6
アメジスト色の悲嘆

#スペースシップワールド #戦後 #【Q】

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#スペースシップワールド
🔒
#戦後
🔒
#【Q】


0




●リラの切望
 自分が最後に名で呼ばれたのは、果たして何時の事だっただろうか。そんな簡単なことを思い出そうとしても、疼き続ける痛みが思考を妨げる。
 まるで全身がバラバラになりそうだ──いや、とっくの昔にバラバラにされてたんだっけ。自身を“寄生させられた”化け物から流れ込んでくる怒りと憎悪が、しばし記憶を取り戻させる。

 彼女――リラを襲った全ての悲劇は、彼女らクリスタリアンたちの住むスペースシップが海賊船に襲われたことから始まった。
 財産の全ては持ち去られ、思い出の場所も燃やし尽くされ、住民たちは皆捕囚。まるで奴隷のように貨物室に並べられた彼女らを出迎えたのが、一人の少女だったことを彼女は憶えている。
「使えそうなのは……それと、それと……それね。他は色が気に食わないわ」
 宇宙海賊『スカルゲーテ海賊団』の首領だという彼女はまるで宝石の原石にでもするように、クリスタリアンたちを“選別”してみせた。その時の彼女は自分の色を貶されたように思えて、立場を忘れて文句を言いたくなったものだが……次の瞬間には選ばれなくてよかったと心底思ってしまった。
 何故なら……海賊団長はその直後、選んだ者たちを傍らに控えさせていた機械髑髏顱に喰らわせ、取り込んでしまったから!

 ……だとすれば。
 自分が今こうなっていることも、同胞が殺されたというのに安堵してしまった罰なのだ――リラはいつしかそう思うようになっていた。
 生きながらに体を分解されて、生体パーツとして怪物に植え付けられる。今の彼女は改造宇宙怪獣の武器であり、鎧であり、制御装置の一部でもある……彼女と同じく宇宙海賊団の犠牲者である怪獣の苦痛と怨嗟を代わりに受け止めることで、怪獣を従順な宇宙海賊団の兵器にするための。
 だとしても……彼女は苦しみすぎた。罪ならもう十分に償ったじゃないか。そんな泣き言を零したくもなる。
 けれども今では怪獣から生える棘に過ぎない彼女には、気持ちを吐露するための口がない。誰かにしがみつくための腕もない。
 制御装置から伝わる信号が、宇宙海賊団が新たな標的に狙いを定めたことを告げた。その先は――リラたちとは別のクリスタリアンたちの船。
 このままではその船も滅ぼされてしまう。そうならないように抵抗したくても、怪獣はリラの願いとは裏腹に侵攻を開始する。
 だから、誰か。怪獣を止めて。もう二度と誰も私と同じ目に遭わないようにあの船を救って。
 そして、できるなら――。

 ――私を、この苦痛から解放して。


あっと。
 ヤクモ・カンナビ(スペースノイドのサイキッカー・f00100)の予知によれば、帝国継承軍に合流しなかったオブリビオンたちによる宇宙海賊団『スカルゲーテ海賊団』がクリスタリアンたちの住むスペースシップ『シリカ』を襲撃せんとしているようでした。宇宙海賊団は、小惑星群に紛れて大型怪獣『ジュエル・ビースト』を改造した駆逐艦による艦隊を送り、シリカを攻撃しようとしています。
 ジュエル・ビースト隊を撃破して首領『スカルゲーテ・ソヴェリン』に辿り着き、彼女を討伐しなければ、シリカはこれからも脅威に晒されることでしょう。

 ジュエル・ビーストは強力な生体兵器ですが、その部品であるクリスタリアンたちは一刻も早く戦いから解放されること――つまり、ジュエル・ビーストごと破壊されることを望んでいます。クリスタリアンたちの願いに応えたり、逆にこちらから想いを伝えたりすることができれば、ジュエル・ビーストたちの力を抑えることができるかもしれません。
49




第1章 集団戦 『ジュエル・ビースト』

POW   :    ジュエル・レギオン
【同じ統率宝珠制御下のジュエル・ビースト】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[同じ統率宝珠制御下のジュエル・ビースト]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    ジュエル・イノベーション
全身を【すでに侵食したクリスタリアンの宝石】で覆い、自身の【統率宝珠を持つ者のサイキックエナジー】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    ジュエル・ジャマー
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【すでに浸食したクリスタリアンの宝石】から【精神や機械機器に異常を与えるサイキック波】を放つ。

イラスト:純志

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

空桐・清導
POWで挑む
アドリブ大歓迎

昏い宇宙に閃光と咆哮が迸る
「サンライズ・バスター!」
巨大な[誘導弾]がジュエル・ビーストに命中
「助けを求める声が聞こえた…。
待たせたな、ヒーローは此処に居る!」
サンライザーから炎を滾らせ、叫ぶ

迫るビーストを迎え撃つためにUC発動
創造した巨大ロボの拳に光焔を纏う
「やってやるぞ、ギガース!!一人残らず救うんだ!」
叩きつけるたびにもう大丈夫だと声をかける
一体一体、拳を叩きつけて光焔を炸裂
痛みを感じさせない程の刹那に撃破

生きたいと願う者がいれば、
創造の力で宝石の体を生成
クリスタリアンの魂を
そこに移し替えてコックピットに転移
猟兵は埒外の存在、ならば!
「不可能なんざ、打ち砕く!」



 暗黒の宇宙の中のある一点で、ジュエル・ビーストたちはしばしその進軍を止めた。
 決して、そこに障害物があったわけではない。むしろ標的となるスペースシップ『シリカ』の宝石箱のような外観は、どこまでもクリアに彼らの視界に入る。
 だから、彼らは足を止めたのだ。そして一斉に、全身の宝石を輝かせはじめた。高周波の振動を帯びるそれらの宝石――加工されたクリスタリアンたちが生み出すサイキック波によって、シリカを丸ごと機能停止させるため。
 彼らは大きく咆え猛りし、同時に宝石の輝きは絶頂を迎えんとする。ジュエル・ビーストたちの全身の輝きは全てが口内へと集中し、今まさにシリカに向けて放たれんとす――

