7
アポカリプス・ランページ⑪〜神を以って、神を殺す

#アポカリプスヘル #アポカリプス・ランページ #フィールド・オブ・ナイン #デミウルゴス #アポカリプス・ランページ⑪

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル
🔒
#アポカリプス・ランページ
🔒
#フィールド・オブ・ナイン
🔒
#デミウルゴス
🔒
#アポカリプス・ランページ⑪


0




●ヒトガタ
 何時の時代、どこの世界においても、ヒトの願いとは常に身勝手で在り続けるものだ。

 救ってくれ。裁いてくれ。罰してくれ。救ってくれ。
 断罪を、救済を、奇跡を、約束を、怒りを。
 殺せ、生かせ、狂い、信じて。
 どうか私を、俺を、アイツを、あの子を、我らを、どうか、どうかどうか我が神、神様神神神かみさまカミサマ――!

「……さい……煩い、煩い煩い煩い!」
 頭の中で絶え間なく流れ続ける『声』に、異形の男は頭を掻き毟る。
 それは、狂った信仰の果てに望まれ、生み出された神だった。
 鋭い爪に歪な獣のカタチをした腕。体表を覆う鱗と鬣。人々の理想を詰め込んだハリボテの肉体。
 しかし本来、神は人の手から作ることは出来ない。
 故に、男はどこまでいっても偽物だった。
 偽物の、まつられるためだけの神――故に、偽神。

 それだけの、筈だった。

「なのに何故、アイツらの声が俺の中に届き続ける……! 俺にお前達を救う力など無いというのに……!」

 それがカミだというように。
 それが人智を越えた罰だというように。
 ただ、ただ。人々の身勝手な『声』が延々と彼の脳内を揺らし続けるのだ。

「いいさ……ならば」
 ぎろり、と男の血走った目が大地を睨む。正確には遥かその先に存在しているだろう、この世界に住むいける人々を。
 そして、血を吐くような声で吐き捨てた。
「この声が聞こえなくなるまで、俺がお前達を殺し尽くしてやる。お前らの命ごと、お前らの祈りをかき消してやる」

 それが嫌だというのなら、いっそ早く――。

●グリモアベースにて
「お前さんたちには、神殺しをしてもらう。文字通り、命を賭けてな」
 集まってきた猟兵達に向け、四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は感情を押し殺した表情でそう告げた。
「再建されたデモイン砦で待つ、フィールド・オブ・ナイン――デミウルゴス。今回戦う相手はそいつだ」
 無敵の偽神として造られた彼は、その戦闘能力もさるものながらとある厄介な特性を持っている。
「ヤツの肉体は偽神として完成されている。それ故に、同じ偽神細胞を持っていない者からの攻撃は全く通用しねぇんだ」
 あらゆる物理攻撃、そしてユーベルコードを、偽神の身体は完全無効化する。このままではストームブレイド以外、たとえ猟兵達であっても彼にほんの僅かな傷付けることすら叶わないと、鏡はタブレットに視線を落としたまま説明する。
「――だから、私達がそれに対抗する手段は一つ」
 そして、用意していたバックの中から小さなケースを取り出した。
 中に詰められていたのは禍々しい色の液体が詰められたアンプル。
「私達も、偽神化するしかねぇ」
 その中身は、ソルトレークシティで入手した偽神細胞液だった。
「これを体内に注射することで、私達も一時的に偽神化することができるだろう。そうすればヤツの能力無効化も破れる。だが――当然、その代償が軽くはねぇ。激しい拒絶反応は免れないだろうな」
 猟兵達の脳裏にソルトレークシティにいた、同じくこの細胞を移植されたオブリビオン達の姿が過る。かれらは強大な力と引き換えに、その力を使うたびに肉体が崩れ自壊していった。
 猟兵の強靭な肉体であれば今すぐに自壊するほどの反応は起きないだろう。それでも、鏡が差し出したものは自分達にとっては紛れもなく毒。
「最悪、死ぬことだってあり得る。そうでなくても、死んだ方がマシだと訴えるくらい、苦しむことになるだろう」
 四肢をバラバラに引きちぎられるような痛みや不調が肉体を襲うかも知れない。五感に支障をきたすかもしれない。一時的だとしても、人としての感情を忘れてしまうかもしれない。そんな危険を今回の戦いは孕んでいる。
 それでも、真っ向からデミウルゴスを倒すためにはこれしかない、と鏡は断言した。
「無理強いはしねぇよ。死ぬことを恐れねぇ、怖いもん知らずか狂人だけが前へ出な」
 視線を上げた鏡は真っ直ぐと、その覚悟を確かめるかのように猟兵達を見渡して。
「それじゃ……ちゃんと、帰って来いよ」
 最後にそう呟き、握りしめていたタブレットから手を放して転送の準備を始めるのだった。


天雨酒
 やらないで後悔するよりやって後悔した方が良い、今がその時の天雨酒です。
 デミウルゴス戦、純戦闘にてやらせて頂きます。

 プレイングボーナス……「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。

 デミウルゴスと対等に戦う為には偽神化細胞液を体内に打ち込み、一時的に偽神化しなければなりません。それには激しい拒絶反応が伴います。
 発狂するほどの痛みや精神の汚染など、拒絶反応に耐えながら戦うプレイングをお願いします。

●注意
 シナリオの性質上、負傷や吐血含めた流血表現、痛々しい描写が多くなると思われます。苦手な方はご注意下さい。

●プレイング受付について
 断章挟まず公開と同時に受付を開始します。
 締切は公開から2、3日前後を予定しております。少人数の採用予定ですが可能な限り頑張る所存です。
 今回、オーバーロードによる採用の優先の有無はございませんでご了承ください。

 それでは皆様、覚悟完了のご準備を。
87




第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

唐桃・リコ

負傷等の描写も歓迎

痛えのは慣れてる、仕方ねえだろ
注射針を自分に突きたてる

目の前がチカチカする
痛み何より、オレの中で獣が騒ぐ
全部ぶっ壊しちまおうぜ
全部食っちまえよ
全部オレのものにしちまおうぜ
そうしたら何にも奪われなくてすむじゃん

うるせえな!!
腕で振り払えば
その手は獣みたいだ
それでも痛みで目が覚める

待たせたな
さあ始めようぜ
お互い頭ん中うるさくて
大変だな
頭ん中、空っぽにしようぜ

ナイフでも牙でも何でも使って
お前を倒す!
オレは、オレは、大切なものを奪われないで済む力が欲しい
お前もオレの力になれ!!

戦いが終わっても
頭ん中の声はやまない
傷の痛みでも中々消えてくれない
…今日はオレ、アイツのとこに帰れねえなあ



●痛みよりも
 痛いことは慣れている。
 薬剤を前にして、唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)はそう自嘲した。
「仕方ねぇだろ」
 自分が生まれて育っていた場所では、助けてくれる人も、救ってくれる人も誰も居なかった。その後だって、名前も、住処も、それ以外の全部奪われて。
 今更、『痛い』くらいでどうこう言うつもりは更々ない。
 だから、心配する『彼女』の視線を振り払い、リコは躊躇いなく注射器の針を自身の腕に突き刺した。

 ――それに、痛みよりも恐ろしいことがあると、彼は知っているから。



 どくん、己の内側で何かが大きく脈動する。
 体の中に自分とは全く異なる異物が侵入して、食い荒らしていくような感覚に怖気が走った。
 照明を消した訳でもないのに、目の前がチカチカと点滅する。視界の端が黒で塗りつぶされて狭まり、それなのに中央は眩しさで碌な像も結ばない。
「ぐっ……」
 爪先から頭のてっぺんまで痛みが走った咄嗟に唇を噛んで悲鳴を押し殺す。
 喉の奥から鉄臭さがせりあがって、噛みしめた口から泡となって零れ出る。
 ――そこまでは、まだよかった。痛いのも、苦しいのも慣れているから。
 でも、その声だけは無視できなかった。
 
『全部ぶっ壊しちまおうぜ』
 
 獣が。リコの奥底で、獣が囁く。
 それは彼の中で暴れる神の欠片か、眠っていた彼の本質か。
 彼にだけしか聞こえぬ声が、リコの耳元で、甘く囁くのだ。

『失うのが……“奪われる”のが、怖いんだろ? なら全部、喰っちまえよ』
 
 苦しいのは怖くない、痛みだって慣れている。
 
『全部、オレのものにしちまおうぜ。そうしたら何も奪われなくてすむじゃん』

 それよりも、この掌にある大切なものが誰かに攫われる方が恐ろしくて。そんな不安を見透かしたように、獣は喰らえと唆すのだ。

『全部を手に入れて、全部をこの胃袋に納めてずっと大切に抱き込んで。全部全部全部オれノモノにッ――!!』

「うるせえな!!」

 自身が上げた声にハッと我に返る。
 揺れる視界に飛び込んだのは振り払う様に伸ばされた毛むくじゃらの腕。どんな化け物が出たかと思ってよく見れば、それは自分の身体に繋がっていた。
 意識を取り戻しても声は止まない。痛みは酷くなるばかりで、息を吐こうと口を開けばボタボタと血が零れていく。
 それでも、この痛みが、リコの目を醒ましてくれたから。
「待たせたな」
 彼はようやく――己を待つ偽神と対峙出来たのだった。



