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少女害毒論

#UDCアース

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#UDCアース


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『みんな、こんばん……じゃなくって、敬虔な魔女信奉者の諸君、ごきげんよう! "少女害毒論"主宰のキルケです!』
 黒いローブを羽織ったロングヘアの少女が、ダブル裏ピースの指先を三角形に重ねるポーズを取りながら、カメラに向かって明るい笑顔を浮かべている。キルケと名乗ったその少女の後ろでは、黒ローブを羽織った十名ほどの男女が同じポーズを取って並んでいた。
『今宵は、わたしたち"少女害毒論"の第四回サバトの様子を、信奉者諸君にご紹介しまーす! 場所はですね、なんとなんと、都内某所のビルの屋上にあるバーベキュースペースです! 我らが同志・ネクロはんのコネを大いに頼って……げふんげふん、彼の捧げ物によって、禁断の獣たちの肉を焼いて喰らうという恐るべき儀式を執り行うことになったのです!』
 キルケはそう言って、ネクロはんと呼ばれた三十代半ばほどの地味めな男性をカメラの前に引っ張り出す。照れくさそうに頭を掻いている彼に向けて、居並ぶ黒ローブたちから拍手が起こった。キルケはそれから、『青蜻蛉さん、こっちこっち!』とテーブルに手を差し伸べてカメラを誘導する。
『見て下さい、このお肉の数々! ウシやブタじゃないんですよ! クマとかワニとかカエルとか、普段の生活じゃ食べられないようなものばかりで、いや、ほんと、魔女のサバトにふさわしい供物ですよね――』

 タブレットPCに映された動画のなかで楽しそうにはしゃぐ少女の声が、小さく萎む。グリモア猟兵の一色・錦の指先が、動画の音量を落としていた。錦はタブレットを集った猟兵たちに見せながら、説明を口にする。
「この子は、自称・魔女の末裔のキルケちゃん。と言ってもハンドルネームで、本名はわからないわ。SNSに載せているプロフィールによれば、現在十六歳の高校生ですって。実はいま、この子が行方不明になっているの。皆、この子の捜索をお願いできる?」
 SNSや動画投稿にハマっている未成年がなんらかの事件に巻き込まれる……毎日ニュースを見ていれば、時おり目にする話だ。しかし、猟兵たちが捜査をするとなると、それはただの事件では無いということになる。
「あたしが見た予知によれば、この事件の裏では邪神復活の予兆が蠢いているわ。何者が邪神復活を行おうとしているのか、それに、失踪したキルケちゃんがそれにどう関わっているのか……そこまでは視えなかったのだけれど」
 ワニ肉のバーベキューを齧って屈託なく笑う動画のなかの少女に視線を落とす錦に、猟兵の一人が質問をする。動画のなかでキルケが口にした"少女害毒論"とはなにか、と。
 錦曰く、"少女害毒論"とはキルケがインターネット上で立ち上げた魔女や魔術に興味がある者同士が集まるコミュニティの名前だそうだ。
 魔女になる素養がある少女は、いずれ人の世の毒になるアブナイ存在――そんな自虐と幾らかの優越感を含んだネーミングなのだろう。
「調査では、このコミュニティのメンバーに接触して話を聞いたり、キルケちゃんのリアルな身辺調査を行って足取りを追って頂戴。ただ、どこに邪神復活を目論む信徒が潜んでいるかわからないから、明らかに調査しているとわかるような素振りは控えたほうがいいと思うわ。あくまで自然に、ね?」
 "少女害毒論"がどのような活動をしてきたのか、どんなメンバーがいるのか、そして、キルケが失踪したあとのメンバーがどのような行動を取っているのか。
 或いは、ネット上に生きる『キルケ』としてではない、生身の少女としてのキルケの姿は如何なるものだったのか……調べねばならないことは多いだろう。

 それから錦は「参考に」と、三ヶ月ほど前に"少女害毒論"のSNSページに投稿された、キルケの姿を撮った最後の動画を再生する。
 そこには、先の動画のように快活に振る舞うキルケの姿が映し出されていた。彼女は同年代と思しきメガネの女の子を相手に占いをしていた。形こそソレらしいが、実力のほどは動画を見る限りではわからない。
『――というわけで、占いの館キルケちゃんの回、いかがだったでしょうか! 我らが同志・ニャンコトステップちゃんもご協力ありがとー! 今日の占いの結果を胸に、毎日ポジティブに行こうね! 信じる者は救われる、ってヤツだよ♪』
『ありがとう、キルケせんせーは、本物の魔女さんです! わたし、明日から良いこといっぱいありそうな気がしてきました!』
 二人の少女が笑う姿がフェードアウトしていき、動画は終わる。
 この投稿を最後にSNSは更新されなくなり、翌日、キルケは消息を絶った。


扇谷きいち
 こんにちは、扇谷きいちです。
 リプレイの返却スケジュールを紹介ページでご連絡する場合があります。お手数をおかけしますが、時折ご確認いただければ幸いです。

●補足1
 第一章では『行方不明のキルケ』の行方を追って頂きます。
 こちらの素性を隠して調査を行わねばならないため、一つのユーベルコードや技能によってキルケの行方を一発で掴むことは難しいとお考え下さい。

●補足2
 冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
 思いついたことは何でも試してみて頂いて構いません。
 ただし、シナリオの性質上、行動は一点集中に絞ることをお勧め致します。

●補足3
 第一章でキルケの行方が判明した場合、第二章では邪神復活を目論む信徒の儀式を防ぐ展開になります。

 以上、皆様の健闘をお祈りしております。
 よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『血脈の糸を追え』

POW   :    関係者に直接接触して調査する

SPD   :    当日の足取りを追い、現場を調べる

WIZ   :    家系の歴史や、術方面での調べを進める

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

四季乃・瑠璃
【ダブル】で分身。
本体:瑠璃、分身:緋瑪

緋瑪は現地調査。動画の発現や背景等から現場を特定し、足取りや現地での魔術の痕跡、残留魔力等を調べて、動画の後の行動を可能な限り調べる。

瑠璃は行動半径の都合で緋瑪の近くでタブレットやノートPCからネット関係中心に調査。
「少女害毒論」の他メンバーのSNS等でキルケの話題がないか確認。他、某掲示板やネット上でキルケの行方不明や少女害毒論についての噂、目撃情報等の情報を収集。

収集が完了したら、突き合わせして情報を統合し、行方を追うよ。

緋瑪「この子自体は割りと普通の子って感じかなー?」
瑠璃「こういう活動してたから利用された、ってセンが強そうだね」

※アドリブ等歓迎




「ネットって怖いねー、なんでも調べられちゃうんだもん」
 街角のコーヒーショップでタブレットPCを開いていた四季乃・瑠璃は、注文したカフェオレが冷めきる前に、キルケと名乗る少女の足取りを捉えていた。
 個人情報をネットに載せておらずとも、本人がSNSに残したつぶやきや写真や動画を精査していけば、活動圏内などすぐに割り出すことが出来るものだ。
 瑠璃はさっそくタクシーを拾って、キルケが最後に動画撮影をした場所へと向かった。
 都内某区、某駅。取り立てて見どころもない地味な地域、というのが第一印象の街である。瑠璃は駅からやや通りを進んだところに建つ雑居ビルの前で足を止めた。表の看板からテナントをチェックすると、目当ての貸しスタジオの名前が目に入る。
「コスプレイヤー向けの貸しスタジオ、か。ゴスっぽい雰囲気の画を撮りたいときは、こういう場所を利用してたんだね」
 一旦、人目のつかない場所へ立ち入った瑠璃は、己の半身たる"緋瑪"を呼び覚ましてから再びビルへと戻る。
 瑠璃は引き続きタブレットを開いてネット上から"少女害毒論"の話題を拾い、実地での調査は緋瑪へと一任する。
 最近こそ話題に上がることもなくなりつつあるが、キルケが消息を経った当初はSNS上でもずいぶんと話題になったようだ。ネットニュースはおろか、テレビでも事件は取り上げられていたらしい。
 動画撮影後の足取りこそ目撃談を得られなかったが、ニュース映像やSNS上の話を突き詰めていけば、キルケの実家も割り出すこともできそうだ。瑠璃はタブレットを仕舞うと、ひとまず緋瑪と合流することにする。
「スタジオのスタッフに尋ねてみたよ。確かにキルケは頻繁にこのスタジオを利用していたそうだ。スタッフも失踪のことを知っていて、当時はずいぶんショックを受けたみたい」
 警察からも何度も事情を聞かれたという。ただ、撮影当日のキルケたちの様子におかしな点は見られなかったそうだ。
 更に緋瑪は残留した魔力を探って足取りを追おうと試みたが、なにぶん三ヶ月も前のことなので、痕跡を辿るのは難しかった。二人は現場からの追跡は諦めて、ネット上で得た情報を元に、キルケの住む街を探すことにする。

成功 🔵​🔵​🔴​

九泉・伽
ネクロはん調査
熊や鰐を大量に仕入れられるのはその手の料理店かバイヤーか
動画日付付近Bスペースあるビル貸し出し記録も調査
特定し逢う

「動画配信者」を名乗りタロット見せ

オカ系なんだけどまだ迷走中“少女害毒論”のキルケちゃんとコラボ、要はお近づきになりたくて
ネクロはん俺より年上じゃない、どういうツテで知り合ったの?
どんな人だった?

吸うなら煙草を勧め

最近動画あげてないから心配でさぁ
――アレに巻き込まれたんじゃあないかって

アレって
動画配信者連続行方不明事件
(昨今の事件あたかも関連性があるかの如く舌先三寸)

邪神教団の生贄なんだってさ
と、揺さぶりかけ態度から白黒見極め

あははバレちゃった?本当は彼女が心配なのよ


四ツ辻・真夜
それにしても不思議だよね
『少女』害毒論なのに男性も混じってる
キルケちゃんをアイドル的偶像としてみて近づいたのかな?
もしくは財布として利用されてた?

という訳でネクロさんにアタック

「もう少女というより魔女って歳だけど」
夢は追いかけていたいもの
と裏ダブル三角ピース
私はオカルト方面に長けてるし
少女の憧憬に共感する嘗て少女だった者として
少女害毒論の入信希望者になりましょう
本当はキルケちゃんに逢いたかったけど
どうしちゃったか知ってます?と聞きつつ

「実は私、少し霊感があって」
と水晶玉を見せ
「この中にあなたの亡くした大切な人を思い浮かべてみて」
と追憶幻影使用

もしかしたら
見せびらかす為に信者を招集してくれるかも




 都心某所の繁華街の外れ。
 昼も夜も雑踏途切れぬ路地で店を構える、ジビエと珍味専門店「ムナガノシカ」を訪れたのは、九泉・伽と四ツ辻・真夜の二人の猟兵である。伽の調査によって、少女害毒論のとあるメンバーがここにいることを突き止めたのだ。
 ランチタイムの営業が終わる直前のためか、店内に客はいない。カウンターの奥では、やや小太りで生真面目な顔立ちの店主一人が、ランチ営業の後片付けに勤しんでいた。
「どうもこんにちは。そちらさん、"ネクロはん"だよね。突然訪ねて悪いね」
 いらっしゃいませ、とも、今日のランチは終わりなんですよ、と言う間も与えない。伽は「俺はオカ系の動画配信者やらせてもらってる、九泉伽。よろしく」と早々と自己紹介を済ますと、遠慮なくカウンター席に腰を下ろした。
「私は四ツ辻真夜。彼と同じくオカルト同好者ってところかしら。あ、ランチセットは……もう無理そうね。じゃあ、お話だけでも、よろしい?」
 真夜はそう言って微笑むと、店主ことネクロはんに裏ダブル三角ピースを向けてみる。彼はどうにも複雑な表情を浮かべると、挨拶も返さず、キョロキョロと二人の背後に視線を巡らせ始めた。
「参ったな、どういうことです? 凸生配信とかそういう話?」
 どこかでカメラを回している人がいないか探しているようだ。随分と神経質な反応だな、と伽と真夜は顔を見合わせた。
「いやいや、そんなんじゃないから安心して。むしろ逆。“少女害毒論”のネクロはんにお願いがあってさ。俺も彼女もオカ系コミュ立ち上げたは良いけど、まだまだ絶賛迷走中なんだ。そんで、界隈で大人気のキルケちゃんとコラボさせて貰えないかなーって、今日訪ねたワケ」
「そういうこと。私は少女と言うには少し歳を取っちゃったから、それこそ魔女って感じだけど。でも、魔女に憧れるキルケちゃんの姿を見ていたら、昔の私を見ているみたいで、とっても共感しちゃって。コラボと言わず、良ければ少女害毒論に入信させて欲しいとも思っているの」
 しばらく辺りを警戒していたネクロはんは、他に誰も居ないことを確かめると、ため息混じりに二人をねめつけた。あまり歓迎はされていないようだ。かと言って、追い出すような真似もしない。二人の素性を聞いて、下手な対応をしてネットで晒されたりするのを恐れているのだろうか。
「話はわかりました。でも、少女害毒論とコラボっていうのはどうかな……知ってるでしょう、あそこのノリ、そんなガチのオカルトファンの集いってわけじゃないし。もし本気なら、他所を当たったほうが良いと思いますよ」
 ネクロはんは、諦念めいた表情を浮かべて頭を振った。彼が自分の属するコミュニティを「あそこ」と呼んだ点に違和感を覚えつつ、伽は懐から潰れかけた煙草のケースを取り出して続ける。
「はは、随分とはっきり言うんだね。ってことは、ネクロはんも同じってこと? ガチのオカルトファンじゃなくて、キルケちゃんと個人的にお近づきになりたかった、ってクチかな。……ま、俺もそーいう面、なくはないんだけどね」
 その言葉を受けて息を呑んだネクロはんに、間を置かず真夜が続いた。
「キルケちゃん、かわいいものね。少し不思議だったの。"少女"害毒論なのに、動画に映るメンバーの半分以上は男性だったから。もしかして、ネットアイドルとして彼女の周りに集っている人も多かったってこと?」
 チェーン店ではなかなかお目にかからない、分煙すら無い店だ。真夜は言葉を繋ぎながら、なんとはなしに灰皿を伽の前へ滑らせる。伽は自分の煙草には火を点けず指間で弄びながら、取り出したもう一本の煙草をネクロはんへと差し出した。
 ああ、メンソールじゃないのか。ネクロはんはそうボヤきながら、受け取った煙草に火を点けて、紫煙を呑む。
「……否定はしませんよ。もともと私はネットアイドルヲタですからね。オカ系の、イタいけどかわいい子がいるって聞いて、コミュに入ったんです。半年くらい前だったかな」
 それなりに溜め込んでいたものがあったのだろうか。ネクロはんは、ヤケ気味に話を続ける。やれ、第四回サバトじゃカンパが足りずに材料費に足が出ただの、キルケちゃんガチ勢の取り巻きが鬱陶しかっただの。
 本気でオカルトを信じている人は少数派だったけれど、一部の人は本気でキルケを魔女だと信じていたそうだ。真夜は、その下りに聡く反応をした。
「それって、どうして? 疑うつもりはないけど、キルケちゃんを本物の魔女だと信じる根拠が、なにかあったってこと?」
「話半分ですけどね。彼女のご先祖が、なんでも魔女狩りの迫害から生き長らえたヨーロッパ移民の魔女だったとか。見た目、純粋なアジア系じゃないでしょう、あの子。青蜻蛉さんと違って、私はそこまで詳しいこと知らないですけど」
 そこで言葉を区切ったネクロはんは、しばし煙をくゆらせたあと、無造作に灰皿へ煙草を押し付けた。その仕草は、この話題はもうたくさんだと暗に告げているようだった。
「お話ありがとう。コラボも入会も難しそうだし、今日は諦めるよ。でも、今の話を聞いてますます心配になっちゃったな。……キルケちゃん、最近はSNSにもまったく顔を出していないでしょ? 魔女狩りにでも遭ったんじゃないの? ほら、最近耳にするでしょ、アレだよ、」
 席から立ち上がった伽は、上着のポケットに指先を掛けながら、横目だけでネクロはんを見つめた。
 ……動画配信者連続行方不明事件。そいつに巻き込まれたんじゃないかなって。
 伽の発した言葉は、口から出まかせのカマ掛けにすぎない。反応さえ見られればそれでいい。
 対するネクロはんは、目をしばたたかせたあと、うんざりした様子で眉を寄せた。
「悪い冗談はよしてください。そんなのがあったら、今頃もっとネットもニュースも大騒ぎだ。オカルトじみた話はもうコリゴリっすよ。こっちも、キルケちゃんの件で警察の事情聴取を受けるし、ネットでは叩かれるし、大変なんですから」
 心底憔悴しきった表情を浮かべて、ネクロはんは背中を向けた。その様に、なにか裏があるようには伽には見えなかった。少なくとも、これ以上彼から有意義な情報が引き出せる気配はないように思える。
「どうも、お邪魔しました。最後に一つだけ、いい? キルケちゃんに会いたいのだけど、いまどうしているかは……知らないですよね?」
 機があれば幻影を見せる秘術で籠絡するつもりの真夜だったが、いまのネクロはんの調子ではあまり効果は得られないように思える。むしろ逆効果だろう。店から立ち去る際、真夜は控えめに一つの質問だけを問いかけた。
 それに対するネクロはんの答えは、やはり力ないものだった。
「それがわかれば、今ごろ私もキルケちゃんにとっての神になれたんでしょうけどね」

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

レイ・ハウンド
おまわりのコスプレして実生活の調査をする
失踪届けが出てりゃ怪しまれねぇ範囲の筈だ

キルケの学校や近所周辺で聞き込み
家族仲や幼い頃からどういう娘だったか
よく行きそうな所を聞く

後は通学路や出没場所をこの足で調べる
目立たない様にな

好奇心旺盛そうだから
呪術関連ショップとか怪しいもんには飛びついた筈
それと廃墟や空き地も調べる
…多分逃げ場所があっただろう

見りゃ判る
無理して作ったキャラに
形だけ奇抜なサバト…
本物じゃねぇ
現実逃避だ

「信じる者は救われる」か…
信じるだけじゃなぁんも変わらねぇってのが
俺の人生での教訓だったがな
膨らんだ希望に裏切られて
報われなかった時が1番怖い

だが救われたがってたんだ
助けてやんねぇとな




 同じ事件を追う仲間の猟兵からの情報を得たレイ・ハウンドは、キルケが暮らす街を訪れていた。都心から私鉄で数駅ほど西に位置する、駅周辺に大きな商業施設もなければ繁華街もない、いわゆる閑静な住宅街と呼ばれる街である。
 警察官の格好をしたレイは、キルケの人となりや家族について調べるため、まずは彼女の学校周辺で聞き込みを開始する。
「この学校に通う、失踪した女子生徒の捜査中でね。三ヶ月ほど前のことなんだが……なにか知っていることはないかい」
 あまり人相も愛想も良いとは言えないことを、レイは自覚している。なるべく相手を怖がらせないよう努めながら、彼は手始めに下校途中の女学生に声をかけた。
「えー、本物のおまわりさん? ヤバい、聞き込みとか受けるの初めて!」
「ああ、写真とかは撮るなよ。SNSとかで自慢するのも無しだ。それで……知っているか、姿を消した女子生徒のこと」
「写真ダメかー、残念。ウチの学校で消えちゃった子がいるのは、知っているよ。二年生だったかなぁ、オートモさんとか、そんな名前だった気がする」
「大友」
 レイはその名を小さく呟いた。それがキルケの名前だろうか。インターネット上でしか姿を表さない、漠然とした存在が、不意に人としての輪郭を帯びる。
 レイの聞き込みをスマホ片手に受けていた女子生徒は「あたし一年生だからよく知らない。赤っぽいネクタイとかリボンの子が二年生だから、そっちに聞いたほうがいいかも」と教えてくてた。
 レイは立ち去る女子生徒の背中に礼の言葉をかけて、教えて貰った通り二年生らしい生徒に声を掛けることにする。

 大友陽菜(おおとも・はるな)。それがネットでも報道でも名が伏せられていたキルケの名だ。
 一通りの聞き込みを終えたレイは、キルケの住む街を歩いて回る。自宅近辺での聞き込みもしたいところだが、単独行動の巡査が長時間歩き回っている姿は逆に人目につく。誰かから詮索を受ける前に、レイは変装を解くことにした。
 調査で得られたキルケの人となりは、レイが想定していた人物像とは多分に異なる。明るく活動的で、友人も多い。動画の中で見せていたキルケの姿は、素に限りなく近いもののようだ。
 ――あの姿は現実逃避のためのものではなかった、ということか?
 念の為、廃屋や空き地を見て回ったレイだが、キルケの行方を覗わせる痕跡は見つからない。彼は得た情報を頭の中で整理しながら、少女害毒論の最後の動画に視線を落とす。
『信じる者は救われる、ってヤツだよ♪』
 動画の中で笑顔を浮かべる、魔女のコスプレをしたキルケ。この笑顔が偽りで無く、現実逃避ではないとしたら、果たして彼女が口にした言葉の意味はどこにあるのだろう。
「信じるだけじゃなんも変わらねえ。それが俺の人生の教訓だが……」
 膨張したキルケの希望は、彼女を裏切るのか、それとも幸福を授けるのか。先の見えぬ思索の迷宮から意識を離したレイは、白い息をこぼして灰白色の空を見上げた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

一駒・丈一
【SPD】
魔術の類は不得手だが、
『失せ物探し』はよくやっている。
対象の身辺調査は他の者に任せ、俺は対象のお膝元の周辺環境の情報を集め、可能性を絞っていくか。


邪教が絡むのであれば、
組織的な何かが裏で動いている可能性が高い。

そして、キルケが拉致、誘拐、勧誘されたならば、
その組織はキルケの生活圏内、或いはそれに近い所に存在している可能性がある。
人間一人を遠くまで移動するのは困難だしな。


なので
俺はキルケの生活圏内で、変な宗教団体の噂がないかを
周辺住民から聞き取ろう。
身分は…そうだな、ゴシップ雑誌の記者とでもしておこう。
『情報収集』『コミュ力』『追跡』これらの技能を活用していこう。
あとは『第六感』だな。




 一駒・丈一は、その身分をゴシップ雑誌の記者と定めていた。魔術やオカルトに対する造詣は決して深くはないが、傭兵稼業も復讐代行稼業も"失せ物探し"が付き物だ。物事を探るという点において、それは彼にとって似合いの肩書だったかもしれない。
 ――邪神が絡む事件ならば、相手は組織立って動いている可能性が高い。俺が知る限り、奴らは単独では仕事をしないからな。
 丈一は、あえてキルケ本人の情報を求めなかった。狙いはあくまで、邪神復活を目論む狂信者たちだ。
 キルケの住む街のどこかに、怪しげな宗教団体の噂がないか、丈一は聞き取り調査を進めていく。
「行方不明? 知ってわよお。あの、去年の暮に高校生の女の子がいなくなったって話でしょ! あたしも家族も、もうビックリしちゃって」
 商店街の端っこで井戸端会議に花を咲かせていた奥様方は、丈一が差し向けた話題を耳にするなり甲高い声をあげた。元より、口さがない噂好きの主婦たちである。彼が肩書を名乗る名乗らないも関わらず、彼女らは一を聞けば十の言葉で返してくれる。もっとも、そのうちのどれだけが真実なのかは、不明だが。
「そうなのよ、明るくてかわいい子だって、聞いているわ。家出かなにか知らないけれど、悪い人が起こした事件とかじゃなければいいわねえ」
「ああ確かに。事件じゃないことを俺も祈っているよ。それで、他に似たような話を聞いたことはないか? 誰かが消えてしまったとか、それと、変な宗教団体みたいなのが街をうろついているとか。なんでもいいんだ」
 困ったような悲しんでいるような、或いはそのような雰囲気を醸し出しているだけのような表情を浮かべながら、行方不明の女の子を案じる主婦たち。そのなかの一人が丈一の問いを受けて、「宗教団体かはわからないけれど」とハッとした様子で口を開いた。
「少女ナントカ、っていう不良集団がいるんですって。いえね、ウチの子が通っている高校で、そういう話があるらしいのよ。なんでも、その集団に目をつけられた子は放課後に体育館裏に呼び出されて、カツアゲされちゃうとかなんとか」
「やだ、渡辺さんったら。あたしが聞いた話と全然違うわよ。ヤクザだか半グレだかの事務所に連れて行かれるんでしょ?」
「なんにせよ、やーね。あたしたちの若い頃もさあ、そういうツッパリとかレディースとか居たけれど、もう少しねえ、硬派だったのにねえ」
 やや脱線をし始めた主婦たちの会話を慌てて遮る丈一。不良云々は誤解だろうが、かと言って話半分に流すには聞き捨てならない話題だった。
「その、集団とやらだが……もしかして"少女害毒論"という名前じゃないか? それに不良ではなく、もっと秘密のサークル的なものだと聞いた覚えは?」
 丈一の言葉に顔を見わわせた主婦たちは「言われてみれば確かに、そういう名前だったかも」と頷き合う。
 主婦たちの話をまとめると、こうだ。
 街の中高生を中心に、少女害毒論なる秘密結社のようなモノの噂が流れている。それは猟兵たちが知るオカルト系コミュニティとしての存在ではなく、『なにか知らないけど、ヤバそうなことをしている連中』という認識で語られているようだ。
 失踪したキルケはその『ヤバそうな連中』と揉めたから消されただとか、キルケ本人が『ヤバそうな連中』を引き連れて悪さしているだとか、不確かな噂がそれに付随していた。
 ――キルケ失踪の話に尾ひれがついている可能性もあるが、無視はできないな。ただのネットアイドルの取り巻きだったオカルトコミュニティが、次第に先鋭化してカルト教団化した……という可能性も否定できない。
 歴史を紐解いても、そう言った事例は枚挙にいとまがない。
 主婦たちに礼を述べてその場を後にした丈一は、得た情報を仲間に伝えるべくスマートフォンを取り出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

空廼・柩
魔女の末裔、ねぇ
俺には快活な子にしか見えないけれど
…今は先入観に囚われるべきじゃない
結果付けるのは調査が終った後だ

うーん…キルケも気になるけれど
今回の失踪、コミュニティメンバーの反応も気になる所
SNSページを覗いて各々の反応を確認
何かヒントになる事があるかも知れない
書き込みの中でキルケに関する意味深な発言、邪神を匂わす発言等があれば見逃さず
そいつの本名についてUDC組織にこっそり調べてもらおう
後の身辺調査はこっちの仕事
その人物に【影纏い】を使用する事で行動を追跡、出来得る限り情報を集めるとするよ

勿論、他の猟兵達との情報共有も欠かさない
一人で全て解決出来るなんて、これっぽっちも思っていないからね




「魔女の末裔、ねぇ」
 空廼・柩は口元に寄せたエナジードリンクがすでに空き缶であることに気がつくと、ボサボサに乱れた頭を掻きながら溜息をついた。彼はいま、自身のラボに籠もって、"少女害毒論"のコミュニティメンバーの言動を一つ一つ洗っている最中だった。
 大友陽菜ことキルケは、柩の第一印象通り快活な少女だったらしい。だが、それは彼女が魔女ではないこととイコールではない。科学研究の世界において、先入観はNGだ。新しい発見は、フラットな視線からでなければ見えないことを柩は知っている。
 ――表向きのSNSでは、さすがに邪神やそれらしい話題は見かけないな。コミュニティメンバーの声の大半はキルケ失踪を心配するモノばかりだが、事件からすでに三ヶ月。脱退者や距離を置く者もだいぶ多い。
 それから柩は、メンバーのSNSから辿り着いたオカルト系匿名掲示板に調査の矛先を向ける。個人情報登録が必須の、よりコアな同好者が集う掲示板のようだ。
「あること無いこと好き勝手書かれてるな、キルケたち。会員登録しているっていうのに、顔が見えない場所だとこうも下衆いことが言えるようになるものかね」
 オカルト愛好家の間では"少女害毒論"の事件はそれなりに話題らしく、一時ほどの勢いはないにせよ現在でもスレッドが続いていた。
 しかし、オカルト的見地から事件を推理する者もいることはいるのだが、最近のログで大多数を占めるのは根拠のない誹謗中傷やデマの類だ。
 『相互フォローの人気動画配信者○○と駆け落ちした』だの、『信者のドルヲタに拉致られて殺された』だの、『パパ活の末に性奴隷として外国に売り飛ばされた』だの、『キルケなら俺の横で寝てるよ』だの、言いたい放題である。無論、それらは事件の真相とは全く関係のない戯言に等しいものだ。
「こんなやりとりを三ヶ月分以上も読まないといけないのか……ドリンク買い込んでおいて良かった」
 再びガシガシと頭をかきむしりながら、柩は猫背気味に液晶画面に意識を集中させていく。澱みきった最新のログは後回しにし、最も古いスレから順を追っていけば、キルケ失踪当初はスレ住民もまっとうな考察――と言っても、オカルト的な見地からだが――をしていたことがわかる。
 常連のIDを書き留めながら読み進めていた柩は、そこであることに気がついた。
 スレッドの流れの如何に問わず、必ずキルケを盲目的に崇拝するレスを残す者がいるのだ。その発言者のレス頻度は低く、投稿内容もごく短いため、スレ住人からも全く相手にされていない。
 『キルケは本物の魔女だ』
 『彼女が私たちを救う』
 『キルケこそ神に選ばれた存在』
 なんてことはない言葉だ。しかし、柩の猟兵としての勘が何かを嗅ぎつけていた。
「こいつはもしかして……ネクロはんが言っていた、"キルケちゃんガチ勢"ってやつか? いや、キルケの地元で噂になっている"ヤバそうな連中としての少女害毒論メンバー"だろうか。なんにせよ、念のため調べておいたほうがいいな」
 柩は十時間ぶりに椅子から立ち上がると、ラボを出て馴染みのUDC職員の元へと急ぐ。手には、発言者のIDを書きなぐったメモが握られていた。
 すでに、日は暮れている。
 急ぎで調査をしてもらっても、発言者の身元が割れるまでには時間が掛かるだろう。その間、柩は仲間たちに情報を共有すべく、掲示板ログをレポートとしてまとめることにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

七厶・脳漿
『少女害毒論』のメンバーに接触を計りたい
無理ならネット上でもさ

あまり警戒されず、且つ必要に迫られ内情を話してくれるように
コミュに参加申請でも送ってみようか
亮(f11219)と二人分ね

接触できたら警戒されないように同類…いっそガチを装う
俺キルケ様の信者なんですよ、彼女はキャラ作りではなく本物の魔女だと思ってまして―なんて
推論だけど、同じくキルケを本物と勘違いした奴が邪神絡みの儀式やらに使おうとしてるなら
苦笑せずガチな反応返す奴が怪しいかな
例えば、あのニャンコ何とかちゃんとか

キルケ様にしか出来ないことがあると思うんですけどねぇ、と意味深にカマかけたり
ガチ同類扱いで誘拐犯から声かけてくれたら儲けもの


曽根・亮
ナナ(f12271)と潜入捜査だ
俺は『青蜻蛉』に接触を図ってみたい
撮影担当っぽいし、失踪直前の撮影やその前後に異変がありゃ何か知ってるかも…ってナナが言ってた
コミュで個別にメッセ送れたら送る
撮影機材や魔女の歴史について聞きたいだのスゲェ頼むわ

蜻蛉ってくらいだからぜってー青蜻蛉は眼鏡の奴だろ
間違いねェ。俺もたまには名推理すんだ
…結果どうあれ、キルケの失踪にショック受けた体で撮影日のキルケの様子を聞く
翌日どこに行くとか、誰かと遊ぶとか言ってなかったか
何か隠してるようなら「最近上がった黒ローブの水死体はまさか…」とか揺さぶってみるか
こいつも怪しいし言動に注意しつつ
勘違いならフォローも手厚くしなきゃな




 七厶・脳漿のスマートフォンから、新規メッセージの着信音が鳴った。彼はすぐにメッセージアプリを立ち上げると、その内容を対面に座る曽根・亮へ見せる。
「うまくいったみたいだ。"少女害毒論"への参加申請に返事が来た」
「ほら、俺の名推理っぷりはどうよ! 青蜻蛉のやつ、メガネだったろ? 蜻蛉って名前だからそうだと思っていたんだよ」
 亮は送られてきたメッセージに目を通しながら、にやりと口の端を上げてみせる。送信主である青蜻蛉のアイコンは、メガネを掛けた壮年男性の簡素な似顔絵だった。自慢げに笑う亮に脳漿は呆れたようにジト目を向けて、「偉そうにするほどのことでもないだろう」と言葉を返した。
 二人は現在、脳漿が営むショコラトリーのなかにいる。対人調査は直接会ってしたいところだが、二人はセオリーどおりアポイントを取るところから始めた。
 申請の文章のほとんどは脳漿が練ったものだが、亮が是非にと差し込んだ魔女の歴史への好奇心や、撮影機材への称賛が、少なからず功を奏したらしい。
 少女害毒論の中核メンバーである青蜻蛉はその情熱に負けて、「今日は遅いから直接会うことはできないが、インターネット電話でなら」と会話に応じてくれたのだ。

「こんばんは、はじめまして。七厶脳漿と言います。いや、少女害毒論の青蜻蛉さんとお話できて光栄ですよ。実は俺、キルケ様を本気で敬愛していまして。あの方をずっと側で支えていた貴方と繋がることが出来るなんて、まるで夢のようです」
 回線が繋がるや、脳漿は畳み掛けるように言葉を浴びせかけていく。ガチな同類を装うなら、興奮と熱狂を演じるほうが"ソレらしい"だろう。
 キルケのことをキャラ作りだの中傷する連中もいるけれど、俺はキルケ様を本物だと信じています――。脳漿の熱の入ったその言葉に、音声のみの通話に応じた青蜻蛉が小さな笑い声を返してきた。顔こそわからないが、低く落ち着いた声音から察するに、四十代……あるいは五十代以上の男性であることは間違いない。
『脳漿君、だったかな。キミは本当にあの子のことを好きなようだね。いや、気持ちはわかるよ。あの子には、人を惹きつける不思議な魅力がある。ボクもそれに惹かれたクチだからね』
「そうそう、その通り。俺もナナも完全にハマっちゃってさ。キルケの魅力ってやつに。やっぱり本物の魔女は違うよな……魅了の魔法でも掛けられてしまったのかもしれないな」
 亮が話を合わせて熱心なフォロワーを装えば、タブレットの向こうから青蜻蛉が短く相槌を返してきた。
 撮影担当の青蜻蛉は最古参のメンバーで、コミュニティのナンバー2といった立ち位置のようだ。"少女害毒論"が大きくなるにつれて、未成年のキルケでは管理が難しくなってきた事務や経理の取り纏めも行っていたらしい。
 なんてことのない雑談をしながら情報を聞き出していた脳漿と亮だが、いざ本題の"少女害毒論"への入会に話を戻すと、青蜻蛉は困った素振りを見せた。
『始めたころは来る者拒まず去る者追わず、メッセージを送ってくれれば誰でも入会できたんだけどね。コミュニティが大きくなってからは、トラブル対策も兼ねて簡単な審査と身分証の提示も求めるようにしてきた。……だが、キルケ君が居なくなる一ヶ月ほど前だったかな。彼女が突然、"今後はわたしが面談をして、それに通った人しか入会させない"と言い出したんだ』
「キルケ様が? それって、どういう意図があったんです? 選ばれし者だけしか彼女の側には近づけないとか、そういう?」
 顔を見合わせた脳漿と亮。青蜻蛉が「おそらく、そういうことだろう」とため息混じりに同意した。
『以前からキルケ君の周りには取り巻きがいたけれど、それはネットアイドルと熱心なファンのような関係だった。だが、行方不明になる頃に彼女の周りにいたのは、そういう輩じゃなかったんだよ。彼女を心から崇拝する……文字通りの信者だけが、彼女の側にいることを許されていたんだ』
 現在でも"少女害毒論"というコミュニティは存続しており、青蜻蛉が窓口として対応を続けているが、そういう状況であるから新規入会は難しい、と彼は申し訳なさそうに言った。
 それでも今回の対話に応じてくれたのは、脳漿と亮の様子が『"少女害毒論"が育ち始めた頃の、緩くも熱のある雰囲気を思い出させてくれて、懐かしかったから』だという。
 会話の終わりが見え始めたのを察した亮は、そこである質問を口にした。
「キルケが失踪する直前も、そういう取り巻きと一緒だったのかな。『これからどこかへ行く予定だ』とか、なにか聞いてないか? 俺も彼女が居なくなったことがショックでさ……少しでもあの子が無事だっていう希望みたいなものが欲しいんだ」
 亮が憔悴しきった素振りの声音で尋ねると、青蜻蛉は『詳しいことはわからない。あの頃には、僕もただの撮影係として動いていただけだからね。ニャンコトステップ君と違って、キルケ君にとって僕は彼女の求める"信者"ではなかったんだろう』と答えた。
「貴重なお話をどうもありがとう、青蜻蛉さん。最後にひとつだけいいです?」
『ああ、僕に答えられることなら』
 質問を許されると、脳漿は慎重に言葉を選んだ。
「キルケ様にしか出来ないことがあるとしたら、それってなんだと思います?」
 幾らかの沈黙を挟んだのち、青蜻蛉は答えた。
『あの子は本気で誰かを救えると信じていた。それは魔女である自分にしか出来ないことなのだと。その意味までは、僕にもわからなかったがね』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
『キルケ』は作られたキャラだ
強調された明るさの裏には
劣等感への虚勢と
自分じゃない何かになりたい憧れ
家は厳しいか幸せじゃなかったかも

・現実の自分が嫌
・それをポジティブに隠す
・一見頑張り屋
これを軸に人物像を広げよう

標的
最後の動画の少女

家族を喪った内気な少女を演じる
「あの…キルケちゃんからは励まして貰って…
最近見ないから心配で」
最初は「ネットで知り合った」から
徐々にキルケ像の精度を高め
キルケに相談してた仲間として
本当の知り合いになっていく
「キミの方が知ってるよね」と先導させ同調
占いやキルケへの本音を引き出したい
キーは
「無理に明るくしなくてもいいのに」

辛そう…
キルケと彼女にそう感じる

ねぇ
キミは今幸せ?


ニケ・セアリチオ
キルケ、キルケ
昔に聞いたことがあります
愛溢れる魔女さまと、同じ響き!
きっと、彼女も
ヒトを笑顔にするのが、お好きだったのではないかしら?


