アポカリプス・ランページ⑭〜 翼をください
● 空を翔ける
見えるだろうか。
空からは何が見えるのだろうか。
この目で見ずとも、分かっている。
我々の生まれ育った大地だ。
僅か数年で蹂躙され、死に瀕した我々の故郷だ。
我々は守れなかった。
ふるさとを。愛するひとを。
言うまでもない。祖国はもうない。
そして我々は今や──祖国に害成す獣にすぎないのだ。
● 翼があるなら
「さて、お集まりいただいてどーも」
いつもより随分とテンション低く、エリオス・ダンヴィクトル(陽はまた沈む・f27010)は語り始める。
「みなさんご存知、戦争真っ最中のアポカリプスヘルからの依頼だ」
故郷の戦争なんて予知するもんじゃねぇとかなんとかぼやきながら、概要を説明する。
戦場は噂の『マザー・コンピュータ』に掌握された、バトルクリーク市の廃墟。マザーによってデタラメに量産された異形の戦車群、『戦車獣』が闊歩して、踏み入るもの全てを捕食してる。
「……ま、物理的なオブリビオン・ストームみたいな感じかもな」
とにかく敵となるのは、戦車獣に捕食され一体化したオブリビオンの群れ。もし相手の車体を奪い取ることができれば、その砲塔に猟兵のユーベルコードを喰わせて、元のユーベルコードと同等の性能を持つ「ユーベルコード弾」を発射して戦うことができる、らしい。
「まぁ要は、『生身で戦うのは無理があるから敵機体ぶん捕って』『自分のユーベルコード装填した弾で戦ってくれ』ってとこだな」
分かった?
「あとこれだけ注意な。今から送る先の戦車獣、戦車じゃなくて戦闘機を捕食してやがるから」
飛んでる機体を、どうにかこうにか捕獲するところからスタートだ。
「蜂の巣にならない自信があるやつだけ、向かってくれ」
心の準備はOK?
それじゃ、あとはお前らに任せる。
「Good Luck」
みみずね
お久しぶりです、或いは初めまして。みみずねとか申す駆け出しMSです。
本シナリオは一章で完結する戦争シナリオとなっております。執筆速度は『まぁまぁゆっくり』、シリアス度は『そこそこシリアス』の予定です。
●プレイングボーナス
【戦車を奪い、乗り込んで戦う】ことでプレイングボーナスが発生します。ちょっと強めの敵ですのでいい感じに工夫してみると良いと思います。しなかったからって別にひどい目には遭いません(たぶん)。
●その他
執筆の速度や進捗に関してはマスターページやタグにてお知らせいたします。採用数には制限を設けませんが、書けそうなものを書けるだけ書いたら終了とする予定です。ご承知おきください。
オープニングが公開され次第、プレイング受付を開始いたします。
第1章 集団戦
『支える者』
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POW : ――“発射”
【ミサイルや機関砲 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : ――“散開”
技能名「【空中戦(回避機動) 】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ : ――“大祖国よ栄光あれ”
【大祖国の敵を撃滅する 】という願いを【他の“燕”】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱酉・逢真
心情)蜂の巣になってもヘイキなンで来たよ。ハロゥ、スカイ・クロウラーズ。空を飛ぶのは楽しいかい。そんなことない? ああ、そんな心の余裕もないかね。そいつァ惜しいこった。ヒトは考えッことが多くてタイヘンそうさ。
行動)眷属ども。鳥どもよ。俺の影からわらわらと湧け。空を埋め尽くすがいい。そして大いに殺されな。毒と病を運べ。血煙と羽根を以て機械を狂わす酸毒・ウイルスを散布しろ。空を赤赤と染めるがいい。墜ちろ、落ちろ、鋼の小鳥。ジェットに鳥が突っ込むぞ。ガラスを血肉が汚し塞ぐぞ。べったり張り付いた死体の重さに、お前さんらは地面へまっさかさまだ。俺らァ機械と相性が悪くってねェ、いっぺん壊さにゃどォもならん。さて、砲塔がわりにミサイルだ。何個か残ってっかい。よしよし、じゃあ俺のユベコを取り込ませて、鳥ども掴んで持っていけ。残ったやつらに投げていけ。
会話)よォ搭乗者サン。まだ意識はあるかい。お前さんはもう死ぬよ。もう祖国を傷つけずに済む。お疲れさんさ、烟草でも吸うかい? 死ぬまで見守っていてやるよ。
●影の空
『蜂の巣にならない自信があるやつ』
グリモア猟兵の言葉を思い出す。
蜂の巣にならない自信はなくとも、蜂の巣になってもヘイキなンで行きゃいいだろ。そんな意気込み(?)で朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はアポカリプスヘルの痩せた大地に立った。
ハロゥ、スカイ・クロウラーズ。ご機嫌麗しゅう。
逢真は遥か上空を行く戦闘機を見上げた。
ザッ
『地上に敵影見ゆ』
『恐らく猟兵』
・・
『数、一体』
『了解』ザザッ
短い通信を終える。地上には報告通り、猟兵がひとり。
──空を飛ぶのは楽しいかい?
