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さくらとかぼちゃシーツ

#サクラミラージュ #お祭り2021 #ハロウィン

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#サクラミラージュ
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#お祭り2021
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#ハロウィン


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●さくらとかぼちゃシーツ
 いつだって幻朧桜の薄紅に彩られている帝都の景色は、今夜ばかりは少し違っていた。洒落たモダンな街並みには、あちこちに南瓜が飾られ、やわらかなランタンの明かりがぽやぽやと色づいている。
 オレンジのどこかあたたかい色彩に満ちた桜の夜を、住民達が思い思いの仮装に身を包んで闊歩していた。

 ふわり、ふわりと。
 半透明の、ましろいシーツの裾がなびいている。ころんとかわいい南瓜頭がのっかって、かわいい仮装のこどもが居るとおとな達は微笑む。

「おや、キミ。とても素敵な仮装だね」

 シーツお化けは、どこか不安そうにしていたから。突然老紳士に話しかけられて、びくりと肩を跳ねさせてしまう。

「怖がらなくていいさ。さ、こんな時の合言葉は?」

 不思議そうに小首を傾げるお化けに、紳士は合言葉を教えて。甘いビスケットの入った袋を握らせると、再びハロウィンの夜へと消えていく。
 取り残されたシーツお化けは、ぽつりと教わった言葉をつぶやいた。

「……とりっくおあ、とりーと」

 ふわり、ふわりと。
 かぼちゃシーツに桜の花弁が降る。

●ちいさなおばけとハロウィンを
「皆さん、ハッピーハロウィンです」
 雅楽の童舞、胡蝶の衣装に身を包んだ鎹・たから(雪氣硝・f01148)が、いつもの無表情で猟兵達を出迎える。
「様々な世界でハロウィンのお祭が開かれていますが、サクラミラージュでもハロウィンのお祭が開かれています。今回皆さんにお願いしたいのは、ハロウィンに惹かれて現れた影朧の転生のお手伝いなのです」
 そう語った少女の背後、グリモアベースの光景はあたたかな橙色に染まる帝都の夜が現れる。
「人々が仮装をしたり、南瓜を飾ってお菓子や料理を楽しんでいる賑やかさにつられたようで、かよわいこどもの影朧が、南瓜に宿って現れています」
 ちいさな彼らは本当に弱く、ユーベルコードを使えば一撃だ。けれど、羅刹の娘は首を横に振る。
「折角のハロウィンです。例え影朧でも、主役はこども達のはずです。思いっきりハロウィンを一緒に楽しむことで、影朧を転生に導いてあげてほしいのです」
 影朧の出現が予知された場所へ赴き、影朧を誘ってハロウィンを楽しむ。そうすることで、幻朧桜の花弁に導かれて無事に転生するという。
「皆さんが仮装をしていれば、彼らは警戒心を解いてくれやすくなります。お菓子をあげたり、一緒に街を散歩したり、交流の方法はお任せします」
 しゃらんと音を鳴らして、少女は説明を続ける。
「皆さんと出会う影朧は、南瓜頭に白いシーツをまとった格好をしています。皆ひとりで不安そうにしていますから、すぐに見つけられるでしょう」
 ほんのひと時のことだけれど、かぼちゃシーツのお化け達に生まれ変わるための希望を与えてあげてほしい。
「どうか、彼らに楽しい思い出をつくってあげてください」
 グリモアが展開されて、雪の結晶がきらきらと瞬く。秋の深まる橙の宵闇が、見える。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 影朧とハロウィンを楽しんで、転生へ導く。

●影朧
 南瓜頭にシーツを纏ったこどもの影朧達です。
 お一人またはお一組様につき、1章と2章通して一人の影朧と交流できます。

●1章「あなたのことを教えて」
 影朧との邂逅の場面がメイン。

●2章「いずれまたどこかで」
 影朧の転生を見送る場面がメイン。

 ※両章共に、ハロウィンを楽しむシーンの配分はご自由に。
 邂逅と見送りを減らして両方に盛っても構いません。

●仮装
 どんな仮装姿か、指定をお願いします。お任せも可&NGがあればそちらも。

 合わせでご参加の場合は2名様まで。
 呼び名とIDの記載、または合言葉や絵文字の記入をお願いします。

 単章のみのご参加も歓迎しております。
 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。

 人数次第ではやく受付を締め切る場合もあります。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『あなたのことを教えて』

POW   :    積極的に話しかける。

SPD   :    関心を持たれそうな話題を提供する。

WIZ   :    場を和ませるように、笑顔で接する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シン・クレスケンス
【WIZ】

こどもの影朧ですか。放っておけない気がするのは何故でしょうか。

ノクスを肩に止まらせ、ツキは仔狼程の大きさにして帯同しています。
普段は大きな闇色の狼の姿なので怖がらせてしまいますから。
···本人は不機嫌ですが。
「歩くのが早いんだよ」「抱き上げるな」

彼等と近い白い布を被ったおばけの仮装で。おばけの顔を描いたフード付きの白いマント。フードを目深に被ってもちいさなその子からは表情は見えるでしょう。

優しく声を掛けて、手を引いてのんびりお話しながら街をお散歩しましょう。
お名前を伺っても大丈夫でしょうか?

南瓜やおばけや蝙蝠や黒猫。アイシングクッキーを作ってきたのですが、喜んでくれるでしょうか。



 宵闇に暮れる帝都は、今宵も幻朧桜が舞っている。ちょっぴり違うのは、オレンジの色彩が街を照らしているということ。そして、様々な仮装に身を包んだ人々が楽しげに行き交っていること。
 かわいい顔がついたフード付きの白いマント姿。シーツおばけの青年は、梟を肩に止まらせちいさな狼を連れて歩く。
『歩くのが早いんだよ』
「すみません、つい、いつもの大きさと同じ感覚で。抱っこしましょうか?」
『それ絶対やるなよ。本気で噛むぞ』
 不機嫌そうに文句を言う闇彩の仔狼に、シン・クレスケンスは笑って返す。これから出会うこどもを怖がらせたくはないから、彼にはちいさな姿を取ってもらう。
 青年は、賑やかさに惹きつけられた幼い影朧を、どうしてだか放ってはおけない気がした。それが何故かはわからないけれど。
 暫くゆるやかに街を歩いていると、街角でぽつんと立っているかぼちゃシーツを見つけた。あえておばけが此方の存在に気付くように意識して近付けば、南瓜頭もシン達に視線を向ける。
「こんばんは、ハッピーハロウィン」
 フードを目深に被っていても、ちいさな背丈からは彼の穏やかな表情を覗ける。見上げる南瓜は笑顔が彫り込まれているけれど、当の本人の表情はわからない。
「……こんばんは」
 ぽつりと返した影朧に、にこ、と青年は笑みを返す。
「僕の名前はシン、といいます。あなたのお名前を伺っても大丈夫でしょうか?」
「……わかんない。おぼえてないの」
 戸惑う幼い声色に困ることなく、そうですか、とシンは優しい口調で続ける。ふいに、狼がふわふわの尻尾を影朧に触れさせた。わ、と驚く南瓜頭の周囲を梟が羽ばたいて。
「彼はツキ、こちらはノクスという名前です。よろしければ、僕達と街を散歩しませんか」
「いいの?」
「ええ、あなたと一緒にハロウィンを過ごしたいんです」
 そうだ、と青年がシーツマントの懐から取り出したのは、ラッピングされた愛らしい透明な包み。中身は南瓜やおばけ、蝙蝠に黒猫と、かわいいアイシングクッキーが詰め込んである。
「すごい、これお兄ちゃんがつくったの」
「はい。トリックオアトリート、ですからね。どうぞ貰ってください」
 ありがとう、と南瓜頭が揺れて、シーツおばけ達は手を繋ぐ。ふんわりとあたたかな薄紅と橙の宵闇を歩くその姿は、どこか兄弟のような、親子のような。
「お菓子をもらう時の合言葉は、トリックオアトリートですよ」
「きんちょうするから、お兄ちゃんも一緒に言ってくれる?」
「ふふ、わかりました」
 ほっとした様子で、ちいさな手がシンの掌をきゅっと握る。二人についていく狼と、青年の肩に乗る梟の夜色がいっそう輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風魔・昴
麻生・竜星(f07360)と参加
彼を『竜』と呼んでいる
アドリブ歓迎

