誰しも将来は不安だから
#シルバーレイン
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●流行りの占い師
きっかけは偶然だった。そう、ちょっとした不安。例えば、『テストの結果がどうだっただろう』や、『このまま今の仕事を続けていいのだろうか』であったり。
未来なんて誰もが分からない。
分からないからこそ、その未来から来るちょっとした『不安』を解消するために、最近流行の占い師にだって相談するのだ。
その占い師の正体が、『不吉な占いの結果を伝える事で不安を増大させ、自分の占いに頼らないと生きていけない程に依存させようとするリリス化オブリビオンである』なんて事を知らずに。
●不安なんてぶっ飛ばせ!
「占いなぞ、当たるも八卦当たらぬも八卦とはいうが、それにしたって不安をあおるのは関心せんのぅ」
そう言って君達の前でココココと笑うのは、アイリ・ガング―ルだ。
「さて、お主ら。今回はリリス化オブリビオンを討伐してほしい。相手は、『占いの結果を過剰に不安を抱かせるものにすることで、日常のちょっとした不安を大げさなものに感じさせて、動揺した心の隙をついて支配したい』という欲望を持ってるみたいじゃな」
だからこそ街中で『流行の占い師がいる』という噂を流して、日常や将来に対する不安を抱いている者を釣りだしているという訳だ。
「まずお主らは『日常や将来に不安を抱いている者』という事で、この占い師に接触してほしい。ああ、この占い師自体はオブリビオンの分身みたいなものじゃから、此処で取り押さえても意味はない。そこでお主らは、『自身の感じている不安』を相談してほしい。どんなものでもいい。些細な事でもいい。相手が勝手にそれを拡大解釈してくれるからのぅ」
「とはいえ、『嘘はだめ』じゃ。欲望故か、まがい物の不安に対して、相手は敏感じゃからのぅ」
「そうして不安を語ったら、占い師はそれを拡大解釈して、こちらの不安を煽るような事を言ってくる。そうしたらそれに乗ってやるんじゃ。そうしたら、『その不安を解消するセミナーがありますよ』と誘ってくる。そこが、リリス化オブリビオンの本拠地という訳じゃな。お主らはそこに向かってくれ」
「本拠地は、『お主らが語った不安を大げさにした未来を疑似的に体験させる特殊空間』となっておる。例えば、『テストの結果が不安』という話をしたなら、『テストの結果は最悪。赤点。教師や親からも責められ、更に補習。そこでもうまくいかず、ゆくゆくは受験に失敗して何浪する事になる』といった風にのう。そこで不安に惑わされては、この特殊空間に囚われてオブリビオンの支配下になってしまう。ゆめゆめ、心を強く持つのじゃ」
「そうしてその特殊空間を抜ければ、そこにはリリス化オブリビオン、『ナミダ』がいる。本来であれば特殊空間で体験した出来事に対する不安でいっぱいいっぱいになった一般人へと優しい言葉をかけて支配する訳じゃが、お主らはここでこやつを倒すわけじゃな」
「リリス化オブリビオンとしての性かのぅ。『こちらから攻撃する前なら、不安に駆られて怯える者のふりをすれば、相手は油断する』みたいじゃから、利用するといいよ」
「今回の依頼、不安を煽ってくる訳じゃから、何にせよ心を強く持つ事じゃ。吉報、期待しているよ」
みども
という訳でよろしくお願いします。3章構成です。
1章は、占い師に不安を相談するシーンになります。日常の不安でも将来の不安でも深刻な不安でもなんでもいいです。不安を吐露してみましょう。相手がそれを大げさに解釈するので、それに対するリアクションをして相手を乗せて、本拠地への道を開きましょう。
2章は語った不安を元にしてその不安を大げさに煽るような幻想を疑似体験させられるので、それにどうにか耐えましょう。どんな幻想か、どう耐えるか。プレイングお待ちしてます。2章からも歓迎です。
3章はオブリビオン戦。上に書いたとおりに隙をつくことも出来るので、上手く利用しましょう。
他、細くすることがあれば随時自己紹介に書きますので、そちらもご確認ください。よろしくお願いします。
第1章 日常
『流行りの占い』
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POW : 自分が望む結果を強引に引き寄せる
SPD : 科学的に占いの真偽を考察する
WIZ : 占いは占いとして純粋に楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
満月・双葉
アホ毛が僕の意思に反して動くんです
何かの呪いでしょうか…
ものすごくどんよりした雰囲気を醸し出して占い師の対峙し、訳の分からない相談をする
まぁ、表情は死んでいても僕の感情が生きている証拠なんで気にしてないんですけど、さも気にしている風(しかも怯えている)を装うのは得意です
というかこれでどんな幻想が現れるのか楽しみですね…
というワクワク感がアホ毛に現れてびょんびょん跳ねているので更に怯えておく
助けてください!悪魔かなにかが取り付いたんでしょうか?!
…こんな相談受けたことあんのかな、こいつ
お手並み拝見といきましょう
(上手い煽り具合には素直に感心して今後に生かそうと勉強する心算)
「アホ毛が……僕の意志に反して動くんです」
完全に無表情ながら、ドンヨリと沈んだ雰囲気を全身に纏わせながら、満月・双葉は占い師にそのように切り出した。
なるほど、確かに。金のからその毛先へと流れるに従って虹色を帯びてゆく不思議な色をした髪、その頭頂部に一本ぴょんと生えたアホ毛。それがまるで感情を持ってるかのようにピコピコと動いている。
なんとも気の抜ける光景ではあるが、もし仮に双葉が『一般人』であるならば、不安で仕方なくなるのも事実であろう。
何せ髪は、アホ毛は普通、このようにぴょこぴょこ動くことはない。
(まぁ、僕の感情が生きている証拠なんで気にしてないんですけど)
そもそも表情筋が死んでいる双葉にとって、このアホ毛こそが感情表現の手段であった。
だからこそ、
(こんな『不安』を吐露して、どんな幻想が現れるのか楽しみですね)
アホ毛が激しくぴょんぴょん揺れるのは、不安よりも怖いモノ見たさに対する期待であった。
満月・双葉は『装う』のが得意で、だからこそ
「助けてください!悪魔か何かがとりついたんでしょうか!?」
無表情ながらも心の底から怯え、心配するかのような少女の声が口から飛び出した。
そして、その眼前に立つ『占い師』は不安に対する嗅覚だけは人一倍だった。すなわち、『不安に対する嘘』は駄目。
そしてそうであるがゆえに、
「はい……その通りでございます」
占い師は、言い切った。
「へぇ……」
その断言に、双葉の心の中でどこか、不敵な笑みが浮かぶ。
「僕が、悪魔に取りつかれている、と?」
「その通りでございます。いえ……むしろ、貴方様自身が悪魔かもしれないと恐れているのではございませんか?」
(コイツ失礼だな)
いくら何でも客を悪魔呼ばわりはどうなのだろうか?
とはいえ、
(悪魔……ね)
思い当る節がないわけではない。少なくとも自分は己の姉の命の上に立っている。そういう意味では、確かに、誰かの命を盾にして生き残った悪魔と言えるかもしれない。心の深い場所にあった瘡蓋を掻かれるような感覚。
ともかく、
(こんな相談受けた事があんのかな、とも思ったけど、案外動揺もなく切り返すじゃん)
そこは関心すべきところでもあった。
「やっぱり……そうですよね、普通アホ毛が動く事なんてないですもんね……やっぱり僕、おかしいんでしょうか」
「おっしゃる通りでございます」
そのまま占い師が双葉の瞳をじっと見つめて、
「己の意に介さず体の一部が超常的に動くのは、恐ろしい悪魔の力の証。ゆくゆくは、貴方様の大事な方々にも、貴方のせいで害が及ぶかもしれない。それを、心配なさっているのでしょう?ですがご安心くださいませ。そう言った力に詳しい私の師匠がおります。こちらの地図に書かれた館までお越しください。そうすれば、きっとあなたの悩みも、晴れましょう……」
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
アドリブ歓迎
WIZ判定
幸いにも
給料面と職場の人間関係は良好なので
それ以外の仕事の愚痴を
ここぞとばかりにブチ撒けましょう
一応UDC組織の名前は出さず
普通の企業勤めを装います
やれ外回りが忙しくて
昼食を取る時間も無いだとか
拘束時間が長すぎるだとか
休日返上もザラだとか
思いつく限りの不満点を
あげつらいます
このままボロ雑巾の如く使い捨てられる前に
転職した方がいいのか
残るべきなのか
相談しましょう
だんだんと
自分がとんでもないブラック企業に勤めてる気分になるかもしれませんが
私とて一応猟兵のはしくれたる自負があります
生半可な覚悟じゃエージェントは務まりませんよ
そんな空元気じみた使命感で
持ち堪え、られたらいいな…
「仕事が……辛いんです」
タイトスカートに白いシャツにジャケット。さらには外ハネの目立つボブカット。
そこに加えてどこか虚ろな瞳とくれば、明らかにブラック企業で働き詰めで心をすり減らしたOLそのものといった風情の黒江・式子は、まさにブラック企業に働き詰めのOLそのものな愚痴をぶちまけた。
「たしかに、たしかに給与面で不満はありませんし、職場の人間関係も良好です。けど、けれど…‥‥外回りが忙しくて、昼食をとる時間も無くて、拘束時間だって長いんです!それどころか休日返上もザラ!!!」
言っていて、内心で正直泣きたくなってくる気持ちもあった。
無邪気にヒーローに憧れた過去も遠い昔。自分が持ち合わせたのは結局情報操作に隠蔽工作に適した能力であった。
つい最近だって己の攻撃能力の不足に不満を持ったり、幸せを見せるなと怒る少女の嘆きの叫びに、心がわずかにぐらついた事だってある。
それでも、と『諦めて』、感情を押し殺して少女地獄を撃破したのだ。
とはいえ、
(うう……普通の企業勤めを装って普段の愚痴をぶちまけていますが、これはやっぱり自分、とんでもないブラック企業に勤めていませんか?)
占い師は今までも『餌』として「こういった客」の話は聞いていたのだろう。表面上は親身に、式子の話をうんうんと聞いてくれている。だからこそなのだろう。
心の底にため込んだものはスルスルと出ていった。
一息に不満を吐き出しきってから、僅かな沈黙。式子の荒い息のみが空間を支配していた。
ややあって、
「やっぱり、このままボロ雑巾の如く使い捨てられる前に、転職した方がいいのでしょうか……!」
「ええ、その通りですよ、式子さん。私も、占い師としてそういった相談を多く受けてきました。だからこそ断言します。……貴方、このままだと使い潰されて死にますよ!!」
(やはり来ましたか……!)
もとより相手の狙いはそれなのだ。だからといって確信を抱いた瞳でそう断言されると、なるほど。一般人なら気圧されるだろう。
(そもそも、このお仕事自体が死と隣り合わせですから……!)
それでもなお、今この場所に居るのは、偏に猟兵のはしくれたる自負の為。生半可な覚悟では務まらない。
「幸いといってはなんですが、そういった方向けのセミナーとの関りもあります。丁度すぐ近くでそのセミナーがやっているので参加されてはどうでしょう?大丈夫。私の紹介と言えば無料で入れますから。まずは参加してみて……ね?」
(ああ、とはいえ表面上とはいえ親身にされるのはこう、心にキますね。しかもここから幻覚が襲ってくる。持ち堪え、られたらいいなぁ……)
頑張れ!空元気じみた使命感……!
大成功
🔵🔵🔵
神元・眞白
【WIZ/割と自由に】
占い、ですか。体験する機会もなかったのでこの機会に受けてみましょう。
結果が良くても悪くても受け取り方はその人次第。
結果を誇張していても今回のことは間違ってはいないのでしょう。
さて。分かっているなら手段はいくらでも。人とは違ったやり方で。
相談することは「感情が表に出にくい」ことを。
初対面の方には誤解されてしまうことがしばしば。
思っていても表現することは難しいものですね。
ということを演技を織り交ぜてやってみましょう。
話すことと、思考を進めることは別にしても大丈夫ですから。
表情を変えていくことの訓練にもなるので一石二鳥、ですね。
「占い……ですか」
占い師の前にちょこんと座って、神元・眞白はポツリと呟いた。
「占いは初めてですか、お嬢さん?」
そういって人の好い笑みを浮かべる占い師の老婆に対して、コクリと一つ、頷く。
「ええ、初めてです」
ある種オカルト的な存在である眞白にとっても、だからこそだろうか。こういった占いを受けるというのは初めてだった。
そもそもである、
(当たらぬも八卦。当たるも八卦とは言いますし)
良くも悪くも受け取り方はその人次第。
とはいえ今回の相手は、それをあえて悪化させたような言い方をしてくる訳だが。
(それでも、齎された結果には意味があるでしょう)
『人とは違う』からこそ。『人とは違うやり方』で。それを見極めようとジッと占い師の瞳を見つめながら。
「感情が……」
「はい」
「感情が、出にくいんです」
なるほど、確かに。まるで人形のように美しい少女の表情は、まさに人形のように静かなモノであった。
美し声にも抑揚はなく、たしかに座っているその立ち振る舞いも人形さながら。
「それで、初対面の人に誤解されてしまう事もしばしばで、思っていても、表現する事は難しいですね」
「そう、それは、大変でしたね」
まるで労わるように占い師が眞白の手を取って。
それに対して、僅かに眉根を寄せて、苦労しましたよ、とう雰囲気を出す。精いっぱいの眞白の『演技』だ。
表に出しているモノと、別の事を脳内で並行的に施行する事は戦術器として得意だが、それでもなおやはり表情を変えるというのは難しいもので。
(一石二鳥、ですね)
表情を変えていくことの訓練にもなる。困りましたよ、という風に僅かながら眉根を一生懸命よせて、訥々と今まで誤解を受けた偽りの経験を語ってゆく。
その経験自体が嘘とはいえ、悩みや不安は真のもの。だからこそ占い師もまた、頷いて聞き役に回っていた。
「つまり貴方は、その感情を上手く表現できない事で周囲との軋轢が出来るのが不安なのね?それで自分はいつか孤独になってしまうのではないか、と」
「はい」
そう、なのだろうかとは思う。今、自分の周りには多くの人が居る。けれど、確かにその不安はあるのかもしれない。元より、己の故郷と今このようにして繋がっているのだから。郷愁というか、どうしても『かつての事』が思い出されてアンニュイになっているのかもしれなかった。
「たしかに、私もこうして占い師として色々な人と交流を持ってきたけど、そうやって孤独に沈んでくる人はよく見てきました。だからこそ、良かったわ」
「何が、でしょう?」
「こうして私の手を拒まない事です。本当に救いようのない、孤独に陥ろうとしている人は、こうやって触れ合おうとする事すら拒むのだから。危ない所でした。こうやって私の手を取れるなら、まだきっと大丈夫。けれどこのままだといつ本当に孤独になるかどうか」
「だから、この場所に来てほしいのです。心配しないでいいわ。簡単なセミナーよ。そういった悩みを持つ人々が集う……ね?そこで一緒に悩みを解消しましょう。だからほら、是非行ってくださいな。本当に孤独には、なりたくないでしょう?」
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
