19
ハーフムーンで逢いましょう

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




●叶わぬ願いと知りもせず

ー♬ ♪

あなたがくれた 意味を探すの
例えぬくもりをなくしていても
胸に抱えて 空へと孵すの

ほら もう傷跡に変わるわ

ー♬ ♪

――ああ、歌声が聞こえる。私が憧れた、美しく透き通った声。いつか、あのステージで並び立って歌うのが夢だった。努力と研鑽を積み上げた先で、貴方の隣を独り占めにして、声を重ねる日を夢見るのが生き甲斐だった。

でもそれは、なんて遠いのだろう。
時間も運も奇跡も、何も届かず夢は潰えてしまった。あなたが消えたステージは、朔夜の様に暗くて何にも見えやしない。

……けど、どうしてかしら。
今日はあなたの歌声がずっと響いてるの。オルゴールから、蓄音機から、スピーカーから、憶えるほどに刻んだあなたの声が。街のあちこちから、溢れるほど聞こえてくる。それに不思議ね、あなたが愛した月もほら、こんなに沢山灯りをともして浮かんでいるの。まるであなたのカフェーまで導いてくれるように。

ねぇ、もしかしてまだ、間に合うの?まだ、声を響かせれば、私の夢に手が届くの?次のステージがいつか尋ねる声に微笑んで、花束渡す紳士に手を振りながら、あなたが返す“いつもの台詞”のように。辿り着いたなら、また、逢えるの?――だったら。

「…待っていて、私、必ず行くわ。だから、どうか」

『――ハーフムーンで、逢いましょう』


●届かぬ月に手を伸ばす

ー♬ ♪

あなたが捨てた 明日を拾うの
例え二度と戻らないとしても
夢の淵まで 連れ出してあげる

けど まだ傷跡が痛むの

ー♬ ♪

 グリモアベースの一角に滔々と流れる歌声。セラフィムが手にした小さな蓄音器から流れるのは、切ない歌詞を乗せて歌うとある歌姫の声。ハスキーな声で甘く紡がれるそれは、思わず時間を忘れて聞き惚れてしまいそうな魅力があった。
「《素敵な歌声ですよね。今回の依頼はこの歌姫に因んだ祭りに現れた、影朧に関するものです》」
 そこはサクラミラージュの中でもひと際古い街。かつてそこには美しい見目と歌声で誰もを魅了し、けれど誰のものともならず世を去った歌姫がいたという。ステージに立ち、一頻り歌い上げた後はアンコールにも応えず、ただ微笑んで一言――『ハーフムーンで逢いましょう』と言いおいて消えてしまう幻の歌姫。そんな彼女を想い偲び、この街では毎年春先に『月燈祭』が開かれる。彼女が歌い手として立っていたステージカフェー『ハーフムーン』を中心に、繁華街の通りが皆祭り一色に染まっているのだ。
 祭りが始まるのは月の出始める宵の口。歌姫の甘く囁く歌声があちこちから響き渡り、軒先には淡い月明かりのランプがいくつも吊るされる。舞い散る桜に混ざって月の下に咲く白い花々が艶めいた芳香を放ち、月の雫を集めたと歌う装飾品が店先を飾る、どこか神秘的な祭りだ。
「《ですがその祭りで皆様が賑わう最中に、影朧が出現するのを予見致しました。》」
 影朧は蝶子という名の女学生だ。かつて歌姫の舞台に憧れ、いつかともに並び立って歌うことを夢見て――叶えることなく過去となった悲劇の少女。現れた時点ですでに戦う力も残されていない程弱り切り、それでもステージと歌姫への憧れを捨てきれず、放っておけば只管カフェーへと向かって歩き出すだろう。そのままでもいずれ消滅するとはいえ、相手は影朧でありオブリビオン。せっかくの祭りも彼女の出現をそのままにすれば、儘ならずに終えてしまう。だからこそ猟兵たちを呼び込み、見張りを兼ねて祭りを楽しんでもらおう、というのが今回の依頼の趣旨だ。
「《ただオブリビオンが居るとはいえ、今回は危険度の低い依頼です。監視はある程度必要でしょうが、それ以外はお祭りをゆっくりと楽しんでくださいませ。そして叶うなら、祭りの最後のステージが終わったならば、影朧が消える前にどうか…拍手を贈って下さいますか。》」

――きっとそれが、旅立つ彼女の道標になると思いますから。
そう締め括って、セラフィムがグリモアを手に呼び出した。


吾妻くるる
こんにちは、吾妻くるるです。
今回はサクラミラージュにて
月の祭りと歌姫のカフェーへご案内致します。

●基本説明
構成:イベシナ3本立て
 1章:影朧の監視、及び祭を楽しむ―買い物編ー
 2章:影朧の監視、及び祭を楽しむ―グルメ編ー
 3章:大正カフェーにて影朧の監視、及び喫茶とステージを楽しむ
戦闘:ほぼなし。1章のみ希望があれば特殊戦闘

1章「影朧の監視、及び月燈祭を楽しむ―買い物編ー」
 祭りでは月と歌姫に因んだ品がたくさん並んでいます。翳すと月面が映し出される硝子ペンダント、その日の月と同じに輝く幻燈ラムプ、歌姫の歌声流れるオルゴール。探せば望むものも見つかると思います。監視はひと言程度に、祭りをお楽しみください。
 戦闘は基本不要ですが、影朧である蝶子は猟兵との接触をお芝居だと認識しています。中でも「手の届かない誰かへの憧れ」を感じると、その人の姿を模した影を呼び出し、その人の様に演じさせます。もし叶わぬ逢瀬を願ったり、もう会えない人の姿を一目見たいときは、蝶子に話しかけてみると良いでしょう。

2章「月燈祭を楽しむ―グルメ編ー」
 夜の街の中、引き続き祭りを楽しんでください。こちらではグルメがメインになりますが、前章と同じく買い物でも大丈夫です。月明かりで発酵させた桜酒、月下美人の花蜂蜜、ふんわり満月カステラなどこちらも色々あります。探せば望みのものも見つかるかと。監視はそこそこに、夜桜と月を眺めながらごゆっくりどうぞ。

3章「大正カフェー『ハーフムーン』にて影朧の監視、及び喫茶とステージを楽しむ」
 真ん中に円形ステージを構えたカフェーにて、影朧と『歌姫』のレコードによる最初で最後のセッションが行われます。そちらに耳を傾けながら、カフェーでゆっくりとお楽しみください。満月の様なドーム状のチョコに温めたミルクをかけて溶かす一皿や、歌姫が好んだと言う淡く月明かり零すフレーバーティーなど、こちらも歌姫と月に因んだメニューがいろいろあります。夜も更けてきた時間帯なので、適齢の方は葉巻やお酒などもどうぞ。

開始日時はタグと雑記、Twitterで随時お知らせいたします。
全章通して公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙は禁止です。
それでは、よろしくお願いいたします。
137




第1章 ボス戦 『蝶子』

POW   :    蝶が群れ成し満員御礼
【真紅の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    悲劇舞台の始まり始まり
戦闘用の、自身と同じ強さの【主演男優】と【主演女優】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    あゝ悲哀芝居
【悲哀に満ちた歌と踊り】を披露した指定の全対象に【過去手に入らなかった者等に対する悲しみの】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠氷長・霰です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 月が姿を覗かせる宵の口。大通りを抱えた繁華街は、普段なら早仕舞いの店もちらちら見え始める頃だ。だが、今日ばかりはここからいっそう賑やかさを増していく。

かつての歌姫を恋う、月明かりの下の祭。

 この街の人はみんなかの歌姫の声を子守唄にして、一度は恋に落ちると豪語する。そんな彼女がステージに立った遠い昔に思いを馳せながら、店の主たちは飾り付けを始めていく。満月をそのまま込めた様な丸い灯りに、星を連ねた三日月のランプ。優しく燈るそれらによって、繁華街はふんわりと優しいひかりに包まれていく。

 店で売られる品々も、祭りに合わせて入れ替わる。歌姫の歌を込めたオルゴールに、彼女が好んで纏ったと言われる銀糸で編まれたショール。月永石を据えた指輪は月明かりに翳すと蝶翅の様な美しい遊色を放ち、下弦と上弦に分たれた月の硝子石は、想い合うふたりが互いに持てば決して離れる事はないと語られる。並べられる品々を眺めて、手に取り、密やかに笑い合う声があがる様子は、穏やかだが心地よい祭りの喧騒を響かせていた。

 ただ祭りの最中に、ひそりと時折声が止む一角があった。その渦中に居るのは、セーラー服を纏った1人の少女――影朧の蝶子だ。歩みは遅く、ただ遠く一点だけを見つめて進む姿は痛々しくも映るが、オブリビオンとあっては誰も近づきはしない。距離をとり息を飲み、通り過ぎるのを静かに待つばかり。それでも蝶子は人目など気にせず、一歩一歩、祭りの中心にあるカフェーへ向かっていく。そこに、夢の叶う瞬間があると信じて止まず。

――ありもしない歌姫とのステージを求めて、焦がれた蝶が月へと歩みゆく。










 
真幌・縫
陽規くん(f36591)と
陽規くん!ここがサクミラだよ〜♪
桜が一年中咲いてるんだ〜。
ぬいは桜が好きだからサクミラも大好きなんだよー。

ふふ、ザナドゥ出身の陽規くんには全部古臭く見えるかな?縫の世界の物とも違うけど『レトロ』なのが素敵だよね?
歌姫の歌のオルゴール…
(しばらく聞き入ったあと唇を開き)
〜♪
こんな感じかな?素敵な歌だね。
陽規くんオルゴール買う?
えっ、私が歌うから要らない?じゃあ、また歌うね♪
こっちのは幻燈ラムプ…わぁ、綺麗だね。
ん、これが気に入った?じゃあ買っちゃおう!
…このペンダントは…くれるの!?
わぁ…ありがとう!大事にするね!


天羽・陽規
縫(f10334)と
へ~っ、ここがサクラミラージュってとこか
データでしか見たことない古いものいっぱいだねっ!
それで、縫は僕をどんな感じでエスコートしてくれるのかな?
(半分面白がりつつ)

ま、影朧見張りつつ買い物かなぁ
おるごーる?
へぇ~っ、古臭い見た目の割に面白いかも
ん?縫もこの曲歌えるの?
なら僕いらなーいっ
だって知らないやつの歌より縫の声のが僕好きだもん
こっちはー…ラムプ?
電子的に光を調整するんじゃなくて月の光と一緒なんだ
すごーっい、非効率だけど面白いや!
僕このラムプ買っていこうかなっ
こっちの硝子ペンダントは僕の趣味じゃないから縫にあげるよ
まっ、案内してくれるお駄賃ってやつ?



ーーまた一緒に、違う世界を見に行こう。

 電子の星海の下で交わした約束は、思いの外早く叶うこととなった。賑やかな光源で満たされた夜とは正反対な、柔らかな月明かりに包まれた繁華街。春の盛りを過ぎてもなお散ることを知らない桜に満ちた世界、サクラミラージュ。煉瓦で出来た道を、いつかとは違って先導するように先を歩きながら真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)がくるりと振り返って笑いかける。
「陽規くん!ここがサクミラだよ〜♪」
 まるでお披露目でもするように両手を広げると、天羽・陽規(悪戯に笑う烏・f36591)がふぅんと面白そうに頷いた。
「へ~っ、ここがサクラミラージュってとこか」
「桜が一年中咲いてるんだ〜。ぬいは桜が好きだからサクミラも大好きなんだよー。」
 名の通り降り頻る桜の花びらを浴びながら、縫の説明を耳に陽規が周囲へ視線を巡らせる。金属と電子で構築されたサイバーザナドゥと比べ、木々と煉瓦と不可思議な力で編まれた世界は確かに物珍しくーー加えて。
「データでしか見たことない古いものいっぱいだねっ!」
 幾分古式ゆかしく映るものだった。率直な言いように思わず笑い声を溢しながら、縫も納得するように頷く。
「ふふ、ザナドゥ出身の陽規くんには全部古臭く見えるかな?縫の世界の物とも違うけど、でもこういう『レトロ』なのが素敵だよね?」
「レトロねー、そんな言い方もあるか。まっ、それよりも…縫は僕をどんな感じでエスコートしてくれるのかな?」
 以前の意趣返しと言うように、わかりやすく縫より一歩下がって案内を待つ陽規。その揶揄う意図を理解半分、額面通り半分で受け取って暫し悩む様子を見せる。
「んー、とりあえず気になる店を端っこから順番に、かな!あ、あそこから行って見よっ♪」
 楽しさのコンパスに素直に、の方針のもと駆け出していく縫の姿を見て。
「ま、影朧見張りつつ買い物がセオリーかなぁ」
 納得しつつもやれやれ、といった雰囲気で陽規が後をついていった。

 縫が初めに惹かれたのはオルゴールの店。開けると曲が始まる宝石箱型、歌姫らしき女性を模った人形がくるりまわるもの、月の型をした置物の紐を引くと鳴るもの、と形は様々ある。だがどれもが歌姫の曲を奏でており、その数たるや数え上げるのも大変そうに見えるほど。
「これ全部、歌姫の歌のオルゴール…」
「おるごーる?」
「こうやって仕掛けを動かすと音が鳴るカラクリのことだよ」
「へぇ~っ、古臭い見た目の割に面白いかも」
 見慣れない品をまじまじと見つめる陽規の横で、縫は手に取った宝石箱から流れる歌姫の歌に静かに耳を澄ます。そして曲が1周したあたりで口を開き、歌い出すのはオルゴールと同じメロディ。
「〜♪」
 軽やかに、優しげに。寸分違わぬ音程に、縫らしい可愛らしさを乗せて。紡がれる歌に、いつの間にかオルゴールを眺めていた陽規の視線もそちらへ向けられる。
「…こんな感じかな?素敵な歌だね。陽規くんはオルゴール買う?」
「ん?でも縫もうこの曲歌えるんでしょ?なら僕いらなーいっ」
「そう?」
「だって知らないやつの歌より縫の声のが僕好きだもん」
「そっか!じゃあ、また歌うね♪」
 いらない理由を聞かされればなんだか嬉しい気がして、そのままオルゴール屋は後に。次は隣の店へと移動する。
「こっちはー…ラムプ?」
「幻燈ラムプだね…わぁ、綺麗だね。」
 そこは軒先から天井に、壁一面に机の上まで。あらゆる箇所を埋め尽くすように並べられたラムプたちの庵だった。
「へぇ、電子的に光を調整するんじゃなくて月の光と一緒なんだ」
 どれも灯されて居るのに眩しく瞳を差さないのは、その通り月明かりを模して居るからだろう。感心しながら試しにひとつ、両手に収まるサイズのランタンを手にすると、中に浮いて居るのは炎でも電球でもなく、まぁるい月そのもの。やわく、ふんわりと落ちるひかりは電子とは一味違って、陽規の興味をいっそう掻き立てた。
「すごーっい、非効率だけど面白いや!僕このラムプ買っていこうかなっ」
「ん、これが気に入った?じゃあ買っちゃおう!」
「うん!縫はどれか買うもの決まった?」
「うーん、それがどれも素敵で決めきれなくて」
 三日月の先に星が連なるラムプは美しいし、灯すとうさぎのシルエットが浮かび上がる満月ライトは可愛いらしいし、他にもまだまだ品物は並んでいる。ちらりと視線を逸らせば他の店にも目を惹く品が手招きしていて、到底ひとつに決められそうにない。いつもはピンと立った耳を三角に折り畳んで悩む縫に思わずぷふっ、と笑い声を溢しながら、陽規がポケットから先程こっそり買っていたペンダントを取り出して目の前に差し出す。
「陽規くん?このペンダントは…?」
「僕の趣味じゃないから、縫にあげるよ」
「くれるの!?」
 あげる、の言葉にピピンと縫の耳が復活し、ますます陽規が可笑そうに笑う。丁寧に受け取って光に翳すと、小さなペンダントトップが月明かりに透けてキラキラと輝くのが美しく、覗き込む縫の瞳を月光に染め上げる。
「まっ、案内してくれるお駄賃ってやつ?」
「わぁ…ありがとう!大事にするね!」
 陽規がペンダントに込めた素直に言えないありがとうへ、縫からとびきりの笑顔が返された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミリアリア・アーデルハイム
f01658:ゆかりさんと

(この依頼に興味があるのは、あまり逢えない恋人さんがいらっしゃるからでしょうか)ゆかりさんの様子を見る

屏氷万里鏡を展開し、さり気なく蝶子さんの周囲に気を配ります。

色々な物がありますね。「半分月のペンダント」ですか、それは、うっかり行方不明になった時探して貰うのに良さそうです(くすくす)
って、それ全部買っちゃったんですか!?

先程から歌姫の歌が流れていますが、蝶子さんの歌は残されていないのでしょうか。私はそちらも聴いてみたいです。
レコヲド屋さんにあるかもしれませんし、ちょっと寄ってみてもいいですか?
もしあったら買って行きたいです。

ゆかりさんは、歌うの好きですか?


村崎・ゆかり
ミリア(f32606)と

影朧の監視は黒鴉の式を打っておいて、買い物を楽しもう。
……?(恋人とは必要があれば会えるので意識していない)

色々と不思議な品が並んでるわねぇ。
ミリア、どれにしよ?

書いた文字が月色に光る羽根ペンか。まずはこれを確保。
三日月型のペーパーナイフね。手触りが面白い。これもっと。
この手鏡は、顔を写すんじゃなくて、鏡の向こうの月夜を楽しむわけか。これもゲット。

ん、ペンダントトップに、首にかけるチェーンが二本?
あ、トップも一つに見えたけど、二つ合わさってるんだ。ハーフムーン!
同じ組同士で首にかけて、相手に近づくほど光を放つ?
面白そうじゃない。ミリア、一緒にどう?

歌うよりは聞く方よ。



 桜と月明かりの下、ふらりと歩く影一つ。時折躓き、転びそうになりながら歩く影朧ーー蝶子の道行には、中空から見張るように黒い鴉が1羽飛んでいる。

「影朧の監視は黒鴉の式を打っておいたから、あとは買い物を楽しもう。」
 監視の目を放った当人である村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)が、にこやかにそう告げる。それに頷きを返しながら、連れ立つミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)も密やかに監視のための術を重ねておいた。蝶子自身には烏を、その周囲に万華鏡の“目”を置いたとあれば、もう心配はいらないだろう。そのまま買い物へ流れようとするゆかりの姿に、ふとミリアリアが胸に疑問を浮かばせる。切ない恋歌響く街の中、焦がれ求める相手の元へ少女を送り届けると言うこの依頼。
(この依頼に興味があるのは、あまり逢えない恋人さんがいらっしゃるからでしょうか)
 言葉で直接尋ねることはしない。けれど少し探るようにじ、と視線を送ってみたが、当のゆかりにはミリアリアの考える様な意図はない。なので帰ってきたのはただただ不思議そうに首を傾げる様子だけだった。
「色々と不思議な品が並んでるわねぇ。ミリア、どれにしよ?」
 視線の意味を並ぶ品々への興味とあたりをつけてゆかりが尋ねれば、ミリアリアも問いかけを切り上げ意識を店先へと移した。
「確かに色々な物がありますね。」
「あ、特にあそこ気になるわ。」
 ゆかりが指差し向かう先は、文房具やアクセサリーを扱う小間物屋。追いかけるミリアリアも一歩店に踏み入れば、ふんわりと月明かりを纏う品々に魅入られた。

例えば、書いた文字が月の色に光り浮かび上がる羽根ペン。
「よし、まずはこれを確保。」

例えば、クレーターまで再現された三日月型のペーパーナイフ。
「へー、手触りが面白い。これもっと。」

例えば、顔の代わりに月夜を写し込む繊細な細工の手鏡。
「これもゲット。」

「…って、それ全部買っちゃったんですか!?」
 眺めていた品を片っ端から買い上げるゆかりに、思わずミリアリアが驚きの声を上げる。けれどその声にもめげずまだまだ、とゆかりが手を伸ばす先にあるのは丸い月を模したペンダント。
「ん、ペンダントトップに、首にかけるチェーンが…二本?」
 一瞬別のアクセサリのチェーンが絡んだのかと思ったが、手の内に引き上げてみたら理由がわかった。満月を象ったように見えたペンダントが、触れるとかちりと音を立てて二つに分かれたのだ。
「あ、トップも一つに見えたけど、二つ合わさってるんだ。ハーフムーン!」
 きっと祭りの中心となるカフェーの名前に因んだ品なのだろう。上弦と下弦に分かれたそれは、そのままだとただの硝子珠のようなのに、重ねて満月を成すと月明かりに似た光を放った。
「同じ組同士で首にかけて、相手に近づくほど光を放つんだ?面白そうじゃない。ミリア、一緒にどう?」
「「半分月のペンダント」ですか。それは、うっかり行方不明になった時探して貰うのに良さそうです」
 くすくす笑いながらミリアリアも満更ではないようで、ゆかりが差し出す片方を受け取った。
「そう言えばミリアリアは何か欲しいものは無いの?」
「そうですね…先程から歌姫の歌が流れていますが、蝶子さんの歌は残されていないのか気になって。もしあるのなら、私はそちらも聴いてみたいです。」
「成る程ね。」
「レコヲド屋さんにあるかもしれませんし、ちょっと寄ってみてもいいですか?もしあったら買って行きたいです。」
「勿論よ、心ゆくまで探してみましょ」
 そうと決まれば早速、と言わんばかりにゆかりが会計がてら店主にレコードを扱う店がないかを尋ねる。指差し説明する様子からは、案外近くにあるらしい。あっちだって、と案内するように一歩前へ出るゆかりを追いかけて、ミリアリアが今度は言葉にして疑問をぶつける。
「ゆかりさんは、歌うの好きですか? 」
「歌うよりは聞く方よ。だから蝶子の歌があるなら、あたしも聞いてみたい」
 その言葉に、聞かずとも一緒に探してくれる意図を感じ取って、先行くゆかりには見えないままに、ミリアリアが嬉しそうな笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
とても素敵なお祭りね。
優しい月明かりをあらわしたものや連想するものがたくさん。何か良い物との出会いがあれば嬉しい。
いつもならこんな日は占いの卓を出すところだけど、今日は自分の為の買い物をしましょうか。
月の輝きの硝子や石も素敵だけど、やっぱり灯りがいいかしら?せっかくのお月さまですもの。
ゆっくりゆっくり、品物だけでなく行き交う人々の様子も見て歩きます。お祭りだもの皆の嬉しそうな、喜ぶ表情も見ていたい。
そうした中で月齢と同じように灯るランプを見つけたら、それを求めましょう。
私室の星のランプや花のランプと並べたらきっと素敵だわ。
そしてそれらの明かりの元で鉱石のタロットをめくるのも良いと思うの。



月明かりの下、枯れることなく桜の降る、降る。歩く人々は声をひそめながらも楽しげに、店先を彩る品々はふんわりとひかりを湛えて優しげに。加えてあちこちから聞こえる歌姫の歌が夜を縁どれば、祭りはその色を美しく浮かび上がらせる。
「とても素敵なお祭りね。」
 その幻想的な雰囲気に、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が目を細めて感想を口にした。月を愛し、歌姫を愛しみ、想いを込めて選んだ品を並べる。その店主たちのなんと誇らしげなことだろう。いつもならこんな日は、自らも占いの卓を出すところだけど。
「今日は自分の為の買い物をしましょうか。」
 優しい月明かりをあらわしたものや、連想するものがたくさん並ぶ様子はどうしようもなく心惹かれるものがある。だから何か良い物との出会いがあれば嬉しいと、今宵ばかりは客になることを決めた。人波を追いかけながらゆっくりと、のんびりと。望みのものを手にして喜ぶ人の笑みや、親しい人と並び歩く夜道に踊る足音。そんな人々の幸福な様子も祭りの醍醐味と密かに見守りながら、お目当てを探して店先を眺めていく。あちこちに月を模した硝子石のペンダントや、三日月の形に掘られた石など、月にちなんだ品が置かれて居て、それぞれが手に取りたい魅力に満ちている。けれどもし、今宵この祭りで何かを持ち帰るとしたら、と自らに問いかけて浮かぶ答えは。
「やっぱり灯りがいいかしら?せっかくのお月さまですもの。」
 空に浮かぶ満つる月明かり、それと同じひかりを近くで眺めて見たい。浮かんだ思いをコンパスに、今までふらりと冷やかして居た店の方向をランプ屋へと絞って歩き出す。1軒目の小間物屋、2軒目のレコード屋を通り過ぎて3軒目。ふわりと柔らかな光に満たされた見せに踏み入れば、迎え入れてくれたのは幾つもの明かりたち。月と星を連ねた豪奢なランプに、うさぎの影が踊る愛らしいランタン。いくつもある中で一番気になったのは、その日その日の月を反映して同じ形に輝く、月の形をしたランプだった。
ーーああ、この子なら私室にある星のランプや花のランプと並べたら、新たに素敵な彩りが生まれるはずだ。それらの明かりの元で鉱石のタロットをめくれば、とても素敵な時間を過ごせる予感もある。そして占いの結果もきっと月明かりのように、優しく道行を照らし出してくれるだろう。その瞬間を想像して、藍がいっとう優しい微笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
友人のイチカ君(f14515)と
月が綺麗ですね、ってロマンチックな
意味もあるらしいけど月と歌姫のお祭りかぁ
今日はのんびりと楽しむことにしようか

手の届かない憧れを抱く気持ちは
分からないでもないけど、
歌に託したりはしないから共感はないかもねぇ
オルゴールも少し気になるけれど歌声よりかは…
やっぱり月明かりのランプに惹かれるなぁ

月齢と同じに輝く幻燈ラムプは興味深いね
イチカ君は何か気になるものあった?
お互いに似合いそうなの
買ったりしても面白いかも
月よりは星っぽいイチカ君には
星を連ねた三日月のランプで
耀くもの良いとこ取りな感じはどうだろ〜


椚・一叶
友のトリス(f27131)と
歌か…そういえば普段、聞かない
誰かを想う歌ならば
憧れる者いない儂には似合わないかもな
トリスは聞いたりするのか
カフェーで聞けるの楽しみにしつつ
きれいな品々を眺めさせてもらう

儂は近頃ランプに嵌ったかもしれない
満月そのもののようなランプ手に取り
月が…手に取れる…と感動
これあれば、曇った夜空の日も月が眺められる
あぁ、幻燈の方も面白い
様々な月に目移りして迷う
結局触れる月が一番惹かれるかも

トリスのおめがねに叶った品はあったか
似合いそうなものを買うの、面白いな
貴様はよく首周り巻く印象
このショールとかどうだ
どうやって巻くやつ
あれもいい、これもいいと買うまでの悩みが結構楽しい



「月が綺麗ですね、ってロマンチックな意味もあるらしいけど…月と歌姫のお祭りかぁ」
 月明かりの下、枯れずの桜が降り頻る夜。ひらりと目の前を横切る花びら一枚を指先で遊ばせながら、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)が空を見上げてつぶやく。
「今日はのんびりと楽しむことにしようか。ところで…イチカ君は普段歌を聴いたりする?」
 月明かりを眺めてから視線を連れ立つ椚・一叶(未熟者・f14515)の方へ向けると、いや、と首を振って返される。
「歌か…そういえば普段、聞かない」
 あまり馴染みはなく、ましてここで歌われる歌は恋にちなんだ歌姫のもの。ならば。
「誰かを想う歌ならば、憧れる者いない儂には似合わないかもな」
 焦がれ恋う想いも、相手があればこそ抱くもの。脳裏を巡らせても今のところそんな人は浮かばないので、さほど共感は湧かなかった。
「トリスは聞いたりするのか」
「んー憧れを抱く気持ちは分からないでもないけど、歌に託したりはしないから確かに共感はないかもねぇ」
 エンデも歌に想いを乗せる行為には馴染みがなかったので、自然と感想は一叶と似たものになった。訪れた祭りが掲げる二大のうち片方がそんな感慨とあっては、自然と興味が向かうのはもう片方になって。
「オルゴールも少し気になるけれど歌声よりかは…やっぱり月明かりのランプに惹かれるなぁ」
「なら歌はカフェーで聞けるの楽しみにして、今はきれいな品々を眺めさせてもらおう」
 そうして方針が決まったとあれば、目指すはランプを扱う店だ。いっとう光が溢れる場所を探して、ふたりが祭りの喧騒の中、ゆらりと煉瓦道を歩み出す。

「儂は近頃ランプに嵌ったかもしれない」
 2軒3軒と跨いで見つけたランプの店で、一叶が至極真剣にそんなことを口にしながら、目を輝かせて手を伸ばす。ふんわり月と同じひかりを放つランプたちはどれも美しく、中でも形まで満月に寄せたものは一際心を掴まれた。
「月が…手に取れる…」
 とってくれろと子の泣く月が、今自分の手の中に収まっている。これがあれば、曇った夜空の日でも月が眺められる。そのことに一叶がふるふると感動していると、並ぶエンデも興味津々に商品を眺めていた。
「月齢と同じに輝く幻燈ラムプか…興味深いね」
 エンデが手に取ったのは、小型のランタン。中にあるのは電球でも炎でもなく、ふわりと浮かぶまぁるい月。それが空の月に連動して満ち欠けながら明かりを溢すと聞くと、仕組みや変化に好奇心がそそられた。
「イチカ君は気になるものあったみたいだね」
「ああ、欲しい品が多くて決めるの困る」
 エンデの持っているランタンも気になるし、向こうに見える幻燈の方も面白そうだ、とあちこちに意識が向いている一叶に思わず微笑みながら、エンデがそれなら、と指を立てて切り出す。
「お互いに似合いそうなの買ったりしても面白いかも」
「面白い。それならひとまず1つは決まる。そうしよう」
 頷くやいなや先に歩き出すのは一叶。くるりと店先を巡って目に止めたのは、一角に設けられていた小さな小間物コーナーだ。書けば月のように光る文字を残す羽ペンや、月永石のペンダントなどが並ぶ中でこれだ、と思えたのは銀糸で編まれたショール。店のランプの光をたっぷり吸い上げてほのかに輝くショールを見つけて、迷うことなく手に取った。一方エンデの方は、一叶が御執心だったランプをひとつひとつ眺めていく。月明かりも良いが、エンデとしては一叶には星明かりも合う気がして、数ある中から目に止まったのはふたつとも取り入れたもの。三日月の先端からキラキラ光る星を連ねたランプが気に入って、これにしようとそっと持ち上げた。

「貴様はよく首周り巻く印象。このショールとかどうだ、どうやって巻くやつ」
「耀くもの良いとこ取りな感じはどうだろ〜 」
 せーのでお披露目した品は、互いに互いのツボをよく押さえたもので、交換し手渡すと笑みが溢れた。月のみならず星まで湛えたランプは一叶の持つ他のランプともきっと美しい光を織りなし合うだろうし、月光を蓄えたショールはエンデの夜を思わす藍色の髪にいっそう映えるはずだ。
「これは確保。次に買うのを見る。」
「お、まだ見るの?」
「あれもいい、これもいいと買うまでの悩みが結構楽しい 」
 星と月のランプはしっかり抱えつつ、まだまだ発掘するつもりの一叶の返事を聞いて、どこまでも付き合いましょう、と揶揄いながらエンデが笑って肩をすくめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

歌の道を歩むものとしては最高の歌い手と共演する事は最高の経験だ。アタシも優れた歌い手である母上と共演するのが夢だった。・・・もう叶わない夢だが。影朧とはいえ、蝶子にはぜひ願いを叶えて貰いたい。心から、そう思うよ。

祭りで楽しそうにはしゃぐ子供たちを見てオルゴールを手に取る。流れてくる歌姫の声に母上の歌を思い出す。ああ、母上もこうした人を魅了する声だった。

思い詰めて立ち尽くしていた所にショールをふわりとかけられてハッとする。傍には下弦と上弦のペンダントをそれぞれつけた奏と瞬が。

ああ、歌姫が関係する祭りだからねえ。ちょっと考え事してた。さあ、祭りを一緒に引き続き楽しもうか。


真宮・奏
【真宮家】で参加

幻の歌姫と共演を夢見る影朧のお嬢さんですか。死んでも諦めきれない、心残りってありますよね。歌姫のお母さんを見ているので最高のステージに登りたい、という気持ちは良く分かります。

祭に足を踏み入れた途端、素敵な祭りの煌めきにたちまち心奪われ、瞬兄さんの手を引いて駆け出していきます。この月の硝子石、よくないですか?ずっと一緒にいたいですし。(張り切って下弦のペンダントを瞬の首にかける)あ、この銀糸のショール、母さんに似合いますよね?

オルゴールの前で立ち尽くしている母さんの肩にふわりとショールを掛けます。考え事ですか?さあ。祭の続き、楽しみましょう!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

伝説にもなる程名高い歌姫。その歌姫との共演を夢見る影朧のお嬢さん。影朧と化して世界に残ってしまうほどの思いならば、叶えてあげたいですね。歌姫の母さんを見てますので、歌に掛ける思いは良くわかる。

僕は月読の一族の出身ですので、今回の祭りにはすごく興味がある。とはいえ、思いを馳せる前に奏に引っ張って行かれて、張り切っている奏に下弦の月のペンダントを首に掛けられます。ええ、ずっと一緒にいましょう。奏の頭を撫でて上弦の月のペンダントを奏にかけてあげます。

ああ、この銀糸のショール。母さんに似合いますね。買っていきましょう。

オルゴールの前にいる母さんにショールをかけて肩を叩きます。笑顔で。



「――死んでも諦めきれない、心残りってありますよね。」
 月明かりの下、降りやまない桜の雨のもと、引きずるように歩く影がひとつ。今が最早遠い未来とは知らず、ただ心の内に抱いた憧れを求めて進む蝶子を見つめ、真宮・奏(絢爛の星・f03210)がぽつりと寂し気に言葉を零す。そんな奏の肩を優しく叩いて、真宮・響(赫灼の炎・f00434)が深く同意の頷きを返した。
「歌の道を歩むものとしては、最高の歌い手と共演する事は最高の経験だ。アタシも優れた歌い手である母上と共演するのが夢だった。」
 ――もう叶わない夢だが、と続く言葉には、ほんの少し寂しさが滲んでいる。けれど今まで選び、歩いてきた自らの道に後悔はなく、ふたりからの心配するような視線を受ければ、いつものように笑って見せた。
「影朧とはいえ、蝶子にはぜひ願いを叶えて貰いたい。心から、そう思うよ。」
「歌姫のお母さんを見ているので最高のステージに登りたい、という気持ちは良く分かります。」
「ええ、それが影朧と化して世界に残ってしまうほどの思いならば、叶えてあげたいですね。」
 奏の言葉に続けて、神城・瞬(清光の月・f06558)もまた思いは同じだと告げて頷く。初めは響と奏に類の及ばぬようにと蝶子を見つめていたが、痛々しいほどに真っ直ぐ憧れへと突き進む姿に、僅かな警戒はすぐさま消えうせた。今はただ家族と共に、無事にその歩みがステージまで届いて欲しいと願うばかり。――そうして、時の巡るまで蝶子を見守ることを密かに誓い、三人が祭りの喧騒へと足を踏み入れた。

 煉瓦道に添って歩いていけば、そこは月と歌姫を恋う祭りの真っただ中。歌に耳を澄ますせいか幾分喧騒は静かに見えたが、行き交う人々の笑顔を見れば、どれだけ愛された祭りなのかはすぐにわかった。店に並ぶ品物たちもふんわりと柔らかな月明かりを讃えていたり、瀟洒な宝石箱から歌姫の甘く切ない声が聞こえたりと、心を掻き立てられるものばかりだ。特に奏には深く刺さったようで、アメジストの瞳が月にも負けない程の輝きを宿して見開かれている。直ぐに見ているだけでは待ちきれなくなって、瞬の手を取るや否や駆け出していくものだから、後ろを歩いていた響が思わず微笑まし気に目を細めた。唐突に引っ張られた瞬も、思いを馳せる間もなかったことには驚いたものの、その表情はまんざらでもない。特に月読の一族を出自とするせいか、今回の祭りには強い興味があって、走る合間に目に飛び込む品々も中々に興味深かった。あとでさっき見かけたランプを手に取ってみようか、と思いかけたあたりで、今度は急に頭から何かキラキラとしたものを掛けられて、視線を落とす。
「これは…?」
「この月の硝子石、よくないですか?ずっと一緒にいたいですし。」
 張り切った声で奏が差し出したのは、下弦の月を模したペンダント。一つの石をふたつに割り、上弦と下弦を重ね合わせることで満つる月を成すことから、離れ難い相手への贈り物として愛されているものだ。その込められた意図と奏の想いを理解して、ふ、と柔らかく表情を崩しながら瞬からも上弦のネックレスを奏へとかけてやる。
「ええ、ずっと一緒にいましょう。」
 今は未だ、それは兄としての台詞だけれど。いつか隣に立つに足ると思えた日には、もう一度同じ言葉を贈れるように。そんな想いを心の内で新たに誓いながら、奏の頭を優しく撫でた。
「ところで…さっき一緒に見つけたこの銀糸のショール、母さんに似合いますよね?」
「ああ、間違いなく母さんに似合いますね。買っていきましょう。」
 ――それぞれに秘めた心はそれとして、兄妹としての母を想う気持ちもまた同じだったようで。美しいショールを前に、ふたりが一も二もなく購入を決めた。

 そんな子供たちの遣り取りとは少し離れたところで、母たる響はふと近くにあったオルゴールを手に取っていた。木彫りの箱に刺さった捩子を撒き切って手を離すと、流れてくるのは甘く切ない歌姫の声。ゆっくりと紡がれるかつての愛の歌は、矢張りどうしても母の歌が思い出されてしまう。

――ああ、母上もこうした人を魅了する声だった。
誰もが聞き惚れて、憧れて、愛おしんで。
いつかはアタシも並ぶほどになりたいと焦がれたのに。

 かつてを思い返すと、やはり胸のどこかがチクリと痛む心地がする。叶わぬことと知りながら、寧ろ叶わなかったからこそ、思い続けてしまう小さな棘。そうやって過去へぼんやりと思いを馳せていると、突然ふわりと肩に柔らかな感触を覚えて、ハッと意識を引き戻す。気づけば右手にはショールを掛けながら微笑む奏と、左手には肩に手を乗せ笑顔を見せる瞬の姿があった。
「考え事ですか?」
「ああ、歌姫が関係する祭りだからねえ。ちょっと考え事してた。…でもそれも、ふたりの顔を見たらすっかり晴れたよ。」
「良かった!それなら…さあ。祭の続き、楽しみましょう!!」
「人が増えてきているから、逸れないように気を付けてくださいね。」
 元気いっぱいに微笑む奏に、優しく心配を口にする瞬。自慢の子供たちから伸ばされる手を握りしめて、響もまた憂いなど吹き飛ばす様に笑って一歩を踏み出す。
「ああ、祭りを引き続き楽しもうか。――三人一緒にね。」
 
――過去を想うことはあれど、今を共にいられる幸せは、何物にも代え難いのだから

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【揺藍】

そうだねっ
あれからもう長い時間が経ってるよ
ぼくも少しは成長出来たかな?
愛しい彼女の手をやんわり取って
ゆびさき絡めて繋ぐ
こうして触れ合えるのも時間の重みを感じるよ

んにー
どれも素敵で目移りしちゃう!
円ちゃんは?何かあった?
もちろんだよん
小物類を見てみよっか

ふたつでひとつ
まるでぼくと円ちゃんみたいだね
寄り添って、重ねて、ひとつになって、満たされる
奇遇だね
ぼくも一目惚れしちゃったみたい

ありがとう、円ちゃん
ぼくからは欠けゆく月を、君に
例え月が欠けたとしても
欠けた分を補うみたいに、いつだって君の傍に

早速ふたつを購入して
ふたりよ手首を飾る、満ち欠けの月
んふふ、お揃いだね
頬がゆるゆるになっちゃうよ


百鳥・円
【揺籃】

この世界には縁が多いですねえ
ティアとの出逢いだってこの世界でした
んふふ。随分と前のことですが
あれから暫くが経ったんですね

件の彼女の姿をちらりと見て捉えつつ
わたしたちもデートを楽しみましょうね
何か気になるものはあります?

わたしは…… そうですねえ
色んなものが並んでいるようですし
小物を見てみたいなあって
行ってみても良いですか?

月燈祭と言うんですもの
月にまつわる品物がいっぱいですね
いっとう目を引いたのは、上弦と下弦の月
ふたつでひとつのブレスレット

ステキじゃあないです?
すっかり一目惚れをしちゃいました
んふふ、ティアもですか?

たくさんの幸いがあれ、と
満ちゆく月を、あなたに

宝物が増えちゃいましたね



「――この世界には縁が多いですねえ」
 月明かりの柔らかな夜に、枯れずの桜が降りしきる。ひらり、はらりと角を撫でて滑り落ちるひとひらを目で追いかけたあと、百鳥・円(華回帰・f10932)が次に見つめるのは隣に並ぶ、縁に連なった愛しい子。
「ティアとの出逢いだってこの世界でした」
「そうだねっ」
 重ねてくれた思い出に、自らの名前を聞けば乗り出すようにして、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が顔を綻ばせる。
「んふふ。随分と前のことですが、あれから暫くが経ったんですね」
「そう、あれからもう長い時間が経ってるよ。ぼくも少しは成長出来たかな?」
 出会った時にちいさな予感はあっても、こんなに近くで、ずっと一緒に過ごすようになるなんて思いもしなかった。愛しい気持ちを隠すことなく掬い上げた手を絡めて伝えれば、ぎゅう、と優しく握り返される。こうして触れ合えることにも時間の重みを感じて、いっそう重ねた手のひらに熱がこもるよう。一応件の“彼女”の姿を見れば、周囲には目もくれず歩き進む姿が確認できたので、監視は兼ねつつ祭りを楽しもうと円がティアへ訪ねた。
「わたしたちもデートを楽しみましょうね。何か気になるものはあります?」
「んにー、どれも素敵で目移りしちゃう!」
 ちらりと店先を見ただけでも、キラキラのアクセサリに恋歌唄うオルゴールにと、ときめくものがたくさん置いてある。初めにどれを見るか、なんてことも決めかねて、思わず鸚鵡返しに聞き返す。
「円ちゃんは?何かあった?」
「わたしは…… そうですねえ。色んなものが並んでいるようですし、小物を見てみたいなあって。行ってみても良いですか?」
「もちろんだよん。小物類を見てみよっか」
 円が願うことならば、それはティアが望むことでもある。目的が決まったとあれば、つなぐ手をどちらからともなく引いて、喧騒を耳にゆっくりとふたりが歩き出す。
「月燈祭と言うんですもの。月にまつわる品物がいっぱいですね」
 ほら、と円が指さす先にも、まるで本当の月を夜からもいだような丸いランプに、月明かりを纏って仄かに輝くショールなど、店を賑わせるのは月に因んだ逸品ばかり。そして幾つも巡る中で、思わず――あ、と声を上げて目に留まったのは、小さな一揃いのアクセサリ。ひとつの石をふたつに割って、それぞれを上弦と下弦の月に見立てて連ねたブレスレットだった。駆け寄って掬い上げれば、その繊細な造りも、銀糸を編んだような細いチェーンも美しく、すっかりと心を掴まれてしまった。
「これ、ステキじゃあないです?すっかり一目惚れをしちゃいました」
「奇遇だね、ぼくも一目惚れしちゃったみたい」
「んふふ、ティアもですか?」
 掲げる円の手の内を眺め、ティアもうっとりと頬を染める。傾ける度零れるひかりが月光めいているところも素敵だし、何より揃いで着けられるとあれば、それが何より心惹かれる。
「ふたつでひとつ。まるでぼくと円ちゃんみたいだね」
 寄り添って、重ねて、ひとつになって、満たされる。欠けた思いを持ち寄って、傍にいればこんなにも満ち足りた気持ちになる。在り様に似た姿もまたいとしくて、これはもう手放せそうにない。
「じゃあ早速わたしたちのものにしちゃいましょう!」
 購入を決めた円がそのまま店主に声をかけてブレスレットを手に入れると、お包みしましょうか、の声も丁重に断って、早々にティアの手を取る。
「これでブレスレットはふたりのものですよ。では、わたしからはこちらを。」
 ――たくさんの幸いがあれと願い、満ちゆく月を、あなたに。祈るように想いを込めて手首につなぐと、瞳を潤ませてティアが口を開く。
「ありがとう、円ちゃん。じゃあぼくからはこの月を」
 ――例え欠けたとしても補うみたいに、いつだって君の傍にいると誓い、欠けゆく月を、君に。落ちないようにと確り結わえたなら、円からもありがとうと喜ぶ言葉が返された。

 満ち欠ける月に想いを誓うのは不実だと、遠い昔に歌人の姫が詠んだという。けれど傍にいればいつだって満ち足りるこの硝子の月に乞うのならば、それはきっと何よりも愛おしく胸を占める約束となるだろう。
「んふふ、お揃いだね」
「また宝物が増えちゃいましたね」
 ふにゃりと頬を緩ませて笑うティアに、円もつられて微笑み頬を寄せる。ブレスレットを付けた手で今一度手を取り合えば――かちり、と音を立てて、輝き帯びた月がふたたび満たされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)と

影朧の動向に気を配りつつ
此方も楽しむとしよう

祭りというには穏かな雰囲気だ
歌姫の声のお陰もあるかな
人は多いが、これなら大丈夫そうかい?
傍らの彼女に微笑みかけて

灯りの点った店先は珍しいものばかり
幻燈ラムプは、部屋に置いたら綺麗だろう
装飾品も凝った作りで、眺めるだけでも面白い
君は良いものを見つけたかい?
ふふ、有難う。夜長の慰めに良さそうだ
最近は…まあまあさ、と苦笑して

ああ、これは千隼に似合いそう
銀糸のショールを広げて肩にかけ
歌姫とお揃いだ、と冗談めかし
近くとも美しい月に変わりはないさ
…そういえば君は唄は得意なのだっけ
わたしは聴く専門だが
ならオルゴールを聞いて練習しようか、なんて


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

彼女が月に逢えますように
願い目を伏せ、彼の誘いに微笑んで

耳に残る歌声ね
街も綺麗で…ありがとう、このお祭りなら怖くはないわ
何よりは、人混みが苦手なのを気遣ってくれる彼がいればこそ

月が好きだから、どれも魅力的で
灯りは二人の部屋に飾りましょうか
手を伸ばしたのは歌姫のオルゴール
流れている歌がとても落ち着くから
あなたの夜長に贈りたいわ
最近は眠れている?と心配げに覗いて

ショールと言葉に笑って
ふふ、ワタシは手の届く月なのだわ
でも綺麗ね…似合っているといいのだけど
いいえ、ワタシも子守唄程度しか
でも少し残念ね
梟示の子守唄があればよく眠れてしまいそう、なんて
ふふ、ならワタシも練習しましょうか



 月明かりを纏って、枯れずの桜が降り積もる。その中を一歩、一歩、這うように進む影朧――蝶子の姿は余りにも痛々しかった。誰もがその姿を盗み見てはそっと目を逸らし去っていく中で、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は真っ直ぐに彼女を見つめていた。監視と周囲への警戒を兼ねて視線を一度巡らせて、大過はないと判断すれば、今度は並び立つ宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)へと瞳を向ける。その折に、柔らかく目が細められたことを知るのは千隼だけだろう。
「監視も必要だろうが、此方も楽しむとしよう」
「ええ、一緒にね」
 梟示が差し出す手に、千隼が自らの手をそっと重ねて、店の並ぶ通りへと共に足を向ける。その、踵を返すほんの一瞬に――彼女が月に逢えますようにと願い、千隼が静かに目を伏せた。

「祭りというには穏かな雰囲気だ。歌姫の声のお陰もあるかな」
 程よく賑やかな大通りを歩きながら、梟示が興味深げに感想を口にする。確かにあちこちでレコードやオルゴールが奏でられ、皆がたびたびそれに耳を傾けているためか、祭りの割には静かでゆったりとした空気が流れていた。倣って千隼も耳を澄ませてみると、蕩ける様に甘く切ない歌姫の声が聞こえて、納得したように頷く。
「耳に残る歌声ね。街も綺麗で…」
「人は多いが、これなら大丈夫そうかい?」
 微笑みと共に梟示が苦手を慮った言葉をかけると、千隼はぱちりと瞳を瞬かせて頬に涙を滑らせる。
「…ありがとう、このお祭りなら怖くはないわ」
 普段よりは人手が多いものの、通り自体は広く店数もあるため、密集している箇所はほとんどない。それも恐れずに居られる理由のひとつではある。けれど何よりも、人混みが苦手なのを気遣ってくれる梟示がいればこそ、衒いなく平気だと口にできるのだ。そのことに、改めて感謝を込めて千隼が微笑めば、梟示の表情もまたひとつ柔らかいものとなった。そのままゆっくりと店を眺めていくと、並ぶ品々はどれもが不思議で、優しくて、珍しいものばかりだった。月明かりに輝く文字を残す羽ペンや、月下美人の香りを閉じ込めた香水壜。さまざま数ある中で梟示が初めに意識を惹かれたのは、幻燈ラムプだ。ぱっと見はただの小型の硝子ランタンだが、中に灯るのはガス火でも電球でもなく、まぁるい月。今しがた空から盗んだかのような、そのものの形をした月明かりが真ん中にふわりと浮かんで、優しく周囲を照らし出す。その在り様が気になって、思わず手に取り翳してみる。
「この幻燈ラムプは、部屋に置いたら綺麗だろうな」
「灯りなら、二人の部屋に飾りましょうか」
 月明かりを模したラムプなら、他の光源と合わせても優しく溶け合うことだろう。何処に置くのが良いかとふたりで意見を重ねつつ、まずは一つ目の購入を決めた。
「君は良いものを見つけたかい?」
「ワタシは…これかしら」
 そういって今度は千隼が手に取ったのは、木箱のオルゴールだ。小箱の蓋を開ければ歌姫の歌が流れるという、仕組み自体はよくあるタイプのもの。ただクレーターまで再現された月の装飾は見事なもので、歌もワンテンポ落としたゆったりとした曲調が耳に心地よかった。
「流れている歌がとても落ち着くから、あなたの夜長に贈りたいわ」
「ふふ、有難う。夜長の慰めに良さそうだ」
「…最近は眠れている?」
「最近は…まあまあさ」
 小箱越しにじ、と心配した目を向けられると、梟示が苦笑を浮かべてそろりと視線を逃がす。そしてふと泳いだ先で目に留まった、銀糸のショールを手に取ってみる。柔らかな手触りに、繊細な色合いの美しさ――ああ、これは千隼に似合いそうだと過ぎる直感を信じ、そのままふわりと千隼の肩にショールをかける。歌姫とお揃いだ、と冗談めかした言葉を付け足せば、思わずふふ、と笑い声が返ってきた。
「ふふ、ワタシは手の届く月なのだわ。でも綺麗ね…似合っているといいのだけど」
「近くとも美しい月に変わりはないさ。その証拠に、とてもよく似合っているとも」
 実際のところ蜜月の瞳と白絹の髪に、銀糸で編んだショールはこの上なくよく映えた。偽りなく真を込めた誉め言葉には、僅かに頬染めた千隼がありがとうと返す。
「…そういえば君は唄は得意なのだっけ。わたしは聴く専門だが」
「いいえ、ワタシも子守唄程度しか。でも少し残念ね」
「残念?」
 一体何に対してのか、と疑問に思って梟示が首をかしげると、千隼がほんの少し悪戯っぽさを乗せて目を細め、理由を告げる。
「梟示の子守唄があればよく眠れてしまいそうだもの」
 なんて、と冗談めかして笑う千隼の姿があんまり楽しそうなもので、つい興が乗って梟示も軽く揶揄いを口にする。
「ならオルゴールを聞いて練習しようか」
「ふふ、ならワタシも一緒に練習しましょうか」
 ほんの戯れのつもりが、揃って歌い合うならそれは何だか悪くない話のような気がして。――今夜から練習を始めようかと呟けば、またひとつ楽し気な笑い声が重なって響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【天竺葵】
さすが賑わってンなァ
歌姫サマってのは相当な美声らしい
子守唄にすりゃあ1度は恋に落ちる…
お前には聴かせたくねェなァ…?

なァんて、だとォ……?
ベタ惚れのくせに
生意気言ってんじゃねーっての!
(額をゆびでぐりぐり)

品揃えも歌姫に因んだモンや
月に因んだのが多いなァ

──お、花の品もあンだなァ。
ヘェ、ゲッカビジンって花と
青紫蝶をモチーフにしたイヤーカフか。
(言いながらときじの耳にそれを付け)
ン!やっぱ似合うなァ
ネーチャン!これ、このまま買うわ!
釣り、いらねーから!

いーんだよ
俺がお前につけて欲しーから
買っただけだし。
……ほら、例のやつ。アイツじゃね?
こっそりつけてくぞ。


宵雛花・十雉
【天竺葵】

歌姫か
きっとたくさんのお客さんが彼女目当てに訪れて
彼女の歌に酔わされたんだろうな
オレもたまに歌劇を観るんだけど
間近で聴く歌は本当に凄いんだよ
今度なつめも一緒に行こう

もう、心配しなくてもオレはもう落ちちゃってるから…
な、なーんて
いたたた!や、やめて…!

月に硝子に
歌姫は繊細な人だったのかな
壊れやすいものって不思議と美しく映るんだよね
大事にしたいって思うし

本当?似合うかなぁ
紫がかった青色がすごく綺麗だ

え、いいの?
うん、ありがとう
また宝物が増えちゃったな
なつめとの思い出、たくさん出来ていくのが嬉しいんだ

あの人が…
うん、一緒に行くよ



 月明かりの下、枯れずの桜が降りしきる夜。いつもは静かに眠りゆく街が、今日はこれからが盛りと喧騒を奏でだす。レコードを鳴らし、月灯りのラムプをともし、美しい装身具を店先に並べれば、祭りはいよいよその彩りを増す。
「さすが賑わってンなァ」
 大通りを行く楽し気な人たちを見渡しながら、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が感心したような声を上げる。特にオルゴールや蓄音機に耳を寄せて、熱心に聞き入る姿があちこちに見えるのは、この祭りならではの光景だろうか。
「歌姫サマってのは相当な美声らしい」
「きっとたくさんのお客さんが彼女目当てに訪れて、彼女の歌に酔わされたんだろうな」
 なつめの言葉を肯定するように、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も頷いて少し聞き耳を立ててみる。――成程、確かに甘く優しい歌姫の声は、耳にしっくりと馴染んで心地よい。
「オレもたまに歌劇を観るんだけど、間近で聴く歌は本当に凄いんだよ。今度なつめも一緒に行こう」
「おう、楽しみにしとくわ。しっかしアレだなぁ…」
「どうしたの?」
 歌劇の約束にはすんなり応じたのに、なつめの表情は何処か悩まし気だ。何か気になることでもあっただろうか、と十雉が首をかしげて訊ねると。
「子守唄にすりゃあ一度は恋に落ちるって…お前には聴かせたくねェなァ…?」
 たっぷりと間を取ってから、にやりと笑ってなつめが告げる。聞かせたくないと言いつつ、あんまりにも余裕綽々の態度がおかしくて、十雉も少しからかうように返事を返す。
「もう、心配しなくてもオレはもう落ちちゃってるから…」
 しおらしい口ぶりで視線を下げ、染めた頬を隠す様に手を添えて。誰を想ってるかなんてわかるでしょう?と匂わせてみたはいいが、暫くすると妙に照れ臭くなって、パッと手を広げて表情を戻す。
「な、なーんて」
「なァんて、だとォ……?ベタ惚れのくせに、生意気言ってんじゃねーっての!」
「いたたた!や、やめて…!」
 照れ笑いの十雉の額に、なつめが容赦なくぐりぐりと指を押し込む。けれど説教じみた口調と痛がる素振りの割には、どちらともまんざらでもない表情を浮かべていて。――暫し歌姫のことなどすっかり忘れ、じゃれ合いの応酬が続いた。

「品揃えも歌姫に因んだモンや、月に因んだのが多いなァ」
 お遊びもそこそこに、店の並ぶ大通りを練り歩くふたり。様子見がてらに冷やかした店先には、開ければ歌の流れる木箱のオルゴールや、まぁるい月を模したランプなど、なつめの言葉通り歌姫や月に由来するものが多かった。他にも銀糸を編んだ薄く繊細なショールや、硝子に月の意匠を彫り込んだネックレスなども人気なようで、そのあたりにふと歌姫の人物像が透けて見える気がした。
「月に硝子に…歌姫は繊細な人だったのかな。壊れやすいものって不思議と美しく映るんだよね。大事にしたいって思うし」
「まァ確かに…──お、花の品もあンだなァ。」
 話しがてら視線を巡らせた先に、なつめが見つけたのはアクセサリを扱う店の一角。中でもいっとう目を引いたのは、真白な花を讃えたイヤーカフだった。
「ヘェ、ゲッカビジンって花と、青紫蝶をモチーフにしたイヤーカフか。」
 それは月明かりの下で甘く咲き誇る大輪の花に、青と紫に揺れる色合いが美しい蝶が止まった細工の妙が光る逸品。早速そうっと手に取ると、そのまま十雉の耳へと飾り付け、満足そうになつめがにんまりとわらう。
「ン!やっぱ似合うなァ」
「本当?似合うかなぁ。」
 近くにあった小さな鏡を覗き込むと、十雉の白い髪に馴染みつつも確りとした存在感のある月下美人に、きらきらとした蝶の翅がとてもよく映えて見えた。見立てが良いね、と褒め言葉を口に軽く顔の角度を変えると、揺れる色合いがまた美しい。
「うん、紫がかった青色がすごく綺麗だ」
「ネーチャン!これ、このまま買うわ!釣り、いらねーから!」
 余程気に入ったのか、様子を見ていたなつめが機嫌よく即決し、奥にいた店員の女性にぽんと上乗せした代金を手渡す。その気前の良さに、おまけだよ!と渡された小さな満月の根付をにこにこと揺らして眺めるなつめに、一瞬呆気に取られていた十雉がイヤーカフに触れながらおずおずと尋ねる。
「なつめ、いいの?」
「いーんだよ、俺がお前につけて欲しーから買っただけだし。」
「うん、ありがとう。また宝物が増えちゃったな」
 ――なつめとの思い出、たくさん出来ていくのが嬉しいんだ、って。十雉が静かに零せば、俺もだよと返してなつめがわやくちゃに頭を撫でる。そのまま並んで店先まで出ると、大通りの少し先、人波の別れた先にゆっくりと引きずるように歩く、蝶子の姿がみえた。
「……ほら、例のやつ。アイツじゃね?こっそりつけてくぞ。」
「あの人が…うん、一緒に行くよ」
 祭りは祭り、依頼は依頼。一先ずは気を引き締めて追いかける十雉の耳で――蝶の翅がちりりと涼やかに鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷長・霰
蝶子との関係:サクラミラージュを訪れた際接触。彼女が影朧だと分かっていても可哀想に思い、つい「汝ならスタァになれるぞ~!」と言ってしまった。