竜星の実家が経営する孤児院で色々な立場の子供達と触れ合ってきた
影朧の子供だって楽しいことにワクワクしたいよね?
うん!いいよ。私やこのお兄ちゃんと一緒にいろんな事しよう?

縞模様の猫耳と尻尾、それに近い服を着て竜星と街を歩きます
影朧に出会ったら微笑んで声をかけて
「ハッピーハロウィン!私はスーっていうの。」
ハロウィン用ではないけど、持ってきた小袋に入った金平糖を渡してみる
「これはね、甘いお星さまでできてるんだよ?」
そう言ってふふっと優しい笑顔で

さぁ、今日限定のワクワクを沢山見つけに行こう!


麻生・竜星
風魔・昴(f06477)と参加
彼女を『スー』と呼んでいる
アドリブ歓迎

実家が営む孤児院でもハロウィンは賑やかだった
影朧とは言え子供だ。楽しいことは大好きだと思う
今日は子供のお祭りだからね。俺達と一緒に楽しんでくれたら幸いだ

少しデフォルメしたフランケンの化粧と服装で
どう見ても可愛いフランケン。昴にクスクス笑われて照れながら街を歩きます
影朧に出会ったら優しく微笑んで
「俺は竜。君は一人かな?よかったら俺達と一緒に散歩しないかい?」
金平糖を渡している昴を見ながら、ちょっと違うだろう?と心の中で呟いて
俺からは動物や可愛いお化けのクッキーを

可愛い小さな南瓜頭君と楽しい冒険に出発だ



 幻朧桜が舞う宵闇を、オレンジの灯りがぽやぽやと照らす街並み。沢山の子供達がはしゃぎながら行き交うのを、二人の猟兵がそっと見遣る。
「皆楽しそうね」
 縦縞模様の猫耳と尻尾をつけた風魔・昴が笑んで、兄と慕う青年に言葉を投げかける。ああ、と返した麻生・竜星の見目は、デフォルメしたフランケンシュタインの怪物。化粧と衣装はきちんと整えているものの、ポップさを重視した彼はどう見ても愛らしく、耳と尻尾に合わせたワンピースを着こなす猫娘はくすくすと笑う。
「もしかして似合ってない?」
「まさか! とっても似合ってるし、可愛すぎるくらい」
 褒められているならいいか、と竜星は多少照れたあと、まだ見つけられていない影朧を想う。実家が営む孤児院も、ハロウィンというお祭は賑やかな日のひとつだった。影朧とはいえ、こどもはこども。楽しいことはだいすきだろうから。
 幼馴染と同じように、昴も竜星の実家で様々な立場の子らと触れ合ってきている。それぞれにどんな事情があったって、こども達から楽しみを取り上げたりしたくない。
「影朧のこどもだって、楽しいことにワクワクしたいよね?」
「俺もそう思うよ。……ん?」
 ふと立ち止まった青年に、どうしたの、と娘は問いかけて。その視線の先に居る幼子が理由だとすぐさま理解する。
 駆け抜けていく帝都の少年少女と違って、ぽつんとベンチに座ってぼんやり街の装飾を眺めているかぼちゃ頭のシーツおばけ。あの子が影朧で間違いないだろう。
 急ぐことなくゆっくりと、二人並んでかぼちゃシーツに近付く。先に声をかけたのは、ぴょこっと耳を揺らした猫娘のほうだった。
「ハッピーハロウィン! 私はスーっていうの」
「……はっぴー、はろいん」
 たどたどしく返した影朧に、フランケンも目線を合わせて挨拶を告げる。
「俺は竜。君は一人かな? よかったら、俺達と一緒に散歩しないかい?」
「いっしょに?」
 不思議そうな声は今にも消えそうなほどおぼろげで、グリモア猟兵の言う通り、少しでも攻撃をすれば簡単に消えてしまうだろう。そうならないために、二人は此処に居る。
「今日は子供のお祭りだからね。俺達と一緒に楽しんでくれたら幸いだ。スーもいいよね?」
「うん! 私やこのお兄ちゃんと一緒に、いろんな事しよう?」
 やわらかな雰囲気を纏った二人を、ほんの少しの時間無言で見つめていた影朧が、こっくりと頷く。ありがとう、と感謝を述べた青年の隣、そうだ、と娘が身に着けていたポーチを探る。現れたのはきらきら淡い彩でひかる金平糖の入った小袋。ハロウィン用ではないけれど、ちょうどぴったりのプレゼント。
「……きれい」
「これはね、甘いお星さまでできてるんだよ?」
 ふふ、と優しい笑顔で昴がかぼちゃシーツに手渡すと、内心それはちょっと違うだろう、と竜星が苦笑して。
「俺からはこれ。ハッピーハロウィン」
 動物やお化けの形のクッキーは、フランケンと同じくらい可愛くデフォルメされたもの。
「これ、かわいいね。おいしそう」
 表情の読めないかぼちゃ頭が、どことなく笑った気がする。気に入ってもらえてよかった、と竜星が笑みで返して、幼馴染は二人一緒に影朧に手を差し伸べた。
「それじゃあ早速、お散歩にいこっか!」
「はぐれないように、手を繋いでもいいかい?」
 二人のお誘いを、影朧は手を繋ぐことで了承の答えとした。ちいさな掌をそっと繋いで、かぼちゃシーツを真ん中に。三人家族の日常のような光景は、周囲の人々の心も温める。
「素敵なお化けのご家族さん、ハッピーハロウィン!」
「かわいいお子さんに素敵なパパとママね」
「パッパパとママはちょっと違……ま、まぁ今はいっか」
 出会った老夫婦に声をかけられ、ごにょごにょと竜星から目をそらす猫娘に、かぼちゃシーツがこてんと首を傾げる。あはは、とやわらかく笑顔で応対するフランケンは、影朧に囁く。
「合言葉、覚えてる? こちらのご夫婦に言ってあげて」
「そうそう、私達に聞かせてちょうだい」
 こくりと頷くかぼちゃシーツが、覚えたばかりの魔法の呪文を唱える。
「とりっくおあ、とりーとっ」
 よくできました、と魔女姿の婦人がカップケーキを、吸血鬼姿の紳士はかぼちゃ頭を優しく撫でる。
「今宵が、君にとって楽しい素敵な夜になりますように」
 紳士の言葉に、ありがと、と影朧がうれしそうに返す。竜星と昴の見たかった光景が、そこには在った。
「まだまだ夜はこれからよ。おじいさんに言われた通り、もっと楽しい夜にしましょう!」
「うん」
 三人並んでゆく道を、あたたかな街灯が見守っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫神・咲夜(サポート)
 桜の精の死霊術士×悪魔召喚士、女性です。
 普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 片思いの人には「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

清楚で女流階級風の口調で、お淑やかな性格です。
基本的に平和的な解決を望みますが
戦わざるを得ない時は果敢に戦いに向かう勇敢さを持っています。

 あとはおまかせです。よろしくおねがいします!



 思い思いの仮装に身を包み、楽しそうな笑顔を振りまいて。ある者は合言葉を唱えて甘く素敵なお菓子を受け取り、ある者は愛する人と橙の夜を過ごしている。そんなあたたかな幸せに満ちた帝都の街で、ぽつんと一人のこどもが突っ立っている。
 ここはどこだろう。なんにも思い出せないけれど、なんだかみんなが楽しそう。
 かぼちゃ頭のシーツおばけは、行き交う人々の微笑みと、夜闇を照らすハロウィンの装飾を眺める。しばらくすると、自分の居場所はここではないような気がして縮こまりたくなってしまった。
「……どうしよう」
 不安に駆られた心をぎゅうっと抑え込むように、シーツの端を握る。ふと、幻朧桜の花弁がちらちらと降った。薄紅の花弁で何故か気持ちがやわらいだ時、静かで落ち着いた声が降ってきた。
「こんばんは、愛らしいあなた」
 影朧が目にしたのは、ふわ、と薄桜に染まった女性。淡い着物の上にコートを着こなす和洋折衷の姿に、背中にはましろの天使の翼。綺麗だなぁ、と思ったかぼちゃシーツに、姫神・咲夜はハッピーハロウィン、と微笑んだ。
「おひとりでしょうか」
「うん。よくわかんないけど、ひとりなの。わかんないの。でも、さびしいの」
 上手く説明できずに、たどたどしく言葉をこぼす影朧の話を、咲夜は静かに頷きながら聞いている。それだけで不安が少しずつほどけていく気がして、かぼちゃ頭は不思議な気持ちになっていた。
「では、私と一緒にこの街を散歩しませんか? 美味しい甘味を出すカフェーに、あなたと一緒に行きたくて」
「いいの?」
 ええ、と頷いて、咲夜は慈しむような眼差しでかぼちゃシーツを見る。桜の精として生まれた彼女は、おさないこどもの影朧を見過ごせはしなかった。この、今にも消えてしまいそうなちいさないのちと、戦う必要なく転生させられるなら。
「その前に、合言葉を教えてください。あなたにあげたい素敵なものがあるんです」
「えっと、えっと……あ、」
 思い出した、と言う風に。かぼちゃシーツは声をあげる。トリックオアトリート、と唱えた幼子に、正解です、と桃色のドロップを差し出す。受け取られた飴は、かぼちゃ頭の口に吸い込まれていく。
「……すごくあまい、おいしいね。おねえさんのさくらと、おんなじにおいがする」
 彫られたかぼちゃで表情は読めないけれど、うれしそうな声色に天使姿の咲夜は安堵して。一晩限りの逢瀬だとしても、だからこそ、沢山幸せを受け取ってほしいから。
「さぁ行きましょう。あなたのために、素敵な夜を始めなくては」
「うん!」
 手を繋いで二人、帝都の夜をゆく。咲夜の桜が揺れると、シーツの裾もふわふわと揺れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

辰神・明
【陽花】
妹人格:メイで参加
仮装:雪女風(氷の結晶の装飾多め)
ふーちゃん(ぬいぐるみ)もお揃い

栗花落おにーちゃん?
えっ、と……とりっく・おあ・とりーと?

わぁ……!
栗花落おにーちゃん!ありがとうなの、ですよ
特別……ふふっ、ナイショさん、ですね
ふーちゃん、終わったら一緒に食べよう?

影朧さんを見つけたら
栗花落おにーちゃんの手を引いて、そっと近づくの
あのね、あのね
メイもふーちゃんも……こういうお祭りは、はじめて、で
だから、一緒に、行きませんか?

先頭は、栗花落おにーちゃん
ふわふわな仮装から、影朧さん達がはぐれないように
ふーちゃんも、気づいたら……教えてね、ですよ?

とりっく・おあ・とりーと!です!


栗花落・澪
【陽花】
仮装:白とオレンジをベースに、南瓜パンツやケープ、髪飾り等全体的にふわもこ仕様なケセランパサラン

辰神さん、ハッピーハロウィン
合言葉言って言って

辰神さんに合言葉言ってもらったら手作り★飴と
小袋に入れたフィナンシェをプレゼント
指を唇に当ててしぃっとポーズ
こっちは辰神さんだけの特別ね

僕は未成年とはいえ年上だからね
合言葉を貰ったら影朧達にも飴を配り
見守り兼先導を
折角のハロウィンだもん、いっぱいお菓子貰わないとね

色んな場所を巡り、参加してくれそうな大人がいれば声をかける
あくまで主役は子供達だから合言葉も子供達が言えるように
難しい時だけ率先して
トリックオアトリート
お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ



 はらはらと、石畳に桜彩が落ちる。ぽつぽつと燈るオレンジ色の灯りは、一年で今日だけの特別な日を表して、花咲く帝都の住民達に、夜へと繰り出せと誘っているように見えていた。
 彼らと同じように、猟兵だってハロウィンは楽しみで。白とオレンジをベースとしたふわもこケセランパセランの栗花落・澪が、傍らの幼い雪女と言葉を交わす。
「辰神さん、ハッピーハロウィン。ね、合言葉。言って言って」
「栗花落おにーちゃん?」
 ましろのふんわりケープをふわふわ揺らし、さぁさぁと期待の眼差しで見つめる少年に、辰神・明は不思議そうに小首を傾げる。はてさて、合言葉とはなんだっけ。ああ、そうだった。
「えっ、と……とりっく・おあ・とりーと?」
「うん! これ、貰ってくれるかな」
 合言葉を唱えてもらって、澪は堂々とお菓子を手渡せる。手作りの淡いカラフルな飴と、小袋に入ったフィナンシェをプレゼントすれば、わぁ、とメイの表情がぱっと華やぐ。
「栗花落おにーちゃん! ありがとうなの、ですよ」
 ちいさな雪女がちいさく頭を下げると、淡い薄水の和装ワンピはきらきらとしたビジューや刺繍を煌かせる。お揃いの衣装を着た黒狐のぬいぐるみの水色リボンが揺れた。
 ふいに、澪が人差し指を唇にあてる。しぃっと秘密のポーズを見せて、どこかちょっぴり内緒話のように小声になってウィンクひとつ。
「こっちは辰神さんだけの特別ね」
 とくべつ。とっても素敵なうれしい響きに、少女はフィナンシェを誰かに自慢したくなる気持ちを我慢する。
「ふふっ、ナイショさん、ですね。ふーちゃん、終わったら一緒に食べよう?」
 美味しいお菓子は、この仕事が終わったご褒美に取っておくのを、黒狐も頷いて了解する。ケセランパセランと雪女は、件の影朧達が居ないか街を歩きはじめた。
 今夜の主役はこども達、それは影朧だって同じだから。消えてしまうその前に、楽しい時間を届けてあげたい。あ、と声をあげたメイが、澪を呼ぶ。
「栗花落おにーちゃん、あの子たち」
 少女の視線の先を、少年も目で追う。同じ背丈に見えるふたつぶんのかぼちゃ頭が、手を繋いで街灯の下に立っている。澪の手をそっと引いて、メイがおずおずと声をかけた。
「こん、ばんは」
「……」
 かすかな声で挨拶したメイを、かぼちゃシーツ達はじっと見つめている。聞こえなかっただろうか、と少しだけ不安になった時、こんばんは、と挨拶がかえる。此処はメイに任せたいと思ったから、澪はハッピーハロウィン、と挨拶だけに留めて静かに待つ。
 あのね、あのね、とぽつぽつ言葉を紡いで、勇気を振り絞るように雪女は続ける。
「メイもふーちゃんも……こういうお祭りは、はじめて、で。だから、一緒に、行きませんか?」
「……いっしょに、行ってもいいの?」
 影朧の片方が、メイと同じくらいかすかな声で問い返す。うん、と頷いたメイの勇気を称えるように、黒狐も頷き影朧達へと手を振る。
「じゃあ、合言葉を教えてほしいな。僕達からプレゼントがあるんだ」
 話は決まったと見えて、澪がにっこりと微笑む。覚えたばかりの魔法の呪文を、二人の影朧は同時に告げる。
「トリックオアトリート!」
「よくできました」
 澪の手作り飴は、かぼちゃシーツ達の心も解かしてくれる。ほんのりとはしゃいでいるのがわかって、大人しい三人のこどもを連れて、少年は大通りへと出る。未成年とはいえ年上だから、きちんと皆の面倒を見てあげようと、澪は心の中でこっそり約束していた。
 先導する澪の後ろを、二人の影朧、メイとふーちゃんの順でちいさな行列が生まれる。いっぱいお菓子を貰わないとね、と笑ったケセランパセランのふわふわを目印に、影朧達はそわそわと街並みを歩く。
 勿論、メイだって立派な猟兵だから。かぼちゃシーツ達がはぐれてしまわぬように、しっかりと確かめながらしんがりを務める。時々立ち止まってしまう影朧の背中に触れて、彼らのスピードに合わせて振り向いた澪の方角を教えてあげる。もちもちと黒狐も手伝えば、死角はゼロとなって安心の行列になった。
「ハッピーハロウィン、素敵な夜ですね」
「あら、かわいい百鬼夜行ですこと。ハッピーハロウィン、ご機嫌いかが?」
 妙齢の美しい女性に見つけて話しかけると、澪はそっと三人の後ろにまわる。きゅっと二人で手を繋ぎ合う影朧を見て、メイが片割れの空いた手を繋ぐ。
「合言葉、です」
「大丈夫だよ、全員で一緒に言ってみよう」
 最初はきっと三人だけでは難しい、それをわかっていた澪が促して、さあご一緒に。
 せえの――トリックオアトリート! お菓子くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ!
「まぁ、こんなに可愛いおばけ達にいたずらされたらどうしましょう。此方で我慢して頂けるかしら?」
 そう微笑んだ女性がチョコレート菓子をいっぱいに詰め込んだ小袋を四人に渡せば、全員揃ってありがとうを伝える。
「楽しい夜を過ごしてね」
 手を振って見送る女性と別れて、行列は再び歩き出す。今度はどんな人と出会えるか、期待に胸をふくらませながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
犬耳のカチューシャと犬手のグローブで仮装するわ。

あ。あのシーツのが例の『こども』のようね~。
不安そうな感じだから明るく声かけてみようかしら。
でもでも。怖がらせないように注意しなくっちゃ♪

「ねえねえ。貴方…独り? お友達とはぐれちゃった?」
何時ものように話しかけちゃったわ。癖がでちゃった。ダメね。
「ごめんなさい♪ 珍しい恰好してたから気になっちゃって」
急に色々とお話したら怖がるから一つずつゆっくり丁寧に聞くわ。

え?あたし?えっと…あたしは逸れちゃって探してたのよ~。
嘘は少し悪いなって思うけど猟兵だって知ったら怖がるかもだし。
「…あ! じゃあじゃあ、一緒に探してくれないかしら?」
手を握ってふんわりと痛くないように引っ張ってお祭りへ誘うわ。
「何が気になってる屋台とか食べ物ってあるかしら?
え? 喉が渇いた? それなら…あ。あの南瓜のジュース飲む?」

二人分を貰って飲みながら…あ!あの小物の屋台可愛いわ~♪
南瓜の髪飾りとか髪留めとか可愛い。
『こども』さんに似合うものを考えて一つプレゼントしてみるわ。



 人と人が笑いあい、少年少女が合言葉を唱えては、大人達がよくできましたとお菓子を手渡す。そんな不思議な夜の帝都を、神坂・露も嬉しそうに散歩する。
「ひとりぼっちより、ふたりのほうがいいものね♪」
 薄茶の犬耳カチューシャと尻尾をつけて、件の影朧を探してみる。あたたかな街灯や素敵な装飾に彩られた街並みは、見ているだけでも心を躍らせてくれるから。影朧も、そう思ってくれていたらいいけれど。
 ふと、煉瓦造りの橋の上。小川を流れていく桜の花弁を見つめている、ちいさなシーツおばけが居る。あれが例の『こども』だと話しかけようとした時、若い男女の団体が通り過ぎていく。少し酒を飲んでいるのか、けらけらと楽しそうな集団に、かぼちゃシーツは危うくぶつかりそうになった。
「おっと、ごめんよおばけくん」
「ちょっとあんた、ちゃんと前見て歩きなさいよ! 大丈夫? こいつがごめんね、怪我してなぁい?」
 若者達に話しかけられ、こくこくと勢いよく頷くかぼちゃ頭が揺れる。どことなくそれが不安そうに見えたから、集団が去ったあとに、露は手を振ってとことこと近付く。怖がらせないように、明るくやわらかく、それでいて同年代のようにと意識して。
「ねえねえ。貴方……独り? お友達とはぐれちゃった?」
 意識してみても、不安に駆られるこどもを見てしまえば、やっぱりいつものお姉さんじみた口調の癖が出てしまう。ダメね、と内心反省しつつ影朧に微笑みかけると、かぼちゃ頭からかぼそい声が、不思議そうにこぼれる。
「きみ、だれ?」
「ごめんなさい、ちゃんと名乗らなきゃね。あたしは露っていうの♪ 珍しい恰好してたから、気になっちゃって」
 ひとつずつ、お話はゆっくり丁寧に。そう心がける犬娘に、ぽつりぽつりと影朧は答えていく。
「はぐれて、ないよ。ともだち、いないから。きみは?」
「え? あたし? えっと……あたしはお友達と逸れちゃって、探してたのよ~」
 そうやって、えへへ、と恥ずかしそうに笑ってみせる。嘘をつくのは少しばかり悪い気がするけれど、超弩級戦力である猟兵だと知ったなら、このこどもは怖がるかもしれない。
「そうなんだ」
「ふふ、そうそう。……あ! じゃあじゃあ、一緒に探してくれないかしら?」
「いっしょに?」
 閃いた、と提案する露の言葉をくりかえして、かぼちゃシーツはしばらく考え込む。そわそわしてしまう気持ちを抑えて、犬娘は急かさぬようにもう一押し。
「あたし一人で探すより、あなたも一緒に探してくれたほうがきっと見つかると思うの。それに、あなたとお祭を見たいなぁって♪」
 ダメかしら、と小首を傾げると、再び流れるわずかな沈黙の時間。ようやく影朧がこくりと頷いたのを見て、ありがと、と露は優しく手を握った。ふんわりと引っ張られながら、大通りへと向かうシーツの裾が揺れる。
「ね、気になってる屋台とか食べ物ってあるかしら?」
 ほくほくとした焼きたてのパイ、カリカリに揚げられた串焼き肉、甘い香りが立ち込めるケーキやクレープ。どれもが美味しそうで、露ですら、あれもこれもと選ぼうとすると迷ってしまう。きょろきょろと見渡すかぼちゃ頭が、つないだ手を少しだけ強く握って意思表示する。
「のど、かわいてるかも」
「それなら……あ、」
 見つけた先にあるジュースのお店で二人分。透明コップに、蝙蝠のタグがくっついたストローがかわいいそれは、甘くやさしい味がする。並んでベンチに座ってジュースを味わいつつ、影朧の様子を見守る露の目には、表情の読めないかぼちゃ頭が居る。けれど、それが美味しそうに飲んでいることだけは伝わってきていた。
 視線をふと屋台の群れに戻せば、かわいらしい小物屋が露店を開いている。飲み終わったのを確かめて、見に行きましょうと再び手をつなぐ。
 南瓜の形の髪飾り、蝙蝠の髪留め、幽霊のヘアゴム。どれもキュートでポップな見た目の品々を、かぼちゃシーツもしげしげと眺めている。なんとなく、露はこの子が女の子なのだろうと気付いて、ブローチをひとつ手にとった。
「これ、あなたに似合うわ」
 そうして影朧の胸元につけたのは、オレンジと紫のリボンを組み合わせて、南瓜のワンポイントがかわいい一品。そうかな、と返ってきた声がうれしそうだったから。
「すいません、これくださいな♪」
 露と一緒に露店を出たかぼちゃシーツの胸元には、ブローチがきらきらと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『いずれまたどこかで』

