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可能性の芽は摘ませない!屋上の防衛戦

#シルバーレイン

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#シルバーレイン


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●隠れた名所の、会社の屋上
「わぁ……今日の空もステキ! 写真取っておこう」
 時は正午過ぎ、会社の昼休みの前にギリギリにやっと午前中の仕事を片付けて、夏菜子は屋上へ来ていた。
 勤務先のこの屋上は見晴らしがよく、かつて在籍していた「ある学園」の屋上からの風景に負けず劣らずで美しい……OLである夏菜子はさっさとお弁当を食べ終えるといつものように空を見て感嘆し、写真アプリで空を撮った。空の高い場所に、まるで箒アートのような雲がいい感じに浮かんでいる。
 他にも、きれいな空そのものや、やや遠くに秋の彩りを見せる紅葉した木々を見に、何人かの社員が屋上を訪れている。ここは、ここに勤務する社員にしか知られていない密かな絶景スポットなのだ。

 夏菜子が学生時代に通っていたのは「銀誓館学園」。在学中は能力者として無我夢中で腕を磨いていたが、高校を卒業した今は一般人の大切な人ができたため、伴侶の為に能力者であり続けながら会社勤めを頑張っているのだ。
 能力者は世界結界の影響を受けない為、それこそこれまで何度となく戦ってきた記憶も、学生らしく楽しく学び舎で学んだ記憶も、今も大切に覚えている。

●招かれざる「ゴーストまがい」。
 故に、のどかな昼休みを過ごしていた社屋の屋上に現れた突然の招かれざる客の来訪には、夏菜子以外は気づくことができなかった。
 昼休み終了15分前を告げるチャイムを聞いて、自身のデスクへ戻ろうと写真の加工を一旦終えた一般人社員の背中に、詰襟の学生服を着込んだゾンビが群れを成して迫る。
「……!?」
 他にもそろそろ午後の作業に戻ろうとした社員たちは、皆一様にその異形と凄まじい殺意に恐怖してしまっていた。身動きが取れない者もいれば、腰を抜かしてへたりこんでしまった者もいる。
「イグニッション!」
 学生時代に作成して以来密かに携帯していたイグニッションカードを「起動」させ、夏菜子は能力者として単身で敵へ立ち向かう。数の多さから劣勢に立たされることは間違いないと直感では分かったが、親しくなった社員たちもこの場にいることを思うと、防衛戦をせずにはいられなかったのだ。全滅はできずとも、せめて撤退に追い込めたなら……と勇気を振り絞る。
 社員へ屋内への避難を大声で促しながら、詠唱兵器を瞬時に装備し、能力者としての力を全開にする夏菜子。先手を取ってきた敵の攻撃を何とか躱すと、夏菜子は能力者の必殺技「アビリティ」を叩き込んだ。

 ……が。

「アビリティが、通じない……!?」
 避難していく社員たちをその背に庇いながら戦いを続けるが、何故か相手は大した傷を負わない。しかも庇いたかった社員たちも、夏菜子がターゲットを引き付けきれなかった連中が襲い、どんどん血溜まりへと沈められていく。
(リビングデッドじゃないの?……もしや!?)
 自身は防戦一方というのか、急所への直撃を回避することで精一杯でありながら、夏菜子はある噂を思い出した。
 生命根絶を狙う敵勢力であった「ゴースト」に、能力者たちは確かに勝利を収めたはずなのだ。それなのに、このところ「やたら強いゴーストまがいが現れている」という噂が能力者たちの間で囁かれているのだ。
(この相手も、噂のゴーストまがいのようね……!)
 それでも、アビリティと詠唱兵器を用いた戦いしかまだ知らなかった夏菜子は、必死に敵に抗う。だが無慈悲な襲撃は、遂に彼女までも血の海に沈めてしまった。

 やがて屋上は見るも無惨にボロボロとなり、むせかえるような濃い血の匂いと、血溜まり、そして夏菜子を含む多くの社員たちの骸で満たされた。しかし敵群はまだ飽きたりぬとばかり、殺意をほとばしらせている。
「……」
 敵群は屋内へ至る扉をも壊し、中へと更なる命を奪いに侵入していった。その最後尾には、背中に不気味な「昏い穴」を負う少女がひとり……。

●グリモアベースにて
「……と、以上が此度『シルバーレイン』の世界で予知した光景です。あまりにも凄惨な事態ですゆえ、是非とも皆さんのお力と知恵とで社員さんたちを守ってください。此度倒していただくのは、能力者の間で密かに噂となっている『ゴーストまがい』、つまりオブリビオンです。」
 虚空に投影した映像から目を離し、土御門・泰花(風待月に芽吹いた菫は夜長月に咲く・f10833)は集まってくれた猟兵たちを見渡す。
「まずは皆さんを、この屋上のあまり目立たない場所へ転送致します。インターンや職場体験で訪れた学生のフリや中途採用されたばかりの新人社員のフリ、他社から転職してきた社員など、何らかの会社関係者として振る舞いながら夏菜子さんを含めた屋上にいる社員の皆さんと馴染み、戦う術を持たない一般人の社員さんも勿論、この先『猟兵』として覚醒する可能性も秘めた能力者の夏菜子さんをも含めて全員、屋内へ避難誘導していただきます。」
 この会社は特に服装に関して暗黙のルールも無く、スーツで勤務する人もいればビジネスカジュアルのような幾らか気楽な服装で勤務する人もいる。したがって、猟兵は無理にスーツを着込む必要は無い。何なら学校の勉強の一環で職場見学に来た生徒が屋上へ好奇心から迷い込んだフリもできるだろう。
 能力者である夏菜子まで避難させなければならないのは、予知の通りならばオブリビオンにアビリティによる攻撃がほとんど通用しないからだ。少なくとも今回は戦力として考えない方が良い。
「敵群が襲来するのは、お昼休みが終わる15分ほど前です。今から皆さんが現場である屋上へ向かってくだされば、まだお昼休みが始まったばかりの頃となりますので、夏菜子さんを初めとした社員の皆さんに馴染み、屋上から屋内へ全員避難させてください。お昼休み終了15分前を告げるチャイムが鳴る頃、まずは集団でオブリビオンが参ります。」
 そのオブリビオンは、先程の映像で社員たちを殺戮した、詰襟の学生服を着たゾンビの群れだ。
「ゾンビ集団を全滅させると、手駒を失くしたボス級のオブリビオンが直々に戦いに出てきます。……背中に『昏い穴』を負う少女が1人、ということは判明しましたが、その他の詳細までは予知で捉えきれませんでした。申し訳ありません。」
 泰花が丁寧にお辞儀をし謝意を述べて、今一度猟兵たちを見渡す。オブリビオンに関しては把握できた様子なのを確認すると、泰花は補足説明に移った。
「この『シルバーレイン』では、少なくとも能力者の方々が私たちと同じ猟兵に覚醒する可能性を秘めていらっしゃいます。どうかその貴重な可能性をも、摘み取られぬように……夏菜子さんのことも、お守りください。」
 よろしくお願い致します、と優雅に一礼して、泰花は手のひらに紫のグリモアを浮かべ、転送陣を展開させた。
「では、ご武運を。お支度の整いました方から転送致します。……私の『後輩』を、頼みます。」
 泰花が最後に控えめにつけたした言葉は、彼女もまた――サムライエンパイアで育った猟兵として活動しながら、何故この世界が発見される前に既に「能力者」として活動していた記憶を有しているのか、本人にも未だ謎のようだが――かつては「能力者」として数多の戦いを経験したからこそ。
 泰花は切実な思いで現地へ赴く猟兵の姿を見送っていた。


月影左京
 初めまして、またはこんにちは。マスターの月影左京と申します。
 新世界「シルバーレイン」、あまりにも懐かしくてシナリオを出さずには居られませんでした!
 過去作の「TW2 シルバーレイン」のプレイ経験がない方でも、今作「TW6 第六猟兵」の世界としてのシルバーレインについて、公式の世界説明と、このシナリオのオープニングをご覧いただければなんの問題もなくご参加いただけます。

 ※私のシナリオへのご参加が初めての方は、お手数をお掛けしますが、マスターページをご一読願います。

 ※シナリオ2本同時運営は久方ぶりの為、執筆ペースは遅くなりがちだったり乱れがちだったりする恐れがあります。悪しからずご容赦ください。

 さて、今回のシナリオは全部で3章構成となります。

●第1章「屋上にて」(日常)
 それなりにホワイトな企業の屋上で、夏菜子さんを含めた社員たちと交流し、避難誘導までを行っていただきます。
 ただし、必ずしもこの選択肢に囚われる必要はありませんし、皆さんが社員たちに馴染めたら「そろそろ昼休み終わるだろうから先に戻っとけ〜」くらいの軽いノリで屋上から退場してくれるので、交流を重視してくださって構いません。できる限り多くの猟兵さんのプレイングを採用したく考えております。

●第2章「キラーゾンビ」(集団戦)
 ボス級オブリビオンに汚染され、凶暴化したオブリビオンの群れです。個々の戦力は大したことはありませんが、数の暴力にはお気をつけください。

●第3章「???」(ボス戦)
 背中に「昏い穴」を負う少女の姿をしたオブリビオンです。
 人の姿をしていますが、分類上は「妖獣化オブリビオン」となります。
 オープニングの通り詳細は明らかになっておりませんが、殺戮衝動のままに人の姿を見つけると誰彼構わずに襲うため、皆さんが敗北しなければ建物の中へ避難した夏菜子さんや社員などの被害者は出ないのでご安心ください。
 このボス級オブリビオンを討伐すれば、シナリオは成功します。

 断章は設けず、オープニング公開と同時にプレイングを受け付けます。
 前述の通り執筆ペースが不安定となる恐れがある為、「どうしても!どうしても!この章は!参加したいんだ!」という章へはオーバーロードのご利用もご検討ください。
 もちろん通常のプレイングも歓迎です!

 では、ご参加をお待ちしております。よろしくお願い致します。
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第1章 日常 『屋上にて』

POW   :    日光を浴びながら昼寝する

SPD   :    お弁当やパンを食べる

WIZ   :    街の景色を眺めて楽しむ

イラスト:乙川

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アドナ・セファルワイド
銀誓館からの職場体験という事で高等部の制服を着て潜入

ここは一般人に対してはしなを作った口調で接するとする
無邪気な口調で一般人を口八丁で避難させる前、能力者には銀誓館から借りたイグニッションカードを翳して屋上に留まるよう示すぞ

二人きりになった時に口調を変え話を切り出す
妾達は生命体の埒外にして全ての世界の守護者たる猟兵
能力者よ、今回の相手は貴様の手に余る
貴様達の矜持を侮るわけでない
だが、これ位の事は出来ぬと戦えんのだ

そう言って縮退星を掌サイズに具現化し、UCの力を見せつける
理解したか?奴らはこれほどの力を得ているのが共通項だぞ
それが『オブリビオン』、蘇った『過去』そのもの
それを狩るのが猟兵だ


ガイ・レックウ
【POW】で判定
いつもの服装では目立つので上に作業着を着ておくぜ。
『すみません、今日から清掃に来たんですが、お昼を食べるにも一人は嫌なもので余りにもいい日だから、屋上に来てしまいました』
丁寧な口調で清掃業者を装うぜ。
【情報収集】のスキルでこの世界と情勢について夏菜子さんに聞いてみるぜ
『あ、そうだ。今日は色々と騒がしくなるんでお昼休みは早めに切り上げた方がいいですよ』


バルタン・ノーヴェ
SPD アドリブ連携歓迎!

ハーイ、ごはんデスヨー!
弁当の売り子をして、屋上に入り込みマース!
唐揚げ、とんかつ、さば、エビフライ、いろんなおかずのお弁当を揃えて売りに行きマース!
ワンコイン五百円デース!
美味しい我が料理をいっぱい食べていただき、午後からのお仕事も頑張ってくだサーイ! と、早めに戻るよう勧めて、避難誘導を成功させる寸法デース!

……しかし、何とも不思議な世界でありますな。
色んな世界を渡り歩いて来マシタガ……そこはかとなく、何か。UDCアースや他の地球系世界とは異なる雰囲気デスネー。
何はともあれ、人々を護るのは良い仕事。お任せくだサーイ!


郁芽・瑞莉
銀の雨降る世界、銀誓館学園、そして能力者とゴースト。
何もかも懐かしいです……。

っと感慨に耽ってしまいましたが。
過去の記憶、取り戻しましたよ。
そうです、能力者としてはオブビリオンに勝てなかった。
ギリギリでグリモア猟兵として目覚めたからこそ今がありますが。
この世界、生命の輝きが勝ったのです。
此度の過去に潰させません!

