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ホラー・ホスピタル

#シルバーレイン

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#シルバーレイン


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●銀の雨が降る世界
 シルバーレイン――ゴーストの脅威が去ったはずの地球。その某所。
 人も寄り付かない山奥に建つ廃病院跡地に、真夜中にも関わらず数人の若い男女が集まっていた。
「なあ、ここって『出る』って噂の廃病院じゃね?」
「ばーか。だから肝試し会場に選んだんじゃんか」
 漆黒に塗りつぶされたかのような廃病院のシルエットを見上げて呟いた金髪ピアスの若者に、ワゴン車の運転席から降りてきた長髪の優男が軽い調子で答える。
「えー、お化けとかこわーい。なにか出てきたらやっつけてよね」
「あの、本当にこんなところで肝試しするんですか……?」
 車のヘッドライトが消え、心細い月明かりのみに照らされた暗闇の中。ミニスカートの制服を着た活発そうな少女の明るい声と、膝丈スカート姿の真面目そうなメガネっ娘の震えた声が響き、周囲の森に溶けていく。
「安心しな。ゾンビでも出てきたら、俺が得意の空手で倒してやるって!」
 筋肉質な体格の男が先頭に立って、若者グループが真っ暗な廃病院に入っていき――。

 ――そして誰も帰ってこなかった。

●グリモアベース
「って、こんな予知見せられたら、怖くて夜寝られないじゃないですかーっ!?」
 グリモアベースに、お化け嫌いなアイ・リスパー(f07909)の声が響き渡った。完全に涙目である。
 今回、グリモアベースが新しい世界『シルバーレイン』と繋がったことで、新世界に関する予知を見たようだ。
「こ、こほん。とにかく状況の説明をしますね」
 アイはホロキーボードを操作すると、空中に建物の立体映像を映し出した。3次元ワイヤーフレームで描かれた病院らしき建物。その表面に貼られたテクスチャは剥げ落ちたコンクリートの壁や割れたガラスのもの。明らかにすでに使われていない廃病院の映像である。
「今回予知したのは、この廃病院で肝試ししようとしている若者たちが、本物のお化け……じゃなかった、オブリビオンに襲われて、皆殺しにされてしまうという事件です」
 どうやら肝試しをしようとした場所がオブリビオンの根城だったらしい。

「ですが、今ならまだ事件が起こる前なので間に合います。皆さんには廃病院に向かっていただき、まずは若者たちを追い払っていただきたいのです」
 このまま放置していては、若者たちは廃病院に巣食うオブリビオンに殺されてしまう。そうならないように若者グループを避難させるのが先決だ。
「手段はお任せしますが、相手は所詮一般人です。皆さんがお化け役をやって脅かしてあげれば、怖くなって逃げてくれるのではないでしょうか」
 もしくは、偶然居合わせたということにして、一緒に肝試しに参加して怖がってみせてもいいかもしれない。とにかく、力づく以外の方法で工夫して若者たちを避難させよう。

「若者たちを追い払ったら、廃病院に巣食うチェーンソーを持ったゾンビのようなオブリビオンの群れを駆逐してください」
 空中に映し出されるのは、血にまみれたチェーンソーを持った腐乱死体といった風体のオブリビオンである。これが集団で襲ってくるところを予知してしまったら、確かに恐怖を感じずにはいられないかもしれない。――実際、アイは立体映像から必死に目を逸して見ないようにしている。

「そして、最後に、この廃病院を根城にするオブリビオンの親玉を倒してください」
 巨大な霊体の鎧に身を包んだ少女の幽霊の姿が空中に表示される。今回の事件の元凶であるこのオブリビオンは、衝動のままに暴れる『妖獣化オブリビオン』というものに相当する。
 衝動による妖獣化のため通常のオブリビオンよりも強化されているが、その分、思考が単純化されている。単純な思考という弱点をうまく突いて戦おう。
「『妖獣化オブリビオン』には言葉は通じません。せめて骸の海に還すことで、少女の幽霊を苦しみから解き放ってあげてください」

 そう言うと、アイは新しい世界へ通じるゲートを開き、猟兵たちを送り出したのだった。


高天原御雷
 オープニングをご覧いただき、どうもありがとうございます。高天原御雷です。
 今回は新世界『シルバーレイン』での事件を解決していただきたく思います。
 なお、私は『TW2シルバーレイン』を知らないため、過去の出来事を前提とした内容の描写はお約束できません。あくまで新世界としての扱いとなりますこと、予めご了承ください。
 以下、シナリオ詳細です。

●一章:日常
 廃病院で肝試しをしている若者たちがオブリビオンによる被害に遭う前に避難させてください。手段は力づくでなければ自由です。
 猟兵たちがお化け役になって怖がらせてもいいですし、若者に混じって怖がってもいいでしょう。その他、色々工夫してみてください。
 なお、オープニングに出ている他にも肝試しをしている一般人がいるとして、自由に一般人を設定してもOKです。

●二章:集団戦
 廃病院に巣食う、チェーンソーを持ったゾンビのようなオブリビオンの集団を排除してください。
 ゾンビたちは、ボスの妖獣化オブリビオンに汚染され凶暴化しており、見境なく襲いかかってきます。

●三章:ボス戦
 廃病院を縄張りとするオブリビオンとの戦いです。
 人間を見ると見境なく襲いかかるように凶暴化した『妖獣化オブリビオン』になっているため、言葉は通じず、通常のオブリビオンよりも強力です。その代わりに思考が単純化されていますので、上手く弱点を突くように戦ってみてください。
 単純な思考という弱点を突くようなプレイングには、プレイングボーナスが入ります。

●執筆ペースにつきまして
 執筆時間の都合上、ご参加いただく人数によっては再送いただく可能性があります。再送がお手間の場合には、オーバーロードもご検討いただけますと幸いです。

 それでは、新しい世界での戦い、よろしくお願いいたします。
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第1章 日常 『肝試しをしよう』

POW   :    度胸で恐怖を跳ね除ける、大声や迫力で驚かす

SPD   :    脅かされそうなポイントを予測する、小道具を使って驚かす

WIZ   :    オカルト知識で恐怖に勝つ、凝った演技で驚かす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャルロット・シフファート
アイの奴…怖がりなのにこんな予知引いたのね…
まぁあの子らしいと言えばらしいけど

さて、追い返すと言っても様々なやり方があるけれど…
そうね、定番の怪談ネタで行きましょうか

…あら?同じく肝試しに来た人?
そう言って若者たちと接触し、同行することにするんだけど…
ねぇ?そろそろ帰らない?
遅くまでいると帰れなくなるのよ?
そんな含みを持った台詞や振る舞いをしていき、なにか変だぞと思わせると同時に仕込みを入れた手帳を残して忽然と消える

手帳に書かれていたのは、肝試しに来て怪奇現象により廃病院に囚われた少女の手記…
生々しい記述の最後、少女の名前が書かれている
即ち、先程まで同行していた少女の名が

…これは怖いわよね


神代・凶津
はっはっはっ!こんなホラー映画の第一犠牲者達みたいな奴らが本当にいるんだな。
「…笑い事じゃありませんよ。第一犠牲者にしない為に私達が来たんですから。」
分かってるって相棒。

「…式、召喚【追い雀】」
式神を若者達に付けて逐一情報を確認しつつ隠れながら神楽鈴をシャンと鳴らしてやる。
ゾンビなぞ俺に言わせればホラーじゃなくてパニック物だ。ジャパニーズホラーのじんわり感を演出だぜ。

遠くの方に式神【ヤタ】を人魂っぽく飛ばして若者達がそっちを見ている間に忍び足で接近し、神楽鈴を鳴らす。
後ろを振り向いた若者は『妖刀をもつ鬼面の巫女』と遭遇。
相当ビビるだろッ!


【技能・式神使い、忍び足、恐怖を与える】
【アドリブ歓迎】


久遠・玉青
危ない場所に…好んでいくのは…感心しません…
でも…本当の怪異に出会うのは…その罰にしては…重すぎます
…助けましょう…もきゅ!

…ユノの姿に引っ張られて…つい…もきゅっと…してしまいますね…(恥

さて…ユノの姿であれば…わたしも怪異…のふりは…できましょう
暗闇に潜み…暗がりから…足元や背中を…もふもふの毛並みで撫でるように…
懐中電灯の明かりに…姿を照らされないように…姿見られたら…わたしは可愛いので…ただ…影だけを大きく照らせば…得体のしれない獣のように…

こうして脅かして…退散して…もらいましょう

祟らないだけ…まだ有情…ですよ…?
神社を荒らしたりしたら…祟りの雷…落としかねませんし…ね?
もきゅ!




「怖がりなのにこんな予知引いたのね、あの子……。まあ、らしいといえばらしいけど」
 グリモア猟兵が本気で怖がりながら予知の内容を説明していたのを思い出しながら、シャルロット・シフファート(異界展開式現実改変猟兵『アリス・オリジン』・f23708)はため息をついた。
 転移してきたシャルロットが立つのは事件が起こると予知された廃病院の入り口だ。ハロウィンも過ぎ11月に入った今、真夜中の山中に吹く風は肌寒い。そんな中、シャルロットは電脳端末の時計アプリに目を落とす。
「そろそろ予知された時刻ね」

 シャルロットが呟くと同時に、廃病院の敷地にワゴン車が入ってくる。エンジンが止まりヘッドライトが消えると、周囲は再び静寂の闇に閉ざされ――車から騒がしい若者たちが降りてきた。
「お、先客じゃん?」
「へー、金髪美少女かー。俺の好みかも」
 ツインテールを縦ロールにした金髪の少女――シャルロットを見た優男風の若者が軽薄そうな笑みを浮かべた。月光の下、廃病院の前に立つ、ミニスカートに黒いニーソックスを履いた少女の姿は、どこか現実離れした印象をあたえる。
「ちょっと、なによ、私というものがありながら、他の女に目移りするわけ!? ――私も金髪に染めようかな……」
 若者たちの中の活発そうな少女が優男に文句――最後の方は小声で聞き取れなかった――を言うが、優男は気にせずにシャルロットへと歩み寄ってきた。
「やあ、キミも肝試しに来たのかい?」
「ええ、友達たちと肝試しに来たのだけれど、はぐれちゃったの」
 心細そうな表情で周囲を見回すシャルロット。その儚げな姿を見た優男は下心を隠しきれずに即座に声をかける。
「ならちょうどいい。それなら俺たちと一緒に病院回ろうぜ。途中でお友達にも会えるかもしれないしさ」
「そうね、そうさせてもらおうかしら。私はシャルロットよ、よろしくね」
 憂いを帯びた笑みを浮かべながら若者たちに混ざったシャルロット。一行は、そのまま廃病院へと進んでいき――。

「――あの子、ここまでどうやって来たのかしら?」
 駐車場に他に車が止まっていないことに気づいたメガネ少女が、不審げな表情で静かに呟いたのだった。


 廃病院に入っていくシャルロットと若者たちの様子を、森の木々の間から伺う影があった。
「はっはっは! こんなホラー映画の第一犠牲者達みたいな奴らが本当にいるんだな!」
「……笑い事じゃありませんよ。その第一犠牲者にしない為に私達が来たんですから」
 空飛ぶ鬼面の神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の笑い声に、黒髪を長く伸ばした巫女装束姿の神代・桜が静かに言葉を返した。
 神社の蔵で眠っていた凶津を桜がみつけて以来、二人は兄妹のような関係として育ってきた。現在は、鬼面の凶津を巫女の桜が装着することで退魔師として活動している。当然、今回の怪談のような事件に巻き込まれそうになる一般人を救うことも使命のひとつなのである。
「分かってるって、相棒。今回は頼もしい仲間もいることだしな!」

「危ない場所に……好んでいくのは……感心しません……もきゅ!」
 可愛らしい語尾とともに答えたのは、凶津の隣にもきゅもきゅしながら浮いている、ふわふわした毛玉――もとい、モーラットの久遠・玉青(ユノ/祟り神の天狐・f35288)だった。
 彼女は元々、銀誓館学園でパートナーとともに戦い抜いた妖狐である。戦いが終わった後、世界に再び銀色の雨が降り始めたときに猟兵として覚醒したのだが――何故か分霊であるモーラットのユノの姿になってしまったのだ。
「……ユノの姿に引っ張られて……つい……もきゅっと……してしまいますね……」
 玉青は恥ずかしそうにもきゅもきゅと告げる。
 その隣に浮かぶは恐ろしい形相をした鬼面の凶津。

 桜はふわふわ浮かぶ二人(?)を見比べ――。
「おい相棒、今、俺よりこっちの可愛い方がパートナーだったら良かったとか思わなかったか!?」
「………………いえ、私のパートナーは凶津だけですよ?」
「今の間は何だよ!? あとなんで疑問形!?」
 そんなやり取りをする凶津と桜を見ながら、玉青は懐かしそうにぽつりと言葉を漏らすのだった。
「鬼面をかぶって変身する巫女……あの子が見たら喜ぶ……でしょうね」


「さて、では俺たちも行動開始するか」
「もきゅ。もし神社を荒らしたりしたら、祟りの雷が落ちても仕方ありませんけど……危ない場所に近づいた程度で本当の怪異に出会うのは……罰として重すぎます……。助けましょう……もきゅ!」
 凶津の声に、玉青ももきゅもきゅと頷いた。
 それを見た桜が懐から霊符を取り出すと、そこに霊力を込めていく。
「……式、召喚【追い雀】」
 桜が喚び出したのは雀の姿をした式神である。式神が若者グループを追いかけることで、凶津たちは若者たちの行動を逐一把握できるという寸法だ。

「その術……あなたは符術士なのですか……もきゅ?」
 桜が使った術を見た玉青は、もきゅっと首をかしげながら問いかける。
 だが、凶津と桜に心当たりはなかった。
「符術士? それはこっちの世界の猟兵なのか?」
 お互いの世界について詳しく聞こうとしたところ、式神を通して若者グループの様子を見聞きしていた桜が口を開く。
「……そろそろのようです、準備を」
 ふわふわ浮かぶ鬼面と毛玉は、こくりと頷いた。


 若者たちとシャルロットは、懐中電灯のわずかな灯りを頼りに廃病院の探索をしていた。
 初めは恐怖のあまりビクビクとして、ちょっとした影にも怯えて悲鳴を上げていた若者たちだったが、廃病院の一階の一番奥まで辿り着いた頃には、すっかり緊張感がなくなってきていた。
「なーんだ。何も出ないじゃんか。シャルロットちゃん、怖かったら言ってね」
「いいえ、大丈夫よ」
 お化けなど出ないと思った優男に至っては、リラックスしてシャルロットに言い寄ってくる始末である。
 だが、これも猟兵たちの作戦だった。
(一度、安心させた方が、驚かせたときの恐怖が高まるはずよね)
 頃合いと見計らったシャルロットが、雀の式神に向かって合図を送る。
 そして、唐突に誰に言うでもなく語りだした。

「ねぇ? そろそろ帰らない? 遅くまでいると帰れなくなるのよ? ――私みたいに」
 突如、豹変したかのような口調で話しだしたシャルロットの言葉に、若者たちに緊張が走る。
「いやいや、まだ肝試しはここからでしょー」
「さっきから別に何も起こらないし、『出る』っていう噂、デマだったんじゃない?」
 優男や活発そうな少女の言葉に頷くメンバーたち。

 ――だが、その瞬間、一同が持っていた懐中電灯が一斉に消えた。

「うわっ、なんだ、灯りがっ!?」
「いやーっ、まっくらっ!」
「きゃああっ!」
 混乱する若者たちの声が響くが、数秒後、何事もなかったかのように懐中電灯の灯りが再び灯った。

「もう、なんで一斉に灯りが消えるのよ?」
「電池はまだあるよね……」
「まあまあ、何か出ても俺の空手で――」
 若者たちが口々に喋り、再び安堵の空気が戻りかけたのを、優男の言葉が打ち破る。

「――なあ、シャルロットちゃんはどこだ?」

 シャルロットが立っていた場所。そこには、彼女が持っていた懐中電灯と、一冊の古ぼけた手帳が落ちているだけだった。
 慌てて周囲に灯りを向けるが、無人の長い廊下が伸びているだけ。少女が姿を隠すことができそうな物陰もない。シャルロットの姿は忽然と消えてしまったのだ。

 若者たちは、シャルロットの手帳を拾い上げると、恐る恐るその内容を読み始めた。


 ――この廃病院には鬼が出る。
 私は友人たちと一緒に、この廃病院に肝試しに来たのだけれど、肝試しの最中に次々と友人たちが死んでいった。
 まず、鉄パイプを持って鬼に挑んでいった剣道部の主将が鬼に斬り殺された。
 次に、柔道部の主将が巨大な化け物に食い殺された。
 逃げ出そうとした同級生たちは、人魂によって燃やし殺された。
 助かったのは、抵抗を諦めた私たち数人だけ。
 けれど、毎晩毎晩、ひとりづつ、閉じ込められた部屋から連れて行かれ、二度と帰ってこない。
 昨日、最後まで残っていた私の彼氏も連れて行かれた。
 残っているのは、もう私ひとりだけ。
 そして、今晩が私の番。
 いや、ドアの鍵が開く音が聞こえてきて、ドアノブが開いて――。


 シャルロットの残した手帳は、そこで終わっていた。
「ねえ、この手帳の持ち主の名前――」
 少女が、薄汚れた手帳の最後のページを指差した。
 乾いた血で汚れたそのページに書かれた名前は――。
「シャルロット――!?」
 若者たちの顔が一斉に恐怖にひきつる。

 ――その瞬間。
 若者たちの足元を何かが駆け抜けていった。さらに背中にも何か得体の知れないものが触る感触。
 極限まで恐怖が高まった若者たちを恐慌に陥らせるのに十分な怪奇現象だ。
「きゃああっ」
「う、うわあああっ」
 若者たちが慌てて周囲に懐中電灯を向けると――壁に巨大な獣のような影が映し出されていた。
 まるで暗闇の中から、今にも若者たちに襲いかからんとするかのようなシルエットを見て、若者たちは手帳に書かれていた言葉を思い出す。
「あ、あれは手帳に書かれていた、巨大な化け物っ!?」
「いやああっ」
「く、食い殺されるっ」
 若者たちはパニックになって、悲鳴を上げながらその場を逃げ出した――。

「……ばけものとは……ひどい……もきゅ」
 影の正体、玉青は、ちょっとご機嫌斜めになったのだった。


「はぁ、はぁ、さっきのは一体――」
「けど、追ってこないみたいだし、助かったっぽい……?」
 若者たちは、影の化け物が追ってこないことを確認し、ほっと一息をつく。
「な、なあ、さっきの影、何かの見間違いなんじゃないか?」
「ああ、シャルロットちゃんも、友達と合流できただけかも――」
 落ち着いて冷静になったのか――それとも、恐怖のあまり現実逃避したいだけなのか、若者たちは、不思議な現象などなかったと考え始めていた。

 ――だが、若者たちのその希望は儚くも崩れ去ることになる。
 周囲にシャン、という鈴の音が響いたのだ。それは、若者たちの周囲で反響するように不気味に鳴り響く。
 そして、少女がそれに気づいた。
「ね、ねぇ、あれ……」
「ひっ、人魂っ!?」
 少女が指差す先にぼうっと浮かぶのは、青白い光。――桜が操る式神【ヤタ】が発光しているだけなのだが、遠くから見たら人魂のようにしか見えない。
「と、とにかく逃げ――」

 ――だが、この場を離れようとした若者たちの背後から、突如として、シャン、という鈴の音が一際大きく響き渡った。
「わっ、わああっ!」
 弾かれたように振り返る若者たち。
 だが、そこに居たのは化け物でも人魂でもなく――。

「……って、人!?」
 鈴の音の出所にあったのは、若者たちに背中を向けている黒髪の女性の姿だった。
 また化け物に襲われるのではないかと怯えていた若者たちが、今日何度目かわからない安堵の息をつく。
「ねえ、もしかして、この人って……」
「あの、すみません、シャルロットちゃんのお友達の方ですか? シャルロットちゃん、そちらと無事に合流できたんですよね!?」
 そう、この女性がシャルロットの友人であり、シャルロットが消えたのは友人と合流できたからだとするなら、すべての辻褄が合うのだ。――若者たちは、無理やりそう思い込もうとする。

「……シャルロットさんですか? ええ、知っていますよ」
 おとなしそうな女性の声が、若者たちの疑問を肯定する。
 その回答を聞いて、考えが間違っていなかったと考える若者たち。
「よかった、やっぱりお化けなんていなかったんだよ」
「化け物の影も見間違えよね」
「それでシャルロットちゃんは、いまどこに?」

「……シャルロットさんでしたら――」
 巫女装束姿の黒髪の女性が振り返り、その顔があらわになる。――そこには真っ赤な鬼の面が付いていた。
 女性から聞こえてくる声は、太い男性の声に変化し――。
「シャルロットなら、あの世でお前達を待ってるぜぇ」
 赤い液体が滴り落ちる妖刀を持つ鬼面の巫女の姿に、若者たちは悲鳴を上げながら逃げ出したのだった。

「……少し、脅かしすぎたでしょうか?」
「なぁに、ああいう奴らには、ちょっとばかしお灸を据えた方がいいってもんよ、相棒!」
 暗闇に包まれた廃病院に、桜と凶津の声が溶けて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロバート・ブレイズ
肝試し――本物を招く一種の手段で有り、娯楽として成すには覚悟は不可欠か。兎も角、新しい世界が『こう』で悦ばしいと言うべきか。私は『都市伝説その他』恐怖譚が領域(この)みなのだよ
王冠――即興劇を始めよう。登場人物は悉く、恐怖を撒き散らす存在だ。見た者の脳に直接『最もおそろしいもの』を映して魅せよう。必要で有るならば仮面を被り我が身も参戦だ。クカカッ――帰れ、帰れ、貴様等の居場所は此処ではない
混沌を蔓延らせれば上々、あとはダメ押しの患者幽霊か。人型から不定形へと変化すれば卒倒間違いなしよ――何?
本当に倒れた?
仕方がない、私が背負って安全な場所へと連れていこう
――全く。最近の若者は怖いもの知らずよ!


サフィリア・ラズワルド
WIZを選択
※召喚する古生物はお任せします。

適度に怖がらせて帰ってもらいましょう!さあ、手伝ってくれる子を召喚して………あれ?えっと、どちら様?し、知らない子を召喚してしまった…。

いや、でも手伝ってくれるなら誰でもOKです!
これから来る人達を追い払うのを手伝ってほしいの、ここは危ないから帰ってくださいって、こう、驚かせてちょっと追いかければ帰ってくれるはずです!

『なんでしょう、この光景見たことがあるような……あ、最近見た生き物系パニック映画にそっくりです!』

アドリブ協力歓迎です。


シャムロック・ダンタリオン
ふむ、銀の雨が降る世界か。ある意味で風情がある世界ともいえる。
だがここは、かつて激しい戦いが繰り広げられた世界とも聞く。油断はできぬな(【世界図書館】で【世界知識】を引っ張り出し【情報収集】)。

――さて、肝試しか。どこの世界にもああいった愚か者どもが多くいるようだな。奴らには【恐怖を与え】させたうえで引き返らせてもらおう。
【指定UC】で召喚した眷属たちを、廃病院に至る経路の随所に配置させて――ああ、手荒な真似はするな。【おどろかす】程度で十分だ。

――さて、「妖獣化」したオブリビオンか。どのような力か見させてもらおう。

※アドリブ・連携歓迎




「ふむ、ここが銀の雨が降る世界か。ある意味で風情があるともいえる」
 まるで西洋貴族のような漆黒の服に身を包んだ少年、シャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)は、その手に広げた大判の本『ダンタリオンの書』に目を落とす。そこに記されしは、あらゆる知識を司る悪魔の分体たるシャムロックがアクセスできる【世界図書館】から引き出した、この世界の歴史。――かつて繰り広げられた数々の激しい戦いの記録だ。
 しかし『ダンタリオンの書』に浮かび上がった文字は、ところどころが欠落していた。まるで何らかの意志により、意図的に歴史を消されたかのようだ。
「僕の世界図書館でも完全には閲覧できないとは、世界結界というものは、なかなか厄介なもののようだ」
 世界結界――シルバーレイン世界を包む魔術防護は、超常の存在の記憶を忘却させ、記録を消去する。歴史上『なかったこと』にされてしまった事象については、世界図書館といえども情報を引き出すことができないようだった。
「ならば――この世界の超常現象を直接この目で確かめるしかないということだな。妖獣化したオブリビオン、どのような力か見させてもらおう」
 『ダンタリオンの書』を閉じたシャムロックは、薄い笑みを浮かべながら瞳に好奇心の光を灯す。

「――だが、まずは肝試しなどという愚行に興じる者どもをどうにかするのが先決か」
 夜闇の中に浮かび上がるような、シャムロックの赤い双眸。それが向けられた廃病院に、若者たちのグループが入っていくところだった。


「肝試し――本物を招く一種の手段で有り、娯楽として成すには覚悟は不可欠といえよう。とはいえ、彼らに混沌を覗き込む覚悟があるとは思えないがね」
 廃病院に入っていく若者たちを見て、髭に覆われた口元に楽しげな笑みを浮かべるのは、白髪の初老の男性、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)だ。キッチリとスーツを着こなした老紳士といった風情のロバートだが、実年齢80歳とは思えない外見である。だがそれも、ロバートが語る混沌(ナイアルラトホテップ)や、無秩序(アザトホート)――そして、ミスカトニック大学といった言葉に聞き覚えがある者ならば、不思議に思うこともないかもしれない。
「兎も角、新しい世界が『こう』で悦ばしいと言うべきか。私は『都市伝説その他』恐怖譚が領域(この)みなのだよ」
 人々を護る世界結界による神秘の忘却。そして、世界結界の綻びから降り注ぐ銀の雨による怪奇現象と、世界結界に起こった異変――。
 そのような世界が、未知なるものへの恐怖を専門とするロバートの興味を惹かないなどということがあるだろうか。

「さあ、超常なる神秘との対面の前に、勇気ある若者たちにこの言葉を贈ろう。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ――」
 そう言うと、老紳士は懐から仮面を取り出した。


「あの人たちが、被害に遭うと予知された人たちですね! 適度に怖がらせて帰ってもらいましょう!」
 廃病院の近くに生えた大木の陰に隠れつつ、両手をぐっと握りしめ気合を入れるのは、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)。銀色の長髪に紫の瞳をした、人派ドラゴニアンの少女である。
 人工ドラゴンを創るための実験体だったという暗い過去を持つ彼女だが、自由を得てからはそれまで知らなかった外界を楽しんでいる。新たに繋がった新世界ともなれば、その好奇心も人一倍だろう。
 木の後ろに身を隠して、息を殺しながら廃病院に入っていく若者たちの様子を伺うサフィリア。――だが、ドラゴニアンの特徴である白銀の角と翼、そして尻尾が木の陰からはみ出していることには気づいていなかった。なお、月光を反射する銀色の尻尾は新世界への期待でブンブンと振られ、喜びをあらわしている。

「あの人たちも、ちょっと脅かしてあげれば、ここから帰ってくれるはずです!」
 サフィリアは木の陰(隠れきれていないことに気づいていない)で、自信ありげな笑みを浮かべると、首から下げたラピスラズリのペンダントを両手で握りしめた。


「あ、あんな化け物が出るなんてきいてねーぞっ」
「だ、だから肝試しなんか嫌って言ったじゃないっ」
「嘘言え、お前がこの心霊スポットの噂を仕入れてきたんじゃないかっ」
「……お家、帰りたいです」
「お、俺の空手があれば大丈夫だ」
 先の猟兵たちによって脅かされた若者グループは、恐怖に陥りながらも廃病院をびくびくと歩いていた。
 一刻も早く外に出たい若者たちだったが、いかんせん広い建物の中だ。懐中電灯の弱々しい灯りを頼りに周囲を照らしながら進むが、どっちが出口かわからなくなっていた。――ひとことで言えば、広い病院内で迷子になっていた。

「どうやら、第一陣によって十分な恐怖は与えられたようだな。あとは怖がらせながら出口へと誘導すれば十分だろう」
 物陰から赤い瞳で若者たちを見つめるシャムロックが冷静に観察する。あの様子であれば、若者たちは外に出さえすれば、二度とこの廃病院に寄り付かないだろう。

「クカカッ――冒涜の儀式を娯楽とする者たちよ、どうやら身の程を知ったようだな。帰れ帰れ、貴様らの居場所は此処ではない」
 シャムロックの隣に立つ黒き仮面を付けた姿のロバートが、若者たちの姿を見て哄笑する。若者たちが儀式に足る器でないと分かった以上、ロバートにとって興味の対象外だ。本物の都市伝説との出会いの邪魔になりそうな若者たちは、退散させるに限る。

「あの人たち、かなり怖がってますね。一体、どんな恐怖体験をしてきたのでしょうか?」
 シャムロックとロバートの後ろからぴょこんと顔を出したサフィリア(翼と尻尾が物陰から出てて隠れていない)が、若者たちの青白い顔を見て呟いた。サフィリアの頭の中に浮かぶのは、ホラー映画に出てくる被害者たちだ。映画の被害者たちは、皆、一様にあんな顔をしていたように思う。あのホラー映画で起こった出来事は確か――と、サフィリアは若者たちに同情する。
「あんまり怖がらせすぎないように、ちょっと脅かすだけにして、皆さんに帰っていただきましょう」


「では二人とも、いくぞ」
 若者たちの様子を伺っていたシャムロックが、傍らの二人に声をかける。
「心得た」
「はいっ」
 ロバートとサフィリアが頷くと、それぞれの準備に入る。

 まず詠唱を始めたのはシャムロックだ。その手に持った『ダンタリオンの書』を開き、【悪魔召喚・魔神の眷属】の呪文を唱えていく。中空に浮かび上がった青白い魔法陣から現れるのは、シャムロックの眷属たる下級悪魔たちの群れである。
「眷属どもよ、配置に付け」
 召喚された悪魔たちは、シャムロックの命令に従い、若者たちを出口へ誘導する配置についていく。

「ほう、なかなか興味深い力をお持ちのようだ。ならば私も面白い出し物を披露しよう」
 シャムロックの召喚術を見て興味深げな声を上げたロバートが、一言、小さな声で命じる。
「――創れ」
 ロバートの【王冠】の能力によって生み出されるは、即興劇の登場人物たち。混沌や恐怖を司る登場人物たちは、見た者の脳に直接『最も恐ろしいもの』を映し出す。――果たして、若者たちは何を見るのか。
 ロバートが喚び出した登場人物たちも、シャムロックの悪魔たちの後を追い、配置につく。
「なるほど、相手の恐怖心を利用する、か。すでに恐怖に囚われている愚か者たちには最も効果的な手段だな」
 ロバートの手並みを見て取ったシャムロックが、感心したように呟いた。

「よーし、それでは私も手伝ってくれる子を召喚しましょう」
 シャムロックとロバートが喚び出したモノたちが配置についたのを見て、サフィリアも両手を胸の前で組み、召喚の準備を整える。
「ほう――」
「――私たちとは、また違う系統の召喚術か」
 シャムロックとロバートが興味深げな視線を送る先で、サフィリアの【恐竜の楽園】の呪文が紡がれた。

「誰か助けてー手伝ってー」

「――この召喚呪文は、僕の『ダンタリオンの書』にも記されていないな」
「恐怖の極限に至った結果、未知なる者に助けを求める儀式――と解釈できなくもない」
 シャムロックとロバートが、独特な召喚呪文の考察をしている間に、サフィリアの周囲の空中に100個近い魔法陣が出現したかと思うと、そこから多数の生物が現れた。
 それは鋭い牙を持ち、三角形の背びれをもつ魚――。
「あれは、軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類――」
「――つまりサメだな。空を飛んでいるが」
 そう。それは空飛ぶサメの群れであった。

 それらを召喚したサフィリアはというと――。
「え、あれ? えっと、どちら様? し、知らない子を召喚してしまった……」
 意図せず現れた空飛ぶサメの群れに困惑の表情を浮かべていた。
 だが、知らない子だからといって、いまさら追い返すわけにはいかない。
「て、手伝ってくれるなら誰でもOKです! あの人たちを怖がらせて、ここは危ないから帰ってくださいって追いかけてほしいの!」
 サフィリアのお願いが通じたのか通じていないのか――ともかく、空飛ぶサメの群れは、若者たちに向かって空中を泳いでいった。


 ――それは、阿鼻叫喚の地獄であった。

 まず、それに気づいたのは、気弱そうなメガネの少女だ。
「ひっ、なに、この悪魔みたいな化け物……」
 シャムロックが喚び出した下級悪魔を目にし、恐怖に声もでなくなる。
 次に声をあげたのは、金髪の男だった。
「うわっ、なんだっ!? 入院患者……? なっ、身体が溶けてドロドロの怪物に……!?」
 懐中電灯が照らす先に突如現れた入院着を着た男性の怪物――ロバートの即興劇の登場人物に、金髪の男は怯えた表情を浮かべながら後ずさる。

 気づけば、若者たちはシャムロックの眷属の悪魔と、ロバートの即興劇の登場人物たちに周囲を囲まれていた。
「うわっ、なんだこいつらっ!?」
「きゃああっ」
「お、落ち着け! 俺の空手なら、こんなやつら……」
 残りの若者たちも悲鳴をあげ、恐慌に陥る。

 ――だが、それで終わりではなかった。

「あ、あれは何だっ!?」
「鳥か?」
「魚か!?」
「いえ、空飛ぶサメよーっ!?」
 向かってくる空飛ぶサメの群れを見て、若者たちは半狂乱になりながら駆け出していったのだった。


「ふむ、少々、予定より驚かせすぎたようだな。――あとは他の猟兵たちに任せようか」
 シャムロックは逃げていく若者たちの背中を遠い目をしながら見送り――。

「ほほう、あのサメの群れに向かっていくとは、最近の若者は怖いもの知らずよ! なに? 恐怖のあまり気絶して倒れた? 仕方がない、私が背負って安全な場所まで連れていこう」
 ロバートは、無謀にも空飛ぶサメに空手(通信教育)で向かっていき気絶した体格のいい男を親切に回収し――。

「なんでしょう、この光景見たことがあるような……。あ、最近見た生き物系パニック映画にそっくりです!」
 納得した顔のサフィリアが、ぽん、と手を打ったのだった。

 一般人の体格のいい若者――回収完了(リタイア)。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【SPD】
絡み、アドリブ歓迎

問題の廃病院に肝試しに来た一般人を追い出す為に建物を利用した臨時のお化け屋敷をやればいいんですね。
UCで呼出した斥候部隊に建物内の偵察のついでにあちこちにそれっぽい仕掛けを設置させて肝試しに来た人を追い出します。
光学迷彩で姿を隠したドローン群を使って映像、音響も追加しましょう。
戦闘用義体に幽霊のフリをさせるのも良いかも知れません。
本体は建物内に入れない様なら駐車場跡地で車両に偽装して待機します。
ではアイさんがうなされる位の臨時お化け屋敷を始めましょう。


河崎・統治
【POW】
絡み、アドリブ歓迎

ゴーストの出る廃病院で肝試しか。ま、本物を知らん一般人じゃしょうがない話か。世界結界の不便な所だよな。
それは兎も角として、なるべく穏便にお帰り願おうか。
建物内の偵察ついでに肝試しをしている人間を探す。
肝試し中の人間を見付けたら、幽霊のように見える演技をして相手を驚かし、建物の外に追い出す。
別口の猟兵と出会った場合は一般人の追い出しに協力してもらえる様に交渉する。




『廃病院に肝試しに来る一般人ですか。それを追い出すために建物を利用した臨時のお化け屋敷をやればいいんですね』
 廃病院の駐車場の一角に停車した装甲車から機械音声が響く。――否、それは装甲車に偽装された宇宙戦艦のコアユニット、天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)であった。彼女は情報収集の名目で銀の雨の降る世界へとやってきたのである。
『それでは、斥候部隊、展開。グリモア猟兵がうなされるくらいの臨時お化け屋敷を始めましょう』
 装甲車の後部ハッチが開いて、無数の偵察用義体が地面に降り立つ。さらに各種電子機器を搭載したドローン群も車内から飛び出してきた。
 偵察用義体からなる斥候部隊は周囲を警戒しながら廃病院に向かっていき、闇に包まれた建物に消えていく。ドローンも空を飛び、漆黒の夜空に溶けていった。
 それを見届けた装甲車が光学迷彩によって周囲の暗闇と同化すると同時に――駐車場に若者たちの乗るワゴン車が騒々しく入ってきたのだった。

「ゴーストの出る廃病院で肝試しか。ま、本物を知らん一般人じゃしょうがない話か。世界結界の不便なところだよな」
 暗闇に包まれた廃病院の中で、軍用の暗視ゴーグルをかけた男性が小さく呟いた。UDCアースの警備会社のロゴが入った装備に身を包むのは、河崎・統治(帰って来た能力者・f03854)だ。
「それにしても、またここに戻ってくるとはな――」
 誰に聞かせるでもなく、独り言をいいながら、統治はこの世界に思いを馳せる。
 UDCアースの警備会社に所属する警備員である統治だが、その正体は銀誓館学園第1期卒業生にして、鬼や妖怪といった異形を狩っていた一族の末裔なのであった。
 原因不明の現象により、シルバーレイン世界からUDCアースに転移してしまい、そこで生活を送っていた統治。だが、グリモアベースとシルバーレイン世界が繋がったことで、再び故郷に帰ってくることができたのである。
「ま、感慨に耽るのは後にして、まずは肝試しに来るという一般人に、なるべく穏便にお帰り願おうか」
 院内の案内図を眺めて構造を頭に叩き込んだ統治は、若者たちに先回りすべく、病院の奥へと向かっていった。


「このあたりでいいでしょうか? ドローン展開。映像効果と音響効果の準備を。斥候部隊は、一般人を驚かせるための仕掛けを用意してください」
 廃病院の一角で、女性型の義体がドローンや偵察用義体に指示を出していた。
 この女性型義体こそ、千歳の手足として遠隔操作することができる、バイオロイドタイプのリモート義体である。いま、リモート義体の千歳は、その人間と見間違うほど巧妙なバイオボディの上に――白い着物を身につけていた。頭には三角巾も装着済みだ。
「我ながら完璧な偽装に惚れ惚れしますね。これなら、どこからどう見ても幽霊ですよね」
 宇宙戦艦のコアユニットが遠隔操作する、幽霊のコスプレをしたバイオロイドタイプの女性型義体が、偵察用義体とドローンに指示を出して『お化け屋敷・天城』という看板を作っている――。そんなカオスな状況が展開されているところに、運悪く遭遇した男性がいた。
 そう、病院内を探索中の、アサルトライフルと軍用暗視ゴーグルで身を固めた警備員姿の統治である。

「なにっ、ゴーストかっ!?」
 思わずアサルトライフルを構え、幽霊姿の千歳のリモート義体へと照準をあわせる統治。ゴーストと戦った学生時代の記憶が鮮明に蘇ってきて、統治は無意識に胸元のカードへと手を伸ばした。
 一方の千歳も、突然現れた統治に驚きの表情を浮かべる。
「その姿――もしかして、この病院を管理する警備員さんですか!? か、勝手にお化け屋敷の工事を始めてしまってすみません! ですが、これには一般人の方を助けるという深い事情がありまして――」
「一般人を助ける? もしかして、そちらも能力者――いや、猟兵か?」
 まさか猟兵が病院内でお化け屋敷の建設をしているとは思っていなかった統治は、相手が仲間だと知り安堵の息をついた。
「ということは、あなたも猟兵なのですね。ちょうどよかったです。ヒューマノイドタイプのお化けをやれる人が足りなかったのです。偵察用義体では、ぎこちなく動くゾンビ役くらいが精一杯でして――」
「ああ、一般人を追い出す協力をするのはやぶさかではないが、俺にどんな格好をさせる気だ?」
 嫌な予感を覚えつつ、千歳に衣装を渡された統治。

 ――数分後、そこには落ち武者の格好をした統治が立っていたのだった。


「い、一体、さっきの怪物たちは何だったんだ……!?」
「知らないわよ! だから肝試しなんて……!」
「私、も、もう走れません……」
 猟兵たちに脅かされた若者たちは、無我夢中で暗闇の中を走り回っていた。
 そんな中、金髪の男がメンバーが一人足りないことにようやく気づく。
「な、なあ、あいつ、どこいった……?」

 ――周囲を見回すが、大柄な男の姿がどこにもない。
 一体、いつはぐれてしまったのか――。

「き、きっと、先に外に出て、車のところにいるって!」
 わざとらしく明るい声を出す優男だが、その声の震えを隠すことはできていなかった。

 ――そして、若者たちは誰一人、『お化け屋敷・天城』と書かれた看板をくぐったことに気づいていなかったのだった。


「こちら、河崎……いや、コールサイン・Kilo。ゲストの来場を確認した」
「コールサイン・Alfa、了解しました。それではパーティーを開始しましょう」
 若者たちがお化け屋敷ゾーンに入ったことを確認した統治が無線に語りかけると、すぐに千歳の返答が返ってきた。それと同時に、周囲にドローンが再生するおどろおどろしい音楽が鳴り響きはじめる。さらにドローンに装備された映写機によって、周囲の壁に墓地の映像が映し出された。

「ひっ、な、なんだっ……!?」
 突然、病院内の風景が墓地に変わって、金髪の男が恐怖の声を上げる。
 遠くまで広がる墓地の先には、ゆらゆらと揺れる人魂の青白い光が見えた。
 そして、若者たちの行く手を阻むように墓石の陰から現れたのは、白装束を身にまとい三角巾を頭につけた長髪の女性だ。俯いた女性は顔を隠す長い髪の間から、まるでレンズのように光を反射する瞳を若者たちに向ける。――それは、生きている人間の瞳とは思えないものだった。
 ガクン、とまるで機械のようにぎこちない動きで一歩を踏み出した女性の首が根本から外れ――その生首が若者たちの足元まで転がっていく。

「ひっ……」
 足元に転がってきた生首を見た若者たちは、恐怖にひきつった声を上げる。
 だが、本当の恐怖はこれからだった。
 ――生首の瞳が若者たちの方を向き、その口から言葉が紡がれたのだ。
「うーらーめーしーやー」

「きゃあああっ」
 活発そうな少女が悲鳴を上げ、後ろを向いて一目散に走り始めた。他の若者たちも、慌ててそれを追いかけていく。
 しかし、そこに現れたのは、武者鎧を着て抜き身の刀を持った男だった。その身体は、まるで太陽の炎に焼かれるように燃えており、まさに灼熱地獄に堕ちた闇の剣士といった面持ちだ。
「ここは我らの領域だ。只人はすぐに立ち去れ――」
 まるで周囲のスピーカーから放たれたかのように360度全方向から聞こえる、無線を通して聞いたかのようにノイズの混じった男の声。
 それを聞いて、若者たちは悲鳴を上げて駆け去っていったのだった。


「どうやら、うまくいったようですね」
 白装束の女――千歳のリモート義体が、転がった首を拾い上げて胴体に接続し直した。
 身体を包むファイアフォックスの炎を消しながら、統治が頷く。
「ああ、これで肝試しなんてしようなどと、もう思わないだろう。――ところで、これはどうする?」
「ええ、困りましたね――」

 二人の目の前には、恐怖のあまり気を失った金髪の男が気絶していたのだった。

「とりあえず、車のところまで運んでおくか」
「そうですね、そうしましょう」

 一般人の金髪の男――回収完了(リタイア)。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
廃墟の無断侵入、ダメ、絶対…。

【フォックスファイア】で人魂を演出して恐怖を煽ったり、幻影術式【残像、呪詛、高速詠唱】で幽霊や化け物の幻を幻出したり、【降霊】術式で善良な本物の霊(!?)に事情を説明して協力して貰って少し脅かして貰ったりして、若者集団(OP、OP以外問わず)を追い返すよ…。

そうだ、オブリビオンの犠牲者とかこういうトコに集まりやすい霊とかも成仏できるよう、一緒に浄化【破魔】しようか…。


小さい子供達の集団とかが来たら…脅かすと可哀そうだから、言って聞かせようかな…。
一応、言霊で【催眠術、呪詛】言い聞かせるようにして…。


わたしは妖狐…ここは日常から外れた場所…。あなた達は日常へお帰り…




 夜闇の中、かすかな月光を銀色の髪と銀色の瞳が反射していた。その持ち主は、狐の耳と長く艷やかな尻尾を生やした妖狐の少女。魔剣や妖刀を祀る一族の雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)である。
「廃墟の無断侵入、ダメ、絶対……」
 露出の多い白い巫女装束『九尾の羽衣』を身にまとい妖刀を腰に下げた璃奈の目の前には、廃病院が不気味な黒い影としてそびえている。
「この廃墟……霊たちが集まってるみたい……」
 妖獣型オブリビオンが出現したから霊が集まってきたのか、それとも霊が集まる廃病院だから妖獣型オブリビオンが根城にしたのか――。どちらが先かはわからないが、呪いの類に親和性が高い璃奈には、おぼろげに霊たちの気配が感じられていた。
「一般人だけでなく、霊たちも放っておけないかも……」
 璃奈は巫女装束の裾を翻しながら、廃病院の中へと向かうのだった。


「ね、ねえ、早く帰ろうっ」
「私、怖い……」
 活発そうな少女と、おとなしそうなメガネの少女が、優男風の男性にしがみつきながら病院の廊下を歩いてくる。いつの間にか他の仲間とはぐれてしまったため、若者たちは3人だけに減っていた。
「わ、分かってるって! もうすぐ出口のはず!」
 少女たちの前でみっともない姿は見せられないと思ったのか、優男は顔にひきつった笑みを浮かべながら、震える声で根拠なく言い放った。

 若者たちの声が近づいてくるのを聞いて、廃病院内の病室に身を隠している璃奈の眉がかすかにひそめられた。
「こっち、出口と反対方向なんだけど……。ちょっと脅かして、出口に誘導した方がいいかな……」
 抑揚の少ない声で呟いた璃奈は、巫女装束の懐から取り出した『霊魔のレンズ』に霊力を流し込む。このレンズは、霊などの目に見えない存在を可視化することができる降霊術用の霊具である。
 レンズを通して周囲を見回した璃奈の目に、ぼんやりと透き通った病院着姿の男性の姿が映った。
「お願い、わたしに協力して……。協力してくれたら、きちんと成仏できるように浄化してあげるから……」
 廃病院を彷徨い続ける病院着姿の霊は、璃奈の言葉に頷くのだった。


「こ、この中庭を抜けていけば近道のはずだよな……」
「け、けど、来る時、こんなところ通らなかったじゃない……」
「まっくらで怖い……」
 3人の若者たちは、震える足で廃病院の中庭を歩いていた。四方を病棟に囲まれた中庭には月の光も届かない。光源となるものは、若者たちが手に持った小さな懐中電灯だけである。
 長年手入れもされず、雑草で荒れ果てた中庭。若者たちは足元を懐中電灯で照らしながら、ゆっくりと歩いていくが――。
 ――突如、若者たちの周囲に青白い炎が浮かび上がった。

「うわぁっ、ひ、人魂っ!?」
 璃奈が【フォックスファイア】で作り出した狐火を人魂だと思いこんで悲鳴を上げる優男。
 だが、璃奈の仕込みはそれだけではない。
「な、なに、この化け物っ!?」
 璃奈の幻影術式によって生み出された、ゾンビのような化け物の幻たちが、若者たちの退路を閉ざす。

 ――そして、そこに現れるのが、璃奈が協力をお願いした地元の幽霊の皆様だ。
 病院着に身を包み身体が透き通った幽霊たちは、璃奈の降霊術の霊力によって、一般人の若者でも姿が見え、声も聞こえるようになっている。
『おー、生きてる人間と話をするなんて、何十年ぶりかのう』
『若人よ、命知らずなのはいいが、あんまり無茶すると命を落とすぞ? この俺みたいにな。がっはっは』
『そうよ、家では家族も心配しているでしょう? 早くお帰りなさい』

「きゃああっ」
 突如、周囲に現れた半透明の幽霊たちに、メガネの少女が大きな悲鳴を上げると、一目散に駆け出した。
 パニックになった残りの二人も、慌ててメガネの少女を追って全力で走っていく。

「あっちが出口だから、これで大丈夫かな……。霊の皆、どうもありがとう……」
『いやいや、わしらのことを気にかけてくれたのは嬢ちゃんだけじゃ』
『おうよ。幽霊相手でも怖がらないとは、肝が座ったお嬢ちゃんだ』
『できれば、私たちの他にも、この病院にいるみんなを成仏させてあげてね』
 幽霊たちの言葉に、璃奈はこくんと頷くと『破魔の鈴飾り』を取り出した。
「それじゃあ、浄化するよ……。安らかに眠ってね……」
 魔剣の巫女たる璃奈が鈴を鳴らすと、その優しい音が病院を包み込むように広がっていき――幽霊たちの姿が光の粒子に分解され、ゆっくりと天に昇っていく。

 ――それは、まるで魂が空に還っていくかのようであった。


「これで、肝試しに来た人たちは全員かな……? 予知だと5人って言ってたけど……」
 璃奈は、ふとグリモア猟兵が予知として語った内容を思い出した。
 今追い払った若者は3人だ。他の若者たちは、別の猟兵が対応したのかもしれないし、猟兵の介入によって予知が変わったことも考えられるが――。

 そこまで考えたところで、中庭に可愛らしい声が響いた。
「今の優しい鈴の音、おねえちゃんの?」
 璃奈が振り返ると、いつの間にか中庭に小学生くらいの女の子が立っていた。
 少女は、璃奈が持つ鈴飾りを、物珍しそうに見ている。
「さっきの3人と一緒に来た子かな……? 他の人と、はぐれちゃったの……?」
「うん、気がついたら、ひとりだったの。おねえちゃん、みんながどこにいったのかしらない?」
 女の子は不安そうな顔で、こてん、と可愛らしく首をかしげて璃奈に問いかける。

 聞かれた璃奈は、少女をどうしようかと対応に悩んでいた。
(小さい子どもを脅かすのはかわいそう……かな……。言霊で言い聞かせれば聞いてくれるかな……?)
 先程の若者たちと同じように脅かすのは簡単だが、さすがに小さい子にそれは可哀想と判断した璃奈。
 自身の霊力を言葉に乗せ、霊力がこもった言霊で少女に言い聞かせるように話しかける。

「わたしは妖狐……。ここは日常から外れた場所……。あなたは日常にお帰り……」
 璃奈の霊力がこもった言霊が、廃病院の中庭に染み込むように広がっていく。
 ――その言葉を聞いた少女は、まるで憑き物が取れたかのように顔を輝かせると、花のような笑顔を浮かべた。

「あっ、パパとママだ! ようやくみつけたーっ! ありがとう、妖狐のおねえちゃんっ!」
 そういうと、少女は闇の中に向かって駆けていき――そのまま姿が見えなくなった。

「ご両親と一緒に肝試しに来てたのかな……?」
 少女の後ろ姿を見送った璃奈は、首をかしげるのであった。


 ――余談。
 事件解決後、璃奈からの報告を聞いたグリモア猟兵は、小学生の少女の話を聞き身体を強張らせた。
 曰く、そのような少女が肝試しに来るという予知はなかったと――。他の猟兵達も誰一人として、5人組の若者以外の一般人を目撃していないと――。

 時は11月の始め。西洋では死者がこの世に戻ってくるというハロウィンの直後。
 ――その少女は、もしかしたら、ハロウィンでこの世に迷い込んでしまった本物の幽霊だったのかもしれない。

 璃奈の話を聞いた後、グリモア猟兵は悲鳴を上げて気絶してしまったという。

 グリモア猟兵――再起不能(リタイア)。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・沙夜
【白杜・纏さん(f35389)と】

いままでも能力者ではありましたけど、
猟兵としてはわたしたちもこれが初依頼……。

でも、見知った世界ですし、纏さまともいっしょですし、心強いですね。

まずは避難……心霊スポットに遊びに来た方なら、
驚かして逃げてもらうのがよさそうに思います。

わたしは自分は陰に隠れて、【人形繰り】を使って【雪斗(人形名)】を動かして、
幽霊に見せかけたいと思うのですがいかがでしょうか?