行動:うう、わらわは非力じゃが蝶子が現れたとなっては弱音を吐いている場合ではないぞ!彼女が無事に生まれ変われるようなんとか!するぞ!
「手の届かない誰かへの憧れ」といってもわらわはグリモア猟兵になるまでの記憶はないし、そういったものは全く思いつかん。
即ち直接声をかける!蝶子ちゃん出てきなさい~なのじゃ~!(カフェーの雰囲気を壊さない程度に周囲をうろついて声を上げてみる)
蝶子に会えたら彼女の未練を断てるように…今でも歌姫と並んで歌いたいのか聞いてみることにするぞ。
今日ここで会えたのも何かの縁じゃ!わらわが観客となっていっぱい拍手をするぞ!と蝶子に纏わりつく。

ユーベルコードでかわいいゲームキャラクターを召喚し、万が一の時には囲んで殴る戦法で戦闘。
蝶子に戦闘する意思がなければ応援団代わりとして周りに侍らせる。

※アドリブ・連携歓迎



カラコロと、煉瓦道に涼やかな草履の音が響き渡る。月明かりと桜の舞う中を、雪のように真っ白な少女ーー氷長・霰(角型宝石人形、なわけないのじゃ角娘じゃ・f13150)が人波を追い抜いて早足に歩き去っていく。祭りの喧騒を楽しむでもなく、店先に並ぶ煌びやかな土産を見るでもなく、その表情は必死そのもの。あちこちに視線を送って何かを探しているのは傍目にも分かったが、どうやらそれはオルゴールやラムプではないらしい。そのまま幾らか通りを抜けたあたりで、ほんの少し休むように足を止めて深呼吸しーー
「蝶子ちゃん出てきなさい~なのじゃ~!」
 喧騒にも負けない声量で、探し物ならぬ探し人の蝶子を呼ばわった。

 霰がかつてサクラミラージュを訪れた際に出会った蝶子。彼女が影朧だと分かっていても、傷つき求める姿があまりに可哀想に思えて、つい「汝ならスタァになれるぞ~!」と言ってしまった事がある。それが叶わぬ夢だと知っていたのに、それでも励ましたくて気がついたらついそんな言葉が口から出ていた。もしかしたら、彼女はもう覚えてないかもしれない。そして影朧が必ずしもかつて出会った個体と同一とは限らない。それでももし、彼女が霰の記憶にある蝶子だとしたら、伝えたい事がある。
「うう、わらわは非力じゃが…蝶子が現れたとなっては弱音を吐いている場合ではないぞ!彼女が無事に生まれ変われるようなんとか!するぞ!」
 切れた息を整えて、ムンッと胸を張りまた蝶子を探して霰が歩き始める。そしてまた暫く大通りを過ぎたところで、人集りがはけた一角を見つける。
「見つけたのじゃ!蝶子!」
 呼び止めるように声をかけるも、蝶子に大きな反応は無い。一瞬ちらりと視線は投げたものの、すぐに興味を失ったかのように前を向いてカフェーへ歩いていく。念のためにユーベルコードで呼び寄せたキャラクターたちにも戦う気概を見せるどころか、そもそもが歩くのも精一杯の這う這うのてい。あまりに痛々しい姿に、思わず悲しげな表情を浮かべて霰が問いかける。
「そうまでして、まだ歌姫と並んで歌ってみたいのか?」
「………、」
 言葉は、ない。だがよくよく見つめると、一度だけ小さく頷いたのが分かった。――霰には、記憶がない。グリモアを手にするまでの過去を、一切覚えていない。だから「手の届かない誰かへの憧れ」なんて感慨は全く思いつかなかった。でも、それでも、ここまで我が身を顧みず憧れへと突き進む蝶子の姿には、胸を掴まれる心地がして。
「わかった!なら、今日ここで会えたのも何かの縁じゃ!わらわが観客となっていっぱい拍手をするぞ!」
 この先で迎えるステージを、最高のものにしてやりたい。そんな願いを胸に抱き、霰が蝶子に寄り添うようにゆっくりと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 月がより高く空に輝くころ、祭りの喧騒にふわりと加わるのは湯気だ。少し歩き疲れた体を見越したように、ほんのり冷えた夜の空気を察したように、蒸された蒸篭や暖かな茶の香りがあたりにゆったりと広がってくる。

ーふんわり柔らかな満月カステラはいかが?銀のザラメと柔らかな生地のハーモニーは病みつきになるよ。

ー塩漬けの桜を落とした甘酒はどうだい?冷やしたのもあったかいのも選べるぜ!

ー月下美人の花を漬け込んだゼリーを召し上がれよ!口いっぱいに夢のような香りがする、ここでしか食べれない名物さ。


それぞれの店が謳い文句を口にして、こっちの水は甘いぞと客を誘い合い、祭りの賑やかさに花を添える。探せばきっと、貴方を満たす一品が見つかるはずだ。


ーーその最中にも、ずるり、ゆらり。体を引きずるようにして、蝶子がひたすら街を横切って行く。祭りの喧騒を置き去りにして、目指す先だけを見据えて。辿り着くまでは、あと少し。
天羽・陽規
縫(f10334)と
わーっ、生きてる花は初めて見たよ!
これって『サクラ』って言うんでしょ?映像では見たことあるよっ
ふーん、本物ってこんな感じなんだね
一年中咲いてるの?エネルギーどうやって供給してるんだろ
他の世界って可笑しくて楽しいねっ

そろそろ小腹空いてきたしなにか食べよっか
うーん、せっかくサクラの名前が付いてるから桜酒っていうの
飲んでみたかったけど・・・未成年はだめかぁ
もうちょっとで20歳なんだよ僕。当日は祝ってくれてもいいよ?

しょうがないからこっちの花蜂蜜で我慢してあげるよ
縫からのカステラももらおうかな
あ、そうだ。縫の買ったカステラに蜂蜜つけたら美味しそうじゃない?
縫にも蜂蜜分けてあげるねっ


真幌・縫
陽規くん(f36591)と

それでねこの世界と言ったらやっぱり『桜』なんだよ!世界中どこでも咲いてるしいつでも咲いてるんだよ♪
陽規くんは本物初めてなんだね。ぬいも本物を見た時感動してそれから大好きになったんだよ!

(引き続き街を散策しながら
満月カステラと月下美人の花蜂蜜を買って食べ歩き)

花蜂蜜美味しいね。
陽規くんは桜酒も気にしてたけど…あとちょっとで飲めるのに〜って。もうすぐお誕生日なのかな?
そうなんだ!もちろんお祝いするよ♪
満月カステラまんまるふんわりだ〜陽規くんも食べる?半分こ!ふふ、半月になったね。



 足取りは軽く、笑い声はなお軽やかに。目新しいものを見つけては並んで駆けていって、面白いものがあればなんだろうかと互いに予想しあって。そうやって過ごす時間が楽しいぶんだけ、会話もついつい弾んでしまう。
「…それでね、この世界と言ったらやっぱり『桜』なんだよ!世界中どこでも咲いてるしいつでも咲いてるんだよ♪」
 咲き誇る桜の木々を指差して、真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)が楽しげに説明する。それを受けて天羽・陽規(悪戯に笑う烏・f36591)が目の前をよぎる花びらを拾い、投影のようにすり抜けないことを確認してパッと顔を明るくする。
「わーっ、生きてる花は初めて見たよ!これが『サクラ』って言うんだ?映像では見たことあるよっ」
 お椀のように手を丸めれば、そこにみるみる桜の花びらが溜まっていく。
「ふーん、本物ってこんな感じなんだね。一年中咲いてるの?エネルギーどうやって供給してるんだろ」
 積もっていくくすぐったい感覚を味わいながら、陽規が桜色の山をまじまじと見つめる。柔らかくてすべすべして、ほんのり香りがして一枚一枚が違う。どうしてこうなのか、を掘り下げると疑問は尽きなくて、矢継ぎ早に独り言と質問を混ぜた言葉を連ねるので、縫がつい微笑ましそうに見つめる。
「陽規くんは本物初めてなんだね。ぬいも本物を見た時感動して、それから大好きになったんだよ!」
「へーえ、他の世界って可笑しくて楽しいねっ」
 世界を渡るのも勿論、ここ最近は初めてのことと出会ってばかりだ。それもこれも、目の前の翼が運んできてくれたことかと思うと、手のひらよりもずっとくすぐったいような気持ちがして。――ふいにいっぱいに溜まった花びらをえいっ!と掛ければ、縫からきゃあ!と一際かん高い笑い声が響いた。
 

「そろそろ小腹空いてきたし、なにか食べよっか」
「うんっ♪何が良いかな〜」
 ひとしきり戯れあい笑い合った後は、お土産巡りの後と言うのも相待って少し補給が欲しい頃合いに。見渡せば出店もありオープンテラスのカフェもありと、食べようと思ってみると中々に迷うラインナップがいっぱいだった。中でも陽規が初めに目を引かれたのはほんのりピンク色をした“桜酒”。然しお酒とあっては付き物なのは年齢制限で、どちらも成人には満たないと分かるとやんわり店の人に断られてしまった。
「うーん、せっかくサクラの名前が付いてるから桜酒っていうの飲んでみたかったけど・・・未成年はだめかぁ」
「残念だったね。」
 仕方ないとは言え、いざ目の前の品を口にできないとなると惜しいもの。然しいつ飲めるようになるかと考えた時に、案外それが遠くないことに気がついて、陽規がニッと笑いながら話しかける。
「もうちょっとで20歳なんだよ僕。当日は祝ってくれてもいいよ?」
「そうなんだ!もちろんお祝いするよ♪」
「やった!じゃあ今日はしょうがないからこっちの花蜂蜜で我慢してあげるよ」
「じゃあぬいは満月カステラにしよっと!」
 楽しみは約束と一緒に先へと取っておいて、今は今で楽しめるものを選んで二人が購入を決めた。花蜂蜜は巣ごと切り分けたものをカップとスプーンで渡され、さくりと切り分けて口に入れるとまるで花そのものを含んだかのような豊かな香りと、舌に蕩ける甘さが疲れた体に優しく染み込むようだった。縫の選んだ満月カステラは紙に挟んだ状態で手渡され、まだほんのり温かな生地を齧ればふわふわの口当たりにザラメの甘さが解けて、思わずにっこりと笑みが浮かぶ。
「満月カステラまんまるふんわりだ〜。陽規くんも食べる?半分こ!」
「もらおうかな。あ、そうだ。縫の買ったカステラに蜂蜜つけたら美味しそうじゃない?じゃあ縫にも蜂蜜分けてあげるねっ 」
「ふふ、半月になったね。蜂蜜も良い香りっ♪ 」

 美味しいものを分け合って、合わさって。たっぷりと花蜂蜜をかけた半月は、さっきよりもずうっと美味しくて――またひとつ増えた楽しみに、陽規も縫も屈託のない笑みを浮かべて笑い合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
友人のイチカ君(f14515)と
ランプや似合いそうなもの買った後は
お楽しみな食べ歩きだ〜
手に取れる月も良いけど、
お祭りで月を食べちゃうのも面白いよね
どんな美味しいものがあるかなぁ

月下美人の花蜂蜜に、月色のジャムだって
パンに塗ったりオヤツに摘んで食べたり?
ふんわり満月カステラは本当の月が欠けるみたいで楽しいね
甘いものが多いみたいな印象だから
しょっぱいお月様も見つけたら教えてねぇ
月のお煎餅ばりばりするのも美味しそ〜
上弦でも下弦でもぐるっと回したら良いんじゃないかな
口直し大事だと思うよー

月明かりで発酵させた桜酒なんてのも
イチカ君と晩酌するのに良いかもね
これはお土産にしちゃおうか
帰り道も楽しくなるねぇ


椚・一叶
友のトリス(f27131)と
美味いものも欠かせない
月にまつわる味、どんな味
目で楽しんだ後は舌で楽しもう
儂らを満足させる月求めて、いざ

月下美人は一晩で咲く花だったか
貴重な花蜂蜜、どんな味するか興味津々
月色のジャムも面白い
ヨーグルトと混ぜても美味そう
でも先ずはそのまま頂きたい

成る程、月の色は甘さを体現しやすいか
しょっぱいもの、月の煎餅なら見付けた
購入したら早速ひと齧り
さて問題、これは上弦か下弦か
答えは…考えてなかった
これどっち、と煎餅見詰める
最終的には全部食べて新月にする

桜酒も良いな
月見ながら…もしくはランプ見ながら飲めば、より美味くなりそう
お土産、大賛成
帰った後の楽しみできた



ランプに小物に、お互いの似合いの品。あれもこれもと買い込んで、買い物はすっかり満足出来た。となるとあちこち歩いて見て回った体が次に欲しがるものは。
「お楽しみな食べ歩きだ〜」
「美味いものも欠かせない」
 ゆるく手をあげて出店の並ぶ一角に足を向ける鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)に、深く頷いて椚・一叶(未熟者・f14515)が目を輝かせる。
「手に取れる月も良いけど、お祭りで月を食べちゃうのも面白いよね」
 普段は食べ歩きをすると行儀云々を問われかねないが、祭りとあっては無礼講。行き交う人々も何かしら手にして、齧ったり飲んだりして楽しげだ。
「どんな美味しいものがあるかなぁ」
「目で楽しんだ後は舌で楽しもう」
 わくわくを隠さず微笑むエンデに、獲物を捉えた獣のごとく真剣な眼差しの一叶も、食べる気概は充分に。月にまつわる味は、はたしてどんな味か。儂らを満足させる月求めて、いざや喧騒の中を進んでいく。

「月下美人の花蜂蜜に、月色のジャムだって」
「月下美人は一晩で咲く花だったか」
 初めにエンデの目に止まったのは、きらきらとした瓶詰めが並んだ店だった。金色に銀色、夜藍を飾る星や月を詰めたような彩は美しく。味見をどうぞと差し出される月下美人の花蜂蜜のスプーンをひと舐めすれば、舌の上で華やかな香りと甘さがするっと解けていく。対するほんのり銀色を帯びた月色ジャムは、初めは爽やかに柚子の香りが通り抜けていき、あとはとろみのある甘さが優しく喉を過ぎていく。
「これは色々楽しめそう。パンに塗ったりオヤツに摘んで食べたり?」
「月色のジャムも面白い。ヨーグルトと混ぜても美味そう。でも先ずはそのまま頂きたい」
 蜂蜜は温めたミルクや紅茶にも合うだろうし、ジャムはしっかり冷やせばそのままジュレのように食べてもきっと美味しいだろう。ひとつずつ買ってみようかと相談していたら、今度は店内に満月カステラの焼き立てを知らせるベルが鳴った。こちらも試しにひとつ、と購入してぱくりと食べると、口いっぱいにふわふわと柔らかな生地の甘さが広がった。
「ふんわり満月カステラは本当の月が欠けるみたいで楽しいね」
 食べ進めるごとに月齢を進めるようで、測らずも見立てになるのは商品自体の計算だろうか。指に残ったかけらもペロリと平らげたところで満足し、ひとまずその店は後にして外へ。
「甘いものが多いみたいな印象だから、しょっぱいお月様も見つけたら教えてねぇ」
「成る程、月の色は甘さを体現しやすいか。しょっぱいもの、月の煎餅なら見付けた」
 今しがた覗いた店の斜向かいに視線を向けて、スンと鼻をならせば香ばしい匂いが運ばれてくる。見れば満月煎餅と書かれた幟の元、焼き立てのほんのり黄色い煎餅が並んでいた。
「月のお煎餅ばりばりするのも美味しそ〜」
「じゃあ早速買おう」
 甘い味の後にはしょっぱさが恋しくなるもの。一もニもなく1枚ずつを購入し、そのまま店先でパクリと齧る。帆立醤油を塗ってサッと焼かれた煎餅は、パリッとした歯触りとジュワッと広がる旨味が絶妙で、それこそ満月のように大判なのに何枚でも食べれそうな気がしてしまう。そのまま半分まで食べ進めたところで、一叶がすっと食べかけの煎餅を前にエンデへ尋ねる。
「さて問題、これは上弦か下弦か」
「えーどっちかな。正解は?」
「答えは…考えてなかった」
 自分で出題しながらこれはどっちか、と一叶が煎餅をまじまじと見詰める。その姿がおかしくてついふふっ、と笑いながらエンデが自分の煎餅をくるりと回してみせる。
「上弦でも下弦でもぐるっと回したら良いんじゃないかな」
「そうか。でも最終的には全部食べて新月にする」
 満ちる月も欠ける月も、全部食べて仕舞えば新月に還る。最後までパリパリと小気味いい音を立てて食べ終えたら、煎餅屋台が進めるもう一つの商品に気がついてエンデが声を上げる。
「へぇ、月明かりで発酵させた桜酒。イチカ君と晩酌するのに良いかもね」
「桜酒も良いな。月見ながら…もしくはランプ見ながら飲めば、より美味くなりそう」
 祭りの喧騒も楽しいけれど、静かにふたり灯りを眺めて酒杯を交わすのは、また違った趣きがあってきっと楽しいはず。なら、これは持ち帰るのも一手かと提案を口にする。
「これはお土産にしちゃおうか」
「お土産、大賛成。帰った後の楽しみできた 」
「うん、帰り道も楽しくなるねぇ」
 次に過ごす夜の約束と共に、桜酒の購入を決めて二人が楽しげな笑みを浮かべあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

(結局購入したオルゴールをそっと懐にしまい)さあ、祭りはこれからだ。奏は屋台なんか楽しみじゃないかい?3人で楽しもう。(財布を見て)予算は大丈夫。ああ、二人でゆっくり見てきな。(財布を渡す)

塩漬けの桜を落とした甘酒を味わいながら、椅子に座って子供達が持ってくる物を笑顔で受け取る。満月カステラ、月下美人のゼリー、月餅、満月のような栗を入れたどら焼き・・おやおや、随分買ってきたねえ。全部食べ切れるかね。これ。

ああ、祭りの雰囲気もいいが、子供達の笑顔が何よりの喜びだ。母上も・・・アタシが楽しそうに歌っているのを見て、同じように喜んでいただろうか。


真宮・奏
【真宮家】で参加

ああ、お祭りの屋台からいい匂いがします!!早く食べにいきたい!!行きましょう、瞬兄さん!!(瞬の手を引いてぐいぐい』

この満月カステラ、凄く美味しそうですよ!!あ、兄さんの花の月下美人がゼリーに浮かんでます!!(目キラキラ)

後月餅と満月のような栗が入ったドラやきも!!あ、これも美味しそうですよ!!(どんどん増えていく瞬の荷物)

荷物が一杯になっちゃいましたね。母さんの所へ戻りましょう。母さん、お酒は美味しいですか?そうですね、買いすぎちゃったかも。でも3人で食べれば全部食べれますよね。(目キラキラ)


神城・瞬
【真宮家】で参加

(蝶子の様子を確認し、安全と判断)はい、確かにいい匂いが・・・惹かれる匂いも。(実は隠れ甘み好き)奏、引っ張らなくてもついていきますから・・・はい、財布預かります。・・・空にしないようなんとかセーブしますので。

満月カステラ、口には出さないんですが凄く惹かれます。月下美人は僕の花。もちろん気に入ります。あ、月餅とドラ焼きも買うんですか?(荷物を持って上げながら)まだ買い物するんですか?財布の中身大丈夫かな。

荷物もいい加減多くなったので母さんの元へ戻りましょうか。お酒、美味しく飲んでるようですね。ええ、買いすぎたかもしれませんが、このお祭りの雰囲気と3人とならば、食べれるような。



 月は上り、夜は更けて、祭りはさらに賑やかになっていく。土産物屋を見て回った人々が、丁度休息や甘味を求める頃。そっと懐に買い求めたオルゴールを仕舞い込みながら、真宮・響(赫灼の炎・f00434)が明るい笑顔を見せる。
「さあ、祭りはこれからだ。奏は屋台なんか楽しみじゃないかい?」
「もちろんです!ああ、お祭りの屋台からいい匂いがします!!」
 母の予想を全力で肯定し、祭りの喧騒に彩りを加える如く真宮・奏(絢爛の星・f03210)がひと際賑やかに訴える。
「はい、確かにいい匂いが・・・」
 奏よりは控えめながら、秘めた甘味好きの心に惹かれる匂いはあったようで、神城・瞬(清光の月・f06558)も静かに頷いて見せた。
「早く食べにいきたい!!…いえもう行きましょう、瞬兄さん!!」
 ふわっと漂うあまーい湯気の香りに我慢できなくなったようで、奏が瞬の手をとってぐいぐいと屋台方面へ引っ張っていく。
「奏、引っ張らなくてもついていきますから・・・」
「じゃあ買うのは任せようかね。ほらこれ」
 今にも引きずられそうな瞬に、苦笑気味に響が手渡すのは自らの財布。先程ちらっと中身を見たが、屋台の買い食いくらいなら十分賄えそうな資金は入っていたので問題ないだろう。若干奏の勢いが不安ではあるが、多分、なんとかなる筈。
「はい、財布預かります。・・・空にしないようなんとかセーブしますので。」
「予算は大丈夫。ああ、二人でゆっくり見てきな。」
 静々と受け取る瞬と、あれが良い!と猛進する奏を見送って、近くのベンチに腰掛ける響の表情はまさに子を見守る母として、優し気な笑みが浮かんでいた。

「この満月カステラ、凄く美味しそうですよ!!」
 瞳を爛々と輝かせて進む奏がまず最初に目に漬けたのは、満月カステラだった。まぁるく淡い黄色をしたカステラはまさに月を思わせる形で、焼き立てで売られているため手に取るとまだほんのり温かい所にも食欲をそそられる。それをほら!と手渡されれば、口にはしないまでも瞬も美味しそうだと内心しっかり惹かれていた。
「あ、兄さんの花の月下美人がゼリーに浮かんでます!!」
 カステラを買い込んだ後は、隣の店のゼリーに視線が釘付けになる。すうっとどこまでも澄んだ透明なゼリーのなかに、満開に咲き誇る月下美人を閉じ込めたゼリー。薫り高く甘やかで、飾っても美しいだろうそれは、月下美人を頂く瞬も勿論気に入って、購入するのに是非はなかった。
「後月餅と満月のような栗が入ったドラやきも!!」
「あ、月餅とドラ焼きも買うんですか?」
 そのままずんずんと土産物の店に入っていっては、奏が気になる甘味を見つけてハンティング、もとい購入していく。そこに一切の迷いはなく、ただただ楽し気な奏の笑顔を前にしては、瞬も止める言葉が浮かばずつい言われるがままに財布を開く。
「あ、これも美味しそうですよ!!」
「まだ買い物するんですか?…財布の中身大丈夫かな。」
 ――否、流石に随分軽くなった財布を前に、瞬から心配そうな言葉が零れた。

「荷物が一杯になっちゃいましたね。」
「いい加減多くなったので、母さんの元へ戻りましょうか。」
「そうしましょう!」
 奏の望むまま、あれもこれもとたっぷり買い込んで、瞬の手はいつの間にか荷物だらけになっていた。もう十分だろうと納得できたところで元来た道を戻って響の姿を探すと、解散した付近のベンチでゆっくりと甘酒を楽しむ姿が直ぐに見つかった。
「母さん、お酒は美味しいですか?」
「お酒、美味しく飲んでるようですね。」
「二人ともおかえり。この塩漬けの桜と甘酒の風味がよくあって美味しいよ。」
 駆けよってくる奏と瞬に杯を傾けながら笑顔を向けると、どさりと置かれた荷物の量に驚いて響が中身を改め出す。
「にしても…満月カステラ、月下美人のゼリー、月餅、満月のような栗を入れたどら焼き・・おやおや、随分買ってきたねえ。全部食べ切れるかね。これ。」
 気になったものを片っ端から、それも味違いのものがあればまとめて購入した為に、最終的な量はかなりすごいことになっていた。
「そうですね、買いすぎちゃったかも。でも3人で食べれば全部食べれますよね。」
「ええ、買いすぎたかもしれませんが、このお祭りの雰囲気と3人とならば、食べれるような。」
 疑問を呈する響に、自信満々に食べきれると断言する奏と、ちょっぴり不安を覗かせながらもなんとかなると頷く瞬。ならば早速とベンチに腰掛けて戦利品を広げ、嬉しそうな様子を見せる子らに、響がいっとう表情を和らげて、想う。

――ああ、祭りの雰囲気もいいが、子供達の笑顔が何よりの喜びだ。
母上も・・・アタシが楽しそうに歌っているのを見て
同じように喜んでいただろうか。

 逢えぬ母に答えは聞きようがなく、風に耳を澄ませても届くのは祭りの賑わいばかり。それでも子を想う母としての響の気持ちは揺らぎようもなく、喜びに満ちていて、例えようもなく幸せで。だからきっと――同じ想いであって欲しいと、静かに願い微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ミリア(f32606)と

どこのお店も賑わってるわね。席が空いててよかったわ。
あたしは目玉焼きハンバァグをお願い。目玉焼きは堅焼きでね。
ん? 半熟だと、箸を入れた時にとろとろと流れ出しちゃうでしょ。もったいない。
デザァトはバニラアイスとオレンジジュースをもらおうかしら。

このお店も例の歌姫の曲を流してるのね。本当、町を挙げてって感じ。存命当時はどれだけ賑わったのかしら。
願わくば、彼女がオブリビオンになりませんように。

気分が癒やされるいい曲ね。さすがスタァの歌は違うわ。
あ、リクエストするんだ。うん、色々聴きたいもんね。

あら、アイスがもう無くなっちゃった。
すみませーん、アイスのおかわりお願いします!


ミリアリア・アーデルハイム
f01658:ゆかりさんと
わぁ素敵なカフェー、少し歩き疲れましたし席が空いて良かった!流石お祭りの日は混んでますね

(メニューと暫し睨めっこ)私はこの「お祭り限定セット」で。スコッチエッグに特製ソース、檸檬のレアチーズタルトですって。美味しそう・・・お腹空いたぁ(ぐーきゅるうう)
えっ、卵半熟にしないんですか?そういう理由っ

あ、此処でも歌姫の曲をかけてますね
私、店員さんにリクエスト用曲目リストがないか訊いてみます。蝶子さんのレコヲドと同じ曲が、1曲でも、短いものでもないかと思って

Yes or No 訊きたくて
でも訊けなくて
私の恋はハーフムーン
ずっと満ちない片想い

ふふっ、お腹壊さないでくださいよ〜



「どこのお店も賑わってるわね。席が空いててよかったわ。」
 賑わいみせる祭りの通り沿い、オープンテラスのカフェの一席で村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)が椅子を引いてにこにこと笑う。
「わぁ素敵なカフェー!少し歩き疲れましたし、席が空いて良かった!流石お祭りの日は混んでますね」
 向かい合わせの椅子に腰掛けながらミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)もホッと息をつく。土産物を見て回るのは楽しくて、気がつけば体にはちょっぴり疲労感が溜まっていた。けれどそれも夜の少し冷えた空気の中で足を休めれば、ゆっくり心地よいものに置き換わっていく。このまま休憩がてら、ちょうど空いてきた小腹も満たそうと思い立って、二人でメニューを見比べる。豊富な並びに暫しうんうん悩んだ後、先に決まったミリアリアが手をあげて店員を呼び止める。
「私はこの「お祭り限定セット」で。スコッチエッグに特製ソース、檸檬のレアチーズタルトですって。美味しそう・・・お腹空いたぁ」
「あたしは目玉焼きハンバァグをお願い。目玉焼きは堅焼きでね。」
「えっ、卵半熟にしないんですか?」
「ん?半熟だと、箸を入れた時にとろとろと流れ出しちゃうでしょ。もったいない。」
「あっ、そういう理由…」
「デザァトはバニラアイスとオレンジジュースをもらおうかしら。」
 おしゃべりしながらの注文を終えればかしこまりました、と下がった店員が10分と立たないうちに暖かな湯気の浮かぶプレートを手に戻ってくる。置かれた品を頂きます、で口に運べば、互いの顔に浮かぶのは美味しいことがすぐにわかる笑顔だ。
「あ、此処でも歌姫の曲をかけてますね」
「本当、町を挙げてって感じね。存命当時はどれだけ賑わったのかしら。」
 食べ進める間にふと気がついて耳を澄ますと、通りでも幾度となく聞いた歌姫の歌が聞こえてきた。遠い昔に亡くなった筈なのに、未だこうして歌われ愛され続けている歌姫の声。それが生で聞ける当時であれば、どれほどの熱を生むものだったろうか。それこそステージのある夜は毎回、祭りのように盛り上がったのかも。ただ、今ここでその過去を窺う術はないけれど、もしかしたらその方が良いのかもしれない。
「気分が癒やされるいい曲ね。さすがスタァの歌は違うわ。願わくば、彼女がオブリビオンになりませんように。」
 美しい夢は夢のまま、誰も傷つけることなく愛されるだけの過去であれ。歪な目覚めを見ることなく、祭りが長く続くよう願って、ゆかりが黙祷にも似て目を伏せる。
「私、店員さんにリクエスト用曲目リストがないか訊いてみます。」
「あ、リクエストするんだ。うん、色々聴きたいもんね。」
 そんなゆかりの言葉に頷いて、ミリアリアがもう一度店員に声をかける。そして手渡されたリストにひそかに蝶子の歌が無いかとあちこち探っては見たが、残念ながら殆どの曲が歌姫のものばかり。ただ、片隅に1曲だけ歌い手不明と書かれたものがあり、僅かな期待を込めてミリアリアがリクエストを入れた。

Yes or No 訊きたくて
でも訊けなくて
私の恋はハーフムーン
ずっと満ちない片想い

 すぐさま店内にかかるのは、歌姫よりも幼く細い声。拙さも滲む歌いようで、聴き比べれば差は歴然としていた。けれど、高音の澄んだ響きや耳に残る言葉運びなど、所々に光るものは感じられた。これが果たして蝶子の歌声なのかは、正確には分からない。けれどもし歌姫に憧れたかつての彼女の希望が、努力が、今こうしてリストの隅っこでほんの少しでも届いていたのなら。今も歩き続ける彼女の手向になるだろうかと、ミリアリアが耳を澄まして考え込む。
「あら、アイスがもう無くなっちゃった。。すみませーん、アイスのおかわりお願いします! 」
「…ふふっ、お腹壊さないでくださいよ〜」
 物思いに耽り掛けたところで、ゆかりの呑気な追加注文が聞こえてきて思わず笑い声がこぼれる。そのまま気を取り直し、ミリアリアも自らのレアチーズタルトを切り取りに掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【揺藍】

夜が来るのはあっという間
円ちゃんと居ると時間がすぐ過ぎて行っちゃうよ
夜桜ってやつも乙だねっ

そうしよう!
近くにあったお店へ!

わあわあ!美味しそうなものがたくさん!
お腹がぐーって鳴っちゃった
んふふ。じゃあ、いっぱい頼んじゃおう

ぼくは桜のお酒を
念のために大人の姿に変わっておこう
これからはずっと大人のままでもいいかもね

円ちゃん、20歳になったんだよね
改めて、おめでとう!
こうしてお祝い出来るのがすごく嬉しいんだよ
これからも重ねてゆく歳をずっとお祝いさせてね

んにに!美味しそう!ぼくも同じものを!
―――かんぱーいっ!
ふふふーお酒も甘味も美味しくて
目の前には愛しい人がいて
こんなにしあわせでいいのかな?


百鳥・円
【揺籃】

すっかり日が落ちて夜ですねえ
月に照らされる桜たちもまたキレイです

ちょっぴり冷えましたね?
お店へ入って温まりましょうか

あらあら、んふふ
どれもこれも美味しそうで迷ってしまう
ティア、欲しいものはあります?
たーんと頼んでいただきましょ!
この世界のチケットは山のように残ってるんです

わたしはね、桜の甘酒をいただきたいです
こうして乾杯出来るのは初めてですね?
やっと一緒にお酒を呑めます

店員さん、注文良いですか?
このお酒と――
あとあと満月カステラも月下美人ゼリーも!

お酒が到着したのなら乾杯といきましょう
あなたと、このひと時に乾杯です
――乾杯!

桜の風味も、甘酒の味も良いですね
こっちの甘味もいただきましょ!



「すっかり日が落ちて夜ですねえ」
 黄昏の余韻は拭われて、月は高く夜は濃く。更けていく空をふと見上げて、百鳥・円(華回帰・f10932)の瞳に星が瞬く。
「夜が来るのはあっという間。それに円ちゃんと居ると時間がすぐ過ぎて行っちゃうよ」
 共に過ごせるのはこの上なく幸せなのに、対して時間はあっという間に過ぎてしまう。ままならなさにティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)がプゥと頬を膨らませると、円が笑いながら膨らんだ餅をぷすりと突く。
「月に照らされる桜たちもまたキレイです」
「うん、夜桜ってやつも乙だねっ」
 過ぎゆく時間を惜しむ気持ちはあれど、夜には夜の美しさがあると説けば、互いに今を楽しみたい気持ちのほうが勝った。ならば次はどこへ行こうか、と視線を巡らせようとしたとき、肩を撫ぜる風にふるりと背が震えて春先の夜の寒さに思い至る。
「ちょっぴり冷えましたね?お店へ入って温まりましょうか」
「そうしよう!」
 勢いの良い同意を得られたら、そのまま流れるようにちょうど目の前にあった小さなカフェへとふたりが入っていく。ガラス越しに通りを眺められる一席に陣取って、メニューを広げると軽食にスイーツにとずらり勢揃いで、思いがけず黄色い悲鳴が響いた。
「わあわあ!美味しそうなものがたくさん!お腹がぐーって鳴っちゃった」
「あらあら、んふふ。どれもこれも美味しそうで迷ってしまう。…ティア、欲しいものはあります?」
「んにー、沢山あって迷うんだよぅ」
「なら、たーんと頼んでいただきましょ!この世界のチケットは山のように残ってるんです」
「んふふ。じゃあ、いっぱい頼んじゃおう」
 お金の心配はいらないと強かに咲む円に、ティアもにまりと笑ってメニューをなぞる。ふわふわ卵のサンドイッチは気になるし、シロップたっぷりのまぁるいパンケーキも絶対美味しい。あれもこれもと迷ってしまうけれど、初めに何を頼むかだけはしっかりと決めていた。
「わたしはね、桜の甘酒をいただきたいです」
「ぼくは桜のお酒を」
 ――それは、お酒。成人した者にしか飲めない、とくべつな飲み物。今までは眺めるばかりだったそれを、20歳を迎えた今ようやく円も口にすることが出来る。楽しみにしていた一杯をティアと交わせると思うといっそう嬉しくて、まだ煽っても居ないのにほんのり頬が赤らむのがわかる。
「こうして乾杯出来るのは初めてですね?」
「うん。円ちゃん、20歳になったんだもんね。改めて、おめでとう!」
「ありがとうございます。やっと一緒にお酒を呑めます」
「こうしてお祝い出来るのがすごく嬉しいんだよ。これからも重ねてゆく歳をずっとお祝いさせてね」
 念の為にと大人の姿へと変じたティアが、言祝ぎを口に優しく微笑む。その申し出に勿論ですとウインクして、円が颯爽と店員を呼び止めた。
「店員さん、注文良いですか?このお酒と――あとあと満月カステラも月下美人ゼリーも!」
「んにに!美味しそう!ぼくも同じものを!」
 スイーツの注文は抜かりなくきっちり二人分入れて、まずはすぐに運ばれてきたお酒を手に、円とティアが杯を掲げ合う。
「あなたと、このひと時に乾杯です――乾杯!」
「―――かんぱーいっ!」
 カチンと小気味良い音を耳に、共に酒杯をゆっくり乾かしていく。桜の甘酒は舌にほどける優しい甘さの後に、ふわりと馨る桜が品良く尾を引く味わいに。月明かりで発酵させたと言う桜酒は、ほんのりとした瀞みが舌触り良く、香り豊かな余韻がなんとも贅沢な逸品となっていた。
「桜の風味も、甘酒の味も良いですね」
「こっちのお酒も香りが良くて美味しいよう」
 喉を過ぎれば温かくて、ほろりほろ酔う心地は気持ちが良くて、ましてや目の前には愛しい人がいて。大好きなものをぎゅうと寄せ集めたような光景に、ふと――こんなにしあわせでいいのかな?とティアが胸の内で独り言ちる。もしかしたら、瞬きひとつであぶくのように消えてしまわないか、と淡い不安がよぎった瞬間に。
「さぁ来ましたよティア、こっちの甘味もいただきましょ! 」
 運ばれて来たカステラとゼリーを前に、円が桜色に染まった頬を綻ばせてティアへと語りかける。そのあいらしく微笑む姿が、幾度瞬きしても消えないことを噛み締めながら、ティアも嬉しげに笑ってスプーンを手に取る。
「…んにー!食べよう食べよう!」

 今はただ、愛しい人を独り占めにして。この時間が少しでも長く続いてほしいと願い――もう一度だけ、瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)と

いい月夜だね、もう少し歩こうか
買い物も楽しいが、湯気と甘い匂いが気になって

あまり沢山は食べられないが
少しずつ買って分ければ楽しめるかな
ふふ、有難う。喜んでご一緒させて貰うとも
差出されたカステラに目を丸くして
…悪戯っ子だね、お返しは如何、なんて

食べ歩きの供は、月下美人のハニーラテに
とても良い香りだね
ゼリーやジャムも見て行こうか

おや、面白い桜酒があるよ
味見したいが…多分飲まれるだろうな…
なら余計に人前ではやめておこう
買って帰ったら、一献お付合い願えるかい?

興味深いなと笑って
では一口だけ、あとは甘酒にしておくよ
君と飲むお酒が一番美味しいし
酔い心地で観る月も、趣きがあるものさ


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

銀糸のショールを羽織ったまま、お祭りの続きへ
ええ、どのお店へ行きましょうか

これはカステラの香りかしら
このお月様を半分こというのは?
半月を渡そうとして、ふと彼の口許へ
あーんと言うべきかしら、なんて悪戯
お返しは想定外で、照れてしまったのはこちらのほう
されると恥ずかしいものね

ワタシは温かいハニーミルクを
良い香りと甘みね
月下美人の蜂蜜はお土産の一つに

桜酒…梟示と飲んでみたい所だけれど、飲まれない?
酔ったあなたも好きなのに、とつい零して
勿論、帰ったら一緒に飲みましょうね

お酒には強いから、味見に一杯
甘くて、少し不思議な味ね
…本当にいらない?
ふふ、そうね
ワタシも梟示と飲むのが一番好きよ



月明かりを受けて、ひらりと銀糸のショールが輝きを帯びる。自らが見立てた彩りに目元を和ませながら、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)がゆるりと語り掛ける。
「いい月夜だね、もう少し歩こうか」
「ええ、どのお店へ行きましょうか」
 祭りの夜が続くのは嬉しくて、宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)が頷いて先行きを尋ねる。
「買い物も楽しいが、湯気と甘い匂いが気になって」
「そういえば。これはカステラの香りかしら」
 すん、と嗅ぎ取れば鼻に届くのはふんわりと甘やかな湯気の香り。ザラメを焦がす香ばしさも混ざった辺りにカステラと当たりをつけたら、予想通り視線の先に“満月カステラ”と書かれたのぼりが見えた。
「あまり沢山は食べられないが、少しずつ買って分ければ楽しめるかな」
「なら、このお月様を半分こというのは?」
 購入したは良いものの、梟示が自身の胃の容量に不安を溢せば、千隼が手にしたカステラをぱかりとふたつに割って微笑む。
「ふふ、有難う。喜んでご一緒させて貰うとも」
 その気遣いが嬉しくて、一礼の元カステラを受け取ろうと手を伸ばす。けれどもう少しで触れる、となった瞬間千隼がパッと手を引っ込めてしまう。意図が読めずに目を丸くすると、千隼がふふ、と楽しげに笑って再度カステラを差し出した。ただしその位置は梟示の手ではなく口元に、だ。
「あーん、と言うべきかしら」
 なんて、と悪戯めいて呟くから、思わずくすりと笑い返して、梟示がそのまま差し出されたカステラを齧る。あまくふわふわとける味わいを楽しみながら食べる様子に、千隼が満足して手を放そうとしたとき、まるで逃がさないと言わんばかりに細い手首を梟示の長い指が絡めとった。
「…悪戯っ子だね、お返しは如何」
 次いで千隼の手から、口をつけていないもう半分をするりと掠め取る。そして意趣返しとばかりに口元へ運んでやると、驚きと気恥ずかしさで頬が桜色に染まるのが見てとれた。
「…されると恥ずかしいものね」
 観念したように零される言葉に、だろう?と楽しげに細めた目で語る。すると観念したように千隼がちいさく口を開けて、残りの半月へぱくりと齧り付いた。

 カステラを食べ終えた後は、漫ろ歩きのお供に互いに飲み物をひとつ手に取る。梟示は月下美人のハニーラテを、千隼は温かいハニーミルクをチョイスして一口飲むと、ふわりと華やかな香りが口いっぱいに広がった。
「とても良い香りだね」
「良い香りと甘みね。月下美人の蜂蜜は、お土産にどうかしら」
「なら、一緒にゼリーやジャムも見て行こうか」
「ええ」
 増えていく楽しみに心弾ませながら、ひとつ、またひとつと店を跨いで、次に目に留まったのは酒蔵の出張店舗。
「おや、面白い桜酒があるよ」
 梟示の指差す先に並んでいたのは、月の封蝋が施された桜色の酒瓶。月明かりで発酵させたと謳う祭りの名物の一つだ。
「桜酒…梟示と飲んでみたい所だけれど、飲まれない?」
「味見したいが…多分飲まれるだろうな…」
 酒自体は好むところだが、酒精に弱い性質を自覚して梟示が残念そうに目を逸らす。
「…酔ったあなたも好きなのに」
 けれど、千隼にぽつりとそんな本気を零されては、嬉しさと照れを綯交ぜた苦笑を浮かべて梟示が桜酒の一本を手に取る。
「なら余計に人前ではやめておこう。かわりに買って帰ったら、一献お付合い願えるかい?」
「勿論、帰ったら一緒に飲みましょうね」
 酌み交わすのは帰ってからの楽しみに取っておいて、酒に強い千隼は味見に、と店員から渡された一杯を口に含む。
「甘くて、少し不思議な味ね」
 桜の香りを纏って、僅かなとろみを帯びた酒が舌を柔く撫でる。初めて味わう喩えどころの無い後味は、月明かりに晒された故なのだろうか。けれど爽やかな余韻は好む所ではあった。そんな感想を聞いて興味深いな、と梟示が溢すものだから、千隼が首を傾げて尋ねる。
「…本当にいらない?」
「では一口だけ、あとは甘酒にしておくよ」
 好奇に負けて、一口分の試飲を受け取りゆっくりと呷る。成る程、確かに不思議な味わいだと飲み干せば、やはりすぐに頬が熱くなるのがわかった。それを見て千隼が視線に心配をのせて見つめるが、大丈夫だとかぶりを振って梟示が笑みを咲かす。
「君と飲むお酒が一番美味しいし、酔い心地で観る月も、趣きがあるものさ 」
「ふふ、そうね。ワタシも梟示と飲むのが一番好きよ 」
 二人並んで宵の月を眺め、美しいねと語り合う声は、祭りの喧騒の中でいっとう楽しそうに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【天竺葵】

色んなお店を見て歩いたもんね
…ほらほら、なつめお待ちかねの食べ物屋さんがあるよ
ちょっと休憩していこうか

オレは月下美人のゼリーにしようかな
月下美人って名前も綺麗でお洒落な花だよね
まさに月の光に照らされた美人さんを想像しちゃうっていうかさ

なつめも美味しそうなのを選んだね
…へへ、いつもみたいになつめのも一口ちょうだい
ダメなんて言わないよね?

昼の桜とはまた違った趣があるよね
夜の桜はなんとなく色っぽく見えちゃうな
お月様も桜を見るために雲の間から顔を覗かせてるのかもね

蝶子さん…
彼女の向かう先に、きっと何かがあるんだ
彼女が何処へ辿り着くか、オレも見届けたいよ


唄夜舞・なつめ
【天竺葵】
はー、つっかれた!
ちょっと休憩しよーぜー。腹減った……
ン。なんかいい匂いすンなァ

……お!色んな食いもん
売ってンじゃねーの!
ときじ!なんか食おーぜ!
どれにする?
あのゲッカビジンがメインの
ブーケみたいなクレープとかも
美味そーだし
満月カステラってのもうまそー!
……だめだ、
選べねぇから両方食う!

んー!やっぱヒトの作る
食いモンはうめーな!
…お前から強請られちゃあ
断れねーなァ
ほら、食いな(クレープを口元へ)

……いやぁ、夜桜ってのも
また普段と違っていいモンだよなァ
月と合わさって綺麗だ
見てるだけで甘酒がすすむぜ

──アイツも
見ていきゃあいいのになァ。
目指す先しか見えてねーようだ
さて、そろそろ行くかァ。



「はー、つっかれた!」
 月は高く夜は更け、祭りはますますと賑やかになっていく中、喧騒にも負けない声で、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が疲労を訴えて、ぐいっと伸びをする。
「色んなお店を見て歩いたもんね」
 並び歩いた宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)も足にちょっとしただるさを感じて、同意しながら軽く足踏みをする。
「ちょっと休憩しよーぜー。腹減った……ン。なんかいい匂いすンなァ」
 ふと風向きが変わった瞬間、なつめの鼻を擽ったのはあたたかな湯気。甘さを孕んだそれは疲れた体には蠱惑的で、気付けばつられるようにそちらに足が向いている。
「…ほらほら、なつめお待ちかねの食べ物屋さんがあるよ。ちょっと休憩していこうか」
 そんな食べ物にどこまでも素直な様子がおかしくて、くすりと笑いながら十雉が背を押して促すと、おう!と駆けるような速さでなつめが屋台の並ぶ一角へと進んでいった。
「……お!色んな食いもん売ってンじゃねーの!ときじ!なんか食おーぜ!どれにする?」
 指さす先にはサンドイッチにクレープ、ゼリーやカップジュースと食べ歩き用の屋台フードが所狭しと並んでいて、中々に迷いそうな光景だった。暫くあちこち眺めながら、十雉が購入を決めたのは飾り物にしても映えそうな花入りのゼリーだ。
「オレは月下美人のゼリーにしようかな。なつめは?」
「うーんあのゲッカビジンがメインのブーケみたいなクレープとかも美味そーだし、満月カステラってのもうまそー!」
「ブーケかぁ。月下美人って名前も綺麗でお洒落な花だよね。まさに月の光に照らされた美人さんを想像しちゃうっていうかさ」
「しかもこんだけ色々な食いもんに入ってるんだから、きっと美味しいんだろ?いい花だなァ!」
「…もーまたそうやって食い気ばっかり。ま、今日は良いけどね」
 余りの食い気に、いつかの夜の尻尾掴みを思い出したけれど、今日は自分も空腹なのでそこは免除して苦笑する。
「……だめだ、選べねぇから両方食う!」
 暫し悩んだけれど結局どちらとも決めきれず、なつめが秘儀・全部買いを決めて屋台へと駆け出して行った。

「んー!やっぱヒトの作る食いモンはうめーな!」
「なつめも美味しそうなのを選んだね。」
 買い込んだ後は少し離れた所のベンチに陣取って、早速戦利品を味わい出す。満月カステラはふんわり柔らかな生地とザラメの甘さが程よくマッチしているし、月下美人のクレープはバターと花蜂蜜もたっぷり挟んであって濃厚な味わいを醸している。対する月下美人のゼリーもつるりと爽やかなのど越しに、後から華やかに広がる花の香りが楽しい逸品に仕上がっていた。暫く食べ進めると、冷えた口に温かいものが恋しくなって、ちらりとなつめに視線を送って十雉が悪戯っぽく笑う。
「…へへ、いつもみたいになつめのも一口ちょうだい。ダメなんて言わないよね?」
「…お前から強請られちゃあ断れねーなァ。ほら、食いな」
 仕方ないと言いながら満更ではなさそうになつめがクレープを差し出すと、十雉が嬉しそうに笑って一口齧りついた。
「……いやぁ、然し夜桜ってのもまた普段と違っていいモンだよなァ」
「昼の桜とはまた違った趣があるよね。夜の桜はなんとなく色っぽく見えちゃうな」
「月と合わさって綺麗だ。見てるだけで甘酒がすすむぜ」
「お月様も実は、桜を見るために雲の間から顔を覗かせてるのかもね」
 食べる傍ら、サァっと風が撫でる度降りしきる桜を前に、ふたりがしみじみと感想を零す。美しい景色は、誰の心にも触れ得るものだ。現に祭りの客もそれぞれに月を見上げ、桜に見惚れて、あちこちで足を止めている。――それなのに。ふと視界の端を掠めるのは、体を引きずりながらも真っ直ぐに、ひたすらに前を向いて進んでいく少女の姿。
「──アイツも、見ていきゃあいいのになァ。目指す先しか見えてねーようだ」
「彼女の向かう先に、きっと何かがあるんだよ」
 蝶子の瞳には今、月も桜も映ってはいないのだろう。彼女が欲しているのは、夢見るほどに憧れた歌姫との共演、ただそれだけなのだから。
「さて、そろそろ行くかァ。」
「うん。彼女が何処へ辿り着くか、オレも見届けたいよ」

――この先のステージで、叶わぬ夢を前に果たして蝶子が何を得るのか。
結末を見届けるべく、十雉となつめが今ひとたび追跡を再開した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『帝都のカフェーの優雅な日常』

POW   :    ミルクやカステラでばっちり栄養補給!

SPD   :    臨時のボーイやメイドとしてちゃっかり臨時収入!

WIZ   :    最新の雑誌や噂話からきっちり情報収集!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ーーカランカラン、と小気味良い音を立てて扉が開く。赤布張りのソファーに、飴色に磨き込まれたテーブル。黒と白の古式ゆかしい給仕服に身を包んだ店員が出迎える、レトロで格調高い純喫茶。そんな店の中へと踏み入り客たちが、そして蝶子が一番最初に見るのは、いつだって真ん中のステージだ。

 天井からハーフムーンの照明を吊り下げ、丸く切り取られたステージの上。会場から溢れる溜息を、羨望と敬愛の眼差しを一身に集めて、舞台に立つのは麗しい歌姫の姿。だがそこに在るのはかつての歌姫ではなく、バーチャルキャラクターのように電子の命を持つ一個体でもなく、映写機で投影されたただの映像だ。時折ブレては擦れる、脆く儚いテクスチャを切り貼りした、ある意味正しいカタチでの過去の偶像。果たしてそれを蝶子がどこまで正しく認識できているかは分からない。それでも歌姫の姿を見ると、今までの悲壮な表情は拭い去られて、幸せそうな笑みが浮かんだ。そしてステージに上がり、襤褸の体も顧みず歌い出す。


ー♬ ♪

あなたが捨てた 明日を拾うの
例え二度と戻らないとしても
夢の淵まで 連れ出してあげる

けど まだ傷跡が痛むの

ー♬ ♪


 歌姫と蝶子の声が重なる。鼻にかかったような甘い歌声に、幼く可憐な声が絡みつく。生あるうちに叶わなかった、幻のデュエットのステージ。カフェー・ハーフムーンで繰り広げられる、たった一夜だけの夢のステージ。その切なる姿に、普段なら影朧へ怯える客たちもそんなことはお首にも出さず、静かに席に着いたままだった。

 さぁ、今宵はまだまだ祭りの最中。夢叶う瞬間を目に、甘やかなひとときを過ごしましょう。

満月のドームチョコに、温めたミルクをかけて溶かす一皿はいかが?
――中から転がり出す、星型の焼きメレンゲと一緒に頬張るのがおすすめよ。

歌姫が好んだと言う、淡く月明かりを零すフレーバーティーはもう飲んだかしら。
――匙をくるりと回せば、湯気が夜摘みの茉莉花を模って香りますの。

葉巻の用意もございますよ。定番の物から外つ国より輸入したものまで。中でも西洋瓜に似た紫煙馨る夜香木蘭印の葉巻は、カフェーのオリジナルです。
――但しご年齢にはご注意下さいませ。

 他にも望むまま、お客様のご要望にお応えします。どうぞお気軽にお声掛けを。そして何より。

――まほろと消えるただ一度きりのステージを、どうか共に見届けましょう。


ー♬ ♪

あなたがくれた 意味を探すの
例えぬくもりをなくしていても
胸に抱えて 空へと孵すの

ほら もう傷跡に変わるわ

ー♬
真宮・響
【真宮家】で参加

舞台に投影されたただの幻影でも。歌姫との共演の夢を叶えた蝶子。同じ歌い手として夢を叶えられた蝶子にほっとするよ。・・・ああ、素敵なステージだ。

一夜だけの舞台。邪魔するつもりはないよ。ああ、声が良く調和している。デュエットとしては相性がいいんじゃないかね。

ドームチョコにミルクをかけて、メレンゲと一緒に。酒は置いてるかね。あるなら舞台を聴きながら飲みたい。

奏も瞬も音楽に縁があるから、こういう舞台も見てみるといい。いい経験」になるよ。

この夜の終わりに、蝶子は転生への道を辿るのだろうか。アタシも歌い手としても悔いのない人生を送りたいね。強くそう思うよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

たとえ作られた映像でも、歌姫には間違いないですからね。過去の歌っている歌姫を撮影して、舞台に写したものですかね?蝶子さん、共演が叶ってよかったですね。音楽を愛するものとして、ステージを見届けますかね。

素敵な歌声を聴きながら美味しいドームチョコ食べるなんて贅沢ですね。もちろんミルクをたっぷりかけて、メレンゲを添えて。フレーバーティーもいただきます。

色んな音楽の舞台を見てきましたが、これだけムード溢れる舞台は初めてです。色んな思いが込められてますし。・・・音楽の道を歩むものとして蝶子さんの転生への道を歩み出すのを見届けますね。


神城・瞬
【真宮家】で参加

映写機で投影された過去の映像に過ぎないとしても、映像が保存されて今もカフェで歌声を響かせてるのは間違いないですからね。蝶子さんの願い、叶ってよかったです。音楽の道を進む僕にとってこの共演はぜひ見たかったんです。

満月のドームチョコにミルクをかけて、メレンゲももちろん添えて。フレーバーティーの甘さに歌声が加われば最高の時間になりますね。

色んな音楽の舞台見てきました。この舞台を見れた事の幸運に感謝しますね。最後までこの舞台を見届けます。音楽を愛するものとして、悔いなく生ききれる人生は幸せだと改めて感じます。



 カランカランと小気味よい音を立てるベル、飴色に磨かれたドアの先。落ち着いたカフェーへと足を踏み入れ案内された席について、まず目が行くのは蝶子と歌姫のステージだった。傷ついた体を顧みることもなく、先ほどまでの悲壮さは表情から拭い去られ、ただ幸せそうに月明かりに照らされて唄う少女。たとえそれが舞台に投影されたただの幻影だとしても、願ってやまなかった歌姫との共演を、蝶子は叶えることができた。その姿に安堵を覚えて、真宮・響(赫灼の炎・f00434)が目を細めて優しく微笑む。
「同じ歌い手として、夢を叶えられた蝶子にほっとするよ。・・・ああ、素敵なステージだ。」
「たとえ作られた映像でも、歌姫には間違いないですからね。過去の歌っている歌姫を撮影して、舞台に写したものですかね?」
 真宮・奏(絢爛の星・f03210)もつながった道行きに嬉し気な笑みを向け、ついでとばかりに歌姫を映し出す機構にも興味を示して眺めていた。
「映写機で投影された過去の映像に過ぎないとしても、今もカフェで歌声を響かせてるのは間違いないですからね。」
 神城・瞬(清光の月・f06558)もまた今までの道中を重ね合わせ、辿り着くことができたこの瞬間を言祝ぐようにそっと一礼をし、ステージへと目を向ける。
「蝶子さんの願い、叶ってよかったです。音楽の道を進む僕にとってこの共演はぜひ見たかったんです。」
「音楽を愛するものとして、ステージを見届けますかね。」
「一夜だけの舞台だ。邪魔するつもりはないよ。ああ、声が良く調和している。デュエットとしては相性がいいんじゃないかね。」
 家族で和やかに会話をしつつも、耳は歌へと傾ける。歌姫の甘やかな声に、蝶子の可憐さが花を添える。伸びやかだが少し不安定な蝶子の音程を、揺らがず紡がれる歌姫の音色がそっと支える。声の合う合わないは努力以上に天性のものもあるが、その点は響の言う様に相性は良かったようだ。惜しむらくは生前に、と誰もが心に思っているだろうが、そのことは口にせずただ静かにデュエットを聞いて楽しむ。加えてせっかくだからと奏主導で注文を入れるのは、カフェー自慢の満月のチョコドームだ。三人分のチョコに加えて奏と瞬はフレーバーティーを、響は酒があるかと尋ねれば月下美人の蜂蜜酒を勧められてそれも注文に加える。程なく運ばれてきたほんのりと黄色く色づいた満月のチョコドームには、奏が真っ先に満面の笑みと共にミルクピッチャーを構える。とろりと溶けるレモン香るチョコと、甘みを抑えた濃厚なミルクに、さくりと軽い焼きメレンゲのハーモニーを味わうと、んー!と感嘆の声を上げて奏が笑みを咲かす。舌が甘く満たされたところでフレーバーティーを含むと、茉莉花の香りが爽やかに口をリセットされてまたチョコが美味しく食べられるし、響の蜂蜜酒も押さえた甘みに花と蜜が香り立つ様は、知らず夜風に冷えた体に温かかった。
「これだけムード溢れる舞台は初めてです。色んな思いが込められてますし」
「色んな音楽の舞台見てきましたが、この舞台を見れた事の幸運に感謝しますね。」
「奏も瞬も音楽に縁があるから、こういう舞台も見てみるといい。いい経験になるよ。」
 才能や技術を越えて、何よりも『想い』を乗せて歌う蝶子の姿は、きっとこれから音を紡ぐ上での為になる。そう教える母の言葉に、奏と瞬が噛みしめるように深く頷いた。やがてゆったりとリズムを落として終わりへと向かう歌を聞いて、三人が改めてステージへと視線を送る。どんなに素晴らしくとも、名残惜しくとも、蝶子の願ったデュエットは今宵限りのもの。果たしてそこに、もう何の悔いも残っていないのかと想像すると、心中は察するに余りあるけれど。
「音楽を愛するものとして、悔いなく生ききれる人生は幸せだと改めて感じます。」
「アタシも歌い手としても悔いのない人生を送りたいね。強くそう思うよ。」
「だからこそ、今を生きる私たちは・・・音楽の道を歩むものとして、蝶子さんの転生への道を歩み出すのを見届けましょう。」

この夜の終わりに、蝶子は転生への道を辿るのだろうか。――今はそれは、わからないまま。けれど幾多の人々が祈り、願い、見届ける先で。歌い終えてふわりと消えゆく蝶子の顔には、この上なく幸せそうな笑顔が輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
友人のイチカ君(f14515)と
歌姫が舞台に立ったカフェーだってね
過去に憧れるのも、未来を羨望するのも
今があってこそ…見届けるくらいのお仕事はしようか

でも、やっぱり美味しいものは食べたい訳で
ほぅほぅ…満月のドームチョコ…!
温めたミルクをかけて溶かす一皿だってー
珈琲かけて食べるアイスにも似ているような
チョコとミルクのハーモニーがおいし〜
中から転がる星型の焼きメレンゲを頬張ってたら
イチカくん動画撮るのも好きだねぇ
ものより思い出、別にキレイなものだけ
残さなくても良いとは思うんだけども

祭り最後のステージが終わったならば、拍手を贈って
空へと消えたのは満足できたのかなぁ
あの月のところにかえれたのなら良いね


椚・一叶
友のトリス(f27131)と
歌を聞きに行く、初めて
蝶子の表情見てたら、珍しく聞く気になった
どんな気持ちで歌っているか、儂には分からないが
不思議と胸の奥にまで響く歌、悪くない

食べるのもこのカフェーでの過ごし方ならば、遠慮なく
満月のドームチョコ、少し緊張しながら溶かす
自分で仕上げる料理面白い
焼きメレンゲと絡ませて食べれば、…美味い
これを溶かすところ、とても映えなのでは?
トリスも食べるなら、制止して端末用意
よし、動画撮る
綺麗に月を溶かしてみるといい
ものより思い出、どういうことか
もしかしたら歌が教えてくれるかもと改めて聞き入る

蝶子の歌も、歌姫の歌も、良かった
もう聞けないのか
でもきっと、忘れない気がする



 古く昔から営業を続ける、飴色の木材がレトロな純喫茶『ハーフムーン』。カランカランとなるベルを耳に適当な席へと着けば、中央のステージを見つめながら鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)がぽつりと零す。
「――歌姫が舞台に立ったカフェーだってね」
 周囲に首を巡らせると、壁にはかつての歌姫が纏った衣装や小物が額縁に入れて飾られていた。このカフェーを愛し、また店の者や客から愛された歌姫の舞台。亡くなってから長い年月を経ても未だステージに投影される姿を見て、エンデが興味深げに目を細める。
「歌を聞きに行く、初めて」
 椚・一叶(未熟者・f14515)も初めての体験とあって、瞳には星を零したようにきらきらと好奇が灯る。歌詞の意味や歌い手の上手さ、込められた想いに対しての“理解”はない。それでもずっと聞いていたいと思える不思議な感覚に、にやりと口の端を上げる。
「どんな気持ちで歌っているか、儂には分からないが。不思議と胸の奥にまで響く歌、悪くない」
「過去に憧れるのも、未来を羨望するのも、今があってこそ…見届けるくらいのお仕事はしようか」
 響く美しい歌に耳を傾ける。それだけで何かが救われるというのなら、甘んじて引き受けよう、と。ふたりが暫しステージへ、星と月を思わす瞳を向けた。

――それはそれとして、やっぱり美味しいものは食べたい訳で。
「ほぅほぅ…満月のドームチョコ…!温めたミルクをかけて溶かす一皿だってー」
「食べるのもこのカフェーでの過ごし方ならば、遠慮なく」
 互いにメニューを眺めて気になったのは、満月のドームチョコ。見た目もさることながら、一手間加える趣向に俄然興味を惹かれ、近くを通った店員に二人分の注文を入れる。程なく運ばれてきた淡い黄色のチョコで象られたそれは両手で一抱えほどある大きさで、テーブルに二皿並ぶと中々のインパクトだった。ごくりと唾をのんで、先にミルクピッチャーへ手を伸ばしたのは一叶。取っ手からもじんわり伝わる熱を傾けて、まぁるい月へとゆっくり垂らす。生クリームに近い粘度を持ったミルクがふれた途端、とろりと蕩けて薄いチョコの被膜が割れていく様は目にも美味しいひと時だ。
「自分で仕上げる料理面白い」
 期待通りの楽しさに、中からまろび出た星型のメレンゲを拾い上げてぱくりと口に放り込むと、こちらも思ってた以上に美味しくて。
「…美味い。あとこれを溶かすところ、とても映えなのでは?」
 はっ、と気づきを得た瞬間、一叶が目をやるのはエンデの皿。一叶の所作をつぶさに面白がって…もとい堪能していたために、エンデの更には未だまるままの月が乗っている。それをチャンスとピッチャーを手にしようと動くエンデに待て!と手のひらを向け、いそいそと撮影用に端末を構える。
「よし、動画撮る。綺麗に月を溶かしてみるといい」
「イチカくん動画撮るのも好きだねぇ」
 ジー…と向けられるレンズに笑いながら、改めてピッチャーを手にミルクを零す。手の角度や落とす速度を緩めたあたりは、撮影に対する配慮だろう。やがて一叶と同じようにとけて割れた月をメレンゲに絡めて口に入れれば、ほぅ、と細めた口から逃がされた熱と共に感想も零れてくる。
「チョコとミルクのハーモニーがおいし〜」
 ほんのりとレモンの香るホワイトチョコに、あえて甘味は加えられていない温かなミルク。そこにサクサクとした歯触りの焼きメレンゲが加われば味の方も上々で、口元が自然と緩む。そこまで撮って満足したのか、引っ込めた端末を眺めて一叶がうんうんと頷く様子に、エンデが少し不思議そうに尋ねた。
「しかしものより思い出、別にキレイなものだけ残さなくても良いとは思うんだけども」
「ものより思い出、どういうことか」
 エンデの言葉の意味がいまいち飲み込めず、一叶がことりと首をかしげる。しかしじ、と視線で答えを求めてみても、エンデはにやりと笑ってメレンゲを齧るばかり。なら、もしかしたら今の疑問に歌が答えをくれるかも、と新たな期待を込めて蝶子と歌姫のデュエットに一叶が改めて聞き入った。

――ゆるやかに、軽やかに。愛の美しさを歌い、恋の残酷さを唄い。やがて一層ゆったりとリズムを落として曲が終わると周囲からは溢れんばかりの喝采が贈られ、一叶とエンデも倣うように手を打った。するとゆっくりと蝶子の姿が薄れていき、やがて蝋燭を吹き消したかのように見えなくなる。
「蝶子の歌も、歌姫の歌も、良かった。でももう聞けないのか」
「空へ消えていったからねぇ。満足できたのかなぁ…あの月のところにかえれたのなら良いね」
「わからない。でもきっと、忘れない気がする」

 辿り着く先は愛しい歌姫の元か、骸の海か。それともいつか――桜の元に、新たな生を見るのか。今は分からない行方を思って、まだ耳に残る歌へと静かに目を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天羽・陽規
縫(f10334)と
ふぅん、あの影朧っていうのは歌ったら満足なの?
なんか僕の世界のオブリビオンと違うんだね
全然攻撃して来ないしさっ
転生?へ~、ならこの世界が綺麗なもので溢れてるのも納得だね
いつか僕の世界にも桜が咲いたら綺麗だろうなぁ

このチョコドーム面白いねっ
こういうギミックのある食べ物は僕好みだよ♪
フレーバーティーを飲みながら食べたら甘さもちょうどいいね

うーん、そうだね
なんか色々不便な世界だなって思ったけど…
綺麗な世界で気に入ったよっ
他の世界もこんな感じなの?
それとも僕の世界に似たようなところもあるのかな

もちろん、全部案内するまで縫は僕に付き合ってよね♪


真幌・縫
陽規くん(f36591)と
…蝶子さんの夢が叶ったみたいだね。
こうやって影朧さん達は転生していくんだよ。
骸の海還るんじゃなくて…新しい生命に…不思議だよね。
陽規くんのいるザナドゥは骸の雨が降るんだったね…確かに気になるよね。

あ、ミルク冷めちゃう前にチョコドームたべないと…!
(ミルクに溶けるチョコと中から現れるメレンゲに表情を緩めながら)
いただきます!
美味しい♪

陽規くんサクミラはどうだった?楽しんでくれた?
楽しんでくれたなら嬉しいな。
そっかぁよかったぁ。

またどこかお出かけしようね♪
うん♪案内するよ!陽規くん次はどこにいきたい?



「…蝶子さんの夢が叶ったみたいだね。」
 緩やかに軽やかに、ステージで歌姫と並んで歌う蝶子。その顔に先程までの痛々しい悲壮さは無く、幸せそうな笑みが浮かぶ。ようやくたどり着いた蝶子の望み通りの姿に、真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)が見守るような温かい表情を浮かべると、天羽・陽規(悪戯に笑う烏・f36591)が不思議そうに首を傾げて同じようにステージを見る。
「ふぅん、あの影朧っていうのは歌ったら満足なの?なんか僕の世界のオブリビオンと違うんだね。全然攻撃して来ないしさっ」
「陽規くんのいるザナドゥは骸の雨が降るんだったね…確かに気になるよね。」
 世界が変わればオブリビオンの有り様もガラリと変わる。自らの世界との余りの差に興味が尽きない様子の陽規に、縫が優しく微笑んで説明を口にする。
「サクミラでは、こうやって影朧さん達は転生していくんだよ。骸の海還るんじゃなくて…新しい生命に…不思議だよね。」
「転生?へ~、ならこの世界が綺麗なもので溢れてるのも納得だね」
 悔いや未練を昇華して、命は巡りまた出会う。そうして輪廻を繰り返す神秘の世界なら、枯れない桜の美しさもなんだか理解できる気がした。
「いつか僕の世界にも桜が咲いたら綺麗だろうなぁ」
「そうなったら、また遊びに行くのも素敵だね♪」
 今は雨の降り頻るサイバーザナドゥでも、いつか歪んだ過去を拭い去ることが出来たなら。このサクラミラージュのように、花と軌跡に溢れた世界になれば良い。そんな希望を胸に笑い合って改めてテーブルを見ると、そこには少し前に届いていた満月のチョコドームが鎮座していた。
「そういやこのチョコドーム面白いねっ。こういうギミックのある食べ物は僕好みだよ♪」
「あ、そうだ。ミルク冷めちゃう前にチョコドームたべないと…!」
 温かいミルクを注いで食べるデザートなのに、冷めてしまっては楽しさが半減だ。慌てて縫がピッチャーに手をやると幸いまだしっかりと温かく、ホッと息をつく。そのままゆっくりとチョコドームにミルクを注ぐと、ほんのり黄色みを帯びたホワイトチョコがとろけて崩れて、内側から星型のメレンゲが転がり出た。細やかな仕掛けにお互い目を合わせて笑い合い、次はメレンゲの味の確認。頂きますの合図で崩れたチョコとミルクを掬って口に運ぶと、いっそう顔が綻ぶのがわかった。
「んー!美味しい♪」
「フレーバーティーを飲みながら食べたら、甘さもちょうどいいね」
 レモンの香るホワイトチョコに、生クリームに近い濃厚さのミルク、サクサクの歯触りのメレンゲが合わさると、しっかりと甘いのにいくらでも食べれそうな気がしてしまう。そこに華やかな茉莉花の香りを備えた紅茶の程よい爽やかな苦味が合わされば、それこそもう一皿頼みたくなるほどだ。
「陽規くん、サクミラはどうだった?楽しんでくれた?」
「うーん、そうだね。なんか色々不便な世界だなって思ったけど…綺麗な世界で気に入ったよっ」
 茶飲みがてらの縫の質問に、陽規がニッと笑って答える。ザナドゥに比べれば確かにこの世界は昔ながらの技術に溢れ、それは時折不便そうにも映るだろう。けれど、だからこそ慈しみ大事に触れる姿は、新鮮で美しいものに見えた。
「ま、色々遊べて楽しかったよ♪」
「そっかぁ、よかったぁ。」
「ねぇ、他の世界もこんな感じなの?それとも僕の世界に似たようなところもあるのかな」
「うーん、分からないなぁ」
 猟兵としては先輩の縫とて、それでも世界の全てを見たわけではない。きっとまだまだ知らない事象も、隠された冒険も、たくさん眠っていることだろう。なら、それを一緒に探しに行くというのは、思いのほか楽しいことかもしれない。
「じゃあそれを確かめるためにも、またどこかお出かけしようね♪」
「それいいね!もちろん、全部案内するまで縫は僕に付き合ってよね♪ 」
「うん♪案内するよ!陽規くん次はどこにいきたい? 」
 猟兵にとって世界は広く幾多にも渡り、また日々増えることすらある。それを全て網羅しようとなれば、きっと長い長い付き合いになるだろう。そんな予感は知ってか知らずか、今はただ無邪気に冒険の兆しを喜んで。陽規と縫が暫し楽しげに卓上旅行を繰り広げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
お勧めのお茶をいただきながらステージを見つめましょう。
茉莉花の香りと歌声と、ステージを楽しみたいのになぜだか思考の内に沈んでしまいそう。

過去があるから今の私がある。それは過去の私を知る誰かが幸せを願ってくれたから。
叶わなかった願いは確かにある。
命尽きる前に答えが欲しかった。肯定でなくてもいい、拒絶でも良かった。ただそれすら叶わなかった。
今はだいぶ小さくなって気にはならなくなったそのしこりは、確かに今私がこうして存在してる理由。

……ですが蝶子さんは、いつか輪廻の果てに成就する可能性もあるのではないでしょうか。すべての人が影朧が転生するとは限りません。それでもいつか叶うのではないかと思うのです。



 緩やかに、優しげに。カフェーのステージの上で、心地よいリズムを伴ってデュエットが繰り広げられる。傷ついた体も顧みず、先ほどまでの悲壮な表情は拭い去られ、ただただ幸せそうに歌姫に唄い添う舞台上の蝶子。そんな蝶子と歌姫の姿を見守りながら、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)がティーカップを手に取る。昇る湯気が茉莉花の形を取っては解け、その度にふわりと華やかな香りを広げていく。ゆっくり口に含めばいっそう香り高く、爽やかな苦味も舌に心地よい。温かなお茶に、一夜限りの美しいステージに、甘やかな歌声。耳にすれば誰しもが夢見心地になるだろう空間のはずなのに、藍の表情にはどこか拭えない憂いが浮かんでいた。蝶子が辿り着けた事を良かったと思う気持ちはある。素晴らしいカフェーでひと時を楽しみたいという気持ちもある。なのに、どうしてだろうか。気がつけば歌に合わせて、思考がゆっくりと奥深くに沈んでいってしまうのが分かった。

――過去があるから今の私がある。
それは過去の私を知る誰かが、幸せを願ってくれたからだ。
かつては蝶子と同じく影朧だった身に、その実感は重い。

――叶わなかった願いは確かにある。
本当は命尽きる前に、答えが欲しかった。
肯定でなくてもいい、いっそ拒絶でも良かった。
手に掴める確かな答えであるなら、なんだって。
ただそれすら――結局、叶うことはなかった。
今はだいぶ小さくなって、気にはならなくなったしこり。
でもその小さく確かなしこりこそが、今私がこうして存在してる理由でもある。

「……ですが蝶子さんは、いつか輪廻の果てに成就する可能性もあるのではないでしょうか。」
 命は巡り、生と死を繰り返す。こと影朧が生まれては還るサクラミラージュにおいて、輪廻転生はより身近なものだ。こうして舞台を見守る人々の祈りを糧に蝶子が果てたのなら、その巡りの先に答えを得る日はあるのかも知れない。全ての影朧が必ず還れるとは限らないと知っていても、それでも。
「いつか、叶うのではないかと思うのです。 」
 期待を込めて、希望を願い、舞台の上の蝶子と歌姫を眺めもう一度紅茶を口に運ぶ。幾分温くなったはずの一口は、それでも先程よりもいっとう――暖かい気が、した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ミリア(f32606)と

ここが終点ハーフムーンね。さすが、いい雰囲気。客筋もいいんでしょうね。
ミリア、この席、ステージがよく見えるよ。ここにしよ。
あら、影朧さんが舞台に上がっても、みんな落ち着いたものねぇ。
それだけあの歌姫さんの歌声がすごいということかしら。
うん、いつまでも聞いていたい歌声。このお店だから、一層そう感じるのかもねぇ。

あたしは茉莉花茶をお願い。お茶請けは、そうねぇ、しっとり焼いたフルムーンケーキでお願いしようかしら。
ミリアは何にする?
蝶子さん、段々姿が薄れてきてる。もうすぐ転生するのかな。

――終わったわね。ならここで口にすべき言葉はただ一つ。
「「ハーフムーンで会いましょう!」」


ミリアリア・アーデルハイム
f01658:ゆかりさんと

これがハーフムーンのステージなのですね。歌姫は何故此処を自分の歌う場と定めたのでしょう。多くの聴衆に愛されながらも、ご自身が満ちぬような想いを何方かに抱いていらっしゃったのでしょうか?
ステージに上がる蝶子さんを観れば、ケージを捧げ祈りを紡ぎます。

生命成す炉の炎 喪われし歌姫の面影を映せ

歌姫、蝶子さん、歌姫を愛した人々の思いが
拙き映像に生命の幻を灯しますよう

私は月卵プリン・ア・ラ・モードですけど、ゆかりさんのケーキもハーフムーンにしちゃいますっ。えいっ(スプーン刺し)

歌姫?私は存じ上げませんが、皆が彼女を愛した事だけはよく分かりました!また、ハーフムーンで!(拍手)



「――これがハーフムーンのステージなのですね。」
 カランカランと小気味よくなるベルに迎えられ、飴色のドアをくぐった先。ステージを中心に広く空間を取られたカフェーの配置を眺めて、ミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)がほう、と目を見張る。
「さすが、いい雰囲気。客筋もいいんでしょうね。」
 静かに舞台上のデュエットを楽しむ客たちを見て、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)も感心したような感想を零す。
「あら、影朧さんが舞台に上がっても、みんな落ち着いたものねぇ。それだけあの歌姫さんの歌声がすごいということかしら。…あ、ミリア、この席ステージがよく見えるよ。ここにしよ。」
「はい!」
 ゆかりが勧める席について、ミリアリアも改めてステージの上に視線を送る。先程までの悲壮さは拭い去られ、ただ幸せそうに歌う蝶子。そしてカタカタと音を立てて映写機が映す、歌姫のかつての姿。紡がれるデュエットを耳にしながら、ミリアリアの脳裏にはとりとめのない疑問が浮かぶ。
「それにしても歌姫は何故、此処を自分の歌う場と定めたのでしょう。多くの聴衆に愛されながらも、ご自身が満ちぬような想いを何方かに抱いていらっしゃったのでしょうか?」
 楽し気に嬉し気に、そして誇りすら感じさせる表情で歌を紡ぐ歌姫。果たしてこのカフェーのどこに、彼女をこれほどまで執着させるものがあったのか。建物としての美しい佇まいか、振る舞われる料理か、それとも――かつていたかもしれない“誰か”なのか。今となっては尋ねることも出来ない問いかけだが、ミリアリアにはひとつだけ、答えを垣間見れるかもしれない技があった。
「“生命成す炉の炎 喪われし歌姫の面影を映せ”――歌姫、蝶子さん、歌姫を愛した人々の思いが、拙き映像に生命の幻を灯しますよう」
 手にしたケージを傾けて厳かに呟くと、周囲にポウ、と火が灯る。触れても熱くない灯りはまるで蛍の様にカフェーの中へ散らばっていき、蝶子に、歌姫に、店のあちこちに灯る。すると、今まで直立不動だった歌姫の姿が、突然くるりと鮮やかなターンを見せた。投影される狭い範囲を抜け出て、ステージの上を自由に、軽やかに、踊るように動き回る。ともすれば舞台を降りてテーブル近くまで下りていく姿が見えて、客たちが熱のこもった歓声を上げる。きっとこれがかつての、本来の歌姫の姿なのだろう。執着の切っ掛けはつかめずとも、店のあちこちに刻まれた記憶は、歌姫が何よりもこの店を――歌い続け、重ねてきた時間を愛していたのだと理解するのには、十分だった。
「うん、いつまでも聞いていたい歌声。このお店だから、一層そう感じるのかもねぇ。」
 歌を愛し、店を愛し、客を愛した歌姫だからこそ、恋歌がこんなにも甘く響くのかもしれない。そんな理解を得てゆかりが満足そうに笑った後、ふと横を通り過ぎる店員を捕まえる。――勿論ここは、歌姫が愛した店の味も堪能しなくては。
「あたしは茉莉花茶をお願い。お茶請けは、そうねぇ、しっとり焼いたフルムーンケーキでお願いしようかしら。ミリアは何にする?」
「私は月卵プリン・ア・ラ・モードで!」
 元気よく注文を入れると、程なくして品が運ばれてくる。茉莉花の香り豊かなお茶に、パンケーキとシフォンのあいの子のふわふわ柔らかなフルムーンケーキ。そしてプルンと球状になったプリンにフルーツと生クリームをふんだんに盛り付けたア・ラ・モードは、目にも美味しくテーブルの上を飾り付けた。
「んー、良い香り。ケーキも美味しいし…」
「ならここは、ゆかりさんのケーキもハーフムーンにしちゃいますっ。えいっ」
「あっ」
 ――なんて奪い合いも発生させるほどに、味の方も美味しくて。暫し甘味を満喫していると、ステージの蝶子の姿が揺らいでいることにゆかりが気が付いた。
「蝶子さん、段々姿が薄れてきてる。もうすぐ転生するのかな。」
 歌姫と共にステージを、という希望が満たされて、悔いはなくなったのだろう。ゆっくりと姿を薄れさせながらも歌は力強く続き、やがてリズムを落として終わりを迎える。沸き上がる喝采に、ゆかりとミリアリアも拍手を添えて立ち上がる。
「――終わったわね。ならここで口にすべき言葉はただ一つ。」
「歌姫を私は存じ上げませんが、皆が彼女を愛した事だけはよく分かりました!ならば最後は」

「「ハーフムーンで会いましょう!」」

――いつかまた、命が巡って出会えることを願って。祈りを込めて叫べば、消えゆく瞬間の蝶子が、いっとう嬉しそうに微笑んだように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【揺藍】

最後の歌姫のステージ
とっても綺麗だね
んふふ、堪能しながら美味しいものを食べちゃおう

ぼくもドームチョコとフレーバーティーを頂くよん
ふふふーぼくもへっちゃら!
お腹いっぱいで倒れちゃうくらい食べよう!

素敵な歌声だね
心に沁み入るよう

そうなの?ぼくは一応歌えるよ
これでも歌で戦うからねっ
じゃあ、今度ぼくの歌を聴いてくれる?
円ちゃんへのラブソングを自作しておくんだよ
敵を倒すようなものじゃなくて
甘やかで、優しい、子守唄みたいなものを

円ちゃんの歌も、今度聴かせて?
舞台じゃなく、ふたりっきりでさ
小さな部屋で、密かごとみたいに

楽しい未来の予定に心が躍る
愛しい君が居てくれる日常に
もう一度、かんぱーい!


百鳥・円
【揺籃】

一日の時間が伸びたならいいのに、なんて
今、この時限りは思ってしまいます

素敵な舞台!
お客さんの視線をたっぷり浴びられそう
どんな演目があるんでしょうねえ

ドームチョコと、フレーバーティーをいただきましょ
一日中食べてますけれどへっちゃらですん
んふふ、お揃いですね?

耳を澄まさずとも聴こえてくる
どうやら始まったみたいですね
透明な歌声が心に染みるようです

ティアは歌えますか?
わたしはポップで活発なナンバーなら
舞台で披露するような歌は全然です

良かったら、わたしに聴かせて貰えます?
他でもないティアの歌を聴いてみたい
もちろん!その時はしっかりと、ね

未来の約束は尊いものです
今日も、これからも
素敵な時間に乾杯!



――一日の時間が伸びたならいいのに、なんて。

 歌姫と蝶子の歌い合うステージを前に、ふと零れるのはそんな感慨。月明かりの祭りを遊び歩いて、今日という日を共に過ごして楽しかった分だけ、夜が明けるのが惜しくなる。今、この時限りはそんな想いを抱いて、百鳥・円(華回帰・f10932)の色違いの双眸にほんの少し憂いが混ざる。
「最後の歌姫のステージ、とっても綺麗だね」
 けれどそれも、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の屈託のない笑みを見ればあっという間に吹き飛んでしまう。時を伸ばすのが叶わないのなら、今一緒にいる時間を一瞬とも逃さず楽しまなくては、と切り替えて改めてステージを見る。
「素敵な舞台!お客さんの視線をたっぷり浴びられそう」
 どんな演目があるんでしょうねえ、と期待を込めて楽し気に笑う円に、メニューを傾けながらティアが誘う様に甘い声をかける。
「んふふ、堪能しながら美味しいものを食べちゃおう」
 素敵な歌声も、舌のとろける美味も、ぜんぶ大好きなきみにあげる。大人びた姿になっても変わらないティアの愛情に、円がいっそう愛しそうに目を細めてメニューを受け取る。
「それじゃあドームチョコと、フレーバーティーをいただきましょ」
「ぼくもドームチョコとフレーバーティーを頂くよん」
「一日中食べてますけれどへっちゃらですん」
「ふふふーぼくもへっちゃら!」
「んふふ、お揃いですね?」
「うん、お腹いっぱいで倒れちゃうくらい食べよう!」
 甘いものは別腹に、まして愛しい子と食べるのならいくらだって入りそうだと笑い合い、注文を入れればすぐさま店員が品を運んでくる。目の前に置かれた満月は淡い黄色味を帯びたホワイトチョコ製で、互いにせーの、で温かなピッチャーから生クリームに近い粘度のミルクを零すと、たちまちとろりと蕩けて落ちていく。変化を目で味わった後に残るのは、中から溢れた星型の焼きメレンゲたち。レモンの風味忍ばすチョコに、敢えて甘さを抑えたミルクを共に掬って食べれば、ティアと円の口から美味しいね、と同じ感想が零れた。そうやってふたりが甘味に舌鼓を打つ中でも、中央のステージでは緩やかに軽やかに、歌姫と蝶子のデュエットが紡がれていく。
「素敵な歌声だね。心に沁み入るよう」
「本当に、透明な歌声が心に染みるようです」
 耳を澄まさずとも聞こえるのに、決してそれが歓談の邪魔にはならない。けれど気が付けば会話を止めて聞き入ってしまう、不思議な魅力にあふれた歌声。暫し聞き入っていると、脳裏にふと浮かんだ疑問を円が口にする。
「ティアは歌えますか?」
「ぼくは一応歌えるよ。これでも歌で戦うからねっ。円ちゃんは?」
「わたしはポップで活発なナンバーなら。舞台で披露するような歌は全然です」
「そうなの?じゃあ、今度円ちゃんへのラブソングを自作しておくんだよ。きっと敵を倒すようなものじゃなくて甘やかで、優しい、子守唄みたいなものになりそう」
「素敵です。良かったら、わたしに聴かせて貰えます?」
「ぼくの歌を聴いてくれるの?」
「ええ、他でもないティアの歌を聴いてみたい」
 数多に愛された歌姫の歌は美しく、悲願叶えた蝶子の声も切ないほどに愛らしい。けれど円がいちばんに望むのは、ティアの歌声だ。いつだって甘やかに愛を告げてくれる声で、自らの為に編まれた歌詞を乗せて歌ってくれたなら、どれ程幸せな気分になれるか。期待を込めてどうです?と首をかしげて訊ねてみると、返されるのはふにゃりと蕩けそうにほどけたティアの笑み。
「うれしい!あとね、円ちゃんの歌も今度聴かせて?舞台じゃなく、ふたりっきりでさ。――小さな部屋で、密かごとみたいに」
「もちろん!その時はしっかりと、ね」
 耳に寄せて密やかに約束を交わせば、心臓の音がコトコトと速くなる。さっきまでは過ぎ行く時間があんなにも憎らしかったのに、こんな素敵な秘密を共有してしまったら現金なもので、直ぐにでもその日が来ないかな、なんて思ってしまう。嗚呼、きっとその約束の日が来るまでずっと、思い返すたびに鼓動が急いて逸るんだろう。それはなんて、甘やかな痛みなんだろうか。
「未来の約束は尊いものです。今日も、これからも――素敵な時間に乾杯!」
「愛しい君が居てくれる日常にもう一度、かんぱーい!」
 
――何より愛しいあなたへと、ラブソングを捧ぐ日を夢に見て。
掲げたティーカップをカチリと合わせれば、茉莉花の香りがふわりと溢れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【天竺葵】

えっ…と思わず涙目でなつめを見て
だ、駄目だよなつめ…!
確かに魅力的な人だし素晴らしい歌だけど…うぅ
鼻水をずびーっと啜る
…冗談でよかった

紙タバコは偶に吸うよ
シーシャも試したことあるし
でもなつめが苦手なら控えようかなぁ
服に匂いついてるかもしれないし

うん、オレも食べてみたい
ミルクをかけたらどうなるんだろうね
ドキドキするな…
え、オレがかけていいの?
じゃあいくよ、よく見ててね

凄い凄い、チョコが溶けてくよ!
月の満ち欠けみたいで面白いね
じゃあ半分ずつ食べよっか

──いただきます!

彼女たちの一度きりのステージは
きっとオレたちの心にずっと残り続けるよね


唄夜舞・なつめ
【天竺葵】
…あっ、やべ。
すげー聴き惚れちまってた
いやぁ、噂には聞いてたけどよ
やっぱすンげー上手いんだなァ
こりゃあ……

──恋しちまったかも。

…なァんてな!
げ!そんな顔すんなよ!
冗談に決まってんだろ!?
いつもみてーにハイハイって
聞き流すと思ってたから…悪かったよ
(慌てて抱きしめながら背中をさする)

蝶子はもう大丈夫そうだし
俺らも楽しもうぜ
俺『どーむちょこ』食ってみたい!

へぇ、葉巻なんてのもあんのか
ときじは一応吸えンだっけ?
俺ァ無理だ。
あんな煙てェの、むせちまう

…さっきの詫びに
どーむちょこの醍醐味とやらを
お前にやらせてやるよ
上手にかけろよ?(言ってミルクを渡し)

ン!完璧だな!そんじゃ

──いただきます!



緩やかに、軽やかに。甘やかに切なげに。蝶子と歌姫の一夜限りのデュエットが、カフェーをゆっくりと満たしていく。席に通されて暫し、注文を入れるのも忘れて聞き入っていた唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)が、ふと意識を引き戻してつぶやく。
「…あっ、やべ。すげー聴き惚れちまってた」
 蝶子の歌も愛らしいが、やはり長らく祭りまで起こさせる程に愛された歌姫の声は、争い難い魅力に満ち溢れていた。それこそうっかり聴き惚れるほどに。
「いやぁ、噂には聞いてたけどよ、やっぱすンげー上手いんだなァ。こりゃあ……」
 その感動を示すのに、とっておきの表現がある。街の誰もが口にしたことのある言葉を、伏せ目がちにたっぷりと間を溜めてから、なつめが唇に乗せる。
「──恋しちまったかも。」

「えっ…」

 それに返されたのは、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)のかき消えそうに細い、切なげなたった一言。罵声でも呆れでもない、予想外の声に早々に「…なァんてな!」と、なつめが冗談だと種を明かして十雉の顔を見る。が、そこにあったのはまん丸に見開いた瞳から、今にも溢れそうなほど涙を湛えた悲しみの表情。もはやぴえん通り越してぱおん状態である。
「だ、駄目だよなつめ…!確かに魅力的な人だし素晴らしい歌だけど…うぅ」
「げ!そんな顔すんなよ!冗談に決まってんだろ!?」
 言い募る姿に、流石のなつめも慌てふためき弁解を口にする。それでも不安そうな様子が拭えないのをみて、思わず手を伸ばして十雉をぎゅっと抱きしめた。
「いつもみてーにハイハイって聞き流すと思ってたから…悪かったよ」
 横並びの席の隣、すっぽりと腕の中に収まって耳元でばつの悪そうな声を聞くとようやく気分も収まって、ずびーっと鼻水啜りながら十雉がホッと息を吐く。
「…冗談でよかった」
 思わぬ疑惑に泣かされかけたけれど、こうして抱き締められて居るのは何とも心地が良い。なので──なつめのバツの悪さに甘えて、十雉が暫し堪能するように肩へ顔を埋めた。

「蝶子はもう大丈夫そうだし、俺らも楽しもうぜ。俺『どーむちょこ』食ってみたい!」
「うん、オレも食べてみたい。ミルクをかけたらどうなるんだろうね」
 落ち着いた頃を見計らって、仲直りとばかりにふたりで覗き込むのはカフェーのメニューだ。甘味の中でも一際目を引くドームチョコはしっかり押さえて、他はどうしようかとあちこち見ていると、隅に設けられた葉巻の銘柄一覧に目が止まる
「へぇ、葉巻なんてのもあんのか。ときじは一応吸えンだっけ?」
「紙タバコは偶に吸うよ。シーシャも試したことあるし」
「ほー。俺ァ無理だ。あんな煙てェの、むせちまう」
「なつめが苦手なら控えようかなぁ。服に匂いついてるかもしれないし」
 偶に吸うくらいの嗜好品で、なつめに嫌な思いをさせるのは本意ではない。帰ったら残りがあったか確認しようと心に決めつつ、ひとまず葉巻はパスでドームチョコだけ注文を入れる。するとさすが人気の品だけあってか、すぐさまテーブルまで運ばれてきた。ほんのり黄色く色づいたホワイトチョコの満月は思いの外大きくて、ひとつテーブルに乗るだけでも中々のインパクト。さてそれをどちらが破るか、となったあたりでなつめがミルクピッチャーをスッと十雉の前に差し出した。
「…さっきの詫びに、どーむちょこの醍醐味とやらをお前にやらせてやるよ」
「え、オレがかけていいの?」
「あァ。その代わり上手にかけろよ?」
「ありがと!じゃあいくよ、よく見ててね」
 十雉が嬉しげにピッチャーを受け取ると、見え易いよう気をつけながらゆっくりと満月にミルクをかける。途端表面がとろりと蕩けて、内側から星形のメレンゲが飛び出してくる。
「凄い凄い、チョコが溶けてくよ!月の満ち欠けみたいで面白いね」
「ン!完璧だな!」
「じゃあ半分ずつ食べよっか」
「それじゃ──」

──いただきます!

 重なる声はふたりぶん。蕩けたチョコとミルクを掬ってメレンゲを頬張る一時の、なんて幸せなことだろう。──彼女たちの一度きりのステージも、まるでこのチョコみたく淡く儚く終わってしまうかもしれないけど。

きっと心には、ずっと残り続けるんだ。
今日という日の幸福と、一緒に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷長・霰
おお、雰囲気のあるカフェーじゃのう。蝶子を探す前は大きな声を出してしまったが、こういった厳か?シック?な場所では大人しく過ごすというのが礼儀であろう。
迷子の子供だと思われないように、上流階級のお嬢様のように振舞って見せよう!あ、声が大きくなってしまった。失敗失敗…

え、あ、注文?わらわは甘いものが好きなので…ええい、おまかせじゃ!
この、月明かりを零すフレーバーティーも頼むぞ

茶と甘味を楽しみながら蝶子が歌っている光景をそっと観察し、彼女が未練なく旅立てるように一人の客としてそっと見守る。
わらわのことを覚えているかどうかは些事、今日のことは忘れないでおくのじゃ~
…ぐすん(感動してちょっと泣く)



「おお、雰囲気のあるカフェーじゃのう。」
 カランカランとベルを鳴らして氷長・霰(角型宝石人形、なわけないのじゃ角娘じゃ・f13150)がドアを潜れば、そこは古式ゆかしいカフェー・ハーフムーン。飴色に磨かれたテーブルは美しく、重厚な建物の造りは重ねてきた歴史の長さを感じさせる。そんな中客たちは歌姫と蝶子の歌う中央のステージを見守りながら、皆静かにお茶や甘味を楽しんでいる。その姿に、先程蝶子を探す時の自らを思い出して思わずキュッと口を噤んだ。あの時は致し方ないとは言え、つい大きな声で呼ばわったりした。だが、ここは歌を嗜む紳士淑女のカフェーだ。
「こういった厳か?シック?な場所では大人しく過ごすというのが礼儀であろう。」
 小さく独り言を呟いて、改めて背筋をピンと伸ばす。
「迷子の子供だと思われないように…上流階級のお嬢様のように…振舞って見せよう!」
 気品を持って優雅に上品に、との心構えは良かった。が、つい入り過ぎた気合いが声量にも反映されてしまい、近くの店員や客の耳目を集める羽目に。
「あ、声が大きくなってしまった。失敗失敗…」
 思わず両手で口元を覆い、ちいさく呟きながら視線から逃れるように空いてる席へと移動する。ステージを見やすい位置に空いてる席を見つけてするりと滑り込むと、近くの店員がすぐに注文伺いにくる。
「お客様、ご注文は如何致しますか?」
「え、あ、注文?わらわは甘いものが好きなので…ええい、おまかせじゃ!」
「畏まりました」
「あ、この月明かりを零すフレーバーティーも頼むぞ」
「はい、ただいま」
 慌てる霰にも卒なく対応し、すぐさま店員が注文の品を持ってくる。甘味はクレーターの焼印が押された満月パンケーキに、淡く茉莉花の香るフレーバーティー。付け添えのバターとメープルをたっぷり掛けて切り分けると、柔らかなパンケーキは口の中でとろけるように。フレーバーティーはスプーンでくるりと回すたび煌めいて、華やかに香りが立ち上る。甘味と紅茶に舌鼓を打ちつつ、霰の視線はずっと舞台の上に釘付けられている。先程までの悲壮さはなく、歌姫の隣に立って幸せそうに歌う蝶子。その歌い遂げる光景をそっと観察し、彼女が未練なく旅立てるように。今はただ一人の客として、霰が静かにデュエットを見守る。
「わらわのことを覚えているかどうかは些事、今日のことは忘れないでおくのじゃ…~ぐすん」
 例え何も覚えてなくても構わない。遂げられた夢の先を見て、流す涙は悲しみではなく、感動によるもの。やがて歌を終えて静かにその姿を薄れさせる蝶子に、霰がありったけの喝采を送る。その刹那、消えゆく最中に蝶子と視線が交わり、にこやかに手を振ったように見えたのは──きっと、霰にだけ贈られた、最後の知らせ。





夢の舞台はこれで終わり。
でもきっと、またいつか歌える日を夢に見て。

静かに消えゆく蝶子の瞳には、希望を灯した小さな涙が浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年06月08日
宿敵 『蝶子』 を撃破!


挿絵イラスト