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銀河帝国攻略戦⑬~個の歩む慟哭

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●「個」とは
 私は私、俺は俺、僕は僕。
 誰一人として、同じ人間はいない。
 生まれも育ちも様々で、ここに至るまでの道のりも十人十色。
 平穏で、大きな壁にもぶつからず、幸せに生きてきた者もあるだろう。
 しかし。
 一つの組織に組み込まれてしまえば、「大衆」の目に見える部分は「個」から「群」へとスライドする。
 例えば、猟兵。英雄として見られ、英雄としての振る舞いを期待される彼ら。しかしそれは、「群」を見た「大衆」の印象でしかない。
 もちろん猟兵の中には邪道を歩む者もいることだろう。期待される以上の英雄となる者もいることだろう。
 それは、そこまでの道のりが「個」によって違うからだ。
 そして。
「個」は「個」であり、「群」の「極一部」でしかない。
 だから。
 乗り越えるべき過去も、「個」によって異なる。
 厄介なことは、「大衆」が「群」を見る時、「個」は全てその過去を乗り越えた後であるもの、と妄想し、その振る舞いを求めることだ。

●グリモアベースにて
「あらぁ、スゴいじゃなぁい♪ 良いペースの進軍だわ。このままイケイケドンドンよぉ~♪」
 会議室に猟兵を招集した井筒・大和は、クネクネと体を揺らして彼らを褒め称える。
 銀河帝国攻略戦の進捗は早く、成果も次々に上がっている。
 勢いを落とすことなく、一気に勝負を決めたいところだ。が、これまでは所謂前哨戦。
 オブリビオンの幹部や精鋭は、この先に控えている。だからこそ、停滞するわけにはいかない。その上で、力を温存する必要もある。
 これは戦争だ。ほんの僅かな戦局の乱れから、勝負が一気に逆転することも十分にありえるわけで。
 大和は猟兵を鼓舞するが、今は慎重に動くべきところだ。もちろん、彼はそれを分かっていながら、敢えてそういった言動を取る。
 それは、オカマであることを隠さず、むしろその気を全開にして見せることで、逆に彼ら猟兵が慎重になるであろうといった目測によるものだった。
 さて。大和は一つ咳払いをすると、ディスプレイにマップを表示した。
 暗黒の宇宙空間に、奇妙な装置がいくつも置かれているのが分かる。
「敵の幹部が出てきそうなのよ。というか、概ねの居所を掴みかけているの。でも、問題があってね。ここに映っているジャミング装置が、敵幹部の乗る『実験戦艦ガルベリオン』の居場所を隠しているのよ」
 つまり、今回の依頼というのは、このジャミング装置を破壊し、敵戦艦を炙り出そうということのようだ。
 オブリビオンにとっても、この装置を破壊されることは面白くないだろう。だが、こうして写真で補足できるほど無造作に置かれているのは腑に落ちない。まるで破壊してくださいと言わんばかりだ。
 当然、それにはカラクリがある。
「先発隊がこの装置を破壊しようとしたんだけどね、実はできなかったの。頑丈だったとかじゃなくて、誰も武器を振るうことなく帰ってきてしまったのね」
 何故そのようなことが起こったのか。
 大和が語るには、こういうことらしい。
 装置へ近づくと、過去のトラウマがフラッシュバックする。このトラウマを克服できない限り、装置を破壊することができない。いや、破壊する気が起きなくなってしまうとのこと。
 オブリビオンによる精神攻撃ということだ。
 だからこそ。強い意志を持つ猟兵が必要となる。
 過去を乗り越え、未来へ進むための意志を秘めた、強い心が。
「いい? 過去になんて負けちゃダメよ。でも、もし負けてしまったとしても、気にすることはないわ。だって、一度は乗り越えられなかったのだもの。そんな時は、あたしのところにいらっしゃい。元気付けてア・ゲ・ル♪」
 一部、寒気を覚えた猟兵。だが、こうして受け止めてくれる存在がバックにいることは実に心強いものだ。
 そのことに気づけた者は、どれくらいいただろうか。


数巴トオイ
 数巴トオイです。
 戦争ですが、今回はトラウマ克服の回となります。心理描写、ジャンジャンお任せください。
 さて、この依頼に関しましては、2つほどお願いがございます。

①判定に用いるステータスをご指定ください
 ユーベルコードを使用しない例が多く想定されますため、判定の基準とさせていただきます。

②「俺にトラウマなんてねェ!」というプレイングはご遠慮ください
 シナリオフレームの醍醐味を損ねてしまいますので、申し訳ないですがこうしたプレイングは不採用とさせていただきます。
 また、ジャミング装置の影響がない位置から狙撃して破壊する、といったプレイングも同様に不採用とさせていただきます。

 以上、私からのお願いでした。
 それでは皆様、どうぞ宜しくお願い致します。

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 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。
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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リリィ・オディビエント
判定ステータス POW

私の生きた日々は紛れもなく幸せだった。

だから壮絶な不幸な記憶なんてないけれど……あの"特訓"はトラウマと言っていいだろうな…。


ママは活発な笑みで言っていた
「大丈夫大丈夫!死にはしないから!」
「ちょっと苦しくて大変だけど、それがリリィを強くするんだよ」
「お母さんはリリィより小さい頃に出来てたから大丈夫!」

おかしいよぉ…ひとは針の上はあるけないし、目をかくしながら気配だけよめないよぉ…
えへへ…りりぃね、おはなだいすきなのー…

はっ…!
こほん…訓練を超えるごとに、現実の私も一歩前に進める気がする
今度こそは、あのじごk……特訓を乗り越えてみせるぞ!