中途採用された新入社員の体で夏菜子さんに接触。
銀誓館という共通の話題で盛り上がりますよ!
キャンパスが一杯あったとか、
イグニッションカード、荷物入れとしては便利ですよねとか。
その後は空の景色も一緒に楽しんだ後、室内へ戻る事を勧めます

(猟兵として戦士の顔を見せて)やる事があるのでお先に。


黒江・式子
連携アドリブ歓迎

普段のスーツ姿で潜入しましょう
私の影から伸びる茨が
対象の影を捕らえれば
不都合な感情は希釈されますので
初対面の私が話しかけても
まるで元から居たような雰囲気で
受け入れられるハズです
じきに天気が崩れそうだ等
それっぽい理由をつけて
退避を促します

ある程度人払いをしてから
夏菜子さんに接触しましょう
UDC職員としての名刺をお渡しして
これから起こる事を率直に伝えます
しかし自分も避難する事に
歯痒いお気持ちはあるでしょう
それが分かるとは言いません
ですが貴女が生き残る事は強い意味を持ちます
私とて仮にも猟兵の端くれ
そう易々と突破はさせません
月並みな台詞ですが
……信じてください


文月・昇
正しいプレイングを送ります
文月・昇(f35400)

社会科見学のお昼休みの自由行動という体で屋上へ

制服の胸ポケットからイグニッションカードをチラ見せ程度に出し、同じ能力者の夏菜子さんを探します

(あのOLですか)

お弁当として持参したサンドイッチを夏菜子さんの近くで頬張り、手短にゴーストまがいがもうすぐ出て敵わないこと、今屋上にいる部外者は撃滅する能力を持つから避難に徹してほしいこと、夏菜子さんもいずれ覚醒することを伝えます
終わったら大人たちに交じって適当に遊びます

外見10歳程度の少年だけど実年齢29歳なので子供のフリして大人の中に入るのはプライドがいろいろ傷つくんですよ……

アドリブ即興連携歓迎



●いざ、「能力者」の世界へ。
 転送陣によって、予知の現場である某社の屋上へ降り立った皆を、清々しいそよ風と心地よい晴天が出迎えた。
 人々を見渡せば、確かに色々な社員が好きなようにのどかに憩いの時を過ごしている。
 その中に、清潔感のあるスーツをきちんと着て、空を見上げつつお弁当を広げ始めた女性が1人。ただ少し違和感があるとすれば、ジャケットのポケットからハンカチでは無さそうな「何か」の端が覗いている。

「あれは、『イグニッションカード』……! 皆さん、あの彼女が今回の『能力者』夏菜子さんです!」
 初めに看破したのは、郁芽・瑞莉(陽炎の神和・f00305)だった。彼女はこの「シルバーレイン」という新世界を知ったことで、自身もかつては能力者であり、オブリビオンに勝てなかったがゆえにグリモアの力に導かれて今の生を送っていた事を。
 この件に関わる際にも、彼女は取り戻すことのできた様々な記憶を思い巡らせていた。銀の雨降る世界、銀誓館学園、そして能力者とゴースト……何もかもが、懐かしい。
(この世界、確かに生命の輝きが勝ったのです。此度の『過去』に潰させはしません!)
 だからこそ瑞莉は、皆と共にこの世界へ来たのだ。未来という名の希望を守護する「猟兵」として。

「ふむ、ならば夏菜子へは、まず妾が赴こう。」
「あ、僕も行きます。同じお昼休憩の自由時間に来ちゃったということで。」
「うむ。妾は『高校生の職場体験』を装うがな。……さて、夏菜子へ一直線は怪しまれるであろう。やや遠回りしながら接触するぞ?」
「えっと、それじゃ僕は『社会科見学』ということにします。別行動で、夏菜子さんへ偶然のフリをして行ってみます。」
 銀誓館学園の高校女子制服を着込んだアドナ・セファルワイド(セファルワイド初代にして最後の皇帝・f33942)の声に、同じく同学園の中学校男子制服を纏う文月・昇(人間のファイアフォックス・f35400)が続く。
 彼は制服のポケットに自身がかつて使っていたイグニッションカードを敢えて胸元のポケットからチラリと見せて、夏菜子にそれとなく「学園の能力者」と思わせるという仕込みまで整えてある。
 アドナもまた、彼女は能力者では無かった猟兵だが、銀誓館学園のイグニッションカードのベースとなる「姿の描かれていないカード」を借りて、いつでも出せるように忍ばせてある。どちらも用意は周到だ。

 ただ、昇の内心はやや複雑で……。
(本当は子供のフリして大人の中に入るのはプライドがいろいろ傷つくんですよ……。それに、つい最近まで使ってた装備も何か使い勝手がおかしいし……。)
 昇は中学1年生程度の外見に反し、その実は齢30に迫る、銀誓館学園の卒業生なのだ。
 それが「運命の糸症候群」のせいで、肉体だけが銀誓館学園中学校に入学した当初の姿まで若返って猟兵に覚醒してしまった。
 そして、「能力者」から「猟兵」へ変化したことで、操る異能も「アビリティ」から「ユーベルコード」へ変わり、能力そのものの変質もあらゆる感覚によって否が応でも味わわされているし、愛用してきた装備アイテムの詠唱動力炉は、沈黙してしまっているか、正常な作動をしないか……そんな変化ばかりが続いていて、当惑しているのが本音だった。
 それでも、彼は「15歳の猟兵」であることを何とか受け入れて、ここへ来た。故郷たる新世界と共に、前へ進む為に。

「じゃ、俺は少し時間差で行動しよう。」
「私もそうします。アドナさんや昇さんが離れてから、中途採用された新入社員の体で夏菜子さんに接しますね。」
「では私は、ユーベルコードの効果で『元々社員だった』風を装って、夏菜子さんの周りから人払いをしてきます。」
 普段の姿では浮いてしまうから、と清掃業者になりきったガイ・レックウ(明日切り開く流浪人・f01997)と、普段通りのスーツ姿で普段通りにOLとして振る舞うことにした黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)。やり方は対照的な2人も、瑞莉を交えて互いにそれぞれの計画を簡易に告げ合う。そして不都合が無いのを確かめると、式子はすぐに【竹馬の友(チクバノトモ)】を発動させて一般人社員へと不都合な感情を吸収する影の茨を伸ばした。
 これがあれば、式子に不信感を抱く一般人はまず居ない。今も、そして後も。
 というのは、ユーベルコードやオブリビオンどころか能力者のアビリティや生命根絶を狙っていたゴーストが起こした大惨事でさえ……オカルトバラエティに収まらないような超常すぎる現象にはすべて「世界結界」が作用し、一般人の記憶に残らないためだ。この世界の大きな特徴の1つである。
 その事を式子は一般人社員と気さくな仲の演技をしながら実感していた。何の根拠も見られないのに、彼女が「この後お天気が急変するってニュースでしたよ〜!」等と言えば「えー! 知らなかったぁ! 助かりますぅ〜。」「おー、じゃあ早く戻るか〜。」と、いとも容易くひとり、またひとりと建物内へ去っていくのだ。

「ふむ。何はともあれ、人々を護るのは良い仕事。お任せくだサーイ!」
 一方その頃、弁当屋の可愛い売り子姿に扮して一般人社員への接触から試みようとしていたのはバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)だ。 愛嬌を振りまきながら単身でお弁当を載せた台を抱えて売り込み歩く。
 彼女には、この世界はまったくの未知の世界であった。だから、さりげなく辺りを観察しては、何とも不思議な感覚を直に肌で、目で、耳で、感じ取る。
(色んな世界を渡り歩いて来マシタガ……そこはかとなく、何か。UDCアースや他の地球系世界とは異なる雰囲気デスネー。)
 その刺激は、彼女にとっては好奇心を掻き立てるものとして作用していた。
 突然現れた明朗快活な「お弁当屋さん」に、一般人の社員たちは、初めこそ「こんな情報聞いてたか?」と驚く者達もいたが、皆すぐに表情を綻ばせて好みのお弁当を探し始める。唐揚げ、とんかつ、さば、エビフライ……お弁当のバリエーションは実に豊かだ。
 一般人社員のみならず、自前のお弁当があるために特に気にかけようとしなかった夏菜子もまた気が付かなかった様子だが、実はこのお弁当はすべてがバルタンの手作り料理――ユーベルコード【まずは腹ごしらえ(ミール・タイム)】を発動させる鍵だった。
 超級料理人としての腕を遺憾無く発揮して作られたお弁当は、飛ぶように売れてゆく。これなら、自身のとるあらゆる行動を問題無く成功させられる……そう、確信できるほどに。

●「能力者」夏菜子
 何も知らぬ夏菜子がお弁当を広げてひと口、ご飯を口に含んだ時……不意に傍に懐かしい何かを感じて顔を向けた。
 そこに居たのは、晴れ渡る空を眺めてご機嫌にサンドイッチを頬張る少年の姿。そしてその制服に、夏菜子は感動に近しい衝動を覚え、嬉々として少年――に見える、年上の昇へ声を掛けた。
「あの、あなた……銀誓館の中学生ね!? どうしたの、課外授業? ……! 『それ』は、もしかして……!」
 夏菜子は昇の思惑通り、チラリと見えたイグニッションカードも認識した様子だ。手応えを感じた昇は、無邪気な子を演じて笑う。
「あ、はいっ! 僕、文月昇と言います。今日は『久しぶりの普通の授業』で、社会科見学しに来ました。今はお昼休憩だから自由にしていいって言われて……いつの間にか屋上に出ちゃったんですけど、とても気持ちいいところだから、ここでお弁当食べちゃおうって思ったんです!」
「そう、『久しぶりの普通の授業』なのね。ふふっ……懐かしい。あ、私は夏菜子です。広末夏菜子(ひろすえ・かなこ)。あなたと同じ銀誓館学園の出身なの。それにその胸ポケット……昇くんも、私と同じ『能力者』なんだね〜!」
 夏菜子は、懐かしさが爆発したか、同じ「銀誓館の能力者」に出会えたことで大喜びしていた。
 初めこそ自身の体験談を披露していたが、やがて話は時を遡り……テストや学校行事は定期的に容赦なくあるのに、いつもいつもゴーストが事件を起こすからひっきりなしに運命予報士に呼ばれて大変だったとか、ソフトボール大会など能力者の力を封じて参加するイベントはやたらめったら強い一般人学生に苦戦したらしい冗談みたいなことが昔からあったとか、そんな能力者が学生と二足草鞋で自ら日本全国を駆け回り、ゴーストと戦っていた時代があったという「銀の雨が降る時代の英雄たちの伝説」――つまり、最終的にゴーストの脅威を払拭し、ディアボロスランサーを「次の宇宙」へ送り出した頃までの先輩能力者たちの伝承を、私もそんな立派な能力者になりたいのだと、憧れたっぷりにお弁当そっちのけの勢いで話し出した。その時代の中には昇も居たのだが……彼女の記憶違いか何かであろう違和感を覚えても、態度に出ないように頑張って抑え込む。

 そこへ、今度は少し高いところから女の子の声がした。
「初めまして、先輩……ですよね?私はアドナ、アドナ=セファルワイドと言います。銀誓館学園の高校2年生です。今日は私、就活の一環で職場体験としてたまたま来てて……。盗み聞きした訳では無いのですけど、聞こえちゃって……先輩、『能力者』さんなんですね! もしかして、卒業しても現役の能力者さんですか?」
 慣れない口調とは思えない程自然に、アドナは女子高校生らしく話す。その様子に夏菜子は大きく目を見開いた後、照れ笑いを浮かべて頷いた。
「あら〜! ふふ、感覚の優れた能力者さんね、アドナさん。初めまして、夏菜子です。広末夏菜子。そうなの、一応まだ『能力者』なのよ……ほら。」
 夏菜子は、ジャケットから覗くイグニッションカードを指先で摘んで示した。昇は、絵姿と外見が違うことに気付かれないよう、敢えて微笑むだけでスルーしたが、アドナは借りてきた「イグニッションカードのベース」を取り出して見せた。
 夏菜子は苦笑いでそれをいそいそと隠させる。
「あららら……ダメよ、そんな風に普段の生活で露骨に見せちゃ。大事なものなんだから! ……もしかして、アドナさんはまだ新人さん? イグニッションカードも『白紙』だし……。」
 基礎となる背景画しかない「ベースのまま」は、能力者になったばかりの新人ならほぼ誰もが通る道だ。一般人の生活で言うところの、「初心者運転免許証」のような時期である。だからアドナが知らなくても無理はなく、演技的に不自然でも無く、夏菜子もまた軽く小声で伝えるに留まった。

