アポカリプス・ランページ⑯~クロノスの定義
●永遠の思索
自身が創造した超巨大機械に接続された生体コア。
それがマザー・コンピュータと呼ばれる、フィールド・オブ・ナインのひとりだ。
バトルクリーク市の廃墟を越えた先にある旧デトロイトの都市内。全てが機械化した街の中で、彼女は猟兵の脅威を感じ取っていた。
「私は自らの理論を訂正しなければなりません」
未来と希望を求める人の意志。
それらは永遠をも破壊する究極の力、オーバーロード足り得ると。
ですが、と頭を振ったマザーは、硝子越しに自分が創った機械都市を見つめた。
「私は、真理を求める時間が欲しいだけ」
時間を停止すれば、すなわち永遠の中では無限の思索を続けられる。己が欲するは思索であって、その過程で生まれた力に興味はない。
それゆえにマザー・コンピュータは未来など考えたりしない。
「物事はシンプルにいきましょう。タイムフォール・ダウンによる時間操作戦闘。これこそが、私の決戦兵器のひとつ」
――さあ、かかっていらっしゃい。
そして、マザー・コンピュータは機械から抜け出した。
赤く輝きはじめた彼女は猟兵を迎え撃つ。時すら操る力で、永遠を手に入れる為に。
●其の定義は
フィールド・オブ・ナインの一体である、マザー・コンピュータ。
彼女が決戦を仕掛けてきたのだと語り、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は仲間達に協力を願った。彼女は今、自らが繋がれていた機械から抜け出し、蓄積していた『時間質量』を開放することで赤く光り輝いているという。
「この能力……タイムフォール・ダウンを使用中のマザーは、周囲にある機械の制御がまったくできなくなるかわりにすごい力を使ってくるみたいです」
ミカゲはその恐ろしい能力について語った。
それは任意の対象の時間を二〜四倍速で『巻き戻し』『早送り』しながら、自身のユーベルコードを行使できるようになる力だ。範囲は限定的ではあるが、対峙するとなれば厄介な力だ。つまりマザーは過去と未来を同時に操る。
「時間の超加速、相手に老化の効果を与える力……。どれもおそろしいものです」
ミカゲの狼尾が力なく揺れていた。それは不安を示すものだが、少年はすぐに尻尾をぱたぱたと振って気合を入れ直す。
確かにマザーの能力は途轍もないものだ。しかし此方にも戦う力がある。
「大丈夫です。僕たちも全力で戦えば、勝機を掴むことだってできます! だって、今までだってずっとそうしてきましたから!」
ミカゲは仲間達に真っ直ぐな眼差しを向け、ぐっと拳を握った。
そして、戦いは幕あける。
必ず勝利を。時を止めて得る永遠など、決して訪れさせてはいけないのだから。
犬塚ひなこ
こちらは『アポカリプス・ランページ』のシナリオです。
マザー・コンピュータによるタイムフォール・ダウン、時間操作戦闘が発動されました!
●概要
戦場は機械化されたデトロイト。
機械から出た、赤く光り輝くマザー・コンピュータ本体と戦う純戦です。
●プレイングボーナス
『敵の「巻き戻し」「早送り」を含めた先制攻撃に対処する』
先制攻撃に対するしっかりとした対処があれば大成功となります。
(ユーベルコードで防御する、反撃するでは対処にならないのでご注意ください)
難しく考えすぎなくても大丈夫なので、皆様が思う方法や格好いい戦い方でマザーと戦ってください。どうぞよろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『マザー・タイムフォール・ダウン』
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POW : タイム・タイド・アタック
【時間質量の開放がもたらす超加速】によりレベル×100km/hで飛翔し、【速度】×【戦闘開始からの経過時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : タイム・アクセラレーション
【時間の超加速】による素早い一撃を放つ。また、【時間質量の消費】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : オールドマンズ・クロック
攻撃が命中した対象に【時計型の刻印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【肉体が老化し続けること】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:有坂U
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
須藤・莉亜
◎
予め悪魔の見えざる手に頼んで僕の身体に奇剣をぶっ刺して貰っといてから、武器も持たずに敵さんの攻撃を待ち受ける。
見えないコンビなら認識され辛いだろうしね。敵さんからは僕が一人で突っ立ってる様に見えればよし。
一応Argentaを全部防御に回しておくかねぇ。
攻撃をくらった瞬間に、悪魔の見えざる手に僕に刺さったままの奇剣で敵さんを僕ごと突き刺してもらって吹っ飛ばされないように敵さんに僕を固定。
後はUCを発動して身体を速攻で再生させながら、全力で敵さんに噛み付いて吸い殺す。こんだけ近ければ一瞬で血を奪えるしね。
「…ぷはっ。やーっと口を開けられた。」
さてさて、敵さんのお味はどうかな?
御形・菘
邪神オーラを全身に纏い、頭部は左腕でガードしよう
激突ダメージが特にまずいのは、首やその上あたりだからのう
重要なのは、どこに攻撃を食らおうとフラットな反応を心がけ、ダメージが小さい場合こそ痛そうな演技をすること!
巻き戻しのトライ&エラーができるなら、よりダメージが大きい時点で確定させるであろう?
研究一筋の輩に、妾のパフォーマンスは見破れん!
右手を上げ、指を鳴らし、さあ鳴り響けファンファーレ!
はーっはっはっは! 時を操作するとか、実に巨悪っぽくて正直羨ましい!
しかーし! それでこの音を防げはせん!
さあ、そのまま炎上し落ちるもよし、速さに慣れてきた妾の左腕のカウンターに沈むもよし、好きに選ぶがよい!
トリテレイア・ゼロナイン
巻き戻しと早送り…使う際はどちらか一つという仮説に基づいて
防御姿勢を取った後で●怪力で大盾を●投擲し質量攻撃への対処を強要
『巻き戻し』で対処されれば防御姿勢に戻り続く先制攻撃を大盾で防御
『早送り』で回避後に攻撃されれば●瞬間思考力で反応して●見切り剣の●武器受けで防御
防御しきれずとも私はウォーマシン…ダメージや老化への耐性は備えています…!(継戦能力)
永遠の思索の為に時を停める等、今を生きる者にとっては許し難い暴挙
騎士として、阻ませて頂きます
用途申請、フォーミュラの撃破!
【誘導】属性の【雷】を電脳剣より放ち攻撃
時を操ろうとその意識は生身
電子の速度に追い付けますか!
電撃で動けぬ敵へ接近し剣を一閃
●時の女神は微笑まない
「――さあ、かかっていらっしゃい」
その言葉と共に戦いは始まり、タイムフォール・ダウン形態のマザー・コンピュータが動き出した。戦地に降り立った須藤・莉亜(ブラッドバラッド・f00277)と御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)、そしてトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は警戒を強め、飛翔しはじめたマザーを振り仰ぐ。
「……来るよ」
「皆、衝撃に備えよ!」
「ええ、迎え撃ちましょう」
マザーの先制攻撃を受けるべく、三人はそれぞれに身構えた。
刹那、時間質量の開放が齎す超加速攻撃が莉亜と菘に降り注ぎ、時計型の刻印がトリテレイアに齎されていく。
対する莉亜は予め、悪魔の見えざる手の力で自らの身体に奇剣を刺して貰っていた。武器も持たずに敵の攻撃を待ち受けていたわけだが、それも策のひとつだ。
契約者を守る透明な悪魔の両腕の力を纏い、莉亜は攻撃の衝撃に耐えた。
同時に攻撃を受けた菘は八元八凱門から発生させている邪神のオーラを全身に纏い、頭部を左腕で防御していた。そうした理由は激突ダメージへの対策だ。
「これは……かなりの衝撃だな……!」
敵の攻撃を受ける時とき、くらう部位も重要となる。特にまずいのは首。頭部に損傷を受けた場合、様々な弊害が起こる可能性が高い。
菘へのダメージは言葉で表すならばそれなりの衝撃だった。此度の戦いで重要なのはどこに攻撃を食らおうとフラットな反応を心がけること。そして、ダメージが小さい場合こそ痛そうな演技をすることだ。
菘は大打撃を受けたような反応を見せているが、その実はまだ余裕が残っている。
巻き戻しのトライ・アンド・エラーができるならば、よりダメージが大きい時点で確定させるであろう、というのが彼女の考察だ。
無論、あのような一撃を受け続ければまた別だが、少なくとも今の時点での菘は反撃の一手を考える余地はあった。
刻印をきざまれたトリテレイアの機体は老化、もとい劣化しはじめていた。
(巻き戻しと早送り――今は早送りですか)
マザーが使用する能力はどちらも厄介だ。しかし、それらを使う際はどちらかひとつであるはず。自らが経てた仮説に基づいてトリテレイアは計算をしていた。
先程に防御姿勢を取った後、怪力で大盾を投擲していた彼は、質量攻撃への対処を強要しようとしていた。もし巻き戻しで対処されれば、防御姿勢に戻り続く先制攻撃を大盾で防御すればいい。早送りで回避後に攻撃された場合は、持ち前の瞬間思考力で反応して武器で受けて止めればいい、と。
おそらくこの方法は次の一手から確実に活かされるだろう。
刻印自体は彼の身に齎されてしまったが、問題はない。己がウォーマシンであることに加え、今は近くに頼もしい猟兵が集っている。
「お主、大丈夫か?」
「ダメージや老化への耐性は備えています……!」
敵との距離をはかっている菘からの問いかけに対し、トリテレイアは継戦能力には自信があると答えた。たとえ躰が劣化し続けようとも、機能に衰えはないはずだ。
その間に莉亜が攻勢に入っていく。
(見えないコンビなら認識され辛いだろうしね。敵さんからは僕が一人で突っ立ってる様に見えれば、それでよし)
敢えて言葉を紡がなかった彼は、銀の槍の形をしたサーチドローンを展開する。
それらを全て次の攻撃の為の防御に回した莉亜は、金の瞳の吸血鬼に覚醒していった。敵の攻撃の痛みは響いているが、この力があれば肉体も再生できる。
莉亜が狙うのはマザーの血液。
生体コアだというのだから、きっと血くらいは存在しているはずだ。莉亜は敢えて反撃を行わず、次の攻撃をくらった瞬間に、悪魔の見えざる手に願う。
刺さったままの奇剣を自分ごと敵に突き刺して欲しいと。莉亜本人は吹き飛ばされないように、敵に己を固定するだけでいい。
「私に近付こうとしているのですか? させはしません」
「…………」
されど、マザー・コンピュータも至近距離まで迫ろうとする気配に気付く。
莉亜が躱される中、菘は彼が何かの目的の為に距離を詰めたいのだと察した。こうして共に戦っている以上、援護としての攻撃も必要だろう。
「見よ! 研究一筋の輩に、妾のパフォーマンスは見破れん!」
高らかに宣言した菘は右手を掲げた。
彼女がぱちんと指を鳴らした途端、どこからともなく響き渡る音。
「さあ鳴り響けファンファーレ!」
「これは……?」
マザーに向けられた音は炎に変わり、周囲の機械ごと相手を燃やしていく。それだけではなく、放たれた炎は菘から目を離したくないという情動を与えるものだ。
「はーっはっはっは! 時を操作するとか、実に巨悪っぽくて正直羨ましい! しかーし! それでこの音を防げはせん!」
菘は言葉でも敵を自分に注目させていく。
マザー・コンピュータが菘を見つめざるをえない状況の最中、トリテレイアが一気に攻勢に出た。解放された時間質量の攻撃は今も猟兵達を貫かんとして放たれているが、トリテレイアは先程の作戦を用いることで対抗していた。
盾を巻き戻されたことで防御に徹していた彼は、反撃と追撃としての一手を打つ。
「永遠の思索の為に時を停める等、今を生きる者にとっては許し難い暴挙です。騎士として、阻ませて頂きます」
「暴挙? 止められるべきものを動かそうとするあなた達の方が――」
「用途申請、フォーミュラの撃破!」
マザーが紡ぐ言葉を遮るようにして、トリテレイアはアレクシアウェポン・ディザスターを発動していった。
――例外承認。申請者処刑機構……解除確認。
電脳禁忌剣アレクシアから承認が下り、其処に雷の力が迸った。トリテレイアは電脳剣を振り上げ、マザーに鋭い一撃を与える。
よろめく身体。生体コアとしての彼女もまた、ひとりの人間であったはずだ。
フィールド・オブ・ナインは神とも称されているが、それでも――きっと。
菘が引き付け、トリテレイアが雷撃の一閃を与えたことで生まれた隙。それを利用することで敵に接近した莉亜は片目を薄く細めた。
後は身体を速攻で再生させながら、全力で敵に噛み付けばいい。これだけ近ければ一瞬で血を奪えると考えた莉亜は一気に口をひらいた。
「……ぷはっ。やーっと口を開けられた。」
「――!」
「さてさて、マザーさんのお味はどうかな?」
吸血鬼の力が振るわれていく中、菘とトリテレイアが攻撃を続けてゆく。
「さあ、そのまま炎上し落ちるもよし、速さに慣れてきた妾の左腕のカウンターに沈むもよし、好きに選ぶがよい!」
菘の八元八凱門から巡るオーラは左腕にまで至っている。蛇や爬虫類を思わせる鱗に覆われた左腕は鋭く振るわれ、マザー・コンピュータを貫いた。
「時を操ろうとその意識は生身。電子の速度に追い付けますか!」
そして、トリテレイアも更なる電撃を巡らせていく。
確かにマザーは恐ろしい力を宿している。時間質量も肉体が老化し続ける力も抗うには厳しいものばかりだ。だが、猟兵達は誰も諦めてなどいない。
この世界を守るため、或いは自身の興味、または守るべきもののために。
其の力を全て余すことなく振るうのが猟兵という存在だ。
時を止めることで得る永遠など、認められない。
そうして――更に巡りゆく戦いは此処からもまた、激しさを増していく。
大成功
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アコニィ・リード
わたしは引き籠りたくなんて無いのよ!
シン・デバイス最大濃度、ドーピングしてリミッター解除
魔力溜めしながら前進
溜めが減れば巻き戻し、増えれば早送り
肉体の変化で時間経過に注意して行動するよ
巻き戻しなら離されるだろうから制圧射撃し再進撃
早送りは恐らく敵が仕掛けてくる――それが狙い
老化されるならわたしのオリジナル並の力を
一瞬でも出せるかもしれない
それに老化しても多少は元気よ
身体の変化に気をつけ咄嗟の一撃
無酸素全力多重高速詠唱――暴水禍洪で敵のUCを停止し
重ねた水撃で敵の動きを封じる
この世界で生まれた、異世界の偽神の力を見せたげる!
最後の一撃はスナイパーの騙し討ち
アポヘルの流儀に合わせてね、撃ち抜くわ!
卜二一・クロノ
「捉えたぞ、我が機織りを阻む者よ」
時空の守護神の一柱、あるいは祟り神として参加します
時の糸を紡ぎ、歴史の柄を織る者にとって、好き勝手に時間を遡る行為は織り直しを強要するので害悪
そのような、猟兵やオブリビオンの事情とは無関係な動機で祟ります
時間を操るユーベルコードを以て、敵の時間を操るユーベルコードを完封します
神の摂理に反する者には神罰を
その為なら、ある程度のダメージはやむを得ないものとします
咎人に死の宿命を見出したら、満足して帰ります
※時間操作と無関係なオブリビオンにはただの八つ当たりをします
※時間操作を行う猟兵は見て見ぬふりをします。できれば同時には採用しないでください
●咎と罰
時を止め、永遠を手に入れる。
それは言い換えれば、変わることのない世界にずっと漂うということ。何処にも行けず、同じ場所でぐるぐると回っているだけ。
マザー・コンピュータが成そうとしていることは、アコニィ・リード(偽神暗姫・f25062)にとっては面白くも何ともないものだった。
確かに言葉の響きは美しい。だが、解き明かしていけばそれはただの――。
「引き籠りじゃない! わたしはそんなこと、したくなんて無いのよ!」
アコニィはマザー・コンピュータに向かって強く宣言する。元デトロイトの一角に訪れた卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)もマザーを見つめ、静かな言葉を向けた。
「捉えたぞ、我が機織りを阻む者よ」
クロノは時空の守護神の一柱、あるいは祟り神としての存在。
時の糸を紡ぎ、歴史の柄を織る者だ。彼女にとってはマザー・コンピュータのような輩がいることが許せない。好き勝手に時間を遡る行為は織り直しに値する。
猟兵とオブリビオンである前に、クロノとマザー・コンピュータは決して相容れぬ者同士だ。そうですか、と静かに答えただけのマザーはアコニィとクロノに向かってコードの髪を伸ばしてきた。
「朽ちて永遠を迎えなさい」
「永遠なんて訪れさせないわ。少なくとも、あなたの言う永遠はね!」
迫る攻撃。
避けられない、或いは避けようとしても巻き戻されると判断したアコニィは敢えて敵から齎される刻印を受けた。
されどアコニィも無策でいたわけではない。
シン・デバイスは最大濃度。腕輪に仕込まれた注射器からドーピングを行った彼女はリミッターを解除していた。それによってクロノは守られ、ユーベルコードを紡ぐ時間が彼女に与えられる。
「そちらがその気なら反撃する。この試練に耐えられたら、赦されるだろう」
無論、赦す気などないが。
――神罰・時間操作の代償。
クロノの力が周囲に広がっていく中、アコニィも身構えた。
身体は老化していくが、すぐに老人になるような早さではない。魔力を溜めながら怯まずに前進したアコニィはマザー・コンピュータに向かって駆けた。
溜めた魔力の総量で何をされたかはすぐに解る。
減れば巻き戻し、増えれば早送りをされているということだ。また、肉体の変化で時間経過を計りつつ行動することで注意も出来る。
(巻き戻しなら離される。だから、此処は制圧射撃をしながら再進撃!)
アコニィは無限の水を敵に叩きつけようと狙い、一気に前に出る。
それに早送りは恐らく敵が仕掛けてくるだろう。アコニィにとってはそれが狙いだ。また、こうして老化されていくなら――。
(わたしのオリジナル並の力。それが一瞬でも出せるかもしれないから)
身体が老化、もとい成長段階にあるならば多少は元気なままであるはず。アコニィは決して動きを止めないと心に決め、咄嗟の一撃で以て更なる刻印が刻まれることを阻止した。
やがて少女の身体は敵の力によって大人の女性のそれとなっていき、いずれは本当の老化が訪れていくだろう。暴水の力も寿命を代償とするものだ。
しかし、アコニィは恐れることなく進み続ける。
クロノもまた、時間を操るユーベルコードを以て敵の時間を操るユーベルコードを封じる行為を続けていった。
「これは……そうですか、あなたも同じ力を持っているのですね」
「同じではない」
マザーは身動きがしづらそうだ。対してクロノは一緒にするなと断じた。
敵がどのような攻撃をしようとも構わない。アコニィもまた、たとえ巻き戻されようとも詠唱を止めないと決めた。
次に発動したのは無酸素全力多重高速詠唱から成る、暴水禍洪の力。水の刃に幻惑。それらは敵のユーベルコードを停止するために迸っていった。
水撃で敵の動きを封じれば、共に戦う仲間が必ず攻撃を重ねてくれる。
そう信じたアコニィは声を響かせていく。
「この世界で生まれた、異世界の偽神の力を見せたげる!」
「――神の摂理に反する者には神罰を」
時は基本的に不可逆。
自分達にとって納得の出来ない事態であるならば、そして、人を脅かす事柄であるなら決して看過してはいけない。
アコニィが作った隙を狙い、クロノは鋭い攻撃を差し込んだ。
紡がれる時を止め、機織りを阻む者――即ち、咎人。
クロノにとって赦すことの出来ない相手、マザー・コンピュータという存在は既に、死の宿命に囚われているようだ。
「後は任せた」
「あれ、帰っちゃうの?」
「これだけの力に巻き込まれていて、あの咎人が倒れないはずなどない」
双眸をゆっくりと細め、鋭い眼差しを向けたクロノは踵を返す。
終わりを見届けずとも結果は視えている。
時を徒に狂わせるのならば報いは必ず訪れるだろう。覆すことの出来ない終わりの宿命を感じ取ったクロノは、仲間達にすべてを任せて去っていく。
その表情は、何処か満足気なもので――。
「わかったよ。任されたからには最後まで全力を出し続けるだけ!」
シャークシューターX8を構えたアコニィは決意する。
後はアポカリプスヘルと呼ばれるこの世界の流儀に合わせて、標的を撃ち抜くのみ。凛とした大人の姿となっている少女の眼差しは、何処までも真っ直ぐなものだった。
いま此処に、定められた神罰と鉄槌が下されていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
時間を操る……表現としては単純だが、相手にすれば厄介な事この上ない
なんせ、俺には対抗手段がない
一撃で行動不能にならないよう防御は試みるが、先制攻撃は「対策しないで受ける」
かなり厳しいが、故に受ける意味がある……
巻き戻しを使えば与えたダメージまでも戻しかねない
つまり、既にダメージを与えた俺に対しては使いづらい筈
後は気合いと体力勝負
神刀の封印を解除、参の秘剣【紫電閃】を発動。紫紺の神気によって身体能力と行動速度を強化
敵の速度は最大で4倍だが、此方は9倍
速度だけで勝負が決まる訳じゃないにせよ、十分にやり合える
身体能力、思考速度の加速を最大限に活かして、敵の時間操作と攻撃に対抗
神刀による連撃を叩き込む
ヴィクティム・ウィンターミュート
…クソっ、どいつもこいつも面倒な能力持ちやがって
時間の加速に、巻き戻し…やれねえことは無いが…
いや、消極的になるな
絶対にどうにかして、殺すしか無いんだよ
行くぜ、タイムキーパー 過去に還してやるよ
初撃を避けるのは諦める…致命傷を避けるのに集中
【見切り】で何とかウィークポイントを避け、受ける
そう、問題なのはここから…老化が俺を襲う
だから──『Robbery』
強奪のガラス片を展開、奪うのは──俺自身からだ
この身体から、『老い』を強奪する
奪ったらそのガラス片は破棄して、また奪い、破棄する
これで何とか保たせながら、残りを殺到させるのさ
お前から奪うのは何もかもだ…能力、思考、力
何も無くなれば、お前は無力だ
●覚悟の秘剣と強奪の牙
赤く輝く光を纏い、フィールド・オブ・ナインのひとりが動き出す。
マザー・タイムフォール・ダウン。時雨とも呼ばれる能力を持つコンピュータの生体コアである彼女は、時間操作の力を用いて猟兵を排除しようとしている。
「時間を操る、か」
「……クソっ、どいつもこいつも面倒な能力持ちやがって」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)とヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は身構え、攻撃を放とうとしているマザーを見据える。
時間操作。表現としては単純だが、実際に相手にするとなれば厄介なことこの上ない能力だ。なんせ――。
(俺には対抗手段がないからな)
言葉には出さなかったが、鏡介は自分のことをよく理解していた。しかし、虚勢を張ったり無茶をするよりは、状況を自覚できている方が上手く立ち回れる。
刹那、時間の超加速による素早い一撃が放たれた。早送りされたような残像が見えた瞬間、斬撃めいた衝撃が鏡介とヴィクティムの身に齎される。
鋭い痛みが走った。
だが、鏡介は咄嗟に防御態勢を取ったことで致命傷を避けていた。その間にヴィクティムにもマザーによる一閃が放たれ、時計型の刻印が齎される。
ち、と舌打ちをしたヴィクティムは機械の手の甲に刻まれた印を見下ろした。
「時間の加速に、巻き戻し……やれねえことは無いが……」
いや、消極的になるな。
自分の裡に過ぎった考えを一度振り払い、ヴィクティムは自分の躰を確かめる。老化、言い換えるなら劣化現象が既に起こり始めている。
ヴィクティムにも鏡介にも共通している戦い方があった。
それは初撃を避けることを最初から諦めていたという点。二人共、敢えて無理な抵抗をせずにウィークポイントに直撃することを避け、受け止めたのだ。
鏡介とヴィクティムには痛みと刻印が与えられている。衝撃のことを考えるならば、かなり厳しくなるが、それゆえに受ける意味もあった。
相手がこの状態で巻き戻しを使えば、与えたダメージまでも戻しかねない。
つまり――。
「既にダメージを与えた俺達に対して、巻き戻しは使いづらい筈!」
「その通りだ。時間操作も万能ってわけにはいかない」
要は気合いと体力の勝負となる。
鏡介がマザーに反撃を放ちに向かう中、ヴィクティムも薄く口許を緩めた。どれほど無茶な力を持つ相手だとしても、絶対にどうにかして殺すしかない。ヴィクティムは刻々と進む躰の劣化現象を感じ取りながら、マザー・コンピュータを睨みつけた。
「行くぜ、タイムキーパー。過去に還してやるよ」
「過去よりも、今を永遠に。私は、真理を求める時間が欲しいだけです」
「俺達はそんなものを求めていない」
世界を巻き込まないでくれ、と告げた鏡介は神刀である無仭の封印を解除した。
――参の秘剣、紫電閃。
森羅万象の悉くを斬る刃。無仭は輝きはじめ、赤く耀くマザー・コンピュータの光と拮抗するように光を増していった。
紫紺の神気が激しく迸り、鏡介の身体能力と行動速度を強めていく。神器化しつつある左腕に力が巡り、鋭く素早い攻撃が放たれていった。
一閃、二閃、三閃、と重ねて一気に九撃まで繰り出された剣閃はマザー・コンピュータを斬り裂いていく。痛みを感じたらしい相手は自分の時を巻き戻す。だが、先程に鏡介が予想したように、攻撃を防ぐために此方を巻き戻すことはしないようだ。
その間、ヴィクティムは襲い来る老化に対処していた。このまま戦い続けることも出来るが、後で追い詰められる可能性は大いに高いからだ。
――Forbidden Code『Robbery』
「今、奪うのは誰かからじゃない。俺自身からだ」
その力は強奪の牙。触れたものから尽くを奪う無数のガラス片を展開したヴィクティムが簒奪するのは己の身に巡る老いそのもの。
イレギュラーな使い方だが、敵が与えてきた効果は強奪する他ないほどのものだ。
奪ったらならば、都度ガラス片を破棄していく。そうして、また奪っては破棄する。そうすることで己の崩壊を抑えながら保たせ、残ったガラス片をマザー・コンピュータに殺到させていけばいい。
幸いにも前線に出てくれている鏡介の攻撃がマザーを押している。
「――我が刃は刹那にて瞬く」
受け切れるか、と問いかけた鏡介は果敢に敵を斬り裂き続けた。それは己の寿命を削るほどのものだが、生半可な覚悟ではマザー・コンピュータには勝てない。
雷の如く、疾く立ち回る鏡介は無仭を振り下ろした。
速度だけで勝負が決まるわけではないと理解しており、油断もしていない。しかし、これならば十分にやり合える。
ヴィクティムも攻勢に入り、マザー・コンピュータへの反撃を紡いだ。
「お前から奪うのは何もかもだ……能力、思考、力」
「時間を操ったとしても、望むものは手に入らないよ」
「そんなことはありません。消費されるだけの過去を今に固定すれば未来など――」
ヴィクティムと鏡介の言葉に対し、マザーは首を横に振った。だが、その言葉をヴィクティムが遮る。
「何も無くなれば、お前は無力だ」
寄越せ、全てを。
ヴィクティムによるガラス片の猛攻が広がっていく最中、鏡介も神刀を切り返す。輝きが重なり、振り上げられた刃が煌めいた。
そして――加速した鏡介は神刀による連撃を容赦なく叩き込んでゆく。
永遠は遠い彼方にしかない。
二人が紡いで放つ紫電の閃きと硝子は激しく迸り、戦いの幕引きを導いていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロニ・グィー
◎
うーん、これくらい、いやもうちょっと…
うん、これでよし!
●対策:【第六感】で機を読み、どんなに巻き戻しても早送りしても逃げられない攻めきれない超特大サイズの[白昼の霊球]くん(彼女以外を完全透過する設定で接触まで認識困難にする)を[神様の影]から彼女とボクの間に一瞬でポンと出して落として防御兼攻撃
んー?いやちょっと待って
●球が落ちるその寸前に戦闘中断し、UC『歪神』を発動して時を止め、ついでに球体が落ちるまでの一瞬の間に永遠の時間を折りたたんでおしゃべり
うーん、考えてみたんだけれど
もしかしてキミってゆっくり考えられる時間があればこんなことしない?
なら、はい。ここでどうぞ!
その後で、キミが大人しく還ってくれるならいくらでも付き合ってあげるよ!
あ、それまでたまにはボクともお話してね!
●不可思議の時を超え
もういいの?そ
それじゃあお休み!よい夢を
――――あ、しまったな
最後、なんか、ものすごーく大事なこと言ってた気がするのだけれど…
話が長いし、眠かったから全然聞いてなかった!
ま、いっか!
●神にとっての永遠
「うーん、これくらい、いやもうちょっと……」
ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は思案していた。
今も戦いは激しく巡っている。マザー・コンピュータが放つタイム・アクセラレーションの攻撃は次々と猟兵達を貫いていき、抗えぬ痛みと傷を与えていた。
それは時間の超加速。
時間質量を消費していくマザーは、容赦というものを知らないが如く振る舞っている。
「うん、これでよし!」
されどロニは放たれた力には驚かず、ものともしていない。
その理由は――。
「それが永遠をも破壊する究極の力、オーバーロードですか」
マザー・コンピュータはロニの姿を見つめる。これこそが自らの理論から外れた力だと察したマザーは、ロニに強い警戒を抱いたようだ。
されど彼女は攻撃の手を緩めない。
第六感で機を読んだロニ。その傍、もとい影の中には超特大サイズまで変化させている白昼の霊球が現れていた。先程まで思案していたのは、この霊球をどの大きさや形にするかの調整についてだったらしい。
「ほら見て! どんなに巻き戻しても早送りしても逃げられない、攻めきれないくらいの贈り物をあげるよ!」
ロニは一気に白昼の霊球を解き放った。それは任意の対象以外を透過する性質を持つ特別な浮遊球体群だ。味方に影響が出ることもなく、マザー・コンピュータだけを貫くことが出来る代物でもある。
「何を――」
「あ、そっか。見えなくしてたから見えてないんだね」
マザーが困惑したような様子を見せたことでロニは気付いた。
彼女以外を完全透過する設定にしていた霊球は接触まで認識が困難なものだ。神様の影から引き出されたそれは、マザー・コンピュータにとっては一瞬でロニと自分の間に出現してきた謎の物体にしか思えない。
ポンと出して落として命中させる。それは次への防御兼攻撃にもなった。
「んー? いやちょっと待って」
しかし、ロニは不意に動きを止める。このまま此処に集った仲間と一緒にマザー・コンピュータを倒してもいいが、少しばかり気になることがあったのだ。
ロニは霊球が次に落ちる寸前に戦闘行動を停止した。
「歪みが大きすぎるんだよね。修正しようか」
――発動、歪神。
マザー・コンピュータは早送りと巻き戻しの力を使い、時を歪めていた。その影響が周囲に出過ぎていると感じたロニは自らの力をマザーに向ける。
それは全知全能の神としての異能。時を完全に止めるにも等しい力だ。
一瞬だけ力を復活させる代わりに、この空間での出来事は無かったことになるのが代償のようなものだ。ゆえにこの力でマザーを倒すことはできないが――時は折り畳める。
止める時間は球体が落ちるまでの一瞬。
他の者から見れば瞬きにも満たないが、術者であるロニとマザー・コンピュータの間には永遠の時間が訪れたような感覚が巡っている。
「これが永遠……?」
「折角だからおしゃべりしよう。ここじゃ何をしても無かったことになるんだけどね」
ただし記憶だけは残る。
ロニはマザー・コンピュータに語りかけながら、明るく笑ってみせた。
「うーん、考えてみたんだけれど」
「…………」
「もしかしてキミってゆっくり考えられる時間があればこんなことしない?」
マザーは警戒しているらしく、周囲の様子を探っていた。そして、本当にロニの言う通りだと知った彼女は攻撃行動をやめる。賢明な判断だと感じたロニは両手を軽く広げ、時が止まった一瞬の世界を示してみせた。
「なら、はい。ここでどうぞ!」
「そういうわけにはいきません。あなたがいては永遠の思索はできませんから」
「ボクが邪魔? うーん、でも思索の結果を誰かに話したくない? その後でキミが大人しく還ってくれるならいくらでも付き合ってあげるよ!」
「……いいえ」
「あ、それまでたまにはボクともお話してね!」
「話が通じないようですね。私が求めるのはこのような永遠ではありません」
ロニとマザーの視線が重なる。
本当に此処で永遠を与えられたならば、どれだけ良かっただろうか。思索が出来る空間を用意できる力を持っているロニは少し残念に思う。
だが、彼は落胆などしていなかった。
元より、マザー・コンピュータが完全に納得しないであろうことを予測していたからだ。ロニが思う永遠と彼女が目指す永遠は違っている。
永遠という概念に定義などないに等しいのだから、これも必然なのかもしれない。
不可思議の時を超えた後、ロニは一歩だけマザー・コンピュータに歩み寄る。
「もういいの?」
「私が欲するは静かな思索であって、その過程で生まれた力にも、他の誰かにも興味はありません。戦闘破壊型オブリビオンの作成、及び増殖無限戦闘型オブリビオンの作成。土壌機械化兵器の散布にアメリカの増殖無限戦闘大陸化。それが成し遂げられた後に、」
「それじゃあお休み! よい夢を」
マザー・コンピュータの語る言葉に重ねるようにして、ロニは歪神の力を解いた。その瞬間、二人の間にあった停止空間が消える。
「私が望んだ――……の、――が……果た……」
空間が消滅する刹那の間にマザー・コンピュータが何かを言っていた。だが、周囲の猟兵達には何も起こらなかったように感じられているだろう。
ロニは再び戦闘態勢を取り、白昼の霊球を一気に落とした。
「――あ、しまったな」
球がマザー・コンピュータを穿っていく最中、ロニがはたとする。もういいと判断したので力を収めたが、マザーの言葉を聞き忘れてしまった。
「最後、なんか、ものすごーく大事なこと言ってた気がするのだけれど……話が長いし、眠かったから全然聞いてなかった!」
どうしようかな、と首を傾げたロニ。
されど彼は何も気にしなかった。記憶には残っているのだからいつか思い出すこともあるかもしれない。何せロニは神だ。永遠など得られなくとも時間はたくさんある。
「ま、いっか!」
永遠は退屈。誰かがそんなことを言っていた気がするが、まったくその通り。
そうして、ロニはいつものように笑った。
間もなく訪れるであろう、マザー・コンピュータの崩壊を感じながら――。
大成功
🔵🔵🔵
ラブリー・ラビットクロー
勝手な永遠に意味なんて
らぶは思う
ヒトの想いだけが永遠たり得るんだ
煙幕で視界を覆えばきっと
煙幕で視界を
あれ?刻印が
時を操られてるんだ
ならチェーンソーで
今度は早送り!?
老化してる
でもらぶを倒してもヒトのユメは潰えない
だって
どんな苦難でも諦めないヒト達を見てきたんだ
繋がる想いは
誰にも止められないぞ
そーでしょ!?
【賛同多数。各拠点より様々な権限が送られます】
えへへ
マザーよりもらぶのほーが大人になっちゃったかも
【貴女はいつまで経っても私の娘】
うん
行こうマザー
あっちのマザーをぶっ飛ばして
街を取り戻すんだ
【軍事衛星を掌握しました。目標︰マザーコンピュータ】
これがヒトの希望の光なんな!
【人類に栄光あれ。発射】
●セカイに満ちるユメ
マザー・コンピュータとビッグマザー。
同じ母という名を持ちながら、相反した定義を持つ存在が対峙している。
一方はこの世界を機械化することで時間を停止していき、永遠と無限の思索を手に入れようとしているコンピュータの母。もう片方は滅亡の危機に瀕している人々の暮らしを豊かにする為に開発され、人類を生存させることを存在意義としているAI。
かたや滅びを齎すもの。かたや生を繋ぐもの。
「マザー、行こう」
ラブリー・ラビットクロー(と人類叡智の結晶【ビッグマザー】・f26591)はコンピュータの中心となっている敵を見据えた。これまでずっとそうだったように、その側にはビッグマザーの意志がついている。
「……永遠」
【永遠の意味をデータベースから参照しますか?】
「別にいい。勝手な永遠に意味なんてないなん」
ラブリーが呟いた言葉を拾い、マザーは問いかける。首を横に振った少女はコンピュータと戦う仲間を見つめ、己の思いを言葉にした。
「らぶは思うんよ、ヒトの想いだけが永遠たり得るんだって」
だから、と駆け出したラブリーは拳を握り締める。
マザー・コンピュータは此方の気配を察知したらしく、ラブリーに向かって攻撃を仕掛けてきた。無策で受けはしないとして、ラブリーは煙幕を解き放った。
「こうやって視界を覆えばきっと、煙幕で視界を……あれ?」
ラブリーは首を傾げる。いつの間にか手の甲には時計型の刻印が与えられていた。状況を察したラブリーは、自分そのものが時間操作されているのだと気付く。
「ならチェーンソーで――今度は早送り!?」
成長、もとい老化が始まったことで身体のバランスが取り辛くなった。このまま戦いが長引けば、ラブリーは抵抗すらできずに倒れてしまうだろう。
「あなたにも終わりという永遠を差し上げましょう」
「らぶを過去にするの? でもらぶを倒してもヒトのユメは潰えないんだ」
だって、とラブリーはチェーンソーを握り締める。
これまで、どんな苦難の中でも諦めないヒト達を見てきた。瘴気に沈んだ街で目覚めて、外のセカイを知ってから、多くのことを知った。
滅びかけた世界は少しずつ再生をはじめている。
そう、先程だってラジオが聞こえた。
旧アカプルコ、旧アナハイム、旧ロズウェル、それ以外にもたくさん。オブリビオンに支配されていた街々から希望を繋げていく声が響いていた。
「繋がる想いは誰にも止められないぞ。そーでしょ!?」
ラブリーが呼びかければ、ビッグマザーがソーシャル・ネットワークサーバーから世界中に彼女の声を広げた。
【賛同多数。各拠点より様々な権限が送られます】
ヒトのユメを叶えたい。
こんなセカイでも、否、こんな世界だからこそ。
人々の願いがラブリーに集まっていく最中も、その身体は老化していく。少女は大人の女性としての姿になり、背も顔立ちも凛としたものになっていた。
「えへへ、マザーよりもらぶのほーが大人になっちゃったかも」
【いいえ、貴女はいつまで経っても私の娘です】
「うん、やろうマザー。あっちのマザーをぶっ飛ばして街を、セカイを取り戻すんだ」
ラブリーは天に向けて腕を掲げた。
【軍事衛星を掌握しました。目標:マザーコンピュータ】
其処にビッグマザーの声が響き渡り、人々の思いを宿した反撃の狼煙があげられる。そして、娘と母は全力の思いと一閃を解き放っていった。
この世界には今、新たな夢が生まれ始めている。だからまた、皆に笑顔で会える。
「これがヒトの希望の光なんな!」
【人類に栄光あれ】
――発射。
天から迸る光が地上に轟く。
それは世界の未来を阻む者を確りと捉え、その全てを貫かんとして迸った。
大成功
🔵🔵🔵
ルーファス・グレンヴィル
◎
どっからでもかかってこいよ
双子鉈を引き抜けば
肩の上から黒竜が飛び立つ
背中はアイツが見守っている
オレには目が四つあるようなモンだ
だから、
くいくいと指先で招いて挑発
怒らせた相手の一撃の太刀筋が
その方向さえ分かれば防いでみせる
それは、野生の勘にも似たもの
幾度も戦場に出たから知っている
どんなに強い激突だろうと
踏ん張って受け止めてやるよ
一歩も退かず真正面から、なあッ!
なあ、そんなに時を止めたいか
止めたい理由がオレには分からない
時なんて止めなくて良い
日々を追う毎にオレは強くなれる
もっと強くなって
誰かを守れる力が欲しいんだ
その為にも、オレは、前に進む
永遠よりも、
誰かと共に過ごせる一瞬が
──オレは、好きだよ
●生きる為に
「――さあ、かかってらっしゃい」
「そっちこそ、どっからでもかかってこいよ」
全てを過去に送り、永遠を手に入れようとしているマザー・コンピュータ。
対するのは彼女の攻撃を迎え撃つ為に身構えたルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)。彼が双子鉈を引き抜けば、肩の上から黒竜のナイトが飛び立つ。
「その竜諸共、仲良く過去にして差し上げます」
マザー・コンピュータは飛翔しはじめ、時間質量の開放を解放した。その勢いのままに放たれた攻撃がルーファス達を貫かんとして迫る。
されど彼は薄く笑っていた。
背中はアイツが見守っている。それゆえに何の心配も懸念もない。
「舐めるなよ、オレには目が四つあるようなモンだ」
来い、と口にしたルーファスは指先でマザー・コンピュータを招く仕草をした。相手の表情は変わっていないが、ルーファスは或ることを確信する。
挑発は効いているようだ。それに相手の一撃は多方向から来るものではない。その方向さえ分かれば、この鉈で致命傷だけは防ぐことが出来るはず。
それはルーファスが持つ野生の勘にも似たものだ。
何度も、幾度も、数え切れないほどに戦場に出てきた。だから感覚は知っている。どんなに強い激突だろうと、どれほど重い一閃であろうとも凌ぐと決めた。
「受け止めてやるよ。一歩も退かず真正面から、なあッ!」
刹那、マザー・コンピュータから齎された超加速撃がルーファスを穿つ。重くて痛い衝撃が身体中に響いた。
それでもルーファスは地を踏み締めて耐える。
痺れるような痛みは無視できるものではないが、ルーファスは決して双子鉈を手放さなかった。交差させた刃と腕をひらいた彼は飛翔し続けるマザーを見上げる。
「なあ、そんなに時を止めたいか」
「ええ。それこそが私の目標であり、願いですから」
「それほどまでにして止めたい理由がオレには分からないな」
「無限の思索には永遠が必要です。あなたには解らずとも、私にとっては重要です」
ナイトが警戒を強めながら空中を旋回する最中、ルーファスとマザーは幾つかの言葉を交わした。それは束の間のことで、それ以上の遣り取りは続かない。
マザー・コンピュータの方が会話を区切ってしまったのだ。
「時なんて止めなくても良いだろ」
ルーファスが落とした言葉はマザーには届いていない。其処から新たな一撃が繰り出されると察したナイトがルーファスに危険を報せる。
大丈夫だ、と相棒竜に告げ返した彼は反撃に入った。
双子鉈を振り上げ、周囲の機械群の上へと駆けたルーファスは距離をはかる。相手は飛翔しているといえど、此方への攻撃が届かなくなる範囲には行かない。それにルーファスにはナイトがついている。
一気に距離を詰めながら、ルーファスは時が止められた先の永遠について考える。
(日々を追う毎にオレは強くなれる。今だって、過去と比べれば強くなった)
だが、時が巡らなくなれば強さも今のまま。
ルーファスにとって、永遠は無意味だ。もっと強くなって誰かを守れる力が欲しいと願う彼はいつも未来を見据えている。
「先を見たい。識りたい。その為にも、オレは、前に進む」
ナイト、と呼べば黒竜がルーファスと並走するように翔けた。一気に跳び、マザー・コンピュータに鋭い斬撃を見舞った彼に続き、ナイトが黒炎のブレスを浴びせかけた。
「私の望む永遠の邪魔をしないでください」
「永遠よりも、誰かと共に過ごせる一瞬が――オレは、好きだよ」
重い衝撃を受けたマザーに対し、ルーファスは思いを言葉にする。それでもやはり、彼女には理解して貰えなさそうだ。
一瞬だけ悲しげに目を伏せたルーファスは宙で回転を入れ、素早く着地する。
いとおしい、好ましいと思う人達がいる。
その先を二人で、皆で確かめに行きたいから。停止した世界など望まない。
ルーファスは地面を蹴り上げ、ナイトと共に駆けてゆく。
この先にも戦いの道は続いている。今までも、そして――これから先も。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
◎
結局あんたも脳筋か
真理に辿り着くのは機械か探偵か
世紀の対決だな
氷属性攻撃と天候操作で即戦場を猛吹雪に変え
氷結耐性で俺に劣るだろう相手が
不利な気温にし視界も雪で阻害
巻き戻されても俺は同じ事を繰り返す
この中でどこまで命中精度が保てるかね
雪に紛れつつ敵の殺意を第六感で読み
瞬間思考で自分の位置や景色の違和感を瞬時に判断
どちらに逃げるべきか決めたらダッシュ
奴の攻撃を見切りUC発動
悪いがこっちの勘も時間経過と共に冴えてくる
敵の動きを先読みし続け氷結での消耗を狙う
俺の閃きが奴の力を上回ったら
ここと感じた位置に剣を振り下ろす
恐らく奴が突っ込んで来るだろう
お前が停滞してる間に
俺達の未来は動いてる
邪魔はさせない
●推理と思索
真理を求める為の永遠という時間。
それは彼女にとっての楽園だが、この世界の人々にとっては地獄にも等しい。
時が止まった世界には何があるというのか。きっと、何もない。柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は自分が一度死んだときを思い出した。
あのときだってそうだった。
しかし今の彼にとっての、死の定義はあの日から少しばかり変わっている。
「結局あんたも脳筋か」
「その言われ方は好ましくありません」
自分の中にある思いは押し込め、はとりはマザー・コンピュータに言い放つ。刹那、相手が天高く飛翔した。重力の作用よりも更に疾く、時間質量の開放がもたらす超加速による一閃が見舞われるのだろう。
「真理に辿り着くのは機械か探偵か、世紀の対決だな」
はとりは極めて冷静に氷の大剣を構え、コキュートス、とその名を紡いだ。
その瞬間、周囲に猛吹雪が巻き起こる。
視界は白に染まり、迫りくるマザー・コンピュータの軌道を阻んでいった。機械にしても生体にしても、極寒の気候に即座に対処することは出来ないだろう。
幸いにもマザー・コンピュータは力を解放したことによって赤く光り輝いているので、此方からの位置特定は容易だ。
刹那、鋭く重い一閃がはとりを襲った。だが、コキュートスで受け止めたはとりは急所に攻撃が命中することを避けている。
此方は氷に強い。相手の不利になる気温は今もマザーの動きを鈍くしていた。
「それがあなたの力ですか」
しかし、マザー・コンピュータは時間を巻き戻す。舞っていた雪が天に昇りながら消えていくという光景が広がる中、はとりは更にコキュートスを掲げた。
巻き戻されても、たとえ早送りをされたとしても同じことを繰り返すのみ。
「この中でどこまで命中精度が保てるかね」
脳筋ではないとするならばマザーのお手並み拝見というところか。はとりは自ら降らせた雪に紛れながら、敵が纏う光と向けられる殺意を読んでいく。
次は右から。その次は左から。
雪を蹴り、敵の視界を更に白で染め上げたはとりは素早く立ち回っていった。自分の位置、吹雪の動き、景色の違和感。そういったものを瞬間的に判断して、どう動けば最適な行動になるのかを思考しつつ、はとりは敵を翻弄する。
一撃目は受けるしかなかったが、二撃目以降は見切ることが出来た。
それははとりの閃きが常に相手を上回っているからだ。確かに力や速さではマザー・コンピュータに劣るだろう。そのことは、はとりも自覚している。
だからこそ探偵は思索を巡らせた。
この戦いが事件の発生だとするならば、解明するのは探偵の役目。攻撃の軌道を推理する様は宛らショーのようでもある。
「あなたはもう死んでいるのに……何故、抗うのですか?」
「死は俺にとって行き止まりじゃなかった。それだけだ。悪いが、こっちの勘も時間経過と共に冴えてくる」
マザー・コンピュータからの問いかけに対し、はとりは首を横に振った。
そして、彼は敵の動きを先読みし続けることで氷結による消耗を狙っていく。実際に今、マザーの腕は凍りつきはじめていた。
其処だ、と感じたはとりはコキュートスの柄を強く握り、一気に刃を振るい掛かる。敵はまだ上空にいる。されど一瞬後には此処に突っ込んで来るだろう。
その推理通り、刹那の間にマザーがはとりに襲いかかってきた。
振り下ろされた刃は生体コアとしてのマザー・コンピュータの腕を切り裂く。
「そんな……私の、腕が――」
「お前が停滞してる間に、俺達の未来は動いてる」
事件は止める。だが、時は止めさせない。
夏海も、志乃原先輩や有馬先輩、学校にいた皆も――そして、自分自身も。死を迎えたとしても、繋がれた希望や意志はまだ残っている。
「邪魔はさせない」
刃を切り返したはとりは更なる斬撃をマザーに見舞った。
斬り落とされ、転がった機械部位から光が弾けて雪を照らす。戦いの決着が付くのは間もなくだ。そう確信したはとりは倒すべき存在に刃を向け続けた。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
◎
まぁ、疑問ではあるんですけどね。
時間に質量があるなら、
後どれ程の過去を排出出来るのか。
現在は如何に生成されているのか。
…別に突き詰めませんけど。一兵卒なんで。
「巻き戻し」「早送り」、同時にUCまで使えるなら…
敵の先制に対し、視界を塞ぐよう、或いは身を隠すよう外套を広げ放り、
その間にワイヤーを掛け、引き、向かうは天井、せめて側面。
これだけの障害物。移動には不便しなさそうですし。
邪魔されてもその間、お味方が攻撃してくれると信じ。
地上と上空…全方位の把握って面倒ですから。
如何なる時も、視る。
能力の使用。UCの使用。その兆候。
何処を、何を狙われるのを嫌うか。
視線、軌道、優先順位…
見切るべく。
己の周囲には常に罠…鋼糸を張っておく。
突撃が来ればその速度に応じて自壊する様に。
どこまでも巻き戻さねば解けぬ程始めから。
常に「巻き戻し」ても「早送り」しても無意味な状況を作り続ける。
迎撃、回避に専念しつつ、
それでも窮地となるならば…
――UC発動
亡霊の剣。
それとも巻き戻して、俺の刃…
受けるはどちらがお好みで?
●時の定義と定理
流れる時間の加速と巻き戻し、質量の解放。そして、その消費。
時を操る力を持つマザー・コンピュータ。タイムフォール・ダウンの異名を宿す存在は猟兵にとって脅威だった。
敵を見遣るだけの間にも攻撃が迫ってくる。
鋼糸を戦場に巡らせ、外套を広げて放ったクロト・ラトキエ(TTX・f00472)に時間質量の開放がもたらす超加速攻撃が繰り出された。手応えを感じたらしいマザーはそのまま飛翔していく。おそらく結果を見るまでもないと判断したのだろう。
一撃を受け止め、耐えたクロトは痛みを押し込めながら次の一手に備える。外套で身を隠すように動いたので致命傷は避けられたようだ。
その中で彼は或る思いを抱いていた。
「まぁ、疑問ではあるんですけどね」
時間に質量があるなら――。
あとどれほどの過去を排出できるのか。現在は如何に生成されているのか。
答えを知れるならば、この世界の仕組みに迫れそうな理論だ。考えれば考えるほどに疑問は大きくなり、目の前の存在に興味も湧く。
「……別に突き詰めませんけど。一兵卒なんで」
しかし、クロトはそれ以上を考えることはなかった。この戦場内で真理を得ることはできない。もし可能な場所があるとしたら、マザー・コンピュータが求めている永遠の思索ができる空間しかないだろう。
それを認めることはクロトにはできなかった。
停滞した時の中を楽園だと思えるのはたったひとりだけ。あのマザーのみ。そのために世界すべてを巻き込む心算ならば、あの計画こそ止めなくてはならない。
「時を止められる前に、そちらを阻止してあげますよ」
クロトは天を振り仰ぎ、マザー・コンピュータに宣言する。それと同時にワイヤーを伸ばして駆けた彼は、一気にそれを引く。
向かうは天井。機械と化した一帯の壁を蹴り、ひといきに跳んだクロトはマザー・コンピュータの後を追う。
巻き戻しに早送り。どちらを使われたとしても諦めずに追い縋るのみ。
クロトは周囲で戦う猟兵達の様子を確かめながら、戦場を俯瞰した。マザーの飛翔速度は疾いが、これだけの障害物があるのならば移動には不便がない。
たとえ邪魔をされたとしても、その間に味方が援護や攻撃に入ってくれるだろう。信じたクロトの思いは正しかった。
誰もが懸命に立ち向かい、知恵を絞り、或いは真正面から果敢に向かっている。
「地上と上空……全方位の把握って面倒ですから」
此方は自分が担うという意味合いの視線を向け、地上を仲間達に任せたクロトはワイヤーを新たな位置に伸ばした。
そして――如何なる時も、視る。見続ける。
敵が能力を使用するときの動作。ユーベルコードが発動するときの様子。その兆候や軌道などに癖があるかどうか。
何処を、何を狙われるのを嫌うか。避けている箇所はないか。
視線、軌道。優先順位に所作、視線の動き。余すことなく観察し、それがどうやって繋がっていくか思考していくクロトの見切り術は卓越している。
(――視えた)
それはクロトにとって、一本の線が繋がっていくかのように視えていた。
しかしマザー・コンピュータも自分を見ている存在がいるということに気が付いていたらしい。他の猟兵の一閃や一撃が次々と叩き込まれていく中、不意にマザーの眼差しがクロトに向けられた。
「その視線――あなたは厄介そうですね」
「それはそれは、身に余る光栄です」
クロトは敢えて恭しく応えた。厄介だと言われたことはつまり、相手が正しく此方の脅威を認めたということ。
おそらく次もクロトに攻撃が向かってくるのだろうが、手は既に打ってある。クロトの周囲には常に罠としての鋼糸が張り巡らせてあった。
また突撃が来れば、その速度に応じて自壊するようにセットしてあるものだ。
「遠慮なくどうぞ。レディファーストです」
「その余裕はいつまで持つでしょうね」
「貴方の言葉、そっくりそのまま返しましょうか」
「――?」
クロトは薄く笑む。刹那、タイム・タイド・アタックが繰り出されていった。されど違和感を覚えたのはマザーの方だ。
鋼糸が彼女の身体に絡まる。すぐさま時を巻き戻したが、マザー・コンピュータの機体には糸が絡まり続けていた。それはもう後戻りのできない罠。どこまでも巻き戻さねば、解けぬほどに始めから展開されていたものだ。
もう彼女の力に意味はない。
常に巻き戻しても、早送りをしても無意味な状況にまで追い込まれていたのだ。それがクロトがじっくりと時間をかけて戦場を巡っていた意味。
意図の糸に絡め取られたマザー・コンピュータは、それでも動こうと抵抗する。
対するクロトは迎撃と回避に専念しながら、戦場を駆け抜けてゆく。それでもマザーの猛攻は続く。クロトだけではなく、多くの者が痛みを受けていた。
誰も決して膝はつかない。
この戦いを越えた先に未来があると知っているからだ。
攻防は激しく巡る。
あるとき、マザーの腕が斬り落とされた。赤く輝く光が明滅する様を見たクロトは、戦いの終わりがすぐ其処まで迫っているのだと感じる。
だが、己の身にも窮地が訪れていた。額から流れ出ている血が目元や眼鏡を赤く汚していた。服にも血の痕が幾つも付着している。
それならば、と身を翻した彼はユーベルコードを発動させた。
戦場の亡霊が揺らめき、周囲に影が幾つも現れる。彼らがすべてを終わらせるのだとして、クロトは血で霞む視界の向こうを見据えた。
「亡霊の剣。それとも巻き戻して、俺の刃か……受けるはどちらがお好みで?」
刹那、鋭い衝撃が迸る。
巻き戻しと早送り。マザー・コンピュータは自分がどちらを行ったのかも判らないほどに消耗していた。結局、マザーはクロトの言葉に答えることはなかった。
何故なら、彼女はもう――。
●猟兵戦線理論
母たる機械は夢を見た。永遠という夢を。
しかし、それは叶えられることなく潰えることとなる。猟兵達の攻撃を受け、地に落ちたマザー・コンピュータは力なく横たわっていた。
「永遠……永、永遠、遠の思索。私の、私の……願いと、望みは、願い……」
巻き戻され、早送りされ、繰り返す声。
殆ど意味を成さない言葉から察せられるのは、彼女に終わりが訪れたということ。先程まで眩しいほどに輝いていた赤い光も消えている。
猟兵達は武器や拳を下ろし、倒れ伏したマザー・コンピュータを見下ろした。
誰もが無傷とはいかなかった。時を操る力への対抗は至難を極めるものだったが、猟兵達は確かな勝利を得ている。
未来と希望、新たな時を求める人の意志。
それはまさしく停滞と同義の永遠をも破壊する、究極の力。
「私の理論をもう一度……訂正、します」
何も映していない虚ろな瞳を空に向け、マザー・コンピュータは口をひらく。
「あなた達は、きっと――」
されど、それ以上の声が紡がれることはなかった。
何を語ろうとしたのかは永遠に解明されることはない。そうして二度と現在に還ることのない終わりが彼女に齎され、すべては過去のものとなった。
生きとし生けるものは今日も時間を消費しながら時を紡ぐ。
時は止まらず、これからもただひたすらに前に進んでいくだけ。けれども――。
その先にあるものこそが、人々が望む『未来』だ。
大成功
🔵🔵🔵