纏さまは襦袢姿になられるのですか?
なら、お着替えとお化粧のお手伝い、いたしますね。(楽しそう)

廃病院の手術室で、雪斗をベッドに寝かせ、
参加者がきたら起き上がらせて、ゆらりゆらりと追いかけさせたいと思います。


白杜・纏
霞・沙夜(f35302)さんと

猟兵としての戦いはこれが初めてですけど
沙夜さんとなら不安などありません!
力を合わせて乗り越えてみせます!

まずは一般の方の避難させないといけませんね…
ここは沙夜さんと共に脅かして、退散していただきましょう

私は襦袢姿と乱れ髪の幽霊に扮して脅かします
そちらは沙夜さんに手伝っていただきますが…

…ゆ、幽霊が顔を赤くしてはいけませんから、落ち着かないと…!

沙夜さんの人形(雪斗さん)に追われ
逃げている一般の人に先回りして、挟み撃ちするようにしながら
クライシスゾーンをうまく調節して使い
一般の人に当たらないようにしながら弱い嵐を出して恐怖感を煽ります


貴方たちも、私と同じように…!


アルファ・オメガ
がうー、またこの世界に戻ってくることになるとはねー
うん、この前思い出したばっかりだけど
当時は四足歩行だった上に『ガゥ』しか喋れなかったけど

また平和な世界にするために、ボクも頑張るよー

ここは驚かす感じ?
まずは【猫の毛づくろい】をして摩擦係数を減らしておこう

そして背中に蜘蛛の足(段ボール製・ただし見た目は蜘蛛)を生やして
蜘蛛の足には糸とかつけておいてちょっと動くようにしておくね

おわかりでしょうか?お腹で廊下を滑って高速接近します
足も動かすとリアリティアップ!
猫蜘蛛がすごい勢いで迫ってくる!
これは怖いはず!

もし近寄ってきたら蜘蛛の足を引きちぎって手裏剣みたいに投げるよ
そしてすごい勢いで逃げるよ!




「いままでも能力者ではありましたけど、猟兵としてはわたしたちもこれが初依頼……」
「けど、沙夜さんとなら不安などありません! 力を合わせて乗り越えてみせます!」
 暗闇に包まれる廃病院を見上げ、二人の少女が視線を交わした。
 二人とも、夜闇に溶け込むかのような漆黒の長髪をしているが、その瞳の色は対象的だった。
 一人は、夜空に浮かぶ月のように輝く金色の瞳。人形遣いの少女、霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)。
 もう一人は、夜の冷気を思わせる青い瞳。焔と氷を操る雪女の少女、白杜・纏(焔を纏いし雪・f35389)。
 ふたりともシルバーレイン世界出身の能力者であるが、猟兵としてはこれが初めての実戦だ。だが、固い絆で結ばれた相方と一緒であれば、どんな困難にも立ち向かっていけると思えるから不思議なものだ。
「見知った世界ですし、纏さまともいっしょですし、心強いですね」
「は、はい……沙夜さんにそう言っていただけると、私も嬉しいです……」
 ふたりは共に微笑を浮かべ、暗闇を背景に建つ廃病院へと足を向けた。

 そして、もう一人の猟兵も、感慨深そうに呟いていた。
「がうー、またこの世界に戻ってくることになるとはねー」
 故郷の隠れ里を出て旅をしてきたケットシーのアルファ・オメガ(もふもふペット・f03963)が、頭にかぶった三度笠を持ち上げて、周囲に視線を向けている。
 グリモアベースがシルバーレイン世界に繋がった時、アルファの運命の糸も再びシルバーレイン世界と繋がり、自身がかつて使役ゴーストのケルベロスベビーであったことを思い出したのだ。
「当時は四足歩行だった上に、『ガゥ』しか喋れなかったけど、また平和な世界にするためにボクも頑張るよー」
 腰に差した愛刀のサムライブレイド『ぶらっく・せいばー』の重さを確かめ、アルファは廃病院に向かっていくのだった。


「まずは、一般の方を避難させないといけませんね、沙夜さん……」
「ええ、心霊スポットに遊びに来た方なら、脅かして逃げてもらうのがよさそうに思います」
 病院内に入った纏と沙夜は、若者たちを避難させる方法について相談していく。
 現在位置は手術室。ここならば、迷い込んできた若者たちを脅かす小道具には事欠かないだろう。
「一般人を驚かすなら、ボクも協力するよ」
 アルファも二人の能力者に協力を申し出ると、驚かすための詳細な作戦の打ち合わせが始まった。

「がぅっ、なるほど、沙夜が人形を操って若者たちを驚かせて、そこに幽霊の格好をした纏が先回りして挟み撃ちにするわけだね」
「続けて、さらにアルファ様が蜘蛛の仮装をして追い打ちをかけるのですね」
「そ、それは、相当怖いのではないでしょうか……」
 アルファと沙夜が作戦をまとめ、それを聞いた纏が改めて感想を口にした。
 軽い肝試し感覚で廃病院にやってくる若者たちにとっては、猟兵が全力で脅かしてくるのは災難以外の何物でもないだろう。

 ――だが、アルファが深刻そうな口調で纏に告げる。
「纏、世界結界の異常については知ってるよね? 今後、どんな場所がゴーストタウン化するかわからないんだよ。――こういう場所に近づくような若者たちには、心苦しいけど、きつーいお灸を据えないといけないんだ」
「そ、そのわりには、アルファさん、楽しそうにみえますけど……。いえ、気のせいですよね……」
 アルファの顔にイタズラ猫っぽい表情が浮かんでいるように見えなくもないが、ケットシーの表情を判別するのは難しい。纏は気のせいだと思うことにした。
「さあ、そういうわけで、みんな、作戦の準備開始だよ!」
 アルファの号令に、沙夜と纏が頷いた。


「纏さまは、幽霊の格好として襦袢姿になられるのですか? それならば、わたしがお着替えとお化粧のお手伝いをいたしますね」
「は、はい、よろしくお願いします……」
 纏の準備を手伝うと言い出した沙夜。その言葉は、どこか楽しそうだ。纏としても化粧を手伝ってもらえるのはありがたいので、申し出を断る理由は何もないはずだが――。
「それでは、纏さま。奥の部屋でお着物を脱いで準備しましょう」
 甲斐甲斐しく着替えを手伝う沙夜に言われるままに、纏は身につけた着物『雪華紡』の帯をほどく。万年氷から作られた糸で紡がれた着物が沙夜の手でするりと脱がされると、纏の長襦袢姿が暗闇に白く浮かび上がる。――その纏の表情は、真っ赤に染まっていた。
(……ゆ、幽霊が顔を赤くしてはいけませんから、落ち着かないと……!)
 深呼吸をして落ち着こうとする纏だが、白い頬を赤く上気させた纏の表情を見逃す沙夜ではなかった。
「纏さま、頬が赤いですが、お熱でもありますか? もし体調が優れないようでしたら、薄着になられない方が……」
 纏を心配した沙夜が、熱を測ろうとぴたりと額と額をくっつけてきた。
 漆黒の闇の中、二人の少女の顔が吐息がかかるほどの距離まで接近し――纏の顔から、ぼんっという擬音とともに湯気が立ち上ったような気がした。
「だ、大丈夫ですっ! わ、私は雪女ですので、寒さ程度で風邪を引いたりしませんしっ……!」
 慌てて沙夜から距離を取りつつ、わたわたと襦袢の乱れを直す纏であった。

 ――その後、沙夜によって入念に化粧を施されている間も、纏は間近にある相手の顔を直視できず、沙夜から「纏さま、ちゃんと前を向いていただかないと、きちんとお化粧できませんよ?」と言われるのだった。


「がう、纏の準備は終わったみたいだね」
「アルファさまは、何をされているのですか?」
 幽霊の化粧を施された纏とともに沙夜が手術室に戻ってくると、そこではアルファが段ボールをチョキチョキ切って何かを作っていた。その横には、無数の糸も置いてある。
「これはねー、土蜘蛛ならぬ猫蜘蛛の仮装だよー」
「確かに、よく見ると蜘蛛の脚……にも見えますね……」
 部品を眺めた纏が言うように、アルファが作っているのは蜘蛛の脚の部分だった。
 それを背中に付けることによって、猫蜘蛛の完成ということらしい。

「けど、ボクはさっき、重大な事実に気づいてしまったんだ――」
 暗闇に鋭い猫の瞳を光らせながら、アルファが言葉を紡ぐ。
「重大な事実――」
「それは一体……?」
 ごくり、と喉を鳴らす、二人の少女。

「――それはね、ボクの手だと背中に手が届かなくて、蜘蛛の脚をくっつけられないんだよ……!」

 この後、沙夜と纏の手によって、アルファの背中に蜘蛛の脚が接着され、猫蜘蛛が完成したという――。


 手術室の中を、二つの懐中電灯の光が動いていた。
「ねえ、こっちで道あってるの……?」
「とりあえず、手当り次第に出口を探すしかないじゃない」
 声の主は、廃病院で肝試しをおこなっている若者たちのうち、おとなしそうなメガネの少女と、活発そうな雰囲気の少女の二人だった。他のメンバーとは、ここに来るまでにはぐれてしまっていた。
「ここって……手術室……? ね、ねぇ、なんか怖いし、ここはやめようよ……」
「いえ、待って……」
 今にも泣き出しそうなメガネ少女を活発そうな少女が制し、手術室の中央を指差した。
 そこにあるのは手術台。――その上に、人の姿をしたものが横になっていた。

「――なるほど、わかったわ。きっと、全部、男たちのイタズラなのよ。私たちとはぐれたふりをして、脅かそうとしてるに違いないわ」
「い、いままでのが全部嘘だったなんて思えないんだけど……」
 活発そうな少女の言葉にメガネ少女が意見を言うが、恐怖から逃れたい一心の少女は聞く耳を持たない。
「あいつらの思い通りに怖がってやるもんですか。逆に脅かし返してやるんだから……」
「あっ、ま、待って……」
 活発そうな少女は懐中電灯の灯りを消すと、足音を殺しながらゆっくりと手術台に近づいていく。メガネ少女も置いていかれまいと、同じく懐中電灯を消して後を追いかけた。
 二人は手術台に近づくと――勢いよく懐中電灯を付けて手術台の人影を照らし出した。

「あなたたちが、私たちを脅かそうとしてるのはわかってるんだから! ――え……!?」
 少女が照らし出した、手術台に横になった人影。それは、腹部を大きく開かれ内臓を露出させた――死体だった。
「きゃっ、きゃあああっ!」
 メガネ少女の悲鳴が、病院の静寂を破るかのように響き渡った。
 
 ――だが、それだけでは終わらない。
 手術台の上に横になっていた死体が――ゆっくりと上体を起こしたのだ。

「ひっ、死体が動いて……!?」
「い、いやぁああっ!」
 起き上がって、ゆらりゆらりと向かってくる死体――その足元に内臓がぼとぼとと落ちていく――を見て、二人の少女たちは悲鳴を上げて手術室から飛び出していった。

 その様子を手術室の物陰で見ていた沙夜が、満足そうに死体――いや、沙夜が人形操りによって動かしていた糸繰り人形の『雪斗』に声をかけた。
「ご苦労さま『雪斗』。――あとは纏さまとアルファさまにお任せしましょう」


「な、何なの、今の動く死体……っ!」
「だから、いやだって言ったのに……」
 手術室から飛び出した二人の少女は、院内の廊下を全力で駆けていた。動く死体が追いかけてくるのではないかという恐怖。それに気を取られるあまり、周囲の状況の変化に気づくのが遅れたのも無理のないことだろう。

「ね、ねえ、なんだか寒くない……?」
 周囲の気温が下がったように感じ、活発そうな少女が足を止めた。
 ミニスカートから露出する肌が感じるのは、氷点下の気温だ。床や壁面にも霜がおりていた。
「あ、あれ……」
 メガネの少女が指差す先には、白い長襦袢を着て、乱れた黒髪を伸ばした女性が立っている。その表情には生気がなく、血の通ってなさそうな白い肌をしていた。

 ――その白襦袢の女性が口を開く。

「貴女たちも、私と同じように――!」
 その言葉とともに、周囲の気温がさらに下がり、まるで吹雪のように冷たい風が少女たちに向かって吹きすさぶ。

「きゃあああっ!」
 どちらの少女の声かも分からない悲鳴を残し、少女たちは逃げ出していった。

「……ちょっと驚かせすぎてしまったでしょうか?」
 長襦袢姿の纏が、心配そうに呟いた。


 手術室のお化けと、襦袢姿の幽霊。
 それらから逃げて、二人の少女は息を整えていた。
「もういやぁ……」
「しっ、静かに……。何か聞こえない……?」
 活発そうな少女は周囲の音に耳を傾けた。――暗闇から聞こえてくるのは、カサカサという、まるで昆虫が動くかのような音。
 背後から近づいてくる音に対して、少女たちは振り向きざま、懐中電灯を向けた。そこにいたのは――。

 ――背中から蜘蛛の脚を無数に生やした茶トラの猫。すなわち猫蜘蛛だった。
 それが、脚をカサカサと動かしながら高速で接近してくるのだ。

「「いやああああっ!」」
 蜘蛛が苦手な二人の少女が同時に悲鳴――幽霊を見たときよりも切実なもの――を上げると、その場で気絶して倒れてしまったのだった。

「あれ? 気絶しちゃった……」
 蜘蛛の脚を手裏剣のように投げようと振りかぶっていたアルファは、振り上げた手をどうしようかと思い悩みつつ――。
「とりあえず、この子たちを回収しようかな?」
 沙夜と纏を呼んで、少女たちを病院外へと運び出すのだった。

 一般人の活発な少女とメガネ娘――回収完了(リタイア)。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
狂言回し。ホラー演出をメインに主役は肝試しの一般人で。

ふむふむ、肝試ししてる連中を追い払えばいいのね?
まずは廃病院を『夜』の結界術で覆って、と。この結界術の中は感応能力(第六感、視力、聞き耳、情報収集)で手に取るように把握できるわ。
多重詠唱のパフォーマンスでラップ音を演出しましょ。
走り回る足音、何かの割れる音、少女のクスクス笑い。そして耳元に囁く少女の声
「アリスと遊んでくださるのかしら?」
天候操作で雷鳴も響かせての演出でホラー感を高めましょ。それでもまだ肝試しを続行するようなら念動力でポルターガイストでも起こしましょうか。
ネタはまだまだあるわよ、召喚術で人魂を漂わせてみたり、式神使いで死霊っぽい見た目のやつで脅かしてみたりね。
最終手段としてテレポーター(全力魔法、罠使い)で『ふりだしに戻る』よ。散々に脅かされた後に気がつけば入口に戻されていた、となれば流石に帰るのではないかしら?
そこまでやってダメなら化術で迷子の幼女に変身して保護してもらいましょ




「ふむふむ、肝試ししてる連中を追い払えばいいのね♪」
 若者たちが入っていった廃病院。暗闇に覆われた建物を見上げた銀髪ゴスロリエプロンドレスの少女、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト魔少女・f05202)は、幼そうな顔に妖艶な笑みを浮かべると、その赤い月のような瞳を輝かせた。
 生み出されたのは、サイキックヴァンパイアであるアリスの混沌魔術による結界だ。不可視の結界は広大な敷地を持つ病院さえ包み込み――魔術的パラダイムシフトを発生させることで、アリスが支配する空間へと書き換えていく。
「さぁ――わたしと楽しく遊びましょ♪」


 真っ暗な廊下に、コツコツという俺の足音だけが響いていく。
 足元はひび割れたリノリウムの床。窓にはまっていたと思われるガラスはすべて割れ、11月の寒風が吹き込んできて肌寒い。頼りになるのは、廃病院の暗闇を照らす心細い懐中電灯の灯りだけだ。
「ちくしょう、どうしてこんなことになっちまったんだ……」
 俺は小さく呟きながら、さっきまで一緒にいた仲間たちの顔を思い浮かべた。最後まで一緒にいた二人の女の子とも、病院の中庭から逃げる途中ではぐれちまった。――そう。俺は、女の子二人を幽霊の群れの中に残して、一人で逃げてきたんだ。だってしょうがないだろう? 女の子が走る速度に合わせてたら、幽霊どもに追いつかれちまう。
「俺は悪くないっ!」
 ガン、と壁に打ち付けた右手の拳から血がにじみ――その痛みで少しだけ冷静さを取り戻せたらしい。
 そう、どんな時も冷静に、だ。そうすれば、この廃病院から逃げ出すこともできるはず。たとえ、生き残ったのが俺一人だけだったとしても。

 仲間たちの死を乗り越え、気を取り直して前に進もうとした瞬間――突如として、近くでパァンという破裂音が響いた。
「うっ、うわっ!」
 びっくりして、思わず尻もちをついてしまい、懐中電灯を取り落とす。
 や、やべえ、とにかく灯りを……!
 周囲の様子に気を配りながら、落とした懐中電灯に手を伸ばし――。

 ――ドタドタ、パリィン、きゃははは……。

 何かが走り回って、何かが割れて、何かが笑う声が周囲に響いた。
 俺は慌てて懐中電灯を拾い上げると立ち上がり、壁を背にして周りを警戒する。こうして壁を背にしていれば、左右に向かって伸びる廊下だけに注意を払えばいい。
 廊下の右側、左側と照らし、そこに何もないことを確認して安堵し――耳元で、突如、幼い少女の声が聞こえてきた。

「くすくす、アリスと遊んでくださるのかしら?」

「う、うわぁあああっ!」
 脳髄の奥まで染み込むような少女の甘ったるい声に本能的な恐怖を掻き立てられ、俺は悲鳴を上げながら素早く飛び退いていた。ま、周りには誰も居なかったはずなのに、なんで……!?
 さっきまで晴れていたはずの病院の外は黒雲に覆われ、雷鳴が響き、稲妻の光があたりを照らし出す。
「……誰も……いない?」

 ――さっきまで騒がしかった周囲の音もぱったりとやんでいた。


「やばい、この病院、絶対呪われてやがる……早く外に出ねえと……」
 だけど、だだっ広い廃病院の中を逃げ回ってきたせいで、どっちが出口か分からねぇ。外もいつの間にか雷雲に包まれて月も見えない。これじゃ、方角すら判断付かねえ。
「……ん? これ、院内の見取り図……か?」
 壁に懐中電灯を向けたところ、暗闇に浮かび上がったのは、ボロボロの看板だった。かすれていて読めない部分の方が多いが――。
「ここが現在位置で……こっちが俺たちが入ってきた入り口か? そうなると、ここの階段から地下を通るのが近道か……」
 どうやら、メチャクチャに走り回ったせいで、かなり入り組んだところまで来ちまってたらしい。地図によれば、地下を通ることでショートカットできるみたいだ。

「ここが、地下に向かう階段か……」
 地図に記されていた場所に向かうと、そこには暗闇に向かって伸びる下り階段があった。
 俺は覚悟を決めて、足元を懐中電灯で照らしながら、そっと階段を降りていく。まるで無限に続く下り階段という錯覚。――永遠にも思える時間をかけて、俺は地下一階に降り立った。
「天井が高えな……」
 階段が長く感じられたのは、実際に階段が長かったんだろう。
 階段脇に貼られた見取り図を照らすと、緊急用発電設備という文字が見えた。どうやら自家発電機を置くために、地下は天井が高く作られてるらしい。
「入り口に通じてるのは、発電設備とは逆方向か……」
 俺は廊下の先に懐中電灯を向けると、静けさに満ちた廃病院の地下を進んでいった――。


「こいつは……」
 俺は廊下の途中で足を止めた。懐中電灯の灯りに照らし出された先は、地上階が崩落したのか、廊下が完全に塞がっていたからだ。ちくしょう、ここまで来て先に進めないなんて……。
 なんとかすり抜けられる隙間がないか探すが、廊下は完全に埋まっちまってた。
「唯一通れるかもしれないのが――ここか」
 崩落した廊下の脇に扉がある。この先の部屋の中を通り抜ければ、崩落した廊下の先に出られるかも知れない。
 だが、その部屋に書いてある文字を見て、俺は躊躇していた。なぜなら、そこに書かれたのは――。

 ――『霊安室』。

「いやいや、こんな呪われた廃病院で霊安室に入るとか、フラグでしかねーじゃんか!?」
 だけど、ここを通るのが一番の近道。大丈夫だ、俺には死んだ4人の魂がついている。きっとあいつらが守ってくれる。
 俺は勇気を出して、霊安室に足を踏み入れた。

「おじゃましまーす」
 部屋の中を素早く懐中電灯で照らす。そこはかなり広い空間になっていた。隙間を開けてベッドのような台がいくつも置かれている。
 そして、部屋の奥には、廊下の崩落の先に通じると思われる扉が見て取れた。

 勇気を持って、部屋に足を踏み入れる。
 部屋に足を踏み入れても、特におかしな反応はない。よし、これなら……。

 ――その瞬間。周囲に転がっていた瓦礫片や、台に置かれた位牌らしきものが空中に浮かび上がった。どこから現れたのか、メスや注射器などの医療器具も浮いている。これは――いわゆるポルターガイスト現象ってやつか!?
 さらに――霊安室の中に青白い光を放つ人魂が燃え上がり、さらには透明な幽霊のようなやつまで!?
「うっ、うわあああっ、い、命だけは助けてくれえええっ!」
 俺は恐怖のあまり、入ってきたドアから飛び出し、一目散に逃げ出そうとし――謎の光に包まれた。


「――うう、こ、ここ……は?」
 目を開けて周囲を見回すと、そこは廃病院の入り口だった。俺たちが廃病院に入っていった場所だ。
 離れたところには、駐車場に停まるワゴン車も見えた。
「た、助かった……のか……?」
 ぽつりと言葉を漏らすが、実感が沸かない。
 ここに来た時は、5人だった。だけど、今は俺一人だけだ。
「こんなことなら、肝試しなんかしなければよかった……。俺は今後、一生肝試しなんかしないぞ……」

「あら、その言葉、本当かしら?」
 俺の呟きに答えたのは、銀色の髪をした幼女だった。――こんなところに子どもが一人でいるとか、迷子か?
 だが、困惑する俺をよそに、その幼女は赤い瞳に楽しげな光をたたえて、俺に告げた。
「ふふ、わたしの試練に耐えたご褒美として、あなたを悪夢から解放してあげる♪ ほら、結界が解けるわ」
 幼女の言葉とともに――世界が塗り替えられた。


「い、いまの子どもは一体……」
 若者たちの一人、優男が周囲を見回す。
 そこは廃病院の入り口だ。アリスのテレポートで飛ばされたなどとは夢にも思っていない若者は、混乱しながら周囲を見回し――それに気づいた。
「み、みんな!? 無事だったのか!?」
 地面に敷かれたシートの上に寝かされた4人の若者たち。猟兵達によって回収された面々である。もちろん、命に別状はない。
「み、みんな、起きろっ! ここはやばい! すぐに逃げようっ!」
 優男によって起こされた若者たちは、のろのろとワゴン車に乗り込んだ。

「ふふ、これに懲りたら、二度と危険なところに近づかないことね♪」
 走り去っていくワゴン車を見送りながら、アリスは微笑を浮かべていた。

 一般人の優男――帰還(ミッションコンプリート)。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『サイコチェーンソー』

POW   :    殺人チェーンソー
【チェーンソー】が命中した対象を切断する。
SPD   :    サイコスピン
【狂乱しながらの回転斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ノイズチェーンソー
自身の【チェーンソー】から【強烈な駆動音】を放出し、戦場内全ての【防御行為】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵達の活躍により、肝試しをしていた若者たちは廃病院から逃げ去っていった。避難は無事に完了だ。

 だが、怪異のテリトリーを荒らした若者たちに釣られて、廃病院に巣食う化け物――いや、オブリビオンの群れが目を覚ます。彼らは、廃病院のあらゆる場所から無尽蔵に湧き出してくるかのようだ。
 チェーンソーを手にしたオブリビオンたちは、妖獣化オブリビオンの影響で凶暴化しており、通常のオブリビオンよりも強力だ。また、知性をなくし周囲に見境なく襲いかかってくる。

 このオブリビオンたちを放置しては、若者たちを追いかけようとするオブリビオンたちによって、街が阿鼻叫喚の地獄になりかねない。
 ここはなんとしても猟兵たちの手で敵を根絶やしにしなければならないだろう。

●マスターより
 サイコチェーンソーたちは、近くにいる相手(猟兵たち)を無差別に襲ってきます。オブリビオンの知性が低いことを上手く利用すると有利に戦えると思われます。
 また、サイコチェーンソーたちは廃病院に巣食う妖獣化オブリビオンを倒せば、時間が経てば自然消滅します。オブリビオンの群れに突破口を開き、妖獣化オブリビオンへの道を開くような戦い方も効果的でしょう。
 妖獣化オブリビオンさえ倒せば、街には被害がでないと思われますが、万一に備えて、なるべく多くの敵を引きつけ、廃病院の敷地から外に出さないようにするのも有効な戦い方になるかもしれません。
 その他、効果的と思われるプレイングにはプレイングボーナスが付きます。
神代・凶津
おうおう、ウジャウジャ湧いてきやがったな。
「…オブリビオンをこの病院から出すわけにはいきません。」
おうよ、派手に暴れるとするか相棒ッ!

「…式、召喚【鬼乗せ船】」
鬼乗せ船を廃病院の正面入口を塞ぐように召喚して、病院に鬼霊達をなだれ込ませるぜ。
チェーンソーゾンビVS鬼霊、いよいよB級ホラー映画じみてきたな。
野郎共、派手に暴れなッ!

あのチェーンソーは当たったらヤバそうだからな。敵の動きを見切り、攻撃を回避しながら妖刀で叩き斬っていくぜ。
そして大乱戦状態の廃病院を駆け抜けながら元凶である妖獣化オブリビオンを捜していくぜ。


【技能・式神使い、集団戦術、見切り】
【アドリブ歓迎】


雛菊・璃奈
敵の思考は単純なんだよね…?
だったら、それを利用しない手は無いかな…。

幻影術式【呪詛、残像、高速詠唱】で敵に自身や他の猟兵、一般人等の姿の幻影を重ねて、互いが敵に見える様に細工し、同士討ちを誘発…。

病院の建物内みたいに狭い場所でチェーンソーなんて振り回せば勝手に同士討ちも出そうだけど…互いが敵に見えればもう止まらないよね…。

更に、同様に幻影を操作して、病院外に出ない様になるべく一か所(ロビーや会議室等の広いスペースや大部屋)に集まる様に敵を釣り出し、展開した【unlimitedΩ】と黒桜による呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】による一斉攻撃で集めた敵集団を一気に殲滅するよ…。




「おうおう、ウジャウジャ湧いてきやがったな」
 赤き鬼面である神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)が、仮面の暗く窪んだ眼窩をチェーンソーを持ったゾンビのようなオブリビオンに向けた。
 廃病院の入り口からオブリビオンたちが無尽蔵に湧いてきている。このままでは、いずれゾンビたちは病院の敷地から溢れ出てしまうことだろう。
「……オブリビオンをこの病院から出すわけにはいきません」
 白と赤で彩られた巫女装束に身を包んだ黒髪の女性、神代・桜が静かながらも決意のこもった言葉を凶津に向ける。退魔師である凶津と桜にとって、人々の平和な生活を脅かすオブリビオンは倒すべき敵なのである。
「おうよ、派手に暴れるとするか、相棒ッ!」
 凶津の叫びに桜が無言で頷くと鬼面を装着した。妖刀を引き抜いたその姿は、魔を斬り祓う鬼のようであった。

「あのオブリビオンは、ここで全滅させるよ……」
 赤き鬼面を装着した巫女の隣に、銀色の髪をした妖狐の雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)が並ぶ。薙刀状の槍を構えた璃奈もまた、魔剣や妖刀を祀り鎮める家系の巫女であった。
 璃奈の銀色の瞳が月光を反射させながらオブリビオンの群れを射抜く。表情や言葉から感情を読み取ることが難しい璃奈だが、その瞳にはオブリビオンを通さないという決意が満ちていた。魔剣の巫女たる璃奈の全身からは、強烈な呪力が放たれている。

「おう、嬢ちゃん、かなりの遣い手だな」
 璃奈から放たれる呪力に、凶津が感心したような声を上げた。――呪力や霊力に慣れ親しんだ凶津や桜から見れば、璃奈はまるで呪力の渦の中心にいるかのようだ。
「あなたたちも、わたしの魔剣たちの呪力を完全に防いでる……。さすがだね……」
 璃奈もまた、強力な破魔の力と呪力に対する耐性を持つ凶津と桜の力を感じ取り、わずかに驚いたかのような表情を浮かべる。今はまだ呪槍の力を抑えているが、この鬼面の退魔師ならば呪槍の呪力を完全開放しても、それを打ち破るかもしれない。
「……味方で助かりました」
「ん……敵にはしたくないかも……」
 桜の言葉に璃奈が静かに頷くと、退魔の巫女と魔剣の巫女は、病院から溢れ出ようとするオブリビオンの群れに向かって駆け出していった。


 漆黒の闇の中、廃病院の入り口に向かって風のように疾駆する二つの人影。
 一つは、全身を覆うように肌を見せない長袖の白衣と裾の長い緋袴を身にまとい、顔には鬼面をかぶった黒髪の巫女。
 もう一つは、対照的に全身の肌を見せるかのように、胸元や腹部、太もも、上腕などが露出する巫女装束をまとった銀髪の妖狐。
 黒と銀の影は、廃病院の入り口の前にたどり着くと、そこから溢れ出さんとしているゾンビたちを見やり、簡単に言葉を交わす。

「あのオブリビオンたち、病院外に出ないようにできないかな……」
「……それでしたら、お任せください。……式、召喚【鬼乗せ船】」
 璃奈に答えた桜が印を結ぶと、虚空から溶け出すかのように巨大な船が出現した。妖刀や大砲で武装した鬼霊が無数に乗った幽霊船の式神である。
「凄い……あれだけの数の霊を支配下に置くなんて……」
「おらッ、野郎共、突撃だッ!」
 凶津の指示のもと、幽霊船が廃病院の玄関に突っ込み出入り口を封鎖する。そして船の病院側の舷側から鬼霊たちが院内になだれ込んでいく。
「チェーンソーゾンビと鬼霊の戦いか……。いよいよB級ホラー映画じみてきたなッ!」
 廃病院の入り口で繰り広げられるチェーンソーゾンビと鬼霊の戦闘。チェーンソーの音を激しく響かせながら凶器を振り回すゾンビと、妖刀で斬りかかる鬼霊たちの姿を見て、凶津はしみじみと呟いた。

「……入り口は封鎖しましたから、病院の外に出られる心配はなくなりましたが」
「ちっとばかし、ゾンビたちの数が多くねぇかッ!」
 廃病院から外に出られなくなった分、ゾンビたちは病院の入り口のロビーに殺到していた。
 鬼霊たちがゾンビを妖刀で斬り伏せていくが、倒すよりも廃病院の奥から新たに現れるゾンビの方が多い。ロビーがゾンビたちで埋め尽くされていく。
「アイツらを一掃する方法がありゃいいんだがッ!」
 凶津が何か手がないかと考えを巡らせていると――。
「あの妖刀たち、借りてもいい……?」
 鬼霊たちの持つ妖刀に銀色の瞳を向けつつ、璃奈はその借用を申し出た。意図を測りかねながらも、それがゾンビたちを倒す役に立つならと、凶津が叫ぶ。
「ああ、構わねぇぜッ!」
「一箇所にオブリビオンを集めて……さらにこんなにたくさんの妖刀たちまで準備してくれて……助かるよ……」
 魔剣の巫女たる璃奈は、鬼霊たちが持つ無数の妖刀に呪力を送り込み【Unlimited curse bladesΩⅡ】により妖刀たちと呪力の波長を合わせていく。
「……これは!?」
「あれだけの数の妖刀を一気に支配下に起きやがったァ!?」
 500本を超える数の妖刀を一瞬で支配した璃奈を見て、桜と凶津が驚きの声を上げた。
 一方の璃奈も、桜が召喚した鬼霊が持つ妖刀の力を感じ取り、わずかに驚いたような表情を浮かべていた。
「この妖刀たち、凄い……。一本一本が曰く付きの一級品の妖刀だね……。さすがは鬼が持つ妖刀、この呪力なら……」
 璃奈は、妖刀が持つ呪力を極限まで強化していく。それは、全てに終わりを齎す終焉の力へと変化していき――。
「な、なんだこの呪力はッ!」
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
 璃奈の言葉とともに、終焉の力を纏った妖刀たちが幾何学模様を描きながら飛翔する。それは廃病院のロビーに集まってきていたゾンビたちを次々と貫いて、終焉の力をもって骸の海へと還していく。

「嬢ちゃん、すげぇなッ! 妖刀からあれだけの破壊力を引き出すとはなッ!」
「ううん、あなたたちが召喚した妖刀が名刀ばかりだったから……」
 ゾンビを一掃したロビーで、退魔の鬼面巫女と魔剣の妖狐巫女は、互いの力を称え合っていた。


 ロビーに集まったゾンビたちは倒したが、まだ廃病院の奥から、次々と新たなゾンビが現れてきている。
「さぁて、このまま元凶の妖獣型オブリビオンの元まで一気に向かうぜッ!」
「そうだね……。あのゾンビたちを突破して奥へと向かわないと……」
 妖刀を構えた桜と、呪槍を構えた璃奈が、廃病院の奥へと視線を向ける。目指すはゾンビたちを目覚めさせ凶暴化させている妖獣型オブリビオンだ。
「ゾンビたちの思考は単純なんだよね……? なら、これならどうかな……」
「ほう、幻影術式かッ!」
 璃奈は、ゾンビたちの姿を幻影によって一般人の姿に上書きする。知性が低いゾンビたちは、それが幻影だとは気付かずに、お互いに相手が獲物だと思ってチェーンソーで攻撃し始めた。
「この幻影術式は味方にも効くのが欠点なんだけど……あなたたちなら大丈夫だね……」
「おうよッ! 幻影かどうかくらい区別できるから心配すんなッ! 一気に突破するぜッ!」

 桜はゾンビたちの動きを見切って振り回されるチェーンソーを回避すると、手にした妖刀に破魔の霊力を込めて一刀両断した。そのまま、まるで流水のように無駄のない動きで敵を斬り伏せながら、ゾンビたちの群れを駆け抜ける。
 璃奈は立ちふさがるゾンビの群れに『呪槍・黒桜』を向けると、その呪力を解放する。放出された黒い桜の花びら状の呪力がゾンビたちを貫き、沈黙させていく。

「嬢ちゃん、呪術もやるなッ! 特に桜なとこが気に入ったぜッ!」
「あなたたちも、剣術の腕は相当だね……」

 ――こうして、二人の巫女は、ゾンビを倒しながら廃病院を駆けていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロバート・ブレイズ
面倒な連中を招き入れたものだ。邪悪さよりも白痴さを主に暴れ狂うとは――此処はパニック・ホラーの源泉では無いのだよ――兎も角、貴様等。私は台詞(かた)る現、頁と呼ばれる壁(もの)を突破する事は不可能だ。つまり此れは決戦前、魔王との戯れで在り全くが戦闘行為では無いと知れ――それで、外見無防備な私を捨て置くほどの知性は無いか有るか
無い場合は無差別攻撃を放つと良い、貴様等は此処から『離れられない』筈よ。あとの処理(こと)は他の猟兵(やつ)に任せて圧し留めると詩よう
何。栞を挟むのには早いのだ、腐肉は腐肉らしく、じっくりと耳を傾け給え
真逆、虚空が面を生やすとは考え難いのだ。クカカッ!




「やれやれ、面倒な連中を招き入れたものだ」
 廃病院の敷地内のそこかしこから現れるチェーンソーを持ったゾンビに怜悧な視線を向けて、白髪白髭の老紳士、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)がおおげさにため息をついた。
 ゾンビたちは廃病院を根城とする妖獣化オブリビオンの影響を受け、完全に理性を失い、生者を引き裂き贄にせんとチェーンソーを闇雲に振り回している。そこに統一した動きを見出すことはできない。

 まるで出来の悪い生徒たちに言い聞かせるような口調でロバートが語る。
「恐怖とは邪悪さよりいずる感情でなくてはならぬ。白痴さを主に暴れ狂うとは、それは真の混沌とは呼べぬものだ――」
 だが、教壇に立つ教授のようなロバートの言葉を聞くゾンビたちは一体もいなかった。
 その様子を見て、ロバートは肩をすくめる。
「聞く耳も持たぬか。此処はパニック・ホラーの源泉ではないのだがな――」

 ――その時、ついにゾンビたちが無防備に立つロバートの姿に気がついた。
 暗闇の中、満月に照らされながら立つ老紳士に向かって、ゾンビたちが狂乱しながらチェーンソーを振り回し殺到していく。
 ゾンビたちのチェーンソーが丸腰のロバートをバラバラに斬り刻むかと思われた瞬間――ロバートによって言葉が紡がれた。

「私はロバート・ブレイズだ。兎も角、貴様等。私は台詞(かた)る現、頁と呼ばれる壁(もの)を突破する事は不可能だ。つまり此れは決戦前、魔王との戯れで在り全くが戦闘行為では無いと知れ――」

 その言葉と同時に、ロバートが語る台詞が光り輝く文字として実体化した。それは、現在使われているどの言語のものとも異なる冒涜的な文字の羅列。文字列が壁のようになり、ゾンビたちとロバートとの間にそびえ立っていく。ゾンビたちが振るうチェーンソーは光る文字の壁に阻まれ、ロバートの身体に届くことはない。

「――の戯れは厄介な連中だ。羅列した既知どもの肉と精神を喰い散らかし、遍く愚物を否定せねば成らぬ。悉くが最悪ならば早過ぎる埋葬――」

 ロバートの台詞――もはや何らかの神に捧げる祝詞のようにも聞こえる言葉は、さらに範囲を広げ、ゾンビたちの周囲を覆っていく。光の文字による壁が作り出したのは、ゾンビたちを廃病院の敷地内に閉じ込める檻であった。

「――これで貴様らは此処から『離れられない』筈よ。あとの処理(こと)は他の猟兵(やつ)に任せて圧し留めると詩よう」
 ロバートが再び光る言葉を紡ぎ始めると、光る壁はその密度を高めていく。
 文字列が連なって作られた頁が何枚も積み重ねられ、本が綴られていき――それは分厚い城塞を形成する。
 城壁の向こう側からは、ゾンビたちがチェーンソーを振り回し壁に叩きつける音と振動、そして怨嗟の声が聞こえてくる。

 だが、ロバートは冒涜的な文字を生み出す台詞を喋りながら、同時に只人でも理解できる言葉を発する。
「何。栞を挟むのには早いのだ。腐肉は腐肉らしく、じっくりと耳を傾け給え」
 不敵な笑みを浮かべた老紳士は、月夜に狂気の哄笑をあげた。

「真逆、虚空が面を生やすとは考え難いのだ。クカカッ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・シフファート
数には数よ
サイレンを鳴らしてサイコチェーンソーの注意を引きながら万能機械を人型兵器に変形させて行使
105体の人型兵器を指揮してサイコチェーンソーを各個撃破していくわ

サイレンを鳴らすのは全部の人型兵器じゃない
数体のサイレン搭載型兵器からサイレンを鳴らして注意を引き、その隙を突いて残りの人型兵器が複数体を意識してサイコチェーンソーを撃破していく

そうしてサイコチェーンソーがサイレンを鳴らす兵器によって突破口が出来たなら十数体の人型兵器を連れて妖獣化オブリビオンの元へと向かうわ
無論の事、外で戦闘を繰り広げている人型兵器にはサイコチェーンソーを廃病院の敷地内から出さないように命令を出しながらね




「あいつらが出てくる前に一般人を避難させて正解だったわね。まったく、なんて数なのかしら」
 廃病院の建物内や物陰から際限なく姿を現すゾンビたちを見て、シャルロット・シフファート(異界展開式現実改変猟兵『アリス・オリジン』・f23708)が呟いた。そのあまりの数の多さに呆れたといった風情だ。
 縦ロールの金髪を片手で優雅にかきあげ、シャルロットはゾンビたちの群れへとアメジスト色の瞳を向けた。その瞳には、視界を埋め尽くさんばかりのゾンビたちの姿が映っている。だが、その程度で動じるシャルロットではない。

「いくら数が多くても、知能がないなら敵ではないわ」
 激しい音を鳴らしながらチェーンソーを振り回すゾンビたちへとシャルロットは冷静な視線をむけた。
 シャルロットの表情に浮かぶのは余裕の笑みだ。だが、それは決して驕りのある笑みではない。百獣の王たる獅子が兎を狩るにも全力を出すかのごとき、自信に満ちた笑み。
 その口が静かに詠唱を始める。

「錬鉄から蒸気へ、蒸気から電子へ、電子から鋼鉄へ、鋼鉄から宇宙に。その連鎖は叡智の申し子を産みだし我が手に万能の聖名をもたらす」

 シャルロットが詠唱するは【聖杯機譚、電子と鋼鉄の申し子は拝跪する】――グレイルバース・ユニバーサルマシンだ。詠唱により召喚されたのは、100体以上の万能機械。その一つ一つが、願望器たる聖杯を改造したという究極の人型兵器である。

「さあ、聖杯たち、賛美歌を奏でなさい」
 シャルロットの指示により、人型兵器の数体がサイレンを鳴らす。
 妖獣化オブリビオンの影響で知性をなくし凶暴化したゾンビたちは、鳴り響くサイレンの音の源へ視線を向けると、チェーンソーを振り上げながら人型機械へと突進していく。それは周囲との連携などまるで考えない、戦略もなにもない本能的な行動だった。
 ――それこそシャルロットの狙いだ。

「妖獣化オブリビオンの影響で強化されたゾンビね……。それだと、さすがに人型兵器でも一対一では分が悪いけれど――」
 シャルロットの分析通り、いかに強力な人型兵器を召喚しようとも、一対一の戦闘力ではかなわないだろう。だが、それは一対一で戦った場合の話だ。
「一体のオブリビオンに対して、複数の人型兵器で挑めばどうかしら?」
 シャルロットの口元に、くすり、と笑みが浮かんだ。

「さあ、人型兵器たち、私の指示通り踊りなさい」
 シャルロットが楽団の指揮者のように優雅に手を振るうと、人型兵器たちが複数体で一組となって、ゾンビたちへと向かっていった。サイレンを鳴らした個体に攻撃しようとするゾンビに対し、複数体の人型兵器が包囲連携して迎撃していく体制だ。
 サイレンを鳴らしている囮の人型兵器へとチェーンソーを振り下ろそうとしたゾンビは、複数の人型兵器から迎撃を受け、その身体を骸の海へと還していく。
 それは、まるで罠に自ら飛び込んでくる獲物を一方的に狩るような戦いであった。
「策もなく突っ込んでくるだけでは、どれほど強力だろうと勝てないと知りなさい」

「けれど、これだときりがないわね。やはり元凶の妖獣化オブリビオンを倒さないとだめそうね」
 倒しても倒しても数が減ったように見えないゾンビたちの群れを見て、シャルロットはその瞳に決意の色を浮かべる。やはりゾンビを完全に倒すには元凶を叩くしかないだろう。

「親衛隊は私に続いて。残りはゾンビたちを病院の敷地から出さないように引き続き戦闘を継続よ」
 シャルロットは人型兵器たちに戦闘の指示を残すと、十数体の人型兵器を引き連れて、妖獣化オブリビオンの気配が強く漂う廃病院の中へと突入するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・沙夜
【纏さん(f35389)と】

思っていたよりも敵の数が多いですね。
驚かしてでも逃げていただいておいてよかったです。

わたしたちが突破されてしまいましては、元も子もありません。
纏さま、ここは頑張りましょう。

纏さまと2人で『サイコチェーンソー』たちに立ち塞がるように出口を固めますね。

とはいえ、やはり数が……。

纏さまにかばってもらい、そしてわたしも纏さまを庇いつつ戦いますが、
数に押され、装束をずたずたに斬り裂かれてしまいます。

そしてそれを見たサイコたちに、攻め込まれますが、そこは誘い込み。

相手がとどめを刺しにきたところを、
纏さんの【フェニックスキャノン】で魔炎に包まれた敵を斬り裂いていきますね。


白杜・纏
沙夜さん(f35302)と

避難を無事にできてよかった…

でも、敵の数も力もかなりのもののようですし
ここからが本番、ですね…!

沙夜さんと共に、敵の前に立ち塞がり、戦います

でも「永久凍泉」を振るい戦う最中、沙夜さんが…!
思わず庇って、私も服を引き裂かれてしまいます…

このくらいの傷、沙夜さんの物に比べたら…!
でも、このままでは…
と、沙夜さんを守るようにして撤退

が、それは敵を誘い出す為

追い詰められて、お互いを守るように身を寄せながら
様子を見て、機を図ります

そして、上手く敵が固まってきたら反撃開始です!
沙夜さんと連携し、時には挟撃しながら
フェニックスキャノンを叩き込みます!

傷つけ、辱めた報いを受けなさい!


誓猟館・輪廻
一般の方の避難はできませんでしたが、その分敵の討伐には尽力して参ります!

流石に単独で強化された敵複数と正面からぶつかるのは
こちらが不利…

奇襲、撹乱をして、少しでもこちらが有利になるよう
立ち回ります!

敵の集団を発見したら、銀霧装纏を発動
死角から奇襲し、ツイン・アームブレイドで攻撃
各個撃破を狙います

その最中乱戦になったら、アームブレイドとクアドラプル・バルカンを併用して攻撃しながら、かわした攻撃で敵が同士討ちになるように、引き付けながら回避します

先に発見、追跡されたら
一端振り切るまで撤退、潜伏
敵がこちらを見失ったら
銀霧装纏を発動、死角から反撃をします

もし他の猟兵の危機を見かけたら急いで救援します!


アルファ・オメガ
がうーこれで心配事なく戦えるねー
ボクの『ぶらっく・せいばー』が火を噴くよ!よ!

いっぱいいるけど
ボクは体の小ささを利用して足元でちょろちょろしていよう
ぶっちゃけ身長差がありすぎてチェンソー振り回しても当たらないのでは?
がう、当たるね油断禁物(こくり)

それじゃ距離を取った状態から【駆け抜ける黒き刃】で攻撃するよ
雰囲気的には居合抜きの感じで突撃だよー
高さ的に斬りやすい膝のあたりを狙っていくね
猫の素早さを活用して公的の時は基本的には1対1になるように
【駆け抜ける刃】を続けざまに放っていくよ
ヒット&アウェイ(ただし駆け抜ける)だね!

さすがに数が多いね
ここは頑張って一点突破だね!
いっくぞー!




「思っていたよりも敵の数が多いですね……」
 まるで廃病院の敷地を埋め尽くす勢いで溢れ出てくるゾンビの群れに金色の瞳を向けるのは、漆黒の長髪をした少女、霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)だ。その身にまとうのは、彼女の仕事着たる小袿の着物である。
「一般人のみなさんの避難を無事にできてよかった……」
 沙夜の隣で小さく呟いたのは、万年氷の糸で紡がれた着物に身を包んだ雪女の少女、白杜・纏(焔を纏いし雪・f35389)。風に揺れる長髪は沙夜と同じ漆黒だが、その瞳の色は澄んだ氷を思わせる綺麗な青色をしていた。

「脅かしてでも逃げていただいておいてよかったですが、わたしたちがここを突破されてしまいましては元も子もありません。纏さま、ここは頑張りましょう」
「はい、沙夜さん。敵の戦力も数もかなりのもののようですし、ここからが本番、ですね……!」
 シルバーレインの能力者である二人は、『妖獣化オブリビオン』の影響で凶暴化しパワーアップしたゾンビたちの前に立ち塞がった。

「集いて力となれ……!」
 沙夜は周囲に満ちる残留思念になる前の雑霊へと呼びかける。
 雑霊たちが光の粒子の形をとって、着物姿の沙夜を夜闇に浮かび上がらせた。光の粒子は沙夜によって霊気に練り上げられ、無数の弾丸を形成する。【雑霊弾】と呼ばれる無数の霊気の塊は、沙夜が視認している範囲のゾンビに向かって高速で撃ち出された。
 雑霊弾によって頭部を吹き飛ばされたゾンビは動きを止め地面に倒れ伏す。チェーンソーを持った腕を吹き飛ばされたり、脚を射抜かれたゾンビたちも、戦闘不能に陥っていく。
「やりましたでしょうか……?」
 雑霊弾の嵐にさらされたゾンビの群れを見て、沙夜が小さく呟いた。
 ――だが、雑霊弾によって身体を貫かれた程度のゾンビは動きを止めていなかった。全力の一撃を放って無防備になった沙夜へとチェーンソーを振りかぶって、死体とは思えないほど機敏な動きで迫ってくる。

「沙夜さんには近づけさせません……!」
 纏は雪女としての力で冷気を操り、その手に白く輝く刀を出現させた。それは氷でできた刀身を持つ冷刃刀『永久凍泉』。纏の心が折れない限り、永久凍土のごとく絶対に溶けない刀である。
 生み出された氷刀が沙夜に襲いかかるゾンビに振り下ろされる。
 纏の細腕で振るわれた刀程度では、強靭な肉体を持つゾンビを両断するには至らず、その動きを止めることはできない――かに思われた。
 しかし、『永久凍泉』はただの刀ではない。雪女たる纏の力で生み出された刀だ。
 『永久凍泉』によって斬りつけられたゾンビは、刀が触れた箇所から身体が凍っていく。その身体はチェーンソーごと氷柱と化し、永久に溶けない氷の棺に閉じ込められた。
 纏が氷の刃を振るうたび、廃病院の敷地に氷柱ができあがる。

 互いに背中を預け合い、沙夜と纏はゾンビたちと矛を交え、戦いを続けていく――。


 一方、その頃、別の場所でも猟兵がゾンビの群れに遭遇していた。

「一般の方の避難はできませんでしたが、その分、敵の討伐には尽力して参ります!」
 溢れかえるゾンビの群れを前にして意気込むのは、誓猟館・輪廻(自律式人型詠唱兵器・f35543)。銀色の長髪に銀色の瞳をした少女だ。水に触れることが好きな輪廻は水着の上に半透明のレインコートを着た格好をしており、夜の廃病院で見かけたら逆にお化けだと思ってしまうかもしれない。
 だが、彼女は密かに研究、開発が進められていた『自律式人型詠唱兵器』――その試作体だ。人間そっくりの外見をしているが、その身体に無数の武装を内蔵する人型兵器なのである。

 物陰に身を隠した輪廻の視線の先にうごめくのは、チェーンソーを持ったゾンビたちの群れ。その移動速度は死体とは思えないほど俊敏だ。
「これが妖獣化オブリビオンの影響で強化された敵ですか……。流石に単独で強化された敵を複数相手にするのは、こちらが不利……」
 他の猟兵や能力者を支援し共闘することを想定して作られた輪廻は、単独戦闘よりも共同戦線を張る方が得意である。――だが、だからといって単独で敵と戦えないわけではない。

「銀霧展開、潜伏し、敵を撹乱します……!」
 輪廻は全身を銀色の霧で覆っていく。それは相手の五感を狂わせ、輪廻の存在を感知できなくする特殊な霧による【銀霧装纏】だ。
 自身の気配を消した輪廻は、両腕に内蔵された剣『ツイン・アームブレイド』を構えると、群れの外れにいるゾンビに背後から音もなく近づいていく。ゾンビは目で見えず、音も聞こえず、匂いも残さずに近づいてくる輪廻に気づいていない。
 輪廻がまとった銀色の霧がゾンビに触れた瞬間、ゾンビの動きが鈍る。敵の集中力を奪う効果もまた銀色の霧のものである。
「――いまですっ」
 輪廻が両腕の剣をゾンビに向かって振り抜いた。それは通常の武器ではなく、詠唱銀製の剣だ。輪廻の動力炉から供給されたエネルギーで銀色に輝く剣はゾンビの強靭な身体を簡単に斬り裂き、その身体を骸の海へと還していった。

 ゾンビの一体が倒され、ようやく間近にまで接近している輪廻の存在に気づいたゾンビの群れ。
 ゾンビたちにとっては、動くものはすべて獲物だ。獲物である輪廻の身体を切り刻もうと、ゾンビたちがチェーンソーを唸らせて迫ってくる。
「そんなに動くものが好きならば……同士討ちをしていただきましょう」
 輪廻は両腕と両脚に内蔵された『クアドラプル・バルカン』をゾンビに向けた。四点式の小型バルカンから放たれた実体弾がゾンビの両目を貫く。
 どうやらゾンビでも目で周囲を見ているようで、輪廻の姿を見失ったゾンビは滅茶苦茶にチェーンソーを振り回す。だが、そのような単調な攻撃が輪廻に当たるはずもない。
「その攻撃は見切らせていただきました!」
 輪廻は、振り回されるチェーンソーの軌道を読むと、紙一重のタイミングで後方へと跳躍した。
 直前まで輪廻がいた場所をチェーンソーが通り過ぎ――そのまま周囲のゾンビに命中して胴体を両断する。
「強化されているというなら、その力を利用させていただきます」
 輪廻は、周囲のゾンビたちの場所と、振るわれるチェーンソーの動きを素早く計算すると、同士討ちになるように攻撃を誘い、それを回避する。
 攻撃を誘われているとは思わないゾンビたちは、ただ闇雲に輪廻へとチェーンソーを振り下ろし――結果、仲間のゾンビたちを斬り裂いていった。

 何体ものゾンビたちが仲間が振るうチェーンソーによって真っ二つにされて動かなくなっていく。
 だが、ゾンビたちの数は多い。
 輪廻とゾンビたちの戦いはいつ果てるともなく続くかに思われた。


 ――その時、輪廻の足元を茶色い疾風が駆け抜けた。

「ぶらっく・せいばー!」
 疾風とともに振り抜かれた黒い刀身の刀によって足を切断されたゾンビたちが、地面に転がって無様にもがく。
 黒い刀『ぶらっく・せいばー』を振るったのは、三度笠をかぶり外套を羽織った茶トラの猫――いや、ケットシーのアルファ・オメガ(もふもふペット・f03963)である。
「がうー、加勢するよー!」
「ありがとうございます!」
 アルファの攻撃でできたゾンビたちの隙をついて、輪廻は敵と距離を取る。
 アルファも小柄な身体を活かしてチェーンソーの攻撃をかいくぐり、一度ゾンビの群れから間合いを取った。

「ボクの身体の小ささなら、足元でちょろちょろしていればチェーンソーは当たらないかな……?」
「敵の動きは単調ですが、同士討ちすら気にせず攻撃してきます。ご注意ください」
 輪廻は、先程、乱戦でも気にせずにチェーンソーを振るっていた凶暴なゾンビたちを思い出しながら呟いた。
 それを聞いて、アルファもこくりと頷く。
「がう、そうだね、油断禁物。さすがに数が多いから、ここは包囲されないようにカバーしあいながら戦おう!」
「はい、支援する為、全力を尽くします!」
 アルファが黒き刀で居合の構えをとり、輪廻は再度、銀色の霧で身を包んだ。

 間合いをとった2人の猟兵に対し、ゾンビたちがチェーンソーを振り回しながら突進してくる。
 それに対し、アルファは腰の刀の柄に手を添えたまま、黒き刀身の刀に呼びかけた。
「起きて、『黒刃』。キミの力を見せてくれ!」
 ――瞬間、アルファの姿がかき消えた。否、目にも止まらぬ速度でゾンビへと突撃したのだ。
 迫りくるゾンビたちの一体に対し、すれ違いざまに抜刀した黒き刃で足を斬り裂き、そのまま駆け抜けて間合いを取る。【駆け抜ける黒き刃】によるヒット&アウェイである。

「援護はお任せください」
 チェーンソーを振り回しながらアルファへと近づいていたゾンビに向かって、輪廻が腕と脚からバルカンを放つ。両目を撃ち抜かれたゾンビはアルファの姿を見失い、一瞬の隙ができる。
 その隙を見逃すアルファではない。
「がう、ナイスー!」
 再び放たれる【駆け抜ける黒き刃】。飛び上がりざまにゾンビの胴体を薙ぎ払い、上半身と下半身を泣き別れにさせた。
 ――だが、空中に飛び上がったため、次の攻撃をかわすことができない。
 無数のチェーンソーが空中のアルファへと迫り、その身体を切り刻んだ――かに見えた。

「あれは……笠と外套……?」
 激しく唸るチェーンソーによって細切れにされ、空中に散ったのは、アルファが身につけていた笠と外套だけだった。
 チェーンソーを持ったゾンビたちの間を茶トラの影が電光のごとく駆け巡る。
 笠と外套を脱ぎ捨てることで身軽になったアルファは、先程までとは桁違いの速度で黒き刃を振るっていく。
「がうー、これがボクのお気に入りの笠と外套の恨みだー!」
「私も援護します!」
 雷のごとき速度で刀を振るうアルファと、詠唱銀で出来た二本の剣を振るう輪廻。
 黒と銀の剣の乱舞によって、ゾンビたちの群れは壊滅したのだった。

「ありがとうございます、助かりました」
「がうー、ボクも助かったよー」
 互いに言葉を交わす輪廻とアルファの耳に――絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。


 無限に湧き出てくるかのようなゾンビの群れと戦っていた沙夜と纏だが、敵の数の前に徐々に押されていた。
 氷の刃を振るう纏は肩で息をしており、沙夜に至っては避けきれなかったチェーンソーの攻撃で衣装の各所が斬り裂かれている。

「雑霊弾――!」
 ボロボロの服装をした沙夜が雑霊弾を放ち、接近してきていたゾンビたちを撃退するが――偶然、他のゾンビの陰になって攻撃を免れたゾンビが、猛然と沙夜へと迫り、甲高い音を響かせるチェーンソーを振り上げた。

「沙夜さん、危ないですっ」
「纏さまっ!?」
 横から飛び込んできた纏が、沙夜を押し倒すようにして、チェーンソーの一撃からかばう。
 運良くチェーンソーの直撃は避けられたものの、纏の着ている万年氷の糸で紡がれた着物から氷の破片が飛び散った。
「大丈夫ですか、纏さまっ!」
「はい、着物が破けた程度です……」
 雪女の力が込められたという着物のおかげだろう、纏の着ていた着物は見るも無残に斬り裂かれ、両腕や両脚が大きく露出してしまっていたが、その雪のように白い肌には傷はついていなかった。
 それを見て、沙夜はほっと安心しながら、纏に小さな声で囁いた。
「纏さま、このままでは――」
「――わかりました、沙夜さん。ここは一度引きましょう……」

 沙夜が牽制の雑霊弾を放つと、二人はゾンビたちの群れに背を向け駆けていった。


 ゾンビたちはチェーンソーを振り回しながら、逃げ出した二匹の獲物を追いかけていた。
 ズタズタに引き裂かれた着物から覗く白い肌を晒した、二人の黒髪の少女。その身体をチェーンソーでバラバラにする感触は極上のものだろう。妖獣化オブリビオンの影響を受けたゾンビたちは、ただ単純にそれしか考えることなく、少女たちを追いかけ、追い詰めていく。少女たちが走る速度では、俊敏に走れるゾンビたちからは逃れることはできない。

 やがて、暗闇の中に二人の少女の姿が目に入ってきた。
 追いつかれたことを悟った少女たちは、観念したのか、ゾンビたちの方を振り向き、互いに互いをかばうように身を寄せている。

 ――さあ、狩りの時間だ。
 ゾンビたちがチェーンソーを振りかぶり、少女たちに一斉に襲いかかる。

 その瞬間――。
「ぶらっく・せいばー!」
「ツイン・アームブレイド!」
 側面から、まるで迅雷のごとき速度で飛び込んできた茶色いネコが刀を振るい、ゾンビの身体を両断した。
 もう一つの影は、まるで突然そこに現れたかのように、両腕から生えた銀色の剣でゾンビを串刺しにしている。
「がうー、まだこんなに残ってたかー」
「お二人とも、大丈夫ですか?」
 思いがけない援軍に驚きながらも、二人の少女が頷く。
「はい、お陰様で助かりました」
「沙夜さん、みなさん、なるべく敵を一箇所に集めていただけますでしょうか」

 獲物たちが何かを相談しているが関係ない。
 ――重要なのは、獲物が二匹から四匹に増えたことだ。ゾンビたちは唸りを上げる凶器を振り回し、獲物を狩ろうと突進していく。

「おっと、もうちょっとこっちに寄ってねー、駆け抜ける刃!」
「反撃の支援でしたらお任せください! クアドラプル・バルカン!」
「纏さまの邪魔はさせません――雑霊弾!」
 獲物たちの攻撃によって、ゾンビたちはひとまとまりにされていく。だが、そんなことを気にするゾンビはいなかった。

「その無知さが身を滅ぼすと思い知っていただきましょう。――沙夜さんを傷つけ、辱めた報いを受けなさい!」
 青き瞳の少女が、絶対零度の声を出す。
 それと同時に周囲の気温が一気に下がり、ゾンビたちの脚が凍りついて地面に縫い付けられた。

 その時、ゾンビたちはようやく悟った。狩りで獲物を追い詰めていたのは自分たちではない。
 ――自分たちこそ、檻へと誘導され追い込まれていたのだと。

 雪のように白い肌を露出させた少女の身体が焔に包まれ、高熱を放っていく。
 ゾンビたちは危機を告げる本能に従い逃げ出そうとするが、その脚は少女の冷気によって凍りつかされて動かすことができない。
 あの少女は、何故、冷気と高熱、両方を自在に操ることができるのか――!?

「――燃え尽きてください、フェニックスキャノン」
 少女の冷たく熱い言葉とともに、不死鳥の形をとったオーラがゾンビの群れを焼き尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャムロック・ダンタリオン
どうやらあの馬鹿者どもは全員逃げ帰ったようだな。
まあ、あれだけ【恐怖を与えて】やったのだ。しばらくはこの一帯に近寄ることもないだろう。

――さて、まずはあのアンデッドどもを始末せねばならぬか。
で、「防御行為を無効にする」か。だが一向にかまわぬ。「攻撃は最大の防御なり」だ。
吹き荒れろ、「炎」の「竜巻」!(【属性攻撃・全力魔法・焼却・なぎ払い・蹂躙】)

――さて、ある程度片付いたところで、敵の親玉を片付けるとするか(と、箒を【操縦】し、【空中浮遊】で飛んでゆく)

※アドリブ・連携歓迎


久遠・玉青
とりあえず…一般の人たちを逃がせたのはよかった…です
見たことないゴーストですけど…あ、いえ、オブリビオン…でしたね
でも…倒すなら一緒…です

猟兵に覚醒したユノに…取り込まれてしまったわたし…ですけど
妖狐としての力は…ある程度…使えるみたいです
ひとりでも…やってやります…もきゅ!
…やっぱり、もきゅっとしてしまいますね…恥ずかしい…のに…つい

ともかく…基本の【尾獣穿】から…使い勝手を思い出して…いきましょう
サイコチェーンソーの…死角を狙って…動き回り…(ぽてぽてぽてぽて)
モーラットの尾を…狐の尾に…変化させ…(もきゅぴっ!)
交叉する一瞬に…尻尾で…穿つ…!(もきゅ!きゅっぴー!)

これで…どうです…?




「どうやら、あの馬鹿どもは全員逃げ帰ったようだな」
 18世紀から19世紀のヨーロッパを思わせる黒いゴシック風衣装に身を包んだ少年が、銀色の髪を月光に照らしながら怜悧な赤い瞳を細めた。少年――いや、見た目通りの年齢とは限らない、あらゆる知識を司る悪魔の分体であるシャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)の視線は、街へと続く道路に向けられていた。
「あれだけ恐怖を与えてやったのだ。しばらくはこの一帯に近寄ることもないだろう。――大きな悲鳴を上げられたら、僕の読書の邪魔だからな」
 シャムロックは手に持った大判の本『ダンタリオンの書』を閉じる。

 そこに、ふわふわと浮かんでやってきたのは、ピンク色をした毛玉のような生き物――モーラットの久遠・玉青(ユノ/祟り神の天狐・f35288)だ。
「とりあえず……一般の人たちを逃せたのはよかった……です、もきゅ」
 かつては祟り神の小狐だった玉青だが、猟兵として目覚めた今は、自身の分霊であるモーラットのユノと融合してしまっていた。

「ふむ、貴様はこの世界の猟兵か――僕の図書館の図鑑にも載っていない種族のようだな」
「はい、わたしは妖狐だったのですが……猟兵に覚醒したモーラットのユノに……取り込まれてしまったみたいでして……。妖狐としての力は……ある程度……使えるみたいなのですけど……もきゅ」
 物珍しい生き物を観察するような瞳を向けるシャムロックに、玉青がもきゅもきゅと答える。
 ふさふさの毛並み。黒くつぶらな瞳。ちょこんと生えた前足と尻尾。非常にキュートな姿である。
「――邪魔が入らなければ、もう少し観察していたいところだったのだがな」

 赤き双眸を廃病院の敷地の方へと向けたシャムロックの言葉に、玉青も視線を上げた。
 そこには、廃病院の建物内や周囲の森の中から無尽蔵に湧き出してくるゾンビたちの群れの姿があった。ゾンビたちは、手に手に甲高い駆動音を響かせるチェーンソーを持っており、それを狂ったように振り回している。

「ひとまず、あのアンデッドどもを始末せねばならぬか」
 チェーンソーを持ち近づいてくるゾンビたちに向かって、ダンタリオンの分体たる少年は悪魔のように冷たい笑みを口元に浮かべる。
「はい、見たこともないゴーストですけど……あ、いえ、オブリビオンでしたね……。でも、倒すなら一緒……です」
 玉青も、尻尾と耳をピンと伸ばしながら、もきゅっという気合の声をあげた。


「ここはまず……わたしに……やらせてもらえませんか……もきゅ」
「――その身体でどう戦うのか興味深いな。お手並み拝見といこう」
 狂乱しながらチェーンソーを振り回すゾンビに対峙するように、玉青が前に出る。
「この姿でも……わたしは天狐……天狐の力を……今ここに……」
 かつて使っていた妖狐の技【尾獣穿】を使うべく、玉青はモーラットの身体を妖狐のものへと変化させていく。その耳が尖った狐のものへと変わり、細い尻尾が金色の毛に覆われたふさふさの尾になっていき――。

「――耳と尻尾しか変化していないな」
「だ、大丈夫です……これだけでも十分……攻撃できます……。見ていてください……死角からの一撃……もきゅ!」
 玉青は振り回されるチェーンソーを避けながら、ゾンビの死角に入ろうと動き回る。
 ――ぽてぽてぽてぽて……。
「ふむ、的が小さいおかげでギリギリ当たっていないようだな」

「敵の懐に飛び込み……」
 ゾンビの死角を取った玉青が、必殺の一撃を放とうとジャンプする。
 ――ふわふわふわ……。
「あの脚は構造的に跳躍には向いていないようだ」

「交叉する一瞬に……尻尾で……穿つ……もきゅっ!」
 狐のものに変化した玉青の尻尾が、まるで意思を持つかのように伸び、ゾンビの心臓部分を貫いた。
「これで……どうです……?」
 自信ありげにゾンビを見やる玉青。
 しかし、身体に大穴を開けられたゾンビは――平然と動いて玉青へとチェーンソーを叩き込んできた。

「なるほど、多少の外傷はものともせずに動き回るか――。アンデッドとして元々頑丈な上、妖獣化オブリビオンの影響で強化されているためだな」
「もっきゅー!?」
 慌ててゾンビから離れる玉青であった――。


「ま、まあ、久しぶりの実戦ですし……練習はこれくらいに……しておきましょう、もきゅ」
「気は済んだようだな。――ならば次は僕がやろう」
 肩(?)で息をする玉青の前に、シャムロックが一歩踏み出す。その手には赤い宝石が嵌め込まれた杖が握られていた。

 二人へ迫るゾンビたちの群れは、シャムロックと玉青を斬り刻もうと、チェーンソーの駆動音を最大限まで高めていく。
「もきゅっ……!? こ、この音は……」
 狐並の聴覚になっている玉青が、たまらず前足(?)で耳を塞いだ。――だが、それでも激しい耳鳴りのため、身動きを取ることが出来ない。動きを止めたのはシャムロックも同様だ。
 獲物が抵抗できなくなったと見て、ゾンビの群れが一斉に二人へと襲いかかってきた。

 しかし、そこに響くのは、シャムロックの冷静な声だ。
「ふん、防御行為を無効にする、か。厄介な能力だが――問題ない。『攻撃は最大の防御なり』だ」
 シャムロックは手にした杖を掲げると、その力を解放した。杖に宿るは炎の精霊。――アンデッドたるゾンビたちが弱点とする属性の精霊である。
「吹き荒れろ、炎の竜巻!」
 シャムロックの精霊術【エレメンタル・ファンタジア】によって生み出された炎の竜巻は、ゾンビの群れを巻き込んで盛大な炎の柱となって立ち上る。
「す、すごい……もきゅ!」
「やはり、アンデッドはよく燃えるな」
 天をも焦がす炎によって、ゾンビたちの群れは灰になるまで焼き尽くされ、骸の海へと消えたのだった。


「――さて、ある程度片付いたことだし、敵の親玉を片付けるとするか」
 シャムロックは箒を取り出すと、それを操り宙へと浮かび上がる。
「さあ……いざゴーストの親玉を退治に……いきましょう……もきゅ!」
 いつの間にか箒の先端に乗った玉青が、前足(?)でびしりと前方を指し示した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

河崎・統治
【POW】
【烈火】アドリブ・絡み歓迎

さて、一般人の追い出しは終わったし仕事に取り掛かろうか。
何だ有紗、お前も来たのか。って、ちょっと待て、お前かなり若返ってないか?俺も多少若返ってるけど。
まあ、それはいいとして先にアイツラを片付けよう。
接近するゾンビを見つつ懐からイグニッションカードを取り出す。
「この感覚。懐かしいな」
かつての戦いの記憶と仲間達との思い出を懐かしみつつカードを高く掲げ「イグニッション!!」と叫ぶ。
武装を展開したら天城さんの指示に従い、敵を近くのホールまで誘導し【誘導弾】の【一斉発射】による【範囲攻撃】を行う。
その後は残りにUCを撃ち込み【切り込み】【切断】で撃破していく。


天城・千歳
【WIZ】
【烈火】アドリブ・絡み歓迎

一般人の追い出しは終わりましたしここからが本番ですね。
本体は建物内に侵入出来ませんので、内部は戦闘用義体に任せ廃病院を囲う様に歩行戦闘車、工作車を、内部にはサテライトドローン群を展開し通信・観測網を構築します。各種センサー及び観測機器による観測網で【索敵】【偵察】【情報収集】を行い敵集団の動きを把握、【戦闘知識】【瞬間思考力】で近くのホールに誘導、自立砲台及びエレクトロレギオンと義体で【誘導弾】の【一斉発射】による【範囲攻撃】を行い、一気に殲滅します。
後は数を減らした相手を【砲撃】【レーザー射撃】で掃討しつつ突破します。
戦闘中はチームメンバーを情報支援します


島津・有紗
【WIZ】
【烈火】絡み・アドリブ歓迎
久々にこの世界に帰って来たけど、早々にゴースト事件ですか。
「あら、河崎先輩。お久しぶりです。元気そうですね。ところでそちらの方は?」
世間話をしつつ懐からイグニッションカードを取り出します。
「このカードを使うのも久しぶりね。」
接近するゾンビを確認してカードを掲げ「イグニッション!」と叫びます。
装備を展開したら天城さんの指示に従って敵を近くのホールに誘導し、UCによる範囲攻撃を行います。
その後は河崎先輩の後ろから弓を使い【スナイパー】【貫通攻撃】で敵を攻撃します。
「昔は有効射程が20mだったのに今は関係ないなんて技術の進歩って凄いわね。」




「さて、一般人の追い出しは終わったし、仕事に取り掛かろうか」
 黒い短髪をした20代後半の男性が、ゾンビの徘徊する廃病院内を見回して呟いた。UDCアースの警備会社のマークが付いた暗視ゴーグルと自動小銃を持っているが、元々シルバーレイン世界の能力者だった河崎・統治(帰って来た能力者・f03854)である。

「建物の周囲には、A-1歩行戦車と、工兵装備のA-1E歩行戦車部隊を展開させています。私の本体も各種センサーで建物内の状況を把握していますので、情報支援はお任せください」
 空中に周囲のマップを投影表示させているのは、宇宙戦艦のコアユニットである天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)――その戦闘用のリモート義体だ。
 全長2メートルを超える自立型コアユニットである千歳本体は建物内で活動するには不向きなため、病院の外で装甲車両に偽装して暗視カメラや熱センサー、振動センサーなどの各種計測機器でデータを収集、分析している。その情報を受け取り前線で行動するのが、女性型の戦闘用強化型バイオロイドのリモート義体である。千歳の周囲には、暗視カメラや観測用センサー、レーダーなどの他、電子戦装備を搭載したサテライトドローン群が浮遊していた。
「それと、私の本体からの連絡です。――頼もしい味方を回してくれたそうですよ?」

「味方か……。だが、この状況では半端な戦力ではかえって足手まといだ。――たとえ銀誓館の能力者でも、妖獣化オブリビオンの影響を受けたゾンビどもには対処できないだろう。ここは少数精鋭で――」
「あら、河崎先輩。猟兵になった私でも実力に不満がありますか?」
 病院の闇に包まれた廊下から足音もなく姿を現した黒髪ポニーテールの女性が声をかけてきた。
 20歳くらいの女性は、統治と同じくUDCアースに転移していた元能力者の島津・有紗(人間のシャーマン・f04210)だ。
「なんだ有紗、お前か。って、ちょっと待て。お前、かなり若返ってないか?」
「河崎先輩、久しぶりに会った幼なじみの女性相手に、いきなり歳のことを聞きますか? ――それに先輩も若返っているみたいですけれど?」
 知り合いらしいフランクな会話を繰り広げる二人に、千歳が驚いたような表情を浮かべる。
 現場に追加戦力として転移してきた猟兵がいるので誘導して合流してほしいと言われていただけなので当然である。
「もしかして、お二人はお知り合いですか?」
「ああ、俺も有紗も銀誓館学園の卒業生だ」
「先輩が1期卒業生、私が2期卒業生ですね」
 統治と有紗が息のあったタイミングで答えを返した。

 そこで、千歳が展開するマップに変化が生じた。
 廃病院内をあらわす地図に浮かぶ赤い光点がどんどん増えていき、千歳たちがいる方へと移動してきたのだ。
「ご歓談中に申し訳ありませんが、ゾンビたちの群れが近づいてきているようです」
「了解だ。まずはアイツラを片付けよう」
「そうですね。先輩とそちらの女性とのご関係は、あとでじっくりと聞かせていただきます」

 接近してくるゾンビの群れへと視線を向けながら、統治と有紗は同時にカードを取り出して叫んだ。
「「起動(イグニッション)!!」」


「この感覚。懐かしいな」
「ええ、久しぶりに使ったわね」
 その場に立つ統治と有紗の姿は、先程までとは異なる格好になっていた。
 統治は回転動力炉が装着された武者鎧風の真紅の動力甲冑に身を包み、腰には刀を佩いている。
 一方の有紗も、先程までの普段着ではなく、巫女装束を身に着け、大型の弓を持っていた。
「瞬間的な装備換装システム……これが銀誓館学園のイグニッションカードの機能ですか」
 イグニッションの様子をモニタリングしていた千歳は興味深げに呟くと、周囲に展開させていたサテライトドローンたちに指示を送り、周辺状況のモニタリングを開始する。

「敵集団の動きをシミュレーション開始――最適な戦術パターン構築完了。河崎さん、島津さん、後方のホールまで後退して敵集団を迎え撃ちましょう」
「わかった、敵の誘導は任せてくれ」
「河崎先輩が敵を引きつけてくれたら、私の出番ですね」
 三人は頷き合うと、戦闘行動を開始した。


「――さて、この格好になったからには負けられないな」
 統治は、刀と鎧に刻まれた、かつての戦いの記憶や仲間たちとの思い出を思い出しつつ、ゾンビたちの群れの前に立ちふさがった。
 すらりと腰から抜くのは、河崎家に代々伝わる日本刀『水月』。その刀身は、水面に映る月の如き幻想的な輝きを放っていた。
 そこに襲い来るは、チェーンソーを力任せに振り回すゾンビたちだ。
「はっ!」
 統治が振るった刀がチェーンソーと激突し、激しい火花が散る。振り下ろされた軌道が逸らされたチェーンソーは、統治の身体に当たることなく床に深くめり込んだ。
「武器に振り回されているようでは、どんな破壊力を持っていても意味がないな」
 水月が一閃され、チェーンソーを引き抜こうともがくゾンビの身体が腹部で真っ二つにされる。さしものゾンビも上半身と下半身を両断され動きが止まった。

 ――だが、ゾンビの一体を倒しても、後方からはまだまだゾンビが湧き出てくる。

「やはり一体づつ相手をしていたら埒が明かないか――。天城の指示通りに誘導に徹するか」
 数に押されて後退しているようにみせつつ、統治はゾンビと斬り合いながら、じりじりと敵を誘導地点まで引きつけていく。


 統治がゾンビと交戦している場所の後方に位置する広いホールに、千歳と有紗が待機していた。
「河崎さんは、予定通りゾンビと交戦しつつ誘導中です。少々、敵の数が多いのが心配ですが――」
「大丈夫です。河崎先輩ならこの程度の数の敵に遅れは取りません」
 空中に投影したマップを見ながら心配そうに呟く千歳に対し、有紗は信頼に満ちた言葉で断言する。
 その言葉の通り、マップに表示された統治をあらわす光点は、順調にゾンビの群れをホールへと誘導していた。
「さあ、私たちは迎撃の準備ですね」
 有紗は強弓の弦の張りを確かめつつ、ホールの入り口へと視線を向ける。

 ――そして、二人がマップの表示を見つめることしばし。
 ホールの入り口から統治が勢いよく飛び込んできた。その後に雪崩のように続くのはゾンビたちの群れだ。
「さあ、客を連れてきたぜ。接客を頼む!」
 千歳の指示に従って統治がゾンビたちを誘導してきたため、この周囲一帯のゾンビが広いホールに集合した形になっている。

「ここは任せてください、河崎先輩。一気に決めます!」
 有紗は弓に無数の破魔矢をつがえると、それを一気に解き放った。連続的に撃ち出された100本の矢が複雑な軌跡を描き、ゾンビの群れを射抜いていく。浄化と破魔の力を持つ矢によって身体を貫かれたゾンビたちは、その動きを止めて、まるで灰になったかのように崩れて骸の海へと還っていく。
「ゾンビが相手なら、破魔矢は効果が大きいようですね」

「私も追撃します。河崎さんは離れていてください」
 千歳が周囲に浮遊させた武装ドローンと小型戦闘機械がミサイルポッドを乱射する。さらに千歳が装備した兵装ユニットからもミサイルが放たれた。強靭な肉体を持つゾンビたちも、その弾幕に圧倒され爆散していく。

「おっと、俺の分も残しておいてくれよ」
 有紗と千歳の圧倒的な火力に気圧されながらも、統治は動力甲冑に装備された大型回転動力炉を起動する。それは銀誓館学園が誇る詠唱兵器の動力源。詠唱の力を増幅する能力者の力の源。火花を散らしながら激しい回転音を鳴らす大型回転動力炉は、統治の力を最大まで高めていき――。
「遠慮はいらん。受け取られよ!」
 全身にまとった不死鳥のオーラが放たれ、ゾンビの群れを消えない魔炎に包み込んだ。

「さあ、後は撃ち漏らしの掃討だ!」
「はい!」
「任せてください、河崎先輩」
 刀を抜いてゾンビの群れに飛び込んでいった統治が水月を振るうたびに、ゾンビが一体また一体と斬り伏せられていく。
 その背後からチェーンソーを振り下ろそうとしていたゾンビは――有紗が放った矢によって頭部を貫かれ、動きを止めていた。
「河崎先輩、油断しないでくださいね」
「なに。有紗が狙っているのがわかってたからな」
 統治はさらに刀を一閃。ゾンビを斬り裂いた。
 そこに、千歳の兵装ユニットや周囲のドローンから放たれたビームガンとレーザーが降り注ぎ――ホールに集められたゾンビたちは全滅したのだった。

「それにしても、昔は有効射程が短かったのに、今は関係ないなんて、技術の進歩って凄いわね」
「代わりにそれだけゴーストも強化されてるってことだ」
 残心を解いて弓を下ろす有紗に、刀を鞘に収めながら統治が答える。
 そこに、本体からの通信を受け取った千歳が状況を告げた。
「この周辺のゾンビは撃破しました。今なら、妖獣化オブリビオンの元へと向かえるはずです」

 ――千歳の言葉に、統治と有紗が頷くと、三人は廃病院の奥へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

ま、ここから外に出さないようするならやっぱり物理的に遮断するのが一番よねぇ。というわけでデモニックワンダーラビリンスを展開。さっきの結界術とはわけが違う迷宮仕様よ。
罠使いで、ギミックを解かないかぎり永遠に同じところを回り続ける無限回廊トラップをしかけましょ。知性がない連中ならこれでほぼこの迷宮に閉じ込めたも同然よね。
ノイズチェーンソーは防御行為を無効化するみたいだけど、そもそも迷宮の壁に防御行為なんて概念はないので問題はないわね。ま、壁を壊されてもリソースはこいつらから略奪してエネルギー充填すればいいし。
とはいえ、それだけだと時間がかかりすぎるから別のトラップも用意しましょうか。吊り天井や動く壁なんかの重量攻撃で押し潰すのとか定番よね。後は火攻め部屋で火葬とか。
さて、妖獣化オブリビオンはどこかしら?感応能力(第六感、視力による遠隔視、聞き耳による遠隔聴力、情報収集、結界術)で居場所を探りましょ。




「ま、ここから外に出さないようにするなら、やっぱり物理的に遮断するのが一番よねぇ」
 くすり、と妖艶な笑みを浮かべる、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト魔少女・f05202)。エプロンドレスに身を包んだダンピールの少女は、その愛らしい口元から【真なる『夜』の不可思議迷宮】の詠唱を紡ぐ。
「我が身は不可説不可説転もの数多の真なる『夜(デモン)』に変じる。『夜』が生み出すは我が精神を具象化せし欲望の迷宮なり」
 デモニックワンダーラビリンスと呼ばれるその術は、アリスが極めた混沌魔術によって生成した強固な結界に、変化および創造と維持、破壊と再生の権能を付与し、さらにシャーマンの秘儀をも適用した大規模術式だ。
 廃病院の建物全体を取り囲むように地面に巨大な魔法陣が描かれると、そこから天に向かって光の壁が立ちのぼった。その壁の内側はアリスによって作り出された結界――『夜(デモン)が定義した理の支配する領域』と化す。いまや、廃病院の内部はアリスの意のままになる千変万化の迷宮となっていた。

 廃病院が結界に覆われたのを見たアリスは満足げに微笑むと、無限に湧き出すゾンビたちに対して裁定を下す。
「さぁ、わたしが支配する領域に閉じ込められたが最後、あなたたちは脱出できないわよ」
 迷宮内のあらゆる場所の出来事を感知できるアリスは、迷宮の各所に配置したトラップの様子を確認していくのだった。


「まずは、肝心の玄関ホールよね」
 迷宮化した廃病院から外に出るための唯一の出口である玄関ホール。そこには、建物の奥から次から次へとゾンビの群れが現れ、迷宮外へ出ていこうとしていた。
「このまま外に出ていかれると街が危ないことになるんだけど……。知性のないゾンビたちじゃ、抜け出せないから問題ないわね」
 ゾンビたちが玄関ホールから外にでようとした瞬間――。そのゾンビたちは、玄関ホールの反対側の入り口へと転移させられていた。
「ありのまま、今起こったことを説明するわね。玄関ホールから外に出たと思ったゾンビたちは、いつの間にか玄関ホールの入り口に戻されたのよ。何を言っているかわからないと思うけど、催眠術や超スピードとかのチャチなものじゃないわよ? ギミックを解かない限り永遠に同じところを回り続ける無限回廊トラップよ。ゲームとかじゃよくあるトラップだけど……知性のないゾンビたちに抜け出せるかしら?」
 無限回廊トラップでゾンビたちを迷宮化した廃病院内に閉じ込めたアリスは、満足げな笑みを浮かべると、視点を移すのだった。


「さて、迷宮のトラップを解けないゾンビがどうするかといえば……」
 迷宮中に張り巡らされた無限回廊トラップや、テレポータートラップによって、まともに廃病院から脱出できないゾンビたち。ついに業を煮やしたのか、その手に持ったチェーンソーの駆動音を最大にして迷宮の壁を破壊しようとしはじめた。
 高速回転する金属の刃を廃病院のボロボロになった壁に叩きつける。激しい火花が闇に包まれた廊下を照らし、甲高い衝撃音が周囲一帯に響き渡った。
「そう、迷宮の壁を破壊して無理やり外に出ようとするわよね。あの駆動音は相手の防御行為を無効化するみたいだけれど……壁は防御行為なんてしないから無意味ね。それに、今、病院の壁は私の迷宮の一部よ? 見た目はボロボロでも、チェーンソー程度で簡単に壊せるほど脆くはないわ」
 激しく回転するチェーンソーが迷宮の壁に傷を付けるが――壁を破壊するには威力が足りていなかった。チェーンソーの刃が少し壁にめり込んだところで、刃が回転できなくなり、それ以上の破壊を許さない。
 ――さらに傷ついた壁からは触手のようなものが伸び、ゾンビの全身に絡みついた。
 触手に絡みつかれたゾンビたちは壁に引き寄せられると、その身体がずぶずぶと壁面に沈み込んでいく。脱出しようとあがくが、両手両足が壁と同化し、抵抗もできずにゾンビたちは壁の中に消えていった。
「ふふ、壁を傷つけられても、傷つけたゾンビをリソースとしてエネルギー充填して修復すればいいだけよね」
 呟いたアリスが見ている光景は、今やゾンビが一体もいない静かな廊下になっていた。
 ――その廊下の壁には、ゾンビに付けられたはずの傷は残っていなかった。


「こうしてゾンビの自滅を待ってもいいのだけど……それだと時間がかかりすぎるわね。サクッと終わらせましょうか」
 アリスが迷宮内に用意したゾンビ退治のトラップの数々が、ゾンビの群れに次々と牙を剥いていく。

「吊り天井や動く壁なんかの重量攻撃で押し潰すのとか、ゾンビ対策の定番よね」
 アリスが遠隔視で監視している部屋に迷い込んできたゾンビたち。その部屋の天井がまるで支えを失ったかのように勢いよく降ってきた。ゾンビたちは頭上を振り仰ぐ余裕もなく吊り天井の下敷きになり――天井がゆっくりと元の位置に戻った時には、ゾンビの群れは骸の海へと還っていた。
 別の部屋では、ゴゴゴ、という壁と床が擦り合わされる音とともに、石壁が少しづつゾンビの群れの行動範囲を狭めていっていた。すでに入ってきた扉は閉ざされ逃げ場はない。ゾンビたちはチェーンソーで必死に抵抗するも――チェーンソーごと壁に挟まれて圧潰した。
 さらに廊下をうろついているゾンビの元には、転がる大岩が迫り、ゾンビたちを押し潰していった。

「後は火攻めに水攻め、土葬とかもありよねー」
 アリスの迷宮の中、ゾンビたちは火で焼かれ、水に流され、土に埋められ――消滅していった。


「さて、妖獣化オブリビオンはどこかしら?」
 アリスは自身の知覚によって迷宮内の隅々まで観察していく。
 ――その一点。廃病院の屋上に、結界の主たるアリスでも感知できない場所があった。
「わたしの結界でも取り込めないとは、すごい妖気ね。ここが妖獣化オブリビオンの居場所ね」

 妖獣化オブリビオンの居場所を把握したアリスは、廃病院の屋上へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『サナトリウムホラー』

POW   :    サナトリウムナックル
単純で重い【『霊体の鎧』の拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    インクリーズホラー
自身が装備する【『霊体の鎧』】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    深き絶望の鎧
対象の攻撃を軽減する【外装強化形態】に変身しつつ、【腕を振り回すこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 廃病院の屋上。そこにソレはいた。
 鎖に縛られた少女の幽霊――元々、この地の地縛霊だったのだろう。
『コロ……ス』
 だが、その幽霊からは『妖獣化オブリビオン』となった強大な力が溢れ出し、すべてを拒む『霊体の鎧』が全身を包んでいる。『妖獣化オブリビオン』として暴力衝動に支配された幽霊は、もはや理性を失い、人を見ると無差別に襲ってくる危険な存在だ。
 だが『妖獣化オブリビオン』として強化されているものの、暴力衝動ゆえに思考が単純化しているという弱点がある。
 上手く弱点をついて撃破し、少女の幽霊を成仏させてもらいたい。
神代・凶津
見つけたぜ、妖獣化オブリビオンッ!
「…犠牲が出る前に成仏させます。」
おうよ、風神霊装でいくぜ。相棒ッ!
「…転身ッ!」

その鎧、破魔の暴風を纏わせた薙刀で粉砕してやるぜッ!
突撃して敵に攻撃を仕掛け、敵の腕を振り回す攻撃は暴風を纏わせた薙刀で受け流して一進一退の攻防をするぜ。
そしてある程度、攻防を繰り広げて敵の攻撃タイミングを見切って受け流すと見せかけて攻撃を避けるフェイントを仕掛け、敵のバランスを崩して少女の地縛霊を縛る鎖を粉砕してやるぜッ!
「…迷える魂を解放しますッ!」


【技能・破魔、受け流し、見切り、フェイント】
【アドリブ歓迎】


ロバート・ブレイズ
如何様な悲劇(シナリオ)で在れ、猟兵(われら)の為すべき事に変わりなく。貴様が無限量に嘆き悲しもうと幽霊で在る事に神意(か)わりないのだ。過去が現実を侵す事は停滞でしかない、冒し甲斐も僅かに残し給えよ
兎も角―理性的の欠片も皆無で在れば寿命(そんざい)果てるまで腕(ふ)るかも知れぬ。そう思惟したならば為すべきは七つの呪いだ――貴様を神の糸で縫い憑け、貴様の脳を神の意図で繰ろう。嗚呼、腸に隠した少女の貌、覗く肯定(こと)もない
情報収集(み)つめて他猟兵に『脆そうな部分』を伝授(つた)えておこう。あとは貴様等、好きに活躍し給え。私は『この程度』の寿命削りで充分だ――此度の雨粒、想像以上に良かったのだ




 ――廃病院の屋上。
 そこには半透明の身体をした少女――この病院に縛られた地縛霊――が立っている。
 少女が地縛霊になるに至った経緯はわからない。だが、月光に照らされた幻想的な少女は、その顔に苦悶の表情を浮かべていた。
 その身体の輪郭は不安定で、今にも消え去ってしまいそうな危うさを感じさせる。

「成程。自らの変容に対する恐怖か。――其れこそが根源であり、またヒトで在ることを捨て妖獣と成るに至った道程であろう」
 屋上へと足を踏み入れたスーツ姿の老紳士、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)が、その白髭に覆われた口から言葉を紡ぐ。闇のように黒い瞳は、静かに少女の霊を視て――その内心を観察する。
「兎も角、如何様な悲劇(シナリオ)で在れ、猟兵(われら)の為すべき事に変わりなく。貴様が無限量に嘆き悲しもうと幽霊で在る事に神意(か)わりないのだ」
 猟兵としての責務を確認し、ロバートは少女の霊に静かに告げた。
「過去が現実を侵す事は停滞でしかない、冒し甲斐も僅かに残し給えよ」

「おうおうおうッ! 見つけたぜ、妖獣化オブリビオンッ! ――って、そんなに凶暴に見えねえなッ!?」
 ロバートに続いて屋上へ現れたのは、カタカタと口を開閉しながら叫ぶ鬼面を手に持った黒髪の巫女だ。
 赤き鬼面は神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)。そして艷やかな黒髪に月光を反射させる巫女服姿の女性は神代・桜である。
 儚げな少女の霊の姿に毒気を抜かれたような声を上げた凶津に対し、霊感の強い桜が警戒を促す。
「……いえ、あの霊からは強力な妖気が発せられています。……見た目に惑わされず、犠牲が出る前に成仏させます」
「おう、分かってるぜ、相棒ッ!」

 屋上に現れた二組の猟兵を見て、少女の霊の様子に変化が生じた。
『コ……ロス……』
 猟兵たちへと視線を向けた少女の霊の全身から、目に見えるほどの凄まじい妖気が放たれる。
 それは、少女の全身を包み込んでいき――。
「ほう……、この力は――成程、興味深い」
「……妖気が物質化して鎧に……!」
「ちぃッ! アレが妖獣化オブリビオンの本当の姿ってことかッ!」
 ――少女の霊を核として、巨大な霊体の鎧が形成された。
 それはまるで少女を中心に埋め込んだゴーレムのような風体だ。
 霊体の鎧は、全身を地縛する鎖を引きちぎると、猟兵たちの方へと突進してくる。


「あっちが装備を纏ったなら、俺たちも風神霊装でいくぜ。相棒ッ!」
「……転身ッ!」
 桜が鬼面の凶津をその顔に装着し――直後、その全身から強大な霊力が吹き上がった。
 その霊力は荒れ狂う暴風となり、黒髪を舞い上げながら、桜の周囲に渦巻いていく。

「ほう、霊力を暴風と成し身を護る術(きせき)か――。奇しくも幽霊(あれ)と同系統の術式ということか」
 廃病院の屋上に吹き荒れる突風にコートをはためかせながら、ロバートは凶津と桜の風神霊装を観察し、その術の性質を見抜いた。
「応よッ! だが、あっちが妖気なのに対して、こっちは霊力ッ! それも俺と相棒の二人分だッ! 妖獣化で妖気が強化されていても対抗できるぜッ!」
「……それに……それだけではありません」
 桜が構えた薙刀――その刀身もまるで竜巻のような暴風を纏っていく。
 鬼の仮面をかぶり、風渦を纏った薙刀を持った桜の姿は、まさに風神であった。

「其の金属(ざいしつ)は――成程。霊体をも断ち切る武器(もの)か。其れであれば、幽霊(あれ)にも通用するであろうな」
「見ただけで霊鋼を見抜くとは、あんた、何者だッ!?」
 凶津の問いに、ロバートは静かに答える。
「私はロバート・ブレイズ。ミスカトニック大学の――いや、今は只の猟兵だ」


『シ……ネ……』
 霊体の鎧を纏った少女は、ロバートと桜の元に突進してきながら、その大木のように巨大な両腕を振り回した。
 屋上に建っていた古びた給水塔が土台ごと粉砕され、地上へと落下していく。

「狭くて遮蔽物(かげ)のない屋上(ばしょ)で幽霊(あれ)と戦うのは、効率的ではないか……。理性的の欠片も皆無で在れば寿命(そんざい)果てるまで腕(ふ)るかも知れぬ」
 霊体の鎧が腕を振るうごとに、核となっている幽霊の少女が苦悶の表情を浮かべる。それはロバートの見立て通り、まさに少女の存在を浪費しながら放たれる一撃――だが、妖獣化によって理性をなくし暴走している霊体の鎧は、そのようなことに構いもしない。
 振るわれる巨腕を避けていては、そのうち追い詰められてしまうだろう。
「ならば、俺と相棒に任せなッ!」
「……行きます」
 暴風の加護を得た桜は身に纏う風を操作すると、後方へ向けて激しい突風を吹き出させた。それは反作用で桜の身体を弾丸のように撃ち出すと、霊体の鎧へと肉薄させる。
「あの加速度(はやさ)――理性的の無い幽霊(もの)では対応できまい」
 一瞬で距離を詰めた桜が破魔の暴風を纏わせた薙刀を振るう。
 その刃は霊体の鎧の右腕に命中し――それを根元から粉砕した。

『ウ……アアアア……』
「どうだ、腕一本なくなりゃ、戦いやすくなんだろッ!」
 苦悶の声を上げる幽霊の少女に対し凶津が叫ぶ。
 ――だが、霊体の鎧の左腕は健在だ。振り回された左腕が桜に迫る。
「……片腕だけならば」
 その一撃を冷静に見極めた桜は、薙刀の暴風を全開にし、竜巻の壁によって腕の軌道を逸らすことにより攻撃を受け流した。
 桜の身体から逸れた左腕の一撃は、屋上の床へと叩きつけられ、巨大なヒビを作り出す。
「腕(こうげき)にさえ触れなければ、その驚異的な破壊力(ぼうりょく)も無意味ということだな」
 ロバートが観察を続ける中、桜は霊体の鎧が振り回す左腕を次々と受け流していく。
 隙があれば鎧へと攻撃を繰り出し、薙刀によって着実に鎧にダメージを与えていた。

『アアアアアアッ……!!』
「――後退(さ)がれっ!」
 ロバートの警告の声に、桜は反射的に飛び退き――直後、一瞬前まで桜がいた空間を、霊体の鎧の『右腕』が通り過ぎていった。
「なッ!? 右腕はさっき破壊したはずッ!?」
「……再生……しています」
 気がつけば、霊体の鎧は、粉砕した右腕のみならず、薙刀によって傷つけられた全身も元通りの姿に修復されていた。
「寿命(そんざい)を消費することで損傷(ダメージ)の回復をしたようだ」
「おいおいッ!? こっちも俺の霊力を消費して戦ってるんだぜッ!?」
「……このまま消耗戦に持ち込まれるわけにはいきません」
 互いに消耗しながら戦っている桜と妖獣化オブリビオン。だが、理性を失い暴走する妖獣化オブリビオンは寿命の消費を恐れない。
 このままでは最悪、共倒れになるまで戦いが終わらない――。

「ならば、ここは私の出番のようだ。――幽霊(あれ)の在り方は十分に情報収集(み)させてもらった。これ以上、腸に隠した少女の貌、覗く肯定(こと)もない」
 一歩前に出たロバートが、導々召繰理(セブン・ゲッシュ)の呪文を唱える。
「我等、神意に在らず――嘲りの手繰りよ。七たる禁忌」
 ロバートの言葉と共に、七つの呪いが発動した。
 屋上の床が神の糸へと変化し、霊体の鎧を縫い憑け地縛する。
「鬼面の巫女よ、鎧と幽霊を繋ぐ鎖があれの『脆き部分』だ」
「応ッ! 行くぜ、相棒ッ!」
「……迷える魂を解放しますッ!」
 霊体の鎧の胴体に埋まっている幽霊少女に対し、桜は暴風を推進力として突撃する。
 神の糸の地縛によって動けない霊体の鎧は鬼面の巫女を迎撃することができず――その薙刀の一撃が胴体に深々と突き刺さった。

 ――霊体の鎧に少女を縛り付ける無数の鎖のうちの一本が、甲高い音とともに粉砕される。

『ギャ……アアアアア……』
 妖獣化オブリビオンは悲鳴にも似た声を上げると、猟兵たちと大きく間合いを取るのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雛菊・璃奈
敵の思考が単純という事で、二章と同じ幻影術式【呪詛、残像、高速詠唱】で敵を攪乱…。
その隙に接近し、【ソウル・リベリオン】で霊体の鎧の怨念や呪い、絶望と言った負の念を喰らい吸収し、弱体化を狙いつつ自身を強化…。
【妖刀魔剣術・神滅】による特性で敵の防御を無効化し、オブリビオンの力の源・核だけを斬り裂き、破壊して無力化するよ…。

最終的に少女の幽霊を救う為、【救済の呼び声】を発動…。
この場にいる猟兵達や次元を超えてこれまでに訪れた全ての世界の人々の慈愛の心(無意識)に訴えかけ、得た賛同を以て救済を齎すよ…。
(救済の内容は彼女次第)

救える命なら救いたい…。
既に死んでしまった少女でも救いがあるのなら…。


誓猟館・輪廻
この地と悪しき力に囚われてしまったのですね…
その魂、助けていきます…!

激しい攻撃を慎重に見ながらかわしていき、その行動パターンを見極めていきます

おおよそのパターンを推測できたら、ヘヴンリィ・シルバー・ストームを使い、万色の雷を浴びせながら
クアドラプル・バルカンで牽制しながら接近、ツイン・アームブレイドで追撃していきます!

念のため、少女の霊を霊体の鎧から引き剥がせるように、よく狙って攻撃をします

もし誰かと共闘できたら、ヘヴンリィ・シルバー・ストームによる銀色の雨で仲間を癒し、自分もその雨を体に浴びながら戦います
その時はいつもより少し子供っぽくなるかも?

キミの事も、癒して、助けてあげたいんだ…!


シャムロック・ダンタリオン
ふん、待たせたな。道が少々混んでいたのでな。
さて、いかなる怨念を抱いているかは知らぬが、ここらで退散してもらおうか。

――とはいえ、多少体格差で不利があるか。ならばアスモダイXを呼び出し【操縦】していくか。さらにUCで火の精霊を銃に【武器改造(+:射程、-:攻撃力)】して装備し、鎧の隙間を縫うように撃ち込んでいくか(【スナイパー】)。
そして【推力移動】で敵の攻撃をかわしつつ接近し、鉄塊剣で鎧が剥がれた部位を狙って斬りつけていくか(【重量攻撃・切断】)。

――さて、片付いたら念のため、原因を探るため病院内で【情報収集】していくか。

※アドリブ・連携歓迎




 妖獣化オブリビオンの拠点となっている廃病院――。
 手入れもされず風雨にさらされ続けた建物は、ところどころ外壁が崩れるほどに老朽化が進んでいた。
 その院長室に佇む少年が小さく呟く。
「なるほど、かつてバブル景気の頃に建てられた病院か。――その後、手抜き工事による事故が起きたり、院長の汚職などの出来事があり閉鎖に至り、そのまま忘れ去られたと」
 黒いゴシック風の服を着た少年が、手に持った大判の本――ダンタリオンの書に浮かび上がった情報に目を走らせていた。
 白い髪に赤い瞳をした物静かそうな少年こそ、あらゆる知識を司る悪魔の分体であるシャムロック・ダンタリオン(図書館の悪魔・f28206)であり、院長室に残された『知識』を直接読み解いているのであった。
「そして、廃院になった直接の引き金が、繰り返された医療ミス――いや、これは杜撰な管理のせいで発生した人為的な医療事故だな。何人もの若い少女が医療事故の犠牲になっているな」
 少年は小さく嘆息すると、グリモア猟兵が予知で見たという少女の幽霊に想いを馳せる。
 医療ミスで亡くなった何人もの少女たち。それだけの残留思念が残るこの病院。
「妖獣化オブリビオンの核となる幽霊が生じるのも当然といったところか――」
 知識を司る赤き書を閉じると、シャムロックは院長室を出て、屋上へと向かっていった。


 一方、廃病院の屋上では、猟兵たちが霊体の鎧に包まれた幽霊少女と対峙していた。

「救える命なら救いたい……。すでに死んでしまった子でも救いがあるのなら……」
 静かに――しかし強い意志のこもった声で呟くのは、銀色の髪に銀色の瞳を持つ妖狐である雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)だ。魔剣や妖刀を祀り鎮める役目をもつ魔剣の巫女である璃奈にとっては、幽霊は馴染み深い存在である。苦しみに縛られた少女を救いたい――それが璃奈の想いだった。

「そのためにも、あの霊体の鎧をなんとかする必要がありそうですね……。この廃病院と悪しき霊体の鎧に囚われてしまった魂、助けてみせます……!」
 璃奈に並んで屋上に立つ、自律式人型詠唱兵器――その試作体である誓猟館・輪廻(自律式人型詠唱兵器・f35543)も、頷きながら想いを語る。
 少女の霊を解放するには、少女を地縛する霊体の鎧から解放するしかない。そう考えた輪廻は、少女を霊体の鎧に縛り付けている鎖――すでに一本は猟兵たちによって砕かれている――へと攻撃の狙いを絞るように構えを取った。

 だが、猟兵たちの想いは、妖獣化オブリビオンとして凶暴化した少女には届かない。
『クル……シイ……』
 霊体の鎧から伸びる鎖に地縛された少女の霊は苦悶の表情を浮かべる。
 だが、その少女を胴体中央に埋めるように展開した霊体の鎧は、主たる少女の苦しみなど意に介さず、拳を振り上げ突撃してきた。

「速いです……っ!?」
「……っ!?」
 理性を捨てた妖獣化オブリビオンは、その巨大な霊体の鎧にかかる負荷を考えもせず、全身から鎧が軋む音を上げながら璃奈へと肉薄する。
 大きく振り上げられた霊体の拳が振り下ろされ、璃奈の身体を押し潰し――コンクリートの床に巨大なクレーターを作り出した。
「雛菊様っ!?」
 夜闇に舞い上がったコンクリート片がパラパラと舞い落ちる中、輪廻の声が木霊する。

 ――だが、視界が晴れた時、クレーターの中心には霊体の鎧が立っているだけだった。

「身体にかかる負荷を無視した速度での突進と、巨体を活かした拳の一撃……。単純ではあるけど、威力は凄いね……。当たれば、だけど……」
 離れた場所から聞こえる璃奈の声。
 それと同時に、暗闇から溶け出すように璃奈の姿が現れた。
「これは……私の銀の霧と同じような撹乱術式……!」
「ん……。やっぱり理性を失ってるから、幻影術式が有効みたいだね……」

 璃奈は再度、呪詛を用いた幻影術式を展開し、自身の幻影を霊体の鎧の周囲に発生させた。
 霊体の鎧の周囲に無数に現れる魔剣の巫女の姿。
『キエロ……!』
 だが理性をなくした霊体の鎧には、幻影と本物の区別がつかない。片っ端から巨腕を叩きつけるが、それらはすべて璃奈の幻影をすり抜けるだけだ。
 そこに璃奈の本体が接近する。
「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……。彼の魂に救済を……!」
 璃奈の詠唱により一振りの魔剣が召喚され、その手に握られる。それは呪詛や怨念を喰らう魔剣――まさに怨念の塊たる霊体の鎧に効果的な一振りだ。
 上段から斬り下ろされる一撃を霊体の鎧は強固な右腕で受け止めるが――。
「この剣は、あなたの身体を斬るためのものじゃない……。あなたの怨念を――この世への未練を断ち斬るもの……」
『アアアア……!』 
 傷ひとつ付かないまま、その本質たる怨念を喰らわれ吸収された鎧――その中心に地縛された少女の霊は、この世のものとは思えない悲鳴を上げた。
「ごめん……。すぐに解放するから、少しだけ我慢して……」
 少女の霊を鎧から解放しようと、璃奈が魔剣に力を込め――。

 ――その瞬間、廃病院の屋上に無数の霊体の鎧が現れた。
「雛菊様、気をつけてくださいっ!」
「なっ……!」
 輪廻の声にとっさに振り返った璃奈は、周囲に立つ霊体の鎧を見て驚きの声を上げる。
 ――霊体の鎧は、幽霊少女を核とする一体だけのはず。それが無数に存在するはずがない。
 背後から霊体の鎧の拳が迫り、璃奈は困惑しながらも大きく飛び退き距離をとった。


 廃病院の屋上にひしめく無数の霊体の鎧たち。
「行動パターンの分析、完了しました。――この鎧たちは複製された分身で、本体によって念力で操られているようです」
「幻影術式に惑わされるなら、向こうも数を出してきたということ……?」
 複製された霊体の鎧たちは、璃奈の幻影を一体一体確実に潰していく。
 これにより、数の優位は逆転。璃奈と輪廻が、複製された霊体の鎧たちに包囲される形になってしまっていた。
「これじゃ、あの子に近づけない……」
 璃奈は怨念喰らいの魔剣を握りしめながら、本体を守るように展開する複製たちを見つめる。
 魔剣で一体一体斬り伏せていくには、複製の数が多すぎる。
 だが、一気に本体を狙ったとしても、先程のように複製に邪魔されるだけだろう。
「雛菊様、ここは私にお任せください。支援するため、全力を尽くしましょう」
「おねがい……。あの複製たちは任せるよ……」
 輪廻が璃奈の前に出ると、屋上に無数に立ち並ぶ霊体の鎧たちと対峙した。

 霊体の鎧たちは、まるで津波のように輪廻に向かって押し寄せてきた。
 だが、輪廻はそれを冷静に見つめている。
「行動パターンへの対応を計算します……。――最適解、導出完了」
 霊体の鎧の拳が輪廻の身体に命中するかと思った瞬間。輪廻はそれを最小限の動きで回避した。
 白いビキニの水着の上に羽織った半透明のレインコートを翻しながら、輪廻は次々と襲い来る複製たちの攻撃を紙一重でかわしていく。
「少ない数であればともかく、これだけの数の複製体を念力で遠隔操作するには、行動パターンをインプットする必要があるはずです。――それさえ分析できれば、回避することは難しくありません」 

 それはまるで、月光が照らす廃病院の屋上でおこなわれる舞踏会のようだった。パターン通りに振るわれる霊体の鎧の拳。その合間を踊るようなステップですり抜けていく、レインコートをドレスとして纏った輪廻。
 ――その舞踏会に閉幕の刻が訪れる。
「受けてください、ヘヴンリィ・シルバー・ストーム!」
 廃病院の屋上に銀色の雨が降り注ぐ。それと同時に発生した万色の稲妻が、複製体の霊体の鎧たちを激しく打ち据えた。
 さらに人型詠唱兵器である輪廻の両腕両脚からバルカン砲が発射され、複製体たちを撃ち貫いていく。
「これでとどめだよっ!」
 銀色の雨を浴びて楽しげな笑みを浮かべた輪廻は、その両腕から詠唱銀製の剣を伸ばすと動力炉からのエネルギーを充填していく。
 銀色に光り輝く刀身が、銀色の雨の幕を斬り裂き、霊体の鎧の複製体を刺し貫いていった。

 優しく降り注ぐ銀色の雨の中、輪廻は幽霊の少女に向かって叫んだ。
「キミのことも、癒やして、助けてあげたいんだっ!」


 廃病院の屋上に降り注ぐ銀色の雨。
 それを浴びた璃奈は空を見上げて呟く。
「呪力が回復していく……これなら……」
 璃奈は両手を組むと、少女の幽霊を救いたいという願いを強く心に思い描いた。
 その願いは璃奈という存在を介して、この世界だけでなく、すべての世界に住む人々へと語りかけられる。
「彼の者に救済を……世界に届け、人々の願い……」
『コノ……ヒカリ……ハ……?』
 降り注ぐ銀色の雨が温かい光を放ち、霊体の鎧の中の少女が戸惑いの声を上げた。その表情は心なし穏やかなものになっているようにも見える。
 だが、逆に少女を地縛する霊体の鎧は、その光る雨を浴びて苦しむかのように暴れだした。同時に、核となる幽霊の少女から怨念の力を吸収していく。
『アアアアアッ!』
 存在そのものともいえる怨念を強引に吸収された少女の幽霊は苦悶の声を上げる。

「いけない……鎧とあの子を繋ぐ鎖を断ち斬らないと……」
 このまま存在を吸い上げ続けられたら、少女の幽霊に待つのは救済ではなく消滅だ。
 その前に少女を鎧の地縛から解き放つ必要があった。
 璃奈は怨念喰らいの魔剣を構えるが、霊体の鎧が暴れていては幽霊少女を傷つけずに鎖を断ち斬ることもできない。

 ――その時、突如として廃病院の屋上の床を突き抜け、霊体の鎧に匹敵する巨体が上空へと飛び上がった。

「ふん、待たせたな。少々調べ物をしていて遅くなったのでな。少し近道をさせてもらった」
 現れた悪魔のような姿をした黒き装甲の巨人――キャバリアのDSD-X-32「アスモダイX」から、シャムロックの声が響き渡る。
 シャムロックが操縦するアスモダイXは、その翼を広げると、ゆっくりと廃病院の屋上へと着地した。
「その幽霊の事情はだいたい把握した。その鎧の地縛から解放するためにも、アスモダイXの力を貸そう」

『アアアア……!』
 霊体の鎧は本能的にアスモダイXを強敵とみなしたのか、その拳を振り上げ、超速度で接近してくる。
 妖獣化によって理性をなくした代償に得た強力な戦闘能力だ。
「ほう、負荷を無視した全力での突進か。――しかし、僕のアスモダイXの機動力を甘く見てもらっては困るな」
 その拳が命中する直前、アスモダイXはかるく床を蹴ると、翼を広げて上空へと舞い上がった。
 ――拳が届かない位置には攻撃ができない霊体の鎧は、困惑したように足を止める。

「遠距離攻撃への対応ができないようだな。ならば――精霊よ、我が武器となり、力を与えよ!」
 シャムロックが火の精霊へと呼びかけると、アスモダイXの正面に光り輝く魔法陣が展開され、そこから火の精霊が姿を現した。――それは、銃の形に姿を変えると、キャバリアサイズの武器となる。
 これこそ、シャムロックの精霊武装だ。
 さらに、その銃は本来よりも攻撃力を犠牲にしつつも射程距離を伸ばしたもの。どうあっても霊体の鎧の拳が届かない位置からの射撃が可能になっている。
 翼を広げて高高度まで上昇したアスモダイXは、月を背景にして空中に静止した。夜闇に浮かぶ影は、まさに悪魔そのものだ。巨大な銃を構えた悪魔は、その引き金を引くと、次々と霊体の鎧へと炎の銃弾を打ち込んでいく。
 鎧の隙間を縫うように放たれた炎の弾は、正確に鎧の脚部を撃ち抜いていき、霊体の鎧の動きを止めた。


「――なるほど、その鎖が怨念を縛るものか。ならば断ち斬るまでだ。タイミングを合わせるぞ」
 ダンタリオンの書で霊体の鎧の本質を見抜くと、シャムロックは璃奈と輪廻に声をかける。
「任せて……」
「うん、支援させてもらうねっ!」
 怨念喰らいの魔剣を握った璃奈と、レインコートで銀色の雨を弾く輪廻が同時に頷いた。

「行くぞ、アスモダイX」
 シャムロックが駆るアスモダイXは、鉄塊のように巨大なキャバリア用の実体剣を構えると、上空から急降下し剣を振るう。
 振るわれた超重量の剣は、正確無比な軌跡を描いて霊体の鎧と幽霊少女を繋ぐ鎖を断ち斬った。
「まずは一本――」

「次は私だよっ!」
 両腕から伸びる詠唱銀のツイン・アームブレイドに全エネルギーを集中させ、輪廻が霊体の鎧の懐に踏み込んだ。
 両腕をクロスさせるようにして放たれた一撃は、少女を地縛する鎖を斬り裂く。
「二本目っ!」

「神をも滅ぼす呪殺の刃……あらゆる敵に滅びを……」
 怨念喰らいの魔剣に莫大な呪力を込めていく璃奈。
 それはあらゆる防御を無効化し、オブリビオンの力の源だけを斬り裂く剣技。
「これで三本……妖刀魔剣術・神滅……!」

『アアアアアッ……!』
 一瞬のうちに三本の鎖を断ち斬られた霊体の鎧は、苦悶するように猟兵たちから距離を取ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

霞・沙夜
【纏さま(f35389)と】

これは……。
取り込まれた子もお助けしたいところですが、ちょっと厳しそうですね。

それでも希望は捨てませんよ。
できるならゴースト……いえ、オブリビオンから彼女を引き剥がして、
安らかに成仏していただきたいですからね。

纏さま、ちょっと厳しい戦いになりますがお願いできますか?

しばらく様子見をしていると、相手の攻撃が単調なことに気づきます。

纏さま、どうやら衝動のままに動いているようです。
雪斗を囮にして、いってくださいませ。

【紫電の舞】を使って、雪斗をオブリビオンの周りを舞うように繰って、
少女狙いと気づかせて、こちらに引きつけますね。

本命は纏さまですが、助けられるのであれば……!


白杜・纏
沙夜さん(f35302)と共に

囚われた魂…
私達で救う為にも、力の限り出来ることを…!

どれだけ厳しくとも、力を合わせていきましょう!

沙夜さんに攻撃を向かわせないように立ち回りながら、敵の動きを読み、その流れと隙を見付けていきます

沙夜さん、雪斗さんを陽動に…?
…分かりました! 2人の為にも、確実に決めていきます!

その攻撃は読みやすくても、強力ですから、確実にかわしていきましょう!

雪斗さんが引き付け、隙を見せたら、すかさず吹雪の竜巻【刹破】で攻撃し、続けざまに冷刃刀「永久凍泉」で切りつけていきます!

これ以上、2人をやらせはしません!

最後は沙夜さんと雪斗さんに合わせて、同時に攻撃を!




 廃病院の屋上。月光に照らされた死闘の舞台で猟兵たちへと殺戮衝動を向けるのは、まるで巨人のような巨体を持つ霊体の鎧だ。その核となっている幽霊の少女は、霊体の鎧から伸びる鎖によって全身を絡め取られていた。
「これは……」
 黒い長髪に紅藤色の小袿を着た和風の少女、霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)は霊体の鎧に視線を向けると、その異様な光景に絶句する。
 沙夜とともに廃病院の屋上に並び立つ、純白の着物を着た白杜・纏(焔を纏いし雪・f35389)も、その黒い髪を風になびかせ、幽霊の少女に青い瞳を向ける。
「囚われた魂……。沙夜さん、私達で救う為にも、力の限り出来ることを……!」
「はい、纏さま。取り込まれた子もお助けするためにはちょっと厳しい戦いになりますが、お願いできますか?」
 纏は無言で氷のように光を反射する刀――冷刃刀「永久凍泉」を白鞘から抜き放った。雪女である纏の力で生み出された氷の刀は彼女の心の強さを反映して力を発揮する。冷たく冴え渡った刀身からは、纏の決意が見て取れるかのようだった。
 沙夜もまた、十指から伸びる繰り糸の感触を確かめるように両手を動かす。繰り糸の先に繋がるのは銀髪のマリオネット。沙夜と同じくらいの大きさの糸繰り人形『雪斗』だ。沙夜によって操られた『雪斗』は、まるで生きている人間であるかのように動き出す。
「どれだけ厳しくとも、力を合わせていきましょう、沙夜さん!」
「ええ、希望は捨てませんよ。できるならゴースト……いえ、オブリビオンから彼女を引き剥がして安らかに成仏していただきたいですからね。雪斗、いきましょう」
 刀を構えた纏が着物の裾を翻しながら屋上のコンクリートを蹴って駆け出した。沙夜もまた十指の繰り糸を繊細に操ると、黒衣の人形『雪斗』に漆黒の大鎌『北辰の鎌』を振り上げさせる。

『コ……ロス……』
 二人の猟兵が戦闘態勢に入ったのを見た霊体の鎧は、自身の分身体を無数に生み出した。本体の核となっている幽霊少女は、鎖によって鎧に地縛されて苦悶の表情を浮かべている。しかし妖獣化オブリビオンである霊体の鎧は意に介さない。ただ命ある存在である沙夜と纏へと剥き出しの殺意を向け、分身体たちを差し向けてくる。
「沙夜さんには指一本触れさせません!」
 前衛として前に出た纏が氷の刀を振るう。纏の正確無比な一振りは、分身体の巨体から繰り出される豪腕の側面を強打して軌道を逸し、その一撃を地面へとめり込ませた。舞を舞うように分身体たちの間をすり抜ける纏の周囲で、氷の結晶でできた刀身が月光を受けて煌めく。
「纏さま、援護いたします。雪斗!」
 纏の背後から迫る分身体に向かって黒き一閃が走る。沙夜の操り人形が持つ黒き鎌の一撃だ。死を司る北斗星君の力が宿る一撃は、分身体に『死』の概念を与え、強制的にそれを消滅霧散させた。
『シ……ネェェェ……!』
 だが、霊体の鎧の分身体たちは止まらない。纏の流水の如き動きに翻弄され、沙夜の操り人形の鎌によって斬り裂かれようとも、動きを止める気配はなかった。――いや、動きを止めるだけの理性が残っていないとも言える。

「これは、もしや……。纏さま、どうやら相手は衝動のままに動いているようです。雪斗を囮にして、いってくださいませ」
「雪斗さんを陽動に……? ……分かりました、お二人の為にも、確実に決めていきます!」

 先に行動に移ったのは沙夜だ。
「霞流繰り方……参ります。霞流、奥義――紫電の舞!」
 沙夜は『雪斗』に繋がった操り糸を伸ばすことによって、その可動範囲を通常の3倍にまで拡張した。――言うは易いが、操り糸を伸ばすことは、それだけ操り人形である『雪斗』の操作を難しくする。それを可能にする技術こそが、霞流の奥義である紫電の舞だ。
 だが、紫電の舞が可能にするのはそれだけではない。操り人形に組み込まれた制限を解除し、人形の力を十全に発揮できるようにすることで、その膂力を通常の3倍にまで強化した。これもまた、常人では不可能なほど繊細な糸繰りの技術を持つ沙夜だからこそ可能な技術である。
 霊体の鎧の分身体たちの間を閃光のように舞いながら、『雪斗』は闇色の鎌を振るう。それはさながら漆黒の死神だ。『雪斗』の『北辰の鎌』によって断ち切られた分身体の鎧たちが、夜闇に溶けるように霧散していく。
『アアアア……!』
 だが、霊体の鎧の分身体は、その程度で全滅できるほど少なくない。無事な分身体たちの群れが、糸を操る沙夜へと殺到する。

「――かかりましたね。糸を使わず相手の動きを操ることこそ霞流繰り方の極意です。纏さま!」
「はい、お任せください、沙夜さん! これ以上、お二人をやらせはしません!」
 『雪斗』と沙夜自身を囮として敵を一箇所に集める――予め打ち合わせていた通りの展開となったところで、纏が雪女としての能力を解放していく。完全に沙夜へと殺戮衝動を向けている霊体の鎧の分身体たちは、纏が生み出す冷気によって病院の屋上にダイヤモンドダストが降り注いでいることに気づいていない。
 雪女――かつて世界を救った来訪者。氷雪を操るその能力が、いま解き放たれる。
「冷たき嵐の中で、凍てつき、砕け散りなさい……! 刹破!」
 纏の周囲に吹き荒れる激しい氷雪の竜巻に晒された霊体の鎧たち。その鎧の表面が徐々に氷に覆われていく。だが破壊の衝動に身を任せた霊体の鎧たちは、自分たちの身体が凍っていっていることにも構わずに拳を振り回そうとし――腕が、身体が凍って動かなくなったところで、ようやく自分たちの置かれた状況に気がついた。いかに剛力を誇る鎧であろうとも、内側まで氷漬けになっては動くこともできない。
 吹き荒れる吹雪がやんだとき、病院の屋上には分身体たちの氷柱が林立していた。 

「――分身体たちには凍っていただきました」
「残るは――本体だけですね」
 屋上に唯一残った霊体の鎧の本体も身体を動かそうとしているが、氷雪の竜巻に巻き込まれ凍りかけた身体の動きは鈍い。
「一気に決めましょう、沙夜さん」
「はい、行きましょう、纏さま」
 霊体の鎧に向かって纏が駆け、沙夜が『雪斗』を操る。狙うは霊体の鎧の核となっている幽霊少女――それを地縛する鎖だ。
「今、解放します――!」
「――雪斗、そこです」
 纏が氷の刃、冷刃刀「永久凍泉」を上段から振り下ろし、同時に雪斗が北辰の鎌を振るった。
 交差するように同時に放たれた刀と鎌は、幽霊の少女を地縛する鎖を二本同時に断ち切り――。

『グアアアアア!』
 妖獣化オブリビオンと化した霊体の鎧が大きな叫び声を上げたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

久遠・玉青
妖獣化オブリビオンでしたか…?
地縛霊の見た目で妖獣…やはり、違和感ありますね…

いずれにしても…妖獣となり…理性を失ったなら…
前よりは…やりやすい、です…!

妖狐の尾の使い方は…先ほどで感覚…掴めましたし…
ならば次は…真妖狐の…強化された尾の力を…!

敵巨体の周りを…小さなモーラットの身体で跳ねまわりながら…『荒御霊ノ匕首』を…念動で大量に動かして斬りかかって…撹乱しつつ
モーラットの尾を妖狐の尾に変化させ…真妖狐の力を一部開放…!
【天妖九尾穿】…!
乱れ狂う九尾の連続攻撃で…穿っていきましょう…!
そのまま胴体を引き裂き…核となっている少女の霊を解放して…

…巫女としての祈りで、成仏させてあげたい…ですね




「妖獣化オブリビオンでしたか……? 地縛霊の見た目で妖獣……やはり、違和感ありますね」
 呟いたのは久遠・玉青(ユノ/祟り神の天狐・f35288)。かつては銀誓館学園に所属し世界を救った妖狐にして――今は使い魔のモーラット、ユノの姿となってしまった少女である。
 玉青が黒くつぶらな瞳を向ける先にいるのは、かつては地縛霊として存在していたゴーストだ。しかし、世界の神秘を覆い隠してきた世界結界がオブリビオン化したため、ゴーストたちもまた、かつてとは異なる存在であるオブリビオンとして蘇っている。霊体の鎧を身にまとった少女の幽霊も地縛霊のゴーストだった頃とは異なり、妖獣化オブリビオンという新しい存在として蘇ったものであった。妖獣化オブリビオン――それは地縛霊として土地に縛られることなく、妖獣として人々を襲う凶暴なオブリビオンである。
「見境なく人々を襲うなんて……能力者として――いえ、今は猟兵として……許せない……もきゅ」
 ピンと尻尾を伸ばした玉青は、その愛らしい瞳に真剣な光を灯し、眉をキリッと引き締める。

『ガァアアア……!』
 ここまでの猟兵たちとの戦いによる消耗を感じさせない気迫で霊体の鎧が吠えた。それとともに、核となる幽霊の少女が顔を歪める。
 しかし霊体の鎧は少女の苦悶を気にもかけずに、廃病院の屋上に自身の分身体を無数に作り出した。分身体の霊体の鎧たちは、本体からの念力により遠隔操作され、玉青へと襲いかかってくる。それは、まるで霊体の鎧が津波となって押し寄せてくるかのようだった。

「なるほど、質量で圧倒しようという作戦ですね……。確かにユノの小さな身体では……あんなものに押しつぶされては、ひとたまりもないです……。かつての私の身体なら、あの程度、簡単に押し返すのですが……」
 銀誓館学園に残された記録によると、かつて身長132.2cmだった玉青――それから年月が経ちどれだけ成長したかは定かではない――が、悔しげな口調で言葉を紡ぐ。
 だが、その程度で諦める玉青ではない。
「けれど……妖獣となり……理性を失っているというなら……」
 玉青はモーラットの身体をふわりと浮かび上がらせると、怒涛のごとく押し寄せる霊体の鎧たちの動きを見極め――。
「動きが単調なら……避けることは不可能ではありません……もきゅ!」
 霊体の鎧の豪腕による一撃や、巨躯による体当たりが生み出す突風に身を任せ――玉青の身体が宙を舞う。ひらひらと舞う木の葉のような玉青の動きに、理性のない霊体の鎧たちはついていくことが出来ず、攻撃が当たらない。

「妖狐の尾の使い方は……先ほどで感覚……掴めましたし……ならば次は……真妖狐の……強化された尾の力を……!」
 霊体の鎧の分身体たちの間を身軽に飛び回りつつ、玉青は無数の『荒御霊ノ匕首』を念動力で浮かび上がらせた。空中にずらりと列を成して浮き上がった抜き身の短刀が一斉に解き放たれる。高速で飛翔した匕首の群れが霊体の鎧たちに突き刺さろうとし――その硬い表面で跳ね返される。
 だが、それが玉青の狙いだ。
 単純な霊体の鎧たちは、匕首が飛んできた方向を向いて敵の姿を探し求める。だが、そこにはすでに玉青の姿はない。

「忌まわしき……祟りの天狐……その力を……解放……する!」
 
 玉青の尻尾が黄金色の狐の尾へと変化した。それは、かつての玉青の身体の一部。
 ――その狐の尾が九本に分かれ、まるで別々の生き物であるかのように自在に動き回る。それこそが真妖狐のアビリティ、天妖九尾穿。
 玉青の制御を放れた九本の尾が20メートル近くまで伸び、周囲の霊体の鎧たちを刺し貫いていく。とっさに距離を取ろうとした分身体たちだが、追撃能力のある九尾から逃れることはできない。
「邪魔な分身体は……撃破しました……。あとは……あなた……です……」
 九尾が一本に束ねられて、霊体の鎧の本体を刺し穿ち――核たる少女と繋がる鎖の一本を断ち切った。

『グァァアアアア……!』
 叫び声を上げながら大きく跳躍して距離を取った霊体の鎧。

 だが、玉青も九尾を具現化した反動で力を使い果たしていた。
「これ以上の追撃は……できませんね……。せめて巫女として、彼女の成仏を祈らせてもらいましょう……もきゅ」

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

さて、あれが妖獣化オブリビオン。
霊体の鎧ねぇ、エナジーを糧にするサイキックヴァンパイアたる私にはご馳走の塊ね♪
混沌魔術・技能拡張でまずはオリキャラに変身して技能を強化。
瞬間思考力で瞬時に深い集中に潜り体感時間を引き伸ばす。古流武術で言う神憑り、現在スポーツではゾーンとかフロー体験と呼ばれる己の才能(パフォーマンス)を最大限に引き出す境地よ。
思考が単純化してるなら錯視・錯覚・ミスディレクション等を用いた実践的錯覚でハメやすくはあるわね。一流の暗殺者は知覚の内にいて認識の外にいるともいうしその概念の技術も借用(sampling)し混合(MIX)し私流にDIYしちゃって、と。
継戦能力でギャグ補正による持久力と耐久力、さらに戦闘を維持するための防御技術も確保してるし結界術による位相ずらしもあるから防御面に不安はないわね。
霊体のエナジーも攻撃の破壊エネルギーも喰らいエネルギー充填して私のリソースに☆
後は少女を『夜』に堕として♪
えっちなのうみそおいしいです♥




 廃病院の屋上――そこに設置された給水塔の上で銀髪が月光に煌めいた。錆の浮いた金属製のタンクに腰掛けて、赤き瞳のダンピールの少女が小悪魔のごとき妖艶な笑みを浮かべる。
「――さて、あれが妖獣化オブリビオンね」
 ピンク色のエプロンドレスを風になびかせる少女こそ、混沌魔術の遣い手を名乗るアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト艶魔少女・f05202)だ。アリスは口元から赤い舌を出し、ぺろりと舌なめずりをする。
 その視線の先には、幽霊少女を核として動く霊体の鎧の姿があった。

「霊体でできた鎧ねぇ。エナジーを糧とするサイキックヴァンパイアたる私にはご馳走の塊ね♪」
 アリスの言葉に不吉な予感を感じたのか――それとも生者の気配を感じ取ったのか。どちらなのかは定かではないが、霊体の鎧が給水塔の上のアリスに顔を向けた。鎧の頭部の隙間から漏れる赤い光。それはまるで地獄の底から生者に呪いの視線を送る瞳のようだ。
『イノチ……ヲ……ヨコセェェェ……!』
 霊体の鎧はその巨大な両腕を振り上げると給水塔へと一直線に突撃し――アリスごと金属タンクを叩き潰した。ひしゃげて潰れたタンクの内部に残っていた水が、まるで噴水のように屋上に吹き上がる。

 ――だが、タンクの残骸の中にアリスの姿は存在しなかった。

「なるほど、私があなたをご馳走だと感じるのと同じように、あなたも私のことを『核』の代わりにしようというのね? 確かに霊体に近い私なら、あなたの『核』にもなれるわね」
 アリスの声が霊体の鎧の背後から響く。
 その姿は、この世界のアリスと量子的に重なって『人工未知霊体』へと進化した原初の吸血鬼。あり得たかもしれないもう一つの可能性。

『ガ……アアアア!』
 霊体の鎧が振り向きざま、音速を超える速度で拳を振り抜いた。
 周囲に破壊を撒き散らす衝撃波を伴うその拳は、アリスの身体に命中し――それをすり抜ける。
『グァッ!?』
「ふふ、ありえないといった驚愕の声ね」
「いいわ、知能の低いあなたに説明してあ・げ・る♪」
 攻撃をすり抜けたアリスから、二重の声が聞こえてくる。
 それは、量子的に重なり合った二人のアリスが発する声だ。
「ここにいる私は、あり得たかもしれない可能性の私――」
「――だから、ここに存在しているとも言えるし、存在していないとも言えるの♪」
 重なり合って存在する二人のアリスが妖艶に微笑む。彼女が言うのはこういうことだ。可能性を自在に操れるなら、攻撃が当たる瞬間だけ『自分が存在しない状態』になることで攻撃を避けることができる――と。

 だが、その言葉を理解するだけの知性が妖獣化したオブリビオンに残っているかは怪しいところだった。
『グオオオオッ!』
 目の前に無防備に立つアリスに向かって、霊体の鎧は連続して拳を繰り出していく。廃病院の屋上には拳が巻き起こす衝撃波が吹き荒れ、さながらハリケーンに晒されているかのようだ。
「やれやれ、どうやら思考が単純化されすぎてて理解できなかったみたいね」
「なら『私』の本領を見せてあげましょ♪」
 アリスの混沌魔術の効果は、もう一人の自分と同化することだけではなかった。その本質は、あらゆる可能性を実現すること。

「まずは――瞬間思考力を極めた可能性の私!」
「古流武術で言う神憑り、現在スポーツでゾーンとかフロー体験と呼ばれる、己のパフォーマンスを最大限に引き出す境地よ」
 アリスの視界に映る巨腕の動きがスローモーションになる。まるで時間の進み方が遅くなったかのような空間の中、アリスは身体をひねり、霊体の鎧の攻撃を紙一重でかわしていく。飛び交う衝撃波すら、今のアリスには止まっているように感じられる。

「そして――暗殺技術を極めた可能性の私!」
 霊体の鎧が、突如、アリスの姿を見失ったかのように動きを止めた。
 だが、アリスは相手の目の前に無防備に立ったままだ。
「思考が単純化してるから、錯視や錯覚、ミスディレクションといった技術に弱いみたいね。一流の暗殺者は、知覚の内にいて認識の外にいるというものよ」
 霊体の鎧の視界内にいながらも、その存在を感知させないまま、アリスが不敵に微笑んだ。

「さて、結界術による位相ずらしもあるから、防御面に不安はないわね。なら――」
「ええ、霊体のエナジーも攻撃の破壊エネルギーも喰らい、私のリソースにしちゃいましょ♪」
 アリスの赤い瞳が輝いたかと思うと、サイキックヴァンパイアとしての真価が発揮される。
 廃病院の屋上に荒れ狂っていた、ハリケーンのような衝撃波の嵐が、まるでブラックホールに吸い込まれるかのようにアリスへと収斂していく。――いや、アリスの能力によって物理的な破壊のエネルギーが吸収されていく。
「さあ、その鎧は――」
「――どんな味をしているのかしら?」
 アリスの細い手が霊体の鎧に触れた瞬間――その触れた箇所がごっそりとこの世から消滅した。
 霊体という不可視のエナジーを吸収された結果である。
『グオオオオッ!?』
 アリスによって右腕の大半を吸収された霊体の鎧が、まるで恐怖するかのような叫び声をあげる。

「うふふ、いい声で啼いてくれるわね♪」
「このまま、『核』の子も『夜』に堕としてあ・げ・る♪」
 きゅぴーん、という音が聞こえるかのように目を光らせたアリスの視線を受け――。
 霊体の鎧は脱兎のごとく屋上の端まで後退したのだった。

「残念、逃げられちゃったわね。こちらも同化の時間切れだわ」
「えっちなのうみそはお預けね」

成功 🔵​🔵​🔴​

シャルロット・シフファート
サナトリウムホラー、ね…
アリス適合者としてどこかシンパシーを感じるわ
私…家庭環境に問題の無かったわたくしは何に絶望してアリス適合者となったのかしら…

と、今はこいつを撃滅しなきゃね
UC起動
展開なさい、オブリビオンを滅ぼす四大元素で構築された迷宮!
これが私のアリス適合者としての力の一端!
はじまりのアリス適合者たる『アリス・オリジン』の力をとくと味わうといいわ!

オーバーロードにより真の姿を展開
より豪奢になった衣装に身体の僅かな変化による外見印象の変化
それは幼さと妖艶さを併せ持つ『アリス』として完成された外見
これがアリス適合者としての『真の姿』
そして、力もより『異界を展開して現実を改変する』力がより強力な出力となるわ

思考が単純化していると言うならそうね
水属性と火属性を複合させて幻影の分身を迷宮内に複数体顕現させて見ようかしら
その分身に気を取られている隙に迷宮から四大元素魔術を行使
浄化の風と火の属性魔術で少女の地縛霊を浄霊していくわ




 猟兵たちと妖獣化オブリビオンとの激闘により、給水塔を始めとした建造物が破壊し尽くされた廃病院の屋上。
 そこに姿を現した金髪ツインテールの少女が口を開いた。
「サナトリウムホラー、ね……。アリス適合者としてどこかシンパシーを感じるわ」
 霊体の鎧に覆われた幽霊少女に視線を定めつつ、縦ロールにした髪を優雅に片手で払うシャルロット・シフファート(異界展開式現実改変猟兵『アリス・オリジン』・f23708)。彼女は不思議の国たるアリスラビリンスに『アサイラム』と呼ばれる場所から召喚された存在だ。
 猟兵たちの調査の結果、『アサイラム』とは「外界から隔絶された収容所」であることが判明している。シャルロットには、この廃病院こそ幽霊の少女にとっての『アサイラム』であると感じられたのだろう。
「私……家庭環境に問題のなかったわたくしは、何に絶望してアリス適合者となったのかしら……」
 貴族の令嬢であり、悠々自適に過ごしてきたシャルロットが、何をきっかけとして『アサイラム』から不思議の国に召喚されたのかは、シャルロット本人も覚えていない。
「けれど……。私が不思議の国から解放され、こうして自由を得たように――あの子にも自由を取り戻してあげないといけないわね」
 シャルロットのアメジストの瞳が月光を反射して煌めいた。

『グァアアアア!』
 シャルロットの姿を認め、霊体の鎧が大気を震わす咆哮を上げた。霊体の鎧から伸びる鎖で地縛された幽霊少女が苦悶の表情を浮かべるが、妖獣化オブリビオンである霊体の鎧は気にもとめない。
 幽霊の少女から絞り取るように汲み上げた力が、霊体の鎧の形を変えていく。幽霊の少女の深き絶望を力の源として強化された禍々しき鎧姿である。
 絶望を表す漆黒のオーラに身を包んだ霊体の鎧が強く一歩を踏み出すと、病院を震わす地響きとともに屋上のコンクリートに蜘蛛の巣のようなひび割れが走る。

「なるほど。それがそちらの切り札というわけね。ならば――起動なさい、オブリビオンを滅ぼす四大元素で構築された迷宮!」
 シャルロットが片手を振るうと、廃病院の屋上に、妖獣化オブリビオンを中心とした迷宮が組み上げられていく。それこそ『罪深き咎神に滅びを捧げよ熾天迷宮葬送曲』――フォールブリンガー・オブ・メルカバー。オブリビオンにまつわる事象を滅ぼす四大元素を構成要素とした大迷宮である。

『グオオオオッ!』
 迷宮に閉じ込められた霊体の鎧は妖獣化の影響で思考が単純化されている。ゆえに、迷宮を抜けようと、愚直に正面に立ちふさがる壁に両腕を叩きつけ始めた。
「どうやら力技で突破しようという思考しか浮かばないようね。けれど、その迷宮は私のアリス適合者としての力の一端。はじまりのアリス適合者たる『アリス・オリジン』の力で作られた迷宮は、その程度では破れはしないわ!」
 分厚いコンクリートの壁すら容易に砕く霊体の鎧の腕力だが、その渾身の一撃をもってしても、シャルロットが組み上げた迷宮の壁にひびすら入らない。
 夜闇に沈んだ廃病院の屋上に、壁を叩く激しい打撃音だけが響き渡っていく。

「さあ、このあたりで終わりにしましょう。私の真の姿――オーバーロードによって引き出された、完成されたアリスの姿を見せてあげるわ。原初の荘厳にして不条理を砕く電脳と精霊を司るアリス適合者としての真の姿を――」
 シャルロットの周囲の空間が歪んでいく。それは、シャルロットの異界を展開して現実を改変する能力が発現している証である。
 シャルロットが身にまとうドレスが、より豪奢なものに姿を変える。
 さらに、アリス適合者になったときに成長が止まったはずのシャルロットの身体に変化が訪れた。
 それは、ほんの僅かな変化。――しかし、その変化は、シャルロットに幼さと妖艶さとの絶妙なバランスを与えていた。まさに原初のアリスと呼ぶに相応しい姿である。
「この姿になれば現実を改変する能力もより強力になるわ。思考が単純になっているというのなら――そうね、こういうのはどうかしら?」
 豪奢なドレスを身にまとった清楚な少女が、妖艶な笑みを浮かべながら優雅に手を振るうと、四大元素で構成された迷宮内に変化が訪れる。
 迷宮内に、無数のシャルロットが出現したのだ。

『ニンゲン……コロ……ス……!』
 シャルロットの姿をみた妖獣化オブリビオンは、闇雲に少女に向かって両腕を振り下ろした。
 だが、その一撃はシャルロットの身体をすり抜けるだけで、傷一つ付けることはできない。
「やっぱり、幻影と本物の区別もつかないようね。それは私の力で水属性と火属性を複合させて作った幻影よ。――まあ、現実改変で質量も持たせてあるから、高度な知能があっても見破れるかはわからないけれど、ね」
 シャルロットが解説するも、その言葉は迷宮内に閉じ込められた霊体の鎧には届かない。
 ――例え届いたとしても、現在の状況を理解する知能は妖獣化オブリビオンにはないだろうが。
「さあ、これで幕を下ろしてあげるわ」
 シャルロットが月下の屋上で優雅にダンスを踊る。その周囲に愉快な仲間のように現れるは四大を司る精霊たちだ。
 電脳と精霊を友とするアリス――シャルロットは精霊たちに命じる。
「浄化を司りし風と火の精霊よ、悪夢に囚われし少女の霊を解放してあげて」

 吹きすさぶ浄化の風により、四大元素で作られた迷宮内は聖なる火に包まれ――。
『グォオオオオッ!』
 迷宮内に妖獣化オブリビオンの悲鳴が響き渡り、霊体の鎧を浄化しながら幽霊の少女を地縛する鎖を燃やすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
【SPD】
絡み・アドリブ歓迎

屋上に到達、周辺空間の通信状態は良好。撃破目標を確認しました。
銀誓館の資料に有った特殊空間とやらは今回は展開されていないようですね。ならばいつも通りの戦術パターンで行きましょう。
各種ドローン群及び本体、歩行戦車、工作車の観測機器を使用して戦場をカバーする通信、観測網を構築し【偵察】【索敵】し【情報収集】します。
収集した情報を【戦闘知識】【瞬間思考力】で分析しUCを使って最適な戦闘パターンを構築、【先制攻撃】で【誘導弾】の【一斉発射】による【範囲攻撃】を行い、目標周辺の敵を掃討後、【砲撃】【レーザー射撃】の【援護射撃】で河崎さんの突撃を支援します。

戦闘後

え?今から行けるラーメン屋ですか?ちょっと待ってくださいね。検索しますから。
・・・・・・検索完了。車で1時間位の街に24時間営業のお店が有りますけど、本当に行く気ですか?
ゴースト退治の後はラーメンを食べに行くのがルール?
銀誓館にはそんな風習が有るのですか?


河崎・統治
【POW】
絡み・アドリブ歓迎

さて、あれが今回の元凶だな。
・・・・・あれ?アイツ、地縛霊じゃなくて妖獣区分なのか?
こりゃ、久々に学園の資料室の世話になりそうだな。
有紗、天城さん、突っ込むから援護宜しく。
味方の援護射撃を受けつつ、【誘導弾】【砲撃】【レーザー射撃】で【制圧射撃】を行いつつ敵を【威圧】しながら【切り込み】を行う。
「自我を失い、ひたすら呪詛を撒き散らす。この炎でその呪いから解放してやる!」
UC による攻撃で【切断】しつつ、【2回攻撃】で【追撃】する。
敵の攻撃は【戦闘知識】【地形の利用】【見切り】【推力移動】を併用して回避し、避け切れない攻撃は【武器受け】【オーラ防御】で対応する。

戦闘後

さて、仕事も終わったしラーメンでも食いに行くか。
天城さん、ちょっと今から行けるラーメン屋調べてくれないか?
ん?仕事終わりのラーメンは銀誓館の伝統みたいなもんだから気にするな(統治の居た結社の伝統)
今回は俺の奢りだ。それじゃあ行こうか。


島津・有紗
【WIZ】
絡み、アドリブ歓迎

あれが大元みたいね。・・・・・あの系統は昔は地縛霊区分だったけど、今は妖獣扱いなんだ。ちょっと学園の資料室で情報収集した方が良さそうね。
河崎先輩、援護しますからいつもみたいに突っ込んでいいですよ。
「あなたの過去に何が有ったのかは知りません。でも、いつまでもここに留まってるべきじゃありません。だから、迷惑だと思われても力ずくで解放してあげます!」
後方からUCで攻撃後、弓による【スパイパー】【援護射撃】【貫通攻撃】で河崎先輩を援護します。
敵の攻撃は【戦闘知識】【見切り】【地形の利用】を併用して回避し、避け切れない物は【オーラ防御】で対応します。

戦闘後
あ、ラーメン食べに行くの?河崎先輩の奢り?
うん、行く行く!
そうね。伝統と言えば伝統よね。




 廃病院の屋上に続く階段の途中。踊り場に三人の猟兵たちが身を潜めていた。
「屋上へ続く階段に到達、周辺空間の通信状態は良好――本体よりドローンによる映像届きました。撃破目標確認」
 宇宙戦艦の自律型コアユニットである天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)――そのリモート義体である女性型バイオロイドが、冷静な声音で告げる。千歳は廃病院の駐車場で装甲車に偽装して待機している本体と通信し情報を受け取っていた。病院の敷地内をくまなくカバーするように展開させたドローンたちによって収集されたデータを元に、千歳の手元に屋上の立体図がホログラムとして展開される。そこに映るのは、今にも崩れ落ちそうなほどボロボロになった屋上と、満身創痍の妖獣化オブリビオンの姿であった。霊体の鎧の核にされている少女は、鎖に縛られながら、苦悶の表情を浮かべている。

「さて、あれが今回の元凶だな」
「あれが大元みたいね……」
 千歳の手元の立体映像を覗き込むのは、千歳と現地で合流した銀誓館学園出身者の河崎・統治(帰って来た能力者・f03854)と島津・有紗(人間のシャーマン・f04210)の二人だ。かつて銀誓館学園の一員としてゴーストと戦っていた統治と有紗は、妖獣化オブリビオンの姿を見て顔を見合わせた。
「……あれ? アイツ、地縛霊じゃなく妖獣区分なのか?」
「そうみたいですね」
「あのオブリビオンに心当たりがあるのですか!?」
 不思議そうに呟いた統治とそれに頷く有紗に、千歳が驚いたような表情を浮かべる。千歳にとっては初めて見るオブリビオンだが、この世界に詳しい統治や有紗から情報が聞き出せれば有効な戦術を組み立てられるかもしれない。
「ええ、河崎先輩の言う様に、あの系統は昔は地縛霊って呼ばれていたんです。それが、今は妖獣扱いのゴースト……いえオブリビオンなんですね」
「こりゃ、久々に学園の資料室の世話になりそうだな……とはいえ、今から学園に行ってる余裕はないか」
「本当なら、学園の資料室で情報収集した方が良いんですけどね」
 二人のやり取りを聞いていた千歳は、怪訝そうな顔のまま、周囲にホロディスプレイを展開した。そこには、千歳の本体がアクセスした銀誓館学園の資料室の情報が表示されている。過去に銀誓館学園の学生たちが交戦したゴーストの記録――それがそこに余さず表示されていた。
「よく分かりませんけど、この資料の中に、何か情報があるのでしょうか?」
 瞬時に膨大な資料を展開した千歳を見て、統治と有紗は呆気にとられた表情を浮かべるのだった。


「なるほど、地縛霊は本来、テリトリー内に特殊空間を持っている、と」
「ああ。地縛霊とは必然的に特殊空間内での戦いになることが多い。だから相手の特殊空間について知っておくことが重要なんだ」
「それに、テリトリーは相手の弱点に繋がることもあるんです」
 二人の言葉を聞いた千歳は、資料を閲覧しつつ、周囲の空間を念入りに探査していく。ドローンによって撮影された映像を本体が解析した限り、かつての地縛霊が持っていたという特殊空間は観測できなかった。
「どうやら特殊空間というものは展開されていないようです。――何より、ゴーストが出現したときに生じるという電波障害も発生していません」
「オブリビオン化した影響か……もしくは妖獣化した影響か。昔のゴーストとはやはり別物らしいな」
「とにかく、特殊空間が展開されていないなら、いつもみたいに正面から河崎先輩が突っ込んでいけばいいんですね」
 統治に向かって有紗が信頼に満ちた眼差しを向け、そこに千歳も賛同の意を告げる。
「私も島津さんが提案された戦術パターンに賛成です。河崎さんが突入するのを島津さんと私が支援するのが勝率の高い作戦であると、私の本体も分析しています」
「まあ、元からそのつもりだけどな。それじゃ、有紗、天城さん、突っ込むから援護よろしく」
 統治が階段を駆け上ると、半壊した出入り口から屋上へと飛び出し、それに有紗と千歳も続く。

「本体との戦術データリンク確立――各種ドローン群および歩行戦車、工作車のセンサー網、完全掌握。観測網による初期データ入力完了。ラプラス・プログラム起動、状況の予測演算を開始します」
「「起動(イグニッション!!)」」


『グルァアアアア!』
 屋上へと姿を現した3人の姿を見て妖獣化オブリビオンが咆哮を上げた。それはまるで追い詰められた手負いの獣が放つかのような相手を威嚇する唸り声だ。大気を震わせる轟音が猟兵たちの鼓膜を強く打つ。だが、それはここまでの猟兵たちとの戦いで妖獣化オブリビオンが弱っているという証拠でもあった。
「オブリビオンの複製体の出現を多数確認しました。それに敵本体は外装を強化し、攻撃に備えています」
 センサーネットワークにより瞬時に状況を把握した千歳の言葉の通り、屋上には無数の霊体の鎧の複製体が展開されていた。さらに本体もその鎧を強化することで守りを固めている。
「迎撃体制は万全というわけか」
「けれど、河崎先輩のための道を切り開くのが、私の仕事です」
 イグニッションにより戦闘用の装備を装着した二人――詠唱銀で動く武者鎧風の動力甲冑に身を包み水面に映る月の如き日本刀『水月』を構えた統治と、巫女装束姿に大型の弓である強弓を構えた有紗が視線を交わす。

「ラプラス・プログラムによる状況予測演算完了しました。演算した戦闘パターン1024通りのうち、上位10件を検討――最良と思われる戦術を提示します」
「あなたの過去に何があったのかは知りません。でも、いつまでもここに留まっているべきじゃありません。だから、迷惑だと思われても力ずくで解放してあげます!」
 強く弓を引き絞った有紗は、そこに一本の破魔矢を番えると空に向かって解き放った。それは夜空に浮かぶ月の光を浴びながら無数に分裂して霊体の鎧たちに雨のごとく降り注ぐ。その矢が向かう先は、千歳が喚び出した自立浮遊砲台群からのレーザーサイトによって赤くポイントされている。
『ガアアアッ!?』
 勢いよく落下する有紗の矢は複雑な軌道を描いて飛翔しながら、レーザーサイトによって指示された霊体の鎧たちを貫いていく。回避行動を取ろうとした霊体の鎧たちも、幾何学模様を描いて翔ぶ矢からは逃げられない。その強固な鎧の継ぎ目を正確に貫かれて消滅していった。

「今です、島津さん、河崎さん、一気に本体までの道を切り開きましょう!」
「はいっ!」
「応っ!」
 千歳が自立浮遊砲台群から放ったミサイルが白煙の軌跡を帯びながら霊体の鎧たちに向かって飛翔する。直撃から身を守ろうと両腕の装甲で攻撃を受け止める霊体の鎧たちだが、装甲が吹き飛ばされたところにビームガンによる斉射を受けて、その全身を蜂の巣にされていく。
 そこに、有紗の弓による追撃も放たれる。鎧の継ぎ目を正確に狙った矢は霊体の鎧を貫通し、その存在を霧散させる。

 だが、倒しきれなかった霊体の鎧たちが有紗に狙いを定め、その巨大な両腕を振り上げた。
「弓使いだからといって甘く見ないでください。踏んできた場数ならちょっとしたものですからね」
 次々と振り下ろされる豪腕の一撃を、有紗はその戦闘勘で見切り回避していく。さらに避けきれない一撃も、オーラを宿した掌底で軌道を逸して直撃を避ける。
「――私が抜かれたら後衛の天城さんが攻撃されてしまいますから、ここを抜かせるわけにはいきませんね」
 襲い来る霊体の鎧の一撃をいなす瞬間、相手の勢いを利用して屋上の外へと投げ飛ばした有紗は、地上へと落下していく敵を一瞥して構えを取り直した。

「二人とも、助かる!」
 千歳と有紗のサポートで、妖獣化オブリビオンの本体までの道が切り開かれたのを見て、統治は強く地面を踏みしめて駆け出した。その動きを邪魔しようと割り込んでくる霊体の鎧の複製体たちには、『21式複合兵装ユニット2型』による武装群と、腕部の盾に装着されたアームガトリングの銃口が向けられる。
「ここは強引に切り込ませてもらう」
 統治の甲冑の背面に装着された大型の回転動力炉が唸りを上げる。詠唱銀から生み出された膨大な出力により、ミサイル群が放たれ、レールガンと連装レーザー砲が乱射され、ガトリングガンが火を吹いた。圧倒的な面制圧力を発揮する統治の攻撃は霊体の鎧たちを退け、海面が割れるかのように本体への道を切り開く。
『ガアアアッ!』
 霊体の鎧の本体が拳を叩きつけてくるが――。
「力任せの攻撃で止められると思うなっ!」
 統治は地形をも変えるほどの威力を持つ霊体の鎧の拳を、オーラをまとわせた刀で受け止め――瞬間、大型回転動力炉の出力を全開にし、詠唱銀の粒子を推進剤のごとく吹き出させた。銀色の光をなびかせて拳をかいくぐった統治は、そのままの勢いで刀を振るい――。
「自我を失い、ひたすら呪詛を撒き散らす。この炎でその呪いから解放してやる! 焼き斬れ、フェニックススラッシュ!」
 不死鳥の炎をまとった刀で、霊体の鎧と核となっている幽霊の少女を繋ぐ鎖を断ち斬った。

『ギャアアアアアッ!』
 霊体の鎧――妖獣化オブリビオンの絶叫が周囲に響き渡る。核となる幽霊の少女と霊体の鎧とを繋ぐ鎖がすべて断ち斬られたからだ。存在の根源との接続を絶たれた霊体の鎧は、まるで霞のように空中へと溶けて消えていき――そこには身体が半透明に透けた幽霊の少女が儚げな笑みを浮かべて佇んでいた。
 幽霊の少女は口を開くと、そのまま光の粒子となって天へとのぼっていったのだった。

 ――幽霊の少女は、最後にこう言ったのかもしれない。「解放してくれてありがとう」と。


「さて、仕事も終わったし、ラーメンでも食いにいくか。天城さん、ちょっと今から行けるラーメン屋調べてくれないか?」
「――検索完了。車で一時間ほどのところに24時間営業のお店がありますけど……」
 統治の言葉に、反射的に本体の情報処理能力をフル稼働させて検索してしまう千歳。その言葉を聞いて、有紗も話に食いついてきた。
「あ、ラーメン食べに行くの? うん、行く行く!」
「え、本当に行く気なんですか?」
 ごくごく自然に会話する二人を見た千歳が、首を傾げるが――。
「ん、仕事終わりのラーメンは銀誓館の伝統みたいなもんだから気にするな」
「まあ、私たちのいた結社での伝統ですけどね。学園祭でラーメンを作ったり」
 統治の説明に有紗もうんうんと頷き。
「というわけで、天城さん、ちょっと車お願いできないか。ラーメン奢るから」

 一時間後。
 千歳の本体が偽装した装甲車でラーメン屋に乗り付けた三人は、そこでラーメンをすすっていた。
「河崎先輩は相変わらず豚骨チャーシュー派ですか。また河崎先輩のラーメン食べたいですね」
「よし、今度二人に作ってやろうか」
「え、いや、私は……」
 統治と有紗の会話に巻き込まれた千歳が困惑していたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


挿絵イラスト