●大好きなママへ
 騎士への道は、とても険しいものだ。誰にだってなれるわけではない。いや、それは違う。必要な条件さえ満たすことができれば、誰にでもなれる。リリィ・オディビエント(f03512)もそうだった。
 蘇るのは、幼き頃の記憶。既に立派な騎士であった母から、特訓を施されていた、あの頃だ。

「お母さんはリリィより小さい頃に出来てたから大丈夫!」
 ママが笑顔を向けてくる。
 私の目の前に敷かれたのは、針で覆いつくされたマットだった。それは、ママが五人くらいは縦に寝ころべるくらいの長さがあって、私はこれからこの上を歩くところ。
 それから、私は裸足だった。
 騎士なら、いざという時に裸足で戦うことだってあるかもしれない。そんな時に、足場が平坦だとは限らない。もしかしたら、ガラスの破片が散乱しているところで剣を取らなくてはいけないかもしれない。
 怖がる私を、ママが励ましてくれる。私にならできるって、言ってくれる。
 これを乗り越えたら、私もきっと一人前の騎士になれる。
「うん、りりぃね、がんばるね!」
 そうして私は目隠しをした。
 すっと息を吸い込んで、勇気を持って一歩踏み出す。
 足の裏に、チクリとした感触があった。針が数本、突き刺さっているんだ。
 でも、足を完全に降ろさないと、次の一歩を出すことができない。
 奥歯を噛みしめて、ぐっと足を降ろした。
 針の先端が、皮膚を、血管を、肉を突き破ってくる。骨に当たる。これ以上降ろすことができない。
 目隠しに使った布がじんわりと温かくなるのが分かった。
 もう一歩、今度は反対の足を出す。その瞬間、全体重が先に出していた足にかかる。頑丈に作ってある針が折れる気配はない。
 ギチギチと骨が削れる感覚。
 痛い。痛い痛い痛い――。
「ァ、ア゛ア゛ッ゛!!」
「ちょっと苦しくて大変だけど、それがリリィを強くするんだよ」
 あの時、ママはそんなことを言っていたんだ。私は、あまりの激痛に、何を言われていたのか、分からなかった。
 何度も、何度も何度も足を出して、足裏の皮膚が全て捲れて、血が滴って、肉が爛れても、この特訓は終わらない。
 おかしいよぉ……ひとは針の上はあるけないよぉ……。
「さぁ、そろそろね。リリィ、ここからが本番よ」
 ママの声。
 それからすぐに、何かが肩にぶつかった。次は背中。次は頭。
 これも特訓だった。
 針の上を歩きながら、目隠しをして、飛んでくるボールを気配で察して避ける特訓だった。
「ぁっ!?」
 もう限界。
 お腹に飛んできたボールを避けられなくて、強くぶつかった瞬間、私はバランスを崩した。
 意識も朦朧としていた。
 体が倒れるのが分かる。
 でも、私が倒れる地面には――。

「ねぇリリィ、見て? 綺麗なお花畑よ」
「うん、りりぃね、おはなだいすきなの……」
 その後、私が目にしたものは、陽に照らされて赤黒い草原だった。
 足元を見れば、真っ赤なお花が咲いている。
 何枚あるのかも分からないような、大きなお花が咲いている。
 ママ。
 大好きな、私のママ。
 リリィはね、いつかママみたいな立派な騎士に……。

「なったんだッ!」
 ハッと意識を取り戻したリリィがナイトメアソードを振り上げた。
 辛い特訓の日々だった。何度も苦しみを味わった。
 だがあの時の特訓が、今のリリィを作り上げている。
 だから。
「今度こそ、乗り越えてみせるぞ!」
 悪夢を切り払う剣。
 過去に受けてきた痛み。これから背負っていく痛み。
 全てを受け入れて、全てを乗り越える。
 だってそれが。それこそが。
「私とママの絆なんだ――ッ!」
 振り下ろされた剣が、ジャミング装置を両断する。
 痛みで繋がれた親子は、こうして存在の証明を立てた。
 バチバチと火花を散らす装置。仕事を終えたリリィは、何故だか足の裏にズキンと痛みを覚えた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

これがジャミング装置の宙域?
何も……やめろ。

アイツを、準をなんで誰も探さないんだよ。
なんで、誰も動かないんだよ。
なんで……アタシ以外の誰も
準の事を覚えてないんだよ!
まるでアタシがおかしいみたいな
視線を向けるなよ!
まるで、まるでアイツがいなかったみたいにさ……ヒッ
(準と邪神が同一の存在になる幻影を見て)
そんな事は、そんな事ない、ないはずだ。
アタシは、アタシは……
そうだよ、その可能性があるってわかったからこそ怖いんだ。

それはきっと因果の裏表だ。
探さなければ見ずに済むんだろ。


けどよ。
アイツがどんなザマになってたとしても、アタシは準を探し出す!
それがアタシの、覚悟って奴さ!



●いなくなったアイツ
 数宮・多喜(f03004)もまた、ジャミング装置の破壊へ向かう。
 トラウマを掘り返すものだということは、分かっている。
 分かってはいるのだが、それでも……。

 アタシの周囲には、たくさんの人がいた。
 全員知った顔のような気がする。なのに、誰なのかなんて思いだせない。
 それから、アタシはある人物を探している。いつの間にかいなくなっちまった、アイツだ。最近失踪した友人、準だ。
 そうだ、アイツはいなくなっちまったんだ!
 探さなきゃならない。アタシだけじゃない、皆で探さなきゃ。
 アイツがいなくなって悲しいのは、アタシだけじゃないんだ。
「なぁ、準がどこに行ったか、心当たりはないかい?」
 手近なヤツを捕まえて、問いかける。
 だが、答えは返ってこなかった。
「準は……答えろよ、おい!」
 誰も、アタシの声に反応してくれない。
 どうしてだ? 皆、知ってるだろ? あの準だぞ、お前らだって、よく喋ってたじゃねぇか。
 どうして皆して無視するんだよ!
 頼むから教えてくれ。準は――
「準って、誰?」
「は」
 嘘だろ?
 冗談だろ?
 いや、だってお前、知ってるだろ。アイツがいたこと、知ってるだろ?
 やめろよ。まるでアタシがおかしいみたいな視線を向けるなよ!
 これじゃあまるで、まるでアイツがいなかったみたいにさ……。
「おーい。そんなとこで何してんだ、多喜」
 この声。
 間違いない、準の声だ。そうか、こんなところにいたのか。
 探していたんだ。ずっと、アンタを探してたんだ。
「準――、ッ!?」
 振り向いた私の目に飛び込んできたのは。
 およそ人の姿を失った、見るもおぞましい邪神の姿だった。
「何だよ、素っ頓狂な顔して」
 よせ。準の声で喋るな。
 そんな事は、そんな事ない、ないはずだ。
 だって準は……。

「その可能性だって、あるのかもな」
 我に返った多喜は、目の前のジャミング装置を見据えた。
 見せられた可能性に、否定はしない。できない。
「もしそうだってんなら、探さなければ見ずに済むんだろ。でもな」
 腰を落とし、拳を構える。
 答えがどうであろうと、それがどんなに辛い結果に繋がっていても、彼女はもう決めているのだ。
「アイツがどんなザマになってたとしても、アタシは準を探し出す! それがアタシの、覚悟って奴さ!」
 突き出した掌底。サイキックエナジーの込められたそれが装置を貫き、破壊する。
 鉄の意志は、彼女を突き動かす。
 どこへ向かうのか? それは、準のいるところだ。
 何故向かうのか? それは、準にもう一度会いたいからだ。
 どこにいても、どんな姿になっていても。
 絶対に見つける。そして、また語り合いたい。
 だから。こんなところで、立ち止まっているわけには、いかないのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リサ・ムーンリッド
【SPD】
(内心なので素)
『そこまで知ることに執着するのはおかしい』と故郷の皆が、親さえも言います。
『お前はおかしい』『普通じゃない』と口々に言います。存在が許されたのは『おしとやかな演技の私』だけでした。故郷に私の居場所はなく、故郷を出た後も、ありませんでした。この好奇心は異常らしい。錬金術師の肩書と振る舞いで、ようやく隅に居られます。『本当の私』の居場所はありません。

嗚呼それでも、それでも私は知る過程が狂おしいほどに好きなのです。もし世界のネタバレを知らされるなら私は死を選ぶ。それほどに知る『過程』が愛おしい!

ジャミング装置…どのような構造なのだろう。嗚呼、分解したい、調べたい…!



●探究者の孤独
 知識を求め、学者然としたリサ・ムーンリッド(f09977)に襲い掛かるトラウマとは、故郷にいた頃の記憶。
 もしも猟兵にならなければ、恐らくは。

「またリサのアレが始まったぞ」
「異常者だもんな、ったく、気味が悪い」
 私が生まれ育った故郷では、誰も私のすることを認めてくれませんでした。
 ただ、私は、知らないことを知りたい。知識を求めたい。それだけのことでした。だというのに、誰もそれを赦してくれません。
 もしも、世界の全てを一瞬の内に見せられたら。私は間違いなく死を選びます。
 知識そのものには興味がありませんでした。知るまでの過程を愛していたのです。
 ですから、私は初めて見るものが大好きでした。そして、それがどんな構造になっているのか、どういった仕組みになっているのか、全て分解して調べなくては気が済まなかったのです。
 周囲には、それが異常に見えていたようです。
 いつの間にか、私の見える範囲に新しいものはなくなりました。いえ、あったのです。いつか隙を見て調べようと思っていたものも、全て隠されてしまったのです。
 あらゆるものを分解し、あるいは解剖し、調べ、知識としてきた私にとって、唯一こうした周囲の反応だけが理解できないものでした。
「リサ、今日は大人しくしていたのね。明日もそうしていなさい」
 ある時、母はそう言った。
 何もせず、何にも触れず。お淑やかな少女の皮を被って、一日中人形のようにじっとして、無意味な時間を過ごした時だけ、私は周囲に存在を許されました。
 それは鎖に縛られたも同然。
 投獄されたも同然。
 故郷での私は、罪人と同様の存在だったのです。
 最早私には、居場所なんてありませんでした。
 こんな私は、私ではない。生きた存在ではない。死人と同義だ。
 そう感じた私は、故郷を離れることにしました。
 この好奇心が異常と言われるならば、そう言われないところへ行こうと決めました。
 錬金術師を名乗り、様々な町を渡り歩きました。
 知識の探究者として、新しいものをどんどん吸収しようとしました。
 ですが。私を受け入れてくれるところは、どこにもありませんでした。
 どこに行っても、私は異常者扱い。知識を求めるほどに、周囲は私を輪から外しました。
 私に居場所なんてありませんでした。探しても探しても、見つかりませんでした。
 皮肉な話です。
 調べれば大抵のことは知識として吸収できるのに、私の居場所を見つける知識は得られません。
 世界に、私は独りぼっちでした。

「ふっ、懐かしい光景を見せてくれる。これがジャミング装置の力とやらか。さて、どういった仕掛けに……」
 意識が戻ったリサは、装置へと手を伸ばす。
 分解したい。調べたい。そして可能ならば一度くらいは再現したい。
 それが知識を得るということだ。学ぶということだ。リサ・ムーンリッドが存在する証だ。
 だというのに。
「う……っ」
 付近でジャミング装置の破壊に当たっている猟兵と、目が合った気がした。
 その目はまるで、装置の構造を調べようとするリサを異常者扱いしている目のようだった。少なくとも、リサにはそう思えた。
 見せられた光景が再び脳内を駆け巡る。
 そうだ。
 ここで装置を分解してしまえば、また居場所を失う。
 せっかく猟兵となって、自由に知識を得られるようになったのに。周囲から、同じ猟兵から異常者として見られてしまっては、また居場所を失ってしまう。
 ここしかないのだ。猟兵である以外に、本当の自分でいる術はないのだ。
 もう、独りぼっちは嫌だ。
 そんな思いが去来して、リサはとうとう装置に触れることすら叶わなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鳥渡・璃瑠
【POW】

トラウマ
昔髪型やお姫様に憧れた事でいじめられた事
髪の毛を引っ張られたり心無い言葉をぶつけられたり、服を汚されたり
無意識の深い傷になっている

対策
(こんな事もありましたわね…我ながらよく覚えているのだわ?)
これで友達とかできなく…いえ、気にしてなんかいませんことよ!むしろお断りなのだわ!
えぇ、見苦しくて仕方ないものですもの!
自分がお姫様になれないからって、なれるわたくしを僻むなんて見苦しいのだわ!
…自分がなれるお姫様を目指せばよかったのだわ?わたくしをいじめ…い、いえ、僻んでる暇があるくらいなら!なのだわ!

胸を張り、ドリルヘアーを揺らして堂々と言い放つ
気にしていないというのは嘘から出た真



●想いは螺旋を描く
 底抜けに明るく、悩みがあるようには見えないドリルのような縦ロールが印象深い鳥渡・璃瑠(f00142)にも、少女時代があった。
 誰にでも、忘れたい過去がある。それは、彼女とて例外ではなかった。

 あたしには、夢があったの。
 絵本で読んだ昔話の、お姫様になりたいって夢。
 物語でのお姫様は、辛いことも多いけど、最後には幸せになるの。
 最初からお姫様だった人も多いけれど、中には貧しい生活からお姫様に上り詰めた人もいる。信じる気持ちを忘れなければ、きっとあたしもお姫様になれるはず。
 だから髪型だって、癖になってしまうまで整えたし、服だってお姫様に相応しいものを自分で作った。
 歌と踊りのお稽古もした。お勉強は苦手だったけれど、出来る限り頑張った。
 いつかきっと王子様が迎えに来てくれるって、それは今でも信じてる。
 だけど。
 そう思っているのは、私だけだったみたい。
「璃瑠ちゃんの髪型って変だよねー」
「マジマジ。こーんな髪型、チョーありえなくなーい?」
 私の周囲にいた人たちは、いつもそんなことを言っていた。
 一生懸命整えた髪の毛は、毎日のように引っ張られた。
 徹夜して作った衣装に泥も投げられた。
 上履きに画鋲を仕込まれたこともある。学校の机には、カッターで心ない言葉が彫り込まれたこともある。
 取り押さえられて、自慢の縦ロールを切り落とされそうになった時は焦った。
 何か良くないことが起こると、全部あたしのせいにされた。
 誰も理解してくれない。あたしは、いつも一人だったの。
「つーか今時、王子様が迎えにくるとかありえねー」
「ほーら、ドリル菌だぞー」
「わっ、やめろよ、伝染るだろ!?」
 そんな同級生達の声が、何度も何度も反響する。
 ある日のこと。学校に到着してすぐにお手洗いへ行きたくなって、まだHRまで時間があることを確認してから、鞄をしまい、教室を出た。
 用を足して、戻る。その時、しまったはずの鞄がそっくりなくなっていたことがあった。そこには教科書やノートだけじゃなくて、お財布も入っていた。放課後に生地を買って、新しい衣装を作ろうと思っていたのに。
「ねぇ、あたしの鞄知らない?」
 クラスメイトに声をかけて回った。
 でも。
「でねー、それがさー」
「マジありえなくない?」
 誰も、あたしの声に反応してくれなかった。
 何度呼びかけても、同じだった。
 先生が来て、HRが始まる。
 出席の確認。次々に生徒の名前が呼ばれている。
「鳥渡ー」
「先生!」
 あたしが返事をするよりも先に、他の同級生が声を上げた。
「鳥渡って誰ですかー?」
「あ? あー……そっか、そんなやついなかったな」
 クラス全体どころか、教師までもが、あたしを無視するようになっていった。
 その時になくなった鞄は、今になっても見つかっていない。

(こんな事もありましたわね……我ながらよく覚えているのだわ?)
 我に返った璃瑠は、しみじみとそう感じていた。
 思えば、友達らしい友達はいなかったかもしれない。
 だが、改めて見せつけられたからこそ、彼女は過去に決別する意思を固めることができた。
「自分がお姫様になれないからって、なれるわたくしを僻むなんて見苦しいのだわ! 自分がなれるお姫様を目指せばよかったのだわ。わたくしをいじめ……い、いえ、僻んでる暇があるくらいなら! なのだわ!」
 恐らく、それは理屈として違うはずなのだが、本人はそれで納得したのだから、良いだろう。
 下々の嫉妬を受けるのは、姫の常。
 自分にできないことを、できる人が悪いかのように言うのは見苦しい。だが、それすらも寛大な心で許してしまうのが、璃瑠の目指すお姫様像なのだ。
「残念だったのだわ? わたくしは、本物の姫になる女でしてよ!」
 巨大ドリルを展開させ、回転速度を上げていく。
 彼女に迷いはない。
 こんな過去を掘り起こしたジャミング装置も、璃瑠のスーパーポジティブシンキングの前には無力だったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラザロ・マリーノ
【POW】
[トラウマ]
ただ街を賊から守るだけの仕事だった。
優秀な指揮官。経験豊富な傭兵達。何一つ不安はなかった。
だが負けた。
何かを決定的に掛け違ったまま、終わってしまった。
街は焼かれ、人々は蹂躙された。

[精神攻撃]
未来を予知するグリモア猟兵。世界を守る歴戦の猟兵達。守るべき人々。
それら全てがオブリビオンによって完全に破壊される。
全ての世界が消滅するまで猟兵達は敗北し続ける。何度も。何度も。

いや、そうはさせない。
猟兵は強い。俺など比較にならない程に。
そして今は俺もその一人として世界を守る!
ゆっくりとジャミング装置に近づいて、「グラウンドクラッシャー」を叩きつけて、周辺の構造物ごと破壊するぜ!



●力の束
 二本足のトカゲといった風体のラザロ・マリーノ(f10809)に去来する過去。傭兵として、腕っぷしを商品に、力を売っていた頃のことだ。
 今でこそ猟兵と肩書が変わったものの、やっていることはそう変わらない。
 ただ、あの時と違うことがある。あの時から、変わったことがある。そのキッカケとなった出来事が、彼に過去を引きずらせていた。

 その日、俺が受けた仕事は用心棒としてとある町を守るというものだ。
 ボディガードに決闘代行、力で解決すべき問題を、金で雇われ遂行する。言っちまえば、傭兵稼業ってわけだ。
 この仕事は楽で良い。何のしがらみもねェ。その日その時の付き合いだけで後腐れなんてないし、全てが金と命のやり取りだけで完結する。シンプルだ。
 今回の仕事も、同じく金で雇われた傭兵同士で、町に襲い来る賊を追い払うという、どこにでも転がっているような仕事だった。違う点と言えば、雇い主でもある町の人間が指揮を執ることになったが、そいつがなかなか話の分かる奴で、俺達傭兵の布陣や町民の避難場所、防衛ラインの指示も的確だったってことか。もう一つ、傭兵の中には経験豊富な連中がゴロゴロいて、そいつらが傭兵歴を鼻にかけずちゃんと従ってたこともある。
 要するに、良い意味でいつもと違った。多人数で仕事をすると、必ず軋轢が生まれる。それがないってんだから、この仕事に何も不満はない。報酬だって、成功が条件だがたんまりもらえる。
 俺も含めて、勝利を疑う者はいなかった。多分、不安がってたのはあの指揮官くらいだな。神経の細かそうな顔してやがった。
 傭兵達は迎撃の用意を済ませると、それぞれの持ち場に散ってゆく。俺の持ち場は町の外周、賊をある程度足止めするための場所だ。
 全てをここで食い止める必要はない。町の中で張ってる連中が、賊をまとめて袋叩きにする算段だ。
 作戦自体は順調。
 賊の数は多かったが、三割くらいの戦力は俺ら外周班で片づけることができた。
 戦果としては上々。だったのだが。
「おい、町から煙が!!」
 誰かが叫んだ。
 俺も振り返る。
 黒煙が上がっていた。中で、いったい何が起こったんだ?
 いや、それは後だ。
 数人を伴って、俺は町へと駆けだしていた。
 あちこちで火の手が上がっている。賊がつけたものだろう。
 どこへ向かえばいい? この町の、どこへ行けばいい?
 何も分からなかった。だから、民家の壁に背を預け、左手を失い、身体のいたるところから血を流している男に声をかけた。こいつも傭兵だったはずだ。
 この状況はどうなっている。何故こうなった。
「内通者、だ……。そうでなきゃ、俺らの布陣、う――ッ」
「分かった、もういい。寝ろ」
 男は虫の息だった。万に一つも助からない。
 布陣がバレている。ということは賊が狙うのは、町民の避難場所か? それとも……。
 一つ思い至った俺は、同伴者に町民の救助へ行かせた。そして俺自身は別の場所へ向かう。
 こういった集団戦で敵が狙うとしたら、まず頭だ。司令塔がなくなれば、戦線を維持できなくなる。
 仮設ではあったが、作戦指令室を設けていた。そこに、あの指揮官がいるはずだ。

 その後。俺は誰が内通者なのかをすぐに知ることとなった。
 この作戦を指揮していた男。ヤツこそが、賊との内通者だった。
 町は焼け、民は蹂躙され、自由に戦ってきたはずの俺ら傭兵も、今回ばかりは指揮に頼ったばかりに瓦解した。
 何も成し遂げられなかった。
 手柄も上がらず、報酬もなく、ただただ無力に、賊から逃げる。

 猟兵となった今も、同じことが起こるのかもしれない。
 どんなに力をつけても、それでは到底覆せない絶望的状況が訪れるのかもしれない。
 全ての世界が滅びるまで、俺達は敗北し続けるのかもしれない。
「いや」
 そんなことはあり得ない。あってたまるか。
 何故ならば。
「猟兵は強い。俺など比較にならない程に強い奴らがゴロゴロいやがる。どんな絶望だって覆しちまうような、ブッ飛んだ奴らがここにいる」
 そして。
 俺、ラザロもその一人になったんだ。
「世界の一つや二つ、守ってやるぜ!」
 竜騎士の槍斧に変形させたハルバードを手に、俺は、ジャミング装置にありったけの力を込めて叩きつけた。

成功 🔵​🔵​🔴​

大豪傑・麗刃
自他ともに認める変態のわたしに豹鹿などないのだ!

(と本人は言ってますがあります。今でこそ自らの変態性を前面に出して売りにしてしまうぐらいに堂々としておりますが、やっぱりおかしい人ってのは基本集団から排除されるわけで。で、生誕時点で武家の次期当主と定められており、美形といえない顔なのに名前が麗刃。そんなわけで幼少期はむちゃくちゃいじめられたわけですよ。むしろそれを忘れたいがために今必要以上に明るく振る舞っているのかも)

……
懐かしい感覚なのだ。
確かにそんな時代もあったのだ。

だが!
わたしは持って生まれたこの個性をもって社会の味付けをする調味料となると決めたのだ!
決めたからには前に進むしかないのだ!



●家を継ぐ者として
「自他ともに認める変態のわたしに豹鹿などないのだ!」
 と言ってのける大豪傑・麗刃(f01156)。間違いなく狙ってボケた発言は華麗にスルーさせていただくとしよう。
 全てを割り切り、「わたしはこういう存在だ」と受け入れているのならば、過去に後ろ髪惹かれることはないのかもしれない。だが。それと過去に傷を持つこととは、違う話なのだ。

 わたしの生まれた大豪傑家は、名前の通り武家なのだ。
 始祖はなかなかの傑物で、武勇の誉れも高く、一気に名を上げ一族として栄えた、らしいのだ。といっても、こんな姓を名乗るくらいだから、歴代当主はわたしと同じく奇人変人ばかりなのだ。
 それでも、武家は武家なのだ。こうやって家系が中心になる家に生まれると、必ず出てくる話が、跡継ぎってやつなのだ。ぶっちゃけわたしが次期当主なのだ。
 今度こそは奇人でも変人でもない人物となるように、と麗刃なんて名付けられたのだが、生憎とわたしはその期待には応えることができないのだ。
 だから、大豪傑・麗刃なんて欲の深い名前が、ちょっとだけ重いのだ。

 思えばこれは、この家に生まれた者が必ず通る道なのかもしれないのだ。
 わたしの感覚と、所謂一般的な感覚には、ズレがあるのだ。そのこと自体は、わたしも認めるところなのだ。
 でも。
「あっ、ダイゴーケツサマだ!」
「あの顔で麗しの刃とか、ぷくくっ」
 そんな風に言われるのは、ちょっとだけ悲しかったのだ。
 性格は仕方がないのだ。わたしの価値観の上に成り立つものなのだ。それをどう言われても、わたしの考えはわたしだけのものなのだ。だから気にすることもないのだが。
 ただ、顔と名前だけは、どうしようもないのだ。こればかりは変えるわけにはいかないのだ。
 それでも名前や家系の力は凄いもので、直接石を投げられたり、ということはなかったのだ。もしそれをやったら、一族そろって奉行所送りなのだ。
 表面上はわたしの機嫌を伺うように見せて、裏でこっそりわたしの顔や名前を笑っている人がどれだけいたか、わたしには分かっていたのだ。
 そのことを、本人達も把握していたかどうかまでは分からないのだ。
 武家だから、一応わたしの家が面倒を見なくてはならない領民もいるのだ。そんな人達が陰でわたしのことを悪く言っていることを知っていても、わたしは何も知らない顔で接しなきゃいけないのだ。
 何も知らない顔をして。そしてわたしらしく。
 ……あれ、わたしらしくって、何なのだ?
 わたしが、わたしとして、わたしらしく、ん?
 わたしって、誰なのだ? 大豪傑って、誰なのだ? わたしはそこにいるのだ?

「懐かしい感覚なのだ。わたしなりに、わたしのあり方に悩んだ時期もあったのだ」
 過去の記憶から戻って来た麗刃は、そう回想する。
 しかし、それは既に通り過ぎた道。家というものの存在は、大きい。誰に何と言われようと、大豪傑・麗刃は他にはいない。
「わたしは持って生まれたこの個性をもって社会の味付けをする調味料となると決めたのだ!」
 だから、変人と言われようと、どう思われようと、ありのままの自分を貫くこと。それが、自分らしくあるということだ。
 そこに悩みも何もない。
 こんなジャミング装置のまやかしに潰されるほど、彼の尊厳は安くない。
 聞け! 他の誰でもない、世界にただ一人の男の名を!
「わたしが大豪傑・麗刃なのだ! ちょあーーーッ!!」
 サムライブレードが振り下ろされ、装置を両断。
 また一人の猟兵が、過去の己を乗り越えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニキ・エレコール
【WIZ】
過去の傷を再現…そんな技術まであるなんて
だから私達の星も負けてしまったのかな
だから貴女がそこに見えるのかな
私の仕えた、私の大好きな皇女様
(水晶のクリスタリアンの女性の幻を見る)
私達は貴女を守れなかった
美しかった都ももう殆ど残ってない
つらかった、悲しかった
どうしようもなく幼くて弱くって貴女を守る覚悟が足りてなかった
私の霊媒の力はきっと過去を未来に繋げる為に目覚めたの
もう二度と逃げ出さないように証は目に埋めたの
失敗も涙も無念も、何もかも無駄にしないように
悪夢なんてもう何十回も見た
覚悟も何十回もした
(【槍戦士召喚】を『高速詠唱』、幻ごと装置を砕く)
行こう…こんな物じゃ私達は止められないよ!



●亡星の幼き使用人
 ブラックタールであるニキ・エレコール(f04315)が生まれた星は、既に文明を失ってしまった。
 いくつもの種族が和を結んで暮らしていたその星。治めていたのはクリスタリアンの一族だったが、協調性を重んじ、平和と慈愛の文明が、そこにはあった。

 氷の結晶のような、美しい城だった。
 でも。オブリビオンがこの星に侵攻して、滅びの時が訪れるまでそう長くはかからなかった。この時点で既に、敵は大挙してこの城に押し寄せている。
 当時の幼い私が仕えるクリスタリアンの皇女様は、玉座を動こうとしない。間もなくこの城は崩壊するだろう。それは即ち、彼女の統治する国の滅亡を意味する。
 まだ城の内外で戦っている兵がいる。心優しい皇女様は、そんな彼らを置いて逃げ出すことはできないと、頑なに避難を拒否していた。
 皇女様の身の回りをお世話していた私は、玉座のある部屋に待機していた。
 戦況を報告する兵がひっきりなしに玉座の間を訪れ、慌ただしく出てゆく。
 嬉しい報せはほとんどなかった。
 名を聞いたことのある兵の戦死も告げられていた。
 戦には詳しくなかった私にも、勝利の見込みがないことが十分に分かる。
 伝令の兵が途切れた。城の外からはまだ戦が続いている音が聞こえてくる。
 剣のかち合う音、怒声、悲鳴。
 耳を覆いたくなるほどの恐ろしい現実が、窓の向こうで繰り広げられていた。
 皇女様が玉座から立ち上がったのは、そんな時だった。
「皆、今日までよく尽くしてくれました。礼を言います。しかし、今この場で暇を出します。すぐに城を出、可能な限り遠くへ――」
「おやめください!」
 私は思わず叫んでいた。まだ幼かった私が、感情のままに声を上げていた。
 皇女様を……。綺麗で優しくて、使用人の私達一人一人にまで気にかけてくださる大好きな皇女様を残して逃げるなんて、そんなことはできなかった。
「こうじょさまをまもるためなら、わたしもたたかいます!」
 怖かった。
 武器なんて握ったこともなかった。
 それでも、戦いたかった。
 どうしても皇女様を守りたかった。
 その一心で、その思いだけで、私は決意を固めた。
 でも。
「ニキ、ありがとう。あなたのその優しさが、私は大好きです。だから、私はあなたに生きていてほしいの。どんなことをしてでも、生き延びて欲しいの」
 違う。そうじゃない。
 本当に優しいのは皇女様の方だ。生き延びなきゃいけないのは、皇女様の方だ。
 足が震える。もうオブリビオンが近くまで迫ってきている。皇女様を守りたい。でも本当は、怖い。
 私が皇女様を守らなくちゃ。
 なのに。なのに。

「私は、逃げた……」
 過去の記憶が掘り起こされ、気が付くとニキはジャミング装置の前にいた。
 いや、彼女の目に、装置は映っていない。代わりに彼女が見たものは。
「こ、皇女、様? どうしてこんなところに……。あぁ、皇女様っ!」
 亡き皇女の幻影だった。
 手を伸ばし、幻影の元へ。しかしニキの身体は前へ進まなかった。
 皇女の表情が、とても悲し気で、切なそうで、苦しそうで。触れてしまえば消えてしまいそうな儚さを浮かべていた。
 それはまるで、あの時に結局逃げ延びてしまったニキを恨んでいるかのように見えた。
 あの時一緒に逃げていれば、皇女はきっと今もどこかで生きていられたのかもしれない。
 それは、ニキが何回も何十回も見て来た悪夢と同じ。どうしようもなく幼くて、臆病で、弱くて、守るべきものを守れなかった。
 ……でも。
「皇女様。貴女のお姿をこうして見る度に、私は何度も決意してきました。もう二度と逃げ出さないように証は目に埋めました。失敗も涙も無念も、何もかも無駄にしないように、今度こそ、守るべきものを守り抜くために」
 す、と。ニキが腕を広げる。
 彼女の背後には、槍を構えた亡霊が現れた。その先端を、目に映る皇女へと向ける。
「これが、私の得た力です。オブリビオンのまやかしにも負けません。ですから、皇女様――!」
 その言葉が合図であったかのように。
 控えていた亡霊が、幻影の皇女を刺し貫いた。
 腹部から火花が散る。
 守り切れなかった大切な人へ、弱かった過去の自分へ、ニキはただ一言、
「さようなら」
 震える声で告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アドルファス・エーレンフリート
*アドリブ可

あの日、突然倒れた彼女は病に冒されていた。最早手の施しようがない程に

数多の迷宮を共に潜り 死線を共に越え 災魔を共に屠った長年連れ添った相棒の最後

彼女の最後の願いは私と戦って死にたいと、騎士の家に生まれ、武人として育てられた彼女はベッドの上で死ぬなど考えられなかったのだろう

「私」は、弱りきった彼女から逃げた、彼女を失いたく無かった一心で…逃げた
治療法を探したが見つからず、戻ったときには
彼女は私の前から居なくなっていた

それから、今まで会えていない
死地を求めて迷宮に踏み込んだのか

もう一度会えたら、私は彼女に何をしてあげられるだろう
今度こそ…迷う事無く「我輩」から君に「死」を贈ろう



●人として、騎士として
 アドルファス・エーレンフリート(f07048)にも、拭い去れない過去があった。
 今より少し若い頃。普段の明朗な言動からは思いもよらないような、辛く苦しい過去。彼に見せられたのは、丁度その頃の記憶だった。