「お互い頭ん中うるさくて大変だな」
「……お前に何が分かる」
 軽口を叩いてみれば、返ってきたのは低い苛立ちの声。その表情はリコに負けず劣らず、苦悶に満ちている。
 大方、こうして話している時もだれかの祈りとやらが響いているのだろう。
 だがリコの『声』だって負けてはいないし、それに今は戦闘の最中だから。
「頭ん中、空っぽにしようぜ」
 そんな些細な投げ捨てろと嗤って、ナイフを構えて走り出した。
 対する偽神は向かってくる羽虫でも払うような手つきで手の中の大剣を薙ぎ払う。強化された凶器の刀身が伸び、リコへと襲い掛かる。
 それを空中へ跳び上がって回避。しかし空振った剣圧を叩きつけられさらに高く吹っ飛ばされた。
「ヤロウっ……!」
 不安定な空中で身体を捻って体勢を整えて、鋭い爪となった獣の腕を振り上げてした下を見れば。
 そこにはもう、大剣を構え直し振り上げる直前の偽神の姿があった。
「ぐ、ああぁッ!」
 迫る刃を獣の腕で受ける。一毛並みが赤く染まり、掌を鉄が通過する。上書きするような激痛が思考を染め上げる。
 それでも彼は痛みには、慣れているから。
「ア゛、アアッ――!」
「ッ……!?」
 獣の口から人狼の咆哮が放たれ、デミウルゴスの瞳が僅かに瞠られる。
 人狼の咆哮は麻痺の毒。
 彼の『人の時間』を犠牲にした叫びは、損傷自体は軽微であってもその身体の動きを止める。
 それがほんの僅かでも、僅かな時間であっても。
 その一瞬で――。
「お前を、倒す!」
 リコの身体が跳ねる。
 腕から無理矢理剣を引き抜き、その刀身を翔けて距離を詰める。反対の手で振るわれるナイフ。しかしそれは直前で麻痺から解放される異形の腕で弾かれる。
 手から吹き飛ぶナイフ。迫る爪がゆっくりと視界に迫る。
 その中で、リコは祈った、自分自身に。
 
 力が欲しい。
 オレは、オレは、大切なものを奪われないで済む力が欲しい。
 だから――!
 
「――ッ!」

 もう一度、吼えた。衝動のままに叫んで、デミウルゴスの腕へと喰らいつく。牙を立て、偽神の血肉を食い破る。
「お前も、オレの力になれ!!」
「ぐっ……貴様!」
 胸ぐらを掴まれ地面へと投げつけられても、自身と相手ので口元を真っ赤に染めながら、リコは神を睨み威嚇を続けるのであった。
 
 
 きっと戦いが終わっても、頭の中の声はしばらく止むことはないだろう。
 傷の痛みでも、これはきっと早々に消えてはくれない。
 ……今日はオレ、アイツのとこに帰れねえなあ。
 片隅に浮かんだそんな感傷は、内側から爆ぜた衝動に瞬き一つ塗りつぶされ、消えていく――。

成功 🔵​🔵​🔴​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
…オレは祈ったりしない。お前に祈る事なんかない
「死にたい」「殺してくれ」なんて
放っておいてもいつ燃え尽きるかわからないオレにとっては、ただの我儘だ

『赤い月』(所持している興奮剤)を自分に注射
偽神細胞も迷わず接種し戦闘開始
痛みは【激痛耐性】で耐える
(どんなに苦しくても、どうでもいい
死んだ方がマシだなんて願わなくても、きっともう決まってる事だ
それがここか、近いうちのどこかか、それだけだ)

左右一対の黒い剣を爪状に変形させ、【2回攻撃】【カウンター】を駆使し打ち合う
相手が十分にこちらの血を浴びたところで【血の復讐者】使用

――この脆い命、笑うなら笑えよ
ただ、その後は一緒に壊れようぜ



●その時は、どうか
 ひゅう、ひゅうと調子の外れた音がする。
「……オレは祈ったりしない。お前に祈る事なんかない」
 喉から零れるおかしな呼吸音をどこか遠くで聞きながら、皆城・白露(モノクローム・f00355)は目の前にいる造り物の神様へと視線を投げた。
 その手の中には、空になった注射器が二本。
 一つは自身の体を目の前の神を殺すための武器である『偽神細胞』
 もう一つは、自身の心を昂らせ、恐怖を忘れさせてくれる興奮剤、『赤い月』。
 身体に撃ち込まれた過剰な異物は瞬く間に身体の中を駆け巡り、内側から彼の肉体を壊していく。
 ぱりん、と手から滑り落ちた注射器が砕け落ちる。
 熱にも似た痛みと疼きが、白露の中で荒れ狂っていた。全身の細胞が一つずつ丁寧に潰され、作り替えられていくような不快感。心臓が脈打つ度、激痛が全身を貫き、たまらず膝をつく。
「はッ……グッ……」
 いくら深く息を吸えども、肺は役目を放棄したように空気を取り込んでくれない。ただ、その喉からか細い喘鳴を溢すだけだ。
 死ぬことは怖くない。元々その感情は白露の中で希薄なものであったし、そんな欠片の様な恐怖も今は興奮剤が殺してしまっている。
 苦しいのも、白露にとってはどうでもいいことだ。
 死んだ方がマシだなんて願わなくても、それはきっともう決定された事項。
 生きているものは必ずいつか死ぬ。色々あった自分はたまたまそれが人よりも早いかもしれないけれど、それも些細。
 ただ“それ”がここか、近いうちのどこかでか。それだけのことだ。
 だから、白露は掠れた声で繰り返す。
 目の前で拒絶反応に呑まれかけ、息をするのもやっとの己に対して、悼みのような、憐れみのような視線を投げてくる偽りの神に。
「オレ……は、お前に祈ることは、ありえない……」
「……虚言だな。人は常に、祈りを落とすものだ。それが幸福の約束であっても、絶望への解放であっても、皆等しく俺に降り注ぐ」
 
 デミウルゴスは苦悶に満ちた表情で白露の言葉を否定した。

「助けても、死にたいも、オレにとっては皆全て同義の呪いの言葉だ」

「――ハッ」

 今度こそ、白露は笑う。
 それなら尚更、自分が祈ることはありえないと。
 だって、『死にたい』なんて、『殺してくれ』なんて。
 放っておいてもいつ燃え尽きるか分からない白露にとってそんなものただの我が儘だから。 

 ――だから、ふらつく足で立ち上がり、定まらない灰色の瞳で“かみさま”を睨んで。

「オレは、自分の我儘くらい、自分でやるさ」

 獣の爪の形へ変形させた黒剣を翼のように広げ、デミウルゴスへ飛びかかった。



 大剣と一対の爪がかち合い火花を散らす。
 偽神化細胞はあくまで、ただ相手と同じ土俵に立つための道具。それだけでは彼に対し絶対的な優位に立った訳ではない。逆に、凄絶な拒絶反応を押して戦っている分、猟兵達の方が不利となるだろう。
 デミウルゴスの剣筋を必死で追いかけ必死で捌いても、受けきれなかった刃が白露の体を切り裂いていく。それならば、ただで受けるだけ終わらないと爪を翻しカウンターを狙っていくも、相手の傷よりこちらの損傷の方が遥かに大きい。

 気付けば白露の体は傷だらけで、自身の返り血を浴びた神に追い詰められていた。
 
「……脆いな。こんな脆さで、我儘とやらはどうやるんだ」
 うんざりしたようなデミウルゴスの声に、そうだな、と白露は笑って頷く。
 そうだ、脆い。
 でも、脆いからこそ。今にも消えそうな灯火だからこそ、燦然と輝く光を見せることだってまた、存在することを忘れてはならない。

 ――故に、白露は解除の言葉を起動する。

「でも――『この血が、お前を許さない』」

 その言葉と共に、デミウルゴスに付着していた白露の血が、周りの肉を道連れにして、“爆ぜた”。

「ガァ、アアアーーーッ!?」

 吹いた血潮が自身の体を汚すのも厭わず、白露は偽神が叫ぶ様を見ていた。
 ――【血の復讐者】。白露の血は、白露の戦線の離脱と共に凶器へと変貌する。
 彼の血を流ささせたものを、彼の血を浴びたものを悉く屠る力となるのだ。
 
 デミウルゴスの腕から胸にかけての肉がこそげ落ち、しかし煙を上げて瞬時に再生していく。
 より神としての相応しい姿に。及ばぬ力があるというのなら、それを兼ね備えたさらなる異形になるように。

