これは旅団シナリオです。
旅団「九重」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです。
九重、それは幼い姿のヤドリガミが切り盛りする温泉宿。
少しばかり人からは見えぬ場所にあり、辿り着くも着かぬも運次第――。今回はそんな温泉宿九重にうっかり、なんとなく、いつの間にか辿り着き、逗留する彼らの何でもない日のお話。
●それも全て日常
今日も今日とて、八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)はそう広くはない宿の中をあっちへ行ったりこっちへ行ったりと、大忙し……でもないのだけれど、楽しそうに歩き回っていた。
「あれ、どっか行くん? 気を付けていってらっしゃいやで!」
玄関から出掛ける者があれば、そう声を掛けて見送って。
「お洗濯物あったら、出してもうてなぁ!」
よく通る声で廊下から部屋に逗留する彼らに声を掛け、洗濯物を受け取って。
「今日もええ天気やねぇ」
踏み台を使って洗濯物を干して、お天道様が出ている間に布団も干してしまおうかと考えたりして。
「ふう、ちょっと一休みなんよ」
合間の息抜きにと、季節によって様々な湯に変わる足湯に腰掛け、ちゃぽんと足を浸けたりして。
そんな風に、九重を余すことなく見ている彼女は宿に逗留する彼らの事にだって興味津々だ。
「今日は何してたん? よかったらうちに聞かせてくれへんやろか!」
足湯を通り掛かったあなたにそう言って、お茶とお茶請けもあるで、と菊花が笑った。
波多蜜花
お世話になっております、波多蜜花です。
冒頭にもありますように、今回のシナリオは旅団『九重』の団員のみが参加できる旅団シナリオとなっております。
旅団内でご相談した通り、皆様の日常をお好きなように綴っていただければと思います。
●プレイング送信について
こちらは旅団の専用スレッドにてお知らせいたします、ご確認いただけますと幸いです。
それでは、皆様のよき一日をお待ちしております!
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒瀬・ナナ
ノエルさん(f20094)と
あ、菊花さーん
お洗濯物、いつもありがとう!
うぬぬ、わたしも今日はお茶だけ頂くわね
ノエルさんの淹れてくれたコーヒーとチョコのバウムクーヘンがめちゃくちゃ合うから、
ついついおかわりしちゃってお腹がいっぱいなのよー
わたしは栗羊羹とお団子を用意しておいたのだけれども、
ふたりでのんびりお話ししていたらいつのまにか無くなっちゃってて……
ん?何をお話ししていたかって?
なんでもない日常のこととか、もう少ししたらクリスマスねー、とか
今日のなんでもない時間も、お部屋の窓から見えた紅葉も
お宿に来てから毎日『大切な思い出』が増えていく嬉しさを感じながら足湯にちゃぷん
んー、極楽極楽♪
ノエル・マレット
ナナさん(f02709)と
おや、菊花さんは休憩中ですか?いつもお疲れさまです
お茶だけいただきますね。今日はナナさんとお茶会をしていたのでお腹いっぱいなのです
お互い故郷のお菓子を持ち込んだら楽しそうって話をしてたので
私はUDCアース育ちですから懇意にしているお店のチョコレートのバウムクーヘン
それと同じお店でいつも買ってるコーヒーですね
お気に入りのカップも出したりして。秋のお花が描かれたかわいいカップなんですよ
私のお部屋、今は窓際にネリネと夏越ししたシクラメンがあるんですがその向こうに紅葉が見えるんですよね
ふふ、紅葉の花言葉ってご存知ですか?
自制、美しい変化。それから『大切な思い出』です
●それは優雅な昼下がり
「あ、菊花さんだ」
「おや、休憩中ですかね」
黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)が足湯の方に黒髪を揺らした少女が見えてそう言うと、ノエル・マレット(誰かの騎士・f20094)もナナが視線を向ける方へ目を遣って頷く。
「ああ、なんだかお茶菓子の気配がするわ……!」
「さすがナナさん、嗅覚……いえ、勘が鋭いですね」
食べるのが大好きなナナが照れたように笑いつつ、でも、と頬に手を当てる。
「今はお腹がいっぱいなのよね」
「ええ、流石にここから何かを食べる気には……」
なんて言いながら、二人が顔を見合わせたのには理由があった。
遡る事数日前、それはちょっとした二人のお菓子談義から――。
「ノエルさんの故郷のお菓子って洋菓子が多いのね……!」
「ナナさんの故郷は和菓子が中心ですか?」
「そうねー、洋菓子はちょっと珍しいかしら?」
無くはないのだけれど、やはり和菓子が中心。勿論、餡子にきな粉、抹茶に白玉……和菓子の魅力は尽きぬものだけれど、洋菓子だって乙女の心を惹きつけてやまぬもの……!
