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銀河帝国攻略戦⑬~涙を拭いて

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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「銀河帝国攻略戦は、今のところ順調のようだな」
 ミロ・バンドール(ダンピールの咎人殺し・f10015)は、手近な猟兵たちに声をかける。

「銀河帝国の執政官兼科学技術総監のドクター・オロチとかいう胡散臭い存在について興味のある者に朗報だ。奴の乗る、『実験戦艦ガルベリオン』を炙り出せるかもしれん」
 科学技術総監の地位につく存在ということもあり、彼女(彼?)の乗るガルベリオンには、強力なジャミングが施されていて、居場所をつかむことができない。
 だが、オロチが派遣したいくつかの戦艦は『解放軍』の尽力によって撃破された。その残骸の近くに、ガルベリオンを隠すためのジャミング装置が発見されたのだという。

「お前達に向かってもらうのは、『実験戦艦ガルベリオン』の存在を秘匿するため、宙域内に多数設置された『ジャミング装置』の破壊だ」
 ジャミング装置に近づくと、装置の防衛機能が自動的に起動する。その防衛機能には、近づいた対象のトラウマや恐怖となる事柄を再現し、対象の心を怯ませるという恐ろしい精神攻撃が備わっている。
 もしそこで心が負けてしまうと、『ジャミング装置』から物理的・心理的に離れてしまい、ジャミング装置の破壊は不可能となってしまうだろう。

「要するに、ジャミング装置が精神を分析して強制的に誘う『悪夢』を克服しなければ装置に近づくことができず破壊ができない、ということだな。オロチの個人的な趣味で、どういう悲惨なものが記録されたのか愉しむという目的もあるようだ」
 だが、それを耐え抜いたり、逃げ切ったり、打ち克つことが出来ればジャミング装置は目前だ。装置自体は猟兵ならば苦も無く破壊できるだろう。
「痛みと向き合いたくない者はやめておけ。……俺も、そうだからな。だから出来ることは、送り出すだけだ」
 ミロはそう言って目を逸らすと、グリモアの炎を灯してテレポートの準備に入るのだった。


みづかぜ
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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。
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 みなさんこんにちは、みづかぜです。初めましての方は初めまして。オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。

 こちらは【⑬『ガルベリオン』を発見せよ】該当シナリオでございます。
 普段スケジュール都合(3日以内に書けなかった)以外でのプレイング不採用は無いみづかぜですが、今回は場合によっては発生いたします(詳しくは雑記にて解説しておりますが、参加にあたって特にお読みいただく必要はありません)。
 しかしながらキャラクターの大切な根幹をお預かりする重要なシナリオでございますので、プレイングを頂ければ戦況に影響を与えない程度に積極的な採用をしたいと考えております。
 微力ではありますが全力で猟兵の皆様のご活躍をお手伝いする所存でございますので、宜しくお願い致します。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒木・摩那

かつていた施設では色々な実験がされてました。
人を強化するための実験です。
その中にはうまくいかなかった実験もあり、
返ってこなかった仲間もいますし、
返ってきても、「壊れてしまった」仲間もいました。

そんな危険な実験に選ばれないよう、
声を潜め、モルモットとして生きてきました……

しかし、目の前の博士が問うのです。
「次の実験は誰にするか、君が選ぶのだ」


ですが、もう施設は解放されました。
そして、今は猟兵として困難な状況を克服する力もあるし、
仲間もいます。

今なら言えます。

「あなた達は間違っている! 誰も死なせません」


こんな邪悪なジャミング装置はUC【サイキックブラスト】の高電圧で破壊します。



 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の吸う空気が、宇宙服の清浄機能によって循環調整された完璧な無味無臭から、ほのかに消毒液の香りを帯びた空気へと変わってゆく。
 星の世界の地図を映し出していたモニターは、いつの間にか誰かの研究データを示していた。
 急に重力を感じて下を見やれば、無機質な机と床がある。

