揺蕩う水底のようなノイズと廃棄データの海の中から、彼女は目覚めた。
「……」
そこはかつてキマイラフューチャーを襲っていた猟書家、忌火起・レッカが己の作戦のために作り上げた秘密結社・『堕悪苦(ダーク)TCG』の何番目かの秘密基地である。
「……おっ、起きたな?」
「やはりここならレッカ様の意志を継ぐ怪人が現れる……フッ。僕の想定通りだったね」
「わ→い!じゃ、さっそくだけど、働いてもらおっ!ねっ、新幹部サマ?」
そこで彼女の目覚めを待っていたのは、秘密結社堕悪苦TCGの構成員であるオブリビオンたちだ。彼らは目覚めたばかりの新幹部怪人を祀り上げ、そして以前には忌火起・レッカが座していた玉座へと座らせる。
「ん……」
そして、まどろみの中で“新幹部怪人”はその双眸を開いた。
「わかった。……みんなに、ちからをあげる……だから、『持ってきて』。わたしを、満たしてくれるものを」
“新幹部怪人”は、自らに与えられた役割をすぐさまに理解した。そして、その手の中に数枚のカードを創造し、そして配下たちへと投げ渡す。
「へへっ、さすがだぜ。話がわかるじゃねえか!」
「ああ、このカードさえあれば僕らは誰にも後れを取ることはない!」
「いえ→い!それじゃ、これ持ってさっそく侵略いこっか!」
「待てよ!その前にデッキの再調整だ!」
カードを受け取った配下たちは、歓声をあげながら侵略活動のためのデッキ調整にいそしむのであった。
かくして、新たな侵略の魔の手がキマイラフューチャーへと迫る!
「んーっとー……ここは『運命の少年』のテキストをつかってコストを軽減し、『終末の剣士 ザインアルマ』を召喚してー……」
一方。
グリモアベースにおいて、グリモア猟兵・ロスタ・ジーリード(f24844)はテーブルの上にカードを広げながら何事かを一人呟いていた。
「……あ、来たわね。じゃ、説明をはじめるわ」
そして、猟兵達の姿に気づいたロスタはカード遊びの手を一旦止め、依頼の説明へと移る。
「忌火起レッカっていう名前に聞き覚えはあるかしら。――そうよ、キマイラフューチャー攻めてた猟書家ね。『堕悪苦TCG』ってゆー悪の組織の首領やってたやつよ」
ロスタは手元の端末を操作し、モニタに資料映像を投影した。
「この子自体はもー滅びちゃってるんだけど、『堕悪苦TCG』の残党はまだ残ってて元気に活動中なの。で、どうもそこに新しい幹部怪人が出て来たらしいのね。ってゆーことで、またその連中がTCGのイベントに襲撃をかけるのが予知されたわ」
ロスタが再び端末を操作する。
そこに映し出されたのは――『ヴァンフェス!』の会場の風景である。
『ヴァンフェス』とは、『ヴァンキッシュ・フェスタ』――すなわち、キマイラフューチャーの一部で遊ばれているTCG、『Vanquish!(ヴァンキッシュ!)』のイベントだ。そこには多くのヴァンキッシャー(ヴァンキッシュのプレイヤーをそう呼ぶ)が集まり、また、その中にはそのカードイラストを手掛けたイラストレーターなども多くイベントに参加し、トークショーやサイン会といった催しも開催している。
「前に『堕悪苦TCG』絡みの案件に来たことあるみんなは知ってると思うけど、敵の目的はこのイラストレーター……ゴッドペインターの誘拐よ。それでもって、誘拐したイラストレーターに無理やり自分たちの使うカードのためのイラストを描かせようとしているの」
曰く――TCGのカードに、イラストを欠かすことはできない。
カードテキストだけでは、そのカードに設定されたキャラクターを愛することは難しいのだ。美麗なイラストは、カードゲームの魅力の中でも非常に大きなウェイトを占めると言えるだろう。堕悪苦TCGの怪人たちは、ゴッドペインターを捕らえて働かせることで、自分たちの都合のいいようにかんがえた最強カードを刷るためのイラストを描かせようと目論んでいるのである。
「とゆーわけで、今からみんなにはキマフュに行ってもらって、敵の作戦を阻止してもらいたいの」
ここまで説明したところでロスタは一拍置き、そして説明を続けるために再び口を開いた。
「で、知ってるひとは知ってると思うけど、堕悪苦TCGの怪人はカードバトル怪人ってゆー特殊な怪人になってるのよ。戦いを挑めば、その瞬間に特殊な力でカードバトル結界を形成するの。その中に取り込まれたら、もうカードバトルするしかないのよ」
――ご存じ、堕悪苦TCGのカードゲーム怪人の恐るべき能力だ。
「とはいえ、まあデッキ持ってなくてもバトルはできるわ。うまくアレすれば手持ちのユーベルコードとかがカードとして使えるはずなのよ」
……というわけで、要はTCGカードを持ってなくてもバトルは可能ということだ。
「で、敵の下っ端をやっつけたら向こうの元締めのところにたどり着けるはずなのよ。みんなにはそこに乗り込んで、敵の元締めをやっつけてほしいの。……当然、カードバトル空間に引きずり込む能力は敵の元締めをやってる新幹部怪人ももってるのよ。幹部怪人もがんばってカードバトルでやっつけて」
説明は以上である。
「それからこれは補足説明よ。会場にいるイラストレーターの人たちが応援してくれるとなんかパワーが上がったりするんですって」
たとえば、カードにサインをしてもらうとか。白紙のカードに新たなイラストを描いてもらってカードを創造するとか。そういうヤツだ。
「まー、イラストアド(※イラストアドバンテージ……『絵が綺麗だから、という理由で生じるカードの価値のことを指す専門用語。『このカードは能力は弱いがイラストアドが高い』『同じ能力ならイラストアドの高い方を使う』などと言って使う)もカードの価値のひとつだものね。理屈はわかるわ。……とゆーわけで、できたらうまーくやってちょうだい」
――というところで補足説明までを終えて、ロスタは頷いた。
「じゃ、質問はもーないわね。それじゃあいってらっしゃーい!」
かくして、グリモアは輝く。
無限宇宙人 カノー星人
俺のターン。ドロー。ごきげんよう、イエーガー。カノー星人です。
戦争お疲れ様でした。こちらは早々に通常営業に戻ります。
それでは、よろしくお願いいたします。
※当シナリオにおいて運用されるTCGルールは、『デュエリストブレイド』ではありません。『Vanquish!(ヴァンキッシュ!)』となります。よろしくお願いいたします。
☆このシナリオはプレイングボーナス要項があります。ご確認ください。
プレイングボーナス(全章共通)…… ゴッドペインターに応援される(猟兵のカードにすごい絵を描いて貰えれば、何故か強化されます。理屈は謎ですが、そういうものらしいです)
第1章 集団戦
『カゲキマイラーズ』
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POW : 狼少年「今日も過激なチャレンジを配信するぜ!
自身の【スマホ画面】が輝く間、【迷惑行為や過激な行為による攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : 眼鏡狐「この僕を論破できると思っているのかい?
対象への質問と共に、【自身のスマホ】から【相手が負けを認めるまで消えない炎の怪物】を召喚する。満足な答えを得るまで、相手が負けを認めるまで消えない炎の怪物は対象を【根も葉もない誹謗中傷や魂を焼く炎】で攻撃する。
WIZ : パンサー娘「今から私のイケない姿を配信するね❤
【自分のイケない姿を記録した動画】を披露した指定の全対象に【この動画配信者の配下になりたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:さいばし
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ひゃーっはははっ!!どうだッ!!どうだッ!!どうだッ!!!俺の新たな力はアッ!!」
「う、うわあああああッ!!!」
「ふん……その程度でこの僕に勝つつもりだったのかい?身の程を理解できてなかったらしいねッ!!」
「きゃあああっ!!」
「あ→っはっはっは→!!たのし→!勝つのって気持ちい→よねっ❤️」
猛襲!!
堕悪苦TCG構成員、チーム・カゲキマイラーズは、その手に握った新たな切り札を用いたデッキによって、ヴァンフェス(Vanquish festa!)を荒らし回っていた!
「はーっははは!一方的に叩きのめすのは気持ちいいぜぇ!」
『狂乱のジェノサイヴォルフ』。
コスト6。パワー9000。
『【3回攻撃】:このユニットがアタックした時、このユニットを[未行動]にする。この能力はターン中に2回まで使用できる』。
『このユニットがアタックした時、自分は1ダメージ受けてよい。そうした時、このユニットを[未行動]にする』。
『侵略虚狼・ゼロヴォルフ』
コスト5。パワー12000。
『【降臨条件:《獣魔》&コスト4以上】/降臨条件を満たす自分のユニットがアタックしたとき、このユニットのコストを払ってよい。払ったら、コスモゾーンにある表向きのこのカードをそのユニットの上に重ねて登場させる。
フィールドのこのユニットが場を離れるとき、このカードは裏向きでコスモゾーンに置かれる』
『このユニットがアタックしている間、このユニットは相手の効果を受けない』
『[カットイン]このユニットがアタックしたバトル中、パワー8000以下の相手のユニットを1体選び破壊することで、このユニットを[未行動]にする』
「ははは!どうした?抵抗のひとつもできないのか?……ならそのまま死ねっ!!」
『魔炎のヘルヴォルペス』。
コスト6。パワー7500。
『相手の場に1体以上ユニットがいるなら、このユニットは相手の効果を受けない』。
『[カットイン]/1コスト支払うことで、相手のユニット1体を選び、このターンの間、パワー−5000。この能力によってパワーが0以下になったユニットを相手の手札に戻す』。
『侵略妖狐・ジゴクキュウビ』
コスト5。パワー9000
『【降臨条件:《獣魔》&コスト4以上】/降臨条件を満たす自分のユニットがアタックしたとき、このユニットのコストを払ってよい。払ったら、コスモゾーンにある表向きのこのカードをそのユニットの上に重ねて登場させる。
フィールドのこのユニットが場を離れるとき、このカードは裏向きでコスモゾーンに置かれる』
『このユニットが場にいる間、相手のユニット全てのパワーを−5000し、パワー3000以下の相手のユニットすべてはアタック/ブロックできない』
『自分のターン中、相手は手札のカードを使うとき、1ダメージ受けなければその効果を発揮できない』
「いひひっ!勝つってたのし→!勝つってサイコ→!!」
『蠱惑のプリンセスパンサー』
コスト7。パワー9000。
『相手ユニットがアタックした時、自分の手札を1枚捨ててよい。そうした時、このユニットのコスト以下のアタックしている相手のユニットのアタック対象を、相手の場のユニット1体か、相手のプレイヤー1人に変更する』。
『侵略獣姫・クインパンサー』
コスト5。パワー7000
『【降臨条件:《獣魔》&コスト4以上】/降臨条件を満たす自分のユニットがアタックしたとき、このユニットのコストを払ってよい。払ったら、コスモゾーンにある表向きのこのカードをそのユニットの上に重ねて登場させる。
フィールドのこのユニットが場を離れるとき、このカードは裏向きでコスモゾーンに置かれる』
『このユニットが降臨したとき、自分は山札から10枚まで見て、その中からコスト4以下の《獣魔》を3体まで選び、コストを支払わず場に出す』
『自分のターン中、相手は手札のカードを使うとき、1ダメージ受けなければその効果を発揮できない』
「これで何人捕まえた?」
「10人目だね。さあ、もっと捕まえよう。そうすれば僕らはもっと強力なカードを作れる……」
「あはっ!そしたらもっと過激に遊べるね!」
カゲキマイラーズの3人は、強力なカードを叩きつけて会場の人々を圧倒していた。既に何人もの人々が彼らに捕らえられている!
「それだけじゃねえ……このカードバトルの力さえありゃ、他の連中を出し抜いてやれる!」
「ヴァンキッシュで世界征服?……ははは、いいじゃないか」
「それって過激!」
……そして、侵略は続く。
猟兵たちよ。君たちはキマイラフューチャーの平和と健全なカードバトル環境を守るため、彼らをカードバトルによって下さなくてはならない!!!
☆『Vanquish!』について
ここで一旦、今回のシナリオで主に用いられる『Vanquish!(ヴァンキッシュ!)』について説明しよう。
まず、『ヴァンキッシュ!』はトレーディングカードバトルゲームだ。さまざまな種類のカードを用いて自分の『場』にユニット(他のゲームではモンスターやクリーチャーとも言われる)を出撃させ、攻撃し、相手のライフを0にすることで敵を『ヴァンキッシュ(制圧)』することを目的としている。
カードの種別は『ユニット(モンスターやクリーチャー、キャラクターのこと)』、『スペル(使い捨ての特殊効果カード。魔法、呪文カード)』が基本となっているほか、『アーマメント(装備)』や『フィールド(永続効果)』などが存在する。
また、現在ではコスモゾーンと呼ばれる特殊領域(エクストラデッキ)から場のユニットに重ねて登場させる(降臨する)『コズミックカード』や、『タクティカルゾーン』と呼ばれる場所に伏せておくことで『自分のライフは減ったとき』や『自分のユニットが破壊されたとき』などの条件によって発動可能な『タクティクス』能力をもつカード(トラップカード)も存在している。
これらを駆使し、自分の場を整え、相手に攻撃を仕掛けて勝利を目指すのだ。
カードにはそれぞれ色やコストが設定され、後述する『リソース』をタップ(カードを横向きにすることで使用済、行動済の状態をあらわすこと)することで使用できる。
リソース(土地/マナ)は、『リソースエリア』という場所に置かれたカードを参照する。リソースは1ターンに1度、リソースフェイズというタイミングで手札から任意の1枚を置くことで増やしていくか、リソースにカードを追加する能力をもったカードを使うことで増やしていくことが可能だ。
そしてゲーム開始時、プレイヤーはそれぞれライフを5点もつ。基本的は、ユニットによる攻撃が相手に通ったときに減らせるのは一度の攻撃につき1点だ。(カードの能力により、一度に2点以上ライフを奪えることもある)すなわち、5回攻撃を通せば勝利となる。
なお、ダメージを受けた際には山札の一番上のカードを裏向きでリソースに置くことで表現する(ダメージリソース)。これによってリソースに置かれたカードは以後通常のリソースと同様に使用することができ、また、ダメージリソースはどの色のコストとしても使用できる。
詳しくはシナリオ画面上部の『ヴァンキッシュ!』タグからか、あるいはこのURLから確認できるシナリオ【https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=21394】などをご覧いただきたい。
なお、ルールがよくわからなくても「わかんないので適当に」でOKだ。
隣・人
序盤は手札を整える系のスペルとかコスト加速系のユニット出していきますかね。3コスユニット『盲黙(アザトート)シャッガイ』三枚見て一枚を手札一枚をリソース一枚を山札上にするってやつ
整って来たら盤面改めますかね……降臨条件満ちてやがりますよ。その前にやっちゃいますか
ライフ削れた時にタクティクス『喰らうものども』
タクティクス持ってるユニット、場に出してやります。効果? まず『自分の手札を全て捨てます』『捨てた枚数が五枚以上であれば相手のユニット二体を行動済にします』
狼少年(てめぇ)は『マッドネス』って知ってますか
相手のターン中に手札から棄てられたら起動する能力の俗称です。手札八枚中五枚場に出やがれ!
「弱ェッ!弱ェ!はははははッ!どいつもこいつもザコばかり!狩り放題だぜ!」
「ぐあああああっ!!」
――ヴァンキッシュフェスタの中心であるステージで、狼少年は嗤った。
5点目のダメージを叩き込まれ、ヴァンキッシュに敗北したキマイラの青年が昏倒しながら転げ落ちる。
「これで12人目……まさに鎧袖一触ってか?楽勝過ぎるぜ。じゃ、次の相手は――」
そして、少年は次なる犠牲者を求めてステージから会場を見下ろし、獲物を物色する――しかし、その時である!
「その勝負、この隣人ちゃんが受けて立ちますよ!」
高らかな声と共に、ステージへと飛び込んだヴァンキッシャーが一人――隣・人(f13161)である!
「チッ!来やがったか、猟兵!」
「ふん!ヴァンキッシュときいて飛んできましたよ!さあ、勝負するんでしょう!正々堂々受けて立ちますよ!さあ!さあ!」
猟兵の乱入だ!それに表情を歪める狼少年。しかして隣人ちゃんはその敵意のこもった視線を嘲笑うように躱して舞台へと立つ。
「フン……ふざけやがって。どうやら死にたいらしいな……。なら、望み通りズタズタに引き裂いてやるぜ!俺のこの《侵略獣魔》でな!」
狼少年は気迫と共にデッキを掲げ、そしてスタンディングヴァンキッシュテーブルへと叩きつけるようにセットした。
「ふっふっふ……いいでしょう。返り討ちにしてあげますよ!この《深淵》で!」
対する隣人ちゃんは堂々たる仕草で取り出したデッキをフィールドへとセットする。――かくして、ここに二人のヴァンキッシャーは相対したのだ!
「いくぜ!ゲットレディ!」
「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!!」
試合開始のコールと共に、戦いの火蓋は切って落とされる!
公式ルールに則ったじゃんけんによって先手を取った狼少年は初手でリソースにカードを加えてターンエンド。隣人ちゃんも初手は同様である。
序盤はリソースの枚数の少なさもあって、このタイミングから動き出せるデッキタイプには限りがある。互いに動き出しは3枚目のリソースを置いたところからになるだろう。
しかし、巡る2ターン目で隣人ちゃんは一手、棋譜を進めた。
「ふふふ……隣人ちゃんはここで手札から1枚をタクティカルゾーンに仕込みますよ」
「チッ、タクティクスカードか……」
タクティクスカードとは、【タクティクス】の記述をもつ能力が記載されたカードである。
それらは【タクティクス:相手によって自分のライフが減ったとき】や【タクティクス:相手によって自分のユニットが破壊されたとき】といった発動条件が記載されており、あらかじめ自分の『タクティカルゾーン』に裏向きで伏せ置いておくことで、発動条件を満たしたときにオープンしてコストを支払うことなくプレイすることが可能なのだ。
尚、タクティカルゾーンに置けるのは一度に1枚までである。
「隣人ちゃんはこのタクティクスを置いてターンエンドですよ!」
「俺のターンだ!リブート、ドロー!そしてリソース!」
返す手番、狼少年は3枚目のリソースを加える。
「俺は3コスト払ってスペル『芽吹きの祝福』を使用だ!」
緑のスペル、『芽吹きの祝福』!