「いいの、心はいつだって乙女なんだから」
誰に向かって言っているのかは謎だったが、ナナがそう呟いた。
「じゃあじゃあ、ノエルさん! よかったら」
「ふふ、多分私も同じことを考えていたところです」
お互いの故郷のお菓子を持ち込んで、お菓子パーティしましょう!
お菓子パーティ、なんて素敵な響きだろうか。
とりあえずは二人で小さなお茶会をして、感覚が掴めたら色々な人を誘うのもいいかもしれない。甘い夢は膨らむばかりで、とうとう本日、お菓子パーティ決行と相成ったのだ。
「では、私から」
「きゃー、待ってました!」
ノエルの部屋で机を前にしてナナが小さく手を叩くと、出てきたのはチョコレートのバウムクーヘンとコーヒー。
「これは私が懇意にしているお店のチョコレートバウムです。それと、同じお店でいつも買ってるコーヒーですね」
「わあ、いい香り!」
それにカップも可愛いと、ナナがまじまじと秋の花が描かれたカップを眺める。
「ありがとうございます、お気に入りなんですよ」
「秋らしくて素敵だわ」
ミルクと砂糖も用意されたコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込んで、ナナが忘れないうちにと手を叩く。
「わたしからはこれよ」
ナナが差し出したのは竹皮の包み、結んである紐を解けば現れたのは栗羊羹。それから、様々なお団子だった。
「これがみたらし団子で、こっちが餡、これがごま団子、あともう一つはきな粉ね!」
「お団子にも色々種類がありますね」
そうなのよ、とノエルの言葉にナナが大きく頷く。
「本当は他にもさくら餡と、抹茶餡、紫芋の餡もあったんだけどね」
さすがに二人で食べるには多すぎるかと思って、とナナが笑った。
「ふふ、他のはまた次の機会にぜひ」
「そうするわ! それと、こっちの栗羊羹もね」
既に切り分けられている羊羹は、丸ごと栗が入っていて秋を感じさせるもの。
「では、早速いただきましょうか」
「賛成! いただきます♪」
羊羹と団子は日本茶もいいけれど、コーヒーにだってよく合うものだ。
ナナはチョコバウムを中心に、ノエルは栗羊羹とお団子を中心に手を伸ばしていく。
「お、美味しい~!」
しっとりとしたチョコ味のバウムクーヘンは外側にチョコレートが流しかけられていて、濃厚なチョコの香りが楽しめる逸品。ぎゅっと美味しさが詰まっているのに、ふんわりとした口どけだ。
「この栗羊羹も美味しいです……!」
弾力のある羊羹の中にごろごろと栗が入っていて、食感の違いが楽しい上に栗の豊かな風味がなんとも言えない美味しさ。お団子だって、もちもちのお団子に餡がよく絡んでいて何本でも食べれてしまいそうなほど。
「和菓子も奥が深いですね」
しみじみと言いながらコーヒーを飲み、次の団子に手を伸ばすノエルにナナが笑う。
「洋菓子だって、奥が深いわ」
洋菓子と言われたら生クリームがたっぷりのケーキを思い浮かべるけれど、このバウムクーヘンはそんなケーキ達にだって負けないくらいの味わいだ。
「そういえば、洋菓子と和菓子を合わせたようなお菓子もありますね」
「生クリームどら焼きとか?」
「ええ、生クリームと餡子が合うことに驚いた覚えがあります」
見た目からして相反するような感じなのに、あんなに美味しいなんてとノエルが頷く。
「お菓子って奥が深いのね……」
しみじみとそんな事を話したり、もう少ししたらクリスマスね、なんて言いながら、ふたりでのんびりとしていたら。そう、本当にいつの間にか、気が付いたら――。
「綺麗になくなりましたね……」
「こんなにコーヒーとチョコバウムが合うなんて、そして和菓子にも合うなんて……」
ついついお代わりしていたら、お腹がいっぱいになってしまった、という訳だ。
「腹ごなしに散歩でも、と思って来たけど……足湯でゆっくりしてから行ってもいいわよね」
「そうですね、食べてすぐ運動は体に良くないともいいますし」
よし、と頷き合って、ナナが菊花に声を掛けた。
「菊花さーん!」
「あれ、ナナさんとノエルさんや」
「お洗濯物、いつもありがとう!」
「いつもお疲れさまです」
二人からの労わりの声に照れたように笑って、菊花がお茶とお菓子があるんよ、と勧める。
「ありがとうございます、お茶だけいただきますね。今日はナナさんとお茶会をしていたので、お腹いっぱいなのです」
「うぬぬ、このお菓子も美味しそうだけど……わたしも今日はお茶だけ頂くわね」
「そうなんや、二人でお茶会って素敵やねぇ!」
何のお話してたん? と菊花がほうじ茶を二人に渡しながら問い掛ける。
「他愛のない話ですよ、お菓子の話に」
「クリスマスが近い話とか!」
ノエルの部屋で盛り上がったのだと、ナナが楽しそうに答える。
「ノエルさんの部屋、わたしの部屋とはまた違って素敵だったなぁ」
「ふふ、私のお部屋、今は窓際にネリネと夏越ししたシクラメンがあるんです」
「お部屋にお花飾ると、それだけで華やかになるもんなぁ」
気分も上がるし、と菊花が頷く。
「お部屋の窓からは紅葉が見えたし、とっても風情があったのよ」
ピンクに白、そしてその向こうには燃えるような紅い紅葉。
花や植物で季節を感じられるのは、とても素敵な事だとナナも笑って。
「そういえば、紅葉の花言葉ってご存じですか?」
「紅葉にも花言葉があるんやねぇ?」
ええ、と頷いたノエルが二人に向かって言葉を続ける。
「自制、美しい変化。それから『大切な思い出』です」
「大切な思い出……なんだかぴったりね!」
お宿に来てから毎日『大切な思い出』が増えていくもの、とナナが足湯に向かって足をちゃぷんと浸けて。
「んー、極楽極楽♪」
美味しいもの、素敵な人達、そして楽しい思い出。
これからもきっと増えていくだろう思い出に、三人が瞳を輝かせて笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
廓火・鼓弦太
怜の旦那(f27330)をお見かけしたものですから
おやご機嫌で御座いますな!とお声掛け
おや、まあ、内密にと?
折角ですのであっしのお部屋へご招待
洋菓子を頂くのならばと紅茶のご用意
ええ、何でも揃えておりますよ
怜の旦那は勉学に勤しむお方、脳を使うと甘味も恋しくなるでしょう
此処では隠さずお食べなされ
おや、怪談話にご興味が?
ふむ……これまた奇妙な問い掛けで
あっしはそうとは思いませんね
彼岸も此岸も、生者も亡者も変わりなく
幸せは己で決めるものに御座います
悪さをしたなら分け隔てる位が丁度良いかと
食べ終わりましたらひとり足湯へ
やァやァお菊ちゃん、今日の出来事で御座いますか?
ならばと、真実と少しの嘘を語りましょう
水澤・怜
廓火(f13054)と
念願のバターケーキを手に入れ桜の枝が伸びきったまま廊下を歩く姿を廓火に見つかる
あー…これはだな……(脳内フル回転で言い訳を考えるも断念)
…とりあえず皆には内密にしてくれ
廓火の部屋でバターケーキ(※口止め料)や他の菓子も取り出して
あぁ、確かに脳の栄養に糖分は欠かせんな…なんて言い訳をしつつ
そういえば廓火は怪談に詳しかったな
ああいう話は人とあやかし、彼の世と此の世が絡み合って起こる話が多いように思うが…
やはり生者は此の世で、死者は彼の世で生きた方が幸せだと…君は思うか?
