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はっぴー★にゃろうぃーん

#カクリヨファンタズム #お祭り2021 #ハロウィン

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#カクリヨファンタズム
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#お祭り2021
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#ハロウィン


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●トリック
 陽が落ち、月が煌々と輝く夜半。
 普段であれば、街の喧騒は落ち着いて静寂が広がるばかり―、の筈なのだが。
『いらっしゃいー。いらっしゃーい!今ならオマケしちゃうよ!どうだい、お兄さん、おひとつ!』
『南瓜饅頭!今なら蒸かしたて!美味しいよ!』
 静寂とは程遠い、賑やかな街並みが其処には広がっていた。
 街路には所狭しと屋台が並び、広場には飲食スペースなのだろうか、椅子と机が並んでいる。
 何処も彼処も、笑顔で満ち溢れていた。
 立冬近付く十月の、賑わい溢れるお祭りと言えば。
 そう、ハロウィンである。
 よくよく見れば、彼方此方に南瓜のランタンや飾り提灯、店頭にはゴーストや蝙蝠の布飾りなどが吊るされている。
 ぽつんと片隅には、しゃれこうべが目立たぬように飾られていて。きっと、本物では無い、筈である。
 ―ハロウィン収穫祭。
 今年の実りに感謝する為のお祭りは、十日間に渡って開催される。
 そう、普段であれば何事も無く、お祭りは終わる筈だった。
 お祭り騒ぎを楽しむ妖怪たちを好んで飲み込まんとする骸魂が―。
『うにゃー』
 飲み込まんとする骸魂―。
『にゃーん』
 飲み込ま―。
『ふみゃー』
 無数のすねこすりにゃんこが、お祭り騒ぎを楽しむ妖怪たちを呑み込んでいた。

●トリート
「……報告。……カクリヨファンタズムで、事件…、…事件…?」
 酷く困惑した様相を隠さず、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)はそのまま言葉を紡ぐ。
「……もうすぐ、ハロウィン、なのは、皆様も、ご存知かと、思いますが」
 カクリヨファンタズムの、とある街。
 主に第一次産業を生業としている此の街では、ハロウィンが近付くと収穫祭が十日にかけて行われる。
 其処までは良いのだ。そう、其処までは。
「……此の街に、現れる、骸魂は、連日連夜、お祭り騒ぎを、している方を、好んで、飲み込むようで……」
 実際、飲み込まれた妖怪の数は多い。
 其の、骸魂と言うのが―。
「……ふわっふわ、もふっもふの、……ねこさん、です」

 なんて????????

 こほん、と小さく咳ばらいを一つ。気を取り直して、蒼は事の仔細を告げる。
「……とても、可愛らしくて、ふわっもふの、ねこさんの、姿を、している、為か―」
 見た目はとても愛らしい、もわもふねこさん。
 お祭り気分で陽気な妖怪たちも、然したる警戒はしないようで、其れが被害を拡大させているよう。
「……飲み込まれて、しまった、妖怪様を、助ける、為に、皆様には、お祭りを、楽しんで、いただきたい、のです」
 先にも告げた通り、骸魂は連日連夜お祭り騒ぎをしている者を好んで飲み込む。
 故に、此の習性を逆手に取ってしまおうという事である。
「……ですが、此度の、骸魂も、お祭りの、楽しい、喧騒に、誘われた、ようでも、あります、ので」
 一体一体の力は弱いので、特に苦も無く倒せるだろう。
 けれど、骸魂をも巻き込んでお祭りを楽しめたなら骸魂も満足して、ぽろっと飲み込んだ妖怪を吐き出すかもしれない。
「……何とも、気の、抜ける、事件、では、ありますが」
 飲み込まれてしまった妖怪を助ける為に、皆様の力を貸してほしい、と蒼は小さく頭を下げる。

 ―さあ、楽しいハロウィンの開幕だ。


幽灯
 幽灯(ゆうひ)と申します。
 今回は、カクリヨファンタズムのハロウィンをお届けします。
 ご覧の通り、あったまわるいシナリオです。
 マスターページの雑記部分とOPのタグにプレイング受付日と締め切り日を記載させていただきます。
 お手数ですが、一度ご確認をお願いいたします。

●一章
 まずは骸魂を呼び寄せる為に、全力でお祭りを楽しんでください。
 街に並ぶ屋台には基本、何でも有ります。
 南瓜を使った物も多く並んでいるようです。
 お祭りですので、勿論お酒も並んでいます。
 が、未成年の飲酒は当然ながら禁止です。
 此の章のみ、蒼に何かありましたらご用命ください。

●二章
 妖怪を呑み込んでいる此度の元凶。
 ふわもふにゃんこ、もといすねこすりとの戦闘です。
 普通に戦闘しても問題はありませんが、すねこすりが疲れるまで遊ぶと骸魂が満足、または疲弊して飲み込んだ妖怪をぺっぺします。

 複数名様でのご参加は3名まで。
 ご一緒する方は「お名前」か「グループ名」を記載してください。
 其れでは、善きハロウィンを。
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第1章 日常 『朝までハロウィン大宴会』

POW   :    飲んで食べて大騒ぎする

SPD   :    歌って踊って盛り上げる

WIZ   :    スゴい仮装で注目を集める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜はこれからだ☆彡
 陽が落ち、ぽつり、ぽつりと街の街灯に火が燈る。
 ぱっと街を彩るは、梔子色の光を宿す南瓜のランタン。
 わいわいがやがやと、日の高い時間よりも賑やかな喧騒が街を満たす。
『ほっくり甘い南瓜饅頭いかがですかー?』
『南瓜ミルクー、南瓜ミルクー。黄金が美しい黄金ミルクですよ』
『丸ごと南瓜のチーズグラタン、売り切れ必須!ご購入はお早めに!』
 彼方此方から、屋台の客寄せの声が響き渡る。
 よくよく見れば、屋台を営む妖怪も、街を往く誰も彼もが、何らかの仮装をしていて。
 まるで、別の世界に真横んでしまったような錯覚に襲われる。
 けれど、此処はまごう事なきカクリヨファンタズム。
 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ!
 街を揺るがす骸魂の事は勿論気になるけれど。
 今宵の祭りは、此の日だけ。
 明日にはお目にかかれない、一夜限りの幻の屋台何かに遭遇しちゃったりするかもしれない。

 夜はまだまだ始まったばかり。
 仲良い誰かと共に祭りを楽しむでも、一人で屋台食べ比べに挑戦したり、はたまた
愛しき誰かと今宵限りの想い出を作るでもいい。
 さあ、楽しい楽しいハロウィンの始まりだ!
ヴォルフガング・ディーツェ
【翼狼】
祭とは逃げ水の様なもの
遠ければ美しく、さりとて手を伸ばせば儚くすり抜ける幻
…だった筈、なんだけどね

裾引く手に和む気持ちは止められない
ふふ、甘えられるのは悪くないな
どれどれ、と澪が示した屋台を眺め
こうして見ると、やっぱり南瓜料理の屋台が多いんだね
ああ、その2つは気になったなぁ
シェアしようか。その方が色々食べられるし?
他にもプリンは外せないかなって…ふふ、余ったら俺が平らげるから気にしないでいこ!

お面かー、102才にして多分初体験だなぁ…記念になりそうだし、勿論ご一緒するとも!
澪はやっぱり白が似合うね、可愛い!俺は…そうしたら黒にしようかな
対になる方が友達合わせ感出るね
…兄弟か、ふふふ


栗花落・澪
【翼狼】
お祭りは大好き
人々の賑わい、沢山の笑顔、美味しいもの綺麗なものもいっぱいで
何度見ても心が躍る

はぐれないようにヴォルフガングさんの服の袖を掴みきょろきょろ

うぅ…どれも美味しそうで目移りしちゃう…
南瓜饅頭美味しそうだなぁ…
あ、あっちの南瓜のパイもいいなぁ
寒くなって来たし、あったかい紅茶と合わせたら良さそうかも
ヴォルフガングさんは気になる屋台ある?
プリン!いいね!
分けっこしよ…!

色々食べたい時の常套手段になりつつあるけど
小食なんだから仕方ないと心で言い訳
お祭りを楽しむ最中ふとお面屋さんに目を止め

ハロウィンお面…一緒に付けない?
僕猫さんが気になります
可愛い
えへへ、お揃いだぁ
兄弟猫さんだね



●魔女の使い
 ぴーひゃらら、と祭囃子の音色が夜空へと溶ける。
 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。街に響く喧騒は何時もの比ではなく。
 周りを見回せば、彼方此方に笑顔が零れていた。
 そんな様子を、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は感慨深く眺めていた。
(遠ければ美しく、さりとて手を伸ばせば儚くすり抜ける幻……)
 思い出すは遠い日の。手を伸ばしても届く事の無い、逃げ水のような―。
「……だった筈、なんだけどね」
 ぽつりと零れた言葉は静かに消えて。感傷に沈もうとしていたヴォルフガングの袖を、くいと控えめに引く白魚の手。
 そろりと視線を動かせば、目の前の喧騒に栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が目を輝かせていた。
 賑わいの聲、溢れる笑顔、鼻腔を擽るは香ばしく、甘い匂い。きらきらとした光景が其処には在った。
「すごい、すごいね、ヴォルフガングさん!」
 物珍しそうに、とろりとした蜂蜜色の瞳を瞬かせる澪の姿を見て、小さく笑みを一つ。
 こうして、裾を引かれた記憶は遥か遠く。けれども、今は奥底へと仕舞って。
 今は、目の前の可愛らしき君と共に過ごす今を。
「ふふ、そうだね」
 ゆらり揺れるは南瓜のランタン。橙の灯火が何処か温かみを感じさせる。
 街は賑やかな筈なのに、客を呼び込む声はどれもこれもはっきりと聞こえるから不思議な物である。
「うぅ…、どれも美味しそうで目移りしちゃう…」
 ハロウィンのお祭り故か、全体的に南瓜料理が多い。勿論、其れ以外の屋台も並んでいるのだけれども、時節的な物か。
 どうしても南瓜と言う文字に目を奪われてしまう。
「南瓜饅頭、美味しそうだなぁ……」
 ほくほくと湯気を立てる、黄金の生地の中には、たっぷりの南瓜餡が詰まっている。
「あ、あっちの南瓜のパイもいいなぁ……」
 何層にも重ねられたパイ生地の中には、甘い南瓜をしっとりと煮詰めたクリームがぎっしり。
「やっぱり南瓜料理の屋台が多いんだね」
 見た事も聞いた事も無い屋台も其れなりに多いけれど、屋台に並ぶのであれば、美味しいのだろう。
「ヴォルフガングさんは、気になる屋台ある?」
 小さく首を傾げて、澪は問いかける。先程から、己ばかりが燥いでしまったけれど、彼も楽しんでいるだろうか、とほんの少し不安を宿しながら。
 そんな様子に小さく笑って、ヴォルフガングは改めて屋台へと視線を向ける。
「ああ、その2つは気になったなぁ。……後は、プリンは外せないかなって」
「プリン!」
 ほっくり南瓜のとろりプリン、絶対に美味しい事間違いない筈の、南瓜プリン。
「いいね!あ、でも食べたいものたくさんあって。全部食べれるかなあ」
「じゃあ、シェアしようか。その方が色々食べられるし?」
「……分けっこ…!」
 何とも魅力的な言葉である。小食が故に、常套手段になりつつある分けっこ。
(うう、でも仕方ないんだもん。いっぱい食べれないんだし……!)
 澪の心境を詠んだか。ゆらりと鉄紺の尾を揺らして、ヴォルフガングの手が澪の頭に乗せられる。
「ふふ、余ったら俺が平らげるから気にしないでいこ!」
「うぅ、その時はお願いします」
 かさり、と足元の落ち葉が風に吹かれて音を立てる。霜降の時節、小さく吹き抜けた風は、仄かに冷たさを孕む。
「ついでに、何か温かい飲み物も買おうか」
 ふるり、と小さく身体を振るわせた澪を気遣い、優しく声を掛けるヴォルフガング。
 先に足を踏み出したのはどちらか。ふたつの影は屋台へと足を踏み入れた。

「南瓜っていろんなバリエーションがあるんだね……」
 ひとしきり屋台を巡って、ずず、と澪は手にした南瓜ラテを口に含む。
 僅かにシナモンの刺激が口に広がって、ぽかぽかと身体が温まる。
 南瓜饅頭は餡に僅かな塩気が含まれていて、生地の甘さと相まって絶妙なバランスだったし、南瓜パイのクリームは南瓜ってこんなに甘いものだったかと驚いた。
 丁寧に南瓜を裏ごししたであろう南瓜プリンはとても滑らかで。南瓜に塩を振って焼いただけの焼き南瓜も、自然由来の甘みでほっくほく。
 心もお腹も、大変に満足した澪の目に留まったのは、一つの屋台。
「お面屋さんだ」
 此方も、やはりハロウィン仕様なのか。並んでいるお面も、仮装に準じた物になっている。
 ミイラ男、吸血鬼、魔女―。
「へえ、変わった種類のお面が多いんだね」
 じっとお面を見つめるヴォルフガングの横で、特に澪の目を引いたのは。
(猫さんのお面だー!)
 きゅるん、とした表情が可愛らしい猫のお面だった。じっとヴォルフガングの瞳を見つめながら、そっと澪がお面を指差す。
「僕、猫さんが気になります!」
 きらきらとした表情を断れるヴォルフガングではない。
「記念になりそうだし、勿論ご一緒するとも」
 ヴォルフガング、齢百二にして初めてのお面デビューである。
「猫さんもいろいろ種類があるなぁ。どれにしようかな……」
 悩んで悩んで手に取ったのは、白猫の愛らしいお面。
「ふふ、澪はやっぱり白が似合うね。とても可愛い!」
 なら、俺は―、とヴォルフガングが手に取ったのは黒猫のお面。
『まいどありー』
 にこやかな店主に見送られて、そっとお面を頭へと。
「えへへ、お揃いだぁ」
 ほわほわとした笑顔を浮かべる澪に釣られて、思わずヴォルフガングにも笑みが浮かぶ。
「対になる方が友達合わせ感が出るね」
「ね!兄弟猫さんだね」
 其の言葉に、僅かに瞠目して。
「……兄弟か、ふふふ」
 遠い日の想い出が頭を過ぎった気がした。―けれど。
「次は何処に行こう」
 そっと手を引かれて、二人は再び祭の喧騒へと身を投じるのだった。

 ―今は、此の楽しき時を、心往くまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ
猫さんです!
いえまだ出て来ませんが楽しみです!