飛べない影が問いかける。
楽しいかどうかなんて、忘れた。かつても今もただ祖国の為に飛んでいた。祖国の空を侵すものがあれば排除する。楽しさなんて要らない。ただ使命の為に飛んでいた。
──そゥかい。
地上では逢真が小さく息を吐いた。そんなこと考える余裕もないかね。せっかく翼を手に入れておいて、まったくそいつァ惜しいこった。
彼らの空にあって感じるのは楽しみではなく苦しみ。義務感と使命感。ただただ祖国への忠誠を抱え、その敵を排除するということばかりを考えて。
どうしてこうヒトというのは、考えることが多くて。
「タイヘンそうさな」
・・・
影が嗤ったように見えた。
もちろん、上空から地上の人影の表情など知れるはずもない。だが、確かにそう感じたのだ。
男は警戒を呼びかけようと通信機を手に取り──そして改めて異変に気付く。影が。否、地上にいるあの、
・・・・
人物の影から、
湧いてくる。涌いてくる。黒く蠢くなにか。
・・・・・・・・
地の影から空へと、湧きいでてくる。
「……ッ!!」
高度を上げる。嫌な予感がへばりつく。もう一度通信機を取り、
──悲鳴を届けた。
おいで、おいで。
ピィピィ、キィキィ、チィチィ。
鳴き声も様々なそれらは、逢真の影から滾々と湧く眷属たち。
湧け。涌け。わらわらと群れ、あらわれよ。空を埋め尽くせ。毒と病を運び、
──そして大いに殺されろ。
ジェットに突っ込め。機体にぶつかれ。その屍と、血煙と羽根で以て死を招け。機械を狂わす酸毒・ウイルスを散布しろ。
さあ、空を赤赤と染めるがいい。
墜ちろ、落ちろ、鋼の小鳥。
鳥が突っ込んだジェットは火を吹いて壊れ。
血肉がへばりついたガラスを汚れ目を塞がれ。
毒に狂った計器はもはや何の異常も示すことがなく。
べったりと張り付いた死の重さに、小鳥は地面へまっさかさま。
「ぁ……」
うめき声。
「よォ、搭乗者サン」
墜落した小鳥の中でぐったりとした彼に、逢真は声をかけた。
「まだ意識はあるかい」
そう言うと、男はうつろなまなこで頷いた。
これから自分はどうなるのか。これから殺されるのか、このまま死ぬのか。いいや、祖国は──
「お前さんはもう死ぬよ」
逢真は壊れたコクピットに腰掛け、そう言ってやった。誰が何をしてもせずとも、このままでもう、あと少しで死ぬ。
だからもう。
「もう祖国を傷付けずに済む」
言われた男はぼやけていた目を一度大きく見開いて、そうか、と呟いた。そうだったのか、と小さく言って、まだ空を駆けるかつての仲間たちを見上げた。
「あア、大丈夫だ」
あれらもみんな、ちゃあんとしてやるさ。
ただ、逢真の力は少しばかり機械と相性が悪い。それで一度壊すしかなかったのだが……。
眷属たちに調べさせれば、まだこの機体にはいくらかのミサイルが未使用のまま搭載されていた。好都合だ。小鳥たちのように自由に空を駆るとはいかないが、砲塔代わりにはなる。
「掴んで持って行きな」
弾丸に己の力を込めて、残った鋼の小鳥へと運ばせる。
ああ、まだ見えるかい?
次々と墜ちていく小鳥たちが。逢真の力で、眷属の運んだミサイルに当たったそれがただ自然のあるべきように戻っていく様が。
「ああ、見える……今度こそ、正しく見えたとも……」
男の声は震えていた。
確かに見たとも。祖国の為にと戦った仲間たちの最期を。今度こそ祖国が、その害成すものから守られたところを、見届けたのだ。
「お疲れさんさ、烟草でも吸うかい?」
いや、飛行機乗りは肺がやられるから烟草はやらんのだったか。とにかく、お前さんらはよくやったよ。
返事は無く、男はもう瞬きすらせずその瞳に空を映していた。心の臓は動いているのだろう、わずかな呼吸音だけが、彼のいのちを告げていた。
何も心配することなどない。空にはもう祖国の敵は無く、これ以上誰もお前さんを害しない。
「死ぬまで見守っていてやるよ」
我が子に子守唄を歌う親のように、壊れた機械のゆりかごでひとつのいのちが終わりゆくのをさいごまで。
ただただ、静かに見守った。
大成功
🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
まずは【クリスタライズ】で建物と建物の間に大量の鎖を張り巡らせて即席の網を作って、戦車獣がかかるのを待つ。
そこにぶつかって身動きが取れなくなった瞬間に飛び乗って、コクピット部分を金槌とか鋸で叩き割って侵入!
ああ、あんたは守れなかったよ故郷も愛する人々も。でもまだ「祖国」は立ちあがろうとしてる、蘇ろうとしてる、一つのところを往復しかしてないあんたの見えないところでさ!
荒唐無稽? 笑いたきゃ笑え、信じたくないならそれでいい、でももしまだ守りたいと心の片隅で願っているのなら……その操縦桿、私によこせ!
掌握したら【クリスタライズ】を適応させて、止まろうとしない他の戦車獣を闇討ちで撃ち落としにかかるよ!
●赤の空
空を見上げた。
戦闘機は廃墟の遥か上から、時にはビルの隙間を縫うように編隊飛行で地上の敵を殲滅せんと向かってくる。
空を見上げた。夕陽のように、燃えるように赤い空だった。
その空と同じくらいに赤い髪を持つカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)は軽く目を細めた。
(──遠いな)
カーバンクルは戦闘機を見上げて、それでもすぐに行動を開始した。
【クリスタライズ】で身を隠せば、上空の敵機体に見つからずにビルに侵入するのは容易だった。ビルの内部にいる彼女を、戦闘機たちは見つけられない。
駆け上がる。
朽ちかけたビルの中を、全力で走る。
普通にしては、地上からあれらを捕らえるのは難しい。けれど、ビルとビルの間を戦闘機が抜けていったのを見た。ならば、
「こう……!」
最上階近くまで昇ったカーバンクルは、敵に気付かれないよう鎖とそれに連なるフックを自身ごと透明化し、向こうのビルまで届かせる。大量の鎖で編まれたそれは、飛行するものを捉えるための金属製の巨大な『網』だ。
地上で彼女を見失った敵機たちはまだこの周辺を哨戒している。疲労は溜まっていくが、それでも『網』に彼らがかかるのは時間の問題だった。
ギシャン!!!
大きな音を立てて、それは起きた。
果たしてカーバンクルの思惑通り、戦車獣と化した戦闘機が見えない鎖の網へと衝突したのだ。無論、戦闘機には空中でバックするような機構は存在しない。一度網にかかれば、崩壊する他、逃れる術はない。
カーバンクルは鎖を伝って、身動きの出来ない戦闘機へと飛び移った。金切鋸を使うことも一瞬考えたが、時間がかかりそうなのでやめた。手持ちの工具から超巨大金槌を選んで、コクピットを守るガラスを叩き割る。
「ヒッ……!」
悲鳴を上げたのは中にいた搭乗員だった。
「なんだ、貴様、きさまァ……!」
どうやらパイロットは相当に混乱しているようだった。祖国がどうとか、故郷がどうとか……。
「聞け!!!」
うるさい。少し黙って私の話を聞け。
「ああ、わかった。その通り。あんたは守れなかったよ」
故郷も、愛する人々も、守れなかった。確かにそうなんだろう。でも。でもな。
「『祖国』は、立ち上がろうとしてる」
まだ完全に死んじゃいない。一度は死んだのかもしれないが、それでも蘇ろうとしてる。
「ずっとおんなじとこをグルグル往復しかしてない、あんたの見えないところでさ!」
「な、なに……何を……」
男の目が泳いだ。
「荒唐無稽に聞こえる?」
宝石のような真っ赤な瞳がそれを覗き込む。真摯な訴えだった。
「笑いたきゃ笑え」
信じたくないならそれでいい。でも。
でも、もし。もしもあんたがまだ、守りたいと思うなら。心の片隅にでも、そう願う気持ちが残ってるって言えるなら。
カーバンクルは割れたガラスをパラパラと落としながら、コクピットへと体をねじ込む。
「その操縦桿、私によこせ!」
叫ぶと同時、男の手が操縦桿から離れた。
た の む 。
そう聞こえた気がした。
「頼まれた」
短く答えて、操縦桿を強く握る。機体の自由を奪っていた鎖は解かれ、機体は空へと舞い上がる。キャノピーを失ったコクピットは馬鹿みたいに開放感に溢れていて、視界はやたらと良好だった。吹き付ける風は強く、体にかかる重力もたまったものではないけれど。
気分はそう悪くない。
弾丸にUCの力を込める。カーバンクルからは、同じように空を駆ける戦車獣が見えた。
「止まれないよね」
みんな、そうなのだろう。守りたくて飛んでいる。だから止まれない。この機体に乗っていた男も、向こうにいる他の戦闘機乗りも、たぶんみんな。でも、
・・・
「止めるよ」
誰の目にも見えなくなった機体から、見えない弾丸が放たれて、編隊のひとつひとつを貫いていった。
そうしてみんな、墜ちていく。
枯れた木の葉のように、墜ちていった。
彼らの守ろうとした大地へ。祖国の土へと、還ろうとするかのように。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
食べられたオブリビオンさんも
捕食獣さんも
共に海へとお還ししましょう
指笛で水面のように揺れる影から召喚した
ランさんに飛び乗り
ミサイルや機関砲をつるっと受け流しながら
摩擦抵抗0の速さとしなやかな泳ぎで追い縋り
パッと飛び移ります(ランさんを喚送
ペロしたキャノピーから潜り込み
操縦者さんの前にちょこん
守るべきものがない彷徨はさぞ苦しいでしょう
貴方方は十分に務めを果たされました
もうお休みされて大丈夫なのですよ
UC弾で空中分解させます
敵機が0となったら
機体を地面へ向けて急降下させて
ぎりぎりの所で脱出してランさんへ
地で炎上する機体らへ鎮魂の調べ
海できっと祖国の皆さんや大切な方々と再会できますね
どうぞ安らかに
●煙と空
ピィーーーーーーー。
響いたのは、指笛の音。箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)が、自前のねこのやり『カッツェンランツェ』(通称ランさん)を召喚したのだ。
水面のように揺れる影から、とぷり、と静かに浮かび上がってきたのは、全長5メートルの大きな目旗魚である。ちなみにランさんは雌です。どういう理屈か空を飛ぶ目旗魚ですが細かいことは気にしてはいけません。
仄々はランさんの背に飛び乗り、空を見上げる。
その目に映るのは、オブリビオン。
マザーによって量産された戦車獣と、それに捕食され取り込まれた戦闘機。かつてのパイロットまでをも含めた、過去から蘇ったものたち。
──共に。
仄々は、願う。
彼らがみな、等しく穏やかに骸の海へ還れることを。
「お還ししましょう」
決意を込めて、言葉にする。どうか彼らの願いが、彼らの死が、二度と踏みにじられることのないように。
ぺろ。ぺろり。
【猫の毛づくろい】は対象の摩擦抵抗を極限まで減らすことが出来るユーベルコード。ランさんに乗って発動すれば、これこの通り。空気抵抗もほぼゼロであっという間に空の上。その上、仄々を発見して発射されたミサイル機関砲だってつる、つるり。ひとつも当たりはしません。
ランさんのしなやかな泳ぎで上空の戦闘機の一機に追い縋ったならば、パッと素早く飛び移ってみせましょう。
ランさんは一時的に喚送して、危なくないように。
さて、コンコン(Knock, knock ! )。
ノックをしてからキャノピーをぺろっと。飛行中であろうと容赦なくオープンするコクピット。そこにいた操縦者さんの前に、ちょこんと降り立つ仄々。
「貴方は」
ぺとり。手の肉球を彼の額にあてて。
「貴方がたは十分に務めを果たされました」
よく頑張りました。守るべきものがない彷徨は、さぞ辛かったでしょう。苦しいでしょう。
でも、もういいのです。十分なのです。
「もう、お休みされて大丈夫なのですよ」
パイロットは何も応えなかった。けれど、操縦席の自分の前に仄々がちょこんと座っても抵抗しなかった。
仄々がユーベルコードの力を込めたミサイルを放つ。命中すればそれが発動し、戦闘機は凡そすべての摩擦を失う。機体を形作っているビスが風を受けただけで外れ、すべてのパーツはバラバラになる。
ひらひらと、はらはらと。ミサイルが当たった順に解体されていく戦闘機が視界から無くなったのを確認して、仄々は自分の乗っていた機体の高度を下げた。
急降下。地面に激突するすれすれのところでもう一度ランさんへと飛び乗り脱出する。
・・・・
ごうごうと炎上する機体を前に、仄々は竪琴を爪弾く。奏でるのは鎮魂歌。
(きっと──)
仄々は信じている。骸の海へ還った彼らが、彼らの守ろうとした祖国とその民たち、そこにいたはずの彼らの大切な家族とまた笑って再会できるのだと。
どうぞ安らかに。
仄々の祈りは、煙と共に空へと上っていった。
大成功
🔵🔵🔵
ニクロム・チタノ
アハハハ戦車なのに戦闘機とはなかなか不思議で厄介ですねぇ?
さてしかし相手に取り付く前に撃たれてはたまったもんじゃありません
ヨダレを撒き散らして作り出したヘドロの中に避難させてもらいますね
ヘドロの底までは機関銃の弾もミサイルの爆風も届かないので快適ですよアハハハハとうとう焦れて一斉掃射して来ましたね?待っていたのですよ一斉掃射で土煙が舞い上がるのを、土煙のせいでボクを見失ったみたいですね、今です
アハハハハとうとう捕まえましたよ?さてでは飛行戦車を頂きましょうか
アハハハハ快適ですねぇ?地表の戦場獣がゴミのようです
さてさてヘドロミサイルでここいら一帯をヘドロ化させて地表の戦車獣達を安全に沈めましょう
●毒の空
「アハハハァ」
ニクロム・チタノ(反抗を忘れた悪堕ちヘドロ・f32208)は小首を傾げて眼前の状況を笑う。
「戦車なのに戦闘機とはなかなか不思議で厄介ですねぇ?」
『戦車』獣なのに『戦闘機』。ただの戦車ならともかく、空を飛び回られるとは。厄介だとは言いながら、ニクロムには困ったような表情は一切ない。それならそれで、どうするべきか考えるだけだ。
さて、どうしようか!
(しかし相手に取り付く前に撃たれてはたまったもんじゃありません)
グリモア猟兵のオススメは敵機体の捕獲、だったが。まず近付くことが出来なければそれも叶わない。こっちは翼があるわけじゃなく、魔法で空を飛べるのでもない。
ならば。
ヨダレを撒き散らす。それはヘドロ化の毒素を含んでおり、無限にニクロムの周囲を包んでいく。悪臭と猛毒ヘドロ。彼女を強化する彼女のための領域だ。
ヘドロの海の中に避難させてもらいますね。
ずぶずぶと、地に沈むようにその姿を隠していく。上空からはどのように映っただろうか。逃すまいと機銃が、ミサイルが汚れた地面をバラバラと攻撃するが、ニクロムのいるヘドロの底へは届かない。
「アハハハハ快適ですよ」
挑発するように笑う。
そして幾度かの攻撃の後、戦闘機たちは編成を組み直し、一斉掃射の構えを見せ──
「それ、待ってたんですよね」
・・
にい、と笑う。ヘドロの底にいたはずのニクロムが、いつの間にかそこにいた彼女がしたりの笑みを見せる。とうとう来た、と。
「待っていたのですよ、焦れて一斉掃射してくるのを」
その声が彼らに届いたかどうかは分からない。何にせよ攻撃を中止するには手遅れだ。
「その一斉掃射で土煙が舞い上がるのを」
笑いが止まらない。
何もかも、思惑通りだ。
「アハハハハハハハハハ!!!!」
舞い上がった土煙とヘドロで、ニクロムの姿は完全に見失われていた。さあ。今だ。
「捕 ま え ま し た よ」
頂きました。鬱陶しいハエ……もとい、戦闘機。飛行する戦車。手が届いてしまえばこちらのものだ。制御を奪って、ミサイルに己のユーベルコードを装填した。
ニクロムは戦闘機を駆り、ヘドロ化のミサイルを地表へとばら撒く。
「アハハハハ! 快適ですねぇ?」
地表の戦場獣がゴミのようです!
使ってみると便利なものですね。ヘドロミサイルでここいら一帯をヘドロ化させて、地表の戦車獣達を安全に沈めましょう。
鼻歌でも歌おうかというくらいに気楽な作業だ。相手は地上でなす術なく、こちらは一方的に空からヘドロを撒くだけの簡単なお仕事。
「もちろん、手は抜きませんけどね?」
ニクロムの攻撃は、地上が毒と悪臭のヘドロで埋め尽くされるまで続いた。
大成功
🔵🔵🔵
御形・菘
はっはっは、妾であれば生身バトルでも支障はないが、ここは流儀に乗るとしよう
何故ならシチュエーションがとても美味しい!
普段素手で格闘な妾が、乗り物をカッコ良く奪って操縦、アリだ!
影より出でよ! 空飛ぶモノを縛める、羨望の鎖よ!
はーっはっはっは! 本来なら絶対確実に墜とすところだが、此度は機体に引っかけるだけで許してやろう
それでは! 捕らえた戦闘機まで鎖を上っていくとしよう!
振り落とせんよ? こんなイカすシーンでNGは出さんよ!
できるだけ華麗な軌道で飛ばしつつ、面で制圧するネットランチャー弾で攻めるとしよう
喜ぶがよい、お主らはとても美しい!
妾の激レア空中戦でバトった相手として動画に勇姿を残すのだ!
●美しき空
「はーっはっはっはっはっはっ!!!!!」
空に木霊する大笑い。何が始まったのか?
決まっている。撮影だ。
登場シーンからかっこよくキメるのは配信者の嗜みというもの。それは蛇神にして邪神である御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)とて例外ではない。
「今回は戦車獣の討伐という話だが、どうやらそれが奇っ怪なことに戦闘機を捕食しておるそうだ」
視聴者向けの説明も欠かさない。グリモア猟兵は敵機体を捕獲して戦うようにアドバイスを寄越した。
「まあ? 普段の妾であれば生身でのバトルでも支障はないのだが?」
戦闘機VS妾! それはそれで悪くもないが、せっかくの機会だ。ここは流儀に乗るとしよう。
何故なら。
そのシチュエーションがとても美味しいからだ!!
敵機体の鹵獲から始まるロボットアニメシリーズだってお約束。戦闘機にはやはり戦闘機。普段は素手で格闘ばっかりしてる妾が、敵の機体をカッコよく奪って? 更にはそれを華麗に操縦、乗りこなして敵撃破!!
……アリだ! 完全にアリよりのアリ。ナシの可能性がむしろナシ。
そんな訳で始まります。御形菘によるアクロバティック・動画配信!
「影より出でよ! 空飛ぶモノを縛める、羨望の鎖よ!」
はいカッコいい。カメラ角度もバッチリ。
菘の影から伸びるのは、飛行するものへの特攻を持つ春雷の鎖。何百ものそれが、空を駆る戦闘機をいとも容易く絡めとる。
「はーっはっはっは!」
本来なら絶対確実に墜とすところだが、此度は機体に引っかけるだけで許してやろう。今回の見どころはこれからなのでな。
「それでは!」
捕らえた戦闘機まで鎖を上っていくとしよう!
鎖を伝って、なんとか鎖から逃れようと暴れまわる戦闘機までのぼっていく。
そしてここが見せ場!
「振り落とせんよ?」
に、と笑ってパイロットをポイと追い出し、コクピットに乗り込む。一発オーケー、はいカット! こんなイカすシーンでNGは出さんよ!
さあここからは空中戦。
見るものを魅了する華麗な軌道を描きながら、菘は戦闘機を操る。ユーベルコードを装填したミサイルは、空を面で制圧するネットランチャー弾と化し、敵戦闘機を次々に撃墜していく。
「喜ぶがよい、お主らはとても美しい!」
墜ちゆくものたちへとコメントを贈る。
「お主らは妾の激レア空中戦でバトった相手として動画に勇姿を残すのだ!」
最新動画のサムネにも映してやる。それだけの価値があるのだから、美しくないわけがないだろう。最後に墜ちていくその戦闘機を背後に自分の顔が見えるようにコクピット内を画面に収め──本日の動画撮影は終了した。
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
故郷を守れなかった…か
俺もそうだ…故郷はもうない
何も出来なかった。何も守れなかった
だが…だからこそ、止めてやりたい
転生は叶わずともせめて在るべき場所へ
あいにく俺は空が飛べん、得物も…圧倒的に不利だ
だが地上への機銃掃射のタイミングに合わせればあるいは…
【第六感・集中力】、音や目視で敵の攻撃や接近を察知
被弾に備え【オーラ防御・結界術】も併用
敵が射程に入り次第UC発動
搭乗者を眠らせる
射程内に入れなければ【地形の利用・ダッシュ】で可能な限り高い場所へ移動、UC射程に捉えられるか試みる
搭乗者が眠ったら機体奪取
UCを込めた攻撃を行う
せめて最期くらいは…良い夢が見られるといい
俺には…これくらいしかしてやれん
●桜と空
(故郷を守れなかった……か)
空を見上げるのは、軍服に身を包み白衣を羽織った男、水澤・怜(春宵花影・f27330)。
祖国を失い、帰る場所を失った。守るための力があったはずなのに──守れなかった。
(俺もそうだ)
故郷はもうない。あの日、全てが焼け落ちて──今では面影もない。
駆けつけたけれど出来ることはなにもなく、誰ひとりとして守ることはできなかった。幾度思い返しても、ざらりとしたものが心にできた亀裂をなぞるだけ。
この虚しい気持ちを、彼らも抱えているのだろう。
そう思えばこそ、怜は彼らを止めてやりたかった。ここはサクラミラージュではなく、彼らは影朧ではない。転生の癒やしを与えてやることは叶わずとも、せめて在るべき場所へ還してやれたら。
……とは言え。
あいにく怜は空を飛べない。軍刀や医療ノコギリなどの普段の武器は当然届かない。メスを放つにしても射程と強度の問題がある。圧倒的に不利だ。
(……だが)
怜は考えを巡らせる。もし、あれらが地上に近付いてきた時になら。地上への機銃掃射のタイミングに合わせれば、或いは……?
やってみるしかあるまい。他に方策もない。
全神経を集中させる。戦闘機の近付く音。その距離。攻撃のための動作。全ての気配を余さず拾い集める。
目視でも速度は測れる。接近まであと10……。
「くっ……!」
打ち付けられる弾丸を、辛うじて防御する。多少の傷なら安いものだ。すれ違いざまの一瞬が勝負。
ユーベルコードの発動が遅れれば、すぐにも戦闘機はまた射程の外へと逃れてしまうだろう。
「いいや、」
逃さない──!!
桜の花吹雪が舞う。戦闘機を優しく包み込むような花の嵐に、搭乗者が眠りについたのを怜は確認した。
幸いにも機体に大きな破損はなく、ただ慣性のままに地上に降りてきたそれに乗り込む。コクピットを開けてみると、中に人の姿は既になかった。……眠ったまま、逝ったのだろうか?
そうであるなら、好都合だ。
怜は戦闘機から、桜の力を込めたミサイルを他の戦闘機へと打ち込む。命中すれば戦闘機はコントロールを失い、そのままふらふらと地表へと吸い込まれていった。操縦には慣れていないし、全てを確認することは出来なかったが──
どうやら、桜の癒やしを得た搭乗者たちはそのままオブリビオンとしての形を失っていっているようだった。
怜は、静かになった空から地上を眺める。
墜落した戦車獣の名残が、まだ炎と煙を上げていた。
……不愉快だった。
けれど、最後にこの光景を見たのが自分で良かったとも、思う。一度故郷を失った彼らに、なにもまた故郷の地が燃えている様をみせることはなかっただろうから。
●
見上げれば、空。
飛行する機械に乗ってもまだ遠い空は、どこまでも、どこまでも続いているようにも見えた。
大成功
🔵🔵🔵