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銀河帝国攻略戦⑬~終わりなき悪夢

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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 苛烈を極める攻略戦に、慌しい様子を見せるグリモアベース。
 そこではギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)が君たちの訪れを待ち受けていた。
「さて、わざわざ来たからには覚悟くらいできているのであろうな?」
 集まったグリモア猟兵たちの姿を見て呆れ半分で笑うギドだが、それには理由がある。

 これから向かう戦場は、ドクター・オロチが派遣した艦の残骸の残る宙域。
 そこには『実験戦艦ガルベリオン』を秘匿する『ジャミング装置』が隠されているという。
 そして、そのジャミング装置は【近づいた対象のトラウマとなる事件などを再現し、対象の心を怯ませる】という防衛機構を備えているという。

「心が竦めばジャミング装置からは自然と遠ざかってしまう。そういった趣味の悪い仕掛けだ」
 と、ギドは付け加える。

 だが、悪い話ばかりではない。
 防衛機構は【人のトラウマ】に反応し、作動する。
 つまり、【強いトラウマ】を抱える人間ほど、それを辿っていけばジャミング装置を発見しやすいということでもあるのだ。

 この宙域を突破できなければ、ドクター・オロチ本人はもちろんのこと、敵の情報艦隊やドクター・オロチのウィルス部隊を叩くこともままならない。
 銀河帝国攻略戦を制する上で、攻略不可欠な戦場であることは疑いようがない。

 ギドは黙したままグリモアのゲートを開き、笑う。

「さて、此れより先は――己の傷跡に立ち向かうだけの気概を持つ者のみ進むが良い」


まさひこ



 まさひこです。戦争シナリオです。
 特に私個人から補足することはあまりないと思うので、皆さん頑張ってください!
 プレイングは採用できる範囲で採用したい気持ちですが、
 さくさく返してこうと思うので締め切りは早めかも知れません。


 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジェット・ラトリオック
妻が居た
妻となる筈の女性が居た
自分との子供も、その時には身籠っていた
家族に、なる筈だった

所属していたサイトで大規模収容違反が起こった
UDC、いや、突発的なオビリビオンの出現による内部からの襲撃だった
俺は彼女を引き連れて逃げだした。逃げ切れる筈だった

妻が眼の前で引き裂かれた
人に似た肉が中から零れ落ちた
眼の前で貪り食われている

ああ、ああ

何の為の鉄兜だ
何の為の覚悟だ
何の為に顔を潰した
何の為にジェットを殺した
何の為に何処までも伸びる処刑具を手に取った

二度も、二度と、俺に地獄を見せるんじゃあない
悲劇を、見せるんじゃあない

改めて分かった
猟兵となった理由
俺の地獄は俺だけの物
他の誰にも、同じ目に合わせられない




 妻が居た。
 妻となる筈の女性が居た。
 自分との子供も、その時には身籠っていた。
 家族に、なる筈だった。

 何年前になるだろう。
 かつてジェット・ラトリオック(黒玉の蛸・f01121)の所属していたUDC収容サイトで、大規模な収容違反が起こった。
 UDC――突発的なオビリビオンの出現による内部からの襲撃だった。
 ジェットは婚約者を引き連れて逃げだした。逃げ切れる……筈だった。

 だが。
 
 ――ぐしゃり。

 ■■が眼の前で引き裂かれた。
 俺の顔面に撒き散らされる、彼女の血液(ぬくもり)。
 人に似た肉が中から零れ落ちた。

 ――ぐっちゃ、ぐっちゃ。

 眼の前で貪り食われている。

 ああ、ああ

 何もできなかった。
 過ぎ去った過去は、覆らない。

 何の為の鉄兜だ。
 何の為の覚悟だ。
 何の為に顔を潰した。
 何の為にジェットを殺した。
 何の為に何処までも伸びる処刑具を手に取った。

「あ、ああ……あああああああッ!!」
 ジェットは叫び、己の殻を破る。
 そうだ。この怒りを、悲しみを、狂気を――戦う力に変えるのだ。
 今ここにいるのは、妻を救えなかった無力な男ではない。

 夢の中、その叫び声と共に無力「だった」男の姿はいつの間にか無く。
 今そこに在るのはバケツのような鉄兜を被った幽鬼。
 『黒玉の蛸』の異名を持つ、血塗れたハグレモノの探索者。その手には愛用の拷問具、『断割鉈』が握られていた。

「二度も、二度と、俺に地獄を見せるんじゃあない。悲劇を、見せるんじゃあ――ないッッ!!」
 ジェットが奮った断割鉈は鞭のようにしなると、目の前のUDCを切り刻む。
 UDCが倒されると同時に、悪夢の幻影は掻き消えた。
 
「趣味の悪い仕掛けだな」
 悪夢から醒めたジェットの目の前には、ドクター・オロチのジャミング装置が浮かんでいる。
 ジェットはそれを難なく破壊する。

(改めて分かった。俺が猟兵となった理由。俺の地獄は俺だけの物――他の誰にも、同じ目に合わせられない)
 ジェットは決意を新たにし、その宙域を離脱した。

成功 🔵​🔵​🔴​

逢坂・理彦
目の前で護るべき人々は倒れていく。護るためにと抜いた妖刀を使い過ぎたせいだろうか酷く鼓動が早い。罵られ嘲けりながら掴まれた髪。笑いながら首に当てられた刃が深くーー。

首の傷が痛い(首の傷を隠すために襟巻きをぎゅっと寄せる)
ずいぶん昔のことなのにね。
トラウマ…傷をえぐり返されるのは辛いもんだね…けど『こんなもの』でも役に立つならそれならいい。さぁ、装置を壊そうか…【墨染桜・桜吹雪】だ。




 ばたり。
 またひとり、目の前で誰かが倒れる。

 ――護りきれなかった。

 出し惜しみせずに妖刀を抜いたが、それでも尚、届かない。
 その癖、妖刀を使い過ぎたせいで酷く鼓動が早い。
 逢坂・理彦(妖狐の妖剣士・f01492)は抵抗する力を喪うと、『あいつ』は罵り嘲け笑いながら理彦の髪を乱暴に掴んだ。
 笑いながら首筋にあてられた刃は、そのまま深く――理彦の首を切り裂く。
「あ、が――」
 ひゅうひゅうと、空気の漏れる音がする。
 口からごぽ、と血が逆流する。
 ここで死ぬのだと――、一度は命を手放した。

 だが、生きている。
 猟兵として、今この場に立っている。
「ずいぶん昔のこと……なのにね」
 首の傷が痛む。鮮血に濡れた襟巻きをぎゅっと寄せるが、流れ出る血は止まらない。
 それでも。
 血を吐きながら、息を切らしながら、震える手で妖刀を握る
 理彦は意識が飛びそうになる中、必死に踏ん張って。
 目の前の『あいつ』に、刀を振り下ろした。

 ――悪夢が霧散する。

「――――ッッ! ハァ……、ハァ……ッ!!」
 突然の現実への復帰に理彦の全身は粟立ち、嫌な汗が吹き出る。
 呼吸を整えるのにも暫く時間が掛かった。
「傷をえぐり返されるのは辛いもんだね……」
 理彦は独りごちる。
 けど『こんなもの』でも役に立つならそれならいい。
「さぁ、装置を壊そうか」
 目の間に浮かぶ、ドクターオロチの洗脳装置。
 それは人の脳にアンテナを突き刺したような、趣味の悪い形状をしている。

 ――『墨染桜・桜吹雪』。

 美しく舞い踊る墨染桜の花弁が、洗脳装置を破壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛河・燐
なんとまぁ見習いたい悪辣さだねぇ。

【トラウマ】
両親と大勢が死んで俺だけが偶然生き残った(邪神関連)。
それがはじまり。
探索者となり始めて関わった事件では、何も出来ずに別の誰かが最良とは遠い結果で幕を閉じた。
それから何度失敗した?どれだけ救えなかった?どれだけ後悔した?
『後悔しない為に』そう思って行動して、どれだけの後悔を積み重ねた?