「こらこら、銀誓館の学生さんっ。働くオトナは忙しいんだから、その辺にしておきましょ、ね?」
 夏菜子の興奮が幾らか鎮まり、昇とアドナが巧みに夏菜子の話を引き出していたところへ、リクルートスーツ姿の若い社員……を演じる瑞莉がやってきた。目配せすれば昇もアドナも真意を悟り、さっと退く。
 ふー、と安堵のため息を吐きながらさりげなく辺りを見回し、残っている社員のほとんどが「お弁当屋さん」に引き付けられているのを確かめると、瑞莉は礼儀正しく夏菜子へと挨拶をした。
「初めまして、この度中途採用で明日から本格的に勤務することになった、郁芽瑞莉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「初めまして、郁芽さん。広末夏菜子と申します、よろしくお願いします。私は去年の4月に高卒で採用されたばかりなんです。もしかしたら、社会人としては郁芽さんの方が先輩かも知れません。よろしくご指導ください。」
 夏菜子もまた若手社会人として礼儀正しい挨拶を返した。その上で膝の上のお弁当に一旦蓋をしてお辞儀する、という徹底ぶりである。瑞莉はそっと心の中で感心しながらさりげなく「共通項」の引き出しにかかった。
「あ、私実は苗字で呼ばれるの、あんまり得意ではなくて……良かったら、瑞莉と呼んでください。それにしても、広末先輩は高卒での採用でいらしたんですね。……うーん、この辺だとどこの高校でしょうか?ちなみに私は、銀誓館学園という結構規模の大きいところの高校にいました。」
「えっ!? じゃあ、み、瑞莉さんすごい偶然です! 私も銀誓館学園の高校を出ました! むしろ私こそ瑞莉先輩と呼ばせてください!」
「わぁ……! すごい偶然ですね〜。ちなみに夏菜子さんは何期生でしたか?私は……」
 瑞莉も自然に夏菜子の隣へ腰を下ろし、取り戻せたばかりの記憶を基に、やれキャンパスがいっぱいあっただの、「能力者」であることまで同じだの、イグニッションカードは物をしまうのに便利だの……先程の「学生」に負けず劣らず盛り上がった。

 やがて夏菜子の緊張が解け、一般人に知られるにはセンシティブな「能力者」関連の話が落ち着いたところで、瑞莉は共に空の話をしながら「暗号の仕草」をこっそり出した。
 するとそこへ、男性の清掃業者が「不意に」近寄ってきた。
「や〜、いい眺めッスねここ。……ってすみません。あー、その……俺、今日から清掃に来たんですが、お昼を食べるにも一人は嫌なもので……余りにも天気がいい日だから、屋上に来てしまいました。」
 お2人の邪魔でなければ混ぜてもらえないかと、恥ずかしそうなフリで新人の清掃業者ことガイが聞けば、瑞莉が快諾したのに釣られるように夏菜子も快く応じてくれた。

●「過去の暴虐を狩る兵」、現る。
 空を楽しみながらお弁当を食べ終えた夏菜子が、空の写真を撮るのが楽しみなのだと語りつつスマホを高くかざした時。
「お話し中失礼します。初めまして。私、UDC職員の黒江式子と申します。『能力者』の夏菜子さんですね? ……この度、夏菜子さんに『重要かつ重大な』お知らせをお伝えしに参りました。」
 いかにも熟練のエージェントという風格を漂わせながら、式子が丁寧に名刺を差し出す。されどその声音や表情にこれまで関わってきた人達のような気楽さが無いのを見てとったことと、聞いた事も無い組織の名前に、夏菜子は幾分緊張と警戒を混ぜたような面持ちで振り向き、立ち上がる。
 だが彼女にもすぐに例のユーベルコードが作用し、影の茨が警戒心をただの戸惑いへと変えた。
「は、はい……初めまして。夏菜子です。……えっと、どうして私の事をご存知なのでしょうか? 私が『能力者』であることまで、初対面の方がご存知だなんて、同じ『能力者』でも無いとありえないはずですけど……?」
 夏菜子が気がつけば、屋上にいる社員は自身だけになっており、今日のお昼休みに「たまたま出会った」人達までもが、再び集まってきていた。
「え……?」
「どうか、経験を積んだ『能力者』として、心を強くもってお聞きください。」
 式子がじっと夏菜子を見遣れば、彼女はまだ戸惑いながらもしっかりと頷いた。それを覚悟完了と受け取り、式子は話を続ける。
「これからお話しすることは、夏菜子さんたち能力者の間で『やたらと強いゴーストまがい』と噂される敵勢力『オブリビオン』についてと、それを討つ私達『猟兵』についてです。」
「お、オブリ、ビオン……?りょうへい……?」
「『オブリビオン』というのは、ゴーストとは完全な別存在なんですよ、夏菜子さん。……すみません、僕達、騙すようなことをしてしまって。でも、もうまもなくその『オブリビオン』が、ここに襲いに来てしまうんです。しかも、結構な集団で。……夏菜子さんも、聞いたことがあるのではありませんか?『ゴーストまがいには、アビリティがほとんど効かない』と。」
 混乱する夏菜子に、本来の振る舞いで昇が補足する。式子もそれを肯定すれば、夏菜子は驚愕の表情を浮かべた。
「もう、時間があまりありません。あなたがたの『運命予報士』のような、少し先の未来に起こる惨劇を予知できる存在が私達猟兵にもいまして、その話によれば『お昼休み終了15分前のチャイムが鳴る頃』に、殺人狂のゾンビの群れが襲来します。」
 夏菜子は咄嗟に腕時計を確かめた。チャイムが鳴るまで、あと5分程。
「……!」
「残酷な宣告となろうが、受け止めて欲しい。貴様の力では、『オブリビオン』共は手に余る。妾達は生命体の埒外にして数多の世界を渡り歩く守護者よ。妾達を人は『猟兵』と呼ぶ。」
 緊迫感を走らせた夏菜子へ、今度はアドナがやはり素の口調で諭すように語りかけた。
「何も、貴様達『能力者』の矜恃を傷つけようとしているのでは無い。されどこの程度のことを児戯にも等しく成せぬようでは、務まらぬ相手なのだ……。」
アドナは静かに手のひらを差し出し、皇帝として厳かな詠唱を始めた。

 ―― 皇帝の名の元に宣言する。万物万象が辿り着く真理と叡智を蝕む呪詛。其れが縮退する黒き禍津星となろうとも、我が手はその星を掌握する……【縮退呪詛たる黒き禍津星(ディジェネレイトスター・セレブラム・オルクス)】。

「……!?」
 アドナの手のひらに、無から生まれた小さな禍津星が浮かぶ。それにより夏菜子も、完全に能力者の力とは異なる、より強大な異質の何かを感じ取ったようだ。
 両手で口を抑えて絶句する彼女に、アドナは慈愛を込めて言葉をかける。
「理解したか?奴ら『オブリビオン』は皆、これほどの力を得ているのが共通項だ。」
「……。」
「悪いな、夏菜子。けど、本当に詳しく説明する時間はもう無い。でも、絶望しないでくれ。俺達猟兵へ未来の惨劇を予知して伝える『グリモア猟兵』が、この先必ず、何度でもこの世界を襲おうとするオブリビオンを見つけ、惨劇を未然に防ぐ為にこうして俺達を……いや、別人になるかもしれんが、間違いなく猟兵を派遣してくる。あと、これは夏菜子が絶対そうなるとは言いきれないんだが……『能力者』だったはずの連中が、新たに何かをきっかけにして『猟兵』に目覚めてる例が次々判明してきてる。今まで『能力者』として過ごしたこれまでのことは、『猟兵』になれてもなれなくても、無駄にはならない。これは絶対だ。」
 途方に暮れる夏菜子へ、ガイが安心させたい気持ちと時間を焦る気持ちとが入り交じった、やや早口でかいつまんで話した。
 分かってくれたかな……と、不安げに頭をかくガイの言葉を裏付けるすべく、昇と瑞莉が自分たちこそ「『能力者』から『猟兵』となった」実例だと名乗り出た。今度ばかりは、昇も隠すことなくイグニッションカードを見せる。勿論、『能力者』の頃とは多少違う意味にはなったが大事なものであることに変わりは無いので、すぐにしまい込んだ。

「……ハーイ!エブリワン、夏菜子さん以外の人が完全に避難完了したのを確かめマシター!」
 お弁当を完売し、すっかり身軽になったバルタンが、声高らかに報告する。敵の襲来まで、あと数分。
「今ばかりは、本当にごめんなさい。どうか、ぐっと堪えて、一般人の皆さんと同じように建物内へ避難してください!必ず、夏菜子さんも皆さんも、私達が守ってみせます……!」
「そうとも、それこそが妾達の使命。蘇った『過去』そのものである『オブリビオン』を狩り、過去へ還す者――『猟兵』よ。」
 幾らか切実な感情を滲ませた声音の式子に続けて、アドナが堂々たる調子を崩さずに語る。ようやく夏菜子も、また頷いてくれた。
「……完全には分かって無い気がしますけど、分かりました。皆さんのこと、『猟兵』という存在や『オブリビオン』という新たな脅威のこと、そして私達もまた、もう一度世界を守る立場に……『猟兵』になれるかもしれないこと、これだけは覚えておきます。では……どうか、ご無事でいてください。」
 今まで守る立場だった夏菜子にとって、守られる立場になるのは予想だにしなかったことだろう。それでも、理解できたことを復習するように答え、深く頭を下げて屋内へ至る扉へ全力疾走して行った。

 扉が完全に閉まり、夏菜子の姿が消えて間もなく……チャイムが鳴り始めた。同時に、禍々しい気配が辺りに漂い始める。

 ――新世界での猟兵たちの戦闘が、今、幕を開けようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『キラーゾンビ』

POW   :    サーティスリーデス
【殺戮への欲望を解放した姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    猟銃乱射事件
レベル分の1秒で【なぜか弾の尽きない猟銃】を発射できる。
WIZ   :    殺戮衝動
【殺戮への欲望】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

文月・昇
能力者だろうと猟兵だろうと、やることの本質は変わらないはず

「イグニッション!」
僕にとって大切な戦闘開始の儀式

猟兵になって幸運だったのはファイアフォックスの能力を一部ほぼ同じ感覚で使えたこと
飛び道具だろうと直接殴りつければブロウと変わらない!

「さあ、来なさいゴーストの紛い物たち!」
前線に立ちわざと声を張り上げ注意を引きつけ殴り飛ばす
この感覚だけは変わらない
能力者だろうと猟兵だろうとゴーストもオブビリオンも討ち滅ぼす!

このゴーストを何度も倒してた気がするのである程度数が減ってから観察すると、あの廃村にいたゴーストじゃないですか
何度だって焼き尽くしてやりますよ

アドリブ即興連携歓迎


石蕗・つなぎ
アドリブ&連携歓迎
「間に合った、かしら? 加勢させてもらうわ」
UC以外の攻撃は赤手、防御はバス停と下駄を用いる
「……動けなくなる程弱体化してくれるといいのだけど」
敵の数が多いなら好都合と土蜘蛛の檻で攻撃、敵の得た超攻撃力ごと筋力を吸収、バス停を使った武器受けやとっさの一撃を使った自分への攻撃の相殺、敵への攻撃などに流用する
「たっぷり吸収させて貰った力だけれど、複数人数分を束ねればどれくらいの威力になるかしらね?」
「お仲間をお返しするわ」
可能なら力づくで相手を他のゾンビの方に殴り飛ばすなどして敵の無差別攻撃による同士討ちも期待します
「見せてあげるわ。土蜘蛛の力を、ね」
「少しは貢献できたかしら?」


黒江・式子
連携アドリブ歓迎

世界結界……
想像以上ですね
普段、情報統制やら後始末やらで
走り回ってるだけに
ありがたさが身に沁みます

敵が柵を乗り越えて
階下の人々を狙わないとも限りませんし
念入りに行きましょう
私自身の影を起点に
柵や敵の影にも伝わせて
屋上全体に茨を広げます
あらゆる影から茨が噴き上がって絡み付き
攻撃を行う意思も活力も奪って
敵の行動を阻害します
私は屋上の出入口の前で拳銃を構え
近づいて来た敵を茨で足止めします
時間が経てば自滅してくれる様ですし
そのまま昏睡させてからトドメを刺しましょう

……やはり火力の薄さはネックですね
回転動力炉でしたか
それの導入も検討したい所です
組織のメカニックの方に相談してみましょうか


アドナ・セファルワイド
フム、数が多いな
ならばこのUCを使うか

質量爆散、アインシュタインなる者が割り出した公式の元に質量をエネルギーに変換した際に生じる莫大な熱量を解き放つ異能術式
それはオブリビオンのみに影響を与え、星にも人にも他は影響を与えん
今回は露払いだ。微細な原子からエネルギーを獲得し、ゴーストを薙ぎ払う

夏菜子が気をもまんように音も光も出さん
聴覚と視覚が喪失してもことだからな
ついでだ、真の姿を解法
とある浮遊大陸の王国を滅ぼし帝国を築き上げた余
その逸話を持って自身を堕天使化し、莫大な霊力と霊格の昇華を果たす!

余のUCによって骸の海に帰るが良い


ガイ・レックウ
【POW】で判定
『さて、やりますか!!平穏な日常を守るために』
【オーラ防御】で防御を固め、相手の行動を【戦闘知識】で見極めつつ、【フェイント】をかけながら突撃、【怪力】での【なぎ払い】と【鎧砕き】の【二回攻撃】で数を減らすぜ。
相手をひきつけたらユーベルコード【封魔解放『鳴神』】の雷撃で痺れさせてやるぜ!!


御鍔・睦心
ちょっと遅れたので、夏菜子先輩と擦れ違うように屋上へ。

擦れ違いざまにイグニッションカードを見せて挨拶し、
自分は猟兵の力もあるが現役のガチ後輩(転校ホヤホヤだけど)であること、
そして夏菜子先輩のような先輩方の奮闘があったからこそ自分が今ここに立てているのであり心底感謝していることを、
(尊敬対象に対しての)舎弟口調で伝えてから一礼して屋上へ。

上に辿り着いたら(壊さない程度に)扉を勢いよく蹴り開け屋上へ突入。(後で説教されても仕方ないね)

「起動(イグニッション)の時間だゴルァァァ!!」

その勢いのままにイグニッションして七支刀を取り出し【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】。
【天候操作】からの万色の稲妻による雷【属性攻撃】による【範囲攻撃】で敵を纏めて【蹂躙】。

「高い所でそんな銃(モノ)抱えてやがる馬鹿共は、稲妻(コイツラ)の餌食になりやがれ!!」

敵の銃撃は万色の稲妻を纏った七支刀による雷【属性攻撃】の【斬撃波】で【受け流し】、纏めて叩き落とす。

先輩方の前でヘタレた所は見せられねぇ、気張っていくぜ。


郁芽・瑞莉
アドリブ・連携歓迎!

リビングデッドとの戦いも久しぶりですね。
と言ってもオブビリオンなので過去は、という感じでしょうが。

迷彩と残影で位置を誤認させつつ見切りと第六感も働かせつつ回避。
能力で追撃しねじ伏せようとする敵にカウンターでユーベルコードを発動。

目には目を、同じ力には同じ力を、ですね!

早業で武器を刀を串刺して倒すと。
次の敵たちには先制攻撃で薙刀でなぎ払い、
高速多重詠唱で符から破魔の誘導弾を多数発生させて相手に放って浄化。
息付く間もなく苦無を投擲スナイプして動きを阻害して仲間の支援も忘れずに。
最後は溜めた力の封印を解き、
リミッターを外したランスチャージで気を無くす前にフィニッシュを決めますよ!


バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎

バトルの時間デース!
穏やかに生活している人々を、この世界を守ってきた夏菜子殿を傷つけることはさせマセーン!
ここの皆様に犠牲は出しマセーン! 参りマース!

ふむ。速くて耐久力のあるゾンビデスカ。
数も多く、一つ一つ対処するのは骨が折れマスネー!
ゆえにここは足止め技デース!
「六式武装展開、氷の番!」
ガトリングガンで手足を撃ちまくり、凍結させて動けなくしマース!
生き物なら致死ダメージデショーガ、ゾンビなら血管が凍って動けなくなる程度でありますな。
油断せず、チェインハンマーで薙ぎ払って粉砕しマース!



●「先輩」能力者と「後輩」猟兵
 夏菜子は、屋内へ戻りながらも残してきた人達――猟兵のことが気がかりでならなかった。今まで出会ったことの無い戦士たちは、夏菜子達「能力者」が太刀打ちできない相手を討つ者達と名乗ってはいたが、どう戦うのか今ひとつ想像がつかない。
「(本当に、大丈夫なのかな……?)」
 彼女は階段を降りきったところで不安げに立ち止まる。そこへ、荒々しく向かってくる気配がした。
「ウッス! 夏菜子先輩っすね。私は御鍔睦心っす」
 すれ違いざまに手早く夏菜子へイグニッションカードを見せるのは、御鍔・睦心(人間の魔剣士・f35339)だ。遅れてやってきたことを気にして、転送直後に誰も一般人のいない場所へ身を隠し、密かにオブリビオンの戦闘に向けた準備を整えていたようだ。
 睦心は、実は今月頭に銀誓館学園に転入し、更にその日に自分が猟兵であることを知ってしまった元・野良能力者の現役女子高校生なのである。つまり、これまでは学園に所属する機会が無いまま、我流で戦う能力者としてゴーストを狩ってきた身だった。また、転校ホヤホヤではあるものの、立場としては正真正銘の、夏菜子の後輩である訳で……。
「夏菜子先輩のような先輩方の奮闘があったからこそ、私が今ここに立てているんっすよ。だから、心底感謝しているっす! あざっす! あとは私達『猟兵』に任せて欲しいっす。絶対、先輩達が積み上げてきた歴史を壊させやしないっすから!」
 早口で告げ、夏菜子が返事をする前に略式ながら一礼をして、睦心は屋上へ駆け上がって行った。
「そっか……能力者として見出されて転校初日に、いきなり覚醒しちゃう子も居るんだ……」
 夏菜子は後輩の背中を、複雑な心境で見送っていた。

 睦心が屋上へ着くと、ちょうどキラーゾンビの群れがわらわらと現れ出て来ているところであった。場にいる猟兵達も各々臨戦態勢をとっている。
「……さて。間に合った、かしら? 加勢させてもらうわ」
 睦心が戦闘に加わろうとしたところへ、さらに別方向からも仲間の声が聞こえてきた。睦心より幾分幼い背格好の女の子、石蕗・つなぎ(土蜘蛛の白燐蟲使い・f35419)の声だった。片腕には赤手を、もう片方にはバス停を……恐らく猟兵に覚醒したばかりの土蜘蛛だろう。

「(リビングデッドとの戦いも久しぶりですね。……と言ってもオブビリオンなので過去は、という感じでしょうが)」
「(能力者だろうと猟兵だろうと、やることの本質は変わらないはず)」
 睦心達2人と同じ「元・能力者」の瑞莉と昇も、臨戦態勢を取りつつ考えていることはどうやらあまり変わらない様だ。人型のオブリビオンを、油断なく睨む。

「―― イグニッション!」
「起動(イグニッション)の時間だゴルァァァ!!」
 昇と睦心の声が重なる。彼らにとって、その言葉は大切な戦闘開始の儀式なのだ。たとえ、猟兵としては機能しない詠唱だとしても。
 そんな2人を、ガイは内心で微笑ましく思う。
「…… さて、やりますか!! 平穏な日常を守るために!」
「……!!」
 ガイの言葉が、開戦の合図となった。同時に、戦場全体を銀の雨が降り、包み込んでいく……。

●鉄壁の防御、「凍てつかせる力」
 ゾンビ達は、練度の差を瞬時に掴んだらしい。まずはまだ猟兵としての経験が浅い者を狙ってある者は銃を構え、ある者はダッシュしてきた。されど、歴戦の猟兵がそんな暴虐を許すはずなど無く。
「(ふむ。速くて耐久力のあるゾンビデスカ。数も多く、一つ一つ対処するのは骨が折れマスネー!)」
 バルタンもまた、敵の特性を瞬時に見抜いていた。
「ゆえにここは足止め技デース!」
「!?」
 不意をつかれたゾンビが迎撃体勢を取り、より強靭な姿へ変貌しようとするが、間に合わない。
「穏やかに生活している人々を、この世界を守ってきた夏菜子殿を傷つけることはさせマセーン! ここの皆様に犠牲は出しマセーン! 参りマース!」
 バルタンが間合いへ踏み込み、ガトリング砲を展開する。既に装填はバッチリだ。
「六式武装展開、氷の番!」
 放たれるは手足を目掛けて凍らせる弾丸。【必死結氷弾(フリージング・デスペラード)】の威力は、並の生き物なら致死ダメージだろう程のもの。
 だが相手はオブリビオンで、しかも大群である。せいぜい血管が凍って動けなくなる程度であると読んだ彼女は、気を弛めることなくチェインハンマーで薙ぎ払って粉砕し、可能な限りのゾンビ達の行動を妨害し続けるのであった。

●目には目を、殺意には殺意を
 バルタンの足止めを逃れることができたゾンビ達へ迫るのは、瑞莉だ。
 刃や凶弾をばらまいてくるのを、迷彩と残影で位置を誤認させつつ見切り、第六感も働かせながら回避していく。
「……!」
 その中で、ゾンビが殺意を高めたのが分かった。恐らく殺戮衝動によるものだろう。されど、瑞莉は怯えない。
「(目には目を、同じ力には同じ力を、ですね!)」
 能力者であった頃は、使用するアビリティによっては自身が最も苦手とする能力値で対抗させられるケースもあった。味方が敵に使えば頼もしいが、敵が使ってくると実に厄介で、「学園黙示録」や「バトルカーニバル」といった、今でいうサバイバルに当たる手合わせでは大変な思いをしたこともあったのものだった。

 されど、猟兵としての戦いにおいては、サバイバルも含めて今のところそうした話は聞いていない。
 今回も敵からの攻撃を1番苦手な能力で受けなければならない訳では無いから、彼女は安心して最も得意とする能力のユーベルコードで迎撃に出た。
「……!!」
「森羅万象に宿りし神の力、数多のひとしずくを私という器に集めて……。神に通じる力へと精錬し行使しますよ!」
 能力を高めて追撃せんと迫るゾンビへ、瑞莉もカウンターとして【神精練氣(シンセイレンキ)】を発動させる。109秒後には1分間の昏睡状態に陥ってしまうが、能力を6倍にできる代償としてはやむを得ない。それに、敵もまた、まったく同じ性質の技を用いてきたのだ。
 先ずは手近な個体の刀を早業で弾き、周囲から迫り来る複数個体は薙刀で一気に薙ぎ払う。続いて高速で多重に詠唱し、破魔の誘導弾を無数に生成しては撃てる限りの敵へと見舞っていく……意識を失う前に、1体でも多く骸の海へと還す、強い志に根ざす研ぎ澄まされた殺意。

「(……! させないっ!)」
 視界の端に、奮戦する仲間へさらに襲いかかろうとするゾンビを捉えると、瑞莉は即座に苦無を投擲し、動きを妨げた。経験が浅い仲間をも、決して討たせはしない……それもまた瑞莉の強い意志。その個体へ、朦朧とし始める意識を必死に繋ぎ止めて狙いを定めた。目いっぱい溜めた力の封印を解き、リミッターを外したランスチャージによって威力を増した一撃を当てる。
 それを浴びた個体が雲散霧消するのを見届けて、瑞莉は意識を手放した。昏倒する間際に、誰かが咄嗟に抱えてくれた温もりを感じながら……。

●無数のゾンビ、無数の蜘蛛糸
「……動けなくなる程弱体化してくれるといいのだけど」
 そう願いを呟きながら、つなぎは初陣を果敢に戦っていた。敵との力の差は大きくも、後れを取るつもりなど毛頭ない。
 敵の数が多いなら好都合と、全身から蜘蛛の糸を放って檻を作り、半径10m以内の敵を絡めとってはその腕力を奪って己の力へ変えて行く。土蜘蛛の元来の得手である【土蜘蛛の檻】だ。
 それでも、その強靭な檻を力の差で突き破って来る個体も少なくはない。つなぎは糸を編み檻を作り続けながら、彼らの刃や弾丸をバス停で防ぎ、カウンターを見舞うことも同時に行っていた。複雑に編まれた糸の中での攻防は、つなぎがより経験を積めば尚彼女の有利となっていくことだろう。

「たっぷり吸収させて貰った力だけれど、複数人数分を束ねればどれくらいの威力になるかしらね? ……お仲間をお返しするわ」
 つなぎは、獲得したゾンビの腕力を自らの腕力として振るい、手近な個体へ全力の拳を叩きつけた。
「(見せてあげるわ。土蜘蛛の力を、ね)」
 有利を得たと慢心していたのか、つなぎの一撃を喰らったゾンビはそのまま他の個体へ吹き飛ばされ、彼女を撃つはずの攻撃で仲間を討った。
「…… 少しは貢献できたかしら?」
 確かに同士討ちを誘発することで、1体は片付けられた。されど、それゆえにゾンビはつなぎへの警戒を高めて襲い来る。戦いはまだ終わらない。

●殺戮の本能と、スケバン猟兵の矜恃
 一方、睦心は既に【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】を発動させて七支刀を振るっていた。
「(先輩方の前でヘタレた所は見せられねぇ、気張っていくぜ!)」
 戦場全体を包んでいた銀の雨は、彼女のユーベルコードによるものだったのだ。味方には癒しの慈雨となり、敵群には万色の稲妻による苛烈な攻撃が続く。
 それでもリターンにはリスクが付き物だ。この銀の雨も83分後には止んで、敵にも味方にも効果が尽きてしまうから、持久戦にならないうちにとっとと片付けなくてはならない。
 睦心は天候操作や属性を帯びた攻撃を得手としている為、ユーベルコードの効果はより効率的に敵へ味方へ作用していた。どんなに重たい一撃を受けた仲間が居ても優しい雨がたちどころに癒してしまうし、雷に撃たれた敵達はよろめき、大きな隙を作っては睦心を含めた猟兵達の攻撃の的となって蹂躙されていく……。
 敵は敵で、睦心達へ既に弾切れしていてもおかしくないほどの弾幕で応戦しているが、幾らかは着弾して彼女達を負傷させられても、致命傷を与えるには至っていない。

「高い所でそんな銃(モノ)抱えてやがる馬鹿共は、稲妻(コイツラ)の餌食になりやがれ!!」
 睦心は、着実に敵勢力を削いで行く……彼女の矜恃は、ただ汚染され凶暴化したオブリビオンの本能を超える強いものだった。

●茨と銃弾の輪舞曲
 猟兵達は、万が一にもゾンビが屋上の柵を超えて地上へ逃走したり、それによって予知に無い被害を出すことの無い様に立ち回っていた。発案したのは式子で、彼女もまた慎重な立ち回りをしている。
「……!」
「その予定はキャンセルです」
 ユーベルコード【諦観の泥濘(テイカンノデイネイ)】が展開され、式子自身の影を起点に柵や敵の影にも伝い、屋上全体に茨を広げる。こうすることで、噴き上がった茨はゾンビへ絡み付き、攻撃の意思も活力も奪って行動を阻害していく。そして、先程瑞莉を攻撃せんとした個体達は反動で昏睡状態に陥り、猟兵達の攻撃で絶命していった。式子の想定通りだ。

 ただ、敵への警戒を解くことなく、式子はUDCエージェントとしての職業柄からか、先の「世界結界」の効果にも感嘆していた。
 これまで一般人絡みの件で情報統制やら後始末やらで東奔西走してきた彼女にとっては、その対処があれ程容易く済んでしまう存在は、正直に言って想像以上にありがたいものだった。
 今だって、アドナの案で、できる限り音を派手に立てない様に努めてはいるが、こんな昼からドンパチやっているのを地上や付近の一般人が全然気にしないのも、恐らく世界結界による作用だろう。何とも便利である。
 とはいえ、今の世界結界は本来のあるべき姿では無いらしい話も、彼女の耳に届いている。能力者達が脅威を打倒し、勝利を収めた後は消滅していっていたはずの代物で、それが今こうして再び戻りつつあるのは、世界結界自体がオブリビオン化しているからかも知れない……と。
 こんなに便利なものをいつかは撃たなくてはならないのは、彼女としては少々気乗りしないが、この世界に住む人々の未来を護る為ならばやむを得ない。

「(……っと、一旦これを何とかしますか)」
 式子は、自身へ迫り来るゾンビの気配に反射的に気がつくと、茨によってその身体を捕縛し、足止めする。この個体もまた、瑞莉へ攻撃した個体だったらしく、足止めを喰らったまま昏睡状態に陥った。
 屋上の出入口の前で拳銃を構えていた彼女は、それを見てトドメの一撃を喰らわせる。敵は見る間に姿を失い、骸の海へ還っていった。
「うーん、火力がイマイチですね……」
 それでも式子は満足しておらず、そう呟く。火力の低さがネックのままなら、この新世界「シルバーレイン」に限らず、今後の戦いにおいて不利に陥る危険性は高まるであろう。
 その時、彼女の脳裏を過ぎったのは、能力者達が己の力を増幅させるために詠唱兵器へ装備していたエンジン――回転動力炉だった。
「……組織のメカニックの方に相談してみましょうか」
 上手く行けば、猟兵の力をも増幅することができるかも知れない。それが叶えば、式子だけでなく多くのエージェントを抱えるUDC組織にとっても、頼もしい装置になるであろう。
 回転動力炉の導入成功という淡い期待を胸に、式子は淡々とゾンビ達を屠っていく……。

●アビリティとユーベルコード
「(ファイアフォックスの力を、ある程度今までの感覚で使えるのは、良かったかな)」
 昇はそんなことを戦いの中で感じていた。
 能力者から猟兵へ覚醒したことであらゆるものの使い勝手や要領が変わってしまい、なかなか慣れずにいるが、それでも今のように過去のやり方をスムーズに応用できる技もあるのは幸いだった。

 かつて「能力者」のファイアフォックスであった頃に彼が用いていたアビリティのひとつ、「フェニックスブロウ」は、能力者の力で不死鳥のオーラを生み出し、その力を宿らせて近接範囲の対象1体にダメージを与えるアビリティだ。しかもダメージを与えると同時に、魔炎のバッドステータスを与えることもできた。
 その技は、今は「フェニックスキャノン」と名を変え、性質もやや異なっている。与えるダメージが継続性のあるものであったり、自身の体表の80%以上を露出していると威力が増す条件が付いたりしてはいるのだ。だが、不死鳥のオーラで攻撃することや炎で敵を灼くのは概ね変わらない。

「さあ来なさい、ゴーストの紛い物達!」
 昇は、かつての自身の戦い方通り、前衛の壁役のように敢えて敵を引き付ける役を買って出た。わざと声を張り上げ、注意を引きつけて殴り飛ばす。この感覚だけは、猟兵になっても変わらない。
「(能力者だろうと猟兵だろうと、ゴーストもオブビリオンも、討ち滅ぼす!)」
 強い決意で【フェニックスキャノン】を放つ。昏睡状態のゾンビも、隙をついて攻撃して来ようとするゾンビも、巻き込んで灼熱の炎に包み込んでいく。

 だが、ゾンビ達の幾らかは、昇への対抗として身体を殺戮への欲望を解放した姿へと変え、超攻撃力と超耐久力とを得てしまった。 
 彼らは流石に昇だけの力ではなかなか倒しきれない上、理性を失って俊敏に動く存在を無差別に攻撃してきた。中にはその為に同士討ちをして自滅してくれる個体もいるが、昇を狙ってくるゾンビも多い。
 そこを、バルタンや式子等が巧みに足止めしてくれ、銀の優しい雨がすぐに癒してくれるお陰で、何とか昇は深手を負わずに済んでいる。

 何体ものゾンビ達を観察しながら戦ううち、昇はふと、あるゴーストを思い出した。
「……!?よく見たら、あの廃村にいたゴーストじゃないですか!?」
 あの廃村とは、ゴーストタウンと成り果てた古民家の村、旧宙見村集落のことだろう。
 かつては穏やかな村人が暮らしていたはずが、突然、暴虐と血の跡ばかりを遺して荒れ果てた。土着宗教が原因か土建屋との確執が原因か……と、一般人の間でも一時は様々な噂や憶測が飛び交ったが、いつしか世界結界の影響で原因解明に至る前に忘れられていった。
 多くの犠牲を出したまま闇に葬られ、多くの人々から忘れ去られた、悲劇の集落。

 されど、このゾンビ達が本当にあそこにいたリビングデッドかどうかは定かではない。この敵はオブリビオンであるということだけが事実であり、仮にかつて旧宙見村集落のゴーストだったとしても、今やリビングデッドだのリリスだのといった枠組みでは収まらない存在になっているのだ。
「(だとしても、何度だって焼き尽くしてやりますよ……!)」
 それでもその記憶の為に、昇の戦意はかえって強まった。彼が放つ不死鳥のオーラが、ゾンビを容赦なく焼き払っていく。

●力技の激闘
 敵を引き付けて轟沈させているのは、ガイもまた同じである。オーラによる防御を展開することで守備を固めておきながら、これまでに培ってきた戦闘による豊富な知識を基に、相手の出方を見極めて、フェイントを仕掛けた上で突撃し、確実に討ち取って行く。
 それでも、既に姿を変化させ超攻撃力と超耐久力を有した個体を相手取るのはなかなかシビアだ。何しろ素早く動くものを無差別に攻撃してくるから、咄嗟の回避など俊敏な行動を迂闊にはとれない。
 慎重に立ち回りを考え、昇同様に敵が互いに撃ち合って自滅していくのも利用しながら、ガイは怪力を振るって敵群を薙ぎ払い、再度、今度は鎧砕きの要領でゾンビ達が纏っている詰襟の学生服を損壊させながら2回目の攻撃を仕掛ける。

 やがて、ゾンビ達は自分たちが既にかなりの勢力を削がれている事に苛立ったか、ガイの放つ殺意に引き寄せられたか、一部が彼目掛けて集ってきた。
 だが、それこそがガイの狙いだ。
 彼は好機と見て百鬼雷迅刀「ヴァジュラ」を抜き放つ。純白の鞘に納められし退魔刀は、迅雷を司る魔神の力と霊力を宿し白銀に輝いている。

「さあ、荒れ狂え!百鬼従えし、魔人の雷よ!!悉く粉砕せよ!!」
 その言葉に呼応して、荒れ狂う魔人が刀身から解き放たれる。その雷は自然現象を超え、敵へ災厄をもたらす畏怖の神力へと変貌した。【封魔解放『鳴神』(フウマカイホウ・ナルカミ)】。ガイが封印を解いた魔人の雷撃によって、ガイを四方八方から襲おうとしたゾンビ達は、次々と感電し、動きを鈍らせてていった。
 そこへガイが、そして近くの仲間――傍において守りながら休ませていた、昏睡状態から目を覚ました瑞莉が、強力な一撃を叩き込めば次第に骸の海へ沈んで行く……。

●皇帝の使命にして責務
 皆が普段の姿のままで(とはいえ、幾らかは『真の姿』に近くはなっているのだが)戦う中、アドナは既に己の「真の姿」を現していた。
 数の多さから先ずはと、微細な原子からエネルギーを獲得しゾンビ達を薙ぎ払う攻撃は……今はもう、どれ程繰り返して居るだろうか。
 彼女が放つユーベルコードは、理論的には質量爆散……アインシュタインなる者が割り出した公式に拠るものだ。それを応用した技をアドナは幾度も多重に詠唱することで、仲間やその他には一切の悪影響を及ぼさないままに、的確にゾンビのみを狙っていく。

 彼女の周りにいるゾンビ達は、戦意こそまだ完全には喪失していないものの、堕天使が如き皇帝の威厳の前には、いくらか恐れを為しているのかも知れない。
 されどそれでも最終的には殺戮の本能が生命維持の本能を上回った様だ。
 残っているゾンビ達は皆、この圧倒的な威圧感を振りまく皇帝アドナさえ討ち取ればと考えたか、もれなく殺戮への欲望を解放した姿へ変身し超攻撃力と超耐久力を備えて襲いかかってきた。だが、アドナは泰然自若としてほとんど動かない。
「とある浮遊大陸の王国を滅ぼし帝国を築き上げた余。その余が直々にお前を屠り、骸の海へ戻してやるのだ。この光栄、甘んじて受けるが良い!」
 そして、夏菜子に見せた時のように、堂々たる詠唱が再び始まった。

 ――皇帝の名の元に宣言する。物質と熱量の境界線、それを掌握する事で我は悪しき者のみを焼く劫火を以て民を守護しよう。

 ユーベルコード【土と火の境界線を縦横無尽する夕闇の方程式(マテリアル・ヴァルプルギス)】。ここまでにも多く詠唱を重ねてはゾンビを倒してきたユーベルコードだ。

●少女の叶わぬ悲願は、他者への殺意に
 果たして、キラーゾンビの群れは姿を失い、全滅した。猟兵達のそれぞれがそれぞれに全力で、最善を尽くした結果だ。
 屋上にも何の損壊も見受けられず、一般人の誰かが気づいた気配も無い。
 夏菜子も、物音や閃光で戻ってきてしまう様なことは無かった。今頃は――幾らか猟兵の戦いに思いを馳せてハラハラしているかも知れないが――普段の仕事に戻っていることだろう。

 されど、猟兵達の戦いはまだ続く。
 緊張の漂う静寂に、小さな足音を立てて少女が現れた。だが、その背中にはおぞましい「昏い穴」を負い、穴の中でも何かがうごめくような感じが見て取れた。

「……女の子だからって、どうしてイヤなことをガマンしなきゃいけないの? 女の子だから、しちゃいけないの? 変だよ、私だってやりたかったのに……」
 恐らく、様々な欲求やささやかな願いさえも、ねじ伏せられてきた様々な少女達の記憶を有している、ある種の集合体だろう。それがこうして妖獣型オブリビオンとして過去から戻り、抑圧してきた相手へ復讐せんと、殺戮衝動に包まれてしまっている……そんなところだろう。

「……みんな、死んじゃえば良いよ……!」
 刹那、解き放たれる強力な禍々しい力。これ程の力に晒されたなら、ゾンビ達があれ程激しく猟兵へ殺意を向け続けたのも納得が行く。

 猟兵達は今一度、最後に倒すべき相手へと対峙するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『少女地獄』

POW   :    私が何をしたというの あなたと何が違うというの
【少女達に地獄を与えた欲望】を籠めた【昏い穴から伸びる無数の腕】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【優しい記憶】のみを攻撃する。
SPD   :    私は満たされている そう信じないと耐えられない
戦場全体に【巨大な「昏い穴」】を発生させる。レベル分後まで、敵は【傷口を開き引き裂く無数の腕】の攻撃を、味方は【傷口を撫で回し塞ぐ無数の腕】の回復を受け続ける。
WIZ   :    もう見たくない 私に幸せを教えないで
【「拒絶する心の扉」】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。

イラスト:モツ煮缶

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘×
グロ×
WIZ

貴女は私と似ているわ。
私もね、半吸血鬼というだけで迫害され
人間達への憎悪と自由への渇望に心焦がしていたの

『私達の楽園』で116人の守護霊を召喚。
一人一人が私と同じ強さと技能を持つから
共に【誘惑・催眠術】の魔力を籠めた【歌唱・楽器演奏】や
ふわりふわりと宙を舞う【ダンス】を披露し
憎悪に囚われた彼女の心を【慰め】るわ

だから人間を救う気は無いけれど
貴女を見殺しにはしたくないの。
このまま討ち滅ぼされ、再び骸の海に沈んでいく結末なんて
貴女に味わわせたくない

拒絶する心の扉で転移させられても
霊達の棲家は私の中だから何度でも召喚し直せるわ。
私だけは転移を拒否してダメージを受けるけど
【激痛耐性・気合い】で耐え【祈り・医術】の治癒魔法で回復

貴女も私達の楽園にいらっしゃい。
一緒にいろんな世界を見て、たくさんの事をしましょう。
今からだって遅くないのよ

彼女が望むものは『自由』
私は両腕を広げて待ち
彼女が自ら飛び込んできたら抱きしめ
髪、背中、頬を愛撫しながら
【生命力吸収】のキスで温もりと救済を与えるわ



●迫害されし、「2人」の少女
 昏い、おぞましい腕が見え隠れうごめく穴を背負う少女と、それに対して身構える猟兵達。緊迫した静寂が場を支配していた。
 そこへ、不意に新たな少女―― ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)が現れる。皆もすぐに彼女もまた猟兵であると気づくが……ドゥルールは場にいる猟兵達を睥睨したのみで、つい、とオブリビオンへ向きを変えた。その顔には、慈母のような微笑みさえ湛えて。

「貴女は私と似ているわ。私もね、半吸血鬼というだけで迫害され、人間達への憎悪と自由への渇望に心を焦がしていたの」
 ドゥルールは、こうした過去の生い立ちゆえに、猟兵も一般人も、生きとし生ける人間は誰も信じない。まして味方だなどとは思わない……思えるはずも無い、が正しいか。
 そしてそれゆえに、自身と同じように「過去の存在だから」というだけで討滅されていくオブリビオンにこそ、親しみを感じてしまう……ドゥルールとは、そんな猟兵であった。
 場にいる猟兵達がどんなに呼び掛けても一切応えずに無視し、ドゥルールはオブリビオンの少女へのみ温かく語り続ける。猟兵達も――オブリビオンの至近へと近寄りながら言葉を紡ぐドゥルールに、万が一にも誤射したくない気持ちからだろう――迂闊に手を出す訳にもいかず、もどかしさを漂わせながらいつでも動き出せる姿勢を崩さずに見守っていた。

「……だから人間を救う気は無いけれど、貴女を見殺しにはしたくないの。このまま討ち滅ぼされ、再び骸の海に沈んでいく結末なんて、貴女に味わわせたくない……」
 ドゥルールは、誰も何もしてこないのを好機と、オブリビオンの少女の正面へ来て歩みを止める。すると、たちまち116体もの守護霊達がドゥルールを取り囲むように現れた。彼女のユーベルコード【私達の楽園(ネヴァーエンド・ラブメモリーズ)】が発動したのだ。

 されど悲しいかな、ドゥルールの愛情が必ずしもすべてのオブリビオンに通じるとは限らない。抑圧され続け、自分を殺し続け、一縷の望みにすがって理不尽に耐え続け、そして裏切られ……その悔しさや惨めさ、無力さや怒りを抱いたままにオブリビオンへと変貌してしまった、様々な少女達の思念から成るこのボス級オブリビオン「少女地獄」もまた、人間など誰も信じようとしない存在だった。まして本能が敵と告げる猟兵を信じられるオブリビオンのほうが、もしかしたら少ないのかも知れない……。
 オブリビオンの少女は、ドゥルールの生い立ちを聞いてさえ、その慈愛をも丸ごと拒絶する。
「何よ……何よ、もう見たくない! 私に幸せを教えないで! どうせ裏切るくせに! みんな、みんなそうなの! だから……みんな、みーんな、死んじゃえば良いのーーっ!!」
 悲痛な叫びに応えるように、オブリビオンの頑なな拒絶の意志が具現化したが如き禍々しい扉―― 拒絶する心の扉が出現した。戦う力の無い守護霊達は、為す術なく「棲家」へ還されて行く……。
 それでもドゥルールは慌てなかった。なぜなら、守護霊達の「棲家」は、彼女の心の中にあるから。心と心が強い絆で結ばれているから、ドゥルールさえ転送を拒めば、何度でも召喚し直せば良い。そう考えていたのだ。
 しかし、それは幾らか読みが甘かったか。ボス級のオブリビオンからのダメージだけあって、ドゥルールは思わず地へ膝をつく。何とか気合いで激痛に耐えるとふらふらと立ち上がり、祈りによる治癒回復を試みた。
 されど先にも述べた通り、ドゥルールにとっては同朋であるオブリビオンだとしても、このオブリビオンの少女にとってはあくまでも敵。敵が目の前で、隙だらけのままに自己回復をしようとしていれば、討たない訳が無い。
「……ほら! やっぱりあなたも、私の願い通りになんかなってくれなかった! この嘘つき!」
「……っ!」
 昏い穴からうごめく無数の腕が伸び、腕や手を絡め取っては締め付け、ドゥルールの祈りを、自己回復を妨げた。
 それでもドゥルールも諦めなかった。
 強烈な痛みに耐えて笑顔を見せ、絡め取られている両腕を無理に広げる。
「死霊術、とは……っ、不変不朽の、美……。その、真髄っ……は、永遠の……愛っ!!」
 何とか詠唱し、守護霊を再び召喚するも、またしても禍々しい扉の餌食となっていく。これでは良くて堂々巡り、最悪の場合は……。
「……!」
 だが、守護霊の1体が不意にドゥルールを少女の扉の向こうへ咄嗟に突き飛ばし、姿を消した。ドゥルールの慈悲に感銘を受け、志を共にし、強い絆で結ばれているからこその、捨て身覚悟の行動だったろう。

 ドゥルールには、このオブリビオンと化した少女が望んでいるのは、ありのままの自分であれる……そんな「自由」であると見えていた。
 それ自体は、確かに皆も頷く、間違いでは無い見解かも知れない。だがそのゆえに殺戮衝動に駆られ、人間を見るや否や殺すのは、一般論で言えば許し難い暴挙で、猟兵が討つ理由には十分だ。
 そしてその一般論は、ドゥルールとしてはそれこそ許し難い暴挙で……。
「ね? 貴女も私達の楽園にいらっしゃい。一緒にいろんな世界を見て、たくさんの事をしましょう。今からだって、遅くないのよ」
「……嘘つき。そんなの信じない! どうせみんなそう言ってだまして、好きなように私を使って、そのくせ私の好きなようにはさせてくれないもの!! 幸せなんて幻想、もう見たくない!!! もう二度と見せないで!!!!」
 精一杯、激しい痛みに耐えて腕を広げようとするドゥルールに、昏い穴からまたも次々と腕が伸び、拳の乱打が始まった。
 一瞬の隙をついて少女地獄本体の身体を抱きしめ、慰めながら生命力の吸収を始めたドゥルールではあったが、オブリビオンの衰弱より自身の衰弱のほうが早いのは、誰の目にも、ドゥルール自身にも、明らかだった。いくらかはオブリビオンの生命力を削いだとはいえ、このままではドゥルールの理想は瓦解してしまいかねない……そんな状況だった。

 誰ともなく、場にいた猟兵が堪らずに救援の為と駆け出す。あくまでも同じ猟兵という仲間として、看過できずに。
 けれどもそれを察知したドゥルールは、悲哀に満ちた微笑をオブリビオンの少女へ向け、自身へと近寄る猟兵へは冷徹な眼差しを向け、無念のうちに退却を決めたのだった。
「……そんなになってしまうまで、絶望してしまったのね。でも、その気持ちは痛いほど分かる。……もしも今度、またどこかで会うことがあったら。その時はもういちど……いえ、何度でも、貴女を救済に来るわ、きっと……」

成功 🔵​🔵​🔴​

ガイ・レックウ
【POW】で判定
『その苦しみ、嘆きで人々を襲う過去の残滓、オブリビオンよ。悪いが、その嘆きにつきあってられねえよ』
【オーラ防御】で防御をかため、【残像】と【フェイント】を織り交ぜて突撃。【怪力】での【なぎ払い】と【鎧砕き】を叩き込み、ユーベルコード【炎龍一閃】で斬り捨てるぜ!


黒江・式子
連携アドリブ歓迎
怨嗟や憎悪と言った心の〝翳り〟は
影の茨が最も好むものです
私がコントロールせずとも
少女や昏い穴に向かって
まるで吸い込まれるかの如く
茨が殺到していくことでしょう
翳った心が喰われて少しでも希釈されれば
僅かに有ったかもしれない
幸せを思い出せるでしょうか?
…思い出す方が酷かもしれませんが
どのみち
これ程の翳を喰い尽すには
時間がかかり過ぎます
少女に拳銃を向けましょう

同情はします
憐れみもしましょう
ですが
予言に引っかかった以上
これは私の仕事です
月並みな台詞ですが
運が悪かったのです
諦めてください
私も、そうします

(下手に感情移入すると
自分の心も翳り
茨の餌食になる
割り切って振る舞うしかない)


アドナ・セファルワイド
勅命型UC、ブックドミネーターへと命を下せ!
展開せよ時間凍結氷結晶!
欲望と地獄の記憶のみを凍てつかせろ!

瞬時に時間凍結氷結晶で全身を覆い、氷の身体と天使の如き翼を持つ蒼き竜へと変身
そこから時間をも凍てつかせる冷気を以てゴーストを凍結させていくぞ

優しい記憶か……余の幼い頃に優しい記憶等無かったな
あるのは困窮と不満、貧民街に生まれた幼子にとって世界とはそれだけに満ちていた
こんな無体は赦さんと思い、駆け抜けたのが余の原初であったな……

少女よ、妾はこうなれた
とは言わん、極論巡り合わせが良かったのが妾という事だろうからな
だが、自身の跪きに他者を巻き込むというなら是非もなし
ここで凍り付くがよい


御鍔・睦心
先輩を励まして元気付けたかったが、うまく言えた自信は正直まったく無ぇ。
でも、だからこそ、あと一息気張って、こいつを逃さず被害を出させずブッ潰す。
……そうでなきゃ、さっき先輩にキメた上等が嘘になる。
猟兵として、先輩達の奮闘の結果築かれた未来に生きる後輩として、それだけは絶対に許されねぇんだよ。

ここで使う得物は「裸一貫」。
鞘の無い刀、つまり私そのものだ。

【闘争心】と【殺気】を込めた闇のオーラを、【リミッター解除】した内蔵回転動力炉で【エネルギー充填】し強化した【黒影剣】。
視聴嗅覚の認識を逃れ、触れた敵の手も【生命力吸収】し【捕食】。

「ハンパな覚悟で刃モノに触れたら、怪我じゃ済まねぇぜ?」

そのまま敵に駆け寄り、闇のオーラを乗せたゼロ距離の【斬撃波】で昏い穴から伸びる手を根元から【薙ぎ払い】【切断】、返す刀で本体も叩っ斬る。

「さっき『みんな、死んじゃえは良い』と言ったな? ……上等キメたんなら、死んでも殺す覚悟で気張りやがれ!!」

それが、てめぇと私の違いだ。
……黒影剣使ってるし、聞こえてねぇか。


文月・昇
この少女を倒せば今回の件は終わりということだけは分かりました
何か言ってますが倒す以外にありません

「届くとは思えないけど……出来ることは僕たちにはない」

距離を詰めて攻撃、今の自分に取れる手段はそれだけ
一気に距離を詰めてフェニックスキャノンで殴りつけ可能ならすぐに距離を取り穴からの攻撃回避を試みます
あの腕に掴まれたら絶対嫌な目に遭いそうな気がしてなりません

高校時代の記憶を汚い手で触るんじゃない!
この不死鳥の炎で火葬され、生まれ変われ!

叶うなら終わり際に少女たちを優しく抱きとめ寂しさを受け止めたいです

猟兵としての最初の討伐、完了
少女たちに幸せな生がありますように


バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎
真の姿である軍装を纏い、冷徹な兵士として挑むであります。

貴女がどのような抑圧を受けてきたのかわかりませんが……手あたり次第に殺戮しようというその衝動は見過ごせないであります。
故に。ここで討ち果たさせていただく。

無数の腕に振れると危険な雰囲気。
ここは防御に傾注しつつ、攻撃の隙を伺うであります。
ファルシオンで受け流して戦線を維持し、機を見てUCを起動。
「六式武装展開、鉄の番!」
昏い穴諸共、少女を叩き潰すであります。
戦場に年齢や性別は、関係ないであります。

(触れた場合の優しい記憶について)
主に他者との交流。猟兵になってからの一年と、その前の無作為界渡りをしてた三年間の思い出。


石蕗・つなぎ
アドリブ&連携歓迎
「他者の意識の集合体と言う時点で、それを問うのはナンセンスじゃないかしら?」
そも、オブリビオンとして戻って来てる相手にまともな議論を期待するのも無益かもしれないけれど。
「始めましょうか」
当たらなければ効果のない攻撃のようだから全力で回避を試みるわ。
第六感も頼りに見切って攻撃を躱す、残像や回避に織り交ぜたフェイントで惑わす、とっさの一撃で受流す、念のためにオーラでも防御するけどやれることはすべてやるわ。
攻撃を凌げても当たってもカウンターで紅蓮撃をお見舞いする。
「オブリビオンである以上、私が出来るのはあなたを終わらせることだけ、よ」
「まぁ私の力量が追い付いてればだけど」


郁芽・瑞莉
仲間がいるとはいえ、ちょっと無理をしてしまいましたね。
なるほど、ゴーストの概念では無いですね。
ですがオブビリオンを識った今なら、彼の状態は納得する部分もあります。
世界は今という時を未来に向けて歩んでいるのです。
過去には退場していただきますよ!

相手の無数の腕の攻撃は迷彩と残像でフェイントをかけて回避。
回避が難しい場合は武器で受けつつ、カウンターで腕をなぎ払いつつ接近。
武器の間合いに入ったら溜めていた力の封印を解いて、武器のリミッターを解除。
相手の攻撃を見切り、防御を抜いた破魔と浄化の力を乗せた突撃の一撃を喰らわせますよ!

終ったら夏菜子さんに無事を知らせつつ、
何か食べつつ今の状況を伝えたいですね。



●「正しさ」の在り方
 猟兵の少女が退却した後、そこには何とも言い難い複雑な空気が淀んでいた。己の「自由」を理不尽に抑圧され続けて限界を超えてしまった少女達の思念から生まれたこのオブリビオンに対して、ただ討つだけで本当に良いのか……。
 されどもここは戦場。そして目の前にいるのは、既に骸の海で眠っているべき侵略者にして殺戮衝動に突き動かされているだけの、理性なき妖獣型オブリビオン。
 だから、猟兵達がそれぞれの「答え」を出すのは早かった。

●他者の嘆き苦しみを振り切る、痛み
「その苦しみ、嘆きで人々を襲う過去の残滓、オブリビオンよ。悪いが、その嘆きにつきあってられねえよ」
「同情はします。憐れみもしましょう。……ですが、惨劇を招くとの予知に引っかかった以上、これは私の仕事です。月並みな台詞ですが、運が悪かったのです。……諦めてください。私も、そうします」
 まず動いたのは、既に先程までの間にオーラで身を包み防御を固めたガイと、無辜の人々に暴虐をもたらす予知は防ぐしかないと諦めて拳銃を向けた式子の2人だった。
 ガイは、残像によるフェイントを仕掛けながら一気にボス級オブリビオンたる「少女地獄」へ肉迫する。数多の腕が襲い来ても、見切って躱し、式子の射撃もあって軽い怪我で済んでいた。

「オラァ……!」
 ガイの鍛え上げられた身体から放たれる、凄まじい怪力による拳の一撃。鎧さえも砕く程の威力が少女の身体をなぎ払い、転倒させた。
「……っ、痛い……! 酷いっ! ……何よ、私が何をしたというの!? あなたと何が違うというの!?」
 立ち上がりながら憎悪を込めて睨む少女の背後、昏い穴から無数の腕がガイへと伸びてくる。その腕には、少女に地獄を味わわせた欲望が込められており、その身に受けてしまえばガイの持つ「優しい記憶」を破壊するだろう。ガイの身体は無事でも、この思念を宿した少女のように心を――精神を破壊される恐れがあった。
 だが、その腕が、拳が、昏い穴が、少女が……影の茨に絡め取られる。
「……これが精一杯です」
「ありがとよ! さて……一手、仕掛けるか!!」
ガイは簡潔に礼を述べると豪快に百花獄炎刀「ヴァジュラ」を抜き、目にも留まらぬ速さで一閃を見舞う。それは炎を纏いし妖刀による【炎龍一閃(エンリュウイッセン)】。オブリビオンもまた恐るべき速さで回避を試みたものの、ガイを狙った腕が幾本も切断され、どろりとした粘性のある液体を垂らしながら地に落ちた腕は消えていった。

 ガイを護ったのは、式子がやはり既に発動を済ませ、先程までオブリビオンが少女の猟兵に気を取られていた隙に仕込んでいたユーベルコード【13番目の贈物(サイゴノオクリモノ)】。怨嗟や憎悪と言った心の「翳り」は、影の茨が最も好むもの。ゆえに式子がコントロールせずともオブリビオンの少女や昏い穴に向かって、まるで吸い込まれるかの如く茨が殺到していったのだ。

「(翳った心が喰われて少しでも希釈されれば、僅かに有ったかもしれない幸せを……思い出せるでしょうか?)」
 式子は影の茨と狙撃で援護しながらふと思う。されど、今思い出せたとしてももう手遅れかも知れない可能性のほうが高い。
 過去そのものであるオブリビオンになった少女達のこの思念が仮に殺戮衝動を手放せたとしても、「今を生きる存在」になれるかと問えば……幸せを思い出すのは、かえって酷なのかも知れなかった。

 そんな式子の逡巡を読み取ったかのように、体勢を立て直した少女が、切断された箇所からどろどろしたものを滴らせつつ怒気を孕んで反抗する。
「幸せなんか、もう見たくない! 私に幸せなんか、もう教えないで! もう見せないで……!」
 悲痛な響きに、ツンと胸が痛む。でも、式子はそれをグッと抑え込んだ。
「(下手に感情移入すると私の心も翳り、
茨の餌食になる……割り切って振る舞うしか、ない)」
 奇しくも先の「人間を忌避する少女猟兵」の戦いによって敵の手の内を予め見ていたお陰で、影の茨はより効果的にオブリビオンへとダメージを与えていた。式子自身が影の茨の性質を理解し、苦悶しながらも何とか繰り返し感情を殺し続けていることも功を奏しているといえよう。
 だからだろうか、オブリビオンの前に展開された扉―― ユーベルコードによって現れた拒絶する心の扉から強力な転送の術の気配を感じ取るが、先程の威力よりは少しばかり落ちているような……そんな気がした。

 それでも、先の少女猟兵はそこまで深刻なダメージをこのオブリビオンに与えた訳ではなかった。怪力の持ち主たるガイのユーベルコードと式子の銃撃が合わさっても、まだオブリビオンは余力を十分に残している。式子の放った影の茨の力をもってしても、討伐にはまだ遠い。
 だから、この禍々しい扉が開いて強制的な転移が始まってしまえば……転移を拒否すれば、やはり痛烈なダメージは免れ得ないだろう。
 そして同じ猟兵を拒もうとする者はもうここにはいない。となれば、下手をすれば式子を庇おうとした誰かがこのオブリビオンのユーベルコードに巻き込まれる恐れもあった。かといってボス級のオブリビオンを前に転移を受け入れて戦線離脱するなど、選べるはずもない選択肢だ。
「(何か……何か、他に打つ手は……!)」
 式子が焦燥に駆られた刹那。襲い来るはずのダメージの代わりに、扉が凍り、崩れたその後ろでオブリビオンの少女もまた、凍てついて動作を阻害されていた。

●できることはない、だからこそできることがある
「勅命型UC、ブックドミネーターへと命を下せ!展開せよ時間凍結氷結晶!欲望と地獄の記憶のみを凍てつかせろ!」
 オブリビオンの状態を式子が認識したとほぼ同時に聞こえてきたのは、アドナの凛とした声だった。
 既に皇帝たる真の姿に転じていた彼女は、ユーベルコード【凍てついた時の果てに書を司る竜は識を我に与える(グレイシャルロード・ブックドミネーター)】を発動させたことで、神々しい輝きさえ放つ蒼き竜が如き外見になっていた。天使を連想させるような大きな翼が、さらに荘厳さを惹き立てている。

「何よ、さっきから誰もかれも……! 死んじゃえ! みーんな、みーーんな、死んじゃえば良い! 私が何をしたというの!? あなたと何が違うというの!? なんで私は幸せになったらダメなの!?」
 ガイの怪力にも負けず劣らずの力で凍氷を振り切る事に成功した腕が、何本も昏い穴からアドナへとぐんぐん迫る。この腕もまた、先程ガイを狙った腕と同じ効果を……幸せな記憶のみを攻撃してくる力を有している。

「(優しい記憶、か……余の幼い頃に、優しい記憶など無かったな)」
 アドナの中にあるのは、困窮と不満が支配する世界の記憶。貧民街に生まれた幼子にとって、世界はただただ、それだけに満ちていた。
 だからこんな無体は赦せなかった。そしてその思いはやがて願いへ、そして誓いへ変わりゆき、ここまでの生涯を駆け抜けた……これがアドナの「余の原初」であった。

「少女よ、妾はこうなれた……とは言わん。極論、巡り合わせが良かったのが妾という事だろうからな。……だが」
 アドナは、ユーベルコードで得た飛翔能力と頑強なほどに補強された戦闘力で腕を回避し、叩き潰して応戦しつつ、淡々と語る。
「だが、自身の跪きに他者を巻き込むというなら是非もなし……ここで凍り付くがよい!」
 アドナが発生させる氷の結晶は尚もオブリビオンへと向かっていく。

 そして、アドナがその威厳と神々しさとでオブリビオンの注意を引いている間に、氷をも利用して虎視眈々と機を待っているのは……昇だ。
「(届くとは思えないけど……出来ることは、僕たちにはない)」
 この少女を倒せば今回の件は終わりということは、分かった。そして相手が何かを言っていることは、分かった。けれど、だから何ができるかと言えば、何も無い。今を、未来を奪うオブリビオンは……倒す以外に無い。そもそも、たとえどんなに想いを訴えたところで、相手はもう殺戮衝動に支配されきった理性なきもの。

 できることはない。だからこそ……。
「この不死鳥の炎で火葬され、生まれ変われ――【フェニックスキャノン】!」
 少女がアドナの氷を回避することに集中した隙に一気に距離を詰め、不死鳥のオーラを纏った拳で思い切り殴り飛ばす。そして不意をつかれた彼女が事態を把握するよりも速く、また死角に身を潜め……たかったが。
「……っ! 酷い! 酷い酷い酷い!! 何よ、あなたまで! 私が何をしたと言うの!?」
 錯乱したかのような絶叫と共に、消えない炎によってかえって自由を得ることに成功してしまった腕が、ヒットアンドアウェイ戦法をとろうとしていた昇へ迫る。
「……!? おい、やめろ! 高校時代の記憶を汚い手で触るんじゃない!」
 触れられたらヤバい気しかしない! と、そう直感した昇は鎧をも壊す勢いのグラップルを必死に放ち、全身全霊をかけておぞましい腕から逃げ回る。

 それでもあわや一撃喰らうかと、昇の身の毛がよだった、その時。
「他者の意識の集合体と言う時点で、私達に酷いだとか何だとかと問うのはナンセンスじゃないかしら?」
 昇と同じく全力で腕からの攻撃を回避しようとしていたつなぎの纏っていたオーラで腕が跳ね返された。恐らく互いに回避に最適な場所を選んで、持てる力の全てを駆使して回避し続け……そうやって俊敏に動き回っていた結果、奇遇にも同じ場所に来たのだろう。

 土蜘蛛であるつなぎの細い腕を覆う大きな赤手が、今ばかりは、まるで歴戦の武者が身に纏う雄々しい鎧の様に見えた。
「あ、ありがとう……助かったぁ……」
「どういたしまして。……さて。オブリビオンである以上、私が出来るのはあなたを終わらせることだけ、よ」
 心の底から安堵して礼を述べ、全力で射程外へと一時退避していく昇。そんな彼へつなぎは簡素に応じ、オブリビオンへも冷静に、かつ果敢に挑む。
 ぶん、と赤手を振るいつつ宣言するつなぎ。
「反動も覚悟のこの一撃、耐えきれるかしら?」
 かつて「能力者」として銀誓館学園に存在していた土蜘蛛達が操っていたアビリティを、つなぎは、ほぼその性能を残した状態でユーベルコードへ変えることに成功していた。その名も【紅蓮撃(グレンゲキ)】。妖気を凝集させることで炎を作り出し、それを赤手に宿して敵を殴りつける。反動によって、この戦いが終わるまでユーベルコードが使えなくなるという代償を伴うが、それゆえに敵を炙る炎は超絶的な高威力を誇るのだ。
「熱い、熱い……っ! き、消えてっ! やだ! 何で!? 何で私が……!」
 少女は身体も腕も炎に包まれ、必死の形相で消化しようと暴れ回る。昏い穴から伸びる腕も、そのせいで狙いがそれなりに不正確になっている様子だ。
「(まぁ私の力量が追い付いてればだけど……もう少し、かしら)」
 それでも、オブリビオンは消え去らない。ということはまだ力が残っている。つなぎは引き続き油断なく腕を回避しながら状況を観察し、再び「出来ること」を考える。ユーベルコードは封じられても、それに頼らない何かが、必ずできるはずだから。

●未来の為の「今」
 ここまでで、少女地獄に残された力は大分消耗してきた。だがそれには、ボス級オブリビオンである敵に間違いなく看破され、真っ先に狙われるはずの「猟兵」に覚醒したばかりの仲間を含めて、決して誰にも痛手を負わせないという強い意志や信念を抱いた仲間たちによる援護が、戦線を支え続けていたからでもある。

「(先輩を励まして元気付けたかったが、うまく言えた自信は正直まったく無ぇ。でも、だからこそ、あと一息気張って、こいつを逃さず被害を出させずブッ潰す……そうでなきゃ、さっき先輩にキメた上等が嘘になる。)」
 睦心は眼光鋭く敵を見据え、「裸一貫」を間断なく振るい続けている。
 裸一貫……それは、鞘の無い刀、つまりは睦心そのものといって良い得物である。あまりの切れ味ゆえに、何度拵を作ろうとも先に鞘が壊れてしまう抜き身の刀……それほどに、睦心の戦意も研ぎ澄まされていた。
 必ずこの敵を討つ――その硬い決心と戦意から生まれる闘争心や殺意を、刀に巧妙に内蔵してある回転動力炉へと、リミッター解除をした上でエネルギーに変換して充填。
 そうして、可能な限りの性能強化を施した上で、睦心は【黒影剣】を発動させた。自身も武装も闇のオーラで包むことで敵の視聴嗅覚での認知を不可能にするユーベルコードだ。そしてそれを運良く切り抜けてきた腕は、睦心を覆う闇のオーラによって生命力を奪われ、補食され、跡形もなく消え去っていく……。
「ハンパな覚悟で刃モノに触れたら……怪我じゃ済まねぇぜ?」
 凄みのある物言いを残し、睦心は敵へ目掛けて一気に駆けた。

「(なるほど、ゴーストの概念では無いですね。)」
 一方、ゾンビを相手に少々無茶をしたなと内心で反省しつつ、オブリビオンという敵をつぶさに観察して学び続けながら交戦しているのは、瑞莉だ。
 瑞莉にとって初めは未知の脅威だったオブリビオンも、もうこうして識った以上は無闇に恐怖する相手ではない。それがこうしたボス級のオブリビオンだとしても、同じこと。
「世界は今という時を未来に向けて歩んでいるのです。『過去』には退場していただきますよ……!」
 瑞莉は睦心とは対照的に、敵の腕による攻撃に対して迷彩や残像を駆使してフェイントをかけながら回避し、堅実な身の運びで敵へと静かに忍び寄る。

 瑞莉がなぎ払うこの腕は、これまでに放たれた腕とはまた異質な性能を宿していた。
「私は……私は満たされている……! そう信じないと、耐えられない!」
 先程、ようやく炎を振り切った少女が震えた声で零した言葉を引き金に、戦場である屋上全体に、巨大な「昏い穴」が展開されたのだ。そしてそれは少女の背後から伸びる腕を、猟兵達へは傷口を開き引き裂くものとして、オブリビオンである自身へは傷口を撫で回し塞ぐものとして、変質させて動かしているのだ。

 持久戦になればなるほど、猟兵が劣勢に立たされる……敵がこのユーベルコードを放つよりずっと早くこう分析していたのは、バルタンだ。初めに一般人を避難させる時に演じていた「愛嬌のある可愛らしいお弁当屋さん」と同一人物であるとはにわかには信じ難いほど、このボス級オブリビオンを前にしてからのバルタンは、冷徹な兵士として対峙し続けていた。姿も軍装を纏った真の姿に変化しているし、口調も日頃の陽気なハイテンションから一転、真面目で恐れを知らない戦士のそれになっている。

 この、オブリビオンに成り果てた思念の主である少女達がどのような抑圧を受けてきたのかは分からない。だが……手あたり次第に殺戮しようというその衝動は見過ごせない。
「故に。ここで討ち果たさせていただく」
 敵は討ち果たす。されど誰1人として犠牲は出させない。一般人も、能力者も、猟兵も。
 だからバルタンは、少女が出現してからずっと、心身のすべてを戦線維持に注いでいた。それが確実に、速やかに、それでいて被害を最小限に抑えながら、敵を討つ道だから。
 されどそれは防戦一方を意味しない。腕に触れたら危険だと開戦まもなく悟ったバルタンは、ファルシオンでそれをいなして躱しつつ、攻撃を叩き込む一瞬を、まさに獲物を狩る猛獣の様に静かに狙っていたのだ。

「宿りし力と合一と為し、その力を以って眼前の強大なる力との対峙を。同調、開始!!!」
 バルタンの耳に、瑞莉の声が届いた。そして彼女のユーベルコード【神威同質化(アシムレイト)】が発動する。それは同時に、瑞莉が己の武器の間合いに敵を捉えた報せでもあった。
 彼女が無事に間合いに敵を捉えられたのには、一時退避したり、ユーベルコードを再び発動することは叶わなくなったりした昇やつなぎが、戦況や敵の行動傾向を伝えたり、技能を用いた反撃で支援したりして、何か支援していたのもきっとあるだろう。

 戦巫女としての力や陰陽道の呪術法力を用いて自身に降ろした神霊体や強固な意志を、瑞莉の武装へ宿す。ここまでに溜め込んだ力を、リミッターを外した武装へと封印を解いて注ぎ込む。
「――見切りましたよ! ここはもう、私の間合いです!」
「……!!」
 瑞莉の得物が、オブリビオンの腕を切り裂く。されど敵はその腕を引っ込めると即座に別の腕で癒し始め、入れ替わりに瑞莉の僅かな傷口さえも引き裂きダメージを与えんとする。
 敵の意識が、ここまでの皆の奮闘の甲斐あって心身ともに満身創痍となっているお陰もあり、バルタンから完成に逸れた、ほんの刹那。それを彼女は見過ごさなかった。
「六式武装展開、鉄の番!」
 最早、敵に何か反応させることさえ許さない【鉄拳制裁(アイアンフィスト)】。
 単純にして重量のあるチェインハンマーで、昏い穴諸共少女を叩き潰す。その威力は、屋上の堅牢な床や鉄柵をも破壊して余りあるものだった。

 それでも尚、オブリビオンはまたも立ち上がった。身体はよろめき、ボロ切れのような見た目に成り果ててまだ、虫の息ながらも生き延びていたのだ。
 だが、それも次の瞬間には途絶えることとなった。
「てめえ、『みんな、死んじゃえは良い』と言ったな? ……上等キメたんなら、死んでも殺す覚悟で気張りやがれ!!」
 バルタンの爆風をものともせず、睦心がオブリビオンの至近に飛び込んだ。ゼロ距離からの斬撃波を浴びせ、「昏い穴」から伸びる腕を根元から切断する。
 そして返す刀で本体を……と見遣れば、少女は首から上を腕と共に切り落とされ、亡骸を晒していた。
「……これが、てめぇと「猟兵」(わたしら)との違いだ。って、どうせ聞こえてねぇか」
 睦心が見下ろす中、少女地獄の姿は風に吹かれて塵芥の様に消え去っていった……。

●戦いを終えて、人よ、憩いを。
 これで、予知された惨劇は完全に防がれた。猟兵達の完勝である。
 この戦いが初陣であった「元・能力者」も、歴戦の猛者であれど新たに見つかったばかりのこの世界を初めて心身で感じ取ることとなった猟兵も、その立場は様々であったが互いに得るものの大きな凱旋だったことは間違いが無い。
 何を得たのかは個々人で異なるものもあろうが……「能力者」も「元・能力者」も、「能力者を知らない猟兵」も、『大切なモノを護りたいという願いは変わらない』と、それを皆で確かめあえたことが今回の最大の戦利品といえよう。

 一同は(恐らく世界結界の効果で一般人は認知しないだろうが)夏菜子に説明する為に、バルタンの一撃で大破した屋上の部分についてどう説明しようか知恵を出し合いながら、しばしの休息をとった。
 このオブリビオンを生むこととなった少女達の今へ思いを馳せたり、猟兵と能力者の相違について語らったり、ひとり黙々と思案に耽ったり……。

 そうしているうちに、やがて瑞莉の提案で夏菜子の退勤を待ってこの戦いの話を聞かせ、無事に完勝した安心と、改めて猟兵とオブリビオンについて伝えようということになった。
 皆が休息を終え、一般人や学生といった本来の平時の姿に戻ると、ちょうど陽が空を美しい朱に染め始めた。
 屋上から眺めるそれは、さながら芸術作品だ。戦いで疲れた猟兵達の心をも、夕陽はあたたかな色で癒した。まるで、ねぎらうかのように……。

 空の朱色がやがて赤みを増して、宵闇が来ようとする頃。猟兵達が若者たちのたむろを装いながら会社の門前で待っていると、退勤時間を知らせるチャイムが鳴った。 それから程なくして、一般人社員に混ざって夏菜子も出てくる。
 夏菜子は、お昼休みに聞いた声をまた聞くとは露にも思わなかったに違いない。驚きを顔に浮かべ、猟兵達の元へ急ぎ足でやってきた。
「え?あ、あの、皆さん!?どうしてここに……?」
 戸惑いながら一同をきょろきょろ見渡す夏菜子に、猟兵達は平和を守り抜いた喜びや達成感を今一度噛み締めながら、思い思いに語りかけ、笑いかける。

「へぇー!そっかぁ……屋上ですごい音がしたからハラハラしてたけど、そういうことだったのね。……すごいね、皆さん。私もいつかなれるといいな。皆さんみたいな『猟兵』に」
 夏菜子は、猟兵達へ憧れの眼差しを向けてそう締めくくった。いつかどこかでまた会えた時には何らかのかたちで協力し合えると良いね、と笑って、大切な人が待っているからと夏菜子は帰途を急いだ。
 その背中を見届けて、猟兵達もまたグリモアベースへ戻っていく。
 またどこかで、また別の、大切なモノを護る為に……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月14日


挿絵イラスト