「――サンライズ・バスター!」

 シリカを襲うはずだった光はしかし、全く別の方向から飛来した目ばゆい閃光により、本来の軌道から外れて昏い宇宙の彼方へと吸い込まれていった。何が……そう言いたげに首を動かして、閃光の放たれた方向をビーストたちは見る。近くの恒星に照らされて、紅玉のような輝きがそこに在る。いや、その紅玉の両肩は、恒星よりも激しく燃えている!
「助けを求める声が聞こえた……。待たせたな、ヒーローは此処に居る!」

 一斉に迎え撃つビーストたちのサイキック波の嵐の中を、空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は両肩から発する炎をスラスターのように制御しながら逆流していった。真紅の機械鎧の肩に装着されているのは、超兵器サンライザー。かくも命を弄ぶオブリビオンらへの正義の怒りが、滾る炎となって燃え盛る。
「炎を纏い、勇気は鋼となる!! “また”頼むぜ、ブレイザイン・ギガース!!」
 その炎が最高潮となった時、ブレイザインは再び叫んだ。彼の周囲には誰もない。ビーストたちは困惑し……そして次の瞬間には恐怖する。そこには自分たちの大きさを遥かに凌ぐ鋼鉄の巨人が現れて、炎を燃やしていたからだ!
「やってやるぞ、ギガース!! 一人残らず救うんだ!」
 コックピット内で声を振り絞るブレイザインに、巨大ロボは大きく頷いてみせた。ブレイザインの炎が『光焔勇機』ブレイザイン・ギガースにも移る。拳に、強く輝く炎を纏う。そして怒りのままに押し寄せてくるジュエル・ビーストを、その光焔で薙ぎ払う!

 ジュエル・ビーストらもクリスタリアンたちも痛みすら感じることなき刹那の間に、光焔は彼らを蒸発させた。だが、そんなほんの僅かなはずの時間に、清導は確かに聞いたような気がする。
(これで、苦しみから解放される……)
(殺してくれて、ありがとう……)
 ……いいや。そんな悲しい感謝の言葉を聞くために、清導はブレイザインを纏ったわけじゃない。
(違うだろ? アンタらの“本当の”望みは、そんなもんじゃないはずだ)
 生きたい――そう願ってくれと清導は願う。何故なら自分は猟兵で、生命の――いや、常識の埒外の存在であるからだ!
(――生きたい!!!)
 そんな清導の願いに応えて、姿を崩しゆくジュエル・ビーストたちの中から、強い想いが飛び込んできた。
(解った!)
 清導、いや、ブレイザインは返す! 助けを求める声があるならば、彼は無限の力を発揮できるのだから!
 ブレイザインの想いがギガースを呼び出したのと同じ力が、彼の隣――ギガースのコックピット内へと、輝く宝石の人型を次々に生み出した。そして、光焔を通じてクリスタリアンたちに呼びかける。
(来てくれ……オレなら、きっとアンタたちを助けることができる。生前とは違う姿にはなっちまうかもしれないがそこは勘弁な)
 先程よりも遥かに強い感謝の想いが、幾つも、大きなサイキックの流れとともに流れ込んできた。人型はしばしカタカタと震え、それから次々にクリスタリアンの姿へと変わる。
 よし、いける。確かな手応えを握り締め、まだまだ無数にいるビーストたちを凝視した。操縦桿を操作する手にも力が入り、ブレイザインは決意する。
「中には、罪の意識に苛まれたりして、このまま消えることを選ぶヤツもいるかもしれない……。でも、助けを求めてくるヤツらくらいは救ってみせる!
 不可能なんざ、打ち砕く! それがこのオレ、ブレイザインだ!!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪・兼光
○SPD、アドリブはお任せ

ちぃ…いきなり胸糞悪い相手か

攻撃は基本ユーベルコードを利用
浸食部位が厄介だな…
相手の浸食が抑えられるか属性攻撃、浄化、2回攻撃を使う

これ以上力を引き出されたらたまったもんじゃない
浸食されていない部位を離すため部位破壊も使用する

複数体まとめて倒すために範囲攻撃も忘れずに

相手からの攻撃は見切りと第六感で避けられるだけ避ける
必要なら自分の旅行鞄でオーラ防御と盾受け
可能なら別個体を盾にするこれは無理には狙わない

オブビリオンになったアンタ達を助ける術を俺は持っていないんだ
せめて苦しまず骸の海へ帰ってくれ…済まない

…こうした奴を見つけたらそっちにすぐ送ってやるぜ



 数任せの画一的な戦術では纏めて倒されるだけだと悟ったのだろう、ジュエル・ビーストたちは今度はばらばらに展開し、まちまちの足取りでシリカに向かわんとする。
 ちぃ……いきなり胸糞悪い。
 決して良いとは言えぬ目つきのせいでトラブルに巻き込まれた経験だけなら、雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)にとっては数知れない。その中で、怒りも、反吐が出るような感覚も、何度も感じていたはずだ。
 だというのに……これほど昏い心持ちになったことなんて、はたして何度あっただろうか?
 ビーストの一体の鎧が苦しげに明滅し、次に、全身を覆うように硬質の部分を広げていった。解る。あれはビーストたちの後方で愉悦に浸っているのであろう何者かのサイキックエナジーを受けて、鎧――クリスタリアンたちとジュエル・ビーストの間の侵食同化度が増している証拠であると。
「……させるか」
 素早くブラスターの引鉄を引けば、ちょうど鎧の変化が進んでいる場所めがけて、幾条もの熱線が突き進んでいった。思えば、拾い物にしては随分と長い相棒になった……それは何の変哲もない銃であるはずなのに、手に馴染み、どこまでも兼光の意思に従ってくれる。
 ビーストは悶えて身を捩り、鎧の輝きが一瞬消えた。彼を覆おうとしていた硬質部位は消え去って、代わりに宝石の鎧を鋭い熱線によって剥がれた、生々しい傷跡が刻まれている。