…………本当に、後悔ばかりだ。
だけど、例え力がなくともその後悔を無駄にしない為に、その後悔に報いる為に。この先に誰かの後悔を無くす為に、足を止めるわけには行かないだろう?
もうどうせ戻れないんだ。誓ったんだ。
どれだけ辛かろうと笑っているって。




「はぁ~……人のトラウマを利用とは。なんとまぁ見習いたい悪辣さだねぇ」
 流石の雛河・燐(笑って嗤って後悔を・f05039)ですら嗤えないような、ドクター・オロチ謹製の防衛機構。
 とは言えこの先は、もう進むしかなくて。
「ま、行ってみますか」
 あくまで軽く。燐は宇宙空間を進み、悪夢の世界へと飛び込んだ。


 極一般的な家庭に生まれ、平穏な人生を享受するはずだった少年。
 そんな彼に初めて訪れた転機は、大規模な邪神関連の災厄。
 両親と大勢が死んで、燐だけが『偶然』生き残った。
 別にその時、猟兵としての能力に覚醒しただとかそんな事もなく。
 ただ幸運だけで生き延びてしまった。
 それがはじまり。

 生き延びたが故の義務感か、或いは邪神に魅入られてしまったのか。
 ともあれ彼は、探索者としての人生を歩み始めた。
 探索者となり初めて関わった事件では何も出来ずに。
 別の誰かが最良とは遠い結果で幕を閉じた。

 それから何度失敗した?
 どれだけ救えなかった?
 どれだけ後悔した?

 『後悔しない為に』――。

 そう思って行動して、どれだけの後悔を積み重ねた?

 足元に絡みつく、死者の……或いは心を喪った者たちの怨嗟。
 何故お前だけ生きている。
 何故お前だけ五体満足でいる。
 特別な力があるわけでもない癖に。
 才能があるわけでもない癖に。

「お前が死ねばよかったんだ」「お前が足を引っ張った癖に」「どうして助けてくれなかったの?」「なんで生きてるの?」「お前があの時死ななかったせいで」「お前が探索者なんかになったせいで」「お前が」「きみが」「あなたが」「――」「――、」

「…………本当に、後悔ばかりだ」
 無数の怨嗟の手が身体中を這い回ろうとも、燐は動じない。

 例え力がなくとも。
 その後悔を無駄にしない為に、その後悔に報いる為に。この先に誰かの後悔を無くす為に、足を止めるわけには行かないだろう?

 もうどうせ戻れないんだ。誓ったんだ。
 どれだけ辛かろうと笑っているって。

 燐は笑って、嗤って、歩みを続ける。
 悪夢の出口、その光る扉を目指して。

「後悔してばかりの人生だけど、案外真面目に生きてんだよね」
 そう言って放たれた燐の火の矢が、オロチのジャミング装置を破壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリスロッテ・クラインヘルト
😘

◆克服すべき過去
わたしはかつてただ一人
故郷で成功作とされたミレナリィドール
わたしを作った技術力を求めて
故郷と近隣の国々は戦争になった

わたしを作った人達は
わたしの家族は
わたしを平和のために作ったのに

矛盾する思考は時折悪夢となりわたしを苛む

◆それでもわたしは
懐かしい人々が
わたしを呼んで居る
「ああ、みんな、そっちに居るのですね…」
そこが天国なのでしょうか
地獄かもしれませんね

「…じゃあ、装置は、あっちですねっ!!」
鏡写しの分身を自分が惹かれる方向と逆に走らせる
「過去は過去!今は今!!」
『イリスロッテは、今を生きるっ!』

少しでも、少しだけでも
貴方達が望んだように、誰かを救ってみせるから
どうか見ていて




 イリスロッテ・クラインヘルト(虹の聖女・f06216)は微睡みに堕ちる。

 【わたし】はかつてただ一人、故郷で成功作とされたミレナリィドール。
 わたしを作った技術力を求めて、故郷と近隣の国々は戦争になった。

 わたしを作った人達は――わたしの家族は、わたしを平和のために作ったのに。
 なのにどうして、みんな争うんだろう。
 矛盾する思考は時折悪夢となり、わたしを苛む。

「こっちにおいで、イリス。絵本を読んであげるよ」
「あらイリス、その子に名前を付けてあげたの? そう、とっても仲良しさんなのね」
「イリス、お菓子を用意したよ!」
「イリス――」

 懐かしい家族が、わたしのなまえを呼んでいる。

「ああ、みんな、そっちに居るのですね……」
 とても幸せそうな、みんなの顔。
 そこが天国なのでしょうか。地獄かもしれませんね。

 胸が、きゅぅと痛くなる。

 生んでくれて、作ってくれて、ありがとう。
 愛してくれて、ありがとう。
 わたしが生まれたせいで、あなたたちはみんな死んでしまった。
 わたしのせいで、争いが起こった。
 なのにみんなは、わたしを守って――。

 目覚めたわたしはひとりぼっちで。
 でもきっと、わたしには――みんなの祈りが込められていて。

 イリスロッテはやさしい夢に、ひとときだけ身を委ねる。
 だがそれは、この悪夢に惑わされたからではない。

「……じゃあ、装置は、あっちですねっ!!」
 ――『鏡の国のシャルロッテ』。分身の自分を『やさしい夢』の真逆に向かって走らせた。

 ありがとう、みんな。だいすきだった、わたしの家族。

「過去は過去!今は今!!」
『イリスロッテは、今を生きるっ!』

 【イリス】は家族に別れを告げて、装置へと向かって駆け出した。

 少しでも、少しだけでも。
 貴方達が望んだように、誰かを救ってみせるから――。
 だから、どうか見ていて。

 『やさしい夢』は成長した【イリス】の背中を、いつまでも見守り続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霄・花雫
トラウマかぁ……。
……あたし?あたしは良いの、平気だって分かってるから。

彼女のトラウマは、窓の姿をしていた。
満足に動かない痩せた小さな身体と、すぐに苦しくなる呼吸。
熱を出せば両親や兄達が泣きそうな顔をした。それが自分のせいだと思った。
窓の外から聞こえる、みんなの楽しそうな声が羨ましかった。
何より、窓の向こうは広くて、高い高い青空には手が届かなくて、其処に行きたかった。
静かな、静かな、鳥籠のトラウマ。

……でも、あたし、もう動けるもの!あたしは動ける!走れる!空だって飛べるの!
スカイステッパー発動。
加速してレガリアスシューズに大気を集め、脆い所を一気に蹴り抜く!【空中戦、全力魔法、野生の勘】




「トラウマかぁ……。あたし? あたしは良いの、平気だって分かってるから」
 グリモアベースでそう語っていた、霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)。

 あたしのトラウマは、窓の姿をしていた。
 満足に動かない痩せた小さな身体と、すぐに苦しくなる呼吸。
 熱を出せば両親や兄達が泣きそうな顔をした。それが自分のせいだと思った。
 窓の外から聞こえる、みんなの楽しそうな声が羨ましかった。
 何より、窓の向こうは広くて、高い高い青空には手が届かなくて、其処に行きたかった。
 静かな、静かな、鳥籠のトラウマ。

「……でも、あたし、もう動けるもの! あたしは動ける! 走れる! 空だって飛べるの!」

 そう言って花雫は、いつものように空を泳ごうと足に力を込める。

 ――しかし。

「――え、」

 ぴくり、とも動かない足。
 いつもはあんなに軽くて、どこまでも泳いでいけそうな身体が――今は全身に鉛でも取り付けられたかのように、重く感じる。
「どうして? やだ、え……あたしはもう、平気で、……けほ、ゴホッ!!」
 急に咳が、胸が苦しくて、その場に蹲る。
 昔に逆戻りしたかのように。
 呼吸さえ整わなくて、全身がダルくて、気持ち悪くて。

「もう。身体が弱いのに無理するからよ、花雫」
「えっ、違うよ、私はもう――」
「やはり下宿暮らしなんて花雫にはまだ早かったんだ。大丈夫だよ、花雫の事はきちんとみんなで支えるから。無理なんてしなくて良いんだ。花雫には花雫の出来ることが必ずある筈、みんなでそれをゆっくり探していけばいいんだよ」
「違うの! 私はちゃんと元気で、空だって……ゴホッゴホッ、……ッ!」
 咳が苦しくて、ベッドから起き上がる事もままならなくて。
「なぁ花雫、最近はどんな音楽聴いてるんだ? ソシャゲもやってんの? 兄ちゃんたちそういうの疎いからなー、良かったら話とか聞かせてくれよ」
「どうして……! みんな、あたしの事、応援してくれるって……」

 いやだ、こんなの。
 家族はみんな、だいすき。だいすきな筈なのに。
 その優しさすら、あたしにはつらい。
 みんな優しくて、愛してくれて。
 だからこそあたしはみじめで、みんなが妬ましくって。
「もう、放っておいて――あたしのことなんて、放っておいてよ!!」

 叫んだ花雫の手に触れた、きらきら光る小さなお守り。
 それは花雫の兄たちが花雫の無事を祈って贈ってくれた武器飾りだった。

 ――そう、そうだよね。

「ゴホッ、ゲホッ……うくっ、う……」
 身体が重くて、歩くだけでもフラフラする。
 心配そうにする両親や兄弟の顔も、今は見ない。

「あたしは、……もう動ける。っはぁ、……走れるっ、飛べる……っ!!」

 一歩、また一歩と踏み出して。

「だからこんなトラウマ……っ! 何度だってあたしは!! 這い上がって――ッッ!!」

 両脚に力を込めて、応えるように起動するレガリアスシューズ。足元へと顕れる鰭のような薄翅。
 花雫は今度こそ空を泳ぎ、そのまま天を――悪夢を穿ち、蹴り抜いた。

「はッ――ぐうっ……!」
 現実世界へと帰還する。その眼前にはドクター・オロチのジャミング装置。

「言ったで、しょ――平気だって」
 吐き捨てながら。くるりと踊るように放った回し蹴りが、ジャミング装置を一蹴にて破壊した。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
😘

俺は記憶がないから、これは有利だな!
ここはもらっ…

『お前は██なんかじゃないよ、僕の██だ』
誰かがそう言って笑って、頭を撫でた
寒く暗い日々が続き、それでも二人いれば満たされた
わたしのせいだ
わたしが██じゃなければ、あの人も██にすんだ?
『寒いかい? そうだよね、こんな吹雪の中。おいで、温めてあげるよ』
そういってあの人はふるえるうででだきしめて、そのまま……
そのまま——

ああああああ!!!!
断片的な正体不明の記憶。何かはわからない。
でも【勇気】を振り絞り、機械を壊す。

俺は『ヴァーリャ』だ!今の俺が『俺』だ!
俺の知らない過去がどんなに辛く苦しくても、俺は絶対縛られない!
惑わされたりなどしないぞ!




 意気揚々とジャミング装置を破壊に向かうヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)。
「トラウマ? 俺は記憶がないから、これは有利だな! ここはもらっ――」

 その言葉を言い終える前に、ヴァーリャは深い微睡みへと囚われる。
 夢には人の深層意識が働きかける。

 であればそこには、失われた記憶さえ残されているのかも知れない。


「お前は██なんかじゃないよ、僕の██だ」

 誰かがそう言って笑って、『わたし』の頭を撫でた。
 寒く暗い日々が続き、それでも二人いれば満たされた。

 ――その筈だったのに。

 わたしのせいだ。
 わたしが██じゃなければ、あの人も██にすんだ?

「寒いかい? そうだよね、こんな吹雪の中。おいで、温めてあげるよ」

 そういってあの人はふるえるうででだきしめて、そのまま……

 そのまま—――

 おねがい、(ちがう) わたしを置いていかないで。(そんな感情は、知らない)

 わたしを(誰だ?) ひとりぼっちにしないで。(お前は誰なのだ!)

 あなたが居てくれたから、(知らない!)

 なのに、わたしは――(違う!!!)

「ああああああ――――ッッ!!!!」

 分からない。断片的に流れ込む、『知らない誰か』の記憶。
 『俺』が『俺』じゃなくなるような、知らない『わたし』と知らない『あの人』。
 これは他人だ、他人の記憶だ。
 なのに何なのだ、この押し寄せる感情の波は。

 苦しい、辛い、寂しい――。

 そんなの、どうして……こんなもの、『俺』の感情じゃないのに。

「煩い、うるさい、うるさいうるさい!」
 暗闇の中、藻掻くように手を伸ばし――手に持った刃を振り下ろす。

「俺は『ヴァーリャ』だ! 今の俺が『俺』だ! 俺の知らない過去がどんなに辛く苦しくても、俺は絶対縛られない! 惑わされたりなどしないぞ!」

 ガシャァン――と、ガラスの割れる音が響き渡る。
 それはヴァーリャがドクター・オロチのジャミング装置を振り下ろした刃で破壊した音。
「っは……ぐッ!! ハァ……、は、ハァ……ッ!!」
 ヴァーリャはようやく『悪夢』から開放されると、その場に蹲り、呼吸を整えた。

「今のが、俺の……くそっ、なんなのだ! なんだというのだ!」
 分からない。何ひとつ分からない。
 なのに、
 ヴァーリャは自分の瞳からひとりでに零れ落ちる涙を、抑えることができなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロード・キノフロニカ
●トラウマの内容
自分の造物主でありアルダワで同級生として一緒に過ごしていた相棒が、上級災魔に殺されたんだ。
一緒に冒険して、学んで、笑い合った一番の友が、あっけなく錬金ドラゴンに捻り潰された瞬間。
あの日から、僕は迷宮へ入るのが怖くなった。
戦士として前線に出ることは、とても怖いことなのだと。

●克服法:POWまたはSPD?
今の自分の役割(グリモア猟兵としてみんなを送り出すこと)を強く意識し直して、心を折ろうとするジャミングに抵抗するよ。
「僕の戦いはまだ続いている。僕がいなければ、覆せない悲劇があるんだ……!」
幻覚を吹き飛ばすように強く叫ぼう
為すべきことを、ただ為すために……!




 もう何年前になるだろうか。それはアルダワの地下迷宮で起こった悲劇。

 僕の造物主。一緒に冒険して、学んで、笑い合った一番の友。
 僕は彼と一緒に、いつものように地下迷宮で冒険をしていた。
 そこは比較的安全なフロアで、油断さえしなければ十分に敵とも渡り合えて……冒険者として経験を積むにも、宝を得て小遣いを稼ぐにも、ちょうど良いレベルな筈だった。
 けれどそこに、上級災魔――錬金ドラゴンが迷い込んできた。
 逆侵攻なんて、そうそう起こらない筈だった。なのに偶然、雷に撃たれるかのような不運で。
 友は本当にあっけなく錬金ドラゴンに捻り潰され、死んだ。

 あの日から、僕は迷宮へ入るのが怖くなった。
 戦士として前線に出ることは、とても怖いことなのだと。

 ドクター・オロチの悪夢が生み出す空間、それはまさにあの日の地下迷宮。
 身体が竦み、震える。
 自分が死ぬ事も怖い。誰かを失う事はもっと怖い。

 けど――、

「僕は負けない。どんな悲劇でも、どんな結末でも――」

 僕は未だ、このトラウマを克服できないような臆病者だけど。
 それでも僕はひとりじゃない。共に戦う仲間が居る。

 ならば叫ぼう。為すべきことを、ただ為すために。

「僕の戦いはまだ続いている。僕がいなければ、覆せない悲劇があるんだ……!」
 クロードのグリモアが強い輝きを放つ。
 その光はドクター・オロチの悪夢を打ち払い、クロードは現実へと帰還した。

「……この程度の仕事、造作もない」
 目の前のジャミング装置を破壊して、未だ残る震えを無理矢理抑える。

 いつまでも臆病者では居られない。
 僕が送り出す猟兵たちは、僕なんかよりよっぽど怖い思いをしているのだから。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

浅沼・灯人
【POW】
トラウマ、か。
それなら今も俺を焼き続けている。
俺は、許されてしまったんだ。

初めて人を殺した時だ。
通り魔が俺の弟妹を狙ったから、守るため殺した。
正当防衛だ、何も悪いことはない。
正しい行いをしたと言われた。
だが、あの肉の感触は、命を奪った事実は確かな罪なんだ。
誰もが許してくれたけど、違うんだ。
俺は許されたくなんて、ないんだ。
俺が殺したんだ。

だから、だからよぉ。
誰が許そうと俺は赦さねぇ。
何人殺しても全部背負って、
てめぇらの正義を喰い尽くしてやる。
つーわけだ、くそ下らねぇ機械なんざ砕け散れ!!

