其は猛き勇士 汝の名はフィオリナ
●伝承曰く
偉大なるかなフィオリナ 貴女はよくぞ戦った。
出陣すること幾星霜 ただの一度も負けは無し。
戦を朝に夕に繰り返しても 傷を負うこと一度も無し。
返り血で染まりし御身の姿は 赤獅子の異名を誇るなり。
見よ彼女が駆けていく 護国のために敵を討たん。
敵が恐れて十歩退けば 味方奮いて十歩進まん。
偉大なるかなフィオリナ 貴女は常に前に居た。
君を逃がす殿へと 貴方は率先して手を挙げた。
雲霞の如く押し寄せる 万を超すは敵の群れ。
しかして止めるはフィオリナと 同じく忠義のつわものぞ。
勇士の姿を彩ろうとかくして朱が乱れ飛ぶ。
昼夜問わず戦は続く やがて一振りの剣が彼女を貫いた。
ただの一度も負けは無し ただの一度も負けは無し。
膝をつくなど彼女にあらず。
己が血泡にて鎧を磨き上げ しかと敵を睨みつけるではないか。
衆目これにどよめいて 三十歩退いて窺うのみ。
陽が照らすその勇姿は 赤獅子フィオリナその人なり。
偉大なるかなフィオリナ 貴女はよくぞ戦った。
偉大なるかなフィオリナ 貴女はよくぞ戦った。
●グリモアベースにて
「これがアックス&ウィザーズに伝わる、猛きフィオリナの伝承です」
ここはグリモアベース。
ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
フィオリナは、古代にて剣を振るった英雄なのだという。
彼女にまつわる話は、A&Wの世界のあちこちに伝わっているそうだ。
「そのフィオリナ卿が現代の地にて甦ろうとしています。……忌まわしきオブリビオンと成り果てて」
ライラは語る。
伝説は過去を彩る。
それは人々の記憶に残り、あったであろう過去を更に象っていく。
そして過去は、歪んでしまうとオブリビオンとなって現出してしまうのだ。
「この世へと現れたフィオリナ卿は、過去に取られるがままに行動を取ることでしょう」
殿をつとめあげ絶命した時のままに、目の前の敵全てに対して剣を奮うのだ。
過去に囚われた彼女には、それが敵かどうかの区別がつくこともなく。
やがて、フィオリナは世界の全てを屠ることになるだろう。
文字通り、たった一人になってしても。
「謳われるほどの英傑が殺人鬼の異名で名を汚すことがあってはありません。我々の手でオブリビオンを元あるべき場所へと還しましょう」
それが偉大なる英雄の名誉を護ることになり、世界を護ることに繋がる。
そう言ってライラは、猟兵達に深々と頭を下げたのであった。
妄想筆
こんにちは。妄想筆です。
今回は伝えられし英雄との戦い、二章構成となってます。
一章が情報収集パート、二章がボス戦です。
一章は酒場にてフィオリナについての情報を集めることとなります。
謳われし英雄は伝承に尾ひれがついてしまっており、それが過去を元とするオブリビオンを強化してしまっています。
同時に、英雄の行動や癖も模倣することになり、それを突破口とすれば戦いやすくなるでしょう。
その糸口を掴むため、祖国だった地にての情報収集になります。
酒場には人が色々いますので、昔についての事柄は色々聞けます。
情報収集以外のことをなさっても構いません。
成功数が溜まれば二章へと移行します。
二章はグリモア猟兵に転送された古戦場地。
復活したばかりのフィオリナが猟兵たちを待ち受けることでしょう。
一章にて得た情報を利用した行動にはプレイングボーナスがつきます。
※利用せず行動しても失敗するわけではありません。
オープニングを読んで興味が出た方、参加してくださると嬉しいです。
参加お待ちしています。
第1章 冒険
『酒場での情報収集』
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POW : 腕相撲などの競技や、喧嘩などによって相手に力を示すことで情報を得る
SPD : ある時間にしか現れない事情通を捕まえる
WIZ : 魔法で困りごとを解決した対価に情報を得る、口車にうまく乗せて情報を得る
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
場の片隅で竪琴を奏でる吟遊詩人。
しかし酒場の活気は、そんな詩吟をかき消すほどに騒々しい。
今日の仕事疲れを癒す者。明日のために鋭気を養う者。
いつの世もここは人で溢れている。
かつてフィオリナが剣を捧げた国も今は無く、栄枯盛衰に変わり続けて別の国となっている。
だが伝説は人々の世に生き続ける。
少し口を軽くしてやれば、彼らは子供の時に聞かされた御伽噺を喜んで聞かせてくれるだろう。
文献、言い伝え、戯曲、講談。
英雄に対する羨望は、過去を幾重にも膨らませる。
知るべきことはいくらでもある。
しかし、戦の前に腹ごしらえするのも良いかもしれない。
猟兵たちはそれぞれの行動に出るのであった。
大宝寺・風蘭
一曲終えた吟遊詩人のところへ寄り、拍手しつつその技量を褒める。言葉だけでなくおひねりも忘れず。
「もっと弾みたいトコなんだけど、アタシも懐を叩けば黄金が出るわけじゃないからねぃ。これでゴメンしてよ」
相手が上機嫌になったら『猛きフィオリナ』の原典となった伝承や史書が存在しないか質問。
その辺の情報を取っかかりに、より古いフィオリナ像を探る。最期の戦いの敵はそもそも何者で、敵味方の数はどうだったのか。彼女が仕えた王はどんな人物だったか……等。
(伝承と実態に齟齬があるとして、何だろ。実は王様と超仲悪くて、戦死狙いで危険な戦場に送られてたとか。あるいは、傷一つなかったのは実は前線で戦わなかったからとか?)
一曲奏でおわり道具をしまいこもうとする詩人に、大宝寺・風蘭は拍手で彼を賞賛した。
その表情には世辞はなく、偽りのない声援に詩人も笑みで返した。
「ありがとうございます」
礼をのべる詩人が再び面をあげるその間に、大宝寺の指が弾いた硬貨が銭箱へと吸い込まれ、小気味の良い音を立ててかしわ手を打つ。
首をふって愛想笑いを浮かべる大宝寺。
「本当はもっと弾みたいトコなんだけど、アタシも懐を叩けば黄金が出るわけじゃないからねぃ。これでゴメンしてよ」
「いえ、お気持ちを頂ければ結構ですよ」
詩人が再び笑みを作る。
どうやらファーストコンタクトは成功のようだ。
フィオリナについての情報。
それらを集めるために、大宝寺はまず吟遊詩人に近づこうと試みていた。
何分昔のこと。自分もそんなに頭が回る性質でもない。
街から街へと旅を続ける彼らは、きっと英雄にまつわるよもやま話を知っているに違いない。
そう考え大宝寺は酒場へと足を運んだのだった。
「そうかい、そう言ってくれると嬉しいねぃ。じゃあその好意に甘えて知ってることがあったら聞かせて欲しいな」
「一曲、聴かせれば宜しいので?」
「あー、う~ん……それもいいんだけど」
腕組みをしながらうむむと考え、大宝寺は彼に本題を切り出してみた。
「『猛きフィオリナ』についてさ、アンタが知っていることがあったら教えて欲しいな」
「猛きフィオリナですか。彼女の逸話は私たちのなかでも唄として伝わっていますね」
詩人は私は史家ではありませんがと前置きをいれながら、己の知っていることを語ってくれた。
彼女は勇猛果敢な騎士であったと伝えられている。
文献によれば、どんな敵にも一歩も退かず数多の戦場を駆け巡った。
その雄々しき姿に味方は鼓舞され、剣の切っ先のように敵陣を貫いたという。
「そこら辺はアタシも知っているよ。彼女について書物とかあれば教えて欲しいんだけど」
「あいにくとそういった物は私は持ち合わせてはいませんので……しかし詩としてなら幾ばくかは知識があります」
そういうと詩人は竪琴をかまえると、朗々と歌い出した。
フィオリナ フィオリナ 何処へ行く
振り向きざまに彼女はいった 帝都の偉い方にお目通りに
街村連中指さし笑う こいつはえらいことをいう馬鹿だ
手を叩き囃し彼女を笑う
フィオリナ フィオリナ 何処吹く風
木の枝ひっさげ まっすぐに
背中見送り月日は巡る フィオリナ フィオリナ やってきた
お前を嗤う者なぞ一人も無し
猛獅子フィオリナ ここにあり
「なんていうか……コミカルな詩だね」
「ええ、童謡みたいなものですからね」
フィオリナは元々貴族の生まれなどではなく、市井の人間から功を立てて爵位を賜った。
そのことを謳った詩であるらしい。
「へえ、それじゃあ貴族連中にやっかまれたとかしてたのかな?」
「貴族はどうだかわかりませんが、帝には気に入られていたようですね。爵位を賜る際、剣と盾を彼女に授けています」
「そりゃ凄いな。そんな彼女がどうして死んだのさ?」
「おや、御存知でなかったのですか? 偉大なるかなフィオリナ、貴女は常に前に居た。君を逃がす殿へと貴方は率先して手を挙げた……彼女は君主を逃すため、しんがりをかって出て討ち果たされたのですよ」
遠征時、敵の反撃を受けて撤退する必要が出たとき、彼女はまっさきに敵を迎撃する役をかってでたのだという。
援軍も、ましてや本隊がいないとあれば勝機は絶望。
しかし彼女が率いる隊の猛攻によって、味方は逃げおおせることが出来たのだという。
その結果、彼女は壮絶な討死を遂げたのであった。
「なるほどねぃ」
うむうむと頷く大宝寺。
もしかしたらわざと危険な戦場に送られたと考えもしたが、その線はなさそうだった。
眼を瞑り、しばし物思いに耽る。
こちらより圧倒的多数の敵兵。それを見つめるフィオリナと少数の兵。
彼女達はどんな思いで、武器を握っていたのであろうか。
判官贔屓、という言葉がある。
彼女達に対する人々の情が、過去を塗り重ね武功を誇張する。
そしてそれは、過去を元にして生み出されるオブリビオン。
その強化に繋がりかねない厄介な事柄だ。
「ほんと、厄介だね」
両の拳に力がおもわずこもる。
「でもねフィオリナ。哀しいかな、アンタが仕えるべき偉い人はもういないのさ」
成功
🔵🔵🔴
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
過去の英雄が歪められて滅ぼしにかかることになるとは…その英雄本人に対する侮辱となりましょう。
ですから、ここで止めるためにもねー。
旅人を装って。その英雄・フィオリナ殿の言い伝えに興味があると言っての聞き込みですねー。
嘘は言ってませんよ。興味があるのは本当ですし…私や内部三人(武士)は、その壮絶な最期に共感してる部分がありますのでー。
ああ、お礼として飲食代は払いましょうかね。
ふふ、この世界に関わったことが多くて、それくらいのはありますしー。さすがに対価がないのはねー?
