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銀河帝国攻略戦⑬~トラウマを超えて

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●悪夢の海
 『エンペラーズマインド』防衛艦隊やエンペライダーズ、『エンペラーズマインド』突入戦をクリアしたことにより、戦争も新たな局面を迎えた。
 オロチが派遣した艦の残骸周辺に、『実験戦艦ガルベリオン』を秘匿する『ジャミング装置』がある事が判明したと、ルビナ・ベイビーブルー(スペースノイドの電脳魔術士・f01646)が説明を始めた。
「宙域内に多数設置された『ジャミング装置』を破壊する事で、『実験戦艦ガルベリオン』を見つけることができるかもしれないんだよ」
 猟兵たちに課せられた任務は、ジャミング装置の防衛機構を突破し、ジャミング装置を破壊だ。
「ただし」
 と、真剣な表情でルビナは言う。
「ジャミング装置に近づくと、装置の防衛機能が発動するよ」
 この防衛機能と言うのが、『近づいた対象のトラウマとなる事件などを再現し、対象の心を怯ませる』と言うのだ。心が怯んでしまうと、その度合いに応じてジャミング装置のある場所から離れてしまう。
「つまり、強い心で『過去のトラウマ』を克服できれば、ジャミング装置を破壊する距離まで近づくことができるんだよ」
 トラウマを再現させることも、それを乗り越えて打ち砕くことも、猟兵にとっては辛いことかもしれない。
「でも、みんななら、きっとできると信じてるよ!」
 ルビナはそう言って、信頼の眼を慮兵たちに向けた。
 装置の防衛機能により見せられるトラウマ・悪夢に耐え、打ち砕き、ジャミング装置を破壊してほしい。ルビナはそう言って、話を終えた。


陵かなめ
 よろしくお願いします。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレイングのかけ方について
 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。

 それでは、プレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナハト・ダァト
『克服すべき過去』
かつて囚われていた
古い都の牢屋の風景
平和を築くための生贄たる聖者の素質を持つものとして、
誰にも知られることなく生涯を終える筈であった

既に記憶の中には無く
初めてかいま見る風景にとまどう

【WIZ】判定
仲間から集めていた、医者として周囲から頼りにされる事への希望
今まで治癒した患者からのお礼を、六ノ叡智で呼応させてトラウマに抵抗
克服をはかる

折れてはいけなイ
医者である私ハ、命を救う為に諦めズ病に立ち向かうことが使命なのだかラ

さようなラ、私ノ知らない過去
先へ進むヨ



●希望の声
 ――暗い。
 ナハト・ダァト(聖泥・f01760)は、目を凝らして周辺を見た。
 ――暗くて、じめじめしていて。
「誰もいなイ。ここハ、どこだろう?」
 初めて垣間見る光景に、ナハトは戸惑う。
 おそらく、初めて見る場所のはずだ。
「誰か、いなイかい?」
 声が空しくこだまする。
 目の前に鉄格子が見えた。ようやく理解する。どうやらここは牢屋のようだ。それも、とても古い場所のような印象を受ける。
 分からないと思う。
 これがトラウマと言うのなら、自分は知らない記憶だ。記憶の中にはない場所だ。
 だが、ここは、ナハトを閉じ込める檻。
 彼は、ナハトは、誰に知られることなく生涯を終えるはずであった。平和を築くための生贄たる、聖者の素質を持つ者として、終わるはずだったのだ。
 ――暗い。
 ここは、暗くてとても切ない。もし、こんな場所で一人長い時間を過ごさねばならなかったと言うのなら、とても辛い。生きることに、心が折れてしまいそうだ。どろどろと、暗い感情に引きずられそうになる。
 だが、ナハトは立ち上がった。
「折れてはいけなイ」
 そう言って気力を振り絞り、ユーベルコード・六ノ叡智・美麗を発動させた。
 それはまさに、希望の詰まった思いと言葉だった。
 自分の、医者として得た希望や信頼。仲間からの言葉。
 今まで治療してきた患者の声がする。治癒したことを喜ぶ声がする。感謝の言葉が聞こえる。幸せな笑い声が聞こえる。
 その声や希望が、ナハトを歩ませた。
「医者である私ハ、命を救う為に諦めズ病に立ち向かうことが使命なのだかラ」
 ナハトは自分の使命を確認し、一歩前へ出る。
 ここは暗いけれど、自分の中にはこれほどの希望が満ちているのだから。
 鉄格子に手をかけた。
 これはもう、自分を閉じ込めておくには足らぬものだと思う。
 瞬間、目の前の霧が晴れた。
 ナハトは振り返らない。
「さようなラ、私ノ知らない過去」
 背後にどんな光景が広がっていようとも、自分は希望と共に進むことを選んだ。
「先へ進むヨ」
 その言葉と共に、トラウマを打ち砕く。
 そして、現れた人間の脳に無数のアンテナを刺した悪趣味なジャミング装置をも、打ち砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イデア・ファンタジア
●トラウマ
神隠しによって家族と引き離され、ダークセイヴァーの貧民街に一人飛ばされた記憶。
周囲の人間は全て敵。助けてくれる者はおらず、むしろ利用しようとする者ばかり。
死は常に身近にあった。

●克服
あたしは、生き抜いたわ!誰も頼れなくたって、ちゃんと一人で!
夢想呪法(アルスマグナ)!誰も入ってこれない私だけの隠れ家を!病を癒す活力を!
はぁ、はあ……これで……あれ?
あなたは……誰?どうしてあたしの家にいるの?
……ああ、そっか。あたしはもう、一人じゃないのね。
今はちゃんと、仲間がいるんだったね。



●パン一切れ
「はぁ……ぁ、は、あ」
 食べ物を、ようやく手に入れた。何日ぶりの食事だろう。とても固いパンの切れ端だ。壁と壁の間に身を滑り込ませて、イデア・ファンタジア(理想も空想も描き出す・f04404)は大切に抱えていたパンを見た。
 ここはどこだろう。
 いや、分かる。ここはダークセイヴァーの貧民街。
 自分はこのパンを食べなければ、生きられない。それほどに空腹だ。体力も落ちている。
 その時、イデアに影が近づいてきた。
「へへへ、見つけたぜ。良い匂いだ。それを、よこしなぁ!」
 それは、酒臭い男だった。嫌な笑顔を浮かべながら、男はイデアに手を伸ばす。
「な……いや、よ」
 イデアは再びパンを抱え込んだ。
 この場所では、子供であっても、誰も助けてくれはしない。いや、むしろ、この男のように利用して搾取しようとするものばかりだ。
「うるせぇ! 食べ物を、素直によこせばいいんだよ!」
 男がイラついた声を上げる。
 イデアは震える足に何とか力を込めて地面を蹴った。
 男の横をすり抜け、ただひたすら走る。
 待てと背後で男が叫んだ。
 待つはずがない。
「は、ぁ、あ……はあ」
 息が上がる。だが、ここで止まればこのパンを食べることができなくなる。死んでしまう。
 イデアは文字通り、死に物狂いで走った。
 ここは常に死と隣り合わせ。
 そんな世界に、イデアは生き抜いてきた。
 死ぬかもしれない。もう足が動かない。痛いと感じる感覚もなくなっているようだ。
 心が悲鳴を上げる。
 だが。
「あたしは、生き抜いたわ! 誰も頼れなくたって、ちゃんと一人で!」
 誰に向かって、だったのか。
 イデアは叫んだ。そして、ユーベルコード・夢想呪法『聖域』を発動させる。
「誰も入ってこれない私だけの隠れ家を! 病を癒す活力を!」
 隠れ家に飛び込んだイデアはは、立ち止まった。
「はぁ、はあ……これで……あれ?」
 そして、思い出す。
「……ああ、そっか。あたしはもう、一人じゃないのね」
 この隠れ家も、今はあの頃の自分ではないという証拠だ。
「今はちゃんと、仲間がいるんだったね」
 仲間はイデアと共に歩んでくれる。あの頃のように、パン一切れに生死をかける必要もない。
 ほっと息を吐き出す。
 瞬間、イデアの目の前の光景が一変した。
 そこには人間の脳に無数のアンテナを刺した悪趣味なジャミング装置があった。
「ずいぶんな攻撃ね。でも、壊すわよ」
 一撃で粉砕する。
 トラウマを打ち砕いた、イデアの強さだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

村崎・ゆかり
乗り越えるべき過去……。
そうね、幼い頃は自分が他の子供たちと違うのが不思議でならなかった。
彼らには、朝四時に起きての勤行も、沐浴潔斎も、真冬の滝行や山野を巡っての修行もなかった。
私にだけ、そうした『しきたり』が課されているのを理不尽に思って、家を恨んだりもしたものよ。
どうしてあの子たちと同じ時間を過ごせないのかと。

だけど今なら分かる。
全ては過去の残滓を滅ぼすため。誰かが引き受けないといけない仕事をこなすため。

そして私は望まれた以上の力を手に入れ、数多の世界を救う一助になる事が出来る!

