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彷徨える殺戮の姫君

#ダークセイヴァー #同族殺し

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「どこ……どこにいるのですか……」

 夜闇の帳に覆われたダークセイヴァーの大地を、ひとりの娘が杖をつき歩いている。
 紅と白に彩られたドレスに身を包み、美しい白銀の髪を夜風になびかせる。その容貌は儚くも可憐であったが、表情は虚ろであり夢遊病者のようにも見える。

「すぐに会いに行きます……絶対に見つけ出します……そして……」

 娘の左手に握りしめられているのは黄金の短剣。
 杖の先にかけられたカンテラに灯るのは、蒼き炎。
 細められた真紅の瞳に宿るのは、虚ろな狂気。

「……罪には償いを……今こそ、叛逆の時です……」

 娘が歩む道の先には、この地を統治する領主が住まう、壮麗な館があった。
 普通の人間なら目にする事さえ憚る恐怖の館。だが彼女は迷いなく近付いていく。

 その娘の名を知る者はいない。しかし同族たるオブリビオンからはこう呼ばれていた。
 復讐の狂気に取り憑かれた、忌まわしき同族殺し――『殺戮の姫君』と。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーを支配するオブリビオン領主のひとりを『同族殺し』のオブリビオンが襲撃する事件を予知しました」
 かの世界のオブリビオンの多くは人類を支配する邪悪な領主として振る舞っているが、その領主達に最も忌み嫌われる存在が『同族殺し』である。同族のはずのオブリビオンを殺戮する狂気に侵された彼らの行動は、領主達にとって理解しがたい脅威なのだ。

「襲撃を受ける領主の名は『倨傲の傀儡師』アニマネーラ。その性格や統治はこの世界の貴族らしく、極めて残忍かつ邪悪なものです」
 彼は人類を家畜やゴミ同然と見下し、人の愛や正義や願いを貶め、破滅する様を嘲笑い、享楽として愉しむ残忍な性癖がある。さらには死体や洗脳した人間に呪詛を施して「人形」に変え使役する能力を持っており、この力で多くの民を支配しては弄んできた。
「このまま好き勝手させるのは危険な領主です。彼が『同族殺し』の標的となったのは、こちらにとって好機と言えるでしょう」
 アニマネーラの館には配下による厳重な警備が敷かれているが、『同族殺し』が強襲を仕掛ければ混乱が生じるだろう。それに乗じて猟兵達も領主館に突入し、警備の兵士達を蹴散らして一気に領主の首を取るというのが、今回の作戦である。

「館の警備を担当しているのは『仮面の戦士』と呼ばれる者達です。彼らは領主の完全な支配下にあり、主人の命に従ってあらゆる悪逆非道を粛々と遂行します」
 これまでのアニマネーラの圧政に手足として仕えてきたのが、この仮面の戦士である。
 彼らの盲目的な忠誠心は警備においても発揮され、たとえ生命尽きようとも降伏する事はない。『同族殺し』が起こす混乱に乗じて速やかに突破できれば最良だろう。

「今回予知された『同族殺し』の名は知られていませんが、領主達には『殺戮の姫君』と呼ばれているようです」
 彼女の来歴について分かっている事実は多くない。元はどこかの王国の姫君らしいが、彼女の国は既に滅んでいるからだ。国も、民も、生命も、全てをオブリビオンに奪われた過去は、亡国の姫君を『同族殺し』として蘇らせるのに十分な理由だろう。
「かつては心優しい姫として民からも慕われていたそうですが、現在の『殺戮の姫君』は目に写る人が全て復讐の対象に見えています。ですのでオブリビオンだけでなく、猟兵や一般人に対しても無差別攻撃を行います」
 彼女はこれまで各地を放浪しながらオブリビオンを殺す過程で、町や村で殺戮を行っている。その様子は誰かを探しているようにも見えるらしいが――力なき一般人にとっては『殺戮の姫君』も他のオブリビオン同様、理不尽な死をもたらす存在に他ならないのだ。

「領主として民を弄ぶ『倨傲の傀儡師』も、当て所ない殺戮の旅を続ける『殺戮の姫君』も、討たなければいけない脅威です。最終的には三つ巴の戦いとなるでしょう」
 館の警備を突破して領主を討つためには『殺戮の姫君』の力が必要となるが、あちらに共闘や交渉に応じる気はない。下手をすればこちらが先に攻撃を受ける恐れもあるので、動向には注意を払っておいたほうが良いだろう。
「まずは領主アニマネーラの撃破を優先し、その後に消耗した『殺戮の姫君』を倒すのが戦力的には最適でしょう」
 倒すべき敵の順序を間違えないようにとリミティアは語る。今回戦うことになるオブリビオンの中でも『殺戮の姫君』は最も強い。狂気に侵された行動に実力が伴っていなければ、彼女が同族殺しとして恐れられる事もなかったはずなのだから。

「『殺戮の姫君』の境遇に同情する方もおられるかもしれませんが、このまま彼女を放置すると無辜の民までもが犠牲になります。ひとまずは敵の打倒に専念してください」
 殺戮を続ける亡国の姫君が、何を求めて放浪しているのか。それが分かれば彼女の心を動かせるかもしれないが――可能性は高くないため、気に留めておく程度が良いだろう。
 説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべ、領主の館に猟兵を送りだす。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、『同族殺し』と化した狂気のオブリビオン、その標的となった領主、双方の討伐が目的となります。

 1章では同族殺しの急襲に乗じて警備の『仮面の戦士』を撃破し、
 2章では領主である『倨傲の傀儡師』アニマネーラとの決戦。
 3章では最後に同族殺しの『殺戮の姫君』と決着をつけます。

 今回の依頼は『殺戮の姫君』の存在が場をかき乱す事を前提にした作戦になっているので、1章や2章の時点で彼女に直接攻撃を仕掛けるのはリスクが高いです。
 彼女は「魔導杖から放たれる炎の旋風」や「召喚したドラゴンと騎士団の幽霊」で領主やその配下と戦います(必要がなければ特に描写はされません)。
 目についたものは全て敵に見えているため、猟兵も視界に入れば襲われるのでご注意ください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『仮面の戦士』

POW   :    暗黒星雲の力
【闇のオーラ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【攻撃の命中率低下】を誘発する効果」を付与する。
SPD   :    星辰の獣の力
【星辰を宿した剣】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【巨獣】に変身する。
WIZ   :    闇の支配者の力
【ヴァンパイアの血】【主人との契約】【星々の輝き】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。

イラスト:笹本ユーリ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

トリテレイア・ゼロナイン
如何なる事情を抱えようと、荒れ狂う脅威たる『同族殺し』への対応はこれまでと変わる事も無し

…その狂奔に騎士として何が為せるかと模索するのも、これからも変わりないのでしょうね

攻撃対象となる危険は承知の上
姫君の前に出て仮面の戦士達と相対

マルチセンサーでの●情報収集と瞬間思考力で両者の行動を把握し●見切り
剣や盾での防御による“崩し”や格納銃器の牽制射撃で敵の行動選択肢を縛り、多少のオーラ攪乱など無意味な隙を作り本命の●怪力近接攻撃で撃破

態と姫君に己を狙わせ、回避行動で誘導
彼女の攻撃に敵を巻き込み殲滅

眼前に居続ける私という“敵”、その刺激が彼女が抱える胸の裡を零す切っ掛けとなれば…

…これ以上は限界ですね



「如何なる事情を抱えようと、荒れ狂う脅威たる『同族殺し』への対応はこれまでと変わる事も無し」
 確固たる意志に基いて、領主の館に踏み込むトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)。平時であれば厳重な警備が敷かれていたそこは、混乱と戦火の坩堝と化していた。
「罪を償いなさい……」
 王族の魔導杖を掲げ、火炎の旋風にて警備の兵士どもを焼き払うのは『殺戮の姫君』。
 復讐の狂気を宿した、たった1人の『同族殺し』によって、敵の領主はかつてない危機を迎えていた。

「……その狂奔に騎士として何が為せるかと模索するのも、これからも変わりないのでしょうね」
 乱戦の只中にいる姫君の姿を捉えたトリテレイアは、その華奢な背中を追い越すように前線に立ち、領主館を守る『仮面の戦士』達と相対する。例えそれが己の身を危機に晒す行動だとしても、姫君を守護する騎士の如く。
「『同族殺し』に仲間が……? いや、貴様は猟兵か!」
 仮面の戦士達からしてみれば、同族殺しに続いて猟兵までもが現れたこの状況は最悪と言って良いだろう。それでも彼らは持ち場を離れず【暗黒星雲の力】を身に纏い、主より与えられた命を果たすべく剣を構えた。

「押し通ります」
「行かせるか!」
 立ちはだかる戦士達それぞれの動きをトリテレイアは各部に搭載したマルチセンサーで把握し、適切な回避や防御行動を取る。剣や盾を用いた"崩し"の技術や、肩や頭部に格納した銃器による牽制の入れ方など、予測と合理に基いた彼の戦闘技術は卓越していた。
「操り糸はありませんが、鋼の人形劇を披露させて頂きます」
 牽制射撃によって行動の選択肢を縛りつつ、オーラを撹乱する無意味な隙を作り敵兵を食いつかせ。迂闊に接近してきた所に本命となる近接攻撃を叩き込んで撃破する。鉄壁の防御と勘所を捉えた攻撃の切り替え――これが【機械騎士の傀儡舞】である。

「くっ。こいつ、手強いぞ……!」
 機械騎士の剛腕に仲間を次々と討ち取られ、戦士達は仮面の下で微かな焦りを見せる。
 だが彼らの敵は猟兵だけではない。相対する白き騎士と黒き戦士、その双方を巻き込むように紅蓮の炎が戦場に踊った。
「王国の仇よ……燃え尽きなさい……」
 復讐の狂気に取り憑かれた『殺戮の姫君』にとって、目に映る全ての存在は敵である。
 ゆえに敵同士が争っていようとお構いなしに攻撃を仕掛け、眼前の全てを焼き払わんとする――目前の騎士に気を取られていた戦士達は、それを逃れる間もなく灰燼に帰した。

(予測通りの行動ですね)
 だが荒れ狂う炎の旋風の中から、トリテレイアだけは回避に成功していた。センサーで姫君の動向も確認していた彼は、わざと己を狙わせることで彼女の攻撃を誘導し、敵を巻き込み殲滅する作戦を立てていたのだ。
「まだ動いている……忌々しいこと……」
「ッ、やめろ――!!」「ぐ、がああぁぁッ!!?」」
 "敵"を仕留め損なった『殺戮の姫君』はさらなる火炎旋風を放つ。機械騎士の傀儡舞はそれを回避・誘導し続けることで、館にいる共通の"敵"のみを攻撃するよう仕向ける。

(眼前に居続ける私という"敵"、その刺激が彼女が抱える胸の裡を零す切っ掛けとなれば……)
 トリテレイアがこのような戦法を選んだのはただ合理性のみの理由ではない。悲劇に見舞われた姫君に騎士として為せる事を探すのならば、その心象を識らなければならない。たとえ討たねばならぬ敵だとしても、識らぬほうが苦痛を背負わずに済むとしても。
「嗚呼……待っていてください、お父様、お母様……この者らを討って、すぐに……」
 虚ろな憎しみを宿した瞳で"敵"を見つめながら、『殺戮の姫君』がふと吐露した言葉。
 それは怒りと哀切とが複雑に入り混じっていて――彼女の感情を薪として、炎の旋風はより激しく燃え盛る。

「……これ以上は限界ですね」
 傀儡舞の予測演算でもこの火勢は防ぎきれぬと判断したトリテレイアは、姫君の発言をメモリーに記録したのち視界から離脱する。彼女との決着を付けるべき時は今ではない。
 復讐の業火に焼かれる館の中を、機械仕掛けの騎士は領主の所在を目指して進撃する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)勝った方が俺らの敵ってこった。積極的に漁夫の利を狙いたいとこだがねェ。小指の爪1枚分も同情はしないよ。もとより俺はヒトの心はよくわからンし…いまを生きる"いのち"を刈る奴ァ敵でしかねェでな。マ・義憤やらもないンだが、逆に冷静で居られるってモンさ。
行動)目に映るものすべて敵と見なすンなら、俺は〈黯(*影)〉のなか引っ込もう。姫様の後ろに位置取って、黙して影の獣を放とう。ダクセは真っ暗いでなァ、目立たンし威力もあがるだろ。仮面の坊やらの影を奪ってもダメージはないが、名前と記憶…自我を喪失するンだ。一瞬でも棒立ちになりゃ、姫様が薙ぎ払ってくれるだろうよ。ひ、ひ…。



「勝った方が俺らの敵ってこった。積極的に漁夫の利を狙いたいとこだがねェ」
 相争う仮面の兵士達と『殺戮の姫君』。炎上する領主館の様子を見渡して、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は静かに笑う。どうやらこの状況を作り出した姫君には諸々事情もあったようだが、彼にとってそれは今重要視すべき事ではない。
「小指の爪1枚分も同情はしないよ。もとより俺はヒトの心はよくわからンし……いまを生きる"いのち"を刈る奴ァ敵でしかねェでな」
 生命の帳尻合わせを司る神として、無為に生命を奪う者は見過ごせない。それはヒトが定めた善悪の道理を超える自然の摂理。奪われる側から奪う側に堕ちたなら、恨んだ連中と相打ちにしてやろう――それが疫毒の神が下した結論だ。

「マ・義憤やらもないンだが、逆に冷静で居られるってモンさ」
 ヒトならざるが故にヒトのしがらみに囚われず、冷たき微笑を浮かべたまま、逢真の姿は影の中に消える。神の権能には様々なものがあるが、その1つが「黯」と呼ばれる影・暗がり・未知なる災禍の気配を操る力だ。
(目に映るものすべて敵と見なすンなら、俺は〈黯〉のなか引っ込もう)
 暴れ狂う復讐鬼の前で、わざわざ姿を晒してやる理由もない。完全に影と同化した彼はすうっと音もなく館内を移動し、姫君の後ろに位置取った。灯台下暗しとはよく言うが、まさか自分の影法師の中に誰かが潜んでいるとは思いも寄るまい。

「奴を止めろ!」「全力だ!」
 影の中から戦況を観察していると、館を守る仮面の戦士達が姫君に斬り掛かってきた。
 彼らが持つ剣は【星辰の獣の力】を宿しており、もし姫君がそれに喰われれば少々面倒な事になる。領主の元に辿り着くまで、彼女にはまだまだ場を荒らして欲しい。
(お前さんは誰だい?)
 そこで逢真は黙したまま【晦冥の城国】を発動し、生き物の形をした無数の影を放つ。
 炎の明かりがあるとはいえ、夜闇の中でその姿を捉えることは至難。床を這うようにするりと足元まで忍び寄った影の獣は、仮面の戦士達から影を奪い取っていく。

「……? 俺は一体、何を……」「此処はどこだ? いや、私は……誰だ……?」
 影を奪われた仮面の戦士に目に見えるダメージはない。だが、異変はすぐさま現れた。
 己の名前を忘れた者、これまでの記憶をなくした者。主の命令や戦っていた相手の事、たった今自分が何をしていたかすら忘れ、剣を下ろす者が続出する。
(ダクセは真っ暗いでなァ、目立たンし威力もあがるだろ)
 影を奪うことで敵の名と記憶――すなわち自我を喪失させるのが【晦冥の城国】の力。
 その威力は闇が支配するこの世界において最大限に発揮され、周囲にいた全ての敵兵を忘我の域に落とし込んだ。

(一瞬でも棒立ちになりゃ、姫様が薙ぎ払ってくれるだろうよ。ひ、ひ……)
 逢真の考え通り、目の前で無防備に隙を晒した敵を『殺戮の姫君』が見逃す訳もない。
 影からの密かな援護に気付かぬまま、彼女は杖より炎の旋風を巻き起して仮面の戦士を焼き払っていく。
「消えなさい……」
 茫然自失の戦士達は炎に焼かれても悲鳴すら上げる事はなく。灰燼と化した彼らの骸を踏みつけて、姫君は館の奥へと進み――神の潜んだ黯が密やかにその後を追うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
より場をかき乱す世にも恐ろしい人物が現れた。

「こちら同族殺し急襲中の館前よりリポーターのカビパンがお伝えします!炎の旋風が強く、変な幽霊達がとても多くて、わたくし飛ばされそうです!!おや、あれは仮面の戦士でしょうか。うわダッセーアレは変人と言うより、もはや変態レベルです。多分こんな背景なんでしょう。

『この領主の屋敷に美しい少年少女が働いていた。その美貌に目が眩んだ領主は手を出してしまう。それを知った領主の愛人は嫉妬のあまり、少年少女の美しい顔に無骨な仮面をかぶせるのだった』

これ以上詳細は…あぁ~!」
リポーターによるハチャメチャな中継で現場はギャグ化し、悪逆非道な誹謗中傷が仮面の戦士を傷つけた。



「こちら同族殺し急襲中の館前よりリポーターのカビパンがお伝えします!」
 『殺戮の姫君』の襲来に猟兵の乱入。混乱の渦中にある領主の館に、より場をかき乱す世にも恐ろしい人物が現れた。彼女の名はカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)、またの呼び名を【ハリセンで叩かずにはいられない女】である。
「炎の旋風が強く、変な幽霊達がとても多くて、わたくし飛ばされそうです!!」
 ニュース番組のリポーターのつもりなのだろうか、聖杖をマイクのように握りしめて、戦場の模様を実況する。すぐ近くで敵が暴れ回っている最中にある意味大した度胸だが、自分が戦うつもりはどうやら皆無らしい。

「おや、あれは仮面の戦士でしょうか」
「むっ。なんだ貴様は!」
 実況しながら先に進んでいくカビパンリポーターの前に立ちはだかったのは、館を守護する戦士達。たとえ戦意がなかろうと侵入者は全て排除すべしと、【闇の支配者の力】を発動して襲い掛かってくる。
「うわダッセーアレは変人と言うより、もはや変態レベルです」
「へ、変た……?!」
 しかし剣を向けられようともカビパンは平常運転。歯に衣着せないにも程がある辛辣な物言いは、怒りを通り越して戦士達を脱力させる。ギャグによって環境を支配する彼女のユーベルコードが、既にこの戦場にも影響を及ぼし始めていた。

「多分こんな背景なんでしょう。『この領主の屋敷に美しい少年少女が働いていた。その美貌に目が眩んだ領主は手を出してしまう……』」
 敵の気勢が削がれたのを良いことに、カビパンは勝手に仮面の戦士の過去を空想する。
 もちろん根拠も証拠もない100%の妄想である。相手からすればとんだ風評被害に近い。
「『それを知った領主の愛人は嫉妬のあまり、少年少女の美しい顔に無骨な仮面をかぶせるのだった……』これ以上詳細は……あぁ~!」
「な、何を言っている?!」「我々にそんな事実はない!」
 喋りだすのも勝手なら、意味深なところで黙るのも勝手。まさに言ったもの勝ちの精神でトークを展開するカビパンに、敵はすっかり翻弄されていた。黙らせようとしても異様にすばしっこい彼女は炎上する館の中を逃げ回ってリポートを続ける。

「設定の詳細が気になる方は、チャンネルはそのまま! CM入りまーす」
「「待てぇーッ!!!」」
 カビパンリポーターによるハチャメチャな中継で現場はすっかりギャグ化し、悪逆非道な誹謗中傷が仮面の戦士を傷つける。もはや彼らは館の警備どころではなくなっていた。
 そうこうしている間にも『殺戮の姫君』と他の猟兵達によって領主館は荒らし回られ、状況は色んな意味で危機的状況に陥っていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
復讐目的の同族殺しというと、お父様を思い出すわね…。
彼女の罪が許されるわけではないけど、少しシンパシーを感じるわ。
領主は問答無用の下衆だけど

【ブラッディ・フォール】で「貫き通すは暗殺者の矜持」の「スペクター」の力を使用(スペクターの服装へ変化)

敵が『殺戮の姫君』に気を取られ、襲撃の対応をしているところに奇襲。
【不可視化マント】で敵及び姫君にも察知されない様に姿を隠して忍び寄り、【無音致命の一撃】で首や頭等、防具の隙間や覆われていない部分を狙って致命傷を与え、奇襲・暗殺を行い、姫君に気づかれる前に離脱を繰り返して進んで行くわ

彼女の言動や行動から、何を求めてるかヒントが得られると良いのだけど…



「復讐目的の同族殺しというと、お父様を思い出すわね……」
 故郷を奪われ荒れ狂う『殺戮の姫君』の姿に、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は同族殺しと化した父、ヴラド・レイブラッドとの戦いを思い出していた。残酷な悲劇が彼らの誇りを歪め、憎悪と狂気の化身に変えてしまったのだ。
「彼女の罪が許されるわけではないけど、少しシンパシーを感じるわ。領主は問答無用の下衆だけど」
 あの時の父のように彼女の未練にも引導を渡してやるのが、せめてもの情けだろうか。
 だが無論、邪悪なる領主にはそのような慈悲をかけるつもりはない――炎上する館内をフレミアは姫君の後を追うように進む。

「くっ、止めろ!」「これ以上先に行かせるな!」
 館を守る敵の多くは『殺戮の姫君』に気を取られ、襲撃の対応に手を焼かされている。
 その間にフレミアは【ブラッディ・フォール】を発動し、露出度の高い黒衣とマントに服装を変化させる。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
 この格好はかつてヒーローズアースで戦った女暗殺者『スペクター』のもの。服装と共に彼女らの能力を身に宿したフレミアは【不可視化マント】を起動し、敵兵にも姫君にも察知されぬように姿を隠して忍び寄る。

(誰にも気付かれていないわね)
 フレミアが纏ったマントは姿を透明にするだけでなく、特殊な超音波を放射して気配を掻き消す力も備わっている。感覚や直感に優れた者でも察知するのはほぼ不可能だろう。
 そのまま彼女は音もなく標的の背後に回ると、黒衣から現状に最適な暗器を取り出し、【無音致命の一撃】を放つ。
「が―――ッ!!!」
 同族殺しに気を取られるあまり、戦士達は暗殺者の接近にまるで気づいていなかった。
 不注意の代償は首や頭など、防具の隙間や覆われていない急所への一撃。最小限の動作で致命傷を与えられた彼らは、悲鳴すら上げられずに物言わぬ骸と化した。

「復讐を……叛逆を……」
 狂気に駆られる『殺戮の姫君』は、自身の周りに転がる不審な死体は気にも留めない。
 フレミアは彼女に気付かれないように奇襲・暗殺そして離脱を繰り返し、仮面の戦士達を排除しながら先へ進んでいく。
(彼女の言動や行動から、何を求めてるかヒントが得られると良いのだけど……)
 暗躍の合間にちらりと姫君の方に注意を向けると、彼女は炎の旋風で敵を焼きながらも何かを探すように視線を彷徨わせている。耳を澄ませてみれば火の粉が爆ぜる音に紛れ、小さな囁きが聞こえてきた。

「ここにもいない……お父様……お母様……みんな……」
 憎しみに塗れた『殺戮の姫君』の声色が、その瞬間だけは心細げな少女のようだった。
 全てをオブリビオンに奪われた亡国の姫君――彼女が本心から求めるものは復讐よりも単純かもしれない。フレミアはそんな推測を立てながら再びマントを被り、姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
今回の吸血鬼(領主)も、随分非道な相手みたいだね…。
お姫様は…多くの人達を殺めた事実はともかく、同じく故郷を滅ぼされた身としては、少し思うところはあるかな…。
もし、あの時、わたしが死んでオブリビオンになってたら…。

ミラ達を連れて参加…。
【影竜進化】で影に隠れながら潜入…。
敵がお姫様と戦ったり、対応に追われてる隙に、他の敵やお姫様に気づかれない様に、敵を一人ずつ影の異空間に引き摺り込んで分断…。
影の異空間で、わたしの剣技とミラ達のブレスや影による拘束、竜種の純粋なパワーで4人で確実に倒させて貰うよ…。
影の異空間は影竜となったミラ達が最も力を発揮できる空間だしね…。

後は姫様や館の影伝いに進むよ…



「今回の吸血鬼も、随分非道な相手みたいだね……」
 民を人形に変えて弄ぶ『倨傲の傀儡師』の所業に、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は眉をひそめる。あいも変わらず横暴なこの世界の領主の振る舞いを、彼女は絶対に許しはしない――その一方で『殺戮の姫君』に対しては複雑な感情を抱いていた。
「お姫様は……多くの人達を殺めた事実はともかく、同じく故郷を滅ぼされた身としては、少し思うところはあるかな……」
 単なる同情心ではない。オブリビオンに故郷も愛する人も全てを奪われ、復讐の念から『同族殺し』と化した姫君の境遇は、あり得たかもしれない自分の末路とも重なるのだ。

「もし、あの時、わたしが死んでオブリビオンになってたら……」
 猟兵として誰かを救うためではなく、復讐の怨念に取り憑かれてオブリビオンを殺す、幽鬼と化した自分をふと想像する。それは考えるだけでも背筋が冷たくなる悪夢だった。
「きゅ~」
 そんな璃奈を心配するように、3匹の仔竜がすり寄ってくる。ミラ、クリュウ、アイ、それに屋敷で帰りを待つ仲間達――今の彼女には新しい家族がいる。もし『同族殺し』になる可能性があったとしても、それは既に過ぎ去った道だ。

「ありがとう、みんな……お願い、わたしに力を貸して……」
 感謝の言葉と共に璃奈が【呪法・影竜進化】を発動すると、3匹の仔竜は闇色の影竜に進化を遂げる。その力を用いて彼女らは影に潜航し、姿を隠しながら領主館に潜入する。
(敵はお姫様の対応に追われてるみたい……)
 影の中から外の様子を覗えば、館内は既に火の海と化しつつあった。火災の旋風を巻き起こす『殺戮の姫君』との戦いに多くの戦士が駆り出され、警備には混乱が生じている。こちらが付け入る隙はいくらでもあった。

「ええい、忌々しい『同族殺し』め……うおッ!?」
 璃奈と影竜達は誰にも気付かれないように接近すると、仮面の戦士の1人を影に引きずり込む。『殺戮の姫君』との戦いに集中していた相手は突然何をされたのかも分からず、暗闇の中で困惑の声を上げる。
「影の異空間にようこそ……」
 待ち構えていた璃奈はすかさず魔剣で斬りかかり、ミラ達がブレスで彼女を援護する。
 不意を突かれた敵は反撃する暇もなく、仲間に最期を知られる事すらないまま、影の中でその命を終えた。

「ここは影竜となったミラ達が最も力を発揮できる空間だしね……」
 1人目を仕留めた璃奈達は、その後も同じように敵を1人ずつ影の異空間に引き込み、分断と各個撃破を行う。仮面の戦士達も腕に覚えがある者揃いだが、地の利を得た影竜に敵うものではなかった。
「っ、動けん?!」「は、放せ……ぐあああぁっ!!?」
 ある者は影の鎖による拘束を受け、またある者は竜種の純粋なパワーに捻り潰され。
 確実に倒せる状況を作った上での4人の攻勢に、仮面の戦士達は為す術もなかった。

「な、何だ……何が起きている?!」
 気が付けば館内で戦っている戦士の数はまばら。『殺戮の姫君』に殺された数よりも、ずっと多くの仲間が忽然と姿を消している事実に、残された仮面の戦士達は震え上がる。
 恐怖の暗殺劇を繰り広げた当の璃奈達は、その時にはすでに姫君や館内の影を伝って、館の奥へと進んでいたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
貴女が探しているのは仇か大切な人か…一体どちらなのかしらね

UCを発動して全身を残像のように存在感を消す呪詛のオーラで防御して覆い、
周囲の索敵から逃れ気配を絶って同族殺しの後を追い戦闘知識を蓄えておく

…炎の風に、霊の召喚。なるほど、そう動くのね

同族殺しには手出しせず第六感が危険を捉えたら離脱するように心掛け、
同族殺しの攻撃で集団戦術を乱した敵の死角から切り込み、
呪詛で五感を切断し体勢を崩した敵の首を大鎌でなぎ払い仕留めて回るわ

…人を傀儡にする人形使いと主に盲目的に尽くす仮面の戦士、ね

あまり愉快な想像では無いけれど…敵が何であれ私の為す事に変わりはない

…せめて痛みを知る事なく終わらせてあげるわ



「貴女が探しているのは仇か大切な人か……一体どちらなのかしらね」
 亡霊と炎を引き連れて館の中を彷徨う『殺戮の姫君』を見つめ、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はぽつりと呟く。狂気に衝き動かされながらも何かを探し続ける、あの姫君の心情は杳として知れない。
「……我が身を覆え、陽炎のごとく」
 ともあれ今は標的にされる訳にもいかない。【吸血鬼狩りの業・隠形の型】を発動し、陽炎の呪詛を纏ったリーヴァルディは残像のように存在感を消して同族殺しの後を追う。

「罪を償いなさい……」
 気配を絶ったリーヴァルディの追跡に気付かぬまま『殺戮の姫君』は魔導杖を掲げる。
 すると杖先にかけられたランタンから青い炎が溢れ出し、荒れ狂う火災の旋風となって敵陣を焼き払っていく。
「ぐおぉッ!?」「お、おのれ……!」
 仮面の戦士達も反撃を試みるが、姫君の元には行かせまいとするように、騎士団と竜の亡霊が立ちはだかる。彼らの武具や炎の吐息には魔力が宿っているようで、並みの戦士を遥かに超える練度と威力をもって敵を討ち滅ぼしていく。

「……炎の風に、霊の召喚。なるほど、そう動くのね」
 苛烈で容赦ない『殺戮の姫君』の戦いぶりを、リーヴァルディは静かに観察していた。
 いずれ倒さねばならぬ相手である以上、今のうちに戦闘知識を蓄えておいて損はない。
 今はまだ手出しするつもりは無いが、無差別攻撃に巻き込まれぬよう、危険を感じたら即座に離脱できるように第六感は研ぎ澄ませておく。
「……さて、見ているだけという訳にもいかないわね」
 同族殺しが派手に暴れているお陰で敵集団の戦術は大きく乱れている。この機に乗じて彼女は漆黒の大鎌"過去を刻むもの"を手に戦場を回り込み、敵の死角から切り込んだ。

「なんだ……ッ?!」
 リーヴァルディを覆う陽炎は周囲の索敵から逃れる術であり、さらに反転する事により敵を幻惑して五感を封じる呪いとなる。不意を突かれた仮面の戦士の視界は歪み、戦いの喧騒は遠ざかり、足元の感覚すら覚束なくなる。
「……人を傀儡にする人形使いと主に盲目的に尽くす仮面の戦士、ね」
 前後不覚に陥った敵を前にして、リーヴァルディは彼らが領主に仕える理由を考える。
 領民のことを玩具のように弄ぶ残忍な領主が、配下だけは特別扱いするとは思えない。異常なほどの彼らの忠誠心を鑑みれば、何らかの洗脳を疑うのは自然な思考だろう。

「あまり愉快な想像では無いけれど……敵が何であれ私の為す事に変わりはない」
 相手が五感切断の呪いから立ち直る前に、リーヴァルディは大鎌をすっと振りかぶる。
 幾度となく吸血鬼や眷属を討ち取ってきたその所作に淀みはなく。揺らめく陽炎を纏った刃が、不可視の斬撃を描く。
「……せめて痛みを知る事なく終わらせてあげるわ」
 慈悲の一閃は過たず敵の首をなぎ払う。死の苦痛も、断末魔の悲鳴も、そこにはない。
 仮面を被った頭部が音もなく床に落下し、後を追うように胴体がばたりと倒れ込んだ。

「……次ね」
 そのままリーヴァルディは隠密裏に戦場を駆け、仮面の戦士を1人ずつ仕留めて回る。
 誰にも気付かれぬまま大鎌を振るい生命を刈り取る黒衣の少女。それは伝承に語られる死神の如き戦いぶりであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

アニマネーラ……その名前と素性を聞いた時、言い知れぬ戦慄を感じた
初めて聞く名前なのに、心の奥に染み付いて離れない黒く悍ましい予感
わたくしの中で何かが囁く
「必ずや己が手で貴奴を討て」と

そして「殺戮の姫君」
かつてのわたくしと似た境遇の彼女に思うところがないわけではない
それでも……いいえ、だからこそ
彼女を縛る負の因果は断ち切らなければいけないわ

今は姫君に対しては不干渉
自分たちの目の前の敵に集中しましょう

祈り込め歌う【涙の日】
ヴォルフや仲間には優しき癒しの光を
敵には神罰の光輝を放ち
闇のオーラを浄化し打ち払う

この奥に控えるのが「全ての元凶」ならば
「彼女の悲劇」は二度と繰り返さないわ


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

アニマネーラの悍ましき所業、そして姫君の境遇……
それらはヘルガの辛い過去とも重なる
お前の想いを俺は否定しない
だが、お前ももう分かっているだろう
人々の平和のため、そして「彼女のため」に、今俺たちが何を成すべきかを

敵の軍勢をある程度姫君が引き受けてくれるのならば好都合だ
強力なオブリビオンならば自分の身は自分で守れるだろう
……その力で無辜の民まで手にかけたのは皮肉な話だが

【獄狼の軍団】を召喚
命中率低下の影響を受けても、複数の狼犬で取り囲んで退路を断てばある程度は補える
狼犬とも連携して、鉄塊剣をなぎ払い、限界突破の力を込めた鎧砕きの一撃を叩き込む
ヘルガの浄化で闇のオーラを霧散できれば盤石だ



「アニマネーラ……」
 その名前と素性を聞いた時、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は言い知れぬ戦慄を感じた。初めて聞く名前なのに、心の奥に染み付いて離れない黒く悍ましい予感。それが何なのか説明するのは難しいが、一つだけはっきりしている事がある。
「わたくしの中で何かが囁くの……『必ずや己が手で貴奴を討て』と」
 運命か、あるいは宿縁か。避けては通れぬ敵との戦いが、この先で彼女を待っている。
 彼女の騎士にして夫であるヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は、食い入るように領主の館を睨むその横顔を、案じるように見つめていた。

「そして『殺戮の姫君』。かつてのわたくしと似た境遇の彼女に思うところがないわけではないわ」
 愛しき騎士にヘルガはなおも胸の内を明かす。生まれ故郷をオブリビオンに滅ぼされたのは彼女も同じ。追われる自分をヴォルフガングが救ってくれなければ、あの姫君のような復讐の亡霊と化していた可能性も否定はできない。
「お前の想いを俺は否定しない」
 アニマネーラの悍ましき所業、そして姫君の境遇――それらはヘルガの辛い過去とも重なる事にヴォルフガングも気付いていた。この依頼は彼女に古傷の痛みを思い出させる事になるかもしれない。寄り添ってきたからこそ、彼女の気持ちは理解しているつもりだ。

「だが、お前ももう分かっているだろう。人々の平和のため、そして『彼女のため』に、今俺たちが何を成すべきかを」
 隣にいる儚げな女性がもう、守られるだけの姫ではないことをヴォルフガングは知っている。自分達は猟兵としての使命を背負い、此処に居る。その意味と責任を問われると、ヘルガも静かに頷いた。
「どんなに彼女の過去が辛くても、それでも……いいえ、だからこそ。彼女を縛る負の因果は断ち切らなければいけないわ」
 目蓋を閉じて、再び開いた時、ヘルガの瞳には迷いなき決意が宿っていた。民を虐げる残忍なる領主も、復讐に狂える同族殺しも、今宵此処で討つ――そのために自分は来た。

「敵の軍勢をある程度姫君が引き受けてくれるのならば好都合だ。強力なオブリビオンならば自分の身は自分で守れるだろう」
 領主の館に突入したヴォルフガングは、最前線で警備の兵士達と戦う『殺戮の姫君』の様子を見る。既に何十もの敵を相手にしているのに彼女が操る炎の旋風の勢いは衰えず、引き連れた亡霊騎士団も今だ健在である。
「……その力で無辜の民まで手にかけたのは皮肉な話だが」
「今は姫君に対しては不干渉。自分たちの目の前の敵に集中しましょう」
 敵兵の多くは姫君を抑えるために動員されているが、猟兵に向かう者も皆無ではない。
 仮面を被った戦士の一団がこちらに近付いてくるのに気付き、ヘルガが警告を発した。

「主の元へは通さぬ……」「同族殺し共々ここで散れ、猟兵!」
 禍々しき【暗黒星雲の力】を、或いは主より賜りし【闇の支配者の力】を全身に纏い、侵入者を撃滅せんと襲い掛かる仮面の戦士達。彼らも相当追い詰められているのだろう、決死の覚悟で猟兵達を食い止める構えだ。
「忌まわしき魍魎共よ、己があるべき場所へと還れ! 何者も地獄の番犬の顎門から逃れる術は無いと知れ!」
 対するヴォルフガングは【獄狼の軍団】を召喚し、群には群で迎え撃たんと号令する。
 地獄の炎を纏った狼犬の群れは、蒼き狼騎士の指揮に従って、敵の軍団に牙を剥いた。

(命中率低下の影響を受けても、複数の狼犬で取り囲んで退路を断てばある程度は補える)
 群れでの狩りは狼の得意とするところ。獄狼達は闇のオーラを纏った敵を包囲すると、手足を狙って噛み付いた。深手を負わせずとも動きを鈍らせる事ができれば、リーダーの一撃が獲物を仕留めると分かっているのだ。
「道を開けて貰うぞ!」
「ぐぁ……ッ!!!」
 狼犬が食らいつけば、すかさずヴォルフガングが限界を超えた力で鉄塊剣をなぎ払い、鉄の鎧もろとも敵を叩き斬る。両断と言うよりは粉砕と言うべきその破壊力は、忠義篤き戦士達さえも思わず震え上がるほどたった。

「主よ。御身が流せし清き憐れみの涙が、この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ、善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……」
 前線で戦う騎士と獄狼達を支えるのは、ヘルガが奏でる【涙の日】。祈りを込めた静謐なる聖歌が、夜闇の戦場に優しき癒しの光を呼び込み、仲間達に治癒を与え続けていた。
「ッ……なんだ、この光は!」「我らの闇が!?」
 味方を癒やす白き慈愛の光は、敵対者に対しては邪気を打ち払う眩き裁きの光となる。
 神罰の光輝を受けた戦士達からは闇のオーラも吸血鬼の加護もかき消され、闇に堕ちた身体はその眩さに耐えられず朽ちてゆく。彼らの主人である吸血鬼と同じように。

「これで盤石だ」
 ヘルガの浄化の力が闇のオーラを霧散させたのを見ると、ヴォルフガングは一気呵成に攻撃を仕掛ける。命中率低下の効果も失われた今、敵軍に彼の鉄塊剣を防ぐ手段はない。
「ば、馬鹿な……ッ!」「ぐあぁぁぁっ!!!」
 獄狼の軍団と共に攻め上がる狼騎士によって、仮面の戦士は次々に撃ち倒されていく。
 たとえ傷を負ったとしても、自分には聖歌姫の癒しがついている。愛する者への信頼が攻撃への迷いや不安を払拭し、この怒涛の攻勢を可能にしているのだ。

「この奥に控えるのが『全ての元凶』ならば、『彼女の悲劇』は二度と繰り返さないわ」
「ああ。必ずや断ち切ってみせよう、俺達の手で」
 敵の防衛線を突破したヘルガとヴォルフガングは、まっすぐに館の奥へと駆けていく。
 ――胸の奥で激しさを増すざわつきが、宿命の敵との対峙が近いのだと訴えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『倨傲の傀儡師』アニマネーラ』

POW   :    楽しいでしょ? 気に入らない奴をぶっ殺すのはさ!
対象の【精神】に【他の猟兵や民衆の破滅と殺戮を好む残虐性】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[精神]を自在に操作できる。
SPD   :    さあ、愛に満ちた『楽しい人形劇』が始まるよ!
戦闘用の、自身と同じ強さの【敵と縁の深い故人の死体を用いた屍人形】と【無辜の民の記憶と自我を奪い操る生き人形】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    君には勿体ないよ。僕がもっと上手く使ってあげるね
戦闘中に食べた【敵や他者から奪い取った記憶や魂】の量と質に応じて【奪った記憶や知識、経験を我が物とし】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。

イラスト:エンドウフジブチ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はヘルガ・リープフラウです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「これは千客万来と言うのかな? 家を燃やすのは止めてほしいんだけどな」

 仮面の戦士を打ち倒し、館の奥に向かった猟兵達を待っていたのは若き貴族であった。
 宝石の如き瑠璃色の角に、褐色の肌と整った美貌。少年とも少女ともつかぬ見目麗しき若者だが、子供のように浮かべる笑みには邪悪な本性が滲み出している。

「勝手に僕の人形を壊すような無礼者なんて、今すぐぶっ殺してもいいんだけど。一応、名乗っておこうか。僕の名はアニマネーラ。『倨傲の傀儡師』のほうが格好いいかな?」

 虫けらを見るような眼差しで一同を見回しながら、領主――アニマネーラは名乗った。
 それに反応を示したのは、猟兵達と同時にここまで辿り着いてきた『殺戮の姫君』だ。

「アニマネーラ……そう、貴方が……」
「おやおや? 君、僕の知り合い?」

 激しい殺意の籠もった視線で睨みつけられたアニマネーラは、きょとんと首を傾げる。
 うーん、とわざとらしく頬に指をあてて考える素振りをするものの、心当たりなど全くないという態度だ。

「その格好はどこかのお姫様かな? もしかしてあの国の? いや、あっちの国かな? うーん、わかんないや。家畜どもの顔や出身なんていちいち覚えてないもんね」

 姫君の杖から青い炎が燃え上がる。それでも彼は相手を小馬鹿にした態度を崩さない。

「ねえ君、名前はなんて言うの? 家族の名前は? 住んでた国はどこ? ……あはっ、ごめんごめん、覚えてないよね! イカれた『同族殺し』が過去の記憶なんてさぁ!!」

 悪辣に、残忍に、酷薄に。狂気ゆえに名前すら失った『殺戮の姫君』を、彼は嘲笑う。
 オブリビオンに全てを奪われ破滅した彼女の有様を、この領主は心の底から享楽として愉しんでいた。

「お父様、お母様、皆……どうか見ていて下さい……今こそ叛逆の時です……!」
「ははははは! "みんな"の顔すら覚えてないだろうに、よく言うよ! 復讐だって? いいとも、身に覚えはないけど相手してあげるよ!」

 臨戦態勢を取る『殺戮の姫君』と『倨傲の傀儡師』。
 この二者が何れも強大なオブリビオンである事は疑いようがない。だからこそ、彼らが相打つこの時に、猟兵達が付け入る好機がある。

「君達もかかってきなよ! みんな纏めてゴミ箱に捨ててあげるからさ!」

 まずは、この地を支配する邪悪なる領主――『倨傲の傀儡師』アニマネーラを討つ。
 標的を定めた猟兵達は戦闘態勢を取り、領主館での戦いは三つ巴の段階に突入した。
フレミア・レイブラッド
あら。性格最低のゴミがゴミ箱だなんて、シャレが利いてるわね。
貴方には名乗る価値すらない

【ブラッディ・フォール】で「誇り高き狂気」の「ヴラド・レイブラッド」の力を使用(マントに魔剣を携えた姿)。
【平伏す大地の重圧】と不可視の【サイコキネシス】【念動力】で姫君の視界に入らず、遠距離から援護。
重力や念で敵を抑えつけたり、念で思う様な行動を取らせない等。

更に敵が記憶を奪って強化しようとしたら、【魔弾タスラム】を発動。
奪った記憶とついでに、皮肉にも嘲笑った相手同様、過去のくだらない記憶を消して失くしてあげるわ。

わたしの能力と随分と相性が良かったみたいね。それじゃ、さようなら♪
(【ブラッドオーガ】で一撃)



「あら。性格最低のゴミがゴミ箱だなんて、シャレが利いてるわね」
 残忍にして悪辣なる『倨傲の傀儡師』に、フレミアは敵意を隠さず皮肉を返す。普段は敵であれ見所のある者に一定の敬意を払う彼女だが、この貴族はそれに値しないようだ。
「貴方には名乗る価値すらない」
「おやおや、嫌われたものだね。まあ僕も知りたくもないけど」
 奇怪な黄金杖を振り回し、アニマネーラは嘲笑する。この不快極まる敵を排除するために、フレミアは再び【ブラッディ・フォール】を発動――威厳ある貴族のマントを纏い、紅い刀身の魔剣を手元に出現させる。

「力を借りるわ、父様」
 その装束と武器はフレミアの父「ブラド・レイブラッド」の物。かつては誇り高き大公でありながら、全てを奪われ復讐の鬼と化した『同族殺し』の力。眼前の悪鬼を討つのにこれ以上ふさわしい業もそうはあるまい。
「平伏しなさい」
「おやっ??」
 フレミアが視線に魔力を込めてきっと睨みつけると、【平伏す大地の重圧】がアニマネーラを床に押しつける。父の術による超重力に、娘自身の【サイコキネシス】の念動力も加えた拘束だ。すぐには立ち上がる事すらできぬはず。

「罪を償いなさい……!」
「あっつ!!?」
 不可視の重力と念力に抑えつけられたアニマネーラを襲うのは、『殺戮の姫君』が放つ火災の旋風。復讐の意志を体現した灼熱の業火が、動けない怨敵を容赦なく焼き焦がす。
 フレミアはその光景を視界に収めながら、姫君の視界に入らず遠距離から援護を行う。下手に近づけば自分もあの炎に焼かれかねないため、前は彼女に任せるのが賢明だろう。
「熱いじゃないか! 僕の家で火遊びする悪い子には……こうだ!」
 思う様に動けぬまま炎で焼かれるのは流石に不快だったか、顔をしかめたアニマネーラは片膝をついて身体を起こすと、魔杖の先端を姫君に突きつける。彼は精神操作に長けた傀儡師だ――『殺戮の姫君』からも過去の記憶を奪い取るつもりか。

「君が復讐する理由を忘れさせてあげる。そうすればもう戦えないよね?」
 全てを奪った挙げ句に復讐心までも剥奪し、自らの糧にせんとする『倨傲の傀儡師』。
 だが。その劣悪極まる所業を許さぬと、フレミアが【紅魔弾タスラム】の構えを取る。
「紅き魔弾は全てを侵し、狂わせ、破滅を与える……滅びなさい」
 己が身に宿る真祖の魔力を、魔槍ドラグ・グングニルに集束させ、超高速で射出する。
 幻惑の霧の中より放たれたその一撃は、姫君の記憶に手をかけようとした傀儡師の胸を過たず撃ち抜いた。

「ぐっ……なに、これ……?」
 真紅の魔弾は標的に物理的破壊だけではなく、記憶消去や意識・認識攪乱等の状態異常を与える。衝撃でひっくり返ったアニマネーラの目は、夢現の様子でぼんやりしていた。
「奪った記憶とついでに、過去のくだらない記憶を消して失くしてあげるわ」
 糧となる記憶を消してしまえばユーベルコードの強化は発動しない。さらに真祖の魔力はウイルスのように対象の心身を侵食し傀儡師自身の記憶まで破壊していく。それは皮肉にも彼が嘲笑った相手と同様に。

「ぼ、僕の記憶を消したのか……お前ッ!!」
 享楽の記憶を消されたアニマネーラは、それまでの態度を一変させ激しい怒りを示す。
 が、彼の心身はその怒りに追いつかず、地面に這いつくばったまま。傀儡師の無様な姿を見下ろして、フレミアは皮肉たっぷりに笑みを浮かべる。
「わたしの能力と随分と相性が良かったみたいね。それじゃ、さようなら♪」
 記憶という同じ要素を操る能力であれば、より力に優れる者が勝るは道理。格の違いを見せつけた彼女は【鮮血魔剣・ブラッドオーガ】を振りかぶり、渾身の一撃を叩き込む。

「―――……ッ!! ちょ、ちょっと油断しすぎたかな……?」
 大公の剣に超圧縮された魔力の一撃が、アニマネーラの身体を斬り裂き、吹き飛ばす。
 それでも彼は体勢を立て直して余裕の態度を取るものの、刻まれた傷の深さと出血量を見れば、ただの強がりである事は一目瞭然だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)ひひ、元気で自分に正直なおちびさんだ。子供らしくていいこった。マ・そォして無邪気無慈悲無責任に遊び回ったンだ、大人に叱られるのも子供の特権というものさ。一度死んだンだし、もういちど死ぬくらい大したこっちゃなかろ? 俺の精神をいじるなら、お好きにどォぞ? ただし、俺に"こころ"なぞ無いがね。ヒト真似さ。殺戮の上の平和、救済の末の破滅。残虐ってなァ、よくわからん。ヒトみてェな感情は俺にないのさ。
行動)。蜘蛛ども、影を渡り奴(*やっこ)さんの足に糸を巻け。集中的に狙え。爆破してもいいし操ってもいい。鬱陶しがらせて注意を引け。そォすりゃ姫様がイッパツ入れてくれるさ。主賓はそっちだ。



「ひひ、元気で自分に正直なおちびさんだ。子供らしくていいこった」
 我儘で残忍で他人を見下しきっている、始末に負えない悪餓鬼のような相手を見ても、逢真は気分を害したふうもなく笑っている。幾星霜の時を生きた神にとって、この程度の無礼はまさに子供のやんちゃに過ぎないということか。
「マ・そォして無邪気無慈悲無責任に遊び回ったンだ、大人に叱られるのも子供の特権というものさ」
 分別を知らぬ子供はいつか報いを受けるもの。今回の場合それを教えるのは彼となる。
 夜遊びの時間はもう終い。病と毒と死を以って、オブリビオンを骸の海に送り還そう。

「一度死んだンだし、もういちど死ぬくらい大したこっちゃなかろ?」
「いやだね。おじさんの方こそ死んじゃえばいいよ!」
 内なる悪意と残虐性を隠そうともせず、アニマネーラは黄金の杖を逢真に突きつける。
 その先端に取り付けられた瑠璃水晶を怪しく輝き、戦場を照らす。彼は他者の精神にも自分と同じ残虐性を植え付けるつもりだ。
「楽しいでしょ? 気に入らない奴をぶっ殺すのはさ!」
 狙いは猟兵達の同士討ち。自らは手を汚さずに他人を操って殺戮を行わせる、傀儡師の真骨頂とも言える力。心持つ存在である限り、誰も彼の魔の手からは逃れられない――。

「俺の精神をいじるなら、お好きにどォぞ? ただし、俺に"こころ"なぞ無いがね」
「………は?」
 だがアニマネーラのユーベルコードを受けても、逢真は平然と微笑を浮かべたままだ。
 本人の言葉通り、彼に一般的な人間や生物と同じ意味での「心」はない。"神の御心"とはよく言うが、それは定命の者達とは性質を異にするものだ。
「ヒト真似さ。殺戮の上の平和、救済の末の破滅。残虐ってなァ、よくわからん。ヒトみてェな感情は俺にないのさ」
「な、な……そんなの、ズルいじゃないか!」
 これまで心を操れなかった者など居なかったのだろう。アニマネーラの動揺は激しい。
 何度も杖をかざして洗脳をかけようとするが、病毒の神が彼の意に従う事はなかった。

「蜘蛛ども、影を渡り奴さんの足に糸を巻け。集中的に狙え」
 無為な試みに執着する愚かな子供へと、逢真は【救済の蜘蛛】を遣わせる。影の中からゆらりと滲み出るように喚ばれた化け蜘蛛の群れは、命令のまま一斉に糸を吐きかける。
「っ?! なんだよこれ、気持ち悪いっ」
 両足に絡みついた糸をアニマネーラは振りほどこうとするが、見た目よりずっと強靭で切れない。そのまま化け蜘蛛達は糸を通じて自らの魔力や仔蜘蛛を彼に送り込んでいく。

(爆破してもいいし操ってもいい。鬱陶しがらせて注意を引け)
 化け蜘蛛の仔らは標的に触れると自爆し、流し込まれた魔力は標的の肉体を操作する。
 特に傀儡師であるアニマネーラにとって後者の効果は屈辱的だろう。逢真の意の侭にはなるまいと、全力で抵抗しているのが分かる。
「痛っ……このっ、ゴミクズが僕を操ろうだなんて、一万年早いよ……!」
 足に集中する爆破によろめきながらも、ぐっと四肢に力を込めて耐えるアニマネーラ。
 だが――そうやって抵抗にばかり専念させる事が、逢真の狙いだとは気付いていない。

「そォすりゃ姫様がイッパツ入れてくれるさ。主賓はそっちだ」
「―――ッ?! しまっ」
 ひひひと笑う逢真の言葉に、アニマネーラがはっと目を見開いた直後。山火事のような業火の嵐が吹き荒れ、敵を呑み込んだ。この場で戦っているのは領主と猟兵だけではない――同族殺したる『殺戮の姫君』も、復讐の機会を眈々と伺っていたのだ。
「燃えよ、燃えよ……その罪とともに……」
「あ、ぐぁ……このっ、クズ共めッ!!!」
 復讐の炎に焼き焦がされた『倨傲の傀儡師』は、己に逆らう者達に怒りの罵声を放つ。
 その醜態からじっと目を離さぬまま、疫神は蜘蛛達に囲まれて静かに笑い続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
敵UCの精神属性攻撃を限界突破した殺気による狂気耐性と、
「吸血鬼狩りのペルソナ」の疑似人格で精神干渉を浄化して受け流し、
早業のカウンターで「黄金の楔」を投擲して敵を捕縛しUCを発動

…私の心を操ろうとした者には皆、相応の報いを与えてきた

…だけど、今回はお前を討つのに相応しい相手が他にもいるみたいだからね

…ここは譲ってあげるわ、同族殺し。見事、復讐を果たしてみせなさい

瞬間的に吸血鬼化を行い血の魔力を溜め時間の精霊を召喚
同族殺しに降霊した後、強化した攻撃に巻き込まれないように離脱する

召喚した霊達に憑依させれば術の代償はゼロにできるけど…
猟兵として世界の敵である貴女にそこまで肩入れする訳にはいかない



「ははっ、楽しい? 楽しいでしょ? 気に入らない奴をぶっ殺すのはさ!」
 傷を負ったアニマネーラは皮肉たっぷりの笑みを浮かべながら、猟兵達を睨みつける。
 自分と貴様らとで一体何が違うのかとでも問いたげに、彼は猟兵達にも破滅と殺戮を好む残虐性を植え付け、味方同士での殺し合いに駆り立てようとする。
「……お前と一緒にされるのは不快ね」
「っ……痛っ!?」
 だが、彼のユーベルコードは矢のような速さで飛んできた「黄金の楔」に止められる。
 それを投擲した人物――吸血鬼狩人のりーヴァルディは、殺気の籠もった冷徹な眼光で敵を睨みつけていた。

「……私の心を操ろうとした者には皆、相応の報いを与えてきた」
 傀儡師に精神干渉を仕掛けられようと、リーヴァルディが殺意の対象を過つ事はない。強固な狂気耐性と戦闘用の疑似人格「吸血鬼狩りのペルソナ」により干渉は受け流され、浄化される。敵がしたことはただ彼女の逆鱗に触れただけだ。
「……だけど、今回はお前を討つのに相応しい相手が他にもいるみたいだからね」
「ッ……お前、まさかッ!」
 その一言でアニマネーラも彼女の狙いを理解しただろう。しかし体に突き刺さった黄金の楔は形を変え、標的を捕縛する超高度の拷問具と化す。身動きを封じられた吸血鬼の元に襲い掛かるのは、復讐に燃える『殺戮の姫君』だ。

「……ここは譲ってあげるわ、同族殺し。見事、復讐を果たしてみせなさい」
 視界に入らない位置から声をかけ、リーヴァルディは【限定解放・血の刹那】を発動。
 瞬間的に吸血鬼化を行い、血の魔力を触媒にして時間の精霊を同族殺しに憑依させる。
「……限定解放。時よ止まれ、汝はいかにも美しい」
「―――今こそ、叛逆の時ッ!!」
 降霊を完了させてリーヴァルディが離脱した直後、『殺戮の姫君』の動きが加速する。
 身振りだけでなく呪文の詠唱やユーベルコードの発動速度まで。時を加速させて神速の超高速攻撃を可能とする、それがこの精霊の憑依効果だ。

「なんだよ、こいつ速すぎる……!!」
 時の精霊に憑依された『殺戮の姫君』は黄金のナイフを抜き放ち、怨敵を斬りつける。
 拘束されている事を差し引いても、その攻撃は余りにも速く避けられるものではない。切り裂かれた傷口を抉るように炎の旋風が戦場に吹き荒び、亡霊軍団が襲い掛かる。
「罪を……償いなさい……!」
 その圧倒的な猛攻と引き換えに、姫君の肉体は悲鳴を上げていた。強制的な時間加速の負担は大きく、被術者の生命力を損なう諸刃の剣である。だが彼女は血管が千切れようが骨が砕けようが構わぬとばかりに、配下と共に敵を攻め続ける。

「召喚した霊達に憑依させれば術の代償はゼロにできるけど……猟兵として世界の敵である貴女にそこまで肩入れする訳にはいかない」
 リーヴァルディは攻撃に巻き込まれない距離から強化した姫君を見つめ、冷静に呟く。
 仇を討ちたい意志は理解するが、彼女もまた倒さねばならぬオブリビオンである以上、ここで命を削らせて領主と相打ちに近い状況に持ち込めれば僥倖だろう。
「バカなやつ……そこまでして僕を殺したいのかいっ?!」
「復讐を遂げる為なら、この生命、惜しくなど……!」
 彼女と時の精霊に導かれて、同族殺しは加速を続ける。焦りを滲ませるアニマネーラの叫びになど耳を貸さず、ここで燃え尽きても本望とばかりに業火を燃え上がらせて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
1章に引き続き、【影竜進化】で影の中に潜む形で接敵…。
敵がお姫様や他の猟兵に気を取られてる隙を突いて、影の中から奇襲で呪力の縛鎖で動きを封じたり、【呪殺弾】を放ってお姫様や他の猟兵を支援…。

敵に完全に存在を知られた後は、影の中の異空間で【unlimitedΩ】を発動…。
ミラ達と共に部屋内の影から影へ渡り歩き、影の中から終焉の魔剣による奇襲を仕掛け、終焉の呪いで侵食…。
動けなくした敵を【神滅】により力の核を斬り捨て、その力を奪うよ…。

これまで、その力で随分と好き放題やってきたみたいだけど…その力、奪わせて貰うよ…。
オマエにはこれ以上何も奪わせない…。
オマエに操られる人達(人形)も解放する…



(敵はお姫様や他の猟兵に気を取られてる……)
 【影竜進化】した仔竜たちと共に館の奥まで辿り着いた璃奈は、そこで繰り広げられる領主と同族殺しと猟兵の戦いを影の中から観察していた。想定を大きく超える同族殺しの執念と猟兵達の実力により、敵はどうやら押され気味の様子だ。
(仕掛けるなら、今……)
 潜伏したまま呪文を唱えると影の中から呪力の鎖が飛び出し、敵の足元を縛り上げる。
 体勢を崩したアニマネーラが「なっ?!」と叫んだ直後、『殺戮の姫君』が放った炎が彼にクリーンヒットした。

「あっつつつつ!! この鎖、どこから……?」
 炎の旋風から逃れようと縛鎖を引きちぎるアニマネーラ。だがそこに追い打ちをかけるように、今度は呪力を固めた呪殺弾が飛んでくる。当たれば呪いは吸血鬼の肉体を蝕み、死に誘うだろう。
「危なっ……誰か、影に隠れているんだろう!」
 辛くもそれを躱したアニマネーラは、影に向かって叫ぶ。流石に二度目となれば奇襲の出元にも気付いたらしい。彼は残忍で邪悪だが愚かではない――影の中に潜伏する魔法やユーベルコードにも覚えがあったのだろう。

「完全に存在を知られたね……でも、問題ない……」
 たとえ気付かれたとしても容易に対処できるものではない。璃奈はミラ達と共に屋内の影から影へと渡り歩きながらユーベルコードを発動し、魔剣・妖刀の現身を顕現させる。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……! 『unlimited curse blades 』……!!」
 影の中から放たれる無数の魔剣による奇襲は、不意を突きアニマネーラを攻め立てる。
 それだけに集中できるならまだしも、今の彼は『殺戮の姫君』の攻撃にも気を配らなければいけない。その状況で何処の影に璃奈達が潜んでいるかを見破るのは不可能に近い。

「このっ、隠れんぼなんてズルいじゃないか!」
「オマエに言われる筋合いはない……」
 己の所業を棚に上げたアニマネーラの非難を取り合わず、璃奈は魔剣の斉射で応じる。
 命中した刃は先程の呪殺弾を超える"終焉"の呪力をもって標的を侵食し、生命と力をじわじわと奪っていく。ヒット数が増えるたびにその影響は顕著となるはずだ。
「くそっ……この僕が、踊らされているなんて……」
 心は屈辱に震えても、体がそれに追随しない。蓄積する呪いに耐えかねてアニマネーラががくりと膝を突くと、璃奈はとどめの一太刀を見舞うべく影の異空間より姿を現した。

「これまで、その力で随分と好き放題やってきたみたいだけど……その力、奪わせて貰うよ……」
 不死殺しの妖刀・九尾乃神太刀を抜き、璃奈が取るのは【妖刀魔剣術・神滅】の構え。
 莫大な呪力をその刃に籠め、同時に飛躍的に強化された身体能力をもって駆け出せば、彼女の身は一陣の風となって標的に肉迫する。
「オマエにはこれ以上何も奪わせない……」
「―――ッ!!?!」
 神速の域に達した斬撃があらゆる防御も回避も突破して、アニマネーラを斬り捨てる。
 だが、その攻撃は彼の肉体には傷一つ付けなかった。【神滅】が絶つのは物体ではなく力の核や根源といった概念。傀儡師の傀儡師たる所以を魔剣の巫女は奪ったのだ。

「オマエに操られる人達も解放する……」
「君は、最初からそれが目的で……ッ!!」
 身体の中からごっそりと何かが抜け落ちたような脱力感に襲われ、アニマネーラは立ち上がることもできない。これまで数多の民を苦しめ、悲劇を引き起こしてきた傀儡師としての能力――彼がそれを十全に奮える事は二度とないだろう。
「よくも……よくも僕の人形をッ!」
 人形を操るのも新たな人形を作り出すのも至難となった『倨傲の傀儡師』は、憎悪に満ちた眼光で璃奈を睨みつける。だがそれは因果応報の逆恨みに過ぎないと、見下ろし返す彼女の瞳には冷ややかな感情が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『同族殺し』の攻撃が此方に…悪趣味なれどその力は確かなようですね
次は私を操って死闘の見物という趣向ですか

ですが、少々甘かったようですね

精神干渉に乗じUCで逆襲
膨大な悪性情報流し込み、敵の脳細胞を焼き切って破壊

術の維持どころか歩行も困難な程に“焼けた”ようで
いずれ再生するとしても…

その暇は無いようですよ
(姫君を見)

(次の戦いに備え手札を揃えましょう。思考も朦朧とした相手には悪辣ですが)

余りに一方的な戦いは騎士として心が痛みます
『この姫君を何とかしろ』と命じて頂ければお応えしますが

(命令を記憶野に録音し)

では…貴方が骸の海に還った後、騎士として仇を討つと約束しましょう
(用は済んだ、と気の無い返事)



「もういいよ……君達の相手は飽きた。そんなに殺したいなら自分達で殺し合えばいい」
 負傷をおして立ち上がったアニマネーラの表情には、これまでとは異なる冷たい殺意が宿っていた。ようやく猟兵や同族殺しを"玩具"ではなく"敵"として認識し始めた彼は、杖をかざして精神操作のユーベルコードを発動する。
「楽しいでしょ? 気に入らない奴をぶっ殺すのはさ!」
「う……あぁぁぁぁっ!!!」
 絶叫を上げたのは『殺戮の姫君』。復讐心に上乗せされる形で破滅と殺戮を好む残虐性を与えられた彼女は、完全に我を失って暴れだす。その矛先は本来の復讐相手ではなく、無関係の猟兵達に向けられていた。

「『同族殺し』の攻撃が此方に……悪趣味なれどその力は確かなようですね」
 姫君が放つ炎の旋風を、重質量大型シールドで防ぎ止めるトリテレイア。強度も耐熱性も十分なはずだが、それでも火照りを感じるほどの熱量だ。吹き飛ばされないよう体勢を低くして様子を覗えば、『倨傲の傀儡師』が邪悪な笑みを浮かべている。
「次は私を操って死闘の見物という趣向ですか」
「ははは! ゴミクズはゴミクズ同士潰し合うのがお似合いだよね!」
 哄笑するアニマネーラの角が怪しい輝きを放つ。領主が持つ恐るべきユーベルコードの魔力は機械の電子頭脳にすら作用し、殺戮のプログラムを彼に植え付けようとしていた。

「ですが、少々甘かったようですね」
「は? 何を……熱ッ!?」
 トリテレイアがそう言った直後、余裕ぶっていたアニマネーラがふいに悲鳴を上げた。
 電脳干渉(クラッキング)に対する防護措置などスペースシップワールドでは基本中の基本。異常を検知した【銀河帝国護衛用ウォーマシン・上級攻性防壁】が、干渉者の脳に逆襲を仕掛けたのだ。
「熱い、熱い熱い熱い熱い……脳が灼けるッ!!」
 干渉を遡って流れ込んだ膨大な悪性情報は、アニマネーラの脳が焦げ付くほどの負荷をかけて脳細胞のシナプスを焼き切る。思考領域に発生した実体のない"炎"に焼かれ、彼は頭を抱えて地べたを転げ回った。

「術の維持どころか歩行も困難な程に"焼けた"ようで」
 領主としての威厳もない醜態を見下ろして、攻性防壁の効果を確認するトリテレイア。
 いかに強靭な肉体を誇る吸血鬼とて、脳を直接焼かれるのは堪えたと見える。瑠璃の角から輝きは失われ、端正な顔も血反吐で汚れた有様。
「いずれ再生するとしても……その暇は無いようですよ」
「ぐ、ぁ……や、ば……!」
 術が解けたということは『殺戮の姫君』の操作も中断されたということだ。我に返った――正確には元の狂気に立ち返ったと言うべきか、姫君の瞳には冷たい復讐の炎が宿り、かつん、かつん、と杖音を響かせながら怨敵に近付いていく。

(次の戦いに備え手札を揃えましょう。思考も朦朧とした相手には悪辣ですが)
 このまま様子見していても困る事はないが、領主を倒したとて戦いは終わりではない。
 あの『同族殺し』を討つ布石として、トリテレイアは前後不覚の領主へと声をかける。
「余りに一方的な戦いは騎士として心が痛みます。『この姫君を何とかしろ』と命じて頂ければお応えしますが」
「は……はやく、このイカれた女を何とかしろ……!」
 目の前に迫る脅威から逃れるために、アニマネーラは手段を選べる状態ではなかった。
 敵であるはずの猟兵への命令、或いは無様な懇願は騎士の記憶野にしっかり録音され、それを聞き届けた彼はひとつ頷き。

「では……貴方が骸の海に還った後、騎士として仇を討つと約束しましょう」
「な……!!?」
 用は済んだとばかりに気のない返事をする騎士を見て、領主の顔色がさっと青ざめた。
 自分が望んだのは仇討ちなどではない。この窮状から救ってくれと頼んだはずなのに、その命令は恣意的に曲解された。向こうは最初からそのつもりだったのだ。
「ふざっ、ふざけるな、さっさと助け――……ぐぎゃぁぁぁっ!!!?」
 再度命令する暇もなく、『殺戮の姫君』が放った業火が今度こそアニマネーラを焼く。
 渦巻く灼熱の中で彼は獣のような悲鳴を上げ、脳に続いて肉体をも焦がされていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
こんにちはー今日はここの領主の館でインタビューを受けております!!

Q.その格好はどこかのお姫様かな?
A.なんか教皇

Q2.もしかしてあの国の?
A2.ギャグの国

Q3.家畜どもの顔
A3.家畜だなんて褒められちゃったわ(テレテレ)

Q4.ねえ君、名前はなんて言うの?
A4.殺戮の黴君

Q5.家族の名前は?
A5.殺戮の姫君カビ子と弟アニマネーラ

Q6.住んでた国はどこ? 
A6.和歌山県の下

Q7.イカれた『同族殺し』
A7.ボケ殺し

Q8.今こそ叛逆の時です
A8.今こそ反ギャグの時です

Q9.復讐だって?
A9.予習復習をきちんと!

Q10.纏めてゴミ箱に捨ててあげるからさ!
A10.じゃあこれ捨てといて(汚屋敷のゴミ達)



「ぐ、ぅ……よくも、よくもやってくれたね、ゴミ共め……!」
 容赦のない『同族殺し』と猟兵達の猛攻に、徐々に追い詰められていくアニマネーラ。
 重度の火傷を負った身体でなんとか立ち上がった彼は、ただのオモチャに向けるものとは違う、怒りと殺意の籠もった目で"敵"を睨みつける。
「こんにちはー今日はここの領主の館でインタビューを受けております!!」
「――……は?」
 そんな彼の殺意に水を差すように、あるいは怒りを逆撫でするように、ひょっこり姿を現したのはカビパン。どう考えても場違いな底抜けに明るいノリで、馴れ馴れしく相手に近付いていく。どうも今度はリポーターからインタビューを受ける側になったようだ。

「な、なんだい君は? その格好はどこかのお姫様……いや、道化師かな?」
「なんか教皇やってます」
 虚を突かれたアニマネーラはなんとか場の主導権を取り返そうと、皮肉たっぷりな質問を投げかける。だがカビパンはしれっとした調子で答えながら、着ている服をひらひらとアピールする。そのふざけた態度が余計に癇に障った。
「教皇? ああ、もしかしてあの国の?」
「そう、ギャグの国です」
「家畜どもの顔なんてよく分からないしさぁ」
「家畜だなんて褒められちゃったわ」
 その澄まし顔を歪ませてやりたくて皮肉や挑発を連発しても、カビパンは逆にテレテレと顔を赤らめる始末。まったく噛み合わないやり取りのせいでペースを余計に乱される。
 そもそも相手をしなければ良いのだが、領主という地位と歪んだ人格ゆえに煽り耐性のなかったアニマネーラは、バカにされていると感じるとどうしても無視ができなかった。

「……ねえ君、名前はなんて言うの?」
「殺戮の黴君」
「家族の名前は?」
「殺戮の姫君カビ子と弟アニマネーラ」
「勝手に弟にするなッ! ……住んでた国はどこ?」
「和歌山県の下」

 煽り返してやりたくていくら質問を重ねても、訳のわからない答えしか返ってこない。
 UDCアースで言われるレスバトルという概念がこの世界に存在すれば、アニマネーラは間違いなく弱者で、カビパンは文句なしに強者だった。勝敗など最初から見えている。
「……なるほどね。君はどうやら『同族殺し』よりもイカれてるみたいだ」
「ボケ殺しですから」
「ッ……!!」
 渾身のつもりの皮肉もあっさりと教皇に返され、領主は歯ぎしりをして地団駄を踏む。
 そんなバカらしいやり取りにいくら時間を浪費しただろうか。復讐を望む『同族殺し』が何時までも待ってくれるはずはない。

「今こそ叛逆の時です」
「今こそ反ギャグの時です」
 『殺戮の姫君』のセリフにまでボケを重ねながら、聖杖を手にしれっと並ぶカビパン。
 威厳やプライドをグチャグチャにされたアニマネーラは、領主らしさを取り戻さんと、この窮地に際してなんとか作り笑いを浮かべてみせる。
「ははっ。君も復讐のつもりかい?」
「予習復習をきちんと!」
 そっちの「ふくしゅう」ではない。しかし流石にツッコんだら負けだと学習した彼は、聞かなかったフリをして喋り続ける。負けるのは嫌だし、バカにされるのはもっと嫌だ。自分は偉大なる領主の1人、『倨傲の傀儡師』アニマネーラなのだから。

「いいさ、来るがいい。纏めてゴミ箱に捨ててあげるから――……」
「じゃあこれ捨てといて」
「は?」
 そんな傀儡師にカビパンはぽいっと、自分の汚屋敷から出たゴミたちを押し付ける。
 ご丁寧なことにそれらは全て生ゴミで――直後、『殺戮の姫君』の放った火災旋風が、ゴミ山ごと的に火を付ける。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!?」
 ゴミと一緒に焼かれるというこの上ない屈辱を、彼は味わわされる羽目となった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

姫君を嘲る貴奴の言葉
傍で聞くだけでも虫唾が走る
人の不幸が、悲哀が、絶望がそんなに楽しいか
こんなものを『享楽』と嗤うのか

自らの地位に驕り高ぶり、人の心と命を弄んでは悦に入るその傲慢を
【怒れる狼王】は貴様を決して許さない!

怒りの炎が……憎悪の感情が業火となって燃え盛るのが分かる
悪魔の声が殺せ、潰せ、喰らえ、引き裂けと囁く
これが、これこそが奴の本質
人の心を操る卑劣な罠

忘れるな
思い出せ
ヘルガの歌を背に胸の「フェオの徴」に触れ
騎士の誓いを魂に刻む
決して奴の術中に嵌るものか
我が力は牙無き人の明日の為に

ヘルガに近づく屍人形と生き人形は敵と認識せず燃やさない
当て身を食らわせ気絶もしくは遠ざける
地獄の炎で焼くべき敵はアニマネーラただ一人
奴さえ倒せば人形たちは解放される

敵の懐に飛び込み、炎纏わせた鉄塊剣の連撃
これは傷ついた仲間たちの分!
これは虐げられた領民たちの分!
これは姫君と、彼女が喪った人々の分!
そしてヘルガとこの俺の尽きせぬ怒りを!裁きの一撃を!
貴様が踏み躙った全ての魂の痛み、思い知れ……!


ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

…思い出した
かつてわたくしの故郷を焼き、家族や領民を皆殺しにした
そして自らの手で討ち取った怨敵、ジョヴァンニ・メスキーノ

あの男がある時ふと口にした名前「アニマネーラ」
当時の記憶は朧げだけど、その口ぶりから奴隷商人だったジョヴァンニの「取引先」らしいことは見当がついた
まさかこんなところで繋がっていたなんて

「姫君」を嘲る非道な仕打ち
彼女の無念が、絶望が、痛いほど分かる
わたくしだって、もしかしたら彼女と同じ運命を辿っていたかもしれない

この男だけは…決して許さない

目の前に現れた「人形」たち
元の姿も分からぬほどに焼け焦げて炭化した遺体と
記憶奪われた虚ろな瞳の無辜の民
なんという冒涜

ヴォルフの怒りが頂点に達するのが見える
忘れないで
思い出して
あなたが戦う意味を
浄化の祈り込め、優しき歌で包み込む
愛の記憶を呼び覚まし
死せる者には弔いを

今のわたくし達が討つべき敵は唯一人

アニマネーラ、貴方はこの惨劇が本当に「楽しい」の
……そう、なら貴方が今日まで踏み躙った人々の無念、思い知りなさい
因果応報、報いあれ



「……思い出した」
 胸騒ぎに導かれて『倨傲の傀儡師』と対面したヘルガの脳裏に、かつての記憶が蘇る。
 それはヘルガの故郷を焼き、家族や領民を皆殺しにした――そして彼女自らの手で討ち取った怨敵、ジョヴァンニ・メスキーノにまつわる記憶だった。
「あの男がある時ふと口にしたのです。『アニマネーラ』という名前を」
 当時の記憶は朧げながらも、その口ぶりから奴隷商人だったジョヴァンニの「取引先」らしいことは見当がついた。傀儡遊びを趣味とする残忍な領主が、自らの醜悪なる享楽を満たすために奴隷を買い付けていた可能性は、十分に想像できることだ。

「まさかこんなところで繋がっていたなんて」
 ジョヴァンニを討ち、過去の因縁には決着を付けたはずだった。しかしあの男が遺した惨劇の因果は別の悲劇とも結びついていた。この世界の闇の深さを改めて感じたヘルガの心には、嘆きよりも強い義憤の念が燃え上がる。
「今、ジョヴァンニって言ったかい? 見ないと思っていたら、そうか、死んだのか! ははっ、猟兵如きに殺されるなんてバカな奴だね!」
 怒りの視線を受けたアニマネーラは、血塗れの口元ににやりと歪んだ笑みを浮かべる。
 領民や奴隷、配下はおろか同胞の死すら悼むことはない。性根から腐りきった人格は、この期に及んでも改心の余地なく、さらなる享楽を望んでいた。

「君達も、このお姫様も、みんなみんなバカだ。愛とか正義とか下らない事にに拘って、死んじゃった奴らに執着して……そんなに会いたければ会わせてあげよう! さあ、愛に満ちた『楽しい人形劇』が始まるよ!」

 『倨傲の傀儡師』が杖を掲げると、闇の中から何百という「人形」の群れが姿を現す。
 故人の死体を用いた屍人形に、無辜の民から記憶と自我を奪った生き人形。これまでに領主が重ねてきた罪の集大成とも言える光景がそこにあった。
「……みんな」
 それを見た『殺戮の姫君』が、戦いの手を止めてぽつりと声を漏らす。人形の中に誰ぞ縁の深い故人を見つけたのだろうか――彼らの遺体は元の姿も分からぬほどに焼け焦げ、炭化してしまっているというのに。

「なんという冒涜……」
「あはははは! どうだい、感動の再会だよ」
 あまりにも故人の尊厳を冒涜したアニマネーラの所業に、ヘルガは思わず息を呑んだ。
 だが、ここには彼女以上の怒りを――もはや爆発寸前の憤怒を溜め込んだ猟兵がいた。
「姫君を嘲る貴奴の言葉、傍で聞くだけでも虫唾が走る」
 平時の騎士然とした態度ではなく、猛る獣の如き形相で、ヴォルフガングが前に出る。
 これ以上、彼奴の一言や一挙一動を黙って見ている事すら不快だった。胸の裡に収まりきらぬ激情は炎となって迸り、彼の身体を覆いつつある。

「人の不幸が、悲哀が、絶望がそんなに楽しいか。こんなものを『享楽』と嗤うのか」
 鉄塊剣の柄を軋むほどに握りしめ、怒りの眼差しで敵を射殺さんばかりに睨めつける。
 かの領主に弄ばれた姫君や数多の民の悲哀と絶望を想えば、憤怒は尚更に膨れ上がる。もはやヴォルフガング自身でも抑えが効かぬほどに。
「自らの地位に驕り高ぶり、人の心と命を弄んでは悦に入るその傲慢を、【怒れる狼王】は貴様を決して許さない!」
 怒りの炎が――憎悪の感情が業火となって燃え盛るのが分かる。裡にいる悪魔の声が、殺せ、潰せ、喰らえ、引き裂けと囁く。怒りに染まった己の姿を見て、敵は嗤っていた。
 これが、これこそが奴の本質。人の心を操る卑劣な罠だと理性は分かっていても、頂点に達した怒りは止められず。狼王は本能と感情に身を任せて走り出そうと――。

「忘れないで。思い出して。あなたが戦う意味を」
 まさに暴発寸前だったヴォルフガングの怒りを留めたのは、愛しき妻の歌声であった。
 悲劇と悪意と冒涜に満ちた戦場に清らかに響き渡る、ヘルガの優しき歌声。それは闇の中に差し込んだ光のように、人狼騎士の心をそっと包み込んだ。
「今のわたくし達が討つべき敵は唯一人」
 敵に怒りを覚えているのはヘルガとて同じである。特に姫君を嘲る非道な仕打ちは許し難く、彼女の無念が、絶望が痛いほど分かる。自分だって、もしかしたら彼女と同じ運命を辿っていたのかもしれないのだから。

「この男だけは……決して許さない」
 怒りに呑まれるのではなく、自らの信念と使命に従って、悪しき人形劇を終わらせる。
 決意を込めたヘルガの歌は、ヴォルフガングの心に騎士としての使命を呼び覚ました。
(忘れるな、思い出せ。決して奴の術中に嵌るものか)
 愛しき人の歌を背に、胸にある「フェオの徴」に触れ、騎士の誓いを改めて魂に刻む。
 我が身、無辜の祈りに応え、民を守る礎となると誓わん――己はもう本能のままに暴威を振るう獣ではない。戦う意味と、そして愛を知った、1人の騎士である。

「我が力は牙無き人の明日の為に」
「ッ。どうして、まだそんな眼ができる……!」
 信念を失わぬ騎士の瞳に苛立ちを露わにして、アニマネーラは人形軍団をけしかける。
 その標的はヴォルフガングではなくヘルガ。愛する者を傷つけられれば、その瞳は再び怒りに染まるだろうという、悪辣な目論見が透けている。
「ヘルガ、俺の後ろに」
「大丈夫。信じているから」
 悪意の標的にされてもヘルガは歌を止めない。その信頼に応えるべく、ヴォルフガングは襲い掛かる人形に当て身を食らわせて押し返す。彼の全身は今だ地獄の業火に覆われたままだが、その熱が人形達を焼き焦がすことはなかった。

(地獄の炎で焼くべき敵はアニマネーラただ一人。奴さえ倒せば人形たちは解放される)
 生き人形にされた者達は言わずもがな、故人の遺体をこれ以上傷つけるつもりもない。
 ヴォルフガングが人形達を気絶させるか遠ざけるかして時間を作れば、その間にヘルガの歌声が彼らを浄化する。
「どうか、安らぎあれ」
 虚ろな瞳をした者達には愛の記憶を呼び覚まし、死せる者には弔いを。傀儡師の支配下にあった人形は1人、また1人と糸が切れたように倒れ、何を命じられようともはや従うことはない。

「な、なにしてるのさお前達。さっさと起きろよ!」
「貴様に従う者はもう誰もいない」
 杖を振るってもう一度人形を操ろうとするアニマネーラだが、そうはさせじとヴォルフガングが懐に飛び込む。大上段に構えた鉄塊剣に、赫々と燃え盛る地獄の炎を纏わせて。
「ッ……なんだよ、君だって楽しいでしょ? 気に入らない奴をぶっ殺すのはさ!」
「俺が剣を振るうのは享楽のためではない。守るべき者と世界のためだ」
 もはや貴様の術中には嵌まらぬと、苦し紛れの挑発にも惑わされる事なく泰然と返す。
 誇り高き狼王にして蒼き騎士は、信念を以って怒りを律し、刃に乗せて解き放つ――。

「これは傷ついた仲間たちの分! これは虐げられた領民たちの分!」
「が、ぐぁっ?! ぎあぁっ!!!?」
 アニマネーラへと叩きつけられた獄炎の斬撃は、一撃きりに留まるものでは無かった。
 これまで彼が人々に与えてきた悪意・苦痛・屈辱・精神的外傷の数々。それに比例した報いを与えんと、ヴォルフガングの攻勢は加速する。
「これは姫君と、彼女が喪った人々の分!」
「ぐぎゃあぁぁぁぁッ!!!?」
 鉄塊剣が纏う地獄の業火に、屋敷内に吹き荒ぶ火災の旋風が重なって、勢いを増した。
 それは『殺戮の姫君』が灯した炎。そこに共闘の意図はなかったろうが、怒りと復讐の熱はここに一つとなって、怨敵をより深く斬り伏せる。

「そしてヘルガとこの俺の尽きせぬ怒りを! 裁きの一撃を!」
 猛撃の果てにヴォルフガングが放つは、全身全霊の怒りと力を込めた乾坤一擲の斬撃。
 巨剣に宿りし炎はさらに巨きな紅蓮の刃を形成し、裂帛の気迫と共に振り下ろされる。
「貴様が踏み躙った全ての魂の痛み、思い知れ……!」
「――……ッ、があぁぁぁぁっ!!!!!」
 その一撃は『倨傲の傀儡師』の肉を断ち、骨を砕き、心臓を貫き、穢れた魂を灼いた。
 彼の口から迸る断末魔は、貴族の優雅さの欠片もない、醜悪な悪鬼の断末魔であった。

「が……ぁ……嘘だ……こんな奴らに、僕が……」
 ヴォルフガングから致命傷を受けてなお、アニマネーラには僅かながら息があった。
 地に這いつくばり現実を受け容れられぬ醜態の彼へ、ヘルガが静かに問いを発する。
「アニマネーラ、貴方はこの惨劇が本当に『楽しい』の」
「は……? なにを、言って……」
 その質問に傀儡師は一瞬きょとんとした表情を見せた後、すぐに悪辣な笑みに戻った。
 そこに居たのは最期まで邪悪で暴虐で残忍な、忌まわしきオブリビオンの領主だった。

「決まってるよ……君達が無様に踊り狂う様が、僕は最高に楽しいのさ……」
「……そう、なら貴方が今日まで踏み躙った人々の無念、思い知りなさい」
 宿敵からの返答を聞き届け、改心の意志はないとみたヘルガは【因果の歌】を唱える。
 それは対象自身の記憶から、踏み躙られた過去の被害者の幻影を喚ぶユーベルコード。悪しき領主の命に終焉をもたらすのは、彼自身が犯した罪こそがふさわしい。
「因果応報、報いあれ」
「……ははっ。くたばれ」
 自らが殺めた者達の幻影に囲まれたアニマネーラは、悪態を吐きながら消えていった。
 己が行ったのと同じ仕打ちを味わわされ、苦痛と絶望の中で骸の海に還る。それが彼に与えられた最大の罰であった。



 ――領主の骸とともに幻影達が去った後、主なき屋敷にはひとときの静寂が訪れる。
 だが、戦いはまだ終わっていないことは、この場にいる全ての猟兵が理解していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『殺戮の姫君』

POW   :    罪を償いなさい
【王族の魔導杖から放たれる火災旋風】が命中した対象を燃やす。放たれた【超高温の聖なる蒼】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    今こそ叛逆の時
【未来予知能力のある黄金のナイフ】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、未来予知能力のある黄金のナイフから何度でも発動できる。
WIZ   :    今一度立ち上がり、戦うのです
【魔力が付与された剣・槍・弓・杖】で武装した【亡国の王家直属近衛騎士団】の幽霊をレベル×5体乗せた【高い戦闘能力を持つ幽霊炎竜】を召喚する。

イラスト:ミムミリ

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニトロ・トリニィです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――三つ巴となった激戦のすえ、ついに『倨傲の傀儡師』アニマネーラは斃れた。
 主を失った屋敷には火の手が回り、じきに倒壊する気配を見せている。だが、ここから帰還する前に、猟兵達にはまだ倒さねばならぬ相手がいた。

「……どこにいるのですか」

 復讐の相手はとうに燃え尽きたのに、『殺戮の姫君』はまだ誰かを探している。
 ランタンに宿る怨讐の炎は消えず。左手には黄金の短剣をぐっと握りしめて、囁く。

「父も、母も、みんなも……どうして会えないの……こんなに探しているのに……」

 彼女が当て所なき放浪を続けていたのは、ただ仇を討つためだけではなかった。
 オブリビオンに奪われた家族や愛する人達を探していたのだ。狂気に侵された心では、彼らがもはやこの世に居ないことを理解できぬまま。

「まだ、足りないのですね……まだ、敵がそこにいるから……」

 幽鬼の如く佇んでいた姫君は、虚ろな視線をゆらりと猟兵達に向ける。
 その瞳に写るものは復讐すべき"敵"だけ。灰の一片も残さず焼き尽くすべき敵だ。

「我らに仇なす者達を全て殺し尽くせば……きっと皆も帰ってきてくれるでしょう……」

 オブリビオンであり『同族殺し』である彼女が、正気に戻る可能性はない。
 ここで討ち取らなければ、終わりなき復讐の旅路は罪なき犠牲者を作り続けるだろう。

 彷徨える殺戮の姫君に終焉を。
 屋敷に残った最後の"敵"を倒すため、猟兵達は残された力を振り絞る。
カビパン・カピパン
「あの有名な殺戮の姫君カビ子さんにインタビューです!」

Q1.激戦の感想を!
A1.まだ、足りないのですね…

Q2.つまり自分はまだまだと?
A2.まだ、敵がそこにいるから…

Q3.凄い向上心!印象に残ったシーンは?
A3.別に…

Q4.皆さんに一言!
A4.特にありません…

Q5.父も、母も、みんなもどうして会えないの…
A5.私たちの両親はニートよ

Q6.こんなに探しているのに…
A6.姉さん私よ覚えてる?久しぶりね~元気?

そんなお馬鹿なやり取りも最後の一瞬だけは違った。
殺戮の姫君の家族の霊がカビパンの身に宿ったのである。

感動のラストであったが、あまりにも混乱した彼女はカビパンを本当の妹と勘違いしたとか何とか。



「あの有名な殺戮の姫君カビ子さんにインタビューです!」
 相手からの強烈な殺気にも怯まずに、『殺戮の姫君』の前に飛び出したのはカビパン。
 武器と呼べるものはマイク代わりの聖杖のみ。まるで殺されにいくような無防備な態度だが、その闘志の皆無さが逆に功を奏したのか、即座に攻撃されることはなかった。
「カビ子さん、激戦の感想を!」
「……まだ、足りないのですね……」
 本人が忘れているのを良い事に勝手な名前をつけつつ、マイク(聖杖)を突きつける。
 返ってきた言葉は回答と言うよりはただのうわ言のようで、狂ったオブリビオン相手に会話が成立するかは怪しいところだ。

「つまり自分はまだまだと?」
「まだ、敵がそこにいるから……」
「凄い向上心!」
 それでもカビパンはペースを崩さず、さも会話が噛み合っているようにインタビューを続ける。ダウナーな雰囲気の姫君とハイテンションな悪霊が炎上する屋敷で対話をする、一種異様な光景がそこにあった。
「印象に残ったシーンは?」
「別に……」
「皆さんに一言!」
「特にありません……」
 何を聞かれても姫君の態度はそっけない。質問を繰り返されるうちに会話が成り立っているように思える時もあったが、それだけだ。いつの間にか騎士達がカビパンを包囲し、殺気立った様子で武具を構えている。

「父も、母も、みんなもどうして会えないの……」
 復讐の旅路の中で『殺戮の姫君』が求めるのは愛する人々との再会。それが叶わぬ願いであることを理解できず、狂気のままに終わらぬ彷徨を続ける、憐れなる『同族殺し』。
 だが。そんな暗い背景を吹っ飛ばすように、カビパンはお調子者のノリで返事をする。
「私たちの両親はニートよ」
 そんなお馬鹿なやり取りを何度続けたのか――だが、それも最後の一瞬だけは違った。
 騎士の剣がいよいよ振り下ろされる時、カビパンは唐突にユーベルコードを発動する。

「こんなに探しているのに……」
「ここで突然ですが、本日はゲストをお招きしております」
「……え?」
 【黒柳カビパンの部屋】の降霊術を応用することで、カビパンは『殺戮の姫君』の家族の霊を呼び寄せた。冥府にて眠りについていたはずの魂が、ほんのひと時の間ながらも、彼女の身に宿ったのである。
「姉さん私よ覚えてる? 久しぶりね~元気?」
「ぁ……あなたは……私の妹……?」
 はっと目を見開く『殺戮の姫君』。声だけの存在ではあるが、そのトークは彼女の記憶を刺激した。復讐の狂気に取り憑かれるうちに、忘れてしまっていた過去――幸せだった生前の思い出がフラッシュバックする。

「あぁ……こんな所にいたのですね……!」
 あまりにも混乱した姫君はカビパンを本当の妹と勘違いしているようだが、それを訂正するのは野暮というものだろう。ちょっと依り代の影響でギャグっぽくなってはいるが、中身は確かに彼女の妹なのだから。
「顔色悪いわよ姉さん。ちゃんと寝てるの?」
「ふふっ……そういえば、眠りなんて、ずっと忘れてました……」
 もはや互いに死者なれど、カビパンの口を借りて姫君と妹は生前の様に言葉を交わす。
 ツッコミ所もあったが終わりよければ全て良し。カビパンの演出した感動のラストは、狂える姫君の心にひとかけらの救いをもたらした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…貴女の復讐は終わった。それでもなお闘いを続けると言うならば致し方無い

終わり時を見失った貴女の旅路を終わらせてあげるわ、同族殺し

事前に「陽光の精霊結晶」を片手に隠し持ちUCを発動
鮮血の仮面を被り肉体改造を施して完全な吸血鬼化を行う

限界突破した血の魔力を溜めた大鎌から斬擊波を乱れ撃ち、
あえて防御させて積み重ねてきた戦闘知識から敵がUCを発動する瞬間を見切り、
吸血鬼化を解除するのと同時に「精霊結晶」を怪力任せに砕く早業で、
吸血鬼の弱点の陽光を爆発させる光属性攻撃の追撃を行う

…未来が見えているのなら、次に私がどう動くか分かるでしょう?

…貴女の負けよ姫君。吸血鬼狩りの前で吸血鬼になった時点で…ね



「……貴女の復讐は終わった。それでもなお闘いを続けると言うならば致し方無い」
 全てを怨敵と見做して凶行を継続する『殺戮の姫君』に、リーヴァルディは宣告する。
 吸血鬼に限らず、人に仇なす怪物は討つのが彼女の使命。全てはこの世界の人々に救済と繁栄をもたらすため。
「……終わり時を見失った貴女の旅路を終わらせてあげるわ、同族殺し」
「終わらない……何も、終わってなど……!」
 過去を刻む大鎌を突きつける彼女に対して、姫君は装飾された黄金のナイフを抜いた。
 双方とも刃を向けるに躊躇はない。一方は使命と慈悲の為、一方は復讐と悲願の為に。

「……限定解放。忌まわしき血に狂え、血の寵児」
 リーヴァルディが【限定解放・血の寵児】を発動すると、その貌は鮮血の仮面を被る。
 血に宿る力を解放する事で僅かな時間のみ完全な吸血鬼化を行う【血統覚醒】の奥義。討つべき宿敵に近付くのと引き換えに、彼女の戦闘能力は劇的に向上する。
「……貴女も憎んだ吸血鬼の力よ」
 限界を超えて身体に収まりきらなくなった血の魔力が"過去を刻むもの"に付与される。
 仮面の少女は左手を固く握りしめたまま、右手で大鎌を一閃。すると圧縮された魔力が血色の斬撃波となって『殺戮の姫君』に放たれた。

「血……刃……敵……!」
 炎を切り裂いて飛来する血色の斬撃を、『殺戮の姫君』は黄金のナイフで受け止める。
 これまでの戦い方を見たところ彼女自身に武の心得はない。にも関わらず的確な防御。
(……まるで未来が視えているようね)
 リーヴァルディは続け様に斬撃波を乱れ撃つが、姫君はその全てを切り払ってみせた。
 超速戦闘に特化した【血の寵児】の攻撃がこうも完璧に防がれ続けるのはおかしい――積み重ねてきた戦闘知識から、彼女は敵の能力の本質を見極めつつあった。

「――今こそ叛逆の時」
 斬撃波を何度も受け止めるうちに、黄金のナイフは血の色に染まっていく。それを握りしめて宣言すると、『殺戮の姫君』の貌はリーヴァルディと同じ鮮血の仮面に覆われた。
 未来予知に加えて防御した相手のユーベルコードをコピーする。それが彼女の能力だ。
「自らの刃で散りなさい……!」
 模倣した吸血鬼の魔力をナイフに圧縮し、血色の斬撃を放たんとする姫君。見た目だけでなく性能までオリジナルを再現しているのなら、その威力はリーヴァルディにも脅威となる――だが反撃を仕掛ける寸前、彼女ははっと何かに気付いたように目を見開いた。

「……未来が見えているのなら、次に私がどう動くか分かるでしょう?」
 敵が鮮血の仮面を被った瞬間、リーヴァルディは入れ替わるように吸血鬼化を解いた。
 現れた彼女の素顔には勝利の確信があった。あえて此方の攻撃を受けさせ続けたのも、全てこのシチュエーションを作り上げるための布石。
「……貴女の負けよ姫君。吸血鬼狩りの前で吸血鬼になった時点で……ね」
 右手で大鎌を振るう間も、左手に隠し持ち続けていたもの――「陽光の精霊結晶」を、リーヴァルディはぐっと力任せに握り砕く。結晶の破壊と同時に解放された精霊の力は、闇夜の戦場に太陽の閃光を発生させた。

「――……あぁぁぁぁッ!!!?!」
 狩人は知っていた。吸血鬼の力を得ることは、吸血鬼の弱点を抱えることと同義だと。
 強烈な陽光を爆発的に浴びせられた『殺戮の姫君』は悲鳴を上げ、振り上げたナイフを取り落とす。その肉体は指先から徐々に灰化を始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
わたし達は貴女の敵じゃない…
貴女はわたしが成ってしまったかもしれない可能性…。
できれば救ってあげたいけど…ダメな時は…。

敵の蒼炎を【孤九屠雛】で相殺し、【冥界獄】を発動…。
敵の力やUCを封じ込め、更に呪力の縛鎖で拘束…。
ミラ達もブレス等で援護をお願い…。

敵意を向けられてるから、【共に歩む奇跡】は使えない…。
【救済の呼び声】でイチかバチか、彼女の救済を試みるよ…。
(救済の内容は呼びかけ次第)

ただ、彼女が目的の為に罪を犯しているのが…。
【救済の呼び声】はみんなの善意次第だからね…どれだけの心が応えてくれるか…。

ダメな時は【神威】でオブリビオンとしての力の源を奪い、最後は人として…。


フレミア・レイブラッド
彼女の目的は復讐と再会…。
姿さえ判れば【創造支配の紅い霧】で再現する事で抑える事もできるかもしれないけど…判らないモノは作り様が無いわね…。

本当に、この世界はヒトに優しくないわ…。
ディアナイラの時と一緒ね…。

吹雪と凍結の魔弾【属性攻撃、誘導弾、高速詠唱】で牽制、広域攻撃を仕掛け、敵の騎士団を凍結させたり、姫の動きを鈍らせる事で未来予知に対抗。
動きが鈍ってる間に接近戦に持ち込み、魔槍【怪力、早業、2回攻撃】でナイフを弾き飛ばし、【怪力】と【念動力】で抑え込んで拘束するわ。

何か手立てがあれば良いけど、無ければ…せめて、全魔力を込めた【神槍グングニル】で送ってあげるわ…。
愛する者達のいる場所へ…。



「彼女の目的は復讐と再会……。姿さえ判れば【創造支配の紅い霧】で再現する事で抑える事もできるかもしれないけど……判らないモノは作り様が無いわね……」
 叶わぬ望みを抱いた『殺戮の姫君』を見つめながら、フレミアはぽつりと独りごちる。
 猟兵とて万能の存在ではない。空間を支配し、無から有を生み出す事さえできる彼女のユーベルコードも、この件に関しては無力だった。
「本当に、この世界はヒトに優しくないわ……。ディアナイラの時と一緒ね……」
 さるオブリビオンの実験体にされ、同様に復讐のため彷徨っていた『異端の魔女』の事を思い出し、吸血姫は物憂げなため息を吐く。たとえ悲劇の犠牲者であろうと、さらなる悲劇を引き起こそうと言うなら止めねばならない。それが自分達の使命なのだから。

「わたし達は貴女の敵じゃない……」
 一方の璃奈は妖刀と魔剣を鞘に収めたまま、狂える姫君に懸命に呼びかけ続けていた。
 たとえ元に戻ることは無いと言われても、簡単に諦めることはできない。彼女が辿ってきた悲劇と旅路は、自分にとって決して他人事ではないのだから。
「貴女はわたしが成ってしまったかもしれない可能性……。できれば救ってあげたいけど……ダメな時は……」
 最悪のケースに備えて覚悟をしつつも手を差し伸べようとする璃奈に、しかして相手が返したものは殺意だった。姫君を衝き動かす憎悪と妄執は蒼い業火となって燃え上がり、この場にいる全員を焼き尽くさんとする。

「罪を償いなさい……」
 王族の魔導杖より放たれる火災旋風。本来は聖なる力であったはずの蒼炎は復讐の業に歪んで荒れ狂う。対するフレミアと璃奈はおのおの詠唱を紡ぎ、魔術と呪術で迎え撃つ。
「悪いけど、貴女に殺されてあげるわけにはいかないのよ」
「その炎、地獄の霊火で鎮めるよ……」
 フレミアの呪文は吹雪と氷の魔弾を呼び、戦場の気温を下げて蒼炎の勢いを牽制する。
 そこに璃奈が絶対零度の九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】を放てば、復讐の聖火は熱量を相殺され、虚空に消えていく。

「今一度立ち上がり、戦うのです」
 だが炎を消されたとて『殺戮の姫君』の復讐は止まらない。再び杖を掲げれば、かつて亡国に仕えた王家直属近衛騎士団の亡霊と、強大なる幽霊炎竜が躯の海より馳せ参じる。
 いずれも魔力付与された武器で武装した、装備練度ともに充実した精鋭である。まともに相手をすれば少人数の猟兵では数の差で圧されかねない。
「我に仇名す全ての敵を深淵の闇へ……!」
 そこで璃奈は【呪法・冥界獄】を発動。持てる呪力の全てを解き放って戦場全体を巨大な結界に包み込む。その途端、屋敷にまだ燻っていた炎は消え去り、今まさに突撃を仕掛けようとしていた騎士達の動きがガクンと鈍った。

「なにを……?」
 空気そのものが圧迫感をもって全身にのしかかるような感覚を、姫君は味わっていた。
 璃奈が展開した【冥界獄】の呪力結界は内部にいる敵の能力を半減させ、技能や特性、ユーベルコード等の力を封じ込める、強力な妨害効果を持ったユーベルコードだ。
「ミラ達も援護をお願い……」
「きゅい!」
 影竜から元の姿に戻った仔竜達も一生懸命に、動きの鈍った騎士にブレスを浴びせる。
 幼体とはいえ竜の吐息を弱体化した状態で受ければタダでは済むまい。直撃を喰らった何体から倒れ、騎士団の陣形に乱れが生じる。

「見上げた忠誠心だけれど、もう眠りなさい」
 そこに追撃を行うのはフレミア。吹雪の魔法による広域攻撃が騎士団を凍らせていく。
 彼女の本命はこの者達ではない。動きが鈍っている間に将を捕らえんと、魔槍を片手に『殺戮の姫君』に接近を図る。
『グオオォォォ……!!』
 行かせはすまいと咆哮を上げるのは炎竜の亡霊。自らの吐息で氷を溶かし、その巨体で姫君の盾として立ちはだかる。ここで立ち止まっている暇はないと、フレミアもまた槍を振りかぶるが――激突の寸前、虚空から出現した鎖が炎竜の四肢に絡みついた。

「行って……」
「感謝するわ」
 それは璃奈が紡いだ呪力の縛鎖。濃密な呪力で満たされたこの結界内ならば、どこからでも敵を拘束可能。炎竜の動きが止まった隙を突いて、フレミアがその横をすり抜ける。
「ッ……!!」
 全ての配下を突破された『殺戮の姫君』は、黄金のナイフを構えて吸血姫を迎え撃つ。
 このナイフにはユーベルコードのコピー能力と未来予知の力が備わっている。しかし、それを振るう姫君自身の体は呪力と冷気に侵され、万全の状態とは言い難かった。

「今こそ叛逆の……」
「遅い!」
 力強く鋭いフレミアの2連撃が、『殺戮の姫君』の手から黄金のナイフを弾き飛ばす。
 たとえ未来が視えていても、その力と速さに反応できる身体能力がなければ無意味だ。武器を失った姫君はそのままフレミアに掴み掛かられる。
「っ……放して……!」
 姫君がもがいても、吸血姫の怪力と念動力による拘束は簡単に解けるものではない。
 こうなれば後はトドメを刺すのも容易い。しかし彼女にはまだ姫君の心臓を魔槍で貫くのに僅かな躊躇いがあった。

「何か手立てがあれば良いけど、無ければ……」
「敵意を向けられてるから、【共に歩む奇跡】は使えない……」
 フレミアは『殺戮の姫君』を拘束したまま、後ろにいる璃奈の方をちらりと振り返る。
 魔剣の巫女にはオブリビオンを共存可能な存在へと最適化するユーベルコードがある。ただしその使用には条件も多く、全ての者と共に生きられるとは限らなかった。
「イチかバチか、彼女の救済を試みるよ……」
 代わりに発動するのは【救済の呼び声】。不幸な者、傷ついた者を救いたいという願いを世界中の人々に呼びかけ、その慈愛と善意の心をもって救済をなすユーベルコードだ。

「彼の者に救済を……世界に届け、人々の願い……」
 璃奈の呼びかけは戦場を越えて数多の世界にいる人々の心に届く。どんな形であってもいい、報われぬ復讐の旅を続ける亡国の姫君に、救いと安らぎをもたらしてほしいと――もう一度愛する人達に会いたいという、切なる願いを叶えてあげてほしいと。
(ただ、彼女が目的の為に罪を犯しているのが……。【救済の呼び声】はみんなの善意次第だからね……どれだけの心が応えてくれるか……)
 最大の懸念材料となるのは相手がもはや純粋な被害者ではなく、加害者でもあること。
 璃奈の不安は的中してしまい、呼びかけに応じる心の数はなかなか集まらない。姫君の境遇に同情する者もいれど、無辜の民の殺戮には報いを受けるべきだと思う者もいる。

「救えないのなら……せめて、送ってあげるわ……。愛する者達のいる場所へ……」
 懸命に呼びかける璃奈の様子を見つつ、フレミアは【神槍グングニル】の構えを取る。
 全魔力を槍に込めて放つ、彼女のユーベルコードの中でも超威力を誇るこの一撃なら、痛みを感じさせる暇もなく『殺戮の姫君』を滅ぼすことも可能だろう。
(ダメだったら、最後は人として……)
 璃奈もまた、救済が成せなかったケースに備えて【妖刀魔剣術・神滅】の体勢に入る。
 領主アニマネーラを討つ際にも使用したが、この力は滅びを与えるだけの技ではない。オブリビオンとしての力の源を奪えば、死とともに狂気から解放する事もできよう。

『……ぃ……を……』『我らが……に……を……』
 だが。2人の猟兵が覚悟を決めたその時、無言であった騎士達がかすかに声を発した。
 結界と凍結により継戦能力を既に喪失していた彼らは、武器を放した両手を祈りの形に組み合わせ、みな同じ言葉を口にする。
『我らが主に……救いを……』
 狂える殺戮者と成り果てた姫君に、死してなお忠義を尽くし続ける騎士達からの請願。
 その切なる想いが【救済の呼び声】に加わる事で、届かなかったはずの奇跡が起きた。

「……ぁ……あなた達、は……」
 壊れた天井から月明かりが『殺戮の姫君』を照らすと、彼女の瞳から狂気が消えた。
 目に映るもの全てが"敵"に見えていた彼女は、その時ようやく自分の傍らにいる者達を一時的に正常に認識する。もたらされた救済はそれだけだったが――。
「……ずっと、そこに居たのですね……」
 彼女が会いたがっていた者のひとりは、片時も離れることなく彼女に付き従っていた。
 亡霊達の中に愛する人の姿を見つけ、姫君はつうと一筋の涙を零す。それを見た璃奈とフレミアはそっと武器を下ろし、ひとときの再会のただ無言で見守った。
「良かったわね」
「うん……」
 彼女にはまだ、滅びではなく救済が許されている。それが確信に変わった瞬間だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)お疲れさんさ、お嬢さん。サテ・いろいろと手伝ってもらっちまったなァ。これほどの尽力に、対価を払わないってのァ理不尽ってモンだ。だから、俺にできる礼をしよう。
行動)事ここに至るまで同じ敵を頂いた、"味方"だった嬢ちゃんには会いたかった相手との面会を。この世界の"敵"たる嬢ちゃんには、その"いのち"を削るダメージを。せっかく迎えに来てくれたんだ、自分でその川を渡っちゃ貰えンかねェ。先の坊やと遊んだ直後に、ほかの猟兵(おヒト)らと戦ったンだ。それなりダメージも入ってるだろ。お前さんの国やら大事な家族は、川の向こうにまた広がってるからさァ。だめかい?



「お疲れさんさ、お嬢さん」
 仇敵を討ち果たした『殺戮の姫君』に、逢真は気軽な調子でねぎらいの言葉をかける。
 これだけ迅速に館の警備を突破し、領主を倒すことができたのはもちろん猟兵達の力であるが、三つ巴で場をかき乱し続けた同族殺しの影響も大きい。
「サテ・いろいろと手伝ってもらっちまったなァ。これほどの尽力に、対価を払わないってのァ理不尽ってモンだ。だから、俺にできる礼をしよう」
 そう言って彼は死の神格としての権能を発揮し、【奈河の対岸】を現世に出現させる。
 さらさらというせせらぎの音と共に、戦場に流れ込んでくる大量の水。それはこの世とあの世の境を分けるという、三途の川の流れであった。

「彼岸の水は冷たかろ」
「うっ……!」
 冥府より呼び寄せられた三途の川の霊威を受け、『殺戮の姫君』が苦しげな顔をする。
 川辺でふらりとよろめいた彼女は杖を支えにして立ち直り、川向うにいる"敵"をキッと睨みつけようとするが――。
「……えっ? お父様……お母様……?」
 そこで目にしたのは憎むべき"敵"ではなく、ずっと探し続けてきた大切な家族の姿。
 祖国の滅亡と共に此岸を去った魂が、彼岸の向こうから優しい顔で手を振っていた。

「事ここに至るまで同じ敵を頂いた、"味方"だった嬢ちゃんには会いたかった相手との面会を。この世界の"敵"たる嬢ちゃんには、その"いのち"を削るダメージを」
 逢真にとって『殺戮の姫君』は敵であり味方でもある。故に与えるは裁きと慈悲の両方――死に携わる神なれば、かつてに死んだ誰かとの再会の場を用意するくらいは容易い。
「せっかく迎えに来てくれたんだ、自分でその川を渡っちゃ貰えンかねェ。先の坊やと遊んだ直後に、ほかのおヒトらと戦ったンだ。それなりダメージも入ってるだろ」
 食い入るような眼差しで彼岸を見つめ続ける姫君に、逢真は頼むように声をかける。
 猟兵と彼女がこれ以上戦う意味はない。いたずらに傷つけあい苦しみを長引かせるよりも、ここで愛する者に迎えられて安らかに彼岸に渡るほうが、お互いにとって幸せだと。

『■■■■、もういいんだよ』『貴女を独りにしてしまって、ごめんなさい』
 三途の川の向こうから、父と母の御霊は『殺戮の姫君』に――愛する娘に呼びかける。
 彼らが発した言葉の一部は川音に紛れて聞き取れなかったが、おそらくは姫君の名前を呼んだのだろう。復讐に狂うあまり本人すら忘れてしまっていた名を。
『もう休んでもいいんだ』『これからはずっと一緒よ』
「お父様……お母様……私は……!」
 愛情に満ちた優しい言葉をかけられ、姫君の目からはらはらと涙の雫がこぼれ落ちる。
 そこに居たのは狂える『同族殺し』ではなく、愛する者達を喪った一人の娘であった。

「お前さんの国やら大事な家族は、川の向こうにまた広がってるからさァ。だめかい?」
 逢真の問いかけに返答はなかった。だが彼女の心が動いているのは涙を見れば分かる。
 あとはほんの少し待ちさえすれば、姫君は自らの足で彼岸に渡るだろう。神は三途の川のほとりにすっと腰を下ろすと、対岸にて語り合う親子の様子を見守るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

ああ、たとえ仇を討ち積年の無念を晴らしたとしても
かの姫君の心は二度と元には戻らないのね
もし運命の歯車が少しでも狂っていたならば
わたくしもああなっていたかもしれない

それでも、悲劇の連鎖は止めなくてはいけないわ

祈りと慰めを込めて歌う
【主よ、哀れみ給え】と
姫君たちが動きを止めたところに「浄罪の懐剣」を突き立てる
この剣は全ての罪を贖うために
たとえこの声が彼女に届かなくても
せめて来世は安らかなれと願う

姫君も騎士たちも、元々は民を思う優しい心を持っていたはずなのに
アニマネーラのような邪悪はその心を容赦なく踏み躙り
悲劇と狂気を再生産してゆく
ああ、わたくしたちはいつまで、こんな戦いを続けてゆくの……


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

確かにかの姫君は、貴族の邪悪な戯れの犠牲者には違いない
それでも、その狂気故に無辜の民を殺め更なる悲劇を生み出すならば
俺たちはそれを止めねばならぬ
彼女があの傀儡師のような「真の邪悪」に堕ちる前に

ヘルガ、飲まれるな
俺たちの手で彼女の狂気を終わらせること
それこそが唯一の救いなのだから

【守護騎士の誓い】を胸に、姫君の攻撃からヘルガを庇う
聖なる蒼炎も、騎士団や炎竜の攻撃も、全て俺が受け止めてやる
お前はお前の務めを……浄化を果たせ

全てを救うなど、途方もない夢物語かもしれない
それでもお前が挫けそうになった時は、俺が支えてやる
迷いあがきながらも歩み続ける
その先にこそきっと答えはあるのだから



「ああ、たとえ仇を討ち積年の無念を晴らしたとしても、かの姫君の心は二度と元には戻らないのね」
 復讐と悲願との狭間で狂乱する『殺戮の姫君』の在り様に、ヘルガは思わず涙を零す。
 失われたものは返ってはこない。過去も、故郷も、愛した者達も。それはヘルガ自身が何より良く理解している事だ。そして、オブリビオンに支配されたこの世界の残酷さも。
(もし運命の歯車が少しでも狂っていたならば、わたくしもああなっていたかもしれない)
 その絶望が手に取るように分かるからこそ、彼女は姫君の涙に呼応するように泣いた。
 それが既に数多の民を手にかけた敵だとしても、悲しみ、悼まずにはいられなかった。

「確かにかの姫君は、貴族の邪悪な戯れの犠牲者には違いない。それでも、その狂気故に無辜の民を殺め更なる悲劇を生み出すならば、俺たちはそれを止めねばならぬ」
 涙を流すヘルガの隣で、ヴォルフガングは剣を握ったまま、敢えて語調を強めて語る。
 彼女があの傀儡師のような「真の邪悪」に堕ちる前に、ここで止めなければまた多くの悲劇が起こり、その中からヘルガや姫君のような被害者が生まれるだろう。
「ヘルガ、飲まれるな。俺たちの手で彼女の狂気を終わらせること、それこそが唯一の救いなのだから」
「……ええ。それでも、悲劇の連鎖は止めなくてはいけないわ」
 愛する騎士の言葉に応え、涙をぬぐったヘルガの瞳には、再び決意の光が宿っていた。
 己が為すべき事は分かっている。彷徨える『殺戮の姫君』の旅路を、ここで終着点に。

「ああ……お父様、お母様、すぐに参ります……仇を全て討ち果たした、その後に……」
 姫君は泣いていた。彼岸の向こうに呼びかけながら、蒼き炎を周囲に燃え上がらせる。
 もはや彼女の復讐心は彼女自身にさえ止められぬ。狂気に焚き付けられて竜と騎士団も再び動きだし、主君が"敵"と定めた者たちに刃を向けた。
「我は誓う。牙無き者の祈りに応え、この身を盾と成し、命を懸けて守り抜くと」
 押し寄せる炎と軍から愛する者を守らんと、立ちはだかるのは狼騎士ヴォルフガング。
 【守護騎士の誓い】を胸に宿した彼は、鋼よりも靭く城壁よりも硬い、不壊の盾なり。何百の敵が相手だろうと穿けるものか。

「聖なる蒼炎も、騎士団や炎竜の攻撃も、全て俺が受け止めてやる」
 その言葉に偽りなく、ヴォルフガングは蒼き炎に耐え、騎士団の猛攻を鉄塊剣で捌き、炎竜の吐息さえ切り払う。その上で、彼から亡霊達には一切の攻撃を仕掛けずに耐える。
 彼の務めはあくまでヘルガの身を護る事。甚だ不利な行動であろうと、信念を以て為すのであれば道理を覆す力がその身に宿る。その足は最初に踏んだ地から一歩も退かない。
「お前はお前の務めを……浄化を果たせ」
 その行動も全ては愛する者を信ずるがゆえ。身を以て愛と誓いを示す騎士に、ヘルガは無言でこくりと頷いた。そして、この場にいる全ての死者達に――憐れな『殺戮の姫君』にも届くように、祈りと慰めを込めて歌う――【主よ、哀れみ給え】と。

「天にまします我らが神よ。その御心の許、我らに加護を。かの者に懺悔の時を……!」
 ヘルガの背中にある天使の翼から、神聖なオーラを宿した光が放たれる。オラトリオは天の御遣いとも呼ばれる種族――その威光は神の慈悲を世に示し、闇を眩く照らし出す。
 それは自然的な意味の暗闇だけではない。生者と死者の心に宿る闇さえもあまねくだ。
「ぁ……天使、様……?」
 まさに天上の調べを思わせる歌声と、狂気さえ包み込む光に、姫君は真の聖性を見た。
 狂乱する心はいっとき鎮められ、まるで時が停まったかのように全ての亡霊達が動きを止める。雪割草の聖歌姫はひと振りの短剣を携えて、その中を静かに歩いていく。

「この剣は全ての罪を贖うために」
 それは攻撃と言うよりも、ただ刃を突き出すだけの動作だった。水晶の刀身に沙羅双樹の花が埋め込まれた「浄罪の懐剣」は、すっと吸い込まれる様に姫君の胸に突き刺さる。
 たとえこの声が彼女に届かなくても、せめて来世は安らかなれと願う――その哀れみの心が相手に届いたのか。あれほど猛り狂っていた姫君は、静かにその場に崩れ落ちた。
「わた……しは……」
 胸から血を流し、瞳から涙を流す。その様は儚く、もはや戦う力は残されてはいまい。
 戦いの終焉を感じ取り、ヘルガは短剣を引き抜くと、くるりとその場から踵を返した。

「姫君も騎士たちも、元々は民を思う優しい心を持っていたはずなのに。アニマネーラのような邪悪はその心を容赦なく踏み躙り、悲劇と狂気を再生産してゆく」
 ヘルガが再び流す涙は、この世の理不尽さに対する怒りと悲しみの情が溢れたものだ。
 もう誰も泣くことのない世界をと願っても、その道のりはまだ余りにも遠い。行く先は深い闇に覆われていて、果ての兆しすら見えはしない。
「ああ、わたくしたちはいつまで、こんな戦いを続けてゆくの……」
「全てを救うなど、途方もない夢物語かもしれない。それでもお前が挫けそうになった時は、俺が支えてやる」
 戻ってきた歌姫をそっと抱きとめるのは蒼き狼騎士。その腕は優しくも力強い、彼女にとって最も心安らぐ場所。かつても今も、そして未来も変わらず彼女を救ってくれる腕。

「迷いあがきながらも歩み続ける、その先にこそきっと答えはあるのだから」
「……ええ」
 共に歩み続けよう。独りでは屈してしまう険しい道も、二人ならきっと歩いていける。
 ヴォルフガングの腕の中で、ヘルガは「ありがとう」と囁いて、彼を抱きしめ返した。
 この日、過去の因果と「もしも」の末路と向き合った二人の絆と誓いはより強固なものとなった。互いに手を取り、支え合いながら、歌姫と騎士はこれからも進み続ける――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
この裏道も封印の理由だったのか…

先程録音した“命令”再生
承諾しUC起動

OL起動
電脳禁忌剣機能全解放
剣に眠る設計図…未完の兵器
御伽を愛した創造主の憎悪の形
“騎士に討たれるべき邪竜”の姿へ

EPDユニットから放つ電脳魔術砲撃によるハッキング医療
肉体改造で狂気耐性を姫君に付与し一時的に正気を与え

お目覚めですか、復讐の姫君
貴女が会う必要のある者達がいるのです

下手人の姫君触媒に狂気の姫の手に掛かった者達を
そしてアニマネーラの手に掛かった者達を降霊

狂気の復讐の功罪を直視させる…非道の所業です
ですが私には、それを見逃す事が出来なかったのです

霊を送還し

御伽噺の騎士と違い、この剣を以てしても命の時計の針をさかしまに回す奇跡は起こせません
“過去”の貴女に、私は罪を背負いて生きる贖罪の機会を……与えられません


…救われるべきは、貴女も同じであった筈なのに…ッ!


せめて、貴女の贖罪を見届けさせて頂きます
最後に付添人をご用意いたしました

姫君が本当に会いたかった人々呼び出し

貴女の復讐に、良き終焉を

屋敷と罪を清める炎見守り



(この裏道も封印の理由だったのか……)
 戦いが終局に近付く中、トリテレイアは自らに施された凍結封印を解こうとしていた。電子頭脳の奥底に眠るロックされた領域に触れながら、彼は先程の領主アニマネーラとの戦いで録音した音声を再生する。
『は……はやく、このイカれた女を何とかしろ……!』
 その瞬間、トリテレイアの機体は変形を始め、電脳禁忌剣アレクシアが眩い光を放つ。
 彼は録音された"命令"を承諾する事で【銀河帝国量産型ウォーマシン・非常時越権機能行使】の発動条件を満たし、自らと禁忌剣に課された全ての制限を一時解除したのだ。

「オーバーロード起動。電脳禁忌剣機能全解放」
 超越に至ったトリテレイアは、機械仕掛けの騎士から"騎士に討たれるべき邪竜"の姿へ変形する。それは剣に眠っていた未完の兵器の設計図――御伽を愛した創造主の憎悪の形を具現化させた、彼の真の姿である。
「EPDユニット展開。医療ハッキング弾装填、電脳魔術砲撃開始」
 機竜は背部に装備された六枚羽と浮遊砲門を広げ、『殺戮の姫君』をロックオンする。
 発射するのはとあるプログラムを内包した、実体を持たぬホログラム弾。過たず目標に着弾したそれは禁忌剣と機竜の超越級の演算力により、奇跡的な現実改変を実現した。

「ぁ……あ……私は……」
 本来は精神医療目的で開発された治療プログラムは、『殺戮の姫君』の存在を肉体ごと書き換え、狂気への耐性を付与する。これにより今まで情動に振り回されるばかりだった姫君は一時的に正気を取り戻した。
「お目覚めですか、復讐の姫君」
 姫君の瞳に理性の光が宿ったのを確認して、トリテレイアは冷静な口調で声をかける。
 ヒトからは遠のいた現在の彼の風貌を見て、姫君は一瞬驚いたようだが――これまでの記憶が残っているのか、あるいはもう逃げる体力もないのか。その場からは動かない。

「貴女が会う必要のある者達がいるのです」
 トリテレイアが禁忌剣をひと振りすると、幾人もの人影がホログラムのように現れる。
 非常時越権機能を解禁した現在の彼は、電脳魔術による死者の降霊すら可能であった。狂気の姫の手に掛かった者達の霊が、その下手人を静かに取り囲む。
「……覚えています。この方達は、私がこの手で殺めた……」
「ええ。そしてもう一組」
 機竜がさらに剣を振るうと、今度はアニマネーラの手に掛かった者達の霊が出現する。
 この復讐劇にまつわる因縁の犠牲者達が、姫君を触媒としてこの地に集わされていた。

「狂気の復讐の功罪を直視させる……非道の所業です。ですが私には、それを見逃す事が出来なかったのです」
 数多の民に悲劇をもたらした『倨傲の傀儡師』アニマネーラを討てたのは、間違いなく『殺戮の姫君』の存在あっての事だ。だが彼女自身も数え切れないほどの無関係な人々の生命を奪った。同情すべき点があったとしても、罪は罪である。
「……はい。私は決して許されない事をしました」
 正気に戻った姫君は、反論なく自らの罪を認めた。謝って許されるような罪ではないと他ならぬ彼女自身が一番よく理解しているだろう。オブリビオンに全てを奪われた己が、同じ所業を他者に行っていたのだから。復讐による功績は、あくまでも結果論である。

「御伽噺の騎士と違い、この剣を以てしても命の時計の針をさかしまに回す奇跡は起こせません。"過去"の貴女に、私は罪を背負いて生きる贖罪の機会を……与えられません」
 犠牲者の霊を送還して、トリテレイアは話を続ける。オブリビオンとして蘇った姫君のかりそめの命は、既に風前の灯火であった。生きて罪を償うべきだとしても、そのための時間が彼女には残されていない。
「……救われるべきは、貴女も同じであった筈なのに……ッ!」
 彼の言葉に滲む悔恨の情は、目の前にいる姫君を騎士として救済することもできない、己の非力さを嘆くものでもあった。禁忌の封印を解いてもなお、この手には届かぬものが多すぎる――もう何度、悔やんだだろう。あと何度、悔やみ続けるのだろう。

「せめて、貴女の贖罪を見届けさせて頂きます。最後に付添人をご用意いたしました」
 トリテレイアは声から再び感情を押し殺し、電脳禁忌剣を用いて三度目の降霊を行う。
 彼岸の彼方より姫君の前に呼び出されるのは、彼女が本当に会いたかった人々の霊だ。
「貴女の復讐に、良き終焉を」
「……寛大な御心に感謝致します。猟兵様」
 父に、母に、愛する人達に囲まれながら、殺戮の姫君と呼ばれた女性はナイフを抜く。
 黄金で拵えられたその刃は、屋敷の炎に照らされて煌めき、女性の顔を映していた。

「お父様、お母様。私がそちらに向かうのは、もう暫く先になるようです」
 最期に残された力を使って、姫君は黄金のナイフを自分の首筋に当てる。その顔は穏やかであり恐怖の色はない。償わねばならぬ自らの罪と罰を、既に受け容れている表情だ。
「地獄の炎にてこの罪が清められた後、叶うならば、また……」
 愛する人達の姿を目に焼き付けて瞼を閉じる。この世に別れを告げるようにひと呼吸。
 オブリビオンへの叛逆と復讐の為に研ぎ澄まされてきた刃は、今最後の役目を果たす。

「最後の仇は――ここに」

 焼け落ちていく領主の部屋で、糸が切れたように少女の躰が倒れる。
 ――屋敷と罪を清める炎を、機械仕掛けの騎士は最期まで見守っていた。



 かくして、彷徨える殺戮の姫君の復讐は、救済と贖罪をもって終焉を迎える。
 悪しき領主と同族殺しは猟兵達の活躍により討たれ、新たな悲劇の連鎖は阻止された。
 この勝利が、闇に支配された世界の未来を少しでも明るく照らすことを祈りながら――猟兵の戦いは、これからも続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年12月24日
宿敵 『『倨傲の傀儡師』アニマネーラ』 を撃破!


挿絵イラスト