収穫祭は黄昏に思い出す
●忘れ去られしもの
言うなれば、それは日々の糧を得るためにすら必死で不要なる事柄であったから忘れ去られたものであった。
あらゆる文明が破壊された世界。
それがアポカリプスヘルである。
例え物資をかき集めたとしてもレイダーに奪われ、オブリビオンストームによって破壊されてしまう。
ゆえに人々はこれまで数少ない物資を糧にして生きてきた。
余裕など何処にもなかった。
嘗て在りし文化を思い出すこともできなかった。
この冬を迎える一時にあってはるか昔の人々の営みは、暗黒の如き不毛なる日々を乗り越えるために活力となっていたのだ。
それがハロウィン。
意味合いはことなるし、ある世界においては子供らの祭りにもなっていた。
アポカリプスヘルもまたオブリビオンストームによって文明崩壊が起こる前は、同じように子供らが仮装に扮し菓子をねだって家々を訪ね歩いたことだろう。
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。もうすでに秋を通り過ぎようとしている季節でありますね。これからは冬になり、動きが鈍る頃合いかと思われます」
ナイアルテが微笑んでいるのは、今回彼女が予知した事件の脅威度がいつもの予知よりも低いものであったからであろう。
そう、今回彼女が予知した事件はアポカリプスヘル。
すでに『フィールド・オブ・ナイン』と言った嘗てアポカリプスヘルを未曾有の厄災に飲み込もうとしていたカタストロフの脅威は去った。
しかし、未だオブリビオンストーム事態は消えることなく存在している。
だからこそオブリビオンは発生し、人々の営みに牙を剥こうとしているのだ。
「皆さんは『アカプルコ・デ・フレアス』を覚えていらっしゃいますか? そうです、嘗て皆さんが戦い打倒した『ヴォーテックス一族』、狂人教祖『クライスト・ヴォーテックス』が支配していた地域です」
そこは今やオブリビオン支配から開放され、リゾート地であった名残を取り戻し拠点となりつつあるのだという。
しかしながら、未だアポカリプスヘルの文明が復興したわけではない。
未だその日を生きることに人々は手一杯であり、祭事のような文化を取り戻されてはいないのだ。
「そこで皆さんにお願いがあるのです。カタストロフの危機が去った今、皆さんが転移と共にお菓子や仮装衣装を持ち寄って楽しいパーティを提供してはいただけないでしょうか?」
とは言え、未だ『アカプルコ・デ・フレアス』の地はオブリビオン支配の爪痕が深く残る大地だ。
そこにはこれまで狂人教祖『クライスト・ヴォーテックス』や他のオブリビオンレイダーたちが溜め込んだ物資が手つかずに残っている。
猟兵たちが転移によって持ち込むことのできる物資は限られている。一度に運び込むとオブリビオン・ストームを引き寄せてしまうのだ。
ならば、猟兵たちが持ち込んだ物資と元々レイダーオブリビオンたちによって溜め込まれていた物資を運び出し、一日限りの祭事を平和に人々とともに過ごすのも悪くはないだろう。
「皆さんが運び込んだ物資だけでも構いませんし、レイダーたちが残した物資倉庫から持ち出してくることも可能でしょう。どちらにせよ、アポカリプスヘルの人々に平和で楽しい一時を届け、嘗ての文化を思い出して頂きたいというのが、今回皆さんに集まっていただいた第一の目的です」
第一、と言うからには、平和にハロウィンパーティをしておしまい、というわけではないということを示している。
猟兵たちの視線にナイアルテは残念そうに頷く。
「はい。ハロウィンパーティが終わり、人々が平和を満喫し寝静まる頃、オブリビオンの残当が拠点を狙って忍び寄ってきているのです」
『インフェクション・マウス』と呼ばれる毒性の強まった病原体を撒き散らすオブリビオンがよりにもよってハロウィンパーティが終わった夜に襲撃してくるのだという。
それが第二の目的であり、ナイアルテが予知した事件であったのだろう。
「これらを撃退する必要があります……それ自体は難しくはないでしょう。けれど、拠点に迫る前に迎撃できることは幸いでありました。ハロウィンパーティという平和な一時を満喫し、久方ぶりに何も恐れずに眠る人々の安眠を侵すことなく、どうか『インフェクション・マウス』の群れを撃退していただきたいのです」
それはつまり、静かな戦いが求められるということだ。
派手に戦わず、さりとて一体たりとてオブリビオンを拠点に向かわせないようにする。
そして、仮に夜目を覚ました人々がいたとしても、戦いを悟らせぬようにハロウィンパーティの仮装のままになるべく静かに、速やかに……そして、そと立ち去ることが観葉なのだ。
「オブリビオンとの戦いなど、今日という一日にはなかった。その事実が人々の安寧に繋がるはずなのです。人が夜安らかに眠るためには、皆さんの力が必要なのです」
ナイアルテは人々の安寧を願っている。
それは確かに嘗てあった文化に籠められた意味を知るからであろう。
ハロウィン。
時代と共に祭事の意味合いも変わっていった。
けれど、そこにあったのは冬という暗黒を乗り越えるために必要な営み。ならばこそ、オブリビオンという存在に脅かされていいものではない。
猟兵達はとびきりのハロウィンパーティと安らかなる夜を人々に与えるために次々と一人が運ぶことのできる多くはない物資と共に転移していくのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はアポカリプスヘルにおけるハロウィンパーティを楽しみ、迫るオブリビオンの脅威を人知れず速やかに排除するシナリオになります。
※このシナリオは二章構成のシナリオになります。
●第一章
日常です。
かつての狂人教祖『クライスト・ヴォーテックス』が支配していた『アカプルコ・デ・フレアス』に構えられた拠点に趣き、皆さんが持ち込んだ物資とレイダーによって溜め込まれていた物資倉庫から様々な物を運び出しハロウィンパーティを行いましょう。
一度に転移で運び込むことのできる物資は多くはありません。
多くを一度に転移させるとオブリビオン・ストームを呼び寄せてしまうのです。
それと合わせて物資倉庫から運び出すなどの工夫があると、より人々にハロウィンパーティを楽しんで貰えるでしょう。
お菓子や料理、仮装セットなど持ち込むなり、物資倉庫から見つけ出してくるなど様々なことができるかと思います。
●第二章
パーティを満喫した人々が久方ぶりの安眠によって寝静まる頃に、オブリビオンである『インフェクション・マウス』が拠点に迫ってきています。
彼らを拠点に近づけさせず、けれど静かに戦いましょう。人々を起こさないように、そして万が一に寝ぼけて戦いを見てしまった人々がストレスを受けないようにハロウィンパーティでした仮装のまま敵を撃退しましょう。
きっと戦いを寝ぼけ眼で見ても、仮装のおかげで不思議な光景としか捉えないでしょう。そのまま彼らを起こすことなく、そっと立ち去りましょう。
それでは、アポカリプスヘルにおけるハロウィンパーティを楽しみ、人知れずオブリビオンを撃退する皆さんの平和な一時を齎す物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『元富豪の物資倉庫』
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POW : 食料や水などを中心に探し、運び出す
SPD : 補強材料や工材などを中心に探し、運び出す
WIZ : 情報や端末などを中心に探し、運び出す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「はろうぃん? なにそれ?」
最初の一言は疑問であった。
アポカリプスヘル、『アカプルコ・デ・フレアス』の大地にあって人々はレイダーオブリビオンたちによって支配されていた名残である有刺鉄線を除去しながら残された資源倉庫を整理していた。
勿論、大人だけでなく幼子たちも明日を生きるために作業を手伝っていたのだが、一人の大人がもうハロウィンの時期かという言葉に反応したのだ。
「ああ、昔のことだけれどな。そういうお祭りがあったんだよ。この季節に」
大人は語る。
子供らは仮装をし、時には大人だって童心に返って子供と同じように思い思いの格好をしては『トリック・オア・トリート』を合言葉にしてお菓子をねだって各家を回っていたのだという。
「お前たちが知らないのも無理はないけれど。そういうお祭りもあったんだよ」
「久しく忘れていたな。今の状況じゃそれもできないが……」
いつかきっと子供らにハロウィンという文化を経験させてあげたい。
それが親心というものであったし、また明日への希望に繋がる。
未だレイダーの脅威が完全に消えたわけではない。
これが現実だ。
一日を生きるのも厳しい世界。
されど、光明は見える。いつだって、どんな道にだって日は昇るのだ。
「さあ、今日も一日がんばろう。明日はきっと良い一日になるはずだ。今日よりもな」
そんな彼らに猟兵たちが出来ることはなんであろうか。
一夜限りのハロウィンパーティ。
文化が喪われ、されど心には欠片が残る。
彼らの心に灯火を。暗黒の冬を乗り切るだけの力を、そして待ちわびる春を迎える喜びを思い出してもらわなければならない。
ハロウィンとはそういうお祭りなのだから――。
空彩・音羽
どこの世界でも、誰であっても、ハロウィンを楽しんでいいはずですよね!
魔法の箒に乗って登場
申し遅れました、わたしは郵便屋です
皆様にハロウィンパーティーの招待状をお届けに上がりましたよー!
持ち込む物資は数々のかわいらしいお菓子たち
仮装用の衣装は倉庫から拝借しちゃいましょうね
ざっと見たところ、なかなかの品揃えでした
南瓜のランタンも見ーっけ!
ささ、皆様好きな衣装に着替えて
この郵便屋がサポートいたします
子どもだけでなく大人も一緒に今日を楽しみましょう
そうしたら、みんなで魔法の言葉を口にしますよ!
せーので、『トリック・オア・トリート!』
祭事に籠められた思いが年月を経て変化していくのだとしても、変わらぬものだってあるだろう。
いつの時代にも子供とは可能性を秘めた宝そのものである。
弱々しい存在であっても、守り育てて行くことによって可能性が芽吹くはずだ。
だからこそ、ハロウィンは子供らのお祭りへと変化していった。
異なる世界を知る猟兵たちにとっても、それは同じことであっただろう。
「どこの世界でも、誰であっても、ハロウィンを楽しんでいいはずですよね!」
荒廃した世界、アポカリプスヘルに転移した猟兵の一人、空彩・音羽(郵便屋・f35200)が紅茶にミルクを溶かしたような髪を揺らしながら、風に乗るように魔法の箒にまたがって『アカプルコ・デ・フレアス』の大地に降り立つ。
人々がこちらを見上げている。
誰だろうという視線もあるし、なんだろうと思っている顔でもある。
どちらにしたって彼らはこの荒廃した世界の明日を望み、今日という日を生きるだけで精一杯な者達だ。
そんな人々の前に明るくほほえみながら降り立つ音羽の姿は何か特別なことが起こるのだろうと思わせるには十分なものであった。
「あ、あんたは一体……」
見慣れぬ人。
それも箒にまたがって降り立つ人など、文明が崩壊する前であっても見たことがないだろう。『アカプルコ・デ・フレアス』に拠点を構えようと作業をしていた大人たちが子供らを背に庇いながら音羽と対峙する。
警戒が解けていないことを音羽は理解すると明るく言うのだ。
「申し遅れました、わたしは郵便屋です。皆様にハロウィンパーティの招待状をお届けに上がりましたよー!」
その明るい声に最初に反応したのは子供らであった。
ハロウィンパーティ。
聞き慣れない言葉であるけれど、なにか楽しいことが始まりそうな予感がするのだ。ソワソワするように体を揺らす子供らを見て、音羽は微笑む。
彼女の手にあったのは可愛らしいお菓子たちである。
それを恐る恐る此方を見て、またソワソワするように体を揺らしていた子供らの前に屈んで手渡す。
「ハロウィンパーティって言ったって……そんな余裕がどこに……」
大人たちはまだ半信半疑である。
ならばと、音羽はこれまでレイダーオブリビオンたちが溜め込んだ資材倉庫の中を家探しするのだ。
まだ開放されたとはいえ、完全に整理されているわけではないのだ。
「ふんふん。ざっと見た所、なかなかの品揃え。あ、南瓜のランタン見ーっけ!」
その声に後ろから付いて着ていた子供らから陥穽が上がる。
それは本来の日常生活にはあまり役立つことのない品物であったことだろう。
けれど、今日という日に限って言えばそうではない。
南瓜のランタン、奇抜な色の布、付け羽や角の付いたカチューシャ。探せばいくらでもあるのだ。
「これをどうするの?」
「これはですね。仮装をする衣装なんです。皆様好きな衣装に着替えてください。どんなものだっていいんです。好き格好をしたって。この郵便屋がサポートいたしますからね」
そうにっこり笑って音羽が子供らの仮装を手伝っていく。
その光景に大人たちも遠い過去に思いをはせる。例えば、こんなことがあったよね、だとか。こんな仮装をしたことがあった、だとか。
思い思いの記憶が花を咲かせていく。
音羽にとって、それは場の空気が華やぐようなものであったことだろう。
こんな世界だからこそ、この日は楽しまなければならない。
「子供だけでなく、大人も一緒に今日を楽しみましょう」
次々と音羽は子供も大人も関係なくハロウィンの仮装に包んでいく。
「誰が誰だかわからないよー」
子供がはしゃいだように言う。
確かに外から見たら誰かわからない。だからこそ、ハロウィンにぴったりの合言葉があるのだ。
「ふふ、だから魔法の言葉があるのですよ。さあ、いいですか?」
せーので行きますよ、と音羽が微笑みながらイタズラっぽい顔をする。
そう、こんな時に言うべきことばあるのだ。
子供も大人もみな口を揃えて言うのだ。
『トリック・オア・トリート!』
その言葉は荒廃した世界に響き渡る。
誰もが知っていて、誰もが忘れかけていた言葉。
音羽が届けたのは、嘗ての微笑み。荒廃して喪われてしまった微笑みを今、音羽は彼女の魔法と共に人々の心に燈火を灯すように届けたのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
物資はバイクに積んで行こう
転移で運ぶのは食料、特に生の果物を多く持ち込む
缶詰ならともかく、新鮮な食料品はなかなか手に入らないだろうからな
それにハロウィンには、林檎が付き物らしい
焼いてもいいし、そのまま食べても…ああ、切り方を工夫するというのも面白いかもしれないな
倉庫に向かい、物資を持ってくる
やはり食料を中心に持っていくのがいいだろうか
見つけた物資は、やはりバイクに積めるだけ積んで、できるだけ多く運び出す
よく見ると玩具や衣服もあるようだ、流石は富豪の物資倉庫だな
これも喜ばれそうだ、少し持って行くことにして…そういえば、猟兵も仮装をしたほうが良いのだろうか?
何か仮装に使えそうなものでも探してみよう
文明が崩壊した世界、アポカリプスヘル。
その世界にあって食料とは作り出すものではなく、奪還者たちによって文明の残骸からもたらされるものである。
例えば保存食。
かつての軍隊が使ったであろうレーションや缶詰、その類のものを持ち帰ってくるのが奪還者(ブリンガー)だ。
今やアポカリプスヘルはカタストロフの脅威が去った世界でもある。
ある地域にあっては作物を育て収穫しようとする場所もあったが『アカプルコ・デ・フレアス』は狂人教祖『クライスト・ヴォーテックス』の支配から開放されたばかりの土地だ。
そんな土地にあっては未だ作物を作ろうというのは難しいだろう。
だからこそ、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は己のカスタムバイク・レラに積載できるだけの生の果物を多く持ち込んだのだ。
多くは持ち込めないことは理解している。
物資を大量に転移させると、それだけでオブリビオン・ストームを引き寄せてしまう原因になってしまうからだ。
「缶詰ならともかく、新鮮な食料品はなかなか手に入らないだろうからな。それにハロウィンには林檎が付き物らしい」
到着した『アカプルコ・デ・フレアス』は、多くの人々が奴隷という身分から開放され、各々が今日という日を生きるのに精一杯である。
どれだけ今日はハロウィンパーティだと言われてもピンと来ないだろう。
まずシキは倉庫に向かう。
何はともあれ準備というものは必要である。
「何はなくとも食料からだな」
シキはレイダーオブリビオンたちが溜め込んだ物資倉庫を物色しはじめる。レイダーオブリビオンたちは物資を奪うが、生命維持をする必要がない。
それに故に溜め込んで燃やすということばかりを行っている。そんな世界にあって、此処は未だ手つかずの物資で溢れていた。
「ん……? これは……玩具に衣服、か。さすがは狂人教祖の物資倉庫だな。溜め込んでいる」
これも喜ばれそうだとシキはカスタムバイク・レラに積み込んでいく。
日々を生きるのに必要のないものであるだろうけれど、それでも彼らの心を豊かにするものであることには違いない。
いつか今日という日を飢える心配がない時が来るだろう。その時に玩具やそういったものがあれば、子供らの表情も明るくなるだろう。
「そう言えば、猟兵も仮装をしたほうがよいと行っていたな……何かついでに使えそうなものも探しておくとするか」
シキはパーティの後に襲撃してくるオブリビオンのことを思い出す。
オブリビオンの群れを打倒するのは当然としても静かに戦い、なおかつ見られても今日という日の幻想であるように思わせる必要があるとグリモア猟兵は語っていた。
ならば己も仮装する必要があるだろう。
狼男に幽霊、フランケンシュタインにヴァンパイア。今日手に入れた玩具を組み合わせれば、大抵の仮装はできなくはない。シキは難しい顔をしつつ、己が人狼であることを活かす方がいいかもしれないと思い至る、かもしれない。
「ねーねー、それってなあに?」
いつのまにか物資倉庫にやってきていた子供らとかち合う。
彼らも物資を運び出す手伝いをしていたのだろう。そんな彼らとシキが出逢えば、シキのバイクに積み込まれた赤い果実、林檎を目に止めたのだ。
「これは林檎という。焼いてもいいし、そのまま食べても……ああ、少し待て」
シキは子供らの視線を受けて一つ林檎を手にとってナイフで林檎をカットしていく。見事な手際である。
ささっとりんごの果実を切り分け、簡単であるが兎の形にして子供らに手渡していく。
子供らの歓声が物資倉庫に木霊する。
なにこれなにこれ、とはしゃぐ子供らをシキは見ている。こんなことでも喜んでくれるのかと、心が暖かくなるかもしれない。
ハロウィンという文化を知らぬ子供ら。
大人たちだって忘れかけているものであったことだろう。何もかも失ったとしても、それでも明日を求める人々がいる。
その彼らが懸命に生きているのならば、シキはきっと助力を惜しまないだろう。子供らに囲まれ、もっと見せてとねだられながらシキはどんな表情をして彼らに答えただろう。
それはきっと悪い気分ではなかったはずだ――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
ハロウィンを知らない世代か。この世界は文化という『無駄』すら持てないのね。
いいわ、一晩の夢を見せましょう。
「式神召喚」で、折紙で作った牛馬に物資を乗せて、パーティー会場まで運び込むわ。食料が置かれていた区画のコンテナだから、食べ物が入ってるはず。
ハッピー・ハロウィン!
それじゃ、アヤメ。道化師(クラウン)の扮装でジャグリングお願い。
刃の光に子供が怯えたらいけないから、今回はボールでね。
あたしは黒鴉を喚んで、子供たちの間を飛ばし、交流してみるわ。
羅睺は料理の手伝いよろしく。
準備が出来たなら、魔法の言葉、『トリック・オア・トリート』!
あたしが配るのは、練り切りね。特別な細工は無いけど、美味しいわよ。
ハロウィン。
それは死者の霊を鎮めるものでもあったし、秋から冬に向かう収穫祭でもあった。
時代と人を経るごとに変化した祭事であり、それは異なる世界であっても変わることのない事実であった。
人々は思い思いの仮装に身を包み、大人も子供も笑い合う祭事だった。
そこには笑顔が溢れるものであったのだ。
けれど、アポカリプスヘルは違う。文明が荒廃し、今日という日を生きることすら難しい世界。
「ハロウィンを知らない世代か。この世界は文化という『無駄』すら持てないのね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)はアポカリプスヘルのオブリビオン支配から開放された『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地を見やりつぶやく。
彼女の言う『無駄』とは愛すべき『無駄』であったことだろう。
生活に根ざしたのが文化であるのならば、その枝葉の先は役目を終えて落ちるばかりのもの。ならば、それは最早生活とは関係のないものに至るものであったことだろうから。
けれど、その『無駄』こそが人々に必要なものを生み出す原動力となるのは言うまでもない。全てが『必要』なものだけでは人の営みは成り立たない。
今、アポカリプスヘルに生きる人々だってそうだ。
彼らに必要なものだけでは、豊かとは言えないだろう。
だからこそ、ゆかりは愛奴召喚(アイドショウカン)によって召喚したエルフのクノイチの式神・アヤメと共に『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地に降り立つ。
そして同時に折り紙で作った牛馬に物資を乗せてハロウィンパーティの会場まで運び込むのだ。
「一晩の夢を見せましょう。確かこっちは食料がおかれていた区画のコンテナだったわよね?」
「はい、確かそのはずです。食べ物が入っているはずですから、ここからも運んで行きましょう」
アヤメと共にゆかりは牛馬に物資倉庫に溜め込まれた食料を運び出していく。こういう時式神を使役できるのは実用的でいい。
確かに物資を転移によって運び込むことには上限がある。
オブリビオン・ストームを呼び込まぬためには、こうするしかないのだが、元よりある物資を運び出すことは上限がない。ならばこそ、ゆかりは己とアヤメの力を持って食料を次々と運び出していくのだ。
「ふふ、私は『道化師』の仮装をしますね」
「ジャグリングは、子供らが刃の光で怯えたらいけないから、今回はボールよ?」
「任せておいてください。ナイフに比べたら楽なものですよ。それより、しっかり私の演技、見ていてくださいね?」
「ええ、勿論。それじゃ、行くわよ?」
物資を運び込んだゆかりとアヤメが牛馬の影に隠れて、市街地の人々が集まる場所へと向かう。
見慣れぬ牛馬の姿に人々が訝しむ。
それもそうだろう。この文明が荒廃した世界にあって折り紙で作られた式神など見たことがある者の方が少ない。
ならばこそ、ゆかりは牛馬の影から召喚した黒鴉の式神たちと共に勢いよく飛び出すのだ。
「ハッピー・ハロウィン!」
それは嘗て在りし日の光景であったことだろう。大人が忘れ、そして子供らが失った文化。
驚異に満ちた光景に人々は絶句している。
そこへアヤメがジャグリングをしながら道化師の格好で子供らに歩み寄っていく。物資を手渡していく姿は、手慣れたものである。
人々の歓声が聞こえてくる。
思い出したのだろう。こんな日があったことを。こんな特別な一夜が以前はあったことを。
それを思い出させるのは猟兵である自分たちの仕事だ。ゆかりはほほえみながら子供らに言うのだ。
「魔法の言葉を教えてあげるわ。いい?」
式神である羅喉に料理の手伝いをしてもらって容易したお菓子がある。練りきり。甘いお菓子だ。素朴な味、上品な味わいの和菓子。
華の形をしたお菓子は、アポカリプスヘルの子供らにとっては新鮮そのものであったことだろう。
教えた言葉を子供らは素直に頷いて覚える。
せーの、で彼らはゆかりに言う。かつての文化。人々が笑顔になる魔法の言葉。
『トリック・オア・トリート!』
その言葉と共にゆかりは笑ってお菓子を手渡していく。
確かに特別な細工はなかったけれど。それでもその甘さは子供らの頬を緩ませるだろう。
その笑顔が見たかったのだというように、ゆかりは彼らに手伝ってもらいながら作った練りきりを配っていく。
華の形をしたお菓子。それはきっと今日という日を特別なものにする鮮やかな花となって彼らの記憶に残ることだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
サージェさんと
いつも一生懸命なアポカリプスヘルだから、楽しいことがなくっちゃね!
ハロウィンの復活には大賛成だよ!
仮装は魔女、持ち込むのはお菓子の材料。
それで『菜医愛流帝のおっぱいプリン』を作るね。
見たことも揉んだこともないから想像で、だけど!
でも、かぼちゃペーストとカラメルを混ぜてだしたこの色合い、質感。
完璧だと思うよ!
え?『菜医愛流帝』って何かって?
某世界を席巻してる萌え番長だよ!
そしてこのクッキーとプリンはそのグッズ第一弾!
って、なんでおっきなお友達ばっかり集まってくるのー!?
お菓子にトリックしかしそうにない子は対象外だよー!
はっ!? ゲートの奥からの圧が怖い!? ごめん! ごめんてー!
サージェ・ライト
理緒(f06437)さんと
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、たゆんが邪魔して忍べてないとかそんなことないもんっ!
いえ、本当に今日は大丈夫です
ほら仮装してきましたから(南瓜の着ぐるみ
揺れない!え?忍べてない?そんなぁー
気を取り直して理緒さんとお菓子配りますね
私が持ってきたのは
じゃーん、『菜医愛流帝』クッキー!
まずは皆さんにこれをお伝えせねば!
ええ知らなくて当然でしょう
これはですねーつい最近とある高校で流行っているトレンドお菓子なんです!
美味しいですよー!
そして理緒さんの菜医愛流帝のおっぱいプリン!
ええ、深く気にせず
菜医愛流帝に『ありがとう』って言っておきましょう!
そんな感じで布教します!!
アポカリプスヘルは、いつだって懸命に生きる人々が存在する世界である。
明日を思うことすら難しい日々にあって、人々はそれでもより良い明日を求めて厳しい現実に立ち向かうのだ。
「いつも一生懸命なアポカリプスヘルだから、楽しいことがなくっちゃね!」
そう意気込んでいるのは、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)であった。彼女は魔女の仮装に身を包み、お菓子の材料を『アカプルコ・デ・フレアス』に持ち込んでいた。
物資を大量に持ち込むことはできない。
何故ならば、物資を大量に転移させれば、オブリビオン・ストームを引き寄せることになってしまうからだ。
故に少量。ならばこそとっておきを作らねばならぬと理緒は張り切っていたのだ。
かぼちゃペーストとカラメルを混ぜて小麦色のような褐色のとろとろとした液体が出来上がっていく。
その様子を遠巻きに子供らが見ているのを理緒は微笑ましく思っていた。
けれど、一体何を作っているのかと興味津々な子供ら。彼らもまたこの荒廃した世界を生きる立派な人間である。
「なにを作っているの?」
おずおずといった感じで子供らの一人が理緒の手元を覗き込む。文明が崩壊し、文化というものが取り払われた世界にあって、理緒が行っていることを理解できないのも無理なからぬこと。
「ふふ、これはね『菜医愛流帝』のたゆんプリンだよ!」
何一つわからん。
どういうことなの。むしろ、言葉の響きは理解できても、肝心の中身が理解できない。いや、マジで。
「この色合い、質感、完璧だと思うよ!」
「えっと、『菜医愛流帝』って……?」
子供らの疑問はもっともである。真っ先にそこが気になるんだ? とは思わないでもなかったが、まあ、しようがない。
「某世界を席巻している萌え番長だよ!」
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、たゆんが邪魔して忍べてないとかそんなことないもんっ!」
その言葉と重なるように前口上が上がる。
颯爽登場したのは、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)であった。出たな、たゆんクノイチ! とはならないが、まあ、なんていうかお約束である。
今日は本当に大丈夫なのである。動く度にたゆんで、まろびでそうになっている胸元とか大丈夫なのかなーっていつも不安になるのだが、今回は南瓜のきぐるみを来ているので、ぽろりもクソもないのである。
ただし、きぐるみなので、中は汗だくである。とてもむれむれしているのである。そういう一定の層に需要がありそうな感じなのである。
「揺れない!」
しかし、全然忍べてないのはクノイチとしていいのだろうかと思わないでもない。
「じゃーん、『菜医愛流帝』クッキー!」
そんなサージェが手にしていたのは『菜医愛流帝』クッキー。
いいのかな、版権とか。そういうの。後から怒られないかなっていうか、あれであるが、サージェと理緒はやりたい放題である。
グリモア猟兵の黒歴史を掘り返される叫びなど聞いちゃいないのである。
「そう、このクッキーとプリンはそのグッズ第一弾!」
理緒とサージェは魔女と南瓜きぐるみでアポカリプスヘルのハロウィンパーティに乗り込んでいるのだ。
「ええ、知らなくて当然でしょう。これはトレンドなお菓子なんです。美味しいですよー!」
サージェがきぐるみの中からくぐもった声を上げる。
味は保証されているようなものであるが、なんだ『菜医愛流帝』印って。どこがどう違うのかさっぱりわからないが、サージェと理緒もまたアポカリプスヘルのハロウィンパーティを盛り上げようと善意からしているのだろうことは疑いようがない。
ないよね?
「『菜医愛流帝』……なんだろう、聞いたことのある言葉の響きなんだけど、不思議。これってもらってもいいの?」
「うん、いいよ。お友達も呼んでおいで」
「たくさん用意していますからね。遠慮なんてしなくっていいんですから! 私達は『菜医愛流帝』というトレンドを皆さんにお伝えするために来たのですから!」
二人はにこやかに笑って子供らにお菓子を配っていく。
クッキーとプリン。
それはアポカリプスヘルの崩壊した嘗ての在りし文明を想起させるものであったことだろう。
だが、それ以上にたゆんと揺れるプリン。
その魅惑の褐色。いや、理緒は確かに色合いと質感完璧だと語っていた。見たことも触ったこともないたゆんとしたあれ。
何とは言わないが、そう。そういうやつである。
「……って、なんでおっきな友達ばかり集まってくるのー!?」
理緒の悲鳴が響く。
そらそうなるわっていう当然の帰結。そう、そのたゆんとしたプリンが想起させるのは、豊かな膨らみ的なやつである。
そこに理緒のような女性が持っているのならば、如何に文明が崩壊した世界であっても大きなお友達が殺到するのは無理なからぬことである。
「お菓子にトリックしかしそうにない子は対象外だよー!」
そういうダメ絶対。
いや、理緒が言うのはどうなのだろうかと思わないでもなかったが、サージェはサージェで子供らと共にきゃっきゃしている。
「あちらは、ええ、深く気にせず『菜医愛流帝』に『有難う』って言っておきましょう! そうすれば、大抵のことは許してくれるはずです!」
なんだか布教めいたことをしているが、サージェの言葉通りであった。
どこからか怖い圧が二人に注がれている。気がする。おそらく。めいびー。
二人のハロウィンパーティは大盛況であった。主に大人たちに。なんでかは明記しない。言うまでもなく、あとで理緒とサージェはしこたまお説教された。
一緒にごめんなさいすれば許してくれるであろう。なぜなら、二人の『菜医愛流帝』への想いは、たぶん善意であったから。
ならばこそ無碍にすることもできない。
「さあ、みんな一緒に唱えましょう。魔法の言葉ですよ」
「せーのでいくよー!」
そんな未来が訪れるとは二人はつゆ知らず。いや、直感的に理解していたかもしれないが。
それでも二人と『アカプルコ・デ・フレアス』の人々は唱和するのだ。
嘗て在りし文化の言葉を。
お菓子がもらえる魔法の言葉を。
『トリック・オア・トリート――!』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
柊・はとり
ここもクライストの基地の跡地なのか…
去年南瓜行列で使ったアヌビスの衣装を着てきた
この無宗教感がまさに日本人って感じだ
猟兵だから何となく巻き込まれてたが
確かにこの世界はハロウィンなんかとは無縁だった
俺自身もこういう行事には
あまり積極的に参加する方じゃなかったな
ていうか俺お菓子ねだれる側の歳じゃね
どっちだ…?どうすればいい
やっぱ倉庫で地味に衣装や菓子調達してる方が落ち着く
俺がそうしてグダグダしてるうちに
ガキ共の方が早く馴染んでるかも
嘗てあった日常を思わせる光景に
今はささやかな希望を感じる
誘われれば俺も子供達に紛れ
トリック・オア・トリート
お菓子をくれなきゃあんたの罪を暴いてやる
目が怖い…?悪い元々だ
狂人教祖『クライスト・ヴォーテックス』。
その本拠地でもあった『アカプルコ・デ・フレアス』は、今や猟兵達によって支配から開放された土地となった。
これまで溜め込まれていた物資はオブリビオンレイダーたちによってもたらされたものであると同時に、未だ整理も付かぬほどの膨大な量として残っている。
巨大倉庫を見上げ、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は如何に『ヴォーテックス一族』の支配がアポカリプスヘルにおいて強大なものであったのかを知るだろう。
「ここも『クライスト』の基地の跡地なのか……それにしたってデカすぎるだろう」
市街地どころではない超巨大都市。
悪徳の都市であった頃の名残はあれど、そこにオブリビオンたちの姿はない。開放された奴隷であった人々が、この地を拠点とするべく日夜物資を運び出し、整理し、今日という日を生きるために必死で動いている。
他世界でハロウィンという祭事に活気が溢れている。
けれど、この地には未だ喪われた文明を取り戻すだけの余裕はないのだ。そんな土地にあって、はとりは自分に何ができるかを考えるのだ。
しかしながら、彼もまた猟兵である。
仮装してきたのは去年の南瓜行列で着用したアヌビスの衣装である。犬、もしくはジャッカルを模した頭部を持つ冥界の神。
その仮装は、いかにも日本人らしい無宗教感であると、はとりは自嘲したかもしれないが、それでも無宗教ではない。多くのものを受け入れ、混ぜ合わせ新たなものへと想像する……言わば、全宗教感とでも言えばいいだろうか。
猟兵ならではの考え方であったかもしれない。
なんとなくで、はとりはこれまで猟兵としての戦いに巻き込まれていはいたが、確かにこの世界はハロウィンとは無縁の世界であったのだ。
「俺自身もこういう行事にはあまり積極的に参加する方じゃなかったな」
思い返してみれば、遠巻きに見ている立場であったかもしれない。
猟兵たちが集まって、物資を持ち寄り、時には物資倉庫から持ち出したもので行うハロウィンパーティはあまりにも盛大であった。
オブリビオン・ストームを呼び寄せてしまうかも知れない危険性から、猟兵たちが持ち込める物資は限られていた。
となれば、猟兵達は残された物資倉庫から食料や仮装の材料などを運び出して、合わせてパーティにしようと計画していたのだ。
はとりに問題があったのだとすれば一つである。
そう、彼は高校生探偵。
高校生なのだ。世界によっては未だ子供とよんでいい年齢である。
「どっちだ……? どうすればいい」
悩む。こんなに悩むのは事件の時以外ではいつぶりであろうか。年齢だけで考えるのならば、自分はお菓子をねだっていい年齢である。
しかしながら、猟兵という立場もある。
流石にそれは憚られるのでは? と思わないでもない。そんなふうに物資倉庫でもだもだしていると、この拠点の子供らがやってくる。
先んじてハロウィンパーティを行っている猟兵達に教わって、ハロウィンとはいかなるものかを知ったのだろう。
「あー! お兄さん、はやくはやく。そんな所にいたらお菓子もらいそこねちゃうよ!」
「美味しいくっきーっていうのがあるんだよ。サクサクだよ、さくさく!」
「お花のお菓子とかあるんだって! あっちにあるよ! もらえるよ!」
久方ぶりの笑顔であろう子供ら。
それは華が咲いたような光景であった。嘗てあった日常を思わせる光景。日常の中にある非日常を愛することのできる瞬間。
それがはとりの心の中にも嘗て在ったはずだ。
遠き日の残照の如き子供らの笑顔。アポカリプスヘルでの戦いは確かに苦難に満ちていたけれど、それでも今、子供らの笑顔を見ていたのならば、はとりは自分が思い悩むことなど些細なことであると知るだろう。
目の前にあるささやかな希望。
それを感じる事ができたのであれば、細かい理屈などすっ飛ばしていいのだとさえ思える。
「こっちこっち! ほら、はやく!」
倉庫からはとりは引っ張り出され、子供らに両手を引かれて、ハロウィンパーティへと駆け出していく。
「まいったな……」
頭をかきむしる。こんなの自分のキャラじゃない。そんなふうに思えてしまう。デッドマンであり、猟兵であり、探偵でもある。
そんな自分がこんな穏やかな時間の中にあることじたい不可思議なことであっただろう。
「ほら、魔法の言葉があるんだよ。知ってる?『トリック・オア・トリート』っていうんだよ」
そんなふうに見上げる子供らの瞳は輝いていた。
そこにはとりは希望を見出す。
どれだけ絶望が覆うのだとしても、どれだけ常識を振りかざそうとも、此の世に不可思議など有り得ない。
目の前にある光景こそを彼は信じる。
「お菓子をくれなきゃあんたの罪を暴いてやる」
なんて、目つきが悪いと言われそうであったけれど、これは元々だと眉根をハの字にして、はとりは手を出す。
そこにあったのは、ハロウィンのお菓子。
今だけは子供でいいという証なのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
フィア・シュヴァルツ
「くくく、ついにこの世界で食料が蓄えられている場所をみつけたぞ!」
我の目の前に広がるのは、解放されたばかりと思われる有刺鉄線に囲われた物資倉庫。
ここに眠る食料は、ぺったん番長たる我のものだ!(制服のミニスカートを風になびかせながら
「これで我の腹ペコ問題も解決だな」
だがその時、腹ペコ番長(混ざった)である我の歩みを止めさせる存在が目の前に現れた。
それは、ゾンビや吸血鬼、悪魔にミイラ男といったアンデッドの数々。
その集団が『トリック・オア・トリート』という謎の呪文を唱えながら近づいてくるのだ。(注:地元住民の皆さんです)
くっ、ぺったん魔女(混ざった)である我も知らない呪文だと!?
ここは一時撤退だ!
「くくく、ついにこの世界で食料が蓄えられている場所を見つけたぞ!」
アポカリプスヘルの荒廃した市街地、『アカプルコ・デ・フレアス』に立つのは、フィア・シュヴァルツ(ぺったん番長・f31665)であり、その不敵な笑みは漸くにしてたどり着いた食料への道筋に止まることはなかった。
あれだけ荒野を放浪して、食料らしい食料を見つけることができなかったのもさもありなんである。
解放されたばかりと思われる『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地。
有刺鉄線に囲われた物資倉庫にフィアは目をつけたのだ。恐るべきは、その食料に対する嗅覚である。
これまでレイダーオブリビオンたちが溜め込んだ物資は様々である。
生活必需品や衣類など、そういったものを溜め込んだ物資倉庫があるなかで、保存の効く缶詰のたぐいの食料ばかりが溜め込まれた物資倉庫を彼女は見つけ出したのだ。
「ここに眠る食料は、『ぺったん番長』たる我のものだ!」
彼女は異世界の制服ミニスカートを風になびかせながら、高らかに宣言する。
旗でもあろうものなら、フィア印の旗を物資倉庫の屋根にぶっ刺して高笑いしているところであったことだろう。
幸いにしてというか、不幸にしてというべきか。
そういうものがないので仕方なく大声で宣言するしかなかったのだ。
しかしながら、その声は思わぬ存在を惹きつけることなるとはこの時『ぺったん番長』は思いもしなかったのだ。
「これで我の腹ペコ問題も解決だな」
そんなふうに意気揚々とフィアは物資倉庫の前で一安心する。
これだけ大量の食料があるのだ。もはやどれだけユーベルコードを連発しようとも何も恐れることはない。
それほどまでに大量の食料が収められている倉庫はフィアにとって追い求めてきたものであったのだろう。
そう、これはいわゆるフラグってやつでる。言うまでもなく。
このまま大量の缶詰や食料をゲットしてやったねフィアちゃんこれで満腹になるよ! なんてことはないのである。
いやまあ、普通の猟兵であったのならば、そういうこともあったのかもしれない。
けれど、これはフィアの物語である。
そういうことなんて神が許しても、他のなんかこうアレが許さんのである。
「む……なんだあれは?」
フィアは目を細めて物資倉庫に歩んでくる群れの如き存在を見つける。
そこにあったのは、ゾンビや吸血鬼、悪魔にミイラ男といったアンデッドの数々。
その集団がフィアの物資倉庫へと迫っているのだ。
「な、なんだ!? なんなのだあやつらは!?」
フィアに取ってみれば、漸くに得た安寧の地。腹ペコを満たしてくれる食料の泉たる物資倉庫である。
しかし、その物資倉庫に迫るのは何やら呪文如き言葉を呟きながら迫る仮装した『アカプルコ・デ・フレアス』の住人たちであった。
彼らは先んじて行われていた猟兵たちのハロウィンパーティでしっかりハロウィンの文化を取り戻していたのだ。
老いも若きも関係ない。
皆一様に仮装して楽しげに、フィアが『此処にたくさんの食料があるぞ』と叫んだ倉庫へと迫っていたのだ。
『トリック・オア・トリート!』
『トリック・オア・トリート!』
『トリック・オア・トリート!』
皆一様に、その言葉を唱えながらフィアこと『腹ペコ番長』に改めた彼女に迫ってくるのだ。
「くっ、ぺったん魔女である我も知らない呪文だと!?」
あまりにことにフィアはたじろいでしまっていた。
自分はこれまであらゆる魔術や魔法といった叡智を得てきた身である。その頭脳の中に存在しない呪文を唱えるアンデッドたちがいれば、それはまあたじろいでもしかたのないことである。
未知とは時に恐ろしい者へと変貌するものである。
ならばこそ、フィアは戦うのではなく一時撤退を選んでしまったのだ。
普通に戦えばフィアが勝利するだろう。
むしろ、負ける要素すらない。いつものぶっぱ癖はどうしたのだと言われてしまうくらいの見事な退き際。
いつもこうだったら弟子とかパーティの面々は気楽だったかもしれない。
しかし、それではフィアではない。
フィアというぶっぱ猟兵の真価はそういうところにはないのだ。
「だがしかし! 必ず我は戻ってくるぞ! 我の食料を簒奪せし者どもよ! 必ずや我は!」
そんな捨て台詞を吐いてフィアは撤退していく。
アンデッドに扮する住人たちは、フィアの様子にこれもまたハロウィンパーティの余興の一つなのだろうなと感心する。
これだけの食料を自分たちに分け与えてくれるばかりではなく、文化という花咲くものをも授けてくれる。
「あの人はきっと良い人なのだろうな。あんな悪態付いていたけれど、自分たちに気兼ねなく食べ物を与えるための口実に違いない」
そんな都合の良い言葉を地元住人たちは噛みしめる。
フィアという名の腹ペコぺったん番長魔女……その名前は知らずとも、その見事な断崖絶壁は、アポカリプスヘルに残るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
わ~ハロウィンだ~!
お菓子をくれない悪い家は焼き討ちしちゃうぞ~!
え、そういうんじゃなかったっけ?
よしよしじゃあまずはパーティグッズを用意しないとね!
み~っつけた!
フフン、大事なものをどこに隠してるのか探すのは大得意だよ!【第六感】で隠し倉庫だって暴いちゃおう
後は[影]にぜんぶごっそりしまってみんなのところでどかどかぶちまけよう!
ごちそう!仮装!お菓子!玩具!
あと必要なものは~ご機嫌なミュージック!
はろーはろー!
[ラジオ]の向こうのディーヴァにお願いしていい感じのを流してもらう!
さぁこれで準備はOK?はじめよう!
ハッピーハロウィン!
アンド!
トリック・オア・トリート!!
「わ~ハロウィンだ~!」
思わず開口一番そう言葉にしたのは、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)であった。
彼の瞳に映るのは、先んじた猟兵たちが開催しているアポカリプスヘル、『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地のハロウィンパーティ。
様々な物資を倉庫から持ち出し、喪われた嘗ての文化を取り戻すようにハロウィンらしい雰囲気を醸し出しているのだ。
「お菓子をくれない悪い家は焼き討ちしちゃうぞ~!」
違う。
そうじゃないと方方からツッコミが入る。
そういう物騒なお祭りではないのだ。その言葉にロニはそういうんじゃなかったっけ? と首をかしげる。
物騒すぎるお祭りであったのならば、今頃あちこちで火の手が上がっていることだろう。そうはならんということは、そういうことではないのだ。
「そっかそっか。よしよしじゃあ、まずはパーティグッズを用意しないとね!」
ロニは意気揚々と、これまでレイダーオブリビオンたちが溜め込んだ物資が収められている倉庫へと向かう。
彼らはオブリビオン。
生命維持のために食料を得る必要はない存在だ。
けれど、彼らは奪う。奪って、奪って、ただそれだけだ。浪費するために電力や食料を消耗する。
そのどこにも生産性などない。
故に溜め込み続けるのだ。上納するレイダーキングがいれば、そのレイダーキングに捧げるものとして。
その物資が溜め込まれている倉庫を家探しすれば、ロニの求めるパーティグッズを探し出すことなど用意であった。
「み~っつけた! フフン、大事なものをどこに隠しているのか探すのは大得意だよ!」
神である身。
そんなロニにとって隠し事をすることなど不可能に近いものであったことだろう。
第六感でレイダーオブリビオンたちが隠していた倉庫であっても尽く暴いていくのだ。
見つけ出した隠し倉庫は大量の保存食が詰め込まれており、これでどうやって隠し通すつもりであったのだと思うほどの量であったが、それはこの荒廃した世界に生きる人々にとっては幸いであったことだろう。
「これだけあればみんなも大喜びだよね!」
無邪気に笑ってロニは隠し倉庫に詰め込まれていた食料の全てを影に詰め込んで、ハロウィンパーティに興じる人々へと向かうのだ。
こういうパーティに必要なものは分かりきっている。
ごちそうに仮装、お菓子に玩具である。子供が喜びそうなものは全部全部ひっくるめて開放しなければならない。
「あと必要なものは~ご機嫌なミュージック! はろーはろー!」
ロニは手にしたラジオの向こうにソーシャルディーヴァにお願いして、ハロウィンにぴったりないい感じのミュージックを流してもらう。
久しく聞いていない音楽に人々は目を輝かせる。
嘗て在りし文化。
喪われて久しい文化。それらをこれから人々は取り戻していくのだ。
今までが暗黒の時代であったというのならば、これより訪れるのは春。
暖かな風と実りの到来を思わせる光景。
その輝きのために今という暗闇があったのならば、ロニはそれをこそ人々に与えたいと思ったのだ。
ハロウィンは収穫祭でもある。これまで耐え忍んできた人々のために出来ること。それは飲んで、食べて、踊って、歌ってのお祭り騒ぎである。
影からぶちまけられた大量の保存食達。
それはこれから訪れる冬を乗り越えるには十分すぎるほどの量であったことだろう。
「さぁこれで準備はOK? はじめよう!」
その言葉とともにラジオから流れ出る音楽は、さらにごきげんなものへと変わっていく。
楽しげな空気が『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地に行き渡っていく。
それはこれまでの不穏な支配を思わせるものではなかった。
誰もが同時に得ることが許される喜びの祭り。
「ハッピーハロウィン! アンド! トリック・オア・トリート!!」
ロニの声が響き渡り、此処に一夜限りであっても、楽しい想い出が生まれては、人々の心にそれぞれ刻まれていくことだろう。
この日を糧に明日を生きる。
これまで彼らが得ることの出来なかった喜び。
それを猟兵達は与え、今日ばかりは安らかな眠りをと願わずには居られなかったのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『インフェクション・マウス』
|
POW : 接触感染
【噛みつきや引っ掻き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【強い毒性をもつ病原体】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 空気感染
自身に【病原体のコロニー】をまとい、高速移動と【空気中への病原体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 飛沫感染
【自身に傷を負わせる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【病原体に汚染された血液】で攻撃する。
イラスト:白狼印けい
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ハロウィンパーティは一夜限りのお祭り。
大人も子どもたちも久方ぶりの、それこそ初めての楽しい一時に、これまでの辛い出来事を忘れてしまっていた。
夜をこんなにも安心して過ごすことが出来るなんて思いもしなかったことだろう。
誰もが明日を得ることすら難しい世界。
そんな世界にあって、こんなにも安らかに夜を眠れることは初めてに等しかった。
寝息が『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地に響く。
誰も彼もが疲れ果てて眠りこけていた。
これの光景を得るために、猟兵達はこれまで多くの戦いを為してきた。見たかったのは、安らかな彼らの寝顔。
しかし、その寝顔を、安らぎを壊そうと迫るものがある。
それが、『インフェクション・マウス』――オブリビオンの群れであった。
病原体を身に宿し、あらゆるものを食い破り、汚染し、侵食していく彼ら。こんな穏やかな一夜ですら許さぬとばかりに拠点に迫る影。
その荒野を往く群れを前に立ちふさがるのは仮装した猟兵たちである。
ここに戦いはない。
今夜という日に限ってオブリビオンの驚異など在ってはらない。
速やかに、そして静かに。
人知れずオブリビオンたちを霧消させなければならない。『アカプルコ・デ・フレアス』の郊外、その荒野に今、猟兵たちの静かなる戦いが始まろうとしていた――。
村崎・ゆかり
世にオブリビオンの種は尽きまじ、か。この街、これまでよく無事だったわね。
市内はアヤメに任せて、あたしは鼠退治といきましょうか。
「結界術」で範囲を定め、「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「呪詛」で紅水陣展開。
これが一番、無駄な音がない。しとしとと降りしきる紅い雨よ。
通り抜けたいならご自由に。ただし、あたしの絶陣は、病原体ごとあなたたちを溶かし尽くす。
敵が飽和攻撃を仕掛けてくるのなら、こちらは範囲攻撃で一掃するのみ。
好きなだけ向かってきなさい。こういう数と相対するのは得意なのよ。
鼠たちの悲鳴、市内まで届いてないわよね?
とにかく、あたしの眼前は殲滅出来たようだし、誰かの手伝いに回ろうかしら?
『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地、その郊外たる荒野に迫るは『インフェクション・マウス』の大群。
彼らの身に宿した病原体は、その血潮だけでも人々を蝕むものとなるだろう。
そうなってしまえば、漸く復興の兆しが見えてきたアポカリプスヘルにまた再び災禍が訪れることは言うまでもない。
それに何より、今日はハロウィンパーティであったのだ。
今はもう皆久方ぶりの楽しいお祭り騒ぎに疲れ果てて眠ってしまっている。
安らかな眠り。
これまで得ることの出来なかったものであろう。
一夜限りであったとしても、それは何物にも代えがたい経験であったはずだ。それを今壊そうとする者たちがいるのならば、猟兵はそれに立ち向かわなければならないのだ。
「世にオブリビオンの種は尽きまじ、か。この街、これまでよく無事だったわね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は小さくつぶやいて、荒野に立つ。
奴隷として連れてこられた人々にとって、この土地を拠点として文明を復興することこそが第一である。これまでレイダーたちの襲撃は数しれず在っただろう。
けれど、猟兵たちが戦ってきたおかげでオブリビオンの数も減っていた。
だからこそ、今得られた平穏を壊すわけにはいかないのだ。
「市内はアヤメにまかせてきた。なら、あたしは鼠退治といきましょうか」
迫る『インフェクション・マウス』たちの群れ。
彼らの身に宿した病原体を市街地に入れるわけにはいかない。群れ為す彼らの一匹たりとて市街地には入れられない。
ならばと彼女が張り巡らせた結界術が『インフェクション・マウス』たちの大波の如き群れを囲い、その内側に留めるのだ。
「ギギィ!?」
『インフェクション・マウス』たちが驚いたように鳴く。
彼らとてオブリビオンでなければ、この大地に住まう者であったことだろう。
けれど、その鳴き声すらも市街地には届かせない。
結界の中に閉じ込められ、『インフェクション・マウス』たちが蠢くのをゆかりはユーベルコードに輝く瞳で見下ろしていた。
「これが一番、無駄な音がない」
輝くは、紅水陣(コウスイジン)。
結界の中に降りしきるは真っ赤な血のような全てを蝕む強酸性の雨。
彼女のユーベルコードによって生み出されたあらゆるものを腐蝕させる赤い靄の中にあって、『インフェクション・マウス』たちは存在すらできないだろう。
身に宿した病原体すらも溶かして消えていく。
「好きなだけ向かってきなさい。こういう数と相対するのは得意なのよ」
溶けて消えていく『インフェクション・マウス』たち。
その滅びに対する咆哮の如き鳴き声が結界の中に木霊する。
少しでも滅びの鳴き声を聞かせてはならないとゆかりは気を使っていたが、目の前の『インフェクション・マウス』たちが滅びていくのを見やり胸をなでおろす。
「これだけ静かな夜なのだもの。少しの鳴き声で人が目覚めてくるかもしれない……」
式神アヤメからの連絡がないことを顧みると、恐らく『インフェクション・マウス』を取り逃していることは今の所ないようであった。
眼前のオブリビオンたちを殲滅した後、ゆかりは次なる戦場に飛び立つ。
敵の数は多い。
それにここで戦闘が起こっているということを『アカプルコ・デ・フレアス』の人々に悟られてはならない。
彼らは今宵の奇跡の如き一夜を安らかに過ごしてもらわなければならない。
今夜のようなことが毎日起こるわけではないけれど。
それでも人々が願う明日はきっと、こんな夜に心安らかに眠る事ができる日々へと続いていくのだと胸に刻んで欲しい。
誰だって安心して眠ることができる日。
今はまだ難しくても。
「いつかきっと必ず、ね――」
ゆかりはそう願わずには居られなかったことだろう。
あの練りきりの華のように、いつか咲く人々の明るい笑顔を思い、戦場を走るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
空彩・音羽
楽しかった今日はまだ見ぬ明日への糧になるから
皆様が一夜のハロウィンパーティを心から楽しんでらしたのなら招待状をお届けした甲斐があるというものです
まったく、郵便屋冥利に尽きますね
無粋なお客様にはそっとお帰りいただきます
送付先は骸の海
この郵便屋が責任を持ってお送りいたしましょう
魔法の箒に乗り風に乗って夜空を翔て
今この時は郵便屋から魔法使いモードへとチェンジ
魔法の箒、その意思で箒の操縦を任せましたよ
わたしは羽ペンを滑らせて夜の魔法を綴りましょう
夜色の魔法剣、闇に紛れて静かに敵を葬りなさい
これは静謐な夜を齎すための魔法
目撃者がいたら、そうですね
口元に指をあてて内緒のポーズ
夢から醒めるにはまだ早いのです
楽しかった今日は、まだ見ぬ明日への糧。
それは人の営みにとっては当然のものであったことだろう。
けれど、この荒廃した世界、アポカリプスヘルにおいてはその当然すらもなかったのだ。
虐げられ、支配され、生命すらも弄ぶのオブリビオンたちである。
彼らの支配は強くオブリビオン・ストームによって文明が荒廃した世界に生きる人々は明日を思うことすら難しかっただろう。
今『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地に響くのは人々の寝息だけであった。
ハロウィンパーティという一夜限りの祭事。
それらはこれまで虐げられた彼らの記憶を塗りつぶすには足りないものであったことだろう。
喪われてしまったものは、これ以上のものであったからだ。
けれど、今彼らは夢の中だ。
安らかな眠り。
これまで望んでも得ることのできなった眠りが今まさに彼らに訪れているのだ。
「皆様が一夜のハロウィンパーティを心から楽しんでらしたのなら、招待状をとお届けした甲斐があったというものです。まったく、郵便屋冥利に尽きますね」
そう微笑んだのは、空彩・音羽(郵便屋・f35200)であった。
彼女のミルクティー色をした髪が荒野の風になびく。
魔法の箒に乗って夜空を駆ける彼女。確かに彼女は郵便屋を名乗っていた。人々にハロウィンパーティという一夜限りの祭事へと誘う招待状を届ける幸福の配達人。
されど、眼下に見える蠢く群れ。
オブリビオンである『インフェクション・マウス』たちにとってはそうではない。
「無粋なお客様にはそっとお帰り頂きます。送付先は骸の海」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
魔法の箒の上に立つのは、郵便屋ではなく、怖い魔法使い。
彼女が手繰る羽ペンが綴るのは夜の魔法。
輝く幾何学模様を描くは、魔法剣。
ミゼリコルディア・スパーダと呼ばれる無数の魔法剣が夜空に舞い踊るようにして走り抜ける。
「夜色の魔法剣、闇に紛れて静かに敵を葬りなさい」
静謐な夜を齎すための魔法を走らせる音羽。
彼女の指先が軌跡を描く度に魔法剣たちが音もなく、風を切る音すら立てずに『インフェクション・マウス』たちを切り刻んでいく。
音羽は魔法の箒の柄の上で指揮棒を手繰るように次々と魔法剣を生み出しては、荒野より『アカプルコ・デ・フレアス』に迫らんとする『インフェクション・マウス』たちの群れを押し止める。
そんな彼女を見上げる視線を音羽は感じたことだろう。
小さな子供の視線。
市街地から夜空に魔法剣の描く軌跡が煌めく光景を認めたのだろう。
「きれー……」
思わず子供がつぶやくのが聞こえた。
音羽はかすかに微笑んだ。確かにこの光景は見ように寄っては、そのように思えるだろう。夜空に舞う魔法剣の乱舞。
その眼下では『インフェクション・マウス』たちを霧消させる激しい戦い。ならばこそ、その幼い瞳が夜空に舞う軌跡を見つめているのならば好都合である。
ふわりと魔法の箒と共に音羽は子供の眼前に降り立つ。
「わっ……んっ」
声を上げそうに為る子供に音羽は指先を当てて微笑むのだ。
それは言葉を告げずともわかることだった。内緒のポーズ。此処に居るのは配達人ではなく魔法使い。
なればこそ、他言無用だと言う音羽は恐ろしいものではなく、不思議なものとして子供の瞳に映ることだろう。
それこそ夢の続きのように。
くるりと指先が魔法を描いて子供の瞼が落ちる。
抱えて音羽は子供の寝床にそっと抱えて送り届けるのだ。
「夢から醒めるにはまだ早いのです」
どうか良い夢をと音羽はほほえみながら、未だ続く荒野に迫る『インフェクション・マウス』との戦いに赴くのだ。
誰かに安眠を届けること。
それもまた己の役割であると知るからこそ、音羽は優しい夜の帳が降りる魔法を綴り、一夜の安らぎを織りなすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
静かに戦うとか一番苦手なんだが
この穏やかな夜を壊させはしない
『事件です。敵影を確認しました。戦いますか?』
黙って戦えコキュートス
お前が一番煩い
普段通りの戦法じゃまずいな
ストーム・ランページで威力を抑えつつ
広範囲の敵だけをなぎ払い病原体ごと冷凍
兵器が巨大化するのも正直どうかと思うが
天候変えたり地形を壊すよりましだろう
コキュートスお前…派手な水色に発光するのもやめろ
『わかりました。ハロウィンスキン に 切り替えます』
は?
橙色になった…最高にどうでもいい
目立つの変わらんし腹立つわ
確かにハロウィン感出たが
まあもし見られてもこれなら余興っぽいか
俺は神じゃないが今だけはアヌビスらしく
奴らを冥界へ導いてやる
穏やかな日を終えた『アカプルコ・デ・フレアス』の拠点。
荒廃した世界アポカリプスヘルにおいて、今日という一日は奇跡のような一日であったことだろう。
レイダーオブリビオンに怯えることなく、何も心配すること無く夜眠ることができる。
それはかけがえのないものであった。
文明が滅びる前には当たり前だった。喪われてしまったものは戻らない。けれど、新たな平穏を齎すことはできる。
今日という日は、その証明になったことだろう。
しかし、そんな一日すらも許さぬとばかりにオブリビオンは穏やかな夜に迫りくるのだ。
『インフェクション・マウス』たちの群れ。
身に病原体を宿したオブリビオンの一群であり、寝静まった拠点を襲わんとしているのだ。今日という平穏すらも許さぬ彼らを猟兵達は次々と人知れず打ちのめしていく。
「静かに戦うとか一番苦手なんだが……この穏やかな夜を壊させはしない」
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は暗闇の荒野を見据える。
オブリビオンの群れを撃退することは勿論のこと、夜寝静まった拠点の人々を起こさず、人知れず戦わなければならないことは彼にとって難しいことであっただろう。
けれど、思い出すのだ。
一時、ただの一時であったけれど、己を子供に戻してくれたあの無邪気な笑顔たちを護るために己の力はあるのだと。
偽神兵器『コキュートス』を握りしめる。
『事件です。敵影を確認しました。戦いますか?』
『コキュートス』の声が聞こえる。
その声にはとりはしかめっ面をしてしまうだろう。その声はいつだって争いと謎の中にこそある。
だからこそ、今日という平穏の中で聞くにはあまりにも耳に障る。
「黙って戦え『コキュートス』。お前が一番煩い」
はとりはしかしながら、戦うにしても普段の戦い方ではいけないということを理解していた。
迫る敵は『インフェクション・マウス』の大群。
それらを静かに、速やかに撃退しなければならない。ならばこそ、彼の瞳はユーベルコードに輝く。
探偵が暴くのは『謎』である。
ならばこそ、今の彼がやっていることは証拠隠滅。戦いの跡すら残さずに、はとりはオブリビオンを打倒してみせる。
そのために輝くユーベルコードはストーム・ランページ。
膨れ上がっていく偽神兵器『コキュートス』、氷の大剣が煌めくようにして蒼氷と共に『インフェクション・マウス』たちを薙ぎ払い、病原体ごと彼らを冷凍するのだ。
「『コキュートス』お前……派手な水色に発光するのもやめろ」
はとりは大剣が薙ぎ払った『インフェクション・マウス』たちが叢氷と共に砕けて霧散してくのを見やりながら、己の振るう巨大化した大剣がきらめいているのを咎める。
これだけ派手に輝いていては、誰の目に止まるとも知れぬ。
『わかりました。ハロウィンスキン に 切り替えます』
その音声と共に『コキュートス』の刀身が橙色に輝く。
「は?」
思わずはとりの声がこぼれてしまう。
自分は光るのやめろと言ったのだ。誰も色を変えろとは言ってない。言葉面だけみたらそう解釈されてもしかたのないものであったが、それでも橙色はない。南瓜カラーだからか? なら紫色にも明滅すべき……とかそんなことを言っている場合ではない。
「……最高にどうでもいい。目立tの変わらんし腹立つわ」
確かにハロウィン感は出ている。
大剣を振り、『インフェクション・マウス』たちを氷漬けにしていくハロウィンカラーの氷。
なんとも言い難い気持ちになる。
これならば見られても余興の一つと思わせることもできるだろう。
しかしながら、実際に戦う自分の視界はハロウィンカラーでチカチカしてしまう。
そんな視界の中で己の道のりを思い出す。
全てを救ってこれたわけではない。探偵はいつだって犠牲者の残した謎を解き明かすだけだ。
ならばこそ。
「俺は神じゃないが今だけはアヌビスらしく」
そう、今だけは違う。
犠牲者などいない。事件が起こる前に事件に成り得る萌芽を摘み取る。そういう存在なのだ。
目の前に迫る『インフェクション・マウス』を氷漬けにして、その氷が受ける朝焼けの光を受けてはとりの瞳が輝く。
「お前等を冥界へ導いてやる」
夜は明ける。いつかきっと平穏という明日を迎えることができるように――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
サージェさんと
うふふふふ。さすがにやりすぎた感!
これは帰ったらお説教決定だね。
え?幻覚が見える?
それたぶんナイアルテさんのオーラが限界突破したんじゃないかな……。
でもでも涙目で真っ赤なになったナイアルテさんに叱られるとか、もはやご褒美だよね! ごちそうさまです!
コレイジョウイケナイ?
あー、うん。帰れなくなるとナイアルテさんに叱ってもらえないもんね。
ここはマウスをしっかり倒してゲートに入れてもらわないとね!
サージェさんの【VR忍術】で足の止まったところを、
【ストラクチュアル・イロージョン】で、逆にウイルス散布しちゃうよ。
こっちだってウイルス使えるんだから、ねー♩
さてどこにカメラ仕込もうかな……?
サージェ・ライト
理緒(f06437)さんと
いやーやりすぎでしたかねー?(でも理緒さんとハイタッチしつつ)
はっ?!グリモアベースからすごい圧を感じます?!
そして涙目でぷるぷる震えているナイアルテさんの姿が見えます?!
くっ…正直ご褒美(FC会員的に)ですありがとうござアッハイマジメニタタカイマス
ええ、帰還難民になりそうなイ・キ・オ・イ(イイ笑顔)
【VR忍術】落とし穴&底にトリモチの術!
マウスたちの足元に落とし穴を作って捕獲しまくりです
穴を避けたりジャンプして飛び越えてきたマウスは
理緒さんお願いしまーす!
私は穴の中のマウスにトドメ
「汚物は消毒です、ひゃっはー」
【VR忍術】火遁の術で消し炭になるまで燃やしますね
ハロウィンパーティを終えた深夜、二人の猟兵が『アカプルコ・デ・フレアス』の郊外の荒野にて顔を突き合わせていた。
「いやーやりすぎでしたかねー?」
「うふふふふ。流石にやりすぎた感!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)と菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の二人であった。
「これは帰ったらお説教決定だね」
彼女たちが言っているのは、ハロウィンパーティにおいて某『菜医愛流帝』クッキーやらプリンやらを配りまくっていたことを指しているのだろう。
悪ノリが過ぎたと反省しているのだと思われる会話であるが、なんか笑顔なのは気のせいだろうか。
反省している感を出しつつ、機会があったらまたやる顔である。
しかしながら、二人は反省してますという言葉を紡ぎながらハイタッチをしているのだ。とてもよい汗をかいたあとのスポーツマンくらい爽やかな顔であった。
どうして。
「はっ?! すごい圧を感じます?! そして涙目でぷるぷる振るえている姿が見えます?!」
「それオーラが限界突破したんじゃないかな……でもでも涙目で真っ赤になって叱ってもらえるとか、ご褒美だよね! ごちそうさまです!」
正直にファンクラブ会員的にご褒美ですありがとうございます! となている理緒とサージェの二人。
もうなんと言っていいか。
筆舌に尽くしがたい。どうなってるんだ、この二人の頭の中は。何が見えてるの? という位強めの幻覚を見ている二人の顔というか、目は完全にキマってるあれである。
このまま不真面目にしていたら、帰れなくなりそうな勢いである。
いや、現実にって意味で。
この世界に放置ということはまずないのだが、そこまで二人はキマっているのである。おハーブか何かやられておられる?
「アッハイマジメニタタカイマス」
「あー、うん。帰れなくなると叱ってもらえないもんね」
違うそうじゃない。
そんな二人に迫る闇夜に蠢く影たち。
『インフェクション・マウス』たちの群れである。彼らは『アカプルコ・デ・フレアス』の寝静まった拠点に向かっているのだ。
彼らを一匹でも通せば、市街地は身に宿した病原体によって一気に疫病がはびこり、復興が立ち行かなくなるだろう。
それ以上に今日という奇跡のような一日を台無しにされてしまう。
「ここはマウスをしっかり倒して帰ってからご褒美をもらわないとね! サージェさん!」
理緒の言葉と共にサージェの瞳がユーベルコードに輝く。
「はいなー! VR忍術(イメージスルノハカッコイイワタシ)――メモリセット! チェックオーケー! 参ります!」
彼女のユーベルコードが輝いた瞬間、迫る『インフェクション・マウス』の群れを襲うのは『落とし穴』であった。
突如として出現した大穴に『インフェクション・マウス』たちは立ちどころになだれ込むように穴へと落ちていく。
しかし、あれだけの大群である。
味方を足場にして穴を駆け上ってくるだろう。
「だがしかーし! アンド! トリモチの術!」
そう、サージェの仕掛けた大穴の底にはトリモチが仕掛けられているのである。粘つくトリモチが『インフェクション・マウス』たちを捉えて離さないのだ。
動けば動くほどに。もがけばもがくほどにトリモチが絡まって彼らを逃さないだろう。
「タイムリミットまで、そんなにないよ。こっちだってウィルス使えるんだから、ねー♪」
理緒が微笑んで、輝くユーベルコード、ストラクチュアル・イロージョンによって散布される敵生体だけを侵食するウィルスを解き放つ。
病原体を保有する『インフェクション・マウス』たちであったが、理緒の生み出したウィルスに対する抵抗力を持っているわけではない。
散布されたウィルスに侵され、『インフェクション・マウス』たちが飛び出そうとする端からまた大穴にボトボトと落ちていくのだ。
「汚物は消毒です、ひゃっはー」
続けざまにメモリを取り替えたサージェのVR忍術、火遁の術が大穴の中に火柱を打ち上げる。
それはまさに篝火のようであった。
闇夜、アポカリプスヘルの遠き明日を。
今日という平穏を脅かす者すべてを灰燼に帰す炎であったことだろう。
先程まで冗談みたいなことを言い合っていた二人であるが、やる時はしっかりやるのだ。
おハーブは別に決めてなかった。
疑って悪いかったなぁって思っていたが、理緒が帰還の手はずを整えている間にボソリとつぶやいた言葉が不穏であった。
「さてどこにカメラを仕込もうかな……?」
あっ、全然こりてないな。この人。
二人がこの後お説教を受けたかどうかは定かではない。しかしながら、ファンクラブの中で謎のお説教動画データが出回ったことは、また別の話であり、また別のお叱りを受けることになるのだが。
まあ、イタチごっこだよね――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
(吸血鬼のコスプレ)
さて……こっそり倒さないといけないね……
今日は1日平穏で何も無かった、と……
…傷から血が噴き出すのか…面倒だな…
…まあ…来ることが判っていればやりようもある…と…
…【夜空染め咲く星の華】を起動…仕掛けておいた遅発連動術式【クロノス】による障壁でマウスの集団を閉じ込めて…少しアレンジ…
…光の柱の代りに光の雨を落として殲滅しよう…外から見たら流星群に見えるように…
…血が飛び散っても障壁で阻むから問題無いしね…
…ただ…これ死体もやばめの病原体持っていそうだから…
…念のため浄化復元術式【ハラエド】でここら一帯を浄化して置くとしようか…
『アカプルコ・デ・フレアス』の市街地、その郊外たる荒野に『インフェクション・マウス』たちが身に宿した病原体と共に大波のように群れを為して迫っていた。
彼らの目的は人の殲滅でもなければ、疫病の流布でもない。
ただそこに街があるから。
人間がいるから。
ただそれだけで彼らは拠点を目指していた。己たちが如何なる存在であるかを理解していない。
けれど、本能的に人の近くに存在しなければならないという理由それだけで『アカプルコ・デ・フレアス』に迫っていたのだ。
猟兵たちの計らいで人々は奇跡のような一日を過ごした。
ハロウィンパーティは非日常でありながら、文明を失う前の日常そのものであった。今宵は安らかに眠ることができる。
それがどんなにかけがえのないことであるかを彼らは知っている。
だからこそ、猟兵達は『インフェクション・マウス』たちの侵攻を阻むのだ。
「さて……こっそり倒さないといけないね……」
吸血鬼の仮装に身を包んだメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が暗闇の荒野に蠢く『インフェクション・マウス』の大群を見やる。
そう、今日は一日平穏で何もなかった、と。
人々の記憶に残すために。
なんでもない日が明日も続くとは限らない。いつだって荒廃した世界は生命の危機がある。
けれど、たった一日でもそういう日があったのだということが重要なのだ。だからこそ、メンカルはこの地に降り立ったのだ。
「……傷から血が噴き出すのか……面倒だな」
『インフェクション・マウス』はその身に病原体を宿したオブリビオンである。
その血潮、肉体が残ればそこから土壌を汚染し、人々の生活に牙を剥くだろう。そうなっては、どれだけ平穏な一日を得たとしても全てが台無しになってしまう。
「……まあ……来ることがわかっていればやりようもある……と」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
そう、夜空染め咲く星の華(ダイ・ザ・スカイ)のようにメンカルには力がある。
「天の耀きよ、咲け、放て。汝は光芒、汝は落輝。魔女が望むは闇夜を穿つ星月の矢」
詠唱が続く。
己に迫る大波の如き『インフェクション・マウス』たちの群れを見やり、彼女の開かれた瞳にユーベルコードが発現する。
空に展開される巨大魔法陣。
それは予め仕掛けておいた遅発連動術式『クロノス』が『インフェクション・マウス』たちを取り囲む。
障壁を展開する『クロノス』の術式が群れを逃さず、余さずに囲う。
だが、それだけでは『インフェクション・マウス』達は乗り越えていくだろう。数に勝る彼らは同胞の身体すら踏み台にして障壁を飛び越える。
「……少しアレンジ……」
本来であれば、『クロノス』の障壁に囲まれた中心に星の力を宿した光柱を落とすユーベルコードである。
けれど、メンカルは少しアレンジを加えることにしたのだ。
今回の戦いはただ倒せばいいというものではない。
できるだけ静かに、速やかに。
そして、戦いの場を見た者が、『これは夢だ』と思うことが大切である。
何事もなかった平穏無事な一日。
それを齎すことがどれだけ苦難に満ちているのかを知っている。どれだけの努力があって成り立つものであるのかを知っている。
だからこそ、今日という一日だけは特別なものにしなければならい。
なんでもないということが特別。
「だから、星降る夜を見上げる人の心に……平穏を」
メンカルのユーベルコードは光柱ではなく流星雨のように『インフェクション・マウス』たちに降り注ぐ。
ほとばしる光の星々が次々と『インフェクション・マウス』たちを霧消させていく。
どれだけ血が飛び散ろうとも『クロノス』による障壁によって阻まれ、飛散することはない。血に含まれる病原体をも阻むメンカルは障壁の上に立ち、新たな術式を展開させる。
オブリビオンは滅ぼせば霧消して消える。
けれど、残された死体や血液といったものは、大地を不浄に染め上げていくだろう。
「念の為……だけれど。それでも人がこの地をまた耕すかもしれない。その時に……病原体なんてものは必要ない」
メンカルは浄化復元術式『ハラエド』によって病原体に侵された血に塗れた大地を浄化していく。
ひとしきり浄化を終えた頃、メンカルの背後には朝焼けが見えるだろう。
流星雨は終わり、朝が来る。
今日も一日が平穏であるとはまだ言えないだろう。
なんでもない日が来るとは言えない。けれど、それでも安らかな一夜があったという事実は、いつの日にか膨れ上がって、日常に変わっていくはずだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!
ふぁあああああ…ねむーい!
音も控えめに深夜[ラジオ]を聞きながら
ビーサイレンス!…ってどうやるの?
まあなんとかしてみよう、なんとか
UC『神罰』ですり抜け[餓鬼球]くんたちを放とう
これがチームA!
見つからないよう地面壁をすりぬけそーっと近づきガブーッ!
いつもは大きなゲップも今日は控えめに
ボクはキャンプ近くで待ち構えて
[影]を周囲にひろーく伸ばして…ネズミくんたちが影を踏んだら…
影の中に待機してもらってた[餓鬼球]くんたちに影の中から大口だけ出して貰って…パクリ!
おや?
ほーらいい子は早く寝ないとハロウィンのお化けに食べられちゃうぞ~!
餓鬼球くんにもケタケタ笑ってもらおう
誰もが寝静まった拠点に寝息にまぎれてかすかなラジオの音が響く。
深夜ラジオの音は誰かの眠りを妨げるものではなく、人の営みが続いてることを実感させるものであったかもしれない。
そんなラジオから流れ出る音を目覚ましの代わりに、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)はハロウィンパーティのどんちゃん騒ぎの中心で目覚めた。
「ふぁああああ……ねむーい!」
おっと、ビーサイレンスとロニは声量を落として立ち上がる。
未だ人々はハロウィンパーティの余韻に浸るように眠っている。
ならば、敢えて安眠から目を覚まさせる理由などないのだ。
「……でも静かに戦うってどうしたらいんだろう」
ロニにとって静かに戦うということは意識したことのないものであったのだろう。
一口に静かにと言ってもやり方がわからない。
けれどまあなんとかしてみよう、なんとか、と彼は市街地から離れて荒野へと巨大な球である『餓鬼球』たちと共にふわふわと飛んで行くのだ。
眼下にあるのは荒野に蠢く『インフェクション・マウス』たちの大波の如き群れであった。
その身に宿した病原体で拠点となった『アカプルコ・デ・フレアス』を再びオブリビオン支配の恐怖に陥れようとしているのだろう。
「去ってゆくものはみんなうそ!あしたくる、鬼だけがほんとう!」
ならば、神罰(ゴッドパニッシュメント)を与えよう。
己が手繰る球体を持って、齎すユーベルコードの輝く。
あらゆるものを透過する力を与えられた球体たちが空を舞うようにして地面へと飛び込んでいく。
大地をえぐることなく球体たちが地面を透過して『インフェクション・マウス』たちの真下へと潜航していく。
「おっとと……行き過ぎた。もうちょっとこっちこっち」
手繰るロニが掌を顎のように閉じた瞬間、潜航していた球体たちが地面より『インフェクション・マウス』たちを一のみにしていくのだ。
それはあらゆる行動すらも無意味にするものだったことだろう。
大波のように迫る『インフェクション・マウス』たちであっても直下より襲い来る顎より逃れる術はない。
大量に敵を飲み込んだ球体たちがゲップをするも、それはいつもより控えめであった。
「おや? まだ来るんだ?」
数だけは多い『インフェクション・マウス』たちは『餓鬼球』たちの顎を逃れロニへと向かう。
彼の背後にある拠点へと飛び込もうというのだ。
けれど、彼の足元に広がる影がそれをさせない。暗闇の中に紛れて伸びた影こそが最後の防波堤である。
『インフェクション・マウス』たちが、その見えざる影を踏んだ瞬間、影の中に存在していた『餓鬼球』たちが再び顎をもたげ、彼らを一のみにしていくのだ。
「ほーら、いい子たち早く寝ないとハロウィンのおばけに食べられちゃうぞ~!」
ケタケタと笑う『餓鬼球』とロニ。
誰も己たちの姿を認めてはならぬ。
今宵、ハロウィンパーティは終わりを告げたのだ。
朝日が上がれば、特別な夜は終わりを告げる。
ひどく辛い現実が人々を襲うだろう。昨日のあの素晴らしき時間は偽りであったのかと。
けれど、それは違う。
特別なことを日常にするために、今という険しい道があるのだ。
いつだってそうだけれど、特別を日常にすることも、日常を特別にすることも人にはできるのだ。
神たるロニにとっては、簡単なことであって。
同時に愛おしいものであったことだろう。
「だからね、誰も朝まで目覚めてはいけないんだよ。此処は未だ夢の中なんだからね」
ロニと『餓鬼球』たちが笑う。
それは明日という当たり前を望む人々に迫る驚異を丸呑みにしてしまう、大きな、大きな、おばけの口なのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
『狼男』の仮装のまま敵の殲滅を行う
仮装と言っても、それらしい衣装に着替えて狼獣人の姿に変身しただけだ
普段であれば人に見せたい姿では無いが、ハロウィンパーティに馴染めていたなら良しとする
次いで林檎を喜んでくれた子供たちの姿も思い出して…
…そうだな、銃声で彼らを起こさないよう今回は銃は使わない
獣人に変身する事で得られる鋭い爪を武器に交戦する
ユーベルコードを発動し、強化した行動速度で噛みつきや引っ掻きの回避を試みる
拠点へ向かう敵がいれば回り込み妨害、撃破を優先する
…しかし、たとえ夢だと思ったとしても、この姿で戦う姿を見て恐ろしく思う者が居ないだろうかと気掛かりではある
彼らには楽しい記憶だけ残れば良い
オブリビオン『インフェクション・マウス』が『アカプルコ・デ・フレアス』の郊外である荒野を疾駆する。
群れ為す姿はまるで津波のようでもあった。
病原体を身に宿した身体が拠点に入り込めば、それだけで人々の平穏は打ち破られることだろう。
今日という奇跡のような一日を終えた人々は明日からもまたオブリビオン支配の日常と同じ毎日を過ごさなければならない。
それは今日見た子供らの無邪気な笑顔を壊すことだとシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は『狼男』の仮装のまま荒野を疾駆するのだ。
仮装と言っても、それらしい衣装に着替えてユーベルコードによって銀色の毛並みを持つ狼獣人の姿に変身しただけのことである。
「見て呉れを気にしている場合では無いな」
普段であれば人に見せたい姿ではない。
けれど、今日はハロウィンパーティである。ならばこそ、この姿であっても今日という日に馴染むことができたのだ。
大地を蹴るたくましい足が跳ねる度に思い出す。
林檎を喜んでくれた子供らの笑顔。
あの笑顔を護るために今、シキは大地を疾駆している。彼の不器用な対応にも彼らは喜んでくれた。
もっと作ってくれと林檎の兎をねだる少年少女たち。
彼らとのやりとりはシキにとってかけがえのないものであったことだろう。ならばこそ、普段彼が使う銃を今宵は使うまいと心に決めた。
「こんな安らかな夜に銃声は響かせられん」
そのためのユーベルコード。
アンリーシュブラッド――己の身体を銀の人狼へと変える力。走る速度は弾丸の如く。
大地を蹴って、飛び上がるシキの蹴撃が『インフェクション・マウス』の頭部をケリ砕く。
その速度は目に元ならぬものであった。
あらゆる『インフェクション・マウス』が行動を起こすより早く、シキの蹴撃が見舞われるのだ。
「此処より先は行かせない。おまえたちのような存在が通っていい場所ではない」
己の背後には拠点がある。
寝静まった拠点。寝息しか聞こえてこない夜。
そんな安らかな夜を護るために己は戦っているのだ。
「彼らには楽しい記憶だけが残れば良い」
目の前で行われているような激しい戦いの記憶など必要ない。彼らはこれまで虐げられてきた。
オブリビオンに。
レイダーたちに。
そして何よりも、荒廃した世界という明日を生きることも難しい現実。
そんな世界にあってもなお明日を望む彼ら。
無邪気な笑顔の内に如何なる困難が待ち受けているのかは、当人たちでなければ知ることはできないだろう。
「だからこそ、俺はそういう者達のために戦う」
彼らの安眠を妨げさせはしない。
そのためにこそシキは戦う。振るう鉤爪や蹴撃は、他が為に。
それでも一つ気がかりが在った。
この己の姿を見て例え夢だと思ったとしても、戦う姿は恐ろしいものであろう。
誰も己の姿を見ていないといい。そう願いながら彼は戦い続ける。
夜は恐ろしいものではなく、安らかに眠るための帳であると思って欲しい。シキはそう願いながら、朝焼けに染まる空を見やる。
周囲にはすでに『インフェクション・マウス』の姿はない。
戦いを終えたシキが息を吐きだし、変身を解いて『アカプルコ・デ・フレアス』の街に戻ると、子供らが駆け寄ってくる。
昨日林檎をねだった子たちだろう。
「ねえ聞いて。昨日ね、夢だと思うんだけれど、格好いい銀色の狼の夢をみたの。とっても強くって、格好良かったのよ。あんなふうに成りたいって思ったのよ」
そう言って笑う子供の言葉にシキは何を思っただろうか。
他が為にと戦う誰か。
名前も知らない誰か。けれど、確かに残るものはあったのだ。恐ろしいと思っていた己の姿も見方を変えれば、憧れに変わるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