POW   :    湿っぽいのは嫌いなので笑顔で送ろう

SPD   :    言葉に想いを込めるのが大事だと思う

WIZ   :    祈りを…ただそれしか出来ないから

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ハロウィンに彩られた帝都の夜は更けて、街の賑やかさはより深まっていく。
 人々の笑顔に反応するように、猟兵達との交流に心ほどかれていくように、かぼちゃシーツ達はこの一晩楽しんでいるようだった。

 ふいに幻朧桜が降り始めて、かぼちゃ頭に薄紅の花弁が触れた。
 あわい光が少しずつ影朧を包んでいるのは、お別れの時が近付いている知らせ。

 最後まで、彼らとどう向き合うか。それは猟兵次第。
シン・クレスケンス
【WIZ】

一緒に帝都のハロウィンの夜を巡って。
ツキとノクスもあの子とすっかり仲良しですね。
あの子の姿に自分の幼い頃が重なり、ふと思う。
自分が、幼い頃に両親と死に別れ寂しく不安なこどもだったから、ちいさなこどもが寂しそうにしているのが放っておけなかったのかも。
あの子が少しでも笑ってくれたなら嬉しいです。

「いつかまた一緒に遊びましょう」
跪いて目線を合わせ、ちいさな手を手に取る。

シーツマントの下の、いつものネクタイに留まる小さな十字架型のピンにそっと手を添え。
UDCの力を身に宿し、混沌の力を使う僕の【祈り】を聞き届けてくれるかは分からないけれど、それでも。
あの子の魂の安寧と、転生後の笑顔と幸福を―



 二人と一匹と一羽、皆で共に巡った帝都の夜は、ふんわりとしたあたたかさが続いている。おおきなシーツおばけのシン・クレスケンスは、ちいさなシーツおばけが狼と梟に戯れている姿を優しく見守っていた。
「おいしい?」
 露店で買ったふわふわのパンケーキを影朧が分けてやると、狼はまぁまぁだな、と言いたげに尻尾を振る。梟も静かに啄んで、嬉しそうに羽搏いてみせる。
 とろりと甘い蜂蜜のかかったそれを、かぼちゃ頭も彫り込まれた口の中へ。すると、シーツの裾がひらひらと動いて、その美味しさがシンにもよく伝わってきた。
「ツキとノクスも、あの子とすっかり仲良しですね」
 ふと、ちいさな幼子に重なるものがある。それは随分と遠い昔の話、両親と死に別れた幼い頃の自分の姿。あの頃はずっと寂しくて、毎日をただ不安に苛まれて過ごしていたこどもだったから。
 ――ああ。きっと、似ていたから。
(寂しそうにしているのが、放っておけなかったんだ)
 かぼちゃシーツに会いに来た理由がなんとなく腑に落ちたような心地がして、青年の胸の中が、すこしだけやわらぐ。
「お兄ちゃん?」
 どうやらぼんやりとしていたらしい。影朧の呼びかけにふと気がついて、どうしました、とシンは言葉を返す。
「お兄ちゃんも、食べて。おいしいから」
 差し出されたパンケーキのひと切れを、青年はしゃがんで口に含む。大人になった自分には、ちょっぴり甘すぎるような気もするけれど。
「……ふふ、確かに。あなたの言う通り、とっても美味しいですね」
 やわらかく笑った彼を見て、影朧もふくふくと嬉しそうにかぼちゃ頭を揺らす。その時、ふぅっと幻朧桜の吹雪が増して、かぼちゃシーツを包む光がわずかに強くなった。
「お兄ちゃん、もうさよならみたい」
 それが転生の光だと、影朧は理解しているようだった。だからシンも、丁寧に跪いて目線を合わせる。そっとちいさな手をとって、目一杯の優しい笑顔を幼子の視界に。
「素敵な一夜をありがとうございます、いつかまた一緒に遊びましょう」
「うん、ありがと」
 シーツマントの下、いつも欠かさぬネクタイ。そこに留まったちいさな十字架のピンに、空いた手を添える。埒外の怪物の力を身に宿し、混沌の魔の力を使う己の祈りなど、かみさまが聞き届けてくれるかはわからないけれど――それでも。
 桜吹雪が夜に飛び立つ。残らず花弁になっていった姿を忘れない。また遊んでね、とかすかな声が咲いた。その場に残った青年に、狼と梟が寄り添う。
(ああ、どうか)
 あの子の魂の安寧と、転生後の笑顔と幸福を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

風魔・昴
麻生・竜星(f07360)と参加
彼のことは『竜』と呼んでいる
アドリブ歓迎

南瓜頭君に『たっくん』っていう名前を付けて
だって名無しじゃなんか悲しいじゃない?
彼と歩く街は本当に楽しくて
「たっくん。焼き芋屋があるよ。お姉さんと半分こしよっか」
「あ、綿あめ……」
食べ物に反応する私に、彼が食べすぎだよって笑うからちょっと苦笑い
そんな私達を竜はくすくす笑いながら見ていて。
「な、何よ別にいいじゃないの~」
ねー?と『たっくん』とほほ笑んで

暫くして3人で街外れの小高い丘に
降ってきそうな星空に皆でほほ笑んで
「この星空忘れないでね?」
そっとたっくんの頭をなでる
淡い光に包まれていく彼に笑顔で……

また、どこかで会おうね?


麻生・竜星
風魔・昴(f06477)と参加
彼女のことは『スー』と呼んでいる
アドリブ歓迎

賑やかな街を賑やかな幼馴染とその彼女に打ち解けた南瓜頭君と歩く
ほんとに……二人を見ていると年の離れた実の姉弟に見えてくる
誰とでも打ち解けて楽しくしてしまう……これがスーの長所で何回見ても感心する
南瓜頭君と同じようにははしゃいでいる彼女を見て思わず微笑む
「どっちが子供なんだか……」


暫くして歩き疲れた様子の彼を肩車して街外れの小高い丘に
「今日は星が奇麗だね。沢山遊べたかな?」
「星空は続いているんだ。どんなに遠くにいてもね?」
彼の周りの淡い光にふと気づくと、ほほ笑んで
「ありがとう、また会おうな?」

そうまた、いつかどこかで……



 更けていく夜の中で、三人並んで歩く街並みはやさしい彩に満ちていた。収穫祭でもあるこのお祭り騒ぎは、美味しそうな食べ物を売る露店があちこちでいい匂いをさせている。
「たっくん、焼き芋屋があるよ。お姉さんと半分こしよっか」
 虎縞猫の風魔・昴が、手を繋いだかぼちゃシーツに声をかける。“たっくん”と呼び名をつけられた影朧は、嫌な顔ひとつ見せず、焼き芋と聞いてぱっと顔をあげた。
「食べる!」
「オッケー。竜、お願い!」
 すぐさま昴は影朧を挟んで、幼馴染の青年に焼き芋をねだる。はいはい、と少しばかり呆れたように、麻生・竜星は財布を取り出した。焼き芋屋で焼きたての芋を一本買って、わくわくと待ちかねている昴と影朧の元へ。
「熱いから気をつけて」
 蜜がいっぱい詰まった濃い橙をしたさつま芋を、ふぅふぅ冷ましながら昴がたっくんと分け合う。口に広がる甘さに、猫娘がほくほくの笑顔を見せている隣、かぼちゃ頭もぴょんぴょん跳ねてその甘さに喜んでいる。
 そんな二人を眺めていたフランケン男からは、自然とやわらかな表情がこぼれてしまった。だって、本当に年の離れた実の姉弟に見えてくるのだから。誰とでも打ち解けて、相手を楽しくさせてしまう。それが昴の長所で、青年は何度この光景を見ても感心していた。
「これすっごく甘くておいしい! こんなに甘いお芋初めてかも……あ、あっちに綿あめがある」
「スーちゃん、食べすぎだよ」
 ふわりと笑みを含ませたかぼちゃ頭の言葉に、そうかな、と昴はちょっぴり恥ずかしさから苦笑い。
「どっちが子供なんだか……」
 竜星の見守るような微笑みと、やれやれと言った雰囲気の物言いに、猫娘はぷくぅと頬を膨らませる。
「な、何よ。別にいいじゃないの~」
 ねー? と、昴がたっくんと顔を見合わせて笑いあう。そのタイミングもぴったり同じだったものだから、竜星も思わず吹き出してしまった。
 次はわたあめ、その次は林檎飴もどうだろう。南瓜ジュースも美味しそうだし、おばけ型のふわふわカップケーキも魅力的。影朧と歩く街は本当に楽しくて、二人は仕事や役目を別に、心からこの散歩と出会いを喜んでいた。
 食べ歩きを続けていれば、竜星は影朧の足取りがだんだんと重くなっていることに気付く。歩き疲れた様子の彼に、そっと優しく声をかけた。
「たっくん、おいで」
「竜くん、なあに……わぁ!」
 ひょいっと肩車されて、かぼちゃ頭の視界が一気に高くなる。嬉しそうに笑う彼につられて、昴も影朧を見上げて微笑む。そして、たっくんを包むあわい光が強くなっているのも、二人とも気付いている。
 お腹もいっぱいになったから、と。三人は街外れの小高い丘へと行く。一本の立派な幻朧桜が花弁を散らしているのと同時、街灯の明かりがほとんど見えない丘は、満天の星空が広がっていた。
「お星さま、こんなにたくさん……!」
「ああ、今日は星が綺麗だね」
 同じ表情のかぼちゃ頭だとしても、その瞳が煌いているのが二人にはわかる。まるで此方へと流星群が降りてきそうな星々の輝きに、昴もふっと見惚れていた。
「スーちゃんがくれた星と、おんなじだね」
「うん、そうだね。よく似てる」
 昴へと笑みをこぼす影朧に、竜星が尋ねる。
「今日は沢山遊べたかな? 満足、できたかい?」
「うん!」
 大きく頷いたかぼちゃシーツの光が少しずつ強くなっている。そうっと彼を地上へと降ろすと、青年はしゃがんで目線を同じくする。
「星空は続いているんだ。どんなに遠くにいてもね」
「この星空、忘れないでね?」
 たっくんは、大切なことを教える竜星と優しく頭を撫でる昴を交互に見た。何度も頷くちいさな影朧に、二人は最後のお別れを告げる。
「ありがとう、またな」
「また、どこかで会おうね」
「スーちゃん、竜くん。ばいばい」
 またね、とお別れの言葉だけを残して。桜吹雪が、幼子の姿を星の夜にとかして消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

川村・育代
いかにもな黒いローブや帽子の魔女の仮装で参加するわね。
あたしは子どもたちの幸せのために生まれた身。
相手がどんな存在でも変わらないわ。
『転生』がどのような形で行われるか分からないけど、きっと不安なはず。
今まで多くの子どもたちの『その時』をモニター越しに見ていたから。
手を繋いで最後までそばに寄り添っていようと思うわ。
こうやって人に触れられる体温のある身体を持てただけでも猟兵になってよかったわ。
『あたしもそばにいるわ。これなら怖くないでしょ?』
最後までお互い笑顔で送ってあげられれば、と思うわ。



 祭の騒めきは止むことなく、多くの人々の笑顔は桜と共に降り積む。幼い少年少女とすれ違った魔女の娘は、楽しそうな姿に目を細める。
 いかにもな黒いローブに帽子を合わせて、川村・育代は件の影朧を探す。こども達の幸せのために生まれた身。たとえ相手がどんな存在であったとしても、育代の役目はなにひとつ変わらない。
 この世界の転生というものが、どのような形で行われるかはわからないけれど。今まで多くのこども達の“その時”を見てきたバーチャルキャラクターは、モニター越しに彼らのすべてを視てきたから。
(――きっと、ひとりは不安なはず)
 育代の心に幻朧桜が通じ合わせたのか、ふいに花弁が目の前を横切る。花弁を追いかけた先は、露店で賑わう大通りから離れた小道。座り込んでいる幼子を見つけて、魔女は声をかける。
「ハッピーハロウィン、こんばんは」
 何も言わず、こくりとだけ頷いたかぼちゃ頭の隣に座り込むと、少女は再び口を開く。
「あなた、お菓子は貰った? あたしはまだなの」
「……もらってない」
「じゃあ一緒に貰いに行かない? 合言葉が、一人じゃ恥ずかしくて言えずに居たの。あなたと一緒になら言える気がするわ」
 少し年上に見える育代からのお願いは、シーツおばけの寂しさを揺らしたようだった。いいよ、というように頷いた影朧に魔女は笑って、一緒に大通りへ出る。
 手を繋いだ二人を見つけた若い男性の二人組が、近付いて笑顔を咲かす。
「イカした魔女さんとおばけさん発見! まだ腹はいっぱいじゃないよな?」
「ええ。実はあたし達、ハロウィンは初めてなの。合言葉を言ってみてもいいかしら」
「おっと、僕らが初めてに選ばれるとは光栄だね」
 さぁどうぞ、と待ち構えるミイラ男と吸血鬼に、魔女とかぼちゃ頭はいっせーので声を合わせる。
 ――トリックオアトリート、お菓子くれなきゃいたずらするぞ!
「大正解だ! この二人の悪戯はすごそうだな」
「そういう訳で持っていってくれ、人気店の代物だぜ」
 ふくふく笑った男達は、二人にカラフルなビーンズの詰まった小袋を手渡す。色鮮やかなそれが珍しかったようで、影朧は何度もビーンズを確かめる。育代と一緒にありがとう、とお礼を告げれば、男達は手を振って去っていく。
 それから二人でお菓子を貰っては歩いた夜の、短い短い旅路の終わり。あわく光を放つ影朧は、きゅっと強く育代の手を握る。
「……もう、お別れみたい」
 不安そうな声色に、力強く手を握り返して。大丈夫よ、と育代は笑う。こうやって、誰かに触れられる体温のある身体を持てただけでも、猟兵になってよかった。
「あたしもそばにいるわ。これなら怖くないでしょ?」
「……うん!」
 影朧が消えてしまうその最後まで。桜吹雪の中で、二人は確かに笑顔だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【陽花】
ただお別れなんて寂しいから
折角仲良くなれたんだもん、ギリギリまで思い出作りたいよね

辰神さんの頭を優しくぽんぽんと撫で
それから少しだけ特別な魔法を

僕の魔力を大地に流し込むことで
足場に綺麗な★花園を生成

ねえ皆、花冠は作った事あるかな
教えてあげるよ

赤やオレンジ、ハロウィンカラー中心に咲いた花園にしゃがみ
そっと花を摘んで子供達への贈り物を作ります
UCで呼び出したハレンにも子供達を手伝わせて
花冠に、可愛い指輪
男の子も女の子も関係ない
甘い花の香りが、きっと別れの悲しみすらも癒してくれるから
最後は笑って「またね」と言えるように

作ったものは交換こしようか
皆で作った思い出だから

さよならは、言わないよ


辰神・明
【陽花】
妹人格:メイで参加

折角、お友達になれた、けれど
でも……ううん、言わない
さみしいも、かなしいも
メイのわがままって、わかっているです、から

ふーちゃんをぎゅっと抱きしめて
気付けば、頭の上には
あたたかい、栗花落おにーちゃんの手が

わ、わっ……!?
ぶわっと広がる沢山のお花に、目を丸くして
花の精霊さん、だから
ふーちゃんも楽しそうに、はしゃいでいて

花冠……!
うん、お花で作ろう、なのですよ
UCも使って、応援やお手伝いさん……出来る、かな
栗花落おにーちゃんに作り方を教わって
完成したら、微笑み合って

あのね、あのね
メイもさよならは、言えないけれど
ありがとう……またね、なのですよ



 橙彩の明かりとおばけの装飾で色づく帝都を、四人の少年少女は楽しさのままに闊歩した。歩き疲れたであろう三人の様子を気遣って、ハロウィン仕様のふわふわケセランパセランは休憩を提案する。
 大通りから離れて小道をゆけば、丸いちいさな広場が見える。日頃は帝都の人々にとっての憩いの場も、今は閑散として誰も居ない。
「じゃ、ここで食べよっか」
 年長者らしく振る舞う栗花落・澪の言葉に、はあいと残りの三人がお行儀よく返事をしてベンチに座る。そのうちの二人、かぼちゃ頭の影朧達の身体がやわく光を帯びているのが、辰神・明の胸を苦しくさせていた。
 折角お友達になれたのに、けれど、でも。幼い雪女の表情に気付いたのか、一人の影朧が小首を傾げた。
「メイちゃん、どうしたの」
「……ううん、なんでもないのです」
 笑みをつくったメイに、シーツおばけはそっか、と返して。貰ったお菓子の袋を開けて、大事そうにかぼちゃ頭の口の中へ。
 だって、さみしいも、かなしいも。自分のわがままだとメイはわかっているから。しょんぼりした顔なんか見せたくなくて、抱きしめていた黒狐のぬいぐるみに顔を埋めると。
「……栗花落おにーちゃん」
 あたたかい澪の掌が、優しくメイの頭をぽんぽん撫でた。澪にも、メイの気持ちはよくわかる。だって、ただお別れなんて寂しい。
「折角仲良くなれたんだもん、ギリギリまで思い出作りたいよね」
 だから少年は、このちいさな広場にすこしだけ特別な魔法をかけた。自身の魔力を石畳に流し込むと、あわいひかりが零れていく。
「わ、わっ……!?」
「ひゃ!」
「わぁっなぁに」
 三人が足元いっぱいの光の海に驚いているうちに、光は次第に花の形を成していく。澪が咲かせた美しい花園は、赤やオレンジ、ハロウィンカラーが中心の花畑と成って広場を埋め尽くす。
「ねえ皆、花冠は作った事あるかな」
 魔法使いはそう微笑むと、三人は顔を見合わせて首を横に振る。なら教えてあげるよ、と、少年は花を摘む。澪の優しさに、苦しかった胸がやわらかくなるのを感じたメイ。彼女の抱っこから抜け出して、花の精霊が宿る黒狐もぴょんぴょん楽しそうにはしゃいでいる。
「うん、お花で作ろう、なのですよ」
 まだ戸惑う影朧達にメイが呼びかければ、二人も頷いて澪の元へ。お手伝いはもっと居たほうがいいからと、澪が呼びだしたのは金蓮花の少女。なんであたしが……とぶつくさぼやいたものの、幼いこども達の姿を見て、しょうがないわね、なんて花を摘むのを手伝い始めた。
「ふーちゃん? ……うん、お手伝いさん、ふやそう!」
 くい、と裾を引っ張る黒狐の意図を読み取って、メイは優しいお友達を呼んだ。ぬいぐるみ達はちいさい身体でぴょこぴょこ跳ねて、影朧達に花を手渡していく。
「まずはこの一本の茎を丸く曲げてね、」
 澪がひとつずつ、丁寧に説明をしながら編み始めるのを、教わる三人は一生懸命見ながら真似をする。時々わからなくなったなら、金蓮花の娘やぬいぐるみ達がアドバイスと応援を。
 花冠にかわいい指輪、ネックレスも素敵でしょう。男の子も女の子も関係なく、甘い花の香りは、別れの悲しみすらも癒してくれる。
「できた!」
 そう声をあげたのは誰だったか、三人同時だったかもしれない。丁寧にグラデーションで編まれたり、大小交互に花を組み合わせてみたり、少し不器用でも大切に作った力作だったり。それは作った本人達によってさまざまで、全員が嬉しそうに笑顔を咲かせていた。
(そう、僕が見たかったのはこの笑顔)
 澪はやわらかな眼差しで、皆の作品をひとつずつ褒めていく。金蓮花の娘やぬいぐるみ達も完成を祝えば、影朧達はえへへ、と照れた様子だった。
 ふいに、影朧達を包む光が強くなり、それまで降らなかった幻朧桜が舞い始める。
「……澪くん、メイちゃん、ぼくたちお別れだ」
「もう、いかなきゃ」
「そっか」
 少しだけ待って、と。澪とメイは自作の花冠をかぼちゃ頭の上に。じゃあぼくたちも、と、影朧達も少年少女の頭に花冠を。思い出の品は互いに交換することで、きっとずっと忘れずにいられる。
「さよならは、言わないよ」
 澪が微笑んだ隣、メイもほんの泣きだしそうなのを我慢して、笑顔のまま言葉にする。
「あのね、あのねっ。メイもさよならは、言えないけれど」
「うん」
「ありがとう……またね、なのですよ」
 思いっきり頷いたかぼちゃ頭の二人組が、またね、と告げた時。桜吹雪が一気に彼らを攫って、花園が消える。
 澪とメイの手には、花冠が残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
時間が来るまで沢山沢山しーちゃんの傍にいたいわ♪
うーん。どこか座れるところでお話していようかしら。

「疲れてない? どこか座りましょうか。しーちゃん♪」
え?しーちゃんって誰?貴女のことよ。し~ちゃん。
『かぼちゃシーツ』だからしーちゃんなの~。
あなたとかおばけとかじゃあ名前じゃないかなって。
女の子みたいだから可愛い方がいいかしら…って。

しーちゃんってあたしの独断だから難しいなら言ってね。
『君は…強引過ぎるところがある』って親友に言われてるし。
…あたしもしっかり注意して強引な部分を直したいんだけど…。
大好きな子とか気に入った子にはそうなるみたいでね。えへへ♪
もし喜んでくれたら嬉しくなってぎゅぅぅ…って抱きついちゃうわ。
「ありがとー♪ しーちゃん。嬉しいわ~」

「またね、しーちゃん♪ 今度は親友紹介するわ!」
哀しい別れは嫌だからまたね♪って笑顔で言うわよ。
それから彼女が居なくなるまでぎゅぅ…ってしたい。
難しいかしら?恥ずかしがるなら少し離れるわねー。
えへへ♪また再会したい人が増えたわ。増えたわ~♪



 夜が更けて、幼いこども達の姿がだんだんと少なくなっていく。理由は簡単で、それぞれが家族の待つ家路に着いているから。けれど、犬娘とかぼちゃ頭の二人組は賑やかな帝都の街並みから離れることはなかった。
 時間が来るまで、この子と沢山沢山お話がしたい。神坂・露はそれだけを思って、きょろきょろと周囲を見渡す。何処か座れるところを探していると、少し離れた距離にベンチが並んでいる。
「ねぇ、疲れてない? あそこに座りましょうか、しーちゃん♪」
「しーちゃん?」
 誰のこと、と不思議そうに首を傾げた影朧に、貴女のことよ、と露は再び名前を呼ぶ。
「かぼちゃシーツだからしーちゃんなの~♪」
 あなたとか、おばけとかじゃあ名前じゃないから。女の子だと思ったのもあって、かわいい方がいいかしら……って。
 とりあえず座ろうと、二人でベンチに。まだ人混みの多い道を、手を繋いで横断する。露も十分に気を付けてはいたけれど、ちいさな少女達にぶつからぬよう、大人達も何気なく彼女達に道を譲ってやる。
 ちょこんと座って、追加で買った露店の食べ物をもう少し味わう。影朧が気に入った南瓜ジュースをもう一度飲みながら、まだあたたかい南瓜パイを頬張ると、小腹もしっかり満たされていく。
「しーちゃん、まだ食べられるならあたしの分も……」
 途中まで言いかけて、露はかぼちゃシーツに改めて呼びかける。
「この呼び方、あたしの独断だから、そう呼ばれるのが難しいなら言ってね。強引過ぎるところがあるって、親友にも言われてるし」
 露自身、そんな自覚がある。しっかり意識して治そうとは思ってはいるものの、だいすきな人や気に入った子にはついぐいぐい行ってしまうフシがあった。下がり眉で笑う彼女に、かぼちゃシーツは言葉を返す。
「いいよ、しーちゃんで。なんだか、すきなよばれかた、だから」
 どことなくはにかんだ声色のしーちゃんに、露は嬉しくなってぎゅう、と抱きしめる。ありがとーと笑う犬娘のハグに驚きつつも、影朧もちいさな腕で抱きしめ返す。
 食事を終えたしーちゃんが、そうだ、と露に尋ねた。
「露ちゃんの親友って、どんなこ?」
「とっても素敵な子なの、クールでかっこよくて、でもかわいくて優しいのよ♪」
 だいすきな人の話ができるのは、いつだって嬉しい。興味津々といった様子で聞いていたしーちゃんが、ぽつりと言葉を紡ぐ。
「わたしも、ともだち、ほしいな」
 寂しそうな姿に、露はきょとんとした表情を見せた。
「あたしとしーちゃんは、もう友達でしょう?」
「……そうなの?」
 お互いにびっくりした様子で顔を見合わせている少女達は、あれ、と不思議そうにしている。
「だって、ハロウィンの日に一緒においしい物を食べて、かわいい物を買って、街を散歩したら、もうお友達よ?」
 甘いジュースの味も、香ばしいお肉の味も、はふはふあったかいパイの味も。シーツの胸元に留められたブローチのことも、全部全部、友達になった二人だけの特別な思い出。これが友達じゃなかったらなんなのかしら、と露には不思議だった。
「……そっか、わたしと、露ちゃん。ともだちなんだ」
「ふふ、そうよ~♪」
 しーちゃんから、ほっとしたような声がした時。ふわりと彼女を包む光がほんのり強くなる。ああ、そろそろだと、少女達は同時に思ったかもしれない。
「露ちゃん、さよならしなきゃ」
「さよならなんて言うのはだめよ。こういう時はまたね、なんだから♪」
 哀しい別れは嫌だから、露はぎゅうっとしーちゃんを抱きしめる。
「またね、しーちゃん♪ 今度は親友紹介するわ!」
「……うん、またね」
 幻朧桜がシーツおばけを連れていくまで、露はずっと彼女の存在を確かに感じていた。ふっとその感覚が消えた時、そこには桜の花弁がはらりと落ちていた。
「――えへへ♪」
 寂しくない、というとちょっぴり嘘だけど。哀しくはない。
 だって、また再会したい人が増えたから。


 沢山のこども達にお菓子を配った老紳士は、満足そうに家路に着いていた。
 ふと、出会ったかぼちゃ頭のシーツおばけを想う。
 不安そうにしていたあの子は、きちんとハロウィンを楽しめただろうか。
 その時、桜がはらはらと舞って。

「――ああ、心配は要らないね」

 幻朧桜が見守るこの街のこども達は、今夜の主役。きっと、めいっぱい楽しめたはずだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月20日


挿絵イラスト