7
人智の外にて

#ダークセイヴァー #常闇の燎原

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#常闇の燎原


0




●漆黒にて
 嗚呼。
 夜が明ける気配がする。
 見えぬ扉を開き、この無限に広がる闇に光を差し込む誰かがいる。
 其れは誰だろう。
 新たな領地を求める吸血鬼だろうか。
 其れとも命知らずの人間か。
 或いは私のあずかり知らぬ存在だろうか。

 私はかつて敗れた。命こそ拾いはしたものの、肉体を代償として支払う事になった。
 頭と僅かな骨、そして使い魔数匹が、私の最後の財産となった。
 屈辱だった。嘗て栄華の限りを尽くした私が、このような、まるで虫のような余生を送らねばならないと思うと舌を噛んで死にたくなる思いであった。
 しかし時は来た。
 この辺境に来る者を私はずっと待っていた……!! 強き者よ、強さとは何か!? 力か、思いか!? 何でもいい、強き者よ、其の証左を私の前で見せてくれ!
 そうして、どうか!
 私と一つになってくれ!! 私の復讐の為に、其の身を捧げてくれないか!


●グリモアベースにて
「ダークセイヴァーの地上が実は地下だった、って話は既に聞いているね?」
 ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は猟兵を見渡すと口を開いた。
「地上だと思っていた場所は、実は“地下の第4層”だった――そりゃ朝が来ない筈だよね。地下なんだもん。光が差さないのも頷ける。という訳で、第3層に続く道を探していたんだけど――思い当たる場所は一つだけ。辺境を越えたところ、人類の居住区域の更に外。“常闇の燎原”って呼んでるけどね、其処しかない」
 其処にはきっと、第4層の支配者である吸血鬼も知らない何かがある筈だ、とヴィズは言う。勿論、グリモア猟兵にも判らないし、猟兵にも判らない。
「其処は闇に閉ざされている。実際にも、比喩的な意味でも。でも、超える価値はあると思わないか? あたしが夢見たという事は、つまりそういう事なのだと思う」

「まず辺境に入る前に、一体のオブリビオンと戦わねばならぬ。彼は……どうしてだろうな。元々すり減っていた正気を失っている。其れが“常闇の燎原”と関係しているのかは判らないけれど、兎に角倒さなきゃ前には進めない。会話もままならない相手だから、とっとと倒してしまって良い。」
 そして、其の敵を倒せばやっと辺境地帯に踏み入れるのだという。
 しかし一筋縄ではいかない。
「辺境地域には様々な呪詛が渦巻いている。お前達に問いかけて来る声があるだろう。或いは恨みの声が聞こえるだろう。引き留める声もあるだろう。お前達は其れに応えても良いし、無視して進んでも良い。所詮は声だ。お前達の足を遅くは出来ても、止める事は出来ないだろう。……問題は、其の先でね」
 はあ、と憂いの吐息を吐くヴィズ。
 吸血鬼がいるんだ、と言う。其れ自体はダークセイヴァーでは珍しい事ではない。しかし、纏っているものが厄介なのだという。
「“黒い炎”だ。……其の炎はね、オブリビオンを強化するだけじゃなくて、触れたもの――防護の術や防具を同じ炎に変えて、宿主を回復してしまうのだ。これを避けるにはただ一つ、攻撃を回避し続けるしかない。つまりいつものように気合で耐える、という作戦は通用しない訳だ」
 敵の姿は暗くて見えなかったけれども、とヴィズは言う。
「兎に角、慎重に行く事だ。全く未知の領域に踏み入る訳だからね。命に代えられるものはないのだから、無理に進んで斃れるなんて事だけはないように」
 白磁の扉が現れる。
 青薔薇と蔦が絡まる其の扉が開けば、黒滔々たる闇が広がっていた。


key
 こんにちは、keyです。
 そりゃ光ささねえよな~!って膝を打ちました。地下だもんな…

●目的
「常闇の燎原を目指せ」

●プレイング受付
 まず第1章は断章投下後から募集を開始します。
 2章、3章についてはタグ・マスターページにてお知らせ致します。

●このシナリオについて
 ボス・探索・ボスの3章構成です。
 それぞれ断章にて仔細をお知らせ致します。

●プレイングボーナス!
「第3章にて黒い炎に対処する事」です。
 黒い炎の特性はオープニングでグリモア猟兵が説明した通りです。

●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
 迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。(記述がない場合、別行動になってしまう危険性があります)
 出来れば失効日が同じになるように投げて下さると助かります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
123




第1章 ボス戦 『彷徨える黒剣』

POW   :    黒剣覚醒・時間加速
自身の【外装】に覆われた【神器】が輝く間、【黒炎を纏う黒剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    黒剣覚醒・時間遡行
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【宿主のダンピールの寿命】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    黒剣覚醒・時間転写
自身の【宿主のダンピールの寿命】を代償に、【複数の過去】から召喚した【自分自身】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【自身のユーベルコード】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●辺境にて・第一幕
 其処は漆黒だった。
 絵具で黒く塗りつぶしても、このような闇は作れないだろう。
 まるで世界が始まる前のような闇が其処にはあった。
「A……AAAAAaaaaaa……」
 咆哮が聞こえる。異端の神の血を啜ったがゆえに正気を失った剣の慣れの果て。
 其れは近付いてくる。生者の気配に気付いて。辺境に立ち入ろうとする猟兵の命を啜ろうと、凄まじい速さで接近してくる。
 其の咆哮は嘗て取り込んだダンピールの怨嗟だろうか。
 狂いきった魔剣は蛇腹剣にもにた焔を振りかざす。焔に照らされた外殻が赤黒くぎらりと輝いた。
「AAAAAAaaaaaa!!!!」
 最早問答は無用。門番だと割り切って斃すしかないだろう。
フォルク・リア
近づいてくる敵に気づき
「生命の気配を察して早速来たか。
これじゃあ奴を何とかしないと
考えている暇もない。」
敵に接近される前に生命を喰らう漆黒の息吹を発動。
花びらで身を守ると同時に
敵の生命を喰らわせて攻撃。
「正気を失い。
闇を纏った剣とは言え冥界の鳳仙花からすれば
この世の生命には違いない。」
効果範囲内を埋め尽くす花びらの物量を頼みに
過去から召喚された敵からの攻撃も警戒しつつ
その焔も花びらで受け止めて威力を殺してから回避しながら
過去の敵をも巻き込む花吹雪を発生させる。

敵が弱り隙が出来たら本体へ向けて花びらを集中し
生命を削り取る。
「その狂わされた生。
此処で幕引きにしてやろう。」




 闇の中を泳ぐように、敵が突っ込んでくる。
 其れを大気の流れで感じながら、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は自らの装備を鳳仙花の花弁に変える。
「晴明の気配を察して来たか。――こいつを何とかしないと、何かを考える暇もないな」
「Rrrrrr……! Aaaaa!!」
 其れが発するのは最早人語ではない。
 其処に一抹の憐れみすら感じながら、フォルクは花弁を己の周囲で渦巻かせた。びゅおう、と鳳仙花が敵オブリビオンの生命力を削る。まるで獣のようにたじろいだ敵は一歩下がると、回り込むように注意深く観察し始めた。其の姿が殖える。一人から二人、二人から四人――複数の過去から己を摘まみだして、現在という戦場に置く。
 すん、すん。フォルクの気配を誰かが嗅ぐ。ダンピール。ダンピールだ。食せば寿命が延びる。喰らえ。喰らおう! 喰らう、喰らう、喰らう!
「Rrrrrrr!!!」
 唸り声も大きくオブリビオンが跳躍し、フォルクへと雪崩れ込んだ。フォルクは其れに合わせて鳳仙花の渦を大きく広げ、過去から生命を削り取る。花弁の中で焔が踊る。装備を持たないフォルクは其れを避けながら、徐々に相手が弱るのを待つ。
 狂気に浸された剣は、まさに飢えた獣だったのか――過去たちが斃れるのは思ったより存外に速かった。過去という生命を削られて、本体のオブリビオンが目に見えて速度を落とす。過去を殺されて、現在に影響が出ているのだ。
「――其の狂わされた生、此処で幕引きにしてやろう」
 フォルクが鳳仙花を向けると、オブリビオンは闇の中に跳躍して消えた。ダンピールを逃す事の惜しさと己の命を測る天秤くらいは持っているらしい。
「……逃げたか。まあ良い。あの調子なら俺でない誰かに斃されるのも直ぐだろう」
 鳳仙花の花が装備の形へと還っていく。元の静かな闇を感じながら、フォルクは初めて一歩、歩みを勧めた。果たして何があるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
心を失って、言葉まで無くして…
もう、生きててもしょうがないじゃろ?
海に還してあげます

自傷によりUC発動
あなたが時間を戻して、雨を避けて、私を斬りつけるたびに
私の降らせる雨は激しくなる【範囲攻撃】
あなたが代償を払えなくなるくらい、雨が強くなるまで、私は絶対倒れない【覚悟】
負傷はブレイズキャリバーの焔で補い、黒剣が逃げ場も無くすまで攻撃を耐えて【激痛耐性】
wandererでの踏み込みで距離を詰め【ダッシュ】
withを叩き付ける【怪力】【重量攻撃】

ここが地下だなんて、思ってもみなかったな
燎原で何が見つかるのか、気になってしょうがないんです
あなたとこうしてる時間も勿体無い
邪魔です。消えてください。




「正しいと思う心も失って、言葉も無くして――もう、生きててもしょうがないじゃろ?」
 気配に語り掛ける。春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は愛剣……いや、恋人を抜き身で携えて、いつも通りの顔で言った。
「海に還してあげます。燎原で何が見つかるのか、気になってしょうがないんです。貴方とこうしてる時間も勿体ない」
 ――邪魔です。消えて下さい。
 其の言葉が引き金となったかのように、闇が牙を剥く。闇の中を炎がぼぼ、と舞ったかと思うと、凄まじい勢いで敵が接近してきた。
「Rrrrrrraaaaa!!」
 相手の一薙ぎを後方へ跳んでかわす。愛しいwithで受けるのも惜しい。結希は敵の姿を認めると、持ち換えたナイフを躊躇いなく、己の腕に突き刺した。痛い。――だが、ナノマシンのお陰で抑制された痛みだ。悲鳴を上げる程じゃない。引き抜いた時にもじりり、と脳が焼けるような心地がしたが、悲鳴を上げる程じゃない。こんなの全然痛くない。噴きだせ、私の血。降り注げ、私の炎。絶対に当たる。当たらない訳がないんだ!
 傷口から――流れるというより噴き出した炎は、杭の形になってオブリビオンに降り注いだ。接近したところに杭の雨を落とされたオブリビオンだが、其の中を敢えて進む。宿主となっている憐れなダンピールの寿命を用いて、避けるという行動に無理矢理成功する。
「そうだね。あなたは、そうするもんね」
「Raaaaaaaaa!」
 蛇腹の炎が結希を切り裂く。其れを結希は避けない。切り裂かれた傷口から噴き出した鮮血は、また杭の形をもってオブリビオンを苛むのだ。オブリビオンは宿主の命を支払い、また避ける。結希の傷口は焔によって補われる。杭の雨が降り注ぐ中、互いに命を削っている。
 傷は最小限に、しかし相手を確実に捉えるくらい。
 そんな笑っちゃうくらい難しいオーダーを、結希はけれどこなしてみせた。相手が寿命というカードを切る事を迷った一瞬を、見逃さない。
「命は有限。払えるチップは限られている。……引き際を認められなかったあなたの負けです」
 一気に結希が踏み込む。ブーツの蒸気駆動が煙を吹いて、一気に加速した。愛しい黒剣を振りかざし――袈裟懸けに、思いっきり叩き付ける!
「Ga……!!」
 蛇腹の炎で勢いを殺せても、殺しきれない其の重さ。凄まじい力とスピードによる一撃は、オブリビオンの黒い身体に赤い傷を斜め一筋残して見せた。
 敵が手負いの獣のように闇に紛れていく。ぽつぽつぽつ、と血が落ちる音だけが、何故か鮮明に聞こえた。
「……手当、しなきゃ」
 恐らくもう酔ってはこないだろうから。
 結希は緊張を一気に吐き出す溜息とともに、そう呟く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
ずっと、ダークセイヴァーで星が見えねえのはなんでだろうって思ってたけど……そりゃ見えねえわけだよな。
おれらもまだまだ知らねえことが多いってワケか。

んで、最初の障害はこの剣か。
怖ぇけど、こいつを斃さねえことには、真実に近づけねーか……!

数を増やして襲いかかってくるとか、おっかねえなあ。
最初は〈逃げ足〉と〈第六感〉を活かして動きを〈見切り〉ながら防戦。どうしても避けられねえなら〈オーラ防御〉で耐える。
二度目以降の転写には《逆転結界・魔鏡幻像》で対抗。分身が消せたなら、〈スナイパー〉ばりの精密さで〈破魔〉の力を込めた反撃をぶつける。