まずはお祭りを楽しめばいいんですよね。
食べ歩くには私の胃は小さすぎるし、歩き回るにも一人はちょっと寂しい。
夏のようにまた占いの卓でも出しましょうか。仕事着のアオザイに身を包み、ちょっとした場所を貸して貰って机と椅子を二脚。再び「占い処『藍』」を。
傍らにはあらかじめ買ってきたお饅頭と飲み物を置いておいて。お客さんが来るまでは食べながら周りを眺めて過ごしましょう。
私は騒ぐ事は苦手ですし、むしろ楽しんでる皆さんを見る方がずっと楽しいです。
ハロウィンですのでお客さんが多いとは思えませんし、ゆっくりと過ごします。



●賑わいの中で
 そわり、と心が揺れる。世界各地でいろんなハロウィンのお祭りが繰り広げられている、と聞く。
 けれども、事件を起こす元凶が―。
(猫さんです!)
 出現するのはまだ先であるけれども、猫さんが出てくるのは間違いようのない事実。
 故に、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)がそわそわしてしまうのも致し方の無い事だった。
(どんな猫さんが出てくるんでしょうか。楽しみです!)
 とは言え、件の骸魂が出てくるにはお祭りを楽しまなければならない。
 けれども。
「食べ歩くには私の胃は小さすぎるし、歩き回るにも一人はちょっと寂しい……」
 賑やかな喧騒は、心地良い物ではあるけれど、参加する側となると、途端に寂しさが湧いてしまう。
 周囲に漂う、美味しそうな香りには大層心を惹かれるけれど、食べきれずに残してしまうのも心が痛む。
 見て回るのも勿論楽しいのだけれど、どうせならば楽しませる側に回らんと、藍は今宵の祭りの責任者を探す。
 こういった屋台もまた一興だろう、と提案したのは占いの屋台。
 祭の和やかな雰囲気も相まってか、はたまた面白そうな匂いを感じたのか。
『狭いスペースで良いのなら、全然いいよ』
 なんて、善き笑顔で場所を貸し出してくれた。ついでに、ガタガタと小さなテーブル一つ椅子二つ、借り受けて。
 普段の仕事着たるアオザイを着れば、ぴり、と纏う空気が僅かに変わる。
 吐く息に彩は混じらぬけれど、其れでも少し肌寒さを感じて。藍色のストールをそっと羽織る。
 ことり、と机に置くのは、自らの商売道具であるタロットカードと、道すがら目についた南瓜の饅頭と、かぼ茶。
 南瓜をそのままお茶にしたかぼ茶は、仄かに南瓜の香り漂って、何とも不思議な気分になる。
(本当に、いろんな南瓜料理があるのですね……)
 件のお茶を藍が一口含めば、香りは勿論の事、南瓜の甘みがほろりと伝わってくる。
 ゆっくりとお茶を堪能しながら、そっと藍は祭の様子へと目を向ける。
 何処も彼処も笑顔で満ち溢れていた。此れから事件が起こるとは思えぬ程に、幸せな光景だった。
 藍自身、騒ぐ事は苦手である。けれど、其れは騒ぐ事が苦手であって、賑やかな場の雰囲気は好ましい。
 一組の親子が、笑みを浮かべて屋台の路を駆けて行く。
 笑みを隠し切れない子と、諫めながらも優しい微笑みを湛えた親。
 自身も、同じ種族であれば、あのように笑い合う過去もあったのだろうか、と其処まで考えて、藍は小さく頭を振る。
 此れは過ぎたる事。もう、終わった事。
 ほう、と息を吐き、お茶を口へ含む。がやがやと街の喧騒が藍の耳へと届く。
 今は、此の楽しき日を、ゆったりと過ごせる喜びを。
 此れは、藍が選んだ路なのだから―。
『あ、あの。占ってもらっても、いいですか?』
 おずおずと切り出したのは、何処か自信なさげな妖怪。
「……はい、大丈夫ですよ」
 さあ、目の前の迷える者に、新たな道を示そうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉瀬・煙之助
理彦くん(f01492)と
わぁ、どこを見ても南瓜がいっぱいだね
ヒトも…仮装なのかほんとに妖怪なのかわからないね
えっと、骸魂が出るまでは楽しんでいいんだよね?
理彦くんどれ食べたい?

そうだね、お酒よりはお茶の方がいいな
ありがとう理彦くん
ふふふ、どれも美味しそうだけど食べ切れなさそう
理彦くん分けて一緒に食べよ?
南瓜のお饅頭甘くてホクホクで美味しいね

うーん、あ、理彦くん
あっちにあるのは何かn…
(別の屋台に目を惹かれていこうとして【手を繋】がれると少し照れながら足を止めて)
う、うん、そうだね


逢坂・理彦
煙ちゃんと(f10765)
去年の仮装は仮装で好きだったけどきっと煙ちゃんは恥ずかしがっちゃうだろうから。今年はいつもの格好で楽しもう。
今年の「はろうぃん」は朝まで大宴会だ♪

ふふ、確かに誰が妖怪かヒトか分からないね。
ても、きっと今日はそんなことは些細な違いなのかも…

煙ちゃんはお酒は苦手だからお茶の方がいいかな?後はほくほくの南瓜饅頭なんかを食べようか。
お惣菜っぽいのも沢山あるねかぼちゃの煮付けに
あれはぐらたんってやつだね。
他にも食べたい物や見たいものがあったら一緒に見に行こう。
(少しだけ冷えてしまった【手を繋い】でゆるりと笑って)
夜ははじまったばかり。だよ?



●繋ぐ
 陽は傾き、星が空に瞬く頃合い。街の賑わいは、鳴りを潜めるどころか、更に増して。
 祭の雰囲気とは斯様な物かと、思わず息を撒く。
 通常の祭りであれば、其れ程に目を奪われる事はなかったのだろうけれど。
「わぁ、どこを見ても南瓜がいっぱいだね」
 くるり、と吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)が辺りを見回せば、南瓜の飾りが彼方此方に目立つように飾られていた。
 街を歩く妖怪の装いも、普段とは違って趣向を凝らしたものが多く見られる。東方、西方それぞれの妖怪の括りなく思い思いの仮装を楽しんでいる様子。
(去年の仮装は、其れは其れで好きだったけど……)
 そっと逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)の脳裏に浮かぶのは、昨年の仮装。
 白きドレスを纏った煙之助は其れはもうべらぼうに可愛らしかった。可愛らしかったの、だけれど。
(きっと煙ちゃんは恥ずかしがっちゃうだろうから)
 ちらり、と屋台の装飾を見つめる煙之助へ理彦はそっと視線を向ける。
 此の祭りを楽しめぬのは、理彦の本意ではない。故に、脳裏に浮かんだ言葉はそのまま飲み込む事とした。
「えっと、骸魂が出るまでは楽しんでいいんだよね?」
 ちらり、と確認するように煙之助が問う。
「そう。たくさんお祭りを楽しもう。今年のはろうぃんは朝まで大宴会だ♪」
「あ、朝までかい?」
 ケタケタと笑みを浮かべる理彦に釣られて、少し困ったように煙之助も笑みを浮かべる。
「何時骸魂が現れるか分からない訳だし、楽しまなきゃ損だよ」
 ぱちくり、と瞬き一つ零して。
「それもそうだね」
 考えるまでも無かった。難しい事を考えていては祭は楽しめぬ。其れに、骸魂が出れば其れなりに騒ぎにもなるだろう。
 ならば、とすぐさま思考を切り替える。先程から目に映る屋台の数々が気になって仕方がないのだ。
「それじゃあ。理彦くん、どれ食べたい?」
 ぱっと目を引くのは、やはり南瓜を使った物だろうか。
「かぼちゃエール…、南瓜のお酒なんてのも有るんだね」
 どんなものか、果たして気にはなるけれど。
「煙ちゃんはお酒は苦手だからお茶の方がいいかな?」
 そうして、つい、と理彦が指さしたのは、古今東西様々な種類のお茶を扱っている屋台。
「そうだね、お酒よりはお茶の方がいいかな。……ありがとう、理彦くん」
 苦手な物を考慮してくれてか、煙之助の胸中にほわりと温かな温度が灯る。
「後は、ほくほくの南瓜饅頭なんかを食べようか」
 口にした事の無い食べ物は、幾つになっても心が躍る。
「あ、お惣菜っぽいのもたくさんあるね」
 南瓜の煮つけや焼き南瓜、小さな南瓜を器にしたグラタンなんかは早々に見ない代物である。
「ふふふ、どれも美味しそうだけど食べきれなさそう」
 くつくつと小さく笑う煙之助を横目に、理彦はどんどん気になる屋台を上げていく。
「自分も気になってきたよ。理彦くん、分けて一緒に食べよ?」
 わくわくとはやる気持ちは抑えきれず。にこりと笑って、二人は屋台へと繰り出した。
 二つに割った南瓜饅頭は、ほわりと湯気を立てて甘やかな香りを拡げたし、焼き南瓜のさくりとした歯ごたえは癖になり。
 器まで食べれるアツアツのグラタンは、二人で分けてもそれなりの量があって、お腹もほっこり膨れた。
 気になるものがあったら教えてほしい、と伝えた言葉を忠実に、煙之助は気になるものがあれば、くいと理彦の袖を引いて教えてくれた。
 知らぬ世界の祭り。楽しくなってしまうのは道理である。
「あ、理彦くん!あっちにあるのは―」
 ぎゅ、と煙之助よりも大きな手が、彼の手を包み込む。
 突然の事に、告げようとしていた言葉は喉の奥へと消える。
 気付けば、冷えてしまっていたのだろうか。包み込んだ手は、ひんやりと冷たく。
 己が体温で温めるように、優しく、離さないように。強く、強く理彦は手を握る。
「あ、えと、え、と……」
 ざわざわと賑わう喧騒が、何処か遠くに聞こえる様なそんな錯覚が起こる。
 目の前に佇む彼は、蕩けるように優しい笑みを浮かべる。
「夜は、まだはじまったばかり―だよ?」
 刹那、其れはいたずらっ子のような物へとすり替わる。
「う、うん。そ、そうだね」
 しどろもどろになりながらも、理彦に包まれた手を、煙之助もそっと握り返して。
 何方ともなく、微笑み合って。
 今年のハロウィンは始まったばかり。
 今宵限りの想い出を、紡ごうか―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
仮装は去年のマッドハッター。
あちこちで美味そうな匂いが漂ってる。目立つのは南瓜関係の食べ物。
幸い、晩飯はまだでね。思う存分、食えそうだ!

屋台から屋台に流れて行く。食べ比べ、なんざ我儘な舌を持ってる訳じゃないが折角だ。妖怪達の熱気、暖かい笑顔、美味い飯。仕事で来た事を忘れそうなぐらい祭りに馴染むぜ。
「オマケしちゃう」なんて言われたら買わない訳にいかないし、「蒸かしたて!」なんて言われたら手が伸びちまう。
「売り切れ必須」って言われたら今、買わなきゃだろ?「甘い南瓜饅頭」だってよ。甘い物は好きさ。「黄金ミルク」?おいおい、興味しかねぇよ!

…って感じさ。多分、ほとんどの屋台に顔出すんじゃねぇかな?



●南瓜ごはん
 賑わい溢れる街の喧騒は勿論の事、よくよく見れば、街を歩く妖怪も約半数が仮装衣装に身を包んでいた。
 年齢性別を問わずに、皆がそれぞれの仮装を楽しんで。小さな子供が魔法の言葉を呟けば、心得た言わんばかりに屋台の人々は差し出された器にお菓子を一つ。
 ゆらりと揺れるは、浅緑の外套。揃いの帽子も小さく揺れる。今宵のカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、イカレ帽子屋マッドハッターである。
 郷に入っては郷に従え、の精神、此の方が街の人とも溶け込みやすかろう。
 そんな打算があるかはさておき。先程から気になるのは、鼻腔を擽る善き香り。
 ずらりと並ぶ屋台には、見知った物は勿論ながら、見た事無い者もちらほら見受けられる。
「幸い、晩飯はまだでね」
 くぅ、と小さく腹の虫も主張を始めて。意気揚々と、カイムは屋台へと繰り出した。
『あら、其処の帽子屋さん。うちの蒸かしたて饅頭おひとついかが?』
『うちのお饅頭だって負けてないぜ。ほらほら、此れもくれてやるよ』
 数も並べば同じ屋台も存在する。
 けれど、店が守る味は僅かに違って。片や、ほっくり甘い南瓜の饅頭。片や、塩味の効いたさっぱりとした南瓜の饅頭。
「うっま……」
 カイム自身、些細な味の違いが判る舌を持っている訳ではないけれど、確かに此れはしっかりと味の違いが判る。
 思わず零れた、小さな本音を耳にした店主は気を良くしたのか、あっちの屋台もお勧めだよ、なんて言われてしまっては、行かない訳にはいかない。
 焼き南瓜なんて、ただ炙って塩を軽く振っただけなのに、何故こんなに甘みが増すのか。
 しっとりじっくり裏ごしした南瓜のポタージュは、とろり濃厚な甘みがほんのり冷えた身体を芯から温めて。
 薩摩芋と南瓜の二色のお焼きは、色合い違った黄色が目を楽しませて。
『南瓜丸ごとグラタン、いかがっすかー。お祭りだけの限定品だよ』
 なんて、限定品だなんて謳われてしまえば、手が伸びるのは道理である。
 手のひらサイズの南瓜にアツアツのチーズと南瓜がごろっと入ったグラタンは大変美味だった。
 肉巻き南瓜なんて、しっかりと肉汁を吸い取った南瓜の美味しい事。
 そういえば、屋台と言えば、欠かせないのはお酒である。当然ながら、此処の屋台にもお酒は並んでいる。其の名までも目を引いたのが、かぼちゃエール。
 けれど、そう此れは紛い也にも猟兵の仕事であって。仕事で、あって。
「いや、かぼちゃのエールなんてのもあるんだな。癖が無くて飲みやすいな」
 酔わなければ問題は無い。軽く一杯、カイムは促されるままに口に含めば、変わり種エールはすっきりほろにが。
 其れからも。
 生クリームを贅沢に乗せた南瓜のプリンに、しっとり滑らか南瓜の羊羹なんかにも舌鼓を打って。
「え、黄金ミルク?何だそりゃ」
 見知らぬ食べ物に、カイムの興味は尽きる事を知らぬばかり。
 南瓜と牛乳を混ぜ合わせた、見事の黄金の液体には、刺激的な香りを漂わせるシナモンが降り掛けられていて。
 甘い中にも、エスニックな刺激が舌と鼻を通り抜ける。
「いやあ、食った」
 気付けば、ほとんどの屋台に顔を出していて。売りに出されている物は勿論、ご厚意でもらった珍味なんかも頂いて。
「……もう一巡り、するか」
 腹ごなしに、来た道をゆったりとカイムは戻っていく。
 賑わう人々、溢れる笑顔、美味しいごはん―。此処の街に住む妖怪たちの熱量がひしひしと伝わる街道をもう一巡、巡る為に。
 帽子屋マッドハッターは、再び祭の中へ飛び込んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
【狐々】

とりっくぁとりーと!
クロムさん、ハロウィンですよ!
南瓜とお菓子のお祭りです!

ハロウィンの祭りは仮装するんですよ。
俺はこれ!南瓜!
確かジャックっていう、南瓜の西洋妖怪?お化けらしいです。

クロムさん、猫の魔女だ!
今回の骸魂も猫ですし、警戒されなくていいかも!
しかも、その、可愛い…凄く可愛い…です!

ん?クロムさん、屋台からいい匂いが!

俺、南瓜グラタンと、南瓜ミルクが気になる……
クロムさんはどうしますか?
はい、グラタン2つ下さい!

いただきます!
あちち…!グラタンあつあつだ……
フーフーしないと。

え?あーん。(パク)
ん、美味しい!
俺も、あーん、やりたいです!

フーフーして…
はい、クロムさん。
あーん!


クロム・エルフェルト
【狐々】
――と、……とっくり、か、鶏……う、ん?
そっ、か。はろいん。南瓜とお菓子、の?
お姉さんの私より、都月くんの方が物知り。
教えて欲しいな、はろいんの事。

仮装、するの?
都月くんのソレ、凄く可愛い。良く似合ってる(尻尾ぱたた)。
ふむ、ジャック。……色んな種類が居るんだね、ジャックさん(?)。
じゃあ、私はこれ(モフモフ黒猫スーツを着る。魔女の猫)。
狐だから、変わり映えしない……かな。

少し秋も深まって来た事だし。私も、その『ぐらたん』が気になる。
ん、都月くん……大丈夫?
(匙を受け取って、ひと掬い。口に寄せて息を吹きかけ、少し冷ませば)
これくらいで、いいかな。――都月くん、はい。
え、と。……あーん。



●Treat me or I’ll trick you.
 賑やかに、愉快に、お祭りは続く。
 誰も彼もが笑みを浮かべて、街を歩く。
 子供の一団が、可愛らしい衣装に身を包み、決まりの文句を口にしては家々を回る。
「とりっくぁとりーと!」
 其の声音に合わせたかのように、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)が声を上げる。
 ゆらりゆらりと木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の漆黒の尾が楽し気に揺れる。
 滲む楽しさを隠し切れない都月とは対照的に、
「――と、……とっくり、…徳利?…か、鶏……。…う、ん…?」
 困惑顔で、紡がれた言葉の意を考えるクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)の様子に、都月はくすりと笑みを零す。
「クロムさん、ハロウィンですよ!」
 ゆっくりと言葉を咀嚼する。
「あ、そっ、か。はろいん。……南瓜とお菓子、の?」
 そうです、正解です。と満面の笑みで応えられて、ぴこりと小さくクロムの稲穂色の狐耳が揺れる。
「お姉さんの私より、都月くんの方が、物知り、だ、ね」
 ならば、知っている相手に問うのが一番だろうと、ハロウィンについてクロムは幾つか問いかけを零す。
「ハロウィンのお祭りは仮装するんですよ」
 そっとクロムの手を引いて、やってきたのは街にある仮装衣装のレンタルのお店。
 時期に合わせたのか、店内には様々な衣装の数々。悪魔に天使、ミイラ男にフランケンシュタイン、などなど。
「……仮装、するの?」
「そうですよ。えっと、俺はこれ!南瓜!」
 そうして都月が選んだのはジャックオランタンモチーフの西洋妖怪。あぐり、と開いた大きな口から顔が覗いている仕様である。
「都月くんのソレ、凄く、可愛い。……良く似合ってる」
 薄く笑みを浮かべるクロムの稲穂の狐尾は、薄い表情と相まってぶんぶん豊かに揺れている。
 よくよく見れば、ジャックと言えど様々な種類があるようで。
「……じゃあ、私はこれ」
 僅かに悩んでクロムが選んだのは、もふっもふの黒猫スーツ。オプションに可愛らしい魔女の帽子が付いている。
「クロムさん、猫の魔女だ!えと、その、か、可愛い。……あの、凄く、可愛い、です…!」
 ぼそぼそと、やや頬を赤らめ、都月がはにかんだ様に笑う。
 照れが伝染したのか。クロムの頬にも朱が差す。ぱたり、ぱたりと漆黒と稲穂の狐尾が寄り添うように揺れる。
「か、仮装も、しましたし。お祭り、行きましょうか!」
 先ほどから、ふわりと漂う、良い匂いも気になってきたところですし!と頬は赤らめたまま、都月はそっとクロムの手を引いて、街へと繰り出す。
 其の様子を、貸衣装屋の店主は微笑ましく見守っていた。

「……わ、ぁ…」
 一度、大通りへと繰り出せば、人々の賑わいは勢いを増して。
 より一層、漂う香りも勿論、強くなる。いろんなお祭りに参加してきた筈だけれど、此処まで規模が大きいのは久しぶり、いや、初めてだろうか。
 うきうきとした気持ちが抑えられないのか。都月の瞳はきらきら輝く。
 そんな愛し人の姿に、知らぬうちにクロムの口角がゆるりと上がる。
「クロムさん!俺、南瓜グラタンと、南瓜ミルクが気になります!クロムさんは、どうしますか?」
 ひらりと足元に落ちるは、色付いた木の葉が一枚。木の葉色付き、葉が落ちる季節―。
「少し、秋も深まって来た事だし。私も、その、ぐらたん、が気になる」
 僅かに冷える夜の気候。けれど、暖かい物を食べれば、身体も温まるだろう。
 クロムの返答に、ぱっと花が綻ぶように都月の表情が明るくなる。ぱたぱたと屋台へ駆け寄っていく。
「グラタン2つ下さい!」
『あいよー。熱いから気を付けてなー』
「買ってきました!えっと、あそこで食べましょうか」
「ん、そう、だね」
 そうして都月が示したのは、彼方此方に設けられている飲食スペースの一角。
 大木が近くにある為か、冷たい風も然程気にならない場所である。
 丸ごと南瓜のグラタンは、其の名の通り、小さな南瓜を器にしたグラタンである。
 ぱかり、と南瓜の蓋を開ければ、ふわりと漂う白い湯気。其れに伴い、チーズの香ばしい香りと、南瓜の優しい香りが周囲へと漂う。
 こんがりと焼き目の付いたチーズが何とも食欲をそそる。
「えへへ、いただきます!」
 そっとスプーンを刺し込めば、重厚な重さが掌に伝わる。そのままスプーンを持ち上げれば、ぶわりと広がる湯気と、とろり溶けるチーズ。
 美味しい物は、熱いうちに。其の言葉に従って、アツアツのグラタンを、都月が口へと含むと―。
「あちち…!」
 じゅわっとした熱が口の中いっぱいに広がる。突然の事に、クロムの狐耳がぴん、と真っ直ぐに立つ。
「ん、都月くん…、…大丈夫…?」
 べ、と舌を出しながら、熱を逃がす。
「ふぅ…、グラタンあつあつだ……。…フーフーしないと」
 其の言葉を聞いたクロムが、都月の手からそっとスプーンを受け取る。対する都月はきょとん、とした表情を浮かべたまま彼女を見つめている。
 先ほどの都月と同じ様に、グラタンを掬って。そっと口元に寄せて、ふー、と息を吹きかける。
 吹きかけられた息が、熱を冷ます。
「ん。…これくらいで、いいかな」
 ある程度冷ましたグラタンを、クロムはすっと都月の口元へと寄せる。
「都月くん、はい」
 ―…あーん、して?
「え?あ、あーん」
 差し出されたスプーンを雛よろしくぱくりと口に含めば、程よく冷めたグラタンの風味が口いっぱいに広がる。
「美味しい!けど、俺も、あーん、やりたいです!」
 言うが早く、先程のクロムと同じ様にグラタンを掬って、都月も息を吹きかける。
「はい、クロムさん。あーん!」
 ぱちくりと、瞳を瞬かせながらも、クロムは小さく口を開く。
「…え、と。…あーん」
 スプーン加えてから、互いに気が付く。互いに愛しさを抱いていたとしても。意識する前とした後では、意味合いが違ってくる。
 ぶわり、と真っ赤に頬を染めたのは、グラタンか、其れとも―。
「さ、冷める、前に食べよう、か」
「そ、そうですね!」
 今は、此の冷えた風が何処か心地いい。

 ―思い重ねた二人の旅路は此れからも続く。きっと様々な色彩の想い出を紡いでいくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月守・ユエ
🌕望月

賑やかな収穫祭!南瓜いっぱいだ~♪
装いは月華を胸に飾る蝙蝠巫女の姿で
楽し気に笑み咲かす

玄月くんも一緒で嬉しいなぁ
今日はいっぱい遊んでね!

愛らしい返事に嬉し気に頷き
そうと決まれば
逸れないように抱っこしてもいい?
同じ目線で一緒にお祭り楽しみたいな
手を差し誘いが叶えば、いざ

ふと布飾りに目が留まる
あ、蝙蝠の飾りがあるよ!
ふふ、玄月くんに似合いそう
飾りを手に取り彼にあてる
うん!可愛い
これ、君にプレゼントしてもいい?今日の思い出に

黎さんの声にきょとんと振り返ると口元に饅頭
可愛らしく、お茶目な悪戯ね
小さく笑み零し
南瓜饅頭を食べると南瓜の甘い味がした

では、皆で仲良くミルクでも
良き夜に乾杯、と無邪気に


月詠・黎
🌕望月

ふむ、収穫祭か
祭は毎度賑やかな物よのと咲って
月下美人を心臓に持つ吸血鬼に扮し
南瓜の灯りが彩る場へ参ろう

お供は使い魔の黒猫、玄月
白花の鈴を尾に飾っては
ちりん、ちりりん

ユエの紡ぎへ、にゃあと可愛らしく鳴く様は
ふふ、何時ぶりに聞いたかのう
何百年…否、もう解らぬ
問われればかの猫は友の腕の中
我も逸れぬ様に付いて之こう

途中にそっと買った南瓜饅頭と
南瓜ミルクを彼岸花咲くマントに忍ばせ
玄月からの許し求む視線には頷き返し
素敵な想い出を貰っておいで

――我の眷属、蝙蝠達や
後ろから声を掛け
振り返り様に順に口に添えるは南瓜饅頭
ふふと悪戯そうに牙を見せ
今宵は特別にミルクもと樂し気な主気取り

のう、我も混ぜてお呉れ?



●黄金咲く
 十日続く、此の収穫祭。
 日が進めば、勢い衰えるのかと思いきや、全くの逆だった。
 気付けば、初日には無かった屋台も建ち並び、妖怪たちの盛り上がりも最高潮も最高潮。
 街を彩る南瓜飾りも、黄金に柑子、暗緑色それぞれが違った表情を浮かべている。
「賑やかな収穫祭!南瓜いっぱいだ~♪」
 人の行き交う街路を見て、月守・ユエ(皓月・f05601)の声も思わず弾む。
 今宵の装いはハロウィンに合わせた特別仕様。白き月華を胸に彩る、黒き翼の蝙蝠巫女。
 浮かぶ笑みも、妖しく咲いて。
「ふむ、収穫祭か。祭は毎度賑やかな物よの」
 ひらり蝙蝠の翼を閃かせるユエの傍らで、月詠・黎(月華夜噺・f30331)が感慨深く周囲を見回す。
 己を祀る社が健在で在った頃、斯様な祭もあったような、と僅かに糸を手繰り寄せる黎の装いは、一夜限りの儚き月下美人を血潮に抱く吸血鬼。
 光灯す南瓜の元へと歩み寄れば、ちりん、ちりんと涼やかな鈴の音が周囲へ小さく響く。
 其れは、まるで自分を忘れるなと言わんばかりに、黎の足元で白花の鈴を揺らす使い魔の姿。
「玄月くんも一緒で嬉しいなぁ」
 綻ぶように笑みを浮かべて、ユエがそっとしゃがみ込み玄月の頭を撫でる。
 応えるように、にゃあ、と愛らしく一つ鳴き声零せば、黎の瞳が僅か見開かれる。
(ふふ、珍しいのう)
 かの使い魔が、このように可愛らしく鳴く様は、果たして何時ぶりか。
 一年、十年、百年―、気付けば数える事すら忘れて。
「ふふ、やったぁ。ねぇ、玄月くん。逸れないように抱っこしてもいい?」
 しゃがみ込んだまま、小さくユエが玄月へ手を伸ばして問いかける。
 ちらり、と己が主へと視線を映したのは、ほんの一瞬。
 頷くよりも、返答するよりも先に、するりとユエの腕へと収まった。とくとくと温かな鼓動が手に伝わる。
「なら、我も逸れぬ様に付いて之こう」
 静かに傍らに寄り添った、月下の吸血鬼は、巫女と共に祭りの喧騒へと足を踏み出した。

 周囲に零れるは、楽しい気持ちと幸せな気持ち。
 そして、誰かを持て成したい、楽しませたいという妖怪の気遣い。
 まるで、其れが街の一帯に現れているかのようで、騒ぎを起こす物も居なければ、誰も彼もが笑みを咲かせていた。
 一歩、また一歩と街路を進めば、鼻腔擽る美味しい匂い。冷えた空気に、暖かな湯気がほわほわ立ち昇る。
 途中、甘い香りを漂わせていた南瓜饅頭と黄金輝く南瓜ミルクをユエに気付かれぬように黎がそっと彼岸花咲くマントへと忍ばせる。
 果たして、此れを口にした友の驚き顔たるや、どのような物かと思考の端で小さく思案する。
「あ、蝙蝠の飾りがあるよ!」
 片手で玄月を抱き上げたまま、ユエが露店に並ぶ蝙蝠飾りをそっと指さす。
 ちらり、と腕の中の黒猫へと視線を映せば、にゃん、と響く声と揺れる鈴の音。
 中でも気になったのは、羽根を大きく広げる蝙蝠飾り。
 露店の主に声を掛け、玄月の頸に宛がう、
「うん!可愛い!これ、君にプレゼントしてもいい?」
 今日と言う、祭の想い出に―。
 どうかな、と首を傾げるユエを横目に、じっと玄月が黎へと視線を向ける。
 其の意図を察したのか、黎は小さく頷き返す。
「素敵な想い出を貰っておいで」
 其の聲は、微かに玄月に聞こえる程度の物だったけれど。主に了承を得た黒猫は、にゃあ、と小さく鳴いて、喜びを示す。
「これ、ください」
 蝙蝠飾りはそのまま玄月の頸へと収まって。そろそろ頃合いか、と黎が前を歩くユエへ声を掛ける。
「――我の眷属、蝙蝠達や」
 突如響いた黎の声の、きょとんとした表情を浮かべながらもくるり振り返ると。
 ―ふにっ。
 口元に、暖かく柔らかな、甘い感触。
 思わず、もぐ、と咀嚼すれば、口内に広がる甘い南瓜の味。
 何とも可愛らしい悪戯だろうか―。此れは、お菓子を差し出さなければ悪戯されてしまうのだろうか。
「さて、此度の祭は盛況しているように見られる。今宵は特別にミルクも出そう」
 もう一つ、隠していた南瓜ミルクを取り出せば、今度こそユエの口から笑い声が漏れた。
「ふふ。では、皆で仲良くミルクでも」
 麗しき吸血鬼様に、良き夜に乾杯―。