『自分の山札の上から1枚をオープンし、そのカードを自分のリソースへ[行動済]で置く』。これによって狼少年は4点目まで伸ばしターンを終了。再び隣人ちゃんへと手番が回る。
「む。リソース加速してきましたか……なら、こちらも進めていきますよ!隣人ちゃんのターン!」
続く手番!3枚目のリソースを置いた隣人ちゃんは、ここで黒を含む3コストを支払ってユニットを場に出す。
『盲黙(アザトート)シャッガイ』
コスト3。パワー1000。《深淵》。
『【酔生夢死】このユニットが手札からコストを支払って場に出たとき、自分は山札の上から3枚見て、1枚を手札に加え、1枚をリソースに[行動済]で置き、1枚を山札の上に置く。【酔生夢死】は1ターンに1回まで使用できる』
『[制限]手札以外の場所にあるこのカードは、自分の効果で手札に加えることができない』
『[制限]山札以外の場所にあるこのカードは、自分の効果で山札に戻すことができない』
『[制限]場以外の場所にあるこのカードは、自分の効果で場に出すことができない』
「3コストの登場時効果でドローとリソース加速だと……!?」
パワーカード!極めてオーバースペックな能力を持つユニットの登場に、狼少年が目を剥いた!
「ふっ。ちゃんと悪用できないようにがちがちに制限かかってますからね!妥当ですよ妥当!」
しかして、そこは流石にサーチや使いまわしが利かないように大きく制限がかけられている。――それでもSRに相当する強力な効果を持ったカードであることは間違いないが。
「隣人ちゃんはこれで整えてターンエンド!」
「ふざけやがって……俺のターンだ!
返すターン!ここで狼少年は5枚目のリソースを置いた。
「そして俺は4コスト支払い、手札から『コソ泥ビシン坊』を出撃だ!」
『コソ泥ビシン坊』
コスト4。パワー5000。《獣魔》
『このユニットのアタックが相手のライフを減らしたとき、自分はデッキの上から1枚を[行動済]状態でリソースに置く』!
「む……」
登場したそのユニットに、隣人ちゃんは僅かばかりの反応を見せた。
(……降臨条件満ちてやがりますよ)
――コスト4の《獣魔》。
それは、狼少年のキーカードのひとつである『侵略虚狼・ゼロヴォルフ』の降臨条件を満たすカードである。
降臨のためにはここから更に降臨のための5コストを支払う必要があるため、このターンでは登場はないだろうが――次の手番で出してくることは想像に難くない。
恐らくは、先に出したゼロヴォルフによって相手の盤面を荒らし、そしてジェノサイヴォルフによってフィニッシュムーヴへと持ち込むゲームプランなのだろう。
(狼は攻撃性能が高いですからね……完成盤面を作られたら押し負けます!)
その攻撃性を十二分に発揮されてしまえば、こちらも打つ手はない。ここからの展開を素早く予測し、思考した隣人ちゃんはここでひとつの結論を出した。
(その前にやっちゃいますか)
そして、隣人ちゃんは顔を上げた。
「俺はこのまま『コソ泥ビシン坊』でアタックだ!」
一方、狼少年はここでバトルフェイズに入る。『コソ泥ビシン坊』のアタックが通ればここで狼少年は6点目のリソースを獲得し、キーカードである『狂乱のジェノサイヴォルフ』の召喚コストを確保することができるのだ。リソースブーストによるキーカードの早期展開は彼の必勝パターンである!
「[カットイン]は!」
アタック宣言後、アタックしたユニットのアタック時能力発生タイミングを過ぎたところで生じる[カットイン]タイミング!お互いのプレイヤーはここで[カットイン]能力を使用する権利を得る。ただし宣言は非ターンプレイヤーが優先だ。そのため、ターンプレイヤーはここで相手に[カットイン]の有無を確認するのがマナーとされている。
「ありません!」
「一応さっきのシャッガイがいるが……ブロック宣言は?」
そして、[カットイン]宣言後に場のユニットによるブロックの有無を宣言するルール処理が入る!
「しませんよ、ライフダメージ貰いますとも!」
しかし、隣人ちゃんはそのどちらも行わないことを宣言した。これで『コソ泥ビシン坊』のアタックが通り、隣人ちゃんにダイレクトダメージが叩き込まれる!
「くは……ッ!!」
胸郭を貫いてゆくような重たい衝撃!隣人ちゃんはその痛みから踏み止まりながら、山札上のカードを裏向きでリソースへと加える。ダメージを示すダメージリソースだ。
「これで俺はビシン坊の能力を発揮する!相手にダメージを与えたため、俺は山札の上から1枚をリソースへタップイン!ははは!これで揃った!次のターンでテメェはお終いだぜ!」
「……く、ふふ。ふっふふふ……」
しかし、ここで隣人ちゃんは嗤った。
「なに……?なんだ、テメェ、その顔は――」
「ははははは!」
訝しむ狼少年。隣人ちゃんはその顔を嘲笑いながら――タクティカルゾーンに伏せていたカードを開いた!
「……タクティカルバースト、ですよっ!」
「なに……!」
『喰らうものども』
コスト8。パワー5000。《深淵》
『【タクティクス:相手によって自分のライフが減ったとき】自分の手札をすべて破棄する。この効果で破棄されたカードが5枚以上なら、相手のユニットを2体まで選び、[行動済]にする。この効果発揮後、このユニットをコストを支払わず場に出す』
『自分のトラッシュのカード2枚につき、このユニットのパワー+1000。このユニットのパワーが10000以上なら、このユニットが相手に与えるダメージ+1』
『【ターン1回】このユニットが相手によって場を離れるとき、自分のトラッシュに《深淵》があるなら、このユニットを[行動済]で場に残す』
「隣人ちゃんは『喰らうものども』の能力で手札をぜーんぶ破棄!」
「なんだと……!?その能力を使ったところで場に出るのはその喰らうものどもだけ……そして俺の場のユニットは既に[行動済]のビシン坊だけだぞ!?」
「ふっ」
奇行とも感じられる隣人ちゃんの手に、狼少年は戸惑いを隠せない!
――しかし!
「てめぇは『マッドネス』って知ってますか」
「マッドネス、だと……!?」
隣人ちゃんは笑みを深めた。
そして、トラッシュに破棄したカードを拾い上げる!
『這い出る食屍鬼』
コスト3。パワー3000。《屍人》。
『このカードが手札からトラッシュに置かれたとき、このカードをコストを支払わず場に出してよい』
『ピックマンのモデル』
コスト5。パワー6000。《屍人》。
『このカードが手札からトラッシュに置かれたとき、このカードをコストを支払わず場に出してよい』
『このユニットが手札から場に出たとき、自分は山札から『リチャード・ピックマン』を1枚まで探し、手札に加える。その後、山札をシャッフルする』
『リチャード・ピックマン』
コスト5。パワー5000。《屍人/深淵》
『このカードが手札からトラッシュに置かれたとき、このカードをコストを支払わず場に出してよい』
『自分の場にこのユニット以外の《屍人》か《深淵》のユニットがいるなら、このユニットのパワー+2000。3体以上いるなら、このユニットが相手に与えるダメージ+1』
「『這い出る食屍鬼』2体と『ピックマンのモデル』、そして『リチャード・ピックマン』!ぜーんぶ場に出やがれっ!!」
隣人ちゃんはここでそのすべてのテキストを用いることで、盤面へと一斉にカードを並べた!!これにより、隣人ちゃんの盤面には6体のユニットが並ぶこととなる!
「なッ……!!自己ハンデスからのユニット展開だと……!」
「さあ、そっちにもー動けるユニットはいないです!さっさとバトルフェイズを終わらせて隣人ちゃんにターンを渡すですよ!」
「ッ、……ターンエンド!」
「では、これで……ファイナルターンですよ!」
かくして、最後のターンが始まった!
速攻展開を目論んでいた狼少年は防御カードの搭載を疎かにしていたのだ。そして場にはブロックに参加できない[行動済]状態のビシン坊を残すのみ……。狼少年は防ぐための手段を持たないまま、隣人ちゃんの猛攻を受けることとなる!
「アタックですよ!」
「クソ……[カットイン]もブロックもねえッ!!ライフで受けるッ!!」
隣人ちゃんのアタック宣言!盤面に立つ屍人たちが狼少年へと押し寄せ、ライフダメージを叩き込む!
「これで、ヴァンキッシュですよ!!」
「グアーッ!!」
最後のダメージを打ち込まれた衝撃に狼少年が弾かれ、ステージ上を転がって倒れる――Vanquish!
そしてオーディエンスからあがる歓声!勝者、隣人ちゃん!隣人ちゃんは手を振って人々へと愛想を振り撒くのであった!
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
さすがに向こうも対策打ってきたわねぇ。高パワーぶん回すだけじゃ勝てないってやっと学習したのかしらぁ?
また狼クン相手にしようかしらねぇ。今回のデッキは黒銀アグロ、そしてキーカードは黒銀フィールド「泥濘の塹壕戦」。その効果は「互いのユニットはタップされて場に出る」――つまり、軽量出撃→即降臨の黄金コンボは使用不可。こっちの基本戦術は「相手ターンでの展開」だから実はそこまでリスクないのよねぇ。
あとは「撤退命令」「死守厳命」「金城湯池」なんかを組み合わせればそこそこいけるんじゃないかしらぁ?
そうだ、絵師さん探しておかないと。前回は「相棒」だったし、今回は「切り札」――大罪公主をお願いしようかしら。
「ふぅん」
ティオレンシア・シーディア(f04145)は、事前にグリモア猟兵によってもたらされた、対戦相手となる敵ヴァンキッシャーたちの扱うキーカードの情報からその戦術を類推する。
「さすがに向こうも対策打ってきたわねぇ。高パワーぶん回すだけじゃ勝てないってやっと学習したのかしらぁ?」
『侵略虚狼・ゼロヴォルフ』のもつ『このユニットがアタックしている間、このユニットは相手の効果を受けない』。
『侵略妖狐・ジゴクキュウビ』と『侵略獣姫・クインパンサー』がともに持つ『自分のターン中、相手は手札のカードを使うとき、1ダメージ受けなければその効果を発揮できない』……。
ゼロヴォルフは耐性をもたせることで、残る二人は相手のカウンターを抑制することで。いずれも自分のプレイングを相手に押し付けるために非常に有用な能力だ。
TCGとは、自分の考えた最善の勝ちパターンへと、いかにして相手より先に至るかが重要な遊戯である。――それを目指すにおいて、自分の手を邪魔させない、あるいは、相手に妨害の手を打たせない、というのは非常に重要な考え方なのである。
――どうやら、オブリビオンたちもようやくそのレベルに到達したらしい。ティオレンシアはここから始まる戦いを想像し、かすかに笑みを漏らした。
ティオレンシア・シーディアという女は、猟兵であると同時にきわめて高位のヴァンキッシャーだ。
キマイラフューチャーにおいて発生した、この『Vanquish!』に関わる事件のいずれにも顔を出し、そして猟書家であるミズ・ルチレイテッドや忌火起レッカとの激しいカードバトルを制してきた経験をもつ一流のカードバトラーなのである。
「ま、それでも――」
故に、ティオレンシアは欠片たりとも恐れることなく、戦いの舞台へと上がる。
「――負ける気は、更々ないけどぉ?」
「て、てめぇはッ!!」
その姿に真っ先に反応を見せたのは狼少年であった。
――曰く。
オブリビオンは戦いの中で猟兵たちによって骸の海へ還される度に、同じオブリビオンであっても異なる存在として再臨する。
しかして。
――ここに立つ彼がカードに己が魂を賭けたヴァンキッシャーであったが故に、その魂魄の奥底に刻まれた敗北の屈辱が滾ったのだ。
「……識っている。俺は識ってるぞ、てめぇのことを……!」
狼少年はその胸に滾らせた激情をひとかけらたりとも隠すことなく、ティオレンシアへと詰め寄り、そして睨みつける。
「……へぇ。じゃあどうしようっていうのぉ?」
対するティオレンシアは――むしろ、面白がるように、その口の端を歪めてみせた。
「ブッ殺す……テメェはなんとしてもブッ殺してやる!俺のデッキでッ!!……バトルだ、テメェもデッキを抜けッ!!」
激昂する狼少年は咆哮と共にスタンディングヴァンキッシュテーブルの前へと立った。
ティオレンシアは少年に続くように、テーブルを挟んで戦場へと立つ。
そして。
「ゲットレディ」
「「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!!」」
戦いの火蓋は、ここに再び落とされた。
「俺のターン!」
公式ルールに則ったじゃんけんによって先手を得た狼少年が、リソースへとカードを置く。
序盤の流れは互いに静かだ。相手の出方を伺うように、狼少年とティオレンシアは睨みあいながら棋譜を進めてゆく。
ティオレンシアはリソースへ黒と銀のカードを置き、2ターン目において『鉄輪従騎士 ラタータ』を手札から場に展開した。
――狼少年が動き始めたのは、3ターン目。
「“前の俺”と同じだと思うんじゃねえぞ、クソアマ……!俺は3コストを支払い、手札からフィールド・『絶望の夜空』を展開するッ!」
『絶望の夜空』
3コストのフィールド。虚属性のカードである。
『【ターン1回】自分のユニットがアタックしたとき、自分は手札を1枚捨ててよい。そうしたとき、自分はコスモゾーンのカードを1枚選び、そのユニットの降臨条件を満たすアタックしているユニットの上にコストを支払わず降臨する』!
――コスモゾーンのカードは、本来であればコストを支払わなければ降臨できない存在だ。
降臨条件を満たすカードを盤面に出しても、降臨のためのコストがなければすぐさま登場させるのは難しい。
しかし、いま狼少年が場に出したのは、そのコストを手札1枚分で満たせるようになる、非常に強力な降臨サポートのカードである。これによって、降臨ギミックを用いるデッキのフットワークは非常に軽くなったと言えるだろう!
「へえ……。コスモゾーンも使うようになったのねぇ」
だが、ティオレンシアは動じることなく笑ってみせた。
「ハッ。笑ってられんのも今のうちだぜ……俺はこれでエンドだ!」
「私のターン」
続くティオレンシアのターン。
3枚目のリソースを加え、そしてティオレンシアは微笑んだ。
「そうよねぇ。コスモゾーンのカードを降臨させて戦うんだったら、降臨条件を満たすなるべく軽いユニットの出撃から即降臨、の黄金コンボで攻めてくる。……えぇ、そうくると思ってたのよぉ?」
「……なんだと?」
「あたしがそれをわかってないとでも思ってたのかしらぁ? ――あたしは3コストを支払い、フィールドカード『泥濘の塹壕戦』を設置するわよぉ」
「なッ……!塹壕戦だと!?」
『泥濘の塹壕戦』
コスト3。黒/銀の複合属性をもつフィールドカードである。
『お互いのユニットが場に出るとき、登場するユニットすべては[行動済]で出る』――!
「……!」
「降臨は、条件を満たすカードがアタックしていなくてはならない……そうだったわよねぇ?」
――当然ながら、[行動済]状態のユニットがアタック宣言を行うことはできない。
ティオレンシアはこの塹壕戦フィールドを仕掛けることで、敵の戦闘速度を挫いたのだ。
「こいつ……!」
「更に、あたしはタクティカルゾーンにカードを置いてエンドよぉ」
ティオレンシアはその余裕を崩すことなくターンを終える。
「ぐぬ、ッ……!……お、俺のターン……ドロー!俺はリソースを1枚増やし、メインフェイズで手札から、『獣姫の下僕・ミッグ』を出撃する!
『獣姫の下僕・ミッグ』
コスト4。パワー5000。《獣魔》。緑のユニットである。
『このユニットが手札から場に出たとき、自分は1枚ドローする』。
「俺はミッグの能力で1枚ドロー!」
――手堅い能力を持つ緑のサポートカードだ。しかしてこのカードは優秀な登場時効果のみならず、ゼロヴォルフの降臨条件を満たしていることで今後の展開に於いてゼロヴォルフの降臨元にできる。昨今の環境に於いて評価が上がった1枚だ。
しかして、このターンは塹壕戦の効果によって[行動済]で登場する。ドロー能力は使えるものの、そこまでだ。アタックを宣言できないため、このターンでは登場のみとなる。
「……『登場時能力』を使ったわねぇ?」
しかし――ここで、ティオレンシアは目を光らせた。
「タクティカルバーストよぉ」
『大罪公の食卓』
――コスト5の黒のスペル!
『【タクティクス:相手がユニットの登場時能力を使用したとき】自分は3枚ドローし、その後、手札から3枚破棄する』
『[カットイン]自分は手札を1枚破棄し、その後、トラッシュのコスト7以下の黒のユニットカード1枚を、コストを支払わず場に出す』
ミッグの登場時ドロー能力が発動条件を満たしたのだ。ティオレンシアはこのタクティクス効果を起動することで山札から3枚を手札に加え、そして同じ数だけを破棄した。
「手札交換……いや、トラッシュへカードを増やしてきたか!」
破棄されたカードの中に輝くのは――『七大罪の公主』。ティオレンシアが切り札として使う黒のユニットカードである。狼少年はそのカードの輝きを見逃さなかった。
黒であれば、トラッシュに落ちたカードをリアニメイトする戦い方が得意分野であると言っていいだろう。狼少年はそれを警戒し、警戒心をあらわにする。
――だが、狼少年の感じ取った不安はそれだけではない。
そして、そのカードには一筆のサインが刻まれていた。
船彦・や吉。キマイラフューチャーで活躍するゴッドペインターの一人でありそしてこの七大罪の公主のイラストを担当したイラストレーターである。
そう、ティオレンシアはここに至るまでの間に猟兵たちを応援するキマフュの人々との邂逅を果たしていたのである。――その中でも、切り札である公主のイラストを担当したイラストレーターに会えたのは僥倖であった。
そうしてサインを刻まれた一枚が、公開領域に見えた――狼少年は、それをまるで何かの予兆のように感じ取る。
しかしてターンは巡り、試合は進む。
続くターンでティオレンシアは再びタクティカルゾーンにカードをセットしてエンドした。
対し、狼少年は――返すターンのバトルフェイズでミッグでのアタックを宣言。そして、コスモゾーンの切り札を登場させる!
「見やがれ――!これが俺の切り札だッ!コスモゾーン解放!そして、目覚めて吼えよ我が化身!侵略虚狼、ゼロヴォルフ!降臨!」
『侵略虚狼・ゼロヴォルフ』――コスト5。パワー12000。
[カットイン]で使用できる能力によって相手のユニットを破壊することで[未行動]になる、きわめて強力な能力を持ったコズミックカードであり、狼少年の切り札のひとつである。
「俺はゼロヴォルフのカットイン能力を起動し、パワー5000のラタータを破壊する!」
「……」
そして、狼が吼えた。
虚の力に染まった狂獣が戦場にその咆哮を響かせ、血濡れた爪牙を振るう――破壊されるラタータ!ティオレンシアの盤面からユニットが消える!
しかし、その瞬間である!
「――タクティカルバーストよぉ」
「……なにッ!?」
『ダークロード・アウェイクニング』
――コスト7。またしても黒のスペル!
『【タクティクス:相手によって自分のユニットが破壊されたとき】自分はトラッシュのコスト7以下のユニットカード1枚までを選び、コストを支払わず場に出す』!
「ラタータの破壊によって条件を満たし、あたしはこのタクティクスを使うわぁ。そして、トラッシュから呼ぶのは――『七大罪の公主』!」
「なっ、にィ!!」
狼少年は目を剥いた。
一度ならず二度までも、仕掛けられていた罠を踏み抜いてしまうとは――!
後悔する彼の前で、ティオレンシアの切り札が戦場へと降り立つ。
『七大罪の公主』
コスト7。パワー11000。《罪業/夜種》
『自分が使う《カットイン》のコストは1減る。(コストは1以下にならない)』
『自分のエンドフェイズ開始時、このターンに自分が手札からカードをプレイしていないなら、『コスト3/パワー4500/このトークン・ユニットが場を離れたとき、自分は1枚ドローし、このカードをゲームから除外する』を持つ《罪業騎士》トークン・ユニットを生成する』
――それは、カットイン能力によるカウンターを強く意識した強力なユニットである!
ここからの展開は、ティオレンシアに大きく傾いた。
狼少年は攻勢に出ようとするものの、ティオレンシアは的確なカットインによる妨害の手を打ち敵の攻勢を許さない。
その一方、ティオレンシアはタクティクスやカットイン能力をもったカードを駆使することによって敵の攻め手を止めつつ、盤面へとユニットの展開を進めていた。
自ターンでの展開を抑えるティオレンシアは公主の効果によって盤面へ《罪業騎士》を生成し、盤面を整える。
攻めあぐねる狼少年であったが――そうしているうちに崩れた均衡は、最終的に決着の瞬間へと収束していく!
「……じゃ、そろそろ終いにしようかしらぁ?」
ティオレンシアがその双眸を光らせた。
――盤面と手札の状況から、確実にトドメを刺せるという確信を得たのだ。
狼少年の場には[行動済]のゼロヴォルフを残すのみ。その一方、ティオレンシアの盤面には罪業騎士トークンを含め5体以上のユニットが並んでいた。
「ぐ、う……ま……“また”負けるのか……!俺は!」
荒く息を吐き出しながら怒りに震える狼少年――しかして、ティオレンシアは容赦なくアタック宣言を仕掛けてゆく。
盤面のユニットがオブリビオンのライフへと攻め込んだ。そのアタックが、次々にダメージを与えてゆく!
「悔しかったら、もう一回出直してらっしゃい?……公主でアタック。これでとどめよぉ」
そして――ティオレンシアのラストアタックが最後のダメージを狼少年へと叩き込んだのである!
「グ、グアアアアアアアアアアアアッ!!」
激しい衝撃に晒された狼少年が、絶叫と共に吹き飛んでステージの上へと転がった。
「これで、ヴァンキッシュねぇ」
――Vanquish!勝者、ティオレンシア・シーディア!
かくして、猟兵たちはオブリビオンよりふたつめの勝利をもぎ取ったのである!
成功
🔵🔵🔴
夢幻・天魔
【超絶厨二病:語る設定は全て妄想。厨二なら何でもOK】
カードゲームか……
フッ、第25の世界にて相棒(カード)達と共に世界を救ったのは良い思い出だな(※妄想なのでそんな思い出はありません)
あらゆるヴァンキッシャーの頂点に立つ俺の力、見せてやろう
(『異世界で取った杵柄』発動)
貴様程度に本気を出すまでもない。遊んでやろう
先ずは手始めにハンデス能力で敵の手札を捨てていく
フハハハハ!
ハンデス回数はこれで5回に達した
よってこの魔法カードの発動が可能となる
その効果は『パワー5000以上のカードを相手のデッキから除外する』だ
ククク……これで貴様の切り札も消えてしまったな
手札もデッキを破壊しつくし、俺の勝利だ!
「ほう、カードゲームか……」
夢幻・天魔(f00720)は、一枚のカードを手に取り、そこに描かれた囚われし堕天使の姿を見るにつけ、望郷の念に駆られるかのように遠くを見つめた。
「フッ……、第25の世界にて相棒(カード)達と共に世界を救ったのは良い思い出だな」
夢幻・天魔は(妄想の中で)無数の世界を渡り歩き、そして数多の世界を救った伝説を残した(という妄想を抱く)、(空想の中では)最強の猟兵である。
彼がいま思い起こすのはかつて(妄想の中で)訪れた第25世界・ルト=バ・ドアカでの戦いの軌跡である。
天魔はこの世界に於いて、世界を滅ぼさんとして復活した邪神ジヤツジキルと(妄想の中で)魂を燃やし尽くす空前絶後のカードバトルを繰り広げ、そして世界を救ったのだ。
「……俺がプレイしていたものとは異なるようだが、カードはカード。……フッ。いいだろう、“異世界で取った杵柄”だ。多少ルールは違えど、そんなものこの俺の前では何の障害にもならん」
ばさ――ッ。舞台衣装めいて羽織った外套の裾を翻し、そして天魔は掌で目元を覆うきわめてかっこいいポーズを決めた。
「さあ、征くぞ。あらゆるヴァンキッシャーの頂点に立つ俺の力、見せてやろう」
――かくて、天魔は舞台に上がる。
「ふ→ん……」
――天魔の前に立ったのは、カゲキマイラーズの紅一点。パンサーちゃんである。
「自信満々ってカンジみたいだねっ。でもわたしぃ、キミみたいな子を這いつくばらせて許しを乞う言葉を言わせるのがだ→いすきなの!」
パンサーちゃんはその手にデッキを構えながら、スタンディングヴァンキッシュテーブルへとついた。
「フッ……。弱者ほどよく吠えるとはよく言ったものだ」
しかして、天魔はパンサーちゃんの挑発めいた言動を堂々たる態度で躱し、そして対戦を行うべくテーブルへと向き合った。
「貴様程度に本気を出すまでもない。遊んでやろう」
「ふ→ん……おもしろいね、キミ。……えっへへぇ、わたし気に入っちゃった!ゼッタイ君にわたしの靴を舐めさせてあげるねっ!」
「上等だ。この俺、異界ルト=バ・ドアカを制した最強のカードバトラーである夢幻・天魔がお前の相手になってやる!」
「ゲットレディ!!」
「「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!!」」
戦場に高まる熱気――!戦闘開始の合図とともに、二人のカードバトルが幕を開ける!
「俺のターン……ドロー!」
公式ルールに則ったじゃんけんによって得た先行で天魔はカードを引き抜いた。
「フッ。俺は先ずリソースに黒のカードを置きエンドだ」
――そのメインカラーは当然のように黒!
「ふぅん。い→よ、そっちがどんなテでくるか……見たげよーじゃん!」
一方、パンサーちゃんは緑のリソースを置いてターンエンド。そこから更にターンは巡る。
――動きが始まったのはパンサーちゃんの3ターン目。
「それじゃ、こっちから動かせてもらうか→らねっ!私は緑を含む3コストを払ってぇ、『獣姫の下僕・アーシィ』を出撃っ!」
『獣姫の下僕・アーシィ』。
コスト3。パワー3000。
『このユニットが場に出たとき、自分は山札の上から5枚見て、その中の『プリンセスパンサー』を1枚まで手札に加え、残ったカードを山札の下に置き、山札をシャッフルする』
サーチカード!それはデッキのメインとなるキーカードを手札へと引き込むための潤滑剤だ。パンサーちゃんは手札から登場させたアーシィの効果によって、当然のようにキーカードである『蠱惑のプリンセスパンサー』を手札に加える!
「私はこれでエンドだよっ!」
「ククク……なるほど、少しはやるようだな。だが、俺の勝利が揺らぐことはない!俺のターン!」
しかして、天魔は物怖じすることなく返されるターンを受け取る。
天魔のリソースはここで4枚目――様子を伺っていたのか、あるいはコストの都合で使える手札がなかったのか。ここまで動きを見せなかった天魔は遂にその一手を指す。
「俺は4コストを支払い、手札より『封じられし堕天の穢翼』を展開する!」
「堕天の穢翼……!?」
『封じられし堕天の穢翼』
コスト4。黒属性のフィールド。
『[制限]このカードは自分の場に1枚だけ設置できる』
『相手の手札のカードがトラッシュに置かれたとき、自分は山札の上から1枚をこのカードの下に置く。この効果でこのカードの下のカードが5枚になったとき、このカードをトラッシュに置くことで、自分は山札/手札/トラッシュから『黎明のル・サイファー』を1枚まで選び、コストを支払わず場に出す。この効果は相手の効果によって妨害されない』
――封じられし堕天の穢翼。
それは、禁じられた伝説のカードである『黎明のル・サイファー』を呼び出すためのカードである!
「……なにそれ。知らないカードだ」
「フッ。ならば我が友がここに降臨するその刻を心待ちにするがいい。俺はこれでターンエンド!」
このターン、天魔の動きはフィールドの展開のみで終えることとなる。
一方、返すターンでパンサーちゃんは続けて『獣姫の下僕・メーシュ』――コスト4、パワー4000。『このユニットが手札から登場したとき、自分は山札の上から1枚を[行動済]でリソースに置く』――を出撃し、リソースを増やした。
パンサーちゃんはここで容赦なくアタックを宣言する。盤面とリソースの心もとない天魔はこの2回のアタックを甘んじて受けた。
「フッ……聖痕(スティグマ)が刻まれたか」
だが、ヴァンキッシュのルールにおいて、ダメージはリソースのカードとしても扱われる。ここで受けたダメージは、返すターンでの天魔の展開を押し上げる力になるのだ。
「俺のターン……征くぞ!俺は手札からスペル、『暗黒接触』を使用!」
「げっ、ハンデス!」
『暗黒接触』――黒のスペル!
『相手の手札を見ないで1枚破棄する』!――シンプルかつ直接的な嫌がらせ!手札破壊戦術である!
「さあ、我が闇の力によって貴様の魂を削るがいい!」
「くっ……やらしーまねを!」
パンサーちゃんは苦虫を噛み潰したような顔になりながら天魔を睨み、そして手札のカードを破棄した。
「そして、我が翼に闇が宿る……!」
ここで『封じられし堕天の穢翼』が効果を発揮した。山札から1枚が、その下へと置かれる!
「続けて俺はタクティカルゾーンにカードを伏せ、更に手札から『ソウルクラッカー・デーモン』を出してターンエンドだ!
『ソウルクラッカー・デーモン』
コスト3。パワー3000。『このユニットが相手によって場を離れたとき、相手は手札を1枚選びトラッシュに置く』!
――ソウルクラッカー・デーモンは破壊やバウンスによって場を離れた時に能力を発揮するユニットだ。当然ながら――その効果は、ハンデス!
「俺はこのままアタックせずターンエンドだ」
「……おっけー」
――デッキが動き出している。
パンサーちゃんは目の前に相対する敵のヴァンキッシャーとしてのレベルを図り直し、そして印象と脅威度の判定をあらためた。
ここで迂闊に動くのは愚策かもしれない。決着を意識するのは、もっと状況を整えてからだ。
そのような思考に至ったパンサーちゃんは、手札から『獣姫の下僕・ミッグ』――コスト4。パワー5000。『このユニットが手札から場に出たとき、自分は1枚ドローする』――を出撃する。
「――今、カードを引いたな?」
だが、ここで天魔は口の端を歪めて嗤った。
「なっ!?」
困惑するパンサーちゃんへと見せつけるように、天魔はタクティカルゾーンに伏せていたカードを開く――
『ダークデストラクション』
コスト5の黒のスペルである。
『【タクティクス:相手の手札が相手の効果によって増えたとき】相手は手札をすべてトラッシュに置き、その後、3枚引く』
「――全部ぅ!?」
「フッ――だが、俺は慈悲深い。3枚のドローを許してやろう!」
「うぐぐぐぐ……!」
天魔は発動したスペルによってパンサーちゃんの手札を強引に入れ替えさせたのだ!それと同時に、『穢翼』に2枚目のカードが追加される!
「さあ、これでどうだ!」
「ふ、ふざけたテをっ!なら……はったおしてあげるッ!!」
激昂!極めて凶悪な妨害を喰らったパンサーちゃんは怒りのままにアタックを宣言する!アーシィ、メーシュ、ミッグ!獣姫の下僕たちが戦場を走り、天魔のライフへと攻め寄せた!
「ソウルクラッカー・デーモン!」
天魔はこれに対し2回の攻撃を受ける。最後の一発はソウルクラッカー・デーモンでブロックを宣言し、ダメージは4点目で抑えた。
――ゲームエンドまで、あと1点。天魔の置かれた状況は、極めて絶体絶命であったといえる。
「フッ」
しかし――天魔は嗤った。
そう、かつてかの世界を救うために繰り広げた(妄想の中での)邪神とのカードバトルはこんなものではなかった。
「少しばかり熱くなれたが――だが、まだまだだな」
「……なんですって?」
訝しむパンサーちゃん。対し、天魔はカードを掲げながら、高らかに宣言する!
「これが貴様のファイナルターンということだ!征くぞ、俺のターン!」
天魔はここで手札から2枚のカードを引き抜き、そしてリソースのカードをタップした!
その手に握られたカードは――2枚ともが、『暗黒接触』!!
「1枚ハンデスを2回起動する!」
「なっ……!!」
その瞬間、パンサーちゃんは青ざめた。
――この2回のハンデスは、ただ手札を破棄させるだけの意味ではない。
「これによって、俺のフィールドの『封じられし堕天の穢翼』には遂に闇の力が満ち満ちた!――さあ、始めよう。世界の終滅《ラグナロク》を!」
ハンデスに応じて『封じられし堕天の穢翼』の下へと5枚目のカードが置かれる――!ここで遂に、穢翼の真なる効果が発揮されるのだ。天魔は山札の中から1枚のカードを探し出し、そして場へと降ろす!
『黎明のル・サイファー』
コスト12。パワー66666。
『[制限]このカードは『封じられし堕天の穢翼』の効果以外では場に出すことができない』
『このユニットが場に出たとき、相手の山札からパワー5000以上のユニットカードをすべてゲームから除外する』
『【ターン1回】このユニットがアタックしたとき、以下の2つからどちらか1つを選んで使用する。『1.相手は手札をすべてトラッシュに置く』『2.相手の山札を上から12枚破棄する』』
「な、なに……なんなの、このカードはっ!?」
――あまりにも強力なパワーとカードテキスト!パンサーちゃんは一瞬にして薄っぺらになった山札のみすぼらしい姿に悲鳴をあげる!
「ここに我が力は覚醒した、ということだ」
一方、天魔は掌で片目を覆いながらカードを繰り、棋譜を進める。
「ククク……これで貴様の切り札も消えてしまったな。もはや打つ手なし、ということだろう」
そして、天魔はバトルフェイズへの進行を宣言――続けて、ル・サイファーでのアタックへと移る。
「俺はル・サイファーのアタック時能力によって貴様の山札を上から12枚破棄する!」
「そんな……こ、こんなことって!?」
戦場を駆けたのは輝ける闇――!即ち、黎明のル・サイファー。禁じられた堕天の力が世界を滅ぼすかのようにパンサーちゃんの山札を削り落とす!
この効果処理を終えて、パンサーちゃんの山札に残ったカードは――3枚!
「だ……ダメージ!」
ブロック宣言を行えるユニットはパンサーちゃんの場にはいない!素通しとなったル・サイファーのアタックが、パンサーちゃんにライフダメージを叩き込む!
「そして、俺はこれでターンエンドだ。――さあ、貴様のターンを始めるがいい」
――かくして。
残るパンサーちゃんの山札は僅か2枚。
ヴァンキッシュのルールに於いては、山札の最後のカードを引いた瞬間にデッキアウトによる敗北が決定することとなっている。
そして――このゲームのドローフェイズで引くカードの枚数は、2枚だ。
「や……やだあああああああああああああっ!!」
パンサーちゃんは悲鳴と共にターンを開始し、ドローフェイズへと入った。
――このドローによってパンサーちゃんの山札は0枚となり、ここで戦いは決着の時を迎えたのである。
「ヴァンキッシュ……手札もデッキを破壊しつくし、俺の勝利だ!」
Vanquish!勝者、夢幻・天魔!
天魔は掌で片目を抑えながら外套を翻し、オーディエンスへと向けてパフォーマンスした。
声援に沸く会場が、天魔の名を叫ぶ――かくして、猟兵たちはここにまたひとつの勝利を重ねたのである!
成功
🔵🔵🔴
数宮・多喜
およ、またヴァンキッシュの大会かい。
……ってまーたオブリビオンが絡んでるのかよ!
懲りない奴らだねぇ……
まあ、活発なのはいい事だよホントにさ。
アタシができるのはいつも通り、銀で守りを固めに行くだけだよ!
覚悟しやがれ狐ヤロー!
いやちょい待ち。結構強いなコイツら。
幸い序盤はフィールドで守りを固めやすそうだけど、後続がなー……ん?
そういや一度使ってみたかったんだよな、コズミックカード。
敵からの妨害を半減、味方の強化を倍にする指揮官型のユニットがあったはず!
ソイツで妨害を軽くして、全体強化フィールドで全ユニットを底上げして、っと。
対象を取るスペルや効果を引き付けるユニットも脇に置いといて、ぶん殴り返す!
「およ、またヴァンキッシュの大会かい」
数宮・多喜(f03004)は目を瞬かせた。
――多喜は猟兵であると同時に、これまで多くの戦いを制してきたヴァンキッシャーの一人である。
主に銀属性のカードを繰り出し、今までも多くのヴァンキッシャーと熱い戦いを繰り広げてきた。彼女自身、このヴァンキッシュというカードゲームのことも決して嫌いではない。
「……って、まーたオブリビオンが絡んでるのかよ!」
しかして――叫びたくなる気持ちはまた別だ。
このカードゲーム、オブリビオンに利用されすぎではないか?――と、多喜は思った。
「フッ……どうした、猟兵。僕らの強さに怯えているのかな?」
そんな多喜の姿をステージ上から見下ろして、メガネの狐怪人が嫌味ったらしく声を投げかける。
「…………懲りない奴らだねぇ……」
多喜は肩を落としながら大きくため息をついた。
――しかして。
「まあ、活発なのはいい事だよホントにさ」
再び視線を上げた多喜の双眸には、一流のヴァンキッシャーの証たる闘志の火が灯る。
「……けど、アタシがきたからにはこれ以上の狼藉は許しちゃおかない!ヴァンキッシュを悪事に利用するっていうなら、このアタシが相手になるよ!」
そして、多喜はステージ上へと飛び乗った。
「フン……命知らずがのこのこと!なら、“格の違い”を教えてあげるよ。この僕のデッキでね!」
狐怪人の青年はそれをせせら笑いながら、抜き放ったデッキを構えてスタンディングヴァンキッシュテーブルへと向き合う!
「悪いけど、ヴァンキッシュならアタシも腕に覚えがあるんだよ!覚悟しやがれ狐ヤロー!」
多喜もまた、その手にデッキケースを構えながらヴァンキッシュボードへと相対した。
「いくぜ、ゲットレディ!」
「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!」
――かくして、ここに戦いが始まる!
「アタシのターンだ!」
戦いは公式ルールに則ったじゃんけんで先攻を取った多喜から開始された。
二人は共に2ターン目までは動きなく、互いに棋譜を進め始めたのは3ターン目からである。
「アタシは銀を含む3コストを支払って、『帝都ビルドポリス』を設置!」
『帝都ビルドポリス』
コスト3、フィールドカード。
『自分の《鋼鉄皇帝軍》のユニットが効果で場を離れるとき、自分のフィールドカード1枚を[行動済]にすることで、自分のユニットすべてを[行動済]で場に残す』!
『自分の《鋼鉄皇帝軍》のユニットがブロックしたとき、そのバトル中、自分のフィールドカード1枚につきブロックしているユニットのパワー+1000』
「……ふうん。ユニット保護のフィールドか」
「アタシができるのはいつも通り、銀で守りを固めに行くだけだよ!」
多喜は銀属性のカテゴリ、その中でも特に《鋼鉄皇帝軍》をメインとして用いるヴァンキッシャーである。
鉄をイメージしたカード群は防御性能や盤面保護に秀でており、多喜は特に自陣のユニットを保護・強化するタイプのフィールドを展開してゆくことでユニットの性能を底上げし、敵に押し勝つ戦術を得意としていた。
「フン……だが、護ってばかりで勝てるかな!僕のターン!」
一方、狐怪人は緑をメインカラーにしつつ銀の防御カードにタッチした2色構成をデッキを用いていた。
3ターン目の狐怪人はここでリソース加速を行い手番を終える。これで4枚目のリソースを確保したかたちだ。次のターンでのリソースは5枚目に達し、そこでユニットを展開できればジゴクキュウビの降臨の準備が整う。
(コズミックカード……ジゴクキュウビか)
多喜は盤上に置かれた相手のコスモゾーンへと視線をやった。
『侵略妖狐・ジゴクキュウビ』
コスト5。パワー9000
『【降臨条件:《獣魔》&コスト4以上】/降臨条件を満たす自分のユニットがアタックしたとき、このユニットのコストを払ってよい。払ったら、コスモゾーンにある表向きのこのカードをそのユニットの上に重ねて登場させる。
フィールドのこのユニットが場を離れるとき、このカードは裏向きでコスモゾーンに置かれる』
『このユニットが場にいる間、相手のユニット全てのパワーを−5000し、パワー3000以下の相手のユニットすべてはアタック/ブロックできない』
『自分のターン中、相手は手札のカードを使うとき、1ダメージ受けなければその効果を発揮できない』
――盤面全体のユニットのパワーを下げた上で、アタック/ブロックにまで制限をかけてくる、きわめて強力なユニットだ。
これに『魔炎のヘルヴォルペス』までもが並んでしまえばもはや手が付けられなくなるだろう。実質的に1コストでパワー10000までのユニットがバウンスされるようになるのだ。完成盤面での敵の制圧能力は極めて高いと言える。
(結構強いな、コイツら……)
多喜の内心に焦燥が生まれる。
返すターンで多喜は4コストを支払い、手札から『近衛兵士長 オリハルド』を盤面へと立てた。パワー5000。『自分のコスト4以下の銀のユニットすべては相手の効果で場から手札/山札に戻らない』――小型のユニットへとバウンス耐性を与えるカードだ。
これによってヘルヴォルペスの能力による手札へのバウンスはある程度回避できるようになったが、パワーを低下させてくる能力への対応は困難なままだ。多喜は考えあぐねる。
(……いや、待てよ?)
しかし、ここで多喜ははたと思い出した。
今回から投入した、彼女の新たな切り札の存在を!
(“あれ”なら、対処できるはず……!)
「……どうした?」
「……いや、なんでもないよ。ここでターンエンドさ」
呼びかける狐怪人の声に、多喜は一旦思考を打ち切る。
返すターンに狐怪人は盤面へとユニットを展開してターンを終えた。――これでジゴクキュウビ降臨の準備が整ったかたちだ。盤上に緊張が張り詰める。
再び巡る手番――多喜はここで、戦局を変えるための一手を打つ。
「アタシのターン……リソースに1枚カードを加え、そこからメインフェイズは何もせずスキップ。……さあ、ここでバトルフェイズだ。覚悟はいいかい!」
「覚悟だって……?フン。まだダメージの1点も与えてないのに、よくもまあそんなことが言えるね」
「ああ、言ってやるさ。なにしろこいつは今回が初お披露目になるからね――じゃ、行くよ!バトルフェイズ、オリハルドでアタックだ!」
多喜はこのバトルフェイズでアタックを宣言した。指令に応じて、戦場に立つオリハルドが駆ける!
「何かと思えばただアタックに入っただけじゃないか。そんなことで――」
「いいや、驚くのは今からさっ!……アタシはここで、銀を含む5コストを支払い――コスモゾーンを解放するっ!!」
――そして、多喜は降臨を宣言する!
「なに……ッ!!」
「コズミックカードの降臨だ!来いッ!『大要塞将軍 ジェネラル・フォート』っ!」
『大要塞将軍 ジェネラル・フォート』
コスト5。パワー10000
『【降臨条件:《鋼鉄皇帝軍》&コスト4以上】/降臨条件を満たす自分のユニットがアタックしたとき、このユニットのコストを払ってよい。払ったら、コスモゾーンにある表向きのこのカードをそのユニットの上に重ねて登場させる。
フィールドのこのユニットが場を離れるとき、このカードは裏向きでコスモゾーンに置かれる』
『自分の《鋼鉄皇帝軍》すべてのパワー+2000し、更に、自分の場の銀のフィールド1枚につき、パワー+1000』
『自分の《鋼鉄皇帝軍》のユニットが相手の効果の対象になったとき、自分のフィールド1枚を[行動済]にしてよい。そうしたとき、その効果を無効にする』
――コズミックカード!
それは、盤外領域であるコスモゾーンから場のユニットの上へと降臨する強力なユニットカードのことである!ルールとしてゲームシステムに組み込まれている以上、当然、敵だけが使えるというものではない。多喜はこの戦いに備えてこのカードを用意していたのだ。
大要塞将軍ジェネラル・フォート――自軍ユニットの全体的なパワーパンプと相手の能力による干渉の抑制を併せ持ったコズミックカードだ。そのパワーが堅牢さを示す!
「なん、だとォ!?」
狐怪人は目を剥いた。――ジェネラル・フォートのパワーは現時点で実質13000。返しのターンでジゴクキュウビを出してパワーを落としてもなお8000という数値をもつ。更に、ビルドポリスのフィールド効果によってブロック時は更に+1000を加え、ジゴクキュウビのパワー9000に並ぶのである!
「まずい……ッ!」
状況が、変わった。狐怪人がぎりと歯を噛み鳴らす。
奴め、こんな隠し玉を用意していたとは!――これでは、ジゴクキュウビを降臨させても制圧しきることができない!
「――このアタックは!」
「通す、ッ!」
刹那の思考。狐怪人はこれを敢えて受けた。ブロックを宣言してしまえば、パワー負けする自分のユニットが破壊される結果に終わるからだ。
突き進むジェネラル・フォートのアタックが、狐怪人へとダイレクトダメージを叩き込んだ。
「ぐお……ッ!」
「アタシはこれでターンエンドだよ!」
――そして、大要塞が聳え立つ。
ここからの戦況は、多喜が狐怪人をリードしながら進む展開となる。
返すターンで狐怪人は切り札であるジゴクキュウビを降臨するも、ジェネラル・フォートのパワー上昇能力が狐怪人のユニットのもつパワーダウン能力と拮抗し、実質的にその妨害手段を克服していたが故である。
「馬鹿な……!」
「……どうしたのさ。“格の違い”を見せるんだろう!」
更に巡る手番!多喜はここから更にフィールドとユニットの展開を進める。――ここで登場したのは、『迎撃隊長ストライバ』!コスト4。パワー6000!『相手のバトルフェイズ開始時、相手のユニットを1体選び、相手はそのユニットでアタックする』!多喜のデッキで長い間使われている、相棒と言ってもいいカードだ!
「む、ッ、う……!」
――そして、ジゴクキュウビはストライバの能力によってアタックを強要された上、新たなフィールドカードの展開によって更なるパワー上昇を遂げたジェネラル・フォートのブロック宣言によって返り討ちにされることとなる。
切り札を失ってしまったならば――あとは、早い。
狐怪人の崩壊した戦略と瓦解した盤面では、強固に組み上げられた多喜の盤面を突き崩すことはもはや不可能であった。
「どうやらそっちはもう打つ手がないようだね……なら、攻め込ませてもらうよッ!」
かくして、試合は最終ターンを迎える。
――多喜のアタック宣言に従い、盤上のユニットたちが狐怪人へと攻め寄せたのだ。それを防ぐだけの盤面と手札を、狐怪人はもはや持ち合わせていなかった。
「これで、終わりだ!」
「ら……ライフダメージッ!」
そうして、狐怪人のリソースエリアには決着を意味する5枚目のダメージが加えられたのであった!
「これで……ヴァンキッシュだ!」
「グアアアアアアーーッ!!」
決着!衝撃に弾き飛ばされた狐怪人がステージ上を転げまわり、断末魔めいた悲鳴をあげる!
――Vanquish!勝者、数宮・多喜!猟兵たちはここにまたひとつ勝利を刻んだ!
「ハア、ハア……く、クソッ!まだだ!」
「そ、そ→だよっ。まだあきらめてないもん!」
「つ、次こそ……次こそ、僕たちが勝つ!」
一方、カゲキマイラーズの3人はここまで重ねた敗北によってその力を失いつつあった。
しかし――手負いの獣を侮ってはならない。敗北を繰り返した彼らは更に決死の覚悟でカードバトルを挑んでくるだろう。
戦いは、佳境へと入りつつあった。
成功
🔵🔵🔴
惑草・挧々槞
TCGのイベントがあると聞いて。
ふむ、ヴァンキッシュ。初見でも平気かしら?
まずルールサマリー付の商品を買うとして……周囲の方々に強い構築済デッキ情報とか訊ねましょうか。
私的には歌とダンスで魅了する♡色に興味があるわね。別ゲーでコントロールデッキの習いが多少あるし、それ系なら重畳。
後は見た目が好みなカードにサインを頼んで、と。
対よろ。ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!
スペル打消し『機材トラブル!』や各種効果対象を変更する『スポットライト』等のスペルでカットインしつつ、隙を見て《酷映放送》を使いましょう。
配信業を営むなら黒歴史も多そうよね。クソつまんないボツ動画の事とかを思い出して身悶えるがいいわ。
――喧騒の続く中。
「TCGのイベントがあると聞いて」
グリモアの光に導かれ、惑草・挧々槞(f30734)はいまだ混迷の渦中にあるイベント会場の中へと降り立った。
挧々槞はカードバトルについて高い適性を持つ猟兵のひとりである。
以前のカクリヨの戦いの際に公開されたTCG・デュエリストブレイドの複雑なルールにも適合し、更に今回の事件の首謀者である悪の組織・『堕悪苦TCG』の元々の首領であった忌火起・レッカその人と戦い、そしてバトルを制した経験も持ち合わせている。
「……ふむ」
挧々槞は思案気にしながら、会場内をゆっくりと歩く。
「ヴァンキッシュ……初見でも平気かしら?」
掲げられた様々な広告に目を遣り、挧々槞はこの会場においてプレイされているTCGが『Vanquish!』であるということ――彼女にとって未知のTCGであることを理解する。
「まずルールサマリー付の商品を買うとして……」
挧々槞はまず戦いのルールへと理解を深めるべく、物販スペースへと足を運んだ。
――基本的に、多くのTCGにおいてはスターターデッキ・構築済みデッキの付属品として説明書やクイックスタートガイド――ルールの解説書が付属している。挧々槞はまずそれを入手することで怪人とのヴァンキッシュに備える心算であった。
これはカードバトルに挑む猟兵の模範的な姿であったといえよう。如何にユーベルコードによって困難を突破できる猟兵であっても、礼儀と作法に則った戦いができるか否かというのは個々人の資質によって大きく異なってくる。
時として常識を踏み越えることで事態を解決へと導く猟兵も少なからず存在してこそいるものの、少なくとも今回の案件に携わる上でカードバトルのルールを理解し、郷に従おうとする彼女の姿勢はまさに規範であった。
「お前は……新人か?」
そして――そのような初心者を見るにつけてはその世話を焼こうとするベテランプレイヤーが現れるのは、多くのTCG界隈において頻発する現象である。
「……ええ、そうよ。ここで怪人が暴れてるって聞いて……やっつけにきたの。……この、ヴァンキッシュで」
突如話しかけて来た目つきの鋭い男へと、挧々槞は物怖じすることなく答えた。
「怪人……ということは、猟兵か。……なるほど、それなら合点がいく。TCGの習いは?」
「デュエリストブレイドと、他のゲームもいくらか」
「いいだろう。カードバトルの経験者なら、このヴァンキッシュのルールは呑み込みやすいはずだ」
「オススメのストラクはある?」
挧々槞は物販スペースに並べられた構築済みデッキを端から睨みながら、男へと尋ねる。
「趣味と傾向は?」
「……私的には、♡色に興味があるわね。別ゲーでコントロールデッキの習いが多少あるし、それ系なら重畳」
「丁度いい。なら、『マスタークラスデッキ:鼓動爆奏(トキメキフルドライブ)!』がいいだろう。……ブースターパック『トキメキクライマックス!』のカードも強力だ」
男は物販スペースに並んだ構築済みデッキからひとつのパッケージを選び取り、そして挧々槞へと投げ渡す。
「助かるわ。――ああ、そうそう。ついでなんだけど、イラストレーターさんってここに来てる?」
「向こうの方だ。……頼んだぞ、猟兵」
「ええ。任せて」
かくしてデッキを手にした挧々槞は、颯爽と会場内を歩きだしたのであった。
――そして、十数分後のことである。
「――ナめてんじゃねえッ!!」
ステージ上ではいまだ負けを認めていないカゲキマイラーズの面々が気炎を吐いて周囲の人々を威嚇していた!
「負けたじゃねーか!!」
「いい加減すっこめー!」
「きこえな→い!」
オーディエンスからの文句にも耳を塞ぎ、怪人たちが高笑いする!
「……」
しかし、そのとき――ステージ上に新たな挑戦者がその姿を見せる!
「……」
「……!また猟兵か!」
ぎょっとする狼少年が目を剥いた。挧々槞は涼しい顔でそれを流して、静かにステージ上のスタンディングヴァンキッシュテーブルへとつく。
そして――
「対よろ」
挧々槞は至極当然のように、テーブルの向こうへと見据えた怪人たちへと戦いを挑んだのである。
「……!」
――その言葉を向けられた以上、カードバトル怪人は戦いから逃れることは不可能だ。
その視線に捉えられた狼少年は、ぎりと歯を噛み鳴らしながらテーブルへと向き合った。
「真正面から俺にケンカ売る気かよ……上等だ!なら、相手ンなってやるッ!!ゲットレディ!」
「「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!」」
かくして――ようやくここで本題へと移る。
公式ルールに則ったじゃんけんで先攻を取ったのは挧々槞であった。
しかして、リソースの揃わない最序盤においては挧々槞も狼少年もリソースを置いてターンエンドする展開が続く。
最初の一手が打たれたのは先攻の4ターン目。挧々槞の手番である。
「私のターン。ドロー。リソースにカードを加えてメインフェイズ。4コストを支払い、手札から『パッションビート・マナ』を出撃よ」
『パッションビート・マナ』
コスト4。♡。《アイドル♡/トキメキ!》パワー6000。
『このユニットがアタックしたとき、次の相手のターン終了時まで、相手の場に[アリーナエリア]を発生する。([アリーナエリア]のユニットはアタックできず、[カットイン]能力を使えない)』
『このユニットがアタックしたとき、相手の場に[アリーナエリア]があるなら、このユニット以下のパワーをもつ相手のユニットを1体まで選び、[アリーナエリア]に置く。その後、[アリーナエリア]にユニットがいるなら、ターンに1回、このユニットを[未行動]にする』
「なに……!?アリーナ!?」
知らない能力!狼少年はぎょっとして叫ぶ!
「……このゲームのルールは、ダメージが相手のリソースになる。なら――このターンは、このまま」
しかしてその一方で挧々槞は冷静であった。ヴァンキッシュのルールにおいては、与えられたダメージはリソース一点分として機能するようになる。序盤から中盤にかけての流れの中では、コスト1点が勝負を大きく分けるというのは多くのTCGにおける常識だ。挧々槞はアタックせずにターンを終える。
返す手番、狼少年4コストを支払って『獣姫の下僕・ミッグ』を手札から出撃。ドロー能力で手札を稼ぎターンを終える。
続くターンで挧々槞は手札からフィールドカード『トキメキ☆オンステージ』を展開する――
『トキメキ☆オンステージ』
コスト5。♡の場に置いて効果を発揮し続けるフィールドカードである。
『自分のバトルフェイズ開始時、相手の場に[アリーナエリア]がなければ、自分は手札を1枚破棄してよい。そうしたとき、相手の場に[アリーナエリア]を発生する』!
『自分のターン中、自分の《トキメキ!》のユニットが3体以上いるなら、自分のユニットすべては相手の[アリーナエリア]のカードの効果を受けない』!
「……私はこれでターンエンド」
挧々槞はこのターンもアタックせず手番を終える。
「ちッ……まどろっこしい真似をしやがって。……だが、ここまでだ!」
そして巡る次のターン!ここで狼少年は獣めいてその口の端を歪めながら、バトルフェイズへと突入する!
「ブッ潰してやるッ!!俺は場のミッグでアタック!そしてコスモゾーンを開く!」
――降臨ッ!
狼少年は5コストを支払うことでコスモゾーンのユニットを掴み取り、そしてミッグの上へと叩きつけるように重ねた!
咆哮――!!闇を切り裂いて爪牙が光る。いまここに降り立った死の魔獣は『侵略虚狼・ゼロヴォルフ』!
「[カットイン]は!」
「ないわ」
「なら、俺はゼロヴォルフの[カットイン]を使う!ゼロヴォルフは相手のパワー8000以下のユニットを破壊する能力をもち、これによってユニットを破壊したならアンタップする!」
「……!」
疾る爪の一撃!『パッションビート・マナ』がこれによって破壊され、ゼロヴォルフはアンタップする。これによってブロックを行えるユニットを失った挧々槞はライフダメージを受ける他の選択肢がない!
「ライフダメージ……く、っ!」
衝撃!叩き込まれるダメージの重みに挧々槞は苦悶しながら仰け反る。
「まだだッ!俺のゼロヴォルフはさっき起動した能力によって[未行動]になっている。もう一発叩き込んでやるぜ。アタックだ!」
追撃!再びフィールドを駆けるゼロヴォルフ。今の挧々槞にはこれを止める手段はない。2度目のアタックも躱す手立てなく、挧々槞は2点目のダメージを受け入れるほかなかった。
「はあ……ッ」
「俺はこれでターンエンドだ」
「……なら、私のターンね」
挧々槞は呼吸を整えながら視線を上げる。
ダメージの2点分が加わり、現在のリソースは7枚。挧々槞はここにリソースを1枚加え、そしてメインフェイズへと移行した。
「勝負は……ここからよ!」
――挧々槞はここで切り札を出撃する!
『ブレイヴビート・アイ』
コスト7。♡。パワー10000。《アイドル♡/トキメキ!》
『相手のターン終了時、相手の場の[アリーナエリア]は解除されない』
『このユニットがアタックしたとき、自分の《トキメキ!》のユニット1体につき1体まで相手のユニットを選び、[アリーナエリア]に置く』
『相手のユニットがアタックしたとき、2コスト払ってよい。そうしたとき、相手のアタックしているユニットを1体まで選び、[アリーナエリア]に置く』
イラストレーターのサインを描いた輝くその一枚は、『鼓動爆奏(トキメキフルドライブ)!』に収録されたハイエンドレアカードだ!
「……なんだとッ!?」
「アタックフェイズ開始時、フィールドカード『トキメキ☆オンステージ』の効果を発揮して[アリーナエリア]を発生するわ。そしてブレイヴビート・アイでアタック!」
そして盤上はステージと化す。舞台に降り立つアイがギターをかき鳴らし、そして激しくシャウトした。
「ぐおおおおッ!?」
「あなたのゼロヴォルフがもつ『効果を受けない』は、自分がアタックしているときの能力……今は、使えない。アイのアタック時能力によって、ゼロヴォルフをアリーナへ」
ゼロヴォルフはアイの奏でるサウンドに引き摺り込まれ、客席――アリーナエリアへと誘われた!
「ら、ライフダメージッ!」
直撃!アイのアタックによって狼少年にダメージが叩き込まれる!
「私はこれでターンエンド」
「ぐ、ッ……!お、れの、ターン!」
そうして、巡るターン。
狼少年のこめかみにじわりと汗が浮かぶ。
切り札であるゼロヴォルフはアリーナに放り込まれ、アタックのできない置物になってしまった。
そしてこの手番――狼少年は、この盤面を切り返す切り札を手にすることができなかったのだ。
「……可哀想にね」
「なに……!」
懊悩する狼少年を見下ろすようにしながら、挧々槞はひどく酷薄に呟いた。
「あなたはずっとそうなんでしょう。大事なときに大事なものを掴めない。……配信業を営むなら、思い出したくもない失敗もあるでしょう?」
「て、めぇ……!な、なんの話だ!」
「あなたはいつもそう。だからどんなにがんばっても『いいね』なんかもらえたことがない……あなたは『掴める』ヴァンキッシャーではないから」
「……!」
不可視の衝撃が狼少年を貫いたのはその瞬間であった。
抉り出すような精神の激痛。魂を苛む心的爆撃に狼少年はいっとき呼吸さえもを止めながら悲嘆に喘いだ。
「……勝負あったようね」
狼少年が状況の悪化に揺らいだその瞬間、精神を貫く挧々槞のユーベルコードが彼の心を砕き、へし折ったのだ。
こうなってしまえば、もはやカゲキマイラーズ側に勝機はない。
消化試合めいて続くターン、精彩を欠く狼少年のプレイングを前に挧々槞は圧倒的な実力差を見せつけ、そしてその勢いのままにラストターンまでを駆け抜ける!
「これで、ヴァンキッシュ」
「グアアアアアーーーッ!!」
かくして叩き込まれる最後のダメージ!悲鳴をあげて狼少年がステージから転げ落ちる!
Vanquish!勝者、惑草・挧々槞!
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ネームロスト』
|
POW : インストール
戦闘中に食べた【物体をデータ化させ、データ】の量と質に応じて【身体に反映】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : キャッシュクリア
【ケーブルを模した触手】による素早い一撃を放つ。また、【所有するデータを廃棄もしくは圧縮】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : フリーズ
【ケーブル状の触手】から【撒き散らすように体内に溜め込んだデータ】を放ち、【それを見たり聞いたりした者は情報過多】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:傘魚
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ラモート・レーパー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「お、覚えていろ、猟兵どもっ!」
「この借りはかならず返すからねっ!」
――敗北を重ねたカゲキマイラーズが、捨て台詞を吐きながら尻尾を巻いて逃げてゆく。
オブリビオンとの戦いはここに決着した。
ここからは本来のイベントであるヴァンキッシュフェスタが再開され、集まった人々が熱いカードバトルを――
「だめ」
――ザザ、ッ。ザッ。
ザ――――――
――不可解なノイズが会場に満ち溢れたのは、その時であった。
「……わたしは、まだ『満たされて』ない」
ざりッ。
ノイズの中からその姿を現したのは、ノイズ混じりの躯体を揺らすバーチャルキャラクター――であったと思われる、なにものかであった。
残滓であった。抜け殻であった。虚の者であった。
「わたしは『××××××』。猟書家、忌火起・レッカの意志をつぐもの。……さあ、猟兵たち……バトルしよう。わたしと、このヴァンキッシュで」
……虚の者が、デッキを掲げる!
そこに輝くカードは、『虚空よりの来訪者 アストラバスター』!
コスト7。パワー11000。《虚滅/来訪者》……虚属性のユニット!
『このユニットは、自分の場のユニットを1体をゲームから除外することでコスト4として出撃できる』。
『このユニットは相手の効果で場を離れない』。
『このユニットのアタックがブロックされたか相手のライフを減らしたとき、相手の場のユニットを1体選びゲームから除外する』。
3つの強力なテキストを兼ね備えた虚のエースである!
しかし、今回彼女が用いるエース級のカードはこれのみにとどまらない。
『絶望の夜空』
3コスト。フィールド。虚属性。
『【ターン1回】自分のユニットがアタックしたとき、自分は手札を1枚捨ててよい。そうしたとき、自分はコスモゾーンのカードを1枚選び、そのユニットの降臨条件を満たすアタックしているユニットの上にコストを支払わず降臨する』!
『アルティメット・アイン』
コスト10。パワー100000
『【コズミック】/このカードはゲーム開始時、コスモゾーンに置く』。
『【降臨条件:『侵略』&コスト7以上】』
『このユニットが登場したとき、相手は以下のうちから一つを選び、そ選んだ効果を受ける。
『1.自分の場のカードを1枚まで選び、そのユニット以外のカードを全てトラッシュに置く。この効果は『効果を受けない』と『選ばれない』を無視して発揮され、1枚以上トラッシュに置けない場合はこの効果を選べない』
『2.自分のダメージが4枚になるまでダメージを受ける。ダメージが既に4点なら、1ダメージ受ける』
『3.自分の手札を1枚選び、それ以外を全て破棄する。その後、自分の山札を3枚になるまで破棄する』』
『アルティメット・ゼロ』
コスト0。パワー0。
『【コズミック】/このカードはゲーム開始時、コスモゾーンに置く』。
『【降臨条件:『アルティメット』&コスト10以上】』
『このユニットが登場したとき、このユニット以外のお互いの場のカードすべてとお互いの手札すべてをトラッシュに置き、その後、相手の山札のカードすべてをトラッシュに置く。この効果はいかなる効果でも防げない』
……彼女が用いるのは、強力な効果をもったアストラバスターが中心の『虚』デッキに、虚無と滅びの化身たる『アルティメット・ゼロ』を合わせた凄まじい強さのデッキだ!このほかにも強力な除去能力と耐性を兼ね備えたコズミックカードである『滅びの侵略 シン・アストラバスター』などのエース級ユニットを揃えて猟兵たちへと襲いかかる!
だが猟兵たちよ、君たちはキマイラフューチャーの平和と健全なゲーム環境のため、この戦いを制さねばならない!
夢幻・天魔
ククク……なるほどな
これほどの相手ならば、俺も本気を出さねばならぬようだ
適当なゴッドペインターを捕まえて、最強に格好いい俺のイラストを描いて貰い、それをカード化するぞ
フッ、相棒と共に並び立つのであれば、この俺もカードになる必要があるだろう?
俺のカードは、ゲーム開始時に特殊召喚される
しかし、その攻撃力は1000
このカード以外の如何なる効果も受けず戦闘で破壊されることもない代わりに自分も攻撃不可だ
まあ、無数の封印に縛られているから仕方ないな
様々な条件によって封印は解かれていき
全ての封印が解けた時、俺は真の姿を表す!
そして友(黎明のル・サイファー)を特殊召喚
二体が揃った時……特殊勝利で俺の勝ちだ!
「さ……あそぼう」
――虚無の化身が、うつろな顔で微笑みかける。
それと同時に励起する膨大な虚の力。――展開するカードバトル空間は、モノトーンの色に覆われた白い宇宙!
そこに浮かぶようにヴァンキッシュボードが猟兵たちや××××××の前へと現れる。
彼女が望むのはただひとつ――身を焦がすような熱狂を、極大のエモーションをもたらす熱いヴァンキッシュだ!
「ククク……なるほどな。これほどの相手ならば、俺も本気を出さねばならぬようだ」
夢幻・天魔(f00720)は、それに対峙しながら不敵に笑んだ。
「いいだろう。この俺が相手になってやる」
「うん。……たのしみだね」
進み出る天魔へと××××××は笑いかけ、そしてその手にデッキを握った。
戦う意志をもったヴァンキッシャー同士が対峙したならば、これ以上の言葉は必要ない。
この先の全ては盤上に於いて、ただカードのやり取りのみで交わされる!
「じゃ、やろう。――ゲットレディ」
「「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!」」
そして戦いは始まった。
公式ルールに則ったじゃんけんによって先手を取ったのは天魔であった。
「俺のターン……だが、その前に!」
「……?」
ここで天魔は山札から一枚のカードを探し、そしてそれを盤上へと置く。
『封じられし闇の翼・天魔』
コスト99。パワー1000。黒のユニットカード。《猟兵/闇黒》
『[制限]このカードはデッキに1枚までしか入れられない』
『ゲーム開始時、このカードは自分の場に置く』
『このユニットは、このカード以外のすべての効果を受けず、アタック/ブロックできない』
『下記のいずれかのとき、山札の上から1枚をこのユニットの下に置く
1.自分のターン終了時
2.自分がダメージを受けたとき
3.自分のユニットが場を離れたとき』
『場のこのユニットの下のカードが13枚になったとき、このユニットカードを裏返す』
「――俺はこのカードの効果によって、俺自身を特殊召喚する!」
「へえ……。おもしろいね」
ここに現れし一枚のユニットは、夢幻・天魔その人を描いた1枚のカードである!
天魔はこの戦いに備え、会場のゴッドペインターをひとり捕まえてカード作成を依頼したのだ。――むろん、キマイラフューチャーにおいて猟兵はヒーローである!この会場の人々も怪人の魔の手から救われたところだ。依頼を受けたゴッドペインターは快くOKし、こうして最強にカッコいい天魔のオリカを描いてくれたのである。
「フッ、相棒と共に並び立つのであれば、この俺もカードになる必要があるだろう?」
「相棒と共に……。……うん。……そうだね。それ、すごくいい」
恰好を付けて不敵に笑う天魔の姿に、××××××は屈託ない笑みを見せた。
「でも、……負けない」
しかして――その躯体は、鋭く戦意を纏う。
天魔は初手においては手札から1枚をリソースを置いてターンエンドするにとどまる。
「俺はこれでターンエンド。これに伴って『天魔』の下にカードを入れるぞ。……さあ、我が翼よ。闇を宿せ」
返す手番、××××××も同じくリソースを1枚増やしエンド。2ターン目も同様に天魔はリソースを置くのみである。ターン終了に伴い、天魔は『天魔』の下へとカードを加える。
動き出したのは、××××××の2ターン目である。
「『虚獣ヴォイガー』……虚の2コストで、出撃」
『虚獣ヴォイガー』
虚属性の2コストユニットである。パワー1000。《虚滅/来訪者》
『このユニットが手札から戦場に出たとき、自分は山札の上から4枚までを見て、その中から《虚滅》のユニット1枚を選び、相手に見せてから手札に加える。残ったカードは破棄する』
――虚属性のサーチカードである。ここで××××××は『宇宙の聖灰』を手札に加えた。
『宇宙の聖灰』はコスト1の《虚滅》のユニットである。『このユニットはアタックできない』というデメリットを持つが、『自分が《虚滅》のユニットを手札から出撃するとき、このユニットを墓地に置くことでそのユニットのコストを−2する(1以下にはならない)』――という展開補助能力をもつ優秀なサポートカードだ。
「わたしはこれでエンド……」
「俺のターン。リブート、ドロー。リソースフェイズに俺は1枚リソースを加えメインだ。俺は3コストを支払い、手札から『不死者カルミナ』を出撃する!」
『不死者カルミナ』
コスト3。黒のユニット。パワー3000。《貴種》。
『このユニットが相手の効果で場を離れるとき、かわりに、このカードを手札に戻せる』
――除去対策ユニット!破壊やデッキへのバウンスといった効果による除去を手札へのバウンスへと変えるユニットだ。アストラバスターの除外能力にも対応している。
「俺はこれで『天魔』に3つめの闇の力を加えてターンエンドだ」
「……じゃあ、わたしのターン」
そして再びターンが巡る。
××××××のリソースはこれで3枚目。場には虚獣ヴォイガーが存在する。
「1コスト支払い、わたしは聖灰を出撃……。それから」
ここで、××××××は嗤った。
「手札のアストラバスターの能力を発揮……」
「なに……!?」
『虚空よりの来訪者 アストラバスター』は、自分の場のユニットを除外することによってコスト4として出撃できる。しかし、××××××の[未行動]リソースはあと2枚。捻出できるのは2コストまでのはずだ。
「わたしは更に場の聖灰を墓地に置くことで、アストラバスターの出撃コストをもう2点軽減するの……これで、アストラバスターは2コストで場には出ることができるわ」
「ッ……!」
その瞬間、虚空が裂けた。
開かれた虚数空間から染み出す異形は、ヒトに似た四肢をもちながらも歪なカタチをもって顕現する。
虚空よりの来訪者、アストラバスター。タイアップアニメ版『Vanquish!』のファーストシーズンのクライマックスで使用された暗黒ヴァンキッシャーの切り札である。現環境でもいまだ通用する強力なカードパワーとカードイラストのかっこよさから人気の高い一枚だ。
「バトルフェイズ……いって、アストラバスター」
××××××はそのままアタックを宣言する。天魔の場にはブロックができない『天魔』と、パワー3000のカルミナのみ。
「なるほど……素晴らしい戦略だ。ヴァンキッシャーとしての実力は本来の猟書家に比しても遜色ないだろう」
天魔のこめかみにじわと汗が滲む。……こんな序盤に、あのような強烈なユニットを叩きつけてくるとは。
「……ブロックはしない。ライフダメージ!」
虚の戦騎が戦場を駆ける!空間跳躍!天魔の眼前へと迫ったアストラバスターが、鋭くダメージを叩き込む!
「グア……ッ!」
ライフダメージ!衝撃に天魔が呻く!
しかし、敵の攻め手はこれだけではない!
「アストラバスターが相手にダメージを与えたとき、あなたのユニットを1体除外する……」
爆ぜる虚無の力――!アストラバスターの除去能力だ!その力が天魔の場のカルミナを捉え、盤上から消し飛ばす!
「……だが!」
しかし、それこそが天魔の望む状況である!
「ダメージを受けた時!そして俺のユニットが場を離れたとき!それぞれ1回ずつ俺の能力が発揮される!」
「……!」
盤上の『天魔』がその能力を発揮した。ダメージと除去。これに反応して、『天魔』はその内へと闇を溜め込む。これで盤上の『天魔』の下には5枚目のカードが重なった。
「更に、カルミナの効果が発揮される!相手によって場を離れる時、このカードが我が手札へと戻るのだ!」
更に、不死者カルミナは効果によって天魔の手札へと返る!これにより、カルミナは次の手番での再出撃が可能だ。不死者の名に相応しい能力である。
「へえ……。やるね、きみ。……ターンエンド」
「フッ。我が目をもってすれば、この程度の展開を見通すのも容易いことだ。そして俺のターン!」
かくして、天魔へと手番が渡る。
天魔はここでリソースを増やし、そして再びカルミナを展開。そして6枚目のカードを『天魔』の下へと加えてターンを終えた。
一方、続くターンで××××××はコスモゾーンよりシン・アストラバスターを降臨する。これもまた強力な除去能力と耐性を備えた凄まじいパワーカードだ。××××××はシン・アストラバスターの能力によって再び天魔の場のカルミナを除去――一方、天魔は再びダメージを受ける。これによって、『天魔』の下のカードが8枚へと達した。
更に返すターン――このターンで、天魔のリソースは2点のダメージを含めて7枚目に届く。
「……」
ここで天魔はやや思案し――みたび『不死者カルミナ』を、そして『ソウルクラッカー・デーモン』を出撃させた。
ターンを終え、『天魔』の下に重なるカードはこれで9枚を数える。
「……そろそろ、はじめよっか」
ここで返す手番――――××××××は、ノイズ混じりの笑い声を鳴らす。
「私はここで、フィールド『絶望の夜空』を展開するよ」
――『絶望の夜空』。
それは、コスモゾーンのユニットが降臨するために支払わなくてはならないコストを踏み倒すカードだ。
「やはり、そうくるだろうな」
天魔は××××××の盤面を見下ろしながら目を細めた。
――盤面に居座るのは『滅びの侵略 シン・アストラバスター』。敵の切り札である『アルティメット・アイン』の降臨条件を満たすカードだ。
「うん――いくね、バトルフェイズ」
××××××がシン・アストラバスターでアタックを宣言する――アタック時能力によって××××××は天魔の場のソウルクラッカー・デーモンを除去。そして続けざまに『絶望の夜空』の効果で手札を切り、コスモゾーンを開く。
「さあ、見せてあげる――これが、最高の……究極のヴァンキッシュ」
その時、空間が歪んだ。
渦巻く星雲の中に激しい光が爆ぜる。砕け散る星光。宇宙を奔る電光が激しく暴れ、そして宇宙に穴を穿った。
――そこから姿を覗かせたのは、おお、見よ。究極(アルティメット)である。星を開闢せしもの。あまねく生命の原初――“一”なるもの、アルティメット・アイン!
「『絶望の夜空』の効果でコストを踏み倒し……シン・アストラバスターの上に、アルティメット・アインを降臨」
戦場に、神が降りる――!激しく広がる光のエネルギーがうねって暴れ回り、天魔を灼き焦がした!
「くっ……!なんという力だ!」
「アインの登場時能力……さ。選んで」
――アルティメット・アインは登場時、3つの効果のうちひとつを相手に選ばせて発揮する能力を持つ!
「くっ……ならば、ダメージだ!」
天魔はここでダメージを受けることを選んだ。――有無を言わさず叩き込まれる2点のダメージ!これによって天魔のダメージは4点に達する!
「なら……このアタックは」
そして――この時点でアルティメット・アインはアタック中の状態である。この攻撃を止められなければ、天魔は5点目のダメージを受けて敗北することとなる。
「……不死者カルミナでブロック!」
天魔はここでブロックを宣言する。――アインのパワーは100000。到底かなう数値ではなく、カルミナはバトルに負けてトラッシュへと置かれた。
××××××のターンはここで終了する。
――しかし、次に彼女へとターンを渡したならば、そこで××××××は最後の切り札であるアルティメット・ゼロを降臨し、すべてを無に帰すだろう。――戦いは、それで終わりだ。
「……」
すなわち、天魔はここで渡されたこの最後の手番で勝利をつかみ取らねばならなかった。
だが、天魔の場には『天魔』がただひとり立つのみ。そして××××××のダメージは――いまだ0。
この盤面は――絶望する状況、というほかにないだろう。
「フッ」
しかし、天魔は嗤った。
「我が力を侮ったな……この勝負、俺の勝ちだ!」
「……へえ」
天魔はここで高らかに宣言する。
「見るがいい!我に宿りし闇の翼は既に12枚に達した!」
そして彼が示したのは――盤上の『天魔』である。――そう、先の攻防で2体のユニットを失ったことと効果によってライフダメージを受けたことによって、この『闇の翼』は12枚を数えていたのだ。
「俺は此処でなにもせずターンエンドを宣言する――するとここでターン終了時、俺の能力によってここに最後の――13枚目の闇を灯す!」
――13枚!遂に『天魔』の下のカードがその目標枚数へと到達する!
『場のこのユニットの下のカードが13枚になったとき、このユニットカードを裏返す』――!それがこのカードに描かれたテキストである。
「さあ、刮目して見よ――これが俺の、真の力だッ!!」
そして――天魔がカードを裏返す!
『究極救世主(アルティメットメサイア)・天魔』
コスト72。黒のユニットカード。パワー25000。《救世》
『このカードがこの面に裏返ったとき、このカードを『封じられし堕天の穢翼』としても扱い、自分の山札/手札/トラッシュから『黎明のル・サイファー』を1枚まで探し、コストを支払わず場に出す。そうしたとき、自分はゲームに勝利する』
「……特殊、勝利!?」
「来たれ我が友!『黎明のル・サイファー』!」
その時、戦場を輝ける闇が満たした。
――かくしてここに立つのは、すべての封印を解かれ真なる力を見せる究極の救世主・天魔と、その友としてともに在る黎明のル・サイファーである!
「俺と我が友ル・サイファーが揃った時……特殊勝利で俺の勝ちだ!」
天魔はここに勝利を宣言する――これが、決着の瞬間だ!
「あ、っははは……そんなの、あり?……ううん、『アリ』だね……あはは。たのしい、ね」
見事な特殊条件勝利だ。××××××は予期しなかった決着に、ノイズ混じりの笑い声をおおいに響かせた。
「うん。いいよ。……きみの、ヴァンキッシュ!」
――Vanquish!勝者、夢幻・天魔!その勝利を、対戦相手である××××××が称える!
「フッ。貴様もなかなかの腕だった」
天魔は××××××とかたく握手を交わし合う――猟兵とオブリビオンという相容れない者同士であっても、こうしてヴァンキッシュすることで心を交わすことができるのだ。
「……でも、まだ。……もっと、もっとほしい。この気持ち。もっと」
しかして、××××××はまだ満足しきったわけではなかった。
××××××は周囲一帯を見渡して、猟兵たちへと視線を向けながら笑いかける。
「……さ、わたしと、ヴァンキッシュ……しよう」
そう――戦いは、続くのだ!
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
あらま、また懐かしい顔が。…この子も「覚えてる」のかしらねぇ?
アインが出てくる前に決着をつける…ってのは現実的じゃないわよねぇ。塹壕戦で遅延かけて、黄昏の聖域やルストーで夜空とバスターを止めて。アイン登場時にはダメージを選択。倒れなきゃ立派なリソースブーストよぉ?
今回の切り札は「大禍時の禁呪」。追加コストを支払うことでトラッシュから望む枚数のユニットを追加コスト以下かつ互いに異なるように戦場に戻す――たとえば3コスト払えば1・2・3コストを一枚ずつ戻せる、って効果ねぇ。
…ホント、嫌になるほど強力ねぇ。切札が割れてるからなんとか対策の立てようあるけれど。運営さん、良くバランス取れるわねぇ…
「……さあ。やろう。もっと――もっと、あつくして」
××××××は展開したカードバトル空間――“白い宇宙”にて、猟兵たちを待ち受ける。
「あらま、また懐かしい顔が」
――そこへ新たに踏み込んだ猟兵は、ティオレンシア・シーディア(f04145)である。
ティオレンシアはかつて関わったひとつの戦いを思い出す。
そう――それは、彼女がはじめてこの『Vanquish!』に触れた際の案件だ。
その時に相対したオブリビオンこそ、ネームロスト。
己が名すら持たぬ儚き存在でありながら、その魂の奥底に燃えるようなエモーションを求め、そしてティオレンシアたち猟兵に対峙したヴァンキッシャーである。
「……この子も「覚えてる」のかしらねぇ?」
ティオレンシアは細まった目の奥でゆらりと浮かんだ××××××の姿を見据え、そして僅かに首を傾いだ。
「……」
××××××は、ティオレンシアのその姿に首を傾ぎ――そうしてから、彼女の前へゆっくりと舞い降りた。
「……わからない、けど」
××××××がデッキを掲げる。ノイズ混じりのその表情の中に、ティオレンシアは喜色と期待、そして熱情の色を見た。
「あなたは――きっと、わたしをあつくしてくれる」
「……ご期待に添えるよう、つとめさせてもらうわぁ」
ティオレンシアは浅く笑みを浮かべて、向けられたその戦意へと向き合った。
「じゃ、始めましょ?――ゲットレディ」
「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ」
かくして――戦いが、始まる!
(……向こうは虚の展開サポートを併用して、早い段階で仕掛けてくる。アインが出てくる前に決着をつける…ってのは現実的じゃないわよねぇ)
ティオレンシアのヴァンキッシュは、相手の動きに備え、カウンターを叩き込むことで行動を鈍らせ、敵の戦術を機能不全に陥らせたところで叩くやり方をメインとしている。
であるが故に、彼女の繰るデッキは速攻で決着をつけられるタイプではないのだ。そう考えれば、アルティメット・アインが出てくる前に勝負を決めるというのは難しい。
(なら、徹底的に妨害かけていくしかないわねぇ)
ティオレンシアは思考を続けながらカードを繰り、盤面を挟んで××××××に睨みあった。
「わたしは手札から『宇宙の聖灰』を出撃してターンエンド……」
公式ルールに則ったじゃんけんによって先手を取ったのは××××××の側である。
現在は試合開始から3ターンが経過したところだ。ティオレンシアの3ターン目へと移り、手番を始めたティオレンシアはリソースにカードを加え、メインフェイズへと入る。
「あたしは3コストを支払い、フィールドカード『泥濘の塹壕戦』を設置……」
『泥濘の塹壕戦』――『お互いのユニットが場に出るとき、登場するユニットすべては[行動済]で出る』効果を持つフィールドカードだ。
――コスモゾーンのユニットを盤面へと降ろす『降臨』は、基本的には『降りる対象となるユニットがアタックを行っている』ことが条件となる。
そして××××××の主戦力であるアストラバスターはコスト軽減能力と強力な耐性を兼ね備えた、コスモゾーンからの降臨ギミックに最適なユニットだ。相手の理想的なムーヴとしては、早い段階からアストラバスターを場に出しつつ降臨コストを踏み倒せる『絶望の夜空』を展開し、続けてシン・アストラバスターからアルティメット・アインへと繋いで制圧する流れだろう。こちらの準備が整わないうちにそうされてしまえば、もはやひとたまりもあるまい。
しかして、『塹壕戦』の効果によって最初の起点となるアストラバスターを[行動済]にしておくことでそのアタックを止めることが可能なのだ。ティオレンシアはこれによって1ターンの猶予を得たことになる。
「これでエンドよぉ」
「……あっは」
××××××は、ティオレンシアのその展開に喜色を示した。
「たのしいね」
ざりざりと鳴るノイズに交じり、無邪気ですらある笑い声が零れる。
「えぇ。そうねぇ」
続く手番において、××××××は『絶望の夜空』を展開する。――アストラバスターの展開より、降臨ギミックのサポートカードを優先した、というところだろう。××××××はここで手番を終える。
返すターン。ここでティオレンシアは『グレイブドロー』を使用した。3枚ドローと手札の1枚破棄を行う黒のドロースペルだ。ティオレンシアはこれを使うのみで手番を終えてターンを渡す。
そして5ターン目――ここで××××××は手札よりアストラバスターを盤面へと降ろす。――しかして、塹壕戦の効果によってアストラバスターは[行動済]で盤面へと降り立つことになる。ティオレンシアの仕掛けた遅延戦術が“刺さった”のだ。
「……エンド」
「あたしのターン」
返す手番――ティオレンシアはここで再びグレイブドローを宣言した。カードを引いて1枚破棄し、それだけで手番を終える。
「……あっは」
6ターン目。××××××はリソースに6枚目のカードを加え、そして嗤った。
「じゃ、はじめよっか――」
このターン開始時のリブートフェイズで、アストラバスターは[未行動]になっている。このターンから、アストラバスターは問題なくアタックが可能だ。
そして、盤面には降臨をサポートする『絶望の夜空』――。状況は、××××××に傾いているかのように見えた。
「わたしはアストラバスターでアタック……。アタック時、『絶望の夜空』の効果を発揮……。これで、コストをしはらわないで降臨できるの」
××××××は宣言しながらコスモゾーンのカードを手にする。
「……いこ。アストラバスター」
『滅びの侵略 シン・アストラバスター』。――コスモゾーンからの登場を条件とすることで、アストラバスター以上に協力なテキストを持つようになった虚属性の切り札。
それが、盤面へと降りる。
アタック宣言を行い、アタック処理中であったアストラバスターを引き継いでシン・アストラバスターがアタック処理を継続するかたちとなって、シン・アストラバスターがティオレンシアへと攻め寄せた。
「ライフダメージ……!」
ざ、ッ!
歪む世界――!奇術めいた不可思議な空間歪曲がティオレンシアを圧し潰し、ダメージを刻み込む!
「これで、エンド」
「……あたしのターン」
口の端から漏れた血を手の甲で拭い、ティオレンシアは視線を上げる。
「あたしは――フィールド『黄昏の聖域』を展開するわぁ」
そして、切り返した。
『黄昏の聖域』。
――コスト6。非常に重いコストを要求するものの、それに見合って凄まじく強力なテキストをもった、ティオレンシアの愛用するフィールドカードの1枚だ。
その効果は――『お互いの場のこのカード以外の全てのカードの効果を無効にする』。
「……!」
ノイズまみれのヴェールの向こうで、××××××は目を剥いた。
「そのカードは……」
「ええ。これでそのアストラバスターの能力も――いいえぇ、それ以上に、その『絶望の夜空』の能力も無効よぉ」
――『絶望の夜空』の機能停止!
それこそがティオレンシアの狙いだったのである。
『絶望の夜空』が××××××のデッキにおいて果たす最大の役割は、アルティメット・アインの降臨に要する10コストの軽減に他ならない。
そのギミックが止められた今、××××××の戦術は大きく崩されていたと言えた。
(……とはいえ、こっちへの動きに振った分あたしも攻められないんだけどぉ)
「……」
ここでティオレンシアは手番を終え、××××××へとターンを渡す。
「たのしいね」
××××××は、微笑んだ。
――ここから少しの間、2人は睨みあった。
互いに攻めに回るには、決め手となる要素がなかったのだ。『黄昏の聖域』によって能力を失ったシン・アストラバスターは耐性もまた持たぬが故に、【カットイン】による妨害を警戒してアタックを仕掛けにいけなかったのである。
その一方、ティオレンシアもまた攻撃には消極的であった。
カットインタイミングでのカウンターを主軸とした立ち回りを得手とする以上、ティオレンシアは相手ターン中にカウンターを使うためのリソースを残しておく必要がある。そうであると同時に、不用意なアタックは相手にリソースを与え、アルティメット・アインの降臨へと繋がる――。
ひりつくような緊張感に満ちた空気の中、二人は互いに互いの動きを警戒しながら、間もなく訪れる決着の時に向けての準備を密やかに進めていたのである。××××××は静かにターンエンドを繰り返し、ティオレンシアはグレイブドローなどの補助スペルによって手札の回転を速めていた。
「……ここで、おわりにしよう」
かくして。
迎えたのは××××××の10ターン目。――即ち、10枚目のリソースを置いたそのときである。
「わたしはシン・アストラバスターでアタック……そして、コスモゾーンをひらく」
××××××が、遂に動き出したのだ。
その瞬間、カードバトル空間に爆発的な光が満ち溢れる。
そこに顕現せしは、神の御姿であった。
――アルティメット・アイン。ヴァンキッシュ背景世界において、すべてのはじまりとなったとされる伝説の神格。
それが、戦場に降り立つ。
――その瞬間、神意がティオレンシアを襲った。
「アルティメット・アイン……登場時効果を、発揮!」
「ええ、ええ。わかってるわよぉ……ダメージをもらうわぁ」
アルティメット・アインの登場時能力――!三つの強力な効果の中から一つを相手に選ばせるものである!ティオレンシアはアインの効果の中から、ダメージを選んだ。
「く、っ……!」
その瞬間、襲い掛かる衝撃!ティオレンシアに3点分のダメージが叩き込まれ、4点目までを詰められる!
「このアタックは」
そして、その上でアストラバスターから引き継いでアインがバトルを継続する。――この攻撃を受ければ、ゲームエンドだ!
「ええ。こうなることは予測済み……。あたしははじめからこの4点目まではもらうつもりだったわ。……ダメージも、倒れなきゃ立派なリソースブーストよぉ?」
だが、ここでティオレンシアは手札からスペルを切る!
「……[カットイン]」
『イリュージョン・シェイド』
黒のスペル。コスト4。
『[カットイン]相手のユニットがアタックしたバトル中、相手のアタックしているユニットを1体選び、そのユニットのバトル先をアタックしていない相手のユニット1体か、相手自身に変更する』!
「……!」
「あたしはこれでアインのバトル先を相手プレイヤーに変更するわぁ」
瞬間、光がその矛先を変える――!激しく爆ぜる光が襲った先は、××××××自身である!
「くっ……!ライフダメージ……!」
叩き込まれるダメージの衝撃に、××××××の姿がブレて乱れる。
――××××××は、ここでターンを終了した。
「なるほどねぇ……。降臨はアタックとセット……。そのアタックの最中にダメージを4点にしてくるなら、そのアタックを止められなきゃそのままゲームエンド……ホント、嫌になるほど強力ねぇ」
ほかの二つの効果も、驚くほど強力だ。切札が先んじてわかっていたからこそティオレンシアは対策を立てることができたが、初見であればこのまま圧殺されていた可能性も十分にある。
「運営さん、良くバランス取れるわねぇ……」
半ば呆れすら混ざった声で、ティオレンシアは呟いた。
――そうしてから。
「ともかく――これで、ファイナルターンよぉ?」
ティオレンシアは、手番へと移る。
どの道、次のターンを相手に渡してしまえばアルティメット・ゼロの降臨によってゲームエンドに持ち込まれるのだ。即ち、ティオレンシアはこの手番でゲームを終える他に選択肢を持たない。
ティオレンシアのリソースは現在13枚を数える。――しかして、盤面にユニットは0。手札こそ十分にはあるものの、この状況を解決するためには――
「……メインフェイズ。あたしは『大禍時の禁呪』を使用するわぁ」
『大禍時の禁呪』
コスト5。黒のスペルである。
『このスペルを使用する際、本来のコストに加えて任意のリソースを追加で支払ってよい。
自分は支払った追加コスト以下の枚数のユニットカードをトラッシュから選び、コストを支払わず場に出す。この際、同じコストのユニットカードはそれぞれ1枚までしか選べない』
――ここでティオレンシアが用いたのは、大規模なリアニメイトスペルである!
「あたしはここでスペルの使用に5コスト……そして、追加で更に6コストを支払うわぁ」
ティオレンシアが支払った追加コストは6点――すなわち、ティオレンシアはこの効果によって6体までのユニットをトラッシュから出撃させることができる!
「わあ……!」
××××××は、そうして目の前で展開する光景に高揚を見せた。
ティオレンシアはここに至るまで、グレイブドローのような手札破棄を要求するスペルを用いることで意図的にトラッシュへとユニットカードを送り込んでいたのだ。
かくして、盤上にユニットが揃った。
「ハリケーン」が、「ハウンド」が、あるいは「暗黒騎士」が盤面へと立ち並び、そして視線の先に討つべき敵の姿を見据える。
アルティメット・アインを降臨するために支払われたコストで、カットインを使うのに十分なリソースを××××××はもはや残していない。
ティオレンシアはここを勝機と捉え、ここに最後の攻勢を仕掛けたのだ!
「これで、お終いねぇ」
「うん……ライフダメージ!」
切り返す宣言は――ない!ティオレンシアのユニットたちが××××××へと攻め寄せ、そして最後のダメージを叩き込む!
「……ヴァンキッシュ」
為される勝利宣言――Vanquish!勝者、ティオレンシア・シーディア!
「たのしかった。……とっても、あつくなった」
激しいヴァンキッシュによって負ったダメージによって身体をひび割れさせながらも、××××××はノイズ混じりに笑う。
「でも……もっと。……もっと、ほしい」
しかして――ノイズの向こうに隠された表情には、まだ尽きぬ戦意が燃えている。
――この戦いは、まだ続くのである!
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
よう、久しぶり……でいいのかねぇ?
今日の対戦もヒロウミセンセが見てるだろ。
いつもと同じく全力で挑ませてもらうだけさ!
今回はフィールドを揃えつつ
タクティクスカードを仕掛けて、
『ストライバ・アヴェンジ』と装備の同時展開を目指すよ。
狙う勝負所は、『アルティメット・アイン』の降臨タイミング!
選ぶ効果は、1.の1枚残し全破壊。
アタシはタクティクスカードを残して、
ストライバ・アヴェンジは装備カードを破棄することで
「トラッシュ行きを置き換える」。
そうして『装備だけが破棄された時』のタクティカルバーストを発動!
ヒロウミセンセ直筆のアヴェンジ専用カードを無条件で装備させて、
『カウンター』で真正面からぶち破るよ!
「……」
展開したカードバトル空間の中で、揺蕩うようにゆらゆらと揺れながら、××××××はノイズ混じりに笑った。
「よう、久しぶり……でいいのかねぇ?」
そして、数宮・多喜(f03004)は対峙する。
「わからない、けど」
××××××は、その手にデッキを握り、そして視線を上げた。
「きっと、たのしいヴァンキッシュになるよ」
「……ああ、そうだな。楽しくやろうじゃないか」
多喜はまっすぐ睨むように、ノイズの向こう側の双眸を見つめ返す。
二人の間で、静かに火花が舞った。
「いくよ……ゲットレディ!」
「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ」
かくして、二人の対戦は始まる。
「……あっは」
迎えた後攻第4ターン。××××××はこの戦況を見下ろしながら、笑った。
盤上。××××××の場には虚獣ヴォイガーが一体。そしてこのリソースフェイズで彼女のリソースは4枚目へと達した。
4コスト。それは彼女の第一の切り札であるアストラバスターを、その能力を用いることで場に出せる数値だ。……しかし、彼女はそうしなかった。
何故ならば――
「……」
対峙する多喜がこめかみにじわと汗を浮かべながら、××××××を睨む。
多喜の盤面に置かれたのは2枚のフィールドカード。片方は『鉄血宰相の令』。『相手のターン終了時、そのターンに自分のライフが減っていないなら、自分は1点ダメージを受けてよい。そうしたとき、自分は1枚ドローする』をもつフィールドカードだ。
そしてもう一枚もまたフィールドカードであった。――それは、『揺ぎ無き戦場』。『お互い、タクティクス効果以外で本来のコストを支払わずユニットカードを場に出すことができない』テキストをもつ。
多喜はこれによって虚属性デッキが搭載する早出しを封じたのだ。
(……今回は、しっかり戦えてる)
多喜は思う。
――思い返してみれば、以前、彼女がはじめてヴァンキッシュに触れた際にオブリビオンのヴァンキッシャーと対峙したときは、虚属性のデッキを前に恐れすら抱き、結果、敗北を喫したものであった。
だが、今の多喜はあの時とは違う。多くのヴァンキ修羅場を潜り抜け、多喜は一流のヴァンキッシャーとして強く成長している。
「……」
そして、多喜は広がるカードバトル空間の外を想った。
――ほとんど相棒といって差し支えない『ストライバ・アヴェンジ』のカードイラストを担当したイラストレーターのヒロウミトシハル先生も、今回のイベントに参加している。多喜はこの戦いの前に一度挨拶を交わしてきたところだ。
(今日の対戦もヒロウミセンセが見てる……。そんなら、情けないところは見せられないね)
「……ターンエンド」
多喜の思考を打ち切るように、××××××が手番の終了を宣言する。
「なら、アタシのターンだ!」
そして、多喜はカードを引いた。
一意専心――。意識を研ぎ澄まし、思考を盤上へと向ける。
今できることは、今やるべきことは、ただいつもと同じく全力で挑むだけだ。
多喜はここでリソースにカードを加え、そしてコストを支払って『帝国式重力結界』を展開する。――コスト4。『お互い、手札以外からユニットを場に出すとき、追加で2コスト支払わなければ場に出すことができない』。手札以外の領域――山札、トラッシュ、そしてコスモゾーンからのユニットの登場を抑制するためのカードである。
「……!」
××××××が動揺の色を見せる。
この動きは、××××××の扱う虚属性を中心としつつコスモゾーンからの降臨を扱うデッキタイプに対する極めて有効な攻め手だ。想定していたペースを崩され、そこに焦燥の色が見え隠れする。
「あは……!」
そして、同時に××××××は歓喜した。
――このもどかしさは、焦燥感は、口にしがたいこの胸の熱情は、間違いなく彼女がカードバトルに求めていたエモーションの一端であった。
「アタシはここでタクティカルゾーンにカードを伏せてターンエンドだよ!」
「うん……。うん。たのしいね」
かくして再びターンは巡る。
続くターンで××××××は二体目の虚獣ヴォイガーを出撃し、ターンを終了する。
返すターンで多喜は『帝都ビルドポリス』を展開して更に盤石な盤面を作り上げた。
――多喜のデッキは、《鋼鉄皇帝軍》を中心とした銀のデッキだ。鉄や金属のイメージから防御能力に優れたユニットを多く持ち、そして相手の攻め手を抑え、捌き切ってからカウンターのように逆襲することで勝ちにつなげる戦術パターンを中心としている。
現在の状況は多喜の想定していたゲームプラン通りに進んでいた。順調である、と言って差し支えないだろう。
だが――一瞬の油断と、たった一手の棋譜の動きによってその結末が大きく動くのがカードバトルだ。多喜は油断なく試合を進めてゆく。
「……よし、ここだッ!立て、ストライバ・アヴェンジ!」
幾らかのターンが巡り、先に切り札を場に立てたのは多喜であった。――鉄血宰相の令によって受けたダメージで疑似的なリソース加速を行ったがために、××××××に先んじてキーカードの出撃を成功させたのだ。
『徹底抗戦 ストライバ・アヴェンジ』――!コスト7!パワー7000。
『このユニットが登場したとき、手札の「攻性防壁武装」をもつアーマメントカード1枚までをコストを支払わず場に出し、即座にこのユニットに[武装]する』。
『[ターン1回]このユニットが場を離れるとき、このユニットが[武装]しているなら、このユニットに[武装]しているアーマメントカードをトラッシュに置くことでこのユニットを[未行動]で場に残す』
同時に多喜はストライバの能力によってアーマメントカードを手札からノーコストで場に出し、そのままストライバ・アヴェンジへと[武装]する。
『攻性防壁武装・ミラージュジャマー』。コスト4。『装備条件:《鋼鉄皇帝軍》&コスト5以上』
『[武装]しているこのユニットは、相手の効果で選ばれない』
『このユニットのアタックはユニットでブロックできない』
――強力な耐性とアンブロッカブル能力を付与するアーマメントだ。これによって、ストライバ・アヴェンジはアストラバスターの除去能力への耐性を得る。
一方、返すターンにおいて××××××はここで遂に切り札であるアストラバスターを登場させた。
「……」
しかし、××××××はここでアタックを宣言せずそのままターンを終了する。
ストライバ・アヴェンジのパワーは7000。しかし、現在はフィールドカード・帝都ビルドポリスの効果によってブロック時のパワーパンプ能力が与えられている。いまのアストラバスターでは、ストライバ・アヴェンジに相討ちを取られるのだ。××××××はそれを避けたのである。
返すターンで手番を得た多喜であったが、ここで多喜は何もせずターンエンドを宣言――。この先に待ち受ける攻防に備えた。
続く手番で××××××は遂にコスモゾーンを開く。――降臨するのは侵略の名を得たシン・アストラバスター。13000という強力なパワーに除去と耐性を兼ね備えたパワーカードである。
「アストラバスター……」
「……ライフダメージ!」
――ここで慎重にならざるを得なかったのは、多喜の方である。
現在のストライバ・アヴェンジはビルドポリスのテキストを加味してもパワーは11000。対するシン・アストラバスターは13000――。先のターンとは逆に、今度は××××××が優位性をもつ側だ。
多喜は歯を食いしばり、襲い来るダメージの衝撃に耐え抜いた。
更に次のターン。手番を得た多喜はここで5枚目となるフィールドカード、『超弩級鋼鉄病棟』を展開する。自分のターンが終了する毎にダメージを回復することができるカードだ。多喜はこれによって更に攻勢に備える――。
「あっは」
だが、それを嘲笑うかのように――××××××は、ノイズの向こう側で喉を鳴らした。
「……そんなことをしても、むだ。もう、終わりだよ。もう、おしまいだよ。……たのしかった。とってもたのしかった。わたし、ほんとうに楽しかった」
しかして。
次なる手番において、××××××は盤上に神を降ろす。
――それはあまねく原初。終焉をもたらせし一なる神性――すなわち、アルティメット・アイン!
「コスモゾーン解放……。……さあ。いこう。なにもかも、なにもかもを――ゼロにかえそう。時計の針を進めて戻し、はじまりのゼロに向かおう」
その時、空間に光が満ちた――。
ここに降臨せしは、TCG「ヴァンキッシュ!」背景世界における原初の神性の一柱。あまねくはじまりを示す“1”なる者。アルティメット・アインである。
アタック宣言を行ったシン・アストラバスターの上にアルティメット・アインを降臨し、××××××は多喜へと仕掛けてゆく。
「……ついに来たか、向こうの切り札!」
迸る膨大な神気の圧力に押し込まれながらも、多喜は力強くそれに立ち向かった。
「さあ。かえろう。はじまりの“1”に――」
だが、ここでアルティメット・アインのテキストが起動する――!盤面破壊、ダメージ、手札/デッキ破壊――いずれかをもって相手を追い詰める、強力な能力だ!
「……アタシは、タクティカルゾーンのカードを1枚残し、それ以外をすべて破壊する!」
その中において、多喜は盤面破壊を選んだ。
この効果に対して『選ばれない』能力は無効化される――!ミラージュジャマーの効果を貫通し、ストライバ・アヴェンジはこの効果によって破壊されてしまうのである!
更に、ッ!対象が場のカードである以上、ここまで多喜が展開してきたフィールドカードもその全てが破壊対象だ!展開したフィールドのすべてがトラッシュへと置かれる!
「けど――ッ!!ストライバ・アヴェンジは相手の効果で場を離れるとき、装備してるカードを破棄することで場に残ることができる!」
だが、多喜はここでストライバ・アヴェンジの能力を宣言した!この能力によって、ストライバ・アヴェンジは[武装]しているミラージュジャマーを失うこととなるが、盤面へと残ることに成功するのである!
「……むだだよ。アルティメット・アインのパワーは100000……。止められない。ぜったいに」
しかして、ストライバ・アヴェンジはただ場に残った“だけ”だ。もはや頼りにしていたフィールドもなく――今まさに、アルティメット・アインは多喜へと向けて迫りつつある。
ノイズ混じりの笑い声を、多喜はたしかに聞いた。
「いいや……止めるさ。止めてみせるさ!」
――しかし!
多喜はまだ勝負を諦めていなかった。
否――そうではない。はじめから、この状況を待っていたのだ!彼女ははじめから、この瞬間が。アルティメット・アインが仕掛けて来たこのタイミングこそが、勝負所となると確信していたのだ。――その乾坤一擲に勝利をつかみ取るために!
「ここまできて、なにができる――」
「……タクティカルバーストだっ!」
ここで多喜は、裂帛の叫びと共にタクティカルゾーンのカードを開いた。
『攻勢防壁武装・メダルオブオナー』
コスト10。アーマメント。『装備条件:「ストライバ・アヴェンジ」』
『【タクティクス:「ストライバ」が相手の効果で場を離れるか、効果によって場に残ったとき】このカードをコストを支払わず場に出す』
『[制限]このカードは、タクティクス以外の効果でコストを支払わず場に出すことができない』
『[武装]しているこのユニットのパワー+10000し、このユニットは、[行動済]でもブロックできる』
『【名誉の証】このユニットがブロックしたとき、自分は手札を1枚トラッシュに置いてよい。そうしたとき、そのバトル中、このユニットのパワー+[このユニットとバトルしている相手のユニットのパワー]する。【名誉の証】は1ゲーム中に1回だけ使える』
それは――『ストライバ』専用のアーマメントカード! イラストレーター・ヒロウミトシハル氏直筆にして渾身の一枚絵をカードにしたものだ!
多喜はこのメダルオブオナーを場に出し、そしてストライバ・アヴェンジへと[武装]させる!
「……!」
「さあ……勝負だ、アルティメット・アイン!……真正面から、ぶち破らせてもらよ!」
顔を上げながら××××××へと射貫くような視線を向ける多喜は、そのままブロック宣言へと入る!
「アルティメット・アインのアタックは、ストライバ・アヴェンジでブロック!ここでブロック時の能力を起動させてもらうよっ!アタシは手札を1枚捨てることで、【名誉の証】をつかう!つまり――」
『メダルオブオナー』に記述された【名誉の証】――その効果は、ブロックを行ったストライバへと、バトル中の相手のパワー数値そのものを加算する――つまり、パワーを比べ合うバトルにおいて『絶対に負けない』というものだ。
「……あ」
「打ち、破れぇっ!!」
アルティメット・アイン。パワー100000。
ストライバ・アヴェンジ。パワー117000。
――よって、このバトルはストライバ・アヴェンジの勝ちである。
くろがねの騎士が宙を舞い、その手に握った刃を薙ぎ払う!
そこに宿るのは、“必ず護り抜く”という信念――!その決意を伴った力が、原初の神性すらも退けたのだ!
「あ、あ……――!!」
そのすべてを目の当たりにして、××××××は悲鳴とも嗚咽ともつかぬ声をあげながら力なくその場に膝をついた。
――ここから先は、一方的な展開となる。
切り札であるアルティメット・アインを失ったことで、××××××の攻め手は完全に停止したのだ。
「これで……終わりだよっ!」
そして、多喜はその勝機を逃すことなく攻勢へと転じた。
――××××××の手札に、それを止めきれる程の余力はもはや残ってはいない。
かくして、巡ること数ターン――――決着となる最後のアタックが、××××××へと叩き込まれたのである。
「アタシの勝ち……ヴァンキッシュだ!」
Vanquish!――勝者、数宮・多喜!その決着の瞬間に、多喜は拳を高く掲げて勝利を宣言した!
「うん……。たのしい、勝負だったね」
ノイズ混じりの表情の中に緩く笑みを浮かべて、××××××が呟く。
「でも……でも、まだ、まだ終わりたくない。……もっと、もっと熱く……つよいエモーションが、ほしい」
××××××は、熱に浮かされたように呟いた。
「は、ッ。いいさ。やる気だっていうなら何度でも付き合ってやるよ!さあ、もう一回だ。デッキを構えな!」
多喜はその姿に小さく苦笑いを見せ、そして再びデッキを握る。
「……うん」
××××××はもう一度デッキを握りしめ、そして盤面の前へと立った。
――その魂についた火は、未だ尽きる気配を見せていないのだ。
××××××との戦いは――まだ、続くのである。
大成功
🔵🔵🔵
惑草・挧々槞
カードバトル空間に最も適合する方法、それは己自身がカードになる事だわ。きっと、たぶん。
とは言え、違和感なくそれを成すには工夫が必要。自分の姿を模したカードを新造して貰うという手もあるけれど……ふむ。
逆に考えましょう。私がカードの姿を模せば良いのよ。
まずは絵アド高めの♡ユニットを見繕うわ。イベント先行公開のカードがあるならそれが望ましいかしらね。
続けて《絶対彼女》を用い、実は私はヴァンキッシュの公式コスプレイヤーだった、という事にしましょう。PR名目で関心を集めれば、神絵師や一般聴衆の方からの支持を得やすくなる筈。
そしてイラストの衣装に似た形へと[護符ロリ装束]を組替え、当該カードを活かす型にデッキをリビルドして戦場に赴くわ。
相手は紛う事なき強敵。でも、アイドルとは皆に夢と希望を与える存在!負ける訳にはいかないわ!
リクルートやサーチ・サルベージカード類をある程度積むにせよ、勝負は時の運──ここぞという時に右手を光らせるのが真の強者というものよ!全ヴァンキッシャーの皆さん、私に力を貸してっ!
「あ、っは――」
ノイズ混じりの笑い声を響かせながら、××××××はゆらゆらと浮かぶ。
猟兵たちと繰り広げた度重なるカードバトルによってその身体は半ば崩壊へと近づきつつあるのが見て取れるが――××××××に、滅びを恐れる様子は欠片も見られない。
「さあ――わたしを、満たして」
闘志。戦意。熱情。
そこに宿る感情は、ただひたすらにひたむきに熱いカードバトルを望むヴァンキッシャーの魂である!
かくして、展開されたカードバトル空間には強力な力が満ち溢れる――生半可な覚悟のカードバトラーでは、立っていることすらできないほどの凄まじいパワーだ。
「なるほど……そういうことね」
しかして、襲い来るプレッシャーを跳ね除けながら、惑草・挧々槞(f30734)は向けられた戦意へと対峙する。
「いいわ。そんなにバトルがしたいっていうなら……受けて立つわ!」
そして、挧々槞は一枚のカードを掲げた。
『[ホワイト・ホーリーナイト] ササメ・ユキナ』――。
♡(ピンク)属性のユニットカードである。今回のイベントで先行公開された今冬リリース予定のキラメキ☆コレクションパックVol.3『キラメク聖夜(ホーリーナイト)』に収録予定のハイエンドレアのうち一枚だ。
「見ていて、ヴァンキッシャーの皆さん……この戦い、必ず勝ってみせる!」
そしてカードを掲げたまま、挧々槞は高らかに宣誓した――次の瞬間!
挧々槞の身体は光に包まれ、たちまちその姿を変えてゆく。身に纏う装束を目にもとまらぬ速さで解き、そして組み換えたのだ!挧々槞の着込んだピンクフリルの甘ロリスタイルは、まさに一瞬の早業で雪の結晶を思わせる純白の和ロリ系ドレスへと変化したのである!
「あれは……!」
「ユキナちゃんだ!」
カードバトル空間の内部の光景を会場の大型モニタから見守るヴァンキッシャーたちが声をあげる。
それは――挧々槞の見事なコスプレであった!
「わあ……カードの子、そっくり」
××××××はその姿に拍手を送る。
「……思ったとおりね」
挧々槞は自分の身体の中にじわりと熱が灯るのを感じた。このカードバトル空間に満ち満ちた強烈なエネルギーの一部が、挧々槞へと流れ込んできたのだ。
――この戦いに赴く少し前。挧々槞は、このカードバトル空間という特殊な領域内においてもっとも力を発揮するにはどうするべきかと考えた。
そこにおいて彼女が出した結論は――己自身がカードとなることである。
そのために挧々槞はあらかじめ自分に似た雰囲気のキャラクターイラストをもつカードを探し、その姿を模倣することでカードに描かれたキャラクターとしてカードバトル空間に立つ作戦を立てたのであった。
「さあ……始めましょう。この『ササメ・ユキナ』があなたを倒し、この会場に平和を取り戻してみせるわ」
見得を切るように挧々槞がカードイラストと同じポーズを決める!――オーディエンスのあげる歓声が、カードバトル空間まで届いて響いた。
「うん……いいね。たのしいね。……じゃあ、はじめよう」
対し、××××××は微笑みながらカードを掲げ――ノイズの向こう側に隠れたその双眸に、熱く闘志の火を灯す!
「ゲットレディ」
「ビギニング・ザ・ヴァンキッシュ!」
かくして、ここに戦端が開かれる!
「……メインフェイズ。私はコストを支払い、手札からスペル『開幕1時間前』を使用するわ」
――挧々槞の先行で始まった試合は、現在3ターン目を数える。
『開幕1時間前』
コスト3。♡のスペル。
『自分は山札の上から5枚まで見て、その中にある《アイドル♡》をもつユニットカードを好きなだけ選び、相手に見せてから手札に加える。残ったカードはトラッシュに置く』――。
挧々槞はこのスペルを使い、山札から『[特訓中!]ササメ・ユキナ』と『[フォックス・ファイア]タマミ・ヨーコ』を手札に回収し、ターンを終える。
一方、返すターンで××××××は虚獣ヴォイガーを場に出し、登場時能力によって《虚滅》をもつユニットカード――『虚空の花 ヴォイドファルター』を手札へと加える。
戦いは未だ最序盤。お互いに手札や盤面を整える動きで手番を終えた。
しかし、挧々槞は既に警戒している――。事前に確認した情報においては、相手の切り札であるアストラバスターはコスト7の大型ユニットであるにもかかわらず自身の能力による早出しが可能で、その上強力な数字と除去能力を兼ね備えおまけに耐性まで持つ凄まじいパワーカードだ。
無論、挧々槞はそれを理解した上で対策ができるようデッキを再構築してきているが――それでも、易々と降せる相手ではあるまい。
最悪の場合はこちらがデッキ事故で動きが鈍り、先に最速アストラバスターからのコスモゾーン展開を重ねられ、一気にアルティメット・ゼロまで届かれることで強制的なゲームエンドを迎えさせられてしまう――ということも、あり得ないとは言い切れない。
相手は紛うことなき強敵だ。デッキに搭載したカードのパワーの高さもさるものの、カードを繰るその指先はよどみなく、ヴァンキッシャーとしての技量の高さを窺わせる。
そして、なによりも――
「たのしいね」
相手は、この戦いを楽しんでいる。
それは即ち、精神的に安定しているということだ。相手側のプレイングミスは期待できないだろう。
「……私のターン」
つまり、挧々槞は実力で勝つほかに道はない。
感じるプレッシャー。不思議な高揚と緊張感が、挧々槞の鼓動を僅かばかり速めた。
「私は4コスト支払い、『[特訓中!]ササメ・ユキナ』を場に出すわ」
『[特訓中!]ササメ・ユキナ』
コスト4。パワー4000。《アイドル♡》
『【あやかしトライブ】』
『【オンライブ!】このユニットがアタックしたとき、このユニットを山札の下に置くことで、自分は1枚引き、その後、手札から《キラキラ☆》をもつ『ササメ・ユキナ』を1枚まで選び、コストを支払わず場に出す』
『自分のコスト6以上の【あやかしトライブ】のパワー+2000』
「私はこれでターンエンド」
挧々槞はこのユニットの展開で手番を終える。
「……」
ひとつめの分水領は、ここだ。この手番、××××××のリソースもまた4枚目に達する。
それは即ち、この時点で手札にアストラバスターを抱えていたならば、この手番で場に出すことができるということなのだ。この段階でのアストラバスターの登場は、戦況を大きく傾ける。
「わたしのターン」
××××××は手札から4枚目のリソースを加え、そして笑った。
「わたしは手札から虚獣ヴォイガーを出すよ」
……虚獣ヴォイガー!先も展開された、《虚滅》カテゴリのサーチカードである。すなわち、ここで××××××の手札の中にアストラバスターはない。
「ヴォイガーの能力で山札からオープン……。アストラバスターを手札に加える」
「……ここできたわね」
ここで××××××はその手札に切り札であるアストラバスターを加えた。ならば、次の手番で敵の切り札が登場するのは確定的といっていい。挧々槞と戦いを見守るオーディエンスの中に鋭い緊張感が走った。
ターンを終える××××××。ノイズ混じりの笑みと共に向けられる戦意に、挧々槞は対峙する。
「私のターン……」
強烈なプレッシャーが挧々槞にのし掛かる。
この手番で敵の切り札への対策カードを引けなければ、試合は相手のペースに引き摺り込まれてしまうだろう。
(でも)
挧々槞はちらと振り返る。
戦場に満ち満ちる緊張感の中で、しかして挧々槞は彼女へと向けられる視線と、その背中を支えるヴァンキッシャーたちの応援尾声を感じていた。
(うん……そうよね。今の私は……アイドルとは、皆に夢と希望を与える存在!)
――挧々槞は、思う。
たとえ仮初の姿であったとしても、借り物の姿だったとしても、今ここに立つ彼女は猟書家の侵略活動という脅威に晒される人々を護るための、本物の希望なのだ。
「……そうよ。みんなが見ている前で……負けるわけにはいかないわ!」
そして挧々槞はプレッシャーを振り払い、そして山札の上へとその手を置いた。
「リクルート、サーチ、サルベージ……。……どんな手段があるにせよ、どのカードを手にできるか。……勝負は時の運――だけど、ここぞという時に右手を光らせるのが真の強者というものよ!」
力強く顔を上げながら、挧々槞は力強く声をあげる。
「このドローは、重い……だから、今こそ!全ヴァンキッシャーの皆さん……、私に力を貸してっ!」
「おおっ!」
「がんばれーッ!」
振り向く挧々槞へと、人々が声を合わせて応援を叫んだ。
「……いいね。すごく、いい。……その熱いエモーション。とっても、すてき」
そして――対峙する××××××は、焦がれるように挧々槞の姿を見つめる。
「いくわよ……ドロー!」
かくして、挧々槞はカードを引いた。
「……そして、メインフェイズはスキップ!私はこのままバトルフェイズへ!」
続けざまに挧々槞は手番を進めてゆく!
「バトルフェイズ!私はユキナでアタック……ここでユキナのアタック時能力を発揮するわ!」
『『[特訓中!]ササメ・ユキナ』で、挧々槞はアタックを宣言する――すなわち!
「[特訓中!]のユキナを山札の下に置くことで1枚ドロー……そして、手札からノーコストで『ササメ・ユキナ』を場に出すことができるっ!」
『『[特訓中!]ササメ・ユキナ』の【オンライブ!】能力だ!それはアイドルがステージ衣装へと装いを変えるかのように、盤面のカードを入れ替えることができる!
「この能力によって、私は手札から『[ホワイト・ホーリーナイト] ササメ・ユキナ』を場に出すわ!」
『[ホワイト・ホーリーナイト] ササメ・ユキナ』
コスト8。♡。パワー12000。《アイドル♡/キラキラ☆》
『【あやかしトライブ】』
『このユニットが【オンライブ!】の効果で場に出たなら、手札から【あやかしトライブ】をもつコスト7以下のユニットを1体まで選び、コストを支払わず場に出す』
『相手のバトルフェイズ開始時、自分は相手のユニットを1体選び、そのターンの間、そのユニットはアタックできない。このユニット以外の【あやかしトライブ】がいるなら、1体ではなく3体まで選ぶ』
「……!」
「続けて私の……『ササメ・ユキナ』の登場時能力!【オンライブ!】で場に出たので、私は更に手札からユニットを出すわよ!」
『[フォックス・ファイア]タマミ・ヨーコ』
コスト7。♡。パワー9000。《アイドル♡/キラキラ☆》
『【あやかしトライブ】』
『自分が手札から【あやかしトライブ】のスペルを使うとき、支払うコストを-2する。(0以下にはならない)』
『【ターン1回】自分が手札から【あやかしトライブ】のスペルを使ったとき、そのスペルを手札に戻す』
かくして舞台へと立ったのは、純白のドレスに身を包んだ雪娘ササメ・ユキナ。そして燃える九尾を揺らす美貌の妖狐タマミ・ヨーコ――アイドルチーム【あやかしトライブ】の中核を成す大型ユニットである!
「コスト8と、7……!大型ユニットが一気に並んだ…………すごい!」
「私はこのままアタック!」
挧々槞はその勢いのままにアタックを宣言する。――これに対し、××××××はブロック宣言を行わずにライフダメージを受けることを選んだ。
「これでエンド!」
「あっは……たのしいなあ!わたしのターン!」
衝撃に揺れた身体を立て直しながら、××××××は手番へと進む。
――ここで××××××は、盤面のヴォイガーを犠牲にしながら遂に切り札であるアストラバスターを場に出すことに成功する。
しかし。
「バトルフェイズ……」
「……そのバトルフェイズ開始時に、私の能力を発揮するわ!」
ここで能力を発揮するササメ・ユキナ――挧々槞が、その眼差しの先に敵の姿を捉えた。
「あなたのユニット3体のアタックを封じる!」
「……あっは」
ササメ・ユキナの能力が、××××××の攻勢を止める――。――アストラバスターのもつ耐性能力は『場を離れない』に対応するものであり、除去以外の効果であれば有効なのだ。
重なって響きあう音の壁が、戒めの鎖となってアストラバスターを絡め取った!これによって、挧々槞は××××××の攻め手を大きく制限したのである。
「アストラバスターの能力も、降臨のギミックも……アタック時に付随するものよ。なら……それを止めてしまえばいい!」
「……!」
××××××の動きが止まった。――そして、ターンエンドを余儀なくされる。
返すターンにおいて、挧々槞はこの機を逃すまいと攻勢をかけた。
「ここで決着をつけるわ……私はここでスペル『ゆうぐれイリュージョン』を使用!」
『ゆうぐれイリュージョン』
コスト5。♡のスペル。
『【あやかしトライブ】』
『このターンの間、自分のコスト6以上の【あやかしトライブ】のアタックは、相手にブロックされない』――!
「……ブロック制限!」
「さあ、クライマックスに入りましょう。バトルフェイズよ!」
『ゆうぐれイリュージョン』の効果によって、挧々槞の場のユニットの攻撃は止められなくなった。
一気呵成の勢いで、挧々槞はアタックを宣言する!――ライフダメージの衝撃に、××××××がノイズ混じりの悲鳴を漏らす!
「だ、けど……まだ、わたしのダメージは……」
「まだよ。私は[カットイン]のタイミングで更にスペルを使うわ――『エンドレス・パーティーナイト』!」
『エンドレス・パーティーナイト』
――これもコスト5。♡のスペル!
『【あやかしトライブ】』
『自分の【あやかしトライブ】を2体まで選び、[未行動]にする』!
――そこに記述されるのは、シンプルかつ強力なテキストである!
挧々槞はこの効果によってユキナとヨーコをアンタップし、更なる追加攻撃を可能としたのだ。
本来であれば都合10コストを要求するスペルの連続使用であったが――ここでの消費リソースは、ヨーコの常在能力によってそれぞれ軽減されている!この軽減能力がこの攻勢を可能としたのだ。
「あ――」
そして――××××××に与えられたダメージは、この時点で3点。
即ち、ブロック不可能の残る2回のアタックをこのまま受けてしまえば、そこでゲームエンドだ。
「……」
しかし――ここには一点の問題がある。
もしここで、××××××が防御用のスペルを構えていたならば。
挧々槞はここで仕留めきることができずに、××××××に十分なダメージリソースを与えた状態でターンを渡すこととなる。
それは非常に大きなリスクだ。そこには、逆転の一手が指される可能性が存在している。
「あなたの手札に、防御用のスペルは無い」
しかし、挧々槞は視線を上げながら迷いなく言い切った。
「……どうして、そう言い切れるの?」
ノイズ混じりの笑みの向こうから、××××××が尋ねて返す。
「そうであれば、私の勝ちだから――……いえ。私は必ず、ここであなたに勝つと決めたからよ」
かくして、挧々槞はその双眸に覚悟と決意の火を灯し――
「これで、ラストアタック――。最後のダメージ……叩き込むわ!」
アタックを、宣言する!
「……あっは」
そして。
「いいよ。最後のダメージ……もらってあげる」
××××××は――防御スペルの宣言なく、とどめの一撃となる5点目のダメージを受け入れた。
「あ――」
それが、決着の瞬間であった。
最後のダメージの衝撃に、××××××の躯体が砕けた。
ノイズ塗れの身体が、指先から崩壊を始めてゆく。
「あ、っは、はは……たのしかった、な。……うん。すごく……熱く、なれた」
「そう」
挧々槞は崩れゆくオブリビオンの姿を見下ろしながら、静かに頷いた。
「ありがとう、……。いい、ヴァンキッシュ、だったね」
「ええ。……いいバトルだったわ」
「……うん」
そうして、××××××の躯体は完全に解けて崩壊し、骸の海へと還ったのである。
――Vanquish!勝者、惑草・挧々槞!
その主が消滅したことによって消え去ったカードバトル空間からイベント会場のステージ上へと帰還し、挧々槞は人々の前で勝ち名乗りを上げる。
そして――人々は、猟兵たちの勝利を称えるように、割れんばかりの声援を送ったのであった。
かくして、ここにまた一つ猟書家の侵略の魔の手は食い止められ、そしてヴァンキッシュの歴史に新たな伝説が刻まれたのである!
だが、まだ戦いはその全てが終わったわけではない――いつの日かまた、オブリビオンたちがカードバトルを挑んでくるときが必ずやってくるだろう。
そして、人々の胸のうちに熱い火が灯り続ける限り、戦いは終わらないのだ。
次回も――Vanquish!
大成功
🔵🔵🔵