7
廃墟渡りと遊園地

#UDCアース #お祭り2021 #ハロウィン #何これ #何これ(二回目)

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#お祭り2021
🔒
#ハロウィン
#何これ
#何これ(二回目)


0




●青春の××ページ
「ハロウィン祭りだ何て、フェスティバルアーチも意外と面白い事をするよねー」
 華やかで少し不気味な飾りつけで彩られた遊園地の中、少女は連れ立って歩く少年にそう声を掛ける。
「……あ、うん。そうだなあ。せいぜいマイナーなアイドルとか声優のミニイベント位しかしないイメージだったけど」
 声を掛けられた少年の返事は少し間が開いた。どうも道の端に居る化物の仮装に目が行っていたらしい。見やれば成る程、確かに目を奪われる位に本格的で不気味な仮装だ。
 ろろろ。
「これだって別に飾りつけと仮装位だけど。でも見た目が変わるだけで凄く新鮮」
 見回せばスタッフや売店の店員迄ハロウィンらしい不気味な仮装をしている。客の方も仮装済みの姿がチラホラと。その本格的なクオリティに何だか少し楽しくなって少年に笑い掛ければ、彼は何故か少し赤面して目を逸らしたられ。
「た、確かにな。て言うかこんなに沢山の客が入ってるの俺初めて見たかもたばば場わ」
 黒ずんで来た指先で頬を掻きながら、誤魔化す様にソレが言ったその言葉にけれど心から同意する。確かに何時もはもっと寂れていた筈が我カがかなのに。こんなに廃墟が居るのはびっくりだ。
 可也だられれ土を食み水を吐き華を花を踏。
「そもそも此処に来るのが久しぶりだってのもあると思う思われて憶え忘れ憶え憶え」
 古い剣を振りながら言う少年がそう言えば名前は何だっけそう言って隣を歩く別の客の首をれらる幅が幅広く幅幅広く拾え拾え。
「ぬいぐるみが破れてぬいぐるみを破って中からろらららら廃墟ら」
 化物の仮装が化物が笑う化物は笑わない化物に顔は無い顔が無い顔なんて。
 剣が喉に刺さって。遊びに行こうって言われて。デートだって。これはチャンスだって、思って、嬉しかったのに。
 そう言えば。フェスティバルアーチって遊園地、もう何年も前に潰れて取り壊されたんじゃなかったっけ?
「心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心」
 廃墟が。
 廃墟に。

●廃墟へようこそ
「と、言う訳で遊園地を楽しんで来て下さいませ」
 集まった猟兵達に対し、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)は笑顔でそう言い切った。
「嫌だよ!?」
「何だよその遊園地は!?」
 猟兵達の反発は激しい物である。そりゃそーだ。
「フェスティバルアーチ……賑やかな電気街からちょっと歩いた位置、しかも二種類の電鉄駅の真上かつ温泉施設と隣接と言う恵まれた立地にあった小規模遊園地ですわ? 何か潰れましたけれど」
「いや、遊園地のプロフィールじゃなくて怪現象の説明をしろ」
 当然のツッコミにグリモア猟兵はちょっと拗ねた顔をしたが、付き合ってる場合では無いので無視する猟兵達である。
「廃墟渡り……廃墟に湧く、一匹見つけたら百や千は覚悟しろってノリのUDCだ」
 ハイドランジアが淑女ぶった猫を被るのを止め、ようやく真面目な説明がはじまる。語られるはアンディファインド・クリーチャーと呼ばれる邪神の類。それも群れを為すタイプの怪物。
「あの手この手で廃墟に人を引きずり込んだり廃墟を作ったりする有害生物なんだが……今回は廃墟になる前の施設をでっち上げて、犠牲者を引き込んでる見てえだな」
 そして取り込まれた人間は浸食され、やがて廃墟の一部となる。或いは廃墟渡りその物に成り果てる。そうやって廃墟を広げて行く心算なのだろう。
「何で、大量に行きかう客はほぼ一般人だ。流石に無視してバトルして巻き込まれた奴等皆殺しとかは避けたい」
 故に『遊園地を楽しんで』欲しい訳である。
 つまり客のフリをして施設に入り込み、UDC達を見つけ出し。人知れずその全てを仕留める。それが今回の猟兵達に求められるオーダーだ。
「猟兵なら早々浸食されねえし、廃墟渡りは知能があるんだかないんだか……まあ、少なくともまともな思考は持ってねえんで、そこまで巧みには隠れてねえ」
 一番厄介な要素である数も、今回は『場』を作るのに力を作っているのか比較的控え目な数との事。
「だが流石に容易い敵だたぁ言えねえ。寧ろクソ面倒な敵かも知れねえが……頼む。駆除してくれ」
 放置すればどれだけの犠牲者が出るかも分からぬ災害。それを最低限の犠牲で抑える力が、猟兵達にはあるのだ。
 輝きを放ち扉を作るグリモアの横でエセ淑女は頭を下げる。
「それと、後始末の事は考えねえで良いぞ。UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)の方に『ごめん! 宜しく!』って連絡は入れてあるから」
 人はそれを丸投げと言う。


ゆるがせ
 御無沙汰しておりますゆるがせです。
 ハロウィンらしいちょっぴりホラー……ホラー?
 まあ兎も角不気味な話を一つ。

●第1章:冒険『遊園地で遊ぼう!』
 一般客に紛れ込む為に「ハロウィンらしい仮装」か「地味な一般人のコスプレ」を推奨します。特に記載が無ければ勝手にあてがう場合があります。ご了承ください。
 小型ながらジェットコースター等もある。そこそこの遊園地です。真ん中の広場でステージもやってます。ライブとかマジックショーとか大道芸とか。
 いや、UDCを見つけ出すのが目的なんですが、ぶっちゃけ普通に遊んでも良いです。
 実の所ハイドランジアさんの言葉通り、廃墟渡り達は凡そまともな思考回路を持って居ませんので。本当に無造作にその辺に居ますので、探す事への工夫は然程いりません。
 勿論、結果的に入り組んだ所や見つかり難い場所に居る個体も居る為。そう言うのを見逃さず探し出す為の探索RPも大いに有りです。
 尚、UDCからの浸食に悩まされても構いません。基本的に猟兵が負ける様な物ではありませんが、まあ、心の隙を付かれてちょっと揺らぐ位の事は在り得るでしょう。
 おおまか懐旧や過去の後悔と後電波を鎹に、廃墟(≒過去)への回帰と一体化を非言語で誘います。

●第2章:集団戦『廃墟渡り』
 捨てられた物、喪われた物、かつて在った物、もう無い物で出来たUDCの怪物。
 邪神なんだか眷属何だか人型の怪奇現象何だか。
 一体一体は其処まで強く無いですが、兎も角数が多い上に根絶が滅茶苦茶難しい無限湧き系のアレです。但し上述の通り今回は割と数が少なく根絶し易いです。この場に居る奴らは、ですが。
65




第1章 日常 『遊園地で遊ぼう!』

POW   :    参加型ショーアトラクションで遊ぼう!

SPD   :    絶叫系アトラクションで遊ぼう!

WIZ   :    お化け屋敷で遊ぼう!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●楽しい遊園地
『園内にお越しの皆様に、イベント情報のお知らせです──』
「きゃー! きゃはははは!」
「余り走らないで。転ぶよー」
 華やかな園内。賑やかな雑踏。誰も彼もが楽し気な笑顔。
 広がる風景は紛れも無い祭事に賑わう遊園地のそれだ。それがUDCの怪物が生み出した偽りの風景にしても、けれど同時にそれはかつて確かにあった物。フェスティバルアーチと言う名の遊園地の過去に、他から持って来たハロウィンの賑わいの過去を張り合わせ、人を誘う華やかさを継ぎ接ぎし構築した仮の世界。
 廃墟渡りに正気等無い。けれど、そう言った『場』を作る事には長けている。
 何故なら彼らは過去の産物だから。過去と過去が混ざって出来た過去の継ぎ接ぎだから。
『園内にお越しの皆様に、迷子のお知らせです──』
「すいませーん、この辺りに私の首落ちてませんでしたかー?」
「ねえねえねえ、あそこのクレープ屋さん行こうよ」
 楽しめば良い。遊具も食べ物も全て過去から作られた本物だから。それ自体には何の害も無いから。
 廃墟渡り達はそれを邪魔をしない。彼等はただ人を引きずり込み、その合間に紛れ込むだけ。それだけで普通の人間は狂い浸食され取り込まれる。
 けれど彼らは程なく猟兵達の、自分達と廃墟に混ざり同化しない存在達に気付くだろう。そうすれば一般人への浸食も一度止む。彼らの興味が其方に向く故に。
『園内のお越しに皆様が其処に下さい其処に下さい其処の顔を──』
「やっぱり遊園地なんだしジェットコースターに乗ろうよ」
「あ、それ、それって私の首じゃないですか? ……あ、違ったみたい。ごめんなさい。返しますね」
 興味を向けても、彼等が積極的に動き出すのは随分後だ。UDCの邪神、狂気の怪物、それは恐ろしい存在だが……それ故に的確に動く事も無い。ただただ茫洋と猟兵達を観察し続ける時間が長くなるだろう。その時間こそが狙い目である。
 故に、今は楽しめば良い。或いは探せば良い。見つけた怪物達に印をつけても良い。何か他の工夫をしても良い。
『園内は』
「ごめんごめん、待った?」
「ううん、今来た所だよ。じゃあまずどこに行こうか?」
 所であなたの身体に乗ってるそれ、私の首じゃないですか?
カーバンクル・スカルン
【SPD】
すんごい無茶振りをされた気がするぞ……まあ、実害が出る以上やるしかないんだけど。

にしても、やっぱり温泉地の近くだから人もたくさん来てるねー。アトラクションに目立つ物はないけど、地方の遊園地なんてこんな物でしょ。

あ、あの剣模造刀じゃなさそう。……変なところに気合入ってるな。有名じゃない分ハロウィンの装飾に気合を入れたいのは分かるけど。

……そんな感想を呟きつつ適当に目についた物で遊んでいたら客には見えるでしょ。そのアトラクションに致死性の罠が仕掛けられてたら全力で避けていくけど。

え? 首? あんたの頭の上にちゃんとくっついてるじゃん何言ってるの?