ふらりふらりと馬県・義透は街中を進む。過去の英傑に想いをはせながら。
自らの行いを、後世の人がどう判断するかは自由であろう。
しかして、紛い物が当人を貶めようとするは甚だ遺憾。
評価はあるがままに。不当に名誉が傷つけられることがあってはならない。
だから、馬県はここへとやってきた。
ぴたりと足を止めるのは、ひとつの酒場。
「ですから、ここで止めるためにもねー。」
フィオリナの情報を集めるために、彼も酒場へと入っていく。
カウンターへと一人、足を運んで静かに座る。
どうやら詩人には別の仲間が聞き込んでいる様子。
なればと馬県カウンター越しに店主へと話をうかがうことにした。
「店主、なにか飲み物をいただきたい。そして良ければ話を聞かせて欲しい」
「ふうん。まあ、俺が知ってることで良ければ教えるぜ」
この酒場にも冒険者は繁く通う。情報を求められるのも別段不思議では無い。
だから店主は飲み物を持ってくると、どかりと馬県の前に向き直った。
「で、何が聞きたいんだい。お前さん? 客には愛想良くしろとは俺の親父の遺言でな」
「そうですねー。私が今非情に興味あるのは……やはり、赤獅子フィオリナについてでしょうか」
「フィオリナ? いいぜ、どんなのがいいんだ?」
「そうですねー……」
目と口を閉じて思案する馬県。
胸中に渦巻くは、その最後についてだ。
いったい彼女はどうやって戦い、逝ったのか。
己の中の自分が、それを知りたいと思っていた。
「フィオリナの最後、ですかねー。彼女がどうやって戦ったのかを知りたいですね」
「どうやって戦った、かい。まあ諸説紛々あるけどよ」
フィオリナの最後は壮絶であったと伝えられている。
寡兵で相手取るために、フィオリナは丘へと隊列を組んだ。
時は折りし、雷雨の時。
ぬかるんだ地面と林、僅かばかりの地の利を取って迎撃しようと考えたのだ。
この強風と雨では、矢などは役に立たぬ。
丘をのぼって押し寄せてくる敵兵に対し、長槍を突き刺すフィオリナの兵隊。
「その中でもフィオリナは果敢に戦った。雷鳴もかくやといわんばかりの彼女の咆哮。それは旗印となって味方を鼓舞した。しかし哀しいかな。それは敵に取っても、討ち果たすべき大将首を報せる結果となってしまうのだ。見よ! あそこに将がいるぞー!」
興が乗ってきたのか、講談噺家もかくやといわんばかりの熱弁をふるう店主。
それを馬県はじっと、目を細めて聞き入っていた。
「お強い方、だったのですね」
「ああ、そうみたいだな。俺らがガキの頃はよ。雷が来たらこう嘯いて外で遊んでいたぜ。『雷なんか当たるもんか。フィオリナがここにいるぞ』ってな」
「『雷なんか当たるもんか。フィオリナがここにいるぞ』、ですかー」
店主が語る言葉に続け、馬県も口を動かす。
それを見て、店主の口もにんまりと動いた。
「ああ、ここら辺に伝わる雷避けのおまじないさ。あんたも冒険者なんだろ? 旅の途中にでも俺の言葉を思い出してくれよ」
その言葉に馬県も首を縦にふった。
「ええ、覚えておきましょうとも。覚えやすいように料理のひとつも貰いましょうかね。そろそろグラスが空になりましたしね」
そういってそっとカウンターに置かれた銅貨を見て、店主は破顔した。
「あいよっ! 今の話にまけないくらいの肴を持ってきてやるぜ」
店主が料理を作るためにへと厨房に下がる。
その後ろ姿を見送りながら、馬県は代わりを注がれたグラスを手に取り、口に運ぶのであった。
成功
🔵🔵🔴
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎
姿形は同じくそこに意思があろうとも所詮過去の残滓じゃ。
英傑の名誉を穢されぬ為にも一肌脱ぐとするかのう。
さて、まずは情報収集からじゃな。
この賑やかな酒場なら雰囲気に酔い口も軽くなろうというもの。
ここはさらに盛り上げて話を聞きやすい雰囲気を醸成するのじゃ。
秘伝の篠笛を吹き鳴らして巨狼マニトゥや小動物達を呼び出し、笛の旋律に合わせて動物の身体能力を活かして曲劇辻芸を披露するかの。
この身なりで侮られるようなら得意の弓矢を使った曲射ち等で武力を示すのもよいかもしれぬな。
場を温めたら休憩しつつおひねり代わりにフィオリナ殿の噂話をねだるのじゃ。
子供におとぎ話を語るのは大人の役目じゃからな、たんと語って貰おうではないか。
と言う事で店主よ、わしにも酒を…なに?駄目じゃと? 仕方あるまい適当に果実水を貰うのじゃ。
あと動物達への報酬はナッツ類がよいかのう?
酒場に行き交う喧噪。飲み食いする人達。
そんな野卑な音とは別の、洗練された音がその場にいた人の耳に届いた。
詩人の弾き語りか。
否。
彼はとうに手を休めて、一服の食事にありついている。
では誰が?
耳ざとい者がそこへと首を傾げれば、動物の群れが次々と酒場の中へと入ってくる。
「狼じゃねえか!」
群れを成した狼の恐ろしさ。
それは冒険者だからこそ、身を持って知っている。
酔いが一瞬にして止み、矢継ぎ早に席を立つ者達。
そんな輩の性急さを、店主が静止した。
「待ちな。どうやらお客さんのようだぜ」
その声に、ふりむき振り返れば、戸を開けてやってきたのはひときわ大きな巨狼。
その背に跨って、一人の少女がやってくるではないか。
少女、エウトティア・ナトゥアは周りの反応を確かめると、笛を操る手を休めずに微笑んだ。
旋律を変えれば、狼たちはその曲に合せて軽やかに身を躍らせる。
酒場に空いたテーブルや椅子は、狼たちの演舞場と化した。
「なんだ? 大道芸人か?」
獣たちに敵意が無いと知ると、その場にいた者たちは座り直し、突如始まった余興に合いの手を入れる。
狼たちはその賞賛に応え、己の技を魅せつける。
狼一匹とんと飛べば、そこへ瓶のタワーが積み上がる。
二匹、三匹、あちこちから跳躍する度に、咥えた瓶がそこへ置かれ積み上がっていく。
そしてその積まれていくタワーを、狼たちは置きざまに跳び越えていく。
曲調が速くなり、狼たちの動きもせわしくなっていく。
しかし激しく動こうとも、タワーは正確無比に積まれていき、崩れる気配をみせないではないか。
やがて狼が複数匹飛び上がった、一匹が兄弟達の背をジグザグに跳ね駆け上がり、ひときわ高く飛び上がった。
タン。
高さを感じさせぬ、鮮やかな着地。
衆人が塔の天辺を見上げれば、頂点にたつは並々と注がれたグラス。
曲が止みエウトティアが一礼すると、崩れんばかりの拍手が鳴り響くのであった。
「やあ嬢ちゃん、俺のおごりだ! 食いねえ食いねえ!」
「おっと、俺からもだ! まさか嫌とは言わせねえぜ!」
酔漢共から押しつけられた食べ物。
それらがうずたかく積み上がった山を、狼たちが相伴に預かっていた。
(反応は上々じゃな)
芸のひとつでも見せれば態度は軟化すると思ってはいたが、やはり効果はあったようだ。
酒場にいた者達はエウトティアを旧知の友のように扱い、振る舞ってくれていた。
これなら色々なことを聞いても、たやすく教えてくれそうだった。
「さてさてご同輩、わしはフィオリナ殿についての話が聞きたくてな。諸兄たちにうかがおうと思うておるのじゃ」
「フィオリナ? 赤獅子のフィオリナか?」
「うむうむ、そうじゃ。伝承でも噂話でも、なんでもいいから教えて欲しいのじゃ」
「おう、任せとけ! 見た分だけ口を返してやるよ!」
口が軽くなった冒険者たちが、矢継ぎ早に語りかけてくる。
それら数多くの話を、エウトティアはまとめて自分なりに消化するのであった。
フィオリナは騎士道を貫かんとした英傑であると伝えられている。
こんな逸話がある。
あるとき、戦場で優勢であるフィオリナの隊に声がかけられた。
「猛きフィオリナ卿! 一騎打ちを所望したい!」
劣勢である側が、敵の将を討って盤上を返そうというのだろう。
優勢である側が、受ける理由など本来無い。
だがフィオリナは違った。
「下がれ」
そう部下に命じて下がらせ、自らは前に進みて盾と剣を構えた。
「名を乞われて下がるは騎士の名折れ。されば惚れ惚れとする益荒男よ。一騎打ち、望むところ!」
名誉を汚す勝利に価値無し。
この行為に、敵味方も盾と剣を打ち鳴らして感嘆の声をあげたという。
またこんな逸話がある。
戦勝の宴のおり、帝がフィオリナに盃を薦めたことがあった。
しかし彼女は首を振ってそれを辞退した。
「私は剣を持って陛下に仕える身です。酔っていてはその任を果たせませぬ」
君主と臣下の立場である。
この無礼な物言いに周りはどよめいた。
「フィオリナは真っ直ぐな剣。まこと騎士であるな」
そんなフィオリナを帝は笑って許し、腰元の剣を拝領させた。
これで自らの敵を討て、とのことであろう。
このことにフィオリナは大層感激し、さらに武勲を重ねるようになったという。
「ふうむ、ようするにフィオリナ殿は騎士道精神溢れた英傑らしいのう」
そうなればオブリビオンも騎士道振る舞う戦士として現れるに違いない。
戦術はともかく、権謀術数には疎い気がする。
こちらが卑怯な振る舞いをすれば激昂するのであろうか。
「国と、仕えるべき君主が無くなれば、騎士というのは何をより所にするのであろうな」
もっとも、そんなことを考えても仕方のないことかもしれない。
これから打ち倒すべきフィオリナは、人々の偶像虚像が重なった過去、残滓に過ぎないのだから。
「憐れと放っておけば、この世に禍をなすのがオブリオンじゃ。現在に過去の居場所はなし、英雄は英雄のままに退場していただこうかのう」
聞き疲れてグラスに手を伸ばせば、中の液体はとうに少なくなっていた。
「ふむ、なくなってしもうたか」
あれこれ考えすぎたか、まだ喉は潤いを欲している。
「と言う事で店主よ、わしにも酒を」
満面の笑みでねだるエウトティアを仏頂面の店主が袖にした。
「嬢ちゃん未成年だろ。酒を嗜むにはまだ早い」
この浮かれ騒ぎの中なら酒を味わえるかと思ったが、さすが海千山千の冒険者をあしらう酒場の店主である。
相手が子供でも、隙はみせてくれないらしい。
「む、残念。駄目じゃったか。……仕方あるまい、適当に果実水を。それならよいじゃろ?」
ねだるエウトティアの前に、キンキンに冷えた果実水が注がれる。
それが答え。
久々に一曲吟じた喉の疲れをそれで潤し、エウトティアは周りを確かめた。
すでに、酒場にいる者達は狼の群れを気にしてはいない。
飯の余りを振る舞うものさえいる。
「店主、狼たちにナッツを振る舞えるか?」
客のおひねりではなく、彼らに自分からの報酬を渡さねばと思ったエウトティアは、店主に注文した。
「いいぜ。よく躾けられてるなあの狼ら。アンタ、ビーストテイマーかい?」
エウトティアにも皿に盛られたナッツを置いて、店主は酒場の中で次々とナッツ皿を置いていく。
そのかいがいしさへ嬉しそうに目を細め、エウトティアは首を横に振った。
「猛獣使いなどではありはせん。彼らはみな、わしの兄弟よ」
そういうとエウトティアはナッツをひとつ摘まみ、狼と同じように囓るのであった。
成功
🔵🔵🔴
雪・兼光
○SPD
あらかじめアックス&ウィザーズの貨幣とUDCの貨幣を交換できればだけど
出来ないなら遅刻するんじゃないかなぁ
てか、アックス&ウィザーズの通貨どこに仕舞ったっけ?
目的は情報通を捕まえることからだ
今回の相手は勝手に知らない尾びれがついているだろうから、
それの確認とその英雄の癖と行動を確認することも忘れずに
もちろんタダでとは言わない
先ずは口を滑らかにして貰わないとな
酒奢るぜ……予算の範囲だがな
え?飲めない、じゃぁ飯奢るよ
マスター肉料理
…え?野菜がいい?
マスター…美味しい野菜料理
……甘い物が良い?
…マスターあるだろ?チョコレートパフェ的な物が
「こんなものかな」
銅貨と銀貨がつまった袋の中身を確かめて、雪・兼光はふうと息をついた。
UDCの相場なら大体わかるが、この世界の情報料は幾らになるかは知らない。
いちおう大丈夫なように用意はしてきたが、多いに越したことはないだろう。
酒場で手持ち無沙汰に辺りを見回し、件の人物の入店を確認したところで、ほっと胸をなで下ろした。
雪が接触を試みたのは、この辺りの情報通だ。
当該人物を突き止めるまでにもそれなりの金額を使ってしまったのだが、そこのドタバタは割愛しよう。
「とにかく、間に合ってよかったぜ」
情報を入手したはいいが、敵出現までにまに合いませんでしたでは猟兵の名が廃る。
安堵の息をつく雪の対面に、男がゆっくりと腰を落ち着けた。
「フィオリナについて知りたいとのことですが」
学者風の男が尋ねると、雪はもちろんと頷いた。
「ああ、色々と聞きたいことがあってな。足を運んでもらって悪かった、まずは酒でも飲もうか。奢るぜ?」
雪が薦めると、男は首を振った。
どうやら飲めないらしい。
「そうかい、じゃぁ飯奢るよ」
ならば別の物を、と頼もうとする雪を、男が制止した。
「いえ、まずは質問にお答えしましょう。腹が膨れては口を動かすのも億劫になりますからね」
「なるほどな。じゃあ遠慮無く質問させてもらうぜ」
そういうことなら話が早い。フィオリナについての事柄を尋ねることにしよう。
雪が男について尋ねようとしたことは外伝。
正史ではない異聞や民間伝承についてだった。
歴史書に伝わっている事柄は、ほかの仲間たちが調べてくれている。
だから自分は、別の側面から調べてみようと思ったのだ。
目の前の男は、そういうことにも詳しい学者先生らしい。
雪は時間が許す限り、フィオリナについて質問するのであった。
フィオリナは演目などでは、その強さが誇張されているらしい。
飛んでくる幾多の弓矢を剣の一振りで叩き落としただの、叩きつけた剣の威力で大地が割れただの。
後世になるにつれ、実力がかさ増しされて超人のようになっているらしい。
演目戯曲では、分かりやすいように演者が大げさな身振りで客に聞こえやすいように叫ぶ。
舞台装置を動かしやすくするためだ。
フィオリナが強かったことは事実だ。だがこれは、実際の騎士の動きではないだろう。
記録によれば、白刃煌めく近接戦では並ぶ者はいなかったそうだ。
ただ黙々と、無言で敵を斬り伏せる。
そんな寡黙な騎士らしかった
「まあ、役者がだんまりでは演目もよくわかりませんしね。技名を叫んだりするのは、お約束というものでしょう」
「なるほどね」
演目であろうが、それも人々が信じるフィオリナの像だ。
頭の片隅に入れておいてもいいかもしれない。
「強いのはよくわかったけどよ、弱点とかは無かったのか?」
「弱点ですか? うーん、そうですねぇ……」
フィオリナは強かった。それは歴史家の認めるところ。
では、弱き処は無かったのか?
本人の伝には残ってないが、同じ時代を生きたと云われる騎士伝にこんな逸話が残っている。
愚直なフィオリナは愚かな君を護ろうと、予想通り戦場へとやってきた。
「我々に煮え湯を飲ませ続けたあばずれは、ついにここでおっち死ぬのさ」
モーラ卿は自分の策が成ったことを確信し、部下に二の矢を命じた。
姿格好が似ている者を十字架に縛り付け、矢面に立たせるのだ。
「フィオリナよ、お前が仕えた君主はすでに我らの虜になったぞ」
フィオリナが一瞬、それを見て落としそうになった。
だがそれでいい。一瞬の油断は戦場では命取りだ。
兵士たちの剣が次々とフィオリナに突き刺さっていく。
それを見てモーラ卿は高らかに叫んだ。
「呪われろ呪われろフィオリナ、我らの親も兄弟も友も貴様によって殺された。貴様が地に倒れることも、天に昇ることも許しはしない。そのまま己の未熟さを嘆いて立ちつくすがいい。未来永劫立ちつくすがいい。たとえ迷うて甦ろうとも、我らの刃が貴様を斬り、この場に縫い止める。この言葉を持って宿敵に送ろう。『お前はよく戦った』、この疫病神が!」
「救国の英雄など、敵方にとっては厄介極まりない。人というのはそういう身勝手なものですよ。そういうのを全部ひっくるめて歴史なのです」
フィオリナのことを語り終えたのか、男が水を呑んだ。
つられて雪もグラスを口に運ぶ。それにしても話しこんだものだ。
緊張が解けると空腹を覚えてきた。そういえばさっきから全然食べていない。
「貴重な話をありがとな、やっぱ飯奢るぜ。マスター肉料理!」
手を挙げて店主に注文する。
「では私は野菜料理を頂きましょうか」
「そっちの方がいいのか、わかった。マスター、こっちにはとびきり美味しい野菜料理を!」
質問は終わり、歓談の時間に入る。
二人は話し込んだ分、腹に料理を詰めむのだ。
皿がからになった時にはすっかり打ち解けていた。
「厚かましいかもしれませんが、食後のデザートなんかも欲しい所ですね」
「デザートか! いいぜ!」
袋の中身はまだまだたっぷりとある。用意してきて良かった。
雪がふたたび店主にむかって声をあげる。
「マスター、甘い物を二つ。あるだろ? チョコレートパフェ的な物が」
腹が減っては戦が出来ぬ。
雪は追加で来た皿にむかって、スプーンを伸ばすのであった。
成功
🔵🔵🔴
刹羅沢・サクラ
首の為でなく、君主がために戦うか。
まさに逸話に語られる騎士の如きもの。
しかし、進んで戦場に立つ心意気、わからぬではない
忍んで近況を聞くのとは訳が違いますね
酒場とあらば、荒くれ者もおりましょう
店主に一杯頼みつつ、態度の悪そうな酔客にお帰り頂いて、切っ掛けにでもしつつ、フィオリナの話を伺えぬものでしょうか
酒は静かに嗜むもの
多少の会話は、肴にもなろう
されど、過ぎれば味を損なうもの也
さて、噂に聞く赤獅子……まるで知らぬではないが、同じとも限らぬ
店主ならば、詩人の話も飽きるほど聞いていることに違いないが……。
酒場に響く喧噪。
そこから独り離れて、刹羅沢・サクラは静かに酒を飲んでいた。
彼女が思うのは今回のターゲット、フィオリナの件である。
「首の為でなく、君主がために戦うか。まさに逸話に語られる騎士の如きもの」
仲間から得られた情報を反芻しながら、自分なりの考えを嚥下する。
オブリビオンが過去の彼女を模して現れるというのならば、おそらく此度の戦いは多数と壱。
かの者が撤退戦で殿を務めた最後を模倣するやもしれぬ。
「その状況が、こちら側に不利にならないようならよいのですが」
あれこれ考えても仕方が無い。
賽は投げられた。自分はやるべきことをやろう。
そう思いつつ、盃に手を伸ばそうとしたとき、横から飛んで出てきた何者かがテーブルを叩き、酒が辺りに飛び散った。
その光景に、刹羅沢の眉がわずかに動いた。
目をむければ、どうやら乱闘騒ぎ。
酒がまわった連中が、拳闘まがいのことをしでかしているではないか。
周りのものは止めるまでもなく、どちらが勝つか駆けをしている。
どうやら先ほどの者は、そのあおりを受けた被害者らしい。
無粋。
あまりにも無粋。
一人酒の愉しみに横槍を入れられた刹羅沢は、乱痴気騒ぎへと足を運ぶ。
拳闘に興じている片方の腕に、ぽんと手をやった。
「あん?」
与太者がこちらをむくより速く、刹羅沢が腕を捻り上げ、どうと地に倒した。
「な、なんだよお前!」
自分より体格が明らかに小さい女が男を投げ飛ばしたことに、もう一人が反応する。
それに答えず、刹羅沢が腕を取って、安々と宙を舞わせて投げ倒す。
突然の来訪者に、周囲はたちまち静まり返った。
「酒場は酒を嗜むもの……己の武威を示すところではありません」
有無を言わせぬ静かな声。
その声に異を唱える者は現れず、やがて集団は解散していった。
収まりを見届けると、カウンターに座り直して刹羅沢は店主に注文を告げる。
「酔いが覚めました。店主、再び酒をお願いします。
彼女の言葉に、店主は新たな酒を注いだ盃を持ってくる。
「アンタ、強いんだな」
「いえ、いまだ未熟。フィオリナという御方は大層強かったとか」
その言葉を聞き、店主は肩をすくめる。
「フィオリナ、フィオリナ、フィオリナ。まったく、今日はどういう日だ? 耳にタコができるくらいその名を聞かされらあ」
「知っているのならば好都合。話をお聞かせ願いたい」
さきほどの騒ぎなどどこ吹く風。
静かな刹羅沢の声に、店主はうんざりした声で語り始めた。
勇猛果敢なフィオリナは、味方には優しかったと伝えられている。
味方のまえでは寡黙な騎士であったという。
反面、敵には無慈悲であったと伝わっている。
剣と盾を引っさげ戦いの雄叫びをあげるその姿は、敵方にとっては死神に映っていたことであろう。
敵を屠る。味方を守る。
その相反する感情が、撤退戦での最後を迎えたのかもしれない。
だが、彼女によって命を救われた者がいることも事実だ。
撤退の後、帝はフィオリナの亡骸を丁重に葬ることを命じ、遠征にてかの地を取り戻した。
そして丘に彼女の像を築き、彼女以下散っていた兵達のことを忘れないように、名前をつけた。
それが彼女が散っていた戦場跡、『フィオリナの丘』である。
「それは事実ですか」
「さあね。俺は歴史家でもなんでもないんだ。色々聞かされたことをアンタに話しているだけさ」
だから事実かどうかはわからない、と店主は続けた。
盃を傾け、刹羅沢は思案する。
もしそうならば、敵である自分たちに対しオブリビオンは苛烈な猛攻を仕掛けてくる可能性が高い。
だが、これが過去として周知されているのならば、味方として欺けば虚をつけるかもしれない。
戦いを止めることは出来ないかもしれない、だが一瞬の好機を作れる可能性はある。
「問題は、あたしがそのような策を弄せぬ愚物ということですが」
腰に下げている刀を見据えて、刹羅沢は嘆息した。
ともあれ、このことは仲間にも報告しておこう。
戦いの時は近い。肴は得た。
本膳を平らげるは、果たしてかの者か己か。
盃に残っていた酒を一気に飲み干すと、刹羅沢はその場をあとにするのであった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『赤獅子のフィオリナ』
|
POW : クレイヴオール
単純で重い【金獅子の剣や盾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 獅子咬吼
【金獅子の剣や盾】で攻撃する。[金獅子の剣や盾]に施された【威圧する獣王の斥力】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : レオンソリッシュ
自身が装備する【獅子の剣盾】から【吹き荒れる雷光】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【一時的な麻痺】の状態異常を与える。
イラスト:古橋 美宙
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠シルヴィア・スティビウム」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
林に囲まれた丘の上に、騎士の像が建てられている。
その像が見下ろす形のこの丘は『フィオリナの丘』と呼ばれている。
そう、かつて赤獅子のフィオリナが散った場所だ。
戦場跡の面影はなく、今は木々に囲まれていた。
時は昼。
だがその晴れ晴れとした景色の中に、場違いな殺気が渦巻いていくではないか。
殺気は人の形を取り、激しい咆哮をあげ己の存在を誇示していた。
自らも分からぬ、体中を駆け巡る殺意。
「ジブンハ……ナニモノダ……?」
怒気をはらんだ呼吸が肺を巡る度に、ソレは己が何者だったかを冷静に思い出していく。
「ソウだ……ワタしは……わたしは、フィオリナ……」
紅く染まった剣と盾を打ち鳴らし、ソレは覚醒した。
「……我が名はフィオリナ。剣を持って護国の盾とならん」
完全に目覚めたフィオリナは、敵を打ち倒さんと再び咆哮した。
「さあ来い下郎ども! 貴様らを、ここから通す訳にはいかん!」
オブリビオン、『赤獅子のフィオリナ』が猟兵達を敵と見なして襲いかかってきた。
※傾斜が少しある、木々に囲まれた丘での戦いになります
※参加者全員まとめての描写になります
※ボス撃破後、軽いエピローグを挿入します
※完全アドリブでよければ◎を 描写が必要なければ×を
※(×の方は依頼後すぐに帰還した扱いになります)
※○~~~~~と記載あれば適宜アドリブを入れて描写致します
※申し訳ありませんが、プレイングは10月22日(金)8:30~より送信してくださるようお願いします
エウトティア・ナトゥア
◎ アドリブ・連携歓迎
うーむ、驍将の類かと思ったが、どうやら武人であったようじゃな。
一本気で忠義の人、じゃが最後は詭計により果てた所を見ると色々不器用そうじゃ。
好人物相手に気は引けるがわしもモーラ卿に倣うとするかのう。
まずは正面から正々堂々と、やあやあ、我こそは草原の住人エウトティア!赤獅子のフィオリナ殿、一騎討ちを所望するのじゃ!とか言っておけば釣れるかのう?
まあ、釣れずとも高速移動で一気に懐に飛び込んで斬りかかるがな。
UCの力で速度を底上げして【野生の勘】で攻撃を【見切り】数合斬りあうのじゃ。
頃合いを見計らってマニトゥによる死角からの不意打ちで気を逸らし、【手作りの縄】で作ったボーラを投げつけた後、封印を解除して手に負えなくなる前にマニトゥに【騎乗】して遁走するのじゃ。
遁走時には、挑発するようにパルティアンショットで矢を射かけて敵愾心を煽ってみるかの。
敵は百戦錬磨じゃから冷静さまでは奪えぬかもしれぬが、一瞬の隙を見逃すご同輩ではあるまい。
それにしても接近戦は肝が冷えるわい。
大宝寺・風蘭
「アンタが仕えた人は、もういないんだよ」
フィオリナ自身の士気の根幹に忠義心があるのは間違いない。
ならば、彼女が生き、死んだ時代からもう随分と時が流れ、とうの昔に彼女が忠誠を誓った王も亡くなったし国も滅んでいる、ということを伝える。最初は嘘と思われるかもだが、前章で収集した情報を発揮し、説得力を出す。
恐らく、自身が死んだ身だという事実よりも刺さるだろう。
流石に綺麗さっぱり戦う気がなくなるまでは行かないだろうが、ショックで本調子じゃなくなる程度のことは起きるはず。
「おかげさんで、今この土地の人たちは平穏に暮らしてるよ。アンタは護国の英雄として祭られてる。そんなアンタが、人々の平穏を脅かす毒になっちゃダメっしょ。ここでお休み!」
動揺している隙を突くように、出来うる最速の太刀捌きをもって斬りかかる。
本来の実力差を思えば軽くあしらわれてもおかしくないが、その差は敵の動揺が埋めてくれると信じる。
切れる手札として思い付くものが少なかった以上、気を取り直す前に速攻で決着を付けるのが勝ち筋と考えている。
馬県・義透
◎
内部協議の結果、『疾き者(忍者)』のまま
(正面からいくか大論争した)
伝承とか参照されますと、私たち一人は機能不全起こしますし(弓使いがいる)、武器もまた
しかし、隙をつけるというのならば、それを利用するだけのこと
味方のふりをしましょうか。それが私らしいですから
フィオリナ殿、この地を守りましょう(嘘は言ってない)
一瞬の隙こそ好機、四天流星を投擲。この時、視認はしますから…錯誤呪詛で位置を間違えるように
貴女が立つときは終わりました。貴女自身の名誉を汚さぬためにも
威圧には負けませんし、四天霊障で押し返しもしますよ
何なら、四天結縄にある私対応厄災『大風』封印解除して妨害&味方援護もしますしね?
刹羅沢・サクラ
騎士殿に於かれては、忍と切り合うのは不本意やも知れぬが、一手付き合ってもらおう
しかし、相手は歴戦の勇将。あの剣と盾の使い込みを見れば、踏み込むに容易でないことは明らか
素直に剣で立ち合うだけで抜けられるとは思えぬ
硬鞭で打ちに行く限りは、相手は守りに出よう
盾を構えれば視界も塞がる。その折に手裏剣を放つ
それすらも囮にし、紛れさせた南天に毒を仕込む
簪に仕込む程度の量では倒せまいが、ここからが勝負
やはり刀で勝負をつけねばなるまい
毒や飛び道具など無粋ですよ、ふふ
四辻に四度見えたれば、そこはもう獄門なり
我ら忍に誉れは無い
なれど、死してなお気高き騎士の誇りには、報いたい
その忠義、忘れはしまい
色々お任せします
雪・兼光
◎SPD
フィオリナ卿との戦闘な訳だが…
演目とかで弓とか聞かなそうだな
という事でブラスターでユーベルコードを撃ちこむ
え、もしかしてブラスターの光線も効かないとかそう言う…?
…やばくね?
近接戦闘は相手に分があるので、
間合いを取りながらブラスターで2回攻撃と無いよりマシのマヒ攻撃を付ける
…あんまり、使いたくねー手だが
教えてもらった事を試してみよう
「フィオリナ卿!アンタが仕えた君主はすでに俺らの虜になったぞ!」
これで隙が出来たら2回攻撃、
乱れ撃ちのユーベルコードをもう一回叩きこむ
……今だけ骸の海で眠れフィオナ卿
アンタはよく戦ったよ
アンタの国を守るために戦った戦士だったよ
語り継がれるぐらいにわな
少し前に時は遡る。
猟兵達は酒場にて卓を囲み、オブリビオンの対策を話しあっていた。
そうして出た結論は。
「わしらもモーラ卿に倣うとするかのう」
エウトティア・ナトゥアの言葉に、居並ぶ面々は頷いた。
相手はただならぬ武人、真っ向から立ち会ってはこちらも只ではすまなさそうなのは見えている。
ならば、策を持って相手を討ち取る。
それが、話しあった結論であった。
「好人物相手に、気は引けるがのう」
やれやれとエウトティアが首を振った。言った手前ではあるが、あまり乗り気ではなさそうだ。
言い方は悪いが、罠に嵌めて倒すのだ。
彼女にしてみればいい気はしないのだろう。
「しかし、隙をつけるというのならば、それを利用するだけのこと。これまで十分に話しあいましたしね」
胸に手を当てながら、馬県・義透は一同に促した。
その顔は穏やかで落ち着いている。
話し合い。
己が胸の内にても話し合いは十二分に議論されていた。
かの英雄と太刀を交わして対峙するかどうか。
結果、奇襲を持って事を成すに落ち着いた。
ここで話がこじれては、我らの内も決裂を起こしそうだった。
「アタシは結局、なんも良い考えが浮かばなかったからねえ……」
木剣を握り、大宝寺・風蘭は呟いた。
これまで幾度となく化物を屠ってきた。
しかし、今より戦うのは英雄の幻影。
仲間が躊躇いを覚えるのも致し方ないこと。
自分は、策に乗っかって相手をぶっ叩くだけだ。
剣を握る大宝寺が、不敵な笑みを浮かべた。
「相手が調子を取り戻す前に決着をつける! 速攻て奴さ」
「然り」
刹羅沢・サクラが相槌をうつ。
「伝えに聞く逸話が真であれば、相手は歴戦の勇将。素直に剣で立ち合うだけで抜けられるとは思えぬ」
剣豪と一太刀交えたい気持ち、それが刹羅沢にはあった。
だがそれは私情。
内心は皆どうであれ、オブリビオンを倒すのが猟兵の役目であろう。
「ま、俺はコイツでいかさせてもらうがね」
雪・兼光はブラスター銃の手入れをしながら、じっと手元を見やった。
弓矢は役に立たなかったほどの難敵。はたしてこれがどれほどの役に立つだろうか。
いや、立ってみせる。
仲間にむけて武器をみせびらかし、雪が鋭い目を皆にむけた。
「どうやら皆様の腹は決まったようじゃな」
周りの顔に、エウトティアが頷いた。
「では、手はず通りに。各々方、参りましょうかのう」
猟兵達はその声に頷き、一様に席を立つのであった。
そして時は今。
赤獅子のフィオリナと対峙するのは、エウトティア・ナトゥアただ独りのみ。
「下郎などではないのじゃ」
物怖じせずに、相手を見据え啖呵をきる。
「やあやあ、我こそは草原の住人エウトティア! 赤獅子のフィオリナ殿、一騎討ちを所望するのじゃ!」
よくぞ通った声。
凜とした声に、フィオリナの頭が澄んでいく。
「エウトティア殿、一騎討ちと申したか」
フィオリナが値踏みするように見返した。
「貴公、その意味が分かっているのか。幼子であれど、敵とあれば容赦はせんぞ」
静かな声。
しかしその声を発する向こうからは、既に闘気と殺気がみなぎっている。
「もちろんじゃ」
返事とばかりにナイフを二刀にかまえるエウトティア。
それをみて、フィオリナも剣と盾をかまえた。
赤錆びた武具。
それは、数多くの敵を斬りふせてきた証。
目の前の少女に力無くば、その色に彩りを添えるだけになるだろう。
否。
かの者はか弱き少女に非ず。
「精霊よ、我が身に宿るのじゃ……」
目を閉じ祈りを捧げるエウトティア。
所作にかまわず、フィオリナは一足のもとに間合いをつめ、唐竹割りに振り下ろす。
「……共に赤き光芒となりて駆け抜けようぞ!」
エウトティアが吠える。
刹那、風が起こりて彼女を包み、フィオリナの視界からその姿を消していく。
剣が地面に叩きつけられ、巨石が投じられたように周囲を吹き飛ばした。
もうもうと起こる土埃。
その中で、フィオリナは構え直して周囲を窺った。
我が身を刺す殺気は今だ消えず。
風が林の間を掠めていき、木々がざわざわと音をわめかせている。
その囁き、風上へと目を向けると、エウトティアは確かにいた。
紅い線条の光を渦のように身に纏い、左右にナイフをかまえて立っていた。
黒曜石のナイフが、精霊の力を宿して紅く輝く。エウトティアの瞳も紅く煌めく。
たなびく髪から覗かせる戦化粧は、歴戦の騎士にも劣らぬほどの凄みを見せていた。
風が一瞬凪ぎ、瞬間、暴風がフィオリナを襲う。
盾を持って防げば、小刀の一撃が重厚な壁の一部を削り飛ばした。
「非礼を詫びる。もののふであったか」
盾で上手に押し返し、踏み込んだ足下を狙って下手に剣を薙ぐ。
爆散。
斬るというよりは、吹き飛ばす。
三日月上に抉り取られた地面が、素肌を晒す。
そこにエウトティアの姿は無し。
風が渦を巻く。
木々から木々。枝から枝へ。紅き光芒がフィオリナを中心として勢い渦を巻く。
光の束は虚空に一種のアートを描いた。
戦いの最中に見惚れるフィオリナではない。
こちらを目がけて疾風のように駆けてくる閃光。
数々の猛攻を防ぎきった獅子の盾が、そのことごとくを受け止めた。
「むぅんっ!」
盾を勢いよくかち上げれば、木の葉のごとくエウトティアの身体が宙へと舞い上がらせた。
落ちてくる身体めがけて、すかさず突こうとする。
だが、側面からそれをさせじとマニトゥが襲いかかった。
「獣ふぜいが!」
腕を捻り身体を返し、瞬時にその攻撃に反応すると、フィオリナは爪と牙を受け止める。
膂力はあるが、先ほどまでの攻撃よりは鈍い。
反攻に転じようとするフィオリナであったが、その背に矢が放たれる。
軽く受け流し目を向けてみれば、そこには武器を弓矢に持ち替えたエウトティアがいた。
「やはり白兵では分が悪いか……。しからば御免!」
すかさずマニトゥと一緒に距離を取ると、その背に乗って脱兎の如く逃げていく。
「逃げるのか! 一騎討ちを申し出たのはそちらだぞ!」
背中で受け止めた罵倒。
それを感じながら、逃げるマニトゥの背でエウトティアは矢をつがえた。
「全くそちらの申すとおり。猟兵というのは、まこと因果な仕事よな」
眉をひそめて速射を放つ。
数本がフィオリナの元にとむかっただけで、あとはあらぬ方向へと逸れていく。
浮ついた気持ち故か。
否。
エウトティアは仕事を務めた。
罠の地点へとおびき寄せ、次の策を実行する橋渡しを。
風を切る音が、フィオリナの頭上から高々と落ちてくる。
それに気づいた時、騎士の身体にポーラが次々と絡みついていくのであった。
「これは……っ!」
騎士に絡みつき、行動を阻害する縄と重り。
すぐさま解き断ち切ろうとするが、それをさせじと光条の数々がフィオリナを襲った。
赤黒き盾に真紅の斑点が生じる。
「新手か」
攻撃を防ぎ、フィオリナは襲撃を睨んだ。
現れたのは男と女。
先ほどの娘はとうに姿を消している。いずこで機を伺っているのだろうか。
「おいおい、あれを防ぐのかよ……やばくね?」
男、雪は勘弁してくれよと嘆息した。
女の方、大宝寺は木剣を肩に担ぎながら活を入れる。
「はいはい愚痴はあと、もうやるっきゃないでしょ!」
「マジかよ……」
雪は泣き言を言いながら、それでいて目は敵から逸らすことはしない。
そんな彼に対し、前に立って矢面になろうとするのは大宝寺なりの気遣いか。
「下郎どもが!」
フィオリナが吠える。
空気がビリビリと震える。
「私は決して退かぬぞ!」
騎士の咆哮にあわせ、盾にあつらえた獅子の意匠が同じく吠える。
怒気が、覇気が、雪と大宝寺の身を震わせる。
「アシストよろしく!」
雪が狙われる前に、大宝寺が駆ける。
その背に向かって雪が引金をひいた。
「期待すんなよ」
銃声は一発。されど駆け巡る熱線は複数。
放たれたブラスターの数々は、弧を描いて大宝寺を追い抜き、敵を目がける。
肌に触れれば只ではすまない熱線の雨。
しかしフィオリナは盾を廻して受け止める。
「これも防ぐのかよ!」
思わず雪が声を荒げた。
「英雄なら当然だよ!」
雪の攻撃の隙に間合いをつめた大宝寺が、側面に廻ってフィオリナを攻める。
Lの字に位置を取れば、いずれの攻撃は防ぎ辛かろう。
「笑止!」
フィオリナが大宝寺に向き直り、両手で剣を握った。
と、同時に盾がひとりでに宙に浮き、周りを旋回して雪の射撃から彼女を護る。
「そうきちゃう訳!?」
今度は大宝寺が声をあげた。
恐るべき速さで振り下ろされる一撃。
凄まじい猛撃を受け止めて、つばぜり合いの体勢へと転じる。
「一撃を耐えてへし折れぬとは、ただの木の棒ではないらしい」
「へっ……コイツはアタシの……特別でね……!」
ぎりぎりと押しつぶされそうな膂力を耐えながら、負けじと押し返そうとする大宝寺。
木剣が、彼女の負けん気にあわせて輝きを帯びていく。
勢いを受け流し、体勢を入れかえ立ち替わり、合を交わす。
受けてしまえば致命傷になるだろう。
それを二人は、激しく剣戟を打ち合わせ、互いに火花を散らしていった。
「ちっ、援護と言われたけどよ……あんだけ近ければ狙いにくいぜ」
身をすり合わせる白兵戦に、銃口をむけて狙いを定める雪であったが、あれほど行き交っては誤射してしまう危険のほうがたかくなる。
「しゃーねえなぁ」
この手は使いたくなかったが、仕方が無い。
味方を見捨ててぼっ立ちしているくらいなら、卑怯者のほうがマシ。
そう意を決して雪は叫んだ。
「フィオリナ卿!アンタが仕えた君主はすでに俺らの虜になったぞ!」
叫びと共に放たれた熱線。
それをフィオリナは剣ではじき返す。
「戯れ言を!」
しかし、全てを防ぐことは難しかったのか、肩口に数点穿った穴が生まれた。
苦痛か、それとも虚言に対してか、フィオリナの逆立った眉が、雪に対してむけられる。
「いいや、フィオリナ。アンタが仕えた人は、もういないんだよ!」
凜とした声で、敵を諭す大宝寺。
「貴様もか!」
怒りの一閃。
それを受ける大宝寺。
手の感触は、先ほどの打ち込みより威がわずかばかり落ちていることを感じさせてくれた。
「フィオリナ殿、助太刀します!」
飛鏢が投げつけられ、大宝寺が飛び下がった。
あいた間に、彼女と似通った鎧装の兵士が割り込んだ。
それをみて、フィオリナは思わず破顔してしまう。
忘れもしない軍兵の装飾。
かつて肩を並べて行軍した同胞たちのものに間違いない
「この地を守りましょう!」
「ああ!」
兵士のかけ声に、フィオリアの戦意が昂揚していく。
敵を押し返す。
味方ともに、これまでそうしてやってきた。
「では私は女の方を狙おう! 貴君はもう一方を!」
そう伝えてフィオリナは大宝寺へとむかっていく。
駆けつけてくれた味方の兵士へ、無防備な背中を露わにして。
兵士は何事も語らず、黙ってその背へ鏢を投げつけた。
自らに向けられた殺気。
動揺しながらも、それをかろうじて叩きはねのける。
「どういうことだ?」
問い詰めるフィオリナ。
兵士は黙って、兜を脱いだ。
顔をみせたのは、馬県。当然向こうとは面識はない。
フィオリナは、過去の戦場から培ってきた過去、兵士たちの顔を思いだそうとしていた。
味方でないとはいずれバレる。
だが、フィオリナの目を釘付けにするに十分に効果があった。
今度は別の方角から、鋭い切っ先が彼女を狙った。
反応が遅れ、深々と鎧の隙間に突き刺さる。
引き抜き確かめてみれば、それは女物の簪であった。
刺さった傷口から、痛みとは別の痺れが、フィオリナへと拡がっていった。
「くっ……毒か」
忌々しく睨みつけるフィオリナ。
投擲を受けた林の陰から、刹羅沢が木の上より飛び降りて姿を現した。
「然り。卑怯者の誹りは受けましょう。我ら忍に誉れは無い」
淡々と言い放ち、武器を取る刹羅沢。
合せて武器を抜き放ち、馬県が武器を構える。
刹羅沢と馬県が、同時に手裏剣を放つ。
「なめるなよ……下郎共がぁ!」
フィオリナが吠える。
彼女を中心に盾が旋回し半円を描く。
だがそのバリケードを、いくつかの手裏剣たちは突破して鎧を穿った。
「がはっ!」
吐血。
赤黒い鎧具足に、真新しい赤斑点が刻まれた。
盾の動きがおぼつかない。
四種の色が盾に絡みつき、行動を阻害していた。
「貴女に直接作用は難しそうですが、物であれば如何様にでも。四天霊障。その愛盾、理を失いました」
盾が彼女の元を大きく離れ、地に縫いつけられたように動かなくなる。
それを見届け、馬県が袖から取り出したるは古びた結縄であった。
その結び目の一つに手をかけながら、馬県が詫びるように呟いた。
「恨みつらみ祟りの類いはこの一身に受けましょう。化生となりてもこの地をまもるため、討たせていただきます。お覚悟を」
周囲を確認し、猟兵達が再び揃うのを確認する。
そして勢いよく結び目を解いた。
するとそこに猟兵とフィオリナを中心に、竜巻が起こった。
風の檻。これで退路は絶った。
あとは手負いのオブリビオンを討つのみである。
長かった。
エウトティアが地に誘い、雪と大宝寺が受け手に回り、馬県と刹羅沢が奇襲によって突破口を開く。
策は成った。
見よ。
盾を失った英雄は、大きく肩で息をしているではないか。
ここからが勝負。
エウトティアが、雪が、馬県が、三方よりフィオリナを狙って撃つ。
「がああああっ!」
剣戟で押し返す。しかし優位は覆せない。
身体にあちこちと、風穴が穿たれる。
それでも尚、フィオリナは膝をつかなかった。
膝をつくなど彼女にあらず。
己が血泡にて鎧を磨き上げ しかと敵を睨みつけるではないか。
「偉大なるかなフィオリナ……貴女はよくぞ戦った」
仲間と共に手裏剣を放とうとしていた刹羅沢は、それを収めて構えなおした。
「昼夜問わず戦は続く、やがて一振りの剣が彼女を貫いた。……やはり、刀で決着をつけなければ」
伝承がこの世に転生したのならば、飛び道具では致命傷を与えられない可能性がある。
なれば、と思い返し、刹羅沢は腰元の刀を引き抜いた。
「大宝寺さん、まずあたしが突っ込みます。止めはあなたに任せます」
「りょーかい! 任されましたってね!」
意気揚々と声をあげる大宝寺の声を背に受けて、一足飛びに刹羅沢が駆ける。
刹羅沢の眼に、鬼が宿った。
フィオリナ目がけて放たれる飛び道具の数々。
その間隙を縫って刹羅沢は踏み込んだ。
「英雄殿、覚悟!」
大きく叫んで跳躍。
頭上で刀を上段に構え、一気に落下していく。
「馬鹿が!」
地に足つかぬ攻めなどと、通用するものか。
宙にて体勢を動かせぬ相手にむかって、フィオリナは大きく剣を薙ぎ払った。
刹羅沢の身体が上下に両断される。
それは地に落ちて、炎の塊となった。
「なんだと?」
炎は風に煽られ、周囲の銃撃に動かされ、あたりに火の粉をまき散らしてゆらゆらと飛びかう。
まるで人を黄泉路へと誘う、鬼火のように。
そんな熱波の渦から、人の影が飛び出した。
「ちぃっ!」
薙ぎ払い。またも両断されたのは刹羅沢。
再び炎を舞い上げ、勢いよく燃えさかる。
息があがるフィオリナの身体を火の粉がまとわりはじめ、紅く彩っていく。
炎の壁を突き抜けて放たれる矢と弾の数々。
それはフィオリナを囃し立てるように、近間を震わせる。
その風切り音に混じって刀撃が、彼女を襲った。
白刃が煌めいた。
地に伏せるのは、やはり刹羅沢。
倒れた姿を見下ろすのはフィオリナ。
その口から血反吐が飛び出し、横たうかばねを染め上げる。
フィオリナの腹部、刹羅沢が刀を突き立てていた。
「四辻に四度見えたれば、そこはもう獄門なり……奥義、獄門四辻渡し」
三度斬られたのは、刹羅沢が生みだした分身。
炎と幻影による連携攻撃は、ついにフィオリナに届いて痛手を負わせた。
刀を引き抜くついでに横に払い、内臓を断ち切る。
苦悶にあえぐフィオリナの姿は、誰の目からみても明らかだった。
そんな、満身創痍のフィオリナの前に、大宝寺が剣を携えて立つ。
その剣は光り輝き、もう木剣とは呼べないまでになっている。
「アンタが仕えた人は、もういないんだよ」
最初対峙した時と同じように、言葉を紡ぐ大宝寺の顔は、勝利になど喜んではいない。
あるのは英雄を悼む厳粛な思い。
「ここからじゃ見えないけど、丘の上に像があるんだ。アンタの時代に何て呼ばれていたかしらないけど、ここはフィオリナの丘って呼ばれている。かつて、英雄が散っていった場所さ」
遠くを見つめ、再び視線を戻す。
その先には、大きく息をするフィオリナの姿。
「そう、アンタが散っていった場所さ。もう随分と時が流れ、王も国もありはしない。伝わっているのは、アンタが強かったという伝承だけさ」
大宝寺は仲間から聞いた情報を、フィオリナに伝えていく。
フィオリナはそれを黙って聞いていた。
そして、顔をあげる。
「……それがどうした」
傷つきながら、血に汚れながらも、その顔に戦意は失われてはいなかった。
ふらつきながらも剣を構え、その切っ先をむける。
「仮にそれが本当ならば、私は貴様らを殺し、祖国復興の礎となろう。国を滅ぼした輩共にその報いを追わせ、王の一族を探し出そう」
そうして、剣を天へと突き上げて叫ぶのだった。
「たった独りになろうとしても! 私は戦う、既にこの身は我が君主に捧げたのだ」
嗚呼。
嗚呼。
フィオリナは英雄である。
そして……オブリビオンなのだ。
哀しいかな、その事実を目の当たりにして、猟兵達は黙り込んだ。
「アンタは護国の英雄として祭られてる。そんなアンタが、人々の平穏を脅かす毒になっちゃダメっしょ!」
身体が先に動く大宝寺が、まず先に動いた。
肩口に構え、一直線にフィオリナへと急ぐ。
フィオリナも剣を前へ、青眼の構えで迎え撃つ。
敵へと到達するまえに、大宝寺の刀が横薙ぎへと払われた。
空振りか。
否。
これは機先なり。
数多のオブリビオンを葬りし、剣士の業なり。
コマのように回転しながら、大宝寺が敵へと肉薄する。
その回旋の渦は、周りで起こる風と炎を吸い込み強化し、地に落ちていた矢と弾を跳ね上げ、礫と化して辺りに弾き飛ばす。
そのような荒天でもフィオリナは構えを崩さず、相手を見据えていた。
「おおおおおーーーーっっっ!」
一文字突き。
それは光独楽を貫く前に、剣が折られて絵空事となった。
破壊された剣の破片が踵に飛び散る前に、大宝寺の剣が通り過ぎて、その身体を斬り裂いた。
「おかげさんで、今この土地の人たちは平穏に暮らしてるよ。ここでお休み!」
全身全霊を持って叩きつけた必殺の一撃。
致命傷は確実に負わせたはず。だがフィオリナの影は揺らがない。
膝をつくなど彼女にあらず。
偉大なるかなフィオリナ、貴女はよくぞ戦った。
猟兵達は、オブリビオンを骸の海へと還したのである。
●それから~
酒場の喧噪。
世界のいずれかで激しい戦いが繰り広げられていたとしても、賑やかさが止まることはない。
エウトティアはそのなかで、マニトゥたちと一緒に食事をとっていた。
「やれやれ、今回は難儀な依頼じゃったわい」
魔物相手ならば、弓手に力も入るものだが、英雄相手ではそうもいかぬ。
影とはいえ正直色々と疲れる仕事であった。気持ちの切り替えがいまだ出来ずにいる。
「相手を不器用と評価しておったが、わしも不器用な輩なのやもしれんな」
そんなくさくさしている彼女の卓に、数人の人物がやってくる。
「なあ、いつぞや芸を披露してくれた娘さんだろ?」
「よかったらまた俺らに披露してくれよ」
見れば冒険者と思われる一団が、銭袋をどしんとおいて話しかけてくるではないか。
袋の中身は結構重そうだ。どこぞで稼いできたらしい。
「これは景気のいいことじゃな。良いぞ、ではお言葉に甘えて披露してやろうかの」
気分転換にはちょうど良い。
エウトティアは彼らに笑みを返して了承した。
「ひーふーみー……こんなに貰って良いのか? 一芸を見せるには多すぎるぞ」
「構わしねえよ、ここに居る連中にも酒を奢ってきたばかりだ」
冒険者は上機嫌だった。
聞かずとも、魔物退治で大金を得たとベラベラと喋ってくる。
「ほうほうなるほど。それではに礼を尽くすとしようかの」
食事を平らげエウトティアが笛を取る。
それに合せてマニトゥたちが身体を動かせる。
酔漢達の合いの手がかかる。
嫌な時はこういうのに限る。
酒場に居る未来の英雄たちに、エウトティアは楽曲を捧げるのであった。
昼の酒場。
声がかからないのか、吟遊詩人が手持ち無沙汰に楽器の手入れをしている。
そんな彼に大宝寺が声をかけた。
「やあ、またあったね」
声が聞こえる距離でカウンター席に腰掛けると、手をひらひらを振って挨拶する。
そんな大宝寺に、彼は軽く会釈をしてこたえた。
「ええ、こんにちは。また会いましたね。昼食ですか?」
「朝食兼昼食かな。いろいろあってぐっすり眠りすぎたんだ」
そう言って大宝寺は目を伏せた。
達成感と安心感、そして疲労。
その他もろもろの感情があいまって、いままでぶっ倒れていたのだ。
元気なのは腹の音だけらしい。
皿が次々とおかれ、彼女はそれに手をつける。
やっと人心地がついたところで、大宝寺は詩人に尋ねた。
「前聞いたフィオリナの詩なんだけどさ。あれって他にもあるかい?」
「ええ、ありますよ。今日は乾パンじゃ無くなりそうです、どういった曲をお望みですか?」
ピンと弾かれた銅貨を受け取って、詩人が問う。
大宝寺は上の空を見上げながら、その質問に答えた。
「前聞いたようなコミカルなのがいいな。強いフィオリナに憧れて、人々が称えるようなそんな詩」
「分かりました」
詩人が立ち上がり、軽快に楽器を弾き口を弾ませる。
大宝寺は目を閉じて、それに聞き入っていた。
これが供養になるとは思ってはいない。
しかし後世の人々は、彼女を英雄と讃えていることは事実なのだ。
今はその事実を確かめたい。
「はは、眠くなってきたねぃ」
昼飯を一皿一皿片付けながら、大宝寺はしばし曲に聴きいるのだった。
昨日、フィオリナと戦った場所に独り、馬県は佇んでいた。
「貴女と私に、違いはあるのでしょうかね」
他者に殺され、迷い出る。
悪霊として甦った自分たちと、オブリビオンとして甦ったフィオリナ。
その本質に違いはあるのだろうか。
他者を呪うつもりは毛頭無い。おそらく彼女も、危害をくわえるつもりはなかったはずである。
ただ、国を護ろうとした。
それだけのはずだったのに。
「猟兵でなければ、あなたと酒を酌み交わしていたかもしれませんね」
伝承に伝え聞く彼女の最後に、共感出来る自分がいる。
いや、自分たちがいる。
先の戦いにおいて、どうでるか喧嘩になった。
こうして表に出て最後を見届けた自分は、貧乏くじを引かされたのかもしれない。
「貴女は卑怯な手にかかって死んだ。そしてそれは名誉を傷つける行為でありません」
酒場で乞えば、フィオリナを称える話の一つは幾らでも出てくるだろう。
彼女が迷ってこの世に出たことは、仲間と自分たち以外知らないのだ。
「だから貴女は英雄のままです。外道の祈りなど不要かとは存じますが、せめて黙祷を」
細目をさらに閉じて、馬県は合掌を捧げた。
その姿のまま、どれほどの時間が過ぎたであろう。
やがて面をあげて、人知れず馬県はその場を去るのであった。
フィオリナの丘。
そう呼ばれる由縁にもなった像の前で、雪は辺りを眺めていた。
木々は静かに揺れて、先日の戦いが嘘みたいだ。
ここは街道にもなっている。
佇む雪の前を、旅人が幾人も通り過ぎていった。
「ひとまず守られたみたいだな」
復活の刻がずれていれば、ああいう旅人たちもフィオリナによって殺されていたのだろうか。
彼女は自分たちが倒した。
事件を未然に防いだ自分たちは、そういう点では英雄にあたるのだろうか。
「今更考えたってしゃーねえか」
石碑に甘味を供え、ため息をつく雪。
オブリビオンを討った。ただそれだけである。
猟兵が依頼を果たしたのだ。喜ばしいことなのだ。
しかし雪の胸中には、もやもやしたわだかまりが残っていた。
目の前の像。
オブリビオンとはいささか造形が違うが、なるほどフィオリナの特徴を捉えている。
彼女が生きていた時代も、きっと英雄としてその名と姿が人々の印象に残っていたのだろう。
「アンタはよく戦ったよ。アンタの国を守るために戦った戦士だったよ」
空は晴れ。
しかし、雪の気持ちを表すように、うっすらとした雲の塊が、流れていこうとしていた。
「……今だけ骸の海で眠れフィオナ卿。飯奢るよ」
供えた者と同じ甘味に手をつけて、雪はしばし景色を眺めているのであった。
酒場で独り、刹羅沢が酒を飲む。
これは依頼を果たした祝い酒、そして相手を悼む弔い酒である。
悪しき現象は骸の海へと還った。
偉大なる英雄の誇りを傷つける輩は、もうこの世にはいない。
「忠義、ですか」
何事が起ころうとも、主君に殉じようとするその想い。
刹羅沢にはその気持ちは眩しくさえある。
任務の為、自らを刃と磨き上げてきた。
そして彼女は、忠義のためと己を高めていたはずだ。
「騎士殿は、忍風情と一緒にされたくはありませんかね」
ぐいと盃をあおる。今日は酒がすすむ。
冷静につとめてはいるが、まだ昂ぶっているらしい。
されど過ぎれば味を損なうものだ。
ほどほどにしようと、注ごうとした手を休めて刹羅沢がしばし物思いにふけった。
酒場には、誰が頼んだのか軽快な戯曲が流れていた。
調度良い。しんみりするより、今はこういったテンポが助かる。
飛び交う嬌声も今は無粋とは思わない。
「フィオリナ卿。その忠義、忘れはしまい」
英雄を蝕む瑕疵は、猟兵が焼き捨てた。
虫食いの穴は、人々が補修して元へと戻すだろう。
今も伝わる英雄の伝承を、これまでもこれからも、人々はきっと語り継いでいくはずなのだから。
大成功
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