もし近くに他の味方が居るなら、適宜〈援護射撃〉でサポート。




 蛇腹に連なる炎がしなる。
 複雑怪奇な軌道を読みながら、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は其れを見切って避けた。
 ばしん、と土を叩き散らす音がした。其れさえ炎の灯りがなければ見えない。
 ――怖い。
 ――戦うのは、いつだって怖い。
 ぶおん、とぶれるような感覚がして、蛇腹の炎が増えた。嵐は其れをしっかと“見る”。二振りに増えた蛇腹が嵐を狙って振るわれる。片方を視力で確認して避けながら、もう片方は勘で避ける。此処を逃げたら此処を狙うだろう、という勘頼みだ。
 ――戦うのは怖いけど。
 ――こいつを斃さねえことには、真実には近付けねえ。
 ――ダークセイヴァーの星は、まだ見えない!
 ぶおん、とぶれるような感覚がする。其処を狙っていた。
「今だ……! 逆転結界!」
 くるり、と空間が裏返るように、嵐の後ろに鏡が現れる。鏡が映し出すのはたった一人しかいないオブリビオン。真実はいつも一つ――なんてね。どんなに増えようが、結局はたった一人。其れを映し出されてはたまらない。分身を増やす事敵わず、寧ろ分身をかき消されてしまったオブリビオンは、変わらず蛇腹剣を振るった。
 嵐は戦うのを恐れている。けれど、踏み出さなければ戦況を打開できないのも知っている。だから踏み込んだ。一足踏み込めばもう覚悟は決まる。一歩、二歩、三歩。破魔の一撃を拳に込めて、誰かが付けた袈裟懸けの傷に向かって、拳の一撃を叩き込んだ。
「Giッ……!!!!」
 其れは微かな、確かな悲鳴。
 痛打を受けたオブリビオンは、蛇腹剣を振り回しながら逃げるように闇の中に融ける。気配が完全に闇に消えるのを確認して――嵐は深く深く、溜息を吐いた。
 戦わなきゃ前に進めないけど。
 やっぱり戦うのは、……怖いな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
基本はなるべく距離をとって灯り木で撃つ
長期戦になりそうな時だけうたいの鼠で麻痺弾
あちこち撃ち込んで急所を探りながら戦って、見つけたらそこに集中。時間をかけずに倒したい
必要以上に苦しめる趣味も、危ない橋を渡る趣味もない

接近されたら足を牽制しつつ後退
敵が自分自身を召喚して数を増やしても、なるべく本体から順番に片付けようとは思う
(ただし、相手が連携して囲ってくるなら倒せそうな敵から順次倒していく
誰かと一緒になるなら援護射撃で腕や足を狙って牽制しつつサポートに回ろう

あなたのことはよくわからないけれど
そんなになってまで戦うのは辛いだろう
早めに片付けよう。所詮、どちらかが倒れるしか終われない間柄なのだから




 ライフルが吠える。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は其のライフルに「灯り木」という名前を付けている。
 蛇腹の炎が燃えて、弾丸を撃ち落とす。敵は袈裟懸けの傷に、焼けたような傷を負っている。決して万全ではないのにこの強さ。リュカは内心で其のタフさに舌を巻いた。
 だが、あの傷が急所となるのは確かなのだ。確実にダメージを重ねていかなければ。
 敵がぶおん、とぶれるようにその輪郭を震わせて、増える。蛇腹の炎が二重にリュカを狙い、黒い大地を打つ。
 リュカは躊躇わなかった。素早く背中のホルダーから拳銃を取り出して、ぶれて現れた方目掛けて撃つ。其れは特殊な弾丸しか撃たない銃。今回は麻痺弾を仕込んでおいた。じりり、と痺れるような感覚にオブリビオンが咆哮を上げる。
「Aaaaaaa!!」
 其れもすぐに、深淵に吸われて消えてしまう。余りにも頼りない場所。しかし此処は入り口でしかない。斃せないというのなら、この燎原を渡ってはいけない。
 リュカは灯り火を構えて願う。この願いは思いだろうか。ダークセイヴァーの空を見たいと思うのは、荒唐無稽だろうか?
 いいや。きっとそんな事はない。どんなに敵が居ようとも、悲劇が待っていようとも、この弾丸は鈍らない。この弾丸で乗り越える。灯り火が吠えて、弾丸を本体に集中させる。蛇腹が弾ききれなかった一撃が袈裟懸けの傷を貫いて、本体が痛みに声を上げた。集中力が切れたのか、分身もさらり、と消えていく。
「O……Oaa……! Aaaa、Gaaaaaa……!」
 死にたくはないのだろう。
 するり、と闇に消えたオブリビオンを、リュカは追わなかった。闇の中で追い切れるとは思わなかったし、深追いすればこちらも傷を負う事が判っていたからだ。
 暫しの間灯り火を構えて――静寂がしん、と耳を痛める頃にやっと下ろす。あと数撃で相手は死ぬだろう。其れは後続の猟兵に任せても良い。
 麻痺弾を拳銃――うたいの鼠に装填し直す。宝石のような飾りネジが、きらりと空色に輝いた。
 ダークセイヴァーの空は、何色をしているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
(肩を竦めて笑う)騒がしい番犬も居たモンだ。正気なんざ欠片も残ってねぇってか?ま、狂ったカミサマモドキの血を啜りゃそうもなる。

コイツの意味は分かるか、番犬。(掌を上に向けて指先だけでちょいちょい)分からねぇなら教えてやる。――かかって来いって意味さ。
攻撃回数9倍を【見切り】で躱し、魔剣で弾き、コートを翻して躱し、魔剣で受け流し。
どうした、そんなモンか?殺すべき侵入者は此処だぜ。(両手を広げて【悪目立ち】。)
炎の内側に踏み込むぜ。蛇腹剣ってのは内側に入られたら脆い。ま、あれはそれに似た炎だが。右手の魔剣を至近距離でUCの【串刺し】で叩き込む。

歓迎の用意は出来てるって?良いぜ。誘いに乗ってやるよ。




 全く、騒がしい番犬もいたもんだ。
 傷が痛むのか泣き喚くそいつを見て、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は肩を竦めた。
 カミサマモドキの血を啜ったからなのか、其れともこの深淵じみた闇の中で己を見失ったのかは判らないが、こんな娯楽もない場所に一人じゃそうなる。
「番犬、こいつの意味は分かるか?」
 手を上に向けて、指先でちょいちょいと手招く。其れはまさに犬にする仕草だ。
「A……Aa……?」
 辛うじて人語が判るのか、オブリビオンは不可思議そうに首を傾げてみせる。はは、とカイムは不敵に笑った。これはな、かかって来いって意味さ。もっと判りやすくやろうか?
 剣を手に持ち、構えてみせる。そうすりゃ誰でも敵意を持つと判る。オブリビオンも答えるように、人語を逸脱した咆哮を上げた。
 蛇腹剣が唸る。外殻が歪に輝き、カイムを撫で切りにしようと剣がなだれる。手数で攻めて来るのを、カイムは口笛を吹きながらかわしていく。つまり初撃をかわしてしまえばあとの連撃も当たらないって寸法だ。蛇腹剣っていうのはそういう風に出来てる。軌道が直線じゃないだけで、避けられない武器じゃないんだぜ。
「どうした、そんなモンか?」
 魔剣もつ手を広げてみせて、相手を挑発する。
「Aaaaa……Aaaaaaaaa! Garrrrrrrr!!!」
 そしてもう一つ、蛇腹剣には弱点がある。
 カイムは挑発に怒り狂った敵の一撃を潜り、剣を構えて一気に踏み込んだ。そう、中に入られれば脆い。其れは長柄の武器もそうだが、鞭や蛇腹剣に通じる弱点だ。

 ――死神の嘲笑が聞こえるかい?

 カイムの剣の一撃が、ずどん、と音亡き深淵に響き渡った。
 憐れな狂気の塊は、ひらりひら、青黒い灰となって深淵へ還っていく。そうしてカイムを再び静寂が包み、彼が前方を見渡すと、ぱっくりと闇が口を開けていた。おいで、とそのかいなを広げるように。
「歓迎の用意は出来てるって? 良いぜ。誘いに乗ってやるよ」
 闇なんか恐れてちゃ、UDCの便利屋は出来ないんでね。
 カイムは其の深淵へ向けて、躊躇わず一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『光の届かない地下墓所』

POW   :    恐怖心を抑え込み探索する。

SPD   :    死者の眠りを妨げないように慎重に探索する。

WIZ   :    呪いや怨霊を祓いながら探索する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 其処は、沼だった。
 墓標が左右に並び立つ。誰のものかは判らない。ただ、とても古いものであるという事は判る。苔むして、名前もすっかり見えなくなっている。
 そして、沼があった。どのルートを取ろうとも避け難い場所に、沼は広がっていた。
 君たちは避けられない。沼に足を踏み入れなければならない。

 ――くすくす、ふふふ
 ――どこいくの?

 聞こえるのは、君が斬り捨てたものの声だろうか。
 君が屠ってきたものたちの声だろうか。
 其れとも、知らない子どもたちの声だろうか。

 ――わたしたちは、ぼくたちは、おれたちは
 ――もう何処にもいけないのに
 ――君たちは、星空を目指して行くというの?

 其れは軽やかな怨嗟の声。
 沼の粘度がぐっと増して、君の足を重くする。ずぶり、と泥じみた沼に沈む。

 聞いてはいけない。
 耳を貸してはいけない。
 そして何より――振り返ってはいけない。
 そうしなければ、どぼん! 君は沼の中に囚われてしまう。
 君たちは進まなければならない。
 其の先に何があるかも知らずに、進むのだ。
 過去を振り払いながら、進め。
カイム・クローバー
聞こえるのは誰とも分からぬ声、声、声。

見知らぬ相手に気安く声を掛けるなんざフレンドリー溢れる声もあったモンだ。
ピタリと足を止める。振り返ってはいけない?悪いね、そう言われると振り返りたくなるのさ。
足が沈む感覚。何が見える?霊魂?亡者?怨嗟の正体は?
ま、何でも良い。
銃を真上に挙げて銃弾を一発。
少しは俺の声が通るようになるだろ?だから言ってやる。

アンタらには家族や友人は居るか?身体を持たないアンタらに星空を見せてやる事は俺には出来ないが――約束するぜ。
アンタらの大事な人達に星空を見せてやる。この世界を変えてやる。
デカイ仕事だが――この依頼、俺が請け負った。だから、アンタらももう休め。後は…任せな。




 声が聞こえる。
 誰のものとも判らない、声、声、声。カイムは其れを知っている気もするが、知らない気もした。知らないのだとすれば、気安く声をかけて来るフレンドリーさに舌を巻く。
 靴が沼に沈む。カイムは中ほどまで進んで、足を止めた。
 ――振り返っちゃいけないって言われると、振り返りたくなる性質でね。
 振り返れば、沼の深度が“なくなった”。ずずず、と沈んでいく身体。見える者は何もなく、目を止める物も何もない。ただ禁忌を犯した虚空があるだけ。
 其れでも良かった。カイムは極論、何があってもなくても良かったのだ。沈みゆく身体、腕を真っ直ぐ上に伸ばして。

 ――銃声。

「アンタらには家族や友人はいるか?」
 其れは沈みゆくものとは思えない、凛とした声だった。
「身体を持たないアンタらに星空を見せてやる事は出来ないが、――約束するぜ」

 アンタらが何処で死んだのか俺は知らない。
 或いは第四層と呼ばれる地上で死んだのか、この境目で死んだのかは判らない。でもな。
 アンタらが目指したものを、アンタらの大切な人たちに見せてやる。星空を、月が輝く澄み渡る地表の夜を、見せてやる。
 この世界を変えてやる。

「デカい仕事だが――この依頼、俺が請け負った。だから、」

 アンタらももう休め。
 その言葉が響き渡った瞬間、カイムの足元に底が現れた。
 誰も、何も言わなかった。堂々たる様に黙り込んだのか、彼の言葉に願いを託したのかは判らない。ただ、カイムを引きずり込もうとする何者かは、確実に去って行ったのだ。
 そうしてUDCの便利屋は請け負う。世界を変えるという大仕事。でもカイム、君の其の腕なら、このくらいの難問が性に合うだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
……知らねえ声が、聞こえる。
「そんなに怯えて、ロクに誰かを救えもしないのに」
「どうして、星を追おうとするの」

……それがあるべき姿なんじゃねえのか、人間って。
ただ前に進むことしか出来ない、不器用で不出来ないきもの。
――でも、そういう存在だからこそ、いつか到れる地平がある。他の誰にもたどり着けない、手に入れられないすげえ物を、生み出すことができる。

ちょっとだけ振り返りそうになって、でもすんでのところで留まる。

おれも同じだ。どんなに戦うんが怖くても、おれは前に進まなくちゃ。
おれが救える人は一握りだけだろうし、もしかしたら、誰も救えないのかもしれねーけど。

それでも。おれは、星を探すことをやめねえんだ。




 嵐の耳元で誰かが囁く。其れが誰なのか、嵐は知らない。

『可哀想に。そんなに怯えて、傷付く事を恐れて』
『ロクに誰かを救う事も、自分すら救えないのに』
『どうして星を追うの? どうして、星空の方へ向かっていくの?』
『其処はきっと、貴方が思うより恐ろしい所だよ?』

 そうだな、と嵐は頷く。でも、振り返る事はしない。
 きっと怖い事が待ってる。誰かが傷付いて、俺も傷付いて、もしかしたら死んでしまうかもしれないような、恐ろしい事が待っているかもしれねえ。
 星空までは途方もなく遠くて、辿り着けないかもしれねえ。
 でも。

「……其れがあるべき姿なんじゃねえのか」
 其れが、人間。
 前に進む事しか出来ない、不器用で不出来な生き物だ。でも、そういう存在だからこそ、いつか到れる地平がある。他の誰にも辿り着けない、手に入れられないすげえ物を、生み出す事が出来る。そういうもんじゃねえのか。

『きみにそれができるの?』

 幼い少年の声に、振り返りそうになる。
 ぐっと唇を噛んで堪えた。俺の爪先は、前向きにしかついてない筈だろう。
 戦うのが怖くても、傷付くのが怖くても、前に進まなきゃいけねえ。前にしか進めねえんだ、この足は。
 きっと救える人は一握りで、……いいや。もしかしたら、誰も救えない事だってあるかもしれねーけど。

 其れでも俺は、星を探す。
 星空を目指す。
 夜風吹き渡る、本当の夜ってやつを、見付けてやるんだ。

 嵐は重い一歩を踏み出す。
 其れは重いけれど、重いからこそ確かな一歩だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグラ・ユメノミヤ
「泥沼――さしてわしの人生と変わりませんなア……」
・マグラは学者であったが吸血鬼たちの非人道的な研究を強いられ、嫌気がさして逆らった報復として部下と妻ルーチェを失った
・かき集めてもひと揃いにならない同志、思いつくかぎりの手段で蹂躙されつくされたであろう幼妻、劫火に包まれる自身の研究所――数十年間、あの光景が片時も脳裏から消えることはない
・あの時自身が主君に反抗さえしなければ妻も部下も喪わずに済んだのではないか。彼ら、彼女らを殺したのは、自分ではなかろうか……
「――いや、あなた方が流した血は、奴らとわが血を以てあがないましょう。怨嗟の声さえ、わしの老いた背中を押す力に換えさせていただこう」




「泥沼……さしてわしの人生と変わりませんなア……」
 マグラ・ユメノミヤ(堂巡魔眩の人形師・f35119)は呟いて、一歩を踏み出す。かつて彼は吸血鬼の傀儡であった。反旗を翻したまでは良かったが、同志と妻を失った。
 かき集めても一揃いにならない同志たち、其の恐ろしさが判るだろうか。あらゆる手段で蹂躙され、無惨に命を奪われた幼妻の思いが判るだろうか。業火に包まれた自身の研究所、其の虚しさが判るだろうか。
 マグラは何も得る事はなかった。ただ、隣に人形が一つ増えた。同志と妻をかき集めて作った処刑人形。其れでもマグラはもう安寧などどこにもないと知っている。

『どうして』
『あなたは生きているの――』

 其れは知らない声の筈なのに、同志の声に聞こえた。
 妻のような気もした。
 マグラは泥の中を行く。其れはあてどのない彷徨にも見えた。

 ――反旗を翻したのは、間違いだったのだろうか?
 ――同志を、妻を殺したのは、己なのではなかろうか?

 そんな問いを、ぐるぐるとマグラは大樹を回るように続けている。
 囁き声がマグラの罪悪感をくすぐる。其れでも、老紳士は振り返る事をしない。何故なら反旗を翻したからだ。だから、もう振り返れないのだと、マグラは信じている。
 “振り返る資格などない”。

「あなた方が流した血は、奴らとわが血をもって贖いましょう」
「故に」
「怨嗟の声さえ、わしの老いた背中を押す力に換えさせて頂こう」

 マグラは進む。進まねばならない。
 一度翻した旗はもう下ろせないのだと、誰よりも知っているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
ん-
生憎と、俺は俺の邪魔になるなら友人だろうと殺せる人間だし
必要なら容赦なく見捨てるし
寝言に付き合う酔狂さも持ち合わせてない
なので、こういう場所は淡々と通過することになる
勿論振り向かない。相手にしない
面白みのないことこの上ないな、と自分でも思う

どこにも行けないのは、自分の力が足りなかったから
俺がどこかへ行くのと、あなたたちがどこかへ行けないのは別の話
少なくとも、俺はそういうつもりで生きている

なんて、頭が暇だからそんなことを考えるけど、
沼…あんまり足を取られるのは嫌なんだよな
さっさと切り抜けよう
出来ない約束をする柄でもないからね

強者は弱者を顧みない
それもまた必要だと思う
でないとあまりに哀れだろう




 生憎と。
 リュカは強さが全てだという価値観の中で育ってきたので、声に共感する事はない。
 彼らは弱かった。力がなかった。だから死んだ。其れだけの話で、至極単純だ。
 リュカは自分の邪魔になるなら友人だって殺す。厭う事はない。他のものが必要になれば、容赦なく見捨てる。
 そして、死者の寝言に付き合う酔狂さもない。
 ざぶざぶ、と重い沼を淡々と進んでいく。
 其れはさながら、遠くから人間を撃つのに似ていると思った。声が通り過ぎていく。

『こっちむいて』
『置いてかないで』

 聞こえているが、それだけだ。
 彼らが何処にも行けないのは、力が足りなかったから。
 リュカが何処かへ行くのと、声の主が何処にも行けないのは別の話。
 連れて行く義理も、振り返る優しさも、生憎俺は持ち合わせていないんだ。
 立ち止まる事を罪だとは思わない。そういう優しい人間が、この世界にいたっていい。でも、リュカはそういう優しい人にはなれない。価値観を塗り替えるのは難しい、という、ただ其れだけの単純明快な話だった。
 出来ない約束はしない。
 連れて行くだとか、そういう事は言えないし、言わない。
 ただ淡々と、足を進める。前へ、前へ。

 やがて沼の終わりがぼんやりと見えて来る。
 リュカという強者は最後まで、振り返らなかった。
 強者は弱者を顧みない。其れもまた、世界に必要だと思う。
 でないと――余りに哀れだろう。
 顧みたところで、俺には何も出来やしない。
 出来ない事を出来ると言って、何になるって言うんだ?

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
どんな道も、道と呼べないとこだって、私の足を前に進めてくれた
貴方は魔法の靴だから、この暗い沼だって…ほら
蒸気魔導力を移動力に変えて【地形耐性】
きっといつもと変わらないように歩けるはず
だから焦らずに、むしろ聞こえてくる声に耳を傾けて
それに、お墓…ここで眠ってるヒト達もいるんだ、静かに先へ進もう

聞こえてくるのは、今までの旅の中でも、良くない出会いだった声
うん。うん。……この声も、この声も、ちゃんと覚えてる
恨まれてても、それでいいんです
旅をするのは、楽しいことばかりやないから
私が未来へ進む為に、あなた達を過去にしたことだって
私にとっては大切な思い出なんです

今日は久しぶりに会えてよかった
じゃあ、またね




 ――wanderer。
 キミはいつだって、どんな道だって、道と呼べないところだって、私の足を前に進めてくれたね。
 結希はだから、何も恐れない。
 貴方は魔法の靴だから。この暗い沼だって――ほら。
 ガジェットが唸る。蒸気の力を魔導に替えて、其の力を推進力に換えて、沼を跳ねるように歩む。
 いつもと同じように、ううん、むしろ今は少しだけ、楽しく。
 此処にはたくさん眠ってる人たちがいる。聞こえてくる声に耳を傾けながら、静かに先へ進もう。

『どうして貴方が』
『貴方だけが』

 覚えてる。覚えてるよ。
 今までの旅の中で、良くない出会いだった声。どんな人だったか、どんな表情だったか、ちゃんと覚えてるよ。
 恨まれてても、私は其れで良いんです。
 旅をするのは楽しい事ばかりやない。苦しい事、悲しい事だって旅には付き物。
 だから、恨まれるのだって、旅人にはあり得ること。良いんです。
 私は未来へ進むために、貴方達を過去にした。でもね、其れは切り捨てたからじゃない。私にとって大切な思い出なんです。全部全部、大事なんです。

 沼を越えて、結希は石の床に着地する。
 目の前には闇が広がっている。其れは旅人を迎える未来。先にあるのは希望だろうか、絶望だろうか。其れはまだ誰にも判らない事。
 だから結希は、希望を持って進むのだ。

 ――今日は久しぶりに会えてよかった。
 ――じゃあ、またね。

 結希は振り返らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
声に
「すまないな。
今君達と話している暇はない。
先に行かせて貰う。」
決して振り返らない【覚悟】と【狂気耐性】で前に進むため
ALL OUTを発動し黒翼により飛翔し
フレイムテイルを使って炎の爆発力で加速。
所どころで足場を【見切り】
龍翼の翔靴で踏み切って【ダッシュ】し跳躍。
周辺地形や障害物には注意をして目標地点までの
最短ルートを選定し。
決意を挫く声、泣き縋る声、生あるものを恨む声
等を振り切る様に進行に集中。

沼地を抜けたら
「何故こんなところに葬られたのかは知らないけど。
全て終わったら墓参りにくるよ。」




「すまない」
 フォルクが紡いだのは謝罪の言葉であったが、其れは亡者たちの望む謝罪ではない。
「いま君たちと話している暇はないんだ」
 行かないといけないんだ。
 上へ、上へ。前へ、前へ。
 星空を、本当の夜空を目指して、行かなければならない。
 だから、君たちの声を聴いている暇はないんだ。

『どうして見捨てるの』
『なんで置いていくの』

 口々に聞こえてくる、フォルクを非難する声。置いていかないで。此処にいて。一緒に連れて行って。此処から出して。
 其れ等を全て振り払う、羽撃きの音。冥府の闇のように暗い、黒色の翼。まるで空を切り裂くようにフォルクは飛ぶ。黒手袋から放つ炎で姿勢と速度を制御して、翼で滑空するように沼の上を飛んでいく。

『やだあ、行かないでえ』

 子どもが泣くような声がした。フォルクも心が痛まない訳ではない。でも、振り返ってはいけないと知っている。此処から先へ行くという事は、そういう事なのだと知っている。だから、せめてもと墓碑を避け、石の足場に一瞬だけ着地してまた跳んだ。足元に集中すれば、微かだけれども声を忘れられるから。

『お前も死んでしまえ』

 恨むような声がする。フォルクは応えない。
 やがて沼の終わりが見えて来る。漆黒の闇の中だが、つやりとした質感は恐らくなめされた石畳だろう。
 着地して、其れでも、フォルクは振り返らずに言った。

「何故こんな処に葬られたのかは知らないけど、全て終わったら墓参りに来るよ」

 其れは逆に言えば、全てが終わるまでは省みないという事だ。
 拳を握った。この先に何があるのかと、フォルクは前を向く。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『失落卿アンドラーシュ・マッカラム』

POW   :    禁断のアマルガム
攻撃が命中した対象に【ヴァンパイアの細胞】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【アンドラーシュと融合させる肉腫浸蝕】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    ボディスナッチ
命中した【椎骨】の【神経】が【対象の身体を乗っ取る肉蝕神経】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
WIZ   :    イビル・アヴェンジャー
全身を【眷属である吸血蝙蝠達】で覆い、自身の【身体を得て、雪辱を果たしたいという執念】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナギ・ヌドゥーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 暗闇に火が灯る。
 石畳の狭い通路、其の両壁にかかった灯りに勝手に火が灯る。
「ああ、良く来てくれた!」
 其れは歓迎の声だった。良く通る男の声だった。
 だが姿は見えない。どこだろうと君たちが見回すと、黒い炎を纏った蝙蝠が数匹こちらに飛んでくる。

 ――其のうちの一体は、人の頭を持っていた。

「やあ、こんにちは。よく来てくれた、この未踏の地に」
 其のフレンドリーな態度は、いっそ清々しいほどに胡散臭い。
 男は――頭は美しい男の顔をしていた――にこりと笑む。其の笑みの冷たさは吸血鬼ならではか。生命力が有り余ると、このような悲劇を招くらしい。死ぬに死ねず頭と僅かな骨を残すのみになった男は、開口一番こう言った。

「早速だが、身体を譲って貰えないだろうか」

 曰く、このままでは進みも戻れも出来ないと。
 曰く、“だから君たちの身体を使って”、何処に行くか決めたいと。
 曰く、君が望むなら“身体を連れて行っても良い”と。

 身勝手すぎて呆れる暇も惜しい。
 吸血鬼は最後に付け足した。

「代わりに君たちは不死を得る。良い条件だろう? さあ、渡してくれたまえ」

 余りにも身勝手な吸血鬼だが、この境目で生き続けた実力だけは本物だ。
 頭だけで此処まで生きてきたのだ、身体を持てば強大な存在になってしまうのは明らかだろう。そんな吸血鬼を戻らせるのも、進ませるのも防がねばならないが――
 グリモア猟兵の言葉が脳裏によみがえる。

「黒い炎は防具の類を回復力に変えてしまう。つまり、お前達は敵の攻撃を全て回避しながら戦うほかないのだ」
春乃・結希
うわぁ…。何か言ってるみたいですけど…見た目が衝撃的過ぎて頭に入ってきませんね…
と、とりあえず三層の手がかりを掴むためにも倒しとこ

攻撃は受けちゃ駄目ってヴィズちゃんが言ってた…避けるの苦手なんやけどなぁ…
UC発動
背後は焔の翼で守れる。もし触ったら燃やす【焼却】
敵から目を離さないようにして、攻撃の予兆を見逃さないように
伸びてきた骨をwithで弾いて【武器受け】
翼の羽ばたきとwandererの踏み込みでwithの間合いに入れる
今の私の速さなら、後出しでも間に合わせてみせる【カウンター】

えっと、何でしたっけ…君達の身体を使って?
自分の足で歩いてこそ、旅の思い出も強く残ると思いますよ


鏡島・嵐
ッ、お断りだ、そんなん!
おれは行きたいトコには自分の足で行くって決めてんだ!
ついでに、不死なんてのにも興味無え!
……強そうだ。正直怖ぇけど、ここまで来たら引き下がれねーよな……!

攻撃を避け続けろってか。簡単に言ってくれるもんだ。
《忘れられし十三番目の贈り物》起動。〈第六感〉や〈読心術〉、〈逃げ足〉もフルに活かして、相手の攻撃の避けやすい部分を〈見切り〉ながら避けていく。
避けて耐えれば、チャンスは必ずあるはずだ。そこを見逃さずに〈スナイパー〉ばりの精度で攻撃を撃ち込んで反撃していくぞ。

もしも近くに他に味方がいるんなら、そいつも攻撃が避けやすくなるよう、隙を見て〈援護射撃〉で支援を行う。




 吸血鬼の名は、アンドラーシュという。
 其れを結希が知る事はない。
 知る余裕がないというか、余りのインパクトに口上の半分は耳に入らなかった、というのが正しいだろう。
「えっと……ごめん、半分くらい聞いてなかった……」
「おや、私の姿が衝撃的過ぎたかな」
 せやな。
「失敬、お嬢さん。君の身体を頂いて、私は帰りたいのだ、私の城へ」
 言いながら使い魔と共に羽撃くアンドラーシュ。結希は愛しいwithを構えたが、正直触れさせたくないというのが本音だった。

 ――ヴィズちゃんは、攻撃は受けちゃ駄目って言ってた。避けるの苦手やけど……でも、やるしかない。

 ばさ、と背中に炎の翼が生える。触れれば燃える、此れで背後の守りはきっと充分。
「さあ! 私にその若々しい身体を譲ってくれたまえ!」
 アンドラーシュが結希に迫る。其れを物陰から狙っている男がいた。スリングショットを引いて――打つ! 鉛の弾をがごん、と頭に受けて、アンドラーシュがよろめいた。
「な……!?」
「何を言うかと思えば、お断りだ! そんなん!」
 嵐である。
「俺は行きたいとこには自分の足で行くって決めてんだ! ついでに不死なんてのにも興味ねえ! それはきっと皆同じだ!」
「……、……うん」
 きょとん、と嵐の言葉を聞いていた結希。視線に気付くと、嵐は慌ててすまなそうに言葉を付けた↓。
「って、あ、勢いで言っちまってごめんな。あくまで俺は、の話で……」
「ううん、ええんよ。私も一緒。不死にも興味ないし、行きたいとこには自分の足でいく。だって私、旅人だから」
「旅人?」
「そう。自分の足で歩いてこそ……旅の思い出は強く残るから。あなたもそうだと思いますよ」
 くらくらしているアンドラーシュは、聞いているのかいないのか。
 だが結希は声を掛けた。まあ、彼にはもう歩く脚はないのだけれども。
「不意打ちとはなかなか、人間らしい事をしてくれるじゃないか……だが選択肢が増えたな! どうせなら女の体の方が心地良さそうだが!」
 アンドラーシュが黒い炎を纏い、二人へと肉薄する。首から下を失ったからか、速度は非常に速い。
 くん、と頸椎がたわんだのを結希は見逃さない。ぐっと伸びてきた頸椎の鋭い先端を大剣で受けて、流す。
 嵐は後ろに下がって、スリングショットで狙いを定める。誰にも攻撃は当てさせやしない。黒い炎を纏っていてもいなくても、無傷なのが一番良いから。
 小麦粉入りの弾だ。――くらえ!
 結希をすり抜けるように飛来した球は、アンドラーシュの顔面にぶつかりぼふん! と白く爆ぜた。
「むう!? げほ、げっほ、げほ……!」
「今だ!」
「……わかった!」
 焔が羽撃く。一気に踏み込んで、大剣の間合い。其の高い鼻っ面に、withが真横に線を引いて見せた。
「ぬおっ……!」
 アンドラーシュとて、ただ翻弄されるだけではない。殺気を感じて後ろへと下がり、僅かな切り傷に留める。
「お前の攻撃は当たらねえ! 絶対に誰にも……当てさせねえ!」
 強く嵐は言って、スリングショットを構えた。
 結希も答えるようにwithを構える。
「ぬう……」
 当て損ねた頸椎をぷらぷらさせながら、アンドラーシュは憎らし気に二人を見る。正直気持ち悪い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
悪いが不死に興味は無くてね。そういうのはお友達の化物にでも相談してくれ。だが、身体を得る案が無い訳じゃない。
――その辺の動物の死骸にでも組み付きゃ良い。拾ってきてやろうか?きっとお似合いだと思うぜ?(ヘラヘラ笑いながら)

黒い炎を纏った蝙蝠に魔剣を一閃。黒銀の炎の【属性攻撃】で【焼却】するぜ。
随分とお友達が多いようだ。これも人徳の為せる業ってか?…っと、人じゃなくて化物だったな。悪い悪い。
そいつらがヴァンパイアの細胞を運んできてるってわけか。なら。――汚物の償却も便利屋の仕事だ。
今度は先程より更に広範囲を包み焼き尽くす為のUC。
尻尾を巻いて逃げても良いんだぜ?ま、どっちにしろアンタに先はねぇが。




「悪いが不死に興味はなくてね」
 アンドラーシュの押し売りを、カイムはしれりとかわしてみせた。肩を竦め、頭を振る。
「そういうのはお友達の化け物にでも相談してくれ。ああ、だが」
「だが?」
「身体を得る案が無い訳じゃない」
 其れはアンドラーシュにとって魅力的な響きだった。身体を得る。積年の悲願を叶えてくれるというのだろうか。一体どんな――
「其の辺の動物の死骸にでも組み付きゃ良い。拾って来てやろうか?」
 きっとお似合いだと思うぜ。
 剣に己を映しながら言うカイムに、アンドラーシュは文字通り、可愛さ余って憎さ百倍である。よりによってこの私に、この吸血鬼という存在に、動物の死骸などという浅ましい存在に縋れというのか!
「無礼者!! 貴様、身の程をしれ?」
「身の程? 知ってるさ。俺は猟兵で、アンタはオブリビオン。いや? オブリビオンですらない死にぞこないかもしれないが……まあ其れはどっちでも良い」
 剣に焔が灯る。黒い中に銀色が輝く其の炎は、カイムがカイムたる証。
「行け! 我がしもべよ!」
 キイ、と鳴いて、黒い炎を纏った蝙蝠がカイムへと飛来する。黒い炎のお陰なのか、其の速度は通常の蝙蝠より早く思えた。素早い事には素早いが、カイムの敵ではない。
 焔を纏った剣がぶわり、と黒銀を撒き散らす。其れ等は黒い炎ごと蝙蝠を焼いて、地へと落とした。キイ、ともがく蝙蝠たちだが、其の炎は息絶えるまで消える事はない。
「随分とお友達が多いようだ。これも人徳の成せる業ってか? ――ああ、失礼。人じゃなくて化け物だったな」
「貴様……何処までも私を愚弄するようだな」
「愚弄? 事実を指摘しているの間違いじゃなくてか? 悪いね、俺は嘘がつけない性格なんだ。……で、そいつらがヴァンパイアの細胞を運んできてたのか? なら、汚物の焼却も便利屋の仕事だ。請け負うぜ」
 焔が巻き起こる。まるで竜巻のように壁を焼き、床を焦がして、アンドラーシュへと迫る。
「ぬおおおお!? この焔ッ……普通のものでは……!」
「色で気付けよな。勿論特別製だ、アンタに向けたものじゃないが……」
「――くっ!」
 アンドラーシュの気配が、闇をさらに黒く染める炎の向こうに去っていく。カイムは焔を鎮め、彼を追う事はしない。
「尻尾を巻いて逃げる度胸はあるのか。――だが、どっちにしろ吸血鬼、アンタに先はねぇよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​



「そう。先はないんだよ」
「な、何者!?」
 フォルクは白い様相だというのに、闇からにじみ出るように現れる。瞳は伺えず、其の口元に笑みを湛えて。
 誰何の言葉には答えぬまま、朗々と言葉を紡ぐ。
「さっきから随分自分勝手な事を言うじゃないか。身体を奪って不死を押し付ける。まるで悪徳業者だな。…しかし、其の姿では進む事も戻る事も出来ないというなら。俺が送り届けてやるよ。其の姿と性根に相応しい冥府にね」

 ――押し潰せ。引き千切れ。黒砂の陣風を以て。

「どいつも、こいつも、私を侮辱して……!!! 私が頭だけだからか! 身体のない、醜い吸血鬼だからか!!」
「おや、醜い事を認めるのか? 殊勝な事だな」
「私は醜くなどない……!! 貴様の身体を奪い、故郷へと!! ダークセイヴァーの城へと凱旋するのだ!」
 フォルクは肩を竦める。まだそんな夢を見ているのか、と言わんばかりに。
 アンドラーシュが纏える眷属の蝙蝠は、先程カイムに焼き尽くされてしまった。しかし雪辱を晴らしたいという想いの炎は燃えている。強く強く強く燃えている。一泡吹かせてやらねば気が済まないと、吸血鬼の気高き性が叫んでいる。
「オ、オ、オオオオ!!!」
 フォルクも視認できるか出来ないかの速さだった。斥力場を形成していなければ恐らく一瞬で貫かれていただろう。だが、斥力場は完成していた。そこにめりこみ、頸椎はフォルクの顔のすぐ前に。
 ――あと少し。あと少しなのに、何故届かぬ!!!
 斥力に突っ込んでまだ其処にいられるのが奇跡のような執念だが、あと一押し足りなかったらしい。アンドラーシュは一旦距離を取り、黒い炎を礫のように降り落とす。
 炎は重力も斥力も関係なく燃えるもの。フォルクは後ろへ跳び下がり、焔を避ける。流石に防具をおしゃかにされるのは御免だ。
「脆弱な人間が!!」
「俺が人間に見えるのか。いよいよ其の目も曇ったな?」
 跳躍のタイミングに合わせて、アンドラーシュが突っ込んでくる。其の頸椎を研ぎ澄ませ、己が新たな頭とならんと突っ込んでくる。
 フォルクは――上に飛んだ。壁が重力子となってぱらぱらと薄く剥がれていく。きっとアンドラーシュには、そんなものは見えていないのだろうけれど。

 そうしてアンドラーシュが斥力場に突っ込んだ瞬間――全ては反転した。

「ぐ」
 ぎち、と頭を万力で締められるような心地がした。
「お」
 ぎりぎりぎちぎち、万力はアンドラーシュの「前身」を容赦なく圧し潰す重力場へと変わる。押し返す力を否定する程の速度で突っ込んできた彼には、もう後退する術はない。
 ぎりり、ぎちち。見えない万力はアンドラーシュを挟んでぐるぐるとハンドルを回転させ……

 ぎりりりり…………ばちゅん!

 赤黒い血と、透明な脳漿を撒き散らして。
 長く永く生きながらえた吸血鬼は、希望を見出してから僅かの間に其の命を終えた。

 全てを解除して、すとん、と着地するフォルク。
 ぱっぱ、と服を払い、壁や床に散らばった液体や肉に、不快そうに息を吐く。
「……進もう」
 そう、俺達は進むために来たから。
 だから、こんな奴には構っていられない。俺達は行くんだ、――第三層へ。
フォルク・リア
「自分勝手な事を言う。
しかし、このままでは進む事も出来ないと言うなら。」
「俺が送り届けてやるよ。
当然その姿と性根に相応しい冥府にね。」

敵に先手を取られる前に
【早業】【高速詠唱】でグラビティテンペストを発動。
自分の周囲に斥力を展開し敵に触れない様に常に距離を取る。
敵に隙を突かれない様に十分に注意して
斥力を張り巡らせて敵の行動を【見切り】ながら
高速飛翔能力に対しても同様に対応。
攻撃を回避しつつ敵の行動をよく観察し
反撃の隙が出来たら重力を反転させて跳躍。
一時上空へ逃れ、今まで斥力に使っていた力を
攻撃する重力に集中し敵を超重力で圧し潰す。
「最後に残ったその頭を潰して
この世への未練も断ち切ってやるよ。」




「そう。先はないんだよ」
「な、何者!?」
 フォルクは白い様相だというのに、闇からにじみ出るように現れる。瞳は伺えず、其の口元に笑みを湛えて。
 誰何の言葉には答えぬまま、朗々と言葉を紡ぐ。
「さっきから随分自分勝手な事を言うじゃないか。身体を奪って不死を押し付ける。まるで悪徳業者だな。…しかし、其の姿では進む事も戻る事も出来ないというなら。俺が送り届けてやるよ。其の姿と性根に相応しい冥府にね」

 ――押し潰せ。引き千切れ。黒砂の陣風を以て。

「どいつも、こいつも、私を侮辱して……!!! 私が頭だけだからか! 身体のない、醜い吸血鬼だからか!!」
「おや、醜い事を認めるのか? 殊勝な事だな」
「私は醜くなどない……!! 貴様の身体を奪い、故郷へと!! ダークセイヴァーの城へと凱旋するのだ!」
 フォルクは肩を竦める。まだそんな夢を見ているのか、と言わんばかりに。
 アンドラーシュが纏える眷属の蝙蝠は、先程カイムに焼き尽くされてしまった。しかし雪辱を晴らしたいという想いの炎は燃えている。強く強く強く燃えている。一泡吹かせてやらねば気が済まないと、吸血鬼の気高き性が叫んでいる。
「オ、オ、オオオオ!!!」
 フォルクも視認できるか出来ないかの速さだった。斥力場を形成していなければ恐らく一瞬で貫かれていただろう。だが、斥力場は完成していた。そこにめりこみ、頸椎はフォルクの顔のすぐ前に。
 ――あと少し。あと少しなのに、何故届かぬ!!!
 斥力に突っ込んでまだ其処にいられるのが奇跡のような執念だが、あと一押し足りなかったらしい。アンドラーシュは一旦距離を取り、黒い炎を礫のように降り落とす。
 炎は重力も斥力も関係なく燃えるもの。フォルクは後ろへ跳び下がり、焔を避ける。流石に防具をおしゃかにされるのは御免だ。
「脆弱な人間が!!」
「俺が人間に見えるのか。いよいよ其の目も曇ったな?」
 跳躍のタイミングに合わせて、アンドラーシュが突っ込んでくる。其の頸椎を研ぎ澄ませ、己が新たな頭とならんと突っ込んでくる。
 フォルクは――上に飛んだ。壁が重力子となってぱらぱらと薄く剥がれていく。きっとアンドラーシュには、そんなものは見えていないのだろうけれど。

 そうしてアンドラーシュが斥力場に突っ込んだ瞬間――全ては反転した。

「ぐ」
 ぎち、と頭を万力で締められるような心地がした。
「お」
 ぎりぎりぎちぎち、万力はアンドラーシュの「前身」を容赦なく圧し潰す重力場へと変わる。押し返す力を否定する程の速度で突っ込んできた彼には、もう後退する術はない。
 ぎりり、ぎちち。見えない万力はアンドラーシュを挟んでぐるぐるとハンドルを回転させ……

 ぎりりりり…………ばちゅん!

 赤黒い血と、透明な脳漿を撒き散らして。
 長く永く生きながらえた吸血鬼は、希望を見出してから僅かの間に其の命を終えた。

 全てを解除して、すとん、と着地するフォルク。
 ぱっぱ、と服を払い、壁や床に散らばった液体や肉に、不快そうに息を吐く。
「……進もう」
 そう、俺達は進むために来たから。
 だから、こんな奴には構っていられない。俺達は行くんだ、――第三層へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月29日


挿絵イラスト