「今回は、残念だった……だが成果は得られた。これは人類の大きな前進だ」
 背後に人の気配を感じる。振り返らずとも分かる、この声は施設の博士の声だ。
 モニターの画像が、カメラの映像に切り替わる。映し出しているのは独房のように無味乾燥な個室で、ベッドに横たわるのは摩那の知る懐かしい顔。
 仰々しい延命用の装置に繋がれたその姿は、もう先が長くないのだということを否応なしに示している。

 危険な実験の結果だった。ここでは人を強くするため、人類の未来を名目にあらゆる非人道的行為が許された。
 成功は幾つもの尊い犠牲の上で成り立つものだと言われ、摩那の仲間たちはその身を人間の為に捧げていた。
 けれど摩那は怖かった。声を潜め、危険を避けてきた。
 鳥の囀りを聞き、外の世界に想いを馳せて生きてきた。

「次の実験は誰にするか、君が選ぶのだ」
 柔らかな眼差しで博士は摩耶の横に立ち、選択を迫る。
 君は優秀だから、『こちら側』になる練習もしておかないとね。
 諭すように優しく語り掛ける。遠回しに、君の好きな子を守る選択だよ、と。

 けれど、摩那はあの頃の摩那とは違う。あの施設はもう、解放された。
 猟兵となって、困難を乗り越える力を得た。
 そして――また、仲間ができた。だから、今の摩那なら迷いなくこう言える。

「あなた達は間違っている!  誰も死なせません」

 叫びとともに目蓋を開くと、目の前には人間の脳に無数のアンテナを刺したような悪趣味な装置があった。
 いそぎ摩那が両掌から放った高圧電流がその脳髄に直撃すると、装置は焼け焦げて、歪な炭へと変化した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蜂蜜院・紫髪
トラウマ【人と狐の…】
マタギの翁(恩人)と交換日記をする日々、幾歳月が過ぎその悪寒は始まった。
恩人の死期を伝える【勘】であったがその頃には人と狐の…妖狐の生の違いを理解できていなかった
何かわからぬ焦燥感に苛まれる日々。何か大事な事があるはずなのにワカラナイ。どうすればいいのか…わからない!

克服:【交換日記】がいつまでも来ない事を理由についに人里へと向かう。
恩人は息を引き取る寸前であった。恩人の顔を見た時に全ての焦りは消え死を受け入れる【覚悟】が決まった。

詳細は全てお任せアドリブ歓迎!
採用しにくければ投げ返しもOK



 蜂蜜院・紫髪(怠惰な蜂蜜屋・f00356)が向かう先の戦艦の残骸のむこうに、別の星の影を被って欠けたおおきな星が見える。
 そうして見える星空は、まるで昔を思い出すようで――。

 紫髪が交換日記を恩人であるマタギの翁に渡したのは、いつだったろうか。
 いつもは遅くとも、月が満ち欠けて元の形に戻るころには紫髪の元へと返事が返って来ていた。
 けれど、今はどうだろうか。
 返事のないまま、何度目の満ちる月を見てきただろうか。

 瞬きをすると、星空にかかる木々の枝葉が色づく。
 返事を待ちわびる心が、のんびりとしたものから焦燥感へと変わる。
 漠然とした嫌な予感めいたものはあったが、永らく生きる紫髪は妖狐であり人間の事には疎く、どうすればいいのかが……まるでわからない。
 紫髪が実際に過ごしてきた歳月を追うように、何年分もの寂しさが幾重にもかさなりあって心を削る。
 嫌われた? 呆れられた? 飽きられた?
 行き詰った想像で、頬が濡れる。

「違う、違うのじゃ……」
 押し潰されそうな心をぐっと堪えて、紫髪は庵を出る。
 夜に山を下りるべきではない、朝が来るのを待てばいい、そういう意識を押し止めて獣道に分け入る。
 人里には真実が待ち受けている。ろくなものではない。
 知っていても、重い足取りをやめない。
 月明りだけが頼りの暗い森で擦り傷を作りながらも、紫髪は人里を目指し続けた。

