4
【サポート優先】狂い咲き、貪食より逃れて

#サムライエンパイア #戦後

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦後


0




--------------------------------------------------------------
 これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。
--------------------------------------------------------------


「あんれ、山ァ見てみ」
「んー? どれどれ……」
 村人たちは農作業をする手を止め、ぐ、と腰を伸ばしながら山を見上げた。見慣れた山の一角に、鮮やかな赤が広がっている。
「……椿?」
「狂い咲きにも程があらァ」
 山には椿が群生する場所があって、花が落ちる時期になれば獣道が布でも敷いたかのように赤くなる。この辺りではちょっとした名所なのだが、当然今の季節ではない。
「いやいや、昨日まで蕾も無かったべ」
「あーんな咲いて気付かんわけが……おい、動いてねえか」
「なんばぬかしよっ……は?」
 男達は山を見上げ、ぽかんと口を開けた。赤い面が、動いている。山の中腹から、麓に向かってじわりじわりと降りている。
「何、何だ、あれ」
「知らん! 皆へ知らせんぞ!」

 ――貪食が来るわ。
 枯れてしまう、枯れてしまう。
 土が。大地が。
 山が死んでしまう。
 山颪が来るわ――。


「ちょっと、そこの猟兵! 悪いんだけどさ、急ぎの仕事頼むわ!」
 場所はサムライエンパイア、肥後国。敵は悪しき木霊と精霊喰らい。一方的にまくし立てた二本木・アロを窘めて詳細を尋ねれば、オブリビオンの集団がとある村に向かっているのだと言う。
「正確には『オブリビオンの集団の進路上に村がある』っつーか。元々は古椿に宿る霊的な何かだったんだが……精霊を食い尽くす化け物が来て、椿たちも『たたり椿』になっちまった」
 たたり椿は山を下り、精霊を喰らう『枯死の山颪』から逃れようとしている。既に悪しき存在に堕ちてしまった彼女たちは、進路上に村人が居れば容赦なく殺めてしまうだろう。倒す以外に道は無い。
「それから椿たちを追いかけてくる枯死の山颪。こいつが主に喰らうのは精霊だが、人間の感情も好物だ。大地の精霊が食われれば畑がダメになるし、感情を食われた人間がどうなるか想像もつかねー。だから」
 オブリビオンと村の間に送り込むから、迎撃してきてくれ。アロは両手を合わせて頭を下げた。


宮下さつき
 戦争中ですがひっそりこっそり書かせて頂きます。宮下です。
 【サポート優先】ですがプレイングを頂いた場合はいつも通り書かせて頂きます。

 それではよろしくお願い致します。
79




第1章 集団戦 『たたり椿』

POW   :    花さくように
【椿色の斬撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    根腐れて絶え
自身に【怨念】をまとい、高速移動と【触れたものを腐らせる呪いの花弁】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ぽたりと首落とし
【自在に伸びる髪】が命中した対象を切断する。

イラスト:氾ばあぐ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

睦月・伊久
元木霊ということは……彼女達も精霊のようなもの、たったのでしょうか。精霊に親しむ精霊使いとしては……堕ちた姿はどこか痛ましく感じます。それでも生きたいと、食われそうな所を命からがら逃げてきたのでしょうが……

すみません。それでも人々が犠牲になっていい理由にはならないので……倒させて頂きますね。

伸ばされる髪に向かって火の【属性攻撃】を。それに加えて【連鎖する呪い】を放ち、一体に着いた火が「不幸にも」ほかの個体達に延焼したり、動揺で他個体と髪が絡み合ったりするのを狙います。……出来るだけ、時間はかけない方が良いでしょうから。


鹿村・トーゴ
古い椿に宿る精、て聞くと風雅な気もするんだがねェ
祟りを起こすとなっちゃあちょっとした災厄だぜ

(相棒の鸚鵡ユキエの首に自在符を掛けてやって)
村の方でもう避難は始めてるだろーが一応あの椿の進路に立ち入らないよーに伝えてくんない?『化け椿が来るから逃げて』ってな

お山の椿が枯死の災から逃げるは道理なんだが村ひとつ潰すわけにもいかねーな
椿が食われて枯死の力がでかくなるのもヤバいしな…
降りてくる椿へ【忍び足】で接近しUCで迎撃
飛ばせた蜂に紛れるように手裏剣を【念動力/投擲】
>敵UC
敵の群れに飛び込み紛れて椿同士の同士討ちを狙う
【激痛耐性】で凌ぎ手にしたクナイで直に掻き切る【カウンター/暗殺】

アドリブ可



「ユキエ、村の人達に伝えてくんない? 『化け椿が来るから逃げて』って」
『化け椿が来るから逃げて!』
「そうそう」
 相棒の白い鸚鵡の首に自在符を掛け、鹿村・トーゴは口の端を上げた。村人達も気付いているだろうが、用心するに越した事は無い。
「上手なものですね」
「だろ? 音真似も上手いんだ」
 トーゴの言葉を一言一句違える事なく真似たユキエに感心し、睦月・伊久は飛んでゆく彼女を見やる。白い鳥が吸い込まれてゆく空に広がる鱗雲に秋の訪れを感じ、青々とした山の木々に夏の名残を見る。
 ――そんな季節の移ろいを楽しむひと時ならば、どれ程良かったか。季節外れの椿は錆利休の色をした髪を振り乱し、哀哭を響かせている。
 山颪よ、貪食が来るわ、枯れてしまう。
 まるで赤い波が押し寄せるかのようだ。それらを眺め、伊久が口を開いた。
「恐らくは。彼女達も精霊のようなもの、だったのでしょう」
 山中にひっそりと暮らす、古椿の化生。本来は大人しく害のない存在で、このような望まぬ邂逅は無かったはずだ。
「……古い椿に宿る精、て聞くと風雅な気もするんだがねェ」
 伊久の言葉にトーゴは肩を竦めた。こうなってしまっては、ちょっとした災厄だ。伊久は唇を引き結ぶ。
(「生きたかっただけ……なのでしょう」)
 堕ちた姿はただただ痛ましく、だが見逃してやる事は出来ぬ。ここで逃せば、人が死ぬ。
 退いて、と一輪の椿が言った。二人は微動だにせず、彼女達を真っ直ぐに見据えた。

 退いて、邪魔ね、殺そう。群れから突出したたたり椿が、猟兵へと大輪を向けた。直後、花の色をした線が宙を走る。椿色の斬撃波が、四方に放たれる。
 伊久は持前の脚力で後方に跳び退るが、トーゴは逆に前へと駆けた。
「お山の椿が枯死の災から逃げるは道理なんだが」
 前傾姿勢で斬撃を潜り抜け、音も無く肉薄する。村を潰されるわけにはいかない。椿が食われて枯死が力を蓄えても困る。トーゴの言葉を借りるならばどちらも「ヤバい」状況で、何も躊躇う必要は無いのだと彼はクナイを突き立てた。
 少し遅れて山から飛び出した二体目、三体目のたたり椿の前には、伊久が立ち塞がった。精霊と共に在る彼には椿たちの叫びが痛い程に伝わっていたが、振り払うようにかぶりを振る。
「すみません。それでも人々が犠牲になっていい理由にはならないので」
 花芽を愛でるように伸ばされた伊久の白い指先から、赤い小鳥が飛び立った。
「……倒させて頂きますね」
 椿も伊久の首を目掛けて髪を伸ばすが、彼に届く前に小鳥が毛先へと留まる。同時、羽を休めたはずの小鳥は火球と化した。枝先に生じた炎は幹へ、花へと伝い、たたり椿を包む。
 火よ、燃えてしまう。枯れ果てた山と同じくらい、山火事も恐ろしい。伊久が防波堤となり、赤の進軍が止まる。
 ヴヴ……ゥン。悲鳴に紛れ、羽音が聞こえた。椿にとっては花粉を運ぶ好ましい存在だが、何故か言いようのない恐怖を覚えて振り返る。けれど、姿は見えない。
 何が――。
 居るのと尋ねようとした椿の声が音として発される事はなく、彼女は地面に倒れ伏した。彼女の身体には、虚を衝いたトーゴの手裏剣が幾枚も突き刺さっている。
「七針、頼んだ」
 トーゴの使役霊、『虚蜂』は全部で七匹。二つ三つと増えてゆく羽音に椿たちは混乱し、周囲に仲間がいるにも関わらず斬撃波を放った。赤が、狂い咲く。
「……トーゴ君!」
「へーきへーき、痛みには耐性があるからよ……ッ」
 これはトーゴの狙い通りだ。椿たちは仲間との距離も測れずに無差別攻撃を行い、同士討ちが起きている。だが敵の数が多い分、トーゴの負傷は免れない。
「……時間は掛けない方が良いですね」
 伊久を取り巻く霊気が、じわりと空気に溶け込んだ。ちらりと地面に目を向ければ、先程付けた火がまだ燃えている。椿は火付きは悪いが、一度燃えると長いのだ。――ふいに、風向きが変わった。
 火事よ、と悲鳴が上がった。風に煽られた火の粉がそこかしこに飛び、次々と椿たちに燃え移る。呪いが、伝播する。
「延焼してしまいましたね。……『不幸にも』」
「幸いにも、たたり椿以外には燃え移ってないけどな」
 トーゴが相棒の声に空を見上げれば、ユキエが円を描くように飛んでいた。
「村人、無事に逃げたってさ」
「安心しました」
 これで戦いに集中出来る。二人は得物を握り締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篠突・ササメ
さて、何か出来ることはあるかい

僕は雨男の東方妖怪だよ
自他共に認める温厚な優男だけれど、
どこでも雨を呼んでしまうせいでちょっと陰気な所もあるかもね
でも人間は大好きだから、手が必要なら助けになりたいのさ

一か所に留まると雨を寄せてしまうけど、それを色々と利用するよ
癒したり押し流したり、腐らせたりとかね
モヤシだから肉弾戦はご期待に添えないけど、支援や遠隔攻撃は任せて
多少の水の操作も手札の一つさ
呼び寄せる雨脚はまちまちだけれど、
戦況が台無しにならないよう色々と都合よく扱ってくれると嬉しいな

あとは公序良俗に反しない範囲で、自由に使っておくれ



 山を下るたたり椿たちは、前方に火の手が上がるのを見た。先に逃れた仲間が燃えるのを見た。そこに逡巡が生じるのは当然で、山颪の居る山に帰るか、燃え盛る裾野を行くかの選択を迫られる。
 その時、霧時雨が花びらを濡らした。さあ、しとしと。つい先程までの秋らしい空は何処やら、白く霞んで泣いている。
 雨よ、雨よ。椿たちは歓喜の声を上げた。炎は消え失せ、辺りは濛々と煙っている。ならば選ぶ道は一つだと、たたり椿は行軍を再開する。
「こんにちは、お嬢さん方」
 そんな彼女たちを、篠突・ササメは呼び止めた。けれど椿たちが立ち止まる事はなく、代わりに長く伸ばされた髪が鞭のように振るわれた。
「つれないね」
 とんだ御挨拶だと眉尻を下げ、ササメは後方へと跳んだ。用を成さぬ番傘一つ携えて、ふわりと笑む優男。ヒトならばそのミステリアスな風貌に興味を持つところだが、妖怪変化には通用しないらしい。ササメは眉尻を下げ、困ったように笑った。
「ごめんね。折角喜んでくれたみたいだけれど――これは」
 ざあ、と雨脚が強まる。だというのに、ササメの声だけが、妙にはっきりと響いた。
「遣らずの雨なんだ」
 隙間なく、絶え間なく、雨は戦場を覆い尽くす。花々はしとどに濡れ、雨の香りに紛れて匂い立つ。
 この雨は。春の。
 ――九月の雨ではない。つまり自然の恵みなどではなく、『誰かが降らせた』雨だ、と。椿たちが気付いた時には逃げ場などあるはずもなく。命を育むはずの雨は、たたり椿の力を奪ってゆく。
「山に帰られると、追うのが大変だからね」
 ここで相手をして貰うよと言うササメに、椿たちは髪を向けた。自在に伸びる髪が、真っ直ぐに男の首を狙う。
「さて、首が落ちるのは……果たしてどちらかな」
 ササメは肉弾戦は期待に沿えぬと嘯いて、幾本も迫る髪の束を躱して見せた。ざばりと足下の水溜りが噴き上がり、意思を持つかのようにたたり椿へと襲い掛かる。
 この蕩々とした水溜りは、最早この雨の妖の領域なのだ。理解した椿の花が、ぽとりと濡れた大地に落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

寺内・美月(サポート)
アドリブ・連携歓迎
※エロ・グロ・ナンセンスの依頼はご遠慮願います。
・依頼された地域に亡霊司令官(顔アイコンの人物)と隷下部隊を派遣。美月がグリモアベースから到着するまで(サポート参加では現地にいない状態)、現地での活動に必要な権限を付与
・基本は一個軍団(歩兵・戦車・砲兵・高射・航空・空挺のいずれか)に、出動しない軍団から一個師団程を増強し派遣
・戦力不足の恐れがある場合は、上記の兵科別軍団を二十~三十個軍団ほど増派し派遣軍を編成
・敵に対し砲兵・高射・航空部隊の火力、戦車・空挺部隊の機動力、歩兵部隊の柔軟性を生かした戦闘を行う
・他の猟兵の火力支援や治療等も積極的に行い、猟兵の活動を援護


月影・左京(サポート)
アドリブ・連携・苦戦描写・UC詠唱改変・その他OK!

「はわっ!?……大丈夫。私も手伝うから♪」

一人称:私
口調:女性的でラフ(〜よね、なの?、あら〜等)
口癖:はわっ!?
性格:おっとりのんびり。「わぁ!頼りにな……る、の?(笑)」な印象

基本戦法:【忍び足】で敵の死角に入りメイスによる【気絶攻撃】を【2回攻撃】。【鎧砕き】も狙う。

敵の攻撃は【聞き耳】を立てて【第六感】も使い、【見切り】ます。
※不意打ちを受けた時など、「はわーっ!?」と叫ぶ傾向あり。

指定したUCを何でも使用。
但し負傷した猟兵がいれば戦況次第で攻撃より【祈り】の力と【医術】及び【救助活動】で治療。

後はお任せします。よろしくお願いします。


クレア・フォースフェンサー(サポート)
なるほどのう。
おぬしが言わんとすることも分からぬではない。
じゃが、だからと言って、今を生きる者達を虐げてよいことにはなるまい。
過去の者がしでかしたことは過去の者がただすのが道理じゃ。
わしが骸の海に還してやるゆえ、覚悟するがよい。

などといった感じで、オブリビオンの主張や立場を受け止めながらも受け入れはせず、最終的には斬ります。

遠間の際には《光弓》を、それ以外の場合は《光剣》を用います。
敵の攻撃を見切って躱し、また、UCの力を込めた《光剣》で捌きながら間合いを詰め、両断するのが基本的な戦い方です。
遥かに格上の敵と対峙する際には《光紋》を全開にし、完全戦闘形態に変身します。



 たたり椿たちは、炎の防波堤に堰き止められ、遣らずの雨に引き返す事も出来ず、山の裾野で行軍を止めた。
 山颪が来るわ。急いで、急いで。
 邪魔者を殺そう。殺そう、殺そう。
 椿たちの言葉は、悲鳴に近かった。発せられた言葉は明確な殺意というよりは、一刻も早くこの場を離れたいという恐怖からのものだろう。何処となく哀れみを誘うが、自分本位な木霊を逃せば惨事は免れない。
「――ごめんなさいね」
 ここを通してあげるわけにはいかないの。椿の死角に回り込んでいた月影・左京のメイスが、敵の横腹へと叩き込まれた。一見すると短杖にも見える繊細な銀色は、たたり椿をへし折る勢いでめり込んでゆく。めきりと音を立て、爆ぜるように木屑が舞う。
「左京殿、後ろじゃ」
「はわっ」
 メイスを振り抜いた直後の無防備な左京に、別の個体の髪が迫る。だが髪が彼女に届く事はなく、クレア・フォースフェンサーの放った光の矢が阻んだ。半ばで千切れた髪が、風に舞う。
「村人はどうなったかの」
「先行した猟兵が避難完了と言ってたわ」
「それは重畳」
 光の矢を番え直し、二射目を放つ。クレアの矢は花の付け根に突き刺さり、追い打ちをかけるように右下から振るわれた左京のメイスが、花を落とした。
 山颪が来てしまう。枯れたくない、枯れたくない。
「なるほどのう」
 ただ咲いていたいだけ。生への執着は、誰しもが持つ純然たる本能で、純然たる願い。
「じゃが、のう……今を生きる者達を虐げてよいことにはなるまい」
 過去と今と、どちらを優先すべきかなど比べるまでもない。クレアが光剣に手を掛けたその時、左京が微かな動きを聞き分けた。
「……来るわ!」
 跳躍。つい今しがたまで二人の立っていた地面が割れる。椿色の斬撃波が荒れ狂う。
「そんな、自分の仲間まで巻き込んで」
「まずいな。敵が散る」
 敵味方を問わない椿の攻撃は、当然彼女の仲間にも向かった。切羽詰まっているのだろう、群れとしてではなく、それぞれが勝手に行動を始めたようだ。たたり椿の連携が崩れた事は好機でもあるが、如何せん数が多く、取り逃がす可能性も生じる。
『問題ありません』
 突然、低い声がした。続いて、機銃の音がそこかしこに響く。山に沿って逃げようとしたたたり椿が、弾かれるようにして倒れるのが見えた。
『先程、霧雨で視界が不明瞭になった際、空挺兵を降下させました。敵性勢力の包囲は完了しています』
「はわっ?!」
 いつからそこに居たのか、左京の背後に一人の男が佇んでいた。気配も無ければ、一切の生気も――それこそ呼吸も鼓動すらも無く、二人が気付かないのも当然の事であった。軍服に身を包み、表情を目深に被った軍帽に隠し、身動き一つせずに直立している。
「亡霊か」
『はい』
 猟兵、寺内・美月の命で来たという亡霊の将は、空挺兵に留まらず航空戦力も待機させているという。美月自身が現在何処に控えているのかは不明だが、些か過剰にも思える人手が今はありがたい。
「今のうちに足止めしてしまいましょう。飛空戦艦ワンダレイ、主砲展開っ♪」
 左京がメイスを掲げると、薄い雲の向こうに巨大な影が見えた。影の輪郭に沿っていくつかの光点が明滅し、やがて光は一点に集束してゆく。徐々に大きくなる光は、まるで太陽がもう一つあるかのようだ。傍らでクレアが主砲など撃ち込んで地上は大丈夫なのだろうかと一抹の不安を抱いたのを見透かしたように、美月の亡霊が口を開いた。
『状況に応じ、工兵の派遣を要請しましょう』
「頼りになる司令官殿じゃな」
 二人の心配を余所に、左京はにこやかに発射を命じる。上空の飛空戦艦より放たれた一撃は、落雷のように雲と地上を繋いだ。眩い光が辺りを満たす。
「さあ、今よ!」
 クレアは左京の声に素早く周囲に視線を走らせるが、土地への被害は一切確認出来なかった。対象を麻痺させる事に特化した左京の攻撃は、主砲と言う割に殺傷力が低いらしい。或いは真の力を隠しているのだろうか。たたり椿だけが硬直している。
『総員、殲滅せよ』
 美月の隷下部隊が一斉に動く。今や固定された的にも等しい椿を撃ち抜くなど、練度の高い空挺部隊には造作もない。だが彼らには僅かな妥協もなく、一糸乱れぬ動きで着実にたたり椿を仕留めてゆく。
 花が、花が。落ちてしまう。口々に喚く椿たちの声に、クレアは目を細めた。姿かたちは妙齢の女性だというのに、まるで老君のように穏やかな表情で、妖の主張に耳を傾ける。
「わしらが骸の海に還してやるゆえ――」
 それでも彼女らの主張を受け入れてやるわけにはいかないのだと。ゆったりと頷いて、クレアは光剣を抜いた。
「覚悟するがよい」
 一閃。薙ぐように振るわれたクレアの光の刃は、確かに椿たちの身体を両断するように通り抜けた。だが、たたり椿の花が落ちる事はなく、花びらが散る事も無く。その花の一切を傷付ける事なく、核のみを破壊した。たたり椿たちが、頽れる。
「椿の名所か。さぞ幽玄な景色じゃったろうなあ」
 束の間の静寂。猟兵を除いて動くものは無く、一面に赤い花が横たわっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『枯死の山颪』

POW   :    暴食の増
戦闘中に食べた【相手の感情】の量と質に応じて【移動と捕食の速度が更に上昇し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飢餓の痛
全身を【貪り食った精霊の食い残し】で覆い、自身が敵から受けた【傷、或いは負の感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    不満の業
【嫌悪・憎悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【額にある顔の口】から、高命中力の【最も強い感情を喰らう複数の触手】を飛ばす。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠佐々・夕辺です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 足リナイ。
 かさりと地を這い、それは大口を開けた。
 オ腹ガ空イタ。
 ゆるりと宙を舞い、それは何かを喰らっている。
 モット。
 ずるりと触手を伸ばし、それは何かを飲み込んだ。

 精霊や妖精、そして感情。それは『見えないもの』を喰らう存在だった。
 けれど形の無いものをいくら喰らえど、それの腹が膨れる事は無く。
 永遠に満たされぬ食欲の怪物『枯死の山颪』は山を下り、猟兵達の前に姿を現した。
ニノン・トラゲット(サポート)
『容赦なんてしませんから!』
『アレ、試してみちゃいますね!』
未知とロマンとお祭りごとを愛してやまない、アルダワ魔法学園のいち学生です。
学生かつ魔法使いではありますが、どちらかと言えば猪突猛進でちょっと脳筋っぽいタイプ、「まとめてぶっ飛ばせばなんとかなります!」の心で広範囲への攻撃魔法を好んでぶっ放します。
一人称はひらがな表記の「わたし」、口調は誰に対しても「です、ます、ですよね?」といった感じのあまり堅苦しくない丁寧語です。
基本的にはいつも前向きで、ネガティブなことやセンチメンタルっぽいことはあまり口にしません。
その他の部分はマスターさんにお任せします!


ハズキ・トーン(サポート)
「仮面って邪魔だよねぇ」
 どこか暢気な話し方をする、仮面をつけた男です。別に仮面が外れようが気にしません。邪魔ならすぐ外します。仮面は帽子感覚。

 攻撃する。という行為が驚くほど苦手な為、野生の勘やら逃げ足やらを駆使して避けつつ、
 『生まれながらの光』で負傷者等の救助を優先とした行動が多め。 
 回復の必要がなければ他UCも使用します。

 説得で回避できるならば話し合いを試みます。 
 自身の多少の怪我は厭いません。

 あとはおまかせします。連携歓迎。


アス・ブリューゲルト(サポート)
「手が足りないなら、力を貸すぞ……」
いつもクールに、事件に参加する流れになります。
戦いや判定では、POWメインで、状況に応じてSPDの方がクリアしやすいと判断したら、そちらを使用します。
「隙を見せるとは……そこだ!」
UCも状況によって、使いやすいものを使う形です。
主に銃撃UCやヴァリアブル~を使う雰囲気です。剣術は相手が幽霊っぽい相手に使います。
他人の事は気にしない素振りを見せますが、基本、不器用なので、どう接したらいいのかわからない感じです。
ですが、合せるところは合せたり、守ってあげたりしています。
特に女性は家族の事もあり、守ってあげたい意欲が高いです。
※アドリブ・絡み大歓迎、18禁NG。


赤星・緋色(サポート)
なんやかんやで事件を解決に導こうとします
フリーダムかつアグレッシブなアドリブも可

合わせ等も自由にどうぞ


四十物・寧々(サポート)
サポートプレイングです。

ひとつの肉体に複数の人格を有し、人格ごとに別々の特性を修得でき、人格を切り替える事で様々な状況に対応できます。(多重人格者の種族説明より抜粋)

そのため、口調は「現在の状況に対応できる人格」です。
シナリオ進行に必要な内容など、喋らせたいことを喋らせて下さい。

使用ユーベルコードの指定はありません。
「成功」の結果で書けそうなものを一つステータス画面からお選び下さい。フラグメント次第で不使用も可です。

多少の怪我は厭わず積極的に行動し、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

あとはお任せ致します。
宜しくお願い致します。



 節くれだった足が不規則に蠢き、『枯死の山颪』が裾野を駆ける。虫の歩脚とも異なる動きはただただ悍ましく、見る者を不快にさせた。かと思えばふいに頭の向きを変えて立ち止まり、ぽっかりと開いた洞穴のような口をぱくりと閉じる。
「……何を、しているのでしょう」
 山颪の奇妙な動きに、四十物・寧々は柳眉を寄せた。拓けた場所に居る猟兵達が視界に入らぬはずはないのだが、山颪は全くと言って良い程に気に留めていない。
「精霊さんを」
 その様を凝視し、ニノン・トラゲットが呟いた。心なしかいつもより輪郭がまるくなり、しなやかな尾が膨らんでいる。
「精霊さんを……食べています!」
 それが怒りで毛を逆立てているのだと仲間が気付くよりも先に、山颪が汚らしいあぎとを開いた。ぐぶりと吐き出された幾本もの触手が、真っ直ぐにニノンへと伸びる。
「見えないものを喰らうんじゃなかったのか……?」
 明らかにニノンを捕食対象とした事に困惑しつつも、アス・ブリューゲルトは割って入った。光剣が青白く閃き、触手が地面に落ちる。
「感情を食べようとした……んじゃないかな?」
 目の前で精霊を食われ、精霊術士の感情が揺らがないはずがない。彼女が標的となった理由に思い至った赤星・緋色は切り落とされた触手から努めて視線を外し、ガトリングガンを構えた。未だのたうつ触手は、首を落とされても這い回る毒蛇に似ていた。恐らくこれに嫌悪を覚えれば、山颪の餌となってしまうのだろう。
「これは……説得に応じるような相手ではなさそうですね」
 荒事は得手ではないのですけれど、と。ハズキ・トーンは眉尻を下げ、だが飄然と笑った。

 山颪の通った跡の、草花がしおれている。踏まれたくらいではへこたれぬ雑草が、力なく下を向いている。飽き足らずに口を開いた山颪に、緋色は銃口を向けた。
「おかわりはあげないよ!」
 蒸気を噴出しながら撃ち出された弾丸が、山颪の横面に直撃する。ガトリングの勢いに押され、ゆらりと頭部が傾いた。追い打ちをかけるように、真下からニノンのメイスが振るわれる。おとがいを強かに打たれ、貪食が閉口する。
「大丈夫ですか?」
 いつでも援護に回れる距離を保ちつつハズキが尋ねれば、ニノンは力強く頷いた。
「要は、あのオブリビオンに何か感じる前にぶっ飛ばせば良いんですよね!」
「その通りだ」
 アスの持ち替えた二挺の銃が熱線を放ち、山颪の表皮を焼く。肉の焦げる臭いがやけに鼻につき、彼は顔を顰めた。どうやらこのオブリビオンは見た目のみならず、臭気まで嫌悪を催させる存在らしい。しゅうしゅうと音を立て、生木を炙ったような蒸気が周囲に立ち込める。
「おかしいですね。この匂いは……花?」
 悪臭の中に甘さを含んだ青臭い香りが混じった事に気付き、寧々が目を凝らす。
 ――足リナイ、足リナイ。
 蒸気の中を這い回る山颪は、赤い衣に包まれていた。それがたたり椿の花びらである事は、想像に難くない。
「古椿の精を食べ散らかしただけでなく、亡骸まで弄びますか」
『たいぎゃにしとかんか、コラァ!』
 ここが肥後国だからだろうか、召喚されたもう一人の『寧々』は熊本の方言混じりでがなり立てた。二人の寧々が二手に分かれ、山颪を挟み撃ちにする。ふわふわとしたクランケヴァッフェが左右から伸び、鱗状に並んでいた花びらを取り込むように喰らい付く。
 ――モット。
 猟兵達が山颪を捕えたと確信した瞬間、ぶちぶちと赤い花を引き千切り、それは空へと逃れた。泳ぐように身体をくねらせ、真上へと昇ってゆく。
 モット、食ベル。
 陰惨たる滝登りの末、山颪が中空で口を開いた。
「いけません! 風の精霊さんを食べるつもりです!」
 耳をピンと立て、ニノンが叫んだ。貪食は猟兵達から逃れたのではなく、ただ喰らう為に飛んだのだ。空を見上げ、ハズキが目を眇めた。
「――あれを落とせますか」
「私が行くよ」
 と、と、と、と。
 答えるが早いか、緋色は跳んだ。目に見えぬ階段でも在るかのように宙を蹴り、彼は空を駆け上がってゆく。揺蕩うように空を泳ぐ山颪と比べるまでもなく、その差はみるみる縮まっていった。
 オ前ハ、要ラナイ。
 近付いてくる緋色に気付いた山颪が、花びらで身を固めて旋回する。全身に赤い鎧を纏って強化された怪物が、口を開いて獲物を待ち構えている。
「それ。食べ残しなんだよね?」
 その時、緋色のレガリアスシューズが唸りを上げた。ぐんと加速し、敵との距離を詰める。予想外の動きに、山颪は反応が遅れた。
「お行儀が悪いよ!」
 椿の花びらよりなお赤いインラインスケートが、弾力のある胴体にめり込んだ。真下に向けて蹴り飛ばされ、山颪が落下してゆく。
「はーい、こっちだよぉ」
 地上では、至極楽しげに仮面の奥の目を細め、ハズキが山颪を手招きした。背丈の低い草木ばかりだった裾野にはいつの間にか木々が茂り、四方へと枝葉を広げている。
「ようこそ、不知藪へ」
 山颪が大地に叩きつけられると同時、木々は抱擁するように広げていた腕を閉じた。ハズキの作り出した迷路は、まるで樹木で出来た檻だ。重なるようにして伸びた枝に遮られ、山颪が空を飛ぶ事は最早叶わない。
 ゴ飯ハ何処。ココハ嫌ダ。
 ゆっくりと身体を起こし、山颪は辺りを見回すように頭を動かした。ユーベルコード製だからだろうか、辺りは瑞々しい樹木に囲まれているというのに、餌となる精霊が少ないらしい。捕らえられてもなお餌を求めて落胆したような声を上げる怪物に、寧々は呆れたように肩を竦めた。
「あなたはただ、お食事をしているだけのようですけれど」
 際限なく精霊を狩られては、不毛の土地が広がるばかりだ。見逃すわけにはいかない。
『こらぁ、くらわせんとわからんごたね』
「仕方ありませんね」
 二人の寧々が取り出したクランケヴァッフェは紐状の器官を伸ばし、山颪へと絡みついた。ゴムのような身体を締め付け、大地へと縫い留める。
 オ腹ガ空イタ。離セ。
 それでも山颪は口を開き、地面を掻く。餌を求め、藻掻いている。
「……往生際の悪い事だ」
 アスの金属質な脚部が、微かに熱を持った。小さな駆動音と共に、服に隠されていた砲口とレーザー兵器が露出する。
(「これ以上、何一つ喰わせはしない」)
 この地に住まう精霊も、仲間達の感情も。口に出す事はしないが、アスの守るという意志は誰よりも強い。複数の擲弾と指向性エネルギー兵器――些か過剰とも思われる攻撃が同時に放たれ、身動きの取れない山颪に着弾する。
 食ベラレナイ。食ベタイ、食ベタイ。
 間違いなく全弾命中していて、だが山颪の声は止まない。砂塵の中から、うわ言のように繰り返される懇願が続く。
「たくさん食べることはいいことなんですよ。健康の証です。でも」
 ニノンはピンクの指球を一つ、砂埃の中で蠢く影へと向けた。
「知ってますか? 暴食は、罪になっちゃうらしいですよ?!」
 つまり、有罪です。朗らかに判決を述べるニノンの指し示した先で、雲が割れた。顔を出した太陽の光が、天使の梯子のように戦場を照らす。
 裁きの光に焼かれ、枯死の山颪から煙が上がった。吐き気を催す臭いと、名状し難い悲鳴が辺りを満たす。

 視界が晴れる。数々の攻撃を叩き込まれた山颪は至る所が焦げ、所々裂けている。だというのに、猟兵達の眼前で、緩慢な動きながら起き上がった。
 ――モット、食ベル。
 満身創痍となった山颪が絞り出した言葉は、そんな欲望だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

鹿村・トーゴ
おっと…こいつは…
オレは極限まで飢えた事はねーが見てると気が重くなるねェ…
ひと世代前は戦国の世
飢餓はこんなふうに目に見えるような災だったろうし
切羽詰ったツラさは気の毒だが村には通せないな…

こいつは感情も食うって聞いたし極力同情も嫌悪も考えない
UC使用し強化
代償の毒の痛みと敵からの攻撃は【激痛耐性】で凌ぐ
【忍び足】で接近し体当たりで逆手に持ったクナイを敵へ【串刺し】
噛み付かれる覚悟で晒した腕や足は降魔の毒を含むので【だまし討ち/毒使い】
それに敵が少しでも怯むか噛んで動きを止めさせたら先に付けた【傷口をえぐり】強化膂力でクナイを横薙ぎに抜き裂き【暗殺】

誰が悪いでもねーが業の深い敵だよな…

アドリブ可



「……こいつは」
 モット、食ベル物ヲ。
 猟兵達の猛攻に半死半生の状態で耐え、漸く口にした言葉がそれか。『枯死の山颪』がどういった経緯で生じたオブリビオンかは知らないが、貪欲に食べる事にばかり固執する様は、見ていて気が重くなる。
「オレは極限まで飢えた事はねーが……」
 鹿村・トーゴは忍びである以上、様々な修行はしてきていた。それでも比較的温暖な故郷では、食に困る事が少なかったように思う。
(「戦国の世では飢餓はこんなふうに目に見えるような災だったろうし、切羽詰ったツラさは気の毒だが」)
 村に通すわけにはいかないと、トーゴはクナイを逆手に構えた。同時、赤い鎧を纏った山颪が、滑るようにトーゴへと向かう。
『化け椿!』
「たたり椿の花か……!」
 頭上でユキエが声を張り上げた。全身を花びらで覆った山颪が迫り、トーゴは自身に魔を降ろす。
「感情を食うんだったな」
 山颪はトーゴに喰らい付いた――はずだった。不揃いな牙の並ぶ口が一旦は閉じられたものの、すぐさま口の中の物を吐き出して、弾かれたように仰け反った。
 ――ゴ飯ガ無イ。
 それどころか、口の中に流れ込んできたのは毒だ。トーゴの血筋に憑いたそれは、彼の血液に強い毒を齎していた。嘔吐いては口から黒ずんだ粘液を垂らし、山颪はのたうち回る。
「……同情はしない」
 してはいけない。自身に言い聞かせるように呟いて、トーゴは駆けた。足音も感情も押し殺し、体当たりをするようにクナイを突き立てる。
「……ッ」
 走った事で血が激しく巡り、全身が焼けるように熱を持つ。降魔の毒は、トーゴ自身の身体をも蝕んでいた。クナイから手に伝わってくる肉を裂く感触が、嫌に不快だった。燃えるように熱いというのに、背筋を冷たい汗が伝う。
 それら全てを耐え忍び、トーゴはクナイを振り抜いた。黒曜石に覆われた利き腕に匹敵する膂力で、山颪の身体が真一文字に裂ける。

 斬り裂かれた山颪の身体からは、血も流れなければ、臓物が溢れる事も無かった。ただ、がらんどうだ。
「……誰が悪いでもねーが」
 オブリビオンの進攻は食い止められ、村の平穏は守られた。村人たちに安全を伝えるべく飛んでいくユキエを見上げ、トーゴは枯死の山颪に背を向ける。
「業の深い事だ」

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年10月03日


挿絵イラスト