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やばせの舟は早くとも

#サムライエンパイア #黄泉の本坪鈴 #白鯨斎髭長ノ進 #丁稚ノビル #夕狩こあら #本日は釣り日和

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「急がば回れとは言うけれど、今、サムライエンパイアのとある湖に出現したオブリビオンが、旅人の足を遠回りさせているみたい」
 ――武士(もののふ)の やばせの舟は早くとも 急がばまわれ瀬田の長橋。
 嘗て古歌に詠まれた通りの事が当該の場所で起きているのだが、此度『矢橋の渡し船』を止めているのは、比叡山より吹き込む風『比叡おろし』でなく、魑魅魍魎と妖怪の類い……つまりはオブリビオンである。
 続々とグリモアベースに集まりつつある猟兵達を花の咲みに迎えたニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は、地図を見せながら説明を続けた。
「東海道の陸路と水路を別つ宿場町・草津の周辺で、『黄泉の国への扉を開く』と言われる鈴の音が聞こえるって噂が広まっているものだから、舟屋は恐れて渡し船を出さないし、旅人も水路を諦めて陸路を選んでいる様なの」
 誰ぞの自殺願望に呼応して現れるという魑魅魍魎『黄泉の本坪鈴』。
 妖し鈴の音は生者を操り、自らの手で命を断つよう操作すると恐れられている妖怪の類いなのだが、奴等の音が集まる処には、時に強力なオブリビオンが喚び出されると言われている。
「それがお鯨様――『白鯨斎髭長ノ進』と呼ばれる巨鯨型オブリビオンなの」
 嘗て其の姿を見れば必ずや恋愛が成就すると言われていた長寿の鯨。
 骸の海より来たりてオブリビオンとなった今は、誰彼構わず、所構わず潮を吹き、破壊の限りを尽くす邪鯨と成り果てた。
 ニコリネは花顔を曇らせ、
「旅人は恐れて進路を変えている様だけど、この儘では宿場町に物理的な被害が及ぶだろうから、決して安全とは言えないの」
 比叡おろしが湖面を波立たせ、渡し舟を転覆させる程度では済まぬ「厄災」が、草津の人々を苦しめるだろうと唇を引き結ぶ。
 然し彼女の紫瞳が光を失わないのは、目の前に揃った猟兵の凜然に希望を見るからで、
「皆には、現地に行って『黄泉の本坪鈴』との集団戦を制し、彼等の鈴の音に呼ばれて現れる『白鯨斎髭長ノ進』をやっつけて来て欲しいの」
 お願い、と睫を持ち上げた先に映る雄渾の是に漸う瞳が細む。
 ニコリネは更に言を足して、
「全てのオブリビオンを退治したら、是非、のどかな琵琶湖を楽しんできて。釣りをして取った魚を食べてもいいし、周辺の散策を楽しんでも良いし。風も水も心地よいから、精神の鍛練も出来る筈」
 オブリビオンを倒した後は、波も穏やかになって、舟が出せるようになる。
 船上で釣り糸を垂らすも良し、宿場町でゆっくり茶を味わうのも、十分な憩いとなるだろう。
 ニコリネは花型のグリモアを召喚すると、小気味良い微笑を注ぎ、
「サムライエンパイアにテレポートします。人々を苦しめるオブリビオンをやっつけに行きましょう」
 準備はいい? と白磁の繊手を差し伸べた。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、サムライエンパイアで発生する「骸の海から蘇ったオブリビオンによる襲撃事件」を解決する、オブリビオン掃討シナリオです。

●戦場の情報
 琵琶湖東岸にある宿場町・草津。
 東海道を陸路と水路に別つ分岐点として旅人に知られています。

●集団戦の情報
 黄泉の国への扉を開く鈴の音を奏でるという『黄泉の本坪鈴』。
 浮遊状態で移動し、言語を話さぬ為、交渉や取引は出来ません。
 食べられません。

●ボス戦の情報
 愛の巨鯨『白鯨斎髭長ノ進』。
 鯨肉が美味。
 姿を見るだに恋愛は成就さる、ならば食せば如何なるか。
 食べる場合は調理プレイングが必要となります。

●日常パート
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 フラグメントを参考に、それ以外の行動もプレイングを掛ける事が出来ます。宿場町で特産物を買う、飲食をする(年齢により喫煙・飲酒可)等、自由行動をお書き下さい。
 ニコリネを遊び相手に指定することも出来ます。目安の400字に描写をプラスし、お客様分の字数を削る事はございません。指定のない場合は登場せず、見守り役となります。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 集団戦 『黄泉の本坪鈴』

POW   :    黄泉の門
【黄泉の門が開き飛び出してくる炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【地獄の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    人魂の炎
レベル×1個の【人魂 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    後悔の念
【本坪鈴本体 】から【後悔の念を強制的に呼び起こす念】を放ち、【自身が一番後悔している過去の幻を見せる事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鞍馬・景正
天下の往来を妨げるのは公儀の威信を傷付け、旅人や領民たちの迷惑になるもの。

被害が出る前に処置すると致しましょう。

◆戦闘
さて、まずはこの鈴の音を止めさせねばなりますまい。
よく見れば愛い外見をしておりますが、情けは不要。

歩み寄りながら弓に矢を番え、【霰】にて掃討致す。
羅刹の【怪力】による【2回攻撃】で絶え間なく五月雨のように射続け、少しでも数を減らしましょう。

炎を放たれれば【見切り】で回避するか、矢で散らして勢いを弱め【火炎耐性】で被害を最小限に。

嘗て八幡太郎義家公は弓弦を鳴らしただけで悪霊を祓ったというが、公ほどの武徳無き身はこうするのみ。

黄泉へ誘う死の音色、我が虎落笛にて調伏仕る。


青和・イチ
サムライエンパイア、初めて来るけど…なんか落ち着くなあ

現れるのは…黄泉の扉を開く、鈴の音、かあ…
面白い妖怪が、居るんだね…ちょっとえげつないけど
喚び出すヤツも、何かやばそう、だし…うん
悪いけど、お帰り頂こう

『黄泉の本坪鈴』が現れた時、周囲に人が居れば避難を促します
技能【優しさ】で「安全なとこで耳塞いでて」と、安心させるよう声掛け

鈴、飛んでるし…当たりやすい【流星】で戦おう
無表情から繰り出す、冷たい(?)視線で撃ち落とします
そんな鈴…物騒過ぎるでしょ

一緒に居る相棒、くろ丸(犬・般若顔女子)も、
危険を知らせたり、攻撃したりでサポートを
僕が、後悔の念に捕まったら…大声で吠えて

他の方との共闘も歓迎です


ナナ・モーリオン
りんりん、りんりん。
……死を呼ぶ音色。ボクの鈴と似てるけど、ちょっと違う。
寂しいの?羨ましいの?
ダメだよ。人は、逝ったら帰ってこれないんだ。
未練を残したまま逝った魂は、戻りたいってぐずっちゃう。
対岸に手を伸ばせても、三途の川を遡ることはできないんだ。

罪への対価。呪炎刃を複製して、『追跡』させ『串刺し』にする。
これは、黄泉へ引きずり込まれた人たちの未練と言う名の『呪詛』。キミたちによって生まれた、キミたちと同じ、黒い炎。
この子たちと一緒に、骸の海へお還り。

大丈夫。寂しがらないで。
黄泉には、ここにあるものが無いかもしれないけど。
向こうにも、ここにはない安らぎもあるから。


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

敵の動きを観察し【情報収集】
隙を狙って【咎力封じ】使用
【拘束ロープ】でできるだけ多くの個体を一度に集めて【串刺し】にしていくわ

>後悔
見えたのは数年前の私とあお
最初で最後っていうくらいの酷い喧嘩をした記憶がある

どう見ても無理してるのに
笑顔を作って元気であろうとするあおに腹が立って、酷い言葉をぶつけたのよ
それから大喧嘩

喧嘩の直後も後悔したけれど
元気がなかった理由を知って、更に後悔した
酷い言葉をぶつける前にできる事はたくさんあったはずなのに

>あお
ホント、あおって、ずるいわよ
(救われた、後悔しなくていい、に拗ねたように)
笑顔で隠して無理ばっかりして
ちょっとは弱い所見せなさいよねっ


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

【サモニング・ガイスト】使用
田中さんの【槍】と私の【衝撃波】と
連携させて敵の数を減らしていくね

戦いながら
姫ちゃん含めた、本坪鈴本体の放つ後悔の念に囚われた人達が、
戦線復帰できるようにフォローに回るね

誰にも、後悔する過去はある
もちろん私にも
…でも、後悔はね、今や未来とちゃんと向きあえてる証拠
だから立ち止まってもいいんだよ
その分前を向いて、一緒に戦おう!

>姫ちゃん
姫ちゃんが後悔してる事だけは、なんとなくわかるよ
でも、姫ちゃん、私ね、あの時の大喧嘩があってよかったって思ってるんだよ
だって、あれがあったから、私は救われたんだもん
だから、姫ちゃんは、後悔なんてしなくていいんだよ


六波・サリカ
安心してください、ニコリネ。
魑魅魍魎を退治するのは陰陽師の役目ですからね。
被害が出る前に私たちが解決して見せましょう。

まずは、本坪鈴を駆逐します。
人を自殺に追いやる怪異など、1匹たりとも逃しはしません。

持ち前のスピードやダッシュの技能を活用し、敵の攻撃を回避。
なるべく多くの敵をこちらに引きつけて、ユーベルコード、大放電を発動。
周囲の味方を巻き込まぬよう、警告を発します。
「伏せてください!」
「薙ぎ払え!ジャッジメント・ロア!急急如律令!!」
機械の右手から迸る超高圧電流で、敵の群れを殲滅します。

「こんなところでしょうか。ある程度は片が付きましたね。」


ヨハン・グレイン
自殺願望に呼応して現れる、となると願望の持ち主から断たないとまた出現するんじゃないですかね。
迷惑な話だ。
黄泉の国など行きたいものだけ逝けばいい。
耳障りな鈴の音は掻き消してやりましょう。

あくまで自身は戦わず。
死霊を呼び出し、 指先ひとつで操るだけ。

防御には手を割かず、速さのみに特化させ。
蛇竜を放ち切り裂き締め上げ、一体ずつ確実に屠ります。

人魂を食い物とするのなら、死霊に裂かれるは似合いの最期と思わないか。
黄泉路をいけよ、本坪鈴。

攻撃は自身の力の及ぶ範囲にとどめ、ただし討ち漏らしのないよう注意を。

静寂が訪れた後には何かの予感も過ぎるだろうか。
魔術書をたたみ、未だ波の引かない湖を見つめる。


ピオニー・アルムガルト
草津よいとこ一度はおいでっと、情緒と風情のある宿場町に魑魅魍魎なんて似合わないわよね!みんなが楽しめる様にオブリビオン退治頑張るわよー!