 いつのまにか夜は明けていた。
 眼前には里外れに建つあばら屋があり、覗き込めば床に伏した翁を囲む人間たちの姿があった。
 ここで引き返せば悪い予感はなかったことできるという誘惑を跳ね除け、紫髪は自身が人の姿をしていることを確かめて、戸を開ける。
 余所者の姿に驚く人間たちに頭を下げてマタギの翁の顔を拝むと、皺の刻まれた顔にもはや生気はなく、呼吸にゆっくりと上下する胸だけがかろうじて生きていることを表していた。意識が真っ白になり、心が全て絶望に染まるが――
「わしは、覚悟ができておる。これ以上続けても無駄じゃ」

 紫髪ははっきりと絶望の果てを否定してみせる。
 悪夢の終わりは心の滅びではなくて、見慣れない星空にて自分の人形たちが脳髄のような装置に刺された何本もの棒を引き抜いている光景だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

白木院・雪之助
じゃみんぐ装置とやらを破壊しに来たがさてどこにあるか……。

何故このような場所に雪が降っているのだ。我の力は封じてあるはずであろう。
……なぜ、お主がおる。
着物を着た小さな女子。この雪が降る中ではすぐに凍え死ぬ程にか弱い少女。今ならばそう分かる、我と違って人は寒さに弱いと。……昔の我は知らなかった。お主が喜ぶからと、雪を降らせた我には。

だが、今の我は違う。あの時の過ちを起こさぬように、沢山努力した。寒さを退ける術も身に付けた。

許せ、無知だった我を。寒さに震えるお主に何も出来なかった、無力な神さまを。



「じゃみんぐ装置とやらを破壊しに来たがさてどこにあるか……」
 白木院・雪之助(雪狐・f10613)が数時間前までは戦艦であった鉄塊の内部を覗き込むと、残留していた大量の微粒子が周囲を舞う。
「ふむ……」
 兵器の類である可能性を踏まえて即座に外部へと出る。だが、視界を遮るのは相変わらず真っ白な粒子――いや、雪だ。

「何故このような場所に雪が降っているのだ。我の力は封じてあるはずであろう」
 付近に他の猟兵はいない。その名に負う通りに雪を操る雪之助でもなければ、この宇宙空間に雪など降るはずがない。
 だが、出鱈目に吹き付ける雪結晶の嵐は周囲を白く封鎖する。
「……なぜ、お主がおる」
 吹雪の向こうに着物姿の女子(おなご)が居るのが見えた。
 女子は無重力の世界で風に流され、雪之助へと近づけることを喜ぶように微笑みかける。
 だが、吹雪が女子の身を次第に凍らせて苛む。
 雪之助へと近づくにつれて、動きは震えその表情は苦悶に変わる。
「かみさま、さむいよ、いたいよ」
 一丈先まで来た頃には、悲しみの顔のまま全身を凍り付かせた氷像となり、手を伸ばした雪之助に触れると飴細工のように砕け散った。

「我と違って人は寒さに弱いと……昔の我は知らなかった」
 かつて雪之助が犯した過ち。
 雪を喜ぶ子供の為にと自らの能力で降らせた雪は、加減を違えて幼い命を奪った。
「さむいよう……」
 砕け散った女子の欠片が雪を取り込み、それぞれが女子の形を作る。
 生きたまま凍りつく恐怖と苦しみから逃れようと、雪之助に助けを求める。
 凍り付いた着物が貼り付き、剥がれて傷を負った肌。凍傷で赤黒く変色し動かせぬ手。凍り付いて開けぬ瞼。それでもなお流れ、血の氷柱を作る涙。
 やがて吹雪に押し流され、周囲の残骸とぶつかって破砕されてゆく。

「いたいよう……」
 声が響く。降りしきる雪の一粒一粒が女子の苦しみを伝える。
 罪の意識が、寒さを感じないはずの雪之助を末端から冷やし、震わせる。
 これが、あの女子を死なせた感覚なのか――?
 考えが緩慢になり、意識が朦朧とする。人間は寒いと眠くなるらしいが、なるほどその通りであった。

 だが。
「今の我は違う。あの時の過ちを起こさぬように、沢山努力した。寒さを退ける術も身に付けた」
 雪之助は鈍った両腕を気合いで動かし、太陽の光を封じた霊符を周囲に舞わせる。
「許せ、無知だった我を。寒さに震えるお主に何も出来なかった、無力な神さまを」
 無数の符は降り積もった雪を解かし、一つ一つが女子を暖かな光で包んでゆく。

 ひとつとして凍った女子は助からなかった。
 けれど、雪之助は諦めない。
 次なる吹雪では必ず助ける――そう思ったときに視界に捉えたのは、とっくに凍り付いて機能を停止した、脳髄のような装置であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

紫・藍
藍ちゃんくんが、ただの藍だった時、この名前が嫌いでした。
名前には何の罪もないのですが、女みたいな名前だと、それがさも悪いように囃し立てられからかわれるのは子どもに辛なかったのです。
なんてことのない軽口として彼らは藍ちゃん藍ちゃん口にしたのでしょうが。
自分の名前という逃れようもないものを悪しように言われるのは、自分の存在そのものが否定されるようなもので嫌で嫌でたまらないのですよー?

でもだからこそ、そんな声を黙らせた女装を磨き上げ続けてきた自分自身に絶対の自信と誇りを以て、こう名乗るのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
始まりとなった過去の皆様に今の藍ちゃんくんのステージをプレゼントなのでっすよー!



「藍ちゃーん」
「あれー無視ー?」
「あいちゃんはご機嫌斜めでちゅねー。ひょっとしてぇ、女の子の日かなぁ?」
 下衆びた若者たちの笑い声が紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)の耳に届く。
 ジャミング装置を探していたはずだったが……周囲にはぼんやりと人の形をした影が幾つも浮かんでいる。
 人影の頭部にぽっかり開いた口からは、いくつもの心無い言葉が発せられる。
「こらこら、そっちのトイレは男子用だよあいちゃん」
「将来の夢は素敵なお嫁さんかなー?」
 お喋りな人影に囲まれて、小さく縮こまっていてくっきりと見える影は――藍の幼いころの姿だ。

 言葉を受けて幼い藍が肩を竦ませるたびに、人影は口元を三日月のように開いて面白おかしく笑う。まるで、叩けば音の出る玩具に夢中な幼児みたいだ。
 男なのに、女みたいな名前だからと幾度となく弄られてきた。大多数は深く考えずに反応を楽しんでいただけだろうが、これはいわゆる『いじめ』でしかない。
 ますます縮こまる幼い藍に同調するように、あの頃の悲痛な感覚が藍の恐怖心を呼び覚ます。

 人影はますます増長する。相変わらず蔑むような言葉を口にしながら、影を伸ばして小さな藍を取り囲み、ぐるぐると檻を作る。
 やがて檻が収縮して、何も言い返せない小さな藍が押し潰された。大きな藍は何もされていないのに、自分の存在そのものが否定されて、嫌で嫌でたまらない感覚で心臓がぎゅっと圧搾されたような錯覚に陥る。

 幼い藍を潰したヒトガタは暫く馬鹿みたいに嗤っていたが、次なる犠牲者として大きな藍に目をつける。
「あれーひょっとして藍ちゃん?」
「藍ちゃんまだ居たんだ、やっぱ女子ってしぶといね」
 こってりと思い出に絞られた直後の藍は思わず恐怖で足が竦む。
 だが、思い直す。自分が磨き上げてきたものは何だったか。誇れるものとして自信を持って言えるようになったものは何だったか。

「そうです、藍ちゃんくんでっすよー!」

 過去からの呪いを振り切り、ハイテンションで高らかに宣言する。
 切っ掛けは自棄になったことで始めた女装だったが、着飾った姿は周囲を黙らせた。恥も奇異の目も恐れず向き合い続けたことで、今ではすっかり藍の日常の一部だ。
「始まりとなった過去の皆様に今の藍ちゃんくんのステージをプレゼントなのでっすよー!」
 隕石のごとく大質量のステージセットが飛来し、人影の塊に当たる。ひらひらと布の様にすり抜けて逃げた残りの人影を前に、藍のステージが始まる。
「貴方の為に歌いまっす! というやつでっすよー! 永遠にアンコーッルなのでっすよー!」
 ギャラクシー藍ちゃんくんステージの観客が腰砕けになってやがて消えゆくとき、センターブロック最前列に鎮座していたジャミング装置もまた、その役目を終えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

スターリィ・ゲイジー
厄災の予兆を観測する星見の職であったが、かつてあったとされる厄災から一人だけ偶然逃れてしまった。
故郷を見捨てる形になってしまった事は、割り切るしかないとはいえ負い目が残っている。

故郷のヒトや同族が何も言わずに見つめている。
そのように見つめるだけだと困る。私をどう思っているのか教えて…いいえ、とにかく何でもいいから声を聞かせて。
私は…



…駄目じゃな。ワタシのトラウマであれば、尋ねても答えがないのは分かっているのじゃ。
答えは自分で決めるしかない。何であれそれを担いで歩き続けるしかない。
すまんの。星見のワタシがこうして生きてる以上は、出来る限りの事はやりたい。
待たせるが我慢して欲しいのじゃ。

踏み出す。



 スターリィ・ゲイジー(ほしをみあげるスターリィ・f06804)の視界に広がるのは、故郷とは全く異なる様相の星空。破壊すべき装置の在処を探るには星辰を読むよりも単純に目を凝らした方が早いのではないか――
 そう思いスターリィが戦艦の残骸に目をむけたとき、故郷のヒトや同族がその瓦礫の中に佇むのが見えた。

「私をどう思っているのか教えて……いいえ、とにかく何でもいいから声を聞かせて」
 星見であるスターリィの観測が及ばなかった災厄で、故郷は滅びた。偶然にも一人だけ生き延びてしまい、故郷を見捨てる形になった負い目がスターリィにはある。あの日皆は何を思ったのか。何を感じたのか。せめてそれが分かれば、償いもできよう。

 しかし、故郷の面影はただ何も言わず、見つめるだけ。
 悲しいのか、恨めしいのか、それすらも伝えようとはしない。
 災厄によって滅びたのではなく、スターリィが昏睡している間に幾歳もの時が流れて自然に衰退した可能性はないのか、そうあって欲しいけれど。
 一切の疑問に、人々は答えない。

 佇む面影が増える。――『お前が見捨てた人々だ』と星が騒めく。
 凶星が瞬く。――『なぜ見えなかったの?』と過去のスターリィが問う。

「……駄目じゃな。ワタシのトラウマであれば、尋ねても答えがないのは分かっているのじゃ」
 よりによってこんな虚像を見るなんて。
 大きな喪失感がスターリィを蝕む。埋める術は与えられなければ自分で無理やりにでも創り出すしかないのだが、根拠なく自分で決めてしまっても良いものだろうか。迷いは晴れない。
「すまんの。星見のワタシがこうして生きてる以上は、出来る限りの事はやりたい。待たせるが我慢して欲しいのじゃ」
 佇む面影は何も答えない。スターリィの望みを叶えようとはしない。

