山の影からその身を覗かせ始めた太陽に照らされるのは数多の瓦礫。そして、その中より立ち昇る煙。
煙の数は一つ二つではなく、数えるのも馬鹿らしくなるほどに。
――瓦礫と煙の中、動く影が幾つか。
「畜生、怪我人は何人だ。物資は無事か?」
「まだ詳細な状況は分からん。だが、もしも次があれば対応はもう……」
「言うな。抵抗を止めちまえば、奴隷としてゴミみたいに扱われて死んでく未来だけしかねぇんだ」
本来であれば、この地は瓦礫と煙の地ではなかった。
元々は大型商業施設の跡地を利用した居住地。文明が崩壊し、それでも細々と繋ぎ続けてきた人の営みがあった場所であったのだ。
だが、今はそれももう戦火によって瓦礫と煙に変えられ、半壊した建物の姿を名残と残すのみ。
「……お待たせしました。状況を報告します」
項垂れる影にまた新たなる影が一人合流する。だが、その顔色は決して良いものではない。
良い内容の報告ではないのだろう。
語られずとも、そう確信させるだけのものがそこにはあった。
「……ああ」
「はい。今回の襲撃による怪我人は十名程度。擦り傷、打ち身程度の軽傷が三。骨折や、その……」
「辛いかもしれんことは分かる。だが、頼む。続きを」
「っ、失礼しました。骨折や死亡による戦線復帰を望めない者が七です」
「……物資の方は」
「こちらはより……瓦礫によって地下倉庫の出入り口が塞がれたことで、短時間での回収はもう……」
予想はしていたが、それでもその報告に空気が更に重くなる。
この土地の住民の数は百にも満たず、戦える者の数ともなれば数は更に限られてくる。その内の七名が戦えなくなったという報告は重い。
だからだろう。悲壮な顔色を一転させ、報告に来た人影は努めて明るく声を切り替えるのだ。
「しかし、悪い報せばかりではありません。この度の奮闘により、居住地後方に避難させていた非戦闘員への被害はありません」
「そうか。……そうか」
そうすることの効果があったのだろう。重くなっていた空気が僅かと緩む。抵抗の意味は確かにあったと知れたのだから。
ならば――。
「動ける者達はすぐに設備の修復へ取り掛かれ。瓦礫の撤去も並行して行うんだ。僅かでもいい。奴らが再び来るまでに、私達が生き残る可能性を少しでも上げる為に」
ここで項垂れ続けている訳にはいかない。
一度の襲撃でこの地に戦火を齎した者達が諦める筈がないのだ。その備えを、少しでも未来を勝ち取るための備えをしなければ。
例え、それが儚い抵抗にしかならないだろうと、心の奥底で誰もが感じてたとしても。
山影からすっかりと離れた太陽が、重い足を引き摺りながら動き出した彼ら彼女らの姿を照らし出していた。
「ということでぇ、皆さんに依頼のご案内ですよぅ」
集まった猟兵達の前で揺れる兎耳のヘアバンド。それを乗せたハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)の姿。揺れる兎耳の忙しなさと相反するような間延びした声で続ける。
「アポカリプス・ランページの終息、お疲れ様でしたぁ。ですがぁ、この度の依頼も同じくアポカリプスヘルでの出来事なのですよぅ」
件の戦争が終わった事は猟兵達の記憶にも新しい。だが、戦争が終わったからとその世界そのものから火種が消え去る訳ではないことは、他の世界も知る猟兵達ならば知るところだろう。
「先の戦争ではアメリカが舞台となりましたがぁ、今回は日本……その内の北関東という場所が目的地となりますぅ」
アポカリプスヘルの世界にアメリカがあったのだ。ならば、他の国が名残として残っていたとしてもなんら不思議ではない。
ハーバニーの話では、そこでもオブリビオン・ストームが発生し、それに伴って蘇ったオブリビオン――元ヤクザや暴走族など、アウトレイジと言える者達が互いの覇権を競い合い、暴威を振るっているそうだ。
今回の依頼もその一端。自らの支配地域を増やさんとしたオブリビオンが、ヒトの残る居住地を襲撃し、資源や奴隷を確保しようとしていたのである。
「一度はぁ、その地の人達もそれを退けたそうなのですよぅ」
持てるモノを持てるだけ持ち出して砦を築き、武器を作り、自らの命を賭けて。
だが、相手はオブリビオンだ。如何に彼ら彼女らが抵抗しようとも、幾度も訪れる暴威には抗えない。削られ、削られ、削られて、最後には呑み込まれる未来しかない。
ただし、だ。
「皆さんという助力があればぁ、どうでしょう?」
それはあくまでも住人達だけで抵抗を続けていればの話。そこに猟兵という存在が加われば、その未来は回避し得るものに変わるのだ。
「皆さんには居住地の方々と共に再度の襲撃への備えをして欲しいのですよぅ」
住人達と共に拠点の守りを固めると共に、再びと訪れるであろうオブリビオンの群れを蹴散らすこと。
それが今回の依頼の趣旨なのである。
「今回の敵はですねぇ、機動力に優れた戦車隊を率いる『勝虎魅』という勢力だそうでぇ、ただ迎え撃つでは機動力に翻弄されて被害が増える可能性がありますねぇ」
なので、猟兵達もまた戦いに際しては機動力を確保するための手段を要していた方が、より被害を抑えられることだろう。
それには同じくと現地で戦車を用意するでも良いだろうし、自身で保有する機動兵器なりを持ち込んでもいい。勿論、猟兵達ならば他にも手段を考え付くことだろう。
また、話によれば非戦闘員の中には熟練の職人や運転テクニックを持った者達などもいるらしい。探して助力を願えば、その場での戦車――武装車自体やその操舵手の準備も用意な筈だ。
「……住人達の運命を覆せるのは、皆さんを置いて他にはありません。どうか、彼ら彼女らの未来を照らしてあげてください」
――よろしくお願いします。
下げられたハーバニーの頭と共に、兎耳もお辞儀する。
情報が語り終えられたなら、ここから先は猟兵達の物語。
銀の鍵が世界と世界とを繋げば、そこには異世界への扉。
物語を始めるための第一歩は、猟兵達自らの意思によって刻まれる。
ゆうそう
オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
ゆうそうと申します。
半壊した拠点を住人と共に修復しながら、再度の襲撃へと備える第一章。
迫りくるオブリビオンの群れを蹴散らすべく戦う第二章。
この度の依頼はこのような二章形式となります。
以下、簡単な補足。
●第一章
場所は半壊した大型商業施設。
住人は百人に満たず、残された戦闘要員は男女混合での二十名程度です。
残りは怪我人であったり、戦闘に耐えられるだけの力がない子供や老人等となります。
ただし、その中にはオープニングに触れた通り、優れた技術を持つ者が居る可能性もあります。協力を取り付けることが出来れば、有益な力になってくれるかもしれません。
食料や武器等の物資も残されていますが、大半は瓦礫の下の地下倉庫にある状態です。
●第二章
戦闘は日の沈み始めた夕方から夜半頃となります。
オープニングで示した通り、敵勢力である『勝虎魅』は機動力に優れた戦車隊であちらこちらから攻めてくることでしょう。
第一章で準備したものがあれば使用出来ます。また、住人に協力を要請することも可能です。
以上となります。
それでは、皆さんの活躍、プレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『物資を運び出せ!』
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POW : 力こそ最強! あふれるパワーとフィジカルで物資を運ぶ
SPD : 速さこそすべて! テクニック&スピードを用いて物資を運ぶ
WIZ : 知恵こそ最良! 頭脳や技術、超常の力を用いて物資を運ぶ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
春乃・結希
はー…派手にやられたみたいやけど…
でも、負けてない
みんなの覚悟で退けたんだよね。ほんとにすごいなぁ…
とにかく地下の物資を使えるようにしたい
食べないと、明日歩く力も出ませんしね
この世界では時間だって無駄に出来ないもの
瓦礫の片付けもすぐに始めてるだろうから、私も手伝います
身体を動かす仕事の方が得意なんです
あんまり大きい物はwithで壊して…
トラックとかで運ぶのかな?
無くてもコンテナとかに詰めて纏めて運びます【怪力】
次に来たら勝てないって思いますか?
そんなことないと思うなぁ
一度退けられたなら、何度来ても勝てます
だってオブリビオンは過去の存在で
みんなは未来へ歩いて行ける
1秒前よりも、絶対強いんやから
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
ふむ、違う世界の日本ではあるが…
こうも荒涼とした大地を見ている寂寞の思いがあるな…
だが、そんな世界でも懸命に生きてる人達がいるならば
私達がすることは一つだろう
UCを発動
パワードアーマーを装着して瓦礫の撤去を行う
私の元々の怪力とパワードスーツで強化された膂力であればどんな重さの瓦礫だろうが破壊し撤去する事が可能だ
この後の戦いを考えればこの地下倉庫は優先して確保した方がいいだろう
彼等の武器も此処にあると言う事だからな
瓦礫を撤去したら住人達を手伝い地下倉庫から物資をどんどんと運び出していこう
瓦礫は此方が引き受けよう
恩を着せるようで心苦しいが…この後の戦いには君達にも協力してもらいたい
半壊し、内部を晒す住居。
崩れ落ち、積もった瓦礫。
燻り、空へと昇りゆく煙。
その光景は、何度目を擦ったところで変わらない。
だから、ヒトビトは重い足を引きずりながら、自らの手でその光景を変えようとしているのだ。
「はー……これは派手にやられたみたいやね……」
「ふむ、違う世界の日本ではあるが……こうも荒涼とした大地を見ている寂寞の思いがあるな……」
この地に住んでいたヒトビトの数は百にも満たない。誰もが互いを知っている。
だから、その新たに響いた誰も知らぬ声は、当然として住人達の注目を集めるものとなるのだ。
瓦礫を撤去していた住人達がその手を止め、視線が人影――春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)とキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)を始めとした猟兵達を見つめる。
数が少ないとは言っても、十人単位での視線は圧力を感じるもの。中には、すわ新たなる敵襲かとスコップや鶴嘴を握りしめて警戒を示す者も混じっていればなおのこと。
だが、二人はその視線を受け止めた上でなおと語り続ける。
「でも、負けてない。みんなの覚悟で退けたんだよね。ほんとにすごいなぁ……」
「ああ。このような世界でも懸命に生きてる人達がいるならば、私達がすることは一つだろう」
十人単位の視線の圧力をたった二人で跳ねのけて、結希とキリカは瓦礫の上を平然と進む。住人達の下へと向けて。
「あ、あんたらは……奪還者か? 残念だが、今、ここは狙われていて……」
「ここで何があったのか、これから何があるのか、全部知っとります。そうであるからこそ、私達はここに来たんです」
「それと訂正が一つだ。私達は奪還者ではない。いや、頼まれれば時にそのようなこともするが、そうではない」
「じゃあ、なんだってんだ?」
「決まってます。あなた達の覚悟を知り、応えた猟兵です」
「決まっている。我が物顔でのさばる骸共を狩る猟兵だ」
住人達の手に混じって結希の手が、キリカの手が、それぞれに瓦礫を持ち上げる。
「さあ、この世界では時間だって無駄には出来ないんでしょう? まして、『次』があるのなら猶更のこと」
「使える手が勝手に一つ、二つと増えたんだ。儲けものとでも思って使っておけ」
「そうですそうです。私達もこうして手伝いますから、こんな瓦礫なんて、すぐにやっつけてしまいましょう!」
ガラリ、ガラリ。
その細腕のどこに思う程の怪力で結希もキリカも、まるで綿でも運ぶかのように瓦礫を除けていく。
警戒は困惑に、そして、覚悟へと。
結希の語った通り、今の住人達にとっては一秒は金より重いのだ。
キリカの語った通り、今の住人達にとっては素性よりも手伝いの手が一つでも二つでも増えることの方が大事なのだ。
毒を食らわば皿まで。
二人が敵だなんていうもしもの心配は杞憂ではあるのだけれども、住人の思いはまさにそれであった。
一人、また一人と住人達が瓦礫撤去の作業へと戻っていき、止まっていた作業が再びと動き出す。
「そういえば、地下に物資があるって聞いたけれど、本当なんです?」
「……猟兵ってのは耳が良いんだな」
「それはそうだ。そうでないと、やっていけないからな」
「そうか。なら、あんたらの知ってる通りだ。此処とあともう二、三ヶ所あるが、この瓦礫撤去もその回収のためでもある」
勿論、瓦礫を撤去することで動きやすく、守りやすくとするためでもあるけれど。
汗だく土埃まみれとなりながら作業を続ける住人達。しかし、その隣で動き続ける結希とキリカには汗一つない。
その身に秘めた力量の差は明らかであり、二人がその気になればこの地を制圧するなど容易いことは住人達にとっても容易く想像出来る事であった。
だからだろう。
「……そう言えば、あんたらは奪還者とは違うんだったけか」
「そうだ」
「なら、あんたらはきっと優秀な奪還者になれるぜ。こうして一緒に動いたら分かった。俺らとは根本的に鍛え方ってもんが違う」
「……もしかして、それは誘いか?」
「ああ、優秀な奪還者ってのはどこでも喉から手が出るほど欲しいもんさ」
「それは嬉しい評価ですね。でも、気儘な根無し草の方が性に合ってるんです」
「私も、やるべきことがあるんでな」
「そうか、残念だ。だが、気が変わったらいつでも言ってくれ。歓迎するぜ」
彼我の能力差は勿論だが、それでも黙々と共に作業をしてくれる二人に住人達の心は既に警戒を解いていた。
まだ絶望の未来を覆してはいないけれど、それでも冗談半分本気半分で来るかどうかも分からない未来の話を語ったのがその証であろう。
そんな会話に、僅かばかりと空気が軽くなっていく。
「……糞っ。あと少しだってのに!」
――だが、それも暫しのこと。
瓦礫を撤去し続けた先、地下へと降る階段のある場所が見え始めた頃にそれは待ち構えていたのだ。
「これはまた大きい瓦礫ですねぇ」
「……ふむ。隙間はなし。これは入口を完全に塞いでいると見えるな」
身の丈を越える程の瓦礫――恐らくは崩れた外壁の一部がそのまま倒れ込んだのだろう。完全に地下への道を塞いでいた。
それを人の身で持ち上げることは難しいだろう。砕くにしても、鶴嘴やスコップだけでそれを為すには果たしてどれだけの時間を要する事か。
猟兵の助力を受けて瓦礫を撤去し続けていた住人達であったけれど、その事実に心が足を止めてしまう。目的地という光明がもう目前であったからこそ、猶更にと。
ガランと音を立てたのは誰かの取り落とした掘削道具の音であろう。住人達の心挫ける音を代弁するかのように響き渡る。
「いけるな?」
「勿論です。私とwithなら、この程度。むしろ、やり過ぎないように気を付けないと」
「地下には貴重な物資があるからな」
だが、忘れてはならない。
人の身でなし得ぬをもなすからこそ、かの身は猟兵なのであると。
呆然とする住人達の前、視線を受け止めた時と同じように気負いない足取りで結希とキリカは巨塊の瓦礫へと歩み寄る。
その手に携えるは共にと歩み続ける最愛の黒鉄。
その身に纏うは絶望をすら征服する闇夜。
――絶望の砕ける音がした。
住人達の呆然は続く。だが、それはもう瓦礫に対しての物ではない。
「けほっ、けほっ。思ったより、柔かったようですね」
「……ああ、半分も出力をあげてなかったんだが」
今はもう小さな瓦礫へと姿を変えた元巨塊の瓦礫を前として、悠々と立つ二人の姿へだ。
くるりと二人が向きを変え、その視線を瓦礫から住人達へと。
「さ、運び出しましょう。ゴールまでもうすぐですよ」
「この先に地下倉庫があるんだろう? 早く運び出してしまおう」
瓦礫の内に眠っていた希望。届かないと思っていた希望はすぐそこに。
再びと響いた音はもう絶望のそれではない。確かな希望を見出した住人達の歓声であったのだ。
二人の前で溜まった疲労も吹き飛ばすように住人達が作業を開始していく。
「は、ははは……本当に、此処に残ってくれねぇもんかな」
引き攣ったような笑みと共に零すのは二人に勧誘の声を掛けていた男。
今度のは冗談半分ではない。純粋にそう願っているよう想いがそこには籠っていた。
「……あなたは、あなた達だけだったら次に襲撃が来たら勝てないってまだ心の何処かで思っていますか?」
不意に、結希が口を開く。
その問いへの男の答えは沈黙。だが、その沈黙こそが何よりの答え。
「私は、そんなことないと思うなぁ」
「なんで、そう思うよ」
「一度退けられたなら、何度来ても勝てます。だって、オブリビオンは過去の存在で、みんなは未来へ歩いて行ける」
ならば――。
「一秒前よりも、絶対強いんやから」
確信を持ったように語る結希の真っ直ぐな言葉に、男の心から陰が取り払われていく。
「ははっ、あははははっ、こいつは敵わねぇや。全くもって、敵わねぇ! そりゃ、あんたらが強い訳だ」
男のその笑みはもう引き攣ってなどいない。分け与えられた勇気の灯火が、確かにその心を照らし始めたから。
男の笑い声が響くと同時、繋がった地下倉庫の入り口からも再びの歓声があがる。
無事に、物資の――食料や銃器を始めとした武器の回収が始められたのだろう。瓦礫ではなく、次々とそれらの納められた箱が地上へと積み上げられていく様が見えていた。
「ここまで手伝ったんだ。もう暫くは逗留させてもらうつもりだ」
「……ってことは」
「ああ。私達が居る間になるが、その間の襲撃には私達も対応しよう」
「そいつはありがてぇが、いいのかい?」
「ただし、恩を着せるようで心苦しいが……君達にも協力してもらいたい」
重々しく、闇夜の装甲の奥から申し訳なさそうに言うキリカの言葉に、男は目をぱちくりと瞬かせる。
「なんて、なんてお人好しだよ、あんたらは。手伝ってもらってるのはこっちだってのに」
男からすればキリカ達が心苦しく思う必要などないのだ。
瓦礫を撤去して地下物資を回収するのを手伝ってくれただけでも十二分の恩がある。更には心に勇気まで灯してもらったのだ。最早、恩は返しきれぬ程にだ。
「ああ、なんでも言ってくれ。俺の権限の範囲、協力できるだけ協力するぜ」
だから、その返答は当然のもの。キリカが、結希が、自らの行動で掴み取った信頼があったからこその。
「それじゃあ、早速お願いを一ついいですか?」
「おう」
さて、何を結希は願うのだろうか。
結希が口を開くより早く、お腹が一つ、くぅ。と鳴る。いや、一つどころではない、あちらこちらからくぅくぅと。
「まずはたらふく食べましょう? 食べないと、明日歩く力も出ませんしね」
「……そのようだな。動きづくめでは効率も良くないだろう。私からも休憩を提案する」
一回目の襲撃を終えて、今まで休まずにきた住人達。不安や緊張で忘れていたそれが、希望を見出したことで思い出されたのだろう。
一斉に鳴り出したそれぞれの身体からの抗議の声に、誰もの顔へ明るいものが浮かんでいた。
瓦礫だらけの光景の中、新たな煙が空へと向けて立ち昇っていく。
しかし、それは戦火の名残などではなく、明るい未来を示すような暖かいものであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
戦争が区切りを終えたと言えど、すなわち平穏とはいかない……儘ならないものですね
簡易救急セットを用いて怪我人の治療(医術・救助活動)
聖職者なら受け入れられ易いでしょう
打撲ですね、湿布をどうぞ
こちらは擦過傷、傷口を消毒しますね
粉塵を吸ってしまったのですね、吸入薬を使ってください
こちらは骨折……大まかに整復して添え木をします、あとで専門的な治療を受けてください
【怪力】を以って瓦礫の撤去を手伝う
地下倉庫へをふさぐ大きな瓦礫は、破壊の魔力(属性攻撃)を纏った聖槍で打ち砕く
【聖戦】による加護を与え、気力を回復させ、戦闘要員たちを【鼓舞】する
あなた方の叛逆の牙はまだ折れていない
勝ち取りましょう、明日を!
日差しを隠すように、もうもうと土煙があがる。
襲撃か。いいや、違う。その時にはまだ随分と早い筈。
「さあ、瓦礫は取り除かれました。物資の搬出を急ぎましょう」
土煙の奥より響いた声は涼やかにして、姿なくともその佇まいを想起させるもの。
――時を同じくして、まるで追い払われるかのように土煙が晴れていく。
そこにあったは己の生み出した旋風によってはためく嫋やかなる黒。
その正体こそはオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。他の猟兵達と同じく、その力によって瓦礫を粉砕したことによるものが土煙にして、旋風であったのだ。
旗振り、民を先導する聖女のように彼女はその声を高らかと響かせ、希望への道筋――地下倉庫への入り口を聖槍にて示す。そして、住人達もまた導かれるように次々とその内側へと至り、物資を持ちだしていく。
「これでまずは一段落……でしょうか」
その様子を見て、思わずとオリヴィアも一息をつく。
だが、一段落とは言ったものの、赤縁の奥にある金色の瞳は決して気を緩めた様子はない。
むしろ、これからのことを思って、より鋭さを増すばかり。
――待ち受ける戦いへの高揚か。否、そうではない。
「ふむ。これは打撲ですね」
「……腕、折れてない? 大丈夫?」
「ええ、冷湿布を貼っておけばひとまずは大丈夫でしょう」
「良かったぁ。大事な時に役に立てないかと思った」
「ですが、今はあまり動かさない方が良いでしょう。皮下出血が酷くなる可能性もあります」
「ええ~!? 戦えない私達が今動かないで、どうすんのさ!」
「ええ~。では、ありません。無理したから瓦礫にぶつかって怪我をしたのでしょう」
「そんなぁ」
「……物資運搬や瓦礫撤去といった力仕事以外にも仕事はあります。そちらに専念を」
「はぁい」
「すいません、消毒のキットを」
「はい。先生、お待たせしました」
「……先生ではありませんが、ありがとうございます。これから傷口を消毒、保護します。まず消毒ですので、沁みますよ」
「っっ!!」
「……これでいいでしょう。ええ、偉かったですね。よく我慢しました」
「えへへ」
「子供は擦り傷切り傷を作るぐらいに元気が一番ですが、お手伝いする時はしっかり周囲に注意しましょう。今度は擦り傷では済まない可能性もありますから」
「分かりました!」
「よろしい」
「げほっ、げほっ!」
「この方は元々喘息が?」
「いえ、そうではなかったと思います」
「扁桃腺等に炎症が見られますね。抗生剤と気管支拡張剤をこの方へ。発熱もあるようなら解熱剤も追加で」
「あ゛り゛がどう゛ござびばず」
「無理に喋らなくて大丈夫ですよ。このような状況ですが、落ち着いて身体を休めて下さい」
回収された物資の中にあるのは何も銃器、弾丸を始めとした武器だけではない。そこには糧食であったり、医療品もまた入っているのだ。
そして、怪我人というのは戦いの時だけに生まれるものではない。勿論、先の戦いで負傷した者もあるけれど、瓦礫の撤去という危険な仕事の最中やちょっとしたことでも出来てしまうものだ。
オリヴィアは自身が身に付けてきた医療への知識と経験を基に、この地の医療者と医療現場という戦場に立っていたのである。
「戦争が区切りを終えたからと言えど、すなわち平穏とはいかない……儘ならないものですね」
零した言葉はアポカリプス・ランページを駆け抜けてきた身だからこその言葉。そして、この地に未だと蔓延る戦火への言葉でもあった。
負傷者の対応をし終えれば、これから進むは最も傷の重い者達――先の戦いにて負傷した者達の場所へと。
急造の簡易天幕を潜れば、そこには苦悶の声が響く空間。
オリヴィアに簡単な処置を任せ、真っ先に対応をしていた老医師が振り返る。
「ありがとうございます、シスター。そちらはもう?」
「ええ、落ち着きを見たようですので、こちらでも何か手伝えればと」
「助かります。ある程度の処置は終わりましたが、油断はならないですから」
骨折だけではない。腕を、脚を失い、多量の血を流した者だって中にはある。
専門的な設備もない今、止血や固定、投薬による対応が精々だ。その先、命を繋げるかどうかはそれこそ本人達の気力によるものとしか言いようがない。
「シスター。こんな神も仏もない世界だが、どうか、彼らのために祈ってはくれませんか」
きっと、老医師が求めたのは負傷者達の心を慰めるためのものであったのだろう。だが、だがしかし、だ。
「ええ、勿論です。彼らの為に、私は祈りましょう」
猟兵たる、神の使徒たるオリヴィアの祈りが気休め程度で収まる筈がなかった。
己の衣服が汚れるなど一つも厭わず、オリヴィアはその膝を薄汚れた床へと付く。組んだ両の手は祈りを掴み、天へと捧げるかのよう。
「人々よ、暴虐に膝を屈することなかれ。拳を上げよ、剣を取れ、勝利の光を分け与えよう!」
簡易天幕の内側だというのに、その真摯なる祈りの所作は白亜の礼拝堂を幻視させる。
幾百、幾千と祈り続けた日々。
「――あなた方の叛逆の牙はまだ折れていない。圧政の鎖を打ち砕け!」
その祈りは神秘すらをも引き起こし、心を同じくとする者の心に光り輝くモノを点すのだ。
「お、おぉぉ、おぉぉぉぉぉ!!」
漏れた嗚咽は誰のものであっただろうか。
腕を失った者がない筈のその腕を振り上げ、包帯で瞳まで覆われた者が涙し、意識ないままに動けぬ者すらもが慟哭を零す。
負けてなるものか、と。こんな形で終わってなるものか、と。
「確かに。確かに、あなた達の心を受けとりました」
その中心で祈り捧げる所作のまま、オリヴィアは告げる。
「――我々の心は共に。勝ち取りましょう、明日を! 未来を!」
火は灯った。
彼らが次の戦場に出ることは出来ないだろう。だが、少なくとも、このままただ朽ちていくだけのことはもうない。
きっと、自らの傷を克己し、いつの日か再びと立ち上がるだろう。
だからこそ、オリヴィアは再びと立ち上がり、祈りの手に聖槍を握り締めるのだ。彼らの、この地の未来を紡ぐために。
戦火の時は刻一刻と。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
終点の巨人を打ち倒しても、“めでたしめでたし”は遠く…
いえ、それこそが“超克”なのでしょうか
ならば騎士として、この地に“明日”を届けねばなりませんね
瓦礫の撤去や物資の運び出しはお任せください
…ここまでよくぞ人々を護り、持ちこたえられました
次の戦いを勝利に導くとお約束します
その為にも仕込みは重要ですが
施設周辺地形の地図は御座いますか?
敵の“脚”への対策は急務
ある物資で可能な対戦車地雷の製造法を住人に伝授
…本職ではありませんが役立つ知識でしたので(渋々)
手製故に敷設作業は己が担当(破壊工作、物を隠す)
戦後の撤去の為に場所は逐一把握
更に地面の摩擦を無くす薬剤を撒いた地帯も用意
機動力殺す防衛線を構築
「さて、この辺りは粗方と片付いたでしょうか?」
「お陰様でな。あんたらが来てくれたから、思ったより随分と早く片付いた。これなら……」
瓦礫は一箇所に固められ、山を成す。
今、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)と瓦礫撤去に勤しんでいた住人達の目前に広がるのは更地だけだ。
遠くからは歓声の声が聴こえる。
それはきっと、幾つかある地下倉庫への入り口が一つ二つでも開かれた証であろう。
物資を確保できたことは確かな朗報だ。だが、道を塞ぎ、移動を妨げる瓦礫の山があれば十全とは活かせない。
だからこそ、地下倉庫への入り口の確保とはまた別口として、トリテレイアは動いていたのだ。その結果こそが瓦礫の山とその間を走る道に他ならない。
これならば瓦礫があったままでは出来なかったことも出来ることだろう。住人達が言葉にしたかった、言葉に出来なかった、未来掴むための防衛線の構築も。
「ええ、これならば敵に対することが出来ます」
代わりにトリテレイアがその言葉を紡ぐ。
「……ありがとうよ。だが、まだだ。まだ、これからなんだ」
「分かっています。ですが、言わせて下さい。……ここまで、ここまでよくぞ人々を護り、持ちこたえて来られました」
「……っ」
此処は戦火の世界。地獄の底と見紛う世界。
いつ争いに巻き込まれても良いように備えはあったことだろう。ともすれば、これが初めてではなかったのかもしれない。だが、それでも、こんな世界であっても、やはり戦いは一般人にとっては非日常のそれでしかないのだ。
トリテレイアの労わりの言葉に、共にと瓦礫を撤去していた住人達の視界が滲んでいた。
「……ですが、皆様の仰られたようにまだこれからというのも理解しています」
大敵から襲撃を退ける。
それはきっと一つの物語の区切りだ。しかし、現実は物語のように一つの区切りが付けばそれで終わりというものではない。
「終点の巨人を打ち倒しても、“めでたしめでたし”はまだ遠く……」
世界は連綿と続いていく。どんなハッピーエンドがあろうとも、どんなバッドエンドがあろうとも。ヒトのあり続ける限り、明日は必ず来るのだ。
それをトリテレイアは知っている。『トリテレイア』という物語を歩き続ける彼であるからこそ、きっと誰よりも。
緑の輝きが改めてと共にと働き続けた者達を見る。
誰もが土塗れ、埃塗れ。手も、顔も、服も全部、全部。
その様子をモニター越しに捉えたトリテレイアの電子頭脳が、不意に一つの答えを弾き出す。
「ああ、それこそが“超克”なのでしょうか」
めでたしめでたしの向こう側を、明日というその先へと向かって歩き続ける者達。
「ならば騎士として、この地に“明日”を届けねばなりませんね」
紛い物とは最早名乗らない。誰かのための。それこそが今のトリテレイアであればこそ。
「――お約束します。次の戦いを勝利に導くと」
万難を排し、この地に明日を齎さん。
御伽噺のようにはきっといかないだろう。でも、それでも、白銀の騎士はその誓いをヒトビトへ対して立てるのだ。
「……さて、そのためにも皆様の協力が不可欠となります。どなたか、施設周辺地形の地図など御存知ありませんか?」
「ああ、それなら……」
心当たりがある。と、住人の一人は言う。
その心当たりとはこの地の住人達が受け継いできたもの。文明が崩壊した後、何もないところから少しずつと周辺地形の情報を書き足されていったものだ。
この元商業施設――今はただの住居であるが、そこを中心としての地図は、きっと離れれば離れる程に正確性を失っていくのだろうけれど、今はそれで十分だった。
「ありがとうございます。このような貴重なものを……」
「いいんだよ。あんたらが活かしてくれるのなら」
そうだ。活かさねばならない。生かさねばならない。
そのためにも、まずするべきことを決めなければ。敵の襲撃は夕暮れから夜半頃という話だ。時間はもうそこまで多くもないのだから。
「皆様にはこれより対戦車地雷の製造法を伝授致します」
聞けば、相手は機動力を誇る戦車隊を中核として攻めてくるという。ならば、その足をもぎ取るべくと動くは常道というもの。
だからこそ、トリテレイアは己の中にある情報――騎士として考えるなら、まあ、不本意ではあるが――を使うと決めたのだ。出し渋っている場合ではないからと己に言い聞かせて。
「人海戦術を用い、作れるだけ作っていきましょう」
「だけどよ、誰がこれを埋めるんだ? あたしらじゃあ、どう扱っていいか……」
「御安心を。その点は私が行いますので」
地雷の作成と同様に人海戦術を用いて埋めても良いが、扱い慣れぬ住民の手で行った時にもしもがあってはいけない。そして、誰がどこに仕掛けたかを覚えていなければ、それこそ戦後の脅威を自らで増やしてしまうことになりかねない。
だからこそ、トリテレイアは始めから自らで設置の役割を担うつもりであったのだ。
住人もそれぞれに役割があるため、全員が地雷の作成に参加出来た訳ではない。だけれど、設置係であるトリテレイアも一人であることを考えれば、そのバランスは丁度良かったと言えた。
先の戦闘で最も被害の出た施設正面。元駐車場の開けた土地には薄く、広く。
まだ壁が防壁としての機能を残している側面と後面。そこへは瓦礫を敢えてと敷設し、進路を限定させた上でその先に。
地雷の数に限りがあり、敷設する手に限りがある以上、どこを最も守るべきかを考えてトリテレイアは作業を行っていく。
勿論、時にどこまでも現実主義的な面も見せるトリテレイアであればこそ、その手が地雷の設置だけで満足するはずがない。
時間のギリギリまでを用い、地雷では賄いきれない部分には油などの潤滑液を用いることで機動力を殺す場を生み出していたのだ。
忙しく、慌ただしく、住人達と共にまさしくと東奔西走の時。
気付けば、日の位置は再びと彼方に沈みゆくを見せ始めていた。
「……さて、守り助けるは騎士の本懐。一兵たりとて通させはしません」
トリテレイアが視線を向けた先――夕暮れの風に土煙を巻き上げる荒野には、まだ敵の姿はどこにもない。
だけれど、優れたセンサーを搭載するトリテレイアにはその存在が既に感じ取れていたのだ。タイヤが大地を蹴る音が、己が狩猟者なのだと信じて疑わぬ襲撃者達の足音が。
襲撃の時は、もう間近。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
宇宙バイクに乗って現場へ
移動はこれで行うが、現地の住人とも協力を希望する
武装車を用意できるならその車と、操舵手にも同行を頼みたい
武装車を更に強化できる物資もあるかもしれないが、俺では判断が難しいからな
多くの物資を運び出す為にも、車を使えるなら助かる
地下倉庫へ向かう為、瓦礫を撤去する
手作業で撤去できない大きさの瓦礫は、ユーベルコードで破壊してみる
戦い続けている住人たちには疲れもあるだろう、自分が積極的に動いて物資の運搬を行う
狙う物資は拠点修理に使える物、武装車を強化できる武器
怪我人がいると聞いている、怪我の治療を行う為の医薬品や衛生用品も運び出す
…もっとも、これ以上の怪我人を出すつもりは無いがな
火薬の発した熱は消え、元の鉄の冷たさを取り戻した愛銃をシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はホルスターへと戻す。
その眼前には地の底へと続くかのような黒々とした穴――地下倉庫への入り口が。
彼や他の猟兵達によって瓦礫という障害が取り除かれたことにより、その先への道が開かれたのである。
――カツリ、カツリ。
住人達が我先にと進もうとするとこを待たせ、誰よりも先にシキがその地下倉庫の内部へと入り込む。灯りなど期待できないであろうから、その顔に暗視機能付きのゴーグルを付けて。
「……クリア」
敵が潜んでいる様子も、構造へのダメージで崩落する兆候もない。
いずれも起こる可能性が低いものであるとシキ自身も思ってはいたが、それでも何かあっては一大事。
だからこそ、安全性を確認するためにシキは誰よりも先に地下倉庫の中へと踏み込んでいたのであった。
「こちらは問題ない。入ってきても大丈夫だ」
「……了解。おい、問題ないってよ!」
「ああ、だが、灯りは忘れずにな」
「重ねて了解だ」
通信機越しに安全を伝えれば、応答の声。そして、通信機が音を途絶えさせれば、代わりに髭面の男に率いられた人の気配がドヤドヤと複数降りてくる。
黒色に染まっていた世界が白く染まっていけば、それはきっと住人達の持ち込んだ灯りであろう。
最早と用をなさなくなったゴーグルを外せば、改めてとシキの眼前に地下倉庫の本来の姿が映し出された。
「……シェルターか」
「らしいぜ。昔はそういう用途で使われてもいたようだが、今となっちゃ、ただの頑丈な物置よ」
「贅沢な倉庫だことだ」
「はは。だが、それも入り口を塞がれちまってたら意味もなかったからな。あんたらには本当に感謝してるぜ」
テニスコート半面分程度の広さ。大人同士で肩車しても余裕のある高さ。そんな空間に件の物資がずらりと並んでいる。
「随分と貯め込んでいたものだ」
「そりゃあこんな世界だ。あるにこしたことはねえってもんさ」
「……道理だな」
それは木製の箱であったり、鉄製の箱であったり、プラスチック製の箱であったりだ。
一人で抱えられそうな大きさから二、三人は必要そうな大きさまで様々。
住人達がめいめいに持ち、抱え、再びと地上への道へと戻っていく。
「……どれ、俺も手伝うとしよう」
依頼人――厳密に言えば違うけれど――を働かせ、見ているだけなどシキに出来よう筈もない。
怪力を持たずとも一騎当千の猟兵だ。鍛えられたシキの力を持ってすれば、箱の運搬など物の数ではなかったことは語るまでもない事だろう。
「ありがとうございます。これで彼らの苦痛を和らげることが出来ます」
「そうか。役に立ったのなら、何よりだ」
この住居の健康管理を担っている老医師が頭を下げ、医療物資を受け取って去っていく。
共にと向かっても良かったが、そこにはまた別の猟兵が付いていたようなので、問題はないだろう。
運び出した物資は他にも様々とあるのだ。武器であったり、食料であったり、何かの部品であったりとだ。
それをシキは己のバイクで関係各所へと輸送して回る。
シキ用にカスタムされたそれは、ともすれば宙すらも翔けるバイクだ。これに勝る輸送手段はないだろう。
だが、それでも欠点がない訳ではない。それが――。
「一人乗りで運べる物資にはやはり限度があるな……」
搭載量の少なさである。
バイクと車であるのなら、やはり積載量という点においては後者に軍配があがるのは致し方のないことであろう。
だからこそシキは思い、考える。
「……やはり車も使えればと思ったのだが、どうだ?」
「どうだってお前、一応、あるにはあるがよぉ……」
問いかけたは物資運搬の最中に寄った整備場。
先の襲撃の折にも使っていたのだろう。そこには傷だらけの武装車や最早ジャンクと呼んで差し支えない程にボロボロとなった車が置かれていた。
その中を複数人従えて忙しくと駆け回っていた者こそ、オイルで顔を汚した髭面の男。先の回収の折、シキと会話交わした者であったのだ。
「……動かせる物はないのか?」
「馬鹿言うな。あんたらのお蔭で部品を回収出来たんだ。二つ三つじゃああるが、すぐにでも動かせるぐらいに仕上げてある」
「なら、協力しては貰えないだろうか」
「……あ~、あんたらに頭を下げられたとあっちゃ、面目が立たねぇか」
ぼりぼりと頭を掻いて髭面の男は溜息を一つ。
どこも人手が足りない。勿論、この整備場も次に備えて大忙しは間違いない。
だが、輸送能力はある意味では血液のようなものだ。そこが滞っては、各所に問題が生じるだろう。それは次が待ち受けている今、絶対に避けたいことだ。
この状況で回っているのは、回せているのは、シキを始めとした猟兵達のお蔭でしかない。
その彼が必要だから助力を求めているのだ。それに応えずしては男が廃る。
「……分かった。この若いのと一番馬力があるの、持ってきな!」
「え、ええ!? 俺っすか!?」
「お前が一番、ここで運転が上手ぇだろうがよ!」
髭面の男に背中を引っ叩かれた青年がよろりとシキの前へ。
頼りない風貌ではあるけれど、彼らが一番というのであればシキに否はない。
「先の襲撃からの疲れもあるだろうが、よろしく頼む」
「ぅ……分かった。分かりました。こうして俺らが希望を持てるのはあんたらのお蔭なんだ、こうなったらやりますよ!」
鍵を手にした青年が最も整備の行き届いた車へと搭乗すれば、その発進は滑らかにしてシキの前へ。
なるほど、一番というだけのことはあるのかもしれない。
「助かる。怪我などさせずに返すつもりだが……」
「いいや、こき使ってやってくれ。これぐらいしか俺達には出来ねぇからな」
「……っス。もう腹は括ったっす。ただ、指示は頼んますよ。俺、あんま頭が良くないんで」
「そうか。了解した」
礼と共にシキが乗り込めば、銃座を搭載した車体がまた滑らかに動き出す。
ガタリ、ゴトリ。
瓦礫の破片が散らばる道、速度を出せば当然と揺れはする。揺れはするのだが、その揺れは驚くほどに小さい。それは青年の腕によるものか、車の性能によるものか。それとも、その両方か。だが、シキはこの時確かに信頼に値する『足』を手に入れたことは間違いない。
全ての輸送が終わる頃には、夕暮れ時はもう目前であった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『モヒカン・タンク』
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POW : VBIED!
自身が戦闘不能となる事で、【戦車に隠し持っていた不発弾が大爆発し】敵1体に大ダメージを与える。【死亡フラグや断末魔】を語ると更にダメージ増。
SPD : Death Road DIVE!
【死をも恐れぬロケットエンジンの噴射】によりレベル×100km/hで飛翔し、【総重量】×【スピード】に比例した激突ダメージを与える。
WIZ : 群れる世紀末
レベル×1体の【モヒカン】を召喚する。[モヒカン]は【世紀末】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜の帳がその幕を下ろし始める。
赤々とした夕日に染められた世界は、次第に隣の人物が誰であるかも分からなくなる程に薄暗く。
他の世界の幾つかであれば町灯りが世界を照らしてくれるのだろう。だが、ここではそれも期待は出来ない。精々が元商業施設であった住居が暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる程度。
――その筈であった。
闇の彼方に、太陽の沈んだ先に、不知火のような光の群れ。
始めは朧に、数少なく。しかし、次第にその明かりは煌々となり、数を増していく。
最早、それが幻や蜃気楼の類である筈がないのは明白。であれば――。
「敵襲! 敵襲ーッ!! 奴らが来たぞォー!!」
それこそが予期されていた敵――『勝虎魅』の襲来に他なるまい。
襲来を報せる鐘の音が鳴り響き、にわかに住居が騒がしさを帯びる。
戦える者達は手に手にと武器を持ち、守りの配置へと。武装車へと乗り込み、打って出る準備をする者の姿も。
戦えない者達は戦いへ赴く者達の無事を祈りながら、まだ比較的安全な住居後方へと。
だが、その騒がしさもより大きな音――地鳴りのような戦車隊の進撃に呑み込まれていく。
周辺に残っていたかつての集合住宅跡地をすり抜け、踏みつぶし、住居を囲い込むように。
「食い物や武器は奪え! 人間も奪え! 全部俺ら勝虎魅のもんにしてやれぇぇぇ!!」
だというのに、身勝手な略奪者の怒号がもう聞こえてくる。
わざと拡声器を用いることでこちらに伝え、威圧することも兼ねているのだろう。
だが、その身勝手に蹂躙される訳にはいかない。
再びの防衛戦に緊張と不安を抱える住人達がごくりと唾を飲み込む中、猟兵達もまたそれぞれに動き出すのであった。
春乃・結希
貴重な食糧をありがとうございました
えっと…なんでしたっけ…?ご飯のお礼は返すみたいなことわざありましたよね…。と、とにかくそう言う気持ちですっ
特攻。良いですね。私も好きです
難しいこと考えなくて良いから
UC発動
翼の羽搏きにより加速
正面から突っ込んで【覚悟】、速度も乗せたwithを叩き付ける【重量攻撃】
地雷も仕掛けてくれているみたいなので、誤って起爆させてしまわない様、地上には足をつけない。ロケットで無理矢理飛ぶなら自身も空へ飛ぶ【空中戦】
前の勢いを落とす事ができれば、その後ろの戦車は渋滞するかも
そしたら拠点のヒト達が追撃してくれるはず
未来が過去に負けるわけないじゃろ?
何度来ても止めてあげます
ビリビリと住居が小さく振動に震える。
それは迫りくる軍勢の足音であり、猟兵の仕掛けた地雷による足止めが効果を発揮している証拠。
ガソリンに引火して爆炎があがり、煙があがり、その幕を引き裂いて勝虎魅――モヒカン共は突き進む。
「邪魔だ邪魔だ! 足をもがれたんならさっさと退けぇ! 轢き潰されてぇのか!」
「まだだ、まだ撃つなよ! 引き付けて、引き付けて……撃て!!」
「地雷なんざ気合でおがぁ!?」
地雷の防衛線を抜けたモヒカンを迎え撃つのは住人達の銃弾であり、砲弾だ。
一台、また一台とモヒカン達をその戦車ごと火達磨へと変えていく。
だが、如何に地雷と弾幕の防衛線があると言えども、本腰を入れて襲撃を始めたモヒカンの群れを完全に止めることは出来ない。
「チマチマチマチマとやりがってよぉ! やるならこれぐらいやりやがれってんだ!」
爆炎を抜け出た戦車の一台が砲撃に晒されながら、その身をあり得ざる速さで押し出すのだ。
それは死をも恐れぬ捨て身の吶喊。
戦車にロケットエンジンというアンバランスなど超常の力でねじ伏せて、彼らは一個の弾丸となって宙をも突き進む。
100km/hなど軽く越える速度で着弾すれば、その速度と重量だけでどれだけの破壊を撒きちらすことだろうか。
「何が何でも撃ち落とせ!!」
「無理ですよ! あんな速いと、もう……!」
如何に住人がそれへ火力を集めようとも、砲撃が届く距離程度ならば圧倒的にモヒカンの方が速い。
住人の誰もが撒き散らされる破壊を予期し、衝撃に備えんと遮蔽物の陰へと身を屈める。
――一秒、二秒、三秒。とうに到達してもおかしくない時間が経過したというのに、衝撃はいつまで経っても。
恐る恐ると住人が遮蔽物の陰から顔を覗かせてみれば、そこには――。
「特攻。良いですね。私も好きです。難しいことを考えなくて良いから」
――そこには、緋き翼の化身があったのだ。
空にて羽ばたく燃ゆる翼。自らの身すらをも薪とするかのように、より緋く、激しく。
「あ、あんたは……」
「あの時は貴重な食糧をありがとうございました」
にこりと微笑むのは、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)。自らの燃えるなど、少しも気にしてなどいないかのように。
ヒトの身にて空へ羽ばたく彼女の足元、燃え盛る残骸が大地に横たわっている。
その光景が、結希がその数瞬の中で何をしたのかを物語っていた。
「すまない。助けて貰ってしまったようだな」
「いいえいいえ。えっと……なんでしたっけ……? 御飯のお礼は返すみたいなことわざ、ありましたよね? 一食一飯の恩義……みたいな」
「も、もしかして、一宿一飯、か?」
「そ、そうです! それです! と、とにかくそう言う気持ちですのでっ」
たった一食の恩義。それだけのために、結希は自らへと掛かる負荷など気にせずにその力を行使したのだ。
その力の代償がどれ程のものなのかは住人達には分からない。結希も、わざわざとそれを教えるつもりなどない。だけれど、結希の身を蝕むように燃える炎が良いモノではないと住人達にも分かった。
「それは……」
「さあ、のんびりとお喋りなんてしてる場合じゃないですよ。ほら、あちらさんも覚悟を決めたようで」
住人の問い掛けを遮るように、結希は愛しの黒鉄にて戦場を指し示す。
そこには砲撃が一時的に止んだことにより、地雷原を越えて迫りくるモヒカン達の姿。その中には、先程と同じくロケットエンジンを点火せんとする者達の姿も見えていた。
確かに、のんびりと話をしている暇などはない。
「お先に失礼します」
「あ、おい……くそっ。砲撃をすぐに再開だ! 絶対に彼女へ当てるなよ!」
何か言いたげな住人を尻目に、結希はその緋色の翼で音を越える。
くべる、くべる、くべる。
「希望を結ぶ為の、私の想い」
想いを、未来を、その身の全てを。
燃ゆる緋色は結希という薪を糧に、純白のそれへと極限まで近付いていく。
ドンと空気の壁を突き抜けた衝撃が奔るが、それすらをも切り裂いて結希の姿は瞬く間にと最前線。
「こんにちは。それじゃあ……潰れて下さい」
返答など関係ない。そもそも、どんな返答があろうと聞いてなどいない。
速度のままに振りかぶられた漆黒の大剣。
今にも飛び立たんとしていた戦車に叩きつけられれば、その装甲などバターのようにひしゃげ、捩じ切られ、諸共にモヒカンも骸の海へ。
速度×総重量。その破壊力が如何ほどのものかをモヒカン達にその身でもって味わせるのだ。
「のこのこと一人で出てきやがっぶべぇ!?」
「お前も爆発に巻ぎゃああ!?」
流れるように二つ、三つ。
ロケットエンジンの誘爆に巻き込まれる心配をわざわざしてくれたようだが、そんなもの杞憂にしか過ぎない。
爆炎があがる頃には既に彼方、次なる獲物を空より見定めているのだから。
結希の強襲に、地雷原を抜けたばかりの戦車隊の隊列が千々と乱れる。
乱れ、混ざり、車列は前にも後にも引けぬ大渋滞。
そうなればどうなるか。
「撃て、撃て、撃てぇぇ!!」
決まっている。住居より飛来する砲弾の格好の餌食だ。
次々と装甲を砕かれ、足回りを奪われ、戦車を降りて逃亡を始める者達も出始める始末。
だが――。
「覚悟が決まってたのは、最初の奴らだけ?」
結希がそれを逃がしはしない。それを逃せば、モヒカン達はきっと再びとやってくるだろうから。
暗闇に逃げるを照らすは緋色の翼。空より獲物を見定めた彼女が再びと強襲し、悉くを討ち果たしていく。
「く、糞が……ッ! まだまだ数の上じゃ俺らの方がぁぁぁぁ!?」
「どうぞ、言っていて下さい。何度来ても止めてあげます」
――未来が過去に負けるわけないじゃろ?
爆炎の中に浮かびあがる緋色。未来と希望を結びつける絶対の意思が、そこには立ち塞がっていた。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
先の車を足として使わせてもらい、運転もそのまま青年に頼みたい
進む先は指示する、運転に専念して欲しい
包囲されにくいルートを選んで指示
行く手を阻む敵は優先して射撃で排除を試みる
距離を取りつつ敵の側面や背面への移動を頼み、一体ずつ撃破を狙う
攻撃方法は主に射撃、狙うのは装甲の隙間や砲塔内部だ
敵の数が多ければ銃座も使ってみる
ユーベルコードでの攻撃にも使用、銃座と拳銃両方を使い多くの敵を範囲攻撃に巻き込みたい
やたらと接近してくる敵が多い…自爆か、ある意味わかりやすい
近付かれなければ問題ない、青年には落ち着いて運転するように再度指示を
あんたの腕なら大丈夫だ
それに怪我をさせるつもりもない。その為に、俺達が居る
この戦場において、闇を見通すためのゴーグルなど必要ない。
防衛戦が始まってより、あちらこちらに松明代わりとでも言うかのようにモヒカン達の戦車が炎をあげて転がっている。
察するまでもない。それが誰の手によるものかなどは。
「どうやら、派手にやっているようだな」
他の猟兵達の手によって物言わぬ灯りとなった残骸をすり抜ける武装車が一台。
その銃座にて風に銀を靡かせるこそ、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)に他ならない。
夜風の冷たさと残火の熱が混じり合う風はどこか生暖かった。
「シキの旦那ぁ……こ、このままこっちでいいんすか?」
「ああ、問題ない」
その足元――車内より聞こえてくるは、この武装車を確保する上において協力を仰いだ青年だ。声色にどこか不安の色を宿して、シキの様子を窺うようにと。
だが、如何に不安がろうとも、この戦火の最中を走る車体の揺れが最小限に抑えられているのは彼が仕事を全うしている証である。
「で、これはどこへ向かってるんすか? 大きな火が上がったりしてるところから、離れてる感じっすけど」
「……聞きたいか?」
「……あ、なんか聞かない方が良さそうな予感」
「敵の横っ腹を食い破るんだ」
他の猟兵の手によって仕掛けられた地雷原や瓦礫の障害。それによってモヒカン共の足並みは大いに乱れている。
元より欲望のままに略奪を行わんとしている連中であればこそ、それを今更と正そうという意識などない。
数を頼みに、勢いを頼みに戦力を投入し続けている。
その結果として隊列が渋滞を起こし、細く、長くなってしまっているなどとは思いもしないままに。
晒された横っ腹。人間で言う所の最も弱い部分へ横撃を仕掛け、喰い荒らさんとシキは言うのである。
だからこそ、彼は敢えてと最初から最前線に出るではなく、敵との遭遇が少ない迂回路を取っていたのだ。
「――それと、こういうはぐれを処理するためでもある」
「ひぇ!? な、なんすか、急に!」
グリップへと伸ばす手すらも見せぬ抜き撃ちの妙。
火薬の弾ける音が響き、遅れてドサリと倒れる音。そこで初めて青年はシキが銃を放ったのだと気づく。
改めてと音の発した方を見てみれば、そこに倒れていたのはモヒカンの姿。戦車には乗っていない。恐らく、破壊されたそれを放棄し、代わりに自らの足で拠点まで襲撃を掛けようとしていたか。それとも、逃げようとしていたかであったのだろう。
恐らく、このモヒカンは前者。倒れ込んだ身体の横に転がる爆弾らしきの名残が戦火に照らされていた。
「いい運転技術だ。撃ちやすい」
「っす、あざっす。って、そうじゃなくてこいつは!?」
「戦車から這い出てきた生き残りだろう」
だろう。とは言うが、シキは予めとその存在を予測していたのだ。
だからこそ、はぐれの処理。という言葉であり、モヒカンの存在にいち早くと気付いての行動であった。
予測は確信に。
自爆かどうかはさておき、戦車を止めるだけではなくモヒカンもまた纏めて討つ必要がある。それを改めてと認識しつつ、シキ達は遂にと戦火の真っ只中へと到達するのだ。道中、数多のはぐれを処理しながらも。
「進め! 進めぇ!! あそこにはたんと食い物も、奴隷共もあるぞ!!」
「わざわざと貯め込んでくれてんだ。ありがたく頂かねぇとなぁ!」
突き進む軍勢――軍勢と言うには、あまりにも無秩序であるが――は、ただただ前へ前へ。
その目にはモヒカン達から見たお宝――住居しか映ってなどいない。
自分達が略奪者であり、住人達がその獲物。一度は退けられたという認識もなければ、その立場が逆転するという認識すらもありはしない。
だから――。
「狙うまでもない。隙だらけだ。装甲も、意識も」
シキからすればそんなものは止まって見えるただの的。
弾ける火薬の音はシキの愛銃一つだけではない。
銃座に固定されていた機関砲もまた、今はシキの手によってその咆哮を轟かせる。
それは狙い過たず、シキが脳内で描いた放物線の通りに宙を走り、戦車を、モヒカン達を自爆など許さずに撃ち抜いていくのだ。
「なっ、横からだとォ!? テメェら何してやがった!」
「馬鹿が! 気付かなかったのはテメェだろうが! 怒鳴ってんじゃげふぁ!?」
「くそっ、くそっ、血が、血が止まらねぇ!?」
伸びきった隊列への側面からの強襲。
それは見事と嵌り、他の猟兵達の強襲と合わさりってモヒカン共の群れを更なる混乱のただ中へと叩き落とす。
だが、それでもモヒカンの数が数だ。大地を揺るがす進軍を見せる程の数ともなれば、一度の掃射で片付けるのは流石に困難であろう。
辛うじて無傷を保ったモヒカンが狙いもつけず、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりに反撃の咆哮を轟かせる。
ばらまかれる砲撃の内の一つ、二つ、三つとがシキ達の周囲で弾けて土砂を巻き上げた。まだ直撃はない。
「ちょっ、数! 数!」
「問題ない。そこの遮蔽物へ滑り込め。それであいつらの照準から外れられる」
「つっても、ルート遮られてないっすか!?」
「落ち着け、あんたの腕なら大丈夫だ。それに……これから抉じ開ける」
ぱらぱらと降り注ぐ雨代わりを浴びながら、武装車は猛然と戦場を駆け抜ける。遮蔽物――かつてのヒトの生活の痕跡。一面だけ残された住居の壁。そこへ目掛けて。
だが、その目前には同じくと逃げ込まんとしていたモヒカン達の戦車が一台。
このままでは激突するか。はたまた――。
「安心しろ。あんたにも、住人達にも、これ以上の怪我人を出させるつもりはない」
その為に、俺達が居る。
――いや、激突の未来があり得よう筈もない。
シキの鋭利な青が戦車を睨み、その両の手にて支えるは愛銃の重さ。
足から伝わる振動は最小限にして、高速で走る中でもシキの狙いを妨げない。
――十分だ。
衝撃が複数回手に返り、弾丸の放たれるを報せる。
その弾丸は吸い込まれるようにして戦車の燃料タンクを、砲塔の内部を食い荒らす。
それは即座にそこへ納められているものと反応し合い、シキ達の武装車が接触するより早く、爆炎の華を咲かせるのであった。
そして、戦場の風に吹き散らされる爆炎を突っ切り、武装車は無事にと遮蔽物の影へと。吹き荒れる無秩序な砲撃を凌ぎ切る。
「す、すげぇ……俺、無事っすよ。死ぬかと思ったのに、無事なんすよ」
「そうか。だが、まだもう暫くは……」
「うっす! 地獄の底まで付き合うっすよ!」
「……そうか。だが、あんたを地獄の底まで案内する気はないがな」
再びと武装車が遮蔽物の影から躍り出て、戦場を駆け抜けていく。鉄屑と屍の山を築き上げながら。
地獄の底などではない。目指すべき明日へと辿り着くために。
また幾つもの銃声が轟いた。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
罠で足を奪われた敵は住人達のみで対処出来るでしょう
つまり…
防衛線を越え、なお意気軒高のようですね
これ以上の侵入は阻ませて頂きます
UCで持ち込みたるは熱と音と光出ぬ故に特殊部隊で運用される戦機用の剛弓構え
手綱代わりのワイヤーで自在に●ハッキング操縦する機械馬に●騎乗、戦場を駆け砲火を躱し
戦車で守りが一番硬いのが正面装甲
故に…真っ向から撃ち抜きましょうか
●怪力で引き絞った特殊合金の矢で機関部から弾薬庫まで貫き爆破
見せつけるような一射で威圧
狼狽する敵部隊へ連射を重視した●乱れ撃ち
車輪や砲座を狙い戦闘力奪い
万全な敵は私が引き受けます
皆様は遠距離より止めを!
重装弓騎兵の機動力と破壊力で敵を追い散らし
猟兵達と住人による抵抗は続く。
黄昏に染まっていた荒野も、いつのまにやら夜の帳。
だが、その色が黒に染まったかと言えばそうではない。
まるで夕刻の太陽がそこに在り続けるかのように、黒を押し返すは戦火の灯り。
そして、地雷の華咲く戦火のただ中、白銀の主従もまた今は炎の照り返しを受けてその色に染まる。
「防衛線を越え、なお意気軒高のようですね」
今はロシナンテに騎乗するトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)が先立って仕掛けた地雷と瓦礫の防衛線。それは確かに正しくと効果を発揮している。
それがあればこそ、他の猟兵達による隘路を抜けた瞬間の強襲や砲撃、間延びした隊列への横撃がより効果を発揮していたのだから。
だが、如何に地雷や瓦礫による防衛線もいつまでも濁流を押し留められる訳ではない。
設置した地雷には限りがあるし、瓦礫もまたモヒカン達の突撃により破砕され、少しずつと道を広げつつあったのだ。
地雷原を抜け、迫りくるモヒカン達の数が明らかにとその数を増しつつあるのが何よりの証拠であった。
「――ですが、これ以上の侵入は阻ませて頂きます」
だが、だからといってそれを傍観などしているつもりはトリテレイアにも毛頭ない。
この地に“明日”を届ける。
それはトリテレイア自身が誓ったことでもあるが故に。
手にした弓に矢を番え、ギリと引き絞る音は静か。
それは常人であれば引くことすら儘ならないであろう剛弓。だが、トリテレイアの怪力であれば容易くと。
「戦車で守りが一番硬いのが正面装甲」
斜線や曲線を描くそこは銃弾を受け、逸らす。時には砲弾ですら。ならば、狙うのはやはり側面か。
――否。
「故に……真っ向から撃ち抜きましょうか」
敵が最も自信を持つであろう場所だからこそ、それを貫かんとするのだ。
張力の限界までに引き絞られた弓が解き放たれ、反動により矢が迸る。
それは今まさに地雷原を抜け、爆炎と煙の幕の向こうから現れた戦車へと突き刺さる。
「なん、じゃ……こりゃぁ」
「あ、相棒? なんだって俺の前に首だけで……」
いや、突き抜けるという方が正しいか。
装甲の向こう側にあった筈のモヒカンすらをも貫き飛ばし、その奥にある機関部や砲弾をすら射抜いていたのだから。
その光景は装甲が邪魔してトリテレイアからは見えないけれど、それでも確かな手応えが彼にはあった。
それを証明するように防衛線を貫いてきた戦車はその速度をゆるゆると落とし、停止し、後続をすら巻き込んでまた一つと爆炎を咲かせたのだから。
これがトリテレイアの携帯する砲火であれば、その火薬の光へと向けて反撃なりが来ていたことだろう。だが、弓矢を用いた最大の利点――熱も、音も、光も発さぬが故の隠密性がここで最大限に活かされる。
モヒカン達はどこからその狙撃が飛んできたか分からぬまま、次は自分の番ではないのかと浮足立ってしまったのだ。
眼に見えて戦車隊の動きが鈍くなる。
そうなってしまえば、七面鳥撃ちの結末しかないというのに。
――空気を裂いて、砲弾が赤々と飛ぶ。
トリテレイアのものか? 否。それは住人達の手によるもの。
弾のありったけとでも言わんばかりに飛来して、動きの鈍った戦車を喰らっていく。
「指示の必要など、ないようですね」
開戦してよりトリテレイアの地雷原で足の鈍った敵を討ってきたのだ。今回の機を逃す筈などなかったのである。
だが、モヒカン達とていつまでも的のままではなかった。
進むも退くも出来ぬであれば、死兵となるしか生き延びる方法がないために。
砲撃に撒かれながら戦車の砲が居住地を睨み、そして――。
「申し訳ありませんが、この戦いを勝利に導くと誓った以上それをさせる訳にはいきませんので」
側面から突き立った矢が砲塔を射止め、吐き出しきれなかった砲弾がその場で爆発を起こす。
誰だなどとはモヒカン達も言えない。その結末は先程にも見たものだから。
先程には聞こえなかった蹄の音がモヒカン達の耳へと届く。そこに、彼らは自らの目を疑うものを見た。
「う、うまぁ!?」
「糞っ! 俺ぁ夢でも見てんのか!? この戦場で騎士なんざ見るだなんてよぉ!?」
「あいつだ! あいつが俺らをっぎゃあ!?」
「御安心を。あなた方が見ているものは夢でもなければ御伽噺の一幕でもなく、どこまでいこうともただの現実です」
戦場を駆けるは鋼鉄の主従。
先の一射が見せつけるものだとするならば、此度の連射は効果を第一としての。
矢が車輪を砕き、矢が銃眼の先を射抜き、矢が、矢が、矢が――。
放たれる合金の矢はただしく雨となり、風となり、四方八方より戦車隊を穿つ。
ようようとトリテレイアの姿を認識したモヒカン達がその身に砲火を浴びせんと砲の向きを住居より変えるが、時に車体の死角に、時に遮蔽物の影にとその動きは影も踏ませぬ。
それは馬という形を取るロシナンテであればこその小回り。戦車という態を取るモヒカン達の機体には決して真似出来ぬ。
そして、トリテレイアに気を取られれば再びと住居からの砲撃が火を噴き、動きを止めた戦車をその餌食と変えていく。
最早、モヒカン達にはトリテレイアの矢により倒れるか。それとも、住人の砲撃に討たれるか。それを選ぶ自由しか残されていなかったのである。
夜の黒を染める赤は未だ収まりを見そうにはない。
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
最後の治療を施し、天幕を出る
屋上から見渡せば、眼下に広がる賊徒の群れ
慄く住人たちを【鼓舞】する
大丈夫です、私たちは――必ず勝ちます
白き翼の姿に変身
飛翔し、吶喊(空中戦)
羽搏きと共に炎の魔力を放出し、加速
纏う炎は敵を焼く武器であり、同時に身を守る鎧でもある(属性攻撃・オーラ防御)
奪うことしか知らぬ賊徒どもが
人々の営みを、明日を、奪わせはしない!
灼熱の流星が如き突撃で、激突すれば粉砕し、掠めれば戦車ごと【吹き飛ばす】
不発弾が熱と【衝撃波】で起爆しようと、その頃にはとっくに爆破圏内から離脱している
縦横無尽に飛び回り、鎧袖一触【蹂躙】する
我が両翼に宿る炎こそ、虐げられし者たちの怒りと識れ!
住居全体が振動に震える。
近くに弾が落ちたのだろうか。それとも、他の猟兵達が大暴れしているのだろうか。はたまた、その両方か。
「これでもう問題はありません。他に急を要する方は!」
「いえ、その方でひとまずです!」
「では、救護所への運び出しを急いで! そこで本格的な治療を!」
戦いが始まって、もう随分と経つ。
猟兵達の活躍により、住人や住居への被害は驚く程に少ない。
だが、皆無と言えないのは致し方のない事だろう。
住居の四方を囲む戦車からの砲撃が幾つか住居の防壁に着弾し、怪我を負う者も僅かにと。
だからこそ、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は討って出るではなく、今はまだその力で砲台の役割を果たすと共に、住居を駆けまわり、救急隊の要員としても動いていたのだ。
怪我人が瓦礫に埋もれるより早くと助け、動けぬ者には応急処置を施し退避への援護を行う。
彼女の奮戦もまた確かに住人達の命を繋いでいた。
ひゅるりと戦火に熱せられた風が銀糸を揺らす。
防壁を失って風通しのよくなったそこからは、戦場の様子がよく見て取れた。
巻き上がる爆炎。紅に染まる戦場を駆けまわり、戦車隊を押し留める猟兵の姿。しかし、戦車の輪が少しずつ、少しずつと狭まってきてもいる光景。
「……私達、勝てますか?」
不意に漏れ聞こえた言葉は、同じくと救護要員として駆けまわっていた住人の不安そのもの。
ならば――。
「不安なのですね。大丈夫です、私たちは――」
その不安を払拭するは己が役目。
ばさりと何かの広がる音に住人の一人が視線を向け直せば、そこに在るは純白と黄金の輝き。
「……天使」
「――必ず勝ちます」
救護要員として住人達を見守っていたが、もうそれも終わり。
オリヴィアもまた狭まる戦車の輪を崩す一手となるべく、その翼を羽ばたかせるのだ。
――輝きは流星となって戦場へとその身を運ぶ。
受け取った怒りがあった。受け取った慟哭があった。受け取った魂があった。
彼らの願いを一身にと背負い、叶えるために。
「奪うことしか知らぬ賊徒どもが! 人々の営みを、明日を、奪わせはしない! その身を僅かでも省みる心があるのなら、その肥大した欲望を手放しなさい!」
空よりの大音声は天の怒りそのもの。
戦車の進撃の音すらも呑み込むようにビリビリと大気を震わせれば、モヒカン達の意識がオリヴィアへと向かう。
「翼を持った人間だなんざ、奴らいいもん隠し持ってたじゃねぇか!」
「撃ち落として捕まえればいい奴隷になりそうだ!」
「狙え、狙え!! オンボロ住居なんざ後でも落とせる! あれを狙え!」
この戦線においてはまだ他の猟兵の手が回っていないからこその、自らが略奪者であると信じて疑わぬ傲慢。
自分達が奪われる側に立つなどと、彼らはその時が来るまで塵とも思わぬのだ。
戦車の砲が重たく動き、空にて留まるオリヴィアを指し示した。
「撃てぇ!!」
一斉に砲が火を噴いて、地を睥睨するオリヴィアへとモヒカン達の悪意が殺到する。
だが、オリヴィアはそれを躱すような素振りすら見せない。
やはり言葉ばかりかとモヒカン達がその後の手柄に顔を醜悪に歪め――。
「……救いようがないとしか言えませんね」
――顔は笑みではなく、驚愕にて歪む。
オリヴィアが身にて纏う黄金なる輝きは不滅の炎。邪悪を焼き尽くす聖炎。
翼を広げてはばたき、宙を舞うように炎を吹き散らせば、迫る悪意は炎に呑み込まれて悉くと消え果る。
名残の火の粉が消えたそこには傷などあろう筈もない、五体満足のオリヴィアの姿。
「あなた達は今、自らと天への扉を閉ざした。ならば、その身を劫火で焼かれるが相応しい」
だが、オリヴィアの炎舞は迫る悪意を呑み込むだけでは終わらない。
くるりと舞った勢いのまま、彼女は宙を大地の如くと蹴る。
加速は一瞬。
再びの流星となったオリヴィアが大地を舐めるように滑空すれば、彼女の前に立ち塞がる全てが砕かれ、吹き飛ばされ、空へと巻き上がる。
「我が両翼に宿る炎こそ、虐げられし者たちの怒りと識れ!」
「じょ、冗談だろ!? 人間と戦車だぞ!? どんだけ質量差がぁぁぁぁぁ!?」
オリヴィアはその身そのものを砲弾と変えて、戦場を正しくと蹂躙するのだ。その様はまさしく鎧袖一触。
ただでさえ一斉砲火を凌がれて驚愕に固まるモヒカン達を更なる衝撃で叩きのめすには十分な光景。そして、彼方の住居でその様を見ていた住人達が喝采を挙げるに十分な。
そして、オリヴィアの纏う炎の熱に反応したのだろう。宙へと舞い上げられた戦車に残された弾薬が火を噴き、空へ炎の華を咲かせる。
「主の御心のように遍くを照らすとはいきませんが……少しは、希望を照らし出せたでしょうか?」
ばらりばらりと残骸の雨が降る中、地を舐めた炎の輝きが再びと空へ昇る。
それはまだ来たらぬ日の代わりとばかりに、宵闇の戦場を照らすのであった。
成功
🔵🔵🔴
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン…聞くに堪えん戯言だな
今までは奪う側だったろうが…今日で奪われる側になったと、思い知らせてやろう
遠距離から装備銃器による一斉射撃と念動力で操作したオーヴァル・レイの粒子ビーム砲の乱れ撃ちによる制圧射撃で敵の先頭を止める
敵車両ではなく、剥き出しの搭乗員を狙って狙撃する事で居住地に近づかれる前に行動不能にしてやろう
来るか、丁度良いな
踊り狂うがいい…お前達の断末魔を舞曲としてな
敵がUCを仕掛けてきたらこちらもUCを発動
複数の戦車本体に操り糸を打ち込んで、敵部隊を襲うように操る
操作の制限時間が切れそうな戦車から順次敵を巻き込むように自爆させ、新しい戦車へと操り糸を打ち込んでいく
私はこのままこいつらを片付けていく!
後ろは君達に任せたぞ!
近づいてくる敵は宙を飛ぶオーヴァル・レイのビーム砲とデゼス・ポアの刃
そして、背後で待機してくれていた住人達に任せよう
彼らが後ろを守ってくれるなら、これほど心強い物は無いな
奪い続けた報いを受けろ
二度と日が昇る事の無い骸の海が、お前達に相応しい場所だ
奪え、壊せ、殺せ。
略奪の声は未だと鳴りやまない。
他の猟兵達と共に、住人と共にとキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)も戦場を駆け抜け続け、随分と敵の数を減らしてきた。
だが、それでも響き続けるその声の多さには些かと頭も痛くなろうというもの。
「フン……聞くに堪えん戯言だな。少しは実のある事でも言えばいいだろうに」
モヒカンがその数を減らされることと同じように、その侵攻を始めてもう随分と経つ。
だと言うのに、未だ住居を落し切れていないという事実を彼らはどう受け止めているのだろうか。
「……いや、それが出来ないからこそのモヒカン共だったな。湧いて出てくるのは一緒でも、まだ虫の方が役に立つ」
思考のトレースは無駄だと打ち切り、キリカはもう幾度目かとなる砲撃を行う。
自動小銃や機関銃から、浮遊砲台から、数多と火線が奔り、今まさに防衛線から這い出ようとしていた戦車の群れを薙ぎ払う。
ガソリンか弾薬かに引火したのだろう。爆炎が後続の戦車をすら呑み込んで、巻き上げて、空にその車体を舞わせていた。
「糞っ! 盾がやられやがった!」
「あっちだ! あっちから今のは飛んできたぞ!」
「いや、違ぇって! 建物からじゃねぇ! 瓦礫の山の方から……!」
喧々囂々。
纏まりを欠くモヒカン達だからこそ、その混乱がキリカの耳にも届くかのよう。
「なんとも余裕なものだな」
それに冷笑の一つも零せば、再びと火線が戦車の群れを薙ぐ。
モヒカン達は仲間と揉めるよりも、真っ先にそこを逃げるなりするべきであったのだ。
二度目の爆発が巻き起こり、キリカのある防衛線はその護りが強固なものであると示す。
「だが、こいつらに頭はないのか? 愚連隊のようなものと言っても、指図する奴ぐらい居るだろう」
確かに数は力であり、住居の四方を囲めるだけのそれは脅威だ。
だが、ただただその数を頼みに攻め来るだけでは、住人にとってはまだしも、猟兵にとっては大した脅威になり得ない。
もし指揮官があるのなら、それは無能の誹りを受けるべきだろう。
いや、一度目の襲撃では住居に猟兵はいなかったのだ。猟兵の存在という情報を知らぬままであれば、これも起こり得ることなのか。
ならば、ならば猟兵という存在を指揮官が知ったのであれば――。
「逃亡による立て直しを図る、か?」
モヒカン共の思考をトレースすることは諦めたが、戦術の意図を探り続けることは止めない。そして、その明晰な頭脳が弾き出した答えはこの状況にしっくりくる。
広い戦場を睥睨するキリカの視点がある箇所で止まった。
そこには――。
「CHQ。CHQ、聞こえるか?」
「……えます。はい、こちら聞こえています。どうかしましたか?」
「本隊らしきを見つけた。これよりあいつらを片付けにいく。後ろは君達に任せたぞ!」
――明けの空が近付きつつある山裾。進軍し続ける戦車隊とは明らかに向かう先の異なる戦車の幾台か。
浮かべていたキリカの冷笑は鋭利な刃の如くとなり、彼女が獲物を見定めた瞬間であった。
住居からの応答を待つより早く、キリカは戦場を駆ける。防衛線を維持するためではなく、包囲を食い破るために。
これまで砲撃で、銃撃で共に戦いを続けてくれていた彼らだ。その動きを見ればキリカの意図を汲んでくれることだろう。
そして、その信頼へと応えるかのように、彼らはモヒカン達を追い払うための砲撃ではなく、キリカの進路を切り拓くための砲撃を行い始めるのだ。
「了解はしましたが、もう少し準備を待ってくれると嬉しかったですね!」
「はは、君達なら対応できると思ってな。それに、実際対応してくれている」
「当然ですよ! ここで応えなくて、いつあなた達に恩を返すってんですか。この時でさえ、まだ高く積み上がってるってんですから」
「なに、利子のつくものではない。ここで生きて、ゆっくり返してくれればいいさ」
集中的に行われる砲撃が戦車隊を、瓦礫の山を吹き飛ばし、戦場に一筋の花道を生み出す。
そこを駆け抜けるはキリカであり、彼女もまた己の浮遊砲台で、絶望を抱く自動人形で、道を広げていく。
「なんだってコイツら、急に俺達ばっかりぎゃああ!?」
「く、来るんじゃねぇ! 獲物なら獲物らしく、あそこで待ってがぁぁ」
奪う側のままであれば強気なモヒカン達も、一転して攻められればその脆さを露呈する。
戦車の砲を動かすまでもなく錆びた刃に貫かれ、砲撃に吹き飛ばされ、次々と倒れていく。
「糞っ、糞っ、なら死なば諸共だ!!」
「ふん。多少は覚悟の決まっている者もいたか。だが、丁度良い。利用させてもらう」
「……えっ、なんで爆発しな――」
「ばっ、馬鹿野郎! 俺達の方に来てんじゃ……あぁぁぁぁ!?」
不発弾という自爆装置を無理矢理に起動し、キリカを巻き込まんとしていたモヒカン。だが、それはその意図を成すよりも早く、彼女の指先に絡めとられたのだ。
戦車の装甲の隙間。そこから入り込み、モヒカンの一人に突き刺さったは操り人形の糸。
ヒトすらをも操るそれはキリカの意思に反すれば激痛を齎す。
強靭な精神があれば苦痛に耐えて反抗することも出来るのだろうけれど、そんなものがモヒカン達に在ろう筈もない。
「踊り狂うがいい……お前達の断末魔を舞曲としてな」
だから、結末は一つ。
モヒカン達は自らの手でもって、自分達の首を絞め続けるのみ。
自爆の焔が仲間だった筈の戦車を巻き込んで、また新たな犠牲者がそれを繰り返す。
そして――。
「さて、どこへ行くつもりか教えてもらおうか?」
――包囲網を抜け出したキリカは遂にと辿り着くのだ。戦場から抜け出さんとしていた戦車へと。
「な、何故――」
「何故ここに、なんてつまらない事を言ってくれるなよ?」
「っ!! 頼む、見逃してくれ!」
「いっそ潔いな」
「だろう!? な、頼むよ!」
プライドも何もないかのように、モヒカン――この群れる世紀末の本体にして、勝虎魅のトップたる存在は、戦車から飛び降りて頭を地面に擦りつける。猟兵を前とすれば、木っ端たる自らでは抵抗が無意味と知っているから。
「今までは奪う側だっただろうが……今回で奪われる側の気持ちを少しは思い知ったか?」
「も、勿論だ! もう、こんなことはしねぇよ! なんなら、俺らが奪って……違う、貰ってきたもんを全部差し出したっていい!」
「はは、そうか」
「へへ」
口元に弧を描いて声をあげたキリカに、交渉は上手くいったかとモヒカンもまた頭を地面に擦りつけたまま愛想笑いを浮かべる。
だが、だからこそモヒカンは気付かない、気付けない。その声を聞いただけで、キリカの顔を見ていないから。キリカのその笑みは許しの笑いなどではなく、その愚かさを嗤っているのだと。
「お前達に相応しい場所は、二度と日が昇る事のない骸の海だ」
モヒカンの後頭部へ、何度も火を噴いて熱されてきた銃口が押し付けられる。
じゅわりと皮膚の焼ける音と苦悶が響くが、押し付けられた銃口がモヒカンに頭を持ち上げることもそれから逃げることも許さない。
「――奪い続けた報いを受けろ」
やめろ。だとか、呪ってやる。だとかの声も聞こえるが、そんなものは意にも介せずキリカは引き金を引く。
響いたのは、パン。とたった一つの音。それだけで辺りは静けさを取り戻す。
「全くもって、最初から最後まで聞くに堪えん戯言ばかりだったな」
モヒカンの姿が骸の海へと還っていく。それに合わせて、彼方では侵攻を続けていた戦車隊が動きを止めていく姿が見える。
「CHQ、聞こえているな? 終わったぞ」
「はい、こちらでも戦車隊の侵攻が止まったのを確認しています! 私達の、私達の……うぅ」
「ああ、私達の勝利だ」
途中で歓喜に喉を詰まらせた住人の代わり、キリカが勝利を告げる。
それを待っていたかのように、通信の向こう側で歓喜の声が爆発しているのをキリカの耳は確かに捉えていた。
「やはり、聞くのならこういった声の方が余程いい」
冷笑でも嗤いでもない、小さな微笑みを浮かべるキリカの姿。それを山影から顔を覗かせ始めた太陽が少しずつ照らし出していた。
失われる筈であった住人達の今日は、猟兵達の手によって確かに守られたのである。
大成功
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