あまりふわふわと『黄泉の本坪鈴』に飛ばれて頭上を取られても面倒ね。
【全力魔法】の【エレメンタル・ファンタジア】で氷の嵐をぶつけて吹き上がる氷をぶつけたり氷漬けにして飛びづらくさせてやりましょう!
数に対しては【高速詠唱】【2回攻撃】で手数を稼ぎ、水場が近いって事だから【地形の利用】も頭に入れて行動したいわね。

自殺願望に呼応して現れるって事で好きで集まった訳ではないかもしれないけど、見逃せないの!一片の曇りのない生者の輝きってやつを見せてやるわ!


荒谷・つかさ
鯨の肉が食べられると聞いて。
(無表情ながらめっちゃ目輝かせて参戦)
ま、一口に鯨と言っても種類によって食味は違うらしいんだけど。
とりあえずそっちは、出て来てからのお楽しみね。

……さて、それじゃまずは妖退治といきますか。
食べられないなら、回収する手間も気遣いも要らないわよね。

湖岸に陣取り【鬼神剛腕砲】を発動。
大量に用意した「丸太」を、湖上をふよふよしてるらしき敵に向けて投げつけて攻撃するわ。
炎を飛ばしてくるなら、零式・改二を盾代わりに「武器受け」して凌ぐわね。
こっち来たなら来た奴をそのまま掴んで投げ返すわ。

次の鯨戦は湖上での戦いでしょうし、投げた丸太が足場になるといいんだけど。




 須臾に過るはノスタルジア(郷愁)かデジャヴュ(既視感)か。
 此度、初めてサムライエンパイアに降り立った青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は、湖面を撫でる風の匂い、青藍の瞳に飛び込む和の色景に、ほつり、歎美を零す。
「初めて来るけど……なんか落ち着くなあ」
 やけに肺に馴染む空気を胸に満たし、松木の傍に立つ。
 眼前には浮世絵に画かれる様な佳景が広がるが、然し名所絵『矢橋帰帆』に見る「矢走(やばせ)にいそぐ舟の帆」は波の上に賑わず、聊か寂寥とした――不穏な気配は拭えない。
「うぉふ」
 時に彼に隣するコワモテの犬、くろ丸がヒクリ耳を欹てる。
 彼女の鼻頭が向く方へ視線を注げば、舟屋の娘と思しき少女がイチの「天下自在符」をじっと見ており、幼気な声で言つ。
「にぃに、今日は帆は上がらんで。母々(かか)が言うとった」
 年端の往かぬ娘御すら知る葵紋。
 己が幕府より許されし猟兵と知れていれば、イチは直ぐにも歩み寄って避難を促し、
「安全なとこで、耳、塞いでて」
 くろ丸の聡い耳は既に捉えているであろう鈴の音に警戒する。
 娘御が戻る先の舟屋、その敷居を跨いで出て来たのは、鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)――妖怪の噂が広まってからは商売上がったりだと嘆く主人より一通り話を聞いた剣豪が、湖風に運ばれる微かな鈴の音に冴眸を絞る。
 其は漸う音を大きく、湖面に灯を映して――妖奇『黄泉の本坪鈴』たる影を顕していく。

 ――リン、リン、リリ……リン。

「天下の往来を妨ぐは、公儀の威信を傷付け、旅人や領民たちは禍難を託つ――扨て先ずはこの鈴の音を止めさせねばなりますまい」
 やおら舟着場に至った冷艶が携えるは、五人張りの剛弓『虎落笛』。
 真冬の凄風と聞こゆ鳴弦は邪気に感応して震えようか、白磁の指は漸う矢を番え、裡に秘めし羅刹の怪力に引き絞る。
 言は短く、端然と。
「――掃討致す」
 矢並み繕う籠手の上――たばしる霰が如く。
 ユーベルコード【霰】は射つる鏃を雨飛の如くして、のべつ幕無し五月雨る。
『鈴鈴ッ、鈴鈴ッッ!!』
『凜々、鈴ッ!』
「――りんりん、りんりん」
 この時、邪鈴の悲鳴に『魂寄せの小鈴』の澄んだ音色を重ねたのは、ナナ・モーリオン(眠れる森の代理人形・f05812)。
 和音と響く様で實は調和せずと耳を澄ました可憐は、宙に逍遙する本坪鈴に語尾を持ち上げ、
「寂しいの? 羨ましいの? ダメだよ。人は、逝ったら帰ってこれないんだ」
 未練を残したまま逝った魂は、「戻りたい」ってぐずっちゃう、と――そっと小首を傾げた後は、銀の艶髪を覆うヴェールを揺らして、諭す様に佳声を転がす。
 死者の魂が眠る森より来りし魔導人形は識るか、
「対岸に手は伸ばせても、三途の川を遡ることはできないんだ」
 白花の繊手は呪詛で練り上げた黒炎の刃『淀みし報復の呪炎刃』を複製し、指先の動きで統御しながら湖面を疾らせる。
「これは、黄泉へ引きずり込まれた人たちの未練と言う名の『呪詛』――キミたちによって生まれた、キミたちと同じ、黒い炎」
 瑞々しい佳声は幾許か幼さを残してつつやき、
「この子たちと一緒に、骸の海へお還り」
 黒炎の切っ先が邪鈴を追い、捉うと同時、その身を串刺しにした。
『鈴鈴鈴ッ、鈴鈴!!』
『凜凜凜凜凜ッッ!』
 時に。
 死を庶幾う誰ぞの念に呼応して現れる怪魔なれば、そのような願望を抱く者から断たねば再び出現するのでは、と懸念するヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は、「迷惑な話だ」と嘆息ひとつ。
「黄泉の国など行きたい者だけ逝けばいい」
 蓋し冷然を置きつつ、死は往々にして誰かを道連れにしたがるものとは、厖大な知識が脳裏を過るか。
 彼は白磁の繊指に嵌めた銀環『蠢闇黒』に長い睫を落とすや、漸う揺らめく黒光石の煌きを藍瞳に映し、
「耳障りな鈴の音は掻き消してやりましょう」
 ユーベルコード【リザレクト・オブリビオン】――彼こそ黄泉より死霊騎士と死霊蛇竜を召喚し、指先ひとつで操り始める。
「人を自殺に追いやる怪異など、一匹たりとも逃しはしません」
 転送地点にて、グリモアを維持するニコリネに「安心してください」と無事を約束した六波・サリカ(六道使い・f01259)は、彼女に勇気を分けて尚も凛然。
 琵琶湖にほつほつと浮かび上がる妖炎を前に繊躯は飄々、
「被害が出る前に、必ずや解決して見せましょう」
 魑魅魍魎の駆逐、妖怪退治は陰陽師の役目と、犀利な金瞳を冴え冴えと輝かせた可憐は、湖岸を疾駆して邪鈴を多く引き付けると、頃合を見て仲間に喚起する。
「伏せてください!」
 霹靂閃電、ユーベルコード【大放電】(ジャッジメント・ロア)――!
 繊躯を包むパーカーの裾がさざめいた瞬間、目も眩む閃雷が天地を結ぶ。
『鈴鈴鈴ッッ!!』
『凛々ッ、凛凛凛ッッ!!』
 サリカは自身を中心に半径19mの範囲に浮遊する敵性を悉く紫電に貫き、鈍く歪な音を立てる邪鈴を湖面に沈ませた。
「……それじゃ私も先ずは妖退治といきますか」
 荒谷・つかさ(焼き肉担当・f02032)が東海道の分岐点に降り立ったのは、太平なる徳川の世に仇成す妖魔を誅する為か、或いは我が正義の義憤に燃ゆる故にか――いや、何より鯨の肉の為。
「ま、一口に鯨と言っても種類によって食味は違うらしいんだけど。取り敢えずそっちは出て来てからのお楽しみね」
 蓋し凄艶は垂涎に口元を緩ませる事もなく、佳顔は無表情たる儘、湖岸に陣取る。
「食べられないなら、回収する手間も気遣いも要らないわよね」
 食せぬ敵に慈悲は無しと、琥珀色に煌く瞳は傍らに積んだ大量の――とてもいい感じの、とてもいい感じの『丸太』を掴んで、
「目標確認……音速超えて、飛んでいけぇっ!」
 【鬼神剛腕砲】(オウガアーム・カタパルト)発動――!
 驚くべき怪力を以て投擲された丸太は、一発必中、凄まじい命中率で邪鈴をブチ抜き、妖し音ごと湖面に叩き付ける。
 鈴音が悲鳴にも聴こえようか、ピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)は目眩(めくる)めく変わる戦況を鋭い聴覚に拾いつつ、足取り軽く対岸に据わる。
「草津よいとこ一度はおいでっと」
 玲瓏の人狼は荒ぶる風に三角帽子を押えながら、波立つブリムの陰より覗く金瞳を炯々、浮遊する敵影を射て、
「情緒と風情のある宿場町に魑魅魍魎なんて似合わないわよね! みんなが楽しめる様にオブリビオン退治頑張るわよー!」
 くるり、手首を返して差し出すは、長身の彼女の身の丈にも迫る魔導杖。
 本坪鈴に頭上を取られても厄介と、翠の宝玉に魔力を集めた彼女は、【エレメンタル・ファンタジア】で氷の嵐を生成して空を攻める。
「氷塊をぶつけたり、氷漬けにして飛びづらくさせてやりましょう!」
『鈴鈴鈴鈴ッ、鈴鈴鈴ッ!!』
『凛々ッ、凛々稟稟ッ!!』
 相性は、本坪鈴にとっては最悪、ピオニーにとっては最高。
 フワフワと足場なく彷徨う敵躯は凍える颶風に挙措を殺され、反駁に繰り出した地獄の炎も、人魂の炎も氷に搔き消されてしまう。
『……鈴鈴鈴鈴鈴鈴鈴……ッ』
 なれば彼等は不可視の攻撃で猟兵を脅かそうか、本坪鈴は身を震わせるや無音――「後悔の念」を強制的に呼び起こす霊気を漂わせ、折しも拘束ロープで敵を一絡げにしていた彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)を記憶の海に突き落した。
「――っ」
「ッ、姫ちゃん――!」
 聞き慣れた榎木・葵桜(桜舞・f06218)の佳声が呼び止めるも、意識は過去を遡る。
 傷ついた心の隙間へと潜り込んだ姫桜は、その透徹たる青の瞳に、鮮やかな色を帯びた記憶を映した。
「あれは、私と、あお……?」
 花唇は震える様につつやいて。
「……そう、私……どう見ても無理してるのに、笑顔を作って元気であろうとするあおに腹が立って、酷い言葉をぶつけたのよ」
 それから最初で最後っていうくらいの酷い喧嘩をしたっけ、と――当時の感情が生々しく蘇るのは、姫桜が一番後悔している出来事だからだろう。
「……喧嘩の直後も後悔したけれど、元気がなかった理由を知って、更に後悔して……」
 酷い言葉をぶつける前に、できる事はたくさんあった筈。
 それなのに口をついた言葉は、荒げた声は、葵桜をどれほど傷付けたろう。
「あお――」
 そうして後悔の谷に堕ちていく姫桜を取り戻したのは、彼女の繊手をぎゅっと掴んだ葵桜。
 姫桜が視た幻を見る事は叶わなくとも、あの時を、痛みを同じくした葵桜には、彼女の後悔がなんとなく、いや慥かに理解ろう。
「姫ちゃん、私ね、あの時の大喧嘩があってよかったって思ってるんだよ」
「よかっ、た……?」
「だって、あれがあったから、私は救われたんだもん。だから、姫ちゃんは、後悔なんてしなくていいんだよ」
 あの時の衝突は、心の傷を溝にして二人を隔てたろうか――否。
 同じ方向を見て戦う「今」にこそ言葉以上の答えがあると、葵桜の藍瞳は柔かく細んで。
「誰にも、後悔する過去はある。もちろん私にも」
 蓋し後悔は、今や未来とちゃんと向きあえている証拠だと葵桜は思っている。
 忌むべきものでも恥ずべきものでもないと信じる可憐は、力強く手を繋いで、
「立ち止まってもいいんだよ。その分前を向いて、一緒に戦おう!」
 援け起こす。
 支える。
 その手の温もりに、姫桜の双眸を覆う幻がすっきりと拭われていく。
「――ホント、あおって、ずるいわよ」
 救われたとか、後悔しなくていいとか。
 彼女の言葉に拗ねたように視線を逸らした姫桜は、然し薄ら頬に春色を乗せて言を足し、
「笑顔で隠して無理ばっかりして……ちょっとは弱い所見せなさいよねっ」
 手は繋いだ儘――ユーベルコード【咎力封じ】を繰り出す。
『鈴ッ! 鈴鈴鈴鈴鈴ッ!!』
『凛々ッ、稟稟稟稟!!』
 拘束ロープにまとめられた敵群は、ジタバタする間もなく葵桜の前に差し出され、
「うんっ、田中さんも一緒にがんばろー♪」
『鈴鈴鈴鈴鈴鈴ッ!!』
『凛々、凛々、稟稟稟稟!!』
 ユーベルコード【サモニング・ガイスト】――葵桜が慕うUDC「田中さん」が影を差すや、炎を滾らせた槍の切先に悉く串刺しにする。
 姫桜と葵桜。
 名の「おと」を同じくする可憐が二人、小気味よく瞳を合せた。


『鈴ッ、鈴鈴鈴ッッ!!』
 邪鈴は黄泉の門より地獄の炎を呼び出すが、景正の『藍韋威胴丸』は炎によく耐えて主を守り、また彼自身が炎の軌跡を見切るが故に、飜る『黒羅紗陣羽織』は幽玄と、その裾に触れることすら許さない。
 妖し狂熱が白皙の間際に過ぎるのを流眄に見遣った景正は、よく見れば中々に愛いと艶笑を置きつつ、蓋し情けは無用と再び矢を番える。
「嘗て八幡太郎義家公は弓弦を鳴らしただけで悪霊を祓ったというが、公ほどの武徳無き身はこうするのみ」
 神速の連射は二度、三度。
 湖面に揺らぐ邪鈴の音を、迸る炎ごと撃ち落していく。
「黄泉へ誘う死の音色、我が虎落笛にて調伏仕る」
『凜々ッ! 鈴鈴鈴ッッ、ッ!!』
 剛弓に敵を射る猟兵あらば、剛力に敵を伸す猟兵あり。
 つかさは眼前に迫る地獄の炎を巨刃『零式・改二』を盾代わりにして受けつつ、近付いた本坪鈴をむんずと掴んで投げ返す――縦横無双。
 搦め手より真っ向勝負を好み、力押しのきらいがある彼女だが無策には非ず、
「次の鯨戦は湖上での戦いでしょうし、投げた丸太が足場になるといいんだけど」
 然う。
 全ては鯨の肉を得る為の布石であり、POW系女子の恐るべき食欲は幾許にも狡猾。
『鈴……鈴鈴、鈴――』
『鈴鈴、鈴鈴鈴……鈴……』
 扨て邪鈴の攻撃で最も厄介なのは、【後悔の念】――本坪鈴本体から放たれる不可視の念であろうが、イチと強い絆に結ばれたくろ丸は、彼の僅かな変化にも鋭く吠えて気付かせてくれる。
「わふ!」
「…………はっ」
 ふと我に返ったイチは、止まっていた繊手にくろ丸の頭を撫でて感謝を伝えると、その指先を眼鏡に寄せて、
「面白くて、えげつなくて、物騒な……悪いけど、お帰り頂こう」
 元の黄泉、骸の海へ。
 無表情で解き放たれるは【流星】(メガネビーム)――怜悧な視線は青い光線となって浮遊する邪鈴を射る。
 透徹たる青の光条は精確精緻に、見事、中の「丸」(がん)を撃ち抜いて。
『鈴鈴ッ、凜凜ッ!!』
 一体が力無く水面に沈めば、別なる一体が直ぐにも新たな念を放つが、ナナはふわり『黒紋の装束』を揺らすと、小鈴の音を連れて軽やかに躱す。
 美し紫水晶の瞳は邪鈴が秘める寂寥を瞶め、
「大丈夫。寂しがらないで」
 黄泉には、ここにあるものが無いかもしれないけど。
 向こうにも、ここにはない安らぎがあるから。
『……鈴、凜々……ッ――』
 ユーベルコード【支払われるべき罪への対価】は死の馨香も芳しく、冴え渡る黒炎の刃にひとつ、またひとつ、と閑かなる安寧に還す。
 本来は魔除け、破邪の音を奏でる鈴であろうに、なぜ神と繋がらず黄泉と通じたか――。
 ピオニーはまるで彷徨うかの様に湖面に揺蕩う本坪鈴に声を張り、
「自殺願望に呼応して現れるって、あなた達も好きで集まった訳ではないかもしれないけど、見逃せないの!」
『凜凜凜凜ッ!!』
 群れる敵に手数を以て拮抗すべく、全力魔法を高速かつ連続的に詠唱して敵を掣肘する。
 水鏡に返照する魔法は煌々、彼女の麗顔を輝かせ、
「一片の曇りのない生者の輝きってやつを見せてやるわ!」
『鈴鈴鈴鈴鈴鈴鈴!!』
 力の溢流は美しく――黒と赤の炎が宿る『Alice In Chains』が燦然を帯びる。
 時に須臾。
 サリカの白皙が蒼白く輝き、琵琶湖周辺が色を失うほど白む。
「薙ぎ払え! ジャッジメント・ロア! 急急如律令!!」
 今日び二度目の【大放電】――機械化した右手『侵攻式』が、第二心臓『神格式』に蓄電した電力を解き放ち、迸る超高圧電流で敵群の妖気を灼き尽くす。
『鈴鈴ッ、鈴鈴……ッ!!』
『凜々……鈴……ッ』
 降り、落ちて。
 邪鈴が自ら開いた黄泉の門に消えていく様を前に、サリカは視覚装具『照覧式』に駆逐した敵数を確認すると、
「こんなところでしょうか。ある程度は片が付きましたね」
 と、華奢な肩を覗かせていたパーカーの襟の開きを整える。
 彼女が面の攻撃で粗方を屠れば、対岸に据わるヨハンは個々を着実に屠り、
「人魂を食い物とするのなら、死霊に裂かれるは似合いの最期と思わないか」
『稟……凛々……ッ、ッッ』
 拠る理はタリオ(同害報復)。
 蛇竜は鋭牙に邪鈴を噛み砕き、また鞭の様に撓る尾を以て締め上げ、彼等に相応しい死を贈る。繊指に操られる其は、決して討ち漏らしはしない。
「黄泉路をいけよ、本坪鈴」
『鈴……鈴……――』
 斯くして軈て。
 厚みある魔導書を閉じる音まで聞こえたのは、全き静寂が訪れたから。
 此岸と疆界を分つ眼鏡越しに全ての敵影の消滅を見届けたヨハンは、然し未だ穏かならぬ湖の波に、炯々たる眼差しを射続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『白鯨斎髭長ノ進』

