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戻らぬを悲しみ

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●還らぬもの
「すみません……どうしても無理なんです」
 看護師の衣服に身を包んだ女性は、嘆願の言葉に申し訳無さそうな顔をしていた。
 彼女の背後には鋼鉄の巨人がおぞましき生贄によって構成されていく。
 人の肉と骨、臓腑が鋼鉄に変わっていく。
 その巨大さは5mを越えるものであり、人型をしてはいるものの、それを構成するものは狂気に彩ろられていた。

 看護師の衣服を来た『赤い霧』犬吠埼・サヤは手にしたメスで足元に転がっていた黒いゴミ袋の封を切る。
 そこからまろびでたのは、腐敗しかけた死骸であった。
 正気を疑うような光景。
 だが犬吠埼・サヤは躊躇いなく黒いゴミ袋の中身をぶちまけ、鋼鉄の巨人の足元へと放り投げる。明らかに人の死骸である。それらが鋼鉄の巨人に吸い込まれては理解不能なるオブジェクトへと変わっていく。
「『ジャガーノーツ』というのですね。遥か遠い星の彼方よりの来訪者。『星界の邪神の眷属の群れ』。ええ、わかっています。『門(ゲート)』よりいらしたのですね。歓迎いたします」
 犬吠埼・サヤの頭上には『門(ゲート)』がわずかに開いている。
 流入する邪神の眷属たちは、次々と犬吠埼・サヤが集めに集めた末期患者と融合していく。

「いやだいやだいやだいやだ! 死にたくない! なんで、こんな――」
「入ってくるなっ、俺の、中にっ!あ――」
「体が冷たい……体が重い……動くのに、自分のモノじゃないみたい。こんなの――」
 犬吠埼・サヤは本当に申し訳無さそうに『門(ゲート)』より流れ込んでくる邪神の眷属たちと融合していく末期患者たちを見ている。
 どれだけ変質し、どれだけ生命を冒涜するのだとしても犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をするばかりで己の行いを止めようとはしなかった。
「それでも必要なことなんです。皆さんのご家族も後ほど同じになりますから。だから、どうかご安心を。全ては、この鋼鉄の巨人を通じて『星界の邪神』を完全顕現させるため」

 悲しげな顔をしながら犬吠埼・サヤは手にしたメスをしまう。
「同じ狂気に侵されるのならば、遅いか早いかだけの違い。皆さんの生命は、ここで途絶えるのかもしれませんが、肉体は有効活用させていただきますから。ああ、痛いのは……すみません……どうしようもないんです」
 悲鳴響き渡る『星界の邪神』完全顕現の儀式の場。
 その儀式の『門(ゲート)』として組み上げられた鋼鉄の巨人が歪んでいく。

「『中身』が二つ。ええ、理解しています。あなた方のお名前も。『ドライ』さんに『フィーア』さん。骸の海に沈んだのならば致し方のないこと。どれだけ高潔な魂も過去に歪めば、オブリビオンへと変わる。ならば、私が利用させていただきますね」
 すみません、と口癖のように犬吠埼・サヤは鋼鉄の巨人に頭を下げ、されど悲鳴の途絶えぬ儀式はいよいよ佳境を迎えるのであった――。

●星界の彼方
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアース。急ぎ指定された病院に向かっていただきたいのです」
 彼女の言葉から猟兵たちはこれが緊急事態であることを察することだろう。
 事件の概要を説明するナイアルテの口調が忙しない。

「UDC……邪神たる『赤い霧』犬吠埼・サヤによって、どこからか流れ込んだ『人間以上』の知識によって、UDCアースでは考えられない人の遺骸でもって組み上げられた鋼鉄の巨人の如き『門(ゲート)』を完成させられてしまったのです」
 それは遠く星界の果てに封印された邪神につながる『門(ゲート)』である。
 すでに邪神の力の一端が『門(ゲート)』より流れ込み、病院の中は恐るべき星界のUDC達である『ジャガーノーツ』が溢れ出しているのだという。
 これが緊急事態である所以である。
 もしも、この『門(ゲート)』を通じて『星界の邪神』が地球に完全に顕現してしまったのならば、今の猟兵でも勝つことは難しい。

「すでに病院は『門(ゲート)』の影響で半ば邪神と融合し、人肉、人骨、臓腑が鋼鉄に変化する見ただけで狂気に陥るようなおぞましき光景に変貌しています。わずかに生存者が残っているようです。病院自体が儀式の場となっており、生存者たちも狂気に陥り、この儀式に加担しようとしています。これを止めながら最奥へと進んでください」
 狂気に陥った者たちを救出し、UDC職員たちに引き渡せば狂気の治療は彼らがやってくれる。
 最優先すべきは儀式の中断である。
 人々を救出しつつ、溢れ出る『星界の邪神の眷属の群れ』を打倒しなければならない。すでに眷属と融合した人々を救うことは不可能である。

 これを撃破し、最奥に存在している『赤い霧』犬吠埼・サヤを打ち倒す。そうすれば、儀式を止めることができるのだ。
「ですが、この『赤い霧』犬吠埼・サヤは不完全状態の『星界の邪神』と融合し、皆さんに襲いかかってくることでしょう」
 ここで彼女を倒さない限り、『星界の邪神』は完全に顕現してしまう。
 さらに悪いことには、『赤い霧』犬吠埼・サヤは、通常のユーベルコードに加え『邪神能力』である儀式の中心である鋼鉄の巨人を操って、猟兵たちを苦しめるだろう。

「恐らく、ユーベルコード『リモート・レプリカント』に似た能力であると察せられます。いわば、二体のUDCを皆さんは相手取らねばならないことになります」
 鋼鉄の巨人は5mほどの体高を持ち、キャバリアのような機動性を有しているようである。
 急を要する事態であることは言うまでもない。
 ナイアルテは転移の準備を終え、猟兵達に頭を下げる。

「どうかお願いいたします。今のUDCアースにおいて『星界の邪神』の完全顕現は手のつけられない事態に陥ってしまう可能性が高いのです。それをさせぬために、この儀式を完全に断ち切る必要があります」
 猟兵たちの背中を見送りながらナイアルテは、彼らの無事を祈るのであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。
 今回はUDCアースにて起こる『星界の邪神』完全顕現の儀式を阻止するシナリオになります。
 儀式はとある病院。
 末期患者たちが入院する病棟が最奥となり、すでにその病棟の人々は邪神の眷属の群れと化し、皆さんに襲いかかります。
 完全顕現を果たした『星界の邪神』は今の皆さんでもっても倒すことが難しい存在です。
 儀式の完遂をさせぬため、救える者を救い、救えぬ者を打倒して犠牲者を減らしましょう。

●第一章
 冒険です。
 儀式の場となった病院に突入します。
 内部はすでに『門(ゲート)』の影響で半ば邪神と融合しています。見ただけで狂気に陥る湯な光景へとかわっています。生存者である一般人たちは望んで儀式に参加し、己の体を骸に変えてでも邪神と融合しようとしています。
 彼らを救出しつつ、『門(ゲート)』の存在する末期患者たちの収容された病棟へと向かいましょう。

●第二章
 集団戦です。
 遥か遠い星の彼方から現れた『星界の邪神の眷属の群れ』である『ジャガーノーツ』たちと戦います。
 末期患者たちがUDCと融合した存在です。
 彼らは完全に融合しているため、救出は不可能です。これらを打倒しながら最奥に進みましょう。

●第三章
 ボス戦です。
『門(ゲート)』から滲み出て不完全状態の邪神の依り代となった鋼鉄の巨人と『赤い霧』犬吠埼・サヤとの戦いになります。
 ここで倒さなければ邪神は地球に顕現してしまいます。
 また『赤い霧』犬吠埼・サヤは通常のユーベルコードと同時に『邪神能力』と呼ばれる『リモート・レプリカント』によく似た効果の能力を使い、鋼鉄の巨人と共に皆さんを攻撃してきます。
 この『邪神能力』とユーベルコードを両方対処しなければなりません。

 それではUDCアースにて突如起こる事件を解決する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『死者は蘇らない』

POW   :    実力行使で儀式の妨害

SPD   :    儀式の現場にコッソリ潜入

WIZ   :    説得する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そこはあらゆるものが鋼鉄へと変わっていく奇異なる光景が広がっていた。
 かつては病院であり、病棟が立ち並ぶ総合病院であった。けれど、今は見る影もない。職員も患者も見舞客達ですら、今は狂気に陥っている。
 誰もが半狂乱になり、己の生命を邪神に捧げるべく自身の血と肉、骨と臓腑をもって鋼鉄へと変貌していこうとしているのだ。
「――あー、あー、あー」
「急がなきゃ、急がなきゃ、早く死ななきゃ」
「呼ばれてる。あの人が私を呼んでいる――」
 うわ言のように人々は狂気に淀んだ瞳のまま邪神と半ば融合した病院内をさまよう。奥に行けば行くほどに生存者は絶望的であろう。
 しかし、未だ救出することのできる生命があるのならば、猟兵たちは行かなければならない。
 狂気に陥り、自死に至らんとする存命者たちを救出し、儀式の執り行われている最奥へと進む。

 どれもが猶予のないことであった。
 刻一刻と失われていく生命と、儀式完遂までの残り時間。
 狂気が渦を巻くように世界を飲み込まんとしていた――。
メンカル・プルモーサ
……これはまた……酷いとしか言いようが無いな……
狂気に耐性がないと奥に進むことすら危険か…
…まずは目に付く限りの生存者を救出しないとだな…

…この場で一般人の狂気を癒やすのは難しいな……癒やした次の瞬間にはまた狂気に囚われかねない…
…となれば…医療製薬術式【ノーデンス】で作った麻酔薬に復元浄化術式【ハラエド】を付与…即興狂癒薬【ラートリー】を作成…
…狂気を癒やす睡眠薬を嗅がせて一般人を眠らせてしまおう…
…眠らせた人間は【何時か辿る絡繰の夢】で運搬用ガジェットを作り出してUDC職員が待機している病院の外まで運んで貰おう…
…粗方終わったら奥に進むか…とは言えあの先はもう手遅れだろうな…



 UDCアースのある病院。
 そこは総合病院としても知られる施設である。幾つかの病棟に別れ、その症状に応じて収容される場所が違う。
 奥に向かう病棟に行けば行くほどに症状が重くなっていく。
 それをまるでこの狂気に陥った場所を如実に示しているかのようであった。
「あー、あー、あー、あー……」
 意味のない呻き声を挙げながら、見舞客であったであろう人間が奥へと進もうとしている。すでに病院の中は『星界の邪神』が滲み出たことによって、半ば邪神そのものへと変貌し始めている。

 あらゆる場所に人の血肉と骨、臓腑がぶちまけられ、正気を失った人間がそれに続けとばかりに己の生命をなげうたんと壁に頭を打ち付け続けている。
「……これはまた……酷いとしか言いようが無いな……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は踏み込んだ先で、この光景を見た。
 どこまでも正気を削り取るような黒と赤の斑模様。
 それは此処ににじみ出た『星界の邪神』そのものであり、その性質を示すものであった。

 あらゆる生命の血潮を生贄に、その死を持って己の存在意義とするかのような病棟の内部。
「狂気に耐性がないと奥に進むことすら危険か……――未だ生まれぬ躰よ、紡げ、起きよ。汝は現霊、汝は投影。魔女が望むは紙より出でし彼方の絵」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 何時か辿る絡繰の夢(ブループリント・プロジェクション)によって描かれるガジェットの設計図が形を為していく。
 それは運搬用のガジェットである。
 救出した人々を運び出すものであり、それにはまず彼らの正気をとりもどさなければならない。

 しかし、それは難しいと言わざるを得ないだろう。
 この場で一般人である彼らの狂気を癒やすことは難しい。癒やしても、この場に留まっている限り、彼らはまた狂気に苛まれるだろう。
 ならばと彼女は医療製薬術式『ノーデンス』で作り上げた麻酔薬に復元術式『ハラエド』を付与し、即効で狂気に侵された人々を正気に戻す薬剤を作り出す。
「即効狂癒薬『ラートリー』とでも名付けようか……」
 メンカルは素早く正気を失った一般人の背後に回り込み、薬品を染み込ませた布を口元に当てる。
「うー、あー、あー!!!」
 意味のない声を上げる狂気に侵された一般人たちがメンカルへと迫ってくる。

 己達が邪神顕現の儀式に参加することを彼女が阻むと理解したのだろう。
「……やはり邪魔してくるか……」
 メンカルは即座に薬を嗅がせた一般人を用意してあったガジェットに放り込む。
 数は12体が限界であった。
 けれど、メンカルはそう多くが必要ないと感じていた。そう、此処でこれだけの狂気に侵されているというのならば、これより奥に存在していた人々は手遅れであろう。

「……もう手遅れだろうな……」
 けれど、進まなければならない。
 メンカルは次々と襲いくる一般人達の正気を癒やすと同時に眠らせ、運搬用のガジェットに放り投げていく。
 彼女が猟兵であるからこそ出来た対処であろう。
 彼らはガジェットに運搬されて、外で待機しているUDC職員たちに保護されることだろう。
 粗方片付け終えたメンカルは、儀式が未だ執り行われていることを確認し、邪神完全顕現をさせぬと奥へと進みゆく。

 狂気が一歩進む度に己の体にまとわりつくようでもある。
 此処から先は魔境。
 邪神の体内とでも言うべき蠢く赤と黒が斑を作ってメンカルを迎える。ここから先にあるのは、生命ですらない。
 生命を根絶する何かが存在し、その存在を持ってUDCアースを滅ぼそうとしている。
 ここで己たちが失敗すれば、邪神の存在は間違いなく災厄を齎す。

「……救えなかった生命を悲しむ暇もない……なら、救える生命だけは取りこぼさない」 
 メンカルは蠢く赤と黒の中を意志の光で持って照らし、進み行くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
これはまた、酷い話だね。
でも、やれることはやらないとね?

藤蛍で高めた結界術と浄化で浄化結界を私と陽凪に張って。見つけた生存者をどんどん陽凪に乗せていこう。
そして、陽凪の背がいっぱいになったら、UDC職員のいるところまで泳いでもらう。

その間にも私は生存者見つけて、一か所に集めつつもなるだけ狂気薄れさせようとしてるよ。
陽凪は、私の位置は簡単に見つけるからね…戻ってきたら、また背に乗せるさ。
苦労を掛けるね、陽凪。


陽凪、天候操作応用の追い風で泳ぐスピードを高めている。
できるだけ早く護送しようと頑張る。
陽凪、これくらい苦労とは思ってない。



 巨大なドクターフィッシュの姿をした巨大熱帯魚である『陽凪』が狂気満ちる病棟の中を悠然と泳ぐ。
 すでに赤と黒に染まった病院の中は、『星界の邪神』の完全顕現を為さしめるための儀式場へと変わり果てていた。
 生存者は絶望的である。
「私を呼ぶ声がする。奥から、もっと奥から。あの人だわ、きっと。私を呼んでいる。行かなければ。行かなければ」
 うわ言のように僅かに残った生存者が己の生命を散らすように最奥へと足をすすめる。

 それ以上進めば、狂気に侵された脳は溶け落ち、その臓腑は床にぶちまけられ、されど死ぬことの出来ぬ体は骨身と成り果ててもなお、儀式を完遂するための贄となるべく立ち止まることはないだろう。
「これはまた、酷い話だね」
 外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)は恐らく生存者のゆかりあるものが、この奥の病棟にいるのだろうことを察した。
『陽凪』と呼ばれる巨大熱帯魚はメガリスを飲み込んだことにより通常の生物の枠組みを超えている。
 その『陽凪』の背にのった蛍嘉は、その身に宿したユーベルコード、藤蛍(フジホタル)のちからに寄って結界と浄化の力を強化して、狂気満ちる場を飛ぶ。

 ぐるりと『陽凪』の体が狂気に侵された一般人の体を取り囲み、それ以上進めないように壁となる。そこに蛍嘉は降り立ち、彼らを巨大熱帯魚の背に乗せて何度も往復する。
「例え、彼らの関係者がすでに生命無くとも」
 そう、この奥に存在していたのならば、すでに邪神の贄となっていることだろう。
 姿形は縁者であっても、そこにあるのは最早違う存在である。
 UDC怪物へと成り果て、生前の記憶も、思いも、何もかも邪神の眷属に堕ちた彼らはもう元には戻れない。

 かといって、彼らを放っておくこともできない。
「やれることはやらないとね」
 蛍嘉は走る。
 僅かな生存者がいるのならば、それらを取りこぼしてはならない。
 儀式場となった病棟の中を走る。また一人と彼女は正気を失った人々を抱えて『陽凪』が巨大な体を持って彼らを奥へと進ませぬように留めている場所まで走っるのだ。
「苦労を掛けるね、『陽凪』」
 蛍嘉は己に従う『陽凪』を労いながら、病棟の外へと飛んでいく。

 なるべく追い風でもって空中を泳ぐスピードを高めている。
 それは『陽凪』が己の主人である蛍嘉の思いを汲み取っての行動だろう。できるだけ早く護送し、彼女の役に立つことこそが本懐であるからだ。
 それに『陽凪』は少しも苦労だとは思っていない。
 己とともにある彼女の思いこそ尊ぶべきであろうと思うからだ。
「まだ生存者はいる。それが幸いに思えるのならば、まだ大丈夫。浄化しても、浄化しても、すぐに狂気が満ちてくる……」

 これが邪神の体内というものなのだろう。
 儀式の場でありながら、すでに半ば邪神そのものとなっている病棟。『星界の邪神』と呼ばれる所以である。
 しかも儀式場である最奥からは、さらに禍々しき気配が漂ってくる。
 それだけで此度の戦いが厳しいものになることを蛍嘉は思い知るだろう。

 時間も余裕がない。
 生存者は刻一刻と減っていく。それは救出されたという意味ではない。
 時間が経つにつれて、この病院にいた人々は最奥に進み、己の生命を捧げ邪神顕現のために死ぬ。
 すべてを救えぬことを悲しむべきだろう。
 けれど、いますべきことは嘆きことでもなければ悲しむことでもないことを彼女は知っている。

「自分ができることを精一杯やる……いくよ、『陽凪』」
 例え、それが全てに手を伸ばせぬことを示唆するのだとしても。
 それでも彼女は駆ける。
 失われようとする生命に手をのばすことを諦めたときこそ、邪神顕現は為るのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
……なんだこりゃ……。
どうあっても邪神を降ろそうってハラかよ。どれだけ屍を積み上げても……ってワケか。
正直怖くて堪んねえけど、こんなんを放ってもおけねえよな……!

