【戦後】戦後・オブ・ザ・デッド
●希望と言う名の罠
「ああ、話に聞いていた通りのボロ小屋だ。此処がそうなのか……」
その小さな診療所は荒野の果て―― 人里離れた僻地にあった。
曰く、其処には凄腕の闇医者が暮らしているという。
そんな噂をどこからともなく聞きつけた人々は、藁にも縋る思いで荒野を行く。
彼もまた、そんな者たちの中のひとり。
辿り着いた診療所の扉をノックするその手には最後の希望を込めて。
「俺の名はメッシ。アーサー=メッシだ。
金なら幾らでも出す。だからお願いだ先生!」
「あー、はいはい。わかってるって。ちゃんと診てあげるとも」
恐ろしいレイダーに、機械兵器に変異生物、砂嵐。
例え戦争が終結したとて、アポカリプスヘルに跋扈するその他諸々の脅威が全て無くなった訳ではない。彼らと遭遇することもなく此処まで辿り着いたのは僥倖だろう。奪還者に協力を仰ぐ為の一刻の暇さえも惜しんで、秘蔵のホバーバイクに跨って必死の思いで診療所に駆け込んだアーサーは自分よりも明らかに年若い、まるで少年のような『闇医者』の言葉に漸くの安堵を覚えた。……凄腕と聞いて抱いていたイメージよりもずっと若い医者だったが、それを今更不審に思うほどの警戒心さえ既に保てぬほどに彼は疲れ切っている。
「……で、ボクのクランケは誰かな。……キミじゃないよね?」
「お、俺の恋人だ。ホバーの後ろに積んである」
ホバーバイクの後部座席に積まれているのは金属製の棺であった。
アーサーから棺桶へと視線を移した『闇医者』はその表面を愛しげに撫でた後、側面のボタンを慣れた手付きで押し込んだ。
「さあ、眠り姫とのご対面だ」
開放されたフタから内側に充填された冷気が白い煙のように外へと流れ出していく。内部を満たしていた冷気が排出された後で顕になったのは、両手を胸の上で組まされた若い女の遺体。血の気はなく、白い顔―― 息遣いの僅かな身動ぎさえないのだから、間違いなく彼女は死んでいる。まるで眠っているかのような姿ではあったけれど。
「ウン。保存状態は悪くない」
「……出来るか? もうあんたにしか頼れないんだ」
辺境の地に住まう、凄腕の闇医者。
その技量の凄まじさは、一度死んだ者さえ蘇生させる程だと言う。
神域を通り越し、魔の領域にまで踏み込んだ彼は真っ当な存在ではあるまい。
それを理解して尚、愛する者を失った者たちは彼の元を訪れるのだ。
この青年、アーサーのように。
「もちろん。もっと状態が悪くたって、ボクなら蘇生はできるとも。
でも、いいのかな。ここから蘇るのはキミの望む彼女ではないかもよ」
「か、構うもんか。シンデルナ……彼女は俺の全てなんだ。
彼女のいない世界に、俺が生きてる意味なんてないんだから」
彼の言葉に、『闇医者』は満面の笑みを浮かべる。
「いいね。ボクはその言葉が聞きたかったんだよアーサー!
大丈夫だよ。その愛があればきっと……多少の違いなんて乗り越えられるさ」
にっこりと笑った彼のすぐ後ろ―― 棺に横たえられていた女がゆっくりと身体を起こす。死後硬直で固まった全身の関節を軋ませながら、棺から緩慢に地面へと降り立った娘は、呆気にとられたようにその姿を見守る恋人に向けて、両手を広げてみせた。
「あ、ああ…… シンデルナ……! 本当にキミは生き返ったのか!」
感動の涙を溢し、恋人の元へと駆け寄るアーサー。その背を抱きしめる女の腕は冷たく、力強い。みしみしと背骨が軋むほどの力で抱かれる青年が困惑するよりも先に、すぐ目の前の恋人が閉ざされていた目蓋を開く。……焦点の合っていない、散大した瞳孔。彼女はもう、彼を見ていなかった。ぐぱぁ―― と大きく開かれるその口。顎の可動域を無視して強引に開かれた事で、左右の頬の肉が無惨に裂けていく。
何という事だろう。これではまるで口裂け女ではないか。
「……ああああ……! そ、そんな…… やめてくれ……!」
それでも痛みなどないのだろう。生前の面影を容赦なく破壊しながら開かれたその口は、かつての恋人アーサーへの口吻を―― 否、『食事』を始めるのだ。
「……あーあ。愛があってもやっぱりダメだったかあ。まあ、予想通りだけどね」
今も尚咀嚼され、激痛と恐怖に絶叫するアーサーの声を聞き流しながら、『闇医者』……否、オブリビオン『Dr.デストルドー』はお気に入りの漫画やアニメを見ているときのような調子で愉快そうに笑う。
「でも大丈夫。キミもきっとすぐ、彼女と同じ存在になれるよアーサー。
……それまでに彼女がキミを全部食べてしまわなければだけどね」
●グリモアベースにて
「まずはそうだな……。みんな、アポカリプスヘルでの戦争はお疲れ様だったね」
召集に応じた猟兵たちを見回しながら、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)はそう告げた。恐るべきヴォーテックス一族、そしてフィールドオブナインたちの野望とその計画を退けた事で、アポカリプスヘルの復興は此処から更に飛躍的に進んでいく筈だ。
「でも、まだまだ状況が落ち着いたとは言いにくいんだ。
もともとアポカリプスヘルはとんでもない環境だっていうのもあるんだけど」
そう呟くイサナの手元で緩やかに回転するグリモアが、明滅しながら虚空に映像を映し出す。浮かび上がるのは、一部の猟兵たちならば見慣れているかもしれない怪物の群れ。
それは動く死体だ。飢餓の本能に突き動かされ、生者を喰らい、新たな仲間へと変える。動作は緩慢だが、怪力と頑丈さを誇り、痛みも恐怖も知らない彼らを倒すには頭部を或いは、全身を完全に破壊、消滅させるかしなければならない。
「そう、ゾンビだ。アポカリプスの僻地で、ゾンビが発生してるんだ」
続けてグリモアが新たな映像を映し出す。
それは無数のゾンビを従える、白衣を纏った一人の少年。
「で、それはこの『闇医者』のオブリビオンが作り出しているんだね。
死者も蘇生させる凄腕って噂だけど、要するに彼がゾンビを作ってるんだ。
そのゾンビが人を襲ってまた別のゾンビが生まれて……まあ、そんなかんじ」
戦後の混乱から人々はまだ完全に立ち直ってはいない。フィールドオブナインやヴォーテックス一族によって大切な者を奪われた者も大勢いるだろう。そんな彼らがささやかな希望を抱いて噂の闇医者の元へと向かい、新たな犠牲者を生み出す……そんな悪夢のような負の連鎖は、此処で断ち切らねばなるまい。
「闇医者はある程度戦力を揃えたら居住地を襲撃するつもりだろうね。
けど、その前に皆に奇襲してもらうんだ。どうかな、やってくれる?」
答えを聞くよりも先に、イサナは既に転送ゲートを開いているのだが。
「猟兵は噛まれてもゾンビにならないと思うから、そこは心配してないよ。
でも、この闇医者……普通のオブリビオンより手強いヤツなんだ。
自分を改造してパワーアップしているから、こっちも気をつけて」
毒島やすみ
はじめまして。もしくはいつもありがとうございます。
戦後シナリオも一本は出しておきたかったので、思い切って出してしまいます。採用数はいつも通り、キャパシティと気力次第。
尚、第二章のボスは自分の肉体を改造して「追加の身体部位」を持っています。
それを通常のユーベルコードと同時に使用して攻撃してきますので、其処を意識してプレイングしてくださると面白いかもしれません。面白いと思ったネタには全力で乗っかりたいと思います。
第1章 集団戦
『ゾンビの群れ』
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POW : ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
トリテレイア・ゼロナイン
◎
(重火器は好きに書いてもらってOK)
この世界に“デッドマン”という前例が明確に存在する以上、その希望を餌にする所業は悪辣そのもの
これ以上の犠牲者を増やさぬ為にも…先ずは哀れな彼らに“終わり”を齎さねばなりませんね
脚部スラスターの●推力移動加速をもって疾走し接近
強化ユニットの重火器●乱れ撃ち放ち
…スポンサーから使用データの収集を依頼されているとはいえ、やはり気が…
マルチセンサーでの●情報収集で背後からの接近●見切り
●怪力回し蹴りで迎撃
弾切れの武装投棄し剣と盾抜き放ち
死者と向き合うという意味でも、やはりこちらの方が性にあっておりますね
手荒な弔いはご容赦を!
敵群突っ込み
本領発揮と言わんばりに●蹂躙
●RAGE OF DUST
「……数は揃ってきたし、そろそろ集落を襲いに行くのも良いかもね」
荒野に居並ぶ無数のゾンビたちを前に、Dr.デストルドーは大層上機嫌だった。
自身の作り上げた『芸術品』たちが隊列を織り成す様は壮観である。
彼が一度号令を発せば、痛みを恐れる事のない死人の兵士たちは忽ちに決して止まることのない進軍を始める事だろう。景気づけに集落を二つ三つ潰してやれば、戦争終結に沸き立つアポカリプスヘルを再び阿鼻叫喚の地獄へと逆戻りさせてやれる筈だし、そのついでに『徴兵』も果たせると言うものだ。
「……安堵するのはまだ早い。この世界の戦争は終わってなんかいないんだよ」
そんなデストルドーの言葉を皮肉るかの如く、突如として響く砲声。降り注いだ弾丸の衝撃により荒野の赤土は轟音と共に爆ぜ、立ち込める砂塵と硝煙は飛び散った血肉の色で鮮やかに染め上げられる。
「ならば終わらせましょう。今、此処で」
「……!?」
不意に響く声―― 自身を護衛させるが如く、手近なゾンビたちをその周囲に引き寄せながら、少年の姿を持つ闇医者オブリビオンは空を仰いで叫ぶ。
「――――……上か!」
上空に浮かぶ機影。陽光を背負い、純白の装甲が目映く輝く。
トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はその両肩にマウントされた追加武装、20mm機関砲にて、弾丸の雨を容赦なく見下ろした先のゾンビたちへの群れへと浴びせかける。けたたましい砲声が轟き、降り注ぐ無数の弾丸はその尽くがゾンビたちを貫き、血袋の如く爆ぜさせる。本来は艦載用―― ウォーマシンだからこそ搭載可能なそれは、掠めただけでも―― 否、そのすぐ傍を弾丸が通り過ぎた余波でさえもが容易に人体を破壊せしめる威力を秘める。砲弾の雨が唸る度に血飛沫、或いは吹き飛ばされた四肢の破片がそこら中に飛び散った。
「――――……この世界に“デッドマン”という前例が明確に存在する以上、
その希望を餌にする貴方の所業は悪辣そのもの。到底見過ごす訳にはいきません」
次々と排出される空薬莢の雨と共に、トリテレイアの巨体が地響きを立てて降下する。そんな彼目掛けてわらわらと群がるゾンビたち。砲弾の雨を受けて尚、その勢いは衰えない。運良く仲間を盾に直撃を免れた者も、四肢をもがれて這いずる者も、皆等しく痛みも恐怖も知らぬのだから、白騎士の猛攻に怯む事なく殺到していく。
「これ以上の犠牲者を増やさぬ為にも貴方の目論見は食い止めて見せましょう。
……しかし、先ずは哀れな彼らに“終わり”を齎さねばなりませんね」
「ちぇっ、邪魔者が来ちゃったかあ。アレじゃゾンビの歯の方が砕けちゃうぞ」
装甲に纏わり付くゾンビの腕を容易く振り払い、或いは強引に引き千切りつつ、トリテレイアは再び機銃を乱射する。大地を踏みしめる片脚を基点にして片側のみスラスターを吹かしてやれば、彼はその場を大きく旋回する格好で左右の機銃を掃射し、全方位から押し寄せるゾンビたちを薙ぎ払うように撃ち倒し、文字通りに粉砕する。運良くトリテレイアに噛み付けたゾンビも、しかしデストルドーの見立て通りにその装甲に歯型を刻む事さえ叶わず、振り払う鉄腕の一撃で容易く吹き飛ばされてしまった。
(スポンサーから使用データの収集を依頼されているとはいえ、やはり気が……)
既に彼らは人ならざる者へと不可逆的な変化を終えている。
もはや彼らは守護するべき存在ではなく、同胞に仇を為すより前に狩り滅ぼさねばならぬ敵に他ならない。しかしそれでも、こうしてほぼ一方的に蹂躙する格好となるトリテレイアの抱く感慨は複雑なものであった。そんな彼の逡巡を狙うように背後より忍び寄るゾンビ。しかし、トリテレイアに搭載されたレーダーは本人の迷いなど意に介することもなく冷徹に敵の接近を感知するのだ。モノアイが緑色に明滅した次の刹那には、流れるような所作で巨体から見舞う渾身の回し蹴りがゾンビの上半身を文字通りに粉砕する。
「……最早貴方達を救う手立てはありません、が。
ならばせめて速やかに、その冒涜から解き放ちましょう」
両肩の追加武装は既に弾丸を撃ち切り、空撃ちのモーター音が響くのみ。
ならば最早これは用済みだ。使い心地のレポートは後でじっくりとスポンサーに聞かせてやるとしよう。デッドウェイトと成り下がった機関砲のユニットは炸薬ボルトが爆ぜ、一瞬にして遺棄される。地響きと共に地面にめり込むそれらを置き去りに、軽量化を果たしたトリテレイアは扱い慣れた大盾から長剣を引き抜き吶喊する。行く手に立ち塞がるゾンビを白い装甲の巨体は次々と撥ね飛ばし、更には水平に振り抜く長剣の一閃が彼らの首を一太刀の元に刈り払う。
「おいおい。これじゃホラー映画から趣旨が変わってきちゃうだろう、キミぃ!」
「生憎、そちらの趣向に付き合う理由はありません。
それに死者と向き合うという意味でも、やはり此方が私の性に合っておりますね」
未だ多数控える、無数とも思えるほどの膨大な死者の軍勢を盾に、その後方へと避難するDr.デストルドーからの皮肉にも、どこ吹く風と言った調子で慇懃に応えて見せるトリテレイア。間近に迫ったゾンビの首を刎ね飛ばしたその勢いのまま、白騎士の握る長剣の切っ先は遥か彼方で不敵に笑うオブリビオンの少年へと突きつけられた。
「手荒な弔いはご容赦を。奴は必ず我々が討ち果たしますゆえ!」
「できるのかな、キミたちに! ボクの芸術作品はまだまだ沢山あるんだよ!!」
大成功
🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
おーおー、こりゃすんげえ量だな。
水晶屍人の時は木の影に隠れて吊り上げて各個撃破できたけど、この荒野。逃げは出来るが隠れは出来ない。
なら、自分自身を囮にしますか。足で自分の周りに線をぐるっと書いてスタンバイ完了。あとはゾンビ達に気づかれるだけ。
私を食べようとして線を踏み越えたゾンビは機械仕掛けのワニが噛み砕いてお終いさ。私の愛機は凶暴です。……遺体が木っ端微塵になるのは勘弁してくれや。
もし突破されたとしても触られる前に金槌で跳ね返していくよ。動作速度もリーチも生きてるこっちの方が遥かに有利なんだからな!
●If I Had a Hammer
右を見ても左を見ても、視界を夥しい数のゾンビたちが埋め尽くす。まるで海。気の弱い者であれば直視など出来ぬであろう、地獄めいた光景であった。
「……おーおー、こりゃすんげえ量だな」
しかし彼女は、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)はそんな悪夢を前にしても尚、平静の調子のままにそう呟く。まるで物見遊山にやってきたかのような口振りだ。頭の中で振り返るのは過去の戦い―― サムライエンパイアでの戦争にて猛威を奮った水晶屍人と戦った時の記憶だ。
「んー……。あの時は木の陰に隠れて吊り上げて各個撃破したんだったか」
連中のようなデカい水晶こそ背負っていないが、此度のゾンビも似たようなもの。
しかし前回の戦いと違うのは、都合良く身を隠せるような障害物の類にはほぼ期待出来そうにないと言うことだ。このだだっ広い荒野、敵の居ない方向にならば幾らでも逃げられるだろうが、隠れてやり過ごすというのは無理がある。
「……なら、今回はやり方を変えればいいだけ。
私自身を囮(エサ)にして、釣り出してやろうじゃないか」
言うが速いか、カーバンクルは靴の爪先でざりざりと足元の赤土を抉る。
まるで自分をコンパスに見立てたかのごとく、自分を中心にして囲い込むように引かれた一本のラインがやがて大きな円の形を結ぶ。それは目印か。それとも、境界線か。もしくはその両方か。
「……っし、スタンバイ完了。さあ、後はこっちに気付いてくれればオッケーだ」
のろのろと蠢くゾンビたちから手近な一体を見繕えば、足元に転がる適当な大きさの瓦礫を拾い上げ。
「えーいやあっ!」
オーバースイングで思い切り投げ付けた。投げ放たれた瓦礫は狙い過たずゾンビの頭目掛けて飛んでいき……ゴチャッ―― 生々しい物音と共に血飛沫と肉片が飛び散る。
「うわあ、グロい。……ちょっと力加減を間違えたかも」
それでもカーバンクルの意図した通りに連中の気を引けたのは間違いないらしい。ゾンビから向けられる白く濁った目。実際は何も見えてなどいないのかもしれないが、それでも不思議と恨みがましく見える。まるで怨嗟のように聞こえなくもない不気味な唸り声を上げ、カーバンクルへと向けて緩慢に歩き出した彼に先導されるかの如く、周囲のゾンビたちも彼女を取り囲むようにして、足元に刻まれた円の境界線へと近付いて行く。
「いいぞ! そうだ、もっと来い! どうだ、私は美味しそうだろ!
そうだ、きっと美味しいに決まってる!」
そんな彼らの関心をより引き出すように、円の内側からカーバンクルはぴょんぴょんとその場を飛び跳ねたり、大きく腕を振り回したりして頻りに自身の存在を主張して見せる。そして、押し寄せるゾンビたちが彼女が地面に靴で刻んだ線を踏み付けた刹那―― 荒野の赤土がまるで鯨の潮噴きめいた勢いで爆ぜ、其処から姿を現すのは巨大なサメ――― 否、ワニだった。巨大な顎が開かれ、其処に無数に並ぶ鋼の牙がざくんと無造作に一噛みするだけで、哀れなゾンビは無惨に砕かれ飛び散った。食事というにはあまりにも荒々しく凄惨な光景だ。
「木っ端微塵になるのは勘弁してくれや。グロいけど、後始末はするからさ」
「……ねえ、さっきからキミたちジャンルが違うんじゃないの!?」
遠くからその光景を目にするデストルドーが思わずそんな文句を漏らす。無論、敵からの抗議など微塵も気にする様子はなく、カーバンクルは緩く肩を竦めて見せた。
「さっきも言われてたでしょ。そっちの趣向に付き合う理由はないってば。
で、えーと……その、ほらなんだ。私のAIBA……ゴホン。愛機は凶暴です」
「ワニじゃん!! ゾンビがお株奪われちゃってるじゃん!!」
無数の廃材を寄せ集めて形作られたまるで前衛芸術めいた姿の巨大なワニが赤土を波の如く跳ね上げながら、荒々しく群がるゾンビたちを薙ぎ倒し、無惨に噛み砕いては喰い散らかしていく。赤土は血の色を帯び、更に赤々と鮮やかに染め上げられて―― 血の海の地獄の中、それでも怯まず、後退する事さえ知らぬ死者の群れは、カーバンクルの振るう身の丈にも匹敵するほど巨大な金槌によって打ち据えられ、吹飛ばされる。運のいいものは一薙ぎで脳天を粉砕され、運の悪いものは吹き飛ばされた先で大暴れするワニの顎でボロクズのように噛み千切られて残骸と化した。
「……数は多くても所詮はノロい死人だな!
当然だけど。速度もリーチも生きてるこっちの方が遥かに有利なんだから!」
「……それは確かにそうだけど、まだまだボクの手駒は沢山いるんだ!
いつまでキミのその強がりが続くかなあ!」
果たして強がりを言っているのはどちらだろうか。デストルドーの言葉を聞き流しつつ、カーバンクルがフルスイングで振るう大金槌は新たなエサ……否、犠牲者を巨大ワニの口の中へと勢いよく叩き込んだ。
「……よっしゃあ、ナイスショット!!」
大成功
🔵🔵🔵
陰日向・千明
「天孫購臨(アマソン・コーリン)ッ!」
・ゾンビの群れの中で、決め台詞を叫ぶなり特撮ヒーローめいたポージングでスマホを取り出し、この世のものとも思えない速度のフリック操作で「購入」手続きを完了させる
・乾いた空から反りの無い真っすぐな刀が雨のように降り注ぐ──神器解放、スマホを媒介に三種ある神器のうち「剣」を、無限複製の封印を解除して召喚を試みる
・通販サイトの両手剣(ツーハンドソード)を以て、ゾンビの群れに対抗する。一振り折れては地面に刺さった一振りを抜いて振り回す。粗製乱造された剣では大蛇を屠るまでは至らずとも、生ける屍を草のように薙ぐこともできよう。ズボラなので斬撃波でまとめて薙いで時間短縮
●インスタントヘヴン
「……まったくもう、ゾンビだよ。ゾンビなんだよ?
さっきからみんな鋼メンタルばっかりじゃないか。もっと怖がれよ!」
一騎当千の戦闘力を誇る猟兵たちの猛攻を前に、未だ無数のゾンビを従えているとは言え、デストルドーは些かの焦りと恐怖を覚え始めた。激昂して怒鳴り散らしているのもまた、そんな彼の内心の一端を現しているのだろう。そんな彼であったが、わらわらと荒野を埋め尽くさんばかりに広がるゾンビたちの膿の中にぽつんと開けた空間がひとつある事に気付いた。そして、その真中にはひとりの少女がぼんやりと立っているのだ。
「……なんだいアレは? まあいいや。
キミたち、新しいお仲間を増やしてやりなよ」
デストルドーの言葉に突き動かされるように、少女を遠巻きに取り囲んでいたゾンビたちがのろのろと動き出す。同時に、囲まれた少女の肩がびくりと震えた。今にも泣き叫びたくなるほどの恐怖や生理的嫌悪感を必死に堪えているのだろうか。此処に来てようやく、Dr.デストルドーの口元に浮かぶ嗜虐の笑み。
「そうだよ、ボクはこういうのが見たかったんだ! 怯えて竦んで泣き叫べ!」
「……天孫購臨(アマソン・コーリン)ッ!」
デストルドーの歓喜の叫びは、不意にそれを追い越すように響き渡る少女の声によって打ち消された。
「……は? え?」
マヌケに声を漏らすデストルドーの視界の先。ゾンビたちに群がられながらも少女は大仰に腕を大きく振り回し、懐より取り出したスマートフォンを高く掲げ、そのまま電光石火の早業―― 常人の目では追い切れぬほどの速度のフリック操作によってタッチパネルに何かを打ち込んでいた。背後から彼女に忍び寄っていたゾンビはたまたまその画面を覗き込む格好となっていたのだが、既に命と理性と知性を失っている彼には、彼女が通販サイトで何を購入したのかなど理解は出来なかったし―――― 何か考えたとしてもそれを行動に移すよりも先に、彼の首は胴体より切り離されて宙を舞っていた。
「……剣?」
それを正確に理解していたのは、距離をとって遠巻きに彼女を観察していたデストルドーただ一人。空より流れ落ちた一筋の光―― 否。一振りの剣がゾンビの首をいとも容易く撃ち落としてみせたのだ。大地に深々と突き刺さる巨大な刀身には刀のような反りはなく、諸刃の作りは西洋剣の類である事を思わせる。熟練の戦士でなければ持ち上げ、振り回す事も難しい両手剣(ツーハンドソード)が赤い血にその刃を湿らせ、妖しく光る。それを呼び水としたかの如く、更に降り注ぐ無数の剣。それは一振り目の剣を寸分違わずに複製したかの如く、全く同一の形をしていた。降り注ぐ剣の雨が、ゾンビたちを次々と射抜き、無数の血の華を咲かせていく。
「……天孫(あまそん)。うちは勿論、プライム会員なワケで……」
……そう! この両手剣は、彼女が霊界通販サービス【天孫】から購入していたソードである。お値打ち価格の量産品神器を無限に複製しつつ、豪快に全部撃ち込むサービス付きだ。配送手段に色々と問題がある気もするが、この場合は寧ろ大いに役立った。
「当日即時配送……相変わらず、いい仕事っす……」
長い髪を血の匂いを帯びた風に揺らめかせながら少女は―― 否、陰日向・千明(きさらぎ市の悪霊・f35116)は地に突き立った両手剣を無造作に引き抜き、そのまま大きく身を翻す。彼女を中心に弧を描いた一閃が迸り、其処から一拍遅れに斬られたゾンビたちの上半身と下半身がずれ込み、重力に引かれて次々と倒れ込んでいく。
「けど、品質はクソっす……」
気だるげな呟きを漏らす千明。手元の剣を覗き込めば、その刀身には無惨な罅が走っている。無造作に投げ付けた剣がゾンビの脳天を突き刺し、そのまま地べたへと撃ち倒す。そんなゾンビの末路にも投げた剣にも興味はなく、千明は手頃な距離に突き刺さる次の剣の柄へと手を伸ばす。そう、得物はまだまだ大量にあるのだ。品質はクソでも、これだけの数が揃えばゾンビたちを幾ら斬り捨てようとも武器の尽きる心配はなさそうだ。尤も、そうなればそうなったで千明は天孫に次の注文をするのだろうが。
「……制服姿の女子高生が、群がるゾンビをデカい剣で薙ぎ払う。
そういうの、確かに需要あるよね! ボクも正直嫌いじゃないよ。
でも、違うんだ! キミは女子高生だろ! ゾンビ怖いって言えよ!」
「あ…… うち、そういうのもうとっくに振り切れてるほうなんで……。
怪物よりもこわいのは人間の悪意のほうだと思うんすよ……」
轢殺された恨みで悪霊となった女子高生のメンタルはそんじょそこらのスイートな女子高生とはひと味違う。ぼさぼさの髪のスキマからハイライトのない瞳をちらりと向けつつも、並行作業で振り回す千明の大剣は次々とゾンビを圧し斬っては相討ちの如く折れては砕け、吹き飛んで。其処から雑草でも抜くような気楽さで再び引き抜かれる剣が新たなゾンビと相討ちになってまた砕け―― 別の意味で悪夢のような光景にデストルドーは堪らずに叫ぶのだ。
「ちくしょう! コイツもメンタルおかしい奴だった!!」
そんな彼の叫びを他所に、大きく振りかぶられた千明の剣。粗製乱造されたナマクラとは言え、竜神の加護を受けた剣はまさしく神器。その刀身に纏う霊気を帯びた風が、振り出す太刀の一閃より撃ち出され、有象無象の如く群がるゾンビの一団を景気よく吹き飛ばしていく。文字通りばらばらに粉砕されて空高く舞い上がるゾンビたちの残骸に紛れ、デストルドーはいよいよ自分が恐怖している事をハッキリと自覚した。ゾンビたちを盾に後退する彼のすぐ傍を千明の振るう太刀風が駆け抜け、数多のゾンビが刹那の暇でミンチと化した。
「ああクソッ! 化け物め! これ、本来はボクが言われる方なのに!」
「闇医者の人、逃げないでほしいっす。そこに居てくれないと斬れないんで……」
大成功
🔵🔵🔵
ヴァシリッサ・フロレスク
◎
ミスティ(f11987)と
フフッ
久々に姐さんとデートか
昂るねェ♪
アペリティフは何にしとくかい?
ま、ムードもヘッタクレも有ったモンじゃないケドさ
チョイと、ランチもディナーも肉料理は当面オアヅケだね
あァ、CONPLAN 8888だ
最大火力で調理してやるサ
てか嵐も止ンだッてェのに
一体あーいうゲス野郎ッてヤツは何を養分に生えてくンだい?
ま、言えた義理じゃないか
因果なシゴトだねェ
さ、大掃除だ
開幕からUC【囚獄の燎火】で盛大に
仕事は効率良く
頭数を減らしたゾンビの群れをディヤーヴォルの弾幕で蹂躪する
今日は大味な狙いで十分
姐さんが確り仕留めてくれるだろうから
綺麗好きな姐さんに穢れた手を近付けさせないように露払いを
ッても余計な心配だったね?
冗談!
アタシゃ慎ましいからね
楽しみは姐さんに譲っとくよ?
ミスティ・ミッドナイト
◎
リサさん(f09894)と
ようやく終戦したというのに、未だこのような脅威に晒されているとは。難儀な世界ですね
随分とスリリングなデートになりそうです
アペリティフは“辛口”でいかがでしょう(弾倉を装填しながら)
既にあの肉体には魂がない様子。容赦はしなくてよさそうですね
ど派手な開宴の花火を見届けた後、私は炎から逃れたものをアサルトライフルで狙い撃って処理します
無論、ゾンビの急所といえば頭でしょう
素早い個体は両足を狙い、囲まれないよう動きを鈍らせ、
リサさんと互いに死角と隙がなくなるよう立ち回ります
おや、リサさんも掃除の楽しさにお気づきのようですね
今度、私の代わりに店の掃除でも担当してもらいましょうか
●Die Hard The Hunter
「ようやく終戦したというのに、未だこのような脅威に晒されているとは。
……難儀な世界ですね」
「フフッ、それでも久々に姐さんとデートができるンだ。
アタシとしちゃあ昂ぶるねェ♪ アペリティフ(食前酒)は何にしとく?」
無数のゾンビを前に、並び立つ二人の女傑。無表情のまま咥えた煙草の紫煙を燻らせるミスティ・ミッドナイト(夜霧のヴィジランテ・f11987)、そして対照的に悪戯っぽく、或いは皮肉げに笑った表情でおどけて見せるヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)である。彼女たちはどちらも自分のペースを崩しはしない。二人はただ自然体のまま、常と同じように悠然と構えている。交わす会話もまるで世間話のような調子で続いていた。
「随分とスリリングなデートになりそうですが。
……アペリティフは“辛口”でいかがでしょう?」
ゆっくりと近付いて来る死者の群れを眺めながら、ミスティは携える愛用のアサルトライフルに慣れた様子でマガジンを叩き込む。そんな彼女の様子をちらりと横目で一瞥した後、ヴァシリッサはニヤリと笑って答えて見せた。
「……あァ、CONPLAN(概念計画)8888だ。最大火力で調理してやるサ」
同時に、彼女の担ぎ上げている身の丈をも超えるパイルバンカー射出機《スヴァローグ》に装填された巨大な杭の切っ先がギラギラと獰猛に輝き―――― 振り上げた射出機から振り下ろされ、大地に叩きつけられるようにして撃ち込まれる巨大な杭。炸薬の爆音が轟き、大地を凄まじい衝撃がシェイクする。そして、杭によって穿たれた大地が、割れた。まるで凍り付い湖面が裂けるように割れる自然現象―― 或いは、十戒を授かった預言者が海を割って道を作った奇跡の再現のごとく、大地を爆炎が引き裂き疾走――――。
「ゾンビに対する防御計画……あながち荒唐無稽とも言い切れませんね。
こうして現実に実物を大量に見せつけられると」
「……ってか、嵐も止ンだッてェのによォ。
一体あーいうゲス野郎ッてヤツは何を養分に生えてくンだい?
ま、言えた義理じゃないか。それにしても因果なシゴトだねェ」
赤々と燃えるマグマ色の導線が、標的を目掛けて大蛇の如くのたうち疾走る。
それが向かう先は勿論、前方でのろのろと緩慢に蠢く無数の死者たちだ。
「ともあれ……さ、大掃除だ。効率よくやっていこうじゃないの」
そんなヴァシリッサの言葉を合図にするが如く、ほぼ同時に響き渡った全身ごと震わせるような轟音と共に、爆ぜた大地から一方向に噴き上がる爆炎はまるで火竜の息吹。マトモに浴びせかけられた者は炭と化すまで焼き尽くされ、やがては砕けて跡形も残らずに散り失せる。火葬の直撃を免れた者であっても、無惨に焼け焦げ、最早緩慢にしか動けぬ残骸と成り果てる。
「既にあの肉体には魂がない様子。容赦はしなくてよさそうですね」
ミスティの淡々とした呟きに混じり、散発的に響く発砲音。彼女の構えるアサルトライフルから吐き出された銃弾が、次々と未だ死に切れずに居た黒焦げゾンビの脳天を撃ち抜き、或いは直撃を免れ健在に蠢き続けていたフレッシュなゾンビたちをレアの肉塊へと仕上げていく。その隣では、杭を撃ち終えたスヴァローグを足元に打ち捨て、入れ替わりに愛用の.50口径重機関銃《ディヤーヴォル》を抱え上げたヴァシリッサが並ぶように立っていた。
「ランチもディナーも肉料理は当面お預けだ。肉の焼けた匂いだけで腹一杯サ」
「頭数は減りましたが、まだまだ大量です。ダイエットには効きそうですが」
それぞれ軽口を叩き合い、二人はそれぞれの得物で弾丸を容赦なくゾンビたちへと浴びせかける。立て続けに響く銃声、無数に散らばる空薬莢。ただよう硝煙の臭いが、焼け焦げた肉の臭いと混じり合って、更に胸焼けのしそうなキツい臭いへと変わっていった。それでもヴァシリッサが抱くのは戦闘への高揚感。未だ赤々と燃える炎の残滓が頬を炙る熱さえ涼しく感じるほどの、もっと強烈な歓喜の熱が体内を支配している。
「……なんて言ってる間にも、ミンチが大量生産されてるワケだがね」
12.7×108mm徹甲弾の生み出す大火力が無造作に一薙ぎするだけで、地平線を埋め尽くす大波めいたゾンビたちの戦列は無惨に蹂躙され、彼方此方で手足を吹き飛ばされた落伍者たちが倒れ込んでいく。ヴァシリッサの狙いは大雑把なものであったが、その隙間を縫うように正確無比なミスティのヘッドショットがゾンビたちの数を着実に減らしていった。
「……リサさん。ゾンビの急所と言えば頭ですよ」
「わかってるけど、雑にやっても姐さんがしっかり後始末してくれるだろ?」
如何に死に損ないたちが凄まじい物量と怪力を誇っていたとしても。圧倒的な火力と手数を活かし、それぞれが互いの死角を補い合うようにして隙もなく立ち回る二人のガンナーにとっては格好のカモだった。片方が敵の侵攻を阻めば、次の弾丸を装填する暇にもう片方が確実にトドメを刺す。もはや作業の如く効率化された立ち回りは、彼女らの連携が完成していたことの証左でもあった。彼らが如何に恐ろしい怪物であれど、知性を失った鈍足の怪物である限りは人類の叡智―― 銃のタマには及ばない。
「タマ切れだけが不安の種だが、生憎気合入れて持ち込んでるからサァ。
綺麗サッパリ片付けてやろうじゃないか!」
「おや、リサさんも掃除の楽しさにお気づきのようですね?
……今度、私の代わりに店の掃除でも担当してもらいましょうか」
軽口の合間も、切れ間なく雨霰の如く浴びせかけられる無数の弾丸は無尽蔵に沸き続けるとも思われた膨大な数に及ぶゾンビたちの頭数を容赦なく削り取っていく。ディヤ―ヴォルから吐き出される凄まじい勢いに匹敵するほどの速射。ミスティの射撃もまた尋常のものではなかった。弾帯による給弾によって実現する装弾数と張り合うが如く、ミスティの速射と再装填も凄まじい速度であった。よくよく注視して観察すれば、彼女の足元には既に幾つもの空のマガジンが打ち捨てられている。
「冗談! アタシゃ慎ましいからね。愉しみは姐さんに譲っとくよ?」
「……まったく。後片付けが苦手ならちゃんとそう言って下さい」
そんな言葉と共にミスティの放った銃弾が走るのは遥か後方。
十重二十重と織り成した死者たちの、ファランクスめいた密集陣形の隙間を縫って唸る銃弾の一発が、安全地帯より遠巻きに猟兵たちの戦いぶりを観察するオブリビオンの少年医師の被る学帽を撃ち抜いた。
「……んなァッ!?」
「リサさん。しつこい汚れは、念を入れて徹底的にやらないと落ちないんです。
本当に、面倒くさくて大変なんですよ?」
足元に落ちた帽子を拾い上げる―― 其処に穿たれた銃痕を通して覗いたその先でデストルドーとミスティの視線が絡む。無表情のまま、咥え煙草を摘んで携帯灰皿に押し付けながら呟くミスティに向けられた眼差しに冷たく射抜かれ、さしものマッドサイエンティストも道化めいた表情と態度を装う余裕を忘れてしまうのだった。
「……くそッ……! 調子に乗るなよ猟兵どもめ……!
そうだな! キミたちならばきっといい素体になってくれるだろうさ!」
辛うじて冷静さを取り戻したDr.デストルドーは咄嗟にそう居直って見せるも、それが強者を装うために取り繕った強がりである事は最早誰の目からも明らかだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイ・オブライト
◎
寝たと思やまた起きろだのやっぱり寝とけだの
ゾンビにゃつくづく人権がねえのは確かだが、デモは平和的にするもんだ
なんの因果か鎮圧する側にいることだ、精々働くとするか
伸ばされる無数の手を、オレ自身の手と、手足と呼んで過言でない『覇気』で取り『属性攻撃(電気)』を流し込む
噛みつきまでに漕ぎつけることが出来た個体がいれば、最後の食事を楽しんでもらったところで首をへし折る『怪力』
とはいえ囲まれ過ぎれば動き辛いのは事実だ
【一撃必殺】
殴り/蹴りつけたゾンビの骨を『衝撃波』とともに周囲に散弾のように飛ばし、まとめて薙ぎ倒す
経験上強度に疑問は残るからな。骨弾には銀の弾、もといバラバラに解いた『枷』も混ぜといて殺傷力を高めるとする
良い機会だ。次は心霊系のホラーにでも出演しといてくれ
もしオレもあんなヤブ野郎に拾われてたらと思えば、まあそこそこに、な
あばよ
末路としちゃあ、カタチこそ無残な成り損ないじゃあるが
そこに至るほど想われたのは本物だった。幸せもんには違いねえさ
●Don't Stop Me Now
「……寝てたい奴はそのまま寝かしてやれよ。
こんな世界でわざわざ望んで起きてうろつくヤツはよっぽどの物好きだろうがな」
そうボヤくような言葉と共にレイ・オブライト(steel・f25854)の無造作に振り回した裏拳が、間が悪くたまたま其処に居たゾンビの首から上をまるで水風船を割ったかの如く呆気無く吹き飛ばす。運が悪かった―― 否、運が良かったのかも知れない。もし彼に理性が僅かでも残っていたなら、鏡を見る度に其処に映る薄気味の悪い腐りかけの怪物のご面相にさぞや陰鬱な気持ちになっただろう。だがこうして彼は鏡を見る心配も要らない世界へと解き放たれた。生者を呪い、飢餓感に呻いてうろつくお仲間たちの中からひと足お先に旅立ったのだ。
「ふぅん。それじゃあキミはよっぽどの物好きってやつかな? デッドマン」
「オレらにゃ人権なんざねえけどよ。
デモやストがしてェなら一人で勝手にやってくれ」
興味深げに彼の挙動を観察するデストルドーの言葉には答えぬまま、億劫そうな呟きと共に手近なゾンビの襟首を掴めば思い切り振りかぶる。人外の膂力にて力任せに持ち上げられたゾンビはまるで子供がふざけて振り回す頭陀袋のように軽々と頭上でされるがままに風を引き裂き唸りを上げた。
「同情は……要らねえか。……あんたらにゃ要らねえだろうな。
ともあれ、今回はオレが鎮圧する側だ。因果で皮肉な話だがな」
群がるゾンビたちの中心に、思い切り振り回して加速を載せたお仲間を砲丸投げの要領で勢いよく投げ込む。それは砲丸どころか砲弾と化し、突き刺さった集団を巻き込んで肉骨の拉げ砕け潰れる生々しい物音と共に盛大に爆ぜる。首や手足が千切れ飛び、爆炎の代わりに血潮や内臓が飛び散る陰惨な光景であったが、生憎加害者も被害者もお互いに尋常のものではない。激痛や恐怖に上がる悲鳴もなく、ただ淡々とした唸り声と呻き声が聞こえるばかり。
「……まったく、マジで人権なんざねえもんだ」
うんざりとしたような調子で呟く言葉と共に、被っていた破帽の庇を摘んで持ち上げれば、そのまま帽子は空高く舞い上がる。被る折り重なり、縺れては絡み合って遂には巨大な肉の玉になった遠い親戚たちへと呟く言葉はレイなりの弔いだったか。挨拶代わりの“砲撃”から逃れ、尚もバカの一つ覚えのように絡んでくる事しか知らぬゾンビたちから伸びる手を、レイは拒みはしない。ただ自身からも手を伸ばす。左右の手がそれぞれ、無造作に選んで手首から掴み取った腕を引き寄せ―― 其処を起点に流し込む、聖性を帯びた覇気。それは連なるように群がる屍体を伝播して、無数の死者の群れをひと繋ぎに連結させる。
「……まあ、噛みたきゃ好きなだけ噛んでも良いけどよ。
きっと不味いと思うぜ。最後にイキのいい生肉が食えなくて残念だったな」
自身の腕に噛み付いた“同胞”に向ける、ほんの微かな同情。
直後、レイの心臓部に埋め込まれた《ヴォルテックエンジン》が駆動し、生み出された凄まじい出力による電流が彼の全身を青白く発光させる程に迸る。衝撃は一瞬―― それでも周囲のものを纏めて焼き尽くすには十分に足りる。断末魔の呻き一つを上げる間さえもなく、群がっていたゾンビたちは纏めて黒焦げに焼き尽くされていた。腕に噛み付いたままだった黒焦げのゾンビの頭部が炭化してボロボロと崩れ去っていくのにもさした興味を示す事もなく、レイは緩やかに肩を竦める。――……と、同時。先に空へと投げ上げた破帽が、予定調和の如く彼の頭のぽすりと乗った。
「キミの同類みたいなものだろう? 少しは心が痛んだりしないのかい」
「少しはしてるさ。……ま、質より量ってヤツかもな。
ついでにあんたみてえなヤブに拾われなかったのはラッキーだったと思ってる」
自身を守護するゾンビの肉壁も残り僅か。狼狽しつつも皮肉を言うデストルドーに対し、悠々と帽子を被り直しながらレイの返す言葉もまた皮肉の利いたものだった。
「……そうかい。だが、そのラッキーは此処までだね。
キミたち! あのフランケンシュタインもどきをハンバーグにしてやれ!」
自身のプライドをいちいち傷付けてくる癪な猟兵たちを一匹でも確実に潰してやる。Dr.デストルドーはそう判断すれば、残った無事なゾンビたちをレイひとりに差し向けた。――……しかし、その判断は些か遅すぎたようだ。
「ラッキーは此処まで……その言葉はそっくりそのままあんたに返すぜ」
握り締めた右の拳にばちばちと青白い雷光の輝きを纏わせ、レイは呟く。
その太い腕に絡み、幾重にも巻きつけられた銀の鎖が雷光の煌めきを受け、一層に目映く光り輝いた。
振りかぶる拳が群がってくるゾンビたちの手近な一体に向けられる。雷光に照らし出されるのは嘗て美しかったのだろう、その生前の面影を無惨に歪めるように大きく口の裂けた、若い女。そして、レイは見た。レイの拳が女へと突き刺さるよりも一寸早く、彼女と拳の間に割り込むようによろめいてきた一体のゾンビを。
「――……!」
レイが何かを思うよりも早く。その拳は嘗てアーサー=メッシと呼ばれる青年であったゾンビを穿ち抜き、そこから巻き起こる衝撃の余波は彼が何よりも愛し守りたかったものをも纏めて貫いた。膨れ上がる衝撃は二体のゾンビを原型も残さずに一瞬の内に爆ぜさせ、混じり合う血肉と骨片はあたかもクレイモア地雷に詰め込まれた散弾の如く無数に飛び散り、周囲のゾンビへも襲いかかっていく。そして、肉骨の散弾に混じり煌めく微細な銀色の破片―― 雷光と聖性を帯びた白銀の鎖の破片が、引き裂かれたゾンビたちの肉体を更に念入りに裂いては貫き、死に損なった怪物たちを今度こそ、本当の屍体へと戻していった。
「……あばよ。末路としちゃあ、カタチこそ無残なもんだったが
そう悪くはねえ。――……想いは確かにホンモノだったらしいや」
血の匂いを帯びる乾いた風が、無数に転がる死者たちの残骸に埋もれた荒野を慰めのように吹き抜ける。その風の中に漸くひとつとなれた誰かの言葉を聞きながら、レイは改めて最後に残ったひとり、オブリビオン《Dr.デストルドー》へと視線を向けた。
「そういやまだ言うのが途中だった。あんたの見世物も今日ここで終わっちまう。
……そいつはさぞやアンラッキーだろうな」
「……ぼ、ボクの作品たちが……! 量産品と言えど、数は十分だったはずだぞ!」
戦力の逐次投入などという愚を犯さず、はじめから物量を活かしていれば或いは猟兵たち全てを磨り潰す事も可能だったかも知れない。しかし、デストルドーは軍師でも指揮官でもない。如何に彼が叡智を誇ろうとも、その本質はごく狭い視野に囚われた個人主義の研究者であった。
「……ザイン、アジール! ボクを守れッ!」
苛立ちをハッキリと滲ませた声でデストルドーが吠える。彼の背後――診療所のドアを蹴破り飛び出す二つの影が、少年医師の傍らへとそれぞれ左右から着地した。黒と白、対照的な色合いのスーツを纏う青年のゾンビである。
「……こいつらはボクの特別製だ。キミはさっき言ったよね。
質より量だって。ココからはまさにそれだよ」
そして、彼の白衣を纏う背がボコボコと不気味に蠢き隆起する。背の肉を、白衣をメキメキと引き裂き勢い良く突き破って姿を表すのは、少年の体躯には不釣り合いな、筋骨逞しい巨大な一本の腕。
「まだまだここから。ボクの研究は終わらないぞ。
キミたちという最高の素体に巡り会えたんだ。どこがアンラッキーなんだい!」
「……なるほど。マジにそう思ってんなら、確かにあんたは大層な幸せもんだ」
三本の腕を備えた特異なシルエットの異形と化した少年医師はレイの言葉に少年らしい屈託ない表情で愉快そうに笑って見せた。その背では不気味に血と体液に濡れ光る三本目の腕が傍らのゾンビの恭しく差し出す巨大なメスを力強く掴み取る。
「……誰も。そう、誰もだ。このボクを止める事など誰にも出来はしない!!」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ドクター・デストルドー』
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POW : 死霊のおもてなし
【自身が改造手術を施したゾンビ】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : ホスト・オブ・ザ・デッド
【任意の数のゾンビホスト達】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 悪夢の毒々パーティー
【散布装置】から【ゾンビ化ウィルス】を放ち、【ゾンビ化とゾンビ操作能力】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:タヌギモ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ルキ・マーシトロン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
陰日向・千明
◎
■網野・艶之進(f35120)と連携をとる
・無謀にもツーハン・ソードを「ぶん回し」、Dr.デストルドーたちに肉薄。真っ向からゾンビ化ウイルスに立ち向かう
・しかしこれは千明の策略。傷跡ならばたとえ浅くとも「呪詛」をもって不慮の事故を与え続けることだろう。自分用のワクチンを不意に落としたり、でかすぎる三本目の腕に血液を供給しきれず一時的な貧血を起こしたり、ゾンビなだけに脳神経系の腐食が進行して運動能力が低下したり……
・ウィルスに蝕まれることを犠牲に、網野氏への連撃につなぐ。懲ら〆縄で自分を「捕縛」してデストルドーからの操作を敢えて防ぐ
「じゃ、網野氏。あとはよろしくッス。うぐぐ、かゆ……うま……」
網野・艶之進
◎
■陰日向・千明(f35116)と連携
・考えなしに敵にせまる僚友千明を引き留めようとするが、彼女の放つ邪気から何か目論んでいることを察し、後続する
・千明が与えた「連鎖する呪い」で弱体化しているであろうデストルドーとその一味を、手持ちの刀で改造手術部位を中心に手足や腱の「切断」を試みる
・網野の剣は(原則として)不殺を教義とする。その「優しさ」は、辛うじて生きてさえいればそれでヨシとする残虐性を暗示している。動く屍ゆえ安易に死ぬこともできず、生きたまま四肢を斬り落とされ動きを封じられる「マヒ攻撃」を受ければ、戦意も確実にそぎ落とされることだろう
「ご安心あれ。『峰打ちの、そのまた峰打ち』でござる」
●No One Lives Forever
「……残るは、あんたらだけっすね」
無数の屍が転がる荒野。まるで墓標のように突き立つ無数の剣に囲まれて、千明は立っている。先に天孫によって配送された剣のストックは未だ十分。刃毀れのある剣を放り捨てると、手近な距離に突き立っていた剣の柄を掴み、引き抜いた。剣の切っ先をまっすぐに突きつけたその先には、此度の惨劇の仕掛け人たるマッドドクター、Dr.デストルドーが既に臨戦態勢を整えている。
「そうだね。でも、構わないさ。どうせまたすぐに増やせるからね」
己の左右の護りを特別製の側近ゾンビで固めたデストルドーの口振りは余裕に満ちている。彼我の距離は数十メートルは離れているだろうか。通販で買った両手剣を片手で保持しつつ、千明のもう片手は再び取り出したスマートフォンのパネルを凄まじい速度でフリックを繰り返す。時間にして僅か数秒―― “追加注文”を終えて端末を仕舞うのとほぼ同時、両手で握り直した剣を振り被りながら千明が大きく一歩を踏み出した。
「その余裕ヅラ、さっさと引っ込めてもらうっすよ……!」
開いた距離を瞬く間に零へと近付ける、爆発的な加速。踏み込みと同時に遠心力と加速を載せて思い切り良く振り回した剣刃が風を裂いて唸りを上げる。先程までのゾンビたちならば、この一太刀で容易く枯れ草の如く薙ぎ倒されていただろう。
「人間だか幽霊だか知らないが、医者に向けて刃物を向けるとはいい度胸だな!」
しかしその剣撃がデストルドーを切り裂く事はない。剣と少年の間に滑り込むように割り込んだ、まるでホストのような風体の黒スーツがその身を盾とし、千明の斬撃を防いでいたのだ。勢いを殺し切れず、千切れ飛ぶようにして虚空を舞うゾンビの腕。しかし、同時に千明の振るう両手剣もまた、その刀身の半ばから豪快にへし折れていた。そして剣を振るい抜いた格好の千明の眼前に突き出されるのは、もう一体のゾンビが装備する大型タンク付きの水鉄砲めいた噴霧装置。
「……それだけイキが良ければ、ゾンビとしての出来栄えも期待できそうだね」
「わぷっ……!?」
そんなデストルドーの声と同時に噴き出す霧―― 否、ゾンビ化ウイルスを過分に含んだ特殊な化学薬品である。真っ向より浴びせかけられたウイルスは一時的にではあったが、猟兵の行動を阻害するほどにその心身を蝕む凶悪さを誇る。
「……こ、これはッ……!」
途端に千明の顔色は土気色に変わり、全身の関節のあちこちが不自然にこわばり、身じろぎをするたびに不吉に軋む。血の滴るような新鮮な生肉に齧り付いたり、「あ゛ーあ゛ー」と呻きながらショッピングモールとかを意味もなくほっつき歩いたりしたくなる衝動に駆られる……のを辛うじて堪えながら、千明は吼えた。
「……あ……あ゛ぁぁぁ…… いや、まだっす……!」
同時に発動するのは、先に千明の放った斬撃によって斬り飛ばされたゾンビの腕を基点として発動する“連鎖する呪い”。如何にデストルドーが脅威の科学力を誇るマッドサイエンティストであっても、今斬られたその腕を治癒することは最早かなわない。そして、その傷に帯びた呪いは次々と新たな厄災を呼び込むのだ。……例えば。
「……っ!?」
不意に腕を切られた黒スーツのゾンビがふらつき、その拍子に相棒たる白スーツへと思い切りぶつかった。突然の出来事にバランスを大きく崩した白スーツは、その腕に携えていた噴霧器のスイッチを押し込んでしまったのだ。その先端部はデストルドー自身へと向いていた。
「ちょ、おま……バカ! ……それ、ボクに掛かるって……」
噴霧されるウイルスを含んだ薬剤をまともに浴び、デストルドーの顔色もまた千明と同様不自然な土気色に染まっていく。身体が硬直し、思うように身動きの取れない彼は、自慢の思考能力こそ辛うじて保ってはいたが、明らかに隙だらけだった。そして、そんな彼の状態を見越したように、予め千明の注文していた“商品”が到着したのだ。
「た、戦いたくはないが……流れに乗って助太刀仕りでござるッ!!」
増援要請を受けた天孫によって無理やり運ばれてきた網野・艶之進(斬心・f35120)である。デストルドーの頭上へと転送されると同時に、いやいやながらも状況を把握した彼は即座に抜刀。大きく振りかぶった退魔の霊力を備えし愛刀『久遠丸』にて飛び降り様に真っ向より斬撃を繰り出した。
「……チッ……!!」
急な乱入者からの不意を突く一撃を、緩慢なデストルドーを庇うように割り込む白スーツ。しかし、未だ続く呪いの呼び寄せる不運によって、更にふらついた黒スーツが突っ掛けてきた事でまたしてもバランスを崩した彼のその腕を、艶之進の振るう一閃が切り裂いていた。
「……や、やってくれたな!」
「そちらだけが隻腕では少々バランスが悪かろう。……依怙贔屓は嫌いでござる」
着地するなり飛び退って距離を取る艶之進。そしてそんな彼が一寸前まで立っていた空間を、デストルドーがゾンビ化したその巨腕で振るう巨大メスが切り裂いた。本当に斬りたいものは既に其処になく、ただただ虚空を裂くばかり。
「……き、きたきた……。網野氏、ちょっと齧らせてほしいっす……。
はじっこ、はじっこだけでいいンで……」
「ええい。言ってる場合でござるか」
寄って来ては自分に齧り付こうとする千明を片手でなんとか制しつつ、もう片方の手は確りと握った愛刀で寄らば斬ると言わんばかりに間合いを図ってじりじりと迫るゾンビの医師たちを牽制する。
「我が剣は原則として不殺が身上。相手がゾンビであろうとも。
……否、だからこそに余計に冴えるでござろうな」
「……ふん。死ななきゃ何したって良いってことだろう。
ボクに劣らずのろくでなしな考え方だよ、それは」
セリフの応酬の合間も、続く不運によってふらつく黒スーツがしきりにデストルドーの後頭部をゴスゴスと小突く。そのたびにつんのめりながらも、悪魔の少年医師は健気に耐えて、セリフをきちんとツムギ終えたのだ。――そして、そんな僅かな暇に悪魔の叡智はその身を冒すウイルスの病毒を克服する抗体をも生み出していた。土気色に染まっていた顔色が元に戻る。疫病神の黒スーツを蹴りつけ、それを足場代わりに猛ダッシュする少年医師は、目障りな乱入者のサムライ目掛けて巨大メスを真っ向より振り下ろし――――交錯し、すれ違う二つの影。それぞれが静止すると同時に少年がつんのめり、倒れ込む。
「……がッ……!?」
「確かに残虐…… そうとも言えるであろうな。
しかし、あなたのような邪悪を前に、慈悲深くなど居られようか」
少年の背に生えていた筈の三本目の巨大な腕が、根本から切り飛ばされ虚空を舞っていた。艶之進が剣に纏わり付いた血脂を振るい落とすと同時、重たい音を立ててその腕が少年の傍らへと転がり落ちた。
「……ご安心あれ。『峰打ちの、そのまた峰打ち』でござる」
「……お、おまえ……! おまえぇぇぇ……!!」
土を掻いて藻掻くようにして身を支え起こす少年。
振り向きながら後方を睨むその視線には憎悪の炎と、そして、はっきりと滲む恐怖の色。少年が如何に悪辣に叡智を誇ろうとも、その本質は戦士には程遠い。例え彼が生きた相手を切り刻む行為に愉悦を覚えるような外道であったとしても、自身が生きたままその身を裂かれる痛みにまで愉悦はできなかったのだ。
「かゆ…… うま……っす…… あぐ、あぐ……」
「いたい。いたいでござる」
少年が憎悪の眼差しを向けたその先。
彼の腕を切り落としたサムライはゾンビ化したままの女に頭を噛まれていた。ゾンビ化して操られるのを由としない千明は、艶之進が敵の気を引くその間、最後の力を振り絞って自身に巻きつけた注連縄によって身動きを封じていた。……封じていたのだが、どうやら食欲までは封じることが出来なかったらしかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
ふーん、ここでご本命登場ってわけだ。手応えがあること、祈ってるよマッドサイエンティストさん?
とはいえどんな改造をされているかはわからないので無闇に近づかず、相手の出方をまずは探っとく。
ゾンビがこっちに来るようだったら強烈なハイキックを喰らわせて、よろめいたところを車輪で拘束。
遠距離から来るようだったら先に車輪を突撃させて、注意がそちらに向かったところで一気に距離を詰めて蹴り飛ばし、車輪に繋ぎ止める。
で、ゾンビがついて威力が増した車輪をデストルドーに差し向ける!
轢かれる前にあの巨大な腕を使って車輪ごとゾンビを潰されても、総合的に相手の戦力は減らせるから問題はないね。
●Choo Choo TRAIN
「……ふーん、ここでご本命の登場ってわけだ」
カーバンクルは相対するデストルドーを前に、そんな言葉と共に不敵に微笑む。
「手応えがあれば良いなと思うけど……大丈夫、それ。
手応えどころかみんな腕がないよ、マッドサイエンティストさん」
「……確かにボクはゾンビをこよなく愛している。
でもそれは実益を兼ねた趣味の一環であって、ボクの本業はあくまで医者だ」
治癒不能の呪いを込めて落とされた黒スーツの片腕はさしもの彼とてお手上げだ。
しかしながら、それ以外の部位であれば彼にとっては仔細のない問題だった。
「……しッ!」
傍らに跪いた白スーツのゾンビの腕の切断面に、斬り飛ばされた腕を宛てがい――同時にデストルドーはその片腕を無造作に軽く一振りさせた。
「……縫合、施術完了!」
傍目には何気ない調子でただ手を軽く振っただけにも見えるが、カーバンクルの目はその手の中に一見では見落としてしまいそうなほどに細く透き通った縫合糸の存在を認める。
「……なるほど、腐っても医者ってわけだ。ゾンビだけに」
「その通り。さっきホントにゾンビになったりもしたしね」
神域の早業。ほんの刹那の隙に切り落とされた腕の縫合は完了している。流石に切り落とされる前と遜色のない動き……とは言えず、微かなぎこちなさを見せてはいたが、ゾンビの戦闘続行に問題はないようだ。元よりゾンビとはそういう代物であるけれど。生きてはいない存在には、生者に対するような細やかな気遣いなどそもそも不要なのだ。そして、ほぼ同時―― 切り落とされていたデストルドー自身の三本目の腕が、背中の傷口を突き破るようにして新しく生え出すのだ。
「……ふうん。どんな改造をしてるのか様子見してたけど、そういう感じか」
「それは有り難い。おかげでこっちも態勢を立て直せたからね」
そんな彼の言葉と共に、少し離れた位置に控えていた片腕の黒スーツゾンビが動き出す。不慮の事故という災厄を呼び込む呪いを帯びた今の彼は疫病神のようなもの。デストルドーから邪険に扱われ遠ざけられていても、それを悲しいとも悔しいとも思うだけの自我さえ残っていない事はある意味彼にとっての幸福だったかもしれない。そんな彼が、大きく赤土を跳ねさせ力強く踏み出せば、そのままカーバンクル目掛けて一直線に駆け出した。
「こっちは歩くタイプじゃないんだ! 特別製って言ってたもんなー」
通常のゾンビとは比較にならない弾丸のごとき速度と勢いの突進ではあったが、予め敵の様子を伺いつつ反撃をするべく備えていたカーバンクルは、特に慌てる事もなく落ち着き払ったまま静かに大きく腰を捻る。
「……うりゃッ!!」
鋭い掛け声とほぼ同時。
懐へと飛び込まんとするゾンビの側頭部にまるで大鉈の如く叩きつけるのは回し蹴り気味に繰り出すハイキック。それは重たい衝撃音と共に、打ち付けたゾンビを後退させ、更には一寸蹈鞴を踏ませる程の威力があった。
「はい、隙あり!」
強引に作り出した一瞬の隙に、すかさず続けてカーバンクルが捩じ込むのは、どこからともなく取り出した、彼女自身の身の丈よりも巨大な“カタリナの車輪”。一見すれば水車のようにも見えるそれからは禍々しい棘が幾つも伸び、水車どころか拷問具めいたフォルムである。大上段より振り被り大地に叩きつけた車輪から無数に伸び出した黒革のベルトがゾンビの四肢へと絡み付き、キツく縛り上げては一瞬の内に拘束を完了してしまう。
「……さーて、それじゃあとりあえず黒服のキミからご退場願おうかな!」
もだもだと藻掻くゾンビを他所に、カーバンクルは傍らの巨大車輪を軽くぽふぽふと叩いた後、先程のハイキック同様に再び腰を捻り―― そのまま遠心力と加速を思い切り載せた利き足で、ゾンビを拘束した巨大車輪を蹴り付けた。
「この世からあの世までノンストップの通勤急行だ!!
残業なんかしないでさっさと定時で帰んな!」
器用にも無数のトゲを避けつつ、それでもカーバンクルの放った渾身の蹴りの威力を余すことなく載せた大車輪は、その鋭いトゲで大地を刳り引き裂き爆ぜ散らしながら、凄まじい勢いの高速回転でデストルドー目掛けて突き進む!
「……なかなか良い趣味してるじゃないか。
気に食わないのはその対象がボクって事だけどね」
巨大な車輪は道中、割り込むように進路上に飛び込んできた白スーツを鎧袖一触の勢いで撥ね飛ばす。存分に加速の乗った巨大車輪には、更にゾンビの質量も乗ることで、まるで巨大な徹甲弾の如き勢いのままデストルドーへと向けて疾走する。血と赤土を撒き散らしながら速度を落とす事なく突っ込んでくるカタリナの車輪をデストルドーは確りと両脚で大地を踏み締め、三本の腕をそれぞれ大きく広げて身構えた。
「……こんなもの。避けるまでも、ないッ……!!」
衝突音―― 大地を、そして受け止めたデストルドー自身の肉体をその回転するトゲで容赦なく引き裂きながら、血染めの大車輪が唸りを上げる。踏みしめる踵が地面を刳り、数メートルほど後退し轍を深く刻みつけた所で、車輪は漸く動きを止めた。そしてほぼ同時、その白衣を鮮血に染める少年闇医師の振るう巨大な腕が、其処に括り付けられた己のゾンビごと、巨大車輪を圧し砕き、粉々に粉砕した。飛び散る破片、鮮血、肉片。勢い良く爆ぜて飛んだ車輪の破片が掠め、赤い血の噴き出す頬を拭う事もなく、デストルドーは吠える。
「……本当にいい趣味だよ! ボクも真似させてもらいたくなるくらいだ!」
「自分の手下までぶっ潰すとは、いい感じにトサカに来てるね。
まあ、手駒が減ったんだからざまあみろ……かな? 問題なしだ」
激怒し、憤怒の表情を見せるデストルドー。
そんな彼と相対するカーバンクルの表情は余裕のある涼し気な微笑のまま。
「……キミの残業もそろそろ終わりだ。速やかにお家にお帰り願おう」
大成功
🔵🔵🔵
レイ・オブライト
◎
とうの昔より動く死体
ゾンビ化ウィルスをいくら撒かれようと何かが変わるとは思えない
オレはオレの魂にのみ従う(『覚悟』)。仮に感染・使役される可能性があるとて、感染を待たず『Vエンジン』が巡らす電流が死滅させるだろうよ
人間よかまだフィッシュ&チップスの方がうまそうだ
馬鹿の一つ覚えよろしくけしかけられるゾンビに溜息
特別製とは言うが
……見りゃあ見るほど雑なつくりだ
【UC】
殴り、或いは軽く手を触れ、どうせ影響のないゾンビ化ウィルスという"病を引き受ける"。動きも喋りもしないただの死体に"治療"する
それらを転がしながら闇医者との距離を詰め
腕が多いのはテメェだけと思うなよ
三本目の攻撃を『覇気+オーラ防御』で受け止め虚を衝くことが出来れば、手駒にもお眠りいただいたことだ、あとの細腕が何かしてこようと『怪力』で捻じ伏せる打撃を通せるんじゃあねえか
おっと。ゾンビ代表として、せめて寝かせた人数分は覇気と拳とで『乱れ撃ち』しとくぜ
マッド野郎の最期は行き過ぎた研究の報い
陳腐な演出だが、やっぱスカッとするもんだな
トリテレイア・ゼロナイン
貴方にとっての騎士…と言うにはぞんざいな扱いのゾンビですね
いえ、剣か盾…職業を鑑みれば消耗品のメスと言うべきでしょうか、ドクター
…これ以上の彼ら彼女らの尊厳の愚弄は許容出来ません
その自分本位の好奇心の犠牲者を増やさぬ為にも、ここで果てて頂きます
改造ゾンビの攻撃を怪力で振るう剣と盾で受け止め、そのまま迎撃
膂力と体躯活かし弾き飛ばし
成程、ゾンビにかまける暇はないと…
肉体改造ドクターの接近と攻撃をマルチセンサーでの情報収集で見切り
少々、不服ですが
追加の肉体はそちらの特権ではありませんよ
UC起動
躯体から伸ばした複数本のワイヤーを操縦し捕縛、騙し討ち
赤熱溶断で切り刻み
さあ、その罪を命で贖う時は近いですよ
●Everybody Plays the Fool
「やれやれ。キミらはちょっとボクの興味の範疇外だな。
だって機械人形にデッドマンだろ。ゾンビにならないじゃん!」
「……まあ、私がゾンビになるところは余り想像できませんが」
トリテレイアとレイ。それぞれウォーマシンとデッドマンである両者に対するデストルドーの態度はいっそ清々しい程だった。それでも自分の手駒のゾンビを壊滅させられた事に対する恨み辛みはある上に、その戦闘力を看過できる訳もない。
「それでもまあ。ボクの邪魔をするって言うんなら、潰すしかないよね」
「奇遇だな。オレもあんたのやりてえ事自体にゃ興味はねえんだが。
でもな、オレの親戚を無闇矢鱈に増やされるのも勘弁して欲しいからよ」
己の行く手に立ち塞がるものは排除せねばならないという認識だけは皆、一致していた。トリテレイアはデストルドーのその後方、一寸前に巨大な拷問車輪と共に粉砕された黒スーツを纏ったゾンビ……だったもの、その残骸へと微かに一瞥を向ける。彼の電子頭脳が抱く感慨は虚しさか、或いは哀れみか。或いはその両方だったかも知れない。
「貴方にとっての騎士、と言うにはぞんざいな扱いでしたね。
いえ、剣か盾……職業を鑑みればまさに道具。
消耗品のメスと言うべきでしょうか、ドクター?」
「衛生観念から考えるならその通り。メスも注射針も使い捨てが主流なんだ。
そしてキミたちは誤解をしているかも知れないから一応言っておくけど」
すぐに視線を残骸から引き戻し、デストルドーへと長剣の切っ先を突きつけるトリテレイアに対し、デストルドーは不敵に。或いは悪戯の好きな子供のような表情で涼やかに囁いた。
「ボクはこれでも、マジで死者蘇生について研究しているんだよ」
「その割には趣味の悪いやり方じゃねーか。オレが見てもそう思うぐらいな」
レイの尤もな指摘に対しても、少年医師は動じる素振りはなかった。
ただ少しだけ、困ったように小さく笑うのだ。
「趣味が入っている事は認める。でも、これがボクの今の技術の限界なんだ。
……でもさ、言うだろう? 科学の進歩、発展に犠牲は付き物だって」
「貴方はその研究で正真正銘の死者蘇生さえ成し遂げるかも知れません。
しかし……これ以上の死者たちの尊厳を愚弄する行いを許容できません」
悪びれずに嘯くデストルドーの傍らに控えていた白スーツのゾンビがゆっくりと動き出す。抱えていたゾンビウイルスの充填された噴霧装置を大きく振り被り、トリテレイア目掛けて思い切り投げ付ける。
「……む!」
「小難しい話に付き合う義理はねえ。……要するに此処が野郎の終着点だ」
巨大な質量弾と化して飛来する装置を受け止めるべく、トリテレイアの前に割り込んだレイが装置目掛けて拳を振るう。固く重たいもの同士が真っ向より激突する衝撃に大気が、そして大地が揺れる。激突の余波に巻き上げられた赤土が血煙のように周囲を漂う。そして、レイの鉄拳によって大きく形を歪め、潰れるように拉げた装置の残骸が重たい音を立てて地に沈むように転がり落ちる。破損した残骸から煙の如く噴き上がるウイルス入の濃密な霧。それを内側から引き裂くように、青白い雷光が迸る。霧から浮き上がるレイの胸元――その中央に心臓の如く埋め込まれた『Vエンジン』が止めどなく生み出す強烈な電流が、周囲に広がろうとしていたウイルスを瞬時に灼き散らし、蒸発させては白煙へと変えていく。
「こんなもんは要らねえよな。あってもロクでもねえ使い途しかねえもんだ」
「……そういう事です。その自分本位の好奇心の犠牲者を増やさぬ為にも……。
Dr.デストルドー、貴方には此処で果てて頂きます」
そんなレイとトリテレイアの言葉に対し、少年医師は己の手駒を突撃させる事で応えてみせる。地を蹴り猛然と躍りかかる白スーツのゾンビが振るう拳。それは先のレイの一撃にも匹敵する重さを備えてはいたが、トリテレイアは一歩も引かずにこれを掲げた大盾にて受け止める。白い装甲をビリビリと震わせるような衝撃に、踏み締めた大地が罅割れる。然しそれでも、その機械仕掛けの巨体そのものは決して揺るぎはしない。
「……ッ! 確かに凄い馬力ですが……魂の重みが足りていませんね!」
「ゾンビに無茶を言うんじゃないよ、キミ!」
デストルドーからの抗議めいた文句を聞き流しつつ、トリテレイアは受け止めた盾ごと相手を押し遣り、更に体重と加速を載せてシールドバッシュの要領で、白スーツを後方へと弾き飛ばす。
「……重みが足りないなら、こいつでオマケだ!」
ほぼ同時、彼の側面より巨大なメスを振りかぶって斬り込んでくるデストルドー。然し、搭載されたセンサーによる高度な索敵性能を備えるトリテレイアに『死角』はない。人間の可動域を越えて、回旋する頭部―― そしてモノアイが躍りかかる少年医師を捉えると、白い装甲の各所が展開し、次々とワイヤーを射出する。
「少々不本意ですが。追加の肉体とやらは貴方だけの特権ではありませんよ」
「……なっ!? こ、これは……!!」
飛び出したワイヤーが生き物めいた不規則な挙動で幻惑しつつ、デストルドーの四肢へと絡みつく。
「……おのれ! ボクの動きを、封じたつもりか!」
ワイヤーを引き千切らんと藻掻くデストルドーに対してのトリテレイアの声は冷ややかだった。
「まだ終わりではありません」
「……がッ……!?」
その言葉を合図にしたかの如く、絡みつくワイヤーが赤い光を帯びる―― 否、赤く輝く程の高熱を帯びているのだ。デストルドーの身体の彼方此方から黒煙が噴き出し、肉の焦げる異臭が周囲に立ち込める。続けてワイヤーは高速で振動を始めた事により低く唸り出し、まるでチェーンソーの要領で焼け焦げた傷口を切削するように切り裂いた。
「……ぐぅうぅぅぅぅッッッ!!!!」
飛び散る血液がその都度蒸発して灰と化す程の威力が齎す苦痛―― しかし、それにもデストルドーは耐えていた。今にも倒れ込みそうになる小さな身体を何かが必死に支えていた。
「まぁ……だ、だァッ!!」
己が身を苛むワイヤーの戒めを、その四肢―― 否、“五肢”を以って強引に引き千切るとトリテレイア目掛けて低く身を沈めた前傾姿勢の全力疾走にて猛然と躍りかかった。
「……まだそれほどの力を!」
瞬時に千切られたワイヤーを巻き取りながら、トリテレイアの突き出した長剣とデストルドーの振り抜く巨大メスが真っ向より交錯し、刃金と刃金が噛み合い鮮やかな火花を散らす。そんな主人の加勢しようとでも言うのか、吹き飛ばされた先から起き上がり、そのまま主の元まで駆け寄ろうとする白スーツ。
「……余所見してんなよ。お仲間同士仲良くやろうぜ」
その前に立ちはだかったレイの振るう拳が白スーツの顔面を打ち据え、生々しい手応えと共に整った顔面の半分が無惨に陥没する。その衝撃に数歩よろよろと後退りながらも何とか堪えた白スーツのゾンビは、そのまま何事もなかったかのように両腕をボクシング宜しく構えたファイティングポーズを取ってみせた。
「見りゃあ見るほど雑なつくりで同情はするぜ、兄弟。
せめて後腐れのねえように……きちんと壊(なお)してやる」
突き出した拳を解き、人差し指と中指を揃えて手招く仕草でレイはゾンビを誘う。同時に、左の手を大きく引き絞る。腕に巻いた白銀の鎖が小さく鳴り、震え―― 青白い小さな火花が微かに散った。レイのその誘いに乗った、というわけでもなかろうがゾンビは意図した通り、馬鹿正直にレイ目掛けて握り締めた拳を振るう。
「……なかなかいい拳だぜ、兄弟」
風を斬り裂き唸る剛拳を大きく身を反らし、レイはスウェーの要領で擦り抜けるようにやり過ごし――― 微かに祈りを込めながら握り固めた左の拳は螺旋を描くように巻き付いた鎖が生み出す青白い輝きに燃え上がっている。白スーツの胴体目掛けてカウンターで叩き込む左の拳が狙い過つ事なく、目標部位を真っ向から撃ち抜いた。
「生きてた時のあんたは、もっと凄かったんだろうがな」
叩き込まれた鉄拳の衝撃がスーツ越しでもハッキリと分かる程に大きく陥没したゾンビの胸元。強烈過ぎたその衝撃は背をも突き破り―― 同時に、接触の瞬間レイによって流し込まれたオーラがゾンビの内側に巣食うウイルスを吸い上げ、浄めていく。一瞬の内にゾンビからただの屍体へと治療(こわ)された白スーツは叩きつけられた大地をバウンドするように数度跳ねてから動きを止めた。もう二度と起き上がる事のないそれから視線を外せば、レイの新たに向いた先には耳障りな金属音を奏で、トリテレイアと激しく剣を交わすデストルドーの姿。いよいよ少年医師を守るものはもう何もない。何時まで経っても自分を助けに来ない配下に苛立ち、周囲を見回した彼が異変に気付いても、もう手遅れだった。
「……やれやれ、とうとうボクひとりか」
飛び退って息を整えながら、並び立つ二人の猟兵を睨むデストルドー。
不要の邪魔者と断じた二人の『異物』は、紛れもなく恐ろしい障害であった。
「心配すんな。寂しくねえようにあんたの事もすぐに送ってやるぜ」
「……然り。その罪、貴方の命で贖う時はもう間近に迫っています」
その恐ろしい障害に。
それでも立ち向かわねばならないデストルドーはなけなしの勇気を振り絞り
「……誰が死ぬもんか! ボクの研究はまだまだ終わらない!」
焼け焦げ引き裂かれた肉体とは思えぬ程の速度で懐より抜き出した骨切鋸を振り翳して飛びかかる。加速と体重を載せた真っ向よりの切り下ろしを両者がそれぞれ左右に分かれて避けるのを折り込み、続け様に三本目の腕が横水平に振るうメスの一閃を。
「……腕が多いのはテメェだけだと思うなよ」
「……は? え?」
何もない虚空が押し留め、それより先には僅かにも動かす事ができない。
レイの纏う闘気が障壁となり、メスの軌跡を物理的に遮り抑え込んでいた事に気付くのは一瞬。しかしその一瞬があれば、猟兵たちには事足りる。
「…………やはり戦い慣れてはいませんね、ドクター!」
「……ぐっ!?」
僅かな一瞬の虚を突くようなトリテレイアの斬撃が袈裟に閃き、少年の薄汚れた白衣をより鮮やかな血の色に染め上げる。激痛に呻き身動きを止めたデストルドーの視界に飛び込むのは、レイの伸ばした太い腕。己の襟首を掴んで持ち上げるその力強さに抗う事も出来ぬ彼の視界を続けて埋め尽くすのは無数の拳だった。
「………がっ!? ごはッ…… ぐぁッ……」
「まだまだ。雑な扱いの報いはこんなもんじゃ足りねえぞ」
もはや自分以外には誰も残っていない故、必然的にゾンビたちの代弁者を務める事になったレイ。彼からの苛烈な仕置はまるで拳の嵐とでも呼ぶべきであっただろう。逃げ場のない空中に吊り上げられ、サンドバッグのように殴られる内に、彼の視界は赤と黒に染まり、何も見えなくなった。一頻り殴り終えた所で襟首を掴んだ指を離し、落下し始めた小さな身体にダメ押しの一発を思い切りお見舞いする。
「……ぶがっ……」
無様な音―― 否、声を漏らして吹き飛ぶデストルドーが自身の診療所、その壁へと激突し、ゆっくりとずり落ちていく様を見守りながら、レイは億劫そうに肩を回し、太い首を揺すってゴキゴキと鳴らした。
「マッド野郎の最期は行き過ぎた研究の報い。
陳腐な演出だが、やっぱスカッとするもんだな」
「……悪しき行いには、然るべき報いが訪れるもの。
死を弄んだ貴方には、当然の末路です」
激痛に呻き藻掻くオブリビオンを見据えながら、二人の猟兵はそう言い放つ。
デストルドーは虎の尾を踏んだ。人でないが故に、ある意味では普通の人間よりも余程に人らしさを知るものたちの逆鱗に触れてしまったのだ。もう逃げ場はどこにもない。それでも、デストルドーは足掻くしかない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァシリッサ・フロレスク
ミスティと
あら…フフッ、カワイイじゃない♪怒った顔もキュートだねェ♪
でもほら、ココにゃコワいオネーサンがいるからサ?アブないから早いトコ
・・・
“骸の海《おうち》”に還ンな♪
二人で仲良く銃口を向け、取巻きに阻まれようが容赦無く発砲
Hm?ソッチのアンタも良く見りゃイイオトコじゃないか?
死ンでなきゃシャンパンタワーでも入れてやッても良かったンだがねェ
生憎、アタシゃもっとHOTなオトコのが好みでね、姐さんはどうだい?
ミスティと連携し、近接戦闘はディヤーヴォルを振り回し怪力で捻じ伏せる
ンなステップじゃ欠伸が出るよ、出直してきナ
ま、チャンスは無さそうだがね
で。この子。
どうする姐さん?
Ya♪悪いコはお仕置きだ♪
先手必勝《レディ・ファースト》ッてね
スヴァローグを回収し、先ずはこちらが切り込み前面に立つ。攻撃は見切り、激痛耐性・武器受けで往なす
オトナのキスだ、タンと味わいな♪
UCで第3の腕諸共地面に赤熱した射突杭で串刺し、磔にせしめる
・・・・
言ッたろ?お楽しみは譲ッてやる、てサ?
なァ、姐さん♪
ミスティ・ミッドナイト
◎
リサさんと
良かったですね、リサさんに惚れ込まれていたら骨の髄まで吸い取られていたことでしょう。血液的な意味で
私も彼らと同席になるのは勘弁願いたいところです。腐乱していては、せっかくの端正な顔立ちも台無しですよ
何より、女性に対しては紳士的であるべき。躾は大事ですよね
ハンドガンを構えつつ、リサさんと連携して白兵戦を仕掛けます
狙いを一人に絞られないように動き回ったり、別々の方向から攻撃を仕掛けたり、攪乱しながら戦いましょう
頃合いを見計い、隠し持ったタクティカルライトを瞬間的にストロボ照射。リサさんの射突杭が命中しやすいように隙を作ります
迷子にならないよう、まとめて送り返して差し上げます……!
●The Moon Is A Silver Dollar
足元に転がる白スーツのゾンビ。
既にゾンビたらしめる呪縛より解き放たれたそれはゾンビではなく、死体だった。
もう二度と彼が蘇る事はない。その尊厳をこれ以上穢される事もない。
「ふぅん。……よく見りゃなかなかイイオトコじゃないか。
死ンでなきゃシャンパンタワーでも入れてやっても良かったンだがねェ」
「そう? じゃあ、新しく作り直してあげようか」
その死に顔に一瞥を向けていたヴァシリッサはデストルドーからの言葉に緩く肩を竦めて見せる。
「生憎、アタシゃもっとHOTがオトコのが好みでね。……姐さんはどうだい?」
「私も勘弁願いたい所です。腐乱死体では折角の端正な顔立ちも台無しですしね。
……何より、貴方達はちゃんと女性をエスコートできるんですか?」
ヴァシリッサから水を向けられたミスティの返答もまた同じ。
生者と死者のロマンスなど、彼女たちからすればフィクションの世界だけで十分間に合っている。
「……エスコート? ボクも得意だよ、そういうのはね。
何も言わず、考えず、ただ従うだけの人形にしてしまうからね」
恐怖も痛みも乗り越えて、マッドドクターの少年は笑う。
今この眼の前に存在する、理想的な素体たちを前にして後先など考えていられるものか。最早滅びは不可避。それでも滅びるよりも先に、自分の欲求と使命を果たすと心に決める。
「さあ……ふたりとも、ボクの研究の糧になってもらおうじゃないか!」
「……紳士的とは言い難い。これは躾が足りていませんね」
デストルドーの言葉に、嘆息するミスティ。返答はこれで十分とばかりに、抜き出したハンドガンの銃口を真っ直ぐオブリビオンへと突きつけた。
「次は帽子だけでは済みませんよ」
「……っ……! バカにするな!」
ミスティの言葉に、先に撃ち抜かれた学帽の事を思い出したデストルドーは、反射的に頭の上の帽子を引っ掴むとそのまま手荒く地べたへと叩きつけ、激しく何度も靴底で踏み付けた。再燃する屈辱と怒りの感情に歪んだ少年の顔を見遣るヴァシリッサの表情は、彼のそれとは対照的に皮肉っぽく嗜虐的な笑みを浮かべる。
「あら…フフッ、カワイイじゃない♪ 怒った顔もキュートだねェ、坊や。
でもほら、ココにゃコワいオネーサンがいるからサ? アブないから早いトコ」
今にも笑い出してしまいそうになるのを堪えながら其処まで何とか言い終えたヴァシリッサ。ミスティと並び立つ彼女が突き出すものもまた、同様に銃口だ。
ただしハンドガンよりも更に凶悪な、50口径の重機関銃である。
「……“骸の海《おうち》”に還ンな♪」
「怖いお姉さんというのはきっと私じゃない方ですね」
両者それぞれの言葉と同時、仲良く並んだ銃口が揃って吠える。銃声、銃声、銃声。轟く銃火の連弾が竜の息吹のように荒々しくデストルドーへと襲いかかる。
「……くそぉッ……!!」
大地を、周囲に散らばる死者たちの躯を容赦なく引き裂き、噛み砕く弾丸の嵐の中を、デストルドーはただ一人駆ける。巻き起こる土煙を引き裂き、飛んでくる弾丸が耳元を、肩口を、脇腹を掠めては肉を引き裂き鮮血を噴き出させる。それでも一歩たりとも歩みは止められない。止まれば忽ちに集中砲火は彼を捉えて蜂の巣どころかミンチに変えてしまうだろう。
「…………まだだ、まだだ、まだだッ……!!」
必死に、祈るように。自分に言い聞かせるように。
デストルドーは「まだだ」を繰り返しながら、血煙の中を駆ける。その間合いにさえ踏み込めば。一縷の望みを託しながら、最大速で突き進む。地面を抉る弾丸が跳ね、頬を掠める。裂けた傷口の痛みさえ分からなくなりながら、それでもデストルドーは走った。彼我の距離は既に数メートルにまで縮まっている。
「……へぇ、なかなか頑張るじゃないの」
「おまえ、だけでも、解体(バラ)して改造(イジ)ってやるよォ!!!!」
血の滲むような叫びと共に、巨大メスを振り翳してヴァシリッサへと斬りかかるデストルドー。然し、その三本腕の怪力による一撃を、いとも容易く受けては逸らすヴァシリッサのディヤーヴォル。
「……おおっと!」
大口径・強装薬の銃弾をたらふく撃ち出してもビクともしない特注の銃身の頑強さは、接近戦で振り回す鈍器としても折り紙付き。巨大メスを真っ向より受けては弾いて逸らすヴァシリッサはそのまま軽やかな踏み込みでデストルドーの懐へと潜り込めば、その鳩尾へと膝頭を容赦なく叩き込む。
「……あがッ……、はぁッ……!?」
「ンなステップじゃ欠伸が出るよ、出直してきナ。
……ま、次のチャンスは無さそうだがね」
その衝撃に身体を折り曲げ悶えつつも、せめて一太刀見舞わんとするデストルドーに周囲から次々と叩き込まれるハンドガンの連射。ミスティからの巧みな援護射撃が、デストルドーからの反撃を封じ込み、これ幸いとばかりにヴァシリッサは素早く退き、間合いを再び開くのだ。
「良かったですね。リサさんに気に入られたら骨の髄まで吸い取られていましたよ。
……まあ、血液的な意味で」
「おいおい。流石にアタシでもこの血は要らないよ!
……で、この子。どうする姐さん?」
緊張感とは無縁―― 否。豊富な戦闘経験により場慣れした二人の連携は、デストルドーを歯牙にもかけない程だった。彼からしてみれば、まるで自分の存在など路傍の石よりも無価値なのだと言われているような気分だろう。実際、それはプライドの高い彼にしてみれば、我慢のならない事だった。死への恐怖さえ吹き飛ぶ程に。
「そろそろ終わりにしましょう」
「Ya♪ 悪いコにはお仕置きだ♪」
獲物を前にする狩人二人の視線が、焦燥するデストルドーの精神を更に苛み、追い詰める。自分を飲み込もうと迫る死と滅びへの確信を捻じ伏せるべく、デストルドーは吠える。
「……終わって、堪るか!!!!」
そんな彼の動きさえ見越していたかのように、ミスティのハンドガンが火を噴いた。彼の白衣の彼方此方に新たな孔が穿たれ、噴き上がる新たな血が既に白衣とは呼ぶべきでないそれをより鮮やかに染め直してしまった。それでもデストルドーは荒々しく巨大なメスを振るい、ミスティとヴァシリッサを纏めて切り払おうと暴れ狂う。
「……っ! 手負いの獣、ですか」
「姐さん、これはアタシが引き受けた!」
暴風の如く振り回されたメスの切っ先がミスティのすぐ眼前を走り抜け、幾本かの髪が散る。咄嗟に割り込むヴァシリッサの突き出したディヤーヴォルの銃身が、そんな一撃を強引に受け止め、激しく火花を散らしていく。
「……邪魔を、するなァッ!!」
「生憎、そうはいかなくてねえ!」
力比べは拮抗。ぎりぎりと金属同士が激しく擦れ、せめぎ合う耳障りな音が響き渡る。両者一歩も譲らず、踏み締めた大地が靴底にじりじりと抉れていく。そんな二人の鍔迫り合いを中断させるのは、突如デストルドーの視界を塗り潰した白い閃光だった。
「あがッ……!? ボクの、目がっ……! なんだ、これ……!?」
「……タクティカルライトですよ。威力は今味わった通りです」
ミスティがそれまで隠し持ち続けていた目潰専用の電燈によるストロボ照射が瞬時にデストルドーの視界を灼き尽くし、あまりにも致命的な隙を作り出した。ほんの数秒であっただろうが、それはヴァシリッサが体勢を整えるには、先に打ち捨てていた切り札―― パイルバンカーユニット《スヴァローグ》を回収するには十二分のものだった。
「くっそォォォォォォ……!!!!!」
「……諦めなさい。もう、勝負は着きました」
激昂し、眼が見えないながらも構わず手当たりしだいに周囲を薙ぎ払わんとメスを振り回すデストルドーの猛攻。それを大きく目を見開き、一挙一動見逃すまいとするミスティは紙一重にすり抜け、暴風の中を舞う木の葉のようにやり過ごしていく。その隙を巧みに刺し貫くように浴びせかけるハンドガンの射撃が次々とデストルドーの脚に突き刺さり、さしもの彼もとうとうよろめき地に膝を衝いた。
「……オーライだ、姐さん。離れておくれ」
そんなヴァシリッサの言葉と同時、ミスティは大きく飛び退った。入れ替わりに飛び込んでくるスヴァローグを抱えたヴァシリッサの獰猛な笑み。ボヤけつつも復旧しつつある視界で辛うじてそれを認識したデストルドーは、迎撃するべく巨大な腕を振り上げる――――
「…………経験不足だったな、坊や」
振り下ろされる腕がヴァシリッサの脳天を叩き割る事はなく、何もない地面を殴りつけ、大きく陥没させる。一拍の息遣いの差が勝負を分けた。
「オンナを喜ばせるにゃ、ちょいと肝っ玉が足りてなかったよ。
……だが、コイツはご褒美のオトナのキスだ」
寸前で突進する速度を緩め、跳躍して迎撃を躱したヴァシリッサは何もない虚空を叩いたその腕を飛び越え―― 少年のその背中目掛けて振り上げたスヴァローグを叩きつけるように装填されていた射突杭を穿ち込む。赤熱化した巨大な杭は少年の背中から生えた腕ごと、彼の背を穿ち抜き―― その胴体までをも貫き通した。
「……あ、がッ…… が、が…… あ゛あ゛あ゛……ッ……!!!!」
最早修復不能の致命傷に加え、肉体を内側から灼き尽くしていく劫火の如き杭の威力に、デストルドーは緩やかに体勢を崩し、重力に引かれるがままに倒れ伏す。同時、その背から生えていた巨大な腕は端部からじわじわと崩壊し、まるで灰のように崩れ落ちていく。そして、スヴァローグで撃ち込んだ杭に宿った熱が焔となり、オブリビオンの少年マッドドクターの身を包み込んだ。
「……堪能できたかい」
杭を射出したスヴァローグを放り捨てつつも、燃え始めた敵を新たに引き抜いた拳銃を手に油断なく見据えるヴァシリッサ。オレンジの焔が照らし染め上げたレンズの奥のその眼はどんな色を浮かべているのか杳とも知れない。
「……そうか。ボクはやっぱり、死ぬんだな……」
「そうです。私たちが勝ちました」
ゆっくりと燃え尽きていくデストルドーの呟きに律儀に答えるミスティもまた、突きつけたハンドガンの銃口を彼から離す事はない。ヴァシリッサも、ミスティも。これまでの戦いの中、往生際の悪い相手は幾らでも。それこそ見飽きる程に見てきている。
「戦争が終わってこの世界も落ち着こうってんだ。坊やもさっさと消えちまいな」
「…………ふふ。戦争はね。まだ終わってなんか、ないよ」
「……あん?」
死にゆくデストルドーの言葉に、微かにヴァシリッサの声が硬い響きを帯びた。
「ボクを殺したキミたちへの大サービスだ。最後に教えてあげるよ。
ボクが仕えているのはフィールド・オブ・ナイン第5席だ」
「……戦争のとき、復活しなかった3体の……」
まだ戦争は終わっていない。未だ封印されたままのフィールド・オブ・ナインの復活の可能性。その言葉が示す意味に気付いた猟兵たちは微かに緊張の気配を滲ませた。それを悟ったように、燃え尽きる寸前の少年は笑おうとして、ただゴホゴホと噎せて咳き込んだ。
「……ボクはかのお方のために、死者を蘇らせようとした。
まあ、結局キミたちのせいでこの通り失敗したけどね。だけど無駄じゃない。
ボクの失敗をも乗り越えて、いずれあのお方は再びこの世界に顕現するだろう!」
笑い転げようとするだけで、彼の身体は崩れ去っていく。
焔の中で、それでも少年は笑った。
「あの御方に蹂躙されるキミたちが見られないことだけは残念だ。
……躯の海でまた会おう! 未だ眠れるフィールドオブナイン、第5席!
どうか貴方に栄光――――――」
栄光あれ。
そう続くはずの言葉は、二発重なる銃声によって掻き消えた。
灰となって崩れ落ちた少年は焔の中に飲み込まれ、跡形も残らずに消えていく。
「……冗談じゃねえや。それならまた終わらせてやるまでサ」
銃口から漂う硝煙を噴いて散らしながら、ヴァシリッサは肩を竦めた。
「例え冗談でなかろうとも何度でも撃ち倒すまでですよ」
同じく銃口から棚引く硝煙を見詰めるミスティが呟き、懐の煙草に手をのばす。
「あ。姐さん、アタシにもおくれよ」
そんなヴァシリッサの言葉を遠くに聞きながら、ミスティは胸中で独り言ちた。
さんざんに趣味を楽しんだ挙げ句に、崇拝する主の勝利を信じて疑わぬままに散っていった。誰かが言っていたように、確かに彼は幸せ者だったのかも知れない。
大成功
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