こういうことをすると、内部の三人にも聞かれますが。今回はむしろ聞いて欲しいのですよ
いつまで(戦)友四人でいられるのか
毎晩、悪夢を見るのです。夢の中で壊すのは私。ええ、ある一人(第一『疾き者』)を独占したいがために
この独占欲を、どうすればいいのか…
いえ、その…他二人を手にかけるとか…いえ…
それに、その一人を閉じ込めるなどとは…
三人(何かに執着とか珍しいことだと思ったら、とんでもないこと言い出した)
※元が戦国末期生まれ。今の状態(複合型悪霊)の基礎を作り出したのが『静かなる者』
今の外見は『疾き者』です
「それで、貴方の悩みや不安は何かしら?」
柔和な笑みを浮かべる占い師の前にて、これもまた柔和な笑みを浮かべるは、初老というにはまだ若い。而して壮年を過ぎ去ったばかりか、という面持ちの男性。
見た目の年嵩にしては髪に入ったメッシュが中々『攻めている』という印象と『若いな』という両の印象を与える男、馬県・義透もまた、占い師と同じように柔和な笑みを浮かべた。
「不安、なのです。いつまで、友と共に居られるかという事が」
「それはまた、何故?」
聞き返してくる占い師の言葉にさらに深い笑みを浮かべるのは、義徹の中の『第二』。『静かなる者』霊力使いの武士、生前の名で呼ぶなら『梓奥武・孝透』であった。
己の裡で、他の三つの霊魂が、騒がしくなるのを感じる。そう、元よりこの身は4つの霊が交わった複合型悪霊。
なればこそ、むしろ分かちがたく。
だからこそ、
(これは、私の中の『鬼』といえるのでしょうか)
義透の笑みは深くなる。かつての戦争で、心より慕う存在が、世界を救うために鬼を晒したのとはまた違う。ごくごく、個人的なエゴ。
けれど、知ってほしかった。
だからこそ、語る。
「毎晩、悪夢を見るのです。ごくごく近しい友が、私には3人おります。その内二人を、壊してしまうのです。友のうち、ただ一人を独占したいがために」
そうして思い起こすのは、戦争で己が鬼を晒してくれた、『彼』。
慕っていたのだ。生前、齢九つの頃から。八つも年の離れていた彼に。
それは既に色褪せたはずの初恋。けれどこうして『一つ』になり、戦いを経る中で再び湧き上がったそれ。
もとより、この『四人で一人』という状況を生み出すきっかけが、孝透であることを考えれば、その独占欲もまた、当然の事であったのかもしれない。
「他の2人を手にかけて、慕う一人を閉じ込めてしまう……そんな悪夢。悪夢であることは分かっているのです。ですが、夢に見るという事はきっと心のどこかでそれを望んでいるのかもしれない。元より、彼を一人ただこの手の裡に、という独占欲自体は、確かに、ある」
どうすればいいのでしょうか。いや、元よりこの独占欲が暴走してしまわないか、不安なのだ
(((とんでもないこと言い出した)))
奇しくも孝透以外の三者の霊の意見が一致した。かねてより冷静で、涼やかな雰囲気の男が、まさか執着などと言おうとは珍しい、といった所だがまさか、そうとは。
こういう機会でもなければ、言う事のなかったであろう内心を吐露して、どこか晴れやかに『馬県・義透』は占い師を見据えた。
「いつかこの独占欲が暴走しないか。私は、不安なのです」
「そうですか、それは。大変ね。確かにあなたのその心をそのままに押し殺して今のままの関係を続けていけば、きっとあなたは過ちを犯すわ。大きな、過ちよ。だから一回息抜きが必要だわ。ほら、すぐ近く、この場所に行ってみて。セミナーをやっているの。そこであなたの今までを振り返るといいわ。大丈夫。安心して。その不安も、きっと解消できるから」
大成功
🔵🔵🔵
玉響・悠
・WIZ
占いか!俺はええことしか信じへんけど、一回やってみよか!
こういうのは騙されたフリをするにしても、せぇへんとしても、ノリが大事や!
不安は「他の人に引かれへんか」やなぁ。
ほら、俺らモーラットってもともと人とベラベラ喋らんかったやん?それで喋りまくってドン引きされてたら悲しいなぁっていう。
俺の知り合いも、わざと相棒以外には「もきゅ」しか言わん奴もおるし。
(相手のとんでも解釈を聞いて)え、そうなんか!?……ま、まぁ占いなんて……そないなこと起こるわけ……なぁ、どないしたらええの、占い師はん?何かええ方法あったら教えてほしいんやけど。俺、周りの人らと楽しく喋りたいんや!
※占い師の解釈はお任せです
「占いか!俺はええことしか信じへんけど、一回やってみよか!」
それは、偽りであろうと占い師としての矜持ゆえか、はたまた世界結界によるものか、もしくは猟兵としての特性故か。
眼前に浮かぶ、『ふわふわもこもこ』した生き物に対して、今までの者達に対してと同じように、柔和な笑みを浮かべた。
「それで、どのようなお悩みでいらしたんですか?」
「そりゃもう!あれですやん!他の人に引かれてへんかなぁ……って!」
そうやって方言交じりの言葉で力説するのは、ふわふわモコモコした生き物、玉響・悠だ。
「ほら、俺らモーラッとってもともと人とぺらぺら喋らんかったやん?それでドン引きされたら悲しいなぁっていう」
こういうのはノリが大事や!とでも言わんばかりに、中々大げさな調子で己の悩みを吐露するふわふわとカワイイ生き物。
「実際俺の知り合いも、わざと相棒以外には『もきゅ』としか言わん奴もおるし」
「つまり、玉響さんは、その……種族柄あまりしゃべらない、コミュニケーションを取らない印象を与えてしまうけれど、その実おしゃべりが好きで、だからこそ、そのギャップにドン引かれないか気に掛けてる、ってことかしら?」
「そう!その通りやお姉さん!くぅ~~~ようわかってくれとるわ!!!ほんま、今日はここに相談しに来てよかったで!」
ノリがいいという事はノリやすいという事でもある。彼女こそが唯一の理解者!
とでも言うように、悠が心のそこから嬉しそうな声を上げた。
「たしかに、今のままでは貴方は孤立するでしょう」
「ほんまか!?」
「まずは貴方が仲良くなりたい人たちからはドン引かれ、そしてあなたの同胞からは、その他人とコミュニケーションを取りたいという活発さが浮く要因になり、遠ざけられる。いつかは、孤独になってしまうでしょう」
ガーンッ!と効果音でも付きそうなくらい落ち込む可愛い生き物。
「え!?そうなんか!?……ま、まぁ占いなんて……そないなこと起こる訳……」
スッと占い師を見れば、そこには深刻そうな顔で黙って悠をじっと見つめる顔。
「なぁ、どないしたらええの、占い師はん?何かええ方法あったら教えて欲しいんやけど!俺、周りの人らと楽しく人らと楽しく喋りたいんや!」
「でしたら、いい方法があります」
「ほんまか!?」
「はい。そうやってコミュニケーションに悩む人々が集うセミナーがあるんです。大丈夫。安心してください、ね?きっとそこであなたの不安は解消されますから……」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『特殊空間を攻略せよ』
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POW : 先頭を進み、仲間を守る
SPD : おかしな物品や文章が残されていないか探す
WIZ : 空間内の法則を調べ、それに従った行動を取る
イラスト:乙川
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒江・式子
連携アドリブ歓迎
UDC事件が起こる度に西へ東へ
時に異世界へさえ赴いては
職務に励んできました
いつか本当に殉職してしまうのでは?
その不安も確かに本物
それでも〝誰かの為に〟なれるのならばと
この仕事を選んだのは自分ですからね
(時に何かを諦めなければならないとしても、それでも)
実際の所
私が最も恐れているのは
〝翳喰らい〟に自分自身の心も喰い尽くされて
何も感じられない
抜け殻になってしまう事
それに比べれば
仕事の不満なんて瑣末事です
でも、良く言うでしょう
苦痛を感じるのは
心がまだ生きてる証拠だと
なら、きっと
このストレスだって必要な物です
(もちろん茨に喰わせるつもりもありません)
ですので、どうかお気遣いなく!
館の、扉を開ける。不思議と、館の内側には、何もなかった。
(さて、何が出るか……)
僅かな恐怖と緊張と不安を胸に、黒江・式子が前へと進めば、
(……あれ?)
そこには、昏い闇が広がるばかり。
(どういう……!?)
呟いた声が、出ない。いや、出せないのだ。
思わず周囲を見渡せば、当然の如くその違和感に気付く。
(体の感覚が、ない!?)