 騎士となるべく生まれた「私」は、修練を積み、その業を収め、竜騎士としていくつもの迷宮に挑み、災魔と渡り合い、聖騎士団にも所属して、所謂エリートの道を順調に進んでいた。
 死と隣り合わせの恐怖も薄かった。その陰には、いつの間にかいつも背を預け合う彼女の存在があったからだろう。
「私」と同じく、騎士の家に生まれ、武人として育てられ、周囲の期待を見事に成し遂げた彼女。「私」の目から見ても、実に凛々しく、実に煌びやかな気性の持ち主だった。刀剣のような、鋭い美しさもあり、あらゆる意味で周囲の注目を集める人でもあった。
 どれほどの年月を、彼女と過ごしたか。「私」にとって彼女は、最高にして最愛のパートナーだった。彼女がいるから戦える、彼女がいれば何者にも負けない。
 いくつもの死線を越えた。いくつもの窮地を脱した。悲しみも、怒りも、もちろん喜びも、数え切れないほど彼女と分かち合った。
 いつしかそれは「当たり前」となり、「私」はこの女性と死ぬまで共に戦うのだろうと、漠然と思っていた。
 しかし。それは「私」の、根拠のない妄想に過ぎないと思い知らされた。
 ある迷宮を二人で探索していた日。彼女は岩壁に囲まれたその洞窟に倒れた。敵がいたわけではない。だから不意打ちを食らったわけでもない。
 病だ。
 思えば、その日は合流した時から、些か顔色が優れない様子だった。そんなことにも気づけない己が不甲斐なかった。
 彼女を背負い、迷宮を脱することにした。その間、彼女はしきりに「ちょっと休めば動ける」「探索を続行しよう」と言っていたことを、よく覚えている。
 だが首に当たる息遣いは荒々しく、背中越しに感じる鼓動は早鐘を打つようで、自立すら困難である様子が嫌でも伝わってきた。
 彼女の言葉を全て無視するように、「私」は彼女を連れ帰った。騎士団の詰める医務室へと運び、診察を受けさせた。
 結果は、いくつもの戦いで受けた傷が元となって発症する病だった。それもかなり進行していて、最早手の施しようがないほどにまでなっていた。
 この時になって、自らの無力を痛感した。彼女は、その苦しみに、痛みに、ずっと耐えてきたのだ。もっと早くに気づいて、治療を受けさせていれば、別の手が打てたのかもしれない。
 しかし悔やんでも後の祭り。彼女は死を待つだけの段階にまでなってしまっていたのだ。
 ベッドに横たわる彼女は、「私」に向けてこう言った。
「今すぐ武器を取り、私と戦え」と。
 武人としての誇りが、病床に潰えることを拒んだのだ。どうせ最期を迎えるのならば、戦場で、戦いの中で。それが、彼女の望みだった。
 この言葉を、「私」は拒んだ。
 いや、逃げたのだ。
 彼女を救う手段を探す。必ず病を治してみせる。そんな言葉は、当然本気のつもりだったのだが、もしかしたら、言い訳だったのかもしれない。
 詰め所を飛び出した「私」は、もちろん病の治療法を探した。国内を飛び回り、迷宮に挑み、彼女の病を治す手立てを見つけるためならば、どんなことでもした。
 ……が。結局、見つけることはできなかった。
 失意と共に、「私」は帰った。せめて彼女の最期を看取ろうという腹づもりだった。
 ところが「私」が帰り着いた時。彼女は行方を眩ませていた。
 聖騎士団の病院を抜け出し、誰にも知られず消えてしまっていたのだ。

 アドルファスの追憶から、今に至るまで。一度たりとも彼女には会えていない。
 死に場所を求めて、迷宮に挑んだのか。それとも違う目的があったのか。それは分からない。
「だから、教えてほしい」
 彼の目の前には、あの時に消えたはずの「彼女」がいた。
 それはジャミング装置の見せる幻影だ。失った存在を、心の傷を映し出す鏡だ。
「どこへ消えていたのか。いや、そんなことよりも、今更再会して、我輩に何を望むのであるか?」
 答えは、ない。
 ないが、アドルファスの胸には明確な答えがある。
 あの時に叶えてやることができなかった、彼女の願い。ずっと引きずってきた後悔が、やるべきことを強く強く訴えてくる。
「すまなかったのである。失望したであろう、恨んだであろう。だから、今ならば、その願いを叶えてやることができるのである」
 彼は十字大斧鉄塊を構え、もう一度、記憶に焼き付けるように、彼女の顔を丁寧に見据えた。
 そして。
「今こそ、『我輩』から君に死を贈ろう――!」

●過去からの慟哭を越えて
 誰の前にも、乗り越えるべき壁が現れる。それを乗り越えることができれば力となり、勇気となり、大きな成長へと繋がってゆくことだろう。
 しかし、全ての者が壁を乗り越えられるわけではない。中には壁に押しつぶされてしまう者もあることだろう。
 その時に負った傷は、大きな重圧としてのしかかり、その者を過去へ過去へと引きずる。あるいは、誤った方向へと加速させる。
 傷を深く抉るジャミング装置は、破壊された。
 過去を乗り越えた者、乗り越えられなかった者、様々だが。
 それでも。ここで見たものが、感じたことが、きっと未来へ続く道筋を照らしてくれると。誰もそう願わずにいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト