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頳き旅路

#ダークセイヴァー #常闇の燎原

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#ダークセイヴァー
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#常闇の燎原


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●暗流
 長く、ただただ長く続く大地に点々と置かれた床が見えた。砂に飲まれたか、或いはこの地が見せた幻影の果てにあるのか。つるり、とした床は血に濡れ、遠く鐘楼が響く。
「……」
 全て幻に過ぎずとも、零れる赤は無数の柩から零れ出す。手向けの花さえ無いままに、骸を飲んだ赤だけが、とくとくと零れていた。

●頳き旅路
「集まってくれてありがとう。第五の貴族との戦いを通じ、ダークセイヴァーについても多くの情報が集めることができました」
 スティレット・クロワール(ディミオス・f19491)はそう言って、集まった猟兵達を見た。
「ダークセイヴァーの地上と思っていた場所が、「地下第4層」である、と。第4層と言うのであれば、どこかに第3層へと繋がる場所もあることとなります」
 だが、一般人はおろか、ヴァンパイアの多くですら「この世界が階層状の構造をしており、今まで地上と思っていた場所が地下である」ことは認識されていなかった。
「或いは、知らされていなかった、というのが適切かもしれないね」
 微笑を以て告げた司祭は猟兵達を見た。
「手掛かりを探そうか。私達は今、知らなかったことを知っているのだから」
 人は、知らないものを探せず——だが、今、この情報を『知った』のだ。
「それが全てで無くとも、切っ掛けを得た今であれば物事は違って見える。
 行き先は辺境を越えた先にある「常闇の燎原」だよ」
 人類の居住区域の完全なる外側、完全な闇に覆われた、おおよそ生物の生存を許さない区域。
「この階層を支配するヴァンパイアにすら知られない何かが、隠されている可能性は十分にあります」
 辺境地帯には「狂えるオブリビオン」がうろついていることだろう。侵入者の気配に気がついて襲いかかってくることが予想できる。
「探す必要は無いでしょう。狂い果て、理性も無い相手は倒す他無い」
 情報収集も出来ないだろう。
「ただ、オブリビオンを倒した後、「常闇の燎原」を目指して進む道に少し面倒なことが起きそうかな。血霧が出る」
 地平線にかけ、空が燃えるように赤くなる異常現象だ。それが『この地』で起きる。
「どうしてか、あんなところに大きな教会があってね。鐘の音が響く中、周囲の気温は下がり、体は無数の傷に苛まれる」
 幻影の傷が体に刻まれるのだ。零れ落る血は留まることを知らず、戦う術を奪ってくるだろう。
「まるで足を止めろと、全ての武器を置いていけと囁くように、ね。だからこそ、己を強く持ちなさい」
 血霧の幻によって刻まれた傷ではなく、己自身を。
「どの傷も、覚悟も、全て君のものなのだから。誰かの舞台で踊って上げる理由もないからね」
 それじゃぁ行こうか、とスティレットはグリモアの光を灯す。
「血霧の教会を抜ければ、強大な何かが君達を迎え撃つでしょう。どうか心して挑んで欲しい」
 そして勝利を、と告げてスティレットは微笑んだ。
「真実を探しに、まずは道を作ろうか」
 いってらっしゃい、と告げる声だけが残った。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

▼各章について
 各章、冒頭追加後のプレイング受付となります。

 第二章、第三章もマスターページ、タグなどでご案内させていただきます。
 また、受付のプレイングにつきましては、全て流させていただきます。

 第一章:葬燎卿
 →「狂えるオブリビオン」は理性のない強敵です。情報収集は望めません。

 第二章:血霧の不吉
 →古びた大きな教会の内部を抜けていく。不気味な鐘の音が響いたり、血だらけになりつつ頑張って移動しようのターン。詳細は2章導入にて。

 第三章:ボス戦。詳細は不明

*このシナリオで、第三層に関する調査は行えません。

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

 それでは皆様、御武運を。
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第1章 ボス戦 『葬燎卿』

POW   :    どうぞ、葬送の獣よ
【紫炎の花びらが葬送の獣 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    安らぎを。貴方には私の棺に入る価値がある
【埋葬したいという感情】を向けた対象に、【次々と放たれる銀のナイフ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    葬燎
【棺から舞い踊る紫炎の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シノア・プサルトゥイーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●空の柩
 おぉおお、と獣の咆吼にも似た風音が一度、響く。辺境地帯には巻き上がるほどの砂も無く、何処までも続く大地に鐘の音が広大な空間に響いていた。遠く、何処から聞こえてくるかも分からぬまま、二度、三度と繰り返された鐘の音に、ぱた、ぱたと何かの滴り落ちる音が混じる。視線を向ければ、いつの間にかそこには大量の空の柩が転がっていた。木の柩には収まるべき骸は無く、ただ、その中から赤々とした血を零す。溢れるほどの紅に主は無く、だが、血溜まりを踏むようにした一体のオブリビオンが立っていた。
「……あぁ」
 零れ落ちた言葉に理性など無く。狂い果てたオブリビオンは、ひたりと侵入者たる猟兵の姿を見据え、翼を広げた。
シキ・ジルモント
これでは確かに情報は得られそうもない
邪魔をするなら排除させてもらう
…それに、狂ったままで彷徨うよりも、骸の海へ還る方が良いだろうとも思う

飛んでくるナイフへ対処する為、ユーベルコードを発動
増大した反応速度でナイフを叩き落とす
空の棺を遮蔽物として使ってもいいかもしれない
…棺からこぼれる赤を見ると、正直あまり近付きたいものではないが、仕方がない

ナイフを叩き落とし、もしくは躱しながら少しずつ間合いを詰め、背後に回りたい
狂ってはいても強力なオブリビオンだ、正面はもちろん側面でも即応してくる可能性が高い
しかし背面に回れば対応が遅れるだろうと判断して
背後を取れたらナイフが飛んでくるより早く銃での反撃を試みる



●挽歌
 濃い血の臭いがそこにはあった。気まぐれに一度吹いた風が、僅かばかり残った砂を巻き上げる。
(「随分と妙な場所だな」)
 足音一つ、殺すように立った男は警戒するように瞳を細める。戦場に無数の柩。手を添えて立つ男に表情らしい表情など無く——だが、視線はこちらをひたり、と捉えていた。
「あぁ……」
 落ちる声に意味は無く、ただ低い音として葬燎卿と呼ばれたオブリビオンの唇から滑り落ちていた。
「これでは確かに情報は得られそうもない」
 そこにあるのは感情では無く、理性でも無い。外敵に対する反応にシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は腰の拳銃をホルスターから抜く。
「邪魔をするなら排除させてもらう」
「……」
 向ける言の葉に返る言葉はなく。それでも、確かに言葉を以て告げた男は色の無いオブリビオンの瞳を捉える。
(「……それに、狂ったままで彷徨うよりも、骸の海へ還る方が良いだろう」)
 息を、落とす。形ばかりの存在となった狂えるオブリビオンがするり、と手を伸ばす。空の柩からこぽこぽと零れ落ちる血が増えて行く。
「……」
 ——来る、とシキは思った。二度目に落とした息、僅かに体を沈め人狼は青の瞳を光らせる。獲物を探すように、視界が変わる。
 リミッターを、外したのだ。
 普段は抑え込んでいる人狼としての獣性。常に冷静であることを己に求め続けてきた男は、今、ひとつを解放し——地を、蹴った。
「——あぁ」
 その動きに、狂えるオブリビオン・葬燎卿はナイフを放った。ヒュン、と空を切って真っ正面から放たれたナイフにシキは身を振る。
「——」
 今のこの反応速度であれば出来る技。タ、と落ちる足音さえ戦場に溶けて行く。右に跳んだ先、最初についた足を軸とするように身を回す。放たれたナイフを背の後ろを通らせ——続く一刀を逆手に構えたナイフで弾く。
「ぁあ、ぁあああああああああァアアアアア」
 ギン、と鈍い音が戦場に響き渡った。鐘の音が気まぐれのように止む。ぐらり、と身を揺らした揺らされた葬燎卿が、だらりと垂らした腕を持ち上げる。そこだけが、まるで別のものであるかのように。
「……来るか、向こうも」
 シキがそう、呟き落としたのと葬燎卿の周りに紫の炎が舞ったのは同時であった。両の手にナイフを構えた葬燎卿が踏み込みを入れる。追うように来る相手に、シキは大きく身を振った。遮蔽物であれば——ある。
「……棺からこぼれる赤を見ると、正直あまり近付きたいものではないが、仕方がない」
 ため息に似た声を零し、身を横に跳ばす。一機に入れた加速。飛び込んだ先、ぱしゃん、と濡れた地面に足が付く。カン、とナイフが柩にぶつかり止まる音を背に、シキは間合いを詰めていく。転がる柩の間を縫うように、滑り込んで射線を躱し、タン、と地面を叩くようにして低く前に出る。
「ぁああああああ!」
 こちらの動きに苛立ったか。荒く放たれたナイフが柩を崩す。通り抜けた先で遮蔽物が崩れる。
「……」
 溢れた地が地面に吸い込まれて行くのを見ながら、シキは前を目指す。敵の間合い、その背後。狂っているとはいえ相手は強敵だ。真っ正面から挑んでも、側面から挑んでも対応される可能性は高い。だからこそ——……。
(「後ろだ」)
 最後の踏み込みを低く、シキは入れる。さぁああ、と風が抜けた。鳴り響く鐘の音と共に入れた一歩が葬燎卿の影を踏む。
「——ぁあ」
 シキの存在に気がついても——もう、遅い。振り返る一瞬、それだけの時があればシキには充分だ。
「これで」
 撃鉄を引く。敵を捉える。迷い無く、真っ直ぐにシロガネの二つ名を持つ銃の放った一撃が、狂えるオブリビオンへと届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
【狼天狗】
まさか住んでいた世界の上に別な世界があるとは思いもしなかったわ
第一層まで上がりきったら陽の光が見えるかしら
まずは第三層…繋がる道は見つけられるかしらね…楽しみ

神隠し先で見た光景ではなく…?(もの思わしげに彼を見て)

言葉を交わす必要もない
目の前の敵はただ屠るだけ

先へ、進まなくちゃいけないのだから

理性を持たぬ獣はさっさと倒すに限るわ
ねえ?貴方もそう思うでしょう、ミコト

ひたりひたりと溢れて出来た血だまりを踏みながら
先制攻撃でマヒ攻撃を繰り出して、敵に接近を試みる
相手の攻撃は第六感で回避を、また相手の動きを注視して見切りで反応する

近づけばUCで臓腑を抉りとろう、お前に用はないの。


ミコト・イザナギ
【狼天狗】
世界とは閉じた箱庭である――とは誰かが言っていましたね
然し、よもや太陽が昇らぬのは地下だからと知れば納得が行くもの
必ずや見つかるでしょう
隠匿は存在の証明ですからね

…それにしても、この赤い空
何処かで見覚えが…失った記憶に近しい何かを感じます

兎も角、そんな今のオレ達が出来る事は眼前の敵を討滅するのみ
ディアナもそれを望んでいるのなら、その一助となりましょう

(仮面を外す)
うん、その通りだよ、ディアナ
理性のない獣なんてただひとつの命
鎧袖一触と行きましょうか

ディアナの先制に呪詛を使った斬撃を放つ
直後に鼓舞を込めてUCを発動
破魔を使った攻撃を繰り返しつつ
第六感と限界突破で回避と防御を試みる



●長き影
 柩から零れ落ちる血が一度、跳ねた。柩を盾にナイフを避けた人狼が地を蹴る。間合い深く、狂えるオブリビオンの背後に回り込めば、高く鐘の音が響く。
「——ぁあ、アあぁあァアアアアああああ」
 銃弾が吸血鬼を撃ち抜く。振り返った男の肩口が砕け、翼まで血に染めた葬燎卿が蹈鞴を踏む。間合い一つ、取り直すように後ろに飛べば、柩から零れ落ちる血が色彩を増していく。
「……」
 色鮮やかに、溢れるほどに——だが、辺境の大地はその赤を飲み干していく。染み込みやすいということは無いだろう。何か——そう、術式の類いか、呪いの類いか。
「狂えるオブリビオン、ですか」
 姿ばかりを残し、異端の神に憑依されたオブリビオン。器としてだけある葬燎卿には理性も無く、唇から零れ落ち響いた筈の言葉も『違う』とミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)は思う。単純な違和感。口の動きが合わないのだと気がつけば、あの声はオブリビオンの裡にいる何かが発したものだろう。
「異端の神……」
「えぇ。それに、まさか住んでいた世界の上に別な世界があるとは思いもしなかったわ」
 ミコトの傍ら、同じように葬燎卿の姿を瞳に捉えたディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)が視線を上げる。
「第一層まで上がりきったら陽の光が見えるかしら」
「世界とは閉じた箱庭である――とは誰かが言っていましたね。然し、よもや太陽が昇らぬのは地下だからと知れば納得が行くもの」
 吐息一つ、零すようにしてミコトは笑った。ふ、と落とされた笑みにディアナは小さく微笑んだ。
「まずは第三層……繋がる道は見つけられるかしらね……楽しみ」
「必ずや見つかるでしょう。隠匿は存在の証明ですからね」
 仮面越しの視線を前に——敵に向ける。ゆらり、と立つオブリビオンの気配が変じていく。恐らく、すぐに動いてくる、と思いながらミコトは薄く唇を開いた。——ずっと、気になっていたことがあったのだ。
「……それにしても、あの赤い空」
 血霧が出る、と案内人は行っていた。地平線にかけ、空が燃えるように赤くなる異常現象。遠く、これから向かう先の空が僅かに赤く染まっているのが見えていたのだ。
「何処かで見覚えが……失った記憶に近しい何かを感じます」
「神隠し先で見た光景ではなく……?」
 物思わしげディアナの視線に、ミコトは小さく首を振った。否を告げる為ではなく、その心配そうな瞳に応えるように、彼女の名を呼ぶ。
「兎も角、そんな今のオレ達が出来る事は眼前の敵を討滅するのみ」
 敵も動いてくる。理性を失っているとは言え、相手はオブリビオンだ。何よりこの辺境地帯に入ってきた者を侵入者として捉えてるのであれば——ミコトとディアナは正しく敵だろう。
「ぁあ、あああああ」
 声を、音を、ただ響かせた葬燎卿の足が血溜まりに触れ——ふいにぴしゃり、という足音が消えた。
「ディアナ」
「えぇ」
 警戒を告げる。敵の瞬発の加速。半ば反射的に二人は左右に身を跳ばす。たん、と蹴った地面は固く、柩を飛び越えるようにして着地したミコトの瞳に、刃を抜いたディアナの姿が見える。
「先へ、進まなくちゃいけないのだから」
 敵を倒す。狂えるオブリビオンを倒し、道を拓く。真っ直ぐに敵を見据えた彼女の髪がさわさわと揺れていた。
(「ディアナもそれを望んでいるのなら、その一助となりましょう」)
 一撃、空を切った先で葬燎卿が手を掲げていた。ゴォオオ、と舞い上がった紫炎の花びらが葬送の獣に変じていく。
「グルォオオオオオ!」
 ピリリリ、と肌を震わせる咆吼と共に、葬燎卿の喚びだした異形の獣がこちらを向く。
「理性を持たぬ獣はさっさと倒すに限るわ」
 紫の瞳は真っ直ぐに敵を見据えていた。射るように鋭く、ピン、と人狼の耳を立ててミコトは告げる。
「ねえ? 貴方もそう思うでしょう、ミコト」
「うん、その通りだよ、ディアナ」
 仮面を外し、ミコトは告げる。晒す瞳の赤で敵を、彼女を見る。
「理性のない獣なんてただひとつの命。鎧袖一触と行きましょうか」
「グルォオオオオ!」
 告げる言葉と葬送の獣の踏み込みが重なった。だん、と荒く、だが獣の速度は速いか。大きく躱すより、身を逸らす見切る事をディアナは選ぶ。
「——」
 ザン、と腕に鈍い衝撃が走る。ばたばたと落ちる赤に——だが、追撃は来ない。麻痺を込めた刃が、異形の獣を撫でたからだ。深く沈めるよりは切り裂くように、薙ぎ払ったディアナの一撃に葬送の獣が身を揺らす。蹈鞴を踏んだ先、ぐわりと獣は口を開く。噛みつく気か——だが。
「忘れて貰っては困るね」
 そこにミコトが行く。異形の獣、その影を踏むように飛び込んだ彼の刃が異形の獣を切り裂いた。
「——グル、ァアアア……!」
 食らい付く牙さえ払うように。呪詛を這わせた刃で真っ正面から切り裂き、横を抜ける。二人の斬撃に獣は紫炎の花びらに還ってく。
「言葉はいらない、慈悲もいらない、容赦もいらない」
 舞い踊る熱の中、ミコトが紡ぐ。命すら惜しまない死闘を望む同類たちへ、共に行く者へ。
「この命すらも。ただひとつ、暴力のみが我らの意思なれば」
 数多の加護を、数多の恩恵を。死地を往く身に相応しき力を。同調できる者が限られているからこそ——この力が届く相手はミコトにとって特別な存在となりうる。
「——」
 獣の名残が、消え失せる。紫炎が果てるより早く、ミコトが前に出た。低く、跳ぶように行ったミコトの刃が葬燎卿の腕を切り裂く。続く紫炎が放たれる前に空に抜けた。
「ミコト」
 名を呼ぶのはディアナの番であった。た、と飛び込む体が軽い。いつもより早く行ける。ミコトの力と同調しているからだ。
「ァアアアアア!」
「血肉臓物掻き回し 亡骸千里を引き回せ」
 放たれた紫炎を切り裂き、ディアナは手を伸ばす。穿つように一撃、叩き込むは裡を砕く力。
「魂すらも凌辱し 今奮うは大暴虐」
 ガウン、と鈍い音と共に、刃は葬燎卿のにくたいを引き裂く事無く、核に届く。ピシリ、と罅の入るような音が、二人の耳には確かに届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
つまり新たな階層を目指す冒険か、心が躍るねぇ!
我はこの世界の出身ではないが、何となく尾が落ち着かない。
あの鐘のせいかもしれないが。
まずは、あの狂える彼を乗り越えようか。