POW   :    白鯨の魔力(物理)
単純で重い【体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    びちびちヒレアタック🐋
【胸ビレ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    らぶすぷれ~🐳
【顔】を向けた対象に、【愛の潮吹き】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠掻巻・紙衾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 妖し鈴音が集まる処に、尋常ならぬ怪異ぞ顕る――。
 邪鈴は見事に掃討した彼等であったが、本坪鈴らが開けた「黄泉の門」がまだ閉じていないと戒心を研ぎ澄ませた矢先、その耳に異音が届く。
 鼓膜の振動は緊張と同調し、胸を掴むような重低音は、来る敵躯の大きさを否応にも知らしめよう。
『ホェェェェェエエル!!』
 湖全体を波立たせ、うねらせ、咆哮に碧落を揺らすは『白鯨斎髭長ノ進』。
 彼ほどの大きな巨躯が琵琶湖に棲まっては、東海道の水路は二度と帆を立てることはあるまい。
『ホェェエエエッッッ!!』
 殺らねばならぬ――!
 ザブンと威容を現した巨鯨を前に、猟兵らは休む間もなく駆け出した。
荒谷・つかさ
出たわね鯨ッ!
こんなこともあろうかと……用意しておいて良かったわッ!
(「零式・改二」と大差ないサイズの「烈火包丁」を振りかぶる)

右手に「烈火包丁」左手に「零式・改二」を装備し【焼肉担当の本気】発動。
先程大量にぶん投げておいた丸太を足場に「ジャンプ」技能を活かし接近。
とりあえず最初は斬り落としやすそうな所からってことで尾びれ狙い。
両手の二刀でざくざく斬り落とし、烈火包丁の熱で焼いて、戦いながら食べるわ。
一応そこまで部位に拘りはしないわよ。
大事なのは「斬り落として、焼いて、食べる」ことにあるんだから。
体当たりが来るなら、ジャンプして背中に乗って焼き肉続行よ。

食べたい人はどうぞ。美味しいわよコレ。


鞍馬・景正
此方が一寸法師になったと錯覚するような巨躯ですな。
しかし、なればこそ斬り甲斐もある。

勇魚取と参りましょう。

◆戦闘
とは申せ、無策で水中に入れば地の利どころの話でもなくなるのは自明の理。
まずは岸に驀進する機を待ち、而して刃風を浴びせる構えで挑みましょう。

接近すればその一瞬に跳躍し、その眉間目掛け――眉間。眉間? 
丸っこすぎてどこか分からぬが大体眉間らしきところに降下の勢いを乗せた拝打ちを打ち込むのみ――!

【覚悟】と共に【捨て身の一撃】で、その頭蓋まで【鎧砕き】の念を込めて切り抜いて進ぜる。

――何卒鎮まり、速やかに骸の海に戻られよ。
この淡海は既に其方の棲む場所にあらねば。


ピオニー・アルムガルト
『白鯨斎髭長ノ進』って名前のわりに可愛い風体ね…って、それはそれで置いといて、自然に非ざる者を野放しにできる訳もなく、これ以上一般の人達にも影響が出ない内にキッチリ退治してやるわよ!

敵は巨躯の単体、大勢で下手に取り付くより後衛に回る方が良いと判断をして、ユーベルコード【Pollyanna】でみんなの戦闘力を増強するわ。
みんなを【鼓舞】しながらも、【祈り】を――聖者みたいに天に還す事は出来ないけど、自然の一部に還るよう捧げるわね。

鯨って腐敗すると爆発するのよね…。
勝手に消えない様なら、近場の町で燃料、食用、工芸品、肥料など色々役立てるかしら?




「出たわね鯨ッ!」
 松木の根を草履に踏み締め、つかさ(f02032)が身を乗り出す。
 大なる声は湖面を滑り巨鯨にも届いたろうが、其は何事もなく環流を擦(なぞ)って泳ぐ――全き悠然。
 景正(f02972)は『黒漆塗筋兜』の眉庇より堂々たる偉容を仰ぎ見て、
「――此方が一寸法師になったと錯覚するような巨躯ですな」
 まるで島だと炯眼を絞る通り、白鯨は竹生島が動いたのかと見紛うほどの巨きさで、遠近大小の感覚を狂わせる。
 骸の海を彷徨う以前は海流を泳いだろうが、今は琵琶湖狭しと波間を往く――その圧倒的存在感は「お鯨様」と畏れられたとは無理からぬ『白鯨斎髭長ノ進』。
「名前のわりに可愛い風体ね」
『ホェー!』
 水際に駆け寄ったピオニー(f07501)の金瞳が、巨邪の円らな黒瞳と一瞬、合う。
 然し彼女が白鯨の鰭先に挿す淡いピンクを見た次の瞬間、視界いっぱいに潮が降り、
『ホェェェル!!』
「わ、っ」
 鯨の潮吹きと言うより、車軸を流した様な吹き降りに一同の躯は直ぐにもずぶ濡れ、防具は重く、服は肌に張り付き、足場は滑り、或いは泥濘む始末。
『ホォォエエエェェェルッッ!!』
 其が白髭にとっての鯨波(とき)の声だったかは解らぬ。
 蓋し猟兵はこの咆吼を開戦の鏑矢に、つかさは丸太を伝って湖面を走り、景正は湖岸にて打刀『武州康重』を構え、ピオニーは彼等の背を守る様に後衛に据わる。
 間合いを違え、剣戟を衝き入れる機も多様に――間隙を埋める様に個性を揃えた猟兵らが、今を以て魁偉に挑んだ。

 刻下、湖面に浮かぶ丸太を足場に巨鯨に迫るはつかさ。
 彼女は繊麗なる小躯には余程見合わぬ巨刃『烈火包丁』を軽々と掲げ、
「こんなこともあろうかと……用意しておいて良かったわッ!」
 こんなことも。
 あろうかと。
 大剣『零式・改二』と変わらぬサイズの肉切り包丁は、お肉が美味しく焼ける程度の熱を常時発し、「斬る・捌く・灼く」の三役が一振で適う業物。
「取り敢えず最初は斬り落としやすそうな部位から――」
 琥珀色の瞳は貴重な食材を間際に炯然と、右に一刃、左に一刀を握って躍々、超質量目掛けて斬り掛かる!!
「先ずは尾鰭!」
『ホォォエエエエェェル!!』
 二刀の衝撃が、巨躯に龍尾を画いて疾走する。
 ザクザクと筋繊維に沿って切り開いたつかさは、捌いた身を烈火の刃に乗せ、焼き――そして、喰う。
「そこまで部位に拘りはしない……とはいえ……」
 もぐもぐ。もぐもぐ。
「……身が締まってて美味しいわ」
 ぺろり。
 彼女のユーベルコード【焼肉担当の本気】(ヤキニク・パーティー)は戦闘中、敵から剥ぎ取って焼いた肉の量と質に応じてカロリーを蓄積し、戦闘力及び無双時間を増加させる。
 此度の本気は脅威の成功率を叩き出し、巨鯨なる「島」に上陸したつかさは、「斬る・焼く・喰う」のトリニティを見事に完成させた。
 湖岸よりその様子を見たピオニーも、食用捕鯨については理解的に、
「鯨って腐敗すると爆発するのよね……躯が残るようならそれこそ食用に、或いは近場の町で燃料や工芸品、肥料なんかにも役立てられないかしら?」
 何しろこの質量である。
 宿場町の人々に振舞って尚も余りある資源は貴重と、その脳裡に素晴らしき命のサイクルを描いている。
 そんな事は露知らず、激痛に悶える白髭の巨鯨はというと。
『ホェェェェッッッ!!』
 びちびち、びちびち。
 手、いや胸ビレも届かぬと擬(もどかし)そうに泳ぎ回り、荒波を立て、また吹き潮を驟雨と叩き付けては猟兵をしとど濡れ鼠にした。
 ピオニーはアルムガルト家代々に受け継ぐ魔導書『Before I Forget』が水浸しにならぬよう躱しつつ、三角帽子より凛然たる瞳を注いで言う。
「自然に非ざる者を野放しにできる訳もなく、これ以上一般の人達にも影響が出ない内にキッチリ退治してやるわよ!」
 花を愛し、植物を愛するピオニーである。
 自然の摂理、命の連環を乱す存在を看過できる筈もなく――自ずと胸元へと伸びた繊手は、我が血統を証する紋章を刻んだペンダントに触れていた。
 そうして桜脣が紡ぐは、ユーベルコード【Pollyanna】(ポリアンナ)。
「聖者みたいに天に還す事は出来ないけど、自然の一部に還るよう――祈りを捧げるわね」
 天使が翼を羽搏かせるよう湖に広がった賛歌は、仲間を鼓舞し、雄渾を湧き立たせ、戦闘力を増強させていく。
 未だ波はザザ、と荒れ狂うが、佳人の美声は驚くほど澄み渡って湖面に反響した。
『ホォォォエエエエエエッッッ!!』
 この間も巨鯨は癒しを得られず、痛痒を噛み締めるしかない。
 白髭は痛撃を叫びながら悶え、愈々制禦を失って暴れ回るが、此こそ景正が待ち侘びた時。
 無策で水中に入りては地の利どころの話でないと、湖岸に足半を踏み締めた剣豪は、巨壁と迫る邪鯨を眼前に一気躍進、天翔る閃雷の如く冴刀に光を迸らせる。
 瑠璃色の瞳は燦然を湛えて炯々、活眼を開き、
「その眉間目掛け――眉間。眉間?」
『ホェエ?』
「――丸っこすぎて何処か分からぬが、大体眉間らしきところに拝打ちを打ち込むのみ――!」
 ユーベルコード【鞍切】――重力を乗算させた斬撃は波ごと断ち割るかの勢いで墜下し、巨鯨の脳天を打ち据えるや、頭蓋から背骨を伝って尾まで激痛を疾らせる。
『ッホォォエエエェェルッッッ!!』
 古来より勇魚取は命と命の奪り合いであったが、此度の景正も捨て身の覚悟。
 己の腕の捻切られる様な痛撃を味わいつつ放たれた渾身の一撃は、白髭の巨躯を衝撃の疾走する通りに波打たせ、痛痒に転輾つ躯は湖面を大きく揺るがした。
 船着場に着地した景正は、その大波を頭より被るが、瞑色の艶髪は濡烏の如く白皙を際立たせ、続く言も何処か優婉にさせる。
「何卒鎮まり、速やかに骸の海に戻られよ」
 ――この淡海は既に其方の棲む場所にあらねば。
 白髭が絶叫を裂く最中、濡れた唇が妖々囁(つつや)いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

鯨さん、敵なのに見てると凄く和…って、え、あお、今なんて言った?(食べる、に思わず二度見)
本気?恋愛成就の神様食べるとかどれだけなのよ?!
というか、そのよだれ拭きなさいよ?!

…仕方ない、元々倒す敵なわけだし…ね(頭抱えてたが溜息一つ)
鯨さん、申し訳ないけれど、
そういうわけだから大人しく食材になってちょうだい

裁くのなら、やっぱり動きを止める必要があるわよね
引き続き【咎力封じ】使用
【拘束ロープ】中心に放って動きを止めてから
主に胸ビレを狙ってドラゴンランスで【串刺し】にしていくわね

倒せたらあおと一緒に【料理】するわ
メインは鯨のお肉だし、お味噌汁やご飯も用意して一式揃えてみるわね


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

鯨、確かにかわいいね!
でも、実際に味はどうなんだろうね?気になる!
食べられるものなら是非とも食べてみたいなぁ♪
なので、鯨さん、色気より食い気な私の気持ち受け取ってね!

引き続き【サモニング・ガイスト】で、田中さん(霊)に支援をお願いするよ!
姫ちゃんもふぁいっとー!
もちろん、私も胡蝶楽刀で【なぎ払い】で攻撃に加わるね♪

鯨さん倒したら、田中さんにお願いしてお肉の部分まで捌いてもらうかな
田中さん、釣り知識も結構あったし、きっと鯨の捌き方も知ってる…はず?
私も一応勉強したから、大丈夫!
姫ちゃんと一緒に【料理】頑張るね!
赤身部分はステーキにして、あとは竜田揚げも作っちゃおうかな♪


青和・イチ
――来たね。あれが「白鯨斎髭長ノ進」… …えっ。
あれ…?
思った以上に、なんか可愛いよう、な?

いやいや、見た目で判断は、いけない
現に、すごいデカイし暴れてる
それだけで、今のアレは……悲しいけど「厄災」だ

まず、【サイキックブラスト】で感電させて、動きを止めよう
あの巨体だし…そうそう避けられない…と思いたい

動きが止まったら、その隙に【連星】で、くろ丸に斬り込んでもらう
くろ丸は、ずっと一緒にいる半身みたいなもの
連携には、自信あるよ

反撃には、注意。すぐ戻って来て
(くろ丸が攻撃を受けそうな場合は、【流星】で『目潰し』しつつ、
何が何でも庇います)

…喚び出されて、災難だったね
安息の地に、お帰り

(※食べません)


六波・サリカ
先ほどの敵とは打って変わって随分と愛らしい見た目ですね。
少しばかり心苦しいですが悪を討つのが私の使命。
ここで断ち切ります!

水中での戦闘は動きが鈍るので危険です。ならば
「殺戮指令!急急如律令!!」
砲台型の式神、制圧式をいくつか呼び出し、ユーベルコード:プログラムド・ジェノサイドを発動。
あらかじめ制圧式に命令していた【誘導弾】の【一斉発射】を行い遠距離から敵にダメージを与えます。

鯨肉…食べた事はありませんが美味しいのでしょうか。
食材になるのであれば、少し持って帰るとしましょう。
行きつけの食事屋で調理してもらいますから。


ヨハン・グレイン
恋愛成就の長寿鯨、か。
嘗ては人々に慕われていただろうに。
邪鯨と成り果てたのは本意ではないのでしょうけど、
情けをかける理由にはなり得ない。

黄泉の門が閉じるまでは付き合おう。

近寄ってぶった切る……なんてのは性に合いませんので、
あくまで後方支援。
蠢く闇を解き放ち、底冷えるような呪詛を。
尾を、鰭を、絡め取り動きを封じよう。

もし敵の手がこちらに届きそうな時は
エレメンタル・ファンタジアで風を起こし去なすように。
まぁ、そうならぬように周囲には気を配りつつ。

――さて、黄泉への誘いが途絶え静寂が訪れるならば、
残す心も無く立ち去ろう。



 一方、南湖の深く湾入した区域で白髭の出現を確認したイチ(f05526)とサリカ(f01259)は、その巨躯を吐き出すに随分と轢み、遂には押し潰されてしまった黄泉の門を一瞥に扨措くと、琵琶湖第五の島たらんとする『白鯨斎髭長ノ進』の悠然を追い掛ける。
「――来たね。あれが白鯨斎髭長ノ……えっ、あれ……? 思った以上に、なんか……」
「先ほどの敵とは打って変わって随分と愛らしい見た目ですね」
 可愛い、という共感を首肯に揃える二人。
 彼等に続いて湖岸を走る葵桜(f06218)と姫桜(f04489)も、意外にマイルドでソフト、そして多分にキュートな外見に瞳を皿の如くして、
「丸っこくて、かわいいね! 食べられるものなら是非とも食べてみたいなぁ♪」
「鯨さん、敵なのに見てると凄く和……って、え、あお、今なんて言った?」
 片や肥えた巨鯨に釘付けに、片や友の強靱な好奇心を二度見。
「身は、味はどうなんだろうね? 気になる……!」
「本気? 恋愛成就の神様食べるとかどれだけなのよ?! というか、そのよだれ拭きなさいよ?!」
 垂涎に口元を緩ませる葵桜、彼女を窘めつつ自ら拭いてやる姫桜が良いツンデレを見せた須臾、白鯨の噴水が篠突く雨の如く、皆々をしとどに濡れさせる。
『ホェェェルッ!!』
「、っ」
 濡羽色の髪が艶を含んで影を差す――束になった前髪の隙間より藍瞳を覗かせたヨハン(f05367)は、成る程これが【愛の潮吹き】と、鼻梁を滑る眼鏡を持ち上げ、
「恋愛成就の長寿鯨、か。嘗ては人々に慕われていただろうに」
 堂々波間を往く鷹揚、富士に劣らぬ雄大は、昔人も見れば宿願叶うと拝んだろうと納得が往くだけに、今の邪悪が惜しまれる。
 また彼と同じく、激しい吹き潮の勢いに眼鏡を下げられたイチは、然程表情の乗らぬ端整に幾許の吃驚を挿して、
「…………見た目で判断は、いけない」
「わふ!」
 然う。
 我が隣にも般若系女子ながら愛しい相棒が居るように。オブリビオンを見た目で判断してはならぬと決意を新たにする。
 現下、白髭は悠然と、然し轟然と岸辺に接近し、停泊する舟を木っ端微塵にしている。
 イチとヨハンは、鋭く旋回して逼る木片を左右二手に別れて回避しつつ、
「今のアレは……悲しいけど『厄災』だ」
「邪鯨と成り果てたのは本意に非ずとも、情けをかける理由にはなり得ない」
 今に居てはならぬものと、巨鯨を射る瞳に犀利を増す。
 彼等の言には、向い来る破片を機械化した右腕で凌いだサリカも頷いて、
「少しばかり心苦しいですが、悪を討つのが私の使命。ここで断ち切ります!」
 世界が選んだ未来の守護者、過去の破壊者たる「猟兵」しか叶わぬことなら――。
 意志は力となり電気信号と伝い、砲撃特化型内臓兵器『制圧式』に破魔のエネルギーを装填していく。
 すれば二輪の桜花も改めて戦闘態勢を整え、
「鯨さん、色気より食い気な私の気持ち受け取ってね!」
「……仕方ない、元々倒す敵なわけだし……ね」
 いざや往かんと薙刀『胡蝶楽刀』を構える葵桜の隣、頭を抱えていた姫桜も溜息ひとつ吐いて拷問具を繰り出し、
「鯨さん、申し訳ないけれど、そういうわけだから大人しく食材になってちょうだい」
 葵桜が望んでいるから、とは言うまいが、青の双眸に闘志を燃やす。
『ホオオオエエエェェェ!!』
 鯨波は雄々しく逞しく、一同の濡れた柔肌を細かに震わせた。

「水中での戦闘は動きが鈍るので危険です」
 荒々しく波立つ湖面に金の炯眼を注ぐサリカ。
 近接戦は分が悪いと判断したか、ヨハンも得意な距離を保って白髭を睨め、
「近寄ってぶった切る……なんてのは性に合いませんので、後方にて支援します」
 と無藍想にも丁寧に、繊指は『蠢闇黒』に鎖した闇を解き放ち、底冷えるような呪詛を掛け、尾を、鰭を、絡め取らんとする。
『ホェェッ、ホェェェェエエエ!!』
 尚も遊泳する敵を追ったイチは、両掌に高圧電流を迸らせ、
「先ずは動きを止めよう。あの巨体だし……そうそう避けられない、と思いたい……」
 ユーベルコード【サイキックブラスト】――水面に紫光を映しながら疾った電雷は、敵影を捕捉するなり網の様に広がって感電させる。
『ホッ、ホェッ! ホォェェエエ!!』
 びちびち、と巨躯が波打った瞬間、阿吽の呼吸で飛び出したのがくろ丸。
「おんっ!」
 鋭刀を咥えた彼女が颯と駆けるなら、その尻尾を見送るイチの信頼も厚く、共に長い時間を分け合った絆が、白髭に深い斬撃を刻ませる。
『ホォォオオオエエエエルッ!!』
 痛撃に反駁するか、巨鯨が潮を吹いて対抗するが、渾身の【らぶすぷれ~】は然しヨハンが紡ぐ颶風に押されて届かない。
「去なすか、或いは相殺する――」
 ユーベルコード【エレメンタル・ファンタジア】は制禦に難く暴走しやすいが、刻下、上空で潮と渦巻いた風は、湖岸に届く愛の潮滴を、つまりダメージを丁度半減させる。
 ならば戦局は五分か――否。
 間断なく次撃を継ぐ猟兵が、漸う優勢を奪い始める。
『ホォオオエエェェェル!!』
 時に邪鯨が絶叫を裂いて胸ビレを動かす様を見たサリカは、距離を取った布陣が今こそ奏功したと確信した事だろう。
 射程距離30cm以内で超高速かつ大威力の一撃を放つ胸ビレは、数メートルも離れた我が身には遙か及ばず、逆に自身が予め組み込んでおいた誘導弾は、十分な射程と精度を以て敵性を駆逐できるのだ。
「殺戮指令! 急急如律令!!」
 ユーベルコード【プログラムド・ジェノサイド】――彼女が召喚した砲台型の式神『制圧式』が閃光と火花を散じて一斉発射し、緻密に計算された軌跡を擦って次々巨鯨に飛び込んでいく。
『ホェェェッ! ホェェェェエエエ!!』
 まるで戦艦の如く煙を昇らせ揺らぐ魁偉。
 白髭は致命弾を回避すべく電流の網、呪詛の鎖を引き千切らんとするが、姫桜はこの大捕物を失敗で終わらせる訳にはいかない。
「捌く為にも、動きを止める必要があるわよね」
 ユーベルコード【咎力封じ】――全て命中すれば相手のユーベルコードが封じられるが、手枷、猿轡は惜しくも硬膚を滑って水中へ、然し拘束ロープが悶える巨鯨にぐるり巻き付き、逃げようと暴れる魁偉を繋ぎ止めた。
 刹那、ドラゴンランス『schwarz』に串刺しに掛かる姫桜を、UDC「田中さん」が援護する。
 ユーベルコード【サモニング・ガイスト】にて其を召喚した葵桜は、薙刀を一閃、三日月を画く衝撃波を敵躯に打ち付けながら佳声を張り上げ、
「田中さん、頑張って! 姫ちゃんもふぁいっとー!」
 屈託無い笑顔に背を押された二人が、ずぶり、槍の切っ先を急所に突き刺す。
『ホォォォエエエェェェェルッッッ――!!』
 今際の咆吼に琵琶湖を揺るがした白髭は、果たしてイチの声が聞こえたろうか。
「喚び出されて、災難だったね」
 安息の地に、お帰り――。
 妖し鈴の音に呼ばれた「お鯨様」は、未来を悉く屠る前に、その未来の礎と成った――。

「――扨て、黄泉への誘いが途絶え静寂が訪れた今は残す心も無く」
 ヨハンが踵を返し、静かな波間に差し挟んだ跫音が、此度の大捕物の終了を告げる。
 見れば彼の背中越しに引き上げられた巨鯨が横たわり、邪獣に破壊された黄泉の門はというと、湖面にモザイクと揺蕩った後に消えた。
「これでもう……大丈夫、かな」
「うぉふ」
 イチが元の景色を取り戻した琵琶湖を眺める。
 かたや船着場では、葵桜と姫桜が「ここからが本番」とばかり腕捲りして、
「田中さん、部位ごとに捌いてもらえるかな。釣りの知識も結構あったし、きっと鯨の捌き方も知ってる……はず?」
 ごりごり、ごりごり。
 せっせ、せっせと巨大な肉を切り分けていく。
 事前に勉強してきた葵桜(用意周到)の指示があれば、田中さんの手際も良く、
「先ずは鯨尾の身を刺身にして……」
「鮮度を活かした食べ方ね」
「赤身部分はステーキにして、あとは竜田揚げも作っちゃおうかな」
「メインは鯨のお肉だし、お味噌汁やご飯も用意して一式揃えてみるわね」
 これはなんという。
 なんという、青空の下のレストラン。
 あまりの鮮度に鯨肉が光を帯びれば、サリカも好奇の瞳をじっ、と注ぎ、
「鯨肉……食べた事はありませんが美味しいのでしょうか」
 肩に担げるくらいには切り分けられた塊を指に示す。
「食材になるのであれば、少し分けて貰いましょう」
 行きつけの食事屋で調理して貰えば、きっと美味になるに違いないと――早くも期待に胸が膨らんで。
 猟兵は琵琶湖に亡骸を捨て置く無慈悲はせず。
 サムライエンパイアの人々にも根付く命の循環を尊んだ彼等は、白髭の巨躯を十分に頂く事で、過去への贐とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『本日は釣り日和』

POW   :    大物釣りに挑む

SPD   :    調理して振る舞う

WIZ   :    瞑想する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「帆を上げろ!」
 東海道は琵琶湖、水陸に路を別つ草津の宿場町に舟が賑わう。
 正に浮世絵にある『矢橋帰帆』の佳景を取り戻した船着場は、猟兵の戦いを固唾を呑んで見守っていた旅人が――多分に湖波が凪ぐのを待っていたのだが、続々と帆を上げて起つ渡し船にやんやと手を叩く。
「嗚呼、やはり急ぐなら水路さね」
 笑顔を置いて舟に乗り込む旅人。
「これで儂らも食っていける」
「猟兵さまにゃ頭が上がンねェ」
 舟屋の者達は其々に礼を言って舟を出していく。
 見送る主人は笑声も高らかに、
「あんさん方はお疲れだで、ゆっくりしていきなすって」
 なれば猟兵は羽を伸ばそうか。
 琵琶湖を走る舟を見送った猟兵らは、草津に訪れた平穏を味わうべく、街にくり出した。
鞍馬・景正
実に上首尾。
やはり、琵琶湖は鏡のように静謐であるのが美しい。

それにしても東国で育った身には、これほど大きな湖は始めて目にします。
自然が優しく見えるのも、潤沢なる水の恵みがあるからか、王都の土に近いからか――。

草津も殷賑を極め良きところですが、一艘、舟をお借りしてここから北の堅田にまで運んで貰うよう依頼しましょう。

彼の地の古刹には、浮御堂なる名所があると聞き及びました。
近江國に訪れたら是非拝観しようと心に決めていたのです。

辿り着けたなら、そこで暫し瞑想に耽るとしましょう。
琵琶湖の浩然たる気、我が武道にひとつの境地として取り入れられれば、磨きが掛けられるやも知れませぬ。


ピオニー・アルムガルト
行動【WIZ】
なにか宿場町で手軽な食べ物を買って、そろそろ時期的に梅が咲く頃かなぁ~と思いながら琵琶湖周辺を散策予定よ!
梅は「花の兄」ともいわれてるから、梅が咲き始めこれから温かくなるにつれて色々な花々が咲いていくのが楽しみ!
ちょっとまだ寒いから蕾も多いと思うけど、満開の華やかさも良いけど、蕾もねこれから咲くぞっ!て感じでぷっくりとして可愛いし、内に秘めた力強い生命の息吹というのが感じられて好きなのよ。
梅の花や香りを楽しみ、春の気配を探せたら素敵ね!
私は道楽で花を楽しんでいる程度の広く浅い知識だけど、ニコリネさんと花の事で少し話せると嬉しいかなと思っているわ。


六波・サリカ
ヨハン/f05367 と共に

悪を討伐したことですしご相伴にあずかるとしましょう
ちょうど小腹も空いてきたところです
…おや。あそこにいるのはヨハンですね
近づいて声をかけます

相変わらず陰気臭い顔ですね、ヨハン。
あなたも同じ依頼に参加していたとは。
戦闘中は敵への対処に必死で気がつきませんでした。
ここで会ったのも何かの縁です、魚でも食べていきませんか。
琵琶湖で取れるアユは小振りながら絶品だそうですよ。

街の人から釣り具を借りヨハンと共に琵琶湖で釣りを
小さな木の椅子に腰かけ、特に語る事もなくぼんやりとアユが掛るのを待ちます

釣れたアユは塩焼きや天麩羅にして食します
ふう、中々の美味でしたね
では帰りましょうか


ヨハン・グレイン
サリカさん/f01259と

用も済み、留まる理由もないですけど
別世界に赴くのも頻繁では無い
自分を知る人のない場所は居心地がいいし
和の空気を味わっていくのも良いかな

と思っていた訳ですが
知った顔が近付いてきては、留まる理由が消え去りそうだ

陰気臭いとは随分だな
少なくとも俺はあんたがいる事には気付いてましたよ
……アユか。特別好きでもないですけど
小腹も空いたところだ。付き合いましょう

釣りをするサリカさんの隣で本でも読んでましょうかね
釣れたら教えてください
俺は釣りなんてした事ないので手伝いませんよ

ぼんやりと湖を眺め、何を語るでもなく
まぁ……居心地は悪くない

食べたら帰りましょうか
まったく、想定外の長居だったよ


荒谷・つかさ
鯨の解体も終わって、お土産に結構包んでもらったし……
次はお魚ね。
(こいつまだ食う気である)

湖畔の釣具屋で竿を借りて、適当な所で糸を垂らして釣りをするわよ。
釣りは忍耐力勝負。
つまりは精神修練、ひいては武道に通じるものもあるわ。
さあ、勝負よ。
(釣果はダイスでの判定でお願いします。ステ選択はお任せします)

一勝負終えたらニコリネに会いに行くわ。
「お疲れ様。エンパイアの雰囲気はどう?」
「私はさっきまで釣りしてきたの。戦果は……こんな感じよ」(見せる)
「ところでこの後時間ある? 貴女も良かったら、鯨肉(と釣れてたらお魚も)食べていかない?」
食べるなら私が「料理」の腕を振るうわ。

アレンジアドリブ大歓迎


青和・イチ
さて、お鯨様も、帰った事だし…、……腹減った。
くろ丸、どこかで何か、食べよ。

あ、すみません、そこの人…
この辺で、美味しいお茶と…餅か、団子のある店、ありませんか。
疲れには、甘味が一番。好物の餅があれば…更に最高。

店が見つかったら、多めに購入して、湖の見える辺りで食べよう。
ピクニックみたいで、良い気分。
町の人も、猟兵の皆も、なんか楽しそうで…こういうの、いいね。
…あ、これ美味い。(もぐもぐ)
くろ丸、ゆっくり食べなよ。
喉、詰まるよ。

…お腹いっぱいが、眠くなるのは…必定。
……くろ丸、ちょっと寝よう…
(その辺の草の上に二人で寝転がる)
んー…サムライエンパイア、来て良かった…

【WIZ 瞑想(?)】


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と
*可能なら、ニコリネさんと、他の方とも一緒に!

ね、姫ちゃん、釣りしよー、釣り!
私、こないだも釣りしたから、ちょっとは初心者脱してると思うんだよねー!

とはいえそんなに詳しくはないから、
釣りのプロな舟屋の皆さんに初心者でも釣れそうな場所は聞いておきたいかな
場所を聞いたら実践あるのみ、だよー♪
(餌の虫餌にも怖がることもなくウキウキと餌をつけて釣り糸を垂れ)

ニコリネさんも良かったら一緒にー!
釣れなくても、糸を垂れて待つ間の時間とかさ、すごくいいよね♪

あ、ほら、姫ちゃん糸引いてるよ?
釣れたかも?

って、だいじょーぶだよ、慌てずに!
ほら、良い感じ!

この調子で大物も頑張っちゃおうか♪


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

*可能なら、ニコリネさんや、他の方とも
*アドリブ大歓迎

(葵桜の用意する釣り道具を興味津々に眺めていたが)

釣り糸…え、虫?これ?
(虫餌をつけるのに思わずビビり、葵桜につけてもらったり、手伝ってもらい)

ううう、あおのこういうところ、ある意味尊敬するわ…
(びくびくしつつも、釣り糸垂れれば息をつき)

ニコリネさんや皆は、こういうの平気なの?

え、釣り糸引いてる?
ど、どうやって釣り上げるの?
(半パニックになるも、手伝ってもらって釣れた魚を見れば、わ、と)

なんだかんだで釣れるものなのね
ちょっと、大物ってそんな簡単に釣れるわけ…って、

べ、べつにひるんでるわけじゃないんだから
次、頑張るわよっ




 請けた依頼を終えれば留まる理由も無いが、別世界に赴く機会もそう多くは無い。
 不揃いであるが故に自然を醸し出す、奥ゆかしい石畳を歩いていたヨハン(f05367)は、其を踏む草鞋の独特な跫音を耳に拾いつつ、喧騒に言を融かす。
「自分を知る人の居ない場所は居心地がいいし、和の空気を味わっていくのも良いかな」
 語らずとも歴史の重みを感じられる街並みが佳い、と軒を連ねる建屋を眺めていた折、人波より見知った顔、相識のサリカ(f01259)の姿を見つけ、不意に瞳を逸らす。
 蓋し彼女もまた此方に気付いて、
「……おや。あそこにいるのはヨハンですね」
 留まる理由は雲散鳥没と消え去った、と踵を返すも、その足は聞き慣れた佳声が引き留めた。
「相変わらず陰気臭い顔ですね、ヨハン。あなたも同じ依頼を請けていたとは」
「――陰気臭いとは随分だな」
 嗚呼、振り返ってしまう。
「まさか鯨狩を共に……戦闘中は敵への対処に必死で気がつきませんでした」
「少なくとも俺はあんたがいる事には気付いてましたよ」
「そうでしたか。何せ視界が鯨で一杯になっていましたから」
「…………慥かにあれは規格外の大きさでしたが」
 サリカの言に反応しただけでなく、道端で世間話に応じた自分はとんだお人好しだと呪いつつ、振り切る事も出来ぬ彼は、それからすっかり彼女のペースに乗せられてしまう。
「ここで会ったのも何かの縁です、魚でも食べていきませんか。琵琶湖で取れるアユは小振りながら絶品だそうですよ」
「……アユか」
 断る理由を探すより空腹が身を乗り出す。
 サリカが厖大な電力を消費したように、夥しい魔力を放出したヨハンは、眼前の金瞳に素っ気ない「是」を返して、
「特別好きでもないですけど、小腹も空いたところだ。付き合いましょう」
 と、己が足の赴く先を彼女に委ねた。
「……腹減った」
 活気を取り戻した宿場町に、ほつり、声を置いたのはイチ(f05526)。
「一段落した事だし……、くろ丸、どこかで何か、食べよ」
「おんっ」
 共に空腹を訴えた一人と一匹は、片や藍瞳を店々の看板に注ぎ、片や聡い鼻頭で薫香を探って歩き出す。
 初めての土地で名店に巡り逢うには先達が必要だろう。
 暫し人波を縫ったイチは、擦れ違いざま酒屋の丁稚と思しき少年に声を掛け、
「あ、すみません、そこの人……」
「おわっ! なんスか、その天下自在符……まさか猟兵、兄貴は猟兵ッスね!」
 見れば配達の途中――彼なら周辺の店事情にも詳しいかと、空きっ腹を宥めていた手は眼鏡を持ち上げ、丁寧に問う。
「この辺で、美味しいお茶と……餅か、団子のある店、ありませんか」
 すると丁稚も丁寧に丸眼鏡に指を添えて、
「猟兵の兄貴は甘味処を探していると……分かったッス! 自分についてきて欲しいッス」
 良い案内役に出会ったイチとくろ丸は、駆け出す少年に慌ててついて行った。
「そろそろ時期的に梅が咲く頃かなぁ~って」
 と、柔かな金瞳を草津の宿場町に巡らせるはピオニー(f07501)。
 薄花桜に染まる艶髪を梳る風は未だ凛烈とはいえ、春へと向かう微香を慥かに嗅ぎ取った佳人は、その馨の主を探さんと琵琶湖周辺を散策する。
「お醤油とお味噌の美味しい香りが漂う中、梅の馨に気付くなんて」
「無意識に嗅ぎ分けたみたい……」
 元より嗅覚は優れているが、そのアンテナは花に対する愛と好奇心が更に磨きを掛けて。
 隣を歩くニコリネと二人、宿場町で饅頭やら煎餅やら手頃な食べ物を買ったピオニーは、「花の兄」とも言われる梅を見るべく、軽やかに靴音を鳴らす。
「梅が咲き始めて、これから温かくなるにつれ色々な花が咲いていくのが楽しみ!」
「えぇ。遠く感じられる春も、着実に来ている事を教えてくれるような――梅ならではの魅力があるわよねぇ」
 薬草の栽培から園芸趣味を開花させたピオニーと、花屋を営むニコリネ。
 道楽で花を楽しんでいる程度の広く浅い知識とピオニーは言うが、小さな命を育む日々を送る者同士、道中は花談義に色付き華やぐ。
 話を弾ませ歩くこと幾許、軈て二人は春告ぐ花がささやかに咲く姿を見つけ、瞳を細める。
 決して主張しない、然しそれでいて慥かな存在感を匂わせる馨は慎ましく、芳しく――、
「まだ寒さが残る今は蕾の方が多いけど、うん、咲いてる……!」
「満開の華やかさも良いけど、蕾もね、これから咲くぞっ! て感じで、ぷっくりして可愛い」
 うんうん、と首肯を重ねるニコリネに、ピオニーも艶笑を深める。
 桜唇のほとりには、命の芽吹きを慈しむ優しさがあって、
「内に秘めた力強い生命の息吹みたいなものが感じられて好きなのよ」
「……私も」
 こっくり頷くニコリネは、然し梅を見るより麗人の咲みに共感を寄せる。
 彼女はそっと口角を持ち上げ、
「紅梅は『優美』、白梅は『気品』――梅が満開になったら、紅白兼ね揃えたピオニーさんに、アレンジをお渡しします」
 きっと似合うわ、と微笑んだ。

 ――真帆引きて 矢橋に帰る船は今 打出の浜を あとの追風。
 嘗て「近つ淡海(あふみ)」と呼ばれた琵琶湖は、古今の歌人が感嘆を詠み、人々は謡曲に歴史の哀愁を歌ったが、其の景勝は昔人が眺めたものと変わらぬか――景正(f02972)は眼前の絶景に悠久の時を感じ得る。
 濡羽色の艶髪を湖風に泳がせた冷艶は、花唇のほとりに咲みを浮かべ、歎美を零す。
「実に上首尾。やはり、琵琶湖は鏡のように静謐であるのが美しい」
 今、景正の艶姿を映すは湖面。
 彼は帆を上げて発つ舟の一艘に頼み、草津の殷賑を離れ北の堅田に船首を向けている。
 波穏やかなれば船頭との会話も滑るように、
「それにしても東国で育った身には、これほど大きな湖は始めて目にします」
「湖(うみ)より眺める比良山も佳うござんしょう」
「自然が優しく見えるのも、潤沢なる水の恵みがあるからか、王都の土に近いからか――」
「ご公儀の安泰、太平の世にありてこそ景色も恵みと愛でられましょうが、今ァあっし等が恩義を感じているのは猟兵さま方でさ」
 嫣然と笑声を波間に置いて辿り着くは、湖上に突き出た仏堂。
 船頭が指に示す先、枯淡ある風姿に景正は嘆声をひとつ、
「此処な古刹に、浮御堂なる名所があると聞き及びまして。近江國を訪れた時分には是非に拝観しようと心に決めていたのです」
「成る程、阿弥陀仏様にお呼ばれになったと」
 徐ろに腰を上げた景正が仰ぐは、近江八景『堅田の落雁』と名高い満月寺浮御堂。
 明鏡止水の湖中より眺む佳絶の景は、心を水の如く澄ませ、雑念は清風に運ばれ往く事だろう。
「琵琶湖の浩然たる気、我が武道にひとつの境地として取り入れられれば、磨きが掛けられるやも知れませぬ」
 彼は暫し瞑想に耽り、時の流れる儘に身を任せた。

「ね、姫ちゃん、釣りしよー、釣り! ニコリネさんも良かったら一緒に!」
「つ、釣り……?」
「ええ、是非ご一緒しましょう!」
 思うに葵桜(f06218)は押しが強いというか、一向(ひたぶる)な所がある、と――繋いだ手をグイグイ引っ張られた姫桜(f04489)の溜息は、或いは彼女の積極性や行動力に対する羨望だったかもしれない。
 逆手を繋いだニコリネは好奇心の塊か、葵桜とすっかり同調して、
「釣れなくても、糸を垂れて待つ間の時間とかさ、すごくいいよね♪」
「ふふ、太公望の心境になれるかもしれないわねぇ」
 琵琶湖の魚の生態や釣りスポットに詳しい舟屋の者達より情報を聞き出した彼女達は、初心者にも釣りやすい魚や手法を教わり、いざ、魚釣りに挑む。
「私、こないだも釣りしたから、ちょっとは初心者脱してると思うんだよねー!」
 いける、と拳を握り込める葵桜。
 その自信は何処から……と姫桜が問う間もない。
 葵桜は魚の餌となる虫餌にも怖がることなく繊指に摘み、ウキウキと釣り針につけて着々準備を整えていく。
「はい、姫ちゃんも♪」
「餌を釣り針に……え、虫? これ?」
 うねうねと蠢く見た事のない物体にビビッたのは姫桜。
 彼女が手を拱く間に、葵桜はこれらを手際よくつけてやって、
「そう。こうやって……こう、美味しそうに……」
「……ううう、あおのこういうところ、ある意味尊敬するわ……」
 肝が据わっているのか、度胸があるのか――いや多分に意欲が勝るのだろうと、釣り糸が湖面に垂れた時には姫桜も息をひとつ、考えを巡らせられるようになる。
 ニコリネはどうだろう。
 グロテスクな虫餌を嬉々と摘んで釣り針に刺す――彼女も幾分か葵桜寄りか、いや、
「エビで鯛を釣るって、商売人の目標よねぇ」
「瞳が小判に……」
 なんと、がめつい。
 彼女の場合は商売人気質が然うさせている様だ。
「あ、ほら、姫ちゃん糸引いてるよ? 釣れたかも?」
「えっあっ」
 姫桜が各々の人間像にツッコミを入れる暇なく、虫餌は好機を呼び寄せるか。
 ハッと竿を見れば微かに、いや確かな手応えが五感を鋭くさせ、
「え、釣り糸引いてる? ど、どうやって釣り上げるの?」
「だいじょーぶだよ、慌てずに!」
「わ、わ……」
「ほら、良い感じ!」
 湖面から魚の顔が出て、尾鰭で飛沫を弾き、次の瞬間には身ごと宙を躍る――何とも言い得ぬ格別が姫桜の胸を満たし、また駆り立てる。
 葵桜の手を重ねて振り上げた竿、糸に繋がれた先には魚がぴちぴち、陽光を鱗に弾いて輝く。
 これにはニコリネも声を弾ませ桶を差し出し、
「姫桜ちゃん、葵桜ちゃん、すごい!! 釣ったどー! って叫んで良い?」
「…………釣、れた」
「釣ったどー!」
「釣ったどー!!」
 この感覚。この昂揚。
 釣りとは長閑な趣味と思っていたが、一匹を釣り上げる瞬間の感動は他になく、姫桜は少し、ほんの少しだけ太公望に歩み寄る。
「なんだかんだで釣れるものなのね……」
 吃驚だけは正直に吐露すれば、葵桜は花脣のほとりに柔かな咲みを湛えて言を足し、
「この調子で大物も頑張っちゃおうか♪」
「ちょっと、大物ってそんな簡単に釣れるわけ……って、べ、別にひるんでるわけじゃないんだから。次、頑張るわよっ」
 愛らしく細む藍瞳よりパッと視線を逸らした金瞳は、次の瞬間には凛々しく湖面を見つめ、水中に隠れる大物らに宣戦布告の視線を射る。
 その分かり易いツンデレぶりに、葵桜とニコリネは「可愛いなぁ」と笑い合ったのだった。
「釣れたら教えてください」
 畢竟、「釣れたら」とは、釣れる迄は語らなくて良いということ。
 分厚い本を繊指に捲り、藍瞳に文字を追うヨハンは、視界の端に釣りに挑むサリカを辛うじて映しつつ、ゆっくりと流れる時を同じくする。
「借り物の釣り竿ですが、きっと現地のものにこそ掛るでしょう」
 小さな木の椅子に腰掛けたサリカもまた彼を話し相手には期待せず、ぼんやりと湖面を眺めながら引きを待つ。
「俺は釣りなんてした事ないので手伝いませんよ」
 そう念を置いたヨハンは、音を拾って隣人の釣果を知る。
 波の音以外は静かな湖岸に、サリカは時折ピチピチと活きの良い魚の跳ね音を連れて、一匹、また一匹と食材を増やしていく。
 お互い干渉する事なく、時と空間を同じくする静粛。
「まぁ……居心地は悪くない」
 この距離感が良かったのだろう、ヨハンがそう思うに至った頃には、サリカは一杯の魚を釣って調理の準備を始めていた。
「釣れたアユは塩焼きや天麩羅にして食べましょう」
 特に手の込んだ仕込みや味付けはないが、これが中々の美味。
 本当に旨いものには言葉を忘れると言うが、サリカとヨハンもまた多くを語らず、素材の味を噛み締めるように、黙々ともぐもぐタイムを堪能した。
 手際良く片付けを済ませたサリカが満腹と満足に幾許も元気を取り戻せば、ヨハンも慰労は十分と漸う腰を持ち上げ、
「さて、帰りましょうか」
「……まったく、想定外の長居だったよ」
 何処までも平行線な二人は、然し絶妙な距離感を以て英気を養ったようだった。
「――このくらいかしら」
 扨て巨鯨の解体を首尾良く終えたつかさ(f02032)は、『ご自宅用』として包んだ結構な量の鯨肉を舟屋の女将に預けると、その食指を再び琵琶湖へと伸ばす。
「次はお魚ね」
 鯨は哺乳類。
 魚類は別腹と湖畔の釣具屋で竿を借りた凄艶は、地元の太公望より適所を聞いて釣り糸を垂らし始める。
「釣りは忍耐力勝負。つまりは精神修練、ひいては武道に通じるものもあるわ」
 いざ、勝負――!
 佳顔は凜然、繊手は一切の雑念を取り払い、静かに糸の揺れを待つ、待つ、待つ――。
「――……」
 然し如何した事だろう。
 釣り針に殺気でも漲っていたか、或いは食欲だけは知れてしまったか、此度の釣果はいまひとつ――燃費の悪いPOW系女子を満足させる量には届かない。
 蓋しつかさにとっては腹三分でも、ニコリネにとっては十分な量であったに違いなく、
「お疲れ様。エンパイアの雰囲気はどう?」
「つかささん! その魚の量……!」
「ええ、さっきまで釣りをしてて。戦果は……あまり良くなかったわね」
 まだまだ精神の鍛錬が足りないと嘆息するつかさ。
 そんな彼女が釣りの技能を高めたなら、琵琶湖の生態系はきっと狂うに違いなく――密かにニコリネは安堵する。
 そっと胸を撫で下ろした彼女の胸奥は知らず、つかさは佳声の末尾を持ち上げ、
「ところでこの後時間ある? 貴女も良かったら、鯨肉とお魚を食べていかない? 私が料理の腕を振るうわよ」
「食べます!」
 直ぐにも返事が被さるのは、彼女の包丁捌きを知っているからだろう。
 友の二つ返事を聞いたつかさは、釣った魚を籠二つ、両手に軽々と抱えて舟屋へと戻る。
 彼女の後を追う跫音も自然と弾んで、
「サムライエンパイアだもの、やっぱりお刺身が食べたいなぁ」
「任せて」
 それから「ニコリネが5kg太った」「顎のラインが緩んだ」とつかさが聞いたのは、三日後の事だった――。
「疲れには、甘味が一番。好物の餅があれば……更に最高」
「わふ!」
 甘味処で茶と団子を、それから手土産に大福と、餅を多めに買ったイチがくろ丸を連れて向かったのは、湖の見える小高い丘。
 ピクニック気分で笹の包みを解いた彼は、街道を往く旅人や釣りに勤しむ猟兵を眺め、
「なんか、こういうの……いいね、……あ、これ美味い」
「おんっ」
「くろ丸、ゆっくり食べなよ。喉、詰まるよ」
「おふっ」
 食べ急ぐ相棒の背中を撫でながら、もぐもぐタイムを楽しむ。
 斯くして腹が満たされれば、長閑な時の流れが眠気を誘おう。
「……くろ丸、ちょっと寝よう……」
 イチは太陽の匂いのする草の上に転がり、相棒を傍らに空を見る。
 和やかな湖風に黒髪の毛先を遊ばせた彼は、己が故郷と変わらぬ空の色を仰ぐと、そっと声を置き、
「んー……サムライエンパイア、来て良かった……」
 その声にヒクリ耳を動かしたくろ丸は、頷く様に瞼を閉じた。

 斯くして東海道の宿場町・草津を襲ったオブリビオンを悉く打ち破った猟兵らは、其々の時間を十分に堪能してから帰路に着く。
 脅威を退けた報酬は穏やかなる波の他は佳景と美味であったろうか、サムライエンパイアならではの恩恵に預った彼等は、平穏のみを残して去る。
 その潔さに、彼等の出立を見送る人々は尽きぬ感謝を注いでいたという――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月19日


挿絵イラスト