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喜びたたえよ、新たなる神の仔の再誕を

#アポカリプスヘル #戦後 #偽神

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#アポカリプスヘル
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#戦後
#偽神


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●まどいうつろうもの
 煩い、煩い、煩い――声。

 いつからだろう?
 頭の内側で絶え間なく響き続ける無数の声。
 ひどく勝手で一方的でこの上なく不快なこれら責め苦のことを、
 どうやら『外(ヘル)』では祈りと呼ぶらしい。
 そして。
 新たなる神となった己はこの責め苦を、未来永劫、受け続けなければならないらしい。

「なんだソレ、ふざけるな……!
 黙れ、黙れ、黙れってばっ!!」

 虚ろな偽神の声を聞き届けるものなど『外』の何処にも存在しない。
 かろうじて。
 不意の飢餓から吹き荒れる黒嵐だけが、時に、『内』なる声を掻き消す事もあった。
 だが、結局はそれもまた更なる責め苦の呼び水でしか無かった。
 己から嵐が生まれ消える都度、無数の声はいよいよ大きく煩くなるばかりなのだから。

「……アァそうか。黙らせるなんて簡単だった。嵐を止めなければいい。
 喰らい尽くしてしまえばよかったんだ、ぜんぶ」

 声のすべてを。
 祈りのすべてを。
 『外』に満ちる命のすべてを――いっそ『内』すらも。
 底無しの嵐で喰らってしまえばいいのだ。

 このくそっ喰らえな『世界(ヘル)』のぜんぶを!

●再誕に再殺を
 常とまったく変わらぬ笑顔のままで。さらりとした口ぶりで。
 巳六・荊(枯涙骨・f14646)はアポカリプスヘルについての予知を切り出した。

「うん、あのね。先の戦争、アポカリプス・ランページで倒した『フィールド・オブ・ナイン』の1体……無敵の偽神がもうすぐ復活しちゃいそーなんだよね」

 より正確を期すならば。
 猟兵によって討たれた筈の『フィールド・オブ・ナイン』偽神デミウルゴスそのものが復活を果たすという訳で無い。
 デミウルゴス式偽神細胞を移植されたオブリビオンの内の1体が完全適合を果たし、
 ほどなく新たな『偽神』へと進化する未来が『視』えたという事らしい。
「あの世界はまだまだ各所に碌でもない研究施設が幾つも放置されたっきりで。
 偽神細胞を移植した実験体とかもまだまだウンザリするほど残ってたりするんだけど。
 デミウルゴスの死後を引き継ぐみたいなこのタイミングで、培養槽の中から大アタリが目覚めちゃったんだよねー」
 まるで空いた神の座を埋めようとするかのように現れた『後継』は――『ガブリエル・ラチェット』の名を与えられた生来腹ペコの少年だった。
 オブリビオン・ストームの落とし仔にして『飢えた獣』と『飢えた人』の雑ざりもの。
 其処へ『神』まで混ぜようとした莫迦があの世界には存在し……そしていつの間にか、勝手に滅びていったのだ。
 もしも天の配剤などというものが『ヘル』の名を冠するあの世界にも在るとして。
 新たな偽神の座に『大天使の猟犬(ガブリエルラチェット)』が据えられるなどと、
 まったく大した皮肉ではないか。

「とはいえ今はまだ……う~ん、半覚醒ってトコロかな?
 まーそれでももう既に無敵なんだけどね。
 あともーちょっと『偽神』としての覚醒が進んだらより強大な――ラチェット君の原形なんてカケラも留めないまったく別の存在になっちゃうみたい」
 グリモア猟兵の女から漏れたクスクスという笑い声。
 特段の感情をのせているわけでもない彼女のそれは只のクセのようなもので。
「とりあえず半覚醒状態のうちに叩けるだけ叩いておけば『進化』後もしばらくは不完全な段階に留めておけるハズだから、ガンバって欲しいんだ。ストームブレイドさん以外は死ぬほど苦しませるコトになっちゃうけど……」
 勝利を、祈ってるねと。
 今回の依頼においてはそれこそデキの悪い皮肉にしかならない激励とともにヤドリガミのグリモア猟兵は対・偽神の『戦支度』を開始するのだった。


銀條彦
 『アポカリプスヘル』アメリカ本土・いずこかの都市の地下研究施設へようこそ。

 全2章、ともにボス戦です。

 デミウルゴス戦と同様、ストームブレイドもしくは注射接種によって一時的な「偽神化」処置を受けた猟兵だけが偽神の『無敵』を打ち破りダメージを与える事が出来ます。たとえ「真の姿」であっても例外はありません。
 また偽神細胞の接種は生命に関わるほどの激しい拒絶反応を引き起こす点もまた先の戦争時と同様です。
 当シナリオでは、ストームブレイド以外の参加者の皆様はすべて一時的な「偽神化」完了済として描写させていただきます。

 みなさまのご参加、心よりお待ちしておりますね。
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第1章 ボス戦 『ガブリエル・ラチェット』

POW   :    貪欲
自身の身体部位ひとつを【触れたものを削り取る、変幻自在の闇】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
SPD   :    暴食暴風
【触れたものを削り取る漆黒の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    無限餓狼
自身の【飢餓感】を代償に、【漆黒の嵐の中から現れる黒犬の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【集団での連携を駆使し、鋭い牙】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠八津崎・くくりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

兎乃・零時(サポート)
アドリブ歓迎

夢は、何れ全世界に置いて最強最高の魔術師になる事

例え夢が奪われかけたとしても、消されかけたとしても
彼は血反吐を吐いて立ち上がり、何が何でも事を為す

兎乃零時とは常に諦めず夢へ向けて突き進む存在である


得意魔術は光、水系統の魔術
それ以外の魔術に関しても鋭意特訓中

たとえどれだけの無茶に成ったとしても!
俺様が諦める事は、絶対にないっ!



 真白き地下施設――其の最深部に隠された培養槽を瓦礫に変えながら。
 虚ろな神となった仔の嵐が今、世界に牙剥こうとしている。
 そんな嵐を前に。
「はは……っ! お互い気分は最悪だが抗ってぶっ飛ばすしかねぇもんな」
 猟兵の少年は立ちはだかり、
 煮え滾るように全身を苛む苦痛を、精一杯の空元気で笑い飛ばしてみせた。
 ひび割れた戦場では爆ぜるようにキラキラと水宝玉が振り撒かれ続けている。
 ひどく澄み切ったアクアマリンの正体は熱を喪った、少年の血飛沫。
 混血のクリスタリアンである兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)の、体表から間断なく噴き出し続けている血潮そのものである。
「……邪魔するのなら……お前から喰い殺してやる」
 刹那、お前もまた混ざりものかと言わんばかりに金の双眸を揺らがせた後。
 黒きガブリエル・ラチェットは咆哮する。
「ぜんぶ消え失せろ……っ!!」
 掲げられた少年の片腕はみるみると真闇と化して膨れ上がり、
 眼に映るすべてを呑み干さんと零時へ襲い掛かる。
 新たなる無敵の偽神――だが零時は既に識っている。完成されてしまった其れを。
 かつて超克を以って抗した偽神と同質の、だがいまだ未完成な荒ぶる力に対して、
 此度の零時が択んだ制御手段は、カクリヨで得た『メモリ』であった。
「行くぜ! 『宝人(クリスタニアン)』! そして『動物(ビースト)』!!」
 高らかに叫ぶ零時。
 牙には牙を――新し親分から彼に作り与えられた無二の『虞知らず』によって今ここに【宝石獣人(クリスタルビースト)】が解き放たれる。
 宝石獣薬に依らぬ獣化と宝石率の改竄が『メモリ』を介して実行されたが、激痛を伴う拒絶反応自体は消えず零時の呼吸も激しく乱れたまま……それでも。

「この俺様がいずれ全世界最強最高の魔術師となる、その前に!
 世界の方を先に消され奪われるわけにはいかないからなっ!!」

 まっすぐと夢に突き進む混成獣(ビースト)の脚は決して止まらない。屈しない。
 狗を思わせるガブリエルの俊敏を獣の因子取り込んだ零時の軽快が翻弄する。
 荒れ狂う黒風に対して煌き放つ藍玉の獣は絶えず変幻を繰り返し、鬩ぎ合い、
 そして遂に。
 真闇を突き抜けた光条が喉元へと喰らいつく。
 『無敵』狩る宝石獣の牙からは鮮血がとめどなく滴り落ちて……。
 自らの流す紅に塗れながらガブリエル・ラチェットは微かに惑うた。
 ――嗚呼、今一瞬たしかに『声』が途切れたと。

成功 🔵​🔵​🔴​

曽我部・律(サポート)
『この力を得たことは後悔していない……』
『私以外の人間が不幸になるところを見過ごすことはできないんでね』
『こういうのには疎いんだが……ふむ、こんな感じか?』
とある事件で妻子を失い、その復讐の為にUDC研究を続けているUDCエージェントです。ですが、UDCを強引に肉体に融合させた副作用として徐々に生来の人格は失われつつあり、妻子の記憶も彼らの写真によって辛うじて繋ぎ止めています。
多重人格者としての別人格『絶』は凶悪なオブリビオンの存在を察知すると、律に代わって表に出てきて戦います。その際、口調は『おい律……うまそうな匂いがするじゃねぇか。代われよ』みたいな凶悪な感じになります。



 曽我部・律(UDC喰いの多重人格者・f11298)はUDCエージェントである。
 猟兵となった今も内なる『異物』の存在を除けば彼自身殆ど常人と変わりは無く、
 ベテラン研究員として支援の辣腕を揮うことがもっぱら。
 そんな彼が、UDCエージェントとしての経験も伝手も通用せぬこの異世界にまで赴き戦いを……偽神細胞という新たな異物を……自ら望んで受け入れた、其の理由を。
「私以外の人間が不幸になるところを見過ごすことはできないんでね」
 平凡を手放さぬ『埒外』は、事も無げ、薄く笑いながらそう口にするのだった。

「煩い、煩い、煩い――あぁまた猟兵かっ!?」
「安心するがいい偽神。私の祈りなどとうに涸れているのでね……」

 痩せっぽっちな胎に募る飢餓感を代償に、無尽蔵とも思える狗の大群がぐるると唸りを上げながら青年ひとりを取り囲む。
(どれほど呪わしくとも厭われようとも、復讐の為。私は後悔しない)
 望まぬ『無敵』の力に翻弄される落とし仔。
 強大なオブリビオンであるとはいえ……あいつの好みからは外れるかもとの律の懸念はまったくの杞憂で。
「ふん、俺が喰いたいのはコレじゃねぇ。コレは所詮『殻』に過ぎねーからな」

 影遣うユーベルコードを呼び水に無意識(エス)より這い出した――絶という別人格。

「なぁお前。いつまでそうやって愚図愚図してやがるんだ?
 ――お前だよ『金色』の糞餓鬼。
 ハハッ、そんなに美味そうな匂いばかりこれみよがし撒き散らしやがって!」
「お前、一体何を……」
 偽神として少年はいまだ半覚醒。
 そんな彼が怪訝そうに顔を顰めるさまを、ゲラゲラと、見下すように絶は嘲笑う。
 黙れと偽神が叫んだと同時、纏う嵐から飛び出したのは更なる黒犬の群れ。
 目障りな猟兵に喰らいつこうと迫る黒の疾風は、だがしかし、割り込んだ『影』に一蹴され半ば崩れ落ちた壁へ残らず叩きつけられた。

 ……肉体を共有したままその意識下にと沈む己にさえ全く理解できていないのだから、ガブリエル・ラチェットの困惑は無理も無いと律はぼんやり思考する。
 眼前の敵は瞳の色こそ金だが纏う色はどこから見ても圧倒的なまでの黒一色。
 絶が一体なにを言っているのか――律以上に体内の寄生UDCを自然体で使役する彼の眼には『何』が映っているのかと問い掛け続けても無視されるばかりで。
「今すぐ殺してやるから、さっさと産まれ直して出てこいよ『金色』!
 隅から髄までお前の全部この俺がしゃぶり尽くしてやるからさぁ……っ!!」
 もはや全身を引き裂くかのような拒絶反応すらも忘れてしまったかのように闘い続ける絶の歓喜が律にまで伝わってくる。
 そして。
 いよいよ混濁深まる意識の中で、律もまた、絶が視たものを垣間見ることとなる。
(――黄金の……『神』の仔……?
 そうか……絶……お前が餌にと望んだのは、あれ、か……)

 やがて喪われる『大天使の猟犬(ガブリエルラチェット)』、
 其の奥深くでゆっくりと目覚めようとしつつある――黄金色の奈落のすがたを。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
偽神細胞というものの投与後からなんだか身体が熱っぽい…か?
戦闘に支障をきたすことはないようだ。むぅ。少々不快だな。
露は…普段と大差ないのか。なんだか負けた気がするのは何故だ。
「…納得が…いかん…」

露は普段と大差ないからこの子を軸として戦うしかない。
パフォーマンスを上昇した上で全力魔法の範囲攻撃を高速で詠唱。
属性魔法と貫通攻撃に鎧防御無視を加えた【凍結の矢】を放つ。
限界突破をして矢の本数を現状で可能な限り水増ししよう。
露には直接攻撃は危険だな。中距離攻撃を中心に攻めて貰おうか。
「…むぅ…」
微熱の所為か身体のキレが悪い。回避攻撃をするのにしんどい。
見切りと野生の勘に第六感を駆使して回避を試みる。…辛いな。
今の状態では囮をすると露に迷惑がかかるだろうからしない。

…休憩に異論はない。体力が普段よりも削られているようだ。
しかし。しかし…何故私が君の膝に乗り抱きしめられている?
…今日は普段よりも暑苦しい。これは休憩にならないのだが…。
「…抱き着くのは、今回はやめてくれ…本気で…」


神坂・露
レーちゃん(f14377)
注射ってゆーのを打つって凄く面白い体験したわ。
拒否反応ってあるみたいだけど…うん。大丈夫みたい♪
レーちゃんは…あれ?なんだか調子悪そう?大丈夫?
元気出るように抱きしめてみたけどダメみたいね。
そして何が納得いかないんだろ?抱きしめるの足りない?

戦闘はあたしが前面に出て戦う…え?危ないから中間で?
えへへ♪あたしのこと心配してくれてて嬉しいわ~♪
だったら遠距離になっちゃうけど【蒼光『月雫』】を使うわね。
全力魔法の範囲攻撃に重量攻撃と継続ダメージをつけちゃうわ♪
そうそう数を増やさなくちゃだから限界突破とリミッター解除を。
レーちゃんの魔法と同時もいいかも!

回避は相手をよく見つつ見切りに野生の勘と第六感でするわ。
あと調子が悪そうなレーちゃんが心配だから気をまわそうかしら。
元気なあたしが囮になるってゆーのもよさそうよね。うん♪
レーちゃんのところへは絶っ対にいかせないんだから!

戦いが終わったら十五分くらいレーちゃんに休んでもらうわ。
だってだって。レーちゃん辛そうなんだもの。



 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)には、どうしても、納得が出来なかった。

「注射ってゆーのを打つって凄く面白い体験したわ」
 ストームブレイドならざる神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)もまたシビラとともに偽神細胞の接種を受け入れ、新たな神を止めるべく戦場へと赴いた。
 ニコニコとどんな時だってのほほんと朗らかなのは露という少女の常ではあったがチクリと偽神化した後であろうと変わりは無い様子であった。
「拒否反応ってあるみたいだけど……うん。大丈夫みたい♪」
 何故って露はヤドリガミなのだから。
 個人差……個神差はあるのだろうが、少なくともこの長い銀髪の少女の肉体の内にどれほど激しい痛みが渦巻こうとも本体の『石』にとっては端末の不調程度であるらしい。
 理屈上はまあ確かにそれで説明はつくのである――のだが。
「レーちゃんは……あれ? なんだか調子悪そう? 大丈夫?」
「……むぅ……」
 大丈夫だと答えたい己の意思に反して煮え滾るような感覚にふわとふらつく己の足元。
 白磁を思わせるシビラの頬はそれでも無表情を保っていたが……正直のたうち回りたくなるような苦痛をかろうじて意志というか意地一つで堪えている有り様なのである。
「だったらこれで元気を出して♪」
 故に、ここぞとばかりに抱きついてくる露をまったく振りほどけない。
 それどころか、彼女の胸に体を預ける事で若干たしかに辛さが緩和しているような気分すらしてくるのだから。嗚呼つくづく今の己のなんと不甲斐無いことか。
「……納得が……いかん……」
「これでもダメみたいね~って何が? 抱きしめるの足りてない?」
 謎の敗北感を禁じえないシビラだったが、それでも、討つべき敵との戦いに思考を切り替える。

「今度はつがいか。だったらふたり纏めて喰らい尽くしてやろう」
「……!! ねえねえあの子、根はとってもいい子なのかも。
 レーちゃんとあたしが仲良しでらぶらぶだって一目で見抜かれちゃったわv」
 挑発どころかつがい呼ばわりを祝福にすら受け取ってはしゃぐ露に対して黙れと飛んだシビラとガブリエル・ラチェットの声はほぼ同時。
 既に傷負うガブリエル・ラチェットであったが世界への殺意は衰えず嵐は止まない。
 自らの無敵打ち破るため自らを偽神と変えた猟兵達を迎え討つべく、吹き荒れる黒風は遠吠えるユーベルコードと化して獰猛なる獣群を呼び起こす。
「露、どうやらいつものままの君を主軸として戦う外無いようだ。
 だが決して単騎で突っ込むな、充分に距離を保ち続けるんだ」
「えへへ♪ レーちゃんがあたしのこと心配してくれてて嬉しいわ~♪」
 正面切って突撃しながら斬り結ぶつもりでいた露だが素直に指示に従った。
 清浄なる蒼き輝きを発する露は、いつしか、鋭く凍て冴える無数の棘にと包まれて。
「闇に散れ~♪」
 少女の一声と共にばら撒かれた無数の水晶棘。
 月光想わせる儚き煌きに穿たれた黒犬達は鈍い衝撃と共に肉打ち砕かれ四散する。
 美しくも複雑な軌跡描いて飛翔する露の『雫』の一刺し一刺しには恐るべき重量兵器として性質が与えられているのだ。

 襲い掛かる黒犬の挙動を見切り、その牙を最低限の動きのみで躱し……。
 並外れた回避反応を発揮し続けたシビラだったが、そのどれもが彼女にとっては本来の調子からは程遠い騙し騙しで、綱渡りの繰り返し。
(……辛い……やはり身体のキレが悪い。いつもであれば逆利用して囮役の一つも買って出る処なのだが。今はかえって、露の足を引っ張りかねないだろうな)
 上気した肌に纏わりつく汗すら重く厭わしく。
 それでも、ダンピールの少女は悠然と戦場に立ち続けた。
 莫大な魔力は幾多もの氷矢にと変わり、あらゆる物理防御を無視する弾幕と化して戦場を凍気で覆う。
 己が心身へと着実に蓄積されゆく過負荷とその影響についてを冷静に診立てながら……繊細かつ豪快に己が限界を無視しながらの魔力行使を繰り返したシビラは遂には超克の域にまで没入し、無限餓狼の牙を寄せ付けない。
 そして、そんな少女偽神を心配し続けるもうひとりの少女偽神もまた。
「さあ、黒犬さんたち~! 今すぐわたしを止めに来ないとユーベルコードのありったけをあの子めがけてぶっつけるわ~」
 ビシッとガブリエル・ラチェットを指さしながら言い放った露。
 体調差を見越した上で、依然として元気な露が囮役を引き受けるつもりなのだろう。
 意図があまりにもミエミエではあるが……無限に湧き出す大群を放置し出所だけを叩くという戦法それ自体は、実際、最適解に近いのだから敵側も捨て置く事は出来ない。
 かくして――露へと殺到を始めた黒き獣津波。
 狙いどおりに其れを引き起こせた事を喜びながら少女の姿はふんわりと霞んで――否。
 とある盗賊のお頭譲りの隠身に残像を重ねて、するりするり、勘が頼りの軽やかな連続跳躍で無数の牙から逃れた露は群れの中心へ……其処に存在した有り得ぬ僅かな死角へと自らを滑り込ませていたのだ。
 少女がすかさず餓犬の群れへと奔らせた千の幾何学紋様(アラベスク)は蒼白き水晶棘の森となって拡がり、余さず敵を絡め取ってゆく。

「くっ……何故だっ! 何故そこまでして戦おうとする!?」
 此の『世界(ヘル)』へと生まれ落ちてよりずっと決して消える事の無かった獣にして人たる仔としての飢餓感。
 其の漆黒は偽神の力を取り込む事で世界すら呑み干したって尽きぬ底無しとさえ思えたのに……それらぜんぶを洗いざらい吐き出して吹き荒れさせてそれでも、なお。
「レーちゃんのところへは絶っ対にいかせないんだから!」
 それでもなお、たったふたり。
 支え補い合う、ちっぽけな銀の少女らの抗いすら打ち倒すに至れない。
「……世界すべてより重い、とでも?」
 少年のそんな小さな呟きを耳にしたシビラは、さすがにそれは買い被り過ぎだと嘆息を漏らしながら。
 ここまで幾度も限界超えた彼女は既に最後の大技へと踏み切らんとしており――促すは白銀の視線、頷いたのは白金の眼差し。重ねられた詠唱。

「Posibilitatea de a îngheța blocanții――氷結の矢(グラキエス・アロー)よ」
「レーちゃんの魔法といっしょに……蒼光『月雫』!」

 絶対の冷気放つ魔氷と蒼き月光湛えた水晶。
 完全に同一のタイミングで発動した双つのユーベルコードの猛威は偽神の嵐もろともに全ての黒犬を駆逐し、遂に、無限餓狼を終焉せしめたのだ。
「バカなっ!?」
 だが大技の代償もまた大きい。
 拒絶反応に苛まれながら極限まで魔力振り絞ったシビラは勿論、シビラをフォローする為に絶えず奔走し続け全力魔法すら連発した露の疲労もまた激しかった。
 そして――。

「二人とも一旦退がるんだ。後は、俺に任せてくれ……」

 転移で駆けつけた青年もまた超克せし猟兵。
 ならばと彼に後を託して退避したシビラと露は離れた別室で小休止を取る事となった。
 彼女達にとってはグリモアベースへの帰還が掛からぬ範囲のダメージ、
 それで充分に再戦は可能だろう。
「……休憩に異論はない。しかし……」
「レーちゃん辛そうなんだもの」
「だから何故それと私が君の膝に乗り抱きしめられていることとが関係あるんだ?」
「だってだって~」
 とにかく熱くて暑くて、暑苦しい。普段よりもずっと。
 べったり離れようとはしない露もまた自覚していないだけで偽神細胞による発熱自体は起こっているのだ。
「……抱き着くのは、今回はやめてくれ……本気で……」
 果たしてこれは本当に休憩になるのかとの疑問を過ぎらせながら、
 シビラはか細く懇願するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴久名・紡
『神』と種の名称にあっても
この世界の神性ではないから
『偽神』になるしかないな

生きたいと望むから、受け止められるし受け入れられる

当人の望みも尊厳も無視した挙げ句の暴走
そうせねば居られぬほどの苦痛
全て此処で終わらせよう

元よりもつ神性と取り入れた偽神の神性が体内で諍う反動か
ここから先はもう、声をあげれば痛みを訴えるしか出来なさそうで
口を開くのも恐ろしい

戦闘が終わるまで持つよう、気休めでも構わない
使える能力は、全て使う
覚悟を持って……激痛耐性、狂気耐性で拒絶反応に対処

かりそめの記録を使用
攻撃には常時生命力吸収を乗せていく

葬焔と禮火を弓矢に変えて敵を穿つ
当たりさえすればいいが掠りもしないのは困る
念動力で矢を確実に誘導

二撃目は禮火の氷結能力も解放して
癖やタイミングを読みつつ、機動力を奪うために下肢を攻撃
無論、部位破壊も乗せていく

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぐ

あと少しでそれは消える
あと少しで……終わらせてやる

痛みに叫び出しそうだとしても
それくらいの言葉は掛けてやれる



 疲耗激しい味方の一時離脱を支援し戦場を引き継いだ鈴久名・紡(境界・f27962)。
 後ろ姿を見送りそして振り返れば、ここまでの交戦を経て偽神ガブリエル・ラチェットの傷もまた深く……そして。
 ひとたび彼の嵐が止んだ後には……よりいっそう大きなうねりを伴いながら、
 また再び、彼の脳裡にと押し寄せ始める祈りの声。

「アアアァ……またか! またなのか!? 煩い! 煩い! 煩いッ!!」

 何かを振り払うかの如く激しく頭を振り、掻き毟りながら苦悶する少年の姿を前に、
 紡は重い息を吐く。
(当人の望みも尊厳も無視した挙げ句の暴走……そうせねば、居られぬほどの苦痛、か)
 其れらもまた人々が『神』の実在を――救いを求めるが故か。
 此の『世界(ヘル)』において繰り返される痛ましくも虚ろな循環(サイクル)は、
 ひととき偽神細胞を取り込んだばかりの紡に対してすら牙剥こうとしていた。

 ――タスケテ……。
 ――ユルシテ……。
 ――ドウシテ……嗚呼カミサマ、裁キヲ!

 とめどなく降り注ぐ無数の『声』はいっそ呪詛であってくれた方がどれだけマシだったかとすら思える程に、痛切に満ちた祈りの数々。其の一端へと繋がって。
(――ッ……此れが……望まぬ神の座に縛りつけられた者の景色)
 紡とて竜神という『神』には属するがカクリヨファンタズムとかつてのUDCアースにおいてのもの。今降り立ったアポカリプスヘルに於ける権能などもとより備わらないし、欲しいとも思えない。
 にもかかわらず。
 また新たに『世界(ヘル)』へ兆した『神』へと群がり縋らんとする声、声、声。
 他方、紡の内に脈打つ竜神の血……生来持ち合わせる神性にとって偽神細胞の侵蝕など排除すべき邪なる因子でしか無い。
 彼の体内で熾る正邪ふたつの『神』の鬩ぎ合いが齎す苦痛の激しさたるや、
 戦いにと臨んだ紡の強き意思や耐性をもってしても全身は叫びを上げ続けるばかりで。
 コンディションは最悪だった。
(戦闘が終わるまで持ってくれればそれでいい……)
 もはや呻き声一つ発することにすら呼吸が乱れて困難という有り様という中で……それでも彼が『無敵』の神の力を受け止め受け入れられているのは。闘えるのは。
 他でもない彼自身が強く望んでいるからだ。
 ――只、生きたいと。

「俺の嵐はッ……止まない! ぜんぶ壊して! 消して! 喰らい尽くすまでっ!!!」
 対峙する蒼き竜と黒き獣。無敵の偽神ふたり。
 逆巻いた嵐が振り撒く見境ない暴食の前に、ひび割れた施設は遂に崩壊を開始する。
 オブリビオンの少年自身すら無傷ではいられないそれはまるで自壊衝動そのものだ。
(全て此処で終わらせよう)
 刹那、水縹の瞳に哀憫の念を滲ませながら。
 鼻先にまで迫った黒嵐の直撃から逃れ得た紡は残像だけを残しての跳躍。
 崩壊する地下から一瞬で地上へと舞い現れた青年の上に、眩き蒼穹が広がる。
 構えられた『葬焔』は大弓と化し、
 鳴り響かせた弦打の音と共に『禮火』もまた矢と為して。
 狙い定められた紡の一射は少年の頬を掠めた。
 散らした生の一片が紡の内へと流れ込み、僅かながら活力を補ってくれる。
「だまれふざけるなだれもかれも俺をすくいにはきてくれなかったクセにッ!!」
 雑ざり交ざり混ざり尽くした其の仔から『世界(ヘル)』へと向けた叫びは、紡の耳にはまるで助け乞う悲鳴そのもので。
 無敵を止められるのは無敵だけ――だから。
「……あと少しで……『それ』は、消える……」
 もう、いいのだと。
 遠き外つ世界からの偽神(カミサマ)から絞り出された声は、まるで、泣く児をあやすみたいに穏やかで。
 続けざまに、二射。
 淀みない動作は一の矢の記憶を基により完璧に最適化され矢たる『禮火』が真っ直ぐと射掛けられた。
 迸る冷気には無敵すら滅ぼす偽神の暴と魂救わんとする竜神の威。
 その双つともが同時に篭められて――。

「ガァ……ア……ッ!!!」
「あと少しで……終わらせてやる」

 触れるすべて貪る暴風を以ってすらも食い尽くせなかった超克の矢が貫き穿つ。
 漆黒の嵐を。
 獣の仔の片脚を。
 そして――少年を『偽神』にと縛り付ける虚ろな神の座そのものを。
「覚えておくよ。たとえ、其れが、かりそめだとしても」
 一声発する都度に激痛が見舞えども、
 それでも、紡は語りかける事をやめようとはしない。
(アァ……救ってくれるなにものかが俺にだって居たんだ……)
 黒き嵐はすっかりと止んで、
 霞みぼやける視界を占めるのは青き晴天と双眸。
 敵である猟兵を追って疾駆したオブリビオンの少年の体もまた今や地上にと在る。
 今や乾いた大地の上で横たわるばかりの痩せたガブリエル・ラチェットの体を、
 紡がそっと抱き起こそうとして。
「……ろ……」
「どうした? 何か言い遺したい事があれば――」
「……逃げ、ろ――離れるんだ今すぐ『俺』からッ!!!!」
「!!」

 餓えて、まどい、うつろうばかりの生を強いられながらも、
 最期の最後には満たされた少年――ガブリエル・ラチェットという存在は『偽神』にと呑まれ完全に喪われた。

 真なる『偽神』再誕のはじまり――『世界(ヘル)』の敵たる底無しの渇きが、
 今、此の地で目覚め解き放たれようとしている……。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『底無しの渇き『デザートボディ』』

POW   :    グレイハンド
【肌から生命力を吸収する身体と強化した怪力】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    ウィザーレッグ
【強力な脚力】による素早い一撃を放つ。また、【吸収し、蓄えた生命力を消費する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    ウェイストランド
【効果範囲を拡大した生命力吸収能力】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠イレブンサーティ・ナンバリングボディです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 歓喜せよ。『神』として造られし仔の顕現を。
 讃美せよ。祈りのすべてを赦しそして裁く、底無しの『力』の結実を。

「――ようやく、だ。僕に祈りを捧げた人々よ。待たせてしまったね……」

 吹き抜けた風に靡かせた髪も瞬いた双眸も豪奢たる黄金。
 薔薇色の花唇にと湛えられた其の微笑はまるで夢のような愛らしさ。
 少年の体からさらに若返った未成熟な肢体はあまねく甘き薄桃にと色づいて。
 『みすぼらしい仔アヒルは、実は、美しい白鳥だったのです』なんて、まるでおとぎ話のラストシーンみたいな光景も此の『世界(ヘル)』にとっては悪夢の幕開け。

「……それにしてもあの犬っころにはガッカリだよ。
 もっともっと、渇望の力膨らませた果てに贄として僕の一部となる筈だったのに。
 どうしてだか、君たち猟兵との戦いの中ですっかりと痩せ腹を満たし切ってしまった」
 憂い漂わせながら顰められた其の眉宇はいとけなく、
 かくも明るく無邪気に、少年は毒を吐く。
「フフフ……僕を呼ぶ祈りの声がまた聞こえる……。
 本当にこの『世界(ヘル)』は素敵だよねぇ――だって、『餌』達がわざわざ居場所を教えてくれる! 嗚呼、今すぐにだって駆けつけてあげたい! だから――」
 蒼穹の下、広がる荒野。
 黒き襤褸布のみをふわりと羽織る他は、一糸纏わぬ少年の裸体は穢れを知らぬ蕾であると同時に何処までも甘美な奈落そのもので……。

「……このまま僕の邪魔をしないでくれるなら、楽に死なせてあげるよ猟兵」

 今此処に産み直された『偽神』は微笑みとともに『世界(ヘル)』を抱擁する。
 ――何もかもを吸い尽くして、涸らせて、終わらせる為に。
シホ・エーデルワイス(サポート)
助太刀します!


人柄

普段は物静かで儚げな雰囲気ですが
戦闘時は仲間が活躍しやすい様
積極的に支援します


心情

仲間と力を合わせる事で
どんな困難にも乗り越えられると信じています


基本行動

味方や救助対象が危険に晒されたら身の危険を顧みず庇い
疲労を気にせず治療します

一見自殺行為に見える事もあるかもしれませんが
誰も悲しませたくないと思っており
UCや技能を駆使して生き残ろうとします

またUC【贖罪】により楽には死ねません

ですが
心配させない様
苦しくても明るく振る舞います


戦闘

味方がいれば回復と支援に専念します
攻撃は主に聖銃二丁を使用


戦後
オブリビオンに憎悪等は感じず
悪逆非道な敵でも倒したら
命を頂いた事に弔いの祈りを捧げます



 荒野に咲いた高貴なるエーデルワイスはまるで弔い花。
 ――どうか、安らかな眠りをと。

 白銀の髪が、儚げに、風にと靡いて揺らめいて。
 偽神の座から解放された『大天使の猟犬』の少年へ、
 天使(オラトリオ)の乙女はロザリオに祈りを捧げる。

「今度のガブリエルさんの飢餓は……最期に癒やされたのですね……」

 たとえオブリビオンであろうとも、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は心から万民を慈しみそして死を悼む。
 彼女もまた偽神細胞を己が身の内へと受け入れており……其の聖血すらも侵さんと巡り走り続ける激痛は常人であれば絶命に到るであろう拒絶反応は強まる一方であった。
 透き通る様に美しかった少女の白皙はすっかりと血の気を失って。
 それでも。
 ――『助けたい』という衝動こそがシホを戦場へと突き動かしてゆく。

「彼について、私たちへ伝えて下さったことについては感謝いたしましょう。
 ……ですが、多くの生命がただ貪られてしまうと解っている以上、
 このまま行かせる訳には参りません」
「フフ、なぁんだ! 猟兵の中にも僕の信者が居たのかと一瞬期待したのにね。
 ま、どうせ順番が多少変わるだけで結果はおんなじなんだけど」
 蒼穹の下に響いた少年の笑い声は明るくどこまでも無邪気なままで。
 だが幼き金の双眸には、深く昏き、底無しの渇望が渦巻いている。

「お姉さんは特に美味しそうだから念入りに味わってあげる」

 急速に膨れ上がったユーベルコードの領域は少年から『世界(ヘル)』への抱擁。
 あるいは、見境い無く全てを枯らして涸らす暴食のはじまりであった。
 輝かしき黄金光は、されど豊穣繁殖とは真逆。
 命全てを呑み干さんと欲する奈落は荒野の灼熱を帯びながら遂にはシホの上にまで押し寄せ、純白の羽先へと降り注ぐ――寸前。

「――其は冷厳なるエーデルワイスの勇姿達! 出でよ!」

 凛と響き渡った召喚詠唱に応え、
 神速たる瞬間移動で割って入ったのはいずれ勇壮たる大楯の騎士達の守霊。
 かつてはシホも所属したという薄雪色の花の守護騎士団は、
 他者の命救う戦いこそが真骨頂であったと云う。

「亡霊とも少し違うみたいだけど……全然美味しくない上にキリが無い。
 寝起きの食餌に捩じ込まれたのがいきなりこれって最悪だと思わない?」
 戯けた仕草でぺろりと赤い舌を覗かせた『デザートボディ』。
 少年偽神の恐るべき生命吸収は亡き者の身すら啜って乾涸び散らせたが、
 それでも尚、ゆうに千を超える軍勢に包囲された彼はその場に釘づけとなっていた。
「皆さん、今のうちに!」
 シホ率いるエーデルワイスの騎士団による治癒魔法と挺身は他の猟兵達にとって格好の援護となり、万全の態勢を整えた仲間達はみな次々に出撃を開始する。

 ――頼もしき背中を見送る蒼瞳が、ふと、何処か哀しげに伏せられて。
 黒衣のドレス越し、シホの指先は胸元の聖痕へそっと重ねられる。
「楽に死なせてあげる……彼はそうおっしゃっていましたね。
 けれど――たとえ神の仔であろうと私の【贖罪】終わらぬ限りきっと叶わぬこと……」
 天使の呟きは、誰の耳にも届かぬほどに微かでごく小さく。
 激しさを増す戦場の内にと掻き消えるばかり……。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
今回は調子が悪い。攻防両方を最小限の動きで済むようにする。
パフォーマンスで身体を整えられる範囲まで調子を整え準備。
次に封印を解き限界突破つきの全力魔法を高速詠唱で行使。
範囲攻撃と属性攻撃に鎧防護無視を付与し【凍てつく波動】を。

少年の攻撃を回避する方法は第六感と野生の勘で行う。
彼との間合いは十分に注意して気を払っておこうと思う。
見切りは現状の私では少しだけ困難な気がする。やれやれ…。

相手の少年の動きを多少なりとも鈍くできれば上々だろう。
恐らく主力になっている露の動きの助けにもなるはずだ。
それに私事ですまないが…。
外気温が低くなれば私の身体の熱も少しは緩和されると思いたい。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
え?何かマズイ気がするからあまり近づかないで戦うのね。
うん!じゃあじゃああたしも同じようにして戦うわ!
【赦光『赫月』】で離れたところから斬ろうと思うわ♪

リミッター解除してから剣技の為に多重詠唱を開始するわ。
放つ前に限界突破。重量攻撃と継続ダメージもセットで斬る♪
一撃目を回避されたら早業と2回攻撃で即座に迎撃するわよ。
回避は見切りに野生の勘と第六感で避けてみせるわ~。
レーちゃん狙われても同じね。

レーちゃんは嫌がるけどむぎゅーって抱き着こうと思うわ。
あたしの本体はムーンストーン。浄化と調和と癒しの石よ♪
だったらレーちゃんの苦しみとか少しでも緩和できるはず!
「レーちゃん♥」



 寄り添うふたりの白銀へ射し込んだのは陽光と、
 ――戦闘再開を告げる地上からの震動。

「レーちゃん、そんなに動いてだいじょうぶ?」
「……正直なところ十全とは言い難いが。
 偽神細胞を接種すると決めた時点で分かり切っていた事だからな」

 依然として偽神細胞が引き起こす拒絶反応に苦しむシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の体をその横で労わり続ける神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。
 労わるというか……労わるを口実に隙あらば抱き着こうとしては極めてクールかつ迅速に引っぺがされている。割といつもの光景、ではあるのだが。
 一連の動作におけるキレの無さを当人らは共に感じ取ってはいたが、他猟兵からの支援にも恵まれて先の戦いで負った疲労はほぼ全快したと判断。
 完全崩落が始まった地下研究施設からの離脱もつつがなく。
 幼き少女達はひた走る。
 金色纏う偽神への覚醒遂げたオブリビオンを討つ為に。

「嗚呼そっかぁ。活きが良い剣のお姉さんのそのカラダ、本体じゃないんだね。
 だったら僕は……そっちの君がいいなぁ。
 いろいろと隠し味も効いててとっても美味しそうだ」
 対峙するなり外見はほぼ同じ年頃の少年偽神からシビラへ突きつけられた、
 不躾な『いただきます』宣言。
「レーちゃんは絶っ対に渡さないんだから~」
 VS赤き短剣を握り構えたまますっかりと燃え上がる露。
 彼女が口にした台詞内容そのものは先のガブリエル・ラチェット戦とほぼ変わらない筈なのに何故だかほんのり恋のさやあて的トライアングルの様相を呈し始めている。
 一方、シビラ本人はといえば完全スルー。
 特に意に介する無く気配も無くさっさと戦闘態勢に入っていた。
「黒から金へ、か。随分な様変わりだが、迂闊な接近が禁物な点は変わらないようだ」
 むろん、その危険度は遥かに増大しているのだがと抑揚なく言い添えられて。
「え? 何かマズイ気がするから今度もあまり近づかないようにして戦うのね。うん!
 じゃあじゃああたしもそうするわ~!」
 露のこの飲み込みの早さこそが、シビラの並外れた怜悧さをより実戦へ適応させる。
 大きく跳び退きながら長距離射程の間合いを測るふたりへ追い縋るように膨張し続けるユーベルコード【ウェイストランド】の波。
 神の仔たる『デザートボディ』は偽神としての覚醒を進めた事で箍が外されたらしく、その生命吸収の効果範囲にもはや限界は見えず……この荒野一帯を完全に風化させ尽くすのもいずれ時間の問題と思われた――しかし。
「やれやれ……」
「るおぉ~ん♪ あたしの中のリミッターは全部外してがんばるわ~」
 ――その強大さに反して拡大速度自体はやや遅々とした印象で、シビラと露はそれぞれ射程外への回避に成功し既に詠唱へと入っている。
 おそらく、彼の前身との戦いにおいて彼女達猟兵が与えた深きダメージの数々がいまだ大きな悪影響を与えているのだろう。

「Dormi liniștit……」

 先にユーベルコードの口火を切ったのはシビラ。
 解錠された旧き魔道書を携えて彼女もまた全魔力を解き放ち……淀み無き高速詠唱から放たれた絶対零度の停滞がゆっくりと着実に渇きの波を押しとどめてゆく。
 偽神の少年はと眼を凝らせば、纏う襤褸布を翻しながら佇み、そして微笑んだまま。
 シビラが浴びせた【凍てつく波動(アブソリュート・ゼロ)】の傷も、大地の活力さえ吸い上げる底無しの渇きによって瞬時に消去されてしまう。
(……だが……奴の動きは多少なりと鈍らせたし再生力も抑制できている。
 これならば――)
 自らの鼓動がまるで早鐘のように煩く、発熱も悪化するばかり。
 大気に漲らせた凍気だけが僅かに熱を和らげてくれたがそれも焼け石に水だった。
 それでも、要として此の戦いを預けた露の援護となればそれでよいと割り切った上で。
 顔色一つ変えずに、彼女は自らを冷静に使い潰そうとしていた。

 轟く咆哮は紅く赫き炎となって。
 ――露の剣が奔らせた軌跡は【赦光『赫月』(シャコウ・カクゲツ)】。
「フフ、こんなもの…………、っ!?」
 渾身と思われた紅の衝撃波を余裕で躱した筈の少年を襲ったのは、返す刀で振るわれたグランドリオンからの赫き弐の太刀。
 迸る紅は劫火にして鮮血。
 幼く白き肌を遂に刻んだ赫傷からは癒しを許さぬ猛炎が噴き上がる。
 そして限界超える一撃を放った直後、ヤドリガミの少女はダンピールの少女のもとへと脇目も振らず駆け寄った。 ――力いっぱいに抱き締める為だった。
「……露?」
「レーちゃん、あのね。あたしの本体はムーンストーン。浄化と調和と癒しの石よ♪」
 勘の鋭い露は何とはない直感から結果としてシビラの思惑を見抜いて先回りする。
 先と変わらず暑苦しいままな筈の腕の中。
 偽神細胞とは全く異なる温かな何かが新たに血潮を駆け巡り、少しずつ、動悸は和らぎ苦痛が引いてゆく感覚にシビラは包まれていった。
「レーちゃん♥」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎

アイツが居たからお前がこうして出てきたんだろ
…がっかりするのは、ちげぇだろ

いいや行かせねぇ
何より死ぬ気は一切ねぇ
俺様は夢をかなえる迄、何が何でも死ぬ気はねぇ
お前に好きかってもさせねぇ!
覚悟しろよ、偽神
お前を此処で、ぶっ飛ばすッ!

オーバーロード
UC起動

力を奪われ続けるのは不味い
なら、短期に一気にぶっ潰す!
空に浮かび空中浮遊×空中戦
瞬間思考力底上げし
『杖』や『手足の外装』用いて魔術多重起動
攻撃全てに偽神属性の付与
空中の振れた部位、空気含めて結晶に変える結晶術式
光や水、自然の攻撃術式で途切れる事無く撃ち続ける!
味方巻き込まぬ様に弾幕一斉発射
自身に強化術式重ね掛けして残像すら見えねぇぐらい加速!
弾幕自体も陽動に一気にテメェに突っ込む!

覚悟を決め一気に零距離まで迫り
外装拳を倒しきるまで連打!
拳自体に術式を展開してるから
殴る程に結晶に変えそれを砕き、其れの繰り返し

喰えるもんなら喰ってみろよ
幾らでも喰わせてやるからよぉ!!
砕け散れッ!!

オーバーロードデットエンド
神輝宝煌・死撃ッ!!



 ――この『世界(ヘル)』へ『神』が顕現を果たそうとしている。

「アイツが居たからお前がこうして出てきたんだろ」
 まるで涙のように、魔術師の少年の双眸から零れ続ける雫は光湛えた水色藍玉。
 先迄から一転、今の兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)の口調は酷く穏やかで。けれど其れは嵐の前の静けさに過ぎず……。
「……がっかりするのは、ちげぇだろ」
「アイツ――ああ、あの犬のこと?」
 そんな事など露知らず。
 語り掛けられた幼き偽神はといえば、心底不思議そうに小首を傾げるばかり。
「なにか気に障ったかい?
 そうはいったって、この世界すべては『神』となった僕のモノ。
 僕の渇きを潤してくれることだけが存在理由なのに、最初の贄であるあの犬はその役目すら果たせなかった負け犬なんだもの」
 黄金の偽神は彼にとっての当たり前を零時へと説いてみせた。
 己が今、眼前の少年猟兵の怒りに油を注いでいるという自覚も悪意も皆無なままに。
「さて、もう僕は行かせてもらうとするよ」
 多くの『祈り』に神の仔は応えなければならない――全てを裁き終わらしめる、奈落の如き救済が始められようとしている。
 枯死の波が、音も無く、戦場たる荒野を何処までも塗り潰し、
 進化時の不足分など気にせず旨そうな猟兵達を食い散らしがてら進めばよいとばかりに『デザートボディ』の生命力吸収範囲は際限の無い拡大を続けている。
 そして今、人と宝石の混じる零時の身にも其れは迫ろうとしていた。
「いいや行かせねぇ。何より死ぬ気は一切ねぇ。
 俺様は夢をかなえる迄、何が何でも死ぬ気はねぇ。お前に好きかってもさせねぇ!」
 大地はおろか吹きつける風すらも空虚な不毛(ウェイストランド)へと変えるユーベルコードを前に、抗う零時の咆哮はいつしか辺りを凜烈たる光にと染め上げて。
 自らの苦痛そして限界すらも忘れて赴くままに……偽神細胞による侵蝕と稀なる宝人としての純化の同時加速は止まらない――夢あるかぎり、少年は決して止まらない。

「此れが、これこそがッ!! 限界切り拓く可能性の化身ッ!
 俺様の――超克《オーバーロード》だッ!!」

 まるで地上に、突如、星が生まれたかのように其の輝きは燦然と。
 うつろう器の裡にと燃え盛る、揺らがぬ魂。
 少年は再び真祖化へと到り――純血だけが成し得る筈の『宝神』へと覚醒を果たしたのである。
「なっ……この力……!?」
 咆哮の如き叫びは大気すら震わせ淡やかな藍玉の光へと染め上げる。
 少年魔術師が己が『杖』の一つたる靴に魔力篭め、死にゆく大地を蹴りつけると同時、展開された飛翔の魔術式。
 急上昇した零時の体は一気に高空へと運ばれた後すみやかに戦闘態勢へと移る。
「覚悟しろよ、偽神。お前を此処で、ぶっ飛ばすッ!」
 黄金色の髪の少年を足下にと見下ろして、堂々、言い放つ。
 四肢に纏った藍玉の魔術外装から多重起動された魔術は相互に共鳴し増幅し合いながら偽神属性を取り込み、そして零時が発する攻撃行為あまさず全てに巡らされてゆく。
 拡がる一方だった啜命の黄金光も鈍化し拮抗し……やがてゆっくりと、碧藍の輝きにと塗り替えられてゆく。
 ――無敵たる神の仔の天敵が此処に顕れたのである。

「くっ、まだまだ僕の覚醒が足りてないって事か。
 あの犬、何処まで足を引っ張ってくれるんだ……でもこの力を吸えばきっと!」
「喰えるもんなら喰ってみろよ。幾らでも喰わせてやるからよぉ!!」

 結晶術式に攻撃術式を重ね、次々に創り出された光と水を自然の理すら超越した結晶弾幕として装填。天より降る神力として暴食の性剥き出しの敵のみを撃ち掃う。
 そして、強く握り締められた拳。
 迸る激情の疾さに瞬間思考すらも後追いを余儀なくされながら更に強化術式を追加展開――活路は前にのみ有り、未来は己が手でこそ掴めるもの。

「砕け散れッ!!」
 超克せしは肉体以上に輝けるかの魂。碧血振り撒きながらの裂帛の叫び。
 天地を貫く――神輝宝煌・死撃≪オーバーロード・デッドエンド≫!!!

 彼我の距離を零にまで詰める決死の超加速から始まった『神』と『神』の殴り合い。
 心身両面において終始ほぼ圧倒したのは『宝神』であった。
 抗う『偽神』がどれほど砕けど吸えども其の結晶の拳は再構築と連打を繰り返し、
 決して止まらない。
 だが惜しむらくは……強大な力に求められる代償もまた大きい。
 顕現の維持にはいまだ時間的制約が大きい『宝神』零時は撃破目前にまで敵を追い詰めながらも遂に力尽き――。
 戦場には満身創痍の『偽神』のみがただひとり残されていた。

「……ハ、ハハ……勝ったのは僕だ。吸収できなかったんじゃない。
 あんなもの……呑み込み続けたら今ごろ僕といえども……」
 おそらくは物言わぬ只の宝石と成り果ててしまっていた事だろう。
 先迄の余裕などすっかり失い『デザートボディ』はただ屈辱にうち震えていた。
 『神』である筈の己が命拾いしたなどという安堵の息を吐かされた事に対して。

 されど――荒れ果てた『世界(ヘル)』には此の時すでに、もう一柱、
 埒外たる『神』が降り立とうとしていたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴久名・紡
彼こそが、救済を求めていた子供
解放を祷っていた子供

そんな……自分の解放ばかりだった彼が
最後にみせたのは他者を思う心

それが満たされた証しであるならば
その言葉は許しがたい

本来、神とは思想で思考で
実在しようがしまいがそれは構わない
そこに精神の、魂の安寧があればいいのだから

それを求めるものを、愚弄するな、貶めるな
偽であれ、何であれ……『神』であると言うならば
それだけはしてはいけない

そんなこと、半分しか神の血を持たない俺ですら判っている
判らないお前は……だからこその偽神

死ぬのはお前だよ、偽の神
他者を踏み躙らなければ生まれ落ちることも出来なかった贋作

竜神飛翔を使用
完全体の竜神として相手をしよう
禮火と葬焔で弓矢を作り先制攻撃で射掛ける
攻撃には常時、鎧砕きと鎧無視攻撃、吹き飛ばしを乗せて

放たれる雷は怒りの侭に
目くらましくらいにはなるだろう

空を駆けられるか、この速度に対応できるか
それは判らない

出来ようが出来まいが、終わらせれば良いだけのこと

敵の攻撃は見切りと空中機動で回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぐ



 歓喜など何処にも無い――虚ろな座へと縛られた彼こそが救済を求めていた。
 讃美もまた其処には無い――解放をと祷る子供を贄に完成した『神』などに。

 眼前に喪われた『大天使の猟犬(ガブリエル・ラチェット)』という存在を、
 鈴久名・紡(境界・f27962)は悼む。
 最期に満たされて彼は逝けたのだという事実にこちらこそが救われた心地で。
 そして、
 故にこそ彼と入れ替わりに顕れた『偽神』の傲慢を討たずにはいられなかった。
 体内の半ばを流れる竜の血による強き拒絶は此処に窮まり、
 沸き立つような灼熱と化しながら紡を超克(オーバーロード)へ――真なる姿の解放へと導いてゆく。

「畢竟、『神』とは思想で思考で。実在の有無などは二の次。
 人の世に『神』という救済(システム)が求められるのはひとえに精神の、魂の安寧の為なのだから」

 黄金の奈落によってすっかりと喰い散らかされて涸れた天壌を睥睨するのは、
 冷厳にして炯々たる紺青。
 怒れる雷轟纏い、今、『世界(ヘル)』への降臨果たした一柱の『竜神』。
「……あぁ良かった。
 どうやら今度はまっとうに食べられそうな自然神の類いみたいだね」
 神々しき完全竜体へと変容を遂げた紡の威容さえも傷つき渇いた『デザートボディ』にとっては新たな餌にしか映らない。
 襤褸布を風に翻しながら真白き素足が、初めて、大地から離れ……少年もまた竜泳ぐ天へと飛び立った。
(拡散させたユーベルコードのままで『神』は喰らい切れぬと判断したか……)
 双つの神器が宙に舞い、弓となり矢と化して翔ける黄金へと射掛けられる。
 迅雷の嵐の只中、速射される其の一矢一矢を『偽神』は煩わしげに躱し、
 宙を縦横に機動する『神』と『神』の空中戦が、しばし、展開される事となる。

(まどいうつろうあまり自分の解放ばかりを求めた彼が最後にみせたのは他者を思う心。
 それが満たされた証しであるというのならば……)

「お前の言葉は赦しがたい――『救済(それ)』を求めるものを、
 愚弄するな、貶めるな。
 偽であれ、何であれ……『神』であると言うならばそれだけはしてはいけない。
 そんなこと、半分しか神の血を持たない俺ですら判っている」
 あるいは――紡は待っていたのかもしれない。
 此の少年がたった一言、踏み躙ったものへの後悔や謝罪……せめても感謝の言葉だけでも口にする事を。
「なるほど、あの犬っころぐらい憐れみを誘う方が年上ウケは良いんだね。
 今後の参考にさせてもらうとしようかなぁ、フフ」
 けれど『偽神』はせせら笑うばかりで。
 どちらにせよ――紡が為すべきは終わらせる事だけ。
 詰められた間合い。
「……ま、此処で死んじゃう君には関係のないお話だったよね!」
 吸われ啜られそして惨めに地へと墜ちよと、
 白き細腕に一点集中された吸収線量(グレイ)が振り下ろされる。
 満ちる雷気すらも喰い破りながら紡にと迫る、暴食の一撃。

「死ぬのはお前だよ、偽の神。
 他者を踏み躙らなければ生まれ落ちることも出来なかった贋作」

 静かに吐き棄てて……もう、それ以上の言葉は必要ない。
 弓返りの所作で葬焔の握りを取り廻し、同時、グレイハンドに先んじて放たれたのは『神』滅ぼす『神』の鉄槌。
 荒ぶる白銀の神気巻かせながら飛来した禮火の鏃に真っ直ぐ貫かれ、響く、幼き絶叫。

 ――タス……テ……。
 ――ユ……シテ……。
 ――…………テ……。

「――煩い! 煩い! 煩いィィッ!! さっさと、僕を、助けろ、
 誰か誰でもいい誰か……どいつもこいつも、ふざけるな、クソォ……ッ!!!」

 ――嗚呼…………カミ……サマ……。

 叩きつけられた赤土の上でもがき苦しむ彼の命になど何ら頓着せず、
 変わらぬ『世界(ヘル)』は『神』を求めて祈りを続ける。
 絶命の刻むかえた少年の柔らかな黄金の髪が、白く華奢な裸体が、
 まるで自らを身喰いするかのようにグレイハンド宿る片腕へと吸われてゆき……。
 やがてはすべてが褪せた金の微塵にと散り失せてゆく。

「最期までなにも判らなかったお前は……だからこその偽神」

 願わくば、新たな偽神の座にと就くものなどもう二度と現れぬように。
 そう願わずにはいられない紡の体内では今まさに、
『無敵』討つ役割を終えた最後の『偽神』が強き竜の血によって浄化され、完全に祓われようとしているのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月30日


挿絵イラスト