「何であれそれを担いで歩き続けるしかないのじゃ」
 向けられる真っ直ぐな視線に、動悸がする。
 勝手に決めないで、と笑われているような錯覚がする。

 だが――スターリィは腹を括る。
 自らを縛り付けて何も言わない思い出から決別し、新しい一歩を踏み出す。
「これは」
 意外だった。すぐ近くに脳髄のような装置があった。
 他者のなかに答えを求めて近づいていれば、見落としたかもしれない。
「――」
 即座に詠唱なく放たれるLost Star(ロスト・スター)の光が装置を灼く。
 振り返れば、故郷の面影も消えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティナ・クリムゾン
悪夢は師匠に救われる前の日々

私の血は特別だと言われた
様々なものに転用出来る奇跡のような物だと
より良い血を求めて繰り返される実験
逆らえば傷付けられ、その傷から出る血の一滴でさえ奪われた
死ぬことも、私には許されない
壊れかけた心で、ただ涙を流して過ごすだけ
助けて……

……痛みが走る
手に持つ『鮮血の薔薇』から伸びたとげが私の血を吸っていた
師匠が私のために作った武器
私の境遇を知りながら、こんな武器を渡す……ちょっとおかしな人
でも、私を救い、名前をくれた人
あの時の喜びをもう一度しっかり思い出す
私はこの悪夢の先にある幸せを既に知っています
だから、こんな過去に私は……『ティナ』は絶対に負けたりしません……!



 ティナ・クリムゾン(流血の魔弾・f14110)が装置の探索をしていると、鈍い痛みを感じて宇宙服を確認する。
 服には何の損傷もなく、肌と肉の感覚だけがじんわりとした感触を訴えている。
 けれど、血を流している実感がある。
 貴重な資源として血を奪われ続けた昔日の思いが去来する。

「この奇跡の血、今度はもっと有効活用してみますとも、ええ。ご提供ありがとうございます」
 同意があって採血が行われていた頃はまだよかった。
「ふむ……それでは少々手荒な手段を取らざるを得ませんね。これはあくまで治療行為です」
 拘束を言い分に、傷つけられることもあった。傷口からの僅かな出血すら奪われていった。
「殺すなんてとんでもない。あなたにはたとえ亡くなっても『生きて』いて貰わねばなりません」
 しまいには、拘束に拘束を重ねて人としての尊厳も奪われ、血液を発生させる生体装置として扱われた。
 もはや壊れかけた心で、ただ涙を流して過ごした日々のあの感覚が生々しく蘇る。見遣れば、あの日の拘束具がティナの全身を捕えている。
『助けて……』
 静脈に刺した針から延々と採血され続ける感覚が、ティナを次第に麻痺させる。
 心臓のどくどくという音が、耳から脳をすべて支配する。

「……あっ」
 採血とは違った痛みに意識を引き戻されると、大切に持っていた『鮮血の薔薇』が、棘を伸ばしてティナの血を吸っていた。
「師匠が私のために作った武器……」
 境遇を知りながらもこんな血を吸わせる武器を渡すという可笑しさはあるが、救い出してくれて、『ティナ』という名を与えた恩人だ。

「私はこの悪夢の先にある幸せを既に知っています。だから、こんな過去に私は……『ティナ』は絶対に負けたりしません……!」
 あの時の喜びをもう一度しっかり思い出す。
 あの時は師匠が破ってくれた拘束を、ティナは自力で引き千切る。血管から針が抜けて血を噴き出すが、鮮血の薔薇がその棘で傷口を覆い、ティナの血液を我が物とする。
 ティナが逃走を図ると作動したセンサー式警報機のコール音がけたましく異常を報せるが、現れたのは拘束のための恐ろしい人間たちではなかった。
 脳髄に無数のアンテナを刺したような装置が、部屋の出入り口に変わって現れた。
「ん……標的、補足……撃ち抜きます」
 十分に血を吸った鮮血の薔薇が撃ち出した大量の血の弾丸が脳髄を穿つ。
 血を浴びて穴だらけになった装置は、薔薇の花にも似ていた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト