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時は時には重いもの

#アポカリプスヘル #【Q】 #時間質量論 #戦後

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#アポカリプスヘル
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#【Q】
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#時間質量論
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#戦後


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●質量を持った時間探し
「アポカリプスヘルでの戦い、お疲れ様でした!」
 ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)はまず集まった猟兵達を労った。開戦当初はいくらか敵を逃すことも予想されたが、結果としては完勝だ。猟兵達の底力には目を見張るものがある。
 そして勝利の余韻にはあまり浸ることなく、猟兵達には次なる戦いの場が待ち受けていた。
「戦争では色々な情報が判明すると共に、色々な謎も残されました。それらを解き明かすことで別の景色が見えてくる、ということがあるかと思います。ですので! 今回は時間質量論のデータ収集のご案内です!」
 マザー・コンピュータが書き記したという膨大な文献を解析し判明したのは、関連するさらに膨大なデータが世界に散らばっているということだった。
「時間質量論のデータを保有する研究所の一つの場所が分かりましたので、皆さんにはそこに赴いてもらうことになります。尤も、正確には研究所跡地と言ったほうがいいでしょうか……長い間放置されていたようで、そこは廃墟同然の状態になっています」
 天井や壁は崩れて道を塞ぎ、扉の多くは施錠されたままセキュリティが死んだ。データが眠る最奥に辿り着くのは容易ではない。
「おそらくは今なお崩落の状態にありますので、注意して進むようにしてください。時間はあると思いますので、少しくらい遠回りになったって大丈夫だと思います! ただ……全体からすれば一欠片のデータに過ぎないとしても、重要なデータには違いありません。それが簡単に奪われるような状態で放置されているのも不自然と言えば不自然ですし……良からぬ気配を感じます。くれぐれも、データを確かに入手するまでは気を抜かないようにしてください。それでは、皆さんの頑張りを信じていますので、どうかよろしくお願いします!」


沙雪海都
 沙雪海都(さゆきかいと)です。
 戦後にやることがほんと多いですねえ……。長期戦になりそうですので、気長に行きましょう。

●フラグメント詳細
 第1章:冒険『崩壊しつつある廃墟』
 天井は崩れてくるかもしれませんし、床は抜けてしまうかもしれません。
 塞がる道に動かない扉、そもそもどこをどう通れば最奥に辿り着けるのかも不明瞭。
 どう対処していくかは皆さんの力にかかっています。

 第2章:ボス戦『『大炎嬢』バーニング・ナンシー』
 案の定データを守るやつがいるので倒しましょう。
 暴れすぎるとちょっと危ない気がしなくもないです。でもこいつ如何にも暴れそうな奴ですね。
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第1章 冒険 『崩壊しつつある廃墟』

POW   :    瓦礫を撤去して埋まった通路を掘り起こしたり、施錠された扉を破壊して進む

SPD   :    注意深く周囲を観察して危険を発見したり、危険な場所を素早く通り抜けて進む

WIZ   :    廃墟をマッピングしたり、知恵や知識を利用して危険を取り除き、進む

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御園・桜花
「歌姫であったマザーと、コンピュータになったマザーは、明らかに断絶した存在でした。それがストームの所為か、長すぎる時間による狂気かは分かりませんけれど。私は、マザーが生体コアになってまで追い求めた願いを知りたいです」

UC「ノームの召喚」
右手法で進む
分岐毎にその場の人数の半分に分かれ慎重に進み、全体のマップ完成を目指す
分岐が行き止まりだった場合前の分岐まで戻り別の方角へ
戻って合流した場合お互いの地図に追記し補完
崩れて塞がった通路は穴掘りの要領で掘り起こしてもらい通路脇に掘った廃材を避けておく
カードキーで塞がった通路は後回し
行ける場所全て回ってもキーを発見できなかった場合のみ零距離射撃で破壊し進む



●願いを知るための地図作り
 おそらくは来た者を自動で出迎えていたであろうスライド式のガラス扉は中途半端に隙間を開けて固まっていた。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)がカニ歩きで体を捻じ込むと中は小さい円形のホール状の空間で、吹き抜けの跡らしき上階の通路は無口を貫くかのようにシャッターを降ろしている。
 接続されていたと思われる足場はすでに崩れて瓦礫の山と化し、桜花の進路を出鱈目に塞いでいた。床が剥がれた窪地には直近の雨の仕業か水が溜まり、清浄さを失ったかつての白壁は水垢と黒カビに塗れて見る影もない。
「歌姫であったマザーに纏わるものがここに……。コンピュータになった彼女は明らかに過去の姿と断絶していました……それがストームの所為か、長すぎる時間による狂気かは分かりませんけれど、マザーが生体コアになってまで追い求めた願いとは一体何なのでしょうか……」
 大正浪漫の世界では癒し手を務めることもある桜花は人が持つ願いという概念に人一倍敏感だった。歌姫という地位を捨て、生体コアに身を投げてからは執拗に無限の時を求めた彼女。その瞳に映っていたものは何だったのか。謎を解くピースが一つでもこの研究所跡地に眠っているのならば――桜花にとっては出向く価値のある場所だった。
 圧迫感のあるエントランスには辛うじて生き永らえている通路が左右に一つずつ。どちらが正解かは見た目ではわからない。総当たりという手段しかなさそうだが、一人でそれをこなすのはそれこそマザーのように無限の時を求めたくなる。
『おいでおいで、土小人。私の手助けをしておくれ。代わりに石をあげましょう。ざらざら渡す石ビーズ、その分手助けをしておくれ』
 童謡を口ずさむように桜花が呼ぶのは大地を司る陽気なノーム達。場の陰気を吹き飛ばす彼らは波打つように飛び跳ねて、桜花の足元で存在を主張する。
「半分はあちらの通路へ。分かれ道が来たら、また半分――と、皆で手分けしてこの研究所の地図を作りましょう」
 桜花が中腰に屈んで左方向に見える通路を指差すと、ノーム達は早速半数がとことこと駆け出していく。もう半分は桜花が連れて、右方向の通路へと入っていった。
 人が二人も並べばほぼ塞がってしまう細長の通路。左右には電子錠のついた扉が等間隔に並んでいたが、肝心の電子錠が機能しておらず、押しても引いても扉は全く動かない。
 破壊も考えはしたが、今はまだ先に進むべき道が続いている。開かずの扉は最後にとっておくことにして、まずは奥を目指していく。
 桜花の前には時折破れた壁や天井が現れていた。天井の先には薄暗い上層の通路が見えたが、崩落の危険を感じた桜花は目先の瓦礫へノーム達を向かわせる。小さいながらも山にトンネルを開通させるだけの力を持つノーム達はせっせと瓦礫を麓から切り崩し、通路の脇へと並べていった。
 道が通るまでの暇に桜花は開いた壁の向こう側を覗く。運よく動かない電子錠の向こう側と繋がったそこは一面煤だらけの部屋で、黒焦げの融解物が土石流のように壁から床へ爛れ落ちている。火の手が上がったと思われる場所だったが、元が何の部屋で何を目的としていたかはさっぱりわからない。
 やはりもっと先へ。気付けばノーム達が作業を終えていて、桜花はまた探索を再開する。T字の突き当たりでは連れたノーム達の半数と別れを告げて右へ進み、何度か折れるとさらに小集団となっていたノーム達とばったり出くわした。
「まあ……こちらはもう行ける場所がありませんでしたし、そちらは……?」
 桜花はノーム達の声を聞き取りながら地図を起こす。やけに広大だが隙間の多い地図は開かずの間の影響が大きそうだが、その先が単なる部屋なら無視できる。問題は埋まらなかった通路の切れ目だ。桜花と合流したノーム達が通っていない未知の通路は、現在進行形で別のノーム達が進んでいるはず。
 ノーム達を追いかける旅が始まった。地図の通りに研究所内を辿ると見えてきた分岐路へ桜花は足を踏み入れる。地図の範囲を広げていくうちにまたノーム達と鉢合わせ、その度に彼らが踏破した道を地図の中へ付け足していった。
 研究所の構造がおおよそ見えてきたところで、桜花の前に最後のノーム達が姿を現した。彼らの情報を合わせれば地図は完成しそうだが――。
「……この先の突き当たりは『扉』なのですか?」
 ノーム達が言うには、通路と同じ幅の扉が存在する、と。それは桜花が見てきたどの扉にも当てはまらぬ情報。明らかに何かを秘めていそうな扉は一見の価値ありと判断し、桜花は全てのノーム達を引き連れて先を急ぐ。
 果たしてそこにあった扉は両開きの巨大扉で、大きさこそ違えど電子錠を持つものだった。どこをどう触っても開きそうにないので、桜花は軽機関銃を取る。
 銃口をほとんど密着させての零距離射撃を扉の継ぎ目に見舞ってやった。上から下へと溶接作業のように銃口を滑らせていったが本質はその逆。弾丸は継ぎ目に食い込んで強引に割り開き、桜花が通り抜けられるだけの穴を作る。
 桜花は軽機関銃を下ろすと、足元に少し残った扉の屑を跨いで抜ける。するとすぐに、研究所の新たな顔が見えてきた。
「……地下が、あるのですか」
 下る階段は真っ新な階層を桜花に突きつけてくる。ノーム達の手助けはもうしばらく必要そうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリー・マイヤー
古代遺跡でお宝探しですか。ロマンがありますね。
時間質量論が何の役に立つのかはよく知りませんが、
まぁその辺は頭のいい人がきっと何とかうまい事してくれるでしょう。

さて、まずは安全確保ですね。
【念動ソナー】で周辺の罠や脆い足場、崩れそうな天井等を探ります。
危なそうなとこは避けるか【念動力】で崩れないよう補強するか、
いっそ先んじて壊すかして道を開きましょう。

道を塞ぐ障害物も【念動力】で動かしてどかします。
鍵のかかった扉は内部まで細かくソナーで見通して、
【念動力】で鍵を再現してガチャリと開きます。
面倒な構造だったら、デッドボルトに直接力をかけてこじ開けましょう。
……歪んで開かない場合は、力づくですね。



●働きバチの役目
 宝の価値とは必ずしも一定ではない。誰かにとっては金銀財宝より高価なものでも、また別の誰かにとってはゴミクズ同然ということもままあること。
「『時間質量論』ですか。古代遺跡同然の廃墟にしてはロマン溢れる名前ですが……何の役に立つかは漠然とし過ぎてます。……まぁ、その辺は頭のいい人がきっと何かうまいことしてくれるでしょう」
 エリー・マイヤー(被造物・f29376)は時間質量論に値をつけられそうになかったが、餅は餅屋。真実の探求は得意な者達に任せ、実働隊を買って出たエリーは彼らが喜びそうなお宝を発掘して持ち帰るのみだ。
 研究所跡地はエントランスがあるフロアから上層と下層に分かれていたが、上層へと続く道は見つかっていない。未だ封じられた扉の中にあるか、はたまたすでに崩壊してしまっているか。どちらにせよ、今はそれよりも意味ありげな地下への階段が見つかっているだけに、エリーは手っ取り早く足を踏み入れる。
 地下は地上階とは一転して、灰色の石壁が続く通路に鉄製の扉が並ぶ。アナログに回帰した地下には一体何が待ち受けているというのか。
 咥えタバコの火が赤々と燃える。光源は他に、通路の途中途中で崩落した天井の先から光の柱が薄く差し込んでいた。どこかの部屋の床が抜けて繋がってしまったのだろうが、今更開かずの間の中に手を付ける気分にはなれなかった。
「さて……地形情報の確保といきましょう」
 エリーは額の先へと意識を集中させて念動力を発し、その跳ね返りを感知して通路の先を調べていく。
 床から返ってきた念動力は複雑に断裂していた。亀裂が多数存在し、その中には巨大な地下空洞に繋がっているものもある。壁や天井は奇跡的な釣り合いで形を保っているようであり、迂闊に振動を発すると崩れてしまいそうだった。
「念動力で補強もありですが……いっそ崩して埋めますか」
 エリーはその場から動かぬまま、念動力で落ちた瓦礫を操作すると、脆く壊れそうな壁と天井に叩きつけた。瓦礫は破砕し、刺激を与えられたそれらはがらがらとあっけなく崩れ去ると、今度はその振動が床の亀裂に響いてぼごっと崩れる。
 連鎖的に発生した解放空間。丁度良く壁と天井の残骸が地下空洞を埋めて道が続いた。そこをエリーは念動力で念入りに固めながら渡り、先へと進む。
 鉄扉の先はソナーで見た限りごく狭い直方体の部屋で、扉にはエリーの目線の少し下の辺りにまた別の細長の扉がついていた。押し開けて中を覗くと、そこは修行場か独房を思わせるほどに窓も何もないがらんとした空間。
「鍵は……かかっていますね。……閉じ込めていた? 誰が、何を、何のために」
 立つ鳥跡を濁さずと言うべきか。痕跡らしい痕跡はソナーでも発見できず、エリーは鉄扉を見送って地下の探索を再開する。
 分岐路に差し掛かると、エリーは一旦立ち止まって全方向へ念動力を向けた。先の構造を把握して選ぶべき道を決定する。一方に見える果実のように通路に接した空間群は魅力的であったが、その大きさは先に見た部屋と同程度。存在意義が同じなら見るだけ無駄骨、とエリーは敢えて単に通路のみが伸びる道を選択した。
 雨水か何かが染みて内側から崩壊した壁が進路を塞ぐ。それをエリーは念動力で端に寄せ、僅かに残ったものをやや大股で跨ぎ越える。エリーが通り過ぎて念動力の支えが失われると、時間が巻き戻されたように壁がまたがらがらと崩壊していた。
「……ここは」
 また見えてきた一つの鉄扉の前でエリーは立ち止まる。ソナーで見渡せばやはり一つの部屋が待ち構えていたが、床が抉り返されているらしい部屋の先にはまた別の扉の存在が確認できた。
 開けるに足る情報だ。エリーは扉のノブに手を掛けて施錠されていることを確認すると、ゆっくりしゃがみ込んで鍵穴を覗く。念動力を多角的に照射して鍵穴の内部構造を精密に捉えると、そこにぴたりとはまる形を念動力で再現して静かに押し込んでいった。
 鍵を捻ると、キキキ、と内部で軋んで、やがてガチャリと鍵が開く。
 鉄扉を開いた先は人が数人入れば密になる部屋で、床は薄い蟻地獄のように抉れている。人為的に掘り返されたような跡だが、そこに何があったのかは窺い知れない。
 エリーは同じ要領で真向いの扉も開錠する。ノブを回して押していくと、鉄扉はずりずりと床を擦りながら開き、そして。
 エリーの目の前に現れた広々とした空間は、崩壊に崩壊を重ねて底抜けて、足の踏み場が筋となって浮かび上がった天然の迷路になっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サカマキ・ダブルナイン
【WIZ】
時間質量論のデータ、見つけてすぐ入手出来ればのよいのじゃが……まぁわらわハッカーロボじゃし、多少の防壁ならちょちょいのちょいよ!