暗闇の中、己自身の体すら見えないのは当然として、手が本来己の体のある部位を触ろうとしても、すり抜けるばかり。いや、それどころか触覚すらもどこかあいまいだ。
その割には、暗闇の中、暖かい感触が体を覆って、だからこそ悟る。
(ああ、これはつまり。そういう事なんですね)
この空間総てがきっと、『翳喰らい』だ。
そう、きっと。この幻影は、『翳喰らいに自分自身の心が喰いつくされた状態』なのだろう。
なるほど、心が喰いつくされてしまえば、何も見れず、触れず、感じる事も出来まい。
きっと、この暖かい感触に身を任せれば、何時しか眠くなって、意識もまた、閉じていく。
(思ったより、平穏なんですね)
心が食らい尽くされるのであれば、もっとこう、激しく、恐ろしい状態を予想していたが、これは、予想外に心地がいい。
いや、
(そう、あくまでこれは幻影です)
だからこそ、もしかすると『不安が的中してしまった最悪の未来の中、それでもせめてこうあってほしい』という幻影なのかもしれない。
本当に心が食らいつくされてしまう時は、もっと寒々しくて、恐ろしいかもしれないのだ。
ともかくも、
(死を、恐れている、訳ではないのですね)
UDC事件が起こる度に西へ東へ。時に異世界へさえ赴いては職務に励んできた。
その中で殉職の恐怖がなかったわけではない。それを”誰かの為”と思い抑え込んできた。例えその中で、何かを諦め、何かを救う選択の辛さに心がすり減ったとしても。
そのうえで、自分が本当に不安に思っていたのは、
(〝翳喰らい〟に自分自身の心も喰い尽くされて、何も感じられない抜け殻になってしまう事……)
それは、心の死である。
フ、と心の中で笑う。そこに、殉職と何の違いがあるのだろう。
あるのだ。
結局の所、仕事の不満なんて些末時だ。
(”誰かの為に”死ぬならまだいい……)
自分の至らなさから何かを救うために何かを諦める事や、そもそものハードワークっぷりに苦痛を感じるのは当然だ。
それこそが、自分の心が生きている証拠だから。だったらそれすら必要なものの筈だ。なぜなら、
(”心が負けて死ぬ”のだけは、御免です……!)
「ですので、どうかお気遣いなく!!」
そうして光が視界を覆う。啓けた。そしてそこには扉がある。その先には今回の元凶がいるのだろう。
ならばと強い足取りで、扉を開いた。
大成功
🔵🔵🔵
玉響・悠
よっしゃ、上手いこと聞き出せたな!ほな物影に隠れてた相棒と合流して進むで!
何かけったいな物とかヒントが落ちてへんか2匹で見ながら行こか。あと、人とか見かけたら話しかけてみて、無視とかされたら罠やと考えて正気を保つで!
なあ、そこの兄ちゃん、ちょっと話が……え、キモい?
そこの同胞……待って、無視せんでくれ!
ちょ、空き缶投げんといて!ポイ捨てあかんで!
これ、分かっててもさすがに凹みそうや……ん?頭撫でるって、慰めてくれるんか彼方?ありがとうな。
お前の方が成長止まってちっこいのに、俺よりもずっと大人やな。
うん、せやな、俺には彼方がおるもんな!喋らんでも心は繋がっとるし、絶対孤独にはならんもんな!
「よっしゃ、上手いこと聞き出せたな!ほな相棒、いくで!」
ふわふわモコモコした生き物、モーラットの玉響・悠が、物陰に隠れていた相棒のモーラット、一回り小さい彼方と一緒に言われた場所にあった館の中へと入ってゆく。
「およ!?なんやここ!?」
そうして入れば眼前に広がるのは繁華街だ。たしかに、不安を幻影として見せるとは聞いたが、これは一体。
(あかん、ようわからんからって不安になっとったらそのまんま罠にかかってるのと同じやんか!)
「何かけったいなもんとか、ヒントやら落ちてへんか見ながら行こか。とりあえず情報収集もするで!無視とかされたらそんなん罠や!気にしたらあかんで!」
彼方に話かけながら、己もふわふわと周囲を探ってみる。
「あかん。やっぱりこれ普通の繁華街や。せや!なぁ、そこの兄ちゃん、ちょっと話が……え?」
ふわふわともこもこした生き物が、道行く人に声をかける。
話かけられたラフな格好をした青年が、その声に振り向くなり嫌悪感をあらわにした顔をして、
「キモ」
「は!?なんやて!?
悠が反応する前に、缶が投げられる。
「いた!?何すんねん!!」
こちらが反論の声を上げる前に、青年はどこかへ歩き去って行っていた。
「ほんま……なんやねん」
そしてそれからも、そんな状況は続いた。同胞に声をかければ無視され、道行く人には嫌悪感丸出しの対応を取られ、悠の体には、そこかしこに傷がついていた。
「うう……分かっててもこれ、さすがに凹みそうや」
そう。これは、幻覚なのだ。けれど分かっても辛いモノはやっぱり辛い。思わずしょげ込もうとする悠のその頭部を、撫でる尻尾があった。彼方である。
「慰めてくれるんか?ありがとうな」
本来であれば、それぞれ別々に幻覚を見せられる筈なのに、今此処に彼方もいるという事は、それだけ二人の結びつきが強いという事で、だからこそ。
「せやな。俺には彼方がおるもんな!」
たしかに彼方は喋らない。だとしても、その行いが、今此処にいる事実が、確かなつながりを感じさせて、
「絶対俺は孤独にはならんもんな!」
この場所を、突破する勇気を与えてくれるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
神元・眞白
【SPD/割と自由に】
ここまでは重畳。問題無し。
とはいえ、あの人のいうことは当たらずと言えども遠からず。
いつかの日には今の知り合い誰しもがいなくなるのでしょう。
寿命や進む道の違い。寂しいことですがそれも正解、ですから。
さて、お相手の領域に踏み込むことになりますね。
目立たない様に思念糸を流しながら、構造を調べましょう。
そうそう、先ほどお話しましたね。感情が表に出にくいって。
考えていることと表情が別なことが、よくあるんです。この様な状況でも。
分かっていること見せられても、知っていることなんです。
ありがとうございます。今日の経験は明日に繋がります。
昨日よりも今日。今日よりも明日。私は日々成長します
「今まで、ありがとう」
どことも知れぬ館の一室。もう起き上がれないのだろう。ベットに寝たきりになった老婆が、少女の手を取り微笑みを浮かべていた。満ち足りた人生を歩んできたのだろうか。その顔には満足が浮かんでいる。
こくり、老婆の言葉に少女がその手を取って、頷いた。
「ああ、けれどあなたは、そのまま生きていくのね。ごめんなさい」
満足げな顔をした老婆の表情に僅か、悲しみが乗る。そう、目の前の少女を、神元・眞白を置いていくことに、女性は悲しさを感じていたのだ。
「気に、しないでください」
いつかどこかで、神元・眞白が直面する光景。それは例えばとあるホテルの一室なのかもしれないし、もしくは銀の雨が晴れた世界の先なのかもしれなかった。
だからこそ、静謐の表情で眞白はそれを頷いて受け入れる。
「ああ……けれど、ごめんなさい。これであなたは本当に独りぼっち、だわ」
そういって、老女の手が力を喪った。
その瞬間、それまで館の一室だった筈の世界が一瞬で暗くなる。ボウと、眞白の姿が浮かび上がるのみだった。
ふと下を見る。粉々になった戦術人形の数々。
「形あるものは何時かは壊れるとはいいますが……」
だからこそ、お前はいつか独りになると、この空間そのものが伝えているかのようであった。
「それでも」
めぐらせた思念糸が周囲の情報を伝えてくる。あくまで見せられているものは幻影なのだ。
自身が五感で感じるものと、思念糸が実際に伝えてくるデータが、まるで食い違う。
眞白の五感には無明の闇、無限に広がる空間と感じられるのに、実際のデータは、洋館の一室であるらしかった。
「先ほどお話しましたね。感情が表に出にくいって」
すたすたと、少女は思念糸による構造解析で判明した、『正しい道』を行く。
「だから考えていることと表情が別なことが、よくあるんです。この様な状況でも」
無明の闇は、幻影だ。己の五感よりも、己の知りえた事に重きを置いて、少女は歩む。
「いつか、どこかでの別れ、歩む道の違い。いつかそこに至るとして、それはもう『知っている』事なんです」
けれど、だからこそ。
「それでも、知っている事を、分かっている事を見せられるのも、また経験。今日の経験は、明日に繋がります」
昨日よりも今日。今日よりも明日。それを束ねていけばきっと、
「いつか至る所の先もまた、見えてくるのでしょう」
『見えない扉』に手をかける。そこを開けば、その先には……そう。敵がいるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
『静かなる者』のまま
幻想。白い髪・青い目をした私が笑っている。
遠くに手をかけた二人が倒れている。
そして、残りの一人に枷を嵌めて閉じ込めて表に出さず。「外に出して」という訴えも聞かず。彼の実家からの問いにも知らぬ存ぜぬで。
ああ、ようやく『独占』できた、と。
家人?はて、どうしましたかね?
まあ、そんなことしませんけどね。
所詮は幻想ですね。『我ら』の特殊性を前提にしてない…しろ、という方が無理ですが。
身の内に三人がいる感覚は誤魔化せませんよ。…何か言われてますが。
それに、今の状態も楽しさはありますし。『四人で戦いたい』という思いも本物ですから。
※
疾「付き合ってた時はありますがー…そういう欲、持たれるとは思ってなかったですねー」(のほほん唯一忍者。元恋人の独身者)
侵「というか、付き合ってたことがあったのか…」(気づいてなかった武の天才。豪快古風)
不「誰しもそういう欲はある、ということか」(盾&まとめ役武士。質実剛健古風)
実は影にいた二匹
陰海月&霹靂(ぼくたちも知ってよかったんだろうか…)
「ああ……やっと。この時が」
どことも知れぬ場所。かつてどこかであったかもしれない場所で、男が一人、立ち尽くしていた。
眼前には、倒れ伏す男が二人。それには目もくれず、白髪碧眼の男は、己の住まいに戻ってゆく。
そうしたならそこには座敷牢。中には、枷を嵌められた『愛しい人』が居る。
当然、虜囚の身となっているのだ。常ならばどこかしらのほほんとした雰囲気を纏った彼がしかし、今この時には、必死にここから出してくれと、己に訴えかけている。
その事実が嬉しくてうれしくて、梓奥武・孝透は、心の底から笑みを浮かべた。
―――ああ、なんという幸福であろうか。
心の奥底の隠(おに)が笑う。なぜ早くこうしていなかったのだろう。いや、何故かつては一度一つになっていた筈なのに、別たれる選択をしてしまったのだろうか。
家族の事情、『家』の理由。そういうものがあったのは事実である。けれど、それがこの『心』より大事なモノであっただろうか。
そら、今だって『愛しい人』の実家からの問いの使者だって、知らぬ存ぜぬでとおしてみせた。
そうすれば、後は静寂だ。愛おしい人の、似つかわしくない烈火が如くの瞳をこの身に受ければ、後はそれで幸せなのだ。
そしてこの幻想のような幸せな世界に、何の不安があるだろうか?
ああ。けれどそう。どうしてこの世界には、今2人なのだろう?家人は一体……そう思えば、己の裡から、響いてくる声がある。
『付き合ってた時はありますがー…そういう欲、持たれるとは思ってなかったですねー』
夢のような幸福の世界の中、『梓奥武・孝透の裡』から、今もなお眼前で訴えかける愛しい人と同じ声が、のほほんと響いた。
『というか、若色。していた事があったのか』
その言葉に呼応するように、豪快古風な武人の、巌のような声もまた、孝透の裡から響く。武辺者としては、そう言った所の機微には疎かった。
ともすれば、もしやともに戦場を駆け抜けたあの時や、その時に、戦友同士が『親しい仲』だったのかもしれない。
心の底から友と思っているからこその、ある種の気まずさが、馬舘・景雅の心を駆け抜けた。
『誰しもそういう欲はある、ということか』
深く、感じ入るような声もまた響いた。そう、内容が変われど、かつて疾き者が己の鬼をこちらに見せてくれた事と変わりはしない。
だからこそ、四人の纏め役としては、ただ一言。
『それもまた。我らが受け入れるべきことであろう』
と心の裡から孝透へと言葉を紡いだ。
「……何か言われていますが、そういう事です」
もしこれが、『ただの一人』で幻想の中にいるのなら、その寒々しいまどろみの中に溺れていたのかもしれない。けれど、この場にいるのは『梓奥武・孝透』ではなく、『馬県・義透』なのだ。
分かちがたい己ではない誰か、が己と共に存在する事が、今の現実を自覚させてくれる。
何より、
「所詮は幻想という事です。それに今の状態も楽しさはありますし、何より『四人で戦いたい』という思いも本物ですから」
そう、今のような複合型悪霊になったきっかけの一つは、たしかに孝透の独占欲かもしれないが、もし本当に『疾き者』だけを独占したいならば、他の二人は巻き込まなければよかったのだ。
それでも今、こういった成り立ちになっているならば、なるほど、何かに執着する事が珍しいと思われていたらしい自分は、存外大事なものと大切なもの、両方欲しがる強欲なのかもしれぬと、孝透は微笑んだ。
「陰海月、霹靂」
さぁ、夢を見たままでは始まらないと、孝透が己の影に潜む水海月とヒポグリフに声をかける。
『こんな突っ込んだ事、僕達も聞いてよかったんだろうか』とでも言わんばかりに気まずげな雰囲気を漂わせる二匹に対して、孝透はどこ吹く風と言わんばかりの涼やかな態度だ。
「陰海月、お好きな迷宮攻略という程ではありませんが、出口を探しなさい。あなたなら幻影に惑わされないでしょう……っと」
そう言いながら、霹靂に跨る。
「そうしたらそのまま、陰海月の先導で、霹靂、出口へ向かいなさい。幻影と分かっているとはいえ、こうも見えているものと実際が違うまま私の脚で進めば、迷う事もあるでしょう」
言葉と共に、その裡に愉快な戦友たちの声を聴きつつ、孝透は行く。
(本当に、こんな事しませんよ)
幻影の住まいが遠くなってゆく中、孝透は、他の三人に、見せなかった心の裡を思い起こす。幻影の中、他の3人の裡からの声は聞こえず、凶行に及んで戦友二人を討ち果たし、愛しい人を独占した満足感の中、ふと覚えた疑問。即ち、家人はどこへ行ったのか。
そこに思い当れば、当然思い出すことがあった。
(風花姉上……)
己が、斯様な凶行に及べば、彼女がなんと言うか。そこに想いを巡らせたとき、3人の声が聞こえたのだ。
思わず苦笑が浮かぶ。
(大丈夫です、風花姉上。今も私は、世界を守るために戦っていますから)
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ナミダ』
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POW : ペインフルティアーズ
全身を【滂沱と流れ落ちる涙】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【痛み】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD : 涙の体
自身の肉体を【涙に似た成分の液体】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : 涙の鎖
自身が【悲しみ】を感じると、レベル×1体の【地面から生える「霊体の鎖」】が召喚される。地面から生える「霊体の鎖」は悲しみを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:雑草サキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
馬県・義透
『静かなる者』のまま
出る直前で、陰海月と霹靂には影に引っ込んでもらった
怯えたふりにて。あのように友を殺めたくない、閉じ込めたくない。私はどうすればいいのでしょうか、と。
声をかけてきたのなら…手の中に白雪林を召喚。即座に指定UCつきの霊力矢を地面へ発射。湖へ変更。
姿は風、黒は山、橙は火、そして白は林たる私…四人で一人を、舐めるなかれ。
霊体の鎖は地面より生える…今は湖ですし。湖全体に、私のみが扱える破魔属性を帯びさせてますから。
私は水中に出てきた陰海月に乗って、霹靂は飛んで浮いてます。
そして、あなたの生命力…活力といいましょうか、それを湖は吸い続けてますのでね。
霊力矢は射続けてます。それに、湖の一部を凍らせて(氷属性攻撃)もいいでしょう。
私を陰海月から落とそうとも、水上歩行できますし。そのまえに、陰海月の触手ビンタか、霹靂の体当たりがいきますが?
あと、四天霊障を伝って、内部三人の攻撃もいきましょう。
…本当に。今日はいろいろ、私が日頃見ていた悪夢、思うことを吐露しましたね?すっきりしましたよ。
玉響・悠
はー、やっと敵がおる所に来れたわ。
よし、単体で真正面から挑むのは無理やし、本音を混ぜた演技で油断させよか!
なあ、アンタが占い師の姉さんが言ってた助けてくれる人か?俺、ここに来るまでに無視されたりゴミ投げられたりして心身共にボロボロなんやわ……。
敵が油断したら、「こんな風にお祓いでもしたらええんか?」と困り顔でハタキを振って、雲から大量の氷柱(当たると凍らせるデバフ付)を降らすで。伸び縮みするんやったら、さっさと凍らせてしまえばええはずや!
どうせ溶けたら戻りそうやし、凍ったら氷属性どんぐり飴で更に凍らせて、爆発と共に一回砕けてもらうで!
「や、やっと出れたん、か……?」
まるで、世界的に有名なモンスター育成ゲームの海外実写版で相棒キャラが見せていたようなしょぼくれた顔をして、這う這うの体で扉から這い出してきたのは、小さくてふわふわしたカワイイ生き物、モーラットの玉響・悠だった。
(はーっ……やっと敵がおる所に来れたわ)
勿論憔悴した様子は演技であった。そのまま助けて欲しい。そのためならなんでもするから……!といった風情を見せながら、ちらと敵を見れば、
(おお……別嬪さんやけど、あれやな。明らかにゆーれいって感じやんけ)
涙を流しながら、フードを被った下半身の無い女性がふよふよと浮かんでいた。
(なるほどな。こんなん普通やったドン引くけど、その前にさっきの空間で余裕なくすわけやねんな)
と納得しつつ、近寄ってゆく。
「なあ、アンタが占い師の姉さんが言ってた助けてくれる人か?俺、ここに来るまでに無視されたりゴミ投げられたりして心身共にボロボロなんやわ……」
『そう…‥‥なのですね』
オブリビオン、【ナミダ】はその悠の苦労を想い、涙を流した。それに従って、オブリビオンの体が液状になり、ボトボトと地面におちてゆく。UC、《涙の体》だ。
(ひぇ~~こら、あかんわ。不意打ちするにしたって、気を付けなあかんやん……!)
たしかに不意は打てるだろう。一撃は先制出来る。けれど、あの液体のようになった体が恐るべき俊敏性で反撃を咥えてくる事は明らか。攻撃方法もよく考えなければならない。
だから、
「そう、そうやってん!ほんま最悪や!最後なんてこれやで占い師はん!こんなもん投げつけて来たんや!」
そうして、悠が可愛らしい一本線のような手で取りだしたるは、はたきであった。
そう、ただのハタキにしか見えない《魔法のハタキ》であった。
『それは……あまりに痛そうですね』
ポロポロとさらにナミダが流されて、オブリビオンの体が粘性を帯びてゆく。
「そ……そうなんや。しかもこのハタキな?こんなことも……出来てまうねん!!」
気合い一声。《天候の変化にご用心/テンコウノヘンカニゴヨウジン》が振るわれる。
瞬間、二人の頭上に雲が作り出され、そこから大量の氷柱が射出された。
「はぁはっはっ、こんな風にお祓いでもしら……おわぁあああ!?」
氷柱がオブリビオンへと降り注ぐ。たしかに降り注ぐ氷柱はその体を凍らせていっていたが、それでも粘性の体が鞭のようにしなって、悠へと襲い掛かった。
反射的にハタキを前に出して、打ち据えてくるオブリビオンの体への、盾にする。
衝撃。確かにハタキはその一撃を防いだが、ふわふわ浮いているモーラッドは踏ん張ってその衝撃を逃がす事は難しい。されるがままに吹っ飛ばされながら、悠は冷や汗をかいた。
(あっぶな……!油断させとかな下手すりゃコイツの攻撃の方が先当たっとったで……!)
たしかに悠の攻撃はナミダへとダメージを与えていた。粘性の体は凍り付いて行っている。しかし、相手もまた裏切られた『悲しみ』に、その体を溶かしてゆく。
たしかにダメージは与えていたが、それでもなお鋭い肉体の攻撃は悠へと襲い掛かっていた。
「ほんまに!けったい!!やな!!!」
どうにかふわふわ避けているが、それでもオブリビオンは強大でその攻撃は苛烈だ。
遠からず当たるだろうかと悠が冷や汗をかきはじめた所、新たな男の声が、その場に響いた。
「ああ、あのように友を殺めたくない!閉じ込めたくない!私は、どうすればいいのでしょうか!?」
焦ったような男の言葉。白髪碧眼の男、『馬県・義徹』は、この世の終わりのような叫び声をあげた。
「ああ……!なんと、それは悲しい……」
一瞬、そちらの方にナミダが意識を奪われる。
「助かったでおっちゃん!!」
その隙に、悠が離脱していった。
ふわふわと浮かぶ可愛らしい生き物に、一つ頷いて、義透は、梓奥武・孝透は、静かにナミダを見据えた。
「お礼を言うのは、私の方でもあります」
「おお……おお、なんと、労しい」
ナミダが、近寄ってくる。悲しそうな表情を浮かべていた孝透に近寄っていく。
とはいえ、今しがた悠に騙されたからだろうか、僅かな警戒心も感じていたが、しかし、
「どうか、どうかお救いください……!」
あまりにも必死な男の様子と、『一切武器を持っていない』その様に、ほどなく警戒心は解けて、更に近寄っていった。
「……なるほど。これが『鬼の業』、暗器術の力、といった所ですか」
(簡単なものですけどねー)
ナミダが十分近寄った事を確認して、義透がポツリと呟いた。内なる声も、それに同意する。
なるほど確かに、ここで弓を召喚しようものなら、油断してるがゆえにその一撃を受けようとも、弦を引き絞り、弓が弾着するまでの僅かの間、身構える事も出来よう。
だからこそ、これは確かに完全なる不意打ちとなった。
地面は今、『悠の氷柱』が弾着したおかげて、その氷が解けて濡れている。湿っている。それは義透の足元も同様で、
―――だらり、と力なく垂らした義透の袖から、スルリ、と矢が地面に落ちていった。トプリ、矢が水たまりに溶けてゆく。瞬間、ブワァっと水たまりが一気に湖へと変じてゆく―――
『六出の血にて、これをなしましょう』
まさしく、『雪解けの水』が『湖』となった。
《四天境地・水/シテンキョウチ・ミズ》である。
『……!?』
ナミダもまた、その不意打ちに驚きながらも、即座に対応しようとする。
裏切られた悲しみに、《涙の鎖》が無数に立ち上がり、それらが義透へと襲い掛かる。
「無駄です」
無慈悲な一言。己もまた湖に沈み込まないように、ぽわぽわと浮かぶジャイアント海月、陰海月に乗りながら静かに告げる。
生命力を奪い取る静謐なる湖の力によって、鎖が砕けていった。本来であれば無機物であるはずのそれはしかし、その根本はナミダの力である。だからこそであった。
そのまま、一定の距離を開いてナミダの中心に円の動きで回りながら、矢を射かけていく。
いくつかは鎖に阻まれるも、いくつかは体に刺さって、ダメージを与えていく。
与えられるダメージに焦れたのだろうか、ナミダが無理やり幾本かの鎖を束ねて、無理やり義透へと叩きつけんとしてくる。
しかし、
「陰海月」
その触腕がそれを打ち払い、
「霹靂」
ヒポクリフがその隙を逃さず体当たりを敢行。すかさずダメージを与えていく。
「いきましょうか」
そして当然、その好機に義透も乗った、〈白雪林〉が、〈黒曜山〉へと変じる。
―――不動なれ―――
《それは山のように/ウゴカザルコトヤマノゴトク》。近づいた事で密度が増した、砕けながらも迫る鎖の群を鉄壁の防御が打ち払う。当然自身は動けなくとも、陰海月が相手の元へと運んでくれる。
そうして一旦なみだの鎖が出尽くして、インターバルが出来た瞬間、
―――私の早業、受けてみますー?―――
〈漆黒風〉を手にした影が、空をかける。《それは風のように/ハヤキコトカゼノゴトク》によって一気にナミダへと肉薄した。もうこの距離では鎖で対応できまい。
故に、
―――わしの一撃、受けきれるか!―――
〈黒燭炎〉が、ナミダを貫き、吹き飛ばした!〈それは火のように/シンリャクスルコトヒノゴトク〉が、たしかにダメージを与える。
遅れてやってきた陰海月に跳び乗り、義透は深く息を吐いた。
「…本当に。今日はいろいろ、私が日頃見ていた悪夢、思うことを吐露しましたね?すっきりしましたよ」
どこか晴れやかな顔をする『孝透』に対して、
『『『全く、驚/きましたねー/いたのじゃ/いたぞ』』』
と内なる声が三者別々に響いて、
『『『けれど』
『『『よかった』』』
戦友を祝福し、ねぎらうのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒江・式子
連携アドリブ歓迎
自分の事なのに
こうして向き合ってみなければ
分からないものですね
……もしかして
結構良いセミナーだったのでは……?
いやいやいや
被害者が出ている以上
しっかりと根本を断たなくてはいけませんから
不安感が強まった状態を演じるんですよね
幻影の内容を知られているなら
茫然と立ち尽くしている方が
それっぽくなるでしょうか
話も聞こえていないフリをしつつ
影の茨を床に伝わせ影法師を散開させます
ある程度引きつけてから
一斉に飛びかからせましょう
触れれば茨がほどけて絡みつき
行動しようとする活力はもちろん
悲しいと思う心さえ希釈していきます
私の不安がどう言うものか
分かって頂けましたか?
拳銃を構え
引き金を引きます
九陽・律花
アドリブ歓迎
敵を前にして剣を抜くと、わたしの心に黒い衝動が沸き上がって来ました
それは吸血鬼の呪いで植え付けられた血への渇き
今すぐ敵も味方も血祭りに上げて命を啜りたいという甘美な欲求です
しかし負けるわけにはいきません
わたしは魔を狩る衛士なのですから!
身を震わせ歯を食いしばって衝動に抗い、すぐに動かないわたしは
敵にしてみれば「不安で怯えている」ように見えるかもしれません
それでいいのです!
敵の油断が見えたら『茜に燃ゆる黄昏の陽』を発動
自身から放たれる太陽の光が吸血鬼としての肉体を焼く
寿命を直に削っていく苦痛をこらえながら
剣から灼熱の光線を放射して巨大な光剣と化し
高速移動で踊りかかって斬りつけます
神元・眞白
ここは……どこかのお屋敷でしたか。
他の方々もなんだかいるようですし、かなり広そうですね。
目的地はあちらですね。糸が切れているようですし。
さて、〆と参りましょう。必要な終わりは齎されて当然のこと。
先程の一室のことは見られていたのでしょうか?判断が難しいですね。
見られていたという前提で、その上でも怯えた演技をしておきましょう。
必要なことを必要なだけ。その悲しみを受け止めて、進まないと。
他の方もチャンスは狙っているでしょうか、それならそれなりに。
幻を見せてもらえたので私からも贈りましょう。今暫くだけ。満足できるよう。
ガラガラと、屋敷の壁まで吹き飛ばされたナミダが、どうにか瓦礫を避けてふわりと浮かび上がる。
義透によって穿たれた穴は大きく、確かなダメージを与えていた。
痛みと、悲しみにオブリビオンが涙する。
そしてそこに、
「……」
フラフラと、まさしく精魂尽き果てたといった風情で、無言のまま歩み寄るのは、まさしくブラック企業勤めのOLといった風情の女、黒江・式子であった。
『ああ……あなたもまた、擦り切れているのですね?』
その真に迫った憔悴っぷりには、流石のナミダとて騙される。何せ式子自身、
(もしかして、結構いいセミナーだったのでは?)
と思うくらい、普段は分からぬ己の事を見つめなおす事が出来たのだから。
憔悴したフリ、実際の所擦り切れた女としてはかなり、いや結構、いやいやちょっと、素が入っているような気もする擬態を行いながら、虚ろな瞳でナミダを見つめつつ、内心で自分の思考にかぶりを振る。
(いやいやいや、被害者が出ている以上、しっかりと根本を断たなくてはいけませんから……!)
ポタリ、ぽたりと、そのスーツの袖から、『黒い影』が床に垂れ堕ちれば、僅かづつでも、式子の影が拡張されてゆく。
「はい……そうです。私ももう、疲れました」
十分に感情が乗った声でナミダに応えれば、流石のオブリビオンも警戒を解いてさらに近づく。そもそも浮いているからだろうか。今一地面に注意を払わないナミダが、式子の『影』を、『踏んだ』。
(かかった……!)
「ええ、疲れました。疲れています。そう感じる事の出来る心がここに『在る』なら、それが私にとって大事なので!」
くいっと、両手を上げる。まるでその指先に人形を操る糸が繋がっているかのような所作。
「お構いなく!!!」
《欺瞞の徒/ギマンノトモガラ》が立ち上がり、ナミダへと襲い掛かる。
『ああ、また!!!』
言葉と共に、ナミダの心に悲しみが溢れる。それが、幾本もの《涙の鎖》となって、式子へと殺到する。
けれど、
「無駄ですよ!」
そもそも、ナミダ自体がダメージを喰らっている事に加え、影の茨を束ねて作り上げられた式子の影法師達が、身を挺して鎖から式子を庇う。
さらには鎖がぶつかった影法師が再び影の茨へと解かれ、それがナミダの作り出した霊体の鎖へと絡みついて、そこから活力と、『悲しみ』の感情を希釈させてゆく。
そうなれば当然鎖自体も脆くなってゆく。
現状において、式子の能力はまさしくナミダ特攻と言っても良かった。
「私の不安がどう言うものか、分かって頂けましたか?」
言葉と共に引き金を引く。銃弾が、放たれた。
(……しぶとい、ですね!)
そう、たしかに式子の能力はナミダに対して特攻的な力を持っていたが、本人も認める通り、式子自体の攻撃能力が低い。
たしかにナミダへとダメージを与えていたが、それでも致命傷には至っていなかった。それどころか、
(翳喰らいが……!)
己がそうと不安を抱くように、影茨は式子にすら影響を与えてくる。感情の希釈。気力の低下。
本当に目が霞んできた。
手負いとはいえ、複数人で相手するべきタフネスを誇るオブリビオンと、味方がダメージを与えたが故に追撃をと拙速を尊んで現状一人の自分。
体力の差が如実に表れて来た。
(あっ)
だからこそ、つい。涙の鎖の一本を、影法師が防ぎそこなう。
つい、その一撃が、式子への直撃コースになってしまう。
(まったく……締まらない、な)
ああ、これは痛い。諦観と共に受け身を取ろうとした式子へとしかし、気たるべき衝撃は来なかった。
「え……?」
「大丈夫ですか?」
式子の眼前に迫り来る銀の鎖、それと全く同じ鎖を銀色の符から発生させて、拮抗させながら、銀の髪の少女は、神元・眞白は、背後にへたり込んだ女性へと声をかけた。
(先ほどの場所の事は、見られていたと思っていた方がよいでしょうか)
即ち、形あるものはいつか壊れる。その壊れる『いつか』が他のモノたちより遠い自分は、取り残されるという恐れ、不安。
それは所与のものであり、自分の中で消化できるものではあるけれど、
(怯えた演技でもしておきましょうかと思いましたが、今更ですね)
本来ならば、銀の鎖に打ち据えられる式子を尻目に、怯えた演技でもすれば相手の隙を誘えたのだろうが、眞白自身、氷のように美しい顔とは裏腹に、心まで氷のようではない。
仲間の怪我を防げるのならば、そちらの方が良いのだ。
式子の集中が一瞬途切れた為に拮抗が崩れ本数を増やして直接こちらに襲い掛かる銀の鎖に対して、氷のように美しい無表情で相対し、おもむろに銀の符をさらに複数枚投じる。
「では、おいでませ」
《鏡鳴符「ふしぎなおいかけっこ」/ミラーリング・ワールド》は正常に機能した。
銀色の符から飛び出た鎖は、まさしくナミダの作り出した銀の鎖と同一。まるで幻のようなそれが確かに攻撃を防いでいるのを確認してから、徐に眞白は振り返った。
「大丈夫ですか?」
先ほどと同じ問。それと共に出された手を握って、式子は立ち上がる。
「ええ、助かりました」
「それは、よかった」
コクリ。銀の少女は静かな表情で頷いた。
「大分、消耗されているようですね」
銀の少女の言葉に、式子は僅かに苦い表情をして頷いた。実際、影法師の数は減っている。
翳喰らいによって消耗したせいである。そこを眞白の銀符がカバーしているから防げてはいるが、だからこそ完全な千日手。
「もう一つ、決め手が欲しいですね」
眞白とて、全力で鏡鳴符を展開すれば、迫り来る銀の鎖を完全に防ぎきる事は可能だ。
しかしそれはあくまで防ぎきれるだけ。攻め手が必要で、残念ながら元々攻撃力が低いうえに攻撃力にかける式子ではその決め手になり得なかった。
「どうしましょう……」
迫り来る銀の鎖を眞白と共同で防ぎつつ、式子が焦りの声を上げたその時。
「ここが、人に仇成す魔の住処ですね!!!」
『攻め手』が爆音と共にやって来た。
ズガン!!!ドガン!!!と爆発音を響かせながら、少女が館の壁を突き破って広間にやってくる。
西洋の騎士の装いをアレンジした可愛らしい装いに、肩章がきらりと輝かせた少女の名は、九陽・律花。
魔を狩る事を生業としながら、その魔によって呪われ吸血鬼へと変じた者。
魔でありながら魔を狩る、背理の乙女であった。
「や!?こんにちはお二人とも、大丈夫ですか?」
そのまま屋敷の壁を突き破って、一番奥の広間に出て、交戦している先達たちを目に留めて、一旦ストップ。
<陽刀『暁天』>を赤鞘にしまい、先にこの場で戦っていた先達達へ、ぺこりとお辞儀をして挨拶。
どうにも場違いなその対応が、生来の少女の育ちの良さを感じさせた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
どこか引き気味の女性と、特に問題ないと言った風に対応する銀髪の少女にニッコリと笑みを返して、次の瞬間、律花はギチリと、〈暁天〉の柄を握りしめ、鋭い表情をナミダへと向ける。
「つまりアレが、魔のモノですね?狩りましょう!」
話が早かった。元より、そのために今この場にいるのだから。
「私が、涙の鎖を一時的にでも止めます。律花さんはその隙に。式子さんはその援護を」
普段から複数の戦術器を同時に操っているからだろうか。その後の動きの支持は、自然と眞白が出していた。
式子と、律花の二人が頷く。
「では、行きますよ」
言葉と共に、眞白が前を見据えた。
(悲しみ)
涙を流す眼前のオブリビオンは、悲しみの感情を原動力としているのだという。
(そしてあなたはそこで止まっている)
感傷を他所に、眞白は必要な事を、必要な分だけ行っていく。そういう機能があるからこそ。
(悲しみを受け止めて、進まないと)
それこそが、きっと骸の海から染み出した影であるオブリビオンと己自身の差だと思うから。
「幻を見せて貰えたので、私からも贈りましょう。いましばらくだけ、満足できるよう」
―――では、おいでませ―――
《鏡鳴符「ふしぎなおいかけっこ」/ミラーリング・ワールド》の全力展開。今この瞬間、涙の鎖と幻想の鎖が完全に拮抗した。
「律花さん!」
流石に一人で完全にオブリビオンの攻撃を抑えるのには力を消耗する。静けさをわずかに乱して、眞白が叫んだ。
―――チリ、と鍔が鳴る―――
右手で力強く柄を持ち、左手が赤鞘を支えた。一呼吸、置く。魔を狩る事に対する決意は十分にあった。けれど、その少女とはいえ今から己の身に起こる事に関しては、一息の決意が必要であった。
一拍の間の後、
「抜剣!!!」
裂帛の気合いと共に、〈暁天〉が引き抜かれる!
「ああああああ!!!!!!!」
九陽家に伝わる〈暁天〉は即ち破邪の刃。邪なるモノを打ち滅ぼすその太陽の剣は、邪なるモノである律花自身も焼き、滅ぼさんとするのだ。
じりじりと己の身が焼けてゆく感覚。
だが、
(それでいいのです……!)
激烈な痛みが体を覆う。本来であれば気絶すらせんとするそれはしかし、律花の身に沸き起こった敵味方を問わない吸血殺戮衝動を抑え込むために必要なモノであった。
獣のような笑みが、律花の顔に浮かぶ。
身を焼く光の痛みが、命をおろし金ですりおろされるような感覚が、闇に堕ちんとする律花自体をどうにか光に留まらせてくれる。
「ありがとう、ございます眞白さん……!行きます!」
どうにか衝動を抑えつけて、少女が前を向いた。
『我が身に宿る黄昏に』
じり、と脚を踏みしめる。じゅう、と蒸発しかけた血が地面に落ちた。左前の半身になって、剣を両手に構える。
『忌むべき血潮を焼べます!』
宣誓の祝詞(ことば)と共に、少女が破邪顕正の矢じりとなってすっ飛んでいった。
そして、当然の如くナミダはそれを阻止せんと動く。勿論、ナミダの鎖は鎖は眞白によって防がれている。
けれど、しかしその体は。肉体が粘性のある液体になって襲い掛かっていった。
それでも、少女にだってそんな事分かり切っているのだ。今更命を削っているこの身がさらなる痛みと命を零れるのを感じて、何になるだろうか。
少女は、受け入れていた。受け入れられなかったのは、大人の女の方だった。
「ああ!もう!!!」
瞬時、弾着するまでのわずかの間。まるで湖のように地面に残っていた、茨の影が、律花を守るように立ち上がって、その体を覆っていった。
「式子さん!?」
体が覆われていくにつれ、陽光は律花の身に届かず、そうなれば身を焼く炎の痛みが消えてゆき、当然吸血殺戮衝動が膨れ上がる。
そしてそれを、
―――《竹馬の友/チクバノトモ》―――
『不都合な感情を吸収する影の茨』が消していった。
「そんなの、嫌に決まってますよ!ご本人様がいくら決意していようが、納得していようが、女の子が!自分から怪我しているのを見る事なんて!!!」
(これは……!)
数瞬。僅か数瞬。破邪の行いの際にいつも感じていた痛みが、常に己を苛んでいた衝動が、消える。
勿論これが根本的な解決であるはずがない。あくまでUCの効果によるごくわずかの間の幻に過ぎない。
けれどこの数瞬の間、九陽・律花は『九陽・律花』であった。
(ああ……)
晴れ渡るような思いが胸を満たす。明鏡止水の心地。
(仲間とは、共に戦う方々がいるというのは……)
「いい、ものです!」
微笑みと共に斬る。
「《茜に燃ゆる/ローズマダー》ぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
一の太刀は、袈裟に。己が暖かい闇に覆われたからこそ常より光り輝く陽光が、オブリビオンの攻撃を悉く焼き尽くして、切り払った。
「《黄昏の陽/サンセット》ぉぉぉぉおおおお!!!!!!」
二の太刀。水平斬り。袈裟に分かたれたオブリビオンの体がさらに2分割。4つに割れる。
「…‥‥成ッ敗ッ!」
そして、爆散。
今此処に、不安で人を虜にせんとしたオブリビオンのたくらみは、露と消えたのだった。
大成功
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