●宝石は穢されない
「やっぱり温泉の近くだから人もたくさん来てるねー」
 華やいだ雑踏の中、そう呟いた少女は美しかった。焦茶色の肌は艶やかに、一房だけが黒いその赤髪は光沢すら備え、恰も宝石の様な輝きを湛え……いや、実際に宝石なのだ。何故なら彼女カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)は鉱石生命体たるクリスタニアンなのだから。
その身は美しく透き通った宝石、けれど道行く人々がそれに気づく事は無い。それは仮装の行き交うハロウィンのイベントの最中だからか、或いは猟兵である彼女自身の特性や工夫の賜物か。
「アトラクションに目立つ物はないけど、小さめの遊園地なんてこんな物でしょ」
 見回すその唇から零れる言葉は割と容赦がない。遊園地のスタッフが聞けば事実故に否定できずに苦笑したかも知れないが、幸いそうはならない。基本的に声の大きな彼女だが、しかし考え事中は小声でぶつぶつ呟くのが常であり、今もまたそうなのだ。
「お、こう言うアトラクション懐かしいなー」
 遊園地への感想を呟きつつ適当に目についた物で遊ぶ。そんなカーバンクルは一見、遊びに来た来場客その物。だが、その実態は猟兵。
 その赤い宝玉の瞳は、アトラクションに罠の類が無い事を確認し。更に抜け目なく周囲を観察している。
 人ごみに紛れたUDCの怪物を探し出し、その危険性を少しでも把握する為に。
『すんごい無茶振りをされた気がするぞ……』
 最初、そんな風に零し。
『まあ、実害が出る以上やるしかないんだけど』
 けれど直ぐにそう続けた彼女だ。歴史あるクリスタルシップで蝶よ花よと大切に育てられた御嬢様……そんな経歴の筈の彼女は、けれどこう言う時にそのストイックな気質を見せる。
「あ、あの剣模造刀じゃなさそう。……変なところに気合入ってるな」
 もしもアトラクションに致死性の罠が仕掛けられて居たなら全力で避けていく。そう決めて徹底しているその警戒の精度は高い。道すがらの仮装にコメントしながら、あらゆる仕掛けを想定し危険を先読みする。彼女自身、その経歴に似付かわしくない程度には物騒な知識……例えば武器として扱っている古今東西の拷問器具に関して等を持っており、武器防具の改造や隠蔽の技術にも長ける彼女からすれば容易い事なのかも知れない。
「変なところに気合入ってるな。有名じゃない分ロウィンの装飾に気合を入れたいのは分かるけど」
 自称スクラップビルダー。けれど闘法は滅法物騒。
 そんなお転婆娘は客を装ったまま園内を軽やかに歩き周り、その情報を拾い集める。
 結果的に判明した事。先ず一つ、どうやら罠の類は無い。不在の証明は難しい、けれど確証を持てればそちらに気を割く必要は無くなる。後に待つ戦いを思えば重要な確認事項だ。
 そしてもう一つ。化け物は、そこかしこに、そして無造作に居る。
 隠れる心算があるかどうかすら怪しく、ただただ居る。そして好き勝手に過ごしている。それは彼らが其処に在るだけで人の心身を侵食する害悪その物であると言う事でもある。
「あのー、すいません。この辺りで私の首見ませんでしたかー?」
 カーバンクルにおずおずと声を掛けて来、無くしちゃってーとはにかんで笑うその女性は返り血に塗れている。周囲の誰一人として気にもして居ないのはハロウィンの仮装と思い込んでいるのか……それとも、UDCの力によって認識を歪められているのか。
 けれどそうだとしても勿論、猟兵たるカーバンクルには通じない。
「え? 首? あんたの頭の上にちゃんとくっついてるじゃん何言ってるの?」
 赤い宝石とマグマが作る鉱石の名を合わせ持つ令嬢は、真正面からそう返す。
「……えっ? ええ? あ、あー! 本当だー」
 キョトンとした後で、己の顔を己の両手で掴んで女性は快哉を上げた。
 それから無造作にブチブチと首を引き千切って己の頭部を引っこ抜き、確認する様に自分の前に掲げ持つ。「なーんだ。最初からちゃんとあったんですね。私ったらうっかりられれえれ間の間の間の」
 捧げ持たれた体勢のまま気恥ずかし気に笑う女性の生首は、けれど血の一滴も零さない。勿論、自身の手で首を引き千切られた身体からも何も零れやしない。
 浸食され、完全に化物に成り果ててしまったのか。それとも最初から怪物だったのか……。
「おーおー、こりゃちょいとばかし刺激的だねー」
 けれどその程度で怯むカーバンクルではない。
 この期に及んでこの惨事に誰も気付かない、異様としか言えない……けれど都合が良くもある状況を把握し、素早く『準備』へと移る。さあ、聖女の名持つ車輪か、スクラップ製の猛獣か、鋸や金槌か……この化物共に相応しい得物はどの拷問具だろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファウ・ダァド
えーとね、幽霊船の船員な感じで仮装をするよ!
ほらバーチャルキャラクターだけに、これが本当の仮装(仮想)人かk《言語エラーが発生しました。》

はい。仕切り直します。
絶叫系アトラクション(前後にぶんぶんされる船型のやつ)を幻想方舟で乗っ取るよ!
うーん、これは船舶!ヨシ!

一般の人間さまをユーベルコードの力で保護しつつ(乗り心地強化!)
ばーっと高い所に上がったところで上から観客をスキャンして目星を付けていくね。
わーい!たーのしーーーーーー!!!
なんか普段より沢山客が乗っているけど気にしちゃダメだよ(乗客数増加!)

でも、この子達もかつて人を乗せていたんだねえ。ちょっとシンパシーを感じちゃう。



●次世代だなんて時は何時の事だ
 仮装か変装を推奨する。と、そう言われた時。彼女は明るくこう答えた。
「えーとね、幽霊船の船員な感じで仮装をするよ!」
 そんな元気印の宣言通り、船員服を着込んだファウ・ダァド(オートパイロット・f28402)にはガイコツが噛み付く様に纏わりつき、帽子の横に人魂、そして手には海図と羅針盤。紛う事無く幽霊船員の仮装である。
 そしてハロウィンイベントに飾られるこのフェスティバルアーチの中でその姿は見事に溶け込んでおり……
「ほらバーチャルキャラクターだけに、これが本当の仮装(仮想)人かk《言語エラーが発生しました。》」
 いや、君は何の話をしているのだ。
 ちなみにこれは恐らく仮装と仮想を掛けた高度で知的な駄洒……まあ、うん。それは別に良いか。
「…………」
 どうするんだこの空気。重いぞ。
「はい。仕切り直します」
 そうして下さい。

 遊園地によくある絶叫系アトラクションの種別の一つに、船型(多くは海賊船の事が多いように思う)のライド(乗り物)が振り子の如く前後に振られる物がある。此処、フェスティバルアーチが誇るゴンドラ二台式の絶叫マシン『サトゥルヌス』もまたその類であり、今まさに開始せんと五台のゴンドラが動き出そうとしていた。
 ……多くない?
『ご搭乗の人間さま。短い間ではございますが、ひとときのスリル体験をお楽しみ下さい』
 美しいが何処か機械的な案内音声が響く、滅んだ文明の作故に長らく更新が為されていないポンコツAIファウの、けれど稀に見せるまともなナビゲーションボイスだ。
 どうしてUDCが再構築した遊園地のアトラクションにUDCならぬ彼女の声が響くのか。それは彼女がこのアトラクションを乗っ取ったからである。
 ……何で? どうして!?
「なんか普段より沢山客が乗っているけど気にしちゃダメだよ」
 何時の間にか普段のポンコツ調に戻ったファウがそう注釈する。実際、先の通りゴンドラの数からして増えているのだが、これは怪現象では無く乗っ取りを含めて彼女の力による物である。
 ユーベルコード【幻想方舟(ロストシップアーク)】。自身が操縦する船舶の乗客数と乗り心地を増強する船舶パイロットとしての彼女の適正に特化した術式。と言うか他の事には一切使える気がしない専心ぶりのコード。
 所で、決まった空間を揺れたり廻ったりするだけのこのアトラクションを指して船舶と言うのかは……
「うーん、これは船舶! ヨシ!」
 だそうである。こうも力強く断言されては仕方あるまい。
「わーい! たーのしーーーーーー!!!」
 そして本人もめっちゃ楽しんでいる風情。
 見目と相まって愛らしく無邪気な様子ではあるが、けれど彼女とて猟兵。その本願はスリルとは別にある。
「1、2、3……たくさんだね!」
 その航海術と空中機動のノウハウは、ゴンドラが最も高度に振り上げられた頂上の時間を最大限長く調整。ナビゲーションAIとしてのスキャンが目的の物を探し情報収集する。それらはつまり、偵察の技。
 園内に数多存在する、UDC廃墟渡り達の位置と姿に次々と目星を付けているのだ。
『忘れた忘れるるろろろろろら乱雑な乱雑な乱雑な』
 勿論、そんな事をすれば必然的に怪物の側からもその存在を認識される。何せアトラクションを丸々一つ乗っ取っているのだから当たり前だ。
 けれどそれも好都合。それによってファウを注視したUDCからの浸食は彼女に誘導される事になり、新たな被害の拡大を防ぐのだから。猟兵である彼女に浸食は致命的とはなり得ない。
 そして『サトゥルヌス』の観客が巻き添えを喰らう心配とて皆無だ。彼女の力により【乗り心地を増強】されているのだから……搭乗中に邪神の狂気に侵されるのは『乗り心地が良い』とは到底言えまい。だから保護されると言う概念論理。
『終わり終わったたららたら終わもう既にとっくに昔に前に前に前に前にもう無いもう無なななな』
 遠く離れた位置から、けれどハッキリ聞こえる怪物の呼び声とも独り言ともつかぬ繰り言。まともな意思も思考も感じさせないそれらがただただ詰め込み混ぜ合わされられた『過去』の凝縮であると理解し。ファウはふと、己が掌握している絶叫マシンを見下ろす。
「でも、この子達もかつて人を乗せていたんだねえ。ちょっとシンパシーを感じちゃう」
 怪物の邪術により再構築されたアトラクションは、本当であれば最早存在もしない廃棄された過去の産物。
 そしてファウもまた、滅びし人類によって作られたナビゲーションAI……つまり、言い換えれば彼女もまた遥か遠い昔に打ち捨てられた……
 果たして、呟くその顔はどんな表情を浮かべているのか。
 高く跳ね上げられた船舶の上、それを見得る者は上天の日輪以外には居やしない。

成功 🔵​🔵​🔴​

スピーリ・ウルプタス
上着脱いだらとてもとても地味なヒトになれますね!
(Yシャツにズボン。ラフな格好になっただけの変人)

ふむ、一度“視て”みましょうか
魔眼(※アイテム)にて、身近な周辺を探り、一番遠そうなUDC麻痺
さて、あとは視えた範囲自力で向かい探しましょう!
UCにて本体増やしておき。失礼、台車お借り出来ますか?
遊園地か大道芸スタッフにでも見えますかね
(台車無ければ自ら両腕に積んで持つ、浮かせる、マジックです!と言い張る←鎖巻き巻きの本の山という謎風体)

見つけたUDCたちは各分身本体の鎖伸ばしてふん縛りましょうっ
…ああ羨ましい…
時間があれば是非、ショーにてナイフ投げの的にでもなりたいですね(願望

※過去への後悔皆無



●身命を捧げ惜しまず
 賑わいと言うのは、其々が思い思いに楽しんで居るからこそ形成される物ではある。故に本来道行く人々は他者の事等あまり見て居ないのだ。そんな事よりも自分が楽しむ事に夢中だし、そうあるべきでもある。
「……わ」
「ねえねえ、あの人さ……」
 ただ、ハロウィンイベントと言う仮装を前提としたこの場に置いては少し事情が違って来る。人の仮装が楽しみの一部と直結する為、結果的に他人をその目に入れるし。そして一度見やればそのまま目を奪われる事だってある。
「……何だかちょっと素敵よね」
「絵になるわあ……」
 雑踏の一部の女性達の視線の先、黒いYシャツにズボンと言うラフな出で立ちのスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)が優雅に歩を進めている。
 普段、ズボンに合わせた仕立ての良いジャケットを着て赤いネクタイを締めている彼のこの風体。それは勿論、依頼に際して推奨された『地味な一般人のコスプレ』。
『上着脱いだらとてもとても地味なヒトになれますね!』
 と、スピーリ自身そう言い切った自信のコスチュームである。
「……しかし、妙に見られております様な?」
 うん、それは多分地味じゃないからじゃないかな。
 柔和で穏やかな笑顔を絶やさない青年にしてロマンスグレー候補生と評される容貌の彼である。ラフな格好して歩いてたらそりゃ地味所か寧ろ一部の婦女子のハートにダイレクトアタックじゃなかろうか。
「ううん、しかし私としてはどうせならもっと鋭い目で睨んで頂いた方が……いえ寧ろいっそ鋭い一撃を……! ……ふぅ」
 おい。おい。
 見た目は紳士、本性はドMの変人のスピーリである。一たび言葉を交わせば一発で皆逃げそうな気もするが、しかし彼は己に視線を向ける女性方を相手にする事は無い。何故ならば、彼の目的は別にあるのだから。
「ふむ、一度“視て”みましょうか」
 何時の間にやらその手に鎖で封じられた一冊の本。その裏表紙に嵌め込まれた貴石が美しく煌めく。
『……ッ?』
 次の瞬間、数百メートル先の物陰で蠢いていた『何か』が急に足を縺れさせた様に倒れた。
 振るわれたは魔石である<魔眼の貴石>の力。3分間限定された範囲内を見渡す超知覚と、バジリスクの目の如き麻痺の行使。今、彼の身近な周辺に居るUDCは全てその位置を把握されたのだ。
「さて、あとは自力で向かい探しましょう!」
 但し麻痺の与えれるのは一体に対してのみ。故に視えた範囲数百メートル内の残りは彼自身が直接対処しなければ行けない。故にヤドリガミの男はその身を翻し園内を駆け出す。

「……ああ羨ましい……」
 暫く後。
 ガラガラガラと音を鳴らし、大量の本が満載の台車(借りて来た)を押しながらスピーリは嫉妬を孕んだ声を漏らす。羨む相手は鎖でふん縛られたUDC達である。
 うん。意味不明なのでもう少し詳しく説明しよう。台車に乗せられているのはユーベルコード【命舞の書(メイブノショ)】により複製された、ヤドリガミである彼自身の本体。先に扱った鎖巻きの禁書。
 その鎖が、見つけ出した怪物達を片っ端から捕縛して引き摺っているのである。そして変態は縛られたその有様を羨んでいるという状況……説明しても良く分からんな。何だこの状況。
 雑踏の一般人達が何も言わないのは、UDC達の力のせいか、それともスピーリの目論見通り遊園地か大道芸のスタッフや仮装に見られているのか。……或いは単に絵面がアレ過ぎて関わり合いになりたくないのかも知れない。
 ちなみに、鎖で縛りあげるのも、必要に応じて書が空を舞うのも全部『マジックです!』と言い張ったら案外押し通せた。為せば為る物である。
「しかし、此処までしても未だ私を『敵』と認識して居ないのですね」
 少し怪訝げに呟く紳士の言葉通り、縛られた怪物達はその不気味な体を蠢かせ拘束から抜け出そうとはしても、それを為したスピーリに何か敵対的な行動を起こそうとはしない。狂気の産物が如きUDCの怪物の思考に理屈を求めるのが間違いなのかも知れないが……。
『うろろろ昔昔昔はそこに無いここにも無いけれどけれどけれどろろろろ』
 意味不明な言葉。
 ただ、こうして間近で観察すれば分かる事もある。これ等は過去、無尽蔵に押し込められた幾億の過去の凝縮だ。それも喪われた過去……時の廃墟と言えば理屈は通るのか。だから、彼らが注視するだけで一般人は狂い浸食を受け魂を犯されて過去に取り込まれる。
 そこに悪意すら無かろうと、ただ見られただけで。
 過去がお前を見ているぞ。そこに居るぞ。
「……」
 ヤドリガミの青年は不意に懐旧を感じ、少し目を細める。
『何人殺めたか忘れたなんて本当かな? 本当は一つとして忘れてないし忘れる事なんて出来ないきっと嫌ならもう止めれば良いこっちにおい』
 それは言葉の様で言葉では無く、魂に直接触れる様な懐かしさ暗い暗い何か。
 スピーリ・ウルプタスは。その存在の最初から主殺しを宿命付けられ、その役目を熟し続けた血濡れの禁書は。須らく愛しく想う歴代の全てを殺し続けたソレは、その過去の持ち主達その物の気配とすら言える過去の凝縮を前に。
「時間があれば是非、ショーにてナイフ投げの的にでもなりたいですね」
 朗らかに全然関係ない事を宣った。
 と言うか何を言ってるの。ハイレベルなSMって言うかもうただの処刑だそれは。
『…………』
 怪物達が動きを止める。
 目前のその存在が。猟兵と言う存在の強さ故では無く、ただただ己の過去に一切の後悔が無いのだと。その身を鎖の如く纏わり付く宿業に、けれど一寸の恨みすら無いのだと。その手で喪った全てを前に、懐かしみはしても手を伸ばす事は無いのだと。
 絶やさぬその笑顔の芯にある何かに、気づいたかの様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

仮装はサキュバげふんげふん小悪魔リトルレディで。
遊園地を愉しみつつ感応能力(第六感、情報収集、索敵、視力、聞き耳、結界術)で『廃墟渡り』を探しましょ。
混沌魔術を実践するケイオトであればマルチタスク(瞬間思考力、多重詠唱)はこなせて当然よね。
いざという時に結界術で作ったミラーワールドに保護できるように『誘いこまれた一般人』と『過去から再現された虚像』も精査して一般人の方にマーキングしておきましょ。
侵食?むしろ私が侵食(ハッキング)する側ですがナニか?呪詛返し(カウンター)で分霊(式神使い)を送り込んで憑依(降霊)させちゃうかも?



●『無い物』は混沌の中にすら含まれぬ
「……おい、あの仮装」
「ああ、めっちゃ可愛いけど……あれは」
 仮装イベント事の中、注目を集めるのは当然凝った仮装や見事な仮装だ。だが、現実として容姿の見える衣裳の場合なら当人の見目が大きな要素となる事もまた事実である。
 そう言う意味に置いて、愉し気にメリーゴーランドに乗る彼女が人々の目線を集めるのは必然と言えよう。滑らかな銀髪に白い肌、そして妖しく煌めく赤い瞳……いっそ幼げな身体に合わぬそのミステリアスな色気。子供から大人に成るそのあわいにだけ存在し得る、儚くも危うい妖艶とでも評するべきか。その小悪魔的な美しさは賞賛されて然るべき物なのだろう……が、まあ、その。仮装の方はあの、何と言うか布地とか肌色とかですね。いや似合っては居るのだけどこれはどう見ても。
「完全にサキュバ──
「小悪魔リトルレディよ」
 通行人のズバリな明言を何時の間にか其処に居た本人……アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト魔少女・f05202)の言葉が間髪入れずインターセプトした。
 ふっくらした唇に人差し指の先を当て、右目を瞑った綺麗なウィンクで『ね?』とばかりに遮られ。その通行人は顔を真っ赤にしてブンブンと激しく頷く。
「馬じゃなくてイルカやペンギンって言うのは珍しいわねー。さ、次は何をしようかしら♪」
 今しがた迄載っていた海モチーフのメリーゴーランドの感想を呟きつつ、次のアトラクション……或いは可愛い仮装を探して視線を巡らせる彼女は一見、遊園地を夢中で楽しんでいる少女にしか見えない。
 けれど彼女もまた猟兵。それも魔術的パラダイムシフトにより世界観すらその手で弄る魔王の類であり、それが『愉しむ』ともなればそれは遊園地での遊びのみで納まる物では無い。
「混沌魔術を実践するケイオトであれば、この程度のマルチタスクはこなせて当然よね」
 ただ歩いているだけと思うなかれ、その高速思考にて為される多重詠唱は彼女の最も得意とする結界術を核に、視覚聴覚から第六感迄の全てを束ね情報を集め索敵を行う感応能力として組み上げられているのだ。
「本当に数が多いわね」
 少し呆れた様に呟く彼女は既に周囲のUDC廃墟渡り達を探し出している。いや、それだけでは無い。『誘いこまれた一般人』と『過去から再現された虚像』も精査し、一般人の方をマーキングして行っている。
 何故そんな事をするのかと言えば。
「いざという時、結界術で作ったミラーワールドに保護できるようにね」
 と言う理由だ。UDCの怪物がこうも広い範囲で被害を広げれば犠牲者ゼロとは行かない。けれど案内人が言った様に放置して皆殺しにさせる訳にも行かない。だからこそ無辜の民の安全を測り予め準備するのは、己が実力への絶対の自信と余裕故か。或いは純然たる彼女の善意や責任感か。
『ろれららら御伽噺の終わりの子供の時間はろろろろろ』
 無論、そうも次々と術式を振り撒けば。神秘を近く出来ぬ一般人は兎も角、UDC達が気付かない筈も無い。未だ敵意とまでは行かないまでも、興味を惹いたという風に周囲の怪物達が一斉にアリスを見やる。
 見ると言う事はその時点で干渉である。そして意識すると言う事は相手と己の間に縁と認識の繋がりを作ると言う事。それが廃墟渡り達の様な『外れた』存在であれば、その時点でもう影響を齎す。
「侵食? むしろ私が侵食する側ですがナニか?」
 けれど自信家の小悪魔少女は泰然と笑う。
 ただでさえ絶技と言えるアリスの術技を更にもう一段階上の域に押し上げているユーベルコード【混沌魔術・技能拡張(ケイオスマジック・エンハンス)】、あらゆる既存技術を専門外の事であろうと躊躇なく借用し混ぜ合わせ組み上げ、その魔術式に常に大変革を起こし続ける事で為される超進化的強化。あらゆる事は真実であり可能であると豪語して見せる彼女の術は、その言葉を証明する様に怪物達の介入を逆に呪詛返しで辿り、己が分霊を送り込んで憑依させる。
「……は?」
 だがその目が見開かれ、形の良いその眉が少し寄せられる。だがそれは恐怖や戸惑いでは無く、道端の吐瀉物や不快害虫を見た時の如き嫌悪。
 ハッキングと言う彼女ならではの浸食を為し返すならば、その過程で必然相手の仕組みを読み取り把握する段階があり。そしてそれに気づく。その空っぽぶりに。オブリビオンと言う終わった過去からの来訪者と言う以前に、こいつ等は、いや、これ等は本当にただ過去を凝縮しただけのもの……寧ろ『もの』とすら言い難い何かなのだと。
「むしろ何で人型して思考っぽい事が出来てるのよ」
 そこが先ず異常だと。呆れた様に言ってケイオト魔少女は術式を更に構築して行く。
 これは魂やエナジーすら持たぬ紛い物、どの世界にも不要な害。であれば猟兵としても、混沌魔術の実践者としても、容赦も情けも無用と言う物だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
一般人の仮装?
それでいいなら、スーツを着て現場へ向かう
UDCアースではこれが一般的な服装だったはず
…と思ったがどうやら浮いている
なるほど、一般的ではあるが遊びの場にはそぐわないようだ
まぁこれも仮装ということで、ひとまず仕事に取り掛かろう

遊園地の催しを眺めながらUDCを探す
ライブやショーの観客に紛れてはいないかと
見つけたらすれ違いざま、自分の血液を付着させておく
ほんの僅かでいい、それだけ香れば見失っても匂いで追える

…いま、何か
遊具や催しを楽しむ歓声の中に、幼い頃に亡くした妹の声が混じったような

救えなかった大切な、懐かしい後悔の音に、多少くらりと
…そうして呼ばれても、『そちら』には行けないのだがな



●前を向く銃口
 公平を期するべく先んじて語るなら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はダークセイヴァーの、それも貧民街の生まれだ。UDCアースの世情や通念には詳しくないのが当たり前である。
「UDCアースではこれが一般的な服装だったはず……と思ったが、どうやら浮いているな」
 だから、この程度の読み違えは実際仕方ない範疇と言えよう。寧ろ周囲の視線を感じて即座にそう判断できる辺り、流石戦場の情報を俯瞰し状況を把握する事を重きとするガンナーと言える。
 尚、彼の出で立ちはハロウィンの仮装では無い。
『一般人の仮装? それでいいなら……』
 と。現場へと出発する前、出された選択肢を前にそう言った彼が選んだのはスーツ姿だ。
 齢三十、それも身長180を軽く超える長身の男性が着るには全く問題の無い恰好と言える。それ自体は寧ろ非常に良く似合っているし、絵になると言ってもいいだろう。だが……此処は夢と娯楽の王国たる遊園地な訳で。
「なるほど、一般的ではあるが遊びの場にはそぐわないようだ」
 この世界この国の社会通念に置いて、仕事と勤めの象徴の如き衣装を着こなし歩む男。なるほど、似合わないだろうそれは。
 納得の吐息を小さく零し、けれどシキは特に動揺を見せる事無く歩みを再開した。
「まぁこれも仮装ということで、ひとまず仕事に取り掛かろう」
 割り切った言葉を最後に切り替える。
 ストイックな彼に取り、周囲の目や反応等は二の次三の次なのだ。それよりも受けた仕事を完璧にこなす事と、その為の取り組みこそが己が相対するべき事柄と。その青瞳を前にだけ向ける。

「おーい、早く行くぞー」
「えーー! ちょっとまってよお兄ちゃん!」
 賑やかな雑踏を歩く。行き交う微笑ましい遣り取り等は一顧だにせず聞き流す。注意すべきは紛れ込み潜むUDCの怪物達。
 そうだ、ライブやショーの観客に紛れているかもしれない。
「すごいすごい今の見た兄貴! センターの子が私に笑ってくれたよ!」
「いや、そう言うのは気のせいか思い込……痛っ!? 止めろ!?」
 銃士として培った経験と、生き馬の目を抜く貧民街で育った注意力と、人狼としての五感。それらを駆使すれば、次々とその姿はその知覚に捉えられて行く。
 一般人の溢れるこの場で事を起こす気は無い。だだ静かに近付き、さり気なくすれ違う。
「お兄様、私疲れました。おぶって下さいまし」
「さらっと要求するね御前……」
 すれ違う瞬間、己の血液を付着させる。ほんの僅かでいい、それだけ香れば人狼たるシキは見失っても匂いで追える。
「大丈夫? 絶叫マシーンは苦手だった?」
『   』
 次々と見つかる『廃墟渡り』達、その数はなるほど多く。けれど着実にその分布も把握出来て行く、一たび処理を開始すればどう順にどう言うルートで処理して行くか。そんな仮の算段まで付けれる程に。怪物達は怪物ゆえにかその微かな感触に無頓着でほとんど反応もしない。
 順調だった。けれど。
『        』
「……?」
 聞き流していたが故にそこでようやくそれに気付く。
 先程から耳に入って来る会話、その内容……いや種類? に妙な偏りがある。丸で揶揄の様に、或いは何かから齎された歪みの様に。
『      、     』
「……いま、何か」
 そして何かが聞こえた様な、気がする。
 遊具や催しを楽しむ歓声の中に、酷く懐かしい声が混じった様な、気が。
『    。     。     !』
 家族の声。幼い頃に亡くした妹の声。
 自分を呼んでいる。聞こえない。これは声では無い。音でも無い。けれど呼んでいると分かる。
 それは哀切か、親愛か、或いはもしかしたら恨み言だったりするのかも知れない。
 大切だった、けれど救えなかった。喪った肉親。
『   ……』
 対して自分はどうだ、戦い方や生きる術を教えてくれた恩人にして師に拾われた。剰えその命を以て庇われ命まで救われた。……妹の事は、救えなかった癖に。
 覚えてる? ねえ本当に憶えてる? どんな声だったどんな呼び方だったどんな目だったどんな笑顔だったどんな妹だった? ねえ。ねえねえねえ。こっちに来れば。全部見れるよ?
「……そうして呼ばれても、『そちら』には行けないのだがな」
 けれどそう言う……言えてしまう。彼は猟兵なのだから。
 聞こえないのに聞こえる、懐かしい後悔の音。多少くらりとは来た。けれど、それだけだ。弱みを見せず常に冷静であろうと言う心構え故か、『静かに燃ゆる弾道をもって其の道を切り拓く様は堂々たれ』と誓う、紋章に篭めたその魂の芯が故か。
「……」
 気付けば声なきまがいものの声など聞こえない。過去の塊たるUDCに『触れ』られたせいだったのだろう、何処か曖昧になっていた肉親の記憶とて今はハッキリとしている。問題は無い、無言のまま索敵とマーキングの作業に戻った。
 強い彼は、強いから一人で立てる。一人きりでも戦える。
 しかしそれは別に孤独であるという事では無い。信頼する者、優しい知己、感謝する相手、戦友……そしてかつてあった忘れじの絆達。ちゃんと『こちら』に全てある。
 だからだろうか、男は前を向く。振り返らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白瀧・テテ
一匹見つけたら百や千は覚悟しろって、Gじゃないですか!ヤダー!
そういうのは、殲滅しなくちゃね!

私はユーレイの仮装をするぞ!
ひゅ~、どろどろどろ。おばけだぞー。こわいんだぞー。頭?頭はあるよー?

キャー!なにここスゴーイ!遊具が沢山!
(サムライエンパイア出身だから)みたことないモノばっかり!あの、くるくる回ってるティーカップはなに!?わー!楽しそう!全力で回す!
西洋のお馬さんもキラキラ可愛い!お姫様になったみたい。

危なそうな一般人が居たらこっそり、アイテムの『破魔』の力で距離をとらせ、怪異を物陰に引きずり込んでボコってOK?(髪の毛の手をグーにして)



●その手が掴むもの
「一匹見つけたら百や千は覚悟しろって、Gじゃないですか! ヤダー!」
 此度の依頼に際し、白瀧・テテ(ヤドリガミの闇医者・f25201)の感想は先ずそれだった。
 まあ、そりゃそうだろう。個体毎の強さが然程では無いのが幸いとは言え、ターゲットであるUDCの見目はどう考えても目と心の優しくは無い不気味な物。その上で数が多いと言うかのあれとかあのあれを彷彿とさせる特性を持って居ると言われれば、げんなり来るのも無理はなくうんざりするのも当然と言う話だ。
「そういうのは、殲滅しなくちゃね!」
 だがその嫌悪は逆にやる気に繋がった。そもそもヤドリガミであるテテは、寺に奉納された紙製のヒトガタをその本体としている。なれば湧いて集り齧って来る虫類のイメージに良い印象がある筈もないのだろう、自我と肉体を得た今となってはそりゃ退治に前のめりになるのも納得と言う物だ。
「ちゃっちゃと駆除しちゃおう!」
 そう気合を入れていた。のだが……

「キャー! なにここスゴーイ! 遊具が沢山!」
 現地である遊園地に来て間も置かず、すっかり大はしゃぎである。
 しかしこれを即落ちと言うのは流石に厳しい物言い過ぎるだろう。何せ彼女はサムライエンパイアの出身であり、そんな身の上からすればUDCアースの遊園地は例え小型であろうとも。
「みたことないモノばっかり!」
 と言う訳なのだ。そりゃあ興奮するのも無理はない。
「この、くるくる回ってるティーカップはなに!?」
「ああお姉さん遊園地は初めてなの? これはねー」
 キラッキラした目で周囲を見回す姿は微笑ましく、疑問を口にされればつい答えたくもなる話だ。実際一人の女性客が破顔しながら応え、コーヒーカップと呼ばれる遊具の説明をしてやる。
「わー! 楽しそう! 全力で回す!」
 テテは一目見れば成人女性と見える見目をしている。それが童女の如くアトラクションに向かう姿は年相応とは言い難いのかも知れない。けれど此処は遊園地、誰もが楽しみ騒ぐ為の施設である。それを悪し様に言う野暮な者なんていやしないのだ。
 ラブ&ピースをモットーとするテテからすれば、ある意味でとても相性の良い夢の国。それをヤドリガミの闇医者は存分に堪能し楽しんでいる。
「他にもメリーゴーランドもある筈よ。私も此処のは未だ行って無いんだけどー」
 そんなテテの陽性に好感を禁じ得なかったのだろう。先の女性はコーヒーカップをフル回転させまくった末に満面の笑顔で出て来た所に、更にアトラクションの事を教えてくれる。
「西洋のお馬さんもキラキラ可愛い! お姫様になったみたい」
 聞いて、見て、楽しんで、それが遊園地の正しい作法。
 そしてついでに言えば今はハロウィンイベントなのだから、仮装するのも作法に適い。
「そう言えばお姉さん、可愛い仮装だね。その華は椿? あれ? ミイラ?」
 女性がテテの仮装を今始めて気付いた様に誉める。
 その感想がしおかしい。
「私はユーレイの仮装だよ! ひゅ~、どろどろどろ。おばけだぞー。こわいんだぞー」
 テテのお茶目な申告通り、その仮装は白と赤の髪に不思議と似合う和服の幽霊のそれだ。黒い木札や人魂が飾るその仮装は中々に可愛く、確かに足に少し包帯じみた物が巻かれているけれど、とてもミイラには見えない。
「ああ、うんそうだね。あれ? でも前は? 未来? 手? 今は。今って……何だっけ」
 その愛らしい稚気に女性は笑うけど、その目の焦点が俄かにブレ出す。言っている事も更におかしく、まるで時間の感覚が喪われ出したかのように。
「見える。見えない……何? これ。何も……私、私の頭…………何処?」
 一般人である彼女には知り得ないし分かる筈も無い話。UDCからの影響や浸食には個人差があり、これはその中でも比較的多い例。
 過去はもう無い物だ。それに混ざり合い出せば己もまた無い物。そこに最早時系列等無く、埒外の存在たるオブリビオンでもあるが故に本来知覚も認識も出来ない物も見え。けれど『今を認識する器官』である五感は無くなり、その塊である頭部の存在もまた無い物と……。
「頭? 頭はあるよー?」
 落ちて行く思考を、テテの優しいその言葉が引き止めた。
 それは事実でもあり、心強い肯定の言葉でもある。
「え、あ……私、あれ?」
 だがそれも数秒だけ、ほんの少しだけ戻った正気は直ぐにまた過去の奔流に引きずり込まれ、その目が黒く淀み行く。
「大丈夫! 私が助けてあげるから!」
 けれど、その数秒があれば十分なのだ。何故なら目前の騒がしい女性は、けれどこの上なく頼りになる猟兵の闇医者にして、妖剣士。力強いその言葉に偽りなど無い。
 続く数瞬、彼女を注視して居た者が居たなら見えたかも知れない。和紙と木の形代が。揺るぎなき守護者と詠われる不動明王の像が持つ倶利迦羅剣が。そして腕の形をしたヒトガタ、子を想う親の想いから意思を得た宿り神の姿が。
「……あれ?」
 女性は不意に周囲を見渡す。
 先程まで汚泥に沈むが如く混濁した意識はすっかり正常。破邪の力が邪神の影響を引き離し距離を取らせた故なのだけど、勿論そんな事を知る由も無い彼女は不思議そうにキョロキョロと周囲を見回すだけだ。
「お姉さんは……?」
 何時の間にか見当たらなくなったテテの姿を探して。

「さぁて、それじゃあボコってOK?」
 そして件のテテはと言えば怪物と相対している。
 女性を注視する事でその影響を齎していたUDCを、物陰へと引きずり込むのに使った大きな白赤の『手』を。ユーベルコード【髪の手(カミノテ)】にて己が髪を束ねて作る、実に40t近くの重量を持ち上げる怪力を有すその腕を『グー』の形に握りしめ。
「私の腕から逃げられるかなー?」
 勿論、逃がす気などさらさら無い。
 アミューズメントパークの楽しいひと時は一先ず是迄、これからは猟兵の時間である。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『廃墟渡り』

POW   :    廃墟渡りは廃墟を作る
【廃物と残骸と遺物と過去の津波の様な奔流】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    廃墟渡りは廃墟に居る
戦場全体に、【居るだけで心身を苛み侵食する喪失の呪い】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    廃墟渡りは廃墟を孕む
【内に体積しているこの世全ての過去と喪失】から、対象の【戻りたい、還りたい、回帰したい】という願いを叶える【死毒の瘴気】を創造する。[死毒の瘴気]をうまく使わないと願いは叶わない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●廃墟渡りは此処に居る
 どうやら彼らは敵対者らしい。自分達の継続と拡大を阻害する、排除すべき要素らしい。この期に及んでようやくやっと『それ等』はそう気付いた。
『廃墟を』 
 だがそれも仕方が無いだろう。
 索敵の間に猟兵達が紐解き気付いた様に、彼らは寧ろ人の形と思考を持って居る事自体がおかしいと言える。ただの過去と言う概念の凝縮。ある見方をすればこの世の全ての過去と言う膨大な積み重ねであり、逆に別の見方をすればもう存在しない喪われた結果と言う虚無だ。
『廃墟に廃墟を』
 それが今、此処に存在している。それ自体が異常なのだ。
『廃墟が廃墟に廃墟を』
 廃墟渡りは廃墟を作る。全てを無差別に無分別に飲み込み廃物と残骸に仲間入りさせ、その空間を遺物に落す津波へと変わる。無辜の民の生存を願うなら絶対に未然に防ぎ使わせてはいけない悪逆だが、そこに悪意や敵意は無い。
 それ等にとってはただ、廃墟を広げる為に最も効率的な現象でしかない。
『廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 廃墟渡りは廃墟に居る。
 廃墟に居る自分達が居る此処は廃墟なのだと。そう定義し全てを塗り潰す過去の暴虐。そこに在るだけで只人を取り込むその浸食は、この過去の迷宮の中で猟兵の心身すら害し穢し得る害悪と化すが、そこに作為や目的は無い。
 それ等にとってはただ、廃墟と言う己達の場を決めた際に起きる現象でしかない。
『廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 廃墟渡りは廃墟を孕む。
 排除すべき存在を前にした時に噴出する死毒の瘴気。誰もが持つ過去への思いと回帰の本能を増幅し、死と言う零に誘う無限の呪毒。最早それ等が『見て居ない』一般人達には無害なのが不幸中の幸いだが、そこに理由や感情は無い。
 それ等にとってはただ、廃墟と言う概念への邪魔を除外する為の現象でしかない。
『廃墟が廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 剣を振るだろう。けれどその行為に意味など無い。
『廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 刃が舞うだろう。けれどその現象に意味など無い。
『廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 その手が縋りつき引きずり込むけれど其処に意味など無い廃墟が。
『廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を廃墟が廃墟に廃墟を』
 廃墟を廃墟に廃墟が。
『其処に居るのは何その顔にあるのは何御前は誰貴女は誰貴方は誰君は誰どうして顔が無いのその首は何処にあるの』
 廃墟には何も無い廃墟には全部ある顔だけは無いどうしてそこに居るの。
『どうして此処に居ないのおいで』
 おいで。
『顔が無い顔が無い顔が無いから大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だから顔は無いから安心して』
 安心て良いからだから顔を顔をその顔を剥がして
『どうして剥がさないのどうして廃墟は廃墟に何もないから顔も無いから何でもあるのにおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいおいで』
 廃墟へ。

 クパリと闇が開いた。カパリと虚無が開いた。其処に開いた。
 何の為でも無い。何の意味も無い。何も無い。
 ただ、開いた。
スピーリ・ウルプタス
廃墟も何事もなければ、個々の風情があって好ましいのですがねぇ
これを終えたら“正しく過去の遺物”たる廃墟を探索しにでも行きましょうか、ダイ様(UC発動

蛇の素早さと自身の鎖を鞭のように振るって挟み撃ち攻撃
…しておりましたらば、迷路に囚われました
これは大変です、ずっとこのままですと私たち役立たずですよダイ様!
ダイ様の嗅覚に頼って出口を探しましょう

これはこれで、無力な己を責める心身的苦痛ご褒美ではありま、
……?
ちょっとダイ様、私の頬叩いてくれますか?(迷惑そうな蛇、尻尾ビンタ
っ痛!…ですが、いつもより気持ちよさが薄いですっ(損失の呪い)
ダイ様全力で出ましょう!!(やっと必死な形相になる死活問題な変人)



●絶望の迷宮へと墜つ
「廃墟も何事もなければ、個々の風情があって好ましいのですがねぇ」
 遊園地の賑わいの中、スピーリの落ち着いた声が小さく転がる。
 荒涼とした廃墟の中、ヤドリガミの猟兵の冷静な声が響き渡る。
 どちらも真実だ。集められた一般人達は前者しか知覚して居ないけれど、廃墟渡り達が敵意を出した今。この場は最早アミューズメントパークであってアミューズメントパークでは無く、オブリビオンと猟兵が互いを屠り合う戦場でもある。
「これを終えたら“正しく過去の遺物”たる廃墟を探索しにでも行きましょうか、ダイ様」
 こんな物は遺物とは言えないと。言外に至極尤もな事を言いながら紳士が発した一声に、答える様にスルリと現れる長い影。
 3mを優に超える蛇身、艶めかしい黒鱗、宝玉の如き青い蛇目。ユーベルコード【蛇締め(スネーク・ストレイン)】に拠って召喚された大蛇。スピーリが『締め付け担当』と呼ぶ、もう一匹の『守り蛇』と対を為す攻撃役。チロチロと舌を出し入れしながらその鎌首を擡げる。
『崩れる崩れる崩れる崩れれれれ』
 相対した廃墟渡りの一体が古びれた西洋剣を構えた。何処かの誰かの『過去』を写した物なのか、支離滅裂な言葉とは逆にその構えには隙が無い。いかな獣の俊敏さを誇る黒蛇の動きとて捉えて見せようと、迎撃の準備ありの敵手に対し、大蛇はほんの少しだけ後ろに身を引き。
『……!?』
 合わせて前に踏み込もうとした廃墟渡りが俄にバランスを崩しつんのめった。
 振り返ればその足に鎖が絡み付いている。紫色のオーラを纏うそれは<命の連鎖>。スピーリの本体である魔書を縛る鎖であり、彼が扱えば鞭の如くしなり打ち据え縛る武器にもなる。後ついでにスピーリ自身の肉体に責め苦も与える。
「……くふぅ……今日も結構なお手前です」
 おい、こら。
 しかし変態の変態さはさて置き、本来危険物として厳重に保管されて居た禁書を縛る為の鎖である。その禁書当人に与えること自体は当然の話で、ヤドリ変態ガミの男はそこも織り込み済みで扱って居るのだろう。
『崩るらら目が目が目が小さい人形の中に中に中に沢山崩れる崩れる崩れる崩れる崩』
 先に台車に満載した己の複製から伸ばし、UDC達を拘束していたのもこの鎖だ。だがスピーリへのバックファイアの強さ(≒変態紳士の悦びっぷり)が示す様に、猟兵達をただ茫洋と見ていただけの先程までと今ではUDCの抵抗と反撃の力が違う。ギシギシと音を立て締め上げる鎖をしかし、力任せに引き摺り迫り。怪物はその剣を構え直そうと……
 ミシ ゴキリ
 だが勿論、それを間に合わせる程黒蛇は鈍く無い。寧ろ一瞬の遅滞で十分なのだとばかりに、その丸太の如き蛇身が怪物に巻き付き、その四肢と首をアッサリと圧し折った。
「ベネ、それでは次と行きましょう」
 そして男は歩を進める。
 黒の颶風の如く素早く力強く襲う大蛇と、自在に振るわれる鎖鞭の連携による挟み撃ち。その暴威が園内を静かに進むのだ。怪物達を屠りながら。

「……しておりましたらば、迷路に囚われました」
 早速オチを付けやがった。
 ……説明的な台詞と合わせてある意味逆に有能な変態である。
 その足に履く上等そうな革靴を、足元に転がった灰と炭が少し汚している。それが炭化した怪物達の残骸であるとスピーリは知っている。何せこれをしたのは彼なのだ。索敵の段階で捕えた廃墟渡り達の処分として、縛った鎖に灼熱を纏わせる事で灰燼に帰させたのだから。ちなみにキッチリ借りた所に返したので台車は無い。変態な以外は本当に疵の無い紳士である。変態な以外は。
「これは大変です、ずっとこのままですと私たち役立たずですよダイ様!」
 しかし紳士もこの状況に動揺を禁じ得ない。何せ彼らは真っ直ぐ歩いていた筈なのだ。なのにある意味戦いが始まった時のスタート地点と言えるこの場に戻っている時点で明らかに敵の術中である。周囲を見渡せばあれだけ無造作に居た筈の怪物達が全く見当たらず、そしてその身体をジワジワと喪失の呪いが蝕んでいる。
「ダイ様、臭いを追えますか?」
 即時判断。スピーリは黒蛇にそう願い出る。UDC達がその身に纏う廃物や古物には独特の臭いの物も多々ある……肝心の彼ら自身は不気味なほどの無臭なのだが。兎も角、獣であるダイの嗅覚を使えば或いはこの迷宮の出口を探すヒントとなるだろう。
「しかし、これは……」
 先導する蛇に従いなら進みながら、スピーリは己が不調を自覚する。
 ゆっくりとだが、着実に曖昧になって行く。少しずつ、少しずつ、その心身を紙やすりで僅かにずつ僅かずつ削られていく行く様な喪失感。周囲の迷宮が一見迷宮には見えぬ程『元のまま』に見える事も相まって、兎も角実感が薄い。そして一刻も早くここを抜け出さ抜け出さなくてはいけない今、それはそのまま焦燥感と無力感へと繋がる。
「これはこれで、無力な己を責める心身的苦痛ご褒美ではありま……」
 無敵かお前!?
 いや、違う。変態紳士の言葉は最後の最後で不意に途切れている。
 見落とし掛けた何かに気付いた様に。決して見落としてはいけない、致命的な落とし穴に気付いた様に。
「……?」
 その整った顔が俄かに青褪める。
 信じたくない。けれど気付いてしまったならば確認せざる得ない。直視したくはないのに……そんな二律背反に軋む心の発露。
「ちょっとダイ様、私の頬叩いてくれますか?」
 黒蛇が普通に迷惑そうな顔をした。蛇なのに迷惑そうなのが判別できる位ってどんだけだとか、変態なのはスピーリだけで蛇の方は迷惑がってたんかーいとか、突っ込みたい所は多々ある。あるが今はそれよりも確認が急務だ。大蛇もそれが分かっているのだろう、即座にその身をしならせ強烈な尻尾ビンタを紳士に叩き込む。
 メキョって言ったぞ。本当に首の骨折れてそうな音したぞ今。
「っ痛! ……ですが、いつもより気持ちよさが薄いですっ」
 何で痛いで済むの。
 では無く、スピーリの上げた声はいっそ悲痛な響きすら持つ驚愕。
 気付きたくは無かった恐怖。そう、喪失の呪いは彼の痛覚すらも喪わせつつあったのだ。
 つまり、それは彼にとっての御褒美たる痛みが薄れると言う事。折角の痛みがあんまり感じない。延いてはあんまり気持ちよくなれないと言う事!
 ……待てや。
「ダイ様全力で出ましょう!!」
 そう言った変人の顔は今日で一番必死な形相だった。滅茶苦茶真剣な顔だった。死活問題を前にした、巣を突かれた獣が如き本気の貌だった。うん、すげえ。すげえよこの人。本物だよ。
 言われた黒蛇がどんな顔を返したかは……まあ、確認しないのが人の情けと言う物では無かろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
先に仕込んだ血の匂いを追う
ユーベルコードによって追跡の能力を増強する、嗅覚も聴覚もより鋭く
ジャケットの内へ隠した銃を構え、敵を追って走る
普段と違う服装の調子を確かめつつ…

…様子が変わった
流石に相手も危機に気付くか
関係ない、成すべき事は変わらない

その成すべき事は、血の匂いを追って迷路を行くごとに曖昧に
最後まで残るのは体に染み付いた戦闘行動
引きずり込む手は振り払い刃は躱し、追いついた血の匂いへ反射的に引き金を引いて次へ
慣れた銃の感覚から、戦い方を教えてくれた師を思い出せたら、廃墟への同化を拒絶する

『俺』をくれてやるわけにはいかない
過去の後悔すら失いたくはない
償えずとも全て背負って生きると決めている


白瀧・テテ
捨てられた物、喪われた物、かつて在った物……か。(脆い紙の体故にすぐに散っていった仲間たちを思い出すも)尚更、浸食を止めないとね!殲滅!殲滅っ!
(同類というより、ゾンビウィルスにかかってしまった遺体を見ている様な感覚)

SPD【妖剣解放】
さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!
ここに取り出したりますは、不動明王の倶利伽羅剣!人に危害を加える輩を一掃するよ、ザシュザシュっとね!

わーい!今度は迷路かっ!でもでも、よろしくない気配がするな~?剣でつっついてみても、びくともしないし。
う~ん、なんだか悲しくなってきちゃった。
しかーし!テテちゃんはめげない!【破魔】の力で呪いに対抗しつつ出口を探すよ!



●廃墟はその手を伸ばす
 百年使われた器物に魂が宿り、人間型の肉体を得た存在……それがヤドリガミの定義だ。そして、であれば当然、その耐久力は元となった器物に依存する事が多く。結果、魂宿る事無く、或いは宿っても尚儚く散った同胞が多くある者とて珍しくは無い。
 つまりは、今この場に置いて、打ち倒した廃墟渡りの残骸を見下ろしている白瀧テテの様に。
「捨てられた物、喪われた物、かつて在った物……か」
 幸いにしてこのUDCは倒す事にも一工夫等と言う事は無かったようで、単純な攻撃でその身体を活動を停止した。そしてその身体は溶ける様に消えて無くなり、後に残ったのはボロ布や廃物の類のみ……文字通りの残骸。それは生物の終と言うよりも、器物の終を思わせる。
 だから見れば連想せざる得ないのだ。テテが常より悲しく想っている事。彼女と同じ紙製、脆い紙の体故に直ぐに散ってしまった仲間達の事を。それも己が打ち倒した敵手の骸を前にである。その心境はいかばかりか……
「尚更、浸食を止めないとね!」
 思いの外前向きだった。いや、躊躇とかないのか。
「殲滅! 殲滅っ!」
 無い見たいですね。寧ろガンガンに積極的である。
 けれど実の所、それは薄情では無く逆に情の厚さ故と言えるのだろう。廃墟渡り達を形作る、或いはその身に纏われている廃物達は確かに、テテの仲間達と同じく、元はその身を儚くした物品達であろう。重なる部分も多い。……でも、その後でオブリビオンの怪物と化して蠢き暴れてる部分は全く重ならないのである。
 人間で言うなら、亡くなった者の遺体と置き上がって何か人を襲ってる遺体の違いである。そりゃー見れば連想位はするだろう、するけどそれはもう遺体って言うかゾンビだ。普通、ゾンビウィルスにかかってしまった遺体を同類とは認識しない。感覚的に別項目となるのは当然で。
 寧ろ早く解放してやらねば。と、そう言う優しさであると考えた方が順当だろう。
「さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
 そして景気の良いお姉さんの口上が木霊する。
 駆除であるなら容赦なく、供養祭であるなら盛大に。暗く悲しくより寧ろ賑やかに。
「ここに取り出したりますは、不動明王の倶利伽羅剣!」
 示される彼女のお気に入り。サイズは小ぶりとも言えるが、けれどその剣の真価は物理的な破壊力などでは無く霊験。テテ自身が奉納されていた白瀧寺に在られる不動明王の像から拝借したその逸品であれば、そこは折り紙付きと言う物である。
 でも寺のお坊さんには謝るべきだと思います
「人に危害を加える輩を一掃するよ、ザシュザシュっとね!」
 ユーベルコード【妖剣解放】。その身への負担と引き換えに、その手に持つ武具に篭った力をその身に纏う。解放されたその力の元、その身の熟しは神速となり、その斬撃は全てを薙ぎ払う。
 テテの宣言は大袈裟でも比喩でも無い。本気で邪悪なる怪物達を一掃する心算だし、そしてそれは可能なのだと。
 ゾロリ、ゾロリと、テテににじり寄って来ていたUDC達がその歩を一歩止めた。人の業と煩悩を打ち破る智恵の利剣、そしてそれを握るヤドリガミの姿に恐れをなした様に。

 大量に居た筈の来園客の数が減って来ている。そう気づいたシキはしかしその俊敏な走りをそれ以上早めない。
 群衆である一般人達がパニックを起こせば巻き込まれる数は一気に増える。故に人知れずUDCの処分を進めている彼等にとってみれば人目が減るのは好都合と言うのもある。だがその理由を考えた場合、他の猟兵の作戦に拠る物であれば万々歳だが、UDCの怪物達に手に拠る物である可能性を考えれば気は急く。
「逃がすか」
 けれど、人狼の銃士は焦らない。一度受けた仕事は完璧にこなす事を目指し続ける彼は、焦燥から来る行動がかえってその効率を下げる事を知っている。最適は最速と同義に近い。淡々と、丁寧に、着実に、そんな仕事こそが彼に出来る最善であると。
「……次だな」
 建物の裏から大通りに戻り、また獣の如き速度で走り出す。
 雑さとは対極にある洗練された動きの猟兵が去った後、其処に残されているのは屠られた怪物の残骸。
『右の左にそこには影が無い影が無いのに何を消せと言うのか廃墟の中廃墟廃墟のな──』
 屠る。
『首が首が首が顔が顔も顔の下に何があ──』
 仕留める。
『昼間の闇のそ──』
 一体一体、しかし次々と迅速にUDCを追い詰め処理り続けるその行動には一切の迷いが無い。ある段階から廃墟渡り達は、強敵であるシキに対し逃げ隠れする様な動きをし始めているのだが、それでもその処理速度には一切の遅滞が発生しなかった。
 全ての目標の位置が、その青い瞳の前には補足されて居るかの様に。いや、正しくは……
「そこだな」
 ユーベルコード【ハンティングチェイス】。廃墟渡り達を逃がさぬ千里眼は、主にはその目と言ではなく普段より更に鋭くされた嗅覚と聴覚。強化された追跡の能力と脚力を以て、先までの索敵時に仕込んだ『血の匂い』を追う。それが迅速かつ精確極まるその仕事ぶりの種である。
「だが、何故逃げる? 何か企んで……」
 それでも流石に常にオブリビオンと相対し続けれる筈は無い。間に挟まる移動時間は僅かなりとも発生し、その時間を以て男は普段と違う己が服装の調子を確かめ、ジャケットの内のハンドガンの状態を確認し、そして敵手達の動きを思案する。
 実際、オブリビオン達は決して本格的に逃走に移っている様子では無く、只時間を稼いでいるかの様な。そんな不気味な挙動をしている。
「……様子が変わった」
 其処まで考えていたからこそ、その冷静は崩れない。
 例え周囲全てが、見える限りでは何も変わらず。けれど鋭いその嗅覚の元、その一瞬でガラリと全く別物に変わった事を感じ取ってもだ。

●喪えぬもの、喪わぬもの
「わーい! 今度は迷路かっ!」
 ヤドリガミたるテテも、周囲の気配の変化には気付く。最初は何の変化も無い様で居て、時が経つにつれゆっくりと景色が歪み、道が入り組んで来るそれは正に迷路。
 何か寧ろ新アトラクションを喜ぶみたいなノリの歓声を上げてる気もするけどそれはそれ。そう言えば彼女はこの遊園地の中で迷路系アトラクションは未だ堪能して居なかったし。
「でもでも、よろしくない気配がするな~?」
 さりとて、その邪気に気付かぬ彼女では無い。右側だけが顕わとなっているその形の良い眉を少し寄せ、迷宮の建材を改めて確認する。
 見目は変わらず遊園地の建物であり、飾り付けである。けれどその実は虚無の呪物。壁の様でいて壁では無く、道の様でいて道では無い、喪失の呪い其の物で出来た悪意のアトラクション。
「剣でつっついてみても、びくともしないし」
 おっとりとした何時もの調子で言うその言葉は一見軽く聞こえるが、その内訳は決して軽くは無い。不動尊の持つ退魔剣の霊験を以てしても小動もしないと言う事なのだから。
「流石に相手も危機に気付くか」
 う~んと唸るテテに歩み寄って来たのはシキだ。時間稼ぎはこの迷路の発動の為の物であったのだと、言わばUDC側の仕込みであるこの環境で走り続けるのは寧ろ危険と。不測の事態を警戒し徒歩に切り替え、可能なら他の猟兵と合流すると言う合理的判断。
「あっちも私達を本気で殲滅してやるーって決めたって事だね」
 テテもそう応じ頷く。
 廃墟渡り達の思考は正常な其れでは無い。けれど廃墟を拡大させて行くと言う行動理念だけはハッキリしている以上、それを明確に阻害し、己達を打ち滅ぼしてくる猟兵達の存在は紛れもない危機だ。対処をしてくるのは道理であり。であれば顕現せしこの迷宮は、シキやテテに対する攻撃であると考えて間違いない。
「関係ない、成すべき事は変わらない」
 けれど猟兵達は揺るがない。
 やるべき事は定まっているのだ。有害なる狂気、蒙昧なる邪神の群を打ち滅ぼす。その為であれば、惑わしの迷路であろうと相対し踏破するのみ。

「なんだか悲しくなってきちゃった」
 喪失の呪いはジワジワとその心身を蝕む。
 ラブ&ピースを旨とし普段より賑やかなテテをしても、行けど行けど出口の見えぬ道行きに少しその表情が暗く陰って来る。
 ……いいや。
『もう無いもう無いもう無い塵になった屑になったもう無い灰になった塵になった』
 声ならぬ声。喪失の呼び声。誘う様に流れ続けるそれに対し、悲しい気分になって来たと言うだけで済んでいる事が寧ろ彼女の強さである。その身に纏う破魔の力は呪いに対抗し、出口を探すその意気を守っている。
 追うは血の匂いを追って先導するシキの背。
『どうして貴女だけどうしてお前だけ皆一緒みんないっしょみんないっしょにクズカゴへ』
 しかし、だから平気と言う訳では無い。その呪いはその場にいる限り際限なく染み入り続ける冷気の如き浸食。どれだけ厚着をしようともジワジワと、ジワジワとその心を凍えさせ、感覚から記憶から全てを喪わせようとする。
「……」
 薄らいで行く。感覚だけでは無い。今の事。昔の事。自分の事。誰かの事。それらは己の地盤で、心の材料で。喪われて行けば行っただけ解れ崩れてしまう。
 午睡の眠気の様に、ゆっくりと沈んでいく感覚。遠くなって行く自分自身。悲しい。悲しい。何もかもが悲しくて、何が悲しいのか分からなくなって来ているのがもっと悲しくて。
「……?」
 何かが呼んだ気がした。
 おてて。てて。幼い呼び声。あれはそう、あれは確か。
「しかーし! テテちゃんはめげない!」
 そうだ、自分の名前だ。
 その瞳に力が灯る。その顔が前を向く。めげない、短い一言。苦難に対して挫けない事、諦めない事、頑張ると言う事、それらをたった一言に篭めた。とても力強い言葉。
『戻りたい戻りたいでしょ戻りたいよねなんだってどれだってあの子だって彼だって戻れば未だ居る居ないけど居る』
 一方その前を進む人狼が身に纏うのは退魔の装備では無い。けれどそれらは、受け継いだ誓いや想いや絆の篭もった品々。
「…………」
 その全てが迷路を行く毎にゆっくりと、しかし確実に曖昧になって行く。
 請け負った仕事を、成すべき事を為さねば、けれど成すべき事は何だったか。そもそも己は誰だったか、此処は何処だったか、何も、何も、何も、全てが喪われて行く様で……。
「……!」
 だからだろう。チャンスであると、怪物の狂った思考でもそれが分かったのだろう。
 その身に刃が振るわれる。数多の手が闇から滲み出てその身を引きずり込もうとする。迷路を進む半ば姿を見せなかった廃墟渡り達が、俄かにその姿を顕わにして襲い来る。
「させない!」
 テテが咄嗟に放った目に見えぬ影の手が数体の腕を握り潰すも、全てを防ぐには数が多過ぎた。
 そして喪失の呪いに囚われ、意識すらも曖昧にされたシキにそれらが届く。
 その寸前、その胸元で月長石が煌めいて。
『ろろろ……』
 響き渡る轟音。扱いが悪くならないギリギリまで威力を上げたハンドガンの銃声。
 ドサリと、ヘッドショットを決められた怪物が力なく沈む。
 言葉すらも出てこない有様で、前後すらも危うい身の上で、迫る手を振り払い刃を躱し、反射的に正確な狙いを付けて撃ち抜いて見せたのだ。
 何が喪われ様とも、染み付いた戦闘行動だけは最後まで残っていたのだ。或いは、他の何かも。
「……来るぞ」
 引き金を引く瞬間に止めていた呼吸を再開し、言葉を取り戻す。
 その通り。こうなれば押し潰すのみとばかりに、廃墟渡り達は次々と現れ2人にその刃を振るうが。
「『俺』をくれてやるわけにはいかない」
 その戦いの感覚こそが、シキに呪いを打ち砕く力を与える。慣れた銃の感覚は、戦い方を教えてくれた師の記憶を呼び起こす。そのハンドガンの元の持ち主、何処までも自分を庇護の対象と子供扱いする懐かしいその貌。それを思い出したなら、廃墟への同化等受け入れれる筈がない。
「過去の後悔すら失いたくはない」
 喪った方が楽な記憶もある。救えなかった家族。己の為に捨てさせてしまった命。
 消えぬ悔恨も償えぬ罪悪感もある。逃避を望む感情だってあるのかも知れない。
「償えずとも全て背負って生きると決めている」
 けれど拒絶するのだ。喪失を。
 廃墟を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファウ・ダァド
「ありゃ?」
迷路化に巻き込まれ『サトゥルヌス』の上にいつしか一人きり。

廃墟渡りが首を確認しにやってくる。ころんと外れる首。

「もー、ダメだよ。ぼくがバーチャルな存在じゃなかったら死んでるよ!」

首をはめ直しながら考える。
迷路ならゴールはある。そしてここは廃墟なのだ。

「……なら、もっと壊してもこれ以上悪くはならないよね!レッツ《亜空間潜航》!」
がこんとゴンドラを外してサブエーテルの海へと沈む。半歩ズレた空間に滑り込み、二重に瞬く船体を走らせいざ出口へ。
亜空間パワーで迷路の壁をぶち抜け!廃墟渡りを轢き倒しつつ海賊らしくレッツゴー!

「おっとっと」
出口でしゅたっとゴンドラから降りて、首の位置を修正!



●たった一つのシンプルな暴力
「ありゃ?」
 ファウのキョトンとした声が遊園地の空に転がった。
 処は変わらず絶叫マシーン『サトゥルヌス』の上。けれど大きく違う点が一つ、全席を埋めていた筈の『乗客』達が、何時の間にか一人も居ない。
「……ほよよ?」
 小首を傾げるバーチャルキャラクターの船舶パイロット。無理もない、彼女は確かにポンコツではあるが、それは本来の性能を発揮出来ないという形のそれ(性格もかもだが)、船舶のナビゲーションAIとして利用者たる乗客達が『うっかり気付かぬ間に誰もいなくなってることに気付かなかった』なんて失態は流石に在り得ない。
『ログ情報の解析を開始します』
 だからAIは過去を参照する。己が知覚システムが得た直近の情報を総ざらいし、矛盾や違和感、エラーやバグを検出する……それは人ならぬ文明と技術の申し子故にこそ出来る事であり……
『首。首は首が其処にあるのはおかしい首は無い首は無い無い無い』
 同時に、その身を傷付けようとする存在にとってはこの上ない隙でもある。
 ヌルリと、ズルリと、理不尽に不条理に其れは顕れる。アトラクションの椅子の影、誰も見る事の出来ないその何物にも観測されない空間から、湧きだす様にその薄汚れた姿を顕現させる。その腹から突き出た長大な刃物の刃が、それ単体で蠢きファウの首筋を狙う。しかし次世代型航行用ユニットVCは情報演算に専心しており、その動きに反応所か気付いている様子すら無い。
 そしてツイッと、いっそ軽々しい動きで刃が走り。
 ころんと。
 ファウのその首が落ちた。
「もー、ダメだよ」
 転がったファウの首が眉根を寄せ、頬を少し膨らませ批難する様にそう言った。いや、様にでは無く批難其の物だろう。何せその首を胴体から外されて仕舞ったのだから……
 ……いや、待って?
「ぼくがバーチャルな存在じゃなかったら死んでるよ!」
 軽ぅい!
 て言うか首外れても平気なのバーチャルキャラクター……いや、言われて見れば電子の精霊である。そもそもその肉体は人間から動物に想像上の生物と多岐に渡るが、あくまでそれらを『模した』もの。実際にその生命ではない訳で……その内側がどの様な仕組みか等は、確かに何一つ定義されてはいない……
『首が無い。首が無い……無い』
 ズルリと、ヌルリと、廃墟渡りが影に溶ける様に帰って行った。帰ってった!?
 元々正しい意味での思考など持たぬ存在故に、首が落ちて平気等と言う生態が認識の外だったのか、対応の範囲外だったのか……何にせよ結果的にファウはまた一人。首の無い身体で佇む。
 いや、ある意味廃墟渡りより怖い絵面だな君。
「過去の類似例と今回貰った前資料の情報からすると、迷路化してるんだね。うーん」
 ピョインと跳ねて来た己の首をキャッチし、元の位置にはめ直しながらファウはそう呟く。この状況でキッチリ情報演算をやり切ってたらしい……て言うか今、首の方サラッと凄い事してなかった?
「迷路ならゴールはある……」
 考えて周囲をスキャンする。≪マップドローン≫の各種センサーが三次元地図を作成し、≪スペース六分儀≫を始めとしたガジェットの機能が多角的に絞り込みを行う。予め目星を付けて置いたUDC達の現在位置を確認すれば、自ずと迷宮の出口の方角は逆算できる。
 勿論、その方角に真っ直ぐ進めれれば苦労は無い。最短距離は順路に逸らされ、遠回りをすれば行き止まり、幾重もの分岐路が懊悩と混乱を生む。それが迷路と言う物であり、増してやUDCの混沌にて生まれたこの廃墟と言うラビリンスは、どうやら刻一刻とその形状を変容させ続けて居る。
「そしてここは廃墟……なら、もっと壊してもこれ以上悪くはならないよね!」
 そう来たかあ。
 道に迷うなら壁をぶち抜いてしまえ。身も蓋もないと言うか滅茶苦茶だが、確かにそう言う考え方はある。実行した猟兵も普通に居る。けれどそれはその建材を破壊できるだけの暴力を持って居ればの話だ。
 前情報にもある通り、廃墟渡りの創るこの迷路は『かなりの硬度』を持ち……
「レッツ亜空間潜航!」
 お構いなしかよ。
 コンソールを上下二回ずつに左右を二回、そしてAとBのボタンを押す事により発動したユーベルコード【亜空間潜航(サブエーテルマリナー)】。それにより彼女に『船舶』として掌握されていたアトラクションのゴンドラがガコンと外れる。この時よりこのゴンドラは遊園地の遊具ではなく、サブエーテルの海を行く亜空間潜航機となった。
 尚、AとBのボタンって何だとか何処にあったのとか、そう言う事は聞いてはいけない。
『当機はこれより亜空間航法に移行します。外部モニタが一時的に停止することを、皆様にお詫び申し上げます――』
 搭乗者はゼロであっても、彼女はナビゲーションAI。本来の役目を果たす時なればと『正常化』したアナウンスがほんの一時表面化しながら、その機体を平常の空間とは違う『半歩ズレ』た空間に滑り込ませる。そこは常ならざる非物理の極致にして同時に物理理論の最たる概念世界。
「いざ出口へ」
 出発進行と行き先を指さすナビゲーターの先導通り、空間と亜空間のあわいを二重に瞬きながら走る船体。地形からの激突の衝撃やベクトルを受けず、攻勢に出ればその対象のあらゆる防護を無視……
 えっ?
「亜空間パワーで迷路の壁をぶち抜け!」
 待って。待って? 防護を無視? え、嘘でしょ。確認を……うっわ本当だ。何ですこのガンメタコード。
 ガグォン!
 ゴシャベキベキゴゥン!!
 ボグォン!!!!!
 ひどい轟音が撒き散らされる。と言うか迷路の残骸も撒き散らされている。防護を無視するんじゃどうしようもないし、船の方が激突ダメージ無視ともなればそりゃファウの側は一切遠慮も躊躇も要らないのが道理なので。
 ぶち抜く。ぶち抜く。廃墟渡りの廃墟の迷宮を。後ついでに途中に居た廃墟渡りは引き斃す撥ね飛ばす。
 一応、喪失の呪いはゆっくりと着実にファウの心身を蝕むけど、多少何かしら忘れても喪ってもただ真っ直ぐ吶喊を続けるだけの単純行為に何の影響があると言うのか。
 そもそも、実はこの時点で他の猟兵達にも(順当なやり方で)踏破されつつあるこの迷路は、その毎にその力を減じさせている。だから尚の事、この至極物理的かつ相性最悪の暴力の前に為す術も無く蹂躙されて行くのだ。
「海賊らしくレッツゴー!」
 海賊って自己申告し出したぞこの人。いや、振り子型の絶叫マシーンは基本的にその殆どが海賊船モチーフで、このサトゥルヌスも例外では無い。彼女の言葉は単にそのデザインに合わせての言葉なのかも知れない。

 そして程なく、辿り着いた出口……と言うかほぼ瓦解した迷路の端でファウは船体から跳び降りる。制御とユーベルコードの力を失ったゴンドラがそのまま園内の壁に音を立てて突き刺さったけど気にしやしない。多分海賊だからかな。
「おっとっと」
 シュタッと着地するも、未だ固定が甘かったのかその首がズレて……
『目的地付近に到着しました』
 そしてナビゲーションシステムの少女は慌ててその首を支え、位置を直しながらもニコリと笑うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
狂言回し役。
困った時の舞台装置、あって便利なデウス・エクス・マーキナー。
不可説不可説転の狂気をもちて空っぽの狂気を駆逐する。悪夢を終わらせる悪夢。
そう、すべては魂八保(ごにゃーぽ)な夢の裡。
パンピーはミラーワールド(結界術)に保護。

ごにゃーぽである。
ごにゃーぽなのだ。
ごにゃーぽであるならばそれはごにゃーぽで廃墟にあらずすなわちごにゃーぽだろう。
ごにゃーぽはごにゃーぽであればごにゃーぽであってごにゃーぽになるならばごにゃーぽとしてごにゃーぽしてごにゃーぽごにゃーぽすべてはごにゃーぽでありますればごにゃーぽなのでごにゃーぽになりましょう魂八保ごにゃーぽ魂を八に保つのです八とはすなわち最良でありそれはごにゃーぽでしてごにゃーぽに上書きさすれば廃墟は産み直され視読の笑気でごにゃーぽと笑い合うならばごにゃーぽごにゃーぽと産声をあげる新しい世界がごにゃーぽでしてああああごにゃーぽと唱えれば幸運にもごにゃーぽに恵まれて新たな生に誕生日おめでごにゃーぽ♥


カーバンクル・スカルン
恐らくこの人体は飾りで本体は後ろの遊園地の遊具や建物。ならカタリナの車輪を片っ端から突っ込ませて粉々に……ってうわ、津波になりやがった!? 何、ロープワークとかで飛び移れって言うんかー!?

こうなったら後退しつつ特製の薬品を込めた注射器を適当に濁流の中に放り込んで……次々に爆発させていくとしよう! 液状化してても本体には変わりないだろうしな!

……にしても昔やってたことがこうして活かせた、って思うと決して無駄ではなかったと思えるわ



●宝石の乙女の過去と今
「恐らくこの人体は飾りで」
 くの字に折れ曲がり背骨ごと圧し折れ、明らかに絶命した廃墟渡りの一体を投げ捨てるとカーバンクルはそう言い。
「本体は後ろの遊園地の遊具や建物」
 大胆なる看破を宣言した。
 それが正解かどうかは分からない。けれど実際、投げ捨てられた廃墟渡りの残骸は溶ける様に消えて失せ、また別の廃墟渡りがノソリノソリと近付いてくる。無尽蔵にも思えるその数は事前情報の通り正に無限を感じさせる程で、本体が別にあると言う推理は決して在り得ぬ読みとは言い難い。
「もしそうなら!」
 グォウン!!
 異様に低く重い風切り音が響き渡り、巨大な車輪が空を舞う。そして続くは轟音。
 カーバンクルが愛用する『拷問器具めいた武器』の一つ、≪カタリナの車輪≫。『めいた』と言うか、その銘はそもそもが殉教者の女性の名を刻まれた拷問具のそれであり、恐らくは元としているのだろう。美しい水色の紋様輝くその暗い色の車輪はカーバンクルの身長に近い程の直径を持ち、その外周には剣呑な針がズラリと並んでいる。
 そんな代物をブン投げたのだ。そしてそんな代物が施設に直撃したのだ。そりゃあ轟音も鳴り響こう物だし、その成果たる破壊は甚大な物となった。改めてつくづく、彼女の様なお嬢様育ちが身に着けていて自然な戦闘法では無い。本当に何処でどの様にして学んだのか……
「片っ端から突っ込ませて粉々に……」
 増してその口から洩れるのは更に容赦なくかつ暴力的な青写真である。
 先の推測の元、彼女は園内の施設をすべて破壊して回る心算なのだ。それらこそが廃墟渡り達の本体なのであれば、それは覿面たる決着の破壊となろう。……そして重要なのは、そうで無かったとしても廃墟渡りの殲滅に関しては有効でもあるのだ。この作戦は。
『分か……る分かる分かる分からな……い顔の中に在る無い無い空が下に……い……』
 先程砕かれた施設の瓦礫の下から満身創痍の姿で一体のUDCが這い出て、そのまま力尽きる。
 これこの通り、そもそも施設を破壊しまくれば随所にうろつく廃墟渡り達はどんどん巻き込まれて行く。それに、本体であろうとも無かろうともこの遊園地は現在は実在しない過去の物である。それを現世に顕現させているのはUDCの怪物達であり、その維持に力を回している事は事前情報でも明言されている。だから、それ等を破壊する事は度合いはどうあれ間違いなくオブリビオン達へのダメージになる筈なのだ。
「ってうわ!?」
 だが、狂った思考とは言えそれはUDC達も理解していたのだろう。荒れ狂い破壊を撒き散らす車輪を前に、諾々と破壊を受け入れて居てはいけないと。だからその手に出た。廃墟渡り達は廃墟を作らんとする。その身を自ら砕き、廃物と残骸と遺物と過去の混ざり合った奔流として全てを飲み込む事で。
「津波になりやがった!?」
 集まった周囲全ての個体が一斉にそうなった為、カーバンクルが思わず口にした通りに正に津波の如く園内を荒れ狂う。
「何、ロープワークとかで飛び移れって言うんかー!?」
 流石に驚きや焦りが出たか、ちょっと普段に無い口調で不満を口にし、クリスタリアンの咎人殺しはその身を翻す。施設の残骸や園内の木々を足場に跳ね、本来は敵手に振るうフック付きの鎖や、園内の飾りに使われている縄なども等も駆使して奔流の届かぬ位置を次々飛び移り。
「た、助けて!?」
「ななな何。何なのこれえ!?」
 しかし響き渡った悲鳴が、その意識を少しだけ引き寄せる。
 見やれば廃物の奔流に今まさに飲み込まれようとしている来場者、恐怖に引き攣りながらも身を寄せ合っているのは親しい間柄だからだろうか。園内に大量に居た筈の一般人達は、幸いにしてカーバンクルが施設を破壊し始めた時点で既に避難が進んでいたのかその殆どが周囲から居なくなっていた。けれど完全なゼロでも無かったのだ。廃墟渡り達が猟兵に注視している以上、本来であれば犠牲になる可能性は低い。けれど、全てを無差別に飲み込むこの手に出られてしまえば……
「はーい、困った時の舞台装置、あって便利なデウス・エクス・マーキナーのエントリーよ」
 其処に冗談めかした声。愛らしい声。この状況には凡そそぐわない軽い調子の声。
「え、え、ええ!?」
「何だこれ吸い込まれ……!?」
 廃物の波に呑み込まれるより正にコンマ一秒だけ早く、2人の一般人をその背後に顕れた鏡面が吸い込む。直後に殺到した奔流にそれは粉々に砕かれるけれど、そこに先程の2人の姿は無い。
「パンピーはミラーワールドにご招待♪」
 現れたのはケイオト魔少女、サイキックヴァンパイアの少女、そして絶技たる結界術の使い手アリス・セカンドカラーだ。
「わたしは狂言回し役。細かい事は任せてあなたはあなたが為したいように為すと良いわ」
 若干暗黒神めいた言い回しだが、その言葉はつまりは援護の宣言に近い。狂言回しとは本来観客の理解を助ける存在であり、この場合それを解釈するならば、状況を単純化する役目と言えるからだ。例えば、戦いに邪魔な無辜の民を盤上から追い出すとか。
 実の所、そもそもアリスはこれ迄ずっと一般人の保護をしていたのだ。だから、その結界術によって作り上げた遊園地の裏世界。ミラーワールドへと誘い送り込む事で。たった一人でそんな物を作り上げる彼女の絶技はさて置き、其処に送り込まれた彼等には最早オブリビオン達の魔手も浸食は届かず、戦いや破壊の余波や巻き添えを食う心配とて無い。……勿論、安全に関してはアリスの意志一つ次第なのだけど。
「助かる!」
 お転婆娘は短くそれだけ言って、即座にその身を宙に回せる。感謝を伝える事は後でキッチリすれば良い、それより今は自分に出来る事をキッチリ熟す。そんな彼女のストイックな一面の発露。
 そしてカーバンクルに今出来る事と言えば勿論、戦う事。
「こうなったら、こうしていくとしよう!」
 津波の様に荒れ狂う廃墟渡り達の残骸、残骸、残骸の奔流。それの勢いを後退しながらいなしつつ、その中に注射器を一本また一本と放り込んで行く。それらは数秒の間の後、轟音を立て次々に爆発。勿論、それがカーバンクルの意志であり狙い。
 ユーベルコード【酒後吐真言(イン・ウィーノー・ウェーリタース)】。それは本来、特製の薬品を込めた注射器の針を刺し薬液を流し込む事で、その部位を爆破するか2分足らずながらも操る技だ。『酒に酔えば、人は本音や欲望を表に出す』と言う意味の諺が銘に使われている辺り、恐らく普段はどちらかと言うと後者の用途で使う事が多いのだろう。
「そんな風になってても本体には変わりないだろうしな!」
 けれど今回カーバンクルは前者を使う。丸で液状化したかの如く分解し分散し広く全てを飲み込むほどに広がった廃墟渡り達は、逆に言えば何処に攻撃しても当たる状態になって居るとも言える。だから爆発と言う範囲にダメージを与える技こそが相性良し。針など使わずいっそ投げ込んでしまえと、そう言う算段なのだ。
『わが我が……藁……廃劣列劣列……』
 事実、効果は上々の様で荒れ狂う奔流の中から聞こえる妄言は僅かながら弱弱しくなって居る様に聞こえる。迫る奔流も決して凄まじい勢いとは言えず、血塗られたジャンクパーツのお嬢様はそれなりの余裕をもって回避し続け、どんどんと注射器爆弾を放つ事が出来ている。
「……にしても昔やってたことがこうして活かせた、って思うと決して無駄ではなかったと思えるわ」
 ボソリと、感慨深げにそんな事を呟く間さえあった。
 爆発したり操ったりする薬液を精製出来る技術、先の戦闘技術と並び立つほどに彼女の生い立ちには合わない技術。矢張りその経歴にはブラックボックスがあるのだろう。彼女自身がしかし頑なに語ろうとしない、その理由と共に。

●ナンセンスにはハイセンスを、ハイセンスにはナンセンスを
「こんな所かしらね☆」
 上機嫌に笑うアリスの見る先、ケイオト魔少女の生み出したミラーワールドへの扉である鏡面が音も無く閉じる。そしてもう新たに開く事は無い。何故ならこの時を以て彼女は園内の一般人全てを鏡の世界に避難させ終えたからだ。
 あの膨大な数を……勿論普通に走って逃げた者とている為全てでは無いにしても、どう見積もっても凄まじいエネルギ―消費を伴うと思われる所業。それを、やり切った。
 善意だろうか? そんな馬鹿な。無邪気な子供の残虐性の具現たる彼女である。少なくともそれのみでは在り得まい。
「やっぱり決定打には中々届かない見たいね」
 ダンピールの魔王は周囲の情報を確認して頷く。
 怪物達の組み上げた迷路は猟兵達の意志によって踏破され……内一名には物理的に粉砕され、何れにせよ喪失の呪いは打倒された。それは彼らの力を大きく減じた筈である。
 邪神達の構築した遊園地の施設は拷問の車輪によって破壊され、廃物の奔流と化した彼ら自身に拠っても今まさに砕かれている。それは少なくとも大幅なリソースの空費と言う形で彼らの力を削いでいる筈である。
 そして今まさに爆破を繰り返すカーバンクルだけでは無い、この場に集った全ての猟兵が、今正に其々の戦場で廃墟渡り達を屠り打ち倒している。それらは当然、ダイレクトに彼らの力を殺し、その存在を打倒へと傾けている筈である。
 なのに、それでも未だ決定打に届いていない。理由は簡潔にして明白。その数が多過ぎるからだ。最初の説明で言われた『クソ面倒な敵』との言葉、この状況はその証明其の物。倒しても倒しても未だ出る。ゴキブリ呼ばわりは本当に正しい、無限に湧き出るかの如きこの有様を前に、それでも猟兵達が諦める事は無い。
 だがそれはUDC達も同じで、奔流として荒れ狂い最早狂った思考すら失った個体も多い中。それでも尚その思考を解釈するならば『このまま持久戦を続け押し勝つ』となるだろう。それをさせる猟兵達では無いが……と言って現状が良いとは到底言えない。
「それじゃあ、ハッピーエンドを目指して物語をうまく回しましょう」
 なのにケイオト魔少女は笑う。
 だからアリス・セカンドカラーは笑う。
 敵は圧倒的な物量の過去。もう存在しない筈の廃物、虚無の群。屠れど屠れどきりの無いそれらにどうやって埒を明けるのか。それはもうさっき言った。あると嬉しい舞台装置、劇場に顕現する空の椅子、快楽主義者の少女が狂言回し役に徹する事で現出させる、『状況を解決したい』と言う願いを無体なまでに叶える【デウス・エクス・マキーナー】。
「不可説不可説転の狂気をもちて空っぽの狂気を駆逐する」
 ユーベルコードの発動と共に、歌う様に滔々と語るアリス。虚無を駆逐する為の最適解。狂気を以て狂気を討ち果たすその概念を語るその姿が変わり行く。
「悪夢を終わらせる悪夢」
 不可説とは『まったくけしからぬこと』、その狂気であれば確かにそれもまた悪夢。
 悪夢を塗り潰すのはまた別の悪夢であると。そう言って艶やかに笑うその身の手足がスルリと伸びる。その赤い瞳も銀髪も美しく白い肌も変わらず、けれどその体格だけが変化……いや、成長して行く。小悪魔的と言うに相応しいコケティッシュな可憐さ、可愛らしくかつ妖艶であったその容貌。それが凄絶な迄の色気と魅惑を孕みながら、愛らしさを残す大人の美貌へと変わる。幼さの残る少女らしく凹凸に乏しかった身体が細見ながらセクシーな豊満に。そしてその背から悪魔の翼、丸みの強くなった臀部からは二股に別れた尻尾が夫々ニュルリと生える。それは生命の埒外たる猟兵の奥の手、アリス・セカンドカラーの真の姿。無辜の民の安全の為に、或いは邪魔となる一般人の排除の為に消費した力を一気に補充され、寧ろ前以上にその身から溢れかえる。
 魔少女……いや、今や少女では無くなった美しき魔王は、混沌魔術の発動媒体である魔瞳を怪しく輝かせる。魔術的パラダイムシフトを今こそこの世界に。廃墟の化身共の生み出したこの狭き虚無の世界観の転換を今こそ為すのだと。
 何に拠ってか。それは。
「そう、すべては魂八保(ごにゃーぽ)な夢の裡」
 何ですって?
「ごにゃーぽである」
 それはさっき聞きました。
「ごにゃーぽなのだ」
 いや、ですからですね。
「ごにゃーぽであるならばそれはごにゃーぽで廃墟にあらずすなわちごにゃーぽだろう」
 ……あ、はい。そうですね?
 何を言って言うのか分からない。いや、分かりはする。此処この場は魂八保であり廃墟では無いのだと言う主張。それは概念による攻撃、好まざる世界観を自らの世界観で塗り潰す力技。
 とどのつまりは要するに、虚無と言うのは穴であり隙間であり空白である。それを倒そうと考えるなら、そりゃあまあ先ず『埋める』事が最適解と言える。
 但し、その全てを埋めれるだけの物量を用意できるのならだ。どれだけ絶技の術を扱おうとも、膨大な力を有そうとも、アリスは立った一人。数の暴力で迫る廃墟渡り達の世界観を押し潰し切れるとは……。
「ごにゃーぽはごにゃーぽであればごにゃーぽであってごにゃーぽになるならばごにゃーぽとしてごにゃーぽしてごにゃーぽごにゃーぽすべてはごにゃーぽでありますればごにゃーぽなのでごにゃーぽになりましょう」
「完璧なる八より一欠けし七の悪徳と七の美徳。不完全なる陰陽七つの想念は循環し均衡を保ちて八即ち完璧たらん」
「とにかくごにゃーぽよ、ごにゃーぽにかけるのよ。とにごにゃ」
 ……増えてますね?
 数が足らぬなら増えれば良い。それもまた道理である。でも何でそんな事が起きるのか……その時不思議なことが起こったとしか言い様が無い。
 真の姿として大人となったアリスが、普段通りの美少女のアリスが、水着を着たアリスが、首を刎ねそうなバニー姿のアリスが、ナース姿のアリスが、和風ウェイトレス姿のアリスが、其々の姿が違うのは伊達と酔狂か、それとも魔術的な意味があるのか。其々のアリスがそれぞれに口々に教えを語る。概念を語る。世界を語る。
「魂八保ごにゃーぽ魂を八に保つのです八とはすなわち最良でありそれはごにゃーぽでしてごにゃーぽに上書きさすれば廃墟は産み直され視読の笑気でごにゃーぽと笑い合うならばごにゃーぽごにゃーぽと産声をあげる新しい世界がごにゃーぽでして」
 所で真の姿状態の恐らくは本体のアリス、さっきから一切息継ぎしてる様子無く延々唱え続けてるんですけどどうやってるんですそれ。怖いんですけど。
 増える。増える。アリスが増える。園内を埋め尽くすほどに。
 ごにゃーぽ。ごにゃーぽ。ごにゃーぽも増える。世界に溢れかえれと言わんばかりに。
 何だろうこれ。新種の地獄かな?
『廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の廃墟の』
 だがUDC達とて諾々と攻められはしない。それは声ならぬ声。妄言ならぬ妄言。
 廃物の呼び声、終わりの産声、過去の鳴き声。シンプルで純粋に大きなその概念は、彼らがその存在全てを込めて全力を放出し始めた証拠でもある。アリスの攻撃……浸食、或いは埋め立て工事か……兎も角それが脅威であると。そう判じて。

 結局、ごにゃーぽって何だよ。猟兵の誰かが思わず呟いた。
 八とは完璧である最良の数字であるのでその八に魂を保つのです7では不足なのですゆえにごにゃーぽとなるのですとか何とか大体そんな意味合いの説明が四方八方のアリスから殺到して、猟兵は心底後悔した。
 廃墟渡りの一体がカラカラに乾いて砕けた。その身を浸していた終わりの概念がごにゃーぽに押し潰されて乾き切ってしまったから。
 また別の猟兵が耳を塞いでみた。ごにゃーぽに耳を閉ざす事無かれごにゃーぽとは完全であり聴覚によってのみ伝わる物では無いのでどうのこうので、何でかどれだけキッチリ塞いでも一切音量が減らずに聞こえ続ける事に頭を抱えた。
 廃墟渡りの数体が溶けて崩れた。ごにゃーぽの物量に押し潰されたのだろう。
 廃墟渡りの数十体が薄れて消えて行った。その虚無を全てごにゃーぽにて埋められてしまいごにゃーぽったらしい。
 廃墟渡りの数百体が……
 ……で、結局ごにゃーぽってなんですかね。
「ああああごにゃーぽと唱えれば幸運にもごにゃーぽに恵まれて新たな生に」
 うるせー! 知らねー! ごにゃーぽ。と言う風情である。うん、もうどうしようもないなこれ。
 廃墟渡りの残り全てがゆるゆると震え出した。余りにも馬鹿らしい末路とも言える。だが同時にこれ以上なく相応しい最期もとも言える。言って仕舞えば因果応報の極致、終わりの概念としての廃墟を広げ行く行くは全てを廃墟に沈めようとして居たのが彼等だ。
 そこに悪意は無かろうとも、そこにまともな意思等無かろうとも。そう言う存在だったのだ。逆に全然別口の概念を押し付けられ捻じ込まれて潰えるなら、それは当然と言って差し支えあるまい。
「誕生日おめでごにゃーぽ♥」
 或いは、本当にごにゃーぽに成り果て生まれなおしたのだろうか。アリスのいっそ愛情すら感じる甘やかな声を最後に、無の概念達はある意味でその通りに綺麗さっぱり消えて無くなり。その場から完全に消滅したのだった。

 ちなみに、この件の後始末を依頼(ルビ:丸投げ)された人類防衛組織「UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)」の職員が即日上司に辞表を出したとの事だが。……まあ、それは別の話である。却下されたらしいし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月07日


挿絵イラスト