遠回りでもよいなら、探索しつつ慎重に進むべきかのー。最奥への道もわからぬしな。
「99式カメラアイ」で通れそうな道を分析しつつ移動じゃ。ついでに光景を【撮影】して同じルートを通らぬようにせねばの、坂巻社製品の【学習力】の見せ所じゃ!

とはいえ、楽に通れる道を探すのも限度はあろう。
場合によっては肉球パワーで無理やり切り抜けるのもやむなしじゃな。でも絶対肉球痛いのー……ええいちょっとだけ感情切るのじゃ!!

……感情プログラム停止、ルート認識。【悪路走破】、開始します。



●深く眠る者達
 研究所は奥深くなるにつれて崩壊度が増していた。サカマキ・ダブルナイン(ロボ巫女きつねのお通りじゃ!!!・f31088)の前にある部屋は、密閉されているから辛うじて部屋と言えるだけの、穴ぼこだらけの小道の迷路だ。
「時間質量論のデータ、見つけてすぐ入手出来ればのよいのじゃが……まぁわらわハッカーロボじゃし、多少の防壁ならちょちょいのちょいよ! しかしのー、見つけるまでまだ一苦労も二苦労もありそうじゃ……」
 99式カメラアイで道の分析がてら穴を覗き込む。深く落ちた穴の中ではメタリックな機械群が潰れていた。引き上げたところで復旧は見込めそうになく、そもそもこの足場が引き上げに耐え得るかどうかも怪しい。
 壁際に沿って歩きながら、サカマキはいよいよ地に足を付ける感触のない迷路の足場に踏み込んでいく。ビルの間に張られた綱を渡っていくような緊張感が走る。そろりそろりと足音立てずに進みながら、曲がりくねった道を行く。
 対岸にある最短の扉への道は、サカマキの分析では自身の荷重にすら耐えられないとの答えを導き出していた。飛び越える選択肢もあったが、一発勝負でしかも成功率は限りなく低い。多少の遠回りは許されるという話を頼りにサカマキは確実に残る道をぐるりと大回りして対角線上にある扉を目指す。
「…………………………ふー、長かったのじゃぁ。こんな背筋が凍る思いは二度としたくないのぅ。撮影して、他の扉から戻ってきてしまった時に無駄足にならぬようにせねばな」
 目的の扉の前まで辿り着いたサカマキはくるりと振り返り、部屋を一望して頭脳に光景を焼きつかせた。この先、変に迂回して戻ってしまっても二度、三度と挑む羽目にはならずに済みそうだ。
 ノブを回して扉を引くと、珍しく扉が開いた。先はまたどこかへ伸びる通路のようだが、荒れ放題の足場に割れた床が引き剥がされて大きな溝を作っている。これはいよいよ跳ばねばならなさそうだが、着地する先には崩れた天井片が堆く積もる。
「むむむ……戻る……か……? いやいや、あれに比べればちぃとはマシに見えるが……でも肉球パワーで無理矢理切り抜けると、絶対痛いのー……ええいちょっとだけ感情切るのじゃ!!」
 堪らず叫んだかと思うと、サカマキはすんと静まり返った。きゅるきゅると瞳が焦点を段階的に遠くへ伸ばし、進むべき道を解析する。
「……感情プログラム停止、ルート認識。悪路走破、開始します」
 サカマキは僅かに前傾の姿勢を取ると、両腕は振らず靡かせながら床を蹴り出し、数歩の内に最高速度に達した。踏み出す足の幅が絶妙に調整されており、溝の前で踏み切ると理想的な跳躍で奈落を飛び越える。滞空中に溜めた力を着地直後に眼前の天井片へと叩きつけて山を弾き散らし、がらごろと破片の嵐が吹き荒れる中をなお速く駆け抜けていった。
 幾度となく現れた崩落の跡にひたすら肉球を当て続けていくと、じんわり熱を帯び始めた。帰ったら少し手入れが必要そうだが、今のサカマキは何の痛みも恐怖も感じることなくただ道を切り拓いていくだけ。
 何度かの分かれ道。それぞれを一瞥して、走破した経路からより最奥に近づいていそうな道を選択していた。そうして駆け抜けること数分。肉球にも目視できる痛みが見えてきたところで、ようやく破るべき扉を見つけた。
 最後は跳躍から壁を蹴って大きく凹んだ床の上を抜け、前方へ転がり落ちるように着地する。回転運動を急停止させてパワーを肉球に溜め込むと、サカマキは慣性を利用し滑りながら突撃して扉の向こう側へと雪崩れ込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『大炎嬢』バーニング・ナンシー』

