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監獄島の戦い――絶海と要塞、炸薬を添えて

作者：マーシャル後藤

●不審船
『哨戒艦コルネーゼより航行中の大型船舶へ。当海域はエルデナント共和国領海であり航行制限海域である。至急停船せよ。繰り返す――。』
　エルデナント共和国リルホーン州沖合の海域で沿岸警備隊の哨戒艦『コルネーゼ』は一隻の大型輸送船を追跡していた。もはやロートルと言って差し支えない旧式艦でありながらも嘗ては「洋上の韋駄天」とも評されたその船速は今日も健在で、大型輸送船と付かず離れずの距離を保っていた。
「艦長、大型船舶からの応答は未だありません。公用語無線にも反応無し。」
「未だ国旗掲揚も無しか？一先ず臨検班をいつでも出せるよう――『大型船舶から射出される物体あり！本艦に接近中！』――なんだとっ！？CIWS(近接防御火器システム)を急がせろ！」
　CIC(戦闘指揮所)からの絶叫に即座に決断したコルネーゼの艦長、ベック大佐は艦橋から上空を睨む。
　幾つもの礫のような物体が迫り、CIWSから吐き出される機銃弾が次々とそれを撃ち落とす。否、その礫は炸裂し、無数の破片となりコルネーゼを襲った。
「榴弾砲かっ！機関全速、やつの横腹に喰らいつかせろ！死ぬ気で船を走らせるんだ！」
　咄嗟に身を屈め破片の直撃を免れたベックは怒鳴るように命令を出すが、コルネーゼの上空には艦上のCIWSでは処理しきれぬ礫――榴弾の雨が迫っていた。

●要塞監獄
「失礼します！近海で国籍不明船舶を追跡していたコルネーゼが撃沈！国籍不明艦は今もなお本島に接近中！」
　緊急の報を携えた警備兵が駆け込んだのはアル・チザム島刑務所の所長室。そこには刑務所所長と、普段なら居るはずのない人物がいた。
「ふむ…。所長、視察は中断だ。緊急警備の指揮は君に一任する。」
「わかりましたハリガン長官。敵に要塞監獄の名が伊達ではないことを知らしめてやります。貴方はシェルターへお急ぎ下さい。」
　長官――トーマス・ハリガン司法省長官とその側近は刑務所長に敬礼すると警備兵の案内でシェルターへと向かい始めた。
「長官、本省より副長官がタスクフォースの派遣準備を開始、並びに猟兵への支援要請連絡を行っているとのことです。」
「初動は悪くない。ただ間に合わない可能性も有り得る。覚悟はしておけ。」
「はっ。」
（恐らく敵の狙いは私の首。だがそれならなぜこのタイミングだ…？）
　ハリガンは思考を巡らす。彼には敵が多い。政界は当然ながら一部の軍人からも嫌われており何度も脅迫状を送られる程である。
　今回のアル・チザム島刑務所の視察は公務であり、当然万人の知る所であった。だからこそ、本土にいる時でなく今このタイミングでの襲撃に疑問を抱いていたのだった。

●
「エルデナント共和国でテロと思しき襲撃事件が発生したわ。今回の依頼は同国司法省。要人救出任務の支援よ。」
　イザベラ・ラブレス（デカい銃を持つ女・f30419）はそう切り出すと説明を始めた。
「場所は同国リルホーン州の沖合、アル・チザム島。本土から30kmの距離にあってアクセスは船便のみ、名実ともに絶海の孤島ね。古くは対艦砲で武装した難攻不落の要塞だったけど現在は刑務所に改修されているわ。」
　イザベラは島の地図をモニターに表示させる。島内の施設は中央に座する刑務所の他に警備隊の駐屯基地、そして空輸ができた時代の名残であろうか、一本の滑走路が存在している。
「刑務所の周囲は昔の要塞線がそのまま現存していて警備隊はこれを用いて防衛しているって所ね。対する敵戦力は不明。だけど上陸前に沿岸警備隊の艦船を沈めているわ。チャチなチンピラじゃないのは確実よ。」
　警備隊にもキャバリアは配備されているようだが当然必要最低限である。戦力として期待するのは酷というものであった。
「作戦は洋上から司法省のタスクフォースと共にアル・チザム島へ突入。猟兵が敵集団と交戦している間にタスクフォースが刑務所内のシェルターに隠れた要人を救出、即座に撤収ってのが司法省の想定している流れよ。敵については容疑者って事になるけど事態によっては生死不問とする…って事で司法省からは言質は取れているわ。猟兵が出張る以上オブリビオンマシンとの遭遇は避けられない、流石にそこは呑んでもらったわよ。」
　つまり、猟兵たちの行動に大きな制限は特にないという事だ。果たしてどのような交渉が行われたのか、イザベラはやりきったという顔で猟兵達に伝えた。
「ここまでで何か質問は？……無いわね。ではGood hunting Jaeger.(猟兵諸君、良い狩りを)」

第1章 冒険 『友軍部隊の上陸作戦を援護せよ！』

POW   :    重装甲・高火力を活かし、友軍上陸部隊の随伴護衛を担当する SPD   :    機動力を活かし、別動隊として上陸。友軍の侵攻拠点や侵入路を確保する WIZ   :    情報収集力・指揮能力を活かし、友軍を安全な上陸地点へと誘導する 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●
　アル・チザム島から東に10kmの洋上、エルデナント海軍情報収集艦『マクレガー』。
「あっ！そういえば自分、昨日婚姻届だして来たんすよ！」
「バッ…お前、このタイミングで言う奴があるか！お目出てぇなコノヤロー！」
「この作戦が終わったら式挙げるんですよ！」
「死亡フラグじゃねーか！」
　オリーブドラブの野戦服に身を包んだ男達が艦内のブリーフィングルームで談笑していた。司法省のシンボルが刺繍されたパッチから、彼らが今回の作戦に参加するタスクフォースの隊員達であると言う事は誰の目から見ても明らかであった。
　隊員達がわいのわいのと騒いでいるとドアが開き、隊員達は入室してきた男を反射的に敬礼で出迎えた。
「全員休め、作戦に関して新たな情報だ。耳かっぽじってよく聞けよ。」
　タスクフォース隊長、ダグラス・マルドゥーンはそう言うと抱えている電子端末を室内モニターに繋ぐ。
「これは海軍の偵察ドローンから送られてきた映像だ。ドローンはアル・チザム島沿岸到達直前に全機撃墜、ほぼ同じタイミングで撃ち落されていることからレーザー式自動砲台が海上を含む上陸地点周辺に設置されている可能性が高い。」
「あー、隊長…それってつまり、俺達の揚陸艦もヤバいって事ですか？」
　隊員の一人が割り込むように発言した。本来は咎められる行為であるが、しかし何事にも例外は存在する。いい質問だ、とマルドゥーンは頷き隊員の疑問に答える。
「今回作戦に参加するアームストロング級揚陸艦は対レーザー装甲を備えた最新艦だ。直撃を受けてもそう簡単には沈まんようにはできている。ただ四方八方からサンドバッグみたく殴られれば撤収時に支障が出るのは確実だそうだ。それにテロリストのキャバリアが戻ってこないとも限らん。」
「キャバリアにレーザー砲台、なんともまぁ軍隊並みに用意が良い事で…。」　
　別の隊員がお手上げだと愚痴を漏らす。タスクフォースと言えど彼らは警察官である。一定水準の軍事教練を受けているが装備面に置いては法律の制約がある以上軍隊ほど充実したものを持てないのが現状であった。

「そこで助っ人の登場だ。今回の作戦遂行にあたり、我々は猟兵の支援を受けることになった。まずは上陸地点の安全確保、次にテロリストの陽動を担当してもらい、我々は揚陸艦から刑務所まで装甲車で一直線に突入、シェルターに避難している救出目標を確保、撤収となる。上手くいけば損害なく遂行できる事だろう。」
　マルドゥーンの言葉に隊員達は驚きの声を上げた。サノカティラ市の港湾施設襲撃事件における猟兵達の活躍は彼らも報告書やニュースで当然把握していた。
「という事で、だ。単騎で軍隊を相手取れる様な強者の支援を受ける以上、我々もプロとして無様を晒すことはできん。各自日々の訓練の成果を遺憾なく発揮しろ！」
「了解！」
　マルドゥーンは隊員達の気合のこもった返事に満足げな表情を浮かべた。

「それと作戦前に他に何か言いたいやつはいるか？」
「はい隊長！実はマルコが今度結婚式を挙げるそうです！」
「なにっ！死亡フラグじゃないかマルコ！」
「その反応、もうやりましたぜ。」
『HAHAHAHA！！』
　マルドゥーンのリアクションが思わずツボに入ったのか隊員達はドッと笑いだし、マルドゥーンも便乗して笑い出す。その手に一台の無線機を持ちながら。
「ハハハ、は…隊長？何すか、その無線機？」
　無線機に気が付いた隊員がそう訊ねると、マルドゥーンは「よくぞ聞いてくれた！」という無言のリアクションと共に無線機のマイクを口元に寄せて声を発した。
『と、言う訳で聞いていたとおりだ猟兵諸君。マルコの花嫁を悲しませない為にもしっかりと我が隊をエスコートしてくれ給えよ！』
　実はこのマルドゥーンという男、変なタイミングで茶目っ気(オブラートな表現)を出す事で知られており、今回もブリーフィングルームに入ってから無線機の送信ボタンを押しっぱなしであった。
　その為ここまでの会話は無線の向こうで猟兵たちにも筒抜けだったのである。
「やめてください隊長！恥ずかしくて死にそうだ！あぁ神様！」
「衛生兵ー！マルコがチェリーボーイ並みに恥ずかしがってるぞ！！」
「こいつは手遅れだ！」
『HAHAHAHA！！』
　それから暫くタスクフォースのマルコいじり、もといバカ騒ぎは、その様子を不審に思った士官に咎められるまで続き、アームストロング級揚陸艦に移動して準備を進める彼らの姿があったと言う。


●吶喊

「間もなく敵射程圏に進入します。」
「対レーザー戦闘用意、シャッター降ろせ。」
　艦橋に立つ艦長から発せられた命令により慌ただしく、しかし正確に戦闘準備が進められるアームストロング級揚陸艦。彼らの仕事はタスクフォースを島に送り届け、そして彼らが司法省長官を連れて戻ってくるのを待つこと。決して主役とは言い難く、しかし重要な役回りで危険の伴う仕事であるだけに誰もが緊張の表情を浮かべていた。
「艦長、本艦後方より急速接近する機影多数！所属不め……い、いや！」
「はっきり報告しろ！所属はどこだ！」
「め、メリアグレース。メリアグレースの第一騎士団です！」
「……なんだと？」
　揚陸艦の艦長は驚きの余りに固まり、そしてその耳で艦の横を通り過ぎていく者達の発する音を聞いて我に返った。
「猟兵より入電、『我がメリアグレース聖教皇国は今回の要人救出作戦に全面の協力を約束します。第十六代教皇フレスベルク・メリアグレース』……。」
「……すると何だ？聖教皇猊下が猟兵で、今、本艦の横を通り過ぎていった中に猊下ご自身もいらっしゃる……ってコトか？」
　まさしくその通りであった。しかし、艦長の発したその問いに「その通りである。」と自信をもって答えられるものはいなかった。それが彼らにとっては余りにも現実離れ過ぎていたからである。

「総員傾注。これより我々はエルデナント司法省タスクフォースの上陸支援の為行動を開始します。」
　百を超える聖騎士を従え鉄騎を駆るはフレスベルク・メリアグレース（メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263）。揚陸艦に先行し上陸地点へと向かうその機動には一切の迷いは無く、そしてそれは従う聖騎士達も同様であった。
　突如ロックオンを知らせる警報が鳴り響く。レーザー砲台の射程圏に入ったのだ。
「全機密集陣形を。これより吶喊を行います。」
　フレスベルクが合図を出すと騎士達は彼女の周囲を覆う様に集結し、一つの砲弾と化して洋上を突き進む。それを撃ち落とさんとばかりに無数のレーザーがフレスベルク達目掛けて放たれるが、密集陣形の強固さは戦争の歴史がそれ証明している。

「……入電！『メリアグレース第一騎士団、アル・チザム島上陸に成功せり』！」
「さらに先ほどの吶喊によりレーザー砲台の座標割り出しに成功との事、本艦へのデータリンクを申し出ています！」
　その光景をモニター越しに見ていた揚陸艦の面々は文字通りに度肝を抜かれていた。密集陣形へと放たれたレーザーはキャバリアの装甲を灼くに留まり、しかもフレスベルク達を優先的に狙っていたためか揚陸艦は無傷のままであった。
　しかし艦長はフレスベルクの吶喊が揚陸艦を庇った以上の大きな好機を齎したことを理解していた。
「正しく英雄の所業だなこれは……船速を上げろ！先の吶喊で齎されたこの好機、活かさなければ共和国海軍の名折れだぞ！」
　送られてきた砲台の座標を地図上に照らし合わせると、それが極めて計算されて設置されている事が判明した。最少数で最大効率を出すための配置であり、故に先ほどの吶喊により海上に配置されたいくつかの砲台が破壊され「抜け穴」が発生していたのだ。
　それは揚陸艦にとっては「好機」であり、船速を上げると上陸地点目掛けて進み始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●カウンタースナイプ

「こちら猟兵ノア・クレムリィ、コールサインは《リヴァイアサン》。これより行動を開始します。必ずや皆様を守り抜きましょう。」
　愛機「ガンド」へのレーザー対策を終えたノア・クレムリィ（海駆ける鋼鉄の竜騎兵・f30572）は揚陸艦への通信を行うと颯爽と海上へと飛び出した。
『了解したリヴァイアサン。貴官に幸運を。』
「ありがとう。でもその幸運はもう少し先まで取っておいて下…さいっ！」
　揚陸艦の通信士に返答していたノアであったが、戦場の勘が働いたのかすぐさま機体を揚陸艦の船体を庇う様に動いた。
　直後、愛機ごと彼女を衝撃が襲った。
「くっ……追加装甲が！？」
『大丈夫かリヴァイアサン！』
　ノアを心配してか先ほどの通信士から呼びかけが入る。瞬時にガンドのステータスを表示し、レーザーを庇った部位の追加装甲以外が正常である事を確認した。
　それと同時に先のレーザーが飛びぬけて高出力である事を悟った。その場で加工を施したとはいえ対策を施した装甲を破ったのだ。故に対レーザー装甲を持つ揚陸艦にとってもそれは脅威と成り得る事をノアは直感的に理解した。
「こちらリヴァイアサン、敵レーザー砲台の中に高威力のレーザーを放っている個体があることを確認しました。これより本機はカウンタースナイプによる高威力レーザー砲台の殲滅を開始します！」
　同時に狙撃元へと撃ち返しながら揚陸艦への通信を行うノア。
『…わかったリヴァイアサン。すまないが頼む。』
　カウンタースナイプと言えば聞こえは良いが、この場においては狙撃手自身が危険に身を晒すというハイリスク極まり無い行為であった。
　しかし敵は自動砲台。人の技量や心理的要因が働かず、揚陸艦の最も弱い部分を正確に狙ってくるからこそ、ノアにとっては自身の装甲を犠牲にしてでも勝負に出る価値があった。
「っ…そこ！」
　次のレーザーもやはり揚陸艦の、それも機関部にほど近い部分に向けて放たれる。ノアはそこにガンドを潜り込ませ追加装甲で受けきり、狙撃元へと撃ち返した。ノアの放った一撃は確かに自動砲台の砲口を貫き砲台は爆発四散する。
『敵レーザー砲台の破壊を確認！』
「まだまだ！…それとタスクフォースのマルコさんに伝言をお願いします。『花嫁を泣かせない為にも貴殿にこそ幸運を』と。」
『…わかったリヴァイアサン！一字一句漏らさず伝えてやる！引き続き頼む！』
　そしてノアは再びレーザーを防ぎ、同じように反撃を続ける。追加装甲がある限り。

成功 🔵​🔵​🔴​

●ニンジャ・タッチダウン

　アル・チザム島東部沿岸。
　突如島の刑務所を襲撃したテロリストが配置したと思しき自動レーザー砲台による迎撃網の敷かれたこの一帯での戦いは猟兵達の活躍により順調に進み、揚陸艦も上陸を目前に控えていた。
　しかしそれは同時に、敵の迎撃も一段と熾烈を極める事を意味していた。
「……。」
　アームストロング級揚陸艦の甲板上ではカーバンクル・スカルン（クリスタリアンのスクラップビルダー？・f12355）がうつ伏せになっていた。
『な、なぁ。本当に向こうからは感知されないんだろうな？』
「しぃー、これ結構集中力使うから今は話しかけないでね。」
　突如無線で揚陸艦艦長からの通信が入るが、カーバンクルは素っ気なくそれを返してしまう。
　艦長が心配になるのも無理はない事だ。確かに艦橋のモニターからは『揚陸艦の姿は消えていた』。クリスタリアンである彼女だからこそできる「クリスタライズ」の影響であった。
　とは言え、あくまで視覚的な偽装に過ぎず機関の排熱やスクリュー音などはそのままである。先行する猟兵達の陽動が効いている間ならまだしも、いつまでも隠し通すには無理があった。

「よしっ、とりあえず使えそうな情報は集まったかな。そんじゃあ手早く済ませちゃいますか。」
　時を同じくして揚陸艦上空に滞空する、熱光学迷彩を纏った情報戦用小型キャバリア「レーヴェンツァーンTypeⅡ｣を駆るはジェイ・ランス（電脳の黒獅子・f24255）。レーザー砲台の眼を欺きつつ機体の各種センサー、そして彼の電脳から生み出された独自の事象観測術式で収集された膨大な情報は即座に解析され、その情報が「武器として実用可能なほどの精度」になるまでシミュレートが繰り返される。
「―――Ubel:Code Löwe_Illusion Dame.」
　そしてそれが発動するには時間にして十秒にも満たなかった。レーヴェンツァーンTypeⅡを中心に戦場全域に一種のパルスのようなものが走った。
「艦長、レーダーが本艦の周囲に複数の船影を…いえ、本艦と全く同じ識別の艦船を捉えています！」
　それにいち早く気が付いたレーダー手が叫ぶ。確かに洋上には無数のアームストロング級揚陸艦を目視する事ができた。しかしそれは当然紛い物であり、本物は光学迷彩を纏っている。
　だがそれはジェイの電脳で何遍と繰り返されたシミュレートにより生み出された偽物であり、波をかき分け沿岸へと船首を向けるその様子からは本物と見間違う事必至であり、しかもジャミングが掛けられていることから電子の眼も欺いてしまう。本物の揚陸艦を見失っていたレーザー砲台は素直なほどに偽物の揚陸艦へと喰らいついた。

「HAHAHA！まさに影分身、ニンジャ戦法だネ！」
　チトセ・シロガネ（チトセ・ザ・スターライト・f01698）はレーザーが本物の揚陸艦をそっちのけでジェイの生み出した偽物へと撃ち込まれていく様子を見ると颯爽と飛び出していった。
　そっぽを向き、そしてその位置を晒して避けようとしない砲台は彼女にとっては正に「良い的」でしかなかった。
　揚陸艦の進路上を青いキャバリアが通り過ぎたかと思いきや、突如至るところで爆発が生じる。常人の目には全くと言っていいほど捉えられない早業であり、その後も次々と砲台を平らげていった。
「よーし！ここまで来たら上々！あとはゴリ押しでゴーゴーだっ！」
　そして揚陸艦の甲板で次々と砲台が破壊されていく様を見ていたカーバンクルもいつの間にか手にしていた金属製の車輪を担ぎ海面へと降りて砲台の破壊に参加していく。当然クリスタライズは解除されるが上陸地点まではもう目と鼻の先であった。

「上陸用意、ハッチ開放準備急げ！」
「タスクフォース、上陸準備急げ！」
「到達まで3…2…1…タッチダウン！繰り返す、タッチダウン！」
　タッチダウン、それは揚陸艦がアル・チザムの地を踏んだ事を意味している。そしてそれは同時に遂にタスクフォースの出番が回ってきたという事でもあった。
「さぁお嬢さん方！間もなくロックンロールだ！マルコぉ！嫁さんに自慢できるような活躍期待してるぞ！」
「「YEAH！期待してるぞマルコぉッ！」」
　自分達の出番を前にしてタスクフォースの気合は十分、それ以上であった。そして余計な気合が原因でマルコいじりが再発した。
『ヒューヒュー！お熱いねぇマルコくん！』
『結婚式までのエスコート役はボク達に任せるネ！HAHAHA！』
　しかも今度は猟兵達も混ざってきたので余計に盛り上がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●金床

　揚陸艦は遂にアル・チザム島への上陸を果たした。しかし猟兵の支援を以てしても、未だにレーザーの脅威は健在であった。
「艦前方への敵砲撃が激しい！このままではハッチを開放できないぞ！」
　猟兵達の攻撃により数を減らしていたはずのレーザー砲台であったが、揚陸艦の上陸に合わせて陸側で新たな砲台が起動。格納庫内への砲撃を避けるため揚陸艦もタスクフォースも文字通り海岸に釘づけられていたのであった。

　同時刻、揚陸艦上陸地点から南西の海域。
「…ビンゴ。要塞って聞いてたからやっぱりあるだろうとは思ってたんだよね。」
　共和国海軍から借り受けた作業用キャバリア『オルカ』に自前のスラスター「サラスヴァティ・ユニット」を取り付けてアル・チザム島の周辺を探っていた支倉・錫華（Gambenero・f29951）は一つの水中トンネルを発見した。
　出撃前に報収集艦『マクレガー』のデータベースから共有を受けたアル・チザム島の時代別の地図。それは時代が移り行くごとに修改築が行われた島の全容が精密に記録されていた。
　彼女が見つけたのは、殲禍炎剣が暴走するよりも前の戦争中に整備された補給物資を積んだ潜水艦用に造られたトンネルの一つ。比較的地盤が安定しているのか崩落などもしておらず、比較的小型の作業用キャバリアで通るには十分であった。
「刑務所まで直行とはいかないだろうけど、あの砲台の後ろを取れるならそれだけでも儲けもの、だね。」
　錫華はキャバリアの操縦桿をゆっくりと倒しながらトンネルの中へと進入していった。

「勝手におかわりがくるのはシュラスコだけで十分だっての！」
　場所は戻って上陸地点。レーザー砲台の攻勢激しいこの地で奮闘を繰り広げる一機の重量級キャバリアの姿があった。リーゼロッテ・ローデンヴァルト（リリー先生って呼んでよ・f30386）の駆る『ナインス・ライン』だ。
　他の猟兵達と同じように先行して砲台を破壊して回っていた彼女であったが、まさかの砲台追加に荒れに荒れていた。
　随伴トレーラーに積んできた無人機『デルタ・ヴァルキリー』3機分の鋼蟲型ビットを総動員で対処するが、上陸前に観測されていた以上の弾幕を展開する砲台を相手取るには決定打を欠く形となっていた。
「むむむむ……。」
　そしてリーゼロッテは彼女が事前に掴んでいた情報の真偽を確かめる為にもこの場で立ち止まる訳にはいかなかった。故にこの状況は歯がゆく、キャバリアを動かす手にも余計に力がこもる。
　正に膠着、しかしそれを破る者が現れた。
『お待たせ。潜り込んだのは良かったけど、地上に出る方法に手間取っちゃった。これから援護に入るね。』
　それは水中トンネルから島内への進入を図っていた錫華であった。丁度リーゼロッテと向かい合う様にレーザー砲台群の背後を取った形となり、故に敵の背中を撃ち放題な状況であり、それはリーゼロッテにとっても十分うれしい事であった。
「オッケー、助かるよ！……それじゃあこっちも攻勢に出るとしようか！」
　錫華が砲台を相手取り始めたのを合図にリーゼロッテは鋼蟲型ビットを操作し防壁を解除、計351体からなる軍団の総力を砲台群へとけしかけた。
　ビットはレーザーを弾き返し、まとわりついてはねじの一本すら残らぬほどの勢いで砲台を捕食を行い始める光景は足止めされていた彼女の鬱憤を晴らすが如きであった。
　一方の錫華も多目的ライフルから徹甲弾を砲台に撃ち込んでいき、確実に一機、また一機と撃破していく。
　そこから猟兵の二人が「鎚」と「金床」を担い、敵を完膚なきまでに叩き潰すまではあっという間であった。

●
「敵レーザー砲台群の沈黙を確認！ハッチ開放を再開！」
「タスクフォース出撃せよ！幸運を祈る！」
　遂に揚陸艦からタスクフォースを載せた装甲車列が姿を現した。目指すは島の中心部、アル・チザム島刑務所。
　そしてここで漸く島の警備部隊と思しき通信を拾う事ができるようになったのだが、誰もが聞いたのは最悪な状況の報せであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第2章 集団戦 『MPC-JU156-NSI『スクンク』』

POW   :    RS-A 拠点破壊用多砲身グレネード砲 【建造物破壊に優れたグレネード弾の高速連射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。 SPD   :    RS-B 対人行動用『鎮圧ガス』噴霧器 攻撃が命中した対象に【攻撃で用いた『制圧ガス』の特殊成分】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【曝露させた『制圧ガス』の様々な毒性】による追加攻撃を与え続ける。 WIZ   :    EP 戦術統御用高速データリンクシステム 全身を【状況解析用の特殊センサー】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃や妨害行為の回数】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。 イラスト：エンドウフジブチ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●難攻不落、久しからずや
　アル・チザム島に上陸した猟兵とタスクフォースの面々が見た光景は難攻不落と呼ばれた要塞島の見るも無惨な姿であった。
　各所で上がる黒煙、突破されたと思しき城壁の跡、擱座したエルデナント共和国軍の量産型キャバリア。
『くそ！衛生兵！衛生兵ーっ！』
『こちら第3防御線、被害甚大！持ち堪えられない！』
　そして無線の向こうから聞こえる警備部隊の阿鼻叫喚、正に地獄絵図であった。

「あぁ神様、畜生！」
　タスクフォースの一人が彼らの心情を代弁するかの如き悪態をつく。しかしそれをマルドゥーンは一喝する。
「狼狽えるんじゃあないっ！見てみろ！幸い刑務所本館はまだ無事だ！」
　マルドゥーンの言う通り、島の中央に位置する刑務所からは火の手はおろか煙も立っていない。
「つまり、まだ我々の救出対象は無事だという事だ！警備部隊の働きに報いる為にも我々がここで泣き言を漏らす様なマネは許されんぞ！」
　まるで体育教師か鬼軍曹の如き激励を発するマルドゥーンであった。
　それと同時に島沖合に停泊するマクレガーからも通信が入る。
『こちらマクレガー。島上空に偵察ドローンの展開に成功した。やはり島内に対空兵器は持ち込まれていないようだ。』
　レーザー砲の脅威が消えた事で情報収集艦としての本領を発揮する機会を得たマクレガーは偵察ドローンにより齎された情報を猟兵達に伝達してきた。
『敵は刑務所を囲うように展開し、周囲に多重に張り巡らされた要塞線の警備部隊を各個撃破しているようだ。万全を期して刑務所本館襲撃を成功させるつもりだろう。調べた所、幸い無傷の連絡路が残っているようだ。タスクフォースはこの通路を使って刑務所本館へと向かったほうが良いだろう。』

　熱源探査により判明したのは襲撃者達が島の全方位から要塞を攻撃しているという事であった。警備部隊の戦力を分断するという点においては効果的である反面、襲撃者側も戦力を分散させる為、攻め側も大きなリスクを抱える戦術と言えた。
　大型輸送船で上陸してきたとはいえ大軍の規模を確保できていない事は明白であり、故にこれ程まで警備部隊が押し込められている状況は不自然である。しかし次に齎された情報がその不自然さを解消した。
『敵主力兵器は画像解析の結果量産型キャバリアMPC-JU156-NSI、通称「スクンク」と推定される。ガス兵器を搭載した最悪なキャバリアだ。また撃沈させられたコルネーゼから最後に送られてきたダメージデータと要塞の攻撃に使用された兵装データを照合したところ、このキャバリアの搭載するグレネードと一致した。蜂の巣にされれば一溜まりもないぞ。』
　化学兵器(ガス)と榴弾(グレネード)、それこそが難攻不落破りの正体であった。
「ガスか…少なくとも警察の使う催涙弾の類ではなさそうだな。ここからは全員ガスマスク装着だ。隣同士で不備がないか確認しておけ。猟兵諸君、引き続き我々のエスコートを頼む。」
　目指すは島の中央部。マクレガーから送られてきたガイドを頼りに猟兵とタスクフォースは激戦地へと踏み込むのであった。


●インターセプター

「やっぱスクンクか…ったく。」
　ナインス・ラインのコックピットでリーゼロッテは悪態をついた。スクンクを誰が製造し、誰が流通させているかを知っている、つまり『N.S.I.』の元関係者であるが故の呆れであった。
　しかし、同時に対処法を知っている彼女はすぐにタスクフォースとの通信を取ることにした。　
「ダグラス隊長、こちらナインス・ライン。スクンクのガスがヤバいってのはマクレガーからの情報で承知してるだろうけど、隊員の不調は見逃さないでね。直掩としてファルマコンをつけさせてもらうよ。」
『了解だナインス・ライン。……って相当デカいな。ホバーか？』
「そうだよ。医療艇も兼ねたホバートレー……って話はまたあとでね。早速お出ましのようだ。」
　ナインス・ラインのレーダーが接近してくる計5機のスクンスを捉えた。それに反応したリーゼロッテはすぐさま攻撃態勢に入り、装甲車の盾となるように自機を押し出した。
「数売ればナンボの量産機、見た感じ改修が施されてる様子もないから仕様は変わってないハズ…！」
　主砲に先の戦争――アポカリプス・ランページで猟兵相手に猛威を振るった「侵食プログラム弾」を模した特殊弾を装填すると射撃を開始するリーゼロッテ。狙うはスクンクの二大セールスポイントの一つ、制圧ガス噴霧機。
　対するスクンクは両腕の砲身を回転させ始めるがリーゼロッテの砲撃に3機のスクンクが体勢を崩す。残る2機は特殊弾の直撃を受ける前に数発のグレネードをナインス・ラインに向けて放つ。
「ぐっ！ダメージは……軽微！さすがアタシのキャバリアだ、なんともないね！」
　正規軍の艦艇や要塞城壁に致命傷を与えたグレネードの直撃を受けたナインス・ラインであったが、これまで幾重もの死線を潜り抜けてきた猟兵のキャバリア、それも重量級たるナインス・ラインを屠るは容易い事ではない。
「そして……よし、仕掛けも万全。さぁスクンクども、その砲身を『向ける相手』を間違えてたみたいだね…？」
　リーゼロッテはそう言うとひとつのプログラムを呼び出し、起動させる。すると目の前のスクンクが互いを攻撃し始め、5機のうち2機が擱座。残った3機はナインス・ラインに背を向け――それはまるで前衛を務めるような動きをし始めた。
『な、何だ？奴らは降伏したのか？』
「スクンクは特殊なセンサーを全身に装着していてね。それをナノマシンでチョチョイと弄ってみたのさ♪」
　突然の状況に戸惑うマルドゥーンに答えてみせるリーゼロッテ。彼女が言うナノマシン――ガイア・ゴスペルはスクンクと対峙した時点で既に放出されていたのだ。元は医療用と言えど魔改造されたそれはあらゆる電気系に干渉し、それを制御してしまうのだ。
『つまり操縦権を乗っ取ったのか、凄いなオイ！君はハッカーか何かなのか？』
「ふふっ、アタシはただ通りすがりの闇医者、リリー先生さ♪」
　マルドゥーンのべた褒めに気の良くしたリーゼロッテは掌握したスクンクを率い、進軍を再開した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●ストロンガーズ・ハント

『警戒！11時、スクンクだ！後退しろ後退！』
　タスクフォース隊員の一人がドライバーに大声で呼びかける。瓦礫と化した要塞線の影から跳躍してきた数機のスクンクが装甲車に迫り、装甲車もギアを操作し一気に後退させる。
「させるか！」
　ジェイの乗るレーヴェンツァーンTypeⅡが装甲車とスクンクの間に割り込んだ。そして電脳空間から呼び出した機関砲から吐き出された30mm機銃弾がスクンクの足関節に食らいつき、その不安定な機体を引き倒した。
『助かった猟兵！ナイスアシストだ！』
「どうもどうも…って言いたいところだけど喜ぶには早いみたいだぜ？」
　そう言ったジェイの目の前では擱座したスクンクから着色された煙幕、もといガスが漏れだしていた。ガスの貯蔵タンクそのものが破損したのか、擱座した機体を覆い尽くすに十分な量がであったが、幸いにも一帯は無風であり、猟兵やタスクフォースの傍まで蔓延するといった事態は避けられた。
『ありゃあ向こうさんはオダブツだな…。運が良かったよ。』
「だけどこのままじゃあコッチも足止めだしなぁ。ガス、ガスかぁ…。」
　仮にこれがジェイだけであれば突破も容易いだろう。しかし作戦の要たるタスクフォースが刑務所へ辿りつく必要があり、ガスの排除は必須であった。そして先のような奇襲がこれからも続くとあれば刑務所到達までに多くの時間を要するのは明らかである。
「…よし、ブラックホールはあそこに設置するとして…敵の隠れてそうなポイントは…こんなもんか。」
　であれば予め脅威を排除してしまうに限る。ジェイは小型の電脳ブラックホールを設置すると吸引対象をガスのみに絞り、そしてタスクフォースへブラックホールに余り近付き過ぎるなと伝えると単騎で先へと進み始めた。
『えっ！？あっ、隊長！なんか猟兵だけ先に行っちゃいましたよ！？』
『とはいってもガスが消えなきゃこっちも動きようがないしな……。というかさっきサラッと凄いこと言ってなかったか？何だ電脳ブラックホールって…？』
『ブラックホールってほら、吸引力の変わらない…って掃除機かアレは。』
『というかブラックホールなら出口とかあるんすよね？あれ、どこに排出されてんすかね？』
　そしてマルドゥーン以下タスクフォースの面々が電脳ブラックホールについて議論をし始めたのであった。

「よっし、もう一機見つけた！」
　一方、敵中に飛びこんだジェイは順調にスクンクを撃破し続けていた。ブラックホールを設置するのと同時に発動させた観測術式により、最早この島に彼の目の届かない場所は無く、故にタスクフォースの進路を妨げられるスクンクなど存在できようはずもなかった。
　近くにあらば機銃の餌食、遠からずんば光線と電磁砲の餌食となる。最早それは戦いなどと呼べる代物では、なく強者の狩りに似た何かであった。
　それからしばらくして、一帯のスクンクの掃討を終えたジェイがタスクフォースのもとに戻ると未だ電脳ブラックホールを議論をしている彼らの姿を目の当たりにするのだが、それはまた別のお話である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●大聖堂の戦い

　アル・チザム島の要塞の幾つかの重要地点には兵士たちからあだ名を付けられている。『大聖堂』はそうした場所の一つに挙げられる島防衛の重要拠点であった。
　『大聖堂』とは名ばかりの弾薬庫なのだが、かつての戦争で砲弾を撃ち込まれたにも関わらず誘爆はおろか崩落すら起こさなかったという逸話が共和国軍将兵の間で語り継がれ、気が付けばいつの間にか「大聖堂」と親しみを込めて呼ばれるようになったのだ。

【――誰―聞こえ――救――！】
『ちょっと待て…間違いない。この周波数、島の警備部隊の通信だ！』
　猟兵の援護を受け刑務所へと着実に近づいていくにつれ無線に友軍の通信が混線し始めるようになっていた。刑務所本本館内に置かれているであろう指揮所との通信を試みていたタスクフォースは偶然にも無線を拾っていたのだ。
【――ハーキュリー10より本部！『大聖堂』で第三防衛線の残存将兵が孤立している！抗戦を続けているが敵の攻勢は熾烈――！】
無線の向こう側からはハーキュリー10の声の他に連射音、キャバリア用の実弾兵装と思しきものの射撃音が聞こえていた。そしてそれは猟兵達のすぐそば――脚部が大破し、要塞に上体を預けて射撃を続けるエルデナント共和国軍のキャバリアからのものであった。

「ハーキュリー10、助太刀させていただきます。タスクフォースは他の猟兵達と一緒に刑務所へ！」
　フレスベルクはタスクフォースの装甲車に背を向けると『大聖堂』の援護へと向かう。状況的に『大聖堂』の抗戦はタスクフォースへの注意を逸らす陽動に等しく、そして集結しつつある敵部隊を叩くには絶好の機会に違いなかった。
　目の前には他の場所を攻めていた機体も集結させたのであろう幾つもの砲門をならべたスクンクの大部隊、まさに多勢に無勢。しかし猟兵たるフレスベルクはその範疇に収まらない。
「――其はあらゆる存在から力を奪う。其は活性化している事象ならば力を奪える。其は魔獣ならざぬ略奪を司る騎神なり！」
　帰天で呼び出すは一機の巨大キャバリア。大聖堂の前に立ち塞がるように立ちはだかったそれを敵と認識したスクンク達はその砲門からグレネードを浴びせかけ始めた。
　しかしそのキャバリアには実体が無かった。グレネードのセンサー信管はキャバリアに反応して次々と起爆していくもそのすべてが無効化されていく。
「騎神(エクスマキナ)、その名に相応しき略奪の権能を示したまえ！」
　続いて件のキャバリアはフレスベルクの呼びかけに応えるようにスクンクに対して権能――エネルギー吸収機能を発動させた。
　グレネードの火力は勿論、制圧ガスの毒性、さらにスクンクの機関部から発せられる熱をも奪い取るそれは正に「戦略兵器」というカテゴリーに相応しき戦果をもたらす。
　正に魔獣、正に怪物。その光景は本能的な畏怖を齎し、しかしそれを御する一人の猟兵にして聖者の神々しく勇敢な姿に警備部隊の面々は見惚れるのであった。
　そしてこの時に救援に現れた猟兵の正体を知った彼らは『大聖堂』の新たな逸話の語り手となるのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●鎧袖一触

「もしかしてあれが刑務所の本館かな？」
　搭乗するキャバリアのカメラをズームさせて目の前の建造物を確認した錫華は呟いた。幸いにもまだ火の手は回っていないらしい。しかしそれは刑務所の本館に限った話であった。
【主任！囚人たちのパニックが治まりません！これじゃ最早暴動です！】
【外にキャバリアが見えたとかで騒ぎ始めて――おいっ！そこ何している！】
　味方の通信に交じり聞こえてくるのは刑務所職員の通信。カオスの一歩直前という状況の様だ。
『こちらマルドゥーンより猟兵へ。護衛をしてもらっている身でこういうのは何だが…他の方面から接近を試みている敵機の掃除を頼まれてくれないだろうか？テロリスト共が囚人を味方に付けて所内で戦闘となったらなんて想像もしたくない。』
「了解だよ隊長。そっちも気を付けてね。」
　錫華はそう言うとサラスヴァティ・ユニットを取り外し身軽になったオルカを駆り、刑務所の外周へと向かい始めた。

「結構集結しているみたいだけど…様子がおかしい？何かを探しているような…。」
　収監棟へとたどり着いた錫華が見たのは周囲を警戒する様に展開するスクンクの部隊であった。
　テロリスト達が要人――ハリガン長官の暗殺を目論んでいるというのが法務省と海軍の見方であるが、此処までの破壊を齎したテロリスト達がここにきて囚人たちに危害を加えないという事があろうか。
「もしかして囚人たちの中に協力者とか…？って考えるのは後だね。此処にいる分だけでも減らしておかないと！」
　錫華は歌仙と天磐――近接刀と盾を装備すると収監棟の傍に展開するスクンク目掛けて突っ込んでいった。
「まずは一機！」
　背を向けていたスクンクの両腕を叩き切り、慣性のままに押し倒す。それに気が付いた周囲のスクンクであったが猟兵に近づかれた時点で彼らに勝機は無かった。
　グレネードの威力は絶大である。しかしそれは弾頭に搭載した炸薬の量に依存した威力であり、故にその重量を飛ばすために発射速度、断頭の飛翔速度は犠牲になっている。
『当たらなければどうということはない。』
　ある伝説的な撃墜王の言葉をであるが、正に今の状況にピッタリな言葉である。いくら貸与された機体とは言え猟兵の技能に掛かればエース機並みの働きは容易く、実際錫華にとってグレネードの描く放物線はキャッチボールの「それ」よりもスローに見えていた。
「これで――ラストぉっと！」
　錫華がスクンク部隊を壊滅させるには大した時間はかからなかった。テロリストが乗っているであろうコックピット区画は無傷であり直接的な脅威であるグレネードの発射機構は封じられた。共和国司法省のオーダー通り、生け捕りにした上で完全なる勝利であった。
　スクンクの最後の一機が地に臥せたとき、錫華の背後からは割れんばかりの大歓声――収監棟の囚人達の声が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●暗号化された通信

《バトラーよりハウスキーパー各員、ガイコツを確保。繰り返す、ガイコツを確保。これより作戦の最終工程に入る。》
《こちらハウスキーパー・リーダー。了解したバトラー、こちらは『訪問販売員』の対応で忙しい。最悪『骨が折れる』だろう。》
《そうか…、お前達の犠牲は共和国の未来を築く礎となる。例え記録に残らずともだ。》
《わかっているさ。我々は革命の狼煙であり、後は本土の同志達が引き継いでくれる、それで十分だ。…だから無事に脱出してくれバトラー。通信終了。》

●ノッキング・オン・ジェイルハウス・ドア

　レーザー砲台群を破り、瓦礫の山を越え遂に猟兵とタスクフォースは刑務所本館のエントランスを肉眼に捉えた。しかし、やはりというべきかそこは既にスクンクによる防衛陣地が構築されていた。
『やっこさん共、何が何でも俺達を所内に入れたくないって腹らしいな……。とはいえこっちは顔を出せば蜂の巣だ。』
　何か策はないかと訊ねるマルドゥーンに対して、二人の猟兵が答えた。
「要するに、あそこから安全に敵をひっぺ剥がせばいいんだよね？だったらまず私が陽動も兼ねて仕掛けるよ。」
「であれば誘き出した敵の対処は私が。その隙にタスクフォースの皆さんは刑務所へ突入を行ってください。」
　カーバンクルとノアはそう言うと早速行動を開始した。

「数はまぁこんな所かな？じゃあ吶喊開始！」
　カーバンクルは身の回りの瓦礫や残骸を器用に組み合わせて即席の拷問車輪を作り、エントランス目掛けて放った。どれもが不格好であるが寧ろそれが好都合であった。
　スクンクは接近する車輪目掛けてグレネードを放つも、完全な円形では無いゆえに生じる変則的な跳躍に正確な砲撃は困難を極めた。そして、運よく仕留めたと思えばカーバンクルが新たな車輪を組み上げて放ってくるのでキリがない。
　突然の奇襲に防衛陣地は混乱に陥り、遂に車輪の魔の手(?)がスクンクを捕らえた。スクンクの象徴ともいえる両腕は車輪の回転に伴いへし折られ、次々と島の外縁へと連れ去られていった。

　味方を連れ去られて行く光景に耐えかねたか、もしくは守備の不利に気づいた一部のスクンクが陣地を離れ猟兵とタスクフォースの方へと向かい始めていた。
「敵の釣り出しは成功ですね。リヴァイアサンよりタスクフォース、突入の準備を！」
「ちわー！ミ○ワ屋でぇーす！囚われの司法長官を受け取りに来ましたよぉっと！」
　スクンクのパイロット達にとって不運だったのは相手が猟兵であった事だ。ノアの駆るガンドの出現にグレネードで迎撃しようとするも、ガンドの手にする収束爆雷の叩き付けが圧倒的に早かった。
　その威力、スクンクのグレネードなど足元にも及ばぬほどの大火力。本来は艦船相手に用いる爆雷を束にしただけはあり、直撃を受けずともその余波による致命傷は必至であった。
　完全に敵の防衛陣地は瓦解しスクンクが浮足立ったのは確実であった。そして同時にエントランス上部の窓から射手が現れ軽機関銃やロケット砲を持ち出して猟兵達を迎撃しようとする者まで現れ始めた。
「こういう事もあろうかと対人用拷問車輪も拵えてるのさ！さぁさ、お縄頂戴の時間だよ！」
　両手に車輪を構えてスクンクの足元を駆けまわっていたカーバンクルはエントランス目掛けて車輪を放ちながら叫ぶ。続けてノアもスクンクのガス噴霧口を的確に破壊しながらタスクフォースに呼びかけた。
「こちらリヴァイアサン、活路を開いた！貴官らの武運を祈る！」
『エスコート感謝する！後は我々に任せてくれ！』
　猟兵達の完璧なエスコートにより無傷で刑務所へと突入を果たすタスクフォースの装甲車。襲撃者たちによって築かれたであろうバリケードを次々と粉砕し所内へと入っていくと猟兵達からはその後ろ姿しか捉える事は出来なかった。

●リーサル・ウェポン

　タスクフォースが刑務所内に突入した頃、時を同じくして二人の男が会話をしていた。一人は戦闘服を着込んでおり軍人然とした男、そしてもう一人は囚人服に身を包んだ男であった。
　そして彼らの横にはキャバリアを積んだ一台のトレーラーが止まっていた。
「これで貴様は脱獄成功、同時に契約も終わりだ。」
「随分お堅いことで…共和国の軍人ってのは皆そんなモンなのかい？サノカティラのポリ公共が恋しいぜ…。」
「無駄口を叩くんじゃあない。お喋りはここまでだ。その『バケモノ』を持って何処にでも好きに行くといいさ。」
　戦闘服の男が吐き捨てるように言うと囚人服の男はクスクスと笑い始めた。
「…何が可笑しい。」
「可笑しいさ。俺には解るんだ。いるんだろ？この島に猟兵が。アンタだってトンズラこかなきゃあイケねぇってのに出来るのか？猟兵相手にさ？」
　囚人服の男の眼は狂気に満ちていた。戦闘服の男にはそれは見た事もない、吐き気を催しそうなほどなおぞましさであった。しかし仮に彼が猟兵であり、そしてクロムキャバリアの世界を駆けていたならば一度は見る機会もあった「眼」であった。
　それはオブリビオンマシンに魅入られた者の「眼」であった。
「丁度いいや。ここから先はロハで構わねぇ。あの猟兵共は俺が平らげてやる。アンタはその隙にでも逃げときな。」
　そういうと囚人服の男はトレーラーに積まれたキャバリアへと乗り込み、それを起動させる。
「髑髏の王の邪魔したヤツぁ、どんなヤツでも柱に吊るされるのさ――それが猟兵でもあろうとな。」
　男は再び猟兵に相見える。今度は意識を保ちながら、そして尋常じゃない狂気と悪意を孕みながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第3章 ボス戦 『エヴォルグ捌號機『Explode』』

POW   :    灰燼爆焔『Explode』 【両腕】から【戦場の全対象に大規模な爆発を起こす榴弾】を放ち、【戦場を破壊する。外れても地形を変えた被害】により対象の動きを一時的に封じる。 SPD   :    焔焔焼燬『Ignition』 【可燃性の粘着質な液体と爆発する榴弾】を降らせる事で、戦場全体が【大規模な爆発を起こす危険地帯】と同じ環境に変化する。［大規模な爆発を起こす危険地帯］に適応した者の行動成功率が上昇する。 WIZ   :    爆手爆砕『Combustion』 【爆発を利用し高速移動。伸縮する腕の連打】が命中した対象に対し、高威力高命中の【爆発する重い腕で殴り飛ばし、止めの榴弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。 イラスト：右ねじ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●ファイヤー・イン・ザ・ホール！

『マクレガー、ハリガン長官の生存を確認した。繰り返す、ハリガン司法省長官の無事を確認！これより揚陸艦への撤収作業に移る！』
『こちらマクレガー、了解だマルドゥーン隊長。……待て、なんだこの反応――所属不明のキャバリアだと！？』
　タスクフォースとマクレガーの通信を聞いていた猟兵達の間に緊張が走る。島内の活動可能なスクンクは掃討され、残る敵勢力も刑務所内でタスクフォースと交戦している者達のみ。ここにきて「所属不明のキャバリア」が現れるなど、考えられる可能性はたった一つしかなかった。
『ヒョオオオオ！ゴキゲンな爆発だぜぇ！やいクソ猟兵共！サノカティラの借りを返しに来たぞォ！』
　突如通信に割り込んできた声に続き、刑務所エントランスに何かが撃ち込まれた。それは着弾と同時に炸裂しエントランスを瓦礫の山へと変えた。
『……クソッ、シェルターまで揺れが伝わって来たぞ。で、俺は敢えてこの言葉を使わせてもらうぜ。――お次はなんだ？』
　マルドゥーンの悪態を聞きながら猟兵達は下手人たるキャバリア――オブリビオンマシンをその目に捉えた。
『猟兵諸君、正体不明機のパイロットの身元が分かった。信じられないが…ここの囚人だ。しかもただのチンピラじゃない。密輸王、ロドリゴ・ラゾ・サンタナムだ。』

　ロドリゴ・ラゾ・サンタナム。
　密輸専門の犯罪結社「ジョリーロジャー」の親玉、通称「髑髏の王」。先のサノカティラ市港湾施設で発生した襲撃事件の折にオブリビオンマシンに搭乗し、猟兵に撃破された後に逮捕された男であった。
　猟兵達に情報を伝えたマクレガーの通信士も困惑した声色である。
『まさかテロリストの真の狙いはヤツの脱獄だったのか…？と、とにかくそいつを無力化しないとタスクフォースや揚陸艦に危害が及んでしまう！対処してくれ！』

『クッ…ハハハハ！やっぱり最高の機体じゃねぇか！あのヘタレ軍人ども、俺の商品にイチャモンつけやがって…！』
　生体キャバリア『Explode』のコックピットで嗤うサンタナムは期待の性能に満足している様子で、しかし沸々とこみ上げる怒りを抑えられないのか目の焦点があっていなかった。
『まぁ良い、目につくモンは全部ぶっ壊してやる！ムショも兵隊もポリ公も猟兵も！王(キング)の機嫌を損ねる事の怖さを知らしめてやろうじゃあねぇか！』
　ナントカに刃物、ましてや爆発物の山を持たせるなど狂気の沙汰。だが猟兵達の目の前にはそれを体現したかのような敵が立ちはだかる。
　最狂最悪な髑髏の王との、最後の戦いの幕が開けた。




●ナパーム・ダンサー

「サンタナム、髑髏の王って…いつかの港で大暴れしてたアイツかぁ。それにあのキャバリアも聞いたことがある確か……」
「エヴォルグ…生体キャバリアを私の前で使うとは…ッ！」
　カーバンクルは以前にサンタナム――正しくは彼の乗っていたオブリビオンマシンと交戦し、あと一歩のところで取り逃がしていた。
　彼女がそのオブリビオンマシンの名前を思い出す前にフレスベルクは怒気の籠った声で答えた。
「そうそれ！パイロットを取り込むってヤツでしょ？なら生温い事をする手間はいらない、今度こそ噛み砕いてやる。…だけどその前に『ネズミ一匹逃れられないよう』に場を整えなきゃね。」
　そう言うと遠く、アル・チザム島沿岸の海面からせり上がるように鉄塊が現れた。

『なんだ！？本艦後方から何かがせり上がってきた！誰か状況を教えてくれ！』
『こちらマクレガー！洋上からも確認した！島沿岸全域から何かが現れ絡み合って…これは、檻(ケージ)？』
　鉄塊は複雑に絡み合い、アル・チザム島を覆った。その外側に取り残される事となったマクレガーの艦長はそれを檻と呼んだ。
「あー、あー、こちら猟兵カーバンクル・スカルン。揚陸艦とマクレガーの皆は驚かせてゴメンねー？でもサンタナムと容疑者が逃げないようにするための予防だからさ…。」
『容疑者？…それは一体…「ハリガン司法省長官と、同じく司法省タスクフォース隊長マルドゥーン氏。」バカな！？』
　通信を耳にしていた者達、特に共和国関係者たちの間に衝撃が走った。
「なんでって反応だね。でも仮にも難攻不落と評判の要塞線を容易に抜く襲撃者、何処からともなく出てきたあのキャバリア。あまりにも周到に過ぎる。内部協力者(スリーパー)が手引きしていてもおかしくないよね？」
　カーバンクルの上げる疑問に即答できるものはいなかった。しかし、短くも長く感じられた通信上の沈黙は『もう良い』という――ハリガンの声で破られた。
『なるほど、確かに君の私達に対する疑念は最も至極当然だ。だからこそ敢えて言わせてもらおう。もし私ならば長官職の権限を最大限に用いて合法的に、もっと利口(クール)にやるだろうさ。――刑務所長、私の潔白が証明されるまで拘束してくれ。マルドゥーン隊長も構わないな？』
『オーケイ、長官。ウチの連中は俺無しでも任務はこなせる精鋭です。お供しますよ。マルコ、俺と長官の武装解除と身体検査。終わったらカフスをかけろ。隊長命令だ。わかったな？』
『り、了解です！』
　それは余りにも潔く、しかしこの事態において丸く収める、法の番人としての最善策であった。

『…それで何かけしかけてきてるみてぇだが全部吹き飛ばせば問題無ぇよな！』
「やれるもんならやってみなよって！」
『そんじゃあぶっ放させてもらうぜえぇ！』
　正に売り言葉に買い言葉。サンタナムはカーバンクルの挑発に乗るようにExplodeの両腕を天高く掲げてみせ、雨を降らせるが如く周囲に可燃物と爆発物をばら撒いた。
「させるか！喰らいつけ！」
　対するカーバンクルも5体の機械鰐をExplodeの四肢に飛びつかせ妨害を図る。サイズでは劣るものの、鰐の重量はExplodeをふらつかせるには十分であり、爆発物の散布を中断させることに成功した。
『邪魔くせぇんだよオラぁっ！ぶっ飛びやがれ！』
　しかし曲りなりにもオブリビオンマシン、サンタナムは尋常ではないパワーで鰐を引きはがすと散布済の榴弾目掛けて放り投げる。爆発すれば同時に撒かれた可燃物に引火し、周囲は文字通り火の海と化す――筈であった。

『おいおいおい、不発弾かァ？…ってワケでもなさそうだなオイ。』
「文字通り『消し』ました。貴方がばら撒いた榴弾を全て。」
『……ハッ、こりゃまた大物がでやがったなぁ。メリアグレースの第十六代教皇サマよォ。』　
　榴弾の消失、それはフレスベルクによるものであった。「帰天」の対ともいうべき「帰滅」による事象侵食。その異変に気が付いたサンタナムはその現象を起こした人物を見て驚いた様子であった。
「…よくご存じでしたね。」
『このサンタナム、趣味は情勢観察、新聞と経済誌を読むのは日課なんでな！今月なんて世界を動かす人物トップ20って特集でアンタがが紹介されてたぜ？』
「なるほど、密輸王というのは伊達ではないと。であればその手腕を活かして『全人類を幸福な幻惑に酔わせて救う』位は言ってみせては？」
『…クフフ、ハハハッ！流石は教皇サマ、挑発にもご利益がありそうな事で！幸福だぁ？そいつなら俺も時々扱ってるぜ。少しばかり値は張るけどなぁ！』
「……ッ、よく喋る！」
　人を馬鹿にしたようなサンタナムの物言いはフレスベルクの感情を逆撫でるに十分だった。Explodeを無力化するべくその四肢に向けて帰滅の力を行使するフレスベルク。振り落とされたカーバンクルの鰐も再び飛びかかる。

　だがサンタナムも悪知恵を働かせていた。消滅しかかっていた腕で一体の鰐を捕まえると、野ざらしになっているスクンクの残骸に目掛けて叩き付けたのだ。その性能を活かしきれず猟兵の前に散ったスクンクにはまだ幾つもの榴弾が搭載され、鰐に内蔵された破壊機構がそれを起爆させた。
『やっぱり猟兵ってのはヤベー奴らだな、恐れ入ったぜ。だがケンカならこっちも慣れてるんでな。一発でケリを付けられなかった自分たちを恨むんだな。クハハハハッ！』
　爆発によって生じた火の気が散布された可燃物に引火、一面は火の海と化した。そしてその中で髑髏の王の嘲笑が木霊した。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●キング・オブ・ロケットマン

　島を覆う檻の中で、火の海の中心で嗤う「髑髏の王」サンタナム。それは猟兵を出し抜いたが故の狂喜であろうか。猟兵により奪われたExplodeの四肢はぼこぼこと音を立てて新たな腕と脚が生えてくる。
　それは生体キャバリアか、それともオブリビオンマシンとしての特性か、どちらにせよサンタナムとオブリビオンマシンはまだ余力を残していた。
『ハーッハハハハァ！全くどうしてサノカティラじゃあ気を失ってたんだろうって話だぜ！――そんじゃあ第2ラウンドと行ってみよう……ぜぇ！』
　不意にExplodeの腕が火の壁へと向けられたかと思うと、その壁をブチ破って吶喊するキャバリアが一騎。構える槍の切っ先はExplodeに――届かず。
「読まれていた――！？」
『古典にもあるだろう？王の眼は何でも見通すモンだってよォ！』
　驚愕の表情を浮かべるノア、それを待ってたとばかりに嗤い構えるサンタナム。
　槍の先端をかち上げるように振り払われるExplodeの腕、それによりバランスを崩すガンド。猟兵ノア・クレムリィ、正に万事休す。
　死に体の彼女にとどめを刺すべく、Explodeのもう一方の腕が榴弾をブチ撒かんと向けられた。

「王(キング)だって！なんの王だ？ゴミ山の王か？」
『あぁっ！？』
　しかしサンタナムの追撃は妨げられた。火の海と化した島の上空を旋回する一機のキャバリア、レーヴェンツァーンTypeⅡを駆る猟兵ジェイ・ランスの強襲である。
　迎撃しようとするExplodeであったが、ヒット&アウェイによって30mm機銃弾からレーザーに至る兵装を雨あられの如くかます高速機は極めて相性が悪かった。
「王の眼がなんだって？もう一度言ってみてくれよ！」
『……上等だ蚊トンボ野郎！まずはお前からミンチにしたらぁ！』
　密輸王ロドリゴ・ラゾ・サンタナムは誇り高く、そして気が短い。どんな相手であろうと己を馬鹿にする者、見下す者はあらゆる手段で追い詰め、そうした恐怖で犯罪界の王座の一つに上り詰めた男であった。
　故にこの瞬間、すぐにとどめを刺せるであろうノアよりもジェイの方が「ブチ殺したいヤツランキング」暫定一位となり、その矛先、もとい砲口は確かにレーヴェンツァーンTypeⅡへと向けられるのであった。
『オラァ！』
　突如爆発を生じさせながら飛び上がったExplodeの両腕がレーヴェンツァーンTypeⅡを捉え振り抜かれる。対するジェイはそれをツェアライセンでいなし、電子、光学、機動といったセンサー系、運動系を駆使した攪乱で躱し、それでも逃れられぬものは機体表面に障壁を発生させることで防ぎ、その合間にまた射撃を敢行する。二手、三手先を読まれているが如き攻防にサンタナムの殺意は増大した。
「一丁前に王ごときがイキってんじゃねーよ。こちとら世界(システム)だっての。格が違うんだよ格が。」
『黙れ黙れ黙れ黙れえええ！』
　余裕綽々のジェイに対して激昂するサンタナム。もし彼がこのイカサマじみた仕掛け――因果を操作されているという事実に気づいたら憤死してしまうだろう。正にそれは格の違いが招いた不運と言えた。
「そんでさ、俺ばっかを相手にするのはいいけど――アンタの背中、他の奴が貰っちまうぜ？」

「好機、見出したり――！」
　サンタナムとの戦闘が始まり、今に至るまで見(けん)に回っていたチトセは弾かれたように飛び出した。狙うはExplodeの両腕。
　チトセが宙空を蹴り、一段とスピードを増した時、Explodeもまたチトセを捉え爆発とともにその間合いを詰めに来た。
『俺の邪魔をするんじゃあねえええ！』
「その動きは見切ってるヨ！」
　ほとんどノーモーションから繰り出されたExplodeの無数の拳撃であったが武芸者のチトセに見切れぬわけがなく、その拳は虚しく空を打つ。
　チトセの手には一振りの光刃。必殺必中の間合いまであと半歩。
『くたばりやがｒ「そこォ！」ぬあぁ！？』
　Explodeの連撃の終わり、事実上最後の一撃に対して遂にチトセは光刃を振り抜く。
　其れは魂、宿星の輝きにして、悪意を断つ希望の一閃、絶技「破邪光芒」。
　光刃と凶拳、互いに弾かれるように相殺されるがそれこそがチトセの狙い。伸びきったExplodeの両腕、その関節が一直線に並んだ刹那の瞬間。返す刀でチトセはそれを断ち切ってみせた。
「そんな危ないものは切り落としていくネ！」
『ばっ、馬鹿なああぁぁっ！？』
　両腕を損失し、さらに攻撃の相殺により推力を失ったExplodeは地面へと落ちていく。

『畜生！あんなふざけたヤツらにこの俺が…！』
　地面に叩き付けられる前に何とか姿勢を安定させようと足掻くサンタナム。そこに一本の通信が入る。
「ジョリーロジャー、密輸王サンタナム。なるほど、やはり一筋縄ではいかない曲者ですね。ですが私も猟兵、オブリビオンマシンを屠るためならどのような好機も逃しません！」
『この声…まさか、さっきの女か！？』
　落下するExplodeの遥か下の地上。そこには一騎のキャバリアが待ち構えていた。手には対艦槍ノーチラス、それを持つはノアの駆るガンドであった。
「目標、敵キャバリア背面！ノア・クレムリィ、吶喊する！」
　スラスター出力を最大に跳躍するガンド、狙いはExplode背面のバッグパックユニットである。爆発物と可燃物を大量に搭載しているであろうそれは、先ほど見せられた再生能力を以てしても余りあるほどの損耗を強いる事は必然であった。
「これが連邦竜騎兵の力です！髑髏の王…いえ、今日からはこう名乗るべきですね。」
　――ロケットマン！
『ぐおおおおおおおお！？』
　ノーチラスに貫かれたExplodeは盛大な爆発を巻き起こし、その爆風によって刑務所敷地から要塞線群へ、要塞線群からその先、奇しくも猟兵達が上陸した海岸へと吹き飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●火気取扱注意

『が…ぐ…クソがぁ…』
　吹き飛ばされたExplodeの中で呻くサンタナム、そのダメージは操縦者たる彼を確実に蝕んでいた。しかし、
『……驚いたぜ、まだコイツはうごけ……ひっ』
　Explodeの自己再生能力は健在であり、いや寧ろリミッターが外れたというべきか。本格的にサンタナムを取り込み始めようとしていた。
　――髑髏の王に、オブリビオンマシンが牙をむいたのである。

「スクンク以上のグレネード特化型、そしてエヴォルグ系統……エヴォルグ系統かぁ～。」
「いつぞやの依頼でもエヴォルグ・シリーズと戦ったもんね、私達。それにしてもオブリビオンマシンのパイロット……サンタナムだっけ。以前もオブリビオンマシンに乗り込んで死にかけてるんだよね？」
「みたいだね。これがヤツ自身がオブリビオンマシンに惹かれやすい性質なのか、はたまた――」
「――何者かが糸を引いているか、だね。リリー先生？」
「そうだね。錫華さん、どちらにせよヤツは止めなきゃだし、それに同じ人間が同じ状況に巻き込まれる……殊オブリビオンマシンが関わっている以上偶然や不運で片付けるには不自然なモンさ。もしかしたらこの国、エルデナント共和国がひっくり返る様な策謀に巻き込まれているような気がしてならない。兎に角、裏取りの為に囚人の生け捕りを狙うよっ。」
　ナインス・ラインとオルカを駆るリーゼロッテと錫華はExplodeが吹き飛んでいった海岸を目指して移動中であった。両者の戦闘方針はサンタナムの身柄確保で一致。到着までのわずかな時間を使い戦術を確認しようとしていた時だった。
『こちら揚陸艦！現在敵キャバリアと接敵し自衛戦闘中！――うわぁっ！？』
「……こりゃマズいね。錫華さん、ここからは全速力でいくよ！」
「了解！」
　目の前の丘陵を越えれば目的地の海岸はもう目の前、しかしその稜線の縁からは既に一筋の黒煙が立ち上っていた。

　■■■■――！
　海岸に、否、戦場に雄叫びが轟いた。雄叫びの主は人に非ず、生物に非ず。
　雄叫びの主は一騎のキャバリア、一機のオブリビオンマシンであった。
『バケモノ……畜生、バケモノめっ……！』
　アームストロング級揚陸艦内で海軍士官の一人が叫んだ。艦の盾とも言うべきハッチを封鎖し、搭載された小型艦砲の一斉射撃で迎え撃つが件の生体キャバリア――Explodeはすぐさま自己修復をはじめ、両腕から放たれる榴弾で次々と艦を爆撃したのだ。
『艦長、これ以上の沖合への退避は不可能です……。』
『ヤツの逃走を阻む檻がまさか我らを窮地に追い込む羽目になるとはな……！』
　前方のオブリビオンマシン、後方の檻。最新鋭艦と言えど、これ以上の被弾は致命傷となるのは明白であった。

「到着っ！……ってもうおっ始めちゃってたか。」
「オブリビオンマシンは暴走してるみたい。パイロットが完全に取り込まれる前に無力化しないと！」
「だね！こちらナインス・ラインから揚陸艦へ。当機は敵キャバリア、エヴォルグ捌號機『Explode』との交戦に入る。だからそっちは艦を沈めないように頑張って！」
『頼もしい限りだ。猟兵、あのバケモノをやっつけちまえ！』
　揚陸艦と短いやり取りを交わした二人の猟兵は、この監獄島の戦いに終止符を打つため、Explodeとの最後の戦いに臨んだ。

「まずは先制攻撃！」
　ナインス・ラインの圧倒的火力、そしてオルカに搭載された機銃がオブリビオンマシンを周囲の砂地ごと抉る。しかしそれは揚陸艦からの注意を逸らす、いわば陽動であった。
　■■■■ァッ！
　猟兵二人の攻撃を受けたオブリビオンマシンは彼女たちの思惑通り揚陸艦から離れ、爆発を伴う高速移動で――ナインス・ラインに急接近してきた。
「錫華さん、私の合図でお願い！」
　リーゼロッテはそういうとすぐさまナインス・ライン両腕の武装を近接仕様へと換装、Explodeとの一騎打ちに挑む。
「…とはいえ流石に榴弾(ソイツ)は受けたくないかなっ！」
　しかしそれは全くのブラフであった。両者の腕の先端が触れるかどうかの瀬戸際で、リーゼロッテは虎の子のジャンプ・ドライブ「セレス」を起動しこれを回避。勢いを殺しきれないExplodeの両腕は空を打ち、
「それじゃあ生体キャバリア解体ショーの始まりだ。錫華さん、お願い！」
「オーケー！火炎放射開始！」
「ＤＡ４４号【トーチ】起動、焼却開始♪」
　Explodeの周囲から突如現れた7体の火炎放射器搭載ドローン、錫華の駆るオルカの手に握られた火炎放射器AMIS-FL30が一斉に火を噴いた。
　
■■■■■■■■――！？
「ヒャッハァー！汚物は消毒だぁ♪」
「アポカリプスヘルじゃないんだから……でもこの火炎放射、効果覿面みたいだね。」
「そりゃあアレ自身が火薬庫そのものみたいなキャバリアだからね。それに自己再生できるといっても再生した途端に焼かれるんだからエネルギーの消耗だって馬鹿にならないハズさ♪…あ、そろそろ腕が吹っ飛びそうだね。」
　リーゼロッテの読み通り、直後Explodeの両腕は爆ぜた。同時に断末魔の如き叫びを轟かせるExplode。決まり手は全くといって良い程に呆気なかった。
「よし、両腕の断面と頭部はこっちのドローンで担当するから錫華さんは次に脚部をお願いするよ。」
「了解ー。」
　傍目に見れば正しく拷問のそれであるが、相手はオブリビオンマシン。猟兵にとって不倶戴天の敵であるコレに情をかける道理は無く、今回に限ればサンタナムを生かして捕らえられれば問題ないのだ。
　しかもここには超一流の闇医者猟兵がいるのだ。万が一にもやり過ぎるなんてことはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●
「コルネーゼが発見したと思しき不審船は自沈したようで海軍の潜水艇で調査を行っている。恐らくサンタナムが搭乗していたエヴォルグ・シリーズも船によって外部から持ち込まれたのだと推測される。」
「本土との通信状況が不安定であるため周辺の海軍艦艇に応援を要請中だ。」
　猟兵達の活躍によりアル・チザム島で発生した刑務所襲撃事件はロドリゴ・ラゾ・サンタナムの捕縛、およびオブリビオンマシンの破壊という形で終結した。
　また一部の猟兵が襲撃実行者の数名を拘束したことによって、後に情報収集艦マクレガーで行われた取り調べで判明した事実は次の通りである。

　まず、今回の襲撃事件では二つの「目標」が設定されていた。
　一つはトーマス・ハリガン司法省長官の拘束。そしてもう一つはサンタナムの脱獄支援である。
　というのも、この計画はサンタナムの脱獄ありきで練られたものであり、襲撃に用いられたキャバリアや自動砲台、そしてオブリビオンマシンは彼と密輸組織「ジョリーロジャー」の協力によって国外から運び込まれ、襲撃者達の手に渡っていたのだ。

　つまりこの襲撃の黒幕はサンタナムであったという事だろうか？答えは「NO」だ。
　いや、むしろサンタナムの脱獄もハリガンの拘束もただの「通過地点」であったのだ。
『――繰り返す、クーデターだ！こちらミサイル駆逐艦モンロー！共和国本土で陸軍が決起した！本土沿岸の海軍施設は抑えられつつある！無事な海軍艦艇は所属を問わずラム島パンダート海軍基地に集結せよ！繰り返す――！』
「……クーデターだと？一体何が起きている？」
　伝令の如く洋上を駆けていく駆逐艦の発する緊急通信、陸軍決起の急報への反応は二つ。
大半が状況が飲み込めないといった様子であったが、ただ一人、ハリガンだけは「その状況が起きるべくして起きた」と悟っている様子であった。
「なるほど……ようやく合点がいったよ。私の首ですら陽動だったとは……クソがっ！」
　普段の冷静で落ち着いた態度とは一変して怒りを顕にするハリガン。
　いうなれば、この「大掛かりな茶番」で共和国現政府の反体制派への切り札である司法省の首を刈るのではなく、目を欺く事こそが「目的」だったのだ。

　そしてその日から、エルデナント共和国に「旧体制」時代以来の動乱の日々が訪れたのである。

最終結果：成功 完成日:2022年01月15日