〈狂気耐性〉を発揮して場の空気に中てられねえように気をつけながら前進。
こっちに襲いかかってくる素振りを見せる人たちの動きを〈見切り〉ながら入り口近くまで誘き寄せて、ある程度の数が集まったところで《瞑する魔女の子守唄》で眠らせて無力化。
運び出すんはUDCの職員さんに任せるしかねえか。あとで連絡しよう。
何回か繰り返したら本格的に前に進み始める。
まだ残ってる人は……片っ端から眠らせるしかねえかな。

……やっぱ人を救うって、ホント難しいや。



 生きた道を探すことができるのならば、死する運命を見定めることもできるだろう。
 生命に意味を見出すのならば、そこに光を見出すことも出来るだろう。
 けれど、今まさに鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の目の前に広がる光景は生命の尊厳そのものを汚すものであった。
 黒と赤が占める世界。
 病棟であった場所はすでに面影すら遺していない。
 あるのは、血と肉。
 そして骨と臓腑が彩る『星界の邪神』の体内そのもの。

 それがこの儀式場。
『星界の邪神』を完全に顕現させるために必要な贄であった。
「……なんだこりゃ……」
 嵐は息を呑む。
 それだけ凄惨為る光景であったのだろう。生きている人がいるのだとしても、すでに正気を失っている。
 狂気に取り込まれ、奥へ進み己の生命を持って儀式の完遂を為さんとするばかりである。
 その光景を前にして嵐は走る。

「どうあっても邪神を降ろそうってハラかよ。どれだけ屍を積み上げても……ってワケか」
 恐ろしさが体をこわばらせる。
 けれど、それとは違う恐ろしさが嵐を走らせる。生命が失われる。
 意味も、理由も、何もかも汚されて無為に消えていく生命が己の掌から落ちるのを恐れるのだろう。

 だから、放ってはおけぬと迫りくる狂気をかいくぐり、彼は走るのだ。
「あ、あー、じゃあ、ま。じじゃま」
 正気を失った一般人たいが嵐に向かって襲いかかってくる。一つでも多くの生命を捧げようとする彼らと一つでも多くの生命を救わんとする嵐の道行きは真っ向からぶつかることだろう。
 嵐は彼らを惹きつけながら病棟の入り口まで誘導する。
 己の生命を贄にしようとするのならば、それを利用するまでであった。

「正直怖くて堪んねえけど……」
 体が震える。
 恐ろしさを感じることは、生きているということだ。未だ狂気に侵されぬ精神を有しながら、嵐は己の中に渦巻く恐怖に打ち勝とうとしていた。
 震える足のままに狂気に染まった人々の手を躱しながら走る。

「智慧持つ者、機を待つ者、呪われし者――眠りの果てに、祝福あれ」
 瞑する魔女の子守唄(マレフィセント・ララバイ)によって、嵐の周囲に集まった人々に召喚された妖精が放つ霊力の波動に寄って、彼らを眠りにいざなう。
 狂気に侵されている彼らを解き放つことはできない。
 けれど、眠りに落としてしまえば抵抗はされないだろう。

 彼らを入り口から病棟の外に運び出し、嵐はUDC組織の職員たちに引き継ぐ。
「まだ中には居るみたいだが……これ以上時間はかけられねえな」
 嵐は儀式完遂まで猶予がないことを知る。
 蠢く狂気が内部で膨れ上がっていくのを感じる。UDC職員たちに救い出した人々を引き渡しながら、嵐は再び己の恐怖を乗り越えて一歩を踏み出す。

 彼が求めるのはなんであろうか。
 邪神は生命を求める。
 他者の生命も己の生命も区別のない邪神が齎すのは混沌と恐怖だけであろう。
 病棟の中を見るだけでわかる。
 どれだけの生命が失われたか。それを思えば、嵐は己の中にある恐怖に背を向けて走るだろう。
 震える足で。
 恐れに慄く体で。

 されど、立ち止まることは許されない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
私達の世界はどうしてこうも壊れやすいのでしょうか
かけがえのない命がどうしてこうもたやすく
…怒りと悔しさは今はしまっておきましょう
一刻も早く最奥へ向かわなければいけません
(救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばした後{晩秋の旋律}で『ダンス』を始めた後
UC【蠱の海岸】を発動し狂気にとりつかれた人々に海岸の幻を見せる)
全員を救助したいところですが今はこれが精一杯
このUCが効果があるうちは最奥へ向かうことは無くなるはず
しかし時間が経てばまた狂気にとりつかれることでしょう
その前にこの惨劇を止めなくては…
(『衝撃波』を使ったダッシュで最奥へと急ぐ)



 生命が失われていく。
 失われるだけが運命であったのならば、生命とはどれだけ儚いものであろうか。
 生まれた意味を誰もが自覚できるわけではない。
 それは悲しいことだったけれど、仕方のないことであった。
 どれもが特別な生命であり、どれもが等しく価値を見いだせぬ。
 未だ生命の意味を知るには、人に許された時間はあまりにも少なかったのかも知れない。けれど、それでも人は生きるのだ。
 懸命に生きる生命にこそ、律動は感じられる。

 播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は赤と黒に染まった病棟の中を見て、瞳を伏せた。
「私達の世界はどうしてこうも壊れやすいのでしょうか。かけがえのない生命がどうしてこうもたやすく……」
 彼女の体の中に渦巻くのはどうしようもないほどの怒りと悔しさであった。
 生命はかけがえのないものだ。
 どれ一つとして同じ形のものはない。
 どれ一つとして、同じリズムを刻むものはない。己の中に流れるリズム、その旋律を奏でるように、彼女の腕は天に伸ばされる。

 仰ぎ見る天は赤と黒に染まっている。
 これが『星界の邪神』がにじみ出た結果である。
 わずかに顕現しただけで、これほどの生命が失われる。ならば、完全に顕現した時、このUDCアースは、どれだけ生命を喪うだろう。
「それはさせません――故郷の島の海岸です。...帰りたいと願うのは私ではないアタシでしょう」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 蠱の海岸(コノカイガン)を思い出す。己の中にある望郷の念。

 それは帰りたいという思いを増幅させる夕日に染まった海岸の幻。
 彼女のダンスは、狂気に彩られた人々の意識に帰りたいという思いを打ち込むだろう。
 そう、帰りたいはずなのだ。
「帰りたい。あの頃に帰りたい。何も考えずに、ただ目の前のことだけを、見ていたあの頃に」
 帰りたい。
 狂気に彩られてもなお、彼らの心にあるのは穏やかな日々に対する思いだけであっただろう。
 失われた生命は還らない。
 戻らないのだ。どれだけ、再び狂気から戻ったとしても、失われた生命は戻ってこない。

 それでも人は生きなければならない。
「全てを救いたい……ですが、今はこれが精一杯」
 クロリアは歯がゆい思いをした。
 狂気に侵された人々は望郷の念に駆られ、儀式場の奥へとこれ以上は進まないだろう。けれど、それでも彼らの願った日常の中に失われた生命はない。
 それは悲しいことだ。
 だからこそ、クロリアは病棟の中を走る。ためらうこと無く、しかし、時間は少ないことを知っている。

 どれだけ己のユーベルコードが輝くのだとしても、時間が経てば再び狂気に取り憑かれてしまう。
 その前に『星界の邪神』の完全顕現という惨撃を止めなくてはならない。
「ならば進むしかないのです」
 クロリアは衝撃波を纏うままに病棟の中を奥へ、奥へと走り抜ける。
 狂気が色濃くなって、己の体を蝕む。
 けれど、止まらない。

 己の生命に意味があるのだとすれば、無為に失われようとしている彼らを救うためにあるのだ。
 クロリアの鼓動が奏でる旋律は、狂気の中でこそ輝くのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
用途申請、非戦闘員の保護及び救助!

病院内部に侵入、機能制限が解除された電脳禁忌剣を突き刺しUC起動
範囲内の無機物をフォースナイトやサイキッカーの精神干渉を仮想敵とした虐殺用兵装圏に変換
特異な邪神の精神干渉を遮断

用途は違いますが、あの方も喜んで下さるでしょう
…いえ、疾く騎士の務めを為せと叱責されますね

瞬間思考力と情報収集能力で虐殺兵装圏内部を把握
邪神由来の有機物と化した構造物を虐殺銃器にて蹂躙しながら、狂気に侵された人々の救助にあたります

怪力で運び出し、暴れるなら無力化
自死される前に刃物などを虐殺銃器スナイパー射撃で武器落とし

まだ間に合うのであれば…力を尽くさねばなりません
一人でも多くの命を…!



『星界の邪神』完全顕現の儀式場に選ばれた総合病院の病棟は、もはや言葉で言い表せぬほどの凄惨たる状況であった。
 血と肉に溢れ、骨と臓腑があちらこちらに彩られる。
 どこを見渡しても狂気が満ちて、正気ではいられない。
 猟兵たちであっても、その狂気に抗うことは難しいものであったことだろう。死ばかりが溢れかえる儀式は、まさしく邪神が邪神たらしめるところを知るだろう。

 未だ生命ある人々は、例外なく狂気に侵されている。
「行かないと。だだだだだれれれれれれかが、呼んでいる」
 うわ言のように意味のない羅列を紡ぎながら人々が儀式の最奥へと進まんとしている。
 進めばそれだけで血肉は削がれ、骨身に成ってもなお、臓腑を引きずりながら己の生命を邪神に捧げようとするだろう。
 狂気に侵されているがゆえの暴挙である。
 しかし、そんな彼らの眼前に突き立てられるは、電脳禁忌剣であった。
「用途申請、非戦闘員の保護及び救助!」
 銀河帝国未配備A式フォースナイト殲滅圏展開兵装(アレクシアウェポン・エクスタミネートフィールド)たる電脳禁忌剣がユーベルコードに輝き、刀身を中心にして無機物全てを物理・科学以外の力を無力化する兵装へと変換していくのだ。

 機能制限の解除された電脳禁忌剣の柄を握りしめ、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は儀式の中に立つ。
「用途は違いますが、あの方も喜んでくださることでしょう」
 トリテレイアは己の剣より発せられるフォースナイトやサイキッカーの精神干渉を仮想敵とした兵装に変換し、邪神より発せられるであろう狂気を遮断する。
「……いえ、疾く騎士の務めを為せと叱責されますね」
 彼の放つ狂気を遮断する兵装の波動は一時的に人々を侵す狂気を遮断するだろう。
 だが、それでも一度狂気に侵された人々を元に戻すことは出来ない。

 これ以上彼らは儀式の最奥へと進ませることを阻むことはできても、根本的に解決にはいたrなあいのだ。
「やはり。ならば、いち早く彼らを運び出さなければ」
 狂気にこれ以上侵せぬと知れば、邪神は人々に自刃を強いるかもしれない。いや、必ずそうするはずだ。
 邪神が求めるは生命である。
 贄である人々の生命に頓着するのは、そこしかない。

 トリテレイアの肩部銃器が展開し、邪神の精神干渉によって自刃しようとする人々が保つ凶器を撃ち落とす。
「させはいたしません。まだ間に合うのであれば……力を尽くさねばなりません」
 己は騎士である。
 戦う力保たぬ人々のために奔走するのが騎士であるのならば、今こそ彼は己の力を十全に果たさなければならないのだ。

 弾丸が自刃しようとする凶器を撃ち落とす。
 脚部のスラスターが噴射し、凄まじい速度で人々を抱えていく。凄まじ怪力はウォーマシンであるからだろう。
「ご無礼は承知の上。しかし、緊急時ゆえに容赦頂きたい」
 人々を抱え、即座に病棟の外に飛び出す。

 儀式が齎す精神干渉が病棟の中にいるからこそ影響を及ぼすのであれば、外に運び出せばいい。
 UDC職員たちに任せるほかないのは忸怩たる思いだが、それでもトリテレイアは走る。
「一人でも多くの生命を……!」
 失われた生命は戻らない。
 そんなことは百も承知である。だからこそ、失われていない生命に手を伸ばすことはやめてはならないのだ。
 トリテレイアは病棟の中に再び飛び込むと電脳禁忌剣を掴み、奥へと進む。

 狂気が渦巻く最中、その最奥に待ち受ける唾棄すべき存在を目指して――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
こいつは……直視したくない光景だが、放っておく訳にはいかないか
刀の柄を握りしめ、狂気に飲み込まれないように精神を落ち着かせて前へ進む

狂気を祓って落ち着かせる事はできないし、病人や怪我人相手にはあまり良くないが当身で気絶させていく
本来は病院から連れ出すべきだとは思うが、生憎それらに役立つ道具や技能も持ち合わせていないし、他の生存者の事を考えるとそれに時間をかけるべきか悩ましい……仕方ない。先に進もう

だが、意識を取り戻した奴が再度進もうとしないよう、せめてもの処置を
病室辺りに運んで、ベッドなどをバリケードにして出られないように
ついでに壱の秘剣【銀流閃】を発動。月白の加護で少しでも癒やしを与えておく



「こいつは……」
 あまりにも直視したくない光景。
 赤と黒に染まり上がった病棟の中身。中身と呼ぶしかないのは、すでにそこが『星界の邪神』の体内へと変わり果てているからであろう。
 完全顕現に至ってはいないとはいえ、病棟の中は惨憺たる状況であった。
 あらゆる場所に血肉がぶちまけられ、臓腑を引きずった痕が残っている。
 骨すら残らぬ生命は、どこに消えたのだろうか。

 全ては『星界の邪神』に捧げられたが故である。
 誰もがこの邪神の体内とも言うべき儀式場の中では正気を保つことはできないだろう。
 猟兵であっても目を覆いたくなる状況である。
「だが、放って置くわけにはいかないか」
 刀を握りしめ、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は前を向く。

 その瞳にあるのはユーベルコードの輝きである。
 決して狂気に飲み込まれぬのようにと精神を落ち着かせる。視界に入るもの全てが狂気をはらんでいる。
 精神修養を持ってしてもなお、この狂気は己の心を蝕んでいくだろう。
 それに狂気に取り憑かれた人々を己が落ち着かせることはできないだろう。
「病人やけが人相手にあまりよくはないが――」
 それでも、生命が失われるよりは良いことであろう。
 鏡介は、病棟の中をさまよう狂気に侵された人々を見つけた瞬間、走り込み、神刀の封印を解く。
 神気を発する月白色の加護を打ち込むのだ。

「あ、――」
 狂気に彩られた彼らの意識を刈り取ることしかできない。
 彼らが得た狂気は振り払うことは未だできないだろう。けれど、今はそれしかできないのだ。
 他の生存者のことを考える。
 さらに時間を掛ける余裕すら今の鏡介にはないのだ。選択肢はあまりにも少なく、救うべき生命は多すぎる。
 ならばこそ、鏡介は彼らがこれ以上儀式の奥へと進まぬことを選択する。

「……仕方ない」
 壱の秘剣【銀流閃】(イチノヒケン・ギンリュウセン)の癒やしは、常に彼らを護ることはできない。
 どれだけ加護を与えたところで、即座に邪神の狂気が蝕んでいくだろう。
 気休めでしかない。
 ベッドなどでバリケードを組んだ病室に気絶させた人々を押し込み、鏡介は走る。

 病棟の中は、何処を見ても狂気だらけである。
 無事である生命のほうが少ない。けれど、それでもかけがえのない生命だ。
 彼らの生命を救うことこそ、邪神に対するアドバンテージとなるだろう。
「完全顕現に至っていないというのに、これほどの狂気……今の俺たちですら勝つことが難しい……」
『星界の邪神』とはどれほどの存在であるのか。

 しかし、それでもいつかは倒さねばならぬ存在であることには違いない。
 鏡介は、未だ続く儀式を完遂させぬと病棟の奥へと飛び込んでいく。最奥はこれ以上の狂気が満ちて、目をそむけたく為るほどの光景であろう。
「そんなことは関係ない。この道の先に、まだ出来ることがある筈だ――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【サージェさん(f24264)と】

今回は忍ばなくてもいいから、安心だね。
いや、いつも通り主張強いから。

向こうの世界ではいろいろあったとはいえ、
『ドライ』さんと『フィーア』さんはもちろん、みんなを邪神に飲み込ませるわけにはいかないね!

生存者の捜索とかはサージェさん得意そうだからお任せして、
わたしは見つけた人を【アスクレピオスの吐息】を使って、眠らせちゃうのがいいかな。

ほぼ正気を失っているってことなら、
説得とか難しそうだし、暴れたりしそうだし、このほうが安全だよね

眠らせた人は安全なところまで避難させたら、UDCの職員さんに引き渡そう。
眠っている間は回復もするし、このままゆっくり眠ってもらいたいな。


サージェ・ライト
【理緒(f06437)さんと】

お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に忍び……胸が大きくて忍べないとかそんなことないもんっ!

いえ、落ち着いてください理緒さん
クノイチは忍んでなんぼ!
……え、何その反応

と、とにかく!
ドライさんもフィーアさんもよく見知った人のよく知っている人なのでは?
理緒さんの言う通り、いかに死者とてそんな目に合わせるわけにはいきませんね!

というわけでそそくさと【かげぶんしんの術】です!
フハハハハ、こういう時のクノイチは無敵です!(諸説あります)

一気にいきます
理緒さん、生存者を見つけたらパスしますので後よろしくです!
え?やだなぁ一応抱きかかえて運んできますって



「お呼びとあらばさんじましょう。私はクノイチ、世に忍び……胸が大きくて忍べないとかそんなことないもんっ!」
 いつもの前口上が炸裂するが、目の前のあまりにも凄惨たる状況にサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は辟易する思いであった。
 目を覆いたく為るような惨状。
 病棟の白は赤と黒で染まり上がり、斑のように視界を覆っている。
 ぶちまけられた血肉と臓腑が悪趣味な飾り付けのように、儀式の場となった病棟の内部bを彩っている。

 そんな最中でありながら、サージェは共に転移してきた菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)と共に残されているであろう生存者たちを救うために奔走するのだ。
「今回は忍ばなくていいから、安心だね」
 理緒は軽口を叩く。
 いつもどおりである。けれど、そのいつもどおりがこの状況ではありがたいことであったのかもしれない。
「いえ、落ち着いてください理緒さん。クノイチは忍んでなんぼ!」
「いや、いつもどおり主張強いから」
「……え、何その反応」
 いつもどおり。
 なのだが、理緒にとってはそうではなかったのかもしれない。

 他世界を知る猟兵であるからこそ、予知の内容に彼女は違和感を感じていた。
『ドライ』と『フィーア』。
 その名を彼女は、彼女たちは僅かに知っている。
 他世界で知った事柄。
 サージェも同じであったことだろう。
 己たちがよく見知った人の、よく知る者の名前であるというのならば。
「と、とにかく!」
「うん、そうだね。みんなを邪神に飲み込ませるわけにはいかないね!」
 理緒の言う通りだとサージェは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

「しゃどーふぉーむっ! しゅばばばばっ!」
 かげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)によってサージェは一瞬で無数の分身たちを生み出し、狂気満ちる病棟の中を駆け抜けていく。
「フハハハハ、こういう時のクノイチは無敵です!」
 諸説ある。
 けれど、数少ない生存者たちを救うためには、数こそ正義である。
 サージェの分身たちが狂気に彩られた病棟の中を駆け抜けていく。
 こうなったら一気に行くしかない。躊躇っている時間は少ないし、迷っている時間だって少ない。

 狂気に染まった人々の抵抗はあれど、数で押さえ込めばいいのだ。
「理緒さん、生存者です! ぱーす!」
 サージェがいつもの様子でそんなことを言うものだから、理緒は咎めるように言うのだ。
「投げないで、投げないで。また暴れちゃうから!」
 ほぼ正気を失っている人々だ。サージェーに抑え込んでもらわないと、理緒のユーベルコード、アスクレピオスの吐息(アスクレピオスノトイキ)による治療用のナノマシンから逃れてしまうかもしれない。
 そうなっては、せっかくの生存者も意味がない。

「説得も難しいし!」
「え? やだなぁ一応抱えて運んできますって」
 サージェは笑いながら人々を押さえつけて理緒の散布するナノマシンに晒す。狂気を完全に取り除く事は難しいだろう。
 けれど、治療用ナノマシンが人々を眠らせれば、後はUDCの職員たちに引き渡すだけでいい。
 眠っている間に外傷は癒やされるであろうし、眠っていれば狂気によって邪神からの干渉を受けることもない。

「けれど……この人達の家族は」
 失われてしまっている。
 どれだけ己たちのユーベルコードが強力であったのだとしても、失われた生命は戻せない。
 彼らが見舞客であったのならばなおさらである。
 儀式の場となった病棟の奥には、もはや邪神の眷属と融合を果たし、救うことの出来ない生命であったものがひしめいている。

「ええ、ですが、これ以上の生命を奪われないためには」
「うん、わかっているよ。進もう、サージェさん」
 理緒とサージェは決意を新たにして最奥を目指す。そこに蠢く邪悪なる意志。それを止めるために自分たちはやってきたのだ。
 失われた生命の代価を邪神に払わせる。

 そのためにこそサージェと理緒は狂気色濃くなる最奥へと踏み出すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
邪神って何なんだろうね
強力なUDCを便宜的にそう呼んでるだけなのかな
星界の邪神と今回の事件を起こした邪神と
この身に融合した邪神の共通項なんて
それこそ力が強いくらいだ
そもそもオブビリオンになる前の邪神って何だったろう
UDC-Pとか骸の海とかこの世界には他にも謎が残っているし

ともあれ、考えても答えは出てこないし
まずはこの酷い状況を何とかしよう

記憶消去銃を貸して貰ってはいるけれど
ここで使っても意味無さそうだね

毒を以て毒を制すだと信じて
まだ生きてる人を人形に変えて操り
外の職員さんのところまで行って貰おう

後でちゃんと元に戻すから
少しだけ我慢してね

と言っても聞こえる状況じゃないか
本当に酷い状況だね、ここは



 邪神とは如何なる存在であるのか。
 佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)にとって、それは未だ答えの出ぬ命題であったことだろう。
 己の中に融合した邪神もまた然りである。
 理解したと思った瞬間に、理解を突き放す。
「強力なUDCを便宜的にそう呼んでいるだけなのかな」
『星界の邪神』と今回の事件を起こした邪神。
 そして、身の内に融合した邪神の共通項を見出すことができたとするのならば、尋常ならざる力を持っているということだけである。

 そもそもオブリビオンになる前の邪神とは何なのか。
 オブリビオンに成り果てたからこそ邪神と呼ばれる存在なのか。UDC-Pのように人からUDC怪物に変貌した存在もあれば、存在自体を忘れ去られたUDCもいる。
 骸の海にしてもそうだ。

 世界には未だ解き明かされざる謎が残っている。
 けれど、儀式の場へと成り果てた病院の中を見やれば、それは未だ詮無きことであることを知るだろう。
 赤と黒に染め上げられた血と肉、骨と臓腑に彩られた邪神の体内とも言うべき場所は、晶にとって進むべき道であったし、ひどい状況であると言わざるをえないだろう。
「記憶消去銃を貸してもらってはいるけれど、ここで使っても意味無さそうだね」
 狂気に侵された人々が病院の中を再奥へと進んでいる。
 彼らの記憶を消した所で、狂気を振り払うことにはならないだろう。ならばこそ、晶はやらねばならないと己の瞳をユーベルコードに輝かせるのだ。
「毒をもって毒を制す……だと信じるしかないね」

 放たれるは人形化の呪い。
 邪神の繰り糸(オーダード・マリオネット)が伸び、狂気に侵された人々を人形へと変えていく。
 人形操りの魔法を手繰る晶は人々を生きたまま病院の外へとあるかせるのだ。
「後でちゃんと元に戻すから、少しだけ我慢してね」
 とは言え、そんな言葉も彼らには今届いていないだろう。
 それに例え、人形化の呪いを解いて狂気を治療したのだとしても、彼らの家族の生命は戻ってくることはない。

『星界の邪神』の完全顕現を望む儀式の最奥に在る者は、全て救うことの出来ない生命であったナニモノかに変えられてしまっている。
 晶はやるせない気持ちになったかも知れない。
 彼らの生命は救うことが出来る。
 けれど、彼らが大切に思っていたものを救うことはできないのだ。
「本当にひどい状況だね、ここは」
 何もかもが絶望に染まっていく。

 どれだけ生命が救えたのだとしても、晶には彼らの心まで救うことはできない。
 晶に出来るのは、彼らの心が自身によって救われることを望むことだけである。
「……本当に」
 本当にやるせない。
 己のみの内に宿した邪神は何も言わない。
 何が違うのかもわからない。

 答えはどこにもない。
 けれど、見果てぬ答えを求めて進むことが無意味だとも言わせはしない。邪神が手繰る糸の先に自身が繋がれているだけなのかもしれなくても。
「それでも救える生命に手を伸ばさない理由なんてないんだから」
 晶は狂気渦巻き、色濃くなっていく最奥へと躊躇わずに足を踏み出すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
犬吠埼サヤ…知ってるよ
俺が生前解決した事件の犯人
そして救えなかった奴の一人
この世界で名を聞くはめになるとは思わなかった

何邪神やらされてんだよ
すみませんじゃ済まねえし
どうせ末期患者ならこれ以上苦しませず
早く殺した方がましだろってか
如何にも彼女らしい献身だよ
だが賛同できないね

赤い霧の凶行は終わらせる
集中力を研ぎ澄ませ狂気に抗う
生存者に対しては正直有効な手段が無い
このクソ兵器攻撃性能以外まるで無能だからな…
『すみません』
うるせえな
だがそれでもやってやるよ

正気に戻れよ
死んで良い訳ないだろ
あんた何の為に入院してんだよ
生きたい理由があったんだろうが
単なる説得を届かせる力もないなら
探偵なんか今すぐ辞めてやる



 高校生探偵は知っている。
 いや、知っていたと言うべきであろう。
『赤い霧』。
 そう二つ名のごとき異名を冠する存在。
「犬吠埼・サヤ……知っているよ」
 知らぬわけがない。
 柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)がデッドマンと成る以前に解決した事件の犯人。

 そして、己が救えなかった者の一人である。
 しかしながら、はとりはその名をこの世界で聞くことになるとは思わなかったのだ。
 ただの人であったはずだ。
 邪神と呼ばれる存在ではなかったはずだ。己の脳が目まぐるしく事件の概要を思い出していく。
 プロファイリングされた『犬吠埼・サヤ』という人物像が頭の中に組み上がっていく。
『すみません……』というのが彼女の口癖であった。
 あまりにも頻繁に自信なさげに誤り続けるものであるから、彼女自身もそれが口癖になっているとという自覚すらなかったのかもしれない。

 けれど、やることはあまりにも大胆にして強引なものであった。
「どうせ末期患者ならこれ以上苦しませず、早く殺した方がマシだろてか。如何にも」
 ああ、如何にも彼女らしい献身であると、はとりは結論づける。
 彼女が多くの生命を贄にして邪神を顕現させる場にこの病院を選んだことさえ納得がいく。
 胸の奥にストンと落ちるものすらあったのだ。
 彼女がここを選んだのは末期症状の患者が多いからだ。彼らの生命を、苦しみから開放するためにという献身。狂った献身のために、選ばれてしまったのだ。
 どうにも賛同できない。

「『赤い霧』の凶行は終わらせる」
 儀式の場となった病棟はすでに『星界の邪神』の体内そのものである。
 至る所に血肉を引きずり、臓腑が溢れかえり、脈動しているようにさえ思えてしまう。いるだけで狂気に侵されるかのようなすさまじい光景に、はとりは集中し、手にした偽神兵器、氷の大剣を握りしめる。
「このクソ兵器攻撃性能以外まるで無能だからな……」
『すみません』
 うるせえな、とはとりは毒づく。けれど、やらねばならないのだ。この狂気渦巻く最中にあって、未だ失われていない生命があるというのならば、全てを救って見せなければならない。

 全て救うことは最早できなくても。
 それでも、はおりはゆかねばならないのだ。失われてしまった生命は戻らない。そんなことは探偵である己が最も知ることであり、最も懊悩したことである。
『赤い霧』と呼ばれた犬吠埼・サヤに対する苛立ちが募る。
 邪神をやっていることも、すみませんですまぬことをしでかしていることも、何もかも生前に解決した事件と同じだ。
 二度も繰り返した。
 それが許せないと思うのは、はとりの中にあるデッドマンたる証『ヴォルテックスエンジン』が唸りを挙げているからでもある。

「正気に戻れよ。死んで良い訳なんてないだろ」
「し、し、ししし、しししししし、シ、死に、たい」
 もう死にたいのだと狂気に侵された人々が言う。口々に紡がれる死の怨嗟。
 はとりは、事件は現場で起きている(ウォーキングデッド)ことを知るだろう。ここは陸の孤島である。
 クローズドサークルへと変貌せしめる猛吹雪と雷雨が病棟の外を覆い尽くしていく。

 誰も彼もが死を望む狂気の淵に立ちながら、はとりは己が探偵であることをやめないのだ。
「あんた何の為に入院してんだよ。生きたい理由があったんだろうが」
 単なる説得を届かせる力もないのならば、己は探偵である意味がない。
 ならばこそ、はとりは人々を次々と抱え、抵抗されながらも病院の外に放り出すのだ。
 例え、そこが誰も逃れることのできぬ閉ざされた環境であったのだとしても。
 生命が失われる以上に避けるべきことはないだろう。

「俺が終わらせる。この事件を。邪神なんて巫山戯たことを言いやがって……」
 人ならざる身になったかつての真犯人がいるのならば、何処へ立ってい征く。
 その謎が在るというのならば、全てを詳らかにしてみせよう。
 探偵は未だ死なず――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
なんでか分からないけど来ないといけない気がしたぞ

之は酷いな…それでも…助けないとっ

ヘカテ…力を貸してくれ
UC発動

【医術・結界術・呪詛耐性・召喚】
結界で周囲の情景を少しでもマシにさせるぞ
更に生存者を全力で探す
呪詛耐性を掛けて少しでも狂気から引き離すぞ

後は魔女達を召喚して患者さん達を救出
外へと逃すのと治療も行うぞ

…本当にひでぇ光景だ
うん…ヘカテも怒ってるんだな(怒れる黒ちび子猫

そうか…これ…肉体だけじゃなくて魂までも
うん…辛いなぁ…

でも…助けられる人は全力で助けるんだぞっ!

【除霊・読心術】
患者達の声を把握しながらその狂気の元となってるものを除霊するぞ
これで少しは楽になるといいんだけどな



「なんでかわからないけれど、来ないといけない気がしたぞ」
 テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)にとって、この場所は縁があるものであるとは言えない場所であったのかもしれない。
 巨大な総合病院。
 いくつもの病棟が連なり、多くの患者たちが入院していた場所。
 しかし、すでに『星界の邪神』の顕現により、この病院は儀式場へと姿を変えていた。
 医師も看護師も、患者も、見舞客も。
 全てが等しく邪神の贄となる。失われた生命は数多。
 救える生命は僅かである。

 されど、その惨憺たる状況にあってなお、テラは進まねばならない。
「之は酷いな……それでも……助けないとっ」
 魔術の神『ヘカテイア』(バンブツノマジュツヲオサメシカミ)に呼びかける。力を貸してくれと。
 生み出されたユーベルコードによる輝きが結界を生み出し、血の黒と赤に染まり上がった儀式場を隔絶する。
 しかし、邪神の体内とも言うべき光景はすぐさま結果を侵食してくるのだ。
 呪詛に対する耐性を挙げているとは言え、それでも狂気は蝕んでくる。

 これが『星界の邪神』の力。
 完全に顕現していなくても、これほどの力を保つのならば、完全に顕現した時、今の猟兵であっても打倒することが難しいと言われる所以をテラは肌で実感したことだろう。
「ヘカテイア…ウィザードモード起動…魔術回路…接続…ヘカテイア…おれの魔力を持っていけ…!」
 召喚される魔女たちを持って、生存者たちを救出していく。
 外に運び出すのと同時に治療を行っていくが、それでも彼らの狂気はすぐには払えないだろう。

「……本当にひでぇ光景だ。うん……ヘカテも怒ってるんだな」
 テラの肩に乗る怒れる黒いちび子猫が毛を逆立てているのを彼女はみただろう。
 邪神の体内へと変質した肉体は、ただ器としての骨肉だけを捧げているのではない。
「そうか……これ……肉体だけじゃなくて魂までも」
 変質した器と中身。
 そえらが『星界の邪神』の肉体を形作っていくのである。
 いわば、この状況、この場所において邪神は器と『門(ゲート)』によって完全顕現に至る。
 そうでなくても力の流入は止められない。
 儀式を止めなければ、堂々巡りになってしまうことは言うまでもなかった。

 けれど、それ以上にテラは辛いと思ったのは、贄とされた者たちの痛みであった。
 彼らの痛みを感じる。
 どうしようもないことだとわかる。
 救うためには、邪神を討ち滅ぼさなければならないだろう。
 最早手遅れであることなど百も承知である。
「でも……助けられる人は全力で助けるんだぞっ!」
 やらなければならない。

 失われてしまった生命は戻らない。
 痛みに喘ぐ声が響き渡り、その狂気の元となっているものをテラは払う。
 どれだけ祓っても、祓っても、次々と染み出してくる狂気。少しでも贄となった生命、その魂が楽になればいいと思いながら、テラは最奥に進むだろう。
「終わった物語は、忘れ去られてしまうのかもしれないけれど」
 それでもテラは前に進む。
 これ以上させないためにも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
UC常時起動

こりゃひでーな
「大丈夫ご主人サマ?」
何…もっとひでーの見てきたから大丈夫だ
幼女軍団とか
「それは癒しだぞ☆」
ほざけっ

【情報収集・視力・医術】
患者達の位置の把握と適切な処置を分析
メルシーと手分けして救出と応急処置をして病院へ

「……悍ましいねこれ。賢者の石の一種に近いかもしれないね…」
って事はお前まさか
「そんな事ないよ?そんな事になってたらメルシーの自我は滅茶苦茶になるもん」
おめーは元から頭おかしいだろーが…まぁいい
碌でもねーもんなのは確かだな

「うん、だから助けよう!こんなのの犠牲はこれ以上出させちゃだめだよ!」

【念動力】
念動力も利用して効率的に患者達を外のUDC職員に引き渡し続け



 血の黒と赤がまだら模様のように儀式場となった病棟の中を染め上げている。
 いや、ただの模様ではない。
 人の革が染み付いたかのような壁。
 骨子はまさに文字通り、骨そのものである。
 ぶちまけられた血と肉が壁紙を作るように彩りを見せ、そして臓腑はまるで飾り付けのようにあちらこちにらに引っかかっている。

 吐き気を催すような光景にありながら、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は小さくつぶやくしかなかった。
「こりゃひでーな」
『大丈夫ご主人サマ?」
 対人戦術機構『詩文の神』(メルシーマホーショウジョモード)である『メルクリウス』が少女の姿へと変じた存在がカシムを案じる。
 どうしようもない光景である。
 けれど、カシムはこれ以上に酷い光景を見てきた。

 何をとは言わないのは美徳出会ったのかも知れないが、巫山戯ていないと、襲いくる狂気に食い破られそうになる。
「幼女軍団とか」
『それは癒やしだぞ☆』
 ほざけ、とカシムは気を取り直し、他の猟兵たちが確保した生存者たちの様子を確認していく。
 適切な処置を『メルシー』と共に施していく。
 応急処置しか今はできないが、それでもしてないよりはマシであろう。

 いや、これくらいしかできないのだ。
 なぜならば、彼らの狂気を取り除いたとしても、彼らの家族は取り戻すことはできないからだ。
 すでのUDCと融合を果たした生命は、元には戻らない。
 生存すら許されない。
 だからこそ、カシムは己の出来ることをするのだ。
『……悍ましいねこれ。賢者の石の一種に近いのかも知れないね……」
『メルシー』の言葉にカシムははっとしたように目を見開く。
 まさかと、カシムは思ったのだろう。
『そんな事無いよ? そんな事になってたらメルシーの自我はめちゃくちゃになるもん』
 その言葉の真意はカシムと少女以外には理解出来なかったかも知れない。

「……おめーは元から頭おかしいだろーが……まあいい。ろくでもねーもんなのは確かだな」
 この惨状を生み出した元凶、『星界の邪神』。
 その力が凄まじことは言うまでもない。現状の猟兵であっても、完全顕現した『星界の邪神』を打倒することは難しいと言われている。
 ならばこそ、儀式の途中である今こそが好機なのだと知る。
『うん、だから助けよう! こんなのの犠牲はこれ以上出させちゃダメだよ!』

 メルシーの言葉を受けてカシムはうなずく。
 念動力でもって応急処置を終えた生存者たち、その最後の一群を運び出しUDC職員に引き渡しカシムは立ち上がる。
 彼が見据えるのは、すでに生存者の居ない病棟である。
 最奥には確かに融合した者たちがいるのだろう。
 けれど、彼らはもう生存者とは言えない。
 救うことの出来ぬ存在である。
 ならばこそ、彼らの魂を開放することこそが、最後の手向けであることを知る。どうしようもないことはわかっている。

「やるせない、なんて言わないさ。そうしたところで、生命は還らないのだから」
 ならばこそ、カシムは走るのだ。
 何より速く。
 あらゆる生命を贄とする『星界の邪心』をこれ以上のさばらせることのないようにと、最奥へと飛び込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ジャガーノーツ』

POW   :    I'm JUGGERNAUT.
いま戦っている対象に有効な【能力を持つネームド個体のジャガーノート】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    You are JUGGERNAUT.
自身が操縦する【子供に寄生する同族化装置(破壊で解除可)】の【寄生候補の探索力・捕獲力・洗脳力・操作力】と【ジャガーノート化完了迄のダウンロード速度】を増強する。
WIZ   :    We are JUGGERNAUTS.
【増援】を呼ぶ。【電子の亜空間】から【強力なネームド個体のジャガーノート】を放ち、【更に非ネームド個体の軍隊からの援護射撃】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 儀式場の最奥を隔てる病棟。
 それは末期症状の患者が存在していた病棟である。
 すでに生命はない。
 あるのは『門(ゲート)』より流入した『星界の邪神の眷属の群れ』が彼らと融合を果たして顕現した『ジャガーノーツ』たちのみである。
 膨れ上がる影の如き存在。

 それが『ジャガーノーツ』である。
「――」
 言葉はない。
 あるのは意志だけである。末期症状の患者たちの意識すら飲み込み、その魂までも飲み込んで『ジャガーノーツ』は声無き咆哮を上げる。
 それはまるでエンジン音のようであり、機械音のようでもあり、鋼鉄の巨人の影法師のようでもあった。

「――!」
 きしみあげるように『ジャガーノーツ』の体が動き出す。
 己の主たる鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』、邪神の器であり、『門(ゲート)』でもあるそれを猟兵から護るように、儀式の完遂を果たすために猟兵たちへと立ち塞がるのであった――。
外邨・蛍嘉
私の武器は藤色蛇の目傘(刀形態)
クルワの武器は妖影刀『甚雨』
『』内クルワ台詞


さて、ここからだね。UCを使用してクルワ召喚。覚悟決めていくよ。
『エエ、ケイカ。…それがこの人たちのためにでもアリマス』
同族だらけだから、相手のUCは不発に近いとはいえ…見てて気分のいいものではないね。
『ソウデスネ。ですから、ここいら全てを斬り飛ばしマショウ』
そうだね。陽凪は防御用の結界を頼むよ。
『…彼岸で、元に戻るよう祈りマス』
…うん、私もだよ。


陽凪、泳ぎつつ結界を張る。たまに体当たりしている。
自分だって、戦えるのだ。



 幼い子供の末期症状の患者がいた。
 彼はいつも一人であった。窓辺から見る光景はいつも遠く。そして、己が其処に行く事ができないことを知っていた。
「わかっていた。ボクが外に出れないなんてことは。だから、これは当然の結果なんだ」
 少年の声が『ジャガーノーツ』から聞こえる。
 同化装置によって寄生した『ジャガーノーツ』が発しているのだろう。それは機械音声のようであり、同時に意味のない言葉であった。
 そういう反応をしているだけに過ぎないのだ。

 だからこそ、それが悪辣であることを外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)は知る。
 こうすることで猟兵の手が止まることを知っているのだ。 
 ためらうことを。
 一瞬でも考えを先送りにすることを知っているからこそ、その鋼鉄の巨人たる己の主をもした姿の『ジャガーノーツ』が襲いかかる。
 鋼鉄の腕でもって振るわれる拳の一撃を蛍嘉は躱し、結界を張り巡らせた巨大熱帯魚の『陽凪』の背を蹴って宙を舞うようにして見つめる。

「覚悟を決めていくよ――さあおいで、クルワ。雨剣鬼の力を見せようじゃないか!」
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 それは彼女の中にある別人格『クルワ』を召喚せしめるユーベルコードである。見の内に宿した存在を召喚する力は、彼女の力を単純に二倍にすることだろう。
『エエ、ケイカ……それがこの人達のためにでもアリマス』
「どうしてボクのためだなんていうんだい。ボクはただ生きていたいだけなのに」
『ジャガーノーツ』から声が発せられる。
 幼い少年の声だ。

 斬撃の舞台に雨剣鬼が疾走る。
 幼い声が聞こえても関係など無い。『ジャガーノーツ』のユーベルコードは末期症状の患者と融合することによって不発に近い形になっている。
 けれど、それを目の当たりにして気分のいいものではないことは言うまでもない。
『星界の邪神の眷属の群れ』と融合した生命は戻らない。
 すでに同化され、生命は失われてしまっている。
「気分の良いものではない」
『ソウデスネ。ですから、ここいら全てを斬り飛ばしマショウ』

 その言葉と共に『陽凪』が張り巡らせる結界が強化されちえく。
 宙を舞うようにして泳ぎながら『陽凪』が己でも戦えるのだというように『ジャガーノーツ』に体当たりをして体勢を崩す。
『ジャガーノーツ』に同化した生命は救えない。
 わかっていることだ。
 けれど、それでももしかしたらという可能性を捨てきれぬのが良心であるというのならば、それを捨てることはない。

 猟兵にとって、それはしなければならないことではなく。
 自然なことなのだ。
 生命を無為に失わせてはならないと当たり前のように動くことなのだ。けれど、救われぬ生命があるのもまた事実である。
 煌めくユーベルコードが蛍嘉の藤色の蛇の目傘から抜き払われた刀の刀身を照らす。
 さらに『クルワ』の手にした妖影刀『甚雨』が交錯するようにきらめいて『ジャガーノーツ』の巨体を照らす。

 それは横殴りの雨のごとき斬撃であった。
 どれだけ『星界の邪神の眷属の群れ』が強力な力を持っているのだとしても関係などない。
「やるよ、『クルワ』」
『エエ、いきましょう。ケイカ!』
 二人の斬撃が『ジャガーノーツ』の巨体を一瞬の内に切り裂いて霧消させていく。
 斬撃の後に残るものはない。
 苦しみも、痛みもなかっただろう。

 一瞬の交錯の間に放たれた斬撃は千を超えるだろう。
『……彼岸で、元に戻るように祈りマス』
「……うん、私もだよ」
 二人の雨に『ジャガーノーツ』は消えていく。
 あの少年の生命にどれだけ報いることができただろうか。それはわからない。けれど、二人は祈らずにはいられない。

 祈りが魂を癒やすというのならば、どれだけ祈っても足りないだろう。
 救われぬ生命に祈りこそ、きっと絶望の先にあるものを濯ぐことができるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【サージェさん(f24264)と】

早く『ドライ』さんと『フィーア』さんの魂を開放しないとね。
こんなところで足止めされているわけにはいかないよ。

『英雄』と呼ばれていい魂に対してこんな扱いをするなんて、
2人を知っている立場としては、ちょーっと許せないな。

サージェさん、今回はちょっとシリアスにいってもいいかな?
その胸くらい主張強めでいかせてもらいたいくらいに、今回は怒ってるからね!