 が……そんな彼へと止めを刺そうとしたその瞬間、兼光は本能的に銃を撃つのを取り止めて、大きく身を捻ってその場から消えた。次の瞬間には先程まで彼がいた場所を……不協和音的なサイキック波が通過する。
「ああ。アンタらのことだって忘れてなかったさ」
 兼光の台詞が囁かれるのと、再びブラスターが熱線を吐くのとは、はたしてどちらが先だっただろうか。兼光がビーストの一体にばかりご執心だと勘違いして襲いかかってきた別のビーストたちの宝石を、ブラスターは彼らの飛翔速度にもかかわらず、やはり最初のビーストと同様に的確に剥いでいる。
「俺としても、折角の旅行鞄を穴だらけにされたくないんでな」
 背負ったキャリーバックは後ろからの攻撃を防ぐ盾としても有用だったが、その助けを借りるまでもなかった。殺気をいち早く感じ取り、先手を取って鎧であり武器であるクリスタリアンたちを剥ぎ取ってしまえば、ビーストたちは皮膚を失った哀れな怪獣だ。
「オブビリオンになったアンタたちを助ける術を、俺は持っていないんだ」
 せめて苦しまぬよう骸の海へと還すくらいしか、いつの間にか猟兵になってしまっていただけの兼光には彼らにできることはない。あるいは、あちらで燃える炎なら、どうにかする希望が持てるのかもしれないが。
 だから兼光のブラスターは輝いて、鎧――クリスタリアンたちを救いの炎のほうへと押し出した。後押しする熱線を受けた宝石はきらめいて、まるで感謝するような明滅を兼光へと送る。

 それが、本当に救いになるのかは解らない。それでも、兼光は今できることをやるだけだ。
 鎧を剥がれたビーストたちには慈悲の一撃を与え、クリスタリアンたちには救いを与え。
(安心してくれ、他の奴らもすぐに同じようにしてやるぜ)
 心の奥で誓った時、どこからか感謝の思念が流れ込んできたように思えたのは……はたして、兼光の気のせいに過ぎなかったと言えるだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

涼風・穹
宇宙戦となるとスカーレット・タイフーン・エクセレントガンマの出番だな
宇宙を翔けて一気にジュエル・ビーストへ突っ込んで《贋作者》謹製のミサイルを叩き込みつつその身体に取り付きます

クリスタリアン達が生体兵器の部品として接続されているのなら、その部品が減れば減るほど本体にも悪影響がでるだろう
悪いなクリスタニアンの方々
これから殺すから好きなだけ俺を恨め
敵対している訳でもなく利用されただけの方々を助けようともせずに殺すのは慙愧の極みですが片っ端からクリスタニアン達の宝石を破壊していきます

本体と生体部品を接続していたならそこには本体に繋がる神経もあるだろう
宝石をあらかた破壊したならその奥側へ攻撃を続けます


朱酉・逢真
心情)部品として組み込まれた…ねェ。死んだタマシイ迎える側なンで、嘆きとかァよく聞こえるンだが、嬢ちゃんらまだ生きてンな? 死んでない"いのち"を殺すンはルール違反でね。出来ンのだ。だから剥がれて貰おうかい。
行動)何重にも重ねた対念結界で、俺と眷属どもを覆い行こう。鳥・獣・虫の群れに麻痺毒運ばせ、奴の口に飛び込ませよう。殺されたなら血肉で毒に侵そう。眷属どもは能力こそただの動物だが、それでもただの生き物じゃアない。宇宙の中も動けるさ。鳥に乗って俺も近付こう。宿(*からだ)砕かれてもいいのさ、一瞬でも触れたなら。解体(*バラ)してクリスタリアンら解放しよう。可能な限り人体に再成しよう。おかえり。



 乱戦は次第に広がって、流れ弾もまばらさを増してくる。スペースシップ『シリカ』のシールドにサイキック波が突き刺さり、しばしの間、機能を奪う。
 もしも、そこにいるのがシリカのような巨大居住船でなく、吹けば飛ぶような個人用宇宙バイクであったなら……? その時はきっと、誰もが最悪の自体を想定せねばならなかったろう。

 だというのにその紅い宇宙バイクは、そのことを恐れはしなかった。気を抜けば自らサイキック波の横っ腹に衝突して果てる戦場の中で、決してそうはならなかった。……いいや、なるものか。この程度のビームの嵐など、全て残らず避けきってやる。何故なら涼風・穹(人間の探索者・f02404)と『スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマ』は、これまでも幾度も共に宙を駆けた相棒同士なのだから。
「……投影」
 小さく、何かに対する命令のような一言を唱えれば、相棒のカウルの左右にて、円筒形の何かが実体化を果たす。それは次の瞬間には後方から激しいジェットを噴出し……真っ直ぐに一体のジュエル・ビーストの元へと飛翔する!

 悶絶し、手足をじたばたと振るジュエル・ビーストの姿は、すぐに炸裂したミサイルの作る爆炎の中へと消えた。空気抵抗のない宇宙空間を、猛スピードで広がるミサイルの破片。その金属片嵐の中心へと向けて、スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマは回避するどころか逆に加速する。
「自分で作って自分で撃ったミサイルにやられるようなヘマ、するわけがないさ」
 だからそのまま金属片嵐の反対側――ビーストの懐へと入り込む。ただでさえ爆発の衝撃が全身の感覚をしばし奪っている中で、爆炎に姿を隠した男が自身に迫る。ジュエル・ビーストが気付いた時には、穹は爆風が作った傷口に、刀――『風牙』を捩じ込んでいる!

 ビーストは裂けんばかりに口を広げて、ここが音を伝えぬ宇宙空間でなければ、壮絶な悲鳴を上げたに違いなかった。彼の苦痛は大きな光の粒へと変わって、鎧を構成する宝石のひとつ、そこから更に周囲へと広がろうと目論んでいる。
「自ら教えてくれて感謝するぜ……そこが本体と鎧を繋ぐ神経だってことをな」
 風牙の刃が怪獣の肉の中で方向を変え、穹はひと思いに切先を斬り上げた。軌道の先は……光る宝石だ。ジュエル・ビーストの性能に悪影響を及ぼす苦痛を肩代わりして、彼を覆うクリスタリアンの全身へと転嫁しようとする機構のコアが、溜め込まれた苦痛ごと打ち砕かれる!

(悪いな……幾ら苦痛の転嫁は食い止めたからって、体ごと壊してしまったら同じだよな)
 罪もない、きっと自分への敵意もなかったはずのクリスタリアンを傷つけねばならぬとは、どれほど慙愧の極みであったろう? だが、そうせねば彼らの願い――これ以上の悲劇の阻止すら叶わない。
 恨んでくれてもいい、と心で詫びる。ジュエル・ビーストの巨体は風牙には大きすぎ、宝石を粗方破壊してでも動きを止めねばシリカの人々が危ういからだ。

 だがその時――穹は、誰かが彼に呼びかけるのを聞いた。
「死んでない“いのち”を殺すンはルール違反でね。鎧は“剥ぐ”だけにしといて貰おうか」
 それが朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の声であったことまでは、その瞬間は、穹にも判らなかったに違いない。けれども“壊す”のではなく“剥ぐ”のなら、クリスタリアンたちの命を奪わずに済むのかもしれない――声の主がどのようにそれを実現するつもりかまでは知らないが、失敗してもこれ以上悪くならない賭けなら穹に拒む理由なんてない。
「鎧を斬るか、その下の肉を斬るかくらいの違いだしな」
「良い斬りっぷりだねェ。断末のタマシイの嘆きってヤツが、さっぱり聞こえちゃァ来ンね」
 次々にビースト本体と宝石鎧の間を断ち切ってゆく穹の様子を、遠目から眺めつつ、逢真は薄ら笑いとともに呟いた。
 災禍の神。疫毒の主。云わば死神とでも呼ぶべき逢真の元へと、クリスタリアンたちは助けを求める思念を放つばかり。決して、死者の声までは届けてこない。
(じゃあ、嬢ちゃんら、まだ生きてンな?)
 それが解っていて殺すということは、定命者らが悪神と畏れる逢真であっても、神としての制約ゆえに許されなかった。彼に殺すことができるのは、『軛』によりそうあれと定められた者たちだけだ。あるいは、既に死の定めを受けており、この世に存在してはならぬはずの者――すなわち、オブリビオンどもか。
 ああ。穹とはまた別の方角から、“死者”の声が聞こえてくるじゃないか。とうの昔に死したはずでありながら、今も蠢くビーストどもの声が。

 ならば、そいつを殺しにゆこう。逢真が病毒を宿した手で自身の胸元に触れれば、突然ぽっかりと開いた穴から、無数の眷属たちの群れが生じた。逢真を取り巻くように渦を作る彼らは、鳥たち、虫たち、獣たち――自らの血肉に主人の毒を宿した者たちだ。
 そして逢真自身もそのうちの一つ、漆黒の大鴉の上へと乗った。無数の鳥獣を引き連れて、ビーストどもを目指したならば、彼らもちょうどそれに気付いて、まちまちにサイキックの波動を撃ち込んでくる。
「神を相手に思念攻撃とはねェ」
 逢真の口元の薄ら笑いが強まった。サイキック波を虚無へと還すのに、彼は指の一本すら動かす必要はない……何故なら彼を中心とした空間は今、彼の“聖域”へと変わっているからだ。
「さァ、行きな」
 群れは紡いだ言霊とともに、大気すらないはずの空間を羽ばたき、あるいは虚空を蹴って、サイキック波を放ち終えたビーストどもの口の中へと自ら身を投じゆく。ビーストどもは飛んで火に入る夏の虫とばかりに、それらを喰らい、噛み砕き、粉々になるまで咀嚼する。
 ああ、何と愚かなけだものだろう……そんなことをしたならば、疫神の毒を自ら我が身に取り込むようなものだというのに!

 ビーストどもは泡を吹き、苦悶にその場でのたうち回った。もっとも彼らの全ての苦痛は、すぐさま鎧にして生贄たるクリスタリアンたちへと転嫁されるばかりのはずだが――。
 ――ビーストどもを襲う激痛は、決して終わるところを知らない。彼らには、恐らくは解りもすまい……彼らと鎧の間を繋いでいた組織が、毒によりすっかり腐れ落ち、もはやこれ以上両者を結びつかせる役割を果たせなくなっていたことを。

 そうして剥がれた鎧のほうだけを、逢真の手は愛しげに撫でた。如何なるものも蝕む病毒は、鎧の“生体を加工した部品としての役目”を侵す。宝石鎧としての彼らは死んで、そうなる前――クリスタリアンであった頃の姿へと戻されてゆく。
「病ってなァ、後遺症ってのが付きモンだ。細かい造形まで含めて何もかもが元通りとまでは行かンが、まァ、これだけ戻りゃァ上出来だろ」
 感極まった様子で泣き崩れるクリスタリアンに、おかえり、と同じ薄ら笑いでもどこか優しげな表情を向けると、逢真と眷属たちはまた別のジュエル・ビーストたちを見定めて宇宙空間を駆けた。
「そう言やァ、アイツに剥がさせた宝石も元に戻してやらなきゃならンからねェ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
宇宙服と宇宙バイクを借り船外へ。
機関銃で牽制射撃を放ち、シリカ号を巻き込まないよう怪獣の脇に回るわ。

禍々しい輝きに宿る、生きていた人の残滓。
……もう、戻らないのね?
オブリビオンに気持ちを傾ける事の意味を判っていても、
割り切れるわけないじゃない。
機関銃を脇に構え、バイクの進路を敵へ向け固定。

苦痛からの解放以外にできる事?
――あるわ。

弧を描いてフルスロットル、敵の体勢を崩すよう銃撃を放ちながら、
もう片の手に構える一振りのスティレット。
あなた達の怒り、痛み、嘆き――全部私にちょうだい。
バイクを蹴り、コアを貫くよう刺突を見舞う。

あなた達の思い、連れて行くわ。
復讐でも何でもいいの。護るために、使わせて。



 でも……中にはこちらがどれだけ助けてあげたいと望んでも、もう、その手を取る気力すら失ってしまったクリスタリアンだって少なくはなかった。そうでなければ暴れ回るジュエル・ビーストから放たれるサイキックの中に、あんなに深い悲しみが含まれているものがあるわけがない。
 助けて……と懇願するような祈りに満ちていながらも、その輝きはリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)には歪みきっていたように見て取れた。
 禍々しい宝石の輝きに宿る、確かに生きていたはずの人々の残滓。
 ……もう、戻らないのね? リグの亜麻色の瞳は、黙祷するように閉じられる。今も絶望に抗いながら助けを求める者たちとは違い、誰かが自身に破滅を与えてくれるよう祈りながらビーストやその主たちと心を一体化させるクリスタリアンたちは、ここ最近ビーストに組み込まれた者たちとは異なり遥か昔に憂き目に遭って、今では心までオブリビオンになってしまっているのだろう。だというのに彼らの安寧を望む自分は、猟兵としてはあるまじき願いを抱いてしまっているのではないかと恐れながら。

 でも、そんな割り切れない想いとの間で揺れ動くのが、彼女がオブリビオンと明確に異なる存在である証左なのかもしれなかった。シリカで借りた宇宙バイクのスロットルを解き放ち、彼女は大きな弧を描く。そんなものでは致命傷など与えられないことを承知で、身を乗り出して構えた短機関銃から銃弾を放つ……“救われるため”にシリカを滅ぼさんとしていたジュエル・ビーストたちが、接近者に気付いてその照準を変えてくれるように。
 果たして、リグの願う通りになった。身も心もオブリビオンとなってしまった彼らには、仇敵たる猟兵からの攻撃を無視することなどできぬ。巨大な居住船へと向けられていた悪意はたった一人のリグだけに注がれて……彼女が避ければ、誰もおらぬ宇宙の彼方へと消えてゆく。この位置取りなら流れ弾がシリカに向かう心配もない。
 改めてジュエル・ビーストたちに向き直り、彼らを正面に収めると、リグはもう一度フルスロットル。宇宙バイクの加速と銃身内での加速が合わさった銃弾は、無双の鎧に覆われたビーストどもさえ怯ませる――どれほど硬く身を守っていようとも、何も支えるもののない宇宙空間においては、防いだはずの銃弾の勢いそのものが体勢を崩させる毒となるから。

 リグは、不安定を承知で宇宙バイクから立ち上がる。短機関銃を片腕の小脇に支えながら、もう片方の手で短剣を抜く。
 スティレット――またの名を、慈悲の一撃(ミセリコルデ)は、リグの他の武器と比べて使い辛く、リグ自身もよく手入れを怠ってきたような骨董品だった。けれども今日ばかりはその骨董品が、新品の輝きに満ちていた。
 何故なら、それが彼女にできる、もう助けることのできぬ犠牲者たちへのせめてもの手向けであるから。では、その“手向け”とはこのスティレットにて、違わず苦痛より解放してやることだけなのか? それ以外に、彼女にできることは……?

 ――あるわ。

 ただでさえ加速を続ける宇宙バイクを後ろに蹴って、リグはジュエル・ビーストに向かって飛び出した。そしてスティレットを突き出してやる――全ての勢いが合わさって、刃が、宝石を貫くように。
 あなたたちの怒り、痛み、嘆き――全部私にちょうだい。
 宝石は弾けるように砕け散り、刃はその奥のビーストのコアまで届く!

 刺し貫く軌道上にあった全ての想いを喰らい、スティレットはそれらを持ち去っていった。
 そうして得た力を振るうのは、真に世界を救うためなのか、それともただの復讐か。
 今は、些細な違いはどうだっていい。彼らの生きた証を――ただ、誰かを護るために、使わせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『スカルゲーテ・ソヴェリン』

POW   :    オペレーション・イマージュ
自身が操縦する【海賊船】の【主砲威力】と【装甲】を増強する。
SPD   :    フォトン・コスモポリタン
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【海賊船から放たれた光子魚雷】で包囲攻撃する。
WIZ   :    ヒロイック・スターダスト
自身の【機械髑髏顱】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[機械髑髏顱]から何度でも発動できる。

イラスト:稲咲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――ピシリ。

 統率宝珠がひび割れる音が、宝石だらけの部屋に響いた。
 その不協和音を耳にして、傍らの巨大機械髑髏顱を愛でていた少女――スカルゲーテ・ソヴェリンは、不快そうに眉根を寄せる。
「つまらない。折角、使い道があるように宇宙怪獣と合成してあげたのに、結局は所詮クズ石ね」
 あの大型の船を手に入れたなら、彼女のコレクションがより充実したはずなのに。だというのに猟兵どもときたら、それを妨害するばかりか彼女のジュエル・ビーストまで壊してしまった! ……たとえ全てがクズ石だったとしても、全ては『スカルゲーテ海賊団』の、ひいては彼女の財産でなければならないというのに。

 行きましょう――少女は自らと繋がるケーブルを通じて、髑髏にそんな指示を出した。すると髑髏から宇宙海賊船全体に命令が飛び、船長室の天窓が開く。宝石たち――いずれもかつてはクリスタリアンであったのだろう、目玉や、手足の形をしたものたちが、星々の輝きを受けて煌めく。
 彼女の髑髏は開いた窓に向かって上昇すると、そこに嵌まり、禍々しい光をその眼窩に宿した。今や、それは近付くもの全てを威圧する、殺戮と略奪の象徴である。
「これで、戦闘準備は万端。肉塊なんて手に入れたところで私の趣味じゃないけど――」

 ――纏めて、宙の藻屑にしてあげる。
空桐・清導
POWで挑む
アドリブ大歓迎

「親玉登場か。
乱暴な操縦になるから、しっかり捕まって。」
助け出したクリスタリアン達に声を掛け、
現れた海賊船に向けてバーニアで接近

背部にミサイルポッドを創造
[誘導弾]を次々発射し、攻撃を相殺
弾幕を超えてきた砲撃は[オーラで防御]
その間も右腕に[力を溜める]
スカルゲーテの居る艦首に近づいたら、
一点に力を収束させて叩き込む
そして、拳から清導が転移して現れる!
「スカルゲーテェエ!」
どれだけ船を強化しようが、本体は丸腰だ
クリスタリアン達の苦しみをこの一撃に込める!
背に浮かぶ機械髑髏顱ごと彼女を撃破する

クリスタリアン達はシリカに送り届け、
受け入れて貰えなかった人達は別の船に届ける


朱酉・逢真
心情)あのお嬢さんは〈過去〉だなィ。てこたァ髑髏のやつらも死んでるな。ならば、ああ。遠慮はいらンってわけだ。しッかし、ひひ…貪欲・強欲・傲慢な"いのち"だ。いいねェ、自分に正直ですばらしい。俺としちゃ最高好ましい、のんびりハナシでもしたいトコさ。だがなァ、〈過去〉が〈いま〉に手ェ出しちゃダメさ。
行動)宇宙の暗がりより暗く、宝石よりも目を奪う闇で包もう。ずいぶんと捷いミサイルだが…お嬢さん周りの闇、物質化しておいたらどうだい? たぶん発射してすぐ爆発するンじゃないのかね。マシンは疎くってねェ…よくわからんのだよ。マ・うまくいったならそのままお嬢さんごと握りつぶしてしまおう。ダメなら結界で防ぐさ。


雪・兼光
○SPD、アドリブはお任せ

懺悔の時間だ。骸の海でアンタを待ってる奴らがいるぜ

攻撃は基本ユーベルコードを利用

光子魚雷は範囲攻撃、誘導弾、2回攻撃で対応しつつ、第六感と見切りで出来る限り回避する
一発でも撃ちだされる光子魚雷を減らしたいので、発射台に向かって部位破壊、傷口をえぐる要領でユーベルコード
機材ショート狙いで雷の属性攻撃も加えても良いかもしれない

機械髑髏がうざいので他の猟兵を狙いだしたら援護射撃をして追い払ってユーベルコードを撃ちこむ、自分に向かって来たら第六感と見切りで避けて、近距離で口を開けてきたら零距離射撃でユーベルコードを撃ちこむのも良いかもしれない


リグ・アシュリーズ
カタカタと、黒剣から聞こえる刃鳴り。
震え? かもしれないわね。恐怖? ううん、むしろ怒り。
私じゃないわ。さっき触れた思いが渦巻いてるの。
……あなたをこの宇宙に、野放しにはできないわ。

バイクを駆る最中に黒風を纏い、限界を越えた力を願うの。
飛来する魚雷の波間を突っ切り、多少の被弾は無視して進むわ。
痛みなんて、殺されたあの子達に比べれば。
手を伸ばせなかった事を悔やむ、あの子の胸の痛みに比べれば……!

一度弾かれても、すぐにターンして傍を過ぎり。
頬を裂き、ケーブルを千切り、
通過するたび速度を増して剣閃を見舞うわ。

復讐なんて、私らしくないけど。
それが未来の悲劇を食い止めるなら、私の身体、貸してあげる……!



 清導が安堵の溜息を吐いた頃には、ブレイザイン・ギガースのコックピットは疲れた体を伸ばすのも苦労しそうなほど狭くなっていた。
「それだけ多くの命を助けられたってことか……」
 自分が戦ったジュエル・ビーストのみならず、戦場を縦横無尽に駆け巡って“鎧”の回収もして。その結果が今の窮屈さなのだと思えば、誇ることはあっても後悔することはない。
 ただ――欲を言うのなら、助けを求めながら差し伸べた手を取れなかった者たちも、どうにか止めを刺す以外の方法で救ってやれればよかった。もっとも、とうの昔に世界を害するオブリビオンになってしまったクリスタリアンたちは、どれだけ苦しんでいようが骸の海に還すこと以外では助けられぬことは解ってはいるが――。

 だが彼らの苦しみに思いを馳せて、感傷に浸る暇なんて許されなかった。不意に、少し離れた宙域より迫る高エネルギー体。
 その正体は? ……わざわざ確認するまでもない。
「親玉登場か。先に皆をシリカに送り届けたいところだったが、どうにも許して貰えそうにはないみたいだな」
 一度は動きを止めたギガースが、再び激しい光焔で満ちる。ここで、邪悪なオブリビオンの親玉に負けるわけにはゆかない。何故なら――先程の溜息の少し前に行なった通信内容を清導は思い出す。
(多くのクリスタリアンたちをジュエル・ビーストたちから救い出したことを伝えて受け入れを要請したのに対して、シリカのオペレーターは多くの命が助かったことを、まるで我がことのように喜んで歓迎してくれた。皆、無理やりとはいえ自分たちを襲おうとしていたオブリビオンに協力させられていた者たちなのに)
 だったらその恩に報いるためにも、ブレイザインは皆を無事に――もちろんシリカにも決して犠牲を出すことなくシリカまで送り届けなくてはならない。
 それを邪魔しうる存在は、ただ一つ。あの、機械髑髏をあらわにし、傲慢なる不快感を隠すことなくこちらに加速してくる、スカルゲーテ・ソヴェリンだけだ。
 だから……それを討ち果たし、後顧の憂いを断ち切ってやる!
「皆! 乱暴な操縦になるから、しっかり捕まって!!」

 機械髑髏はケタケタと嗤い、無数の光子魚雷が四方に撒き散らされた。おびただしい数の航跡が広がり宙を覆わんとする、まるで世界の終わりのような光景を前にして、カタカタという音がリグに何かを訴えかける。
「そうね――あなたも同じ気持ちなのね」
 クリスタリアンたちの想いをいっぱいに吸い込んだスティレットが収められたのとは別の鞘。それを、リグは愛おしそうに撫でた。
 刃鳴りで何かを伝えてくるのは、黒く、鈍い光を帯びたくろがねの剣。それは、きっと震えているのだ……何に? 恐怖? ……ううん、それはむしろ遣る瀬ない怒り。

 どれほど辺りに哀しい獣の残骸が散らばっていても。いかに世界が悪意の航跡に覆われようとしていても。それらより、ずっと、もっと彼方に輝いている、きらめく星空を夢想するのがリグだった。旅をすればどうしても、辛いもの、苦しいものが目に入ることになる……それでも同じくらい、あるいはそれ以上に美しく素晴らしいものに目を向けて、見てきたもの全てを愛しむのが“リグらしい”在りかただ。

 でも――それが、そんな“自分らしさ”とは違うものなのだとしても。彼女には黒剣が何に憤っているのかが解る。そしてその怒りを鎮めることができるのは、自分しかいないことも知っている。
「彼らの想いに触れてしまったのは、私も、あなたも同じだもの」
 復讐なんて、私らしくないけど。私の身体、貸してあげる。
 だから……あなたを抜いてあげるわ。これほどの痛みが再びこの星空に撒き散らされないように。宇宙バイクもろとも自身に黒風を纏い、光子魚雷の弾幕を突破する!

「そんな剣で私の船を傷つけるつもりなの?」
 スカルゲーテ・ソヴェリンは哀れみの表情さえ浮かべて、機械髑髏顱の生み出すバリアで通り過ぎる黒風を弾いてみせた。それを眺めて……逢真の口元には興味とも嘲りともつかぬ表情が浮かぶ。
「しッかし、ひひ……貪欲・強欲・傲慢な“いのち”だ」
 ああ、〈過去〉の声が聞こえる。死してなお他者から奪い分捕り我が物にしたがる、『スカルゲーテ・ソヴェリン』という名の死者よりの声が。
(てこたァ、髑髏のやつらも死んでるな?)
 明らかにクリスタリアンの体の一部の形を残している部分が幾つも散見されるにもかかわらず、そこからは魂の声というものがさっぱり聞こえてこない。
 だが、アレは生きてはいない。金属部分にはウォーマシン由来の部品もありそうではあるが、そちらもやはり同様だ。彼らはもはや完全に消滅し、オブリビオンの用いる無機的な道具でしかないのであろう。
「いいねェ、自分に正直ですばらしい。俺としちゃ最高好ましい」
 本当ならお嬢さんの決して満たされぬであろう飢餓感を肴に、のんびりハナシでもしたいトコさ。
 だが……神が、彼女に憩いのひとときを許すわけにはゆかない。何故ならどんなに愛しく見えても、彼女は〈過去〉以外の何者でもない。
「だから……〈いま〉に手ェ出しちゃダメさ」

 リグが光子魚雷の壁の一角に黒い穴を生み出したのと同時、ブレイザイン・ギガースの背に燃え盛る炎はミサイルポッドを想像/創造してみせた。そして無数の弾幕を無限の弾幕で撃ち落としたならば、世界は太陽の如く光輝に満ちる。
 が……。
「ずいぶんと捷いねェ」
 密かに逢真の独りごちた通り、幾つかの光子魚雷が、輝く壁を越えこちらに向かってきていた。無論、心配は必要ないに違いない――ギガースの周囲には光焔が渦を巻いており、生半可な光子魚雷などでは彼に触れる前に蒸発させられてしまうのだろう。しかし、自身の関わらぬところでギガースのコックピット内のクリスタリアンたちが恐怖という病毒で蝕まれるやも知れぬ現象を、疫神たる逢真は許しはしない。

 だから――その時、戦場を通り過ぎて反転し、再び海賊船にバイクの頭部を向けたリグが見たものは、随分と常軌を逸した光景だった。
「お嬢さん。お嬢さんもずいぶんと闇ァ深いが、こちとらお嬢さんが“死んでいた間”も闇を扱ってンだ」
 光の壁の表側が太陽だとすれば、裏側はいわば宇宙の闇だろう。その、この世の何よりも暗いはずの空間が、更なる黒へと圧縮される。

 深宇宙よりも遥かに暗い闇。眩い光との対比によって、宇宙海賊船に輝く宝石よりもなお存在感を顕示するそれが、怒涛のごとく宇宙海賊船へと雪崩れ落ちていった。
「つまらない――」
 少女はそれを鼻で笑って、更なる光子魚雷をばら撒こうとして――そこで何か気付いてはいけないことに気付いたかのように、つまらなそうにしていた表情を固くする。
「気付いたかい。そうさ。ソイツは、凝縮されてンだ」
 澱むあまり物質化した闇の塊に、光子魚雷は衝突して爆ぜた。マシンは疎くってねェ、上手く行くかは判らなかったのだよ――そう嘯く逢真の眺める先で、宇宙海賊船のシールドが光圧に歪む。機械髑髏顱は堪らず船内に退避して、あれほど激しかった弾幕がしばし止む。
「さァて。このままいけばお嬢さんごと船を握りつぶしてしまうことになるンだが、どうするかい?」
 シールドばかりか船体までひしゃげ始めて、船から突き出ていた部分――砲台や船体下部の艦橋が砕け散る。船は残された力を全て推進力に変え、すんでのところで道をこじ開ける。
「マ、逃げようって言うなら構わンさ」
 逢真はまたあの薄ら笑いを口元に浮かべ、あとは全てが運命通りになるとばかりに静観に移ってみせた。実際、彼女の命運などほぼ決しているのだ――何故ならようやく脱出した彼女を、冷たい三白眼が見下ろしているからだ!

「懺悔の時間だ。骸の海でアンタを待ってる奴らがいるぜ」
 三白眼の主――兼光は、自分より、そしてジュエル・ビーストと比べても遥かに大型な宇宙海賊船を見下ろしてぶっきらぼうに言った。これまで何度も兼光にトラブルを招いて苦しめた鋭すぎる眼光も、こういう時ばかりは役に立つ……何故ならこれがあればオブリビオンは彼に危機感を抱き、自ら砲門を開いてくれるから!
「いいえ? 貴方こそ骸の海に招待してあげる――」
 今も破壊されずに残っていた魚雷発射管を全開放して、スカルゲーテ・ソヴェリンは光子魚雷の全てを兼光に浴びせかけんと目論んだ。だがその刹那、兼光の右腕が唸る。
「ソイツだ。そうしてくれるだろうと思っていたぜ」
 瞬く間に打ち出されるブラスター。兼光がその時はたして何度引鉄を引いたのか、正確に数えられる者などどれだけいることか?
 すなわち、撃ち出された熱線は、全てがまるで見えない糸に導かれたかのように、違わず開かれたばかりの魚雷発射管へと吸い込まれていった。まず、左舷の光子魚雷が連続爆発を起こす。船は、その衝撃であらぬ方向へと弾き飛ばされるかと思いきや――爆発は今度は右舷でも連続して起こり、船に対して強制的に安定性を取り戻させる。

 至近距離からの光子魚雷の炸裂で生み出された電磁パルスは兼光がブラスターに込めた雷撃との相乗効果で、船体自身が安定した後も激しく宇宙海賊船内の回路を掻き毟っていた。そんな中でも幾らかの光子魚雷が兼光に向かってこようとしたのは、船長がそう狙ったからというよりは、偶然にも発射管内での起爆を逃れたものが、爆発の衝撃で起動した程度の話であろう。
 つまり、特に兼光を狙って追尾しているということもない――せいぜい、方向安定装置が働かないから避けるのに多少の幸運か野生の勘が必要になるというだけだ。

「いい気になるのも今のうちね。爆発した区画はもう封鎖したから、そんなものでは墜ちないわ」
 すぐに平静を装ってみせた海賊首領。当然だ。彼女に、オブリビオンに、今という時間への攻撃を諦めるという選択肢などありえない。
「そうだろうな」
 それを、兼光はあっさりと認めてみせた。あたかも降参したかのようにブラスターをホルスターへと収め、全くの丸腰で宇宙海賊船の前に立ち。
「――元より俺は、デカブツ相手にたったの独りで立ち向かおうだなんて思っちゃないんだからな」

 これ以上は攻撃の機会がないから、兼光は武器を仕舞ってみせた。
 これ以上は攻撃の必要がないから、兼光は武器を仕舞ってみせた。
「……で、そう言うアンタは何ができるんだ。アンタは、自分が何をしたのかを思い出してみるんだな……今のアンタに、武装はどれだけ残ってるんだ?」
「小さな標的相手には向かないから使わなかっただけよ。……そうね。貴方がそこまで消し炭になりたいのなら使ってあげる。この船にはね、まだ、強力な主砲が……」
そこで、不意に大きく距離を取ってみせた兼光。逃げた――わけでは決してない。全ての光子魚雷を封じた今ならば、これ以上付き合ってやる必要はないというだけだ。

 銀河帝国製の超物質さえをも溶かし蒸発させながら、ギガースの拳は叩きつけられた。強靭であったはずの船体が逢真の闇の時以上にあっさりとひしゃげ、内側に吹き飛ばされた勢いで反対の壁まで貫く穴になる。
 それでも、少女は取るに足らないとでも言うかのように、つまらなさそうにそれを一瞥してみせた。だが……その眼前に新たな炎が迫る。どこから? ……ギガースが空けた巨大な穴は、ブレイザイン自身が通るためには十分すぎる!
「スカルゲーテェエ! これが……彼女らの受けた苦しみだ!」
 ブレイジング・レザーが輝いて、表情が忌々しげに変わった少女へと振り下ろされた。
「そんなもの、この子がいれば効かないわ――」
 彼女の背に浮かぶ機械髑髏顱の眼窩が、怪しげに光る。不快な高周波音が鳴り響き、何かの“力”がブレードを阻む。
 が……拮抗し合う両者の隣を、黒い何かが通り過ぎていった。
(危険な戦い方をしてるのは解っているの……)
 ギガースの空けた穴を通って反対側の穴へと飛び出していったリグは、それでも再び方向を転換させた。今度は出てきた穴から船内へと入り、最初に入ってきた穴から飛び出してゆく。黒風に触れた隔壁の残骸が弾き飛ばされて、船内の唾棄すべきコレクションどもを破砕する。一部は跳ね返って黒風を貫いて、リグの頬に赤い筋を生む……。
(それでも……殺されたあの子たちの痛みに比べれば。苦しむ仲間たちに手を伸ばせなかったことを悔やむ、あの子の胸の痛みに比べれば……!)

 リグの、自身という枷すら打ち破るほどの願いの力は、スカルゲーテ・ソヴェリンと機械髑髏顱との間に楔を撃ち込んでいった。
「厄介ね」
 最初は余裕を残していた少女の表情が、次第に険しく変化してゆく。一撃目、二撃目は確かに他愛もないと考えていた。けれども三撃目、四撃目と重なるに従って、その重さが増してゆく。攻撃の間隔も短くなってゆく。そして……。
「こうなったら――」
 少女が髑髏との間に繋がるケーブルに何らかの力を流し込もうとしたその瞬間、ブレイザインの焔剣を押し留めていた力が突如として失せる!
「今だ! 骸の海に……還れぇぇぇぇ!!!」

 度重なるリグの剣により、自身でも、機械髑髏顱でもなく、最も脆弱な両者の間を繋ぐケーブルを断ち切られたスカルゲーテ・ソヴェリンは、突如として自身を守るバリアのエネルギー供給を失ったことにより機械髑髏顱ごと焔剣に両断され果てた。
 これで……助けられなかったクリスタリアンたちの無念も、少しは晴らすことができたのだろうか?
 せめて彼らが安らかに眠れるようにと、リグは目を閉じ胸の中で祈る。そして、幸いにも助かることのできた者たちを、どうか見守ってほしいとも。

 二度と戻らぬと覚悟していた日常を、再び過ごすことのできる喜びを分かち合うクリスタリアンたちは、ある者はブレイザイン・ギガースに乗ったまま、またある者は逢真の眷属たちの群れに導かれ、シリカに向かって小さくなっていった。
 猟兵たちはオブリビオンの凶手から、また幾つもの〈いま〉を取り戻したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月23日


挿絵イラスト