あぁ…いや、急にすまんな
何故か君に尋ねたくなったんだ
胸元にさした宵色の万年筆に触れつつ
少しだけ寂しげに呟いた
●ちょっとした内緒の話
きしきしと、九重の廊下を人が歩く音がしている。
「おや、どなたで御座いましょう」
朝から桜のお嬢さんはお出掛けで、お昼時に見掛けた艶めく黒髪と新緑の輝きを放つような金髪のお嬢さん方はお茶会だと部屋に戻っていったはず。
他の方々は皆さん出払っていたような、とちょっとした好奇心から廓火・鼓弦太(白骨・f13054)が廊下の角をそっと覗き込んだ。
「うん、良い物を手に入れた」
廊下の先に居たのは耳の上から出た桜の枝を目一杯伸ばした水澤・怜(春宵花影・f27330)で、その桜の咲き方からしても機嫌が良いのが見て取れた。
何か紙袋を持っているようだが、はて? と首を傾げつつ、姿を見かけたからには声を掛けて然るべきだと鼓弦太が深く頷き――てらいなく、いつもの調子で怜に声を掛けた。
「おや、ご機嫌で御座いますな!」
「うわっ!? わ、廓火か」
「おや、驚かせてしまいましたか?」
こてん、と首を傾げつつ、鼓弦太がぽてぽてと怜に近付き笑う。
「いや、油断していたのはこちらだからな」
「随分ご機嫌でいらした様子、何かいい事でも御座いましたか? 例えば、そちらの手の中の物とか」
「あー……これはだな……」
さて、どう言い訳をしたものかと怜が脳をフル回転させた結果、弾き出した答えは。
「……とりあえず、皆には内緒にしてくれ」
「おや、まあ、内密にと?」
重々しく頷いた怜に、それならあっしの部屋にどうですかと鼓弦太が指をさす。
「お邪魔しよう」
こうなれば毒食らわば皿まで――悪事ではないのだが、とばかりに怜が案内されるままに彼の部屋へ上がり込んだ。
「で、それはいったい?」
こうなったらとことん謎を追求しやしょうか、と座布団に座った怜に問う。
「これはだな……限定のバターケーキだ」
「げんていのばたーけーき」
「今、帝都で人気の店で……」
「ていとでにんきの」
思わずオウム返しをしてしまうほど、言っていることが可愛らしいなと鼓弦太の頭がバグる。
「時間限定で店に出されるのでな、今日は昼からだと聞いていたので並んできたんだ」
紙袋から出されたのは長方形の白い箱、それからセロファンに包まれたクッキーやメレンゲ菓子。
「なるほど、なるほど」
「だからなんだ、その……一緒に食べないか」
口止め料として、と怜は言わなかったが、鼓弦太の耳にはそんな風に聞こえたので大きく頷いて微笑む。
「ご相伴に上がれるとなれば、あっしに否は御座いません」
それでは洋菓子にぴったりの紅茶でも用意しましょうか、と鼓弦太がいそいそと立ち上がりお茶の用意を始めた。
「紅茶もあるのか?」
「ええ、何でも揃えておりますよ」
ご希望があればそちらをお淹れしましょうか、という言葉に首を横に振って、紅茶でいいと怜が頷いた。
暫くしてテーブルの上には紅茶とケーキ、小さなお皿に出されたクッキーにメレンゲ菓子と、お嬢さん方にも負けないお茶会になりましたな、と鼓弦太が笑っている。
「怜の旦那は勉学に勤しむお方、脳を使うと甘味も恋しくなるでしょう」
「あぁ、確かに脳の栄養に糖分は欠かせんな……」
「あっしとの、男同士の秘密ってやつです。此処では隠さずお食べなされ」
「ご厚情痛み入る」
何せ目の前にはずっと食べてみたかったバターケーキだ、フォークを手にしていざ一口。
「……美味いな」
「おや、本当に美味しいですね」
しつこくなく、あっさりとした口どけのバターケーキはあっという間に皿から二人の胃袋へ消えていく。
「帝都で人気というのも頷ける話で御座いますな」
「並んだ甲斐があったな」
しみじみと呟いて、メレンゲ菓子にも手を伸ばす。
サクッとした歯応えに、口の中でしゅわっと消える優しい甘さ。そこへ紅茶を一口飲めば、砂糖を入れずとも丁度いい。
「これは何とも不思議なお菓子で」
「今度、少し多めに買ってこよう」
足湯で皆と食べるのに良さそうだと、怜が柔らかく微笑んだ。
程よく三時のおやつを食べ切って、紅茶のお代わりを頂いて、ふと怜が鼓弦太を見遣る。
「そういえば、廓火は怪談に詳しかったな」
「おや、怪談話にご興味が?」
それなら幾らでも、と鼓弦太が紅茶を飲んでのどを潤す。
「ああいう話は人とあやかし、彼の世と此の世が絡み合って起こる話が多いように思うが……」
少し迷ったように言葉を切って、怜が続きを話す。
「やはり生者は此の世で、死者は彼の世で生きた方が幸せだと……君は思うか?」
生きる世界が違うということは、不幸せを招く事だろうか。
「ふむ……これまた奇妙な問い掛けで」
「あぁ……いや、急にすまんな。何故か君に尋ねたくなったんだ」
いえ、と鼓弦太が首を横に振り、これはあっしの考えですがと断りを入れて答える。
「あっしはそうとは思いませんね」
「思わない?」
「ええ」
懐の扇子を取り出して、とん、と手のひらを叩く。
「彼岸も此岸も、正者も亡者も変わりなく、幸せは己で決めるものに御座います」
他の誰もがそれは幸せではないと言ったとしても、自分達が幸せだと感じていればそれは幸せに相違ない。
「結局は己の胸先ひとつで御座いますよ」
あちらとこちら、そう線を引くのも引かぬのも、と扇子を鼻筋の前に立てれば白銀黄金の瞳がまるであちらとこちら、というように瞬いた。
「ま、あっしが思いますに、悪さをしたなら分け隔てる位が丁度良いかと」
「そうか……そういう考えもあるのだな」
己は軍医で、人の最期を看取る事も多い。
それに反して桜の精ゆえ、転生を司る事も。
「いつの間にか、俺は線を引いていたのかもしれないな」
胸元にさした宵色の万年筆に触れ、怜が少しだけ寂し気に呟いた。
「僭越ながら、怜の旦那は真面目でいらっしゃいますからな」
難しく考えてしまうのでしょう、と鼓弦太が微笑む。
「己の胸の思うまま、で御座いますよ」
「己の胸の……」
触れた万年筆は冷たく硬質だけれども、触れていれば己の熱が伝わって温もるもの。
「ありがとう、少し考えてみようと思う」
「とんでも御座いません、こちらこそご馳走様でした」
残ったケーキを手にして邪魔したなと怜が自室へと戻るのを見届けて、鼓弦太がふらりと足湯へ向かう。
見つけたのはいい湯だな、とばかりに足湯座る己と同じヤドリガミの少女。
「やァやァお菊ちゃん」
「あ、弦ちゃんや。今日は何してたん?」
「今日の出来事で御座いますか?」
よいせ、と少女の隣に座り、鼓弦太が琥珀色の瞳を輝かせる彼女に笑う。
「ならば、語ってお聞かせしやしょうか」
真実と少しの嘘を織り交ぜて、面白おかしく楽しいひと時を――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
幽遠・那桜
◎
私の1日は、そこそこ精霊さん達に左右されるです。
朝は、普段はお天道様がちょっと登ったくらいに起きるんですけど、時々風の精霊さんがお布団巻き上げちゃうです!!
こういう時は、精霊さんが遊んで欲しかったりするのですけど……もーちょっと寝たかったりするのですよ。むー。
ちょっと急ぎめに支度して、ちゃんと菊花さんや皆さんにおはようございますと行ってきますを言って、出かけます!
サクラミラージュのお散歩は、いつも飽きないのですよ♪
風の精霊さんと一緒に、空高く飛んで、くるくるっと回ったり、幻朧桜の花びらをぶわっと纏ったりして遊ぶのです♪
ご飯ですか?
普段は喫茶店にお邪魔する事が多いのですよ。
最初は、うっかり気配を消したままお店に入って、びっくりさせちゃいました!
これは反省でした……!
でも、そのおかげで?お顔を覚えられまして。今ではすっかり常連さんだったりします!
喫茶店のご飯、とっても美味しいですから!
あ、今日はオムライス食べました♪
いっぱい遊んで、日が落ちるくらいには帰るのです。
足湯はいつも、楽しみです♪
●幽遠・那桜の日常
私の一日ですか? と、幽遠・那桜(輪廻巡る霞桜・f27078)朗らかに笑った。
「私の一日はそこそこ精霊さん達に左右されるです」
そう言って、彼女は足湯に足をちゃぽんと浸けて、語りだす。
那桜の一日の始まりは、きっと人が思うよりも早い。お天道様がちょっと登ったくらいで、ぱちりと目が覚めるのだ。
「むむ……寒くなってくるとお布団から出たくないのですよ……」
ぬくぬくのお布団の中で思わずそう呟いて目を閉じる、冬の朝あるあるだ。
至福の二度寝、これが成功することもあれば――。
「ひゃ!」
風の精霊にお布団を巻き上げられて、成功しないことも。
7割くらいの確率で成功しないのだけれど、そういう時は諦めて起きるしかない。
「むー、もーちょっと寝たかったりするのですよ……」
そう言いつつも、遊んで欲しいとねだる精霊には勝てない。もぞりと起き出して、朝の支度を始めるのだ。
「すこーしだけ待ってほしいのですよ」
そう断りを入れて、まずは着替え、それから軽く寝ぐせの付いた髪に櫛を通す。
桜色の柔らかい髪の毛はすぐ絡まってしまうから、ゆっくりと何度も梳いて落ち着かせる。
「これで完璧……あっ悪戯したらだめなのですよ!」
折角綺麗に梳いたのに、風の精霊が小さい風を起こして那桜の髪を巻き上げた。
「遊ぶ時間が少なくなっちゃうですよ?」
そう言いながら、手櫛で直して勢いよく立ち上がる。
「ゆっくりしてられないのです、一日は有限なのです!」
最後におかしいところはないかと鏡の前でチェックをして、軽やかな足取りで部屋を出ると九重に逗留する早起きさんと廊下で行き会ったりもする。そんな時はしっかりとおはようございますの挨拶をしてすれ違う。
「行ってきます!」
玄関の前では、誰かに聞こえるようにそう声を掛ければ、どこからともなく『いってらっしゃい、気ぃ付けてな!』と返事が聞こえてくるので、那桜は笑みを浮かべて玄関から外へ向かうのだ。
「今日はどこへ行きましょう?」
風の精霊にそう問いかけつつ、帝都に向かって出発!
なんたって、なんとなく真っ直ぐに歩いていればいつの間にか到着しているのが不思議なところ。時折風の精霊と一緒に空高く飛んで、くるくるっと回ってみたり、幻朧桜の花びらをぶわっと纏って桜吹雪を起こしたり、精霊が望むままに遊んでいれば、風の精霊だって大満足!
「一石二鳥なのです♪」
那桜も楽しい、風の精霊も楽しい、お散歩もできて……あれ、一石三鳥です? なんて那桜が桜の花びらを飛ばして笑った。
楽しい散歩を続けていれば、お腹も空いてくるというもの。
「そろそろご飯の時間です、今日はどこで食べましょう?」
普段は喫茶店にお邪魔をすることが多いのだけれど、その中でも幾つかお気に入りの喫茶店があったりする。
パンケーキが美味しいお店、サンドイッチが美味しいお店、ナポリタンが美味しいお店、それから。
「オムライスが美味しいお店にするのです♪」
今日はとろとろの玉子にふんわりと包まれた、チキンライスの気分!
「ふふ、こんにちはーなのです!」
いらっしゃい、いつものお席でいいかい? なんて声を掛けられて、はい! と元気良く返事をする。
今でこそ慣れた振舞いだけれど、最初はうっかり気配を消したままお店に入って、店員さんと店長さんを吃驚させたこともあったりして。
「あれは大失敗でした」
思い出しても反省するばかりだけれど、すっかり顔を覚えられたのはそのお陰だったのだから、失敗は成功のもとなのです、と那桜がくすりと笑った。
さて、そんな那桜が常連となったお店の、特に美味しいと思うオムライスのお味は?
「とーっても美味しいのです!」
喫茶店のご飯はどれも美味しいけれど、このオムライスは一番のお気に入り。
玉子の固さをその日の気分で変えられるなんて、ちょっとしたサービスが人気の秘訣。しっかりとした薄焼きも、とろとろの半熟も、どれもとっても美味しいのだ。
美味しいご飯を食べたら、再び風の精霊と散歩の続き。
そっちの路地を行けば猫の集会場、あっちの道を行けば本屋さん、じゃあ――こっちに行けば何があるだろう?
そうやって、自由気ままにあっちに行ったりこっちに行ったり、いっぱい遊んで日が落ちるくらいには、この九重に帰ってくるのだ。
「帰ってきてこうやって浸かる足湯も、いつも楽しみなのです♪」
「充実した一日なんやねぇ」
それで、今日は何を見つけたん? と、菊花に問われて那桜が弾けたように微笑んで。
「内緒なのです♪」
「内緒なん?」
「はい、ですから、今度一緒に行きましょう♪」
それも楽しそうやねぇ、と那桜の笑顔につられたように、菊花も足を揺らして微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