話なんかを聞きながら支度

絵心なんてものが俺にはないの、あんたも知ってるだろ?
だから、俺が入れるなら文字かな

好奇心で少し落ち着かない様子の夜彦にそう告げて笑う
そだな、エンパイアだと空に送るんじゃなくて
川で送るもんな

暫し悩んだ末に
結局の処……決意も抱負も叶えたい事も願う事も
この一文字に集約されるから

そんな訳で俺は『幸』の一文字

しあわせに生きるという決意
しあわせのために出来る事をするという抱負
唯一無二をしあわせにしたいという叶えたい事
俺もしあわせであれるようにという願い事

言わなくても夜彦は理解してそうだと思いながら

そうっと天灯を空に
それを夜彦や腕の中のしょこらと見送って

続いていくさ、ずっと


月舘・夜彦
【華禱】
逸話を聞きながら支度をします
絵心がなくとも、気持ちがあれば良いのですよ
それでも……そうですね、自信がないのであれば文字でも十分ですとも

私は川を泳ぐ魚を描いてみましょう
向かうのは川ではなく、空なのですけれどもね
空へと上っていく様子を見られるのが楽しみです

互いの天灯を見て、それぞれの気持ちを込めたもの
倫太郎が書いた文字を見れば目を細めて微笑む
私も同じ思いがありますから

私が描いたものは二匹の大きな魚と、それに続く複数の小魚達
私の幸福の形……というのは倫太郎も気付くでしょう

空へと送る天灯、それを倫太郎とそれぞれの腕に抱いた二羽の兎と共に
私達の願いが、想いがずっと続きますように



 人魚を見たと叫び海に入っていった青年や、死に別れた夫に呼ばれて消えた寡婦。
 人間の他には、浅蜊や蟹、魚などの生き物もごっそり消えるらしく、村人が天灯に描く絵を見れば、蜃なる貝獣が如何な被害を齎したか読み取る事が出來よう。
「蜃が霞を吐くと人が失踪し、暫くは海産物の不漁が続くと……」
「ふぅん。何が好物かは判然らないが、かなり悪食なのは理解った」
 何かを好んで食べるというより、何でも食べる。
 封印を破った今は嘸かし腹が空いていようと、紫紺の穹へ昇りゆく天灯の絵柄を仰いだ月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)と篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、今度は自分達の天灯を送り出すべく視線を戻し、手元の筆を取る。
「…………難しいな」
 硯の岡を滑りつつ、初筆を悩む聲ひとつ。
 白い紙とお見合いするばかりの倫太郎には、傍らの夜彦が「どうしましたか」と柔かな流眄を注ぐが、クシャリ髪を掻き上げた彼からは溜息が返るばかり。
「絵心なんてものが俺にはないの、あんたも知ってるだろ?」
「絵心がなくとも、気持ちがあれば良いのですよ」
 絵の巧拙を気にする事は無いと、ふうわり咲んでみせる夜彦。
 そのまま硯を引き寄せた彼は、墨を染ませてサラサラと、まるで筆が紙面を游ぐように滑らかに、川を泳ぐ魚の絵を描き始めた。
「心を籠めて描けば愛着が湧くもので、今は川を泳いでいますけれども、この子が澄んだ空へと上っていく樣を見られるのが樂しみです」
 悠揚と泳いで欲しいと願う筆の潔きこと、飾りなきこと。
 その迷い無い筆致を追った琥珀色の佳瞳は自ず煌いて、
「そだな、エンパイアだと空に送るんじゃなくて、川で送るもんな」
「ええ、少し風習は異なりますが、空へ送り出すのも風情があって佳いかと。何より風が心地良さそうですしね」
 次いで星眸(まなざし)は筆の主へ、好奇心の唆られる儘に、少し落ち着かない樣子の夜彦へと結ばれ、ふくふくたる微咲(えみ)を映していく。
「それでも……そうですね、自信がないのであれば文字でも十分ですとも」
「文字か……うん、文字がいいな」
 そう告げた時には迷いも消えていたろうか、筆の湿りを取り戻すよう再び墨を染ませた倫太郎は、深呼吸ひとつ、而してスッと筆を走らせた。
「決意も、抱負も、叶えたい事も、願いも……結局の處、この一文字に集約されるんだ」
 其は、眞直ぐ、伸びやかな筆跡で書き上げられる『幸』なる一文字。
 死の枷に抗って生きる意と、「さきはう」「しあわす」なる音を持つ文字に籠められた彼の想いは、唯一無二と愛する花簪には言わずとも伝わろう。
 ひとたび走れば宛如(まるで)彼らしい、純朴として雄健蒼勁な一文字を見た夜彦は、目を細めて暫しじっくりと眺めた。
「――噫、とても佳い字ですね」

 しあわせに生きるという決意。
 しあわせのために出來る事をするという抱負。
 唯一無二をしあわせにしたいという叶えたい事。
 俺もしあわせであれるようにという願い事。

「……私も同じ思いですよ、倫太郎」
 そっと愛しさを零すように囁いた夜彦は、更に魚をもう一匹、而して二匹となった魚の周りに、複数の愛らしい小魚達を描いて仲良く泳がせる。
 無論、其が夜彦の幸福の形とは倫太郎も気付こう。
「おっ、番(つがい)に……家族も増えて賑々しいな!」
「折角です、皆で空を游いだら樂しかろうと思いまして」
「わちゃわちゃして、今にも飛び跳ねていきそうだ」
 これは息子で、これは娘で、皆みんな大切な家族で――。
 次々と描き上がる魚達を繊指に捺擦りつつ、互いに肩を寄せて家族の物語を語り合った夜彦と倫太郎は、こうして華やかに組み上がった天灯に火を移し、橙色の温かな光で魚達を彩ってやる。
 この時、はむはむと竹ひごを咥えて遊んでいたラビットグリフォンの『しょこら』と『ましゅまろ』を腕に抱き、二人と二羽となった彼等は、ほうわり燈火(あかり)を差す天灯を、靜かに、閑かに夜穹へ送った。
「ほら、しょこら、飛んでいくぞ」
「ましゅまろも一緒に送りましょう」
 すんすん、ふんふんと鼻頭を上に向ける兎達と共に、滿天に溢れる光を仰ぐ。
 我が手を離れた天灯が、ゆっくりと浮かんで光の搖籃へ――軈て無数の燈火のひとつとなっていく樣を沈默の裡に見守った二人は、時に、ほつりと佳聲を染ませた。
「私達の願いが、想いがずっと続きますように」
「……続いていくさ、ずっと」
 永久に、永遠に――。
 冬天に耀ける極星の如き瞳を燈火に繋いだ儘、禱り、希うだけでなし、誓願(ちかい)を籠めて科白を交した夜彦と倫太郎は、腕に抱く温もりごとぴったりと寄り添いながら、紫紺の天蓋に広がる幾つもの想いを慈しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
貝のお化けなんてやっつけて食べちゃうぞ!
……なんて考えてたらお腹空いてきたな、屋台でなんか食ーべよっと!!
お祭りの由来が由来だから、焼き貝とかないかな~?
酒蒸し用のお酒は……むむー、子供だから買えないかなぁ? 飲む用じゃなくて料理用だけど

もっちゃもっちゃ食べながら、蜃の昔話とかを聞こう!(大食い)
幻を見せるだけ? ビーム出したり変身とかしない?
どんな味付けがいいかな? やっぱバター醤油?

一筆書くなら、もちろんこれだ!
【劉】!!
劉家拳の名を江湖に知らしめす!!
弟子入りしたい人はいないかな!
余興に型を見せて【パフォーマンス】だ!


荒谷・つかさ
蜃……確か正体は竜だとか、巨大なハマグリだとか言われている神獣の一種だっけ。
竜焼肉か焼き蛤か、どちらにありつけるかはわからないけれど楽しみだわ。

それはさておき、「光贐」か……別の世界にも似たような風習があったわね。
「灯籠流し」だっけ。それと同じようにやればいいのかしら。

村人に習いながら、祭りに参加
天灯に刻むは「破」の一文字
如何なる障害も、幻も
私の前に立ち塞がるのであれば、有形無形問わず総て打ち「破」る、との想いを込めて

あとは出てるであろう屋台の料理や酒を端から順に軒並み楽しみながら、ついでに蜃の弱点について聞いて回るわね



 貝獣『蜃』を鎮める祈禱儀式が、長き時を経て祭事になったと云う。
 祭りの由來が由來なれば、貝など焼いてはいまいかと屋台を巡り歩いた劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)は、ふうわと靉靆びく磯の薫香を辿る裡、見知った顔を見かけた。
 射干玉の黑髪を分ける角一本。芙蓉の顔からは想像もできぬ凄まじい食べっぷり。
 かの美人の名は――。
「つかさ姉ぇ! すごい……すごい食べてる!」
「贔屓するのもどうかと思って。端から順に挨拶回りをしている處よ」
 まだ五件目だと盃を傾けるは、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)。
 情報は上客に流れるものと識る佳人はここぞと健啖を発揮し、名物料理を次々頼んでは地酒を共に愉しみつつ、『蜃』の弱点を摑まんと耳を欹てている。
 頼もしき胃袋――いや知人を得た涼鈴は、焼き蛤をちゅるりと花脣に運ぶつかさの隣にちょこんと座ると、手に持った箸で蛤をつんつん啄きつつ、美味と美酒に饒舌になる客の会話を拾うことにした。
「蜃はこれまでに人間や海産物、鳥など何でも霧に呑んで食べてきたみたいね」
「それって大食いってことかなぁ? 食べ物で釣れるかもしれない?」
 賑々しく昔話を語る者達の間で、幾許の聲を交すつかさと涼鈴。
 聽けば『蜃』は長く封印されていたとあって、近親者を失くしたと悲しむ者は居らず、人々は村に伝わる逸話を樂しげに語っているのだが、ならば解放された悪食は相應に腹を空かせていよう。
 獲物を喰うに手段は択ぶまいと、もっちゃもっちゃ焼き貝を食べつつ思案した涼鈴は、ここで向かいの客に尋ねた。
「蜃って幻を見せるだけ? ビーム出したり変身とかしない?」
「びぃむ? さぁてなぁ、儂の爺っちゃの爺っちゃは水を噴いて遁げるとか、足を出して歩くとか、何か不思議な力を使って一瞬で消えるとも云ってたらしいでなぁ」
「磁力かしら……“蜃とは大蛤なり”と云う通り、蛤らしい動きもする樣ね」
 時に、つかさが櫻脣を酒精に濡らして言を足す。
 エンパイア出身の彼女なら、蜃は其の正体を竜だとか大蛤だとかする神獣の一種とか、他にも伝説を耳にした事があるかもしれない。
 蓋しつかさにとって貝獣の正体が何であろうと構わないとは次なる言が示そう。
「竜焼肉か焼き蛤か、どちらにありつけるかはわからないけれど樂しみだわ」
「うん、竜だろうと貝のお化けだろうと、やっつけて食べちゃえばいいね!」
 つかさの「焼けば喰える」の精神には涼鈴もモグモグと、いやこくこくと同意を示し、斯くして二人は「蜃はたべもの」という認識をスムーズに共有していく。
 となると気になるのは調理方法か、健啖な二人は眼前に立派な貝塚を積み上げながら、貝獣をどうやって喰らおうかと攻略法を練り始めた。
「食べるなら、どんな味付けがいいかな? やっぱバター醤油?」
「ええ、すりおろしたニンニクや、パセリを加えたパン粉で焼き上げても良さそうね」
「酒蒸し用のお酒が買えないかなって思ったけど、そっか、オトナなつかさ姉ぇに買って貰ったらいいんだ!」
「料理酒って事かしら? いいわよ、店主に頼んでみるわ」
 そう決まる迄に、貝塚はまた一回り大きくなり、彼女達の大食いっぷりには店主も客も「哎呀!」とたまげるばかりだった。

  †

 斯くして村中に一目置かれるようになった涼鈴とつかさは、人々に招かれるように天灯作りに參加する。鎮魂に加え、己の想いを夜穹に届けては如何だろうとの誘いだ。
「……慥か『灯籠流し』だっけ。それと同じようにやればいいのかしら」
 村人に遣り方を習う間、つかさは別の世界にも似た樣な風習があったと思い起こすか、暫し硯の岡を漂った筆は、静かに深呼吸ひとつ、而して滑らかに走り出す。
 何度か曲げ、払いした筆は、軈て「破」なる一文字を示そう。
「――如何なる障害も、幻も。私の前に立ち塞がるのであれば、有形無形を問わず、総て打ち『破』る気概よ」
 筆致は誠に優美ながら、墨に滲む雄健蒼勁はいかにも彼女らしい。
「おおー! つかさ姉ぇ達筆! 私もがんばるぞー!」
 美しい筆運びに感嘆を添えた涼鈴も元気一杯、極太の筆にたっぷり墨を染ませて一気に走り躍らせ、力強い「劉」なる一文字を書き上げる。
 墨痕鮮やかなる筆致は麗筆か亂筆か判然としないが、すごい勢いなのはよく理解ろう。
「劉家拳の名を江湖に知らしめす!! さぁさぁ弟子入りしたい人はいないかな!」
 云うや涼鈴は今しがた書き上げた紙を宙へ、「劉」の一字が飜然(ヒラリ)と舞う間、我が身に会得した劉家拳の型を披露し、【劉山泊之後継者】の姿を堂々見せつける。
「みんな私に付いて來ーい!」
「おお、紙が地面につかぬよう拳圧で操っておるのか! なんと見事な!」
 これには村人も拍手喝采し、その名は必ずや大地を轟かせようと咲むのだった。

 而して二人の覇気溢れる筆文字は其々の天灯に飾られ、温かな橙色の彩を得て夜穹へ、涼風に搖れながらゆっくりと上昇し、軈て無数の燈火(あかり)のひとつとなる。
 地上に咲く二輪の花は、美し佳顔を暖色に照らしながらその燦爛を仰ぎ、
「……蜃はもう伝説や逸話になってる。祭事は祭事のままでいいのよ」
「うん! 人界で悪さをする前に、私とつかさ姉ぇでとっちめてやるぞー!」
 焼けば食える。食えばなくなる。
 此度は封印でなく撃破(実食)してやるのだと、勇気凛々、気合いを入れるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタ(f22361)さん
『蜃』の情報を集めるため祭事を行っているところへ行きます。
村人達が描くものに何か弱点になる情報があるかもしれません。
…まあ。空に昇る灯りをみたかったのもありますが…。
「…」
村人さんの説明通り素敵な景色で暫く空を眺めています。
あ…。弱点を探すために来たのでした…。
祭事中の人込みをかき分けつつ灯を送っている場所巡りです。

「…え? 私…で…か…?」
彼方此方巡っていたら祭事を運営する村人さんに声をかけられて。
『お嬢さんも一筆どうだい?』と紙と筆を渡されてしまいました。
…う…ん。一文字の言葉ですか。悩んで『陽』の文字を認めます。
陰陽の陽。積極的性質をもつ言葉とされるものを。


ロベルタ・ヴェルディアナ
隅ねー(f19200)。
『光贐祭』も楽しそうだけどそっちは墨ねーが行ってるはず。
なら僕は屋台巡りをして『蜃』の情報を掴んで来ようと思うよ。
…あ! こっちがいい匂い♪

屋台で何か買いながら『蜃』のことを聞いてみようかな。
でも伝説とかって史実に背びれ尾びれが凄くくっつくものだし。
もう脚と腕とか色々とくっついちゃっててわかんないかも…♪
二足歩行の魚人みたいなイメージが過ぎって笑っちゃったよ。

とにかく屋台で働いてる人達を中心に話を聞いてみるよ。
弱点そのものじゃなくてもヒントがでてくるかもしれないし!
「…あ。おっちゃん、このトウモロコシ一つ頂戴!」
「…! そのジュースも欲しいな♪ お願いー!」



 淸冽なる夜穹に橙色の彩が広がり、ふくふくと笑聲が透み徹る――。
 仙界に近い漁村に到着した浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)は、祭事に華やぐ人々の賑わいに耳を澄ましつつ、蚊の鳴くような小さな聲で云った。
「……ふ……二手、に……れて……情報を……集……ましょう……」
 情報を精査するにも、多いに越した事は無い。
 見れば村には屋台の集まる場所と、天灯を飛ばす場所があり、其々で情報収集すれば、貝獣『蜃』の攻略法を効率的に見つけられるかもしれないと佳人は云う。
「私……は……天灯、へ……村人が描くものに、何か得るものが……かも……ので……」
「天灯を飛ばすのも樂しそうだけど、僕は屋台を巡って貝獣の情報を掴んで来るじょ♪」
 玻璃の震えるような佳聲に、元気溌溂たるソプラノを返すは、これまた笑顔いっぱいのロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)。
 樣々な人から情報を得るべきと同意を示した少女は、白峰の如き鼻梁を擽る磯の薫香に早くも誘われたか、爪先は今にも魅惑の屋台へ駆け出しそう。
「蜃の弱点とか、弱点じゃなくてもヒントが出てくるかもしれないし!」
 いってきます♪ と手をブンブン。
 而してピュウと走りゆく、春風の如き少女と手を振って別れた墨は、振り返るや長い睫を上に、紫紺の天蓋に茫洋と滿つ燦爛を仰ぎ、そっと口角を持ち上げるのだった。

「……これ、が……光……の……贐……」
 空に昇る灯りを見たかったのもあったが、眞下から見る景は圧巻だ。
 命の数だけ、祈りの数だけ浮かび上がったか、人々の想いを籠めた無数の光は神秘的で幻想的で、その温かな耀きは、切揃えの前髪の下、蘇芳色の麗瞳に彩を移すよう。
 燈火の下で立ち尽くす佳人には、村の老婦人が聽き手を求めるように話し掛けて、
「あたしの婆さんの婆さんくらいの時は、霧が出る度に天灯を上げて祈ったもんだけど、もう出なくなってねぇ、今じゃすっかりお祭りサ」
「……霧が……出る……度に……」
 蜃は長らく結界に封じられていた爲、近親者を喪ったという者は居ない。
 矢張りこの村で発生していた蜃氣楼は、唯の自然現象では無かったのだろうと思案した墨は、天灯を飛ばしては手を合わせる人々を掻き分けながら、更に情報を求めた。

  †

 而してロベルタも順調な滑り出し。
「……あ! こっちがいい匂い♪ いってみよー」
 漁村故に海産物が多いか、樣々な食物の匂いに誘われる儘に屋台を巡り歩いた少女は、地元の味を堪能しつつ、屋台の主人や客達に貝獣に纏わる話を聽いた。
「おらの爺ちゃの爺ちゃは、蜃は二枚の貝から足を出して歩くって言ってたべや」
「腕じゃなかったっけか? こう、腕を出して何でも喰らいつくって聞いたべよ」
 だから霧が出ると暫く不漁に悩まされる、と――美酒に酔った漁師の舌はよく回る。
 店先の会話に耳を寄せていたロベルタは、脚だの腕だの言う彼等にくすりと咲って、
「伝説とかって史実に背びれ尾びれが凄くくっつくものだって知ってるけど、もう色々とくっついちゃっててわかんないじょ……♪」
「鰭? そういや蜃の正体は竜だというジーサンも居たなぁ」
「竜かぁ。僕の頭の中では、二足歩行の魚人が歩いてて笑っちゃうよ」
 ロベルタが魚人なる語を零せば、傍らで盃を傾けていた老爺が強(あなが)ち間違ってはいないと首肯して、
「蜃の吐く氣が爲す楼台……即ち蜃氣楼は、鮫人の拠る處とも言うでな」
 何と蜃氣楼の向こうに半人半魚の生物まで居ると云うのだから興味(おもしろ)い。
 其も蜃の長く生きた故に深められた話なのだろうか、可憐はふんふんと耳を傾けつつ、時に鼻腔を掠める誘惑に從って美味を堪能した。
「……あ。おっちゃん、この焼きトウモロコシ一つ頂戴!」
「あいよ。熱いから気をつけな」
 何かを見つけてはキラキラと輝く瞳は宛ら萬華鏡の如く。
 而してふうわと解ける笑顔の花やぎも、自ず心を近しくしよう。
「あつ……でも甘くておいしい! その白桃のジュースも欲しいな♪ お願いー!」
「甘え上手なお嬢ちゃんじゃ。うん、やろうやろう」
 ロベルタは屋台を囲む者達とメチャクチャ仲良くなり、祭りの賑いを盛り立てた。

  †

『お嬢さんも一筆どうだい?』
「……え? 私、が……で……か……?」
 墨が祭事を運営する年長者から呼び掛けられたのは、もう彼方此方を巡った後。
 天灯を温かく見送る姿を見られていたか、貴女も燈火(あかり)を添えたら宜しいと、紙と筆を渡された墨は、少し慌てて、戸惑いつつ――硯の岡で筆を游がせた。
「……う……ん。一文字……の……言葉、です……か……」
 文字に願いや祈り、誓いを籠めるとは、数多の天灯を見たからこそ理解る。
 己は何を想おうと暫し悩んだ墨は、深呼吸ひとつ、而してスッと筆を走らせた。
 繊細で流麗に、彼女らしい筆運びで認められる一文字は果して――、
「……『陽』……陰陽の……陽……」
 日光の当たる側、更には太陽そのものを示し、積極的性質をもつ語とされる『陽』。
 暖色に照らされれば益々明るかろうか、ほうわり火を燈して浮かびあがる天灯を手から飛ばした墨は、天に躍る万彩の一つとなるまで、ずっと、ずっと、眺め遣るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瞳ヶ丘・だたら
ゾーヤ・ヴィルコラカ(f29247)と。SPDで挑戦、アドリブ等歓迎だ。

祭りか。実は経験がないのだが、この空気感は悪くない。柄にもなく高揚する。

村人との対話はゾーヤに任せよう。そういうのはきみの方が得手だろう。あたしは祭りの屋台などを眺めつつ、道行く者の会話を聞いて〈情報収集〉だ。

ん、あたしは……いや、やめておく。空に届けるほど清らかな願い事などないのでな。きみが書くのを見て無聊を慰めるさ。
きみの一文字は、そうか。……いいのではないかな。口下手ですまないが、ゾーヤらしいよ。
自前の【視力】でゾーヤの天灯が消えていくのを見送るぞ。他のものも有益な情報がないとは限らんし、きちんと見ておかなくてはな。


ゾーヤ・ヴィルコラカ
 瞳ヶ丘・だたらちゃん(f28543)と一緒よ!

 これが封神武侠界のお祭りなのね……! とっても幻想的で、綺麗ね。
 
 【WIZ:天灯に願いを書いて夜空に飛ばす】ことにするわね。わたしの一文字は「護」、他にも思いついたけれど。かつて護れなかったことも、今まで護ってきたことも、全部わたしの在り方だから。
 天灯を貰ったり書くものを借りる時に、いろんな人にこのお祭りのお話を聞いて回るわね。〈コミュ力〉発揮で弱点看破よ!

 だたらちゃんもどう? 何か書いてみない?
 そう? なら、カンジは苦手だけど、頑張って綺麗に書いちゃうわね!
 わたしらしい? ふふ、ありがとうだたらちゃん。

(アドリブ等々全て歓迎です)



 凛冽と透み徹る冬の空、紫紺の天蓋に無数の燈火(あかり)が広がる――。
 嘗ては命の耀きを、今は人々の禱りや希いの数だけ浮かび上がるという天灯は、橙色の温かな炎を抱き包んでフワフワと、ユラユラと、まるで光の搖籃を成すよう。
「わぁ……!」
 ゆかし蘇芳色に縁取られる長い睫を上に、ぱっちりと開いた翠緑の瞳に穹の彩を映したゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は、自ず感嘆を零した。
「これが光贐(おくり)……封神武侠界のお祭りなのね! とっても幻想的で、綺麗ね」
 綺麗ね、と零れる佳聲が白い息となって運ばれるも妙々。
 ここは海に近い冬の漁村なれば、風も研ぎ澄ましたように冷たいが、天灯の下に集まる人々の表情は暖色に照らされて明るく、温かく、折に溢れる笑聲も賑々しい。
「――祭りか。實は経験がないのだが、この空気感は悪くない」
 柄にもなく高揚する、と花脣より滑る透明なコントラルト。
 佳聲の主たる瞳ヶ丘・だたら(ギークでフリークな単眼少女・f28543)は、祭り独特の賑わいを肌膚で感じつつ、次々と浮かびゆく天灯に描かれた絵や文字を、邪視封紙越しに眺め遣る。
「貝に、魚に……これらは嘗て蜃が食べたものだろうか」
「美人画もあるけど、これは昔、犠牲になった人が元になってるのかもしれないね」
 ここに來るまでに屋台を通ったが、美酒に饒舌を得た者達が話していた。
 海岸に霧が立ち込めると、村一番の美女は天帝に誘われたと云って荒波を潜り、若者は都でも見ぬ高楼に向かって舟を漕ぎ出し、漁師は貝も魚も不漁が続いて困ったと――。
 空飛ぶ鳥をも飲み込んだかと、天灯に描かれる鷺を眺めただたらは淡然と言ちて、
「蜃は随分と悪食のようだな」
「どれくらい封印されていたか判然らないけど、お腹を空かせてるのは間違いないね」
 封印を破った今、必ずやその悪癖は暴かれよう。
 人界に被害が及ぶ前に撃破せねばと瞳を合せた二人は、それから暫く天灯の下を歩き、道行く者の会話を聞いて情報収集に当たった。
「村人との対話は任せる。そういうのはきみの方が得手だろう」
 云えばゾーヤは得意げに胸を張って、
「勿論、ゾーヤさんにお任せあれ! 貝獣の弱点をばっちり看破しちゃうんだから!」
 然う、氷華を纏える佳人は暖炉のように温かで、初対面でも心の壁が無い。
 彼女は持ち前の好奇心を旺盛に天灯作りを見て回り、村の者に気爽に話し掛けては蜃の話を切り出して、貝獣の攻略法を捜しに掛かった。
「なるほどー、蜃は二枚貝から脚を出して歩くんだね……逃げる可能性もあるのかな?」
 而してだたらも優れた聽覚と思考力で彼女を援けよう。
 佳人はゾーヤが村人と話す傍らで策を練り、
「蛤は焼かないと口を開かないが、蜃は移動の際に中身を出すかもしれないのか」
 大食いなら、餌に釣られて動く可能性がある――?
 霧中より誘い出すに有用な手立てがある筈だと更に思考を巡らせた時、不圖(ふと)、白磁の繊指がつんつん、セーラー服の裾を摘んで呼び掛けた。
「だたらちゃんもどう? 何か書いてみない?」
「何か、とは……」
 見れば、和紙のような柔かい白紙と、墨を入れた硯――其が天灯に添えて夜穹に届ける文字描きであるとは、光贐を観察した者なら直ぐに判明ろう。
 だたらは一瞬、逡巡して頭(かぶり)を振り、
「ん、あたしは……いや、やめておく。空に届けるほど淸らかな願い事などないのでな」
 云って、今も茫洋と燦爛を広げる夜穹を仰ぐ。
 封紙越しにも空の淸さが判然るのに、その封紙が疆界を置くか――外気に触れる花脣は幾許か白い息を零すと、次いでゾーヤに聲を投げた。
「きみが書くのを見て無聊を慰めるさ」
「そう? なら、カンジは苦手だけど、頑張って綺麗に書いちゃうわね!」
 筆を託されたゾーヤはヤル気滿々だ。
 慣れぬ筆を手に何度か硯の岡を滑った彼女は、眞白の紙に向き合いながら色々と考え、考え、考え……これぞという一字を書き始める。
 スッと潔く走る筆が表すは――「護」。
 守り、庇い、助け、見守るという意を持つ力強い語だ。
 呼吸を整え、靜かに筆を置いた佳人は、己が筆致を反芻するように視線で捺擦り、
「他にも思いついたけれど。――かつて護れなかったことも、今まで護ってきたことも、全部わたしの在り方だから」
「きみの一文字は、そうか。……いいのではないかな」
 と、傍らのだたらも字面と意味を確かめるように見つめる。
 漢字は得手でないと言うが、眞直ぐ、伸びやかに墨を走らせた筆運びは實に淸々しく、意志を籠められた筆跡を見る裡、彼女の想いの丈が推し量られるよう。
「口下手ですまないが、ゾーヤらしいよ」
「わたしらしい? ふふ、ありがとうだたらちゃん」
 もっと上手く言えたなら良かったと思うが、ふうわと零れる咲みを見て安堵する。
 それから天灯の底に竹を張り、油を染ませた紙に炎を移した二人は、中の空気を温めて漸う上昇する燈火を夜穹に送り届ける。
 橙色の彩に輝く天灯が、無数に舞う光のひとつとなるまで――。
 冬天の下に肩を竝べた二人は、靜かに、閑かに、見守るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…蛤の化生が龍に連なるは、古き文字の成り立ちに起源があるのでしたか。
それを鎮める儀式が祭りとして残されるこの地なれば、糸口もまた掴めましょう。


情報収集、礼儀作法、野生の勘にて村人と関わりつつ情報を集める


…そうですね、先ず当たるべきは祭りの起源でしょうか。
そこに嘗て貝獣を封じた仙人との関わりの記録も残されているのやもしれません。
村の資料館…、古き歴史が記された書物などが集まる場所を当たってみると致しましょう。



天灯への一筆…、なれば私は『忘』と一つ、記させて頂きましょうか。
数多の世界に蔓延る過去の暴威との戦。
未来を生きる命が、それを『過去の事』と忘れられる日を齎すことを、
この灯に誓いましょう。



 紅々と煌く双眸が、夜穹に広がる凡ての光耀と陰影を吸い寄せ、燦爛と搖めく。
 冬天めがけて天灯が次々と浮かび上がる中、その温かな橙色の燈火を仰いだ月白・雪音(月輪氷華・f29413)は、薄く開いた櫻脣より白い息を零した。
「……蛤の化生が龍に連なるは、古き文字の成り立ちに起源があるのでしたか」
 ふわふわまあるい虎耳は聡く鋭く、天灯を仰ぐ村人の会話を拾っていて、「爺っちゃの爺っちゃが蜃はおおはまぐりだと言っていた」とか「婆ちゃんの婆ちゃんは蜃はみずちだと言っていた」と言い合う聲に、そっと佳聲を添える。
 長らく封印されていたとあって、蜃を實際に見た者は居ないようだが、昔人より口傳を受けた者が光贐(おくり)の祭りを続けているのが何よりの證左。
「貝獣を鎮める儀式が祭りとして残されるこの地なれば、糸口もまた摑めましょう」
 云って、周囲を見渡す。
 先ず当たるべきは祭りの起源か、嘗て貝獣を封じた仙人に係る記録も残されているやもしれぬ、と真赭の麗瞳を巡らせた雪音は、村の資料館など古き歴史が記された書物などが集まる場所を調べようと爪先を動かす。
 而して頭上に浮かぶ幾千の燈火が佳人の影を搖した時だった。
「虎の娘よ、蜃の正体が気になるかね?」
「貴人は……」
 スラスラと紙に筆を走らせる老爺が一人、『蜃』の絵を描いている。
 念珠に縛られた貝獣を描く奇妙に足を止めれば、雪音の心を読んだか、「いかにも」と咲んだ老爺は、嘗て何とか貝獣の封印にこぎつけた仙人の一人だと教えてくれた。
 雪音が礼儀正しく拱手すれば、老仙人は蜃を捕縛した際の話を絵に描いて、
「蜃は悪食じゃ。永き封印を破った今こそ腹を空かせていようが、食い物をチラつかせ、二枚貝から足を出してきた隙を狙うと佳いじゃろう」
 霧を吐かせ続ければ、此方が喰われる。
 何か「餌」を調達して行くが宜しいと助言を得た雪音は、老仙人に深々と礼をすると、彼の勧めに從い、己も天灯へ一筆を捧げる事にした。
「天へ昇る灯に添える字には、禱りであり、希いであり、誓いを籠めるのでしたね」
 ならばと筆を取った佳人が記すは、『忘』なる一文字。
 繊麗にして芯を感じさせる筆運びは、よく似た佳聲を連れて滑らかに紙を走る、疾る。
「……数多の世界に蔓延る過去の暴威との戰。未來を生きる命が、それを『過去の事』と忘れられる日が來るように、また私がその日を齎さんと、この灯に誓いましょう」
 云って、書き終えた紙を天灯に添える。油を浸した紙片に火を移し、暖色を燈す。
 老仙人が見守る中、漸う空気を温めて浮かび出す天灯を無疆の穹へ送り出した雪音は、我が手を離れた燈火が万彩のひとつとなるまで、靜かに、その光影を瞶めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『不思議な泉』

POW   :    邪魔な敵を泉の中に蹴り落とす

SPD   :    泉を迂回したり、飛び越えながら移動する

WIZ   :    いい効果が出ることに期待して、あえて泉の中に入る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――扨て。
 仙界に近い人界の漁村で「光贐」なる祭事を見つつ、貝獣の情報を得た鴻陽と周興は、冷ややかな空気に包まれる洞穴を通り、仙界へ向かっていた。
「天灯に描かれたものを見るに、蜃が悪食である事が判明りました」
「噫、長き封印から解き放たれた今こそ腹を空かせているだろうな」
 蜃が嘗てのように人間を襲い、海の生き物をごっそり喰い荒らしてしまう前に滅討するにはどうしたら良いだろう? 二人は村人に聞いた事を思い出しながら歩く。
「聽けば蜃は二枚貝の間から足を出して歩くとか」
「足を出した隙に刃を呉れてやれれば良いのだが」
 そう話しながら叢林地帯を踏み進んだ二人は、木陰を抜けた先、何やら神々しい霊氣を湧かせる不思議な泉を見つけた。
「これは……もしかして漁村の者が云っていた『變化の泉』でしょうか?」
「泉の中に入ったものの姿を變えるという……よし、やってみよう」
 小首を傾げる鴻陽の隣、周興が「浅蜊」と書いた紙を霊泉に潜らせる。
 淸冽の水に凍えてしまいそうだと、我慢しきれず手を抜けば、なんと、掌は紙の代わり大きな浅蜊を摑んで出て来たので、二人は喫驚の聲を揃えた。
 ゆうらと搖れる水面には、何かに気付く鴻陽と、これを面白がる周興の顔が映って、
「ここに何か書いて浸せば、蜃の隙を衝く餌が手に入るのではないでしょうか……?」
「ようし、お前が入って絶世の美人になって來い」
「えっ嫌ですよ! 私を囮に使うのは止して下さい!」
「腹の中からブスッと刃を突き立てられるかもしれんぞ?」
 紙で充分だと言う男と、獲物は大きい方が良いと言う男が言い合う。少し揉める。
 その間、手に握れる浅蜊は再び紙片に戻り、効果は一時的である事が判明ったのだが、何度か実験を繰り返してみると、質量のあるものほど持続時間が長い事も解ってくる。
 扨て、蜃を釣るに何を得ようか――。
 鏡の如く澄める水面に、むむ、と默考する二人の男が映った。
アス・ブリューゲルト(サポート)
「手が足りないなら、力を貸すぞ……」
いつもクールに、事件に参加する流れになります。
戦いや判定では、POWメインで、状況に応じてSPDの方がクリアしやすいと判断したら、そちらを使用します。
「隙を見せるとは……そこだ!」
UCも状況によって、使いやすいものを使う形です。
主に銃撃UCやヴァリアブル~を使う雰囲気です。剣術は相手が幽霊っぽい相手に使います。
他人の事は気にしない素振りを見せますが、基本、不器用なので、どう接したらいいのかわからない感じです。
ですが、合せるところは合せたり、守ってあげたりしています。
特に女性は家族の事もあり、守ってあげたい意欲が高いです。
※アドリブ・絡み大歓迎、18禁NG。


轟木・黒夢(サポート)
『私の出番?それじゃ全力で行くわよ。』
 強化人間のヴィジランテ×バトルゲーマー、19歳の女です。
 普段の口調は「素っ気ない(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、偉い人には「それなりに丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格はクールで、あまり感情の起伏は無いです。
戦闘では、格闘技メインで戦い、籠手状の武器を使う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


蒼月・暦(サポート)
 デッドマンの闇医者×グールドライバー、女の子です。

 普段の口調は「無邪気(私、アナタ、なの、よ、なのね、なのよね?)」
 嘘をつく時は「分かりやすい(ワタシ、アナタ、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

無邪気で明るい性格をしていて、一般人や他猟兵に対しても友好的。
可愛い動物とか、珍しい植物が好き。
戦闘では、改造ナノブレード(医療ノコギリ)を使う事が多い。

 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 檜木、椹、明檜、槇、𣜌……五木の生い茂る森を抜けると、その泉は見える。
 杣が手を入れぬ森の奥、靉靆と棚引く霊氣を手繰るようにしてやってきた猟兵一同は、視界の晴れた先に點在する淸泉に、瞳をぱちくりと瞬(しばた)いた。
「わぁ……泉がそこかしこに、いっぱい……!」
 無邪気なソプラノを澄み渡らせるは、蒼月・暦(デッドマンの闇医者・f27221)。
 近付いても邪氣は感じぬか、周辺に漾う淸々しい空気を胸いっぱい吸い込んだ少女は、これが仙界の祕境、未踏の絶景かと花顔を綻ばせる。
「水面がこんなに澄んで……水も飲めそうなくらい……」
「これが村人の言っていた『變化の泉』なら気を付けた方がいい」
 身を乗り出す暦に手を差し出すは、アス・ブリューゲルト(蒼銀の騎士・f13168)。
 不器用ながら足を前に、少女が泉に落っこちぬよう守ってやった麗人は、慥かに水質に問題は無さそうだとサイバーアイにスキャンしつつ、不思議な霊力を持つという泉の水面を眺める。
「この泉の力が、『蜃』の攻略に使えると……?」
「村人から集めた情報から云えば、そうに違いないわ」
 花脣を滑るコントラルトは玻璃の如く透徹と。
 轟木・黒夢(モノクローム・f18038)が紡ぐ佳聲は、凡そ多くの感情を映さぬものの、その言は的確で、先に見た祭事から得た気付きを簡潔に教えてくれる。
「此處で貝獣の食欲を唆れそうなものを用意していけば良いのよ」
 彼女は實際に天灯に描かれたものを――嘗て蜃が「餌」にしたものを見ている。
 先ずはそれらを作っていこうではないかと言う黒夢には、暦もアスもこっくりと頷き、貝獣討伐に向けての準備に取り掛かるのだった。

  †

「アサリと、魚と……、あとは鳥なんかも描かれていたのね?」
 可愛い動物が好きな暦が描くは、こちらも可愛らしい絵だ。
 少女は天灯作りに使われた紙の数枚に筆を走らせ、貝獣が封印前によく喰い荒らしたと思われるものの絵を描き、それをアスへ手渡していく。
「手が冷たくなったら言ってね。私が代わりにやるよ」
「これくらいは平気だ。どんどん描いて渡して欲しい」
 而して淸冽の霊泉に紙を潜らせるはアス。
 小さな女の子に危ない事はさせられないと危険を買って出たのは、妹を持つ故にか――兎に角、彼は紙片を泉に沈めて幾許、再び水面を潜った時には「實物」となる其を摑み、袋縄を持つ黒夢へと渡していく。
「然し不思議なものだな。魚の絵を描けば魚が手に入るとは……」
「効果が一時的だからこそ、貝獣を釣るに良いかもしれないわね」
 ぴちぴちと躍る魚を入れる袋縄は、先の村の漁師から借りたものだ。
 黒夢は、貝獣が二枚貝から足を出す「隙」を作る一瞬にでもなればと獲物を集めつつ、青藍の麗瞳をこの先の「封印の地」へと結ぶ。
「今度は封印でなく確り撃破して、引導を渡してやるわ」
「ああ、漁村の人々が蜃氣楼に怯えなくて良い未來を築きたい」
「そうだね、その為に……もうちょっと頑張ってみるよ!」
 嘗て仙人がやっとの事で封印した貝獣を討伐すべく、三人はせっせと罠作りに励むのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ゾーヤ・ヴィルコラカ
 瞳ヶ丘・だたらちゃん(f28543)と一緒よ!

 だたらちゃん、蜃って何でも食べるのよね? 確か、美人さんもたくさん食べられたかもって……。そう、なら、わたしが泉に入るしかないわね!

 【WIZ:いい効果が出ることに期待して、あえて泉の中に入る】ことにするわね! わたしがハマグリさん好みの美人さんになって、囮になるわ!

 〈覚悟〉を決めて泉の中に入ったら、耳とか違和感あるかもだけど頑張って〈落ち着き〉を取り戻すわ。姿を確認したら、耳と尻尾が消えて、ちょっと大人っぽくなった、かも?

 不思議な感覚ね。狼耳も尻尾もないのは、子供の時以来だから、懐かしいわ。さ、行きましょだたらちゃん。

(アドリブ等々歓迎)


瞳ヶ丘・だたら
ゾーヤ(f29247)と。アドリブ等歓迎だ。

うん? ああ、その筈だが……は? ちょっと待……。
……お、おお。

外見の変わり様に驚かずにはいられなかったが、なんとか〈落ち着き〉を装うぞ。
ゾーヤはすぐに身体を張ろうとするから、危なっかしいと思わずにはいられんな。
……そうだ、折角疑似餌になるなら豪勢に行こうじゃないか。天灯に描かれていたような食物をささっと紙に描いて、泉にくぐらせる。できあがった魚だの酒の入った瓢箪だのを〈素材採取〉して、ゾーヤの身体に巻き付けるぞ。うんうん、いい感じだ。蜃もこれなら放っておくまい。

そうか、きみの耳や尾は人狼病の――いや、なんでもない。
先を急ごう。蛤殿がお待ちかねだ。



 滾々と霊氣の湧く淸泉を前に、二人、仲良く横に竝ぶ。
 波紋一つ立てぬ水面に花の麗姿を映したゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は、同じく泉を覗き込む芙蓉へ、水鏡越しに話し掛けた。
「これが、變化の泉……底が見えるほど透き通ってるなんて」
「この透明度で中に生き物は居ないのか。――いや、既に變わってしまったか」
 答えるは水面に映れる瞳ヶ丘・だたら(ギークでフリークな単眼少女・f28543)。
 聽けば「變化の泉」は入ったものを別なる姿に變えてしまう霊泉にて、水中を游ぐ魚も翼など生やして飛び立ったかもしれぬ、と抜けるような空を見る。
 だたらが細顎を上に空を仰ぐ一方、翠緑の瞳を霊泉に結んだ儘のゾーヤは、そっと語尾を持ち上げて言った。
「だたらちゃん、蜃って何でも食べるのよね?」
「うん? ああ、その筈だが」
「慥か、村の美人さんもたくさん食べられたかもって……」
「天灯には魚に貝に、鳥に加えて美人画もあった。忌々しいが、そういう事だろう」
 随分と暴挙をしたものだと、だたらが先刻に見た天灯に描かれた絵柄を思い起こせば、隣する影がスッと動き出し、ちゃぷ、と水音を立てる。
「そう、なら、わたしが泉に入るしかないわね!」
「……は? ちょっと待……」
 喫驚を滲ませた聲が制止するも、踏み出す足は留まらず。
 意を決したように霊泉に爪先を潜らせたゾーヤは、その儘ずんずんと水の中へ――。
「わたしがハマグリさん好みの美人さんになって、囮になるわ!」
「待っ、よく調べてもないのに早まっては――」
「大丈夫、大丈夫! だたらちゃんは其處で待っててね」
 膝を浸し、腰を屈め、肩まで浸かって、更には頭も潜らせて。
 これだけの透明度なら、湧池のほとりに立つだたらには彼女の變化が見て取れよう。
「……お、おお……」
 思わずだたらが手を伸ばした先、修道服のような意匠の装束は、品格溢れる絹の服と、透いて舞う羽衣へと變わり、蘇芳色の艶髪は手の込んだ編み込みとお団子状に纏められて匂い立つほど華やかに、その姿は正に後宮に身を置く「美人」の姿となっていく。
「ふむふむ。これがハマグリさんの好きなタイプ、と……」
「ゾーヤ、手を。早く上がって來るんだ」
 これだけ身装を變えて猶も鷹揚な花顔と、雪白の胸元に變わらず刻める氷華の聖痕が、眼前の美人がゾーヤである事を教えて呉れよう。
 だたらの手に引き上げられたゾーヤは、波紋を収めて再び水鏡となった水面に己の姿を見ると、何より狼の耳や尻尾の無い事に気付き、長い睫をぱちくりと瞬いた。
「……ちょっと大人っぽくなった、かも?」
 耳の辺りを触ったり、尻尾の回りを水鏡に映したり。
 己に訪れた違和感を確かめつつ落ち着こうとするゾーヤの隣では、彼女以上に喫驚いただたらが何とか冷靜を装いつつ、こほんと咳払い。
「きみは直ぐに身体を張ろうとするから、危なっかしいと思わずにはいられんな」
「良い餌になれるかなと思って、頑張ってみようと思ったの」
 然う、彼女は何かを護るに直向きだ。
 姿を變えてもその本質は變わらぬと、華々しく化粧を施された芙蓉の顔(かんばせ)を見ただたらは、「そうだ」と何か閃くと、紙と硯、そして筆を取り出した。
「折角きみが疑似餌になるなら、豪勢に行こうじゃないか」
「豪勢?」
「ああ、天灯に描かれていた食物を描いて、泉にくぐらせる」
 サラサラと筆を滑らせて魚を描き、紙を水面に沈めて本物の魚を得る。
 魚が泉を游ぐ間に、今度は酒の入った瓢箪を描いて美酒を得る。
「こうして出来上がったものを、きみの身体に巻き付けていくんだ」
「! セットにしてお得感を出すのね!」
「うんうん、いい感じだ。蜃もこれなら放っておくまい」
 これぞ「カモネギ」――鴨が葱を背負って來た状況。
 美女に美味に美酒と、忽ち宴会が出來る三点セットとなったゾーヤの存在感は抜群で、これなら蜃の視覚と嗅覚を誘引し、霧の中から暴き出してくれよう。
 垂涎必須のカモネギとなったゾーヤは、實に賑々しくなった己の身装に淡く目を細め、繊手をそっと頬の傍へ、今は宝玉の飾りを付けた“人間の”耳に指先を寄せる。
「……不思議な感覚ね。狼耳も尻尾もないのは、子供の時以來だから、懐かしいわ」
 幼い頃は慥かにあった耳が懐慕(なつか)しい――。
 嘗てあった感覚を思い出すように耳に触れるゾーヤを水鏡越しに見ただたらは、成程と口開くや、途中で言を遮り、濁す。
「そうか、きみの耳や尾は人狼病の――……いや、なんでもない」
 彼女の特徴的な耳と尻尾は、命を縮められた哀しき者の、感染症の證左(あかし)。
 氷雪と絶望に覆われた世界に生れた聖者の儚きは、今は水面に映すまいと花脣を結んだだたらは、凛然と、そして幾許にも小気味良い微咲を湛えて手を差し伸べる。
「先を急ごう。蛤殿がお待ちかねだ」
「ええ、行きましょ! だたらちゃん」
 ゾーヤが極上の餌を演じてくれるなら、己は立派に給仕を務めてみせよう。
 だたらの凛乎たる佳聲を聽いた美人は莞爾と頬笑み、ぎゅっと手を握り返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
しょこらは泉に入るのは嫌みたいですね……
動物は水の中に入るのを本能的に嫌がる時もあるそうで

ましゅまろが何も思わぬ表情のまま向かおうとしていますが
貴方が代わりに入ろうとしなくていいのですからね?
(二羽の兎を抱きかかえ)
倫太郎が入るのですか?だ、大丈夫でしょうか……

倫太郎、倫太郎、大丈夫です……か
彼が入った泉へと向かえば、普段よりも小さく小さくなった少年の姿
それ以上小さくなってしまったり、動けなくなってしまったらと
子供になった程度で済みましたが無茶はしないでくださいね?

二羽の兎を下ろすと彼を抱きかかえ
風邪を引かない内に、服を乾かしてしまいましょう
それにしても小さな貴方も可愛らしいです


篝・倫太郎
【華禱】
悪食だって言うしなぁ
よし!しょこ入って……(いやいやされた)
仕方ないなぁ……
夜彦、しょこの事も見といて!ちょっと俺、入ってくる!
(華焔刀片手にどぼん)

念じたら、念じた風に変化するのかな?
ぶくぶく沈みながらそんなことを思って
でも、念じるのはちょっと遅かったみたいだ
小さくなった手で水を掻いて水面に顔を出して

やひこ!
夜彦の名前を呼んで手を振れば、ホッとした顔をされた
まぁ、うん……ゴメンナサイ

抱き上げられると夜彦の体温が凄く温かくて気持ち良い
うん、泉は冷たかったから(ぎゅーっ!)
はぁい、乾かすー!(夜彦のお顔をぺたぺた)

夜彦は子供になってもならなくても可愛いし格好いいよ?
俺の自慢の旦那様だから



 朦々と立ち昇る氣嵐を潜り、波紋ひとつ無い水面を覗き見る。
 其の淸亮と澄める水鏡に引き締まった躯を映した篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、これぞ變化の泉――モノの形姿を變えるという霊泉かと、周囲に漾う神氣を読み取る。
「蜃は悪食だって言うしなぁ。此處で何か用意していくか」
「餌で釣り、足を出させる心算(つもり)ですね」
 腹を空かせた今なら、それこそ何でも喰らい付こうと、水鏡越しに優艶の聲を添えるは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。彼もまた霊泉のほとりに竝び立ち、底まで見せる水の透明度に花の麗姿を映している。
 蜃の攻略に泉の霊氣を使うと決めれば、倫太郎の行動は早い。
 彼は懐に抱くラビットグリフォン『しょこら』に霊泉に入るよう促して、
「よし! しょこ入って……」
「! !!」
 だが断られる。首をいやいやと振って嫌がられる。
 そのまま倫太郎と視線を合わせぬようプイと向こうを向いてしまった黑兎には、夜彦がふふっと微笑を零しつつ、ふかふかの毛並みを撫でて慰めてやる。
「泉に入るのは嫌みたいですね……動物は濡れるのを本能的に嫌がる時もあるそうで」
「うーん、仕方ないなぁ……」
 困ったように翠眉を寄せる倫太郎と、無理もないと苦笑を添える夜彦。
 この時、二人のパパを交互に見上げた白兎の『ましゅまろ』が、何も思わぬ表情の儘、スッと霊泉に向かおうとするが、その勇敢なる一歩は夜彦の腕に抱き止められる。
「貴方が代わりに入ろうとしなくていいのですからね?」
「ましゅ、無理すんなって」
 くいくい宙を游ぐ前脚を制し、再び夜彦の腕の中に収まるましゅまろを見た倫太郎は、意を決するやしょこらを夜彦に預け、踏み出した爪先を水に浸した。
「夜彦、しょこの事も見といて! ちょっと俺、入ってくる!」
「倫太郎が入るのですか? だ、大丈夫でしょうか……」
 二羽の兎を抱きかかえる事となった夜彦に、止めようと伸ばす手は無し。
 ずんずん前進する倫太郎の背に、品佳い鼻梁を結んだ夜彦が戸惑いの聲を滑らせるも、彼は華焔刀を片手にどぼん、キラキラと舞う水飛沫を連れて泉にダイブする。
(「これ……念じたら、念じた風に變化するのかな?」)
 無数の泡沫に抱かれてぶくぶく、ぶくぶく、水底へ沈みながら思案する倫太郎。
 飛び込みと同時に念じれば良かったのだが、考えるより行動派な彼を包み込む霊泉は、その純粋にこそ反應を示し、彼が念じるより迅く變容を齎していく。
(「でも何て念じれば良いんだ? えぇと、餌だから……おいしくなぁれ?」)
「――ぷはっ!」
 思ったより早く肺が根を上げたのは、肺が小さくなったから。
 同じく小さくなった手で懸命に水を掻き、何とか水面に顔を出した倫太郎は、その瞳に夜彦の驚愕に滿つ表情を映すと、無事を示すように手を振って聲を張り上げた。
「やひこ!」
 己でも判然る、其は聲變わりする前の瑞々しいテノール。
 随分と幼くなったと掌を見つつ、而して何とか泳いで戻れば、安堵と不安を混ぜた樣な夜彦と、突然の變身に喫驚した二羽の兎が、真ん丸の瞳を揃えていた。
「倫太郎、倫太郎、大丈夫です……か」
「うん? ちいさくなっただけだし、だいじょーぶ!」
 確りと受け答えできる少年りんたろーに、少しホッとする夜彦。
 二羽の兎を下ろす代わり、小さな彼を抱き上げた夜彦は、優しく諭すように口開いて、
「子供になった程度で済みましたが、無茶はしないでくださいね?」
「まぁ、うん……ゴメンナサイ」
 それ以上小さくなってしまったり、動けなくなってしまったらと恐くなったのは事實。
 とにかく無事で良かったと愁眉を開いた彼は、まだ雫を滴らせる髪をそっと撫でると、タオルを当てて乾かしてあげる事にした。
「さぁ、風邪を引かない内に服を乾かしてしまいましょう」
「はぁい、乾かすー!」
 りんたろーを凍えさせる雫は一滴も許さないと、丁寧に水気を拭き取っていく夜彦。
 折にタオルの間から伸び出る手は、ぺたぺたと己の顔に触れて遊ぶものだから、まるで子供だと苦笑を零しつつ、愛しさいっぱいにタオルごと抱き寄せる。
 而してりんたろーも彼の温かさを全身で感じようと、ぎゅーっ! と抱きつくのだから可愛かろう。
「やひこ、あったかーい!」
「おや、私で温まりますか?」
「うんっ、泉は冷たかったから!」
 ふくふくと咲む佳顔の柔かさに自ず笑顔になるのは、彼に惚れきった故に。
 幼くなっても思慕は變わらぬと眦を緩めた夜彦は、渇き始めた髪を整えてやりながら、我が頬へと伸び出る小さな手を掌に包む。
「それにしても小さな貴方も可愛らしいです」
 云えば体温を繋いだ少年は、いつもの飾らぬ言葉を呉れて、
「夜彦は子供になってもならなくても可愛いし格好いいよ? 俺の自慢の旦那様だから」
 と、まだ變聲せぬクリアボイスの何と罪なこと。
 夜彦は愛しさに締められる胸を苦しげに、きゅうと瞳を瞑るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
ふむむむー、ここで変化させて餌にするんだね
んでもって、重たい方がいい……よーっし! そこの林の樹を戟でぶった切って使おう!(地形の利用) どりゃー!(怪力・重量攻撃)
なんて書こっかなー…… 「 肉 」 ! ぼちゃーん!
うおー! でっかい肉の塊だー!

あとは私自身は……絶世の美女? なら変身する必要なくないかな!!(特徴:自信に溢れた表情)
あ、でも大人モードとかなってみたいかも!
ホントの大人の姿じゃなくって、きっと私の願望がはんえーされるだろうけど
身長がぎゅーん!と40cmくらい伸びないかな!
えーい!(飛び込む) ちべたーい!!(飛び出る)
さむぅーい……変身した姿を泉に映して見てみよーっと!


荒谷・つかさ
蜃は長いこと封印されていて、腹を空かせていると。
……適当に何か食わせて肥えさせてからの方が美味しくなるんじゃないかしら。
勿論、人とかを犠牲にするわけにはいかないけれど。
……試してみる価値は、あるかもしれないわね。

『變化の泉』にぶち込むブツとして、大量の「丸太」を調達
(可能であれば村人達にも協力を仰ぐ。運搬は自前の「怪力」で)
丸太には「鮪」「鰹」「鮫」等々、海で獲れる魚の名を刻んで放り込み、回収
丸太程の質量があれば、食ってから消化するまで持続するんじゃ無いかしら
ま、そこまで持続しなくても罠としては十分でしょ

それとは別に料理酒も多めに調達
食わせる時に一緒に放り込めば、酒が染みて美味しくなるわよね



 滾々と霊氣を湧かせる淸泉を前に、二人、身を屈めて覗き込む。
 透徹と澄める水面に揃いの花顔を映した荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)と劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)は、水鏡越しに靜かに言を交した。
「……貝獣は長いこと封印されていて、結界を破った今、かなり腹を空かせていると……なら適当に何か食わせて、肥えさせてからの方が美味しくなるんじゃないかしら」
「太らせてから食べる! つかさ姉ぇ、あったまいー!」
 こと「おいしくいただく」事に関して、つかさは真摯で明敏だ。
 喰わせる何かを此處で調達するのだと、佳人が指に示す霊泉を見た涼鈴は、既に生物は全て變えてしまったか、魚も水草の影も無い水中を凝乎(ジッ)と見つめる。
「ふむむむー、ここで變化させて餌を作るんだね」
「勿論、人とかを犠牲にするわけにはいかないけれど。なるべく多い方が良いわ」
「多く手に入れられて……んでもって、重たい方がいい、と……」
 云って、水面を離れた彩瞳が其々に辺りを見渡し、軈て同じものへと結ばれる。
 数量と重量を同時に滿たす最適解のブツとは、即ち――。
「そこの林に生えた樹なんてどうかな! 沢山あるし、重い!」
「……試してみる価値は、あるかもしれないわね」
 美し瞳に映るは、檜木、椹、明檜、槇、𣜌……全て眞直ぐに伸びる良質な木だ。
 ここで矗然(すっく)と立ち上がった芙蓉二花は、片や覇王方天戟を手に、片や大悪魔斬【暁】を手に二手に別れると、斬斬斬斬斬ッ! と樹木を伐採し始めた!
「よーっし! この樹たちをぶった切って使おう! どりゃー!」
 牛角牛耳の小さなキマイラは屈指の武人(もののふ)で、一戟一閃、銀月と煌めく刃を舞わすや、天に向かって直立する一本木を猛然と轟然と薙ぎ倒していく。
 無論、つかさも遅れは取るまい。
「丸太程の質量があれば、食ってから消化するまで効力が持続するんじゃ無いかしら? ま、そこまで持たなくても罠としては十分でしょ」
 花車で小柄な大和撫子は一騎当千の強者(つわもの)にて、叢林に入るや劍刃亂舞し、幾丈の劍光を疾らせた後、放射状に倒木する中心地から堂々と麗姿を現す。
 斯くして實にいい感じに丸太を手に入れた二人は、それらを輕々と泉のほとりに運び、今度は餌となるべく「文字」を入れる作業に移った。
「そうね……鮪に、鰹に、鮫に……海で獲れる魚の名前を刻んでいこうかしら」
 短刀に持ち替えてゴリゴリと、それでも達筆に文字を刻んでいくつかさ。
 刻み入れてはドスン、ドボーン! と、手早く霊泉へブチ込んでいく麗人の傍らでは、涼鈴がうんうん唸りながら丸太に書き入れる文字を悩んでおり、
「なんて書こっかなー……にく……『 肉 』にしよ! そーれ、ぼちゃーん!」
 水底が見える程の透明度ならば、變化の程も佳く視えよう。
 泉の霊氣を潜った丸太は次々に魚となって游ぎ回り、而してゆうらと波立つ水面には、大きな大きな骨付き肉がぷっかりと顔を出した。
「うおー! でっかい肉の塊だー!」
「魚に、肉に……料理酒も多めに用意したい處ね」
 豪華な馳走を前に、つかさがそう云った時である。
 二人の迅速な伐採作業によって道を得た村人達が、牛の背に積んだ酒を次々運び込み、蛤、いや蜃を料理する準備を整えていく。
「食わせる時に一緒に放り込めば、酒が染みて美味しくなるわよね」
 そうしてつかさがより効果的な攻略法(料理)を思い浮かべた時だった。
 村人達が酒を運び込む間、タモを使って魚や肉など引き上げていた涼鈴は、そういえば天灯には美人画もあったと思い出し、扨てどうしようと水鏡に己を映す。
「あとは、私自身は……絶世の美女? なら變身する必要なくないかな!!」
 ヨシ! と水面に映れる自信に溢れた表情が何よりの証拠。
 唯だ稀有しい仙界の泉にて、折角なら變化を見てみたいと好奇心を呼び起した涼鈴は、『大人モード』になってみたいと爪先を泉に、其處から一気にダイブした!
「えーい!」
 勢い良く跳ね上がる水飛沫には、ちょうど酒の旨味を確認していたつかさも振り返る。
 然程感情の色を映さぬ瑪瑙の麗瞳が幾許か丸くなったのは、この時の事。
「涼鈴……?」
「ちべたーい!!」
 餘りの水の冷たさにモノの数秒で飛び出してきた少女を見れば、身長がぎゅーんと40cm程伸びており、手足もスラリと長くした女傑が現れる。彼女が類稀なる美人であるのは、涼鈴の理論から云えば「もちまえのようそ」か。
「さむぅーい……! でも、これで大人になれたかな?」
「ええ、背もグンと伸びて大人っぽくなったわよ」
 直ぐにタオルを渡してくれるつかさに礼を言いつつ、彼女の言葉に彈かれるようにして淸泉を覗き込む。じーっと見る。
「おおー! でかい!!!」
 無論、其が未來の姿では無く、己が願望が反映された結果とは理解っている。
 それでも理想の身丈とリーチを得た涼鈴は、ググッと兩拳を握り込めると、気合充分に泉の先を見遣り、かの貝獣が居るという「封印の地」へと歩み出した。
「つかさ姉ぇ! いこー!」
「準備物は揃ったわ。これで百戰殆(あや)うからずと云った處ね」
 而してつかさも抜かりない。
 凄艶は牛数頭が担いで來た酒瓶に、更に山ほどの魚を積み込むと、純然たる怪力で其を運び出し、決戰の地に向かってズンズン踏み進むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…浸したものの形を望むままに変える、なんとも面妖な泉です。
そうですね、悪食の貝獣とあらば此処にて食物を手に入れれば口を開けさせる事を叶いましょうが…、
使いようによっては殻そのものを砕く手段も得られるやもしれません。


私は腕に「蝦蛄」と書き浸しましょうか。
打撃を以てして硬い貝殻を割る海洋甲殻類…、その力が宿らば
或いは拳にて開かぬ殻を打ち砕くことも叶いましょう。
型の成立に関わりますゆえ、あまり腕の形が変わらぬ事を願いたいものですが…、
そのような希望もこの泉は通して下さるでしょうか。

その天敵の一撃にすらも揺らがず、
喰らわんと匂いに釣られ口を開けるならそれも良し。
その時は晒された弱点を打ち抜くのみです。



 雪白の肌膚に触れる冷ややかな空気に、言いようの無い霊圧を感じる――。
 昏暗の洞穴を通り、靉靆と靄掛かる叢林を抜けた月白・雪音(月輪氷華・f29413)は、水底まで見せる透徹の泉を前に、そっと身を屈めて覗き込んだ。
「……浸したものの形を望むままに變える、なんとも面妖な泉です」
 波紋ひとつ立てず、明鏡(かがみ)の如き水面に影を映す霊泉。
 見れば生き物の気配は無し――魚貝も水草も何か別のものに變わってしまったろうかと紅瞳を巡らせた雪音は、かの漁村で聽いた話を思い出しつつ独り言つ。
「悪食の貝獣とあらば、此處にて食物を手に入れれば口を開けさせる事を叶いましょうが……使いようによっては“殻そのものを”砕く手段も得られるやもしれません」
 かの老仙人は、蜃の殻は恐ろしく硬いと云っていた。
 故に中身を攻撃するのだと彼は教えて呉れたが、若しか貝獣の悪食を衝くより迅速く、守りの要を崩す手立てがあるやも知れぬと、目を向けるは――自然。
 泉のほとりで膝を付いた雪音は、着物の袖を捲るや繊手を出し、逆手で筆を走らせた。
「打撃を以てして硬い貝殻を割る海洋甲殻類……。その力が宿らば、或いは拳にて開かぬ殻を打ち砕くことも叶いましょう」
 サラサラと滑る毛筆が腕に記すは、「蝦蛄」(シャコ)――蛤と同じく砂泥底を好み、強大な捕脚を用いて魚や貝を捕食する肉食の雄。その脅威的破壊力は、蟹の甲羅や貝殻を叩き割り、知恵ある漁師でさえ大怪我する程だ。
 繊細ながら蝦蛄の雄渾をも表現した筆致は、間もなく淸冽の泉を潜り、
「……型の成立に関わりますゆえ、あまり腕の形が變わらぬ事を願いたいものですが……そのような希望もこの泉は通して下さるでしょうか」
 冷たさが針の如く刺しかかるが、願い、希い、念じきる。
 袖が濡れるのも構わず、肘から先までも泉に浸した雪音は、透明度の極めて高い水中で我が腕が蒼白い殻を幾重にも纏っていく――怖ましい過程を聢と視たろう。
 餘りの冷たさに手の感覚が無くなったかという頃合いに引き上げてみれば、佳人の美臂は透き通るほど白い甲鎧に覆い包まれていた。
 蓋し彼女は喫驚も嫌悪もせず。
 感情の表出が不得手な事もあるが、思った通りの形状を得たと安堵すら覚えた雪音は、今度は視線を前に――蜃が居ると思しき「封印の地」を見据える。
「元は私の腕。感覚が戻れば自由に扱えましょう」
 天敵の一撃にすら搖らがず、健啖宜しく口を開けるならそれも良し。
 その時は晒された弱点を打ち抜くのみ、と――漸う戻る握力と共に、異形の腕に宿るは【拳武】(ヒトナルイクサ)。闘氣すら用いぬ、徒手空拳を極限まで練り上げた純粋武術を以て挑むべしと凛然を萌した佳人が、目下、決戰の地に踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『🌗蜃』

POW   :    幻界領域
【あらゆる干渉】を無効化する【貝殻の中】から、戦場全体に「敵味方を識別する【濃霧】を広げ、「精神に瑕を与える【蜃気楼】」を放ち、ダメージと【混乱】【幻惑】【悪夢】【トラウマ】の状態異常を与える。
SPD   :    夢葬展開
自身が【周囲一帯を蜃気楼で包み込んでいる】いる間、レベルm半径内の対象全てに【目が覚めることを拒みたくなる優しい幻覚】によるダメージか【終わることなく苦しみ続ける悪夢の如き幻覚】による治癒を与え続ける。
WIZ   :    蛟竜
対象の攻撃を軽減する【現と幻の狭間にある蜃気楼の竜】に変身しつつ、【現か幻か判別できない幻炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はマローネ・ティーフゼーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 万物の形姿を變える不思議な泉から更に奥深く進むと、遠浅の砂濱に辿り着く。
 干潮を迎えた砂濱はじっとりと海水を含んでいて、場所によっては踝から膝下まで沈むほど柔かくなっており、時に履物が捕われるほど。
 沖に見える小島に向けて伸びる砂州の道を何とか歩ききった鴻陽と周興は、ゴツゴツと尖った巌頭に残る念珠を発見し、此處こそ「封印の地」――嘗て仙人らが何とか『蜃』の封印にこぎつけた場所なのだろうと周囲を眺む。
「矢張りと言いますか、貝獣の姿が見えませんね」
「大方、此方の気配に気付いているのだろう。ずっと此處に縛られていたのだから、誰かが來れば直ぐに判然ろうが……扨て、警戒するか、久方の獲物を喰らいに來るか……」
 脣に鮮やかな紅を引いた鴻陽が囁くと同時、周興が腰の劍を抜きながら邪影を探るが、五感を研ぎ澄ますほど可怪しな感覚に陥るのは何故だろう。
 鴻陽が鼻頭に極上の薫香を捉えたならば、周興の聽覚は心地好い樂団の舞踊曲を拾い、瞳は揃って佳景を、嘗て見た事のない異國の高楼を映し出す――。
「これが蜃氣楼……“大蛤即ち蜃なり、能く氣を吐きて楼台を爲す”とは、正に……!」
「參ったな。蜃が何處に居るのかも判明らなければ、もう腹に入れられたかも判然らぬ」
 果して蜃は砂泥にでも隠れていたのか。既に攻撃を仕掛けられているとは理解っても、肝心の居場所が判明らない。
 動いては危険だと鴻陽が足を踏み込む中、周興は飄然と云ってのけ、
「なぁに、猟兵殿が來て下さっている。たぶん何とかして呉れよう」
「気付いておられましたか」
「うむ。かの貝獣も酒蒸しにして分けてくれるかもしれん」
 彼等ならやってのけられようと、小気味佳く咲うのだった。
陽殿蘇・燐(サポート)
バーチャルキャラクターの寵姫×国民的スタア?いいえ、これでも(元)ラスボスな悪女NPCよ。
基本は高性能スマホを利用して、配信しつつの行動になるわね。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用するし、多少の怪我は厭わず積極的に行動するの。これでもバーチャルキャラクターだもの。
悪女たるもの、その行為は健全な世界あってこそなのよ。だから他の猟兵に迷惑をかける行為はないわ。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしない。配信垢BANされちゃう。
あとはおまかせ。よきに計らいなさい(思い出した悪女ムーブ)


キマフュ出身なので、トンチキでも適応していきます。


秋月・信子(サポート)
 人間のアーチャー × アリスナイト、です。
 普段の口調は「苦労性の常識人(私、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、時々は「グリモアから二重身が顕現(私、あんた、ね、よ、なの、かしら?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


ジミー・モーヴ(サポート)
頭おかしい系のお兄さんです。
どんとこいなんでもこいこいこないならこっちからいくぞおらぁん……みたいな感じ。
一応、他のPLさんに迷惑が掛かりそうな行動だけはNGでお願いします。

ユーベルコードはマスターが指定したものをどれでも使います。
割と死亡フラグを立てるのが好きなようですが、本人がどう思っているかは別として、進んで命を捨てることはしません。
戦闘はあくまで人間として可能な範囲の延長線上で行います。派手さはないですがその分小賢しい小細工を弄してしぶとく生き延び、結果として勝ちを拾うタイプ。

善悪の基準は時代時代でころころ変わるので一般的なモラルよりは自分の中の基準を大事にします。


佐那・千之助(サポート)
「手が要るか?」
入り用ならば、なんなりと。

ダークセイヴァー出身のダンピール
困った人を放っておけない
いつも人への敬意と好意を以て接する
よく言えばお人好し。たまに騙されていることは秘密。
可愛い動物や甘いものに懐柔されやすい

戦闘は前衛、盾役向き。治療も可能。
焔(他の属性は使えない)を黒剣に宿し斬り込んだり、遠くの敵でも焔を飛ばして燃やしたり。
負傷は吸血や生命力吸収で持ち堪える

平和主義なので戦わずに済む敵なら平和的解決
かわいい敵は抱いてもふりたい
想い人がいるので色仕掛けは効かない

物語に合わせて諸々お気軽に、どうぞご自由に。
よき手助けができれば嬉しいです。


大倉・新月(サポート)
アドリブ・連携歓迎
キャラ解釈幅広くどうぞ!
噛ませ展開も歓迎です

スカルロードの満月(ミヅキ)ちゃんを溺愛しています
新月→満月の一方的なヤンデレですが連携はきちっとこなしていきます
主に脳筋な行動で何とかしますが、知ってそうなことは出し惜しみしないタイプです

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動や性的な絡みはしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 無論、晋の役人に遅れを取る猟兵ではない。
 貝獣『蜃』が念珠を千切って封印を破った今、かの悪食が再び疆を侵して腹を滿たす事のないよう、幾人かの精鋭が「封印の地」に辿り着く。

「濃霧が辺りを包んで……決戰の地にしては“映え”ないわね」
 白磁の繊指に高性能スマホを構えつつ、動画を生配信するがてら砂洲の細道を歩き來た陽殿蘇・燐(元悪女NPC・f33567)は、ボス戰にしては地味な地形だと、元悪女NPC、元ラスボスならではの的確なコメントを添えて周囲を見渡す。
 凄艶に続く男女の佳聲は、ジミー・モーヴ(人間の脇役の泥棒・f34571)と秋月・信子(魔弾の射手・f00732)か、二人は蜃が封印されていた小島に近付くにつれ泥濘む足場に翠眉を寄せる。
「こないならこっちからいくぞおらぁん……って感じだったけど、あしおもいねー」
「足元は砂泥……地の利は完全に敵方にあるようですね」
「おも……これ以上こんなところに居られるか! 帰らせてもらう!」
「ですが引き返すにも、この泥濘(ぬかるみ)では……」
 ジミーが明白(あからさま)な死亡フラグを立てた時だった。
 目下、砂濱一帯が濃い霧に包まれ、仲間の影すら翳る視界不良に、薄ら邪影を搖らした蛟竜が姿を顕現す。
『ォォォオオオオ嗚乎嗚乎嗚乎……ッ!』
 蛇の如き長躯の頭頂に角を生やし、赤い髭、赤い鬣を靡かせる巨竜。
 これぞ『蜃』の別なる姿とは、霧中に藍と紅の重なる二藍の麗眸を注いだ佐那・千之助(火輪・f00454)が口開こう。
「大蛤と咬竜、兩の正体を有す幻獣と……他人事には思えん」
 水鏡を見るようだと零すは、彼もまた人と魔の疆を彷徨う故にか。
 真の姿を二つ持つ彼にとっては、蜃の正体が何れか、否、その何れもであろうと理解が及ぶ。
 時に眞白のワンピースが泥に斑せぬよう、裾を摘みつつ歩き來た大倉・新月(トータルエクリプス・f35688)は、我が運命の鏡、スカルロードの満月(ミヅキ)につと囁き、
「……大丈夫、満月ちゃんはわたしが守ってみせるからね」
 わたし達は死にすら分たれていないのだから、と白骨の手に繊手を添える。

 而して幾星霜の封印より解かれた貝獣も、久方の獲物を前に垂涎しよう。
『ォォォヲヲ雄雄雄雄ヲヲ……ッ!』
 霧を吐いて現と幻の疆界を掻き混ぜた咬竜『蜃』は、長蛇の躯を大きく波打たせるや、青くも赤くもある炎を噴いて猟兵を灼かんとした。

 而して須臾、猛然と迫る幻炎に烱瞳を結ぶは燐。
「その炎……色も形も定まってないようね」
 青藍の彩瞳いっぱいに、瀲灔と躍るような幻の炎を映した佳人は、雪白の肌膚が焦熱に灼かれるより速迅く繊手を頭上に振り翳すと、艶やかな着物の袖を翩翻と颯爽と飜して【炎術:身転蝶】――! 全身を炎纏うクロアゲハと變じて飛び立つ!
 赫灼の炎を纏って舞う黑揚羽は、燐を悪女たらしめる象徴そのもの。
「私は姿を變えるにもイメージを固めてるけど?」
 キャラ付けが大事とは、矢張りキマイラフューチャーの申し子。
 美し妖し大瑠璃の佳聲は、間もなく繊翅を広げて霧天へ、轟然と襲い掛かる炎を掠め、翩々(ヒラヒラ)と、閃々(チラチラ)と炎を搖らして咬竜を攻め立てた。

「成程、飛翔する事で足場の不利を無くしたのですね……!」
 長い睫を凛と持ち上げ、無音の羽搏きを追うは信子。
 扨て己は如何すべきかと、交睫ひとつした視線は泥濘にどっぷり浸かった脚を見るが、そんな信子を叱咤するように黑影が動き出す。
“……ったく、鈍くさいったらありゃしない。潮干狩りの要領で裸足になればいいのよ”
 信子の意識に呼び掛けるは、【影の助言者】(シャドウ・アドバイザー)。
 己と瓜二つの姿を持つ二重身より(まるでお小言の樣な)助言を得た信子は、慌てて靴を脱いで瑞々しい脚を露わに、幻炎の猛襲を躱すだけの機動力を得る。
“心して聽きなさい。その泥濘、時に撃手には有利にも働くんだから”
 信子が窮地にある程、二重身は信子を援けてくれよう。
 炎の奔流を眦に遣り過ごした信子は、再び我が踝を沈める砂泥に座標を固定し、脇抱えにしたボルトアクションライフルで狙撃! 極限まで精度を高めた鐵彈を浴びせ、濃霧に隠れる咬竜を牽制した!

 斯くして信子は地形の不利を有利に轉じた訳だが、傍らのジミーはどうだろう。
 餘りの足場の悪さに「かえる」と言っていたお兄さんは、殺人事件の被害者の如く自ら死亡フラグを立てまくっていたが、これこそ彼の埒外の能力。
「皆、俺に構わず行ってくれ!」
 其は【疫病神のいざない】(シャル・ウィ・ダンス・ウィズ・ハードラック)――窮地を呼び込む程に敵方の運氣を吸い上げたジミーは、濃霧を裂いて迸る炎の波濤の、何故か隙間のような處に入ってダメージを遁れる。
「おっ、いまモーセみたいだった!」
 宗教とは無縁だが、大海を割る預言者の如きムーヴを成功させたのは全き強運。
 この戰場で最も幸運な男となったジミーは、向かい來る邪と正對するや麗瞳を烱々と、蜃が再び炎を噴く瞬間を見極めた。
「吐くって事は、吸う時があるって事だろ?」
 呼吸とはそういうものだと、手に握れるは手榴彈。
「腹空いてるんなら、これでも喰っとけ!」
 咬竜が口を開けた瞬間に擲彈を投げ入れたジミーは、忽ち吻を大爆発させる蜃を仰いで艶然ひとつ、自ら築き上げた死亡フラグを叩き折るのだった。

 この時、霧中に響く爆轟を眺むは千之助。
 大爆発に顔面を破裂させるも、忽ち蜃氣楼で頭部を復元した咬竜が再び幻炎を噴けば、彼は喫驚の吐息をひとつ、而して小気味良く口角を持ち上げる。
「……幻とはいえ炎を操ると。ますます近しい」
 云って、濤と迸發(ほとばし)らせるは赫灼の闘氣。
 陽光を浴びたような髪を艶々と輝かせるオーラは、千之助が操る炎の色であると同時、端麗の躯を巡る血の色、魂の彩でもあろう。
「闇にありし魔の理よ、我が呼びかけに応え暴威を振るえ」
 花脣が祕呪を唱うや、忽ち咲き亂れる【千思蛮紅】。
 術者の意識次第で變幻自在に燃える炎は、宛如(まるで)生き物のように蜃を包むと、灼熱の痛みに呑み込んでいく。
「私が紡ぐ炎は全て現(うつつ)。夢でも幻でも無い」
『ォォオオオ雄雄ッッ……ヲヲヲヲ嗚乎ッ!』
 千之助が眼路に映れる限り咬竜を捉えるや、地獄の炎は悪魔の舌と伸び出て細長い躯に巻き付き、滾るような炎熱に竜鱗を灼いた。

『ォォオオオオオ雄乎雄乎ッッ!!』
 灼熱に悶えた咬竜が絶叫する最中に次撃を継ぐは新月。
 艶々しい櫻脣より玻璃の如きコントラルトを滑らせた佳人は、傍らにあるスカルロード『満月』を愛おしそうに抱き寄せると、青き彩瞳に光を――凛然を兆す。
「大合体……起動」
 而して近付いた影を、輪郭を同じくさせるは【ゴーストイグニッション】。
 新月と満月は疆を解いてひとつとなり、虚となっていた骸骨の眼部に宿った断末魔の瞳を煌々と、猛炎に縛られる咬竜を映す。
「濃霧に隠れても、居場所が分かれば……捕らえられる」
 美し聲色は然し悪魔の囁きか。
 咬竜は餘りの激痛に後退するも、姉妹が放つ雑霊彈は自動追尾して座標を明らかにし、後続の仲間達に居場所を知らしめる。
「また武器をとる日が來るとは思わなかったけど――」
 戰うなら、全力だ。
 佳人がそう囁く間、彈道を追う猟兵が続々と連撃を仕掛けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

月舘・夜彦
【華禱】
視力や第六感、聞き耳を使って居場所を探してみましょう
しかし貝となれば砂の中に潜っていますから、なかなかに難しいですね

倫太郎、気を付けて探しま……倫太郎?しょこら?
……ま、まさか……
息を呑んだ後、飛んでいるましゅまろと顔を合わせる
ましゅまろは相変わらずの困り顔で動揺もしていない
何も考えていないのか、肝が据わっているのか

彼の声が最後に聞こえた方へと向かいます
倫太郎!しょこら!無事ですね
声が聞こえれば安堵しながらも刀を構える

貝の殻の硬さは相当なもの
ですが、火によって脆くなるとも知っています
倫太郎達が中で攻撃をしている間に、外から火華咲鬼剣舞で攻撃
出てきた二人はましゅまろに回収をお願いします


篝・倫太郎
【華禱】
泉の神氣で判んないかな?
しょこはどう?蜃の居場所わかる?

腕の中のしょこに暢気に聞いてたら夜彦の声が遠い

あ……これは喰われたっぽい?
俺としょこら
なるほど、おいしくなぁれ効果
よし!しょこさん暴れて良いよ!

びっぐしょこら使用
しょこが大きくなっても蜃の口が開かない……?
なんて悪夢だ!

こうなったら神氣を纏った暁想と華焔刀を
ざくざく貝柱に突き刺してやる
しょこも齧っていいよ!
夜彦とましゅに逢えなくなっちゃうなんて
いやだもんな!

貝柱を傷付けられるのを嫌がった蜃が俺達を吐き出す瞬間が勝負!
しょこ!いまだ!
俺も併せて華焔刀で鎧砕きを乗せた一撃を貝柱付近に叩き込む

夜彦達の処に!帰るんだったら!(どっかん!)



 潮は引いたが、朦々と靉靆(たなび)く霧は濃くなるばかり。
 これが神仙の曖氣かと、立ち昇る白霧を掻き分けながらやって來た「りんたろー」こと篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、五感を研ぎ澄まして索敵する月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)へ、肩越しに伸びやかなテノールを投げた。
「仙界にただよう元々の神氣もあって、わっかんないな……」
「慥かに。貝となれば大抵は砂泥に潜っていますから、なかなかに難しいですね」
 地の利は完全に向こう側にあり、奇襲される可能性もあろう。
 足場が泥濘んでいるのもあるが、慎重を期すに越した事は無い、と夜彦と視線を結んだりんたろーは、今度は腕に抱く黑兎『しょこら』の優れた嗅覚を頼ってみる。
「しょこはどう? 蜃の居場所わかる?」
「! !」
「えっ、怪しい匂いは無いけど、美味しそうな匂いがする……?」
 黑いお鼻がスンスンと、磯の馨りに混じる甘い薫香に気付き、いちご色の瞳をきゅぴっと輝かせる。其が生乳と小麦粉を焼いた匂いと判明した時、砂洲一帯は芳ばしクッキーの丘に變貌を遂げていた。
「倫太郎、気を付けて探しま――……倫太郎? しょこら?」
 夜彦が名前を呼んでいる気がするが、何故だろう、聲が遠い。
 愛し花簪を捜さんと周囲を見れば、りんたろーとしょこらは何時の間にか甘味で出來た高楼に居り、ほっこり湯気の立つお茶なんかを手にしているではないか。
「あ……これは喰われたっぽい?」
 然う。既に罠は仕掛けられていたのだ。
 貝獣の【夢葬展開】に捕われた少年と黑兎は、目下、甘く馨しい幻覚に囚われながら、腹の中で溶かされようとしていた。

  †

「倫太郎……しょこら……? ……ま、まさか……」
 幾度と名前を呼ぶが、聲の返らぬ靜謐に蒼褪める。
 夜彦は思わず息を呑むと、空を飛んでいた白兎『ましゅまろ』を呼び寄せ、一人と一匹の姿を見なかったか問うが、ふくふくのほっぺはふるふる、見当たらぬと答える。
 ましゅまろは常と變わらぬ困り顔で動揺もしておらず、つぶらな双眸に映る己の狼狽が浮き立つよう。
「何も考えていないのか、肝が据わっているのか……」
 胸元の白兎に本物の匂いを、傑物の風格を感じる夜彦。
 蓋しこの何事にも動じぬ瞳の色が冷靜を呼び覚まして呉れよう。夜彦はかの若々しい聲が聽こえた方向を辿り、泥濘を歩いて幾許、軈て濃霧の向こうに怪しい影を発見した。
「倫太郎! しょこら! 聽こえたら返事をして下さい!」
 これこそ悪食の正体か、とまれ、巨大な蛤に向かって聲を張る。
 然れば中からくぐもった聲が響き、ドンドンと叩くような振動も伝わった。
「やひこ! ましゅ! 俺としょこ、捕まったみたい!」
「! ……何とか無事のようですね」
 倫太郎(おとな)の名残のあるテノールを聽き、まだ生きている事に安堵する夜彦。
 囮を務めるに「おいしくなぁれ」と念じたものだから、想定通り、おいしく食べられてしまったと言う少年の説明を聽きつつ、愛刀『夜禱』を構えた夜彦は、中からダメージを与えてみると言う彼の挙動に注目する。
「よし! しょこさん暴れて良いよ!」
 ぐっと握り込めた拳を掲げると同時、むくむくと巨大化するは【びっぐしょこら】!
 麗々しい高楼を壊さんばかりどったんばったんした黑兎、いやラビットグリフォンは、大蛤をぐうらと搖り動かすも、邪は二枚貝をガッチリ嚙み合せた儘、口を開かず。
「しょこが大きくなっても口を開かない……? なんて悪夢だ!」
 少年がオーマイガーと頭を抱える中、殻を隔てた現(うつつ)側の夜彦は、我が愛刀に瑠璃色の炎を宿して燃え立たせると、美し白皙を煌々と輝かせて言った。
「殻の硬さは相當ですが、貝は貝。火によって脆くなるとも知っています」
 斯く云う間に閃くは【火華咲鬼剣舞】――流麗なる劍舞に火粉は花葩の如く舞い散り、硬殻に触れるや赫灼たる炎の花を咲かせる。
 現と幻の疆界を隔てていようが、二人の連携は妙々たるもの。
「倫太郎達は中から攻撃を、私は外から加熱して攻めます」
「りょーかい! 俺はしょこと貝柱を切ってみる!」
「ましゅまろは出てきた二人の回収をお願いします」
 夜彦が煓々熾々と炎の華を咲かせる傍ら、りんたろーは神氣を帯びた小刀『暁想』と華焔刀 [ 凪 ]を手に刃撃を足し、貝柱と思しき高楼の柱をざくざく切りつけていく。
「しょこも齧っていいよ! やひことましゅに逢えなくなるなんて嫌だもんな!」
 更にごりごりと衝撃を加えるはしょこらの齧齒(大)。
 大好きな人と逢えなくなる、蛤に喰われる悲劇を拒むように攻めかかる門齒を嫌がった蜃は、外から熱々と焙られる苦痛にも耐えかねたか、遂に口をムズムズとさせた。
「しょこ! いまだ!」
 幻が搖らぎ、貝柱を聢と捉えた瞬間、大きく振り被った弧刃を叩き付ける。
「やひこ達のところに! 帰るんだったら!」
「倫太郎! しょこら!」
 どっかーん! と爆ぜる衝撃が口を抉じ開け、りんたろーとしょこらが吐き出される。
 濃霧に飛び出す一人と一匹を追い掛けたましゅまろが、宙で見事にキャッチしたなら、其を心配そうに仰いでいた夜彦がホッと安堵の息ひとつ、塊麗の微笑を注ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゾーヤ・ヴィルコラカ
 だたらちゃん(f28543)と一緒よ!

 これが蜃気楼なのね。向こうにあるのは、わたしの故郷? みんなの声がする、わたしが、わたしが守らなきゃ。

 ハマグリさんの悪夢みたいな幻覚で混乱して、足が勝手にそっちを向くけど、罠だってわかってるから〈根性〉で理性を保つわ。今、わたしが守るべきなのは、だたらちゃん、そして村の皆よ。

 霧に釣られたわたしを呑み込もうとしたら【UC:無敵氷砦】(POW)を発動よ! 貝殻が閉じる前に氷で止めて、〈怪力〉で〈こじ開け〉るわ。こじ開けたら、だたらちゃんに〈浄化〉をかけて幻惑を破るわね。だたらちゃん、今よ! わたしはこっち、ここにいるわ!!

(アドリブ等々全て歓迎です)


瞳ヶ丘・だたら
ゾーヤ(f29247)と。アドリブ等歓迎だ。

情報によればここにいる筈だが。ゾーヤ、そちらは――
言い終える前に蜃気楼に取り囲まれ、幻覚を垣間見る。幼い日の、愚かで醜い自分の泣き顔。知らない誰かの投げる石と嗤い声。脳では虚構と判っていても、足に入る力が……。

ゾーヤの声にはっと〈落ち着き〉を取り戻し、戦車を走らせる。
彼女が作ってくれた貝殻の隙間に主砲を突き刺し、零距離での〈砲撃〉を砲身が焼け付くまで叩き込もう。UCに加え、〈武器改造〉を施した取って置きの〈呪殺弾〉をありったけプレゼントだ。可食部位は減るが構うまい。

……情けなくも助けられてしまったが。
まあ、未来を『護』る手伝いくらいはできただろうか。



 先の霊泉は氣嵐が烟っていたが、封印の地に立ち込めるは神仙の曖氣だ。
 朦々たる白霧が眼路を塞ぐ砂洲、泥濘に足を取られぬよう革靴を手に、素足で歩き來た瞳ヶ丘・だたら(ギークでフリークな単眼少女・f28543)は、封紙越しに辺りを見渡す。
「情報によれば、蜃は此處にいる筈だが……」
「砂泥や霧に隠れているかもしれないし、注意して見て回らないとね」
 上質な絹の着物の裾を摘んで歩くカモネギ、いや、ゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は、背に肴、腰に酒の入った瓢箪を携え、少し機動力が劣ろう。
 だたらに遅れること数歩、瑞々しい脚を泥濘に浸して歩き來た美人は、不圖(ふと)、花顔雪膚をヒヤリと掠める風を目に追った。
「肌膚を刺すような、凍えるほどの冷気……」
「ゾーヤ、そちらは――」
「なんて冷たくて、懷しい……」
 あらぬ方を見遣る横顔をだたらが呼び留めるが、品佳い鼻梁は進路を逸れた儘。
 視線の先、霧靄の涯てに万年雪が、絶望に覆われた村が見えると踏み出したゾーヤは、足が泥に縺れるのも構わず、水際を超えてザブザブと海へ向かわんとする。
「これが、蜃氣楼……向こうに見えるのは、ダークセイヴァーの……わたしの故郷?」
 脚は勝手に深みへ、膝上まで濡らしても歩みは止まらない。
 蜃が吐く悪夢のような幻覚に招かれたゾーヤは、嘗て天灯に描かれた美人の如く悪食に呑まれる處であったが、然し、姿を變えても變わらぬ芯の強さが彼女を押し留めた。
「みんなの声がする、わたしが、わたしが守らなきゃ……――」
 己の聲を己の耳に拾い、混亂を自覚する。而して冷靜を得る。
 これこそ幻獣の罠だと、今も鼓膜を震わせる村人の呼び掛けにぐっと耐えたゾーヤは、そこに科白を、意志を被せる事で訣別した。
「今、わたしが守るべきなのは、だたらちゃん、そして村の皆よ」
 現と幻の疆界(さかい)を超えてはならぬ――。
 決然と睫毛を持ち上げた翠瞳は烱々煌々、刹那、砂泥からぬっと現われて襲い掛かった蜃の足にも怯まず、凍てつく冷気を纏うや、辺りの霧靄を一気に冷やしていく。
 キラキラと耀き出す細氷を操って【無敵氷砦】(ダイヤモンドダスト・カテドラル)を形成した麗人は、悪魔の舌と伸びる足を絶対零度の両腕で食い止め、二枚貝が開いた状態を力づくで維持した!
「食べられるものなら食べてみなさい! この守り、簡單には砕けないわよ!」
『がたがた、がたがた、がたがたがたがた……!』
「口を開けた今がチャンス! だたらちゃん、今よ! ……だたらちゃん?」
 ――この時。
 本來のだたらなら、間隙を置かず動いていたろう。
 然し眞白の霧に抱き包まれた佳人は、影も聲も遮られる中で初動を牽制されていた。
「神仙の氣に幻霧を混ぜていたか……あたし達を分断するとは、蜃にも知恵がある」
 敵の巧妙を認めはするが、元々視覚には頼っていない。
 かの大瑠璃の囀りを、ゾーヤの朗らかな聲を探るだけだと聽覚を研ぎ澄ました佳人は、不意に、誰ぞ知らぬ者の嗤い聲と、少女の欷歔(すすりなき)を拾った。
「これは……遠い昔の、あたしか……」
 稀有なる容貌が「醜い」と、己が迫害種であるとも知らぬ程に幼かった日。
 醜い故に石を擲げられ、愚かな故に嘲笑を浴びた過去が時間(とき)を超えて迫るが、其が幻覚と理解っていても、心の襞に押し込めた筈の感情が搖り動かされる。
「……これは虚構だ。幻覚作用のあるガスを吸っただけの事……」
 努めて隔絶を置かんとするも、昔日の泣き顔が胸に突き刺さるよう。
 心なき者の投石と痛罵に膝を折った彼女には、泥濘に沈む己を止める手立ても無かろうか――。

「だたらちゃん、その霧を晴らしてあげるわね!」

 ――いや、あった。
 目の醒める凛冽の風は、ゾーヤが解放した浄化の力で、彼女を中心に放射状に広がった爽風が一切の霧を払っていく。
 幻霧を破った今なら、だたらの位置も、蜃の捕食を食い止める美人の姿も見えよう。
「だたらちゃん、今よ! わたしはこっち、ここにいるわ!!」
「噫、全ての座標が暴かれた今なら踏み出せる」
 落ち着きを取り戻しただたらの語尾に続くは轟然たる機械音。
 泥濘でこそ本領を発揮しようか、魔導回路に圧縮されていた四脚戰車が急展開すると、だたらを乗せて全速前進! ゾーヤと蜃、力と力の角逐へ豪速接近した!
「……情けなくもきみに助けられてしまったが、その御礼として、未来を『護』る手伝いくらいさせて貰おう」
 蠍尾の如くせり上がるマニピュレータで殻を摑み、前面に搭載した二基の砲筒を開口部へ差し入れる。だたらが繊手を掲げるや、號令を受け取った戰車は凄まじい砲音を噴き、零距離且つ不断の砲射を以て貝の中身を攻撃した!
「取っておきをプレゼントしよう。呪詛を丹念に込めた特製怨毒榴彈砲だ」
「よーしっ! だたらちゃん、思いっきりやって!」
 共にグイと拳を突き上げるゾーヤの淸々しいこと。
 だたらは砲身が灼け付くのも構わず、佳人に促される儘に閃彈火砲を叩き込み、
「可食部位は減るが、まぁ、構うまい」
 と、僅かにも口角を持ち上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)

泉で弱点を調達できなかったので私自らを囮に使います。
『蜃』は人を襲うようなのでまあ丁度いいでしょうかね。
…え?ロベルタさんも囮になるので?…はい♪では一緒に。

周囲をロベルタさんと背中合わせになって周囲を警戒します。
襲われても即座に二人で対応できると思うので。
『蜃』が現れて口を開いた瞬間に貝の中に飛び込みつつ技を。
リミッター解除後に早業の2回攻撃と重量攻撃付与の【神退】。
限界突破と鎧防御無視と鎧砕きも付与して貝の破壊を試みます。

「…凄…固い…す…。流石い…しえ…封印さ…た妖怪…で…ね」
貝の破壊が不可能なら中の本体へ【神退】の一撃を加えます。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)

僕も囮になるじぇ♪墨ねーだけ囮になることはないじょ!
墨ねーと背中合わせで周りの警戒を十分にするよー。
はまぐりって名前の貝ってゆーけれどどんな貝だろ?
へー。サムライエンパイアではポピュラーな貝なんだ…。

貝の中には墨ねーが入るから僕は閉じないようにしてみる!
封印を解いてからパフォーマンスで身体機能をあげて。
限界突破と多重詠唱と属性攻撃に重量攻撃で蹴ろうと思うよ。
鎧砕きと鎧防御無視で【金色の大槌】の蹴り技を全力で使う。
うーん。貝を狙うんじゃなくて僕は貝柱を狙おうと思う!
貝は墨ねーがするみたいだしねぇ~♪
「貝ってこんなに硬いんだねぇ~。でも、何度かすると…!」



 村の行事「光贐」に參加し、天灯を夜穹へ見送った浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)は、かの貝獣が嘗て何を喰らったか充分に把握している。
「……『蜃』は……人を、襲うようなので……私……を……囮に……使います……」
 自らを餌に悪食を誘い出す――。
 其はとても危険な策戰だが、漁村に伝わる逸話や天灯に描かれた美人画を活かすのは、蜃を退治する今であると、燈火の温かな輝きを見たからこそ意志は固い。
「えっ! 墨ねー、囮になるの?」
「……まあ……丁度……いい……で、しょう……ね……」
 飲み込み易いかと達観する墨に、ロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)は空色の彩瞳をぱちくりと喫驚の表情。
 それと同時、村の屋台で聽いた数々の伝承を思い出した少女は、成程かの健啖を煽るに餌は大きく多い方が良かろうと同意を示し、ニコニコと花の咲みを添える。
「それじゃ僕も囮になるじぇ♪」
「……え? ……ロベルタさん……も……、……なる……ので……?」
 切揃えの前髪の奥、赤丹色の麗瞳が心配そうに色を搖らせば、ロベルタは元気いっぱい朗らかに頷き、「今度は離れない」と手を取るのだから心強かろう。
「う! 墨ねーだけ囮になることはないじょ!」
「……はい♪ ……では、一緒に」
 戰友(とも)の優しさに心を温かくした墨も、不覚えずふうわと微咲を零すのだった。

  †

 而して二人、小島に近い砂洲周辺で背中合わせに構える。
「こうやって死角を補って周りを警戒すればいいよねー♪」
「……万一……襲わ……ても……即座に……対應……できる……かと……」
 人間の視界は左右に約180度~200度。水平方向なら充分に死角を潰せよう。
 蜃は人を丸ごと飲み込める大きさらしく、それだけの巨貝なら必ずや捉えて見せようと烱瞳を巡らせた二人は、五感を研ぎ澄まして幾許、長き沈默に小さく聲を交した。
「そういや蜃は“はまぐり”って名前の貝ってゆーけれど、どんな貝なんだろねい?」
「……ロベルタさん……もし……して……蛤……を……食べた……が……ない……?」
 村人が「おおはまぐり」とも「みずち」とも言っていた幻獣には、正体が二つある。
 その一つ、大蛤は潮干狩りを愉しむ他、お吸い物に雑炊に、人々によく親しまれている貝なのだと墨が云えば、ロベルタはふんふんと頷きながら想像を巡らせた。
「へー。サムライエンパイアでは割とポピュラーな貝なんだ……」
「……もう一つ……咬竜、は……工芸品……でしか……見た事は……ありませんが……」
 玻璃の如く透明な聲が、小さく繊細く零れた時である。
 周囲に靉靆(たなび)く神仙の氣が濃くなったような――眞白の霧が立ち込めてきたと警戒した墨は、手に馴染む愛刀の鯉口を押し拡げ、スッと爪先を滑らせた。
(「……近い」)
 冷ややかな風に黑艶の髪が搖れると同時、墨の視界いっぱいに大蛤が現れる。
『がたがたがたがた、がたがた、がたがた……!』
 墨の五尺手前、砂泥底からぬうっと顔を出した『蜃』は、極上の獲物を前に垂涎したか二枚貝の合わせから巨大な足を伸ばし、繊麗の躯を飲み込まんとした。
「……參り……ます……」
『はまぐりっ!!!』
 然し極上の獲物は自ら腹の中へ、一足で飛び込むや【神退】――ッ!
 墨は伸び出る足を逆に辿って着地するなり、軸足から螺旋を描いて急旋廻し、溶解液が肌膚に浸蝕するより迅く、速く、銀月の如き鋭刃を疾らせていく――!
「……凄……固い……す……。……流石い……しえ……封印さ……た妖怪……で……ね」
『がががががが!! がたたたた!!』
 ならばと墨は手首を返して逆旋廻ッ! 刀が腐食するのも許さず、血振りの延長の樣な素早さで刃を切り付け、蜃の中身をザクザク、ぐっちゃぐっちゃに掻き亂す!!
 蜃の苦悶の程は、墨の挺身を外から見守ったロベルタの瞳によく映ろう。
『ぐががががが!! がたがたがた!!』
「う! 食いしばってるねい! 僕が閉じないようにしてあげなきゃね♪」
 墨ねーを閉じ込めさせはしないと、凛然を萌した青瞳は光を湛えて耀々煌々、己の身体能力を一気に飛躍していく。
「Questa è la chiave per vincere...!」
 櫻脣に祕呪を詠唱しながら、我が躯に流れる厖大な魔力を解放した少女は、ガタガタと悲鳴を上げる大蛤に向かって【金色の大槌】(ゴルディオン・ハンマァー)ッ! 時間と空間を歪めんばかり超重力の蹴撃を叩き付け、貝を外殻から搖り動かした!!
『がたがたがたっっ! がたがたがたッ!!』
「うーん。ぶるぶるしてるけど、硬い……貝を狙うんじゃなくて貝柱を狙おー!」
 宙空で蜃の反應を伺いつつ、すかさず繰り出る二撃目は急所たる貝柱!
 ふわりワンピースの裾を波打たせたロベルタは、重力をものともせぬ輕快さで翩ると、インパクトの瞬間に凄まじい重力波で貝柱を叩き、蜃に激痛を絞らせた!
『はまぐりっ! はまぐり!!』
「貝ってこんなに頑丈なんだねぇ~。でも、何度かすると……!」
 而して超高速の連続キックは止まらない。
 墨は中から、ロベルタは外から、立て続けに冱撃を喰らった蜃は堪らず霧を吐き出し、もう一つの正体である咬竜へ變身すると、内外の疆界(さかい)を解いた二人の目の前で身悶えするよう躯を捻り、どぶり、夥多しい血を噴くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
この霧……こちらの精神に干渉してくる?
ふうん、そういう小賢しいことしてくるなら……遠慮は要らないわね。

魚には予めはらわたを抜き、空洞にたっぷり酒を仕込んでから蜃の前に放り投げる
こうしておけば蜃の身にも酒が浸み込むし、酒に酔って動きが鈍くなれば儲けものね
並行して【超★筋肉黙示録】発動
自身の強化目的なのもそうだけれど、最大の目的は「脳筋自己暗示」による事実上の「精神干渉耐性」を得る事
私は自他共に認める脳筋、そして私の筋肉は最強、故に私の脳は最強の筋肉だから幻影とかに屈しない、いいわね?
(強化というより狂化と言われても否定できない感)

あとは最強の筋肉で貝殻をこじ開けて中の身を回収するだけ、簡単ね。


劉・涼鈴
大人モードで妖怪退治だ!

むぅ~ん、霧の中の楼閣……方向感覚とか混乱させられて、どこにいるのか分っかんないなぁ……
よし! 探すんじゃなくって、向こうから来てもらおう!
変化させた山盛りの肉の上に座って、本物の焼き貝むしゃむしゃ
せっかく大人モードなんだしお酒……ダメ? ダメかぁ~
食べ物と絶世の美女!で誘き寄せるぞ!

現れたら早速ぶん殴り……たいけど、殻が無敵モードなんだよね?
わざと捕まって、中に引きずり込まれて、内側から攻撃だ!
……むぉー! うにゅうにゅしてるー!

中に入ったら……あれが貝柱だな!
全身に漲る【覇気】を掌に凝縮! 炎と化した闘気を叩き付ける!
【劉家奥義・祝融禍焔掌】! 美味しくなれー!!



 干潮を迎え砂洲を広げた「封印の地」は、蛤が好む砂泥地となっている。
 劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)が大人モードに變身したのは好都合だったか、潮干狩りの要領で裸足になった麗人は、長い脚で泥濘をむにゅむにゅ踏みつつ進む。
 唯だ五感を研ぎ澄まして辺りを探るも、人をも丸呑みにするという巨蛤の影は見えず、涼鈴は我が視界を遮る霧を鬱陶しげに払って云った。
「むぅ~ん、……方向感覚とか混亂させられて、どこにいるのか分っかんないなぁ……」
「元々ある神仙の氣に、噫氣を混ぜて隠れているかもしれないわ」
 気を付けて、と警戒を促すは荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)。
 品佳い鼻梁をスンスン、優れた嗅覚にガスの気配を捉えた彼女は、濃霧か砂泥に隠れて『蜃』が既に仕掛けて來ている――と、鋭く烱瞳を絞る。
「然も、この霧……こちらの精神に干渉してくる?」
「むむ、それって村の人が言ってた“幻覚で海に誘き寄せる”ってやつ?」
「……ふうん、そういう小賢しいことしてくるなら……遠慮は要らないわね」
 涼鈴がことりと小首を傾げて振り返れば、浅瀬に留まった儘のつかさは眞白の割烹着に袖を通し、適当な大きさの石を調理台に「餌」の仕込みを始めた。
「魚のはらわたを抜いて、空洞にたっぷり酒を入れるのよ」
 かなり大きな魚を用意したが、料理酒も山ほど積んできたので大丈夫。
 より食材を柔らかく、旨味やコク、風味も増すのだと、プロ並みの手際で下処理を行う彼女を見た涼鈴は、己も『 肉 』を活用すべしと感奮興起し、奥の小島に向かった。
「よし! 探すんじゃなくって、向こうから來てもらおう!」
 千切れた念珠の近くで肉を山盛りに、高く積み上げた『肉山』の頂に座る。
 そして芳ばしく焼いた本物の蛤をむしゃむしゃと食べ始めた涼鈴は、これでヨシ! と自信滿々で蜃を待ち構える事にした。
「美味しい食べ物と絶世の美女! これでバッチリ誘き寄せられるぞ!」
 これぞ酒池肉林、いや美女肉山と云ったところ。
 時に、折角オトナになったのだから酒の一口でも嗜みたいとは思えども、中身は15歳の「いいこのこころ」が己を律する。がまんする。
「お酒は魚が、つかさ姉ぇが用意してくれてるからいっか!」
「ええ、任せて頂戴」
 無表情の佳顔、櫻色の花脣が「應」を返した時だった。
 濃霧がゆうらと搖れたのも一瞬の事、砂泥からぬうっと現れた貝獣『蜃』が肉山の美女めがけて悪食の足を伸ばした瞬間、僅かにも開いた殻の隙間に魚がブンと投げ込まれる!
「よく來たわね。存分に持て成してあげるわ」
『かたかた、かたかた! かたかたかたっ!』
 鮪や鰹は約70km/hで泳ぐと言われるが、つかさにかかれば優に160km/hは超えよう。
 隙間を抉じ開けるようにズドンとブチ込まれた魚は、健啖MAXの消化液に包まれるや、腹に詰めた酒を急速に浸透させ、一気に蜃を酩酊状態にした。
『はまぐり~♪』
「ふむふむ、お酒を呑むとこうなるんだ! これなら中に入れそう!」
 イイ感じになった蜃が「肴」を求めて更に足を伸ばせば、これを好機と見た涼鈴は故意(わざ)と捕まって貝の中へ、引きずり込まれるように内部に突入する。
「殻が無敵モードなら、内側から攻……むぉー! うにゅうにゅしてるー!」
 蜃の中身はツルすべ、にゅむにゅむと生温いのは消化液か。
 かなり酒臭い内部に「むおお!」と聲が漏れる中、涼鈴は熾えるような紅瞳を爛々と、全身に漲る覇氣を掌に凝集圧縮し、烈々たる焔を練り上げていく。
「……あのコリコリしたのが貝柱だな! 大事なやつ!」
 女傑の麗顔を橙色に照らし、グッと蜃の内臓を踏み込めながら拳を繰り出した涼鈴は、【劉家奥義・祝融禍焔掌】ッ! 炎と化した闘氣を貝柱に叩き付けた!!
「灼けて、焼けて、美味しくなれー!!」
『がたがたがたッ! がたがたがたがたッ!!』
 急所に灼熱の閃拳掌打を撃ち込まれた蜃は、ガフガフと開口部を動かして悶えながらも反撃に白氣を吐き、混亂、幻惑、悪夢と、諸有る幻覚を以て脅かさんとする。
 然し朦々とガスが噴く中でも、外でその様子を見るつかさは至極冷靜だ。
 赫瑪瑙の眼晴を烱々と、ぶるぶる震える蜃を見据える彼女にも濃霧は届いていようが、彼女は翠眉ひとつ顰めず、繊手をスッと前に殻の要塞に相對する。
『がたがたっ! がたがたがたっ!!』
「ええ、呼吸は止めてないし、幻霧も肺に入っているけど、私の精神は侵されてない」
『はまぐり! はまぐりっ!』
「然う、お前が最初から仕掛けていたように、私も己を強化していたのよ」
 ついと瞥見を注ぐは、先刻の料理のレシピ……、いや、あれは、あれこそは、つかさの愛読書【超★筋肉黙示録】(ハイパー・マッスル・アポカリプス)!!!
 餌の準備と並行して默示録を披いていた佳人は既に「脳筋自己暗示」に成功しており、強化を超えた狂化、事實上の「精神干渉耐性」を獲得している。
 而して一切の干渉を無効化したつかさは、今もドスドスと涼鈴の拳打を喰らう幻獣を、全き握力によって鷲摑み、殻に五指をメリ込ませながら言い聞かせる。
「私は自他共に認める脳筋、そして私の筋肉は最強。つまり私の脳は最強の筋肉だから、幻影とか幻惑とかに屈しない、いいわね?」
『かたかたかたかたかた……っっ……っ!!』
 何を言っているのか理解らないのだが、反論は許されぬ。
 最強の筋肉で開口部を抉じ開けられた蜃は、美味しい「身」を差し出すしかなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…如何にして封印を解いたか、封印の劣化か、
ともすれば、何者かの干渉が在ったのか…。
古の貝獣、封印の地とはいえこの環境は敵の領域。
気を入れて臨まねばなりませんね。


幻覚の気の中に踏み入れば、鼻をつくのは咽せ返るような血の臭い。
眼前には己が過去に携わった者達の喰い千切られ、引き裂かれた骸の群れ。
己の中に宿る獣の衝動、其れに裂かれた骸から響く怨嗟の聲。
血の臭いは自らの手と、口元から立ち上っていた。


UC発動、落ち着き技能の限界突破、心を凪に保つ武の境地を以て幻覚を振り払い

…然り。この身の本質は獣に他ならず、其れこそが私の業なれば。
されどそれに抗うが師より賜った武の教え。
幻一つに揺らぐほど柔ではありませんよ。


野生の勘にて砂の中から敵が飛び出す瞬間を感知し、
悪路走破、残像にて泥砂に足を取られる事なく瞬時に回避
その速度のまま怪力、グラップル、2回攻撃、そして蝦蛄の力を有した腕にて
蜃の殻を粉砕し露出した弱点を破壊する

…殻を砕いては蒸し焼きに支障が出ましょうが…、
皮算用は出来ぬゆえ、お許し願えれば幸いです。



 細長い砂洲を伝い歩き、貝獣『蜃』が封印されていたという小島に向かう。
 輕快に石巌を登攀し、千切れた念珠を拾い集めた月白・雪音(月輪氷華・f29413)は、霊力を失くした珠の一つ一つが己を映すのを見つつ、小さく、鋭く呟いた。
「……如何にして封印を解いたか、封印の劣化か」
 蜃の力が勝ったか、結界の力が弱まったか。とまれ、何かを契機に抗衡が崩れた。
 幾星霜も保たれた抗衡が破れるとは穩やかでは無いと、強く砕かれた痕跡のある念珠を見た雪音は、より聲を小さく、最も懼れる懸念を零す。
「ともすれば、何者かの干渉が在ったのか……」
 實は、仙人たちが何とか封印にこぎつけた怪物が結界を破る事例は『蜃』だけで無し、仙界の魔が暴れ出したとは、他にも報告されている。
 何者かに封神台が破壊された事も含め、仙界や人界に變化が訪れているかもしれないと櫻脣を引き結んだ雪音は、交睫をひとつ、念珠に結んでいた緋瞳を砂洲に巡らせた。
「古の貝獣、封印の地とはいえこの環境は敵の領域。気を入れて臨まねばなりませんね」
 足元は蛤が好む砂泥地。
 視界は神仙の氣が朦然と漾う不明瞭。
 地の利は敵方にあると、靉靆と棚引く霧靄の隙間に烱瞳を注いだ雪音は、巌頭を離れて砂洲の中央へ、音も無く着地する心意(つもり)だった。
「、っ」
 然し着地したのは、血腥い肉と千切れた臓腑の上。
 幾許の喫驚に瞳の色が搖れたのも一瞬、品佳い鼻梁に咽せ返るような血の臭いを捉えた雪音は、胃袋の逆さになるような不快感を堪えつつ、眼路いっぱいに惨憺を映した。
「……こ、れは……」
 腥い血と潰された肉の臭気を掻き分けて見れば、引き裂かれた骸には見覚えがある。
 鋭爪に抉られた者と、猛牙に屠られた者は、すべて己が過去に携わった者達だ。
「噫、噫」
 嗚咽するかのように繁く呼気が吐き戻されるのは、累々たる骸の群れに我が獣の衝動が強く搖すられるからで、歓喜と嫌悪、衝撞と抗拒が巡る血を逆流させていく。
 この時耳鳴りに掠めるは死者の嘆きか呻きか、醜く裂かれた骸からは怨嗟の聲が響き、雪音の眞白の虎耳にギリギリと爪を立てるよう。

 而して気付く。
 血の臭いは自らの手と、口元から立ち上っていた。

「――……然り。この身の本質は獣に他ならず、其れこそが私の業」
 濃霧が白皙を遮る中、血濡れた手の甲で赫黑く汚れた口元を拭う。
 この感覚も蜃が見せる【夢葬展開】の効果だろう、實に生々しい悪夢だと血のぬめりを受け取った雪音は、然しこの手は先に不思議の泉に潜らせたものと落ち着きを取り戻し、透明の殻に覆われる異形の腕を摩擦る。
 再び櫻脣を滑る佳聲は、元の凛冽を取り戻していよう。
「獣の本質は變えられよう筈もありませんが、それに抗うが師より賜った武の教え……。心を凪に保つ武の境地は、幻一つに搖らぐほど柔ではありませんよ」
 心眼を明鏡の如く、波紋ひとつ立てぬ靜謐を得る――。
 今も肺腑には幻惑の霧が染みようが、感覚が蝕まれぬよう神経を穩やかにした雪音は、規則正しい呼吸を保ちつつ、更に五感を研ぎ澄ました。
「砂泥に身を潜めつつ、元々ここに漾う神仙の氣に幻霧を混ぜて罠に引き込む……成程、地の利を得た者ならではの戰術。まるで狩人です」
 單なる悪食ではないと、言は敵の狡智を認めて。
 また幻覚によって暴かれた獣の本質――野生の勘を張り巡らせば、かの貝獣が砂泥よりぬうっと顔を出すのが判然ろうか。二枚貝の隙間から健啖の足が覗くより速疾く疾走した雪白の虎は、悪路も何のその、足跡も残さず駆け抜けると、一気に敵前へ肉薄した。
『かたかた、かたかた、かたかた』
「このまま隠れていれば勝機はあったものを。矢張り腹が空いているようですね」
 紅瞳いっぱいに映れるは、生氣に釣られて巨影を現した『蜃』。
 直ぐにも好餌を喰らわんと、悪食は濃霧を噴きながら足を伸ばすが、朦々と立ち込める蜃氣楼ごと切り裂いて踏み込んだ雪音は、「蝦蛄」の力を有した腕を打擲ける――ッ!
「……この殻を砕いては蒸し焼きに支障が出ましょうが……、皮算用は出来ぬゆえ、何卒お許し願えれば幸いです」
 今こそ閃くは、人間業の究極たる【拳武】(ヒトナルイクサ)。
 武具や爪牙、闘気すら用いぬ純粋武術は、此度は透明な拳から繰り出され、我が俊敏に蝦蛄の圧倒的破壊力を乗算して殻にブチ當てる!
『がたがたがた! がたただだだ!!』
「っっ……何と言う硬さ……ですが、鎧の一枚二枚は覚悟の上」
 損耗を想定しての二撃目――!
『はまぐりっ!』
 純然たる徒手空拳、その凄まじい衝撃には蝦蛄も耐えられまいか、透き徹る殻の何枚かを硝子のように砕いた雪音は、煌々と躍る破片を頬に掠めつつ、打つ、搏つ、撃つッ!
『がたがたがたがた!! がたがたがたがた!!』
 殻を粉砕され、ぐちゃぐちゃになった部分に貝柱を晒してしまった蜃は、もう逃げ場は無かったろう。
 全き怪力で弱点を握られ、且つブチッと千切られた仙界の魔は、終ぞ滿たされなかった空腹を慰めるべく、最後に極上の馳走を幻霧に象ると、しゅう、と萎んで消えた――。

 斯くして貝獣が撃破されたなら、幻霧に囚われていた役人達も助けられよう。
「桃に饅頭に、美酒に美女……! 何と贅沢な宴だな……おや?」
「これ程のご馳走、食べ切れようものでは……んんん?」
 現と幻の疆界を流離っていた周興と鴻陽は、少し残念そうな顔と、恥ずかしそうな顔を見せた後、猟兵たちに丁寧に拱手して人界へ戻っていったそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年12月25日


挿絵イラスト