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銀河帝国攻略戦⑬~めをそむけたくなる、それでも

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●しんてきがいしょうのじゅうようせい
「……皆、お集まり頂き有難う。今回は、常とは異なる意味で心が痛む仕事を頼む事になってしまうが、話だけでも聞いてくれるだろうか」
 虹色の星型のグリモアを掲げる手も心なしか力なく、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)は珍しく困ったような表情で集まった猟兵たちを見回した。

「皆には今回、帝国の執政官兼科学技術総監ドクター・オロチが乗る『実験戦艦ガルベリオン』を発見する為にある行動をお願いしたい。其れが、オロチが派遣した艦の残骸周辺に存在するという『実験戦艦ガルベリオン』を秘匿する『ジャミング装置』の発見と破壊となる」
 『ジャミング装置』は宙域内に多数設置されており、その防衛機構を突破して『ジャミング装置』そのものを破壊することが今回の依頼の内容だという。

「……ただ近づいて破壊すれば良い、と行けば良かったのだがな。此の装置には悪趣味な『防衛機能』が発動するのだ。具体的には『近づいた対象のトラウマとなる事件などを再現し、対象の心を怯ませる』というものでな。心が怯めば、其れだけ『ジャミング装置』のある場所からも離れてしまう」
 ――つまり、強い心で『過去のトラウマ』を克服しなければ、『ジャミング装置』を破壊できる距離まで近づくことはできない、ということだ。

「いっそ刃で斬られた方がまだましかも知れない、そんな内容の依頼だ。其れでも『ジャミング装置』の破壊は為さねばならぬ事にて、どうか……済まないが、お力添えを頂けないだろうか」
 眉間に常以上のシワを寄せつつ、心苦しそうにニコは一礼して話を締めくくった。


かやぬま
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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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 こんにちは、初めまして、かやぬまです。戦争シナリオ第二弾をお届け致します。
 今回は少々特殊な内容となっておりますので、OPおよびマスコメをよくお読みの上ご参加下さいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

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 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。
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 リプレイではまず「悪夢世界で皆様が打ちのめされた状況」を描写致します。そこからどう克服・逆転をしていくのかを描写し、最後に現実に意識を戻し、目の前にあるジャミング装置を破壊するという流れで参ります。ですのでプレイングには、
 「皆様のトラウマの具体的な内容」
 「それをどうやって克服するか」
 「ジャミング装置の破壊方法」
 をバランス良く記載いただければ大変有難く思います。ちなみに『ジャミング装置』の外見は『人間の脳に無数のアンテナを刺した』ような、悪趣味な外見をしています。

 皆様の心の戦いの一助となれましたら幸いです、プレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
ひ、――やめ、やめて、触らないで、私じゃない!私の罪じゃない!やめて
殴らないで、ひどいことしないで、嬲らないで、知らない!
無実なの!私の、別の私が、殺し、わた、う、ゃ、嫌!
助けて、【恐怖の谷】!

「……おや、頭の中がぐちゃぐちゃだ」
『マダム』、私に、おしえ、て、私、『私』よね?
「ここは戦場。君は『ヘンリエッタ』。
PTSDを呼び起こされているね、大丈夫だよ。
ほら、『脳』を管理してあげよう」
わた、わたし、おかしく、ない、ように、導いてっ

「勿論。君と『私たち』は運命共同体だ。【同罪】だけどね。
さぁ、――UDCを。君の忠犬に、命令したまえ」
私に、この、過去は――必要ない!壊せ、【ワトソン】!



●わたしであり、わたしでないもの
 はじめから聞かされていたことではあった。
 しかし、実際に対峙してみたら想像以上に――酷かった。
 ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は『ジャミング装置』に一歩近づいたその瞬間、脳裏から現出するかのごとく眼前に広がった光景に目を見開き、思わずその場に崩れ落ちた。

「ひ、――やめ、やめて、触らないで、私じゃない! 私の罪じゃない! やめて!」
 うずくまり、頭を抱えて泣きながら叫ぶヘンリエッタ。その周りにはいつの間にか影人間のような姿をしたモノたちが複数、寄ってたかって何かの言葉をヘンリエッタに浴びせかけながら、わらわらと手を伸ばそうとする。
「殴らないで! ひどいことしないで、嬲らないで、知らない!」
 いやいやとかぶりを振って必死にそれに抗おうとするヘンリエッタ。浴びせられる言葉は徐々に鮮明になっていく――聞くに堪えない罵声だ。

『コロシタナ』
『オマエガ』
『ツミブカキモノ』
『ツグナエ、アガナエ』

「……無実なの! 私の、別の私が、殺し、わた――う、ゃ、嫌!!」
 ヘンリエッタは『多重人格者』である。もしも主人格とは別の人格が何らかの罪を犯したとして、それをどうやって背負えば良いのだろうか? 主人格が強靭なる精神の持ち主ならば話はまた違ったやも知れない、しかしヘンリエッタはそうではない。故に――『別の誰かに頼らなければならなかった』。

(助けて――【恐怖の谷(ニドメノアンサツ)】!)
 ヘンリエッタは心の中でコードを叫ぶ。周囲を取り巻き罵声を浴びせ、腕を締め上げようとまでしていた影人間たちは忽然と姿を消し、代わりに現れたのは――。
「……おや、頭の中がぐちゃぐちゃだ」
 外見をヘンリエッタと同じくしながらも、非常に理知的な佇まいを見せる女性だけが、おずおずと顔を上げたヘンリエッタと向き合っていた。
 女性の名は『マダム』、真人格とも呼べる存在にして、ユーベルコードで召喚された今はプロファイリングによる指導でヘンリエッタを導くものである。

「『マダム』、私に、おしえ、て、私、『私』よね?」
「ここは戦場。君は『ヘンリエッタ』。PTSDを呼び起こされているね、大丈夫だよ。――ほら、『脳』を管理してあげよう」
 顔を涙でくしゃくしゃにしながら、上半身を起こし這うように『マダム』の足元にすがりつくヘンリエッタと、その頭を優しく撫でながら諭し微笑む『マダム』。
「わた、わたし、おかしく、ない、ように、導いてっ」
 『マダム』はヘンリエッタにそっと手を差し伸べ、立ち上がらせる。ヘンリエッタが地に足をつけしっかりと立ったことにより、意識は現実へと戻っていった。

 ヘンリエッタの後背からそっと両肩に手を置いた『マダム』は、耳元で囁く。
「勿論。君と『私たち』は運命共同体だ。――【同罪】だけどね」
 人格のうちひとつが犯した罪は、等しく共有されるという認識なのか。確かにそれはある意味平等な考え方といえよう。主人格ヘンリエッタが受け入れられるかは別として。
「さぁ、――UDCを。君の忠犬に、命令したまえ」
 そう言ってそっと背中を押す『マダム』と、振り向かずにただ頷いて己が身に宿るクランケヴァッフェを取り出すヘンリエッタ。先程まで泣き顔だったその表情は、今は決意に満ちていた。

「私に、この、過去は――必要ない! 壊せ、【ワトソン】!!」

 名助手の名を冠したクランケヴァッフェをけしかけると、自身に悪趣味な幻覚を見せていた張本人でもある『防衛機構』は、あっけないほどに容易く破壊された。
 ヘンリエッタが嬉しそうに振り返るも、後ろにいたはずの『マダム』は忽然と姿を消していた。役目は終わった、ということなのだろうか。
 いささか不安げな表情に戻るヘンリエッタだが、それが彼女の常なのかも知れない。何にせよ、ヘンリエッタは無事に為すべきことを果たしてみせた。それで充分だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

河原崎・修羅雪姫
POW

「私のトラウマ、それは……」
かつて繁栄を謳歌した千年の都『ミレニアム京都』

その都の高位の貴族の家に生まれた少女。
その美しい漆黒の髪から、黒雪姫と名付けられた。

何一つ不自由のない恵まれた生活。
だがその幸福は一瞬にして奪われた。
地を埋め尽くすUDCの群れ。
顕現した邪神。

「やめて、父様と母様を食べないで!」
目の前で両親をフリークスに貪りつくされた無力な少女。

●克服
「私は絶対に奴らを許さない……!」
自ら望んでサイボーグとなり、名も改めた。
私は力を手に入れた!
もう無力な黒雪姫ではない。
「私は、修羅雪姫だっ!!」

精神攻撃に耐えきって、愛用の巨銃フリークスハンター&UCでジャミング装置を破壊する



●ふくしゅうのしゅらゆきひめ
 人間の脳に無数の針を刺した外見の、あからさまにヒトという存在を冒涜した存在。そんな『ジャミング装置』の前に、河原崎・修羅雪姫(スノーブラッド・f00298)は凛とした姿で立ちはだかった。覚悟はとうに決めてきた、そんな表情で。

「私のトラウマ、それは……」

 ぐるりと視界が暗転するような錯覚を覚える修羅雪姫。気がつけばそこは懐かしき生まれ故郷、千年の繁栄を謳歌した都『ミレニアム京都』の光景が広がっているではないか。
 修羅雪姫は『ミレニアム京都』の高位の貴族の家に生まれた少女にして、その美しい漆黒の髪から「黒雪姫」と名付けられ、蝶よ花よと大切に、何一つ不自由のない暮らしを送っていた。

 ――しかし「黒雪姫」と『ミレニアム京都』の平穏にして幸福な日々は突如として終わりを告げる。突如現れ都を埋め尽くすUDCの群れと顕現した邪神に、何もかもが蹂躙され、破壊され、脆くも滅び去ったのだ。
 「黒雪姫」にとってもそれは例外ではなく。自らをかばいUDCに絡め取られた両親を助けてくれと懇願するも、願い虚しく目の前で愛する両親を貪り食われたのだ。生きたまま正体も知れぬ異形にぞるぞると喰われる恐怖と苦痛は、想像を絶して余りある。

「やめて、父様と母様を食べないで! ああ……!」

 顔を覆いその場に崩折れる「黒雪姫」。嘆くことしかできないそんな少女を、人知れず奥歯を食いしばりつつ見つめるもう一人の少女の姿があった。――修羅雪姫だ。
「私は絶対に奴らを許さない……!」
 既に気付かれた者も多かろう、自ら望んでサイボーグとなり名も改め、戦う力を手に入れた、その少女の名は――。

「私は、……修羅雪姫だっ!!」
 彼女はもう、嘆くばかりの無力な「黒雪姫」ではない。猟兵・修羅雪姫なのだ。
 勇ましい名乗りも高らかに、強靭なる意志で過去の忌まわしい風景ごと払いのけるように、巨大な愛銃「フリークスハンター」を持った手を思い切り振るうと、景色は現実のものへと戻ってきた。

 そのまま愛銃の狙いを散々好き勝手してくれた『ジャミング装置』へと向けると、超大口径の弾丸をあらん限り叩き込んでやる修羅雪姫。対UDCでなくともきちんと効果は発揮され、見事『ジャミング装置』の破壊は成功した。

 失われたものは戻らなくとも、たとえ修羅の道を征くと誓った身だとしても、過去の忌まわしき記憶を打破したこの意志の強さがあれば、修羅雪姫の道行きは、きっと――。

成功 🔵​🔵​🔴​

苧環・つづら
血の海に沈む家族、だった筈の破片。
周囲には嗤い狂いながら家族を破片にした奴等の、破片。
向こうでは奴等を破片にした人影が他の影に破片にされ続けている。
止まらない虐殺連鎖。
「ひとりは残してあげるのよ」なんて粘つく甘い声が聞こえた瞬間、始まった連鎖。

残されたのは。
――アタシひとり。

過去という名の悪夢。
……ああ、でも、この悪夢には大事な続きがあるのよ。
UDC組織に保護されて、自分の中の力を知って、
召喚実験被験体という名目に護られながら戦う力を鍛えて。
その結果が、今此処に居る猟兵のアタシ。

そうよ。あの悪夢の果てに、こんな悪夢を叩き壊す側に回ったのよ。
悪趣味な破片さん――猟兵の鎮魂歌に抱かれて還りなさい。



●とまらないちだまり
 それは、粘っこく甘い誰かの声をきっかけとして始まった、悪夢の連鎖。
 苧環・つづら(残響にて紡ぐ円環・f06155)の視界に飛び込んできたのは、血の海に沈む家族――だったはずの、破片。

「そん、な」

 呆然と立ち尽くすつづらの視界の端には、嗤い狂いながら家族を破片にした者達の――これまた破片が血溜まりに落ちていた。
 奇っ怪な嗤い声とおおよそ人体が上げる音ではないそれにつづらが振り返ると、先程まで視界にあった家族の仇の破片の作成主が、さらに別の影に破片にされ続けている。

「ひとつは残してあげるのよ」

 いやに耳にこびりつく、最初に聞こえた粘つく甘い声。
 いつ自分が破片にされる番が来るのかと、しかし逃げ出すこともできずにその場にたたずむより他に術を持たなかったつづらは、おびただしい血で出来た海のまっただ中、残されたのは自分ひとりだとようやく察するに至った。

 残されたのは。
 ――アタシひとり。

 つづらに過去の悪夢を見せて、屈するように仕向ける『ジャミング装置』。しかしつづらは知っていた。この悪夢には「大事な続き」があるということを。

 惨劇の後、UDC組織に保護され己の中に秘められた力を知り、召喚実験被検体という名目でこそあるがそれに護られる形で異形と戦う力を鍛え上げた。
「――その結果が、今此処に居る猟兵のアタシ」

 形見のストールをしゅるりと肩から下ろしながら、つづらは今は姿を見せぬ『ジャミング装置』に向けて強く言い放つ。
「そうよ。あの悪夢の果てに、こんな悪夢を叩き壊す側に回ったのよ」
 ストールは端から徐々に霊体化した既に絶えた種の花弁と化して、周囲の景色を『ジャミング装置』が据え付けてある現実世界へと引き戻していく。

「悪趣味な破片さん――猟兵の鎮魂歌に抱かれて還りなさい」

 ストールが完全に幻想的な花弁の嵐と化すと、それに押し包まれた『ジャミング装置』は花弁がかき消えると同時に消滅した。

 地獄のような経験でさえも、明日への糧とする強さを持つ者が確かに存在する。つづらは間違いなくその類の猟兵なのだろう。願わくば、その強さがこの先も失われることのなきように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・アールイー
ある時は布団だった
病で床に伏せる主は美しかった昔の姿の見る影もない
生涯の幕が閉じるのを何も出来ずに見送った
ある時は人形だった
小さい主と添い寝をするのは数年ですぐに見向きもされなくなる
隣からも記憶からもいなくなった
小物入れとなり、最後にはくるみボタンとなり、真っ暗な箱の中へ

生まれ変わった姿の数、やりきれない想いも重ねている
でもそれで過去に負けてたら、今ヤドリガミになっちゃいないよ
あたしらはきっとあきらめが悪いんだ
もうだれもうまれかわらせてくれないのなら
じぶんからうまれかわろう

自分が人形だった頃と同じ姿のReの名を呼ぶ
人形遣い遣いで、力を合わせて踊るように
悪趣味な脳にしつけ針を突き刺して破壊するよ



●みおくるもの、かえりみられぬもの
 メリー・アールイー(リメイクドール・f00481)は、まるで自分が宙に浮いたかのような視界を得て、様々な光景を見下ろしていた。

 それは、自身の「本体」の追体験。
 布団であった頃の自分に横たわる主は病に臥せり、美しかった昔の姿の見る影もなく。そしてとうとう生涯の幕が閉じるのを、為す術もなく見送るしかなかったこと。
 姿を変えて人形となった頃の自分の姿も視た。今度の主は小さな子供で、添い寝をするのがとても幸せだったことを思い出す。
 しかし同時に、そんな月日も数年経てば終わりを迎え、主の興味を失った人形は見向きもされなくなり、やがて記憶からも忘れ去られてしまったことを思い出す。

 メリーは次々と姿を変える。小物入れとなり、くるみボタンとなり、そしてたどり着いた先は、真っ暗な箱の中。

 気付けば宙に浮いていたはずの自分ごと箱にしまわれ、蓋を閉められそうになっていた。しかしメリーはすかさずするりとそこから抜け出すと、まるで自分自身に言い聞かせるかのごとく、虚空に向けて声を上げた。

「――生まれ変わった姿の数、やりきれない想いも重ねている。でも、それで過去に負けてたら、今ヤドリガミになんてなっちゃいないよ」

 箱の中の暗闇から、無数の手が伸びてくるようだった。メリーはそれから逃れるように、上へ、上へと「飛んで」いく。

「あたしらはきっとあきらめが悪いんだ。……もうだれもうまれかわらせてくれないのなら、じぶんからうまれかわろう」

 その言葉に呼応するように、空とおぼしき景色に亀裂が入ったと思うと小気味よい音を立てて砕け散り、メリーを現実の世界へと導いた。

「Re!」
 忌まわしき『ジャミング装置』と対峙したメリーが呼んだ相棒のからくり人形「Re」の姿は、かつてメリー自身が人形だった頃と同じものであった。
 ――もうだれも、うまれかわらせてくれないのなら。
 【人形遣い遣い(ダブルドールダンス)】で「Re」に自身の制御を任せ、二人で力を合わせて踊るように、メリーは『ジャミング装置』の悪趣味な脳に自慢のしつけ針を突き刺してやった。
 ひょいと距離を取るメリーと「Re」が見守る中、ジャミング装置はその機能を停止させた。

 百年の時を経た器物は、時として意思とヒトの身体を得るという。メリーが今こうしてヤドリガミとして存在するのには、きっと意味があることに違いない。
 降り積もった澱みのような想いさえ飲み込んで行く強さで、メリーと「Re」は『ジャミング装置』の破壊に成功したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クーナ・セラフィン
恩返しは自己満足。
苦難の道を歩み一つを成し遂げても過程は誰も見ず、見ようとしない。どころか成果を羨み足を引っぱり笑いものに。
…護ろうとしたモノがそんなケダモノだと知った時。
努力は報われず、それが世界の『あたりまえ』だと。
それこそが。

絶望は既に。散々悩んだならもう振り返る必要はない。
周りに見合う為に無理して荒れて、けれどそうする価値もない事に気づけば随分生き易くなって。
…言ってしまえば開き直り。
それにね、そんな世界でも好ましい人はいる。
そうは在れずともそんな人を眺めて助けて、うん。
一度きりの猫生、存分に歩かないと損じゃないか。

破壊は装置に槍突き刺しUC、零距離で発動し中から凍らせ弾けさせるかな。



●たがためのおこないか
 ケットシーという種族は「冒険」ともうひとつ「恩返し」を美徳とする種族である、と言われている。
 騎士然とした羽根付き帽子も凛々しいクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)も当然それに違わぬ生き方をしている――かと思われた。

 クーナの周りを誰とも判別がつかぬ人影、あるいは猫影、または別の様々な形の影が取り囲む。
「……恩返しは、自己満足」
 そんな影を見て見ぬふりをしてか、クーナは地に目線を落としたまま独りごちる。
 誰かのために。そう思って。苦難の道を歩み一つのことを成し遂げても、その過程を顧みることは誰もせず。しようともせず。
 それどころか、成果だけを羨んで足を引っ張り、時に笑いものにする。

 ……護ろうとしたモノが、そんなケダモノなのだと知った時。

 クーナがそこでようやく顔を上げて周囲を見渡すと、影の群れは歪な笑みを浮かべていた。
 ああ、そうだ。努力は報われないのだ。それが世界の『あたりまえ』なのだ。
 それこそが――。

 しかしクーナは、歪な影の群れに囲まれながらも不敵な笑みを浮かべてみせた。
 ――絶望ならば、既に、した。散々悩んだのも、もはや過去のこと。ならばもう振り返る必要はない。
 周りに見合う為に無理をして荒れたこともあったが、そうする価値もない事に気づけば随分と生きやすくなった。
 開き直りだ、と人は言うやも知れない。しかし、それで良いのだ。
 世界は美しい、だなんてとても言えやしない、それでも好ましいと感じる存在も確かにいることをクーナは知っている。たとえ自身がそう在れずとも、せめてそんな人を眺めて、願わくばその人がしあわせでありますようにとちょこっと助けてみせたりして。

 それで良いのだ。一度きりの猫生、存分に歩かないと損じゃないか!

 白百合の銀槍をだん、とひとつ地面に突き立てると、思い切り自分の周りを薙ぎ払うように振り回す。心にのしかかるような重圧を与えてきていた歪な影たちは、次々と雲散霧消していく。
 そうして視界が晴れた先には、目標である『ジャミング装置』の姿。クーナはつかつかと装置に近付くと、銀槍を脳の部分に突き立てると【風花は舞い散り(カザバナマドイ)】を発動させた。
 禍々しい脳は内側から雪混じりの花吹雪に蹂躙されて、粉微塵に弾け飛んだ。

 飛び散った脳の破片が、クーナの美しい灰色の毛並みを汚す。毛づくろいをするのも躊躇われる状況にため息ひとつ、クーナは早く帰って湯浴みをしようと心に誓うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ガルディエ・ワールレイド
【POW】
◆過去
・ダークセイヴァー出身でダンピールという境遇にもかかわらず、人間である母や周囲から愛され、それに応えて育った
「僕、大きくなったら、騎士になって皆を守るよ!」

・しかし故郷はヴァンパイアに滅ぼされ廃墟に。他に生き残りはいない
「なんで俺だけが生き残って。……やだよ……皆」

◆克服方法
【存在証明】使用
人々を守る意思として防御力上昇
皆の形見「マフラーの切れ端」を握りしめ誓う
「復讐の念を覚えねぇと言えば嘘になる。だが、それには飲まれねぇ。俺はあくまで人々を……”皆”を守るために戦う!」

◆装置破壊
移動は【全力魔法】を推力に
ジャミングしてきた方へ行って長剣で両断
騎士の誓いを甘く見てんじゃねぇぞ!



●のこされしもののそんざいしょうめい
 ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は、幼き日の自分と、まだ存命であった親しい人々の姿を目の当たりにしていた。

(――そうか、やっぱりこいつを見せてきたか)

 若干忌々しげに眉根を寄せるガルディエをよそに、まだ幼いガルディエは無邪気に言う。
「僕、大きくなったら、騎士になって皆を守るよ!」
 その声を聞いたガルディエがさらに顔をしかめる。ダークセイヴァー出身で、ダンピールという境遇であるにも関わらず、人間である母や周囲の人々から愛情を一身に受けて育ったガルディエは、かつて確かにそう言った。よく、覚えている。

 なればこそ、この後故郷を襲った悲劇も忘れたことはなく。忌まわしき存在であるヴァンパイアに戯れに滅ぼされて廃墟と化した故郷で、生き残ったのはガルディエただ一人。その様子が、古びた映写機で再生されるがごとく忠実に再現されていくのを、ガルディエはただじっと見つめていた。
 この後、自分はこう言うのだ。

「なんで俺だけが生き残って。……やだよ……皆」

 思わず、口だけが音を発せず動く。忘れ得ぬ光景であった。
 しかし、それ故にガルディエが屈しない理由がそこにはあった。

「【存在証明(レーゾンデートル)】……俺に力を」
 それは、ガルディエが己を定義づけるための力強いユーベルコード。人々を守る意思を示し守りを固めると、愛する人々の形見であるマフラーの切れ端を握りしめて誓う。
「……復讐の念を覚えねぇと言えば嘘になる。だが、それには飲まれねぇ」
 ガルディエの眼前の廃墟の風景がぐらりと揺らぐ。

「俺はあくまで人々を……『皆』を守るために戦う!」

 そうして、ガルディエの誓いを込めた叫びは、遂に周囲を覆っていた幻覚を吹き飛ばした。
 狙いは既に定めてある、もちろん『ジャミング装置』に一直線に駆けていく。先にユーベルコードで強化し魔力で包まれたガルディエの身体は「全力魔法」の効果を受けて一気に加速していく。

「――騎士の誓いを、甘く見てんじゃねぇぞ!!」

 それはとても気高く、尊いものにして。
 下卑た幻覚を見せる悪趣味な装置になぞ、負けるはずもなく。
 黒竜の騎士の長剣は、迷いなく『ジャミング装置』を一刀両断してみせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイリ・フラジャイル
アドリブ大歓迎

アタシには過去が無い
だからそんな攻撃が通用する訳がない
リアクターフル稼働で装置をブン殴って帰還よ
モタモタしてたら戦線が膠着しちゃう!



では地獄を再現しよう
齎されるヴィジョンは
忘れた筈の忌わしき過去の戦

対災魔特別攻撃隊【フラジャイル】
特務故の儚い命を皮肉った命知らずの特攻部隊
ミレナリィドール第8078号として配属された自身は
ある日オブリビオンの猛攻に遭い命を散らす寸前だった
残された命を如何に使おうと壊滅した部隊と戦局は覆らない
敗走の中命令によりその身を永久に封じる事となる



対峙した過去に打克つ方法は
今の絆を克明に思い出す事のみ
逃れられぬ宿命なら乗り越え続けよう
決して一人じゃないのだから



●ぷれいばっく、どーるず
 此度の作戦に臨むにあたり、アイリ・フラジャイル(夢見る戦争人形・f08078)は非常に強気な発言を残していた。

「アタシには過去が無い、だからそんな攻撃が通用する訳がない!」

 リアクターフル稼働で『ジャミング装置』をブン殴って早々に帰還しよう、でなければ戦線が膠着してしまう。そう意気込んで。

――では、地獄を再現しよう。

「……っ!?」

 いざ『ジャミング装置』と対峙したアイリは、忘れたはずの忌まわしき過去の戦のヴィジョンをもたらされることとなった。

 対災魔特別攻撃隊【フラジャイル】、それは特務故の儚い命を皮肉った、命知らずの特攻部隊。ミレナリィドール第8078号として【フラジャイル】に配属されたアイリは、ある日災魔――オブリビオンの猛攻に遭い絶体絶命の危機に陥っていた。
 残された命を如何に使おうと、壊滅した部隊も戦局ももはや覆ることはなく、敗走を余儀なくされたアイリは命令によってその身を永久に封じることとなった――。

「……そう、そうね。確かに、あの時は文字通りの『地獄』だった」

 己を抱きしめるような格好で、ややうつむきがちに声を絞り出すアイリ。忘却の彼方にあるものさえもほじくり出してくるとは実に忌まわしい、そう思いながら。
 そして対峙した過去に打ち克つ方法を瞬時に叩き出す。それは、今現在アイリが築いて大切にしている他者との絆を克明に思い出すことのみだと――!

「アタシはもう壊れ物の人形じゃないし、ひとりぼっちでもないの。旅団の皆が待ってるんだから、こんな所でモタモタしてられないのよ!」

 帰るべき場所があるものは、強い。過去から逃れられぬというのならば、何度でも乗り越えてみせよう。今の自分は、決して一人ではないのだから。

 そんなアイリの強い意思が、過去の風景を一気に吹き飛ばす。現実世界に戻ってきたアイリは、迷わず当初の予定通り『ジャミング装置』目がけて一直線に駆けていくと、【フルパワー・リアクター】で強化した攻撃力をもって思い切り装置を殴りつけた。

「……仲間って、大事ね。それを思い出させてくれたことにだけは、感謝するわ」

 ベッコリと破損した装置に背を向けたまま、アイリは去り際にそう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
防衛機構が働き、私の前に「私」が姿を現した

騎士と名乗りながらその身に銃器を隠し持ち、UCの隠し腕でだまし討ち、焼夷弾で戦場を燃やし、ベルセルクトリガーで暴れまわる「私」が
これまでの任務で機械としての判断で「手遅れ」と少なくない命を見捨てた「私」が
任務の調査のため、力なき人々に嘘や虚言を弄し、情報を得た「私が」

お前は所詮紛い物だと示すように、戦闘マシンとして襲い掛かってくる

……ですが私はこの鋼の身に誓ったのです。御伽噺の騎士にはなれずとも、紛い物の身であろうとも、持てる全ての力を振るい、力なき人々を救うと。

「私」達とジャミング装置を剣と盾でうち砕き、破壊しましょう
これが私の騎士道です!



●きかいじかけのおとぎばなし
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、御伽噺や英雄譚ばかりが何故かデータに組み込まれ、それ以外の記憶を一切持たない一風変わった来歴を持つウォーマシンであった。
 そんな彼が、一体どのような――人間で言うところの心的外傷――を見せられるのかと、同行の猟兵たちの間でも密かに話題になっていたとかいないとか。

 しかし、悪辣極まりない『ジャミング装置』は、種族の隔てなく容赦なく襲いかかってくる。トリテレイアとて、例外ではなかった。
 『ジャミング装置』がある部屋に乗り込んだトリテレイアが最初に見たものは、装置そのものではなく――「自分」であった。
「……これは、一体……いや、まさか……」
 本体のトリテレイアが思わず一歩後ずさる。自身がウォーマシンとしての機構上認識している『冷静かつ冷徹なマシンとしての自分』を想起させる眼前の「自分」は、不気味に佇んでいた。

 暫しのにらみ合いの後、二人のトリテレイアを包む周囲の風景が突如一変した。まるでプラネタリウムのような半球状のスクリーンが張られたかのごとく、二人のトリテレイアの側面や頭上に、幾多の光景が浮かんでは消える。

 ――騎士と名乗りながらその身に銃器を隠し持ち、ユーベルコードの隠し腕で騙し討ち。
 ――焼夷弾で戦場を燃やし、ベルセルクトリガーで暴れまわる。

「あ、ああ、これは……」

 ――これまでの任務と、機械としての判断で、少なくない命を「手遅れだ」と見捨てた。
 ――任務の調査のため、力なき人々に嘘や虚言を弄し、情報を得た。

「これは……全て、私なのですね……」
 然様、もう一人のトリテレイアがそう音声を発した、気がした。眼前のもう一人の自分はもはや武器を構えて、戦闘マシンとして本物のトリテレイアに襲いかかる!

(本物……? 私は、所詮紛い物なのでは……? 眼前の敵こそが、私の本当の姿なのではないのでしょうか……?)
 機械であるトリテレイアに人間と同じ意味合いで使われる「心」が存在するとしたならば、それは酷く揺らいでいたことだろう。
 一瞬の隙を突いて、もう一人のトリテレイアの攻撃が本物のトリテレイアの腕付近をかすめていく。バチバチと飛び散る火花に、意識が引き戻されたような気がした。

(……しっかり。騎士は、逆境には屈しないものです)

 自身を奮起させてもう一人のトリテレイアに向き直ると、本物のトリテレイアはサイバーアイを一度光らせて、明確に敵対することとなったもう一人の自分に向き直る。
「……確かに、私は紛い物かも知れません。ですが私はこの鋼の身に誓ったのです」
 記憶データにあるのは、間違いなく、誰もが憧れる御伽噺や英雄譚。そこに本当に至ることこそできなくとも、目指し続けることはできる。それを寄る辺に、今までも戦ってきたのだから。
「御伽噺の騎士にはならずとも、紛い物の身であろうとも! 持てる全ての力を振るい、力なき人々を救うと!」

 本物のトリテレイアがそう強く断言した瞬間、数々の恐るべき風景を映し出していた半球状のスクリーンは弾け飛ぶように消え去っていった。
 後に残されたのはトリテレイアただ一人。もう一人は、恐らくトリテレイアの克己と共に消滅したのであろう。

「【鋼の騎士道(マシンナイツ・シベルリィ)】……これが、私の騎士道です!」
 『ジャミング装置』の前に進み出たトリテレイアは、奥の手のユーベルコードを発動させ、全力で装置を打ち砕いた。

 トリテレイアの記憶データに唯一残されていたのが御伽噺や英雄譚、というのは、きっと素敵なことなのだろう。いつか、機械じかけの騎士の手が、その憧れに届くことを願って。

成功 🔵​🔵​🔴​

忌塚・御門
「俺を虐めた同級生全員が殺人鬼に殺される小説」を書いた
使った万年筆は「書いた事を現実に干渉させる」媒介道具で
殺人鬼が現実に現れ話通りに全員殺した
それが過去に、現実に起きた出来事で
悪夢の中ではそれは俺の目の前で起こって
俺の手は勝手に殺人劇を書き綴り
緑衣の殺人鬼がそれを実演する

笑わせんなよ
あれから十年俺は毎晩ずっとこの夢を見続けてる
ちっとも慣れやしねぇがな
「いつか必ず現実でテメェを殺すぜ、殺人鬼Z」
その誓いを支えに耐える

今の俺は自分の意志でこいつを使ってる
万年筆の先で手首を傷つけ血を吸わせて
【装置は塵も残さず自壊する】と書き記す
「起きろ、脈打て、隠世の夢…さあ、終いにしようや」
それを現実化させるぜ



●ことだまのちから
 『ジャミング装置』の影響が及ぶ部屋に入った瞬間、忌塚・御門(RAIMEI・f03484)は何もないがらんどうの部屋にぽつんと一人木製の机と椅子に座らさせられる羽目に陥った。
 なるほどな、と自分が座る木製の机と椅子を見て御門は思いを巡らせる。これは、かつて通っていた学校で使われていた椅子だ。
 そんなことを考えているうちに、御門の目の前にパッと照明で照らされた舞台が現れた。舞台上には、自分と瓜二つの青年――いや、若干年若いか――と、緑の衣を纏った謎の男が控えている。
 それを見た御門は一瞬目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。……少なくとも、表面上は。

『俺を虐めた同級生、全員殺人鬼に殺される小説を書いてやるぜ』
 舞台上の、御門の面影を持つ少年が万年筆を掲げて得意げに言う。
(――その万年筆、媒介道具なんだろ。知ってるっつーの)
『この万年筆、すげえんだぜ! 書いた事を現実に干渉させる』ってな!』
『そう! 御門くんが書いたシナリオ通りに、ボクが殺人を実行する役ってね!』
 緑衣の男がおどけた様子で飛び出してくると、どこからともなく現れた没個性な表情のクラスメイト役たちが次々と惨殺されていく。

 殴る蹴るで物理的にヤってくれたあいつは、人間の関節がどこまでおかしな方向に曲がるのかに挑戦している最中にくたばっちまった。
 女子特有の陰湿さで俺の机に花を飾ってくれた姦しいグループは、みんな仲良く首を刎ねて代わりに花を飾ってやったっけ。
 見て見ぬふりの優等生はどうしようか迷ったが、結局同罪とみなして殺した。方法は……忘れた。

 そこまで殺人鬼が舞台上で惨劇を繰り広げたところでふと御門は気付く、己の手には――万年筆! 自分の手は勝手に殺人劇を書き綴って、緑衣の殺人鬼はそれを忠実に実演してみせていたのだ!

 バンッ! と派手な音を立てて机に手を付き立ち上がる。ああそうさ、これは間違いなく過去の再現。現実に起きた出来事だ。よく出来た悪夢じゃねぇか。舌打ちひとつ。

「……笑わせんなよ、あれから十年、俺は毎晩ずっとこの夢を見続けてる」
 ちっとも慣れやしねぇがな、と嘲るように笑う御門。
「いつか必ず現実でテメェを殺すぜ、殺人鬼Z」
 それは強い意思を持った宣言にして、この忌まわしい空間を打破するには充分な言葉の力を持っていた。

 ――世界が、戻る。

 御門の手には、あの万年筆。今の御門は自分の意志で「それ」を使用している。御門は万年筆の先で手首を傷つけ己の血を吸わせると。
 【装置は塵も残さず自壊する】
 とだけ書き記して、装置に背を向ける。

「起きろ、脈打て、隠世の夢……さあ、終いにしようや」

 ……少しして後、御門の背後でガラガラと本当に自壊する装置の姿があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

草間・半蔵
アドリブ歓迎

薄暗闇に冷たい石の感触
力を込めれば壊せるだろう檻を
オレは壊せなかった
だって壊せば人と違うものになってしまう気がした
村のみんなの、バケモノを見るような目が闇の中でよみがえる
オレはなんだ…!
オレはだれだ…!

強く壁を殴れば血が流れる
その血が…赤く、燃えた
「ほのお…」
赤いソレはオレが人と一番違うもの
けどこれはソレだけじゃない
オレは人より強い人はオレより弱い
だから守る
この炎は、ただの、その証だ
こないだ気づいたことをもう忘れたのか、バカだな
呟いて刃を握る
「廻れ!骨肉の枷、呪血の転輪、鍵を回すのは…オレだ!!」
血の流れる手からごうっと火を灯せば闇は晴れる
燃える己の炎を頼りに
装置剣を突き立てよう



●ゆらりゆらめくあかきほのお
 ――気がついたら、そこは暗く冷たい石牢だった。意識の主である草間・半蔵(ブレイズ・ハート・f07711)は、この景色にはひどく見覚えがあった。
 試しに壁に触れてみる。冷たい。そしてその気になればこの程度の檻など、半蔵の力をもってすれば容易く破壊して脱出することもできるだろう。

 だが、かつての自分は、それをしなかった。
 そんなことをすれば、自分はいよいよ人とは違うモノと成り果ててしまうと思ったから。

 そもそも何故自分がこのような目に遭っているのかにさかのぼる。森の奥深くにある隠れ里で、羅刹でありながら人と同じく育てられていた半蔵は、ある日里を襲ったオブリビオンを幼い身で斃したことにより扱いが一変、その内に秘めた力を恐れられながらも求められもしたが故に、石牢に幽閉されるという憂き目に遭ったのだ。

 辛うじて確保できた薄ぼんやりとした視界で、半蔵は自身の両手に目線を落とす。
 村の人々の、まるでバケモノを見るかのような目の数々が不意によみがえる。胸が締め付けられるように痛み、やりきれなさにぎゅっと拳を握る。

(オレはなんだ……! オレはだれだ……!)

 我知らず、半蔵は握った拳で石の壁を殴りつけていた。痛い。当然ながらそう思った。だがそれだけではなく、半蔵が人ならざるものである明確な証がそこにはあった。

 拳から流れる血が、赤く燃えている。

 「ほのお……」
 赤くゆらめく炎は、半蔵がブレイズキャリバーである何よりの証。それを呆然と見つめながら、半蔵は徐々に意識を鮮明なものにしていく。
(赤いソレはオレが人と一番違うもの、けどこれはソレだけじゃない)

 オレは人より強い、そして人はオレより弱い。
 ならばどうする?
 ――守るのだ。
 この炎は、ただの、その証にすぎない。

「……こないだ気づいたことをもう忘れたのか、バカだな」
 年若い半蔵にはまだ早いとさえ思われる自嘲じみた笑みを浮かべ、そう呟くと。
 半蔵が宿す炎にも負けず溶けぬ鉄塊剣を握りしめて、牢の入り口に向き直る。

「廻れ! 骨肉の枷、呪血の転輪、鍵を回すのは……オレだ!! 【獄炎転臨鍵・心法】!!」

 半蔵の流血がひときわ激しくなったように思われたのは、ユーベルコードの代償に他ならない。しかしそれに構うことなく半蔵は、剣を握ったまま血の流れる手からごうっと炎を灯し、薄暗い石牢をまばゆい光で満たしてみせた。煌々と燃え上がる炎に照らされ、半蔵自身の強い意思に貫かれ、かの忌まわしき幻覚は跡形もなく消え去った。

 そして今、半蔵の眼前には、諸悪の根源である『ジャミング装置』が静かに佇んでいる。いまだ燃えさかる己の炎に照らされたそれは、いっそうその不気味さを増しているようにも思えた。
 さあ、今こそ決着の時だ。半蔵は鉄塊剣を振り上げると、悪趣味な脳目がけて思い切り刃を突き立てた。

 こうして、ヒトであろうとして苦悩する少年は、己の闇を打ち払うことに成功した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
アドリブ大歓迎です

竜が天敵であるアックス&ウィザーズの世界では
人でありながら竜でもあった私自身も、人類の敵そのものだった
人の姿でやり過ごし、竜の力が暴かれれば憎まれ容赦なく刃を向けられた
人でなければ竜でもない
私の居場所は、どこにも無いというのか…?

だがココルが。領主様が。私の存在を認めてくれた
家族として受け入れてくれた
私の居場所。護るべき人。
そうだ。ココルを探しに行かなければ。
こんな所で微睡んでいる暇はない…ッ!

剣を構え、一刀両断すると同時に
【属性攻撃】【範囲攻撃】で
ジャミング装置を太陽の如き灼熱の炎で包み、燃やし爆破する
私は歩みを止めはしない
障害となるものは全て消し炭にしてくれる!



●きしのちかいはもえあがり
 猟兵たちが次々と危険な『防衛機構』に立ち向かい克服していく様を、ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)はしっかりと見届けていた。そしていよいよ次が自分の番だということを悟り、大きく一つ息を吸うとそのすらりとした足を踏み出した。

 『ジャミング装置』の効果範囲内に入った途端ユーリを襲ったのは、過去に過ごした懐かしき故郷――猟兵たちが「アックス&ウィザーズ」と呼ぶ世界での記憶だった。
 竜が天敵であるかの世界では、人でありながら竜でもある――即ち「ドラゴニアン」であるユーリ自身もまた人類の敵そのものであった。
 人間の姿で日々をどうにかやり過ごし、しかし何らかの不可抗力で竜の力が暴かれようものならば、憎しみを正面からぶつけられるだけに留まればまだましというもの、容赦なく刃を向けられることも数知れず。
 そうして安住の地を見い出すことも出来ずにユーリは思う。

(人でなければ竜でもない、私の居場所は、どこにもないというのか……?)

 ある日も心ない迫害を受け、抵抗することもできずに打ち据えられて傷ついた身体を引きずりながら、いつの間にか降り出した雨の中とうとう力尽き地に倒れ伏した時。
 ――ああ、あの日を、あの時の事を、どうして忘れることができようか。
 偶然通りかかったとある国の領主に救われた。ユーリの事情を知ってなお受け入れてくれた。自分を義兄と慕ってくれる少女にも心をひどく救われたことを、どうして忘れることができようか。

 (私の居場所。護るべき人)

 それは紛れもなく悪夢でありながら、しかしユーリの内なる炎に再び火を灯す糧となった。
「――そうだ、ココルを探しに行かなければ。こんな所で微睡んでいる暇はない……ッ!」
 そう言うやいなや、ユーリは大剣「レーヴァテイン」を抜き放つと、一見何もない空間を袈裟斬りにした。するとどうだろう、空間が切り裂かれたかのようにめくれ上がり、その向こうに見えるのは――現実の世界。
 ユーリは躊躇わず空間の切れ目に飛び込むと悪夢の世界から脱し、そのまま一直線に『ジャミング装置』目がけて駆けていくと「レーヴァテイン」に炎をまとわせて思い切り叩きつける!
 本体にさえ対峙できればろくな抵抗もない『ジャミング装置』は、ごうごうと炎に包まれて燃え盛る。爆発するのも、時間の問題だろう。

 そんな装置に背を向けてユーリは独りごちる。
「……私は歩みを止めはしない。障害となるものは全て消し炭にしてくれる!」
 それは、内に苛烈なる炎を秘めた、実直な青年の決意でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
猟兵となる以前から見様見真似の符術や呪言でUDC退治をしていたが、ある時失敗してUDCに喰われそうになった。
永遠のように続く苦痛と恐怖に死を願った頃にようやくUDC組織に助けられた。
そのUDCが【謎を喰らう触手】として宿され、心を壊す程の苦痛と恐怖の感情はその際に「何でこんなことに」という疑問共々食い去られてしまった。

特にトラウマなんて思いつかないので事前の対処は思いつきませんけど、万が一何かの感情に飲まれたときに自分に痛みを与えてくれる手段として、触手の群れを顕現させて行きましょうか。どんな記憶でも、過去よりは経験を積んで自信を持って動けると信じてます。

突破できたなら杖で跡形もなく潰します。



●むいしきとぼうきゃくのむこうに
 ――はて、自分に「トラウマ」と呼べるようなものなど、あっただろうか。
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は心の底からそう思いながらも、念の為にと自らが宿す触手の群れを顕現させた上で『ジャミング装置』と対峙することにした。

(どんな記憶でも、過去よりは経験を積んで、自信を持って動けると信じてます)

 そう自身に言い聞かせるようにして、遥は装置の効果範囲に足を踏み入れる――。

「これ、は……?」
 一見、見慣れない景色。覚えのない光景。年若い少女が、恐らく見よう見まねのものなのだろう、これまた見たことのない流派の符術や呪言を駆使して、異形――UDCなるものを退治している姿を、俯瞰するように遥は見た。

 『ジャミング装置』は近付くもののトラウマを想起させ、心を折りにくるという。ならばこれは――自分の記憶だというのか?

「あっ……!」
 遥が思わず声を上げる。順調に思われた少女のUDC退治に、変化が起こったのだ。敵が常以上に手ごわかったのか、それとも少女の側に慢心があったか。何にせよ少女は異形に捕らわれてしまったのだ。
 UDCは悪趣味だったのか、それとも単にその時空腹ではなかったのか。理由は分からないが、少女をありとあらゆる口には出せぬ程のえげつない手段で、嬲り続けた。

 永遠のように続く苦痛と恐怖に、いっそ死なせてくれと願った頃に。

「……ああ、そうですね。すっかり忘れていました」

 感情を失った瞳で、現在の遥が過去の遥を見下ろしながら呟いた。眼下では過去の自分がUDC組織に間一髪のところで救い出されていた。組織では自らを捕らえていたUDCを体内に宿されることとなり、何でこんなことにという疑問共々、責め苛まれた記憶や感情の一切が食い去られたのだった。
 道理で今まで記憶になかったはずだと、まるで他人事のように遥は瞳を閉じる。万一の時の為にと顕現させたUDCの正体を思い出してなお、遥は冷静だった。

「私は、私の為すべきことをするだけです」

 遥が目を開けると、そこはささやかな機械音だけが響く空間と、『ジャミング装置』だけがあった。
 かつて自分がUDCに対して戦いを挑み、そして今は猟兵となり戦う力を得た遥が得物に選んだのは、木の杖。禍々しい装置に直接手を触れることなく破壊できる、この上なく便利な武器ではないか。

 鈍い打撃音が響いたと思うや、装置がまたひとつ破壊される。

 ――さて、私は何の「トラウマ」を見させられたのだったろう?

成功 🔵​🔵​🔴​

満月・双葉
【POW】
視界が暗転した瞬間、刺すような視線を感じて身を竦める
アンタは生きるんだよって必死で微笑んで、僕を守って死んだ姉の視線
僕達を襲ったオブリビオンが嗤いながら崩したビルの下敷きになった姉
僕を突き飛ばす姉の目が忘れられない
死に直面した恐怖と…
自分こそ生きたかったのに、その瞳に微かに滲む羨望の眼差しが忘れられない
それでも自分は姉だからと、その責務だけで妹を守って

僕は決心する
僕は二度と…
命を視る目は常に人の生き死にを見る為か人間性を殺しますので、心を殺すのは得意…こんな所で倒れません
僕は二度と誰にも僕を護らせない

ユーベルコードで大根を御見舞して壊す
そうだ、今夜はおでんにしよう



●ひよくれんりのけっそん
 視界が暗転した瞬間、満月・双葉(星のカケラ・f01681)は刺すような視線を感じて身をすくめた。

『アンタは生きるんだよ』
 そう必死で微笑んで、双葉を守って死んだ、姉の視線だった。
 姉にとっては切なる願いであったろう、しかし双葉にとってはどうか。

 双葉と姉を襲ったオブリビオンは、嗤いながらビルを崩す。せめてもと双葉を突き飛ばし逃れさせ、自らはビルの瓦礫の下敷きとなった姉。双葉は、その時に見た姉の瞳がいまだ忘れられずにいた。

 死に直面した恐怖。
 自分こそ生きたかっただろうに、その瞳に微かににじむ羨望の眼差し。
 それでも自分は姉だからと、その責務ひとつで妹を守って。

『アンタは生きるんだよ』
 その言葉は、双葉にとっては生きていくにあたっての心の支えになるどころか、悲しいかな呪いに等しい力をもって双葉にのしかかるのだ。

 分かっている、これは幻覚。僕の瞳は「生命」を視る、幻覚ごとき話にならぬ。
 ――分かっているつもりだった。しかし、姉の瞳を思い出すと、足がすくむ。しかしなればこそと双葉は決心する。

「僕は二度と……」
 「生命」を視る瞳は常に人の生き死にを否応なしに視てしまう為か、双葉の人間性をじわりじわりと殺しにかかってくる。故に、心を自らの意思で殺すのは得意とも言えた。こんな所で、この程度で、倒れてなるものかと。

「……僕は二度と、誰にも僕を護らせない」

 静かに、しかし力強く宣言し、正面をキッと見据える。すると、双葉の意思に呼応してか幻覚は霧散し、かの装置が無防備に晒されているのが見えた。
 幻覚を打破した双葉は淡々と大根を――そう、大根を取り出すと、装置に肉薄して超高速かつ大威力の(大根による)一撃をぶちかました。哀れ、大根で殴られても壊れる『ジャミング装置』。でもユーベルコードだから仕方がないね!

「そうだ、今夜はおでんにしよう」
 味のしみた大根は、きっと良いおでんのタネになるに違いない。
 清々しい気持ちで、その場を後にする双葉であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月12日


挿絵イラスト