 そして神は、呪いの言葉を吐いたのだ。

「……嗚呼、そうだ。“この血はお前も許さない”だろうよ」

 ーー能力の複製。 
 その言霊が意味するところを理解し、灰色の瞳が見開かれる。
 しかしそれも一瞬の事。白露は目を閉じ、最後の攻撃へと備える。

「……笑うなら笑えよ」

 狙うは攻撃の直後。倒れるであろう自分の印が最大限に広がったその時を。
 みしりと肉が裂かれる。今度は外側から、魂を根こそぎくらっていくような激痛。
 その中で、血泡を吐き出しながら今度こそ相手が己の血を被ったことを確認して、もう一度血を呼び起こす。

「ただ、その後は一緒に壊れようぜ」

 白露はそう言って、神に一矢を打ち込むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月夜・玲

全く、折角神の器を貰っても中身が伴っていないんじゃあ意味が無いね
とはいえ、望まぬ力に振り回されるのは気の毒だとは思うけど…
それが人に害なすなら、止めて上げるよ
同じ苦しみを背負いながら


偽神細胞液を注射
私自身も偽神化しよう
身体の痛みなんかはこーいう仕事だ、何とか耐えれ…る
けれども頭に響く声っていうのは、こう…狂いそうになるね
全くもって嫌らしい
けれども、どれ程の声に苛まれようと
私は私のしたい事だけをする!
あんたみたいに殺すだの殺してくれだの
そんなみっともない事はしない!
【断章・不死鳥召喚〈超越進化〉】起動
不死鳥全召喚!
そして114羽全てをデミウルゴスにぶつけて、蒼炎で『焼却』する!



●導を灯すものは
 全く、折角神の器を貰っても、中身が伴っていなければ意味が無い。
 月夜・玲(頂の探究者・f01605)は造られし神に対して、幾らかの勿体なさを感じていた。
 偽物とはいえ、仮にも神と名のつく器として完成したのだ。同じ偽神で無ければ傷をつけることも叶わぬ肉体――その技術は相当な域へと達していただろう。受肉する側の問題さえ解決していたのであれば、ソレはより高次の存在へと至ったのかもしれない。
 とはいえ、彼自身はそれを望んで手に入れたわけでは無い。
「望まぬ力に振り回されるのは気の毒だとは思うけど……」
 彼も、あくまで被害者の一人と呼べるのだろう。
 しかし、そこからの逃避の手段として、人に害をなすというのなら。全てを壊し切ること安寧を求める方法だと、選んでしまったのならば。
「止めてあげるよ」
 文字通り、同じ苦しみを背負いながら。



 デミウルゴスへと対峙し、玲は受け取っていた偽神細胞液を上腕の静脈へと注射する。
 ゆっくりと体の中に侵入する偽神化細胞が、玲の体を一時的な造られしい神と同じものへと作り替えていく。
 と、同時に激しい拒絶反応が玲を襲うが、それを歯を食いしばって耐える。
 ――痛みは、まだいい。
 槍に貫かれたような胸の鋭い痛みも、血が煮え滾るような熱も、鈍器で殴られたかのような頭痛も、全部覚悟の上だ。
「何とか、耐えれ……る」
 元々、猟兵とはこういう仕事だ。言うのもなんでがあるが、この類のことは慣れている。
 けれど、それを嘲笑うかのような、“声”が。
 ――『たすけて』
 ――『殺して』
 ――『どうか望みを』
 ――『どうか終わりを』
 同じ偽神という受け皿を見つけたから、それは流れ込んできたのだろうか。どこから来るかわからない、誰のものすらわからない大量の声が、酷く不快だった。
 救いに奇跡を望む声。救いに終焉を待つ声。
 出来る出来ないなど関係ないというように、濁流のような言葉の羅列が玲の脳内を掻き回していく。
 脳味噌が沸騰しそうに熱く、『声』に押しつぶされてまともに息ができない。
(頭に直接響く声っていうのはこう……狂いそうになるね)
 ――これが、偽神の感じている世界。殺してくれと、神自らが望むほどの境地なのだろうか。
「……全くもって嫌らしい」
 少しでも気を抜けばあっという間に持っていかれそうになる意識を繋ぎ止めるように吐き捨てて、玲はゆっくりと顔を上げる。
 目の前には自分のことを冷静に観察する偽りの神の姿。
 自分は彼を殺してくれるか。殺すに足り得るか。そう、判ずるだけの無機質な視線。
「偽神が、情けない」
 それを真正面から睨み返し、吠える。
 私はお前とは違うのだというように。
「どれ程の声に苛まれようと、私は私のしたい事をする」
 どんなに祈られようと、どんなに願われようと。流れ込んでくる声に押し潰されそうになっている今この時でさえ、玲はそれに負けるつもりが無い。
「あんたみたいに殺すだの殺してくれだの、みっともない事はしない!」
 そう言い返した相手は目の前の偽りの神であるが、または身勝手にいそれを願い続ける無辜の民であるか。
 そんな事を頭の片隅で考えながら、玲は自身のガジェットを展開すると周囲に蒼炎の不死鳥を呼び出し、デミウルゴスを取り囲んだ。
「なら――その言葉、貫いて見せろ」
 その勇猛を称えるかのように、神の男が動く。
 異形と混じり合ったその身を捻り、身の丈ほどもある大剣を引く。明らかに何かを放つ構え。
 構わず玲は114匹にもなる不死鳥を繰り、迎撃に備える。
「――断章・不死鳥召喚の章。深層領域閲覧、システム、起動」
 最後の一節を詠唱し終え、不死鳥の翼が青く燃え上がる刃となるのと、彼が剣を振り抜くのはほぼ同時だった。

「――ッ!?」

 豪、と風が吹き荒れる。
 大剣から放たれた毒――触れたものを激しい拒絶反応により死に至らしめる偽神細胞が、玲の前に並ぶ不死鳥達を撃ち落としていった。
 もちろん、玲自身も無事とは言い難い。
「が、は……っ!」
 毒に触れた箇所から、拒絶反応が大きくなるのがわかる。
 大きな力に耐えきれず、体が壊れていく音が聞こえる。血液が逆流し、口から溢れ落ちていく。冷え切った手足が震え、視界が暗くなっていった。
 そんな、もうまともに立っているのか倒れているのかわからない状態でありながら。
 それでも玲は確認していた。
 己の力、青く燃える炎の全ては未だ、墜えていないことに。

「システム……起動」

 地面へと倒れ伏しながら最後の一節を繰り返し、もう一度自らの手で構築した焔の神を呼び起こす。
 それは、玲が生み出した、擬似的に作り上げられた邪なる神の力。
 今この時に於いては偽りの神を討つための、神の力。

「まだ……抗うか!」
 
 デミウルゴスが叫ぶがもう遅い。
 毒の暴風を潜り抜けた青い炎。生き残った中数体の不死鳥達は気を失った主の命を果たすべく、半壊の躰を神へと突進させた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャト・フランチェスカ


死ぬことは多分怖くない
でも「死を恐れられない不具合」があると思うと
酷く気分が悪いんだ
執着したいものがなく
引き留めてくれるものがない
そんなのって、虚しいだろ

左腕には醜い自傷のあと
毒を流し込むのも慣れたもの

己で加減できない苦痛には
無意味と知っても乞いたくなるな
やめて許して死にたくない
ちかちか視界が明滅して
嗜虐と加虐がスイッチする

言魂って知ってるかい
叫んでいれば真実になるかも
僕は痛くて死にたくない

注射器を握り潰して
逆手に携えた空っぽの万年筆
インクは僕ときみの中身の真紅だ
痛い痛い息もできない
苦しいんだ
どうか傷を引き受けてよ
そしたら少しはわかり合えるかもしれない

生きたほうがマシに思えるくらい
傷を教えて



●おしえて
「死ぬことは多分、怖くはない」
 シャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)はほうと溜息をつくように言葉を吐き出す。
「……でも、『死を恐れられない不具合』があると思うと。酷く気分が悪いんだ」
 その言葉は、自分自身に向けられたものか、これから逢いにいく偽りの神に向けてもの者か――或いはもっともっと遠くの誰かに向けたものか。紡ぐ己自身でもそれはわからない。
 ただ、心の内から零れる、氷塊のように冷たく鋭くて、溶けた鉛のように熱く心を焦がすものに耐えられないというように言葉を吐き出して。
 吐き出しながら袖を捲り、醜くて仕方がない己の左腕を曝した。
 日の下で映えるは、白い皮膚の腕に刻まれた無数の桃色の線。何度も塞がり、また拓かれ、暴かれることを繰り返した其処は消えない疵となってシャトの一部となっている。
 その先の隙間に、そっと偽神細胞が満たされた注射器の針を差し入れた。ぐっと注射桿を押し込み、中身を体内に流し込んでいく。
 消えない疵が訴えるように、シャトは自分の身体を気付つけることに抵抗がない。故に、毒を身の内に注ぐことも慣れたものだった。
 
 死と云ふものに恐怖はない。
 けれど、恐怖が無い自分こそが彼女は恐ろしい。
「だって執着したいものがなく、引き留めてくれるものがない。そんなのって、虚しいだろ」
 記憶も、こころも、シャトを取り巻く全ても、何も死の淵に立つ彼女の絆しには成り得ない。彼女の希薄な恐怖はそう、証明してしまいそうで。
 
 ――だってそんなの、既に僕が此処にに居ないのと、なんら代わりがないじゃあ、ないか。
 
 

 己で加減できない苦痛を前にすれば、たとえそれが無意味だと分かっていても人は乞わずにはいられないだろう。
 熱で朦朧とした意識の中で、シャトはそう頭の中で文字を綴る。
「がッ……ァ……」
 本当なら声に零してしまうつもりだった。けれど、カラカラに乾いた喉はヒュウヒュウを浅い呼気を繰り変えすばかりでまるで何の役にも立ってはくれない。
 ぐずり、ぐずりと。体の中で造られた神様の欠片が這いまわる。
 這いまわって、侵して、シャトの身体を食いながら壊して回っていく。
 当然シャトの身体だって大人しく喰われる訳にはいかない。だから必死で抵抗する。
 抵抗して、喰らい合って。両者の力が体中で暴れ回って、結果、さらに身体の崩壊は加速する。
 熱が思考を融かしていく。血が逆流する音が耳元で聞こえて、地面がぐらぐらと揺れていく。
 錆びついた匂いが肺腑の底からせりあがってきて、シャトの両手と着物を真っ赤に染め上げていった。
「……めて」
 枯れ果てて、潰れかけた喉が必死に赦しを請うた。
 やめて。どうかゆるして、死にたくない。
 ちかちかと視界が明滅して、その度に嗜虐と加虐がスイッチする。
 もっと、確かめて。暴いて、晒して、探して。世界と己を繋ぐものを。

 身体の中もずたずたで、頭の中までぐちゃぐちゃで。細い体をかき抱いて、逃れようのない痛みに爪で肉を掻き毟って、喘ぐ。

 あゞ。ああ、アア、嗚呼――!


「聞こえているだろう? かみさま」
 ぐるりと、桜色の瞳が離れた場所にいる偽神へと向けられ。
  万年筆に赤い洋墨が灯された。



「言霊って知っているかい。言葉とは力があるものだから、叫んでいれば真実になるかもしれない」
 役目を終えた注射器を握り潰して、シャトが逆手に携えるのは万年筆。
 血塗れて、ずたずたで。土気色の顔をして額に脂汗を浮かべながらも、シャトはデミウルゴスの前に立ちそう問いかけていた。
「僕はね、痛くて死にたくない」
 居たいから、死にたくない。
 だから、血まみれの手の中の万年筆を取り上げ、彼へ向けて赤く染まった先端を向ける。
 万年筆は元から空っぽだ。洋墨となるのは、シャトと偽神の中身の真紅。
 お手本でも示すように彼をなぞろうとすれば、黒い刃がシャトを通り抜け、その起動が大きく逸れた。
「――俺は、死にたいよ」
 じわりと、大剣を通して体の中に毒が流し込まれるのが分かる。
 溢れる赫。それ以上にじくじくと身体を壊していく、激痛。
 嗚呼、痛い。
 痛くて、痛くて、もう息もできなくて。
 ――苦しいんだ。どうか傷を引き受けてよ。
 だからシャトは呼吸を止めたまま、体を貫く剣も抜かずに、すぐ目の前の神へと震える手を伸ばす。
 真っ赤に染まった、万年筆を持った手を。
 ――そうすれば、死にたいと希うキミと少しは分かり合えるかもしれないから。
 彼の首に、横一文字に線を引き、赤い花を咲かせる。花の香も、蜜も、根も。全てが猛毒の、致死の花を。
 
 そうすればほら、毒の中で、痛みを分かち合えるから。

 生きたほうがマシに想えるくらいの傷を、どうか。


「どうか僕に、教えて」

「ギ――ッ!?」

 目を閉じ、囁くような祈りの声は、託された神よる痛みの叫びによって呆気なくかき消されていくのだった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

藤・美雨


命がけで神様を殺す
なんて楽しそうなイベントだ
精一杯やらせてもらおうじゃないか!

偽神化による負担は凄まじい
拒絶反応はどんどん私を殺すにかかる
首の傷痕が熱くて痛くて痒い
ここまでの戦いで受けた傷が一斉に疼き出す
身体も内側から弾け飛びそう

でも、笑うよ
死ぬほどの痛みは何度も経験してる
激痛耐性だってそれなりにあるからね
痛くて苦しくても私は生きてる
生きてるから楽しい
だから負けない!

衝動で機械の心臓を滾らせ、痛みを堪えて相手に接近
どれだけ毒を振り撒いても
心臓が動くなら私は止まらないよ

接近したら思いっきり踏み込んで
そのままありったけの力を腕に籠める
お望み通り殺してやるよ!
怪力を乗せた拳で思いっきりぶっとばす!



●Are you alive?
 金属製の細い管が、致死となり得るかもしれない毒を体内に送り込んでいく。
 そんな状況においても、藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)は湧き上がる思いを抑えることができなかった。
 命懸けで神様を殺す。それも神様を殺すのは神様だけだから、私自身も神様の体となって。
 嗚呼、それはなんて。
「なんて楽しそうなイベントだ! 精一杯やらせてもらおうじゃないか!」
 美雨は衝動と胸の高鳴りのままに、注射器を抜くや否やデミウルゴスの前へと飛び込んでいった。



 どくん、どくんと。美雨の心臓が音を立てる。逸る気持ちに合わせて、というには少し性急すぎるくらいに、不自然なくらいに早く、大きく。
「ッ……」
 走りながら美雨は大きく息を吸う。それだけで額から脂汗が浮かぶ。いくら酸素を取り込んでも、荒くなった呼吸は呼吸は全く回復しない。それほどに、彼女の肉体は既に消耗しきっていた。
 偽神化による負担は予想通り凄まじかった。
 刻一刻と大きくなる拒絶反応は、美雨の身体をどんどん殺しにかかる。
 首の傷跡が――一度死んだ時引かれた線が、熱くて痛くて、痒い。
 堪え切れず爪を立てて掻き毟ったら爪が真っ赤に染まってしまう。それでもまだ、痒さは消えてくれない。このまま掻き続けたら首が落ちてしまうんじゃないか、そんな錯覚を覚えて、理性を総動員して首から手を放す。
 でも、痛みはそれだけで終わらない。
 足が、腕が、腹が、頭が、内臓が、筋肉が、骨が、神経が。
 これまでの戦いで受けた傷が、表面だけは塞いだ筈の怪我が、一斉に疼き存在を訴え始める。
 痛い、痛い、痛い。肉が裂けて、骨が砕けて。
 まるで首だけじゃなく、身体の内側から弾け飛んでしまいそう。
 いや、実はもうすでにいくつかは吹っ飛んでいるのかもしれない。だって先程から、走っているつもりでも美雨の身体はちっとも進んでいないし、下半身の感覚も既に無い。

 痛い、痛い。痛みだけが一度は死んだ筈の身体を支配して、意識が遠くなっていって――。
 
「……でも、笑うよ」

 掠れた声でそう言って、美雨は宣言通りカラリと笑い声をあげた。
 痛い、うん、痛い。――けれど、大丈夫。まだ、進める。
 死ぬ程の痛みは今まで何度も経験してるし、耐性だってそれなりにある。
 それに、何よりも大切なことは、
「痛くて、苦しくても、私は生きてる!」
 まだ、美雨は死んではいないから。
 死んだら何も感じない、死んだらないも楽しくない。
 生きているから、楽しい。痛くても、辛くても、それは生きているからこそ感じていられる。
 だから美雨は、絶対に負けないのだ。
 
 ――とくん。
 偽神細胞とのせめぎ合いにとは別の音で、美雨の心臓が音を立てる。
 美雨の中で湧き上がる衝動が、生きているからこそ感じられる感情が、そのまま動力となって、彼女の早鐘を打つ。
 勢いのまま、美雨はデミウルゴスとの距離を詰めていく。
 敵がこちらに気付き、その大剣から偽神細胞の毒を撃ち出してくる。痛みを押しての特攻に、避ける余裕なんてない。身体のあちこちに被弾する。
 当たった箇所から疼きが、熱が一層激しくなる。
 けれど、笑える。楽しさは消えない。
 だから、彼がどれだけ毒を振り撒いても、心臓が動くなら美雨が止まることはない!
 美雨が大きく踏み込み跳躍する。
「お望み通り殺してやるよ!」
 デミウルゴスの姿はもう目の前。踏み込みの勢いを乗せた身体を大きく捻って拳を振りかぶって。
 ついでに、まだ動いているのに死んだような目をした彼に、試しに聞いてみた。
「やぁ、お前は生き生きしてるかい?」
「……そんなもの、意味などないだろう」
 返ってくるのはある意味想像通りの答え。全てを手放し、全てを、己の命すら諦めたものの諦念の声。
「望んだら俺を殺してくれるのか? 生きようが、生きまいが、お前達は構うことなく祈り続けるだろうが!」
 呪いのように吐き出す言葉にそっかと美雨は頷いて。でも、と静かに首を振り、にかっと歯を見せて笑ってみせる。
 ボロボロの身体で、灰色の瞳に生き生きとした光を乗せて。
「いいや、意味はあるよ」
 なぜなら、それこそが彼女だからと。
 それこそが自分の力だと証明するように。
「だって私は今、生き生きしているから!」
 そして、ありったけの力を込めて、デミウルゴスの横面を殴り飛ばした。
 驚愕に見開かれたデミウルゴスの身体が吹き飛ぶ。
 そのまま二度三度、地面へとぶつかってから相手が起き上がるのに対し、自分は着地する事も出来ず地面へと叩きつけられる。
 それでも首だけを巡らせて、相手がよろめていているのを見届けて、もうまともに動かない手で小さくガッツポーズを作って見せる。
「はは、やってやった、ぜー……」
 そう満足げに呟くのを最後に、美雨は今度こそ、その意識を暗闇へと沈めていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
ワイヤーアンカーを操り躊躇なくアンプルを全身に打ち込む
装甲を、機関を細胞が浸食し…

縺舌£縺?≠縺偵∴縺ゅ′縺イ縺ー!?

聞くに堪えぬ異音は己のスピーカーからか
全身のパラメータが支離滅裂な値を示す

攻めも守りも技術が必要
まともに動かぬ状態で大剣を盾で受け止め吹き飛ばされ

縺舌£縺?≠縺ー…がグあゲッ!

UCで戦闘続行困難の演算結果捻じ伏せ
制御利かぬ●限界突破した怪力で大盾と左腕が砕けるも構わず殴り返す
この男に、騎士として伝えねば成らぬ事があったから

…そノ頭に響く声を私は護らネバなりマせん

ですが、貴方ノその苦シみを僅かデも取リ除けレば

戦いまシょう、声を気にスる暇も与えマせん!

偽神となりて剣打ち合い切り刻み



●二つを手に取り
 神が不条理を以って人々を鏖すというのなら、騎士たる我が身は喜んで我が身を賭して神を殺そう。
 しかし、その神もまた苦しんでいたというのなら。
 苦しみ、狂い、壊れて。その末にに全てを滅ぼす道を選んだというのなら。
 全てを助け、全てを救う『騎士』は。
 如何なる選択をすることが、相応しいと謂えるのだろうか。
 
 
 偽神細胞液で満たされたアンプルを数本取り上げる。
 この身は幾つもの機関により構築された兵器であるから。万が一、偽神化に失敗することがないように、偽神に成り損なう部位が無いように、展開したワイヤーアンカーの先端を変形させて。
 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は躊躇う事なく、アンプルの中身を全身へと打ち込むのだった。


 例え偽りの、造られたものであるとしても、神の下では全てのものが平等である。
 肉の殻をもつ民は勿論、その身体が霊体であっても、鉱物でも、たとえ冷たい鉄の塊だったとしても。
 神たる種は全てに対し平等に、余すところなく――全てを喰らい我がものとする。
 ミシリと、トリテレイアの装甲に樹状の凹凸を刻み、偽神細胞が浸食を始める。
「縺舌£縺?≠縺偵∴縺ゅ′縺イ縺ー!?」
 聞くに堪えない異音は自身のスピーカーから漏れたのだろうか。
 ノイズと警告音と、連続した爆発音。その全てが同時にない交ぜに音が、トリテレイアの発音器から断続的に流れ落ちる。

 ――演算演算機能に深刻なエラーが発生しました。 
 ――体内温度異常上昇。冷却装置を作動します。
 ――感覚器、過剰負荷。システムダウンしマス。
 ――神経系統回復Kぁく確でキマセン。再起動wぉ推奨シシシシ。
 ――深刻……なエ、繝ゥ繝シ縺檎匱逕滓ュサ繝??ヲ窶ヲ縺?∪ス

 視界に夥しい量の真っ赤な警告文字が浮かび上がる。ひっきりなしに警告音を上げる全身のパラメーターは既に支離滅裂な数値を叩き出していた。
 それでも。意味を為さない膨大な数字の渦に溺れながら、トリテレイアの意識はただ一つの事柄だけを目指し、身体を前へと進めていく。
 
 望むものは――神との邂逅を。
 
 苦悶に満ち、破壊と自壊を望む偽神と相対する為に。トリテレイアは全身から火花と煙を放ちながらデミウルゴスとの距離を詰めていくのだ。

「……煩い」
 一心不乱に己の姿と求める騎士に、別の姿を重ね視たのだろうか。
 デミウルゴスが低い声で吐き捨て、鬱陶し気に大剣を払う。
 其れは常であれば、装備した大楯で難なく防げるはずの速度と威力。しかし、今のトリテレイアは残念ながら異常。その性能は満身創痍の時よりさらに劣る。
 
「縺舌£縺?≠縺……」
 
 辛うじて盾だけは掲げたが、本来であれば攻めも守りも技術が必要なものだ。まともに動けぬ状態の中、ただ大剣の前に盾を滑り込ませるだけで受けきれる程デミウルゴスの太刀筋は生易しいものではない。勢いを受け流せず、出来ずトリテレイアの身体が大きく吹き飛ばされる。

「――…がグあゲッ!」

 電子頭脳に次々と吐き出される新たな障害(エラー)。その通知は全て、これ以上の戦闘続行困難の演算結果を訴えていた。
 しかし、その結果を騎士は自身の理想と信念をもって捻じ曲げる。

 何故なら己は、伝えねばならない。
 造られた神としての男に。
 重すぎるものを背負わされ、苦しみ続ける男に。

 その為の最適解を成す力が、出力限界を無視した制限の解除と、論理思考の破綻から生み出されるこわれる力が、煙と火花を吐き出し続ける鋼鉄の身体を立ち上がらせ、デミウルゴスへと向かわせる。
「……やめろ、来るな。俺には何も出来ない」
 半壊しながらも近づくトリテレイアに気圧されるように、デミウルゴスが一歩退く。
 
 ――この時でさえも、彼の頭の中には救いを求める声が響き続けているのだろうか?

 思いながら、トリテレイアは引き摺っていた大楯を力の限り振り抜く。反動を顧みない一撃に今度はデミウルゴスの身体が吹き飛び、同時にトリテレイアの大楯と振り抜いた左腕が砕け散る。
 それでも、残って右手と剣を構え踏み込んだ。
「…そノ声ヲ」
 ――先の衝撃のお陰で、言語機能は漸く復帰していた。未だ雑音が混ざる、しかし迷いの無い声で、トリテレイアは語る。
「そノ頭に響く声を、私は護らネバなりマせん」
 騎士は無力の民を、救いを求める人々を救わなければならない。その為に、悪しき力を討ち、善なるものを守らなければならない。
 しかし、彼もまた――辛苦に喘ぐ一人のひとなのだ。
「ですが、貴方ノその苦シみを僅かデも取リ除けレば」
 故に。たとえ彼を救うことができなくても。
「戦いまシょう。声を気にスる暇も与えマせん!」
 今この時だけは、その呪縛から解放してやると。トリテレイアは手の代わりに剣を彼へと差し伸べた。
「――」
 虚ろだった神の金色の目が瞠られる。その口元が微かに震え、次の瞬間デミウルゴスは歓喜の咆哮をあげながら大剣を振り上げ騎士へと斬りかかった。
 
 幾度も響く、金属同士が打ち合う音。造られしもの同士が全力で生み出し続ける戦いの調べ。
 
 ――それは騎士の剣と右腕が壊れ落ちるまで、神の胸元に大きな傷跡を生み出すまで、止むことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング、流血・痛々しい表現全て歓迎

_

偽神細胞を躊躇なく打つ
デミウルゴスを止めるために
そして彼の苦しみを断つ為に

でもこれは傲慢でエゴだ
その罰とでも言うように拒絶反応が己の中で暴れ狂う
元々五感含め感覚は鋭敏であり
だからこそ拒絶反応を鋭く酷く感じる
破裂しそうな頭痛
視線の定まらぬ目眩
血管一つ一つが千切れ爆発しそうな苦痛
然しその苦しみを一欠片とも表に出すことはなく
凛とデミウルゴスの前に相対する

俺は紛れもない"悪"だ
彼に祈る人々の願いを断ち
彼を"神"という使命から無理やり解放させる故
責任は俺にある
恨むなら俺を恨め

だから、
デミウルゴス
お前はもう休んでいい

「──おやすみ」
願うは貴方の安息を



●瞼を閉じる言葉の為に
 これはエゴだ。
 躊躇いなど一切なく偽神細胞を撃ち込んだ丸越・梓(零の魔王・f31127)は、空になった注射器を捨てながら心の中で自戒する。
 信仰の末に作り出されたという神を、これから自分は殺す。
 絶えることのない祈りに押しつぶされ、全てを壊すことを選んだ彼を止めるために。そして、彼の苦しみを断つ為に。
 しかし、それは誰の為でもなかった。このままでは遠くない未来で滅ぶ人々の為でも、世界の為ですらもない。
 ただ、己を殺せと訴えるデミウルゴスを放っておくことができない、そんな梓の我儘だ。
 だからこの選択は、この行動はどうしようもない程に己の傲慢で、エゴで。
 そんな梓の罪を責め立てるように、取り込んだ偽神細胞は彼の体で暴れ狂う。
 元より感覚は鋭敏な方だ。幾度もの修羅場を潜り抜ける為に、その感覚は必要不可欠なものではあるが、今この時に至って、それは梓に重い枷となってのし掛かる。
(これは、罰だ――)
 鋭過ぎる感覚が伝えてくる。己の体が壊れてく過程を。その痛みを、苦痛をより酷く、鮮明に響かせながら。
 破裂しそうな程の頭痛が思考を遮断させる。明暗を繰り返す視界は定まらず、目眩で吐き気が込み上げてくくる。
 そして、一歩踏み出す度に全身を貫く激痛。まるで血管の一つ一つが千切れ爆発しているかのようだった。
「……っ」
 こぼりと、喉の奥から異音がせり上がる。
 息が苦しい。いくら呼吸を繰り返しても、酸素が全く体に入ってこない。地上にいるのにまるで深海の底で溺れているかのようだった。
 痛みが思考を鈍らせる。苦しみが歩みを遅らせる。少しでも気を抜けばたちまち膝をつき、崩れ落ちてしまいそうな程の倦怠感。
 それでも、梓は。
「――煩い」
 その全てを、言葉一つで切り捨てる。
 苦痛で顔を歪めるような真似はしない。これは、己に対する罰の様なものだ。その一切を甘んじて受け、なおかつ一欠片だって表に出すことは赦されない。
 足を止めることなど論外だ。己の目的を忘れたのか。自身のエゴ一つ通せぬほど、この身は脆弱であったか一体どれだけ傲慢になれば気が済むのか。
 進め、止まるな。そう己を叱咤して、進み続ける。
 
 そして遂に、梓は神の眼前に辿り着くのだ。
 
 
 
 既に無数の傷をその身に刻まれながら、それでもデミウルゴスの動きは衰えを見せることはない。
「お前も、俺の前に立ち続けるのか。流れ続けるこの『声』の様に、永劫に俺を縛り続けるのか」
 偽神細胞で構成されたの大剣が梓のすぐ横を通り抜ける。
 連続して振るわれる大剣を辛うじて避け、或いは妖刀で捌きながら、梓はいいやと首を振った。
「俺は、お前を止めるためにここに来た」
「……なら、今すぐ俺を殺してみろ!」
 偽神細胞による拒絶反応は相変わらずで、苦痛が和らぐ気配は全くない。むしろ、本格的な戦いが始まり動き回ったことで、より激しくなったようにすら感じられた。
 歪む視界の中で、剣先の気配を捉える。重い腕を上げ刃を走らせ、己の勘のみを頼りに平行の感覚がない地上の足を滑らせた。
 それでも、狂った感覚の中では限界がある。
 デミウルゴスが動く度に、梓の身体に避けきれなかった傷が生じていく。
 体の内側からも、外側からも傷つき、削れていく命を表すように鮮血が身体から流れ出て足元に血溜まりを生み出して。
 しかし、そんな有様でも尚、梓は凛とした目でデミウルゴスを見据えた。

「――俺は、紛れもない“悪”だ」

 デミウルゴスは人々に祈られる者。狂っているとはいえ、救いを求めた信者の為に造られた神様。
 それを斃すということはすなわち、彼に祈る人々の願いを断つということ。
 彼一人を救うために、彼へと祈るその他大勢の希望を、この手で壊すのだ。
 
「だから、お前を神から引き摺り堕とす」
 
 彼を、“神”という使命から無理矢理解放させる故に。
 
 デミウルゴスの目が驚愕で見開かれる。
 嗚呼何故――その金の瞳は安堵に染まり、そして悲しみに染まっているのだろう。
 
「責任は俺にある」
 
 神も、人も。恨むなら俺を恨め、と。
 そう言い切って、梓は己の力を刃に乗せ、低く構えを取る。
 あらゆる力を真似る彼の異形の肉体がこれを真似たとしても、この技は骸の海達だけを切り捨てる刃。梓自身が受けたとしてもなんら影響は無い。
 
 故に、彼の反撃の一切を防ぐ必要はなく。
 数瞬先に突き出された大剣が己の身体を削り取るのにも構わず、梓は強く踏み込んだ。

「……だからお前はもう休んでいい」

 根源を壊す刃に乗せる祈りは、彼の安息。
 どうか彼が力尽き眠りについた時、もうどんな声も彼を起こすことのないように。
 おやすみと、心の中で囁いて。

 ――桜の銀閃は、彼の体を貫くのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
人が救えるのは、その手が届く範囲だけだ
猟兵は多少手が届く範囲が広いけれど、それでも全ては救えない
全てを救おうとすれば、それこそ人を超えるしかない……とはいえデミウルゴスは神になれなかった訳だ……悲しいもんだな

偽神細胞を摂取して、神刀の封印を解放
普段は抑え込んでいる悪霊をも解放して、我が身に宿す――幽の型【鬼哭】

内面的に、或いは戦闘後の問題はともかくとして、とりあえず動いて戦える
強化した身体能力に任せて高速で動き斬撃波で撹乱しながら切り込んでいく
大剣を回避できなければ力任せに受け止め、無理矢理受け流してからカウンター

偽神化の代償とUCの制限で時間がない。多少無理をしてでも攻撃を叩き込む



●今を征く
 ――人は、全ての人を救う事なんて出来ない。
「人が救えるのは、その手が届く範囲だけだ」
 救う力を持たず、ただ声だけを聞き届ける神を前に、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は言った。
 誰かを救うということは、そう簡単に出来る物ではない。程度の差こそあれ、そこには常に選択と覚悟と、力が必要になる。
 鏡介とて確かにこれまで多くの人を救ってきたかもしれない。けれどそれは、渡ってきた世界の数と、そこに住む人々の数からみればほんのささやかな数。全て、なんてとても言う事はできないだろう。
 人が人を救う数には限りがある。自分達猟兵はたまたまその範囲が広いだけで、それでも全てを救うことはできないのだ。
 それでも全てを救おうとすれば、それこそ人を越えるしか方法はないのだが――。
「……デミウルゴスは神になれなかった訳だ。悲しいもんだな……」
 結局、人は、神に至ることは出来ないのだ。
 まるで蛇の輪のような堂々巡りに鏡介は黒曜の瞳を眇め、感傷と共に偽神細胞を手に取るのだった。
 
 
 
 己の細胞、その一つ一つを潰し、壊し、造り替えて、造られし神の一部に挿げ替える。
 目も眩むような痛みと吐き気に耐えながら、鏡介は常は【封じの白鞘】の中で眠り続ける神刀【無仭】の柄を握り直す。
 封印の解放の対価となるのは己の霊力と生命。ましてや今は偽神化による拒絶反応の真っ只中だ。その反動は尋常ではなく、確実に鏡介の身体を苛むだろう。
 しかし、鏡介は迷わず神刀を鞘から引き抜き、封を破った。
 覚悟は出来ている。
 それが、己に課された仕事であり、責務であるのだから。
「――幽の型、【鬼哭】」
 森羅万象の悉くを斬ると謳われる神刀が抜き放たれる。鏡介の霊力を受け取った刀はその恩賞として主に限界以上の力を引き出させ、鏡介の意識が続くまでの間、その因果と法則までもを断ち切ってみせる。
 そして普段は刀が抑え込んでいる悪霊、【神刀ヲ侵蝕スル悪霊】。神刀の解放と共に解き放たれた魂すらも、鏡介は己が身の内に宿し、取り込んでみせた。
「ぐッ……」
 急激な眩暈に襲われ、鏡介は奥歯を噛みしめる。
 熱い。まるで地獄の業火の中に放り込まれでもしたようだ。それでいて刀を握る手からは急激に温度が失われて、穴から水が流れ出るかの如く霊力が吸われていくのが分かる。
 身体が脈打つたび、痛みが全身を駆け抜けるのは偽神となった代償だろうか。まるで血管に血液の代わりに隙間なく針を敷き詰めているかと思う程だ。
 それでも。
 身体の内面がいくら軋みを上げていようと、或いはこの戦いの後まともに動くことができなくなろうと、とりあえずまだ、鏡介は動いて戦える。
「だから――今の内に、終わらせる」
 神速の速さで駆け出すと、直ぐにに心臓を殴られたような激痛が走る。神刀の加護はヒトの身には余る。限界を超えた動きに、内臓の方が悲鳴を上げているのだ。
 それでも、動きを止める事無くデミウルゴスとの距離を詰め、勢いを乗せた薙ぎ払い。これは射程の伸びた敵の大剣によって阻まれる。狙ったかのように反対側からきた異形の爪を衝撃波で牽制し、無理矢理刀を勝ちあげてさらに踏み込んでいく。
「どうした、やけに急ぐな」
「悪いが、時間が無いんだ。このまま押し切る」
 刻一刻と力も体力も削れていく中で、鏡介は息つく間もなく切りかかる。デミウルゴスはそんな彼にやや苛立った様子を見せながらも、偽神の力により強化された剣を振るい捌いていく。
 一見すれば状況は拮抗。しかし、鏡介の方には時間の制約がある。戦いが長引く程、デミウルゴスと渡り合うのは難しくなるだろう。
(だったら――)

 一瞬の思考に気を取られた鏡介の反応が僅かに遅れる。
 その隙を突いて、デミウルゴスの大剣が襲い掛かる。神刀の間合いの遥か外から走る心臓を狙った一撃が、咄嗟に身体を捻り鏡介の胸を浅く斬り裂いていく。
「――焦ったな」
 崩れた態勢を立て直す間も無いまま、デミウルゴスの第二撃が迫る。
 それを――圧倒的な力によって振るわれた薙ぎ払いを、鏡介は不安定な体勢のまま、刀一本で受け止めた。
 因果すらも断つ神刀だ。強引な受け方であったがその刀身には傷一つついていない。同じく強化された肉体故に、力負けして吹き飛ぶことだけは避けた。
 代わりに、刀身に添えた左腕も、殺しきれなかった衝撃をまともにくらった身体のあちこちが砕け壊れてしまったけれど。
「……いいや、これでいいんだ」 
 まともに考えれば戦闘の続行は不可能な負傷。
 それでも、まだ動くから。今は、今だけは。
 ――まだ、止まれない。
 大剣と重なった神刀が火花を散らし、無理矢理それをかちあげる。感覚の無い足で強く一歩を踏み込み、こちらの間合いへと引き摺り込む。
 そして、肉薄した二人の間で生まれる銀閃。
 
「言った筈だ、このまま押し切ると」
 神の肉を断った刃から確かな手ごたえを感じながら、鏡介はそう云い捨て、静かに膝を突くのだった。


 

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
デミウルゴス――本来はプラトンが作り上げた概念だ
それが一部の宗教思想で悪の宇宙を創った偽の神となった
この世界はまさに悪の宇宙、と考えると
そこに生み出された君の存在は実に皮肉さね

信仰は精神、俺の信じる神は見えぬ存在
偶像崇拝に頼る人々の気持ち、解らなくは無いけど
存在そのものが罪である君を否定しよう
君自身には罪は無いと解ってても尚

一時的に偽神を称す身に成る事を主は赦すだろうか
いや…主が赦さねば死ぬだけ、か
上腕に注射針を刺し、細胞注入
刺した所から強い痛みが一気に広がる感覚
両腕と首の傷痕が裂け、黒変した血と炎が滴り出す
頭痛と眩暈を押し殺しながら立ち、必死に意識を集中

――敵討つ刃は我が心の内に
今は奴を滅ぼす刃を欲す
けして折れぬ信仰と約束

侵され変色する翼を広げ、宙より斬りかかる
腕より零れる炎を纏った刃、喰えるものなら喰ってみろ
己すら信じられない君に、この刃を模倣出来るとは思えない
そんなに死にたければ殺してやる
君がそれを祈るならば

限界寸前の最後の一太刀決めた直後、髪すら黒く変じ
真なるは刹那…生の為に、な



●シンなるもの
 早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は想う。
 神とは何であるか。
 デミウルゴス――その言葉の大元の意味は、哲学者プラトンが造り上げた概念である。
 創造主、そして善なる神を示す言葉として創られた言葉は、いつしかその意味を変質させ、一部の宗教思想で悪の宇宙を創った偽の神となった。
 いつの世でも世界に不幸が蔓延するのは、この世界自体が悪の宇宙から出づるものであり、真の神によって造られた善の宇宙とは別のもの、偽物であると。故にこの世を造り上げた神もまた、偽物であると。真なる神の存在を信じ祈りながら、人々は同時に偽の神を造り上げたのだ。
 
 では、祈りとは何を成すか。
 信仰は精神。中でも翼の信じる神は目に見えぬ存在である。
 形がないものは時として何よりも強く、そして時として何よりも脆くなる。どんな聖人でさえも不安と疑念はつきまとい、ほんの一瞬の過ちを唆し続ける。
 だからそれが許す許され無いに関わらず、偶像崇拝に頼る人々の気持ちが分からないでもない。確固たるカタチの、目に見えるカミを。それを求めてしまう人の愚かさを、翼は卑下することはできない。
 
 デミウルゴス――人々が謂う偽りの世界、そこに棲む彼らの祈りの行く末としてその名を背負い、人々の信仰のカタチとしての存在を定められたもの。
 ――それ故に、想う。
「そこに生み出された君の存在は、実に皮肉さね」
 それに翻弄される彼を哀れと思わないわけではない。
「けれど――それ以上に、存在そのものでが罪である君を否定しよう」
 偽りの宇宙。偽りの世界で救いを求める人々。
 その身勝手な彼らに作り出されたデミウルゴス自身に、罪はないと解っていながら。
 翼はこの手で、カミを討つのだ。
  
「否定も肯定も必要ない。お前等全てを滅ぼすか、俺を殺すか……俺が求めるのはそれだけだ」

 この、祈りの果てに歪み、自身の救いすらも忘れてしまった哀れな存在を。
 
 
 
 ――一時的はいえ、偽神を称す身に成る事を主は赦すだろうか?
「いや……主が赦さねば死ぬだけ、か」
 偽神細胞で満たされた注射器を前ににして、ほんの小さな迷いが翼の手を止めかけたが、すぐに考え直して針を上腕に差し込んだ。
 元より、今こうして彼が猟兵として生き、戦っていること自体が主の意向によるものだ。その意向に叶わないというのなら、それまでのこと。
 だから、躊躇いなく細胞を自らの身体の中に注入していく。
 腕から針が抜ける感覚。直後に、刺した箇所から全身へと一気に激痛が広がり膝をついた。
 肉が骨が、軋み壊れる音がする。血が沸騰し、音を立てて全身を焼きながら駆け巡る。
 掌に伝わるぬるりとした感触。みれば両腕と首の傷跡が裂け、黒変した血と炎が滴り出していた。
 黒く、黒く、滴り堕ちていく。偽りのカミに、同胞を喰い屠る存在となると自身に知らしめるように。
 零れる炎から生じる熱風が肺を焼く。爪先から頭まで貫くような激しい痛みに喘ぐ。
 
 それでも、この痛みを齎すものこそが、かの偽神を討つ鍵と成り得るのなら。
「……来た、れ…」
 割れる様な頭痛を、眩暈を押し殺しながら立ち、片手を翳し翼は必死に意識を集中させる。
 ――敵討つ刃は我が心の内に。
 心の裡で、希う。今は奴を滅ぼす刃を欲すと。
 思い描いたカタチを象る刃は、その想いの強さによってその鋭さを増す。
 故に、これは決して折れぬ信仰であると約束しながら。
 
 眩む視界の中で、零れ落ちる炎を映したかのような緋色の刀を。
 凪いだ湖のように静謐に美しく、しかし底が見えぬ畏ろしさと神秘を湛えた刃を。
 
 ――伸ばした指先でそれをしっかりと掴み、抜いた。
 
 同時に背中の翼を大きく広げ、宙へと飛びあがる。
 深紅だった筈の羽根は侵され、その半分以上が黒く侵されてしまっているけれど。まだ、御使いの力は残されていると信じて。
 抜き放った刀、凪いだ湖の様な静謐を湛える刃に腕より零れる炎を纏わせ、空から急降下して斬りかかる。デミウルゴスもまた、下段より大剣を振り上げ、翼の一撃を迎え撃つ。
 激しく火花を散らす二つの刃。
 大剣と入れ替わるように走った異形化した爪を身体を逸らして避ける。しかし、見切った筈の軌道がずれ、翼の肩を大きく抉った。
 見れば、デミウルゴスの異形化した片腕は、さらなる変化と遂げている。より強靭に、より凶悪に、遍く全てを喰い終焉を齎す悪の神の如く。
「この刃、喰えるものなら喰ってみろ」
 痛む肩の傷にも構わずさらに迫る腕を強引に切り捨てる。
 変化したその肉体が千切れた肉片を喰らい、技を模倣しようとも構わない。
 翼の刀は信じるものにより性質を変える。己すら信じられない彼に、同じものが作り出せるとは到底思えない。

 黒と赤が混じった羽根を散らし、偽神の凶刃を掻い潜り。
 赫灼の炎が祈りを拒絶し、己の存在をも否定した躰を焼く。


 侵食に刻一刻と染まっていく肉体、ひと呼吸ごとに霞んでいく意識。痛む身体を押し、それでも幾度もぶつかり合った末に生まれる一瞬の隙。
 デミウルゴスが大剣を振り抜く。大振りな攻撃の間を埋めるように振るわれる片腕。それを刃で受け止め、斬り落とす。
 偽神の身体はすぐさま新たな肉体が再生され、彼により強い腕を授けるだろうが、それよりも翼が空いた懐へと滑り込む方が、速い――!
「そんなに死にたければ殺してやる」

 至近距離、デミウルゴスの金の瞳と翼の赤い瞳が交差する。

「――殺して、くれるのか」
「……君がそれを、祈るならば」

 ――そうか。
 そう吐き出された言葉に宿る想いは如何なるものであったか。それを確かめる術は、もう。
 
 直後、翼の刀が閃き、デミウルゴスの胸に大きな裂傷が生まれた。夥しい量の血が彼の足元に血だまりを作り、その膝を血に着かせる。

 そして同時に、翼も限界だった。
 深紅だった髪すらも黒く変じ、闇に染まり切った両翼は遂に力を失って。 
「真なるは刹那……生の為に、な」
 塞がらない疵から血と炎の残滓を零しながら、翼は地面へと墜ちていくのだった。
 偽神の祈りの果てを、その行きつく先へと、繋ぎながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト



それってのは、長旅の終わりを指すのかね
そうは思わない。奴と同じだ。痛ましく響く無数の声が、傷が、鳴り止むことを否定する『聖痕』
いいぜ神様。あんたが降りるなら
その役目、継いでやろう

ハ。継ぐってのも妙な話だ、もとより継いだ役目だろうに
迷いなく注射。普段ダメージはVエンジンが修復するが、今回はバグるらしい
自壊と修復を秒刻みに繰り返す無間地獄
耐性も生じず"生きてるみたいに"痛むだろうが、この感覚も初めてじゃあない(UC『Eucharist』の反動に近い)
つまり「この程度か」
揺るがぬ『覚悟』で『限界突破』
大剣を掴む『怪力』腐食させる神の血『毒使い』
『覇気』は欠けた脚でも進ませ、腕の代わり殴り合う
『枷』一瞬でもいい。縫い止めれば
偽神化した全て代償に込め【Vortex】
コピー発動は奴の崩壊も早まるだけだ、構わん
残るは傷一つない心臓(Vエンジン)のみ

これが死だと?
いいや

声がする
救ってと
奴の言う通り、コイツらはいつも勝手で騒がしい
それでもオレは(この声こそがオレの、なによりもの道導であると信じるのだ)



●果てと呼ぶには遠く
 死を、と。彼は望んだ。
 それは偽りの神の死か。この大地に生きる全ての人々の死か。どちらにしろ、永い苦しみの末に彼が導き出した終末であるのだが。
「それってのは、長旅の終わりを指すのかね?」
 男――レイ・オブライト(steel・f25854)は、その言葉に小さく首を傾げる。
 否、そうは思わない。死は一つの契機でしか成り得ず、一つの始まりにしか在り得ない。
 一度死した身でも尚、デッドマンとしてレイがこの場に立っているように。
 幾年時が経とうとも、躰に刻まれた疵――奴と同じ、痛ましく響く無数の声を引き受け続ける【聖痕】が鳴り止むことを否定するように。
 死は終わりを齎さない。
 それでも、彼が死を答えとし、己の苦痛からの解放を望むというのなら。
「いいぜ神様。あんたが降りるなら……その役目、継いでやろう」
 男はそう告げて、彼の前へと立つのだ。
 
 
「――ハッ」
 考えれてみれば継ぐとというのも妙な話だ、と。レイは自らが言った言葉に小さく笑いを零す。
 これはもとよりレイが“継いだ”役目だ。今継ぐだと変わるだの、何も変わらないだろうに。
「……お前が、代わりとなるだと? 俺の、代わりに?」
 しかしどうやら、目の前の偽りの神にとってはそれは大きな意味を為したらしい。
「勘違いするなよ。偽りの神とやらになる気はない」
 金色の瞳でこちらを凝視するデミウルゴスにそう言って突き放し、レイは用意していた偽神化細胞を己の身体に注入する。
 ずっと、ずっと。おそらく彼と同じ様に。レイにも人々の痛みの声が聞こえていた。
 助けを、救いを。本人の意思にかかわらず、死者の身体に刻まれた聖痕はきっとこの先も彼らの痛みを引き受け続けるだろう。
「オレはただ……この『声』を聴き届けるだけだ」
 今更それが“一人分”増えたところで、変わることは何もない。
 故に、レイはこのひと時、偽神を討つ為のカミと為る。
 
 死者の身体にとって、偽神細胞は文字通り猛毒だった。
 細胞を打ち込んだ箇所から、瞬く間に血管が膨張し激痛が躰に広がっていく。
 通常であれば損傷はヴォルテックエンジンが瞬く間に修復をかけるのだが、どうやら今回はバグるらしい。
 細胞が死ぬ音を、肉が壊れる感覚を、骨が軋む様を、その全ての痛みを神経へと走らせた後、そこでやっと修復が始まり――そして再び細胞に喰われていく。
 壊れきる前に直せば壊れることは決してない。意識を失う寸前に掬い上げれば失う事は在り得ない。正気を失わせるなど、以ての外。
 それは文字通り、自壊と修復を秒刻みに繰り返す無間地獄。
 慣れることなど無い、死者にとってまるで“生きている”かのような痛みがレイの体と意識をずたずたに引き裂いていく。
 けれど――嗚呼。
 レイは知っている、この悼みを。苦しみを。
 生きているものは全て、この犠牲の上で成り立っているから。そしてその痛みは、これまで幾度も肩代わりしてきたものだから。
 だから、笑って踏み出し言えるのだ。
「この程度か」
 再び顔を上げ、目の前の神を視線で射抜けば、彼は試すかのように大剣をこちらに向ける。
 振るわれるそれを片手で掴み、偽神となった己の血を流し込む。鉄のように見せかけてもそれの正体は偽神細胞の塊だ。神同士の喰らい合いに刃は腐食し崩れていく。その反動でレイの片腕もその大半が喰われたが、気にせず進んでいく。
 異形の爪が足を引き裂くも止まらない。どうせ崩れかけていたものだ。電流を纏わせるオーラが足の代わりを為し、彼の歩みを進ませた。
 足を失くそうが、腕が千切れ飛ぼうが、レイの纏う覇気は彼が止まることを赦さない。
 そしてデミウルゴスも、彼が操る白銀の鎖によって、その場から退くことをまた、許されてはいないのだ。
 
 偽神の頸を掴み上げながら、レイは己が躰に問う。目の前の神を殺す為、己は何を差し出せばいいのかと。
 
 ――神殺しは、神の身体を以って赦される所業。
 ――ならば望むだけ。文字通りこの身の“全て”をくれてやろう。
 こちらの力を真似ても、それは彼自身の肉体の崩壊を速めるだけだ。構うことは何もない。
 だから。
 
「――付き合え」
 
 世界を焼くような落雷が大地を白く染め上げた。
 同時に偽神化したレイの躰が心臓一つ残して消し飛び、デミウルゴスの全てを焼き切った。
 
 白く、白く輝く世界。

「俺は……やっと、終われるのか……」
 
 誰もない真白の世界で、そう。
 安堵する声が聞こえた気がした。

 光が止んだ後、そこに在ったものは偽りの神だった亡骸と、死者の心臓が、一つ。
 



 無音、静寂、無明。
 動くことも叶わない、声を出すこともできない。
 目も耳も無い、何も見えず、何も聴こえない世界がレイの精神を支配する。
 ――これが、死だと?
 
 声なき声でそう問いかけて、直ぐにそれを否定した。
 
 何故なら、声がした。
 『救って』と。
 
 とくり、と心臓が音を立てる。同時に次々と意識を引き摺り上げる、沢山の声。
 
 ――助けて。痛くて、苦しくて。
 ――どうかかみさま。
 ―――救って下さい。
 
 デミウルゴスが謂う通り、コイツらはいつも勝手で騒がしい。
 
(……それでも、オレは)

 この声こそが、レイにとって何よりもの道導であると、信じられるのだ。
 
 
 
 戦いは終わり、偽りの神は眠りについた。
 それでも祈りを、救いを求める声は止まらず、世界は神を差し置いても回り続ける。
 それを愚かで身勝手と嘲る者もまた、消えることはないだろう。
 それでも、男は征くのだ。
 この心臓が動く限り。
 彼の肉体に届く声がある限り、彼の望むものを見るために。
 
 崩れていく彼と同様の、“いつか”がこの身を訪ねてくるまで――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月28日


挿絵イラスト