POW   :    心頭焼却
レベル×1tまでの対象の【首・腕・足を狙い、燃える右手で何れか 】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    斬捨御炎
【業火を纏った剣による灼熱の斬撃 】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    木端炎陣
【全方位に放った灼熱の炎 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が広範囲で炎上し続け】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:阿賀之上

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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●眠りより醒めて
 部屋に人が訪れなくなってから久しく時が経つ。最後に聞いた言葉は「この場を守れ」。理由が明かされることはなく、バーニング・ナンシーは意味なく部屋に留まり続けていた。
 あるいは、意味など無いままのほうがよかったのかもしれない。この部屋を訪れる者がいない限り、バーニング・ナンシーは平穏な無意味を永久に続けられたことだろう。
 人知の及ばぬところに存在する者達は、禁断の扉を開いてしまった。
 彼女に、戦うという意味を与えてしまったのだから。
エリー・マイヤー
遺跡の最奥で宝を守る大ボス、お約束ですね。
…いやこれ遺跡も燃えちゃいません?
もしかして証拠隠滅も兼ねてるやつですかね。面倒な。

とにかく遺跡も私も燃やされたくないです。
行動の妨害を主軸に動きましょう。
まず【念動ハンド】で敵の腕を掴んで捻って攻撃を妨害します。
更に【念動ハンド】で足を掴んだり踏み込む先に物を撒いたりして移動を妨害します。
そして【念動ハンド】で目潰しかけつつそっと耳を塞いで状況把握を妨害します。
ついでに【念動ハンド】で腹パンしてダメージを与えます。
しかる後【念動ハンド】でもうなんでもいいや。
とにかく大量の【念動力】の手による妨害行為で被害を減らします。
燃やすのは煙草だけで十分ですよ。



●燃えるだけでは始末が悪い
 眼球が燃え、腕が燃え、携える刃が燃える。バーニング・ナンシーの奥に見えるはデータの集積体と思しきコンピュータ。エリーはちりと短くなっていく煙草を口元からそっと外すと、細長の煙を吐き出した。
「……遺跡の最奥で宝を守る大ボス、お約束ですね。ですが……やり合ってるうちに遺跡燃えちゃいませんかねこれ。もしかして証拠隠滅も兼ねているとか……面倒な」
 厄介事が一つ増えた。ただでさえひび割れの部屋は注意を要するというのに、バーニング・ナンシーはこの場を燃やすのも崩すのも大歓迎と来ている。引き分けは引き分けでなく、負けなのだ。
 燃えていない左の眼球がぎょろりとエリーを発見するや否や、バーニング・ナンシーは筋肉に皮を貼り付けただけのような無駄のない細足で突っ込んできた。靡く長髪は業火の如く広がり、炎は風を切ってなお猛る。足踏む振動一つは部屋の寿命の一ミリに等しい。バーニング・ナンシーが動いた分だけ死期が迫るのだからエリーもうかうかしてはいられなかった。
 バーニング・ナンシーが振りかざした右腕に反応してエリーはゆらりと左手を伸ばす。未だ互いに間合いの外だが、紅蓮の腕に先んじるための念動の手はすでに虚空へ飛んでいた。
 燃える右腕が持ち主の意志に反して捻り上げられ、力負けしたバーニング・ナンシーは一瞬宙に吊り上げられる。すかさず念動の手が足を掴み上げバーニング・ナンシーを宙に攫うと、また別の念動の手がバーニング・ナンシーの両眼を圧迫し、炎の中に虚ができた。
「――!!」
 バーニング・ナンシーは暗闇の中で、自らに掴みかかっている何者かを斬り捨てようと炎の刃を遮二無二振り回す。動かない右腕や両足の際に走らせれば必ず何かしらの手応えがあるはず――なのに、全く空を切るばかりでバーニング・ナンシーは混乱を来していた。
 明らかに増えすぎている侵入者。だがその脈動、呼吸が何一つ聞こえてこない。それもまたエリーの仕掛けで念動の手がバーニング・ナンシーの耳を塞ぐと、いよいよマシンガンパンチが装填された。
 まずは腕と足を引き伸ばして反らせた腹へ一発放り込む。細身に響いた衝撃は殊の外重く、右眼の虚の周りに溢れる炎が花火の如く散った。
 ぐにっと凹まされたバーニング・ナンシーの体へ残る念動の手が飛んでいく。それらは精密に飛ばすことも可能だが、とりあえず当たれば何でもいいとエリーはバケツをひっくり返すように浴びせかける。宙に浮いたバーニング・ナンシーは幼稚園児の粘土細工のように見えない拳でこねくり回され、ぼわぼわと象徴たる炎を散らした。
「灰を落とすのはマナー違反……さっさと消えてくれませんかね。燃やすのは煙草だけで十分なんですから」
 エリーはまた一呼吸煙を肺に入れると、残った灰を念動の手に受け取らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サカマキ・ダブルナイン
各部の損傷を確認、感情プログラムの再起動は困難と判断。
任務確認、"時間質量論"データの回収。
……敵影確認、当機は即時戦闘行動に入ります。

『99式未来演算』開始。行動予測……炎熱を纏った斬撃と断定。軌道計算の後、回避行動を実行します。
回避行動後、反撃行動を実行。
……狐雷球の機能低下を確認、探索時の損傷が原因と推定。
近接戦闘は困難……「99式ファンビット」起動、代案による攻撃を実行します。
演算結果による【学習力】を発揮、敵対存在の行動地点を予測。
当該地点に先行してビットを展開、【切断】攻撃を行います。

戦闘終了後、データを回収。アクセスに電子的防壁が存在する場合、【ハッキング】による解除を試みます。



●業火剣乱
「各部の損傷を確認、感情プログラムの再起動は困難と判断」
 サカマキは的確に自身の状態を分析する。道を切り拓いた者のみが手にする名誉の勲章。しかしどれだけ美化しても、刻まれた傷の痛みが和らぐことはない。
 今、感情を戻してしまえば「サカマキ」の豊かな情緒は確実に大暴れしてしまう。それは現状妥当ではないと判断したサカマキは行動の継続を選んでいた。
 見えぬ手により宙から投げ捨てられたバーニング・ナンシーがひび割れの床に転がされていく。全身にダメージを負った彼女はされるがまま仰向けに倒れ込んでいたが、頭の中で無限に反復する命令は果てるまで止むことはない。声なき声に突き動かされてバーニング・ナンシーはごろんと身を反転し、四肢を使い立ち上がってくる。
「任務確認、"時間質量論"データの回収。……敵影確認、当機は即時戦闘行動に入ります」
 バーニング・ナンシーがサカマキを認識する時、サカマキもまたバーニング・ナンシーを認識した。バーニング・ナンシーは不自然に歪んだ体を矯正するように一度上体を勢いよく起こすと、緩やかな助走を経て再度の接近を試みる。
 次に振るう左手には業火の宿る刃が握られている。断てぬ苦悩は二度も要らない。バーニング・ナンシーはサカマキという標的を見据えていた――が、サカマキはその先の未来を見据えていた。
「『99式未来演算』開始。行動予測……炎熱を纏った斬撃と断定。軌道計算の後、回避行動を実行します」
 足の運び、軸のブレ、腕の角度といったバーニング・ナンシーのありとあらゆる動的要素を演算式に当てはめて、最も確かな未来を弾き出す。バーニング・ナンシーはサカマキが導いた解を知らず辿って中段、水平に刃を構えると、偃月を描く薙ぎ払いを飛ばしていた。
 その軌跡はサカマキの演算を証明するかのようにぴたりと未来に一致する。刃の射程から迸る炎の飛距離まで全てが計算の内で、サカマキは空気の薄層一枚分だけより遠くに後退してバーニング・ナンシーの斬撃を避けた。
「……狐雷球の機能低下を確認、探索時の損傷が原因と推定。近接戦闘は困難……『99式ファンビット』起動、代案による攻撃を実行します」
 大振りの斬撃に空を切らせたサカマキは反撃に転じようとしたが、頼りの肉球は悪路走破の影響で機能低下の憂き目に遭っていた。そこで飛び出したのが扇型の回転斬撃ビット。もふもふしていて何かと熱の籠りやすいサカマキとしてはある種生命線のようなもので、ひゅんと離脱させ浮かべるとサカマキのAIとリンクし自由自在に舞い踊る。
 バーニング・ナンシーは足を止めずにサカマキへ迫った。先の薙ぎ払いと垂直に交差する斬り下ろしは深い踏み込みと共に現れてサカマキを奥へ逃がさない。
 だが頭の中での反復行為はバーニング・ナンシーの特許ではなかったのだ。サカマキの未来演算は確定した未来を見た後も継続され、バーニング・ナンシーが動いた分だけデータが蓄積されていた。
 サカマキは二択を迷わず左にステップしていた。落ちてくる斬撃に髪一本斬らせることなく逃れ、左腕ならば無理に体を捻らざるを得ない右方向への追撃が今のバーニング・ナンシーにはできないことも織り込み済みだ。業火を纏う刃はそのまま床に叩きつけられ亀裂を増やすが、部屋の耐久度にはまだ余裕があると見越しての選択だった。
 サカマキに逃げ切られてはいよいよ守護者としての沽券に関わる。改めて構え直しては間に合わないと見たバーニング・ナンシーはサカマキへ向き直る動きに乗せて力でサカマキを斬りにいく。床をガリガリと切っ先で削りながらの逆袈裟斬りを狙っていた。
 刃が飛び立つ。業火が尾を引き盛る中、伸ばした左腕の通り道にビットが飛翔していたのは――見えた時にはもう遅い。
 サカマキを追いかける左腕にビットの切断攻撃がカウンターで入り、肘から先が高々と打ち上げられ放物線を描く。そして着地点の亀裂に切っ先が飛び込む頃には、最早それはただ一振りの剣でしかなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリー・マイヤー(サポート)
どうもエリーです。
手が必要そうなので、手を貸しに来ました。
【念動力】で解決できる事なら、お任せください。
遠くから押したり引いたり掴んだりとか、
持ち上げたり回したり投げたりできますよ。
包み込んで動きを封じたり、破裂させて攻撃したりもできます。
微弱な念動力をばら撒けば、ソナー代わりにも使えます。

後はスプーンを曲げに曲げて、コルク抜きにしたりとかですかね?
タネなし手品で子供を喜ばせるとか、朝飯前です。
子供は煙草の臭いで逃げる気もしますが…
それはさておき、状況に応じて好きに使って下さいって話です。

あ、運動は苦手なので、
殴り合いとか派手な運動は期待しないでくださいね。
たぶん息切れして倒れちゃいますよ。



●念動力は荒れ模様
「一つ炎が消えましたか。これは僥倖ですね」
 バーニング・ナンシーの左腕と共に剣が飛んでいくのをエリーは見ていた。今は封印された聖剣の如く床の亀裂に刺さっているが、柄にぶらりと切断された腕が垂れ下がっており見れば見るほど呪われた聖剣だ。
 バーニング・ナンシーは左腕を失くした違和感に苛まれながらも右手に炎を掴み取ると、標的とするエリーに向けて動き出す。重心が落ち着かないのか、前進する度にカクカクと体が左右に傾いていた。
「右腕も切断してしまいましょうか? バランスも取れますし炎も消えます。一石二鳥ですね。尤も、アナタには一銭の得もないでしょうけど――」
 エリーが見せる強者の余裕。煙草を吹かす暇まで見せつけるエリーにバーニング・ナンシーは果たして何を思ったか。右手に収まり切らない獄炎が瞬く間に右肩までを包み込み、灼熱の火柱を立ち上げる。そしてバーニング・ナンシーはその火柱を力の限り床へと叩きつけていた。
 灼熱の炎が波紋を起こしてエリーに襲い掛かる。迫り来る炎はあらゆる地形を呑み込みその場を炎の海へと変えていく。
 然しものエリーも言葉を途中で打ち切って、眼前の炎の津波に思考を回す。右、左と眼球だけちらりと動かしたが、何処まで行っても炎は切れない。勢いの衰えない炎相手では後ろもどうせダメだろう、と見限ったエリーは念動力を自らの体に作用させ、クレーンゲームよろしく宙に吊り上げさせていた。
 炎はいよいよエリーの元まで辿り着いたが、念動力で浮遊したエリーを捕まえきれず炎の揺らめきは靴の裏を舐めていくだけ。しかしエリーが見下ろせば床の至る所に炎がこびりついており油断はできない。バーニング・ナンシーは場を満たす炎の恩恵を受け、手にする炎をなお激しく広げようとしていた。
「何度もやられると流石にデータが燃えかねませんので――可及的速やかに。当たったら痛いですよ。もちろん当てますけど」
 エリーの周囲に念動力が練り込まれて景色が不規則に歪みだす。作り出された念動力の槍は完成するや空間を捻じ曲げながら撃ち出され、バーニング・ナンシーの頭上、立ち昇る火柱までも呑み込まんとする嵐となっていた。
 火柱の中に破裂したような穴が開き、周囲の炎が螺旋を巻いて吸い込まれていく。念動力の槍は見えずとも確かに存在し、痕跡は火柱を辿り落ちていく。
 炎を喰い荒らす見えない恐怖を前にしてバーニング・ナンシーは飛び退き逃れようとしたが、侵食はさらに素早く食らい付いた。必死の抵抗で頭部だけは右腕で庇うも、お陰で槍の集中砲火を受けて今にも燃え落ちそうな程に穴だらけになる。首から下は足先まで槍の嵐に貫かれ、その体は前衛的過ぎるアートになっていた。
「痛いとか苦しいとか……言わなくてもいいですよ。見ればわかります」
 頭部を庇った右腕がだらりと落ちて、震える足は体を支えきれずに膝を折る。立ち上がっていた火柱は消沈して今やバーニング・ナンシーの右手に燻ぶるのみだが、エリーを見上げる灼眼だけは未だ赤々と燃えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
「此処で戦闘が長引いたら、データの欠片があっても燃え尽きてしまいそうです…」

「貴女が此処で戦い続けるだけで、貴女の主の望みは何重にでも叶うのでしょうね…」
UC「精霊覚醒・扇」
飛行し吶喊
高速・多重詠唱で桜鋼扇に氷の属性攻撃を付与
最前線で殴り合い
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
可能ならカウンターで殴り返しも行う

「貴女の望みは主の命を守ることでしょう。此の場を侵し少しでもマザーの想いに近付きたい私の方が闖入者で悪でしょう。其れでも…ごめんなさい、私は貴女を倒してでも彼女の辿った軌跡が知りたい!」

「貴女の願いを、叩き潰してごめんなさい…」
戦闘後鎮魂歌送ってからデータ探索
データがないと確信する迄諦めない



●願いを叶えた代償
 戦えば戦うほどバーニング・ナンシーの体は傷んでいったが、同時に部屋も傷んでいた。床や壁に走る亀裂は増加の一途を辿り、バーニング・ナンシーが撒き散らした炎はまだそこかしこに残っている。
 炎に囲まれべたりと座り込むバーニング・ナンシーの前には、マザーの足跡を追い続ける桜花の姿があった。
「此処でこのまま戦闘が長引けば、データの欠片があっても燃え尽きてしまいそうです……。貴女が此処で戦い続けるだけで、貴女の主の望みは何重にでも叶うのでしょうね……。持ち出されるくらいならいっそのこと――私が逆の立場なら当然そう思いますもの」
 部屋の最奥に鎮座するコンピュータまではまだ火の手が回っていないようだが、バーニング・ナンシーがこの場に存在する限り焼失の可能性が付き纏う。それを消し去るには、バーニング・ナンシーそのものを消し去ってしまうしかない。
「貴女の望みは主の命を守ることでしょう。此の場を侵し少しでもマザーの想いに近付きたい私の方が闖入者で悪でしょう。其れでも……ごめんなさい、私は貴女を倒してでも彼女の辿った軌跡が知りたい!」
 桜花は強い口調で断言し、桜鋼扇を右に勢いつけて開く。向かってきた敵意に反応してバーニング・ナンシーの右腕にはマグマのような炎が溢れた。開き過ぎた穴を塞ぐように滾る炎はバーニング・ナンシーの抵抗が終わっていないことを意味しており、物は語らず、ただ主の命に突き動かされて立ち上がってくる。
 満身創痍は否めない。右腕の炎も先に見せたものと比べればかなり大人しいが、見開かれた左眼は決して桜花から逸らさない。
 そこに桜花はある種の覚悟を見た。一撃の元に仕留めなければならない、と桜花もまた覚悟する。
『我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!』
 叫び、薄桃色の輝きを放ちながら桜花は桜花精へと変身すると、極力部屋へ負荷をかけずに飛び立ち桜吹雪を纏って一直線にバーニング・ナンシー目掛け飛翔した。低空で空気を突き破る衝撃が辺りに散っていた炎を吹き飛ばす中、桜花は凍ての力を桜鋼扇へ重ねていく。高速で成長した氷はやがて氷牙となり、バーニング・ナンシーへと向けられていた。
 相反する力の衝突。喰うか喰われるか。バーニング・ナンシーは灼熱する右手を肩まで持ち上げると、鷲掴みした炎で氷牙を折らんと突き返してきた。
 力が触れ合えば虚無へと変わるのは免れない。桜花は高速飛翔の最中、向けた氷牙をさらにバーニング・ナンシーの体の内側、中心にまで狙いをつけた。必然、灼熱も桜花の身へと迫ってくるが、犠牲も無しに通れるほどマザーへの道は甘くないと戦いの中で悟っていた。
 バーニング・ナンシーの右腕が放つ炎の下を、桜鋼扇を持つ桜花の腕が掠め飛ぶ。灼熱の残滓が衣を突き抜けてくるのを感じながら、それでも直撃さえしなければ保てると確信して力の限り振り抜いていた。
 氷牙は一回り縮んではいたが、鋭さを失うことなくバーニング・ナンシーの胸元に突き立てられると、次いで桜鋼扇そのものが腋下までの半身を豪快に捌いた。バーニング・ナンシーの右脇をすり抜けた桜花は役目を終えた氷牙を雫として散らし、桜鋼扇の根元を握り込んでシャンと閉じる。
 と同時にバーニング・ナンシーを形作る炎の全てが消失した。右眼は闇深い虚となり、全身の穴を霞ませるほどに大きく開いた胸元の空洞から崩壊が始まると、倒れ落ちる頃には質量もなくなり大気の中に掻き消える。
「貴女の願いを、叩き潰してごめんなさい……」
 自分の願いを押し通すために彼女の願いを潰してしまった。それをほとんどの者は善いことだと認めてくれるだろうが――胸のわだかまりは今ここで吐き出さなければ後悔に変わる。バーニング・ナンシーが消えゆくまでの少しの間に桜花は鎮魂の歌を送り、その最期を見届けた。

 それから桜花は床の亀裂を避けつつ通り、データの眠るコンピュータに触れた。沈むような冷たさが返ってきたが、不思議と生きた心地がしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月12日


挿絵イラスト