もう過去の想い出はいいわね!
不動明王火界咒を「全力魔法」「属性攻撃」(火)で放ち、ジャミング装置を「串刺し」よ!



●理不尽と言う思い
 村崎・ゆかり(紫蘭・f01658)は昔の光景を見ていた。
 まずは朝四時に起きての勤行だ。朝の四時と言えば、まだ日が昇る前の季節も多い。幼い子供にとって、朝の四時に起床するのは生半可なことではない。
 神聖な儀式の前には必ず沐浴潔斎があった。飲食を慎むのはもちろんのこと、水で身を清めることの辛さもある。
 辛いと言えば、真冬の滝行や山野を巡っての修行もそうだ。
「どうして、あたしだけ、滝にいくの」
 凍える様な真冬に、滝行をする子供など、自分は知らない。自分しか知らない。
 それがゆかりには不思議でしかたがなかった。
 どうして自分は他の子供たちと違うのだろうか。
 どうして自分は冷たい滝に打たれなければならないのか。
 あまりにも理不尽だと思う。
「どうして」
 誰も答えてくれない。
「どうして」
 冷たくて辛い。
「どうして」
 滝に打たれながら、恨みの心だけが育っていく。
「どうして、あのこたちと、いっしょじゃないの」
『ほら、辛いことばかりだ』
 どこかで誰かがゆかりに言葉を浴びせかける。
『辛くて、苦しい事ばかり。他の子供は楽しいのに、お前だけは特別に厳しい毎日しかない』
 それは、毒のようにゆかりの心に沁み込んでくる。
 過去のことだと分かっているけれど、自分にだけ課される『しきたり』がゆかりを縛り付けていく。
「だけど」
 小さく、ゆかりが言葉を発した。
「だけど今なら分かる」
『いいや、お前は、滝に打たれ続ける』
「全ては過去の残滓を滅ぼすためよ」
 ゆかりは顔を上げた。滝の冷たさを覚えている。理不尽な思いを覚えている。
 だが。
「誰かが引き受けないといけない仕事をこなすため」
 ゆかりは声を張り上げた。
「そして私は望まれた以上の力を手に入れ、数多の世界を救う一助になる事が出来る!」
 その堂々とした言葉が、辛辣な声を弾き飛ばす。
 もう滝に打たれてはいない。
 もう理不尽さを抱えて弱る子供ではない。
 ゆかりは過去の思い出を乗り越えようと胸を張った。
 と、ゆかりの目の前が晴れる。
 現れたのは悪趣味なジャミング装置だ。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 あとはいつものように、唱えるだけだ。
 不動明王火界咒を発動させると、放たれた炎がジャミング装置を串刺しにした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

禍神塚・鏡吾
「所詮は幻、しかしこの光景は真実。真逆私が鏡を突きつけられるとは」

・克服すべき過去
猟兵に覚醒して最初の任務での事
鏡吾はダークセイヴァーの吸血鬼に敗北し、精神を操られてしまった
その後、鏡吾は吸血鬼の「拷問器具」として大勢の人々を苦しめてきた
彼ら彼女らの苦痛と怨嗟の声が、今でも聞こえている……

・対策
そう、拷問具として扱われる間に身に着けた業こそこの「照魔鏡」です

照魔鏡を自分に使用し、自問自答
質問「苦しめた人々のために、するべき事は何か?」
回答「それは、かの吸血鬼を倒す事です」
私が正直に答えたかどうかは、成否判定の結果にお任せします

嘘でも、照魔鏡のダメージで精神攻撃の痛みを誤魔化して逃げ切ります



●血濡れた手
 禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)の耳に届くのは、苦痛と怨嗟の声だ。
 ふと手を見ると、誰かの血がべっとりと染みついている。もう片方の手には、何かを握りつぶした感触が残っていた。
 ああ、これは、『拷問器具』だ。
 『拷問器具』とは、何か?
 それは、自分のことである。
 鏡吾は命じられるままに、誰かの腕を引きちぎった。
 鏡吾は命じられるままに、誰かの足を潰した。
 何もおかしいと感じない。心の抵抗も感じない。ただ命じられるまま、■■を潰して。■■■を斬り捨てて。■■を壊して。
 ダークセイヴァーの吸血鬼は強力であった。鏡吾を返り討ちにした吸血鬼は、鏡吾を操り人形に変えて楽しんでいたのだ。
 また、血飛沫が飛ぶ。
 だが止められない。
 悲鳴が鏡吾の耳にこびりつく。血がこびりつく。
 鏡吾は知っている。この光景は――。
「所詮は幻、しかしこの光景は真実。真逆私が鏡を突きつけられるとは」
 鏡吾はユーベルコード・照魔鏡を発動させた。
 この照魔鏡こそ、拷問具として扱われる間に身に着けた業そのものだ。
「鏡が照らし出すは真実のみ」
 鏡から目映い光が放たれ、鏡吾を照らす。
 それは鏡吾の自問自答であった。
「苦しめた人々のために、するべき事は何か?」
 鏡吾は問う。
 苦しめた人々の声は、今でも耳に残っている。
 感触も覚えていた。
 鏡吾は鏡と向き合い、言葉を探す。
 照魔鏡の照らす光は、真実を言えば解除されるのだから、質問に答えればよいのだ。
「それは、かの吸血鬼を倒す事です」
 鏡吾は答えた。
 これが正直な答えであるのか、分からない部分もある。
 やがて目映い光が拡散して消えていった。
 もう過去の光景も無い。
 あの出来事を打ち破ったと言うのだろうか。
「……っ」
 血が染みついていたと思われる手に少しのダメージ。
 だが、意識ははっきりした。
 鏡吾の目の前に現れたのは、悪趣味な形をしたジャミング装置だ。すぐさま、これを打ち砕き破壊する。鏡吾は振り返らずに、その場を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヤーリ・ハンナル
【トラウマ】
ヤーリが小娘で戦いに明け暮れていた頃、山中で人間の赤児を拾った。
赤児は飢死しかけていた。仲間達は無駄だ捨て置けと言うが、ヤーリの母性はそれを許さない。
けれど行軍中のドワーフ部隊に、赤児を養えるような食料はない。
ヤーリは山で得た蜂蜜を赤児に与えた…が、人間の赤児に蜂蜜は毒。結局救うことはできなかった。
弱者を救えなかった悲しみと、無知な自分にヤーリはうちひしがれた。

【克己】
全ての種族を救うためには、戦うだけでは駄目だと悟ったヤーリは、料理の修業をし、今に至る。

【攻撃】
UC発動、学食で仲間と作ったハムの塊を食べる。
おたま(グルメツール)でジャミングを叩き壊す。
※アドリブ台詞ねつ造大歓迎!



●赤児の姿
 ヤーリ・ハンナル(学食の母・f10606)の手の中には、人間の赤児の姿があった。
 ヤーリは顔を上げる。ああ、ここは行軍中のドワーフ部隊。まだ自分が戦いに明け暮れていた頃、山中で赤児を拾った時のことだ。
 鮮明に思い出す。
 艶のない肌。枯れた声。弱弱しい手。強く握れば潰れてしまいそうな身体。
 ヤーリは捨てられていた人間の赤児を拾ったのだ。
「放っておけ。どうせすぐに死んじまうさ」
 仲間は言う。
 今の部隊に、赤児を養うだけの余裕はない。常に戦いの危険もあるし、何より赤児に回せるような食料などなかった。
 だがヤーリは赤児を離さなかった。この腕の中で息をしている小さな命を見捨てることなどできない。赤児がかすれた声で泣く。ヤーリはとっさに赤児を抱きかかえて、仲間から一歩後ずさった。
「いいか! 次の刻には出撃だ。それまでに、何とかしておけ」
 仲間の声を背に聞いて、赤児を抱えたままヤーリは走り出す。
 見つけたのは、蜂の巣だった。
「はちみつだ!」
 思わず声が出る。ヤーリの知る中で、はちみつは栄養価の高い食べ物だ。食べやすいとろみがあるし、何より甘くておいしい。
 はちみつを口に含ますと、赤児はふにゃふにゃと声を漏らしながらはちみつを食べた。
 ほっと息を吐く。
 まだ小娘だったヤーリは、小さな命を救えた自分を褒めた。誇っていいはずだと思っていたのかもしれない。
 ――だから、知らなかったのだ。
「赤児に、はちみつは毒なんだよ。きちんと殺菌していない、どんな菌がいるかもわからないからね」
 何度目かの戦闘の後、ヤーリは息を引き取った赤児の亡骸を手渡された。
 仲間が困ったように話している声が遠い。
 はちみつに含まれていた菌が赤児を殺してしまった。
 無知な自分では、赤児を救うことはできなかったのだ。
『おまえのせいだ!』
 どこからか声が聞こえる。
『お前は、救えなかった!』
 暗い声がヤーリの心に沁み込んでくる。
「ああ、そうだ!」
 ヤーリは再び自分の手を見た。
 そこには、もう赤児の姿はなく、代わりにおたまが握られていた。
「全ての種族を救うためには、戦うだけでは駄目だったのさ! だから、あたしは、料理の修業を始めたんだ」
 もう目の前にドワーフの部隊は無い。あの頃の情景は、今消え去った。
 目の前にあるのは、悪趣味な形をしたジャミング装置。
 ヤーリは、フードファイト・ワイルドモードを発動させる。学食で仲間と作ったハムの塊を食べ、お玉をジャミング装置に向けてフルスウィングした。
 見事粉砕。周辺に、ジャミング装置の砕ける音が響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィロメーラ・アステール
あたしには記憶がない。過去も故郷もわかったもんじゃない、が……。

(……思い浮かぶはずのない『いつか』が、語りかけてくる。
《世界は滅びた》

オブリビオンが人々を襲い、奪い、犯し、殺し、喰らい。
魂すら弄ぶ悪夢の光景。
血も涙も枯れ果てた人々が、願う。
「助けて」「助けて」「助けて……」
最後の一人が崩れ落ち、世界が停止し、全ての未来が潰えるまで。
見ていることしかできなかった『いつか』。

――あたしには助けられない。助けられなかった……いいや、だからこそ)

「『これから』助けるんだ!」

ん……あたしは今なにを思い出したんだ?
まあいいや、こんな所で立ち止まってるヒマはないぜ!
みんなの願いを背に受けて、必殺キックだ!



●『いつか』の声
 オブリビオンが人々を襲う。
 ――これは、思い浮かぶはずのない、いつかの光景。
 それは、奪い。
 それは、犯し。
 それは、殺して喰らった。
「助けて」
 誰かの声が聞こえてくる。
「助けて」
 もはや、血も涙も枯れ果てた。それなのに、助けを呼ぶ声だけがこだまする。
「助けて……」
 フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)は、だからこんな光景は知らないはずだ。記憶もなく、過去も故郷も分からないのだから。
「助けて、助けて」
 誰かが手を伸ばす。
 だが、届か居ない。
 オブリビオンの攻撃は苛烈だった。
 世界は滅びたのだ。
 蹂躙された人々の声は届かず、助けもなく、情け容赦なく滅びた。
 フィロメーラはただ見ていることしかできなかった。
 最後の一人が崩れ落ち、世界が停止し、すべての未来が潰れるまで。
 ――これは、『いつか』の声かもしれない。
 世界が砕かれ、消えていく。人は滅びて、何もなくなった。
(「あたしには助けられない」)
 フィロメーラの声が、どこかから聞こえている。
(「助けられなかった……」)
 目を閉じると、捻り潰された人の残骸が見える。耳をふさいでも、すり切れた喉で助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
「いいや、だからこそ」
 だが、フィロメーラは叫んだ。
「『これから』助けるんだ!」
 己の意思を示し、『いつか』の声を断ち切る。

「ん……あたしは今なにを思い出したんだ?」
 周辺を見回すと、人間の脳に無数のアンテナを刺した悪趣味なジャミング装置を見つけた。
 首を振り、自分を取り戻す。
「まあいいや、こんな所で立ち止まってるヒマはないぜ!」
 フィロメーラは、ジャミング装置に向かって走り出した。一気に加速して、飛び上がる。
「みんなの願いを背に受けて、必殺キックだ!」
 その身は、光り輝く流星のごとく。
 スーパー流れ星キックを繰り出し、ジャミング装置を打ち砕いた。
「さて、みんなもバッチリ粉砕してる頃だよな」
 フィロメーラの言う通り、猟兵たちはトラウマを乗り越え、各々ジャミング装置を撃破した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月10日


挿絵イラスト