アポカリプス・ランページ⑯〜花一華
アメリカ全土を戦闘機械獣へと侵食してしまうことすら可能にしてしまう、マザー・コンピュータの喉元に刃が届くところまで来た。
マザー・コンピュータは、猟兵の力を侮らない。だからこそデトロイトの都市のすべてを「増殖無限戦闘機械都市」へと変形させ、猟兵を送り込んでくるグリモアを操る元凶ごと、超巨大な機械都市の内部に閉じ込める。
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、青みがかった黒髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
マザーの計画のひとつに、グリモア猟兵の必殺が掲げられているのだ。
むろん、それだけではない。
あらゆる物質・概念を機械化させて、その凶悪な力で猟兵を捻じ伏せようと牙を剥くだろう。
「概念を機械化させるってなんだよ、意味わかんねえ」
げんなりと嘆息。
あれの計画がグリモアの必殺である限り、閉じ込めたグリモアを狙ってくる――それが、マザーの隙になるかは、猟兵次第だ。
「俺も猟兵の端くれだから、おめえらと一緒に戦えっけどォ、俺が死ぬわけにはいかねえのよ。おめえらが帰れなくなっちゃうからァ」
しかしマザー・コンピュータは斃さなければならない。
誉人は佩いた太刀の柄を握る。せめてみなの足手纏いにならぬよう、己の命くらいは守ってみせようと覚悟を決めた。
「転送も戦闘もってなったらさすがにキツイから、戦闘はおめえらに任せたい。手がいるならいくらでも援護する。けど、おめえらの帰り道を確保すンのは俺しかできねえからァ……」
綯い交ぜになった感情を噛み潰して飲み込めば、グリモアが顕現する。まあるい蒼い光の中に、一輪のアネモネが凛と咲いた。
「――だから、頼んだ」
●フィールド・オブ・ナイン「マザー・コンピュータ」
細い肩を落とす――自らの理論を訂正しなければならないとは思いもしなかった。
未来と希望を求める人の意志は、永遠をも破壊する「究極の力」足り得るとは。
あれやこれやと思考を巡らせて、女性型の金瞳に瞼が下ろされた。
「……いえ、違いますね。私とした事が、未来など考えてどうしますか」
今最も邪魔なものを排除する。
「物事はシンプルにいきましょう。増殖無限戦闘機械都市によるグリモア必殺計画――さあ、かかってらっしゃい」
うぞり。
デトロイトの大地が揺らぎ、血脈のように回路が蔓延る。
空は電子の煌きが支配する。
都市のすべてが機械で制御され、戦闘のスペシャリストとなる。
機械の檻が猟兵を飲み込むだろう。
「どう対処するか見物です」
マザー・コンピュータの頬が、冷たくぎしりと歪んだ。
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「アポカリプス・ランページ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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プレイングボーナス……グリモア猟兵を守りつつ、増殖無限戦闘機械都市の攻撃を凌ぎつつ、マザーと戦う。
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当シナリオは「やや難」につき、難易度相当の判定になります。
藤野キワミです。
よろしくお願いします。
▼プレイング受付期間
・【OP公開直後~9/22(水)8:30まで】
・成功度に達しなかった場合延長します。
・オーバーロードは上記期間以降も受け付けます。
・断章はありません。
・採用は先着順ではありません。
▼グリモア猟兵
鳴北誉人
基本的に放っておいてくれて構いません。
積極的に戦闘はせず、命の危機が差し迫った場合は勝手に応戦しています。
鳴北に話しかける、鳴北と共闘する等、プレイングにて明確に【名前】を呼ばれない限り、リプレイには登場しません。
▼お願い
・同行プレイングのお願いはマスターページにあります。
・前回シナリオ運営時より、マスターページを更新しておりますので確認いただければ幸いです。
みなさまのカッコいいプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『マザー・コンピュータ増殖無限戦闘機械都市』
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POW : マシン・マザー
全長=年齢mの【巨大戦闘機械】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【出現し続ける機械兵器群】による攻撃を可能にする。
SPD : トランスフォーム・デトロイト
自身が装備する【デトロイト市(増殖無限戦闘機械都市)】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
WIZ : マザーズ・コール
【増殖無限戦闘機械都市の地面】から、対象の【猟兵を撃破する】という願いを叶える【対猟兵戦闘機械】を創造する。[対猟兵戦闘機械]をうまく使わないと願いは叶わない。
イラスト:有坂U
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
護堂・結城
何も悔やむな、思い悩むな、ここには敵と俺達と誉人がいる
ならやることは単純だ、誉人は帰り道の確保、俺はあれをぶっ潰す
自分が為すべき事を為せばそれで十二分だろ?
それじゃあ外道狩り、征くぞ
【POW】
「氷牙、吹雪、月の尾、全獣装解放…行くぞてめぇら!『我等は零れた願い星』!!」
指定UCで全武装を搭乗兵器に合体、移動力を減らして攻撃回数を増やす
早業で軌道を見切り、怪力による尻尾の叩きつけだ、ついでに雷属性の貫通攻撃ももっていけ!
機械兵器群には咆哮による衝撃波の範囲攻撃で対処
「まぁ、なんだ…仲間だろ?自分が手を出さずとも大丈夫って信じて俺らに任せてくれよ」
「お前が絶望の未来を描こうと俺はそれを超えていく」
夜刀神・鏡介
やあ鳴北、久しぶりだな……なんて言ってる場合でもない、とんでもない所で再会する事になったもんだ
俺の戦い方の都合上、無限に敵が湧いてくる状況下での護衛は流石に厳しいんで、手早く本体を叩きに行ってくる。悪いが、少しばかり凌いでくれ
神刀の封印を解除、参の秘剣【紫電閃】を発動
紫紺の神気を纏って行動能力を大きく強化
落ち着いて最短距離を見極めてから、マザーに向けてダッシュで突貫
道中の邪魔な敵に対してはすれ違いざまに切り込み、斬撃波を食らわせて破壊しながら駆け抜ける
接近したならダッシュの勢いを乗せてジャンプ、近くの敵やマザー自体を足場に再度跳躍して、マザー本体へと接近
加速した斬撃を纏めて叩き込んでやる
藤・美雨
適材適所、だよね
誉人が帰り道を確保してくれるから私達が頑張れるんだ
しっかり守るよ
みんなで帰ろ!
敵の攻撃は止めどなく来るだろうね
だから殺傷力重視!
刻印を起動し腕を殺戮捕食態にして戦うよ
誉人に対しては盾になれるように
そっちに迫る攻撃を【野生の勘】で察知して警告しよう
場合によっては私が盾になるよ
【激痛耐性】とヴォルテックエンジンがあるから大丈夫!
出現し続ける兵器達は【暴力】でなぎ払おう
とにかく道を切り拓かないと
自分の防御は優先度低め
誉人を守りつつ突っ込むよ!
マザーにも同じように接近して殴りにいこう
邪魔するものは全部【怪力】でねじ伏せて
仲間を傷付けようとしたんだ
許さないからね、ボコボコにするよ!
●
あらゆるものが機械に浸食されている。二彩の眼光は鋭くて、鼻を鳴らした。
何を悔やむ必要がある。
何を思い悩む必要がある。
そんなものは、いらない。
護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、いくらか高い位置にある紺瞳を見返した。
「ここには、敵と俺達と、誉人がいる」
悩んだって仕方はない。
悔やんだって打開するしかない。
「ならやることは単純だろ――誉人は帰り道の確保、俺はあれをぶっ潰す」
「まさに適材適所、だよね」
藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)の軽やかな声がして、彼女はひらりと手を振って挨拶。
「誉人が帰り道を確保してくれるから私達が頑張れるんだ、しっかり守るよ」
「そういうことだな。自分が為すべき事を為せばそれで十二分だろ?」
ふたりの顔を見、鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、こくりと肯けば、美雨の濃灰の双眼は頼もしげに笑んだ。
「ん、護堂サンが暴れやすいように、しっかり逃げるわ。美雨も気ィつけろよ」
「無問題!」
敵は、都市そのものだ。すべてがマザー・コンピュータの制御下にある――とてつもない脅威だが、ふたりの背の頼もしいこと。
「しかしまあ、とんでもない所で再会する事になったもんだ。なあ、鳴北」
彼に肩を並べたのは、黒髪の青年。普段のやわさを隠した黒瞳は、精悍に光っている。
「――鏡介」
「久しぶりだな……なんて言ってる場合でもないか」
「もっとゆっくりしたとこで、話したかったなァ」
「帰ればいくらでも。そんな機会を作ることはできるだろう」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、少し下にある誉人の目を見返し、こともなげに言い放つ。
このふざけた機械都市から脱出すればいい。
「俺の戦い方の都合上、無限に敵が湧いてくる状況下での護衛は流石に厳しいんで、手早く本体を叩きに行ってくる。悪いが、少しばかり凌いでくれ」
「ああ、大丈夫……コレは俺の仕事だ」
コレ――ここから帰還させることができるのは、誉人だけだ。言いながらも表情を曇らせた誉人に、結城は頬を掻いた。
「まぁ、なんだ……仲間だろ? 自分が手を出さずとも大丈夫って信じて俺らに任せてくれよ」
その心の揺れは判らないことではない――今、それを思い悩んだところで詮無いことだ。
「お前が絶望の未来を描こうと俺はそれを超えていく」
「待って、護堂サンがかっこよすぎて今すぐ死にそォ……」
「死なせねぇって話をしてるんだ!」
こっ恥ずかしい気障なセリフを吐いてやったというのに、それを茶化した誉人を怒鳴って――合点し、納得した。
言われた本人も照れて恥ずかしがって、耳まで赤くなっているではないか。
「おーおー、そうやって守られておけ」
帰り道がなくなるのは、勘弁だ。
◇
「おじゃべりは終わりましたか」
マザー・コンピュータの声音が響く。いやにニンゲンじみた声音だが、その発生源は見えない。
白鞘から抜かれたのは、《神刀【無仭】》の鈍く妖しく光る刀身。漏れ出る紫紺の神気を総身に纏繞させて、構える。
「待っていてくれたのか。殊勝なことだな」
揺れて撓むビルは、崩壊と再生を繰り返しながら鏡介を圧し潰さんと迫る。踏みしめる地は電子回路が蔓延って、鏡介の足元を掬わんとうねり歪む。
しかし、バランスを崩して倒れることはない。悪い足場であろうとも、驀地に駆ける。心は驚くほどに凪ぐ――この薄気味悪い機械の猛攻を仕掛けるマザーへの最短距離を見極める。
発露する紫紺は煌々と《無仭》を輝かせ、漲る力は鏡介の一挙一動のすべてを加速させた。
「我が刃は刹那にて瞬く――たとえこの命を削ろうとも!」
鋭い呼気は一瞬。
尖らせた黒瞳が、迫るビルの突出を一瞥、襲来するケーブルの束やら、剣山のようなパイプやらを斬って捨てながら、駆ける。
斬り砕いた鋭い破片が精悍な頬を裂こうとも、鏡介の脚を止めることはできない。
止まるわけにはいかない。この都市を意のままに操り、掌握するマザーは止めなければならない。
速く、疾く、いまよりも迅く――紫電のごとき激しさで、あれを貫く。
すれ違いざまに迫る槍撃にも似た街灯を斬り、息つく間もなく着地先の足元から生えたのは、鏡介を串刺しにする鉄骨の束――
「っ!」
小さく舌を打って、刀を強引に振り抜く。甲高い衝撃音と、一瞬後放たれた衝撃波は、鉄骨を――その先にあるビルの硝子を木っ端に粉砕した。
「随分と、おいたがすぎるんじゃないか」
「そうですか。これでも足りませんか――グリモアを壊したいだけなのですが」
「鳴北には凌げと言った。その俺が、これしきのことで止まるわけがないだろ」
今のやりとりで、都市に溶け込み、計画を遂行しようとして猛威を振るうマザーの位置を特定する。
迫るビルの窓硝子を踏み抜かぬようにあらぬ方向にある壁を蹴り、思い切り跳躍――僅かな滞空時間を狙う電光掲示板の平手打ちは、撃ち出す衝撃波で割り砕き、ガードレールの拳を再度蹴って、跳躍した。
烈々たる神気は煌々と揺るぎなく、都市を操る生体コアへのガラクタを斬り捨てる。
「こんなところでかくれんぼか」
刹那、紫電が閃く。
生体コアを守る機械を吹き飛ばし、その身へと神速の刺突――果たして、マザーを守るように張られていた硝子は砕け散り、やわそうな腹は刺し貫かれていた。
◇
あっという間に飛び出していった鏡介へと、戦闘機械と化したデトロイト市が襲い掛かる。それは、例外なく結城をも巻き込んで、地響きと轟音は続いた。
それに怯んで思考を止める結城ではない。
「氷牙、吹雪、月の尾、全獣装解放……行くぞてめぇら!」
お供竜も、九尾も、なにもかもすべてだ。一切合切を余すことなく取り込んで生まれるのは、力の結晶だ。
「『我等は零れた願い星』!!」
【雪見九尾の星屑一条】――スターダストキャバリアが轟音を立てて現れる。
「うおお! キャバリアだ! 初めて見たァ! でけえ!! かっけえ! おおおっすげえ! 護堂サンかっけえ!!」
「離れとけよ、誉人!」
はしゃぐ彼にマザーの攻撃が及ばぬように、声を張った。
(「存外余裕じゃねぇか」)
ふんと鼻を鳴らし、誉人を一瞥――それが空元気だったとしても、杞憂だったかもしれんと彼を顧みることはやめた。あれに向かうはずの攻撃のすべてをこの身へと仕向けさせ、その悉くを打ち砕けばいいだけのこと。
「それじゃあ外道狩り、征くぞ」
九尾の狐を模した巨大なキャバリアが動き出す――瞬間、その巨体の砲撃が開始される。
蠢く都市のライフラインの猛攻を凌ぐ。弾ける氷雪を宿す颶風がコードの束を凍てつかせながら、鏡介の奔った跡を追うように進軍――機動力を犠牲にした分の手数は戦闘機械都市の妨害をいなす。
ビル群を蹂躙する雷撃――盛大に砕けて爆散していく都市を顧みることもなく、結城の眼は、マザーを見続ける。
あれを守るように張られていた、ハンプティダンプティはもはや元に戻らない。
それでもマザーはそれを補うように、あらゆる機械の装甲を纏い始める。
「でかい物はでかい物で勝負だ!」
生体コアを守護する機械群は、幾重にも折り重なって、堅牢さを増していく――が、それは、結城も同じことだ。
機動力を犠牲にした代わりの力だ――力は漲っている。いくつもの罪を背負う狐尾を叩きつければ、衝撃と爆音が波状に広がって、一斉に崩壊する。
轟然たる崩落の先にある、愕然と双眼を瞠るマザーの幼貌。
「貫いてやるよ! 遠慮すんな、もっていけ!」
続けざまに振るわれた尾閃の破撃は、雷光を纏い、凄絶な咆哮を上げる。
自壊していくように、破損し破断し破砕して――機械兵器群を圧倒していく。瓦解した機械の破片が生体コアへと突き刺さり、裂けてぶち当たった。
しかし、機械の猛攻が止まることはない。
マザー・コンピュータの停止を確認するまでは、気を抜くことは出来るわけがない。