やあやあ、ご機嫌よう。
我らの新たな旅立ちだ、快く送ってくれたまえ。

即座に偽神兵器を解放。
容赦なく三回斬り込ませてもらおう。
破壊する対象が本人であれ柩であれ、意味はあるだろう?
応じる動きも確認しつつ、追撃の参考に。

あちらのナイフは命中力があるなら当たるものだと判断。
剣で弾くさ。
多少の傷は気にしないとも。

我を埋葬したいのかい?
残念ながら、我は海で死ぬ。土に埋められるわけにはいかないね。

相手のナイフを潜り抜け、直接牙を立てにゆこう。



●遺塵
 低く、宣誓に似た男の言葉が戦場に響いていた。同調した『力』を受け取った娘の刃が、狂えるオブリビオンに沈む。零れ落ちる血の代わりに紫炎を零し、ぐらり、と葬燎卿は身を揺らす。
「あぁ……ぁあ、ああァアアアア!」
「……」
 あれは中にいる『何か』の零した声だろう。狂えるオブリビオン。異端の神の容れ物としてある葬燎卿に理性は無く、記憶など無い。
(「声と口の動きもあってないからねぇ。勿論、とっておきの芸だと言われてしまえば我もびっくりなのだが」)
 ゆるり、とハディール・イルドラート(黄金狂の夢・f26738)は尾を揺らす。寡黙な神では無いようだが——この地であれば、不思議も無いか。
「向かうべきは常闇の燎原。つまり新たな階層を目指す冒険か、心が躍るねぇ!」
 第三層へと続く為の道を探す、手掛かりを探しにやってきた場所と思えば、妙な光景とて心が躍る。——そう、心は躍るのだが。
(「我はこの世界の出身ではないが、何となく尾が落ち着かない」)
 鳴り響くあの鐘のせいかもしれないが。三度響き、一度止まり、また三度響いた後に九回響く鐘の音は、どこか儀式めいていた。
「まずは、あの狂える彼を乗り越えようか」
 己に告げるように、己として告げるように。荒海を乗り越えてきた船長たる男は、タン、と軽やかに一歩をいれる。
「やあやあ、ご機嫌よう」
 軽やかに一歩を刻む。ハディールの声に、オブリビオンが気がつく。反応に過ぎないそれに、だが、構わず声を投げ——前に、出た。
「我らの新たな旅立ちだ、快く送ってくれたまえ」
 身を低め、一気に前に跳ぶ。眼前、崩れた柩を飛び越え、地を踏む狼の足音は短く——だが、振り抜いた偽神兵器が空を裂いていく。
「ナーブ」
 逆手に構えた刃が、巨大化する。それは偽神兵器の解放を意味していた。手にした重みに、だがハディールは笑って前に行く。踏み込みと同時に右の刃で斬り上げれば、眼前の空の柩が砕ける。
「おっと」
 零れ落ちる血を飛び越す。着地の先、パシャン、と跳ねた赤が髪に触れ、だが構わずハディールは左の刃を振るう。一閃、薙ぎ払うようにして斬り上げれば、巨大化した偽神兵器が葬燎卿に届く。
「——ぁあ、ァアアアあ!」
 ピシリ、と何かの軋む音が耳に届いた。刃を入れた先か。振るう勢いさえ利用するようにハディールは身を回す。最後の一撃、右の刃で入れれば葬燎卿の肩から紫炎が零れ出す。衝撃に零れる声は無いままに、だが、戦場の柩が軋んでいく。ゆらり、と一度身を揺らしたオブリビオンが、ひたりとこちらを見据え——地を、蹴った。
「——」
 瞬発の加速。一気に来る葬燎卿の手元がキラ、と光る。ナイフか。
「君も早いじゃないか」
 ヒュン、とハディールは剣を振り上げる。ギン、と刃と刃がぶつかり合う音が響き、顔を狙うのかい? と笑うようにして喉を鳴らした。
「我を埋葬したいのかい?」
 続けざまに来るナイフを剣で弾く。逸らしきれなかった刃が手を、腕を掠っていく。——だが、それだけだ。
「残念ながら、我は海で死ぬ。土に埋められるわけにはいかないね」
 海賊である男は笑う。陸で死ぬ海賊になる気は無いと。だからこそ、血濡れの尾を揺らし——前に、出る。一歩、二歩、一気に詰めて葬燎卿の影を踏んだ。
「——ぁあ」
「刻限でね」
 最後のナイフを顔だけを逸らして避ける。踏み込みに次のナイフを構えようとも——ハディールの方が、早い。間合い深く、踏み込んだ人狼の刃が、牙が葬燎卿の胸に沈む。
「——ぁ」
 微かに漏れた声と共に紫炎が舞う。花びらに似たそれを物珍しげに見ながらハディールは剣を構え直す。遠く聞こえる鐘の音が大きくなってきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…未だに私達の故郷が地下にあったなんて信じ難いけど、
この暗い世界を救う為にも、真実が何か確かめる必要がある

…その邪魔をするならば、例え神といえど容赦はしないわ

積み重ねてきた戦闘知識と肉体改造術式で強化した動体視力、
そしてUCを発動して得た反響定位による第六感を頼りに、
敵UCの発動を見切り次々と放たれる銀のナイフの軌道を暗視して掴み取り、
超音波振動により切断力を強化するよう武器改造を施しつつ円の動きで勢いを受け流し、
体を回転させて攻撃の威力を上乗せして投擲する早業のカウンターで敵を乱れ撃ちにする

…冥土の土産にお前にも魅せてあげるわ。吸血鬼狩りの業をね

…もう苦しむ必要は無い。眠りなさい、安らかに…



●冥府の轍
 低く、跳ぶように前に出た猟兵の刃が空間を薙いだ。巨大化した偽神兵器は、オブリビオンがナイフを構えるより早くその鋒を届かせる。
「ぁあ、ァアアアアアアアア……!」
 零れ落ちる声は、あの中にいる『者』から聞こえてきているのだろう。口の動きと音が合わず、鮮血の代わりに吹き出した紫炎が花びらのように散っていた。
「……未だに私達の故郷が地下にあったなんて信じ難いけど」
 靡く髪をそのままに、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は真っ直ぐに前を、戦場を見る。
「この暗い世界を救う為にも、真実が何か確かめる必要がある」
 夜と闇の覆われた世界。それが当たり前だった。長く伸びた影は夜の濃淡か、この世界の気まぐれで生まれた淡い光の名残に過ぎずにあったというのに。
 ここは、「地下第4層」だという。第四、と数えられている以上、3層は存在する。その先に、その果てに何があるのかは進んで見なければ分からない。
「……その邪魔をするならば、例え神といえど容赦はしないわ」
「ぁあ、ぁあああああ」
 告げる言葉と共に、狂えるオブリビオンが吼えた。ゆらり、と身を揺らした長身が一歩を踏み込む。
「——」
 来る、とリーヴァルディは思った。反射的に身を横に跳ばす。戦場にも戦いにもこの体は慣れている。踏み込み来た葬燎卿がさっきまでリーヴァルディが立っていた場所に紫炎を叩き込む。ゴォオ、と上がる火柱を目の端に、リーヴァルディは謳うように告げる。
「……狩人からは逃れられない」
 研ぎ澄まされていく感覚に、ただ一度だけ息を落としリーヴァルディは地を蹴った。
「——」
 タン、と踏み込む足音は二歩目で消えた。ぐん、と身を低め、跳ぶように間合いを詰めればゆらりと振り返った葬燎卿がナイフを構えていた。
「あぁああ」
 ヒュン、と立て続けに放たれたナイフにリーヴァルディは身を横に振った。左に一度、着地した足を軸に踊るようにくる、と身を回す。躯を逸らすようにして避けた娘の指先が乾いた大地をなぞる。
「——そう」
 呟いて、次の超音波を放つ。反響定位。イルカの持つ能力をその身に落とし込んだ吸血鬼狩りの業。タン、と踏み込む足音を、今度は高く響かせてリーヴァルディは相手の位置を、跳んでくるナイフを感じ取る。位置さえ分かれば、軌道さえ読めてしまえば——後は、受け流すだけ。
「……冥土の土産にお前にも魅せてあげるわ。吸血鬼狩りの業をね」
 身を回すようにして次々と放たれるナイフを躱す。最後の一撃、大鎌の刃で受け流せば、ギン、とナイフが空に跳ねた。放つ武器を失ったその瞬間に、リーヴァルディは行く。
「……もう苦しむ必要は無い」
 踏み込む一歩、大鎌の重ささえ利用するように体を回して、一機に大鎌を振り上げた。
「——ぁ」
「眠りなさい、安らかに……」
 大鎌が沈む。葬燎卿と呼ばれていたオブリビオンに。零れる血の代わり、あふれ出た紫炎が花びらのように舞っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
燎原を前に待ち受けるのが燎卿、ね
ま、いいや
燎火になるだろうさ…この世界の未来の、ね

手にした本を開けば僕の周囲に炎が舞う
準備完了と同時にUC発動
向こうの放つ紫蝶に対し、此方も紅蓮の蝶が舞い、狙うは相殺
白蝶は僕の周囲に留まり負傷に備えよう

…炎も蝶も、生と死の象徴なんだよね
その技、葬燎の名を持つ本来の貴方にはきっと相応しいものだったんだろう
今は…最早その意味すら解らないのか

柩に向けて炎蝶を集中させる
出所から片付けてやるよ
そして本体に向けても蝶飛ばし
僕から貴方に荼毘の炎をくれてやる
煉獄よりも骸の海のがマシだと思う程にね

余り力は消費しないように…
手は抜けないけど全力も出せないのはなかなか難しそうかな



●燠火
 踊るようにナイフを避け、弾き上げた娘の大鎌が葬燎卿へと届いていた。蹈鞴を踏んだ狂えるオブリビオンに、遠く鐘の音が響く。
「なんだか意味深だね。あの柩の様子も、だけど」
 呟いて天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は、赤い瞳をす、と細めた。
「燎原を前に待ち受けるのが燎卿、ね。ま、いいや。燎火になるだろうさ……この世界の未来の、ね」
「ぁあ、ぁあァアアアアア!」
 獣めいた咆吼と共に、葬燎卿と呼ばれていたオブリビオンが地を蹴る。た、と短い踏み込み。瞬発の加速と共に突き出された手に紅紀は身を横に跳ばす。
「その声も、言葉も理性も……」
 狂えるオブリビオンは、形ばかりの容れ物だ。ゆらり身を揺らし、葬燎卿が振り返れば柩から零れる血が増えて行く。こぽこぽと溢れるほどに——だが、硬い地面はこの血を飲み干していく。
「……」
 異端のそれか、辺境故か。
「どちらでも……することはひとつだね」
 手にした本を開けば、炎が舞う。ひらり、ひらりと白い男の頬を照らすように長い髪を揺らすように空間の気温さえ塗り替えていく。
「『生命の炎よ――燃え上がれ、舞い上がれ」
 最初に舞ったのは紅蓮の炎蝶だった。指先ひとつ伸ばせば、熱を帯びた蝶が肌を掠める。暖かいな、とただそれだけを思った紅紀の瞳がゆるり、と弧を描く。
「生命の炎よ――燃え上がれ、舞い上がれ」
 ふわり炎蝶が踊れば、その軌跡から白光の炎蝶が姿を見せる。ひゅう、と吹いた風が揺らすのは紅紀の長い髪だけだ。帽子だけを軽く抑えて、念発火能力者として生まれた青年は真っ直ぐに敵を——葬燎卿を見た。
「やるんだよね」
「ァァァアアアアア!」
 それは応えであったか。戦場に置かれた柩が震えた。軋むような音と共に葬燎卿の側に姿を見せた柩が——開く。
「……」
 ギィイイ、と甲高い音を響かせ、舞い踊る紫炎の蝶が群れとなって紅紀に向かってきた。羽ばたきに音は無く、ただ妙な熱だけが紅紀に違和感を感じさせていた。
「……炎も蝶も、生と死の象徴なんだよね。その技、葬燎の名を持つ本来の貴方にはきっと相応しいものだったんだろう」
 行って、と短く紅蓮の炎蝶たちに紅紀は告げる。視線ひとつ無くとも動かせる炎に今は言の葉で告げる。
「今は……最早その意味すら解らないのか」
 ゴォオオ、と紫炎の蝶と紅紀の放った炎蝶がぶつかった。互いの熱を喰らい合うように、炎蝶が葬燎卿の炎を包んでいく。
「——ぁあ、ああ……!」
「そう」
 紅蓮の炎蝶から逃れた数体が紅紀の肩を、腕を焼く。鈍い痛み、だが白蝶が癒やしていけば残るのは僅かに流した血だけ。
「出所から片付けてやるよ」
 紫炎を相殺した残りを、蝶を生み出す柩に向ける。その意味に気がついた葬燎卿が——否、その名を持つオブリビオンを動かす何かが紅紀に踏み込んでくる。
 ——だが、至近の戦いとて知らぬ訳では無いのだ。
「僕から貴方に荼毘の炎をくれてやる」
 ぐ、と突き出される拳より先に、近づいてくる敵を前に紅紀の周辺が一気に熱を帯び——紅蓮の炎蝶が生まれる。
「——ぁあ」
「煉獄よりも骸の海のがマシだと思う程にね」
 刃が届くその前に、炎蝶が葬燎卿に届いた。ゴォオオ、と燃え上がる熱が、蝶が一気に狂えるオブリビオンを焼いていく。
「ぁあ、ァアアアアアア!」
 暴れるように身を捩り、叫んだ相手に紅紀は、トン、と間合いを取り直す。あと少し、か。余り力は消費しないようにいたいが。
「手は抜けないけど全力も出せないのはなかなか難しそうかな」
 ほう、と付いた息ひとつ、舞い踊る二色の炎蝶がふわり、と舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
陽が差さない、ってのがまさか物理でだったなんてネ
その先が、満たしてくれる世界であれば嬉しいケド

狂っていようがいまいが、アタシがやる事は同じだけれど
さて、美味しいのはドッチかしらね
気配を察知したならまっすぐ懐へ
狂える獣なら小細工も無用
【紅牙】で「柘榴」を牙状に変え、襲い来る獣の軌道を*見切り避け
動きで誘いながらも時には*残像置き攻撃を分散させるわ
痛みなど*激痛耐性で見ぬふり
狂ったもの同士それがお似合いデショ?

接敵したら柘榴で喰らい付き、*二回攻撃で*傷口を抉ってもうひと喰らい
丁寧に*生命を頂くわね



●利刃
 戦場に紅蓮の蝶が舞っていた。術士たる猟兵の指先から炎が舞う。踏み込んだ葬燎卿の拳が、届くより先に燃え上がる。
「ぁあ、ぁああああァアアアアアア!」
「……」
 響く声に理性は無く、そも口に動きともあっていないそれは、葬燎卿の中にいる『何か』が叫んでいるのだろう。狂えるオブリビオン、異端の神の容れ物とかしたオブリビオンが蹈鞴を踏む。
「ぁあ、ぁああ……」
 乾いた声が、血濡れの戦場に響いていた。長く伸びて見える影は目が慣れたからか、或いは辺境の——この地故か。遠く響き渡る鐘楼と共に薄曇りの空は揺れている。
「陽が差さない、ってのがまさか物理でだったなんてネ」
 ほう、とコノハ・ライゼ(空々・f03130)は息をついた。この身で歩き、足をついていたその場所が「地下第4層」だと言われれば、夜と闇に覆われた地も大分意味合いを変えてくる。
「その先が、満たしてくれる世界であれば嬉しいケド」
 第四層と数えられているのであれば、第三層は存在する筈だ。夜闇の散歩に向いた地か、この身を満たすほどの何かがしっかりお座りしててくれれば良いが——、まずは、目の前のオブリビオンの相手が先だ。
「狂っていようがいまいが、アタシがやる事は同じだけれど」
 理性無く響く声。ゆらり身を揺らす度にとぷりと柩から漏れる鮮血は、大地に溢れること無く飲み込まれていく。濃い血の匂いは一度だけ風に乗って——消えた。ふ、とコノハは口の端を上げるようにして笑った。
「さて、美味しいのはドッチかしらね」
「ぁあ、ぁあああああああああ!」
「——右」
 呟き、落とす声と同時にコノハは地を蹴った。一歩、二歩、踏み込む体を前に対して加速する。懐を目指し、真っ直ぐに向かえば、ぶわり、と葬燎卿の足許から紫炎の花が舞い上がった。
「グルァアアアアアア!」
 炎から獣が生まれる。紫炎の花を突き破るように飛び出た獣が、ぐん、と巨大な腕を伸ばした。ギィイ、と大地を抉る爪は踏み込みの足場か。理性を失った獣は、ただ素早く動くものを狙い——来る。
「いらっしゃい」
 愚直なまでの踏み込みに、コノハは静かに笑みを返す。引き抜いた柘榴に手を這わせ、零れ落ちた血を飲み干した刃が牙のそれへと姿を変えていく。
「獣ちゃん」
「ルァアアア!」
 ダン、と荒い踏み込みと共に飛びかかってきた獣にコノハは身を横に跳ばす。相手の習性は分かっている。速く動くものを追うのであれば——それを、利用するだけだ。
「ルグァアアア!」
 咆吼と共に紫炎の獣が駆けた。瞬発の加速。足音さえ殺し、一気に眼前に迫った獣にコノハは一度身を沈め——横に振る。獣の牙が残像を砕けば、タン、と身を跳ばした先で、柩を蹴って前に出る。その肩口が血に濡れていた。さっき残像を残したときに得た傷だ。掴むように来た最初の爪が肩口を裂いていた。熱を帯びた痛みに、ただひとつだけ青年は息を零す。血濡れの腕からナイフに赤が捧げられていく。
「狂ったもの同士それがお似合いデショ?」
 吐息一つ零すようにして、ひどく美しくコノハは笑う。身を低く、た、と入れた踏み込みで紫炎の横を抜ける。目指す先はただ一つ、花びらを踊らせる容れ物の狂えるオブリビオン。
「——ぁああ!」
 その影をコノハは踏む。狂っていれど踏み込んだ意味は分かるのか。掌から紫炎を零し、獣を呼ぶが——もう、遅い。
「――イタダキマス」
 逆手に持ったナイフで胸から一気に斬り上げる。紫炎を零す傷口に、僅か身を逸らした相手を追うように一歩を入れたコノハは、手の中でくるりとナイフを回し——傷口を辿るように刃を沈めた。
「ぁあ、あ——……!」
 パキン、と何かに罅が入ったような音が、耳に届く。容れ物の中にいる『異端』か。見開かれたままの瞳の向こう、僅かに息を飲む何かを見据え食らい付いた柘榴の牙を引き抜いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
ヴァンパイア、そして喚び出された…オブリビオン。
異端の神々、蔓延る魔獣。
層を降りる程に、光も草木も命も絶えて。
敵もまるで古く、強くなってゆくかの様。
…それに、何故でしょう?
超常存在とか?
グリードオーシャンのザンギャバスなど思い出してしまうのですが…。

否、戦に余計な感慨は不要。
視る。
視線。爪先、移動。手足の挙動、攻撃の兆しや癖…
見切る全てを利用し。
周囲に張り巡らせ、或いは直接放つ鋼糸。
地のみならず宙も足場に、ナイフを跳び避け、また叩き落し。

棺ね…
万一相応しかろうと…、御免被ります。
放つUC
――拾式

貴殿が如何な経緯で狂ってしまったのだとしても。
それ以上の脅威がこの先に在るとしても。

お仕事、ですので



●暗夜
 間合い深く、踏み込んだ青年の刃がオブリビオンの胸に沈んでいた。切り裂き、喰らうようにあった牙のような刃が葬燎卿の喉元を裂いていく。しぶく血の代わりか、零れた紫炎がきっちりとしめられていた首元を焼き落とす。肩口晒した骨さえ形ばかりとなった葬燎卿には意味は無いのか。ゆらり、と一度身を揺らしたオブリビオンが——吼える。
「ァアアアアアアアアアア!」
「……」
 妙な『音』だとクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は思う。声と言わないのは、口や喉の動きと、声の響き方が全く合わないからだ。
(「狂えるオブリビオン……、あれは中にいる方の声でしょうね」)
 遠く鳴り響く鐘の音にクロトは一度だけ瞳を細めた。
「ヴァンパイア、そして喚び出された……オブリビオン。異端の神々、蔓延る魔獣。層を降りる程に、光も草木も命も絶えて」
 ほう、と息を落とす。気まぐれに吹いた風が艶やかな黒髪を揺らしていた。
「敵もまるで古く、強くなってゆくかの様」
 ぱさぱさと頬に触れる髪をそのままに、クロトは視線を上げる。
(「……それに、何故でしょう? 超常存在とか? グリードオーシャンのザンギャバスなど思い出してしまうのですが……」)
 異端の神が理由か、或いは紋章か。浮かぶ可能性はいくらでもあれど——クロトは、その全てを一度断ち切る。
「否、戦に余計な感慨は不要」
 鐘の音が響く中、言の葉を紡ぐ。己に落とし込むように切り替えるように。考え込んで、動く脚が鈍るようなことがあれば——それこそ、この地に飲み込まれて行くだけだ。
「……」
 名折れなどとは言うまい。己は生還を得手としてきた雇われ兵だ。零す息一つ、口元浮かべる笑みこそ変わらぬまま、クロトは冷えた青の瞳で前を見た。
「ぁあ、ぁああああああ」
 零れ落ちる声。だらりと下ろされたままの腕。理性を失い、異端の神の容れ物と化したオブリビオンが身を揺らし、止まる。
「——来る」
 落とす声と、葬燎卿の踏み込みは同時だった。た、と地を蹴った葬燎卿が血溜まりを踏んで来る。一歩、二歩、跳ぶように一気に間合いを詰めてくる相手にクロトは指先に鋼糸を絡める。ヒュン、と放つと同時に身を横に振った。
「——」
 キン、と高い音を一つ響かせて、ナイフが鋼糸にぶつかる。葬燎卿の放ったものだ。指先にナイフを絡め、踏み込みと同時に次々と放たれるナイフにクロトは地を蹴った。柩を飛び越し、地に手をついて、トン、と上に飛び上がる。空で身を回した男の体は——空に、あった。
「生憎」
 張り巡らせた鋼糸の上だ。転がる柩であれば山ほどこの地にはある。キリリ、と軋む糸はナイフ程度では切れはしない。
「ぁあああああああああ!」
 追うように視線を上げ、放たれたナイフにクロトは鋼糸の上を渡る。腕に、脚に、鈍い痛みが走る。ナイフが掠ったか。だが、腕と脚までだ。そこまでで十分——もう、軌道は読めた。
「ァアアアアア!」
「棺ね……」
 トン、とクロトは鋼糸から降りる。ばたばたと黒衣が揺れ、影のように長く尾を引く。
「万一相応しかろうと……、御免被ります」
 血濡れの柩に沈むのも、埋葬されるのも、この身には向きはしない。
「断截」
 空間を払うように手を滑らせる。戦場に展開した鋼糸が今——集束する。葬燎卿を掴むように、糸の檻にて絡め取るように。
「——ぁあ」
 斬撃が、葬燎卿を斬り裂いた。ひくり、と葬燎卿が身を震わす。柩から零れ落ちる血が増え、音を立てながら崩れて行く。中にいる異端の神に届いたか。
「貴殿が如何な経緯で狂ってしまったのだとしても。それ以上の脅威がこの先に在るとしても」
 靴の先までやってきた赤を一瞥して、クロトは鋼糸を引いた。
「お仕事、ですので」
 それが告げるべき最後の言葉であるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

柩から溢れる赤に、香りに、目眩がする
俺はダンピールで、顔も知らぬヴァンパイアの血が流れている
俺は孤児で、異邦の地にて生まれついての奴隷で
その閉鎖的な村で禁忌とされた『黒色』を髪と瞳に宿し生まれたが故に「悪魔」、「黒い狼」と呼ばれ
数えきれないほどの拷問や虐待を受けてきた
だからこそ俺はこの喉の渇きを、『吸血衝動』を必死に殺して生きてきた
周りと同じ「ひと」でありたかったから

──赤色は苦手だ
「ひと」のフリをする俺を揺さぶる
そしていつだって俺を置いて逝く色だから

それでも冷静を保ち
真正面から卿と相対する
獣をいなし
断ち斬るはそのオブリビオンたる根源
願うは安息を



●葬斂
 とぷり、とぷりと柩から血が零れていた。むせ返るほどの血の匂い。戦闘で崩れたのだろう。砕け散った木の柩が赤に飲み込まれて地面に消えていく。辺境の成せる技か、或いはこの場特有のものなのか。柩から零れ続ける血は、一度だけ猟兵の前に届けど鋼糸を踊らせる青年は踏み越えて行く。
「……」
 ただ赤だけが一度舞えば、柩の赤と目があってしまえば目眩がした。その香りに丸越・梓(零の魔王・f31127)は強く拳を握る。は、と落とす息ひとつ、口元を抑える為に手は動かさぬままに、腰の刃に手を置く。
「——血、か」
 揺らぐ理由は分かっていた。梓はダンピールで、顔も知らぬヴァンパイアの血が流れている。
(「俺は孤児で、異邦の地にて生まれついての奴隷で……」)
 閉鎖的な村では禁忌とされた『黒色』を髪と瞳に宿して生まれた梓は「悪魔」と「黒い狼」と呼ばれた。数え切れない程の拷問、虐待。あの日の痛みを、あの暗がりを梓は覚えている。手を伸ばしても届かなかったか、手を伸ばすことさえ知り得なかったか。
(「だからこそ俺はこの喉の渇きを、『吸血衝動』を必死に殺して生きてきた」)
 周りと同じ「ひと」でありたかったから。
 強く強く、梓は刀を握る。『己』の、ありたい『己』を保つように。
(「──赤色は苦手だ。「ひと」のフリをする俺を揺さぶる」)
 そしていつだって俺を置いて逝く色だから。
 空の柩。骸は無く、血だけが溢れ——その一滴も、梓の足許まで辿りつかない。触れる事も交わることも無いそれに『嘗て』が軋む。失った命を、消えて行くその熱と広がり続けて届かない赤に——だが、梓は唇を引き結ぶ。
「ぁあ、ァアアアアアアア」
 冷静を保ち、揺れる感情を飲み干すようにして前を——敵を見る。異端の神の容れ物と化したオブリビオン。理性も無く、ただ狂気のみがある存在が炎を——呼ぶ。
「ルグァアアアああああ!」
 舞い踊る紫炎の花びらから、獣が姿を見せた。炎を食い破るように来た獣に梓は地を蹴る。タン、と一度、踏み込みは常と変わらずに。
(「速く動くものを追うのであれば……」)
 そこを考えて動くしか無い。静かに抜いた刀、前へと動けば獣が鼻先を上げた。
「グルァアア!」
「そうだろうな」
 言葉一つ落として、背を狙ってくる獣に梓は振り返る。重い一撃、刃で受け止め——その重さを利用するままに脚をひき、後ろに飛ぶ。獣の相手をする気は無い。真っ正面から相対するのは——葬燎卿だけだ。
「ぁあ、ああああああ」
「……」
 零れ落ちる声に、最早意味も無く。裡に巣くう異端の神が漏らした声に過ぎずとも、梓は園姿を真っ直ぐに見据え——行った。間合い深く、一気に距離を詰める。追いかける獣を置いて、肩口、浅く入った傷も気にせずに流した血ごと刀を握った梓は真っ直ぐに葬燎卿を見た。
 ——キン、と斬り上げた刃がオブリビオンの体に、沈む。深く、その核にまで届いた刃が根源に至る。
「——ぁあ、あ」
 その刃が齎す傷に紫炎は零れることは無く。その肉体を傷つけることは無いままに、オブリビオンとしての根源を——砕く。
「──おやすみ」
 安息を梓は願う。ぐらりと倒れ行く、嘗て葬燎卿と呼ばれていたオブリビオンに。異端の神にその身を奪われ、この地を彷徨っていた葬燎卿に。紫炎の花びらに包まれるようにして、その姿が消えて行けば、戦場にあった柩が全て壊れて行く。
「……」
 零れ落ちる血が全て止まり、大地に飲まれるようにして消えて行く。バキバキと砕ける音さえ残さぬまま——ただ、遠く聞こえていた鐘の音が大きく、戦場に届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『血霧の不吉』

POW   :    肉体で耐える

SPD   :    迅速に避難をする

WIZ   :    異常の原因を探る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●頳き旅路
 カラン、カラン、カランと鐘が三度鳴る。つづけて三度、次に九度。響き渡る鐘の音を追うように進んでいけば、猟兵達の目に見えたのは血のように赤く染まった空と、巨大な教会であった。ステンドグラスは全て砕け、窓枠だけが残ったそこから血を染まった空がよく見える。
 血霧——地平線にかけ、空が燃えるように赤くなる異常現象がこの地に起きていた。古びた巨大な教会以外にこの地に建物は無く、人の身で開くには手間のかかりそうな巨大な扉が全て開け放たれていた。
「……」
 零す息が白く染まる。血霧の影響だろう。周囲の気温が一気に下がっていた。
「——これは」
 それは猟兵の一人の声であったか。
 巨大な教会の中は、どこを見ても日常の名残があった。礼拝堂の椅子には古びた本が残り、通路には一つ、ふたつと影だけが残る。人の姿はそこに無く、気配さえも無いというのに名残だけがあった。
 異様か異常か。
 出ることを意識し無ければ、迷う可能性もある。
 何にしろ長居は不要だろう。だが、一歩踏み出したそこで、体に鈍い痛みが走った。腕に、手の甲に、勝手に傷が刻まれていく。零れ落ちる血が衣を飲み込むように増えて行く。
「幻影か」
 紡ぐ声が、噎せるそれに変わる。意識を強く保たなければ傷の痛みに引きずられてしまうだろう。
 これは幻影の傷。痛みの狭間で囁くような声がした。
『——めろ、止めなさい』
『さぁ、足を止めて』
『置いて行け』
『全てを』
 ——ここで、終わりにしろ。
 最後の低く、男の声がする。血霧の教会が猟兵達を飲み込むように鐘の音を響かせる。
 この地を抜け出さなくては。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第二章受付:10月23日8:31〜

●リプレイについて
幻影の傷が発生した状態からスタート

不可思議な教会を突破するために、傷だらけになる幻影を振り払ったり、幻聴を振り払って進もう。

*幻影の傷について……実際のダメージはありませんが、上手く振り払う事が出来なければ、苦戦する可能性があります。肯定したり否定したり、知るか、だったり。幻影の傷による痛みと血に飲み込まれないように頑張ろうターン。
 傷の場所はご自由にどうぞ。

*幻影の傷、幻聴状態を突破できれば、教会を突破できます(出口に行けちゃう)


◆―――――――――――――――――――――◆
クロト・ラトキエ
血霞。
イヤぁですねぇ。
汚れ、時間が経つほど落ち難くなるじゃないですか。
異常であるが故に日常とも言える…
ある意味、この世界らしいですけどね。

さて…
全てを置いていけ?
得物も、想いも…命さえも?

はっ。やーなこった!
数多を切り捨て、打ち捨てて来た。
けどそれは、“生きる為”だ。
誰かに“おわり”以外を与えた事なんか無い。

己以外には数え切れまい、暗器全てを外している暇があるなら、
傷など、痛みなど、血など構わず無視して、最速で最善を尽くす方が余程早い。
置いてる間に死ぬよりは、ね。

――ならば。
UC起動、風の魔力を全て防御力に。
疾く、駆け抜ける。

死ななきゃ安い!
…今までそうして生き残って来た。
猟兵クロト、罷り通る



●血潮
 ぷつり、と肌の裂ける間隔がひとつした。上腕、肩口、足。滑る刃も無ければ糸も無く、銃弾さえ聞こえぬこの地にあるのは鳴り響く鐘楼と——落ちる、血の赤だけであった。
「血霞」
 白皙に一筋、傷が入る。頬に走った傷に、薄く唇を開き青年は青い瞳を細めた。
「イヤぁですねぇ。汚れ、時間が経つほど落ち難くなるじゃないですか」
 晒す肌など然程なく、全てが黒衣の下にあった。砕け散ったステンドグラスから差し込む色彩など、赤く染まった空だけだ。日の光には程遠く——ただ、現象としてだけある赤にクロトは息を落とす。チリチリと肌に感じる痛みが、深くなるような感覚がしていた。
「……」
 刃が肌を撫でたか、穿つ矢があったか。銃弾であれば、あと少し違うか。は、と二度目に落とした息と共にクロトは緩く拳を握る。傷が走った痛みはあるが——体は動く。手を握れば、爪先がグローブ越しに肌に感覚を伝えてくる。
「異常であるが故に日常とも言える……。ある意味、この世界らしいですけどね」
 これは幻影の傷であるという。血霧の齎した現状。この不可解な教会と同様に、辺境にある異常がクロトの足許に血溜まりを作っていた。
「……」
 赤々とした血溜まりに、ひとつ、ふたつと波紋ができる。ぱたぱたと指先から落ちる血で生まれたか。靴先にぽたりと一つ落ちた赤に紛れるように、声が聞こえた。
『——めろ、止めなさい』
『さぁ、足を止めて』
 それは女の声であり、子供の声であり、少年の声であった。全てを混ぜ合わせたように四方から響く声は、怨嗟ではなく形ばかりの慈愛に似る。
『置いて行け』
『全てを』
 ここで、膝をついて終われと。
「さて……全てを置いていけ? 得物も、想いも……命さえも?」
 カツン、と進む一歩で靴音を鳴らす。広大な礼拝堂に青年の足音だけが響く。血溜まりを踏み、視線を真っ直ぐ前に向ける。
「はっ。やーなこった!」
 軽妙な言の葉で否を紡ぐ。カツン、コツン、とクロトは足音を響かせる。戦場では容易く潜めるその音を今、紡ぐ否と共に告げる。
「数多を切り捨て、打ち捨てて来た。けどそれは、“生きる為”だ」
 ばたばたと黒衣が揺れていた。柔らかな黒髪が頬を撫で、淡く影を落とす。雇われ兵として過ごしてきた青年は、長い影と共に進む。
「誰かに“おわり”以外を与えた事なんか無い」
 肌を裂く痛みが深くなる。鈍い痛みが、熱に変わっていく。——だが、どれも知らぬものでは無いのだ。
(「致死量には遠い」)
 痛みを痛みとして感じられている以上、問題は無い。これが幻影の傷であるならば尚更、傷など、痛みなど、血など構わず無視をしてクロトは踏み出す。
「最速で最善を尽くす方が余程早い」
 一歩、二歩、追うように生まれる血溜まりを踏みしめ、最後の一歩を入れて——身を、沈める。
「置いてる間に死ぬよりは、ね」
 ふ、と柔らかな笑みを浮かべてクロトは身を前に跳ばした。礼拝堂の中を一気に駆ける。古びた椅子を飛び越え、タン、と強く床を踏みしめれば展開した魔方陣から風の魔力が解放される。
「疾く、駆け抜ける」
 告げる言葉は、ひゅうう、と吹き抜ける風と共に舞った。守りを描く風と共に、クロトは一気に駆ける。着地の瞬間、脚が痛めども、血溜まりを飛び越え、痛みを飲み干す。幻影程度の痛みに引きずられる気も、膝を折るつもりも無いのだ。
「死ななきゃ安い! ……今までそうして生き残って来た」
 クロト・ラトキエは何より生還を得手としてきた雇われ兵である。その事実は変わらず、だが猟兵としての己と共に告げた。
「猟兵クロト、罷り通る」
 ダン、と最後の一歩、残る扉を蹴破れば高く響く鐘の音と共に『外』の景色がクロトの瞳に映っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
酷く寒い、どこが痛いかも分からないほど身体中が痛む
最初は駆け抜けようとしたものの、足にも傷が刻まれ痛みだしては走る事すら難しい
足を前へ進めるにつれて傷と痛みが増していく
幻影の傷だとしても、やはり厄介だと再確認

至る所から血が流れ出し苦痛で足が重くなろうと、僅かずつでも歩けるなら構わない
鐘の音と聞こえる声で思考が鈍っても、ただ前へ進む事だけを考えていれば良い
たとえ足を止めて全て置いて終わりにすれば、この苦痛から逃れられるとしても…それで良いわけがないだろう

頭に響く声には、黙れと返して
どれだけ傷を負っても戦い続けると、この銃を手にした時から決めている
この程度で諦めてたまるかと己を奮い立たせながら前へ



●鳥雲
 鐘の音が、高く響いていた。三度繰り返し響くそれに砕け散ったステンドグラスが僅かに震える。パラパラと今更、落ちてきた破片が血に染まった空が零す光りを男の瞳に映していた。
「……」
 僅かに、シキ・ジルモント(f09107)は瞳を細める。音が、遠かった。鐘の音は迷い無く耳に届くというのに、落ちた破片が床を叩く音は遠い。ただ、キラキラと反射する光だけが目に映り——一瞬、視界が歪む。
「これが……」
 血霧の影響か、辺境にある礼拝堂が根となった異端の技か。は、と吐き出した息が白く染まる。肺に入れる空気は気をつけていたはずだというのに、ひどく、痛む。寒い。どこが痛いかも分からないほど身体中が痛んでいた。
「……」
 薄く、開いた唇から血が滲む。立ち尽くすには向かない場所だ。二度目の息を吐き、た、と床を蹴る。一歩、二歩、そこまで進んだところで着地の足が、ずくり、と痛んだ。
「——」
 同時に感じた、ぬるり、という感覚。血だ、と気がついたのは死地というものをシキが知っているからであった。傾ぐように揺れた体を利用するように真横に飛ぶ。着地に体の軸が足りずに、が、と伸ばした腕で礼拝堂の椅子を掴んだ。
「……指もか」
 その指先さえ、血が滲んでいた。足にも傷が刻まれているのだろう。この痛みでは走る事すら難しい。前へ、前へと進むにつれて傷と痛みは増していたのだ。
「幻影の傷だとしても、やはり厄介だな」
 反応として、体は傷みを前に足を止める。じくじくと腕が、足が痛む。腹の辺りに感じる熱は、刃で切り裂かれた傷とでも言うつもりなのか。腕を捲れば、ぱたぱたと零れ落ちる血が床を塗らした。
「……」
 滴り落ちる音は無く——だが、血溜まりに描かれた波紋と共に妙な声がシキの耳に届いていた。止めろ、とやめろ、と。進む足など止めて良いのだと、声は慈愛を以て響いていた。
『置いて行けば良い、全てを』
『止めなさい』
『此処で、もう終わりにすれば、あなたは——……』
「——」
 シキ、と幻影が呼ぶ。呼ばれたような感覚だけがひとつ、残る。慈愛を以て響く声に、だが、シキは構わず足を、前に出した。血溜まりを踏み、血濡れの手で椅子を掴み、その身を前に出す。歩みはゆっくりでも——僅かずつでもあるけるなら構わない。ピン、と狼の耳を立てて、低くシキは喉を鳴らす。赤く染まった空を目の端に、進むべき道だけを正面に捉える。
 ——そう、鐘の音と聞こえる声で思考が鈍っても、ただ前へ進む事だけを考えていれば良い。
(「たとえ足を止めて全て置いて終わりにすれば、この苦痛から逃れられるとしても……それで良いわけがないだろう」)
 血溜まりを踏み、シキは口元零れた血を雑に拭う。
『そう。だからこそあなたはもう——……』
『止まりなさい』
『終わりにして良いと……』
「黙れ」
 頭の中、響く声にシキは低く告げる。礼拝堂に否を告げた声が、二度、三度と反響する。
「どれだけ傷を負っても戦い続けると、この銃を手にした時から決めている」
 ハンドガン・シロガネ。
 恩人から継いだ拳銃に触れる。血濡れのグローブ越しに、その形を確かめるように。
 これは、覚悟の証であり、シキにとっての証明でもあった。
 鐘が、鳴る。三度、カラン、カラン、カラン、と繰り返すようにして。腕に刻まれた傷が深くなる。腹の傷を抑えていた手を離し、シキは歩き出す。
(「この程度で諦めてたまるか」)
 真っ直ぐに前を見て進めば、鐘の音がふつり、と止む。礼拝堂の果てに辿りついた不可解な扉が、歪むようにして消えていく。
「——外、か。これが」
 礼拝堂の外、血霧の果てたる空間がそこに広がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
さて、随分なところだが、異端の領域にあるこの教会で、どんな神が奉られていたんだろうね?

じっとしているとどんどん膾斬りみたいな感覚に陥るのか……
こんなに傷だらけなのは久しぶりだねぇ。
奴隷として、自由を求めた頃を思い出す。
苦痛を懐かしむ心はないが、あの頃には仲間がいたなぁと胸が苦しい。
……すべて喪ってしまったけれどね。

死した彼らの魂と共に、憧れた自由を生きる。
それが我の誓い。
ゆえに痛みも血も足を止める理由にはならないさ。

狼となって素早く駆け抜けていこう。
こういう厳かなところを全力で走り回るの、ある意味浪漫だよねぇ。

厄介な幻も、異質な世界によく似合う。
この先に何が待っているのか、ますます楽しみだね?



●潮騒の果てに
 血のように赤く染まった空が、枠だけの残った窓から見えていた。赤い血の色が辺境のこの地にあって尚「見えている」のは、やはり異端の関わる領域であるからか。
「さて、随分なところだが、異端の領域にあるこの教会で、どんな神が奉られていたんだろうね?」
 主祭壇に祭られるべき者も無く、分厚い書物も無い。言ってしまえば——そう、心躍るような冒険の一品、まだ見ぬ大地にあるお宝のような何かはこの礼拝堂には眠ってはいないようだった。
 ——ただ、廃墟だ。
 広い、と先に思ったのは洞窟の如き空間としての広さと、ステンドグラスを失った大窓の所為だろう。高い天井を支える柱さえ、装飾を失い、欠け落ちた破片さえ見当たらなければ此処にあるのは列を成す椅子と、冷えた石畳と——長く、伸びた狼の影だけであった。
「……」
 ゆるり、とハディール・イルドラート(f26738)は息を落とす。少しばかりの期待と共に見渡した空間は、ピリ、と指先に走った傷みに止められる。見れば、知らぬ間にぱたぱたと指から血が零れていた。爪を赤く染め、滴り落ちる赤がハディールの靴を濡らす。かと思えば、次の瞬間には、手の甲に、腕に、傷が走っていた。刃が撫でたか、ナイフが触れたか。疵口を晒すような傷みに、ハディールはピンク色の瞳を細めた。
「じっとしているとどんどん膾斬りみたいな感覚に陥るのか……」
 滴り落ちる血、足許に出来る血溜まり。靴先が触れた血は、同じ色をしていたか。視線ひとつ向ければ、背に熱を感じる。刃の傷とは違うそれは、膝をつかせるために振るわれるものであったか。
「こんなに傷だらけなのは久しぶりだねぇ」
 傷みだけが、先にあった。熱はあれど、衝撃は遠く血溜まりだけが足許に残る。衣が赤くそまり、髪の先が血に濡れていく。尻尾が重いねぇ、と小さく息をついてハディールは笑った。あの日のことを、思い出していたのだ。奴隷として自由を求めた頃を。
(「あの頃には仲間がいたなぁ」)
 苦痛を懐かしむ心があるわけでは無く、ただ——そう本当に懐かしく、それでいて胸が苦しかった。
「……すべて喪ってしまったけれどね」
 ハディール・イルドラートは、ゴーストキャプテンである。
 曾て夢見た黄金の都を目指す誓いを胸に征く旅人は、ゆっくりと視線を上げた。
「死した彼らの魂と共に、憧れた自由を生きる。
それが我の誓い」
 一歩、足を進める。足首にナイフの滑る感覚が残る。これ以上を進めば、此より先に向かうのであれば、脚さえ残さぬとでも言うように零れ落ちる血が増えて行く。——だが、それだけだ。
「痛みも血も足を止める理由にはならないさ」
 くるるる、とハディールは喉を鳴らす。ぴん、と立った狼の耳、体を一度震わせるように白い柔らかな毛を逆立たせる。
「我に、海も地も天も変わりなし」
 告げる言葉と共に、狼の瞳が鈍く光った。身を低め、一気に前に出る。瞬発の加速。た、と床を蹴れば次の瞬間——ハディールは狼となる。
(「こういう厳かなところを全力で走り回るの、ある意味浪漫だよねぇ」)
 椅子を飛び越え、柱を蹴るようにして前に——主祭壇に向かう。不可解な広さとて、獣の如き測度を得た今であれば、全力で走り回る広さを楽しむだけだ。
「厄介な幻も、異質な世界によく似合う」
 薄く口を開き、笑うようにハディールは紡ぐ。壁を蹴り、古びた棚の上を足場に、歪んだ視界の先に目を遣る。見えたのは——扉だ。
「みつけたよ」
 宝探しには足らずとも、ただ前へ。駆ける測度に零れた血が靡き揺れる。
「この先に何が待っているのか、ますます楽しみだね?」
 獣のように喉を鳴らし、ハディールは開かぬ扉を気にせず——行く。ぶつかるとは思っていない、あの向こうがあると、そう感じたから。ダン、と荒く入れた踏みこみ。加速の先に、閉じていた扉が解けるようにして消え——外が、見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
【狼天狗】
幻影と知りつつも広がる光景にぞわりと背筋を震わせる
これは――
ちり、ちり、と腕や足、露出している肌に血の筋が走っていく

ついさっきまで人がいような名残はあるのに。気配がない

ああ――
知らずうちにカチカチと歯を鳴らして寒さに、痛みに音を出して

ミコト…だめ…此処は長くいてはいけない…
(獣の本能がそれを囁くように)
足元からずるりと闇が這い上がってくるような錯覚に囚われる

捕まってはいけない

振り返ってはいけない

ただ――前に進め

斬り裂かれ、流れる血の痛みよりも勝るものは得も知れぬ恐怖

傍らの羅刹の手を握り共に駆ける
大丈夫、この手の温もりさえあれば何も怖くないのだ

終わらせることなど、するものか…っ!


ミコト・イザナギ
【狼天狗】
血染めの洸の中、辿り着いた廃教会

人の痕跡の事実だけを受け止めて
感慨もなく獲物を探す為に鼻と勘を働かせよう
急激な寒気は却って肌が敏感になるというもの
せいぜい利用させて貰おう

ただ怯んでいるディアナには
着ていた羽織を被せて手を引こう
温もりを感じつつも――冷静に
「いこうディアナ、火中の中にこそ秘密は隠れているものだよ」

見つけた通路は己が通った名残として
足元や壁に刀傷を付けながら進んでいく

「止めない」
「止めない」
「置いて行かない」
「総てを」
「終わらせない」

総て悪意を持って煽る声で応えて嗤う天狗面
この脅しは愉悦が湧くばかり
腕が捥げようが何処までも
脚が砕けようが何処までも
天狗は征くのだ何処までも…



●血霧の不吉
 そこは、古びた教会の中庭であった。長く続く廊下を抜けた先、妙に開けて見えた空間こそパティオのように作られた空間であった。嘗ては、ここで祈りを捧げる者達の姿があったのか、或いは——辺境の地の、邪神が紡ぎ上げる奇っ怪な空間に過ぎないのか。割れた石畳が見えたかと思えば、数歩進めば磨き上げられたタイルに出会う。つなぎ合わせたかのように見える不可解な空間、広大と言うに相応しい教会に二人の姿はあった。
「……」
 長く、影が伸びる。辺境にあって尚、影が生まれたのは空を染めた血霧が故だろう。夕暮れ時のように影が伸びれば、コツン、と進めた一歩に違和感が生じる。
「……」
 傷み、だ。踏み出した足を、それ以上動くなと続く一歩を殺すように、刃で裂かれたような痛みがディアナ・ロドクルーン(f01023)の体に伝わっていた。
「これは――」
 ちり、ちりと腕や足、露出している肌に血の筋が走って行く。中庭から見えた、あの空のような赤。幻影と知りながらも広がる光景に、ぞわりと背筋を震わせた娘は唇を引き結んだ。
「——」
 手を強く握る。己が、己として此処にある事実を忘れぬように。引きずられぬように。晒す肌に刻まれる傷に、伝い落ちる血を意識しすぎないように。——だが、人狼の娘は捉えていた。この地に人の気配が無いことを。ついさっきまで人がいたような名残があったことを。
「ここは、嘗ては……」
 ひとがいた。飲み込まれるように忽然と消えてしまっただけで——確かに、此処には誰かが、彼らの営みと祈りが——あったのだ。
「ああーー」
 知らず、ディアナはカチカチと歯を鳴らす。自覚してしまえば、寒さは一気にディアナを襲う。痛い、寒い。鈍くなるような感覚に、何かに引きずられる感覚に唇を引き結ぶ。
「ミコト……だめ……此処は長くいてはいけない……」
 獣の本能がそれを囁くように、足許からずるりと闇が這い上がってくるような感覚がした。カツン、と進む一歩が、蹌踉けるように揺れた。
「——」
 捕まってはいけない。振り返ってはいけない。
 ただ――前に進め。
 血溜まりを踏みながらディアナはきつく己の腕を掴む。斬り裂かれる傷みより勝るものは得も知れぬ恐怖。
「——ミコト」
 二度目の言の葉は、警戒と共に擦れて響いた。その音を拾うように、ミコト・イザナギ(f23042)はディアナを呼ぶ。ゆるり、と上がる視線。揺れていた瞳が、己を捉えるまでに、来ていた羽織を被せる。
「いこうディアナ、火中の中にこそ秘密は隠れているものだよ」
 そっと手を取る。じわり、じわりと指先から熱が伝わっていく。触れあう程に、分け合って届いた体温はどちらのものだろうか。ほう、と吐息を零すようしてディアナの視線がこちらを向く。
「大丈夫、この手の温もりさえあれば何も怖くないのだ」
「……」
 応じる言の葉の代わりに、ミコトもその手を握り返す。彼女の温もりを感じながら、冷静に周囲を見渡し——探る。獲物を探すために。急激な寒さとて、ミコトにとっては肌が敏感になる程度の話だ。
(「せいぜい利用させて貰おう」)
 死地にあればこそ、使える術をミコトは知っている。それが呪いであれ加護であれ、使えるという事実をミコトは理解していた。
『——めろ、止めなさい』
「止めない」
『さぁ、足を止めて』
「止めない」
『置いて行け』
「置いて行かない」
『全てを』
「総てを」
 幻影の向こう、囁き聞こえる声にミコトは悪意を持って煽る声で応えていく。愉悦を隠すことなど無いままに。
 腕が捥げようが何処までも。
 脚が砕けようが何処までも。
 天狗は征くのだ何処までも……。
 それこそ、呪であったか祝福か、加護であったか。或いは禍津日の玩弄か。
(「災厄の神は天津より我らを睥睨し、その死を嘲弄し、尚も死して見せよと宣い給う」)
 口の端を上げ、音にして紡がずにミコトは告げる。手を取り、二人駆けだして。零れ落ちる血と、鈍い傷み、寒さに構わず真っ直ぐに前を——見る。
「終わらせない」
「終わらせることなど、するものか……っ!」
 ミコトとディアナの声が重なった。強く、二人手を握って、一気に教会の中を駆ける。
「一閃一閃また一閃。無慈悲な歌が耳を裂く 高鳴る鼓動に身を任せ 足音高く舞い踊れ」
 ディアナの刻印が瞬けば、紡ぐ加護がミコトに届く。書庫を抜け、礼拝堂へと辿りつけば、歪んだ空間が目に付く。
「着いたようね」
「——あぁ」
 行こう、の言葉の代わりに二人は行く。傷みも血も、今は置いて。歪む空間へと迷い無く一歩を踏み込めば、見えていた扉がガシャン、と崩れ——外が、見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
息が白くなったのを見て、意識的に己の周囲の温度を高め
赤いのに寒いなんて何か不思議だね
こんな所にも人の営みがあったのに、何処に行っちゃったのか

――とか悠長に考察してるヒマは無いってか
指先から裂けた皮膚より流れる血を舐めとり
鉄の味はするのかどうか
凍裂の様に寒さだけが原因でも無いんだろうけど
UC発動
己の身を炎で包み、機動力を上げて此処を抜けるべく駆け出す

頬を裂き、手足に感じる痛みに上げそうな声は歯を食いしばって耐え
聞こえる声はどいつもこいつも陰気で負の念に満ちてるけど
そんな湿気ったマイナス空気で僕の熱を止められるとでも?
前向きの意思が、感情こそが僕の炎の源だ
幻影も幻聴も焼き尽くしながら振り払うのみさ



●火起請
 高く、長く鐘の根が響いていた。鐘を鳴らす人も無く、聞く者もいない廃墟の礼拝堂は、椅子だけが綺麗に並べられていた。他に猟兵達が辿りついたのだろう、幾つか砕けた椅子を見ながら天瀬・紅紀(f24482)は瞳を細める。
「……」
 息が、白くなってきていた。
 紅紀は周囲の温度を上げていく。手を伸ばす範囲、意識的に空間の温度を上げていけば境目が揺れる。冷気に触れた——というよりは、境界に近いか。
「赤いのに寒いなんて何か不思議だね。こんな所にも人の営みがあったのに、何処に行っちゃったのか」 
 建物は、住むものを失えばゆっくりと死んで行くものだ。
(「——街だけがまだ、生きていた」)
 そこまで考えて、ふ、と紅紀は笑う。小説の書き出しのような言葉ひとつ、音として響かせる前に唇を濡らす。チリ、と違和を感じたのはその時だった。
「……」
 傷、だ。指先が赤く染まっていた。ぷつり、と肌の裂ける感覚と共に爪先まで紅をひいたように赤く染まっていく。指先から、手の甲へ。指の付け根に赤く糸でも結んだかのように傷が走って行く。
「悠長に考察してるヒマは無いってか」
 落ちた声が、僅かに低く響いた。流れる血を舐め取り、紅紀は息を吐く。鉄の味はする。傷、そのものは幻覚だが——だが、違和感はあった。ただ流す血であれば、鉄の味で済むだろうが、これは何かが違う。
「凍裂の様に寒さだけが原因でも無いんだろうけど……呪いの類いかな。幻覚、幻影は経験による影響もあるって言うけれど」
 例えば、舌に感じた血の味が、嘗て紅紀が感じたものから構築されただけに過ぎないのであれば、血というのは『こういうものだ』と認識させられたに過ぎないのであれば、理解はできるが——まぁ、やっかいなのは変わらない。
「ここを、抜け出そうか」
 ほう、と零す息と共に紅紀は手を伸ばす。幽鬼のように男の影がひとつ、揺れた。空気の歪み。周囲の気温を引き上げたときに似た揺れは——だが、次第に大きくなっていく。熱に煽られるように衣が揺れ、その裾が色彩を変えていく。
「始めるよ、僕も君も燃え尽きるまで」
 炎、だ。
 湧き上がるように触れる者を燃やす炎が紅紀を包んでいく。揺れる髪に、炎が淡く影を落とした。
「行こうか」
 緩く拳を握り、落とす言葉と共に紅紀は身を前に跳ばした。タン、と一気に礼拝堂の中を駆ける。崩れた椅子を飛び越え、破片を足場にして最短距離を行く。多少の障害物は炎で対処すれば良い、問題は——……。
「——ッ」
 痛み、だ。頬を裂いた傷が銀の髪を濡らす。頬に張り付いた髪を退かすように荒くかき上げて、紅紀は歯を食いしばった。踏み込む脚がひどく——痛い。熱い。動くなとでも言うように、手の甲が赤く染まっていく。踏み込む脚が耐えきれずに崩れそうになる。
『——めろ、止めなさい』
『置いて行け』
『全てを』
「——そんな」
 痛みに声など、上げる気はなかった。引き無ずんでいた唇を、軽い咳きと共に紅紀は開く。どいつもこいも陰気で負の念に満ちた声達に、紅紀は口の端を上げた。
「そんな湿気ったマイナス空気で僕の熱を止められるとでも?」
 ふ、と息を零すようにして紅紀は笑う。纏わり付くように聞こえている声を、払うように——熱を、上げる。
「前向きの意思が、感情こそが僕の炎の源だ」
 炎が、紅紀の足許から円を描くようにして立ち上がった。ゴォオオ、と空間が唸る。
「幻影も幻聴も焼き尽くしながら振り払うのみさ」
 笑うように告げた男の手が、薙ぎ払うように震われた。石畳を這う炎と共に紅紀は一気に、礼拝堂の奥へと向かう。炎が走った先、何も無かった空間に生まれた扉が焼け落ちれば、その先に『外』の景色が見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

──声が聴こえる
故郷の人々の声だ
俺を恐れる声、罵倒する声
嘲笑し、または怒り狂い、嘆き悲しむ声

──頭が痛い
幻影による傷ではない
唯、聴こえる声に呼応して
俺を責め立てるような激しい頭痛

──『置いていけ』と誰かが言う
俺が背負った責任も使命も、罪でさえも
甘やかに、慈悲であるかのように
この足を挫くかのように、幻影の数多の傷が身体を切り裂いていく

鼻で笑う
「悪魔」
「黒い狼」
そして──「魔王」に相応しい表情で

外套がはためく
背筋は凛と伸ばしたまま
眼差しは決して曇る事無く

──『全てを終わらせろ』と誰かが言った

「悪いな」
瞳細め不敵に微笑う

俺は──まだ、終われない



●黑
 空が、血のように赤く染まっていた。元より辺境に光りなど無く——だが、だからこそ、長く伸びた影こそが異様であった。冷え切った空気に男の吐息が白く染まる。カラン、カラン、カラン、と教会の鐘の音が丸越・梓(f31127)の耳に届いていた。
「……」
 この地は、廃墟であるというのに。
 人のいた名残はあれど、既に気配も無く。外敵の気配さえ無いというのに、響き渡る鐘の音はこの地が生み出した異様のひとつか。辿りついた礼拝堂は、全ての窓を失っていた。
(「窓枠だけが残っている、か」)
 破片の全ては内側にある。最も——外とされる場所も、教会の一部だ。廊下に出てみれば、その先も『外』を——空を臨む窓の枠が割れているのが見えるのだろう。
「……」
 全て、見えるだけ。あそこから出ようとしても上手くはいかないのだろう、と梓は思う。術式の類いか、呪いか。この地は、住む人を失って尚、そのままの形で在り続けているようだった。
「——……このあたりは」
 薄く、唇を開いて周囲を見渡す。その、時だった。指先に鈍い痛みが走ったのは。
「傷か。これが、幻影の傷」
 黒のグローブの下、血で滑ったような感覚が残る。指先から手の甲へ、傷口が開くようにして裂けていく。じくじくとした痛みが、腕から這うように胴に届く。
「……意識を」
 強く持たなければ、何らかの対策をしなければこの痛みに飲み込まれるだろう。例え幻影であっても、辺境の地が生み出したものだ。このままでは苦戦することになる。は、と梓は息を吐き——、足を、止めた。
『——まえは』
「——」
 声が、聴こえたのだ。
『——めろ、止めなさい』
『さぁ、足を止めて』
 囁くような声は慈愛に溢れ、混じるように覚えのある声が梓の耳に届く。故郷の人々の声だ。梓を恐れ、罵倒する声。嘲笑し、または怒り狂い、嘆き悲しむ声。
『お前は、……だから』
『所詮、……のような、は』
「——っ頭が、痛い」
 ひゅ、と喉が鳴る。ぐらり、と身を揺らし、梓は口元を押さえる。ぬるり、と血に濡れた指先が頬に赤を残していく。幻影の傷とは違う、頭の痛みがあった。梓を責め立てるような激しい頭痛。
『置いていけ』
 梓が背負った責任も使命も、罪でさえも置いていってしまえ、と。甘やかに、慈悲であるかのように。傾ぐ体を支える為に出した一歩に、痛みが混じる。その足を挫くかのように走る痛みは、傷は、刃がつけたか。焼き印であったか。気がつけば、ぬるりとした血溜まりが足許にあった。は、と何度目の息を、梓は零す。
『置いていけ、お前は——……】
「——」
 だが、その言葉の全てを梓は鼻で笑う。「悪魔」「黒い狼」そして──「魔王」に相応しい表情で。
「……」
 外套がはためく。男は、視線を起こす。踏み込む一歩を確かなものとする。
 ──『全てを終わらせろ』と誰かが言った。
「悪いな」
 瞳を細め、梓は不敵に笑った。
「俺は──まだ、終われない」
 幻影の痛みに飲み込まれぬように、まずは言の葉を一つ、紡ぐ。真っ直ぐに、前を見る。背筋を伸ばし、眼差しは決して曇ることなく。血溜まりを踏みしめて、前へと痛みの中、歩き出した。無数の傷を抱えながらも、辿りついた先に『外』へと通じる扉があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
綺麗、ナンて呑気に見てる場合じゃナイか
廃れた建物も赤いイロも好きダケド
ちょっとばかし耐性があるからって痛いのは好きな訳じゃあねぇのよ

声を嘲笑うかの如く、散歩の様な気軽さで踏み出す
ふふ、随分勝手な言い草ねぇ
でも「コレ」はオレだけじゃあナイから勝手に置いてはいけないの
あんなに空っぽだったのに今じゃ沢山のモノが詰まってるし
何よりあの人との約束が、押しつけがましい終わりだナンてモノ認めやしない

大体、置いてけって言うなら相応のお代は頂かないとねぇ
きっちり前払い、足りなきゃ何一つお出しできないわ
さぁ、と、歩きながら幻の傷から生む【黒涌】も、また幻かしら
それでもイイわ
己の赤の一滴だって置いてくには惜しいもの



●帰巣
 ——吐息が、白く染まっていた。ほう、と落とす息に、肺が軋む。気温が急激に下がったのが理由だろう。カツン、カツン、と石造りの床を進んで行けば見上げるほどに巨大な扉がコノハ・ライゼ(f03130)の瞳に映っていた。
「どんな人が使ってたのかしらネ?」
 凡そ、人の身には不必要な程に巨大な扉は、開け放たれてある。分厚い扉の向こうにあるのは、広い礼拝堂であり——窓という窓が全て、壊れていた。
「……」
 ステンドグラスの破片が、まだ少し、パラパラと落ちてきていた。ゆっくりと、そこだけ時の流れが歪んでいるかのように光りは落ちる。視線一つあげれば、血のように赤く染まった空が見えていた。
「綺麗、ナンて呑気に見てる場合じゃナイか」
 ひどく、寒い。辺境という地特有の寒さというには、チリチリと肌に感じる感覚が違いすぎる。
 ——これは、傷、だ。
 指先を見れば、ぷつり、と肌が裂けるのが分かる。小さく、針でも刺したかのように生まれた傷がゆっくりとその幅を広げていく。ひとりでに、刃で撫でたような傷が手に、腕に、生まれていた。
「廃れた建物も赤いイロも好きダケド、ちょっとばかし耐性があるからって痛いのは好きな訳じゃあねぇのよ」
 痛みは、熱に似ていた。骨まで届いたか。くるり、と手を返して流れ落ちる血を見る。いつのまにか出来上がっていた血溜まりが、水辺のように波紋を描いていた。
「……」
 ひどく、妙な気配で。
 ぱた、ぱた、ぱたと。この程度の出血であれば、あり得ぬ程に派手に。波打つような赤と共に囁くような声がコノハの耳に届いた。
『——めろ、止めなさい』
『さぁ、足を止めて』
『置いて行け』
 それは慈愛に似ていた。甘く、優しく、全てを包み込むような音で告げるのだ。
『全てを』
 全てを置いていけと。——だが、赤を眺めた男は一歩を、進める。
「ふふ、随分勝手な言い草ねぇ」
 紫雲に染めた髪を揺らし、血溜まりを踏みしめて。跳ねた赤に口の端を上げ、頬に走った傷を指先で拭うことさえないままにコノハは、幻聴を嘲笑うように歩き出す。散歩のような気軽さで。
「でも「コレ」はオレだけじゃあナイから勝手に置いてはいけないの。あんなに空っぽだったのに今じゃ沢山のモノが詰まってるし」
 何より、とコノハは薄く唇を開く。血に染まった手を、握る。
(「何よりあの人との約束が、押しつけがましい終わりだナンてモノ認めやしない」)
 タン、とコノハは踏み出す。礼拝堂を奥へ、奥へと進んでいく。主祭壇に祭る神の姿は無く、立ち並んだ木の椅子が、血溜まりを行くコノハの横で軋んでいく。
「大体、置いてけって言うなら相応のお代は頂かないとねぇ」
 指先で椅子を撫でて、切れた唇から流れた血をコノハは拭う。ゆるり、と微笑んだ瞳が弧を描いた。
「きっちり前払い、足りなきゃ何一つお出しできないわ」
『——ここで、終わりにしろ』
 低く響いた男の声に、コノハは笑い返す。掲げた掌、零れ落ちた赤が——波打つそれが、ふつり、ふつりと湧き上がる影狐に姿を変えていく。
「これも、幻かしら」
 鼻先を上げた影狐がゆるり、と尾を揺らす。影から影へ、渡り歩く影狐が血溜まりを渡っていく。——それが、幻影であれどコノハが流した血である以上、大きく、小さく、鋭く柔く——影狐は礼拝堂を駆けた。
「それでもイイわ、己の赤の一滴だって置いてくには惜しいもの」
 やがて、影狐の向けた爪が空間を引き裂く。虚空を剥ぐように、礼拝堂の一角——何も無い壁を抉れば、そこに不可思議な扉が生まれていた。
「……」
 トン、と指先で触れれば、それまであった赤い空が吹き飛び『外』の景色が、コノハの瞳に見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『狂気に飲まれた復讐者』

POW   :    闇夜に濡れ血を断つ
技能名「【不意打ち、早業、暗視、暗殺、二回攻撃】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD   :    狩場
【罠】が命中した対象に対し、高威力高命中の【弾丸】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    飛来する銀の雨
【歴戦の感覚】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【無数の銃弾と跳弾】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●頳き旅路
 ——長きに渡る旅であった。
 死地に向かうことを憂う心など元よりなく、復讐の為であれば全てを差し出した。真っ当に生きるはずであった、とひとに言われた人生も安寧も、穏やかな未来も余生も全てを差し出した。
「……」
 ひとりを斬り伏せ、二人を穿ち。三人目を貫き、腹に空いた穴など気にせずに『奴』だけを狙い打ち倒した時——彼は、嘗て『   』と呼ばれていた男は人であることを見失った。あらゆる手段を遣い吸血鬼を退け、復讐のみに生きた彼は人間性をなくし、狂気に飲まれた。
「……来たか」
 復讐の先に、彼は何を見ていたか。今ではもうわからない。ただ——男の瞳には、オブリビオンと化した男には、全てが吸血鬼に見えた。

●猖狂
 巨大な礼拝堂から脱出した一行の目に見えた『外』に光りは無かった。血のように赤く染まった空も消え——気がつけば、暗闇がそこにあった。「常闇の燎原」を目指して進んできたことを思えば、指先まで染まるような闇も理解できた。
「……来たか」
 目が慣れるだけの時間があったのは「そこ」に佇む男が、こちらを見据えていたからだろう。黒衣に身を包んだ男が、ゆるり、と視線を上げる。その表情は帽子に隠れ、長い髪がさわさわと白い肌を撫でる。
「来たか」
 2度、繰り返された言葉に確認ほどの意味は無く。ただ、一歩、進めた男の足から黒い炎が零れ出す。足許、ふつふつと湧き上がるように生まれた黒い炎は、男の全身から噴出していた。
 ——黒い炎。
 それは、同族殺しや紋章持ちにも匹敵する力をオブリビオンに与え「あらゆる防護を侵食し、黒い炎に変えて吸収してしまう能力」を持つ。
「来たか、吸血鬼」
 嘗ての復讐者は、狂い果ててオブリビオンとなった。その目に映る全てを吸血鬼として捉え、意思疎通など出来ない、狂気の中にあるオブリビオンは身に纏った黒い炎と共に銀の剣を抜く。
 狂気に飲まれた復讐者の攻撃を受ければ、猟兵たちの防具は、服は、肉体は黒い炎に変えられ、復讐者の体力を回復するだけのものになるだろう。
 ——即ち、奴の攻撃を受けず、見切って会費しない限り回復される。
「貴様達の終わりだ」
 復讐の意義さえ見失い、狂い果てた嘗ての黒衣が地を蹴る。辺境地帯の果てで、最後の戦いが始まろうとしていた。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第三章受付:11月4日 8:31〜

●敵オブリビオンについて
 全身から『黒い炎』を噴出させる強力なオブリビオン。同族殺しや紋章持ちにも匹敵する力を持つ。

▷黒い炎
 あらゆる防護を侵食し『黒い炎』に変えて吸収する。オブリビオンから攻撃を受けた防具、服、肉体は黒い炎に変えられオブリビオンの体力を回復させる。

●戦場について
 辺境地帯の果て
 焼け落ちた屋敷のある、暗い空間
 目は暗闇になれています。
 オブリビオンにこの暗さは関係ないようです。 

◆―――――――――――――――――――――◆
シキ・ジルモント
吸血鬼…それが奴の戦う理由か
否定する意味も無いだろう、戦う事に変わりはない

敵の情報を得る為に視覚の他、聴覚や嗅覚にも頼る
声意外にも衣擦れや足音、銃が発する馴染み深い作動音も
銃を扱うなら火薬や煙の匂いもあるかもしれない
それらの情報を利用して、敵の位置や攻撃の瞬間を察知したい

敵の攻撃はその情報とユーベルコードの効果を併せて、徹底的に回避を狙っていく
相手の黒い炎を攻略するには回避が有用だろう

相手の位置が分かればこちらも攻撃を
罠にかかるのは避けたい、移動は回避の為の最低限に留め、その場からこちらも銃を用いてカウンターでの反撃を試みる

幻の傷だろうと実際に危険があろうと同じ事だ
俺はここで終わるつもりは無い



●闇に潜み影を踏む
 冷えた空気が、肺に落ちる。暗闇に目が慣れてくれば最初に見えたのはつま先に触れている石だった。
「……」
 す、と青い瞳を細めるとシキ・ジルモント(f09107)は辿りついた地を見据えた。
 辺境地帯。その果て——常闇の燎原を目指して進む道の先に待っていたのがこの『闇』だった。思えば、風の匂いも違う。僅かに湿った空気、乾いた土、それと——……。
(「木の焼けた匂い……、家が焼けたか」)
 辺境の地において、何が起きたかは分からず——だが、この深い闇の中、焼け落ちた屋敷の前に立つ『彼』の姿はシキの目に捉えられていた。
「……来たか」
 それは影のように立ち、陽炎のように黒い炎を纏っていた。オブリビオンは、はたはたと外套を揺らし、物憂げな視線をひとつ、こちらに向ける。この辺境で出会ってきた何よりもひどく静かで——だが、警戒しろと、シキの中の何かが告げる。毛を逆立たせるような危機感。慣れた瞳を容易く信じ切るなと警鐘を鳴らす。
「吸血鬼よ」
 復讐の果てに狂い果て、オブリビオンとなった男は黒衣を揺らし、黒い炎を滾らせる。白刃がゆるり、と持ち上がった。
「刈り取る」
「——」
 響く言葉より踏みこむ足音に、シキは身を後ろに飛ばした。ゴォオオ、と瞬間、黒い炎が地面を撫でた。跳ぶように退いた後に、僅かに身を逸らす。ガウン、と銃弾が顔の横を抜けていった。
「吸血鬼……それが奴の戦う理由か」
 黒衣の男の瞳には、最早、シキの姿は映ってはいない。あれは、全てが『吸血鬼』に見えているのだろう。目深に被った帽子の下、向けられているは筈の視線が僅かにズレている。揺るがないのは殺意だけだ。強い殺意。敵意では無く、肌に感じる殺意にシキは短く息を吸う。
(「否定する意味も無いだろう、戦う事に変わりはない」)
 立ちはだかる理由が消える訳でも、踏みこみ意味が消える訳でも無い。だからこそ、ゆらりと前に倒し、低く身構えた男は腰の銃に手を伸ばす。狼の耳をピン、と立てる。僅かに、狼は喉を鳴らす。
(「音を、捉える」)
 踏みこんでくれば黒衣は揺れる。布の擦れる音。構えた二つの武器が動く音。大地を擦るように進む足音は——斜め右からか。
(「いや、違う。中央か」)
 火薬、だ。煙の匂いは先の一撃が理由だろう。例え、相手がオブリビオンであっても相手が銃を持つ以上——攻撃には動作が伴う。
「……」
 そしてその動きを、シキは知っている。銃の発する馴染み深い作動音。カチカチと引かれる撃鉄。腕を持ち上げるのであれば——避けるのは、今だ。
「——」
「吸血鬼よ」
 タン、と銃弾より早くシキは斜め前に出る、踏みこみは最低限に。銃弾と共に走る黒い炎に対し、選んだのは徹底的な回避だ。踏みこみを回避の瞬間に留めるのは、奴とこちらまでの間、空間に違和があるからだ。
(「罠の類いか。それなら……」)
 この場で、届かせる。射程は十分。撃鉄を引く音はこちらにもあるが——オブリビオンの持つ銃が連射式では無い事はもう、シキには分かっている。
「幻の傷だろうと実際に危険があろうと同じ事だ」
 銃口を向ける。闇の中、朧気に捉えた気配を、形としてシキは理解する。手にした銃に、たった一度だけ力を込める。
(「どれだけ傷を負っても、俺は」)
 ——戦い続ける。
「吸血鬼よ……!」
 ダン、と荒く踏みこむ黒衣の男に、構わずシキは一撃を叩き込んだ。間合いを食い荒らされるより先に、銃弾がオブリビオンに届く。
「——な、きさ、ま……!」
「俺はここで終わるつもりは無い」
 一撃は、真っ直ぐにオブリビオンを貫いていた。黒衣の男が身を揺らす。吸血鬼が、と低く響いた声に、シキは銃を構え直した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハディール・イルドラート
永遠に復讐を続けなければならないとは、悲しいねぇ。
こんな面白いところに立っているというのに。

……何を言おうと君は、過去の幻影しか見えていないのだろうけど。

さて、守れば炎に呑まれるならば、つまりは攻めだけ考えればいいんだね?
海賊団を召喚、皆で攻めよう。
野郎ども、我輩に続け!

彼らの攻撃とタイミングを合わせて攻め込む。
彼は見えるが、どうせ弾丸は見えないだろう。
先に舵輪を放って安全圏を確保……跳弾だし、安全とはいえないかもだけど。
行きが良ければ全てよし。
この道と決めたコースを迷わず走破するさ。

距離を詰めたら剣にも注意し、牙を突き立てる。

我は先に行く。
だって此所は、まだ始まりの地点に過ぎないんだからね!



●永世に渡りて
 薄闇の向こう、応酬の銃声がひとつ響いた。無駄吠えの無い一撃と共に短い足音が、乾いた大地に響く。先を行く猟兵の放つ一撃だろう。
「――吸血鬼よ」
 一撃に、黒衣の男がぐらりと身を揺らす。纏う黒い炎だけが揺らいではいなかった。ばたばたと零れ落ちる血さえ舐めるように黒炎が、ふつふつと湧き上がる。
「いまだ、この地に蔓延るか。吸血鬼よ」
「――まったく」
 低く落ちる声に理性もなく、同時にこの辺境で出会った中でも一番静かな相手にハディール・イルドラート(f26738)は瞳を細める。
「永遠に復讐を続けなければならないとは、悲しいねぇ。こんな面白いところに立っているというのに」
「私は、貴様等を狩る者だ」
 復讐の先に狂気に飲まれた男に、最早怨嗟の声も無く。淡々と響くその声に殺意だけが乗る。
「……」
 来るなぁ、とハディールは思う。快活に響く声を、ただ一度だけ潜めてゴーストキャプテンは告げた。
「……何を言おうと君は、過去の幻影しか見えていないのだろうけど」
 ゴォオオオ、と瞬間、黒衣の男が纏う黒炎が吼えた。乾いた地面を這うように一気に向かってきた炎にハディールは、身を横に振る。たん、と着地した先、白い尾が大地を撫でる。あれが、例の黒い炎か。
(「さて、守れば炎に呑まれるならば、つまりは攻めだけ考えればいいんだね?」)
 即ち、攻撃こそが最大のなんとやら。――まぁちょっとばかし違う気もするが。
 すぅ、とハディールは息を吸う。対剣を重なりあわすように一度だけ音を鳴らし、海を征く男は告げる。
「――さぁ」
 笑うように、それでいて荒波に挑むように牙を見せて、ハディールは呼ぶ。辺境において、海など見えぬこの地において――海賊達を。ぼう、と灯るように見えたのは青白い炎か、嘗ての荒波か。ばさり、とマストを張るような音がひとつ響くと同時にハディールの周囲に『彼ら』は立ち並ぶ。
「――」
 その顔を、ハディールは見ることは無い。淡く透き通った男達の気配だけが、白い毛を揺らす男の影を濃くしていく。
「野郎ども、我輩に続け!」
 おぉおおお、と応じる声はあったか、踏みこむ足音がそれに変わったか。カトラスとラッパ銃を装備した海賊の幽霊達が、ハディールと共に一気に攻め込んだ。
「――吸血鬼が、無駄なことを」
 低く告げる言葉と同時に、黒衣が動いた。足音は無い。だが、変わりに銃弾が戦場を引き裂いた。
「――よっと」
 先を行く幽霊の船員が衝撃に身を揺らす。笑うように腕を振る姿に、僅かに瞳を細め――だが、ハディールは笑う。
「これ以上、一張羅を穴だらけにしたくはないからね」
 我も、と息をつき、た、と踏みこむ一歩に合わせて舵輪を放つ。牽制の一撃、来るものに対し、黒衣が剣を抜く。払うように放つ一撃に、合わせるように銃を持つ腕を持ち上げれば――その瞬間、オブリビオンの動きをひとつ、封じられることになる。
「――吸血鬼、貴様……!」
 ガウン、と放たれる銃弾が舵輪を弾く。ハディール達の踏みこみに気がついたオブリビオンが無数の銃弾を放つ。振り向きざまの一撃。ガウン、と駆けた痛みがハディールの肩を穿つが――止まる気など、無かった。
「我は先に行く」
 数歩前を、手が届くその距離を幽霊の海賊達が駆け抜けていく。ラッパ銃が鳴り響き、カトラスが黒衣を引き裂く。払うように振るわれたオブリビオンの剣が空を向く。胴が開けば、踏みこむのは船長の仕事だ。
「――!」
 ひゅ、と黒衣が息を飲んだのは、最後の一歩を踏んだハディールにか。低く身を沈めた男は、黒衣の復讐者へと牙を突きたてた。
「だって此所は、まだ始まりの地点に過ぎないんだからね!」
 冒険は終わらず。ならば、船長も此処で足を止めることは無いのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ふふ、お待たせしたかしら?

気安く声掛けつつも敵から目は離さず、僅かな攻撃の兆しを見逃さない
いつもなら多少の傷くらい見て見ぬ振りするトコだけど……

動きから攻撃のタイミング読み*見切り、*第六感も併せ銃弾避けながら距離を詰めましょ
時折*残像置いて敵の目を眩ませ
それでも避けきらぬ弾は【彩雨】呼び自分の周囲へ氷の盾を張って弾くわ
氷まで炎に変えられたら致し方なし、ネ
その隙に躱して取られた分以上に取り返してやるわ
詰める勢いのまま*2回攻撃
敵の視界を奪うように氷の針を降らせ、深く*傷口を抉り*生命を頂戴しましょ

昔ナンだったかとか知らねぇケド、こちとらまだ生きなくちゃだし
――喰われるより喰らう方が好きだもの



●薄氷、影に潜み
 溶けるような闇に目が慣れれば、ゆらりと立つ男の姿が見えていた。ばたばたと黒の衣が派手に靡くのは、踏み込んだ人狼と彼の船員達の刃が理由であろう。零れ落ちる血は黒か赤か、それすらも分からぬ闇の中で、黒衣のオブリビオンはズレた帽子を被り直す。
「今だ、潰えぬか。吸血鬼よ」
 低く、低く。紡がれた言葉に滲むのは狂気であり、溢れるのは殺意だった。それだけを詰め込んで、残る全ては砕け散ったか飲み干す狂気を是としたかなど分かるわけも無く——ただ、紫雲に染めた髪を揺らして戯れるように青年は告げる。
「ふふ、お待たせしたかしら?」
 気易く投げた言の葉と共に、腰に手を当てる。凡そ、戦場には不釣り合いな空気を纏いながら、ゆるりと笑みを浮かべたコノハ・ライゼ(f03130)は、冷えた瞳を黒衣へと向けた。
「……」
 目は、とうに闇に慣れた。焼け落ちた廃墟を背に立つ黒衣は白刃についた汚れを払うように軽く腕を振るう。片手に刃、片手に銃。問題無く扱ってくるのは、立ち姿で良く分かる。
(「いつもなら多少の傷くらい見て見ぬ振りするトコだけど……」)
 利用されるとなったら、どうにも楽しくは無い。美味しくまるっと勝手に食べられちゃうなんて、悪食でしょ。なんて笑っちゃうけれど——生憎、テーブルの上に乗った小綺麗なディナーにも狩られるのを待つ獲物も似合わない。
「吸血鬼よ」
「……」
 ざり、と砂を踏む音が耳に届く。はたはたと揺れていた衣が、僅かにその動きを変える。——身を低めたか。
(「——来る」)
 そう思った瞬間、コノハは身を前に跳ばした。
 ガウン、と銃弾が頬の横を抜ける。一撃外した分、射線を合わせるように向けられる銃口に、タン、と入れた二歩目の踏みこみで一気に体を沈める。ヒュン、と続けざまに放たれた銃弾が、身を低めた青年を追うように揺れた髪を少しばかり攫っていく。
「ソレはせっかちデショ?」
 はらはらと散った髪の一房を見送って、コノハは身を横に跳ばす。大きく左へ。銃弾を避けるように荒く入れた踏みこみで作り上げた残像と避ける先を変えていく。
 一瞬。一撃。一発。
 確かに奴の動きをコノハは——奪う。
「無駄なあがきを、吸血鬼よ……!」
 だん、と荒い踏みこみが黒衣から合った。ぐん、と一気に踏みこみながら振り上げられた銃口に銃弾がばらつく。跳弾は、荒く大地を叩くようにして——来る。狙いは足と、顔か。否、これは——。
「首だナンテ」
 己の首を手で押さえるようにしてコノハは薄く唇を開く。
「煌めくアメを、ドウゾ」
 歌うように囁くように、紡ぎ落とされた言葉と同時に展開された水晶の針が、氷の盾となって——立つ。一撃が盾を叩き、黒炎は、だが盾までは飲み込まない。
「——貴様!」
「——」
 低く響いた声に応えるように、コノハは一気に前に出た。一歩、大きく前に跳び、瓦礫を飛び越す。パチン、と指を鳴らせば盾として展開した水晶の針が黒衣の頭上で円を描いた。
「な……」
 空に煌めきが灯る。この辺境に於いて、凡そあり得ぬ光りが。黒衣のオブリビオンが息を飲む。驚きよりも踏みこみを——ただ目の前にいる『吸血鬼』を狙うように、向かい来る相手にコノハは薄く笑った。
「昔ナンだったかとか知らねぇケド、こちとらまだ生きなくちゃだし」
 剣が氷の雨を払うように振り上げられる。胴が開く一瞬、決して食べ残す事など無いようにコノハは行く。た、と間合い深く踏み込む青年の瞳に己が降らした氷雨が映る。
「きさ……!」
「――喰われるより喰らう方が好きだもの」
 深く、ふかくコノハは黒衣のオブリビオンに刃を沈める。零れ落ちる血が、抉る一撃が頬に走った傷を癒やしていく。ごちそうさま、と美しく青年は笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
【天狗狼】◎
眼前に見える男は既に狂えるオブビリオンと化している
先に進まねばならぬ我らの前に立ちふさがるのなら地に叩き伏せるのみ

あの黒い炎が厄介ね、ミコ ト……?

愚直なまでに真直ぐな感情をぶつける羅刹だ
こうなる事は予想しておくべきだったかと、ため息一つ

敵から目を離さないようにして、攻撃の予兆を見逃さないように
互いに声を掛け合って、炎に当たらぬように注意
相手の攻撃の避けやすい部分を『見切り』ながら避け、間合いに入り込もうか

『マヒ攻撃』を交えながら剣で相手の武器を持つ手を『部位破壊』で一撃を

刻印でミコトも強化しながら援護をし畳みかけよう
全く…しょうがない人ね!(無理をしてと、羅刹に拳骨を繰り出す)


ミコト・イザナギ
【天狗狼】◎
辺境の果てには未曽有の闇
其処に佇む復讐者の気配
如何なる物語がこの男には合ったのだろう

「来たぞ宿敵、貴様の吸血鬼が」

狂気に満ちる復讐が悲劇へ堕ちる宿命なら苛烈さを以て応える
問答に意味は無いだろう
然し此処まで成り果てるまでの何某かを抱いていた筈
其れを信念とオレは呼び讃え、闘争にて幕引くが羅刹の性

前述の発言で「悪目立ち」して「演技」を交えて挑発して注意を惹き
ディアナを上回るSPDで復讐者の攻撃を「第六感」で避けつつ
相手を注視して動きの癖や行動を「情報収集」で慣れていき
攻撃を受けたら「限界突破」で耐える

後は只管、真正面から、青白い鬼火を手向けに送ろう
――この復讐者の頳き旅路に名誉あれ、と



●狼は舞い天狗は行く
 ——闇に、冷気が駆けた。雨のように降り注ぐ氷の針が、光ひとつ無い世界に色彩を添えていく。一瞬の煌めきの果てに踏み込んだ猟兵の刃が黒衣に沈む。蹈鞴を踏む黒衣のオブリビオンの姿が、ディアナ・ロドクルーン(f01023)の瞳に映っていた。
「貴様、吸血鬼がいまだ、……道の邪魔をするか」
 低く響く声に怨嗟ほどの重さは無く——だが、肌をひりつかせるほどの殺意があった。敵意だけが無い男の視線が、ゆるりとこちらを向く。
「来たか、吸血鬼よ」
「……」
 瞬間、大地を滑ったのは黒い炎だった。ふつふつと湧き出すようにある黒炎は、黒衣を這うようにオブリビオンを包んでいた。
(「眼前に見える男は既に狂えるオブビリオンと化している。先に進まねばならぬ我らの前に立ちふさがるのなら地に叩き伏せるのみ」)
 最早、あのオブリビオンの瞳には『全てが吸血鬼』に見えているという。意思疎通など出来はしない。こちらの言葉も、反応もあの男には何も関係は無いのだろう。
 ——ただ、一つ確実に分かっているのはあの『炎』だ。す、とディアナは瞳を細める。あれは、触れればこちらを飲み込む類いのものだ。
「あの黒い炎が厄介ね、ミコ ト……?」
 警戒を告げるように見た傍ら。掌が触れるような距離にあった男が、一歩、前に出ていた。
「来たぞ宿敵、貴様の吸血鬼が」
 その言葉に、その声にディアナは瞬く。愚直なまでに真っ直ぐな感情をオブリビオンへと向けるミコト・イザナギ(f23042)に息をつく。
(「こうなる事は予想しておくべきだったか」)
 吸血鬼、と告げればゆるりと黒衣の視線が向く。言葉の意味を解したか、或いは——ただ踏み込んだミコトに反応したのか。そのどちらであったとしても、ごう、と黒い炎が勢いを増したのが見えた。
「——来る」
 短く投げた警告と、タン、という足音が響いたのは同時だった。ぐん、と一気に踏み込んできた黒衣のオブリビオンが、白刃を振り下ろす。素早い斬撃。距離はあるが——狙いは、黒炎の方か。
「ミコト!」
「——」
 強く放った声は、彼が敵を挑発していると分かっているからだ。迫る距離に、腕を攫うように来た黒炎にディアナは身を横に跳ばす。タン、と着地の先、振り抜いた刃と共に刻印を輝かせる。
「一閃一閃また一閃。無慈悲な歌が耳を裂く」
 歌うように舞うように、滑らせた刃と共に人狼の娘は黒夜に告げる。数多の加護を告げるように、駆け抜ける戦場に——そして行くと決めた羅刹に、その力となるように。
「高鳴る鼓動に身を任せ 足音高く舞い踊れ」
「——」
 ディアナの声が、ミコトに届いていた。緩く握った拳に力が満ちていくのが分かる。
「全く……しょうがない人ね!」
 無理をして、と繰り出された拳に小さくミコトは苦笑する。トン、と背を叩くように、けれど押すように触れた一撃。互いに背を合わせたのは一瞬。黒衣のオブリビオンがミコトに迫っていた。は、と浅く息を吐き——だが、足許何かが触れた。
「——罠か」
「吸血鬼よ……!」
 小さく落とす息と、銃弾がミコトに届いたのは同時だった。高い命中力だ。煽るように誘ったのだ。作戦通り、敵の意識も完全にこちらに向いていた。肩口、抉る衝撃と共に黒い炎が天狗を焼く。
「——」
 その熱に、痛みに男は声を上げる事は無かった。踏みこみを払うように一度ディアナが前に出る。剣を持つ腕を払うように、踏み込んだ彼女の刃が振り上げられる。
 ——ザン、と走る一撃をミコトは見た。衝撃に仰け反りながらも、帽子の下、僅かに見えた黒衣のオブリビオンの瞳はこちらを見ていた。
「吸血鬼よ」
「……」
 そう名乗り、そう告げたミコトのことを。
「貴様が、貴様等がまだ世にあるのであれば……」
「……」
 如何なる物語がこの男には合ったのだろう。
 狂気に満ちる復讐が悲劇へ堕ちる宿命なら苛烈さを以て応える。
(「問答に意味は無いだろう。然し此処まで成り果てるまでの何某かを抱いていた筈」)
 其れを信念とミコトは呼び讃える。
 ぱたぱたと落ちる血が黒い炎に飲み込まれていく。だが、それとて僅かな回復だ。踏み込んだディアナの一撃が深く削り、払うように振るわれた剣が——鈍る。
「——ミコト」
「——あぁ」
 応じる声は、只一つ短く。仮面越しに向ける瞳は真っ直ぐに復讐者に合わす。全てが吸血鬼に見えるという。復讐を果たし、狂気に飲まれ——オブリビオンとなったのは、果たして何時のことなのか。
「吸血鬼よ」
「——是だ」
 闘争にて幕引くが羅刹の性。
 最後の肯定を持って、ミコトは——地を、蹴った。一歩、踏み込む足音さえ無い瞬発の加速。間合い深く、真っ正面から向かう。闘争にて幕引くが羅刹の性が故に。
「畢竟、全ての命は逃れる術なく、やがて死へと辿り付く」
 滑るように振り下ろされた手刀が青白い鬼火を呼ぶ。それは手向けのように、ごう、と唸った。
「――この復讐者の頳き旅路に名誉あれ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
復讐に身をやつし、全てを怨嗟の焔に焚べる…
珍しくは無い話。
尤も、真っ当な方なら同情もしそうなものですが。
僕、そういうの興味無いので。
此処で、終わっていただきます。

兎角、生き残る事には一家言あります故。
何より、視る事。
風切り音。炎熱。五感は元より。
相手の視線、手足の一挙一動、攻撃の前兆。
命中が高いというなら、視得た全てを以て、
鋼糸を仕掛け引き、敵の予想より加速を狙い、初撃を外させたく。

以後も飛び来る弾丸は、鋼糸で叩き落とし、断ち切り、
対地・対空。気配も以て全方位、鋼糸の檻にて応じ。
カウンター、又はダッシュからの一気攻撃にて、
鎧など無視して攻撃を。
炎も破滅も、君だけの十八番じゃ無いですよ

――拾壱式



●曰く、那由他の業を束ね
 ゆらり、と薄闇の中、黒衣のオブリビオンが立っていた。切り裂かれたか、袖を失った上着がはたはたと揺れる。骨を晒すほどの傷も、ふつふつと沸き立つ黒炎に覆われて行けば零れる血さえ消えていく。
「——吸血鬼か」
「……」
 静かに上がる視線に、相対する青年は静かに息を落とした。
(「復讐に身をやつし、全てを怨嗟の焔に焚べる……珍しくは無い話」)
 狂い果て、オブリビオンとなった男は、その目に見える者の全てが吸血鬼に見えるという。そこに理性など無く、低く落ちた声に滲むのは殺意だけだ。チリチリと肌を焼くような殺意、熱を帯びた敵意は無く怨嗟の声さえ無いままに——ただ「吸血鬼」とあの男は言う。 
「尤も、真っ当な方なら同情もしそうなものですが」
 吐息、一つ零すようにしてクロト・ラトキエ(f00472)はゆるりと唇に笑みを刻む。ポケットに入れたままの手を静かに下ろす。薄闇に慣れた瞳で見据えた先、風が、一度だけ強く吹く。靡く黒髪をそのままに、クロトはつい、と眼鏡をあげた。
「僕、そういうの興味無いので。此処で、終わっていただきます」
 告げる言葉と同時に、クロトは衣の裾を引く。ふ、と落とす息と同時に前に出た。ゆらり、と身を揺らす黒衣のオブリビオンが足を擦るのを視たからだ。
(「——正面、くる」)
 一歩、大きくクロトは跳ぶ。踏みこみと同時に黒衣が銃口を持ち上げる。指は——まだ引き金にかかっていないか。
「兎角、生き残る事には一家言あります故」
 着地の先、地面に手をつくようにしてクロトは身を沈める。地面に触れたのは、音を聞くためだ。視線は外さない。風切り音、炎熱。相手が待とうのが黒炎であれば、空気は揺らぐ。手足の一挙一動、攻撃の前兆を見逃すことなど無いようにクロトは息を吸う。地を叩きくる黒衣の手がふいに——下がった。
「散れ、吸血鬼よ」
 刃が、地を凪ぐ。瞬間、戦場に黒衣の紡いだ罠が立った。術式の類いか。蜘蛛の糸にも、檻にも似たそれがクロトの足を掴む。ぐ、とそのまま引き下ろすように走る力に——だが、青年は前を、視た。
「これで貴様は潰える」
「おあいにく様、というのがこういう場合良いのかもしれませんが……」
 たぐり寄せる糸の類いであれば、クロトとて知っている。だからこそ今優先するは、持ち上げられた銃口、ただ一つ。
「防がせて頂きます」
 ひゅん、と鋼糸を前に放つ。キン、と高い音を上げ銃弾が——割れる。
「——さて」
 足を引く。残る糸を操って罠を砕く。多少の傷など構いはしない。警戒すべきはあの黒炎。大地を撫でるように行くそれに、クロトは身を前に跳ばした。
「炎も破滅も、君だけの十八番じゃ無いですよ」
「貴様……!」
 一歩、二歩、三歩目で緩く拳を握る。揺れる黒髪が僅か、罠に巻き込まれて落ちる。やれ、と息だけを落とし傭兵は行く。己の封印を解放して、魔力上限の制限解除する。ドクン、と一度強く心臓が鼓動を刻む。
「――拾壱式」
 それは、十三の業、内の十一。何も、遺す勿れ。――代償故に、禁じ手とされた一手。破滅を齎す蒼炎が、クロトの指先から這うようにその身を包んでいく。肩口から頬を撫でるように、一度、ごう、と唸った。
「その、炎は……!」
 ひゅ、と息を飲む黒衣へとクロトは一気に踏み込む。間合い深く、その影を踏むようにして手を伸ばす。ひゅん、と鋼糸が黒衣のオブリビオンに絡みついた。
「葬焔」
 曰く、その炎は触れたものへ、破滅を齎す蒼炎であるという。破滅を纏う青年が、立ち続ける理由など黒衣に分かるわけもなく。な、と息をのんだオブリビオンは鋼糸を伝うように辿りついた炎に飲み込まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
普通の人間より吸血鬼っぽいかもかな、僕の見た目
感じる狂気に言葉掛けるだけ無駄かと割り切って

少しでも身軽に動くために帽子とコート脱ぎ捨て、鯉口切って立つ
あの黒い炎は僕の炎ぶつけても無駄だ
ならば炎は己の内に…!

UC発動と同時に足を踏み出す
全ての神経細胞が身を駆け巡る熱で極限まで活性化
鋭敏になる聴覚
研ぎ澄まされた動体視力
銃声聞き分け飛来する銃弾全てを視認
その上で高まった反射・運動神経を以てすれば、弾を避けつつ奴に迫れる

一分半あれば充分
最早体力を温存する必要はない
俺の全ての力を出し尽くす時は今だ
距離を詰めた所で抜刀、最高速度の飛び込み居合を放つ
この一撃を叩き込む為だけに、俺はここまで来たんだ…ってね?



●その旅路の果てには
 ——黒い炎が、揺れていた。
 黒衣の影を追うように、ふつふつと湧き上がる黒炎が晒す疵口を覆っていく。流れ落ちる血さえ飲み干したのか、狂気の果てに理性を失ったオブリビオンがゆらり、とこちらを見据えた。
「吸血鬼よ」
「……」
 そこに怨嗟は無く、敵意もない。ただあるのは研ぎ澄まされた殺意だった。先に一手、踏み込んだ猟兵の鋼糸が銃弾を斬り落とす。キン、と落ちたそれと同時に踏み込めば操る蒼炎がオブリビオンを包んでいた。
「……貴様も、貴様もか……、今だ蔓延るか。吸血鬼よ」
 ガツン、と黒衣の男は剣で地面を叩く。荒く聞こえたその音に、僅かばかり青年は瞳を細めた。
「普通の人間より吸血鬼っぽいかもかな、僕の見た目」
 揺れる銀色の髪をそのままに、天瀬・紅紀(f24482)は小さく息をつく。否と告げたところで、戦場に立つあの男には届きはしないのだろう。感じる狂気に言葉を掛けるだけ無駄かと、割り切るように息をつく。白い指先で帽子を掴むと、コートと共に脱ぎ捨てる。
「これで、少しは動きやすいかな」
 すらりとした細身に、腰の刃が目立つ。とん、と手を置いた先、柄をつけるようにして持っていた刃の鯉口を切る。
(「あの黒い炎は僕の炎ぶつけても無駄だ」)
 妙な炎。あれ自体がただの熱でない事は念発火能力者である紅紀には良く分かっている。ならば、選ぶ手はひとつ。
「炎は己の内に……!」
 トン、と己の心臓に手を当てる。ドクン、と一度強く跳ねた心臓に、紅紀が薄く笑った。
「一瞬だけ」
 紅い瞳が、温和な男の顔を脱ぎ捨てるように強く煌めく。炎熱の力を飲み干すように——立つ。
「――この生命、燃やし尽くす!」
 告げる言葉と共に、紅紀は一気に前に出た。一歩、二歩、三歩目で身を沈める。ゆらり立つ黒衣が動いたのが見えたからだ。
「砕けちれ、吸血鬼」
 向けられた銃口。一撃、放たれた銀の銃弾が魔方陣を抜け無数に変わる。正面、一気に撃ち抜いてくる気か。
「——悪いけど、その気はないんだよね」
 ——だが、紅紀の瞳は『それ』を捉えていた。右に、身を跳ばす。着地の先、刀を手にしたまま低く前に跳ぶ。叩き込むのは瞬発の加速だ。
「——」
 それは炎熱を以て己の感覚を研ぎ澄ましたものだ。擦るように向かいくる相手の足音、銃声を聞き分け、向い来る銃弾を紅紀は『認識』する。その上で——避けるのだ。
「よっと」
 ダン、と焼け落ちた柱を飛び越える。薄闇に瞳はとうに慣れた。向かうべき先も分かっていれば紅紀に足を止める理由など無い。
(「一分半あれば充分」)
 術式の負荷を計算して、行く。最早体力を温存する必要など無い。近づくほど早くなる弾丸に、刃を低く構えて踏み込む。相手が銃口を向けているのであれば、迎え撃ちに動くのは刃のみ。
「吸血鬼が、ここまで来るか……!」
 ヒュン、と放たれた迎撃の刃に、身を沈める。鋒は頭上を抜け、だが、低く構えた紅紀の刃が鈍く光った。
「抜刀」
 短く紅紀は告げる。抜き払った一撃、迎撃の刃を払うように黒衣の腕を——斬る。
「な……」
 僅か、身を逸らした黒衣が刃を落とす。開いた胴。銃口がこちらを向くまでは一瞬。——だが、それだけあれば紅紀には充分だ。
「この一撃を叩き込む為だけに、俺はここまで来たんだ……ってね?」
 告げる言の葉と共に、切り上げた刃を返す。流れるように、一歩踏み込むと同時に紅紀は刃を下ろした。ザン、と白刃が黒衣を切り裂く。黒い炎が耐えきれずに散っていく。
「きさ、ま……ッ」
 ぐらりと黒衣のオブリビオンが揺れた。吸血鬼と落ちる声と共に黒い炎が揺れる。パキン、と嘗ての復讐者の核が軋んだ音がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

吸血鬼、という言葉に瞳の影が深くなる
己の中に流れる血の脈動が耳障りだ
人としての血よりもずっと深く濃いそれは己でさえも忌む血
常は己に流れるその吸血鬼の気配を押し殺すけれど
此度は敢えて殺す事なく
彼の前に立ちはだかる

「──来い」

目的は挑発、そして引き寄せ
味方へ向かう攻撃をなるべく引き付け
庇い護りたいがため

そして
少しでも彼の復讐心を満たす為に

それが俺の自己満足に過ぎないと解っている
だがオブリビオンとして蘇ってまで抱いたその感情を力で無理矢理捻じ伏せることはしたくない
そして彼の手を復讐者ではなく殺人鬼にさせたくない
だからこそ俺が相手になる
彼の復讐目的である吸血鬼ではないかもしれない
然し鬼の血は流れている
彼の心と真っ直ぐ、誠実に向き合う
奔る銀の軌跡、暗闇だとて彼の気配を瞬時に辿って幾度となく剣を刃で受け
やがて剣握るその手掴み
込める願いは彼の安息を
「──終わりだ」

…彼の無念も、思いも
俺が、覚えておく



●己に克ち礼に復る
 ——血が、長く影のように尾を引いていた。引きずる脚と共に黒衣が廃材の上を滑る。焼け落ちた廃墟は、血と灰の匂いがしていた。
「いまだこの世に蔓延るか、吸血鬼よ」
「……」
 その言葉に、瞳の影が深くなる。ドクン、と一度己の中に流れる血が低く囁く。吸血鬼、という言葉に、誘い手を引くような血の脈動に男は忌々しげに息を吐く。
(「耳障りだ」)
 呼び覚ますような声が、誘うような赤い血が。
 人としての血よりも、ずっと深く濃いそれは己でさえも忌む血であった。
「……」
 ざり、と砂を踏むようにして丸越・梓(f31127)は足音を立てる。その音に、嘗ての復讐者がこちらを向いた。冷えた視線だと思う。敵意はなく、ただ殺意だけを向ける姿に梓は緩く拳を握った。己の中に流れる吸血鬼の気配を、押し殺し続けたそれを解き放っていく。
「——」
 魔王と呼ばれた男を喰い破るかのように、血の衝動が脈を打つ。短く息を吸って、梓は刀に手をかける。
「──来い」
 告げる言葉は、明確な挑発であった。全てが吸血鬼に見えている黒衣のオブリビオンに取って、外敵が告げるそれは理性など無くとも踏み込むだけの理由にはなる。
「吸血鬼が……ほざくか」
 低く告げる言葉と共に、黒衣が踏み込んできた。だん、と踏みこみは荒く、だが身を倒した黒衣の体が一気に梓の間合いを踏む。
「散れ」
 瞬発の加速。狂気に飲まれて尚、黒炎に覆われても黒衣のオブリビオンが狙うのはただひとつ。だからこそ、愚直なまでの踏みこみに、全ての技巧を乗せて——来る。
「——」
 ひゅん、と抜き払う刃が下から来た。片足を軸に梓は身を逸らす。ぱさぱさと、軽く黒髪を持っていかれる。ゴォオオ、と唸るように聞こえたのは黒炎が滾るが故か。
「躱すか」
「——悪いが」
 胸から喉元へ、一気に切り裂くような一撃だった。逆手に握った刀を浅く抜く。ギン、と鈍い音と共に、衝撃を受け止め、たん、と梓は後に飛んだ。刀の間合い分。己の絶対の領域を作り上げる。
「そう容易く斬られるつもりはない」
 言の葉を重ねるのは、引き寄せる為だ。共に戦う猟兵たちの刻んだ傷が、黒衣のオブリビオンに届いている。紅き炎を抱き、踏み込んだ一人が放つ一刀がオブリビオンの核に罅を入れてたのだろう。
「吸血鬼が……!」
 それでも、狂気に飲まれた復讐者は来る。黒い炎が傷を飲み干し、動くだけの身体を形ばかりに作り出す。
「動くのであれば、全て屠るのみ」
「……」
 その狂気に、溢れかえるほどの殺意に梓は視線を返す。受け止めるように刃を抜く。味方に攻撃が向くことはまず無い。派手に動くのはこの為だ。——そして、少しでも彼の復讐心を満たす為に。
「闇夜に濡れ血を断つ……全て、白刃にて」
 低く、放つ言葉と共に黒衣の男が踏み込んできた。動きは——さっきよりも遥かに速いか。た、と飛ぶように残る間合いに斬撃が走った。奔る銀の軌跡、この闇に瞳はもう慣れた。影を踏み、来る気配に梓は低く構えた刃を上げる。
 ——ギン、と一撃、受け止めれば黒衣の纏う黒い炎がゴォオオ、と唸った。剣と刃、火花散らすその場所から炎が梓を這う。焼き尽くすように侵食する黒い炎が梓の服を焼いていく。袖口が焼け落ち、肌が剣戟の衝撃に裂ける。
「——」
 は、と息だけを梓は吐く。剣を受け止めれば『そうなる』のは分かっていた。黒衣の復讐者の全身から噴出する『黒い炎』は、あらゆる防護を侵食し、黒い炎に変えて吸収するものだ。いま、梓が受け止め、服を、腕を焼いた炎は、黒衣の体力を回復させていく。
「散れ! 吸血鬼よ。その首、今度こそ……!」
「——ッは、重いな」
 一撃が、と荒く梓は息を吐いた。黒い炎のダメージだろう。痛みが、熱さとなって全身に伝わる。覚悟の上、受け止めた一撃が肌を焼いたのだ。這うように黒炎は梓を焼き、晒す肌が、首元を這って頬に届こうとする。
「──来い」
 それでも、あと一つ梓は言葉を紡ぐ。相手が狂い果てているとしても。
 ——これが、俺の自己満足に過ぎないと解っている。
(「だがオブリビオンとして蘇ってまで抱いたその感情を力で無理矢理捻じ伏せることはしたくない」)
 彼の手を復讐者ではなく殺人鬼にさせたくない。——そう、思ったからこそ、告げたのだ。来いと。解き放ったのだ、血の衝動を。吸血鬼としての——血を。
 丸越・梓には鬼の血が流れている。
 刀身に滑らせるようにして、衝撃を躱す。だん、と荒い踏みこみと共に『彼』が来た。
「吸血鬼よ……!」
「——あぁ」
 落とす声は吐息か、或いは応えであったか。
 梓は紡ぎ、踏み込む彼の元へ行く。詰められる間合い、こちらからも詰めるように。向かうように。
「これで……!」
 黒衣の復讐者が吼える。溢れる殺意と共に、上段から一気に刃が来る。
「——」
 だが、その一撃を防ぐ代わりに梓は手を伸ばした。ザン、と『彼』の剣が梓の肩口に沈む。衝撃に、は、と一度だけ息を零し——だが、梓の手は『彼』の剣を持つ手を掴んでいた。
「──終わりだ」
 彼の安息を願い、告げる。掴む腕から侵食するように届いていた黒い炎が——ふつり、と消えた。
「——ぁ、あ……」
 根源に、届いたのだろう。オブリビオンたらしめる根源へと。
 ゆらり、と身を揺らすようにして黒衣のオブリビオンは倒れていく。掴んでいた腕がするり、と梓の手から抜け、嘗ての復讐者は淡い光に包まれるようにして消えていった。
(「……彼の無念も、思いも俺が、覚えておく」)
 その姿を見送るようにして、梓は一度だけ瞳を伏せた。祈るように、願うように。

 辺境地帯の果てで続いた戦いは、斯くして終焉を迎えた。この先に、何が待つのか。猟兵達の戦いはまだ——続く。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年11月17日


挿絵イラスト