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銀河帝国攻略戦⑬~その心のざわめき

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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 思い出すとかき乱されるような「思い出」。
 それは悪夢と呼ぶべきもの。
 消したい、忘れたいと思っても、心の中にはざわめきが残る。
 忘れてはいけない。
 それは、乗り越えるべきものなのだから。


「戦果は順調ですが、気になることもいくつかあります」
 フロランス・リスレ(小さな翼・f01009)は少しだけ眉をひそめて、猟兵たちを見渡した。
「ドクター・オロチという名を、皆様も『予兆』などでご存知かと思います。ですが、彼の居場所はどれだけグリモア猟兵が試みても見つけることはできません」
 フロランスは申し訳なさそうに声を小さくした。
 彼女曰く、ドクター・オロチは彼が乗る『実験戦艦ガルベリオン』を『ジャミング装置』で隠しているのだと言う。
 宙域には多数、その『ジャミング装置』が存在する。それを破壊しないことには『実験戦艦ガルベリオン』は発見できない。
 そこで、その『ジャミング装置』を破壊する必要性があるのだが……。
「装置に近づくと、装置の防衛機能が発動するのです。それが、大変に悪趣味で……『近づいた対象のトラウマとなる事件などを再現し、対象の心を怯ませる』というものでして」
 怯めばジャミング装置に近づくことはできない。
 つまり、己のトラウマに打ち勝たなければいけないのだ。
「これは、心の戦いです。それも、自分自身との。武器でつけられた傷よりも、もっと辛い傷や痛みが待っているのだと思います」
 それでも行ってもらえるか、とフロランスは問いかけた。
「猟兵が強いのは武力だけではありません。心です。どうかそれを見せつけてきてください。よろしくお願い致します」
 送り出しの声は、祈りに似ていた。


碧海
 お世話になっております。碧海(あおみ)と申します。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 他シナリオとプレイングのかけかたが異なりますので、以下、ご参照くださいませ。

 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。

 他、よろしければ当方のMSページなどもご確認くださいませ。
 皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリア・ティアラリード
「ふふ…っ、トラウマ…ですか…」

日頃朗らかで柔らかい表情を崩さないアリアが、不意に見せる自嘲めいた表情
それはかつて敬愛した父親、そしてフォースの暗黒面に囚われ堕落した宿敵
数年前この手に掛けた、愛すべき…そして憎むべき肉親の姿が投影されていたからだ

「だから私は、今更揺るがない、ブレません。…そこをどいて…下さいっ!」

抜く手も見せずに【早業】から放たれる強烈な【衝撃波】による《無稽剣》が
映し出される父の幻影を…そしてジャミング装置を両断!
装置から吹き上がる爆炎が彼女の容貌を照らして…
そこにある顔は新たな【覚悟】を決めた騎士の顔
御苑家の闇に立ち向かう事を改めて決意した、姫騎士の顔…!

アドリブ歓迎です



 ジャミング装置に近づいた瞬間、アリア・ティアラリード(エトワールシュバリエ・f04271)の眼の前に立ちふさがった姿があった。
「ふふ……っ、トラウマ……ですか……」
 アリアは不意に自嘲めいた表情を見せた。
 それは日頃朗らかで、柔らかな表情を崩さないアリアが人に見せたことのない表情だった。
 いつだって、アリアは頼れるお姉ちゃんであろうとして笑顔を絶やさない。人当たりも柔らかく、会話を弾ませることも得意だ。
 そんな彼女の口から、幸せそうに、そして誇らしそうに出る言葉――『お父様』。
 誰も知らない。彼女と『お父様』の悲劇を。
アリアは『お父様』をかつて敬愛していた。同じフォースナイトとして尊敬していた。
 けれどもアリアの父はフォースの暗黒面に囚われて、堕落した。そして多くの『遺産』を生み出し、『遺産』は今もダークセイヴァー世界で人々を苦しめている。
 そんな父を一番許せなかったのは、アリアだ。
 だからこそ、決別した。
 数年前。アリアは父をその手にかけたのだ。
 そして、父の犯した過ちを精算する覚悟を決め、歩きだしたというのに。
 アリアの眼の前に立ちふさがったのはその、愛すべき……そして憎むべき父の姿だったのだ。
(私にとってのトラウマは貴方なのですか、お父様……?)
 フォースセイバーを構えて、一歩、また一歩とアリアへ近づいてくる姿。あの時の苦悩が蘇る。敬愛していた血の繋がった人が堕ちたという悪夢のような現実。肉親を手にかけたという罪。
 けれども、アリアはその姿から一瞬も目をそらさなかった。
 決意したのだ。父の罪から逃げずに、アリアはアリアの騎士道を貫くと。そして父の生み出した『遺産』を、父の犯した過ちを、己が精算していくと。
「だから私は、今更揺るがない、ブレません。……そこをどいて……下さいっ!」
 凛々しき声が放たれる。抜く手も見せぬ早業から放たれる衝撃波、それはユーベルコード【無稽剣】。フォースの力が、アリアの決意が、映し出された父の幻影を、そしてジャミング装置を両断する。
 悪夢は消えた。
 まるで、幻影を焼き尽くすかのようにジャミング装置からは爆炎が吹き上がる。
 揺らめく炎が、アリアの横顔を照らす。
 それは、新たな『覚悟』を決めた騎士の顔だ。
 名家、御苑家の令嬢として、御苑家の闇に立ち向かうことを改めて決意した、姫騎士の、凛々しき横顔だ。
 まだ立ち上る炎からアリアは踵を返す。金の髪が炎の色に揺れた。
 立ち止まる暇はないのだ。アリアは、顔を上げてただ前を見据える。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フェアリィハート
※アドリブ歓迎

『……貴女は…どなたですか…?貴女の後ろにいるのは…私…?』

過去の悪夢
それは…自分の『姉』が、幼い自分を庇い
目の前でオブリビオンに殺された事…
でも自分は…その記憶を失い
殺された女性が自分の姉だという事さえも解らないでいます

『貴女は…私を庇って…?やめて…!その人を殺さないで…!』

思わず叫び
その場で蹲ってしまいます

『私…何にもできないの…?』

でも…
無意識に
背のオラトリオの翼が羽ばたき…
手にした剣が輝くのを見て
気付きます

『あの人が誰なのか…過去の私に何があったのか…今も思い出せません…けど…今は違う…今の私は…猟兵…大切な方々を護らなきゃ…!』

迷いを払う様に
ジャミング装置を
UCで破壊



 ジャミング装置と相対したアリス・フェアリィハート(猟兵の国のアリス・f01939)の眼の前に現れたのは一人の少女と幼い頃の自分の姿だった。
 アリス自身の姿はすぐにわかった。今も着ている空色のピナフォアドレス。艷やかな金の髪。
 けれども、自分の前に立つ少女には見覚えがない。
(……貴女は……どなたですか……? 貴女の後ろにいるのは……私……?)
 記憶のない、悪夢。
 アリスは思い出せない。少女が自分の『姉』だったということを。
大好きな姉だった。自慢の姉だった。いつだって傍にいたくて、姉の後を付いて歩いた。
 その大事な記憶を思い出せない。
 悪夢は、フィルムを映すかのようにアリスの前で展開していく。
 少女は、幼いアリスの前に毅然として立っていた。二人の前ではオブリビオンが無骨な剣を振り上げていた。
(貴女は……私を庇って……?)
 アリスの問いかけは声にならない。ただ、心がざわめく。忘れていることを思い出せと、心が叫ぶ。
 けれども、アリスは思い出せない。
 オブリビオンが剣を一閃させる。少女は、幼いアリスを庇うように一歩も動かない。
「やめて……! その人を殺さないで……!」
 アリスの悲鳴が空間に響き渡った。耳を塞ぎ、目を閉じ、その場で蹲る。
 そうして悪夢を拒絶しても、過去の再現は続くのだ。
 オブリビオンの剣は少女――アリスの姉に突き刺さり……幼いアリスの眼の前で殺された。
 幼いアリスの悲鳴が、現在のアリスの悲鳴に混ざり合う。オブリビオンが、過去の悪夢が、嘲笑う声が聞こえる。
 それはまるで、ジャミング装置が勝ちを宣言したかのようだった。
(私……何もできないの……?)
 頭は割れるように痛い。見せつけられた悲しい映像も、アリスには自分の過去だと思い出せない。手を握りしめ、アリスが唇を噛み締めたときだった。
 無意識に、背のオラトリオの翼が羽ばたいた。
 その翼は、天啓を得て覚醒した翼。フェアリィハート家の将来の君主として選ばれた証。
 わずか六歳という幼さながら、アリスはその運命を大事なものとして受け入れていた。
 その翼が、囁きかける。
 同時に手にしていたヴォーパルソードが空色の光焔を輝かせる。
 アリスは、気づいたのだ。
 記憶にない幼い自分と、今の自分は違うということを。
 翼を広げ、アリスは立ち上がった。そして、こちらを向いて笑っている過去の悪夢――オブリビオンを、まっすぐに見据えた。
「あの人が誰なのか……過去の私に何があったのか……今も思い出せません……けど……今は違う……」
 一歩、アリスはオブリビオンに近づいた。手の中の剣が、アリスの心を後押しする。
「今の私は……猟兵……大切な方々を護らなきゃ……!」
 護ること。
 それがアリスの戦い。アリスの覚悟。
 もう失わないと思い出せない過去へと誓う、アリスの決意。
 迷いはない。
 アリスは空色の光焔の奔流を伴い、事象を切り捨てる。ユーベルコード【アリスセイバー・ヴォーバルソード】。
 空色の光焔は、すべての映像を包み込むように消し去っていく。思い出せぬ姉も、幼い頃の自分自身も、そして憎むべきオブリビオンも。
 アリスに残ったのは手応えだけだった。
 ジャミング装置が、壊れていた。
 アリスは目を伏せ、自分の胸のあたりを押さえる。やはり、過去は思い出せない。
 それでも、今、護りたい人たちがいる。
 アリスは微笑んだ。大事な人たちを護るために、アリスはひとつ乗り越えたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェット・ラトリオック
妻が居た
妻となる筈の女性が居た
自分との子供も、その時には身籠っていた
家族に、なる筈だった

所属していたサイトで大規模収容違反が起こった
UDC、いや、突発的なオビリビオンの出現による内部からの襲撃だった
俺は彼女を引き連れて逃げだした。逃げ切れる筈だった

妻が眼の前で引き裂かれた
人に似た肉が中から零れ落ちた
眼の前で貪り食われている

ああ、ああ

何の為の鉄兜だ
何の為の覚悟だ
何の為に顔を潰した
何の為にジェットを殺した
何の為に何処までも伸びる処刑具を手に取った

二度も、二度と、俺に地獄を見せるんじゃあない
悲劇を、見せるんじゃあない

改めて分かった
猟兵となった理由
俺の地獄は俺だけの物
他の誰にも、同じ目に合わせられない



 ジェット・ラトリオック(黒玉の蛸・f01121)は、バケツをひっくり返したような鉄兜を被っていた。これは、常に彼が被っているものだ。
 ゆらりと高い身長を揺らすようにジャミング装置へと近づく。彼の眼の前に現れたのは『地獄』だった。悪夢などという言葉は生易しい。それは地獄よりももっと酷い悲劇だった。
 女性がオブリビオンによって、眼の前で引き裂かれる。
 人に似た、人になれなかった肉が、彼女の中から零れ落ちた。
 それを貪り食うオブリビオン。咀嚼音までジェットの聴覚を壊すかのように再現されていた。
(ああ)
 ジェットは目を背けられない。それは彼のトラウマ。しかも、ドクター・オロチが舌なめずりして喜びそうな、残酷なトラウマだった。
 ジェットには妻がいた。否、妻となる筈の女性がいた。
 彼女は、ジェットとの子供も身籠っていた。
 大きなお腹を撫でながら、ジェットへと笑いかける女性。その時のジェットはまだ鉄兜も被っていない。漆黒の瞳を細めて、女性へと微笑み返す。
 幸せな時だった。二人、いや三人は幸せな家族に、なる筈だった。
 それが一転したのは、所属していたサイトでの大規模収容違反だった。
 UDC、いや、突発的なオブリビオンの出現による内部からの襲撃だった。周囲は混乱に陥った。次々と人が死んでいく。
 その死も生易しい死ではない。生きたまま切り裂かれる。生きたまま食われる。人々は発狂し、人としての尊厳を踏みにじられて死んでいった。
 その中を、ジェットは女性を引き連れて逃げ出した。内部には詳しい。逃げ切れる筈だった。そう確信していた。
 それなのに。
(ああ)
 何度も彼女はジェットの前で引き裂かれた。最期にジェットの名を呼ぶことすらできない死がトラウマとして繰り返された。
 彼女とジェットの宝物になるはずの生命は、生まれることなく肉塊として零れ落ち、それをオブリビオンが貪り食う。
 あの時のジェットは、何もできなかった。共に逃げ切ることもできず、助けることもできず、ただ無力さを噛みしめるしかなかったのだ。
 その光景に怖気づく自分が歯がゆくて、ジェットは自分の鉄兜を自分で殴りつけた。
(何の為の鉄兜だ)
 怖気づいた心を奮い立たせる。
(何の為の覚悟だ)
 震える手を強く握りしめる。
(何の為に顔を潰した。何の為にジェットを殺した)
 鉄兜の下で唇を噛みしめる。
(何の為に何処までも伸びる処刑具を手に取った)
 刃が鞭のように変形する、大型の鉄鉈を手に取る。
 そう、あの時とは違う。ジェットは変わった、否、変わらざるを得なかった。
 沢山のものを犠牲にして、彼は狂気と闘う。
(二度も、二度と、俺に地獄を見せるんじゃあない。悲劇を、見せるんじゃあない)
 そして肉塊を貪り食うオブリビオンを、ユーベルコード【拷問具:断割鉈】で叩き切る。長く伸びた鉄鉈は地獄の光景を切り裂き、現実を連れてくる。
 叩き切ったのは、ジャミング装置。電気機器の壊れた、特有のパチパチという音を立て、小さな火花が点滅している。
 いつしかジェットの息は乱れていた。処刑具を収め、鉄兜をしっかりと被り直し、ジェットは改めて理解した。
 己が猟兵となった理由を。
(俺の地獄は俺だけの物。他の誰にも、同じ目に合わせられない)
 その強い思いがあるからこそ、彼は人とは違う「予知」という能力も得たのかもしれない。
 頭を振って、地獄を意識から追い出す。ゆっくりと頭を上げた。
 あの地獄を誰にも見せぬための戦いは続いている。多くのものを失った彼だからこそ見える未来が、きっとある。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーア・ストリッツ
トラウマですか
過去のないフィーアにその手の精神攻撃は無効…
っ、なんですかこれは!

見知らぬ場所と建物…これは、孤児院?どこの世界の…?
子供達も皆、知らぬ筈なのに見ていると心がざわつきます
…っつ!?踏み込んで来たのは大人、軍人!?
止めなさい、子供たちを…嫌がっているのにどこへ連れて行こうというのです!
止めなさい、止めて!止めて!
この子達に手を出すな!

(泣きながら)
ああ、少しだけ思い出しました…
これは私が見た光景
見ていながら、無力で何も出来なかった出来事
後悔の記憶…

ですが、これは今の私には寄る辺になり得ます
いつか必ず、彼らの名と何があったかを思い出し
そして救い出してみせましょう
その為に、私は戦う!