……いつか、親しい誰かがこれを知り
俺を許してくれたのだとしても。
この矜持、この罪だけは、俺のものだ。




「っ……ぁ……痛い、痛い、」

 浅沼・灯人(ささくれ・f00902)の手に残る肉の感触。
 たった今、奪ったばかりの命の感触。
 灯人は初めて人を殺した。
 弟と妹の命を狙った通り魔を、勢い余って殺めてしまったのだ。

 ――みんな無事で良かったわ。

「違う」

 ――これは正当防衛だから、キミが気に病むことはないんだよ。

「違う」

 ――弟と妹の命を救うため、仕方なかったんだ。
 ――灯人くんが身を挺して守ったからこそ、彼らは無事だったんだよ。

「違う!!」

 誰もが灯人を許した。誰ひとりとして責める人間はいなかった。
 だが、灯人は許されたくなんてなかった。
 人を殺めたという事実から、目を逸らしたくはなかった。

『だったらよォ、お前が代わりに死んでくれよ』
「…………」
 あの時殺した通り魔が、目から口から血を垂れ流しながら灯人の身体へと撓垂れる。
『俺を殺した事、後悔してんだろ? だったら助けてくれよ。それでチャラにしてやるからさァ。お前の罪を、全部俺が背負ってやるよ。お前の罪を本当の意味で赦せるのは、この世に於いて俺しか居ない――だろォ?』
 通り魔はニチャァ、と嗤いながら血塗られた手で灯人の頬を撫でた。

「――――じゃねえ」
『うん?』
「そういうことじゃねえ、つってんだよ、クソ野郎!!」

 灯人は激昂する。
 灯人の拳が通り魔の鳩尾を捉え、通り魔の身体はボロ雑巾のように吹き飛ばされた。

「誰が赦して欲しい、つったよ。俺は俺を許さねえ。弟妹を狙ったてめぇの事だって許さねぇ。 ――後悔だろうと、罪だろうと、悪党の命だろうと。何人殺しても全部背負って、てめぇらの正義を喰い尽くしてやる!」

 もうすっかり、悪夢は晴れた。
 目の前に浮かぶのは悪夢の元凶たる、ドクター・オロチのジャミング装置。

「つーわけだ、くそ下らねぇ機械なんざ砕け散れ!!」
 咆哮と共に放たれる竜の拳。その拳は一撃のもとに、ジャミング装置を破砕した。

 ……いつか親しい誰かがこれを知り、俺を許してくれたのだとしても。
 この矜持、この罪だけは、俺のものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
その日がいつもと違っていたのは
盟友がそこにいない
たったそれだけだった

あの日そこにあったのは骸だけ

兵のせいでも
家臣のせいでも
ましてやあいつのせいでもない

ただ単にあの場に自分がいなかっただけ

……あいつ?あいつとは誰だ?
あいつは俺?違う、俺はあいつであって、俺ではない
あいつを生かすために俺は死んだ
俺が生きる残るためにあいつを死に至らしめた

……ならば、今ここにいる俺は――誰だ?

時が移ろってしまえば、どうという話ではない
たとえ俺がどちらであろうともやることは変わらない
同じ轍を踏まぬよう、俺達が前へと立ち、壁となればよい
あの場にいなかった俺も
あの場にいながら何もできなかった俺も
もはやここにはいないのだから




 その日がいつもと違っていたのは、【盟友】がそこにいない――たったそれだけだった。

 あの日そこにあったのは骸だけ。
 その骸には、『あいつ』の姿も含まれていて。

 【俺】は無力だった。肝心な時に役に立てず、何が【盟友】だ。
 『俺』は無力だった。『俺』が死んだのは己の不覚。

 『相棒』を死なせた自責と、【相棒】を死なせた自責。
 悪夢は二重の怨嗟となって、《セゲル・スヴェアボルグ》(豪放磊落・f00533)の精神を苛む。

 この惨状は兵のせいでも、家臣のせいでも、ましてや『あいつ』のせいでもない。
 ――ただ単に、あの場に【自分】がいなかっただけ。

 ただでなくとも不安定だったセゲルの精神が、混濁を始める。

 ……【あいつ】? 【あいつ】とは誰だ?
 【あいつ】は『俺』? 違う、【俺】は【あいつ】であって、『俺』ではない。
 『あいつ』を生かすために【俺】は死んだ。
 『俺』が生きる残るために【あいつ】を死に至らしめた。

 ならば、今ここにいる《俺》は――誰だ?

 ――否。 

 たとえ《俺》がどちらであろうともやることは変わらない。
 同じ轍を踏まぬよう、《俺達》が前へと立ち、壁となればよい。

 あの場にいなかった【俺】も、
 あの場にいながら何もできなかった『俺』も。
 もはやここにはいないのだから。

 《セゲル》は暗闇目掛けて槍を突き出す。
 応龍槍の切っ先はジャミング装置を確かに捉え、悪夢の世界はガラスのような音を立てて崩壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

アストリーゼ・レギンレイヴ
広がるのは一面の赤
倒れているのは昨日まで共に食卓を囲んでいた仲間たち
それがあの日の光景と、理解するに時間は要さない

だから、この足の向く先に何があるかも知っている
「わたし」が守れなかったもの――

――誰よりも敬愛した主君が、目の前に立っている
空の眼窩に光は宿らない
死したあのひとは、その死さえも踏みにじられ、弄ばれた
意思なき屍者と化したそれを屠った感触が手に甦る

嗚呼、
だけれど、

足は止めないわ
目も背けない

右の眼窩を埋める義眼を触れる
今更、過去の幻になど怯むものか
本当の「あのひと」は此処に、今も共に在るのだから

再びそれを斬り伏せよというならそうしましょう
……この程度で、あたしを止められると思わないで




 広がるのは一面の赤。
 倒れているのは昨日まで共に食卓を囲んでいた仲間たち。

(ああ、これは――)

 アストリーゼ・レギンレイヴ(Lunatic Silver・f00658)がそれをあの日の光景と理解するまで、さほどの時間を要さなかった。

 だから、この足の向く先に何があるかも知っている。
 『わたし』が守れなかったもの。

 ――誰よりも敬愛した主君が、目の前に立っている。
 空の眼窩に光は宿らない。
 死したあのひとは、その死さえも踏みにじられ、弄ばれた。
 意思なき屍者と化したそれを屠った感触が手に甦る。

「――ッ、」
 震える手を無理矢理抑えつけて、剣を強く握りしめる。
 足は止めないわ。目も背けない。

 右の眼窩を埋める義眼を触れる。
 今更、過去の幻になど怯むものか。

 本当の『あのひと』は此処に、今も共に在るのだから――。






『――リーゼ、……アストリーゼ』

 何処からか、私を呼ぶ声が聞こえた。
 『わたし』が目を覚ますと、そこには『あの人』と仲間たちの姿があった。
 みんなが『わたし』の様子を見て、笑っている。

「あれ、わたしは……」

『アストリーゼ、きみは悪い夢を見ていたんだよ』

「悪い……夢……?」

 そうだ、私は何だか酷く悲しくて、辛い光景を見せられていた気がする。
 気が付けば汗もびっしょりで、でも夢の内容はよく思い出せない。

『無理に思い出すこともないだろう。さぁ、みんなで食事にしよう』

 そうしてわたしは食卓につく。
 仲間たちと笑い合いながら、他愛のない話をして。
 これが『幸せ』なのだと。そう感じられた。

 嗚呼、

 ――でも違う。

 これはただのまやかしだと、『あのひと』の右眼が教えてくれた。

『どうしたんだよアストリーゼ、暗い顔をして』
 そう言ってあたしの顔を覗き込んできた仲間の首を、あたしは刎ねる。

『アストリーゼ!? きみは一体何を――』
 またひとり、今度は血色の茨で仲間の心臓を串刺しにした。

 ふたり、さんにん、よにん――。
 広がる一面赤の光景。それはあの日の光景と同じ。

 さいごに残る、『あのひと』。

『アストリーゼ――』
「……いつまでも、醒めない夢なら。それも良かったのかも知れない」
 けれど、これは幻。
 今更、過去の幻になど怯むものか。
 本当の『あのひと』は右眼(ここ)に、今も共に在るのだから。
「さようなら、『わたし』」
 せめてあなたは――この夢の中で、幸せに。
 アストリーゼはその大剣で、主君の幻影を切り捨てた。

「……この程度で、あたしを止められると思わないで」
 アストリーゼは悪夢を脱し、任務を終えるべく歩き出した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ユーノ・エスメラルダ
●もう1人のユーノ
覚えてる?何も知らないまま、助けを求める人たちに無責任な言葉をかけてきたよね。自分の生まれや本当の名前すら知らないくせに。
半分の人はそのまま無理を続けて亡くなったね。残りの更に半分は疲労や病気で倒れたね。
思い出した?自分の無責任な言葉で沢山の人が苦しんだの。
薄々気付いてたよね?自分が言葉で沢山の人を殺した悪魔だって。
きっとお家を出た後はお家の人たちも殺されているわ。
みーんなあなたが殺したの。

ユーノは罪深いです、償っても償いきれません…。
でもあのままあそこに居たら何も変わらないと思ったの。
だからユーノは、今ここにいるんだよ。
そうです…ユーノは罪の数だけ進む義務があります!




『ねぇユーノ、覚えてる?』
 そうユーノ・エスメラルダ(深窓のお日様・f10751)に語り掛けるのは、もうひとりのユーノ。

『あなたってさ、何も知らないまま、助けを求める人たちに無責任な言葉をかけてきたよね』

 その通りです。ユーノはあそこで、沢山の人々に励ましの声を掛け続けました。
 皆さん元気になって欲しかったから。笑顔になって欲しかったから。

『自分の生まれや本当の名前すら知らないくせに。保証もないのによく“大丈夫”なんて言えるわよね』

 ごめんなさい……。
 でもユーノは、少しでも力になりたくて!
 ユーノにできることと言えば、お話を聞いたりだとか、治療をするくらいで――

『治療? ふふ、あなたが生き永らえさせた人の半分はそのまま無理を続けて亡くなったね。残りの更に半分は疲労や病気で倒れたね。死を先送りにして、余計に苦しめて。それで誰かを救った気になってるなんて、恥知らずもいいところだわ』

 それは……。
 その通り、なのかも知れないです。

『思い出した?自分の無責任な言葉で沢山の人が苦しんだの』

 はい……。

『薄々気付いてたよね? 自分が言葉で沢山の人を殺した悪魔だって。きっとお家を出た後はお家の人たちも殺されているわ』

 そんな……!
 でも、ユーノは――

『“でも”? 人殺しの分際で言い訳までするつもり? みんな死んだわ。これからもたくさん死ぬ。あなたの無責任な救いを真に受けて、裏切られて、死んでいくの』

 ――偽善者!

 ――人殺し!

 もうひとりのユーノは、ユーノを容赦なく責め立てる。

「そう、ですね。ユーノは罪深いです、償っても償いきれません……」
『ようやく分かった?』

「でも、あのままあそこに居たら何も変わらないと思ったの」
『逃げただけの癖に? 今も変わらず、無責任な言葉をあちこち投げ掛けている癖に?』
「違うよ。逃げたんじゃない。ユーノは変わりたかったから、今ここにいるんだよ」

 無責任に言葉を掛けるだけじゃなくて。
 ちゃんと自分の目で見て、考えて。
 やれる事を精一杯頑張って、少しでも笑顔の人が増えるように。

「だからね、ユーノ。あなたはわたし、わたしはあなた! ユーノはユーノが犯した罪の数だけ、前に進む義務があります!」

 ユーノはにこりと笑いながら、もうひとりのユーノの手を取って。
 ユーノの放つ眩い光が、悪夢の世界を打ち払う。

「ひよこさん、やっちゃってください!!」
 現実世界へと回帰したユーノ。
 ユーノの召喚した巨大なヒヨコが、ドクター・オロチのジャミング装置を破壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
18世紀後半に陥れられ魔女狩りで追われた貴族の兄が護った妹
何人目かの所有者かは忘れたがその人の指の上で俺は人生を見続けた
結婚し子を為し…幸せと呼べる様になった時を見守り続ける事が出来ると思っていた
…孫があの人の兄が恥だと、あの人迄責め嬲り初める迄は

傷つき涙するあの人に何もできぬ自分が…あの人が死した後、あの孫に引き取られた時の絶望が
暗い箱の中、時の感覚もなく長い間ただ在るしかなかったあの時間が
そしてその時間の中、幸せになってほしいと。心の底から思った人間の孫だというのに憎いと思ってしまう己の心が、恐ろしくて堪らない

だが。奇しくも肉を得た
もう見る事しか出来ぬ俺ではない
そう、恐れる事などもう、ない




 UDCアース18世紀後半、魔女狩りの時代。
 他者に陥れられ、魔女の烙印を押され終われるある貴族の兄妹が居た。
 兄は自身が魔女であると告白し、妹(あのひと)を護った。

 何人目の所有者となるだろうか。
 あの人の指の上で光る蒼玉の指輪――それこそが俺、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の受肉する前の姿だ。

 あの人は伴侶を得て、子を為し。
 悲劇に見舞われたあの人も、ようやく人並みの幸せと呼べるものを手に入れることができた。
 そしてその姿を見守り続けることが、指輪にとっての幸せでもあった。

 だがその幸せは、ある日脆くも崩れ去った。
 あの人の孫が、あの人の兄――魔女の存在が一族の恥だと、あの人迄責め嬲りはじめた為だ。

 俺はあまりに無力だった。
 あの人の嬲られる姿を、その手の上で見ているしかできぬ。
 守ることは愚か、傷つき涙するあの人の涙を拭うことすらできぬ。

 そしてあの人は死んだ。

 想像できるだろうか?
 あの人が死した後、あの孫によって引き取られた時の俺の絶望が。
 暗い箱の中、時の感覚もなく長い間ただ在るしかなかったあの時間が。

 本当に恐ろしいのは、己の心だ。

 俺はあの孫を憎いと思った。
 幸せになってほしいと――、心の底から思ったあの人の孫だというのに、憎いと思ってしまう己の心が、恐ろしくて堪らない。

 だが。奇しくも肉を得た。
 もう見る事しか出来ぬ俺ではない。
 そう、恐れる事などもう、ない。

 ――俺の目の前には、あの孫が居た。
 あの孫は俺の手を取り、自らの首に手を掛けさせる。

 さぁ殺せ。憎いのだろう?
 肉を得たのだ。力を得たのだ。恐れる必要など何も無い。
 今こそあの人の無念を張らせ。
 その行ないこそが正義だと。

「――――」
 ザッフィーロは黙って首を振り、その手を離す。
 気付いたのだ。
 目の前に居るのはあの孫ではない。それはザッフィーロ自身の闇。
「俺は――お前を赦す。赦してみせる。きっとあの人とて、このような憎しみの連鎖は望んでおらんだろう」
 そう言ってザッフィーロは目の前の孫――否、ザッフィーロ自身の頭に手をかざした。
 ザッフィーロの罪と穢れは、ザッフィーロの中へと吸い込まれ、戻っていく。

「赦しを求めぬ者には何も出来ぬ――、か」

 まさか己の告解を、己でする事になろうとは。
 罪に向き合うこと。生きる限り纏わり積もる人の子の穢れ。
 そこに人とヤドリガミ――何の違いも有りはしない。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス
アドリブ◎

白銀の鎖と鳥籠
またかと舌打ちする

当然といえば当然だ
自分の悪夢なんざこの記憶の中にしかない
何の事もなく鎖を引きちぎろうとし
瞬間格子の向こうに転がるソレを見た

自分に似た黒髪の
母の首
思わず叫び
手を伸ばす
鎖が邪魔で届かない
ああ、これは
囚われた最初の記憶だ

『その目だ。嗚呼…その声だ。美しい』
低い声と共に腕をとられ引き寄せられる
吸血鬼が顔を覗きこむ
『歌え。囀ずれ。美しい鳥の様に。お前が私を楽しませるうちは…、お前の住んでいた街を滅ぼさずにおいてやろう』

過去の再現に血が沸騰した
【望みを叶える呪い歌】を歌い過去に
ジャミング装置に剣を突き立てる
悪いがな…《悪夢》その中で育ててきたのは絶望じゃねえ
殺意だ




「ハッ、またかよ」
 あまりのパターンの無さに、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は舌打ちをする。

 白銀の鎖と鳥籠の世界。
 当然といえば当然だ。俺の悪夢なんざこの記憶以外にあり得ないのだから。

 俺は鳥籠の中の鳥となり、身体は鎖で繋がれている。
 鎖を引きちぎろうとしたが、ビクともしない。

 そして視界に入る、格子の向こうに転がる何か。
 それは自分に似た黒髪の女性――母の首。

「アアアアアアアアアアアアああああァッッ!!」

 鎖を軋ませながら、俺は叫ぶ。
 怒りで。憎しみで。絶対に許してやるものかと、ヤツを睨む。

『その目だ。嗚呼……その声だ。美しい』
 低い声と共に腕をとられ引き寄せられる。
 ヤツはその赤い双眸で俺の顔を覗き込むと、満足そうに嗤った。

『歌え。囀ずれ。美しい鳥の様に。お前が私を楽しませるうちは……、お前の住んでいた街を滅ぼさずにおいてやろう』
「ッッのぉアアアアアアアッッッ!!!」

 その時、俺の中で何かが弾けた。

 過去の再現に血が沸騰する。
 そう、何度だって同じだ。
 望みの通り聴かせてやる。お前を殺す、呪いの歌を。

「――――、――――」
 美しくも激しく、憎しみの中に悲しみの入り交じる旋律。
 失われた、もう還らぬ命への深い悲しみ。
 奪った者に対する怒り、憎しみ、殺意。
 その歌声は、俺の“根源”の魔力を呼び起こす。
『素晴らしい……想像以上だ。やはり私の目に、耳に、狂いはなかった……!』
 歌声を聴いたヤツの、吸血鬼の顔は歓喜に満ちている。
 だが、そんな余裕こいてられんのも今のうちだ。

「悪いがな、俺がこの籠で……《悪夢》の中で育ててきたのは絶望じゃねえ。 ――殺意だ!!」

 鳥籠がひしゃげる。俺は今度こそ鎖を引きちぎると、その手に純白の剣を握った。
 もはや悪夢は醒めている。俺は過去の俺でなく、猟兵としての俺で。
 ヤツはヤツであると同時に、ドクター・オロチのジャミング装置。

「『歌声に応えろ、力を貸せッ! 俺の望みのままに――ッッ』!!」
 真っ直ぐに振り下ろした斬撃。
 それはヤツの悪趣味な笑顔と、悪趣味なデザインのジャミング装置――それらをまとめて真っ二つへと斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢上・裕一郎
「…全く、なんて悪趣味な装置だ」
メガネをスッと上げなおして呟く

かつて裕一郎は幾度も悲しみを終わらせるための戦いを繰り広げた
人々を大勢救ってきた、それと同時に救えなかった命も沢山あった
千を救うために一を見殺すこともあった
裕一郎は決して忘れはしない、救えなかった者たちのことを
忘れ去ってしまいたいトラウマとしてではなく、彼を突き動かす原動力として
今度こそはすべてを救える本当の“ヒーロー”になるために

拳を硬く握り締め、≪光輝纏いし青き拳≫を使用
装置に叩きつける




「……全く、なんて悪趣味な装置だ」
 矢上・裕一郎(死神・f04178)はメガネをスッと上げなおして呟く。

 裕一郎が歩くのは、かつての戦場。
 裕一郎は幾度も悲しみを終わらせるための戦いを繰り広げた。
 人々を大勢救ってきた、それと同時に救えなかった命も沢山あった。
 千を救うために一を見殺すこともあった。

「ねぇおじちゃん。どうしてわたしのことは助けてくれなかったの?」
 ぬいぐるみを持った少女。その顔はドロドロと溶けだし、顔面は焼け爛れ恨めしそうな目で裕一郎に縋る。
「熱づい!!! あづいよぉおおおアアアア!! どうじて!? みんなは助かって、わだしはァアアア!!」
「…………」
 裕一郎は顔を顰めるでもなく、ただ黙して歩き続ける。

「アンタがもっと早く助けに来てくれたら……俺は死ぬ事なんてなかったんだ」
「…………」
「どうして私を見殺しにしたの!? 私が死ぬ理由なんてあった!?」
「…………」
「嘘つき。絶対に助けるって言った癖に」
「…………」

 それはどれも、裕一郎にとって見覚えのある顔だった。
 決して忘れはしない、救えなかった者たちの顔。

(忘れるものか。彼らの痛みを。彼らの苦しみを。救えなかった俺自身の不甲斐なさを)

 裕一郎にとって、《悪夢》はむしろ有り難い。
 救えなかった苦しみを、悲しみを、再び呼び起こしてくれるのだから。
 裕一郎は迷わず、一歩一歩。そのトラウマを踏みしめる。

「じゃあさ、僕らの事も救ってくれるの?」
 ジャミング装置の上に座って、裕一郎を見る少年。
 それもまた、裕一郎が救えなかった者のひとり。
「僕らの魂は骸の海へと還って、そして再びこうして染み出てきたとしてさ。オブリビオンになった僕らでも、おじさんは救えるの?」
「無論、救ってみせる」
 裕一郎は即答した。それが彼の覚悟なればこそ。

「俺はすべての悲しみを払う。ハッピーエンド以外、決して認めない。だから待っていろ! 生者だろうと亡霊だろうとオブリビオンだろうと、俺がまとめて救ってみせる!」
 裕一郎は拳を硬く握り締めた。その拳は、青き燐光を纏う。

「今度こそはすべてを救える本当の“ヒーロー”になるために! 完成せよ、"光輝纏いし青き拳"ッッ!!」
 裕一郎の放った超高速の光の拳が、装置を粉々に粉砕した。

成功 🔵​🔵​🔴​

明智・珠稀
😘

己の傷痕…
私の身体に傷痕はありませんよ見ますか…!?



私の記憶は、薔薇園から始まる
気付けば私は薔薇園にいた
眼前に広がる美しい青薔薇

己の名前しか分からぬ私
上品なマダムが見つけ…笑みを見せた

ダークセイヴァーの貧しい村
だが薔薇を育てるマダムは私に優しく接してくれた
私はマダムと共に薔薇を育てた

ある日
薔薇園が燃やされた。

出で立ちと不明な素性から
村長が私を悪魔と決めつけ、私が薔薇園にいる際に火を放った

マダムは私を助けるため薔薇園へ入り
私を庇い還らぬ人となった

マダムは最後まで微笑んでくれた
私が無事でよかった、と



私は
あの世界を助け
自分が悪魔でないことを証明したい

目の前の炎を斬るように、妖刀で装置を壊す




「己の傷痕……私の身体に傷痕はありませんよ見ますか!?」
「いや、結構だ」
 丁重なお断りを受けながら、明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)は戦場へと向かう。
「ふふ、トラウマですか。はて、私にそのようなものがあったでしょうか?」
 そう言って珠稀は悪夢の領域へと潜っていった。


 私には記憶の欠落がある。
 気付けば私は薔薇園にいた。眼前に広がるのは、美しい青薔薇。
 私に残された記憶は『明智・珠稀』という、己の名前のみ。
 そんな私を見つけたのは、その薔薇園を管理する上品なマダムだった。

 ダークセイヴァーの貧しい村。
 だが薔薇を育てるマダムは見ず知らずの私に優しく接してくれた。
 私はマダムの優しさに感謝し、マダムと共に薔薇を育てた。

 記憶は相変わらず戻らぬものの、穏やかで優しい日々。
 だがそんな日々も、長くは続かなかった。

 炎に包まれる薔薇園。
 火を放ったのはこの村の村長。
 出で立ちと不明な素性から、村長は私を悪魔と決めつけ、私が薔薇園に居る時を狙い火を放ったのだ。

 炎に囲まれ、意識も朦朧とする私を救ったのは……またしても、マダムだった。
「タマキちゃん……! もう少し、もう少しよ! 頑張って耐えて、ね!」
 マダムは私の口元にハンカチをあて、炎に包まれる中、私を肩で担いで出口を目指す。
 マダムは特別体力がある訳でもないのに。
 それでも苦しそうな顔など決して見せずに。

「見えたわ、出口よ――!」
 薔薇園から出たところで、マダムは即座に倒れ伏した。
「マダム……? マダム!!」
「無事で良かったわ、タマキちゃん。……そんな顔しちゃダメ、せっかくの可愛いお顔が台無しよ」
「あう、あ……」
「ふふ、私もね……ずっとひとりぼっちだったから。タマキちゃんと過ごした日々、とっても楽しかった」
 マダムの顔からどんどん生気が失われていくのが分かった。
 だけど私は、それを黙って見ている事しかできずに。
「悪魔だなんて、酷いわね。タマキちゃんは――そう、天使。きっと天使さまなんだわ」
「てん、し……?」
「ええ、そうよ。もう一度お顔を見せてちょうだい、私の天使さま。あれ、おかしいわね……なんだかお顔が見え、ない……」
「あ、ああ……ああああああああああっっ!!」
 そのまま言葉を最後まで言い終えることはなく。
 マダムは優しく微笑んで、私の目の前でそのまま息を引き取った。

「…………」
 珠稀は己のトラウマと向き合ったまま、黙し続ける。

 私は証明したい。
 マダムの言葉が正しかったことを。
 あの世界を救い、私が悪魔ではなく――天使であったことを証明する。

 珠稀の瞳が真紅の瞳――ヴァンパイアの瞳へと変化する。
 ただしその背中から生えるのは悪魔の翼などではなく、純白の天使の翼。

「待っていてください、マダム。いつか必ず、貴女の見る目が正しかったことを証明してみせます……ふふ!」
 珠稀の妖刀、閃天紫花が忌まわしき炎を――そして現実世界のジャミング装置を一閃する。

 珠稀は手向けの青薔薇を一輪添えて、グリモアベースへと帰還した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ワン・シャウレン
私というのはハナから潰えた夢だった
私というのはあの人が遺した夢だった

私はあの人の理想を追うのだから、夢を見ていなければならない
私はあの人の願いを叶えるのだから、あの人を理解していなければならない

私が知るあの人はこんな喋り、こんな動き

けれど私はあの人の理想の形ではないのだ
あの人の夢の形は私には見えも届きもしないのだ

私というのはハナから諦められた存在だった
作っただけでここまでと、その先はない

ならば私は…わしは

「詮無いことじゃよな。動く限りは追う夢よ」

克服、とまで言えぬが
騙し騙し付き合うには慣れておるよ
とはいえ見せられる具合は最悪じゃが今回の目的は果たせよう
後は発見して壊せんなんて無様を晒さぬよう




 私というのはハナから潰えた夢だった。
 私というのはあの人が遺した夢だった。

 『潰夢遺夢』――夢が夢を見せられるとは、皮肉なものだ。

 私はあの人の理想を追うのだから、夢を見ていなければならない。
 私はあの人の願いを叶えるのだから、あの人を理解していなければならない。

 故にワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)は模倣した。
 私が知るあの人はこんな喋り、こんな動き。

 けれど私はあの人の理想の形ではないのだ。
 模倣は模倣。人形は人形。
 あの人の夢の形は私には見えも届きもしないのだ。

 私というのはハナから諦められた存在だった。
 作っただけでここまでと、その先はない。

『じゃからお主は不要な存在。誰からも必要とされぬ存在に何の意味がある?』
『あの人はお主に夢を見た。されど、どうあろうともお主はお主、あの人ではない。きっとあの人は、お主を見て絶望しておったよ。あの人の夢を真の意味で潰したのは、他ならぬお主自身じゃろうて』

 ならば私は……わしは、どうすればいい?

『どうもこうもなかろうて。まさにお主が悪夢よな。夢から醒めよ。いつまでこんな茶番を続けておるのじゃ』

 本当にそうなのだろうか。わしは、あの人にとっての。

「……いや、詮無いことじゃよな。動く限りは追う夢よ」
 克服――とまで言えぬが、騙し騙し付き合うには慣れておるよ。
 とはいえ見せられる具合は最悪じゃが、今回の目的は果たせよう。

 今更あの人の真意などはかりようがない。
 じゃが遺された夢なれば。未だ醒めやらぬ夢なれば。
 わしという名の夢の形は、未だ定まってはおらぬということ。

「これじゃな」
 ワンはドクター・オロチのジャミング装置を発見する。
「これで壊せぬ……などと言った無様を晒してしまっては堪らぬからな。――行こうぞ!」
 ワンは流れるような連撃をジャミング装置へと叩き込む。
 果たしてこのような技、あの人の理想に相応しいのか否か。

「終わり良ければ全て良し、じゃな」
 未だ発展途上の身。
 ワンはまだ見ぬ夢の涯を目指し、また一歩、歩みを進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クラリス・ノワール
😘
子供の頃、普通から外れた事をした時に暗い部屋に閉じ込められた事。
言葉にすればちっぽけなのです。
でも、黒しかないクラリスでは暗闇と同化して消えてしまうんじゃ、と怯えていたのですよ…。
許されて外へ出られるまでずっと、楽しい事を想像してやり過ごしていたのです。

あの頃は楽しい事を描くのも心の中でしかできなかった。
でも今は、色とりどりの本物の絵を描く事ができるのです!
暗闇を塗り替え外へ出る扉を描いて、自分の足で外へ飛び出すのです!
もうクラリスは閉じ込められて怯えるだけの子供じゃないのですから!

我に返ったらUCで自分を奮い立たせます。
猟兵は過去になんて負けません。
ジャミング装置をぶち壊してやるのです!




「ふぁ……真っ暗です!!」
 突然遅いくる暗闇の世界に、焦燥するクラリス・ノワール(ブラックタールのゴッドペインター・f07934)。
 彼女のトラウマは『真っ暗な部屋』だった。

 他人からすれば「そんなただのよくあるオシオキでしょ?」と思うかも知れない。
 言葉にすればちっぽけなもの。
 けど、クラリスにとっては恐ろしかった。
 クラリスの身体は真っ黒だから。自分の身体がこの闇に溶けて、この世から消えてしまうんじゃないかって。

「出して! ごめんなさい、ごめんなさい……! 反省、してるから……ぐすっ、うえぇええーーん!!」
 泣きぐずるクラリス。けれどその声に答える者は誰も居ない。
 それどころか、何処に手を伸ばしても何も感覚がない。
 壁にもさわれない。地面だってあやふや。

 暗闇に囲まれた空間――否、自分は既に、暗闇に溶けてしまったのかも知れない。

「そんな、やだ、やだよぅ……楽しいこと。楽しいことを考えるです!」
 クラリスは頭の中で思い描いた。
 こんな黒一色じゃなく、色とりどりの世界を。

 どうせなら世界だけじゃなく、自分だって!
 綺麗なお洋服だとか、可愛いリボンだとか。
 髪の毛だってキレイに染めて、爪だってオシャレにマニキュアするです!

「そうです。あの頃は楽しい事を描くのも心の中でしかできなかった――でも今は、色とりどりの本物の絵を描く事ができるのです!」

 クラリスはもう、泣きじゃくる事しかできなかった頃のクラリスとは違うのです!

 まずは水色で綺麗なお空を。
 橙色で、真っ赤なお日さま。
 地面にはお花をたっくさん咲かせて。
 鳥さんも動物さんも! もうクラリスはひとりじゃないです!

 そして最後に、外に出るための扉も描くです!

「ただいまです!」
 ガチャ、と扉を開けて戻ってきたのは現実世界。
 そして目の前に浮かぶドクター・オロチのジャミング装置は、脳みそにアンテナを突き刺したようなグロテスクな形を見せながらそこに漂っていた。

「ぴゃっ!? かわいくないのです! 怖いのです!」
 見慣れぬ異形に驚きながらも、クラリスは自分を奮い立たせる。
「ええっと……おリボン付けて、ウサギさんの顔を付けて。よし、これで怖くないのです!」
 お色直しが終わったなら、あとは壊すだけ。

「猟兵は過去になんて負けません。ジャミング装置なんて、ぶち壊してやるのです!」
 クラリスはペイントブキを大きく振りかぶると、ジャミング装置に向けて力いっぱい振り下ろした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ポケッティ・パフカニアン
ふーん、トラウマねぇ?
あたし、そーいうのってよくわかんないんだけどー…
てゆーか、パーフェクトフェアリーなあたしに、弱点なんか無いし?トラウマも無いない!

●SPD
まぁ、トラウマが無いとお目当ての機械が見つかんないらしいんだけどー…
って、そんな事言われてもねぇ?無いものは無いん…

…ん?なんか今ガサガサって…


黒いアレ。
視界を埋め尽くすほどのアレ。
屋根裏での、記憶。
要するに大量のGに襲われた話。


あぁぁぁぁぁの時かぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!!
時翔る足音ッ!全量で逃げ
あーっ!!!時間を引き伸ばしたせいで余計に長々と目に入るぅぅぅ!
ちくしょー、Gなんかもう魔法で吹っ飛ばせるんだから!ナメないでよね!!!




「ふーん、トラウマねぇ? あたし、そーいうのってよくわかんないんだけどー……てゆーか、パーフェクトフェアリーなあたしに、弱点なんか無いし? トラウマも無いない!」
 まぁ見てなさいよ、万が一にもあたしがトラウマなんかに負けたりしたら、ええっとどうしよ……何でも言うこと聞いてあげていいわよ!

 ポケッティ・パフカニアン(宝石喰い・f00314)は盛大にフラグを立てたまま、ジャミング装置破壊に向けて、悪夢の世界へと飛び込んだ。


「まぁ、トラウマが無いとお目当ての機械が見つかんないらしいんだけどー……って、そんな事言われてもねぇ? 無いものは無いん(カサカサ)――うん?」

 カサカサ……

「あ……え、あ……」

 ポケッティの目の前に現れたのは、視界を埋め尽くすほどのゴキブリの群れ。
 ここにきて、ポケッティはひとつのトラウマに心当たりを思い出す。
 屋根裏での記憶。
 己の身体の3分の1程度はあろうかという、大量のGとの遭遇。

 カサカサ……(マタアエタネ!)

「あぁぁぁぁぁの時のぉぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!!」

 慌てたポケッティは、ユーベルコード『時翔る足音』を使用した。
 それは《時間系魔法を使い、時間を引き伸ばす事で、】対象の攻撃を予想し、回避する》ユーベルコード。

「よし、これで全力で逃げ――」

 カサ……
   カサ……

「あーっ!!! 時間を引き伸ばしたせいで余計に長々と目に入るぅぅぅ! 何が『この一瞬は、あたしの時間!』よ! こんな時間、一瞬たりとも要らないっての!!」
 しかしゴキブリの動きが鈍っている事には違いない。
「ちくしょー、Gなんかもう魔法で吹っ飛ばせるんだから! ナメないでよね!!!」
 ポケッティは懐から『運命の書』を取り出して、呪文を詠唱。猟兵はつよい。頭が多少弱くたって、プレイングに書けば魔法は使える!

 ――ポスン。

「え、え??? なんで?????」

 ここは悪夢の世界。
 トラウマを刺激する夢の世界。
 そこで必ずしもポケッティの思い通りに、力を奮えるとは限らない。

 カサカサ……
  カサカサ……
   カサカサ……

「え、嘘……やめ……え、や……冗談でしょ????」

      カサカサ……
   カサカサ…… カサカサ……
  カサカサ…… 🧚 カサカサ…… 
   カサカサ……  カサカサ……
      カサカサ……

「やぁああああああ!! いやあああああああ! 帰して!! ギドォ! ギブ!! ギブギブ!!! 強制帰還!! 無理ィ!! あああああああ、ああああああああああッッッ!! ああああああ!!!」

 ポケッティ・パフカニアンは、該当宙域にて――その消息を絶った。

失敗 🔴​🔴​🔴​

蓮花寺・ねも
滅ぶ世界には、希望が必要だった。
希望を運ぶ舟が入り用だった。
ぼくは、その為に。その為だけに。

沢山の死を見てきた。
沢山の想いを託されてきた。
ひとの死は綺麗なばかりではない。
刻まれる傷跡は生の証だ。
浴びせられる言葉は胸に刺さる。
何をされても翌日には初期化される、褪せないひかり。
死から遠い「かみさま」は、ひとの業を晴らす為に在る。

――嗚呼、でも。
それでも、ひとの死は汚いばかりではないんだ。

ぼくはそれを憶えている。
善悪じゃない。生きる意味などなくても。ひとの生には、価値がある。
ぼくはそれを知っている。
存在意義を過去に否定させてなどやるものか。
正しく受け渡すまでは滅びない。

今度はお前が、砕けて墜ちろ。

%




 滅ぶ世界には、希望が必要だった。
 希望を運ぶ舟が入り用だった。
 ぼくは、その為に。その為だけに。


 蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)は、「かみさま」だった。
 そこに居たのはひとりの聖者。ひかり。

 繰り返し、繰り返し。
 笑顔で迎え、送り続けた。

 沢山の死を見てきた。
 沢山の想いを託されてきた。
 ひとの死は綺麗なばかりではない。
 刻まれる傷跡は生の証だ。
 浴びせられる言葉は胸に刺さる。
 何をされても翌日には初期化される、褪せないひかり。
 死から遠い「かみさま」は、ひとの業を晴らす為に在る。

 ――嗚呼、でも。
 それでも、ひとの死は汚いばかりではないんだ。

 ぼくはそれを憶えている。
 善悪じゃない。生きる意味などなくても。ひとの生には、価値がある。
 ぼくはそれを知っている。
 存在意義を過去に否定させてなどやるものか。
 託されたものを、正しく受け渡すまでは滅びない。

 どこからも遠い場所。そこにはだれもいない。
 あの日砕けた夢のかけら、うしなわれた空のいろ。
 それはこの身に宿っている。

 故にぼくは、空を想う。
 いつまでも忘れることなく、想い続ける。
 ぼくに出来る事があるのなら。
 ぼくの生にも、価値があるなら。

 ぼんやりと浮かび上がるのは畏怖の象徴。
 そこが恐らく現実におけるジャミング装置の在り処であると、ねもは感じ取る。

「今度はお前が、砕けて墜ちろ」

 ねもはその背中に静かに指を向けて。
 降り注いだあの日の残骸が、ジャミング装置を破壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルベル・ノウフィル
1人で立ち向かうのだという
仲間の救援がないのだという
それは、何の問題にもならない

人狼は孤独を知っている

過去/
人狼は過去、主人に傅いていた
守護者である人狼は主人に言いつけられて身辺の警護をしていた
しかし、人狼は幼く友が欲しかった
ある時友ができた
しかし、友は主人を殺すため人狼を謀り近づいていた吸血鬼だった
トラウマは、仕えていた主が吸血鬼に殺される場面
彼の目の前で友は嘲笑うように主人の死体を弄び
彼は友と主人を失い、――否、友は最初からいなかったのだ

「僕は、怯まない」

戦うこと

もはや、それだけが生きる理由であった
ゆえに過去に心揺れても足は止めない
僕が止まるのは命尽きた時のみ

墨染にて捨て身の一撃を叩きこむ




 ひとりで立ち向かうのだという。
 仲間の救援がないのだという。
 それは、何の問題にもならない。

 人狼(ぼく)は孤独を知っている。


 その人狼は過去、主人に傅いていた。
 守護者である人狼は主人に言いつけられて身辺の警護をしていた。
 しかし人狼はまだ年相応に幼く、友の存在を欲した。
 そしてある時、ようやく人狼にも友ができた。
 人狼は初めての友に喜んだ。一緒に喋ったり、遊んだり。
 幸せと言っていい時間が過ぎていく。

 しかし。
 初めての友の正体は、主人を殺すため人狼を謀り近づいていた吸血鬼だった。

 仕えていた主が、友の手により殺された。
 人狼の目の前で友は嘲笑うように主人の死体を弄んでいた。
 彼は友と主人を失い、――否、友は最初からいなかったのだ。

「あ、う……ああっ、あああ……」
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は力なくその場に膝をつく。
 主人と友、そのふたつを同時に喪った深い悲しみが彼を襲った。
 だが、それ以上に――ルベルは怖かった。
 自分は守護者である筈なのに。
 守るべき主人を殺され、その仇が目の間に居るのに。
 ただ恐怖で足が竦んで、動かない。

 ――このままでは、いけないのでございます。

 変わらなきゃいけない。もう昔とは違う。
 猟兵として、仲間と共に戦ってきた。
 恐ろしい敵に恐怖し、尻尾を丸めたこともあった。
 土下座したこともあった。仲間を庇って大怪我をしたこともあった。

 それらの経験は、今のルベルを支える礎となる。

「――僕は、怯まない」

 戦うこと。
 もはや、それだけが生きる理由であった。
 ゆえに過去に心揺れても、もう足は止めない。
 僕が止まるのは命尽きた時のみ。

 亡きあるじの編んだ人狼装束。
 その抑えられていた暴性を、今ここに解き放つ。
 そこに居るのは臆病で寂しがり屋のワンコではなく、黒風を纏うひとりの守護者。
 ルベルは墨染を抜き放ち、赤い双眸で吸血鬼を見据える。

 ルベルの放った捨て身の斬撃が、吸血鬼の胴を一閃のもとに斬り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月13日


挿絵イラスト