【リミッター解除】した【全力魔法】で【E.C.O.M.S】を発動。
サージェさんとタイミングを合わせて、ジャガーノートに突撃させるよ。

全ユニット、足の裏に叩きつけてあげちゃうからね!

……あの揺れで、主張薄いとか、ないよね。


サージェ・ライト
【理緒(f06437)さんと】

むぅ、さすがのクノイチもちょっとこの光景は笑っていられませんね

クロキャで平和を謳歌しているあの人たちも
ドライさんとフィーアさんのこの状況を知ったらキレるでしょう
そんなこと許すわけにはいきません

えっ?!私は常にシリア……アッハイスミマセン
あと胸は主張してないです忍んでますから!!クノイチですから!!

しかしユーベルコード的には仕方ありません……!
【威風堂々】といきましょう!

ジャガーノーツの攻撃を軽やかに回避しつつ
理緒さんの呼び出したユニットと激突しないように気を付けつつ
とっつげきー!しますね!

せめてもの情けです
理緒さんの萌えを目に焼き付けて海に沈んでいくといいですよ!



「体が動く。痛くない。なのに何も感じない」
 叩きつけられる鋼鉄の腕。
『星界の邪神の眷属の群れ』である『ジャガーノーツ』の腕が地面に叩きつけられ、壁を叩き壊し瓦礫に変えている。
『ジャガーノーツ』へと変貌した末期症状の患者たちは皆一様に己の境遇に絶望していた。
 管に繋がれ、明日を生きることしか望めない体。
 どうあがいても死へと向かうしか無い体であったけれど、UDCと融合することによって彼らは元の体以上のものを手に入れていた。
 けれど、正気と引き換えであることは言うまでもない。
 生命さえも投げ出した結果であろう。

 それが如何に悲劇的であるかを彼らはもう考えることもできなくなっていた。
「むぅ、さすがのクノイチもちょっとこの光景は笑っていられませんね」
 サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は目の前に広がる『星界の邪神の眷属の群れ』と化した『ジャガーノーツ』たちを見やりつぶやく。
 UDCと融合した人々は望むと望まざるとすでに後戻りできな居場所にまで来ていた。
 どうしようもないことだと理解しながらも、嫌悪をつのらせてしまう。
「早く『ドライ』さんと『フィーア』さんの魂を開放しないとね。こんなところで足止めされているわけにはいかないよ」
 菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)はサージェと同じきもちであったことだろう。
『英雄』と呼ばれていい魂に対して、このような形で利用するオブリビオンに対して理緒は許せない気持ちが溢れ出しそうになっている。

 他世界の彼らと同一なのかは定かではない。
 ただ名前を知っているだけである。けれど、サージェもそうであったように彼らの存在を知る者たちが、この状況を知ったのならば怒ることは理解できる。
 邪神のやっていることは人の尊厳を貶める行為でしかない。
 だからこそ、二人は『ジャガーノーツ』が護る最後の儀式場へと至る障壁を取り除こうと瞳をユーベルコードを輝かせるのだ。
「サージェさん、今回はちょっとシリアスに言ってもらっていいかな?」
「――えっ?! 私は常にシリア……アッハイスイマセン」
 サージェが理緒の言葉にシリアスらしからぬ顔をしたが、理緒の顔は本気であった。

「その旨くらい主張強めでいかせてもらいたいくらいに、今回は怒っているからね!」
「あと胸は主張してないです忍んでますから!! クノイチですから!!」
 サージェの主張を差えぐるように理緒のユーベルコード、E.C.O.M.S(イーシーオーエムエス)によって展開した正八角形のユニットたちが飛ぶ。
 リミッターを解除した力がユニットに流れ込み、通常以上の起動を持って『ジャガーノーツ』を翻弄する。

 機体が自壊しかねないほどの出力で持って『ジャガーノーツ』を翻弄するユニットたちは如何に電子の空間から召喚せしめた『ジャガーノーツ』たちの援護があっても捉えることはできなかっただろう。
「理緒さんは本気ですね、ならば! 威風堂々(シノベテナイクノイチ)と参りましょう!」
 ユーベルコード的に仕方ないのだというようにサージェは己の姿を『ジャガーノーツ』の前にさらけ出す。
 敢えて忍べぬ姿を晒すことによって己の動きは格段に向上するのだ。
『ジャガーノーツ』の放つ砲撃を躱しながら、理緒の手繰るユニットたちと連携して彼らに迫る。

『ジャガーノーツ』と融合した彼らは最早救うことの出来ぬ存在である。
 理緒とサージェも理解している。
「動ける! 動ける! 動ける!」
 喜びに震える『ジャガーノーツ』たちを尻目にサージェは戦場を疾走る。
 ユニットたちと連携して次々と『ジャガーノーツ』にダガーの連撃を加え、転倒させる。
「せめてもの情けです」
 サージェは『ジャガーノーツ』の足裏に叩きつけられるユニットたちと理緒の姿を目に焼け付ける。

 彼らがどれだけ明日を望んでいたのだとしても、超えさせてはならぬ明日があることを知っている。
「ごめんね。せめて、安らかに……」
 理緒は見るだろう。
 ユニットと共に舞うようにして『ジャガーノーツ』に立ち向かうサージェの姿を。
 その揺れるものを。
「……あの揺れで、主張薄いとか、ないよね」
 シリアスに成りきれぬところに救いを見出すというのであれば、それは確かに救いであったのかもしれない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
流入したモノが影響しているのか……機械要素の強い眷属が現れている訳か…それが末期患者と融合していると…
…もう少し早く来れていれば…と言うのは未練だね…
…この場にいるジャガーノーツだけでもこの数…増援までは防ぎたいところだな…
…まずは電子の亜空間を閉じてしまおう…
【崩壊せし邪悪なる符号】を発動…亜空間の入り口を相殺…ネームド個体のジャガーノートの出現を止めるよ…
…あとは射撃を術式組紐【アリアドネ】による結界で防ぎながらこの場にいる非ネームド個体を術式装填銃【アヌエヌエ】から電撃弾や爆破弾を発射して仕留めていくとしようか…
…早いところ大元の『門』を閉じないといけないね、これは…



『ジャガーノーツ』の声無き咆哮が響き渡る。
 それは生命を謳歌する者の咆哮であったのかもしれない。
『星界の邪神の眷属の群れ』と融合した末期症状の患者たち。
 彼らは明日を望むことも難しいほどに症状の進行したものたちであった。体は動かせず、管につながるばかりの毎日。
 果たしてそれが生きているということになるのだろうか。
「死んでいないだけ。生きているだけ。そんな死んだように生きていたくない。だから、俺は望んだんだ。これが俺の体! 動く! 失われた足も、手も!」
 喜びに震えるような声が鋼鉄の体となった『ジャガーノーツ』から響き渡る。

 機械音声のようでもあり、それが融合した末期症状の患者の本来の声であったのかもしれない。
 けれど、それは再現されただけだ。
 同化された生命は最早、以前の彼らではない。
「流入したモノが影響しているのか……機械要素の強い眷属が現れている訳か……それが末期患者と融合していると……」
 もう少し早く来ていれば、と言うのは未練である。
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は己の中に湧き上がる感情を正しく理解していた。

 UDCと完全に融合した生命を救う手立てはない。
 そのままにしておけば世界の崩壊につながる。どうあっても滅ぼさなければならない。猟兵として相対しているからこそ理解できることである。
 滅ぼし、滅ぼされる関係でしかないのだ。
 そこに悲哀を、未練を抱くのはオブリビオンではなく猟兵である。
「この場にいる『ジャガーノーツ』だけでもこの数……造園までは防ぎたいところだな……」
 メンカルは咆哮轟く『ジャガーノーツ』がユーベルコードでもって電子の海より己たちの同胞を呼び込もうとしていることを察知し、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

「邪なる力よ、解れ、壊れよ。汝は雲散、汝は霧消。魔女が望むは乱れ散じて潰えし理」
 詠唱と共に放たれるのは、崩壊せし邪悪なる符号(ユーベルコード・ディスインテグレイト)。
 情報を分解する魔術によって電子空間と現実空間をつなげる道を相殺する。
 亜空間より流れ込もうとしていた『ジャガーノーツ』が閉じられた道によって首を寸断されて落ちて霧消していく。
「――!!!」
『ジャガーノーツ』が腕を砲塔に変形させ、砲撃を放つ。

 それは己の生命を邪魔しようとするメンカルを穿つものであった。
 しかし、それはメンカルの眼前で止まる。術式組紐『アリアドネ』でもって紡がれた結界によって受け止められ、防がれたのだ。
「……悪いけれど、その生命を赦すわけにはいかないんだ」
 手にした術式装填銃『アヌエヌエ』の銃口が明滅し、放たれる電撃と爆破の弾丸。
 それらは交互に放たれ『ジャガーノーツ』の体を穿ち、爆散させていく。
「――どうして。どうして存在してはいけないんだ。俺は、こんなにも」
 生きているのに。

 融合した生命。
 もはや生命と呼んでいいのかもわからぬ有様に成り果ててもなお、彼らは生きることを望んだだろう。
 邪神の眷属と融合してもなお生命を求める。
 当たり前のことだ。生きたいと願うことが生命の原則であるというのならば、それもまた生命と呼ぶだろう。
「けれど、どうしたってその生命は世界そのものを壊すものだから」
 メンカルの放った弾丸が『ジャガーノーツ』の頭部を吹き飛ばし、その巨躯を沈める。

「……早い所大元の『門(ゲート)』を閉じないといけないね、これは……」
 どうしようもないことにケリを付けないといけない。
 メンカルは儀式の最奥に潜む悪意に立ち向かうのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
話には効いていたが、こうやって対面してみると……くそ
いや、だからこそ落ち着かないと。元凶を叩き切る為にも、立ち止まっていられない
さっさと突破させてもらうぞ

召喚されるのは、俺に対して有効な能力を持つジャガーノートか
……だが、何が出てきても関係ない

神刀を抜いて、奥義【無想】の構え――最も有効な一撃にて切り倒すのみ
どういう存在かは知らないが、元がヒト型。ある程度は対人と同じ対処が出来るだろう

真正面から切り込んで、薙ぎ払うようにして道をこじ開ける
非ネームドに対してはひとまず無理に止めには拘らず、戦闘力を奪えれば良し
出来る限り素早くネームドのみに集中出来るような状態を作って、一気に押し切ろう



 蠢く生命であったものたち。
 彼等は『ジャガーノーツ』。『星界の邪神の眷属の群れ』と融合を果たした末期症状の患者たちが成り果てた姿である。
 どうしようもないことであったのかもしれない。
 彼等に与えられた選択肢などあってないようなものであったのだ。
 このまま死ぬか。
 それとも、邪神の眷属と融合し、別の何かに成り果てても良いとするか。

 そのどちらもが彼等にとって選ぶことのできないものであった。
 理由など何処にもない。
 生まれてきた理由すらも踏みにじるのがUDCであるというのならば、『ジャガーノーツ』は正しく咆哮していたのだ。
「……くそ」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は歯噛みする。
 グリモア猟兵の予知からの説明を聞いていた。理解もしていない。
 すでに飲み込んでいた事実のはずだった。けれど、それでもいざ対面してみると鏡介の中に渦巻く感情は、どれもが違うものであった。

 だからこそ、落ち着かねばならない。
 この惨撃を生み出した元凶がいる。
 己が断ち切らねばならぬのは、それである。だからこそ、立ち止まれないのだ。
「さっさと突破させてもらうぞ」
「私を斬るの?」
 それは機械音声のようでもあり、少女の声でもあった。
『ジャガーノーツ』と融合した末期症状の患者である少女の声。偽りのない声であった。怯えるような声。
 己の手にした刃に心底怯えているような、恐怖。それが鏡介に降りかかる。

 幼子であった生命を斬る。斬らねばならない。
『ジャガーノーツ』はたしかに的確に己という人間を狙い撃ちしたかのように個体を送り出してくる。
 本来守らねばならぬ存在を斬らねばならぬという懊悩をこそ突いてくる。
 だからこそ、赦すことは出来ないのだ。
 関係ないのだ。それとこれとは。もしも、己に罪ありきというのならば、今更である。

「いつか辿り着く剣の極致。即ち――奥義【無想】(オウギ・ムソウ)」
 想うからこそ鈍る。
 想わなければ己に手にしたものは刃である。
 人型をしているからこそ、己の業は活きるものである。真正面から鏡介は飛び込む。
 機械音声と少女の声が重なる。
 悲鳴が聞こえる。
 怯える声。恐怖に弛緩した声だ。偽りなど何処にもない。
 憐憫など思うことはない。

 己が成すべきことを思う。
 立ち止まることこそが、失われた生命に対する冒頭であるとしるからこそ、鏡助は己の手にした神刀を振るう。
 救われざるものを救う。
 それは尊いことだろう。誰もが夢見ることだろう。だからこそ、想ってはならぬことである。
 今の己の剣技は一振りの刃と成ることである。
「赦せとは言わないさ」
 放つ斬撃の一撃が『ジャガーノーツ』の首を横薙ぎの一閃でもって叩き落とす。

 霧消していく『ジャガーノーツ』の巨体から囁きのような声が聞こえた気がしたけれど、鏡介は振り払って進む。
 感謝の言葉であれ、怨嗟の言葉であれ、鏡介の背には必要のないものであった。
 彼に今必要なのは、これ以上生命失われぬ未来である。
 だからこそ、元凶へと至るために悔恨も何もかも振り払うように剣閃を奔らせるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
ジャガーノート…その名には確か
『大きすぎる犠牲』『盲目的献身』の意味もある
犬吠埼さんが選んだ訳じゃなく
あちらから来たようだが…
奇妙な符合に溜息の一つもつきたくなる

手遅れになってから伏線を張って
命を回収させる気なんかさらさら無い
誰かが糸を引く探偵物語は
全てただ俺が苦しむように動いてる
…何故だ

人らしい面影が無いぶん
ゾンビ相手よりましだと言い聞かせ

邪神との交戦に備え負傷は極力避けたい
UCで火力と防御の両面を確保
非ネームドは相手にしてもきりがない
援護射撃は蒼炎で凍らせて遮断し
ネームドを優先的に狙う
広範囲へのなぎ払いで非ネームドを巻き込めれば上々

彼女の献身は実らない
犬吠埼さん
あんた…どこまで不運な女だよ



『大きすぎる犠牲』
『盲目的献身』
 それらの言葉が意味するところを柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は知っている。
『赤い霧』が意図してそうしたのかはわからない。
 犬吠埼・サヤが邪神となり、『星界の邪神の眷属の群れ』を呼び込んだことにより顕現した『ジャガーノーツ』たち。
 その姿を見やる。
 奇妙な符号を探偵は感じていたことだろう。

 生前の犬吠埼・サヤを知るはとりにとって、それは奇妙な符号と呼ぶには、あまりにも都合の良すぎることであったからだ。
 献身的に人に尽くすが、そのやり方が根本的に間違っていた犬吠埼・サヤ。
 そんな彼女だからこそ、事件を起こした。
 彼女自身が抱える献身を叶えるために彼女がしたことは許されざることである。生前の繰り返しのように、此度もそれが行われている。
 末期症状の患者たち全てが『ジャガーノーツ』へと成り果てた。
 最早救う手立てはない。

 あるのは消滅という名の死。
「それすらも同じ死だと言うのだろうな、犬吠埼さんは」
 ため息を吐き出す。
 全てが手遅れだ。どうしようもない。生命を救うことすら許されぬ探偵。それが探偵という物語の一つであるというおならば、はとりは苦しむように出来ているようにしか思えないのであった。

 懊悩は、青い炎となって燃え盛る。
「……なぜだ」
 第三の殺人『十三階段峠』(ジュウサンカイダントウゲノサツジン)を思い出す。
 はとりの瞳がユーベルコードに輝く。
 蒼炎は、はとりを覆い尽くし、迫りくる『ジャガーノーツ』を凍らせる。
 あらゆる攻撃は蒼炎の前に凍りつき、失墜するだろう。
 どうしようもないことだ。
 理解している。理解していることと、許せることとは別の事柄である。だからこそ、はとりは己のデッドマンたる規格外の力を行使するのだ。

 それは理不尽な暴力であったことだろう。
 あれは人ではない。人の形をした影だ。
「――!!!」
『ジャガーノーツ』たちの声無き咆哮が轟き、次々とはとりに襲いかかるだろう。鋼鉄の巨人をもした姿をした彼等を蒼炎と共につかみ、氷漬けにしてから地面に叩きつける。
 砕けて霧消していく最中、はとりは最奥に輝く歪な瞳を見ただろう。

 あの時だってそうだったのだ。
 申し訳無さそうな顔をしていた。憐憫を湛えた瞳をしていた。
 己の献身がなぜ実らぬのかと嘆きながら命を奪う存在を、はとりは見据える。
「犬吠埼さん、あんた……どこまで不運な女だよ」
 彼女の献身は決して実らない。

 邪神となった彼女が何に対して献身を捧げようとしたのかはわからない。
 けれど、探偵は理解している。
 解き明かすものであり、詳らかにするものであるのならば。
 その不運を持って他者に触れることを許してはならないのだ。世界が砕けて消えていくほどの献身を、はとりは猟兵として、探偵として阻止しなければならない。

「伏線など張る暇は与えない。誰かが糸を退く探偵物語は、全てただ俺が苦しむように動いている」
 なら、それを引き裂くのが蒼炎である。
 赦せないものがあるのならば、叫ぶべきだとはとりは蒼炎立ち上らせながら、『ジャガーノーツ』を砕き最奥へと突き進むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
うじゃうじゃと湧いて出てきましたね
私は奥に用があるのです
貴方がたと遊んでいる暇は――
(敵のリズムから取り込まれた犠牲者たちの存在を感知し足を止める)
何という悍ましいことを…
(肩幅ほどに足を開き、深く息を吐きながら全身の力を抜いた後{霹靂の旋律}で『ダンス』を始める)
予定を変更します
貴方がたを破壊して犠牲者の皆さまの魂を解放した後、奥へ向かいます
時間はかかるでしょうが雷がおさまるころには終わります
つまり一瞬です
(UC【蠱の翅】を発動し{霹靂の旋律}で生み出した雷のオーラを纏い『オーラ防御』を行いながら敵に向かって突進する)



『星界の邪神の眷属の群れ』は、あふれるようにして病棟の奥から飛び出してくる。
 彼等の姿は歪な影のようでもあり、同時に鋼鉄の巨人をもしたものであった。
 巨躯であることは言うまでもない。
「――!」
 声無き咆哮が轟き、エンジンが唸るような音と共に播州・クロリア(踊る蟲・f23522)に迫る。
「うじゃうじゃと湧いて出てきましたね。私は奥に用があるのです」
 クロリアにとって、UDCは滅ぼすべき存在である。
 それは変わることはない。
 己が猟兵である以上、それは決して違わぬことであるからだ。

 オブリビオンは滅ぼす。
 それは変わらぬ事実である。それがどんな存在であれ、過去に歪んだものである以上、世界に仇を成すものであると知るから。
『ジャガーノーツ』の放つ砲撃を躱しながら、クロリアは瞳を向ける。
「貴方がたと遊んでいる暇は――」
 敵のリズムを感じ取った瞬間、クロリアは足を止める。
 止めてしまう。

 それは責められるべきことではなかっただろう。
 仕方のないことであったのかも知れない。彼女が感じ取ったのは『ジャガーノーツ』から響く末期症状の患者たちの存在である。
 生命は失われてしまっているが、融合したことに寄って彼等は『ジャガーノーツ』の中で生きている。
 生きながらにして別のものに成り果てるという苦痛を今も味わっているのだろう。
「――」
 その声無き咆哮をクロリアは理解していた。
 痛みと苦しみだけの人生。

 それでも明日を望んだ者たちの末路が、こんなものであっていいはずがない。
「何という悍ましいことを……」
 肩幅に足を開き、深く息を吐き出す。
 全身の力を抜く。完全な脱力の後に訪れる瞬発力。
『霹靂の旋律』が奏でられた瞬間、クロリアの体は爆発的な速度で持って『ジャガーノーツ』へと迫る。

 彼女の背には、蠱の翅(コノハネ)が広がる。
 それは己のダンスで生み出した旋律のオーラを身にまとい、圧倒的な飛翔速度で持って『ジャガーノーツ』との距離を詰める。
「予定を変更します。貴方がたを破壊して犠牲者の皆様の魂を開放した後、奥へ向かいます」
 それは時間のかかることであった。
 だが、クロリアは言う。
「雷が収まる頃には終わります」
 つまりは一瞬である。

 突進したクロリアの拳の一撃が『ジャガーノーツ』の胸に穿たれる。
 雷鳴が轟く間だけの戦い。
 音速を超えた高速の拳は『ジャガーノーツ』たちを次々となぎ倒し、クロリア前に進む。
 背に倒れ、崩れていく『ジャガーノーツ』の巨体を彼女は振り返ることはなかっただろう。
 その背に憐憫の情があるだけでいい。それ以上は必要のないものであったからだ。
 クロリアにとって、彼等が救われることは魂を解放されるということである。完全に融合を果たした彼等が生命として救われることはもはやない。
 だからこそ、せめてもの手向けとするようにクロリアは霹靂の間に彼等を尽く終わらせるのだ。

「……終わることが救いとなるのならば」
 再び新たな生命のリズムを奏でることもあるかもしれない。
 生命は戻らぬ。
 されど、紡がれた旋律をクロリアは覚え、忘れることのないようにと元凶たる最奥へと飛ぶのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
もう元には戻らない
実力で排除するしかない
僕がそれをやるというのは
何とも皮肉が効いているね

個人的には元に戻す方法を探してあげたいけど
もうそれを望む事すらできなくなってるか
これ以上被害者を増やさないために倒させて貰うよ

あれと一緒にされるのは心外ですの
あんな酷い事はしていませんの
それに流石にあれは美しくありませんの

尺度で語るような話なのか
じっくり問い詰めたいところではあるけど
話が通じると思うあたり絆されてるのかなぁ
権能からして積極的な破壊を行う
神性で無いのは事実なんだろうけど

ともあれ思索は後にして
あれ苦しまないように眠らせる事を優先しよう

静寂領域で凍結して動きを停めて
後はワイヤーを使って砕いていくよ



 UDCと融合を果たした末期症状の患者たちはもう戻らない。
 元には戻らないのだ。
 例え、未だ『星界の邪神の眷属の群れ』と融合して、生きているとは言え、すでに以前の彼等とは違う者に成り果てている。
 その存在が世界に在るだけで、世界は滅びてしまう。
 それがオブリビオンという存在であり、UDCという存在の末路でしかない。
「実力で排除するしか無い」
「――!!!」
『ジャガーノーツ』の声無き咆哮を浴びてなお、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は一歩を踏み出す。

 やるしかない。
 それは皮肉でしかないのだ。己もまた身の内に邪神を宿す存在であればこそ、己が行おうとしているのは同族殺しと同じものであった。
 いつだって同族を殺すということは忌避されるものである。
 だが、晶はこころの内に彼等を元に戻してあげたいという気持ちがあるのをひた隠す。
 なぜなら、『ジャガーノーツ』と同化した末期症状の患者たちはどうあがいても元には戻れないのだ。

 それを望むことすらできなくなっている。
「わかっているけれど……」
 やらなければならない。これ以上被害者を増やさないためにも、あの哀れなる存在を滅ぼさなければならないのだ。
「あれと一緒にされるのは心外ですの。あんな酷いことはしていませんの。それに流石にあれは美しくありませんの」
 身の内にある邪神が言う。
 静寂領域(サイレント・スフィア)が晶を中心に広がっていく。

 邪神の神域に似た環境に戦場と成った病棟が変化していく。
 虚空より現れた森羅万象に停滞を齎す神気が放たれ、『ジャガーノーツ』たちを凍結させていく。
「――!!」
 それでも『ジャガーノーツ』たちは戦うのをやめないだろう。
 同化した末期症状の患者たちが生を望むように、彼等は戦うことでしか存在の意義を見出すことの出来ない存在だからだ。

「尺度で語るような話なのか、これが」
 晶は根本的に違う存在である邪神の価値観に辟易する。
 話が通じると想っているあたり、晶自身もほだされているのだろう。権能を考えた時、それは積極的な破滅につながるものではないとわかる。

 けれど、それは思索の領域に過ぎない。
「こんなことが、本当に尺度で語る話なわけがない。こんな、生命の、尊厳を……踏み躙る行為が許されて言い訳がない」
 停滞の神気で固定された『ジャガーノーツ』たちを携行式ガトリングガンの弾丸が貫いていく。
 せめて苦しまないように、眠らせることを晶は優先する。
 ワイヤーガンからワイヤーが飛び出し、『ジャガーノーツ』たちを切断していく。

 奥には未だ終わらぬ邪神完全顕現の儀式が続いている。
 あれが完遂されれば、世界は破滅に向かうだろう。それは例え、『ジャガーノーツ』と同化した末期症状の患者であっても望まないことのはずだ。
 そう信じたい。
 だからこそ、晶は疾走るのだ。
 この凶行の元を。
 それを止めることで、失われた生命に報いようとするしかないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
「ご主人サマ…もうこの人達は…。」
そうか
助ける事はできねーかもしれねーが…少しは「まし」にする方法はあるかもしれねー
【情報収集・視力・戦闘知識】
敵の構造と動き
行動パターン
何より…飲み込まれた魂の位置の捕捉

【属性攻撃・迷彩】
光属性を全身に付与
光学迷彩で存在を隠し

全くひでぇ光景ですね
正直見るに堪えませんし
まともに相手はしたくないんで
やれることだけやります

たまぬき発動
【盗み攻撃・盗み・二回攻撃・切断】
敵の四肢を切り裂いて強奪すると共に捕えられ飲み込まれた魂を強奪
【浄化】
奪った魂はメルシーに浄化させる

後は再び他の敵にも襲い掛かりその魂を強奪して救出する
全くもって地獄ですね
死んでまで不自由ってのはな



『ご主人サマ……もうこの人たちは……』
『メルシー』の声が耳を打つ。
 わかっていたことだった。
 グリモアベースでの情報から、彼等が、『ジャガーノーツ』と同化した末期症状の患者たちがすでに手遅れであるということは。
 けれど、情報で知ることと己の目で見ることとは別問題である。
 どれだけ理解していたとしても、本能がそれを拒む。

「そうか」
 カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)にとって、それは仕方のないことであると割り切るには十分な事実であったのかもしれない。
 助けることはできない。
 けれど、少し『マシ』にすることはあるかもしれない。
『ジャガーノーツ』たちは未だ最奥にある邪神完全顕現を完遂しようとする儀式へと至る道を阻むように壁として存在している。
「――!!」
 声無き咆哮を上げる彼等は、生命ですらない。
 いや、同化した人々の生命があるがゆえに生命と呼ぶに値するのかもしれないが、彼等の生命はもはや無いに等しい。

 似て非なるものなのだ。
 カシムには見えていた。あの同化された魂の位置を。どろどろに溶け合い、残滓を見出すことも難しいほどの魂。
 その所在を知る。
「全くひでぇ光景ですね。正直見るに堪えませんし、まともに相手はしたくないんで、やれることだけやります」
 その瞳がユーベルコードに輝く。

 極限まで強化された技能は、時として魂すら掴むことができるのかもしれない。
 ユーベルコードに輝く瞳でカシムは見据える。
 その魂の位置を。
「溶け合っている。同化している。オブリビオンでありながら人でもある。そんな存在に……!」
 たまぬき(ソウルスティール)の一撃が『ジャガーノーツ』の核を捉える。
 感触でわかるのだ。
 これは汚染されている魂ではない。同化し、『ジャガーノーツ』そのものとなったかつて人であった魂。

『メルシー』に浄化させようと掲げた魂の核。
 それを見て彼女は首を横に振るしか無かっただろう。
「まったくもって地獄ですね」
 カシムは吐き捨てるように掴み取った魔技の如きユーベルコードにより、露出した『ジャガーノーツ』の魂を砕く。
 砕くしか無いのだ。
 救う手立てもない。
 さりとて浄化という手段も通じない。少しでも『マシ』になればいいという思いすらもUDCは、邪神は許しはしないのだろう。

 だからこそ、カシムは覚悟を決めるのだ。
「死んでまで不自由ってのはな」
 たまらないものであると。ならばこそ、その魂の牢獄のごとき『ジャガーノーツ』から彼等を解き放つ。
 死した後に残るものがないのだとしても、己の魔技によって己が盗んだという事実は変わらない。
 ならば、己だけが覚えておけばいい。
 誰もが忘れ去るからこそ、オブリビオンになるというのであれば、そこにこそ救いがあるのだろうから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(機能がロックされた電脳禁忌剣を一瞥、頭を垂れ)
感謝を。此処からは私の手で全て為せる範囲です

…このような事態への遭遇も、忸怩たる念を噛み締める事も、初めてでは無し
これ以上あたら命を散らさせぬ為にも、疾く終わらせます

迫る同族化装置を剣や盾で打ち砕き、又は展開した格納銃器で撃ち落とし
そのまま距離を詰め敵陣奥深くに切り込み、斬撃繰り出し
躊躇無しの三連斬で両の手足を切り飛ばし、最後の一太刀で両断しとどめ
瞬く間に繰り出す剣の四連撃を繰り返し、ジャガーノートを殲滅

赦しは乞いません
どうか我が身を…このような手段しか取れぬ不肖の騎士をお恨み下さい

この事態の収束のみが、私に出来る貴方達への手向けなのです…!



 電脳禁忌剣は、その機能が施錠される。
 使用用途を申請することによって、相応しいと承認された場合にのみ力を発露する武装であるからだ。
 機能が施錠されということは、今の状況は正しくないということである。
 電脳禁忌剣を振るうに値しない状況であることを本来であれば、憂うべきであったことだろう。
 けれど、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は己の剣に頭を垂れるのだ。
「感謝を。此処からは私の手で全て為せる範囲です」
 トリテレイアは目の前の惨撃からアイセンサーをそらすことはなかった。

 血の赤と黒に塗れた病棟の中、『ジャガーノーツ』が声無き咆哮を上げる。
「――!!!」
 それは生命に対する妬み嫉みであったのかもしれない。
『ジャガーノーツ』と同化した末期症状の患者たちは、明日を望むことすら難しい状態であったのだ。
 けれど、『星界の邪神の眷属の群れ』はそんなささやかな明日すらも奪う。
 選択肢などなかった。
 あったのは襲いくる現実と、邪神の眷属との同化という人間の尊厳を踏み躙る行いだけだった。
「……このような事態への遭遇も、忸怩たる念を噛みしめることも、初めてではなし」
 
 だが、慣れるものではないことをトリテレイアは知っている。
 これは慣れてはならぬ痛みであることを彼は知っている。だからこそ、トリテレイアのアイセンサーがユーベルコードに輝くのだ。
「これ以上あたら生命を散らさせぬ為にも、疾く終わらせます」
 迫る『ジャガーノーツ』の腕を盾で弾き、剣で打ち砕く。
「――!!!」
 四方から迫る『ジャガーノーツ』の巨躯を、格納された銃器を展開し牽制し距離を詰めて敵陣へと迫る。
 後退するということはない。
 あってはならないのだ。この後退、その一歩が邪神完全顕現への猶予を削ることになる。

 失われた生命は戻らない。
 ならばこそ、これ以上をさせぬためにトリテレイアは前に突き進むのだ。
 偽・銀河帝国騎士熟練戦闘技巧(インペリアルナイツバトルアーツ・イミテイト)は、この日のためにあったのかもしれない。
 あらゆる障害を踏破する戦闘起動と巧みな足運び。
『ジャガーノーツ』がどれだけ強大な存在であったのだとしても、それらを幻惑し、攻撃手段の悉くを叩き落とす技量。

 それを過不足無く振るうことの出来るウォーマシンとしての機体。
 躊躇などなかった。
 このときばかりは己が機械の体であることを感謝したかもしれない。
「赦しは乞いません」
 振るわれる三連撃が『ジャガーノーツ』の両手両足を切り飛ばし、最後の一太刀が一刀のもとに両断せしめる。
「どうか我が身を……このような手段しか取れぬ不肖の騎士をお恨みください」
 やるせなき思いがあるのならば、人の身で受け止められぬ情念があるというのならば。

 それらを受け止める器が此処にあるのだと知らしめるようにトリテレイアは剣を振るう。
「この事態の収束のみが、私に出来る貴方達への手向けなのです……!」
 騎士とは言えぬかもしれない。
 守るべきものを討たねばならぬという懊悩。
 それを抱えて己は往かねばならぬ。それが騎士としての矜持を持つ己の定めであるとトリテレイアは知るからこそ、己が道を過つことなく、剣閃と共に最奥へと進むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
ええい足止めかよ、往生際悪ィ!
こっちは戦うんが怖ぇんだから、これ以上長引かせないでくれっての!
(身体は震えているが、そう叫ばないとやっていられないらしい)

しかも増援呼ぶとか、面倒な奴らだ……!
増援の第一波はなんとか耐えるしかねえな。〈第六感〉を活かして動きを〈見切り〉、〈マヒ攻撃〉や〈武器落とし〉で攻撃を躱したり、妨害したりして耐える。
一度見られたんなら第二波は呼ばせねえ。《逆転結界・魔鏡幻像》でジャガーノートそっくりの影を呼び出して“門”に突撃させ、それ以上の増援を阻止する。
あとは弱点っぽい部位を〈スナイパー〉で撃つ。

もし近くに仲間が居るんなら、状況に応じて〈援護射撃〉を撃って支援するぞ。



『星界の邪神』の完全顕現のための儀式は佳境に及ぶ。
 あと一歩、あと一歩で完全顕現が成る。
 それを猟兵たちは知るからこそ、『ジャガーノーツ』たちの防壁を突破しようとしている。
 けれど、『星界の邪神の眷属の群れ』は、猟兵たちによる儀式の妨害をさせぬとばかりに壁のように立ちふさがり、その声無き咆哮を轟かせるのだ。
「――!!!」
 電子の亜空間より増援が湧き上がる。
 それは無数と呼ぶに相応しい数であり、最奥で執り行われている生命を冒涜するが如き儀式を完遂させようとする悪辣なる意志の塊であった。

「ええい足止めかよ、往生際悪ィ!」
 足が震える。
 戦うのが恐ろしい。鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)にとって、戦いとは常にそういうものであった。
 戦わなければ、戦わないほうがいい。
 そう思えるくらいには、彼は敵の群れを恐ろしいと想っただろう。
 長引かせようとする『ジャガーノーツ』たちの増援を見やる。叫ばずには居られない。
 それは恐怖に叫ぶのではない。
 震える体を叱咤するものであったことだろう。

「しかも増援呼ぶとか、面倒な奴らだ……!」
『ジャガーノーツ』は巨大な腕を奮って、嵐を叩き潰さんと迫る。
 それらを躱しながら、嵐は躱し、逃げ、どうにかして攻撃の手をかいくぐろうとする。 時に攻撃し、時に躱す。
 だが、それがいつまでも続くわけではない。
「二度目はない……! 鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず。……幻遊びはお終いだ」
 そう、ここに顕現するのは、逆転結界・魔鏡幻像(アナザー・イン・ザ・ミラー)。
 召喚される鏡は『ジャガーノーツ』のユーベルコードを映し出し、正反対のユーベルコードを放ち相殺する。

 即ち、『ジャガーノーツ』が呼び寄せる電子の亜空間より這い出る増援を鏡から解き放ち、それrを打ち消すのだ。
 そのために嵐は第一波の増援を見ていた。
 他の猟兵たちの力がある。例え、己の力が及ばないまでも、増援をよび、さらなる防壁と成って『ジャガーノーツ』たちが『星界の邪神』の完全顕現を成すことを防ぐのだ。
「わかっているよ。そんなこと望んでいないってことは。だけどよ!」
 恐ろしいと想ってしまう。

 人の生に対する執着は、これほどまでに世界を壊すものであるのかと嵐は知るだろう。
 明日を望む。
 それさえも難しいのがこの病棟に存在していた末期症状の患者たちである。
 そんな彼等が邪神の眷属と同化してでも明日を望むのは、間違いなんかではない。けれど、世界そのものを壊すことを彼等は望んでいない。
 自らの足元を壊すような願いなど、彼等は抱かなかったはずだ。

 だからこそ、嵐は叫ぶのだ。
「いいように利用されて終わりなんてさせねぇ! どれだけ怖かろうが! どれだけ恐ろしいのだろうが!」
 それでも祈りを込めて手をのばすのだからこそ、人は負けないのだ。
 人は負けるようには出来ていない。
 例え死した後であっても、人は負けない。どれだけ邪神が強大な存在であり、人を狂気に貶めるのだとしても。

「人は負けねえんだよ――!」
『ジャガーノーツ』、最後の一体を霧消させた嵐は、その瞳を前に向ける。
 そこにあるのは、鋼鉄の巨人。
 そして、この元凶である一体の邪神である『赤い霧』犬吠埼・サヤの申し訳なそうな表情であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『赤い霧』犬吠埼・サヤ』

POW   :    見逃していただけると助かります…
自身の【足元のゴミ袋】から【異臭】を放出し、戦場内全ての【自身と敵対する対象】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
SPD   :    私がやらないといけないんです…
自身の【誰かを助けたいという想い】が輝く間、【メスによる切り裂き】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    すみません、もうこれしか…
肉体の一部もしくは全部を【生命体を腐食させる霧】に変異させ、生命体を腐食させる霧の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠柊・はとりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「すみません……わかっていたのですが、やはり儀式は妨害されてしまうのですね。きっと来るとわかっていたのに」
『赤い霧』犬吠埼・サヤが申し訳無さそうな顔をしながら、その実まるで関係ない様子で儀式を中断せざるを得ないことを言葉にする。
 猟兵たちが、この病棟の最奥。
『星界の邪神』完全顕現のための『門(ゲート)』を守り、儀式を完遂させようと壁になっていた『ジャガーノーツ』たちが全て失われた。
 今や自分と己が『門(ゲート)』として機能させている鋼鉄の巨人と犬吠埼・サヤだけが儀式中断のための最大にして最後の壁となるのだ。

「どうせ遅かれ早かれ、あのような悲しみや苦しみだけが世界を包んでいくのです。皆さんも見ましたよね? 人は苦しんでしまう。誰も彼も悲しみ、苦しむ必要がないというのに、どうしてか苦しんでしまう」
 それは犬吠埼・サヤにとって献身的に尽くす理由に成るのだろう。
 人は皆苦しみ、悲しむ。
 どうしようもないことだ。その苦しみと悲しみを解きほぐしたいと思うのが、犬吠埼・サヤを突き動かす衝動。
 抑えようのない衝動なのだ。

 人は生きているから苦しむ。
 人は生きているから悲しむ。
 どうあっても艱難辛苦ばかりが人を試すのだ。それゆえに人は傷つく。
「悲しいことです。それを完全に取り除いてあげたいと思うと、どうしてもその人のことを殺してしまう……すみません。私でもどうしようもないのです」
 彼女は己の側に立つ鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』と共に猟兵に立ち塞がる。

 鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』のアイセンサーが煌めく。
 5m級の戦術兵器を模した血と肉、骨と臓腑で組み上げられた黒と赤の巨人のジェネレーターが咆哮をするように唸りを上げる。
「『ドライ』さんも『フィーア』さんもそうなのです。可愛そう。救って差し上げねばなりません。心配なのですものね、かつての同胞たちが。だから、そんなに悲しみの声を挙げている」
「――」
「――」
 鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』の中から声が聞こえた。

 か細い声。
 それは悲しうようであり……そして、苦痛に喘ぐようでもあった。
「……それはできないのです。あなた達は此処で救われるべきなのです。闘争だけが渦巻く世界ではなく、闘争なき世界で安寧の泥濘にしずべきなのです。すみません……それには、どうしても彼等が邪魔なのです」
 犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をしながら、鋼鉄の巨人と共に猟兵に立ち塞がる。

 その背後では『星界の邪神』の力が流れ込んでくる。
 二体で一体。
『赤い霧』犬吠埼・サヤと鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』、その強力なる二体を同時に猟兵たちは相手取らねばならない。
 もはや猶予はない。
 邪神完全顕現を阻むためには、彼女たちを滅ぼす以外ないのだ――。
メンカル・プルモーサ
…こう言うのなんて言うんだっけ…大きなお世話…だな……
…余計なことされる前に打倒させて貰うとするよ…

…鋼鉄の巨人は…生っぽい部分もあるけどコア部分はキャバリアぽいな…
…飛行式箒【リンドブルム】に乗って霧になったサヤから距離を取りつつ…
…セフィラム・プロトの攻撃を防ぐ障壁の魔法陣に潜ませた浸透破壊術式【ベルゼブブ】によるウイルスで一時的に動きを止めよう…
…その瞬間にサヤとセラフィムを囲うように術式装填銃【アヌエヌエ】から遅発連動術式【クロノス】を刻んだ銃弾を地面に撃ち込んで…
…【夜空染め咲く星の華】を発動させることで攻撃するよ…

…誰かの苦しみも悲しみも…お前が好きに出来るモノじゃないんだよ…



 赤と黒の鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が儀式の場となった病棟を吹き飛ばし、瓦礫の山へと変える。
 すでに儀式は佳境を迎えている。
 後は『門(ゲート)』そのものである鋼鉄の巨人を刻限まで保持しておけばいい。
 邪神となった『赤い霧』犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をしながら、猟兵たちと対峙する。
「すみません……どうしても必要なことなのです。皆さんは、特別な存在ですから、苦しみも悲しみも自分でどうにか出来てしまうのかも知れない。けれど、他の皆さんはそうではないのです」
 犬吠埼・サヤの理屈は何処まで言っても屁理屈でしかなかった。
 苦しみと悲しみを持つのが生命の常であるというのならば、その反対である喜びや楽しみもまた同時に存在しているものである。

 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)はずっと思っていたのだ。
 なんと言えばいいのかと言葉がとっさに出てこなかった。
 けれど、彼女は犬吠埼・サヤが余計なことをする前に打倒するべきだと迅速に動いていた。
 飛行式箒『リンドブルム』にまたがり、『赤い霧』の異名を表すかのような生命を腐食させる霧へと変貌した犬吠埼・サヤから距離を取るのだ。
「逃げるのですか、猟兵の方。すみません……ですが、それはさせません」
 犬吠埼・サヤの脳波によってコントロールされる鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が戦術兵器たる所以を見せつけるように大地を疾駆し、メンカルを追う。

 放たれる銃弾が箒にまたがったメンカルを付け狙い、瓦解した病院の周囲にばらまかれる。
「……鋼鉄の巨人……生っぽい部分があるけど、コア部分はキャバリアっぽいな」
 己に迫った銃弾をメンカルは魔法障壁で防ぎ、距離を詰めてくる『セラフィム・プロト』を見つめる。
 コアと思わしきコクピットブロックであろう部分は機械そのものであるようだ。
 他のキャバリアよりも大型コクピットブロックなのは、それが複座式であるからだろう。
 アンダーフレームとオーバーフレームが恐らく人々を贄にして出来た生体。

 ならばこそ、メンカルは振りかぶられるレーザーブレードの一撃を障壁で敢えて受け止める。
「直接攻撃してくる……なら」
「――」
 声無き悲痛なる声がかすかに聞こえる。
 コクピットブロックの中で二つの魂が苦悶しているのかもしれない。さらにメンカルに迫る赤い霧。
 二体の強力なオブリビオンに肉薄されたメンカルに打つ手はなかった。

 否。
 打つ手はすでに打ってある。それがメンカル・プルモーサという猟兵であり、3つの世界の技術を融合してまったくオリジナルの術式を編みだす灰色の魔女である。
「――」
『セラフィム・プロト』の動きが止まる。
 突如としてそれは起こったのだ。
「浸透破壊術式『ベルゼブブ』……動きは止めたよ」
 敢えて直接攻撃をメンカルは魔法障壁で受け止めた。その障壁に仕込んだ術式に寄って『セラフィム・プロト』の制御系にウィルスとして入り込み、動きを止めたのだ。

「私の脳波コントロールを逆手に取る……ウィルス、これが」
 犬吠埼・サヤが一時的に邪神能力である『セラフィム・プロト』のコントロールを切り離す。
 如何に術式とは言えど、一度切り離し肉で生成されたアンダーフレームとオーバーフレームを再構成すればウィルスは除去することができる。
 それはまるで異物を排除するかのような動きであった。
「――!? この光……は!」
 犬吠埼・サヤが一手足りなかったのは、相手がメンカルであったからだ。

 すでにメンカルの詠唱は終わっている。
『セラフィム・プロト』に仕込まれたウィルスを除去する瞬間に術式装填銃『アヌエヌエ』から放たれた遅発連動術式『クロノス』は犬吠埼・サヤと『セラフィム・プロト』を取り囲むようにして打ち込まれている。
「ああ、そうだ……大きなお世話……だな。誰かの苦しみも悲しみも……」
 メンカルの瞳がユーベルコードに輝く。

 数多の星の力を宿した光柱が空より降り注ぐ。
 それは、夜空染め咲く星の華(ダイ・ザ・スカイ)。
 極光の如き術式によって編み上げられた光の柱が、二体のUDCへと鉄槌のように振り下ろされる。
「……お前が好きに出来るモノじゃないんだよ……」
 光が暗闇を切り裂き、狂気を振り払うように轟音と共に邪神の目論見を討ち滅ぼすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
引き続きのUC使用でクルワ召喚だよ。

そこに囚われてる二人の魂。細かいとは知らないけれど…望んでないよね、きっと。
『むしろ、余計なお世話デハ?』

さて、実質1対1になってるかな?
サヤの攻撃は、間合い外からの斬撃波でいくとして。問題はあの巨人か…。
あれって、キャバリアみたいなもんだろ?
『あ、陽凪が周りを泳いでマスネ』
巨人にとって、蚊みたいなことになってる…かな?
『その間にも、あの女性(サヤ)に攻撃を集中させマショウ』
そうだね、陽凪の頑張りに答えないと!


陽凪、巨人の周りを泳いで狙いを自分に集中させる狙い。
ある程度は結界で弾くけど、主に泳いで受け流して避ける。



 光の柱の一撃が二体の邪神を穿つ。
 しかし、極大の一撃をもってしても強大な邪神は屈することはない。確実に追い込んでいることはわかる。
 けれど、未だ致命的な打撃には至っていないことが末恐ろしいものである。
「ここまでとは。猟兵。どうしても私の邪魔をなされるのですね。私はただ、悲しみを取り払いたいと。苦しみを取り除きたいと思っているだけのなのです」
『赤い霧』犬吠埼・サヤは光の柱から這い出し、その看護師の服をボロボロにしながらも申し訳無さそうな顔をしていた。
 手にしたメスの煌きは剣呑そのもの。
 彼女の中にあるのは紛うことなき献身の心そのものであった。
「皆さんは世界を救いたい。けれど、私は人を救いたいのです。どうあっても相容れぬのならば……すみません」

 脳波コントロールに寄って鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が疾走る。
「――」
 声なき声は、二つの魂によってかなでられる悲痛な叫びであった。
「そこに囚われている二人の魂。細かいことは知らないけれど……望んでないよね、きっと」
 苦しみから、悲しみから人を解き放ちたいという『赤い霧』犬吠埼・サヤの行動は確かに献身であったかもしれない。 
 けれど、どうしても、外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)と彼女の別人格である『クルワ』はそうは思えなかったのだ。
『むしろ、余計なお世話デハ?』
 その言葉は真実であったのかもしれない。

 二人は互いに犬吠埼・サヤと『セラフィム・プロト』を相手取るようにして互いの距離を詰める。
 間合いの外からの斬撃波が放たれ、蛇の目傘の刀身が煌めく。
「問題はあの巨人か……あれってキャバリアみたいなもんだろ?」 
 ならば己に任せるといいというように巨大熱帯魚『陽凪』が空中を舞い、『セラフィム・プロト』と組み合う。
「――」
『セラフィム・プロト』は、そのオーバーフレームとアンダーフレームを生贄となった人々の血と肉によって構成された生体パーツで組み上げられている。
 だからこそ、『陽凪』は二人へと『セラフィム・プロト』が向かわぬように壁となって、張り巡らせた結界でもって放たれる銃弾やレーザーブレードの一撃を受け流し、躱し続けているのだ。

『あ、陽凪が惹きつけてくれているようデスネ』
 それはまるで『セラフィム・プロト』にとっては蚊のように煩わしいものであったことだろう。
 脳波コントロールによって犬吠埼・サヤにも負荷がかかっているはずだ。
 二人はうなずく。
 この戦いは二対ニの戦いではない。
 三対ニの戦いだ。自分と、『クルワ』……そして『陽凪』がいる。ならばこそ、彼女たちは『陽凪』の思いとがんばりに答えなければならいのだ。

「どうしようというのです……人の苦しみはそのままでいいと? 私にはそうは思えないのです。どうあっても猟兵の皆さんは理解されないようなのですね。私の献身はいつだって理解されない。悲しいことです。けれど、そんなことはどうでもいいのです。私にとっての献身とは息をすることと同じなのですから……ですから、すみません」
 痛くします、と犬吠埼・サヤが疾走る。
 目にも止まらぬ速度。人間の速度を超えた動きでもって、彼女の振るうメスの一撃が瞬く間に九連撃となって放たれる。
 それらを二人は横殴りの雨のごとき斬撃でもって打ち据えるのだ。
 斬撃舞台:雨剣鬼(ハゲシキアメノオニ)は此処に開かれる。

「人の苦しみと悲しみは、それがあるからこそ強さと活きる喜びに変わるものだよ」
『それを理解せず、ただ苦しみと悲しみだけを直視するからそういうことになるノデハ?』
 蛍嘉と『クルワ』が互いに手にした藤色の蛇の目傘の剣と影のように黒く、蒼き光を放つ妖刀でもって交錯する。
 苦しみも悲しみも。
 どれだけ背負っても足りぬものである。
 人の心が弱ると、いつだってそれらばかりが目に付いてしまうものだ。
 だからこそ、彼女たちは見せなければならない。

 生命にあるのは苦しみと悲しみだけではないことを。
 生きることはいつだって、その苦しみと悲しみを超えた先にこそ輝ける誰にも怪我せぬ光を得ることができる道のりなのだ。
「雨剣鬼の力を見せようじゃないか!」
 放つ斬撃は、降りしきる雨のように。
 無数の斬撃が犬吠埼・サヤの放った九連撃とぶつかり合い、ユーベルコードの光を明滅させ、燻る狂気を吹き飛ばすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
確かに世界は悲しみや苦しみに満ちている
だから、あんた達の言う『救い』を求める奴もいるのかもしれない
だが、例えそんな世界であっても、これは今を生きる人間の問題だ
少なくとも他所から出てきた邪神や、その影響を受けた奴に口を挟む権利はない

流石にこの力量の相手を、しかも二体を同時にして出し惜しみは出来ないな
神気を強く引き出す事で、限界を超えた身体能力を引き出し、参の秘剣【紫電閃】を発動

高速移動で撹乱しつつ、犬吠埼の方には斬撃波で牽制。あっちは近接の方が得意そうだし、距離を取ればある程度無視できるだろう
まずはセラフィムの方に切り込み、小回りと速度を生かして攻撃を捌きながら、直接の斬撃を叩き込んでいく



 鋼鉄の巨人が咆哮する。
 それは苦悶に満ちたものであったのかもしれない。
 苦しみと悲しみのうちに骸の海に沈んだのならば、どれだけ高潔な魂であったのだとしても過去に歪むことは免れぬのかもしれない。
 過去よりにじみ出て、『星界の邪神』完全顕現のための『門(ゲート)』と成り果てた『セラフィム・プロト』は、その人々の血肉でもって組み上げられたオーバーフレームとアンダーフレームをきしませながら、なおも、『赤い霧』犬吠埼・サヤの脳波コントロールによって猟兵へと襲いかかる。

「こんな苦しみと悲しみだけが世界に満ちるなんてあってはならぬことなのです。どうして、わかっていただけないのですか」
 犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をしながら、それでも悲哀に満ちた声色で告げる。
 その言葉は確かに誰かのために尽くす献身そのものであったのかもしれない。
 苦しみはどうやっても訪れる。
 悲しみはどうあっても人の心を苛む。
 だからこそ、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は否とは言わない。人とは弱い生き物であるからこそ。

「確かに世界は悲しみや苦しみに満ちている。だから、あんた達の言う『救い』を求めるやつも居るのかも知れない」
 迫る鋼鉄の巨人のビームブレイドを躱し、鏡介は集中する。
 己の五体に込められた力、その全てを二体の強大なUDCにぶつけるべく肉体の限界を超えていくのだ。
「そのとおりでしょう。なのに、どうして理解してくださらないのです?」
「だが、例えそんな世界であっても、これは今を生きる人間の問題だ」
 犬吠埼・サヤから鏡介は距離を取りながら鋼鉄の巨人を相手取る。
 この巨大な戦術兵器はともすれば、犬吠埼・サヤよりも戦いづらい相手であった。なにせ、リーチがそもそも違うのだ。

 神気を強く引き出す。
 手にした神刀『無仭』の刃が輝く。
 それはユーベルコードの輝きであった。
 思考がクリアになっていく。瞳に映る犬吠埼・サヤと『セラフィム・プロト』の姿が鮮明に見える。
 如何にして動き、如何にして刃を振るうか。
「少なくとも他所から出てきた邪神や、その影響を受けた奴に口を挟む権利はない」
 鏡介は断じる。
『救い』を齎さんとする彼女たちに否を突きつける。

 人が人らしく生きるために苦しみと悲しみは表裏一体である。ならば、その表にある感情を知るべきであったことだろう。
 喜びや楽しみを得るためには、悲しみと苦しみを得なければならない。
 真に自由であるというのならば、不自由こそを受け入れなければならない。

 人は矛盾だらけであるのかもしれない。
 だからこそ、鏡介は思うのだ。
「神刀解放。我が刃は刹那にて瞬く――参の秘剣【紫電閃】(サンノヒケン・シデンセン)」
 抜き払った神刀の輝きとともに一閃となって鏡介は『セラフィム・プロト』の鋼鉄の体を刻み、一瞬の内に犬吠埼・サヤに迫る。
 彼の背後には血肉で構成された生体装甲を刻まれた『セラフィム・プロト』があった。
 犬吠埼・サヤは見ただろう。

「喜びがあるから、そんなものがあるから、人は苦しまなければならないのだと――」
 彼女は知らないのだ。
 己の献身だけを突きつける。己の中にそれしかないからこそ、彼女は微笑むことすらできずに、人に『死』という献身を押し付けるのだ。
 そこに喜びを見出すことができず、さりとてそれしかできぬと献身を捧げる狂気こそ、彼女の誤ちであった。

「あんたの言うところの救いなんて、あんた自身にはどうでもいいんだろう。あんたがしたいと思える献身だけがアンタの全てなのだから」
 鏡介の一閃が犬吠埼・サヤに刻まれ、鮮血をほとばしらせる。
 舞い散る血しぶきは鏡介にふれることすらなかっただろう。紫電の如き剣閃の後に残るは、なにもない。

 あるのは過去を斬り捨てたという事実のみ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【サージェさん(f24264)と】

サージェさんの口上を聞くと、ぎぎぎ、と振り向いて、

わたしも口上じゃないけど、ちょーっとお話ししていいかな?

『救われるべき』?
『救って差し上げねばならない』?

死は救いではないし、救ってくれとも頼んでないよ。

下手に出ているフリをして、自分勝手な理由を振りかざして、
魂を虐待するのはやめてくれないかな?

サージェさん、塵も残さずすり潰したいんだけど、協力してくれるよね? ね!

アイコンタクトして、二手にわかれたら、わたしはサヤ担当。

サヤがUCを発動させたら【虚実置換】でわたしと入れ替えて、メスで刻ませてもらおう。
そんなに『救いたい』なら、まず自分が救われるといいよ。


サージェ・ライト
【理緒(f06437)さんと】
これまたクレイジーな
ならば私ももう一度!

お呼びとあらば参じましょう!
私はクノイチ、アインさんですらツッコむ忍べてないクノイチです!

ええ、貴方たちの知っている、あのアインさんです
意外ですか?
その縁で私たちはここに来ました!

それでは理緒さんどうぞ!!
そして答えはもちろんイエスです!

いきますよー!
かもんっ!『ファントムシリカ』!!
セラフィム・プロトは私とシリカで受け持ちます
赤い霧は理緒さんのお好きなようにどうぞ!

フローライトダガーを持って【疾風怒濤】
「手数こそ正義!参ります!」
貴方たちは無念だったかもしれません
だとしてもこんな場所に居てはいけません!
さぁ還るべき場所へ!



 人の生が終わる時、その人生の価値が決まるのであれば、鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』のコクピットブロックに相当する部分に内包された二つの魂は如何なる価値を持っていただろうか。
 それを決めるのは他者ではないことはいうまでもない。
 彼等の人生の意味は、価値は彼等自身が決めることである。
「悲しいですね。どうしようもないことなのに。苦しみばかりが悲しみと共に広がっていく。いつかは、この悲しみが苦しみを率いて人の心に帳を下ろす。それがどうしても私には良いことに思えないのです」
 邪神へと成り果てた『赤い霧』犬吠埼・サヤが申し訳無さそうな顔をしながら、総言葉をつぶやく。

 彼女にとって、二つの魂は己の献身を為さしめるためだけの手段にすぎなかった。
 果てなき闘争に巻き込まれ、戦いしか知らぬ魂に安寧を齎す。
 犬吠埼・サヤの持つ献身とかみ合ったからこそ、此処に鋼鉄の巨人は『門(ゲート)』としての役割を得たのだ。
「共に為しましょう。この世に平穏と安寧を。そのために生命を積み上げなければならないというのならば、積み上げましょう」
 斬撃の雨にさらされてもなお、二体のUDCは立ち上がる。
 赤と黒の贄によって構成された鋼鉄の巨人は、咆哮する。ジェネレーターを再稼働させ、その力を十全に発揮するのだ。

「――」
 おぞましき姿を前にしてサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は己がもう一度口上を告げねばならぬと思った。
 ここまでの惨劇。
 それを見据え、彼女は言わねばならないのだ。
「お呼びとあらばさんじましょう!」
 人の心に闇があり、狂気と恐怖でもって人を貶めるものがあるのならばこそ。
「私はクノイチ、アインさんですらツッコむし述べてないクノイチです!」
 その言葉に『セラフィム・プロト』が反応したような気配があった。
 サージェは知る。
 そのコクピットブロックに封ぜられた二つの魂。
 その名前を。数字で呼ばれた少年少女たちの意味を。だからこそ、サージェは告げるのだ。

「ええ、貴方たちの知っている、あの『アイン』さんです。その縁で私達は此処に来ました!」
「無意味な。過去に歪んだ存在に、過去の寄す処を持って相対するなど。悲しみだけが膨れ上がっていくだけではないですか」
 犬吠埼・サヤの言葉に菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は振り返る。
 彼女の心の中に渦巻くのは怒りであったのかもしれない。
 人は救われるべきだと犬吠埼・サヤは言った。
 救って差し上げなければならないとも。
 それは誤ちである。理緒にとって、救いとはそうではないのだ。生命在る限り懸命に叫ぶことこそが、人の生である。

「死は救いではないし、救ってくれとも頼んでないよ」
 理緒は犬吠埼・サヤを見据える。彼女は献身という言葉を盾にして自分の献身を押し通すことしかしない。
 その献身でもって人を、魂を貶めることしかしていない。
「魂を虐待するのはやめてくれないかない?」
「すみません……必要なことなので」
 決して譲らぬ犬吠埼・サヤの言葉に理緒の瞳がユーベルコードに輝く。赦してはおけない。
 その思いはサージェも同じであったことだろう。

「サージェさん、塵も残さずすりつぶしたいんだけど、協力してくれるよね? ね!」
 アイコンタクトと共にサージェと理緒が分かれる。
 理緒は犬吠埼・サヤに。サージェは『セラフィム・プロト』へと向かう。
「答えは勿論、イエスです! いきますよー! かもんっ!『ファントムシリカ』!!」
 指を鳴らすサージェの元に白と紫を貴重としたキャバリアが虚空より顕現する。
 鋼鉄の巨人同士が激突する。
 手にしたフローライトダガーがビームブレイドと激突し、火花を散らす。

 疾風怒濤(クリティカルアサシン)たる『ファントムシリカ』の戦術機動が『セラフィム・プロト』と切り結ぶ。
「手数こそ正義! 参ります!」
 無念であったかも知れない。『ドライ』と『フィーア』に直接の面識はない。けれど、それでも彼等がどのような末路を辿ったのかを知っている。
 そして、彼等の国が今もまだ戦いの最中に在ることを知っている。その死が無意味なものになるのだとすれば、彼等が望んだ姉弟たちが戦乱に消えていくことだろう。

「貴方たちはむねんだったかもしれません。だとしても、こんな場所に居てはいけません!」
 還るべき場所があるはずだ。
 凄まじい連撃が『セラフィム・プロト』を押し返す。過去として滲み出ることなんてあってはいけないのだ。
 フローライトダガーの緑の燐光が走り、『セラフィム・プロト』のオーバーフレームに斬りつける。

「どうしても譲らぬのですね。ならば……すみません。切除します」
 犬吠埼・サヤが迫る。
 理緒はその手にしたメスが剣呑に輝くのを見た。
 それはユーベルコードにまで昇華した彼女の超絶成る技巧であったことだろう。その速度に理緒は追いつくことは出来ない。
 救いたいと彼女は言った。
 苦しみと悲しみから。ならば、それは救いではないのだ。ただの逃避でしかない。死という逃避でもって、人は救われることなどなにもない。

「そんなに『救いたい』なら――」
 理緒の瞳がユーベルコードに輝く。
 瞬く間に放たれる九連撃をゴーグルが捉える。輝くユーベルコードは斬撃の軌跡を正しく見ていた。
 そして、それを虚実置換(キョジツチカン)によって己との位置を入れ替える。
 彼女のユーベルコードは現実に侵食する電脳の魔術。
 犬吠埼・サヤは己の斬撃で己自身を刻む。
「――!?」
「まず自分が救われるといいよ」
 死が救いだというのならば、己の死を持って己を救ってみせろと、理緒は輝くユーベルコードの眼差しでもって犬吠埼・サヤに癒えぬ傷を刻み込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
時が経てば苦しい事も悲しい事も必ずやってきますの
だからといって失わせるのは違うと思いますの
それより輝かしい今を永遠にすべきですの

人外の理屈で人の人生をどうこう言われたくないね
そりゃ悪い事だって起きるさ
それでも進んでいくのが人間なんだよ

被害を気にする状況ではなし
ガトリングガンで掃射

メスの攻撃はガトリングの砲身を盾に耐えよう
近接戦の訓練も続けてはいるんだ

巨人には色彩を呼びよせるビーコンを投げつけよう
電源が切れるまでだけど
脳波なんて掻き消すだろうし
多少は塗りつぶしてくれるかな

人間に邪神程の力は無いから使えるものは何でも使うさ
研究を続けている職員さんには感謝しかないね

その隙にサヤをワイヤーで攻撃するよ



「時が経てば苦しいことも悲しいことも必ずやってきますの」
 その言葉は佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の内に存在する邪神の言葉であった。
 人の生に悲しみと苦しみは塗れているものである。
 人の心が弱れば、そればかりを見てしまう。どうしようもないことだ。艱難辛苦はいつだって人の人生を試す。
 例え、その先に死という純然たる結末が待っているのだとしても、人を試すことをやめはしないだろう。

 けれど、それでもと邪神は傷つきながらも、それを傷とも認識しない人の美しさを知っている。
「だからといって失わえるのは違うと思いますの。それより輝かしい今を永遠にすべきですの」
 その言葉に『赤い霧』犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をするばかりであった。
 袈裟懸けに切り裂かれた斬撃を胸に受けながら、彼女は立っていた。
 強大なUDCであることは間違いない。
 これだけの猟兵の攻撃を受けてなお、彼女は霧消することなく、いつもの申し訳無さそうな表情を浮かべ、いつものようにすみません、と謝罪の言葉を告げるのだ。

「いいえ、どうしてもわかりあえないのです。今を永遠にしても、それは先延ばしにすぎないのです。それこそ拷問に等しいことなのです。そんな恐ろしいこと……すみません、どうしても、それはできないのです」
 手にしたメスが剣呑な輝きを放ち、鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が咆哮する。
「人外の理屈で人の人生をどうこう言われたくはないね」
 晶は邪神二体の言葉を振り払うようにガトリングガンでもって斉射する。
 弾丸がばらまかれ、鋼鉄の巨人と犬吠埼・サヤを分断するのだ。
 彼等に連携を取らせてはならない。鋼鉄の巨人は脳波コントロールでもってコントロールされている。
 彼女たちが連携すれば、猟兵は窮地に立たされるだろう。
 迫る犬吠埼・サヤの斬撃をガトリングガンの砲身で受け止め、鍔迫り合いの如き怪力の応酬を続ける。

「そりゃ悪いことだって起きるさ」
「なら――」
「それでも進んでいくのが人間なんだよ」
 晶は手にしたビーコンを『セラフィム・プロト』に投げつける。それは色彩を呼び寄せる。色彩とは天より降り注ぐ狂気である。
 脳波コントロールするというのならば、それを塗りつぶす別のちからをぶつければいい。

 複製創造支援端末(ブループリント・ライブラリ)は、UDC組織で設計された機器である。
 人は常にUDCの脅威にさらされている。
 けれど、恐怖を乗り越える術を持っている。だからこそ、いつだって前に進むことを晶は知っているのだ。
 天より降り注ぐ色彩が、狂気と共に犬吠埼・サヤの狂気を塗りつぶす。
 しかし、それも長くは続かない。
「電池が切れるまで……だけどさ!」
 ガトリングガンの砲身を奮って犬吠埼・サヤを吹き飛ばし、晶は叫ぶ。

「人間に邪神ほどの力はないから、使えるものはなんでも使うさ。こうやって人は狂気だって恐怖だって乗り越えることができる。それを証明してみせるよ。人の苦しみや悲しみを、君の勝手な献身の理由になんてさせやしない」
 放たれたワイヤーが犬吠埼・サヤの体を鞭打つように迫り、手にしたメスを弾き飛ばし、その身に裂傷を刻んでいく。
「私の献身に理由など」
 あるはずがないと彼女は言うだろう。

 けれど、彼女は自覚していないだけだ。献身こそが己の意義であると。だからこそ、その献身の前には全てが肯定されると思っているのだ。
「それが思い上がりだ――!」
 晶は放たれるワイヤーと弾丸を犬吠埼・サヤに打ち込み、その身勝手な献身を砕くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
機神搭乗

馬鹿かおめーは
苦しみも悲しみも意志ある者に備わった機能だ
無理矢理外せば壊れるに決まってるだろーが
てめーそれでも医療従事者の端くれか馬鹿が
「苦しみと悲しみが無ければ喜びも快楽もなくなるよね。君はそれを忘れちゃったのかな?」

つかこいつキャバリア…か?
まぁいいです

おめーにはエロい事もする気になれねー
だから派手に叩き潰してやるよ

「本当残念だねー」
何、ナイアルテによしよしして貰いましょう
「してくれるかな?」
確率が低くてもやるのが男です(軽口を叩き狂気耐性
「ご主人サマってば☆」

【情報収集・視力・戦闘知識】
巨人とサヤの立ち位置と動きを冷徹に分析
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水障壁で熱源も隠蔽

その上で立体映像のデコイを複数展開

UC発動
【空中戦・念動力・弾幕・スナイパー】
超高速で飛び回り念動光弾をサヤに乱射
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣で巨人に襲い掛かり超高速の斬撃で切り刻み武装やパーツを強奪
そのまま破壊

てめーに人は救えない
人は自分自身でしかきっと救えねーです



 ワイヤーの斬撃とガトリングガンの弾丸が『赤い霧』犬吠埼・サヤの体を打ち据える。
 痛みはない。
 身に刻まれた猟兵たちからの攻撃は彼女を消耗させ続けている。
 けれど、未だ脳波コントロールによって動かされる『星界の邪神』の力が流入する『門(ゲート)』としての役割を持つ鋼鉄の巨人は健在である。
「なぜです? 苦しみと悲しみを忌避するものでしょう。なのに、どうして私の献身を受けれいてはくださらないのです?」
 理解不能なるモノたちを前に、犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな表情を浮かべたまま、その手にしたメスを取り落とす。

 身をかがめ、その取り落したメスを拾い上げた彼女が見たのは、機神の姿であった。
 界導神機『メルクリウス』は賢者の石でもって構成されたカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)の乗機である。
「馬鹿かおめーは。苦しみも悲しみも意志ある者に備わった機能だ。無理やり外せば壊れるに決まってるだろーが」
 カシムは睥睨する。
 犬吠埼・サヤのやっていることは献身の押し売りにすぎないのだ。
 彼女は己が献身を行っているという事実のみに固執する。人の悲しみも苦しみも、彼女にとってはどうでもいいことなのだ。
 何処まで言っても、己の欲に従うことしかしない。それが献身という言葉にすり替わっているだけにすぎないのだ。

「てめーそれでも医療従事者の端くれか馬鹿が」
『苦しみと悲しみがなければ喜びも快楽もなくなるよね。君はそれを忘れちゃったのかな?』
 メルシーとカシムの言葉に犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな表情をするばかりである。
 彼女にとって、言葉は無意味である。
 脳波コントロールによって鋼鉄の巨人が『メルクリウス』に襲いかかる。
 その速度、戦術機動。
 どれをとっても『エース』と呼ぶに相応しい機動力であったことだろう。手にしたビームブレイドが振るわれ、鎌剣とぶつかり火花を散らす。

「つかこいつキャバリア……か?」
 同じ5m級の体高。
 オーバーフレームとアンダーフレームとに別れたかのような機構。類似するような点が幾つも見受けられ、カシムは訝しむ。
 けれど、それは今やどうでもいいことであった。
「おめーは派手に叩き潰してやるよ」
 細かい事情など知ったことではない。
 何処まで言っても身勝手な献身を犬吠埼・サヤがするというのならば、それを叩き潰すのが己の役割である。

 いろいろな意味で残念であるとカシムは思っただろう。
『本当残念だねー』
 そんな『メルシー』の言葉にカシムはいいんだよと、つぶやく。狂気渦巻く場にあってなお、この言葉である。
 どれだけ確立が低く、勝算のない戦いであったのだとしても。
 それでも男ならば突き進むのが人生というものである。
 軽口を叩くカシムに『メルシー』もまた笑う。狂気がどれだけ人の人間性を貶めるのだとしても、それでも彼等は笑って進むだろう。

 界導神機『メルクリウス』の姿が陽炎のように歪み、消えていく。
 光と水の力でもって機体を光学迷彩で姿を隠し、熱感知すら許さぬ水の障壁で覆って隠蔽する。
 さらに立体映像でデコイを複数展開し、『セラフィム・プロト』を翻弄する。
 しかし、『セラフィム・プロト』はそれがわかっていたかのように銃弾をばら撒き、斉射する。
 それは狙いをつけぬ攻撃であり、広範囲に渡って攻撃をばらまくことに寄って、音響でもって存在を感知する術であった。
 熱源反応も、光学による隠蔽も、音までは隠せない。

 確かに其処に存在しているのならば、音の反響こそがカシムたちにとって脅威となるものであった。
「エコーでこっちの位置を割り出すかよ。けどな――加速装置起動…メルクリウス…お前の力を見せてみろ…!」
 カシムの瞳がユーベルコードに輝くのと同時に『メルクリウス』のアイセンサーが煌めく。

 神速戦闘機構『速足で駆ける者』(ブーツオブヘルメース)が展開され、凄まじき速度を持つ機体の能力をさらに三倍にまで引き上げる。
 超高速で飛び回る不可視なる存在。
 如何に音響でもって位置を特定するのだとしても、超高速機動でもって迫る機体を追うことも、対応することもできないだろう。
「てめーに人は救えない」
 カシムは念動光弾を犬吠埼・サヤに撃ち放ち、その動きを止める。
 彼女を好きに動かせてはならぬと直感的に理解していたのだ。鎌剣を構え、鋼鉄の巨人に迫る『メルクリウス』。

 その斬撃は生贄となった人々の血肉でもって組み上げられた装甲を切り刻み、引き剥がしていく。
「――!」
 鋼鉄の巨人が苦悶に喘ぐような咆哮を上げる。
 けれど、止まらない。止めてはならない。その鋼鉄の巨人の中に内包された魂の二つが、もっとも苦痛を感じるものが在るのだとすれば、望まぬ破壊をした時であろう。
 だからこそ、カシムは止めないのだ。
 蹴り飛ばした鋼鉄の巨人が大地に沈んだ瞬間、『メルクリウス』のアイセンサーが残光を遺して疾走る。

「人は自分自身でしかきっと救えねーのです」
 鎌剣を振るい、その強烈なる一撃を犬吠埼・サヤに叩き落とす。
 それは彼女の献身を砕く一撃であり、カシムにって救いとはなんであるかを示す一閃となるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
ヘカテ…力を貸してくれ(機神搭乗

【戦闘知識】
サヤと巨人の動きと能力の把握
仲間にも伝達

【属性攻撃】
炎を機体と武器に付与

【見切り・第六感・残像・空中機動・武器受け・オーラ防御】
高速で飛び回りながら残像を残し回避
避けきれないのは武器で受け止めオーラでダメージ軽減

UC発動

【弾幕・貫通攻撃・遊撃】
ガンドライド&ドリルビット展開
弾丸を乱射してサヤの動きを止めてドリルビットで蹂躙しようと


【二回攻撃・早業・串刺し】
巨人に突撃
剣による連続斬撃から槍へと切り替えての刺突
そのまま飛び上がり
ブラックホールキャノン発射!
【重量攻撃】で破壊力増強

お前とは本当はもっと違う形で挑みたかったよ!
だから…もう…潰れろ…!



 鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が蹴り飛ばされ、その機体を大地に沈ませる。
 けれど、霧消していない。
 鎌剣の斬撃を受けてなお、『赤い霧』犬吠埼・サヤはその存在を、己の献身でもって証明するように立ち上がる。
「これが悲しみ。これが苦しみ。私の献身は受け入れられることがない。どうしてでしょう? 人は救われたがっているというのに、どうして私の献身は人にとって『死』でしかないのでしょう?」
 献身しかない彼女にとって、それは理解不能なるものであったことだろう。

 彼女の脳波が歪に歪み、鋼鉄の巨人が立ち上がる。
 未だ邪神としての力を失わぬ犬吠埼・サヤの瞳はユーベルコードに輝き、申し訳無さそうな表情に陰りはない。
 あるのはやはり献身を遂げるという意志のみであった。
「仕方のないことなのですね。理解してもらえない。ならば、結末をもって理解してもらうしか無いのです。すみません……」
 鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が咆哮し、猟兵に迫る。

「ヘカテ……力を貸してくれ」
 テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は虚空より現れる謎の機神、三界神機『ヘカテイア』を駆り、その魔術動力炉を燃やす。
 鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』の動きは、装甲やダメージを追っていても、精彩を欠くことはなかった。
 その戦術機動は『エース』と呼ぶに相応しいものであり、凄まじい速度でもって『へカティア』へと迫るのだ。
 高速で残像を残すほどの速度でもって空中を機動してもなお、『セラフィム・プロト』はテラの機動に追いついてくるのだ。
 ビームブレイドの斬撃をオーラで受け止め、テラは呻く。

「ここまで……! この動き!」
 躱す余裕すらない。
 距離を離せば銃弾が飛んでくる。正確無比なる弾丸であり、近接を赦せばビームブレイドの一撃がオーラを削っていく。
「――!」
 さらに犬吠埼・サヤも迫っている。
 この二体の強力なUDCを同時に相手取らねばならぬという事実が、テラを追い込んでいく。

「ガンドライド! ドリルビット!」
 展開される浮遊砲台と衝角型のビットが犬吠埼・サヤを牽制し、『へカティア』へと近づけさせない。
 弾丸がばらまかれ、それは蹂躙するかの如き火力でもって押し返すのだ。
 剣を構え、ビームブレイドと打ち合い、槍へと切り替えての刺突。
 並のパイロットであるのならば、それだけで勝負は決しただろう。けれど、『セラフィム・プロト』はそのいずれもいなし、躱す。
「無駄ですよ。二つの魂。二つの技量。中身はもう溶け合っていますから……すみません」
 犬吠埼・サヤが言う。
 彼女の言葉は真実であろう。溶け合った魂が齎す技量は、凄まじいものであり、同じ5mの体高を持つ戦術兵器であるがゆえにテラを圧倒するのだ。

 けれど、テラは不屈の意志でもって瞳をユーベルコードに輝かせる。
「リミッター解除…グラビティリアクターフルドライブ…!」
 槍を振り下ろし、『セラフィム・プロト』を吹き飛ばした『へカティア』が空へと飛び上がる。
 もしも、『セラフィム・プロト』がキャバリアであるというのならば、他世界を知るテラだからこそ、空へと活路を見出す。
 あの空に蓋をされた世界で生まれたものであるのならば、天高く空を飛ぶという選択肢は存在しない。

 空こそがテラの領域であり、勝機であった。
「ブラックホールキャノン…起動…!とっておきだ!たっぷり味わえー!」
 冥界の炎『ギガスブレイカー』(キョジンヲウチヤブルモノ)。
 それが彼女のユーベルコードの名であり、『へカティア』の持つ最大の力であったことだろう。
 ブラックホールキャノンから放たれたマイクロブラックホールの齎す重力の塊、その一撃は犬吠埼・サヤをも巻き込んで放たれる。
「お前とは本当はもっと違う形で挑みたかったよ! だから……もう……潰れろ……!」
 超重力の一撃が、大地を穿つ。
 苦しみも悲しみも、永遠には続かない。
 彼等が求めたものは、きっと手の届かないものであったのかもしれない。犬吠埼・サヤの言うところの救いこそが、彼等には必要だったのかもしれない。
 けれど、それをテラは否定するだろう。
 苦しみと悲しみだけが人生の全てではなかったはずなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
ドライ、フィーア…セラフィム系列のコクピットブロック
まさか『グリプ5』の過去の事故の…!

生ある限り苦しみは続く…ええ、認めましょう
矛盾に軋みを上げる私の電脳がその証左

ですが、その苦悩こそが、世界に確かにその意志が存在する個の証

その二人と同じように、例え末期の命であっても貴女の独断で軽々しく扱って良い物ではありません

電子防御と出力限界突破
異臭の行動阻害弾き
怪力近接攻撃でキャバリアに真っ向から対抗

…無意味やもしれませんが

ワイヤーアンカー射出し有線ハッキング
記憶データ送信

アイン様、ツヴァイ様、フュンフ様は壮健です
…ご安心を

コクピット叩き潰し、サヤへ肉薄

探偵の到着まで暫し大人しくして頂きます!

剣を一閃



 超重力の一撃でもって潰れ果てることがなかった鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』と『赤い霧』犬吠埼・サヤの姿は未だ健在であった。
 いや、健在と呼ぶにはあまりにも満身創痍であった。
 傷跡は消えず、未だ流入する『門(ゲート)』より滲み出る『星界の邪神』の力に寄って支えられているといった方が正しかったのかも知れない。
『セラフィム・プロト』はオーバーフレームとアンダーフレームに相当する部分を生贄となった人々の血肉と骨、臓腑でもって構成された異形なる巨人である。

 しかし、その中央に位置するコクピットブロックはキャバリアのものであったことだろう。
 そして、その中に内包された二つの魂。
『ドライ』と『フィーア』という名にトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はまさかという思いが電脳の中に駆け巡るのを感じたことあろう。
「まさか『グリプ5』の過去の事故の……!」
 トリテレイアは知っている。
 過去において存在した事件。そこで失われたはずの生命の名を。
 まさかという思いと信じたくないという相反する思いがあれど、その矛盾を経てこそトリテレイアは納得するのだ。

「生命があるから悲しみも苦しみも続く。痛苦はいつだって人の心を蝕むものです。だから、ええ、そうなのです。その辛苦を消すために、やはり『死』は救いだと思うのです」
 犬吠埼・サヤは申し訳無さそうな顔をしながら、腐臭漂う戦場に立っている。
 彼女の脳波によって『セラフィム・プロト』はコントロールされている。彼女の邪神能力によって鋼鉄の巨人は『門(ゲート)』でありながら、強力なUDCとして成立しているのだ。

「生ある限り苦しみは続く……ええ、認めましょう」
 矛盾にきしみを上げる己の電脳こそが、その証左であると。 
 だが、トリテレイアは矛盾を抱えながらも言う。己が騎士であるという矜持があるからこそ、告げるのだ。
「ですが、その苦悩こそが、世界に確かにその意志が存在する個の証」
 トリテレイアは今己が憤怒にかられていることを自覚したのかもしれない。
 目の前の鋼鉄の巨人に内包された二つの魂。
 過去に沈み、過去よりにじみ出た存在。如何なる高潔な魂も、過去に歪めばオブリビオンと為さしめる。

 それを知るからこそ、トリテレイアは己の騎士としての存在意義をもって叫ぶのだ。
「そのお二人と同じように、例え末期の生命であっても貴女の独断で軽々しく扱って良いものではありません」
「すみません……それは本当に申し訳なく思っているのですが……すみません。どうしても、必要なことなのです」
 その言葉にトリテレイアは己の電子防御と出力の限界を突破する。
 如何に異臭を放つユーベルコードの力が己の力を減退させるものであったとしても、今まさに己の電脳が焼ききれんばかりの情動を彼は止めることをしなかった。

 鋼鉄の巨人の腕がトリテレイアに振り下ろされ、それを受け止めた腕部がきしむ。
 出力では負けていないかもしれないが、フレームの強度が保たない。
 相手は邪神にすら連なる巨人である。どうあがいても強度で負けてしまう。けれど、トリテレイアは構わなかった。
 それが無意味な行いであると知りながらも、彼はせずにはいられなかったのだ。
「……『アイン』様、『ツヴァイ』様、『フュンフ』様は壮健です」
 ワイヤーアンカーがコクピットブロックに放たれ、優先で内部に通信を入れる。
 記憶データを送信する。

 それが果たして内部に在る魂に届くことであるかはわからない。
 犬吠埼・サヤが迫っている。
 こんなことをしている暇など本来はなかったはずだ。
 だが、己は、式典・要人護衛用銀河帝国製ウォーマシン(トリテレイアシリーズ・シリアルナンバーゼロナイン)である。
 守らねばならぬものが此処にあるのならば、己は超常の力ですら正面からねじ伏せる領域に立つ。

「――」
 その音は、音声は、意味のない音でしかなかったのかもしれない。
 安らかなものですらなかったのかもしれない。
 けれど、意味を見出すことはできた。トリテレイアはそれができるウォーマシンである。例え矛盾を持つなのだとしても、それゆえに彼は矛盾を抱える強さを持つ存在である。
「……ご安心を」
 放たれる拳の一撃がコクピットブロックを貫き、迫る犬吠埼・サヤを蹴り飛ばす。

「探偵の到着まで暫しおとなしくして頂きます!」
 この戦いに意味があるのかと問われれば、トリテレイアはなんと答えるだろうか。
 剣の一閃が疾走る。
 あの二つの魂が哀れだとは言わない。
 けれど、その歪なる献身の道具にされる謂れなどない。これは事件の一つに過ぎないのだ。

 連なる事件。
 めぐる宿業。
 ならば、それを解きほぐすことこそ、真の意味での事件解決だとトリテレイアは知るからこそ、その一撃を託すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
貴女の言葉はすべて無色透明です
何も心に響かない
むしろ心をささくれ立たせるので
黙るか呻くかしていただけますか?
(鬱陶しそうに払いのけるような仕草で『衝撃波』を放って腐食の霧を散らせ『念動力』で鋼鉄の巨人を拘束した後、肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こした後{紅焔の旋律}で『ダンス』を始める)
今の私は欲深い
救いたい、守りたい、生き残りたい
そして貴女を骸の海へ叩き落したい
(UC【蠱の星】発動)
これはそんな願いを叶えてくれる素敵なお星さまです
さぁ星が全て終わらせるまで踊り続けましょう



 人の営みは常に感情という名のリズムによって彩ろられている。
 その色は多彩であり、鮮やかなものもあれば濁ったものもある。どちらにしても、それは人の心を映し出す水鏡のようなものである。
 他者は己の鏡。
 だからこそ、そこから感じられるリズムを播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は尊ぶのであろう。
「貴女の言葉は全て無色透明です。何も心に響かない」
 むしろ、己の心をささくれ立たせるだけであるとクロリアは思ったことだろう。

『赤い霧』犬吠埼・サヤは鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』と共に立ち上がる。
 すでに鋼鉄の巨人のコクピットブロックは潰されている。
 けれど、それでも立ち上がってくるのは『門(ゲート)』としての役割があるからであろう。
 流入する『星界の邪神』のちからが滲み出る限り、彼等は立ち上がってくる。
「……すいません。それは申し訳のないことだと思っているのですが」
 同しようもないことなのだと弁明するようにクロリアに告げる犬吠埼・サヤの瞳は濁っていた。
 己の体を変貌させていく。
 生命を腐食する霧に変換していく。それこそが『赤い霧』と異名を持つ彼女のユーベルコードである。

 どんなに謝罪の言葉を紡ぐのだとしても、それはクロリアの心をなだめるものではなかった。
 むしろ、逆であったのだ。
「黙るか呻くかしていただけますか?」
 鬱陶しそうに『赤い霧』を衝撃波で吹き飛ばし、散らせる。
 溢れ出る感情のままにクロリアは己の念動力でもって鋼鉄の巨人を拘束する。ぎしぎしときしむ音が聞こえる。
 どうしようもないほどに『星界の邪神』のちからは凄まじいものであると実感する。

 けれど、クロリアには関係のないことであった。
 肩幅に足を開く。いつもの動作。両手で太ももをなぞる掌がゆっくりと体を起こしていく。奏でるは『紅焔の旋律』。
 天を衝かんと燃え上がり、静まることなく燃え色がる炎を表現したリズムが刻まれていく。
 世界に刻まれたリズムは、ダンスとなってクロリアという猟兵を表現する。
「今の私は欲深い。救いたい、守りたい、生き残りたい」
 それは彼女の持てる欲望の全てであったことだろう。
 蠱の星(コノホシ)に輝くのは、彼女の欲そのもの。それは炎と成って燃え広がり、立ちどころに世界を染め上げていく。

 彼女の頭上にユーベルコードに寄って生み出されたミラーボール。
 放たれるオーラの矢が次々と犬吠埼・サヤと『セラフィム・プロト』へと放たれ、貫いていく。
「私と同じ欲望のはず。私と同じ献身のはず。なのに、なぜ、あなたは私とおなじではないのです?」
 クロリアの刻むリズムの奥に犬吠埼・サヤの狂気に染まった瞳がある。
 献身を履き違えた者の瞳だ。
 そして、同時に己がそれを成すためならば、他の一切合切を犠牲にしてよいと信じている者の瞳でもあった。

 それがクロリアにはどうあっても気に食わないのだ。
「いいえ。違います。貴女はただ、自分の献身に理由を付けているだけ。私の欲望の最後は、貴女を骸の海に叩き落としたい。それだけなのです」
 だからこそ、頭上に煌く星は一掃、光を強くする。
 放たれ矢は次々と降り注ぎ、犬吠埼・サヤの身を貫くだろう。どれだけ『星界の邪神』のちからが強大なのだとしても。
 それでも彼女は止まらない。

「これはそんな願いを叶えてくれる素敵なお星さまです。さぁ星が全てを終わらせるまで踊り続けましょう」
「そんなこと、あってはならないのです。全てを終わらせるなど、私の献身が――」
 その言葉をクロリアは最後まで聞くことはなかった。
 なぜならば、己の頭上に掲げられた星は、自身の願いを聞き届けるはずだから。

 きっと、彼女の献身は砕かれる。
 それを確信するからこそ、クロリアは己の欲求に従い、鮮烈なるダンスを続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
相変わらず謝ってばかりだな
その実何も反省しちゃいない

…怒ってる訳じゃない
人の理に反しても譲れぬ想いと
人を想う優しさの矛盾に悩み
口先だけでとりあえず謝っては
思わぬ大胆さで目的を遂行する
世界や成り立ちが違っても
確かに犬吠埼サヤだ

そういうあんたの図太さ
俺は案外嫌いじゃなかったよ
探偵としてこの行為を許せるかは別だがね

UC『切り裂き城』
俺達がかつて対峙した場所で決着を

犬吠埼さんは俺も殺してやりたいと
そう想うんだろうな
いいぜ
いっそ殺してくれよ
あんたの気が済むまで俺は抵抗しない
継戦能力で耐える

…もう分かったろ
俺は『あんたのやり方じゃ死ねない』
『絶対に救われない存在』なんだよ

苦しいよ
悲しいよ
俺は犬吠埼さんにそんな顔しかさせられない
俺を救う事が出来なけりゃ
あんた自身が救われない
こんな話あるかよ

それでも尚
その献身は輝けるのか

救ってやるなんて綺麗事はなしだ
あんたがそれを救いだと言ったから
…殺してやる、犬吠埼サヤ

軋む心身を刃に秘め
彼女の全てが赤い霧と化すまで
巨人諸共切り裂く

まるであの日見た現場のようで
息が
詰まる



 猟兵たちは知っている。
『赤い霧』犬吠埼・サヤの本質を。彼女の本質は献身である。身を尽くすことこそが彼女の成すべきことであり、欲求そのものである。
 それ以外のなにものをも捨て去ることができるからこそ、彼女は狂気にも似た献身でもって世界を滅ぼす邪神へと変貌した。
 かつての彼女を知る探偵は言う。

「相変わらず謝ってばかりだな」
 その言葉に犬吠埼・サヤは顔を上げた。そこに在ったのは、変わらぬ申し訳無さそうな表情ばかりであった。
「すみません……ですが、どうしようもないことなのです。変えようのないことなのです。皆さんがどうしても聞き届けてくださらないものですから、私としましても、申し訳ないことだと思っていても」
 彼女は謝り続ける。
 けれど、間違い続けていない。彼女の中でそれは、決して誤りなどではないからだ。
 己の信じた献身だけを持って道を進む。
 その結果、人を殺すことに成ったのだとしても、彼女は微塵の罪悪も感じない。

「その実何も反省しちゃいない……怒ってる訳じゃない」
 探偵、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は告げる。
 人の理に反しても譲れぬ想い。それが献身なのだろうと。人を思うがゆえに、その優しさとの間に横たわる矛盾に悩む。
 結果、それが口先だけの謝罪となってこぼれ出ることも理解できる。
 けれど、生前そうであったように。
 探偵が対決した事件のときもそうだったのだ。
 思わぬ大胆さで目的を遂行する。それだけは変わらない。例え世界が変わっても、存在が過去に歪んだとしても、それでも目の前にいる女性は、はとりにとって変わらぬ存在。

「確かに、犬吠埼・サヤだ」
「ええ、たしかに私は犬吠埼・サヤです。私を御存知なのですね。ですが、すいません……私はあなたを憎まねばなりません。私の献身を阻む御方」 
 だからこそ、相容れぬ。
 オブリビオンと猟兵だからではない。
 本質的に彼等は相容れない。交わる時は、決する時なのだ。
「そういうあんたの図太さ、俺は案外嫌いじゃなかったよ」
 探偵という立場さえなければ。いや、そうでなくても、はとりがはとりである以上、その行いを許せるかと問われれば、許せるはずがなかった。

 はとりの瞳がユーベルコードに輝く。
 思い出すのは、第四の殺人『切り裂き城』(キリサキジョウノサツジン)。
 霧に囲まれたホテルの中で行われた殺人。
 全身を切り裂かれて死亡した遺骸を思い出す。その度にはとりの心が痛む。
「俺とあんたがかつて対峙した事件だ。これは対決だ、犬吠埼さん」
 はとりは真正面から犬吠埼・サヤを見つめる。
 
「私の名前を呼んでいただけるのですね。けれど、どうしても私は」
 あなたを殺したいのです、と犬吠埼・サヤは叫ぶ。
 とめどない激情と共に鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』が咆哮を上げる。すでにコクピットブロックは潰されているというのに、それでもなお鋼鉄の巨人は腕を振り上げ、はとりへと叩きつける。
 ひしゃげる音が響く。
 けれど、さらに犬吠埼・サヤは手にしたメスを振るう。
 ひしゃげた肉体にメスを振り下ろし、引き裂き、刻み、何度も何度も鮮血に塗れながら、彼女は申し訳無さそうな顔をやめなかった。

 どこまで言っても彼女にとっての献身は間違っている。
 ああ、とはとりは息を吐き出す。
 犬吠埼・サヤは己を殺したいと思うのだろう。それは救いたいという想いと同義なのだ。余人には理解せしめるところであるかもしれない。
 だからこそ、探偵は。
 いや、はとりは受け入れるのだ。いっそ殺してくれと。抵抗しないと。
 身を穿つ刃の痛みも、感じない。
 あるのは虚しさだけだ。殺しても殺しても、殺し尽くせぬ生命が此処にある。

「……どうして」
 謝ることもできなくなるほどに血まみれ成りながら犬吠埼・サヤは呆然とつぶやく。
 ゆらりと立ち上がる鮮血に塗れた探偵が目の前に居る。
 確かに貫いたはずだ。臓腑を、心臓を、脳天を。
 けれど、目の前の探偵はただの探偵ではない。高校生探偵であった名残しかない。あるのは、死を超越したデッドマンであるということだけだ。
「……もうわかったろ。俺は『あんたのやり方じゃ死ねない』」
 その言葉は犬吠埼・サヤにとって、刃で切りつけられることよりも深い傷を残すことになっただろう。

 そう、『それ』では殺せない。献身では殺せないのだ。
「『絶対に救われない存在』なんだよ」
 苦しい。
 悲しい。
 己の死なぬ体ではなく、己の身を貫く痛みでもなく。
 ただ、目の前の申し訳無さそうな表情を凍りつかせた犬吠埼・サヤを思えばこそ、己の魂が痛むのを、はとりは感じたことだろう。
 そんな顔しかさせられない。
 己を救うこともできなければ、犬吠埼・サヤ自身も救われない。

「こんな話あるかよ」
 迫る鋼鉄の巨人『セラフィム・プロト』だってそうだ。あの中にある魂だって救われない。自分が救うこともできない。
 偽神兵器『コキュートス』の蒼炎が天を衝く。薙ぎ払う一撃が『門(ゲート)』としての役割を持っていた『セラフィム・プロト』の巨体を薙ぎ払い、霧消させる。
「誰も彼も救えない。救ってやるなんて綺麗事は無しだ。あんたがそれを救いだと言ったから……」
「私は、私の献身でもって人を救うのです。人の死が救いでしかないのですから。どうしたって、私はそれをしなければならない。しないではいられないのです」
 犬吠埼・サヤが迫る。

 その瞳に在るのは狂気。
 献身という名の狂信。わかっている。『死』こそを救いだというのならば、己が為さねばならない。
 宿業が廻る。
 因果がめぐる。きしむ心と体が悲鳴を上げるのだとしても、はとりはおくびにもだすことはできない。
 なぜならば、その痛みは誰にも癒やすことの出来ないものであるから。
 自分自身が抱えていくしかないものであると知るからこそ。
「……殺してやる、犬吠埼サヤ」

 別れの言葉はいつだって切ない。
 極大に膨れ上がった蒼炎が己の身を包みながら、振るわれる。蒼炎が全てを燃やし尽くすように犬吠埼・サヤという存在を吹き飛ばす。

『赤い霧』が蒼炎に消えていく。
 はとりは思い出す。
 あの事件を。『赤い霧』のように鮮烈に世界に刻まれ、立ち消えていく存在を。
 息が詰まる。
 どうしようもない痛みに体が震える。まるであの日見た現場の再現のようであるとさえ思えただろう。

「私は、それでも救いたい。誰も彼もが私を非難するのだとしても。私は私の献身を続けたい。だって、私――」
 最後の言葉をはとりは胸に秘める。
 その言葉が彼の心を永遠に傷つけるのだとしても、それでも、はとりはその痛みこそ己の魂の衝動であるというように歩み続ける。

「私、人が大好きなんですもの――」
 申し訳無さそうな表情を崩した泣き笑いのような笑顔が、いつまでも胸を傷つけ続ける――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月26日
宿敵 『『赤い霧』犬吠埼・サヤ』 を撃破!


挿絵イラスト