(トラウマですか)
 事前に聞いていた情報をフィーア・ストリッツ(サキエルの眼差し・f05578)は受け流し、ジャミング装置へと歩み寄った。
(過去のないフィーアにその手の精神攻撃は無効……っ、なんですかこれは!)
 ジャミング装置はフィーアの眼の前から消え、代わりに現れたのは見知らぬ場所と建物だった。
 大勢の子供たちが笑っていた。皆、どこか寂しそうな思いを隠して、それでも笑いながら遊んでいる。
(これは、孤児院? どこの世界の……?)
 大人は少ない。どこかひんやりとした建物の中で、駆け回る子がいて、窓の外を見る子がいる。本を読む子、じゃれ合って転げ回る子……それはどんな境遇でも「子供」として精一杯楽しんでいる姿だった。
 フィーアには知らぬ筈の子供たちだった。なのに、見ていると心がざわつく。
 まるで思い出せと、目の前の光景が言っているようで。
 困惑しているフィーアの前で、光景は変化を見せた。建物に大人が踏み込んできたのだ。
(……っつ!? 彼らは軍人!?)
 軍人らしき服に身を包んだ大人たちは、遊んでいる子供の腕を強引に掴んだ。子供は嫌がる。それでも大人はその子供を引きずっていく。嫌がって泣く子供。怒声を投げつける大人。
(止めなさい、子供たちを……嫌がっているのにどこへ連れて行こうというのです!)
 心がざわめく。嫌な思いが胸を締め付ける。
 思い出せない。でも、あの大人たちは、フィーアが心を寄せた子供たちをよいようにはしない。それだけは、確信した。
 だから、フィーアは声にならぬ声で叫ぶ。
(止めなさい、止めて! 止めて!)
 大抵の時なら感情も表情もフラットなフィーアが、血を吐くように懇願する。
 止めたかった。止められないことを知っていた。
(この子達に手を出すな!)
 それでも心の中で叫ぶ。気持ちは乱れ、いつもの温厚で丁寧なフィーアは消えた。
 何も、出来ない。
 その思いが引き金となり、フィーアは我知らず涙を零した。自分の中にこんな嵐のような感情があることを驚きながら、子供達が連れ去られていく現場を眺めていた。
(ああ、少しだけ思い出しました……)
 涙は止まらない。それでも少し動揺は収まった。フィーアは頬の涙を拭う。
(これは私が見た光景。見ていながら、無力で何も出来なかった出来事。後悔の記憶……)
 胸が痛む。フィーアは胸を押さえるが、それ以上のことは何も思い出せない。
 ただ後悔が胸を貫き、フィーアに無力さを突きつける。
 泣きながら連れ去られていく子供が、フィーアを見た。まるで助けを乞うように涙でくしゃくしゃの顔をフィーアに見せた。
 その表情に、フィーアは気づいた。
 この子供はもう「現在」の自分では救えない。何故なら、見せられているのは「過去」だから。そして「過去」という支えのなかったフィーアにとって、この悪夢はひとつの寄る辺となり得る。
 そのために、フィーアは大きく深く、口から息を吸い込んだ。
「過去」を思い出すために、この悪夢を消す。
 フィーアが吐き出した息は吹雪となり、心をざわめかせた景色を白く消し去っていく。ユーベルコード【氷雪竜砲】。真っ白な中に溶けるように消えた大人や子供の代わりに見えたのは、凍りついたジャミング装置だった。
 フィーアはジャミング装置に歩み寄ると、それをまっすぐに見据えた。
(いつか必ず、彼らの名と何があったかを思い出し、そして救い出してみせましょう)
 それは遠い道のりだ。それでもフィーアは決意した。
(その為に、私は戦う!)
 失った過去を見つめる決意。それは過去を乗り越えるための最初の一歩だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユウナ・フリューアー
判定POW

封印した過去
私はどこかの研究所の実験体だった
私の他にも何十人といた、みんな仲良く過ごしてた
実験で私は猟兵の力に目覚め
そこから化物達と戦い始めた
他のみんなは違う実験に参加、どんどん人が減っていった
親友と呼べる人も消えた
ある時知った、みんな化物にされてた、私が成長するための
みんな化物になった、私が殺した化物に―


ここまでで再現は終わったが、完全にパニック状態
「落ち着いて!みんな恨んでないから!あの日の事を忘れたの?
 みんなの為に生きて、戦うって決めたじゃない!」
携帯に宿ったユウリ―あの日化物になった親友の声で正気に戻り

私はみんなへの贖罪の為に戦う

その理念を思い出して装置を壊す

アドリブ歓迎



 ジャミング装置と相対したときから、ユウナ・フリューアー(悪戯好きな自由すぎるゲーマー・f07259)の封印した過去は映像として流れ出した。
 まるでそれは「過去」のことなのに「現在」のことのようにユウナに錯覚させる。
 ユウナはどこかの研究所の実験体だった。
 ユウナの他にも何十人も同じ境遇の子がいた。皆、仲良しで楽しく過ごしていた。
 親友もできた。名をユウリという。
 実験体という身の上だったが、ユウナはそれなりに幸せで、毎日を楽しく過ごしていた。
 ある時、ユウナは実験で猟兵の力に目覚めた。
 はじめはそんなものかな、という程度の受け入れだった。けれどもその日からユウナの日常は変わっていった。
 ユウナは猟兵の力をさらに高めるため、化物達と戦い始めた。
 他の皆は、ユウナとは違う実験に参加していると聞かされた。会う機会は少なくなり、皆に会うたびに、どんどん人が減っていくのがわかった。
 そして、親友のユウリも消えた。
 心が何か危険を告げていた。けれどもユウナへの実験は続けられた。
 ユウナに止めることはできなかった。毎日化物と戦い続けた。仲間は減っていく。不安が大きくなっていく。
 皆、どこへ消えてしまったのか。
 そんなある時のことだった。ユウナは知ってしまった。
 研究所の人が話していることを小耳に挟んだのだ。
 みんな、化物にされていた。ユウナが成長するための。
 みんな化物になった、ユウナが殺した化物に――。
「あ……あ、ああ、あああ……」
 悪夢の再現は終わった。静かにジャミング装置は佇んでいる。
 けれども、ユウナにそれは見えない。今のユウナに見えているのは、懐かしい皆の顔。自分が殺した化物の顔。
(私が……殺した……みんなを……殺した……)
 体がガタガタと震える。思い出してしまった今、その罪の重さに立っていることができない。ユウナは蹲る。
(私のために……みんなは……化物に……私が……私が……!)
 それは完全なパニック状態だった。呼吸は乱れ、意識は同じ罪を巡る。
(私は……みんなを……みんなを……!)
 苦しい。苦しい。消えてしまいたい。みんなを殺した自分など、いらない……!
 ユウナの心が絶望で塗りつぶされたときだった。
「落ち着いて!」
 不意に優しく、しっかりとした声が響いた。
 それはポケットに入れた古ぼけた携帯からユウナに語りかけていた。
「みんな恨んでないから! あの日の事を忘れたの?」
 ユウナは震える手で携帯を取り出した。携帯に宿るのはユウリ――あの日化物になった親友だ。
「あの日の……事……」
「みんなの為に生きて、戦うって決めたじゃない!」
 ユウナの傍にある光が優しく光る。いつでも一緒にいてくれた親友のユウリ。彼女の言葉はいつもユウナに大事なことを思い出させる。
 ユウナの体の震えが止まった。目に光が甦った。
 そう、決めたのだ。
(私は、みんなへの贖罪の為に戦う)
 ユウナは立ち上がった。ユウリの携帯をポケットに大事にしまって、ジャミング装置へと歩み寄る。
 だから、こんなところで生きるのを諦めるわけにはいかない。自分に負けるわけにはいかない。
 ユウリが黙って見つめている。ユウナは小さく頷いた。
「壊す……よ……」
 手にした武器で、ユウリはジャミング装置を破壊した。
 装置は意外にもあっさりと壊れ、中の電子機器を顕にする。
 ユウリはそれにはもう目もくれない。贖罪のために戦い続けなければならないのだ。これはひとつの戦いが終わっただけ。
 けれども、傍に親友がいてくれる限り、大丈夫。
 ユウナは光に向けて微笑んだ。
(一緒に……歩いていこう……ユウリ)

成功 🔵​🔵​🔴​

忠海・雷火
……やはりこの光景なのね

誕生日。学校から帰って見たのは、家族が殺されゆく姿
邪教団の者達が私を捕らえる。父の母の弟の血や腑が、私に降りかかる
最早誰のか分からぬ絶叫が、鉄に似てすえた臭いが離れない
私はただ、どうしようもなくそこに居て
左腕に刻印を刻まれて、邪神の依り代になる、筈だった

それが、現実に起こった事
この悪夢を何度見ても、何度斬っても。何度も何度も繰り返しても、痛みは消えない
この呪われた身が、力が、あの日を証明してしまっている

それでも。いや、だからこそ。私は、私達は、先へ進む
過去は過去。決して変えられはせず、結果(今の私達)も変わることは無い
ならばこの悪辣な企てごと、過去を受け入れ喰らうまでよ



(……やはりこの光景なのね)
 忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)はジャミング装置が映し出す光景を、まっすぐに見つめた。
 それは祝福されるべき誕生日のことだった。
 学校から帰ってきた雷火が見たのは、家族がまさに殺されゆく姿だった。
 何が起こっているのかまったくわからなかった。誰かが「逃げなさい」と言った気がした。体が動くよりも先に、邪教団の者達が雷火を捕らえた。
 家族は、父は、母は、弟は、血を流し、臓腑を抉り出され、飛び散る肉が、血が、雷火に降りかかる。
 最早誰のものか分からない絶叫が、鉄に似たすえた臭いが、雷火から離れない。
 この声も、臭いも、光景に付随しているものなのか、それとも雷火の身に記憶として染み付いてしまったものなのか。
 ただ、そのとき、雷火はどうしようもなくそこに居て。
 左腕に刻印を刻まれて、邪神の依り代になる、筈だった。
 血と悲鳴に彩られた家の光景は、まだ雷火の前で展開されている。けれども、雷火はぎゅっと拳を握りしめてそれを見ていた。
 それは、現実に起こった事。
 雷火のトラウマを刺激しようと、目の前では何度も父が、母が、弟が死んでいく。
(この悪夢を何度見ても、何度斬っても。何度も何度も繰り返しても、痛みは消えない)
 雷火はそっと左腕に触れた。
(この呪われた身が、力が、あの日を証明してしまっている)
 あれは現実なのだと。悪夢ではない、過去に起こった現実なのだと。
 雷火はけして、その『現実』から目をそらさない。
(それでも。いや、だからこそ。私は、私達は、先へ進む)
 雷火は一歩、『過去』へと近づいた。まだ繰り広げられる悪辣な血色の映像に、一歩もひるむことはない。
(過去は過去。決して変えられはせず、結果――今の私達も変わることは無い。ならば)
 雷火の中に、あの日刻まれた刻印。そこから血針が放たれる。
 自分を捕らえた邪教団の人間へと血針は命中し、雷火の刻印内にいるUDCが転移、内側から喰い破った。
(この悪辣な企てごと、過去を受け入れ喰らうまでよ)
 この身が、「現在」が、悪夢からの綿々としたつながりなのだ。
 雷火はこんな企てで悪夢を見せられる前から、覚悟をしていた。だからこそ。
 景色はジャミング装置のある部屋へと戻り、装置には血針が食い込んでいた。火花を上げる装置を見れば、もう動くことはないと知れた。
 きっとこの先も悪夢は見るだろう。それは己のうちに巣食ってしまっているのだから。けれども、それを喰らう覚悟を決めた雷火は、もう怖くない。痛みは残るが、心が逃げ出すことはない。
 決着をつけに行こう――こんな悪趣味な装置を作った人間と。

成功 🔵​🔵​🔴​

クシナ・イリオム
アドリブ歓迎

私の教団での最初の記憶は先代9班4番の墓づくりだった。
2番は敵の魔法で焼かれ、6番は尋問中に服毒。8番は自爆。
3と7番の二人は殿を務めて、二人目の2番はその任務失敗の制裁。
私の師匠だった1番は教団への反乱中に。……後少しで生き残れたのにな。

誰かが死ぬたびに素手で穴を掘り墓を作った。
亡骸の一部や遺品、なにもなくて番号を書いた板を埋めたこともあった。

今でも教団は私の心に痕を残している。
でも、心と身体を分ける術を私に与えたのも教団。
死なないためになら傷ついていようとも動ける私にトラウマは通らない……!

早くここを突破してオロチを殺しに行こう。
…とっとと帰って友達とご飯でも食べに行きたいし。



 クシナ・イリオム(元・イリオム教団9班第4暗殺妖精・f00920)の教団での最初の記憶は先代9班4番の墓づくりだった。
 妖精の小さな手で、素手で、穴を掘り、墓を作る。小さな石が爪の間に入って、何度も血を流した。それでも穴を黙々と掘り、墓穴を作った。
 先代をその中に入れたことから、クシナの悪夢は始まった。
 9班2番は敵の魔法で焼かれた。6番は尋問中に服毒死した。8番は自爆死。
 3番と7番の二人は殿を務めて、犠牲になった。二人目の2番はその任務失敗の制裁を受けた。
 クシナの師匠だった1番は教団への反乱中に亡くなった。
 4番は生きろ、と1番はクシナを逃し……クシナは生き残った。
(……師匠も後少しで生き残れたのにな)
 仲間の死ぬ姿は、クシナの脳裏から消えない。
 暗殺者だとは言え、訓練されているとは言え、「死」に慣れるはずもない。
 仲間の死ごとに、クシナは墓を掘る。
 亡骸の一部や遺品を墓に入れた。何もなくて、番号を書いた板を埋めたこともあった。
 眼の前で、その記憶が早回しのフィルムのように巡る。クシナはまっすぐに灰色の瞳でそれを眺めていた。
 先代2番の焼かれた体の一部を墓に入れる自分。
 自爆した8番の小さな肉塊をようやく探して、墓に入れる自分。
 殿を務めた二人は何も見つからなくて、探しているうちにクシナたちの足取りが知られそうで、黙って番号を書いた板を埋めた。
 祈る神など、いなかった。どう哀悼するべきかも知らなかった。
 悲しむことをどう表現するのか、教えてくれる人はいなかった。
 墓掘りを続ける昔の自分をクシナは眺める。心が痛い。苦しい。悲しい。
 今でも、教団はクシナの心に痕を残している。
 悪夢を見せられれば思い出す。あの時感じた絶望も、悲しみも、ただ誰かの命を殺すだけだった過去の自分も。
 けれども、そんな痛む心と身体を分ける術をクシナに与えたのも教団だった。
(死なないためになら傷ついていようとも動ける私に、トラウマは通らない……!)
 クシナは過去の自分に向けて、暗殺妖精装備を振り下ろした。
 心は痛む。だが、身体は理性に従って動いた。
 これは、過去の悪夢。これは、壊すべき装置の一部。
 理性に導かれ、身体はまっすぐに過去を殺す。
 何かの手応えを感じたときには、悪夢は消えていた。ただ、壊れた装置だけがそこにあった。
 クシナはさして興味なさそうにそれを一瞥する。心の痛みは切り離した。あれはこれから戦うにあたっては不要なものだ。
(早くここを突破してオロチを殺しに行こう)
 武器をしまって、クシナはさっさと歩きだす。
(……とっとと帰って友達とご飯でも食べに行きたいし)
 生きるというのは、すなわちそういうこと。
 過去は過去。胸は痛むが、現在の友達とご飯を食べることのほうが大事なのだ。
 それは、未来へと繋がっていくのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

カタラ・プレケス
【WIZ】
…5年前の里を挙げての大討伐
ぼくはまだ未熟だったから、連れて行ってはくれなかった。
ヴァンパイアは倒せた。けど、その結果は最悪だった。
七代目の御子は失われ、里の呪術師も多くが逝った。
ぼくは見ていることしかできなくて、それがずっと苦しかった。
でも、今は違う。
八代目の御子として相応しい力は付けた。
あの時、崩れかけた里も立ち直った。
だから、もう大丈夫だよ。七代目…いや、じいさま。
ぼくは立派になりましたよ。

精神攻撃をヒガンバナで侵食のちに腐敗。
地動観測で装置の位置を特定。
大量の呪いを纏わせたカタラで串刺し。

ぼくらだってそれは踏みにじらなかった。
だから覚悟してね
カタラの呪いは魂までも溶かすから。



 カタラ・プレケス(呪い謡て夜招く祈りの鳥・f07768)の眼の前に映し出されたのは五年前の里を挙げての大討伐のときだった。
 カタラの里は音を媒介とする呪いの里。御子を中心として討伐を成す。
 その大討伐の相手は、ヴァンパイアだった。
 カタラは、力になりたかった。けれども未熟だったため、連れて行ってはもらえなかった。
 ヴァンパイアは倒せた。……けれども、その結果は最悪だった。
 その当時の御子であった、七代目の御子は失われ、里の呪術師も多くが逝った。
 里は、目的を果たせたものの壊滅状態に陥ったのだ。
 実質、御子不在となったカタラの里。それを必死に守ろうとする大人たち。
 カタラは見ていることしかできなかった。それがずっと苦しかった。
 力があれば。
 けれどもカタラはその時は未熟で。次代の御子として崇められ、育てられても、未熟で。
 亡骸を前に泣くこともできずに、ただ唇を噛みしめることしかできなくて。
 無力だったカタラの姿を延々と映し出す装置。それは今も苦しい記憶だった。里の壊滅は悪夢のような出来事だった。
 里が立ち直るには五年かかった。その間、何度も無力な自分を責めて、責めて。
 でも、今は違う。
 無力さに蹲る過去のカタラの前に、現在のカタラは立つ。
 八代目の御子として相応しい力はつけた。
 あの時、崩れかけた里も立ち直った。
(だから、もう大丈夫だよ。七代目……いや、じいさま)
 カタラは無力な自分をもう恐れない。
(ぼくは立派になりましたよ)
 カタラの武器が彼岸花の花びらに変わる。過去の映像に彼岸花の赤が入り乱れる。
 侵食し腐敗させる紅色の花。
 地動を観測して、装置の位置を特定すると、大量の呪いを纏わせた宝槍、呪槍蒐監・カタラで串刺しにした。
 過去は消える。
 心の傷を抉った攻撃は霧散した。残るのはカタラで貫かれた装置だけだ。
(ぼくらだってそれは踏みにじらなかった)
 心というもの。思い出というもの。それは人にとって大事なものだから。
(だから覚悟してね。カタラの呪いは魂までも溶かすから)
 カタラの里を背負う八代目は、まだ見えぬ悪辣な敵を見据えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクトリア・アイニッヒ
◆克服すべき過去
猟兵として目覚める前、故郷が強大な竜に攻め滅ぼされた事。
貴族としての務めを果たすべく、竜に立ち向かい散っていった父母。
自分を逃がす為に、竜を引き付けその顎門に消えた親友。
思い出深い町並み、暮らす人々。その全てが、一昼夜にして灰燼と化した。

そんな惨劇の中、一人生き残ってしまったという虚無感。
普段は絶対に晒さない心の奥底に刻まれたソレが、ヴィクトリアが越えるべき物。

そう。私は、生き残ってしまった。
迷いました。呪いもしました。それは、事実です。

…でも、この幻影を見て。はっきりと自覚しました。
私の力は、私と同じ思いをする人を作らない為の力であると。
その為に、主よ!我に力を貸し与え給え!



 ジャミング装置のある部屋へ一歩踏み込むと、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)の眼の前の景色が変わった。
 それは、懐かしい故郷の姿だった。ヴィクトリアが猟兵として目覚める前のことだ。
 『現在』のヴィクトリアは知っている。この故郷は、既にない。
 思い出深い町並み、暮らす人々。貴族の娘として、ヴィクトリアはその当たり前の日常を享受していた。
 親友もいた。優しく、それでいて心の強い、ヴィクトリアの自慢の親友だった。
 幸せだった頃が映し出されれば出されるほど、ヴィクトリアの胸は締め付けられる。
 知っているから。この故郷に……強大な竜が来たことを。
 ヴィクトリアの眼の前の景色は一転する。竜の吐く炎が、故郷の町を焼いていく。
 貴族であった父と母は、ヴィクトリアに逃げるよう言い残すと貴族としての務めを果たすべく、竜に立ち向かっていった。あまりにも無謀で、けれどもその正義は今も誇らしくて、だからこそ、辛い。
 呆然として動けないヴィクトリアの手を引いて逃げ出したのは親友だった。
 両親が竜を前に散っていく。逃げながらその最期を見て、ヴィクトリアは悲鳴を上げた。
 親友と笑いながら走った路地を、今は逃げるために走る。
 町の営みは、竜の一足で壊されていく。竜が追いついてくる。
 親友が不意にヴィクトリアの背中を押した。あなただけでも逃げろと、竜を引きつけ走り出した。あのとき、やめてと叫んだのだろうか、一人にしないでと叫んだのだろうか。ただ、ヴィクトリアは泣きながら親友の名を呼んだことしか思い出せない。
 親友はヴィクトリアの眼の前で、竜の顎門に消えた。
 炎の故郷を泣きながら走った。誰か生きている人がいないか探しながら、ヴィクトリアは走った。
 故郷は一昼夜で灰燼と化した。
 そんな惨劇の中、ヴィクトリアはたった一人生き残った。生き残ってしまった。
 何もできなかったという虚無感。
 普段は絶対に晒さない心の奥底に刻まれたその感情に、ヴィクトリアは胸元のあたりをぎゅっと握りしめる。
 辛い、苦しい。そんな言葉では言い表せない、あの惨劇。
(そう。私は、生き残ってしまった)
 虚無感が大きくなっていく。ヴィクトリアの心を打ちのめそうと、灰燼と化した故郷は未だ彼女の眼の前に広がっていた。
(迷いました。呪いもしました。それは、事実です)
 何故、自分だけが生き残ったのか。他に生きるべき人は沢山いるのに。
 故郷を見て泣く、ヴィクトリアの姿が、目の前に浮かび上がる。苦しめと、自分の内へ堕ちていけと言わんばかりに。
 けれどもヴィクトリアの緑の瞳はまっすぐに『過去』の自分を見つめていた。
(……でも、この幻影を見て。はっきりと自覚しました。私の力は、私と同じ思いをする人を作らない為の力であると)
『悪夢』の日にグリモア猟兵に目覚めたのは偶然ではないはずだ。
 ヴィクトリアには世界を見る、未来を見る力がある。
 グリモアを使って、助け出せる力がある。
 それは、『過去』の自分を新しく生み出さない力になるはずだ。その為に。
「主よ! 我に力を貸し与え給え!」
 虚空から太陽神の威光を具現かした無数の光剣が振る。それは過去の懐かしい故郷に突き刺さり――そして、『過去』は消えた。
 真っ白な部屋には、光剣に貫かれたジャミング装置が佇んでいる。
 ヴィクトリアは、一度深呼吸をしてからいつものように微笑んだ。
 大丈夫、微笑める。
(皆さんに心配をかけるわけにはいきませんね)
 まだ戦争でやるべきことは多い。ヴィクトリアの力を待つ者も多い。
 ヴィクトリアは、穏やかにその場を後にする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
【SPD】
トラウマ?
…へぇ、オレのって一個に絞りきれんの?

鼻先に甦ってくる鉄錆に似た馨。
指の爪に挟まった肉と
皮膚を突っ張らせるように
浴びた鮮血が固まってく感触。
あー…これかぁ。

オレと同じ姿をしたヤツの触手が
喉笛と、眼帯をしてる右目へ絡みつく。
そいつも、部屋一面に転がる肉塊も全部同じ顔。
銀河帝国にとって便利な道具だったオレの複製共。
壊さないと。

眼前のそいつの目から垂れるそれが
今は何だかわかるよ。
泣いてたんだね。

右目を破壊される痛みが甦る。
叶うならば虫の息になってるそいつの頭を
最期に撫でてやりたい。

行こう。
UCで呼びだしたGlanzに跨り
装置ごと轢き潰して宇宙の藻屑にしてやっぜ!


※アドリブ大歓迎!



「トラウマ?」
 ジャミング装置の攻撃法を聞いたパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は一度、瞬きをしてから、装置へと近づいた。どこか挑発的に笑う。
「……へぇ、オレのって一個に絞りきれんの?」
 その言葉と同時に景色は変わった。
 パウルの鼻先に蘇ってくるのは鉄錆に似た馨。
 指の爪に挟まった肉と、皮膚を突っ張らせるように浴びた鮮血が固まっていく感触。
(あー……これかぁ)
 パウルは目の前に立っている、自分と同じ姿をした存在を見た。
 それの触手がパウルの喉笛と、眼帯をしている右目へと絡みつく。
 パウルは左目だけで辺りを見渡した。
 眼の前にいる存在も、部屋一面に転がる肉塊も、全部パウルと同じ顔だ。
 それは、銀河帝国にとって便利な道具だったパウルの複製。
(壊さないと)
 触手がパウルの喉を締め付けてくる。苦しみの中、眼前の相手を見る。目から垂れているものがあった。
 今ならそれがなんだかわかる。
(泣いてたんだね)
 死にたくないと。自分が生き残りたいと。そのために「同じ自分」を殺さなければいけないことを辛いと思って。
 生き残ったのはパウルだ。どんなに今、喉を締められても、『過去』は変わらない。
 右目を破壊される痛みが蘇る。あの時、視界が片側真っ赤になり、やがて暗くなった。痛みと同時に、景色が消えていった。それは痛みだけでは表現できない、恐怖。
 どの複製も、怖かったはずだ。
 その記憶は、パウルから消えない。いつもの笑顔からは想像できない『悪夢』のひとつとして、今も残っている。
 パウルは目の前で泣く、自分の複製に手を伸ばした。
 虫の息になってるその存在の頭を、最期に撫でてやる。
(ごめんよ。でも、オレが生きる。その代わり、オレは生き抜くから)
 その後だって『悪夢』のようなことばかりだった。でも、約束どおり生き抜いた。そしてパウルは仲間と笑顔を得た。
 多くの複製と自分の何が違ったのかはわからない。
 でも、今考えればそれは生への執着だったのかもしれない。『未来』へ願ったものの大きさだったのかもしれない。
 思い出せば、辛いのだ。同じ顔が、パウルを恨むように見ている。
 でも。
(行こう)
 ユーベルコードで白銀の宇宙バイクGlanzを呼び出す。無骨なフォルムながら艷やかな蒼き光線を纏うそのバイクに飛び乗った。
 死の恐怖に震える複製を振り切り、フルスロットル、一気に『悪夢』を轢き潰していく。
(装置ごと宇宙の藻屑にしてやっぜ!)
 同じ顔の自分が消えると同時に、ジャミング装置が壊され、火を上げた。
 パウルは振り返らない。
 生きていくと決めたから、それなら『未来』を掴み取るだけだ。
 バイクを走らせる。装置を壊したら、後は乗り込むだけだ。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト