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毒花に微睡むは人と神

#ダークセイヴァー #第五の貴族

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「喜び、怒り、哀しみ、楽しみ……」

 夥しい数の血と死骸に満たされ、悪臭を薔薇の香りで押し隠した『紋章の祭壇』にて。
 1人の女吸血鬼が、数え切れぬほどの命を代価に、新たな紋章の創造に着手していた。

「これまで色んな人間の感情を見てきたけれど、やはり一番強くて美しいものはコレね」

 弱き体に強い感情を秘めた人間共を素体に、狩り集めた神々の成れ果てを混ぜ込んで。
 闇の中で行われる悍ましい儀式のすえ、完成した"それ"を手にとって、彼女はうっとりと笑みを浮かべた。

「『絶望』……この力があれば、この世からあの忌々しい神々を根絶やしにできる」

 鈍く暗い色に輝くその『紋章』を、彼女は自身の胸元にブローチのように身に着ける。
 すると、ただでさえ強大だった存在感はさらに増し、威圧的なオーラが解き放たれる。これぞ『第五の貴族』がこの世界を影から支配する力、『紋章』の力だ。

「弱くて愚かな人間も、意外と役に立つものね……我らヴァンパイアによる完全なる世界の礎となれて、きっと本望でしょう?」

 酷薄かつ残酷に、その女吸血鬼――完全なる世界を望むもの、シシリーは笑う。
 彼女の邪なる歓びを祝福するかのように、辺りは芳しい花の香気で満たされる。
 全ての異端の神々をこの世から滅ぼす、壮大な計画はゆっくりと進み始めていた。


「新たな『紋章の祭壇』を発見しました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「紋章の祭壇とはダークセイヴァーを支配する『第五の貴族』が、その支配力の源である『紋章』を生産するための生体実験室です」
 宿主に莫大な力を与える寄生型オブリビオンである『紋章』は、大量の人族奴隷や下級オブリビオンの生贄を素体に造られている。この施設を放置すればヴァンパイアの戦力が増強されていくだけでなく、おびただしい数の命が犠牲にされ続けることになる。

「今回発見された『紋章の祭壇』を管理している者の名はシシリー。異端の神々に強い敵意を抱き、彼らを滅ぼしてこの世を完全なる吸血鬼の世界にせんと企む第五の貴族です」
 彼女は神々を誘きだすための餌として人間を利用することがあり、また人間の持つ感情の強さに興味を持っている。人間を生贄にして『紋章』を作り出すのも、彼女にとっては神を殺すための企みの一部なのかもしれない。
「異端の神々は人類にとっても脅威ですが、だからといって彼女が望む『完全なる世界』には人間の居場所もないことは明らかでしょう」
 ヴァンパイアの理想世界を創造せんとするシシリーの野望をこのまま放置していれば、どれだけの人間が犠牲になるか分からない。紋章の祭壇の破壊は早急に行うべきだろう。

「シシリーが住まう地底都市の屋敷は、敷地内に広大な花畑があります。『紋章の祭壇』はこの奥に隠されているようですが、侵入する際には注意が必要です」
 何故ならば、ここに咲いている花は見た目こそ美しいものの、人にとって有害な神経毒を含んでいる。常人なら触れたり香りを嗅ぐだけでも昏睡状態に陥るほどの強力な毒で、たとえ猟兵でも何の対策もなしに立ち入るのは勧められない。
「シシリーはこの花を使って、紋章の素材にする人間を集めてもいたようです」
 いわば彼女の邪悪な企みの中心地とも言える。危険だが、避けて通ることもできない。
 毒花の中を素早く突っ切るか、何か対策を講じるか――あるいは刈り取ってしまってもいい。毒花の花畑を突破して『紋章の祭壇』に辿りつくことさえできれば。

「『紋章の祭壇』の周辺には、生贄として拐われてきた人間達の他に、これまでシシリーが狩り集めた異端の神々がいます」
 ここにいる神々はとあるオブリビオンに頭と片翼を喰われ、全盛期からは見る影もないほど弱体化している。シシリーの手でまだ生かされているのはもちろん素材にする為で、人間と神々をミックスすることで彼女はより強力な紋章を作り出そうとしているのだ。
「すでに半ば紋章に"なりかけ"の神々は、誰かが近付いてくると無差別に襲ってきます。弱体化したとはいえ元は神なだけはあり、油断ならない力を持っているようです」
 新たな紋章を作らせないためにも見逃す訳にはいかないが、祭壇の近くにはまだ生贄にされる前の生存者もいる。毒花の影響で昏睡状態にある彼らを戦いに巻き込まないよう、気をつける必要があるだろう。

「そして祭壇の近くで騒ぎが起きれば、シシリーも異変に気付くはずです」
 異端の神々を滅ぼすために、人間を利用する第五の貴族。その壮大な企みに見合うだけの実力を持った彼女は、これまでの実験により作り上げた特別な『紋章』を宿している。
「彼女が装備しているのは『絶望の紋章』。その効果は『近付く者から抵抗力を奪う』というものです。紋章の持ち主に近付くほど、脱力や虚無感といった症状が出るようです」
 その紋章に籠められた数え切れないほどの人々の絶望が、あらゆる抵抗の意志を奪う。人間の感情を調査してきたシシリーらしい紋章と言えるだろう。まともに戦おうとすれば猟兵達でも際限なき絶望の塊に呑まれてしまいかねない。
「対策としてはなるべく距離を取って戦うか、絶望と相反する感情……つまりは『希望』を抱くことが重要になります。絶望の紋章は確かに強力ですが、無敵ではありません」
 この世界と人々の未来を守らんとする希望こそが、絶望を打ち破る最大の力となる。
 希望を捨てずに立ち向かえば、強大な第五の貴族にも必ず勝てるはずだ。それは今までの猟兵達の戦いが証明している。

「最終的にシシリーを倒し、『紋章の祭壇』を破壊すれば作戦は成功です。難易度の高い依頼となりますが、皆様ならきっと成し遂げられると信じています」
 祭壇の破壊により紋章の製造量が減少すれば、吸血鬼の支配はまた揺らぐことだろう。
 説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべると、毒の花畑への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、第五の貴族が『紋章』を生産するための実験室「紋章の祭壇」を破壊するのが目的です。

 1章は敵の屋敷にある花畑に潜入し、『紋章の祭壇』を捜索します。
 ここに咲いている花は全て毒草であり、触れたり香りを嗅ぐだけでも人を昏睡させる強力な毒を含んでいます。対策がなければ猟兵でも眠ってしまいますので、何かしらの手を打って突破してください。

 2章は祭壇付近にいる『喰われた神々』との集団戦です。
 肉体の一部を喰われて大幅に弱体化していますが、まだ力はそこそこあります。
 また、祭壇付近には生贄にされる寸前の人々がいますが、花の毒で昏睡しているため、彼らは自力で逃げることはできません。犠牲者を出さないためには気にかけておいたほうが良いでしょう。

 3章は第五の貴族である『シシリー』との決戦です。
 彼女が装備する紋章の効果・弱点についてはオープニングをご確認ください。絶望を利用するだけでなく、彼女自身も強力なヴァンパイアです。どうか全力で挑んでいただければ幸いです。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『まどろみの花畑』

POW   :    息を止めて突っ切る

SPD   :    素早く走り抜ける

WIZ   :    対策を取って切り抜ける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

岩倉・鈴音
吸血鬼とはまた陰気くさい古くさい連中だね。絶望だの生け贄だのと。
なんか最新鋭たるサイボーグの力、試してみたくなるねぇ。

毒耐性でしのぎながら祭壇にたどり着いてみせるよ。
それだけでは心もとないか。
天候操作で強風を起こし、匂いを自分が吸わないようにする。
祭壇が見えないときはジャンプしてみたり空飛んで方向を確認するよ。邪魔なものがあれば地形破壊して進む!

苦しくなったら心霊手術だ。
とにかくたどり着く。
吸血鬼などというものに引導を渡したいんだよね。
いまは科学と合理が支配しているのですよ。



「吸血鬼とはまた陰気くさい古くさい連中だね。絶望だの生け贄だのと」
 宇宙を渡り歩いて銀河の敵に立ち向かってきた岩倉・鈴音(JKハングマン・f09514)にとって、闇を支配する吸血鬼とはまさに物語の存在だった。だが太陽や星の光も届かぬ地の底で、密かに悪事を企む輩がいると聞いては放っておけない。
「なんか最新鋭たるサイボーグの力、試してみたくなるねぇ」
 目的地となる『紋章の祭壇』までの道程を阻むのは、地底に咲く美しくも怪しい花畑。
 生き物を昏睡させる危険な香りに満ちたその場所へと、彼女は颯爽と足を踏み入れた。

「毒耐性だけだと心もとないか」
 機械化された鈴音の身体には、体内に入り込んだ毒素を中和する機能も備わっている。
 だが、それだけではヴァンパイアの罠である未知の神経毒まで対処できる保障はない。そこで彼女は「禁断の魔筆」を手に取って、筆先をすっと虚空に滑らせる。
「風よ吹け、毒を吹き飛ばせ」
 宇宙の摂理さえ書き換えることができると噂される禁断の筆が、閉塞された地底世界に強風を呼び寄せた。それは毒の香りから鈴音を守る大気のヴェールとなり、危険な花びらを吹き散らしていく。

「ここからじゃまだ祭壇の場所は見えないかな」
 周囲の安全を確保した鈴音は、ぐっと膝を曲げて力を溜めたかと思うと、勢いよく真上にジャンプした。地上から目的地が見えないのなら、上から見渡せばいいという考えだ。
「うーん、あそこかな」
 サイバーアイの視覚補助機能をオンにすると、一面に広がる花畑の向こうに人工物らしきものの影が見えた。そこまでの距離と方向を確認すると、着地した彼女はそこに向けてまっすぐ進んでいく。途中にある邪魔なものは全て破壊するつもりのようだ。

「こんなのでサイボーグを止められると思ったのかな」
 機械化された少女の振るう剣が毒の花を切り払い、色とりどりの花びらがぱっと散る。
 地面ごと根こそぎ抉るような太刀筋。速度を重視した豪快な突破方法だが、引き換えに鈴音も多少の毒を受けてしまうのは避けられない。
「撫でて回復~♪」
 息が苦しくなる等の症状が出てきたら、すかさず禁断の魔筆で自分の身体をひと撫で。
 摂理の書き換えによる【心霊手術】が毒を治し、さらに肉体改造によって頑健な体へと一時的に作り変える。毒などという陰湿な罠で、彼女が膝を屈することはない。

「吸血鬼などというものに引導を渡したいんだよね。いまは科学と合理が支配しているのですよ」
 とにかく『紋章の祭壇』にたどり着く事を最優先にして、猛毒の花畑を突っ切る鈴音。
 こんな暗い場所で驕り高ぶっている時代遅れの連中をぶちのめせれば、さぞかし気分は良いだろう。鋼の身体に流れる咎人殺しの血が、灼熱のように滾っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
陽の光なきこの世界で咲き誇る毒花
いったい何を糧にしているのか……

【トリニティ・エンハンス】で全身に風の魔力を纏う
周囲の大気の流れを支配し、匂いも花粉もシャットアウト(吹き飛ばし)
元より【毒耐性】【環境耐性】はあるが、念には念を入れて、簡易救急セットから薬剤を染み込ませた布を取り出し、鼻と口を覆って防毒(医術)
毒の種類が分かれば、囚われた方々を治療するのに役立ちそうですが……

花畑を越えれば、振り返り、風の魔力に炎の魔力を混ぜ合わせ、聖槍から解放
炎の渦で焼き払う(属性攻撃・焼却)
敵の地の利はあらかじめ破壊しておきましょう



「陽の光なきこの世界で咲き誇る毒花。いったい何を糧にしているのか……」
 目の前に広がる一面の花畑を見て、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)はぽつりと呟く。本来なら植物とは日光を浴びて育つもの、その摂理を無視して咲く花々には、毒性を含めて不気味なものを感じさせる。
「ともかく、先ずは祭壇の元まで辿り着きましょう」
 数多の生贄から紋章を生む、悍ましき『祭壇』に至るにはここを通る以外に道はない。
 目的を果たす前に自分まで毒にやられてしまわぬよう、彼女は万全の備えをして挑む。

「元より毒や環境への耐性はありますが、念には念を入れて……」
 オリヴィアはショルダーバックに入った「簡易救急セット」の中から薬剤を染み込ませた布を取り出し、鼻と口を覆って防毒マスクにする。さらに【トリニティ・エンハンス】を発動することで、風の魔力を全身に纏った。
「これで良し。行きましょう」
 準備万端で花畑に足を踏み入れると、むせ返りそうなくらい充満した甘い香りが漂ってくる。だがユーベルコードによって周囲の大気の流れを支配した彼女は、清浄な空気の層で身を包み、毒を媒介する匂いも花粉も完全にシャットアウトしていた。

「どうやら問題は無さそうですね」
 人間を昏倒させるほど強力な神経毒も、そもそも吸い込まないようにすれば問題ない。
 風とマスクの二重の守りによって毒を攻略したオリヴィアは、足元に咲く花々を踏まないように気をつけながら先に進む。
「毒の種類が分かれば、囚われた方々を治療するのに役立ちそうですが……」
 過去の記憶や知識と照らし合わせても、こんな花は見たことがない。この世界の地上や地下だけでなく、異世界の植物を含めてもだ。闇の中で花開くその生態といい、恐らくは真っ当な生き物ではない――この世の自然法則から外れた存在だ。

「この地の吸血鬼は、人の感情や神の力から紋章を作り出しているそうですが……」
 この花はその過程で敵が手に入れた副産物なのかもしれない。であれば元凶を叩く事で治療法の手掛かりも見つかるだろう。どうやら祭壇に向かう理由がひとつ増えたようだ。
「急ぎましょう」
 風の魔力にて毒花を吹き飛ばしながら、花畑の奥へ奥へと進むオリヴィア。迷いのない足取りを阻めるものは何もなく、金色の瞳はまっすぐに闇の向こうを見つめ続けていた。

「……抜けましたか」
 幾許かの時間を経て、オリヴィアは毒花が密集する地帯を越えた。すると彼女は来た道をくるりと振り返り、トリニティ・エンハンスによる風の魔力に炎の魔力を混ぜ合わせ、手にした「破邪の聖槍」を突きつける。
「敵の地の利はあらかじめ破壊しておきましょう」
 黄金の穂先から解放された2属性の魔力は炎の渦となって、地底の闇を煌々と照らす。
 荒れ狂う灼熱の嵐の中で、毒の花々が焼き払われるのを見届けて――オリヴィアは再び踵を返し、『紋章の祭壇』の元へ向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

まだ祭壇は残っているか
奴らが神々を根絶やしにするつもりなら
俺は神々と共に『第五の貴族』もまとめて根絶やしにしてやるのみ

指定UC発動し
漆黒の「オーラ防御」を纏って少しでも毒花の香りと花粉が入らぬ様遮断しつつ
「地形の利用、ダッシュ」+UC効果の高速移動で一気に花畑を走り抜けよう
もし眠りそうになったら躊躇なく黒剣で手の甲を傷つけ「激痛耐性」で耐える

…絶望、か
生き別れた家族が吸血鬼と化し
首筋の噛み傷の呪詛を解くためには家族を討たねばならないと知った時から
俺はずっと絶望の淵に立ったままさ

…だが
絶望の底の底を知ったからこそ
絶望を受け止め切れるかもしれない
…やるだけやってみるか



「まだ祭壇は残っているか」
 過去に何度か『紋章の祭壇』を破壊する作戦に参加し、戦果を挙げてきた館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)。だが紋章の創造は今だ絶えることはなく、ヴァンパイアの支配の根深さを改めて実感させられる――それでも彼が戦いを放棄する事は決して無い。
「奴らが神々を根絶やしにするつもりなら、俺は神々と共に『第五の貴族』もまとめて根絶やしにしてやるのみ」
 険しく引き締められたその表情に、悪しきオブリビオンに対する慈悲など一片もない。
 裡から燃え上がるような復讐と絶望の念を胸に抱き、彼は毒の花園へ足を踏み入れた。

「喰らった魂を、力に替えて」
 危険な毒から身を守るために、敬輔が発動するのは【魂魄解放】。黒剣に喰わせてきた魂の力を纏う事で、彼の体は漆黒のオーラに包まれ、毒花の香りや花粉から遮断される。
 闇よりも暗い漆黒を纏いながら花畑の中を高速で駆けるその様は、血に飢えた猟犬か、あるいは死神の姿を連想させた。
「……かなり毒が濃いな」
 それでも辺り一面に充満した花の毒素は、オーラの上から少しずつ身体を蝕んでくる。
 視界がかすんだり意識が遠のきそうになると、躊躇なく黒剣で自分の手の甲を傷つけ、気付けの代わりにする。傷つく事に慣れた彼にとってはこの程度、ほんの些細な痛みだ。

「……絶望、か」
 まどろみの花畑を走り抜けながら、敬輔はこの領域を支配する吸血鬼について考える。
 シシリーなる者の望みは異端の神々をこの世から滅ぼし、吸血鬼による完全なる世界を築く事だという。そのために人々の感情を収集し、『絶望の紋章』を作り上げたとも。
(生き別れた家族が吸血鬼と化し、首筋の噛み傷の呪詛を解くためには家族を討たねばならないと知った時から、俺はずっと絶望の淵に立ったままさ)
 この心を覆う昏い感情に、どんな毒や傷よりも苦しい痛みに、敵が目をつけたのも納得ではある。足元から崩れ落ちそうになるほどの重圧を背負い、無明の闇の中を行くが如きこの感覚に耐えて、なお前に進み続けられる人間は稀有であろう。

(……だが、絶望の底の底を知ったからこそ、絶望を受け止め切れるかもしれない)
 これ以上ない程の絶望に心を浸したまま、それでも剣を振るうことを止めない敬輔は、間違いなくそうした稀有な人間である。吸血鬼シシリーが作り出した『絶望の紋章』――人々の絶望の集積体にも、彼ならば耐えられるやもしれない。
「……やるだけやってみるか」
 確証は無いながらも、未来に希望を抱くことが難しい彼にとって、絶望を以って絶望を制すとでも言うべきその作戦は、吸血鬼シシリーを打倒しうる数少ない勝機に思われた。
 絶望の淵に立たされた自分が、さらなる絶望に立ち向かう。なんとも因果な仕打ちだと思いながらも、敬輔は数多の魂魄らを纏ったまま、毒の花畑を突破するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
植物なんやし、燃やしてしまえば…
翼を広げようとして--思い留まる
…だめ。熱で毒が広がってしまうかも
それに…この闇の世界でも、こんなに綺麗に咲いてるお花たちは
希望にだって思えるから

焔は使えない、風を使うのもやっぱり毒を周りに広げてしまいそう…
だから、貴方に頼ります
UC発動
wandererの蒸気魔導回路を移動力特化へ組み替え
よーい…どん!で助走を付けてから跳躍
勢いを殺さないよう連続で飛び越えていく【ダッシュ】
呼吸は最小限。踏み切る直前に吸って息を止め、着地までの間に吐く

は…ちょっとぼんやり、して来たかも…でも、あと少しだから。前にとぶだけだから…
おねがい、わんだらー…このさきまで、つれてって…!



「植物なんやし、燃やしてしまえば……」
 視界一面に広がる毒の花を見て、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は背中より炎の翼を広げようとして――思い留まった。確かにそれは手っ取り早い対策ではあるが、本当にそれで良いのかもう一度考える。
「……だめ。熱で毒が広がってしまうかも」
 匂いだけで人を昏睡させる程の強力な毒を持つ花なら、燃やした煙にも毒が残っているかもしれないし、熱で生じた気流が毒素を拡散させるかもしれない。吸血鬼の領地に咲く未知の植物が相手なのだ、警戒してもし過ぎるという事は無いだろう。

(それに……この闇の世界でも、こんなに綺麗に咲いてるお花たちは希望にだって思えるから)
 あるいは結希にとっての本音はそちらだったのかもしれない。光の届かない地の底で、枯れることなく咲いた花々は、たとえ毒草だと分かってはいても見る者の心を和ませる。植えた者の意図せぬ事だったとしても、彼女はそこに希望を見いだした。
「じゃあどうするのかって話だけど……」
 現実問題として、花を散らさずにこの場所を突破するのは難しい。炎の翼で花畑の上を飛んでいくのも、火の粉が舞ってしまうので避けたほうが無難だろう。自分が通っていく後で地上が大火事になっていたら、笑うに笑えない惨状だ。

「焔は使えない、風を使うのもやっぱり毒を周りに広げてしまいそう……だから、貴方に頼ります」
 そこで結希は履いているブーツ型ガジェット「wanderer」の蒸気魔導回路を組み替え、移動力に特化した最適な流路に変化させる。【リアレンジメント】が行われたブーツの表面には魔力のラインが光り、真っ白な蒸気が濛々と噴き出してくる。
「よーい……どん!」
 回路と機能の組み替えが完了すると、結希は助走を付けてから思いっきり地面を蹴る。
 蒸気魔導により強化された踏み込みの瞬間、一気に放出された蒸気が彼女の身体を宙に舞い上げ、生身の人間には不可能な飛距離の大ジャンプを成し遂げた。

(よしっ、いける……!)
 結希は初速の勢いを殺さないよう連続で跳躍を行い、毒の花畑の中を飛び越えていく。
 香りに含まれた毒を吸わないよう、呼吸は最小限に。踏み切る直前に吸って息を止め、着地までの間に吐く。完全に防ぐことは出来ないが、ここを抜けるまでの間保てばいい。
(紋章の祭壇は……あっちだよね……)
 風とひとつになったような瞬足で、跳んでは降りての繰り返し。空中にいる間に進路を確認するが、花畑はどこまでも続いており、目的地である『祭壇』はまだ彼方にあった。その間にも吸ってしまった毒は少しずつ蓄積され、彼女の体をじわじわと蝕んでいく。

(は……ちょっとぼんやり、して来たかも……でも、あと少しだから。前にとぶだけだから……)
 神経に作用する毒素は結希の意識を朦朧とさせ、まどろみに誘う。もしここで昏睡してしまったら、二度と目覚めることはできないかもしれない。ほどけかけた集中の糸を懸命に繋ぎ留め、足に力を入れる事と前に進む事だけを考える。
「おねがい、わんだらー……このさきまで、つれてって……!」
 様々な旅や戦いを共にしてきた彼女の靴は、その呼びかけに応えるように出力を増す。
 もう何回跳んだかも分からない。とにかく夢中になって地面を蹴り続けると――ふと、空気の匂いが変わったのを感じた。

「つい、た……?」
 着地した地面にもう花は咲いていない。どうやら無事に危険地帯を抜けられたようだ。
 まだ少しふらふらするが、意識もだんだんクリアになってくる。危ない所だったと息を吐いた結希は、役目を果たしたwandererを「ありがとう」と撫でるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
焼き払うことも考えましたが
ボクはこの花畑を素早く通り抜けましょう

まだ目立つわけにはいかないので低空を
まだダメージを受けるわけにはいかないので程々に速度を抑えて
【空想音盤:希望】を発動して飛び抜けましょう

破魔の力は毒に有効かわかりませんが
無いよりはマシでしょう
なるべく息を止めてマスク代わりに
風のヴェール、風歌奏樹で口を覆って
一息で飛び抜けましょう

絶望?
そんなものよく知ってますよ
確かに力ある感情です
ボクもその力を使うことがある

けれど身を持って知っている私からすれば
その感情は支配できるものじゃない
どれだけ強大な力を持っていてもいずれそれに飲み込まれる
それを身を持って知ることになる

私が証明してみせよう



「焼き払うことも考えましたが、ボクはこの花畑を素早く通り抜けましょう」
 炎を以って障害を駆除するよりも、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は無難に突破するほうを選んだ。火を放てば敵に潜入を気付かれ、警戒されるリスクも上がる。『紋章の祭壇』に辿り着くまでは騒ぎは起こさないほうが良いだろう。
「空想と共に歩み、理想を奏でよう。魂の奥底に眠る希望の光、その輝きを信じて」
 彼女は【空想音盤:希望】を発動して花嫁姿の天騎士に変身すると、白と黒の翼を羽ばたかせて地面から数メートル程の低空を飛行する。あまり高度を上げればやはり目立ってしまうし、低すぎれば花の毒を避けられない。この辺りは判断に迷うところだ。

「まだ目立つわけにも、ダメージを受けるわけにもいかないので」
 程々に速度を抑えて、花畑の上を飛び抜けるアウレリア。その双翼が風を打つたびに、光の粒子が宙を舞う。地底の暗闇を淡く照らすその光には、魔を退ける力が宿っていた。
「破魔の力は毒に有効かわかりませんが、無いよりはマシでしょう」
 気休め程度に放ったものだが存外効果はあるらしく、地上の花々はその光を避けるように花弁や葉を萎れさせる。それはこの花自体が"魔"に属する物であるとも示唆していた。
 このような場所に長居は無用だろう。アウレリアはなるべく息を止め、マスク代わりに風の魔力で編んだヴェール「風歌奏樹」で口を覆って、猛毒の花畑を一息に翔けていく。

「絶望? そんなものよく知ってますよ」
 快調に飛行するアウレリアの脳裏をよぎるのは、今回の『祭壇』の管理者の事だった。
 神々なき世界を求めて、人々の感情から『絶望の紋章』を作り出した吸血鬼シシリー。目の付け所だけは悪くはないと、自らもその感情に苦しめられたからこそ彼女は認める。
「確かに力ある感情です。ボクもその力を使うことがある」
 時にどんな闇よりも昏く、時にどんな刃よりも鋭く、時にどんな獣よりも凶暴な感情。
 この感情を凶器に変えれば神の生命にさえ届きうる事は、アウレリア自身がこれまでの戦いから証明している。それが敵の手に渡ったのは確かに脅威だろう。

「けれど身を持って知っている私からすれば、その感情は支配できるものじゃない」
 アウレリア自身、何度それに苦しめられてきたことか。臓腑を灼くような苦痛は決して癒やされることはなく、切り離すことでしか彼女は自分を保てなかった。忘れていた大切な過去を、家族の愛を思い出した今でさえ、彼女は絶望を飼い慣らせてはいない。
「どれだけ強大な力を持っていてもいずれそれに飲み込まれる。それを身を持って知ることになる」
 他人の絶望を利用しようとする輩に、真の絶望の恐ろしさは決して分からないだろう。
 だがそれが絶望の力に手を出した者の末路だ。敵は人間の感情を知ったつもりでいい気になっているのだろうが、自分の手で地獄の釜の蓋を開いたのに気づいていない。

「私が証明してみせよう」
 絶望を玩ぶ者に相応しい結末を。本当の"絶望"と破滅を身を以て知らしめてくれよう。
 破魔の光と純白の花嫁衣装――希望をカタチにした姿を取りながらも、アウレリアの瞳だけは剣呑な輝きを発し、花畑の先をじっと見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
生け贄にされる異端の神々と人々か。美味しいお話が待ってそうだね。

まずはこの花畑だね。ガスマスクを装着して、ウィザードミサイルで焼き払うよ。

さて、眠りのお姫様はどこかな。やっぱり花畑の中心なのかな。



「生け贄にされる異端の神々と人々か。美味しいお話が待ってそうだね」
 陰鬱な闇の中にも物語の匂いを感じ取り、やって来たのはアリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)。彼女が好物とするお話は、必ずしも平和や幸福の中から生まれるとは限らない。時には悲劇や陰謀が物語のスパイスになることもある。
「どんな味がするんだろう。楽しみだね」
 この地に隠された秘密を見つけ出し、吸血鬼の野望を打ち砕いた時にこそ、今回の物語は完成する。その時の味わいに期待を膨らませながら、彼女は『紋章の祭壇』に向かう。

「まずはこの花畑だね」
 匂いを嗅ぐだけで人を昏睡させる、強力な神経毒を含んだまどろみの花畑。ここを攻略するためにアリスが選んだのは最もシンプルな手段だった。魔女から贈られた魔王笏を振ると、めらめらと燃え盛る【ウィザード・ミサイル】が一斉に放たれる。
「ぱっと焼き払ってしまおう」
 毒草を燃やせば煙から毒素を吸い込む恐れがあるが、彼女は予めガスマスクを装着してその危険を防いでいる。500本を超える炎の矢の掃射によって、周囲に咲いていた毒花はまたたく間に焼き払われた。

「入ってきた人を眠らせる花畑か。まるで眠りの森みたいだね」
 そんなことを呟きつつ、まどろみの花畑を探索するアリス。ガスマスクは被ったまま、花が密集している場所があれば再び火矢を放つ。火遊びは火事の元だが敵地なら気にする必要はない。敵に気付かれる恐れはあるが、そこは隠密性よりもスピードを取った形か。
「さて、眠りのお姫様はどこかな。やっぱり花畑の中心なのかな」
 この花が侵入者除けのトラップの役割を果たしているなら、一番大事なものは一番奥に隠すのが普通だろう。ガスマスクのゴーグル越しにじっと目を凝らすと、炎に照らされて花畑のずっと向こうに人工物らしき影が見えた。

「あっちかな。よし、行ってみよう」
 好奇心を隠そうともしないワクワクした笑顔で、アリスは花畑の中をとことこと歩く。
 もし彼女がマスクをしていなければ、花と炎の匂いに紛れて死臭や薔薇の香りを嗅ぎ取る事ができただろう。それは染み付いた生贄の匂い――紋章の祭壇に近付いている証だ。
 果たしてそこで待っているのは眠り姫か、それとも邪悪な魔女か。物語の次のページをめくるように、無邪気な情報妖精は先に進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
花畑の中心で、愛をさけぶ

私の名はカビパン。現在無職の紋章。
いかにこの私が偉大で、強大な力を秘めていても装備者がいなければ意味がない。まったく、腹立たしい。
本来なら第五の貴族共が是非装備させてくださいとこぞって名乗り出るべきであるのに、誰もそんな事を言ってくれやしない。

しかし、偉大なる紋章とは人生で一度は苦労をするもの。そう、私は竜。今は水の中で眠る竜だが、一度目覚めれば天空を飛翔し、空を制するの。流石私!

あらいけないわ、賛美は偉大すぎてきりがない。
この辺で一旦止めて話を進めましょう。
そこの花たちはカビパン紋章様万歳!と讃えなさい。

ギャグ化する花畑、既に死んでいるから毒も何も効かないカビパン…



「まったく、腹立たしい」
 猛毒に満たされたまどろみの花畑の中に、ぶつぶつと文句を言うひとりの女性がいる。
 彼女の名はカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)。以前こことは別の『紋章の祭壇』に捧げられたことで紋章化した悪霊で、現在は宿る者なき無職である。
「いかにこの私が偉大で、強大な力を秘めていても装備者がいなければ意味がない」
 紋章には様々な特性を持つ物が存在するが、果たして彼女の紋章は本人がそこまで言うほど強大なのだろうか。それは実際に着けてみた者やその効果を目の当たりにした者しか分からないだろう――まあ、ある意味とてつもない力を持っているのは確かだ。

「本来なら第五の貴族共が是非装備させてくださいとこぞって名乗り出るべきであるのに、誰もそんな事を言ってくれやしない」
 ともかくカビパンは自分を装備する者がいないのが不満だった。第五の貴族達からしてみれば、自我を持っている上にひとりでに活動する、しかも猟兵の魂を宿した紋章なぞ、厄介すぎて使いたくはないだろうが、驕り高ぶる彼女はそんな事情なんぞ汲み取らない。
「しかし、偉大なる紋章とは人生で一度は苦労をするもの。そう、私は竜。今は水の中で眠る竜だが、一度目覚めれば天空を飛翔し、空を制するの。流石私!」
 誰にも装備されず嘆いていたかと思えば、今度は急に自画自賛を始める。こんな場所で自己アピールをしても聞いているのは花くらいのものだが。自分を三国志の人物評になぞらえて自信満々に語るポジティブさは、ある意味彼女の武器と言えるかもしれない。

「あらいけないわ、賛美は偉大すぎてきりがない。この辺で一旦止めて話を進めましょう」
 小一時間ほど自らの偉大さを語った後、【ハリセンで叩かずにはいられない女】は愛用の「女神のハリセン」でバシバシと地面を叩く。マイペースにボケやツッコミを披露することで周囲の環境をギャグ一色に塗り替える、それが彼女のユーベルコードなのである。
「そこの花たちはカビパン紋章様万歳! と讃えなさい」
 ただの植物にそんな事を命じても、普通なら何も起こらない。だがギャグ化された花達は葉っぱを手のようにぱたぱたと振り、自ら花びらを散らして祝福の花吹雪を降らせる。言葉を発せない代わりに、全身を以ってカビパンへの敬意と賞賛を示しているようだ。

「うむうむ、苦しゅうないわ」
 花畑の花達からの賛美を受けたカビパンは、まるで女王様のように腕を組んでご満悦。ちなみにギャグ化したところで花の毒性まで消えたわけではなく、撒き散らされた花びらにも強力な神経毒が含まれているのだが――既に死んでいる彼女には毒も何も効かない。
「じゃあ祭壇のある所まで行ってみようかしら。私を装備する者がいるかもしれないし」
 満足したカビパンは花散る中をてくてく進む。紋章の素体として捕らわれた異端の神々や祭壇の管理者である吸血鬼達なら、或いはカビパン紋章のお眼鏡に適うかもしれない。
 果たして彼女は花畑の中心で愛をさけぶ事になるのか。それはまだ誰にも分からない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
これが毒花の花畑…この花で罪も無い人達を捕らえ、紋章の材料にして来たんだね…。

【unlimitedΩ】を展開…。

更に【呪詛】を込めて花畑の各所へ終焉の魔剣を射出する事で花畑及びその土地そのものを呪詛で侵食…。
終焉の呪いを吸い上げた毒花を呪力で侵食し、全て枯らして無効化…。
逆にこの地を魔剣の呪力で満たすよ…。

吸血鬼討伐後に自生とかされても困るし、こんな危険な花を放置するわけにもいかないしね…。
一輪も残さず排除して祭壇まで進んでいくよ…。

一刻も早くみんなを助け出して、祭壇を破壊しないと…。



「これが毒花の花畑……この花で罪も無い人達を捕らえ、紋章の材料にして来たんだね……」
 光届かぬ地の底にて咲く、妖しくも美しい花園を前にして、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は静かに呟く。遠目には美しいこの光景すらも、吸血鬼にとっては人を惑わす罠でしか無いのだろうか。眠らされた者達の末路を思えば胸が痛む。
「絶対に許せない……」
 この花畑を育てた吸血鬼の野望はここで必ず破壊する。既に複数の第五の貴族を倒し、祭壇の破壊にも関わってきた彼女にとっては、困難な依頼とて恐れるものではなかった。

「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
 璃奈が呪文を唱えると、呪力を強化された何百という数の魔剣・妖刀の現身が顕現し、呪われし刃の切っ先を花畑に向ける。この剣達は受けたもの全てに終わりを齎す"終焉"の魔剣――毒の花など、この忌まわしき地ごと葬ってみせよう。

「『unlimited curse blades 』……!!」

 璃奈が呪詛を込めて射出した終焉の魔剣達は、花畑の各所に突き刺さり土地そのものを侵食していく。土壌が呪いで汚染されれば、そこに生えている植物全てに影響が現れる。言うなれば強力な除草剤を撒くようなものだ。
「これで毒花は無効化できるはず……」
 終焉の呪いを根から吸い上げた毒花は、みるみるうちに花弁や葉が萎れて枯れていく。
 魔剣を中心に花畑が荒地に変わっていく様は、まさに終焉の名に相応しい光景だった。

「吸血鬼討伐後に自生とかされても困るし、こんな危険な花を放置するわけにもいかないしね……」
 目につく限りは一輪も残さず排除していく気構えで、璃奈は『紋章の祭壇』までの道を切り開いていく。彼女が進むのに合わせて射出される魔剣が、草ひとつ生えぬ不毛の地を広げていく――文字通りの"根絶やし"だ。もうここで新たな毒花が咲く事は無いだろう。
「でも、花ばかりに気を取られてもいられないね……」
 情報によればこの先には新たな紋章の生贄にするために集められた人々が、花の毒で昏睡させられた状態で捕まっているらしい。いつ祭壇に捧げられてもおかしくない状況で、寄り道をしている余裕はない。少女が魔剣を放つ方角は、常に祭壇までの最短経路だ。

「一刻も早くみんなを助け出して、祭壇を破壊しないと……」
 枯れた草花を踏みしめながら、早足に先へと進む璃奈。表情の変化には乏しいものの、微かな焦燥が声色から感じられる。この地を放置すればそれだけ犠牲者の数は増え、今も危機に陥いる人々がいる――その事実が、救命を第一とする彼女の心を急かすのだろう。
「あと少し……」
 毒花の香りに代わって彼方から漂う、死臭と薔薇の混ざった匂いが祭壇までの道標。
 鼻につく悪臭が濃くなっていくのを感じて、魔剣の巫女の足取りはさらに速くなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
見た目だけは美しくても、所詮は醜悪な毒花…まるでこの花園の持主を現している様ね…。
しかも、この花畑を利用して人々を捕らえて紋章への生贄にしてるだなんて吐き気がするわ。全て焼き尽くしてあげる!

【ブラッディ・フォール】で「龍脈火山帯の大熱戦」の「帝竜ガイオウガ」の姿(魔力で帝竜の姿を完全に再現構築し、外殻として纏った姿)へ変化。

遠距離から花畑へ【垓王牙炎弾】と【垓王牙炎操】を放ち、炎の獣と竜の姿の炎の群れを生み出して花畑を全て焼き尽くしながら進軍。
全てを焦土に変えながら悠然と祭壇へと進み、花畑も従者の様な邪魔者も全てを蹂躙して焼き尽くし、灰燼に変えながら進むわ



「見た目だけは美しくても、所詮は醜悪な毒花……まるでこの花園の持主を現している様ね……」
 地底に広がるまどろみの花畑と、これを育てた第五の貴族を、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は厳しく酷評する。美しい花には棘があると言うが、これにはそういった自然の花とは違う、歪んだ悪性を感じる。
「しかも、この花畑を利用して人々を捕らえて紋章への生贄にしてるだなんて吐き気がするわ」
 こんな場所を放置してはおけないし、する気も無い。彼女の胸の中で燃え上がる怒りはマグマのように外へあふれ出し、巨大な竜のカタチを構成してその身を包み込んでいく。

「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
 それはフレミアが【ブラッディ・フォール】によって再現構築した『帝竜ガイオウガ』の威容であった。過去に倒したオブリビオンの能力を我が身に付与して使用する、それが彼女のユーベルコードなのだ。
「全て焼き尽くしてあげる!」
 フレミアが一喝すると、外殻として纏った帝竜の全身から、無数の火山弾が吹き出す。
 恐るべき熱量を誇る【垓王牙炎弾】は花畑に落下すると同時に一気に炎上し、燃え盛る炎が獣の姿となって暴れだす。通常の生物ではないそれには、神経毒も効果はなかった。

「まだよ!」
 さらにフレミアは【垓王牙炎操】を発動し、ガイオウガに似た竜の姿の炎を生み出す。
 帝竜の眷属とも言えるそれらは互いに合体する事でより巨大かつ強大になり、獣たちと共に毒の花を焼き払う。全ては遠方にてそれを見守る主君のための露払いだ。
「根を残せばまた生えてくるかもしれないわ。完全に灰にするのよ」
 獣と竜に作らせた火焔の道を、ガイオウガ=フレミアが悠然と進軍する。平常時でさえ竜の巨体に宿した熱量は膨大であり、近くを通るだけで花々が自然発火を起こしている。彼女らが通った後には焦土が広がり、草花は灰燼に帰して跡形も残らない。

「このまま祭壇まで進むわよ。邪魔者は全て蹂躙しなさい」
 毒の花畑を焼却する火炎は、地底の暗闇を照らしてフレミアに道を指し示してくれる。炎と溶岩の外殻に守られながら、彼女は花園の向こうにある人工物の影を見据えていた。
『グルルルル……』『ウオォォォ―――!』
 木霊するのは獣と竜の咆哮。彼らがより激しく暴れまわるたびに延焼の範囲は広がり、炎上する大地は紅い花に埋め尽くされた新たな花畑のよう。息をするのも苦しい程の熱気に包まれたそこは、ガイオウガのかつての領土たる「龍脈火山帯」の環境にも似ていた。
 毒から炎に染め替えられていく花畑。彼女らの進撃を阻めるものは何もない。炎の獣と竜と花に囲まれて、帝竜の力を宿せし吸血姫は優雅に微笑んだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
花畑が【番犬の紋章】付きオブリビオンでないのは幸いでした
これならば採れる手段は幾らでもあります

尋常の毒草である以上、神経毒はこの躯体にはほぼ無意味
気密性を高める程度で十分でしょう
(環境耐性、防具改造)

悠然と歩きながら肩部と腕部格納銃器を展開
救出した人々の脱出路の確保も兼ね、UCの乱れ撃ちで花畑を凍結、死滅させながら踏み砕いていきます

……いけませんね、『勝利した後』の事に思考演算が傾いていました
相手は強力な【紋章付き】だというのに

非道な儀式を阻まんと挑んだ騎士が油断して返り討ちなど、それこそ笑い話にもなりません

電脳剣の電脳空間からUCの予備弾倉を取り出し装填
(継戦能力、物を隠す)
館を目指し



「花畑が【番犬の紋章】付きオブリビオンでないのは幸いでした」
 以前、そのようなオブリビオンの植物に守られた『第五の貴族』の館に挑んだ事のあるトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は、今回の花畑を見て安堵を口にする。確かに強力な毒を持っているが、この花自体はオブリビオンではない。
「これならば採れる手段は幾らでもあります」
 彼は突入前に装甲部に気密性を高める改造を施してから、毒の花畑に足を踏み入れる。
 中は命を蝕む甘ったるい香気に満たされていたが、ウォーマシンである彼は平然とした様子である。

「尋常の毒草である以上、神経毒はこの躯体にはほぼ無意味。この程度の改造で十分でしょう」
 元々宇宙戦対応機であるトリテレイアは、あらゆる過酷な環境に耐えられるように設計されている。常人が生身で踏み込めば数分と保たない猛毒地帯でも、悠然とした足取りで歩いていく。
「氷の剣や魔法ほど華はありませんが……」
 彼は歩きながら肩部と腕部に格納した銃器を展開し【超低温化薬剤封入弾頭】を発射。
 着弾と同時に炸裂する特殊弾頭に封入された薬剤は、触れた物体の分子運動を低下させ急激に温度を奪う。それは寒さに弱い植物にとって耐えられるものではなかった。

「やはり通常の生物の域を超えるものでは無いようですね」
 トリテレイアが特殊弾頭の掃射を終えると、辺り一面の毒花がドライフラワーのように凍りついていた。もはや毒素を発することもないそれを、彼は踏み砕きながら先に進む。
「今のうちに救出した人々の脱出路の確保もしておきましょうか……」
 情報によれば祭壇付近には生贄として捕らえられた人間がいるという。自分は平気でも彼らを安全に避難させる上では邪魔だろうと、機械騎士はさらに凍結弾をばら撒いて花畑を死滅させていくが――それがある種の"油断"であることにはたと気付く。

「……いけませんね、『勝利した後』の事に思考演算が傾いていました。相手は強力な【紋章付き】だというのに」
 人命を第一とする騎士の信条と、これまで数々の"紋章付き"を討ち倒してきた実績が、無自覚な気の緩みをトリテレイアに生じさせていた。これまで戦ってきた第五の貴族は、何れも尋常の敵ではなかった。他の事に気を取られて勝てるような甘い相手ではない。
「非道な儀式を阻まんと挑んだ騎士が油断して返り討ちなど、それこそ笑い話にもなりません」
 最優先すべきは無論、無辜の人々の生命と安全だが、目的の順序を誤ってはならない。
 騎士としての使命を遂行するために、強大な敵には万全の策と備えを以って挑むべし。油断を捨て去った彼の思考回路は再び演算を始める。

「再装填よし……参りましょう」
 佩剣たる「電脳禁忌剣アレクシア」の中に存在する電脳空間から、特殊弾頭の予備弾倉を取り出し銃器に装填。万全の態勢を保った上で『紋章の祭壇』を目指すトリテレイア。
 広大な花畑の先にある建造物の影を、彼のマルチセンサーははっきりと視認していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
なるほどね。楽しい楽しい収穫の前
上手くいくと思うなよ
羊の群れにはなあ。狼が来るんだよ

UC使用で憎しみの全身甲冑装着で花の毒素が触れる範囲を極端に限定する
「燃焼」で口鼻に入る毒を全て焼く。己の体の中にある憎しみで焼く
「激痛耐性」で燃焼による自傷をキャンセル。憎しみは自分の一部だ
UCの速度では速すぎるので「ダッシュ」で走り回り「情報収集」「野生の勘」で捜索する
意味のあるシンボルならば何度も立ち寄る痕跡があるはずだ

焼かなきゃいけねえなあ、こういうのは
ああ。早く焼きてえなあ。今にでも焼きてえ。でも此処で周りを焼いたら迷惑だろうな
クソ。分別とかそういうのが出来て動きにくい

苛立たしげに足元をつま先で蹴る



「なるほどね。楽しい楽しい収穫の前」
 今頃上機嫌でいるであろう敵の様子を想像して、ルーチェ・アズロ(血錆の絆と呪い・f00219)は顔をしかめる。人間の感情を利用して神々を殺す――ああ、なんとも悪辣な計画だ。忌々しい『過去』の亡霊共は、ほんとうに碌な事を考えない。
「上手くいくと思うなよ。羊の群れにはなあ。狼が来るんだよ」
 生贄の儀式などさせてやるものか。『紋章の祭壇』も第五の貴族も、絶対にぶち壊す。
 まだ年端も行かぬ幼い少女の瞳には、不似合いなほどに昏い憎しみの炎が燃えていた。

「花に触れたらダメなら、肌が出ないようにすりゃいいんだろ」
 ルーチェは【こんなにも気持ちがいいのだから】を発動し、憎しみの力で編まれた全身甲冑を装着する。この格好なら花の毒素が触れる範囲は極端に限定され、侵蝕を遅らせる事ができるだろう。
「くそっ、甘ったるくて気持ち悪ぃ。嫌な匂いだ」
 花畑に踏み込んだ彼女がまず最初に感じたのは、内部に充満する花の香り。甲冑を身に纏っていても、匂いとして呼吸器から入り込んでくる毒素だけは防げない。この広い場所のどこかにある『紋章の祭壇』を見つけるまで、ずっと息を止めている訳にもいかない。

「焼かなきゃいけねえなあ、こういうのは」
 そこでルーチェは己の体の中にある憎しみの炎で、口鼻から入ってくる毒を全て焼く。
 本来なら毒を防ぐために自らを焼くなどただの自傷行為だが、体には火傷ひとつ無い。憎しみを自分の一部にした彼女には、憎悪が発する熱などもはや効かないのだろう。
(意味のあるシンボルならば何度も立ち寄る痕跡があるはずだ)
 憎しみの力で毒を凌駕したルーチェは、改めて『紋章の祭壇』を探す。憎しみの甲冑を着ている間の彼女は超常の膂力によって空を駆けることすら可能だが、それでは速すぎて痕跡を見落としかねない。ゆえに探索は普通に地上を走り回って行うことになる。

「こっちか」
 この地の領主はどうやら痕跡の隠蔽に無頓着だったらしい。復讐の為に研ぎ澄まされたルーチェの野生の勘は、花畑に残った足跡や何かを引きずった跡をすぐに見つけだした。
 他にも草を分けた跡や、踏まれた花――どうやら敵はわりと頻繁にここを往来しているようだ。それだけ多くの人間を生贄にしてきたのだろう、と考えると虫酸が走る。
「ああ。早く焼きてえなあ。今にでも焼きてえ」
 この怒りと憎悪の炎を解き放って、何もかもを焼き尽くしてやればきっと爽快だろう。
 毒の花畑など焼いてしまうのが一番手っ取り早い対処法なのだ。そうすれば面倒な対策など考える必要もなく、焼け野原の中から祭壇を見つけ出すだけで済んだだろう。

「でも此処で周りを焼いたら迷惑だろうな」
 今にも着火しそうな衝動を、しかしルーチェはぐっと抑え込む。他の猟兵も個別に探索を行っている現状、無闇矢鱈に火を点ければよそに飛び火するかもしれない。延焼範囲をコントロールする事はできるつもりだが、それでも万が一ということもある。
「クソ。分別とかそういうのが出来て動きにくい」
 少し前までの自分なら、気にせず真っ先に花畑を焼いていただろう。両親を殺した憎き『過去』に復讐できるなら、他がどうなろうが知った事ではないと言ったかもしれない。
 しかし、今ではそんな彼女にも心許せる友人や仲間がいる。彼らとの関わりが、黒く塗り潰された少女の心に人らしい情緒を与えていた。

「……くそ……」
 ぶつけどころのない感情を誤魔化す様に、苛立たしげに足元をつま先で蹴るルーチェ。
 とにかく今は敵を狩るのが先決だ。余計な事は一旦頭の片隅に追いやって、彼女は祭壇のある方向へ走っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…また一つ、紋章の祭壇が見つかったのね
今まで一体、どれ程の命が紋章を造る過程で犠牲になったのか…

…今はまだ、一つ一つしらみ潰しに第五の貴族を叩いていくしかない

…だけど、いつの日か必ずやらこの世界に光を取り戻してみせるわ

自身に炎の精霊を降霊して肉体改造を施しUCを発動
全身を火属性攻撃のカウンターオーラで防御する炎化を行い、
周囲の花畑を毒ごと燃やして浄化しながら祭壇に向かう

…我が身に宿れ、炎の理。我に仕え、我を助け、我が呪文に力を与えよ

効率だけを追求するなら毒の耐性を高めて突破すれば良いけど…

…こんな花畑、残しておいても百害あって一利無しだもの
祭壇を目指すついでに焼き払って行くとしましょうか



「……また一つ、紋章の祭壇が見つかったのね。今まで一体、どれ程の命が紋章を造る過程で犠牲になったのか……」
 第五の貴族の支配力の源たる『紋章の祭壇』。その所在が報告され続けている事実は、そこで犠牲になった人々の総数が途方もないことを示してもいて、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は心を痛めていた。
「……今はまだ、一つ一つしらみ潰しに第五の貴族を叩いていくしかない」
 闇に支配されたこの世界を根幹から救済する道筋は未だ見えない。猟兵の中でも群を抜いて多くの吸血鬼を狩ってきた彼女だからこそ痛感している。今は1人でも多くの第五の貴族を倒し、紋章の祭壇を破壊する事で敵の戦力を削ぐ事しかできないのが現状だ。

「……だけど、いつの日か必ずやらこの世界に光を取り戻してみせるわ」
 現在の努力を積み重ねた先に、その未来があるのは確かなのだ。ならばこの戦いも徒労とは思わない。冷たい地底の中で己を奮い立たせるように、リーヴァルディは炎を宿す。
「……我が身に宿れ、炎の理。我に仕え、我を助け、我が呪文に力を与えよ」
 彼女が発動したのは【吸血鬼狩りの業・変幻の型】。特定属性の精霊を降霊して自らを変身させるというユーベルコードだ。炎の精霊とひとつになった少女の身体は紅蓮の炎に包まれ――否、肉体そのものが炎と化して、まどろみの花畑を照らしだした。

「……神経に作用する毒と言っていたわね。果たして精霊にも効くのかしら」
 たとえ人外の者にも有効な毒だったとしても、今のリーヴァルディには関係なかった。
 全身に燃え盛る炎のオーラを纏った彼女は、周囲の花畑を毒ごと燃やしながら進んでいく。植物には火をというシンプルな対策だが、それ故に有効な対処法だった。
「……問題はないようね」
 炎のオーラに触れた花々はめらめらと燃え上がり、たちまち辺りは焼け野原に変わる。
 精霊化したリーヴァルディはその中を涼しい顔ですたすたと歩き、炎の明かりを頼りに『紋章の祭壇』の所在を探す。

「……効率だけを追求するなら毒の耐性を高めて突破すれば良いけど……」
 まどろみの花畑を攻略する手段として、リーヴァルディには炎の他にも腹案があった。
 例えば風の魔力で毒物から体を守る"毒避けの呪詛"の術式を使うなど、吸血鬼狩人として身につけた技の数々を駆使すれば、より簡単にここを抜ける事もできただろうが――。
「……こんな花畑、残しておいても百害あって一利無しだもの。祭壇を目指すついでに焼き払って行くとしましょうか」
 祭壇を破壊して第五の貴族を倒したとしても、また誰かがここの毒花を利用しないとも言い切れない。将来人を脅かしうる脅威は根こそぎ排除しておくのが彼女の判断だった。

「……炎の理よ、邪気を祓え」
 破壊と浄化を司る精霊の炎に焼かれ、花粉すら残さず焼却される花畑。毒が消え去った大地は清浄な空気で包まれるが、その向こうからは隠しきれない死の臭いが漂ってくる。
 それはリーヴァルディにとってはもはや慣れたものとなった、『紋章の祭壇』に満ちる臭気――目的地が近いと感じた彼女は、表情を引き締めながら先を急いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
異端の神々と吸血鬼が互いに争ってくれるのは大いに結構です。
……が、それに人が巻き込まれるのであれば話は別です。

この花は門番代わりというところでしょうか。
これだけ隙間なく屋敷を覆えるということは人以外には、少なくとも吸血鬼にとってはこの毒は問題とはならないのでしょう。ならば……

【骸合体「雪女」】を使用。一時的にオブリビオンとなることで毒の影響を和らげないか試してみます。
さらに雪女の力を使用し、吹雪を起こすことで進行方向の毒の香りを吹き飛ばし、地面に雪を積もらせその上を進みます。
まだ入り口、こんなところで倒れるわけにもいきませんし、慎重にいくにこしたことはないでしょう。



「異端の神々と吸血鬼が互いに争ってくれるのは大いに結構です」
 この世界で生まれ育ったセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)には、吸血鬼も神々も等しく人間を脅かす敵でしかない。ただでさえ一方だけでも厄介な連中が勝手に滅ぼしあう分には、むしろ望ましい事だった。
「……が、それに人が巻き込まれるのであれば話は別です」
 この地を支配する吸血鬼シシリーは、神殺しの手段として人間を利用する。その生命や感情を玩ぶ所業を、彼女は断じて見過ごせない。人類は吸血鬼の道具では無いのだから。

「この花は門番代わりというところでしょうか」
 敵の敷地に潜入したセルマは、『紋章の祭壇』を囲うように植えられた花畑を見回す。
 見てくれは美しいが、触れるどころか香りを嗅ぐだけで人を昏睡させる危険な毒草だ。あまりに数が多くて足の踏み場もない程だが、逆にそれが彼女に攻略のヒントを与えた。
「これだけ隙間なく屋敷を覆えるということは人以外には、少なくとも吸血鬼にとってはこの毒は問題とはならないのでしょう。ならば……」
 発動するのは【骸合体「雪女」】。幽世を彷徨っていた雪女の骸魂と合体することで、一時的にオブリビオン化するユーベルコードだ。色白の肌は透き通るように白さを増し、銀色の髪はまるで氷のように、そして周囲には粉雪がちらちらと舞い始めた。

「この姿ならどうでしょうか……」
 人ならざるモノであれば毒の影響を和らげないかという推測の元、雪女化したセルマは花畑に足を踏み入れる。中に漂う甘い香りを吸った瞬間、少し頭がくらっとしたものの、意識が飛ぶようなことは無かった。
「……大丈夫なようですね」
 どうやら予想が当たったらしい。ふうと息を吐いた彼女は『紋章の祭壇』のある方向を確認する。この毒花が門番だとするのなら、守りたいものは中心に置くのが普通だろう。まっすぐ進むにしてもかなりの距離がありそうだ。

「……使えるものは使わせてもらいましょう」
 セルマはさらに雪女の力を使用して、進行方向に向かって吹雪を起こす。肌を切り裂くような冷たい突風が毒の香りをさあっと吹き飛ばし、花畑の上に雪が降り積もっていく。
 あっという間に辺りは一面の雪景色に塗り替わり、全ての花々は雪の下で凍りついた。
「これなら安全でしょう」
 分厚く積もった雪の上を、さくさくと足音を立てながら進むセルマ。雪女の力――雪と氷の力を操る彼女は、植物にとって天敵に近い存在だった。いかに危険な毒草と言えど、この寒気の中で花咲くことができないのは、普通の草花と同じである。

「まだ入り口、こんなところで倒れるわけにもいきませんし、慎重にいくにこしたことはないでしょう」
 この先には『祭壇』に捕らわれた人々の救出や第五の貴族の襲来など、より厳しい戦いが予知されている。毒花程度に遅れを取っている暇はないと、万全を期して進むセルマ。
 雪化粧の範囲を広げながら、その足取りは着実に『紋章の祭壇』の元に近付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

異端の神に吸血鬼か…勝手に殺し合う分には問題ないんだが
そこに無辜の人々を巻き込むと言うのだから迷惑な話だ

UC発動
なるほど、確かに美しいが禍々しい花だが…
毒使いに毒とは間の抜けた話だ

花が振り撒く毒より強力な毒を持つ霧へと変化せて花畑を渡る
この霧は昏睡毒を上書きするだけでなく、花自体も枯らせる
せっかくだから掃除と行こうか、どうせここの主も今宵までの命だ
ついでにデゼス・ポアも飛ばせて周辺の花を一気に刈り取らせるか
人形だから毒は効かないし、切り刻んで刈り取るのはコイツの得意分野だ
花を枯らせ、そして刈らせつつ紋章の祭壇を探していく

それでは、完全なる世界とか言う馬鹿げた妄想を止めに行こうか



「異端の神に吸血鬼か……勝手に殺し合う分には問題ないんだが、そこに無辜の人々を巻き込むと言うのだから迷惑な話だ」
 やるなら当人達だけで争ってほしいものだと、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は肩をすくめる。神々を狩るための贄として、人間の命や感情を積極的に利用する今回のヴァンパイアは、ある意味で地上の領主よりもたちが悪い。
「これは思い知らせる必要があるな」
 異端の神々を滅ぼさんとする吸血鬼の野望を挫くため、彼女はまどろみの花畑に赴く。
 只人が踏み込めば生命の保障はない、強力な神経毒を宿した花の園。しかし彼女はそれを危惧するふうもなく笑みを浮かべていた。

「なるほど、確かに美しいが禍々しい花だが……毒使いに毒とは間の抜けた話だ」
 キリカは【プワゾン】を発動し、自らの肉体を薄紫色の霧に変化させる。花が振り撒く毒よりも強力で、なおかつ植物にすら害を及ぼすほどの、危険な特性を備えた毒霧へと。
「せっかくだから掃除と行こうか、どうせここの主も今宵までの命だ」
 彼女が花畑に入ると、毒花の匂いにかわって官能的なまでに甘い香りが辺りを満たし、毒を上書きするだけでなく花自体も枯らしていく。言うなれば除草剤のようなものだが、その効果は覿面であり、歩みを進めれば色とりどりの花の大地が紫一色に染まっていく。

「ついでにコイツも飛ばせて周辺の花を一気に刈り取らせるか」
 毒霧と共に花畑を渡りながら、さらにキリカは呪いの人形「デゼス・ポア」を飛ばす。
 見た目はオペラマスクを被った少女の人形だが、棘のように全身から生えた錆びた刃物が異様さを際立たせている。彼女は「キャハハハハハ」と無邪気に哄笑すると、その刃で毒の花を刈り取っていく。
「人形だから毒は効かないし、切り刻んで刈り取るのはコイツの得意分野だ」
 本来ならその刃は異形なるオブリビオンの命を刈るためのもの。切れ味は申し分なく、花畑の中を人形が踊れば無数の花びらがはらはらと散る。傍目には無邪気な光景に見えるかもしれないが、時折「ヒヒヒヒャハハハハ」と不気味に変化する笑い声が怖気を誘う。

「この手の草はしぶといものだ、根までしっかり駆除ないとな」
 毒霧と人形で花を枯らせ、そして刈らせつつ、キリカは『紋章の祭壇』を探していく。
 周辺の花畑が一掃され視界が開けるようになれば、その向こうに人工物の影が見える。異形なるものを憎むデゼス・ポアも、その方角に何かを感じ取っているのか、強い敵意を示していた。
「それでは、完全なる世界とか言う馬鹿げた妄想を止めに行こうか」
 進むべき方向を確認した戦場傭兵と呪いの人形は、優雅に微笑みながら歩みを速める。
 まどろみの花畑の終点はもうすぐそこ――次なる戦いの舞台は目前に迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『喰われた神々』

POW   :    この世のものでない植物
見えない【無数の蔦】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    名称不明の毒花
自身の装備武器を無数の【金属を錆びつかせる異形】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    異端の一柱
【一瞬だけ能力が全盛期のもの】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。

イラスト:夏屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それぞれの手段を用いてまどろみの花畑を攻略し、その最深部へと辿り着いた猟兵達。
 そこは毒花ではなく薔薇の花によって彩られ、夥しい数の流血と死骸によって築かれた祭壇が聳え立つ、これまでの景色からは一変して悍ましい場所だった。

『オォォ……嗚呼ァァァ……』

 祭壇の周りにいるのは、天使のような翼を生やし、上質な衣を纏ったヒトガタの存在。
 人ではないとすぐに分かったのは、"それ"の首から上がまるで何者かに喰われたように消滅しており、なおかつその状態でまだ"生きて"いたからだ。

『私シの……首ハ何処……』
『返せ……我ガ翼ヲ……』

 声を発する口も無いのに、言葉が聞こえる。だがそれは譫言めいて要領を得ていない。
 彼女らの名は『喰われた神々』。肉体の一部を奪われたことで往時の力を喪い、現在は新たな紋章を作り出すための素体として『紋章の祭壇』に捕らわれた異端の神々である。

 よく辺りを見回せば、祭壇の近くには神々の他にも粗末な格好をした人々の姿もある。
 どうやら毒花で昏睡させられているらしく、地に横たわったままぴくりとも動かない。もし猟兵が来るのが遅ければ、この人々も神々と共に紋章の素材とされていたのだろう。

『見えヌ……何モ見えぬ……』
『見ルな……我を見ルナ……!』

 喰われた神々が懊悩を叫ぶと、その体からはらはらと花びらや植物の蔦が生えてくる。
 元は草花を司る神だったのだろうか。見る影もないほどに零落したとはいえ、異端の神としての力の全てが喪われたわけではない。数が多いこともあって油断ならない相手だ。

 既に紋章に"なりかけて"いる彼女らを放置するのは危険だ。また昏睡したままの人々も救出しなくてはならない。『紋章の祭壇』に辿り着いた猟兵達は即座に戦闘態勢を取る。
 完全なる世界を望む第五の貴族シシリーの計画を阻む戦いは、ここからが本番だった。
西院鬼・織久
間に合いましたか、怨敵を狩り損ねる羽目にならず何よりです
新たな階層、より強力な怨敵が予測される今、より力を得ねば

怨念こそ我等が力、我等が糧は怨敵の血肉
彼奴等もまたいずれ見える怨敵への刃としよう

【行動】
五感と第六感+野生の勘を働かせ敵味方と昏睡者の位置と動きを把握、敵攻撃を察知する
戦闘知識+瞬間思考力も利用し敵味方の行動を予測、昏睡者を巻き込まない立ち位置を常に計算

先制攻撃+UCの範囲攻撃で周辺の地面ごと攻撃、昏睡者を避けるように延焼させつつ敵に怨念の炎による継続ダメージを付与
炎の揺らぎで敵攻撃を捉えやすくした上で残像+フェイントを入れながら敵集団の間を駆け抜けなぎ払い+切断の範囲攻撃



「間に合いましたか、怨敵を狩り損ねる羽目にならず何よりです」
 戦いの火蓋が切って落とされる寸前、淡々とした口調で呟いたのは西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)。皆より少し遅れて『紋章の祭壇』の元に駆けつけた彼は、血色の炎を纏った黒い大鎌を構えて喰われた神々と対峙する。
「新たな階層、より強力な怨敵が予測される今、より力を得ねば」
 全てのオブリビオンを世界から狩り尽くす事こそ彼の一門、西院鬼の至上目的。新たな狩場と敵の出現が予測されるならば、此方もそれに相応しい備えが要る。物静かな佇まいとは裏腹に、男の内側には黒々とした殺意と狂気が渦巻いていた。

「怨念こそ我等が力、我等が糧は怨敵の血肉。彼奴等もまたいずれ見える怨敵への刃としよう」
『『嗚呼あああぁァァァ……!』』
 この地の神も吸血鬼も喰らうと堂々言い放った織久に、頭と翼を欠損した異形の神々が襲い掛かる。向けられた殺意に反応したのか、その体からは透明な【この世のものでない植物】の蔦が伸び、侵入者を絡め取らんとする。
「我等が怨念尽きる事なし」
 織久は第六感と野生の勘で見えない攻撃を察知し、付近にいる味方と昏睡した一般人の位置を把握してから【殺意の炎】を放つ。白い肌を突き破るように噴き出した黒い炎が、敵の攻撃よりも疾く戦場を燃え上がらせた。

『ッ……?! 熱イ!』『火ダ……炎だ!』
 織久が放った殺意の黒炎は、周辺の薔薇の花や蔦を焼いて一気に燃え広がる。地面ごと敵を炎上させるという大胆な範囲攻撃に、巻き込まれた異端の神が恐怖の悲鳴を上げた。
「その得体の知れぬ草花もろとも、焼き尽くしてくれよう」
『止メろ……!』
 植物の権能を持つ神々は、やはり炎を苦手とするのか。往時の力があれば空中に逃れる事もできたろうが、片翼を喰われた今はそれも望めない。地を這うしかできぬ彼女らは、怨敵を前にして燃え盛る怨念と殺意の炎によって、無慈悲に焼き焦がされていく。

(昏睡者を巻き込まないように気をつけませんと)
 敵対者は容赦なく炎で炙りつつも、織久は昏睡中の一般人を避けるように延焼の範囲を巧みにコントロールしている。殺意に衝き動かされながらも彼の思考は落ち着いており、敵味方の行動を予測して同士討ちにならないよう、立ち位置の計算を常に怠っていない。
『熱イ、熱イ……!』『炎ハ嫌だ……!』
 一方の神々は火傷の痛みに苦しみながら、火の手を止めようと不可視の蔦を再度放つ。
 だが初回とは違って今は大地を焼く炎の揺らぎが、見えない蔦の動きを教えてくれる。たとえ小さな陽炎の揺らめきでも、彼にとっては十分だった。

「延々と焼かれるのが嫌なら、一息にその命を刈り取ってくれよう」
 襲い掛かる蔦をひらりと躱し、残像が生じるほどの速さで戦場を駆け抜けていく織久。
 一拍のフェイントを挟んだ後に、振り斬られるのは闇器「闇焔」。怨念を具現化した炎を纏い、漆黒の刃が敵を薙ぐ。
『ギィィィ嫌ァァァぁぁぁ―――!!!!』
 真っ二つに切断された神々の断末魔、未練、恐怖そして血肉――全ては彼の糧となり、殺意の炎をより激しく燃え上がらせる。あまねく敵を戦場から駆逐するその時まで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

岩倉・鈴音
神は不老不死と聞くが、喰われても死なぬとなると哀れな肉に囚われた存在だな。

とにかく祭壇におられても邪魔なんでな、排除させてもらう!

陽動して神々の攻撃をひきつけ、昏睡した人々に攻撃の被害がいかない配慮をする。
見切りや盾受けで防御しつつ切り込み、貫通させていく。
死なぬモノをどうするか。
サイボーグは肉体や情愛のしがらみをもたない戦闘の鬼ではあるが、神々にはマヒ攻撃でムダな抵抗をさせないようにしながら【ラプチャー】による救済を試みる。
彼らにも帰るべき場所があるかも知れんしな。欠損したなら機械で補完したらどうだ?(サイボーグ化のススメ)



「神は不老不死と聞くが、喰われても死なぬとなると哀れな肉に囚われた存在だな」
 落ちぶれた我が身を譫言のように嘆く異端の神々に、鈴音は冷ややかな視線を向ける。
 不死とは言い換えれば"死ねない呪い"なのかもしれない。何も見えない闇の中で永遠に苦しみ続ける呪い――彼女らの有様を見ればそんな感想も浮かんでくる。
「とにかく祭壇におられても邪魔なんでな、排除させてもらう!」
 だからとて彼女らの存在を放置しておくわけにもいかない。長剣「勝虎巣」を抜き放ち高らかに叫ぶと、その声に反応した神々の敵意が、粘りつく泥の様に鈴音に向けられた。

『嗚呼ァ……苦しイ……』『私ノ首ヲ返しテ……!』
 身体から花びらを散らしながら掴みかかってくる異端の神々。鈴音はその手をひょいと避けると、鈴音はわざと気を引くように足音や声を上げつつ後ろに下がる。昏睡している人々のほうに攻撃の被害がいかないよう、敵を『紋章の祭壇』から引き離す配慮だ。
「見えなくても声は聞こえるのか? ワタシはここだぞ」
『うぅゥ……アァァァァ……!!!』
 陽動にかかった神々は、声はすれども捕まらない相手に苛立ったか、まだその身に遺されていた【異端の一柱】としての全能力を解放する。それはほんの一瞬の事ではあるが、かつて神と畏れられていた時代の全盛期の力を取り戻すユーベルコードであった。

『嗚呼アアァァァァ――――!!!!!!』
 力の代償に理性を完全に失った神々は、もはやただの"音"と化した喚き声を上げながら標的に襲い掛かる。だが、いかに力が強かろうとも正気の欠片もない獣のような攻撃は、鈴音にとってはむしろ見切りやすい類だった。
「それは悪手だったな」
 宇宙白兵戦用の「コズミックシールド」で神の拳を受け流し、カウンターで切り込む。
 体ごと押し込むように突き出された勝虎巣の刃が、陶磁のように白い神の胸を貫いた。

『ア……グガァァ……ッ』
 されど相手は首を失ってなお活動を続ける超常存在、胸を突いた程度で死にはしない。生命の埒外にある超耐久力に対し、ひとまず鈴音はマヒさせて抵抗を封じるよう試みる。
(死なぬモノをどうするか)
 迫りくる神々を次々に斬り伏せながら考える。現在の目的は神の抹殺ではなく"排除"。祭壇に捧げられる生贄でしかない彼女らは、極論すれば紋章化するのを防げさえすれば、あえて殺す必要もないという事になる。

「ならば、べつの場所に置かれて咲きなさい」
 思案の末に鈴音が選んだのは、標的の殺害ではなく【ラプチャー】による救済だった。
 ひょいと投げ放たれた巨大なすくい網が、マヒして動けない神々の頭上に覆い被さる。それには捕らえた対象を棲家に転移させる効果があった。
『ア……嗚呼ァ……此れハ……帰れルの?』
 異端の神々の本来の生息地は地下でなく、地上の辺境である。そしてシシリーに捕らわれていた彼女らが、この忌まわしき祭壇から解放される機会を拒否する理由も無かった。

「彼らにも帰るべき場所があるかも知れんしな」
 サイボーグは肉体や情愛のしがらみをもたない戦闘の鬼ではあるが、時として慈悲を見せる事もある。殺すよりも放逐したほうが簡単だという戦術的理由もあるが、鈴音が神々にかけたそれは紛れもない救いだったろう。
「欠損したなら機械で補完したらどうだ?」
『ア……りが、とう……感謝、ス……』
 果たしてそれで失われた力まで取り戻せるかは分からないが。ともあれ情けをかけられた神々は憑き物が落ちたように感謝の言葉を述べ、『紋章の祭壇』から退去していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
ボクはお前たちの希望にはなれない
ボクはお前たちを滅ぼすものだから

せめて苦痛ではなく希望を灯す光となって散り果てろ
【今は届かぬ希望の光】を発動

例え全盛期の力を奮おうとも
理性がないのならお前たちはボクの光剣を追いかけるだけ
数本の光剣で同士討ちを狙って誘導し
残りの光剣を隙を着いて弱点を狙って突き立てましょう

出来るだけ苦痛を与えないように
一撃で屠るつもりで……

眠っている人々からは離れるように誘導するのも忘れず
光剣で削りきれないのなら破魔の魔銃ヴィスカムも撃ち放ちましょう

ボクは絶望を振り撒く復讐者
でも同時に魔性を打ち破る猟兵でもあります
希望を望む歌い手でもあります

この場の絶望が希望へと繋がりますように…



「ボクはお前たちの希望にはなれない。ボクはお前たちを滅ぼすものだから」
 縋るように、或いは救いを求めるように喚く異端の神々に、アウレリアは静かに淡々と告げる。彼女がここを訪れたのは、人々の絶望を利用した『紋章』の製造を止めるため。その素体である神々を見逃すわけにはいかない。
「せめて苦痛ではなく希望を灯す光となって散り果てろ」
 宣告とともに発動するのは【今は届かぬ希望の光】。鞭剣状の拷問具「ソード・グレイプニル-thorn-」の切っ先を突きつけると、虹色に輝く7本の光剣が現れ、その中の5つが標的めがけて矢のように飛んでいった。

「なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ七色の光。貫け、天空の光剣」
 光なき地底に閃いた5つの閃光は、喰われた神々の四肢や翼を掠めるように舞い踊る。
 瞳を持たぬ彼女らにその光が視えたかは定かではないが、自分達の周りを飛び交う何かの存在を感じ取ることはできたようだ。痛みは大してないが、ひどく煩わしい。
『嗚呼……何だ此レは……』『止メろ……ワタシ達を脅かすナ……!』
 癇癪じみた叫びとともに、【異端の一柱】はその権能を解き放つ。微かに遺された理性さえも捨て去って、僅かな時間のみ全盛期の力を取り戻した彼女らは、全身から萌えいづる異形の花と植物を以って、天空の光剣を振り払った。

「例え全盛期の力を奮おうとも、理性がないのならお前たちはボクの光剣を追いかけるだけ」
 全力を発揮した神々を見ても、アウレリアは落ち着いたままその場を動かない。いや、迂闊に動けば標的にされると分かっているのだ。神々の注意は今、高速で飛翔する5本の光剣のみに向けられている――なら、それを利用して誘導することも可能だ。
『嗚呼アアァァァァ――――!!!!』
 狂ったように喚き散らしながら、近付くものや動くものを無差別攻撃する異端の神々。
 その対象は同胞だろうと例外はない。宙を舞う光剣を追いかけるうちに、彼女らは互いを"敵"と認識し、激しい同士討ちを始めた。

「首を失ったお前たちには、この世の全てが敵に感じられるのでしょうか」
 互いを傷つけあう神々の姿にアウレリアは憐憫に似た感情を抱きつつ、誘導用の光剣を操作して敵が眠っている人々から離れるように仕向ける。昏睡して動けないなら今の神々から標的にされる可能性は低いが、万一にも戦闘に巻き込むわけにはいかない。
(出来るだけ苦痛を与えないように、一撃で屠るつもりで……)
 人々の元から十分に引き離したところで、彼女は温存していた残りの光剣を発射する。
 狙い澄ました閃撃は同士討ちに夢中になっていた神々の隙を見事にとらえ、弱点となる神核に突き立てられた。

『あ、ぁ……っ』
 希望の光剣に貫かれた異端の神は、一瞬何をされたのか分からぬ様子で呆然とあえぐ。
 それでもまだ斃れない驚異的な耐久力は、神々が不死と呼ばれる由縁か。アウレリアは迷いなく破魔の魔銃「ヴィスカム-sigel-」を抜き放ち、神々に向けてトリガーを引く。
「これなら……」
『嗚呼……ッ!』
 ヤドリギの精霊の力を宿した弾丸は、神さえも貫く光の魔弾となって標的を撃ち抜く。
 光剣を受けたのと正確に同じ箇所を穿たれた異端の神は、今度こそ無数の花弁となって消滅していった。

「ボクは絶望を振り撒く復讐者。でも同時に魔性を打ち破る猟兵でもあります。希望を望む歌い手でもあります」
 昏い眼差しで敵を見据え、手には破魔の銃を携え、希望に輝く光剣を操るアウレリア。
 その姿と戦いぶりは彼女が内包する多面性と複雑な心象を表してもいた。絶望の力にて魔を滅ぼし、その先にある未来に希望を抱く。それが今のアウレリア・ウィスタリアだ。
「この場の絶望が希望へと繋がりますように……」
 祈るような囁きとともに、光剣と銃撃が異端の神々を葬り去る。闇と血と死に覆われた『紋章の祭壇』を虹色の輝きが照らす。やがていつかは届く、希望の暗示のように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
『オォォ……嗚呼ァァァ……』
(なんで泣いているのかしら…そ、そうか!?)
(きっと名作と名高い『ラヴ・ラビリンスシーズン3033』を観たから泣いているのね!)
(…なら、しょうがないわ)
うんうんとうなづくカビパン。
『REX 恐竜物語に感動した』
「っ!?」

「てっ…テメェ!!」
右こぶしが喰われた神々にクリティカルヒット。もうこんなもの許すつもりはない。首根っこを掴んで空中で相手の体を支えて怒りの拳を次々と叩き込んだ。

「ラヴラビがあの伝説の映画以下だってのか!サイン以下で悪かったなこの野郎!私が全幅の信頼を寄せている製作総指揮をバカにするな野郎ぶっ殺してやる!!動物愛護パンチ!」
神々はボコボコにされた。



『オォォ……嗚呼ァァァ……』
(なんで泣いているのかしら……そ、そうか!?)
 悲嘆と絶望に満ちた慟哭を上げる『喰われた神々』の様子を、カビパンはしばらく首を傾げて見ていた。が、ふいにその理由にピンと思い至ったらしく、はっと目を丸くする。
(きっと名作と名高い『ラヴ・ラビリンスシーズン3033』を観たから泣いているのね!)
 いや、それは多分、絶対違うだろう――とツッコミを入れる者はここにはいなかった。
 一体なんぞやと思う者のために説明すると、ラヴ・ラビリンスとはカビパンが不定期に制作する、謎の劇場作品シリーズである。毎回オブリビオンが役者として巻き込まれては酷い目にあうのがお約束で、理不尽なギャグ展開を武器にした精神攻撃のようなものだ。

(……なら、しょうがないわ)
 カビパンは自分がこれまで携わってきたラヴ・ラビシリーズに余程自信があるらしく、うんうんと大きく頷く。そもそも首もない神々に視聴ができるのだろうか――? というまともなツッコミは残念ながらお呼びではないようだ。
『うぅぅ……嗚呼ァ……』
 そんな具合でカビパンは勝手に納得した顔で「笑門来福招福軍配」をぱたぱたと扇ぐ。
 するとそこに、『紋章の祭壇』の周りにいた異端の神の一体が近寄ってくる。ひょっとして感想でも言いに来たのかと、彼女はワクワクした笑顔で耳を傾けるが――。

『REX 恐竜物語に感動した』
「っ!?」
 その異端の神から口にされた言葉は、色んな意味で予想外だった。おそらくカビパンが軍配の力で招いたギャグの波動にあてられて言動がおかしくなってしまったのだろうが、当の彼女にさえその発言は看過できないものだった。
「てっ……テメェ!!」
 軍配も愛用のハリセンも投げ捨てて、渾身の右こぶしを叩き込む。女神の加護による力を宿したそれは、喰われた神の土手っ腹に吸い込まれるようにクリティカルヒットした。

『ごふ……ッ!!!』
 体をくの字に曲げて崩れ落ちる異端の神。それを見た他の神々の何だ何だと慌てだす。
 いつになくキレた様子のカビパンはそれを見下し、唾を吐き散らしながら大声で叫ぶ。
「ラヴラビがあの伝説の映画以下だってのか! サイン以下で悪かったなこの野郎!」
 どうも自分の関わった作品が他の作品に劣ると言われたのが癪に障ったらしい。そもそもの発端は彼女の勝手な思い込みから始まっており、異端の神に対する仕打ちは完全なる八つ当たりでしかないが、それを冷静に指摘できるツッコミ役は本日は不在である。

「私が全幅の信頼を寄せている製作総指揮をバカにするな野郎ぶっ殺してやる!!」
 思い込みから無限に怒りを燃え上がらせるカビパンに、勝手にバカにされたことになる製作総指揮。この理不尽な逆襲の為に彼女は【仕方ないから少しやる気出します…】まで発動して、全能力を6倍にして異端の神々に殴りかかる。
「動物愛護パンチ!」
『グワー―ッ!!』『ギャーーッ!?』
 多少言動はアレでも彼女に宿っているのは本物の女神の加護である。頭と片翼を失い、全盛期から見る影もないほど弱体化した今の神々が太刀打ちできるような相手ではない。
 憐れ異端の神々は、先程の発言を撤回するまでカビパンにボコボコにされたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

異端の神とは言え、こうなると哀れなものだな…
フン、同情はしても手加減はせんがな

一定の距離を保ちつつ銃撃
目標を私だけに集中させれば囚われた人々が巻き込まれる事は無いだろう
無数の蔦はナガクニ、もしくはデゼス・ポアで切り払い対処する

同情はしても手加減はしないと言ったはずだ…
その身体が軋み潰れるまで、踊り狂え

敵の集団に向けてUCを発動
無数の操り糸で異端の神たちを操って無数の蔦を周辺にばら撒く事で、次々と同士討ちをさせていく
互いを攻撃させながら祭壇から引き離せば、囚われた人々に危害が行く事も無いだろう

眠るがいい、名前さえも失った神々よ
骸の海で揺蕩えば、お前達の苦痛もいずれは流れ去るだろう



「異端の神とは言え、こうなると哀れなものだな……」
 頭と片翼を喰われた神々がよろめき歩きながら嘆くさまを見て、キリカはそう呟いた。
 かつての力も威厳も失い、誰からも崇拝されることもなく、奴隷と変わりのない扱いで地底に囚われた神。人類の脅威とはいえ、その零落ぶりには一片の同情の余地はあろう。
「フン、同情はしても手加減はせんがな」
 彼女らを紋章の素体にせんとする吸血鬼の陰謀を阻止する為に、戦場傭兵は躊躇なく銃口を向ける。するとその殺気を感じ取った異端の神々も、澱んだ敵意を向け返してきた。

『敵ダ……』『敵……!』
 異端の神々が地面に両手をつくと、そこから【この世のものでない植物】の蔦が伸び、外敵を捕らえようとする。現し世とは異なる神の権能の具現であるそれは、人間の目には捉えられない不可視の攻撃だった。
「援護しろ、デゼス・ポア」
 迎え撃つキリカは短刀「ナガクニ」を片手で抜き、デゼス・ポアと共に蔦を切り払う。
 そしてもう片方の手に構えたVDz-C24神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"のトリガーを引き、銃弾の雨を敵集団に浴びせた。

『嗚呼ぁァァァ……!』
 対呪物戦用に洗礼を施され、聖書の箴言が込められた"シルコン・シジョン"の弾丸は、聖なる力を以って敵を討つ。ただの鉛玉では怯むこともない異端の神々にとってもこれは脅威であるらしく、銃撃を受けた体から血飛沫と悲鳴が上がった。
(目標を私だけに集中させれば囚われた人々が巻き込まれる事は無いだろう)
 キリカはそのまま一定の距離を保ちつつ銃撃を続け、敵の警戒を自身に釘付けにする。
 その目論見は上手くいっていたが、相手は腐っても神だ。聖なる攻撃でダメージは与えられても致命傷を負わせるのは難しい。連中を倒すにはあとひとつ決定打が欲しかった。

「ならば、自らの力で息絶えるがいい」
 そこでキリカは銃撃を牽制として、本命となる【La marionnette】の操り糸を放つ。
 彼女の指先から伸びた不可視の糸は、銃撃に悶える神々の手足に絡みつき、その動作を強制的に操作する。自らの意に反して体が動きだすのを見て、神々は驚きの声を上げた。
『何ヲ……痛イっ!!』
 糸のさせる動きに逆らおうとすると、耐え難い激痛が全身を襲う。この操り糸は呪詛毒を体内に流し込むための導線であり、命令に反すれば苦痛を与える仕掛けになっている。強制するのではなく痛みを以って敵を支配するのが、このユーベルコードの本質なのだ。

「同情はしても手加減はしないと言ったはずだ……その身体が軋み潰れるまで、踊り狂え」
 キリカは糸を通じて異端の神々を操り、無数の蔦を周辺にばら撒かせる事で同士討ちをさせる。自らの権能である植物を使って、神々が互いを縛り、締め上げ、引きちぎる様は滑稽な舞踏会を見ているようでもあった。
(互いを攻撃させながら祭壇から引き離せば、囚われた人々に危害が行く事も無いだろう)
 操り手の誘導に従って踊らされる神々は、自分たちがどこへ歩かされているかも気付くまい。一般人の安全を確保すれば、彼女らの演じる死の舞踏はより苛烈に激しさを増す。

「眠るがいい、名前さえも失った神々よ。骸の海で揺蕩えば、お前達の苦痛もいずれは流れ去るだろう」
 踊り疲れたように1人、また1人と斃れていく神々に、キリカが弔いの言葉をかける。
 もはや誰も――吸血鬼の策謀も届かぬ闇の底で、彼女らは永久の眠りにつくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
あのカミサマ達はもう駄目みたい…
でも、手の届く希望は、未来へ繋ぎたい

さっきのお花は、綺麗に咲いてるだけやったから燃やさない様にしたんやけど…
私の邪魔をするなら、何であっても敵やから
私の周りを焔で覆ってしまえば、蔦が見えなくても問題無いです
近付くなら焼き切ります【焼却】
倒れてる人へ駆け寄って【ダッシュ】焔の内側へ。戦場から離れたところまで引っ張ります。右腕と左手で2人抱えるくらい余裕です【怪力】
私が動ける範囲のヒトだけでも、一箇所に集めたら、それを覆う様に翼を広げてシシリーが出て来るまで守ります

ね、まだしんだら駄目ですよ
あなた達は、この世界に希望を結んでいく、大事な役目があるんやから



「あのカミサマ達はもう駄目みたい……」
 吸血鬼の陰謀により頭と片翼を喰われ、既に半ば『紋章』になりかけた異端の神々に、結希は悲しげな目で見つめる。ああも弱体化してしまっては、神としての威光を取り戻すことも、正気に返ることも不可能だろう。
「でも、手の届く希望は、未来へ繋ぎたい」
 そこから視線を少し動かせば、『紋章の祭壇』の側で倒れている人々の姿が瞳に映る。
 あそこにいるのは、祭壇の生贄として拐われてきただけの無辜の民。生きてこの世界の未来を紡ぐはずの命であり、こんなところで失われてはいけない希望だ。

『来るナ……来ルな……』『嗚呼アぁぁぁ……!!』
 人々を救出せんとする結希の前に、立ちはだかる異端の神々。頭と一緒に知性の大半も喪失したのか、近づく者は全て敵とみなして【この世のものでない植物】を放ってくる。
「さっきのお花は、綺麗に咲いてるだけやったから燃やさない様にしたんやけど……私の邪魔をするなら、何であっても敵やから」
 愛剣『with』を両手に身構えて、結希は【拒絶する焔】を発動。背中に広げた緋色の翼から、絶望を拒絶する焔の嵐が放たれ、彼女を絡め取らんとする無数の蔦を焼き払った。

「周りを焔で覆ってしまえば、蔦が見えなくても問題無いです」
 目で捉えられるかに否かに関係なく、緋色の焔は結希に迫る絶望をことごとく退ける。
 無数の蔦を瞬時に灰にする熱量は、まどろみの花畑で彼女がどれだけ手加減していたか分かるものだ。そして一度敵と定めた者に対する迷いのない闘志も。
「近付くなら焼き切ります」
『オォォ嗚呼ァアアァァ……!!』
 一応警告は発するものの、異端の神々は蔦を無力化されても矛を収めようとはしない。
 猛火を避けて直接掴みかかってくる輩に、結希は焔を纏わせた『with』を振るい、一刀のもとに斬り捨てる。

『ギィィィィ嫌あああァァァァ―――!!』
 焔に包まれて絶叫する神々の横をすり抜けて、結希は倒れている人々の元へ駆け寄る。
 戦闘の騒ぎでも目を醒まさないほど深い昏睡状態にあるが、生命に別状はなさそうだ。呼吸と脈拍の安定を確認すると、まずは敵に襲われないよう焔の内側へと囲い込む。
「よいしょ、っと」
 拒絶する焔を地面から立ち上る壁のように展開すれば、異端の神々は入ってこれない。
 その間に結希は倒れている人々を抱え上げ、戦場から離れた場所まで引っ張っていく。

「ここは危ないですから、こっちへ」
 右手で『with』を握ったまま、左腕と左手を使って同時に2人を抱えて運ぶ。気絶した人間とは想像以上に重たいものだが、普段から超重量の大剣を振るい慣れている結希にはこのくらい余裕だ。
「私が動ける範囲のヒトだけでも、一箇所に集めて……」
 『紋章の祭壇』と安全圏の間を何度か往復し、できる限りの人々を運び出すと、彼女はそれを覆うように緋の翼を広げる。もしまた異端の神々が襲ってきても、ここにいる人々には指一本触れさせないという堅守の構えだ。

「ね、まだしんだら駄目ですよ。あなた達は、この世界に希望を結んでいく、大事な役目があるんやから」
 緋色の翼を羽ばたかせ、絶望の闇を焔で照らしながら、結希は自分の後ろにいる人々に優しい声で語りかける。小さくか弱くとも必死に生きる命に、己の希望と期待も寄せて。
 彼女はそれからシシリーが出て来るまでの間、異端の神々からの攻撃をはね退け続け、人々を無事に守り通したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
忌まわしき異端の神々め、喰われてなお死なぬか
往生際の悪い、ここでトドメを刺してやる

理性を失っているならば御し易い
祭壇へ向かって駆け抜け(ダッシュ)、注意を惹き付けて生贄になった方々から引き離す(存在感・おびき寄せ)
こっちだ!

振るわれる攻撃へ、聖槍を叩き付けて斬り返す(見切り・カウンター)
聖槍に纏うは常の清浄なる力ではなく、猛毒の瘴気(呪穿魔槍)
掠り傷であろうと、花は枯れ、蔦は腐り、不治の裂傷と猛毒が蝕む
かつての権能を取り戻そうと、如何なる力を得ようと、その源たる生命を止め処なく流出すれば無意味
再び衰えたところへ追い討ちで【串刺し】にし、更に猛毒を注ぎ込む



「忌まわしき異端の神々め、喰われてなお死なぬか」
 吸血鬼に並ぶこの世界の脅威である不死の神を、敵意を露わに睨め付けるオリヴィア。
 相手はたとえ肉体を滅ぼされようと、殺した相手に取り憑いて生存するような存在だ。頭や片翼を失った程度では、弱体化はさせられても殺せないという事か。
「往生際の悪い、ここでトドメを刺してやる」
『嗚呼アぁぁぁ……嫌嫌嫌嫌ヤァ……!!!』
 刺し貫くような鋭い殺意を向こうも感じ取ったか、喰われた神々は次々に絶叫を上げて【異端の一柱】を発動する。それは強引に全盛期の能力を引き出すユーベルコードだが、代償として理性を完全に失うリスクもあった。

「理性を失っているならば御し易い」
 オリヴィアはわざと相手の知覚に捉えられるように『紋章の祭壇』に向かって駆ける。
 動く物体に敏感な神々の注意を引きつけて、生贄になった人々から引き離すためだ。
「こっちだ!」
『ぐうぅゥゥァァァ……ッ!!』
 祭壇の側を駆け抜けていくオリヴィアを、獣ような唸り声を上げて異端の神々が追う。欠損した体から見たこともない植物の花や蔦を生やし、外敵を抹殺する腕や刃に変えて。

「ここまで引きつければ十分か」
 敵が一般人から離れたのを確認してから、オリヴィアは振るわれる攻撃へ破邪の聖槍を叩き付ける。常ならば清浄なる力を宿すその穂先は、だが今は猛毒の瘴気を纏っていた。
「我が槍に穿たれしもの、決して癒えることなし――!」
 異境の神話に謳われる【呪穿魔槍】の力を再現した聖槍に斬り返された神々の植物は、穂先に触れたところからぐずぐずと腐り落ちていく。草花の一生を早送りにしたそれは、槍に付与された猛毒と生命力流出の呪詛による効果だった。

「一度傷を負えば、掠り傷であろうと、花は枯れ、蔦は腐り、不治の裂傷と猛毒が蝕む」
 あらゆる生命への必殺を約束する呪いの魔槍を振りかざし、反撃に転じるオリヴィア。
 謳う言葉に嘘はなく、瘴気の穂先が閃くたびに花も蔦も朽ち果てる。そして猛毒の呪詛は撃ち合いの隙を縫って、それを操る異端の神々の元にも届いた。
『ぐ……? う、ぐあああぁぁぁぁッ!!?!』
 魔槍から受けた傷口から止めどなく神の血が流れ出す。どのような治療を施そうとも、傷が癒えることはない。異端の神は喉が裂けるような絶叫を上げ、血の池に膝を屈する。
 乱戦の最中に負ったほんの掠り傷さえも致命傷になる。それこそが【呪穿魔槍】の真の恐ろしさであり、魔槍の振るい手はその扱いをよく理解していた。

「かつての権能を取り戻そうと、如何なる力を得ようと、その源たる生命を止め処なく流出すれば無意味」
 尋常ならざる耐久力を誇る異端の神とて、決して無尽蔵の生命力を持つわけではない。全盛期の力を維持できなくなり、再び衰えた草花の主に、オリヴィアは追い討ちを放つ。
『ガ嗚呼ぁ―――!!!』
 胸を串刺しにされた異端の神は、更に注ぎ込まれた猛毒によってとうとう絶命に至る。
 不死を謳われようが所詮はオブリビオン。骸の海に還っていく敵を見下ろす狩人の瞳は、毅然とした冷たさをたたえていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
哀れね…。
そんな姿になっても死ぬ事もできず、紋章の材料にされる為に生かされるなんて…。
せめてもの慈悲よ。貴女達に安らかな眠りを与えてあげる!

昏睡してる人々の周囲に【念動力】の防御壁を展開し、【神滅の焔剣】を発動。
真祖の力を解放し、神滅の焔を放って異形の花びらを一掃し、そのまま周囲一帯を焔で焼き払い、見えない蔦や植物も焼き尽くして対処。
そのまま焔をで敵を焼き払いつつ、一時的に全盛期の力を取り戻した敵は高速飛行とレーヴァテインで全て焔断し、焼滅させてあげるわ。

この焔は神魔を滅ぼす焔…貴方達みたいな神や魔に特に効果的なのよ。
この焔で貴方達を縛る紋章の術式ごと、貴方達を滅してあげる。
さぁ、眠りなさい



「哀れね……。そんな姿になっても死ぬ事もできず、紋章の材料にされる為に生かされるなんて……」
 かつての面影を見ることすら出来ないほどに零落し、無様な醜態を晒す異端の神々に、フレミアは憐れみの眼差しを向ける。なまじ生命を超越した存在であるが故に、彼女らはここで新たな『紋章』の素体として身も心も魂も利用されようとしているのだ。
「せめてもの慈悲よ。貴女達に安らかな眠りを与えてあげる!」
 敵とはいえ斯様な冒涜を見過ごすことは、吸血姫の誇りが許さない。高らかなる宣言とともにフレミアの体は真紅の魔力に包まれ、燃え上がる決意が焔となって吹き上がった。

「我が血に眠る力……今こそ目覚めよ! 我が眼前の全てに滅びの焔を与えよう!」
 フレミアが発動したのは【神滅の焔剣】。血に宿る真祖の力を解放し、神魔を滅ぼす焔を操るユーベルコードだ。彼女が戦場をひと睨みすると真紅の焔が嵐のように吹き荒れ、周囲一帯を焼き払う。
『火……火ダ……!』『熱イ、熱い熱イぃぃぃッ!』
 嵐に巻き込まれた異端の神々は悲鳴を上げてのたうち回り、真っ白な灰と化していく。
 "それ"が神さえも滅ぼしうる特別な焔だと理解した彼女らは、本能的な危機感に衝き動かされるように、焔を操る者への攻撃を集中させた。

『嗚呼アァぁァ嗚呼アぁ!!!』
 胸を掻きむしり流れた血が、翼からこぼれ落ちた羽が、【名称不明の毒花】の花びらとなってフレミアを襲う。神の権能を宿すそれは特に金属に対して強い威力を発揮するが、肉持つ者に無害なわけではない――。
「無意味よ」
 だが、フレミアの周囲で巻き起こる焔の嵐は、異形の花びらも瞬時に一掃してしまう。
 焔は敵を討つ剣であると同時に、彼女を守る盾でもあった。花びらに紛れて伸びてきた【この世のものでない植物】の蔦も、全て焼き払って塵に変える。

「この焔は神魔を滅ぼす焔……貴方達みたいな神や魔に特に効果的なのよ」
 元は植物を司る存在であったこの場の神々にとって、神滅の焔剣はまさに天敵だった。
 いかなる攻撃も権能も、この焔には通じない。全盛期を含めても感じることのなかった"死"の予感が、彼女らの背筋をそっと撫でた。
『あ……嗚呼ああぁァァァぁ――――ッ!!!!!』
 絶対的なる脅威を前にした神々は絶叫し、【異端の一柱】の力を解放して飛び掛かる。
 正気を引き換えにして一瞬だけ全盛期の力を取り戻す最後の切り札。だが、それすらも神滅の焔をまとったフレミアに対しては悪あがきに過ぎなかった。

「この焔で貴方達を縛る紋章の術式ごと、貴方達を滅してあげる」
 フレミアは背中に4対の翼を生やし、目にも止まらぬ速さで異端の神々の元に翔ける。
 殺意ではなく慈悲の心をもって、その手元に圧縮した神殺しの焔は、一振りの剣の形を――神焔剣レーヴァテインの形を取り、赫々たる刃を顕現させる。
「さぁ、眠りなさい」
『嗚呼ァ……!!!』
 一閃。紅蓮の軌跡が敵陣を翔け抜け、立ちはだかる全ての神々を焔断し、焼滅させる。
 苦痛すら感じぬほどの超熱量の中で、異端の神々が最期に口にしたのは解放の安堵か。虜囚の証を灰すら残さず、彼女らの魂は骸の海へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
神々も人間も紋章の材料に…。
これ以上、許すわけにはいかない…。

周囲に【狐九屠雛】を展開…。
自身を中心に周囲を球状に周回させ、放たれた異形の花びらや展開された見えない蔦を迎撃…。
全て凍結させつつ、霊火が見えない蔦を伝って神々へ到達し、そのまま凍結させるよ…。

更に、一時的に力を取り戻した神々は速く動く物を本能的に攻撃する…。
この場で早く動くものは狐九屠雛の霊火しかないから、自ら霊火へ攻撃を仕掛けて凍結するしかない…。
貴方達にわたしは倒せないよ…。

貴方達も被害者ではあるけど、眠ってる人達を助けないといけないし、このまま放っておくわけにはいかないからね…。
このまま地獄の霊火で苦しみもなく眠らせる…。



「神々も人間も紋章の材料に……」
 第五の貴族シシリーが『紋章の祭壇』で企てる悍ましい陰謀の実態を目の当たりにし、璃奈は思わず眉をひそめた。これまでにも数多くの人と神の生命がこの祭壇に捧げられ、その"絶望"が吸血鬼の力を高めてきたのだ。
「これ以上、許すわけにはいかない……」
 決意を新たにした彼女は九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】を発動し、地獄の霊火を召喚して敵と対峙する。ここで『紋章の祭壇』と管理者を滅ぼし、絶望の紋章の創造を今日限りとする――そのためにはまず、喰われた神々を倒さなければ。

『許さヌ……許サぬぞォ……』『よクモ……我ラを……!』
 肉体の欠損により零落した異端の神々は、怨みと嘆きの矛先を璃奈に向けて【この世のものでない植物】や【名称不明の毒花】を放つ。頭部とともに瞳まで失った彼女らには、この世の全てが敵に見えているのかもしれない。
「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
 だが璃奈が展開した【狐九屠雛】は、彼女の周りを球状に周回して炎のバリアとなり、異形の花びらや見えない蔦を迎撃する。神々の植物が現世の理に属さぬなら、それもまたこの世ならざるもの――触れた対象を燃やすのではなく凍てつかせる、絶対零度の炎だ。

「見たことのない草花だけど、植物には違いないみたいだね……」
 高熱で焼き尽くすか、あるいは低温にて凍結させるか。こと植物は極端な温度に弱い。
 地獄の霊火に触れた花びらや蔦は、原子や分子の活動すら停められて完全に凍りつく。さらに蔦を凍らせた霊火はそのまま燃え移り、それを放った神々へと到達する。
『ヒぃ?! 冷たイ……!』
 延焼した霊火に包まれた異端の神はたちまち芯まで凍りつき、物言わぬ氷像と化した。
 もはや苦痛すら感じぬ氷の棺こそ、かの零落した神に最期に与えられた慈悲であった。

『ヨクもォ……ッ!!』
 同胞を倒された神々は激昂し、理性を引き換えにして【異端の一柱】の力を取り戻す。
 欠損した肉体からあふれ出す膨大な神気。一時的なものとはいえ、全盛期の威光が復活した神の危険度はこれまでとは比較にならない――だが、璃奈は眉ひとつ動かさない。
(一時的に力を取り戻した神々は速く動く物を本能的に攻撃する……)
 正気を失った神々の行動パターンを彼女は既に知っていた。自分がじっとしていれば、この場で早く動くものは【狐九屠雛】の霊火しかない。すなわち敵は自ら霊火に攻撃を仕掛けて凍結するしかないのだ。

「貴方達にわたしは倒せないよ……」
 飛んで火に入る夏の虫。飛び交う霊火に惑わされて手を伸ばし、凍りついていく異端の神々の様子を、璃奈はただ見守っているだけで良かった。これも作戦のうちではあるが、吸血鬼にも猟兵にも翻弄されっぱなしのその有り様には多少の哀れみも感じる。
「貴方達も被害者ではあるけど、眠ってる人達を助けないといけないし、このまま放っておくわけにはいかないからね……」
 どれだけ零落しようと異端の神々が人類の脅威であることに変わりはなく、捨ておけば『紋章』の素材としてさらなる悲劇を生む。それなら今ここで引導を渡してやることが、彼女らに与えられるせめてもの慈悲になるだろう。

(このまま苦しみもなく眠らせる……)
 全てを凍てつかせる地獄の霊火は、自然の炎のように余計な痛みを与えることはない。
 慈悲の眼差しで行く末を見つめる璃奈の前で、異端の神々は氷の棺の中で眠りにつく。それが安らかな最期かは分からぬが、これ以上の冒涜を受けることはないだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
哀れみを誘う様相ですが……優先順位を違えるつもりはありません

自身の大盾をUCで花弁に変換
バリアビットを昏睡する人々の元へ飛ばし、籠の如きバリアを展開し保護

さあ、其方の相手は私です!

脚部スラスターの●推力移動で注意惹き付け敵中へ
残った花弁と花弁との間で展開するバリアを極薄の切断用武装として使用
手足や翼を斬り落とし

多少の手傷では止まりませんか…

攻撃に回したバリアビットを手元に戻し電脳剣の刀身の延長線に再配置
バリアで刀身形成
剣の簡易電脳魔術でビットを●ハッキング武器改造出力限界突破
バリア自体を超高速振動させ殺傷力高め、袈裟切りに両断

祭壇の主が戻る前に人々を確保する為…疾く討ち果たさせて頂きます



「哀れみを誘う様相ですが……優先順位を違えるつもりはありません」
 吸血鬼の陰謀により零落した神々の姿に同情の余地を認めつつも、トリテレイアは先ず救うべきは人々の命であると断言する。新たな紋章の素材として集められた罪なき人々を守ることが、騎士として成すべき最優先事項だ。
「騎士の名に賭けて、これ以上は傷ひとつ付けさせはしません」
 そのために彼は【電脳禁忌剣・通常駆動機構:兵装改造『守護の花』】を発動し、自身の大盾を無数のブローディアの花弁に変換する。騎士の意を受けてひらりと戦場に散ったたそれは、昏睡する人々の元で籠のようなバリアを展開した。

「さあ、其方の相手は私です!」
 人々を保護すると同時に脚部スラスターを起動させ、敵陣へと吶喊するトリテレイア。相手の注意を引き付けるような振る舞いは当然、保護対象から目を逸らさせる為の策だ。
『敵……敵テキてき……嗚呼あぁァァァッ!!!』
 脅威を認識した神々は【異端の一柱】としての全盛期の力を一時的に取り戻し、魔獣の如き咆哮を上げて彼を迎え撃つ。理性を完全に喪失するリスクはあるものの、引き換えに得られる攻撃力・耐久力は凄まじいものだ。

「油断ならぬ相手のようですが……あまり時間をかけてもいられません」
 速攻での撃破を狙って、トリテレイアは手元に残していた花弁型バリアビットを放つ。
 それは本来守護を想定したものではあるが、転用すれば切断用の武装としても使える。花弁と花弁との間で展開されるバリアが、極薄の切断力場となって異端の神々を襲う。
『ギィっ!? イギィッぃ嗚呼アァあぁ!!!』
 バリアの刃は見事に標的の手足や翼を斬り落としたが、異端の神々は切断面から無数の植物を生やして失った部位を補完する。既に頭部を喰われてなお活動を続けているのだ、手足の一本や二本程度どうとでもなるということか。

「多少の手傷では止まりませんか……」
 目標の耐久力を改めて確認したトリテレイアは、植物の義足や義手で殴りかかってくる異端の神々をスラスターの推進力で避けつつ、攻撃に回したバリアビットを手元に戻す。
 確実な勝利を求めるのならば、敵が全力を発揮できる時間が限られているのを利用し、長期戦に持ち込むのが良いだろう。だが悠長に時間切れを待つつもりは彼には無かった。
「祭壇の主が戻る前に人々を確保する為……疾く討ち果たさせて頂きます」
 手にした電脳剣アレクシアの刀身の延長線に、バリアビットを再配置。剣に搭載された簡易電脳魔術機能でビットの制御システムをハッキングし、規定出力限界を突破させる。
 強化したバリアを刀身の延長に見立て、さらにバリア自体を超高速振動させることで、規格外のスケールと殺傷力を誇る巨大剣が完成する。

「いささか規定外の使用法ではありますが……この鋼の花弁の刃、易々と耐えられると思わぬことです」
 超耐久力を誇る敵を速攻撃破する為に必要なのは、再生も補修も許さぬ一撃の破壊力。
 渾身の膂力で振り下ろされた振動剣の斬撃が、異端の神の肉体を袈裟懸けに両断する。
『ギイィィィィィィやあアァあァァァ―――ッ!!!!』
 断末魔の絶叫を上げて倒れ伏した神は、もう二度と起き上がって来ることはなかった。
 科学の力による神殺しの剣を手に入れたトリテレイアは、驚愕する神々を迅速かつ最適に斬り伏せていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
おはよう。だいぶ喰われてるみたいだね。

あえて蔦に捕まるよ。オーラ防御で最低限ガードしつつ、攻撃を受けて感情を読み取るよ。これは防衛反応なのかな?それとも自尊心?いや、苛立ちか。

キミという存在は消えるけど、最後に拍手で見送ってあげるよ。だから、キミのお話を教えて。



「おはよう。だいぶ喰われてるみたいだね」
 見るからに無残に"食い散らかされた"異端の神々に、朗らかに声をかけたのはアリス。
 その表情は闘志でも殺意でも恐怖でもなく、子供らしい純粋な好奇心に彩られている。もっともそれを向けられる神々が、彼女を好ましく思うはずもないが。
『ウゥゥぅ嗚呼ぁ……!』
 神の体から伸びた【この世のものでない植物】の蔦が、アリスにしゅるりと絡みつく。
 少女はあえてそれを避けようとせずに捕まり、絞め殺されないようにオーラで最低限のガードだけ行いつつ、顔のない相手の気持ちを行動から読み取ろうとする。

「これは防衛反応なのかな? それとも自尊心? いや、苛立ちか」
 見えない蔦がこちらの体を締め付ける強さには、明確な殺害の意図が込められている。往時から見る影もないほど零落したとはいえ、神々は感情まで失った訳ではないようだ。いや――零落したことで、寧ろその情動は"人らしく"わかりやすくなったのだろうか?
「からかわれたと思って、怒ってるのかな?」
『憂うぅゥゥゥ嗚呼あアァァァ……!!』
 譫言ばかりで会話すらままならない相手の感情を理解しょうと、アリスは攻撃されるのも構わず話しかける。戦術的には不利でしかない行動をあえて彼女が取る理由はひとつ、そのほうがよりドラマティックなお話を食べることができると思ったからだ。

(こうしたら、より美味しくなるんじゃないかな)
 【物語中毒】のアリスはいつだって新鮮で美味しいお話を求めている。もっと効率的で簡単な解決法があったとしても、それでお話が不味くなってしまったら本末転倒。時には自分の身を危険に晒してでも、最高のクライマックスを望むのだ。
「キミという存在は消えるけど、最後に拍手で見送ってあげるよ。だから、キミのお話を教えて」
『嗚呼ァァ……我ハ……我らハ、陥れられタ……アノ吸血鬼の女ニ……!』
 諦めないアリスの問いかけが功を奏したか、異端の神々はぽつりぽつりと自分達の境遇を語りだした。かつては植物の神格として崇められる存在であった彼女らは、全ての神々を滅ぼさんとする1人の吸血鬼の標的にされ、頭と片翼を失った。

『奴ハ我らヲ殺しもセず……たダ貶め……斯様ナ地の底ノ底に閉じ込メタ……人間風情ト混ぜ合ワせ、自らノ力とすルためニ……!』
 誇り高き神々にとってそれがどれほどの屈辱なのか、神ならぬ者には想像に余りある。
 怨嗟と嘆きに身を焦がそうと、既に半ば紋章に"なりかけ"た体では反抗すら許されず。時折運ばれてくる人間や侵入者を殺すことだけが、無聊を慰める唯一の方法だった。

「なるほどね。辛かったんだね」
 異端の神々の話を聞き終えたアリスは、自身を縛る見えない蔦をぶちりと引きちぎる。
 本当ならこの程度の拘束、いつでも解くことはできたのだ。ドラマ性を優先して不利を受け入れる代わりに身体能力が向上する、それも【物語中毒】の効果である。
「キミ達のお話は忘れないよ。ありがとう、そしてさよなら」
 約束通りにぱちぱちと拍手を送る情報妖精の周りから、出現するのは数百本の炎の矢。
 まどろみの花畑を焼き払ったのと同じ【ウィザード・ミサイル】が、喰われた神々の物語にピリオドを打つために放たれた。

『あアあぁぁぁぁあアァァ―――ッ!!!!』
 炎矢に射抜かれ、蔦と共に炎上する異端の神々。火の粉が爆ぜるパチパチという音は、拍手の音にも似ていて。微笑むアリスに見送られ、神々の魂は骸の海へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…世界の敵に成り果てたお前達に慈悲をかける気は無いけど、
そんな状態でまだ生き恥を晒しているのは辛いでしょう?

…心配しなくても仇は私達が打ってあげるから、
お前達は心安らかに骸の海に還るが良い

瞬間的に吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを即時発動
召喚した黒騎士霊のうち75騎に周囲の人達の保護を命じ、
残りの黒騎士達に対神属性攻撃の黒炎の魔力を溜めて敵陣に切り込み、
1騎が敵の攻撃を受け流している隙に背後から攻撃する集団戦術で各個撃破を狙う

…貴方達は倒れている人達の回収と護衛をお願い。残りは私に続きなさい

…敵は獣に等しい。連携して戦えば恐れるに足らず

…さあ、神狩りの時間よ。彼奴らの血肉を啜るが良い



「……世界の敵に成り果てたお前達に慈悲をかける気は無いけど、そんな状態でまだ生き恥を晒しているのは辛いでしょう?」
 かつての威光は見る影もなく、生贄として幽閉されるまでに落ちぶれた異端の神々に、リーヴァルディは淡々と告げる。どんな境遇にせよ奴らは相容れぬ敵に変わりはないが、同じヴァンパイアに敵意を抱くものでもある。
「……心配しなくても仇は私達が打ってあげるから、お前達は心安らかに骸の海に還るが良い」
 敵の敵は味方という訳ではないが、敵の計画を挫くついでに介錯くらいはしてやれる。
 黒衣を纏った少女の瞳が一瞬だけ赤く輝き、身体に収まりきらないほどの生命力が炎となって溢れ出す。それは彼女の血に半分だけ宿る、ヴァンパイアの力の顕現だった。

『嗚呼……貴様ハ……ああぁァァッ!!』
 瞬間的に吸血鬼化したリーヴァルディの気配に反応してか、喰われた神々が騒ぎだす。
 自分達を貶めた吸血鬼は誰なのか区別もつかないほど、知性も正気も失われたらしい。狂気に堕ちた【異端の一柱】の前で、少女はユーベルコードを発動する。
「……限定解放。来たれ、戦場に倒れし騎士達の魂よ」
 【限定解放・血の騎士団】。折れた黒剣や砕けた黒炎の鎧を身に着けて、怨念の蒼炎で形成された騎士の霊が『紋章の祭壇』に出現する。その総勢は115騎――彼らはみな、朽ち果ててなお戦場を求める魂の集合体である。

「……貴方達は倒れている人達の回収と護衛をお願い。残りは私に続きなさい」
 リーヴァルディは召喚した黒騎士霊のうち75騎に昏睡中の人々の保護を命じ、残りの40騎には己の魔力を分け与える。すると朽ちた鎧に燻る黒炎がめらめらと燃え上がり、折れた剣には黒炎の刀身が形成された。
「……敵は獣に等しい。連携して戦えば恐れるに足らず」
 理性を失った異端の神々を見やりながら、彼女は毅然とした口調で語る。たとえ相手が全盛期の能力を一時的に取り戻していたとしても、知恵と技術と仲間の力で数多の人外を打ち倒してきた彼女らにとっては、むしろ与し易い敵でさえあった。

「……さあ、神狩りの時間よ。彼奴らの血肉を啜るが良い」
 先鋒となって切り込むリーヴァルディに続き、蒼炎の霊馬に跨った騎士団が敵陣に突撃する。その壮烈なる騎行には、人々の救助に向かう友軍から注意を逸らす意図もあった。
 理性的な判断を取れない異端の神はただ本能のままに、近付いてくる一番前にいる者に反射的な攻撃を仕掛けるが――。
「……今よ」
『グッ……げアァっ!?』
 蔦や枝を鞭のようにしならせた一撃を、リーヴァルディは黒い大鎌ですっと受け流し。
 その隙に背後に回り込んだ騎士達が黒剣を突き立てる。彼らの装備に宿された黒炎は、神々に対して致命的な害をもたらすもので、肉体のみならず魂までも焼き焦がしていく。

『熱イ……アツい……嗚呼ァァァッ!!』
 神殺しの炎に焼かれ、がむしゃらに暴れる異端の神々。まさに邪神と呼ぶにふさわしい暴威にも騎士達は怯まず、リーヴァルディの戦法に倣って1騎が囮として敵を引きつけ、その隙に他の者が攻撃する集団戦法で神々を各個撃破していく。
「……終わりよ」
『ガハ……そう、カ……やっト、終わルのか……』
 次々に討ち取られていく神々が最期に遺す言葉は、微かに感謝と安堵が含まれていた。
 死を以って屈辱から解放された神は、骸の海で醒めることなき眠りについていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
はあ。ゴミになった神様ねえ
興味ねーなあ…ゴミだし…
でもそのゴミが害をなして、このあと廃品利用されるってんなら
皆殺しにするしかねえな?

UC使用。短期予知による無駄のない殺戮を選ぶ
得意な燃やし方をしたら、人間に怪我させかねない
敵UCの範囲攻撃の間隙を【ダッシュ】【見切り】で縫う
攻防共に小刻みかつ大速度なダッシュで行い【地形破壊】による地面の飛散や壁化で花びらを遮る
UC効果に攻撃力がないので【怪力】で一刀で切り伏せる

ゴミはゴミらしく朽ちてりゃいいんだよ
今更未練がましく何の用だよ
別の世界での零落神の話とか聞いたりしたがなあ
――醜いだけの塵はただの怪物だよ。
神様なら有り難い言葉の一つでももってきやがれ



「はあ。ゴミになった神様ねえ。興味ねーなあ……ゴミだし……」
 道端に転がった残飯でも見たような目と口調で、ルーチェは喰われた神々を一瞥する。
 こんな死にかけの、いや死んでいたほうがマシみたいな無様な連中を殺したところで、彼女の復讐心はちっとも満たされない。まったく興冷めもいいところだ。
「でもそのゴミが害をなして、このあと廃品利用されるってんなら、皆殺しにするしかねえな?」
 クズがゴミを利用してクソみたいな計画を立てているのなら、まずはゴミ掃除からだ。
 ゆらり、と血錆に覆われた長大な両手剣を構える少女の総身には、殺意が漲っていた。

『ウゥぅ……苦しイ……嗚呼アァッ!』
 殺意に反応した異端の神々は、悶えるように体を抱きしめながら片方しかない翼を羽ばたかせる。すると散った羽が【名称不明の毒花】の花弁となり、ルーチェに降り注いだ。
(得意な燃やし方をしたら、人間に怪我させかねないな)
 対するルーチェは分別に従って今回も花を焼き払うのを自重し【絶望の福音】を発動。
 10秒先までの未来を見通すことで攻撃のタイミングを見計らうと、花弁に襲われる寸前に大剣を地面に叩きつけた。

「どうせ後でぶち壊すんだ、今あたしが先に壊したって同じだろ」
 その細腕からは想像もつかない膂力で叩きつけられた大剣は、地面を砕いて破片と土埃を飛散させ、地盤をめくり上げて壁を作り出す。それによって異端の神々が放った花弁は遮られ、ルーチェの元には届かなかった。
『うウゥゥ……?』
 神々は首を傾げるような仕草をしてもう一度花弁を飛ばすが、土煙と壁の向こうに標的はもういない。大剣を担ぎながら野兎のような瞬発力で戦場を駆け、攻撃の合間を縫って敵のすぐ近くまで迫っている。

「ゴミはゴミらしく朽ちてりゃいいんだよ。今更未練がましく何の用だよ」
『ギィ……ッ?!』
 ぶっきらぼうな発言とともに、横一文字に豪快に振り抜かれた「絆と呪縛の錆剣」が、異端の神の胴体を真っ二つにする。相手にもし頭が付いていれば、驚愕の表情を浮かべていただろう。純然たる膂力にて神を一刀のもとに斬り伏せるのは、尋常の業ではない。
「別の世界での零落神の話とか聞いたりしたがなあ――醜いだけの塵はただの怪物だよ」
 ルーチェは心底軽蔑しきった目つきで敵を見下しながら、容赦のない斬撃を繰り出す。
 絶望の福音が危機を知らせれば、小刻みなステップとダッシュで敵の反撃から逃れる。たった10秒とはいえ、未来を予測する力は圧倒的なアドバンテージを彼女に与えていた。

「神様なら有り難い言葉の一つでももってきやがれ」
 益体もない譫言しか吐かぬゴミ共を、悉く撫で斬りにするルーチェ。ともすれば武器の重さと大きさに振り回されてしまいそうな小柄ながら、その身のこなしは機敏で力強く。短期予知に導かれた斬閃は無駄のない殺戮を描く。
『ぎぃぃィヤアぁぁぁァァ―――!!!』
 斬り倒された異端の神々は醜い断末魔を上げて斃れ、異形の花弁とともに消えていく。
 最期まで未練がましく喧しい奴らだったな――と、少女はふんと鼻を鳴らすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
指定UCは1章から発動継続

素体にも絶望を与えて
より紋章の効果を高めるつもりか
吸血鬼、どこまでも心を弄ぶ!

昏睡状態の人々の救出優先
「視力、暗視」で居場所を確認し
「地形の利用、ダッシュ」+UC効果の高速移動で駆けつけ
「怪力」を発揮し両脇に抱えて安全圏まで運び出そう

避難完了後急ぎ引き返し
黒剣に「属性攻撃(炎)」で炎を宿し一気に振り切り「衝撃波」発射
神々を炎の衝撃波でまとめて「なぎ払い」
怯んだ隙に1体ずつ「2回攻撃」で斬り刻んで止めだ
異形の花びらは「挑発」し俺だけに意識を向けさせ
漆黒の「オーラ防御、激痛耐性」で耐えきろう

見られたくないか
なら、永遠に見られないようにしてやる!



「素体にも絶望を与えて、より紋章の効果を高めるつもりか」
 零落した我が身を嘆き、懊悩する『喰われた神々』の様子を見て、敬輔は連中を囚えた吸血鬼シシリーの意図を推察する。神々の命は紋章製作では特上の素材になると言うが、そこに神の絶望も加われば、人間の絶望を抽出した『紋章』の完成度はより増すだろう。
「吸血鬼、どこまでも心を弄ぶ!」
 人も神も等しく愚弄した敵の所業に憤りを抑えられず、青年は身を震わせながら叫ぶ。
 だが――この怒りをぶつけるべき相手はまだ此処にはいない。まずは昏睡状態の人々の救出を優先し、紋章の素体にされた神々を葬るのだ。

「吸血鬼がやって来る前には、どちらも完了させなければ」
 この世界で生まれ育った敬輔の視力は、地底の闇を見通して要救助者の所在を捉える。
 彼は猟兵と神々の戦いの騒乱に乗じて、【魂魄解放】で強化された移動速度を活かして人々の元に駆けつける。その素早さはさながら一陣の風だ。
「……どうやら眠っているだけのようだな」
 生贄として捧げるまでに殺してしまうわけにはいかなかったのだろう、花の毒を吸って昏睡しているが命に別状はないようだ。彼はできるだけ多くの人間を纏めて両脇に抱え、並外れた怪力で戦場の近くから運び出す。

「この辺りなら大丈夫だろう」
 運び出した人々を『紋章の祭壇』からできるだけ離れた物陰に横たえて、敬輔はふうと息を吐く。今は毒の治療までしている暇はないが、ここにいればひとまずは安全だろう。
 これを何度か繰り返し、人々の避難をほぼ完了させると、彼は急ぎ戦場へと引き返す。ここからは鉄火場だ――闘志の昂りに応えるように、手にした黒剣に紅蓮の炎が宿る。
「覚悟してもらうぞ、異端の神々よ」
 挨拶代わりに敵陣目掛けて剣を一気に振り切ると、魂の力と炎が1つになった衝撃波が生まれる。それは紅蓮の波濤のごとく異端の神々をなぎ払い、蔦や花弁を焼き焦がした。

『アアァァあぁぁっ……熱イ……!!』
 元は植物を司るものだったらしい彼女らにとって、炎は忌むべき天敵のひとつだった。
 衝撃波を受けた神々が悶え苦しんでいる隙を突いて、敬輔はその一柱の元に駆け寄り、今度は直接炎の斬撃を叩き込む。
「どうした、この程度か!」
『ぎやぁッ!!?』
 ばっさりと斬り伏せられた異端の神々の肉体は灰と化し、跡形も残さずに散っていく。
 炎の黒剣を手に、堂々と相手を挑発するその姿は、他の神々の意識を向けさせるのにも十分だった。

『止めロ……照らスな……』『私達を見ルな……!』
 炎の灯りを恐れるように神々は顔のあった位置に手をかざしながら【名称不明の毒花】を放つ。苦し紛れにも見えるその攻撃を、敬輔は全身に纏った漆黒のオーラで耐え抜き、怯むことなく前に踏み込む。
「見られたくないか。なら、永遠に見られないようにしてやる!」
 再び放たれた炎の一閃が、異形に堕ちた神々の肉体と魂を焼き尽くす。或いはそれは、貶められた神々へのせめてもの慈悲だったのか――その心が弄ばれる事は、二度とない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
敵の敵は味方……そんな言葉もありますが。
敵の敵だろうと何だろうと、敵は敵です。

花びらが……倒れている人たちをあれに巻き込むわけにはいきませんね。
【冬の尖兵】を召喚。Ⅰのナンバーが刻印された兵士を114体召喚し、私や倒れている人たちに花びらが飛んでこないよう、人海戦術で攻めます。

彼らの身体はもちろん持つ剣や盾も氷でできている。
金属を錆びつかせる異形の花びらも意味を成しません。

倒れる人々の方へ花びらが飛んでこないように私は指揮に専念し、喰われた神々1体に対し複数体で当たるように行動させ、一体一体確実に仕留めていきます。

ここの祭壇も、確実に破壊させてもらいます。



「敵の敵は味方……そんな言葉もありますが」
 どこかで聞いた諺を口にしつつ、セルマは躊躇なくマスケットの銃口を神々に向ける。
 なるほど、あの喰われた神々は吸血鬼に力を奪われた怨みを抱いているかもしれない。だがそれで説得の余地があるわけでもなし、ましてや共闘など論外だ。
「敵の敵だろうと何だろうと、敵は敵です」
『ウァゥぅ……敵……ッ!』
 それについては向こうも同じ意見らしい。セルマの敵意を感じ取った神々は【名称不明の毒花】を生み出し、その花弁を吹雪のように踊らせる。自然の摂理を外れた異形の花が禍々しい祭壇の周りに舞い散るさまは、さながら異界の光景のようだった。

「花びらが……倒れている人たちをあれに巻き込むわけにはいきませんね」
 このままでは一般人にも被害が及ぶと考えたセルマは【冬の尖兵】を発動し、胴体にⅠのナンバーが刻印された氷の兵士を114体召喚する。彼らはセルマや倒れている人々の元に花弁が飛んでこないよう、その身を盾にして防御陣形を組み立てた。
「彼らの身体はもちろん持つ剣や盾も氷でできている。金属を錆びつかせる異形の花びらも意味を成しません」
『う……あァ……?』
 毒さえ無効化できるのなら、花に大した攻撃力はない。無数の花弁を浴びてもびくともしない兵士達を見て、敵は困惑の呻き声を上げる。頭部がないので表情は分からないが、動揺しているのは明らかだった。

「ここからは剣の冬、ということで。行きなさい、兵士たち」
 セルマが号令を発すると、氷の兵士は一斉に進軍を始め、花弁が舞う範囲を狭めるように包囲しつつ敵に近付いていく。戦列と盾でがっちりと守りを固めた一糸乱れぬ歩みは、移動する氷の城壁が如し。
『嗚呼ァァ……貴様らァ……!』
 追い詰められた神々は蔦で応戦するが、動きはバラバラで連携はまるで取れていない。
 対する兵士達は数の利を活かし、喰われた神々1体に対し複数体で当たるよう行動し、個の力で勝る相手に立ち回りで優位に立っていた。

「一体一体確実に仕留めていきましょう」
 セルマ自身は倒れる人々の方へ花弁が飛んでこないよう、敵の動きを警戒しつつ指揮に専念している。スナイパーである彼女の援護がなくとも戦いの趨勢は既に決しつつあり、神々からの反撃は徐々に弱まっていた。
『ぎぃぃぃヤアぁぁぁァァァァ……!』
 氷の剣に斬り伏せられて、1人また1人と倒れ伏す異端の神々。冬の訪れとともに散りゆく花のように、彼女らの屍は無数の花弁となって消滅し、あとに残るものは何もない。敵を討ち取った氷の兵士は勝鬨を上げることもなく、ただ忠実に主の命を果たし続ける。
 ――ほどなくして戦いの決着はつき、祭壇にいた喰われた異端の神は全て駆逐された。

「ここの祭壇も、確実に破壊させてもらいます」
 神々を撃滅した冬の尖兵は、そのまま『紋章の祭壇』の元まで迫り、剣を振り下ろす。
 人々を贄にして紋章という危険な力を作り出す実験場を、セルマが見逃すはずはない。
 薔薇と墓標と屍で形作られた異形の祭壇が氷刃に切り裂かれ、音を立てて壊れ始める。


 ――この地の管理者が姿を現したのは、まさにその時だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『完全なる世界を望むもの『シシリー』』

POW   :    近づいていいって誰が言ったの?
【瞬間的に超強化する自信の腕や足】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    避けていいって誰が言ったの?
単純で重い【血の大鎌】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ   :    逃げていいって誰が言ったの?
【超音波と衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:善治郎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はティフラム・ラルフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「な……なによこれは! 私の祭壇が!」

 『紋章の祭壇』に起きた異変を察知して駆けつけた第五の貴族シシリーは、その惨状を見るなり絶叫した。激しい戦闘の余波によって祭壇は損傷を受け、生贄にするはずだった異端の神々も人間共も1人もいない。これは彼女の計画が壊れかねない想定外の事態だ。

「やってくれたわね、お前たち……! 第4層からの乱入者如きが!」

 少女の姿をした吸血鬼は、怒りと殺意の籠もった目で侵入者――猟兵達を睨みつける。
 その胸元にブローチのように寄生した『紋章』が、黒く禍々しいオーラを放ち始めた。

「あと少しで新しい紋章が出来たのに、素材集めからやり直しじゃないの! ああ、忌々しいったらないわ! 多少役に立つからって、虫ケラが調子に乗るんじゃないわよ!」

 紋章の力で増幅された威圧感は、猟兵達の気力を萎えさせ、心身に虚脱感をもたらす。
 まるで底なしの沼に沈み込んだような、この感覚は『絶望』――シシリーが人間達から収集してきた感情の中で、もっとも強い力を持つと認めたものだ。

「この報いは受けてもらうわよ。たっぷりと絶望を味わって、後悔して死になさい!!」

 異端の神をこの世から滅ぼす壮大な計画を企む『完全なる世界を望むもの』シシリー。
 彼女が神殺しのために用意した絶望の力が今、猟兵達に向けられる。何の対抗策も持たぬまま近づけば、戦う意志も抵抗の気力すら奪われ、為す術なく殺されてしまうだろう。
 立ち向かうには距離を取って戦うか、或いは絶望に相反する感情――希望を以って対抗するか。何れにせよ世界の未来の為に戦う猟兵が、ここで絶望に屈する訳にはいかない。

 人類と神々を弄び、吸血鬼による吸血鬼のための"完全なる世界"を求める第五の貴族。
 その邪悪な野望を打ち砕くための戦いは、遂にクライマックスの時を迎えるのだった。
岩倉・鈴音
古き者吸血鬼よ。

人間は機械と融合し操り身体改変しながら進化していく。多様なる進化こそが希望なのだ。
ワタシが希望を見せよう、人類の到達点を!
【虹の身体】を発動して怯ませた隙にダッシュして先制切り込みだ。猛烈なる攻撃には瞬間思考力で次の攻撃を判断し見切り回避や盾受け、ジャストガードをおこなっていく。地形破壊などでうろたえたりしない!
吸血鬼に希望はない。進化の袋小路に入り絶望を啜るだけだ。

硬いようなら弱そうな場所を鎧無視で貫通させていくまでだ。

人間には生け贄も絶望も必要ない。希望の明日のみを進んでいくよ。



「古き者吸血鬼よ」
 遂に相見えた『紋章の祭壇』の管理者に、鈴音は凛々しい表情と眼差しで語りかける。
 かの時代遅れの種族は人の命や心を神々を殺すための道具としか見ていないらしいが、人類の価値とは断じてその程度ではない、と彼女は知っていた。
「人間は機械と融合し操り身体改変しながら進化していく。多様なる進化こそが希望なのだ」
 サイボーグ手術により事故から一命を取り留め、機械の身体を手に入れた鈴音自身が、他でもない証明。この身体には、そして人間には、無限の可能性と希望が詰まっている。

「ワタシが希望を見せよう、人類の到達点を!」
「フン! 思い上がるんじゃないわよ!」
 堂々たる宣言が癇に障ったか、シシリーの宿す紋章から絶望のオーラが勢いを増した。
 だが鈴音は怯むことなく一歩踏み出すと【虹の身体】を発動。体全体から絢爛たる七色の炎の波を放ち、戦場を覆わんとする『絶望の闇』を照らした。
「ッ……?!」
 眩い七色の煌めきは闇に慣れた吸血鬼の目を眩ませ、消えない炎の傷をその身に刻む。
 紋章で強化された第五の貴族に、この程度は大したダメージにはならないだろう。だが一瞬でも怯ませる事ができれば、その隙に鈴音は先手を取って敵に切り込んだ。

「七色の炎で灼滅されるべしっ」
 近寄る者から抵抗力を奪う『絶望の紋章』に近付いても、鈴音の闘志は全く衰えない。自分こそが人類の希望の体現者であるという強固な意志が、絶望の力を撥ね退けていた。
「くっ……こいつ!」
 炎波を纏った剣で斬り掛かると、シシリーは顔をしかめながら身を躱す。肌を掠めた刃が小さな傷を刻み、そこから燃え移った炎は決して消えることはない。すぐにどうこうなる負傷では無いにしても、不快である事実に変わりはなかった。

「祭壇を荒らすだけでなく、この私に傷まで付けるなんて……」
 冷たい怒りを瞳に宿し、不快な狼藉者の首を刎ねようと血の大鎌を錬成するシシリー。少女の姿からは想像しがたい膂力で柄を振るうと、三日月型の刃が真紅の颶風を起こす。
 鈴音はコズミックシールドを構えてその攻撃を受け流すが、敵はくるくると踊るように大鎌を振り回し、間髪入れず追撃を繰り出してくる。
「避けていいって誰が言ったの?」
「……なかなかやるな」
 一瞬の判断を誤れば即死に繋がる、吸血鬼の猛烈なる攻撃。サイボーグの少女は思考力をフル回転させて相手の動きを見切り、間一髪での回避やジャストガードを行っていく。そのたびに逸らされた大鎌は周辺の地形を切り裂き、壮絶なる破壊を撒き散らした。

「だがこの程度でワタシはうろたえたりしない!」
 一撃ごとに刻まれる破壊の爪痕にも、飛び散る破片や瓦礫にも、鈴音は怯まなかった。
 攻撃のタイミングを読み切れば、単純で大振りな斬撃の合間をすり抜けるように間合いを詰め、再び「勝虎巣」と七色の炎による攻撃を仕掛けていく。
「吸血鬼に希望はない。進化の袋小路に入り絶望を啜るだけだ」
「貴様……ッ!」
 種族に対する明白な侮辱に、怒りを煮えたぎらせるシシリー。だが心の乱れは隙を生む――動揺に乗じて少女はさらに攻撃の手数を増やし、敵の手足や胴体を切り刻んでいく。

(硬いようなら弱そうな場所を貫通させていくまでだ)
 関節や眼球といった生物的な急所に、胸元に宿した『紋章』など、突ける弱点は幾つもある。執念めいた鈴音の猛攻は強大なる第五の貴族にじわじわと負傷を蓄積させていく。
「人間には生け贄も絶望も必要ない。希望の明日のみを進んでいくよ」
「くそッ……調子に乗るな! お前達はただ絶望していればいいのよ!」
 怒りと侮蔑を込めて叫ぶシシリーだったが、予想外の攻撃の激しさに動揺を隠せない。
 いかに強大な絶望も、希望は必ず乗り越える――サイボーグの少女は自らの力を以ってそれを示してみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「カット、困りますよ!!」
ヒステリックなシシリーに向かって声が響いた。
「撮影中に近づいていいって誰が言ったの?あぁ出演したいのねちょっと待ってなさい」
カビパンはヒソヒソと製作総指揮に連絡し始めた。
「実は急に出演したいという子が…そこを何とか」
やる気溢れるシシリーの為に必死に交渉するカビパン。そしてついに許可が出た。

「撮影から逃げていいって誰が言ったの?」
スパルタで鍛え上げていく。シシリーの急な出演で2時間押しで始まった撮影だったが、NGが少ないことも手伝って本日最後のシーンを残すばかりとなっていた。

「カビパン紋章を避けていいって誰が言ったの?」
物語はいよいよクライマックスを迎えようとしていた。



「抵抗していいって誰が言ったの? 大人しく死になさいよ、このゴミども――」
「カット、困りますよ!!」
 猟兵から予想外の反撃を受け、ヒステリックに喚き散らすシシリー――そこに向かって声が響く。今度は何よと振り向けば、近くの祭壇をハリセンでバシバシとシバきながら、起こった顔でカビパンが立っていた。
「撮影中に近づいていいって誰が言ったの?」
「はぁ? 撮影? 知らないわよそんなの」
 彼女の発言は相手からすれば意味の分からないものだったろう。今こちらの【ハリセンで叩かずにはいられない女】は、戦場を舞台にして新しい作品を撮影するつもりらしい。ハリセンの音とともにかます特大のボケが、絶望に満ちた空気すらも弛緩させていく。

「フザけた事言うなら、まずはお前から殺して――」
「あぁ出演したいのねちょっと待ってなさい」
 シシリーの脅し文句を意にも介さずに、カビパンは急に電話でどこかに連絡し始めた。
 ヒソヒソと話す相手は、いつも彼女が撮影する時に名前の上がる製作総指揮だろうか。詳細は不明だが、作品を急遽変更する場合には話を通さなければならない相手らしい。
「実は急に出演したいという子が……そこを何とか」
 ぽっと出の新人(というか敵)をいきなり新作のキャストにしてほしいという要望は、どう考えても無茶な頼みだ。シナリオの練り直しだけでなく関係各所にも迷惑がかかる。難色を示されるのは当然だったが、そこを何とかとカビパンは食い下がる。

「やる気に溢れている子なんです。どうかお願いします!」
「ちょっと、私は出たいなんて一言も言って――」
 勝手に意欲的という事にされたシシリーの抗議をハリセンで黙らせ、製作総指揮相手に必死の交渉を続けるカビパン。なぜ見ず知らずの敵をここまで熱心に参加させたがるかは分からないが――どうやら熱意自体は伝わったらしく、そしてついに許可が出た。
「ありがとうございます!」
 電話越しに頭を下げて通話を切る。新たなキャストの方に向き直った時のカビパンは、鬼監督の顔をしていた。絶望の紋章が通用しない、されど希望に満ちている訳でもない、この「理解不明な異分子」の謎のカリスマに気圧され、思わずシシリーがたじろいだ。

「わ、私はやらないわよ。絶対にやらないったら……」
「撮影から逃げていいって誰が言ったの?」
 カビパンのユーベルコードによってギャグ化した世界では、彼女のペースが全てに優先される。こいつヤバいと思って退散ようとしたシシリーはがしりと肩を掴まれ、役者としてのスパルタ訓練を強制的に受けさせられる羽目になった。
「これが台本よ! さっさと覚えなさい!」
「ぐえっ!」
 顔面に台本を押し付けられる。闇の世界の支配者たる第五の貴族が、なんたる屈辱か。
 しかし抵抗は許されない。ギャグの力のせいで闘志も反抗力も萎えてしまい、詰め込み式で役者のいろはを叩き込まれた挙げ句、そのまま撮影本番にまで雪崩込んでいく。

「あと少しで新しいカレーうどんが出来たのに、素材集めからやり直しじゃないの! ああ、忌々しいったらないわ! 多少役に立つからって、調子に乗るんじゃないわよ!」
 シリーの急な出演で2時間押しで始まった撮影だったが、NGが少ないことも手伝ってトントン拍子で進み、ついには本日最後のシーンを残すばかりとなる。まるで悪役のように上記の台詞を読み上げるのがカビパンで、シシリーはそれに対峙するやられ役である。
「この報いは受けてもらうわよ。たっぷりとギャグを味わって、抱腹絶倒しなさい!」
「い、いや、いやよそんなの―――!」
「カビパン紋章を避けていいって誰が言ったの?」
「キャアアァァァァ―――ッ!!!!」
 こうしてクライマックスを迎えたカビパンの新作は、カビパン紋章に憑かれたシシリーがギャグの力で絶望を中和され、メンタルに消えない傷を負うエンディングとなった。
 撮影が終わっても、彼女が精神的に受けたダメージだけは、消えない事実だったが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
この世界はさぞ絶望を集めやすかった事でしょう
ですが、深い絶望はそれを齎した者への怨念ともなるのです

深い絶望より生まれた怨念が我等の始まり、我等の力
その絶望もまた我等が火種としよう

【行動】
呪詛+殺意によって滾る闘争心+覚悟、呪詛の塊である怨念の炎を宿している事による毒を以て毒を制する方式の呪詛耐性で絶望を飲み込む

先制攻撃+UCに夜砥を忍ばせ敵を爆破、武器伝いに怨念の炎を流し込む追撃で傷口を抉り継続ダメージを付与し弱らせる
影の腕と夜砥の麻痺毒で捕縛したまま怪力で振り回して周囲に叩きつけ
拘束から抜けられたら長柄の武器のリーチと残像+フェイントで30cm以上の間合いを保ちながら切断+範囲攻撃



「この世界はさぞ絶望を集めやすかった事でしょう」
 忌まわしき『絶望の紋章』を身に宿した吸血鬼に、織久は冷ややかな声で語りかける。
 何百、あるいは何千という人々の絶望を凝縮したあれには、迂闊に近寄るのは危険だ。そのことを彼はよく理解していた。
「ですが、深い絶望はそれを齎した者への怨念ともなるのです」
 人の想いを力に変えるのは、なにも吸血鬼だけの専売特許ではない。代々の西院鬼一門から受け継いだ絶望と怨念を黒炎として纏い、青年は静かな足取りで闇に向かっていく。

「近づいていいって誰が言ったの?」
 シシリーは虫けらを見るような目で相手を睨み付け、紋章から絶望のオーラを放つが、沸き起こる闇の波動に呑まれても織久の足は止まらない。否、それどころか焚き火に薪を焚べるように、身に宿した黒炎の勢いが激しくなっていく。
「深い絶望より生まれた怨念が我等の始まり、我等の力。その絶望もまた我等が火種としよう」
 呪詛と殺意によって滾る闘争心と覚悟は、決して挫けぬ精神の支柱となり。さらに毒を以て毒を制するとばかりに、呪詛の塊である炎で絶望を飲み込み、自らの力に還元する。これが彼の編み出した『絶望の紋章』対策であった。

「なっ……なに? 私の絶望を食ってる?!」
「何人たりとも死の影より逃れる事能わず」
 動揺するシシリーに向かって織久は【影面】を発動し、黒い影を蛇のように這わせる。
 絶望の闇をすり抜けて標的に辿り着いたそれは、接触と同時に呪詛の爆発を起こした。
「がッ……何よこれはっ!?」
 爆破自体は第五の貴族にとって大したダメージではない。だが黒い影は腕に形を変え、影に忍ばせてあった糸の闇器「夜砥」と共に標的を拘束する。手足に絡みつく影と糸に、シシリーは煩わしそうにするが、一度結び付いたそれは簡単には解けはしない。

「お前も望んだ絶望の力、その身でよく味わってみるがいい」
「なにを……ッ、熱いッ!?」
 さらに織久は標的と繋がった武器を伝って、自らの怨念の炎を流し込む。絶望を喰らうことで普段よりも猛々しく燃え盛る黒炎が、シシリーの全身をまたたく間に包み込んだ。
 その火力もさる事ながら、傷口を直に炙られる激痛は耐え難いもので、プライドの高い吸血鬼でさえ悲鳴を堪えきる事はできなかった。
「ぎぃぃやあぁぁぁッ!!!?」
「五月蝿い」
 悶え苦しむ吸血鬼を、織久は麻痺毒を塗布した糸と影の腕でがっちりと捕縛したまま、力任せに振り回して周囲に叩き付ける。びたんびたんと『紋章の祭壇』や花畑に激突するたびに「ぐえッ!!」と敵の醜い悲鳴が上がった。

「こ、この……フザけた、真似をォッ!!」
 度重なる責め苦に怒りを爆発させたシシリーは、自身の手足を瞬間的に超強化して影腕と糸を引きちぎる。流石に相手は第五の貴族、本気になればこの程度のことは出来るか。
 しかし拘束を抜けられても織久は動揺せず、大鎌の闇器「闇焔」を構えて攻め掛かる。相手の武器が自らの腕や足ならば、リーチの広い長柄の武器は苦手なはずだと。

「我等が怨念尽きる事なし」
「ッ―――!!!」
 首を刎ねると見せかけて本命は胴。間合いの外からフェイントをからめて放つ一閃は、過たず標的を切り裂いた。刻まれた傷をより深く抉るのは、怨念が具現化した血色の炎。
 これまで収集してきたものよりも、さらに深く、重く、強い。絶望が持つ深淵の力に、シシリーは打ちのめされていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…今さら絶望に屈するほど柔なつもりは無いけどね

…敵の手の内が分かっているのなら、わざわざ術中に嵌まる必要は無い

「写し身の呪詛」の残像を突撃させて敵の意識を囮に引き寄せ、
その隙に空中機動を行う「血の翼」を広げて敵から距離を取り、
6種の「精霊結晶」に吸血鬼化した自身の全魔力を溜めUCを発動

…其は全てを呑み込み、無に還す至高の御業

…我が手に宿れ、原初の理。全魔解放…ヘプタ・グラマトン

接近された時に備え救世の誓いを心の中で唱えて精神を賦活し、
限界突破した混沌属性攻撃のオーラで防御ごと敵を消滅させる黒光の奔流を放つ

…この誓いこそ私の意志、私の祝福、私の希望

…さあ、覚悟は良い?その絶望ごと消滅させてあげる



「……今さら絶望に屈するほど柔なつもりは無いけどね」
 リーヴァルディが口にしたのは強がりではなく、絶望に支配されたこの世界で諦めずに戦い続けてきたが故の確固たる自信だった。『絶望の紋章』だろうと何だろうと、この胸に燃える闘志を消すことはできない――だが。
「……敵の手の内が分かっているのなら、わざわざ術中に嵌まる必要は無い」
 仮にも敵はこの世界の支配層たる第五の貴族。万全の策と備えを以って挑むべき相手。
 そこで彼女は「写し身の呪詛」で自らの残像を作り出すと、囮として敵に突撃させた。

「分身……いえ、幻ね? こんなもの!」
 シシリーが軽く腕をひと振りするだけで、戦闘力のない残像達は簡単になぎ払われる。
 だがリーヴァルディ本人はその隙に「限定解放・血の翼」を広げて、紋章の影響を受けない場所まで距離を取っていた。
「あら。逃げていいって誰が……」
「……そんなつもり、欠片もないわ」
 ひとまず安全な距離をキープした上で取り出すのは、6色に輝く6つの「精霊結晶」。火水土風光闇の6種の属性を宿したそれを握りしめ、彼女は再び吸血鬼の力を解放する。

「……其は全てを呑み込み、無に還す至高の御業」
 それは、今回の依頼において彼女が見せてきた能力の合わせ技と言えた。精霊達が持つ自然界の力を操り、一時的に吸血鬼化することで絶大な力を得る。その2つを同時に行うユーベルコードが【限定解放・血の混沌】だ。
「……我が手に宿れ、原初の理。全魔解放……ヘプタ・グラマトン」
 持てる魔力の全てを6種の精霊結晶に注ぎ込み1つにする。混ぜ合わされた6属性の力は全ての始まりである混沌の力を生む。それは全てを飲み込むブラックホールのような、漆黒の光として現世に顕現した。

「なっ……何をするつもり!」
 人類種を須らく下等と見做しているシシリーも、これは流石に不味いと察しただろう。
 血相を変えて自身の四肢を瞬間強化し、術が完成する前に止めようと急接近してくる。だが、リーヴァルディが詠唱中に敵に接近された時の備えをしていないはずが無かった。
(……人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を)
 心の中で唱える救世の誓いが、迫りくる絶望のオーラにも屈さぬよう精神を賦活する。
 それはかつての師達と共に誓い、そして受け継いだ想い。現世での再会はもはや適わずとも、失われることのない絆と遺志が少女の心を支え続けていた。

「……この誓いこそ私の意志、私の祝福、私の希望」
 絶望を目前にしても揺るぎない覚悟で、ユーベルコードを完成させるリーヴァルディ。吸血鬼があと一歩の距離を詰める前に、全てを消し去る混沌属性の魔力は解き放たれた。
「……さあ、覚悟は良い? その絶望ごと消滅させてあげる」
「――――ッ!!!!!!」
 黒光の奔流としか形容できないその一撃は、シシリーが反射的に展開した全ての防御を無効化した。かつてない危機感とともに身を翻したのはもう遅く――混沌のオーラは彼女の片腕をもぎ取っていった。

「あ、あぁぁぁッ……?! わ、私の、腕が……!!」
 シシリーが混沌に触れた箇所は、まるで"最初から何もなかった"ように消滅していた。
 あまりに綺麗過ぎる断面から鮮血を迸らせ、絶望の吸血鬼は獣のように絶叫した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
これは希望です
ボクが、私が他の世界でみた希望

【夜空を貫く希望の軌跡】
暗夜の世界
ここで空を見上げても闇があるだけ
だから私自身が希望を照らす星となりましょう

高速で飛び回り魔力弾を乱れ撃つ
近付かせない
それが最も有効と判断しました

私の絶望を見せたところで
アナタは嬉々として受け入れるのでしょう
だからアナタには私の絶望は見せない
私の希望を見せつける

この空に虹を架けたい
満天の星空を映したい
これは私の希望であり、この世界に住む人々へ捧げたい希望

今の私には希望があるから
本当の家族を見つけないといけないから
ここで立ち止まりはしません

最後は流星となって
血糸で強化した鞭剣を持って高速で突撃も試みましょう

アドリブ歓迎



「ここで空を見上げても闇があるだけ」
 深い地の底に築かれた暗夜の世界で、アウレリアは物憂げに天蓋を見上げる。息が詰まるような閉塞感に、正面から押し寄せる不快なプレッシャー、彼女のよく知る"絶望"に、この戦場は支配されていた。
「だから私自身が希望を照らす星となりましょう」
「フン。そんな事、人間風情にできるわけがッ!」
 侮蔑の言葉と共に襲い掛かってくる敵を避けるように、少女は背にある両翼を広げた。
 白と黒の羽毛を散らしてその身は舞い上がり。踊るように華麗に、鳥のように機敏に、暗夜を翔ける。

「避けていいって誰が言ったの?」
 シシリーは自らの血で生成した大鎌を片手で構え、人外の運動能力で獲物を追跡する。
 だがアウレリアはそれを上回るスピードで飛翔し、敵の間合いから距離を取り続ける。
「近付かせない、それが最も有効と判断しました」
 離れれば『絶望の紋章』の影響も弱まるだけでなく、敵の攻撃は近距離に偏りがある。
 血刃の届かない距離を飛び回りつつ、彼女は両翼から魔力弾を放って反撃を仕掛けた。

「これは希望です。ボクが、私が他の世界でみた希望」
 羽ばたきと共に乱れ撃たれる魔力弾は、まるで流星群のように敵の頭上へと降り注ぐ。
 【夜空を貫く希望の軌跡】。アウレリアの心に焼き付いた光景の再現が、魔を断つ矢となって吸血鬼を撃ち抜いた。
「ぐっ……!!」
 痛みに顔をしかめるシシリーとは対照的に、空を舞うアウレリアの顔は穏やかだった。
 闇に支配されたこの地に希望を。彼女の願いを叶えるように、無数の光の軌跡が戦場を照らしていく。

「私の絶望を見せたところで、アナタは嬉々として受け入れるのでしょう」
 相対して改めて感じたことだが、吸血鬼シシリーは人間の絶望を力としか見ていない。
 それを持つことの辛さも、痛みも、苦しさも何も知らない。だからあんな風に弄べる。
「だからアナタには私の絶望は見せない、私の希望を見せつける」
「っ……希望なんて、絶望の前では簡単に消え去る、弱い感情じゃない!」
 そんなモノに負けるものかと、シシリーは『絶望の紋章』から禍々しい闇の光を放つ。
 だが――一度は再び戦場を支配するかに見えた絶望のオーラは、降り注ぐ希望の流星にかき消されていく。その中心にいるアウレリアには何の害も及んでいない。

「この空に虹を架けたい。満天の星空を映したい。これは私の希望であり、この世界に住む人々へ捧げたい希望」
 それが世界を照らすと信じて、何千何万の小さな星光を解き放つアウレリア。月も星もないはずの地下世界に描くのは、夢のように美しい星空。満天に煌めく綺羅星の輝きが、絶望の闇を駆逐する。
「こんな、バカなことがっ!?」
 数多の絶望を詰め込んで作り上げた自分の紋章が、なぜ小娘ひとりの希望に負けるのかシシリーには分からない。己の心で絶望を味わい、その上でなお立ち上がったからこそ、アウレリアの描く希望は美しく、そして強いのだ。

「今の私には希望があるから、本当の家族を見つけないといけないから――」
 明らかに狼狽える吸血鬼へと決定打を与える為に、アウレリアはソード・グレイプニルを持って突撃する。両翼から放ち続けてきた魔力の光を、自らの身体に纏って――最後の一撃は、自らが流星となって叩き付けるつもりだ。
「――ここで立ち止まりはしません」
「おのれ……ッ、があぁッ!!!」
 一条の閃光と化して繰り出される最速の斬撃。魔法の血糸「レージング-nied-」によって強化された鞭剣の刃は、標的の胸元に輝く『絶望の紋章』を深々と切り裂いていた。
 亀裂が生じた紋章より、勢いよく噴き出す鮮血。奪い集めた絶望の力を以ってしても、もはや猟兵達の勢いを止めることはできなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
…この世界で、どれだけの絶望を見てきたと思ってるんですか?
今までと変わらない。大嫌いだから叩き潰す
with。wanderer。行こう、希望を結ぶために【勇気】

相手の攻撃に、wandererを合わせて相殺する【武器受け】
だけど、あなたの方が力は上だから、このままだとwandererも、私の身体も持たないかもしれない
でもそれで良いんです
withを叩き付ける隙を一度でも作れたら、それで充分【カウンター】【重量攻撃】

人類砦、闇の救済者達
あれは猟兵が作ったんじゃ無い
この世界の希望が集まって作り出したもの
絶望が最強だというのなら、消して仕舞えばいいのに
この程度の力では、絶対無理ですけどね



「……この世界で、どれだけの絶望を見てきたと思ってるんですか?」
 吸血鬼シシリーが放つ絶望のオーラを目にしても、結希はまるで動揺を見せなかった。
 圧政、迫害、貧困、虐殺――この世界を旅すれば嫌でも目に入る、数え切れない絶望。それは他ならぬ奴ら吸血鬼によって人類にもたらされてきたものだ。
「今までと変わらない。大嫌いだから叩き潰す」
 誰かの為なんて殊勝な心がけではなく。自分が嫌いだからこそ全力をもって排除する。
 己の想いのために戦うからこそ、彼女の決意に迷いはなく、瞳には勇気が灯っていた。

「with。wanderer。行こう、希望を結ぶために」
「ハッ。希望、希望と……煩いのよ、お前達は!」
 頼れる相棒達に呼びかける結希に、反吐が出ると言わんばかりに襲い掛かるシシリー。
 ユーベルコードによって瞬間的に超強化された彼女の腕や足は、少女のそれと見誤れば命取りとなる凶器だ。『絶望の紋章』の特殊効果を差し引いても、流石は第五の貴族か。
「この私を前にして、どこへ行くって言うのよ!」
「この足で、どこへでも」
 至近距離から叩き付けられる吸血鬼の拳を、結希は【wanderer】の蹴撃で迎え撃つ。
 蒸気魔導で超強化された脚力は瞬間的に敵の膂力と拮抗し、攻撃の相殺を成し遂げた。

「フン、小賢しい! いつまで凌げるかしらね!」
 初撃を防がれたシシリーは間髪入れず追撃を放ち、結希も即座にwandererで蹴り返す。それも相殺されれば更に次を。どちらも一撃ごとに全力を込めた応酬が繰り広げられ、熾烈な火花が散る。
「たしかに、あなたの方が力は上だから、このままだとwandererも、私の身体も持たないかもしれない」
 この拮抗が長くは続かないと、誰よりも理解しているのは結希だった。瞬間的な出力は互角でも、耐久等の基礎的な能力において人間と吸血鬼には差がある。現に全力稼働中のwandererは敵と打ち合うたびに軋みを上げており、結希自身の足も痺れかけていた。

(でもそれで良いんです)
 結希の本命はwandererではなく『with』による斬撃。愛剣を叩き付ける隙を一度でも作れたら、それで充分。それまでは足の感覚がなくなろうが蹴り続けてやると、奥歯を噛み締めながら敵の攻撃を弾き続ける。
「人類砦、闇の救済者達。あれは猟兵が作ったんじゃ無い、この世界の希望が集まって作り出したもの」
「なにを急に……」
 彼女がふと語りだしたのは、この地下世界の上の領域で抵抗活動を続ける人々のこと。
 吸血鬼がもたらした絶望に屈する事なく、人類は今や支配に対抗する力をつけていた。シシリーが考えているほど"希望"は弱くはないし、"絶望"は決して無敵の力ではない。

「絶望が最強だというのなら、消して仕舞えばいいのに」
 内心のキツさをおくびにも出さず、結希はふっと微笑んで敵を挑発してみせる。実際、第五の貴族も人類の反抗を野放しにしている訳ではなく、紋章を持った刺客が何度も現れている。にも関わらず、人類の希望を絶望に塗り替えることは未だにできていない。
「この程度の力では、絶対無理ですけどね」
「この……ッ!!」
 人間ごときに愚弄された怒りと屈辱は、プライドの高い吸血鬼に一瞬我を忘れさせた。
 その一瞬が生んだ隙を結希は見逃さない。漆黒の大剣をぐっと握りしめ、ここまで耐えてきた鬱憤を晴らすように、渾身の力でカウンターを放つ。

「もちろん私だって消せませんよ。消えるのはあなたの方です」
「しまっ……がぁッ!!!?」
 動揺の隙を突いた超重量の一撃は、吸い込まれるようにシシリーの胴に叩き込まれた。
 あまりの衝撃でくの字に折れ曲がった吸血鬼の体は、勢いのままに吹っ飛んでいく――有言実行を果たした結希は、ブーツの踵をとんとんと鳴らしてふうと息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・アズロ
絶望に対するは希望
其は望みの成就を願う思い
少女が望む未来とは、望みとは
復讐の成就
少女が常に持つ感情とは何か
其は復讐心という黒い希望
輝かしさとは無縁なれど復讐の炎は燃え盛り続ける

UCにより周囲を自分の内面で塗り潰し焼く
敵UCに気合、激痛耐性、限界突破で耐えダッシュで接近
「誰が逃げるかよ。手前ェだよ獲物は」
怪力とグラップルで腕や首等を掴み捕獲
バーサーク、焼却、解体で炎纏わせた大剣でバラバラの肉にしようと、少女の矮躯なのに悪夢の如き怪力で逃すまいと

あたしらが何処の誰だ?手前ェらが何処の何様だ?
んなもん関係ねえし知ったこっちゃねえんだよ!燃えろ灼けろ臭いを上げて灰になれ!

幼く美しく狂った哄笑が響き渡る



「テメエらの事情も都合も、何もかんも知ったこっちゃねえ」
 ついに怨敵と対峙したルーチェは、相手が得意げに語る理想だの計画だのを一蹴する。
 世迷言に興味はない。どんな壮大な野望を企んでいようが、今日ここでそれは潰える。自分が終わらせるのだ、ソイツの命もろとも。
「此処はあたし自身だ」
 少女の内面にある憎しみと復讐心と殺意が、夜と血の色の炎となって周囲に溢れ出し、彼女の【一番良く知る風景】で戦場を塗り潰す。地底よりも地獄よりも禍々しいこの光景こそが、ルーチェ・アズロの心に刻まれた心象風景だった。

「ッ……どいつもこいつも私をバカにして。もう絶対に逃さないわよ!」
 戦場に燃え広がった血の色の炎は、復讐の標的である吸血鬼シシリーにも襲い掛かる。
 これまで利用価値のある虫ケラとしか思っていなかった人間共に度重なる屈辱を受け、彼女の怒りは限界だった。その咆哮は超音波と衝撃波と化し、戦場を無差別に蹂躙する。
「うるせえんだよ、ごちゃごちゃと」
 炎が吹き散らされていく中、ルーチェは大剣を地面に突き刺して体を支え、一歩も退かずに敵の攻撃を耐える。幼い体躯を不可視の音波と衝撃が切り裂いていき、鮮血が白い肌を染めていく――だが彼女は悲鳴を上げるどころか、痛みで顔をしかめすらしない。

「誰が逃げるかよ。手前ェだよ獲物は」
 衝撃波が止んだ瞬間に、ルーチェは大剣を引き抜いて走り出した。身体は悲鳴を上げているが精神はそんなもの意に介さない。気合で己の限界を超え、猛然と敵に駆け寄ると、その喉笛を狙ってガッと手を伸ばす。
「ぐうッ?! お、お前……!」
 首を鷲掴みにされたシシリーはじたばたともがくが、吸血鬼の膂力を以ってもその手はビクともしない。少女の矮躯なのに悪夢の如き怪力に加え、これほど『絶望の紋章』の傍にいるのに、彼女の闘志はまるで萎えた様子が無かった。

「な、なぜ……お前には"絶望"が効かない……!?」
 ルーチェが如何にして紋章を無効化したのか、それは彼女が常に持っている"希望"だ。
 絶望に対するは希望。其は望みの成就を願う思い。少女が望む未来とは、望みとは――復讐の成就。
「うるせえって言っただろ。黙れよ」
 其は復讐心という黒い希望。輝かしさとは無縁なれども、復讐の炎は燃え盛り続ける。止めどなく溢れ出す血の炎が、絶望すら焼き焦がす。夜と血の色で塗り潰されたこの場はもはや彼女そのものであり、そこで復讐の対象が力を発揮できないのは当然の事だった。

「お前は……一体何者だ……第五の貴族であるこの私を、こんな……」
「あたしらが何処の誰だ? 手前ェらが何処の何様だ?」
 首を掴んだ手に力を入れると「ぐえッ」と鶏を絞めた様な声が上がり、敵が沈黙する。
 雑音を聞くのはもう飽きた。炎を纏う大剣を振り上げ、ルーチェは殺意を爆発させた。
「んなもん関係ねえし知ったこっちゃねえんだよ! 燃えろ灼けろ臭いを上げて灰になれ!」
 絆と呪縛の錆剣が唸りを上げて、憎き『過去』を斬り裂く。腕に、脚に、胴体に、頭に――怨敵をバラバラの肉にしようと、狂戦士の如き斬撃が次々に叩きつけられ、復讐の炎がその傷を焼くことで更なる苦痛をもたらす。

「――――!!!!!?!」
 生きたまま解体されるような激痛にシシリーは悶えるものの、捕獲された彼女は悲鳴を上げる事すらできない。そのかわりに幼く美しく狂った哄笑が、業火の戦場に響き渡る。
 尽きることなき復讐の熱をその身で味わえば、吸血鬼も理解せずにはいられぬだろう。自分は人間の感情が持つ力について、まだ何も分かってはいなかったのだと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

海石榴・鮫(サポート)
【ジョブ】神器遣い×剣豪 【種族】人間
身長 178.1cm 茶髪に焦茶色の目をした男 
 
喋り方例
「俺は海石榴・鮫。よろしくね」
「なんでそうなったのさぁ……?」
「これ以上勝手されるわけにはいかないんだよね!」
(口調は柔らかめ。語尾は「でしょ」「だよね」を多用。普通の人なら怒るようなところでも呆れていることが多い)


扱う武器
【天穿】は身の丈を超える長刀。【天削】は打刀。
どちらも鍔の無い白の合口拵え。龍神の爪より研ぎ出された尋常ならざる切れ味の刃。

「視る」ことに特化した【龍の銀眼】によって攻撃を避けながら肉薄し、【天穿】【天削】で斬るのが基本戦法。斬ると不味い相手には鞘に納めた状態での打撃か蹴り。


終夜・日明(サポート)
【アドリブ連携歓迎】
「対象を確認。これよりエンゲージします」

○口調
一人称:僕(共通)
仲間や現地住民には二人称:あなた/敬語を使った丁寧口調
敵には二人称:貴様/男性口調(だ、だな、だろう、なのか?)

○技能
攻撃面は【ハッキング/破壊工作/砲撃/制圧射撃/誘導弾/継続ダメージ】、
防御面は【見切り/激痛耐性/継戦能力】を主に使用します。

○立ち回り
SPDかWIZのどちらかで戦闘します。
遠距離主体ですが近距離も可能です、キャバリアに搭乗しての戦闘か生身での戦闘かは敵の規模でご選択ください。

状況に応じて他の猟兵のサポートでも大丈夫です。
戦場は問いませんが、生命体や機械類が相手だとよりお役に立てるかと。



「対象を確認。これよりエンゲージします」
 紋章の祭壇を巡る激戦が繰り広げられる中、サポートとして駆けつける猟兵達もいた。
 その1人である終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は、ターゲットたる吸血鬼シシリーの姿を捉えると、ライフルスピアを構えて射撃体勢に入った。
「これ以上勝手されるわけにはいかないんだよね!」
 そして同じくサポートとして参戦した海石榴・鮫(椿の花の落つるが如く・f34944)は、力強い意気込みと共に長刀「天穿」を抜く。遠距離戦を主体とする者と白兵戦を得意とする者、偶然ではあるがこの2人は連携するのに相性のいい組み合わせだった。

「次から次へと……鬱陶しいのよ、虫ケラどもがッ!!」
 思わぬ苦戦で気の荒立っているシシリーは、怒気を露わにして血の大鎌で襲い掛かる。
 迎え撃つのは鮫。身の丈程もある長大な刀を身体の一部のように巧みに操り、敵の斬撃を捌いて斬り返す。
「異端の神を滅ぼしたいって気持ちは、ちょっとだけ理解できるけどね」
 鮫は本物の「神様」を知っている。恩人にして育ての親である龍神に比べれば、故郷の地球で「邪神」と呼ばれているアレや、この世界で「異端の神」と呼ばれるアレはまるで紛い物だ。そんなモノを彼は神だなどと思わないし、滅びようが知った事ではない。

「でも、それで人間を巻き込むつもりなら、君の首も落としてあげようね」
「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿いッ! 調子に乗るなッ!」
 大鎌と長刀による数合の打ち合いの後、シシリーはふいに得物を投げ捨てると徒手空拳での攻撃に切り替えてきた。ユーベルコードで瞬間的に超強化されたその手足は、刃物と同等かそれ以上の凶器と化す。
「この私に近づいていいって誰が言ったのよッ!」
「自分から接近しておいて、それは無いんじゃない?」
 いかにも吸血鬼らしい勝手な物言いに鮫は苦笑し。だが大鎌よりも手数の多い超高速の打撃は長刀で捌くのは困難であり、さらには『絶望の紋章』が抵抗の意志と気力を奪う。
 このままでは押し切られる――彼が窮地に立たされたその時、1発の銃声が轟いた。

「貴様の相手はその人だけではないぞ」
「ッ!?」
 目前の敵にばかり注意の向いていたシシリーにとって、その攻撃は青天の霹靂だった。
 意識の死角を突いて日明が放った【ヘッドショット】は、狙い通りに敵の頭部を貫く。普通なら吸血鬼に鉛玉1発で大したダメージは与えられないが、彼の攻撃は特別である。
「ぐ……なに、これは……力が抜ける……?!」
 日明が生まれつき有する《蠱毒》の特性。それは生命に対して特効と言われる能力だ。
 この力を付与した攻撃は猟兵の力と合わさりオブリビオンにも猛毒として作用するが、代償として日明自身の生命を削る諸刃の刃でもあった。

「人々を護る為ならば、生命等いくらでも懸けましょう」
 自分自身を蝕み、孤独を強いる力であっても、使命の為にそれを行使することを日明は躊躇わない。訓練によって作り上げた理性的な表情の裏には、生まれつきの苛烈な本性を――邪悪なオブリビオンに対する怒りが燃え盛っていた。
「神を殺すために人を利用する。貴様のふざけた計画もここまでだ!」
「ぐ……ッ!! このっ、誰に向かってそんな口を……!」
 立て続けに放たれる《蠱毒》の弾丸が、ターゲットの腕や足を的確に撃ち抜いていく。
 この力はただの毒ではなく、あらゆる生命体の天敵。ゆえに全ての生命は本能的な恐怖を抱くのだが、それは吸血鬼も例外ではなかったらしく――彼の鋭い視線と銃撃を受けたシシリーは萎縮したように一歩後ずさった。

「今です!」
「わかってる!」
 心身ともに敵が弱まった絶好の好機を、「龍の銀眼」を保持する鮫は見逃さなかった。
 龍神より譲り受けたその眼は遍くものを見通し、常人では見落としてしまうような刹那の隙にも反応する。まるで神の啓示のように、今の彼には勝利の道筋が「視えて」いた。
「まずい……ッ」
「逃さないよ!」
 紋章より放たれる絶望の闇に屈さぬよう、信じる者への祈りと勇気で心を奮い立たせ。
 銀眼を輝かせ風のように敵の懐に肉薄した鮫による、渾身の【剣刃一閃】が放たれる。
 龍神の爪より研ぎ出だされた長刀は、尋常ならざる切れ味を今こそ発揮し――逃げ損なった吸血鬼の体は、肩から腰にかけて袈裟懸けに斬り裂かれた。

「がは……ッ!!」
 深々と斬り伏せられたシシリーは、《蠱毒》の作用もあってがくりと地に膝を屈する。
 当初の傲慢な態度から一転して、今の彼女の表情から余裕の色は完全に失われていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
なるほど、異端の神々を滅ぼす、というのには同意しよう
だが、貴様たち吸血鬼もまた滅びるのだ

聖槍で大鎌と斬り結ぶ
強力だが単純な軌道を【見切り】【受け流す】
【地形破壊】を予期していた私(地形耐性)より、吸血鬼の方が【体勢を崩す】のは必定
至近距離故に、【頭突き】を喰らわせる

私が膝を屈さず、十全に動けるのが不思議か?
貴様はそれ(絶望)が最も強いと思っているようだが――違う
そんなもの、【気合い】と【根性】があれば、人はいくらでも乗り越えられる(因果超越・永劫の勇士)

不屈の意志に呼応して、聖槍が灼熱を帯びる(属性攻撃・焼却)
【串刺し】にして内側から超高熱を解放
我と我が槍に宿る、怒りの炎に焼き尽くされろ!



「なるほど、異端の神々を滅ぼす、というのには同意しよう」
 吸血鬼シシリーの口上を聞いたオリヴィアは、その一点についてのみは理解を示した。
 狂気のままに災いをもたらす異端の神々は、人類にとっても看過できない脅威である。この世界に平和を望むのであれば、いつかは一掃せねばならぬ相手なのは事実。
「だが、貴様たち吸血鬼もまた滅びるのだ」
 オリヴィアの身に宿るは神殺しの力。手にした聖槍は邪なるものを悉く討つ為の聖具。
 神々であろうと吸血鬼であろうと、闇に蔓延る邪悪は滅ぼすのが彼女の使命であった。

「人間風情にそんな事ができるとでも……? お前達は私に使われていればいいのよ!」
 その反抗的な態度を改めさせてやろうと、シシリーは血でできた大鎌をぶんと振るう。
 重く鋭いが単純な一撃。オリヴィアは冷静に軌道を予測して、破邪の聖槍で受け流す。
「"絶望"しなさい、人間ッ!」
「絶望か。そんなもの……」
 紋章から漆黒のオーラを撒き散らし、乱暴に大鎌を振り回す吸血鬼。だが、闇と血の嵐が吹き荒れる中でも聖槍の輝きは失われず。幾度かの斬り結びを経て完全に相手の動きを見切ったオリヴィアは、柄に沿わせるようにして大鎌の軌道を地面に逸らした。

「なッ?!」
 地面に突き刺さった血の大鎌は大規模な破壊を引き起こし、双方の立つ足場が崩れる。
 この事態を予期していたオリヴィアより、シシリーの方が体勢を崩すのは必定だった。ふらりとよろめいた吸血鬼の顔面に、銀髪のシスターが頭突きを喰らわせる。
「がッ?! き、貴様っ……!」
「どうした。鼻血が出ているぞ、吸血鬼」
 予想外の攻撃にのけぞったシシリーは、鼻柱を手で押さえて顔を真っ赤にする。彼女の心の大部分は怒りと屈辱で満たされていたが、同時に僅かな困惑と疑問もあった。絶望の紋章を持つ自分とこれほど至近距離にいながら、オリヴィアの動きはまるで淀みがない。

「私が膝を屈さず、十全に動けるのが不思議か?」
 敵の視線から疑念を察したオリヴィアは、聖槍を構え直しつつ語る。紋章から放たれるオーラを間近で浴びていても、恐れで手が震えたりはせず、心には一片の絶望すらない。
「貴様はそれが最も強いと思っているようだが――違う。そんなもの、気合いと根性があれば、人はいくらでも乗り越えられる」
 幾度となく絶望的な脅威と対峙し、なお挫けなかった不屈の意志。それが【因果超越・永劫の勇士】の力の源である。そこに邪悪がいるのなら、彼女は何度でも限界を超える。その呪われた心臓を貫くまで、戦いを止めることはない。

「見るがいい。これが人の感情が持つ真の力だ」
 不屈の意志に呼応して、聖槍が灼熱を帯びる。陽炎が揺らめくほどに赤熱した穂先を、オリヴィアは敵の心臓目掛けてまっすぐに突き出した。迷いのない軌道の鋭さと、何よりその気迫に圧倒され、シシリーの反応は僅かに遅れる。
「我と我が槍に宿る、怒りの炎に焼き尽くされろ!」
「がっ……あ、ああァァァァァァァっ!!!!?!」
 胴体を串刺しにした槍はそのまま超高熱を解放し、吸血鬼の身体を内側から焼却する。
 臓腑が燃える苦痛に悶えるシシリーの、獣のような悲鳴が『紋章の祭壇』に木霊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
そうして人を侮った報いが今のあなたです。
月並みな言い方にはなりますが……後悔するのはそちらの方です。

「フィンブルヴェト」を手に氷の弾丸の『乱れ撃ち』による『威嚇射撃』でシシリーを近寄らせないように戦います。
その紋章も、大鎌も、これではなんの意味も成しませんね。

敵が血の大鎌を駆使する、被弾覚悟で突っ込んでくる等で接近してきたなら、振るわれる大鎌を『見切り』回避し、銃剣による『串刺し』からの氷の弾丸の『零距離射撃』を撃ち込みます。
私はこの銃でこの世界の闇を切り開くと決めています……それができる、と信じています。
そんなものに今更呑まれるのであれば、ここには立っていません。



「ガハッ、ゴホッ……なぜ、この私が人間風情に……」
「そうして人を侮った報いが今のあなたです」
 たかが人間と舐めてかかった結果、シシリーは大事な祭壇を破壊され、自らのまで窮地に立たされていた。それは全て自業自得だと、セルマは自覚のないらしい本人に告げて、改造マスケット銃「フィンブルヴェト」の銃口を向ける。
「月並みな言い方にはなりますが……後悔するのはそちらの方です」
 ただ利用するだけで理解しようとせず、侮り続けてきた人間の力で彼女は滅ぶだろう。
 その宣言を現実とする為の実力も、意志も、絶対零度の射手には全て備わっていた。

「私が後悔する……? 思い上がるのもいい加減にしなさいよッ!」
 怒号と共にシシリーは血の大鎌を錬成し、烈火の如き怒りを瞳に漲らせて襲い掛かる。
 対するセルマは氷のように冷たい眼差しで、冷静に標的に狙いを定めトリガーを引く。
「思い上がりのつもりはありませんよ」
「くッ!」
 正確に心臓目掛けて飛んできた氷の弾丸を、咄嗟に飛び退いて躱すシシリー。セルマはそのまま弾丸を乱れ撃ち、相手が近寄れないように威嚇を行う。武器の射程ではこちらの方が有利なのだ、接近戦を望んでいる相手にわざわざ付き合ってやる必要はない。

「その紋章も、大鎌も、これではなんの意味も成しませんね」
「このッ、小賢しいやつッ!」
 絶望の紋章の影響圏外から、絶え間ない連射を仕掛けるセルマ。狩人に追い立てられる獣のように、シシリーは銃弾を避けて飛び跳ねるばかり。冷静に考えれば戦法を切り替えるべきだが、舐められ続けた吸血鬼のプライドはそれを許さなかった。
「お前のその澄まし顔、絶対にぶった切ってやるわッ!」
 あくまで大鎌で敵を斬り伏せることに固執した彼女は、多少の被弾覚悟で強引に距離を詰めてくる。流石に第五の貴族クラスの強敵が形振り構わなくなれば、銃一丁で足止めを続けるのは難しかった。

「このまま的にはなってくれませんか」
「舐めるんじゃないわよ! さあ、絶望に呑まれなさい!」
 シシリーの接近に伴って、『絶望の紋章』から放たれる漆黒のオーラがセルマを襲う。
 その力に呑み込まれた者はあらゆる抵抗の意思を奪われ、攻撃も防御もできなくなる。
「お前が距離を取り続けていたのは、絶望に耐える自信がなかったからでしょう!」
 勝利を確信した吸血鬼は歓喜の笑みを浮かべ、獲物の首を刎ねんと大鎌を振り下ろす。
 だが――絶望に呑まれ立ち尽くしたかに見えたセルマは、その刹那にさっと身を翻し、血の斬撃を回避した。

「なッ……なぜ動ける?! 近距離は苦手なんじゃ……」
「近接戦闘ができないと言った覚えはありません」
 歓喜から一転して驚愕に陥らされたシシリーに、セルマは【銃剣戦闘術】を仕掛ける。
 その銃身に取り付けられた刃は決して装飾品ではない。氷のように研ぎ澄まされた銃剣「アルマス」の切っ先が、標的の胸を貫いた。
「がは……ッ、牙を隠していた、なんて……だとしても、なぜ……」
「私はこの銃でこの世界の闇を切り開くと決めています……それができる、と信じています」
 喀血する敵と至近距離で向かい合いながら、セルマは語る。吸血鬼の支配を打ち破る為に鍛え上げた腕前と、手に馴染んだ相棒に対する信頼と自信。それらが彼女の心の支えとなり、いかなる絶望にも屈さない強固な柱となっていた。

「そんなものに今更呑まれるのであれば、ここには立っていません」
 毅然とした視線で"絶望"を見据え、絶対零度の射手が引き金を絞る。獲物を串刺しにした体勢から放たれた零距離射撃は、いかに素早かろうが逃れようがなく――銃声と砕氷が爆ぜる音と共に、真っ赤な鮮血の華が吸血鬼の胸から散る。
「がはぁァッ!!? お、のれぇッ……!」
 胸を撃ち抜かれたシシリーはずるりと力なく崩れ落ち、憎々しげにセルマを見上げる。
 どこまでも闇を切り開いていく迷いなき意志の力。己が弄ぼうとした感情の真の力に、彼女は敗れたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
人は絶望になんて負けない…。
希望の光がある限り、わたし達、人間は負けない…!
わたし達がみんなに希望を見せてあげる…!

【九尾化・天照】封印解放…!

太陽の光で敵も捕らわれた人々も照らし、光を集束したレーザーで敵を攻撃…。
敵の紋章や手足をレーザーで撃ち抜きつつ、敵の攻撃を光速で回避…。

太陽の温かい光や、わたし達猟兵が吸血鬼と互角以上に渡り合う姿を見せて人間でも吸血鬼の支配を打ち破れる、とアピールし、人々の心に希望を取り戻していけるように促すよ…。

敵が痺れを切らして大技による大振りを放ち、それを回避した隙を突いて呪力の縛鎖で捕縛…。
一瞬動きを封じ、人々の希望を乗せた神太刀の一撃を紋章に突き立てるよ…!



「人は絶望になんて負けない……」
 紋章より放たれる闇のオーラと向き合いながら、璃奈は確信をこめた語調で断言する。
 理不尽な悲劇に襲われ、謂れない悪意に虐げられても、必ず人類は立ち上がってきた。それはこの世界で反旗を翻した"闇の救済者"達や、猟兵である彼女自身の事でもある。
「希望の光がある限り、わたし達、人間は負けない……!」
「そんな光、消し飛ばしてやるわよ! お前達から手に入れた絶望の闇でね!」
 希望の強さを謳う魔剣の巫女を、第五の貴族は絶望の力で屈服させんと気炎を上げる。
 そのどす黒い悪意は『絶望の紋章』の力を強め、闇色のオーラが戦場に広がっていく。

「わたし達がみんなに希望を見せてあげる……!」
 押し寄せる絶望に立ち向かう為に、璃奈は【九尾化・天照】の封印を解く。その瞬間、目も眩むほどの光とともに彼女の毛髪は金色に染まり、妖狐の証たる尾は九つに増える。
 それは本来地底に降り注ぐはずの無い――この世界からは失われたはずの太陽の輝き。生命を慈しむ温かく柔らかな光が、祭壇に捕らわれていた人々も吸血鬼も等しく照らす。
「ッ、眩しい……お前、その力は忌々しい太陽の!?」
 吸血鬼にとっては天敵となる日差しを浴びせられ、シシリーは大鎌の刃で目をかばう。
 紋章が放つ絶望も太陽とは相性が悪いらしく、光から逃げるようにかき消されていく。

「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……!」
 敵が動揺と目眩から立ち直る前に、璃奈は太陽の光を集束させたレーザーを撃ち放つ。
 隙を突かれたシシリーの手足や胸元を閃光が撃ち抜く。紋章への直撃だけは避けたのは反射的なものか。流石に第五の貴族ともなれば弱点の攻撃にも対応してくる。
「ッ、いい気にならないでッ!」
 怒りのままにシシリーが大鎌を振りかざして襲い掛かれば、璃奈はひらりと身を躱す。
 天照の力を解放した彼女のスピードは光に匹敵し、人の目には残像しか認識されない。吸血鬼が何度鎌を振るっても、その刃は虚しく空を切るばかりだった。

「ぁ……あれは……?」
 璃奈とシシリーの攻防は、毒花の効果が薄れ、昏睡から目覚め始めた人々も見ていた。
 あたたかな光を感じて目を開いた彼らは、璃奈達猟兵が吸血鬼と互角以上に渡り合う姿を見て、これは夢かと錯覚する。だが肌に受ける日光の温かみが現実を訴えかけていた。
「人間が……吸血鬼と戦ってる……」
「すごい……!」
 これは璃奈から人々への、人間でも吸血鬼の支配を打ち破れるというアピールだった。
 吸血鬼の生け贄にされかけた人々には、深い恐怖と絶望がある。だが、ここで自分達が立ち向かう姿を示せば、彼らの心に希望を取り戻せるはずだ。

「がんばれ……」「頑張れ!」
 希望の光を纏って戦う璃奈の背に、やがて人々は口々に声援を送り始める。力持たぬ者達にとっての、それは精一杯の抵抗の意思表明。戦場に木霊する割れんばかりの合唱に、痺れを切らしたのはシシリーだった。
「ああ、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿いッ!! 調子に乗るな、虫ケラどもッ!!」
 この雑音を黙らせるのに最もいい方法は、目の前にいる希望の象徴を刈り取ることだ。
 これまで以上の怒りと殺意を込めて、吸血鬼は血の大鎌を振り抜く。その威力は絶大、なれど軌道は大振り――決着を焦るがゆえの大技は、決定的な悪手となった。

「それを待ってた……」
 璃奈は必殺の一撃を光速で回避すると、大振りの後に生じる隙を狙って反撃に転じる。
 静かな口調で呪文を唱えると、敵の足元からふいに呪力の鎖が伸び、手足や身体に絡み付いて動きを封じた。
「くっ……このッ!」
 吸血鬼の膂力ならば捕縛を解くまでにかかる時間は一瞬だろう。だがその一瞬で充分。
 決定的な好機を逃すまいと、魔剣の巫女は光をまとった妖刀を渾身の力で突き出した。

「これが、みんなの希望だよ……」
 人々の希望を乗せた神太刀の一撃は、過たず標的の『絶望の紋章』に突き立てられた。
 ピシピシと音を立てて紋章から亀裂が広がっていく。同時に胸を貫かれたシシリーは、絹を裂くような絶叫を上げて、血飛沫を戦場に撒き散らした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
毎度の事だけど貴女達の苦労なんて知った事ではないのよね。
それよりも、そんなに「絶望」が好きなら、お望み通り、存分に絶望をくれてあげるわ。



【ブラッディ・フォール】で「最低極まりなき言葉」の「モルトゥス・ドミヌス」の力を使用(フレミアに魔王の翼や角、体格に合わせて外殻が形成)。

敵を挑発し、敵の持ち得る全ての攻撃を敢えて受け、【我が肉体には届かぬ】で攻撃を無効化。
敵に無力感・絶望感を与えつつ、更に仕掛けてくる敵のUCを【己の力にて滅びるがいい】で捕食し、そのまま叩き返し、【裁定者に仇為す者には災いあるのみ】で絶望を実体化させるわ。

人々の命と感情を弄んだ報いよ。己が絶望の闇に呑まれて滅びると良い!



「毎度の事だけど貴女達の苦労なんて知った事ではないのよね」
 邪悪な吸血鬼がどんな野望や計画を企んでいたところで、自分はそれを叩き潰すだけ。
 ヴァンパイアによる理想世界を築かんとするシシリーの望みを、フレミアは一蹴した。
「それよりも、そんなに『絶望』が好きなら、お望み通り、存分に絶望をくれてあげるわ」
 艶やかに微笑んだ彼女の周りが黒い魔力に包まれ、同時に肉体が異形に変異していく。
 頭部には角が、背中には翼が、そして体格のラインに沿った外殻が。禍々しくもどこか威厳を感じさせるその形態は、かつて大迷宮アルダワを支配した魔王の姿を模したもの。

「さあ、かかっていらっしゃい」
 大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』の能力を我がものとしたフレミアは、挑発的な態度でくいっと手招きする。プライドの高い連中がこの手の誘いを無視できないのは、これまでの経験上よく知っていた。
「なにを巫山戯たことを……絶望するのはお前達の方よッ!」
 案の定、挑発に乗ったシシリーはユーベルコードを発動し、怒号と共に超音波を放つ。それは彼女の周囲にあるものを無差別に破壊する不可視の衝撃――使用頻度を控えていたのは祭壇を破壊しないためだろうか。だが今の彼女はもはや敵を殺す事しか考えてない。

「"貴様の攻撃は我が肉体には届かぬ"」
 対するフレミアは大魔王の力を行使し、全身をオーラの防壁で包む。かつて彼女の前に立ちはだかった大魔王モルトゥス・ドミヌスは、放つ言葉を現実化する力を持っていた。どれほど強大な攻撃であっても、彼女が「効かぬ」と口にすればそれは現実となる。
「効いてない……? だったらッ!」
 衝撃波が吹き荒れた後の戦場に、フレミアは無傷で立っている。それを見たシシリーは今度は接近戦で襲いかかるが、血の大鎌による斬撃も、超強化された手足による打撃も、言霊の障壁を打ち破るには至らない。

「もう終わりかしら?」
「そんな……ッ、そんなバカな!」
 フレミアは敢えてその場から一歩も動かず、敵の持ち得る全ての攻撃を受け止めたうえで無効化してみせた。それは敵に無力感と絶望感を与えるための策――刃も拳も通じずに青ざめたシシリーは、脳裏によぎりかけた恐怖を振り払うように再度攻撃を仕掛ける。
「この距離なら――ッ」
「無駄よ。"己の力にて滅びるがいい"」
 至近距離から放たれた衝撃波に両手をかざしながら、フレミアは新たな言霊を唱える。
 全てを一掃するはずだった音の波動は、彼女の手のひらに吸い込まれていき――それを放った本人の元に叩き返された。

「な、ぐああぁッ!!?」
 自分自身の攻撃を威力もそのままに返され、シシリーは悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
 敵のプライドにこの上ない屈辱を刻んだ上で、フレミアは更に言霊の追撃を仕掛けた。
「"裁定者に仇為す者には災いあるのみ"……人々の命と感情を弄んだ報いよ。己が絶望の闇に呑まれて滅びると良い!」
 悪意と魔力に満ちた言の葉が実体化するのは、それを向けられた対象の絶望そのもの。
 紋章ではなくシシリー自身の体から漆黒の闇が溢れ出し、肉体と心と魂を蝕んでいく。

「ひ……やめなさい、やめろ、やめてぇッ!!?!」
 またたく間に実体化した絶望に包まれたシシリーは、少女のような悲鳴を上げて蹲る。
 今までそれを利用するだけだった彼女は、それを抱えることの痛みをようやく知った。どんな炎よりも熱く、真冬の風よりも冷たい、初めての苦痛に彼女は悶え苦しむ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
絶望を蒐集し、利用する
そんな者が抱く野望など成就させはしませんとも

盾と剣を背にマウントし後退
物資収納Sから取り出すUC入り投げナイフを●投擲
胸の紋章狙いつつ着弾時の爆発で牽制

密かに瞬間思考力で自己●ハッキング
一定距離の接近を引き金に全自動で格納銃器が作動する動作プログラム組み上げ
ナイフの品切れに乗じ接近する敵を迎撃

乱れ撃ちで全身にナノマシン撃ち込み距離放すよう●操縦
抵抗で硬直する間に距離を取り

条件反射という現象がありますね
それと似たような物です

御伽の騎士の如く心奮い立たせるのは最後の手段
その前に備えを用意するのが私の流儀でして

最後のナイフを紋章へ投擲し起爆

さあ、非道の報いを受ける時は近いですよ



「絶望を蒐集し、利用する。そんな者が抱く野望など成就させはしませんとも」
 祭壇の管理者たる第五の貴族と相対したトリテレイアは、常と変わらぬ態度で告げる。
 この距離からでも『紋章』が放つ絶望の力を微かに感じる。だが、心乱されはしない。使命を果たすために平静を以ってあたるのが、騎士であり機械である彼のスタンスだ。
「認めないわ……こんな乱入者如きに、私の計画が阻まれるなんて……!」
 一方のシシリーの精神状態は平静からは程遠い。生贄を奪われ、祭壇を破壊され、今は自分の命までもが危険に晒されている。こんな想定外の事態を受け入れられない――否、受け入れるわけにはいかないと、怒りと殺意を剥き出しにしていた。

「神々を滅ぼす前にまずはお前達よ! さっさと死になさいッ!!」
 ユーベルコードで手足の機能を超強化し、野獣のような瞬発力で襲い掛かるシシリー。
 対するトリテレイアは盾と剣を背中にマウントして後退しつつ、物資収納スペースから【銀河帝国特殊工作作業用微細機械】を仕込んだ投げナイフを投擲する。
「まずは様子見と参りましょう」
「ッ?!」
 胸の紋章を狙った一投をシシリーが避けると、地面に刺さったナイフは爆発を起こす。
 触れたら爆ぜると理解すれば、迂闊な突進はできなくなるだろう。機械騎士はスペースから次々に新たなナイフを取り出しては、連投により敵を牽制する。

「この程度で……ッ!」
 ナノマシンの爆発は確かにシシリーにとって鬱陶しいものだったが、それで諦めるほど彼女は潔くはない。猪突猛進は控えたものの、その眼光は刺し貫くような鋭さで、相手の隙を窺っている。
「動じませんか。流石です」
 トリテレイアが持つナイフの数も無限ではない。投げ続ければいずれは品切れになる。
 収納スペースの中身が空になったその瞬間、敵は待ち構えていたように地面を蹴った。

「待っていたわよ、この時をッ!」
 次は剣でも盾でも投げるつもりだろうか、いずれにせよその猶予は与えない。澄ました態度の木偶人形をバラバラに引き裂いてやろうと、シシリーは手足に全力を漲らせて――だが、距離を詰め切る前に彼女を出迎えたのは、無数の発砲音と弾丸だった。
「それは此方も同じことです」
「なあッ?!!」
 ナイフを投擲している間、トリテレイアは密かに自らの電子頭脳をハッキングし、ある動作プログラムを組み上げていた。一定距離に接近する者がいれば、それを引き金にして機体に格納された銃器が作動する、全自動の反撃システムを。

「そんなものをまだ隠してたなんて……ッ」
 本人の思考を介さず、反射よりも瞬時に作動する自動プログラムの速度を上回る事は、シシリーにも不可能だった。乱れ撃たれた弾丸は彼女の全身に次々に命中し、弾頭に封入されたナノマシンを体内に浸透させる。
「な、なにっ? 体が勝手に……!」
「条件反射という現象がありますね。それと似たような物です」
 トリテレイアが今回使用したナノマシンはただの爆薬ではなく、命中部位に電気信号を流し込むことで強制操作する機能もあった。今やシシリーの体は操り人形も同然であり、本人の意に反して騎士から遠ざかろうとする。

「御伽の騎士の如く心奮い立たせるのは最後の手段。その前に備えを用意するのが私の流儀でして」
「くっ……このぉッ……! 人形風情が、私を操ろうだなんて……!」
 ナノマシンの操作力に抗おうと抵抗するシシリー。前に進もうとする意思と後退させようとする命令が衝突した結果、彼女の体はその場で硬直することになる。トリテレイアはその間に再び距離を取ると、空になったはずの収納スペースに手を入れる。
「相手が強敵であれば尚の事、何重にも策を練るのが礼儀でしょう」
「お前……それはもう投げ切ったんじゃ?!」
 取り出された投げナイフを見て愕然とする吸血鬼。正真正銘最後の一本となるそれを、トリテレイアは全センサーを起動して狙いを定め、『絶望の紋章』目掛けて投げ放った。

「さあ、非道の報いを受ける時は近いですよ」
「が―――ぁッ!!!」
 過たず紋章にナイフが突き刺さった瞬間、塗布していたナノマシンが浸透、起爆する。
 力の源にして弱点である部位に直撃を受けたシシリーは、言葉にならない悲鳴を上げて地べたに倒れ込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
シシリーちゃん、異端の神々に強い敵意を持ってるってことだけど、どんな因縁があるんだろ。
美味しそうなお話の香りがするね。

こんな美味しそうなお話を前にして、希望しかないね。立ち向かうよ。

残念。それは残像だよ。
そこまで異端の神々を敵視しているのはなぜかな。教えて。



「シシリーちゃん、異端の神々に強い敵意を持ってるってことだけど、どんな因縁があるんだろ」
 姿を見せた強敵にアリスが抱いたのは、やはり恐怖や敵意などではなく、相手が現在の野望を抱くに至った動機だった。吸血鬼と異端の神々は確かに友好的な間柄ではないが、相手を全て滅ぼそうとするほどの敵意と執着は尋常のものではない。
「美味しそうなお話の香りがするね」
「お話? なにをフザけた事を言ってるのよ、このガキは」
 シシリーの目には、戦場にいながらフワフワと笑いながらそんな事を言う少女の姿が、さぞ場違いなものに見えただろう。予想外の窮地に見舞われ余裕のない現状では、余計に神経を逆撫でされる。今すぐその笑顔を歪めてやりたいと決心するほどに。

「呑気に笑っていられるのも今だけよ。絶望を味わいなさい!」
 罅割れた紋章から溢れ出す漆黒のオーラが、シシリーの移動に伴いアリスを巻き込む。
 どんなに状況を理解できない子供でも、この絶望の力を浴びればすぐに泣きじゃくり、許しを懇願するだろう――敵はそんな事を考えていたのだろうが、結果は違った。
「なるほど、これが絶望の紋章の力か。面白いね」
「なっ……なんで!?」
 効果範囲に入ってもアリスは平然としているどころか、自分から相手に近付いていく。
 その表情はまるで友達に接するように親しげで、絶望している様子は微塵もなかった。

「こんな美味しそうなお話を前にして、希望しかないね」
 自分の好奇心を満たしてくれる素敵な物語を食べたい、アリスのシンプルな行動原理。
 そのためならどんな危険にも臆せず立ち向かうのは、これまでの冒険でも示した通り。彼女からすれば『絶望の紋章』の力すらも、物語を引き立てるスパイスである。
「このッ……来るんじゃないわよ!」
 絶望の力が通じずに動揺しつつも、シシリーは血の大鎌を振るう。心を折ることが適わないのなら生命を刈り取るのみ。単純ながらも重く鋭い一撃が、のこのこと近寄ってきたアリスの胴体を真っ二つに切断した――。

「残念。それは残像だよ」
「はッ?!」
 殺ったかと思った直後、声は後ろから聞こえてきた。【ファデエフ・ポポフゴースト】によりシシリーの行動を分析したアリスは、身体を量子化することで攻撃を避けたのだ。
 吸血鬼が何度大鎌を振るっても、刃は情報妖精の身体をすり抜けるのみ。量子と現実の世界を自在に行き来する彼女に、物理攻撃を命中させる事は極めて困難だ。

「そこまで異端の神々を敵視しているのはなぜかな。教えて」
「はぁ?! そんなの決まっているでしょう!」
 ひらりひらりと至近距離で攻撃を躱し続けながら、アリスは気になっている事を問う。
 完全なる世界を望むもの『シシリー』が持つ物語。異端の神をこの世から排除せんとする彼女の動機は――果たして、至極シンプルなものだった。
「この世界は私達ヴァンパイアのもの。絨毯にシミが付いていたら拭き取りたいと誰でも思うでしょう? 私にとってはそのシミが神々だったというだけよ!」
 この世界をあまねく支配していという、ヴァンパイアらしい欲望と渇望。それが彼女を衝き動かす原点。言ってしまえば他の吸血鬼共とかわりのない、ありふれた物語だが――その衝動が数多の人と神を巻き込み、『絶望の紋章』を作り上げたのだ。

「すごい執念だね。聞かせてくれてありがとう」
「五月蝿いッ!!!!」
 心からの感謝を伝えるアリスに、シシリーは怒気を込めて大鎌を振り下ろす。しかし、それでも刃は少女の残像をすり抜けるだけ。目的である物語の採集を終えた情報妖精は、それ以上は何もすることなく、フィナーレを猟兵達に任せて遠ざかっていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

…絶望の紋章の力か
これは確かに気力も敵意も全て削がれそうだ

だが、それがどうした?

俺は故郷を吸血鬼に襲撃されて滅ぼされ
家族や同郷の人々を吸血鬼にされ
しかも吸血鬼化の呪詛をかけられ
魂の解放と称して同郷の人々や家族を斬り捨ててきた
…これ以上の絶望があるものか

だが、絶望の底を知ったからこそ
絶望を以て絶望を制することができる
今、貴様に絶望を味合わせてやる!

「ダッシュ」で接近し血の大鎌の一撃を「第六感、見切り」で回避した後
凍る程の「殺気」を叩きつけながら「早業、2回攻撃、属性攻撃(炎)」+指定UCの18連撃で斬り刻む!

「第4層からの乱入者」か
…俺らをそう見下したのが誤りだったな



「……絶望の紋章の力か。これは確かに気力も敵意も全て削がれそうだ」
 第五の貴族が作り上げた恐るべき力を肌で感じ、敬輔は鎧の下で微かに体を震わせる。
 並の人間であれば、前で立っている事さえ難しいだろう。抵抗の意思を失い、項垂れた頭は自ら首を差し出すように。この力で神を殺すと敵が豪語しているのも納得がいく。
「だが、それがどうした?」
 敵の強さも紋章の力も理解した。だがそれは彼が膝を屈する理由にはなり得なかった。
 戦場を包む絶望のオーラを押し返すように、闇よりも昏い漆黒の感情が静かに燃える。

「俺は故郷を吸血鬼に襲撃されて滅ぼされ、家族や同郷の人々を吸血鬼にされ」
 噛みしめるように自らの来歴を語りながら、絶望に向かって一歩踏み出す敬輔。紡がれる一言一言に籠められた怒りと憎しみを感じ、シシリーが「……ッ!」と動揺を見せる。
「しかも吸血鬼化の呪詛をかけられ、魂の解放と称して同郷の人々や家族を斬り捨ててきた……これ以上の絶望があるものか」
 愛する者達の未来も、生命も、尊厳さえも踏み躙られ、自ら手にかける地獄を知った。
 涙はとうに枯れ果て、心には復讐しか残らぬほどに、元凶たる吸血鬼共を恨み抜いた。そして今も彼の胸の内には、底なしの絶望が消えることなく揺蕩っている。

「だが、絶望の底を知ったからこそ、絶望を以て絶望を制することができる」
 かっと見開かれた敬輔の右目が、闇の中で青く輝く。内なる闘争心が燃え上がり、剣を握る手に力が漲る。『絶望の紋章』が放つ絶望など今の彼にとっては涼風のようなもの。
「今、貴様に絶望を味合わせてやる!」
「―――ッ!!?」
 土が爆ぜるほどの勢いで地面を踏み込み、弾丸の如く戦場を駆ける。標的と彼との間にあった距離は一瞬でゼロとなり――迫りくる男の気迫が、吸血鬼の生存本能を震わせた。復讐に燃える1人の人間の"感情"が、第五の貴族に死の恐怖を覚えさせたのだ。

「ッ……近寄るなぁッ!」
 シシリーは顔を引きつらせながら血の大鎌を振り回し、大振りだが強烈な一撃を放つ。
 だが、既に気迫で負けている相手の攻撃など恐れるに足らず。敬輔は第六感に導かれるままに体を捻り、紙一重で大鎌を躱しながら懐に入る。
「怒りと憎悪、そして闘争心を力に替えて……貴様を斬り刻む!!」
「ひ……ッ、ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!!!!?」
 至近距離から叩きつけられた殺気に、敵が一瞬凍りついた直後――繰り出すのは最速の18連撃【憎悪と闘争のダンス・マカブル】。目にも留まらぬ早業で閃いた黒剣の刃が、怨念の炎をまとって忌まわしき吸血鬼を斬り刻む。

「『第4層からの乱入者』か……俺らをそう見下したのが誤りだったな」
 敬輔が剣を納めてから一拍遅れて、シシリーの全身から血飛沫が噴き出す。ここに来たのはただの乱入者ではなく、吸血鬼達を滅ぼすに足る理由と実力を備えた勇士達だった。
 彼女がそれを理解した時にはもう手遅れなほどに、戦いの趨勢は決しつつあった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン、報いだと?
面白い…何方が報いを受けるべきか、直ぐに教えてやろう

装備銃器で攻撃
気力が萎えるのを防ぐために遠距離から銃撃
相手が近づいてきたらダッシュや軽業による軽快な動きで敵と距離を取る

どうした?そんなに大鎌を振り回して、草刈りでもしてるのか?
それなら根までしっかり駆除しないとまた生えて来るぞ

などと挑発を行いながら敵の攻撃を避けて行こう
相手が激高すれば攻撃や行動がより雑になり、こちらの攻撃も当たりやすくなっていくだろう
敵が紋章を恐れて距離を取ってると思い込んでくれれば更に好都合だな

『絶望』に抗う『希望』とは何か…
私にとってのそれは、理不尽な『絶望』に対する『怒り』だ

一気に距離を詰めて大鎌による攻撃を繰り出して来たらUCを発動
紋章の生贄となった『喰われた神々』の残滓を纏い攻撃
血涙を流し、吐血しながらも、身に纏う呪詛で大鎌の攻撃を防ぎ、超強化された巨大な鉤爪で相手にカウンター攻撃を喰らわせる

報いを受けるのはお前の方だったな
たっぷりと絶望を味わい、後悔して骸の海に沈むがいい…



「ぅ……よく、も……やって、くれたわね。この報いは、必ず……」
「フン、報いだと?」
 満身創痍の重症を負ってもなお悪態を吐く吸血鬼に、キリカは冷ややかな笑みを返す。
 今までの己の所業を棚に上げ、非難の矛先をこちらに向け続ける度胸は大したものだ。彼女が受けている痛みは、彼女が絶望させてきた人間達の痛みよりも、遥かに軽い。
「面白い……何方が報いを受けるべきか、直ぐに教えてやろう」
 右手に神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"、左手に強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を装備し、射撃戦の構えを取るキリカ。対するシシリーは「五月蝿いッ!」と吼えると血の大鎌を錬成し、鬼気迫る形相で襲い掛かって来た。

「認めない、認めないッ! この私が、お前達なんかにッ!」
 叫べども拭い去れない危機感と焦燥に駆られ、血の大鎌を振り回すシシリー。迎え撃つキリカはバックステップで後退しながらの引き撃ちを行う。『絶望の紋章』の効果範囲に入り、気力が萎えるのを防ぐためだ。
「どうした? そんなに大鎌を振り回して、草刈りでもしてるのか?」
 手負いの吸血鬼を上回る俊敏さで戦場を走り回り、軽業めいた警戒な動きで距離を取り続ける。虚しく空を切る大鎌に対し、彼女にはまだ挑発を口にするほどの余裕があった。

「それなら根までしっかり駆除しないとまた生えて来るぞ」
「きいぃぃぃぃっ! 五月蝿いって言ってるのよッ!!」
 ヒステリックな金切り声を上げて追撃を行うシシリーだが、激昂すればするほど動きはより雑になり、攻撃が当たらないばかりか隙を晒すようになる。キリカはそこを狙って、当てやすくなった獲物に銃撃を的中させていく。
「ぐぎいッ!!? よ、ぐもおッ!!」
 聖句と秘術で強化された弾丸が肉を穿ち、シシリーが悲鳴を上げる。が、そこで怯めば的になるだけだと分かっているのだろう、銃弾を浴びながらも強引に距離を詰めてくる。

「"絶望"しなさい、ニンゲンッ!!」
 この状況を打開する為に、シシリーが頼りにできるのは『絶望の紋章』しか無かった。相手が距離を取って射撃戦に徹しているのも、紋章の力を恐れていると考えたのだろう。
 だが、その思い込みは好都合。敵が一気に距離を詰めてきたのとタイミングを合わせ、キリカは【呪詛の獣】を発動する。

「『絶望』に抗う『希望』とは何か……私にとってのそれは、理不尽な『絶望』に対する『怒り』だ」

 不気味な哄笑と共にデゼス・ポアが呪詛を吐き出し、キリカの体が黒い靄に包まれる。
 一瞬のうちに彼女の顔は人形のと同じオペラマスクに覆われ、戦闘服は漆黒のドレスに変わり、袖口からは獣のような巨大で鋭い鉤爪が覗く。
「なによ、その姿は―――ッ!?」
 動揺しながらもシシリーは大鎌による攻撃を繰り出すが、渾身のはずだったその一撃は標的の首を刎ねる寸前でピタリと止まる。キリカの体を包んだ黒い靄――凝縮した膨大な呪詛の力が、吸血鬼の刃を阻んでいた。

「見ろ。これがお前の犠牲となった者達の『怒り』だ」
 キリカがその姿になる為に纏ったのは、紋章の生贄にされた『喰われた神々』の残滓。
 貶められた神々の怒りは世界を呪い、人を呪い、吸血鬼を呪う。その凄まじき力の反動はキリカ自身にも現れており、マスクの下の瞳からは血涙を流している。
「思い知るがいい、彼らの苦痛と憤怒、呪詛の全てを」
「ひ―――ッ!!」
 呪詛に体を蝕まれ、言葉と共に血を吐きながらも、美しき獣は全力の反撃を叩き込む。
 絶望すらも圧倒する『怒り』の呪詛が最大まで膨れ上がり、シシリーの顔が恐怖で歪んだ直後――超強化された巨大な鉤爪が、その肉と骨を引き裂いた。

「あ、あぎゃぁぁアァァあぁぁぁあッ!!!!!?!」

 聞くに堪えぬほどに醜い断末魔の絶叫を上げ、血溜まりの海の中に倒れ込む女吸血鬼。
 呪詛の鉤爪は怨敵に致命傷を負わせながらも即死させず、彼女には死に至るまでの長く短い、苦痛と恐怖の時間が与えられた。
「報いを受けるのはお前の方だったな。たっぷりと絶望を味わい、後悔して骸の海に沈むがいい……」
「い、いや、イヤイヤイヤ……こ、こんなヤツら、に……しにたく、な………」
 ユーベルコードを解除し、血涙を拭いながらも冷徹な眼差しでそれを見下ろすキリカ。
 彼女の眼前で敵は後悔と苦痛と絶望に苛まれながら、闇に解けるように消えていった。



 ――かくして『完全なる世界を望むもの』シシリーは倒れ、紋章の祭壇は破壊された。
 これでダークセイヴァーを支配する第五の貴族の権威の源は、またひとつ失われたことになる。今は小さな前進でも、この戦果は必ず吸血鬼達の体制を崩す一手となるだろう。
 祭壇から救出できた人々を連れ、猟兵達はまどろみの花畑より無事帰還するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月17日


挿絵イラスト