私は、同年代の子を中心にお話をお伺いしたいわ
ニャンコトステップさんともお話しができたら良いのですけれど

SNSで彼女やファンの少女達のアカウントを探しコンタクトを
「上げられていた動画を見て、最近ファンになりました!」
「楽しそうなキルケさんの姿に元気を貰えて、感謝の気持ちでいっぱいなの」
「でも、キルケさん……最後の動画から、全然お見掛けしなくて」
「せめてもっと早く彼女に御会いできていたなら、と後悔する日々です」
「どなたか、彼女へ気持ちを伝えるすべを知らないかしら?」




 柩がUDC組織に依頼を出した匿名掲示板の[キルケ信者]の正体が判明したのは、日付も変わろうとしている時分のことだった。
 キルケ自身からの信頼も厚く、失踪直前まで彼女と行動を共にしていた少女。キルケ失踪後もインターネット上で彼女を盲目的に信奉し続けた少女――ニャンコトステップ。
 彼女が今でも行方不明のキルケと共に居ると確信したニヒト・ステュクスとニケ・セアリチオは、中央線沿いにある学生街のインターネットカフェにて、ニャンコトステップとのコンタクトを試みていた。

「ニャンコトステップ、ニャンコトステップ。ニャンコとステップ? 可愛らしいお名前ね」
 無邪気に笑うニケに、ニヒトは緩く首を横に振った。
「かもね。……でも、本性はきっとそんなタマじゃない」
 深夜のインターネットカフェ。週末に終電を逃した酔っぱらいと、明日が休日のノーテンキな学生と、毎日がお先真っ暗のネカフェ難民だらけの店内で、二人の猟兵少女はスマートフォンとにらめっこを続けている。無論、個室だ。
 UDC組織からもたらされた、ニャンコトステップが公表していないプライベートなメッセージアプリのアカウントに、キルケの熱心なファンとしてメッセージを送ってから、おおよそ二時間。既読がついてから約一時間後、待ち望んでいた返信がきた。
『ニヒトちゃんニケちゃん、メッセージありがとー! ニャンコトステップです!』
『どうしてわたしのアカを知っているのか不思議だったけど、これも貴女たちがフツーの子じゃないって証かな?』
『おふたりのお話はわかりました! キルケせんせーのファンでいてくれてありがとね♪ 同志としてお友達として、わたしもとってもうれしいです!! ٩(๑´3`๑)۶』
 存外、軽いノリの文面に少なからず拍子抜けをするニヒトとニケ。話を聞き出すプランは幾つかあったが、まずは素直なキルケのファンとして、ニケから返信をしていくことにする。
「えーっと、楽しそうなキルケさんの姿に元気を貰えて、感謝の気持ちでいっぱいなの。でも、キルケさん……最後の動画から、全然お見掛けしなくて」
 真剣な面持ちでメッセージを入力していくニケの姿は、演技には見えない。おそらく本当に行方不明のキルケのことを心配しているのだろう。キルケの身を案じる真っ直ぐなニケの言葉は、ニャンコトステップにも届いたようだ。
『ニケちゃん、心配かけさせちゃってゴメンね! でも、安心してね。キルケせんせーは、ちゃんと無事だから!』
 決定的な一言だ。ニヒトは誰に向けるでもなく小さく頷くと、すぐにレスをつける。万人に救済を施さんと本物の魔女になろうとしたキルケ。そこには唯の人の身である劣等感からの虚勢と、ある種のヒロイズムに酩酊して救世主に憧れを抱いた変身願望が見え隠れする。
 であれば、その願望を満たす存在として振る舞えば、ニャンコトステップを介して、キルケへと至る道は向こうから開かれるはずだ。
「また、もう一度、キルケちゃんとお話できない? キルケちゃんに励まして貰ったあの日から、それだけが心の拠り所なんだ。ずっとキルケちゃんの側にいるキミには、ボクの気持ちを判ってもらえないかもしれないけれど」
 少しだけ、嫉妬の色を添えて。相手にマウントを取らせて。ニヒトはニャンコトステップの言動の誘導を試みる。返事は、先より少しだけ遅れてきた。
『そっかあ、ニヒトちゃんもキルケせんせーに救われた一人なんだね。貴女の気持ちがわからないなんて、そんなことないよ! わたしたちも貴女と同じ気持ちだもん(*˘︶˘*).。.:*♡』
『貴女たちもアイコンを見る限り、わたしたちと同い年くらいなんでしょう?』
『いま皆と相談してたんだけど、もし貴女たちにその気があるなら、キルケせんせーに会わせてあげようか?』
『と言っても、少女害毒論に入信するにはちょっとしたテストがあるんだけど!』
 皆と相談、という言葉にニケは顎に軽く握った手を当てて思案する。文字通り受け止めれば、キルケ信奉者として振る舞っていた者たちのことだろう。だが、裏で邪神復活の予兆がある以上、それがただの人間である保証はない。
 ――でも、でも。ここで尻込みなんてしていられないわ。ヒトを笑顔にするのが、お好きだったはずのキルケさん。彼女の下へ、一刻も早く駆けつけてさしあげねば。
 意を決して、ニケはニャンコトステップからの提案を受けることにする。
「キルケさんが姿を見せなくなってから……せめて、もっと早く彼女に御会いできていたなら、と後悔する日々を送っていました。私は決してテストの類が得意ではありませんが、ぜひ受けさせてください。キルケさんに貰った元気。その御礼の気持ちを、直接お伝えしたいから」
 そのメッセージを送ったあと、ニケは知らぬうちに強張っていた肩の緊張を解いていく。二人の少女はごく自然に視線を交わらせるが、この正念場において互いに掛けるべき言葉もない。二人とも無言のまま、返事を待つ。
 タイミング良く個室のドアがノックされ、店員がドリンクとフードを持ってくる。ニヒトとニケがそれらを口にしながら待つこと、十五分。
『かしこまりました! お二人のキモチ、わたしたちもしっかり受け止めさせて貰うね!』
『それじゃあ、テストの内容なんだけど。ちょっと言いづらくて恥ずかしいけれど、思い切って発表しちゃいます! ٩(๑`^´๑)۶』
 ニャンコトステップからの返事が来た。
 二人は飲食を止めて、続きのメッセージを待つ。実際には、そう長い時間ではない。だが、ニヒトもニケも、一分が三分にも感じるほど、粘り気を帯びた時間がゆっくりと滴り落ちていくような感覚を覚えていた。
 そんな重々しい時間を経たあとで、再び送られてきたメッセージ。
 その文面を見たニヒトとニケは、表情を強張らせずにはいられなかった。

『ニケちゃんとニヒトちゃんには、ひとごろしをして貰います!』

『あ、ちょっと違う。ひとごろしは絶対条件じゃないんだけど』
『それに近い感じの。物怖じしない系の子じゃないと、難しいヤツ』
『ちょっと参考動画をアップするので』
『ご確認ください! ❤(ӦvӦ。)』

 動画アップロード中のパーセンテージ表示が、画面に現れる。
「キミはいま幸せ? って、彼女たちに尋ねてみたかったんだけどね」
 ニヒトはニケと視線を合わせぬまま、独り言のように呟く。「尋ねるまでもなかったよ。きっとキルケもニャンコトステップも、悪い意味であの日からずっと幸せだったんだろう」
 残り六十パーセント。ニケは目を閉じて、嘆息と共に呟いた。
「昔、私が聞いた、物語に出てくる愛溢れる魔女さまと同じお名前。でも……キルケさんは、その魔女さまとは掛け離れた人だったのかしら?」
 わからない。その答えは、どれだけインターネットで検索したとしても出てこないだろう。キルケがニャンコトステップたちと共にいることは確かだが、キルケ自身が何を思い、そしてどういう状況に置かれているかは、未だわからないのだから。
 残り三十パーセント。ニヒトは、すっかりぬるくなってしまった紅茶に口をつけながら、呟いた。
「物語によると、魔女キルケが心から愛した者は彼女の元から立ち去るか、彼女の嫉妬を受けて二度と姿が戻らない化物にされたそうだ」
 そして、魔女キルケの元に残された者は、彼女にとってはどうでもいい存在である、かつて人間だった獣たちだけ。
 ――では、"少女害毒論のキルケ"は?
 ニャンコトステップの動画がアップロードを完了する。
 二人は真っ黒なサムネイルをタップして、動画を再生した。
 そこには、十二分五十六秒の地獄が収められていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジル・クラレット
ふぅん…なるほどね
ここまで情報が揃ったら、あと一息かしら

私は『ニャンコトステップ』を探ってみるわ
口先だけかもしれないけれど、『本物』って言ってるのが気になるの
同年代っぽいならキルケと同じ学校が怪しいわね

私は学校から離れた
けれど発見後すぐに追える程度には近い場所に潜伏しつつ
召喚した影蜥蜴の視界を通して登下校を観察
動画で見た眼鏡の女の子を探すわ

発見したら影蜥蜴で追尾
キルケの居る場所に辿り着けたらベストなんだけど…
いずれにしても、新しい情報が得られるまで追尾
単独潜入はせず、得た情報を仲間へ共有して一旦引き上げるわ

彼女が私たちを救う、か
…まさか"その命を捧げることで"って意味じゃないでしょうね…?




 ジル・クラレットは日が昇りきる前から寒空の下に立ち続けていた。
 真夜中に得られたニャンコトステップとのコンタクト。
 そして、仲間に持ち掛けられた死を招く提案。
 待ち望んでいた真相への近道だが、人の命を軽々と求めるニャンコトステップの言葉に、人として、猟兵として、応じられるわけがなかった。
 ――ならば、ニャンコトステップの行動を直接探って、キルケやその狂信者を居場所を突き止めるしかないわ。
 UDC組織の協力もあって、会員制掲示板の登録情報からニャンコトステップの自宅は割り出せている。
 ジルが想定していた通り、キルケとニャンコトステップは同じ学校に通う者同士だった。今日が土曜日であることを考えれば、登下校を尾けるのは不可能だが、ジルはニャンコトステップの自宅付近に張り込んで、彼女の動向を探る心算だ
 朝の十一時ごろ。黒ローブ姿ではない私服に身を包んだニャンコトステップが、自宅から出てきた。ジルは冷え切った身体をいたわるように自らの身体を抱いたあと、気を引き締め直して行動を開始する。
「さあ、あなたがどこまで彼女に尾いて行けるかが鍵よ…ルチェルトラ」
 尾行がバレぬよう、ジルは慎重にニャンコトステップから距離を置く。その代わり、ジルは使役する影蜥蜴に彼女の直近の監視を託した。ユーベルコードとはいえ万能ではない。長時間の追跡ともなれば、その成功確率は決して分の良い賭けではなかったが。
 ――ニャンコトステップが掲示板に書き込んでいた、「彼女が私たちを救う」という言葉……。
 地下鉄に乗ったニャンコトステップと影蜥蜴の後を追いながら、ジルの思考はどうしても真夜中に仲間から共有された血なまぐさい動画へと意識が向いてしまう。
 ――キルケ自身がその命を捧げることで、事を成す可能性も考えていたけれど。
 東京の地下に張り巡らされた電車網にて、乗り継ぐこと二回。ジルから離れた場所で長時間の行動を続ける影蜥蜴が、徐々に力を失いつつあった。ようやく電車を降りて地上に出たニャンコトステップを、ジルと影蜥蜴は焦りを押し殺して追跡し続ける。
 ――それは間違いだった。ああ、いっそのこと、私の想像通りであったのならば、よほど良かったのに。
 ニャンコトステップが歩いていくのは、高層ビルやタワーマンションの建設で沸き立つ湾岸にほど近い地区だ。しかし、少女が向かったのはそんな華やかな街角ではなく、さらにその先、時代から取り残された古い建築物が立ち並ぶ町だった。
 ――あの子がその身を犠牲にしていたならば、誰一人として命を落とすこともなかった。そんな風に考えてしまうのは、大人の……いえ、私のエゴかしら。
 影蜥蜴の歩みは遅れ、角を曲がるたびにニャンコトステップの姿を見失いかける。ジルは、もはやこれまでと、見つかるリスクを覚悟の上で自ら少女の尾行に赴いた。
 行き着いた先は、誰からも忘れ去られた首都の暗部だ。再開発の手が掛かりながらも、不況のあおりを受けて何十年ものあいだ取り残されてしまったゴーストタウン。ひとけのない町に立ち並ぶ古びた建築物の数々は、そのいずれもが廃墟である。
「この墓場のような町が、少女たちの聖地というわけね」
 灰色に燻った都市の死角を前にして、ジルは皮肉めいた独り言を零した。影蜥蜴は姿を消し、ニャンコトステップの行方も見失ってしまった。だが、ここまで追跡できたのは、猟兵としての彼女の力量があってこそだ。
 住人が去って久しい数多の民家。かつては客で賑わっていたのであろうホテル。外装も荒れ果てたマンションに、錆びたシャッターが並ぶ商店街。
 キルケを始めとして、ニャンコトステップ、少女害毒論の狂信者たちは、必ずこの町のどこかにいる。ジルは決して深追いはせず、仲間たちの協力を得るべく来た道を戻っていく。
 次の犠牲者が出るその前に、必ず戻ってこなければ。そう誓いながら。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『SNUFF』

POW   :    生贄を物色する狂信者のSNSやスカウトに騙されたフリをする。生贄として囚えられた上で反撃の機会を窺う

SPD   :    ネットに流出した儀式の映像を元に儀式の場を割り出し、密かに潜入。生贄を救出する機会を窺う

WIZ   :    予知で得た情報を元に邪神信奉者に接触する。信奉者の仲間として儀式の場に参列した上で、反乱の機会を窺う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Sabbath_09.mp4
 燭台に灯された火が妖しげに踊りくねっている。
 青みがかった煙が香炉から流れている。
 所々が抜け落ちた天井には、引きずり出された獣のはらわたのように、剥き出しの配管類が幾重にも走っている。
 窓に板を打ち付けられた暗い広間の床一面には、この世に存在するおよそどの言語にも属さない奇妙な文字によって、巨大な魔法陣が描かれている。
 陣の中央には包帯で乱雑に顔を巻かれた生贄の娘が、他に一糸まとわぬ姿で寝台に括り付けられていた。その肉付きの薄い身体には、血で滲んだ奇怪な入れ墨がびっしりと彫り込まれている。指を削がれた足先から、血抜きの栓を埋め込まれた首筋まで、余す所なく均等に。
 多種多様な獣の面をかぶった黒ローブ姿の者たちが、全裸の娘を囲って呪詛を唱えていた。手を除いて一切の肌の露出のない格好だが、黒ローブ越しにもわかる華奢な体格と細い手指から、獣の面の者たちが皆一様に少女であることが窺えた。
 そして、その狂信の輪を背後に従え、広間の奥に設えられた祭壇に膝をつきながら、一心不乱に祭文を唱え続ける一人の少女の姿があった。

 魔女を称し、魔女と称えられる者、キルケ。
 八の頭骨が並んだ祭壇に邪なる神への賛美を奉るキルケの表情は、かつて動画のなかで浮かべていた明るい笑顔とほとんど変わりがない。
 ただ一点。その瞳に宿った光だけが、異なっていた。
 邪なる神に魅入られ、心を犯され、狂気に侵された光。
 そんなキルケの下へ、生贄を囲む輪から一人離れた獣の面の少女が歩み寄る。下ろしたローブと獣の面の下から現れたその顔は、ニャンコトステップだった。
 暗い広間に響き渡る獣の面の少女らの呪詛と、生贄の娘が上げる悲鳴に掻き消されて、キルケとニャンコトステップが交わす言葉は聞こえてこない。
 二人の少女は微笑み合い、揃えた両手の人差し指と中指の先を重ねる印を結び合い、そっと口づけを交わし合う。そして生贄を邪神に捧げる儀式は熱を帯び、狂乱が場を満たしていく。
 編集された動画にしてみれば、わずか十二分五十六秒。
 だが生贄の娘が懇願し続けた、死という名の安息が与えられるまでに掛けられたであろう時間は、想像することも躊躇われた。


 送られてきた動画の日付はごく最近だ。
 キルケたち少女害毒論が邪神復活を目論む以上、彼女たちは新しい生贄をすぐにでも調達しようとするだろう。それは必ず防がねばならない事態だ。

 あえてその毒牙に掛かって生贄のフリをするならば、一般の者をこれ以上事件に巻き込まずに済む。少女害毒論たちの言動をインターネット上、現実世界、双方から観察してアプローチを試みれば、可能なはずだ。
 しかし、一度に多くの生贄が求められるわけではない。生贄の年齢や性別は問われない様子だが、彼女たちの注目を引く確かな策を用いねば、目をつけられることはないだろう。

 少女害毒論の儀式を阻止する最も堅実な方法は、これまでの調査で得られた情報を元に、儀式が行われている場所を推理して潜入を試みることだ。
 この方法を採るならば、彼女らに気づかれぬよう潜入し、かつ、何時でも儀式を阻止できる態勢を整える必要がある。
 少女らが集う前に潜伏することも可能だろうが、潜伏が早ければ早いほど発見されるリスクも高まる。なにが起こるかわからない以上、状況に応じた対策も考慮せねばならず、猟兵として求められる技量は決して低くない。

 最も確実に先制を取るならば、少女害毒論のすぐ側にて潜むのが一番だ。
 すなわち、少女害毒論に積極的にアプローチを試み、彼女らと同じキルケの狂信者として儀式に潜り込むという手段である。
 ただし、この方法は極めて難易度が高い。調査のなかで少女害毒論と繋がりを得た者か、彼女たちの仲間に入るために策を講じた者でなければ、不可能だろう。
 何より少女害毒論の性質上、若い娘でなければ門前払いを喰らうことは必至だ。

 時刻は正午。
 古来、魔女の宴は土曜日の夜に行われると伝えられる。
 少女害毒論が新たな生贄を捕らえ、邪なる神にその命を捧げる儀式が始まるまでに、猟兵たちに与えられた猶予はおおよそ十時間。
 その間に儀式を阻止するための態勢を整えねば、新たな犠牲者を生み出すことになるだろう。
一駒・丈一
俺は、場所の特定と潜入を試みる。

ゴーストタウンの何処かを特定する必要があるが……

動画では、確か
窓に板が打ち付けられていた。
即ち地下ではない。

暗い広間が映し出されていたため、
それなりの大きさの建物だ。民家は除外して良いだろう。

幸いだな。
地図を用意すれば、予め捜査対象の建物は多少は限定できる。

あとは、青い煙の香が焚かれていたので、建物周囲の匂いに注意して探そうか。

以上を元に、『失せ物探し』『追跡』の技能で、
調査対象に挙げられた建物の周囲近辺を捜索する。

潜入は、『忍び足』で。不測の事態を想定し、単独では潜入しない。
また、一般人は殺さない。
見つかった場合は、『早業』で手刀を首に打ち込み気絶させよう。


四季乃・瑠璃
瑠璃「キルケ本人の考えや意思はわからないけど…あの子達は一線を越えちゃった…捜索対象からあの子も標的かな?」
緋瑪「初期みたいな活動のままなら良かったのにねー。バーベキューの動画とか、楽しそうだったのに」

【ダブル】で分身継続

映像から儀式の場を事前に割り出し。事前に儀式場の構造を把握し、細工に閃光仕様の遠隔式ボムを偽装して設置。
その後は付近の建物から儀式上入口を張り込み。参加者が入った後に儀式場に潜入し、事前に調べた潜伏ポイントで待機。タイミングを見計らってボムを起爆して混乱させ、キルケ達を制圧。必要に応じ麻痺毒で身動きを奪うよ。
下手にその場で殺すと命と引き換えに邪神呼ばれそうだしね

※アドリブ歓迎




 人々に忘れ去られ、都会の片隅で朽ち果てていく町。一方で、崩れかけた廃屋の向こうに広がる青空には、きらびやかな高層ビル群が下界を嘲笑うかのように聳え立っている。
 これも格差社会の縮図か、などとしたり顔で言うつもりもなく、一駒・丈一は事実のみを求めて捨てられた町をゆく。
 ――この区画の大半は民家やアパート類だが、動画に映し出されていた状況から見て、これらは除外していいだろう。ならば、探るべき建物は絞られてくる。
 住み着いたノラ猫のほかに動く影もない街角を進み、まず丈一が目星をつけた建物は廃ホテルだった。乾いた冬の風のなかに、嗅ぎ慣れない甘い香りがかすかに混じっていた。
 同じ地区を調査している四季乃・瑠璃とその分身である緋瑪に連絡を取って合流すると、丈一はまずホテルの敷地周辺を回って外観から内部の様子を探っていく。
 敷地そのものは広くはないが、廃ホテルは本館と別館の二棟から構成されているようだ。侵入防止のフェンスは経年劣化のためか所々破れており、丈一たちはそこから敷地内へと侵入していく。
 ――やはり、なにか不自然な匂いがわずかに残っている。動画のなかで焚かれていた香か?
 それだけでは匂いの元を特定できず、丈一らはホテルの本館から捜索を始めた。足音も立てずに屋内に侵入すると、物陰に潜みながら動画内に映し出されていた場所がないか視線を巡らせる。
 一階、二階、三階……そして六階。順にフロアを上がっていくものの、それらしい場所は見つからない。屋上まで捜索をした丈一と瑠璃たちは、そこから周辺を見渡す。
「この周辺にある大きな建物は向こうに見えるマンションくらいだが、ああいう古いマンションにホールがあるようには思えない。とすると、残されたものは……」
「この隣にあるホテル別館ってわけだね。どこに監視の目があるともわからないし、慎重に行こう」
 三人は移動と周辺警戒を交互に分担しながら、本館を下って別館への侵入を試みる。辺りに人影はないが、ここはすでに敵地だと思うべきだろう。廃棄された自動車の影に隠れて周辺警戒をしていた瑠璃は、後方で待機する緋瑪と丈一に手を振って異常がない事を知らせる。
「……扉に鍵が掛かってる。けれど、ドアノブにホコリがついていないし、まだ新しい指紋が残っているみたい」
 ここが少女害毒論狂信者たちの儀式場に間違いないだろう。無理に侵入すれば感づかれかねない。瑠璃と緋瑪は別館の周囲を回り、建物の構造と侵入経路を探っていく。
 別館は宿泊施設ではなく、レストランや式場として用いられていたようだ。壁面は蔦草でびっしりと覆われ、実際の築年数よりもずっと古い建物に見える。
 ガラス窓部分が全て板で覆われているのも、動画の光景と一致した。
 緋瑪が蔦で覆われたまま使われた形跡のない非常階段を発見し、三人はそれを利用して三階から侵入を果たす。
 その経緯は知る由もないが、別館内部は本館以上に荒れ果てていた。壁やドアの一部が壊れていたり、床が抜けて立入禁止の柵が設置されている箇所もある。そして三階から二階へと降りたところで、三人はとうとう少女害毒論の儀式の場を突き止めることに成功する。
「魔法陣も祭壇も撤去されているけれど、間違いないよ。この下の階があの動画に映っていた現場なんだ」
「万が一でもバレないように、慎重にやってるみたいだねー」
 二階レストランの崩れかけた床から下を見下ろせば、そこは確かに動画に映っていたあの広場の面影があった。ひとけはなく、儀式が行われる時以外は不用意に近づかないようにしているのだろう。瑠璃と緋瑪は頷き合う。
 ――そうとわかれば、準備をしておかなくちゃ。誰かに見つかったら大変だもんね。
 瑠璃と緋瑪は手分けして非殺傷系の閃光弾の罠を設置していく。一階に降りて直接設置したいところだが、見る限りでは閃光弾を隠しておける場所がない。多少威力は落ちるかも知れないが、二人は垂れ下がったケーブル類や配管の影にそれらを隠していく。
「積もった埃から察するに、潜伏するとしたら二階か三階が無難か……一階は広間のほかの部屋も使われている形跡がある。下手に入らないほうが良さそうだ」
 フロア内を見て回っていた丈一が戻ってきたのは、瑠璃たちの罠の設置が終わるのとほぼ同時のことだった。
 下調べが終わったいま、長居をしてもリスクが高まるだけだ。今日の正午ごろに、一度ニャンコトステップがこの周辺を訪れていたという情報がある。三人はいざ行動に移るそのときまで、いったん本館へ身を隠すことにする。
「キルケ本人の考えや意思はわからないけど……あの子達は一線を越えちゃった。それなら……キルケも捜索対象から標的へ対象変更かな?」
 ホテル本館の一室。カビ臭いベッドの上に腰掛けた瑠璃が呟くと、向かいのソファに座って外を眺めていた緋瑪は「初期みたいな活動のままなら良かったのにねー」と、どこか諦念めいた調子で言葉を返した。
 思い起こされるのは、楽しそうなバーベーキューの動画。あの頃のままであれば、こんなことにはならなかったのに。或いは、人の命が奪われる前であったのならば……。
 そう思えど、もはや後戻りはできない。瑠璃、緋瑪、そして丈一は、夜が訪れるその時を静かに待ち続ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クリストフ・ポー
…おやおや
随分と突っ走ったじゃないか☆

生贄を物色する狂信者のスカウトに乗ろう
求められるのが同志で無く羊なら
『ネットアイドルの魔女キルケちゃんが大好きで
何も知らず必死になって探してる愚かなファン』
という設定ではどうかな?
好意的な言動に無理解という煽りを潜ませ苛つかせ
特別な自分達と愚衆、それも軽蔑の対象なら
儀式の盛り上げには最適だろ

仄めかされたら
「それってもしかして…キルケちゃんに会えるかもってことですか?」
だったら嬉しいなとか迂闊に餌にガッツいちゃう
誘われればホイホイされちゃう系
SNS情報、服装は野暮な女学生を偽装

拘束後は存在感で目を惹き
苦痛と怯えた演技で誘惑
違和が生じたら言いくるめで後へ繋げる


ニケ・セアリチオ
息を、呑んだ
けれど、けれども

ええ、ええ
ここで足を止めては、いけません
――今の私に、出来る事を

テスト。儀式に参加することかしら
ええ、是非に
少しでも早く、キルケさんとお近づきになりたいの
すぐにでも馳せ参じたい心算だわ

質問は、しても良いのでしょうか?
こう言ったことは初めてで
少しでもお勉強がしたいのです

例えば、贄
どの様な方を贄にした方が宜しいだとか
そういう条件はあるのかしら?


情報はSNS経由で猟兵の方へ
もしくは手持ちのメモを鳩へ託して
近くで調査されている方に預けましょう


場所を教えて貰えたら
彼女たちの元へ

建物に入る直前
建物周囲で旋回する様、鳩達に頼んで
その旨を掲示板等に送ります
導べとなれば、良いのですが




 昨晩はいつもより眠りが浅かった。
 ニケ・セアリチオはどこか茫とする思考を引き締めるために冷たい水で顔を洗うと、スマートフォンの通知を確認した。
 いまは土曜日、午前七時。メッセージアプリには、早朝四時にニャンコトステップからのメッセージが一件。
『参考動画を見ても、まだテストに参加してくれる気持ちは残っているかな?』
 その文言に、ニケは無意識のうちに息を呑む。動画で目にした酸鼻な儀式の光景が脳裏に蘇って、胸の奥に重苦しいものが沈み込んでいく感覚を覚える。
 ――けれど、けれども。ここで足を止めては、いけません。
 ニケは澄んだ朝の空気を吸い込むと、意を決してニャンコトステップに返信を打つ。
「ええ、是非に。少しでも早く、キルケさんとお近づきになりたいから。すぐにでもテストの場に馳せ参じたい……そう思っているくらい」
 ニケがそんなメッセージを送ってから、わずか一分で返信がきた。
『そう言ってくれると思ってたよ! もし拒否られてたら、ニケちゃんを生贄にしちゃうところだったー!! (  ิ౪ ิ )っ─∈ 🍰』 
 その無邪気な言葉に何ら裏がないことを、ニケは察していた。
 彼女は胸に下げた一枚の金貨を指で触れる。異国の神話のなかで"キルケという魔女と同じ世界に住む、勝利の女神"と同じ名を持つことは、ただの偶然と一笑に付すべきことだろうか。
 違う、そうではないはずだ。
 ――いいえ、いいえ。これが運命だというのならば。私は。
 ニケは意を決すると、メッセージアプリの通話ボタンをタップする。予感はしていたから、驚かない。ほんの数秒のコールのあとで、通話が始まった。
『おはよう、ニケちゃん! お電話くれてありがとう、文字で会話するのは気楽だけれど、やっぱりこうしてお話してみたかったんだ』
「ええ、ええ。おはようございます。そしてはじめまして、ニャンコトステップさん。ニケです。朝早くから突然お電話してごめんなさい、迷惑だったかしら」
『はじめまして、ニャンコトステップです! 迷惑だなんてそんなことないよ。むしろわたしのほうこそ、徹夜してたからちょっとテンション高めかもしれないけど、ごめんね♪ ……それで、わざわざ通話をしてきたってことは、なにかメッセージだけじゃ伝えられないお話かなあ?』
 受話器から聞こえてくるニャンコトステップの声音は、占いの動画で見た彼女の様子よりも快活な印象だった。言葉の微妙なニュアンスが、どことなくキルケのそれに似ている気がする。もはや身も心も感化されている、ということなのだろうか。
 ニケはそんな感想をニャンコトステップに抱きながら、率直な気持ちを彼女に伝える。
「はい。儀式もテストも参加する覚悟を決めました。けれど、ああいったことはわたしも初めてで……いざ臨む前に、少しでもお勉強がしたいのです」
『うん、無理はないよね。ああいうのって、最初は尻込みしちゃうだろうし。それで、お勉強って言うのは?』
「例えば、ですが。贄……と言うのでしょうか? ああいった人たちをどういう基準で選んでいるのかなど、知ることが出来たら、少しは実践に臨みやすいと思ったのです」
『なるほどー、そういうことか。そうだよね、わかるわかる! でもでも、だいじょうぶ、安心して! わたしたち少女害毒論は、世の中を救済する正義の味方だもん。贄に捧げる相手は、全員悪い人たちだよ!』
 こともなげに言ってのけるニャンコトステップのセリフに、ニケは軽い目眩を覚えた。丈一の調査で、少女害毒論が市民の拉致を繰り返していることは知っている。その被害者の詳細までは不明だが、拷問殺人を受けても仕方のない極悪非道の人間など、そんなに大勢いるわけがない。全ては彼女らの歪んだ独善が生み出した被害だ。
「では、教えて下さい。私たちがキルケさんや神様に捧げるべき命を持つものとは、どんな人たちなのかしら」
 ニケの問いに対して、ニャンコトステップはアイスクリームショップで数多のフレーバーの中からオーダーを選ぶように、至って軽やかな調子で答えた。
『えっとねー、まずは"この世にいらない酷い人間"、でしょ? それとね、"キルケせんせーのことをバカにする人間"も許せないよね。あとあと、"わたしたち少女害毒論の邪魔になる人間"も生かしておけないかな! ふふふ、世のなか敵だらけです』
 そしてニャンコトステップは言葉を続けた。『ちょうど生贄にすべき邪魔な子がいるの。ニケちゃん、せっかくだからお勉強も兼ねて捕まえにいかない?』と。
「……はい、ご一緒します」
 ニケは、緊張が声に出ないよう努めながら手短に答える。
 それから待ち合わせ場所などのやり取りをしたのち、通話は終了した。ニケはそれらの情報をスマートフォンで仲間の猟兵に伝えると、外出の支度を整えていく。

 ……その通話から遡ること、おおよそ五時間前。
 ニケとニヒトが共有した生贄儀式の動画を受け取ったクリストフ・ポーは、その直後からさっそく行動を開始していた。
 スマートフォンの小さな画面のなかに映る悲惨な映像を眺めながらも、クリストフの表情はまったく動じることがない。少女害毒論が新たな生贄を求めるであろうことを予測し、彼女は自分自身がその贄にならんと試みる。
 ――求められるのが同志ではなく羊なら、乗ってやろうじゃないか。
 クリストフは少女害毒論のSNSのコメント欄や匿名掲示板、それにキルケやニャンコトステップ個人のSNSアカウントに次々とコメントを投稿していく。
 その内容を一言で表すならば、『痛いファン』である。
『アイドルのキルケちゃんに魔法をかけられちゃいました☆ わたしもサバトに参加して一緒に遊びたーい!』
 などとフザけたアプローチは小手調べで、続く言葉には狂信化したキルケたちの本質を全く理解していない、むしろ彼女たちの神経を逆撫でするようなコメントを連投していく。
 それからしばしの時が経った。取り立ててネット上でのリアクションはないが、狂信者たちの幾人かはクリストフの存在に気が付き、少なからず意識し始めている頃合いだろうか。
 ――さあ、こんな愚か者が君たちのすぐ側まで迫っているとしたら、どうする?
『キルケちゃんの地元って○○区の△△駅の辺りですよね? わたし最近キルケちゃんのこと自分でも探すようにしてて、休日は一日中街を歩いているんです! あ、わたしニャンコトステップちゃんのおうちと近くって。××駅なら今日もすぐに行けるから、一緒にキルケちゃん探し、しましょうよー!!』
 自宅の情報は当然、表立って公表されているものではない。これまでの調査で得られた情報を元に、クリストフはニャンコトステップたちに揺さぶりをかける。この愚か者はただの愚か者ではない。放置しておけば儀式の場まで嗅ぎつけかけない、厄介な存在である、と。
 さらに待つことおよそ三時間。DMに記載しておいたクリストフ自身の電話番号に着信があった。発信相手は、ニャンコトステップ。クリストフは口元に笑みを浮かべると、数回コールを待ってから応答する。
「やあ、おはよう――」

 時は正午。熱心でイタいファンを装ったクリストフは、スカート丈も膝頭ちょうどのいささか野暮ったい女学生の格好で、都内にある廃墟じみた街角にいた。背後には、錆びたフェンスで囲まれた廃ホテルが建っている。
「おまたせしてゴメンね、あなたがクリストフちゃん?」
「こんにちは、はじめまして、クリストフだよ。わあ……本物のニャンコトステップちゃんだ、お会いできてとっても嬉しい☆」
「ふふ、こちらこそ。とっても熱心なキルケせんせーの信者さんみたいだったから、どんな女の子なんだろうって、わたしも興味があったの」
 口元に手をあてて笑顔を見せるニャンコトステップ。だが、その目は緩く細められはせよ、全く笑っていない。いまはコンタクトレンズなのか、動画と違ってメガネを掛けていなかった。
 ――食えないヤツだ。
 クリストフは顔を赤らめて無邪気なミーハーを装いつつも、至って冷静にニャンコトステップを観察する。すると、ニャンコトステップに遅れてこちらに近づいてくる人影に気がついた。
「あら、あなたはひょっとしてニケちゃん? 迷わず辿り着けたようで何よりだわ。ごめんなさいね、ちょっと目立ちたくないから、ここへは連れ立って訪れない決まりなの……あらためまして、ニャンコトステップよ。お二人とも、どうぞよろしくね♪」
 それはニケだった。互いにメッセージアプリを通してここに訪れるという情報を共有していたため、ニケにもクリストフにも驚きはない。ごく自然に、初めて出会った者同士として、二人の猟兵は自己紹介をし合う。
「さあ、立ち話もなんですから、行きましょう? 今日はとっても楽しいことになりそう!」
 ニケとクリストフの関係を疑う様子もなく、ニャンコトステップは踊るような足取りで二人を廃ホテルの別館へといざなう。
 不意に、二人のスマートフォンが震えた。感づかれないようニケだけが通知を確認すると、『この地区にニャンコトステップたちがいるようだ』という、彼女のことを自宅から追跡していたジルからの連絡だった。
 建物へと足を踏み入れる直前、ニケの背後から二羽の白鳩が飛び立った。青空へと翔けていく美しいその姿を、三人の少女らは足を止めて見つめる。とりわけ目を輝かせていたのは、人一倍占いの類に敏感であるニャンコトステップだった。
 ――皆、よろしくね。
 白鳩が幸福と平和の象徴であることは間違いない。だが、その白鳩はニケの大切な友人だ。ニケたちが敵地に踏み入れたことを仲間の猟兵へと知らせるために、彼らは飛び立ったのである。
 なにも知らないニャンコトステップは「本当に良いことがありそう」と笑いながらホテル別館の一階にある結婚式場へと二人を招き入れる。
 扉が閉まると、辺りは真昼にも関わらず暗闇に包まれた。
 何の会話も挟まず、ニャンコトステップが無言でクリストフの背後に立った。
 ポケットから長めのコードを取り出し、口元をいびつに釣り上げた。
「ニケちゃん、まずはお手本を見せてあげるね」
 そして、それを躊躇うことなくクリストフの細い首に巻いて締め上げる。
 クリストフは短く呻いたあと、必死で手足をバタつかせた。必死で苦しんでいる演技をするために。
 ――嗚呼、これだから素人は。
 耳元でケラケラと耳障りなニャンコトステップの笑い声が響く。情緒の欠片もないそのやり口に、クリストフは薔薇色の溜息をついた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四ツ辻・真夜
信者を誘い出す

何処でもいいから好奇心旺盛そうなおばちゃんを捕まえ
「私霊能者なんです
あなたが亡くした大切な人の事
この水晶玉に思い浮かべて下さい」
と追憶幻影で見えた姿の特徴を教える

という動画を九泉さん(f11786)に撮って貰い
次は土曜の午後6時から
出るって噂の(ニャンコトステップが消えたゴーストタウンの一角)で廃墟探索を生配信します
よろしくね
で〆

時間までにコミュ力で知り合いに動画にいいねして貰い観覧数伸ばす
UDC職員さんも協力お願い!

現地で配信しながら襲撃を待つ
襲われたら庇われてる間に
地形の利用駆使し逃げ足活かして情報を持ち帰る
九泉さんにつけた追跡者の影で信者を追跡
彼に興味なさそうなら私が生贄に


九泉・伽
【真夜(f11923)】と生贄狙い
互いに発信器を潜ませ対になる受信機所持

追憶幻想使用の実況動画配信
「二度と逢えない人に逢わせてくれた彼女は、幽界と現界つなぐ真実の魔女なのだ」

判明済みの匿名オカルト掲示板に
動画URL投下と「少女害毒論」名指しで「偽物乙」と荒らす
真夜が本物と信じ正義の荒しスタンス
オルタナティブ・ダブルで手数増やし動画宣伝

予告通り廃墟で動画実況
襲撃の隙作る為「トイレ」と配信を止め真夜を単独に
騒ぎには即駆け付け割りいるが真夜逃がすのがやっとの非力さ装い己が囚われる
生贄=真夜に拘るなら適当な所で振り払われる

攫われたのが
自分:怪しまれる事はせず怯える
真夜:受信機で場所特定し仲間へ共有




 クリストフが生贄として少女害毒論に囚われたという情報は、すぐに猟兵たちの知ることとなる。ニケとニャンコトステップは、現在は廃ホテルとは別の場所で儀式の時まで時間を潰しているようだ。
 九泉・伽はスマートフォンを仕舞うと、作戦を共にする四ツ辻・真夜と顔を見合わせて頷きを交わす。
 午後三時、首都東京のなかでも最も人が行き交う街に二人はいた。
 如何にも只者らしからぬ雰囲気を醸し出した格好の真夜は、目が合った中年のご婦人におもむろに声を掛ける。「私、霊能者なんです」と。
「あら、キレいな人。占いとか手相とかかしら? 面白そうだけど、こういうのって変な数珠とか壺とか売りつけられたりするんでしょ?」
「だいじょうぶ、そんなことしないから安心して。俺たち、ネットで実況動画を配信していてさ。むしろこっちから謝礼を渡せなくてゴメンね、って感じ」
「そういうことなんです。この水晶玉に向けて、あなたが亡くした大切な人のことを思い浮かべて下さい。お話することは出来ませんが、水晶玉を通して再会できることをお約束します」
「あら……」
 伽と真夜の言葉に、婦人はその気になった様子だ。人通りの多い駅前広場のベンチということもあり、安心感もあるのだろう。彼女は実況配信に応じてくれた。
「それでは改めて。貴女が亡くした大切な人のことを、心から思い浮かべてください」
 真夜が夢にいざなうような優しい声音で語りかけ、伽はその様子をスマートフォンで撮影していく。別の端末で実況動画の視聴者数を確認すれば、突発的な配信にも関わらず、なかなかの賑わいぶりだ。伽はそっとほくそ笑む。
 追憶幻影を用いた真夜の降霊術も滞りなく進んでいる。婦人はハンカチを目元にあてて、水晶玉に浮かんだ亡き母との思い出を涙ながらに真夜に語っている最中だった。
 久々に元気だったころの母の顔を見ることができて嬉しかった。せめてもの御礼に、と降霊術を終えた婦人は二人にアメ玉を渡して去っていく。
 雑踏に消えていくその後姿をバックに、真夜は「神秘と不思議の世界は、確かに現実に存在するのです。今日は午後六時から、再び実況配信を行う予定です。場所は●●駅の北側にひっそりと残された廃墟街。彼の地に残された死者の声を聞きに行きたいと思います。みなさん、ご視聴どうぞよろしく」
 そうしてフェードアウトしていく画面に、伽のナレーションが被る。
「二度と逢えない人に逢わせてくれた彼女は、幽界と現界つなぐ真実の魔女なのだ」

 配信を終えた伽と真夜は、近くのカフェにて実況動画の反応確認とネット上での工作を進めていく。
「反応は良いよ。本物だフェイクだって、いい具合に荒れている。私の知人もUDC職員さんも拡散してくれているみたいだし」
「だいぶ熱くなってきたか。ここらが攻め時かね」
 機が熟したと見て、伽は例の匿名掲示板や少女害毒論のSNSにキルケを貶めるような煽りコメントをつけていく。
『降霊術の彼女こそが本物だ』『自称魔女のキルケなど、ただの痛いオカルトかぶれに過ぎない』
 それらのコメントに賛同するものが多数を占め、反対意見を述べるものは少数に過ぎない。
 少数派が少女害毒論だという証拠はないが、この騒動に快く思っていないことは想像に難くない。
 二人は暮れ始めた街に出ると、あのゴーストタウンへと向かった。黄昏どきのその地区は、街灯すらまともに灯っておらず、東京の真ん中だとはとても思えない異様な雰囲気に包まれていた。
 ――配信中に凸ってくるヤツがいないかと心配していたが、平気そうだね。さあ、後はサカナが針に食いつくのを待つばかりだ。
 伽がスマホを構えたその先には、昼間と同じく霊能者として振る舞う真夜の姿。厳かな面持ちで廃墟の合間を巡る女霊能者の姿は、逢魔ヶ時の空気と相まって、どこか妖しい色香すらまとっている。
 この地区にまつわる昔語りを諳んじていた真夜だが、言葉を紡ぎながら視線だけをさりげ無く伽の背中の向こうへと向けた。
 ――窺っている。私たちのこと。
 闇の中に紛れて後をつけてくる、細く小さな人影が五つ。
 真夜の視線の意味を伽はすぐに察した。彼らのことを快く思わない少女害毒論の狂信者が、襲撃に現れたのだろう。そのまま襲ってくるかと伽は身構えたが、その様子はみられない。生配信中に凶行に走れば自分たちのクビを絞める事態になることは、わかっているようだ。
 ――ふうん、そのくらいは考えるか。構わない、それは想定済みだ。
「……失礼、撮影担当の仲間が体調不良を起こしたようです。これもこの地に縛られた霊魂たちの悲痛な訴えなのでしょうか。実況配信の途中ですが、三十分ほど配信を中断します」
 伽は、少女害毒論から襲撃を受けるためにあえて隙を作る。手洗いに行く素振りを見せて、動画配信を中断したのだ。雰囲気を壊さないように中断理由を視聴者に告げたあたり、真夜ちゃんったら案外愉しんでるんじゃないか? と彼は口元を緩める。
 だが次の瞬間、二人の表情が強張った。
「危ない!」
「!!」
 幾らか間を置いて襲撃を仕掛けてくるかと思っていたが、配信が中断するなり五人の少女が一斉に襲いかかってきたのだ。
 少女たちは手に手に工具やバットなどの凶器を携えている。夕闇のなか、狩りに出る獣のように音も立てない。見れば、そのなかに二人が見知った顔もあった。ニケだ。
「逃げろ、真夜ちゃん! はやく!」
「いやあああ!」
 確かに急襲には驚いた。だが、本当の戦場を知る伽と真夜にとっては、それ自体は脅威ではない。少女らはオブリビオンに力を与えられた存在ではなく、ましてやユーベルコードの気配もなかった。すぐに二人は、『襲撃におののくか弱い一般人』として振る舞う。
「二人とも逃しちゃダメ」
「わかった」
 少女らは短く言葉を交わし合いながら、手にした凶器を一斉に伽に目掛けて振り下ろしてきた。加減をするのはニケだけだ。伽は急所に当たらないよう巧みにそれらの攻撃をかわしながら、為す術無く地面に倒れた演技をする。
 真夜は倒れた伽に駆けつけようとして、しかし、慌てふためいた様子を見せながら踵を返し、その場から立ち去る。少女らが追おうとするが、足場の悪い廃墟の合間を巧みにすり抜けていく真夜に、追いつくことはできない。
「あのウザい女、逃しちゃった……どうしよう」
「へーきへーき、なんとかなるって。それよりアイツ、来週の今ごろはガラス玉のなかのコイツと会う動画でも配信するんじゃない? それ見て笑おうよ」
「あはは、それ楽しそう」
 返り血もそのままに、少女らは朗らかな笑い声をあげた。
 申し合わせた通り、伽が囮になっている間に真夜は無事に立ち去ることが出来たようだ。なんら悪びれた様子もなく人に凶器を振るい、縄にかけて攫っていく少女らの行動に、伽は胸中で溜息をつく。もはや、人の倫理観などどこかへ行ってしまっているのだろう。
 伽はホテル別館に連れ込まれ、式場の奥にある部屋へと身柄を運ばれた。そして、人目に付きにくい清掃用具置き場に押し込められる。そこには、彼と同じく顔を包帯でグルグル巻にされて拘束されている少女の姿があった。先に囚われていたクリストフだ。
「いいのかい、一人逃してしまって。すぐに警察が駆けつけて君たちを逮捕しちゃうよ」
 事を終えて立ち去る少女らに、伽は挑発の言葉をかける。
「いいのよ。オトナもケーサツも怖くないもの。キルケちゃんが言ってたわ。今日、わたしたちに神さまが力を授けてくれるだろうって。ふふ……誰が来ようとも、返り討ちにしちゃうんだから」
 少女らは「記念撮影☆」と笑いながら伽たちをバックに自撮りをし、立ち去る。

「ああ、世も末だね。まったく……ろくでもない夜なんだから」
 作戦通り、伽を囮にして現場から逃れた真夜は、乱れた髪を手櫛で整えながらスマートフォンで位置情報アプリを立ち上げる。
 そこには、予め互いに仕込んでいた発信機から得られる現在地情報が示されていた。案の定、伽はホテル別館に囚われているようだ。
 そして、真夜はもう一つの手段を講じていた。影に潜む追跡者を、伽のもとに寄り添わせていたのである。
 ――待っててね。必ず助け出してみせるから。それまでは、どうかご無事で。
 得た情報を仲間の猟兵たちに送った真夜は、動画配信の続きを待ち望む視聴者に向けて、手短な動画メッセージを送る。
「ご心配をおかけしてごめんなさい。でも、もう大丈夫。大事を取って今日の配信は終わりにします。また後日お会いしましょう」
 ……と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
凄い…!何の儀式?
キルケちゃん本当に魔女だったんだ!

感動
賞賛

…切符を掴む
行こう!

出来るよ!
貴女なら
世の中を変えてくれるよね

少女害毒論の目的は
世直しだ
信者は疵を抱え
笑顔の裏世を呪い
魔術と神の子の寵愛を受ける優越感で
社会を見下してる

学校や義親に馬鹿にされ辛かった
でもキルケの動画で笑顔になり
現実を耐えたと伝える(苛めや虐待も示唆
キルケと友達になれたら楽しかったろうと
近くの少女への羨望も添え

逢いたい
ボクを連れ出して!
良ければ義父(師匠f12038)を生贄に

潜入直前
現し身を召喚
目立たない様隠密させ
後援をサポート

キルケと逢ったら
歓喜と笑顔を

従いつつ好奇心装い情報収拾
第六感も投じ儀式破壊の要を見極め
時を待つ


レイ・ハウンド
弟子(f07171)からの電話を切る
…成程
怖いおっさんは悪役にぴったりだもんな!
っつー訳で生贄役だ

誘い出しが来るだろう
それに乗る
武器は…持ってけねぇよな
呼び出し現場付近に隠してから行く
弟子の分身が回収し
後で持ってきてくれる筈だ

…最初はただ人を笑わせたかった
だが有象無象から誹謗中傷され
フラストレーションが溜まったのか
馬の骨より特別な自分の方が正しい
そう信者に絶対肯定され
正義を盾に暴虐振るってる?

クソ忙しい時に何だよ
まだ魔術とか有り得ねぇもんにハマってんのか
気持ち悪い

糞義父演じつつ
態と隙見せ少女達に襲わせる
抵抗の素振り見せつつ
遠慮なくボコられ拉致される

影の追跡者を
信者か弟子につけ情報得つつ
時を待つ




「……今夜、神さまが力を授けてくれるだって? あいつら、今日で全てを終わらせるつもりか」
 真夜から受け取った事のあらましに、レイ・ハウンドは眉間にシワを寄せた。元より厳つい表情が、いっそう険しいものへと変貌する。その横顔をじっと見ていたニヒト・ステュクスは、血色の悪い顔に呆れたような表情を浮かべた。
「演技とか、必要なさそうだね。そのままのキミでいて、"お義父さん"」
「あ? どういう意味だそれ」
「文字通り。言わなくてもわかるでしょ」
 ムスッとした表情で振り返ったレイから顔をそむけて、ニヒトはタピオカミルクティにさしたストローを口に咥える。
 二人は今、ゴーストタウンから幾らか離れた場所にあるファミリーレストランにいた。時刻は、午後七時過ぎ。真夜と伽の動画配信が中断してから、二十分ほどが経っていた。
「……そのまま、怖くて仕方のない、クズな"お義父さん"を演じてってこと」
「はん。だろうと思った。安心しな、それなら言われなくたってもわかる。お前から誘い出しを打診された時は少し驚いたが……そういう話のほうが、俺にはやりやすい。いいぜ、大船に乗ったつもりで任せろ」
「……ん」
 二人は、表情を和らげるでもなく頷き合う。軽口をたたきながらも、二人の間には他の者の目にはわからない確かな絆があった。会計を済ませて宵闇の街へと出た二人は、決戦の地へと向かう。

 銀座線に揺られて廃墟の町へと向かう途中、ニヒトは昨晩の出来事を思い返す。
 血と臓物と赤い彩り。悲鳴と哄笑と嬌声。生と死。
 ニャンコトステップから送られてきた動画の光景に動じるほどヤワではなかった己の精神に、ニヒトは皮肉めいた感謝をしながら、すかさず感動と賞賛の言葉を彼女に送り返した。
 ――キルケちゃん、本当に魔女だったんだ!
 ――彼女なら世の中を変えてくれるよね。ボクの世界も変えてくれるよね。
 学校にも、家庭にも、居場所がなかった。蔑みと暴力だけに包まれた生活のなかで、唯一笑顔を齎してくれたのがキルケと少女害毒論の動画だった。
「キミたちがボクの現実だ」「キミたちだけがボクの真の理解者だ」
 切々と訴えかけるニヒトの言葉に、ニャンコトステップは答えた。
「あなたの疵をわたしたちが受け止めてあげる。あなたを苦しめる全てから、わたしたちが解放してあげる」と。「だから、わたしたちに会いに来て。あなたを苦しめる者を引き連れて」と。
 ――ああ、頼むよ。ボクを受け止めてくれ。例え受けきれなくとも、その身を以って、命を削って。
 胸中で言葉を返したニヒトの口の端が、知らぬうちにが釣り上がっていた。彼女は地下鉄の窓ガラスに映った己の顔に気がついて、すぐに表情を正す。目的地はすぐそこだった。
 午後八時。
 先んじて少女害毒論と合流をしたニヒトの後を追って、レイはひとけの無い廃墟の町を歩いていた。目指す先は、すでに二人の虜囚と二人の内通者、そして三人の監視者がいる廃ホテルだ。
「おう、こんなところに喚び出してどういう了見だクソガキが!」
 現場に着くなり、レイはフェンスの開閉口を蹴り破って敷地内に踏み入る。外套のポケットに手を突っ込んで吼える強面の迫力は、常人ならば震え上がって何も言えなくなるだろう。レイの剣幕は、それほど強烈だった。
「このクソ忙しいときに……また魔術だのなんだのにハマってんのか? ただじゃおかねえぞ、今日は血のゲロとションベン出すまで叩きのめしてやるからな、覚悟しろよ! ニヒト、てめえ、自分がぶっ殺されないとでもタカくくってんのか! ああ!?」
 レイは、我ながらよくもまあこんなテンションで怒鳴り散らせるものだと妙な感心をしつつ、景気づけに駐車場の廃車の窓ガラスを拳で叩き割ってみせる。
 いままで得た少女害毒論狂信者たちの言動から察するに、これくらいの悪態で怖気づくようなタマではないことはわかっていた。もはやあの少女たちは、ただの人間など恐れることのない、文字通りの狂信者になり果てたことをレイは理解していた。
「……あ?」
 だから、こうなることも頭の片隅にあったのだ。
 有象無象から誹謗中傷され、誰からも認められなかったマイノリティの少女たち。自分たちを正当化するために、自分たちよりもマイノリティである"わるいひと"に正義という名の暴虐を振るうことに、躊躇しないであろうことも。
「まったく、最近のガキは……」
 レイの背中を、包丁で刺した少女がいた。今日、何度目かの暴力にすっかり酔い痴れていた少女たちは、人を傷つけることに何の躊躇もなかった。肉体を鍛えてきたレイでなければ、おそらく猟兵と言えど手痛い一撃だっただろう。
 ――……俺だって、そんな真似はしねえよ。
 倒れたレイの腹に馬乗りになって、少女は包丁を振り下ろしてくる。抵抗の素振りを見せて致命的な一撃を避けつつ、レイは少女の肩越しにニヒトの姿を見た。どうやら彼女は無事に少女害毒論の輪に迎え入れられたようだ。ならば、この傷も名誉の勲章か。
「この人が、あなたを痛めつけていた義理の父親? だいじょうぶ、殺さないから安心して」
「ありがとう。この人は、ボクの手で終わらせたい」
 ニヒトは、血にまみれながら拘束されたレイを見下ろしつつ、常通りの熱の薄い声で隣に立つニャンコトステップに答えた。
 儀式が始まる時を前にして、少女害毒論の狂信者たちがこの廃ホテルに集っていた。この事件の中核にいた少女もまた、その例外ではなかった。
 ニャンコトステップは少女らにレイを拘束して連れて行くよう命じると、隣に立つ新たな仲間であるニヒトに朗らかな笑みを向ける。
「うん。それでこそ少女害毒論の仲間だよ♪ あなたのような素敵な女の子を迎え入れられて、わたし、とっても嬉しい。これこそまさに、信じるものは救われる、ってヤツだよね」
「……そうだね」
 ニャンコトステップの笑顔に、ニヒトは笑顔とも真顔ともつかない曖昧な表情を浮かべて答えた。
 目の前のニャンコトステップ……それに周りにいる少女らの姿は、動画のなかで見た無邪気な姿となんら変わりがない。そこには、己の行いを絶対的な正義だと信じる奢りが見え隠れしていた。少なくともニヒトの目には、そう見えた。
 学校のクラスメイトや、家庭の義父に虐げられている者を演じた際、少女害毒論は喜んで手を差し伸べてきた。彼女らが浮かべる笑顔は、決して真っ当な少女らが浮かべる喜びの笑顔ではなかった。魔術と邪神に偽りの愛と力を与えられ、愉悦に浸る醜い優越感からくる笑顔だった。
 ――もし貴女たちが、本当にボクの友達になってくれたのだとしたら、もっと別の笑顔を見せてあげられたのだろうけど。
 ニヒトは、誰に語りかけるでもなく胸中で言葉を呟く。
 その無言の言葉に反応を返せる者は、当然ながら誰一人としていなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジル・クラレット
私が生贄に
…あんなの、もう見てられないもの

キルケ達の興味を引くべく『癒しの魔女』と名乗って
【シンフォニック・キュア】で街の人々を治癒
白く清楚な服の『本物の』慈愛の聖女
SNSでも場所と行動を随時配信

少女害毒論に関しても投稿
「同じ魔女と名乗る者として興味があるわ
「本物なのかしら?
「話がしてみたい
等、否定も肯定もせず興味がある風に

スカウトは是非にと快諾
そのまま囚われ恐れ叫ぶ演技
これ迄の犠牲者を思えば苦痛はないわ

視界封じられる前、隙見て【影蜥蜴】召喚
儀式参加者の視界通じて現状把握&情報収集
仲間の儀式介入と同時に【透硝子】&【シーブズ・ギャンビット】で拘束解き体制立て直し加勢
服なんてシーツ1枚で十分よ




 式場の床に魔法陣が描かれる。燭台が持ち込まれ、ロウソクに火が灯る。祈りの呪文と共に築かれていく祭壇に九つの頭蓋骨が並べられる。
「今宵集めた生贄は三人……だいぶ多いけれど、今日儀式を完成させるならもっと生贄が必要だって、キルケせんせーが言ってる」
 儀式の準備を進めていた少女らに、奥の間から出てきたニャンコトステップが告げた。彼女は手にしたタブレットを掲げて、動画に映る一人の女を指差す。
「今日は妙にこの手の人たちが多いね。もしかしたら神さまが罰を下せって言っているのかも。自分のことをキルケせんせーと同列だと思い込んでいる、ニセモノの魔女……念のため夕方ごろにコンタクトを取っといて良かったよ。この女の人も生贄にしちゃおう」
 ニャンコトステップの呼び掛けに少女らが応じた。まるでカラオケに誘うメンツを増やすように、何の気もなく。狂気は留まることを知らず、血と命を求めて夜を駆ける。

 少女らに生贄として選ばれたジル・クラレットは、昼頃にキルケたちが潜む廃墟街を突き止めたあと、『癒やしの魔女』と名乗って動画配信をしていた。
 普段の艶やかな装いとは趣きが全く異なる純白の衣装に身を包んだ姿は、まさに聖女と呼ぶに相応しい佇まいだ。
「痛みを抱く身ならば、どうぞ私の声に耳を傾けて。私の歌声は天より授かった恵みもの。癒やしの魔女の唯一にして無上の魔法を、ご覧に入れましょう」
 それは午後四時ごろのこと。伽と真夜が実況配信をしていた街とはまた違う、都心でも随一の繁華街。せわしなく道行く人たちは口上を述べるジルの美貌に目を奪われて、皆一度は視線を彼女に注ぐ。そんな状況だから、実際に足を止めて彼女に声を掛ける者はすぐに現れた。
「少し前に親知らずを抜いたんだけど、なかなか痛みが引かなくて」
「まあ、それは大変ね。大丈夫よ、そのくらいならすぐに癒やして差し上げる」
 相手は見るからにヤンチャそうな若者だ。離れたところで友人らしき青年二人がニヤニヤしている。ジルに声を掛けたのはからかい半分のようだが、若者の口のなかを見せてもらうと、確かに生々しい抜歯の痕がある。痛みが続いているのは本当のようだ。
 ジルは柔らかな薄絹の袖をゆらりと泳がせながら、澄んだ歌声を響かせる。隣の人間の話し声もろくに聞き取れない雑踏のなかにあって、彼女の歌声だけがさざなみのように、全ての人の耳と心に届いていく。
「う、そ……マジで痛くなくなった」
 その歌声に聞き惚れてぼうっとしていた若者は、身体に起きた変調に驚愕し、そして感嘆した。素直に感謝の言葉を口にする彼に、ジルは優しく微笑みかける。
 その後、やりとりを目撃した通行人がジルの前で列をなしたのは言うまでもない。その様子は彼女自身の配信動画だけではなく、その場にいた人たちからもSNS上で拡散されることとなった。
 ゆえに、少女害毒論たちの目に止まった。
『こんばんは、ジルさん。貴女の奇跡の動画、拝見しました。人の怪我を治せるだなんて、本当に素敵。尊敬しちゃいます。キルケちゃんとお話がしてみたい、というコメントを見かけて、さっそくDMを送らせて貰いました。急ですが、今晩はお時間ありますか? よければ対談動画なんて撮らせて貰えたらいいな、と思ってます。お友達が車を持っているので、こちらからお迎えにあがります! 若葉マークですが!』
 その誘いを歓迎こそすれ、断る理由などジルにはなかった。二つ返事で快諾する。時間はいつでもいい。場所もどこでもいい。お言葉に甘えて車にもお邪魔させて貰おう。ジルは返信をしたあと、吐息をついて目をつむる。
 ――餌に食いついたのは、お互い様。さあ、あとはどちらが食い殺されるか、それだけの話ね。
 そして時は今に至り、午後九時過ぎ。
 目隠しをされ、手足を縛られたジルは、若い女の子向けの可愛らしい軽自動車の後部座席に転がされている。迎えに来た少女害毒論の子らに、彼女は問答無用で拘束された。言うまでもなく、それは生贄として囚われるための彼女の作戦なのだけど。
「お願い、許して。調子に乗って魔女なんて名乗ったりしてごめんなさい。反省しているから、おうちに帰してちょうだい……」
「ダメ」
 怯えた演技をするジルに、少女らは嘲笑混じりの声音で応える。
 車内に響く男性ボーカルユニットの音楽。無邪気でとりとめない十代の少女らの会話。密かに車内に潜ませた影蜥蜴を通して見る光景は、こんな状況でなければ微笑ましいものに映っただろう。
 だが、この車が行き着く先は死が満ちる地獄なのだ。
 車から下ろされたジルの鼻を、甘く燻った香りがくすぐった。
 呪詛が耳を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

空廼・柩
…うわ、何これ
まさかこんな悪趣味な動画を見せられるなんて
全く、カルトが関わる殺人ほどえぐいものはない

信者や生贄を装うのは俺には難しい
ならば、事前に儀式場へ潜入するしかない
現場の情報を共有、隠れ易い場所を確認
元々の目立たなさは勿論活用するし
極力物陰に隠れて儀式を観察したい
いつでも出られる様に準備は万全に
…とはいえ潜入捜査はリスクも高いからね
聞き耳で常に周囲の足音や話し声がないか確認
此方へ近付く音を確認したら殊更警戒を怠らず、気配を消す
万一怪しまれた時は――しょうがない
存在に気付かれる前に用意しておいた拘束具で拘束
悪いけれど、そのまま気絶してもらうよ

手荒な真似はしたくないけれど
こっちも必死だからね




 なにか見落としたことはないだろうか。
 空廼・柩は、最後にもう一度だけ動画を確認した。
 何度見ても気持ちは変わらなかった。凄惨としか言いようのない悪趣味な殺人フィルムに、心も表情も自然と冷えていく。
「全く、カルトが関わる殺人ほどえぐいものはないね」
 約十三分の動画を見終わった柩は、眉間を指でつまみながら緩く頭を振った。止めねばなるまい。猟兵として、人として、そうすべきことに、異を唱える余地はない。
 時刻は夜の十時に差し掛かる直前だ。
 ラボから少女害毒論の拠点である廃墟街へとやってきた柩は、持ち前の影の薄さを存分に発揮して夜闇にその身を隠す。
 廃ホテルの表には、二人の少女が立っていた。歩哨のつもりらしい。生贄確保の目撃者を取り逃したことで、少女害毒論も外部からの襲撃に警戒を払っているのだろう。
 だが、所詮は素人だ。ただ突っ立っているだけの警備など、柩にとっては無きに等しい。
 ――彼女たちはスルーしても平気だろう。問題は、中にいる子たちか。
 丈一、瑠璃、真夜から、侵入経路と潜伏に適した場所の情報を得ている。それを元に柩は廃ホテル別館の三階へと侵入を果たした。まだ肌寒い冬空のなか、建物のなかに一歩踏み入れると、強い香の匂いと熱が身体を包み込んだ。
 埃っぽい建物内を慎重に進んでいけば、二階の物陰に巧みに姿を隠した潜入組の姿が見えた。柩は視線だけで彼らと挨拶を交わすと、さらに先へと進んでいく。目指す先は、一階。今まさに邪なる神に命を捧げる儀式が執り行われようとしている、狂宴の庭。
 ――誰も彼もが呪文を唱えている。他に物音も話し声も聞こえない、か。……歩哨を除けば、一階で儀式に参加している子が少女害毒論狂信者の全メンバーか?
 一階に降りた柩は、式場の奥へと通じる扉の隙間から、密かに儀式の様子を窺う。動画で見た光景と同じく、床に描かれた魔法陣を囲む黒ローブ姿の少女らの姿が見えた。唯一動画と差異があるとすれば、それは中心に据えられた生贄の数か。動画では一人だったが、今は四人いる。
 クリストフ、ニヒト、レイ、ジル。いずれも裸で、顔に包帯を巻かれた格好である。儀式が始まるまでの措置なのか、彼らの身体には白いシーツが掛けられていた。
「……服も持ってきてやりたかったけれど、そこは勘弁してくれ。代わりに武器は預かってきたからさ」
 あまり健康優良児とは言えない柩にとって、猟兵四人の武器を預かるのはなかなか骨の折れる務めだ。しかしそれもまた、潜入役の大事な仕事の一つと言える。
 柩は静かに、深く、長く、息を吸い込むと、時が至るのを待つ。
 心は常の通り平静で、指先に震えはない。だが、全身の筋肉はほどよく緊張を覚えていて、神経は研ぎ澄まされていた。万全だった。柩は、薄闇に烟る煙と、橙の灯りに照らされる広間に、ただ静かに視線を注ぐ。
 午後十時。
 この世ならざる言語で祈りを捧げていた少女害毒論の狂信者たちが、静まった。
 薄紫色の香煙を割って、奥の間から二人の少女が現れる。
 一人は、他の狂信者と同じく黒いローブのフードを目深に被ったニャンコトステップ。
 そしてもう一人は、金の刺繍が施された純白のローブを羽織った少女。
 魔女を称し、魔女と称された者……キルケ。
「みんな、ありがとう」
 魔女キルケは、動画で残された姿と何ら変わることのない、至って明るい声音で居並ぶ少女らに声をかける。
「みんなのおかげで、今日、たくさんの生贄が集まりました。これはわたし一人じゃ成し得なかった大きなお仕事。みんなが力を合わせてくれたおかげで、今日、わたしたちを見守ってくれる神さまが姿を現してくれる。誰からも必要とされず、誰からもバカにされていたわたしたちが、ついに世の中に飛び立つ力を得られるの」
 キルケの言葉に、居並ぶ少女らが歓声と拍手をあげた。そのかしましい熱狂に、柩は不愉快そうに目を狭める。
 ――なにをバカなことを。そのために、あんたらは一体何人の命を奪ってきたっていうんだ?
 懐から取り出した拳銃の撃鉄を起こす。柩は少女たちから一度視線を外すと、強く奥歯を噛み締めてから再び顔をあげた。一呼吸置いてもなお、彼の目にはキルケたちが自分たちの価値観とは相容れない邪なる者にしか映らなかった。
「だから、血を捧げよう。この四人の男女の悲鳴を通して、神さまにわたしたちの願いを伝えよう! そうすれば、わたしたちは救われる! わたしたちのような、弱い者たちを救う力を得られる! だから、ああ、だから!」
 今宵も命を捧げよう!
 最後の命を捧げよう!
 そしてわたしたちが、神と共に世を導く者となるのだ!
 入神状態とも言えるキルケの言葉に、少女たちは歓声を上げて応じた。
 そして、墨にひたした刃を手にした少女らが、祭文を唱えながら生贄として拘束された四人へと群がる。

 ここまで、だった。
 柩は身を潜めていた物陰から広前へと躍り出ると、生贄に刃を突き立てようとしていた少女に、拳銃を持たない片腕を差し伸べた。
「手荒な真似はしたくなかったけれど。これ以上は黙ってはいられなくてね」
 放たれたものは、咎人を戒める拘束具だ。それは瞬く間に生贄に群がった少女たちの身柄を抑え、無力化していく。
 柩のその一手が、合図となった。猟兵たちは、少女らの暴虐を阻止すべく一斉に行動を開始する。
 場に仕込まれていた閃光弾の罠が炸裂し、少女たちの視覚と聴覚を一時的に無力化する。潜伏していた猟兵たちが一斉に儀式場へと雪崩込み、少女らの動きを抑えていく。
「うざい……! なんなのよ!」
 他の少女らよりも早く知覚を取り戻したニャンコトステップが、低い声で唸った。
 生贄として囚われていた四人はすぐに潜伏組の猟兵によって拘束を解かれ、か弱い生贄としての演技を止めた。寝台から降りたときには、彼らの瞳に浮かぶ光は捕食される無力な羊のそれから、悪魔に立ち向かう戦士のそれへと変じていた。
 ――こっちも必死だからね。いつまでもあんたたちの思い通りには振る舞ってはいられないってことさ。さあ、覚悟はいいかい。
 柩は心中で宣戦を布告すると、拳銃を構えた。
 銃口を向けた先は、狂乱に刃を振るう少女たちではない。
 哄笑と共に呪詛を紡ぎ続けるキルケでもない。

「あんただったんだ、俺たちが倒すべき敵は」

 柩が狙った相手は、ニャンコトステップだ。
 拳銃の引き金を引けば、薄闇のなかで発火炎と銃声が炸裂した。
 銃弾に貫かれたニャンコトステップが、地面に倒れ伏してもんどり打った。そして、魔法陣の上で転げ回ったあと、けたたましい笑い声を上げながら、ゆっくりと起き上がった。
「あははははは! 本当だ、全然痛くも痒くもない! わたしは選ばれたんだ! キルケせんせーの言うとおりだった!! 信じる者は救われる!! キルケせんせーの占い通り、わたしが神さまの代行者に選ばれた!!!」
 銃弾を受けて胸から血を流しながらも、ニャンコトステップは全く動じていなかった。無造作に胸に指を突っ込んで傷口を抉ると、体内に残っていた弾丸を無理やり摘出する。
 異様だった。居並ぶ少女らのなかにも、事態が飲み込めずに顔をひきつらせている者がいた。
 その様を見たキルケは頬を上気させて妖艶な笑みを浮かべると、始まった戦に動じた素振りもなく、祭壇の前に跪いて邪神に祈りを捧げ始める。
「ああ、神さまはわたしたちをきちんと見ていて下さった。生贄は足りなかったけれど、お告げ通りこうして力を授けて下さったのだから」
 気がつけば、それまで粗末な果物ナイフしか手にしていなかったニャンコトステップの手には、一振りの禍々しい鎌が握られていた。
 それこそが儀式を経て顕現した邪神の姿だということを、集った猟兵たちはすぐに理解した。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『敬虔なる邪神官』

POW   :    不信神者に救いの一撃を
【手に持つ大鎌の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    出でよ私の信じる愛しき神よ
いま戦っている対象に有効な【信奉する邪神の肉片】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    神よ彼方の信徒に微笑みを
戦闘力のない【邪神の儀式像】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【邪神の加護】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天通・ジンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 キルケの魔女の血が邪神の影を呼び寄せた。それは集った少女たちの正気を蝕み、やがて人の道を踏み外した狂信者へと変容させた。
 最もキルケを崇拝し、最も狂気の根源に近付こうとしていた少女・ニャンコトステップ。
 儀式で流された血と命を食らって肥大化した邪神の力は、魔女キルケの導きによって彼女にもたらされた。
 邪神の敬虔なる神官として力を得たニャンコトステップは、大鎌を掲げて猟兵たちの前に立ちはだかる。その表情に恐れも緊張も見られない。
 我こそが神に選ばれた正義の信徒。不信心者には神の代行者たる己が救いをもたらしてみせる。そんな万能感と選民意識が、ニャンコトステップの勝ち気な笑みに表れている。
 邪神官たるニャンコトステップがその背にかばうキルケもまた、猟兵たちを前にしてもなんら怯えた様子はない。彼女は大仰に両腕を広げると、よく通る声でニャンコトステップと少女らを扇動する。
「さあ、みんな。全ての人々にわたしたちの愛と救済を授けよう! そして、立ちはだかる者には神さまの裁きを与えよう! 死もまた救いだよ。まずは目の前にいる彼らに真の救済をもたらそう!」
 キルケの言葉を受けて、狂信者の少女らも手にしたナイフを構えて戦いの姿勢を見せる。だが、彼女らは狂気に侵されて罪を重ねてきたとはいえ、ただの人間だ。猟兵が倒すべき敵ではなく、人としての裁きの場に送るべきだろう。
 では、キルケは?
 邪神の影を招き寄せた魔女。彼女もまた、その血筋を除けば人間となんら変わりがない。この事件の元凶であるキルケに、猟兵として死の裁きを下すのか。それとも拘束して、人の法に裁きを委ねるべきなのか。
 猟兵たちは邪神官との戦いの果てに、その答えを下さねばならない。
クリストフ・ポー
万能感と選民意識は
劣等感と鬱屈の裏返しだ
大人でも子供でも無い
脆く不安定
裂き甲斐あるねぇ

ニャンコちゃ~ん
キルケちゃんあんなこと言ってる
いいの?
今は、そうだね
魔女キルケに仕える神官は君だけ☆
でも
それって永遠かなー?

君の魔女はキルケが唯一だけど
キルケの神官は?
この先も君だけだろうかと囁く

狂信は加速する
肌で感じた筈だ
呼吸を止めない限り
可能性はゼロでは無い

考えてみなよ
他にもっと素敵な子が現れ…捨てられる
憐みをたっぷり砂糖に混ぜ

そんなの耐えられる?

誘惑に挑発
優しく言い包む風に毒を流し込む
疑念生じれば
奇しき薔薇で抱擁を

生存してればキルケ達は警察へ引き渡す
忘れないでね
君等は変り続ける
堪能するんだ、生きる苦痛を




 シーツで体を包んだクリストフ・ポーは、刃を手に手に迫る少女らを軽くいなしていく。少女らが倒すべき敵ではないことを、クリストフはよく理解していた。彼女がその視線に捉える者は、ニャンコトステップただ一人。
 ――大人でも子供でもない年頃ゆえの脆さ、か……。万能感は劣等感の裏返しってやつさ。
 血の色を塗り固めたかのような赤の瞳が細められる。
 ニャンコトステップが振りかざした大鎌の一撃をかわしてみせたクリストフは、彼女の腕を掴んでその身を引き寄せた。
「ニャンコちゃ~ん、本当にいいの? キルケちゃんの言うことを信じたままで?」
「ふん、キルケせんせーの言葉は絶対よ。なんの疑問も持っていない」
 確信に満ちた表情で、クリストフの言葉を受け流すニャンコトステップ。間合いを取ろうとする彼女の蹴りを腹に受けるが、クリストフはますます笑みを深めながら食らいついていく。
「今は、そうだね。キルケの神官は君だけだけど……それって永遠かなー? 考えてもみなよ、君の魔女はキルケが唯一だけど、キルケが求める神官は果たして君だけなのかな?」
「当たり前じゃない。わたしはキルケせんせーに必要とされている。キルケせんせーにとって無くてはならない存在なんだから!」
 今度こそ勢いに任せた殴打に力負けし、クリストフとニャンコトステップの間に距離が開いた。離れ際に振るわれた大鎌の切っ先がクリストフの胸元をかすめ、シーツに赤いシミがじわりと広がる。妖しくぬめる血を指先につけ、それを舌で舐めたクリストフは、とうとう笑い声をあげた。
「あはは、純粋無垢で哀れなニャンコちゃん。ああ、いっそ愛しさすら覚えるよ。見てご覧、君の周りを。君よりも可憐で才気も備えた女の子たちが、どれだけいると思う?」
「……黙れ」
「キルケちゃんが褒めた子は君一人だけ? キルケちゃんに笑いかけて貰えるのは君一人だけ? キルケちゃんに触れることが出来るのは君一人だけ? 君が死んだら、キルケちゃんは後を追ってくれると思う?」
「黙れ、黙れ、黙れっ!」
 クリストフの言葉を遮るように、ニャンコトステップが吠えた。足元の影から這い出たグロテスクな肉触手が宙を走り、クリストフの首と四肢をきつく絞め上げる。恐ろしい膂力にさすがのクリストフも表情を歪めるが、湛えた笑みは変わらぬままだ。
「キルケせんせーはわたしを愛している。キルケせんせーはわたしだけを愛してくれている……!」
 己に言い聞かせるようにつぶやきながら、ニャンコトステップはキルケのほうを振り返ろうとして、しかし……できなかった。
 それが引き金となった。クリストフが撒いた疑念の種は、言葉という名の毒を吸って、美しくも残酷な薔薇を咲かせる。
「まったく……裂き甲斐あるねぇ」
「!!」
 ニャンコトステップが胸中で抱いた疑念は増大し、彼女の心と体は白銀の薔薇の荊に絡め取られる。身を捩れば捩るほど、棘は肉体に食い込んで体の自由を奪うだけだ。
 クリストフは力を失った触手を引きちぎって拘束から逃れると、彼女の出方を伺う少女らを睥睨した。
「では、君たちはどうかな。無邪気な少女のまま変わり続けずにいられると……そう思っている?」
 誰もなにも答えられなかった。
 次々と荊棘に捕らえられる少女らの間を歩みながら、クリストフはその様を愉しげに見つめるキルケに、芝居がかった仕草で両腕を広げてみせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

四ツ辻・真夜
お待たせ
助けに来たよ!
生贄の人達にすぐ羽織れる着替えを渡す

戦闘では役に立てないからサポートに徹するね
一般人の攻撃程度なら
おばあちゃん(守護霊)がオーラ防御してくれる筈

おばあちゃんが信者さん達を金縛りで封じてる間に
ポカッと殴って気絶させるよ
ごめんね!
気絶させたら生贄が閉じ込められてた部屋に閉じ込めましょう
呪詛にあてられてたら破魔を試む

地形の利用で崩れそうな箇所を把握
仲間に注意喚起

陽菜ちゃん
元々は沢山の人に愛されてたのに
切欠は何?

みんなと違うからって必ずしも間違いじゃない
一部から否定されたからって
その人の全てが否定される訳じゃないよ

小さな過ちすら
『正しい』って信者から受け入れて貰えなかったんだね…




 シーツ一枚では戦いづらいだろうと、剥ぎ取られていた衣服を生贄の猟兵たちに渡した四ツ辻・真夜は、荊棘で拘束されなかった少女たちと相対する。
 ――戦いは得意じゃない。私がすべきことは、この子たちを戦いに巻き込まないようにすること。
 ニャンコトステップは動きを封じられており、こちらに構う余裕はなさそうだ。ナイフを手に襲いかかってくる狂信者の少女たちに、真夜はその動きを制するように片手を差し向ける。
 途端、少女たちの動きがぴたりと止まった。
「ありがとう、おばあちゃん……少しだけ暴れるけれど、許してね」
 真夜は少女らに金縛りを引き起こした自らの守護霊に、一言謝罪を述べた。そして、無抵抗と化した少女らにすかさず駆け寄り、その後頭部を殴って次々と気絶させていく。
 できれば奥の部屋に気絶した少女らを放り込んでおきたかったが、そこまでの余裕は戦いの中にはない。ニャンコトステップの拘束も解けつつある。真夜は少女らをせめて儀式場の隅へと転がしていく。
「随分と手荒な真似をするんだから。女の子を殴るなんて、ひどいなあ」
「そう? あなたには言われたくないね……陽菜ちゃん」
 式場の奥、一段高い場所から可笑しげに声を掛けてきたキルケに、真夜は複雑な視線を向けた。魔女を称する者は、まるで他人事のようにスマートフォンで戦いの様子を撮影している。
「あなたは、元々たくさんの人に愛されていたように見えたのに……どうしてこんなことを始めたの? 切欠はなに?」
「陽菜じゃなくて、キルケって呼んでくれる? あはっ、切欠なんて大袈裟なものはないよ。でもしいて言うなら……そうね。確かにわたしはお友達も多かったし、大人たちもチヤホヤしてくれた。でもね、誰も彼も本当のわたしのことをわかっていなかった。それが発端かな?」
 会話を続けながら、真夜はじりじりとキルケとの距離を詰めていく。金縛りを確実に掛けるには、距離が遠すぎる。
「本当のあなたは魔女の血筋。一見お遊びにも見えた少女害毒論の活動も、あなたにとっては真剣なものだった……ってこと? でも、誰かがあなたのことを否定したとしても、あなた自身の全てが否定されたわけじゃない。立ち止まることだって出来たはずなのに」
 真夜の脳裏に、ネクロはんを始めとするキルケの外見だけに寄り付いた面々の姿が浮かび上がる。彼らの上辺だけの仲間面も、キルケにとっては無言のうちに否定を受け続けている事と変わりなかったのだろう。
 そんな真夜の心中を見通しているかのように、キルケは自嘲気味に笑った。
「そう、否定されたのよ。わたしにとっては、それが全てだったのに。わたしのご先祖さまと同じ……魔女や魔術を信じる心を否定され、おかしな人と笑われ、心無いことを言われてきた。違うことは、命だけは奪われずに済んだってことだけ。そんな世の中を、どうして肯定できるの? わたしたちがわたしたちのような子を、自らの手で救うことに、なんの問題があるというの?」
 そこで、拘束を振り切ったニャンコトステップが、真夜とキルケとの間に割って入ってきた。「キルケせんせーから離れろ」と、己の疑念を振り払うように唸りながら。咄嗟に講じた彼女への対策は間に合わず、真夜はその身に深い裂傷を負ってしまう。
 血が溢れ出る胸元の傷を押さえながら、真夜はかぶりを振る。
「それでも、あなたたちは間違っていた。そう告げてくれたであろう正しい人たちの声にも耳を傾けずに。その行き着いた先が、あんな結末だなんて」
 決して許されることではない。
 真夜は、祭壇の上に並べられた、真っ黒な眼窩で虚空を睨みつける九つの頭骨に視線を向ける。例えどんな理由があろうと、それは彼女らの行為を何一つとして正当化し得るものではない。それだけは、確かだった。
「……だから、今度はわたしたちが否定する。キルケちゃん、ニャンコトステップちゃん。あなたが『正しい』と信ずるものを、今度はわたしたちが止めてみせる」

成功 🔵​🔵​🔴​

一駒・丈一
人は、何某かの拠り所を求めるものだ。
彼女らにとっては、それはキルケの名を冠する『魔女』という概念だった。
それが、彼女らにとっての『害毒』になり得たと……そう解釈した。
結局のところ、拠り所を違えたな。

この段階に至っては…最早、解毒は無理か。
ならば…
攻撃対象はニャンコトステップのみとする。
SPD重視だ。

先ずは装備の『贖罪の道標』を複数本『投擲』する。
正に、お前のような存在にはうってつけの武器だ。

その後に、『早業』にて敵との距離を詰め、『介錯刀』を抜き放ち
UCの『罪業罰下』を放ち敵を切る。

陽菜の処遇は、
この国の司法に任せる。
我らは猟兵。オブリビオンを狩るのが仕事だ。
人間を裁くのは本分ではないのでな。


ニヒト・ステュクス
師匠(f12038)と

カルマ、ああなっちゃ駄目だよ
神官以外の不殺を命じ
真の姿:妹の人格

あの人達正義の味方なのに悪者なの?
わたし達と何が違うの?
兎に角ヤマアラシで敵ザクザク


ボクは現し身姿で
信者を気絶攻撃
攻撃は第六感駆使し見切る

裏切って御免ね

けどボクも同じ穴の狢
沢山殺した
正義なんて大義もない
世の為になる事で
自分の存在を
自分で赦してるだけ

ただボクは
ボクでありたい

キミはこれを全部
『キルケ』のせいにするの?

中傷され傷つかない筈ないのに
笑い続けたキミ
ボクだったら笑えない
偽って心の痛みに気づいて貰えないのは
苦しいもの
…疲れたでしょ

もういいんだ
どうか大友陽菜として
本当の気持ちをぶつけてよ

ナイフ握らせボクの胸へ


九泉・伽
黄泉比良坂使用
分身は煙草吸う『おれ』の見目した『かの人』

積極的にカウンター狙い
肉盾上等


崇めなければ神は生まれない
キルケせんせーは君達が創ったんだ
否定され続けて何かに縋りたくなるのはわかる
おれも親に否定され続けて救い求めた子供だったから
でも死が救済とだけはいただけない
死は希望を奪う
…ごめん
君からニャンコトステップさんって神をおれは奪う

煙草に火をつけキルケへ
ところで本当の自分ってなぁに?
人に定義してもらわないと駄目になっちゃうのー?
崇めてくる彼女たちを救いたがったキミは確固として存在してる
そんな本当はキミの中にしかないよ


残るのは煙草を吹かす『俺』
…そのままいればいいのにさぁ、また眠っちゃったのね


レイ・ハウンド
弟子(f07171)と

よぉ憂さ晴らしはもう済んだか?
ザマァミロって愉しかったろ
…お前らを見下してた奴らと同じだな

いいか
少数派とか関係ねぇ
お前らのやり方じゃ
害があるからお仕置きするんだ

攻撃は断頭で盾受け
2回攻撃で手数増やし
肉片や儀式像は召喚され次第狙撃で粉砕
敵の懐に入ったら本気(真の姿)で叩き斬る一辺倒

敵の道連れ危惧し
信者や陽菜が狙われたら庇う
…ここが法治国家で良かったな

俺もニヒトも
箍を外せば猟犬からただの野犬
化け物になるのは御免だ

罪人を狩るのも
結局狭い界隈の1手段でしかない
絶対正しい方法もない
何が救いかは様々
1つの方法で万人は救えねぇんだ

自害含め陽菜に死の救済はやらん
生きて苦しめ
ざまぁみろ、だ


空廼・柩
選民意識、か…随分と軽い思考だね
確かに、あんたは神の代行者に選ばれたんだろうさ
けれど…邪神なんて気紛れだからね
永遠なんてものは存在し得ない
狂信は思考の停止――謂わば停滞だ
勝ち誇った顔して歩みを止めた君達が
ずっと神さまに選んでもらえるとでも?
まあ、ただの人間がこうも無様に踊ってくれるんだ
神さまはさぞ愉悦だろうさ

攻撃を仕掛けられようものならば【咎力封じ】で拘束を試みる
邪神の肉片は遠慮なく拷問具で潰してしまおう
万一猟兵や少女達に攻撃が向こうものならば庇うよ

少なくとも信者達の命は奪わない
此処は処刑人の出る幕じゃない
誰も殺さないし、キルケも人の手で裁かれてもらう
それがお前の出来る――「人」としての償いだ


ニケ・セアリチオ
信じて、信じ続けていただけだと
貴女方は言うけれど

でも、でもね
それは他者の生を侵していい免罪符には、ならないわ

嘗て己が賭けに狂わせていった人たちを思うも
感傷に浸っている場合でないと頭を振って

鳩達に神官さんの足止めを頼み
意識の無い信者さんや深手を追った方を救助し一時避難を

震える手足を叱咤し
覚悟を決めて
再び彼女達に相対しましょう

杖を握り絞め、破魔の風を起こし
鳩達と一緒に補助の立ち回り

嗤われ、否定されて
辛く、心圧し潰される思いだったでしょう
でも、だからと他者を否定しては
貴女方も同じになってしまうわ

魔女さまと言うのは
その加護や薬草で
弱き人を助け、導いていたと聞きます

ねぇ
貴女方の思う魔女は、どんな方なの?


四ツ辻・真夜
(おばあちゃんが)真の姿を解放
真夜を傷つけられ激怒した守護霊は
強力な金縛りで神官を拘束する

あはは、油断しちゃったねぇ…

そっか『キルケ』って呼んで欲しいんだね
そんなに普通の女の子である自分が嫌…なのかな

でもスマホ越しに世界を見る今のあなたは
『キルケ』という仮面越しに世界を見てる様で…

きっとあなたのご先祖様は『化け物』って言われて迫害されてきたんでしょうね
最初は『化け物』って迫害されない様に普通を演じた
でも今は『化け物』だから普通じゃないって
自分を受け入れられないみたいだよ

あのね
普通の女の子であるあなたも
本物の魔女(化け物)の血を引く『キルケ』としてのあなたも
両方含めて『大友陽菜』じゃないかなぁ…


四季乃・瑠璃
緋瑪「わたし達は二人で一人の殺人姫…わたし達に神の救いなんて必要ない」
瑠璃「少なくとも、貴女達の身勝手な救いはね」

【ダブル】継続。

二人で連携し、接触式ジェノサイドボム【範囲攻撃、早業、2回攻撃、鎧砕き】による連続爆撃とK100での銃撃で距離を置いて攻撃。
邪神像や肉片は召喚した瞬間に爆砕。
回避は【見切り、残像】

最後は切り札、ジェノサイドノヴァを瑠璃と緋瑪で【力溜め】。超火力で殲滅する

緋瑪「キルケ、貴女が何で自分を必要とされない弱い者って言ってたのか解らないけど…少なくとも、以前の貴女にも貴女を見てくれる人達がいたのにね」
瑠璃「安心して、わたしが調合した毒…眠る様に逝けるから。貴女は…ここで殺す」


ジル・クラレット
敵らの動き注視
自身への攻撃は終始回避・受流し試み

負傷仲間へ【シンフォニック・キュア】を徹底
これは共感した人を癒やす歌
でも、あなた達の傷は治っていない

そういう事よ
自分を全ての人に受け入れて貰えはしない

同胞を自ら救う事は間違っていないし、問題もない
他人に救いを求めてばかりより、よっぽど好きよ

あなた達の過ちは一つだけ
やり過ぎた事よ

命は奪われてないのでしょう?
なら、あなた達も人の命を奪う権利はないわ
言葉で否定されたのなら言葉で否定仕返せばいい
正義を主張すればいい
何故それを貫かなかったの?

己の正義を信じきれていなかったのは
他でもないあなたたち自身よ

裁きは人の法に委ねるわ
それが、人の世で生きるって事だから




 ――カルマ、ああなっちゃ駄目だよ。
 ――どうして? あの人達とわたし達、何が違うの?
 ニヒト・ステュクスは自身の脆い精神を繋ぎ止めていた人格を奥底に沈めながら、浮かび上がる"少女"の人格と自問自答する。
 ニヒトの憂いを知ってか知らずか、肉体を受け渡された"カルマ"は、嬉々としてその力を解放し始めた。ヤマアラシのようにその体から生み出された数多の刃が、纏っていた黒いローブを引き裂いていく。彼女は、それを一斉にニャンコトステップ目掛けて射掛けた。
「裏切ったのね……いえ、最初からそのつもりだったの、あなた」
「ごめんね。けれど責めないで欲しい。ボクもあなたたちと同じ穴のムジナなんだ。自分の行いで、自分を赦そうとしているだけの、偽善者さ」
 映し身として仮の姿を取ったニヒトは、残った信者の娘たちを立ちどころに無力化せしめると、眉間にしわを寄せたキルケにそう自嘲した。
「余所見は無しだ。こっちを向きな」
 ニヒトに気を取られたニャンコトステップの前に、レイ・ハウンドが立ち塞がる。邪魔だと言わんばかりに横薙ぎに振るわれた大鎌を、彼は鉄塊が如き断頭の刃で弾いてみせる。
 式場に響き渡る重く、煩わしい金属音。盛大に散った火花が二人の顔を一瞬、赤く照らした。
 体勢の立て直しは、〇.三秒だけレイが上回った。返す刀がニャンコトステップの肩を裂き、さらに追撃した一手が少女の細い指を切り飛ばす。
「お前らの愉しかった憂さ晴らしの時間はもうおしまいだ。いいか、これからはお仕置きの時間だ」
「お仕置きですって? わたしたちに誰も罰なんて下せない! あなたたちにこそ、罰を与えてやる!」
 自分たちを見下していた連中と同じことをして来たことに、果たしてニャンコトステップたちは気がついているのだろうか。レイの放った「お仕置き」という言葉を否定するように、彼女は表情を歪めて叫んだ。
 レイが間合いを取るのと同時に、爆炎が式場の空気を焼き尽くした。炸裂した炎に吹き飛ばされたニャンコトステップの体が、魔法陣の上に投げ出される。
 四季乃・瑠璃は彼女の分身である緋瑪と共に、注意深くニャンコトステップを扇の要に据えた立ち位置をキープすると、さらなる追撃に移る。
「いいえ、あなたたちにはもう、誰にも罰を与えさせたりなんかしないよ」
 立ち上がりざまにニャンコトステップが召喚した邪神像は、瑠璃の放った爆弾によって尽く破壊され、一瞬で無力化していく。
 苦し紛れに召喚された肉塊が如き腕の一撃こそ防ぎきれなかったが、敵の攻撃を警戒していた瑠璃は致命的な一撃を受けることを免れた。
 地を転がって追撃を避けた緋瑪が、瑠璃に気を取られたニャンコトステップ目掛けて銃弾を放つ。薄闇のなかでもそれとわかる鮮やかな赤が、魔法陣で埋め尽くされた床を汚した。
 戦いは始まったばかりだが、式場にはすでに血の匂いが広がっていた。邪神の肉片を召喚し、或いは手にした大鎌を払って抵抗を見せるニャンコトステップに、猟兵たちも少なからぬ怪我を負い始めていた。
 立体的な機動で迫る肉触手をなんとか受け流したジル・クラレットは、傷ついた仲間たちを癒やすために歌声を響かせる。奇しくもそれは、癒やしの魔女として街ゆく人々を治癒してみせたものと同じ旋律だ。
 その姿を見たキルケは、苦々しげにジルを睨みつける。ニャンコトステップを攻め立てる者に向けた視線以上に、それは険しい。
「これは、歌声を聞いた人を癒やす歌。あなたたちの傷が治っていないということは、そういう事よ」
 誇るでもなく、揶揄するでもなく、ジルは淡々とキルケの視線に答えた。万人から共感を得られないことは、人ならば当たり前のことだ。
 彼女たちの過ちは、いくつもあっただろう。その原点はきっと、他者に受け入れられないことを、自身が受け入れられなかった点にある。
 ジルが言外に告げたそのメッセージを、キルケはどう受け止めただろうか。
 答えはわからない。ただただ、キルケは猟兵たちと間合いを取って目の前に戻ってきたニャンコトステップに手を添えて、語りかけるばかり。
「ニャンコトステップちゃん。あなたにはわたしがついている。それに神さまは本当にいたんだよ。だから……神さまに選ばれたあなたは、決して負けたりなんかしないんだ」
「うん……うんっ。キルケせんせーの、言う通りだ……わたしは負けない。負けたりなんかしない……!」
 深い怪我を負いながらも、なお闘争心を剥き出しにするニャンコトステップを見て、空廼・柩は哀れみにも似た感情を抱く。
 解けることのない選民意識に囚われて、彼女たちはなにも見えなくなっているように柩には思えた。彼女らが信奉する神は、所詮は邪神だ。救いをもたらす存在ではなく、彼女たちを庇護することすら怪しいものだ。
「確かに、あんたは神の代行者に選ばれたんだろう。けれど、忘れないほうがいい。神というものは、いつだって気紛れだからね。ましてやそれが邪神となれば……わかるだろ?」
 言葉の意味を理解したとしても、それを素直に呑み込んでくれるとは、柩も思っていない。けれども、その言葉を掛けずには居られなかった。
 抗う素振りを見せるなら、それに応じねばならない。ますます殺気を強めるニャンコトステップに対し、柩の放った咎人を封じる拘束具が、大鎌を構えた彼女の四肢を絡め取る。
 動きが止まったニャンコトステップに目掛けて、一駒・丈一は間髪入れずに行動に移っていた。
 懐から取り出したものは、杭だ。かつて罪人の贖罪に用いられてきたとされる、磔刑に処するための杭。
 ――魔女とその仲間に用いる手立てとしては、あまりにも出来すぎた話だが。
 丈一は心中でそうつぶやきながら、それをニャンコトステップ目掛けて投擲する。
「ぐっ……!」
「痛みを覚え始めたか。だいぶ邪神の加護も弱まってきたようだな」
 それまで苦痛らしい苦痛を覚えている様子がなかったニャンコトステップに変化が見え始める。丈一はその様を冷静に分析しながら、さらに杭を彼女目掛けて投げかけた。
 人がなにかに拠り所を求めること自体は、丈一も理解を示す。彼とて、その拠り所を持っていたからこそ、こうして今まで戦場に立ち続けることが出来たのだ。
 しかし、ニャンコトステップたちが拠り所としたのは魔女キルケであり、そのキルケが拠り所にしたのは己の血筋と、這い寄ってきた邪神の影だった。
 ――最初から、お前たちは手をのばす先を間違えていたんだ。
 今さら、それを指摘したところで詮無いことだ。丈一は小さく頭を振るうと、いま再び戦場に意識を集中させる。
「邪神なんかじゃない……いえ、邪神でも、なんだっていい……! 力を与えてくれるなら、悪魔だってよかった! わたしを虐げてきたヤツらを見返してやれるなら、なんだってよかったんだ!」
 ニャンコトステップは唾を飛ばしながら絶叫する。飽和攻撃が成立しない速度で次々と邪神像が生み出され、彼女の力を増していく。
「その気持ちはわかる、なんて言っても信じてくれないかもね。けれど、ニャンコトステップさん、何かに縋ろうとする君の叫びの痛みだけは、やっぱり"わかる"よ」
 黄泉比良坂でその身から分かたれた『かの人』に、九泉・伽は「ようやくお目覚め?」と薄く笑みを浮かべた。一回り以上巨大化した鎌を構えたニャンコトステップが、唇の端から血を流しながら"伽たち"を睨めつける。
「わかるから、何だって言うの? それじゃあ今からお前が、わたしたちの代わりを務めてくれるとでも? そうでなければ、お前もわたしたちを嘲笑って、虐げてきた連中と同じだ!」
 振り下ろされた強大な一撃を、伽の分身はニャンコトステップの懐に飛び込むことでかわしてみせる。駆け抜けた勢いを手にした棍の先端に乗せて、それを彼女の鳩尾に叩きつけた。
「ごめんね。それだけは受け入れられない。だって、君たちが救済と称して死をバラ撒こうとしたことは……やはり頂けないよ」
 痛みに後退ったニャンコトステップの肩越しに、伽はキルケと目が合った……気がした。今から自分たちは、彼女がこの世に下ろした神を奪い去る。そのことに一抹の後ろめたさを覚えるのは、やはり彼女たちの気持ちを"わかる"からなのだろうか。
 ニケ・セアリチオは、悲痛な叫びを上げながら足元に奇怪な肉塊を生み出していくニャンコトステップの姿を、とても見ていられなかった。
 震える指先が、無意識のうちに胸に下げた金貨へと伸びていた。かつて己を手にした者たちが次々と運命を狂わせていった様を、否応にも思い出してしまう。それはこの場にはふさわしくない感傷だ。ニケはそう自分に言い聞かせて、情景を振り切るように強く手を握りしめる。
「お前たちを殺して、わたしたちはゆく。キルケせんせーとわたしが、虐げられた全ての子を救って……アイツラのような人間を皆殺しにしてやる……!」
「それは……それだけは、させるわけにはいきません。貴女方が信じてきたものを、本当は私も信じてみたかった。けれど、けれども……!」
 キルケが、愛に溢れる魔女の卵だったなら。
 人を笑顔にするのが好きな少女だったのなら。
 ニャンコトステップが、そんな少女を支えるただの優しい女の子だったのなら。
 そんなニケの願いは現実の前に崩れ去ってしまった。しかし、だからこそ自分が彼女たちを止めねばならないと、ニケは震えを押し殺すように杖を掲げる。
「他者の生を侵す貴女方を、ゆかせるわけにはいきません。貴女方が手にしたものは、決して免罪符などではないのだから」
 式場内を嵐のように暴れまわる肉手に巻き込まれながらも、ニケは召喚した鳩たちにニャンコトステップの視界を奪わせる。
 狙いの定まらなくなった狂乱の攻撃が天井や壁に叩きつけられて、大量の瓦礫や破片が降り注いでくる。
「あはは、油断しちゃったねぇ……」
 治癒を受けても止まらない出血に胸を押さえていた四ツ辻・真夜は、首筋の毛が逆立つ感覚を覚えながら戦線に復帰する。「ああ、おばあちゃんが怒っている」と、自分自身にしか聞こえない声で呟いて。
 ――あれだけ我を失っていても、キルケだけは決して傷つけない、か。
 身体を苛む痛みが、逆に精神を研ぎ澄ませていた。血の匂いが満ちる戦場にあっても、どこか冷静に状況を観察している自分がいる。真夜はそんなことを思いながら肉手の嵐の合間を巧みに掻い潜って、ニャンコトステップとの距離を詰めていく。
 全身にぞくりと広がる鳥肌。真夜の守護霊である"おばあちゃん"が、彼女が怪我を負ったことで怒髪天を衝いていた。
 今度こそは、その身を捉えた。真夜とニャンコトステップの視線が交差した瞬間、その身は動画を一時停止したようにぴたりと止まる。
 途端、猟兵たちが決着をつけるべくニャンコトステップへと迫る。頼もしい彼らの背を見送りながら、真夜はキルケへと視線を向けた。彼女は、先と同じようにスマートフォン越しに目の前の光景を見つめていた。
 ――やっぱり、直視はしないんだね。
 瑠璃と緋瑪は、動きを止められたニャンコトステップの隙をつく。
 取り出した魔力爆弾は、それまで使用してきた物とは性質を全く異にする。彼女たちは手に手を重ねて、その爆弾に魔力を込め始めた。
 キルケやニャンコトステップがどのような神を信じていたかなど、もはや関係はなかった。瑠璃と緋瑪にとって、成すべきことは単純明快で、そのための力が二人にはある。
「わたし達は二人で一人の殺人姫……わたし達に神の救いなんて必要ない」
「少なくとも、貴女達の身勝手な救いはね」
 だから、明確に、二人は告げた。
 手中の爆弾に込められた魔力は膨大なもので、わずかな衝撃を与えるだけで炸裂してしまいそうなほど、剣呑な波動を式場全体に放っている。
 二人がそれを投擲するなり、周辺にいた猟兵たちが一斉に伏せる。幾人かの者が、式場の隅に転がっている信者や、キルケの身を庇った。
 その名が冠する通り、生まれたての星のような眩い閃光が闇を切り裂き、圧縮された魔力が大爆発を起こした。
「ふうん、まだ立っていられるなんてね」
 瑠璃はどこか可笑しげに唇の端をあげた。式場は滅茶苦茶に破壊されて床にクレーターすら開いていたが、ニャンコトステップはいまだ生きていた。
 いや、それは死ねなかった、と言うべきなのかもしれない。
「凛……!」
 キルケが、もはや人の姿を留めていないニャンコトステップを目にして呻いた。彼女のことを咄嗟に庇った柩は、飛び出そうとしたその細い身体を押し止める。凛、それがあの子の本名か、と胸中で呟いて。
「やめておくんだ。ここから先は、"ただの人間"が踏み入れるべき領域じゃない。言ったろう、邪神はいつだって気紛れだ。狂信者が掌の上で踊っている間は力を貸すが、一度足を止めた者には冷淡に振る舞う」
「でも、あのとき神さまは言ったの。声が聞こえたの。お前たちに死をも乗り越える力を与えてやろうって」
「……」
 柩の肩を掴んでくるキルケの力は信じられないほど強く、痛みを覚えるくらいだった。
 邪神に誑かされ、狂気に駆られ、血の海の上で踊り狂ってきた哀れな娘……その手を振りほどくことなく、柩はまっすぐにキルケの瞳を見つめ返す。
「それも、もうお終いだよ。あんたが信じていた神サマは彼方の海に帰って、また次のニャンコトステップを探すだけだ。『今回は惜しかったが、まあ愉しめたな……』なんて嗤いながらね」
 あえて、冷たく突き放すような物言いで告げた柩は、キルケを床に座らせるとニャンコトステップに向き直った。
 召喚した肉片で崩壊した肉体を補っているが、ニャンコトステップはもう幾らも力を残していないだろう。それでもなお、彼女はキルケを護ろうとしている。あるいは、道連れにしようとしている。
 柩に目掛けて、ニャンコトステップは召喚した肉触手をけしかけんとしたが、それは空中で阻まれた。柩が放った咎力封じが、彼女の一手を尽く叩き潰したのだ。
「もっと早く事件を察知することが出来たならば……"害毒"を抜くことも叶っただろうか」
 そのことに後悔こそ覚えないが、覆すことのできない運命の多さに、丈一は微かな虚しさを覚える。真正面からニャンコトステップへと迫った彼が刀を鞘走らせると、無数の罪人の命を刈ってきた刃が、ロウソクの火に照らされて妖しく煌めいた。
「凛、お前の罪は地獄で償うといい。残された陽菜の罪は――」
 瞬く間に宙を疾走った白刃が、大鎌を構えたニャンコトステップの胴を斬り上げる。その太刀筋はあまりにも軽やかなものだったが、それでも確かに、邪神を身に宿した娘の命の灯火を消し去っていた。
「――我々に委ねろ。この国の司法に任せ、その裁きに従わせる。だから安心しろ、とは言わないがな」
 刀に付いた血を払った丈一が刃を鞘に収めるのと、ニャンコトステップがその場に倒れたのは同時のことだった。
 甲高い音を立てて地面に落ちた大鎌は瞬く間に灰と化し、ニャンコトステップの身を補っていた邪神の肉片は急速に萎んでいく。かろうじて人の姿を取り戻した邪神官の娘だが、無論、それで命が戻るわけではない。
 丈一はその様を、ただ静かに見下ろすばかりだ。オブリビオンを狩る。それが猟兵に課せられた仕事である。それ以上の感傷を、彼は最後まで持ち込むことをしなかった。

「……凛? 凛?」
 力なく立ち上がったキルケが、フラフラとニャンコトステップの亡骸の下へと歩んでいく。血に塗れた身体を腕に抱いたキルケは、その名を何度も呼びながら青白い顔を手で撫で続ける。
 そんな彼女にジルが声をかけた。
「大切な人を失って悲しむくらいなら、人の命を奪うような真似をすべきじゃなかったのよ」
 人一倍情感豊かで、笑顔も絶やさないジルだが、いまだけは違った。ごく抑えた声音でかける言葉は抑揚も乏しく、努めて感情を押し殺している印象を受ける。逆説的に、それは何よりも雄弁に彼女の複雑な心境を物語っていた。
 ジルはキルケがこちらに顔をあげるのを待ってから、言葉を続けた。
「あなた達の過ちは、やりすぎてしまったこと。誰にも他人の命を奪う権利なんてない。誰かに言葉で否定されたのならば、あなたたちも言葉で正義を主張すべきだった……違う?」
「……」
「それを貫かなかったということは、あなたの正義をあなた自身が信じきれなかったということでしょう」
 キルケは何も答えない。ただ、ジルの顔を睨みつけるばかりだ。しばしの沈黙ののち、キルケは「はっ」と乾いた笑い声を上げた。
「正論だね。でもそれは、力のある人だけが言える言葉だよ、癒やしの魔女さん」
 皮肉めいたその悪態を、ジルは何も言わず受け止める。
 恨み、憎めばいい。言葉では埋められない隔たりがあることをジルとて理解している。けれど、歪んだ心を笑顔で覆い隠すよりも、今のキルケのほうがよほど人間らしく、可愛らしいとすら思えた。
「あいつも言っていたがな」
 レイは怪我を負った身体をさすりながら、顎でニヒトのことを指し示す。そして「俺たちは所詮、同じ穴のムジナだ」と続けた。
 進んだ道が違っただけで、レイもニヒトも本質的にはキルケたちと何ら変わりがない。箍が外れたら、猟犬とて獰猛な野犬に変わるのと同じだ。悪しき者と断じた相手を狩り殺す。その手段を善と悪に分け隔てる基準は、決して絶対的なものではない。
「違うとすれば、お前たちは化け物になることも拒まなかったってだけだ。俺は御免だがね……」
 レイは腕を組んで、溜息混じりに唸った。名も知らぬ少女に刺された傷が、未だに痛む。恨みを込められた刀傷は痕に残るというが、これもそういう類だろうか。
「俺たちが正しいとは言わないし、言えない。何が救いかどうかも、俺にはわからない。ただ、一つだけ言える。お前のやり方では、全ての人間を救うことはできねえってことだけだ。お前が救おうとしていた連中すら、きっと全てを救えなかっただろうよ」
「あなたたちが間違っている、とはわたしも言わないよ。でも、わたしたちは間違っていなかったって、今でも信じている。ふふ……本当の神さまの力を得ていれば、この世の"わるいもの"を全て滅ぼすことができたのに。あなたたちを含めてね」
 邪神が消え去った今でも、キルケの瞳に潜む狂気は抜けきってはいなかった。その様を見て、真夜は表情を曇らせる。彼女はもう、普通の女の子には戻れないのだろうか。これから先、罪を償ったとしても。
 いや、違うはずだ。キルケが……いや、陽菜が肌身離さず手にしていたスマートフォンに、真夜は視線を注ぐ。
「本当に、そう思っているの?」
 口をついて出た真夜の疑問の言葉に、陽菜の肩がぴくりと震える。真夜は膝を床につけて彼女に視線を合わせた。
「……あなたは戦いの間、ずっとスマホ越しに光景を見ていた。それは、なぜ? 単に記録するためではないはずだよね」
「別に……」
 真夜の視線に、陽菜は決して目を合わせようとしない。これまでの戦いのなかでも、ずっとそうだった。目が合えば、彼女は必ず目を伏せて決して見つめ合おうとしなかった。猟兵たちに強い敵意を向ける時と、凛と見つめ合う時を除いては。
「あなたはさっき、陽菜と呼ばれたことをとてもイヤがった。だから、ピンと来たんだ。あなたは本当は、自分が間違っていることに気がついていたんじゃないの?」
「……違う」
 真夜の顔を睨み返そうとして、しかし、ますます陽菜は顔をそむける。
「あなたは、スマホを通してでなければ世界と向き合えないように見えた。まるで『キルケ』という仮面越しでなければ、他人と向き合えなかったみたいに。"恐ろしい魔女"に成り果ててしまった自分たちが普通ではないって……自分自身で受け入れられなかったように、見えたんだよ」
「違う、違う……っ。そんなんじゃない! わ、わたしは……本当のわたしは」
 二人のやりとりを少しばかり離れたところで見守っていた伽は、取り出した煙草を燭台のロウソクに近づけて火をつける。
 真夜の言葉に明らかな動揺を見せ始めた陽菜は、他に寄る辺が無いように、凛の亡骸にすがりついた。その姿にはもう、狂信者を束ねる魔女としての姿はなかった。邪神が消え去ったことで、心身を蝕んでいた狂気の棘が抜けかけているのかもしれない。
 伽は、毒をたっぷりと含んだ煙を深々と肺腑に染み渡らせながら「さっきも口走っていたけれど、『本当のわたし』ってなぁに?」と問いを投げかけた。
 眉を力なく下げた陽菜がこちらに意識を向けるのを待ってから、伽は言葉を続ける。
「キミはずっと『本当のわたし』に絶対的な正義を見ていたようだけれど、おれの目には『本当のわたし』を誰かに認めて貰って、誰かに定義づけて貰おうと足掻いているようにしか見えなかったよ」
「……」
「キミの言う『本当のわたし』ってやつは、誰かに認めてもらわないと崩れ落ちてしまうような脆いものだったの?」
 伽が口に咥えた煙草が灰に変わっていく。陽菜はそのあいだ、何も言葉を返せずにいた。真夜のように腰を下ろすかどうかしばし逡巡したあと、伽は立ったまま言葉を続ける。
「おれは思うんだよ。動画のなかのキミは……少女害毒論を立ち上げたころのキミは、もっと違った形で……あの動画のなかで見せていたような笑顔の魔法で"彼女たちを救おうと"していた。あの時の気持ちは、実はまだキミのなかに残っているんじゃないか? 魔女の血筋なんかじゃなく、それこそがキミが抱いていた『本当のわたし』なんじゃないの?」
「本当のあなたは」
 真夜もまた、陽菜の肩に手を置いて優しくささやきかける。
「魔女の血を引く『キルケ』としてのあなただけじゃない。普通の女の子としてのあなたを含めた『大友陽菜』こそが、本当のあなたなんじゃないかなぁ……」
 陽菜とて、最初はそのことをわかっていたはずだ。しかし、狂気に蝕まれていく中で、いつしか理想と現実と自分自身との乖離に耐えられなくなっていったのだろう。
 二人の言葉を受けた陽菜は、明らかに動揺をきたし、涙混じりに叫んだ。
「うるさい……! もう、何も聞きたくない。あなたたちの言葉なんて、なにも聞きたくないっ。殺せばいいじゃない! 凛のように、わたしのことも、殺してしまえばいい!」
「いいえ、いいえ。もう誰一人として死なせたりはしません!」
 陽菜の悲痛な声をかき消すように、ニケもまた声を張り上げた。彼女はたまらず陽菜の下へと駆け寄ると、真夜と同じく傍らに寄り添う。
「嗤われ、否定されて……誰からも理解されない日々は、きっと辛く、心圧し潰される思いでいっぱいだったでしょう」
 気持ちはわかる、だなんて今さら言うつもりはニケにはなかった。進むべき道を誤ってしまった陽菜に、その言葉はもう心に届かない気がしたから。
「けれど、だからと言って、貴女までもが他者を否定しては……ましてや命を奪うことも厭わないというのは、貴女方を虐げてきた人たちよりももっともっと悪い者になってしまうということだわ」
 そのことに気がついてくれた子が陽菜の周りにはいなかったのだろうか。いたとしても、いつから立ち止まることが出来なくなっていたのだろうか。
 もはや知る由もない。陽菜もまた、ニケの言葉に言葉を返さなかった。返す言葉がないのではなく、そのことを自ら肯定することができずにいる……そんな表情を浮かべたまま。
「魔女さまという存在は元々、弱き人々を助け、知恵を授けて導く存在だったと聞いています」
 ニケは説教をするでもなく、非難をするでもなく、言葉を紡いでいく。彼女の言葉に、陽菜は目こそ合わせることを拒んでいたが、静かに耳を傾けていた。
「ねぇ、陽菜さん。貴女が思う魔女は、どんな方なの?」
 ――貴女が心に描いていた『本当のわたし』は、きっと。わたしが思い描く魔女さまと同じ姿のはず。
 ニケの問いかけを受けた陽菜は、顔を両手で覆って慟哭する。か細く、弱々しい、年相応の少女の声で。そして、そんな己を否定するように首を激しく振りながら言うのだ。
「わたしが、本当の魔女なんだ……。わたしは、間違って……間違ってなんか、いない……何度だって、神さまを喚んでみせる……そうして、そうして、わたしは……!」
「もういいんだ、陽菜」
 そんな陽菜に、ニヒトが声掛ける。手には、一振りのナイフ。
 泣きじゃくる陽菜の姿こそが、彼女の本当の姿なのだろう。否定され続け、その身に受け継ぐ血すらも物笑いの種にされてきた少女。表に浮かべていた笑顔の影に隠してきた、繊細で傷つきやすい柔な心。
 ――ボクだったら、笑えない。キミのように、笑い続けることなんて、出来なかった。
 けれど、その笑顔が強さから来るものではないことを、ニヒトは痛いほど、苦しいほど、知っていた。薄い皮膚の下に住まう"家族"たちの指先が、そっとニヒトの心臓の裏側を撫でる。
 こそばゆさのあまりに、直視出来なかった。痛みのあまりに、目を逸らすことが出来なかった。陽菜の前に身をかがめたニヒトは、その手に持ったナイフの柄を眼前の少女に差し向けて、微笑む。
「おしまいにしよう、キミの行いの全てを"キルケ"のせいにするのは。キミ自身が胸の奥に溜め込んでいたものを、ぶつけてよ。ボクは……それを受け止める覚悟が出来ている。だって」
 ――キミは、"ボクがボクで在り続けられなかったボク"の姿なんだから。
 ニヒトの目を、陽菜は今度はしっかりと見つめ返した。そして、渡されたナイフの柄を握りしめる。その手は見るものに憐憫の念を抱かさざるを得ないほど震えていた。
 陽菜にとって、猟兵は"キルケとしての全て"を奪い去った存在だ。それと同時に、"キルケという名の狂気を滅ぼした存在"でもある。
 未だ狂信の魔女としてのキルケが色濃く残る陽菜が、どのような決断を下すのか。どうあれ、ニヒトはその身を委ねるつもりだった。行く末に待つ光景がどんなものであろうと、後悔をするつもりはなかった。
 胸元にあてがわれた切っ先が、徐々にニヒトの皮膚を傷つけていく。血が滴り、鋭い痛みが走った。それでもニヒトは、同い年の女の子の顔を見据えたまま、微笑み続ける。
 けれど。
「……!」
 ニヒトの肋骨の隙間を刃が貫かんと力が込められた次の瞬間。
 その切っ先を向ける先を、陽菜は己の喉笛へと改めた。泣き笑うような表情を浮かべたまま、魔女の少女は己の命を断つべく刃を喉へと突き立てる。
「させねぇよ」
 しかし、それはすんでのところで防がれた。注意深くニヒトと陽菜のやりとりを見守っていたレイが、咄嗟にナイフを蹴り飛ばしたのだ。
 乾いた音を立てて、ナイフが床の上を転がっていく。
 陽菜は瞬きすることも忘れ、呆然とした様子で眼前の床を見つめるばかりだった。ナイフが飛んでいった先も、すぐ側にいるニヒトにも、猟兵たちにも、視線を向けることはない。
 そしてその場に崩れ落ちた陽菜は、凛の胸元に顔をうずめたまま、肩を震わせて泣き続けるのだった。

 猟兵たちは、陽菜たち少女害毒論の身柄を、警察と司法に委ねる決断を下した。連絡を受けて駆けつけたUDC組織の職員たちが少女らの身柄を確保していく。彼らを通して、陽菜たちは警察へと身柄を渡されることになるだろう。
「キルケ……少なくとも、以前の貴女にも、貴女のことを見てくれていた人達がいたのにね」
 少女害毒論の狂信者たちの捕縛を終えた緋瑪は、同様に身柄を拘束された陽菜を見やりながら呟いた。毒薬の入ったアンプルを手中で弄んでいた瑠璃が「それに気がつけなかった人が……結局、邪神に魅入られるんだよ」と諦念にも似た息をつき、アンプルを強く握りしめた。
 これだけの大事件だ。組織がどれだけ情報統制を図ろうとも、司法に裁きを委ねる以上は世間に隠し通すことは難しい。インターネット上に残された『魔女キルケ』の痕跡は決して消えることはなく、法律上の罪を償ったあとも大友陽菜の長い人生に付き纏うこととなるだろう。皮肉にも、謂れなき迫害を受けた先祖とは違い、陽菜は本物の魔女として生涯を通し責められ続けるのだ。
「それがお前の出来る――『人』としての償いだ」
 連行される陽菜の背を見送りながら柩が独り言ちると、丈一は「罪の重さに耐えかねた彼女が、再び邪神に拠り所を求めなければいいのだが」と憂慮を口にする。すると、傍らにいたレイが、いっそ露悪的ともとれる態度で鼻を鳴らした。
「ざまぁみろ、だ」
 生きて苦しむことが、陽菜が背負うべき罪だ。レイは一切の綺麗事を述べずに断じると、足元の魔法陣をかかとで踏み消す。そんな彼の仕草を物憂い瞳で見ていたジルが、「それが、人の世で生きるって事だから」と、誰にも届かぬ声を夜風に乗せた。
 やがて陽菜は、UDC組織の車両へと乗せられた。武装した職員が彼女の周りを囲んでいる。その様子を眺めながら、伽は灰だけになった煙草を燭台の受け皿に押し当てた。気がつけば、彼の片割れの姿が見えなくなっていた。
「……そのままいればいいのにさぁ、また眠っちゃったのね」
 つまらなそうに呟いた伽は、目の前を通り過ぎる一団に、冗談めかした敬礼をへらりと送る。式場から車両までは短い距離だったが、何が起こるかわからない以上、真夜、ニケ、ニヒトの三猟兵が周辺警戒のため陽菜を連行するUDC職員に同行していたのだ。
 車両のドアが閉まる直前、それまでずっと俯いていた陽菜が不意に顔を上げて、三人の顔を順に見渡した。そして、こう問いかけてきた。
「……この先、わたしはどうなると思う?」
「この国の法律に従って、罪を償うんだよ。もちろん、それだけであなたの罪は消えない……それは忘れないで」
「違う、そういう意味じゃないよ」
 真夜の答えに、陽菜は力なくかぶりを振った。ニヒトが、胸の傷口を押さえながら訝しげに尋ねる。
「なにが違うって言うの?」
 キルケが目を細めた。
「本当に、わたしはこの先、人間のままでいられるの?」
「……」
 出発の準備が整ったらしい。答えを返す間もなく、四人の会話を遮るように、車両の分厚いドアがUDC職員の手によって閉ざされた。
 おそらく防音・防弾仕様なのだろう。中も窺えないスモークガラスに手をつきながら、ニケは陽菜に対して「ずっと、ずっと、貴女は人間です。これまでもこれからも、貴女がそれを望まなくなったとしても、絶対に」と祈るように声をかけた。
 やがて陽菜と少女害毒論の娘たちを分乗させた車列が、廃ホテルを出立していく。その姿を猟兵たちはただ静かに見送った。
 日曜日、夜〇時。魔女の宴の夜が終わる。
 銀色の月が空を下り始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月26日


挿絵イラスト