隙あらばグリモア猟兵を――美雨が背に隠す誉人を狙う攻撃の手を緩める意味は見いだせない。
グリモア猟兵を滅すれば、美雨らをこの混沌に閉じ込めることが出来、今後、他の世界で起こる騒動を予知できなくなる。
なるほど、考えられた策だ。だからこそ、食い止めなければならない。
その突破口は抉じ開けられた。
雷鳴を轟かせる衝撃波が、マザーの手足となる機械群を押し止める結城の凄烈な咆哮の陰に隠れ奔る。
《刻印》は美雨に噛みつき蝕む。細腕は殺戮捕食態へとごきりと変じていく。
美雨の裡に湧く衝動は、彼女の躰を駆ける力となる。
守りに徹して如何とする――攻撃こそ最大の防御にして、このふざけた都市からの脱出に繋がる。
だからこそ、美雨の腕は、マザーを喰らい尽くすために凶悪に変じた。
抉じ開けられたマザーへの道が閉ざさないように、純然たる暴力でもって迫りくる機械を捻じ伏せる。派手に瓦礫を撒き散らす戦いを繰り広げ、あれに危機を与え続ける――万が一にも誉人に、その手が回らぬように。
結城が「仲間だ」と言っただけで照れていた気丈なグリモア猟兵の盾となるよう、美雨は気炎を吹く。
「ちょっと離れるからね!」
「俺ンことはいいからァ! 大怪我すんなよ」
強烈な破壊音の奥に、誉人の気遣う言葉が消えていく。美雨が迫るビルを殴りつけ崩壊へと誘った。
「大丈夫!」
轟音を切り裂く美雨の声は、果たして誉人に届いていた。
こちらの身を案じて曇る紺瞳を見返し、それでも防戦に徹する彼へと笑んでやった。場合によっては、美雨が彼への攻撃を肩代わりする覚悟も出来ている。
「みんなで帰ろ、誉人!」
彼のグリモアでしか帰れぬのだから、その道を閉ざしてくれるなと、約束を押し付けた。
瞬間――
空気を震え上がらせ、大地を震撼させて、戦闘機械の動きすら瞬間的に鈍らせるような爆発が起こる。
九尾の狐型のキャバリアがマザーへと轟雷を解き放ったのだ。
追い打ちをかけるように鏡介の声がして、ケーブルの束が細切れになって落ちていくのが見えた。
迫る道路標識を殴り飛ばしながら、美雨の脚はマザーへと向かい続ける。
都市の妨害は実に鬱陶しい。足元をぐにゃりと歪めて踏み切りを妨害してくる。突如足元から生える剣山のような鉄パイプを、寸でのところで躱しながらも、傷は絶えず生まれる。
激痛が走るが、これしきの痛みに動けなくなるようなやわな躰ではない。機械兵器群の猛攻は止まないが、美雨も止まらない。
そのとき、明らかにこちらを狙わないケーブルの束が奔る。
「――ッ、!」
それが誉人を狙う一撃だったことに、美雨は己の身を滑り込ませ、止めた後に合点した。反射的に動いていた。身を呈してでも守ると凄まじい衝撃が彼女の躰を支配したが、背後の誉人を確かめれば、こちらに背を向けて都市の攻撃に応戦していた――勘が働いてよかった――痛みで揺れる視界であろうとも、すでに機械群の奥に見え隠れするマザーの姿を捉えている。
「仲間を傷付けようとしたんだ――許さないからね、ボコボコにするよ!」
綻ぶ戦闘機械へと肉薄、突出してくる機械兵器を真っ向から睨み据え受け止め殴り壊す。
「そんな」
「みーつけた!」
ニンゲンらしい愕然とした幼貌だったが、躊躇することもなく、美雨は生体コアへと拳を叩き込んだ。
大成功
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護堂・結城
さすがに都市丸ごと飲み込んだだけある、頑丈だな。ならもう一発、デカいの叩き込むか
真の姿に変身だ
血のように燃え滾る紅を、外道を狩る為の本能を呼び起こせ
外道、殺…いや、仲間に手を出したからお前を斬る
「せっかくだ、いいもん見せてやるよ誉人」
皆お前を護るために頑張ってるから、きっとこのユーベルコードも応えてくれる
戦場に満ちた昂った感情を、仲間を護るために戦う気持ちを大声に乗せた生命力吸収で喰らい劫火剣乱を発動
…たまにはこういう綺麗な気持ちだけでこの剣を使うのも悪くねぇな
「仲間を連れて帰るのを邪魔をするお前は…『――頭を垂れよ、死はお前の名を呼んでいる』」
召喚した劫火の剣群のうち半分を空中に待機させて誉人の防衛に、残りをすべて刃に集中させて攻撃力を集中
風の魔術を多重詠唱、まとめて足元で破裂させて高速の大跳躍
接近した瞬間に氷牙と吹雪を合わせ、無敵斬艦刀に変化させる不意打ち、地形破壊を込めた斬撃波を仕掛ける
怪力で振り下ろすだけの単純で、だからこそ最速の一撃だ
「こいつでしまいだ、帰って飯でも食おうぜ」
●
己の血を代償にした打撃を叩き込まれ、研ぎ澄まされた斬撃を喰らい、スターダストキャバリアからの一斉射撃を受けてなお、機械都市は停止しない。
「護堂サン、いまのすげえな! キャバリア! ぶわああって! マジか!」
「お前の語彙力どうした?」
白銀の刀を納めた誉人は、キャバリアを降りた護堂・結城(雪見九尾・f00944)の背へと近寄って、喜色満面に笑っている。
「あはっ、さっきのすげえので吹っ飛んだ!」
それが空元気なのかは判然としないが、一瞥した限り、彼は無事だ。
上々。
しかし、マザー・コンピュータはいまだ止まらない。さすがに都市丸ごと飲み込んだだけはある――なんて結城は舌を巻いた。
お供竜たちが結城の周りを跳んで気炎を吹く。なおも警戒を続けて、状況を把握する。
粘土を捏ねるようにケーブルと基盤と鉄片が盛り上がり、崩壊した箇所を埋めるように蠢いている。
損傷すら機械化していくというのか。頑丈にもほどがあるだろう。
赤色のパトライトが喧しく明滅するのを睨める。赤緑の双彩を誉人へと向けた。
「まだ元気だな?」
「ん、平気」
「ちゃんと帰って、飯でも食おうぜ」
「護堂サンの奢り?」
「それは甘えすぎだな」
獰猛に笑んで、深く呼吸をひとつ。
地響きが靴裏から伝わる――しつこい都市は、グリモアの破壊を諦めていない。
「ならもう一発、デカいの叩き込むか」
鞘走る甲高い刃擦れの音、抜いた刃は血色の刀。
「せっかくだ、いいもん見せてやるよ、誉人」
燦然と煌く銀髪が、緋色に染まりゆく――血のように燃え滾る紅は、結城に眠る本能の彩だ。
染まる染まる、赤く紅く赫く。
それは、外道を滅するための力だ。内より生まれ出ずる烈々たる本能だ。
「外道、殺……いや、仲間に手を出したから、お前を斬る」
その言葉に、誉人は瞠目して、むずりと唇を歪ませた。
「恥ずいンよ……その、仲間っての……」
「みんな、お前を護るために頑張ってるからな。お前も気張れよ、誉人!」
「っ、わかった!」
体を張って駆け付けてくれたひとに醜態を晒すわけにはいかない。気合を入れ直す。
蒼のグリモアは潰えない。
その中に咲く一輪の花一華は、いかなるときも凛乎と笑む。
己のためだけではない。
「よし、良い返事だ!」
戦地に共に立つ仲間を想えばこそ、憤怒と歓喜は烈気へと昇華して、熱く昂り、篤く滾る。
敵憎しと最大の原動力としてきた激情しかり――それでも。
(「……たまにはこういう、綺麗な気持ちだけで、この剣を使うのも悪くねぇな」)
仲間を護るために振るう力の、なんと面映ゆいこと。しかし、なんとも心地よいこと。
《紅月》の鋒鋩は、マザー・コンピュータへと合わせられ、
「仲間を連れて帰るのを邪魔するお前は……、」
満ち満ちた高揚感を余すことなく喰らう烈声が迸る。
「『――頭を垂れよ、死はお前の名を呼んでいる』!」
ごあっと空気が一瞬で熱されて、劫火の剣群が顕現する。
炎々たる剣群の一部を誉人の頭上に展開させた。彼の花刃の嵐と相まって、炎刃は機械都市の攻撃を防ぐだろう。
「私を呼ぶ声は聞こえません」
「ではすぐに聞かせてやるよ」
業炎が奔る。機械を熱し、斬り、砕き、燃やし、焼き、マザーの意のままに操られる機械群をスクラップへと変えていく。
断たれたケーブルから爆ぜる火花も、不安定なモーター音も、甲高いエンジン音も――結城の炎剣が沈黙させていく。
這い寄る死の影は、猛炎に隠れている。
火の勢いは強くなる。巻き上げられた風は結城の力を孕んで炎を煽るのだ。
猛烈な勢いで生み出され迫りくる機械は、バチバチと雷電を散らせた。それに怯む結城ではない。
力を靴裏へと収束させて、爆発的な推進力へと変えるために圧縮する。破裂。足元にあった機械の死骸を木っ端に砕いて、吹き飛ばされるように飛び上がった。
高速で逃げられる前に叩く――機関銃らしい筒が飛び出してくるが、剣群が展開しては、焼き払うように薙ぎ散らす。
それでも機械兵器の出現は止まらない。回転刃が喧しいモーター音でがなり立てながら結城へと飛来、《紅月》で受け――きれない。ぎちぎちと刃同士が削れ合う音に、舌打ち。しかし次の一呼吸で、炎刀がそれに突き刺さり、地に落ちた。
「氷牙! 吹雪!」
凄まじい風圧の中で、迫るケーブルの束の拘束を、体を捻って躱し、躱しざまに蹴り上げ千切っておく。
白と黒の竜は、主命のままに姿を変えて大振りの刀に変じていく――赤勾玉を宿す無骨な巨刀を振り上げた。
【劫火剣乱】に、派手に燃え光る炎撃は刃と共にマザーを狙いすまし、熱波は装甲を捲り上げながら、機械兵器に閉じ籠ったマザーを露出させた。
幾層にも重ねられた機械の悉くを破砕する衝撃波に、鉄塊は屑と化していく。
「そうやって閉じ籠って、誉人を狙えるのか――今更出てきたって遅いがな!」
機械の猛攻を受け躱しながらの接近に、結城の躰には細かな傷が刻まれたが、その傷すら彼の獰猛さに箔をつけるものだった。
血色の髪は、燃え滾る血潮。
体の隅々まで行き渡る剛力の源――結城の膂力のすべてを込める一撃は、ただただ振り下ろすだけ。
単純明快だからこそ、結城の力のすべてが発露した最速の一閃だ。
「こいつでしまいだ」
無限に増殖し幾重もの層になって立ちはだかった堅牢な機械兵器へ、炎撃が突き刺さり、一条の隙間を抉じ開けるように、両断。
「死の呼び声は聞こえたか?」
瞠目した金瞳に、獰悪な笑みが映り込む。
大成功
🔵🔵🔵
香神乃・饗
誉人を狙うなんて赦さないっす
何があっても誉人を護り抜く覚悟を決めてかばう心積もりで挑むっす
猫の子一匹通さ…本物のネコチャンなら良いっすけど通さないっす
街が敵なら隠れても其処は敵になるっす
兎に角逃げ回り敵同士が同志討ちする様におびき寄せ敵を盾にして混乱を狙う
誉人を狙う其処が隙っす
誉人を狙うという地形を利用し
誉人に花弁を散らせて貰い
何処から襲ってきても花弁が消えた処から襲ってくるっす
其処を討つっす
誉人と死角を補い合い暗殺を防ぎ
香神乃共鳴で片っ端から斬るっす
逆に誉人を狙わせ油断してるから討てるというフェイントをかけ力を溜めて一気に叩き斬る
真の姿を開放してでも討つっす
花弁に紛れ死角から接近し暗殺を狙って剛糸で絡めとり苦無でぶった斬り命を浚う
誉人を狙うと如何なるのか思い知るっす
真に怒ると表情無くすかもっす
誉人も一緒に斬れるなら斬るっす自分でカタつけるっす
誉人、怖くないっすか
一瞬手を握りに行く
俺が絶対守るっす
帰ったらご褒美一杯用意するっす
何が良いっすか
何でも良いっす
こいつを倒してちゃんと家に帰るっす
●
「誉人、帰ったらご褒美一杯用意するっす。何が良いっすか」
「え、褒美? なんで?」
「なんでって――誉人も頑張ってるっすから、俺も頑張れるっす。なんでも良いっす」
中華料理食べに行くっすか。
今度こそ小鳥カフェに行くっすか。
誉人のバイクの後ろにまた乗せてほしいっす。
また一緒に唐揚げ作るっすか。
とめどなく、欲張りに溢れ出すのは、些細な日常ばかり。その時間の尊さに、その時間の愛おしさに、奥歯を噛み締めた。
「こいつを斃して、ちゃんと家に帰るっす」
「ん。そォだな」
怫然と尖り揺れる黒瞳を見返して、彼は笑んでいた。
「……誉人、怖くないっすか」
「みんながいて……お前と一緒にいて、なにが怖えってンの――行ってこい、饗!」
彼の不安を和らげようと出した手を、反対に握り返された瞬間、力強く放り出された。
香神乃・饗(東風・f00169)の背を押すのは、心地よくも頼もしい発破。
「誉人も一緒に、」
斬れるなら自分でカタつければいい――そう言いかけて、饗は言葉を飲み込んだ。
今は、誉人が命を賭して前線に行くべきではないのは判然としているのだ。
「饗。俺、帰ったらさ、行きたいとこあンのォ」
「へ? どこっすか」
「今はナイショ。ごほーびくれンだろ? あとで教えてやっから、さっさとけりつけてこい」
誉人の言下、梅鉢紋を強く叩かれた。じわりと背が熱くなる。
「手伝ってほしいっす」
「いくらでも!」
存分に戦わせてやることはできないが、それでも誉人と共に戦地に立てば、それだけで饗の力になる。心身が靭く鍛え上げられるような感覚――内から湧き出でる歓喜にも似た高揚に、心臓は大きく強くポンプする。
都市がまるごと敵だというなら、どこに隠れたところで見つかるだろう。しかし、隠れたところを狙ってくるなら――それが出合い頭に同士討ちとなったら――饗が戦場を縦横無尽に引っ掻き回せば、都市は混乱して機能を鈍らせるのではないか。
思考を巡らせた瞬間、制御を失って(あるいは新たな操縦者を得て)こちらに突っ込んでくるヘリの黒々とした影が、爆音を連れてくる。
即座に擲つ鋲のついた剛糸はプロペラを絡めとる。
鉄の塊が、今度こそ制御不能に陥って、自由落下――大きな爆発。誉人を狙う機関銃を巻き込む熱風が二人の髪を掻き混ぜて、細かな金属片が体にぶち当たる。
グリモアを狙う、手段を問わない攻撃――これが絶え間なく続けられるというのか。考えただけで虫唾が走る。たとえ己が傷つこうとも、誉人を護り抜く覚悟を決めた。いくらでも叱られてやる。そんなかけがえのない時間すら潰えさせてなるものか。
「猫の子一匹通さな……本物のネコチャンなら良いっすけど、」
「かァいいのンだったら大歓迎なのになァ!」
今はこれ以上雑談に興じている余裕はない。
はやく、日常に戻ろう。
◇
機械都市は激しく火花を爆ぜさせて、鋭利に鉄骨を尖らせ、モーターを唸らせ、迫ってくる。
その悉くが猟兵を狙う凶刃。どれから動く――否、勘を働かせずとも、この状況だ。
《唯我月代》は、たちまちのうちに花へと解けて、花一華の濃厚な香りが広がる。舞い広がった花弁が不機嫌に揺らいで落ちた――刹那、弾かれたように体は動く。不安定な足場を跳ねるように蹴り、驀地に突っ込む。
森羅万象を断ち切る刃は次々と閃き、機械兵器を砕き落とす。花弁は無数の刃だ――それが触れた瞬間に、破砕音と火花が散って、仄蒼い光が残る。
「守られっぱなしってなァ……やっぱ、どうしたって性に合わねえンだよ」
ケーブルの束を斬り落とした誉人の、低く唸るような声音。
互いに肩を並べ、背を護り合ってきた。
誉人が囮になって機械群を引き付ける――そんな無茶な作戦すら上手く決まってしまいそうな気になるほどに、彼への信頼は大きい。
脇差の蒼に、白が集まる。煌然と光を弾く花弁を纏い、刀を振り上げれば――白濁の渦は風切り音とともに饗を追い越して機械群を飲み込んだ。
その大振りの一合はかっこうの餌だろう。
彼の死角から迫り、命を貫く鉄骨は、すべからく両断する疾風迅雷の刃に阻まれる。
「赦さないっす」
引き締まる片頬に、赤梅が浮かび咲く。
互いの身を護りあえども――度し難い怒りは沸き続ける。吐く息に怒気が滲み出す。尖る黒の眼差しは鏃となって、傷だらけの生体コアを射貫く。
咲いた梅は散らない。それは饗たらしめる覚悟の花だ。
「俺が絶対守るっす」
花刃の白嵐はマザーを眩惑することはないが、饗の行動の選択肢は増える。
抉じ開けた隙間に剛糸が括りつけられた苦無を擲てば、ケーブルは引き千切られるように断たれ、激しく火花を散らした。
怒涛の勢いで流し込まれる白の濁流を追いかければ、瓦解していよいよ露呈した生体コアへと、一歩のところまで迫る。
「誉人を狙うとどうなるのか、思い知るっす」
ニンゲンじみた驚きの彩に染めた金瞳を見返すが、これは、饗の大事なひとを危機に陥れた。もとより容赦する気はないが――
「いいえ、知る必要はありません。私は、そこのグリモアを壊すだけです」
頬が凍てる。
嗚呼、よかった。誉人は饗の背しか見えていない。こんな酷く冷たい貌を見せずに済んだ。
饗の怒りが伝播した剛糸は、マザーの細首を絞め上げた。食い込む糸を解かんと首を引っ掻き溺れる手の甲に、一切の容赦もなく苦無を突き立てる。
憤怒が凝縮されて凍てついた双黒は、マザーを睨め射貫く。
「やれるものならやってみろ――俺がいるかぎり誉人には指一本触れさせないっす」
そして、《雨が降り出した》。
大成功
🔵🔵🔵
吉備・狐珀
鳴北殿がバレンタインデーの時にお持ち帰りされた虎目石。
すべてを見通す虎の目は物事の本質を見抜き、災厄を退け、成功をもたらすと言われています。
だから大丈夫です。この戦い必ず勝ちます!
ご自身の身は自分で守るとのことでしたが念には念を。
ウケに鳴北殿の周囲に結界と護衛をお願いしてマザーの元へ。
UC『協心戮力』使用
私の降らす雨をウカの風属性の力で急激に冷やして起こすは雹の嵐。
戦闘機械の凍結と機械をも貫通する雹でその動きを封じる。
万が一、避けられたとしても溶けた雹から私の扱う酸を含んだ毒水が機械を錆びさせ動きを鈍らせることになる。
真の目的はみけさんによる戦闘機械へジャミングとハッキング仕掛け、猟兵を撃破するという願いを阻害すること
相手はマザーの創造した戦闘機械
内外両方から一気に攻めます!
ハッキングに成功した戦闘機械はマザー討伐に協力してもらい、そうでないものは月代、ウカ、衝撃波で吹き飛ばしてしまいなさい!
統率のとれなくなった戦闘機械を隠れ蓑に紛れ、マザーの背後へ。
我が兄の剣技と炎を味わいなさい!
●
降り出した雨の一粒一粒に、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)の聖性は滲んでいた。
ざあっと激しさを増す雨足は、狐珀の制御を外れることなく、デトロイト市だった街を濡らす。
「ウケ、結界を」
誉人の頭の上に飛び乗ったのは、主命が下った白狐。
「うおっ、ん?」
「ウケ、そのまま鳴北殿の護衛もお願いします」
自分自身の安全は確保するとのことだったが、念には念を――張られた結界は、主命通りに、誉人を守護する。
「よォ、ウケ。よろしくねェ」
白いふわふわの尾をふらりと揺らして、挨拶の代わりとなる。誉人の護衛をも命じられたウケは、彼の頭の上に座り背を伸ばした。
これで護りやすくなったとでも言いたげな様子に、僅かに頬を綻ばせた狐珀は、敢然と誉人の紺瞳を見上げる。
「今年のバレンタインデーを覚えていますか?」
「ああ、狐珀手製のチョコエッグを貰ったな、美味かったよ」
烈しい戦闘音の嵐の中で、凛とした声音は、実に心強くて。彼女は艶やかな黒髪を揺らして肯いた。
「そのとき、お持ち帰りされた虎目石は――」
「わり、持ち歩いてねえ……うちにおいてあるわ」
「貴方の手に渡ったのですから、構いません――あの石は、すべてを見通す虎の目で、物事の本質を見抜き、災厄を退け、成功を齎すと言われています」
たとえ、いま、身につけていなくとも。その石の加護が誉人にはあると、狐珀は笑む。
「だから大丈夫です。この戦い必ず勝ちます!」
「狐珀に言われると大丈夫って気しかしねえな」
先陣を切った猟兵たちの頼もしかったこと。刃も、衝撃も、拳も――そのすべてがマザーを脅かす一撃だった。
その一手一手の積み重ねの末に、今がある。
駄目押しの一手を押し込む狐珀は、不安定な足場を物ともせずしっかと立ち、黒狐を喚んだ。
「では鳴北殿、武運長久を願っております」
「ありがとォ――でも、狐珀だってそうだろ。怪我すんなよ、気を付けてな」
帰る道が閉ざされてしまわぬように――彼女の帰りを待つ者だって、いるのだから。
◇
【マザーズ・コール】――砕かれた硝子の奥にあるのは、傷にまみれた女型の生体コア――それが狐珀の崩壊を望む。
いくら壊しても無限に増殖を繰り返す機械都市は、マザーの願うままに形を変えて狐珀へと迫ってくる。
揺れて撓って――かと思うと、鉄骨が生え出てくる。肉が盛り上がるように鉄塔へと骨を増やし、迷うことなく狐珀へと鋭尖を突き立てる。
否、それは狐珀に届かない。
彼女に付き従う者たちの心を合わせ、力を一つに収斂させて、大義を成す――狐珀の聖性で造られた雨粒が冷たい風に吹かれる。
彼女の足元で宝玉を胸に抱く黒狐が、狐珀の力を補うのだ。驟雨は、即座に雹へと姿を変え、凍てる颶風が機械兵器を貫き削り取った。
凍てつき破壊された戦闘機械であっても、発熱ユニットが出現して、くっついて膜を張った氷を溶かしていく――しかし、そうされることは想定済みだ。
幾重にも張った罠の一つ。轟烈に機械どもを貫き壊す雹には、強烈な酸を含ませてある。溶け出た毒は即座に機械を錆びつかせていく。ぎしりと軋む硬く鈍い音は、実に耳障りだった。
それをものともせず、白い影が奔る。
雹の嵐を掻き混ぜる月代の声が、颶風の中でも凛然と響いた。中空で打った翼が空気を掻き混ぜ、機械どもの腐食を進めていく。鈍くなっただろう。こんなはずではなかっただろう。コレを使えないとなると、マザーはただただ願望を唱えただけだ。
「どうして――うごいて、動きなさい」
しかし、彼女の制御は成果を生まない。瞬間、新たな戦闘機械が地面より生まれた。
「私の願いは、グリモアの破壊です。そうして、邪魔をした貴方の破壊を――」
「その願いの悉くを砕きます」
藍瞳は決然とマザーを睨み据え、月代が放つ雷鳴轟かせる衝撃波を隠れ蓑に、白いAIロボットの仕掛けが発動した。
それこそが、狐珀の真の目的――みけさんだ。
機械兵器の制御を乗っ取る。ハッキングによって制御系統を暴き、ジャミングによって指揮系統を乱し、的確に阻害する。
狐珀や、誉人を撃破するというマザーの執拗な願いを曖昧にぼやけさせる。
これは、狐珀の知る素直な機械ではない。マザー・コンピュータの創造した戦闘機械だ。一筋縄でいかないことは、先の戦いを見れば一目瞭然。
「内外両方から一気に攻めます!」
鮮烈な声音が、戦場を揺らした。
「なぜ、私の、――命令に背くプログラムはないというのに」
硬直して動かない戦闘機械は、アイドリングを続ける。低く轟くエンジン音は、主命を待ち続ける――それが、今、勅命が下り続けようとも、狂わされた指揮下では、一切を受け付けることはなかった。
「違う、そうではありません……!」
機関銃は明後日の方向へ発砲を続け、弾丸の前に飛び出していく、チェーンソーやらの凶悪な武器の数々。それが蜂の巣にされていく。割れ砕ける液晶、硝子、鉄板――機関銃を沈黙させるのは、地下より突出した尖塔。
混乱し錯乱し錯綜する。
なんとか制御を取り戻そうと躍起になるマザーの焦燥を煽るように、機械兵器は同士討ちに精をだす。
錆び朽ちてなおも銃口をこちらに向ける機械を一瞥――
「月代、ウカ! あれを吹き飛ばしてしまいなさい!」
鮮烈な命令の下に氷雨と雷霆が、大気を揺るがして機械を飲み込み、木っ端に破壊する。
混迷の中、狐珀は駆ける。走りにくいことこの上ないが、マザーが戦闘機械の制御の舵を取り戻せずにいる今こそ好機。これを逃すことはしない。
互いを破壊しあう機械と、煽り立てるように衝撃波で戦地を引っ掻くウカと月代――マザーの意識域から完全に狐珀が外れたのは、知覚できた。
必勝を叫んだ。
大丈夫だと声高に宣言した。
だからこそ勝たなければならない。
「我が兄の剣技と炎を味わいなさい!」
回り込んだ生体コアの背後から、必殺の剣を。
眼前の状況に注力してしまっていたマザーは、いまさら動けない――からくり人形の茫漠たる双眼が、マザーの金瞳に映り込んだ。躊躇いは一切なかった。深々と喉を刺し貫かれたコアは、業炎に包まれる。
愕然と瞠目し、恟然とわななき、瞿然と自身に刺さる刃に触れた。
「まだ、私は……、私の、永久の思索、……」
「終いです」
狐珀はゆるく首を振る。
すべてを焼き尽くさんと勢いを増す炎の中で、コアは機能を停止した。
●
烈しく牙を剥き続けた都市は物言わぬ瓦礫と化して、不気味なほどの静寂に包まれる。
まるで牢獄だった。
しかし、それも終わる――終わった。ほっと息をついた。安堵にゆるりと頬が弛む。
蒼のグリモアは、燦然と煌いて、花一華は凛と咲いたまま。
みなの帰り路の灯となる。
大成功
🔵🔵🔵