 こつん、と南瓜ミルクの器が小さく音を立てた。
 祭はまだまだ賑わい見せて。夜はまだまだ此れからである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陰日向・千明
「しょーもな。どうせバカ騒ぎしたいんッスよ……」
・インドア派の千明には、ハロウィンにあまり好意的な印象は抱いていなかった。海外かぶれの俗物どもが歓楽街で、乱痴気騒ぎしたいだけの名目にすぎないのだと
・本当はちょっと羨ましいかった。あの楽しげな輪の中に溶け込みたかった。しかしそれも叶わない。なぜならこのまえ自分は死んでしまったのだから。今やウチもリアルお化け……いや、ちょっと待った。お化けはハロウィンの主役じゃん!
・にわかにウキウキしながら、祭りの喧騒のなかにとけこんでゆく。額のツノも、紫に光るキモい自分の瞳も、ここではドレスコードだ
「うぇ~い、今夜は楽しんじゃうぞ~、べろべろばぁ~」



●祭囃子の其の裏で
 夜の街に、光が灯る。普段は見ぬ、柑子の明るい色が。
 賑わう喧騒が、陰日向・千明(きさらぎ市の悪霊・f35116)の耳にも届く。
 楽しさ溢れる人々の声は、あまり外に出る事の無かった千明には、眩しすぎた。
「……しょーもな…。…どうせバカ騒ぎしたいんッスよ……」
 独自の風習で騒ぎ立てて。祭としての名目が欲しいが故の、独自の祭だと。
 そう、思いたかった。賑わう人の輪は、千明が持たぬ彩に満ち溢れていたので。
 結局の所、己が内に抱えているハロウィンへの憤りは。
 単純に、羨ましかったのである。
 そんな風にぶすくれて、ふらふらと人気の少ない通りを歩いていたのだけれど、ふと窓ガラスに写った自分の姿を見て、ふと気づく。
 そもそも、ハロウィンと言うのは仮装のお祭りである。
 生前とは違ってしまった外見も、色彩が異端に染まってしまった此の瞳ですらも。此処でならば、仮装で通じてしまう。
 誰かと、ましてや見知らぬ誰かと触れ合う事なんて、夢の又夢であると思っていた千明にとって、其れは寝耳に水のひらめきだった。
「あれ、これなら、うちもお祭りに、参加出来る……?」
 ましてや此処はカクリヨファンタズム。生者も死者も入り混じる妖怪の世界。
 誰も彼もが主役になりたいと願えさえすれば、輝く事が出来る幽世。
 と言っても、他の世界の住人からしてみれば、千明の姿も立派な一つの個性であるのだけれど。
 其れはさておき。
「つまり、今の内は最強に無敵なハロウィンの主役じゃん!」
 テンションの振り切れた者と言うのは総じて強い。
 先ほど悩んでいたのは何だったのかと思わせる程、元気よく千明は街道を駆けて行く。
 逸る気持ちは抑えきれずに、うちから溢れる。
 陰鬱な表情は鳴りを潜め、今は輝く笑顔が溢れんばかり。
 なんてったって、仮装なんかしなくても今の千明は其の姿見自体がドレスコード。
「うぇ~い、今夜は楽しんじゃうぞ~」
 今宵くらいならば、きっと抱く恨みを忘れてもいいだろう。
 何故なら、お祭りだから。楽しまぬお祭りなど、参加する意味がないだろう。
 ―いぇ~い!と何処かの通りから元気な声が響いてくる。
 其れが千明の声なのか、果たして。
 ただ、目一杯祭を楽しんだ、という事実だけは此処に記しておこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
小悪魔仮装

屋台が出てるハロウィンってあんまないから余計にワクワクするな~アレス!
ふらふらと屋台を見てたら
甘いものに…おお!酒もあるじゃん
俺はあの酒の屋台が気になる!
大丈夫大丈夫そんな簡単に酔ったりしねぇって
ああ、けどアレスの選んだヤツならきっと味はいいだろ
アレスの忠告を軽く流しつつも勧められる酒を勧められるままに購入して
これ甘くてうまいな~

調子にのって飲んでたからか
周りの雰囲気にか
すぐに酔って頭がふわふわと
ん~アレス~
甘えるように腕に引っ付いて誘惑する
アレスも飲もうぜ~これすっごいおいしい♡
アレスとの攻防は
口に入れられた菓子で1回中断
つーか…食べさせてもらった菓子とか
頭を撫でる手の方が…酒よりずっとふわふわする
こっちの方がずっといいな
欲しい、もっとくれよアレス

ダメと言われたらしょんぼりと
ぐぅ…じゃあ…がまん…する…から
いや…でもどれを我慢すれば…
ぐぬぬと唸ってたら冗談だと言われてパァっと顔を輝かせる
ふふんしょうがねえ
酒はじょうほしてやろう
だって酒よりずっといい


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
神父の仮装

とても賑やかなハロウィンだね…!
(…あのお菓子、セリオスが好きそう…少し買おうか)
セリオス、気になる屋台はあったかい?…お酒?
こら。依頼があるだろう。油断は禁物だ
(それに君はすぐ酔うし…)
彼の主張にため息一つ
…飲むなら此方はどうかな、と度数が低い物を勧めて
飲み過ぎないよう監視を…

…考えが甘すぎた
君、もう酔ったのか!?
今日は早い気が…いや、僕もまだまだだな…
額に手を添えつつ
甘える彼の頭を半ば無意識に撫でる
僕も飲め?駄目です
君がそうなっているんだ。尚更飲む訳にはいかない
誘われ断りの攻防戦
…セリオス
そんな彼の口に買ったお菓子を押し込む
これで少しは大人しく…
と思っていたらふわふわな表情にふと思いつく
…甘いの、もっと欲しい?
制するように人差し指を彼の唇に当てよう
だーめ。我慢できない子はお預けです

…ふふ、冗談だ
ごめんよ、悪戯のつもりだったんだ
(君が可愛らしくてつい…というのは言わないでおこう)
でも、お酒は本当に我慢だよ
それじゃあ、ほら
口を開けて
今度はちゃんと君に甘いものを



●其れは雪解けのような
 街は夜に沈み、静寂に満ちる頃。
 けれども、今宵は夜通しで行われるお祭りの真っ只中。大人の声は勿論、僅かに子供の賑わう声も響いてくる。
 年に一度の無礼講。街の彼方此方には大中小と、様々な南瓜が彩りを担って。
 賑わいは勿論の事、浮かぶ表情はどれも笑顔ばかり。
「とても賑やかなハロウィンだね…!」
 暖かくも、何処か妖しさすら感じる祭の様子をアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が、くるりと見回す。
 視線は、チョコレイトと南瓜を使ったパウンドケーキの屋台で止まっている。
(……あのお菓子、セリオスが好きそう。……少し買おうか)
 なんて考えている其の横で。
 此方も同様に珍しそうに辺りを見渡すセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の姿。
「屋台が出てるハロウィンってあんまないから余計にワクワクするな~、アレス!」
 ふわりと薫る匂いの元へ、ふらふらとセリオスが引き寄せられていく。ゆらり、と動きに合わせて、今宵の祭の為に用意した仮装―小悪魔衣装の黒翼が揺れる。
「甘いものに…、おお!酒もあるじゃん!」
 これぞ屋台の醍醐味か。食事は勿論、地域特有の屋台何かも出ているから、目が離せない。
 そんなセリオスの様子を、何処か苦笑した様子でアレクシスが眺めている。
 そんな彼の仮装は、紺の礼服に白のカソック。聖職者である。
「セリオス、気になる屋台はあったかい?…ってお酒…?」
 確かに祭の場であれば酒類の取り扱いがあるのも当然である。―当然であるけれど。
「こら、依頼があるだろう」
 現れるのが、もっふもふの猫さんだろうと。常に対処出来るようにしておかないと、と続く言葉は、太陽の笑みにかき消された。
「でも、俺はあの酒の屋台が気になる!」
 からからと笑いながら、けれどアレクシスの心情もくみ取ってか。
「大丈夫大丈夫!そんな簡単に酔ったりしねぇって」
 何処か不安な気持ちを抱えながら、けれど此処まで強く主張されてしまえば。アレクシスが折れるのは時間の問題だったのだろう。
 小さく息を零し、並ぶ酒類へとさっと視線を向ける。流石に、舐める程度のアルコールならば酔う事も無いだろう、と辺りを付ける。
「……飲むなら此方はどうかな」
 そぅっと指さしたのはカボチャと豆乳のリキュールを少量ミルクで割った物。見たところ、アルコールの表記も少なかった。
「やった!じゃあ、それひとつ!」
 うきうきした表情のセリオスと対照的に、アレクシスの額には僅かに冷や汗が滲んでいる。
(飲み過ぎないようしっかり監視を……)
 けれど、人は此れをフラグと呼ぶ―。
「ん。これ甘くてうまいな~。ただの南瓜ミルクみたいだ」
 くい、とグラスを傾けて、中のアルコールをぐびっと飲み込む。ほんのりとした甘さの後に、ぴりっと残るアルコール独特の苦みが何とも堪らない。
 かといって、酒ばかり喰らっている訳にも行かないと、アレクシスは簡単に摘まめるものを幾つか見繕わんと僅かに場を離れる。
 ハイペースで飲んでいる訳でもないし、大丈夫だろう、と思っての行動だった。

「まさか、ここまでとは……。……考えが甘すぎた……」
 ほんの僅か、席を外したアレクシスが戻って来て目にしたのは。
「へへへ~。あ~、アレス~」
 大変ご機嫌な様子で、此方に向けて手を振っているセリオスの姿だった。
 ほんのり頬は朱に染まり、視線はぽやんと、焦点が合わず。
 思わず立ち尽くしたアレクシスの腕に、甘えるように摺り寄って。
「ん~、どこいってたんだよぉ~」
 こてん、と寄りかかる様に首を傾げる。
「キミ、もう酔ったのか!!」
 信じられない、と言った様子で店主を見るけれど、彼の店主も困ったように首を振るばかり。
「今日は、早い気が……」
 賑わい溢れる祭の雰囲気に、呑まれたのだろうか。
「アレスも飲もうぜ~。これー、すっごいおいしい❤」
 ふにゃんと笑って、先程の店へ引っ張ろうとするセリオスの手には、ほとんど力は入っておらず。
 零れた溜息は、本日一番深く大きい。
 かさり、と手にした袋が音を立てるが気にしない。思わず頭を抱えたくなる。
 ふわふわぽやぽやのセリオスの可愛らしさに、無意識に手が頭を撫でるのには気付かずに―。
「僕も飲めって?…駄、目、で、す!」
 先にも言った通り、自分たちは此処に依頼で来ているのだ。其処まで酒に弱くないとアレクシスも自負しているが、もしもの事があってしまっては取り返しが付かない。
「え~。アレスのけちぃ~」
「ケチとか、そういう事じゃなくてね」
「ちょっとだけ、ちょっとでいいんだよぉ~」
「ほんのちょっとだって駄目です!」
 そんなやり取りがしばし続いて。ぷぅ、と拗ねたようにセリオスが頬を膨らませる。
「なんだよ~。……いっしょに、たのしみたかっただけなのにさぁ~」
 先程よりもアルコールが回ったのか。うるり、と潤んだ瞳を見て、アレクシスがつい折れそうになる。
「~~~~~~~~~~っ!!」
 けれど、鋼の自制をもってアレクシスは耐え抜いた。だが、此れ以上セリオスの口から甘えるような言葉が出てきてしまえば、折れるのは目に見えている。
 よって、アレクシスが取った苦肉の策が―。
「……ん。ん、んぅ?」
 ―もぐ。もぐ。ごくん。
「あ、んまーい♪」
 咄嗟に、セリオスの口に押し込んだのは、南瓜のクランチチョコ。
(……セリオスが好きそうなお菓子を買っておいて、正解―、だ、った……?)
「なーなー、これ、もっとくれよアレス」
 一方、アルコールにて思考がふわふわしているセリオスは、突如口に入れられた菓子の甘さより。
(ん、んー?……たべさせて、もらった、菓子、うまい。…それに)
 困ったように笑いながらも、優しく頭を撫でてくれる、アレクシスの手の方が、ふあふあで、あったかくて。
(なんか、むずむずする)
 ぐりぐりと、アレクシスの手にセリオスは頭を押し付ける。
 甘えるように、強請る様に。
 ―ごくり、と小さく喉が鳴ったのは、果たしてどちらか。
「……甘いの、もっと欲しい?」
 気付けば、アレクシスの口からそんな言葉が零れていた。
「……ほし、ぃ」
 けれど、セリオスの唇に押し付けられたのはチョコレイトではなく、アレクシスの人差し指。
「だーめ。―我慢できない子はお預けです」
 ほんの少しの意趣返しのつもりだったのだけれど。冷静な判断が出来ぬセリオスにとって、アレクシスに断られた、という事実の方が何よりも答えたらしい。
 しょんぼりと眉を下げて、何処か泣きそうな表情を浮かべる。
「ぐぅ…。…じゃあ、…がまん…する…。…がまん…て、なんだ、っけ…」
 すると、頭上から、くすくすと小さな笑い声が響いてくる。
「…ふふ、冗談だ。…ごめんよ、悪戯のつもりだったんだ」
 熱に浮かされる君が、可愛らしくて。つい、ね―。
 浮かんだ本音は、今は心の奥底に仕舞い込んで。
「じょう、だん。…なんだ、じょうだんか」
 先ほどのしょんぼりとした様子は何処へやら。輝かんばかりの笑顔を浮かべて、セリオスはぎゅ、とアレクシスの腕に強くしがみ付く。
「ふふん、しょうがねえ。……酒は、じょうほ、してやるから、はやく、あまいの」
 あ、と餌を待つヒナの様に、ぱかり、とセリオスが口を開く。其の様子を、蕩ける様な笑みを浮かべながら、アレクシスが見つめる。
「それじゃあ、ほら。はい、今度はちゃんと君に甘いものを」
 そうして一つ、チョコを押し込んだ。

 ふわふわ、空を泳ぐような心地良さも悪く無い。けれど、本当に求めてやまないのは、たった一つの君の温もり。
 そう、それだけで、いい―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ねこまたすねこすり』

POW   :    すねこすりあたっく
【もふもふの毛並みをすり寄せる】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ねこまたすねこすり仲間】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    いつまでもすねこすり
攻撃が命中した対象に【気持ちいいふかふかな毛皮でこすられる感触】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する心地よい感触】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    きもちいいすねこすり
【すねこすり】を披露した指定の全対象に【もっとふかふかやすりすりを味わいたい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●にゃんにゃん旋風
 祭の賑わいも最高潮に達した頃。
 ―ごくん。
 何かを飲み込む音が鮮明に響き渡る。
 実は、今までも視界の端に骸魂はいたのだけれど。
 ついぞ、骸魂の気分も高揚ゲージを振り切ってしまったらしい。
『にゃー』
『ふみゃーん』
 たくさんのねこまたすねこすりが。
 たくさんのふわっもふをお届けすると共に。
 たくさんのお祭りを楽しんでいた妖怪を飲み込み始めた。
『にゃーにゃん♪』
 飲み込まれた妖怪の安否は勿論心配であるけれど。
 ねこまたすねこすりも、何処か遊び足りない様子でそわそわしている。
『にゃっ!』
 そんな気分を持て余しているねこまたすねこすりの瞳に映るのは、祭を楽しむ猟兵の姿。
 此れ幸い、とゆらゆらと尻尾を揺らして、ねこまたすねこすりは猟兵へと飛び掛かる。

 遊ぶの倒すも貴方次第。
 ハロウィンの続きを、始めよう―。
夜鳥・藍
ねこまたすねこすり……ええと長いので猫さんで。
猫さん猫さん遊びましょう。
あとあんまり飲み込んでしまっては、飲み込む相手がいつかいなくなってしまいますから、少しばかり我慢していただけますか?あと少し抱っこさせてください。
抱っこさせてもらえるなら、少しだけ柔らかな毛並みを堪能したら猫じゃらしを取り出して。
猫と言えばの猫じゃらしです。白銀も尻尾とかでお手伝いお願いしますね。
疲れた時の交代というより、もふもふともふもふが一緒なのはとてもとても眼福なので。
さあ目一杯楽しみましょう。
ところで猫さんの尻尾にじゃれる猫さん、の尻尾にじゃれる猫さん。
みたいな猫さんの列車のような状況って作れるんでしょうか?



●まんまる
 突如現れた、丸い生き物。ふわふわの毛並みを持ち、揺れる尻尾は二股に分かれてどうやらご機嫌。
『にゃぁー』
 もぐしゃあ、と可愛らしい見た目からは想像も出来ない位、豪快に妖怪を丸呑みした骸魂・ねこまたすねこすりが今、目の前に在った。
「あれが、ねこまたすねこすり……」
 祭の場を乱すすねこすりを前の前に、藍の視線は―きらきらと輝いていた。
 幾ら骸魂だと分かっていても、見た目はまんまるもっちりの猫さん。
 周りの妖怪も、ハロウィンのイベントの一環だと思っているのか、たいして騒ぎにもならず。
 また一人、妖怪がすねこすりに飲み込まれる。
 ほんの僅か、すねこすりの可愛らしさに目を奪われていた藍だが、此のままでは祭に参加している妖怪全てが飲み込まれてしまう事態に陥りかねないと、意識を切り替える。
 よくよく観察すれば、すねこすりの頬は緩んでいる。
(……猫さんにとっては、これも遊びと同様なのでしょうか)
 けれど、此のままでは呑まれる妖怪が増えるばかり。故に、まずはすねこすりの気を惹かねばならない。
「猫さん猫さん、遊びましょう」
 そわぁ、とすねこすりの視線が一斉に藍へと向けられる。
 円らな瞳の奥は、期待と僅かな警戒色が滲んでいた。
「あんまりたくさん飲み込んでしまっては、飲み込む相手がいつかいなくなってしまいますよ」
 そう告げた藍の言葉に、衝撃を受けたのかぴしりと固まるすねこすり。
『にゃ、にゃうう?』
 くるりとすねこすりが周囲を見回しても、たくさんの妖怪が居るように見える。
「飲み込む相手も無限じゃありません。それに猫さんも遊び足りないんですよね」
 そうっとしゃがみ込んで、藍は腕を広げる。同時に、ちりん、と小さな鈴の音が響き渡る。
『みゃー、にゃーん!』
 遊びの気配を察知したのか、本能か。其の答えはどちらか分からないけれど、ふかっとした感触が藍の腕一杯に伝わる。
 予想していた通り、ふわふわの毛並みは暖かく、少しばかり月の香りが漂う。
(ふわふわで、柔らかい……)
 きゅ、とすねこすりを抱きしめれば、遊んでもらっていると勘違いしたのか、毛玉が摺り寄ってくる。
 此のまま毛並みを堪能していたいところだけれど、飲み込まれた妖怪の安否も気になる。
 少し名残惜し気に、藍はすねこすりを開放する。そして、取り出したるは薄桃の猫じゃらし。
 其の傍らに、呼び出したるは、銀の毛並みを抱く巨狼・白銀。すねこすりを一瞥すると、ふわりと翼を畳んで腰を下ろした。
「猫と言えば、猫じゃらしです」
 そうっとすねこすりの目の前で猫じゃらしを振れば、考えるよりも先に身体が動いたのか。
 ぽてん、と軽い音を立てて地面に転がるすねこすりの姿。
 ―転がっては追いかけて。追いかけては転がって。
 ぺたん、と其の場に伏せたままに白銀もゆらゆらと立派な尻尾を揺らしてはすねこすりを誘う。
 無心に猫じゃらしを振りながら、戯れるすねこすりをじぃっと藍が見つめる。
『みゃー!』
 猫じゃらしを追いかけるすねこすりも大変にころもふで可愛らしいのだけれど、其れよりも何よりも。
 白銀のふさふさの尻尾を一生懸命に追いかけるすねこすりが其れはもう最高だった。
「もふもふが集まれば、とても眼福ですね……」
 飲み込まれてしまった妖怪の救助を忘れている訳ではない。無い筈である。
 てち、てち、びたん。
 一生懸命に猫じゃらしを追いかけるすねこすりの、とても真剣な表情。楽し気に揺れる尻尾。―が、気になる別のすねこすり。
「猫さんの尻尾にじゃれる猫さん、更に尻尾にじゃれる、猫さん……!」
 相も変わらず、無心で猫じゃらしを振りながら、唐突に藍が閃いた。
 此の猫じゃらしを、目の前のすねこすりにだけ見えるように触れば、ぴこぴこ揺れている尻尾に、別のすねこすりが飛びつくのではないか、と。
 そんな主の好奇心を察知したのか。ふわり、と白銀が己の尻尾をすねこすりから見えぬように丸め、隠す。
 ごくり、と小さく藍の喉が鳴る。
 猫さん列車は、果たして実現出来たのか。

 其の答えは、空に浮かぶ月と、藍だけが知っている―。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
飛び掛かって来たなら――抱き止める。
(頭撫でつつ)…食うか?腹ごなしにもう一巡巡って手に入れておいたんだ。丁度食い頃だと思うぜ?(黄金ミルクに南瓜グラタンを皿に乗せて)

すねこすりを肩に乗せて移動。祭りの醍醐味は食うだけじゃない。さっき射的屋を見付けた。
分かるか?射的。――ま、良いさ。店主の旦那、二人分だ。銃を二丁。
さて、すねこすり。欲しい景品はあるかい?…OK。どうせなら全部頂こう。
両手に銃を握って【クイックドロウ】。跳弾させて一発で二つ以上の景品を狙いつつ、すねこすりが『欲しいヤツ』以外を全て落として、両手の銃は弾切れ。
――なんて。油断させておいて帽子から蝙蝠がチョコンと姿を現して羽で器用に握って玩具の銃をBANG!
最後の一個の景品を落とすって寸法さ。店主の旦那には怒られそうだが…あっさり全部落としたんじゃツマラナイだろ?便利屋流のお茶目なジョークってヤツだ。
お菓子も面もやるよ。満足して居なくなったら、景品は全部返すぜ。
店主の旦那。次はもう少し銃の照準を悪くした方が良いぜ?(ウインク)



●ふかふか
 夜が深まれど、賑わいは変わらず。むしろ、夜はまだまだ此れからだと言わんばかり衣賑わいは増す。
 多くの人が行交う街路で、妖怪が一人消えたとしても。果たして、其の事に気が付く者がどれ程いるだろう。
『うみゃー!』
 お祭りの気分に浮かされたのか。何処か酔ったような、陽気な鳴き声が響く。
 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、ねこまたすねこすりは街路を往く。
 此処には、獲物がたくさんいる。彼方も此方も、何処を見ても楽しそう。だから、前方不注意でも仕方がない。
「うぉ、っと」
 ぽすん、と存外可愛らしい音を立てぶつかってきた生き物を、カイムが慌てて片手で抱き留める。
 ふかっとした感触が手に伝わり、ちらりと視線を向ければ、ふわふわの毛玉―否、ねこまたすねこすりが納まっていた。
『にゃーう』
 小首を傾げたすねこすりの頭をそっと撫でれば、ごろごろと小さく喉が鳴る音が響く。
 妖怪を飲み込んでしまう骸魂の割に警戒心が薄い其の様子を見て、思わずくつくつとカイムが笑う。
 小さく肩を震わせれば、手にした袋もがさりと揺れる。
 中身が気になるのか、ふんふんと鼻先を近づけるすねこすりへ見えるように、カイムが袋を持ち上げる。
「……食うか?」
 一通りの屋台は巡ったけれど。其れでも、新たな発見があるのが屋台巡り。
 同じ屋台でも、ほんの少し味付けが違ったりと、其れを発見するのもまた楽しい。
 広い街路をもう一巡すれば、膨れた腹も軽くこなれて。
「丁度食い頃だと思うぜ?」
 にんまりと笑いながら、すねこすりを抱えたまま、なるべく妖怪の少ない方へとカイムは歩を進める。
 飲食スペースに買った物を置き、そうっとすねこすりを下ろす。
 そのままがさがさ袋を漁れば、新たに買った黄金ミルクと南瓜グラタン。買ってから少し時間が経っているのか、湯気は立っていない。
 紙皿に、それぞれを取り分けてやれば、ぺろり、と黄金ミルクを一舐め。
 すねこすりの小さな耳がぴんと立ち、ご機嫌な鳴き声と共に、ミルクを飲み始める。
「おー。程よく冷めてら。猫舌かは知らないが、猫は猫だしな」
『にゃぁー』
 次いで、南瓜グラタンもぱくりと一口。此方もお気に召したのか、ゆらり尻尾がご機嫌に揺れる。
「妖怪を飲み込むより、こっちの方がいいだろ?」
 わしわしと優しく頭を撫でながら、カイムも一口黄金ミルクを口に含んだ。
 そうしてすねこすりのお腹も満足した後。カイムの手がすねこすりを掬い上げる。
『みゃ!』
 突然の事に驚くすねこすりを、自身の肩にそっと乗せる。ふかふかの毛並みの為か、ほわりと首元が暖かくなる。
「さて。じゃあ次に行くか」
 お腹が満たされただけでは、骸魂も満足はしないだろう。食は勿論であるが、祭の楽しみは其れだけではない。
「ここだ」
 こてん、と小さく首を傾げるすねこすり。幾つもの景品が、等間隔に並んで置いてあり、近くの台にはゴム弾と銃が置いてある。
「分かるか?射的」
 優しく問いかけてみるも、すねこすりはぱちくりと瞳を瞬かせるばかり。
「ま、良いさ。店主の旦那、二人分だ。銃を二丁」
『あいよー。随分とまあ可愛いお連れさんがいるようで』
 店主からゴム弾と銃を受け取り、装填する。店先に並んでいる景品へとちらり目線を向けるけれど、小さな箱菓子や玩具が並ぶのは此の世界でも共通のよう。
「さて、すねこすり。欲しい景品はあるかい?」
 目線は景品から逸らさずに、けれど何か含んだ笑みを浮かべながら、カイムは首元のすねこすりへと問いかける。
 うろ、と小さな円らな瞳が景品の間を彷徨って。何度か視線が往復した後、控えめに持ち上げた尻尾が差したのは、子供用の小さな鞠。幾つかの糸で彩られた模様が何とも美しい。
「……OK。どうせなら全部頂こう」
 何とも店主泣かせな言葉であるが、幸いながら祭囃子や辺りの喧騒に搔き消されて聞こえなかった模様。
 す、と真っ直ぐに腕を伸ばし、銃を構える。もう一方の手にも銃を構えると、店主が「お?」と言う表情を浮かべたのが視界の端に見えた。
 ―パパパパン。
 軽快な発砲音が響くと、ぱたり、と景品が倒れた。しかし、カイムの勢いは止まらない。
 壁の仕切りを利用し、弾を跳弾させては次々に景品を落としていく。流石に店主も苦笑いを浮かべている。
 其れも其の筈。普段から二丁拳銃を武器として扱うカイムにとって、射的の的当てなど造作も無い事。動くオブリビオンを穿つよりも簡単なのだから。
『……にゃにゃ!』
 けれど、落ちずに残っている景品が一つ。すねこすりが欲しい、と示した鞠である。
 話が違うじゃにゃいかと言わんばかりに、てちてちとカイムの頬をすねこすりの尻尾が叩く。ふわっとした感触が何ともこそばゆい。
「――なんて、な」
 ふわ、とカイムの帽子から蝙蝠が緩やかに台の上へと舞い降りる。黒い小さな翼で器用に玩具の銃を持ち、引き金を引く。
 軽快な音を立てて、ころり、と最後の景品である鞠が台から転がり落ちた。
 流石のすねこすりも此れには吃驚したのか、ぽかん、としたまま固まっている。
「ははは、最後の一個の景品を落とすって寸法さ」
『いやあ、兄ちゃんすげえなあ。今回は目を瞑るが、次は無いからなー。商売あがったりだ』
 がははは、と豪快に笑う店主が、カイムが落とした景品を袋に詰めている。
 ぱちくりと瞬き繰り返すすねこすりの頭を、そっと撫でれば我に返ったのか、みゃうみゃうと鳴き声が響く。
「あっさり全部落としたんじゃツマラナイだろ?」
 ―便利屋流のお茶目なジョークってヤツだ、なんて言葉にきらきらと瞳を輝かせて。
 それから、一人と一匹は、再びお祭りの各所を巡る。
 知らぬ遊びに興じてみたり、気になる食べ物を摘まんでみたり、彼方此方に飾られている南瓜飾りをじっくり観察してみたり。
 気付けば、ねこまたすねこすりは本来の目的である、お祭り騒ぎに興じている妖怪を飲み込む事を忘れていた。
 笑って、驚いて、また笑って。そうして、すねこすりがうとうとし始めた頃。
 先の射的の景品や新たに買った品物を、カイムはそっとすねこすりの傍へ並べてやる。
『………にゃー』
 満ち足りた表情を浮かべながら、一鳴き。ふわり、とすねこすりの姿が風に吹かれて掻き消える。
「……いったか」
 手元に残った景品を手に、カイムは再び射的の店を訪れる。
『おー、さっきの兄ちゃん。なんだ、どうした?』
「流石に全部ってのは悪いからな。景品は全部返すぜ」
 ちらり、とカイムの肩へと視線を向け、店主は何かを悟ったよう。何も言わずに差し出した景品を受け取ってくれた。
「なあ、店主の旦那」
 ぱちり、とウインク一つお茶目に零して。
「次はもう少し銃の照準を悪くした方が良いぜ?」
『うるせいやい。うちはこれで良いんだよ!』
 からからと、二つの笑い声が空に響き渡った。

 今宵の祭は、まだまだ終わりそうにない―。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
煙ちゃんと(f10765)
あ、骸魂の子達が来たみたいだね。
囚われた妖怪さんも助けなきゃだけど…ずいぶんと遊んで欲しそうだね?
せっかくだからいっぱいもふもふしてあげようか。
(もふもふ)
ふふ、煙ちゃんに遊んでもらってる子も嬉しそうだ…
(羨ましいなぁなんて思うとふと悪戯心が湧いて)
それじゃあそろそろお別れだUC【墨染桜・花吹雪】
ん、囚われてた妖怪さん達も無事みたいだね…

ところで煙ちゃん
「とりっくおあとりーと」だよ。
ふふ、残念。お家に帰ってからじゃ時間切れだ。
(くすくす笑いながら軽く頬にキスして)
と言うわけで悪戯だよ。

これも悪戯だよ。なんなら煙ちゃんから悪戯してくれてもいいよ。なんて


吉瀬・煙之助
理彦くん(f01492)と
わ…っ、なんかたくさん来たね…?
たくさん一緒に遊んであげたら満足するかな
妖怪さんたちも助けないとだしね

擦り寄られるとやっぱりちょっとくすぐったいね
ふふっ、こっちからも触っちゃおう(もふもふ)
ん…もうお別れ…?
名残惜しいけど妖怪さんたちの為だからね
UC使用して理彦くんと一緒に倒す

うん、妖怪さんたちが無事で良かったね
理彦くん…?(首かしげ)
え、ええと…さっき食べたばっかりだし
お菓子は家に帰ってからじゃダメ…?
(頬にキスされて驚きながら真っ赤になる)
……こ、これ…悪戯なの…?
うぅ…もう、後で覚えててね



●どきどき
 妖怪の往来が多い街路にて、小さな塊がぴょんぴょん飛び跳ねている様子は、何とも目立った。
 よくよく目を凝らしてみれば、丸くてふわふわした生き物のような物。
「あ、骸魂の子達が来たみたいだね」
 繋いだ手はそのままに、理彦が何て事の無いように告げた。
 ひとつ、ふたつと、様々な体躯のねこまたすねこすりが元気よく飛び跳ねている。小さな口を、あんぐり開いて。
 ごくり、と往来の妖怪を丸呑みしては、飛び跳ねる。
「わ…っ、なんかたくさん来たね……?」
 すねこすりが跳ね回る姿は何とも愛らしいけれど、裏で起こっている事は物騒極まりない。彼らなりに、此の事象は遊んでいるつもり、なのかもしれない。
「たくさん一緒に遊んであげたら満足するかな?」
「そうだね、ずいぶんと遊んで欲しそうだ」
 妖怪を飲み込む方法は、彼らが知る唯一の遊びの手段なのかもしれない。そう考えると、骸魂とは少し悲しい存在なのかもしれない。
 しかし、このまま、と言うわけにもいかない。飲み込まれてしまった妖怪は、いつまでも戻れないし、被害は増える一方。
 とは言え、此の事象がすねこすりと遊ぶだけで解決するのであれば。めいっぱい遊ぶ他あるまい。其れが、妖怪を助ける路に繋がるのであれば、尚更。
「えい」
 ほんの少し、名残惜しそうに。繋いでいた手をそっと離して。煙之助は跳ね回るすねこすりをそっと腕の中へと捕まえる。
 ふんわりとした毛並みは、暖かい。けれど、もぞもぞ動かれると、どうしてもこそばゆい。
「ふ、ふふっ。くすぐったい」
 こしょこしょと、武骨な手がすねこすりの喉元を擽る。ごろごろと、喉を鳴らす音が僅かに響いて、骸魂でも基本は猫そのままのよう。
「こっちからも触っちゃおう」
 頭、背中と存分にふっかふかの毛並みを堪能している煙之助の表情は何処か優しい。
「せっかくだから、いっぱいもふもふしてあげようか」
 同じようにすねこすりを捕まえた理彦も、わしゃわしゃとお腹を撫でれば、ふみゃぁー、と気の抜けたような声がすねこすりkら零れた。
 けれども、理彦の視線は、煙之助に遊んでもらっているすねこすりにじっと注がれている。
「……いいなあ」
 ぽつり、と零れた言葉は完全に無意識か。自身の呟きを拾った理彦がはっとしたような表情を浮かべる。
(まさか、骸魂を羨ましがる日が来るなんてなぁ)
「……?理彦くん?何かあった?」
 こっちの子の方が良かった?と言いながら、もふもふしていたすねこすりをそっと差し出す煙之助。
「ふ、ふふふ…!」
「あ、あれ?違った…?だって、理彦くん、さっきからじっとこっちを見てくるから」
 予期せぬ問答に、思わず理彦の口から笑いが零れる。
 気付かれていた事は勿論だけれど、些細な自身の変化に気付いてくれる煙之助が愛おしくて。
 けれど、煙之助に構われているすねこすりが羨ましいのは事実なので。
 ―ひょい。
「あ」
「そうだね、こっちの子とも遊ぼうかな」
 差し出されていたすねこすりが、理彦の腕に攫われていく。
 空いた煙之助の腕から消えた温度が、少し寂しい―、と思っていたら別のすねこすりが我も遊べと言わんばかりに飛び込んできて。
 何とも和やかな時間が過ぎていく。
 でも、此の時間も、いつかは終わりを迎える。 存分に満足したのか、すねこすりたちがうとうとし始めたのを見て。
「それじゃあ、そろそろお別れだ」
「ん…。もうお別れ…?」
 触れ合いを始めてから、然程時間は経っていないけれど、すねこすりたちも十分に満足した様子。
 ふわり、と桜の花弁が周囲を舞って、すねこすりたちを包み込む。猫に小判、の諺に肖ってか。餞に煙之助が小判を散らせば。
 其処には、始めから何も居なかったかのように、何も残らなかった―。

「妖怪さんたちが無事で良かったね」
 骸魂に飲み込まれていた妖怪たちは然したる怪我も無く、皆無事だった。
「そうだね。―ところで煙ちゃん」
「うん、理彦くん…?」
 とりっくおあとりーと、だよ。
 にや、と何処か悪い笑みを浮かべて、理彦が煙之助へ手を差し出す。
「え、今……?」
 其の言葉には答えず、理彦はただ静かに笑みを浮かべるのみ。
「え、ええと…、さっき食べたばっかりだし。……お菓子は家に帰ってからじゃ―」
 ダメかな、と続く筈だった言葉は、音にはならず。空気と共に溶けて消えた。
 ちゅ、と頬に伝わる熱と、柔らかさが煙之助の思考を奪う。
「ふふ、残念。お家に帰ってからじゃ時間切れだ」
「あ、え、あ……」
 唇が触れた箇所を掌で抑えながら、煙之助はしどろもどろになりながら、言葉を零す。
「と言うわけで、悪戯だよ」
 にんまりと笑いながら、一度離れた煙之助の手を、理彦が再び攫う。
「……こ、これ、悪戯、なの…?」
 全身がかっと熱を帯びる。頬は真っ赤に染まり、視線はうろうろと彼方此方を彷徨う。
「うぅ…。…もう、後で覚えててね」
 ぼそり、と告げた言葉は、思いの外はっきり聞こえていたようで。
「なんなら、煙ちゃんから悪戯してくれてもいいよ」
 ぎゅ、と攫われた手は強く握り返されて。二人仲良く帰路へ着く。

 自宅に帰ってから、悪戯が施行されたのかどうか。其の答えは―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
【翼狼】
本当に見渡す限りもっふもふだねぇ
ふは、そうだね澪。でもはしゃぎすぎるとお面とか落ちちゃうよ?(ふんわり微笑い返し)

しっかし妖怪をぺろっとするの、何かに似て…クリオネ…いや、何でも
澪が食べ物で攻めるなら、俺は遊び特化だ
自分の尾の抜け毛を「全力魔法」や「メカニック」で魔改造して、と
じゃーん、自動逃走機能付きもふボールだ!万が一食べても害はないエコ仕様です
澪の子守唄を聞いているすねこすりは外して、元気が有り余っていそうな個体を狙おうか
…何度も聞いてはいるが、君の歌は本当に凄いな。優しい旋律だね

ほーら取ってこーい(えいやと振りかぶり)

記念の一枚も情報体を使って残そうか
ほらほら澪も寄って寄って!


栗花落・澪
【翼狼】
もふもふぅ…!
ヴォルフガングさん、もふもふだよ!もふもふ!可愛い!!
はっ、お面…!(押さえ

もふもふ大好きなつゆりんは大興奮
ここはもう遊ぶしかないでしょう全力で

妖怪も食べれるならこれもいけるかな
食べただけで幸せ気分になれる手作り★飴ちゃんを差し出してみたり
うっかり飲み込まれないように【催眠術】を乗せた子守唄の【歌唱】で
寝かせずとも落ち着かせてみたり
えへへ、歌は大好きですから

あとはなでなでしたりぎゅってしてみたり
すねこすりちゃん達も気持ちよくなれるように気をつけながら
あわよくば全身でもふもふを堪能します
あ、僕もそれ投げてみたーい

はーい、にゃんにゃーん?
(すねこすりにもポーズさせてみたり)



●もふぱら
 ふわっふわの塊が、街路の彼方此方にちらほらと見える。其れだけならば、然程害は無かったのだろうけれど。
 あんぐりと小さな口を開いて、ごくりと妖怪を丸呑みしている姿を見てしまったのならば。流石に対処せねばなるまい。
 とは言え、ふんふん楽しそうに妖怪を丸呑みしている其の姿から悪意は感じ取れず。ゆらゆら二股に分かれた尻尾を見る限り、ねこまたすねこすり也の遊びなのかもしれない。
 気付けば、目に見える程増えた毛玉の群れは。色彩豊かなふわっふわのもふっもふだった。
「本当に見渡す限りもっふもふだねぇ」
 豊かな鉄紺色の尾をゆったりと揺らしながら、ヴォルフガングが呟く。
「もふもふぅ……!」
 増えていくふわもふの塊を見ながら、澪が瞳をきらきらと輝かせる。
「ヴォルフガングさん、もふもふだよ!もふもふ!可愛い!!」
 わちゃわちゃしているもふもふの集団は、大変に癒しだった。心なしか、澪の白い翼もそわそわと落ち着きなさげに揺れている。
 全面的に好奇心を隠し切れない澪の様子を見て、ヴォルフガングが思わず小さく噴き出す。
「ふは、そうだね澪」
 そぅっと手を伸ばし、ずり落ちかけていた澪のお面を元の位置へと直す。
「でもはしゃぎすぎるとお面とか落ちちゃうよ?」
「はっ、お面……!」
 直して貰ったお面を改めて抑えながら、ちらりとヴォルフガングへ視線を向ければ、浮かんでいるのは優しい笑み。
(本当にお兄ちゃんが居たら、こんな感じなのかな)
 そんな心境を察してか、ヴォルフガングの大きな手が澪の頭を優しく撫でて、離れていった。
 少し、名残惜しさを感じながら、けれどもやはり澪の心はもふもふに傾倒して。
 ねこまたすねこすりと遊んで、満足すれば事態は収束する?ならば、やる事なんて一つに決まっている。
「ここはもう、遊ぶしかないでしょう!全力で!!」
 ねこまたすねこすりが満足したのならば、妖怪も解放される。澪はもふもふを心往くまで堪能する事が出来る。
 誰も傷付かないのならば、其れに越したことはない。骸魂だって、救われるのであれば、尚更。
「しっかし妖怪をぺろっとするの、何かに似て……」
 あんぐり一口で丸呑みする、可憐な容姿にそぐわぬ豪胆さ。そう、其れはまるで―。
「……クリオネ……」
 流氷の天使と呼ばれる、可憐な生き物。獲物を捕食する姿は、悪魔の如く。いや、きっと気のせいである。
 兎に角、先ずはすねこすりに此方を認識して貰わねばならない。
「妖怪も食べれるならこれもいけるかな」
 澪が取り出したのは色彩豊かなキャンディの数々。ころり、と掌で転がるキャンティは澪の手作りである。
 其の一つを、ヴォルフガングが摘まんで口へと放り込む。カラコロと転がせば、優しい甘さが口内へと広がる。
「うん、美味しい。んー、澪が食べ物で攻めるなら、俺は遊び特化だ」
 豊かな鉄紺の尾をそっと手で梳けば、掌に同色の毛束が残る。自身の体毛故、魔力を通す触媒として此れ以上の物は無い。
 モーターとタイヤを内蔵させ、周囲をぐるりと毛束で覆い、魔力を通せば玩具の出来上がりである。
「じゃーん、自動逃走機能付きもふボールだ!」
 ころころしたフォルムは何処か鼠を思わせる。ちなみに、万が一にもすねこすりが食べてしまっても害はない安全かつエコ仕様である。
「わー、ヴォルフガングさんすごい!」
 気付けば、ふわふわのすねこすりに囲まれていた澪が、ヴォルフガングの手にある玩具を見て驚きの声を上げる。
 色彩鮮やかなキャンディはすねこすりの興味を引いたようで、澪の周囲にはすねこすりが二股の尻尾を揺らしながらふんふんと鼻を鳴らしている。
 一つ、キャンディを口に含んだすねこすりの頬がゆるっと緩む。
『ふみゃーん』
「わ、わわ、くすぐったい」
 掌に乗せたキャンディが次々に姿を消していく。キャンディごと丸呑みしてしまおうとあぐり、と口を大きく開こうとしたすねこすりを見て、澪はそっと後ろに一歩後退する。
 戯れは楽しく、また可愛らしい容姿ではあるけれど、すねこすりも立派な骸魂である事は決して忘れない。
「……――――♪」
 小さな旋律が、場を包む。優しい音色の旋律が、すねこすりの耳を攫う。
 すねこすりの為の、子守歌。楽しさに興奮しすぎてしまったすねこすりを落ち着ける為の、癒しの唄。
「…何度も聞いてはいるが、君の歌は本当に凄いな。優しい旋律だね」
「えへへ、歌は大好きですから」
 うとうとしているすねこすりの背をそっと撫でながら、けれど紡ぐ旋律は停めずに。
 歌いながら、ぎゅ、と澪はすねこすりを抱きしめる。ふんわりとした感触が、澪の頬を包む。
 息継ぎのついでに、深く深くすねこすりのお腹に顔を埋めて吸えば、太陽とはまた違う香りに満たされる。
 お祭りの夜の雰囲気がそうしたのか、しっとりとした月のような、静かな香りが胸いっぱいに広がる。
「ああー、もっふもふだぁ……」
 ゆらり、ゆらりと機嫌良さげにすねこすりの尻尾が揺れる。
 ―けれど、優しい旋律に心癒されても、落ち着かないすねこすりは存在する。
 お祭りの楽しさに気分は最高潮、テンションアゲアゲの子たちには―。
「ほーら、取ってこーい!」
 掌で転がしていたもふボールを、ヴォルフガングが実に見事なフォームで人の居ない方へと振り被り、放った。
「わ、すごい遠くまで飛んで行ったね…!」
 動く物に興味を惹かれたか、其れとも残されている狩猟本能か。
 もふボールを追いかけるすねこすりが、あっと言う間に遠くへと駆けて行って。
「そーら、もうひとつ、そいやー!」
 きらり、とすねこすりの瞳に炎が灯る。我先に駆け出していく姿は、骸魂には全く見えない。
「僕もそれ投げてみたーい」
「何処へ飛んで行っても魔力さえ感知すれば勝手に戻ってくるから、思い切り投げるといい」
 もふもふしていたすねこすりをそっと地面へ下ろして。きらきらとした瞳で待ち受けるすねこすりの群れに向かって、澪がボールを放る。
「そーれ!」
 ヴォルフガング程の飛距離は出なかったものの、一目散にボールへ駆けて行く姿は何とも溌溂として、愛らしい。
 ―たくさん遊んで、たくさんもふもふして。
 けれど、此の時間にも終わりは訪れる。
「あ」
 満足し切ったのか、一体のすねこすりの姿が、すっと溶けるように消えていく。
「楽しんでくれたようで、良かった」
 ほんの少し、胸に寂しさが沸き上がる。
「今日という出会いを。記念の一枚を情報体を使って残そうか」
 高度情報体・トートの叡帯を手に、ヴォルフガングが澪へ提案する。
 今日の記憶が薄れても。いつでも思い返せるように。
「ほらほら澪ももっと寄って寄って!」
 ぎゅむ、と画角いっぱいにすねこすりが集う。
「よし、行くよ」
「はーい、にゃんにゃーん?」

 人の記憶は移ろう物。けれど、きっかけさえあれば、何時でも蘇る無限の記録媒体。
 今日の出会いと別れも、ほら。すぐに―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月守・ユエ
🌕望月

わ、わ…!
なんて可愛いにゃんこさん達…!
でも、妖怪さん達飲み込んじゃってる…?!
ダメだよ
みんなを食べちゃ!

わたわたしながら
ねこまたすねこすりに声をかけるが
彼らのすねこすりを受けると
あまりの愛らしさに心を打たれてしまったのは言うまでも

わーっ、可愛い…!
ぎゅーっと思わず猫達を抱きしめる
黎さん、玄月くんっ
この子達もふもふだよ~!
すっかり猫達に魅了された巫女

じゃあ、僕は歌を唄って猫達とはしゃごう
ほら
遊ぼう、唄おう
愛らしい声で君たちの楽しい気持ち教えて

黎さんが身動き取れなくなったら駆けつける
共に遊ぶよ
白き花も絡めて
主と友と猫と

食べられた妖怪たちが戻ってくれば
最後はハッピーエンドなハロウィンだよね


月詠・黎
🌕望月

おやおや、何時かの光景を思い出すのう
猫多き我の神域で話し掛けておったユエを思い出して
あの時は猫まみれになっていたが
ふむ、今回もめろめろじゃの

ユエや、もふもふが気に入ったのなら存分に遊んでやると好い
玄月も何時も他の猫達に見せる威厳は要らぬぞ
存分に戯れる事を許そう
我と友の巫女、そしてお主の秘密
何よりお主は今蝙蝠なのじゃからな

我も白の花弁で遊んでやるとしようかの
動物には好かれる性質ではあるが
骸魂は如何なのじゃろう?
まあ、来るものは拒まぬ

――おいで、
神の招きをひと声にて
身動きが取れなくなったら蝙蝠達を呼ぼうかの
…魅了されていたら、其れも一興よ

遊べや遊べ
心満ち足りれば妖怪達も開放されるじゃろうて



●にゃんめろ
 黒、白、三毛、灰白―。様々な個体のねこまたすねこすりが、ぽつぽつと集う。
 ふりふりと、二股の尻尾が機嫌良さげにゆらりと揺れる。短い手足がテンポよく、ぽてぽてと街路を闊歩する。
『なぅーん』
 小さな口から零れた鳴き声は、楽し気に弾んでいる。此の光景だけを見れば、何とも穏やかな光景であるのだけれど。
「わ、わ……!なんて可愛いにゃんこさん達……!」
 月が魅入られし、ユエの黄金の瞳がキラキラと輝きを増す。けれど、次の瞬間、瞳に映った光景に軽い衝撃を受ける。
 ねこまたすねこすりが開いた口が、躊躇なく妖怪をごくん、と一口に飲み込んだ。
「でも、妖怪さん達のみ込んじゃってる……!だ、ダメだよ皆を食べちゃ!」
 わたわた慌てながら、けぷ、と今しがた妖怪を飲み込んだすねこすりに声を掛けるけれども、すねこすりは聞く耳を持たず。
『にゃーん♪』
 挙句、甘えたような声をあげながら、ユエへとふっかふかの身体を擦り付ける。
「……うっ……!」
 暖かく、柔らかい感触がユエを襲う。そっと視線を下へと移せば、円らな瞳がじぃっとユエを見つめていて。此れは心揺れても仕方ないという物。
 そんな一部始終を、黎は面白そうに眺めていた。傍らでは、玄月がほんの少し面白くなさそうに尻尾を地面に叩きつけていた。
「おやおや、何時かの光景を思い出すのう」
 やんわりと微笑みながら、己が神域の姿を思い出す。猫多き、黎の神域。
 語り掛ける娘は、気付けば猫に囲まれて。嗚呼、あの時もそうであった―。
「ふむ、今回もめろめろじゃの」
 特に助け船を出す事も無く、ゆるりとすねこすりに翻弄されるユエの姿を黎は眺めている。
「あの、だから、ね。食べるのは、ダメなん、だって……。……はわわわ……」
 言い様に翻弄される姿も、愛らしく面白いのだけれど。此のままでは飲み込まれてしまう妖怪も絶えない。
「ユエや、もふもふが気に入ったのなら存分に遊んでやると好い」
 ちらり、黎が足元に寄り添う玄月へと視線を映す。お気に入りと定めた娘の関心が、他所に移り些か面白くない使い魔へと。
「玄月も何時も他の猫に魅せる威厳は要らぬぞ」
 ―存分に戯れる事を赦そう。
 じ、と己が主人を見つめた黒き使い魔は、御心のままユエの元へと歩み進む。
 告げられた言葉に、ユエの瞳がぱちくりと瞬くも、直ぐに破顔する。
 そっと両手広げれば、飛び込んでくるもふもふのすねこすり。
「わーっ、可愛い……!」
 何処か遠慮がちにぎゅっと抱きしめれば、ふわっとした温もりが腕に伝わると同時に、懐かしき夜の香りがふわり鼻腔を掠める。
「黎さん、玄月くんっ!この子達もふもふだよ~!」
 ふかっふかの毛並みにユエが顔を埋めれば、とくり、とくりと小さな鼓動が頬に伝わる。
 ―たし。
 僅かな重みが、ユエの腕に加わる。そっと顔を上げれば、すねこすりを抱く腕に玄月も加わって。
 ゆらりと玄月の黒き尾がユエの腕にするりと絡む。
「どれ、我も白の花弁で遊んでやるとしようかの」
 ふわり、と一陣の風が吹き抜けて。黎の胸元に咲く月下美人がほろり、と花弁を崩して。
 甘やかな風と共に、ゆらり、ふわりと花弁が踊る。
 くるり、くるりとすねこすりの眼前に月下美人の花弁が舞うように漂う。動く花弁を捕まえようと、短い手足がてしてし動く。
 動物には好かれる体質であれど、カタチを模しただけの骸魂には、果たして。
 ―おいで。
 不思議な術を手繰る者に興味を抱いたか、花を操る手の動きに惹かれたか。
 神が紡ぐ言葉は、絶対的な甘さを含んで。
 ゆらり二股の尻尾を揺らしたすねこすりが集う、集う。
「黎さん、すごいなあ」
 ふわふわの毛玉が、花弁を追って空を跳ぶ姿を見ながら、ユエは玄月の背を撫でながら其の光景を見やる。
「じゃあ、僕は歌を唄って猫達とはしゃごう!」
 小さく深呼吸、一つ。 零れた旋律は、玲瓏たる輝きを宿す。
 祈りではなく、遊興の願いを込めて。只々、すねこすりに寄り添う為の旋律を。
 粛々と紡がれる音の色に、すねこすりたちは心地良さそうに瞳を閉じて。彼の黒き使い魔は、何処か自慢気にユエへと摺り寄る。

「……なんと」
 歌に酔い、猫と戯れ。気が付けば、黎の周囲はすねこすりで溢れていた。
 腕に、膝に、頭上に。月華の吸血鬼は、気付けばふわふわに覆われて、其の場を動けずにいた。
「我が眷属、蝙蝠達よ―」
 膝にすねこすりを乗せ、其の頭を撫でながら旋律を奏でていたユエが、黎の声に反応して視線を向ければ、予想し得なかった光景が映って、唄が止まる。
「わ、わわ。黎さん凄い事になってるね」
 よいしょ、と黎の頭上のすねこすりを抱きかかえれば、通り風が一陣、吹く抜けて。
 月下美人の花弁が空へと舞い上がり、はらはらと雪の様に静かに降り落ちる。
 舞い落ちる花の雪へ捧ぐ様に、ユエが新たな旋律を奏でる。
 柔らかな、淡い光が月華の雪と融け合って。幻想的な風景を生み出す。
 音に合わせて、くるり、くるりと黎が指を振れば、唄に合わせて花が踊る。
 花舞う旋律に、心揺さぶられたのか。ほろりとすねこすりが空へと溶ける。

 後に残っていたのは。
 旋律紡ぐ蝙蝠巫女と、月華咲く吸血鬼。寄り添う小さな黒き猫と、飲み込まれていた筈の妖怪達―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
【狐々】
この子達がねこまたすねこすり
はて、どうやって妖怪たちを『ペッ』させよう
ん……? 都月くん、何か秘策があるのかな
彼の手元を興味津々に見入る

わ、ぁ
手渡されたおもちゃを見て感嘆の声を漏らす
光で猫じゃらしを作るなんて
都月くんは発想が柔軟で羨ましい、な

その場に座って
ひらひら揺らして遊んであげて
懐っこい子は胸に抱いて愛でるよ
真っ黒、ふわふわ
ちっちゃくて大変に愛らしい
私と都月くんの稚児も、屹度――
や、待って
何を考えてるの、私

思考を追い遣りながら手を動かす
耳の裏に首筋脇腹、弱点をくすぐって
……!!
ご、ごめん
くすぐり過ぎちゃった、かな


木常野・都月
【狐々】

この子達がねこまたすりすり…。
こんにちは![動物に話す]で通じるかな。
一緒に遊ぼう、って声をかけよう。

何して遊ぼう。
…おもちゃを作るか。

木の枝を拾って、枝の先に光を灯そうか。
光の精霊様、枝先に集まって下さい。

よし、おもちゃ、出来上がり!
光がついた、ねこじゃらしもどきだ。
クロムさんも使いますか?

よし、杖を振ってみよう。
そう簡単に捕まえられないぞ?
何せ光だからなぁ?ぐるぐる〜

やんちゃな猫はこうだ!
手で猫をワシャワシャ!
嫌がられない程度にくすぐろう。

元気な子が多い…可愛いですね!
クロムさんも楽しそうで、綺麗で可愛くて優しい顔…?あれ?少し赤い?
黒猫が可愛くて堪らないのかもしれないな?



●ぴかぴかゆらゆら
 ゆらり、ゆらり揺れる二股の尻尾。ふかふかの体躯に、にょっきり生えた短い手足。
 此方をじぃっと見つめる円らな瞳には、邪気は一切なく。
 言われなければ、此の毛玉が骸魂ではなく、ただの妖怪であると錯覚してしまうかもしれない。
 けれど、にゃふにゃふ鳴き声を零しながら、あんぐり口を開いて妖怪を丸っと一飲みしてしまう姿は、紛れも無く骸魂である。
「はて、どうやって妖怪たちをペッさせよう……」
 背中をどんどん強く叩けば吐き出すのだろうか。そもそも、すねこすりよりも飲み込んだ妖怪の方が体積が大きいのだけれど、果たして飲み込まれた妖怪は―。
 いろいろと考えを巡らせるけれど、改善策は何も出ず。
「うーん、動物に話すで通じるかな……」
 ちらりと傍らの都月を見上げれば、ぽつりと思考が音になって零れたのか。
「こんにちわ!一緒に遊ぼう!」
 話が通じれば僥倖、通じなければ猫の習性を利用すればいいか、と開き直って。
 都月の声を聞いたすねこすりの瞳が、期待に輝く。
「とは言っても、何して遊ぼう……」
 うーん、と悩んだのは一瞬。遊ぶのであれば、道具を作ってしまえばいいか、と。
 そこら辺に落ちている木の枝を適当に拾って、ぽ、と枝の先に魔力を灯す。
(光の精霊様、枝先に集まってください)
 祈り願うように、小さく念を込めれば、ぽつり、ぽつりと光が灯る。
「わ、ぁ……!」
 種も仕掛けも無い、本物の魔法にそわり、とクロムの尻尾がゆったり揺れる。
「よし、おもちゃ、出来上がり!」
 淡く明滅する光が、まるで風に揺れる猫じゃらしのようで。感嘆の声がクロムから小さく漏れた。
(都月くんは発想が柔軟で羨ましい、な)
 じぃっと光る枝を見つめていたのを、興味を惹かれたと勘違いされたのだろう。
「クロムさんも使いますか?」
 今しがた光宿した枝を差し出しながら、都月が小さく首を傾げる。
 こくり、と小さく頷いて、遠慮がちにクロムが枝を受け取る。そうっと枝の光に触れるけれど、温度は無い。
「そーれ」
 手早くもう一つ、光る枝を作った都月が枝を振るえば、残光描きながら光が揺れる。
 骸魂にも、猫としての本能が残っているのか。ぴくり、とすねこすりの身体が反応する。
「そう簡単に捕まえられないぞ?」
 それそれー、と杖を振るった光にしゅばっとすねこすりが飛び掛かる。
 くるくると円を描く様に杖を揺らせば、動きに合わせてすねこすりの首もくるくる回る。
 すとん、と腰を下ろして、都月の動きに倣って、クロムも光る枝を小さく揺らす。
 てち、てちと光の軌跡に向かってすねこすりが手を振り下ろす。
「う、わあ」
 突如、都月の驚いた声が小さく響いた。慌ててクロムが視線を向ければ、楽しさ故か、都月に飛びついたすねこすりの姿。
「あは、あははは、くすぐったい」
 光る枝を持つ手を狙って、ぐりぐりとすねこすりが身体を擦りつけるのが何ともこそばゆい。
「やんちゃな猫はこうだ!お返ししちゃうぞ!」
 べり、とすねこすりを引きはがして、反撃とばかりに、ふかふかのお腹をわしゃわしゃと優しく擽る様に撫でまわす。
『ふ、にゃぁ~』
 すねこすり自身もこそばゆいのか、気の抜けたような鳴き声が喉から零れた。
 何とも愛しき光景を、じぃっと見ていたクロムの手は、気が付けば止まっていて。枝を持つ手に真っ黒なすねこすりが、ぐりぐりと頭を寄せていた。
 心の何処かで、何処か羨ましい気持ちが、あったのかもしれない。
 摺り寄っていたすねこすりを、そうっと優しく腕に抱く。ゆらゆらあやす様に、胸元に寄せて。
『……なぁう』
 毛並みに沿って、ゆっくりと背を撫でる。
(良い子、良い子、可愛い子……。…眠れや、眠れ―)
 隣から、愛し君の笑い声が響く。嗚呼、幸せだなあ、と夢見心地にそっと瞳を閉じる。
(可愛い、可愛い、私の、子。私と、貴方の。愛しき、稚児……)
 ゆっくり思考が沈んで―。意識が現実へと引き戻される。
 じわじらと、クロムの頬が朱に染まっていく。
(や、待って、待って……。何を、考えてるの、私――!)
 顔に熱が集まっていく。周りの音が、全て遮断される。どくり、どくりと自身の鼓動が嫌に大きく聞こえる。
「いやあ、元気な子が多い……。可愛いですね!」
 光る枝を振るう一方で、わしゃわしゃと片手ですねこすりの好い所をうりうりと擽る都月が満面の笑みでクロムへ視線を向ける。
「あれ、クロムさん?」
 声を掛けるも返答は無く。そうっとクロムの顔を覗き見れば、綺麗で、可憐で、優しい表情を浮かべていて。
(……ああ、好きだなあ)
 なんて思ったのも束の間、じわり、とクロムの頬が朱に染まって。ぱちくり、と都月の瞳が瞬く。
「……あれ?顔、赤い……?」
 けれど、クロムの手は、わしゃわしゃと耳裏や首筋や脇腹などを的確に擽っている。
『うみゃぁー!』
「………ぁ!!」
 あまりのこそばゆさに、クロムの腕に抱かれていたすねこすりが悲鳴をあげて、逃げ出した。
「……ご、ごめん……!」
 咄嗟に謝るけれど、すねこすりは都月の腕の中へ逃げ込んで。
「大丈夫ですか、クロムさん?」
「へ…っ!…あ、えと、その、く、くすぐり過ぎちゃった、かな」
 へらり、と曖昧に微笑みを浮かべるクロムだけれど其の頬は朱に染まったままだ。
「黒猫、可愛かったですか?」
 なんて都月の言葉に、こくこくと頷きにて返答を返す。
 そんなクロムを、すねこすりがやれやれ、と言わんばかりの表情で見ていたことは、誰も知らない。

 ―あの、ね。私と君が作る、愛しき未来を想像していたんだ、と。
 もし、言葉に出来たなら。君は、何て答えをくれるのだろうか。
 今はまだ、言葉に、カタチにする事は出来ないけれど、でも君なら。
 そう、君ならきっと―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
猫が現れだしてもまだふわふわと
さめない酔いを言い訳に
アレスに甘える

…おい、近いぞ猫
俺の足元にいる分にはいい
けど…なんかアレスの方多くねぇ?
大人気のアレスにもやもやと
せめてここは譲らねぇ
アレスの隣をぴったりキープ
でもアレスの意識が別のとこ向いてんのは面白くねぇ…
俺より猫がいいのかを態度で示す
アレス、と一言呼び掛けて
大好きなアレスの手をとる
それからじっとアレスを見て
その指先にかぷりと甘噛みしてやろう
慌てるアレスが珍しくておかしくて
機嫌よくもっとって
…嫌だ、今かまえ

ぎゅっとされたら安心する温度で大人しく
まあ…寝かしつけるくらいはまってやる

…って、いてて!
頬をつままれごめんなさいと素直に謝るが
酔った頭は素直に思う
……俺はアレスが髪に触るのうれしいから
つまりもっとしていいじゃん?
だってアレスが言ったんだろ

おいでといってくれるなら素直に腕に収まろう
俺だっていつでもお前が特別だ
これは…どうやったら伝わるんだ?
よくわかんねえけど
撫でるアレスが楽しそうだから
俺はこの幸せを堪能しよう


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

…何だか黒猫のように見えてきたな…
酔いが覚めない彼に少し心配になっていたら
猫達に囲まれた
祭りで遊んで欲しかったのかなと構っていると
…セリオス?
首を傾げれば彼からの甘噛みに一瞬動揺
いきなり何を…!こら、君達も擦り寄せないでくれ!
後で構ってあげるから…って、待ってくれ!?
…片方を構えれば片方が構え攻撃をしてくる
おまけに甘噛みしてくるセリオスにくすぐったいような落ち着かないような心地がして…
…ッ
大人しくしていてくれと彼を抱きこんで
猫達には【星宿りの子守唄】を

…セリオス
むぎゅうと彼の頬を抓る
何度言っても我慢出来なかった悪い口はこれかな
そして仕返しを込めて指先に口付け
君がやっていたのはこういう事だし
…心配しなくても君が特別だよ
わかった?
もっとって…君って奴は…

はあ…おいで
特別だと言ったのは嘘ではないから
特別な夜、特別な君に構おう
代わりに…僕にも特別を感じさせてくれるかい
温もりを感じる様に髪や頬、顎の下を撫でていく
…ちゃんと伝わっているよ
(先程の君の行動や言葉
そして…今の表情から)



●つたえる
 祭の賑わいは止まらず。けれど、其の喧騒の中に、にゃぁ、と猫の鳴き声が混じりだして。
 丸いふわふわの毛玉がちらほらと視界の端へと移る。
 けれど、セリオスの頭はアルコールに酔ったまま、未だ覚束ず意識はゆらり揺らめいたまま。
「……んー」
 ぐりぐりと押し付けられる頭を、優しく撫でながらアレクシスが小さく息を吐く。
「……何だか黒猫のように見えてきたな……」
 試しに喉元を擽ってみたい気持ちに駆られるが、未だ醒めぬ酔いに、もしや別の要因が、と疑いを抱いた所で、じぃーと此方を見つめる円らな瞳に気が付く。
『にゃあ?』
 ぐるり、と周りを囲まれてはいるものの、猫―ねこまたすねこすりたちの瞳に邪気は無く、只の興味本位で此方を見ているよう。
 軽い現実逃避か、セリオスを抱えたまま、しゃがみ込んだアレクシスの指が、すねこすりの喉元を優しく擽る。
「祭で遊んで欲しかったのかな?」
 ごろごろと気持ちよさそうにすねこすりが喉を鳴らす。構って欲しいのか、自分も自分も、とアレクシスの周りにはどんどんすねこすりが集まっていく。
 大好きなアレクシスを取られたようで。
(なんか、アレスの方多くねぇ?)
 気付けばわらわらと集まってきたすねこすりたちを、恨めしそうな瞳で見つめながら。けれど隣だけは絶対に譲ってはなるものかと、更に暖を求めてぴったりとくっつく。
(お前のいちばんは、俺だろ)
 胸中に零れた本音は、誰に知られる事無く静かに溶けて、消える。 
 見た目はただのふわふわの毛玉の猫であるすねこすりは、紛れもなく骸魂である。だからこそ、アレクシスの関心が向くのは、仕方ない。
 仕方ないと分かってはいるのだけれど。それでも、アレクシスの瞳に自身の姿が移らないのが、意識が向いていないのが。寂しくて、悔しくて。
「アレス」
 にじり寄るすねこすりを牽制しながら、ぴったりと寄り添ったままセリオスは大好きな、大好きな彼の名前を小さく呼ぶ。
 其の声色は、未だ醒めぬ酔いの為か、何処か甘さを含んで。
「……セリオス?」
 何処か拗ねたような雰囲気を感じ取ったアレクシスが、そっとセリオスの名を呼ぶ。
 自分よりも、ほんの少しだけ大きなアレクシスの手を、もにもにと弄びながら、セリオスは己の気分が僅かに高揚するのを感じた。
(ほら、俺が呼べばアレスは絶対に応えてくれる)
 ―優越感。
 そんな感情が、僅かに仄暗くセリオスの胸中に波紋を広げる。小さく首を傾げながら、アレクシスはセリオスの表情を覗こうとして―。
「…………っ!!!」
 刹那、伝わる唇の柔らかさと僅かに喰い込んだ犬歯による甘い痛みに意識の全てを持っていかれる。
「ちょ、いきなり何を……!」
 ちろり、と赤い舌先がアレクシスの指先を這う。ぞくり、と背筋を何かが駆け巡る。
「……」
 ふ、と零れた吐息が指先に触れて、とても擽ったい。
 其の様子を見て、面白がったすねこすりが、じりじりt距離を詰めてアレクシスに摺り寄ってくる。
 小さな足を一生懸命に駆使してアレクシスの身体を登ろうとするすねこすりを、アレクシスが慌てて引きはがす。
「こら、君達も摺り寄せない……!後で構ってあげるから……!」
 慌てふためくアレクシスの姿など、滅多に見られるものでは無く。ついつい面白くなって吹き出してしまう。
 零れる吐息が、直に指先に触れて。くすぐったいようなこそばゆいような感覚が更に指先を駆け巡る。
 片方を優先すれば、片方が拗ねる。
 共に、利権を譲らず。譲るはずも無く、じわじわとアレクシスの精神が追い詰められていく。
「ん、アレス。もっと。もっと、かまえ」
 ちゅ、と指先から軽いリップ音が、響いた。
 瞬間、アレクシスの中で、何かが切れた。
「…ッ!」
 大きな、大きな黒猫を、両手で胸の中へと抱き込んで。早急に紡がれるは、淡い聖光灯す、星の子守歌。
 ふわり、ふわりと降り注ぐ光は、雨の様に静かに降り積もる。ぽつり、ぽつりと溶けた光は、緩やかに瞼と意識を下ろす。
 ―とくり、とくりと伝わる心音に、セリオスは耳を澄ます。伝わるぬくもりが心地良く、アルコールに火照った身体をふわり包み込む。
 気が付けば、にゃあにゃあ聞こえていた鳴き声は、静かな寝息へと差し替わっていた。
 ようやく訪れた、静寂の時間。
「……セリオス」
 焦りの滲んだ、澄んだ天ツ空の瞳。そのままゆっくりと、セリオスが瞳を閉じれば―。

 ―むぎゅう!

「……って、いてて!痛い、アレス、痛い!」
 慌てて瞳開いて、アレクシスを見上げれば、にこり浮かぶ笑顔の中に怒りの色を見つけて。
「何度言っても我慢出来なかった悪い口はこれかな?」
 ぎゅむ、とセリオスの頬が左右に伸びる。
「ご、ごめんなさい!」
 はぁ、と大きな溜息が降ってくる。同時に、頬を摘まんでいた手が、セリオスの頬から離れる。
「……いててて……」
 摘ままれた頬を冷やす様に押さえるセリオスの手を、アレクシスがそっと救う。そのまま優しく握り込んで、口付けを送る。
「……心配しなくても君が特別だよ」
 わかった?と悪戯っ子を叱る様に、アレクシスの手が、セリオスの頭へと乗せられる。
「…………」
 ほんの少し、罰が悪そうな表情を浮かべながら。けれども、乗せられた手から伝わる温もりに、セリオスの表情がふにゃりと緩む。
「……俺は、アレスが髪に触るのうれしいから……。……だから、もっと」
 ―さわって……?
 そう告げられた、伝えられた可愛らしいお願いに、仕方ないな、と言わんばかりに笑みを零す。
「もっとって……。……君って奴は……」
 未だに酔いが覚めやらぬのか。其れとも、醒めた上での行動なのか。
 答えはどちらか分からないけれど。けれど、酔った君は可愛らしいから、其のお願いは聞き届けてやらねばなるまい。
「……はあ。……おいで」
 大きく、溜息一つ。大切な貴方へ向けて、両手を開く。無言で腕に収まる身体をぎゅっと優しく抱き寄せる。
 すり、とアレクシスの首元にセリオスが摺り寄る。
「特別だと言ったのは嘘ではないから」
 耳元に囁くように。たった一人、大切な君にだけ聞こえるように。
 ハロウィンと言う、特別な日。今日と言う特別な夜に、たった一人の特別な君へ。
「僕の特別を、君に全てあげるから。――だから」
 ―代わりに、僕にも特別を感じさせてくれるかい?
 淡く笑みを浮かべて告げた言葉の答えは、小さな頷き。
 体温を分け与えるように、温もりが伝わる様に。ゆっくり、優しく髪を、頬を、顎の下を撫でていく。
(俺だって、いつでもお前が特別だ)
 言葉で伝えるのは、とても簡単だ。しかし、此の溢れる想いは言葉だけでは決して伝わらないだろう。
 伝えたい、でも、伝わらないもどかしさが、セリオスの胸中に生まれる。
 だけど。
(アレス、楽しそう)
 首筋を、鎖骨を、背中を。ゆったりとアレクシスの手が触れていく。
 じわり、じわりと触れられた箇所が熱を帯びる。
 最早、アルコールに酔っているのか。それとも、アレクシスに酔っているのか。
 どちらか判断は付かない。
 じぃっと此方を見つめる視線に気が付いたのか、とても優しくて、甘い笑みがセリオスの瞳に写る。
 釣られるように、蕩ける様な笑みをセリオスが浮かべる。

 行動や言葉、そして表情からも。
 君が大切だって思ってくれている気持ちは伝わっている。
 でも、其れ以上に。君の心が、大切だって叫んでくれている。嗚呼、其れは何て幸せな事だろうか。

 それぞれの想いを重ねて、ハロウィンの夜は過ぎていく―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月02日


挿絵イラスト